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このSSは性描写やグロテスクな表現を含みます。

この作品は執筆を終了しています。

【化物語ss】阿良々木暦「夏休みなんて嫌いだ」

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  1. 1 : : 2014/10/05(日) 23:47:47









    青春とは、終わらない恥の始まりである









  2. 2 : : 2014/10/05(日) 23:50:49


    これまで、五つ数えるというごく平凡な行為は、あらゆるものに良くも悪くも運命の時までの執行猶予を与えてきた




    それは時に、荒野のガンマン達が背中合わせに歩き出す決闘だったり




    または、手に汗握る爆発物のタイムリミットだったり




    はたまた、カップルの唇が重なるまでの甘酸っぱいひと時だったりと多種多様である




    そんなことをまどろむ意識の中で考えてみた




    では、試しに僕も数えてみるとしよう




    ここから抜け出す踏ん切りがつくかもしれない



  3. 3 : : 2014/10/05(日) 23:53:35


    一、まだまだ余裕があると慢心する……




    二、まだ大丈夫だと自分に言い聞かせる……




    三、半分を迎えて少し焦る……




    四、何故かここで猛烈に後悔する……




    五、そして、運命の時が来る……



  4. 4 : : 2014/10/05(日) 23:54:45


    高校三年生の二学期初日の朝、一念発起して上体を起こした




    暦「ほっ!!」バサッ




    さて、ここで自問自答だ……




    僕は学校へ行くか?




    う〜ん……




    何事も始めが肝心なわけで……




    まぁ、そもそも通学は学生の義務であって……




    それに夏休みの宿題の提出もあるし……




    だが同時に、厄介な心の葛藤も起きるわけで……




    それじゃあ答えは?

  5. 5 : : 2014/10/05(日) 23:56:13


    暦「うん、最終的にこう落ち着くわけか……」ポフッ




    厳正なジャッジの結果、再び背中を柔らかな感触に委ねる運びとなった




    暦「さて、世間のほとぼりが冷めるまで眠ろうか……」スッ




    瞼をゆっくり閉じる




    その刹那、神聖なるウォールコヨミが一撃で突破された




    暦「はいっ!?」バッ




    嘘だろ!?




    あの壁は特別製のチタン合金なんだぞ!?




    否が応でも体が飛び跳ねる



  6. 6 : : 2014/10/05(日) 23:58:34


    それよりも誰か説明してくれ……




    今日は家に劇的ビフォーアフターのヤンチャな匠が来ているのか?




    もしくはサイヤ人が引っ越しの挨拶に来たのか?




    いずれにせよ、寝起きドッキリにしてはあまり穏やかな趣向ではない




    そして間も無く、無残に蹴破られた扉を踏み越える足音が二つ



  7. 7 : : 2014/10/05(日) 23:59:50


    この活動を行ったデストロイヤーズ……




    火憐「おっはよー兄ちゃん!!清々しい朝と共に可憐な火憐ちゃんが起こしにきてやったぜ?」ニィ




    月火「おはようお兄ちゃん、いい夢は見られたかな?さぁ、今日も刺される前に起きようね?」ニコッ




    いや、好き勝手に正義を謳っている過激派テログループ……




    ファイヤーシスターズであった



  8. 8 : : 2014/10/06(月) 00:01:21


    暦「またお前らか……たっく、毎朝性懲りも無く偽りの正義の名の下に暴力を行使しやがって!!」




    火憐「何言ってんだ兄ちゃん?兄ちゃんを痛めつけることは、世の非モテ男子のための立派な正義行為なんだぜ?」




    月火「うん、いつも沢山の女の子を侍らせている鈍感お兄ちゃんには然るべき報いだと思うよ?」




    暦「え?何だって?」




    やれやれ……




    某友達が少ない焦げプリン君じゃあるまいし、そんな不届き者が実在するわけないじゃないか?



  9. 10 : : 2014/10/06(月) 00:03:42


    月火「そもそも、お兄ちゃんさぁ……仮にも受験生なんだから、もう少し自覚持ちなよ?そんなんだからお兄ちゃんは……」




    暦「うっ」グサッ




    火憐「とにかく、体が元気なのに学校を休むなんて言語道断だぜ!!」ビシッ




    暦「違うぞ、僕はこの胸に刻まれた深い傷を時間で解消するために休むんだ!!」




    月火「じゃあ私にそのオペを任せてくれるかな?……物理的に胸を軽くしてあげるから」チャキ




    暦「一体どこでそんな鋭利なメスを入手したんですか月火ちゃん!?」




    月火「これ?えっと……近くの100均ショップだよ?」




    暦「絶対にどっかの医者が消されてる可能性の方が高いんだけれど!?」

  10. 11 : : 2014/10/06(月) 00:05:21


    火憐「そんなことより、この状況から逃げ切れたことなんて今まで一度も無いだろうが兄ちゃん」




    暦「はて、それはどうだったかな?」シュッ




    火憐「あっ、隠れやがったな!?」




    暦「エントリープラグ、イン……さぁ、この汎用籠城型決戦兵器フトンゲリオンを破れるかな?」




    火憐「むぐぐ、そっちがそのつもりなら、こっちにも考えがあるぜ?その名も……兄ちゃん捕獲計画だ!!」




    月火「これぞまさしく毒をもって毒を制す!!」




    暦「セーフティフィールド全開!!」バッ




    まぁ、僕の攻撃ターンは来ないんですけどね……




    そして……ふと、今までの防衛戦の通算記録を思い出してみた



  11. 12 : : 2014/10/06(月) 00:06:10


    え〜っと……




    確か、あれは台風の影響で臨時休校だったよな……




    それと、あれもインフルエンザ蔓延で学級閉鎖だったけ……




    それじゃあ、その二つは例外として




    僕がこの凶暴な使徒共を撃退した回数は……




    ふむふむ……なるほどなるほど




    ……あれ?




    見事に僕の全敗じゃねーか!?



  12. 13 : : 2014/10/06(月) 00:07:20


    火憐「ああもう、いい加減腹括れよ兄ちゃん!!現実逃避は何にも生まないんだぞ!?」ゴスッバキッ




    実戦担当の渾身の蹴りが僕の脇腹をとらえる




    暦「ぐはっ!?」ゴッ




    つーか布団のクッション効果がまるで意味が無ぇ!!




    月火「お兄ちゃん、誰にだって若気の至りの一つや二つぐらいあるものだよ……よし、捕まえた」ムンズッ




    そして間髪入れず呼吸穴から参謀担当の手が忍び寄ってきた



  13. 14 : : 2014/10/06(月) 00:09:49


    暦「痛たたた!!月火ちゃんは僕のアホ毛の痛みを知ってくれ!!」ギギギ




    容赦無く僕のトレードマークとも言えるアホ毛が根っこから引っ張られる




    だ、だが、こっちも布団から出なければまだ勝機は残されているんだよ!!




    月火「あっ……抜けた!?」スポッ




    火憐「騙されるな月火ちゃん!!それはレプリカだ!!」




    御名答、それはダミープラグなのだよ




    月火「もうお兄ちゃんプラチナムカつく!!」ムキー




    暦「はっ、下等な愚妹共め!!」



  14. 15 : : 2014/10/06(月) 00:10:33


    火憐「クッソ〜、帰宅部のくせにどうしてこんなに抵抗腕力が強いんだ〜!?」ググッ




    暦「そりゃあ、お前らに毎朝こう痛めつけられたら自然と抵抗腕力も付くぜ」ググッ




    本当は吸血鬼能力のおかげだなんて言えない……




    火憐「今日は本当にしぶといぜ兄ちゃんの野郎……」ドスドス




    暦「み、見たか!?これが追い詰められた人間の底力だ!!」グフッ



  15. 16 : : 2014/10/06(月) 00:11:23


    流石は鉄筋コンクリートを粘土でもコネるかのように変形させる火憐ちゃんだ……




    一発一発が桁違いな重さをしてやがるぜ




    だが!!




    何度その理不尽な拳を捻じ込まれようが、僕は決して暴力には屈しない!!




    あのインド独立の父……




    マハトマ・ガンディーのように耐え抜いてみせる!!



  16. 17 : : 2014/10/06(月) 00:12:27


    と、そんな矢先……




    月火「ふぅ、私はもう疲れたよコヨラッシュ……」ヤレヤレ




    火憐「え?もう兄ちゃんを起こすのを諦めるのか月火ちゃん?」




    おや?参謀担当の月火ちゃんの方がついに折れたか?




    月火「うん、私はちょっと席を外すよ」スタスタ




    そう言い残し、足音が一つ遠のいていくのが聞こえた




    こ、これって……




    僕の記念すべき初防衛成功じゃないか!?



  17. 18 : : 2014/10/06(月) 00:13:47


    暦「……な、なぁ火憐ちゃん?」モゾモゾ




    僕は念のため布団からはまだ出ずに、一人残された使徒に交信を図る




    火憐「な、何だよ兄ちゃん?」




    暦「えっと……月火ちゃんもいなくなったことだし、これにて終戦としないか?」




    火憐「はぁ?私はまだ諦めたわけじゃねえんだぞ?」




    暦「でも、ファイヤーシスターズは二人で一つの運命共同体だろ?だからピン活動は相方への裏切り行為なんじゃないか?きっと月火ちゃんも悲しむと思うぜ?」




    火憐「た、確かにそうかも……しれない、やっぱりピン活動はズルいよな……」




    うん……




    そもそも、言い出しっぺの僕がファイヤーシスターズにおけるピン活動のどこがズルいのかよく分からないのだけれど……




    とにかく、今日も火憐ちゃんがバカ可愛い奴で何よりだ



  18. 19 : : 2014/10/06(月) 00:14:43


    月火「……お待たせ、火憐ちゃん」スッ




    火憐「ほえ?月火ちゃん?」クルッ




    ちっ、せっかく穏便に丸め込めそうだったのに……




    月火「これ……使っちゃおうよ」スッ




    これ?こっからじゃ見えないんだけれど……




    火憐「えぇっ!?い、いや、それはマジでヤバいって!!後遺症とか残っちゃうやつだってそれは!!」アタフタ




    こ、後遺症だと!?




    待って待って超待って!!




    あのアグレッシブな火憐ちゃんが制止するって、絶対シャレにならないレベルじゃねーか!?



  19. 20 : : 2014/10/06(月) 00:15:54


    火憐「ま、まだ私は兄ちゃんに生きてて欲しいよ月火ちゃん!!」フルフル




    死人が出るんですか!?




    月火「大丈夫だよ火憐ちゃん……当り所が良ければ一瞬のはずだからさ」ブオンッブオンッ




    そんでもって何かを剛速で素振りしているんですが!?




    火憐「い、命が欲しければ兄ちゃん早く出て来い!!」ユサユサ




    い、威嚇素振りだよね?




    もちろん本気じゃないよね?




    月火「うん、だいぶ手に馴染んできたよ……じゃあ、そろそろ本番行ってみようか?」コンコン




    殺る気満々じゃねーか!?



  20. 21 : : 2014/10/06(月) 00:18:15


    火憐「兄ちゃんお願いだからマジ早く逃げろ!!」ユサユサ




    月火「さあさあ、セカンドインパクトまで残り五秒だよ♪」




    暦「へ、平和的に話し合いをしよう月火ちゃん!!」




    というか、この家にそんな終焉をもたらす危険物なんかあったけ!?




    火憐「兄ちゃん!!月火ちゃんの五秒は普通の五秒じゃないんだぞ!?」ユサユサ




    え?何それ怖い……




    月火「せ〜の……GO☆」ズドンッ




    そういうことかぁぁぁぁ!!



  21. 22 : : 2014/10/06(月) 00:18:58


    月火ちゃんの声を聞くが早いか、僕は緊急プラグ射出ロケットノズルで脱出した




    恐ろしいことに、月火ちゃんは五秒の始まりの五を数えたのではなく、振り下ろすGOのサインとして唱えたのである




    勢いよく振り下ろされた危険物が、僕の頭が数秒前にあった場所でクレーターを作り出していた




    暦「兄を殺す気か!?」




    月火「おや残念……空振りだね」




    暦「危うく一発でサヨナラホームランするところだったよ!!」




    火憐「ふぅ、本気で心配したんだぜ兄ちゃん?……でも、まぁ、これで攻守交代だな!!」




    暦「それ一切心配してないよね、火憐ちゃん!?」



  22. 23 : : 2014/10/06(月) 00:19:38


    月火「これでもう、しっかり学校に行けるよね、お兄ちゃん?」ニコッ




    暦「え?学校?何それ?おいしいの?」




    月火「……試食してみる?」ブオンッブオンッ




    暦「調子乗ってすみませんでしたっ!!」バッ




    ちなみに、月火ちゃんが握りしめている金属バッドには、ある名前が記されていた




    月火ちゃんの非公認彼氏……




    暦「それ……もしかして蝋燭沢君のか?」




    月火「そうだよ、しばらく借りてるんだ」



  23. 24 : : 2014/10/06(月) 00:20:17


    暦「僕の妹になんて物騒なモノを貸してんだよ蝋燭沢君は!?」




    月火「え?不審者撃退アイテムだよ?」




    暦「実の兄を不審者扱い!?」




    となると、少しばかり僕の今後の安否が懸念される




    一応、確認しておこう……




    暦「まさか……僕が二人の交際を正式に認めないのに業を煮やして、ゆくゆくは兄暗殺計画を企んでるわけじゃないよな?」




    月火「な、何でその情報を!?」ビクッ




    暦「図星なのかよ!?」



  24. 25 : : 2014/10/06(月) 00:21:18


    ー閑話休題ー




    火憐「んで、兄ちゃんがさぁ……もし学校でイジメられたら、私がそいつらをぶっ飛ばしてやるから安心してくれよな」




    暦「そんなことされたらますます僕の評判もぶっ飛ぶわ!!」




    月火「ん〜でも、あれを機にお兄ちゃんのキャラが見直されて、クラスの人気者に転向できるんじゃない?」




    暦「そう簡単に言ってくれるけれど、クラスの人気者とクラスの陰気者を履き違えたら大惨事なんだぞ!!」




    火憐「だぁもう、周りが何て言おうと関係無えよ!!兄ちゃんは私らの自慢の兄ちゃんなんだ!!だから胸張って生きていきゃいいんだよ!!」




    暦「か、火憐ちゃん……」ウルウル




    月火「そうだよ!!それにちょっとカッコ悪いぐらいがお兄ちゃんにはお似合いだよ?やっぱり人間は自然体が一番だもんね」




    暦「嬉しいけど、月火ちゃんのは少しトゲが残るんだよなぁ……」



  25. 26 : : 2014/10/06(月) 00:22:09


    火憐「まぁ、何とかなるさ!!」バンバン




    火憐ちゃんに背中を押される




    月火「そうだよ、お兄ちゃん!!」コンコン




    すいません、バッドで叩くのは止めて下さい月火ちゃん……




    まぁ、なんだかんだ言っても、こいつらがいてくれるなら今日という一日も生きていけるかもな




    一つ確かなことは……




    僕は一人じゃないということだ




    暦「分かった、可愛い妹達のためなら兄ちゃんは頑張ってやんよ」




    火憐「その意気だぜ!!」ニィ




    月火「かましちゃいなよ!!」ニコッ




    暦「おう!!」スクッ



  26. 27 : : 2014/10/06(月) 00:22:59


    それから僕は、いつものように朝食を済まし、身支度を整えた




    暦「それじゃあ、行ってきます」ガチャ




    玄関のドアが心なしかいつもより軽く感じた




    それもそうだ……




    僕は迷いを断ち切り、澄み切った清々しい世界へと偉大な一歩を踏み出したのだから




    そして、本日一人目に遭遇……




    おばさん「あ、あら、おはよう暦君……」




    お隣のおばさんだ




    暦「おはようございます」スッ




    僕は好青年らしくフレッシュに挨拶を交わす




    印象は上々のはずだ



  27. 28 : : 2014/10/06(月) 00:23:54


    おばさん「今日から新学期ね……辛いだろうけれど負けちゃダメよ?」




    やっぱり……既知情報ですよね




    暦「あはは、大丈夫ですよ、それでは行ってきますね」スタスタ




    おばさん「う、うん……色々と気をつけてね」




    その……色々って何ですか?




    あっ、これヤバイかも……




    想像以上に精神的にくる




    気にしなければなんてことない些細な問題だと思い、実行に移した数分前の自分が早くも憎い……




    当然、こんな小さな田舎町だけには留まらないであろう僕の過ち




    やはり一生、例のあの人だと嘲笑の的になるのだろうか?



  28. 29 : : 2014/10/06(月) 00:24:41


    ふと、空を見上げると、ラピュタでも隠されてそうな大きな入道雲があった




    暦「今日の昼メシはあの大きな雲を食べようかな……」




    そのように空を仰いで独りごちていると、どこからともなく慰めの言葉が送られてきた




    「お前様よ、こういう落ち込んだ時には糖分を取ると良いぞ?よって、速やかにミスドへGOじゃ!!」




    まぁ、慰めというかただのドーナッツの催促だったけれど……




    はぁ……




    僕はもうダメかもしれない




    だって……




    この世の中はオールドファッションやゴールデンチョコレートのように甘くはないのだから



  29. 30 : : 2014/10/06(月) 08:22:45


    ー以下回想ー




    帰りのホームルーム終了と時を同じくして、軽快なチャイム音が私立直江津高校に鳴り響く




    つまり、それが意味するところは……




    ついに本日より、全国の少年少女が待ちに待った夏休みの幕開けということだ




    教室内は生徒達が談笑する声で賑わい、塾の夏期講習、部活動の練習、中には遊びの約束なんかで大いに沸いていた




    だが、部活動無所属、肩書きだけは立派な暇人副委員長であるこの僕は、誰と話すということも無く、静かに教室を後にする



  30. 31 : : 2014/10/06(月) 08:26:36


    教室退出が早きこと【風】の如く




    誰も近寄らぬこと雑木【林】の如く




    万が一近付けば火傷すること【火】の如く




    ふつふつと寂寥感だけが募ること【山】の如し




    かの武田信玄も同情するほど哀愁漂う風林火山である




    願わくば、僕の自慢の彼女である戦場ヶ原と仲睦まじく帰宅したいところではあるが、生憎と今日は欠席のようだ




    元々、あいつはどうでもいい学校行事は大体休む傾向がある




    もちろん仮病で……




    また、委員長の羽川はと言うと、何やら書類整理のような用事で教室に残るのだとか




    よって、僕の独り寂しい背中を追う者は、この学校にはもう存在しないということになる



  31. 32 : : 2014/10/06(月) 08:28:01


    おっと……




    言い忘れていたが、異常な忠誠心を僕に捧げる後輩も、今日は買いたい本があるとのことで、加速装置フルスロットルで廊下を駆け抜けていった




    校門を出ると、むせ返るような熱気が全身を覆う




    さらに、喉からジワリジワリと水分が奪われていく




    周囲は別の帰宅者で溢れているというのに、自分だけ果てしない砂漠に取り残された遭難者のような気分だ




    いっそのこと、この灼熱の太陽へのクレームをしに銀河の果てまで直々に出向いてやろうか?




    暦「んああ、何でこんな時に思い出すのかな僕って奴は……いや、こんな時だからこそなのか?」グッタリ



  32. 33 : : 2014/10/06(月) 08:29:11


    前触れも無く蘇るは幼少期の記憶……




    ロッカーに置き勉した大量の教科書




    机に突っ込み放しの提出期限切れのプリントの束




    無駄にかさばる図工の作品群




    今ごろ学校帰りの小学生達が、そんな無計画に溜め込んだ大荷物を汗だくになって家へ持ち帰っていることだろう




    そして、帰宅後すぐに玄関でその重たい足枷を解き放ち、自由気ままに、鬼の居ぬ間に、そそくさと羽ばたくのが健全な小学生の思考回路ってものだ




    まさに小学生時代の夏休みとは、夢と希望が奏でるオルゴール




    その音色はいつまでも色褪せること無く、誰の脳裏にも綺麗な思い出として焼き付いていることだろう




    たとえ最終日の夜に、手付かずの宿題がその旋律を妨げるノイズになろうとも、それも後には良き思い出へと昇華させる奇妙な力を秘めているものなのだ



  33. 34 : : 2014/10/06(月) 08:32:21


    もっともこう断言するのも、夏休み初日に最優先で宿題に取り組む小学生なんて存在するはずがないからである




    もしいたとしても、それはもはや普通の小学生ではない……




    初日に夏休みの宿題を全て終わらせる神童か




    その宿題を写させてもらう悪童かだけである




    人間強度が下がるから友達を作らないと豪語するこの僕でさえ、小学生の時は毎日のように友達と遊びに出かけていたものだ




    と、まぁ、小学生の夏休みの始まり方なぞとどうでもいい感傷話はこのへんで、大事なことは僕のこれから始まる夏休みの方だ




    先述したように、現在の僕は友達がいないばかりか、受験生という遊びとかけ離れた世界に身を投じる立場である




    すなわち、この夏休みに胸を躍らせるようなイベントが起きるはずも無いのだ



  34. 35 : : 2014/10/06(月) 08:33:35


    もちろんこの一夏に楽しい事があるとは到底思えないけれども、それでもどこか摩訶不思議、奇天烈怪奇な現象に見舞われるのではないかと、密かに期待している自分もいるのは事実である




    そんな淡い期待を抱きながら、初日だし日記でも付けていこうかなと柄にもないことを考えてしまいそうな




    開放的な気分でつい羽目を外し過ぎて、部屋の鍵を掛け忘れて秘蔵本を読み耽ってしまいそうな




    こんな変な暑さにあてられてしまいそうな夏休みの始まりなわけだ




    まぁ、僕ならそんな初歩的ミスは絶対に犯さないが……




    と言うのも、自分の部屋へ入室後、速やかにプロ意識の高い車掌の如く、車両点検ならぬ施錠点検を必ず行う習慣があるからだ




    一方、きっとあの後輩なら、自分の部屋で無警戒に有害図書を読み耽ることだろう




    そして、その醜態を同居している祖母に見られて、何とも言えない空気になっている光景が容易に目に浮かぶというものだ




    恐らく先程の買いたい本という物も、そういった類いに違いない



  35. 36 : : 2014/10/06(月) 08:34:52


    では、そろそろいい頃合いか?




    答え合わせでもしてみるとしよう……




    僕はおもむろに携帯電話を手に取る




    そして、例の後輩に電話をかけた




    暦「……もしもし神原?」




    するとワンコールで応答




    神原「神原駿河だ、神原駿河、趣味は阿良々木先輩の攻めと見せかけてからの受けの妄想を……」




    暦「黙れ歩く猥褻物!!」




    神原「おお、いいぞその調子だ!!もっと私を高圧的に罵ってくれ!!」




    暦「何で悪口がご褒美みたいになってんだよ!?」




    神原「ん?その声とツッコミは阿良々木先輩だな?」


  36. 37 : : 2014/10/06(月) 08:35:45


    阿良々木「ああ、そうだよ」




    神原「そうだ阿良々木先輩、聞いて欲しい!!私は最近までマタニティタッチオイルとは途轍もなくいやらしいオイルだと思っていたのだが……」




    暦「どうでもいいわ!!」




    神原「む、これはすまない、話が脱線してしまったな、それでは各々の好きな百合カップリングについてという話題に戻そうか?」




    暦「そんな話に花を咲かせていた覚えは無い!!」




    神原「さすが阿良々木先輩、私の稚拙な話題転換などすべてお見通しというわけだな!!つまり私が現在進行形で全裸体操に勤しんでいることさえ、すでに筒抜けなのだろう?」




    阿良々木「今すぐ服を着るか、僕と縁を切るか選べ神原!!」



  37. 38 : : 2014/10/06(月) 08:36:19


    神原「なんと!?それはあまりに苦渋の選択ではないか!?第一、私は服を着たらアイデンティティを喪失してしまうぞ!!」




    暦「いっそのことその迷惑極まりないアイデンティティを一から再構築しろ!!」




    神原「神原駿河、アイデンティティ再構築完了……それではこれより全裸バスケに移行する!!」




    阿良々木「遺伝子レベルで変態だったのか!?」




    神原「うむ、身に余る光栄だ」




    暦「……で、さっきまで何してたんだよ?」




    神原「ふふふ、おばあちゃんから羞恥心とは何かという説法を受けていたところなのだ」




    暦「ご老人をいたわれ!!」



  38. 39 : : 2014/10/06(月) 08:36:52


    神原「私は普段からおばあちゃんを揉み揉みしているぞ?」




    暦「それは肩のことだよな!?そうだと言ってくれ!!」




    神原「モロのチンだ」




    暦「もちの論ですらねぇ!?」




    神原「ははは、阿良々木先輩との下心のキャッチボールは実に愉快だな」




    暦「言葉の突き指をしろ!!」




    神原「あんっ///」ビクン




    暦「どういう思考回路でそうなった!?」



  39. 40 : : 2014/10/06(月) 08:40:05


    ー閑話休題ー




    暦「つーか、仮にも説教を受けたなら、今度会う時に恥じらいを覚えたお前を見られるんだよな?」




    神原「な、何て血迷ったことを!?今のはドスケベ日本代表の阿良々木先輩から発せられた一言だとは俄かには信じ難いぞ!?」




    暦「そんな大逸れた失言をした覚えも、名誉毀損ポジションを確立した覚えも僕には無い!!」




    神原「ふむ、自明の理ではあるが、羞恥心と恥じらいは別物だぞ阿良々木先輩?」




    暦「神は僕を見捨てたのか!?」




    神原「原っぱの女神、いや……素っ裸の女神なら頼まれればいつでも優しく包み込んで差し上げるぞ?」




    暦「原っぱ、素っ裸の女神?……それって神原、もしかしてお前のことか?」



  40. 41 : : 2014/10/06(月) 08:40:55


    神原「ご明察通りだ!!私はどんな鬼畜な上級者プレイを要求されても耐え抜く自信がある!!さぁ、遠慮無く申しつけてくれ阿良々木先輩!!」ハァハァ




    あぁ、この変態の塊が恥じらいという初期装備を整える頃には、勇者様御一行は魔王撃退数が二桁は裕に越えているのだろう……




    神原「……ところで阿良々木先輩、今から家庭訪問してもよろしいだろうか?」




    常におどけている変態ピエロの口調が、急に真剣味を帯びたようだった




    暦「おいおい唐突だな……それは電話じゃ話せない大事な話なのか?」




    神原「いかにも、事態は一刻を争う……機会を逃せば死人が出るかもしれない」



  41. 42 : : 2014/10/06(月) 08:43:18


    暦「死人だって!?……もしかして、また危険な怪異が現れたのか!?」




    蟹、蝸牛、猿、蛇、猫……人間の強い願いに引き寄せられる怪異達




    ともかく、それらの専門家である忍野が不在の今、厄介な怪異が現れた場合、適切に対処できる確証は得られない




    全くこんな肝心な時に、あの胡散臭いアロハのおっさんはどこをほっつき歩いてやがるんだ!?




    神原「実は、さっきの件で私の秘蔵本が全て没収されてしまったので、阿良々木先輩の秘蔵本を拝見してエロティック成分を補給したいのだ!!」




    暦「えっと……うん、存分にそのエロティック成分不足とやらで死ぬといいぞ神原後輩?それじゃあな」ピッ




    神原「あ、ちょ、今のはBL少女からの切実な懇願だから切らないでくれ阿良々木先……ありゃ?」ツーツーツー




    恥ずかしくなるほどの杞憂だった




    いや、ここまで来ると軽い憂鬱だ


  42. 43 : : 2014/10/06(月) 08:44:12


    ふぅ……




    何だろうかこの言いようの無い達成感のような敗北感は?




    結局、ヘビー級の変態介護をボランティアしたような倦怠感だけが残った




    まぁ、ボケの火薬が尽きない地雷に自ら電話をかけた僕も、浅はかと言えば浅はかだったけれども……




    暦「あ、ここの自販機オール100円だ……」チャリーン



  43. 44 : : 2014/10/06(月) 08:46:20


    変態との一悶着で渇いた喉を潤して、煩わしい蝉の大合唱を強制的に聞かされていた帰り道




    数週間の山籠もりでもしそうな巨大バッグを背負った、どこか見覚えのあるカタツムリが前方を歩いていた




    否、ロリツムリがいた





    そいつは何かを探すように、首を忙しなく左右に回している




    あと念のため最初に断っておくが、僕は決してロリムッツリなんかではない




    それではまるで、あの変態の後輩と同じ穴のムジナみたいではないか?




    もし万が一そんな事を考えられていたとしたら、非常に心外である




    それはもう、穴があったらムジナの穴でも何でも隠れたいほどに




    または、一生遊んで暮らせるほどの慰謝料を請求したくなるほどに




    それはさておき、普段の僕ならここからアキレス腱を伸ばすなり、犯行動機をつらつら垂れるなりとウォーミングアップを入念に行うだろう




    だが、今回はあえて割愛させてもらおう



  44. 45 : : 2014/10/06(月) 08:47:13


    それは何故かって?




    じゃあ、そんな君に一つとっておきの豆知識をご紹介……




    ねぇ、知ってた?




    夏ってクッソ暑いんだぜ




    ただでさえ、このサンサンと照りつける陽射しがキツい中……




    僕は吸血鬼属性が残存しているから、その強烈さは折り紙付きだ




    要するに、余計な思考を巡らして日向に長居すること自体が自殺行為なのである




    それでは四の五の言わず、迅速に恒例行事を執り行うとしよう……




    暦「いざ尋常に紳士的に……」スゥ〜




    どこからか運動会のスタートピストルが鳴り響いたような気がした



  45. 46 : : 2014/10/06(月) 08:53:20


    暦「はっちくじぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!」ガバッ




    その少女の未成熟な肉体に背後から熱い抱擁をくれてやった




    八九寺「ぎぃやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」ジタバタ




    どうやら非常に喜んでいる様子だ




    暦「会いたかったぞ、待ち焦がれたぞ八九寺ぃぃ!!危うくこの身も焦がすところだったぞ、この罪人めぇ!!」ギュー




    八九寺「だ、大変態襲来です!!乙女の純潔を脅かすコヨラは大人しく海に帰れです!!」ドタバタ




    暦「はっはっはっ、流石に畏れ多いぜ八九寺、そんな某特撮映画の巨大怪獣みたいなことを言われたらな?それではまるで僕が人の愚かさに憤怒した神の権化みたいじゃないか!!」ガシッ




    八九寺「あなたは神の権化なんて高尚な存在ではありません!!人々のマイナスエネルギーそのものです!!」グググッ




    少女は憎まれ口を吐き捨てる




    きっと僕に絡んでもらえて嬉し過ぎたのだろう



  46. 47 : : 2014/10/06(月) 08:54:57


    暦「ほぅ、言ってくれるじゃないか八九寺?ならばお望み通り、人の慾望に塗れた真の恐怖を思いしらせてやろう!!」クワッ




    八九寺「来るなら来いです!!いつもやられてばかりの私じゃありませんよ?」キッ




    暦「いいぞ、その反抗的な目つき!!生意気な少女をねじ伏せた時こそ最高の征服感が僕を満たしてくれるからなぁ!!」ニタリ




    少女に煽られて、僕の方もついついノリノリになってしまう




    そして、茹だるような暑さにもかかわらず、お互い文字通りの意味で、擦った揉んだの大立ち回りを演じた




    手始めに僕は、少女の掴み所の極めて少ない胸部目掛けて手を伸ばす




    暦「もっと、もっとだ!!僕の渇きに充足感を与えてくれ八九寺!!」ガバッ




    この少女と戯れている時だけが、僕の受験生という重苦しい現実を忘れさせてくれる




    八九寺「その指先に大量の充血感なら与えてやりますよ!!」ガブッ




    対して少女は、僕の指先に獰猛な八重歯で襲いかかる




    暦「ぎぃやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」ジタバタ




    噛み付いた前歯がガチンと僕の指を逃がさない




    そして舞い上がるは血の噴水



  47. 48 : : 2014/10/06(月) 08:56:33


    八九寺「おや、なかなか良い血をしてますね、特に舌触りが滑らかで、貧血気味の女性には嬉しい一品ですね」ペロリ




    暦「何を平然とグルメリポートしてんだよ!?」




    少女の口周りは僕の指先からの血で不気味に濡れている




    ぶっちゃけ指先の肉も多少は食われただろう……




    異常な自然治癒力を持つ僕に対してだからこそ許される暴挙だ



  48. 49 : : 2014/10/06(月) 08:57:27


    暦「な、なぁ?今日の戦いはこの辺で幕引きとしようじゃないか八九寺?」




    八九寺「おやおや、口ほどにもないですね阿良々木さん?もっといつもみたく乱暴に唇を奪ったり、胸を揉みしだいたりはしないんですか?」




    暦「あぁ、なんせ季節は夏だからな?それにこう見えて、僕は人として越えてはいけない一線をしっかり弁えてるつもりだぜ八九寺?」




    八九寺「いやいや、小さい女の子に背後から無許可で抱きついて来る時点で、儚きさんの有罪死刑判決は揺るぎなく確定ですからね?」




    暦「こいつは手厳しいや、いつの間にか日本の法律がそんなにも厳粛化していたとは……あと、僕はそんな線香花火のような消滅ギリギリの名前じゃない、僕の名前は阿良々木だ!!」




    八九寺「これは失礼、噛みました」




    阿良々木「いいや、わざとだ」




    八九寺「かみまみた!!」




    暦「わざとじゃない!?」




    八九寺「噛みマスタング大佐」パンッ




    暦「炎天下なだけに、焔の錬金術師ロイ・マスタング大佐を錬成しただと!?ならその錬成対価を支払え!!その身体でタップリとな!!」ガバッ



  49. 50 : : 2014/10/06(月) 08:58:43


    八九寺「こほん、いいですか阿良々木さん?私の姿はあなたと羽川さんぐらいにしか見えていないんですよ?」




    暦「うん、だから?」キョトン




    八九寺「ですから、そんなこととはつゆ知らずの他人の目には今どう映っているのでしょうかねぇ?この阿良々木暦という愚かなホムンクルスは……」ニヤリ




    言われてみれば、周りに小規模ながらも人だかりができていた




    クスクスと小さな笑い声がそこかしこから聞こえてくる




    暦「ば、場所を変えようか八九寺?……いえ八九寺さん!!」アセアセ




    八九寺「別に、私はここでも一向に構わないんですがねぇ?」ニタリ




    暦「お願いします八九寺様、場所を変えて下さい!!この通りです!!どうか、どうか!!」ズザッ




    八九寺「ちょ、阿良々木さん!?あなたには恥じらいというものが無いんですか!?」




    灼熱の太陽で熱せられたアスファルトに、頭をジリジリと擦り付けて頼み事をしている男子高校生の姿がそこにはあった……




    というか、僕だった



  50. 51 : : 2014/10/06(月) 08:59:47


    八九寺「見てるこっちが恥ずかしいです、さっさと移動しますよ阿良々木さん!!」グイッ




    暦「ありがとうございます!!ありがとうございます!!それと、出来れば僕の大切なアホ毛をもう少し丁重に扱って下さい」ググッ




    ふっ、全て僕の計算通りだ……




    少女を騙すのは本当にチョロイぜ




    土下座一つで意のままに出来るなら、この頭いくらでも下げてやるさ!!




    八九寺「ところで阿良々木さん、私は今お腹が空いていますよ?」ジィー




    僕の指先を物欲しそうに見つめる八九寺




    暦「お前にとって僕の指はスナック感覚かよ!?」ゾクッ




    八九寺「スナックだなんて思い上がらないで下さい、私の中では非常食程度の位置づけですよ?」




    暦「僕の中ではお前が非常識な位置づけになりつつあるよ!!」



  51. 52 : : 2014/10/06(月) 09:19:52


    それから人々の好奇な視線が届かないところまで避難すると、今度は全知全能の散策者に遭遇した




    羽川「あれ?阿良々木君と八九寺ちゃんじゃない」




    八九寺「こんにちは羽川さん」




    阿良々木「よう、羽川……今から帰りか?」




    羽川「うん、教室で夏休みの宿題を済ましてきたから遅くなっちゃったんだよね」




    暦「あぁ、さっきのか……って、夏休みの宿題をもう終わらせてきたのかよ!?」




    羽川「う、うん、色々と大変だったけどね……あはは」




    あの完璧超人もとい羽川翼にも、唯一知らない事があるのを僕は知っている




    それは、上手い嘘のつき方を知らないということだ



  52. 53 : : 2014/10/06(月) 09:23:25


    暦「そのお前の大変だったの意味って、どうせ宿題の難易度や量の事じゃないんだろ?」




    羽川「そ、そんなことないよ?」




    八九寺「さしずめ、羽川さんの宿題を写させてもらおうと、放課後の教室に息を潜めていた方々なんでしょうね……みっともないです」




    羽川「……ま、まぁ、それも少しは関係あるかな」




    暦「全く姑息な奴らだな……羽川が頼み事を断れない性格なのを知っての犯行だろうよ」




    羽川「そんな、犯行だなんて大袈裟だよ……私達もう高3で受験生だから、それぞれ自分の受験勉強に集中したいんだと思うよ?」




    暦「で、でもなぁ……」




    八九寺「一言いいですか羽川さん?」ズイッ




    羽川「な、何かな八九寺ちゃん?」ヒヤリ



  53. 54 : : 2014/10/06(月) 09:59:09


    八九寺「人に優しくする事と甘やかす事には大きな違いがありますよ?そこらへんは分かっておられるのですか羽川さん?」




    羽川「うぅっ……そ、そうだよね、八九寺ちゃんの言う通り……面目次第もございません」シュン




    暦「そんな羽川が気を揉む必要は無いだろ?」




    八九寺「まぁ、自分の力で宿題をやらなくて実力が付かず、後で痛い目を見るのは彼らでしょうし、必ずしも羽川さんの今回の行為に非があるとは言えませんがね」




    羽川「そ、そう言ってもらえると、私も少しは救われるかな……ありがとね八九寺ちゃん」




    八九寺「いいってことです!!」




    暦「八九寺、お前は見た目はロリロリ、特に胸はペタペタまな板なのに、人間性には妙に厚みがあるよな?」




    八九寺「えぇ、それはともかく阿良々木さん?」




    暦「ん?」



  54. 55 : : 2014/10/06(月) 10:00:45


    八九寺「先ほどの阿良々木さんの愚行を、羽川さんにご報告した方がよろしいですよね?」ニヤリ




    暦「ま、待て八九寺、お前はとんでもないルール違反を犯そうとしているぞ!?」




    八九寺「ルール違反?はて、そんなものありましたっけ?」




    暦「そ、それは僕と羽川との間に修正不可能な軋轢を生じさせかねない発言じゃないか!?」




    八九寺「あぁ、はい、なるほどなるほど、分かりました、ちょっと待ってて下さいね阿良々木さん、今からそこの交番からルールブックをお借りして来ますので……」




    警察、ダメゼッタイ!!




    暦「と、とにかく落ち着け八九寺!!あれは軽いスキンシップじゃないか?そんな誤解を生む表現はよそうぜ?さ、さぁ、前言撤回するんだ!!」アタフタ



  55. 56 : : 2014/10/06(月) 10:01:53


    羽川「……阿良々木君?」ピクッ




    ほら言わんこっちゃない!!




    羽川の普段は淀み一つ無い澄んだ瞳に、今にも落雷しそうな暗雲が立ち込めているじゃないか!?




    八九寺「はぁ、そこまで必死に仰るのなら前言撤回しますよ阿良々木さん、仕方の無い方ですねぇ……」




    ふぅ……危ない危ない




    暦「やっぱり間違いはすぐに直さないとだもんな!!でないと、八九寺がせっかくこれまで築き上げてきた饒舌キャリアに傷がついちまうもんな!!」




    八九寺「え〜こほん、先ほどの私の発言に若干の語弊があったので訂正させて頂きます……」




    羽川「うん……続けて」




    ギルティか?イノセントか?




    どちらにしろ今の僕には指を咥えて見守ることしか出来ない




    暦「……さぁ、判決は?」ゴクリ



  56. 57 : : 2014/10/06(月) 10:04:22


    八九寺「はい、私は阿良々木さんにいつもより“やや少なめに”胸を揉みしだかれました」




    暦「犯罪性が急浮上した!?」




    羽川「……ん、それはどういうことかな阿良々木君?」ニッコリ




    おのれ八九寺謀ったな……




    少しでも無罪判決を期待したあの頃の僕の純情を返せ!!




    暦「え、えっと、これはだな羽川……その」オロオロ




    羽川「洗いざらい正直に話してくれる?ちゃんと阿良々木君の言い分も聞いてあげるから、ね?」




    阿良々木「は、羽川……お前っていう奴は」グスン



  57. 58 : : 2014/10/06(月) 10:05:00


    すぐに感覚的に分かった




    むしろ、全てを悟ったと言った方が正確かもしれない




    この事態の弁解に、言葉なんて安っぽいものは必要ないってことを




    ただ、物言わぬ謝罪の最高の表れであり、最低の体勢だけが求められている




    つまり、熱々のアスファルトが再び一つの頭を迎えることになる




    失意、自責、羞恥など様々な思いが入り乱れながら




    年甲斐も無く泣きじゃくるカッコ悪い男子高校生の姿がそこにはあった……




    というか、これも僕だった



  58. 59 : : 2014/10/06(月) 10:05:53


    ー閑話休題ー




    羽川「そういうことだったのね……」ジトー




    八九寺「完全に自業自得ですね阿良々木さん、日頃の行いが悪いからこうなるんですよ?」




    暦「ほんの出来心なんです、ちょっと魔が差しただけなんです、迷いの怪異に心を迷わされただけなんです」ヒッグ




    羽川「はいはい、もう十分反省の色が伝わったから、顔を上げてよ阿良々木君?ほら、他の人も見てるし……」スッ




    暦「こ、こんな僕とまだ口をきいてくれるんですか羽川さん!?あなたが聖母様ですか!?」




    八九寺「甘いですよ羽川さん、この男には一度、町内引き回しぐらいの厳罰が必要です……そして、少女へ性的悪戯をしましたと首に罪状をぶら下げるべきですよ」




    暦「八九寺、お前は吸血鬼の僕よりも遥かに鬼畜じゃないか!?そもそも純粋な少女ならそんな台詞を吐いたりはしないぞ!!」



  59. 60 : : 2014/10/06(月) 10:07:04


    八九寺「おや、この期に及んでまだ口答えをするつもりですか阿良々木さん?」




    暦「違うぞ八九寺、僕はお前の中のわずかに残された良心に訴えかけているんだ!!」




    八九寺「そちらの両親に訴えたいのはこちらの方ですよ!!」




    暦「あ、いや、両親だけはマジで勘弁して下さい……大変申し訳ありませんでした」バッ




    羽川「相変わらず薄くて弱過ぎるよ、阿良々木君……」




    八九寺「さて、喉も渇いてきたところで、今から阿良々木さんのお宅にお邪魔しましょうかね?」




    暦「お前には血も涙もないのか!?」




    八九寺「いえ、迷いが無くなっただけです」キリッ




    暦「キメ顔で上手いこと言ったつもりか八九寺!?」



    羽川「ねぇ、阿良々木君……」




    暦「ん?どうした羽川?」



  60. 61 : : 2014/10/06(月) 10:22:19


    羽川「さっきからあそこにいるの……戦場ヶ原さんだよね?」スッ




    またまたそんなベタなご冗談を




    あいつは今日、学校を休んだじゃないですか羽川さん?




    こんな所で鉢合わせするわけが……




    戦場ヶ原「身長も器量も矮小な阿良々木君の分際でいつまで私を待たせるつもりなのかしら?待ちくたびれて、あと数分で伐採しようかと思ったわよ?」チャキ




    リアルガチでヤバいよヤバいよ……



  61. 62 : : 2014/10/06(月) 10:23:08


    暦「な、なんでお前がここにいるんだよ戦場ヶ原!?それより、その物騒なハサミで何をするつもりだ!?」




    戦場ヶ原「あら、私は仮にもゴキブリ同然の阿良々木君の彼女なのだけれど、地球上に存在していちゃまずいのかしら?だったら私は、今すぐにでも火星探査機に搭乗して新たなゴキブリとイチャコラデートを繰り広げてくる覚悟よ?」




    暦「いやいやそういう意味ではなくてだな戦場ヶ原!!」




    戦場ヶ原「じゃあどういうことなのかしら……彼女の私を差し置いて、二人の女の子と放課後ピータイムと洒落込んでいるこの現状は?」




    羽川「少し落ち着こうよ戦場ヶ原さん、私達はたまたま帰りが一緒になっただけで、なにも戦場ヶ原さんから阿良々木君を奪おうなんて考えていないよ?」




    戦場ヶ原「もちろん冗談よ……でも、もし本当に阿良々木君を羽川さんに取られてしまったら、その喪失感ですぐに私は死んでしまうでしょうね」




    暦「戦場ヶ原、お前は僕を好いてくれているのか、それとも違うのか、時々本気で分からなくなるよ……」




    戦場ヶ原「あら、私は阿良々木君のことが大好きよ?そうね、分かりやすく例えるなら、雨の日の捨て犬のような愛着を覚えるわ」




    暦「僕って今までそんな悲愴に満ちた愛され方をしていたのかよ!?」



  62. 63 : : 2014/10/06(月) 10:28:45


    八九寺「あ、あの……先程は二人の女の子と仰いましたが、戦場ヶ原さんには私が見えているのですか?」ビクビク




    圧倒的毒舌を誇る戦場ヶ原を前に、完全に空気と化していた小さな毒舌家が恐る恐る僕の背後に隠れながら尋ねた




    それは、今まで見たことも無いくらいにしおらしい八九寺の姿だった




    その理由は至ってシンプル……




    八九寺からすれば戦場ヶ原ひたぎという女は、歳が上、さらに毒も上、極めつけは子供が好きじゃない人オーラ全開という、畏怖の対象以外の何物でもないのだ




    よって、この女を眼前に一応は彼氏である僕の悪口など言えるはずも無い




    もし言ってしまえば、自分にどんな猛毒が降りかかるか分かったもんじゃないからである




    そして、その解毒薬が見つからず、再び僕の背後という蝸牛の殻に癒しを求めて逃げ込むことだろう




    まぁ、僕にいかほどの猛毒耐性があるのか自分でも定かではないが……



  63. 64 : : 2014/10/06(月) 10:29:38


    戦場ヶ原「あなたが八九寺さん?初めまして、私は阿良々木君の彼女の戦場ヶ原ひたぎと申します、どうぞよろしくお願い致します」ペコリ




    八九寺「は、八九寺真宵です、こちらこそよろしくお願い致します!!」ペコリ




    このように……




    戦場ヶ原は極端に子供が苦手な性格で、それは年下の少女に対しても拭い去れない性質として敬語の使用に表れている




    それは見知らぬ相手と距離を取りたい隔離欲求、否、強い拒絶反応である




    つまり、この余所余所しいお堅い敬語は仲良くしたいだなんてこれっぽっちも思っていない証拠なのだ




    と言うより、自分の男にこれ以上近付くなという‘‘警語’’である




    そもそも何がよろしくで、何が致しますなのか……想像の方向性がズレると冷や汗が止まらない




    こんな在り来たりの日常フレーズに狂気を加味させる女は、戦場ヶ原を除いて他にはいないだろう……



  64. 65 : : 2014/10/06(月) 10:31:03


    戦場ヶ原「ふふ、まだ小さいのに礼儀正しい子ね、それに可愛らしくてついつい抱擁したり、接吻したくなるような子だわ……ねぇ、そうは思わない阿ロリ木君?」ジロリ




    暦「あぁ、確かに八九寺が愛くるしい容姿をしているのは認めよう、だが、僕はそんな法に触れるような真似はしないし、ロリコンという蔑称とコラボしたつもりも無い、僕の名前は阿良々木だ!!って、それは八九寺のお家芸じゃないか!?」




    戦場ヶ原「あらあら、この私としたことが力及ばず噛みました……これで合ってたりするのかしら?」




    暦「確信を持って言える!!今のは絶対にわざとだ!!」




    戦場ヶ原「かみまみた」




    暦「わざとじゃない!?」




    戦場ヶ原「神谷……見た?」




    暦「先に中の人から始末して、僕の愛よりも声を奪うつもりか!?」



  65. 66 : : 2014/10/06(月) 10:38:14


    戦場ヶ原「でも、よく考えれば阿良々木君とおしゃべり出来なくなるのは困るわね……」




    暦「そ、そうだろ?」




    戦場ヶ原「えぇ、こんな素晴らしい言葉のサンドバッグは手放せないもの」




    暦「これ以上ハートを殴られたら本当に砂の涙でも溢れ出しそうだよ!!」




    戦場ヶ原「あら、これでも私は裁縫が得意なのよ?だから、破れたら何度でも縫い直してあげる」




    暦「それってオーバーキルする気満々じゃねーか!!」




    戦場ヶ原「All you need is killed without vivification」




    暦「僕がフルボッコにされて蘇生無しだと!?」




    戦場ヶ原の奴、今日はいつにもまして罵詈雑言が激しいな……




    そんなに僕が八九寺や羽川と駄弁っていたことが気に食わないのか?



  66. 67 : : 2014/10/06(月) 10:51:07


    羽川「ねぇ、戦場ヶ原さん……」




    ふぅ、やっと助け舟が来たか




    ヒーローはピンチに現れるほどカッコイイとは言うけれども……




    それでも、ちょっと遅いくらいだぜ羽川?




    戦場ヶ原「何かしら羽川さん?」




    これでしばらくは、羽川が僕のメンタルリカバリータイムを稼いでくれるだろう




    羽川「えっと、戦場ヶ原さんは阿良々木君が土下座したところから見ていたの?」




    寸暇を惜しんで第二ラウンド突入!?




    何故そんなデンジャーゾーンな話題をぶり返したんだ羽川!?




    そもそも八九寺の鉄板ネタを戦場ヶ原が知ってる時点で、一部始終を見られていたことは明白じゃないか!!




    まさかそれを承知の上で僕をこの窮地に陥れたというのか!?



  67. 68 : : 2014/10/06(月) 10:51:48


    戦場ヶ原「土下座?……ということは、阿良々木君が何か悪いことをしたのかしら?」ニヤリ




    そして戦場ヶ原、お前もそれに便乗するのかよ!!




    暦「ち、違うんだ!!これには深い訳が……」アタフタ




    八九寺「実は私……前々より阿良々木部長から悪質なセクハラを受けていました」




    羽川「実は私も……猫口調で怪しい早口言葉を復唱させられました」




    いきなりの社内セクハラ暴露大会勃発!?




    戦場ヶ原「それは事実なのかしら阿良々木部長?四文字以内で説明しなさい」ギロリ




    暦「あの、えっと、その……」ダラダラ




    どうしよう……




    何か上手い言い逃れを考えたいのに……




    さっきから絶体絶命という四字熟語しか思い浮かばない




    暦「ふ、不可抗力……とか?」




    結局、苦し紛れに無難なところを言ってみた




    さて、向こうの反応は?



  68. 69 : : 2014/10/06(月) 10:53:43


    戦場ヶ原「吊ります……でしょ?」




    暦「何を何に!?」




    八九寺「ロープに首ったけです」




    暦「ぼ、僕はどうしたらいいんだ羽川……お前なら何でも知ってるだろ?」




    羽川「何でもは知らないけれど、笑えば……いいと思うよ?」




    暦「はは……ついにリリスにも見限られた」




    戦場ヶ原「それで阿良々木君、詰まる所……あなたは欲求不満なのよね?」




    暦「そ、そんなんじゃ……」




    戦場ヶ原「いいわ、今から私の家に来なさい阿良々木君……大丈夫、今日は私のお父さんなら出張よ」




    暦「お、お前の家で一体何をする気だよ戦場ヶ原!?」




    戦場ヶ原「そんなの分かり切ったことじゃない?それとも、わざわざ私の口から言わせるのが趣味なのかしら?」




    暦「お、お前なぁ……」



  69. 70 : : 2014/10/06(月) 10:54:30


    羽川「行ってきなよ阿良々木君……それと、万が一の時はちゃんと責任取らないとダメだよ?」




    暦「羽川まで言うか!?」




    八九寺「そうですよ阿良々木さん、こんなチャンス滅多にありませんからね、今こそ男性として一回り大きく成長する時です!!」




    暦「八九寺、お前も他人事だと思って好き勝手言いやがって!!」




    戦場ヶ原「さぁ、今日はヤりまくるわよ?」




    暦「……ガハラさんの進撃が止まらない」




    ここで、変な妄想を膨らませていた年頃の男子諸君がいたのなら先に謝っておこう




    戦場ヶ原とこれから起こることは、決して神原発狂方面の展開ではない




    むしろ、僕が違う意味で大発狂しかねない、ガハラさんの文房具が嗜虐的に大活躍するイベントだろう




    それはもうガハラティックに……




    ちなみに、これはサドスティックの更に一段階上の言葉である




    そして、人はそれを普遍的に《拷問》と呼ぶ




    暦「あぁ、お空が綺麗……」シナシナ




    アホ毛から生気が抜けていくのを如実に感じた



  70. 71 : : 2014/10/06(月) 10:58:51


    その後、憂いげな視線を送る羽川、不敵な笑みを浮かべる八九寺達と別れを告げた




    僕は戦場ヶ原と二人っきり、死刑台への階段を登る死刑囚のような心境で帰路についたのである




    戦場ヶ原「ねぇ、ロリコン変質者?」




    暦「お願いだから僕の名前をそんな不名誉な代名詞にしないで下さい!!」




    戦場ヶ原「じゃあ私を戦場ヶ原様と呼びなさい、そうしたら少しぐらい人間レベルで扱ってあげるわよ?」




    もちろん経験は無いけれど、世のSMプレイの女王様だってもう少し優しいはずだ




    暦「……センジョウガハラサマー」




    とりあえず仰せのままに、ガハラ様のまにまに



  71. 72 : : 2014/10/06(月) 10:59:37


    戦場ヶ原「もっと気持ちを込めなさい……さもないと、阿良々木君が明日の新聞の紙面を大々的に飾ることになるわよ?」




    暦「へぇ、ついに僕もメジャーデビューってか?」




    戦場ヶ原「『先日未明、とある田舎町の男子高校生が変死体で発見されました』とかがお似合いね」




    冗談抜きでこいつならやりかねない!!




    暦「お昼の特番ワイドショーで僕の遺品が世間にお披露目されるようなことだけは勘弁して下さい戦場ヶ原様!!」




    戦場ヶ原「あら、やれば出来るじゃない?でも、神様じゃあるまいし、やはり様付けされるのは気が引けるわね……」




    暦「お前を満足させる正解なんて神様だって存じ上げないよ!!」




    戦場ヶ原「ところで阿良々木君……」




    暦「こ、今度はどんな無理難題を押し付けるつもりだ!?」



  72. 73 : : 2014/10/06(月) 11:06:39


    戦場ヶ原「あの子……八九寺ちゃんのことだけれど、どうして突然私にも見えるようになったのかしらね?」




    もう感覚が完全に麻痺してるな……




    毒を吐かれるのが当たり前過ぎて、普通の問いかけに拍子抜けする始末だ




    暦「確かに変だよな、あいつが見えるのは家に帰りたくないと強く願う奴だけのはずなのに……」




    戦場ヶ原「あの子はすでに帰路を迷わせる怪異から解放されて、今は浮幽霊とやらになっているのでしょう?」




    暦「あぁ、そうらしいぜ?」




    戦場ヶ原「そもそも私に霊感があるとは思えないし、家に帰るのが億劫な理由なんかも見当たらないのだけれど……つまり、残された可能性は一つだけよね?」




    暦「……それは?」




    戦場ヶ原「あの子は最初から怪異でも幽霊でもなくて、阿良々木君に脅迫されて嫌々付き合わされてる少女と考えられるわね……本当はどうなのよ?」




    暦「ひでぇ!!僕はそんなロリコン街道まっしぐらな下衆外道の極みじゃないぞ!?」



  73. 74 : : 2014/10/06(月) 11:11:05


    戦場ヶ原「あら、そう……なら百歩譲って少女誘拐の嫌疑は解いてあげる……でも、少しばかりあの子と親密過ぎるんじゃない?あんなに楽しそうな阿良々木君の笑顔を私は初めて見たわよ?」




    羽川ならともかく、自分よりランクが下とみなした八九寺にはグイグイくるな……




    前から分かっちゃいたけれど、こいつはかなり嫉妬深いんだった




    暦「そ、それはだな戦場ヶ原……」




    戦場ヶ原「何よ?たまには男らしくはっきりと言ってみなさいな」




    暦「だ、だから……」



  74. 75 : : 2014/10/06(月) 11:13:31


    この厳しい尋問にもがいていると、突如、聞き覚えのある控えめな声が脇道から流れてきた




    「暦お兄ちゃん……」




    それは、長い前髪がうつ伏せ気味な目をさらに覆い隠している内気な少女……




    千石撫子であった




    暦「よ、よう千石、そんな所で何してるんだ?」




    千石は制服姿のまま、黒ずんだボロい電柱の下でポツンと一人、膝を曲げて座り込んでいた




    それこそ雨は降っていないが、哀れな捨て犬を彷彿とさせるものがある




    千石「あのね、暦お兄ちゃん……助けて欲しいの」




    儚げな潤んだ上目遣いを伴い、お兄ちゃんという何とも心地よい響きで助けを求められた




    いや、むしろガハラさんの詰問タイムから僕を救ってくれたのは千石の方だろう




    まさに僕の命の恩人だ




    それと僭越ながら、今まで数々の少女達のピンチに付き添ってきたこの僕だ




    今回もどんな厄介事だろうと、他ならぬ千石のためなら首を突っ込むのはちっともやぶさかではない



  75. 76 : : 2014/10/06(月) 11:14:13


    暦「遠慮せず何でも言ってくれよ千石、きっと力になってみせるさ!!」




    千石「ほ、本当に!?」パァッ




    暦「あぁ、もちろんだとも!!逆に今まで、僕が千石に無下な態度を取ったことなんて無いだろ?」




    千石「うん!!暦お兄ちゃんは私のヒーローだもん!!」




    そうそうこれだよ




    僕が女子に求めていたものは




    戦場ヶ原のポイズンシャワーを浴びた後には、千石のポーションシャワーがすこぶるありがたい




    心の傷が一瞬にして癒されるのを感じるようだ




    千石「そ、それでね、お願い事の件なんだけど……」




    暦「うんうん」ニンマリ




    思わず顔が綻んでしまう




    千石「今夜……暦お兄ちゃんの家に泊めて欲しいの」




    暦「ぼ、僕の家に!?」



  76. 77 : : 2014/10/06(月) 11:18:20


    戦場ヶ原「はい、静粛に……阿良々木君の彼女という権限をもって、この事案を却下します」




    予想外過ぎる事態で思考停止した僕を横目に、戦場ヶ原がベテラン裁判長ばりの冷酷な判決を下した




    千石「こ、暦お兄ちゃんの彼女さん!?」ガーン




    千石はとてつもなく動揺している




    無理もない……




    これまで一言も発さなかった鉄仮面のマネキンが、急に残酷な牙をむけてきたのだ




    それも、切実な頼み事を第三者である初対面の歳上に容赦無く否定されるという形によって……



  77. 78 : : 2014/10/06(月) 11:19:19


    暦「ま、待とうぜ戦場ヶ原、詳しい話も聞かずにそれはあんまりだろ!?」




    戦場ヶ原「阿良々木君、あなたは家族以外の異性と一つ屋根の下で寝ることの重大性を軽視しているわ」




    暦「ぼ、僕にそんな邪な気持ちは一切無いぞ!?」




    戦場ヶ原「ふ〜ん、あれだけのことをしておいて、どの口が言うのかしら?」




    千石「あれだけのこと?……こ、暦お兄ちゃん?」ユラッ




    千石は体をよろめかせながら、ゆっくりと立ち上がる




    暦「そ、そんなことより千石、僕の家に泊まりたいということは月火ちゃん達と久しぶりに会いたいからとか、両親が今日は外泊するからみたいな理由なんだろ?」




    千石「ううん……どちらも違う……よ」フラッ




    暦「お、おい大丈夫か千石!?」ダキッ




    千石は急に立ち上がったことで立ち眩みを起こしたのか、僕の胸に倒れ込んだ



  78. 79 : : 2014/10/06(月) 11:20:01


    よく見ると顔色が悪く、四肢は震え、憔悴し切っている様子だ




    しかも深刻なことに、目の焦点が定まっておらず、体から異常な熱を放っている




    恐らくこんな気温で水分補給もろくにせず、長時間太陽に晒されていたせいだろう




    これは間違いなく熱中症だ




    千石「こ、暦お兄ちゃん、私ね……この歳で路頭に迷っちゃったみたいなんだ」




    暦「へ?」




    朦朧とする意識の中、最後の力を振り絞るようにポツリと呟き、千石は気を失った



  79. 80 : : 2014/10/06(月) 11:20:58


    戦場ヶ原「あら、経済破綻?あまり珍しくもない話ね……」




    高熱の千石とは対照的に、凍てつくような発言をする戦場ヶ原




    暦「おい、不謹慎だぞ戦場ヶ原!!」




    かく言う戦場ヶ原はその昔、裕福な家庭環境だったが、母親の悪徳宗教への心酔で家庭崩壊を起こし、さらに貝木の詐欺も相次いで経済破綻を招いた




    従ってこの一見心無い一言は、甘ったれるなと諦めるなが入り混じった、戦場ヶ原なりの叱咤激励なのである……うん、多分




    しかし、もう少しオブラートに包む物の言い方もあったろうに……




    いや、今は目を向けるべきはそんな事じゃない




    刻一刻と千石は熱に命を蝕まれ、非常に危険な容態にあるということだ



  80. 81 : : 2014/10/06(月) 11:22:43


    暦「と、とりあえず僕は冷たい飲み物と冷却用のタオルを入手してくる!!戦場ヶ原はその間、千石のそばにいてやってくれ!!」




    戦場ヶ原「任せなさい……私が責任を持って看病しておくわ、それもマザー・テレサのように献身的にね」




    戦場ヶ原の言った任せなさいが、恐ろしく任せちゃいけない気がして引っかかるが、緊急事態の今、律儀にツッコミを入れている暇は無い




    不本意ながらも華奢な千石の体を戦場ヶ原に預けた




    とにかく、人命救助が最優先だ




    それに、今の僕には吸血鬼の影響による身体能力向上で、かなりの俊足が備わっている




    こんな時ぐらいにしか本気で走ることも無いだろう……




    そうは言っても、まだ僕の家までは結構な距離があるし、郊外の町だから駅前まで行かないとコンビニも見当たらない




    よって、どこか近場の民家に事情を説明して、水とタオルを拝借する方が早いだろう




    僕は休日の独りツーリングで培った脳内マップに最短ルートを表示すると、勢いよく踵を返して走り出す




    暦「待ってろ千石、すぐに戻って来るからな!!」ダッ



  81. 82 : : 2014/10/06(月) 11:23:18


    その後、援助物資の交渉は難航したが、最終的に親切な老夫婦のお宅で調達に成功した




    走る




    走る




    ひたすら走り続ける




    暦「クソッ……」




    すでに戦場ヶ原と千石を残して30分ほどが経過しただろうか?




    思いのほか時間がかかってしまった




    これじゃあ最初から救急車を呼んだ方が早かったかもしれない……




    そんな後悔の念が胸に疼く



  82. 83 : : 2014/10/06(月) 11:24:18


    ……っと、それよりも電話だ




    暦「もしもし戦場ヶ原、千石の様子はどうだ?意識はあるか?」




    戦場ヶ原「えぇ、もう大丈夫よ……かかりつけの医者が飛んで来てくれたから」




    暦「医者だって!?随分と手回しがいいな?まぁ、それならもう大丈夫そうだけれど……」




    戦場ヶ原「えぇ、それと電柱の近隣にある公園の日陰で安静にさせてるから、阿良々木君も早く来なさいな」




    暦「あぁ、助かったぜ戦場ヶ原……愛してるよ」




    戦場ヶ原「あらあら、その言葉はもっとロマンチックなシチュエーションで聞きたかったものね……まぁ、いいわ」



  83. 84 : : 2014/10/06(月) 11:25:24


    ロマンチックなシチュエーションか……




    あの満天の星を二人で見た夜……




    戦場ヶ原は僕の好きなところをいくつも躊躇わずに挙げてくれた




    その中には、困った時に助けてくれる王子様みたいなところだとも……




    たしかに、人は自分で助かるだけだとあのアロハ野郎は言ったけれど




    立派な白馬はなくとも、泥臭くかっこ悪い手を差し伸べることぐらいはできるはずだ




    だから僕は足掻き続ける




    ちょっとしたことで、いつだって誰かは誰かの王子様になれるのだ



  84. 85 : : 2014/10/06(月) 11:26:03


    だが、この場合……




    僕は出遅れた無用の王子様になるのだろうか?




    暦「どうせ、戦場ヶ原に遅いわよ役立たずとか罵られるんだろうな……」ボソッ




    最悪の場合、星の王子様にされるかも……




    行きのメロス顔負けのダッシュとは反対に、帰りは重い足取りで例の公園へと向かった




    それから目的地へ到着すると、戦場ヶ原の姿がすぐに確認できた




    木陰のベンチで優雅にくつろいでいる




    意外とそこまで不機嫌そうな顔はしていなかった



  85. 86 : : 2014/10/06(月) 11:26:31


    戦場ヶ原「こんな暑い中お疲れ様、どうぞ阿良々木君……」ヒュッ




    ペットボトルのお茶を下投げでパスされた




    暦「サ、サンキュー、これは例の医者が持ってきた飲み物か?」パシッ




    戦場ヶ原「違うわ、そこの自販機で私が買ったの」ピッ




    暦「……え?」クルッ




    それじゃあ……




    今までの僕の努力って一体何ですか?



  86. 87 : : 2014/10/06(月) 11:27:13


    戦場ヶ原「でも、困っている人がいたら周りが見えなくなるぐらい必死になる阿良々木君のそういうとこ……私は嫌いじゃないわよ?」クスッ




    暦「……お、おう///」ポリポリ




    拝啓、数分前の僕へ




    お元気ですか?




    え?今の僕ですか?




    それなら安心してください




    ガハラさんのツンデレ温度差が激し過ぎて夏風邪を引きそうです




    暦「ところで、千石はどこだ?」グビッグビッ




    つーか、このお茶美味っ!!




    犯罪的なまでにキンキンに冷えてやがるぜ!!




    それと、一度開封済みなところから察するに、ガハラさんと間接キスのおまけ付きじゃないか!!



  87. 88 : : 2014/10/06(月) 11:28:15


    それはさておき、僕の問いかけに対して戦場ヶ原は無言のまま腕を組み、目線で一つの方向を示した




    それは少し離れた木の下にある三角形の建物……




    暦「あぁ、医者が看護用のテントを設置してくれたのか、かなり手際がいい人だな」




    戦場ヶ原「当たり前でしょ?なんせこの私が呼んだ名医なのよ?」




    暦「そうだったな、それじゃあ僕はその先生に一言挨拶するとしよう」スタスタ




    そうしてテントへ歩み寄ろうとした時、中から例の医者と思しき人物の声が聞こえてきた



  88. 89 : : 2014/10/06(月) 11:29:14


    「長年……」ボソッ




    暦「ん?」




    「この仕事をしているが……」




    「いい髪には滅多に出会うことは無い……」




    暦「髪?なんで医者が髪のチェックを?」




    「うん!?」ピクッ




    暦「お?」




    「この潤い、この香り、この潤い、この香り……何だこれはぁ〜!?」クンックンッ




    戦場ヶ原「ジュレームです」




    「ジュレーーーーーム!!!!」ハァハァ




    うん……




    とりあえず、一旦落ち着こうか




    今しがた、看護に携わる者としてあってはならないイベントが発生したのだけれど……




    暦「あの、一つ確認したいんだが戦場ヶ原……呼んだのはヘアーソムリエとかじゃないよな?」




    戦場ヶ原「あら、失礼ね……髪に限らず、女の子の体を隅々まで愛するプロフェッショナルな方をお呼びしたまでよ?」




    暦「非常に危険な専門性が追加されているんだが!?」




    千石の身の危険を感じた僕は、大至急テントへ駆け寄り、入り口のファスナーをこじ開けた




    暦「大丈夫か千石!?」バッ



  89. 90 : : 2014/10/06(月) 11:38:52


    そこには、常識の範疇を越えたあられもない光景が広がっていた




    時に、諸君……




    猿蟹合戦という有名な日本昔話をご存知だろうか?




    意外に知られていないが、あれには続きがある……




    それは、喧嘩から仲直りした猿と蟹が力を合わせ、山の大蛇を退治するという話だ




    まぁ、ここで言うそれは、かなり違う意味合いになるのだけれど




    それより何故、突然そんなことを話題に挙げたかというと……



  90. 91 : : 2014/10/06(月) 11:39:27


    神原「お、阿良々木先輩!!遅いではないか!?あんまり遅いから先に医療行為を始めてしまったぞ!?」




    猿の神原と蟹の戦場ヶ原が、蛇の千石に対して明らかに破廉恥な共闘を画策した形跡があったからだ




    暦「か、神原、お前は何をやってるんだよ!?///」




    神原「ん?無論、千石ちゃんを冷やすためにクールハグしているのだが?」




    涼しい顔をした神原は、睡眠中の千石に一糸纏わぬ姿で抱きついていた




    暦「これならヘアーソムリエの方がまだ生温いわ!!」




    神原「案ずるな阿良々木先輩、ちゃんと千石ちゃんの水分補給と動脈冷却は済ましている」キリッ




    暦「じゃあ何でお前は依然として千石に全裸で抱きついているんだよ!?」




    神原「これは私の個人的なエロティック成分補給だ」ニィ




    暦「私達はWinWinな関係ですが何か?みたいに誇らしげだ!!」



  91. 92 : : 2014/10/06(月) 11:40:04


    神原「仕方無かろう阿良々木先輩?戦場ヶ原先輩に可愛い女子中学生の急患がいるからと呼ばれてしまったのだ、全くもって断る理由が見当たらないぞ!!」




    暦「くっ、確かにその条件を出された神原ならドクターヘリよりも早く到着するか……」




    神原「何はともあれ、私も千石ちゃんも健康的になって結果オーライではないか!!」




    暦「こんな理屈に納得したら、僕は人として負けな気がする……」




    戦場ヶ原「あら、阿良々木君は今まで一度たりとも負けじゃなかった時は無いでしょう?」




    そう僕の背後から囁く戦場ヶ原……




    束の間の至福タイムの後は、エキサイティングなツンタイム……




    まるで特濃ワサビ醤油みたいな奴だ



  92. 93 : : 2014/10/06(月) 11:40:32


    暦「せめて三分の一でいいから純情な感情を僕にくださいガハラさん!!」




    戦場ヶ原「私の純情な感情?欲しけりゃくれてやるわ……探しなさい、残りの三分の二を樹海に置いてきたわ」




    暦「お前はゴールドロジャーも真っ青なコールドロジャーだ!!」




    神原「懐かしいなぁ、あの頃はよく戦場ヶ原先輩と一緒に埋めに行ったものだ……」




    戦場ヶ原「そうね……でも、アレが誰かにバレたらと思うと、夜もおちおち眠れないわ」




    暦「お前ら確実に数人は埋めてるだろ!?」



  93. 94 : : 2014/10/06(月) 11:41:14


    すると、僕の大声に反応したのだろうか、深淵の彼方より眠り姫が目を覚ました




    千石「あれ……暦お兄ちゃん?こ、ここは?」キョロキョロ




    千石は神原の絡まった腕から、ぼんやりした目を覗かせる




    暦「よぉ、千石……その、色々と大丈夫か?」




    神原「うむ、寝起きもたまらんなぁ」ハァハァ




    千石「だ、誰ですか!?」バッ




    暦「神原、お前はいい加減に千石から離れろ」ガシッ




    神原「あっ、そんなっ!?」フワッ



  94. 95 : : 2014/10/06(月) 11:41:52


    千石「え、えっと……神原さんはどうして私に抱きついていたんですか!?///」モジモジ




    神原「もちろん人命救助だよ千石ちゃん、それに全裸は私のユニフォームなのだ、さほど気しなくていいぞ?」ニコッ




    暦「露出狂限定ルールを世間に持ち出すな!!」




    戦場ヶ原「お黙りなさい阿良々木君、早速これから事情聴取の時間よ……いいわよね、千石さん?」ジィー




    千石「ひぃっ!!」ビクッ




    暦「おいおい、事情聴取って……千石はまだ病み上がりなんだぞ?」




    戦場ヶ原「質問その一……」




    暦「今、僕が当たり前のようにスルーされた!?」




    神原「ふふふ、甘いぞ阿良々木先輩?スルーは放置プレイの一貫ではないか……同じ変態たるもの、これを楽しめないでどうする?」




    暦「お前の高度な変態感性に一般人の僕を巻き込むな!!」



  95. 96 : : 2014/10/06(月) 11:45:33


    戦場ヶ原「千石さん……何があったのかは知らないけれど、まずは全部話してくれないかしら?私はこれでも、一度は家庭を失った経験者よ?きっと簡単な助言くらいならできると思うの」




    千石「えっ?」




    神原「うむ、やはり戦場ヶ原先輩は優しいお方だ」




    暦「この人……本当にガハラさん?」




    てっきりあの戦場ヶ原のことだから、病み上がりの千石のメンタルをズタボロにするものばかりだと思っていたが、驚くべきことに実際はカウンセリングの役目を買って出てくれたのだ




    暦「戦場ヶ原、お前……いい意味で昔と変わったよな」




    戦場ヶ原「あら、これぐらい当然よ?」




    なんだか久しぶりに、戦場ヶ原の穏やかな一面を見た気がする




    でも、さっきは八九寺に対して露骨な距離感あったよな……



  96. 97 : : 2014/10/06(月) 11:46:08


    ー閑話休題ー




    千石「あれは今日の放課後、駄菓子屋さんに寄った帰りのことでした……」




    戦場ヶ原「まさに‘‘おかし’’な話が始まりそうな予感ね」




    神原「駄菓子屋さんと言えばお馴染み、私は麩菓子をいやらしく食べることにかけては、かなりのエリート意識があるつもりだぞ?」




    暦「麩菓子を今後買いにくくするような発言は慎め神原!!」




    戦場ヶ原「私のボケには触れてくれないのかしら阿良々木君?」ジロッ




    暦「わー、ガハラさんの今のボケは甘いなー……これで満足か?」




    戦場ヶ原「紐状のグミで窒息させるわよ阿良々木君?」ギロッ




    暦「僕は一体どうすりゃいいんだよ!?」




    千石「それから、買ったお菓子を食べながら家の前まで来たんです……」




    戦場ヶ原「もしかして家の鍵を忘れて入れなかったパターンかしら?それならホッチキスの後部で窓を割るのをお勧めするわよ?」




    神原「私ならそういう時は犬小屋で待機するぞ……それも御主人様を待ちわびる賤しい牝犬のように呼吸を荒げながらな!!」




    暦「誰か影分身の術を伝授してくれ!!圧倒的にツッコミの人出が足りねぇ!!」



  97. 98 : : 2014/10/06(月) 11:46:43


    戦場ヶ原「あら、この程度で限界とは嘆かわしいわね……そんなんじゃ火影になんてなれないわよ?」




    暦「そんな地位はいらないから人間強度を高めるチャクラをくれ!!」




    神原「どれ、ここは一つ私がお色気の術でも……」ヌギヌギ




    暦「もうマジで手に負えねえってばよ!!」




    というかさっきから、千石は深刻にこれまでの経緯を説明しているというのに、対する僕達はおふざけが過ぎるんじゃないだろうか……




    暦「そ、それで千石……ご両親は今どこに?携帯で連絡はしたのか?」




    千石「繋がらなかった……えっと、そうじゃなくてね暦お兄ちゃん」




    ついに千石の口から、今回の出来事の核心に迫る一言が放たれた



  98. 99 : : 2014/10/06(月) 11:47:41


    千石「私の家そのものが……無くなっていたの」




    暦、神原、戦場ヶ原「!?」




    家が……消えただって?




    急に空気がピリッと張り詰め、流石に軽口を叩く者はいなかった




    その後、千石がこの暑さにやられて幻覚の類いに惑わされたのではと疑った僕達は、実際に彼女の家を訪れることにした




    千石「ここだよ……私の家があった場所は」スッ




    空き地をしょんぼりと指差す千石




    暦「以前一度だけ、千石の家を訪ねたことがあったけれど、本当に無くなってる……」




    神原「それも、まるで最初から何も無かったかのように……」




    戦場ヶ原「まさか……これは怪異の仕業なのかしら?」




    僕達が茫然とその空っぽになった土地を眺めていると、不意に千石が膝から崩れ落ちた




    千石「……だよ」ガクッ




    暦「……千石?」ピクッ




    千石「……や……だよ」ヒック




    嗚咽……




    千石「こんなの……嫌だよ」ポロポロ




    必死に押し殺していたものが一気に溢れ出す千石



  99. 100 : : 2014/10/06(月) 11:48:27


    神原「せ、千石ちゃん……」タジタジ




    普段から年下の女子の扱いには慣れている神原も、今回はなす術がない




    情けない話だが、今の僕達にはこの不憫な少女にかける言葉が見つからないのだ




    泣くな!!




    元気を出せ!!




    何とかなるさ!!




    ネバーギブアップ!!




    きっと、そんな松岡修造的な綺麗事はこんな時じゃ逆効果なのだろう




    まだあどけなさが残る中学生には、この現実はあまりにも辛過ぎる




    戦場ヶ原「え……えっと」オロオロ




    もはやあの戦場ヶ原でさえも、この遣る瀬無さに困惑している様子である……




    千石「うっ……ひっく」ポロポロ




    止まらない嗚咽




    どれほどの哀しみが流れたのだろうか?



  100. 101 : : 2014/10/06(月) 11:49:17


    暦「……」ポリポリ




    ふぅ、仕方あるまい……




    ここは男として、大きな懐で迎えてやる他にないだろう




    ゆっくりと、僕は千石の目線の高さまで腰をかがめた




    暦「千石……」スッ




    僕は両手を千石の両肩に添える




    千石「暦……お兄ちゃん?」グスン




    暦「僕の家に……来ないか?」




    その一瞬、千石が戦場ヶ原に許可を取るかのように振り向いたが、こんな時ぐらい好きにしなさいと言わんばかりに、戦場ヶ原は静かに頷き、背を向けた




    千石「……うぅっ、ありがとう暦お兄ちゃん」ギュッ




    僕に向き直った千石は、親を見つけた迷子のように甘えてくる




    暦「何……これくらい気にするなよ」ナデナデ




    そして千石の頭を優しく撫でてやると、満面の笑みで応えてきた




    千石「えへへ、暦お兄ちゃん///」ニコッ




    いつまでも守りたい、この笑顔



  101. 102 : : 2014/10/06(月) 11:49:57


    ……おや?




    そうか……そうだったんだな




    さっきはすまなかったよ、神原……




    いや、神原ソムリエ




    やっべぇ……




    千石ってメチャクチャいい匂いする!!




    こんりゃあたまんないぜ!!




    今回に限っては温厚な先輩である僕の顔に免じて、先ほどの神原の暴走を許してやって欲しい



  102. 103 : : 2014/10/06(月) 11:50:54


    ー閑話休題ー




    それから、千石を僕の家に招き入れ、しばらく気持ちを落ち着かせた後、僅かな希望を抱いてあの場所へ行ってみることにした




    時刻は午後八時……




    今では生徒はおろか、電気さえ通っていない旧学習塾跡の三階の窓に、青白い月光が射し込む




    その屋内には、雑然と積み上げられた古びた机の山……




    その頂きに、ここを根城とする無頼の放浪者があぐらをかいていた




    忍野「やぁ、阿良々木君……おやおや?今日は女の子をどれだけ連れているのさ?これからハーレムクエストでもするのかい?全く羨ましいねぇ……」




    この飄々淡々とした口ぶりの男は怪異の専門家……




    神出鬼没のアロハのおっさん……




    忍野メメである


  103. 104 : : 2014/10/06(月) 11:51:29


    暦「もうそのヘラヘラしたマヌケ面を拝むことは無いと思ってたんだけれど……まさか戻ってきてたとはな、忍野」




    忍野「ははっ、どこかのツンデレちゃんの照れ隠しが移ったのかい阿良々木君?」




    暦「かもな……それより、僕達がここにやって来ることを最初から知っていたんだろう?」




    忍野「まあね、君達ならお堅い警察より、軽率な僕の方が好きだろう?」




    暦「正直、どっちも好きじゃないけどな……」




    忍野「そうツレないことを言うものじゃないよ阿良々木君」




    暦「それで、何なんだよ今回のトリックは?まぁ、どうせお前のことだから全部全てまるっとどこまでもお見通しなんだろ?」




    忍野「まぁまぁ、そう急かすなよ……君はもう少し旧友との再会の余韻に浸ることを知らないのかい?」




    暦「はぁ?僕はお前と友人関係になった覚えは無いぞ?」



  104. 105 : : 2014/10/06(月) 11:52:25


    戦場ヶ原「あら、二人は表沙汰には公開できない夜のお仕事仲間よね?」




    神原「何!?まさかイケナイ関係なのか阿良々木先輩達は!?」ハァハァ




    千石「ボ、ボーイフレンド!?///」




    暦「それは断じて違う!!」




    忍野「いや〜しっかし、君達は本当に元気がいいね〜、何かいいことでもあったのかい?」




    暦「お前が元凶だ忍野!!」




    忍野「お〜怖い怖い」ヘラヘラ




    この野郎……




    人の神経を逆撫でする専門家の間違いじゃないか?



  105. 106 : : 2014/10/06(月) 11:53:21


    暦「で……もう再会の余韻とやらは充分に味わっただろ?そろそろ事の真相を教えてくれよ」




    忍野「そうだね、それじゃあ簡潔に結論から話すとしようか……」スッ




    暦「おう、頼む……」




    そう言って忍野は、火を点けていない煙草を咥えながら、気だるそうに種明かしを始める




    忍野「ふぅ、今回の怪奇現象の原因は二人いる、そして、その一人が君だよ……阿良々木君」




    暦「えっと……何を言ってるんだ忍野?」




    日頃のフラフラした生活が祟って、ついに頭の大事なネジをどこかに落としてしまったのかと疑った




    忍野「そんな目で見るなよ阿良々木君、僕は至って健全さ」




    戦場ヶ原達もこの不可解な状況を飲み込めずに立ち尽くしている



  106. 107 : : 2014/10/06(月) 11:55:41


    忍野「そうだね……ダーウィンの進化論は知っているかい?」




    暦「それぐらい知っているけれど……僕と何の関係があるんだよ?」




    忍野「いやいや、君自身は一ミリも進化していないから安心してくれよ阿良々木君」




    暦「僕の人間の器量ならまだしも、身長の件には触れるな!!」




    何故だろう?




    いい歳した風来坊のおっさんの言うことなのに……




    恋人の戦場ヶ原に毒づかれるのと違って、こいつに言われると心底腹が立つ……




    忍野はいつも、現実を見ている




    現実を見透かしている……




    ということは、本質を突いているからということなのだろうか?




    やっぱり正論は人を傷つける、いつだって……



  107. 108 : : 2014/10/06(月) 11:56:23


    暦「はぁ……続けてくれ」




    忍野「いいかい?君が無意識レベルで進化させてしまった、いや、正確には変化させてしまったのは……あの蝸牛の迷子ちゃんのことだよ」




    戦場ヶ原「あの子が……」




    千石「蝸牛の迷子ちゃん?」




    神原「ふむ、どなたか存じ上げないが……なかなかいやらしい匂いがする展開だな」




    暦「まさか……蝸牛の怪異に迷わされた八九寺真宵という少女のことか?」




    忍野「その通り、でもね……」




    一呼吸置いてから再開する忍野




    暦「……でも?」




    忍野「問題はもう、その子がただの迷いの蝸牛ではなく……悪魔に酔わされた魔酔いの蝸牛だということさ」



  108. 109 : : 2014/10/06(月) 11:57:01


    暦「ますます意味が分からないんだけれど……」




    忍野「相変わらず鈍いねぇ阿良々木君は……」




    暦「悪かったな……」




    忍野「そもそも怪異というのは、不安定要素を多分に含んだ存在なんだよ」




    暦「そりゃあ、痛いほど分かるよ……実際に何度も遭ってきたからな」




    忍野「だから一度消滅したからといっても……二度と復活しないとは限らないのさ」




    復活!?




    暦「じゃあ……それが今回の魔酔いの蝸牛ってことか?」




    忍野「その通り、少女は迷い、血迷い、その結果として魔に酔ったのさ……君のせいでね」




    忍野は念を押すように僕の責任を追及する



  109. 110 : : 2014/10/06(月) 11:57:40


    暦「それで……具体的に僕が何をしたんだよ?」




    忍野「癒着と輸血だよ」




    暦「えっと……もっと分かりやすく頼む」




    忍野「やれやれ、偏差値が20以上離れていると会話が成立しないという噂は本当だったらしいね……」




    暦「やかましいわ!!」




    忍野「でも、まだ見た目は子供、頭脳は大人の名探偵でさえ推理出来るほどのヒントを提示していないんだから、君が分からなくて当然だよ」




    暦「お前をコナンSSの光彦君にしてやろうか!?」




    忍野「そうだね……君は長らくあの迷子ちゃんと戯れ、血を分けてしまったと言えば分かるかな?」




    暦「それって八九寺の成仏を僕が引き留めて、血を吸わせたってことか?」




    忍野「うん、イチャつくだけならまだしも、吸血鬼の血を吸わせたとなると……話は別だよ」




    暦「僕の血で……八九寺が怪異としての力を取り戻した?」




    忍野「いや、取り戻したなんてもんじゃない……」




    忍野は今日一番の真剣な表情で言い放つ




    忍野「お節介な神隠しの怪異へと進化させてしまったのさ」



  110. 111 : : 2014/10/06(月) 11:58:38


    暦「お節介な神隠しの怪異?」




    忍野「一般的に神隠しって、ある神聖な禁断の地に人間が足を踏み入れて起こるものだけれど、この怪異の場合、向こうから歩み寄ってくるんだよ」




    暦「じゃあ千石の家が無くなったのは神隠しの怪異に消されたってことか?でも何でだよ?」




    忍野「何故かって?そりゃ……」




    忍野はゆっくりと首を傾げ、息を飲んで傾聴していた一人の少女に視線を向ける




    忍野「今回の原因の二人目である彼女がそう願ったからさ……そうだろう?一途な照れ屋ちゃん」




    千石「私が……願った?」




    千石が原因の二人目!?




    忍野「そう、君の奥底に宿る願いを神隠しの怪異が叶えてくれたのさ……阿良々木君に少しでも近づきたいという切実な願いをね」




    戦場ヶ原、神原「!?」



  111. 112 : : 2014/10/06(月) 11:59:29


    暦「ま、待てよ忍野!!人の家に泊まりたいだけで自分の家の消滅を願うわけないだろ!?それとも、僕の家の庭に徳川埋蔵金でも埋まってるのか!?」




    忍野「ははっ、これは傑作だよ阿良々木君、君は鈍感というよりただの臆病者だね……もうそろそろ猿芝居は辞めなよ、とっくに照れ屋ちゃんの想いには気付いているんだろう?」




    暦「そ、それは……」




    痛いところを突かれた




    今回ばかりは認めざるを得ない




    全くもって忍野の言う通りだ




    いくら恋愛経験の乏しい僕だろうと、あれほど異性から露骨な好意を寄せられれば流石に気付いてしまうというものだ




    けれども僕は今まで、それらの千石の熱烈なアプローチを勘違いだと思い込むように努めてきた




    それが年下の彼女を……




    千石撫子という一人の少女を傷つけないための最善策だと盲信しての行動




    何より、僕にはすでに相思相愛の歴とした彼女……




    戦場ヶ原ひたぎがいるのだ



  112. 113 : : 2014/10/06(月) 12:00:21


    忍野「阿良々木君、恋愛感情というのは実に厄介な代物でね、ライトのオンオフみたいには綺麗に切り替わらないんだよ」




    暦「分かってるさ、千石の家を取り戻すためには、僕がはっきりと答えを出す必要があるってことだろ……」




    千石「……」




    戦場ヶ原「阿良々木君、私はあなたのことを信じているわ」




    神原「阿良々木先輩……」




    観衆がただならぬ緊張感で注目してくる中、僕が導き出した結論はこうだ



  113. 114 : : 2014/10/06(月) 12:02:53


    暦「とにかく今は、八九寺を探しに行こう!!」




    千石、神原、戦場ヶ原「!?」




    忍野「やれやれ、ここにきて決断の先送りかい阿良々木君?それと、最後に僕からささやかなアドバイスを送ろう……今夜は月がよく見えるそうだよ」




    暦「それは……アドバイスになってるのか?」




    まぁ、とにかく、修羅場になりつつあるこの現状を打破するには新しい風が必要だ




    つまり、神隠しの怪異である八九寺の捜索活動




    そうと決まれば、ここは怪異発見器の出番だ



  114. 115 : : 2014/10/06(月) 12:03:41


    暦「おい、聞こえるか忍?」




    僕は自分の影の住人に問いかける




    が、無反応……




    暦「はぁ……協力してくれたら好きなだけドーナッツ食わせてやるから」




    忍「その話乗った!!」ヌッ




    呆気なく単細胞生物が甘いルアーに釣られて出てきた




    これでは川魚の方がまだ賢いだろう




    忍「かかっ、やっとこの儂、鉄血にして熱血にして冷血の吸血鬼、キスショット・アセロラオリオン・ハートアンダーブレード様の出番が来たようじゃのう」フンスッ




    うん、相変わらず自己紹介長えな




    もっと、こう……




    冷やし忍初めまして、くらいに短くまとめろよ


  115. 116 : : 2014/10/06(月) 12:04:18


    あっ……




    僕としたことが、重大な失態を犯してしまった




    いや、もっと正確には……




    神原「阿良々木先輩の影から激カワ金髪幼女が出現!?ヒャッホォォォォォォッ!!」ガバッ




    目にも留まらぬルパンダイブ




    忍「な、何じゃお前は!?離さんか小娘!!」グググッ




    このように、重症の変態を覚醒させてしまった



  116. 117 : : 2014/10/06(月) 12:05:01


    神原「むむ!?よく見たら、君はあの時のドーナッツ不足で拗ねて体育座りしていためちゃくちゃ可愛い女の子じゃないか!?」ギュー




    忍「そ、そうじゃ!!あのアロハの小僧が儂の唯一の生き甲斐であるミスドを食べてしまったのじゃ!!全くもって許し難い……ていうか、早く離さんか小娘!!」グググッ




    忍野「やぁ、忍ちゃん、久しぶりだね、元気してたかい?それより、あの件をまだ恨んでいたのかい君は?」




    忍「当然じゃ!!食べ物の恨みは最低でも100年は時効切れにならんぞ!!」




    神原「ふむ、なるほど、忍ちゃんの言い分は理解した……つまり、神原家の、否、私専用の養子に来てくれるのだな?」スーハースーハー




    忍「さっきからぼけっと見てないで助けてくれんか、お前様よ?こやつはまともに話が通じんのじゃ!!」




    暦「考えるな、慣れろ!!」




    忍「なぬ!?この薄情者め!!」グググッ



  117. 118 : : 2014/10/06(月) 12:05:31


    神原「忍ちゃん、もし私の家に来てくれれば、毎日、最高のドーナッツをサービスするぞ!!」クンカクンカ




    忍「ぱないの!!行く行く!!儂、お主の家の養子になる!!」パァッ




    暦「この薄情者が!!」クワッ




    千石「……」(ドーナッツを毎日はすぐに飽きそう)




    戦場ヶ原「……」(流石に同情するわ……神原の言うところのドーナッツは、性的遊戯の別名であることをこの子はまだ知らないのだから)



  118. 119 : : 2014/10/06(月) 12:06:10


    ー閑話休題ー




    暦「それで、八九寺の居場所が分かるか忍?」




    忍「ふむ、そやつはここからそう遠くないところにおるようじゃぞ我が主様よ」




    暦「じゃあ、そこまでの道案内を頼めるか?」




    忍「やってやらんでもないが、くれぐれもドーナッツ食べ放題の件を忘れるでないぞ?」




    暦「あぁ、分かってるさ」




    それから僕達は、色恋沙汰の件でギクシャクした気まずさを残しつつも、旧学習塾跡を出発したのだった



  119. 120 : : 2014/10/06(月) 12:06:57



    時刻は午後10時……




    忍の嗅覚を頼りに、迷子捜索隊は夜の街を行く




    暦「あ、あれは……」




    僕は宗教とかを信仰しないタイプの人間だけれども、これは神様のイタズラだと確信できる




    暦「お前はこんな時間に一人で何やってんだよ!?」




    人気の無い静まり返った公園のベンチに、いかにも真面目そうな少女がひっそりと読書に耽っていた




    羽川「あれれ?皆お揃いでどうしたの?」パタッ




    妖しく光る電灯の下、読みかけの本をそっと閉じるその姿は実に絵になる



  120. 121 : : 2014/10/06(月) 12:07:34


    神原「なんと!?慈愛の権化、羽川先輩ではないか!!」




    もはや、変態ソムリエの中で、彼女は人間の域を超えているらしい




    そもそも羽川は、自分の恵まれた容姿を自覚していないだけに、身の危険を顧みないきらいがある




    恐らく、こんな時間に一人で野外にいようとも、自分が見知らぬ暴漢に襲われるかもしれないという可能性を微塵も考えていないのだろう




    つまり、彼女は極端に自己評価が低い美少女なのである



  121. 122 : : 2014/10/06(月) 12:08:15


    戦場ヶ原「羽川さん、もう夜遅いわ、ご両親も心配されるだろうし、そろそろお家に帰ったらどうかしら?」




    ガハラさんは基本的に羽川相手だと良識人になるんだよなぁ……




    僕に対しては思いっきり猟師鬼人になるけれど




    羽川「えっと、それが可笑しなことに……自宅が綺麗さっぱり無くなってたんだよね」




    暦、神原、戦場ヶ原、千石「!?」




    人生そのものが委員長モードである羽川翼の複雑な家庭環境……




    そりゃあ真っ先に家が消えるのも頷ける




    しかし、羽川の場合、あまり悲しそうな感じは伝わってこない




    むしろ、どこか安らいでいるような気さえする



  122. 123 : : 2014/10/06(月) 12:08:48


    暦「そ、そっか……羽川も、か」




    羽川「えっ?私もってことは、他にも同じように家を失った人がいるの!?」




    自分以外の被害者の存在を知った途端、目の色が変わった羽川




    充分自分も辛い立場にいるはずなのに、つくづくお人好しな奴だ




    暦「あぁ、千石の家がな……忍野の情報によると、どうやらこの一件は八九寺の仕業らしい」




    羽川「あの八九寺ちゃんが……何でそんなことを?」




    暦「なんでも、被害者自身がそう望んだからっていう、ふざけた理由らしいぜ……」




    羽川「被害者自身の……願い」




    羽川は思い当たる節があるといった神妙な面持ちで黙り込む




    若齢にして世の中の闇を知り過ぎている彼女の瞳に、寂しい翳りが垣間見えた



  123. 124 : : 2014/10/06(月) 12:09:30


    暦「たしか僕の知っている限りでは、八九寺と最後に一緒にいたのは羽川、お前だよな?」




    羽川「うん、そうなるね……でもその後、八九寺ちゃんとはすぐに別れたよ?」




    暦「そ、そうか……」




    あの羽川が八九寺の居場所を知らないなら、僕が知るわけない




    暦「忍、八九寺の気配はまだ感じるか?」




    忍「ふむ、確かにこの辺りのはずなんじゃがのう……」




    暦「これじゃあまるで……掴めない煙を追いかけてるみたいだな」




    戦場ヶ原「あら、もうお手上げ状態なのかしら阿良々木君?使えない男ね、さっさと土壌の養分になってしまいなさいな」




    暦「戦場ヶ原、どうして僕にそんないつも冷たいんだよ!?」




    戦場ヶ原「そうね、きっともう人間じゃないから……かしら?もうすぐ悲嘆の種が発芽しそうなほどに」




    暦「どこの魔法少女だよお前は!?」



  124. 125 : : 2014/10/06(月) 12:10:01


    戦場ヶ原「あら、私の特技は阿良々木君をマジ狩るすることだということを忘れたの?」




    暦「僕と契約して真っ当な少女になってくれよ!!」




    戦場ヶ原「それは結婚のプロポーズかしら?言っておくけれど、その願いの代償は高くつくわよ?」




    暦「もはや真っ黒い魔女に染まっていたのか!?」




    ……と、その時だった



  125. 126 : : 2014/10/06(月) 12:10:36


    忍「お前様よ、奴のお出ましじゃ!!」キッ




    暦「え?」




    「ご機嫌いかがでしょうか、皆さん?」




    暦「この声は!?」バッ




    突然の挨拶に、僕達は月夜を見上げた




    なんと、高々とそびえる電信柱の上に、例の少女が座っていたのだ




    八九寺「どうも、ご無沙汰しております」ニコッ




    八九寺は背後からの月明かりに照らされ、イタズラっぽい笑顔が不気味に際立っている



  126. 127 : : 2014/10/06(月) 12:11:37


    ……が、着眼点が個性的過ぎる奴が僕の真横にいた




    神原「ひ、控え目なリボンをあしらった純白のお子様パンツだと!?」ジィー




    暦「……神原、お前の視力いくつだよ?」




    神原「私の目は観察対象が可愛いほどレンズの倍率が増す仕組みだから、今はざっと20倍くらいだぞ!!」




    暦「某殺人ノートの死神の目より便利だなオイ!!寿命を半分失え!!」



  127. 128 : : 2014/10/06(月) 12:12:13


    戦場ヶ原「なんだかあの子、さっきから頭が高くて気に入らないわね……やっておしまい、サル」ピッ




    神原「御意にござりまする、親方様に無礼を働いた罰として、あの町娘を脱ぎ捨て御免の刑に処してご覧に入れますゆえ、しばしお待ちくだされ」ササッ




    戦場ヶ原「うむ、よきにはからえ」




    暦「お前らに天下だけは取らせちゃいけないのは充分に分かったよ!!」




    神原「ご安心を、パンツしか取りませぬ!!」




    戦場ヶ原「パンツ蕩れ、流行るといいわね」




    暦「まずお前ら自身の変態責任を取れ!!」



  128. 129 : : 2014/10/06(月) 12:12:40


    羽川「そういえば阿良々木君……この前、学校の通学路で私のパンツをガン見したよね?」ジロッ




    暦「あれは……そよ風からの贈り物です」




    羽川「……戦場ヶ原さん、刺激的な文房具あるかな?」




    戦場ヶ原「ごめんなさい羽川さん、今は持ち合わせが電動ドリルしかないのだけれど、それでなんとか手を打ってもらえないかしら?」




    羽川「うん、それなら事足りそうだよ、ありがとう戦場ヶ原さん」




    戦場ヶ原「いえいえ、羽川さんのお役に立てるならば、戦場ヶ原家末代までの誇りよ、ねぇ神原?」




    神原「左様にござりまする!!」




    暦「色々と謀反にござりまする!!」



  129. 130 : : 2014/10/06(月) 12:13:31


    ー閑話休題ー




    暦「それより八九寺、お前に一つ確認したいことがある!!」




    八九寺「はて、それは何でしょうか阿良々木さん?私はヒーローの活躍する舞台を整えて差し上げただけじゃないですか?」




    暦「ってことは、本当なんだな?……お前が神隠しの怪異になっちまったっていうのは?」




    八九寺「えぇ、そんなところですね」




    暦「それじゃあ、すぐさま千石達の消えた家を元通りにしてくれよ!!今のお前ならそれぐらい簡単に出来るはずだろ!?」




    八九寺「もちろん出来ますよ、ですが……無条件ではお断りします」




    暦「そりゃあ……どういう意味だ?」




    八九寺「つまり、元通りにして欲しければ、一つ私とゲームをしましょうってことです」




    暦「……ゲーム?」




    八九寺「えぇ、愚の骨頂の阿良々木さんでも、すんなり理解出来る単純明快なゲームですよ」ニコッ



  130. 131 : : 2014/10/06(月) 12:14:17


    神隠しの怪異となった八九寺真宵……




    帰れない道をグルグル回る途方もない孤独感を味わった哀れな少女




    それは恐らく、想像を絶するものだったのだろう




    だから、千石や羽川の願いを叶えて家を消したってのは建前で、本音は皆と夜遊びしたいだけなんじゃ……




    だとすると、戦場ヶ原や神原に八九寺の姿が見えているのも自己顕示欲の表れ……




    これが一夏の思い出作りってやつなのだろうか?




    暦「ふぅ、仕方ない、やってやるよ八九寺……それと、僕の名前はお約束通りちゃんと噛めよ?」




    八九寺「失礼、噛み飽きました」




    暦「とうとうぶっちゃけやがったコイツ!?」



  131. 132 : : 2014/10/06(月) 12:15:17


    暦「……で、そのゲームとやらは何をするんだ?」




    八九寺「神探しです」




    暦「お前……今日は隠したり探したり忙しい奴だな」




    八九寺「ルールは普通の隠れんぼとほぼ同じです、鬼が阿良々木さんチームで、私が一人だけ隠れます……ただし、時間制限は今夜の12時までで、範囲はこの街一帯とします」




    暦「はぁ!?そんなの捜索範囲が広過ぎて無理に決まってるだろ!?」




    八九寺「えぇ、なので目星を付けて探さないとあっという間にゲームオーバーですよ?そして、その場合は羽川さん達のお宅の復活もしませんので悪しからず」ニコッ




    千石「……私の家」




    羽川「なんか……複雑な気分」




    戦場ヶ原「あらあら、随分と辛辣な神様もいたものね……」




    神様「ドSの神様……イイッ!!」ゾクゾク




    暦「……まぁ、こっちには怪異の気配を感じ取れる忍がいるからなんとかなるか」



  132. 133 : : 2014/10/06(月) 12:16:14


    八九寺「それと言い忘れてましたが、私が本気で隠密モードになれば、気配は完全に消せますよ?さっきのはわざとここにおびき寄せるために出しておいただけです」




    暦「そんなの反則だろ!?」




    忍「どうやら……詰んだようじゃのう、お前様?」




    八九寺「では、早速スタートです……せいぜい楽しませてくださいね」ヒュッ




    その言葉を最後に、八九寺は霧のように姿をくらませた




    手元の腕時計を確認すると、すでに23時を回っていた



  133. 134 : : 2014/10/06(月) 12:17:17


    暦「クソッ、残り1時間切ってんじゃねーか!!八九寺のやつ、僕達にクリアさせる気なんざ最初から無いんじゃないのか!?」




    羽川「そんな愚痴をこぼしたところで、問題解決の糸口は見つからないよ阿良々木君」




    戦場ヶ原「そうね、ここは冷静に考えて、あの子が行きそうな場所を探すのが賢明なんじゃないかしら?」




    神原「ふむ、それでは手始めに、近くのコンビニ辺りからいかがだろうか?」




    暦「なんでこんな時にコンビニなんだよ神原!?絶対にそんなところに八九寺がいるわけないだろ!!」




    羽川「それは名案ね神原さん、私もちょうど喉渇いていたところだったの」




    戦場ヶ原「あら奇遇ね?私もよ」




    暦「お前ら緊張感無さ過ぎるだろ!!」




    千石「コンビニに税込み298円で暦お兄ちゃんの愛とか売ってないかなぁ……」




    暦「逆にそんな安売りの愛に魅力を感じるのか千石!?」




    千石「うん、箱買いするよ?」




    暦「どこぞの量産型兵長グッズだよ!?」




    戦場ヶ原「さぁ、皆の者……混沌と媚肉が渦巻く館へ出向くわよ」




    羽川、神原、千石「御意!!」




    暦「普通にコンビニ行こうって言えねーのか!?」




    それから、半ば強引に戦場ヶ原達に手を引かれ、近くのコンビニへと向かうことになった



  134. 135 : : 2014/10/06(月) 12:18:29


    ーコンビニー




    女店員「いらっしゃいませ〜」




    暦「あの、ちょっとすいません」




    女店員「はい、何でしょうか?」




    暦「えっと、大きなリュックサックを背負ったツインテールの、小学五年生ぐらいの女の子を見かけませんでしたか?」




    女店員「い、いえ……いらっしゃいませんでしたよ?」ジトー




    暦「そうですか……どうもありがとうございます」ペコッ




    まぁ、こんな所に八九寺がいるはずないのは僕も分かってたけども……




    つーか店員さん、何ですかその変質者を見る時のような目は!?



  135. 136 : : 2014/10/06(月) 12:19:12


    戦場ヶ原「阿良々木君、私ならあなたの汚らわしさ全てを受け入れてあげられるけれど、全ての人間がそうとは限らないのよ?」




    女店員「……えっ」ビクッ




    暦「誠実を装って誤解を招く言い方をするのはよせ、戦場ヶ原!!」




    神原「な、なんと!!こんな所に!?」




    暦「どうした神原!?まさか八九寺が見つかったのか!?」バッ




    即座に振り向くと、店内のとあるコーナーで、神原が興奮気味に身を震わせていた




    神原「待望のBL雑誌『店番サボって空き地で俺様乱恥』の最新号があるではないか!!」ガシッ




    暦「神原、本当にぶれないよな、お前って……」




    神原「うむ、それが我が幼少期からの信条だからな」キリッ




    暦「どうして道を踏み外した?」




    なんだかもう、こいつの飽くなきBLエネルギーで、一国の電力が賄える気がしてきた……



  136. 137 : : 2014/10/06(月) 12:19:49


    変わって、食品コーナーでは……




    羽川「うん、大体これぐらいあれば充分かな?」ドッサリ




    千石「えへへ、お菓子いっぱい」ドッサリ




    暦「って、なんで羽川と千石はそんなに大量に飲食物を買い込んでんだよ!?」




    羽川「なんでって……それはやっぱり、神様を探すなら神社にお参りしないといけないからね」




    千石「うん、きっと神様もお腹空いてるはずだよ」




    暦「……はぁ?」




    僕の問いかけをはぐらかす二人は、足早に会計を済ませて、先に店を出ていった



  137. 138 : : 2014/10/06(月) 12:20:37


    戦場ヶ原「神原、あなたも例のものを買って、羽川さん達と先に行っててちょうだい」




    例の……もの?




    神原「うぅっ……今読みかけの『ヘタレ男子生徒とオラオラ体育教師の秘密のポロロン放課後個人レッスン』の続きが大変気になるところではあるが、お先に失礼する」ストンッ




    そういって神原は、立ち読みしていた変態御用達の一冊を陳列棚に戻すと、あるものを購入して、店を名残惜しそうに出ていった




    暦「おいおい、戦場ヶ原……あいつら一体どこに向かっているんだよ?」




    戦場ヶ原「どこって……そんなの神様探しに決まっているじゃない阿良々木君?」 シュバッ




    首や手足、おまけに腰も絶妙にくねらせた、見事なジョジョ立ちで応答する戦場ヶ原




    暦「……戦場ヶ原?」ジィー




    こいつら……さっきから何かがおかしいぞ?




    戦場ヶ原「ほら、私達もそろそろ行くわよ?」グイッ




    疑惑の眼差しを送ると、戦場ヶ原が僕の左手をスッと掴み、店の外へと連れ出した




    女店員「ありがとうございました〜」



  138. 139 : : 2014/10/06(月) 12:21:27


    時刻は23:30……




    タイムリミットまでわずか三十分しか残されていない




    暦「戦場ヶ原、もしかしてお前は羽川達の家が無くなることを内心望んでいるんじゃないだろうな!?」




    精神的な忍耐強さを自負している僕も、流石に痺れを切らしてきた




    戦場ヶ原「私、笑えない冗談は好きじゃないの……時間が惜しいわ、黙って付いて来なさい、悪いようにはしないから」




    暦「断る!!」




    戦場ヶ原「あら、今日はなかなか反抗的ね?」




    暦「おい、一体僕に何を隠しているんだ!?それを教えてくれるまで、ここを一歩も動かないぞ!!」




    戦場ヶ原「ふぅ……これではまるで、聞き分けのない子供との不毛な水掛け論ね」




    暦「あぁ、聞き分けのない子供で結構だ!!現に僕は、酒もタバコの味も知らない健全な青少年だからな!!」




    戦場ヶ原「そう、なら仕方ないわ……」




    暦「ふぅ……戦場ヶ原、やっと話す気になったんだな?」



  139. 140 : : 2014/10/06(月) 12:24:07


    戦場ヶ原「えぇ、もはやリアルストリートファイトしか解決策は残されていないようね」スッ




    暦「何故そうなる!?」




    戦場ヶ原「ほら、先制攻撃を譲ってあげるから、遠慮なくかかってきなさい?いきなり竜巻旋風脚からの波動拳、または昇竜拳コンボでもいいわよ?」チョイチョイ




    暦「いやいや、色々とおかしいだろ!?そもそも、僕が女子を殴れるわけないだろーが!!」




    戦場ヶ原「あら?私がいつ自分の性別を女の子だと宣言したかしら?」ニヤリ




    暦「今のはお前のこれまでの発言の中で一番背筋が凍ったよ!!」ゾッ



  140. 141 : : 2014/10/06(月) 12:24:57


    戦場ヶ原「時に阿良々木君、神様はどこにいると思う?」




    暦「それは神隠しの八九寺のことか?それとも僕の正面にいらっしゃる鬼神様のことか?」




    戦場ヶ原「私はね……神様って、案外近くにいると思うのよ」




    暦「はぁ?……それって僕達の心の中で生きている的なアレのことか?」




    戦場ヶ原「それは違うわ、神様も私達と同じようにそこら辺をぶらぶら散歩していたり、お祭り騒ぎしているかもしれないという意味よ」




    暦「なぁ……結局、お前は何が言いたいんだよ?」




    戦場ヶ原「つまり、今から神様のお家に行きましょうってことよ」




    暦「はぁ?」




    それからの僕達には、会話が成立しなかった




    というか、僕の投げかける質問の数々は、物の見事に戦場ヶ原の聴覚に振動を届けないらしく、詰まる所、一方的な完全無視であった




    ただ黙々と戦場ヶ原に手を引かれ、薄暗い参道を登って行くという別の意味でドキドキが止まらない状態が続く




    もしかして、僕はこのまま山に埋められるのではないかと、夜空を埋め尽くす星の下、一人本気で肝を冷やすのだった



  141. 142 : : 2014/10/06(月) 12:25:52


    ……と、急に戦場ヶ原がズンズン進む足を止めた




    そして、ゆっくり後ろを振り向き、いつものこだわりの首の角度で僕を眺め、彼女は口を開く




    戦場ヶ原「ねぇ、阿良々木君、私のこと好き?」




    今度はどんな方法で僕の心臓を脅かすのかと思えば、そうきたか……




    暦「もちろんだ……好きじゃなけりゃこうして手を繋いで深夜の参拝デートなんかしないだろ?」




    男の意地でギリギリカッコつけてはみたが、今現在このミステリーツアーをデートとして満喫出来る余裕なんて無い僕




    戦場ヶ原「ふふ、それを聞いて安心したわ……もし私があの時の阿良々木君なら、初対面でホッチキスを行使するバイオレンス系女子なんてお断りだもの」




    一方、とんでもないカミングアウトをサラッと吐き出すガハラさん




    ……と、その時



  142. 143 : : 2014/10/06(月) 12:27:03


    戦場ヶ原「ほら、目的地まであと少しよ、頑張りなさ……いっ!?」ズルッ




    暦「だ、大丈夫か戦場ヶ原!?」バッ




    戦場ヶ原は足下をよく確認せずに踏み出したせいで、暗い山の悪路に躓いてしまった




    戦場ヶ原「だ、大丈夫、これぐらい平気よ、一人で立て…っ痛!!」ズキッ




    暦「無理するなって、ちょっと患部を見せてみろ!!」スッ




    戦場ヶ原「んっ……右足首を少し挫いたみたい」ズキッ




    暦「こりゃ酷いな……仕方ない、今から山を下るぞ?ほら、僕の背中に乗ってくれ」スッ




    戦場ヶ原「そ、それは絶対にダメよ!!」




    暦「なんでだよ?ここにはいつでも来れるだろ?今はお前の治療が最優先だ、さぁ、早く!!」グイッ




    戦場ヶ原「嫌っ!!」バッ




    暦「なっ!?戦場ヶ原?」




    戦場ヶ原「ご、ごめんなさい……でも、どうしても今は北白蛇神社へ行かないといけないの」ギュッ




    暦「……」



  143. 144 : : 2014/10/06(月) 12:27:49


    北白蛇神社……




    千石の蛇切縄を祓った、良くないものの吹き溜まりの地




    戦場ヶ原「今夜は特別な日なの……お願い、阿良々木君」




    空から舞い降りる柔らかな月光に包まれ、すっかり毒牙の抜けた戦場ヶ原は、まさに深窓の令嬢という言葉がぴったりの美少女にトランスフォームしていた




    暦「……分かった、でも、後でちゃんと事情を説明してくれよ?」




    戦場ヶ原「えぇ、約束するわ」




    結局、僕は彼女と益々の疑念を背負いながら、参道を上へ上へと進むことになった




    山を吹き抜ける涼しげな風は、僕らの火照った頬を優しくあやし、同時に、眠りにつく生き物達の力強い脈動を伝えてくる




    こうして自然界へ耳を澄ましてみると、普段の町では気にも留めない些細な事が、とても心地良く、とても偉大だったのだと改めて思い知らされるようだ



  144. 145 : : 2014/10/06(月) 12:28:35


    そのままいくつもの鳥居をくぐり、古びた石段を慎重に踏みしめながら、僕は黙り込む戦場ヶ原に語りかける




    暦「日中のあの暑さが嘘みたいだよな、ここってさ」




    戦場ヶ原「えぇ、そうね」




    暦「なんだか、また二人で星空を見に来たみたいだな?まぁ、前回とは場所が大分違うけども」




    戦場ヶ原「えぇ、今度は私のお父さんも交えた川の字天体観測で、エキセントリックに語り明かしたいものね?」




    暦「それだけは勘弁してくれ!!」




    戦場ヶ原「ふふ、冗談よ……それに、親の前で恋人とキスするのは誰だって恥ずかしいわ」




    暦「はは、全くだよ」



  145. 146 : : 2014/10/06(月) 12:29:16


    そんな他愛もないことを話していると、いつの間にか北白蛇神社の最後の鳥居が見えてきた




    暦「よし、あとちょっとだ」




    僕は背中に羽が生えたかのように、軽やかに石段を駆け上がる




    しかし、何事もゴール直前にハプニングは付き物である




    そして、この場合も……




    八九寺「遅かったですね、イチャツ木さん」




    例外ではなかったらしい



  146. 147 : : 2014/10/06(月) 12:30:20


    現在時刻は23:55……




    暦「何とか制限時間内に見つけたぞ八九寺、それと僕の名前は阿良々木だ」




    八九寺「えぇ、見つかっちゃいました」




    暦「誤りの訂正はしないのか?」




    八九寺「あくまでも今回は見たままを言っただけですからね」




    暦「まぁ、否定は出来ないな」




    戦場ヶ原「それで、八九寺さん……もう例の準備は整っているのかしら?」




    八九寺「はい、お陰様で準備の方はバッチリです」




    それを聞くや否や、戦場ヶ原は何食わぬ顔で僕の背中から離れ、スタスタと軽快に歩き始めた




    暦「ガハラさん!?足を怪我してたんじゃないのかよ!?」




    戦場ヶ原「ああこれ?実際は大したことないわよ?」プラプラ




    暦「じゃあ何で行きの道を僕におぶらせたんだよ!?」




    戦場ヶ原「そんなの決まってるじゃない?ただの時間稼ぎよ……準備のためのね」



  147. 148 : : 2014/10/06(月) 12:30:58


    暦「つーか準備、準備って……さっきからお前ら一体何を言ってるんだ?」




    戦場ヶ原「皆の者、今よ!!」バッ




    羽川、千石、神原「せ〜のっ!!」グイッ




    暦「へ?」パッ




    声が聞こえた方向を見ると、三人の少女達が細長い紐を力一杯に引っ張っていた



  148. 149 : : 2014/10/06(月) 12:38:01


    そして……




    拝殿の前に吊るされたオリジナリティ溢れる金色のクス玉が割られ……




    【必勝!!受験激励会】




    中から飛び出したメッセージには、そう書かれてあった




    暦「こ、これって……!?」




    八九寺「どうですか阿良々木さん?何かご感想は?」




    暦「お前ら、裏で何かコソコソやってると思ったら、こういうことだったのか……」




    羽川「うん、これからの夏休み、受験勉強で毎日大変だと思うから、初日の今日に皆で受験激励会を密かに計画していたの」




    千石「騙してゴメンね暦お兄ちゃん、そもそも本当は撫子の家は無くなってないんだよ?」




    暦「え?そりゃどういうことだ?」



  149. 150 : : 2014/10/06(月) 12:39:05


    千石「あそこの区画は私の家の区画によく似ているだけで、私の家はちゃんと本来の場所にあったんだよ」




    暦「マジかよ千石!?だとしたら、お前演技うま過ぎるだろ!?あんなマジ泣きされたら男は絶対騙されるよ!!」




    千石「えへへ///」ニコッ




    羽川「ちなみに私も、実際に家は無くなってないからね?」




    暦「あんな……まるで会社にリストラされ、家族に内緒でブランコに揺られているようなサラリーマン風の哀愁を醸し出しながら、夜のベンチで黙々と読書されたら嫌でも気を遣うわ!!」




    暦「あれ?……ってことは、あの忍野も含めて、お前ら全員仕掛け人だったのか!?」




    八九寺「はい、そういうことになります……まぁ、阿良々木さんの指先のお肉がグッドテイストだったのは本当ですがね」




    暦「リピーターになられても困るから、そこは嘘であって欲しかったよ、八九寺!!」




    神原「私も面白そうな計画だったからノリノリで参加したぞ!!それに、阿良々木先輩の必死に奔走する勇姿はゾクゾクした!!」




    暦「変態一筋であるお前が少しでもシリアスだと、リアリティが半端ないんだよ神原!!」


  150. 151 : : 2014/10/06(月) 12:39:45


    戦場ヶ原「阿良々木君、今回の件からあなたが得るべき教訓は、女は嘘と涙を巧みに使い分ける各々の人生の主演女優だということよ?」




    暦「戦場ヶ原、お前には一生勝てる気がしないよ……」




    戦場ヶ原「当たり前よ、これからも阿良々木君に勝たせる気は毛頭無いのだから」




    暦「つまり、僕はまんまと……ガハラ塚歌劇団の舞台にハマってしまったわけだ」




    戦場ヶ原「さぁさぁ、お客さん…今夜は帰さないわよ?」




    確かに北白蛇神社には、良くない者達が集まるらしい……



  151. 152 : : 2014/10/06(月) 12:41:24


    後日談というか、今回のオチ




    夏休み終了前夜




    暦「ふぅ……やっと全部片付いた」




    時刻は深夜の二時




    締め切りが明日までという緊張感で、何とか宿題を終わらせることができた




    まぁ、吸血鬼の体内リズムとしては、夜がむしろメインなのだろうけれど……




    暦「さて、寝るか……」




    欠伸をしながらベッドへ向かおうとした時、僕の影からぬっと顔を覗かせる奴がいた



  152. 153 : : 2014/10/06(月) 12:42:12


    「のう……何か大事なことを忘れてはおらんか我が主様よ?」




    急に現れたその正体は、古めかしい言葉遣いとは裏腹に、見た目は7,8歳ほどの金髪幼女……




    忍野忍だった




    暦「ふっ、そんなお決まりの冷やかしには乗らないぜ?僕はきっちりと宿題を完了したんだよ」




    某国民的お昼寝達人の駄メガネ君じゃあるまいし、こんな時間帯に全然宿題終わらないよ〜、などと慌てる僕じゃないさ




    忍「見当外れもいいところじゃな……儂の確認したいことは、そんなちっぽけなことではない」




    暦「じゃあ一体何だよ?夜食にどら焼きでも食べたいのか?」




    忍「たわけ、あんな食い意地の張ったニート型ロボットと一緒にするでないわ!!」




    暦「基本的に食っちゃ寝るの日常描写が多いぽっちゃり型ロボットだけれども、ニート扱いはしてやるなよ!!」




    忍「忘れたとは言わせんぞ?お前様はこの夏休み中にミスドで好きなだけドーナッツを食べさせてやると言ったではないか!!」




    あー、そんなこともありましたね……



  153. 154 : : 2014/10/06(月) 12:43:33


    暦「つーか、お前も立派な食い意地をお持ちの引きこもりニートじゃねーか!!のぶえもん!!」




    忍「わ、儂は太陽が苦手だから外出できないだけだもん!!まだ本気出してないだけだもん!!明日から本気出すもん!!」




    暦「ニートは皆そう言うんだよ!!」




    こいつは全体的に黄色だから、もし太ったらドラえもんよりむしろドラミちゃんだな……




    まぁ、実際のドラミちゃんはしっかり者なんですがね……




    暦「分かった分かった……それじゃあ、明日でいいよな?」




    忍「ふ、ふむ、分かればよいのじゃ……」




    暦「うん、それじゃあお休み」




    忍「ま、待つのじゃ 、お前様よ」




    暦「今度は何だよ?」




    忍「それだけか?」




    暦「うん……それだけだぜ?」



  154. 155 : : 2014/10/06(月) 12:44:10


    忍「延滞料が足りぬわ!!よって、更にその一段階上の儀式を要求する……」




    暦「延滞って……贅沢言うなよ、お前は本来なら飯食わなくても生きられるはずだろ?まぁ、僕の輸血は最低限必要だろうけれども」




    忍「よいか、よく聞け!!この夏休み中、儂はずっと退屈だったんじゃ!!」バンッ




    暦「はぁ?」




    忍「そもそも、太陽の下に出られん吸血鬼には娯楽が少ないのが分からんのかお前様よ?」ワナワナ




    暦「退屈って言われても……僕はお前を楽しませる特技なんて持ち合わせていないんだぜ忍?」




    忍「ならヒントをやろう……そうじゃな、一般的に寝る前にすることと言えば何じゃ?」




    暦「う〜ん……英単語の暗記とか?」




    忍「かかっ、柄にもなくインテリぶりおって」




    暦「悪かったな、これでも一応は受験生なんだよ!!」




    忍「で、答えを知りたいかお前様よ?」ニヤニヤ




    暦「あぁ、さっさと教えてくれよ」



  155. 156 : : 2014/10/06(月) 12:44:41


    忍「え〜?どうしよっかな〜?儂の肩を揉んでくれるならばヒントをくれてやってもいいんじゃがな〜?」チラッチラッ




    暦「あ、実際そんなに興味無いんで、そんじゃ、お休み」スッ




    忍「も、もっと儂に構って欲しいのじゃお前様よ!!」ウルウル




    あれ?このロリババア可愛いぞ




    暦「はいはい……で、答えは?」



  156. 157 : : 2014/10/06(月) 12:45:13


    忍「うむ、お前様があのジャジャ馬な妹御にしたように、儂にも歯磨きプレイとやらをするとよいぞ!!」




    暦「あ、あれを自ら所望するとは……お前正気か!?」




    忍「正気も正気じゃ……なんせこの時間帯は儂の貴重な活発タイムじゃからな?」




    言わずもがな、その歯磨きプレイとは……




    僕の大きい方の妹、すなわち火憐ちゃんと実施した、非常に競技性の高い紳士淑女による由緒正しい勝負事である




    そーいや、あれは当然こいつにも見られていたんだよな……




    全くどいつもこいつも欲しがり屋さんでまいっちゃうぜ……




    それじゃあ一丁、幻想的な世界へといざなってやるとしますか……




    暦「最終確認だ忍、その言葉に……二言は無いな?」




    忍「かかっ、誇り高き吸血鬼には二言なんてあり得んぞ?」




    暦「了解した……それではこれより、第二回ゴシゴシ歯磨き大会を開催する!!」




    忍「かかっ、永らくぶりに心踊るわい!!」ウキウキ



  157. 158 : : 2014/10/06(月) 12:45:51


    その後、僕は速やかに真夜中の洗面所へ潜入し、予備の新品歯ブラシセットを調達した




    それから自分の部屋へ帰還すると、忍の方もすでに準備を済まして僕のベッドに寝そべっていた




    暦「歯ブラシよし、歯磨き粉よし、アイマスクよし……あれ?なんでアイマスクがあるんだ?」




    忍「無論、人間も吸血鬼も視覚情報には強く依存しておるからのう……つまり、口内の感覚を限界まで研ぎ澄ますためには、視界を遮断した方がより良いだろうと判断したまでのことじゃ」




    暦「ほぅ、まさかそっちからハードルを上げようとは……だが、その余裕は後で後悔することになるぜ?」




    忍「ご託はよい、さっさと始めるのじゃお前様よ!!」




    暦「言われるまでもない……さぁ、快楽のShow Timeだ!!」スッ



  158. 159 : : 2014/10/06(月) 12:46:28


    目隠し状態の忍を僕の膝枕に仰向けでセット!!




    さて、まずは小手調べ……




    忍の口内感度をチェックだ




    大胆かつ慎重に、歯ブラシを滑り込ませていくとしよう




    暦「よし、挿れるぞ……」スッ




    忍は頬をほんのり赤らめて、コクリと小さく頷いた




    忍「は、初めてじゃから、優しく頼むぞ?///」モジモジ




    こ、このシチュエーションでそんな扇情的な台詞を!?




    こいつ……初っ端から楽しんでやがるな?




    いいだろう……




    どちらがこのゲームの支配権を掌握しているのか、すぐにその身に思い知らせてやる!!



  159. 160 : : 2014/10/06(月) 12:47:08


    暦「手加減しないぜ忍!!」ゴシゴシ




    さぁ、火憐ちゃんを唸らせた僕のブラッシングテクはどうだ?




    忍「かかっ、いい気分じゃ!!たまには他人から歯磨きを受けるというのも悪くはないのう」モゴモゴ




    ま、まるで効いていないだと!?




    暦「こ、これならどうだ!?」シャッシャッ




    流石に舌は効くだろ……




    忍「どうした我が主様よ?もっと本気でこんか?」モゴモゴ




    ま、まだ快楽が生じていないのか!?




    ならば僕の最終奥義……




    高橋名人ばりの連打力とメッシドリブルばりのソフトタッチだ!!



  160. 161 : : 2014/10/06(月) 12:47:38


    暦「オラオラオラオラオラッ!!」シュッシュッシュッ




    上下左右全ての歯を磨き、仕上げに舌の表裏まで責められれば一溜まりもないだろう!!




    忍「かかっ、全然効かぬわ!!」モゴモゴ




    暦「な、何だと!?」ガーン




    忍は身じろぎ一つせずこの余裕顔




    このままでは、歯磨きマスターである僕の威厳が失墜しかねない……




    忍「ほれほれ、手が止まっておるぞ?歯磨きプレイとはこんなものかお前様よ?」モゴモゴ




    ‘‘完全敗北’’




    その言葉が頭をよぎった




    暦「こんなところで……僕は負けるのか?」ガクッ



  161. 162 : : 2014/10/06(月) 12:48:11


    そんな絶望に打ちひしがれる中、ふと、羽川から数学を教わっていた時のことを思い出した




    『物事の見方は一面的とは限らない、つまり、多方面から光を当ててみることによって違うものが見えてくる』と……




    暦「多方面からの光……か」




    ま、まさか!?




    暦「おい、忍……そのアイマスクもしかして!?」




    忍「な、何のことじゃ?」ダラダラ




    この慌てよう……




    やはり間違い無い!!




    暦「今からそのアイマスクを没収する、本来この競技は私物の持ち込みは禁止なんだよ!!」




    忍「そ、それはダメじゃ!!」ギュッ



  162. 163 : : 2014/10/06(月) 12:48:46


    忍は僕から取られまいと、必死に両手でアイマスクを抑え込む




    暦「問答無用だ!!」バッ




    だが、その忍の抵抗も虚しく、アイマスクは天高く舞い上がった




    忍「あぁっ、儂のアイマスクがっ!?」ジタバタ




    暦「察するところ、あれがお前の快楽を封じ込めていたんだな?さて、不正行為を働く悪い子には躾が必要だ……」




    忍「くっ!?」ジリジリ




    暦「大丈夫だ忍……優しくしてやるよ」ニタリ




    忍「ま、待つのじゃ!!儂は初心者コースで十分なのじゃ!!」ヌッ




    そう言って、僕の影に逃げ込もうとする忍……




    しかし、絶好の獲物をそうやすやすと見逃してやるほど、僕もお人好しではない



  163. 164 : : 2014/10/06(月) 12:49:23


    暦「甘いぜ忍……」ピッ




    リモコンのスイッチOFF




    忍「な、なんじゃと!?」




    秘技……‘‘消灯の術’’




    一瞬で部屋全体が暗黒一色に染まる




    これでもう、忍は僕の影に隠れることは不可能になったのだ




    しかし、僕は吸血鬼特性のおかげで暗闇でも目が見える




    忍「き、汚いぞお前様!!」キッ




    暦「おやおや、勝負事から逃げ出す方がスポーツマンシップに反すると思うんだけどな、そうだろ誇り高き吸血鬼様?」




    僕は忍の無駄に高いプライドを煽りに煽る




    忍「くっ、よもやこの儂がこんな若造に説教されるとは……いいだろう、決着をつけてやるわい!!」ポフッ




    暦「待ちわびたぞ……お前とこうして再び相まみえる瞬間をな!!」スッ




    忍、暦「デュエル!!」



  164. 165 : : 2014/10/06(月) 12:50:02


    つーか、何が口内感度を研ぎ澄ますためのアイマスクだよ?




    ただの小細工の防具じゃねーか!!




    忍は光を浴びることによって総合能力が著しく低下する




    例えそれが部屋の蛍光灯ほどの微弱な明かりだとしてもだ




    つまり、先ほどのアイマスクは感覚抑制能力を高めていたのだろう




    暦「さぁ、正々堂々といこうじゃないか忍?」




    忍「言われなくとも今回は目をパッチリと開けておいてやるわい!!」パッ




    この言葉を受けて、僕は再び部屋に明かりを灯す




    暦「と言っても、ずっと僕の攻撃ターンだけどな!!」スッ




    忍「儂のありのままの守備力を思い知るがいい!!」クワッ




    暦「ここだぁぁぁぁぁ!!」ゴシゴシゴシゴシ




    僕はいきなり舌の表側を責め立てる




    忍「え、ちょ、これ……」プルプル




    その途端に、忍の表情から一切の余裕が消えた



  165. 166 : : 2014/10/06(月) 12:50:36


    暦「うん?どうした忍?」ゴシゴシ




    もちろん、僕はそんなことはお構いなしにブラッシングを続行するわけだが……




    忍「パ……パナ……///」ブルブル




    暦「……パナ?」ゴシゴシ




    忍「リ、リミッター解除はパナいのぉぉぉぉぉぉ///」ビクンビクン




    忍は淫靡な嬌声を上げながら全身を激しく痙攣させた




    暦「早っ!!敏感過ぎるだろ!!」




    忍「お前様〜、歯磨きプレイ〜、マジパナい〜///」ダラ〜




    それから忍は辞世の句を吟じて気絶した




    暦「ふぅ、だから言っただろ?僕の歯磨きテクはハンパなく風を切り裂くように速い……まさにパナソニックだとね」



  166. 167 : : 2014/10/06(月) 12:51:15


    それにしても……




    開始三秒でこのザマか




    忍野忍という吸血鬼




    実に口ほどにも無い虚栄の塊だったことよ……




    気絶した忍の口内からは、白濁液がだらしなく零れ落ちてゆく




    もちろん、この絵ヅラに何とも言えない背徳感を感じたのは認めよう




    だが、勝ったのはこの僕だ




    暦「たっく……幸せそうな顔で眠りやがって」フッ




    夜のテンションという奴は本当に恐ろしいものである




    暦「あ〜、なんかさっきまでの眠気が完璧に飛んでいっちまったよ……」スッ




    最後に、僕は忍の口周りをタオルで拭き取り、はだけた腹部に掛け布団を被せてやる



  167. 168 : : 2014/10/06(月) 12:52:19


    時計を見ると時刻は深夜の二時半




    それからなんとなく、暇つぶしにネットサーフィンを始める僕




    しばらく色々なサイトを閲覧していると、人気急上昇中のイチオシ動画とやらがYouTubeのトップに出ていた




    暦「ふ〜ん、面白動画か……どれどれ、見てやろうじゃないか」ポチッ




    そのタイトルとは……




    【土下座ゴキブリ】




    その可笑しなタイトルで、大いに好奇心がそそられた



  168. 169 : : 2014/10/06(月) 12:52:53


    暦「ははっ、くだらない映像を撮る人もいるもんだなぁ」




    やがて、雑音混じりの無編集映像が流れ出した




    舞台はどこかの町の路上らしく、隠し撮りのような形式で進行していく




    最初はカメラのブレが激しかったものの、徐々に落ち着き、その全貌を鮮明に映し出していく




    それは、実にシュールな動画だった




    そもそもタイトルがゴキブリと名打ってあるのだが、それらしきものはどこにも見当たらない……




    それより、かなり既視感を覚えるこの風景……




    おまけに、直江津高校の学生服




    暦「あ、あれ……え?」




    というか、全力で目を逸らしたいところなのだが……




    暦「これって完全に僕のことじゃねーか!!」



  169. 170 : : 2014/10/06(月) 12:53:29


    すると、見計らったようなタイミングで携帯が鳴った




    暦「こんな時によりにもよってお前か……で、何だよ神原?」




    神原「やぶ遅くに申し訳ないが、単刀直入にお尋ねしよう……YouTubeのトップ動画を見たか阿良々木先輩?」




    暦「あぁ、たった今な……テッカテカのゴキブリよりドス黒い歴史を打ち立てちまったようだ……それで神原、これはお前の仕業か?」




    神原「それは違うぞ阿良々木先輩!!私はただ……」




    珍しく僕に従順なあの神原が怒声を上げた




    暦「か、神原さん!?」




    まさか、神原の奴……




    こんな情けない動画をアップされた僕が傷心中と思って、励ましの電話をよこしてくれたのか!?




    だとしたら、なんて最低な態度を取ってしまったんだ僕は




    こんな義理人情の厚い後輩に対して……




    暦「悪かったよ神原、つい八つ当たりするような態度を取ってしまって……」



  170. 171 : : 2014/10/06(月) 12:54:00


    神原「あの、何か勘違いしておられるのではないか阿良々木先輩?」




    暦「へ?」




    神原「私はただ、あの動画はどのような意図の羞恥プレイなのかお尋ねしたくて電話した次第なのだが?もちろん今後の勉強に役立てるためにな!!」ハァハァ




    暦「変態に良識を期待した僕が馬鹿だったよ!!」




    神原「あ、それと、ある人から伝言を預かっているぞ阿良々木先輩……」




    暦「伝言?」




    神原「動画投稿者に刮目せよ、だそうだ、それではご武運を!」ピッ




    暦「あ、おい、待てよ神原!!」




    一方的に通話が切れら、やむなく目線を移した先には、例の動画のアップ主の名前があった




    ‘‘Pachin To Mouth’’



  171. 172 : : 2014/10/06(月) 12:54:47


    暦「パチン トゥー マウス?」




    何かの暗号か?




    よし、冷静に考えるんだ……




    まず日本語に直訳すると……口にパチンか?




    えっと、これが撮られたのは八九寺とのお約束の掛け合いをしていた時のことだよな……




    犯人はその時に近くにいた人物……




    八九寺自身……ではないよな?




    撮っている場所や角度的にそれはあり得ないし、羽川と会ったのもその後の出来事だしな……




    あれ?ちょっと待てよ……




    パチン……




    何かが弾けるような、このどこか懐かしい感じ




    確か、僕の生涯でこんな感じの音を聞いたのは……




    『感謝しなさい……あのホッチキス、傷が目立たないようにと思って、わざと、外側じゃなくて内側に針が刺さるようにしてあげたのよ?』




    暦「これ、ぜってぇ戦場ヶ原の仕業だ!!」




    こうして僕の波乱万丈な夏休みは、どうにも払拭し難い恥として、ネット上にガハラティックなホッチキスで綴じられたのだった




    ー此れにて終わりー



  172. 173 : : 2014/10/06(月) 13:36:20


    〜あとがき〜


    好きなキャラを好き勝手に書き連ねただけの自己満足SSでしたが、少しでも皆さんに楽しんでいただけたのなら嬉しい限りです( ´ ▽ ` )ノ

    もし読んだ感想などありましたら、お気軽に下のコメント欄にどうぞ(=゚ω゚)ノ

  173. 174 : : 2014/10/06(月) 23:04:44
    執筆お疲れさまです。


    原作では会えない更生前ガハラさんに会えて感激です。

    ストーリーも、何だか西尾先生が実際に書きそうなお話で面白かったです。

    前に中の人繋がりで、調査兵団コスの阿良々木くんと、直江津高校制服のリヴァイ兵長のグッズがありましたが、吸血鬼と巨人ってどっちが強いんでしょうね(笑)

    個人的には、殺しても死なない、強力なエナジードレインの使える吸血鬼の方が強そうな気がします。
  174. 175 : : 2014/10/07(火) 08:40:34

    >>174

    ありゃりゃぎさん、コメントありがとうございます( ´ ▽ ` )ノ

    僕は原作未読で、アニメでしか物語シリーズを知らなかったミーハー野郎ですが、何とか書き終えることが出来ました^^;

    西尾先生の面白さには遠く及びませんが、楽しんでいただけたのなら書いた甲斐がありました!!

    ちなみに、僕も吸血鬼の方が巨人よりも強いと思いますw

  175. 176 : : 2014/10/07(火) 17:29:50

    西尾先生の作品の二次はとても難しいのに、流石です!会話のテンポやネタが原作風でとても面白かったです。

    戦場ヶ原様への片恋をこじらせている私としては堪らなく興奮して滾りました(笑)
    一時はどうなるかと切羽詰まりましたが、美少女達の可愛らしい計画で、思わずなんだってー!と驚いてしまいました。

    クッソ…暦お兄ちゃん羨ましい!!

    本当にお疲れ様でした(*´∀`*)ノ

  176. 177 : : 2014/10/07(火) 20:34:44

    >>176

    卿さん、コメントありがとうございます( ´ ▽ ` )ノ

    卿さんの仰る通り、西尾先生の二次は敷居が高いので、恐る恐るの初トライとなりましたw

    おかげさまで色々とキャラの言動を妄想していく楽しさを改めて確認出来るいい機会となりました

    ちなみにガハラさんは僕も大好きなキャラです!!今度はヴァルハラコンビの中学時代を書いてみようかなと思っています(o^^o)

  177. 178 : : 2014/10/09(木) 13:06:41
    遅読陳謝!です!やっと仕事に一段落
    できて読む時間が得られました!いやあ面白い!
    面白かったです!!本来敷居の高さというのは
    あったとしてもそういうのを気にせず楽しめるのが
    ssというものの良い所だと思うので、
    やはりガンガン当たっていくべきなのだと
    思いますね!グッジョブです!!(*´ω`*)b


  178. 179 : : 2014/10/09(木) 13:39:12

    >>178

    夢馬さん、コメントありがとうございます( ´ ▽ ` )ノ

    8月頃、この化物語SSを完成させると予告しておいて、かなりの遅筆になってしまいましたw

    その分、今回の執筆は特段に思い入れが強かったです!!

    次回はもう少し西尾先生成分を吸収してから、じっくりコトコト煮込んだ化物語SSを書けたらいいなと思っております(o^^o)

  179. 180 : : 2015/03/01(日) 22:28:48
    カンツォーネさん!

    一言言わせて頂きます


    ぱないの!!!



    お疲れ様でした!

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著者情報
777

オッドボール三等軍曹

@777

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