ssnote

x

新規登録する

作品にスターを付けるにはユーザー登録が必要です! 今ならすぐに登録可能!

このSSは性描写やグロテスクな表現を含みます。

この作品はオリジナルキャラクターを含みます。

この作品は執筆を終了しています。

秋田喰種~秋の巻~

    • Good
    • 4

loupe をクリックすると、その人の書き込みとそれに関連した書き込みだけが表示されます。

▼一番下へ

表示を元に戻す

  1. 1 : : 2015/07/21(火) 23:01:46
    夏の巻はこちらです↓
    http://www.ssnote.net/archives/35510

    最近どこもそうですが、秋は序盤が暑くて、中盤涼しくなったと思いきや今度はすぐに寒くなりますね。地球温暖化のせいなのでしょうか・・・
  2. 2 : : 2015/07/22(水) 22:10:50
    -Ⅰ-





    目が覚めると、そこは病室だった。



    奈津美「・・・私、生き延びちゃったのか」

    こう呟く奈津美の顔には、無力感、後悔、自責と言った様々な負の感情が表層化されていた。

    奈津美「(そう言えば、喰種の私が一般の病院の治療を受けて大丈夫?・・・な訳ないのに、追い出されてないのはどうしてだろう)」

    コンコン

    ??「入るよ」

    病室の入り口の扉が開かれ、50歳前後とみられる男性医が入室して来た。

    ??「おや、もう目を覚ましたのかい。喰種であることを差し引いても素晴らしい回復力だ」

    奈津美「・・・あなたも?」

    南木「ああ、私も喰種だ。名前は南木哲夫。秋田さんから君がここに搬送されたことを聞いてね、無理を言って担当医にさせてもらったんだ」

    奈津美「どうりで追い出されなかったわけですね。わざわざ私の為にありがとうございます」

    南木「いやいや。いつもやっていることだよ。それで、調子はどうかな?」

    奈津美「お陰様で、"身体の方"はもう全快です」

    南木「それは良かった。それなら、話はもう出来るね?」

    奈津美「はい・・・」

    南木「秋田さんがお見舞いに来ている。詳しい事情は私は知らされていないが、あまり辛そうな顔はしないでおくれよ」

    奈津美「・・・はい」

    こうして南木は奈津美の病室を後にした。その十分後、秋田が奈津美の所へやって来た。

    秋田「具合はどうかな、奈津美ちゃん」

    奈津美「秋田店長!お陰で元気いっぱいです!」

    秋田「そうか・・・大斗君の件は、残念だったね」

    奈津美「すいません・・・でも、まだ間に合う筈です。すぐに・・・出来ることなら明日にでも大斗君を」

    秋田「駄目だ。現段階では、彼を助けに行く行為は犬死にしかならない」
  3. 3 : : 2015/07/23(木) 22:08:38
    奈津美「え・・・駄目って、大斗君を見殺しにするってことですか!いくら敵わないからってそんな・・・そういうことなら、私は一人でも助けに行きます」

    秋田「落ち着くんだ。私は彼を見殺しにすると言ったんじゃない。今無策で救出へ向かった所で成功する見込みが無いと言っているんだ。彼の救出は、時機を見て、いずれ必ず実行する」

    奈津美「時機・・・それっていつですか!うかうかしてたら大斗君は殺されてしまうかもしれないんですよ!」

    秋田「いや、それは心配ない」

    奈津美「なぜ?」

    秋田「正君が言っていたなまはげ会の目的は覚えているかい?」

    奈津美「なまはげ会の目的・・・確か山田さんは、大斗君の持つ特異な赫子を手に入れることだとおっしゃっていました」

    秋田「その通り。奴等の目的が赫子であるなら、大斗君を殺すなんてことは出来ない筈だ。赫包を持ち主から切り離した上でその力を使う技術は、クインケ以外に聞いたことが無い。そのクインケさえ、Rc細胞を新たに蓄えることは今のところは不可能だからね」

    奈津美「・・・それだけでは、殺されないとは断言できません」

    秋田「君の言う通りだ。だが願うしかない。なまはげ会と我々が正面から渡り合っては、戦いにすらならない。その事は君が一番理解している筈だよ」

    奈津美「・・・」

    秋田「大丈夫。必ずチャンスはやって来る筈だ。私達に出来る事は、その時までに力を蓄え、備えておく事だ」

    奈津美「力・・・そう、ですね。分かりました」

    秋田「私も、ぬぐだまれのエースの働きに期待しているよ。ところで、今回襲撃して来た喰種について話してくれないかな?」

    奈津美「もちろん話します。今回襲って来た喰種は二人。名前はツクモとクロバです」

    奈津美「ツクモは、中学生くらいの男の子でした。でも性格はとても残忍で、実力もかなりのものです。赫子は九本の尾赫でした」

    奈津美「クロバは、背が高くてロン毛の男でした。夏の癖に、ロングコートを着ていました。見た感じは大人しそうで、言葉遣いも丁寧でした。赫子は、黒い羽赫です」

    秋田「・・・まず、間違いないだろう。君が交戦したその二体は、なまはげ会の幹部だ」
  4. 4 : : 2015/07/24(金) 21:59:27
    奈津美「幹部・・・秋田さんは、奴等のことを知っているんですか?」

    秋田「ああ。彼等の名は秋田県内では有名だからね。主に悪名の方で。どちらもCCGからはS~レート認定されている」

    奈津美「SSでは無いんですか」

    秋田「S"~"だから将来的にSSレートもあり得るが、流石にそこまででは無いんじゃないかなぁ」

    奈津美「SSでは無い・・・なら」ボソッ

    秋田「・・・ツクモとクロバという名前は知らなかったが、その二体は"九尾"と"鴉"という名で知られている。そこで訊きたいんだけど、鴉・・・クロバの赫子による攻撃は食らったかい?」

    奈津美「はい。最後に一発」

    秋田「何か違和感を感じた?」

    奈津美「はい。全身の力が抜けていくような感覚に襲われました」

    秋田「やはり本当だったか」

    奈津美「その原因もご存知で?」

    秋田「うん。鴉の持つ黒い赫子は、白鳥家の持つ赫子と正反対の力を持っていると言われているんだ。具体的に言えば、Rc細胞を鎮静化させることができる」

    奈津美「そんなことが・・・秋田って、特殊な力を持った喰種が多いんですね」

    秋田「数の割には、そうかもしれないね」

    奈津美「活性化と鎮静化・・・なまはげ会は相反するこの二つを使って、一体何をするつもりなんでしょうか」

    秋田「大斗君を懐柔して、戦力を強化させるつもりじゃないかな。活性化の能力は後方支援としてはこの上なく優秀だ」

    奈津美「・・・私は、もっと特別な何かがあると思います。何となくですけど」

    秋田「そうか。警戒はしておくよ。それじゃあ、今日は帰るとしようかな。お大事にね」

    奈津美「・・・わざわざありがとうございました」

    こうして、秋田は奈津美の病室を後にした。そして、病院の出口へと向かう途中・・・

    久保田「秋田さんでねぇか」

    秋田「おや、久保田さんに・・・清原君だったかな?」

    悠介「どうも」

    久保田「奈津美ちゃんのお見舞いだか?」

    秋田「うん。久保田さん達は?」

    久保田「同じくお見舞い。それと、捜査官として事情聴取。喰種の姿を見た可能性があるのは彼女だけだから。あっ、でもそれは俺だけで、悠介は純粋にお見舞いに来ただけだべ」

    悠介「俺だって捜査官として来ましたよ」

    久保田「摂津との仕事があるのに、無理言って俺に着いて来たのは誰だったべか?」

    悠介「そ、それは・・・」

    秋田「ふふっ。それではまた今度」

    久保田「次は店で会いましょう」

    テクテクテク
  5. 5 : : 2015/07/26(日) 22:10:19
    コンコン

    奈津美「はい?」

    悠介「悠介だけど、入っても良いかな?」

    奈津美「悠介君!?どうぞどうぞ」

    ガラガラガラ

    奈津美「あ、久保田さんもいらしてたんですか」

    久保田「どうも~」

    悠介「具合はどう?」

    奈津美「かなり回復してきたよ」

    悠介「大したことなくて良かったべ」

    奈津美「病院の先生に、若い喰種捜査官に助け出されたって聞いたんだけど、それって悠介君だよね?」

    悠介「それは~」

    久保田「こいつだべ」

    奈津美「やっぱり!?それならお礼を言わないと・・・ありがとう!悠介君!」

    悠介「捜査官としての義務を果たしただけだべ・・・」

    久保田「しょしがんなって。もっと堂々とせって」

    奈津美「久保田さんも、わざわざお見舞いに来てくださってありがとうございます」

    久保田「いやいや、礼には及ばないべ。今回お見舞いに来たのは仕事も兼ねてだから」

    奈津美「仕事?」

    悠介「療養中のところ申し訳ないんだけども、今回アパートに現れた喰種について、覚えてる範囲でいいから教えてけれ」

    奈津美「・・・分かった。私の知っている事が喰種退治に役立つなら、喜んで話すよ」

    久保田「わりな。まず最初に、外見的特徴を教えてけれ」

    奈津美「一人は中学生くらいの男の子で、一人はロン毛の男でした」

    悠介「赫子は?」

    奈津美「かぐね?」

    久保田「悠介、一般人が赫子のことなんて知ってるわけないでしょ」

    悠介「いや、その・・・そうですね」

    久保田「赫子っていうのは喰種の持つ捕食器官のことだ。普通の人間なら出せる筈のないものだから、もし見ていれば分かると思うんだけど・・・」

    奈津美「あっ!もしかして・・・男の子の方が10本ぐらいの尻尾を出してたんですけど、それですか!?」

    久保田「まさしくそれだべ!」

    悠介「約10本の尻尾ってことは、"九尾"ですかね」

    久保田「まず間違いないべ。ロン毛の男の方は?」

    奈津美「そっちは真っ黒な羽根を生やしてましたよ」

    久保田「"鴉"となると、なまはげ会絡みで決まりだべ」

    悠介「でも、赫子まで出されてよく助かったね」

    奈津美「!?」

    久保田「確かに。普通なら瞬殺ものなのに・・・」

    奈津美「えっと・・・(しまった、話し過ぎた!)」
  6. 6 : : 2015/07/27(月) 22:26:53
    奈津美「・・・あっ、思い出しました!その二人は何か探し物をしていたみたいですよ」

    悠介「探し物?」

    奈津美「それが何かは分からないけどね」

    久保田「つまり、奴等の目的が人を襲うことではねがったから、奈津美ちゃんは殺されずに済んだってことだな」

    奈津美「はい・・・たぶんそうです」

    久保田「しかし・・・探し物ねぇ」

    悠介「考えるのは局に戻ってからにしましょう」

    久保田「んだな。てば、今日はこの辺で失礼するべ」

    悠介「お大事にね。次は学校で会おう」

    奈津美「うん。またね」

    ガラガラガラ

    悠介「・・・う~ん」

    久保田「なした?」

    悠介「あ、いえ。何でもありませんよ」

    久保田「んだか」

    テクテクテク

    悠介「(赫子の事、忘れちゃったんだべか。それとも・・・)」



    その日の夜、捜査官Bこと馬場一等捜査官は、丸一日に及ぶ捜査を終え、ヘトヘトになりながら家へと向かって歩いていた。

    馬場「ふぅ・・・今日も仕事疲れたぜ」

    ???「忙しいんですか?」

    いきなり馬場は、学生と思しき男子に声を掛けられる。誰かに愚痴を零したいと思っていた彼は、見知らぬ学生に不満を語りだした。

    馬場「おうよ。"なまはげ会"ていう組織が暴れ回ってるせいで、こっちは朝から晩まで仕事しっぱなしよ」

    ???「それはそれは・・・悪かったなぁ。暴れて」

    馬場「へ?暴れてるのは喰種で・・・え、な!?赫眼!?」

    目の前の学生が喰種であることを知り、馬場は咄嗟にクインケを構える・・・がしかし

    ゾゾゾゾゾ

    ドスドスドスッ

    馬場「べぼっ!・・・おま・・・は・・・きゅう・・・」

    ドサッ

    ???「これで秋田市に来てから三人か。そろそろ歯ごたえのある獲物に当たると良いんだけどな」



    秋田の夜が、闇に侵食されていく。
  7. 7 : : 2015/07/28(火) 21:10:42
    -Ⅱ-





    9月5日水曜日、いつものように奈津美の病室に担当医の南木がやって来た。

    南木「うん。怪我は完全に治ったみたいだし、今日で退院だね」

    奈津美「この日が来るのをずっと待ってました。何せ、入院二日目には完治していたんですから」

    南木「でも、そんなに早くに退院したら怪しまれるからね」

    奈津美「分かってますよ」

    南木「それじゃあ私は一旦出るから、着替えと片づけを済ませておいてね。三十分後にまた来るよ」

    奈津美「了解しました」

    ガラガラガラ

    奈津美「・・・ふぅ、やっと退院だ。さて、着替えは・・・」

    奈津美は病室に置かれている紙袋の一つから、着替えを取り出した。この着替えの服は、彼女の為にと佐藤が家から持ち出して来た、彼の妻の佐藤里奈の物である。

    奈津美「家と一緒に、衣服も全部焼けちゃったもんなぁ・・・」

    短い間ではあったが両親と一緒に暮らしていた家が、炎に包まれていく様子を思い出し、彼女は胸が痛み出すのを感じる。

    二十分後、着替えはもちろん病院を出る支度も全て済ませた彼女は、手持無沙汰から病室のベッドに寝転がった。

    奈津美「(5日間も入院してたせいで、かなり身体が鈍ってる。来る日に向けて、先ずは早く6日前と同じ状態まで戻さないと)」

    コンコン

    奈津美「(あれ、二十分ちょっとしか経ってないけど・・・)は~い、今開けます」

    奈津美は着替えの為に閉めていたカギを開けてから、ドアを開けた。

    香織「奈津美~!!!具合はど・・・え、どしたのその恰好」

    奈津美「実は・・・今日で退院なの」

    香織「何ですと!?」

    奈津美「折角お見舞いに来てくれたのに、何かごめんね」

    香織「いやいや!奈津美が元気になってくれて私は嬉しいよ!学校ですごい退屈してたもん!」

    奈津美「ありがとう。でも・・・病院内では静かにね」

    香織「あっ・・・ごめんごめん」
  8. 8 : : 2015/07/29(水) 21:09:50
    香織「でも、大変だったね。家に喰種が入って来るなんて」

    奈津美「うん。びっくりしちゃったよ」

    香織「びっくりしちゃったで済ませるなんて、奈津美は逞しいねぇ」

    奈津美「香織には敵わないって」

    南木「おや、お友達かい?」

    奈津美「先生」

    香織「奈津美がお世話になりました」

    奈津美「親じゃないんだから」

    南木「ははは、奈津美さんは良い友達をお持ちのようだ。火事で家を失うというのは本人が無自覚でも非常に辛いことですから、支えになってあげてください」

    香織「もちろんであります!」

    奈津美「ありがとう。それじゃあ、私は行きますね。今までありがとうございました」

    奈津美は深々とおじきをし、香織を連れて病室から去って行った。

    奈津美「退院しちゃったけど、お見舞いに来てくれてありがとね。また明日学校で会おう」

    香織「どういたしまして。じゃ、また明日」

    奈津美「またね!」

    テクテクテク

    奈津美「(さて、これからどうしようか。帰ろうにも家が無いし・・・取り敢えず、お店に挨拶しに行こうか)」



    同刻、CCG秋田支部では、緊急の捜査会議が行われていた。

    摂津「これで、捜査官狩りの犠牲者は秋田で四人目だな」

    悠介「馬場一等に続いて、大久保二等まで・・・許せない」

    江畑「仲間の死を悼んでいるだけでは、何も状況は変わらないわよ」

    久保田「江畑ちゃんの言うとおりだべ。鑑識から情報を貰ったから、報告するべ。今この場に居ない捜査官にも後で伝えておいてけれ」

    久保田「秋田市内で起こった四件の捜査官襲撃事件、これらは全部"九尾"単体による仕業だ」

    摂津「全部九尾っすか?能代では鴉も捜査官狩りを行っていた筈ですが・・・」

    久保田「うん。鴉の動きはここ最近ちっとも聞かなくなったんだよね」

    江畑「他におかしい事といえば、件数があまりに多過ぎますよね。今月一日に最初の被害者が出てから昨日までで四件、毎日一軒のペースです」

    捜査官A「ま、毎日一件!?」

    久保田「今月一日・・・奴等の動きが急変したのは、奈津美ちゃんのアパートが襲撃された後からか」

    江畑「やはり、霜永奈津美は奴等と何か関係があるのでは?」

    悠介「そんな訳ありませんよ!」

    江畑「ほう。そう言えば、お前と霜永奈津美は同級生だったな。違うと言うなら、奴等の急変のきっかけは何か言ってみろ」

    悠介「・・・"探し物"を見つけたんじゃないでしょうか」
  9. 9 : : 2015/07/30(木) 22:12:18
    江畑「探し物?」

    久保田「奈津美ちゃんが言っていたことか」

    悠介「はい。まずはこの探し物が何だったのかを捜査することが急務かと」

    江畑「霜永奈津美が真実を言っているとすればの話だがな」

    悠介「なっ・・・まだ言いますか!?」

    久保田「まぁまぁ、今後の捜査方針はこの後決めるとして、まずは捜査官狩りにどう対処するかだべ。まず結論から言わせてもらうと、皆にはなるべく九尾に襲われないようにしてもらうべ」

    捜査官C「逃げるということですか!?我々は喰種捜査官です。襲われないようにするよりも、襲われたときに返り討ちにする方法を」

    江畑「無理だな。奴の実力は本物だ。単独で渡り合えるのは、私と摂津准特等、そして久保田特等ぐらいだろう。後はまあ、清原三等が戦えるくらいか。他の捜査官、特に下位捜査官では戦闘にすらなるまい」

    捜査官C「しかし・・・」

    摂津「落ち着けよ。残念だが、江畑の言っている事は正しい」

    久保田「そうなんだよ。敵さんもそれが分かってるみたいで、こちらが単独で居る時にしか襲ってこない。しかも時間も決まっていて、俺達の勤務時間の後だべ」

    悠介「増援もすぐには呼べない状況ってわけですね」

    久保田「んだ。そう言う訳で、これからは仕事を早めに切り上げて、いつもより早く帰ってもらう。また、帰宅時はなるべく人通りの多い所を通るように心がけてくれ」

    捜査官一同「・・・分かりました」



    ガチャ ギィィ

    佐藤「ん・・・奈津美ちゃんじゃん!もう調子は良いの!?」

    奈津美「はい!明日からお店にも顔を出しますね」

    佐藤「無茶はすんなよ」

    秋田「おや、奈津美ちゃん。そう言えば今日退院だったね」

    奈津美「もう知っていらしたんですか。お陰様で、この通り全快です」

    秋田「それは良かった。ところで、新しいお家の話をしても良いかな?」

    奈津美「もしかして、もう用意してくださったんですか!?」

    秋田「うん。前よりは小さくなっちゃうけど、一人暮らしには十分な広さだと思うよ。営業時間が終わったら、案内するから」

    奈津美「ありがとうございます」
  10. 10 : : 2015/08/01(土) 23:03:21
    閉店時刻まで、奈津美はぬぐだまれの制服に着替えて仕事をすることにした。

    客A「奈津美ちゃんの顔を見るのは一週間ぶりだなぁ。男ばかりで華がなかったから、今まで寂しかったよ」

    佐藤「へいへい、すいませんねぇ」

    奈津美「ははは・・・今日からまた働きますので、これからもよろしくお願いします」

    それからすぐに、閉店の時間がやって来た。

    奈津美「さっ、片付けにしましょう」

    秋田「今日は私がやるから、君は浩郎君と新しいお家を見に行くと良い」

    奈津美「そんな、悪いですよ」

    佐藤「遠慮すんなって。ここは黙って店長のご厚意に甘えるぞ」

    奈津美「・・・分かりました。それでは店長、また明日」

    秋田「うん。またね」

    ガチャ

    テクテクテク

    奈津美「それで、新しい家はどこにあるんですか?」

    佐藤「山王一丁目のアパートだ」

    奈津美「山王・・・竿灯祭りをやってた所ですね」

    佐藤「奈津美ちゃん、竿灯に行ったの?」

    奈津美「はい。トーカと香織と・・・大斗君と一緒に」

    佐藤「・・・そうか」

    この会話の後、二人の間にしばし無言の時が流れた。そのまま二人は車に乗って山王のアパートへと向かった。



    奈津美「ここですか」

    佐藤「ああ。部屋まで案内するから着いてきな」

    テクテクテク

    佐藤「この部屋だ」

    佐藤はこれから奈津美が住まうことになる部屋の扉を開け、彼女に中へ入るよう促した。

    奈津美「ここも良い部屋ですね。秋田さんは不動産会社を経営しても上手くやれそうです」

    佐藤「かもな」

    奈津美「ところで、借りている服はいつ返せばいいですか?」

    佐藤「ん?ああ、それならいつまで借りてても良いぞ。お前の服は全部燃えちまっただろ?」

    奈津美「すみません。里奈さんにありがとうございますと伝えておいてください」

    佐藤「オッケー」

    奈津美「・・・それと、もう一つ良いでしょうか?」

    佐藤「何だ?」

    奈津美「この辺りで、誰にも見られる恐れのない所ってありますかね?」
  11. 11 : : 2015/08/02(日) 21:29:56
    佐藤「誰にも見られない所・・・特訓でもするの?」

    奈津美「ええ、まあ・・・」

    佐藤「そっか。でもこの辺は秋田の中では人通りの多い所だからなぁ」

    奈津美「それなら少し遠くても構いません」

    佐藤「それなら、手形山大橋に行ってみたらどうだ?橋の下にスペースがあって、そこならそうそう人に見られることはないと思うぞ」

    奈津美「手形山大橋?」

    佐藤「連れてってやろうか?」

    奈津美「いえ、自分で調べて見つけます。教えていただきありがとうございます」

    佐藤「おう。でも、あんまり無茶はするなよ。それと、協力して欲しい事があったら遠慮せずに言っていいからな」

    奈津美「はい」

    佐藤「じゃ、また明日」

    奈津美「お疲れ様でした」

    テクテクテク

    奈津美「(さて、早速行ってみようかな。手形って確か、秋田高校の辺りだった筈・・・)」

    佐藤が車を発進させたのを確認してからすぐに、奈津美は自転車で手形方面へと向かった。



    奈津美は手始めに秋田高校に向かった。幸いな事に、秋田高校の校門からは手形山大橋を見ることができる。彼女は容易に橋を見つけ、そこへと向かう。秋田高校から手形山大橋へと行くためには、自転車ではとても漕いで登ることが出来ないような急な坂道を通過する必要がある。しかし、喰種の彼女はいとも容易くその坂を登り切った。

    それから、手形山大橋の歩道走り、彼女は下へと降りられそうな階段があるのを発見した。

    奈津美「ここかな」

    奈津美は自転車を降り、階段を下る。その先には、キャッチボールくらいはできそうな空間が広がっていた。

    奈津美「(確かにここなら、誰かに見られることはなさそうね。それに、音が出るようなことをしても、車の音が掻き消してくれる。佐藤さんにもう一度お礼を言わないと)」

    秘密の特訓スペースとしてこの上ない場所を発見できたことが、彼女の気分を高揚させる。

    奈津美「それじゃあ早速始めようか。まずは鈍った体を元通りにしないと・・・」



    霜永奈津美の特訓が始まった。
  12. 12 : : 2015/08/03(月) 22:55:29
    -Ⅲ-





    9月12日水曜日。奈津美の退院から今日で一週間となるこの日、彼女はいつも通りぬぐだまれでの仕事をこなしていた。

    奈津美「いらっしゃいませ!ご注文を伺います」

    客B「えっと、カプチーノ一つで」

    奈津美「かしこまりました。カプチーノ一つお願いします!」

    佐藤「奈津美ちゃん、今日も元気いっぱいだね」

    奈津美「元気は接客において一番のコツですから」

    佐藤「全くその通り。それで、相変わらず特訓は続けてる?」

    奈津美「はい。今日の仕事の後も予定しています」

    佐藤「そっか・・・とにかく、ほどほどに頑張れよ」

    奈津美「分かってます。無茶はしませんよ」



    同刻、CCG秋田支部では悠介と摂津の二人が事務作業に励んでいた。

    悠介「今日も事務作業ばかり・・・そろそろ外に出て仕事がしたいべ」

    摂津「まあそう言うな。それだけ平和って事だ」

    悠介「なまはげ会があんだけあらげてるのに、どこが平和なんですか」

    摂津「・・・大久保二等が犠牲になったのを最後に、捜査官狩りの被害は出ていない。近頃は喰種による事件の件数も少ない。平和だろう?」

    悠介「それは捜査官狩りを行っていた喰種が慎重な性格だったから、こちらが警戒している事に気付いて一時的に手を引いているだけです。喰種事件の件数の減少だって、なまはげ会の勢力が大きくなった事の裏返しとも取れます。真の平和の為に、なまはげ会を・・・手始めに、九尾を狩らないと」

    摂津「分かってるよ、そんな事は」

    捜査官D「摂津さん、終業時間になりました。仕事を終えてください」

    摂津「もうそんな時間か。悠介、俺はまだ今日中にでかさなきゃいけない仕事があるから、お前は先に帰っててくれ」

    悠介「それ、ここ最近毎日言ってませんか?勤務時間中に終わらせてくださいよ」

    摂津「俺は准特等なんでな。上に立つ人間ってのは与えられる仕事も多いんだよ」

    悠介「分かりましたよ。では、お疲れ様でした」

    悠介は直ちにパソコンを閉じ、職場を後にした。その結果、CCG内に居る人間は摂津一人だけとなった。

    摂津「・・・じっとしてられないのはお前だけじゃないさ。だが、お前に無茶はさせられない。無茶をするのは・・・俺みたいなおっさんだけで十分だ」
  13. 13 : : 2015/08/05(水) 22:50:36
    奈津美「だいぶ涼しくなってきたな~」

    その日の夜、奈津美は手形山大橋下の特訓スペースへと自転車を走らせていた。その道中・・・

    奈津美「あっ」

    摂津「ん?奈津美ちゃんじゃないか」

    偶然にも、摂津に遭遇した。

    奈津美「こんな時間までお仕事ですか。大変ですね」

    摂津「そんな大したことじゃないよ。奈津美ちゃんの方こそ、こんな時間にどうしたんだ?」

    奈津美「えっと、塾に行ってました」

    摂津「塾か、受験生は大変だな」

    奈津美「悠介君もこんな時間まで仕事をしているんですか?」

    摂津「いや、今日は俺だけだ。ちょっとやんなきゃいけない仕事があって」

    奈津美「ははぁ・・・お勤めご苦労様です」

    摂津「どうも。それじゃあまたな」

    奈津美「はい」

    摂津と別れ、奈津美は再びペダルを漕ぎ始める。

    奈津美「(仕事終わり・・・て感じの顔じゃなかったな。どちらかと言うと、これから仕事に行く所みたいな・・・)」

    一縷の疑念の正体が何なのか、この時点では彼女にそれを知る術はなかった。



    千秋トンネル。そこは秋田でも有数の心霊スポットとされ、秋田駅に割と近い場所にあるにもかかわらず、夜になれば人通りはめっきり少なくなる。その入り口で、摂津准特等はタバコを吸っていた。

    摂津「やっぱり、慎重な奴なのかね・・・」

    今日も"目的"の達成を諦める事を決め、摂津はタバコの火を消すと共に千秋トンネルから遠ざかろうとする。

    ザッ

    摂津「!?」

    ???「その箱、あんた捜査官だな?」



    奈津美「はっ!やっ!」シュシュッ

    手形山大橋の下の特訓スペースにて、奈津美は一心不乱にシャドウに取り組んでいた。

    シュシュシュシュッ

    奈津美「やぁ!」シュッ!

    奈津美「・・・ふぅ(やっぱり、一人で出来る特訓だと限界があるか。可能なら、自分と互角以上の相手と実戦訓練をしたい所だけど・・・)」

    ??「頑張るね、奈津美さん」

    奈津美「!?」

    突然声を掛けられ、奈津美は視線を声が聞こえた方へと向ける。

    奈津美「・・・子供!?」
  14. 14 : : 2015/08/07(金) 20:01:26
    ??「コラッ和志!獣の前に不用意に姿を現すんじゃない!」

    奈津美「誰が獣・・・佐藤さん!?」

    佐藤「よぉ、頑張ってるな」

    和志「お父さん、それもう僕が言った」

    ??「それに、女の子に対してそんな言い方はないでしょう」

    佐藤の後に続いて、一人の女性が階段を下りてきた。その女性は、同性である奈津美の目をも思わず奪ってしまうほどの美貌を持っていた。

    奈津美「あの・・・そちらの方は?」

    佐藤「ああ、まだ見たことなかったか。俺の嫁だ」

    奈津美「えっ、里奈さん!?」

    里奈「どうも、佐藤里奈です。よろしくね、奈津美ちゃん」

    奈津美「こ、こちらこそ!すごく綺麗でびっくりしました。まさに秋田美人ですね」

    里奈「えっ・・・やだ、この子すごい良い子じゃない」

    佐藤「社交辞令に決まってるだろ」

    里奈「はい?」ギロッ

    佐藤「あ、いや、そ、そう言ってもらえると俺も鼻が高いよ。ははは・・・」

    奈津美「(佐藤さん、前々から片鱗は見せてたけど、恐妻家何だなぁ)」

    奈津美「ところで、何故急に御家族を連れて来られたんですか?」

    和志「奈津美さんの修業の相手をするためだよ」

    奈津美「和志君が!?」

    佐藤「まだ紹介してないのに名前を覚えやがった!やはり獣!?」

    里奈「突っ込む所違うでしょ?」ギロッ

    佐藤「あ、はい、えと、和志が相手するわけないでしょ」

    奈津美「そうですよねぇ(怖がり過ぎじゃ・・・)」

    佐藤「修業の相手をするのは里奈だよ」

    奈津美「え・・・里奈さん?」



    ???「あんた捜査官だな?」

    摂津「御名答」

    背後から声を掛けられた摂津は、ゆっくりと振り向きクインケの作動ボタンに指を掛ける。

    ???「そうか。ならあんたが・・・第二弾の最初の獲物だ!」

    ゾゾゾゾゾ

    摂津「・・・その赫子、本数は足りないが九尾か?」

    ツクモ「ああ、そうだよ!」シュシュッ

    三本だけ赫子を発現させたツクモは、それらを一斉に摂津へと突き出した。

    摂津「おっと、危ねぇ」バッ

    ツクモ「避けるか」

    摂津「当たりめぇよ。おっさんはお前を・・・」

    ガチャッ ギャリギャリ!

    摂津「駆逐しに来たんだからよ」
  15. 15 : : 2015/08/08(土) 20:00:59
    ツクモ「そのクインケ、准特等の摂津か?」

    摂津「へぇ、俺って結構有名人なんだねぇ」

    ツクモ「・・・まるで来るのを待っていたかのような口振り、わざと不用心にぶらついて、俺を誘き寄せやがったな」

    摂津「ああ。一週間ずっと現れなかったもんだから、急に怖気づいて大人しくなっちまったもんだと思ってたぜ」

    ツクモ「そいつは勘違いさせてすまなかったな。昨日までは喰種の相手をしてたんだ」

    摂津「成程。さしずめお前はなまはげ会の掃除屋ってところか」

    ツクモ「そういうことだ。そして、今の俺の掃除の対象は・・・てめぇだ!」

    ゾゾゾゾゾ

    摂津「!?」

    ツクモが残りの六本の赫子を発現させる。

    ツクモ「相手が相手なんでなぁ。全力でやらせてもらう。だからてめぇも」

    ヒュヒュヒュヒュヒュッ

    ツクモ「俺をガッカリさせんじゃねぇぞ!」



    奈津美「り、里奈さんが修業の相手ですか?」

    修業の相手が佐藤の妻・里奈であることを聞き、困惑する奈津美。しかし、彼女以外の者達は至って当然と言わんばかりの顔をしていた。

    里奈「ええ。今日から早速相手してあげる。てことであなた、和志のことは任せたわよ」

    和志「ええ~お父さんと二人~?」

    佐藤「い、嫌そうな顔すんなよ」ガーン

    しかし、何だかんだ言って和志は父にも懐いており、彼に連れられて階段を上っていった。

    里奈「さて、修業の相手をするとは言ったけど、私は細かい所を教えるのは得意じゃないから、するのは戦いの相手ね」

    奈津美「実戦訓練ってことですか。望むところです」

    里奈「・・・良い眼ね。それじゃあまずは、赫子無し、徒手空拳での戦いとしましょう。好きなタイミングでかかってきなさい」

    奈津美「分かりました」

    奈津美が戦闘態勢に入る。

    奈津美「(里奈さんがどれくらい強いのかはわからないけど、手加減するのは修業相手に対して失礼。全力で・・・)」

    ダッ

    奈津美「(挑む!)」シュッ

    パシッ

    奈津美「!?」

    奈津美が放った右拳を、里奈はいとも容易く受け流して見せた。
  16. 16 : : 2015/08/10(月) 21:11:43
    攻撃を受け流されたことを自覚した瞬間、奈津美はカウンターを警戒し、里奈から一気に距離を取った。

    里奈「いい反応じゃない。さっ、どんどん打ち込んできなさい」

    ダッ

    里奈の力量を察知し始めた奈津美は、先ほどよりも鋭く里奈の懐へと切り込み、拳を突き出した。彼女はその攻撃を回避した。

    奈津美「まだ!」

    シュシュシュッ

    奈津美は里奈が避けた先へ、そのまた避けた先へと、次々に攻撃を繰り出していく。しかし、里奈はその全てを必要最小限の動きで躱していく。

    奈津美「これなら!」

    パンチが駄目ならキックだと言わんばかりに、奈津美は右足で蹴りを繰り出した。これまた鋭い攻撃であるのだが、里奈は彼女の足を掴み取ってしまう。

    直後、里奈は奈津美の左足を払う。支えを失い彼女の体が宙に浮いた瞬間を見逃すことなく、里奈は彼女の胸倉を掴み取ると同時に彼女の体を背負い投げ、地面へと叩き付けた。

    奈津美「(は、早い・・・)参りました」

    里奈「・・・うん。聞いていた通り、なかなかやるじゃん。なまじっか強い喰種は、赫子に頼ってばかりで本人の格闘術がなおざりになることも多いけど、奈津美ちゃんの格闘術は洗練されてるし、しっかり鍛えてるみたいね」

    奈津美「全部躱された後に言われても、皮肉にしか聞こえないんですけど・・・」

    里奈「皮肉じゃ無く、本当のことよ。でも、手も足も出なかったのも事実。それってどうしてだと思う?」

    奈津美「未熟だからじゃないんですか?」

    里奈「ううん。寧ろその逆。あなたの戦い方は洗練されすぎなのよ」

    奈津美「洗練されすぎって・・・どういうことですか?」

    里奈「遊びが足りないのよ。攻撃の一手一手が正確で、その瞬間瞬間の最適解を出してくるから、逆に次の攻撃が読まれてしまうの。もっとも、それお読み取れるのは事前にそれを知っている相手か、相当の猛者、もしくは天才的なものを持った相手にかぎるけどね」

    奈津美「・・・なるほど」

    里奈「あまりこういうことは言いたくないんだけど、奈津美ちゃんが強くなるコツはもっと戦いを楽しむことだと思う。好戦的な奴が強い事が多いのは、強いから好きになりやすいって言うのもあるけど、自由奔放な戦い方をしてくるからでもあるの」

    奈津美「(戦いを楽しむ・・・か)」
  17. 17 : : 2015/08/11(火) 21:30:26



    ツクモ「ハハッ!やるじゃねぇか!」

    九本の赫子によって繰り出される豪雨の如き苛烈な攻撃を、摂津は何とか凌ぎ続けていた。

    喰種であり、優れた格闘術を持ち、さらには八本の赫子をも持つ奈津美でさえも対処しきれなかったこの攻撃の回避を、所詮は人間である摂津に可能にさせたのは、彼の経験則とそれに基づいた冷静な対応であった。

    時に後退し距離を取り、時にクインケ"フキノトウ"の引き金を引きツクモに防御を選択させる。こう云った手段を的確に選び取ることで、彼は喰種でさえも回避困難な行動を捌いていた。

    ヒュヒュッ

    ババッ

    ツクモ「これも避けんのかっ!面白れぇ!」

    摂津「へっ、こっちはちっとも面白くねぇよ」ボソッ

    摂津が愚痴を零す。それは防戦一方であることへの不安感から漏れ出たものであった。

    "凌ぎ続けている"ということは、裏を返せば"攻撃側に回れないでいる"という意味でもある。カウンターの機会が伺える状況でればそれもまた悪くない状況なのかもしれないが、九本の赫子を持つツクモに隙は一切なかった。

    しかしそれは、正面から向き合っての攻防を続ければの話。

    ダッ

    摂津は突如としてツクモに背を向け、逃走を始めた。

    ツクモ「なっ!?逃げんのか!」

    目の前の敵の突然の行動にツクモは一瞬呆気にとられるが、すぐさま我に返り、摂津を追いかけた。

    彼は今いる道よりもさらに細い路地へと駆け込んだ。ツクモはそれを見ると、人間には到底達せられぬ速度で駆け、その路地の真中へと躍り出た。

    摂津の思惑通りに・・・

    ガガガガガガガ!!!

    ツクモの眼前が、無数のフキノトウで埋め尽くされた。
  18. 18 : : 2015/08/13(木) 14:58:19



    里奈「やっぱり難しいか・・・」

    奈津美が強くなるためのコツとして、戦いを楽しむことを挙げた里奈は困ったような顔をして呟いた。

    里奈「さっきの組み手を見る限りではだけど、奈津美ちゃんは本当は戦うのが嫌いでしょ?」

    奈津美「嫌いというか・・・夢中にならないように強いてきました」

    里奈「?」

    奈津美「里奈さんのおっしゃる通り、私が戦いを楽しめるようになるのは少し難しい事だと思います。でも、私はそれを、奴に・・・ツクモに負けてから、ずっと目指してきました。ですから、里奈さんにそう言って頂けて、自分の考えが間違いではないと確信できました」

    奈津美「四年前に戻れれば・・・きっと・・・」

    里奈「四年前?」

    奈津美「すみません。あまり話したくはないです」

    里奈「あっ、いや、別に無理して話さなくていいのよ。それより、四年前に戻るために必要なものとして、何が必要かはもう考えてたの?」

    奈津美「はい。必要なのは・・・互角以上の相手との闘い」

    里奈「・・・同意」

    奈津美「それなら決まりですね。里奈さん、お願いします!」

    里奈「ええ」

    里奈が奈津美の要求に応じると同時に、彼女の瞳が深紅に染まった。

    里奈「今度は赫子はもちろん、何でもありのルール無用の組み手よ。死なない程度に全力でかかってきなさい!」

    奈津美「はい!」



    ガガガガガガガ!!!

    ツクモへと一斉に降り注ぐフキノトウの雨。摂津の持つ最大火力の攻撃であった。

    ツクモ「・・・らぁあああああああ!!!!!」

    ガガガギギィンガギブシャガギギギギィン!

    摂津「ま、マジかよ・・・」

    ツクモは彼の九本の赫子を以って摂津の放った弾丸の九割を弾き飛ばした。残りの一割は何とか命中したものの、喰種の回復力の前に忽ち傷は塞がってしまった。

    ツクモ「ふぅ、ちょっと冷や冷やしたぜ」
  19. 19 : : 2015/08/15(土) 19:29:50
    自身の持つ最大の攻撃を凌がれ、摂津の額に冷や汗が流れ出す。

    ツクモ「今度はこっちの番だ!」

    ヒュヒュヒュヒュヒュッ

    摂津「っ・・・!」

    再び防戦一方を強いられる摂津。彼は何とかこの状況を打開するために、人の住んでいないと思われる民家を探していた。このまま互いが互いを視認し合った状態では、圧倒的にツクモが有利であるからだ。その打開策として、ツクモの視界から逃れるには民家の間に入るしかないと、彼は考えていた。そして、彼は明かりが一つも点いておらず、車庫には車が一台も無い家を発見した。

    摂津「!」ダッ

    その家の裏へと逃げ込もうと、視線をツクモから切り、左足を大きく真横へと踏み出した時・・・

    学生「あぁ・・・・・・」ガクガク

    喰種を目の当たりにした恐怖から、道の真ん中に立ち竦んでいる男子学生の姿が目に映った。

    ツクモ「何だあいつ?邪魔だな」ヒュン!

    摂津「・・・クソガキが」

    ザクザクッ



    奈津美「ま、参りました」

    奈津美は両手を上げ、降参の意を示す。彼女の首筋には、里奈の甲赫が突き付けられていた。

    里奈「うん。赫子の使い方もなかなか。最後まで勝てるかどうか分からなかったよ」

    奈津美「御冗談を。私が終始押されっ放しでしたよ。しかも、相性的にはこっちの方が有利にもかかわらず」

    里奈「まっ、自分で言っちゃなんだけど、私も強いからね。それで、四年前の間隔は取り戻せそう?」

    奈津美「・・・まだまだ先行き不透明って感じです」

    里奈「そっか。焦らず気長にやりましょう。お互いヘトヘトだし、今日はここで終了!」

    奈津美「はい。ありがとうございました!」



    それから、奈津美は里奈にジュースを奢ってもらってからアパートへと帰宅した。
  20. 20 : : 2015/08/16(日) 22:29:51
    プルルルル プルルルル

    夜の11時、ちょうど奈津美が帰宅したところで電話機の呼び出し音が鳴り始めた。

    ガチャ

    奈津美「もしもし?」

    トーカ『奈津美さん!?』

    奈津美「あっ、トーカ。久しぶり」

    トーカ『久しぶりで・・・じゃありませんよ!急に連絡が途絶えたから、心配したんですよ!』

    奈津美「ごめんごめん。家が焼けちゃったもんだから。新しい連絡先は秋田店長から聞いたの?」

    トーカ『正確に言うと、秋田店長から連絡先を聞いた芳村店長に聞きました』

    奈津美「そっか。トーカに教えるの、すっかり忘れてたよ。でもありがとう。やっぱりトーカと話すとそれだけで元気になるよ」

    トーカ『・・・大斗君、連れ去られちゃったんですよね』

    奈津美「うん」

    トーカ『辛いときは言ってくださいね。弱音や愚痴ぐらい幾らでも引き受けますから』

    奈津美「うん」

    トーカ『大斗君なら大丈夫ですよ。あいつ、結構強いですから』

    奈津美「うん」

    トーカ『だから、自分のせいだって責めないでくださいね』

    奈津美「・・・うん」

    トーカ『・・・今日は遅いですから、このぐらいにしましょうか。明日もまた、電話してもいいですか?』

    奈津美「うん、もちろん」

    トーカ『それじゃあ、また明日。お休みなさい』

    奈津美「うん、お休み」

    ガチャ

    奈津美「・・・どうしてかな。トーカと電話して、こんなにも気分が晴れないのは・・・」



    次の日、奈津美はいつもと変わらず学校に登校した。

    香織「おはよう、奈津美」

    奈津美「おはよう」

    それからクラスメイトと他愛の無い話をしていると、東高校で朝自学開始の時間と定められている8時15分となったので、彼女は席に着いた。

    ふと教室を見回してみると、空席が一つあった。悠介の席だった。その後のホームルームで、彼は風邪による欠席であると伝えられた。
  21. 21 : : 2015/08/17(月) 19:41:13
    香織「あいつが風邪なんてひくのかねぇ」

    ホームルームの後、香織の呟きが奈津美の耳に入った。

    奈津美「確かに、丈夫そうだよね」

    香織「丈夫も何も、あいつ今まで皆勤だよ。しかも、風邪をひいても無理して登校したとかすら無し」

    奈津美「・・・もしかして、仕事絡みかな」

    香織「仕事?」

    奈津美「いや、何でもないよ。気にしないで」

    香織「はあ・・・」

    男子生徒A「そういや、昨日のニュース見た?喰種の事件」

    男子生徒B「ああ。あれだろ?千秋トンネルの近くで喰種と捜査官の戦いがあったっていう」

    奈津美「(白鳩と戦った?誰だろう。もしかして、なまはげ会?)」

    男子生徒A「あんな身近な場所に喰種が出るなんてな。学生が一人鉢合わせになったらしいし、怖くて夜は出歩けねぇよ」

    男子生徒B「学生が鉢合わせ?」

    男子生徒A「知らなかったのか」

    男子生徒B「そいつ、どうなったんだ?死んだのか?」

    男子生徒A「いや、危ないところを捜査官に助けられたらしい。でもその代わり、捜査官が犠牲になったって話だぜ」

    奈津美「!?」

    奈津美「ちょっと、その犠牲になった捜査官って誰!?」

    男子生徒A「えっ、知らねぇよ。捜査官の知り合いなんていないし」

    奈津美「そうだよね。ごめん(悠介君では無いか・・・帰りに寄って行こうかな)」



    放課後、奈津美は予定通り千秋トンネル付近を通って下校を試みた。すると、案の定通行止めになっていた。

    捜査官A「すみません。今、現場検証中なんで通行はご遠慮ください」

    奈津美「そうですか・・・あっ、悠介君!」

    悠介「奈津美さん?」

    奈津美に気付いた悠介は、彼女のところに歩み寄る。

    悠介「あんまり大きな声で呼ばないでけれ。前にも話したども、俺が捜査官だっていうのは秘密だから」

    奈津美「ごめんごめん。それにしても何事?」

    悠介「・・・捜査官狩り。なまはげ会によるね」

    奈津美「捜査官狩り!?そんなことが・・・」

    悠介「わり、そろそろ仕事に戻って良いべか?」

    奈津美「邪魔してごめんね。あっ、でも一つ気になるんだけど、亡くなった捜査官って誰なの?」

    悠介「・・・」

    奈津美「私の知ってる人じゃないよね。だったら良いんだけど」

    悠介「摂津さんだよ」

    奈津美「え・・・」
  22. 22 : : 2015/08/18(火) 20:12:56
    悠介「・・・仕事に戻るね。明日は学校に行くから」

    テクテクテク

    奈津美「摂津さん・・・」

    昨日会った時、こうなることが予測できていたら・・・

    奈津美の頭の中は、ありもしない可能性で埋め尽くされていた。



    ガチャ ギィィ

    佐藤「お、奈津美ちゃん」

    奈津美「お疲れ様です・・・」

    佐藤「・・・何か暗いけど、どうかしたの?」

    奈津美「お店が終わったら話します。まずは着替えてきますね」

    佐藤「あ、ああ」

    テクテクテク

    秋田「一体何事だろうね」

    佐藤「大斗君が拉致された時と同じくらい、暗い表情でしたよ」

    結局、彼らは営業時間が終わるまで執拗に事情を詮索することはなく、奈津美も何も話さなかった。

    そして、閉店時刻の午後六時を迎えた。

    佐藤「さて、お客さんも皆帰ったし。話してくれるかい?」

    奈津美「・・・はい。実は昨日、摂津さんがなまはげ会の喰種に襲われて、亡くなりました」

    佐藤「摂津さんが!?」

    秋田「それはどうやって知ったのかな?」

    奈津美「今日学校で、喰種と捜査官の戦いがあったという話を聞いて、事件のあった千秋トンネルの近くを通って下校したんです。そしたら、悠介君に会って・・・亡くなったのが摂津さんだということは彼から聞きました」

    秋田「そうか。ということは、間違いないのか・・・」

    佐藤「まさか摂津さんが死ぬなんて・・・くそっ」

    奈津美「・・・私のせいです」

    佐藤「!?」

    秋田「何故、そんなことを言うんだい?」

    奈津美「実は私、昨日摂津さんにお会いしてるんです。恐らく、彼が殺される前に最後に会ったのは私です」

    秋田「だからと言って、こんなことになるとは、誰も予想し得ないだろう。それなのに、君のせいだというのはあまりにお門違いだ。自分を責めすぎだよ」

    奈津美「分かってます・・・分かってますけど・・・」

    コンコン

    佐藤「ん?閉店後なのに、誰だろう」

    佐藤が入り口の扉を開けた。

    佐藤「あれ、山田さんじゃないですか。お久しぶりです」

    山田「どうも。秋田さんも、奈津美ちゃんも、お疲れ様です」

    奈津美「どうも・・・」
  23. 23 : : 2015/08/20(木) 21:24:42



    奈津美「大斗君を守れなくて、申し訳ありませんでした」

    カウンターに座りコーヒーを飲む山田に、奈津美は謝罪の言葉を述べた。

    山田「謝る必要は全然ないよ。寧ろ君はよくやってくれたさ。ただ、相手が悪かった。それだけだ」

    佐藤「奈津美ちゃん、あれから大斗君の話題が出る度謝ってるんじゃないか?大斗君はおそらくまだ生きてるんだし、いい加減切り替えないと」

    奈津美「これでも、十分切り替えてますよ」

    山田「あの、そろそろ用件に入っても良いですか?」

    秋田「ええ、どうぞ」

    山田「では話します。実は、なまはげ会の拠点と思しき建造物を発見しました」

    奈津美「奴らの拠点を!?」

    佐藤「さっすが山田さん!」

    秋田「それで、どこにあったんだい?」

    山田「能代市と三種町の境界線にある房住山の麓です。普通なら誰も足を踏み入れなそうな森の奥深くにある廃墟です」

    佐藤「本拠地はあっちにあったわけだ」

    奈津美「さっそく乗り込んで、大斗君を助けに行きましょう!」

    秋田「そう簡単にはいかないよ」

    奈津美「・・・時機ですか」

    秋田「それ以前の問題だ」

    奈津美「それはどういう・・・」

    山田「そこに大斗君がいない可能性すらあるということだ」

    奈津美「あっ・・・確かに」

    山田「私はこれから、それを確かめに偵察に戻るつもりです」

    秋田「・・・無茶はしないでくれよ」

    山田「承知しております。では、情報を掴み次第また来ます。コーヒー、ごちそうさまでした」

    山田は席を立ち、ぬぐだまれを後にしていった。

    佐藤「取り敢えず、一歩前進ですね」

    秋田「うん」

    奈津美「私、帰りますね」

    秋田「今日も特訓かい?」

    奈津美「はい。里奈さんのお陰で、とても有意義な特訓が出来ています」

    佐藤「そいつは良かった」

    奈津美「それでは、お疲れさまでした」

    秋田「ご苦労様」

    佐藤「・・・奈津美ちゃん」

    奈津美「はい?」

    佐藤「大斗君の居場所が分かったら、大斗君を助けるだけじゃなく、なまはげ会の連中を一泡吹かせてやろうぜ」

    奈津美「・・・はい!」

    ガチャ ギィィ バタン
  24. 24 : : 2015/08/23(日) 21:15:42
    その日の夜、奈津美は自分から電話を掛けてトーカと談笑していた。

    トーカ『そう言えば、奈津美さんってリゼって喰種の事はご存知でしたっけ?』

    奈津美「リゼ・・・あっ、確か大喰いで噂の!そいつがどうかしたの?」

    トーカ『実は、奈津美さんが秋田に引っ越してから一か月後ぐらいから二十区に住んでるんですけど、そいつが自由奔放過ぎるというか目障りというか・・・』

    奈津美「噂通りの大喰いだったわけだ」

    トーカ『はい。お陰様で、白鳩の動きが少し活発になってきてしまう始末ですよ』

    奈津美「月山と並ぶ厄介者っぷりね。白鳩には気を付けてよ」

    トーカ『今のところは、本局から捜査官が派遣されてるような事態にはなってないので大丈夫ですよ。ただ、リゼも懲りずに捕食を続けてるので、時間の問題ですけど』

    奈津美「もしかして、次の獲物の目星をつけっちゃってる感じ?」

    トーカ『ええ、何だか鈍くさそうな大学生の男でした。同情とかは無いですけど、一応ウチの客なんで、そいつが落としてくれる予定だった金を払えって言いたいですよ』

    奈津美「ははは。まっ、芳村店長が居るんだし、大丈夫でしょ」

    トーカ『そうですね』

    奈津美「うん」

    トーカ『・・・奈津美さん、何か良いことありました?』

    奈津美「うん。一歩前進できた」

    トーカ『おめでとうございます』

    奈津美「ありがと。今日はもう寝るね」

    トーカ『はい。お休みなさい』

    奈津美「お休み」

    ガチャン

    奈津美「(最近良く思うけど、私ってそんなに分かりやすいのかな)」



    無力と後悔に苛まれながらも、希望を取り戻した彼女は一歩ずつ前へと歩を進める。

    一方で、心に一片の闇を抱いた彼は・・・
  25. 25 : : 2015/08/24(月) 20:04:12
    -Ⅳ-





    9月27日木曜日の夕方、悠介はCCG秋田支部局局長・落合敏郎に呼び出された。

    コンコン

    落合「入れ」

    ガチャ ギィィ

    悠介「失礼します」

    ドアを開け、局長室へと入室しようとすると、江畑の姿が目に付いた。

    落合「やぁ、会うのは四月ぶりかな?君の働きは聞いているよ。頑張っているようだね」

    悠介「いえ、まだまだ未熟です」

    落合「・・・では、本題に入ろう。周知の通り、二週間前になまはげ会の喰種・九尾によって摂津准特等が殺害された。この事により現在、清原三等はパートナー不在の状況に陥っていた。そこで、今日からは君達二人にコンビを組んでもらう」

    悠介「え・・・江畑上等とですか・・・?」

    落合「ん?何か問題でも?」

    悠介「いや・・・」

    江畑「清原三等は私の事が嫌いだそうです」

    悠介「な!?」

    落合「あら」

    江畑「さらに言うと、私もこういう生意気な子供は嫌いです。が、お互い一人の捜査官として、局長の指令には従う所存です」

    落合「ふむ。何だか大変そうだけど、面白そうだから変更はなしで」

    江畑「畏まりました」

    悠介「(面白そうって・・・)了解しました」

    落合「話は終わりだから、下がって良いよ」

    江畑「はっ!」

    悠介「はっ!」

    ガチャ ギィィ バタン

    落合「まっ、初めから仲悪ぃのわかってて組ませたんだどもな」ボソッ



    江畑「まさかお前と組むことになるとはな」

    悠介「それはこっちのセリフですよ」

    江畑「ふっ、摂津准特等も迷惑な方だ。一人で粋がって死んだかと思えば、こんなじゃじゃ馬の世話を擦り付けてくるんだからな」

    悠介「江畑上等!!!摂津さんの悪口を話すのは、止めていただきたい」

    江畑「悪口を言ったつもりはないが」

    悠介「なに!?」

    久保田「あの・・・」

    悠介「・・・久保田さん。どうかされたんですか?」

    久保田「それこそこっちのセリフ。なした?」

    江畑「大したことではないので、気になさらないでください」

    久保田「・・・んだか。てば、呼び出しの後すぐで悪いんだども、捜査会議を行うから来てけれ」

    悠介「わかりました」

    江畑「了解です」
  26. 26 : : 2015/08/25(火) 22:47:52
    久保田に連れられ会議室へと入室した二人。会議の内容は例に漏れず、九尾対策である。

    捜査官C「九尾による捜査官狩りですが、摂津准特等が亡くなってから今日まで被害者は出ておりません」

    捜査官A「敵さんは非常に慎重派だったってわけですか」

    捜査官D「単に休養中なだけかもしれんぞ」

    久保田「皆の心がけと、摂津の戦いが効いたんだべ」

    江畑「准特等の戦いに何の意味が?」

    久保田「戦闘痕を見る限り、しったけ激しい戦いになったのは間違いない。簡単には仕留められない者も居るということを思い知ったはずだべ」

    江畑「・・・面白い考えですね」

    悠介「面白い?」

    江畑「何か文句でも?清原三等」

    久保田「ゴホン!え~、一先ず被害は収まったわけなので、これからも九尾との接触は極力避けるようにしていくべ」

    悠介「それって、こちらからは何も手出ししないってことですか?」

    久保田「ああ、一旦は様子見だべ」

    悠介「それで良いんですか!?」

    久保田「悠介?」

    悠介「Sレートを超える喰種をこのまま野放しにしていて良いんですか!?我々は喰種捜査官ですよ!九尾に襲われないようにすることよりも、奴を駆逐することを考えるべきです」

    久保田「そんなことは分かってるべ。でも」

    江畑「綺麗事を並べるな、三等。お前がしたいことは准特等の復讐だろう?」

    悠介「違っ・・・いや、違うとは言いません。でも、このまま手をこまねいていて良いはずもありません!」

    久保田「もちろんだべ。でも、九尾は尻尾の数は多いのに一つも尻尾を掴ませてくれないんだべ」

    悠介「それならば、誘き出せば良い。江畑上等の得意な囮作戦とかを使って!」

    江畑「奴ほどの喰種に囮なんぞ通用せん」

    悠介「・・・だったら・・・俺が」

    久保田「悠介!」

    悠介「!?」

    久保田「今は堪えろ」

    悠介「・・・」

    久保田「今日の会議はこれで終わりだべ。皆、用心を怠らないように。解散」
  27. 27 : : 2015/08/26(水) 21:34:44
    捜査会議から二時間が経ち、終業時刻を迎えた。

    捜査官A「皆さん、仕事の終わりの時間ですよ」

    捜査官Aの呼び掛けに応じ、一同が各々片付けを始める。

    悠介「よしっ、じゃあ俺は帰りますね。お疲れ様でした」

    江畑「まっすぐ家へ帰れよ」

    悠介「・・・心得てますよ」

    江畑「帰宅後は家から出るなよ」

    悠介「あぁもう!言われなくても知ってます!」

    江畑「そうか。じゃあまた」

    悠介「・・・」

    テクテクテク

    江畑「・・・正直な奴だ」ボソッ

    捜査官A「?」



    その日の夜も、霜永奈津美は手形山大橋の下の特訓スペースへと向かって自転車を漕いでいた。

    奈津美「・・・あれ、悠介君?」

    悠介「あっ、奈津美さん」

    奈津美「こんな時間までお仕事?」

    悠介「・・・うん。そんなとこだべ。奈津美さんは?」

    奈津美「えと・・・店長から買い出しを頼まれて」

    悠介「んだか。てば、また明日」

    奈津美「うん・・・」

    テクテクテク

    奈津美「あっ、悠介君!」

    悠介「何だべ?」

    奈津美「捜査官狩りに遭わないように、気を付けて帰ってね。悠介君が死んじゃったら・・・嫌だから」

    悠介「・・・善処するべ」

    奈津美「善処じゃダメ!絶対!」

    悠介「了解だべ」

    奈津美「うん。それじゃあ今度こそまたね」

    テクテクテク

    悠介「(ごめんな。でも、死ぬつもりは毛頭ないから)」

    奈津美と別れた悠介は、千秋公園の周りにある池に沿って歩道を歩き、駅前の十字路を左に曲がった。それから、上り坂を真っ直ぐ進んだ先にある交差点を再び左折すると、千秋トンネルが見えてきた。

    ここまでの道順は、摂津が千秋トンネルへと向かった際に通ったものと全く同一であった。

    悠介「・・・ふぅぅ」

    大きく深呼吸をしてから、彼は千秋トンネルの中へと歩を進めていった。
  28. 28 : : 2015/08/28(金) 23:38:11
    トンネル内には車も人影も無く、足音だけが響き渡っていた。

    悠介「・・・九尾!居るなら出てけ!」

    ツクモ「はっ、わざわざ呼び出してくるとは、威勢のいい奴が居たもんだ」

    ツクモの声が響いた後に、彼は姿を現した。

    ツクモ「この前殺した准特等の敵討ちってところか?」

    悠介「関係ねぇ。一人の捜査官としてお前を倒しに来た」

    ツクモ「いや、違うね。お前の目は職務を果たそうとする人間の目じゃない。憎悪に駆られた人間の目だ」

    悠介「・・・」

    ツクモ「敵討ち!大いに歓迎するぜ。何せ最近は、夜に一人で不用心にほっつき歩いている奴が現れなくなったせいで、狩りが出来ないでいたからな。お前らごとき、何人いようが敵じゃないが、ボスに止められているんでね」

    悠介「お前の事情なんてどうでもいいべ」

    悠介は背中に背負っているギターケースからクインケ"キリタンポ"を取り出した。

    ツクモ「そのクインケ・・・お前、清原悠介か」

    悠介「んだ」

    ツクモ「ハッハッハッ、そいつは良い。将来有望な捜査官を・・・今日で台無しにしちまうのも悪くねぇ!」

    ゾゾゾゾゾ

    ツクモは早くも九本全ての赫子を展開する。

    ツクモ「いくぜ!先手ひっ!?」

    ツクモが悠介に飛び掛ろうとするよりも早く、悠介はキリタンポの先端から結晶状のRc細胞の弾丸を放った。

    ツクモ「チッ」

    キキキィン!

    ツクモ「キメラクインケか。面白!?」

    キリタンポから放たれた弾丸を全て弾き飛ばし、再び攻撃を仕掛けようとした時には、悠介は既にツクモを間合いに捉えていた。

    悠介「ふっ!」

    バキィ!

    不意を突かれたツクモは、悠介の渾身の一振りをもろに受け、空中へと弾き出される。

    悠介「(摂津さんを倒したほどの喰種だ。俺ごときが倒すには、相手に攻撃する暇を一切与えてはいけない!)」

    ガガガ!

    空中にいるツクモ目掛けて、再び弾丸を放ち追撃を試みる。

    悠介「(この攻撃で一気に終わらせるんだ!)」

    追撃の弾丸が命中したのを確認するや否や、彼はツクモの身体の落下点へと回り込んだ。
  29. 29 : : 2015/08/29(土) 20:35:45
    グッ

    悠介はクインケを握る力を強める。そして、全身全霊の力を込めてクインケを振り上げた。

    ブオン!

    悠介「な!?(馬鹿な!空中で身体を停止させた!?)」

    攻撃が空振りに終わった事を受け、悠介は咄嗟に後ろへと下がる。その結果、彼はツクモが攻撃を回避した方法を知った。

    ツクモは自身の赫子を地面へと突き刺し、それらに足の働きをさせることで、空中で身体を固定させることを可能にしたのだ。

    ツクモ「良い動きと戦略だったぜ。ちょっとだけ冷や冷やしたよ。だが、もう俺の勝ちは確定だ。こんな博打じみた攻撃を仕掛けて来たってことは、もう分かってんだろ?」

    悠介「ああ、分かってるべ。お前の方が俺より強いことぐらいはな!でもなぁ、だからと言って勝敗は」

    ツクモ「決まる!」

    ヒュヒュヒュヒュヒュン!

    九本の赫子による同時攻撃が悠介に襲い掛かる。彼はクインケを以ってその攻撃を防御しようとするが・・・

    ガィン!

    鋭く重いツクモの赫子を受け止めきれず、身体を大きく仰け反らされてしまう。その余りに大きな隙を、ツクモが見逃す訳も無く、彼は悠介の胸目掛けて一本の赫子を伸ばす。

    ザシュッ

    悠介「っ!!!」

    ツクモ「ギリギリで致命傷を避けるとは、人間の癖に大した反射神経だなぁ、おい」

    悠介「はぁはぁはぁ・・・」

    ツクモ「だがよぉ、工夫も何も凝らしていない真っ正面からの攻撃に対してこの様じゃあやっぱり勝ち目は無い。諦めて死ねよ」

    悠介「誰が諦めるかよ・・・」

    ツクモ「・・・てめぇもか」ボソッ

    悠介「?」

    ツクモ「てめぇも、自分の力を弁えねぇムカつく野郎かって事だよ!」

    悠介「・・・そんなところだべ」

    ツクモ「そぉかよ、なら・・・誰だか分かんねぇぐらい死体を細切れにしてやるよ!」

    ヒュヒュヒュヒュヒュッ

    再び一斉攻撃を仕掛けるツクモ。しかし、その攻撃の勢いは先程のものの比では無かった。

    ガキィン!

    悠介は防御しようとするも、クインケを弾き飛ばされる。

    悠介「(しまっ!)」

    ツクモ「終わりだぁ!!!」

    クインケを弾かれ防御手段を失った悠介に、容赦なく九本の赫子が襲い掛かる。
  30. 30 : : 2015/08/31(月) 21:53:20
    ??「はぁ!」

    ズバズバッ

    悠介「!?」

    ツクモの赫子は、悠介の身体へ到達する寸前で切り落とされた。

    ツクモ「誰だてめぇ!」

    江畑「CCG秋田支部局所属、江畑美由紀。階級は上等だ」

    ツクモ「江畑美由紀・・・本局から左遷された女か」

    悠介「え、江畑上等・・・その・・・」

    江畑「ボケっとするな。さっさとクインケを拾え」

    悠介「あっ、はい!」

    悠介はツクモの様子を警戒しつつ、クインケを拾い上げる。

    ツクモ「秋田の捜査官で五指に入る実力者が二人・・・」

    江畑「逃げるか?」

    ツクモ「馬鹿言うんじゃねぇ!こんな機会、逃してたまるかよ!てめぇら二人とも・・・ぶっ殺す!!!」

    ヒュヒュヒュヒュヒュッ

    九本の赫子での一斉攻撃が二人を襲う。先程まで悠介が受けていた攻撃と同一のものであるが、受け手が二人の分、一人当たりに襲い掛かる攻撃は半分であり、江畑はもちろん悠介もうまく攻撃を捌いていた。

    ツクモ「はんっ、ようやく楽しくなってきたぜ」

    口元を綻ばせるツクモ。次の瞬間、彼は地面を強く蹴り、一瞬にして二人の眼前へと迫った。そして、間髪入れずに拳を突き出す。狙いは・・・江畑である。

    シュッ

    鋭いジャブを紙一重で回避する江畑。しかし、喰種の手は人間同様二本。すかさずもう一方の拳が彼女へと突き出される・・・

    悠介「おお!」

    その直前に、ツクモの背後からクインケを振るう悠介。この攻撃は完全に隙を突いたかに見えたが、喰種は人間にはない器官を所持している。赫子である。

    ガキッ

    悠介が繰り出した攻撃は、二本の赫子によって阻まれてしまった。結果、江畑へと突き出された二つ目の拳は止まることなく彼女へと襲い掛かる。

    ギィン!

    だが、江畑はそれも自身のクインケ"マサムネ1/2"×2で防御する。

    ツクモ「良いねぇ!」

    ゾゾッ

    江畑「・・・退避だ!」

    何かを感じ取った江畑は、悠介に下がることを命じて自身も後ろへと跳ぶ。悠介も指示に従い後方へと跳んだ。その次の瞬間・・・

    ギュオオオオオ!!!

    徒手空拳での戦闘の間縮めていた赫子を、二人へ向けて一気に伸ばした。今まで縮められていた分その勢いは凄まじかったが、直前で距離をとっていたお陰で二人は何とかそれを凌いだ。

    悠介「(江畑上等の指示がねがったらやられてた。二人がかりでも押されるなんて・・・)」
  31. 31 : : 2015/09/01(火) 22:20:35
    ツクモ「フッ、どっちが勝つか分からない五分と五分の戦い。やっぱり戦いはこうでなくっちゃなぁ!」

    江畑「そうか。喜んでもらえて何よりだ」

    悠介「・・・江畑上等、五分五分とか言ってますけど、正直押され気味ですよね。どうします?」ボソッ

    江畑「私はどこかの阿呆とは違う。手なら既に打ってある。そろそろ来る頃だろう」

    悠介「来る?」

    ツクモ「この調子だぜてめぇら!気を抜いてあっさり死んじまうなんてことはよしてくれ」

    ダッ!

    ツクモ「よ!」

    ヒュヒュヒュヒュヒュッ

    一気に距離を詰めてからの赫子の一斉攻撃。二人は後ろへと下がりながらクインケでそれを防ぐ。

    悠介「くっ!」

    江畑「耐えろよ三等。防ぐことだけを考えろ」

    悠介「でもそれじゃあ・・・」

    ツクモ「いつまで経っても勝てねぇぜ?」

    悠介「なっ(後ろ!?)」

    悠介が江畑からの指示を受けている間に、ツクモは二人の背後に回り込んでいた。ツクモは即座に、悠介の身体を穿つべく赫子を放つ。

    悠介「(速!死・・・)」

    悠介「んで堪るか!」

    ガキィッ!

    生への執念による火事場の馬鹿力によって、悠介はギリギリで防御を成功させた。しかし、不完全な防御は衝撃までは防ぎきれず、彼の身体は弾き飛ばされ、トンネルの壁へと叩き付けられる。

    悠介「がっ!」

    ツクモ「ハッ、よく防いだ!」

    悠介「の・・・(串刺しは防いだのは良いども、受けたダメージは十分大きいべ。体が動かねぇ・・・)」

    ツクモ「・・・なんだよ。もう動けねぇのか?ったく、これだから人間は」

    江畑「いや、よく生き延びた。後はもう大丈夫だ」

    ツクモ「はぁ?何言って・・・ん?」

    テクテクテク

    トンネル内に、悠介、江畑、ツクモの三人とは別の誰かの足音がこだまする。

    ツクモ「何だお前は」

    ???「ふふふ・・・なんだかんだと聞かれたら、答えてあげるが世の情け。俺の名は・・・」

    江畑「久保田特等。少し遅いですよ」

    久保田「言うなよ!」
  32. 32 : : 2015/09/02(水) 22:49:51
    ツクモ「おい、寒いおっさん」

    久保田「寒い言うな!」

    ツクモ「久保田特等で、間違いないんだな?」

    久保田「んだ」

    ツクモ「マジか・・・恐怖で体が震えてきやがった」

    久保田「あのねぇ。君、そったことを言うような奴には見えねぇんだども。冗談言う前に、そのやる気満々の殺気をしまったらどうかな?」

    ツクモ「嘘じゃねぇ・・・恐怖以上に興奮が上回ってるだけだ!」ニィッ

    ツクモが今日一の笑顔を見せる。その笑顔には、それを見た悠介の背筋凍り付くほどの殺気が混じっていた。

    ツクモ「特等・・・俺に・・・狩らせろォォォ!!!」

    ヒュヒュヒュヒュヒュッ

    久保田「噂通り九本か。どれ」

    ババババッ

    なんと久保田は、クインケを展開することなく全ての赫子を避け切ってみせた。

    久保田「んじゃ、今度は俺の番」

    ガチャッ ギャリギャリ!

    久保田が太刀の形状を持ったクインケを展開する。彼のクインケは名を"ゴウシャク"といい、鱗赫のS⁺レートと特等として申し分ない逸品である。

    ツクモ「てめぇの番なんてやるかよ!」

    再びツクモは赫子を放つ。彼が放つ九本の赫子の軌道には、人が生きられるだけの隙間はない・・・はずだったのだが・・・

    バッ ババッ

    ツクモ「んな馬鹿な!?」

    久保田は隙間を縫うようにして攻撃を全て避けつつ、ツクモの眼前へと迫ってしまった。

    悠介「(避けるのと、避けながらアタッカーの方へと近付くのじゃ訳が違う。そいでも容易くやってしまうなんて、これが特等なのか)」

    久保田「ふん!」

    ザシュッ

    懐への侵入を許してしまったツクモは、防御する間もなくゴウシャクによって切り裂かれた。

    ツクモ「・・・こりゃ無理だ」

    ダッ!

    勝機が薄い事を悟ったツクモは、即座に逃亡を選択した。久保田と江畑はそれを引き留めようとするも、追いかけっこで人間が喰種に勝てるわけがなく逃亡を許してしまった。
  33. 33 : : 2015/09/05(土) 00:05:32
    久保田「あちゃ~、逃げられてしまったべ」

    江畑「・・・清原三等」

    悠介「はい?」

    ドゴォ!

    悠介が返事をした瞬間、彼の脇腹に江畑のパンチが叩き込まれた。

    江畑「この馬鹿者が!自ら死にに行くような真似をしおって!貴様はそれでも一端の捜査官か!」

    悠介「・・・すみません。でも、死にに行った訳じゃありません。勝算はありました」

    江畑「僅かな勝算で勝負を挑むことが愚かな事だと言っているのだ。お前、摂津准特等の死を本当に無意味なものにする気か?」

    悠介「そんなわけ・・・」

    否定しきれなかった。摂津准特等の死によって九尾の強さが明らかになったにもかかわらず、結局本当にあったのかも分からない小さな勝機に復讐心を委ねた。冷静に考えれば、摂津が敵わない相手に自分が勝てる筈がないことは明らかであるのにだ。それは、彼が命と引き換えに得た情報を無駄にしたと等しいことであると、悠介は自覚していた。

    江畑「お前はもっと自分の力を弁えろ。お前は弱い」

    悠介「はい・・・」

    江畑「だが、いつかCCG秋田支部を・・・いや、CCG全体を引っ張っていく有望な捜査官だ」

    悠介「江畑上等・・・?」

    江畑「その事を肝に銘じろ。自分の命を大切にしろ。上官命令だ。歯向かうことは許さんぞ・・・悠介」

    悠介「・・・はい!」

    久保田「二人とも、なかなか良いコンビになってきたじゃないの」

    江畑「あなたの目は節穴ですか?」

    久保田「しょしがんなって」

    江畑「・・・ともかく、急な応援要請に応えていただきありがとうございました」

    久保田「いや~、最初はビックリしたべ。悠介が九尾と交戦している"はず"だから援護してけれって言うんだもの」

    悠介「(全部お見通しだったってわけか・・・あれ)それじゃあ、結果的に俺を囮に使ったってことですか?」

    江畑「結果はそうだが、私の忠告に耳を貸そうとしなかったお前の責任だろう?」

    悠介「まぁ、そうですけど・・・」

    久保田「しかし、"九尾"・・・あれは恐ろしい喰種だねぇ」
  34. 34 : : 2015/09/05(土) 22:23:51
    悠介「久保田さんは圧倒してたじゃないですか」

    久保田「圧倒って程でもねぇべ。奴はまだ奥の手を隠してる。それに、一番恐ろしいのは単純な強さじゃない」

    江畑「見た目以上に頭がキレる所ですか」

    久保田「んだ。最初は力を持て余しただけの好戦的な喰種だと思ってたんだども、どうやら馬鹿では無かったみたいだ。自分と相手の力関係をよく把握して、戦いを楽しみつつもきっちりと自分が生き残る算段を立てている」

    江畑「狂気と冷静さを兼ね備えた喰種・・・厄介なことこの上ないですね」

    久保田「・・・という訳だべ。これからは大人しくせぇよ、悠介」

    悠介「奴の強さは身に染みて実感しました。もうこんな無茶はしませんし、できません。だけど・・・奴を駆逐するチャンスが来たその時は、俺にも戦わせてください!」

    久保田「強くなったらな」

    悠介「はい!」



    その日の午後11時。奈津美はやっぱりトーカと電話していた。

    トーカ『・・・そしたら眉原が依子に嫌味を言いやがったんですよ』

    奈津美「酷い奴らだね。もうぶん殴っちゃいなよ」

    トーカ『ははは、自分が喰種じゃなかったら本当に殴ってましたよ』

    今日の会話の内容は、トーカの学校で起こったクラスメイトとのトラブルであった。彼女よりも一学年年上の奈津美は、冗談を交えつつもトラブル解決のための自分なりのアドバイスを彼女に授けた。

    トーカ『いやぁ、愚痴ったらスッキリしました』

    奈津美「トーカの気が晴れたんなら、私も嬉しいよ」

    トーカ『今日もありがとうございました。また明日も・・・』

    奈津美「うん。おしゃべりしよう」

    トーカ『はい!それではお休みなさい』

    奈津美「お休み~」

    ガチャ



    過去はもう変えられない。

    だから二人は前だけを見る。
  35. 35 : : 2015/09/06(日) 22:50:22
    -Ⅴ-





    10月9日、火曜日。

    江畑「清原三等、この報告書を・・・」

    悠介「・・・」

    江畑「清原悠介!!!」

    悠介「はっ、江畑さん!何の御用でしょうか!?」

    江畑「勤務時間中に居眠りとは何事だ」

    悠介「いやぁ、すみません」

    江畑「・・・終業時間は以前よりも早いはずなのに、寝不足。時折訴える体の張り、筋肉痛。さしずめ、打倒九尾の特訓といったところか」

    悠介「あ、ばれてましたか」

    江畑「馬鹿者!鍛錬に励むのは良いことだが、通常の勤務に支障をきたしては本末転倒ではないか!」

    悠介「す、すいません・・・」

    江畑「・・・明日は休暇とする。身体を休ませろ」

    悠介「えっ」

    江畑「これは命令だ。黙って従え」

    悠介「でも、こんな時に休暇なんて」

    江畑「居眠りされるぐらいなら居ない方がマシだ。明日の休みを何に使おうが構わないが、九尾に狙われるような事はするなよ。それと・・・次に寝たら斬る」

    悠介「あ、ありがたく休暇をいただきたいと思います」



    次の日の学校、香織は当然のこと、奈津美も悠介も普通通り学校に来ていたのだが、明らかに異常なことがあった。

    佐川「コラァ!悠介ぇ!!!」

    悠介「ん・・・あっ」

    副担任の佐川の古典の授業で、悠介は居眠りをしてしまったのだ。

    佐川「俺の授業がそんなにつまらないか!?」

    悠介「い、いえ!でも、今寝ておかないと死ぬかもしれないんです!」

    佐川「訳の分からん事言うな!次寝たらゲンコツだ!」

    悠介「それ体罰・・・」

    佐川「なら説教二時間コースだ」

    悠介「もう寝ません」

    決意を述べた悠介は、目を擦ってからノートを開いて佐川の授業に意識を傾ける。

    女子生徒A「悠介君が寝るなんて、珍しいね」ヒソヒソ

    女子生徒B「しかも、佐川の授業でね」ヒソヒソ

    奈津美「(そういえば、私がこの学校に来てから悠介君が居眠りしたことなんて無かったなあ。"なまはげ会"の件で疲れてるのかな)」
  36. 36 : : 2015/09/08(火) 22:15:20
    それから、悠介は全ての授業で一回は居眠りをしていた。中でもコミュニケーション英語の授業では、教師が特に注意をしなかったこともあり、始まりから終わりまでの50分間寝続けた。

    余りに寝過ぎな悠介を見て、奈津美は少し心配になり六時間目の数Ⅲの授業が終わった後、彼に声を掛けることにした。

    奈津美「大丈夫?」

    悠介「ん・・・ああ。お陰で大分疲れが取れたべ。これで家でも寝れば」

    奈津美「仕事、忙しいの?」

    悠介「まぁね。でも、最近じゃ終わる時間は早いし、実を言うと・・・」

    奈津美「?」

    悠介「奈津美さん、今日の用事は?」

    奈津美「特に用事は無いけど、バイトが一応入ってる」

    悠介「んだった。奈津美さんもバイトで忙しいんだもんなぁ」

    奈津美「でも休みたいって言えば休ませて貰えるよ。だから、遠慮しないで」

    悠介「ん~・・・てば、お願いするべ」

    奈津美「分かった。それで、用事は?」

    香織「なになに!?デート!?」

    奈津美「ちょっと香織、そんなんじゃ」

    悠介「そんなところだべ」

    奈津美・香織「「へ・・・?」」



    三十分後、二人の姿は秋田駅西口にあった。

    悠介「今日は付き合ってくれてありがとう。お礼に、何かおごるべ」

    奈津美「いや、いいよ!それより急に駅に連れ出して何のつもりか、いい加減に教えなさいっ」

    悠介「いい加減にって、まだ一度も聞かれてないべ」

    奈津美「い、いいから!(いきなりデートだなんて言われて、気が動転して聞きそびれたの!)」

    悠介「・・・仕事絡みの事で相談に乗ってほしかったんだ。俺が捜査官だって知ってる人は、学校には奈津美さんしか居ないから」

    奈津美「あ、そういうこと・・・」
  37. 37 : : 2015/09/10(木) 21:39:52
    悠介「てば、何かつまみながら話をするべ」

    奈津美「(うっ・・・)そうだね」

    悠介「どこか希望はある?」

    奈津美「う~ん。ちょっとコーヒーが飲みたいかな・・・」

    悠介「なら、スタバだな」

    幸運なことに、二人の行き先はコーヒーを販売している(とは言っても、一般的なファミレスにも普通はあるが)スターバックスになった。奈津美がブラックコーヒーを、悠介はカフェラテを注文してから二人は席に着いた。

    奈津美「相談を受ける前に一つ聞きたいんだけど、本当に私で大丈夫なの?悠介君が捜査官だってことは知ってても、その仕事内容とかはほとんど知らないよ」

    悠介「話を聞いてくれるだけで十分だべ。それに、そんなに深く仕事の中身に刺さるつもりもないよ」

    奈津美「分かった」

    悠介「うん。それじゃあ話すべ。まずは、今日学校であんなに居眠りした理由から」

    悠介は、摂津の死後鍛錬に没頭する余り寝不足になっていたこと、そのことで上司から休暇を取るように言い渡されたこと、ついでで次に職場で居眠りしたら殺されかねないことを話した。

    摂津の敵討ちのため、自ら九尾に挑み命を落としかけたことは言わなかった。

    奈津美「今寝ておかないと死ぬかもって、そういうことだったんだ」

    悠介「んだ~。江畑さんは厳しいから、本当に殺されるかも・・・」

    奈津美「それなら・・・」

    ウェイター「ご注文の品、お届けに参りました」

    悠介「あっ、どもっす」

    ブラックコーヒーとカフェラテが各々の前に置かれる。ウェイターが二人の席から離れてから、奈津美は話を続けた。

    奈津美「そんなに疲れてるなら、鍛錬を一旦休んだ方が良いんじゃないかな」

    このように提案しつつも、自分も毎夜里奈と無茶な特訓をしているから他人事のようには言えないなと奈津美は思った。とは言え、喰種の彼女の場合、大抵次の日には疲れが取れているのだが。

    悠介「そこが問題なんだよなぁ・・・」

    奈津美「と言うと?」

    悠介「馬鹿みたいな話だけど、自分で抑止できないんだべ」
  38. 38 : : 2015/09/11(金) 21:48:50
    奈津美「自分で抑止できないって・・・厨二?」

    悠介「酷い物言いだべ」

    奈津美「じょーだんじょーだん。自分で止められないっていうのはつまり、身体を鍛えてないと落ち着かないとか不安になるってかな」

    悠介「その通りだべ!よく分がったな」

    奈津美「ありがちな話だからね(自分も今その状態だし)。そういうことなら一つ質問なんだけど、悠介君をそこまで駆り立てるものは何なの?」

    悠介「それは捜査官としての・・・」

    奈津美「もし・・・」

    悠介「?」

    奈津美「もし、私を単なる話し相手としてじゃなく、相談相手として呼んだのなら、正直に答えて」

    こう述べて、奈津美は悠介の目を真っ直ぐに見つめる。

    悠介「・・・摂津准特等の"敵討ち"」

    奈津美「やっぱり。真面目で義理堅そうな悠介君の事だから、そんなところだと思ってた。それじゃあ、私から一つ忠告」

    悠介「?」

    奈津美「復讐なんてろくなことにならないよ」

    悠介「なっ・・・」

    今まで悠介を始め、学校の誰にも見せたことのない深刻な面持ちで彼女は告げた。

    奈津美「(そう、復讐なんてろくなもんじゃない。そもそも、本来は戦いなんてもの自体が悲劇しか生まない。そんなろくでもないものは必要ないし、どうしても必要だと言うのなら、私が・・・)」

    悠介「それは、理解しているべ。だけど・・・」

    悠介「俺の捜査官人生は、復讐こそが全てだ」

    奈津美「・・・え、そ、それって・・・どういう?」

    悠介「思い出したくもないことだべ。でも、奈津美さんになら話せるかも・・・いや、話しておくべ。俺がどうして"特例で"捜査官になったのかを」
  39. 39 : : 2015/09/12(土) 22:29:06
    奈津美「(どうしてって・・・そもそも特例入局に理由なんてあるの?有馬貴将みたいに、強いから特例で入局させたんじゃ・・・)」

    悠介「・・・昔の話をする前に一つ明かしておくと、俺には両親がいない。俺が10歳の時に喰種に殺されたんだ」

    奈津美「えっ・・・」

    悠介「今思えば、あれが俺の全ての運命を決定付けたんだ」



    さっきも言ったように俺が10歳の時、(のぞみ)・・・妹は3歳だった。その日、俺達家族は今はもう潰れてしまったレジャー施設に遊びに行ったんだ。当時の俺達の生活は幸せに満ち溢れていた。両親はしったけ優しかったし、妹もまだ元気だった。現実的な話をすると、稼ぎも良かったしな。

    しかし、幸せな日々は一瞬にして失われた。レジャー施設に現れた一体の喰種によって・・・

    その喰種の通り名は"絞殺魔(グリッパー)。鱗赫の喰種で、その名の通り赫子で相手の首を絞めて殺害するのが得意だ。危険度はSレートと、実力もかなりのものだったべ。まあ、当時の力を持たない俺にとっては、その喰種の実力なんて関係なかったんだどもな。

    突如現れた絞殺魔は、そのレジャー施設に居た人達を無作為に殺害し始めた。通報を受け、当時上等捜査官だった久保田さんが駆けつけるまでの20分間、絞殺魔は暴れ続けた。俺の両親もその間に殺された。俺達二人を庇う形で・・・

    その後、久保田さんが現れたのを見た絞殺魔はすぐさま尻尾を巻いて逃げた。結果、俺達兄妹を始め数人は生き残ることが出来たが、喰種による孤児となってしまった。



    奈津美「・・・」

    全く予想していなかった訳では無かった。喰種捜査官といういつ命を落とすか分からない職業に就いているからには、それ相応の背景があるのが普通だ。実際、彼女は喰種への復讐心を原動力に戦う捜査官を何人も見ている。

    しかし、悠介は今までそんな素振りを一度も見せたことがなかったため、想像したことはあってもやはり彼女にとっては驚きであった。

    彼もまた自分と同じく両親を喰種によって失った身であることを知った彼女は、彼とは分かり合えるかもしれないと思った。それと同時に・・・

    彼とは一生解り合えないだろう・・・と、思った。
  40. 40 : : 2015/09/13(日) 19:41:40
    奈津美「・・・でもさ、それだけだと、言っちゃ悪いけどただの喰種孤児だよね」

    悠介「その通りだべ。これだけ聞けば何ら特別な事は無い、ただ運の悪かった子供だ。でも、ここからはもう少し特殊だ・・・」



    すでに知っているかもしれないけど、CCGは喰種によって両親を失った孤児を育てるという業務も担っている。俺達も例に漏れず、仙台にあるCCGが運営する学校に通うことになった。それと同時に生活面での補助も受け、普通の暮らしを送っていく分には何の不自由もなかった。

    でも・・・俺が12歳の時、普通の補助では足りなくなった。望の病状が悪化したんだ。

    1歳の時から、望は慢性的な疾患を患っていた。発病当時は生と死の境を彷徨ったこともあったども、しっかりとした治療を受けたお陰で2歳になる頃には日常生活を送れるようになっていた。

    それからあの日まで、望は元気に生活していた。だけど、両親を失った精神的なショックから徐々に衰弱していき、5歳の時に発病時と同程度まで症状が悪化し始めた。その時CCGの補助金で生活している俺達には、そんな大病を治す金銭的な余裕は無かった。

    もちろん、CCG側も俺達を見捨てようとした訳ではなかった。治療費として、普通の倍近くの補助金が支給された。でも、それでも足りなかった。だけどCCGとしてもこれ以上一人の子供を特別視する訳にもいかない。結局、それ以上補助金が増額されることはなかった。

    治すどころか延命することすらままならない。入院させることが限界。そんな状況に絶望しかけた時、偶然久保田さんと当時から秋田支部局局長だった落合さんが仙台に出張にやって来たんだ。

    久保田さんは絞殺魔事件で多くの犠牲者と孤児を出してしまったことに後ろめたさを感じていたらしく、その事件で孤児となった五人をそれぞれ訪れた。当然、俺達のところにも。そこで俺は初めて、久保田さんと言葉を交わした。

    久保田「・・・」

    望のいる病室を初めて訪れ、あの時孤児になった子供が死の淵にあることを知り、久保田さんは衝撃を受けていた。

    悠介「おっちゃん、あの時の喰種捜査官だよね?」

    久保田「あっ、ああ。よぐ覚えていてくれたね」

    悠介「そっか・・・」

    久保田「・・・すまなかった」

    悠介「別に。悪いのは喰種だけだべ。だけど、もし悪いと思ってるなら・・・」

    悠介「お金くれよ」
  41. 41 : : 2015/09/15(火) 22:01:23
    本当は、欲しくなんてなかった。語弊がないように言っておくけど、お金は欲しかったべ。だけど、他人からお金を奪ってまで欲しいとは思わなかった。

    お金をくれというこの発言は、ただ久保田さんに八つ当たりがしたいがために言っただけだった。断られて、自分のせいで苦しんでいる子供を見捨てるのかってごしゃきたかっただけ。本当にばかけだった。でも、久保田さんはそれすらさせてくれなかった。

    彼は、俺の要求を呑んだんだ。

    悠介「おっちゃん、本気で言ってんのかよ?」

    久保田「もちろん本気だべ」

    悠介「言っとくけど、必要な治療費は超高額だよ」

    久保田「喰種捜査官の・・・しかも、准特等の給料を舐めてもらっては困るべ。この子の治療費ぐらい出してやるさ」

    他に宛のない俺には、受け入れる選択しかなかった。

    それから三年間、久保田さんから治療費を受け取り続けた。その甲斐あって少しずつ回復していく望を見ているうちに、大金を一方的に貰い続けているという行為に罪悪感を覚え始めた。

    そんな折、15歳になり義務教育終了の日を迎えた俺は、望と共に秋田に戻ることにした。望の治療費を少しでも自分で工面したかったために、高校に通う気がなかったからだべ。そして秋田に戻った俺は、すぐに久保田さんに会いに行った。

    悠介「お陰様で、望の病気はすっかり良くなりました。俺も中学を卒業して働けるようになったし、もうお世話になり続けるわけにはいきません。だから、治療費の仕送りは今月で最後にしてください」

    久保田「・・・駄目だ」

    悠介「え!?」

    久保田「治療費を負担している身として、望ちゃんの現状は知ってる。良くなったことは良くなったけど、まだいつ再び悪化するか分からない状況だそうじゃないか。それに、中卒で稼げる給料なんてたかが知れてる。まして秋田じゃ自分一人すら養えないべ」

    悠介「でも・・・これ以上、人に迷惑を掛けながら生きていくのは嫌なんです!望も、時々そのように言ってます」

    久保田「君達の気持ちは分からないでもない。んだけど、命が懸かっているんだから形振り構う必要は・・・・・・ん?あの手があるか?いや、でもそんな前例は聞いたことないし・・・」

    悠介「どうなさりました?」

    久保田「う~ん。突然だけど、君は喰種捜査官に興味はあるかな?」
  42. 42 : : 2015/09/17(木) 22:57:03
    要は、俺に治療費を負担出来るだけの収入を得られる職を与えようということだった。

    喰種捜査官になるには、特別難解な知識を得たり難関大学に進んだりする必要はない。必要なのは体力と運動神経。これに関しては、CCG管轄下の学校で実施されている捜査官適正を図るテストでいつも上位であった俺に不足は無かった。実際、俺は中学校を卒業する際に、将来捜査官になることを強く勧められていた。

    問題なのは、俺はアカデミーどころか高校も卒業していないということだ。有馬貴将という前例が存在するとは言え、本当だば認められるはずがない。

    しかし、秋田県地区が深刻な人手不足に見舞われていた事と、何より久保田さんの口添えのお陰で、俺の特例入局は許可された。もちろん条件はあったべ。一つは高校に通うこと。もう一つは、最初の一年間はアカデミーで習うべき喰種捜査官に必要な知識の学習に専念すること。

    とにもかくにも、こうして俺は喰種捜査官になった。それと同時に、CCGから"給料として"お金が支給され、自分の収入で望の治療費も負担できるようになったべ。それでも最初の方は久保田さんからも少し補助を貰ってたども、望の容態がさらに良くなったことから、俺が正式に捜査官になる高校二年生になってからはその補助も不要になった。

    久保田さんは受け取りたがらないけど、俺が上等以上に昇進したら今まで貰って来たお金を返済していくつもりだ。



    悠介「以上が、俺が特例入局することになった経緯だべ」

    奈津美「そっか・・・大変、だったんだね。でも、悠介君が捜査官になったのが妹とのためだったって聞けたのは良かった。てっきり復讐のためになったのかと」

    悠介「いや、復讐だべ」

    奈津美「え?」

    悠介「確かに、結果から言えば喰種捜査官になったのは望のためだ。でも、久保田さんの厚意に甘え続ければ喰種捜査官にならねぐても望を救えた」

    奈津美「それは、久保田さんに申し訳ないと思ったからなんでしょ?」

    悠介「当時はそう、思っていた。だけど俺のこの感情はそんなに単純じゃなかった。俺は・・・あの喰種に負けたくなかったんだ!だから、久保田さんの援助を受けるという行為が奴に負けている気がして悔しかったんだ!本当に馬鹿けだよ。妹の命が懸かっているのにそんなくだらない感情に流されたんだからな!」

    悠介「そして、その負けず嫌いの感情が行き着く先は決まっている・・・奴への、絞殺魔への復讐だ」
  43. 43 : : 2015/09/17(木) 23:37:06
    明日からは週一(日曜日)更新でいきます。
  44. 44 : : 2015/09/20(日) 19:08:28
    奈津美「・・・そんなの、考え過ぎだよ。自分を悪者にしようとしないで!あなたは・・・」

    悠介「そうかもしれない。でも、絞殺魔に復讐したいと思っているのは本当だ。もちろん、九尾にも。もっと言えば、“全ての喰種”に復讐したい」

    奈津美「っ・・・」ズキン

    悠介「・・・わりな、素直になれない馬鹿けで。奈津美さんの忠告は聞けそうにないけど、相談に乗ってくれたお陰で、少し気持ちが落ち着いたよ。過去とも、ちゃんとまた向き合えた。ありがとう」

    奈津美「う、うん。どう、いたしまして」

    悠介「てば、帰るか。俺は少しこの辺を散歩するべ。奈津美さんは?」

    奈津美「私は・・・店に少し顔を出しておきたいし、帰ろうかな」

    悠介「んだか。そいだば、また明日」

    奈津美「うん」



    その日の夜のトーカとの電話で、奈津美は悠介とした話を彼女に話した。

    トーカ『そういう話を聞くと、喰種も人間も変わらないんだなって思います。どっちも、奪うか奪われるしかない』

    奈津美「でも、そもそものきっかけは喰種なんだよね?私達喰種が居るから悠介君は・・・」

    トーカ『何言ってんですか!そんなのお互い様ですよ!白鳩が居なけりゃ私達は失うことは無かった』

    奈津美「だけど、白鳩はそもそも喰種が居るから創られた」

    トーカ『奈津美さん?』

    奈津美「ごめん、トーカの事も否定するようなことを言って。でも私には、白鳩に奪われたことはほとんどなくて、いっつも喰種から奪われてきた私には、喰種だけが悪いように思ってしまう時があるんだ。変だよね?喰種にもたくさんいい人がいるって知ってるのに・・・」

    トーカ『・・・変じゃありませんよ。だから、いつも言ってますけど、自分を追い詰めないでください。例え喰種がこの世界に害をもたらす存在だとしても、私にとって奈津美さんは失いたくない大切な存在なんですから』

    奈津美「うん、ありがとう」



    何が善で何が悪か。

    何らかの基準がそれを決めているのなら、その答えは神だけが知らない。
  45. 45 : : 2015/09/20(日) 19:09:15
    -Ⅵ-





    虫の知らせ。予兆。

    これらの言葉が表すように、何かが始まる際には何らかのサインが感じ取られることがある。

    しかし、それを感じ取れるのはごく一部の場合だけ。大抵の場合は前触れなどというものは存在せず、悲劇は突然やって来る。そう、この日のように・・・



    11月15日木曜日。この日、秋田では初雪が観測された。北国秋田の中のさらに北部に位置する能代市にあるCCG能代署では、冬の訪れを感じた人々がそれぞれの反応を見せていた。

    夏季はなまはげ会による捜査官狩りが横行し、張り詰めた雰囲気が立ち込めていたが、最近ではめっきり無くなって署の捜査官達の心には余裕が生まれつつあった。

    その余裕が、事件の首謀者たちによって意図的に生み出されたものだとも知らずに。



    ツクモ「けっ、小せぇ署だぜ。こんなんが秋田県北部で一番の白鳩の巣かよ」

    ???「しょうがないでしょう。田舎ですもの」

    ツクモにこう指摘したのは、紅く長い髪を靡かせる20代の女性だった。

    ツクモ「ミツカ、これはそんな言い訳も通じないレベルだろ」

    ミツカ「青森や岩手の端っこの署もこんなものでしたわよ」

    クロバ「それにツクモ君、敵戦力と拠点の大きさは必ずしもイコールではありませんよ。この署には戦闘経験豊富な後藤上等捜査官がいらっしゃる」

    ツクモ「逆に言えば、そいつだけじゃん。しかもそいつだって摂津以下だろ」

    ミツカ「そうですわね」

    クロバ「いやはや、逆効果でしたか」

    ????「お前ら、おしゃべりの時間は終わりだ。行くぞ」

    ツクモ「よしっ来た!」

    ミツカ「腕が鳴りますわ」

    クロバ「了解です・・・ボス」
  46. 46 : : 2015/09/27(日) 19:51:25



    香織「あ~、いよいよ降ってきちゃったか」

    3-Eの教室から雪が舞い降りていく様子を眺めていた香織は、不満気な表情で呟いた。

    奈津美「すごい!秋田って、11月から雪が降るんだ」

    香織とは対照的に、奈津美は目を子供のように輝かせていた。

    香織「その反応、なんか久しぶりに奈津美が東京出身だってことを思い知らされたよ」

    奈津美「はしゃいですいませんね。でも、雪っていいじゃん」

    香織「まぁ、そういう人は秋田にもいるけど、私は苦手。雪自体は嫌いじゃないんだけど、この寒さが何ともねぇ。雪自体、毎年嫌と言うほど見てるし・・・」

    奈津美「ふ~ん。私は雪が降ると素直に嬉しいなぁ。綺麗だし、午前の授業が休講になったりするし」

    香織「休講!?んなわけあるか!」

    奈津美「へ?」

    香織「秋田を始め北国は、どんだけ雪が積もっても休講になんてならないよ」

    奈津美「それじゃあ電車通学の人とかが大変じゃない?」

    香織「あ~と、交通機関の乱れとかでの遅刻は公欠扱いになるけど、学校自体は通常運転。そもそも、秋田の電車は東京に比べて雪にめっぽう強いし。男鹿線に限ってはどれだけ雪が降ろうと台風が来ようと運休にならないって言われてるし・・・」

    奈津美「す、すごいね」

    香織「要するに、秋田県民にとって雪は一文の得にもならんわけよ」

    悠介「俺は、雪好きだべ」

    香織「あっ、悠介。あんたの場合は童心が残ったまんまだからでしょ」

    悠介「ガキ扱いすんなって・・・」

    奈津美「(雪・・・もう冬が来たんだなぁ。大斗君が連れ去られてから、何もできないまま季節を一つ越してしまった。山田さんからもあの日以来連絡が無いし・・・)」

    ピピピピッ

    悠介「ん?電話だべ。誰からだろ」

    悠介は携帯を手に取り、画面を開く。

    悠介「!?・・・江畑さん!」

    香織「誰?」

    ダッ

    仕事関係の会話をクラスメイトに聞かれるわけにはいかないので、校舎から出ようと悠介は勢いよく教室を飛び出した。

    香織「ちょっ、急に何よ!?」

    奈津美「(江畑さんって確か・・・ということは・・・)」
  47. 47 : : 2015/09/27(日) 19:53:14
    数分後、悠介が教室に帰って来た。

    香織「そんなに急いでどうしたの?」

    悠介「ちょっと色々。その関係で、早退しなきゃいけなくなったべ」

    香織「早退!?一体どんな事情で」

    声を大にして質問を投げ掛ける香織だが、悠介はそんな彼女を余所に荷物を纏め始める。

    香織「無視す」

    悠介「わり、言えない。へばだばさいなら!」

    タッタッタッタッ

    香織「あ~もう!本当何なのアイツ」

    奈津美「さぁ・・・」



    タッタッタッタッ

    悠介「清原悠介・・・只今参上しました!はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・」

    江畑「思ったより早いな、悠介」

    悠介「そりゃぁもう、女性を待たすわけにはいきませんから」

    江畑「・・・ところで、用件だが」

    悠介「無視すか!?」

    江畑「お前、学校に戻って良いぞ」

    悠介「は、はい!?」

    江畑「もう用件は済んでしまった」

    悠介「いや、一度抜け出しておいて戻れませんよ。それより、用が済んだってどいう事ですか?緊急の出動要請だと聞いて、俺は学校を抜け出してこっちに来たんですが・・・」

    江畑「そのままの意味だ。出動要請が不要になった」

    悠介「はぁ?」

    久保田「江畑ちゃん。普通に教えてあげなよ」

    悠介「久保田さん!一体何がどういう・・・」

    久保田「さっき、能代署から大至急援軍を派遣してほしいという連絡があったんだ。それも、出来る限り強力なね。だから、念のため学校に行ってる悠介も呼んだんだども・・・」

    悠介「呼んだんだども?」

    久保田「出発の準備が整うよりも前に、もう一回能代署から連絡が入って来たんだ。その内容が・・・喰種からの通信だったんだ」

    悠介「え?」

    久保田「そして、通話主の喰種はこう言った。“我々はなまはげ会。能代署は全滅。次はお前たちだ”と」

    悠介「能代署が全滅?そんなバカな。だってあっこには後藤上等捜査官が・・・いや、そうか。幾ら後藤さんでも、奴等が相手じゃ・・・」

    久保田「その後、襲撃時に署の外に居た捜査官からも連絡があった。全滅は本当らしいべ」

    江畑「さらに、なまはげ会はそのまま能代署に立て籠り始めたようだ。しかし、今能代には奴等から署を奪還できるほどの戦力は無い。我々が応援に行こうにも、次はお前らだという脅迫を受けている以上、迂闊にここを空けることは出来ない」

    悠介「それって、つまり・・・」

    江畑「八方塞がりだ」
  48. 48 : : 2015/09/27(日) 19:54:58
    その日の夕方、バイトの為に奈津美はいつものようにぬぐだまれにやって来た。しかし、店内の様子が明らかにいつもと違う。

    奈津美「あの・・・何かあり」

    佐藤「くそッ!あいつらやりやがった!」

    奈津美「あ、あの、佐藤さん?」

    佐藤「ああ、奈津美ちゃんか」

    奈津美「何かあったんですか?」

    秋田「なまはげ会が、CCG能代署を制圧したらしい」

    奈津美「なっ!?白鳩の本拠地を落としたってことですか!?」

    秋田「うん」

    佐藤「ああ。その影響で、能代から青森県に避難し始めた住人が続出し出したらしい。とは言っても元が元だから大した数じゃないが、あいつらのせいでただでさえ人口の少ない県北の過疎化に拍車がかかっている状況だ」

    奈津美「は、はあ・・・」

    佐藤「その辺は奈津美ちゃんにはあんまりしっくり来ないか。まぁ、とにかく面倒なことになったってことと・・・地方とはいえ、白鳩の巣を制圧することが出来る程の戦力を有しているということだけは頭に入れておきな」

    奈津美「・・・はい(そんな。大斗君の救出が、ますます遠のいていく・・・)」

    秋田「そんなに落ち込まなくても大丈夫だよ。なまはげ会の戦力に対する対策は進めている。後は、前にも話したように時機と・・・君がどこまで強くなれるかだ」

    奈津美「!」

    ガチャ

    秋田「ん?いらっしゃい」

    客A「うっす。今日もコーヒー飲みに来ました」

    奈津美「あっ、いらっしゃいませ」

    佐藤「とにかく今は、仕事に集中だな」

    奈津美「はい!」



    営業時間が終わり、清掃も終え奈津美が帰宅してからも、秋田と佐藤は未だ店内に居た。

    佐藤「奈津美ちゃんに発破掛けるなんて、らしくないですね」

    秋田「彼女の戦力に頼るしかなくなってしまったからね」

    佐藤「何か、新たな情報でも?」

    秋田「ああ。正君から、拠点と思しき施設に出入りした喰種、つまりなまはげ会構成員と考えられる喰種について連絡があった」

    佐藤「山田さんから!?それで、どんな・・・」

    秋田「確認できた喰種は・・・Sレート5体、SSレート2体だ」

    佐藤「はぁ!?Sレート5体!?しかも、SSレート2体って、ボス以外にもSSレートが居るってことですか?」

    秋田「“大鎌”・・・それがなまはげ会2体目のSSレート喰種だ」

    佐藤「大鎌?そいつって確か仙台の・・・。店長、奈津美ちゃんも居ないですし、はっきり言ってください。本当に、それ程の戦力に対して勝算があるんですか?」

    秋田「・・・・・・」
  49. 49 : : 2015/10/04(日) 20:55:55
    夜。奈津美宅にて・・・

    奈津美「本局の捜査官と戦った!?」

    トーカ『はい・・・』

    奈津美「何でそんな危ないことを・・・それで、倒したの?」

    トーカ『はい。ちょっと・・・いや、かなり危なかったんですけど、何とか・・・』

    奈津美「そう。でも、本局の捜査官と戦うなんて、絶対やっちゃいけないことだよ。芳村店長は止めなかったの?」

    トーカ『一応、止められてたんですけど・・・』

    奈津美「良いつけは守らなきゃダメでしょ」

    トーカ『すいません。でも、あのまま放っておいていたらヒナミが・・・』

    奈津美「うん。気持ちは痛いほどわかるよ。そもそも、私もあんまり人のこと言えないし。だけど、トーカには無茶して欲しくないの」

    トーカ『はい。以後、気を付けます』

    奈津美「今の言葉、忘れちゃダメだよ。それにしても、捜査官二人を一人で相手にするなんて、やっぱりトーカも強いね」

    トーカ『へ?二人なんて、言いましたっけ?』

    奈津美「ううん。でも、本局の捜査官って基本二人一組でしょ?あっ、上手く一人の所を狙った感じ?」

    トーカ『ああ、いや。もう一人の方は、金木の奴が上手くやってくれました』

    奈津美「んん?・・・金木・・・誰?」

    トーカ『あれ、話したことありませんでしたっけ?』

    奈津美「聞いたことないよ。だれだれ?」

    トーカ『誰と言われましても、どこから説明すればいいか・・・』

    奈津美「全部!」

    トーカ『は・・・はい・・・。金木は、最近あんていくに新しく入って来た従業員なんですけど、その、信じられないでしょうけど・・・元人間なんです』

    奈津美「???」

    トーカ『リゼのことは前に話しましたよね?』

    奈津美「うん。確か、私が引っ越した後に来た厄介者だよね?それで、鈍くさそうな学生を標的にしてるって・・・」

    トーカ『よく覚えていますね』

    奈津美「トーカの話は一語一句漏らさず覚えてるよ」

    トーカ『あ・・・は、はい』

    奈津美「引いたでしょ」

    トーカ『いえいえ。それで、先月リゼがそいつを襲ったらしいんですけど、その際にリゼが空から降ってきた鉄骨に潰されて・・・』

    奈津美「空から鉄骨って、東京こわ」

    トーカ『奈津美さん、東京出身なの自分で忘れちゃったんですか?まぁとにかく、リゼは即死。襲われた男の方も重傷で、彼を救うために医師が無断でリゼの内臓を男に移植した』

    奈津美「まさか、それで・・・」

    トーカ『はい。その男は喰種の臓器を移植されたことにより、隻眼の半喰種になりました。そして、その男こそが金木です』

    奈津美「・・・すごいことがあったもんだねぇ」
  50. 50 : : 2015/10/04(日) 21:00:58
    トーカ『でも、金木自身は全然凄くないんですよね。鈍くさいし、内気だし、もじもじしてばっかだし、全然頼りないし・・・』

    奈津美「すごい言われよう・・・」

    トーカ『全部事実です。でも・・・ここぞっていう時には、意外とですけど、頼りに・・・ならなくもないっていうか・・・』

    奈津美「・・・好きなの?」

    トーカ『はぁ!?何言ってんですか!そんな訳ないでしょ!大体奈津美さん、私が鈍くさい奴が嫌いなの知ってるでしょう!?』

    奈津美「うん、知ってる。でも羨ましいなぁ。トーカにそんな風に思われてるなんて」

    トーカ『いや、違うって言ってます』

    奈津美「あはは、ごめんごめん。でも、その人に会ってみたいなぁ」

    トーカ『それじゃあ、次に秋田に行くとき連れてきましょうか?』

    奈津美「うん、お願い」

    トーカ『了解です。それじゃあ、今日はこの辺で』

    奈津美「そうだね。また明日」

    トーカ『はい』

    ガチャ

    奈津美「う~ん、半喰種ねぇ。そんな人が居るとは・・・」



    同刻、CCG能代署。

    ????「・・・ツクモ」

    ツクモ「何すか?ボス」

    ????「房住山の拠点でネズミを一匹捕まえたとの報告があった」

    ツクモ「ネズミなんて、どうでもいい報告ですね」

    ミツカ「本物のネズミではなく、侵入者の比喩ですわ」

    ツクモ「なっ・・・んなこたわかってるよ。それにしたってどうでもいいだろ」

    ミツカ「どうでもよくはありませんわ」

    ????「そのネズミだが、秋田博満の関係者である可能性が濃厚だ。既に奴らに拠点がばれている可能性がある」

    ツクモ「別に、ここがあるんですし前の拠点なんてどうでもよくないですか?」

    ミツカ「あなたって本当に戦うこと以外は能無しですわね」

    ツクモ「んだと!?」

    ミツカ「ここを取ったのは秋田支部局の連中への牽制の為。あくまで本拠地はあちらですわ。そもそも、こんな街中にいつまでも陣取っていたら気が持ちません」

    ????「まぁ、それでも知られていること自体は大した面倒ではない。白鳥大斗のこちらへの移送も始めているし、奴ら如き、いつでも対処できる」

    ツクモ「白鳥大斗・・・ああ、あのガキっすか。大人しく従えば解放されるっていうのに・・・」

    ????「さっさと屈服することを願ってるよ。それで、秋田博満一派の事だが、奴等は大した戦力ではないが、侮っていられるほど甘い奴等でもない。そこで、今のうちに戦力を削いでおきたい」

    ツクモ「それが用件ってことですか。で、具体的には?」

    ????「霜永奈津美を殺せ。今度は、確実にだ」

    ツクモ「了解、ボス」



    戦いの序章が始まる。
  51. 51 : : 2015/10/04(日) 21:05:34
    -Ⅶ-





    11月25日、日曜日。奈津美の携帯に、一通のメールが送られてきた。

    奈津美「ん、山田さんからだ。何だろう・・・!?」



    山田『房住山の拠点に、大斗君の姿を確認した。その事で、まず君と話をしておきたいから二人で会わないかい?場所は、泉中央三丁目の廃ビル。時間は今日の午後10時で』



    奈津美「大斗君の姿を発見した?良かった。これで大斗君を。でも・・・(どうして最初に私に?しかも、廃ビルで待ち合わせなんて・・・罠?)」

    奈津美は頭も切れる。そのため、彼女はこのメールの違和感に気付いていた。しかし、それしかし、彼女には大斗に関わる重大な手掛かりを手放すことは出来なかった。

    奈津美「(罠なら罠でも構わない。少しでも、前に進むためなら・・・)」



    そして午後10時、待ち合わせの廃ビル。奈津美は、来てしまった。

    入り口には誰も居なかった。そのことから、彼女は罠への疑惑を一層強めるが、それでも引き下がらない。彼女は廃ビルの中へと足を踏み入れてしまった。

    その廃ビルは7階建てになっていた。彼女はその一つ一つを慎重かつ迅速に隅々まで探索してから、一つ上の階へと上る。そうしてとうとう、彼女は最上階の7階に辿り着いた。

    7階に辿り着いたとき、喰種の優れた五感が自分以外の存在を感知した。

    奈津美「出てきなさい!私を嵌めようとしたんでしょうけど、罠だってことはお見通しよ!」

    ???「あ~らら!やっぱりバカじゃねぇか!」

    コツンコツンコツンコツン

    廃ビル内に響き渡る足音と共に現れたのは、何やら大きめのアタッシュケースを持ったツクモ。そして・・・

    奈津美「・・・・・・山田さん!?」

    山田「奈津美ちゃん・・・」

    山田は全身が痣だらけになっており、暴行を受けた様子が示唆された。さらに言えば、痣が治らなくなるほど衰弱していることも容易に読み取れた。

    奈津美「お前!山田さんに何をした!?」

    ツクモ「別にぃ、俺は拷問担当じゃねぇし何もしてねぇよ」

    奈津美「っ・・・なら、山田さんを解放しろ!さもなくば」

    ツクモ「ああ、いいぜ」

    奈津美「なっ!?」

    ツクモ「俺の指令はお前を殺すこと。こいつの処遇については何にも言われちゃいない。ただ、こいつの解放の為には・・・お前に死んでもらわないとな」
  52. 52 : : 2015/10/04(日) 21:11:10
    奈津美「!?」

    山田「こいつの言うことに耳を貸すな!!!私の事はどうでもいい!勝算があるならこいつを殺せ!無いのなら今すぐ逃げ」

    ツクモ「黙ってろこのゴミが!」

    バキッ

    山田「がっ!」

    奈津美「山田さん!」

    ツクモ「さぁて、どうする?さっさと決めろ。お前が死ぬのか?こいつが死ぬのか?」

    奈津美「それはもちろん・・・わたし・・・・・・が・・・・・・・」

    ツクモ「ああ!?お前が死ぬの?生きるの?どっちか分かんねぇなぁ?」

    奈津美「わたしが・・・し・・・・・・」

    山田「ダメだ!」

    ツクモ「黙ってろって言ってんだろ!」

    ドゴォッ

    山田「ぐおっ・・・だ・・・め・・・だ・・・」

    奈津美「・・・・・・わ、わたしが死ぬ!」

    ツクモ「よしっ!じゃあ今すぐ自殺しろ!赫子使えば簡単だろう?」

    奈津美「っ・・・」

    ドウッ

    奈津美は自身の赫子を一本発現させた。

    奈津美「(これを・・・・・・胸に刺せば・・・・・・)」

    山田「待つんだ!こいつが約束を守る保証がどこにある!?」

    奈津美「!?(確かに)」

    ツクモ「それもそうだが、お前が死ななきゃこいつは確実に・・・」

    ズズズズズ

    ツクモもまた赫子を一本だけ発現させ、先端を山田の首元に突きつけた。

    ツクモ「死ぬぞ?」

    奈津美「・・・・・・分かった。でも、約束は守ってよ」

    山田「やめろ!!!」

    ツクモ「ああ。俺は嘘は吐かねぇ」

    奈津美「・・・・・・!!!」

    奈津美は意を決し、赫子を自身の胸へと突き刺した。



    が、しかし。彼女の赫子は、心臓に刺さるよりはるか手前で止められた。

    彼女自身の意志によって。

    奈津美「どうして・・・なんで、出来ないの・・・」

    ツクモ「はぁ~やっぱり出来ないか。なら」

    奈津美「待って!」

    ツクモ「あ~、冗談だ」
  53. 53 : : 2015/10/04(日) 21:13:06
    奈津美「え!?」

    ツクモ「元々俺はお前に自殺なんてさせるつもりなんてねぇよ。いや、まぁここで自殺してくれるのならそれもありだが、俺はお前を完膚なきまでにぶちのめしてから殺したいんだ。だから、この男の利用目的はそのためにある。というわけで、一つゲームをしようぜ」

    奈津美「ゲーム?」

    ツクモ「ああ」

    そう言うと、ツクモは持っていたアタッシュケースを開けた。その中に入っていたのは・・・

    奈津美「ば、爆弾!?」

    ツクモ「元々は建物の解体用の爆弾だ。その発破力は言わなくてもわかるよな?こいつを零距離で食らえば、喰種と言えど大ダメージは必至。衰弱し切ったこいつなら、まあ間違いなく死ぬだろうな」

    奈津美「ちょっと待って、零距離って」

    ツクモ「今からこの爆弾をこいつの身体に巻き付ける。その間は黙って見てろよ。下手に動いたら即殺すからな」

    赫子を山田の首に突き付けたまま、ツクモは持っていた爆弾を彼の身体に巻き付け始めた。爆弾には10:00と示されたタイマーのようなものがあり、奈津美はその爆弾が時限式であると予測する。

    ツクモ「よし、これで完了だ。それじゃあルールを説明しよう」

    奈津美「・・・」

    ツクモ「まずは、こいつをお前の元へ解放する。そしたら、俺はその爆弾のスイッチを押すから、お前は爆弾が爆発する前に俺を倒してリモコンを奪い、爆弾を止めろ。そうすれば、お前もこいつも生還だ」

    そう言って、ツクモはポケットからリモコンを取り出し奈津美に示した。

    ツクモ「リモコンを壊さないように気を遣わないといけないのは面倒だろうが、罠だと判っていながら来た以上は、それぐらいのハンデは呑んでもらう」

    奈津美「ええ、もちろん。そう言うあなたも、約束は守ってよね」

    ツクモ「さっきも言ったが、嘘は吐かねぇ。それじゃあ、とっとと始めるぜ」

    ツクモ「・・・スタートだ」

    合図と共にツクモは赫子を器用に駆使して山田の体を掴み、奈津美の方へと放り投げた。奈津美は咄嗟に落下点へと走り、彼の体を受け止める。

    ツクモ「終了」

    奈津美「え!?」

    ポチッ

    リモコンのスイッチが押される。その、次の瞬間・・・

    ドゴォォォォォン!!!

    爆弾が爆発した。
  54. 54 : : 2015/10/11(日) 19:01:51
    ツクモ「あはっ・・・あはははははははは!!!はぁははははははははは!!!いひひひひいひひひひっ!!!あ~無様極まりねぇ。あの男、跡形もなくなっちまった。本当に間抜けだよなぁ?」

    ツクモ「霜永奈津美よぉ」

    奈津美「ゲホゲホッ・・・」

    奈津美は爆発の寸前で赫子を展開し、身体を包むことで熱と爆風から身を守っていた。しかし、爆弾の威力は赫子の防御力を上回り、彼女は全身に火傷を負った。

    奈津美「貴様!!!嘘は吐かないんじゃなかったのか!!?」

    ツクモ「ああ?嘘は吐いてねぇよ。俺は“爆弾が爆発する前にリモコンを奪って爆弾を止めろ”って言っただけだぜ。別にあの男が解放されるまで動いちゃダメだなんて言ってねぇ。だからてっきり、スタートって言った瞬間に襲われるもんだと思ってたんだけど・・・あっ!もしかして、時限式の爆弾だと思ってた?あ~そう言えばタイマーも一緒になってたもんなぁ。悪い悪い、俺は嘘は吐かねぇが・・・言葉足らずなことは結構あるんだよねぇ」

    「悪い」と謝罪の言葉を述べるツクモ。しかし彼の表情は、純粋過ぎるほどに歪んだ笑顔であった。

    奈津美「・・・ふざけるな」

    ツクモ「はい?」

    奈津美「命を・・・何だと思ってる・・・」

    ツクモ「考えたこともねぇな。まぁ、あの男の命に限って言えば・・・お前を絶望させるための“道具”・・・かな?」

    奈津美「ッ・・・!!!」

    ドウッ!

    奈津美の持つ八本すべての赫子が発現される。
  55. 55 : : 2015/10/11(日) 19:02:11
    奈津美「ツクモ!お前だけは」

    ダッ!

    奈津美「・・・殺す!」

    ヒュヒュッ

    接近するや否や、ツクモ目掛けて赫子を放つ。

    ツクモ「やれるもんならやってみろよ」

    ゾゾゾゾゾゾゾゾゾ
    ギギギィン!

    奈津美の攻撃に対し、ツクモもまた全ての赫子を発現させ、彼女の攻撃を防ぐ。そしてすぐさま、九本の赫子を以って反撃に出る。

    奈津美「(数は私より多い・・・けど、落ち着け。今なら防げる。私は・・・)」

    ギギギィン!

    奈津美「(強い!!!)」

    赫子の数では劣るも、奈津美は見事に彼の攻撃を捌き切ってみせた。

    ツクモ「前みたいにはいかないか」

    奈津美「当り前だ!」

    ツクモ「・・・なら、本気でやるか」

    ダッ!!!

    ツクモはとてつもない力で地面を蹴って前方へと跳躍し、弾丸の如き速度で奈津美へと迫る。彼の突進を防ぐため、彼女は赫子で迎撃を試みるが、高速で動いている分エネルギーの大きい彼の赫子にいとも容易く弾かれてしまう。

    迎撃は不可と判断した彼女は、すぐさま横へと跳び彼の突進を回避する・・・が

    ヒュッ

    ザクッ!

    回避行動の直後で、まだ次の行動に移ることのできない状態である彼女には、彼の追撃を避けることが出来なかった。彼の赫子に肩を貫かれ、彼女は苦痛の表情を浮かべる。

    ツクモの攻撃は終わらない。彼は奈津美を貫いた赫子の先端を自分の方へと返し、彼女の身体を掴み取り、一気に眼前へと引き寄せる。そして・・・

    ツクモ「オラッ!」

    ドスッ!

    奈津美「が・・・あ・・・」

    奈津美の腹部を正拳で突き刺し、最後に赫子で彼女の身体を払い飛ばした。

    奈津美「(鍛えたのに・・・里奈さんと修業したのに・・・“やっぱり”勝てない・・・・・・このままじゃ、ただの犬死)」

    奈津美「(・・・勝つためには、呼び起こすしかない。あの頃の私を・・・)」

    奈津美「(出来るか分からないけど、やるしかない・・・)」

    奈津美「(海正(かいせい)、約束破るけど・・・許してね)」

    ゾワッ





    目醒める。
  56. 56 : : 2015/10/11(日) 19:04:23
    -Ⅷ-





    5歳の時、私は両親を失った。

    それは確かに悲劇なのだが、喰種にとってはよくある話。

    ただ、私の場合はここからがちょっと違った。

    私は・・・強かった。



    人を襲えず、喰いっぱぐれることはなかった。

    白鳩に見つかって殺されたりコクリアに収監されたりすることもなかった。返り討ちにしたから。



    強さの源は、両親からの遺伝。ただ、勘違いしないで欲しい。両親はどちらも決して強くは無かった。そもそも強ければ、両親は死んでいない。

    父は赫子の数が多かった。そして身のこなしはなかなかに優れていた。ただ、赫子の一本一本はどうしようもなく脆弱だった。

    母の赫子は一つしかないが、赫子自体はそこそこ強かった。しかし、身のこなしは喰種の中ではかなり悪く、戦闘技術もなかった。

    私はそんな両親から、良い所だけを受け継いだ。

    両親が殺されたとき、自分が居れば守ってあげられたかもしれないと今でも思う。これもまた、普通は感じえない感情ではないだろうか。



    このように力を持っていた私は、多くのものがそうなる様に力に呑まれた。不必要に力を振りかざし、略奪を重ねた。

    実際、住処も他に頼りになる人も居なかったから、そうでもしなければ生きるのは難しかったのかもしれない。

    ただ、大切な人を失うことの辛さは知っていたので、食糧にする以外で命を奪うことはしなかった。



    前述のように住処が無かった私は、東京中を宛もなく浮浪した。そして両親が亡くなってから一年が経過した頃、私は20区に流れ着き、芳村店長に会った。

    その出会いは、他人の喰場を荒らし回っていた私を、芳村店長が抑えに来たというものだった。

    最初、彼は喰場荒らしの犯人が6歳の少女だと知り驚いていた。私は、その不意を突き彼を倒そうとしたのだが、軽くいなされてしまった。しかし、当時負け知らずで無鉄砲だった私は、今回も負ける筈が無いと再び攻撃を試みた。が、それもまたいなされる。後はそれの繰り返し・・・百回ぐらいやって、ようやく私は相手が自分よりはるか格上なのだと理解した。

    芳村店長とここで出会っていなければ、私は今頃生きてはいないと思う。当時の自分より格上なんて、本当はいくらでもいただろうし、一番最初に戦った格上が彼でなければその格上の相手に殺されていただろう。

    この後、生活面で様々な施しを授けてくれたことにも感謝しているが、何よりこの時出会ってくれたことに感謝している。
  57. 57 : : 2015/10/18(日) 21:34:53
    芳村店長に敗北を喫してから、私はあんていくの庇護を受けるようになった。求められた見返りは、15歳になったらあんていくで働くこと。

    こうして、生きていくうえで困ることがなくなったため、私は略奪を行わないようになった。しかし、強さの自己顕示欲は治っていなかった。

    生きるためにも戦いを必要としていた以前とは違い、毎日が喧嘩に略奪という訳ではなかったが、月に一度ぐらいのペースで余所の区へ赴き、悪事を働く喰種を見つけては戦いを挑んでいた。

    芳村店長は当然その事を知っており、何度も止めるように忠告して来た。私は「余計なお世話」として全く耳を傾けなかった。また、それと同じくらいの頻度で学校に通うことを勧められた。もちろん、そのことについても聞く耳を持たなかった。



    結局、喧嘩癖が全く改善されないまま、私は10歳になった。この年、私には大きな出会いが二つあった。

    一つは、四方さんとの出会いだ。

    当時の四方さんもまた、私とは理由が違ってはいるけれど、戦いに明け暮れる喰種だった。しかし、彼は私とは違い、みるみるうちに性格が丸くなっていった。

    月日が経つごとに、彼の顔から険が取れていくのを傍で見ていて、何だか自分の行動が馬鹿らしくなる時もあった。

    そして、もう一つの出会い。それは、海正との出会いだ。



    その日、暇を持て余していた私は何の目的もなく街を歩いていた。目的が無いから、そこに行きついた理由もないのだが、私は如何にもチンピラが屯してそうな路地へと入り込んだ。そしたら案の定、不良高校生が屯していた。高校生達は誰かを囲んでいるようで、言動からカツアゲをしていることが伺えた。もう少し近付いて被害者の顔を見てみると、なんと子供。私と同じくらいの年の少年だった。

    小学生の子供からカツアゲするなんて、流石に下種過ぎやしないかと思って眺めていると、一人が私に気付き、つられて周りもこちらを見てきた。「俺達は女の子から金をとるほど落ちぶれちゃいねぇから、とっとと立ち去りな」と言われたので、私は「子供からお金を盗ってる時点で十分クズだろ」と吐き捨ててから、その不良グループ達を締めた。赫子はもちろん使わなかったが、それでも圧勝だった。
  58. 58 : : 2015/10/18(日) 21:36:31
    「大丈夫か?」と声を掛けながらその子供に近付くと、私はあることに気付いた。匂いが喰種なのだ。それで、嘘を吐かれないように「私は喰種だけど」と前置きをした上で正体を尋ねると、やっぱり喰種だった。それを知って、子供とは言え喰種が人間にカツアゲされるなんて、なんて情けないとその子供に失望する。と同時に、こいつを放っておいたら野垂れ死ぬのがオチだとも思って、あんていくに連れていくことにした。

    この少年こそが海正である。名前を知ったのは、あんていくに着いて彼が芳村店長に自己紹介を促された時だ。また、その自己紹介で彼もまた両親を失くしていることを知った。それから私達の自己紹介の番になり、名乗った後で「よろしく」と握手をした。

    本当は、こんな弱い奴と仲良くする気などなかったのだが、彼が笑顔で握手に応じてくれたことを覚えている。

    それから少しして、彼は学校へ通うようになった。私と違い、彼は人間のような生活を送ることを望んでいたのだ。そんな彼を見て、学校に通うというのは弱い奴のすることだ、と思うようになった。愚か極まりない。

    その時から既に、本心では彼を羨んでいたような気がする。しかし、それを自覚するのはもう少し後だ。



    彼があんていくに来て一年が経った頃から、彼は私に度々構ってくるようになった。しかもそのタイミングと内容はいつも決まっていて、他区へ喧嘩に行く時で、「そんなことして何になるの?」と言われた。

    弱い奴の言うことに耳を貸すつもりはないと、私はその忠告を意にも介さなかったのだが、ある時言われたある一言だけはどうしても耳から離れなかった。



    「余所へ出掛ける時の奈津美、何だか苦しそうだよ」



    「うるせぇ!」と私は叫んだ。「人間のチンピラにすら勝てないお前に、私の気持ちがわかってたまるか」「ずっと続けて来た喧嘩以外に私の心に空いた穴を埋めるものは無いんだ」と言うつもりがなかった本音まで飛び出した。それから、「それならあんたが私のサンドバッグになる?」と彼を脅した。すると彼が「それは無理」と答えたので、だったらもう私に構うなと言い放とうとした。
  59. 59 : : 2015/10/18(日) 21:38:44
    だが、それに彼の言葉が割り込んで来た。本当に他にはないのか、と。続けて彼は、一度学校に通ってみないかと私を誘ってきた。

    ふざけるな。あんな所に私の心を満たすものなんてない。そう言って彼の誘いを断ろうとしたが、彼は「本当は、もし学校に行って心が満たされたら俺に負けたみたいになるのが怖いだけだろう?」と挑発して来た。当時の私にその挑発をスルー出来る筈が無く・・・

    私は、学校に通う事を決めた。今振り返ると自分の単純さに呆れてしまうが、同時にこの単純さに救われたようにも思える。



    それから約一年間、ほぼ無学だった私は(と言ってもマンガを含めて本を読むのは好きだったので、完全に無学の喰種よりは知識はあったが)基礎学力を身に付けるために芳村店長の指導を受けた。彼の指導は的確で、とても分かりやすかった。

    そう言えば、芳村店長は私に勉強を教える代わりに他区での喧嘩を禁止を命じて来たのだが、私はすんなり受け入れたような気がする。その時は、海正に言われっ放しなのはプライドが許さないから等尤もらしい理由を付けていたが、今考えると本心では喧嘩なんて止めたかったのかもしれない。でも、何か理由が無いと過去の自分を否定するみたいだったから、止められずにいたのだろう。

    とは言え、喧嘩そのものはたまにしていた。自分から仕掛けることは無くなったが、報復や腕試しにと私を襲って来る喰種が絶えなかったからだ。そして、襲われるのならば大義名分があるとして、思う存分返り討ちにした。



    そんな生活を送りながらも、12歳の春、私は海正と同じ中学校に入学した。もっと言うと、クラスも同じ。俗に言う“コミュ力”が低かった私は、最初の方は海正としか話さなかった。

    喧嘩癖は、結局治ってなかった。芳村店長との約束も無くなってからは、抑止するものが無かったからだ。その筈なのに・・・夏休みに入って、ようやく海正以外の友達が二、三人出来た頃から、喧嘩の頻度が明らかに減った。



    「どう?俺の言ったとおりだったでしょ?」

    一年生の終業式の後、彼は私を屋上に呼び出しこう言い放った。

    「どこが?今でも喧嘩続けてんじゃん」と私は彼の言葉を否定しようとしたが、「じゃあ最後に喧嘩したのはいつ?」という質問に、答えられなかった。因みに答えは三カ月前。昔の私であれば、考えられない。

    彼はさらに、最近の私は綺麗だと言ってきた。それに対し、「口説いてるつもり?」と返したところ・・・「うん」と返された。そして・・・

    「前から気にはなってたんだけど、最近の奈津美は特に輝いて見えて・・・いつも、奈津美の顔が頭から離れないんだ。だから・・・その・・・付き合ってくれ」

    「きも」

    我ながら、酷い奴だった。

    たった二文字の否定に、彼は相当ショックを受けていた。さすがの私も悪いと思ったのか、彼を慰めようと、付き合うのは無理だけど一緒に遊びに行くぐらいならいつでもいってやるからと言ってあげた。すると、彼は飛びつくように「じゃあ今週の日曜日遊ぼ!」と言ったので、調子に乗るなと一発殴ってから了承した。
  60. 60 : : 2015/10/25(日) 21:34:01
    そして迎えた日曜日、私は海正と遊園地に遊びに行った。私はもちろん、彼にとっても初の遊園地。楽しくないわけが無く、はしゃいではしゃいではしゃぎまくった。

    絶叫マシンへの耐性のなさはこの時発覚した。

    考えようによっては初デートだったわけだが、感想はと言うと大満足だった。恋愛対象として見たことはない相手だが、数少ない気の許せる者であるわけで、また彼も私を楽しませようとしっかりとプランを立てていたこともあり、繰り返すが楽しくないわけが無い。

    帰宅時の事件さえなければ・・・



    「霜永ァ!この前俺をコケにした落とし前はつけてもらおうかァ!!!」

    いつか倒したSレート喰種が、リベンジにと私達の前に現れたのだ。いや、リベンジなんて優しいものじゃない。奴は数十人の配下を引き連れて来ており、奴の目的は一方的な制裁であることが伺えた。

    本当は、海正を初めに逃がすべきだった。もっと言えば、一緒に逃げるべきだった。

    それなのに私は・・・

    一人でその大群に突っ込んだ。



    「う、嘘だろ・・・」

    数分後、周囲の男は全員跪いていた。私が全部倒したのだ。

    その数分間ははっきり言って楽しかった。自分の命が常に危機にさらされる緊張の中、身体を思うがままに動かし、一人、また一人と男達を倒していくのは、爽快だった。そして最後に味わうのは、立っているのは自分だけだという優越感。これがあるから喧嘩は止められない。

    だが、そこで気付いた。立っているのは自分だけだということに。

    海正は・・・・・・

    周囲を見回すと、少し離れたところで彼が倒れているのが見えた。身体の至る所に、赫子によるものと思われる傷があり、出血も酷い。強い喰種なら何ともなくとも彼にとっては・・・

    私は、彼を抱えてあんていくへと奔った。
  61. 61 : : 2015/10/25(日) 21:35:06
    馬鹿だった。愚かだった。自己中だった。私と仲良く一緒に歩いていた彼が、男達の制裁の対象から外れているわけが無いだろう。なのに私は、彼を守るなんてことは一切考えずに快楽に浸り続けた。

    裏口からあんていくに入ると、丁度休養を取っていた古間さんがいた。海正を一旦古馬さんに預け、私は芳村店長を呼びに行った。知らせを受けた店長は、すぐに食糧庫から肉を取り出し海正に与えた。そして彼は、「これでもう命の心配はないだろう」と告げる。それを聞き、私は胸を撫で下ろした。

    「これが、力を無用に振りかざすことのリスクだ」

    安堵から完全に柔らかくなっていた私の心は、彼の言葉にいとも容易く貫かれた。胸が痛むっていうのはこの時みたいなことを言うんだろうな。

    「何があったのか、まだ聞いていないが想像に難くはない。彼の傷と、君の返り血を見ればね」

    「・・・私は・・・悪くない・・・・・・あいつらが・・・」

    「ああ、君は悪くない。悪いのは君達を襲った喰種だ。君は何一つ悪い事をしていない。海正君に謝る必要だってない」

    「・・・・・・違う!!!謝らなきゃ、海正に」

    「何故?君は悪くないのだろう?」

    「でも、事の発端は私で・・・そう・・・私が悪いんだ・・・・・・私が・・・・・・」

    「・・・・・・・・・ごめん・・・・・・ごめんね・・・・・・・ごめんね・・・・・・海正・・・・・・」

    未だに目を覚まさない海正を前に、私は涙で顔をくしゃくしゃにしながらひたすら謝り続けた。






    涙が枯れた。それでも私は謝罪を続けていた。その時、ずっと傍らで見守り続けていた店長が、久しぶりに口を開いた。

    「君は優しい子だ。誰かが苦しむのを黙って見ていられない子だ。他人の為に涙を流せる子だ。そして、自分の為に友が傷付けられることに、耐えられない子だ。力を振りかざせば必ず反発される。その反発の対象は、力のある自分ではなく力のない友に行く。だけど、君はそれに耐えることはできない。今回のように、身を割かれるような苦しみを味わう。私は君に、そんな思いをもうして欲しくないんだ」

    彼の言葉は、柔らかく暖かかった。

    もう、自分から喧嘩をすることは絶対しない。向こうから吹っ掛けられたとしても、友のいる時には逃亡を選ぶ。

    そう、誓った。
  62. 62 : : 2015/10/25(日) 21:35:49
    中学二年生の夏、私はまた新たな出会いをした。トーカとアヤト君との出会いだ。

    彼女達もやっぱり戦いに明け暮れるタイプの喰種で、目つきは鋭く、しかし瞳の奥には優しさと哀しみを秘めていた。

    私は二人の指導を任されることになってしまった。当時の二人は生意気そのもので、全く可愛げが無かった。いや、今考えるとあの頃はあの頃で可愛かったけれども。

    ということで、私は二人より強い事を見せつけることで二人を手懐けた。事実上喧嘩になったのだが、私は本気になってないし、そもそも戦おうと言い出したのは二人なのでセーフで。

    私は二人に色々なことを教えた。勉強、喰種としての生き方のコツ、戦い方、そして・・・戦いに明け暮れることの虚しさ。でも、最後に関しては説得力があるわけがなく、二人はなかなか戦いを止めなかった。最終的にトーカが大人しくなったのも、学校と店長のお陰だと思う。



    そんなこんなで私は、比較的平和な日々を過ごすようになった。未だに報復せんと襲って来る輩も居たが、逃げたり、返り討ちにしたりを使い分けて、上手くやっていた。

    でも、今だからこそ思う。甘かったと。

    力とは、少しでも使ってしまえばそこに何かしらの代償を伴うものなのだ。代償の支払いを拒むのなら、一切使ってはいけないものなのだ。



    「海正、話があるんだけど・・・」

    中学三年の秋、私は海正を呼び出した。その目的は、告白。

    逆に告白されることになると予想すらしていなかった彼は、驚きながらもとても嬉しそうだった。もちろん答えは・・・○。

    それから私達は、常に一緒に居るようになった。彼の存在が、私の中で一番大切なものになっていた。

    そしてそのことは、誰もが知り得ることだった。私を恨む人にも・・・



    卒業式の翌日、一通のメールが私の携帯に送られてきた。送り主のアドレスは、心当たりのないものだった。中身を見てみると、そこに見覚えのある名が記載されていた。

    『海正という男を捕らえた』

    そのメールは、海正の拉致と、監禁場所を伝えるものだった。私は送り主の目的をすぐに察した。報復だ。

    私は一目散に監禁場所へと奔った。
  63. 63 : : 2015/11/01(日) 21:26:59
    「待っていたぞ」

    そこに居たのは、以前遊園地の帰りに私と海正を襲ったあの喰種集団の長だった。しかし今回は一人、部下の姿はどこにもなかった。私はそれを尋ねると、彼は眉間にしわを寄せて答えた。「逃げられた」と。「お前に二度もやられたせいで、部下に見限られたんだ」と。

    そしてそれから彼は、逃げた部下を見返すため、そして私を今度こそ殺すために鍛錬を重ね、喰種や白鳩を狩り、力を付けた事。今ではCCGにSSレート認定されている事。逃げた部下は全員殺した事を自ら語った。

    しかし、私にとって一番知りたいことは別にある。

    「海正はどこ!?無事なの!?」

    彼を助けるためなら、何だってするつもりだった。自分の命さえ投げ出しても良いと思っていた。しかし、彼は余りにも残酷な返答を口にした。

    「喰っちまったよ」

    「・・・!」

    私の中の何かが、大きな音を立てて崩れた。

    「あの男だけじゃねぇ。お前を殺した後は、お前の勤めている喫茶店・・・“あんていく”だっけか?あそこの連中も全員皆殺しにしてやるよ」

    「・・・す」

    「あ?」

    「殺す!!!」

    私は再び、戦いに浸った。悲痛と悦楽、二律背反の二つを共に抱いて。






    「はぁ・・・はぁ・・・」

    一時間後、私は近くの建物を捜し回っていた。私が見つけようとしていたのは、海正。もしかしたらあの男の発言は私を怒らせるための虚言で、本当は彼は生きているかもしれない。そんな一縷の希望を胸に奔り回った。

    そして、見つけた・・・



    肉塊を。



    その日、私はそれの隣に座って夜を明かした。一挙として動かず、一言も発せず、表情を変えず、私はずっと座っていた。

    朝日が昇ってから、私はそれを埋め、簡易的な墓標を立てて、あんていくへと戻った。そして全てを話し、泣いた。
  64. 64 : : 2015/11/01(日) 21:27:13



    私は“彼”に誓った。もう、自分の為には戦わないと。

    そして四方さんから格闘術を学んだ。論理に適った戦い方を覚えることで、私の本能を封じ込めるために。

    言葉遣いも正した。余計な敵意を抱かれないために。

    正しく世界を生きるために、過去の自分を完全に捨て去った。






    だけど、それでもダメだった。正しく生きていた筈なのに、失っちまった。

    それは過去に自分が犯した罪を償い切れてないから?確かにそうかもしんない。でも、山田さんや大斗君に私が犯したような罪があるとは思えない。

    じゃあ何であの二人は?

    それは・・・

    この世界が、間違っているから。

    だったら私も間違おう。

    この間違った世界で、正しきものを守る為に。









    ツクモ「まだ生きてるよなぁ?霜永奈津美」

    奈津美「・・・・・だろ」

    ツクモ「ああ?」

    奈津美「たりめぇだろ、下種野郎」

    ツクモ「・・・プハハッ!どうしたその言葉遣い、あんまりダメージ負い過ぎて、キャラまでぶっ壊れちま・・・」

    ドスッ

    突然、地面から赫子が現れ、ツクモの身体を貫いた。

    ツクモ「ガハッ!地面からだと・・・くそ、機転を利かせたみたいだが、ラッキーパンチに二度目は・・・」

    奈津美「ごちゃごちゃうっせぇんだよ。少し黙れ」

    ゾワッ

    奈津美から殺気が放たれる。それは先程までのものとは異質だった。ツクモはそれを感じ取り、冷や汗を走らせる。



    鱗赫、“オクトパス”。

    圧倒的な戦闘能力、そして好戦的な性格から捜査官だけでなく、喰種からも恐れられていたが、東京では4年間被害を確認されていない。

    死亡説も囁かれているが、その危険性からCCGは現在でも捜査を継続している。

    その喰種、レートは・・・

    SSレート
  65. 65 : : 2015/11/01(日) 21:28:36
    -Ⅸ-





    奈津美は、赫子を赫包へと戻した。

    ツクモ「何のつもりだ?」

    奈津美「別に・・・あんた相手ならしまってた方が良いかなって」

    ツクモ「!?・・・てめぇ、さっきから調子に乗り過ぎだ!」

    ヒュヒュヒュヒュッ

    ツクモが九本の赫子での総攻撃に出る。それも、絶妙な時間差をつけて。

    奈津美「そういう意味じゃねぇんだけど・・・」

    ダッ!

    奈津美「まっ、いいか」

    無謀にも、何の芸も無く正面からの突破を試みる奈津美。彼女は、ツクモの赫子が高速で行き交う危険地帯に無策で足を踏み入れた。

    ツクモ「馬鹿め!終わり・・・!?」

    奈津美「どうかした?そんなに・・・」

    奈津美「全部避けられるのが変か?」

    奈津美は前進しながら、ツクモの赫子を全て避けていた。後退しながらの回避ならば、難しい事ではない。事実、人間の摂津もツクモの赫子を何度か避けている。だが、前進しつつの回避となれば訳が違う。何故なら、避けた先も彼の攻撃範囲であり、回避後の隙を突くように次の赫子が襲い掛かる。それを避けても、また次が、さらにまた次が・・・1秒間に何十回も繰り返されるその全てを避けきれなければ、一つ受けたと同時に無数の攻撃が叩き込まれる。

    しかし、彼女はそれをやってのけた。無論、今までの彼女には出来なかった。それを今の彼女に成させたのは、勘。それも、経験ではなく本能によるものだ。

    だが、卓越した戦闘本能を持っているのは彼女だけではない。ツクモも同様である。彼は本能に基づく彼女の動きから、僅かな癖や傾向を無意識下で見つけ、それを赫子に反映させる。

    ツクモ「そこだ!」

    ツクモは遂に、不可避の攻撃を繰り出すことに成功した。が・・・

    ドウッ ガキィッ!

    奈津美の腰から瞬時に赫子が放たれ、弾かれてしまった。赫子の出し入れの速さも、彼女の長所なのである。

    そして、チャンスの後には必ず・・・

    奈津美「行くよ」

    ダッ!

    ピンチが訪れる。奈津美は、赫子が弾かれたことによる時間的かつ精神的な隙を突き、一瞬にしてツクモの懐に潜り込んだ。
  66. 66 : : 2015/11/01(日) 21:30:00
    奈津美「おらぁ!」

    ドゴォ!

    ツクモ「ッ!!!」

    ツクモの腹部に重い一撃が叩き込まれる。さらに・・・

    ドスドスドスッ

    三本の赫子が彼の身体を穿った。そして最後に、彼を蹴り飛ばす。彼の身体が壁へと叩き付けられると、その衝撃で周囲の壁と天井が崩れ落ち、彼の頭上に落下した。

    奈津美「・・・これで終わり・・・・・・な訳ねぇよな」

    奈津美は確実にツクモの命を奪うために、瓦礫の山との距離を詰める。そして、八本の赫子を・・・

    ゾルゾルゾルゾルゾル

    奈津美「!?」

    ガインガイン!

    突如、瓦礫の中から十数本の茨が飛び出し、奈津美に襲い掛かった。彼女はそれを赫子で難なく弾く。そして、彼女は眉間にしわを寄せる。

    奈津美「(なに、今の赫子。形状が今までと違い過ぎるし、何より本数が多過ぎる・・・今までと全く違う赫子を使うなんて、まさか・・・)」

    ツクモ「ナーツーミー!!!」

    ガラガラガラッ

    瓦礫の山が崩れ、中からツクモが姿を現す。しかし、その見た目は今までとは全くの別物。胴と腰、そして左腕に不気味な色の赫子を纏い、赫包からは二十本近くの茨状の赫子を放っていた。

    奈津美「やっぱり・・・半赫者かよ。クソッ、面倒くせぇ・・・」

    ツクモ「コロス・・・コロシテ・・・クイチラカシテ・・・コロス!!!」

    ヒュヒュンッ

    先程までとは倍の本数の赫子が一斉に奈津美に襲い掛かる。

    奈津美「(さすがにこいつはキャバ(容量)オーバーだっつーの)」

    ダッ!

    奈津美は回避ではなく退避を選択した。それほどに異常な物量の攻撃であったのだ。

    彼女は態勢の立て直しと対処法の立案の為に一旦距離を取ろうとする。だが・・・

    ツクモ「アハハハハハハハッ!!!!!」

    ヒュヒュッ ヒュヒュヒュヒュン

    ツクモは奈津美を超えるスピードで動き回りながら、二十の赫子を放ち続ける。結局、彼女は彼の攻撃の対処を余儀なくされる。しかし、彼女が自覚しているように、その物量は彼女の対処限界を超えていた。

    ドスッ!

    奈津美「ぐっ・・・なろ!!!」

    ドウッ ガキガキガキガキガキッ

    一撃食らったのを契機に、奈津美は全ての赫子を展開し防御に専念することを選択する。

    ガキガキガキ ブシャッ!

    奈津美「っ・・・!(やっぱり受け切れないか。こうなりゃ・・・)」

    ヒュッ

    また一つ、奈津美の防御領域の内側にツクモの赫子が侵入する。それを彼女は・・・

    パシッ

    掴み取った。
  67. 67 : : 2015/11/08(日) 18:12:09
    奈津美「うおおおおおおりゃ!!!!」

    ブオンッ

    奈津美はその赫子を引っ張り上げ、ツクモを空中へと放り上げた。

    ツクモ「アババ!?」

    奈津美「(空中じゃ身動きとれねぇだろ・・・)これで死ね!」

    奈津美は空中のツクモへと一斉に赫子を向ける。

    ツクモ「・・・ネェ、アソボ?」

    ガチッ クルッ

    奈津美「なっ!?(赫子を天井に引っ掛けて姿勢を制御した!?ああ、そういや・・・)」

    ヒュヒュヒュヒュン! ゾゾゾゾゾゾゾゾッ!

    奈津美「よくやった手だったなぁ・・・うっかりしてたよ」

    ガガガガガガガガッ

    今まで何度も、二人は赫子の打ち合いを交えて来た。だが、今回の打ち合いの凄まじさは過去のものとは一線を画していた。

    ガガガガガガガガッ

    ツクモ「モッ×アソボ△ヨ!ママ!パ○!ド△シテ・・・アン○ヤツラ▽コロサ□タノ!?」

    奈津美「!?」

    ブシャッ

    奈津美「ぐっ!(やっぱり、真っ正面からの打ち合いじゃ・・・)」

    ツクモ「ヨワ▽カラ○ナ?ダッ○ラオレハツヨク○ルヨ。ツ×クナッテマツ▽ヲコロ△カラ!○カラ○ソボ!」

    ザンザンッ

    奈津美「っ・・・(ああ、そうなの。あんたも間違った世界で間違えさせられたの。それであんたは、それを正してくれる人に会えなかったんだね・・・)」

    ツクモ「マ○モパパモダ□ナラ、○ナエ、アソボ!ネェ・・・」

    ゾルゾルゾルゾルゾル

    更に十本、ツクモの赫包から赫子が噴出する。絶望的なこの状況で奈津美は・・・

    赫子を、一本に束ねた。

    奈津美「ごめんね、最初にあんたを止めてあげるのが私で。芳村店長なら、きっとあんたを救ってあげるのに・・・」

    ツクモ「アソボッ!」

    ビュオッ

    無数の赫子が奈津美の頭上から、雨のように降り注ぐ。

    奈津美「私は不器用だからさ・・・」

    ドウッ
  68. 68 : : 2015/11/08(日) 18:13:36



    ブシャッ!

    奈津美の身体から、血飛沫が上がる。それから少しして・・・彼女の頭に、赤い紅い雨が降り注いだ。

    奈津美「殺すことしか出来なくて・・・ごめんね」

    悲しみに満ちた顔で、奈津美は静かに謝罪する。

    奈津美「・・・昔に戻った、と思ったのにな。全然楽しくなかった・・・何でだろう・・・な・・・」

    ドサッ

    最後の一撃を加える際に、ツクモの攻撃を正面から受けていた彼女は、力尽きたかのようにその場に倒れた。

    奈津美「(やばっ・・・血、流し過ぎた・・・喰べないと・・・死・・・!?)」

    彼女の耳に、階段を駆け上がる足音が入って来た。

    奈津美「(廃ビルとは言え、暴れ過ぎたみたいね)」

    念のため所持していたハムスターのマスクを被り、その場からの逃亡を試みる。しかし、動けない。

    テクテクテクテク

    足音が近づく。そして・・・

    江畑「動くな!」

    奈津美「・・・(へぇ、そう来たか)」

    悠介「あ・・・」

    江畑「知っているのか?」

    悠介「あっ、えっと・・・一度交戦したことがあります。呼称は“ハムスター”です」

    江畑「ハムスター・・・暫定レートは・・・A~か。慎重に行くぞ」

    悠介「はい!」

    奈津美「(慎重にって、こっちは動けないんだけど・・・)」

    江畑と悠介はじりじりと距離を詰め始める。奈津美はそれを、黙って見ている事しか出来なかった。

    奈津美「(あ~あ、お終いか・・・)」

    奈津美は生を諦め、天を仰ぐ。その時・・・

    ???「オラァ!!!」

    ガガガガガガ

    聞き馴染みのある声と共に、深紅の結晶の雨が、二人の周囲に降り注いだ。

    江畑「ちっ」

    悠介「おっと」

    二人はそれを容易に躱す・・・が、“ハムスター”との距離を離されてしまった。この攻撃のそもそもの目的がそれだったのだと、二人は察した。

    一方、奈津美はこの状況に、捜査官の二人以上に驚愕していた。何故なら、ここに居る筈のない者達が三名現れたから。

    ???「私に掴まってください。飛び降りますよ」

    奈津美「・・・うん」

    江畑「新手が三体か。悠介!」

    悠介「分かってますよ。逃がさねぇべ!」

    ガガガッ

    悠介が、クインケ“キリタンポ”の弾丸を放つ。

    ゾゾゾッ  

    ガキガキィ

    その弾丸は、三体の中で一番大柄な喰種の赫子に阻まれた。その直後、奈津美を含む四体の喰種が、ビルから飛び降りた。

    江畑「逃げられたか」

    悠介「今の奴等、どいつもこいつも見たごとねぇ喰種でしたけど・・・」
  69. 69 : : 2015/11/08(日) 18:16:17
    ???「いでっ!」

    四人は地面へと着地した。だが一人が着地に少し失敗した。

    ???「ったく、何やってんだよ。相変わらず鈍くせぇな」

    ???「ごめんごめん」

    ???「それより・・・奈津美さん、大丈夫ですか?」

    奈津美「う~ん、ちょっと重傷かな。だけど・・・」

    奈津美「こうしてトーカにおんぶしてもらってるだけで、一気に全快しそう!」

    トーカ「あはは・・・それなら、幾らでもおんぶしてあげますよ」

    奈津美「どうしてこっちに来てるのかはまた後で聞くとして、助けてくれてありがとう。トーカ、四方さん」

    四方「礼には及ばん」

    奈津美「・・・・・・」

    ???「・・・?」

    奈津美「・・・・・・あの、どなたですか?」

    カネキ「えっと・・・金木研です」

    奈津美「ああ!あなたが半喰種の!トーカから話は聞いてるゴッ・・・ゲホゲホッ!」

    カネキ「だ、大丈夫ですか!?」

    四方「余り大声を出すな、傷の回復が進んでいない。帰ったらすぐに食事が必要だな」

    トーカ「カネキてめぇ、奈津美さんに大声出させてんじゃねぇ!」

    カネキ「ご、ごめんなさい!」

    奈津美「(トーカ、それは理不尽過ぎでは?でもそこが可愛い)」



    一同が“ぬぐだまれ”に到着した時には、日付はとっくに変わっていた。

    佐藤「奈津美ちゃん!?」

    四方「止血は出来ているようだが、それ以上の回復が進んでいない。“肉”を喰わせてやってくれ」

    佐藤「は、はい。んで、あなた達は?」

    秋田「“あんていく”だ」

    佐藤「店長?あんていくって確か、奈津美ちゃんが以前勤めていた・・・いや、それを言うなら店長も」

    秋田「うん、そのあんていくだ。数日前、私は“なまはげ会”に対抗するために芳村さんに応援を頼んでいたんだ。その答えが、君達なんだろう?」

    秋田の問いかけに、カネキ、トーカ、四方の三人はコクリと頷いた。

    秋田「浩郎君、食糧庫から“肉”を取ってきて」

    佐藤「分かりました!」
  70. 70 : : 2015/11/14(土) 12:15:44
    面白いです‼︎期待してます。
  71. 71 : : 2015/11/14(土) 19:42:15
    >>70
    ありがとうございます!励みになります!
  72. 72 : : 2015/11/15(日) 20:06:17
    奈津美「・・・成る程、店長の策略だったわけですか。でも、よく私があのビルに居るってわかりましたね?」

    秋田「まっ、上手くやったんだよ」

    奈津美「?」

    四方「秋田さん。早速ですが、秋田の現状を教えてください。俺達がすべき役割をはっきりさせたい」

    秋田「もちろん、話すよ」

    タッタッタッ

    佐藤「“肉”、取ってきました」

    四方「トーカ、お前は奈津美を看病しろ」

    トーカ「はい」

    奈津美「ナイス四方さブッ・・・ゴホゴホッ!」

    四方「・・・」

    トーカ「だ、大丈夫ですか!?」

    奈津美「四方さん、無言の冷やかしは止めてくださいよ。一番キツイ・・・」

    秋田「浩郎君も看病お願い。応接室を使いな」

    佐藤「うっす」

    カネキ「四方さん、僕は・・・?」

    四方「お前は俺と話を聞いてくれ。東京以外の地に住む喰種がどのように生きているのか、お前に知って欲しい」

    カネキ「分かりました」



    ガブリッ ゴク

    奈津美「ふぅ・・・」

    佐藤「後は安静にしていれば大丈夫だろう」

    奈津美「はい。ありがとうございます」

    トーカ「奈津美さん、水持ってきました」

    奈津美「ありがとうトーカ」

    奈津美はトーカからコップを受け取り、中の水を一気に飲み干した。

    奈津美「プハーッ、生き返る!」

    佐藤「ビール飲んだオヤジかよ」

    奈津美「すいませんね、オヤジ臭くて。それじゃあ、私達も話に参加しましょう」

    佐藤「えっ、もう少し休んだ方が・・・」

    トーカ「心配ありませんよ。多分、もう治ってますから」

    佐藤「え・・・あれ程の怪我を・・・凄いもんだな」

    食事を終え、秋田達のもとへと戻った頃には、話は既に終わっているようだった。

    四方「もう良いのか?」

    奈津美「はい。そっちこそ、もう話は終わったんですか?」

    四方「ああ。大まかな状況は聞いた。より詳しい話は、もう少し後・・・決戦直前に聞くことにした」

    奈津美「決戦!?」

    秋田「奴等が大きく動く時だ」

    奈津美「それは・・・どういう・・・」

    秋田「・・・今月14日、正君から通信があった」
  73. 73 : : 2015/11/15(日) 20:08:31
    奈津美「最後の通信ってことですね・・・」

    秋田「うん」

    佐藤「最後って!?」

    奈津美「山田さんは殺されました。私が・・・弱かったばかりに」

    佐藤「・・・奈津」

    四方「奈津美、いい加減その癖を直せ。お前が自責の念に苛まれているのを見て、良い気分になる者はお前の仲間にはいない」

    奈津美「はい・・・そう言えば、店長はなんでもう知ってたんですか?」

    秋田「四方君から聞いた。君の他に、生存している“喰種”は居なかったと。正君との通信が途絶えた時から、こうなることはある程度予想していた。予想していたにもかかわらず・・・何一つ、対策を立てることをしなかった。だから、悪いのは私だ」

    カネキ「違う!」

    秋田「!?」

    カネキ「秋田さんも奈津美さんも、何一つ悪い事なんてしていない!」

    トーカ「はぁ・・・言うじゃねぇか、クソカネキ。癪だけど、あんたに賛成」

    四方「研の言う通り、二人が責任を感じる必要はない。それより、話の続きを」

    秋田「そうだね。正君の通信によると、奴等は来月10日にCCG秋田支部局へと襲撃を仕掛けるらしい」

    佐藤「秋田の白鳩の総本山に!?」

    秋田「ああ。そしてこれは、大斗君を救出するには絶好のチャンスでもある」

    奈津美「!?」

    秋田「そこで我々は、12月10日に旧CCG能代署へ突入する。大斗君を救い出そう」

    奈津美「(ようやく・・・この時が・・・)」

    佐藤「よしっ、それじゃあそろそろ自己紹介としましょうか!」

    カネキ「え?」

    佐藤「え?」

    カネキ「いや、とてもそういう流れには見えなかったので・・・」

    佐藤「あっ、悪い悪い。だけど、これからのことを話す時、お互いの名前がわからないと不便だろ?」

    カネキ「そうですね」

    佐藤「だろ?」

    秋田「なら、トップバッターは言い出しっぺの浩郎君ね」

    佐藤「分かってますよ。俺は佐藤浩郎、よろしくな」

    秋田「私は秋田博満、この店の店長だ」

    奈津美「私は霜永奈津美・・・カネキ君以外は知ってるか。カネキ君、これからよろしくね」

    カネキ「は、はい。よろしくお願いします。僕は金木研です、皆さんよろしくお願いします」

    トーカ「霧嶋董香です、よろしくお願いします」

    四方「四方蓮示です」

    秋田「みんな、改めてよろしく。さて、君らの住まいだが・・・」

    奈津美「全員、私の家に泊めます!と言うか、泊めさせてください!」
  74. 74 : : 2015/11/22(日) 20:39:58
    佐藤「ええ?トーカちゃんは良いとして、四方君とカネキ君も?」

    四方「俺は自分で適当な寝床を探す」

    奈津美「ええ~、四方さんも来てくださいよ。女の子の部屋だからって、遠慮しなくていいんですから」

    四方「遠慮はしていない。野宿の方が慣れている、それだけだ」

    カネキ「の、野宿ですか!?」

    四方「そもそも、昔のお前を知っている身としては、お前を女子とは見れそうにない」

    奈津美「あっ・・・はい・・・」

    カネキ「(昔の奈津美さん?)」

    奈津美「カネキ君は!?」

    カネキ「あっ、僕も四方さんとのじゅ」

    四方「無理をするな。お前は野宿したことがないだろう?」

    奈津美「よしっ!じゃあ泊まって!」

    トーカ「カネキも泊めるんですか!?」

    カネキ「え、遠慮します!年頃の女の子二人の部屋に泊まるなんて・・・」

    奈津美「いいよいいよ、君、ザ・草食系って顔だし」

    佐藤「ん~・・・まあ、テンパってる時点で問題なさそうだな」

    奈津美「佐藤さんもそう思いますよね?トーカ・・・」

    トーカ「はぁ・・・分かりました」

    奈津美「ありがとう!」

    トーカ「カネキ、変な真似したら・・・」

    カネキ「しないよ!」



    それから一同は解散し、奈津美、トーカ、カネキの三人は奈津美の住むアパートへと歩いて向かった。

    カネキ「本当に、良いんですか?」

    奈津美「何度も言ってるじゃない、遠慮しなさんなって。私から頼んでるんだし」

    カネキ「はい・・・」

    奈津美「そう言えば、カネキ君って大学生なんだよね?」

    カネキ「はい」

    奈津美「私は高校三年生。だからカネキ君より年下なんだけど、今までタメ口だったけど大丈夫?」

    カネキ「全然かまいませんよ。慣れてますし・・・(奈津美さんよりも年下のトーカちゃんの方が酷い言葉遣いだし・・・)」チラッ

    トーカ「なに?」

    カネキ「いや、なんでも・・・」

    奈津美「ありがとう。カネキ君も、タメ口で話してよ。肩が凝っちゃう」

    カネキ「あ、はい。じゃあ、そうします」

    トーカ「直ってないじゃん」

    カネキ「そ、そうするよ!」

    奈津美「ふふ(年上・・・だよね?)」

    トーカ「・・・」

    この時トーカは気付いていた。奈津美がカネキへと向ける表情が大斗へ向けていたものと近い事に。
  75. 75 : : 2015/11/22(日) 20:41:59
    アパートに着いた後は、以前トーカが来た時のようにトランプでも・・・と奈津美は思っていたのだが、思った以上に疲れが溜まっており、また別の日にしようということになった。

    そういうわけで、二人の寝床の指示をすることになったのだが・・・

    カネキ「ベッド、二つしか見当たらないんだけど・・・」

    奈津美「何か問題ある?」

    トーカ「やっぱり、そう来ますか」

    カネキ「ん?どういうこと?」

    奈津美「私がトーカと一緒のベッドで寝るから問題ないよ」

    カネキ「い・・・一緒のベッドで?もしかして二人はレ」

    トーカ「何か言った?」ギロッ

    カネキ「いえ」

    奈津美「それじゃあ、今日はカネキ君と一緒に寝ようかな」

    カネキ「なっ!?何言ってるんですか!?」

    奈津美「顔赤くしちゃって、かわ・・・ゲフンゲフン」

    カネキ「はい?」

    トーカ「奈津美さん、改めて言いますけどカネキは」

    奈津美「無理。年下にしか見えない」

    トーカ「やっぱり・・・」

    カネキ「???」

    奈津美「まぁ、要はカネキ君に拒否権は無いってこと」

    カネキ「えぇ!?」

    トーカ「カネキ、奈津美さんに変な事したら・・・殺す」

    カネキ「しないって(むしろ逆にされそうなんだけど・・・)」

    奈津美「じゃあ早速行こう。お休み、トーカ」

    トーカ「はい・・・」

    こうしてカネキは、半強制的に奈津美の部屋で寝ることになった。



    奈津美「無理言ってごめんね」

    部屋に入ってからの第一声はこれだった。

    カネキ「い、いや。でも、謝るぐらいなら・・・」

    カネキの言葉はそこで途切れた。奈津美の目から涙が零れるのが見えたからだ。

    奈津美「トーカに・・・心配かけたくなかったから・・・ごめんね・・・・・・グスッ」

    カネキ「・・・(本当はずっと、泣きたかったんだ。それでも彼女は、他人に心配を掛けまいと堪えて来た。笑顔で居続けた。本当は、僕にだって泣いているところは見られたくなかったのかもしれない・・・だけど・・・)」

    奈津美「ちょっと流石に今回は・・・堪え切れそうになくて・・・」

    カネキ「良いんだよ、思う存分泣いても。これでも僕は、年上だから」

    その言葉が、奈津美の堰を緩めた。しかし彼女は、涙をボタボタと流しても声を上げることは無かった。本当は、自分の無力から仲間を失ったという辛い思いを、叫びと共に一気に解き放ちたいはずなのに・・・

    カネキ「(大切な人に程、心配を掛けたくない。そんな彼女の様子に僕は、ちょっとだけ、自分を重ねた)」
  76. 76 : : 2015/11/29(日) 18:36:43



    奈津美「・・・ありがとう。最後まで傍に居てくれて」

    カネキ「お礼を言われるほどの事じゃないよ」

    奈津美「お礼を言うほどの事だよ。それぐらい心が楽になった。何だろう、出会ったばかりなのに・・・親近感が湧くというか」

    カネキ「奈津美ちゃんも?実は、僕も」

    奈津美「本当に?」

    カネキ「うん。自分に似ているような気がした」

    奈津美「・・・そっか。トーカからカネキ君の話は聞いてるけど、確かにそうかもね」

    カネキ「うん」

    奈津美「でも、違うよ。私はあなたとは違う。もう・・・堕ちてる」

    カネキ「え?」

    奈津美「さて、そろそろ寝ようか」

    カネキ「僕はソファーで寝ますね。おやすみなさい」

    ガシッ

    奈津美「客人をソファーで寝かすわけにはいかんよ・・・」

    結局カネキは、どこを寝床にしたのやら・・・



    同刻、ぬぐだまれには未だに灯りがついていた。

    秋田「・・・うん、間違いない。そっちもちゃんと用心しておいてね」

    秋田は誰かと電話をしていた。その傍らで、佐藤はコーヒーをすすっている。

    秋田「どうしてって、15年前から察しは着いているんだろう?」

    秋田「共に、戦おう。私もご当地ヒーローとして参戦するつもりだ」

    秋田「うん、またね」

    ガチャ

    佐藤「どうですか?」

    秋田「後は彼等次第さ」

    佐藤「そうですか・・・。店長」

    秋田「何だい?」

    佐藤「俺、この店で働けて最高でした。今まで本当に・・・ありがとうございました!」

    秋田「お礼を言うのはこちらの方さ。君が居たから、ここまで続けて来られた。そうだ・・・奈津美ちゃんにも、後でお礼を言っておかないと」

    佐藤「そうですね」

    佐藤「・・・信じていいんですかね。あいつらのこと」

    秋田「信じよう。それが、私達が最初に掲げた理想なのだから」





    冬の始まり、終わりの始まり・・・



    to be continued
  77. 77 : : 2015/11/29(日) 18:38:27
    話は続くのですが、執筆は中断します。再開がいつになるかは未定です。
  78. 80 : : 2020/10/12(月) 04:49:50
    春夏秋と読んできました!
    語彙がとても堪能で、まるでプロの作家の小説を読んでいるような気持ちになりました!
    私も山形出身で仙台で暮らしているので、東北地方のこのお話はとても情景をイメージしやすく、とても楽しいです!
    続編を楽しみにしています!
  79. 81 : : 2020/10/26(月) 14:58:22
    http://www.ssnote.net/users/homo
    ↑害悪登録ユーザー・提督のアカウント⚠️

    http://www.ssnote.net/groups/2536/archives/8
    ↑⚠️神威団・恋中騒動⚠️
    ⚠️提督とみかぱん謝罪⚠️

    ⚠️害悪登録ユーザー提督・にゃる・墓場⚠️
    ⚠️害悪グループ・神威団メンバー主犯格⚠️
    10 : 提督 : 2018/02/02(金) 13:30:50 このユーザーのレスのみ表示する
    みかぱん氏に代わり私が謝罪させていただきます
    今回は誠にすみませんでした。


    13 : 提督 : 2018/02/02(金) 13:59:46 このユーザーのレスのみ表示する
    >>12
    みかぱん氏がしくんだことに対しての謝罪でしたので
    現在みかぱん氏は謹慎中であり、代わりに謝罪をさせていただきました

    私自身の謝罪を忘れていました。すいません

    改めまして、今回は多大なるご迷惑をおかけし、誠にすみませんでした。
    今回の事に対し、カムイ団を解散したのも貴方への謝罪を含めてです
    あなたの心に深い傷を負わせてしまった事、本当にすみませんでした
    SS活動、頑張ってください。応援できるという立場ではございませんが、貴方のSSを陰ながら応援しています
    本当に今回はすみませんでした。




    ⚠️提督のサブ垢・墓場⚠️

    http://www.ssnote.net/users/taiyouakiyosi

    ⚠️害悪グループ・神威団メンバー主犯格⚠️

    56 : 墓場 : 2018/12/01(土) 23:53:40 このユーザーのレスのみ表示するこの書き込みをブックマークする
    ごめんなさい。


    58 : 墓場 : 2018/12/01(土) 23:54:10 このユーザーのレスのみ表示するこの書き込みをブックマークする
    ずっとここ見てました。
    怖くて怖くてたまらないんです。


    61 : 墓場 : 2018/12/01(土) 23:55:00 このユーザーのレスのみ表示するこの書き込みをブックマークする
    今までにしたことは謝りますし、近々このサイトからも消える予定なんです。
    お願いです、やめてください。


    65 : 墓場 : 2018/12/01(土) 23:56:26 このユーザーのレスのみ表示するこの書き込みをブックマークする
    元はといえば私の責任なんです。
    お願いです、許してください


    67 : 墓場 : 2018/12/01(土) 23:57:18 このユーザーのレスのみ表示するこの書き込みをブックマークする
    アカウントは消します。サブ垢もです。
    もう金輪際このサイトには関わりませんし、貴方に対しても何もいたしません。
    どうかお許しください…


    68 : 墓場 : 2018/12/01(土) 23:57:42 このユーザーのレスのみ表示するこの書き込みをブックマークする
    これは嘘じゃないです。
    本当にお願いします…



    79 : 墓場 : 2018/12/02(日) 00:01:54 このユーザーのレスのみ表示するこの書き込みをブックマークする
    ホントにやめてください…お願いします…


    85 : 墓場 : 2018/12/02(日) 00:04:18 このユーザーのレスのみ表示するこの書き込みをブックマークする
    それに関しては本当に申し訳ありません。
    若気の至りで、謎の万能感がそのころにはあったんです。
    お願いですから今回だけはお慈悲をください


    89 : 墓場 : 2018/12/02(日) 00:05:34 このユーザーのレスのみ表示するこの書き込みをブックマークする
    もう二度としませんから…
    お願いです、許してください…

    5 : 墓場 : 2018/12/02(日) 10:28:43 このユーザーのレスのみ表示する
    ストレス発散とは言え、他ユーザーを巻き込みストレス発散に利用したこと、それに加えて荒らしをしてしまったこと、皆様にご迷惑をおかけししたことを謝罪します。
    本当に申し訳ございませんでした。
    元はと言えば、私が方々に火種を撒き散らしたのが原因であり、自制の効かない状態であったのは否定できません。
    私としましては、今後このようなことがないようにアカウントを消し、そのままこのnoteを去ろうと思います。
    今までご迷惑をおかけした皆様、改めまして誠に申し訳ございませんでした。

▲一番上へ

名前
#

名前は最大20文字までで、記号は([]_+-)が使えます。また、トリップを使用することができます。詳しくはガイドをご確認ください。
トリップを付けておくと、あなたの書き込みのみ表示などのオプションが有効になります。
執筆者の方は、偽防止のためにトリップを付けておくことを強くおすすめします。

本文

2000文字以内で投稿できます。

0

投稿時に確認ウィンドウを表示する

著者情報
jagamanmnm

R・M・T

@jagamanmnm

この作品はシリーズ作品です

秋田喰種 シリーズ

「東京喰種トーキョーグール」カテゴリの最新記事
「東京喰種トーキョーグール」SSの交流広場
東京喰種トーキョーグール 交流広場