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この作品は執筆を終了しています。

進撃の忍術学園の段!~進撃×忍たまのコラボ!~

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  1. 1 : : 2015/06/09(火) 21:27:38
    こんばんは。執筆を始めさせていただきます。

    今回の物語は、ひょんな事から、エレンたち104期生が、忍たま乱太郎の世界に迷いこんでしまいます。

    忍術学園のお馴染みのキャラクターはもちろん、ドクタケ忍者隊や、その他のキャラクターとも、半ば強引に(笑)絡ませていきたいと思います。

    その他の条件は、こちら↓↓↓

    * 不定期な更新

    * 今後、オリジナルキャラクターが出てくる可能性あり。(忍たま乱太郎側のキャラクターになると思います。)

    なお、読み易さを優先させていただくため、コメントは制限させていただきます。

    感想などお寄せいただける場をもうけましたので、そちらにコメントいただけたら、幸いです。よろしくお願いします。

    こちらです→http://www.ssnote.net/groups/964
  2. 2 : : 2015/06/09(火) 21:44:44
    ◆◆◆◆

    850年ートロスト区、南方訓練所


    そこは森の中だった。


    かさかさ、ざざざ、と、風が木の葉を揺らす音が、妙に大きく響く。


    森に1人立っている少年、エレン・イェーガーにとって、そんな些細な物音さえも、雑念を呼び起こす邪魔物に過ぎなかった。


    エレン 「…っ…!」


    エレンは、閉ざしていた瞳を、かっと見開くと、木の幹に立体機動装置のアンカーを放ち、飛んだ。


    エレン 「巨人め…」


    エレンは飛ぶ。目をみはる速さだ。


    エレン 「…!」


    エレンの瞳が、獲物を捉えた。それは、訓練兵団備え付けの、巨人の模型だった。


    エレン 「…くっ…」


    エレンは、それがまるで本物の巨人であるかのように、ブレードを構え、そして、刃をそのうなじに放つ。


    ザシュ…。


    手応えを感じたエレンは、地に降り立つと、ふと風の心地よさに気づき、空を見上げた…。
  3. 3 : : 2015/06/09(火) 22:06:09
    それは、100年ほど前のこと。


    突如現れた巨人に、人類のほとんどが喰い尽くされ、人類は絶滅の危機に陥った。


    生き残った人類は、シーナ、ローゼ、そしてマリアの3つの壁を作り、そこで100年の平和を謳歌していた…。


    ただ、それも5年前の845年、大型巨人の手によって、ウォール・マリアは脆くも破壊され、人類は再び巨人の脅威にさらされた…。


    エレン 「…。」


    しばし風の心地よさに心を緩めていたエレンだったが、再びその両目に、怒りと悲しみの光が灯る。


    …母さん…。


    エレンの母カルラは、巨人がウォール・マリアを破壊したその日、彼の目の前で、巨人に喰われて死んだ。


    そうだ…みんなあいつらが悪いんだ…あいつらがいるから…


    巨人がいるから…


    もう…帰る家なんて無い。母さんもいない…。


    エレン 「くっ…」


    あの日から、エレンは復讐に心を燃やし続けた。訓練兵入団当初は、立体機動装置の適性検査さえ、ままならなかった彼は、人一倍努力を重ね、卒業間近の今、上位10人の中に数えられるほど、その実力を伸ばしていた。


    今も、本来ならば休日なのだが、彼は1人、訓練を重ねていた。


    アンカーを持つ手に、力が宿る。


    絶対に巨人を駆逐する。


    その想いを再び胸に宿し、エレンは兵舎へときびすを返した。
  4. 4 : : 2015/06/15(月) 21:45:50
    兵舎は休日にもかかわらず、賑わいをみせていた。


    その原因は、ウキウキと楽しそうに何やら準備をしている、エレンと同期の訓練兵たちだった。


    アルミン 「あ、エレン。戻って来たんだね。」


    エレンの姿を見るなり、アルミンはにこやかに声をかける。


    エレン 「おう…アルミン、これはいったい…」


    よく見ると、簡素なテーブルにキレイなクロスをひいたり、天井に飾り付けをしたり、まるでパーティーの準備をしているようだ。


    サシャ 「エレンもぼうっと見てないで、手伝ってくださいよ!」


    サシャはそう言って、籠に盛られた果物をテーブルに置く。


    エレン 「手伝うって…」


    ミカサ 「エレン…」


    ミカサに声をかけられ、エレンはミカサに詰め寄った。


    エレン 「おい、どういう事だよミカサ。こんな派手な事始めて、教官に知れたらどうすんだ。」


    ミカサは飾り付けの道具を手にしたまま、きまりが悪そうに、エレンから目をそらした。


    ミカサ 「…ごめんなさい。言い出したのは私。けど、ここまで大袈裟になるとは思わなくて…」


    エレン 「…は?」


    ミカサの説明だけでは、物足りない様子のエレンに、アルミンが口を開いた。


    アルミン 「ほら、僕たち、もうすぐ卒業だろ?こうして、みんなで集まってわいわい騒ぐ事ができるのも、あとわずかじゃないか。教官にもちゃんと許可をとったし、今日は思いっきり楽しもうよ。」


    コニー 「そんなに大してうまい物も無いけどよ。オレは好きだぜ、こういうの。」


    テーブルに皿を並べながら、コニーが言う。


    エレンは息をつき、改めて3年間共に過ごした、同期たちの姿を眺めた。

  5. 5 : : 2015/06/20(土) 22:21:14
    3年前、皆それぞれの想いを胸に、訓練兵に志願した。


    ただ、エレンのように、将来巨人と戦う事を目標に兵士になろうとする者は珍しく、大抵は憲兵団に入り、内地での安全で快適な暮らしを目的とする者がほとんどだ。


    巨人から逃げたいから。自分が助かりたいから。


    エレンの志を聞き、奇異な目を向ける者も少なくはなかった。いつからか、“死に急ぎ野郎”というあだ名まで付けられた。


    しかし、エレンの意志が揺らぐことはなかった。むしろ、この3年間を通し、肉体と共に強くなったと言っても過言ではない。


    周りの奴らなんか、どうでもいい。自分は調査兵団に入り、巨人を駆逐する。


    人類はまだ負けちゃいない。


    周りの同期が楽しげに宴の準備をするなか、エレンの瞳は、闘志に燃えていた。


    アルミン 「…エレン?」


    友人のただならぬ雰囲気を察してか、アルミンはエレンの顔をのぞきこんだ。


    アルミン 「どうしたの、気分でも悪い?」


    エレンはわずかに顔を緩めると


    エレン 「いや、何でもねぇよ。オレ、もう少し訓練して来るから…」


    何か言いたげなアルミンと、心配そうな視線を送るミカサに気づかぬふりをして、エレンはきびすを返して、再び外に出た。


    外はまだ、ぬけるような青空が広がっていた。

  6. 6 : : 2015/06/20(土) 22:39:15
    エレンは再び、森の中へと足を踏み入れた。


    正直、行くあてはなかった。ただ同期の奴ら…とくに、ミカサやアルミンから、距離を置きたかった。


    ミカサは家族だ。血は繋がってはいないが、シガンシナのあの家で、“あの悲劇”が起きるまで、両親と共に暮らしていた。


    幼馴染みのアルミンとミカサは、どちらも比べようがないくらいに、大切だ。この先…限りなく死に近い場所に立たされたとしても、生き延びてほしい。その想いは、今までも、そしてこれからも、変わることは無いだろう。


    2人の存在は、温かい。とても。


    ただそれが、時々自分に重くのし掛かる。巨人を一匹でも多く殺してやろうとしている、自分に。


    エレン 「…はあ…」


    ふいに、ため息が出た。エレンにとって、珍しいことだった。


    そして…ふと、我に返る。


    エレン 「あれっ…おか…しいな…」


    いつも見慣れている森とは、少し違う気がした。正直、ここから再び訓練兵舎に帰る自信すら、エレンには沸いてこない。


    やばいな…これ。


    これは、要するに迷子だ。遭難、などという言い方もあるにはあるが…どちらにせよ、後で同期の奴らから冷やかしを受けるのは必至だ。冷やかして来そうな奴も、それを諌めてくれそうな奴も、どちらの顔も難なく想像できる。


    エレンは勘を便りに、足を早めた。なぜか、森の中は妙に暗く、それがますますエレンの不安を掻き立てた。


    エレン 「えっ…」


    ふいに、足場を失い、体が一瞬のうちに落下し始める。


    穴に落ちたのか…。


    そう冷静に判断したものの、穴は思った以上に深く、エレンは落下している間も、体のあちこちをぶつけている。


    そして…。


    エレン 「うっ…」


    ついに、頭を打った。そう理解する間もなく、エレンの意識は暗転した…。
  7. 7 : : 2015/06/20(土) 22:56:44
    ◇◇◇◇


    今日はとってもいい天気!


    「は~っ、やっともうすぐ到着だ!」


    茶色いボサボサの髪に、丸いメガネをかけた男の子は、元気いっぱいに伸びをします。


    「乱太郎~!」


    後ろから追いかけてくる友達に、乱太郎は大きく手を振って


    乱太郎 「しんべヱ!早く来いよ~!」


    しんべヱと呼ばれた男の子は、息をはあはあさせながら、一生懸命坂を登ります。


    そして、やっと乱太郎のもとへたどり着くと、ふう、と息をついて、その場に座りこみます。


    しんべヱ 「ふう~、疲れた~。」


    その様子に、乱太郎は呆れ顔。


    乱太郎 「しっかりしろよ、しんべヱ。忍術学園まで、あと少しだぞ。」


    しんべヱ 「だあってぇ…乱太郎ったら、すっごい足が早いんだもん。ボク、疲れちゃった…」


    俊足が自慢の乱太郎に比べて、のんびり、おっとり、運動が苦手なしんべヱにとっては、乱太郎のペースについていくのは、一苦労だったようです。


    でも、休んでなんかいられません。


    だって今日から新学期。久しぶりに、忍術学園のみんなに会えるのです。


    忍術学園は、みんな仲良し。みんな、友達。乱太郎の瞳は、わくわくとドキドキで、キラキラ輝いています。


    乱太郎 「ああ、早くみんなに会いたいな…」


    乱太郎は、しんべヱの大きなおしりを押しながら、忍術学園へと歩を進めました。
  8. 8 : : 2015/06/21(日) 21:22:18
    乱太郎 「し、しんべヱ…」


    しんべヱ 「な~にぃ~?」


    大きなおしりを、よいしょこらしょと押す乱太郎に比べて、しんべヱはさっきまでの疲れはすっかりとれて、のんびり楽チン。


    乱太郎 「そろそろ、自分で歩いてよぉ…」


    しんべヱ 「え~、このほうが楽チンなのに…」


    不満顔のしんべヱ。乱太郎も、放してしまってもいいのに、まだしんべヱのおしりを押し続けます。


    困っている人がいれば、放っておけない、優しい乱太郎。しんべヱは、そんな乱太郎が大好き。乱太郎も、のんびりしているけれど、その穏やかで、時には癒されるしんべヱが、大好きです。


    しんべヱ 「楽チン、らっくち~ん♪」


    乱太郎 「…たく、しょうがないな、しんべヱは…」


    青い空には、一羽の鳥が、ピーヒョロロ、と一鳴き。風もなく、穏やかです。


    すると、そこへ…。
  9. 9 : : 2015/06/21(日) 21:31:29
    「暴れ馬だ!!!」


    そんな叫び声と共に、馬の蹄がどんどん迫って来ます。


    しんべヱ 「う、うわ…乱太郎!」


    しんべヱはもちろん、乱太郎も、しんべヱのおしりを支えているせいか、すぐに避けられません。


    馬は、手綱を激しく振り回しながら、まっすぐしんべヱたちに迫ってきます。このままぶつかったら、大変です。


    「ま、待て!」


    馬の飼い主らしき男性が懸命に追いかけますが、とても追いつけません。


    わっ、ぶつかるっ…!


    迫り来る衝撃に、しんべヱと乱太郎は、ぎゅっと目をつぶりました。


    ドンッ…!


    その瞬間、しんべヱと乱太郎は、誰かに勢いよく横へ突き飛ばされたのです。


    2人は田んぼの溝へと転げ落ち、馬はそのまま走り去ってしまいました。
  10. 10 : : 2015/06/21(日) 21:40:29
    乱太郎 「いっ…てて…」


    乱太郎は体を起こすと、辺りを見回しました。馬も、その飼い主も、もう近くにはいないようです。


    乱太郎 「しんべヱ!」


    しんべヱは、というと、すぐ隣でまだ目を回しています。


    乱太郎 「おい、しんべヱ、しっかりしろ…」


    乱太郎が揺り起こすと、しんべヱはすぐに目を覚まし


    しんべヱ 「あれ…ボクたち、どうなったの…」


    乱太郎も、あまりに一瞬の出来事に、首をかしげます。ただ、右肩に感じた衝撃は覚えていて、誰かに押され、田んぼの溝に落ちたおかげで、馬にぶつからずに済んだ、ということは、理解できました。


    乱太郎 「誰かが助けてくれたんだよ。」


    しんべヱ 「えっ、誰が…?」


    乱太郎 「誰って…」


    乱太郎は、もう一度自分達が歩いて来た道を見ました。すると…。


    乱太郎 「あっ!!!」


    しんべヱ 「どうしたの乱たろ…あーっ!!!」


    そこに、一人の男性が、倒れていたのです。
  11. 11 : : 2015/06/21(日) 21:55:54
    乱太郎 「あ、あのぅ…」


    乱太郎が、おそるおそる、男性に話しかけます。


    しんべヱ 「乱太郎、もしかしてこの人、ボクたちを助けようとして…」


    心配顔のしんべヱは、そこで言葉を切りましたが、乱太郎にはその先に言おうとしていることが分かりました。しんべヱは、この男性が死んでしまったのではないかと、心配しているのです。


    乱太郎 「大丈夫だよしんべヱ。気を失ってるだけみたい。」


    しんべヱ 「なあんだ、よかった。」


    ほっとするしんべヱとは逆に、乱太郎は顔を引き締めて


    乱太郎 「でも、このまま放っておくわけにはいかないよ。忍術学園まで、わたしたちで運ぼう。」


    乱太郎たちのほかに、道ゆく人は見当たりません。この男性を介抱するには、忍術学園に連れていくのが、得策のようです。


    しんべヱ 「ええっ、大丈夫かなぁ…」


    乱太郎 「仕方ないだろ。わたしたちを助けようとして、こうなったんだから。さ、しんべヱは足を持って。」


    しんべヱ 「わ、分かったよ…」


    忍術学園まで、そう遠くはありません。乱太郎は、男性の上半身を担ぎ上げました。


    乱太郎 「…それにしても、この辺では見ない服装だなぁ。どこから来た人なんだろう…」


    乱太郎がそう呟くのも、無理はありません。男性の服装は、乱太郎たちのような着物でも、忍び装束でもなく、背中に刀が2本交差した模様の付いた上着を着て、足には、長靴のような履き物を履いています。


    顔立ちも、乱太郎たちとは、かなり違うようです。


    しんべヱ 「南蛮人なのかなぁ…」


    家が貿易商で、南蛮とも交流のあるしんべヱが、そう呟きます。


    乱太郎 「う~ん…それともまた、違うみたいだけど…」


    2人はえっちらおっちらと、忍術学園を目指し、歩き始めました。
  12. 12 : : 2015/06/21(日) 22:22:24
    カーン!


    鐘の音が響きます。


    鳴らしたのは…


    ヘムヘム 「ヘ~ムヘムヘムヘム…」


    忍術学園の忍犬、ヘムヘム。忍術学園は、今日も平和。長い休みを終えて、生徒が続々と登校してきます。


    「やあ、おはよう!」


    「おはようございます!」


    生徒と元気に挨拶を交わすのは、一年は組の教科担当教師、土井半助先生。


    「土井せんせー、おはようございま~す!」


    土井 「ああ、おはよう。」


    「土井先生!」


    そう声をかけてきたのは…


    土井 「山田先生。おはようございます。」


    土井先生と同じく、一年は組の実技担当教師、山田伝蔵先生です。


    山田 「新学期が始まりましたな…」


    土井 「…そうですね。何事もなく、過ごせれば良いのですが…」


    山田 「まったくですな…」


    先生たちには悪いけど、忍術学園…とくに、一年は組にトラブルはつきもの。もうすぐ、謎の男性を担いだ乱太郎たちがやって来るとも知らずに、先生たちは、つかの間の平和を楽しんでいるようです。


    乱太郎 「山田せんせー、土井せんせー!」


    乱太郎の元気な声を聞き、先生たちは笑顔で振り向いて…


    乱太郎 「せんせー、おはようございまーす!」


    しんべヱ 「おはよーございまぁす!」


    2人が担ぐ男性の姿を見るなり、先生たちは、またトラブルか、と、思わずげっそり。


    乱太郎 「今日からまた、よろしくお願いしまーす!」


    土井 「よろしくの前に何なんだそれはーっ!!!」


    そう怒鳴り散らす土井先生の横で、山田先生も頭を抱えています。


    しんべヱ 「えっとね、この人、道に倒れてて…」


    のんびり説明するしんべヱに、土井先生はすかさず 


    土井 「道で倒れてる人にかかわって、ろくな事があったためしが無いだろお前たちは…」


    確かに。道で倒れている人(とくに、お年寄り)を助けて、トラブルに巻き込まれることは、乱太郎たちにとって、お馴染みのパターンです。


    乱太郎 「違うんです、先生。この人、わたしたちを助けようとして…」


    乱太郎の説明に、ただならぬ物を感じた先生たちは、とりあえず、男性をそのまま医務室に運ぶよう、乱太郎たちに指示したのでした。
  13. 13 : : 2015/06/24(水) 22:55:19
    土井 「…なるほど。」


    乱太郎の説明を聞き、土井先生は、そううなずきました。


    男性は、校医の新野先生に診てもらった結果、馬にぶつかった衝撃で、軽い脳震盪を起こしているのだろう、ということで、しばらく安静にさせておけば大丈夫だということが分かり、乱太郎もしんべヱも、ホッと胸を撫でおろしました。


    土井 「とにかく、この男性が目を覚ますまで待つしかありませんね、山田先生?」


    山田 「うむ…そうですな。念のため、学園長にも知らせておいたほうが、良さそうですな。」


    土井 「そうですね…では、すぐに…」


    そう言って立ち上がろうとする土井先生に、山田先生は、ふと顔を上げ


    山田 「そういえば…きり丸の姿が見えんようだが…」


    土井先生は、ふう、と大きなため息をつくと


    土井 「きり丸のやつ…あれほど新学期が始まるまでには戻るように伝えておいたのに…」


    すると、廊下からドタドタ足音が近づいて来て…


    グワラッ!


    ふすまが勢いよく開き


    「おはようございまーす!」


    と、元気に挨拶したのは…女の子?


    土井 「おはようございます、じゃなーい!!!」


    土井先生は、女の子に向かってそう叫ぶと、頭にゲンコツを、ゴツン。


    山田 「きり丸…なんでまたそんな格好をしているんだ?」


    きり丸、と呼ばれた女の子…いえ、きり丸はれっきとした男の子。どうやら、女装をしていたようです。


    きり丸は、えへへ、と笑うと


    きり丸 「このカッコの方が、商売しやすいんです。」


    その言葉に、先生2人は、ため息。


    土井 「もういいから、早く着替えてきなさい。」


    きり丸 「はーい!」


    きり丸は元気にその場を離れようとして、ふと、布団の上に横になっている男性に、目を留めました。


    きり丸 「…誰だ、そいつ…」
  14. 14 : : 2016/04/25(月) 21:24:26
    乱太郎 「えっとこの人は…」


    乱太郎は、今までのいきさつをきり丸に話しました。


    きり丸 「ふーん…確かに珍しい着物を着てるなぁ。高く売れるのかな、へへへっ」


    きり丸は男性の服装を眺め、ニヤニヤしています。頭の中では、勘定を数えるためのそろばんがパチパチ、と、せわしなく動いていることでしょう。山田先生と土井先生は、ただただ呆れるしかありません。


    土井 「と、に、か、く!あとは新野先生に任せて、お前たちは教室に戻りなさい」


    しんべヱ「ええ~」


    乱太郎 「わたしたちも、ここに居ちゃダメですかぁ?」


    男性がいったい何者なのか。興味津々の2人は、先生の言葉に不満顔です。


    土井「いいから!教室に戻れ!授業に間に合わなければ、また補習授業だぞ!」


    土井先生に言われて、乱太郎としんべヱは、しぶしぶ医務室を出ていきます。


    山田「ほら、きり丸。お前も早く制服に着替えて、教室に行きなさい」


    女の子の格好のままのきり丸は、しばらく男性をじっと見つめていましたが、山田先生に言われて


    きり丸「は~い」


    と、素直に医務室を出ていこうとして


    きり丸「あのぉ、先生…」


    山田「なんだ、きり丸」


    きり丸「その人…目が覚めるまでここで面倒みて…それから、どうするんです?」


    きり丸の質問に、山田先生は首をかしげながらも


    山田「そうだなぁ…服装からして、この辺りの町民ではなさそうだが、乱太郎たちを助けてくれた恩もある。なんなら、住んでいた村に送り帰してやるくらいの事は、せんとなぁ…」


    土井「そうですねぇ…」


    先生たちの言葉に、きり丸はとくに興味のなさそうな顔をしたまま


    きり丸「へぇ…そうっすか…さ、早く着替えて来よっと」


    と、駆け出して行ったのでした。



  15. 15 : : 2016/04/26(火) 22:20:11
    「ん…」


    そろそろ日が暮れようかという頃、男性はゆっくりと目を覚ましました。


    「…気がつきましたかな…」


    「ヘム」


    少しずつはっきりしてゆく視界に入ってきたものは…


    男性「なっ…な、なんだ!?バケモノ!?」


    「バケモノとは失礼な…ワシはこの忍術学園の学園長。そして…」


    「ヘム~」


    「…忍術学園の忍犬、ヘムヘムじゃ」


    学園長とヘムヘムは、男性の隣に正座したまま、静かに自己紹介をしました。だけど、男性の表情はひきつったままです。


    学園長も改めて男性を見つめました。やはり、自分たちとは全然違う服装と顔立ちをしています。


    何か、大きな事が起きる前触れではないか…学園長は、そんな予感さえしていました。


    男性「こ、ここは…」


    男性は声を振り絞ります。


    男性「ここは…どこだ?」


    学園長「先ほども申したとおり、ここは忍術学園じゃ」


    ヘムヘム「ヘム」


    男性「にん…じゅつ…トロスト区の訓練場じゃないのか…」


    男性からの聞き慣れない言葉に、学園長もヘムヘムも首をかしげます。


    学園長「とろすと…なんじゃそりゃ」


    ヘムヘム「ヘムヘム?」


    男性「とにかく…早く戻らねぇと…」


    男性は立ち上がろうとしますが、すぐにふらついて、布団に逆戻り。


    学園長「あまり無理をしてはいけませんぞ。ワシらは、あんたをこの学園の生徒を助けた恩人と思っておる。ゆっくりと休みなさい」


    男性「生徒を…助けた…?」


    男性は身に覚えがないのか、それとも記憶があいまいなのか、眉を潜めています。


    学園長「ところで、名前は何と申すのかな?」


    名前を聞かれ、男性は少し迷った後、言いました。


    男性「エレン。エレン・イェーガー」


    学園長「えれん…?変わった名前じゃのう…」


    ヘムヘム「ヘム~」


    エレンと名乗った男性は、学園長に尋ねました。


    エレン「オレ…どうしても早く、トロスト区の訓練所に戻りたいんです…ここはどこで、どうやって戻ればいいか、教えてください…」


    …学園長は、言葉を発することなく、うつむいています。思案にふけっているのか…帰り道を考えているのか…。


    学園長「…ぐぅ…ぐぅ…」


    寝ていました。


    エレン「ちょ、ちょっと!真面目に聞いてくださいよ!」


    エレンは大慌て。隣に座るヘムヘムはというと、愉快そうに


    ヘムヘム「ヘ~ムヘムヘムヘム」


    と、笑っていたのでした。やれやれ、これから先、どうなることやら…。



  16. 16 : : 2016/04/27(水) 21:55:03
    1日の授業も無事に終わり、夜になりました。


    土井先生や山田先生も交えて、学園長はエレンと名乗る男性から色々と話を聞きましたが、どうにも分からない事ばかりです。


    学園長「その…エレン殿。お主の言っている事を要約すると、お主はその、トロスト区にある訓練兵団に所属する兵士であり、森の中で自主訓練をしているうちに、道に迷い、気がつけば見知らぬ場所に倒れていた…」


    エレン「はい…まったく身に覚えのない場所で…迷った時と同じ森の中のはずなんですけど…空気というか、自生してる植物なんかも、微妙に違っていて…」


    学園長「そしてふらふらと歩いているうちに、人の気配を感じた」


    エレン「そう…そうです。そしたらいつの間にか、道に出ていて…そしたら、目の前で子供が馬にぶつかりそうになってて…」


    土井先生は、はっと顔を上げました。


    土井「その子供たちというのが、乱太郎としんべヱだったのか…」


    エレン「よく分かりませんが…子供を助けようとして…そして目が覚めたら…」


    学園長「…この忍術学園にいた、というわけじゃな」


    エレンは、こくりとうなずきました。


    エレン「はい…そのとおりです」


    エレンの話を聞き終えて、山田先生は大きくため息をつきました。


    山田「しかし、そのトロスト区というのは、いったいどこにあるんでしょうな…」


    学園長も土井先生も、そしてヘムヘムも、首をかしげます。


    土井「さあ…聞いた事がありませんね…」


    ヘムヘム「ヘム…」


    エレンは立ち上がりました。


    エレン「とにかく、オレは戻ります…早くしないと…」


    そう言いながら、エレンは医務室のふすまを開き、外の風景を目の当たりにして、呆然としました。


    エレン「なんだ…ここは…」


    そこには、人類の活動領域を示す壁は見当たらず、建物の造りも、エレンの見慣れたものとはまるで違っています。


    頬を撫でる風や空気ですら違ったものに思えて、エレンは思わず手で口を覆いました。


    土井「おい、君…大丈夫か?」


    エレンはその場に崩れるように座り込みました。土井先生と山田先生が、慌ててその体を支えています。


    学園長「どうやら…そう簡単には帰れんようじゃな…」


    エレンの背後から、学園長の言葉が、ずしりとのし掛かります。


    違う…ここは、自分のいた世界ではない…。


    夢なら覚めてくれ…オレはこの先、いったいどうなるんだ…。


    絶望のふちに立たされたエレンをよそに、忍たま長屋からは、忍たまたちの豪快ないびきが、響き渡っていました。
  17. 17 : : 2016/04/28(木) 22:03:10
    朝になりました。


    一年は組のみんなは、今日も元気いっぱい。


    「先生が来たぞーっ!」


    その一声で、みんなはそれぞれの席に座ります。


    土井「みんな、おはよう!」


    は組のみんな「先生、おはようございます!」


    土井先生は、えへん、と咳払いをすると、みんなにこう言いました。


    土井「今日はみんなに紹介したい人がいる」


    それを聞いたとたん、みんなざわざわ、そわそわ。


    土井「…さあ、入って来なさい」


    土井先生に言われ、は組の教室に入って来たのは…


    乱太郎「あーっ、あの人は…」


    乱太郎が驚くのも無理はありません。その人物は昨日乱太郎たちを暴れ馬から救った、謎の男性だったのです。


    他のみんなも、初めて見る顔に驚きの声を上げています。


    土井「はい、みんな静かにーっ!」


    土井先生は手をパンパンと叩き、


    土井「まず、彼の名前だが…」


    土井先生はチョークを手にとり、黒板に男性の名前を書いてみせました。


    < エレン・イェーガー >


    しんべヱ「けれん…しぇーかー…?」


    しんべヱの頭の中で、ケレンが思いっきりシェイクされています。


    きり丸「な~んか…妙ちきりんな名前だよなぁ…」


    きり丸は頬杖をつきながら眉を寄せています。


    土井「エレン君は今日から、この一年は組の副担任になってもらう。これは、学園長のお考えだ」


    は組のみんな「ええ~っ!?」


    そう言われてみると、エレンという男性は、昨日までの妙な服装ではなく、土井先生や他の学園の先生と同じように黒い忍者服に身を包んでいます。


    土井「…と、いうわけで、副担任とはいえ、今日からエレン君は一年は組の仲間だ。みんな、よろしく頼むぞ…ほら、エレン君も」


    土井先生に言われ、エレンは仕方なく、ボソリと


    エレン「よ…よろしく…」


    それに対し、は組のみんなは、素直に元気よく


    は組のみんな「は~い!!!エレンせんせー、よろしくお願いしまーす!!!」


    だけど…きり丸だけは違いました。きり丸は、エレンをじろりとにらみつけたまま


    きり丸「ちぇっ…な~にが先生だ…オレは認めね~からな…」


    そんなきり丸のつぶやきは、エレンの耳には届きませんでした。







  18. 18 : : 2016/04/29(金) 22:08:59
    ◆◆◆◆


    エレン・イェーガーの突然の失踪は、104期訓練兵たちに大きな衝撃を与えた。


    アルミン「信じられないよ…エレンがいなくなるなんて…」


    がく然とする幼なじみに対し、同期からは冷ややかな声が飛んだ。


    ジャン「ま、あいつも最初は巨人を駆逐するだのと息巻いていたが、所詮は他の奴らと変わらねぇって事さ」


    他の奴ら…それは、これまでの厳しい訓練の中で、耐えられず逃げだした訓練兵たちを示していた。104期たちは、エレンも同様に、訓練に耐えられず、逃げ出してしまったものと思いはじめていた。


    ミカサ「エレンは逃げたりしない。エレンがいなくなったのは、何か他の理由があるはず」


    アルミン「僕もそう思うよ。エレンの決意は、並大抵の事で崩れたりしない」


    エレンの幼なじみであるアルミンとミカサは、エレンは逃亡ではなく、何らかの事故か事件に巻き込まれたのではないか、と考えていた。


    ジャン「けどよ、じゃあどこへ行ったって言うんだよ。オレたちは訓練兵舎の中も周りもくまなく捜したんだぜ?」


    ジャンの発言に、アルミンもミカサも返す言葉もなくうつむいてしまう。


    そんななか、声を上げる者がいた。104期のリーダー的存在である、ライナー・ブラウンだった。


    ライナー「幼なじみを信じるアルミンとミカサの気持ちはよく分かる。オレたちもエレンを信じて、もう少し捜してみようじゃないか。いつも訓練で使う森林の中はまだ捜してないだろう」


    コニー「げっ、あそこも捜すのか?」


    サシャ「あの森、けっこう深いですよ?」


    同期の中には不満を上げる者もいたが、他に捜すあてもない。巨人の襲撃により、エレンにはもう帰る家も故郷も存在しないのだから。


    ライナー「そんなに奥まで捜すつもりはないが…もし、森の中で事故に遭っていたりしたら大変だ。オレは捜しに行くぞ」


    そう立ち上がるライナーの横で


    ベルトルト「僕も行くよ」


    コニー「しょうがねぇな…エレンのやつ、見つかったら夕食のパン、オレがもらうからな」


    コニーの言葉に、サシャが慌てて立ち上がり


    サシャ「ズルいですよコニー!だったら私も行きます!」


    アルミンは弱々しく微笑み


    アルミン「ありがとう、みんな…」


    ミカサ「アルミン、私たちは町の方を捜そう」


    アルミン「そうだね。そうしよう」


    こうして、アルミンとミカサはトロスト区の町へ。ライナー、ベルトルト、コニー、そしてサシャは、訓練兵舎近くの森林へと赴くのだった。



  19. 19 : : 2016/04/30(土) 22:04:00
    サシャ「あの…ライナー」


    森へ入ってしばらく経ち、ライナーはサシャに声をかけられた。


    ライナー「…なんだ」


    サシャ「ここ……どこですか」


    そう来るだろうと予想はしていたが、ライナーは大きくため息をつき


    ライナー「…分からん」


    コニー「分からねぇって…どういう事だよ!?」


    ライナーを頼りにしていたであろうコニーが詰め寄る。


    ライナー「おかしいな…この森はそんなに深くはなかったはずなんだが…」


    訓練兵にとって、この森はしばしば立体機動装置の訓練などに使われる馴染みの場所だった。


    毎日のように足を踏み入れていた場所だった。


    だが今は、何かが違う。奥へ進めば進むほど、木々は深まり、方向感覚も狂ってしまう。


    ライナー「…仕方ない。戻ろう。これ以上奥へ行くと、こっちも遭難してしまう」


    ベルトルト「戻るってライナー…どっちへ行けば良いか、分かるのかい?」


    ライナーは険しい表情のまま、空を見上げた。


    ライナー「…もう日暮れだが…夕日の位置からすると、こっちが南か…」


    歩を進めるライナーに、皆は不安気な表情のまま、後に続く。


    コニー「エレンも…この森に入って、迷っちまったのかな…」


    サシャ「きっとそうですよ…この森、なんかおかしいです…」


    サシャは狩猟民族ゆえの直感なのか、より怯えた様子をみせている。


    ライナー「大丈夫だ。この森を抜けたら、もっと応援を」


    と、声が消えた。


    ベルトルト「ライナー?」


    ライナーの姿も消えた。


    ベルトルト「ライナー…どこに行っ」


    コニー「…ベルトルト!?」


    ライナーのすぐ後ろを歩いていたベルトルトの姿もない。コニーはおそるおそる周りを見た。


    コニー「…おい…どうなってんだ、こりゃ…」


    すぐ目の前は断崖絶壁だった。下は暗くてよく見えない。おそらく、ライナーもベルトルトもここへ落ちてしまったのだろう。


    だけど…ここに来た時には…いや、正確には、ついさっきまで、こんな崖は無かったはず…。


    サシャ「コニー…どうなってるんですか、いったい…」


    サシャはすでに、涙目になっている。コニーは覚悟を決めた。


    コニー「い…行くっきゃねぇだろ…」


    サシャは仰天した。


    サシャ「ひぃいい行くって…この崖の下にですか!?」


    コニー「少なくとも、ライナーとベルトルトはこの先にいる…もしかしたら、エレンもいるかもしれねぇ…」


    サシャ「でも…危険ですよぉ…」


    コニーはサシャと向き合った。


    コニー「…だったら、この先どこへ行けば良いか、お前に分かるのか?」


    サシャは答えられずに、うつむいた。それが打つ手無し、という意味を表している事を、コニーは疑わなかった。


    コニー「オレは行く」


    そう言うが早いか、コニーは飛び降りていた。サシャは泣きながら、コニーの飛び降りた先を見下ろした。


    サシャ「そ、そんな…一人にしないでくださいよぉ!」


    だが、答えは返って来ない。サシャの叫びは、暗闇にこだまするばかりだ。


    サシャも覚悟を決めた。


    サシャ「も、もう…コニーからも、夕食のパン、もらいますからね…」


    そしてサシャは、声とも思えない悲鳴もしくは叫び声をあげながら、コニーの後に続いた。


    暗闇に、どんどんと吸い込まれてゆく。


    何も見えない…いつか感じるであろう衝突による痛みも感じる事は無い。


    ただ感じるのは、闇の中に渦巻く風の音だった。


    サシャはわけも分からぬまま、次第に意識は暗転していった…。
  20. 20 : : 2016/04/30(土) 22:28:11
    ◇◇◇◇


    月の綺麗な夜でした。


    大きな城の中に、一つの影が忍び寄ります。


    「…お頭…」


    影は城の離れに着くと、奥へ向かって声をかけます。


    「…なんだ騒々しい…」


    月明かりが、奥から現れた人物を照らしだします。


    「お頭、我が領地に怪しい奴らが…」


    「ぬわぁにぃっ!?」


    手下の報告を耳にして、怒りをあらわにしたその人物は、世にも恐ろしく、そして大きな顔と頭を持った極悪非道の…


    「なんだそのナレーションは~っ!!!」


    …すみません。


    「…もういい。ワシがやる…オッホン、ワシは何を隠そうドクタケ忍者隊首領、稗田八方斎であ~る」


    そうなのです。ここはなんと、ドクタケ城だったのです。


    ドクタケ忍者「お頭…もうよろしいですか」


    八方斎「ああ、すまん。それで、怪しい奴らというのは…」


    赤い忍者服に、赤いサングラスという妙な出で立ちの忍者は、報告を続けます。


    ドクタケ忍者「それが、どうも男三人と、女一人の四人で…顔立ちや服装が珍妙でして…」


    八方斎は、ムムム、とうなり声を上げると


    八方斎「なんじゃそれは…もしかしたら、我々の計画を知って送り込まれたスパイかもしれんぞ」


    ドクタケ忍者「う~ん…そうも思えませんが…」


    八方斎「その四人はもう捕らえただろうな」


    ドクタケ忍者は、ドキッとして


    ドクタケ忍者「い、いえ…実は発見した時には、もう四人とも気絶してまして…あまりにも妙だから、誰も怖がって近寄らないんです…」


    その言葉に、八方斎は怒りにぶるぶると震え


    八方斎「ぶぅわっかも~ん!!!」


    ドクタケ忍者「ひいぃ」


    八方斎「な~にをびびっとるんだ!!!さっさと地下牢にぶちこんでおけ!!!」


    ドクタケ忍者「は、はい~…」


    ドクタケ忍者は、大慌てで闇へと消えていきました。


    八方斎は、考え込んでいます。


    八方斎「しかしあの計画がこんなにも早く…いや、まさか…」


    あの計画とは、いったい何なのでしょう。ドクタケ城の考える計画ですから、けっして良いものとは思えないのですが…。


  21. 21 : : 2016/05/01(日) 21:58:10
    山田「よぉーし、全員集まったな!?」


    は組のみんな「は~い!!!」


    一年は組は校庭に集まっています。これから山田先生による、実技の授業が始まるのです。


    山田「本日の授業は、手裏剣の投げ方について…」


    説明の途中で、は組の中から手が挙がりました。は組の学級委員長である、庄左ヱ門です。


    庄左ヱ門「山田先生、手裏剣の投げ方はずっと前にもう習っていますが…」


    みんな同じ事を思っていたのか、うなずいています。


    山田「お前たちの気持ちも分かるが、常に新しい事ばかり習ってばかりではなく、時には復習する事も大切なのだ」


    しんべヱ「ふくしゅう…?」


    しんべヱの隣に立つきり丸が、何か思いついた様子です。


    きり丸「書き初めの時筆に付けるもの…」


    乱太郎「それは、墨汁」


    きり丸「正式の賞に添えて出される賞品や賞金…」


    乱太郎「それは、副賞」


    しんべヱ「あっ、楽に勝つ事だ」


    乱太郎「それは、楽勝」


    山田「何をごちゃごちゃ言っておる!!!授業が進まんだろうがーっ!!!」


    怒った山田先生は、乱太郎、きり丸、しんべヱの頭にゲンコツをゴツン!


    は組にとってはお馴染みの風景ですが、初めて目の当たりにしたエレンは、もう驚くというか、呆れています。


    エレン「…何なんだあいつら…真面目に訓練を受ける気があるのか…」


    エレンの所属する訓練兵団では考えられない事でした。訓練といえども常に死と隣り合わせだったのです。


    山田「あ~…エレン君」


    エレン「はい」


    山田「今から手裏剣の的当て訓練をやるから、的を用意してくれ」


    副担任とはいえ、エレンは忍術について何も知りません。エレンはただ授業を何となく眺めながら、たまに先生のアシスタントをしています。


    エレン「…この位置で良いでしょうか…」


    エレンが的を適当な距離に立てると、山田先生は緊張した表情になって


    山田「ささ、準備ができたら、早く離れなさい!」


    エレンは山田先生の忠告の意図が読めずに


    エレン「えっと…問題ありません。手裏剣が当たらないように、気をつけますので…」


    エレンは、的からほんの少し離れました。それを見て山田先生は大慌てで


    山田「それじゃあイカン!は組の手裏剣の腕前を甘く見ては困るんだよ!」


    エレンはますますわけが分からなくなって


    エレン「えっ…どういう意味です?」


    乱太郎「わ~い手裏剣だぁ!」


    は組のみんなは、戸惑うエレンを尻目に、どんどん手裏剣を投げ始めます。


    手裏剣は、まっすぐ的に…行きません!


    エレン「うわわわわ~っ!!!」


    なぜかエレンを追いかけ回しています。


    しんべヱ「あれ、なんか変だなぁ」


    喜三太「はにゃ?ちゃんと的を狙ってるのに…」


    そうなのです。は組のみんなに悪気は無いのです。なのに、なぜか的には当たりません。


    山田「ええ~いお前たちは今まで何を練習してきたんだ!!!」


    山田先生は、そう言って頭を抱えます。


    エレン「うわっ、とっ、ひっ」


    次々に飛んでくる手裏剣を、エレンもなんとかかわしています。


    三治郎「すっごいや、エレンせんせー」


    兵太夫「全部避けてる~!」


    金吾「山田先生の上をゆく、見事な避け具合!」


    団蔵「さすが、僕らの副担任だ!」


    虎若「エレンせんせーに、拍手~!」


    伊助「ぶらぼ~!」


    は組のみんな「わ~っ」


    は組のみんなは、一斉にエレンに拍手を送ります。


    そのエレンはすっかり疲れた様子で


    エレン「はぁ…ひどい目にあったぜ…」


    そんな中で、きり丸だけは拍手をしませんでした。腕を組んで、じっとエレンをにらんでいました。


    乱太郎「…きり丸?」


    拍手をしながら、乱太郎が声をかけますが、きり丸は黙ったままです。


    乱太郎が話を聞こうとしましたが


    山田「お前ら!いつまで盛り上がっとるんだ!授業の続きをやるぞ!」


    という山田先生の声に遮られ、結局何も聞き出せませんでした。


    ただ、乱太郎は最近、きり丸の様子がおかしい事を、薄々勘づいているようでした。

  22. 22 : : 2016/05/02(月) 21:50:39
    一日の授業も終わり、は組のみんなは、それぞれ忍たま長屋へと戻っていきます。


    乱太郎「きり丸」


    きり丸「…なんだよ」


    乱太郎は、他のみんなに聞こえないように、小さな声で尋ねました。


    乱太郎「エレンせんせーの事…キライなの?」


    きり丸は下を向いたまま立ち止まります。乱太郎、そしてしんべヱも一緒に止まり、きり丸の言葉を待ちます。


    きり丸「…キライなのかどうかは、分からねぇけど…オレはあいつを先生とは思ってない」


    乱太郎「う~ん、それは私たちも同じだよ。エレンせんせーを、土井先生や山田先生と同じとは思ってないよ」


    しんべヱ「エレンせんせー、僕たちよりも忍術の事、な~んにも知らないもんね」


    誰とでもすぐに仲良くなれる一年は組にとって、エレンは一緒に授業を受けるお兄ちゃん、といったところでしょうか。


    乱太郎「そんなに真剣に考えるなって。エレンせんせーが、せんせーになったのだって、どうせ学園長の思いつきだろうし」


    乱太郎がそうやって笑いかけても、きり丸の表情は固いままです。


    きり丸「あいつ…」


    乱太郎「ん、なあに?」


    きり丸「あいつ、今日も食堂でメシ食ってたよな…」


    その言葉に、しんべヱは愉快そうに


    しんべヱ「そうそう。エレンせんせー、納豆がどうしても食べられなくて…代わりに僕が食べてあげたんだ」


    乱太郎「食堂のおばちゃん、相手が誰であろうと、『お残しは許しまへんで~!』だもんね」


    きり丸「…ゼニ払って無いだろ…」


    絞り出すようなきり丸の言葉に、乱太郎もしんべヱも、アハハと笑い


    乱太郎「さっすが、きりちゃんドケチだなぁ」


    しんべヱ「エレンせんせーはお金なんか無いから、仕方ないじゃない」


    乱太郎もしんべヱも、きり丸が一緒に笑ってくれるものだと思いました。だけど、それは間違いだったのです。


    きり丸「…しょうがない、のか…あいつたいして昼間働いてないぜ?いつもぼーっと立ってるだけで…それだけで三食メシにありつけるのか…」


    乱太郎「…きり丸…」


    乱太郎もしんべヱも、思い出していました。そう、きり丸は戦で家も家族も失い、食費も授業料も、生活費もすべてアルバイトで稼いでいるのです。


    忍術学園の入学金だって、合戦場でお弁当を売って、コツコツと貯めたものだったのです。


    乱太郎は、父ちゃんが忍者の仕事(…だけでなく、畑仕事)で稼いでくれたお金でした。しんべヱも、パパが小切手を渡してくれました。


    他の子たちが当たり前と思っている事が、きり丸にとっては、苦労をしないと手に入る事が出来ない、特別な事なのです。


    そんなきり丸にとって、今のエレンを見ていると、なんだか悔しくなってしまうのです。


    乱太郎「きり丸…ごめんね、キミの気持ちも考えずに…」


    きり丸「いや、いいって。気にすんなよ」


    きり丸は、ようやく笑顔になりました。


    きり丸「オレ、アルバイト好きだし。自分のゼニは自分で稼ぐのが、性に合ってるみたいだからさ」


    そうしてきり丸は、忍たま長屋とは逆の方を向くと


    きり丸「…よし、これからこっそり抜け出して、アルバイトして来るか。おい、先生にはナイショだぞ」


    忍術学園を無断で抜け出す事は、固く禁じられていました。だけどきり丸は、先生に見つからないように時々学園を抜け出しては、アルバイトをしています。


    そのあと結局先生にバレて、こっぴどく叱られるのですが、それでもきり丸はめげる事はありません。


    乱太郎「…きり丸、気をつけてね…」


    しんべヱ「頑張ってね~」


    きり丸「おう、じゃあな」


    きり丸の姿が見えなくなると、乱太郎としんべヱは、ふあぁと大きなあくびをしました。


    しんべヱ「あ~あ、眠い…早く部屋に帰って寝よう…」


    乱太郎「うん…そうしようか…」


    空には、美しい満月が浮かんでいました。


  23. 23 : : 2016/05/03(火) 22:04:40
    「…ニー…コニー…」


    「…ん…」


    自分を呼ぶ声がした気がして、コニーは目を覚ましました。


    「起きてくださいよコニー!」


    コニー「…サシャか…?」


    目を覚ますと、サシャが必死に自分を揺り起こしています。コニーは体を起こして、周りを見ました。


    コニー「ここ…いったいどこだ?」


    そこは薄暗い場所でした。床は石で造られていて冷たいし、木の格子に阻まれて外に出る事も出来ません。


    そんな場所にサシャと、ライナーとベルトルトもいました。幸い誰もケガをしていないようです。


    コニー「ここ…まるで地下牢だな…」


    コニーがそうつぶやくと、どこからともなく、不気味な笑い声とともに、足音が聞こえてきます。


    ライナー「おい…誰か来るぞ」


    ライナーをはじめ、皆緊張し身を固くしています。


    「ふっふっふっふ…」


    コニー「だっ…誰だ!?」


    謎の人物は、コニーたちの目の前までやって来ました。木の格子越しに向き合います。


    「…ようやく目が覚めたようだな…」


    その人物を目の当たりにして、コニーは驚きました。思わず、指を差します。


    コニー「おっ…おい、こいつ…」


    「ふふふ。何をビビっておる…」


    コニー「こいつ…頭だけ巨人化してやがる!!!」


    八方斎「ぬぅわ~にをわけの分からん事を言っとるんだ~っ!!!」


    ひとしきり怒鳴ったあと、八方斎は改めて捉えた四人を見ました。


    八方斎「…察しのとおり、ここは地下牢だ。我が領地に勝手に入る輩を、放っておくわけにもいくまい…」


    ライナー「おい、どういう事だ。我が領地って…ここは、トロスト区じゃないのか」


    ライナーの問いに、八方斎は、はて?と首をかしげます。


    八方斎「とろすと区…?何を言っておるんだいったい…」


    ライナー「じゃあ…ここはいったい、どこだと言うんだ」


    八方斎は得意気に笑いながら


    八方斎「ここは泣く子も黙るドクタケ城だ!わ~っはっはっはっは…」


    ドシン!


    いつものように、八方斎は頭が重すぎてひっくり返ってしまいました。


    八方斎「お…起こせ…起こせぇ~!」


    足をバタバタさせながら助けを求めますが、ライナーたちはそれどころではありません。


    コニー「なあ…ドクタケって何なのか分からねぇのは、オレがバカだからじゃないよな?」


    ライナー「…安心しろ。オレにもさっぱり分からん」


    サシャ「私たち…どうなるんでしょう…」


    不安気に声を震わせるサシャに、ライナーは言いました。


    ライナー「とにかく、大きな動きはするな。オレたちは立体機動装置も付けていない。丸腰の状態だ。その上、ここがどこなのかも分からない。今は大人しく、トロスト区に戻る方法を探すしかない」


    ライナーの言葉に、サシャはガックリと肩を落とし


    サシャ「そんな…要は打つ手無しって事じゃないですか…」


    ベルトルト「…あのさ…」


    今まで黙っていたベルトルトが口を開きます。


    ライナー「どうしたベルトルト」


    ベルトルト「アレ…あのまま放っておいていいのかな…」


    ベルトルトの言うアレ、とは…


    八方斎「起こして…ねぇっ、お願い…」


    くせ者相手にも関わらず、八方斎はライナーたちをキラキラした瞳で見つめてきます。


    ライナー「無茶を言うな。オレたちはこの牢屋から、出られないんだぞ」


    するとコニーが


    コニー「…あ。カギ開いてるぞ」


    と、牢屋の扉を開いて外に出ます。


    サシャ「カギ、かけ忘れたんですね」


    ベルトルト「うっかり者なんだね…」


    八方斎は逆さまのままで


    八方斎「うぬぬ…誰だ牢屋のカギをかけ忘れた奴は」


    ライナー「そんな事より…起きられないのか?」


    ライナーが尋ねると、八方斎はか弱い小動物のような瞳で


    八方斎「うん、そうなの。起こしてちょおだい」


    ライナーが起こしてやると、八方斎は何事も無かったように不適な笑みを浮かべ


    八方斎「ふふふふ…お前ら四人は、今からドクタケ忍者の一員になってもらう」


    コニー「はあ!?なんだそりゃ」


    八方斎「それは、これから分かる事だ…ふ、ふふふ…うわぁ~っはっはっは…」


    ドシン!


    八方斎「…お、起こせ、起こせぇ~!」


    今度はライナーも、すぐに助けようという気にはなりませんでした。




  24. 24 : : 2016/05/04(水) 22:02:01
    パカラッパカラッパカラッパカラッ。


    朝を迎えました。


    パカラッパカラッパカラッパカラッ。


    …この音、何だと思います?もう気づいている人もいるかもしれませんね。


    八方斎「殿」


    「パカラッ、パカラッ」


    八方斎「とのぉ~っ!!!」


    殿様「…そんなデカイ顔をせずとも聞こえておるぞよ」


    八方斎はガックリと肩を落として


    八方斎「顔じゃなくて、声でしょう」


    目の前で繰り広げられる光景に、ライナーたちは唖然とするばかりでした。


    殿様「パカラッ、パカラッ」


    コニー「あいつ…何、やってるんだ?」


    コニーのつぶやきに、八方斎は怒りに任せて怒鳴り散らします。


    八方斎「無礼にもほどがあるぞっ!!!このお方をどなたと心得る!!!ドクタケ城城主、木野小次郎竹高さまなるぞっ!!!」


    木野小次郎竹高「うむ。苦しゅうないぞ」


    コニーは怒鳴られてもめげずに、八方斎に尋ねます。


    コニー「そのキノコなんとかって奴は…なんでそんなハリボテの馬を使ってるんだ?」


    八方斎「キノコなんとかではない!!!殿、と呼べ殿と!!!」


    怒り狂う八方斎を、木野小次郎竹高は、やんわりとたしなめると


    木野小次郎竹高「大将が落馬するのは縁起が悪いからの。あえて作り物の馬に乗っておるのだ」


    コニーは納得した様子で


    コニー「そうか、アレは馬の代わりなのか。だから蹄の音も自分で表現してたんだな」


    ライナー「コニー…頼むから納得しないでくれ…」


    ライナーはなぜか疲れた表情でコニーに言いました。


    木野小次郎竹高「まあ良い。八方斎、例の物を…」


    八方斎「はっ」


    木野小次郎竹高に言われ、ドクタケ忍者たちが、何やら大きな包みを運んで来ました。


    サシャ「何でしょう、アレは…」


    包みをほどくと、そこには真新しいドクタケの忍者服が現れました。


    八方斎「さあお前たち!さっさとこれに着替えろ」


    コニー「はあ!?なんでオレたちが…」


    ライナー「…コニー…」


    反抗しようとするコニーを、ライナーがなだめました。


    ライナー「下手に逆らわないほうが良い。ここは素直に従い、スキを見て帰る方法を見つけるんだ」


    ライナーにそう耳打ちされ、コニーも渋々従います。


    そして、数分後…。


    八方斎「うむ、全員着替えたようだな」


    赤い忍び装束に、赤いサングラスという妙な出で立ちの忍者が、三人出来上がりました。


    おや?三人…?


    ベルトルト「…ライナー…」


    今にも泣き出しそうなベルトルトの声に、ライナーが振り向くと…


    ライナー「ベルトルト…なんだその格好は…」


    ベルトルト「僕、イヤだよこんなの…」


    なんと、ベルトルトだけなぜか、可愛らしいクマの着ぐるみ姿で立っていたのです。


    八方斎「こいつだけ背が高過ぎて、ちょうど良いサイズが無かったのだ」


    コニーとサシャは、必死で笑いをこらえています。


    ライナー「ベルトルト…少しの辛抱だ。我慢しろ」


    ベルトルト「…そんなぁ…」


    着ぐるみ越しにも、ベルトルトの落胆ぶりは、充分に伝わってきました。
  25. 25 : : 2016/05/05(木) 22:00:22
    一方、忍術学園も、にぎやかな朝を迎えています。


    「先生、おはようございます!!!」


    土井「おはよう!」


    エレン「」


    土井先生は、エレンのわき腹をつつきながら


    土井「…おい、エレン君も挨拶して」


    エレン「…あ、おはよう…ございます」


    エレンはこの世界に来てからというもの、まともに眠れていません。どうすればトロスト区に帰る事ができるのか、そればかり考えているのです。


    土井「…では授業を始めるぞ」


    土井先生は、そうして黒板に字を書こうとして、ふとある事に気がつきました。


    土井「…ん?」


    きり丸「…ふあぁ~あ…」


    夜中に学園を抜け出してアルバイトをしたせいで、きり丸は眠くて眠くてしかたありません。


    すると、土井先生の目が、キラリと光りました。


    土井「…きり丸」


    きり丸はドキリとして


    きり丸「な、なんですか土井先生…」


    土井先生は、静かに尋ねました。


    土井「お前…また学園を抜け出してアルバイトしてたな…」


    きり丸はますます慌てた様子で


    きり丸「そそ、そんな…規則を破るようなマネ、してないっすよ…な、乱太郎、しんべヱ?」


    乱太郎「う、うん…」


    しんべヱ「そうですよ土井先生!それは僕たち三人の秘密なんですから、きり丸が最近毎晩学園を抜け出してる事なんか、ぜ~ったいにしゃべりませんからねっ!!!」


    きり丸「し…しんべヱ…」


    しんべヱ「…ほえ?」


    ウソをつく事が苦手なしんべヱは、うっかり秘密をしゃべってしまいました。土井先生は、怒りに震えています。


    土井「そうか…そうなのか、きり丸…最近、毎晩な…」


    きり丸「え…へへっ…」


    土井「きり丸~っ!!!」


    土井先生の怒りが爆発し、きり丸も頭を抱えています。


    土井「あれほど夜中にアルバイトをするな、と言っておいただろうがーっ!!!」


    今は怒りに任せて怒鳴り散らしていますが、土井先生も、きり丸の事が心配で、怒っているのです。


    きり丸も、その事にずっと前から気づいていました。だからどんなに怒られたって、土井先生の事をキライになったりはしません。


    きり丸「先生ぇ…そんなに怒ると、また胃が痛みますよ?」


    土井「誰のせいだと思っとるんだーっ!!!」


    エレン「…おい」


    エレンがきり丸の前に立ちました。きり丸は、けげんそうにエレンを見上げています。


    きり丸「…な、なんだよ」


    エレン「事情はよく分からねぇけど…規則を守らないのは、良くないんじゃないか」


    きり丸は、ムッとしました。


    きり丸「そんな事、お前に言われなくたって、分かってるよ」


    土井「こら、きり丸。そんな言い方、エレンせんせーに失礼だぞ」


    きり丸「オレはこいつを先生と認めた覚えはねぇよ!!!」


    静かなは組の教室に、きり丸の怒鳴り声が響きます。


    エレン「…そりゃそうだろうな。いきなり先生だと言われても、認めたくないよな」


    土井「だからと言って、そんな言い方はないだろう。エレン君も、一生懸命…」


    きり丸「オレには、一生懸命やってるようには見えねぇよ!それなのに…」


    きり丸は、うつむいてしまいました。


    エレン「…すまねぇな…オレも戸惑ってるんだ。こんな知らない場所に来ちまって…」


    きり丸「だからって…タダでメシ食ってもいいのかよ…」


    土井先生は厳しい表情になって


    土井「きり丸」


    エレン「いえ…いいんですよ。こいつの言っている事は間違ってませんから」


    土井「しかしだな…」


    すると、隣に座っているしんべヱが、きり丸にそっと耳打ちします。


    しんべヱ「あのぬ、きり丸…エレンせんせーはね…」


    しかし、きり丸はそれを聞く前に、エレンに向かって言いました。


    きり丸「お前なんか…早くこの学園から…出ていけばいいんだ!」


    周りの誰もがその言葉に驚き、エレンが口を開こうとした、そのとき…


    バシッ…


    一瞬の出来事で、きり丸も何が起こったのかすぐには理解できませんでした。


    ただ、感じる痛みに、思わず頬をおさえました。


    乱太郎「…土井…先生…?」


    土井先生が、きり丸の頬を平手打ちしたのです。今までゲンコツをゴツンとする事はあっても、顔を殴るのは初めてでした。


    きり丸は悲しくて、悔しくて…


    きり丸「もう…忍術学園なんか…大っキライだ!」


    と、は組の教室を飛び出してしまいました。


    乱太郎「あ…きり丸…」


    しんべヱ「きり丸ぅ」


    追いかけようとする二人に土井先生は


    土井「放っておきなさい」


    乱太郎「…だけど…」


    そう言ったものの、乱太郎は土井先生の顔が、きり丸と同じくらいに悲しそうで、それ以上何も言えませんでした。
  26. 26 : : 2016/05/06(金) 22:01:56
    きり丸は忍術学園を飛び出しました。


    走って走って走って…胸が張り裂けそうなくらい苦しくなるまで走りました。目的地はありません。


    きり丸「うわっ!」


    転んでしまい、きり丸はそのまま起き上がる事なく、地面に顔を伏せました。


    きり丸「…先生…」


    きり丸の頭の中に、自分を殴った時の土井先生の顔がよみがえります。


    その度に、きり丸の目から涙がポロポロと流れ落ちていきます。きり丸は悲しくて悔しくて、寂しかったのです。


    オレだって…


    夜はみんなと一緒に、ぐっすり眠りたい。休みの日はみんなと日が暮れるまで遊びたい。


    アルバイトするのも好きだけど…働く事は、いつも楽しい事ばかりじゃない。


    辛い事だってある。オレがまだ子どもだからって、アルバイト料をケチってくる悪い大人だっている。


    だけど、オレは頑張った。ゼニを稼ぐために。


    そしてそれは、忍術学園の生徒でいるためでもあった。そのためには、ゼニがたくさんいる。


    授業料はもちろん、食堂のご飯を買うゼニだっている。手裏剣とか忍たまの友とか、そういった教材も買わなくちゃならない。


    きり丸「だからオレは…」


    きり丸は起き上がりました。ごしごしと顔をぬぐって涙のあとを消します。


    どうしよう。戻れるのか…忍術学園に。


    きり丸が途方に暮れていると、近くにある古びた茶店から、何やら物騒な話が聞こえてきました。









  27. 27 : : 2016/05/07(土) 22:37:16
    物陰からこっそりのぞくと、いかにも町人といった格好の男2人が、何やら話しこんでいます。


    町人A「おい、聞いたか」


    町人B「何をだ?」


    町人A「近々、この辺りで戦があるらしいぞ」


    町人B「戦だって!?」


    戦と聞いて、きり丸はさらに聞き耳を立てます。


    町人A「どうやら、ドクタケ城がナラタケ城に戦を仕掛けたらしいぞ」


    …ナラタケ城か。きり丸は思い出しました。同盟を結ぶために77歳のアミタケ城の殿様にお嫁入りした、66歳の姫様がいたお城だ。


    乱太郎たちと一緒に、山賊に捕まった姫様を助けたり、大変だったけど、今では良い思い出だ。


    そんなナラタケ城に、ドクタケが戦を仕掛けるだって…?


    ドクタケ城は、いったい何を企んでいるんだ…。


    するときり丸は、ある事に気がつきました。


    戦のウワサを広めている町人…みんな、赤いサングラスをかけている!


    きり丸「あいつら…ドクタケ忍者じゃないか!」


    本人たちは町人に変装しているつもりなのでしょうが、赤いサングラスを外さなければ、ドクタケ忍者である事はバレバレです。


    普段ドジばかりしているきり丸も、これには呆れました。


    きり丸「ドクタケ忍者のやつ…いったい、何が目的なんだ?」


    ナラタケ城に戦を仕掛けたドクタケ城が、自分たちからそれを周囲の村や町にウワサを広めてゆく。


    きり丸「こりゃあ、ただの戦とは思えないな」


    きり丸の頭の中に、あの大きな悪どい顔が浮かび上がります。忍術学園も、何度もドクタケの悪事に苦しめられてきました。


    今回も、もしかしたら…。


    きり丸「よし、こうしちゃいられねぇ」


    きり丸は走り出しました。


    行く先は、ドクタケ城です。





  28. 28 : : 2016/05/08(日) 22:12:47
    チャ~ンチャラチャチャチャチャ~チャ~チャラチャチャチャチャ♪


    ドクタケ城に爽やかな音楽が響き渡ります。


    八方斎「腕を大きく上げて背伸びの運動からっ…いっちにぃさんっしっ!」


    八方斎の号令と一緒に、ドクタケ忍者たちはラジオ体操を始めています。


    その中に、ライナーたちの姿もありました。もちろんラジオ体操なんて初めてで、見よう見まねで頑張っています。


    ライナー「これに…いったい何の意味があるんだ…」


    するとライナーの隣で体操していたドクタケ忍者が言いました。


    ドクタケ忍者「これはドクタケ忍者隊の、日課だからな」


    サシャ「この体操、けっこう体がほぐれますね」


    コニー「帰ったら他の同期たちにも、教えてやりたいな」


    ベルトルト「でも…この格好だとやりづらいよ…」


    ベルトルトは、クマの着ぐるみのままで頑張っています。


    『それでは、ごきげんよう!』というラジオのナレーションが終わり、八方斎は、汗を拭いました。


    八方斎「…ふう、今日も良い汗かいたわい!」


    ドクタケ忍者「お頭っ、今日の予定は…」


    八方斎は、顔を引き締めました。


    八方斎「うむ…お前たち、あの作戦は順調に進んでいるだろうな」


    ドクタケ忍者はニヤリと笑い


    ドクタケ忍者「はい。仰せの通り、我々がナラタケ城に戦を仕掛けるというウワサは、広まっています」


    八方斎「ふふふ。そうか」


    八方斎は満足そうに笑いました。実際のところ、ドクタケ忍者がウワサを広めている事はバレバレなのですが…まさに、知らぬが仏、と言ったところでしょうか。


    八方斎「こっちには強力な新メンバーもいる事だし。作戦は成功したも同然」


    ドクタケ忍者「お頭…いったい、どんな作戦をお考えで?」


    作戦の本質も分からずに、ドクタケ忍者は動いていたようです。


    八方斎は声をひそめて


    八方斎「…これは絶対にヒミツなんだが…」


    ドクタケ忍者は、息を飲みました。


    首領がヒミツだと言っている事を、下っぱである自分が易々と知るわけにはいきません。


    ドクタケ忍者「ヒミツですか…失礼しました、不躾なマネを…」


    そう言って八方斎の前から立ち去ろうとして、ガシッと肩をつかまれました。


    八方斎「まあ、待て」


    ドクタケ忍者「…はい?」


    八方斎「そのヒミツの作戦の内容…知りたくはないのか?」


    ドクタケ忍者「そりゃまあ、知りたいですけど…でもヒミツだとおっしゃるので…」


    どうやら、八方斎はヒミツだと言っておきながら、本当は誰かに話したくてウズウズしているのです。


    八方斎「知りたい…なら仕方あるまい。特別に教えてやろう」


    別に言わなくてもいいのに。ドクタケ忍者はそう思ったものの、八方斎の得意げな表情を見ると、とても口に出せないのでした。






  29. 29 : : 2016/05/10(火) 21:59:53
    八方斎「まず、我々ドクタケ城がナラタケ城に戦を仕掛けた、というウワサを広める」


    ドクタケ忍者「ふむふむ」


    次第に、他のドクタケ忍者も集まってきました。みんな、なんだなんだ、と、聞き耳を立てています。


    八方斎「そしてそのウワサは、我が宿敵、忍術学園にも広がる」


    ドクタケ忍者「忍術学園がそのウワサを耳にして、どうなるんで?」


    その質問に、八方斎はニヤリと笑い


    八方斎「戦を仕掛けられたナラタケ城と忍術学園は、友好関係にある。忍術学園はナラタケ城を守るため、動きだすだろう」


    ドクタケ忍者はますますわけが分からなくなって


    ドクタケ忍者「それがいったい、どうしたというんで?」


    八方斎「ま~だ分からんのかこのバカちんが」


    これにはドクタケ忍者もカチンときましたが、続きを聞きたかったので我慢しました。


    八方斎「忍術学園は、あのアホな忍たまどもを使い、ナラタケ城に向かうだろう。そうすれば、忍術学園の警備も手薄になる」


    ようやく作戦の意図が読めたのか、ドクタケ忍者の表情が晴れました。


    ドクタケ忍者「そうか、そうすれば…」


    八方斎「そのスキを突いて、我々ドクタケ城が忍術学園に、総攻撃を仕掛ける!ま、楽勝だな」


    おお~っと、ドクタケ忍者たちから歓声が上がり、八方斎もすっかり気分を良くしています。


    八方斎「見ていろアホな忍たまども!今度こそ泣きべそかかせてやるわ!!!ぬぅわ~っはっはっは!!!」


    ドシ…ン…?


    大きく高笑いをした八方斎は、またいつものように頭からひっくり返ると思いきや…。


    八方斎「お、お前は…」


    ライナー「…なんとか間に合ったみたいだな」


    間一髪、ライナーがその大きな頭を支えていたのです。


    八方斎「うむ…ようやくドクタケ忍者としての自覚が芽生えたようだな」


    ライナーに支えられたまま、八方斎は感慨深けにうなずきます。


    ライナー「いいから、早く自分で立ってくれ」


    八方斎「おお、すまんな」


    他のドクタケ忍者も、ライナーを感心した様子で見つめています。もっとも、ライナーは嬉しくも何とも思っていないのですが。


    その様子を、ドクタケ城の茂みの中で息をひそめて見つめている人物がいました。きり丸です。


    早鐘のごとく鳴り続ける心臓の音さえも、聞こえてしまいそうで、きり丸は流れる汗もぬぐうことなく、彼らの話に聞き耳を立てていました。


    そして聞いてしまったのです。彼らの恐るべき作戦を。


    忍術学園が危ない。


    きり丸の脳裏に、は組の仲間たちや、先生たちの顔が浮かび上がります。大キライなんて言ってしまったけれど、今の自分にとって、忍術学園はかけがえのない居場所なのです。


    先生たちに、教えなきゃ。きり丸はそう思い立つと、そっと右足を踏み出しました。


    パキッ。


    八方斎「ぬっ、誰だ!?」


    あっちゃぁ…。きり丸は祈るように、両目をぎゅっとつむりました。
  30. 30 : : 2016/05/11(水) 21:43:20
    八方斎はもう一度、ゆっくりと言いました。


    八方斎「誰かそこに隠れておるのか…さっさと出てこい」


    よしこうなったら…きり丸は、とっさに思いついた行動に出ました。


    きり丸「にゃ…にゃ~お!」


    これには八方斎も、キョトンとして


    八方斎「なんじゃネコか。驚かせおって…」


    なんとかごまかせた。そう胸を撫で下ろしたのもつかの間


    サシャ「いえ違います!あの茂みの中には、人間が隠れています!」


    八方斎「な、なんだと!?」


    サシャはするどい視線を向け、茂みを指さしました。サシャの狩猟民族としてのカンが働いたのです。


    これには、きり丸も驚きました。ドクタケ忍者の中に、あんなにカンの鋭い奴がいたなんて。ドクタケ忍者といえば、首領の八方斎をはじめ、みんな自分たちと同じくらい、マヌケな奴ばかりだと思っていたのに。


    八方斎「くぉら!出て来ないと、ひどい目にあわせるぞ!」


    八方斎がそうすごんでみせると、茂みの中から、きり丸がおそるおそる姿を現しました。


    八方斎「ぬっ…お前は忍術学園の忍たま…」


    あの大きな悪人顔は、きり丸とて忘れたくても忘れられません。


    きり丸「そういうお前は…冷えたチンゲン菜!!!」


    八方斎「稗田八方斎じゃバカたれ~っ!!!」


    そう怒鳴り散らす八方斎は、心なしかちょっぴり嬉しそう。


    きり丸は堂々とした態度で、八方斎に迫りました。


    きり丸「お前たちの作戦、この耳でじっくり聞かせてもらった!お前たちの思い通りにはさせないぞ!」


    その言葉に、八方斎は不敵な笑みを浮かべ


    八方斎「ふふふ。その威勢がいつまで続くかな…やれ!」


    ドクタケ忍者「はっ!」


    八方斎の合図で、ドクタケ忍者たちは、ジリジリときり丸を追い詰めていきます。


    きり丸「クソ…捕まってたまるか!」


    きり丸も、持っていた手裏剣で応戦しようとしています。でも、こんな大人数相手に、戦えるだろうか。


    乱太郎がいてくれたら、良い作戦を練ってくれるのに。しんべヱがいてくれたら、強力な鼻水攻撃で突破できるのに。


    乱太郎、しんべヱ、そしてオレ。オレたちは、3人で1人前なのに。


    きり丸「でも…今はオレ1人で何とかしなくちゃ」


    手裏剣を構えるきり丸に、八方斎は、握りしめた拳を掲げて


    八方斎「ふふはは。お前を捕らえる事など、朝飯前だわい!」


    そして八方斎が、その拳をほどくと…


    チャリ~ン♪


    きり丸「小ゼニ~!!!」


    地面に転がった小銭に、きり丸はあっさりと飛びついてしまいました。


    ドクタケ忍者たちが、そのスキを見逃すはずがありません。きり丸は、あっという間に捕らえられてしまいました。


    きり丸「チキショー!放せ!」


    八方斎「そうはいかん。お前にはここでもうしばらく、大人しくしていてもらう…ふっふっふ…だぁ~っはっはっは!!!」


    ドシン!


    ライナーも、毎度毎度支えてやろうとは、思わなかったようです。



  31. 31 : : 2016/05/12(木) 22:04:25
    八方斎の思惑通り、ドクタケ城がナラタケ城に戦を仕掛けたというウワサは、忍術学園にも広がっていました。


    宿敵であるドクタケ城が、忍術学園と友好関係にあるナラタケ城と戦をするとあっては、学園も黙って見過ごすわけにはいきません。


    学園長は知恵を借りるべく、土井先生と山田先生を、学園長の部屋に呼び出しました。


    学園長「ドクタケ城は以前からあちこちに戦を仕掛ける事で有名だが…なぜ今になってナラタケ城に…」


    山田「学園長。私にはどうもこのウワサ、単なる戦とは思えんのですが…」


    山田先生の言葉に、学園長は顔を上げました。


    学園長「どういう事じゃ、伝蔵」


    山田「私も実際に見たわけではありませんが…ドクタケ城がナラタケ城に戦を仕掛けた、というウワサを、ドクタケ忍者たちが町人に変装して広めていた、という情報があるのです」


    学園長は首をかしげました。


    学園長「どういう事じゃ…ドクタケ城の目的は、戦ではない、という事か…?」


    山田「さあ、そこまでは…」


    学園長はここで、ずっと黙ったままの土井先生を見ました。


    学園長「ところで半助。きり丸は戻って来たのか?」


    土井先生は黙ったままうつむいています。学園長は、大きくため息をつくと


    学園長「うむ…心配じゃのう…きり丸の事だから、どこかでアルバイトでもしておるかもしれんが」


    土井先生は、きり丸の頬を叩いた右手を見つめました。隣で山田先生が、そんな土井先生を励ますように、肩を叩いています。


    するとそこへ


    ヘムヘム「ヘム!ヘムヘム!!!」


    とても慌てた様子で、ヘムヘムが飛び込んで来ました。


    学園長「どうしたヘムヘム」


    ヘムヘム「ヘムヘム!!!」


    ヘムヘムは、深刻な表情で学園長に何やら手紙を渡します。


    学園長はそれを広げ、読み進めるうちに、みるみる表情が険しくなっていきます。


    そして、言いました。


    学園長「伝蔵、半助」


    土井・山田「はっ」


    学園長「とんでもない事になったぞ」


    山田「…と、申しますと?」


    学園長は、先ほどヘムヘムから受け取った手紙を、広げてみせました。


    山田先生は、それを声に出して読み進めます。


    山田「なになに…『忍術学園の諸君、きり丸はあずかった。きり丸を解放する条件は、学園の教師1人との交換だ。もし妙な真似をしたら、きり丸の命は無いと思え。ドクタケ忍者隊首領、稗田八方斎』…なんだって!?」


    土井「きり丸が…ドクタケ城に捕まった!?」


    ガラッ!


    乱太郎「先生!!!」


    次々に飛び込んで来たのは、は組の忍たまたちです。どうやら、学園長との会話を外からこっそり聞いていたようです。


    乱太郎「先生!!!私たち、きり丸を助けに行きます!!!」


    乱太郎が、学園長に詰め寄ります。その思いは、他のは組のみんなも同じでした。


    土井「おいお前たち!教室で自習してろと、言ったはずだぞ!」


    乱太郎「だって…」


    厳しい声を上げる土井先生に対し、山田先生は穏やかに言いました。


    山田「お前たちが、仲間であるきり丸の安否を心配する気持ちは、充分分かる。だが相手は悪名高い城の一味だ。お前たちだけで太刀打ちできる相手ではない」


    しんべヱ「じゃあ僕たち、どうする事もできないの?」


    土井「学園長」


    学園長「なんじゃ半助」


    土井先生は、静かに言いました。


    土井「私がきり丸の身代わりになります」


    ドクタケ城の出した条件、それは、学園の教師1人を身代わりに差し出す、というものでした。


    乱太郎「そんな…危険ですよ、土井先生!」


    土井「いや、構わん。こうするのが、一番最善なんだ」


    乱太郎が再び何か言おうとした、その時…


    「その役目、オレにやらせてください!」


    みんなの驚きの視線の先に立っていたのは…


    乱太郎「エレン…せんせー…」



  32. 32 : : 2016/05/26(木) 21:22:20
    エレンが決意に満ちた顔で、みんなの前に立っていたのです。


    エレン「オレが行きます。そして、きり丸を助けだしてみせます」


    エレンの言葉に、土井先生は少し怒ったような顔をして言いました。


    土井「これは忍術学園の問題だ。君には関係ないだろ」


    エレン「そんな事はありません!現にほら…オレは今、忍術学園の先生方と、同じ制服を着ている。オレだって忍術学園の一員なんです」


    学園長は、重々しくうなずくと


    学園長「よろしい。エレン君、キミにも協力してもらおう」


    土井「学園長!」


    学園長「しかし、我々は決してエレン君を見捨てはしない。きり丸を救出した後、必ずエレン君も無事助けだしてみせる」


    乱太郎は、力強くうなずいて


    乱太郎「その通り!エレンせんせーは、私たちの仲間だもん…そうだよな、みんな!」


    乱太郎がそう呼び掛けると、みんな、笑顔でうなずきました。


    仲間が助けを求めている時は、みんな一丸となって助けに向かう…それが忍術学園なのです。


    先生たちも、決意を新たにうなずき合います。


    みんなの心が1つになると、学園長は立ち上がり、拳を高々と突き上げました。


    学園長「よし…忍術学園の進撃じゃ~っ!!!」


    「「「おお~っ!!!」」」


    ヘムヘム「ヘム~!」


    乱太郎「…待ってろよ、きり丸…すぐに助けてやるからな…」
  33. 33 : : 2016/06/03(金) 21:52:26
    エレンはさっそく、ドクタケ城へと向かいました。


    必ず、助けに行くから。


    と、忍術学園の仲間たちの声に見送られながら。


    そして残された忍たまたちにも、まだやるべき事がありました。


    山田「ドクタケ城に戦を仕掛けられた、ナラタケ城にも一度行ってみる必要がある。できれば、戦をさける方法を見つけたいのだが」


    土井「ナラタケ城の領地の様子も見ておきたいですね」


    山田「うむ。戦となれば、大勢の人が傷付く事になる。何事も慎重にやらねばならん」


    山田先生は、厳しい表情のまま、そううなずきます。


    土井「我々も町人になりすまして行動しないと…」


    忍たまたちも、いそいそと町人の衣装に着替えます。


    山田「よし、準備は出来たな!?」


    勢い勇んで、山田先生はその一歩を踏み出そうとします…が…


    その姿を見るなり、土井先生も忍たまたちも、大きなため息をついています。


    山田先生は、不思議そうに首をかしげて


    山田「なぜわしを見てそんなにため息をつくんだ?」


    土井「…山田先生…」


    土井先生は、必死に訴えます。


    土井「毎回毎回、女装するのはやめてください!!!」


    それは忍たまたちも、同じでした。女装した山田先生と並んで歩くのは、ちょっと勇気がいるかもしれません。


    顎にヒゲそりのあとを残したまま、山田先生は女らしくポーズをとって


    山田「毎度お馴染み、読者サービスよん♡」


    乱太郎「うへぇ…このお話に挿し絵が無くて良かったよ」


    思わず本音が出てしまった乱太郎に、このあと山田先生のゲンコツが降りかかる事は、言うまでもありませんね。








  34. 34 : : 2016/06/05(日) 22:14:58
    かつて生まれ育ってきたものとは、まったく違う風景に戸惑いながらも、エレンはドクタケ城に向かって歩き続けます。


    しかし、エレンはドクタケ城までの道筋を知りません。ということで道案内をすることになったのは…


    しんべヱ「ううう…怖いよぉ…」


    しんべヱ。どうしてかって?…じゃんけんに、負けたから。


    鼻水を垂らしたまま、不安そうに歩くしんべヱに、エレンは


    エレン「…ドクタケ城って、そんなに怖い所なのか?」


    しんべヱ「怖いっていうか…ドクタケ城はいっつも卑怯な事ばかりするから…エレンせんせーを連れてきても、素直にきり丸を返してくれるか、分からないの」


    エレンは歩きながら腕組をすると


    エレン「…最悪の場合、戦わなきゃダメってことか…」


    その言葉に、しんべヱは真っ青になって



    しんべヱ「そ、そんなぁ…」


    エレン「安心しろ。オレも兵士だ。対人格闘術じゃ他の同期たちに負けない自信がある…ミカサやアニには敵わねぇけど」


    しんべヱ「…みかさ?」


    エレン「オレの同期だよ。お前にとって、乱太郎やきり丸みたいなもんだ」


    きり丸、と聞き、しんべヱはまたしょんぼりとうつむいて


    しんべヱ「きり丸…大丈夫かなぁ…」


    エレン「心配だよな。お前の大切な…仲間だもんな」


    ふと、エレンの脳裏にミカサやアルミンの顔が浮かびます。


    エレンは、チクリと胸に刺さる寂しさをぐっと押さえて


    エレン「オレ、きり丸にずいぶんと嫌われちまってるみたいだな」


    しんべヱ「えっ」


    しんべヱは思わず、エレンの顔を見上げました。


  35. 35 : : 2016/06/08(水) 22:02:08
    エレン「他のは組のやつらは、すぐにエレンせんせーって呼んでくれたけど…きり丸からは、1度だってそう呼ばれてないからな。なんか、いっつもにらまれちまう…けど、授業をサボるのは、良くないよな」


    エレンはそう言って顔をしかめました。エレンせんせー、本当に怒ってる…しんべヱは慌てました。


    しんべヱ「エレンせんせー、きり丸が授業をサボるのには、ちゃんとわけがあるの」


    エレンは少し驚いた顔をして


    エレン「ちゃんとしたわけ…なんだ、それは」


    しんべヱは、エレンに話しました。きり丸が戦で家も家族も失っていること、忍術学園の入学金も、授業料も、生活費も、全部自分でアルバイトをして、稼いでいることを。


    その話を聞きながら、エレンは思い出していました。5年前、巨人に殺された母のことを。


    しんべヱ「だから…ね、エレンせんせー、きり丸を叱らないであげて。お願い」


    まるで自分のことの様に、しんべヱは一生懸命、エレンに訴えます。


    そんなしんべヱの頭を、エレンはポンポンと、優しく撫でました。


    エレン「…分かったよ。オレもきり丸のこと、少し誤解してたみてぇだな」


    しんべヱは…鼻水は垂れたままだけれど、にっこり笑いました。


    しんべヱ「ありがとう、エレンせんせー!」
  36. 36 : : 2017/01/08(日) 21:23:57
    「ふっふっふ…」


    「ぬぅわ~っはっはっは!!!」


    この笑い声。八方斎です。きり丸をまんまと捕らえ、作戦の成功を確信し、すっかり上機嫌。


    きり丸「くっそ~…放せ!放しやがれ!!!」


    きり丸はもがきますが、両手を縄で縛られているうえ、周りはドクタケ忍者に囲まれ、どうすることもできません。


    それに…きり丸は、そっとドクタケ忍者を見回しました。


    見慣れない奴らがいる。今まで何度もドクタケ忍者隊に遭遇してきたきり丸にとって、どの顔も見慣れたものでしたが、クマの着ぐるみ姿の奴といい、きり丸が隠れていることをズバリ見抜いたポニーテールの少女といい、坊主頭の少年といい、今まで見た事もありません。


    それに、あのひときわ体格の良い金髪の男も…。


    ドクタケの、新米忍者なのか?


    そう思いかけて、きり丸はすぐに思い直しました。


    いや、違う。ドクタケの連中にしては、できの良さそうな奴ばかり。


    じゃあ、こいつらは、いったい…。


    …それにオレ、これからどうなっちゃうんだろう…。


    乱太郎…しんべヱ…山田先生……土井先生…。


    じっとにらみ続けていたドクタケ忍者たちの姿が、ぐにゃりとゆがんで見えます。


    泣くもんか。


    涙の1粒たりとも、タダで流してなんか、やるもんか。


    すると、門の先を眺めていた八方斎が、ニヤリと笑いました。


    「…ようやく来おったか。忍術学園のアホどもめ…」


    …まさか…。


    顔を上げた頬に、涙が流れそうになって…きり丸はぐぐっと、それをこらえてみせました。


  37. 37 : : 2017/01/15(日) 22:11:53
    いっぽうその頃、乱太郎たちはナラタケ城に到着し、城下町の様子を調べたあと、ナラタケ城の殿様と話をする事ができました。


    ドクタケ城に戦を仕掛けられているというウワサは、本当なのか、と。


    山田「町の方ではかなりウワサが広まっているようですな」


    山田先生がそう切り出すと、ナラタケ城の殿様は、困り果てた様子でため息をつきます。


    殿様「いやぁ…実に不可解じゃ。実際にナラタケ城は、ドクタケから何も知らされていないというのに…ウワサだけが、どんどん広がっておる」


    山田「とすると…今のところ、戦の事実は無い、と」


    殿様は、深くうなずきました。


    殿様「断じて、そのような事実は無い」


    山田先生と土井先生は、思わず顔を見合せました。


    土井「山田先生…これはいったい…」


    山田「…うむ…」


    大人たちが押し黙るなか、乱太郎が顔を上げます。


    乱太郎「でも…もし、戦になったら大変ですよね…ナラタケだけじゃなく、同盟を結んでいるアミタケ城にも、被害が…」


    乱太郎の脳裏に、アミタケ城にお嫁入りした姫様の顔が浮かびました。若くはないけれど、笑うととっても可愛い姫様。そんな姫様の家来になった、元山賊の西谷のり丸。口うるさいけど、いざという時頼りになる、大辺穀造。


    もし戦になったら、彼らも…。


    殿様「…なるべくなら、戦は避けたいが…悪名高いドクタケの事だ。不意を突いてくる事も考えられる。我々も、油断は出来んのだ」


    ナラタケ城側も戦の準備を進めているのです。


    山田「及ばずながら、我々忍術学園も、協力を惜しみませんぞ」


    山田先生の言葉に、殿様は安心した様子で


    殿様「ありがとうございます。よろしくお願いいたします」


    乱太郎「忍術学園も、いざナラタケ城がドクタケに攻撃された時のために、準備をするんですね」


    乱太郎も、気合い充分です。


    そんななか、土井先生は山田先生に、そっと耳打ちします。


    土井「…ドクタケの狙いが、だんだんつかめてきましたね…」


    山田「ああ…しかし、奴らの思い通りにはさせん」


    先生たちの言葉に、乱太郎も元気よく立ち上がると


    乱太郎「そうですよ!きり丸とエレンせんせーを無事に取り戻して、ドクタケの陰謀を、打ち砕くんだ!」


    エレンの名を聞いた山田先生は、ふと何かを祈るように、天を仰ぎました。



  38. 38 : : 2017/01/22(日) 21:23:12
    しんべヱ「やい、八方斎!きり丸を返せ!!!」


    しんべヱは力の限り叫びました。八方斎は、不適な笑みを浮かべて


    八方斎「ふっふっふ…よく来たな、忍術学園のしんべヱ、そして…ん?」


    エレンの顔を見るなり、八方斎は眉をひそめます。


    八方斎「ん…誰だそいつは。忍術学園の教師といえば、土井半助か山田伝蔵が来ると思ったが…ぜんっっぜん見たこと無い奴が来おったわ…」


    八方斎が知らないのも、無理はありません。しんべヱは、エッヘンと胸を張って


    しんべヱ「この人は、忍術学園の新しい先生で、名前は…」


    「エレン!!!」


    すると突然、思わぬ方向から叫び声が上がりました。


    見れば、クマの着ぐるみと、その周りにいる数人の見慣れないドクタケ忍者が、驚いた様子で(…と言っても、クマの着ぐるみに限っては分かりづらいですが)、エレンを見ています。


    「エレン、オレだよ、オレ!」


    そう言うが早いか、1人のドクタケ忍者がサングラスと頭巾を外してみせると、エレンも驚いた様子で


    エレン「コ、コニー!?それに…サシャ、ライナー…それと…」


    「ぼ、僕だよ、僕!」


    クマの着ぐるみを着た人物は、慌てて着ぐるみの頭を外してみせました。


    エレン「べ、ベルトルト!?なんだよ、どうして、お前ら…」


    戸惑い続けるエレンせんせーの顔を、しんべヱは不思議そうに見上げ


    しんべヱ「エレンせんせー、あのドクタケ忍者と知り合いなの?」


    エレン「知り合い…そうだけど、あいつらはドクタケ忍者なんかじゃ…」


    そう言いながらも、エレンは段々と、状況を理解し始めました。


    きっとコニーたちも、自分と同じように、突然この不思議な世界に迷い込んでしまったのだろう、と。


    そんなエレンの思考を絶ち切るように、八方斎は、言いました。


    八方斎「とぉぉにかく。エレン、とか言ったな。お主がきり丸の身代わりにやって来た、忍者学園の教師なのだな?」


    するとエレンが言い放ったのは、意外な言葉でした。


  39. 39 : : 2017/01/29(日) 21:19:55
    エレン「ちがう!」


    八方斎「なにぃっ?」


    しんべヱ「え~っエレンせんせー、いったいどういうこと!?」


    エレンせんせーは、きり丸を助けるために、ドクタケ城にやって来たのに。


    しかし、エレンはうんざりした顔でしんべヱを見下ろすと


    エレン「だいたいな、オレは忍術学園ってやつの教師でもなんでもね~し。きり丸のことなんかより、オレは一刻も早く訓練兵団へ戻りたいんだ」


    しんべヱ「そ、そんな…どうしちゃったのさ、エレンせんせー!」


    お人好しのしんべヱは、これは何かの間違いだと思っています。エレンせんせー、きっと何か悪いモノでも食べたに違いない…たとえば、毒キノコとか。


    エレン「どうもしてね~よ。オレはもう、お前らに付き合ってる義理は無いってことだよ」


    しんべヱは、悲しくてたまりません。そんななか、叫び声が上がりました。きり丸です。


    きり丸「しんべヱ!!!そいつの言うことなんか、もう信じるな!!!そいつはオレたちを…裏切ったんだ!!!」


    しんべヱ「そ、そんなぁ…」


    エレンは、八方斎の前に立つと、深々と頭を下げて


    エレン「あの…オレも、あなたたちの兵団に、入れてもらえませんか」


    これには、さすがの八方斎も驚いた様子で


    八方斎「むむむ。お主…我がドクタケ忍者隊に入りたいと申すのか…」


    エレン「はい。オレの同期たちもいますし、それに…それに…こっちの赤い制服の方が、カッコいいと思うんです!」


    ドクタケ忍者隊のコスチュームを誉められ、八方斎も少し良い気分になって


    八方斎「ん?んん…そうか…ははは」


    さらにエレンは続けて


    エレン「それに、あなたも…顔も声も凛々しくて、カッコいいって言うか…なんか、すごいって言うか…」


    ちょっと無理のある誉め方でしたが、それでも八方斎はますます良い気分になって


    八方斎「ガッハッハ!うむ、なかなか見込みのある若者じゃな…よぉし、ドクタケ忍者隊への入隊を認めちゃおう!」


    エレン「あ、ありがとうございます!」


    あっけにとられている周囲をよそに、八方斎は、こう言い放ちました。


    八方斎「そ~して!きり丸に続きしんべヱも、牢屋に閉じ込めておけ!」


    ドクタケ忍者の1人が、しんべヱを素早く捕まえます。しんべヱはどうすることもできません。


    しんべヱ「うわ~ん、放してよぉ!!!」


    きり丸を助けるつもりで乗り込んだドクタケ城で、なんとしんべヱまでもが捕まってしまい、さらには、エレンせんせーがドクタケ忍者に…忍たまたちは、このピンチをどう切り抜けていくのでしょうか…。


  40. 40 : : 2017/02/05(日) 21:13:41
    エレン「うわ…すげぇ…」


    忍術学園の忍び装束を脱ぎ、ドクタケ忍者の制服に袖を通したエレンは、その着心地に思わず声を上げました。


    訓練兵団の制服と比べて、忍術学園の忍び装束も着心地が良かったのですが、ドクタケ忍者の制服は、それ以上です。柔らかくて、軽い。だからといって、薄っぺらくなく、保温性もバツグンです。


    エレン「こんな上等な布に触れるなんて…生まれて初めてかもな」


    もしかしたら、エレンの生まれ育った世界…壁に囲まれたあの世界には、存在しないモノなのかもしれません。


    そんな見た事も、想像すらしていなかったモノたちは、この数日の間に、イヤと言うほど見続けてきたのですが。


    それにしても…この心地良い肌触り、そして、草で編み込まれた床の、爽やかな香り…。


    めいっぱい吸い込もうとして…エレンは息を止めました。そして、段々とこの世界に染まり始めた自分に気がついて、怖くなりました。


    「お~い新入り!着替え終わったか~?」


    紙を貼り合わせて造られた戸の向こうから、ドクタケ忍者の声がします。


    エレンは、奥歯をぐっと噛みしめました。幼い頃母を亡くし、故郷を奪われてから、何度も何度もしてきたように。


    エレン「…はい!すぐ行きます」


    そう返事をしながらサングラスをかけたエレンの視界には、仄暗い世界が広がっていきました。
  41. 41 : : 2017/02/12(日) 20:35:39
    「うわ~ん、ここから出してよ~、お腹すいたよ~!!!」


    このセリフ。誰だか分かりますよね。


    きり丸「泣くなよ、しんべヱ。うっとおしい」


    しんべヱ「だ、だってぇ…」


    きり丸を助けに来たつもりが、逆に牢屋にぶち込まれ、信じていたエレンせんせーが、ドクタケ忍者に…。


    これが泣かずにいられるかとばかり、しんべヱは泣きつづけます。しんべヱの周りは、涙と鼻水でぐっしょりです。


    きり丸「うわっ。ヌルヌルじゃねぇか…」


    そうやって顔をしかめてから、きり丸はふと、うつむきました。なんだかとても、悲しそうに。


    しんべヱ「…どうしたの、きり丸?」


    きり丸「…いや…悪かったなって思ってよ…しんべヱまで、巻き込んじまって…」


    しんべヱは、まだ鼻水を垂らしたままでしたが、それでも勇ましく、立ち上がってみせました。


    しんべヱ「何言ってるの!困った時は、みんなで助け合う。それが、忍術学園でしょ!?」


    しんべヱの言葉に、きり丸は顔を上げました。そこには、いつも見ていた、友達の顔がありました。


    きり丸「…はは、そうだったな。オレ、忘れてたよ。オレだって今まで、友達のために散々タダ働きしてきたしな」


    しんべヱ「そう!そうだよ、きり丸」


    きり丸は、牢屋の中なのに、ぐうっと伸びをして寝転がりました。


    きり丸「それに…いつものパターンなら、先生たちが助けに来てくれるのが、このマンガやアニメのお約束だしな」


    しんべヱ「そうそう。気楽に待とうか」


    しんべヱも、きり丸の隣に寝転がってみせます。


    しんべヱ「牢屋にいても、おやつ食べられるかなぁ」


    と、ヨダレを(あと、鼻水も)垂らす始末です。だけど…きり丸としんべヱには言いにくい事なのですが、このお話は、いつもの忍たま乱太郎とは、ちょっと違います。


    ギィィ…


    扉が開く音がして、大きな“何か”が、ぬうっと姿を現しました。お気楽気分な2人は、その姿に、目を丸くしました。
  42. 42 : : 2017/02/19(日) 21:52:59
    しんべヱ「あ~~~っ!!!」


    しんべヱは、最初は驚いていましたが、すぐに、嬉しそうに笑いました。


    しんべヱ「クマさん!クマさんだ~っ!!!」


    2人の目の前に、クマの着ぐるみを着た人物が現れたのです。しかもその手には、食事らしきお膳が…。


    きり丸「こいつ、あの妙なドクタケ忍者と一緒にいたやつだぜ」


    妙なドクタケ忍者というのは、ライナーたちのこと。そしてこのクマさんは、皆さんお察しのとおり、ベルトルトです。


    しんべヱ「すっご~い、クマさんがご飯持ってきてくれた~」


    しんべヱは、突然のサプライズに、大喜びです。


    いっぽう、クマのベルトルトは、予想外の歓迎ぶりに、戸惑っているようです。


    ベルトルト「あ、あの…食事、持ってきたんだけど…」


    ベルトルトは、クマの着ぐるみ姿のまま、しんべヱたちのいる牢屋の中へと、そっとお膳を差し出しました。


    きり丸「ね~、お兄さん?」


    クマの着ぐるみの中身が若い男の人だと見抜いたきり丸は、ベルトルトに言いました。


    きり丸「それ、新手のアルバイト?お駄賃、いくら?」


    ベルトルトは、“アルバイト”という言葉の意味は分からなかったものの、自分がバカにされている気がして、ムッとしました。


    ベルトルト「ぼ、僕だって好きでこんな格好してるわけじゃないよ!いきなり、わけの分からない場所に飛ばされて…帰りたくても、帰れないんだよ」


    ベルトルトが途方にくれている事は、着ぐるみを通しても、よく分かりました。


    しんべヱ「じゃあクマさんも…エレンせんせーと、おんなじなんだね」


    ベルトルト「エレン……せんせー?」


    まだエレンのことを、せんせーと呼んでいるしんべヱに、今度はきり丸が、ムッとしました。


    きり丸「よせ、しんべヱ!あんなやつもう、せんせーでも何でもないだろ」


    しんべヱ「で、でも…」


    ベルトルトは、牢屋に入れたお膳を、そっと2人の前に押しやりながら


    ベルトルト「とにかく、食べなよ。僕は…というか僕たちは僕たちで、帰る方法を見つけるから…君たちも、早くここから出られるといいね…」


    しんべヱ「わ~い、ご飯ご飯~!」


    さっそくしんべヱは、大きな口を開けて、白いご飯を頬張っています。


    ベルトルト「さあ、君も…」


    いぶかしげに自分をにらみ続けるきり丸に、ベルトルトは静かにそう促します。きり丸はそっと箸を手に取ると、ガツガツと食べ始めます。


    しんべヱ「…ねぇ、クマさん」


    ベルトルト「ん?なんだい」


    ふと、しんべヱは箸を止めました。


    そしてベルトルトに、こう尋ねました。


    しんべヱ「クマさんたちが、元の世界に戻る方法を見つけたら…エレンせんせーも、一緒に帰っちゃうの?」


    きり丸は、しんべヱをチラリと見て、すぐに視線をご飯に戻します。


    ベルトルトは、大きくうなずきました。


    ベルトルト「もちろんだよ。だってエレンは…」


    エレンは…そう、彼は巨人を駆逐することに全てをかけています。こんな世界にとどまっている理由なんて、どこにもないのです。


    きり丸「エレンは…何なんだよ?」


    きり丸に促され、ベルトルトは続けます。


    ベルトルト「エレンは…そして僕たちは…戦わなければ、いけないから…」


    どこにだって、戦いはある。だけどそれは必然だと、ベルトルトは今まで信じ続けていました。そしてこれからも、それを疑うことなく戦い続けていくのが、自分の使命であり、運命なのだ、と。


    ベルトルト「だから…僕たちは、帰らなければ、いけないんだ」


    まるで誓いをたてるかのように、ベルトルトは静かに締めくくりました。


    それを聞いたしんべヱは、ほっぺたにご飯粒を付けたまま、うつむきました。それはもう、悲しそうに。



  43. 43 : : 2017/02/26(日) 21:51:26
    しんべヱ「僕はイヤだなぁ」


    ベルトルトは顔を上げました。しんべヱは、そんなベルトルトの顔(正確には、クマの着ぐるみの頭を)見つめたまま、続けます。


    しんべヱ「クマさんの言う、“戦い”って、戦(いくさ)の事でしょ。戦になったら、たくさんの人が家を失ったり、傷ついたりするんでしょ。僕はイヤだよ。みんな仲良くしてるほうが、ずっと楽しいよ」


    ベルトルトは、心の底から驚き、そして戸惑いました。いったいこの子は、何を言っているのだろう。


    ベルトルト「みんな仲良く?…そんなの、絶対に無理だよ」


    今度は、しんべヱが驚く番です。


    しんべヱ「えっ…どうして?」


    ベルトルト「どうしてって…だって、人類は戦わなければ、奪われるし、何も得る事ができない…選ばれし者が、戦い、人類の歴史に、輝かしい未来を…」


    ベルトルトは、必死に言葉を探しました。子どもの頃から、周りの大人たちに教えられ、分かりきっている事なのにも関わらず、ベルトルトは即座に言葉を並べる事が、できなかったのです。


    やはり、この不思議な世界に迷い込んでしまったからでしょうか。それとも。


    しんべヱ「なんで、どうして奪われちゃうの?もし、1個しか無い物だったら、半分こすればいいじゃない!」


    ベルトルト「そんな上手くいくわけないだろう!だから、戦うんだよ」


    しんべヱ「じゃあ、ジャンケンで決めるとか!」


    ベルトルト「バカな!」


    しんべヱ「にらめっこ!」


    ベルトルト「無理だ!」


    しんべヱ「かくれんぼ!」


    ベルトルト「無理だ!」


    しんべヱ「鬼ごっこ!」


    ベルトルト「無理だ!」


    しんべヱ「じゃあ…えっと…う~んと…」


    ベルトルトは、力尽きたように、その場にガックリと座り込みました。


    ベルトルト「無理…なんだよ…そんなの」


    きり丸「オレも無理だと思うぜ」


    今まで黙って聞いていたきり丸が、そう口を開きました。友達の意外な言葉に、しんべヱは


    しんべヱ「え~っ、きり丸まで、何でそんな事言うのさ!?」


    きり丸「だ~ってさ…どっちも…何て言うか…人間だからさ」


    しんべヱもベルトルトも、黙ってきり丸の言葉を待ちました。


    きり丸「両方とも、心があるから。心って、優しいとか温かいとか、そういうキレイ事だけじゃないからな…」


    孤高のアルバイター。ドケチのきりちゃんこと、きり丸は、しんべヱもベルトルトも見た事の無い世界を、見てきたのかもしれません。


    きり丸「悔しいとか憎いとか妬ましいとか、欲しいとか羨ましいとか…そういうのも、心だからさ…戦いも起こると思うぜ?オレも、イヤだけどさ」


    そしてきり丸は、ベルトルトの方を見て、言いました。


    きり丸「お兄さんも、本当は戦いはキライなんだろ?」


    ベルトルトは驚きました。なぜ自分よりも年下の子どもから、そんな事を言われるのか、怒りさえも、わき上がってきたのです。
  44. 44 : : 2017/03/05(日) 20:19:02
    ベルトルト「きっ…キライなもんか!!!」


    ベルトルトは、力の限り叫びました。その声は、がらんどうの牢屋の天井へと、ワァンワァンと昇っていきます。


    ベルトルト「君たちに何が分かるんだ。僕は…」


    ベルトルトの声に、きり丸は目を見張りました。かつて合戦場で弁当売りのアルバイトをしていた時、戦いに身を投じる侍たちの、あの震える叫び声を、思い出していたのです。


    このお兄さん…戦った事があるんだな。そして人を傷つけたり、殺したりした事があるんだなと、きり丸は直感していました。


    その“戦い”が何のためのものなのか、それは分からないのですが。


    きり丸「“僕は”…何なのさ、お兄さん」


    ベルトルトは、答える事ができずにいました。僕は、何なのか。その答えが出たのなら、その時は…。


    黙り込むベルトルトに代わり、きり丸はこう続けました。


    きり丸「あのさ…お兄さんはさ、戦う事を目的に生きてるんじゃないと、オレは思うぜ。だって本当に戦いが好きな奴らって、戦う事にいちいち理由なんて付けないもん」


    …その言葉を聞いた時、着ぐるみを身につけていて良かったと、ベルトルトは思いました。


    なぜか流れ出る涙を、見られずに済んだから。


    ベルトルト「…食事、残さず食べるんだよ」


    やっとの事で言葉を絞り出すと、ベルトルトは足早に立ち去っていきます。


    しんべヱ「クマさん!」


    遠ざかっていく茶色い背中に向かい、しんべヱは思わず声を上げました。


    そうだ…僕は、きり丸と違ってアルバイトなんてした事は無いし、戦に出た事も無い。夏休みなどの長い休みは、家でゴロゴロだらだらするのに忙しい。だけど…


    だけどクマさんが悲しそうにしている事だけは、分かったのです。


    しかしベルトルトは、しんべヱの声かけにも反応する事なく、扉を開け出ていってしまいました。


    きり丸「はぁ~、それにしても、早く誰か助けに来ねぇかな…」


    そう言ってゴロリと横になったきり丸は、ベルトルトの叫び声が響き消えていった天井を、ぼんやりと眺めはじめました。
  45. 45 : : 2017/03/12(日) 21:59:23
    ライナーたちと合流したエレンは、まず再会を喜び合うと、お互いに何があったのかを報告し合いました。


    エレン「そうか…ライナーたちも、森の中に入って、その後、この世界に…」


    ライナー「うむ…エレンもか。もしかしたら、その森に何か秘密があるのかもしれないな」


    サシャ「でも、森なんてどこも同じじゃないですか…いったい、どうすれば…」


    不安気に震わせるサシャの肩を、ライナーは励ますように叩きます。


    ライナー「何を弱気になっているんだサシャ。どんな困難にも冷静に対処する…それがオレたち兵士の…」


    コニー「おっ、ベルトルト!」


    コニーの声に、ライナーもふと廊下の向こうに目を向けると、相変わらずクマの着ぐるみに身を包んだベルトルトが、トボトボとこちらに向かって歩いてきます。


    ライナー「ベルトルト…どうかしたのか?」


    ベルトルトと付き合いの長いライナーだからなのか、着ぐるみを通しても、ベルトルトが何か落ち込んでいる様子がみてとれます。


    ベルトルト「えっ…ううん、何でもないよ」


    慌てて首を振るベルトルトに、これ以上追及しても無駄と思ったのか、ライナーは何も言いませんでした。


    そんななか、沈黙を破るように、大きなダミ声が、響き渡ります。


    「いつまでサボっとるんだお前ら!!!」


    八方斎です。周りには、ドクタケ忍者もいます。何か大きな企みを含んだ八方斎の笑みに、ライナーたちはこれから何が起こるのかと、思わず身を固くしました。
  46. 46 : : 2017/03/19(日) 21:39:13
    八方斎「お前たち…いくら腕が立つからといって、あまりサボってばかりいると、クビにしちゃうもんね…」


    言い回しはおどけているけれど、八方斎は本気のようです。


    エレン「す、すみません、お頭。すぐに仕事に戻りますので」


    即座にそう頭を下げたエレンに、ライナーたちの注目が集まったのは言うまでもありません。


    なぜかエレンは、慌てているようにも見えました。八方斎からクビだと言われて、困る事でもあるのでしょうか。


    ライナー「エレン…お前…」


    どうかしたのか。ライナーがそう言いかけた時、八方斎が声高らかに叫びます。


    八方斎「よ~し。さっそく忍術学園への総攻撃に入るぞ!!!」


    その言葉に、エレンは、はっとしました。おおかた予想はついていたものの、やはりドクタケの狙いはナラタケ城への戦ではなく、最初から忍術学園だったのです。


    八方斎は、まるでピクニックにでも行くかのように、ウキウキとしています。長年ひどい目に遭わされてきた(…といっても、半分は自業自得ですが)にっくき忍術学園を、コテンパンにやっつけるチャンスがやってきたのだから、無理もありません。


    エレンの隣に立つサシャが、エレンにささやきます。


    サシャ「忍術学園って、エレンがいた所ですよね?」


    エレン「ああ…そうみてぇだな」


    興味が無さそうな返事をするエレンに構わず、サシャは続けます。


    サシャ「そこを攻撃するって…その…大丈夫なんですか…」


    サシャ自身、忍術学園を直接は知らないものの、おそらくこの世界に迷い込んでしまったエレンを保護し、今日まで生活してきた場所である事は、察しがつきます。


    きっと、忍術学園という所には、悪い人はいないはず…。


    エレン「大丈夫か、だって?オレにはもう、関係無いね」


    予想外の答えに、サシャは目を丸くして


    サシャ「ええっ、そんな…今まで、お世話になったんじゃ…」


    エレン「そうかもしれないけど…オレはもう、ドクタケ忍者の一員なんだ。ドクタケが攻撃すると言ったら、それに従うまでだ」


    サシャではなく、八方斎に向かって、エレンはそう言い放ちます。


    サシャ「エレン…」


    エレン「サシャも、余計な事は考えずに、ドクタケ忍者をやりつつ、元の世界に戻る事を考えろよな」


    サシャは思わず、エレンから目を反らします。


    サシャ「そりゃ…そうですけど…」


    サシャを含め、104期訓練兵の間で、エレンとジャンが凶悪そうな顔立ちをしている事や、その事を本人に触れると、烈火のごとく怒りだす事は、周知の事でしたし、たまにわざとからかって、周りの笑いを誘う事もしばしばでした。


    だけど、“凶悪そうな顔立ち”と、“凶悪”は違います。


    エレンは、こんな冷徹な人間では、なかったはず…。


    サシャが口を開く前に、皆は八方斎に従って、戦の準備へと向かってしまい、サシャもそれに遅れまいと、慌てて仲間の背中を追いかけるのでした。
  47. 47 : : 2017/03/26(日) 21:15:53
    しんべヱ「だ…だ…だんご!」


    きり丸「ご?ご…ゴリラ!」


    しんべヱ「ら…ラムネ!」


    きり丸「ね…寝間着?」


    しんべヱ「き…きびだんご!」


    きり丸は、呆れ顔で


    きり丸「しんべヱ…食い物の名前ばかりじゃないか」


    しんべヱ「だってえ…お腹すいたんだもん」


    牢屋に入れられ、クマさんが持って来てくれたご飯を食べ終わって、どのくらいの時間が経ったのでしょう。退屈しのぎに始めたしりとりも、イマイチ盛り上がりに欠けてしまいます。


    …え?2人とも忍者の玉子なんだから、忍術で壁をよじ登ったりすれば良いだろうって?


    確かにそれも考えたのですが…なにせ、しんべヱのお尻が重たくて重たくて…。


    しんべヱ「えへへへへ」


    大ピンチのはずなのに、鼻水を垂らしたままでのんびり頭を掻いているしんべヱに、きり丸は怒ったり責めたりする事はありません。


    しんべヱは、しんべヱだから。出来ない事だけを責めても仕方の無い事です。しんべヱの鼻水や、リンスし忘れた剣山のような頭に助けられた事は、1度や2度ではありません。


    オレたちは、乱太郎と合わせて3人で一人前なんだ。乱太郎…今、どうしているのかな…。


    コツ…コツコツ…。


    かすかな物音に、きり丸は耳をすませました。


    きり丸「おい」


    しんべヱ「どうしたの?」


    どうやらしんべヱは、まだ気づいていないようです。


    きり丸「何か…聞こえる」


    しんべヱ「えっ、何の音?」


    きり丸「分からない」


    コツ…コツ…


    きり丸「この音…まさか、ここから…」


    そう言ってきり丸は、壁に耳を押し当てます。


    コツコツ…コツ…


    きり丸「やっぱり…ここからだ!」


    しんべヱ「えっ、どこどこ!?」


    隣でしんべヱも同じように、耳を押し当てます。


    コツ…コツ…ゴツゴツ…ゴツゴツ…


    その音は、だんだんと近づいてきて…。


    ゴリ…ガッ…


    目の前で起こった光景に、きり丸としんべヱは驚きのあまり、声も出せずにいました。
  48. 48 : : 2017/04/02(日) 21:18:29
    夜になりました。


    暗く冷たい石畳に、1つの足音が響きます。


    牢屋の見回りを命じられたドクタケ忍者は、思わず発した舌打ちが、思いの外大きく響くのを聞き、ため息をつきました。


    ドクタケ忍者「クソ…何でこんな時に、見回りなんてしなくちゃならないんだ…」


    明日は、いよいよ忍術学園への襲撃です。それも昼間ではなく、早朝を狙って相手のスキを突く事になっています。


    そのためには、今夜は早く寝て、明日に備えなくてはなりません。


    ドクタケ忍者は、もはや両手では数え切れないくらいのあくびをすると、牢屋の前までやって来ました。


    忍たまのガキども、おとなしく寝ているかな…。


    もし…もし逃げちゃってたら、俺の責任になるのかな。


    お頭に知れたら、ボーナスカット?減給?ひょっとして、クビ!?…イヤだなぁ。


    そんな事を考えながら、ドクタケ忍者は、そっとロウソクの光を牢屋の中へと照らしました。


    そこには、牢屋に備え付けの質素な布団にくるまっている、2つの影が見えます。


    ドクタケ忍者はそれを見るなり、ホッと胸を撫で下ろしました。


    なぁんだ。ちゃんと大人しく眠っているじゃないか。


    しょせん、アホな忍たまどもには、このドクタケの要塞から逃げだす事なんて、できやしないんだ。


    ドクタケ忍者の顔は、みるみるうちに、だらしなくにやけていきます。


    明日は、楽しみだなぁ。人質はこっちの手中にある。そして忍術学園は、ドクタケ城のものになる。


    特別ボーナス、出るかなぁ…へへへ、楽しみだ。


    こうしてドクタケ忍者は、にやけ顔のまま、牢屋の前から立ち去っていきました。


    牢屋の中の2つの布団のふくらみが、今の今までピクリとも動かない事なんて、気づきもしないままで。
  49. 49 : : 2017/04/09(日) 20:49:12
    忍術学園の瓦屋根に、うっすらと朝日が差し込みはじめます。


    ドクタケ忍者隊首領、稗田八方斎の頭も、朝日に照らされ、輝いています。


    八方斎「ふっふっふ。忍術学園め、目にもの見せてやるわ…」


    ドクタケ忍者隊は、忍術学園に奇襲攻撃を行うべく学園の周りを固め、息を潜めていました。


    ドクタケ忍者「お頭」


    部下の呼び掛けに、八方斎は、これでもかと威厳を込めて


    八方斎「なんだ」


    ドクタケ忍者「…袴のお尻のトコロ、破れてますよ」


    八方斎「ぬおっ!?」


    …何はともあれ、時は、満ちました。


    未だに静けさが残る忍術学園の眠りを妨げないように、八方斎は声を潜めて、合図をします。


    八方斎「よし皆の者…かかれ」


    ドクタケ忍者「はっ」


    大勢のドクタケ忍者が、忍術学園に押し寄せて来ます。


    そのうちの数名が向かった先は、学園の最高責任者である、学園長の部屋でした。


    学園長を真っ先に捕らえ、人質にするつもりなのでしょうか。それとも。


    ドクタケ忍者「よし、ここだな…」


    学園長の部屋も、朝日に照らされながら、ひっそりと静まりかえっています。まだ学園長もヘムヘムも、寝ているのでしょうか。


    ドクタケ忍者は、手に白く光る刃を握りしめ、ふすまの前で息を潜めます。


    そして…


    ドクタケ忍者「覚悟ぉ!!!」


    ふすまが開かれ、ドクタケ忍者たちがなだれ込みます。


    そして、膨らんだ布団に、刃を突き立てます。


    学園長、ヘムヘム、危ない!逃げて!


    キィィィィン!


    その瞬間、ドクタケ忍者の目の前に光が走り、刃を弾き飛ばします。


    ドクタケ忍者「なっ…」


    その光の正体は…手裏剣です。


    ドクタケ忍者「ど、どういうことだ!?」


    驚き、戸惑うドクタケ忍者の頭上から、声がします。


    「何をそんなに驚いているんだ?」


    「そうそう。ここは忍術学園。手裏剣なんて、珍しくも何とも無いだろう」


    この声は…と、天井を見上げても、その姿を見る事はできません。


    ドクタケ忍者はたまらず、声を上げます。


    ドクタケ忍者「だ…だ…誰だ!?」


  50. 50 : : 2017/04/16(日) 15:26:00
    2つの黒い影が、畳の上に降り立ちます。


    「忍術学園1年は組担任、山田伝蔵」


    「同じく、土井半助」


    黒い忍装束に身を包んだ2人は、とても今まで眠りこけていたようには見えません。


    そんな…


    ドクタケ忍者は、学園長が眠っているであろう布団に、視線を移し、さらに驚きました。


    布団に入っていた物…それは、人の形に似せた、丸太だったのです。


    騙されていたのか…。


    ドクタケ忍者は、悔しそうに唇を噛みしめました。そして改めて考えました。


    今朝早くに攻撃を仕掛ける事は、ドクタケ城の者以外は、知らなかったはず。


    いやそもそも、忍術学園は、ドクタケ城がナラタケ城に戦を仕掛けた、というニセの情報に踊らされ、学園の警備は手薄になっているはず…。


    ドクタケの勝利は、確実だった…はずなのに。


    どこで情報が漏れたんだ。


    どこで…


    「…あんた、忍者なら…」


    考え続けるドクタケ忍者の背後で声がします。


    そうだ。自分は、1人でこの学園長の部屋に侵入したわけではない。仲間がいたのだ。


    自分の、後ろに。


    ドクタケ忍者は、ゆっくりと振り向きました。


    そこには、同じく赤い忍装束を着た、ドクタケ忍者が立っています。


    ただ、違う。何かが。それが分かる前に、背後の忍者は、続けます。


    「あんた、忍者なら知ってるはずだぜ…」


    そう言いながら、スッとサングラスを外し…


    「…山びこの術ってやつをな!」


    翡翠色の瞳。ドクタケ忍者は、記憶のページを必死でめくります。


    そうだ、こいつは忍者学園から寝返り、ドクタケにやって来た…名前は…


    ドクタケ忍者「…エレン・イェーガー!!!」


  51. 51 : : 2017/04/23(日) 21:01:38
    さて、一方そのころ…。


    しんべヱ「乱太郎~!」


    乱太郎「…しんべヱ!」


    ようやく…ようやくドクタケに捕らわれていたしんべヱ、そしてきり丸は、乱太郎たち1年は組との再会を果たしました。


    えっ?夕べ、ドクタケ忍者が牢屋を見回りしていた時、布団の中にいたのは、何だったのかって?その説明は、またあとで。


    しんべヱは、は組の仲間たちとの再会を、手を取り合って喜びました。


    そして、きり丸は、というと…


    きり丸「…」


    しんべヱたちとは少し離れた所で、じっと地面を見つめたまま、うつむいています。


    『もう…忍術学園なんか…大っキライだ!』


    いつか、口にしてしまったあの言葉を、思い出していたのです。そしてその言葉が、きり丸の足を、固く動かないものにしていました。


    でも…もう、きり丸は痛いくらいに、分かっていました。ドクタケ城の牢屋の中で、帰りたい、帰りたいと願う場所は、ただ1つだったのです。


    オレは、忍術学園が…


    乱太郎「…きり丸」


    そっと、自分を呼ぶ声が聞こえます。


    きり丸はそっと、顔を上げました。


    そこには、みんながいます。朝が来るたびに、当たり前のように目にしてきた、みんなの顔が、そこにあります。


    アルバイトで辛い目にあっても、あかぎれした手が痛んでも、みんなの顔を見れば、“まあ、いっか”と思える、そんな仲間が。


    きり丸は、自分の足が、ふっと軽くのを感じました。


    そして、乱太郎は、ちょっと照れくさそうに、ボサボサ頭をかきながら


    乱太郎「…おかえり」


    きり丸も、流れそうになる涙をごまかそうと、目をごしごしとこすったあとに


    きり丸「…ただいま」


    忍術学園1年は組、ようやく全員集合です。
  52. 52 : : 2017/04/30(日) 21:10:09
    「あ、そうだ。ボク、さっきおもしろいもの、見つけたよ」


    喜三太が、楽しそうに言うと、みんなも目をキラキラさせて


    「えっ、なに!?」


    「おもしろいものって!?」


    喜三太「うん、こっちだよ」


    は組のみんなは、我先にと喜三太に続きます。


    その先に見えてきたものは…。


    「あ~!」


    は組のみんな「「「クマさんだ~!!!」」」


    当のクマさんは、突然の子どもたちの来襲に、呆然としてしまいます。


    クマさん「………えっ?」


    その主は当然、ベルトルトです。


    「クマさ~ん!」


    「クマさん、遊ぼうよ~!」


    「抱っこしてよ~!」


    は組のみんなは、もう大はしゃぎです。周りは戦闘が続いているというのに、は組のみんなは、楽しい事を見つけるのが、大得意なのですね。


    ベルトルト「ライナー…どうしよう」


    ずっとその様子を、近くで見ていたライナーも、は組の勢いに押されて、どうする事もできません。


    ライナー「ベルトルト…そっちはお前が何とかしろ。オレたちも、戦闘に参加しなければならんし…」


    そう言葉を濁します。


    そんな時…


    「あ!!!こんな所に、チャック付いてるぞ~!」


    見つけてはいけないものを、見つけてしまったようです。ベルトルトは、開けられては大変と、思わず走りだします。


    ベルトルト「わ~!た、助けて~!」


    は組のみんな「「「待て~!!!」」」


    あっという間にベルトルトの姿は見えなくなり、戦闘の騒音が、やけに大きく響き渡ります。


    コニー「どうするんだよ、ライナー。何とかしねぇと、オレたちも危ないんじゃ…」


    戦うか、もしくは、この場からそっと逃げ出すか。どうにかしなければと、コニーは焦っているようです。


    ライナー「落ち着けコニー。状況を見極めもせずに、闇雲に突っ込むなど、兵士のする事じゃないだろ」


    兵士。久しく耳にしていなかった言葉に、コニーは思わずうつむきます。


    コニー「兵士…か」


    ライナー「そうだ。忘れるな。オレたちは…今はこんな所で、こんな格好をしているが、オレたちは、兵士なんだ」


    そんな台詞を吐くライナーの目は、どこか遠くを見ているようでした。
  53. 53 : : 2017/05/07(日) 20:31:26
    サシャ「は~…お腹、空きましたね…」


    こんな状況にも関わらず、サシャは虚ろな目でお腹をさすっています。


    コニー「おいサシャ…こんな時に」


    その時です。


    キィィィィン!!!


    白く光る刃が、ライナーたちに向かって放たれたのです。


    ライナー「なっ…!?」


    ライナーたちは、間一髪のところで、刃を避けました。


    それにしても、気配を感じさせないその動きは、相当の使い手であるに違いはなく、ライナーたちは、ぐっと身を固くしました。


    サシャ「はぁぁ…」


    サシャのお腹は、ぐぅぅと鳴りました。


    サシャ「はぁ…何か、食べたいですぅ…」


    そんな彼らの目の前に立ちはだかったのは…


    「…ゆらり…」


    鋭く光る白い目。額には、月の形をした向こう傷…。


    ライナー「な、何者だ!?」


    ライナーは警戒をとく事なく、叫びますが、皆さんは、もうお気づきですよね。


    「…拙者、忍術学園の剣術師範…戸部新左ヱ門…」


    コニー「は…なに…何だって…?」


    聞いた事の無い名前に、コニーは少し混乱しているようです。コニーたちの暮らしている世界からしてみると、とても珍しい名前ですからね。


    戸部「だから…戸部、新左ヱ門…」


    戸部先生も、根気よくコニーに対応しています。


    コニー「へ…とべ、しんじゃえも…ん?」


    戸部「ちが~う!!!し、ん、ざ、え、も、ん!!!」


    サシャ「お腹空きましたぁ…」


    せっかくかっこよく(?)登場シーンを決めたのに、これでは、まったく絞まりません。戸部先生は、気をとり直して


    戸部「忍術学園の宿敵、ドクタケ忍者…成敗いたす…」


    ここで、コニーははっとしました。


    コニー「そういえばオレたち、そのドクタケなんちゃらってやつだったな」


    サシャ「何でもいいですけど、何か、食べる物を…」


    ライナーも、ふと考え込んだ様子で


    ライナー「子どもらに追いかけられていったベルトルトも、それに、この学園の先生とやらに会いに行ったエレンも、無事だと良いのだが…」


    とうとう、戸部先生も堪忍袋の尾が切れて


    戸部「何をごちゃごちゃ言っている!!!覚悟!!!」


    忍術学園剣術師範と、ライナーたちとの、壮絶な戦いの火蓋が、切って落とされ…


    ぐぅぅぅ…。


    ……ようとしているのは、間違いないみたいなのですが…。
  54. 54 : : 2017/05/14(日) 21:30:36
    戸部「…うう…」


    突然、戸部先生の体がぐらりと揺れ、今にも倒れそうになりました。ライナーが一撃を加えたから?…そうではありません。戸部先生は、自分から倒れたのです。


    なぜなら…


    戸部「腹が減った…」


    戦いが長引いて、お昼ご飯を食べ損なってしまったのです。皆さんご存知のとおり、戸部先生はお昼ご飯を食べないと、空腹でフラフラになってしまいます。


    戸部「何か…食べる…ものを…」


    サシャ「は、はいぃ…食べるものが、ほしいです…」


    ぐぅぅ…


    2人の状態を確かめ合うかのように、2つのお腹の鳴る音が響き渡ります。


    完全に地面に膝をつき、うなだれるサシャでしたが、突然、ヒクリと鼻を動かしたと思うと、パッと顔を上げて


    サシャ「こ、このにおいは!」


    サシャの視線の先には…ヘムヘムがトコトコと歩いています。



    その手に握られていたのは…


    サシャ「パァァァァァン!!!」


    ヘムヘム「へ、ヘム!?」


    パンを目の前にしたサシャを止められるものは、何ひとつありません。ヘムヘムは、あっという間にサシャにパンを奪われてしまいました。


    ヘムヘム「ヘム!ヘムヘム!ヘム!」


    ふむふむ、どうやらヘムヘムは、朝から何も食べておらず、たった今やっと食堂から食べ物をもらってきたばかりなのだとか。


    ヘムヘム「ヘム!ヘムヘムヘム!ヘム!」


    せっかく、学園長先生と、はんぶんこしようと思ってたのに!と、ヘムヘムはカンカンです。


    サシャ「はぁ…パァン…まさに、神のお恵みですぅ…」


    ヘムヘムの怒りの訴えも、サシャには一切届いていないようです。もっとも聞こえていたとしても、ヘムヘムの言葉が理解できるのかどうかは、分かりませんが。


    コニー「な、なあ…ライナー」


    コニーが目を見開いたまま、ライナーに声をかけます。


    ライナー「…なんだ」


    コニー「い、今、犬が…立って歩いてて…変な鳴き声出してるって思えるのは…オレがバカだからじゃ、ないよな」


    ライナーは、静かに言いました。


    ライナー「…安心しろ。オレもお前と同意件だ」


    コニー「はは…だよな」


    ヘムヘムは、いくら言ってもサシャの耳には届かないと悟ったのか、しょんぼりと肩を落とし、トボトボと去っていきました。


    サシャ「ハァハァ…も、もう逃がしませんよ…これは、私の物です…」


    そんなサシャの様子を、戸部先生もしっかりと見ていました。とてもとても、羨ましそうに。







  55. 55 : : 2017/05/21(日) 22:11:54
    戸部「…うう…」


    戸部先生は、刀を杖代わりにしながら、よろよろとサシャに近づきました。


    戸部「…あ、あの…」


    サシャ「いっただっきま」戸部「は、半分…」


    パンに食らいつこうとするサシャの腕を、戸部先生はガシリとつかみました。そのために、サシャはパンを食べる事ができません。


    サシャ「な、何をするんですか!?放してください!!!」


    戸部「…半分でいい…分けて…くれないか」


    絞り出すような声で、戸部先生は言いました。それでもサシャは、首をブンブン振りながら


    サシャ「何を言ってるんですか、これは、私の獲物ですよ!」


    サシャの言葉に、戸部先生はガックリと肩を落として


    戸部「そ、そんな…」


    サシャ「さあ、もう諦めて、その手を放してください!」


    そんななか、静かに口を開いたのは、ライナーでした。


    ライナー「いいじゃないかサシャ。半分くらい、分けてやれよ」


    サシャは、悩みました。うなり声を出し、額に汗を浮かべながら悩みました。それはまるで、おあずけを食らった獣のようです。


    それでも悩んでいるのは、サシャを含め104期訓練兵たちが、兄貴と呼び慕われ続けている、ライナーの言葉だからなのでしょう。


    サシャ「……チッ」


    サシャは悔しそうに…本当に悔しそうに舌打ちをすると、パンを大事そうに2つに割りました。


    サシャ「…半分…」


    そして、そのうちの1つを、戸部先生の前に差し出しました。


    戸部「半…分…」


    この物語に挿し絵が無くても、皆さんがこの光景を想像する事は、とても簡単な事なのかもしれません。


    そう、サシャが差し出したパンは、お世辞にも均等に半分とは言えず、それでも戸部先生は、ありがたくそのパンを受け取ったのです。


    ライナー「うん…それで良い」


    ライナーは、満足そうにその光景を見守っています。


    コニー「う…本当にこれで良いと素直に思えねぇのは…オレがバカだからじゃ、ない…よな」


    …皆さんは、どう思いますか。 



  56. 56 : : 2017/05/28(日) 22:07:49
    「ぐぅぬぬぬぬっ」


    八方斎は、歯をこれでもかと食い縛りながら、うなり声を上げました。しかし、どんなにうなっても、今の戦況が変わる事はありません。


    ドクタケ忍者「お、お頭…いったい、どうなっちゃってるんですかぁ…」


    八方斎の背後には、予想外の展開に驚き、忍術学園の実力に圧倒され、もうダメだ、と逃げ出してきた、ちょっと情けないドクタケ忍者で、あふれかえっています。


    そして、八方斎の目の前には、忍術学園の面々が、まっすぐにドクタケ忍者隊を見据えています。


    山田「八方斎…お前たちの負けだ。観念しろ!!!」


    山田先生は、そう一喝します。


    八方斎は気づいていました。決して認めたくはありませんでしたが、気づかざるを得なかったのです。


    八方斎「我がドクタケ忍者隊のなかに、裏切り者がいた、ということか」


    その裏切り者が誰であるのか、考えるまでもありません。エレンは、忍術学園の先生たちの背後から、すっと姿を現しました。


    エレン「…どうやら、オレの術は成功したみてぇだな…」


    その表情は、どこかホッとしているようにも見えます。


    八方斎は、まるで鬼のような目付きで、エレンをにらみつけました。


    八方斎「…と、いうことは…ライナー、コニー、サシャ…そしてベルリントンも、グルだったのだな!?」


    エレンは、ため息をつきました。


    エレン「ベルトルトだろ…本人が聞いたら傷つくぞ。あいつ、しょっちゅう名前間違えられてるから…」


    「わ~、もう、勘弁してくれ~!」


    張り詰めていた空気を打ち砕くかのように、なんとも情けない声が、近づいてきます。その声の主は…


    エレン「べ、ベルトルト…?」
  57. 57 : : 2017/06/04(日) 21:26:38
    「「「わ~~~い!!!」」」


    ドドドドド、と、元気いっぱいにベルトルトを追いかけ回すのは、は組の子どもたちです。


    喜三太「待ってよ~クマさん、一緒に遊ぼうよよ~!」


    ベルトルト「もう…ぼ、僕はクマじゃなくて…」


    たまらずベルトルトは、クマの着ぐるみの頭を脱ぎ捨て、皆に顔を見せました。


    ベルトルト「ほら、僕…僕は…に、人間…だから…その…」


    なぜかおどおどした様子で、ぼそぼそと主張し続けるベルトルトを見て、は組の皆は、おかしくなってしまいました。


    庄左ヱ門「イヤだなぁお兄さん。ボクたちだって、クマさんがホンモノじゃない事くらい、気づいてましたよ。な、みんな?」


    庄左ヱ門の問いかけに、みんなはちょっと得意になって


    虎若「そうだよ。いっくらボクたちだって、ホンモノのクマと着ぐるみを、間違えたりしないよ」


    伊助「ただ、一緒に追いかけっこしてて、楽しかったからさ」


    金吾「だから、つい調子に乗っちゃって…」


    平太夫「でも、とぉ~っても、楽しかった!」


    は組のみんなは、本当に楽しそうに笑っています。


    ベルトルトは、心の中でずっと緊張していた何かが、ふっと解かれるのを感じて、その場に座り込みました。


    ベルトルト「追いかけっこ、か…僕も…僕も、楽しかった…のかな。はは…」


    なぜか笑みまでこぼれてきます。こんな感覚は何年ぶりでしょう。まるで子どもの頃…まだ、何も知らなかった、あの頃に戻ったかのように、笑う事が、できるのです。


    1年は組、そしてベルトルトの笑い声は、周りの人びとを包み込み、まるで戦いの終わりを告げているようでした。


    山田先生も土井先生も、最初はあっけにとられていたものの、顔を見合わせ、そっと肩をすくめました。


    エレンは、というと、3年間共に過ごしてきて、初めてとも言えるベルトルトの笑顔に、驚きさえも感じていました。


    エレン「あいつ…あんな風に、笑えるんだな…」


    乱太郎「…お兄さん」


    乱太郎が、は組を代表して、ベルトルトの前に歩み寄ります。


    ベルトルト「…な、なんだい?」


    乱太郎「一緒に遊んでくれて…ありがとう!」


    は組のみんな「「「ありがとう!!!」」」


    元気な声に、ベルトルトは困ったように首をひねりながらも、照れくさそうに笑って


    ベルトルト「ど…どういたし…まして…」


    すると今度はきり丸が、そっとは組の輪の中を抜けて、向かった先は


    きり丸「…あの…土井…先生…」


    土井先生は、きり丸の頬を打った右手をぎゅっと握りしめたまま、きり丸の次の言葉を待ちました。


  58. 58 : : 2017/06/11(日) 21:22:02
    ごめんなさい。


    その一言さえ出せずに、きり丸はじっと下を向いてしまいます。


    でも、土井先生は怒ったりしません。自分が言わなければならないと思う事を、きり丸に伝えようとしているのです。


    土井「…きり丸」


    きり丸「は、はい」


    土井先生は、自分が打ったきり丸の左頬を、そっと撫でながら


    土井「…ごめんな。いきなり、ぶったりして」


    その言葉に、きり丸は思わず涙があふれて止まりませんでした。オレも、言わなきゃ。言わなきゃいけない事、たくさんあるのに。


    「…言った方が、良いと思うよ」


    声の主は、ベルトルトでした。言ってしまってから、思った以上に周りの注目が集まってしまい、少しひるんだものの、続けました。
  59. 59 : : 2017/06/18(日) 21:38:59
    ベルトルト「自分が伝えたい事…君、あるんだろう?だったら、伝えなくちゃ…後悔、する前に」


    ベルトルトは、今まで生きてきて、これだけ長く自分の意見を口にだしたのは、もしかしたら初めての事かもしれませんでした。


    いつもなら、誰かが代わりに言ってくれたり、何も言わなくても、時間が勝手に流れていくのを待っているばかりでしたが、今なら言える気がします。それは、ここが普段とは違う世界だからなのでしょうか。


    ベルトルト「えっと…僕は…僕たちは…これから先、戦いの中を…生きていかなくちゃならない…今、隣にいる人が…次の瞬間には、いなくなっているような…そんな中を…だ、だから…」


    ベルトルトは、ここで、ごくりとつばを飲み、ふうと息をつき、続けます。


    ベルトルト「む、難しい事かもしれないけど…でも、後悔するよりは…つ、伝えるべきだと思う…うん」


    きり丸「…お兄さん…」


    ベルトルトは、下を向きました。


    ベルトルト「ごめん…変な事を言って…けど、大事な事だと思うから…」


    きり丸は、顔を上げました。そして、土井先生や、忍術学園のみんなに向かって、言いました。


    きり丸「えっと…ごめんなさい。あと…ただいま!」


    みんなから贈られる言葉は、もう決まっていました。


    「おかえりなさい!」


    …おかえりなさい…か。ベルトルトは、忍術学園のみんなの様子を、ぼんやりと眺めていました。


    その瞳の奥には、自分が帰るべき場所が、映っていたのかもしれません。





  60. 60 : : 2017/06/25(日) 21:49:05
    「…ゆらり…」


    戦いも終わり、皆は学園長の部屋に集まりました。とは言っても、は組のみんなや土井先生、山田先生は、授業のために教室に戻っています。


    ライナーとベルトルト、コニーとサシャは、エレンと共にドクタケ忍者隊を退職(?)し、忍術学園へとやってきました。


    そんなわけで…今、学園長の部屋にいるのは、学園長とヘムヘム、ライナーとベルトルト、コニー、サシャ、エレン、そして、戸部先生です。


    戸部「森…か」


    ライナー「オレたちは、エレンを捜して森の中をさ迷い歩いて…なにか、大きな穴に落ちたんだ。それで、気がついたら…」


    学園長「この世界に迷いこんだ、というわけじゃな」


    ライナーの説明を、学園長は静かにしめくくりました。


    戸部「…ふむ…」


    戸部先生には、何やら思い当たる節があるようです。


    戸部「これは、あくまでウワサなのだが…」


    元の世界に帰る手がかりになるのではないかと、ライナーたちは思わず身を乗りだしました。


    戸部「ここからそう遠くはない所に、1度入ると、神隠しに遭う事があると言われる、森があるらしい」


    エレン「カミカクシ…なんだ、それは」


    エレンは首をひねります。ライナーたちも、同じ反応のようです。


    学園長「神隠し、というのはじゃな…人が突然霧のように消え…そのまま、行方不明になってしまう事じゃよ」


    ヘムヘム「ヘム」


    コニーは、はっとしました。


    コニー「それって、今のオレたちの事じゃねぇか!」


    ベルトルト「きっとその森に行けば、何か…手がかりがつかめるかも…もしかしたら、その森に入れば…」


    ぽつりぽつりと言うベルトルトを押しのけ、サシャが


    サシャ「元の世界に、帰れるかもしれませんよ!」


    ライナー「落ち着け、サシャ。兵士が冷静さを失ったら、それで終わりだ」


    静かにそう口にするライナーを、ベルトルトはじっと見つめています。


    ライナーにとがめられたものの、興奮が治まりきらない様子のサシャは、戸部先生に詰め寄ります。


    サシャ「その森へは、どうやって行けば良いのですか!?」


    戸部「…分からん」


    戸部先生の答えに、サシャだけでなく、ライナーたちも落胆した様子をみせています。


    サシャ「分からないって、どぉいう事ですか!?あなた、あの時パンをあげたじゃないですか!食い逃げ!?食い逃げですか!?」


    ヘムヘム「ヘム!ヘムヘム!」


    あのパンは、もともと自分のだ、とでも言いたげに、ヘムヘムが声をあげます。戸部先生も、困った様子で


    戸部「ぬぬぬ…こ、これもあくまでウワサなのだが…その神隠しの森は、満月の夜に現れるらしい」


    ライナー「満月の夜…今夜か!」


    ライナーの言葉に、皆、学園長の部屋の開け放たれた障子戸から見える、空を見上げました。


    間もなく、夕暮れです。


    「コラ~お前たち、また補習授業だ~!!!」


    どこからか、土井先生の怒鳴り声が聞こえます。


    ヘムヘム「へ~ムヘムヘムヘム」


    あいつら、いつまでたっても変わらないな、とでも言っているように、ヘムヘムは楽しそうに、笑いました。
  61. 61 : : 2017/07/02(日) 21:24:37
    満月の光が、兵士たちの足元を照らし続けます。


    ライナーたちは、戸部先生が教えてくれた、神隠しが起こるという森を目指しました。先頭を歩くライナーは、迷うことなくつき進みます。


    彼をつき動かすのは、一刻も早く元の世界に…ひいては、自分たちの故郷に帰らなければならないという使命感。そしてもう1つは、なぜか月の光が、自分たちの進むべき方向をより明るく、照らし示してくれている気がして、ならなかったのです。


    コニー「う~ん…森なんて、見当たらないな…」


    サシャ「あくまでも、ウワサですからね…デタラメってこともあり得ますよ…」


    コニーとサシャは、ヒソヒソとお互いの意見を言い合っています。それを耳にしたベルトルトは、不安になったのか、ライナーに意見を求めます。


    ベルトルト「ライナー…さっきから迷っている様子がないけど…大丈夫…なのかい?」


    ライナーはすぐには答えませんでした。この満月の明かりが、自分たちの進むべき方向を照らしている気がするなんて、なんの根拠もないことを、この切迫した状況の中で軽々しく口にするわけにもいきません。


    ライナー「…迷っている余裕なんて、オレたちにはないだろう。進むしかないんだ…故郷に、帰るためにもな」


    ベルトルトは、何も言いませんでした。


    エレン「…そうだぞ。早く元の世界に戻って、巨人をぶっ倒さねぇと…」


    エレン自身も、これ以上この世界に留まっていると、今まで学んできた立体機動装置の扱い方や、巨人に対する戦い方を忘れていってしまいそうで、少し、怖くもあったのです。


    服はすでに、訓練兵団の兵服に着替えています。エレンは、訓練兵団にいた頃の感覚を取り戻そうとするかのように、ジャケットの袖口で顔を拭ってみせました。


    ライナー「…そうだ。早く戻らないと…と、その前に、だ…」


    ふとここで、ライナーは足を止めました。
  62. 62 : : 2017/07/09(日) 22:02:45
    後ろを歩くエレンたちも、何も疑うことなくピタリと立ち止まりました。


    ライナー「…そろそろ、話をしようじゃないか…」


    と、ライナーは後ろにいる“誰かさん”に、そう声をかけました。


    …いつの間にか夜もふけ、周りには虫の音が響き、かすかにフクロウの鳴き声も聞こえます。


    ライナーは、ゆっくりと振り返りました。それにならい、エレンたちも後ろを見ます。そこに誰がいるのか、みんな分かっている様子でした。


    「あ…いや…あはは…」


    ライナーたちの視線を浴び、“誰かさん”は慌てました。でも、ここは田畑の広がる1本道。身を隠す所など、どこにもありません。


    「だから言っただろ、乱太郎。どうせバレるって」


    「…うう…ね、眠いよ~」


    “誰かさん”の正体は、乱太郎、きり丸、そして寝ぼけ眼の、しんべヱです。


    エレン「お前ら…いいのか?先生たちには、黙って出て来たんだろ」


    エレンの言葉に、乱太郎はグッと顔を上げました。


    乱太郎「で、でも…エレンせんせーたちは、もう忍術学園には戻って来ないんでしょ!?元の世界に…帰っちゃうんでしょ!?」


    しんべヱも、小さな目をパッチリと開き、言いました。


    しんべヱ「ひどいよ!ボクたちに何も言わないで出て行くなんて!」


    そう。ライナーたちは、今夜自分たちが神隠しの森に向かうことを、子どもたちには伝えませんでした。


    単なるウワサに過ぎない神隠しの森を、今夜確実に見つけだし、そして元の世界に帰ることができるのか…それは、一種の賭けでもあったのです。


    ざざざ、ざざざ…


    風が、どこからともなく現れ、夜の闇を揺らし続けます。


    ライナー「…そうだな。何も言わずに出て行くのは、人として礼儀に反していたのかもな」


    ライナーは、静かにそう言いました。


    乱太郎「そうじゃなくって!」


    しんべヱ「そうそう!寂しいじゃない!」


    子どもたちの様子に、ベルトルトは思わず、クスリ、と笑みがこぼれました。寂しい、か。


    乱太郎「ねぇ、きり丸。きり丸も何か言いなよ。そのために、ついて来たんだろ」


    乱太郎にそう言われても、きり丸はうつむいたままでした。まるで、土井先生と再会したばかりの、あの時のように。
  63. 63 : : 2017/07/16(日) 21:48:05
    ざざざ…ざざ…


    ふとここで顔を上げたのは、サシャでした。その表情はまるで、天敵が近づいている事に気づいた獣のようです。


    コニー「…どうしたんだ、サシャ」


    コニーの問いに、サシャは少しの間目をしばたたかせたあと


    サシャ「…よく、分からないんですけど…何かが近づいている気がして…」


    コニー「何かって…何だよ」


    コニーも、おそるおそる辺りを見回しました。辺りには夜の闇が広がるばかりで、何かが近づいてくる様子はありません。


    しかし、サシャのその動物的な勘は、不思議とよく当たる事は、104期の兵士たちの間では有名でした。


    ライナー「…みんな、気をつけろ…」


    ライナーも、思わず身を固くします。


    そんななか、エレンは静かに、きり丸の前に立ちました。


    エレン「…あの…」


    エレンは、どう言葉にしたら良いのか…伝えるべきか、そうでないべきなのか、迷っている様子でした。


    エレン「その…悪かったな。色々と世話になったのに…その…お前たちを裏切るようなこと、しちまって…」


    しんべヱと共に、きり丸を助けに向かったあの時…エレンは、急にドクタケ城に寝返る行動に出たのです。


    乱太郎「それは違うよ、エレンせんせー!」


    乱太郎は、思わず叫びました。


    乱太郎「エレンせんせーは、きり丸を…忍術学園を助けるために、山びこの術を使ったんでしょ!?」


    しんべヱ「ボクも、土井先生から聞いたよ!山びこの術は、敵を欺くには効果的だけど…とっても危険な術なんだって」


    しんべヱも…鼻水を垂らしながらではあるけれど、必死にそう訴えます。


    乱太郎「だから…エレンせんせーは、悪くないよ」


    ざざざ…ざざざ…


    闇夜の風は留まることなく、乱太郎たちの間を、何度も通り過ぎていきました。
  64. 64 : : 2017/07/23(日) 21:26:16
    乱太郎の言葉に、エレンはふっと心が和らぐのを感じました。そんな中でも、自分が犯した罪と呼ぶべき過去が頭をよぎり、そっと息を潜めています。


    エレン「お前らは…優しいな」


    乱太郎としんべヱは、そろってはにかんだ笑顔をみせました。エレンはそんな子どもたちの頭を、ぽんぽんと撫でました。


    ほんの少し、大人びた笑みを浮かべながら。


    きり丸「…エレン…せんせー…」


    ふりしぼるように、きり丸は言葉を探しました。それでも贈りたい言葉は、ただ1つでした。


    きり丸「…ありがとう…」


    エレン「オレの方こそ…ありがとう、きり丸」


    2人は、固い握手を交わしました。2つのまるで違った世界が、1つに繋がるように。


    エレンは言いました。


    エレン「オレたちもうすぐ、1人前の兵士になるんだ。そうしたら…人類の勝利のために…そしていつか、壁の向こうへ…仲間と探険に出るために、戦い続ける。だから、お前らも負けるなよ。どんなことからも」


    3人の忍たまは、力強くうなずきました。


    そしてきり丸は、エレンの後ろに立つベルトルトに、そっと視線を移すと


    きり丸「そっか。それがお兄さんたちの…戦う理由なんだね」


    ベルトルト「…!」


    ベルトルトは、はっと目を見開きましたが、うなずくことはできませんでした。笑顔でごまかすことすらも。


    ザザザザ…!!!


    サシャ「ひっ…ひいぃ!」


    サシャは完全に怯えきった様子で、頭を抱えています。


    コニー「おい…一体、何が起こってるんだ!?」


    コニーも異変を察したのか、慌てた様子をみせています。


    ライナー「みんな…落ち着け!」


    そう言うライナーも身構えたまま、どうすることもできません。


    ゴオォォォ…!!!


    突風です。地面の底から沸き上がるように、ものすごい風が、襲いかかります。


    「うわぁぁ!」


    「くっ…!」


    乱太郎たちも、エレンたちも、巻き上がる砂ぼこりに目を開けていることもできず、その場にうずくまります。


    暗闇のなかで、みんなはじっと、突風が止むのを待っていたのです。
  65. 65 : : 2017/07/23(日) 21:43:11






    …どの位の時間が経ったのでしょう。辺りに静けさが戻ったのを感じて、エレンはそっと顔を上げました。


    そして、驚きました。


    エレン「な…どういうことだ、これは!?」


    エレンの声を聞き、ライナー、コニー、サシャ、ベルトルトも顔を上げ、息を飲みました。


    ライナー「…森だ…」


    不思議なことに、突風が吹き荒れるまで、辺りには田畑しかなかったのに、今はうっそうと生い茂る木々たちが、夜の闇の中で不気味に葉を揺らしています。


    エレンは、はっとしました。


    エレン「そうだ…乱太郎、きり丸、しんべヱ…!」


    今まで目の前にいた、子どもたちの姿が消えています。


    エレンは、なおも叫び続けます。


    エレン「おい…どこへ行った!?」


    そんな叫びも、黒い木々の中に虚しく吸い込まれていきます。


    ライナー「…エレン」


    ライナーはエレンの肩にそっと手を置き、ある方向に視線を向けました。


    ライナー「…見てみろ」


    そう促され、エレンもライナーの視線を追いかけます。すると唯一木々が拓かれた道のようなものが、闇に慣れた目の前に飛び込んできました。


    エレン「ライナー…道だ」


    ライナー「ああ。行こう、みんな。きっとあの先に、オレたちの世界がある」


    エレンはそっと、右手を握りしめました。そこにはまだ、きり丸と握手を交わした時のぬくもりが残っています。


    サシャ「行きましょう、私たちの世界に」


    コニー「おう!きっとアルミンたち、心配してるぜ」


    ベルトルト「うん…そうだね。帰ろう」


    サシャもコニーもベルトルトも、道に向かって歩き始めます。その後ろから、ライナーも続きます。


    そんななかで、エレンはまだ、足を踏み出せずにいます。自分たちの世界に帰る…それは、すなわち…。


    ライナー「エレン」


    ライナーは振り向きました。


    ライナー「さあ、行こう。オレたちはもう…後戻りは出来ない」


    その先に、何があろうとも。


    エレン「…だよな…」


    兵士たちは、自分たちの世界に向かい、歩き続けました。


  66. 66 : : 2017/07/30(日) 21:35:10
    ◆◆◆◆


    850年×月×日


    ウォール・ローゼ南方面第104期訓練兵団教官 キース・シャーディス 殿

    <一部の104期訓練兵による集団失踪事案についての嘆願書>


    この嘆願書は、104期訓練兵であるエレン・イェーガーが、解散式を数日後に控え、突如失踪し、捜索に加わったライナー・ブラウン、コニー・スプリンガー、サシャ・ブラウス、ベルトルト・フーバーも、相次いで失踪した事案について、処分の軽減を求めるものである。
    軽減を求める根拠としては

    * 解散式を目前にし、失踪する動機が彼らには無い
    * 兵団に戻ってからの彼らの働きぶりからは、充分な反省の色がみえる
    * 訓練兵を卒業し、それぞれの兵団に所属してからの彼らの活躍は、大いに期待できる
    * このまま処分が強行された場合、他の訓練兵らによる、暴動(…と表現するに等しい行動)が起こる可能性が否定出来ない

    …以上の点を踏まえ、別紙の署名を添えて、処分の軽減を嘆願いたします。

    第104期訓練兵代表 アルミン・アルレルト










    …嘆願書は受理され、104期訓練兵は全員、晴れて解散式を迎えることとなった。
  67. 67 : : 2017/07/30(日) 22:02:36
    ミカサは苛立っていた。


    隣には、家族と呼ぶに等しい存在のエレンが、明るい表情のまま歩を進めているというのに。


    エレン「…おいミカサ。いい加減機嫌直せよな」


    ミカサ「エレン…本当に、何も覚えてないの?」


    ミカサとアルミンは、エレンが失踪した直後から、ありとあらゆる方面をくまなく捜し歩いた。それから間もなくして、ライナーたちが失踪したと分かってからも、なるべく動揺を押し殺し捜し続けた。


    そして…何事も無かったかのように、エレンは戻ってきた。ケガひとつすること無く。


    本来ならば、手放しで喜ばなくてはならない。理屈では分かっているものの、ミカサは腑に落ちなかった。


    どこに行っていたのか。どうやって戻って来れたのか。何を聞いても、エレンの答えは


    エレン「…さぁな」


    聞くところによれば、ライナーたちもエレンと同じ場所へ行っていたようだが、同期の間で頼られる存在のライナーでさえ、何も覚えていないのだという。


    そういえばコニーが、“ニンジャ”がどうとか口にしていたけれど、今のミカサには、そんな聞いた事もない言葉に耳を傾けている余裕など無かった。


    エレンが消えた。その理由が、何も分からない。また同じことが起こらないとも限らない。エレンを守るのは、自分なのに…。


    アルミン「…ミカサ。君が色々心配する気持ちも分かるけど、今は素直に、エレンが無事だったことを喜ぶべきじゃないかな。考えても分からないことなんて、この世にごまんとあるんだから」


    エレンをはさみ、並んで歩を進める幼なじみが、穏やかにそう諭す。


    そう…そうするべきなのかもしれない。どんな理由があるにせよ、自分がエレンと共にあることは、変わらない。


    とくん、と、胸の鼓動が高まるのを感じる。この高鳴りは決意からなのか、それとも。


    ミカサ「あっ…!」


    突然、ミカサの体が大きく傾いた。


    エレン「お、おい!」


    大きな石に足をとられ、転びそうになったのを、エレンが何とか支えた。




  68. 68 : : 2017/08/06(日) 22:22:10
    もしもエレンが支えてくれていなければ、石の転がる地面に体を打ち付け、ケガをしていたかもしれない。もうすぐ、一人前の兵士になるというのに。なんたる失態だろう。


    ミカサ「ご、ごめんなさい」


    ミカサは素直にそう詫びると、これから降って来るであろうエレンからの叱責を覚悟した。


    だが、その予想は外れた。


    エレン「…ケガは無いか」


    ミカサ「え…だ、大丈夫」


    ミカサの返答に、エレンは満足そうにうなずくと


    エレン「良かったな。兵士たるもの、常に周りに注意を払うようにと、教わっただろ。次から気をつけないとな」


    幼少の頃からの付き合いとはいえ、この反応はミカサにとっても、アルミンにとっても意外だった。


    ミカサ「…分かった。次からは、気をつける」


    ミカサは、何とかそう返答した。


    アルミン「…ふふっ」


    隣で一部始終を見ていたアルミンは、思わず吹き出した。


    エレン「なんだ。どうしたんだよ、アルミン」


    緩んだ口元を手の甲で覆いながらも、アルミンはどう言葉に表すべきか、迷っている様子だった。エレンは、なおも促した。


    エレン「なんだよ。言えよ、アルミン」


    アルミンは、ようやく言葉を見つけたらしく、口元を覆っていた手を戻すと


    アルミン「うん…なんだかエレン…先生みたいだ」


    エレン「…えっ…」


    耳の奥に、残るあの声。


    …エレンせんせー!…








    アルミン「ごめん、変な事言ったねエレン…エレン?」


    突然うわの空になったエレンを心配するように、アルミンも、そしてミカサもエレンの顔を覗きこんだ。


    エレン「…えっ…あ、な、何でもねぇよ…」


    アルミン「僕もどうかしてたよ。エレンが先生なんて、あり得ないもんね」


    そう言って幼なじみは、隣で楽しげに笑っている。ミカサもそれにつられたのか、ふっと、笑みを浮かべている。


    エレン「なんだよそれ。オレだってな…」


    そう言いかけて、エレンはふと、空を見上げた。


    澄みきった、青い空。その空の色でさえ違った、あの不思議な世界…。


    アルミン「オレだって…何なの、エレン?」


    エレンはふと、目を閉じた。それが別れを意味するものなのかは、分からない。ただエレンの中で、あの世界の記憶は確実に薄らいでいく。


    エレン「…いや。何でも」


    さよなら。


    そう心に刻む間も無いまま、記憶は薄らいでゆく。


    もう届かない、遥か、遠くへ。





    <終>









  69. 69 : : 2017/08/06(日) 22:24:22
    ※…以上で、終了とさせていただきます。長い執筆期間にもかかわらず、最後まで読んでいただき、ありがとうございます。
    今後の執筆の参考にさせていただきたいので、感想などいただけると、たいへんありがたいです。
    よろしくお願いします。
  70. 70 : : 2017/08/07(月) 13:14:13
    お疲れ様です
    アナザーストーリーとかありますか?
  71. 71 : : 2017/08/13(日) 15:46:21
    >>70 名無しさん
    最後まで読んでいただき、ありがとうございます。
    アナザーストーリーの執筆については予定しておらず
    この後は、別の執筆途中の作品を進めていきたいと思います。
  72. 72 : : 2020/10/27(火) 10:15:07
    http://www.ssnote.net/users/homo
    ↑害悪登録ユーザー・提督のアカウント⚠️

    http://www.ssnote.net/groups/2536/archives/8
    ↑⚠️神威団・恋中騒動⚠️
    ⚠️提督とみかぱん謝罪⚠️

    ⚠️害悪登録ユーザー提督・にゃる・墓場⚠️
    ⚠️害悪グループ・神威団メンバー主犯格⚠️
    10 : 提督 : 2018/02/02(金) 13:30:50 このユーザーのレスのみ表示する
    みかぱん氏に代わり私が謝罪させていただきます
    今回は誠にすみませんでした。


    13 : 提督 : 2018/02/02(金) 13:59:46 このユーザーのレスのみ表示する
    >>12
    みかぱん氏がしくんだことに対しての謝罪でしたので
    現在みかぱん氏は謹慎中であり、代わりに謝罪をさせていただきました

    私自身の謝罪を忘れていました。すいません

    改めまして、今回は多大なるご迷惑をおかけし、誠にすみませんでした。
    今回の事に対し、カムイ団を解散したのも貴方への謝罪を含めてです
    あなたの心に深い傷を負わせてしまった事、本当にすみませんでした
    SS活動、頑張ってください。応援できるという立場ではございませんが、貴方のSSを陰ながら応援しています
    本当に今回はすみませんでした。




    ⚠️提督のサブ垢・墓場⚠️

    http://www.ssnote.net/users/taiyouakiyosi

    ⚠️害悪グループ・神威団メンバー主犯格⚠️

    56 : 墓場 : 2018/12/01(土) 23:53:40 このユーザーのレスのみ表示するこの書き込みをブックマークする
    ごめんなさい。


    58 : 墓場 : 2018/12/01(土) 23:54:10 このユーザーのレスのみ表示するこの書き込みをブックマークする
    ずっとここ見てました。
    怖くて怖くてたまらないんです。


    61 : 墓場 : 2018/12/01(土) 23:55:00 このユーザーのレスのみ表示するこの書き込みをブックマークする
    今までにしたことは謝りますし、近々このサイトからも消える予定なんです。
    お願いです、やめてください。


    65 : 墓場 : 2018/12/01(土) 23:56:26 このユーザーのレスのみ表示するこの書き込みをブックマークする
    元はといえば私の責任なんです。
    お願いです、許してください


    67 : 墓場 : 2018/12/01(土) 23:57:18 このユーザーのレスのみ表示するこの書き込みをブックマークする
    アカウントは消します。サブ垢もです。
    もう金輪際このサイトには関わりませんし、貴方に対しても何もいたしません。
    どうかお許しください…


    68 : 墓場 : 2018/12/01(土) 23:57:42 このユーザーのレスのみ表示するこの書き込みをブックマークする
    これは嘘じゃないです。
    本当にお願いします…



    79 : 墓場 : 2018/12/02(日) 00:01:54 このユーザーのレスのみ表示するこの書き込みをブックマークする
    ホントにやめてください…お願いします…


    85 : 墓場 : 2018/12/02(日) 00:04:18 このユーザーのレスのみ表示するこの書き込みをブックマークする
    それに関しては本当に申し訳ありません。
    若気の至りで、謎の万能感がそのころにはあったんです。
    お願いですから今回だけはお慈悲をください


    89 : 墓場 : 2018/12/02(日) 00:05:34 このユーザーのレスのみ表示するこの書き込みをブックマークする
    もう二度としませんから…
    お願いです、許してください…

    5 : 墓場 : 2018/12/02(日) 10:28:43 このユーザーのレスのみ表示する
    ストレス発散とは言え、他ユーザーを巻き込みストレス発散に利用したこと、それに加えて荒らしをしてしまったこと、皆様にご迷惑をおかけししたことを謝罪します。
    本当に申し訳ございませんでした。
    元はと言えば、私が方々に火種を撒き散らしたのが原因であり、自制の効かない状態であったのは否定できません。
    私としましては、今後このようなことがないようにアカウントを消し、そのままこのnoteを去ろうと思います。
    今までご迷惑をおかけした皆様、改めまして誠に申し訳ございませんでした。

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