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この作品は執筆を終了しています。

夜空へ翔る一筋の願

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  1. 1 : : 2015/06/12(金) 21:39:32



    この作品には、幾つかの注意点があります。

    ・オリキャラのみ
    ・文章おかしい可能性有り
    ・イイハナシダナーになる

    これらが苦手な人は読まないことを奨めます。


  2. 2 : : 2015/06/20(土) 16:17:47








    ーーーーーーーー雨。


    朝から鬱陶しい雨が休む様子を見せることもなく降り続いている。


    今は梅が美味しく、女子のおねだりが失敗しやすいという6月。どうしてこんな無駄な知識があるのかは俺が聞きたい。


    「もう、遅いよ悠! 遅刻するよ?」


    「大丈夫だって。近道すれば3分で着くし」


    ーーーーーーーーとこのままでは誰が誰か分からないだろうから説明しておこう。


    まず最初に声をかけて来たのが(かける)だ。
    勉強は出来るが運動は苦手で、しっかり者だがちょっと抜けているという、探せば見つかりそうな奴。そして俺の友達だ。
    なお、よく間違えられているが『しょう』ではなく『かける』だ。これを間違えると結構傷付く。


    そしてヘラヘラと返事をしたのが俺こと(ゆう)だ。運動が好きで勉強は…………まあ、生活感溢れる部屋でなけなしの努力をしている。


    「何言ってんの、今日は雨だから近道出来ないんだよ?」
  3. 3 : : 2015/06/20(土) 16:26:08


    「…………あ」


    マズい。非常にマズい。


    お察しの通り、現在学校へと登校中。そして朝のHRが始まる5分前である。
    近道をすれば3分で着き、ギリギリ間に合うが、普通に行くと8分程かかってしまう。そして今日は雨により、近道が通れなくなっている。
    つまり遅刻だ。


    「ヤバい、急ぐぞ翔! 遅れる!」


    「っていうか、そのことも考えて早めに来てよ。先行っとけば良かったかな……」


    「そんな冷たいこと言うなって。後2分で着くように走るんだ!」


    「まだ3分の1も来てないよ。…………これは諦めるしかなさそうだね……」


    そうして学校まで後半分というところまで来たとき、学校からHRが始まる合図のチャイムが聞こえて来たのだったーーーーーーーー

  4. 4 : : 2015/06/20(土) 16:27:31



    *ーーーーーーーーーーーーーーーー*


  5. 5 : : 2015/06/20(土) 17:03:45


    「ハァッ、ハァッ…………」


    「す、みません…………遅れ、ました…………」


    勢いよく扉を開け放って即座に謝る。みんなの視線が一斉に俺たち2人に注がれる。
    …………あれ? なんか視線が多いような……?


    「遅いぞ、またお前らか。大方、また足立が待たせたんだろう。今日は転校生も来ているというのに、示しがつかんだろう。少しは中学生になったという自覚を持ったらどうだ」


    「はい………………え、転校生?」


    思わず2人で顔を見合わせる。そんなこと聞いてないのに…………って、知ってる方がおかしいか。


    俺は翔に待たせてしまったことを謝ろうと思っていたのだが、そんなことはすっかり忘れ、教壇の方を見る。
    そこには1人の女の子が立っていて、こちらを見ていた。視線の正体がわかった俺はなるほどなと1人納得する。


    ちなみに先生の言っていた『足立(あだち)』というのは俺の名字だ。不動の出席番号1番である。


    「悪いな、もう一度あの2人に自己紹介してくれるか」


    「あ、分かりました」


    先生に促され、女の子はこっちに向き直る。隣から「かわいい……」という翔の声が聞こえてきた気がしたが、気のせいだろう。


    「えっと、尾上 結衣(おのうえ ゆい)って言います。よろしくお願いします」


    「あ、こちらこそ」
  6. 6 : : 2015/06/20(土) 17:26:06
    「よろしくお願いします」


    身長は推定155センチ、少し大きめの制服を身に纏い、髪は短く纏めている活発そうな印象を与える尾上結衣は、自己紹介をするとペコリと丁寧にお辞儀をしてきた。


    つられて2人ともお辞儀を返す。心なしか、翔の顔が若干にやけている。正直、ちょっと気持ち悪い。


    「ほら、お前たちも自己紹介せんか。もうみんな済ませてるぞ」


    「え、はい。天野 翔(あまの    )です。いきなりびっくりさせちゃったと思うけど、よろしくね」


    「うん、よろしく!」


    まるでラノベのテンプレのような挨拶だな、などとどうでもいいことを考えながら俺も続けて自己紹介をする。

  7. 7 : : 2015/06/20(土) 18:04:02

    「よし、じゃあ2人とも座れ。…………と、尾上の席はどうしようか……。お、そうだ。先月転校した奴がいるから、そこにしよう。足立の隣の席だな」


    「そこですか? 分かりました」


    鞄を抱えて俺の隣の席に座る。
    中1のこの時期に転校だなんて大変だなーなどと考えながら先生の話を聞き流している内にHRが終わる。


    この後の休憩時間に、俺の隣が騒がしくなることは想像に難くなかった。








    「ねえねえ、結衣ちゃんって好きなタイプってあるの?」

    「部活は何部に入ってるの?」

    「好きな芸能人って誰?」


    休み時間。早速俺の周りに人が集まってくる。が、囲まれているのはもちろん俺ではなく噂の転校生だ。
    第一、俺が囲まれるなんて有り得ない。そんな要素がない。


    「当然の成り行きだけどすごい人気だねー」


    「まあ、転校生だしな。集まってくるのも女子だから、俺たち関係ないのにすごい居づらい」
  8. 8 : : 2015/06/20(土) 18:35:58
    「あ、それ分かる。自分1人だけ場違いに感じるというか」


    「そうそう。…………とりあえず、離れるか。俺たち、今まさに場違いだし」


    その会話をしている当人たちが場違いな空気に飲まれていた。息が苦しい。
    俺たちは急いで教室を出て新鮮な空気を吸う。何故か空気がおいしい……。


    教室を出る前にちらっと騒ぎの元を確認する。そこには、若干困ったような顔をしながらも様々な質問に1つずつ丁寧に答えていく尾上結衣の姿があった。


  9. 9 : : 2015/06/20(土) 18:36:15



    *ーーーーーーーーーーーーーーーー*



  10. 10 : : 2015/06/20(土) 19:09:52


    「あー、やっと学校終わったー」


    「部活やっと終わった…………」


    「んだよ、だらしねぇなぁ。俺なんてピンピンしてるぞ」


    「授業中に居眠りしてるんだからそりゃ元気だよ……」


    「う、うるさいな! 仕方ないだろ、眠いんだから!」


    「まぁ、仕方ないといえば仕方ないんだけどね」


    朝に激しく降っていた雨は止み、俺たちは傘を畳んで帰っていた。


    だいたい学校なんて行っても疲れが溜まるだけだ。
    まず早く起きなければならない意味が分からない。そのせいで眠くなって授業に身が入らないのだ。
    学校が始まるのは9時くらいからでいいと思う。


    と、後ろから誰かが走ってくる音が聞こえてきた。どうやらこちらに向かっているらしい。
    まあ、俺たちには関係ないだろう…………と思ったが、


    「えっと…………悠くんと翔くん、だよね?」


    関係があった。


    おかしい、女の子の声だ。
    俺たちは生まれてこの方、女子に縁のない生活を送ってきている。女子に声をかけられるような心当たりはないのだが…………と思って顔を見てみると、


    「一緒に帰っても…………いいかな?」


    噂の転校生、尾上結衣だった。なるほど、今日初めて会った子になら声をかけられてもおかしくはない。
    …………小学校1年生の頃も初めて会う子ばかりだったのになぁ。


    「え、もちろんいいけど……」


    翔も同じように驚いているらしい。それはそうだろう。クラスにも、俺たちよりイケメンなやつはいるし、女子の友達だってできたはずだ。なのに何故俺たちに声をかけたのか……。


    「いいの? やった、ありがとう!」


    「いや、いいんだけどさ……。なんで俺たちと帰ろうと思ったの?」

  11. 11 : : 2015/06/20(土) 22:39:11
    「えっとね、なんか話しかけやすそうだったから。朝見たときに、面白そうな人たちだなぁって思ったの」


    生まれて初めて聞いた台詞だった。『話しかけやすそう』とかマジか……。伝説には聞いていたが、まさか本当に実在するとは……。


    俺が軽く感動していると、横の翔も同じような顔をしていた。これくらいのことで喜びすぎだろ俺たち。


    「じゃ、帰ろっか」


    「うん。…………そういえば、尾上さんの家ってどこなの? 僕らはこっちだけど……」


    「そうなの? 私もこっちなんだ! あ、あと私のことは結衣って呼んで!」


    「うん、わかった」


    「おーい? 2人とも早く帰ろうぜ。もう疲れた……」


    「さっきはピンピンしてるって言ってたのに……。まあいいや、帰ろうか」


    そうした他愛ない会話の後、俺たちは初めて3人(・ ・)で家に帰るのだった。

  12. 12 : : 2015/06/21(日) 18:15:13


    「ふふ、そうなんだー」


    「うん。…………あ、もう家が見えてきたね」


    談笑しながら3人で歩いていると、いつの間にか家の近くまで来ていた。
    翔と2人で帰ってる時より早く着いた気がする。これが3人の力か!


    「えっと、俺んちがあれで翔のはあれだな。家近いからすぐ見つかるな」


    「えっ、悠くんの家ってそこなの!? 私の家の前じゃない!」


    「マジか……。そんな近かったんだな。確かに最近引っ越しの挨拶とか来てたけど……」


    転校生の家がまさに自分の家の正面にあるなんて考えもしなかった。誰かの家が建ったせいで空き地で遊べなくなったと文句を言ったことは黙っておこう。


    「じゃあ明日からは一緒に学校行こうね!」


    「うん、もちろん。悠は遅れないでよ? ギリギリも禁止ね」


    「ちょ、ちょっと待ってくれ! ギリギリでもokにしてくれ! 俺の貴重な睡眠時間がなくなっちまう…………」


    「普段から授業中に寝てるくせに何言ってんのさ……。それに5分早く出ればいいだけなんだから大して変わらないよ……」

  13. 13 : : 2015/06/21(日) 18:21:49


    いや、5分寝るのと寝ないのとでは大きな違いがある。
    その5分で1時間目に起きていられるかどうかが決まるのだ。だからその5分だけは!


    しかしそれを幾ら頼んでも翔は許してくれず、5分早く家を出ることを命じられてしまった。
    ああ、俺の5分間よ、さらばだ…………。


    「じゃ、また明日ね!」


    「うん。悠はちゃんと5分前に来てよ?」


    「わかってるよ。…………はぁ」


    俺は深いため息をつきながら、2人に別れを告げて家に入った。明日は大丈夫だろうか…………。


  14. 14 : : 2015/06/21(日) 18:22:09



    *ーーーーーーーーーーーーーーーー*


  15. 15 : : 2015/06/21(日) 19:54:32


    翌朝。


    「ヤバい、5分前に出られねぇ!」


    寝坊していた。


    だいたい俺に早起きを求めること自体が間違っているのだ。
    今日だって目覚まし5つセットしてなかったら9時くらいまで起きなかった自信がある。


    「いってきます!」

  16. 16 : : 2015/06/21(日) 20:38:35


    勢いよく家を飛び出す。と、目の前には既に2人がいた。半眼で睨まれ、思わず少したじろぐ。


    「もう、昨日言ったのに……」


    「ご、ごめん。でも遅刻はしないから別に……」


    「よくないよ。昨日決めたじゃない。約束の1つも守れないの?」


    失敬な。俺だって約束は守る。
    昔、友達と遊ぶ約束をしたけど家に行ったら誰も居なかったという笑い話ならある。


    「悠のせいで結衣までギリギリになっちゃうんだよ? 謝らないと」


    「あ、ああ。悪いな、結衣まで遅刻寸前まで待たせちゃって」


    翔に怒られ、俺は素直に結衣に謝ると、手を振りながら結衣は全然気にしてないよ、と笑った。


    「じゃあ本当に遅刻する前に行こうか」


    「了解」


    「うん。じゃあ行こっ」


    その言葉を合図に3人は全力で学校に向かって走る。


    そしていつも通り、HR開始1分前に教室へ飛び込んだのだった。

  17. 17 : : 2015/06/21(日) 20:49:48




    時は眠るように流れて放課後。翔に今日も早く終わったなと言うが、それは君だけだよと返され、おまけに呆れられた。
    まぁ、寝てただけだから仕方ないけども。


    今日はノー部活デーなのでいつもより帰るのが早い。その存在の大意は『勉強時間をより確保すること』らしいが、実際に勉強してる奴なんて数える程だろう。翔ですら遊んでいる。


    「お待たせ~」


    「お、来た来た。じゃ、帰るか」


    「うん」


    ごく自然な流れの会話の後、俺たつは昨日と同じように帰った。当然、会話の内容は違うけどな。








    「へぇ、翔くんって頭いいんだー」


    「そんなことないよ。ただ家に帰って復習してるだけで」


    「それを真面目って言うんだ。そしてそれやってる真面目なお前は頭いいんだよ」


    「そうなの……?」


    当たり前だろ。翔は自分の成績がいいことは一応理解しているが、それイコール頭いいと考えないタイプなのだ。だから度々こういう会話が発生する。

  18. 18 : : 2015/06/21(日) 21:44:49
    すると結衣が急に何かを思い出したように手をパチンと叩いた。


    「どうした?」


    「あのね、夜にちょっとだけ遊べるかな?」


    「え、夜? なんで夜に?」


    2人とも不思議そうな表情を浮かべる。当然だ。何しろ遊ぶなら今からでいいのに、何故夜なのか。
    習い事とかがあるなら今日は遊ばないという選択をするはずだ。


    「えっと、お父さんから聞いたんだけどね。時々『朧月』っていう綺麗な月が出るんだって。だから3人で見たいなぁって思って」


    「それ、今日出るの?」


    「それはわかんない。でも毎日見てればいつかきっと出るよ」


    『朧月』か……。初めて聞いたな。でも、いつ出るか分からなくても、毎日の楽しみが増えるならいいかもしれない。


    俺たちは当然のようにokした。そして半ばわくわくした状態で集まる時間を決めた。この季節は7時でも結構明るい。なので確実に暗い8時にした。

  19. 19 : : 2015/06/21(日) 21:50:22
    別れ際、結衣が独り言のように何かを呟いていたのを、俺は聞き逃さなかった。


    「……今度こそ、1度でいいから見たいなぁ……」

  20. 20 : : 2015/06/21(日) 21:50:35



    *ーーーーーーーーーーーーーーーー*


  21. 21 : : 2015/06/21(日) 22:01:32


    「もうそろそろか…………」


    現在7時50分。夕飯も食べ終え、風呂も入り終わっている。まだ少し時間はあるが、特にすることもないのでとりあえず寝転がる。


    5分前くらいに出ればいいか、と考えながらテレビをつける。5分しか見れないので、当然大して面白くない。


    「…………ん、もう5分前か」


    そうこうしている内に5分が過ぎる。母にちょっと出てくるとだけ告げて家を出る。


    と、そこには既に2人がいた。
    まだ5分前なのに「もう、遅いよ。普通15分前には来るものでしょ?」みたいなオーラ出すのやめてくれない? 小学校で5分前行動って教わんなかった?


    「なぁ、2人とも早くないか? 5分前に来たのに遅れてるみたいだ……」

  22. 22 : : 2015/06/21(日) 22:12:42
    「いや、どうにも退屈だったから外に出てたら、結衣も出てきたから」


    「そのままお喋りしていたの」


    マジか……。俺も別にすることなかったし外に出てればよかったかな。


    「それで、その月ってどんなのなの?」


    「えっと、確か雲が薄くかかってて、霞んで見える月なんだって」


    「へぇ、そうなんだ。それって出る日に決まりとかあるの?」


    「それはわかんない。満月とかと同じかなーって思ったんだけど、それでも“たまに”らしいから……」


    「まあ何でもいいや。とにかく月見ようぜ。見逃してたら笑えないし」


    「そうだね。5分くらい見てようか」


    3人とも真剣に月を観察する。1分、2分と時間は経つが、いつもの月しか見えない。


    それでも諦めず、とりあえず5分間じっと眺める。が、結局その月は出なかった。

  23. 23 : : 2015/06/21(日) 22:54:10
    「……5分経ったけど……」


    「やっぱ出ないな……」


    「うん……」


    なんとなく重い空気が流れる。2人とも下を向いて落ち込んでいるようだ。


    だが俺は敢えて上を向く。ほら、あるだろ。『上を向いて歩こう』って歌。あれって涙が零れないようにするために上を向くんだよな。つまり俺も涙を堪えないといけないのか。別に出てねぇよ涙。


    「まあ、また明日見ればいいじゃん。別に見れないと決まった訳じゃないし」


    「……うん、そうだよね。じゃあ明日もこの時間にね!」


    「りょーかい」


    また明日も会う約束をして別れた。この時は、まあ1週間も続ければ見れるだろうと考えていた。


    だが、2週間経った今でも、未だに朧月は見ることが出来ずにいた。

  24. 24 : : 2015/06/21(日) 22:54:26



    *ーーーーーーーーーーーーーーーー*


  25. 25 : : 2015/06/23(火) 21:52:38


    「…………今日は見れるかなぁ」


    初めて3人で月を見た日から2週間が経った6月中旬のある日の休み時間、翔が誰に言うでもなく呟いた。


    「さぁな。ただ、その月の話をしてくれた結衣のお父さんに、もっと詳しく月のことを聞いた方がいいとは思う」


    「そうかもね。帰りに結衣に言って聞いてもらおう」


    そこで会話は途切れる。特に用もないので席に着いて眠る準備をする。残り3時間、いつものように半寝で過ごそうとしていた。


    なんとなく隣を見る。そこにはさっきまではいなかった結衣がいた。もうすぐ授業が始まるので、急いで座ったのだろう。


    だが、先程の俺たちの会話は聞こえていない筈なのに、少し寂しげな表情をしていた。








    「んー、今日もよく寝たわー」


    「寝ちゃダメでしょ……」


    んーと大きく背伸びをする。ちなみに今日もノー部活デーだ。2週間経っているからであって、決してサボっているわけではない。


    校門を出てすぐのところで結衣を待つ。1分、2分と待っていると、「お待たせー」という声とともに結衣が走って来た。

  26. 26 : : 2015/06/24(水) 18:46:46


    「ん、じゃあ帰るか」


    「うん」


    横に並んで歩き出す。
    俺は翔とアイコンタクトで、先に話を切り出してくれと言う。翔もそれに対して軽く頷く。
    そんな大層なことじゃないのに何してんだ俺ら。


    「ねえ、結衣」


    「何?」


    「朧月の話ってさ、お父さんから聞いたんだよね?」


    「うん、そうだよ」


    「じゃあ、いつ出るのかとか、もっと詳しく話を聞けないかな?」


    これでokと返ってくれば、朧月について詳しく知れるし、見れる日も近くなるはずだ。


    だが、結衣は予想に反して無理だと答えた。


    「え、どうして?」


    「お父さんね、仕事で忙しくて。ここに引っ越して来たのも、お父さんの仕事の都合なんだ」

  27. 27 : : 2015/06/24(水) 18:54:31
    「へえ、そうなのか」


    「うん。で、お父さんは泊まりでずっと働いてるから、滅多に帰って来ないんだ。だから……」


    「お父さんに詳しい話を聞けないのか」


    なるほど。何故か結衣が引っ越してきた理由を知ってしまったが、これで今までずっとお父さんに聞かなかった理由に納得がいった。
    いや、ずっと気になってたんだよ。なんでお父さんに聞かないのかなーって。


    なんてことを考えていると、ふと疑問が浮かんできたので、結衣に聞いてみることにした。


    「なあ結衣、お母さんは知らないのか?」


    「うん。お母さんには前に1度聞いてみたんだけど、知らないって」


    「そっか……」


    「まあ、聞けないなら仕方ないじゃん。今日も月、見るでしょ?」


    「もちろん」


    「じゃ、今日も8時に集合な」


    いつの間にか家の前まで来ていたので、今夜の約束をして2人と別れる。
    空を見上げると、分厚い雲が空を覆っていた。



  28. 28 : : 2015/06/24(水) 18:58:19




    「……見えないね」


    「ああ……」


    8時。いつも通り3人で集まったが、俺が家に入る前に空を見た時と天気は変わっておらず、雲が分厚くて月が見えない。


    「どうする? 今日はもう帰る?」


    「このままいても見えそうにないしな……」


    考えた末、今日は諦めて帰ることにした。


    家に入る直前、冷たい風が頬を撫でた。どうやら雨が降ってきそうだ。

  29. 29 : : 2015/06/24(水) 18:59:01



    *ーーーーーーーーーーーーーーーー*


  30. 30 : : 2015/06/24(水) 19:04:47


    さらにあれから1週間。梅雨の季節なので、月が見れたのは3日だけで、その3日とも朧月ではなかった。


    いつものように集合場所で2人を待つ。
    以前は5分前も厳しかったが、今は余裕で2人を待てるくらい早起きが出来るようになった。授業中の睡眠のおかげだな!


    「悠、お待たせ」


    「おう、おはよう」


    それから程なくして翔が来た。2人で談笑しながら結衣を待つ。


    が、今日はちょっと結衣が来るのが遅い。いつもなら5分前には必ず来ているのだが、今日は2分前になっても来ていない。


    心配した俺たちは、結衣を迎えに行くことにした。
    が、その必要はなかったようで、ちょうど俺たちが行こうとしたとき、結衣が出てきた。

  31. 31 : : 2015/06/24(水) 20:41:36

    「お、来たか。どうしたんだ?」


    「今日はいつもより遅いね。寝坊?」


    だが、結衣の言動がどこかぎこちない。心なしか、落ち込んでいるようにも見えた。


    だが、考えたところで俺たちに分かることでもないので、訝しみつつも元気よく学校へ走っていった。
    ヤバい、ちょっとギリかも。








    その日の昼休み。授業中も結衣の様子を見ていたが、とても集中しているようには見えなかった。


    「悠……」


    「ああ……」


    いつもは活発で、いつも友達と仲良く喋ったりしているのに、今日はずっと席に着いたままうつむいていた。これは明らかにおかしかった。


    「悠、頼むよ」


    「ああ」


    これまでも友達が心配して話しかけていたが、無理矢理笑顔を作って大丈夫だと誤魔化していた。だが、俺たちになら言ってくれるかも知れない。


    「なあ、結衣」


    「…………悠くん、どうしたの?」


    微笑を浮かべながらこちらを向く。だが明らかに無理をしていた。


    「お前、朝から元気ないよな。どうしたんだ?」


    「別に何でもないよ。ちょっと疲れただけ。心配かけてゴメンね」


    明らかに大丈夫には見えなかったが、大丈夫だと言い切られては流石に返せないので、一応納得する素振りをみせる。


    「やっぱ誤魔化された。帰りに聞くしかないな


    「やっぱり……。仕方ないか」


    5時間目の授業開始のチャイムが鳴る。
    結局、結衣は今日1日、元気なく下を向いたままだった。

  32. 32 : : 2015/06/24(水) 23:16:29






    「やっぱ部活は眠くならないからいいな!」


    「むしろ部活中に眠れる方がおかしいよ……」


    部活が終わり、下校時刻を知らせるチャイムがなる。
    先生達に急かされながら校門を出て、結衣を待つ。


    数分後、ゆっくりと結衣が歩いてきた。やはり相変わらず、元気がない。


    「よし、帰るか」


    「うん……」


    俺たちは結衣のベースに合わせながら歩く。そこで俺はもう1度聞いてみた。
  33. 33 : : 2015/06/24(水) 23:33:58

    「なぁ、答えてくれ。結衣。どうして元気がないんだ? 何かあったのか?」


    「……」


    返ってきたのは沈黙。今度は翔が尋ねるが、やはり沈黙を返すだけだった。


    しばらく無言で歩いていると、結衣が口を開いた。


    「……今日の夜、話すから……」


    「……わかった」


    それ以降の会話はなく、無言で各々の家に帰っていった。








    夜になった。月を見るが、やはり朧月ではなかった。


    「……じゃ、話してくれるよな。流石にここまで焦らされると気になる」


    気が付けば大事になっていた。ただ単に元気がなかった理由を聞くだけなのに、どうしてこうなった。


    「……昨日ね、珍しくお父さんが帰って来たの」


    「お、マジか。じゃあ月のこと聞けたんだな?」
  34. 34 : : 2015/06/24(水) 23:43:48
    「うん。でね、いつ出るのって聞いたら、あれは春の月だから今はもう見れないかも知れないって……」


    「……そうなんだ。残念だね……」


    春の月、か。今は6月中旬、もう夏に分類される時期だ。春の月なら確かにもう見れないだろう。


    だから元気がなかったのかと納得しーーーーーーーーかけたが、それだけじゃないという結衣の声が聞こえてきたのでそちらに注意を向ける。


    「…………私ね、今週中にまた転校するんだって」


    「え……」


    予想の斜め上の返答に、思わず間抜けな声を出してしまった。翔もポカンと口を開けている。


    「お父さんが、また仕事で遠いところに行かなきゃいけないんだって。
    それで、私も引っ越しの手伝いをしなきゃいけないから、明日で学校も最後。3人でこうして集まれるのは、今日で最後なの…………」


    結衣の言葉を理解するのに、暫しの時間を要した。


    信じられなかった。転校してきたばかりなのに。仲良くなったばかりなのに。
    会えるのが明日で最後だなんて。

  35. 35 : : 2015/06/24(水) 23:51:42
    「……結局、月も……見れなかった」


    ポロリ。


    涙が零れた。


    小さな嗚咽とともに、結衣が引っ越してしまうという悲しみから、とめどなく涙が溢れる。


    ーーーーーーーーだが突然、翔の動きが止まる。


    見ているのは、月。


    涙で視界が霞んでいる今、見上げた何の変哲もないただの満月はずっと待ち望んでいた『朧月』の“ソレ”と同じようだった。


    「……見れたな、ついに」


    「ちょっと違うけどね」


    「…………ふふ」


    涙で霞んでいるその月は、俺たちの目に、今まで見たどの月よりも美しく映った。


    すると、ふと月を初めて3人で見た日に聞いた、結衣の言葉を思い出した。


    「……よかったな、朧月が見れて。ずっと見たかったんだろ?」
  36. 36 : : 2015/06/24(水) 23:56:33
    「え?」


    「言ってたろ。1度でいいから見たいって」


    「……聞いてたんだ」


    「悪いな、聞こえたんだ」


    結衣は少し驚いた様子を見せたが、すぐに落ち着き、その言葉の意味を話してくれた。


    「ホントはね、ずっと前に知ってたんだ。朧月っていう月があるってこと」


    「そうなの?」


    「うん。でも、春の月だってことは知らなくて、これまでも1人でずっと見ようとしてたけど、見れなかった」


    「お父さんに聞けばよかったじゃんか」


    「何度かチャンスはあったんだけど、聞きそびれちゃってて。それで、友達と月を見るのなんて初めてだったから、みたいなぁって……」

  37. 37 : : 2015/06/25(木) 00:00:46


    そういうことか。なら、今日見れて本当によかった。本物ではないとしても。


    結衣と会えるのは明日が最後。でも、不思議とまた会える気がした。


    「今度会ったら、次は本物の朧月を見ような」


    「…………うん!」


    「はは、今から楽しみになってきたよ」


    実際はもう、会えないかも知れない。


    明後日から、結衣とは離れ離れになってしまう。


    でも、何故か確信できた。


    幻想的な、俺たちを魅了してやまないこの月を見ようとする限り、どこにいても、俺たちは繋がっていられるとーーーーーーーー





  38. 38 : : 2015/06/25(木) 00:05:45
    あとがき


    今回は『朧月』をテーマに書いてみました。

    後半は雑になってしまいましたが、全作品の中で最も真剣に書いたssだと思います。

    ここでちょっとした裏設定ですが、結衣の席は出席番号順にいくと、ちょうど先に転校していた子と同じ席になります。決して適当に配置したわけじゃないです。

    ここまで読んでくださり、ありがとうございました。当然ですが続編はありません。

    6月某日、自室で眠りそうな自分を叱りつけつつ。

  39. 39 : : 2020/10/03(土) 09:04:00
    高身長イケメン偏差値70代の生まれた時からnote民とは格が違って、黒帯で力も強くて身体能力も高いが、noteに個人情報を公開して引退まで追い込まれたラーメンマンの冒険
    http://www.ssnote.net/archives/80410

    恋中騒動 提督 みかぱん 絶賛恋仲 神威団
    http://www.ssnote.net/archives/86931

    害悪ユーザーカグラ
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    http://www.ssnote.net/archives/81038

    【キャロル様教団】
    http://www.ssnote.net/archives/86972

    何故、登録ユーザーは自演をするのだろうか??
    コソコソ隠れて見てるのも知ってるぞ?
    http://www.ssnote.net/archives/86986

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