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ミカサ『真白な心』―たとえこの身は血に染まっていても―

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  1. 1 : : 2014/07/22(火) 22:14:31
    ミカサ視点の物語です

    シリアスです

    エルヴィン団長が右腕を失ったあの戦いの後のお話

    新リヴァイ班結成の時期

    ミカサが、リヴァイが、104期が、どんな気持ちでエルヴィンのいない穴を埋めようとしたのか、その辺りを書いていきます

    ので、ネタバレは単行本です

    感想はここに下さったら嬉しいです♪
    http://www.ssnote.net/groups/553/archives/1
    よろしくお願いいたします
  2. 2 : : 2014/07/22(火) 22:14:59
    パシュパシュパシュッ…

    軽快に、リズミカルに、アンカーを射出して空高く舞い上がる

    風を切る音が耳に届く

    身体の角度、位置、全てを把握する事で成せる…完璧に近い立体機動のコントロール

    スタッ…
    50メートルの壁…人類を守るためにあるそれの上に着地する

    遠く地平線の彼方まで見渡せるこの壁の上

    ずっとずっと向こうには、一体何があるのか

    気にならないわけがない…けど

    さしあたって今重要なのは

    人類が自由か死か、そのどちらかを選択するという事

    今正に、人類は存亡の危機に立たされていた

    天敵である巨人によって…ではなく、人類同士の争いによって…
  3. 3 : : 2014/07/22(火) 22:15:18
    壁の上から地平線までを警戒しながら、ふぅと息をつく

    あっ…いい忘れていた

    私は、ミカサ・アッカーマン

    訓練兵団を首席で卒業し、100年に一度の逸材と言われている…それが私

    自慢じゃない、事実だから、うん

    その時、風がふわりと髪を撫でる

    少し長くなった髪が口に入って煩わしい

    髪をかき上げると、少し細目の黒髪が風を含んでまた舞い上がる

    そして、また口に入ってしまう

    「…切らなきゃ…」
    私は独りごちた

    この髪を綺麗だと言ってくれる人がたまにいる

    真っ黒な髪は珍しいみたい

    東洋人…の血を引いているかららしい

    いくら綺麗な黒髪でも、そんなものは何の役にもたたない

    この残酷な世界を生き残るには、力と良く回る頭が必要…だと思うから
  4. 4 : : 2014/07/22(火) 22:42:49
    一番の力を持っているのは、調査兵団では、リヴァイ兵長…私は兵長が好きじゃないけれど、それが事実

    好きじゃない…寧ろ嫌い、だからと言って、その人の能力まで侮る程私はバカじゃない

    一番良く回る頭を持っているのは、紛れもなくエルヴィン団長

    でもその人は…

    エレン奪還の作戦中に腕を巨人に食いちぎられて、現在意識不明の重体…

    言うなればエレンの命の恩人だと言える

    エルヴィン団長の作戦がなければ、エレンを取り戻す事は叶わなかっただろうから

    そして、今そのエルヴィン団長の穴を埋めるべく奔走しているのがもう一人、ハンジ分隊長だった

    リヴァイ兵長とハンジ分隊長は二人で手分けして、人類の危機を救うべく奔走している

    私は、私たちは、その二人の指示に従って動いていた
  5. 5 : : 2014/07/22(火) 22:56:57
    「っつ…痛…」
    私は胸を押さえた

    平気で立体機動しているように見えたけど、私は先の戦いであばら骨を折っていた

    二日たてば治る…訳ない

    けれど、じっとしているのがとにかく嫌だった…だから、こうして壁の上の哨戒任務に就いていた

    とはいえ、壁の上を見張れと言われただけで、立体機動で登れとも言われなかったのだけど…

    任務につくのに立体機動装置無しでは、このご時世何が起こるかわからないし…

    だから、命令に背く形だけど、私は立体機動をした

    私は人より身体が丈夫だから、問題ない…はず

    「…いたっ」
    やっぱり胸が痛い

    無理しなきゃ良かった…かもしれない
  6. 6 : : 2014/07/22(火) 23:56:10
    「おーい、ミカサ!!無理すんなよ?」
    壁の上に、また一人兵士が登ってきた

    「…ジャン」
    私はちらりと兵士、ジャンに目をやった

    ジャンは心配そうに私の顔を覗く

    「大丈夫、身体が立体機動を忘れていないか、確認したかっただけ」
    私はジャンに頷いてみせた

    ジャンは何故か後ずさる
    …睨み付けた訳じゃないのに

    こんな感じで、ジャンは私に対してたまにおかしな行動をする…何故だかわからないけれど

    ジャンは訓練兵時代の時には良くエレンと衝突していたけれど、今は少しは仲良くなった…と思う

    憎まれ口ばかり言ってるけど、実はかなり現実的で堅実な考えを持っている、常識人…だと思う

    特にピンチに陥りそうになった時に、それを脱却するための最善の選択ができる人だと思う

    顔は馬面…って良く言われているけど、そこまで長くない

    多少は長いけど…

  7. 9 : : 2014/07/23(水) 07:22:42
    「エレンは…大丈夫?」
    わたしのその言葉に、ジャンは顔を歪ませる

    「あ、ああ、アルミンとサシャが見てくれてる、大丈夫さ。ところで…今夜兵長に呼ばれているんだぜ、俺たち104期」

    ジャンが私に耳打ちをした

    「…そうなの?…何の用だろ、あのチビ」
    私は眉を潜めた

    ジャンはビクッと身体を震わせる
    「ミ、ミカサ…兵長にチビは、本人には絶対に言うなよ?お前は怖いもん知らずだからなあ…」

    「チビをチビと言って何が悪いの?まあ本人に言うほどバカじゃない…から、安心して」
    私は首を傾げながらもそう言った

    「そ、そうだよな。しかし、何の用だろうな?あれかな、ウォールローゼ内の安全宣言の話…」
    ジャンが小声でそう言った

    ウォールローゼ内に巨人が多数出没し、第2の壁が破られたと思われていた

    そのため、ウォールローゼ内の住人は、ウォールシーナの中の地下街へ避難させられていた

    エルヴィン団長と共に帰還して二日…
    やっと住人の避難が落ち着いた所で、また新たなる火種が飛び火寸前であった

    食糧の事だ

    ウォールシーナ内地の食糧備蓄生産では、避難してきた住人の食いぶちのせいで、一週間もたない

    シーナの人間は、招かざる客だと蔑むし、地下街の元々の住人はもっと奥に追い込まれ、不満が爆発寸前だった

    一週間…これを超えれば、最悪の事態が起こる

    それまでに何とか、この不可解極まりない巨人の出没原因を突き止めるのが急務だ

    壁の破壊箇所は何度調べても見つからなかった

    一体壁内に何が起こっているのか…
    私に知る由もなかった
  8. 14 : : 2014/07/23(水) 15:21:41
    夜の帳が降りたトロスト区

    既に全住人の避難は終えて、街は閑散としていたが、調査兵団本部には先の戦いで生き残った兵士達がいた

    調査兵団は、駐屯兵団と共に巨人出没の原因究明と、ウォールローゼ内の哨戒に当たっていた

    団長エルヴィン不在という異常事態の中、なんとか組織として維持できているのは一重に、二人の幹部のお陰だろう

    その内の一人の立役者が、私達104期調査兵の前に座していた…独特なティーカップの持ち方で、紅茶を楽しみながら

    「よう、お前らご苦労だったな」
    団長室の執務机は今や目の前のこの人か、ハンジ分隊長の席になっていた

    意図的なのかは分からないけど、あの人達にはエルヴィン団長不在の代わりを二人で担うために、夜はこうしてどちらかが団長室にいた

    昨日はハンジ分隊長、今日はリヴァイ兵長が団長代理の日…だと勝手に思っていた

    「兵長、僕たちに用とは、一体何でしょうか?シーナの地下街の様子はどうなんでしょうか?」
    矢継ぎ早に質問をするのは、幼馴染みのアルミン

    アルミンは一つでも沢山の情報を入手して、この現状を正しく認識しようとしていた

    だけど、今のところこの状況を把握出来るような根拠は見つかってはいなかった

    それでもアルミンは思考を止めない

    ふとした他愛の無い、他人なら見過ごしてしまう様な事柄から、何かを見つけ出そうと、大きな瞳をぎらつかせていた

    …たまに邪な事を考えて顔を怪しく歪ませて笑う癖だけは、私が育てた子ながら頭が痛い…かもしれない
  9. 15 : : 2014/07/23(水) 17:32:54
    「地下街か、まあ状況は芳しいとは言えねえな。見張りの憲兵団と、避難民、地下街の連中の三つ巴の諍が勃発寸前、小競り合いは日常茶飯事と言った所か」

    兵長は肩を竦めた

    「食べ物、本当に無くなっちゃうんですかね…今日もパン一つでしたし…」
    お腹を押さえながら、ため息混じりに呟くのは、サシャだ

    とにかく食べる事に執着している子だけど、危機察知能力に異様に長けていた

    狩猟民出身だからだろうか…

    「一週間が限度と言われてまる二日…人類最後の日が近づいているのは確実だ。パン一つ口に出来ねえ日が来ることを覚悟しておけ、サシャ」

    兵長のその言葉に、サシャは心底情けない顔をした

    「サシャ、食い意地張りすぎだぞお前。まあ気持ちはわかるけどな!!それまでに何とかすりゃいいんじゃねえか、なあ?」
    殊更明るい声でそう言うのは、コニー

    彼は故郷を巨人によって失った
    母親も行方知れず

    だけど、いやだからかな…とにかくいつに増して明るく振る舞っていた

    …まるで自分自身を鼓舞する様に

  10. 16 : : 2014/07/24(木) 10:42:58
    「お前らは本当に呑気だな…」

    ため息混じりに呟くのは、エレン
    言わずと知れた、私の幼馴染み、そして命の恩人

    私は幼い頃、エレンに命を助けられた

    それからずっと、身寄りが無くなった私を受け入れて、優しく接してくれていたエレン

    私はずっと、エレンを守る事だけを考えてきた

    その為なら命だって惜しくはなかった

    自分より大切な物こそが、エレンという存在だ

    でもエレンは、人類にとって最後の希望
    私だけのエレンでは、もう無くなった

    私の力だけでは、エレンを守りきれない事も知った

    だからこそ私は、エレンを守る事ができる唯一のこの集団…調査兵団にいた

    彼らは今のところ、エレンを守る事を最重要事項と考えてくれている

    私はその間は、この集団に従うと決めていた

    万が一、エレンに仇なすような事が欠片でも見栄隠れしたら、いつでもその対象に刃を向けられるように、常に周囲の行動に注視しながら…

    信じられるのは、自分自身だけだった
  11. 17 : : 2014/07/24(木) 10:43:30
    私は集団にいながら、孤独を感じていた

    守るべき存在のエレンでさえも、最近は私が付きっきりでいる事に不満を口にするようになったから

    皆仲間だ…けど、それは決して一枚岩ではない

    何かの拍子で、誰かが敵にならないとは限らない

    誰が敵か、誰が味方かわからない

    私は、誰かを盲信するわけにはいかない

    エレンを守るためにも

    たとえ孤独であっても…
  12. 18 : : 2014/07/24(木) 12:07:59
    「確かに呑気だぜ、今や人類の存亡の危機に立たされていると言うのにな。さすがの俺も、死に急ぎ野郎に同意だ」

    ジャンが肩を竦めて言葉を発した

    「俺は死に急いでねえっつってんだろ!?もしそうなら、既にお前も同じ穴の狢だ、ジャン」
    エレンは口を尖らせた

    「ジャンは死に急ぎ野郎じゃなくて馬面野郎…いや、なんでも無いぜ!?」
    コニーは、ジャンに鋭く睨み付けられて言葉を濁した

    「皆本当に呑気ですねえ…ああ、お腹が空いた…」

    「あなたが一番呑気…」
    サシャの言葉に、ぼそっと呟いたのは、クリスタだ

    金の髪に大きな瞳の美少女で、性格も見た目と同じ様に心優しい…だけど、先の戦い以降少し雰囲気が変わった

    笑顔が多かった表情は、仏頂面にとって代わり、優しい言葉は、皮肉な言葉にとって代わった

    彼女の本名…ヒストリア・レイス

    彼女の豹変には、この本名を隠さなければならない事情が関わっているらしい

    彼女もまた、人類にとって何か重要な役割を担っているらしかった
  13. 19 : : 2014/07/24(木) 13:28:55
    「さて、そろそろ本題に入っていいか?」
    リヴァイ兵長の言葉に、一同押し黙った

    いつも鋭い視線は少し和らいでいる様に見えた…いや、違う

    多分疲労の色のせいだろう、瞳に力があまり感じられなかった

    どんな状況でも、その瞳に宿る力は健在だったのに…それほどまでに今の現状は酷い有り様だということか

    エルヴィン団長の抜けた穴は、大きすぎたのかもしれない

    「実は、お前らに辞令がある」

    兵長のその言葉に、一同目を見開く

    兵長の口から語られる一字一句漏らすまいと、私は耳を澄ませた

    「…お前ら全員を、特別作戦班として運用する事になった。これからは全員寝食を共にしてもらう」

    兵長の言葉に、ジャンが手をあげた
    「なんだ、ジャン」

    「…あの、それは、要するに俺たちは
    リヴァイ班になるんですか?」
    ジャンが恐る恐ると言った体で質問を口にした

    「ああ、そうだ」
    兵長は頷いた

    「兵長、何故僕たち新兵がリヴァイ班に抜擢されたのですか?特別作戦班には、熟練兵が登用されるのが常だと思っていたのですが…」

    アルミンが手をあげて、言葉を発した

    兵長は首を振った
    「ああ、何となくだ。お前ら仲良しだから嬉しいだろうと思ってな」

    兵長のその言葉に、ジャンが反論する

    「兵長!!俺は死に急ぎ野郎と仲良しじゃないっす!!」

    「俺も馬面野郎とは仲良くないです、兵長!!」

    エレンが顔を真っ赤にして言った
    怒っている顔だ

    「喧嘩するほど、仲がいい…」
    私がぼそっと呟くと、兵長が頷く

    「ああそうだ。だからこれからも全員仲良くしろよ?」

    「はっ!!」
    兵長の言葉に誰も反論するはずもなく、敬礼で返事を返した

    私は堂々とエレンと一緒にいられそうで、嬉しかった

    兵長もたまにはいい事をする…なんて少しだけ思った
  14. 20 : : 2014/07/24(木) 15:40:58
    「じゃあ解散だ。ミカサは残ってくれ」
    兵長は何故か私だけを残して、人払いをした

    …何か用なのか
    訝しげな表情を隠しもせず、私は兵長に視線を送った

    文句を言われる様な事はしてない…はず

    「…お前、立体機動をしたらしいな。あれほど止めたはずたが?」

    ああ、その事か
    やっぱりこのチビの耳にも入ったんだ

    そう、兵長に口が酸っぱくなるほど、しばらく無理はするなと言われていた

    確かに命令に背いた…でも
    「兵長、でもこの状況で立体機動装置無しで外をうろつく事は出来ません」

    「お前は立体機動を使わなくてもいい所で使っただろうが」

    取りつく島もない兵長の言葉

    「…はい」
    私は頷くしかなかった

    「あばらが折れてるらしいじゃねえか。治るまでは安静に…は無理でも、せめて無駄に立体機動はするな」

    表情は厳しい、だけど口調は何故か…何時もより優しげに感じた

    きっと勘違いに違いないけど…兵長が優しいなんて

    「でも、兵長は脚の怪我をおして、立体機動をしました…」

    「あの時は、必要だったからだ。今日のお前の立体機動は、ただの無駄な動きだ。然るべき時に力を温存しておけ。身体は鈍らせるな、わかったな?」
    兵長は断固たる口調でそう言った

    「然るべき時…」

    「そうだ。お前の力が、必ず必要になる時がくる。近い内にな…お前は自分の成すべき事を自覚しろ。そうすりゃあ今その行動が正しいかどうか、判断できるはずだ、違うか?」

    兵長の言葉に、ぐうの音も出なかった

    「はい、その通りです、兵長」

    「明日からエレンに付け。片時も目を離すな。後…ヒストリアからもな」

    兵長の言葉に、私は素直に頷いた

  15. 21 : : 2014/07/24(木) 16:48:42
    「ミカサ、大丈夫だったかい?兵長に何か言われた?」
    私が部屋を出るなり、心配そうに声を掛けてきたアルミン

    エレン達はは少し離れた所で談笑している様だった

    「ううん、何も…無理に立体機動したのがばれて、注意されただけ」

    「そっかあ、良かった。でも本当に無理しちゃダメだよ、ミカサ。いざという時に戦えなきゃだめだしね」
    アルミンは兵長と同じことを言った

    私はこくんと、素直に頷いた

    「うん、そうする。ねえアルミン、後三日で治る?」

    私のその言葉に、アルミンはぶんぶんと首を振る

    「な、治るわけないだろ!?骨折だよ骨折!!絶対安静にしてなきゃだめだよ!?ミカサ!!」
    私はアルミンに、顔を真っ赤にして怒られた…

    すると、扉がガチャッと開いて
    「ミカサ…人間なら三日で骨折は治らねえ…」
    兵長が部屋から出てくるなり呆れた様な口調でそう言って、立ち去った

    「兵長にバカにされた…チビのくせに!!」

    「チビは余計だよ、ミカサ…それに、さすがに兵長の言葉が正しいよ…」

    アルミンの言葉に、私は彼に鋭い一瞥をくれる

    「アルミンまで兵長の味方を…私が育てたのに…」
    私はため息混じりに呟いた

    「ぼ、僕はミカサに育てられてな…いや、何でもない…。とにかく安静にしてなきゃだよ、ミカサ」

    「わかった…安静にする。腹筋くらいはするかも…」

    「ダメだよミカサ!」

    アルミンの言葉に、仕方なく頷いた

  16. 22 : : 2014/07/24(木) 17:46:12
    調査兵団の兵舎の敷地内の運動場

    私たちは肩を並べて腰を下ろしていた

    エレンはサシャに付き合わされて対人格闘中だった

    月明かりが漆黒の闇に光を射す

    暖かく柔らかな光

    残酷なこの世界には似つかわしくない、優しい光

    いや、残酷なこの世界だからこそ、ただの月明かりがこんなにも美しく暖かく感じるのかもしれない

    私は月に向かって手を伸ばす

    届くはずもないけれど、その優しい光を掴みたかったのかも知れない

    お母さんの様な暖かく柔らかな光を…

    「…ミカサ、お前は月が好きだよな…」
    小さな声でジャンが言った

    「うん、月が好き」
    私は頷いた

    「…ジャン、お前はミカサが好きだよな…ププッ」

    「ちょ、な、何言ってやがるんだコニー!!てめえ!!」

    「うわっジャンが怒ったぜ顔真っ赤!!」

    ジャンとコニーが戯れ始めた

    私が好きだよな…とか聴こえたけど、気のせい

    「…ミカサ、ジャンの気持ちに気が付いているでしょ」
    ぼそっと呟くように言ったのは、クリスタ…ヒストリアだ

    「何の話?」

    「ジャンはあなたに恋をしてる。気が付いてるのにほったらかしはどうかと思う」

    ヒストリアは何を言っているのか

    ジャンが私を好きだとか、考えたことなかった

    というか、今はそんな事に現を抜かす暇はない

    エレンを守る事が最優先なんだから

    「ミカサ、あなたの最優先事項はエレンなんだろうけど…当のエレンはどう思っているのかな。それを喜んでいる?」

    「俺が何を喜んでるって?」

    その時、背後からエレンの声がした

    「ミカサに守られているのを喜んでいるかなってね」
    ヒストリアはエレンに向かってそう言った

    「喜んでるわけないだろ!?何時までも子ども扱いなんだぜ…?そりゃあミカサの方が強いし、俺はいつも助けられてばかりだけどな…」

    エレンはため息をついた

    「エレン、私もあなたに沢山助けられている。小さな頃からずっと…」
    私は慌てて言葉を発した

    「エレンを子ども扱いしすぎだよ、ミカサは。エレンだって立派な…男だよ」
    ヒストリアの言葉と、真剣な眼差しに、私は面食らった

    「私は…エレンを子ども扱いなんか…」

    「ミカサは過保護過ぎるんですよ!」
    サシャが私の頭をよしよしと撫でながらそう言った

    エレンがうんうんと頷いた

    私は、エレンに必要とされていないのかな…

    それどころか、最近避けられている様にも感じるし、もしかして嫌われたのかな…

    そう思っただけで慄然とし、背筋が震えた

  17. 23 : : 2014/07/24(木) 19:12:12
    翌日は、エレンとヒストリアと一緒に、調査兵団本部で雑務に追われた

    他の兵達は皆、哨戒の任務に繰り出して行った

    エレンはじっとしているよりも、外で哨戒任務に当たりたかったらしいけれど、兵長がそれを許さなかった

    安静を言いつけられた私と共に、お留守番

    ヒストリアは、余り言葉を発しなかった

    日に日に、そうなっていってる気がする

    何時も何かを考えている様に、表情を曇らせていた

    「ヒストリア、調子が悪いの?顔色が、良くない」
    私はその表情と顔色に、思わず声を掛けた

    「大丈夫…少し疲れているだけだよ」
    ヒストリアは微笑もうとして失敗したような顔をした

    「雑務は私たちに任せて、ベッドに横になるといい」

    私は部屋に設えてあるベッドを指差して言った

    「そうだぜ、ヒストリア。無理は良くないぞ、何かが起こった時に戦えなきゃいけないからな」

    エレンがヒストリアの手を引いて、立ち上がらせた

    「大丈夫なのに…」
    ヒストリアは不服そうに口を尖らせながらも、ベッドに横になった

    エレンとヒストリア

    何故か、ずっと昔から一緒に手を携えているように、自然に見えた

    お似合いなのかもしれない

    私はそう思いながら、胸がちくちくと痛んだのを気のせいにした
  18. 24 : : 2014/07/24(木) 21:52:33
    ヒストリアは数分後には眠りについていた

    実は夜、ヒストリアと同室の私は、彼女がうなされているのを知っていた

    ヒストリアの出生の秘密は分からない

    レイス家という、どうやら壁の秘密を知る一族の末裔である事が、彼女にとって重荷なのかもしれない

    だけど今やそれが、調査兵団の切り札の一つに扱われ始めている

    巨人エレンの能力と共に…

  19. 25 : : 2014/07/24(木) 21:58:55
    人は生まれてくる場所を選べない

    親を選べない

    だから精々、その環境を甘受し、懸命に、賢明に、生きるしかない

    私もそうだった

    親を殺され、生きる力を失った
    そんな私を暖かく受け入れてくれた、優しいエレン

    エレンがその時に巻いてくれたマフラーは、私の大切な、宝物

    何度も汚れ、穴が開いても、直してずっと首に巻いている

    これがあるから、私は前を向いていられる

    たとえエレンが私とは違う方向を、私とは違う誰かを見ていたとしても

    私の心の中のエレンは、ずっと私の大切な宝物だ

    マフラーを握りしめ、私はいつもそんな事を脳裏に浮かべていた

    自分に、言い聞かせていた

  20. 26 : : 2014/07/24(木) 23:06:33
    「おい、ミカサ?お前も大丈夫なのか?さっきからマフラー握りしめて、辛そうな顔してるぞ。しんどいのか?」

    エレンの声で、私は我にかえった
    仕事の手を止めてしまっていた

    「大丈夫、エレン。少し考え事をしていただけ…」
    私はそう言いながら、また手を動かし始めた

    今日の雑務は、針仕事
    兵士でも、兵服を繕ったり、布団を縫ったり、最低限の事はする

    私は幼い頃から針仕事を手伝っていたから、実は得意だったりする

    身体を動かすことは、その必要があってやっているけど、針仕事は、楽しんでいる…かもしれない

    小さな頃を思い出しながら…ね
  21. 27 : : 2014/07/24(木) 23:18:59
    「ミカサ、無理するなよ?お前は大怪我してるんだからな」

    エレンが私の顔を覗きながら、優しくそう言ってくれた

    嬉しい…心底そう思った

    「ありがとう、エレン…」
    私はともすれば弛みそうになる涙腺を、必死に止めた

    何となくエレンに距離を置かれている様な気がして、寂しく思っていた私の心が、急に暖かくなった気がした

    そういえば、ゆっくり話す機会も最近は全くなかった

    もっといろんな話をしたい…のに、私の口からは思うように言葉が出なかった

    ちらりとエレンに視線を送ると、真剣な眼差しを針と糸に向けていた

    その表情が何とも愛しくて、心の中から何かが溢れ出しそうな、そんな感覚に囚われた

    私は、エレンが好き…なのかな

    保護者として、守るべき対象としてではなく、一人の男として…

    ああ、だめだめ、余計な事は今は考えている暇はない

    エレンを守る

    この事だけを頭に刻み込んで、私はこの世界を生きていく
  22. 28 : : 2014/07/25(金) 10:20:10
    「エルヴィン団長の具合はどうだろうな・・・見舞いにも行けないなんてな」
    エレンははぁとため息をついた

    エレンとヒストリアは、勝手に外を出歩く事を禁じられていた
    自由にしていいのは兵舎内だけ

    もともと活発でじっとしていられないエレンにとっては我慢できない事態だけど、エレンは大人になった

    自分の立場を冷静にわきまえていた

    だから、愚痴をこぼしながらもおとなしくしていた・・・怪我をしているのに立体機動をした私よりずっとエレンの方が大人だと思う

    ただなんだろう・・・
    自分の身体がまともに動けばもっと、事態を良くできたかもしれない

    目の前で私たちをかばって逝ったハンネスさんも助けられたかもしれない

    たくさんの『しれない』が私の頭の中をよぎる

    考えても仕方のない事なのに、考えずにはいられない

    私は大切な物を失い過ぎた

    でも、まだエレンがいる

    エレンだけは守り抜く、私はそれだけを望んでいる

    そのためなら何でもする、血も流す・・・他人の血も、自分の血も・・・
  23. 29 : : 2014/07/25(金) 10:25:56
    「エルヴィン団長の事・・・きっと死んでも死なないと思う。立派な身体だし、あの怪我で馬に揺られて、自力で壁を登った人だし。大丈夫、エレン」
    私は頷きながら小さな声で言った

    「そうだよな、大丈夫だよな。俺たちは団長が戻った時に気持ち良く仕事をしてもらうために雑用頑張るしかないな」
    エレンはそう言ってにやりと笑った

    そんな表情ですら、私には輝いて見える

    エレンの全てが愛しかった

    「う、うん。そう。頑張ろう、エレン」
    私は耳朶の熱さを感じながら、辛うじて返事をした

    「ヒストリアは、疲れているみたいだな、ぐっすりだ」

    エレンの言葉にヒストリアの顔をうかがうと、大きく口をあけて、よだれをすこしたらして寝ていた
    よほど疲れていたんだろう

    あどけない、かわいい寝顔

    「うん、そうね。夜もあまり眠れていないみたいだし。しばらく、そっとしておいてあげるべき・・・」

    「ああ、そうしてやろうぜ。ミカサは針仕事が得意だから、ヒストリアの分までやってしまえるだろうしな」

    「うん、任せて」

    私たちはこうして、束の間の二人の優しい一時を過ごしたのだった
  24. 30 : : 2014/07/25(金) 10:37:58
    「しかし、リヴァイ班かあ・・・俺たちがなあ」
    しばらく黙々と針仕事をしていると、エレンがぼそっと口を開いた

    「ちび・・・兵長の班なんて私は喜ばしくはないけど、エレンの傍にいられるならなんでもいい」
    私はちくちくと兵服を繕いながら、小さな声で返答した

    「おいミカサ、ちびはやめとけよ?俺いつもお前と兵長が対峙している時に生きた心地がしないんだぜ?いつお前が爆弾を投下するかと思うとひやひやでな・・・」

    「そんなに私は信用がないの?本人に向かってちびなんて言わない…と思う」
    私は頬を膨らませた

    「お前、前に兵長に向かってちびって小さな声で言ったりしてただろうが・・・。兵長全部聞いてるんだぜ?いちいち反応しないだけでな。だからもうやめておけよ?」

    「・・・エレンがそう言うならわかった・・・。たまに言うくらいにしておく」

    「もう言うなって」
    エレンは肩をすくめた

    「とにかく、新リヴァイ班としてこれからも一緒にいられる。良かった」

    私はエレンに向かって頷いた

    「もう、腐れ縁に近いよな、俺たち」
    エレンが何故かげんなりとした表情でそう言った

    私はぶんぶんと首を振る
    「私とエレンの仲は腐らない」

    「そういう意味じゃねえって・・・」

    どんな会話でもいい

    エレンとこうして話せる事が、私にとっては何よりの幸せだと感じていた
  25. 31 : : 2014/07/25(金) 11:25:32
    「ぶっはあああ・・・つっかれたぁぁ!」
    食堂で夕食替わりのパンと水を飲んでいると、コニー達が哨戒から帰ってきた

    「コニーお疲れ様。どうだった?状況は」

    私の言葉に、ジャンが首を振る

    「ウォールローゼ内地の西をくまなく探索したんだがな、巨人は見つからなかった」

    「駐屯兵が、壁にもやっぱり異常が見当たらなかったって言ってましたよ・・・」
    サシャが困った様な表情を浮かべながら、私が手にしているパンを凝視していた

    「サシャ、パンはあげない。見ないで」
    私はぎろりとサシャを睨んだ

    「い、いいじゃないですかミカサ。見るくらい、減らないですよ!」
    サシャは頬を膨らませたけど、私は首を振る

    「減るから見ないで」

    「確かにサシャに見られていたら減った気がするよな!ははは!」
    コニーが楽しげに笑った

    「もーコニー!バカにしないで下さいよおーー!!」

    「二人とも元気だなあ・・・尊敬しちゃうよ、僕」
    そう言うのは、哨戒にいっしょに出ていたアルミン

    疲れ切った表情をしていた

    「おいアルミン大丈夫か?お前もう休んで来いよ、顔色がよくないぞ」
    エレンのその言葉に、アルミンはこくんと頷いた

    「うん、そうするよ、エレン。なんだか食欲もなくってさ、パンサシャにあげちゃったんだよ」
    私はその言葉を聞くなり、アルミンの口に私の食べかけのパンをくわえさせた

    「ちゃんと食べなきゃだめ。私は今日はじっとしていただけだから、それ全部食べて」

    「ミ、ファサ・・・ひひのに・・・」
    アルミンはパンを加えたまま言葉を発した

    「ひひのにwひひのにwみふぁさw」
    そう楽しげに笑うコニー

    「アルミンかわいすぎますよーーー!」
    サシャが悶えた

    「ひどいな・・・笑い過ぎだよ!」
    アルミンは頬を膨らませた・・・余計に可愛らしい顔になったと思う

    「アルミン、きちんと食べてね。わかった?」

    「うん、ありがとうミカサ」
    アルミンは私の言葉に素直にうなずいて、笑顔になった

    うん、とってもいい子、さすが私が育てた子
  26. 32 : : 2014/07/25(金) 18:37:56
    今日も一日の報告のために104期全員で団長室に行った

    今日の団長代理は、ハンジ分隊長だった

    ハンジさんは疲れた表情一つ見せずに、笑顔で私たちを迎えてくれた

    「そっかあ、哨戒の方も問題無かったんだね…壁も、今日はトロスト区の東にまで視察を広げたけど、やはり破壊箇所は確認できなかったんだよ」

    ハンジさんはそう言うと、何かを考える様に、瞳を天井に向けた

    「一体あの巨人は、何処から出現したんでしょうか…。やはり人が…」
    アルミンがそこまで言って、口をつぐんだ

    「…そうだね、不可解だよね。一つ考えている事があるけど…もう少し煮詰めたいんだ」

    ハンジさんは力強い瞳を、私たちに向けた

    どんな状況でも抗い、闘い続けた力強い瞳

    その瞳の中の焔は、この様な状況であっても、衰える事はなく、燃え盛っていた

  27. 33 : : 2014/07/25(金) 23:32:32
    「クリスタ、あっ…ヒストリア、大丈夫?」

    ハンジさんとの会議を終え、私はヒストリアと共に部屋に戻った

    相変わらずあまり顔色は良くないし、また痩せた気がするけど、なにしろろくな食事をしていないのだから、当然かもしれなかった

    「…大丈夫、ごめん、ふらついた」
    ヒストリアは私に身体を抱き止められながら呟くように言った

    ユミルが彼女を助けて、何処かへ消えてしまってからと言うもの、たまに呪詛じみた言葉を口に出したり、とにかく精神状態が安定しなかった

    でも、その瞳は以前にまして光輝いて見えた…何かをふっきった様な表情をすることもある

    ヒストリアも、自分の置かれた立場に何とか順応しようとしているのかもしれない

    彼女は、私たちの想像を越えた辛く厳しい立場に立たされているのかもしれなかった

    私が誰も信じられずに孤独であるのと同様に…

    きっとヒストリアも孤独なんじゃ、と密かに感じていた
  28. 34 : : 2014/07/26(土) 09:13:16
    ヒストリアをベッドに寝かせて、私は向かいのベッドに腰を下ろした

    もう一人同室のサシャは、コニーと外で遊ぶらしい…本当に呑気で、元気

    もう、夜なのに

    でも、私は彼らが羨ましいと思っている

    私もエレンと…話がしたい

    遊ばなくてもいいから…

    そう思っていると、ヒストリアが口を開いた

    「ミカサは、エレンが好きなんだよね?」

    「えっ…ああ、家族だから」
    私はとっさにそう返事をした

    何故唐突にそんな事を聞かれるのか、青天の霹靂

    「家族…ね。ミカサはいいよね、生きる目標がある。今の私には…それが無いよ。今の…というか、今までずっと、何で生きてるのか、分からなかった」

    ヒストリアの言葉に、私は首を振った

    「私は、確かに目標がある、けど…。ヒストリアが言った様に、それをエレンが望んでいるかどうか分からない。私にも、分からない事が沢山ある」

    ヒストリアはふぅと息をついた

    「ミカサも分からない事があるんだね。何だか意外。なんでも分かりきってて、猪突猛進しているように見えるから」

    「猪突猛進…はしてる、かも。でもあくまで私の独りよがりの、行動だから…」

    私は俯き、視線を下にしながら考えた

    私の生きる意味は、エレンを守る事

    それをエレンが望んでいるかいないか、そんなことを考える様になったのは最近だ

    「…難しいね、お互い。サシャやコニーが羨ましいよ」
    ヒストリアはため息をついた

    「あの二人も、二人なりに悩んでいると思う。特にコニーは、故郷を巨人に蹂躙されたらしいし。顔に出さないだけ…彼らは偉い…と思う」

    私は顔を上げて、そう言った

    「…そう、だよね、本当に」
    ヒストリアは私の目をじっと見て、頷いた
  29. 35 : : 2014/07/26(土) 09:25:31
    そのままいつの間にか寝てしまい、朝を迎えた

    サシャもいつの間にか帰ってきていて、むにゃむにゃ言いながら安眠を貪っていた

    私はそっと起きて身支度を整え、朝陽眩しい運動場に向かった

    少し身体を動かしておきたかった

    軽いジョギングくらいいいだろう…身体を鈍らせるな、とちびに言われたしね

    そんな事を思いながら、運動場につくと、先客がいた

    「あのちび…」

    私はくるっと踵を返した

    あのちびはジョギングをしていた

    考えてる事が同じ…何だか落ち着かなかった

    そのまま兵舎に戻ろうとすると、背後からガシッと肩を掴まれた

    振り向くと、額に少し汗をかいたのか、前髪を張り付けて、でも息は乱していないあのちびがいた

    「よう」

    「…おはようございます、兵長」

    私はぺこりと頭を下げた

    「今日の夜、お前たちと俺は、ある場所に行く。班員に身の回りの荷物を整理しておくように言っておいてくれ、じゃあな」

    兵長はそう言うなり、踵を返して兵舎に向かっていった

    「…何かが動き出す…のかな」
    私は何となく、そんな予感がした
  30. 36 : : 2014/07/26(土) 16:02:29
    その日私たち104期は、兵長の指示通り身の回りの荷物をまとめ、何時でも動ける様にしてから、任務に就いた

    私とエレンとヒストリアは相変わらず兵団本部から出る事は許されなかった

    エレンはつまらないと不貞腐れていたが、こればかりは命令だから従うしかない

    私はエレンに無理をさせなくて良かったので、実はホッとしていた

    そのかわり、サシャやコニー、ジャン、アルミン…彼らにかなり無理をさせている事を申し訳なく思いながら
  31. 37 : : 2014/07/26(土) 21:02:21
    その夜、私たちはある場所に馬と馬車で移動した

    兵服を着用せず、私服で

    何処へ行くのか分からないけど、随分山深い場所に入っていた

    人里からはかなり離れた場所だ

    皆一様に表情が固かった
    今から何が始まるのか、予想が出来ないからかもしれない

    そうして移動する事数時間…やっと目的地に到着した

    山深い場所に少し拓けた丘の上
    そこに古びた家があった

    「今日からここが、俺たちの寝ぐらだ。俺はまたトロスト区へ戻るが、お前らはしばらく此処で生活しろ」

    兵長の言葉に一同顔を見合わせたが、言葉は発することなく、兵長の後に続いて家に入った
  32. 38 : : 2014/07/26(土) 21:20:14
    中は外ほど古びてはおらず、キッチンに大きめのダイニングテーブル、そしてソファに小さな円卓…

    この人数が生活するには十分なスペースがあった

    「…ちっ…汚えな。時間があれば念入りに掃除したいところだが…今はそんな暇はねえ。とりあえず今日の報告がしたい、全員部屋に荷物を置いた後、ここに集合だ」

    「はいっ!!」

    一同敬礼をし、それぞれ宛がわれた部屋に向かった

    部屋は男女で分かれていた

    サシャとヒストリアは、部屋に入るなりベッドにダイブした

    「わあ、結構ふかふかですよ!!藁の匂いがします」
    サシャは鼻をひくつかせながら言った

    「結構…遠いところに来たよね。私たちは、隔離でもされたのかな…」
    ヒストリアはベッドに仰向けになってそう言った

    「隔離…というか、隠れたのかも…」
    私は何となく思っていた事を、口にした

    「隠れた?何からですか?」

    サシャはきょとんとした

    だけどヒストリアは、真摯な眼差しを私に向けていた

    「…何から隠れたのか、分からない。だって誰が敵なのか、誰が味方なのか、分からないし」
    ヒストリアはぼそっとつぶやいた

    「わ、私たちは仲間ですよう!?」
    サシャの言葉に、ヒストリアはちらりと視線をサシャに向ける

    「そう、信じてるけどね。散々裏切られて、何を信じればいいのか、分からなくなってる。私は私自身すら信用していないし」

    「確かに、ヒストリアの言う通り。今は何が敵なのか分からない状況。分かるのは、巨人とは違う、人間の中に敵がいると言うこと。それが誰なのかはまだ私には分からないけど…」

    私が言葉を発すると、サシャが目を見張る

    「ど、どうしたんですか、ミカサ!!沢山話すなんて珍しくないですか!?」

    「…確かに、ミカサはあまり話さないのにね」

    訝しげな二人に、私は呟くように言う

    「私も…分からない事が多い…不安、なのかもしれない」

    「ミカサが不安だなんて!!あり得ないですよお!!しっかりして下さい!!」

    「…サシャ、私だってたまには不安になる、よ?」

    私はふぅと息をついた
  33. 39 : : 2014/07/26(土) 21:32:38
    定例会議でも、差し当たって状況が変わった事はなく、全員部屋で就寝した

    兵長はまた馬でトロスト区へ出立した

    忙しい人だ…この状況なら仕方がないけど

    顔色も良くなさそうだった…どうでも、いいけど

    でも倒れられては困るしね

    エルヴィン団長の意識もまだ回復しない

    安全宣言の事も、どうなるんだろう

    刻一刻と迫る人類最期の時に、私は背筋を震わせた
  34. 40 : : 2014/07/26(土) 21:43:51
    その次の日、私たちは掃除や買い出しに勤しんだ

    そんな折、私が外で見張りをしていると、誰かが馬で駆けてきた

    銃を握りしめ、視線を向けると…
    見知った顔だった

    「ハンジさん…とモブリットさん」
    私は銃を下ろした

    ハンジさんは馬を降りるなり私に詰め寄った

    「ミカサ、ご苦労様。コニーはいるかな?」

    「ハンジ分隊長、コニーなら中で掃除中です」

    「ありがとう!!」
    ハンジさんは扉に一目散で向かい、開けようとした

    鍵掛かってるんだけど

    「ハンジさん、鍵掛かってるに決まってるじゃないですか、焦らないで下さいよ、もう…」
    モブリットさんが頭を抱えていた

    うん、いつもの光景



  35. 41 : : 2014/07/26(土) 21:47:11
    コニーは結局、ハンジさん達に連れられてトロスト区へ戻った

    きっと何か役割があるんだろう

    コニーがいつになく神妙な顔つきをしていたのが気になった

    そう、まるで自分の故郷を蹂躙された後の様な顔つき…

    何事もなければ、いいんだけど
  36. 42 : : 2014/07/26(土) 22:17:18
    その夜は、いろいろ事態が動いた

    まずはエルヴィン団長の意識が戻った事

    後は、安全宣言を明日出す予定な事

    どうやら今日ついに憲兵と避難民達が衝突したらしく、それを沈静化させるのにかなり大変だったらしい

    兵長が、何時になく疲れた表情をしながら、そんな話をした

    「団長、良かった…俺のせいで右腕…無くしてしまったけど、命は、助かったんだな…」
    エレンは泣きそうな顔をしていた

    私はエレンの頭をそっと撫でた

    「エレンの、せいじゃない…いろいろ重なってそうなってしまっただけ」

    「ミカサ…でもな…」

    「ミカサの言う通りだ。誰のせいでもない。エレンが責任を感じる必要もない。それにな、エレンに助けられて今の自分達がいるのも事実だ、違うか?」

    兵長がエレンの言葉を遮るように、言葉を発した

    「兵長、そう思います。エレンは…エレンの力があったから、俺たちは今生きている」

    ジャンがそう言った

    「お前まで…ジャン」
    エレンは瞳を潤ませた

    私はただ、優しく頭を撫でていた


  37. 43 : : 2014/07/26(土) 23:14:09
    「そうですよ!!エレンは仲間ですよ!!一緒に頑張って来た大切な仲間ですもん!!」

    「エレンってすげえよな、俺は本当に尊敬してるんだぜ?」
    サシャとコニーがこぞってエレンに言葉を掛けた

    ヒストリアは、何も言わずじっとエレンを見つめていた

    けど、その瞳はどこか気遣うように優しげな光を灯している様に見えた

    皆の温かい言葉に、エレンは目頭を押さえていた

    私も何だか、胸が熱くなった

    誰も信じられない、孤独だと思っていたのは、間違いだった

    私には、仲間がいる

    この仲間たちだけは、信用できる

    そう確信した

  38. 44 : : 2014/07/26(土) 23:23:50
    「エレンがいたから、僕はここにいられるよ。そして、皆がいたから、皆がここにいられる。僕は…どんな出会いも、無駄じゃないって思うんだ」

    アルミンが話を始めた

    「人は、人に出会うべくして出会うんだ。偶然じゃなくて、必然なんだ。僕達が出会ったのにも意味がある。過去に出会って道が分かれた人との出会いにも、必ず意味があるんだ」

    私は頷いた

    そうだ、この仲間たちに出会って、皆それぞれ成長しあってきた

    それが、出会いの意味なんだ

    「道が分かれちまった奴らとの出会いも、そうだな。俺もそいつらと出会って自分が変わったと自覚している」

    兵長も、頷いた

    「これからも、この出会いを大切にしましょう、皆さん!!」

    サシャが拳を振り上げた

    「サシャが元気なのは、安全宣言が出て、食糧配給が増えるからだせ」
    コニーがにやりと笑った

    「ははは、ちげえねえ!!」
    ジャンが笑った

    そして皆が笑顔になった

  39. 45 : : 2014/07/26(土) 23:40:13
    その夜、珍しくエレンから、外に行こうと誘われた

    私は見張りだったので、丁度良かった

    外にある椅子に腰を掛けながら、私は周囲に視線を向けていた

    エレンは隣に座って、頬杖をついていた

    「…なあミカサ」

    「なに、エレン」
    私は視線は周囲に向けたまま、返事をした

    「お前はさ…俺と同じだ。人を…殺したことがある」

    「…うん」

    私は視線をエレンに向けて、頷いた

    「皆はそれを知っても、仲間でいてくれるかな」
    エレンは不安そうに目を伏せた

    「…エレン、大丈夫。心配ない」

    私はエレンの手を握りしめた

    「そうかな…」

    「うん、だってあれは、自分の命を守るためだった。それに…例えこの身体が血に染まっていたとしても…」
    私はエレンの胸を指でつんと差して言葉を紡ぐ

    「心は真白。心は血には染まっていない。エレンは真っ直ぐだよ」
    私は頷いてみせた

    「ミカサ…」
    エレンは私の手に、自分の手を重ねた

    「エレン、大丈夫」
    私はエレンに微笑みかけた

    「お前の心も…真っ白だな」
    エレンは指で私の胸をつつこうとして、止めた

    「エレン…?どこ見てるの?」

    「ど、どこも見てねえよ…!」
    エレンは首をブンブン振った

    「胸をつつきたかったの?エレンもそんな年頃…そうね。いいよ、つついても。どうぞ…」

    私は胸を突き出して見せた

    「ば、ばか!!なにやってんだよミカサ!!そんなの頼んでねえよ!?」
    エレンは顔を真っ赤にして叫んだ

    「つつきたいなら我慢しないで。エレン」

    私はエレンの手を取って無理矢理胸に押し付けようとした

    「うわぁぁ!!我慢してねえ!!やめろよミカサ!!」

    狼狽えるエレンは、とても…

    可愛かった
  40. 46 : : 2014/07/26(土) 23:44:13
    私はエレンを守る

    その為ならなんでもする

    エレンが言ってくれた私の真白な心

    例えその部分すら赤く染めても、黒く染めても

    私はエレンを守り続ける

    いつか平和が訪れるその時まで…

    でも願わくば…

    エレンの心は真白のままでありますように…

    ―完―
  41. 47 : : 2014/07/27(日) 00:05:00
    お疲れ様です。
    ミカサの真っ直ぐな心に酔いしれました。
    やっぱり彩華さんの作品は素晴らしいです。
  42. 48 : : 2014/07/27(日) 00:06:44
    >てんさん☆
    読んで頂き、ありがとうございますm(。≧Д≦。)m
    ミカサは真っ直ぐなんですよね、エレンへの気持ちがね!!
    ミカサ幸せになって欲しいです(*´∀`)
  43. 49 : : 2014/07/27(日) 00:17:52
    最高……ちょっと泣いた……
  44. 50 : : 2014/07/27(日) 00:21:09
    >>エレミカ大好きさん☆
    読んで頂き、ありがとうございますm(。≧Д≦。)m
    私はエレンもミカサもあまり書いたことがないのですが、エレミカ大好きさんにそう言って頂けて、本当に嬉しいです(*´∀`)
    泣いてくださってありがとうございます(T▽T)
  45. 51 : : 2014/07/27(日) 15:56:32
    執筆お疲れ様です、ロメ姉さんっ!!!!!!!!

    もう題名に震え、ビビッと来ました。
    何事にも動じることがそうそうないミカサの真っ直ぐな心が揺れた瞬間の可愛いミカサちゃんが見れて嬉しかったですっ(//∀//)
    また、人物の口調や態度が原作と似ていて、驚きました!!!!
    そして、最後の方のエレンがミカサの胸をつつこうとしたところに吹きました。爆笑です。
    そういえば、私もエレンと同じ年なんだなぁ……って考えますね(笑)

    素敵な作品をありがとうございましたm(__)m
  46. 52 : : 2014/07/27(日) 16:18:34
    >らむねさん☆
    読んで頂きありがとうございますm(。≧Д≦。)m
    ミカサは何事にも動じない強い女性ですが、心では沢山葛藤してると思うんですよね
    この話ではその辺りを掘り返してみたくて…
    人物の特徴はなるべく原作に沿うように意識をしていたので、そう言って頂けて嬉しいです♪
    エレンもまだ 15才ですから…つつきたくなるかなあって…w
    最後はシリアスになりきれない私の癖が出ましたねw
    また遊びにきてください♪
  47. 53 : : 2014/07/27(日) 21:21:13
    執筆お疲れ様です!

    原作の合間に本当にこんな話があったんじゃないかと思ってしまう、完成度の高い作品でした!!

    口調とか行動パターンとか…。
    私の脳内では諫山先生の絵で完全に再現されてましたよー!
  48. 54 : : 2014/07/28(月) 02:52:21
    面白かったです!そして最後の胸突っつき...俺がやりたいっていったら殺されそうなので言わないでおきますw
    本当に面白かったので次回の作品も頑張ってください!
  49. 55 : : 2014/07/28(月) 10:10:12
    執筆お疲れ様でした!
    読んでいて身体が震えるほどに、ミカサちゃんの真っ直ぐな心が伺えました。
    この残酷な世界で、白にも赤にも黒にも簡単になってしまうことをミカサちゃんは覚悟しているんですね。
    原作の雰囲気が堪能できて、本当に素晴らしい作品でした!お疲れ様でふ(*´∀`*)ノ
  50. 56 : : 2014/07/28(月) 11:26:32
    良かった。不覚にも圧倒された。お疲れ様
  51. 57 : : 2014/07/28(月) 11:42:18
    >>53
    キミドリさん☆
    読んで頂きありがとうございますm(__)m
    諫山先生の絵で再現…なんとありがたいお言葉でしょう(T▽T)
    口調等は、気を使って書いていただけに、そう言って頂けて嬉しいです♪
    ありがとうございました!!
  52. 58 : : 2014/07/28(月) 11:43:53
    >>54
    アランさん☆
    コメントありがとうございますm(__)m
    ミカサちゃんのファンの方に受け入れてもらえて、こんなに幸せな事はありません(T▽T)
    嬉しいです♪
    またかきますので、よろしくお願いいたします♪
  53. 59 : : 2014/07/28(月) 11:46:16
    >>55
    卿さん☆
    コメントありがとうございますm(__)m
    ミカサの覚悟と葛藤、感じて頂けて嬉しいです♪
    原作に忠実に…再現するように心がけていますので、嬉しいお言葉です(T▽T)
    ありがとうございました(/▽\)♪
  54. 60 : : 2014/07/28(月) 11:47:50
    >>56
    GJさん☆
    読んで頂きありがとうございますm(__)m
    GJさんが圧倒されるだなんて…思わず震えました!!
    嬉しいお言葉ありがとうございますm(。≧Д≦。)m

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fransowa

88&EreAni☆

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