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『自由の翼になぁ~れっ!』

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  1. 1 : : 2014/06/03(火) 11:03:04
    カルラが妻として母として、その最後まで過ごした日々を書いてみました。
  2. 2 : : 2014/06/03(火) 11:04:56
     医者のグリシャ・イェーガーに嫁いだカルラは誰もが羨む花嫁で、両親も将来安泰だと
    安心させていた。だが、新婚当初から、内地へ往診へ行くと言いながら数日家を開けることもあった。

     予定より遅くなっても、何食わぬ顔で帰る夫を迎える新妻は日々不信感が募る。

     シガンシナ区でも比較的に裕福で大きな屋敷に住んでいるカルラは、
    万が一、一人になった場合の自分の生活を考え、夫の行動を問いただすことはしなかった。
     
     息子のエレンを授かり、夫の行動が落ち着くと思いきや、それは相変わらずである。
     寡黙な夫に別の女が、と疑惑を向けても妻として感じられる他の女の影は見つからない。

     エレンを父として可愛がるグリシャに妻さえ知らない別の顔があるのか、
    という言い知れぬ疑いが過ぎるとカルラは夫を直視できないこともあった。  

     幼いエレンを連れて屋上の干し場で洗濯物を干すのがカルラの楽しみの一つである。
     エレンが、母が洗濯物を干している最中、真っ白なシーツの後ろに隠れ、突然顔を晒し、母を笑わせる。

     その顔は両人差し指を口に突っ込んで、思いっきり左右に開いた満面の笑みだ。
     大笑いする母親にエレンが自ら進んで行うイタズラである。

    「もう、エレンったら、変な顔作って! 母さんをビックリさせて、どうするの! 待ちなさい!」

     洗濯物を干したあと、母から逃げるエレンを捕まえ抱き上げ頬ずりする。はしゃぐエレンの
    甲高い声は耳に残り、その声さえカルラにとって幸せなひと時であった。

     エレンを抱っこしながら、二人で大空を眺めていたとき、数羽の鳥が壁の向こうへ
    飛んでゆく優雅な姿を目撃していた。

    「とりさん! とりさんだー!」

     上空の鳥に両手を伸ばし、エレンは捕まえるような仕草をして再び母を笑わせた。

    「もう、エレンは鳥になりたいの? そうだね……鳥だったら、どこにでも行けるよね、壁の外でも――」

     エレンを抱きかかえながら、思わず本音をこぼすカルラは歯を食いしばり言葉をつぐんだ。

     壁内では壁の向こうへ憧れることは誰もが知るご法度である。屋上から地上を見渡し、誰かに聞かれていないか、家の周りを隅々まで確認するが誰もおらず、カルラはホッと胸を撫で下ろした。
     
    「エレンだけじゃない……好奇心旺盛な子供たちを……この狭い壁の中に押し込めるのは……」

     鳥が壁の外へ飛んでいって、その姿が視界から消えるまでエレンは手を振っていた。息子の
    柔らかい髪に自分の頬を摺り寄せるカルラはため息を付く。カルラはもちろん、壁の外に
    巨人が未だに存在することは知っている。約100年、鉄壁が人間を守っているとしても、
    それでも小さな世界だけで生きるには狭すぎるとカルラは常々感じている――

     それはカルラの心の奥底に秘めた野心であり好奇心で、夫にさえ打ち明けたことはない。
  3. 3 : : 2014/06/03(火) 11:09:34
     当時の幼いエレンは言葉をうまく操ることは出来ず、単語を発する程度だった。

     それでもカルラはエレンと屋上で過ごすとき、鳥が壁外に向かい飛ぶ姿を目撃しては
    息子を抱っこして積極的に見せていた。

    「エレン! あの鳥たちのように、おまえもいつかどこまでも羽ばたくんだよ!そしておまえが
    大人になる頃、あの壁がなくなり、自由な世界になるといいね!」

     カルラは大空に向かい、エレンを『高い高い』をしながら抱き上げた。きゃっきゃとはしゃぐ
    エレンの笑顔に再び本音が口走る。

    「エレン! 鳥のように自由になって、飛んでいけー! 自由の翼になぁ~れっ!」

     飛ぶ鳥に目掛け『高い高い』をしながらエレンへの愛情から飛び出した言葉に改めて
    口を閉じ、エレンをぎゅっと抱きしめていた。恐る恐る地上を眺めても誰も歩いておらず、
    カルラは自分の行動とはいえ、深いため息をついた。

     エレンが成長すると、喧嘩っ早い性格の影響で友達が少なかった。唯一の友人である
    アルミン・アルレルトは大人しくて、身体もエレンと同い年にしては小さいが、頭の回転が速く
    あらゆる観点から物事を判断する子供、とカルラ感じていた。エレンと仲良くして、アルミンが
    少しでも生きる知恵をエレンに授けてくれたら、とカルラは願っていた。
     
     あるとき、エレンがアルミンと遊んで帰ってくると、目が爛々としてテーブルについて
    夕食が出てくるのを待っていた。

    「ねぇ、母さん、『うみ』って知っている……?」

    「どうしたの、エレン…?」

     突然のエレンの問いにカルラは首をかしげ、調理の手を止めていた。

    「『うみ』ね…母さんは知らないな……」

    「そうか、母さん……知らないんだ…!」

     エレンは含み笑いをしながら、母が調理をする姿を見ていた。カルラが味付けでちょうど
    塩が入った容器を手に取ったとき、再びエレンが自慢気に口を開く。

    「その『うみ』には塩が取りきれないくらい、いっぱいあるんだぜ!」

    「もう、エレンったら何を言っているの? この塩はウォール・マリアで取れる岩塩で
    王政府から支給されているって、あんたも知っているでしょう?」

     エレンの元に身体を向けるカルラは呆れた顔を晒すが、息子はふふん、と
    声を出して笑うだけだった。

     母が作った料理をおいしそうに食べるエレンの向かい側に座るカルラは頬杖をつく。

    (この子は…アルミンから何かを教わったのかな…私の知らない『うみ』に塩があるとかって…
    ホントにいつか、壁の外に行くかもね……この子たちは――)

     エレンがお代わりを要求して、母の前の前に皿を突き出し、笑みを浮かべカルラは
    再び台所に立った。
  4. 4 : : 2014/06/03(火) 11:11:27
     エレンが9歳になったある冬の日、エレンが父のグリシャと共に往診に出かけた。
     その日は寒くてカルラはエレンにマフラーを巻いて送り出していた。
     帰宅時間をとうに過ぎても、深夜近くなっても、二人は戻らない。グリシャが一緒のため、
    カルラは深く気にすることなく、一人で横になって待とうと思った矢先、家のドアが開いた。

    「おかえり…ずいぶん、遅かったわね…エレン、どうしたの……?
    それに、この子は誰…? あなた、何があったの…?」

     エレンの眼差しは厳しく殺気立ち、見知らぬ女の子をグリシャは連れてきていた。

    「カルラ、すまないが……二人に温かい飲み物を……」

    「わかった、すぐに用意できるから」

     二人をテーブル席に座らせ、カルラは夕食で作っていたスープを差し出した。
     グリシャと目が合うと、彼は妻を隣の部屋に来るよう呼び寄せた。

    「ねぇ、何があったの…?」

     ミカサ・アッカーマンというエレンと同い年の女の子はうつむくだけで、黙っていた。
     
    「カルラ、落ち着いて聞くんだ……」

     疲れきった表情の夫はゆっくりと話し出す。グリシャがアッカーマン家を往診で向ったとき、
    すでにアッカーマン夫妻は強盗に刺殺され、娘のミカサが連れ去られていた、とわかった。

     グリシャが憲兵に知らせに行っている合間、犯人をエレンが見つけ出し、ミカサと共に3人の
    強盗を反撃の如く刺殺した、という経緯だった。
     その話を聞きながらカルラは目を見開き顔色が悪くなってゆく。

    「正当防衛とはいえ…やりすぎだ…3人は王都で指名手配になっている人身売買で有名な
    強盗団だとわかったんだが……」

    「エレンたちは…どうなるの…?」

    「そのうち憲兵団から連絡がくるだろう、それで二人の処遇がきまる…あとは彼等に任せるしかない」

    「そんな……」

     この指名手配の3人を憲兵団が何度も取り逃がし、幾多に渡り、苦々しい思いをさせられていた。

     そのため、憲兵に追い詰められた3人が最後の抵抗の意思を見せたとき、止む無く射殺した、
    ということを表向きに発表していた。 グリシャには今後、二人の行動を憲兵団が監察すると
    告げられていたが、その後、イェーガー家の周りに憲兵を見かけることはなかった。

     ミカサはうつむいたまま、黙ったままである。エレンのマフラーを巻いているが、
    その日の寒さで息子が巻いてあげたのだろうと、カルラは察していた。
     
    「ミカサ、マフラーを取って食事をしたら…?」

     頬は引きつったままのカルラの問いにミカサはマフラーに手を触れ首を左右に振った。
     先にスープを食べていたエレンが顔を上げる。

    「母さんのスープ、美味いぞ! 食えよ…」

    「うん…」

     小さく返事をするミカサはエレンに促されるとようやく、スプーンを手に取った。

    (喧嘩っ早いエレンがまさか…人を……)

     唖然としながら息を呑むカルラは、目の前のミカサを守る為とはいえ、何とも例えがたい
    複雑な気持ちが織り交ざる。二人が食事をする姿を見ながら、ミカサが気の毒だと思うと同時に
    エレンがしたことを考えると、彼女を自分の娘として育てることを決意していた。
  5. 5 : : 2014/06/03(火) 11:13:22
     ミカサはその夜以来、エレンに巻いてもらったマフラーを余程気に入っているのか、
    外す様子はない。

     また一緒に食事の用意をしたり、家事を手伝うとき、ありがとう、ポツリとつぶやいても
    笑顔を浮べることはなかった。

    (両親を目の前で……それなら、仕方ないのか……)

     一生懸命、自分の手伝いをするミカサの笑顔を見たい――。カルラは心から願う。
     
    「ミカサ、そのマフラーも一緒に洗おうよ、今から洗濯するから――」

     ミカサは俯き体をカルラから背け、拒否を身体で現す。よっぽど身につけていたいんだ、と
    カルラが思うと、再びミカサに笑み向ける。

    「じゃ…洗い方を教えてあげるよ!」

    「……うん…」

     小さくミカサがうなづき、カルラはそのまま洗い場に連れてゆく。

    「まずね、ぬるま湯につけて、押し込むんだよ」

    「うん…」

     木製のタライで二人がマフラーを洗い始めるが、ミカサは元々器用なのか、
    すぐに洗い方を覚えていた。
     小さな手でマフラーを洗うミカサにカルラは微笑んだ。

    「たまには……こうして洗いなさい」

    「うん……」

     その日の天候の晴れ空は、どこまでも広がっていた。もちろん、壁の外の向こうまでも。

     太陽の光に細める二人は屋上の干し場にたくさんの洗濯物を抱えやってきていた。

    「マフラーとか、毛糸類はね、陰干しするんだよ…!」

    「お母さんに……教えてもらったこと、あるよ……」

    「やっとしゃべったね、ミカサ!」

     声を発するミカサに思わず、肩を抱きしめるが、それでもミカサは俯いたままだった。
     すべての洗濯もを干して、屋上の欄干にもたれていると、二人の上空に鳥が羽ばたいていた。

    「エレンが幼い頃って、ああやって、飛んでいる鳥を見上げるのが好きだったんだよ!」

    「そう…」

    「自由になーれ、自由になって飛んでいけー! 自由の翼になぁ~れ!
    ってよく高い高いをしたな…でも、内緒だよ! 憲兵に見つかったら一大事だから!」

     カルラが笑みを浮かべ、高い高いの仕草をしながらミカサと話していた。
     かすかに笑うミカサのその小さな笑みに、カルラは手を差し伸べ
    その幼い手のひらをギュッと握っていた。

    (いつか…その悲しみの過去からミカサが自由になりますように……)

     無限に広がる大空に空ろな眼差しを送るミカサにカルラの願いは二つに増えた――。
  6. 6 : : 2014/06/03(火) 11:15:03
     ミカサが家族になっても、エレンの喧嘩っ早いところが治ることはなかった。昔からの
    馴染みである駐屯兵のハンネスが怪我をしたエレンを連れてくることも多々あった。

    「……エレンはアルミンを守ろうとして、いじめた奴等とケンカになるんだが…しかし、
    毎回の如く、結局はミカサが成敗するんだよな」

     イェーガー家の前でハンネスは豪快に笑う。隣に立つエレンは不機嫌で、母の視線から
    顔を逸らしていた。

    「ハンネス、わざわざ、ありがとう……もうこの子はまったく…いつか、あんたはミカサを
    守れるような男になりなさいよ!」

     叱りつけるカルラの止めに入り、ハンネスはエレンを庇う。

    「いや、カルラ、エレンを見ているとどんなに殴られても、相手に挑むんだ。しつこいくらいな!
    見てて清々しい根性が見物でね……こいつが、こうして暴れていられるのが、
    壁内の平和の象徴みたいなもんだろう……」

    「しょうがないね……この子は」

     再び豪快な笑い声を見せるハンネスにカルラはため息がもれる。
     毎度のお礼としてカルラはハンネスにお酒のボトルをあげていた。
     ハンネスがまたケンカを頼むと、エレンを茶化すと不機嫌に家の中に入っていった。

    「エレン、じーっとしてなさい」

    「母さん、痛い!」

    「男がこれだけで痛がるんじゃないの!」

     テーブル席に座り、傷のある顔をしかめ母の手当てを受けるエレンの不機嫌さは増すばかりだ。

    「だけど、ミカサは……傷が見当たらないけど、怪我はしてないの?」

    「こいつが一番、強いんだよ!」

    「へーっ! そうなんだ、エレン、ミカサを守るためには本当の男にならなきゃいけないね」

     カルラがエレンとミカサに目配せをしながら、笑い声を上げた。ふくれっ面を晒すエレンに
    ハンネスが言っていたことを思い返す。

    (この不機嫌な顔が……平和の象徴なの…?)

     息子がケンカをしては怪我の手当てをする、という平凡で何気ない日常を過ごしながら、
    刻々と運命のその日は迫っていた。
  7. 7 : : 2014/06/03(火) 11:18:18
     カルラが昼食の用意をしていると、エレンとミカサが蒔に使う小枝拾いから帰ってきて、
    夫のグリシャは内地に診療に行く準備をしていた。カルラが台所に立ち、
    二人が昼食に手を伸ばそうとする最中、ミカサがポツリとつぶやいた。

    「エレンが……調査兵団に入りたいって……」

     その一言にカルラは目を見開きエレンに詰め寄った。

    「エレン! 調査兵団なんかに入ってどうするのよ…!」

     エレンが調査兵団へ気持ちは熱く、グリシャは妖しい笑みを浮かべ、二人のやり取りを見ていた。

    「……人の探究心なんて、簡単に抑えられるものではない…」

     エレンを咎める最中、夫の一言にカルラは驚かされた。

    (まさか…私の壁の向こうの野心に…あなたは気づいている……?)

     母は反対でも、父が賛成の意思を示すことで、エレンは笑顔でグリシャを玄関先まで見送る。

    「エレン、診療から帰ったら、秘密にしていた地下室を見せてやるよ……」

    「父さん、本当!? いってらっしゃーい!」

     笑顔で父を見送る眼差しは好奇心で溢れていた。地下室は妻のカルラさえ何があるのか
    聞かされていない――

    (あの地下室…何があるの……)

     夫はたまに地下室に篭ることがある。治療か何かの研究だとカルラは思っていた。

     だが、治療に関係する研究成果を息子に見せることは、一体、何があるのかと、想像できない
    カルラは息を呑んだ。

     エレンの調査兵団に入りたい、という意思は固く、カルラに反抗しては、そのまま家から
    飛び出していった。いつものことと思いつつ、カルラからため息が漏れる。

    「ミカサ…エレンは危なっかしいから、お願いね……」

    「わかった、おばさん……」

     エレンを追いかけるミカサを見送り、食事の片づけをしよう思いながら、玄関先から
    大空を見上げる。カルラはこの頃の天気のよさに感心していた。

    「あ、そうだ…忘れていた、洗濯物を取り込まなきゃ……」

     カルラはエレンのことを心配しながら、そのまま屋上の干し場に向った。

    「今日も天気がよくて、洗濯物が気持ちよく乾いてる…!」

     乾いたシーツから漂う太陽の香りにカルラはいつものことながら、小さな幸せを覚える。
     部屋に戻り、カルラが機嫌よく山のような洗濯物を前にして、すべてを畳み終えようとしたときだった。

     突如、カミナリが轟き、イェーガー家の全体が共鳴するように軋む。

    「いきなり……何…? さっき、青空だったのに…まさか、嵐でもくるのかしら…?」

     カルラが洗濯物から離れ窓の外を眉をしかめながら見上げても、青空に変りはない。

     ちょうど外門に繋がる壁上付近から、白い煙がモクモクと上空目掛け立ち上っていた。

     風がないのか、ゆっくりと上る煙に不気味さを感じたその時、真っ赤な巨人の顔がぬうっと姿を晒した。

    「な、何…今のは……!!」

     驚きのあまりカルラは窓際から離れ身を仰け反らす。直後、超大型巨人が外門を蹴飛ばし
    突き破った。次に、大きな瓦礫がシガンシナの上空を襲う。巨人が外門から入る前に
    瓦礫が各々の屋根や逃げ惑う人々に直撃しては、瞬く間に命を奪っていった。

     カルラが窓際から身体を仰け反らせ、赤い顔の巨人にうろたえる最中、イェーガー家の
    屋根が落ちて、カルラは考える隙を与えられず、下敷きになっていた。 

     全身に耐え難い痛みが走る。どうにか頭だけは無事で意思は保っていた。瓦礫を背中に
    抱えその身体に近づく地響きを感じる。

    「まさか…これは、巨人が……やったのか……エレンはミカサはどこに行った……」

     遠のく意識の狭間、カルラは二人の無事を願うしかないが、朦朧としながら、聞き覚えのある
    声が響く。

    「母さん! 俺が助ける――」

     エレンの叫び声に二人に会えて嬉しいと思う同時にカルラはこの事態で自分よりも
    子供たちの命を助けたいと切に願う。

    「おまえたち、逃げなさい、これは……巨人の仕業だろ、直ぐに…逃げなさい」

    「俺は…母さんを助けるんだよ!!」

    「母さんの足はもうだめだ……ここから出られても、動けないよ」

    「おぶってやるよ、俺が…!」

    (この子は…最後の最後まで、どうして私に歯向かうのよ……お願い、逃げてよ……
    だけど、エレン…私のところに生まれてきてくれてありがとう……
    ミカサ、ウチの子になってくれて、ありがとうね……)

     泣きながら瓦礫の下の母を助けようとする必死な子供たち見つめ、死の間際と感じても
    カルラは辛うじて意識を保っていた。
  8. 8 : : 2014/06/03(火) 11:20:33
    (……救世主がきたよ、二人とも…)

     目もかすむ最中、エレンとミカサの背後から立体起動を操作させ、ハンネスが助けにきたと
    カルラは気づく。

    「ハンネス、二人をお願い…」

    「見くびっちゃ困るぜ、俺はおまえも助けてやるよ!」

    「いっちゃだめーー!」

     カルラの弱々しい叫び声を無視しながらブレードを抜くが、ハンネスは目の前の巨人の不気味な
    笑みに足が震えてしまった。

     巨人にたじろぎ、ブレードを収めハンネスはエレンとミカサを抱きかかえ、その場から離れた。

    (カルラ、すまない…俺に巨人に挑む勇気が……)

     ハンネスに二人を頼むと、カルラは最後の力を振り絞り3人に叫ぶ。

    「エレン、ミカサ…生き延びるのよーー!!」

     力尽きたカルラは3人が遠く離れゆく姿、エレンの涙顔を見ながらふと、家族4人が過ごしていた
    何気ない日常が逆巻いていた。グリシャと出会った頃、家族の他愛もない会話、ミカサが来てくれたこと――

    (ミカサにも……母さんって呼ばれたかった……)

     巨人が大地を蹴り地響き共に近づいきていると、カルラは身を持って感じる。
     それが収まると巨人が自分を見つけたのだと察知していた。

    「……自由になって、飛んでゆけ……自由の翼になぁーれ……」 

     混濁する意識の元、カルラは最後に屋上の干し場で幼いエレンをあやしていたことを思い出す。

     気がつけば、カルラの脳裏にはこれまでの人生で一番の幸と感じた様々な瞬間が過ぎっていた。

    「行かないで……」

     3人の姿が小さくなり、口から出た本音を手のひらで押さえつける。巨人がカルラに的を絞り
    瓦礫を払いのけながら、その身体を鷲づかみにしていた。

    「どうして…おまえなんかに……私の幸せを奪われなきゃならないの、どうしてよ、どうして…!!」

     泣き叫ぶカルラは最後の最後の力を振り絞り、巨人に抵抗するが、それは巨人にとっては
    悲しいくらい些細な微力であった。

     カルラの死の間際の視界に壁の向こうに飛んでゆく、夕暮れのオレンジに翼を広げた鳥の姿が映る。

    「私も…自由の翼が欲しかった――」 

     最後の願いも虚しく、カルラは巨人の身体に飲み込まれた。

     崩れ落ちたイェーガー家の屋根には、カルラの血の涙が雨粒のように降り注がれ続けた。
  9. 9 : : 2014/06/03(火) 11:21:54
    ★あとがき★

    カルラにとっても自由の翼は、必ずしも調査兵団に繋がる、というわけでなく、
    自由に大空に羽ばたく鳥の翼をエレンにも持って欲しい、そして自分も欲しかった、ということ。
    エレンの壁外へ憧れてる気持ちは、幼い頃からのカルラの影響であり、
    アルミンとの出会いで、それが開花する、ということがあってもいいな、と想像していました。
    進撃の巨人のキャラは年齢幅が広いせいか、様々なキャラの立場の妄想が出来ると思います。
    大きくなったエレンが調査兵の制服を着て、カルラの前に立つ。エレンはカルラより
    背が伸びて、それでもカルラはエレンの頭を撫でようとする、という絵をyoutubeで
    初めて見かけたとき、不覚にも泣いてしまいました。その絵を思い出し、
    エレンやミカサの成長の裏で、カルラの想いを妄想としてSSを仕上げてみました。
    タイトルのセリルはカルラが幼い頃からエレンに自由の翼を託す思いを一番の表現が
    『自由の翼になぁ~れっ!』ということであり、最後が最後なので、このセリフが始まりだと
    全体的に和らぐのではないかと、勝手に思っています。。
    生き延びるエレンたちを…これからも見守りたいものですね。

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女上アサヒ

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