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このSSは性描写やグロテスクな表現を含みます。

この作品はオリジナルキャラクターを含みます。

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秋田喰種~春の巻~

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  1. 1 : : 2015/04/04(土) 22:45:51
    私が住んでいる秋田県を舞台に喰種の物語を創ってみたい・・・
    そんな思いつきで始めました。

    【注意事項】
    ①あんていくのメンバーが僅かに出ますが基本はオリジナルキャラクターだけのお話です。
    ②スタートの時間軸は金木がリゼに襲われる半年前ぐらいです。
    ③主人公は東京から秋田へと引っ越して来た少女ですが、私は旅行でしか東京などの都会に行ったことが無いので、都会の人が秋田をどう思ってるかなんて本当は分かりません。偏見もあるかと思いますがご了承ください。
    ④以前にも増して更新速度が遅いです。

    他県民からの秋田県のイメージ募集中です↓
    http://www.ssnote.net/groups/1140/archives/2
  2. 2 : : 2015/04/04(土) 23:13:24
    -Ⅰ-





    春。

    それは、別れの季節である。



    3月31日土曜日、東京駅の改札の前で、一人の少女が別れを惜しんでいた。

    奈津美「これでもう、あんていくとも当分お別れかあ・・・」

    その少女の名は霜永奈津美。

    そんな彼女を見送るべく改札に集まったのは、『あんていく』という喫茶店の従業員達だ。

    古間「奈津美ちゃんがいなくなるなんて、これから寂しくなるねぇ」

    四方「奈津美、お前なら遠くでも大丈夫だ。自信を持て」

    入見「悩み事があったら、いつでも電話してね」

    奈津美「はい、ありがとうございます。四方さん、入見さん」

    芳村「いってらっしゃい、奈津美ちゃん」

    奈津美「はい、行ってきます」

    奈津美は惜別の思いを振り払い、改札口を通ろうとする。

    トーカ「な、奈津美さん!離れ離れになっても、私は奈津美さんの親友ですから!」

    奈津美「・・・トーカぁぁぁ」

    一番年が近く、妹のように思っていたトーカから放たれた言葉に彼女は泣き出してしまう。

    奈津美「受験勉強とかあるのに毎日電話しちゃうかもしれないけど良い?」

    トーカ「もちろん!じゃんじゃん掛けてきてください!」

    奈津美「ありがとう・・・じゃあね、トーカ、あんていくの皆・・・」

    こうして、彼女は改札口を通過した。

    彼女の行き先は、東北地方にある秋田県だ。
  3. 3 : : 2015/04/05(日) 16:33:59
    午前10時、奈津美は秋田新幹線『こまち』の座席に座っていた。

    出発まで残り5分。彼女はあんていくで過ごした日々を思い返していた。想起される思い出の中には、一週間前に芳村店長から秋田行きをお願いされた時の記憶もあった。



    奈津美「秋田県に出張・・・ですか?」

    芳村「うん」

    トーカ「出張って、秋田県に支店があるってことですか?」

    芳村「まさか・・・奈津美ちゃんに働いてもらう職場は、私の旧友が経営している喫茶店だ。もちろん、喰種のね」

    古間「他県の知り合いが居るなんて、僕も知らなかったですよ」

    芳村「知らないのも無理はないさ。彼は君やカヤちゃんがあんていくに来るよりも前に、地元である秋田に帰ってしまったからね」

    入見「でも、出張自体聞いた事無いのに、どうして急に?」

    芳村「秋田県が、少子高齢化や若者の都会志向が原因で人口、特に労働人口が減少しているのは知っているかな?」

    トーカ「・・・全く知りません。て言うか、秋田の話題自体ほとんど聞いたことがありません」

    奈津美「私は、人口が減っていることぐらいは知っていました」

    芳村「それに伴って、喰種の数も減っているんだ。食糧が少なくなればその土地を離れだすのは当然のこと。しかし、そうも言っていられない事態が起きてしまったらしくて・・・」

    奈津美「と言いますと・・・?」

    芳村「従業員の数が不足しているみたいでね。それで、先日あんていくの従業員を貸してほしいと頼まれたんだ」

    古間「田舎も色々大変なんだねぇ」

    トーカ「でも、どうして奈津美さん何ですか?」

    奈津美「私が3歳まで秋田に住んでいたからですよね?」

    トーカ「あ~、なるほど」

    芳村「その通り。でも、嫌なら断っても良いんだよ」

    古間「その時は、この魔猿が店長の旧友を助けに馳せ参じるまでさ」

    芳村「欲しいのは女性従業員みたいだから君の出番はお預けかな」

    奈津美「確かに、あんていくの皆や高校の友達と離れ離れになるのは辛いです。でも、最近私の生まれ故郷がどんな所なのか気になる時もありました。なにより、両親を失った私を助けてくださった店長に少しでも恩返ししたいですし・・・その仕事、やらせてください」

    芳村「ありがとう、そう言ってくれると助かるよ」

    奈津美「それで、その喫茶店は何て言うんですか?」

    芳村「えっと、確か・・・『ぬぐだまれ』だったかな?」

    奈津美「ぬぐだまれ?」
  4. 4 : : 2015/04/05(日) 23:03:34
    奈津美「(そう言えば、『ぬぐだまれ』ってどういう意味何だろう?多分秋田の方言なんだよね)」

    奈津美はこの言葉の意味を調べるために、スマートフォンをポケットから取り出した。

    ちょうどその時、出発を知らせるアナウンスが車内に鳴り渡る。間もなく、秋田新幹線『こまち』は秋田へ向かって走り出した。

    奈津美「へぇ~、『温まってね』って意味なんだ。そうだ、今の内に秋田の事を下調べしておこうっと」



    正午、奈津美の乗っているこまちは盛岡駅に停車していた。

    奈津美「(あれ、東京から秋田まで4時間ぐらいかかるって聞いてたけど、大体2時間で岩手県に着いちゃった。いつもよりスピード出してたのかな)」

    彼女は予定よりも早く到着しそうだと考える。

    だが、先に結論を言おう。彼女の考えは甘い。

    地図を見ると、東京~盛岡と盛岡~秋田とでは前者の距離は後者の3倍ぐらいあるように見える。しかし、新幹線で秋田に向かった場合、この二つの区間を走るのにかかる時間はどちらも同じ約2時間だ。

    どうしてそんなことが起こるのか。それは、盛岡で行われる東北新幹線『はやぶさ』との連結解除が原因である。

    『はやぶさ』は名前の通りなかなか速い。しかし、『こまち』は新幹線と呼んでいいのか微妙なぐらいスピードが遅く、もはや特急列車並みである。

    だが、彼女はそのことを露ほども知らずに、後一時間ぐらいで秋田に着くだろうと期待していた。



    そして、今に至る。

    奈津美「(一時五十分・・・岩手から時間かかりすぎでしょ!どんだけ鈍間なのよ、この新幹線は。てか・・・寒っ!)」

    三月の秋田の気候は、下旬でも春と呼べる代物ではない。(暖かい時は暖かいが)

    奈津美「(北国に来たって感じがするなぁ。風邪引かないうちに、ぬぐだまれの人との集合場所に向かわないと・・・)」

    奈津美は集合場所である改札へと向かって行った。
  5. 5 : : 2015/04/06(月) 21:52:28
    奈津美「(・・・人少な)」

    これが、改札を出た奈津美が最初に思ったことだった。

    奈津美「(ここって、一応秋田県で一番大きな駅なんだよね。今日は土曜日なのに、これは少な過ぎるんじゃ・・・)」

    彼女はキョロキョロと周りを見渡す。

    ??「あれ、もしかして君が奈津美ちゃんかな?」

    左から彼女を呼ぶ声がする。声がした方を見てみると、そこには30前後の男が立っていた。

    奈津美「はい。と言うことは、あなたはぬぐだまれの従業員さんですか?」

    佐藤「そう言うこと。俺の名前は佐藤浩郎、よろしくね」

    奈津美「よろしくお願いします」ペコリ

    佐藤「君の事はうちの店長から聞いてるよ。さて、早速ぬぐだまれに案内するよ。着いて来て」

    佐藤が歩き出したので、彼女もそれに続く。

    佐藤「君さ、秋田駅の様子を見て驚いてた感じだったけど、何が驚きだった?やっぱり、人の少なさとか?」

    奈津美「あ、はい。失礼ながら、土曜日の割に少ないなぁと・・・」

    佐藤「やっぱりかぁ。失礼ながらとかは要らないよ。秋田県民も十分その事を理解してるからね。テレビでも取り上げられた事があるし」

    奈津美「へぇ、そうなんですか・・・」

    二人が歩いているのは、『ぽぽろーど』と言う名の秋田で一番人通りの多い道(私見より)である。しかし、奈津美は人通りが多いとは全く感じていなかった。

    佐藤「そこの階段から外に降りるから」

    佐藤に先導されながら、奈津美はぽぽろーどを降りた。

    そこには、秋田の町並みが広がっていた。

    佐藤「都会人の秋田駅前の様子を見た感想はどんなものかな?」

    奈津美「ん~、田舎だなぁとは思わないですけど・・・県内一の市街地だとは思えないって所ですかね」

    佐藤「リアルな感想だね」

    このようなことを話しながら、二人は秋田駅前の駐車場へと入って行く。手前の方に停めてあった黒い車の前に来ると、佐藤は車の鍵をポケットから取り出し鍵を開けた。

    佐藤「乗りな」

    佐藤に促され、奈津美は車の助手席に乗り込んだ。
  6. 6 : : 2015/04/07(火) 17:38:08
    がんばってください!平子特等!!
  7. 7 : : 2015/04/07(火) 19:47:10
    >>6
    ありがとうございます!
  8. 8 : : 2015/04/07(火) 21:19:08
    車で移動すること10分、佐藤は車を大町にある駐車場に停めた。そして、二人は車から降りる。

    佐藤「ここからもう少し歩くから」

    奈津美「あ、はい」

    ぽぽろーどを歩いた時と同じように、奈津美は佐藤の後ろを着いて歩く。そして、歩くこと5分。

    佐藤「ここが俺達がやっている喫茶店、『ぬぐだまれ』だ」

    一旦、奈津美は店の前で立ち止まり外観を眺める。

    奈津美「(大体の雰囲気はあんていくに似ているなぁ。でも、所々に独特な雰囲気がある)」

    佐藤「さぁ、入りな」

    佐藤に促され、奈津美はぬぐだまれの店内へと足を踏み入れる。

    佐藤「店長、連れてきましたよ」

    ??「はいはい。ちょっと待ってね」

    佐藤の報告を受け、店の奥から男性の声で返事が返って来た。それから少しして、『STAFF ONLY』と書かれた扉が開かれる。すると、50代半ばの男性が姿を現した。

    秋田「君が霜永奈津美ちゃんだね。私は、ぬぐだまれの店長を務めている秋田博満だ。これからよろしく」

    奈津美「よろしくお願いします!」ペコリ

    秋田「早速だけど、ここでの仕事や生活の事を色々説明しておこうか。適当な席に座りなよ」

    奈津美「はい」

    奈津美は近くにあった木の椅子に腰を掛ける。

    秋田「浩郎君。コーヒーを淹れてくれるかい?」

    佐藤「了解です」

    秋田「さて・・・・色々説明するとは言ったが、大まかな仕事内容はあんていくと大体同じだよ。喫茶店の仕事以外もね」

    奈津美「と言うことは、ぬぐだまれでも喰場の管理を行っていると言うことですか?」

    秋田「うん。それ以外にも、自殺者等の死体を集めて、力のない喰種への食糧配給も行っているよ」

    奈津美「本当にあんていくと同じなんですね」

    秋田「私と芳村さんが旧友だと言うのは聞いているかな?」

    奈津美「はい、聞いています」

    秋田「では、私があんていくの店員だったことは?」

    奈津美「えっ!?それは知りませんでした」

    秋田「そうか。肝心な所を話さない癖は、今でも変わらないみたいだね。私は、芳村さんと共にあんていくを経営していたんだよ。しかし、一身上の都合で秋田県に帰らなければいけないことになってしまってね。その時、秋田県でもあんていくのようなお店をやろうと決心したんだ。仕事内容がほとんど同じなのはそのためだね」
  9. 9 : : 2015/04/08(水) 21:18:20
    佐藤「コーヒー、淹れ終わりました」

    佐藤は奈津美が座っている椅子に最も近い机に、コーヒーの入ったカップを二つ置いた。

    奈津美「ありがとうございます」

    東京を出てから何も口にしていなかった彼女は、すぐにカップを口に近づけ、コーヒーを口にする。

    奈津美「うん、とっても美味しいです」

    佐藤「それは良かった」

    秋田「ところで、仕事について何か質問はあるかな?」

    奈津美「質問ですか。えっと・・・従業員は、お二人だけなんですか?」

    佐藤「残念ながらその通りだよ。2週間前までは高校生の女の子が一人居たんだけど、ちょうど3月で卒業でさ。仙台の大学に通うことになったから、必然的に秋田を離れることになったってわけ」

    秋田「それで、完全な人手不足になってしまったから、芳村さんに人手を貸してくれないか頼んだんだ。出て行ってしまったのは女の子だったから、出来れば女性をともお願いした」

    奈津美「そうだったんですか」

    佐藤「男二人のむさ苦しい職場だったから、君みたいな可愛い子が来てくれて嬉しいよ」

    奈津美「可愛いだなんてそんな・・・」

    秋田「浩郎君。今のセリフ、里奈ちゃんに伝えておくね」

    佐藤「や、止めてくださいよ!殺されます!」

    奈津美「里奈ちゃん?」

    佐藤「俺の嫁さんだよ」

    秋田「さて、話を戻そうか。次は、秋田県での君の生活について話をしよう。まずは君の住む家だけど、君が以前、秋田に居た時住んでいたアパートが空いていたから、そこに住んでもらう事にしたよ」

    奈津美「秋田店長が、私が以前秋田県に住んでいた事を知っていらしたとは・・・あっ、芳村店長から聞いたんですか?」

    秋田「まあ、彼からもその事は聞いていたが、そうでなくても私は知っていたよ。何故なら、私は君と会ったことがあるからね」

    奈津美「えっ、本当ですか!?」

    秋田「うん。奈津美ちゃんは3歳だったから、君はその時の事は覚えていないと思うよ。しかも、会ったのはその時と、君が産まれた時の二回だけだったからね。でも、君の両親である遥奈ちゃんと昭雄君の事なら良く知っているよ」
  10. 10 : : 2015/04/09(木) 21:47:06
    奈津美「・・・」

    秋田「そうか、二人はもう亡くなっているんだったね。辛い記憶を思い出させてしまったかな」

    奈津美「あっ、いや大丈夫です。昔の事ですから。それより、早くアパートが見たいです」

    秋田「そうだね。では、早速案内しようか。浩郎君、もう一度車をお願いするよ」

    佐藤「分かりました」

    こうして三人はぬぐだまれを発ち、先刻車を停めた駐車場へと向かった。駐車場への道中では、秋田についての質疑応答を中心に会話を弾ませた。

    そして、車で移動すること約5分。

    秋田「ここが、今日から君が暮らす家だ」

    それは、大町六丁目にあるアパートだった。車がアパートの駐車場に停められると、奈津美はすぐに車から飛び出し、その建物の外観を眺め始めた。

    秋田「久しぶりに生家に帰って来た感想はどうかな?」

    奈津美「あの・・・私、秋田に住んでいた時の事はほとんど覚えていないんです。このアパートも、写真で見た憶えしか無かったんです。それなのに、なんだか懐かしい感じがします」

    佐藤「自分の生まれ育った家って言うのは忘れたと思っていても、深層心理では憶えているもんだよ」

    秋田「じゃあ、部屋の方も見に行こうか」

    奈津美「はい!」

    奈津美は元気よく返事をする。それから、一同は三階にある奈津美の部屋へと向かった。



    ガチャ

    秋田「ここが君の部屋だ」

    奈津美「うわぁ、広い!学生の一人で暮らす部屋としてはかなり贅沢ですね!」

    秋田「それはもちろんだよ。以前君達が三人で暮らしていた部屋だからね」

    佐藤「荷物とかは全部運んであるからな」

    秋田「それと、うちの制服もクローゼットの中に置いておいたから。サイズはMサイズで良かったよね?」

    奈津美「はい。何から何までありがとうございます!」

    秋田「いやいや、ぬぐだまれの基本方針も助け合いだからね」

    佐藤「今日は荷物の整理とかで忙しいだろうし、この辺でお暇しましょうか。学校の話はまた後でも良いでしょう」

    秋田「それもそうだね」

    佐藤「奈津美ちゃん。学校が無い日の出勤時刻は八時半だから、遅刻しないでよ」

    奈津美「しませんよ」

    秋田「では、また明日」

    奈津美「はい!」

    ギィィ バタン
  11. 11 : : 2015/04/09(木) 23:47:39

    有馬「期待してるよ、タケ」

    期待です、頑張って下さい!
  12. 12 : : 2015/04/10(金) 19:46:54
    平子「ありがとうございます(有馬さんの事だから、いずれお気に入り1000個ぐらい貰って来いとか言って来るんだろうな)」

    ありがとうございますm(__)m
  13. 13 : : 2015/04/10(金) 20:58:23
    引っ越し初日の夜、荷物の整理を終えた奈津美は、東京を出発してからずっと心に決めていたある事を実行していた。

    奈津美「もしもし!?」

    トーカ『あっ、奈津美さん!無事に秋田に到着したんですね。そっちのお店の雰囲気はどうですか?えっと・・・ぬるだんごでしたっけ?』

    奈津美「ぬぐだまれだよ!雰囲気は、大体あんていくと同じ感じ。こっちの店長が元々あんていくに務めていて、秋田にもあんていくみたいなお店を作ろうって思ったのが開業のきっかけなの」

    トーカ『店長の教えは、秋田でも活きているんですね』

    奈津美「やっぱり芳村店長はすごいよ」

    トーカ『従業員の人達はどうですか?』

    奈津美「二人しかいないんだけど、二人とも優しくて良い人だよ。最初は秋田で暮していくことに不安だらけだったけど、仕事の方は大丈夫そうで一安心だよ」

    トーカ『それを聞いて私も安心しました。となると、残る不安は学校ですか?』

    奈津美「そうなるね。後一週間もあるのに、今から緊張してきちゃった」

    トーカ『奈津美さんなら大丈夫ですよ!』

    奈津美「そうかな・・・」

    トーカ『そうですよ!』

    奈津美「・・・うん。トーカにそう言われると、元気が湧いてくるよ」

    トーカ『その意気です!』

    奈津美「ありがとう。明日から早速仕事があるし、今日はこのぐらいにするね。明日また電話しても良い?」

    トーカ『もちろんです』

    奈津美「ありがとう。じゃあ、また明日。お休み」

    トーカ『お休みなさい』

    ガチャ

    奈津美「トーカに応援されてるんだし、頑張らないと!秋田のお客さんはどんな人達かな・・・」



    春。

    それは、出会いの季節である。
  14. 14 : : 2015/04/11(土) 16:55:38
    -Ⅱ-





    ガチャ

    奈津美「おはようございます」

    秋田「おはよう」

    佐藤「ちゃんと時間通りに来たみたいだな」

    奈津美「初日から遅刻は出来ませんよ。制服に着替えたいんですけど、更衣室はありますか?」

    秋田「そこのドアから入ってすぐの所にあるよ」

    奈津美「分かりました」



    奈津美「着替え、終わりました」

    秋田「じゃあ、開店準備に取り掛かろうか。奈津美ちゃんにはテーブル拭きをお願いするね」

    奈津美「はい」

    奈津美はテーブル拭き、佐藤は床のモップ掛け、秋田はコーヒー豆の準備にそれぞれ取り掛かる。

    一通りの作業を終えた頃には、時計の針が九時を指し示していた。開店時刻である。

    佐藤「今日も一日、頑張りますか」

    佐藤が、入り口の扉に掛けられている『CLOSED』と書かれた表札を裏返し、『OPEN』と書かれている面を表にした。

    いよいよ開店だ。

    奈津美「私、なんだかワクワクしてきました」

    秋田「奈津美ちゃんにとっては新天地での初仕事だからね」

    佐藤「張り切りすぎて、テンパらないでよ」

    ガチャ

    佐藤「いらっしゃいませ!」

    奈津美「い、いらっしゃいませ!」

    秋田「では、仕事を始めよう。まずは奈津美ちゃん、お願いね」

    奈津美「わ、分かりました!」

    奈津美が返事をすると、秋田と佐藤は各々の持ち場へと向かう。奈津美もまた、最初の客のもとへと向かった。

    客A「君、見ない顔だね。新人さん?」

    奈津美「はい!」

    奈津美にとっての秋田第一号の客は、20代の男性だった。彼の人種はと言うと・・・

    奈津美「(この匂い、喰種だ)」

    秋田の喰種も、人間社会に溶け込んでいるということを再認識する。

    奈津美「ご注文をお伺いいたします」

    客A「アイスコーヒー、砂糖なしで」

    奈津美「かしこまりました。アイスコーヒーお願いします!」
  15. 15 : : 2015/04/11(土) 22:18:03
    それから、奈津美は順調にウェイターの仕事をこなした。訪れる客の数はあんていくよりもかなり少なめだったが、従業員の数も少ないので、閉店時刻の六時が近づいてくる頃にはどっと疲れがたまっていた。

    そして、午後六時。

    奈津美「ありがとうございました!」

    バタン

    奈津美「・・・ふぅ、終わったぁぁ・・・」

    秋田「ご苦労様」

    佐藤「東京で働いていただけあるね。最初は緊張気味だったみたいだけど、中盤からの仕事っぷりはすごかったよ」

    奈津美「私なんてまだまだですよ」

    秋田「では、ご褒美に私が一杯コーヒーを淹れてあげよう。その後で、もう一つだけ仕事を頼んでも良いかな?」

    奈津美「わ、分かりました」

    秋田は奈津美の返事を聞くと、コーヒーを淹れにカウンターへと向かった。

    佐藤「やっぱり、向こうの方が繁盛してるの?」

    奈津美「向こう・・・あんていくの事ですか。確かに、あんていくの方がお客さんの数は多かったと思います。でも、こっちの方もそれなりに繁盛していると思いますよ」

    佐藤「・・・昔は、もっと繁盛してたんだ。それこそ、三人じゃどうやったって手が回らないくらいに。でも、秋田の人口がどんどん減っていくと共に、お客様の数もみるみる減っていった。人手不足とか言ってるけど、人間みたいに従業員に給料を払ってたら、三人雇うのが精一杯だと思うよ」

    佐藤は、哀愁の表情を浮かべて語った。

    佐藤「はぁ・・・秋田を何とか賑やかにできないものかなぁ」

    秋田「ため息をついていても何にもならないよ」

    嘆息をもらす佐藤をたしなめながら、秋田はコーヒーの入ったカップを机の上にそっと置いた。

    秋田「今はとりあえず、コーヒーを飲んで一休みしよう」

    奈津美「はい」

    佐藤「そうですね」

    三人は椅子に座り、各々カップの取っ手に指を掛けた。
  16. 16 : : 2015/04/12(日) 23:04:11
    それから、三人はゆっくりとコーヒーを嗜んだ。

    奈津美「・・・ごちそうさまでした。とても美味しかったです」

    秋田「それは良かった」

    奈津美「ところで、この後の仕事って一体何ですか?」

    秋田「君には、佐藤君と一緒に食糧調達向かってもらうよ。詳しい説明はしなくても大丈夫だよね?」

    奈津美「はい。あんていくで何回もやってきましたから」

    佐藤「それなら早速向かおうか。俺は早く帰って、息子の顔が見たい」

    奈津美「えっ、息子さんもいらっしゃるんですか!?」

    佐藤「あ、ああ」

    奈津美「何歳ですか!?」

    佐藤「じゅ、十一歳だけど・・・」

    奈津美「ほほう」

    佐藤「奈津美ちゃん、何か怖いよ。まさか食べる気じゃ!?」

    奈津美「まっさか~。実は私、自分より年下の子供が男女関係なく大好きなんです。もちろん、食糧としてじゃないですよ」

    佐藤「へ、へぇ・・・変わった趣向の持ち主だね。とにかく、行こうか」

    奈津美「はい!」



    ぬぐだまれから車で三十分。二人の乗る車はとある山奥の道路の路肩に停車した。

    佐藤「この崖が、ここら辺で特に自殺者の多い場所だ」

    奈津美「自殺者が選ぶ場所は、東京も秋田も似たような所なんですね」

    佐藤「同じ人間なんだから、そういうものだろ」

    奈津美「でも、秋田って人口が少ないんですよね?雰囲気も都会と違って和やかですし、自殺者なんてそうそう居ないんじゃないんですか?」

    佐藤「普通はそう思うよな。でも、実は秋田県は自殺率が47都道府県で一番高いんだ」

    奈津美「えっ!?そうなんですか!?意外です」

    佐藤「実のところ、秋田は平均年齢が高く、自殺者が多い中高年の人口割合が大きいのがこの結果の一番の原因だ。だから、秋田県民が別段自殺を選びやすいって事ではないんだ。でも・・・やっぱり悲しいよ。まっ、お陰で食糧調達に苦労せずにすんでるんだけど」

    奈津美「・・・とにかく、早いこと仕事を済ませちゃいましょう」

    佐藤「そうだな」
  17. 17 : : 2015/04/13(月) 21:52:30
    二人は命綱も無しに、崖から飛び降りる。しかし、喰種である二人は無難に着地し、自殺者の遺体の捜索を始めた。

    結局、15分間の捜索で二体の遺体を発見し、それらを佐藤が持ってきた袋へと詰め込んだ。

    それから、二人は斜度60度超の崖を自力で登り、袋を車の後部座席に置く。そして、すぐにその山を後にした。



    ぬぐだまれに戻ってきた頃には、時刻は八時を回っていた。

    佐藤「これが今回の収穫になります。成人男性二人です」

    秋田「了解」

    佐藤「今日はもう帰っても良いですか?」

    秋田「ああ、かまわないよ」

    佐藤「じゃあ、帰りますね。お疲れ様でした」

    奈津美「お疲れ様でした!」

    秋田「お疲れ」

    ガチャ バタン

    秋田「さて、奈津美ちゃんの仕事も終わったわけだけど、ぬぐだまれの仕事はどうだったかな?」

    奈津美「とても楽しかったです。お客さんを見ていて、このお店も、人間、喰種を問わず、とても愛されているということが感じられました。それに・・・お二人の秋田県への郷土愛も感じました」

    秋田「・・・私には、この喫茶店を立ち上げてからずっと抱いている夢がある。それは、秋田県を喰種にとっても、人間にとっても住みよい町にするという夢だ」

    奈津美「喰種と人間が、共に住みよいと感じる町ですか・・・」

    秋田「食うものと食われるもの。喰種と人間は相反する存在だけど、同じ人として共生することは可能だと思うんだ。この小さな喫茶店で出来る事は、とても小さな事だけかもしれない。でも、私はこの夢に向かって、その小さな事を一つ一つ積み重ねていきたいんだ」

    奈津美「店長の夢、素敵だと思います。私も、その夢の実現に少しでも貢献したいです」

    秋田「そう言ってくれて嬉しいよ」

    奈津美「・・・では、私も帰りますね」

    秋田「今日は遅くまでありがとう」

    奈津美「いえ・・・お疲れ様でし」

    秋田「あっ!」

    奈津美「ど、どうかしましたか!?」

    秋田「そう言えば、まだ奈津美ちゃんが通う学校の事を話してなかったね。もし良ければ、今説明しても良いかな?」

    奈津美「・・・はい!お願いします!」
  18. 18 : : 2015/04/15(水) 21:36:21
    秋田「では、説明しよう。君が来週から通う学校は、秋田東高校という学校だ」

    ※現在、秋田東高校という名前の高校は存在しません。また、昔あった定時制の学校である秋田東高校とは無関係です。

    秋田「場所は手形の方なんだけど、地名で言っても分からないよね?」

    奈津美「はい・・・」

    秋田「そうだよね。場所については、明日辺りにでも浩郎君に案内させるよ。初登校の日は4月9日の月曜日だ。そして、通学手段なんだけど、自転車には乗れる?」

    奈津美「はい、乗れます。でも持ってませんよ」

    秋田「それについては大丈夫だ。自転車はこちらで用意しておくから」

    奈津美「良いんですか!?」

    秋田「わざわざ東京から引っ越してもらったんだ。このぐらいの事はするよ」

    奈津美「ありがとうございます!」

    秋田「いやいや、逆にこちらが感謝したいぐらいだよ。説明しなければいけないことはこのくらいかな。何か分からないことがあれば、いつでも質問して良いからね」

    奈津美「はい!」

    秋田「・・・これで話は終わりだ。帰っても大丈夫だよ」

    奈津美「分かりました。お疲れ様でした」

    ガチャ バタン



    夜九時頃、アパートに帰宅した奈津美は電話機を前にしていた。理由はもちろん、トーカに電話をかけるためだ。

    彼女は受話器を手に取り、電話番号を入力する。

    プルルルル プルルルル

    奈津美「もしもし?」

    トーカ『奈津美さん!』

    奈津美「また電話したくなっちゃったんだけど、勉強の邪魔になってない?」

    トーカ『全然大丈夫ですよ!毎日でも良いって言ったじゃないですか。それで、秋田での初仕事はどうでしたか?』

    奈津美「少し大変だったけど、楽しかったよ。やっぱり喫茶店は良いなって思ったよ」

    トーカ『秋田の事は何にも分からないですけど、そのことについては同感です。でも、客との会話とか大丈夫ですか?言語は通じますか?』

    奈津美「げ、言語?秋田は日本国内だよ!?」

    トーカ『それは分かってますよ。でも、今日テレビで、秋田県の上小阿仁村のロケを見たんですけど、そこの人達の話す言葉は、日本語だとは思えませんでした』

    奈津美「・・・秋田弁ね。それは一応日本語だよ。そう言えば、今日来たお客さんは、訛りは結構感じたけど、訳が分からなくなるほどの秋田弁を話す人もいなかったなあ」

    トーカ『限られた所でしか使われていないんですかね?』

    奈津美「どうだろう・・・明日店長に聞いてみるよ」
  19. 19 : : 2015/04/16(木) 21:54:49
    奈津美「・・・あのさ、トーカ。話は変わるんだけど・・・喰種と人間って、共生出来ると思う?」

    トーカ『共生ですか・・・共存ではなくて』

    奈津美「うん、共生だよ」

    トーカ『共存は出来ると思います。そもそも、これを否定したら私達は生きていけませんから。でも・・・共生は、難しいと思います。共に無害ならまだしも、互いに利益をもたらしあうというのは、捕食者と被捕食者の関係としては考えにくいです』

    奈津美「そうだよね・・・私もそう思う。でも、私はそんなあり得ないことを夢見る、秋田店長を応援しようと思うんだ。秋田県は今、喰種と人間共通の大きな問題を抱えてる。それは逆に言えば、秋田を発展させるために、両方が同じ目標を持っているとも言えると思う。だから、喰種と人間の共生も不可能ではないと思うの」

    トーカ『同じ目標、それは確かに希望が見えてきますね』

    奈津美「でしょ!それで、もし秋田県で共生が実現したら、それを活かして東京でも共生を実現させることが出来ると思うんだ。そうなったら、トーカは後ろめたい気持ちを何一つ持たず、堂々と依子ちゃんの隣を歩けるね」

    トーカ『はい!私もその夢、東京から応援します!』

    奈津美「ありがとう!後で店長にも伝えておくね!じゃあ、今日はこの辺で」

    トーカ『はい。お休みなさい』

    奈津美「お休み」

    ガチャ



    次の日、ぬぐだまれに出勤した奈津美はトーカに言った通りに、秋田店長に秋田弁の事を質問した。

    秋田「基本的には、普段から標準語を話すよ。訛りや我々にとって非常に馴染み深い秋田弁の言葉は混ざることもあるけど、会話が大変になるようなことはあまりないね」

    奈津美「それじゃあ、上小阿仁村のロケはやらせですか!?」

    秋田「いやいや、これはあくまで基本的にはという話だ。80歳を超えるような高齢の人は、強烈な秋田弁で話すことも多いね」

    奈津美「と言うことは、年齢によるということですね」

    秋田「大まかに言えばそうなるかな」

    奈津美「勉強になりました。それと、昨夜店長の夢をあんていくの親友に話したんですけど、彼女も応援すると言ってくれました」

    秋田「それはありがたい。その子の応援に応えるためにも、頑張らないとね」

    佐藤「・・・あっ、九時なった。店長、入り口の表札を裏返してきますね」

    秋田「うん、お願い。さて、今日も一日張り切っていこう」

    奈津美「はい!」



    喰種と人間の共生。

    この大きな夢を実現するための第一歩として、ぬぐだまれをどちらにとってもぬぐだまれる(温まれる)場所にするために、三人は今日も働く。
  20. 20 : : 2015/04/17(金) 21:55:12
    -Ⅲ-





    四月九日、始業式。

    新たなクラスの、新たな仲間との出会いに、ある者は期待を、ある者は不安を心に抱きながら、桜が色鮮やかに咲き乱れる通学路を歩く。

    そんな情景を想像する人もいるのではないだろうか。



    奈津美もまた、新たな出会いへの期待に胸を躍らせながら、学校へ向かって自転車を走らせていた。

    そして、道の両脇に植えられている桜は・・・

    つぼみ一つなく、春の訪れを何一つ感じさせなかった。

    奈津美「(東京ならもう散り始めるころなのに、改めてここが北国だってことを思い知らされたよ・・・)」

    白い息を吐きながら、奈津美はペダルを漕ぎ続ける。



    学校へと到着した奈津美は、初登校ということで、教室ではなく職員室へと向かった。そこで担任教師の伊藤、副担任の佐川と顔を合わせた後、彼らに案内されながら、彼女のホームルームとなる3年E組の教室へと辿り着いた。

    伊藤「教室に入ったら、早速自己紹介をしてもらうからよろしく」

    奈津美「はい」

    伊藤「じゃあ、行こうか」

    伊藤が入り口の扉を開く。

    奈津美「(ちょっと緊張してきちゃった。でも、いよいよだ!)」

    奈津美は伊藤の後に続いて、3-Eの教室へと足を踏み入れた。転校生の出現に、生徒達がどよめき始める。

    伊藤「ごほんっ!えー、皆さんおしゃべりを一旦止めましょう。転校生に自己紹介をしてもらいます」

    伊藤「では、どうぞ」

    奈津美「あっ、はい。えっと・・・東京の清已高校から来ました、霜永奈津美です。よろしくお願いします!」ペコリ

    パチパチパチパチ

    伊藤「君の席は、そこの空いている所だから」

    奈津美「分かりました」

    奈津美の席は真ん中の列の、前から5番目だ。喰種の鋭優れた聴覚によって聞こえてくるひそひそ話が、自分への悪口ではないことに安堵しながら、彼女は自分の席に着席する。

    隣の席に座っているのは、爽やかな雰囲気の男子だった。

    奈津美「(けっこうイケメン・・・タイプではないけど)」

    そんなことを思っていた時だった。その男子が、奈津美に話し掛けてきた。

    ??「これからよろしくね。奈津美さん」

    奈津美「う、うん!えーっと・・・名前は?」

    悠介「清原悠介」

    奈津美「悠介君だね。よろしく!」
  21. 21 : : 2015/04/18(土) 21:08:42
    ??「ちょっと悠介!抜け駆けしないでよ!」

    奈津美の後ろの席に座っている女子が、悠介を咎めた。

    悠介「自己紹介に抜け駆けとかないべ」

    香織「それもそっか・・・私の名前は、須田香織。よろしく!」

    奈津美「よろしくね、香織ちゃん」

    香織「ちゃんなんて付けないで、呼び捨てで良いよ。私もそうするから」

    伊藤「須田さん、自己紹介は後にしてください。皆さんにとっても新クラスですし、ちゃんと時間は取りますから」

    香織「はい、すいません」

    伊藤「これから皆さんには、健康調査書などの各種書類のクラス記入欄に、新クラスと出席番号を記入してもらいます。書類を渡すので、一番の人から来てください」

    伊藤の指示を聞き、奈津美はカバンの中からペンケースを取り出す。

    悠介「そのストラップ、とっとこハム太郎?」

    奈津美「そうだよ。子供の頃から好きなんだ。もしかして、悠介君も好きなの?」

    悠介「そんなわけねぇべ。俺じゃなくて、俺の妹が好きなんだ」

    奈津美「妹!?歳は!?」

    悠介「えっと・・・10歳」

    奈津美「10歳・・・」ニヤッ

    悠介「何だか不気味だべ」

    このようなやり取りをしながら、奈津美達は配られた各種書類のクラス欄に、3-Eと記入した。

    伊藤「皆さん、そろそろ終わりましたね?書類を回収するので、後ろから前に回してください」

    伊藤の指示で、書類が種類ごとに集められる。

    伊藤「それでは、自己紹介の時間にします。出席番号一番の人から順に、前に出て、自己紹介をしてください。では、一番の相田さんからどうぞ」

    自己紹介が始まった。その内容は主に名前、二年生でのクラス、所属部活動、フリートークといったものだった。フリートークの内容も大体皆同じで、今年の抱負だった。

    伊藤「次、清原さんどうぞ」

    悠介「はい」

    悠介は返事をして立ち上がり、黒板の前へと移動する。

    悠介「清原悠介と言います。前は2年F組でした。所属している部活動はありません」

    奈津美「(へぇ、意外)」

    雰囲気から運動部に入っていることを予想していた奈津美は、悠介の無部発言に内心驚いた。しかし、悠介の次の発言が、彼女を更に驚かせることとなる。

    悠介「フリートークの内容ですが・・・喰種クイズを出したいと思います!」

    奈津美「(え・・・ええ!?)」
  22. 22 : : 2015/04/19(日) 19:33:28
    奈津美「(どうして突然喰種のクイズを!?まさか、私が喰種だってばれたんじゃ・・・でも、自己紹介しかしてないのにばれるはずが・・・)」

    男子生徒A「出ました!悠介の喰種クイズ!」

    女子生徒A「悠介君って本当に喰種が好きだよね」

    奈津美「・・・どういうこと?」

    香織「実はあいつ、喰種マニアなの。それで、前に出て何かを話す機会があるたびに、あいつが喰種クイズを出すのは恒例行事なのよ」

    奈津美「喰種マニアねぇ・・・」

    悠介「では問題です。Rc細胞によって構築される、喰種が持つ捕食器官を何と言うでしょうか?」

    男子生徒B「分かるかよ~。Rc細胞って言葉自体初めて聞いたぞ」

    悠介「分かる人はいるかな?」

    シーン

    奈津美「(そりゃそうでしょ。こんなの知ってる人間、喰種捜査官ぐらいしかいないって)」

    悠介「居ないのか~。じゃあここは・・・奈津美さんに応えていただきましょう」

    奈津美「私!?」

    悠介「勘でも良いべ」

    奈津美「(どうしよう。答えが赫子なのは分かるけど、それを答えるわけにはいかない。だから、間違いを答えればいいのは分かってる。でも・・・正解が分かっているのに、敢えて間違いを答えるって難しい)」

    悠介「大分考え込んでいるけど、心当たりでもあるんだべか」

    奈津美「いえいえ全く!えっと、答えは・・・グールブレードで!」

    悠介「・・・プッ。カッコいい名前だねぇ」

    奈津美「なっ!?」

    悠介「正解は赫子でした~。以上で自己紹介を終わります」

    パチパチパチパチ

    自己紹介を締めた悠介は、自分の席へと戻る。

    奈津美「無理やり答えさせといて笑うなんて、酷い」

    悠介「わりわり。あんまし良い名前だったもんだから」ニヤニヤ

    奈津美「もぉ・・・(本当は知ってるのに、それを言えないのが歯がゆい・・・)」

    この後も自己紹介は続けられた。香織の自己紹介では、彼女が女子硬式テニス部部長であることが判明した。

    そして、40人の生徒の自己紹介が終了した。

    伊藤「では、15分後に始業式が始まりますので、廊下に並んでください」
  23. 23 : : 2015/04/20(月) 20:17:53
    伊藤の指示によって3-E生徒は廊下に整列し、大体育館へと向かった。

    大体育館では、始業式と新任式が行われた。校歌斉唱が行われたが、当然ながら奈津美は歌詞を覚えていないので、口を適当に動かしてごまかした。

    それから、校長の話と生徒会長の話を聞き。続けて新任式となり、新任の先生方が紹介された。しかし、転校生の奈津美にとっては、この学校に居る先生は全員初対面であり、新任かどうかはどうでも良かった。

    教頭「これで、新任式を終わります。礼」

    教頭の言葉で、長かった式が締められた。この後は昼休みになっており、多くの生徒が早く自由になりたいがために早足で教室へと戻った。



    昼休み、奈津美は自分の席で昼食を取ろうとしていた。机の上には、一つのサンドイッチと水が置かれていた。

    香織「うわっ、奈津美のお昼それだけ?」

    女子とは言え、高校生のおなかを満たすには余りにも少ない昼食に、香織は驚きの声を上げる。香織の手には、運動部の男子にも負けない程の大きさの弁当箱が握られていた。

    奈津美「私、小食なの」

    香織「そう言う女子も良く居るけど、私は食べないとダメだと思うよ」

    奈津美「そ、そうだね。それより香織ちゃん・・・香織は、いつもそのお弁当なの?」

    香織「もちろん。運動部なんだから、食べなきゃやってらんないよ!」

    奈津美「さっすが部長」

    香織「どうも。そうそう、隣に座っても良い?」

    奈津美「悠介君の所?私は良いけど、悠介君はどこで食べるの?」

    香織「悠介なら、D組に友達が居るからそっちに行ったよ」

    奈津美「それならどうぞ」

    香織「サンキュー」

    香織が悠介の席に着席する。そして、中身もぎっしりの弁当箱を開け、食事を始めた。奈津美もまた、喰種にとっては非常に不味いサンドイッチを食べ始めた。

    香織「そう言えば奈津美って、家はどこなの?」

    奈津美「大町六丁目のアパートだよ」

    香織「あちゃ、そっち方面か。私とは逆方向ね。あっ、でもその方向なら悠介と同じだわ」

    奈津美「悠介君と?」

    香織「うん。あいつは楢山だから、方向は同じよ。奈津美ってさ、秋田の町の事はどれくらい知ってるの?」

    奈津美「全然知らない」

    香織「ほほう。それなら、悠介に教えてもらいなよ。下校中にでもさ」

    奈津美「それって・・・悠介君と一緒に帰るってこと!?」
  24. 24 : : 2015/04/21(火) 21:18:55
    奈津美「それは悠介君に悪いよ」

    香織「悪いことなんか何もないよ。寧ろ、奈津美みたいな可愛い子と一緒に帰れて喜ぶと思うよ」

    奈津美「可愛くないって」

    香織「謙遜しないの。とにかくこれは決定。悠介には私から言っておくから」

    悠介「俺が何かした?」

    香織「ナイスタイミング悠介!」

    悠介「?」

    香織「悠介、帰りはいつも一人でしょ?だったら、奈津美と一緒に帰ってあげな」

    悠介「良いけど・・・」

    奈津美「(良いのか)」

    悠介「でもなして?」

    香織「奈津美はまだ秋田に来て日が浅いの。だから、少しずつで良いから秋田の街を案内してあげて」

    悠介「そういうことだば了解だべ。それじゃあよろしく、奈津美さん」

    奈津美「よ、よろしく・・・」



    放課後、生徒昇降口で靴を履き替える奈津美の傍に、右手に手提げカバンを持ち、肩にギターケースを背負っている悠介の姿もあった。

    奈津美「(まさか、転校初日に男子と帰ることになるとは・・・)」

    悠介「奈津美さんも登下校は自転車?」

    奈津美「うん」

    悠介「そいだば良かった」

    奈津美「(それにしても、すごい秋田訛りだなぁ。店長は訛りは年齢によるって言ってたけど、ちょっと信用できなくなってきた)」

    奈津美はそんなことを思いながら、悠介と共に駐輪場へ行き、自転車を発進させた。

    悠介「今日は秋田駅前を案内するべ」

    秋田の中心である秋田駅は、学校から見て二人の家と同じ方向にある。そのため、悠介は普段から度々秋田駅に寄り道していた。これが、彼が秋田駅前を最初の案内先とした概ねの理由である。

    悠介「あそこがフォーラスで、隣がアルス。向こうにあるのがフォンテ。買い物を楽しむならその辺かな。後は・・・」

    悠介が説明を挟みながら、二人は一時間ほど駅前を散策した。

    悠介「大体こんな感じだべ」

    奈津美「ありがとう。すごくためになったよ」

    悠介「どういたしまして。今日はこれで帰ろうか」

    奈津美「そうだね」

    二人は再び帰路に着いた。まだ家への道を熟知していない奈津美を、悠介が先導する形で自転車を走らせる。

    やがて、二人は人通りの少ない路地へと入り込んだ。
  25. 25 : : 2015/04/22(水) 22:05:50
    奈津美「そう言えば、悠介君って香織と仲良いけど、どういう関係なの?」

    悠介「どういう関係って?」

    奈津美「だから、付き合ってたりするのかなぁ・・・て」

    悠介「まさか。香織はただのクラスメイトだべ。でもまあ、数少ない三年間クラスが同じ友達だから、普通のクラスメイトよりは仲良いかも」

    奈津美「なるほどね。ところでさ、いつの間にか人通りの少ない通りに来ちゃったけど、この道で合ってるの?」

    悠介「さい!いつもの癖でこっちに来ちゃった!」

    奈津美「いつもの癖?」

    悠介「あっ、いや・・・何でもないべ。それより、早く大通りに出よう。こういう所は喰種が良く出るべ」

    奈津美「・・・うん。そうだね」

    悠介の喰種に警戒する姿を見て、奈津美は彼が本物の喰種マニアであると認識した。事実、多くの喰種はこのように人通りが少ない路地を喰場に選ぶからだ。

    そしてこの路地も、一体の喰種の喰場となっていた。

    奈津美「(今は様子見中ってところかな。私が喰種だって事には気づいてないみたい)」

    奈津美は、自分達が人通りの少ない道に来たことを話題に持ち出した時点で、その喰種の存在に気づいていた。しかし、それは喰種が持つ人間をはるかに上回る五感によって察知できた事柄であるため、この事を悠介に伝えるわけにはいかなかった。

    奈津美「(このままやり過ごせると良いんだけど・・・)」

    背中に視線を感じながら、奈津美は自転車のスピードを速めた。それにつられて、悠介の自転車のスピードも速くする。しかし、その行為は仇となった。喰種が放っていた気配の種類が変わったのだ。

    それは、殺気だった。

    その瞬間、喰種が走り出した。二人の場所からはその姿を確認する事はできないが、奈津美はその足音から喰種の位置を把握していた。

    奈津美「(どうしよう・・・喰種であることを示せば、恐らく私は襲われない。もし襲われても、大抵の奴なら撃退する事だって出来る。でも、それを行ってしまえば悠介君の私の正体がばれることになる。そうなったら、彼を殺さなければいけなくなってしまう。だけど、このまま何も行動をしなければ、彼は喰種に殺されてしまう・・・)」

    転校初日にして突き付けられた究極の二択に、奈津美は葛藤する。そして彼女が答えを選び終えない内に、その喰種が二人の前に姿を現した。

    悠介「!?」

    喰種A「先ずは・・・女からだ!」

    最初の獲物に奈津美を選択した喰種は、目にもともらぬ速さで彼女に飛び掛かった。
  26. 26 : : 2015/04/24(金) 22:31:53
    喰種の急襲に対し、奈津美は冷静だった。

    彼女は一瞬の内に攻撃の軌道を読み、自分の正体がばれないように最小の動きかつ最大限の遅さでそれを回避しようとする。しかし、そこで予期せぬ事態が発生した。

    悠介「危ない!」

    奈津美が回避に移るよりも早く、悠介が彼女の体を突き飛ばしたのだ。突然の事態に彼女の反応は遅れ、不覚にも地面に尻餅をつくが結果的には回避に成功した。

    喰種A「ちっ!」

    悠介「ふぅ、良かったべ」

    奈津美「(あんたが何もしなければもっと安全に避けれたのよ!でも・・・悠介君の反応、早く過ぎない?)」

    普通の人間なら喰種の急襲に反応出来る筈が無い。にもかかわらず奈津美を突き飛ばした悠介の反射速度に、彼女は疑問を抱き始める。そんな彼女に追い打ちをかけるように、悠介は彼女が予想だにしていなかった言葉を口にした。

    悠介「奈津美さんは下がってて。このだじゃく野郎は、俺が駆逐するから」

    奈津美「(駆逐?一体・・・何を)」

    悠介は背負っていたギターケースを下ろし、中から棒状の何かを取り出した。そして、それが何であるかは喰種である二人はすぐに理解した。

    喰種A「クインケだと!?」

    奈津美「悠介君・・・あなたは・・・何者なの?」

    悠介「俺の正体は・・・喰種捜査官さ」

    喰種A「まさか白鳩だったとは」

    奈津美「(それは私の台詞。転校先のクラスメイトで、しかも隣の席の男の子が・・・私達の天敵の喰種捜査官だったなんて)」

    悠介「因みにこの武器はクインケと呼ばれる物の一つで、名前は"キリタンポ"って言うんだ」

    悠介が自身の武器を説明する。彼のクインケは、その名の通り秋田の郷土料理であるきりたんぽを巨大化したような外見をしていた。具体的には長さ1メートルほどの棒で、先端から根元付近に至るまで空洞が開けられていたのであった。

    奈津美「(それにしても、クインケに食べ物の名前はおかしいでしょ・・・)」

    喰種A「くそ!こうなれば・・・」

    喰種は尾骶骨に当たる部位からRc細胞を放出し、それを用いて尻尾のような物を形成した。赫子である。

    悠介「尾赫だか」

    喰種A「死ねぇ!」
  27. 27 : : 2015/04/26(日) 19:06:51
    喰種は最初の奇襲を遥かに上回る速度で悠介に飛び掛かる。しかし、悠介はこの攻撃を軽々と躱してみせる。

    喰種A「何だと!?」

    攻撃を回避されたことで喰種は悠介に無防備な姿を晒していた。そのスキを仕留めるべく、彼は喰種の身体へとキリタンポを振るう。だが、その攻撃は空振りに終わった。

    奈津美「(この喰種・・・思ったより動ける)」

    先程とは逆に、悠介の無防備な姿が晒される。それを逃すことなく喰種は自身の赫子を彼の身体目掛けて突き出した。

    ガキィッ!

    彼は間一髪、赫子をキリタンポで弾いて難を逃れた。

    奈津美「(へぇ、やるじゃん)」

    喰種もまた同様の感想を抱いたのか、一旦悠介から距離を取った。

    悠介「赫子はそこそこ使い慣れているようだし、戦闘経験もある程度あるみたいだからレートはB+ってところだべか」

    喰種A「そいつはどうも」

    悠介「んだども、戦いにおいての甘さは否めない。距離を取ったからって安全だと考えているようじゃね」

    悠介は、キリタンポの先端を喰種へ向ける。次の瞬間・・・十数個の結晶状に固められたRc細胞の弾がキリタンポの中心の穴から放出された。

    喰種A「なにぃ!?」

    悠介に遠距離攻撃の手段があるとは全く思っていなかった喰種は、成す術もなくほとんどの弾を体に浴びた。

    奈津美「(キリタンポとか言うクインケ。あれは形状からしてほぼ間違いなく甲赫のクインケだ。でも、今の遠距離攻撃は羽赫特有のもの。つまりあのクインケは、キメラクインケ!?)」

    次々と判明する、悠介と彼の武器の力に奈津美は呆気にとられる。そんな彼女を尻目に、彼は一気に喰種との距離を詰める。

    悠介「とどめだ!」

    パァン!

    悠介の渾身の一振りが、喰種の身体の首から上を吹き飛ばした。

    悠介「ふぅ・・・あっ、奈津美さん。ショッキングな光景を見せてわりな」

    奈津美「う、うん・・・こういうのには耐性あるから大丈夫だよ・・・ははは・・・」

    厄介な男と隣席になってしまったと、奈津美は心の中でため息をついた。
  28. 28 : : 2015/04/26(日) 22:00:31
    それから何事もなく、二人は奈津美の住むアパートの前に辿り着いた。

    奈津美「今日は色々ありがとう。でも、悠介君が喰種捜査官だったのは驚きだよ」

    悠介「あっ、そうだ。その事だどもクラスの皆には内緒にしてけれ」

    奈津美「良いけど・・・どうして?」

    悠介「自分で言うのもおかしいけども、俺みたいなのは特例なんだ。だから、大っぴらにされると上が困るらしくて」

    奈津美「分かった。この事は秘密にする」

    悠介「どうもな。じゃあまた明日」

    奈津美「うん」

    悠介は奈津美に手を振りながら、自分の家へと自転車を漕いでいった。

    奈津美「(やっぱり秋田県でも高校生の捜査官は特例なんだ。まるで・・・)」



    午後五時。ぬぐだまれに出勤した奈津美は、制服に着替えた後すぐに仕事に移った。彼女が出勤して来る時刻は当然ではあるが学生の学校帰りの時刻と重なるため、一日で一番忙しい時間帯となっている。

    奈津美「カフェラテ一つお願いします!」

    佐藤「奈津美ちゃん、次3番テーブルお願い」

    奈津美「分かりました!」

    閉店時刻の六時まで一時間という短い時間だが、彼女は懸命に仕事をこなした。

    秋田「今日の仕事はこれで終わりだ」

    奈津美「ふぅ・・・」

    佐藤「お疲れ、奈津美ちゃん」

    奈津美「ありがとうございます。でも、一時間しか顔を出せなくて申し訳ないです」

    秋田「いやいや、その一時間が一番人手の欲しくなる時間だからね。すごく助かっているよ」

    佐藤「でも、欲を言えばもうちょっと早く来てほしいかな。学校が終わってすぐに来てくれれば、四時ぐらいには出勤できると思うけど」

    奈津美「すいません。今日の帰り、友達に誘われて寄り道しちゃいました」

    佐藤「もう寄り道するような友達ができたの?」

    秋田「それは良かった。一つ言っておくけど、遊びに誘われたときは店の事は気にしないで遊びに行っても良いからね。ただ、その時は連絡してくれると助かるね」

    奈津美「分かりました。ところで二人にお聞きしたいんですけど・・・清原悠介って喰種捜査官はご存知ですか?私の隣の席の人なんですけど」

    秋田「ほほう、清原悠介か」

    佐藤「ウッソ!隣の席なの!?」

    奈津美「やっぱり知ってたんですね!」

    佐藤「もちろん。清原三等捜査官と言えば、天才捜査官として有名だからね。去年の11月、高校二年生の時に特例として喰種捜査官に就任。ついた異名は・・・"秋田の有馬"だ」
  29. 29 : : 2015/04/27(月) 18:37:49
    奈津美「"秋田の有馬"ですか。確かにぴったりの異名ですね」

    秋田「現在の実力は本物には遥かに劣るけど、才能は有馬貴将にも匹敵すると言われている。上位捜査官になるのも時間の問題だろうね」

    奈津美「それは末恐ろしい・・・と言うか、二人ともご存知なら事前に教えて下さいよ!」

    秋田「ごめんごめん。すっかり忘れていたよ」

    佐藤「そう言えば、あいつのこともまだ話してませんね」

    奈津美「東高校にまだ誰かいるんですか?」

    秋田「うん。東高校には奈津美ちゃん以外にもう一人喰種が通っているんだ」

    奈津美「ほっ・・・喰種ですか。捜査官じゃなくて良かった」

    佐藤「そいつはどうだろう。下手な捜査官よりもあいつの方が面倒な気がする」

    奈津美「一体どんな喰種何ですか!?」

    秋田「極めて偏食性の強い喰種だ」

    奈津美「偏食家ですか。20区にいた変態グルメを思い出します」

    秋田「変態グルメ?その人の事は知らないが、彼の場合は美人の女性を好んで食糧とする。元は仙台に住んでいたらしいんだが、より美人が多いと言われる秋田にわざわざ引っ越してくる程の徹底ぶりだ」

    奈津美「秋田美人ってやつですか」

    佐藤「実際は美人なんて大して居ないのにご苦労なこったよ」

    秋田「浩郎君、後で里奈ちゃんに伝えておくね」

    佐藤「全く居ないとは言ってませんよ!」

    奈津美「でも、喰種にとっては面倒な存在だとは思えませんが」

    秋田「それが、彼は共喰いも行うという話もあるんだ。もちろんこれは噂に過ぎないから定かではないけどね」

    佐藤「それと獲物の殺し方も面倒くさいんだ。慎重派なのかただ変態なのかは分からないけど、二、三週間ぐらい獲物をつけて回るらしいぜ。それ故CCGに付けられた呼称は"追跡者(チェイサー)"だ」

    奈津美「要はストーカーってことですね。気持ち悪・・・」

    佐藤「もし共喰いの噂が本当なら奈津美ちゃんが狙われる確率はかなり高い。十分用心しておけよ」

    奈津美「はい。それで、彼の人間としての名前は?」

    佐藤「石川優だ」

    奈津美「分かりました。気を付けます」
  30. 30 : : 2015/04/27(月) 19:17:26
    宇井 郡「私も先輩みたいなSS書けるようになりたいです」

    期待です!頑張ってください!
  31. 31 : : 2015/04/27(月) 21:20:01
    >>30
    平子「郡は俺みたいな凡人ではなく有馬さんのような天才を目指すべきだ」

    期待コメント、本当にありがとうございます!
  32. 32 : : 2015/04/27(月) 21:47:03
    仕事を終えアパートの自室へと帰宅した奈津美は、毎日の習慣となっているトーカとの電話に夢中になっていた。話の内容は、今日ぬぐだまれで話題になった二人のことである。

    トーカ『隣が喰種捜査官だったなんて、ついてないですね』

    奈津美「本当だよ。駆逐されちゃったら幽霊になってでもトーカに会いに行くね」

    トーカ『縁起でもないこと言わないでくださいよ。奈津美さんが死んじゃったら私・・・』

    奈津美「大丈夫だよ。今まで一度だって人間に正体がばれたことは無いし、それに戦いになったとしても負ける気はしないから」

    トーカ『そうですよね。奈津美さんに勝てる捜査官なんて、有馬貴将ぐらいですよ!』

    奈津美「その捜査官は秋田の有馬って呼ばれてるんだけど・・・」

    トーカ『あっ・・・やっぱり、奈津美さんは有馬貴将にも勝てます!』

    奈津美「それは流石に無理・・・話は変わるけど、月山は今でもやんちゃしてる?」

    トーカ『はい。相変わらずの迷惑っぷりですけど、あのクソグルメの話題を出すなんて一体どうしたんですか?』

    奈津美「秋田にも似たような奴が居るらしいの。しかも同じ高校に」

    トーカ『ええ!?ああいう奴はどこにでも居るんですね。奈津美さんなら大丈夫でしょうけど、そっちの方にも気を付けて下さいよ』

    奈津美「りょーかい」

    トーカ『では、今日はこの辺にしておきましょう』

    奈津美「うん。いつもありがとう」

    トーカ『こちらこそ。お休みなさい』

    奈津美「お休み」

    ガチャ



    霜永奈津美と清原悠介。

    それぞれ喰種と捜査官という相反する存在である二人の奇妙な関係は、喰種と人間の共生への足掛かりになるのかもしれない。
  33. 33 : : 2015/04/29(水) 18:11:10
    -Ⅳ-





    女A「ぜぇぜぇぜぇ・・・」

    秋田市内のとある路地に、呼吸を大きく乱しながらも走り続けている女の姿があった。端正な顔立ちのその女は明らかに何かに怯えていた。

    女A「・・・これで撒けたかしら」

    ??「そんなに急いでどうしたんですか?」

    女に声をかけたのは、高校生くらいの男性だった。

    女A「ひぃっ!い、いつの間に・・・!?」ガクガク

    ??「震えてますよ。大丈夫ですか?」

    女A「こ、来ないで!」

    ??「一体どうしたって言うんですか」

    女A「とぼけないで!あんた、今日一日中ずっと私の事をつけ回してたでしょう!」

    ??「それは違いますよ」

    女A「気のせいだとでも言うつもり!?」

    ??「いや、そうじゃなくて・・・僕があなたの尾行を始めたのは二週間前なんですよ」

    女A「二週間!?」

    ??「いやぁ、長かったですよ。あなたを標的に決めてから、あなたがなかなか食事のしやすい所に行ってくれないから大変困っていたんです。しかし、今日遂に、僕を撒くためにわざわざ人通りの少ない路地に来てくれた。この時をどれだけ待ち望んだことか!」

    女A「あんた、何者なの・・・」

    男の言動や雰囲気が明らかに異常であることに気付いた女は、男の正体を尋ねた。それに対し男は、両眼を真っ赤に染め上げてからこう答えた。

    ??「ただの喰種ですよ」



    奈津美「ふあ~」

    午前六時三十分、奈津美は大きなあくびをしながら布団から身体を起こした。そしてリビングに向かいテレビの電源を入れ、朝の情報番組にチャンネルを変えた後、コーヒーを淹れるためにキッチンへと移動する。

    アナウンサー『ではここで、喰種による捕食事件をお伝えします。事件が起きたのは秋田県秋田市の山王の路地、被害者は高橋佳奈さん24歳です』

    奈津美「(秋田市?)」

    秋田市の喰種による事件であることを聞き、奈津美はコーヒーを淹れる手を止めリビングへと向かう。

    アナウンサー『CCG秋田支部によると、犯人の喰種は"追跡者"と呼ばれる喰種であると断定しており、現在捜索中とのことです』

    奈津美「(こんなに大っぴらになるような捕食事件を起こすなんて、本当に面倒な奴ね)」

    被害者の母親と思われる人物が被害者の死を悼むのを一瞥してから、奈津美はキッチンへと戻った。
  34. 34 : : 2015/04/29(水) 22:23:08
    本日の日付は四月二十三日月曜日、奈津美が秋田東高校に転校してから丁度二週間が経過した。基本的には人当たりの良い彼女は新たな級友達ともすぐに馴染み、クラスの大半の女子とは朝会えばおはようと挨拶を交わす程度の仲になっていた。

    しかし、彼女にはその多くとこれ以上仲を深めるつもりはない。それは自分の正体を隠すためだ。そんな彼女であったがこの学校には既に二人、将来的に親友の関係になりそうな生徒が居た。

    一人は須田香織、奈津美の後ろの席の女子だ。そしてもう一人は・・・

    悠介「あっ、奈津美さん。おはよ」

    喰種捜査官の清原悠介である。

    奈津美「おはよう、悠介君」

    二人は初登校の日以来、毎日一緒に下校していた。それは香織の手による半ば強制的なものだったが、これで仲が深まらないほうがおかしいというものだ。もっとも、あくまで友達としてだが。

    奈津美「そう言えば今朝のニュースで喰種による捕食事件が起きたのを見たんだけど、悠介君は"追跡者"って喰種は知ってる?」

    生徒玄関から教室へと向かう道中、奈津美が尋ねた。

    悠介「もちろんだべ。秋田ではしったけ有名な喰種だ」

    奈津美「どんな奴なの?」

    悠介「それは喰種マニアと白鳩、どっちの立場で答えればいいんだべか」

    奈津美「う~ん、詳しい方で」

    悠介「了解。まず基本的な事から説明すると、そいつはべっぴんさんを好む喰種だ。んで、標的を決めるとその標的がスキを見せるまで尾行を続けるらしい。んだから、そった変な名前が付けられたんだべ」

    奈津美「何だか気味の悪い喰種なんだね。早く捕まれば良いな」

    悠介「本当だべ。でも、事はそう簡単にはいかないんだ。まず、顔が判明していない。その上戦闘になれば、並外れた強さを発揮するらしい」

    奈津美「それってどのくらい?」

    悠介「俺は戦ったことが無いから詳しくは知らないんだども・・・危険度を表すレートは、秋田では数少ないSレートだべ」

    奈津美「(Sレート・・・)よくわかんないけど、強そう」

    悠介「奈津美さんも気を付けてけれ」

    奈津美「うん」

    話に一区切りがついたところで二人は3-Eの教室に到着した。
  35. 35 : : 2015/04/30(木) 21:25:55
    それから化学、体育、現代文、コミュニケーション英語と授業をこなし、昼休みを迎えた。

    香織「奈津美がこの学校に来てから毎日一緒にお昼を食べてるけど・・・相変わらず貧相な昼食ね」

    奈津美「う、うん」

    香織「少し私のを分けてあげようか?」

    奈津美「いいよいいよ!私はこれで足りるから!」

    香織「あっ、そう。それより、今日の放課後暇?」

    奈津美「特に予定はないよ」

    香織「本当!?それなら、一緒に駅に行かない!?」

    奈津美「部活は?」

    香織「今日は久々の休み」

    奈津美「そういうことならオーケーだよ」

    香織「やったー!じゃあ、約束だよ」

    奈津美「うん!」



    午後は数学Ⅲと英語表現の授業を受け、放課となった。

    香織「いざ出発よ!」

    奈津美「おーっ!」

    悠介「二人ともどさ行くの?」

    奈津美「秋田駅」

    香織「そういう訳で、奈津美は借りてくね。じゃあ行こうか奈津美!」

    香織に手を引かれて奈津美は廊下を駆け出した。

    香織「あっ、そうだ!急がせておいて悪いんだけど、部室に寄っても良いかな?」

    奈津美「もちろん」

    香織「もし良かったら奈津美も来ない?何もないけど・・・」

    奈津美「う~ん、少しだけ寄ってみようかな」

    香織「了解!歓迎するよ!」

    こうして、二人は出発前に女子硬式テニス部の部室へと寄ることになった。女子硬式テニス部部室は生徒玄関を出て右へ少し歩いた所にある部室棟の二階にある。香織は部室に入ると、棚から物理の教科書を取り出した。

    香織「用事は済んだよ」

    奈津美「それじゃあ行こうか」

    二人は部室を出て駐輪場へと向かおうとする。その時、奈津美は部室棟に一人の男が近付いている事に気付いた。

    ??「おや、香織さんじゃないか。君達は今日休みの筈だったが・・・」

    香織「置き勉してたものを取りに来ただけよ」

    奈津美「この人は?」ボソッ

    香織「ああ。こいつは・・・」

    石川「男子硬式テニス部部長、3-Aの石川優だ」

    奈津美「(石川優!?)私は3-Eの霜永奈津美。よろしく」

    石川「ああ、よろしく」

    挨拶を交わした後、奈津美と石川はすれ違う。その瞬間、石川が喰種にしか聞こえない小さな声で呟いた。

    石川「仲間が出来て嬉しいよ」

    これが霜永奈津美と"追跡者"石川優の出会いだった。
  36. 36 : : 2015/05/02(土) 22:49:55
    香織「久しぶりの・・・駅だぁ!!!」

    秋田駅西口の駐輪場に自転車を停めると同時に、香織は叫んだ。

    奈津美「そんなに行きたかったの?」

    香織「東京から来た奈津美にとってはつまらない所に見えても、私達田舎の高校生には桃源郷のような所なのよ」

    奈津美「そ、そうなんだ」

    香織「そうなの!てことで、小腹がすいたし先ずはロッテリアにでも行こっか」

    奈津美「え」

    香織「はなまるうどんの方が良い?」

    奈津美「いやいや、ロッテリアで良いよ!寧ろロッテリアの方が良い!(うどんはきつ過ぎる・・・)」

    香織「それじゃあロッテリアへレッツゴー!」

    香織の誘いによって、人肉しか食べることのできない喰種にとっては無縁のファストフード店に来店することとなった奈津美。彼女はやむをえずフライドポテトを一つ頼み、それを頑張って食すことにした。

    このように最初に試練が襲い掛かったが、それから奈津美は香織と一緒に駅を回る時間を思う存分楽しんだ。楽しい時間というのはすぐさま過ぎ去っていくもので、気が付けば午後6時を回っていた。

    香織「もうこんな時間かぁ。そろそろ帰らないとね」

    奈津美「そっか・・・じゃあ、また明日だね。今日は本当に楽しかったよ」

    香織「私も。また一緒に遊びに行こう」

    奈津美「うん!」

    帰る方向が正反対の二人は、駅の駐輪場でお別れをした。ここから奈津美は一人で大町に帰宅することになる。ちなみにぬぐだまれには既に連絡を入れており、今日の仕事は休みを貰っている。

    奈津美「(明日ちゃんと今日の分も働くために、帰ったらすぐに休もう)」

    彼女がそう決意した矢先、何の前触れもなくあの男が現れた。

    石川「やぁ、霜永さん。奇遇だね」

    奈津美「石川優・・・何であなたがここに?まさか、ずっとつけてた訳じゃないよね」

    石川「そんな訳無いだろう。部活帰りにたまたま君に会っただけさ」

    奈津美「・・・」

    石川「しかし、ここで会ったのも何かの縁だ。一緒に喫茶店でコーヒーでも飲まない?」

    奈津美「どうしてあなたと」

    石川「君が僕を警戒する気持ちはわかる。でも僕は同じ学校に通う喰種として親睦を深めておくべきだと思うんだけど、如何かな?」

    奈津美「・・・それもそうね(こいつの事を、ちゃんとこの目で見極めておかないと)」

    石川「では、着いてきてくれ」
  37. 37 : : 2015/05/04(月) 19:48:57
    石川に連れられた先は古風な喫茶店だった。

    奈津美「(店員は人間みたいね)」

    ウェイター「ご注文をお伺いしてもよろしいでしょうか」

    石川「ブラックコーヒー二つで」

    ウェイター「かしこまりました」

    ウェイターが去るのを見てから、奈津美は店内を見回す。店内には二人の他に客はおらず、静かで穏やかな時間が流れており彼女の好みの雰囲気だった。

    石川「気にいってくれたかな?」

    奈津美「・・・」

    石川「はぁ・・・まさかここまで嫌われているとは。僕の噂はどこまで聞いているんだい?」

    奈津美「美人好きのストーカー野郎ってことは聞いた。後、共喰いもしてるって噂があることも」

    石川「なるほど。まあ確かに共喰いの事を除けば事実だ。しかし、君は少し勘違いをしているよ。僕は別にストーカー行為そのものを楽しんで行っているわけではない。あくまで定めた標的を確実に狩るための手段だ」

    奈津美「聞いた話じゃあなたはCCGにSレート認定されているみたいだし、そんなことしなくても楽に狩れるんじゃないの?少なくとも相手が人間ならね」

    石川「油断大敵とよく言うだろう。それに、Sレートと言っても地方の喰種。東京のそれとは違う」

    奈津美「ふぅん・・・」

    ウェイター「お待たせしました。ブラックコーヒー二つ、お持ちしました」

    奈津美「ありがとうございます」

    ウェイターの出現で、二人は一旦会話を止める。二人の会話は一般人に聞かれるのは少々まずいからだ。ちなみに、ここまでの会話は店員のいるカウンターまでは聞こえないように細心の注意を払いつつ行われていた。

    二人はそのウェイターがカウンターに戻るのを待ってから会話を再開した。

    奈津美「そもそもあなたのストーカー行為が慎重さゆえ仕方なく行っているものだろうとあなたのことは好きにはなれない。獲物を厳選し、食の快楽に浸っているような喰種のことはね」

    石川「君はそういうタイプの喰種か」

    奈津美「生憎ね。しかも、味で厳選するならまだしも見た目で判断するなんて何一つ共感できない」

    石川「獲物を見た目で選り分けることがそんなにいけないことかな?」

    奈津美「ええ。そんなのヒトとして間違ってる」
  38. 38 : : 2015/05/05(火) 16:53:45
    石川「ヒトとして・・・か。どうやら君は人間に憧れているようだね」

    奈津美「・・・否定はしないよ」

    石川「そうかい。でも、僕は食べ物を見た目で選別することこそが人間らしい行動だと思うんだ。事実、多くの人間は虫や蛇のように美味ではあっても見た目が苦手な物を食すことを拒み、野菜に虫食いがあることを嫌がって農薬に侵された野菜を好む・・・人間こそ、食べ物に見た目を重視している」

    奈津美「それは・・・」

    石川「図星だろう?」

    奈津美「くっ・・・」

    石川「別に僕の価値観に共感しろと言っているんじゃない。ただ、間違っていると決めつけられるのが嫌なだけだ」

    奈津美「分かった。あなたの考えが間違いだとはもう言わない。でも、あなたはやっぱり嫌い」

    石川「それは残念だ。もし人間なら標的にしていたぐらい君は好みの女性なんだが」

    奈津美「それはそれは、私が喰種で助かったよ」

    それから奈津美は石川に敵意を向け続けながらコーヒーを飲んだ。カップの中が空になると、彼女は会話をする間を一切与えずに席を立ち会計へと向かった。それを見た石川は仕方なさそうに席を立ち、奈津美の傍へと歩み寄る。

    石川「会計は僕に任せてくれ」

    奈津美「あなたに借りは作りたくない」

    石川「借りだとは思わなくていい。女性の分も支払うのは男性の義務だ」

    奈津美「あっそ。ならお願い」

    石川のきざな態度が東京のあの男と重なる。それが最後のきっかけとなって、奈津美は今後石川となるべく関わらないことを決心した。

    石川「じゃあまた明日」

    奈津美「さよなら」

    別れの挨拶を終えてから、奈津美は一切石川の方を見なかった。しかし、この行為は彼女にとって過ちだった。何故なら・・・

    石川が彼女の背中を絶品料理を前にした人間のような目で見つめていたことに気付けなかったからである。

    石川「最高のルックス(美しさ)だよ。霜永さん」

    ジュルリ
  39. 39 : : 2015/05/05(火) 22:10:01
    その日の夜も、今までと同じように奈津美はトーカと電話をしていた。

    トーカ『例の喰種と会ったんですね。それで、どんな奴でした?』

    奈津美「それが・・・見た目こそ違うけど、それ以外はほとんど月山と同じ。あっ、でも気持ち悪い外国語は使わないよ」

    トーカ『好みが同じだと性格とかも似てくるもんなんですね』

    奈津美「どうやらそうみたい。とにかく、あいつとは出来るだけ関わらないようにするね」

    トーカ『それが良いですよ。関わるだけ損です』

    奈津美「どっかの姉弟みたいに喧嘩を買ってもケガするだけだしね」

    トーカ『もぉ、いつの話をしてるんですか』

    奈津美「あはは、あの頃のトーカ達はすごいやんちゃだったよね。アヤト君は・・・まだ帰って来ない?」

    トーカ『イトリさんの話だと、ある若い喰種が色んな区の喰場を荒らしまわってるみたいです』

    奈津美「そっか・・・アヤト君にもまた会いたいな」

    トーカ『奈津美さんが帰って来る頃には、あいつも懲りて20区に戻って来ますよ。きっと・・・』

    奈津美「うん。絶対戻って来てるよ」

    トーカ『はい。では今日はこのぐらいで・・・』

    奈津美「そうだね。お休みトーカ」

    トーカ『お休みなさい・・・』

    ガチャ

    奈津美「そう言えば、アヤト君も人間の事が嫌いだったっけ。人間が喰種の事が嫌いなのは当たり前なのに、喰種も人間の事が嫌ってるんじゃ・・・やっぱり、共生なんて無理なのかな。でも、私は・・・その無理に挑み続けたい」



    人間をただの食糧として捉える喰種との出会い。

    果たして彼の存在は、奈津美を始めとするぬぐだまれの従業員の夢にどのような影響を及ぼすのだろうか。
  40. 40 : : 2015/05/06(水) 21:48:58
    -Ⅴ-





    部員A「香織、次の一本を取れば優勝よ!」

    部員B「香織先輩!頑張ってください!」

    香織「うん、任せて」

    奈津美「(香織・・・)」

    5月13日、日曜日。奈津美は香織のテニス応援のために八橋テニスコートにいた。そして現在、香織率いる秋田東高校女子硬式テニス部は団体戦中央支部決勝の大将戦を行っていた。

    香織「ふぅ・・・」スッ

    パコーン!

    香織の強烈なサーブが相手コートへと突き刺さる。しかし、相手もまた自分の高校の勝敗を背負う大将であり、香織のサーブを返してみせる。

    だが、香織の方が一枚上手であった。彼女の高威力のサーブは相手が正確に返球することを許さなかったのだ。結果、彼女のチャンスボールとなる。

    パコーン!

    香織の放ったスマッシュは誰にも触れられることなく壁へと衝突した。

    審判「ゲーム、セットアンドマッチ秋田東!よって、3対2で秋田東高校の勝利です!」

    香織「お・・・しゃああああ!!!」

    香織は勝利の雄叫びを上げた。

    奈津美「おめでとう!」

    スタンドから香織へと声を掛けると、彼女はグーサインで応える。

    奈津美「(でもまさか、秋田に来て一か月でこんなにも心から応援出来る友達を作れるとは思ってもみなかったよ)」



    奈津美「お疲れキャプテン」

    表彰式を終えコートから出てきた香織に奈津美が声を掛けた。

    香織「どもっ!応援に来てくれてありがとね!」

    奈津美「どういたしまして」

    部員A「あっ、香織。今連絡があったんだけど、男子の方も優勝したみたいよ」

    香織「つまり男女同時優勝じゃん!」

    奈津美「(石川も勝ったのか・・・まっ、喰種のあいつが勝つのは当然と言われれば当然だけど)」

    香織「今からミーティングに行ってくるね。けっこうかかるかもしれないから、今日はもう帰りなよ」

    奈津美「そっか。それじゃあまた明日、学校でね」

    香織「バイバイ」

    ミーティングへと向かう香織の姿を見届けた後、奈津美は帰路に着いた。
  41. 41 : : 2015/05/07(木) 22:49:38
    奈津美は多数の車が往来する傍らで、自転車を漕ぎ進めていた。彼女が走る道は山王大通りという名の秋田では主要な道路であり、その交通量は彼女が秋田で目にした道路の中では一番だった。

    それが原因だったのかは分からない。彼女の喰種としての本能が無意識に大通りを避けたのかもしれない。それとも、単なる気まぐれだったのかもしれない。

    彼女は人通りの少ない脇道へと入っていった。それから約30秒後、彼女は気付いた。

    奈津美「(・・・つけられてる)」

    彼女は何者かの気配を感じ取っていた。そして、その気配が常に彼女と一定の距離を保っていることに気付いた。試しにスピードを緩めてみると、その気配もスピードを緩めた。速めてみると、同じく速めた。

    奈津美「(つけられているのは間違いない。問題なのはつけている者の正体。人間なのか、白鳩なのか、それとも喰種なのか・・・この距離じゃ定められない。もし喰種ならそいつは・・・とにかく、このままだと埒が明かない)」

    彼女は敢えて先程以上に人通りの少ない小道へと入り込む。目的は尾行者を炙り出すことだ。そして、彼女の策は的中した。

    尾行者の気配が急接近を始めたのだ。それにより気配が濃くなったことから、彼女は尾行者の正体を断定した。

    奈津美「・・・やっと顔を拝めると思ったんだけどな。マスク装着済みとはね」

    彼女の前に姿を現したのは黒色の無地で、目、鼻、口の部分に穴が開いているだけのマスクを装着したヒトだった。体格から恐らく男性であり、マスクを着けているということは十中八九喰種である。

    そして、彼女はその尾行者の正体に心当たりがあった。

    奈津美「顔を隠してたって、あなたの正体はもう分かってるんだからね。観念してそのマスクを取りな、石川優!」

    ??「・・・」ダッ!

    黒マスクの喰種は、無言のまま奈津美へと襲い掛かった。

    奈津美「(無視・・・それって正解だって認めてるようなものだと思うんだけどな)」

    シュッ

    黒マスクの喰種が奈津美へ鋭い蹴りを放つ。彼女はそれを身を屈めて避けると共に黒マスクの懐へと潜り込んだ。

    奈津美「(答える気がないなら・・・)そのマスク、粉々に砕いてやる!」

    バキィ!

    奈津美の右拳が、敵の黒マスクの中心を捉えた。
  42. 42 : : 2015/05/08(金) 22:13:20
    ピキピキ・・・パリンッ

    衝撃によって黒マスクが砕け散った。マスクの下の顔に、奈津美は見覚えがあった。

    奈津美「これで確定ね、石川優」

    石川「おやおや、お気に入りのマスクを割られてしまった」

    奈津美「そんなにマスクが大事だったのなら潔く正体を認めておけば良かったじゃない。それとも、共喰いもするって事がばれるのがそんなに嫌だった?」

    石川「まぁね。警戒されないに越したことは無い」

    奈津美「その心配なら不要よ。あなたはもう十分警戒されてるから」

    石川「そうかい。そういうことなら・・・」

    ダッ!

    石川「心置きなく、君を食すとするよ!」シュッ

    ガッ!

    石川が繰り出した上段蹴りを奈津美は左腕でガードする。それと同時に右拳を石川の胸へと突き出すが、石川はその拳を右の掌で掴み取った。

    石川「なかなかの腕前だ。しかし、僕の方が上だよ」

    石川は右足を戻すと同時に左足で足払いを仕掛ける。結果、その足払いは成功し、奈津美の身体の重心が崩れる。それを彼は逃さない。

    ドゴオ!

    強烈な左アッパーにより奈津美の身体は宙へと放り出された。

    奈津美「・・・っの!」

    奈津美は空中で体勢を立て直し、地面へときれいに着地した。

    石川「流石は激戦区東京から来た喰種だ。そこらの雑魚とはモノが違う。だから少しばかり・・・本気を出させてもらおう!」

    宣言と共に、石川の腰部から二本の赤黒い鉤爪状の赫子が現れた。

    奈津美「(鱗赫・・・赫子の種類はあいつと違うんだ)」

    石川「さぁ、食事の時間だ」

    石川が二本の赫子を携えて奈津美へと襲い掛かる。

    ヒュ!ヒュ!ヒュ!

    次々と繰り出される赫子による攻撃を、奈津美は持ち前の身のこなしで回避する。彼女の回避能力は凄まじく、彼女の身体に掠ることすら許さなかった。だが彼女が防戦一方であるのも事実であった。

    石川「どうした、逃げ回るだけかい?攻撃しなければいつまで経っても君に勝利は訪れないよ!さぁ、早く君の赫子を出したまえ!」ヒュンッ

    奈津美「よっと!(確かに赫子無しで石川の攻撃を凌ぎつつ、あいつに攻撃を叩き込むのは結構難しそうね。でもなぁ、出来れば使いたくないんだよな~)」

    奈津美はとある理由から赫子を出すことを渋っていた。しかし相手はSレート。赫子無しで勝たせてくれる程甘い相手ではないことも明白である。

    奈津美「(使うしかないかな・・・)」

    奈津美が苦渋の選択を決断しかける。その時、彼女はとある事態を察知した。
  43. 43 : : 2015/05/12(火) 00:14:09
    石川「止まってる場合かい!?」ヒュンッ

    一瞬、動きを止めた奈津美へと石川が赫子を放つ。それに対し彼女は力強く跳躍し、近くの家の屋根へと跳び乗った。

    奈津美「悪いけど、お暇させていただくわ」

    石川「なに!?ここまで戦っておきながら逃げると言うのか!」

    奈津美「私だってあなたごときから逃げるなんて癪だけど、誰かがこちらに近付いてきているみたいなの」

    石川「・・・確かに気配を感じる。だが、目撃者は殺してしまえば良い話だろう」

    奈津美「っ・・・そういう考え方が嫌いだって言ってるの!とにかく、もうあなたの相手をする気は無いから」

    バッ

    奈津美は石川の前から姿を消した。



    石川の急襲から逃れた奈津美は、尾行されていないか注意を払いながらぬぐだまれへと向かった。

    佐藤「石川に襲われたぁ!?あの野郎、やっぱり共喰いもするのか」

    秋田「とにかく無事で何よりだよ」

    奈津美「自転車は置き去りにしてしまったんですけどね。今夜取りに行きます」

    佐藤「念のため俺が付き添うよ」

    奈津美「その必要はありません。"あの程度"の喰種、私一人で大丈夫です」

    佐藤「あの程度って、一応Sレートなんだけどなあ」

    奈津美「厳密に言えばS⁻だと思いますよ。では、着替えてきますね」

    佐藤「お、おう」

    佐藤「・・・店長。奈津美ちゃんって、どれくらい強いんですか?」

    秋田「さぁ・・・」

    佐藤「本当は知ってるんでしょう?」

    秋田「さぁ・・・」

    佐藤「・・・」

    それから奈津美は閉店時刻まで仕事をこなし、自転車を回収した後アパートへ帰宅した。帰宅後のトーカとの通話で石川との交戦を報告し、それからいつもの他愛ない話をして彼女は眠りについた。

    彼女は余裕だった。次の日、大事件が起こるとは露ほども知らずに・・・
  44. 44 : : 2015/05/12(火) 22:35:12
    次の日、奈津美はいつものように東高校へ登校した。彼女はいつもと同じに、出会ったクラスメイトと挨拶を交わしながら教室へと向かう。その道中、石川に遭遇した。

    石川「おはよう、霜永さん」

    石川の反応はあまりに普通だった。まるで、昨日の事が嘘であったかのように。

    奈津美「・・・」

    奈津美は彼の挨拶を無視して歩き去っていった。それから、彼女はいつも通りに学校生活を過ごした。

    香織「それじゃあ、今日は部活があるからまた明日ね」

    奈津美「うん。全県総体も必ず応援に行くから!」

    香織「ありがとう。奈津美にカッコいい所を見せるために、練習頑張らないとなぁ」

    香織と会話を交わしてから、奈津美はいつも通りに帰宅した。その後、いつも通りぬぐだまれに行き仕事をこなし、再び帰宅した。

    彼女のいつも通りはそこまでだった。



    奈津美「なに、この封筒・・・」

    奈津美の部屋の郵便受けに一通の手紙の入った封筒が入れられていたのだ。彼女は封筒を取り出し、中の手紙を読む。

    奈津美「・・・石川ァァァ!!!」

    彼女は一目散にアパートを飛び出した。

    手紙の中身はこうだった。

    『霜永さんへ

    今夜21時に東高校の大体育館にて行われるディナーに君を招待しよう。また、今回のディナーには君の一番の親友である香織さんもお呼びした。三人で特別な夜を楽しもう。

    P.S.
    心配せずとも香織さんに危害を加えるつもりはない。もっとも、君が来るのを拒めばその限りではないがね。

    石川優』
  45. 45 : : 2015/05/15(金) 00:16:02
    午後八時半、秋田東高校大体育館の廊下に足音が響き渡っていた。その足音は徐々に体育館へと近付いていき、やがて扉が開かれる音が鳴り響いた。

    奈津美「石川!!!」

    石川「おや。随分と早いお着きだね、霜永さん」

    奈津美「香織はどこだ!」

    石川「心配しなくて良いと書いた筈だ。彼女ならそこだよ」

    石川がステージを指差す。そこには倒れている香織の姿があった。

    奈津美「香織!」

    石川「僕等の会話を聞かれるのは面倒だからね。意識は奪っておいたが、手紙に書いた通り傷一つ付けてはいない。事が終われば彼女を無傷のまま解放することも約束しよう。君がこの体育館から逃げ出さない限りはね。もし破れば・・・」

    ステージの脇から二人の男が姿を現した。

    奈津美「部下・・・他にもいるようね」

    石川「流石の察知能力だ。君達、出て来ていいよ」

    石川が呼び出すと、新たに三人の男がステージ脇から現れ、石川の傍へと歩み寄った。

    奈津美「女一人に四人がかり。本当にグズ野郎だね」

    石川「それだけ君が魅力的だということさ。君のその目、その鼻、その口、耳、髪、輪郭・・・どれをとっても素晴らしいっ!」

    奈津美「あなたに言われると吐き気がする」

    石川「恋愛対象として僕は最悪なようだ。でも安心したまえ。僕は君を恋愛対象ではなく捕食対象として見ている。君に出会ったその日から、僕は君を食べることだけを考えてきた。以前逃げられた反省を活かし、須田香織を使って君が逃げられない状況を作った。この時をどれだけ待ち焦がれていたことか・・・」

    パチンッ!

    石川が指を鳴らした。それと共に、石川と彼の三人の部下達がそれぞれ鱗赫、羽赫、甲赫、尾赫を放出した。

    石川「さぁ、ディナーの時間だ!くれぐれも、友を捨てて逃亡なんて終わり方はしないでくれよ」

    奈津美「安心しなよ。そろそろあなたを懲らしめなきゃって思ってた所だから・・・女を襲うのがトラウマになるぐらいボコボコにしてあげる!」
  46. 46 : : 2015/05/15(金) 23:24:42
    奈津美の宣戦布告を皮切りに、一対四の戦いが始まった。

    最初に動き出したのは羽赫の部下だった。彼は肩周りから放出しているRc細胞を結晶状に硬化し、奈津美へと飛ばした。彼女はその攻撃を横っ飛びで回避する。

    だが、その先には尾赫の部下が待ち構えていた。彼は自身の尾赫を右足へと巻き付け、蹴りを放つ。彼女は身体を大きく反らし、この攻撃も躱し切った。

    しかし、敵は四人である。

    部下C「後ろ、もらった!」

    甲赫の部下が振るった分厚い赫子が奈津美の身体を捉えた。尾赫の部下の攻撃を躱すために身体を反らしていたため、防御するのが精一杯だったのである。

    赫子による攻撃を素手で受け止められる筈が無く、彼女の腕に激痛が走る。

    石川「ハハッ!」ヒュンッ

    奈津美「この!」シュッ

    バチィ!

    石川が彼女の身体を穿つべく放った赫子を、奈津美は蹴りで弾き飛ばした。結果、重傷を負うことは防いだものの、鱗赫の表面の鮫肌のような性質により、彼女の足からは血が流れ出していた。

    奈津美「(部下の方はただの雑魚かと思ってたけど、結構強い。それに、回避や防御によってできるスキを確実に突いて来られるのは厄介ね)」

    四人の攻撃を一度ずつ見て、奈津美は相手の力量を推し量りつつあった。そして、その予測を基に対策を画策しようとするが、そのような時間は当然与えられなかった。

    部下A「こいつでどうだ!」

    羽赫の部下の掛け声と共に、三人の部下達が三方向から一斉に攻撃を仕掛けた。奈津美はその攻撃にもしっかりと反応し、回避行動をとる。だが、三方向からの攻撃を回避するルートは一つしかない。

    石川「いらっしゃい!」ヒュンヒュン

    二本の赫子が同時に奈津美へと襲い掛かる。彼女は身体を捻じってその攻撃をも躱した。しかし、それが彼女の赫子無しでの限界だった。

    石川「ふっ」シュッ

    奈津美「がっ!」

    ドゴオッ!

    石川の蹴りを食らい、奈津美の身体は体育館の壁へと叩き付けられた。

    石川「以前にも増して軽快な動きだが、僕も一応Sレート。そしてこの三人もAレート相当の力を持つ喰種だ。幾らなんでも赫子無しで勝てるわけがないだろう。さぁ、赫子を出したまえ」

    奈津美「ごほっ、ごほっ・・・(確かに、赫子を使わずにどうにかできる状況じゃないか)」ムク

    立ち上がると共に、奈津美の両眼が真っ赤に染め上げられた。

    奈津美「本当は使いたくないんだけど・・・そんなに言うなら見せてあげる」

    ドウッ!
  47. 47 : : 2015/05/17(日) 21:34:38
    石川「・・・何だい、その赫子は?これではまるで・・・タコ!!!」

    奈津美の腰からは八本の鱗赫が放出されていた。深紅に染まり、吸盤のようなものを無数に持つその赫子は、まさしくタコの足であった。

    奈津美「はぁ・・・だから使いたくなかったの。タコ呼ばわりされるのは女の子にはきついんだからね」

    部下B「石川さん。八本も出せるなんて、こいつやばいんじゃ・・・」

    石川「彼女が並の喰種ではないことは既に分かっていたことだ。だからこそ君達を呼んだ。赫子を八本出せるからと言って、怯むことはない」

    奈津美「それでこそ、ボコり甲斐があるってものさ」

    石川「出来るものならやってみたまえ」

    ダッ

    部下の喰種達はそれぞれ奈津美の右、左、後ろへと回り込む。そして、先程と同様に一斉に攻撃を仕掛けた。

    奈津美「赫子を出したんだ。さっきまでと同じ手が・・・」

    ヒュヒュヒュン!

    奈津美「通用すると思うな!」

    ザクザクザクッ

    奈津美の持つ八本の赫子の内の三本が、それぞれ石川の部下三人の身体を貫いた。

    喰種A「グホッ・・・まだま」

    奈津美「寝てろ」ヒュッ

    ザクッ!

    喰種A「が・・・あぁ・・・」

    三人の部下が全員意識を失ったのを確認し、奈津美は彼等の身体を放り捨てた。

    奈津美「後はあなただけね、石川優」

    石川「・・・」

    奈津美「助けてくれって嘆願してみる?そうすれば、考えてあげても良いけど」

    石川「・・・フフッ。ハッハッハッハッ!!!馬鹿にしてもらっちゃぁ困るよ霜永さぁん!部下を集めたのは君と戦った場合勝機がないと思ったからじゃない。確実に勝てる保証がないと思い用心しただけだ。一対一になったが僕は勝つつもりだよ。それに・・・」

    石川「狩りが困難であればあるほど、食欲がそそられるというものだよ」

    奈津美「そう。なら・・・宣言通りボコボコにするまでよ」
  48. 48 : : 2015/05/18(月) 21:58:41
    ダッ!

    この戦いで初めて、奈津美が自分から動き出した。

    ヒュヒュヒュン!

    ガィン! ガキッ ギィン!

    霜永奈津美と石川優。二人の赫子が幾度となく衝突し、火花を散らす。

    ザシュザシュ!

    奈津美「!?」

    赫子による攻防の中で、奈津美が持つ赫子の中の二本が切断された。

    石川「ハンッ!どうだい!」

    奈津美「それで?」ヒュヒュッ

    ザクザクッ

    奈津美は二本の赫子で石川の持つ赫子の両方を串刺しにし、動かせないように固定する。次の瞬間、彼の腹部を彼女の赫子が貫いた。

    石川「ゴあッ!」

    奈津美「勝負ありね。これでもうあなたは動けない。後は・・・何度も言ったように、ボコボコにするだけ」

    奈津美は石川と彼の赫子の拘束に使用しているものを除いた残りの五本の赫子を彼に向ける。そして、次々に彼の身体へとぶつけていった。

    奈津美「・・・ふっ飛べ」ヒュン

    バキッ
    ドゴオ!

    最後に石川の身体を思い切り弾き飛ばして、彼の身体の拘束を解いた。身体の自由を取り戻した彼であったが、全身の骨の至る所がへし折られており、結局動くことは出来なかった。

    彼が戦闘不能であることを確認した奈津美は、ステージ上にいる香織に目を向ける。

    部下D「う、動くな!下手な真似をすればこの娘を」

    奈津美「どうするって?」ゾゾゾゾゾ

    部下D「ひィっ・・・」

    奈津美が放つ殺気によって、ステージ上の二体の喰種は腰を抜かし膝を突いた。彼等が恐怖に慄く中、奈津美はゆっくりと香織の元へと歩み寄り彼女の体を背負い込んだ。

    奈津美「巻き込んで・・・ごめんね」

    奈津美「まだ意識はあるんでしょう?石川」

    石川「ぐ・・・・・・」

    奈津美「私はあなたと違って共喰いはしないし、ただでさえ少ない同種を必要以上に減らすような真似はしたくない。だから、あなたやあなた部下の命は助けてあげる。でも、次に私の大切な人に手を出したときは・・・問答無用で八つ裂きにするから」

    奈津美は穏やかでゆっくりとした、しかし怒りの滲み出た声でこう言い残した。そして彼女は、友と共に体育館から去って行った。
  49. 49 : : 2015/05/19(火) 23:19:55
    石川の手から香織を助け出した奈津美は、秋田店長に連絡してからぬぐだまれに行き、そこで彼女の意識の回復を待っていた。

    秋田「しかし、本当に石川を倒してしまうとは。聞いていた以上の実力だ」

    奈津美「実力なんてないですよ。もし私が本当に強ければ、香織が巻き込まれることはなかった」

    秋田「それは自分に厳しすぎるんじゃないかな。友達を無事に助け出したんだし、少しは自分を褒めてあげなよ。それに、これ以上の強さは逆に周囲を巻き込みかねない」

    奈津美「その事は身に染みて分かってます。私が求めているのは、そういう強さではありません。ただ、周りの人を失わないための力です」

    秋田「それならばもう」

    香織「うう・・・」

    奈津美「香織!?」

    香織「んん・・・奈津美?ここは・・・どこ?」

    奈津美「私のバイト先の喫茶店だよ」

    香織「ここが例の・・・そう言えば、何で私は意識を失ってたんだっけ。確か部活が終わった後の帰り道に、突然首筋に激痛が走って・・・」

    奈津美「きっとボールがぶつかったんだよ。倒れている香織の傍に硬式野球ボール転がってたから」

    香織「へぇ、そうだったんだ。ここには奈津美が運んでくれたの?」

    奈津美「うん。店長と協力してね」

    秋田「君が目を覚ますまで、奈津美ちゃんは付きっきりで介抱していたんだよ」

    香織「本当に!?」

    奈津美「いや、私は・・・」

    香織「ありがとう!」

    奈津美「・・・どういたしまして」

    香織「ところで今の時間は?」

    秋田「夜の10時だよ」

    香織「もうそんな時間なの!?早く帰らなきゃ」

    奈津美「両親も心配してると思うし、その方が良いよ」

    香織「・・・そうだね。それじゃあ帰るとするよ。また明日学校でね」

    奈津美「うん、またね」

    香織は奈津美と帰りの挨拶を交わすと、ぬぐだまれを飛び出して行った。

    秋田「いい娘じゃないか」

    奈津美「はい。私には過ぎた友達です」
  50. 50 : : 2015/05/20(水) 22:48:45
    その夜も、奈津美の部屋に会話の声が響いていた。

    トーカ『結局、例の喰種を倒したんですか。やっぱり強いですね』

    奈津美「強くなんかないよ。もしあいつがその気になれば、香織は殺されてた」

    トーカ『でも、狙いは奈津美さんなんですよね。それなら何があっても人質であるその友達を殺すような事はしませんよ。だから気にすることは無いですって』

    奈津美「確かにそうだけど・・・巻き込んでしまったことには変わりはない」

    トーカ『・・・もしかして、三年前のことを気にしているんですか。それなら奈津美さんは』

    奈津美「違うよ。全く気にしていないと言えば嘘になるけど、あの事を未だに引きずり続けてはいないから。ただ私は・・・友達を、大切な人を失いたくないだけ」

    奈津美「もう・・・二度と」

    トーカ『・・・』

    奈津美「しんみりさせちゃったね。今日はこの辺にしよっか」

    トーカ『そうしましょうか』

    奈津美「それじゃあお休み、トーカ」

    トーカ『お休みなさい・・・あっ、奈津美さん!』

    奈津美「なに?」

    トーカ『一人で抱え込む必要は無いですからね』

    奈津美「うん、ありがとう」

    ガチャ



    次の日の早朝、秋田東高校の大体育館ではCCG秋田支部の男性准特等である摂津光尊の指揮の下、喰種捜査官による捜査が行われていた。

    捜査官A「摂津准特等、赫子痕の照合が完了しました」

    摂津「ご苦労。それで結果は?」

    捜査官A「複数の赫子痕の内の一つが"追跡者(チェイサー)"のものであることが分かりました。他にも、追跡者の部下としてマークしていた喰種のものもありました」

    摂津「となると、主犯は追跡者か」

    捜査官A「恐らく。しかし、一つ気になることがありまして、彼等の他にもう一種類の赫子痕が確認されたのですが・・・その赫子は、秋田で検出された事が一度も無い赫子だったんです」

    摂津「戦闘痕とその結果を基に素直に考えれば、その赫子の持ち主はSレートの追跡者とその部下を同時に相手取ったと言うことか」

    悠介「でも、そったに強い喰種が今まで痕跡を残したことが無いなんてまずあり得ない。てば、他県からSレート以上の喰種がうち方にやって来たってことですね」

    摂津「全く迷惑な話だ。こいつは俺と悠介でさっさと駆逐してやらんとな」

    悠介「はい。喰種(グズ)は駆逐。それが俺達の仕事です」





    春は終わり、季節は夏へ・・・



    to be continued
  51. 51 : : 2015/05/21(木) 22:35:25
    夏の巻はこちらです↓
    http://www.ssnote.net/archives/35510
  52. 55 : : 2020/10/26(月) 14:58:40
    http://www.ssnote.net/users/homo
    ↑害悪登録ユーザー・提督のアカウント⚠️

    http://www.ssnote.net/groups/2536/archives/8
    ↑⚠️神威団・恋中騒動⚠️
    ⚠️提督とみかぱん謝罪⚠️

    ⚠️害悪登録ユーザー提督・にゃる・墓場⚠️
    ⚠️害悪グループ・神威団メンバー主犯格⚠️
    10 : 提督 : 2018/02/02(金) 13:30:50 このユーザーのレスのみ表示する
    みかぱん氏に代わり私が謝罪させていただきます
    今回は誠にすみませんでした。


    13 : 提督 : 2018/02/02(金) 13:59:46 このユーザーのレスのみ表示する
    >>12
    みかぱん氏がしくんだことに対しての謝罪でしたので
    現在みかぱん氏は謹慎中であり、代わりに謝罪をさせていただきました

    私自身の謝罪を忘れていました。すいません

    改めまして、今回は多大なるご迷惑をおかけし、誠にすみませんでした。
    今回の事に対し、カムイ団を解散したのも貴方への謝罪を含めてです
    あなたの心に深い傷を負わせてしまった事、本当にすみませんでした
    SS活動、頑張ってください。応援できるという立場ではございませんが、貴方のSSを陰ながら応援しています
    本当に今回はすみませんでした。




    ⚠️提督のサブ垢・墓場⚠️

    http://www.ssnote.net/users/taiyouakiyosi

    ⚠️害悪グループ・神威団メンバー主犯格⚠️

    56 : 墓場 : 2018/12/01(土) 23:53:40 このユーザーのレスのみ表示するこの書き込みをブックマークする
    ごめんなさい。


    58 : 墓場 : 2018/12/01(土) 23:54:10 このユーザーのレスのみ表示するこの書き込みをブックマークする
    ずっとここ見てました。
    怖くて怖くてたまらないんです。


    61 : 墓場 : 2018/12/01(土) 23:55:00 このユーザーのレスのみ表示するこの書き込みをブックマークする
    今までにしたことは謝りますし、近々このサイトからも消える予定なんです。
    お願いです、やめてください。


    65 : 墓場 : 2018/12/01(土) 23:56:26 このユーザーのレスのみ表示するこの書き込みをブックマークする
    元はといえば私の責任なんです。
    お願いです、許してください


    67 : 墓場 : 2018/12/01(土) 23:57:18 このユーザーのレスのみ表示するこの書き込みをブックマークする
    アカウントは消します。サブ垢もです。
    もう金輪際このサイトには関わりませんし、貴方に対しても何もいたしません。
    どうかお許しください…


    68 : 墓場 : 2018/12/01(土) 23:57:42 このユーザーのレスのみ表示するこの書き込みをブックマークする
    これは嘘じゃないです。
    本当にお願いします…



    79 : 墓場 : 2018/12/02(日) 00:01:54 このユーザーのレスのみ表示するこの書き込みをブックマークする
    ホントにやめてください…お願いします…


    85 : 墓場 : 2018/12/02(日) 00:04:18 このユーザーのレスのみ表示するこの書き込みをブックマークする
    それに関しては本当に申し訳ありません。
    若気の至りで、謎の万能感がそのころにはあったんです。
    お願いですから今回だけはお慈悲をください


    89 : 墓場 : 2018/12/02(日) 00:05:34 このユーザーのレスのみ表示するこの書き込みをブックマークする
    もう二度としませんから…
    お願いです、許してください…

    5 : 墓場 : 2018/12/02(日) 10:28:43 このユーザーのレスのみ表示する
    ストレス発散とは言え、他ユーザーを巻き込みストレス発散に利用したこと、それに加えて荒らしをしてしまったこと、皆様にご迷惑をおかけししたことを謝罪します。
    本当に申し訳ございませんでした。
    元はと言えば、私が方々に火種を撒き散らしたのが原因であり、自制の効かない状態であったのは否定できません。
    私としましては、今後このようなことがないようにアカウントを消し、そのままこのnoteを去ろうと思います。
    今までご迷惑をおかけした皆様、改めまして誠に申し訳ございませんでした。

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