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このSSは性描写やグロテスクな表現を含みます。

この作品は執筆を終了しています。

黒の斬撃/深紅の羽根Ⅰ《存在しないハズの序章》

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  1. 1 : : 2014/12/20(土) 21:13:53

    《確かな敗北》







    少年は虚ろな目を擦り、ぼんやりとした視界の先を見つめる。



    ーーー廃墟。廃墟。死体。死体。死体。死体。死骸。死体。死体ーーーーー。



    光がない瞳に映ったのは、漫画やテレビでしか見たことのない光景と、世界の終わり。
    居場所を失い、辺りをさ迷う人。空腹を凌ぐために木の枝をかじる人。全ての人に共通していることは、皆、恐怖と絶望に支配されていたということ。



    山になった死体を燃やす政府。常にタンパク質が燃える臭いがする。それに慣れてしまっている。



    ここが日本の首都圏だと誰が思うだろうか。



    不意に身体を気だるさが襲い、少年は横たわる。
    そっと目を閉じ、意識を暗黒の中に放り込もうとするが、あの記憶がそうさせてくれない。




    お経を詠むお坊さん、蝉の声、風鈴の音が交わる広い空間でソレは行われた。



    『一掃葬式』



    政府がケチって死体をひとまとめして行うように命じた葬式。



    少年の居場所だった地域が寄生生物《パラミックス》に襲われたのは、つい最近のことだ。
    満員の電車に押し入れ、涙目で「すぐに向かうから」と言った両親の顔を、忘れることはできない。



    親戚の家に預けられて4日。少年の両親はすぐに帰って来てくれた。



    ーーーー真っ黒な燃えカスになって。




  2. 2 : : 2014/12/20(土) 21:18:51


    親戚の「これが君のパパとママだよ」と言う言葉を、少年は素直に受け止めることはできなかった。



    ーーーー嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ!



    少年はただ喚き、絶叫し、絶望し。



    親戚の家を飛び出した。
  3. 3 : : 2014/12/20(土) 21:27:41

    さっきまで手の平にあったパパとママは、砂礫のように崩れ去り、黒い炭を残して風と共に消えていった。



    ただ絶望する事2日。冒頭に戻る。




    少年の頬を伝う一筋の涙。もう身体の水分はカラカラなハズなのに、涙が止まらない。



    ーーここで、死んだ方がいいのかもしれない。



    いくら少年が子供だといっても、これだけは理解できる。



    もうこの国は終わりだと。




    国土の80%をパラミックスに支配され、陸海空軍全てが壊滅的被害を受けたと親戚の叔父さんに聞いた。



    有り得ないほど人が死んだ。


  4. 4 : : 2014/12/20(土) 21:32:44


    そして、有り得ないほどパラミックスが増加した。




    意識を手放しそうになった時、全てを吹き飛ばすかのような着陸音がした。



    クレーターのような穴を空けて着地した《ソレ》は、食物連鎖の頂点に新たに君臨した絶対王者。もう、人類は捕喰対象だった。



    「こっちに、来る……」



    少年がそう呟いた瞬間、辺り一帯を悲鳴と絶叫が支配した。
  5. 5 : : 2014/12/20(土) 21:40:31

    大昔のティラノサウルスを思わせるその巨体は、地面を蹴るやいなや、人間の肉を引き裂き、喰い、体液を流し込む。



    ふと、ソレは辺りを見渡す。
    この辺の人間は全て喰らい尽くした。
    残っているのは、横たわる少年だけ。



    完全に標準を少年に合わせて、ゆっくりと近づいて来る。その一歩一歩が重く、辺りを震撼させる。



    ーーー死ぬ。



    少年はギュッと目を固く閉じ、身体を強ばらせるーーー刹那、何かが引き裂かれる音が聞こえた。
  6. 6 : : 2014/12/20(土) 21:51:03


    しかしそれは、少年のものではなく、その巨体だった。



    誰かがソレを殺したのだ。




    「生きてるかい?少年」







    3ヶ月後、日本は敗北を全国民に通達。
    各エリアの《カベ》を封鎖した。



    大量の死者と、それをはるかに上回る感染者を出し。




    ーーー2020年。人類はパラミックスに敗北した。








    ーーーその、10年後。
  7. 7 : : 2014/12/21(日) 08:37:09


    《存在しないハズの序章》

















    「愛してるよ、綾人。結婚して」




    「帰れ」




    突然のプロポーズを素っ気なくあしらい、早足でその場から離れようとする。




    「待ってよ綾人~」




    涙目で追いかけてくる少女ーーというか幼女ーー。




    「私の一世一代のプロポーズを断る気!?」




    「こんな街中で、しかもお前みたいな12歳のガキが、高校生にプロポーズするなんてありえんだろうが!」




    「なるほど。綾人はシチュエーションを大切にするのか……。忘れないうちにメモしておこーっと」



    そう言うと、ペンを挟んであったメモ帳を取り出し、スラスラの書いていく。
    メモ帳には、綾人メモ帳と書いてあり、この幼女ーー恋羽空が言うには、『綾人と将来チュッチュするために綾人のことを隅々まで知るメモ帳』らしい。



    「お前な……。こんな人がいっぱいいる中でそんなことしたら、俺ロリコンの変態て思われるぞ」



    「え?そんなこと、マンションの皆が知ってるよ?」



    「なぜ根も葉もないことを!?」



    「響子が吹聴してたから」



    「あのやろぉぉぉぉおおおおーーーッ!!」








  8. 8 : : 2014/12/21(日) 09:20:02


    街中で漫才を展開する2人に周囲から冷たい目線ーー主に綾人に向けられているーーを受けながら、恋羽空を引きずるようにして目的地に向かう。




    「綾人ぉ~~好きぃ~~」




    「はいはい」




    相変わらず飽きもせずにラブコールを送る恋羽空だが、これまた相変わらず素っ気なくあしらう綾人。端から見たらリア充爆発しろ展開だ。




  9. 9 : : 2014/12/21(日) 09:43:14


    一見、何ら変わりない日常。しかし、人類は常に絶望と死と隣り合わせに生きている。




    日本を5つのエリアに分けたそのうちの一つ、元・関東地方《トーキョーエリア》。



    元東京、元神奈川、元埼玉、元千葉を取り囲む、特集な物質でできた《カベ》ーー合計50からなるそれで取り囲み、なんとか生存している。



    もちろん、10年前のパラミックス討伐戦争に敗北してからこのような生活を送っている。



    その人類を守る《カベ》は、パラミックスの臓器《ポテンシャル》を使用し作られた。
    パラミックスに唯一対抗できるのは、そのパラミックスの臓器という、奇妙な法則が出来上がっていた。


  10. 10 : : 2014/12/21(日) 09:57:26


    「恋羽空、切り替えろよ」




    「わかってる」




    いくらパラミックスを寄せ付けないカベといっても、当然侵入してくるパラミックスも多い。
    そんなパラミックスを討伐するための組織ーーーー。




    エントリエーター(対パラミックス討伐組織)。通称ETE。




    通常、パラミックスにはモデルというものがある。大抵のものは、動物や虫、魚などの形状をしている《ポテンシャル・ノーマル》。通称レベルⅠ。そこから複数の細胞が複合されていくにつれてレベルが上がっていく。




    今最もレベルが高いのは、レベルⅤ。
    つまり、5つのモデルが混ざっている《ポテンシャル・ローザス》。世界に10体しか存在しないという最強最悪のパラミックスだ。




    しかし今回はレベルⅠ。
    目撃情報を元に討伐に向かう。
  11. 11 : : 2014/12/21(日) 10:44:28



    「綾人、見つけた!!」




    「こちら『凜崎・愛原ペア』、レベルⅠ・モデルバタフライを確認。戦闘開始!」




    言うやいなや、恋羽空は人間とは思えないほどの跳躍でバタフライに迫り、これまた人間とは思えないほどの蹴りでバタフライを叩き落とす。




    その落下地点で、赤く煌めく長剣を構えた綾人。




    命を救ってくれた変わりに叩き込まれた戦闘術ーーーー心桐流抜刀術弌式ーーー。




    「緋怨・霧雨ーーーッ!」




    まるで霧雨のような細かい斬撃がバタフライの羽根を切り刻む。




    「せいやァァァァアアアッ!!」




    着地の勢いでバタフライを押しつぶす恋羽空。
    グチャリ、という音と共に、粉砕される。
    辺りに体液が撒き散る。




    「やったぁぁぁ!」




    「おい、バカ!!後ろだ!!」




    まさか2体いるとは思わなかったのだろう。油断した恋羽空の背中をモデルスパイダーの脚が直撃する。




    「うッッッッッ!!」




    衝撃に耐えきれず、吹っ飛ばされる。




    「恋羽空ーーーッ!!」





  12. 12 : : 2014/12/21(日) 10:49:46


    「くっそーーー」




    「おいETE!しっかりしてくれ!!」




    警察が叫ぶが、綾人はそれを無視してスパイダーに突っ込む。




    ーーー心桐流抜刀術弌式ーーー




    「緋怨・霧雨ッ!!」




    斬撃を浴びさせるが、太刀筋が剃れる。




    「ちィッッ!?」




  13. 13 : : 2014/12/21(日) 11:09:25

    「綾人ぉぉ!」




    声の方を見ると、背中から深紅の羽根を生やした恋羽空が空高く飛翔していた。
    エネルギー放出のような羽根から鋭く細かい弾を放つ。ソレはスパイダーのあらゆる部位を貫通し、絶命させた。



    「………恋羽空」




    普段の碧色の目が、羽根と同じように深紅に染まっている。




    「まったく、綾人は弱いな。見てられない」




    「あー、うん,悪いな」




    警官達は目を見開いて驚愕していた。
    こんな華奢で可憐な少女が、巨大なパラミックスを蹴り飛ばし、羽根を生やしてブチ殺したのだ。しばらく考え込み、やっと結論にたどり着いた警官の1人が呟く。




    「そうか、この幼女が《ポテンシャル因子》を受け継ぐ者………」




    「そう。恋羽空は《エントラス》だ」
  14. 14 : : 2014/12/21(日) 11:25:53
    ブラックブレットが元ネタですか?
    あと期待!
  15. 15 : : 2014/12/21(日) 12:03:17

    >>14

    そうです。ブラブレが元ネタっすね。
    あ、ちなみに僕はロリコンではないので!

















    《エントラス》。ポテンシャル因子を受け継ぐ子供たち。




    人類最大の敵、パラミックスの戦闘臓器ポテンシャル。それが体内に存在し、人間とは思えないほどの戦闘能力を発揮する。




    それがエントラス。




    しかし、パラミックスの因子を受け継いでいるため、その存在を否定する者が大半である。
    そのため、恋羽空は学校を止める羽目になった。




    一体誰がエリアを守っていると思っているんだ、クソ野郎共がッ!




    「………綾人?」




    不意にかけられたら声に、反応が遅れた。




    「……ん、ああ。ごめん。なんだ?」




    「すごく、怖い顔をしてたから」




    「……」
  16. 16 : : 2014/12/21(日) 12:34:10


    「それよりも、何でお前の剣はパラミックスに傷を負わせれた?再生能力があるんじゃないのか」




    警官の問いに、綾人は剣を見せる。
    黒地の刀身に、深紅に煌め切り口。




    「そうか、《パラミザード》」




    パラミックスの戦闘臓器、ポテンシャルを元につくったETEの専用武器。アカデミーで教育を受けた者しか使用できないそれは、形状変化が可能。綾人はそれをシャーペン程度の大きさにして常に携帯している。




    「まあ、そう言うことだ」




    不意に服の袖がクイクイと引っ張られる。
    首を捻ると、恋羽空が綾人の腕に自分の腕を絡めながら笑い。




    「ああ、うんわかった。ありがとう恋羽空。超助かった。さすが相棒」




    頭を撫でてやると、嬉しそうにニコニコ笑い、もっともっとと言わんばかりに頭を押し付けてくる。




    それを見ていた警官の視線に気づいたのか、恋羽空はさらに綾人を引き寄せ。




    「ふふふ、まさか私に惚れた?けど、私には綾人と言う将来を誓い合った男性がいるからダメ」




    「誓い合ってねぇぇ!!」




    「むぅ………」




    グイ、と、恋羽空に引き寄せられたらかと思うと、首に腕を回され、唇に軟らかい感触が押し付けられた。



    ーーーこれは、恋羽空の唇!?




    バッと離れ、後ろ手を組み、はにかむ恋羽空。




    「ご褒美………ね?」




    「お前なぁ………」




    「何?もっとしてほしかった?」




    「ばッ!お前な!そういうことはだな、こんな所ですするものじゃーーーーあ」




    綾人は後悔した。いま、自分の言った言葉は、大半の者がこう解釈するだろう。
    「人がいないところでなら………な」と。




    「綾人………。2人の愛の巣に帰ったらもっと色んなことしてあげるよ」




    「ロリコン変態野郎」




    「違うッ!」
  17. 17 : : 2014/12/21(日) 12:59:40


    さて、少し遅れたが、彼らを紹介しよう。




    線の細い体躯に、淡い黒のセミロング。前髪が左目を隠している。比較的整った容姿だが、漆黒の瞳です吸い込まれそうになり、どこか恐怖を覚える残念なイケメン。
    剣術を用いた接近戦を得意とするETE。
    周囲からロリコンの変態と噂されるが、それは絶対無いと言い張る可哀想な人。
    凜崎綾人(りんざきあやと)。





    華奢な体を包むおしゃれなフードつきのコートにミニスカート。動く度に小刻みに揺れるオレンジ色のツインテール。小さく整った顔に、大きく輝く碧色の瞳。バラ色の唇。大人になったら美人になるだろう可愛らしい容姿。
    ポテンシャルの羽根を生かした中距離の戦闘を得意とするエントラス。
    綾人に恋人のように懐く。自称綾人の未来のお嫁さん。
    愛原恋羽空(あいはらこはく)






    「ロリコンの変態じゃないっつーの…」




    「安心して綾人。私と綾人のどんな趣味でも受け入れるよ。手錠でもネコミミでもーーー」




    「やめてぇぇえーーーーッ!!」





  18. 18 : : 2014/12/21(日) 15:20:37


    「おい、ETE、いくら幼女が相棒でも、そっち方面に突っ走るのはよくないぞ」




    「ふざけんな!俺は健全な男子だッ!幼女なんぞに興味はない!断じてないッ!」




    俺は声高らかに叫んだ。すると、弱々しく服を引かれる。




    「綾人ぉ……、私のこと興味ないの………?嫌いになったのぉ………?エントラスだから………?」




    恋羽空が綺麗な瞳から大粒の涙を流しているのを見てーーああ、やっちまったーー。







  19. 19 : : 2014/12/21(日) 15:57:27



    ーー2カ月前ーー。




    まだ恋羽空が学校に通っていた時、とある喧嘩で瞳を深紅に染めてしまい、エントラスとバレてしまった。




    「隔離区に帰れ!パラミックス!」




    「違う……私は、私は人間!」




    「キモいんだよ!人間のフリすんじゃねーよ化け物!」




    「私は人間!パラミックスじゃない!」




    いきなり小学校から電話がかかってきたと思って駆けつけたらこれだ。
    恐れていたことが起こってしまった。
    涙を流しながら必死に自分は人間だと叫ぶ恋羽空だが、だれも聞く耳を持ってくれない。



    ーーもう、ここではだめだ。




    ゆっくりと歩き、恋羽空に向かう。
    恋羽空を糾弾していた者も、自分より年上、怒りにも似た感情を露わにした綾人を見て、その場から立ち去る。




    「綾人………綾人ぉぉぉぉ!!」




    泣き叫びながら、闇の中で光にすがりつこうとするように、綾人にしがみつく。
    そんな恋羽空を、優しく、しかし強く抱きしめる。




    「恋羽空、ここはもうダメだ」




    「イヤ……友達もいっぱいできたのに……」




    「もう、友達じゃねーよ」




    「……もう、私に居場所なんてない。どうせッ、エントラスは皆に受け入れてもらえないんだッ!!」




    「………アホか」




    少し体を離し、涙を指で拭ってやる。
    酸素を思いっきり吸い込みーーー。




    「俺がお前の全てを受け入れてやる。居場所になってやる。一生傍にいてやる。この腐った世界も変えてやる。お前が世界から拒絶されても、世界に裏切られようとも、俺がいる!俺がいてやる!お前は人間だ!だからーーーさ、泣くな、恋羽空」




    我ながら恥ずかしいセリフを大声で叫ぶ自分をらしくないなと思い、恋羽空を見ると、呆気にとられたような顔をしていた。
    そしてーーー。




    「綾人、ダサい」




    にっこりと微笑んでくれた。




    「うっせ。元気になったならよかったよ」




    「うん。ありがと、綾人。大好き」




    「……ん」




    その日からだろうか。エントラスの少女たちを救ってやろうと、マジで思ったのは。






  20. 20 : : 2014/12/21(日) 16:07:53






    「あーもう、おい恋羽空。言ったろ?一生傍にいてやるって。俺がお前を嫌いになるわけねーだろ。アホ」




    「綾人………」




    再び綾人に抱きつく恋羽空。
    それを見ていた警官がーーー。




    「ロリコン変態」




    「違いますーーーッ!!」
  21. 21 : : 2014/12/21(日) 16:08:35
    期待!ww
  22. 22 : : 2014/12/21(日) 19:50:58

    >>21
    どうもですッ!













    「響子さーん」




    パラミックス討伐後、眠いから帰ると言った恋羽空と別れ、心桐と表札に書かれた和風の豪邸に足を運んだ綾人。
    しばらくして、玄関のドアが開かれる。




    「………帰れ」




    ギィィィ、バタン。




    「ちょぉぉおおっと待って下さいませんかねぇぇ!?」




    突然帰れと言われ、無情にも閉められたらドアを叩きながら叫んだ。




    ギィィィ。




    「うっせーな。帰れよ、バカ」




    「酷いっすね!相変わらず!」




    ーーーこの毒舌な女性こそが、心桐流抜刀術の師範、心桐響子(しんどうきょうこ)である。
    そして、綾人の命の恩人ーーー。

  23. 23 : : 2014/12/21(日) 20:10:31


    なんとかして家に上がらせてもらえた綾人は、前を歩く響子を眺めて。




    (本当に27歳なのだろうか?)




    と、思ってしまった。



    響子は今年で27歳になったが、容姿は小学生だ。恋羽空と同じくらいの容姿だ。
    ブラウス色の長髪を腰の辺りでまとめたシンプルな髪型。しかしどこか魅力を感じる。




    そして、日本最高の医者ーー自称だがーーを名乗る。本職は外科医。




    綾人の左目を手術したのも彼女だ。




    「ん、何だ綾人。まるでロリコンのキモヲタがお目当ての幼女を見つけたかのような視線を向けて。私に何か言いたいことでもあるのか?ーーーああ、ロリコンは間違ってないな。それに加えて変態だし」




    幼女の容姿でこの毒舌ぶりだ。
    そういえば、誕生日に作ってあげたケーキも「ん?これは綾人が作ったのか。ふむ。残念だが私は雑種が作った料理を食うほど胃袋は強靭ではないのでな」なんて言われ、1日中いじけて恋羽空にからかわれたこともあった。




    「だから、ロリコンじゃないですよ。あ、そう言えば響子さん、俺がロリコンだって吹聴したらしいですね、何やってくれてんですかッ!」




    「え?事実じゃん」




    ケロッとした表情で言い放つ響子。




    「だって恋羽空に聞いたぞ?夜はなかなか寝かせてあげてないそうじゃないか」




    「誤解ですよ!あいつの寝相が悪くて移動したら引っ付いてくるんですよ!」




    「つまり、同じ布団で寝ていると。よし、警察だな」




    「いやぁぁぁぁぁぁぁああやめてぇぇぇぇぇぇええーーーーッ!!」
  24. 24 : : 2014/12/22(月) 16:27:03


    なんとか響子から携帯をもぎ取った綾人。




    「何してるんすか!」




    「喋るなロリコン。ロリコンうつる」




    「うつりませんッ!」




  25. 25 : : 2014/12/22(月) 16:34:23

    「………それで、何の用だ、ロリコン綾人」




    「もういいですよ………」




    「キモいな。いいからさっさと用件を言え。ロリコン綾人」




    相変わらずロリコンと認識されている綾人は、もう諦め、本題に話を持って行く。




    「えっとーーーー」




    「はァ………。ロリコン綾人がここに来たってことは、私に検査してほしんだろう?」




    「はい。分かってるなら最初からそうやってくれれば……」




    「お前弄るの楽しいもん」




    珍しくイタズラっぽい笑顔を浮かべ、走って検査室にむかう響子を、不覚にも可愛いと想ってしまい。




    (俺、マジでロリコンなのか………?)




    そんな考えが頭に浮かぶが、振り払うように頭を叩く。




    「おーい、遅いぞロリコン綾人」




    「ロリコンじゃないですよ………」
  26. 26 : : 2014/12/22(月) 17:03:21


    病室のような部屋ーーというか病室ーーに入った綾人は、響子に促されるままに腕を出す。
    注射器で血液を少量取り出し、検査器の中に流し込む。




    「あ、そうだ響子さん。この後久しぶりに手合わせお願いできますか?」




    「ふむ、気持ち悪くてロリコンの愛弟子よ、少しはまともに剣を振れるようになったのか?」




    検査器をいじりながら聞いてくる響子に「もちろんです」と力強く頷く。




    「いいだろう。お前は新しい抜刀術の実験台になってもらう」




    検査器からレジのレシートのような紙が出てくる。それをちぎり、綾人に押し付けるように渡す。




    「PP細胞の稼働率は23,6%だ。うん、最近は抑えてるんだな。偉いぞ。ロリコンのクセに」




    「23,6………。《ゲート2》を維持できてるんですね」




    PP細胞ーーパラミックスポテンシャル細胞。
    とある実験で人間の体内に'人工的'にポテンシャルをプラントさせることによって生まれる細胞。




    ゲートとは、パーセンテージの大きさによって決まる。0~20がゲート1。20~40がゲート2いうように、20%上昇するにつれてパラミックスに近づいていく。つまり、'人間でいられる限界点を突破する門'。PP細胞稼働率が70%を突破したとき、人間の形をしたパラミックスに変わり、100%を突破したとき、完全なるパラミックスに姿を変える。




    ーーー凜崎綾人は、《半パラミックス》と言っても過言ではない。











  27. 27 : : 2014/12/22(月) 18:18:32


    「……いい加減、恋羽空にもそのことを言ったらどうだ?ペア同士での隠し事はよくない」




    当然だが、そのことを恋羽空は知らないし、響子以外の誰も知らない。




    「………そう、ですかね」




    「ん?まさか、恋羽空に嫌われるのが怖いのか?」




    「………」




    完全に図星だった。
    見透かしたような瞳をこちらに向ける響子を直視できない。




    不意に、ポケットの携帯の着信音が室内に鳴り響く。




    「……?」




    ディスプレイに表示されたのは、上代沙奈(かみしろさな)の文字。
    トーキョーエリア、ETE支部の部長。綾人を雇っているーーどちらかと言うと下僕に近いーー綾人の一つ上の高校3年の少女だ。




    「沙奈か。こんな時に連絡とは、仕事関係の話じゃないのか?」




    「……………ぁ」




    通話ボタン押してしまったことを後悔した。




    『ご機嫌よう、ロリコン変態綾人君。何か忘れてないかしら?例えばーーー今回の仕事の報酬とか?』




    ーーーーー。




    「すいませんマジごめんなさい今すぐそちらに向かわせてもらいます超マッハでそちらに向かうんでどうか命だけはーーーーーッ!」





    もう自分でも何を言ってるのかわからないほどの早口で超絶謝罪し、携帯の電源を切る。




    「ーーーーと、言うわけで、今日は失礼します!あざしたぁぁ!!」




    超高速で走って行く綾人の背中を見つめながら、響子は思った。




    (お前が恋羽空に嫌われるわけがないだろう。お前が恋羽空を大切に想っているように、な)




    人間であり、パラミックスでもある綾人。
    ポテンシャル因子を受け継いでしまった《エントラス》を人間だと主張する綾人。
    何よりも彼女たちを救いたいと思っている綾人。そんなお前が、嫌われるハズがない。私が保証する。




    もう背中が見えなくなった愛弟子に、珍しく師匠っぽいことを投げかけた。




    「……らしくないな」





  28. 28 : : 2014/12/22(月) 18:38:46


    「はァ、はァ、はァーーー。すいません!沙奈さん!いえ、支部長ぉ!」




    回転する長椅子に脚を組んで座る支部長ーーーー上代沙奈。
    清楚で美しいその少女は、真夜中を思わせる紫がかった長髪をかき上げ、きれいでどす黒い笑顔を浮かべて。




    「あら、ロリコンで変態で社会のゴミの綾人君じゃない。まだ自殺していなかったの?」




    「響子さんといい、沙奈さんといい、俺への当たり強くないですか?」




    「気のせいよ。報酬は届いたわ。ご苦労様」




    先ほどとは打って変わり、どこかの社長のような雰囲気を出す沙奈。




    「最近、このあたり一帯にETEを殺して回っている『ETE狩り』が出没しているらしいの」




    「ETE狩り………ですか?普通なら、アカデミーを卒業してるので、簡単には殺せないと思いますが」




    「私が思うにね、綾人君。そいつもETEじゃないかと」





  29. 29 : : 2014/12/22(月) 20:03:29


    「確かに、有り得ない話ではないですが………」




    ETEがETEを殺すという話は、別に珍しいことではない。現場で鉢合わせになり、報酬欲しさに同業者を殺して自分の手柄にしようとする輩いる。また、出来損ないのエントラスを殺し、新たなエントラスと契約するという最低な屑野郎もいる。




    「まあ、綾人君はロリコンだけど微妙に強いしね。そう言えば、綾人君の序列は何位だっけ?」




    序列ーー。エントリエーター(対パラミックス討伐組織)が規定、発行するもので、討伐したパラミックスの数、挙げた成果などによって行われるランク付け。序列そのものがペアの強さと言っても過言ではない。




    「うッ………12万です…」




    全世界、合計25万のペアの内、12万。
    うーん、とんでもなく微妙である。




    「うっわ、低。恋羽空ちゃんは強いのにね。どう考えてもETEの実力不足だわ」




    「……重々承知してますよ」




    恋羽空がまともにペアを組んだら、おそらく千番台は堅い。どう考えても、綾人が足を引っ張っている。




    「まあいいわ。第4支部の唯一のETEだしね。これからの活躍に期待してるわよ。序列12万の、あ・や・と・く・ん?」




    「………はい」




    「とりあえず、ETE狩りには気をつけなさい」




    それを最後に、恋羽空が待っているアパートに向かって足を進める。
  30. 30 : : 2014/12/22(月) 20:28:11
    「ただいまー」




    どこにでもある普通のアパートの二階。一番奥の部屋に綾人と恋羽空は住んでいる。




    「遅いぞ綾人!」




    笑顔で出迎えてくれる恋羽空からなぜか湯気が出ている。




    「ーーーっておい!服着ろ服!なんで裸で玄関扉開けてんだアホ!誰かが見てたらどうすんだよ!」



    「安心して、綾人。私の全てはあなたのものよ」




    手で顔を覆い、できるだけ見ないようにするが、恋羽空のほっそりとしなやかなラインが見え、思わずどぎまぎする。




    「いいから隠せ!はやく!」
  31. 31 : : 2014/12/22(月) 20:51:29


    一度脱衣所に戻り、ラフな格好に着替えた恋羽空は、部屋で「お腹空いたー死ぬー」と言いながらゴロゴロしている。
    あんまり待たせると悪いので、急いで料理に取りかかる。




    「恋羽空、目玉焼きとスクランブルエッグはどっちがいい?」




    「綾人の作った料理はどれも美味しいから、迷う~。じゃあ、スクランブルエッグ」




    「りょーかい」




    卵を割り、フライパンに落とす。




    そう言えば、少し前に恋羽空にせがまれ、料理をさせたことがあったが、台所が炎上し、二度と台所には立たせないと恋羽空に言ったが、「それは私と生涯添い遂げると言うことだよね、綾人。嬉しい!」と解釈された。




    「~~♪」




    「おー、ただのスクランブルエッグなのにすごく美味しそう!やっぱり綾人は料理の天才だね!」




    「アホか恋羽空。スクランブルエッグをバカにするなよ」




    などと、何気ない恋羽空との会話の時間は、綾人にとって欠かせない大切なものだ。




    「ーーほいっ…と」




    最後のサラダの盛り付けが完成し、机に運ぶ。




    「美味しそう!」




    「恋羽空、ちゃんといただきますするんだぞ」




    「うん、わかってる」




    「いただきます!」




    「いただきます」
  32. 32 : : 2014/12/22(月) 21:05:28


    皿に盛り付けられたサラダにマヨネーズをかけて頬張る恋羽空。美味しさからだろうか。とろけるような笑顔を見せる。それにつられ、綾人の口の綻ぶ。




    喜怒哀楽。すぐに感情が表に出る恋羽空。よく笑うし、すぐ怒る。悲しい表情もするし、涙も流す。




    アカデミーを卒業し、初めて恋羽空と出逢ったのば1年前。




    エントリエーターを仲介して引き合わされた頃の恋羽空は、綾人達に対する敵愾心。人間不信。頑なな拒絶。決して綾人を受け入れようとしなかった。
    しかし、ゆっくり時間をかけ、お互いを理解し、ここまで来た。




    少しーーというかかなりーーおマセで、笑顔も見せてくれる。そういうところも含め、恋羽空の全てが好きだ。もちろん、ロリコンではない。




    「ん?綾人。今私のことを好きだ、愛してる、結婚したいと思わなかった?」




    「お、思ってねーよ」




    まさかこいつ、心が読めるーーーーなんて。




  33. 33 : : 2014/12/22(月) 21:12:17



    食後、食器を洗い、風呂に入る。
    途中で恋羽空が入ってきそうになったが、さすがにそれはマズいので全力で阻止した。




    風呂から上がり、部屋を見渡すと、恋羽空の姿が見えない。ベランダを覗くと、ちょこんと三角座りをして、夜空を眺めていた。




    「ずいぶんロマンチストだな。夜空を眺めるなんて。風邪引くぞ」




    「そしたら綾人に愛の看病をしてもらうから、私はいいよ」




    「はいはい」
  34. 34 : : 2014/12/22(月) 21:17:42


    恋羽空の隣に座ると、肩に頭を預けてくる。




    「どうしたんだ、恋羽空」




    「……私たち、何のために戦ってるんだろう」




    唐突な質問に、綾人はしばらく考え込む。




    「私が頑張ってパラミックスを倒しても、褒めてくれるのは綾人と沙奈と響子だけ」




    「………」




    「私、何のために戦ってるんだろう………。教えてよ、綾人………」




    ふと、肩のあたりが湿っている。
    それが恋羽空の涙だということに気づく。
  35. 35 : : 2014/12/22(月) 21:23:16

    いつの間にか、腕を首に回している。
    そっと抱きしめ、優しく囁く。




    「……お前が何のために戦ってるかなんて、お前しかわかんないよ。けど、俺はな恋羽空。断言できるぜ」




    しばしの沈黙。




    「俺はお前のために戦ってる。それだけは忘れんなーーーっておい」




    人がかっこよくキメたつもりだったのに、規則正しいリズムで寝ている恋羽空。
    どうやら眠たかったのだろう。




    「ーーーったく、世話が焼けるなぁ」




    そっと抱き上げ、布団に転ばせる。




    「おやすみ、恋羽空」




    自分の布団に潜り、意識が落ちていくのに時間はかからなかった。
  36. 36 : : 2014/12/23(火) 11:46:13


    ーーー夢を見た。




    「綾人、悪いがお前には選択肢がない」




    確か、4年前だったハズだ。アカデミーに入学する前に、当時23歳の心桐響子に執刀され、'完全な人間ではなくなった'のは。




    「もしお前がコレに乗ってくれるなら、望むものを与えよう。断るのならーーわかるな?」




    「俺はーーー、生きる術が欲しい。この不条理で理不尽な世界を生き抜く術がーーーー」


















  37. 37 : : 2014/12/23(火) 16:11:30


    ーーーなぜだろう。お腹のあたりで何かが跳ねてる気がする。




    深い眠りから徐々に意識が浮上していくにつれ、お腹のあたりの痛みが増す。




    「ぐぇぇッ!」




    変な声が出た。まるでニワトリが首を絞められているような……。




    「おーなーかーすーいーたーッ!」




    「なんだ恋羽空かよ……。今何時だ?」




    枕元の時計を顔の前に寄せ、時刻を確認する。




    「7時……か。恋羽空、お湯沸かして」




    「わかった」




  38. 38 : : 2014/12/23(火) 16:20:40

    机を挟んで朝食を摂る2人。
    綾人は、ETE狩りのことを恋羽空に話した。




    「怖いなぁ。綾人、無事に帰って来てね」




    「フラグ建てんじゃねーよ」




    エヘヘと笑う恋羽空を可愛らしいと思いながら、テレビの電源を入れる。




    「………これって」




    ニュースで報道されていたのは、偶然にもETE狩りの件についてだった。




    『昨夜の被害者は、ETE序列2034位のペアです。高位のペアが襲われていることから、犯人はかなりのーーーーー』




    「序列2034位を殺すなんて………」




    「そんなに強いのかな」




    「そうらしい。恋羽空、外出は控えろよ」
  39. 39 : : 2014/12/23(火) 16:39:54




    「今日の晩飯はカレーだな」




    「やった!」




    燃えるような夕日を背に、綾人と恋羽空は並んで歩いていた。
    綾人はレジ袋を握り、恋羽空は綾人の空いた手を握る。




    「もちろん、甘口だよね?」




    甘党の恋羽空が瞳をキラキラさせてこちらを見上げるが、綾人は何言ってんだ、といった表情で恋羽空を見おろす。




    「カレーは辛口だぞ」




    「綾人のバカ!私辛口食べれない!」




    「砂糖でも入れとけ」




    「ふーんだ。いいもーん。綾人のロリコン変態説を道行く人に吹聴しまくるもんねー」




    「え、ちょ、ちょぉぉぉぉ!待って!それだけは止めろ!アホぉぉーーーーッ!」




    あっかんべーをすると、こちらを振り向きもせず走り出す。




  40. 40 : : 2014/12/23(火) 16:55:21

    恋羽空と鬼ごっこを展開し、アパート付近まできてやっと捕獲に成功した。
    まったく、こいつマジでやりやがった。




    「ふん、辛党には甘党の気持ちはわからないよ!」




    今もまだロリコン変態と叫びながらアパートに入っていく恋羽空。




    「あいつ……俺を社会的に抹殺する気か?」




    「いや、ごく普通に抹殺してあげるよ。凜崎綾人君」




    後頭部に固い物体が押し当てられ、背筋が悪寒が走る。ひんやりしたそれがなんなのか、理解するのに1秒もいらなかった。




    拳銃。




    「………お前、ETE狩りだな」




    「ご名答。《半パラミックス》の凜崎綾人君」




    ーーーなぜ、この男は俺と響子さんしか知らないハズのことを知っているんだ。







    数秒後、静寂を破るかのような銃声が響いた。





























    第一部、完。
  41. 41 : : 2014/12/23(火) 17:00:14

    初の未分類カテゴリーでした。
    ブラックブレットというものを元に作成しました。
    とりあえず、序章ということなので、これくらいでいいかなと。はい。次は長く書きたいです。


    この作品を読んでくれた方、どうもありがとうございます。
    次回も何卒よろしくお願いします!
  42. 42 : : 2014/12/23(火) 21:09:44
    http://www.ssnote.net/archives/29151
    続きです。

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