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このSSは性描写やグロテスクな表現を含みます。

この作品は執筆を終了しています。

苗木「今日のこの日を忘れないために」

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  1. 1 : : 2015/01/17(土) 20:17:35
    今、書くべきものだと思ったので、書いていきたいと思います。

    最後まで見ていただけると、ありがたいです。
  2. 2 : : 2015/01/17(土) 20:19:33
    期待です
  3. 3 : : 2015/01/17(土) 20:20:09
    期待
  4. 4 : : 2015/01/17(土) 20:27:31
    >>2>>3
    期待、ありがとうございます。
  5. 5 : : 2015/01/17(土) 20:28:13




    2011、3、11…。


    なんてことはない。

    いつも通りの日常だ。


    いつも通り…僕は、友達と一緒に昼食を食べる。


    「…希望ヶ峰学園から卒業したら、苗木くんはどうするんですか?」


    「え…?」



    将来の夢。

    気付けば、そろそろ自分の未来について、真剣に考えなければならない時期に差し掛かっていた。


    「そうだね…」


    口にご飯を含みながら、僕は答える。


    「舞園さんの追っかけでもしようかな? ハハハ…」


    自分の未来を想像するのが怖くて、僕は冗談を交えながら彼女の質問をはぐらかした。


    「もう、いつまで経ってもそれじゃ駄目ですよ…?」

    「ちゃんと真剣に考えないと」


    「うっ…」


    舞園さんに、痛い所を突かれた。

    けれど、やりたいことなんて僕にはないし、生憎、これといった特技も持ち合わせていない。


    「まあ…ぼちぼち考えるって」


    そう言って、僕は空になった弁当箱を片付ける。

    彼女の鋭い視線を無視しながら。


    「何か無いんですか…? 将来の夢とか」


    「将来の…夢…」


    舞園さんの一言で、昔の記憶が一気に蘇った。


    そうだ。


    あの時、小学5年生の時、

    僕がクラスの前で発表した…


    将来の夢。


    …でも、肝心な部分が思い出せない。

    あの時、僕は何て言った?



    「僕は…」


  6. 6 : : 2015/01/17(土) 20:35:49



    僕が声を出しかかった直後、途轍もない地響きにより、僕の声は遮られた。


    僕の日常が終わった瞬間だった。



    「グッ…!?」


    床が激しく揺れている。

    立ち上がることすら、ままならなかった。

    僕は自分に起こっている状況に、若干パニックになりつつあった。



    「苗木くん!! 机の下に!!」



    舞園さんが叫び、僕は冷静さを取り戻す。

    僕は近くにあった机の下に、一目散に駆け込んだ。


    …そこからは地獄だった。


    収まらない地面の揺れに、僕が出来ることはただ、神様に祈るだけだった。


    大きな破裂音と共に、割れたガラスの破片が隣の机に降り注ぐ。


    生きた心地なんてしなかった。


    あるのはただ、『生きたい』という生への執着心。



    「神様…」



    強く、心の底から、普段だったら信じもしない神様に祈った。


  7. 7 : : 2015/01/17(土) 20:40:47




    …すると、僕の願いが通じたのか、徐々に振動が小さくなっていくのがわかった。


    「収まった…」


    身体中から、ドッと疲れが溢れ出る。

    安堵感で、僕は腰からその場に倒れ込んだ。


    「何だったんだべ…!?」


    僕から少し離れた場所で、クラスメイトの葉隠くんが小さな声で呟く。


    「フン、愚民め…」

    「今のは『地震』だろう」

    「地殻変動の起こりやすい、この国ではよくある事だ」


    葉隠くんの呟きに反応し、十神くんが悪態をつく。


    「とにかく、ここから避難した方がいいわ」

    「そうだね!! さくらちゃんもそう思うでしょ?」

    「ああ、そうだな…」


    霧切さんの提案により、僕たちは取り敢えず外に避難することにした。

  8. 8 : : 2015/01/17(土) 20:50:17


    「でもよー、こういうのもたまには面白いよな!!」


    教室から出てすぐ、桑田くんが明るい声で辺りに呼びかけた。


    「そうかな…? 僕は、そうは思えないけど」


    彼の不謹慎な発言に、僕は少々苛立ちを隠せなかった。


    「ケッ、真面目だな」


    「…だってさ、この地震で死んでる人は間違いなくいるんだよ?」

    「それなのに面白いって…僕はそうは思えないよ」


    「あ、ああ…ごめんな」


    さすがにバツが悪くなったのか、桑田くんは一言僕に謝罪した。





    「……」





    気まずい沈黙が続く。


    …長い廊下を歩き、僕たちはやっと外に出た。


    明るい日射しが射し込んでくる。



    「…え?」



    ただ、外は、絶望的な光景に包まれていた。
  9. 9 : : 2015/01/17(土) 20:59:51


    建物から、煙が上がっている。


    道路は、たくさんの人でごった返していた。


    そして、その中には、


    叫び声を上げながら走り回る人。

    頭から血を流し横たわっている人。

    ガラスの破片が、足に深く突き刺さっている人。


    …が見えた。



    「嘘…」


    舞園さんは身体を固め、顔を引き攣らせる。


    いや、舞園さんだけじゃない。



    「…!!」


    「おいおい…」



    大和田くんや、普段なら、感情を表に出さない霧切さんでさえ、この状況に戸惑っていた。

    僕も含め、全員がこの絶望的な状況に挫けそうになっていた。


    ただ、一人を除いて。

  10. 10 : : 2015/01/17(土) 21:13:28



    「おい!! 何をボサボサやっている!!」

    「愚民を助けるのが俺たちの役目だ!!」

    「さっさと動け!!」


    そう怒鳴り散らし、十神くんは人混みをかき分け前に進む。



    「十神!? 止めなって!!」


    「……!!」



    朝日奈さんの抑制にも聞く耳を持たず、十神くんは突き進む。

    そして、近くの停車している車によじ登った。



    「あいつ…何やってんだ!?」

    「降りろ!!」



    周りの人達が騒ぎ立てる。

    だが、十神くんは全く動じていなかった。

    寧ろ、このアウェー感を愉しんでいるようにも思えた。


    「いいか!! よく聞け!!」

    「俺は超高校級の御曹司、十神白夜だ!!」


    「あ、あの十神財閥の…!?」

    「凄え…本物だ!!」

  11. 11 : : 2015/01/17(土) 21:42:18


    周りの人達の、十神くんに対する反抗的な態度は、彼への興味という肯定的な感情に変わりつつあった。


    「俺の目的は、お前らのような愚民を助ける事だ!!」

    「とにかく落ち着け!!」

    「俺の指示通りに動くのなら、必ず救ってやる!!」


    自分より歳上の人達を愚民呼ばわりするのはいただけないけど、

    それでも、

    ここの空気が変わったのがわかった。


    「私たちは、何をすればいいんですか!?」


    「まず、落下物に気をつけながら安全な場所まで避難しろ」

    「後で俺が手配して、そこに食料を運んでやる」



    僕は、この時、素直に十神くんを尊敬した。

    彼は自分の行動に圧倒的な自信を持っている。

    その自信が周りに伝染し、皆の活力を引き出す。


    けど僕は…



    「何もできない」




  12. 12 : : 2015/01/17(土) 22:27:03





    ーーーーーー

    ーーーーーー

    ーーーーーー

    ーーーーーー




    そこからだった。


    希望ヶ峰学園の皆の力が発揮されていったのは。



    舞園さんは避難所で臨時コンサートを行い、絶望的な雰囲気を消し飛ばした。

    彼女の明るい表情は、そこにいる人に元気を与える。



    桑田くんは、子供たちと無邪気にじゃれ合っていた。

    今は、物資の運搬などで忙しいのだが…それでいい。

    落ち込んで塞ぎこむよりは、それでいい。



    大和田くんは暴走族の仲間に連絡をとって、復興を手伝ってもらっている。

    やっぱり、信頼というのは強い武器になるという事を、改めて思い知らされた。



    不二咲くんはこの震災の情報を整理している。

    災害時において、情報はとても大切なものになる。

    彼もそれをよく理解しているのだ。


    山田くんはこのことを題材に漫画にすると言って、今の状況をスケッチしている。


    石丸くんは、配給の効率と公正さを考慮し頭を捻っている。

    彼なら素晴らしいアイデアが出るだろう。


    セレスさんは、外国の知り合いの富豪に、資金の援助を頼んだそうだ。

    頼もしい限りである。



    大神さんと朝日奈さんは、物資の運搬を手伝っている。


    十神くんと霧切さんは、人災による二次災害を防ぐため、避難所という避難所を駆け回っている。

    腐川さんはいつも通り、十神くんの後ろをついて回っていた。




    ただ、僕はまだ立ち直れずにいた。

    皆の頑張りを見守るだけである。



    「ハハ…皆は凄いね…」

    「僕なんか全然…」



    フラッシュバックするのだ。

    あの、断末魔みたいな叫び声が。


    理性というフィルターを外した、心からの悲鳴。






    「うっ…!?」




    少しぼんやりしていると、直ぐに脳裏に浮かんでくる。



    「ああああああ…!!?」



    頭が割れそうになった。

    ズキズキとした、鋭い痛みが僕を襲う。



    「グググ…!!」


    「苗木っち!? どうしたんだべ…」


    「は、葉隠くん…?」



    葉隠くんの声を聞いて、少し痛みが和らいだ気がした。


  13. 13 : : 2015/01/17(土) 22:28:27
    期待!
  14. 14 : : 2015/01/17(土) 22:31:30
    >>13
    期待ありがとうございます。
  15. 15 : : 2015/01/17(土) 22:38:10


    「ご、ごめん…みっともない所を見せちゃったね」


    「いや、別に気にしてないべ」

    「それよりよ…苗木っち、少し耳を貸してくれねーか?」


    「う…うん?」



    何故か、胸の奥がざわめくのを感じていた。


    「…言い辛いんだが、俺の占いによると、こまるっちは、今、生死を彷徨ってる状態だべ」


    「!?」



    馬鹿でかいハンマーで、頭を強く殴打されたような感覚だった。


    そうだ。


    気づかないフリをしていただけだったんだ、僕は。


    起こり得ることじゃないか。



    桑田くんに放った、自分の言葉を思い出す。


    『…だってさ、この地震で死んでる人は間違いなくいるんだよ?』


    まさか、それが自分に当てはまるなんて考えもしなかった。


    こまる…!!


    僕の唯一の妹。


    そりゃ、普段は喧嘩ばっかりしてるけど、それでも大切な家族だ。



    「葉隠くん…こまるは!?」


    「まだ、死んじゃいねえべ」

    「ただ、このままだと時間の問題だべ…」


    「わかった、ありがとう」


    僕は葉隠くんにお礼の言葉を述べ、外に向かって歩き出す。

  16. 16 : : 2015/01/17(土) 22:47:09



    「……」

    「ちょっと待つべ!!」



    「…どうしたの?」



    足を止め、彼の方へ振り向く。



    「俺も行くべ」


    「え…? でも、危険だよ?」


    「だからこそ俺が行くんだろうが、一人よりも、二人の方が生存率が高いべ」


    「…ありがとう」



    目が熱くなる。手を強く握りしめる。

    二度目の『ありがとう』は…感動の涙を堪えながらの、一言だった。



    「さあ、行くべ」



    葉隠くんが前に立ち、僕がそれについていく。


    外に出てみると、やはり人で溢れかえっていた。

  17. 17 : : 2015/01/17(土) 22:51:42



    「苗木っち…こまるっちの居場所の検討はついてるのか?」


    「うん、こまるの学校は、今日、創立記念日で休みなんだ…」

    「だから僕の家にいるはずだよ」


    「なるほど、じゃあ急ぐべ」



    僕と葉隠くんは、自然と足を早めていた。

    確かに人は多かったが、前に進めないほどではない。

    きっと、十神くんと霧切さんの健闘によるものだろう。


    …しばらく走っていると、だんだんと葉隠くんの顔が険しくなっていくのが感じ取れた。


    その表情は、まるで、急ぐ馬に鞭を打つような感覚で、僕のペースを早めさせた。


    葉隠くんには、こまるの現状がわかってるんだ。

    顔が険しくなったってことは…



    「クソッ…」



    自分の無力さを呪った。


    待ってろよ、こまる…兄ちゃんが必ず助けてやるからな。


  18. 18 : : 2015/01/18(日) 04:29:50
    葉隠がクズじゃない!期待です!
  19. 19 : : 2015/01/18(日) 07:23:01
    >>18
    クズじゃないのもたまにはいいかと。
    期待ありがとうございます。
  20. 20 : : 2015/01/18(日) 07:32:00


    どれだけ走っただろうか、気がつくと僕は自宅の前に着いていた。



    「ハァハァ…」



    息切れを隠せない。


    僕は辺りを見回す。

    …全力で走っている内に、どうやら葉隠くんをおいてきてしまったようだ。


    けど、休んでいる暇も、葉隠くんを待っている時間も最初からない。


    僕は、重い扉をゆっくり開きながら、自分の家に入った。



    「こまる!! 返事をしてくれ!!」



    こまるの名前を叫ぶ。

    だが僕の呼びかけも虚しく、辺りを包み込むのは静寂だけだった。


    「……」


    冷たい廊下を慎重に進み、こまるの部屋を目指す。


    大丈夫。

    耳にそう言い聞かせる。


    「…こまる」


    生きててくれ…そう願い、僕はこまるの部屋のドアノブに手をかけた。



    …そして、ドアが開く。

  21. 21 : : 2015/01/18(日) 07:42:03



    部屋は、ぐちゃぐちゃに荒れていて、足の踏み場がほとんどなかった。


    漫画が沢山置かれていた大きな本棚も、床に倒れ込んでいる。


    「……あ」



    その、本棚の下に目をやると…


    薄白い手がはみ出ているのが見えた。


    「な…?」



    ある可能性が頭の上に浮かぶ。


    いや、そんな筈はない。


    だって、『こまる』の手がこんなに薄白いわけがない。


    それは、毎日こまるの手を見ている僕だからわかることだった。


    …でも、僕は最初にこの手を見て、何故『こまる』の手だって思ったんだ?



    「……」



    それは簡単だ。


    それが事実だったからだ。



    「嘘だ」



    ここがこまるの部屋で、その手の形がこまるにそっくりだったからだ。


    薄白かったのは…死んで、血液が身体を巡っていなかったから。



    「嘘だ嘘だ嘘だ」



    僕は、本棚に駆け寄り、力を振り絞って持ち上げる。



    そこには、



    安らかに目を閉じていた、僕の妹の姿があった。



    「あ…」

  22. 22 : : 2015/01/18(日) 08:15:19

    僕の平和な日常は、もう、戻ってこない。



    「何で…?」



    理由なんてあるわけない。


    ただ、純粋に偶然だ。



    「こまる…」



    僕は、膝から崩れ落ちた。

    堪えていた涙が、一つずつ頬を濡らしていく。


    そして、


    いつの間にか、僕は大声で泣き叫んでいた。



    「ああああああああああああああああああああああああ!!!!!!」


    「何でっ!!?」


    「何でこまるなんだよ!!!」



    何が超高校級の幸運だよ…。


    妹一人守れやしない。



    「…苗木っち」



    気づかない内に、葉隠くんが扉の前に立っていた。



    「葉隠くん…」



    「今は、帰るべ」

    「生きて…皆の所に帰るべ」



    「…僕はいいよ」

    「もう立ち上がれない…」



    目に涙を浮かべ、そう答える。



    「あ、甘えたこと言ってんじゃねえべ!!」

    「こまるっちは、生きたくても生きれなかった!!」

    「けど苗木っちは生きてるべ」

    「だからこそ、生きてる奴が、この苦しみを乗り越えなきゃいけないんだべ!!」

    「それが生きてる奴の、死者に対する責任だべ!!」



    彼の言葉が、僕の心に深く響いた。


    けど、たった一つ。


    納得出来ない部分があった。



    「葉隠くん…それは違うよ」



    僕はゆっくりと立ち上がり、こまるの死体に近づく。


    「『乗り越える』んじゃない…!!」


    そして、こまるの死体を抱きかかえる。


    重い。


    足が震える。


    けど、


    「『引き摺って』前に進むんだ…!!」



    気絶した人の身体が重いとは聞いた事があるが、まさかこれほどまでとは思っていなかった。


    でも、僕は前を見つめる。

  23. 23 : : 2015/01/18(日) 08:25:41
    葉隠がイケメンだ…っ
    とても引き込まれます!
    期待です!
  24. 24 : : 2015/01/18(日) 08:27:04
    >>23
    どうもありがとうございます。
    頑張りたいと思います。
  25. 25 : : 2015/01/18(日) 08:27:40


    「…それでこそ、苗木っちだべ」



    そう微笑みながら、葉隠くんが手を貸してくれた。


    こまるが一気に軽くなる。



    「一人じゃ重いかもしれないけどよ…」

    「こうやって協力していけば、全然大丈夫だろ?」


    「…うん」



    僕の中の苦しみが、少しだけ、軽くなった気がした。


    …いや、


    確かに軽くなった。


    お互いが支え合うことで、重圧が軽くなったんだ。

  26. 26 : : 2015/01/18(日) 08:29:25


    ーーーー
    ーーー
    ーー




    僕たちは取り敢えず、希望ヶ峰学園の皆がいる場所に戻った。


    皆はこまるの死体を見て、ただ一言。



    「お疲れ様」



    と言った。



    変な同情でも、嫌味でもなく、ただ一言。


    その一言に、僕は人間の優しさを感じた。




    ーー
    ーーー
    ーーーー

  27. 27 : : 2015/01/18(日) 08:33:15



    あれから一ヶ月。


    僕の住んでいる所は、かなり復興が進んでいた。


    余震に怯えつつも、平和な日常を取り戻しつつある。



    そして、今日は久しぶりに舞園さんと街をお出掛けすることになった。


    そろそろ、待ち合わせの時刻である。



    「…あ、舞園さん!!」


    「すみません!! 待たせちゃいました?」


    「ううん、僕も今来たところだからさ」

    「さあ、行こうか」


    「はい!!」



    …舞園さんと買い物を楽しむ。


    何故だろう、こんなに楽しいのは…。


    もしかすると、これが恋ってやつなのかもしれない。


    そんな事を考えながら、僕は彼女と一緒に街を歩き回った。


    …しばらくして、僕たちは近くにあった喫茶店で少し休憩することにした。


    店内は、思ったより空いていて、すぐに座ることが出来た。



    「ふぅ…疲れたね」


    「ごめんなさい…荷物を持ってもらっちゃって」


    「ん、別に大丈夫だよ」


    「…ちょっと話があるんですが、いいですか?」


    「え、どんな話?」


    「私と…付き合ってくれませんか?」


    「ええっ!!?」



    突然の告白に驚き、椅子から転げ落ちそうになった。

  28. 28 : : 2015/01/18(日) 09:09:55



    「な、何で僕なんかと…!?」


    「…苗木くんは、もうちょっと自分に自信を持つべきですよ?」

    「強いて言うなら、恰好いいからです」


    「恰好いい…僕が…?」


    「はい、絶望的な状況にもめげない姿勢が…凄く恰好いいです」


    「……」


    「返事は、今じゃなくても大丈夫です」

    「だから…どんな返事でもいいので聞かせて下さいね?」



    そう言って舞園さんは席を外し、帰っていった。



    「…返事…か」



    ーーーー
    ーーー
    ーー


  29. 29 : : 2015/01/18(日) 09:57:35



    返事は勿論、『YES』だろう。


    僕はその返事を、明日舞園さんに話すことにした。



    「…喉が渇いたな」



    帰り道、季節が春ということもあり、僕は喉の渇きを覚えた。



    「…コンビニにでも寄るかな」



    近くにあったコンビニに、僕は飲み物を求めて入って行った。



    ドリンクの棚にあるミネラルウォーターを手にとり、会計を済ませる。


    会計の間暇だったので、僕は取り敢えずコンビニの中を見回した。



    「…あ」



    僕の目についたのは、


    一枚の広告。


    その広告には、ただただ大きな字で、


    『助けて』


    と書かれていた。


    よく見てみると、どうやら、一ヶ月前の震災の復興を手伝いを頼む広告だった。

  30. 30 : : 2015/01/18(日) 10:37:18


    期限はなし。

    土日の休みは殆どない。

    給料と呼べるものも、雀の涙に等しかった。



    申込はコンビニで、手数料と登録料込みで100円で出来るそうだ。


    締め切りは今日。



    財布の中身は、ちょうど100円。



    まさに運命とも呼べるシチュエーション。



    「……」



    僕の住んでいる所は復興が進んでる…ってだけで、他のところは決してそうではない。


    誰かが今も苦しんでいる。


    悩んでいる僕に、店員が話しかけてきた。



    「はい、こちらになります」


    「あ、ありがとうございます」


    僕は店員からミネラルウォーターを受け取る。



    …言え。


    『申込したいんですけど…』



    一言。


    そう言え。



    …だが、期限なしという文字が引っかかった。


    舞園さんに会えない。


    そう思うと、どうしても一言が絞り出せない。

  31. 31 : : 2015/01/18(日) 10:59:46



    「…僕は」



    この時、幸運か不幸か、


    昔のことを鮮明に思い出した。


    小学5年生の思い出。




    『僕の将来の夢は…』



    『人を助けるような職業に就くことです!!』



    僕が幼い頃の甘酸っぱい記憶。



    「人を…助ける?」



    そうだ。


    助けるんだ。



    今度こそ…



    言え。


    助ける為の一歩を、踏み出せ。



    「あの…」



    「はい、何でしょうか?」



    言わなきゃ、始まらない。


    逆に、


    言えば、何か変わる。





    さあ、




    「申込を…」




    踏み出せ。



    「した…い」



    が、浮かぶ、仲間の顔。


    舞園さんとの生活。



    …僕は歯をくいしばり、一言放った。




    「……いえ、何でもないです」



    僕は踏みとどまった。

  32. 32 : : 2015/01/18(日) 12:04:48



    ーーーー
    ーーー
    ーー





    さらに、あれから1年が経った。


    僕は、キャンパスライフを楽しんでいる。


    舞園さんと共に。


    僕は、教師になることにした。


    僕のこの体験を、他の誰かに伝えていきたかった。



    「苗木ィー!! ちょっと、昼食買って来てくれ」


    「はーい」



    僕のところの教授は、人使いがとても荒い。


    そんなわけで、今日も僕は弁当を求め、コンビニまでひとっ走りするわけである。



    「弁当…弁当…」



    コンビニに着き、直ぐに弁当を探す。


    「もう何でもいいや」



    てきとうに、選んでレジまで持っていく。


    「これ、会計お願いします」


    「うーっす」



    感じの悪い店員に、心の中で悪態をつきながら、僕は会計を待つ。


    すると、


    僕の目についたのは募金箱。



    「この間の震災の…」



    残念ながら、募金箱の中身は空っぽだった。


    いつかの日のように、財布の中身を確認する。



    あるのは、500円。



    これを募金箱に入れると、今日は昼食抜きである。



    …けど、



    僕は入れた。



    軽快のいい金属音がする。




    「あざーっす」



    「あ、どうも」




    感じの悪い店員は、きちんと頭を下げて僕にお礼を述べた。


    少しだけ、人間って捨てたもんじゃないなと思えた。



    「さて、早く戻らないと」



    僕は、大学まで走っていった。



    ーーーー
    ーーー
    ーー





    環境を変えるには、まず自分が変わらなければならない。



    だが、



    大きく変わる必要はない。


    変化は少しでいいんだ。


    ただ、その少しの変化が、周りの人間を動かす。




    「おっ…500円、入ってんじゃん」

    「しゃーね…俺も入れてやっか」




    そして、変化は変化を呼び、



    やがて大きな変化になる。




    「募金か、まあ、ちょっとくらいならな」

    「慈善活動だべ」




    その変化は、



    きっと僕たちをいい方向へと導いてくれるはずだ。



    「兄弟…金あるか?」


    「む!? どうしたというのだね?」


    「いや、募金したいけどよ、今持ち合わせてなくてよ」


    「ならば取りに帰るぞ!!」


    「うん、帰ろう!!」


    「…ああ、そうだな」




    一人一人が、支え合い、


    行動できれば、




    「さくらちゃん!! 募金しよーよ!!」


    「ああ、そうだな」




    未来だって変えられるはずだ。




    「白夜様!!」


    「ん、どうした?」


    「いやー、十神白夜殿も、そういったことをなさるのですね!!」


    「募金なんて…白夜様らしくないというか」


    「フン、たまにはこういうのもいいだろ」


    「…フッ、そうですわね」




    どんな絶望的な状況でも、



    「あら…募金でもしようかと思ったら、もう入りそうもないわね」


    「しょうがない…他のコンビニまでひとっ走りしましょうかしら」


    「何だか…走りたい気分だし」




    仲間となら、希望に変えられる気がする。




    END

  33. 33 : : 2015/01/18(日) 12:09:11
    ぶっちゃけ震災を題材にしてSSを書くなんて、不謹慎っちゃ不謹慎です。

    『だったら、何でこんなSS書いたんだ』

    と思われるでしょう。

    理由はスレタイ通りです。

    お目汚し失礼しました。

    またの機会でお会いしましょう。

  34. 34 : : 2015/02/06(金) 10:05:13
    >>33 シリアス乙!(私の大好きなやつです!)
  35. 35 : : 2015/02/06(金) 16:39:26
    >>34
    あざっす!!!
  36. 36 : : 2015/07/08(水) 16:02:31
    面白かったです!!!こまるが死んじゃったのはショックでしたが面白かったです!!!
    お疲れ様です( ^∀^)
  37. 37 : : 2015/07/25(土) 11:31:28
    あれ? 江ノ島サンと戦刃サンは・・・?

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Koutarou

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