東京喰種[one-eyed]ネタバレ
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                  - 1 : : 2016/02/08(月) 23:23:46
- 不定期で現在執筆&構想中の東京喰種[one-eyed]のネタバレです。気になる方は是非ご覧下さい。
 
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                  - 2 : : 2016/02/08(月) 23:45:22
 #009「爽失」(仮)
 「ご無礼を承知で、お聞きしてもよろしいでしょうか」
 「…………これ以降ぼくに敬語を使わないと約束してくれるのなら」
 「それだけは私の本懐ですので、賛成致しかねます」
 「ですよね。どうぞ、何なりと」
 「彼方さんは、好きな人っていらっしゃるんですか?」
 「はい?」
 思えば、それは彼女の発した唯一の女性としての言葉だったのかもしれない。その時ぼくは、蕾さんの瞼の裏に浮かぶ何か混沌としたものを垣間見ていた。垣間見ていた、はずだった。
 「別に…………いませんよ」
 嘘をついた。ぼくに嘘をつかれた彼女は恐らく、ぼくの心の奥底に内在する未練がましい残滓に気づいているだろうことは、想像に難くない。一言で言えば、残念そうな顔をしていた。けれども、彼女の顔に貼りついて剥がれない表情は、その一言で片付けていいほど単純な代物ではなかった。少なくともぼくには、そう見えた。
 「……蕾さんは、いるんですか?」
 不適当に唐突で、とりとめのない話の落とし所を求めながら、ぼくは何かを感じていた。言葉には言い表すことはできない、且つ無視できない何かだ。先程から彼女の瞳の奥で見え隠れしている何かだ。その何であるかは、互いに察していた。そして、お互いそれには特に触れなかった。触れてはいけないような気が、した。
 「私には、好きな人がいます」
 生唾を飲み込んだ。
 「彼はとっても強くて………強くて靭くて、いずれは私の知らない、どこか遠くへ行ってしまうような気がするんです」
 肩を竦めた。
 「でも本当は、傷付きやすいガラス細工のように繊細で、優しいが故に優しさに飢えて、いつも孤独に怯えています」
 目を伏せた。
 「けれども、私の前では強がってばかりで、鼻先をさすって哀しそうに笑うんです」
 眉を寄せた。
 「私は、そんな彼を助けたいんです」
 手の平に顔を埋めた。
 もう、何も見えない。
 「こんな私に、何ができるんでしょうか……」
 走り出して、逃げたくなった。
 逃げ出したい。卑怯な衝動に駆られた。
 幸か不幸か、珍しく雨は降っていなかった。
 ぼくは全身全霊、全力で震える拳を握りしめて言った。
 「さぁ。何だろうね……………」
 
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                  - 3 : : 2016/02/14(日) 18:47:09
 #011「兄妹」(仮)
 雨音が、聞こえた。
 雨が降っている。吐き気を誘う汚水が流れる排水溝に、滝のように流れ込む雨水が教えてくれた。地下にいると時間の感覚が狂う。けれども今は夜のようだ。雫の落ちる音がいつもより余計に、それでいて無駄に綺麗に響く。
 「お兄ちゃん、お姉ちゃん、だぁれ?」
 「つぼ、みさん………?」
 「つぼみさんってだぁれ」
 この子が恐らく、恵兎。功膳の、娘。
 重なる。似ている。重なった。破けてしまいそうな白い肌を、薄く粗悪な布で覆っただけというみすぼらしい格好こそしているものの、今は亡き彼女と、無性に重なった。馴れ初めは衝突の彼女。ラッキースケベという名の歪んだ運の巡り合わせで、知り合った彼女。ぼく唯一の救いとなった彼女。ヒトならざる生き物だった彼女。ぼくが救った彼女。ぼくが巣喰った彼女。ぼくのメイドだった彼女。ぼくの腕の中で冷たくなっていった彼女。ぼくのために死んでいった彼女に、そっくりだ。正に生き写しだった。その髪、その鼻、その耳、その唇───その身体。そして最後に恵兎の眼を見て、悟った。
 「お兄ちゃん、なんで泣いてるの?」
 この子は蕾さんじゃ、ない。
 この子は蕾さんには、なれない。
 「君は…………恵兎?」
 「知りたい?」
 そう言った恵兎の顔は、ぼくの知らない貌になっていた。先程まで蕾さんと重なっていた彼女は、いつの間にか居なくなってしまった。ぼくが背筋に言い知れぬ寒気を感じた刹那、歓喜に震える彼女の下唇は、シニカルにめくれ上がった。
 「じゃあ──────」
 言うが早いか、蠍さんはぼくのシャツの襟を強引に引っ張った。次の刹那には、意識だけを残してぼくの身体は完全に恵兎の赫子の圏外に在った。残されたぼくの意識を切り裂き、彼女は邪気たっぷりに笑って言った。
 「──遊ぼう?」
 赤く紅く、緋く赧く染まったのは右目のみ。
 ぼくと同じ、隻眼だった。
 
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                  - 4 : : 2016/02/14(日) 19:17:07
- あれ…………?
 蕾さんもしかして…………
 
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                  - 5 : : 2016/02/14(日) 20:36:10
- >>4ご推察の通り、です 。
 本編続きに乞うご期待! w
 
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                  - 6 : : 2016/02/14(日) 20:49:08
- わぁ楽しみです。
 彼方くんがどのようにして大切な人を失うのか。
 期待しております。
 
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                  - 7 : : 2016/02/15(月) 00:06:07
- 何ですかこのチラ見せは!続きが気になるじゃないですか!
 ところで、恵兎ってあのエトですか?
 
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                  - 9 : : 2016/02/15(月) 14:51:23
 #010「青桐」(仮)
 「得物は常に失物へ昇華し得る。お前もそれは分かっているだろう?」
 もう、充分失ってきた。
 もはや、喪うことは懲り懲りだ。
 「タタラ」
 「………なんだ」
 「ボクは馬鹿になる」
 「これ以上馬鹿になってどうする」
 「君もなれ」
 「御免被る」
 「……………君さ、悔しくないの?」
 冷たく光るマスクで覆われたタタラの表情は、相変わらず無個性で無表情だった。けれども、マスクの向こう側で唇を噛み占めていただろうことは想像に難くない。
 「- 焔 は竹馬の友だったんだろ?」
 「………………」
 「- 菲 は最愛の部下じゃあ、なかったのか?」
 「……………………黙れ」
 夜通し地を叩き、血涙も吐物も汚濁も悲哀も復讐も憎悪も愉悦も怨恨も退廃も悦楽も苦悶も贖罪も痴態も逆恨みも八つ当たりも綺麗さっぱり流した雨は、いつの間にか止んでいた。雲間から数日振りの陽が顔を出す。古びた廃屋に一筋の光明が射し込み、床を突き破って生えたのであろう樹を照らす。
 「青桐だ」
 「何が?」
 「あの樹さ」
 「そうか」
 ヒトなんてもう知らない。
 誰もこの事実に目を向けない。
 不条理に目を背けて、せわしなく味気ない人生を送っている。そんなのはもう、ウンザリだ。
 「タタラ」
 「今度はなんだ」
 「ボクは種になる」
 「………は?」
 「君達で幹を成せ」
 喰種だけの理想卿を、創るんだ。
 「仲間一人一人が葉であり、枝であり、蕾をつけ、華を咲かせる」
 もう、- 死ぬ ことには飽きた。
 「一本の大樹を生やすんだ」
 悲劇は、ボクが終わらせる。
 「革命の樹だ」
 そろそろ、- 生きる ことを始めよう。
 「ボクはここに…………青桐の"樹"を築く」
 
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                  - 10 : : 2016/02/15(月) 17:43:32
- >>8
 漢字表記が愛支ではなく恵兎であるのには何か意味があのでしょうか?
 
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                  - 11 : : 2016/02/15(月) 18:07:24
- >>10お、良い所に気付きましたね。物語に影響するほど大きな意味はありませんが、ちょっとだけ含みがあります。
 
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                  - 12 : : 2016/02/15(月) 22:17:49
- >>11
 ほほう。兎に角期待です。
 
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