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このSSは性描写やグロテスクな表現を含みます。

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  1. 1 : : 2014/11/22(土) 10:00:39













    【人はいつ死ぬのだろうか?】















    【この疑問を皆さんも一度は考えてみたことがあると思う。】



    【その物理的な答えは小学生でも答えられる。】



    【心臓の音が聞こえなくなったとき。】



    【当たり前だ。間違ってない。】



    【それが世間一般で通ってる死。】



    【しかしこれはあくまで物理的な話だ。】



    【昔からよく言われる。】



    【「その人が死んでしまってもあなたの中で生き続ける」】



    【「あなたがその人を想う度その人はあなたを見守っている」】



    【どうせ誰か大切な人が亡くなったときにかけられるただの慰めの言葉。】



    【そう思うかはどうかは人それぞれだろう。】



    【私はそうは思わない。】



    【たとえ自分の心臓が止まったとしても、誰かが自分のことを覚えていてくれたら自分はまだ生きている。】



    【一人でも自分のことを覚え続ける限り自分は生き続ける。】



    【そう私は思いたい。】



    【それはただの生への執着心なだけかもしれない。】



    【単純に自分のことを忘れてほしくないだけかもしれない。】



    【いわばきっと子供のわがままなのだ。】



    【それでももし仮にその"わがまま"が本当だったとしたら…】



    【人はいつ死ぬのか?】



    【その答えは一つ。】



    【自分のことを想ってくれる人間がいなくなったとき、だ。】



    【では、なぜ死ぬのか?】



    【それは…自分を大切に想ってくれる人間がいないからである。】



    【のだと思う。】



    【こう曖昧なのは私自身もよく理解してないからだ。】



    【いや、理解出来ないのかもしれない。】



    【私は自分でもはっきりしないまま、このうやむやな状態で筆を持っている。】



    【したがってこの物語にはまだタイトルという名前がない。】



    【何を書きたいのかもわからないから。】



    【それでも私はいま書かなければ気が済まないのだ。】



    【なぜならーーー






    「今日フられたからなぁ」






    そういって俺は黒光りした万年筆を紙の上で転がした。



    いちおう俺は物書きの仕事をしている。



    とはいっても全くの無名で収入などほとんどない。むしろ本を出す費用で赤字だ。



    これでは部屋に引きこもって字を書いているニートと言われても否定の仕様がない。



    そんな俺に家族というものは存在しない。



    二年前。俺が大学を卒業した年に母が他界した。



    父親の方は俺が産まれる前に母と離婚していて顔も知らない。



    友人の一人もいない俺にとって優里(ゆり)はただ一人の繋がりだった。



    その繋がりは今日絶たれたのだが。



    ちらりと俺は電源の入っているパソコンを見る。



    その画面には「別れましょう」という短い文が。



    未練など感じられずサバサバとした感じの文体が彼女らしい。



    優里とは俺の著書のファンで、優里が俺に手紙を送ってくれたのが出会いの始まりだった。



    ……いや、俺と優里との出会いなど最早どうでもよい。



    確かなのは今日、俺は死んだ。



    ただそれだけなのだ。













    椅子からふらっと立ち上がると着ているジャージをベットへと脱ぎ捨た。



    椅子に掛けてあるジーパンへと履き替えると、ボサボサの髪を隠すようにつば付きの帽子を深くかぶる。




    そして気分転換にと




    天羽 大和(あもう やまと)は玄関の扉を開けた。




    久しぶりの外の光が暗闇に慣れた目を刺激する。




    その光に抗う様にして彼は外へ踏み出した。




    それが命懸けのゲームの始まりだとも知らずに。
  2. 2 : : 2014/11/22(土) 10:33:00



    今は昼過ぎだからか。



    高くそびえる高層ビルからスーツをきちっと着たサラリーマンたちが、午後のためのエネルギーを求めコンビニや飲食店へと足を運ぶ。



    すたれた格好の自分とは住む世界が違う。しっかりと社会のために働き、各々大切な人のために汗水を流しているのだろう。



    大和はスーツの連中が自分を嘲笑っている様におもえた。そんなことは決してないことはわかっているのだが、こんな人の多い場所では気分転換にはならない。



    「どこか人のいない場所…」



    こんな都市のど真ん中でその様な場所に心当たりはなかった。



    部屋に引きこもっているからかもしれないが。



    「そういえば最後に優里に会ったのはいつだっけ?」



    思い出せない。少なくともずいぶん前だということはわかった。



    金もない。ルックスも良くも悪くもない。しまいには部屋に引きこもりお互いが会うこともない。



    優里が別れ話を切り出してきた理由に思い当たる節はいくつもあった。



    だからこそ俺は別れたくないと言わなかった。



    言えなかった。



    それどころかあのメールに返信すらしていない。



    といっても金がなく携帯すら持っていない俺はいったん家に帰らなければ返信出来ないので、外にいる時点で返信する気は今のところないのだが。



    後ろポケットから財布を抜き出す。



    所持金一万二千八百一円。



    いや違った。



    全財産一万二千八百一円。



    次いつ収入が入るかわからない俺にとってこれは最大の命綱。




    「まさに氷河期だな」




    一人で勝手にくくく、と笑い目の前にあるバス停へ向かう。




    自暴自棄だったのかもしれない。この命綱を削って俺は。




    「……海にでも行くか」




    後先のことなど考えてなかった。



    そうして俺はしばらくして来たバスに乗り込み腰をおろした。



    それが片道切符だと知っていたら俺はきっと家に帰ってあのメールに返信しただろう。



    俺はついにあのメールに返信することはなかった。



  3. 3 : : 2014/11/22(土) 14:12:34



    数時間でビルの建ち並ぶ都市の風景は木々と田畑で広がる田舎へと変わっていった。



    ビルが隠していた空は青い背景に大きな入道雲を掲げ美しく広がっている。



    未だその姿こそ見せないがうっすらとバスの窓から潮の匂いがたちこめてきた。



    大和は山の中山でバスを下りた。



    山といってもしっかりと道路はある。



    そこから見えるふもとには大きな海が広がっていた。



    アスファルトに引かれた真っ白な線を辿りながらジーパンのポケットに手をつっこみ大和はのっそりと歩きだす。



    木々に囲まれたこの空間は癒される。



    木々がつくりだす影がまたひんやりとして気持ちがよく



    海へと続く影の道を歩く大和の中では先ほどまでの悩みは小さいものへとなっていた。


  4. 5 : : 2014/11/22(土) 18:48:07







    「港町……かぁ」



    山を降りるとそこには小さい町…というよりも村があった。



    「へぇ、学校があらぁ。子供もいるみたいだな」



    「にしても小さい村だな。家の数もぱっと見た感じ十軒もなさそうだけど…」




    まぁ、どうでもいいかと大和は歩み出す。




    もうすでに海は見えていた。自分の命綱を削ってでも見たかった海は村の奥に広がっている。



    「あと少しだな」



    海へと続く村の真ん中を通る道をしばらく歩み続け大和はあることに気づく。



    その村の異変に。



    (人が見当たらないな…)



    「港だからな…漁にでも行ってるのかもな」



    「だってどう見てもここは人の住んでる形跡があるし」



    大和は妙な気味の悪さからくる不安を掻き消すように言い聞かせた。



    それでもやはり人のいない村は気味が悪く早く海へ行こうと歩調を速める。



    こんな場所で一人でうろついて人を探そうなんて度胸は大和にはなかった。









    二分も歩けばコンクリートでつくられた短い階段の下に広がる砂浜が見えた。



    ゴミなどは見当たらず綺麗な砂浜が貝がらをあたり一面に散らばらせている。



    西日になりかけの少し紅い太陽の光が水面に反射して砂をキラキラと輝かせる。



    「おぉ…」



    おもわず感嘆の声が漏れた。



    コンクリートの階段に腰をおろし海を眺める。



    ここで思い出すのはやはり優里のことだ。



    自分はまだ優里が好きである。この想いに嘘はない。



    だからといって今の大和にはどうすることも出来なかった。



    「…なんで一人で海にきてんだろ…」



    「優里も海に連れてきたら…いや海だけじゃなくてもっと色々なところへ一緒に行ってたら…」



    「俺がもっと優里を大切にしてたら俺は…」



    「死なずにすんだのかもな」



    寛大な自然を目の前にしているからか感傷的になってしまう。



    「…ここまできてネタの一つも思い浮かばねぇな」



    「…あの物語のタイトル、どうすっか…」



    「"死とは?"…うーん。なんか違う」



    「"失って気づくもの"、"現世に残る死者の意思"、"想い"」



    「……良いのが思いつかない」



    「全く、自分のネーミングセンスのなさに落胆するぜ」



    「……死んでも俺のことを想い続けてくれる人……」



    優里はもう違う。



    俺は今生きていて、死んでいる。



    死んでいるのに生きている価値などあるのだろうか?



    「はっ……もういっそ本当に死んでみるか?」
















    「ためしてみる?」















    「ーーーーーは?」



    ゴツンッ



    振り返る前に大和は後頭部に衝撃を受けた。



    視野が暗く狭まってゆく。



    大和は遠のく意識の中「それ」を見上げた。



    顔は見えないかった。



    ただベットリと赤い何かで濡れている石を、ぼとっと落とす髪の長い女を見て



    意識が途切れた。



  5. 6 : : 2014/11/22(土) 19:17:03







    ピエロは歩く。




    闇夜につつまれた長い廊下を。




    腰に包丁をぶらさげて。




    廊下にある火事を知らせる警報機の赤い灯がピエロの顔を照らす。




    ピエロは歩く。




    一人の男を抱えて。





    さぁ。ゲームの始まりだ。




  6. 8 : : 2014/11/22(土) 19:30:22










    ブラッドゲーム




    「ピエロの鍵」



  7. 11 : : 2014/11/22(土) 22:56:29
























  8. 12 : : 2014/11/22(土) 23:17:17



    大和は目を覚ました。



    どうやら椅子に座らされているようだ。



    辺りは暗く一歩先も見えない。



    ズキっと後頭部が痛む。



    そっと触れると何か布のようなもので傷が覆ってあった。誰かに手当てされたらしい。



    それにしてもここはどこだ?



    あの女は誰だ?



    何故俺はここに連れてこられた?



    大和は混乱していた。



    「俺は海を見にきただけのはずなのに…」



    暗闇の中、大和は恐る恐る立ち上がろうとする。しかし膝に何かがバコンッと当たった。



    「痛っ!?」



    思わぬ障害に驚きゆっくりと手で触れて初めて目の前に机があることがわかった。



    そのとき。



    《やっと参加者全員が起きられた様です》



    「!?」



    突如どこからか男の声が機械ごしに聞こえてきた。



    声の主は状況の理解ができていない俺に構うことなく話を進める。



    《それでは今からブラッドゲーム「ピエロの鍵」を開始致しましょう》



    「ピエロの…鍵?」



    この瞬間。
    悪夢のようなゲームは始まった。

  9. 13 : : 2014/11/22(土) 23:56:36



    ぱっと辺りが明るくなる。



    眩しい光に目を細め大和はいま自分がどこにいるのか把握した。



    「教……室?」



    広い教室にきちんと縦横五列に並べられた机と椅子。



    その一番前の真ん中。



    教卓の目の前に大和は座らされていた。



    教室の中には自分しかいない。



    教室の窓の外に見えるのは絵の具で塗りつぶした様な黒。
    見えるのはただ窓に反射した自分の姿のみ。



    ここがどこの学校なのかもわからなかった。



    《ゲームの説明をさせていただきます》



    バカ丁寧な口調で話を始める声は教室のスピーカーから聞こえていた。



    「っ!ふざけるなよ!お前は誰だ!」



    《皆様にしていただくゲームは簡単に言うと鬼ごっこです》



    大和の声が聞こえていないのか、はたまた無視されているだけなのか。男は淡々と話続ける。



    「はぁ?鬼ごっこだぁ?」



    《鬼は全部で二匹》



    《赤鬼と青鬼にございます》



    「くそっ!こんな気味悪ぃとこさっさと出て行ってやる!」



    大和は立ち上がり教室のドアをスライドさせた。



    教室から出るとそこは長い廊下が。



    「暗いな…」



    小さい頃から暗いところが大和は苦手だった。



    暗いところだけではない。幽霊やら妖怪やらとにかくそういう類いのものが苦手なのだ。



    そんな大和は一瞬闇の中に入るのを躊躇うが、そんなことでここにずっといるわけにはいかない。



    「さぁ、右と左。どっちに行こうか」



    《赤鬼は校舎を歩き回りあなたたちの持っている鍵を狙っています》



    「鍵?」



    相変わらず教室からは声が止まない。



    「鍵ってなんだよ」



    ーーーペタ



    「ッ!」



    廊下に響く音。



    その気持ちの悪い音の方向を向く。



    そこには。



    ピエロがいた。



    化粧でメイクされた真っ白な顔に赤い絵の具で描かれた一粒の大きな涙。



    身長190はあるだろう長身の身丈にピッタリな赤い服。



    頭には黒をベースとした真っ赤な星の模様の帽子。



    暗い廊下に立つそいつは首をかしげてこちらをじっと見ていた。



    非常口の緑色の光がピエロに握られているそれを照らしている。



    ピエロのしている白い手袋には刃渡り20cmほどの包丁が。



    「な、なんだよお前……」



    《赤鬼に会ったら逃げてください。鍵を渡してはなりません》



    「あか、おに?」



    《赤鬼目的は》













    《あなたたち全員の命です》




    包丁を下向きに握りしめたピエロは



    首をかしげたまま大和へとーーーー



    走り出した。


  10. 14 : : 2014/11/23(日) 00:17:33



    「う、うわぁぁああああっ!?」



    大和とピエロの距離はわずか20mほど。



    もの凄い勢いで迫りくるピエロに腰をぬかし大和はその場に座り込んでしまう。



    ペタッ!ペタッ!ペタッ!ペタッ!



    「ひぃいいいぃぃっ!!」



    その形相からは似合わない陽気な足音を鳴らしながらピエロは5m、10mとその距離を詰める。



    大和は這う様にして教室の中に逃げ込むことしか出来なかった。



    ペタッ、ペタッ………ペタッ。



    教室の前で立ち止まるピエロ。



    「やめろっ!くるな!来ないでくれェ!」



    無表情のまま首をかしげているピエロに叫ぶ。



    終わりだ。さっきスピーカーからの声は言った。



    赤鬼は俺たちの命を狙っていると。



    間違いないこいつが。



    赤鬼。



    嫌に冷静に大和は現状を把握していた。
    つまりわかっていた。



    いまここで自分が殺されることを。













    ペタッ…ペタッ…ペタッ…





  11. 15 : : 2014/11/23(日) 00:44:03



    その嫌な足音を鳴らしながら




    ゆっくりとピエロは




    歩き出した。





    ピエロ自身が走ってきた道を戻る様に。




    「へ……」



    助かった、のか?



    その疑問を解いてくれたのはやはりあの声だった。



    《あなたたちにはこの校舎のどこかの部屋の鍵を一つずつ渡しております》



    《あなたたちが死なない限り赤鬼はその部屋には入れません》



    大和はその放送でやっと自分の首に鍵がぶら下がっていることに気づいた。



    鍵には2-2と書かれてある。
    おそらくこの教室の鍵だろう。



    「なるほど…あいつはここに入れなかったのか…」



    《逆に言わせてもらえば赤鬼は鍵の所有者を殺せばその部屋に入れるようになります》



    《つまりこのゲームのポイントは皆様が協力することにあるのです》



    《皆様の誰か一人が殺される毎に皆様の安全地帯は無くなっていくのですから》



    「でもそれって俺以外にもこのゲームの参加者がいて、そいつらと合流する必要があるってことだろ?」



    「そりゃつまり、またあのピエロと会う可能性があるってことじゃねぇか…」



    《このゲームは皆様がこの校舎から出るか赤鬼が皆様を殺すかのどちらかで終わります》



    《ちなみに一人が校舎から出ても残っている方のゲームは終わりません》



    《皆様はこの校舎の鍵を見つけ出す必要があります》



    「ははっ…その鍵を見つけてここを出ればいんだな?」



    《最後に青鬼の説明をさせていただいます》



    《青鬼は皆様の中に紛れております》



    「…は?」



    《青鬼は密かにあなたたちを殺そうとしております》



    《もちろん殺されれば赤鬼もその鍵の所有者の部屋に入れるようになります》



    《青鬼は武器は持っておらず、代わりに青鬼もどこかの部屋の鍵を持っています》



    《そして》



    《青鬼は校舎の鍵も持っております》



    「!?」



    《説明は以上にございます》



    《それでは皆様のご武運を》




    くすくすと笑いスピーカーはきれた。



  12. 16 : : 2014/11/23(日) 01:03:24



    大和は黒板にこのゲームのルールをまとめていた。




    ーーー
    ーー




    ※この校舎には赤鬼と青鬼、そして何人かの参加者がいる。


    ※青鬼と赤鬼は参加者の命を狙っている。


    ※赤鬼は校舎を歩き回り青鬼は参加者に紛れている。


    ※参加者と青鬼にはどこか一つの部屋の鍵を渡されている。


    ※赤鬼はその鍵の所有者を殺さない限りその部屋には入れない。


    ※つまり青鬼は入ることができる?


    ※俺たちはこの校舎から抜け出せば勝ち。


    ※校舎には鍵がかかっていてその鍵は青鬼が持っている。


    ※てことは青鬼は二つの鍵を所持している?




    「まぁ、こんなとこか」



    「てか本当に捕まったら殺されんのか?」



    未だにこのゲームの現実味がなかった。



    きっとどこかの番組のドッキリではないのか?
    そう思ってしまう。



    しかしその考えはすぐに消えた。



    ピーンポーン パーンポーンと再びスピーカーが鳴る。



    《参加者の嘉多八 蓮寺(かたや れんじ)様が赤鬼に殺されました》



    「なっ……」



    《赤鬼は図書室に入れるようになりました》



    それだけを伝えるとスピーカーはぷつんときれた。



    「ゲームが始まってものの数分だぞ…もう、一人…」



    このとき大和はこれが本当に命を懸けたゲームだと知った。



  13. 17 : : 2014/11/23(日) 10:57:43



    白石 悠奈(しらいし ゆうな)は気がつくと薄暗い廊下に寝そべっていた。



    「ここは……っ!…」



    首筋に痛みが走る。



    何故自分はこんなところにいるのかわからなかった。



    そもそも記憶がない。
    覚えているのは正面からピエロに首筋をスタンガンで当てられて、それから……



    「駄目…なにも思い出せないわ」



    「ここは…学校?」



    「気味が悪いわね…とりあえずここを出て人のいるところに…」



    《やっと参加者全員が起きられた様です》



    「放送?ここに誰かいるのかしら?」



    だったらここがどこなのか教えてもらわないと…



    《それでは今からブラッドゲーム「ピエロの鍵」を開始致しましょう》



    「ぶらっど……ゲーム?」



    《ゲームの説明をさせていただきます》



    ーーー
    ーー




    「なんなの…これ…」



    人殺しのゲーム?
    冗談じゃない。



    「それに今の話からしたら私は廊下にいたら危ないじゃない!」



    悠奈は自分の首にぶら下がっている鍵を見る。



    そこにはなにも書かれていない鍵が。



    これではどこの鍵かわからない。



    現実味がなくとても信じ難いゲームだが悠奈はどこか嫌な予感がしていた。



    このゲームが本当に命を懸けたゲームかどうかはさておき、いちおうその赤鬼とやらが入れないところへ行かなければ。



    このふざけたゲームの真偽はそれからでも遅くない。



    それにもしさっきのスピーカーの男が自分をスタンガンで気絶させた人物なら頭が狂っている。



    だからいまは他の人と合流したい。



    そう思い悠奈は歩き出す。



    赤鬼に見つからないよう慎重に。



    どうやらこの校舎は三階建てで、カタカナの「コ」の字みたく造られているらしい。



    廊下の窓から向かいの教室に明かりがついている部屋がいくつかある。



    おそらく他の参加者だろう。



    悠奈がいるのは三階。



    向かいにある三階の部屋は一室しか明かりはついていなかった。



    とりあえずはそこを目指すことにしよう。



    その部屋にいるのが青鬼でないことを願って。


  14. 18 : : 2014/11/23(日) 14:30:03



    廊下は思っていた以上に長かった。



    端から端まで100mを超えるかもしれない。



    一つ目の角を曲がったところで悠奈は、現在地から見える部屋の明かりの数を数えてみた。



    いま自分が向かっている部屋も合わせて



    「五…六、七?」



    一つの部屋に最低一人いるとしてどうやら参加者は少なくとも自分を含め八人はいるみたいだ。



    「…違う、青鬼を抜いた七人だわ」



    と、明かりを数え終わったそのとき。



    今から自分が向かおうとしている部屋の真下の階に人影が。



    「ん?私以外にも廊下に出ている人が…」



    月明かりが校舎の柱の影から現れるその人影を照らす。



    そいつはじっとこちらを見ていた。



    真っ白な顔の赤い服を身に纏った…



    あのピエロが。



    「あいつ、私をスタンガンで気絶させた…」



    瞬間。
    ピエロは前を向き勢いよく走り出した。
    大きく振り切る手には包丁が握られている。



    「ッ!…ま、まさかあいつが…赤鬼!?」



    ピエロは階段へと向かっている。
    間違いない。
    あのピエロはいま、まさに…



    「私を殺しにきてる……?」



    そのことがわかると悠奈はバッと走り出す。
    目指していた教室はもう目と鼻の先だ。
    一心不乱で明かりのある教室を目指す。



    後ろからはまだあのピエロはきていない。
    悠奈は安堵して「図書室」と書かれたプレートのある教室のドアに手をかけた。



    ガタン



    「えっ……鍵?」



    ドアは開かなかった。



    「開けて!おねがい!赤鬼に追われているのッ、中に入れて!!」



    図書室のドアを叩きながら悠奈は叫ぶ。



    しかし図書室の中からは反応がない。



    そのとき。
    ゾクリと背筋に寒気が走る。
    それは危機的本能だったのだろうか。



    悠奈はドアを叩くのをやめ、ゆっくりと右を向く。



    自分が走ってきた方向を。



    そこにはいた。



    50mほど先に。



    じっとこちらを見つめ立ち尽くす
    真っ赤なピエロが。



  15. 19 : : 2014/11/23(日) 18:53:09



    ーーーーペタ。



    「あ、あぁ…」



    ペタ、…ペタ、…ペタ、…



    ゆっくりと近づくピエロに対し悠奈は恐怖で声が出ない。



    ただひたすら図書室のドアを叩くことしか出来なかった。



    ペタ…ペタ…ペタ…



    ドン!ドン!



    「開け、て…おねがい…」



    ペタ、ペタ、ペタ



    ドン!ドン!ドン!



    「開けて…早くっ…」



    ペタッ、ペタッ、ペタッ、




    ドン!ドン!ドン!ドン!



    「開けて、おねがい!開けて!」



    ペタッ、ペタッ、ペタッ、ペタッ、



    ドン!ドン!ドン!ドン!ドン!



    「早くっ!おねがい!…あ、ぁ…くるな…くるなぁ…」



    ペタッ!ペタッ!ペタッ!



    ドンッ!ドンッ!ドンッ!ドンッ!



    「いや…開けて!おねがい!開けて!開けて!開けてくださいッ!!?」



    ペタッーーーーー。








    ニタァと笑うピエロ。



    その嬉々とした顔を悠奈はしっかりと脳に焼きつけた。



    振り上げられる包丁。



    「ぁ…あ、嘘……」



    その包丁が振り下ろされる。



    「いやぁあああぁぁぁあああッ!!?」



    ピエロは思いきり腕を振りきった。


  16. 20 : : 2014/11/24(月) 15:44:27





    「うるせぇ!」



    太い声とともに図書室のドアが乱暴に開かれた。



    「きゃあッ!」



    ドアに体重を預けていた悠奈は無様な格好で図書室の中へと倒れこむ。



    空を裂き行き場の失ったピエロの腕はダランと脱力していた。



    「ドアを閉めて!」



    「はぁ?あんたいきなり…」



    「早くっ!」



    「お、おう…」



    悠奈の声に押し負け、言われるがままに図書室のドアを閉める金髪の男。



    廊下ではピエロがドアの窓越しに首をかしげてこちらを見つめていた。



    「なんだよ、この気持ち悪ぃピエロは?」



    この状況を理解できてない様子で呑気に訪ねてくる金髪の男。



    歳は二十代後半といったところか?
    耳にはシルバーのピアスをしている。



    「そいつが赤鬼よ」



    「赤鬼?」



    「あの放送を聞いてなかったの!?」



    「あぁ、なんかゲームがなんチャラってやつか。あんな馬鹿げた話信じられるわけないべ」



    「いま私が包丁で襲われたの見ていたでしょう?あいつは本気で私たちを殺しにきてるわ!」



    「あんなのオモチャに決まってるじゃねぇか。えっと…あんた名前は?」



    「白石 悠奈よ。とにかく協力しましょう」



    「嘉多八 蓮寺だ」



    「まずは他の参加者たちと会うのが良いと思うの。青鬼に出くわすかもしれないけど結果青鬼から鍵を…」



    「待ってくれ。俺は船旅で疲れてたところをいきなり誰かに襲われたんだ」



    「いきなり襲われたのは私も同じよ」



    「とりあえずここはどこか教えてくれ」



    「そんなの私が聞きたいわ」



    はぁ…と悠奈はため息をつき連司にいまの状況を説明する。



    「いい?よく聞いて」



    「私たちは誰かに誘拐されたの」



    「誰かって誰だよ」



    「うるさい。黙って聞いて」



    「……」



    「ここから出るには校舎の鍵を手に入れる必要があるの」



    「鍵?鍵ならもってるぞ?」



    「それはきっとこの図書室の鍵よ。校舎の鍵は青鬼が持ってるわ」



    「へぇ。ここ図書室だったのか。確かに本棚はあるもんな」



    そういって連司は図書室を見渡す。
    連司の言うようにこの図書室には本が一冊もなかった。
    あるのは空っぽの本棚に机とパイプ椅子だけ。



    「とにかくあなたが死なない限り赤鬼はここには入れない」



    「赤鬼ってのはオモチャの包丁持ってるそいつのことか?」



    「えっ?」



    悠奈が振り返るとそこには未だこちらをじっと見つめるピエロが。



    「ひぃっ…」



    「こいつずっとこんままだぜ?気味悪いよな」



    「このピエロがどこか行かない限り廊下には出れそうにないわね」



    「……なぁ」



    「なに?」



    「もしさ、あんたの言うことが本当なら…」








    あのピエロを倒せば良いんじゃね?




  17. 21 : : 2014/11/24(月) 21:11:54



    「倒すって…」



    「別に殺しはしねぇよ。気絶させてここに置いて鍵をかけとけばいいだろ?」



    「た、確かに…。でもどうやって?」



    赤鬼は包丁を持ってるのよと悠奈は疑問を投げかける。



    「パイプ椅子で殴るよ。あいつが本当に俺らを殺そうとしてんなら正当防衛だろ。ほら」



    「え?」



    「鍵はあんたに預けるよ。もしものときに」



    「もしもって…」



    「俺が殺されたらこのピエロは中に入れるんだろ?こうして…」



    連司は自分のきていた上着を袖の部分で結びドアの窓に張り付けた。



    「んで、あんたはここに隠れる」



    「ちょ、ちょっと!」



    連司はドアの影に悠奈を座らせパイプ椅子を手にとった。



    「俺が死んだらよろしくな」



    「一人で話を進めないで!こんなの危険よ!」



    やめて。
    悠奈がそう言う前に連司は…







    ドアを開けたーーーーー



  18. 22 : : 2014/11/24(月) 21:26:18



    「よぉ」



    連司の声が聞こえるやいなや、ドコォッ!と鈍い音が廊下に響く。



    「どうだ!」












    しばらくの沈黙。













    「ちょっと…連司さん?」



    悠奈が恐々と連司の安否を確かめるが返事はない。



    様子を見ようか悩んでいたとき再びドコォッ!と鈍い音が。



    「どう、なってるの…」



    様子を見たくても身体が恐怖で動かない。
    しかしもしも連司の身が危ないのなら助けなければ。
    意を決して悠奈は立ち上がった。



    そのとき。



    「まぢかよ…」



    連司の震えた声が聞こえた。



    「お前…一体、何もんだ?」



    それが悠奈が聞いた最期の連司の声だった。



    プツンと放送スピーカーの電源が入る。



    何か重たい物が落ちる音が聞こえた。



    「…え?」



    《参加者の嘉多八 蓮寺(かたや れんじ)様が赤鬼に殺されました》



    「なに、言ってるの…?」



    悠奈はペタンと腰からその場に崩れ落ちた。



    《赤鬼が図書室に入れるようになりました》



    プツンときれるスピーカー。



    それはガラッとドアが開くのと同時だった。



  19. 23 : : 2014/11/26(水) 19:45:04



    「んぎぃぃいいィィぃぃいいッ!!」



    天羽大和は顔を真っ赤にしてカーテンを両手で引きちぎろうとしていた。



    しかし最近のカーテンは質が非常に良いらしい。



    「はぁ…はぁ…。破れる気配すらしねぇぞ。おい」



    何故こんなことになっているのか?
    それは数分前にさかのぼる。


    ーーー
    ーー




    「こりゃ早いとこ他の参加者と合流した方がいいな」



    嘉多八連司という人が赤鬼に殺されたという放送が流れてそう思った。



    どう考えても一人でこのゲームをクリアするには無理がある。



    このゲームの攻略法は赤鬼の入れない安全地帯で校舎の鍵を持っている青鬼を追い詰めることだ。


    それはもちろん人数が多い方が安全地帯の数にしろ青鬼を追い詰めるにしろ有利である。



    そして一番避けなければいけないのは…



    「一人一人殺されていくことだ」



    大和は覚悟を決めると教室の外へ出る支度をする。



    「俺が持ってんのは…古びた財布に全財産の一万千一円」



    ちなみに千八百円はバス代へと姿を変えた。



    これでは赤鬼と遭遇した場合にどうすることも出来ない。



    「一円でも投げつけてやるか?」



    大和は武器になりそうなものを探す。



    机の中や掃除用具の中。もしや隠しアイテムでも!と思い全ての机の裏も見たが何もなかった。



    あるのは一本のチョークと黒板消しのみ。



    「………すげぇ頼りになる剣と盾だな」



    そういって大和はチョークを構え黒板消しを腕に通した。



    「って、おい!………ダメだ。一人でボケツッコミまで始めちまった」



    ふと外が暗いため鏡となった窓を見ると情けない格好の自分が。



    その視界の隅にはいるのはピンク色のカーテンであった。



    「カーテン……!」



    「ロープ!これでロープとか作れるんじゃないか!?」



    ロープは多様性がある。
    作っといて損はしないだろう。
    少なくともチョークよりは頼りになる。



    「よっしゃ!作ってやんぜロープ!」



    ーーー
    ーー




    「んぎぃいぃぃィいいぃぃッ!」



    そして現在にいたる。



    「やっぱ破けねー」



    大和は諦めカーテンを放り出した。



    「せめてナイフとか欲しいよな…」



    武器にもなるサバイバル道具。



    いままでの人生でこんなにもナイフが欲しいときがあっただろうか?



    「はぁ…こりゃ無防備で他の参加者探しに行かないとな」



    大和は木の壁にもたれかかるように座った。



    「ん?なんだこれ」



    大和は見つけた。



    このゲームのヒントを。



    「壁にキズがつけられてらぁ。これは…矢印か?」



    座った大和の目線と同じ位置に刃物でつけたようなキズが矢印のように刻まれている。



    そっと大和はキズに触れた。



    「…ここだけ板が新しい」



    軽く壁を叩き彼は確信した。



    「ここ…空洞がある……」



    バッと大和は立ち上がる。



    「ふぅぅ…」



    ごくりと唾をのみ大きく息を吐く。



    彼は勢いよく壁に蹴りをいれた。



    壁はいとも簡単に砕け散る。



    それは小さい空洞だった。



    「まぢか…」



    彼はそれを手にする。



    見た目によらずそれはずっしりとしていて冷たい感触だった。



    それを持つ手が震える。



    偽物じゃない。本物のーーー








    「ピストル…」



    弾は全鎮、六発装填されている。



    「はは…隠しアイテムぶっとびすぎだっつーの…」



    暫く彼は動けなかった。



    言うまでもなく「これ」がこのゲームを左右するから。









    天羽大和はピストルを手に入れた。




  20. 24 : : 2014/11/30(日) 23:35:40


    「…よし!」



    掛け声とともに彼は真っ暗な廊下へと足を踏み出した。



    目指すは同じ階に一ヶ所だけある明かりの灯る向かいの教室。



    下の階には二つ明かりの灯る教室が見えるが彼は順番にいくつもりだった。



    青鬼がいる以上普通なら下の階から行くのが妥当だろう。
    どちらか一方は確実に参加者なのだから。



    臆病な彼もそうするはずだった。
    いつもなら。



    彼はそっと自分の腰に手を当てる。
    そこにはジーパンと自分に挟まれるピストルが。



    そう。
    いま彼はこの校舎で一番の力の持ち主だった。
    放送で言っていたように青鬼が武器を持ってないなら自分には敵わない。



    その事実が彼に勇気を与えていた。



    無謀という勇気を。



  21. 25 : : 2014/11/30(日) 23:55:19



    「なるほど…」



    大和は廊下の窓から外を見てこの学校の構造を把握する。



    「コの字に作られてんな。それも三階建て。んで、俺のスタート地点である2-2はその東棟」



    「東棟と西棟を繋ぐ南棟の二つの曲がり角にそれぞれ階段があるのか…」



    「こりゃ赤鬼に北の方角へ追い詰められたら逃げ場なくして詰むな。気をつけねぇと」



    彼は校舎の構造を把握しながら教室を出て右へ進んだ先にある一つ目の曲がり角に差し掛かっていた。



    「…あ」



    ここで彼は気づく。



    「今向かってるのが図書室なんてこと…ないよな?」



    所有者が殺され赤鬼も入れる図書室。



    もし今自分がそこに向かっているなら…



    「…そうでないことを願うばかりだ」



    大和は南棟の真ん中付近で、見えなかった東棟の構造を廊下の窓から把握する。



    大和がさっきまでいた2-2の真上に一つ。
    真下に二つの明かりのある教室が。



    「明かりのついた部屋が七つか…」



    安全地帯であるそのうちの一つは既に赤鬼に破られ、一つは青鬼の部屋。



    「仲間は単純計算であと四人か…」



    このとき大和は知らなかった。



    上の階の図書室で五人目の仲間。



    唯一スタート地点が廊下という他とは違う特別な参加者、白石 悠奈が。



    赤鬼に襲われていることを。


  22. 26 : : 2014/12/01(月) 00:18:19


    大和は赤鬼とは会わずして無事明かりのつく教室へ到着した。



    大和はそっと中を覗きこむ。



    するとそこには一人の青年がなにやら床を探っている。



    床は2-2とは違いカーペットが敷いてあり部屋にはたくさんの楽器があった。



    どうみてもそこは…



    「音楽室か…」



    大和はコンコンとドアをノックする。



    その音に敏感に反応し、顔を上げる青年。
    こちらを見上げたまま微動だにしない。
    まるで敵を伺うような慎重さからして俺を青鬼か疑っているのだろう。



    もしそうならこの青年が青鬼である可能性は低いと大和は考えた。



    大和は両手を上げ争う意思の無いことを伝える。
    それに対し青年はドアに近づきドア越しに尋ねてきた。



    「あなたは…赤鬼…じゃなさそうだ。まぁ赤鬼ならここに入ってこれないから分かりますけど」



    「そうだ。俺は参加者の一人だ。だから入れてくれ」



    「では青鬼でないことを証明してください」



    まぁそうくるよな普通。と大和は思う。



    だがそんなことできるわけがない。
    できたらこのゲームは簡単にクリアできる。



    ふぅと短く息を吐くと大和は一か八か懐からピストルをとりだした。



    「…ッ!」



    青年は慌てて後退するが大和はピストルを握ったまま両手を上げ口を開いた。



    「青鬼は武器を持ってないって放送で言ってたよな?ならピストルを持ってる俺は青鬼じゃない」



    「……」



    (…駄目、か?)



    「なら、俺が青鬼かもしれないでしょう?無用心では?」



    あなたの行動は軽率すぎて怪しいと青年はつけたす。



    (めんどくせぇなこいつ…)



    「お前が青鬼からこれで撃って鍵を奪うだけさ。赤鬼に会っても同様にして撃つ」



    もちろん大和に人を撃つなど出来ない。
    臆病だから。
    だが今はこうでも言わないと入れてくれそうにない。



    「……」



    「天羽 大和だ」



    「……朝戸尼 鋼太郎(あさとに こうたろう)です」



    いまだ警戒した様子で鋼太郎は大和を中へ招き入れた。

  23. 27 : : 2014/12/02(火) 06:29:12


    とりあえず参加者の一人に会えて少しは安堵している大和に対して



    「質問いいですか?」



    と、大和から2歩ほど距離をとって鋼太郎は聞いてきた。



    おそらくまだ大和のことを警戒しているのだろう。



    「あぁ、かまわない」



    「では…そのピストルはどうしたんですか?」



    「これは見つけたんだ」



    「見つけた?」



    「そう。ここからも見えるだろ?向かいの校舎に一つ明かりがついた教室が」



    「はい」



    「俺はあそこから来たんだが、あの教室の壁の中に隠してあった」



    「ピストルが?壁の中に?」



    「信じる信じないは勝手だけど」



    「…わかりました。信じましょう」



    「え」



    「え?」



    「あ、いや…やけにあっさり信じるんだなと思って…」



    「俺もそこでさっきそこで何か見つけましたから」



    そういって彼は床を指さす。



    先ほど大和が廊下から覗いたとき鋼太郎が何か探っていた場所だ。



    「ここ。ここのカーペットだけ新しく張り替えられていて妙に盛り上がっているんです」



    「なるほど…どうやら各部屋に一つ。何かが隠されているようだな」



    「はい。だから今は大和さんのことを信用します」



    このゲームで信用できる存在は大きいですし、と彼はつけたした。



    「じゃあ俺からも一つ質問していいか?」



    「どうぞ」



    「俺が青鬼だったらどうしたんだ?」



    「やっつけました」



    「……ゑ」



    「やっつけました」



    「いや…やっつけるって。俺はピストル持ってんだぞ?さすがに…」



    「実はこの距離、わざととっているんです」



    「距離?」



    「はい。俺空手やってて、この距離なら大和さんがピストルを構える前に殺れる自信があります」



    そういって鋼太郎は初めて爽やかな笑顔を見せた。



    「そりゃ…頼もしい」



    その無邪気な笑顔は大和の顔の筋肉を強張らせるのだった。
  24. 28 : : 2014/12/02(火) 22:32:15



    「えっ?君高校生なの!?」



    「はい。高2です」



    盛り上がっているカーペットを剥がしている鋼太郎は大和も見ずに素っ気なく答えた。



    「まぢか…見えないな…」



    「よく言われます」



    鋼太郎は身長が180cmほどでガタイも良く、とても高校生には見えなかった。



    しかし言われてみると、短髪で凛々しい目やまだ少し幼い顔立ちから…



    (見えないことも……いや、やっぱ見えないな)



    「俺、部活の合宿に来てたんです」



    中々剥がれないカーペットに悪戦苦闘しながら鋼太郎は口を開いた。



    「空手の?」



    「はい、海の近くの宿に泊まって」



    「海…」



    (そういえば俺が襲われたのも海だったな…)



    「夜、先生やみんなが寝たあとこっそり砂浜で自主練してたんです」



    「そしたら後ろから急に襲われて…気がついたらここに」



    「俺も似た感じだ」



    「そうなんですか……あっ」



    「おっ!やっとカーペットが剥がれたな」



    「はい。……箱、ですね」



    カーペットの下にはやはり空洞があり、そこには箱が収まっていた。



    鋼太郎が用心して箱を開けるとそこには…



    「懐中電灯?」



    「みたいだな」




  25. 29 : : 2014/12/02(火) 22:57:32



    「ちゃんと明かりはつきますね」



    「懐中電灯か…まぁ便利だがやっぱり武器が欲しかったな」



    「大和さんのピストルがあれば充分ですよ」



    「あっ…さっきは赤鬼を撃つとか言っちゃったけど俺そんなことしないから」



    「何でですか?」



    「何でって…赤鬼も人だろ?俺は人殺しは出来ねぇよ」



    「…ぬるいですね」



    「んなこと言われても…」



    「まだこのゲームの恐ろしさが分からないんですか?捕まれば殺されるんですよ?」



    確かにその通りだ。
    現に直接見たわけではないが、人が一人殺されている。



    「それでも……無理だよ」



    「…優しいんですね」



    鋼太郎はクスリと笑った。



    「いや。臆病なだけさ」



    「でも俺はそういうの好きですよ?」



    また彼はクスリと笑う。



    あ、でもやばかったら足くらいは狙って撃って下さいね。と付け加えて。



    「さぁ、これからどうする?」



    「他の参加者とも合流しましょう」



    「やっぱそうだよな」



    そう言って大和は先ほど南棟で見た校舎の構造を伝えた。



    「なるほど…二階は俺らだけですか」



    「あぁ。あとは一階に明かりが4つ三階に一つだった」



    「それならまずは三階へ行きましょう」



    「三階に?」



    「はい。一人だけならもし青鬼でも2対1ですし、今は確実にはっきりとした仲間を増やしていきたい」



    「なるほどな…よし!そうするか」



    「はい」



    「あ、ちなみに懐中電灯の他に何か持ってる?携帯とか」



    「ないです」



    「…そっか…」



    (携帯があれば色々と分かるかもしれないのだが)



    「まぁ、持ってても普通持たせたままこのゲームをやらせねぇよな」



    「ですね」



    「おし!それじゃ気を取り直して行こうぜ!」



    こうして二人は小さな明かりとともに音楽室を出た。



    真っ暗な廊下の中、三階の図書室を目指して。



    そこに赤鬼がいるとも知らずに。

  26. 31 : : 2014/12/12(金) 23:33:21










    ピエロは図書室へと足を踏み入れた。










    ペタ、ペタと図書室の中へと進む陽気な足音。



    白石 悠奈は図書室のドアの影に座り込んでいた。
    恐怖で動けなかったのだ。



    しかしそれが彼女の命を救う結果となる。



    ドアの影に隠れた悠奈に気づかず赤鬼は図書室の奥へと進んだのだ。



    赤鬼が自分に気がつく前にここをでなければ。
    頭ではわかっているのだが、恐怖で体が支配され立つことさえ出来ない。



    幸いにもドアは開いたままだ。



    彼女は這いつくばる様に図書室を出ようとする。



    頭を埋め尽くすのは「死」



    音をたてたら死ぬ。死ぬ。死んでしまう。



    その恐怖が震えとなり彼女の足枷となる。



    落ち着いて。ゆっくりと。慎重に。



    自分に言い聞かせてもすぐ後ろに潜む恐怖には勝てない。
    それどころか自分に言い聞かせる度に焦りが重なってゆく。



    そして…



    震える彼女の足が図書室のドアに当たってしまった。



    はっと彼女は振り返る。



    振り返るとそこには口角を吊り上げ、嬉しそうに笑うピエロが



    こちらを見ていた。



    首を傾げ、にたぁと笑うその姿はまるで玩具を見つけた子供のように楽しげで。



    玩具を見つけたピエロは玩具に向かって歩みを寄せてきた。


  27. 32 : : 2014/12/13(土) 12:13:33



    ペタ、ペタと近寄る足音。



    「ひいっ…」



    彼女は勢いよく図書室のドアを閉めた。



    ドアの向こうからは未だにペタ、ペタとあいつがゆっくり迫りくる。



    「か、鍵っ…!」



    震える足をなんとか動かし膝立ちすると、手の中に握りしめていた鍵を鍵穴へ差し込もうとする。



    しかし恐怖で手が震え鍵はうまく入らない。



    「あっ…あぁ…」



    恐怖と焦りが鍵を鍵穴の周りに何度も突つかせる。



    彼女は震える右手を左手で押さえながらなんとか鍵を鍵穴へ入れた。



    「ッ!」



    歓喜に浸るもつかの間、彼女は冷ややかな視線を感じる。



    鍵を鍵穴に入れることばかりに気を取られ、彼女は気づかなかった。



    陽気な足音が止まっていたことに。



    「…い、や……ぁあ…」



    彼女が見上げた先にはこちらを窓越しに見下ろす無表情の白い顔が。


  28. 33 : : 2014/12/13(土) 12:36:48



    その瞬間、ドアは開こうとする。



    「きゃっ!」



    悠奈はそれを両手で抑えるが、もの凄い力で開こうとするドアに対し彼女の細い腕ではどうすることも出来ない。



    ドアは少しずつ開かれていく。



    「くっ…」



    ドアの隙間に白い手袋をした手が入り込む。



    必死に抑えるがドアの隙間は徐々に広がってしまう。



    「あぁ…だめっ……」



    しまいに隙間にはピエロの片足まで入り込み、完全にドアが閉まることはなくなった。



    もうここまでか…。ここで私は殺されるんだ…。



    抗うことを諦めドアを抑えるその両手を彼女は離したーーーーー。



    ガラッと乱暴に開かれてるドア。



    そこには相変わらず不気味に、ニタァと口角を吊り上げるピエロが。



    彼女は目を瞑った。



    生きることを諦めて。



    自分の命を赤鬼に差し出す様に目を瞑った。



    もうこの目が開くことはない。



    そう思いながら。













    しかし、そうはならなかった。



    ドゴォと鈍い音が夜の廊下に響く。



    目を開くと先ほどまで自分の目の前にいたピエロはいなかった。



    ただピエロのかわりに一つの拳が自分の後ろから伸びていて



    「何してるんですかッ!早く鍵をかけて!」



    突然の出来事に振り向くと、そこには拳を前に出している短髪の青年とその後ろで立ちすくむ男がいた。



    「早くッ!」



    青年に言われ、はっ!と我に返った悠奈はドアを閉め鍵を



    回したーーーーーー。


  29. 34 : : 2014/12/13(土) 22:03:07



    カチャ…と静かに音をたてて図書室の鍵は閉まった。



    中に赤鬼を閉じ込めたまま。



    「…やった……」



    座り込んだまま悠奈は呟いた。



    「大丈夫ですか?」



    青年がそういって手を貸してくれる。



    「あ、ありがとうございます」



    「いえ、危ないところでしたね。俺鋼太郎っていいます。朝戸尼 鋼太郎」



    「あ…白石 悠奈です」



    軽く自己紹介をして悠奈は鋼太郎の手をかりて立ち上がる。



    その両足は未だに震えていた。



    自分がいま生きていることが、まだ少し信じられなかったから。



    「すげぇな。お前」



    「そんなことないですよ大和さん」



    鋼太郎が大和と呼ぶ男はこちらへ近づき図書室の窓を覗きこもうとする。



    その瞬間バンっと赤鬼がドアに這いつくばる様にぶつかってきた。



    「うおっ!」



    「ッ!」



    「きゃっ!」



    それに驚いて悠奈は後ろへ反射的に一歩後退した。



    その時、足に何かがコツンと当たった。



    「こいつ…ドア壊したりしないよな?」



    「大丈夫だと思います。俺も一回音楽室の窓を割ろうとしましたが、出来ませんでした」



    そうゆうズルが出来ない様にここの建物は丈夫に作られているはずです、と鋼太郎は述べた。



    「なるほどな…にしてもこのゲームは俺たちの勝ちは決まったも同然だな。なんせ鬼ごっこの鬼を閉じ込めたんだから」



    「大和さんは何もしてないでしょ?」



    楽しそうに二人は話していた。



    それもそうだ。もうこのゲームはクリアしたも同然なのだから。



    しかし悠奈は顔から血の気が引いていた。



    先ほど赤鬼に驚いて後退したときに何かが足に当たったから。



    何かが。



    「そう言えばここって図書室なんだな」



    「ん……?図書室…」



    「どうしました?」



    「おい…図書室って確か…」



    悠奈は振り向けなかった。



    自分の足に当たったのが何か想像出来たから。



    想像してしまったから。



    「蓮寺って人が殺されたとこだよな?」



    「殺された人は今…どこに…」




  30. 35 : : 2014/12/13(土) 22:23:55



    「なぁ、あんた…白石さんだっけか?蓮寺って人は……ッ!」



    大和がこちらを向いて息を呑んだ。



    それに続く様に同じく鋼太郎も。



    それを見て悠奈は確信した。



    そしてゆっくりと彼女は振り返る。



    嘉多八 蓮寺の死体を想像しながら。



    悠奈の目に飛び込んできたのは辺り一面真っ赤に濡らしたフローリングの床と、赤く染まったパイプ椅子……




    それだけだった。



    「えっ…」



    「なんだこれ…血か…?」



    「凄い量ですね。軽く致死量を超えている」



    違う。今はそんなことどうでもいい。



    「ない……」



    「ない?」



    「なにがないんです?」



    「死体…」



    「えっ?」



    「嘉多八 蓮寺さんの死体が…」




    「ないの…」




    突然悠奈の口から出た思いがけない言葉に男二人は一瞬固まる。



    「……は、なんだそりゃ?死体が勝手に歩くってか?」



    「あり得ません」



    「でも!本当にッ!」



    「……まぁ、詳しいことはどこか落ち着いたとこで話そう」



    大和はそう言って図書室に視線を向ける。



    そこには未だにこちらを見ているピエロが。



    「ここじゃ気味が悪いったらありゃしない」



    「そうね…」



    「とりあえず俺の所有部屋の2-2へ行こう」



    「えっと…あなたは?」



    「天羽 大和だ。よろしくな」



    「お二人はお知り合いですか?」



    「いえ、違います。さっき会ったばかりです」



    「でも…それなら…」



    「青鬼じゃないか心配か?そこは安心しろ」



    大和はそう言って後ろからピストルを取り出す。



    「俺ら一方は参加者で間違いないだろ?んで俺はピストルを、さっき見た通り鋼太郎は空手の技術を持ってる」



    「これなら俺たちのどちらか一方が青鬼でも簡単には手を出せません」



    まぁ、元から青鬼じゃありませんけど。と鋼太郎は大和をフォローした。



    「……わかりました。ではそこに行きましょう」



    「ここで起きたことは順を折って話します」



  31. 36 : : 2014/12/13(土) 22:42:09



    2-2に着いて悠奈は三階で起こったことを話した。



    「つまり…三階の西棟で目を覚ました悠奈さんは向かいにある東棟の図書室へ向かった」



    「途中赤鬼に追いかけられたところを蓮寺さんに助けられ、勇敢にも蓮寺さんは赤鬼と戦った」



    「しかし廊下で鈍い音が響いたあとで蓮寺さんの死亡を伝える放送が鳴った」



    「図書室に入れるようになった赤鬼に再び襲われた悠奈さんの元へ俺と大和さんが来た。と」



    「そうよ」



    「ならおかしいよな?その蓮寺って人の死体は廊下にあるはずじゃねぇか」



    「嘘なんかついてないわ!」



    「それに廊下からのスタートっていうのもねぇ…」




    「本当だってば!」



    「ならあんたのその鍵はどこの鍵なんだよ」



    「……わからない」



    「はぁ…」



    「ため息をついても仕方ないです。とりあえずまだ行ってない一回へ行きましょう」



    「そこに出口の鍵をもった青鬼がいるはずです」



    「こいつが青鬼って可能性は?」



    「ないわよ!私が赤鬼に襲われてるのを見たでしょう?」



    「確かにそうだが…赤鬼と青鬼が仲間だという説明は放送ではなかったな」



    「どういうことです?」



    「赤鬼と青鬼が仲間だってことを決めつけるには、まだ早いってことだ」



    「なるほど…確かに一理ありますね」



    「そんなこと言われても…」



    「まぁ、こんなこと言ってても無駄か。鋼太郎の言うとおりまずは一階へ行こう」



    「誰が青鬼かはそれからだ」


  32. 37 : : 2014/12/17(水) 21:07:07





















  33. 38 : : 2014/12/17(水) 21:42:41



    女は東棟の1階にある女子トイレの一室で目を覚ました。



    壁がピンクのタイルで敷き詰められた清潔感のあるトイレだ。



    それこそ最初は暗く、ここが何処だか分からなかったが



    暫くすると例の放送とともに明かりがついて、ここが何処かのトイレだということが理解できた。



    しかし放送の内容は理解し難い内容で。



    「人を殺すって…なんなのこれ……」



    携帯と財布、化粧道具の入った自分のポーチは見当たらず



    代わりに首から掛けられていた"一階女子トイレ"と刻まれている鍵を握りしめると、女は個室を出て廊下を伺った。



    未だ頭の整理がついてないが
    今は誰でもいいから人に会って、1人でいる不安を取り除きたかったから。



    幸い、放送の説明であった赤鬼とやらは見当たらない。



    「ここ…学校?」



    この建物の構造をある程度把握し



    自分がいるトイレの他にも同じ階に3つ、明かりのつく部屋があることに女は気づいた。



    おそらくそこに人がいるのだろう。
    明かりは向かいの棟に2つ。



    そして幸か不幸か、今自分のいるトイレの隣の部屋に明かりが。



    教室には1-4と書かれたプレートがある。



    女は安堵の思いから、隣にいるであろう部屋の住人に会いに行こうと



    一歩廊下へ踏み出した。



    が、しかし。



    瞬時に先ほどの放送で説明された青鬼の存在が頭をよぎる。



    (もし……隣の人が青鬼だったら…)



    自分に力のないことを理解している女は一対一で争うことになれば、自分が勝てるとは到底思えなかった。



    そんな女の頭には「死」の文字が浮かぶ。



    ここは多少の危険を犯してでも、向かい側の校舎を目指すべきでは?



    そうすれば2つある明かりがついた部屋の住人のうち、片方の人は確実に鬼ではないはずだ。



    (だけどもし…行く途中で赤鬼にあったら…)



    結局女は動けずにいた。



  34. 39 : : 2014/12/18(木) 22:40:37


    どちらにせよ大きなリスクがついてきてしまう。
    かといって、ずっと1人でいるのは嫌だ。



    「そうよ、ここで誰か待ちましょう」



    そう自分に言い聞かせ個室へ戻ろうとする。



    だが。
    本当に誰か来てくれるのだろうか?



    もし、誰よりも先に青鬼がここへ来てしまったら?



    生き残るためには自分から行動するべきではないだろうか?



    そもそもこれは本当に命を懸けたゲームなのだろうか?



    それ自体怪しい。



    様々な疑問が女の頭の中で巡り巡る。



    女は迷っていた。



    その時。



    《参加者の嘉多八 蓮寺(かたや れんじ)様が赤鬼に殺されました》



    ピーンポーン パーンポーンと放送が鳴ったかと思えばそれは、とてつもない内容だった。



    ここで初めて女は悟る。



    これが遊びではないことを。
    命を懸けた殺し合いなのだと。



    その事実が女を恐怖で満たす。



    しかしその恐怖が女の迷いを掻き消した。



    見たところ、向かい側の棟で騒いでいる様子はない。



    どうやら今は一階には赤鬼はいないらしい。



    女は首に下がっている鍵を握りしめ、口の中に溜まった唾を飲み込むと



    覚悟を決め、西棟を目指し闇夜に包まれる廊下へとその足を一歩



    ーーーーーーーーーー踏み出した。



  35. 40 : : 2014/12/28(日) 07:10:51







    東 哲也(ひがし てつや)はわけがわからなかった。



    ここは何処なのか?



    なぜ自分がこんなところにいるのか?



    なぜ自分の所有部屋であるはずのここ、一階の西棟にある職員室に知らない男が2人。



    当たり前のように居座っているのか?



    そしてなりより。



    なぜ…自分が『あのブラットゲーム』に『現実』で参加しているのかが理解できなかった。



    (やっぱり…外に出るからこんなことになるんだ…)



    (旅行なんか行かずに家で大人しくしとけば良かった…)



    目の前にはメガネをかけた50過ぎほどの男性と



    20代後半の、背こそ160くらいしかないが服の上からでも分かるほど体格のゴツイ男性の2人。



    最初にこの職員室へ来たのは背の低い男性だった。



    それはまだブラットゲームについて誰かが放送で説明している時。



    未だ説明中にもかかわらず、目つきのすこぶる悪いこの男性がズカズカと入ってきたのだ。



    そして哲也の胸ぐらをいきなり掴んだと思えば



    「てめぇ!ここは何処だ!」



    と、哲也は怒鳴られた。



    そんなこと、こっちが聞きたいと言うのに…

  36. 46 : : 2015/01/02(金) 08:51:09


    今にも殴りかかってきそうな男をなだめ、哲也は自分も同じ状況だと説明した。



    しかし男は中々話を聞いてくれない。



    結局男の怒りが鎮まったのはブラッドゲームの説明が終わったときだった。



    (なんにも説明聞けなかったな…でもこれが、もし僕の知ってるブラッドゲームなら……)



    そう思うと身震いがする。



    ここは危険だーーー。



    早くここを出なければ。



    哲也の頭の中に積もる不安。
    不安が連想させるのは最悪のシナリオ。




    そしてその予想は的中する。



    《参加者の嘉多八 蓮寺(かたや れんじ)様が赤鬼に殺されました》



    その放送と共に再び職員室のドアは開いた。



    音もなく、どこか計り知れないメガネの男をこの部屋へ招き入れて。



  37. 47 : : 2015/01/04(日) 08:47:04


    脳内処理が追いつかない。



    誰だこいつは?



    いや、その前に殺された?



    人が1人死んだのか?



    (赤鬼…)



    間違いない。



    これは僕が知ってるゲームだ。



    現実では行われないはずの…いや、違う。



    現実でしたらいけないゲーム。



    命を懸けた、血で血を洗う禁断の脱出ゲーム。



    "1人しかクリアした人のいない"闇に葬られたゲームのはずだ。



    それが今行われている。



    僕の目の前で。



    (僕はここで死ぬのか…)



    そんなの、嫌だ。



    僕はまだ死なない。死にたくない。



    生き残らなければ。
    周りの命を踏み台にしてでも。



    そして同時に哲也は思う。



    これは裁きなのかもしれない。



    ここはまさに相応しい死に場所なのかもしれない。



    誰にも知られずに死んでゆく僕の墓場。



    大学に落ち、何年も働かず親のすねをかじって生きていた僕の罪を裁くために用意された舞台。



    そんなのいらない。
    必要ない。



    僕はクリアしてみせる。



    …しかし本当に出来るだろうか?



    クリアは不可能と言われたこのゲーム。



    (やはり自分はここで…)



    哲也を襲うのは死の文字。



    落ち着け、と哲也は言い聞かせる。



    おそらくこの学校にいる参加者で僕が一番有利。



    このゲームの秘密を、本質を知っている。



    だが全てではない。



    このゲームの攻略法はまだわからない。



    だがあるはずだ。



    どこかに。



    本当の出口が。



    それを見つけないと…このゲームは生き残れない。



    目の前には背の低い男とメガネの男。



    気をつけないと。



    このゲームで一番恐ろしいのは赤鬼ではない。



    青鬼だ。



    こいつら参加者だ。



    参加者全員が青鬼だと思わないと。



    そのくらい慎重にいかなければ。



    このゲームで信頼はいらない。



    むしろ邪魔な足枷だ。



    もし信頼にすがる様な奴がいればそいつは…。



    早く死ぬ奴だ。
  38. 48 : : 2015/01/04(日) 18:48:58



    「誰だお前」



    背の低い男が音もなく部屋に入ってきたメガネの男に言い放った。



    哲也は内心、それは僕の台詞であんたにも言いたいことなんだけど、と思ったが口には出さなかった。



    というよりそんなこと言えなかった。



    言ったら今度こそ拳が頭に降り注ぎそうだから。



    「まぁ落ち着いてくれ。私は君たちの敵じゃない」



    メガネの男はおおらかで気さくに話しながら背の低い男に近づく。



    だがその顔は仮面のように哲也には見えた。



    「この部屋の所有者は君かな?」



    そう言いつつメガネの男は右手を差し出し背の低い男に握手を求める。



    しかし背の低い男は握手に応じず顎でこちらを示し



    「あいつだ」



    と哲也にメガネの男を押し付けた。



    「ふむ…そちらの方だったか」



    どうも、と哲也は頭を軽く下げる。



    メガネの男はこちらにきて哲也に握手を求める気はさらさらないらしく、その場で話を続けた。



    「私はこの一階にある向かいの東棟からきたんだ。すぐ隣にも明かりのついた部屋があったが行かなかった。青鬼の可能性もあるからね」



    「どうしようか悩んでいたらこちらに2つの明かりが見えたから来てみたんだ」



    確実にどちらか1人は私と同じ参加者のはずだからね、とメガネの男は付け加える。



    「青鬼?なんだそりゃ」



    「おや?あの放送を聞いていなかったのかい?」



    「放送なんかあったか?」



    「ありましたよ。僕とあなたが話しているときに」



    「てめぇ!気づいてるんならなんで言わなかった!」



    お前が聞く耳を持たなかったんだろ、と悪態をつきつつ



    (この人あの放送が聞こえなかったとか…目の前の事以外は一切見えない人だな)



    と思った。



    今そんな人の目の前には自分がいる。



    そのことをしっかり確認すると哲也はなにも反論せず「すみません」と謝った。



    「では放送の内容は私がいたしましょう」



    でもその前に、とメガネの男は間を置く。



    「とりあえず自己紹介しましょうか」



    メガネの男がそう言うのと同時に職員室のドアは三回目の音を立て、三人目の客人をまたまた招き入れた。



    哲也はまたかと思いつつ、もはやため息しか出なかった。



  39. 50 : : 2015/01/10(土) 21:01:56



    職員室が新たに招き入れた客人は女だった。



    腰まである真っ直ぐな黒髪にスラッと細く高いモデルの様な身長。



    そしてその容姿の整った小さな顔はこちらを伺いながら怯えているのがわかる。



    それでもこの人が凛として見えるのは、つり上がった目が少しきつい印象を与えてるからだろう。



    まさに大和撫子の文字が似合う女性だ。



    この女性のためにこの文字があるといっても過言でない。



    それほど女性は美しかった。



    「とりあえず入りなさい」



    メガネの男は言った。



    どうやらもうここが僕の所有部屋という概念はないらしい。



    女は恐る恐る職員室へと足を踏み入れた。



    「あなた向かいの校舎からこられた方でしょう?」



    女性はメガネの男の問いに対して静かに頷いた。



    「実は私たちも集まったばかりで、ちょうど今から自己紹介をしようと話していたところなんです」



    この場を仕切っているのは自分だと言わんばかりにメガネの男は



    「ではまずは私から」



    と言って自己紹介を始めた。



    「私は瀬戸 修(せと おさむ)と申します」



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