ssnote

x

新規登録する

作品にスターを付けるにはユーザー登録が必要です! 今ならすぐに登録可能!

このSSは性描写やグロテスクな表現を含みます。

この作品はオリジナルキャラクターを含みます。

この作品は執筆を終了しています。

【ハングリー精神を永遠に】

    • Good
    • 2

loupe をクリックすると、その人の書き込みとそれに関連した書き込みだけが表示されます。

▼一番下へ

表示を元に戻す

  1. 1 : : 2021/02/13(土) 16:38:21
    ー西暦2050年(令和32年)ー

    20年前に日本は憲法を改正して自衛隊を解体して、新しく新生日本軍を設立。
    今までは受け身な日本はいくつかの某国に舐められて不当な領土・領海の侵入を許していたが

    明確な軍事力を保有することで北方領土・竹島・尖閣諸島などの問題は解決。



    それに伴い都道府県制度も廃止されて
    代わりに四つの地方が新しく制定される

    ●北方領域
    ○中心領域
    ▲中間領域
    △南方領域

                    ●
                   ●●●●(北方領域)
                  
                  ○○○○
                 ○○○
                ○○ (中心領域)
               ○
                  ▲▲(中間領域)

            △△(南方領域)

    北方領域は元は北海道があった地方

    中心領域は東北地方、関東申信地方、北陸地方、
    東海地方、近畿地方、中国地方があった地方

    中間領域は四国地方があった地方

    南方地方は九州地方(北部と南部)と沖縄地方があった地方

    そして都道府県制度廃止により名字の撤廃も決定して、下の名前だけを名乗るように法律が制定される

    20年前の2030年にはこのように人々は激動の時代を生き抜くことになった。当初は憲法改正や現行されていた制度の撤廃と新しい制度には批判の声が殺到していたが、日本が強気な姿勢を取り軍事力を強化したことにより、より平和な国となった。



    それだけではない。ジェンダー平等と新しい世代の活躍を期待するために、女性や若い政治家をたくさん取り入れていき、投票率が低かった日本は改善されて、そのジェンダー意識の改善の取り組みは世界的にも評価されることになる。






    そう、表向きは都合が良すぎると思うくらいに日本はより良い国へとなっていった。



    そんな‥中



    ー中間領域 中級区域ー

    「お前がぶつかって来たんだろう?」

    「てめぇがぶつかって来たんだろうが!!」

    狭い路地で二人の中年夫婦と1人の若い男が揉めていた。若い男の名前はトウヤ。猪突猛進な成人男性だ。

    「バーカ!!バーカ!!」

    「てめぇの方がバカだろうが!!消えろ!!」

    あっちからぶつかって来たくせに何を言ってやがる?アレはわざとだ。誰の目から見ても明白だ。

    暴行罪にならない程度にさり気なく肩をぶつからせて転倒させようとする。悪質な奴だがたまにいる。

    連れの小柄なババアは何かニヤニヤしていたし、如何にもマウントを取りたそうな顔したジジイは偉そうに歩いて来やがった。

    あの狭い路地では人がやっと2人ほど通れるくらい。だがあの中年の夫婦は全く道を譲らなかった。だから肩がぶつかっただけ

    俺は何も悪くない。
    しかもあのジジイの言動から察するに、低収入低学歴で何の取り柄もない人生終わってる社会の底辺に違いない。
    弱そうな奴を見つけてはその底辺の鬱憤を晴らしているのだろう。

    そもそもいい歳しておいて、バーカ!!バーカ!!の連呼は痛すぎるし、精神年齢が小学生で止まっていると言っても過言ではない。


    俺は喧嘩自慢でも何でもないが、理不尽に絡まれれば当然抵抗する。

    だが、あのジジイ共と比べたら遥かにマシだが、俺も人のことを偉そうに言えるほど


    物凄い人間ではない。


    それは自覚ありだ




  2. 2 : : 2021/02/13(土) 17:03:44
    俺は20年前にこの世に生を受けた

    つまりあの激動の時代の始まりに、俺は生まれたことになる。

    昔の日本はごちゃごちゃと色んな地域が存在したらしいが、今は4つの領域から構成されている。

    そしてその4つの領域には、上級、中級、下級というさらに細かい3つの区域に分類される。

    俺はそこの中間領域の中級区域で生まれた
    そしてそこで育った



    つまり平凡中の平凡な人間ということである
    普通の中の普通
    それ以上でもそれ以下でもない中途半端な奴



    俺はそれにコンプレックスを感じている


    20年前から、日本は色々と変わったらしい
    もちろん俺はその変わる前の時代を知らないわけだから、実際に何が変わったのかは分からない

    俺にとって生まれた時から今の日本の制度が当たり前だったのだから。



    何故俺がこれほどまでにコンプレックスを感じているのか?
    それはこの日本の新しい制度のせいだろう。それが俺のコンプレックスを強烈に刺激しているのだ。


    20年前

    日本国民は選別された。主に年収が評価基準となり、それにより4つのどの領域に住めるのか決められた。

    そして俺のように新制度が開始された後に生まれる子供達は、生まれた瞬間に潜在能力を(生まれ持ったIQや身体能力や将来性を)総合的に判定する

    【ジェネシス】と呼ばれる機械により選別された



    こうすると例えば親が中心領域に住んでいるのに、子供は中間領域に住まなければいけないということになってしまうが、領域間の旅行や家族や親戚に会うためならば領域間移動はしてもいいので、絶対に離れ離れになると言うことはない。



    だがおかしいと思わないか?ジェンダー意識の改善のした国が、格差をより拡大するような政策を取り入れているのだ。

    確かに生まれながらに人間の能力には隔たりがある。それは否定できない。

    この選別の意義は、競争意識を次世代の子供達に芽生えさせるためらしいが、俺みたいにこの理不尽な政策に怒りやコンプレックスを感じている人がいるのではないか?

    ニュースにはならないが、親が能力が高いと選別されたのに子供が能力が低いと選別されると、その能力の低い子供が見捨てられるという話を聞いたことがある。

    ニュースにならないのは昔からお得意のマスコミ流情報操作ではないかと、陰謀論者ではないが疑ってしまう。

    確かにこの格差社会を意図的に作り上げたことで、日本の教育レベルやスポーツ選手や会社などあらゆる面で向上しているというデータはある。



    だが、子供とは親の愛情をたっぷりと受けて育つのが健全なはずだ。いくら会えるからと言っても、個別に与えられた家やアパートや施設で暮らしていては人間として大事な部分が成長出来ないのではないかと思う。



    この政策はおかしい。いや、この政策だけでなく今の日本にはおかしいことが沢山ある。だが世界からも日本からも大した問題視はされていない。


    それは日本が平和になって、次世代の子供達や既存の大人達のレベルが向上したからだろうか?





    おかしい、おかしい、おかしい


    こんな風に思うのは俺が中間領域に生まれたからだろうか?中心領域に生まれた奴らや、中間領域の上級区域に生まれた人間は寧ろ自分たちのためにある政策だと問題視するどころか、この愚策を甘んじて受けて入れているのだろうか?


    俺がもし中心領域に生まれていれば、こんな負の感情は抱かなかったのだろうか?



    まぁそんなタラレバ理論はどうでもいい

    俺が



    この国の制度を変えてみせる


    20年以上前の


    今より格差社会が拡大していない


    前の日本に戻れないのか?


  3. 3 : : 2021/02/13(土) 17:43:11
    俺はいつもこのような事を考えている。何故なら俺がそれ程までに本気であるからだ。

    「ん‥電話か?」

    俺は最新のスマホを耳の方に持っていく。

    「トウヤ。今どこにいる?」

    非通知からの電話だったので俺は少し警戒していたが、聞き慣れた声が聞こえた。

    「ナオヤか?‥今は皮膚科の帰りだ‥自宅に向かっている。」

    ナオヤ。中学生、高校生と同じ学校だった友達だ。大学生の今は別の学校にそれぞれ通っているのだが

    「‥言わなくても分かるだろ?今すぐに来い‥」

    「‥了解だ」

    そういうと俺は電話をすぐに取り、急いで家に向かって走り出す。俺は元陸上部だ。ハッキリ言って陸上部以外の奴らじゃ太刀打ちできない程に俺は速い。

    俺が急ぐ理由は一つ

    急を要する事態であることを察知したからだ。非通知は‥恐らく絶滅危惧種の公衆電話から掛けてきたのだろう。非通知で掛けてきたのには理由がある。

    家はすぐ近くだったのと俺が足が速かったから、10分ほどで着いた。そうして俺は急いで荷物を整える。


    全ての原動力はやはり人間のメンタルだ。そしてやる気が十分でも、行動力が伴っていなければダメだ。

    だから俺は日本を変えるために具体的な行動に出ることにした。少し話をしよう。

    【薬滅の刃ー無限注射編】という興行収入4000億超えの人気アニメ映画がある。
    元々この映画の原作漫画はそこまで人気では無かったが、作画の良いアニメと声優の名演技により女性や子供や老人や若い世代の人間まで人気を博した。
    三十年以上も前の(2020年)映画だが、ここ最近また人気を取り戻す‥いや昔よりも今の方が勢いが凄いだろう。

    30年前当時、【チンコとマンコの神隠し】という興行収入320億程度のそれまでは不動だった興行収入一位の座を【薬滅の刃ー無限注射編ー】が抜き去った。

    その当時は400億程で止まったが(それでも日本過去最高なのだが)、近年


    【薬滅教団】と呼ばれる薬滅の刃のファン達が中心となって、400億から一気に4000億超えまで興行収入を伸ばしたのだ。

    これには世間の大半の人々が度肝を抜かれただろう。




    俺はその薬滅教団に所属している。
    薬滅の刃は特殊なステロイドにより暴走してしまったステロイドユーザーが、ナチュラルを襲う化け物と化した鬼を滅殺する薬滅隊と鬼とのバトルが面白い。

    このストーリーの話を大まかに話すと、理不尽な扱いを受けていたナチュラルが、理不尽な事をしてくるユーザーをぶっ倒すというものだ。



    理不尽な状況‥それの打破

    これに感銘を受けた人間は同類だ。当時のニワカではなく、近年ファンとなった薬滅教団


    彼らの表向きの行動は薬滅の刃のファン

    だが実態は違う

    同類にだけ察することができる

    興行収入を強制的に10倍以上に膨らませたのは


    それだけ薬滅教団に財力があることを知らしめるため

    そして薬滅教団に入団すれば真実が伝えられる


    それは




    革命だ



    現体制の日本を変えるために大博打に出るのだ。つまりは実力行使。武力による制圧

    そしてこの国を変えること


    だから俺はこの教団に入団した


    そしてそんな事を考えいる間に、薬滅教団の施設にたどり着いた


    「トウヤ‥遅かったな。もう皆んな座って待っていたんだぞ」

    「すまない。遅くなったハルキ」

    「いや、構わない。作戦の最終確認だからな」

    ハルキ。中間領域・中級区域にある薬滅教団の施設のリーダー‥

    通称は【柱】

    柱は4つの領域の3つの区域にそれぞれ存在している。合計で12人いる。

    主に各施設のまとめられた情報は柱集結時に各地の施設の状況報告時に伝達される。


    柱はリーダーシップがあり、有能な人間に任せられる。薬滅教団の柱となる人材だから、当然と言えば当然である。


  4. 4 : : 2021/02/13(土) 17:59:58
    ハルキは優秀な奴だ。容姿、身体能力、頭脳、
    多くの人間が欲しいと羨む能力全てを高いレベルで総合的に持っている。

    俺も彼に対して憧れがある。

    「トウヤが来たから話を始めようか。もう全員知っての通り、俺たちは1週間後に大規模な革命行為を12の区域で同時多発的に起こす」

    そう、俺たちは1週間後に大きな行動に移すことになる。

    「約12000人の教団員が同時多発的に日本の軍事施設や政治施設に総攻撃を仕掛ける。五年以上前から煮詰められていた大規模な作戦が、1週間後にやっと実行される」

    そう、5年前‥薬滅教団が設立されてから、武器や資金の確保や作戦の練り直しなど様々な準備がされてきた。

    きっと薬滅教団が出来る前から、先人達がこの国を変えるために形を変えて戦ってきたのだろう。だが、残念ながらあらゆる手を尽くしても目立った改善はできず

    武力行使をしなければならない状況まで追い詰められた。それ程までに俺たちは追い詰められている。

    「みんなの決意は固いだろう。各施設に厳選された1000以上の部隊がこうして12箇所に集められたのだから。」


    「俺たちが勝っても負けても‥1週間後にはこの国の歴史はまた大きく変わる。負けたとしてもまた別の人間が俺たちの意思を受け継ぐ」

    「だが‥俺たちは負けるつもりは毛頭ないだろう?」

    「その通りだ!!!」

    「ぶっ潰してやるぜ!!」

    ハルキの激励に教団員達が声を上げる。1000以上の教団員が集められた会場は大きな声で埋め尽くされる。

    「静粛に!!」

    ハルキはマイクを使い大声で場を沈める。

    「作戦内容は既に伝達された通りだ。1週間後‥各々の成果を期待している。」


    他にも長々と何か話をしていたが、よく覚えていない。もう話の内容は何回か聞いていた事ださは、それよりも俺はやっとこの理不尽な世の中に


    このおかしな国の制度に一矢報いることができる事に興奮していた。


  5. 5 : : 2021/02/13(土) 18:27:54
    ー作戦 前日ー

    薬滅教団による大規模な総攻撃作戦の前日

    俺は友達のナオヤとコウキを自分の家に誘って酒を飲んでいた。

    「いよいよ明日か‥作戦中に酔っ払っちまわないように‥酒はほどほどにしねぇとな」

    「コウキ‥そんな事を言ってるがメチャクチャ飲んでるじゃねぇか」

    「はっ‥こんな時は‥シラフじゃやってられねぇよ」

    「あのなぁ‥飲むのは良いとして作戦中に泣くんじゃねぇぞ?」

    「馬鹿野郎。もう泣いてないわ」

    コウキは能力は極めて高いが、豆腐メンタルで泣き虫だ。最近はそのナリを潜めているが本質は変わらないだろう

    「高校の時に先生に授業で問われた質問に答えられなくて泣いた奴がか?」

    「‥少なくとも大学生になってからは泣いてねぇよ」

    「どうだかな‥」

    コウキは小学生から高校生までは同じ学校だった。同じ陸上部に所属していてよく話してし、仲も良かった。

    「‥‥‥‥‥」

    「ナオヤ?お前は飲まないのか?」
    ナオヤはコウキとは対称的に酒を全く飲んでいない。なんだか緊張しているようにも見えるが

    「どうした?ビビってるのか?」

    と俺は茶化してみる

    「違ぇよ‥酒を飲んだら感覚が鈍るだろ?」

    「確かにな。聞いたか?コウキ。お前はもうその辺にしておけよ」

    「俺は肝臓が強いしこのくらい何ともねぇんだよ」

    といいつつ少し涙目になっていて、言葉もなんだか聞き取りづらくなっている。
    だが緊張を紛らわすために酒を飲んでいる可能性が高いので、強制的に辞めさせるのは辞めた方が良さそうだ。

    人には人の発散方法と緊張の紛らわし方があるのだから。

    「ナオヤ。少し緊張している様にも見えるが‥‥大丈夫か?」

    「緊張?‥違うな‥これは武者震いだよ。明日皆んなで暴れてやるんだぜ?‥さっさと暴れてやりたくて‥落ち着かないんだよ」

    「言うね‥高校の時はバスケ部についていけないと悟って、テニス部に入部したくせに」

    と俺はまた茶化す

    「やめろ。俺の黒歴史だから。‥ま‥あの時の俺にはまるで闘争心が無かったよ。最初から出来ないと決めつけていた。だが今の俺は違う‥」


    「ほぅ?」

    俺は適当な相槌を打つ

    「やれば出来るんだよ。この国を変えるって妄想は現実になりつつある。ハルキの言う通り‥勝っても負けても俺たちは歴史を変えることになるんだ」

    「勝っても負けてもじゃないだろ?勝つんだよ‥俺たちは必ず」

    「トウヤ‥お前緊張しているのか?」

    「ん?当たり前だろ。別に緊張は悪いことじゃない‥緊張とうまく付き合えば‥力をより発揮できるようになるだろ?」

    コウキは俺たちの話を聞きながら相変わらず酒を飲んでいる。やはり止めた方が良いような‥


    「トウヤ‥お前の言う通りだな。勝とうぜ‥必ず」

    ナオヤはそう言いながら拳を前に出す

    「当たり前だ‥最初から負けるつもりで挑んだら、勝てるもんも勝てなくなるだろ?」

    「ふっ‥そう‥だな」

    やはり緊張しているのだろうか?‥心なしか元気が無いようにも見える。

    「ほらコウキ。お前もやるぞ」

    ナオヤはそう言いながらコウキにも拳を突き出させる。

    「そうだな‥皆んなで生きて‥薬滅教団の勝利を喜び合おうぜ」

    そうコウキは意気込む。


    そうだ、俺たちは必ず勝たなければならない。

    負けてもいいことはない。いつか勝てば良いと言う考えもあるが、勝負所を見極めるのは大事なことだ。

    明日の作戦は完全な不意打ちだ。今まで教団は熱狂的なファンを演じてきて、表立って暴動を起こしたことはない。


    新生日本軍は世界でもトップクラスの制圧能力を誇る。まともに真正面から教団と新生日本軍が衝突すれば、結果は火を見るよりも明らかだろう


    だからこそ短期決戦かつ不意打ちにこそ活路があるのだ。


    ナオヤもコウキも昔からの友人だ。2人には死んで欲しくはない。

    だが明日の命の保証はない。

    それは普通に生きていてもそうかもしれないが、明日は大規模な作戦を決行するから

    死ぬ可能性は高い。だがそれでも俺たちはやるだろう。

    自分の役目を果たすために全力で、最善を尽くすだろう。

    俺たちの覚悟は本物だ。

    どんなに悪い状況でも諦めることはない。この状況に満足することも無い。

    より良い方向に変えていくために、俺たちは進み続ける。


    この国を変える一歩が、明日の作戦にかかっている


    絶対に、やり遂げて見せる



  6. 6 : : 2021/02/13(土) 18:59:16
    【ここまでの話のまとめ①】
    ●舞台‥2050年の架空の日本。様々な矛盾を抱えている国と変貌している。
    都道府県制度の崩壊、戸籍の変化、現実の日本とはあらゆる面で異なる。
    海外との外交は以前よりも強気な姿勢になったことにより、良好(?)となっている。

    ●激動の2030年
    現在の時間軸から20年前の既存の体制が崩壊してしまった始まりの時代のこと。

    ●新生日本軍‥自衛隊が解体されてから設立された世界的にもトップクラスの軍事力を誇る軍隊。国民の猛反対を押し退けて、憲法が改正されて新体制の日本が出来上がるきっかけにもなった。
    自衛隊時の数倍の構成員にまで膨れ上がっていて、【兵士長】と呼ばれる戦闘能力に長けた一騎当千の兵士のための特権階級まで制定される。

    ●ジェネシス‥4つの領域そして4つの区域に、人間の潜在能力を選抜して住ませるために作られた特殊な機械。

    ●4つの領域の3つの区域
    合計で12区域あり、潜在能力のレベルにより住める区域を選別される。生まれた時は能力が低いと評価されたとしても、社会的地位を確立すれば別の上の区域に移り住むことが可能。
    この区域選別制度により格差社会を加速させる事になったが、競争意識が強くなり全体のレベルは向上している。
    しかし現実的には区域の移り変えは困難になっている。
    当然区域のレベルにより人々への待遇は異なる。

    ●マスコミの印象操作
    多くの人が不満に感じる制度を20年前に強行したにも関わらず、大規模な暴動やニュース番組などでそれらが触れられる事が無かったため、政府がマスコミを利用して印象操作しているのではという声が高まっている。当然ながら国民の多くは我慢の限界に感じている。

    ●ソーシャルメディア‥ネット上ではあらゆるサイトやスレが乱立していて、SNS上でも日本に関する不満の声が多いが、それがマスメディアでは公にはされてない。
    しかし印象操作されていることは国民の大半が気づいている。

    ●現体制の政治家‥女性と若者の政治家を積極的に取り入れている。このおかげで投票率は大きく向上することになったが、政策に関しては全ての国民の意見を取り入れているのではなく、独裁的な部分が多少あふ。しかし悪いことより良いことの方が多いので、なんとか国民の爆発にまでは至っていない。

    ●薬滅教団‥12の区域の一つの区域にそれぞれ1000人以上の厳選された団員が存在する。
    2050年の5年前‥2045年に設立された。
    薬滅教団が設立される前から日本を変えるために動いていた組織はあったが、薬滅教団ほどの規模の組織は存在しなかった。
    目的は新しくなった現体制の日本を変えること。
    薬滅の刃のための活動は政府の人間を欺くためである。映画の興行収入を10倍にまで伸ばした資金力がある。
    柱と呼ばれるリーダーシップに長けた12人の幹部が存在している。それぞれの区域の施設に1人ずつ点在することになっている。
    幹部会では柱だけが集結してそれぞれの区域の施設の状況報告をしたりする。

    ●薬滅の刃ー無限注射編ー
    元々は400億程度の興行収入で停滞していたが、薬滅教団により4000億以上まで伸ばされる。ステロイドユーザーとナチュラルの戦いの話。幅広い世代のファンを獲得した。

    ●チンコとマンコの神隠し‥320億以上の興行収入を記録して、薬滅の刃が映画化される前までは日本の興行収入トップだった映画。


    ●領域と区域のカースト‥日本という国をより良くするための代償として格差社会を進行させた制度の元凶とされている。序列は以下の通りである↓

    最上位↑ 中心領域  上級区域
               中級区域
               下級区域

         中間領域  上級区域
               中級区域
               下級区域
        
         北方領域  上級区域
               中級区域
               下級区域

         南方領域  上級区域
               中級区域
               下級区域

    最下位↓


  7. 7 : : 2021/02/13(土) 20:07:45
    【ここまでの話のまとめ②】
    ●登場キャラ

    ●トウヤ

    年齢 20歳

    性別 男

    身長 175cm

    体重 76kg

    出身地 中間領域・中間区域

    趣味 陸上(短距離)・武器集め

    所属 中間領域・中級区域 薬滅教団

    特徴 猪突猛進で闘争心が満ち溢れているが、意外と冷静な行動を取ることができる。容姿はカッコいいと言われることがあるが特別モテるわけではない。
    本人は喧嘩自慢でも何でもないが、理不尽に喧嘩を仕掛けてくる人間には全力で抵抗する。
    100メートルのタイムは11秒フラットで
    50メートルは6秒前半
    他の部活の人間よりは足は速いが同じ陸上部と比較すると特別遅くもなく早くも無い、中途半端な走力である。
    新体制が出来上がる年にちょうど生まれている。
    本人は国の抱える大きな矛盾と自分の能力の中途半端さにコンプレックスを感じている。

    ●ナオヤ

    年齢 20年

    性別 男

    身長 172cm

    体重 63kg

    出身地 中間領域・中級区域

    趣味  バスケ・テニス・漫画・アニメ

    所属 中間領域・中級区域 薬滅教団

    特徴 中肉中背だが身体能力は比較的高い。トウヤとコウキとは友人関係にある。陰キャ顔だが優しい性格で物腰の柔らかいコミュニケーションを取ることが出来るので特別嫌われているわけでは無いが、見た目は地味で人によっては少し痩せ型にも見える。
    本人は認めないが中二病発言をすることがあり、見た目の割に意外と毒舌だと言われることがある。本人はバスケが好きだがバスケには適性がなく、少し身体能力の高い人間に押し負けることがある。

    ●コウキ

    年齢 20歳

    性別 男

    身長 177cm

    体重 84kg

    出身地 中間領域・中間区域

    趣味 将棋・カードゲーム・スマホゲーム

    所属 中間領域・中級区域 薬滅教団

    特徴 大柄な体格だが実は長距離に適性がある。泣き虫な性格で豆腐メンタルだが、年齢を重ねるにつれてその病気は治まりつつある。眼鏡をかけており、変な言動が目立つことがあるため変人メガネと言われることもある。
    饒舌で少し理屈っぽいところがあり、自分より立場の低い人間に対して論破するまで罵倒する性格が見られるが、基本的には悪い奴ではない。
    一見するとその変な見た目から陰キャに分類されそうだが、行動力があるのでどっちかというとサイコパスに分類される?

    ●ハルキ

    年齢 20歳

    性別 男

    身長 178cm

    体重 68kg

    出身地 中間領域・中間区域

    趣味 スポーツ全般・人間観察・仕切ること
       

    所属 中間領域・中級区域 薬滅教団(柱)

    特徴 中間領域・中級区域の人間の中ではかなり高い能力を持っており、将来的には中心領域に移り住む事が出来ると周囲の人間に言われているが、領域区域制度には不服があり、薬滅教団に入団して現体制の制度破壊を目論む。
    リーダーシップがありリーダーになりたがっているため、嫌われ者になる事はあるが嫌われているわけではない。
    負けず嫌いで神経質なため能力の高さの割に少しメンタルが弱い部分がある。高校の教師と価値観のすれ違いから衝突した際にはそれを気にしすぎて鬱病の薬を飲んでいる。
    母親との関係は良好だが、父親とは険悪であり殆ど話していない。

  8. 8 : : 2021/02/13(土) 20:43:24
    ー翌日 作戦決行日ー

    「大丈夫か?ナオヤ?コウキ?」

    「あぁ‥」

    「そりゃね‥大丈夫じゃなかったらここに居ないわけだし‥」

    俺たちは同じ班分けになった。大型のトラックを改造して装甲車にして、軍事施設の前門を強行突破する班に配属された。

    その他にも変装して周囲の様子を見る団員や小型の自動車で迅速に移動したり、それぞれ役割が与えられている。

    俺たちはその中でも比較的危険な班に配属されたわけだが、俺もコウキもナオヤもそこまで緊張しているわけでは無いと思う。

    「俺たちが戦いの狼煙を上げて‥それをきっかけに各方面からの同時攻撃‥立派な大役だと思わないか?」

    そう言いながら余裕の表情を見せるナオヤ

    「そうだな。‥ここで俺たちが活躍すれば‥後の作戦がスムーズに運べる‥だが逆に言えば失敗すればかなり不利になってしまう。」

    と、コウキは不安げに語る

    「そろそろ軍事施設が見えてくるぞ!!お前ら!!気合を入れ直せや!!」

    「うおおおおおおおおおおおおおおお!!!」

    運転手がそう声をかけると、俺たちはそれに大声で応える。

    この光景は異様だろう。いくら民意となっている現体制の破壊を遂行しようとしているとしても

    俺たちのやることは完全なテロ行為だ。俺たちが負けてしまえば団員やその関係者は極刑を免れないだろう。

    だが、もはやこの頑丈になってしまった現体制の破壊をするには武力行使をしなければどうしようもない。

    海外の連中は誰も助けてはくれないし、いい顔している政治家たちもやはり自分達の利益の追求のために必死だ。


    困っている時に誰かが助けてくれると思ってはいけない。仲間がたくさん出来た。だからと言っても油断することは許されない。

    一瞬の隙が致命的なミスへと繋がり、組織行動の崩壊になる事だってある。

    「お前ら!!!もう察知された!!グレネードだぁ!!!」

    「了解!!!」

    運転手以外の団員は素早く行動を開始する。軍事施設の外壁には自立型固定砲台や自立型固定小銃が完備されている。

    それらを破壊しなければトラックが前門を突破する事は困難となる。また後ろに控えている援軍が上から銃弾の雨を浴びる事になってしまう。

    それだけは何としても防がなければならない。

    ドォン!!!と大きな銃声が響き渡る。俺たちトラック(装甲車)に乗っている団員は防弾ガラスに加工して少し穴を開けた部分から、自作のグレネードランチャーを発射する。

    当然、自立型固定砲台や自立型固定小銃はこちらを敵と見做して反撃を開始する。
    24時間疲れなしで警備されるし、その警備の正確性は人間を遥かに上回っている非常に厄介な代物だが、その固定砲台の性質上から装弾数はあまり多くはない。

    「弾をたっぷり浴びせてやれ!!!怯むなぁ!!」

    固定砲台は厄介な軍事設備だが、その数は多くはない。

    「破壊したぞ!!!突っ込め!!!」

    「おっしゃ!!!開戦だ!!!心してかかれやぁ!!!!」

    運転手はその団員の合図とともにアクセルを強く踏み込み前門を破壊した。


    「見えているか!?前門を破壊したぞ!!全方向から進撃を開始しろ!!!」

    運転手は無線で遠くから見張っている団員にそう知らせる。

    「行くぞ!!!」

    俺はナオヤとコウキの2人に声をかけて、意気揚々と自作の銃を持って前に進んだ。


    「!?」


    だが俺たちを待ち受けていたのは、予想していない事態だった。


  9. 9 : : 2021/02/13(土) 21:16:42
    「撃て!!!!」

    「馬鹿だな!!!反応が遅いぜ!!!」

    いや、反応が遅いと言うよりも‥これは

    固定砲台と前門を破壊して軍事施設の敷地内に侵入した団員たちが最初に目にしたのは、荷物を運んでいる兵士たち。

    兵士達は薬滅教団団員が攻めてきたにも関わらず、反撃もせず作業を進めていた。もちろんそれには団員全員が違和感を抱いたが

    止まっているわけにもいかない。すかさずその作業を平然としている兵士たちに銃弾を浴びせる。
    自作の銃とは言え、本物と威力にそう大差はない

    銃弾を受けた兵士たちの身体は穴だらけになる

    「おい‥何か様子が変だぞ‥」

    何人かの団員が倒れた敵兵の元に駆け寄る

    「よせ!!!危険だ!!!まだ生きているかもしれないだろ!!!」

    「ナオヤ!!!戻れ!!」
    俺とコウキはナオヤを呼び止める。

    「2人とも‥その心配はないみたいだ」

    「は?どう言うことだよ‥ナオヤ」

    「これ‥‥‥‥‥見てみろよ」

    俺は恐る恐る倒れた兵士たちの元に近づく。



    「これは‥ロボット‥‥?」

    そう俺は呟く

    「トウヤ‥これは簡易作業用ロボットだ。」

    コウキはこう言うのに詳しい。

    「聞こえるか?‥建物内部に侵入したが‥今のところ‥人の気配はない」

    無線で他の団員が話しかける。先に軍事施設の建物内部に進軍している団員からだろう。

    「それに気付いてると思うが‥兵士だと思っていたのは‥兵士の格好をさせられたロボットだ‥ったくどうりで反撃もしてこないし、決まった動きしかしないわけだ」

    無線の団員はそう愚痴を漏らす。

    「何というか‥拍子抜けだったな。まさか軍事施設の作業の殆どが人間ではなく、ロボットを活用していたとは‥」

    ナオヤのいうとおりだ。こんなにロボットを活用するのは不自然だ。

    まさか‥ここは本拠地じゃないのか?だから人間がいなくて‥

    「ナオヤ‥トウヤ‥今無線で確認したが‥他の部隊も同じように兵士の格好をしたロボットとしか遭遇していないそうだ」

    「つまり他の部隊も前門と固定砲台の破壊には成功して‥敷地内部および建物には進軍できたんだな‥」

    ナオヤはテンション低めの声でそう応える

    その理由はよく分かる。ここだけならまだ納得できるが、他の部隊もロボットしか見ていない?

    それはどう考えても不自然だ。やはりこれは‥罠なのか?

    「ナオヤ‥トウヤ‥これは俺の個人的な意見だが‥日本各地に点在している地上の軍事施設は外壁があり、固定砲台が完備されてちゃんと機能されている。薬滅教団の団員が擬態ドローンで空から偵察した時は‥人間が作業していたように見えた。実際‥兵士の格好をしているこのロボットは精巧に作られている。‥ちゃんと近くで見ないと人間に見えるよな?‥ドローンからでは接近は出来なかったからな‥」

    「つまりこれは俺たちを誘き寄せるための罠で、この軍事施設はハリボテってことか?」

    と俺はコウキに聞き返す。

    「その通りだ‥一夜城みたいなもんさ‥そして敵の次の一手は‥」

    ズドドドドドドド‥っと大きな音がした。それを認識した瞬間‥俺たちの悪い予感が的中したのを確信することになる。

    「な、なんだ!?突然壁が出現したぞ!?」

    「た、高い‥30メートルはあるぞ!?どうするんだ!?」

    「落ち着け!!外部と連絡を‥!!」

    「無線が繋がらない!?電波障害が発生している!?」

    「ナオヤ‥コウキ‥俺たちはこの軍事施設に閉じ込められたみたいだな‥」


    ズドドドドドドド!!!!と銃声が周囲に響き渡る。

    「敵襲!!!敵襲だ!!迎撃用意!!!」
    遠くから団員達の焦りの声と迎撃の銃声が響き渡る。

    まるで計算通りと言わんばかりのタイミングだな。この閉鎖された軍事施設の敷地内で俺たちを包囲して、皆殺しにするつもりか?

    「いいだろう‥やってやるよ‥」

    俺は銃を構えた。その時‥

    「!?」

    「地面から‥ガラスが!?‥中に人が入っているぞ!?」


    地面にこんな仕掛けを仕組んでいたとは‥突然団員達が奇襲されたのはこれが原因か‥


    「撃て!!!撃て!!!!」

    「ぐあっ!!!!」

    やはり防弾ガラスか‥団員達が射撃した弾は全て跳ね返されて、跳弾により怪我を負った団員が出始めた。

    地面から出現した防弾ガラスは3つ‥その中にはそれぞれの防弾ガラスの中に人が1人ずつ入っていた。





    「統率が取れていないな‥やはり資金力と構成員がいくらいても所詮は素人か」


    「!?」

    口の動きと言葉が一致している。間違いなくガラスの中にいやがる奴が話している。
    どこかにスピーカーでもつけているのか‥こちらの声も聞こえるのか?


    「!‥その腕章は‥お前ら‥新生日本軍の兵士長の階級の奴らか?」


    俺は思わずそう口にしてしまう。
  10. 10 : : 2021/02/13(土) 21:43:22
    「そうだ。お前らネズミを迎え打つために、この施設の東西南北の四ヶ所に3人ずつ配置されている」

    防弾ガラスの中にいる1人の兵士長がそう応える。新生日本軍の兵士長とは一騎当千の兵士と謳われていて、平凡な戦闘員よりも戦闘に特化した特別階級の兵士のことだ。

    そんな奴らが敷地内の地面から、防弾ガラスの中に入りながら下から出てくるなど誰が想像しただろうか?

    「優しいねぇ‥敵に居場所を教えてくれるなんて‥」

    俺は挑発的に返答する。

    「教えたところで何も問題はない。皆殺しの前に聞きたいことがある。何故お前らはこんなテロ行為をする?」

    挑発的に言動に動揺することなく兵士長の1人は淡々と聞き返す。

    「この国の現体制に不満があるからだ。こんな格差社会をより活性化させるような制度‥許されると思っているのか?」

    俺は怒りを露わにしつつも、なるべく声のトーンを抑えて言い返す。

    「人間は生まれながらに不平等だ。能力の差もあるし、その上限も決められている。それに救済処置なら提示されているはずだが?下位の区域に生まれたとしても、努力して社会的地位を確立すれば上位の区域に住める制度がある。お前らも現状に不満があるなら、努力してさっさと上位の区域に住めるようにすれば良いだけの話だ」

    やはりこいつらは‥上位の区域に住んでいる奴らは下位の区域に住んでいる人間を見下している。

    兵士長ならば完全に上位の区域の人間だろう。

    「話のわからない奴らだな‥その制度自体に文句があるんだよ。不満の声は多いはずだ。だがお前ら政府の人間がそれを揉み消しているからこうやって実力行使に出るしかねぇだろ?」

    俺はだんだん怒りが抑えられなくなり、少し感情的に話してしまう。

    「それはルールの中で勝負できない負け犬の台詞だな。」

    「何を言ってやがる?俺たちの仲間の中には中心領域の出身者もたくさんいるんだぞ?‥全ての領域の出身者がたくさんいる。この意味が分かるのか?」

    「ならそいつらも芯は弱者なんだろう。才能のある人間、頑張ってきた人間。そういう人間が報われる制度のどこに問題がある?どんな国でもどんな地域でも大小はあれど格差のないところはないぞ?むしろ有り難く思え。この制度により国力は向上して全体的にレベルが向上している。国は少数の意見より、多数の意見を取り入れる。全ての人間の意見を取り入れることはできない。‥我々は理解できないのだろう。お互いに。ならば‥もう」

    「!?‥来るぞ‥」

    会話が途切れたと思ったら突然防弾ガラスが割れて兵士長3名は教団員に向かって銃撃を開始する。

    相手はたった3人‥いくら兵士長と言えどこの人数差では多勢に無勢‥

    この状況下では敵が圧倒的に不利なはず‥


  11. 11 : : 2021/02/13(土) 22:18:08
    複数人相手に、数で圧倒される相手に対して少人数が制圧できるのは漫画やドラマの中のフィクションだけの世界の話だ。

    プロの現役格闘家でも一対一でも武器持ち相手ならば怪我を負わされるリスクは必ずあると聞く。

    どんなに強い人間であっても数で押されることはよくあることで、一人で何十人も相手にして勝つことは不可能。


    と、思っていた

    「は、速い‥!」

    3人の兵士長はサブマシンガンと防弾ガラスの盾を巧みに使いながら、効率的に俺たちの仲間を葬り去っていく。

    こっちは30人くらいで銃弾を浴びせているのに、どうなっているんだ?

    「くそっ!!!死ね!!!死ねよ!!!」

    銃弾より速く動ける人間は存在しない。だが全ての弾丸を効率的に防弾ガラスの盾で防いでいるのは、俺たちの動きをよく見てある程度予測しながら動いて対処しているからだ。

    それは素人目から見ても分かる。


    どうやら俺たちの想定は甘かったようだ。

    人数でこちらが有利と言っても、兵士長3名と比べてまず個人の戦闘能力と身体能力に差がある。

    そして3人と言っても統率の取れていない俺たちと比べてよく連携が取れている。それにこちらは銃弾を防ぐ盾はなく、ましてや戦闘のプロの銃撃を予測して回避するなどとてもじゃないが出来ない。

    どんなに気合が入っていたとしても、一瞬で即死させられるのだから意味はない。

    「この野郎!!!喰らえ!!!!」

    「!?」

    1人の団員がグレネードランチャーを兵士長3名に目掛けて撃ち込む。この距離では自分たちも被弾しかねない。

    恐らくはプロからしたらタブーな行為なのだろう。だから一瞬動きに動揺があるように見えた。

    素人の方がプロと比べて技術が低いのは事実である。だが

    素人は型を知らないから、プロからしたら予想外の動きをすることがある。

    そこに勝機はある。俺たちはそれを‥本当に一瞬の隙を見逃さなかった。


    「今だ!!!銃撃しながら接近戦に持ち込め!!!」

    銃撃を喰らわないようにするには下手に中途半端な距離を取るよりも、大勢で囲んで近づいた方がまだ危険は少ない。

    もちろん被弾覚悟の上だが、この捨て身の戦法でもしなければ勝てないことはここにいる全員が察していた。

    「うおおおおおおおおおおお!!!!」

    「ぐっ!!!!くそっ!!!」

    俺たちは3人を一斉に取り囲み銃器で殴ったり、上から踏みつけたり、ナイフで滅多刺しにした。


    こうなればもはやプロも素人も関係ない。それに素人と言っても兵士長と比較してであって、俺たちは独自に戦闘訓練をしていた。

    こうなればやはり数が多い方が有利。

    「はぁ‥はぁ‥思い知ったか‥」

    なんとか俺たちは3人を殺すことができた。だが生き残ったのは5人。

    今の揉み合いでも何人か撃ち殺されてしまった。恐ろしい戦闘能力と生存本能だ。

    しかも生き残った5人は満身創痍‥

    ナオヤとコウキはまだ生きている‥そう思っていた瞬間




    隣にいたナオヤの頭が吹き飛んだ。




    「えぇ!?」

    コウキはそれに酷く動揺した。いや、俺だって動揺している。目の前で友達の頭が吹き飛んだのだから‥

    俺はこの一瞬にも満たない時間で一定距離が離れた位置から狙撃されたことを察する。そして咄嗟に兵士長達が持っていた防弾ガラスの盾を二つ取り、コウキにも渡す。

    「これを持て!!身体を低くしろ!!!」

    「ううう‥」

    「泣くんじゃねぇぞ!!コウキ!!!敵の狙撃に警戒しながら敵を捕捉するぞ!!!お前らもだ!!!」

    「あぁ‥」

    「そこにある防弾ガラスを‥」

    そう言い切る前に2人が狙撃されて頭を吹き飛ばされた。

    「速くしゃがめ!!!あっちの方向から狙撃されている!!!とにかく外は危険だ!!中に入るぞ!!中の方が外よりかは安全だ!!!」

    俺とコウキともう1人の団員は防弾ガラスの盾を使いながら、体勢を低くしながら移動していく。



    「俺はトウヤ‥こっちの泣き虫はコウキ‥お前は?」

    「タイチだ‥それより狙撃されたないこの隙に急いで中に入るぞ」

    「タイチか‥そうだな‥敵はどうやら位置を悟れるのが嫌で狙撃をやめたようだな‥確かに今がチャンスだ」

    教団員は全員仲間だと思っているが、さすがに人数が多すぎて全員の名前と顔は把握できていない。

    「中間領域の中級区域には何箇所か班が配置されていたよな?」

    「あぁ‥ここは一番施設の規模が小さかったから200人くらいしか配置されてなかった」

    俺たちは何とか建物の中まで避難することができた。


    「問題は‥仲間があとどのくらい残っていて‥敵が何人いるかだな‥」

    タイチはそう心強く現状を分析し始める

    やはりあの乱戦から生き延びただけはある

    ‥コウキは頼むから泣くのは勘弁してくれ

  12. 12 : : 2021/02/13(土) 23:02:40
    敷地内は広い。そしてこの軍事施設の建物の内部も広い。敵に侵入された時を想定しているのか、内部は入り組んだ構造になっている。

    それに加えて仲間と敵が今何人いるのか全く情報がない。わからない。

    そんな状況下では人は恐怖を抱いてしまう。いつどこから現れるかもわからない敵に警戒しながら進むのはかなり神経を使うものだ。

    「うえーーーん!!!ママ!!!」

    「オイ‥黙ってくれ‥これじゃあ敵に場所を教えてるようなもんだぞ?コウキ」

    どうやらコウキくんの病気は再発してしまったようだ。もちろんこの緊張感は俺とタイチも感じているだろうし、怖いのは分かるのだが、もう少し状況を考えてから行動してほしい。

    「無駄だな‥トウヤ‥コウキを真ん中にして俺とお前で前後の警戒をするぞ‥」

    「あぁ‥わかった」

    「怖いよ‥グスン‥」

    グスンって声に出して言うなよ。ほんとマジで勘弁してほしいぜ。

    「コウキ‥怖いのは分かるがそれは俺たちも同じだ。泣くのはいいが迎撃の準備はしてくれ。少なくとも俺たちの足を引っ張るような真似はしないでくれよ?」

    タイチはそう言って泣いているコウキの事を宥める。こんな時にこんな事を思うのは場違いかもしれないが、タイチはきっと小さい子供の面倒を見るのが得意なんだろうな。

    「うわあっ!!ー!??、??、!!!!」


    「ぐおっ!!!」

    前を警戒していたタイチが突然撃たれたので俺とコウキもすぐに戦闘態勢に入る。コウキは涙目だけど‥

    「って‥お前‥デブスケとデブゾウじゃねぇか!?」

    「お前はトウヤ!?」

    「は?トウヤ‥お前の知り合いなのかよ‥てかお前の知り合いは男のくせに泣いたり、急に仲間に銃をぶっ放す奴がいたり‥変人ばっかりかよ」

    「うん、それは否定できないな‥」

    「トウヤ‥そっちの生き残りは‥コウキと‥」

    「タイチだ。よろしくな」

    「あ、あぁ。よろしく。話を戻すぞ。お前ら3人が全員なのか?」

    「まぁな。で?そっちはお前ら2人が全部なのか?」

    デブゾウとデブスケは2人で少し見つめあった後に

    「いや‥そっちって言うか‥たぶんここにいる5人が唯一の生き残りだ」

    とバツが悪そうにデブスケは言う

    「‥何故そんなことが分かる?」

    タイチは少しデブスケとデブゾウのことを疑っているのか、少し問い詰めたような態度をする。

    「‥さっきまで他の班の奴らと一緒にいたんだ‥そいつらも逃げてきたみたいで‥」

    「まさか兵士長に殺されて‥お前ら2人だけになったのか?」

    俺はそう聞いた。

    「そうだ‥」

    デブゾウは元気なくそう応える。

    「敵は何人いるのか分かるか?」

    コウキはようやく泣き止んだようで、少し落ち着きさを取り戻したようだ。デブゾウにそう質問する。

    「‥東西南北に3人ずつ‥合計12人配置されているらしいが‥俺たちの北のところは何とか全員殺したんだ」


    「そうか‥こっちも多くの団員を犠牲にして何とか捨て身戦法で3人とも殺した。‥どうやら他のところも似たような状況になっているようだな」

    デブゾウにそう言い放つ。それにしても‥いくら兵士長と言えどたった12人に200人近く殺されたのか‥信じられない。

    デブスケは防弾ガラスの盾を見せながら俺たちに話しかける。

    「幸い俺たちは5人ともこの敵から奪った耐久度の高い防弾ガラスの盾を持っている。5人で固まって内部を捜索しながら戦えば何とかなるかもしれないぞ」

    「あぁ‥そうだな」

    俺はそう答えたが
    敵が仮に1人だったとしても、この満身創痍の5人では厳しい戦闘展開になるのな容易に想像できる。

    敵の数が思ったよりも少ないのは安心したが、それで生き残れる確率が高いと言うわけではない。

    さっきのような大人数による接近戦の捨て身戦法が使えないとなると‥個人の力量がさっきよりも求められる。

    人数が少なくなればなるほど、不利なのは明白だ。


    「とりあえず‥5人で固まって動こう‥もちろん適切な距離を保ちつつ‥な?」

    タイチはこの不穏な空気感を敏感に察知して、俺たちが取るべき行動を提案する。

    「あぁ‥だな」

    デブゾウはそう言って銃を構える。さっきより2人しか増えたないとは言え、安心感がさっきよりもあり、少し緊張が和らぐ。

    もちろんだからと言って油断していいわけではない。1人の負担が減った分、油断しないように気をつけて行動しなければならないのだ。

  13. 13 : : 2021/02/14(日) 08:30:21
    「ぐはっ!!!????」

    ドスッ‥と‥耳障りな鈍い音が聞こえた。そしてそれがタイチが刺されたということに気づくのに少し時間がかかった。

    「あ!!!野郎!!ぶっ殺してやる!!!」

    デブゾウはすぐさま戦闘態勢に入る。デブスケとコウキは突然の事で怯んでいるようだった。

    「痛いじゃねぇかぁ!!!!このっ!!!」

    「!!!!!!」

    タイチはトウヤとデブゾウが助太刀に入る前に、敵がナイフを持っていた方の右腕を強く掴み

    片腕で敵の首を絞めた

    「絞め殺してやるよ!!!!ほら!!!」

    火事場の馬鹿力だろうか?タイチは物凄い力を発揮しているようで、どんどん首と腕を強く握りしめられている兵士長の顔が真っ赤になっていく。かなり血が上っているようだ。

    「くたばれ!!!死ね!!!!死ね!!!」

    トウヤとデブゾウは罵声を浴びせながら素早く動きを止められている兵士長にナイフを持って突進していく。そしてそれで斬りつけていく。

    この至近距離では銃を使えば素人ならば、仲間に当ててしまったり、室内なので跳弾のリスクも高い。

    なのでこの場合にはナイフで複数人いるなら、人数でかかって行った方が良い。


    「‥‥ぐ‥ぼぉ‥‥‥‥‥‥‥」

    兵士長はナイフで滅多刺しににされたため、すぐに力尽きた。

    「タイチ!!!くそぅ!!!しっかりしろ!!!今すぐに手当てをする!!!」

    ナイフで何度か刺されたタイチの傷の手当てをするが、この傷は素人目から見ても助かりそうにはない。

    あの一瞬で複数箇所を深く抉り取られている。

    「はぁ‥へっ‥心臓以外の箇所を的確に深く抉り取られてやがる‥心臓部分は‥肋骨があるからそう簡単に映画やアニメみたいには刺せない‥それを知っての正中線の複数箇所‥ごぼっ!!!」

    タイチは激しく吐血する。

    「もう喋るんじゃねぇよ!!!」

    「お前も分かってる‥だろ?‥こりゃ助からない‥だったら‥最期くらい喋らせろや」

    タイチの正論にその場は静まり返ってしまった。

    「まだ敵が何人潜んでいるのかわからねぇ‥油断するんじゃねぇぞ‥俺みたいに‥」

    「タイチ‥」

    「作戦は‥必ず成功させろ‥そして‥いつの日か‥この国を‥」

    言葉を全て言う前にタイチは事切れてしまった。
    暫くの間‥誰も口を開かなかったが

    「すまない‥俺がもっと早くにタイチを助けてやれば‥」

    「デブゾウ‥お前のせいじゃない‥あの不意打ちから仲間を助けるのは困難だった」

    トウヤは自責の念に駆られているデブゾウにすかさずフォローを入れる。

    「謝るべきなのは俺とコウキだ‥何も出来なかった。ただお前らが暴れているのを見ている事しか‥出来なかった」

    デブスケは落ち込んでいるようだ。そしてコウキはまた涙目になっている。

    「次に活かせばいい‥もう失敗は取り戻せない‥だったら同じ失敗をしないように気をつけるしかないだろ?‥タイチが言っていたように敵はまだいるかもしれねぇ‥いつまでもここでお喋りをしているわけには‥」


    「おい‥」

    「ん?‥どうした?コウキ‥!」

    トウヤとコウキは死体となった兵士長の顔を見て、勘づいた。

    「俺たちを最初に襲った兵士長と‥同じ顔‥」

    「双子じゃ‥ないよな?」

    コウキは双子の可能性を示唆する。

    「デブゾウ‥俺たちのところにいた奴とコイツ‥似てるよな?」

    「あぁ‥とても別人には思えない‥」

    「は?なんだよ三つ子ってことか?」

    「馬鹿言え‥コウキ‥これはおそらく‥」


    トウヤだけでなく、コウキもデブゾウもデブスケも同じことを考えているだろう。


  14. 14 : : 2021/02/14(日) 09:09:42
    【ここまでの話のまとめ③】
    ●キャラ設定●

    ●タイチ

    年齢 21歳
    性別 男
    身長 170cm
    体重 65kg
    出身地 中間領域・下級区域
    趣味 アメリカンフットボール・冒険
    所属 中間領域・中級区域 薬滅教団

    特徴 中間領域・下級区域出身だが、中間領域・中級区域の薬滅教団施設の所属となっている。その理由は住んでいる場所がたまたま中間領域・中級区域の施設に近かったから。タイチだけでなく、出身地と所属教団施設が必ずしも一致するとは限らない。
    大学生で経営学を専攻していて勉強は出来なくて単位は落とすが、頭は良いと評価されている。
    単位を犠牲にしてバイトで月10万円稼いだことがある。
    将来は日本が本当の意味で自由な国になったら世界各地を冒険するために冒険家になりたいと周囲に言っていて少し引かれていた。
    特徴的な顔をしていて細身だがアメリカンフットボールで培った体幹の強さがある。
    中間領域・中級区域の軍事施設の建物内部にて兵士長1人に不意打ちでナイフで複数箇所を抉り取られて絶命する。

    ●デブゾウ
    年齢 20歳
    性別 男
    身長 171cm
    体重 91kg
    出身地 中間領域・上級区域
    趣味 バスケ・大食い・早食い・ナンパ
    所属 中間領域・中級区域 薬滅教団

    特徴 身長は平均的だが大顔で全身の骨格が恵まれていて、非常にタフである。バスケ部に所属しているが、体格的にはバスケは向いておらず、レスリングや柔道などのパワー系競技の方が適性がある事を本人は気づいていない。
    持久力は殆どなく、足も遅いが意外と器用で力が強いため教団の中では強い方である。
    教団内の戦闘訓練で2メートル104kgの人間に一方的にボコられるも、殆どダメージになっていなかったようで、身体の頑丈さだけは今のところはトップクラスである。
    格闘技の練習をすれば強くなる逸材だが、本人には本気で取り組むやる気はないので、本来の力を発揮できずにいる。
    ナンパをするが年齢の割にオッサンみたいな見た目なので成功率は極めて低い。
    ナルシストであり、言動と行動には痛々しい部分が垣間見られる。

    ●デブスケ
    年齢 21歳
    性別 男
    身長 167cm
    体重 79kg
    出身地 中間領域・下級区域
    趣味 筋トレ・生物鑑賞・ゲーム
    所属 中間領域・中級区域 薬滅教団

    特徴 鳩胸で筋肉質だが中々本来の力を発揮できずにいる。強靭な見た目だが、メンタルは弱い。泣き虫なコウキほどではないが、勝負どころで心が折れることがよくある。
    身長コンプレックスがあり170cmにギリギリ届かなかったことに腹を立てている。
    優しい性格であり顔も悪くないが、性格は陰キャなので恋愛経験はなし。
    その見た目から実は男が好きなんじゃないかと疑われているが、本人はホモではないと全力で否定する。

    ●12区域で出現した兵士長
    年齢 不明
    性別 男
    身長 不明(180cm前後?)
    体重 不明(推定80kg前後?)
    出身地 不明
    趣味 不明
    所属 中間領域・中級区域 軍事施設

    特徴 中間領域・中級区域には200人ずつで5つの部隊に分かれて軍事施設を教団員は攻撃したが、その際に反撃部隊として兵士長3人が東西南北に合計で12人が地面から防弾ガラスと共に出現した。

    接近戦や銃火器の扱いに長けており、教団員の本物と同程度の威力の自作の銃弾を防ぐ防弾ガラスを巧みに扱い、人数差でハンデがありながらたった12人で200人近くを全区域にて圧倒した。
    人の殺し方を熟知しており、セオリー通りにプロとして動くことができる。その反面素人の予想外の動きには反応が少し遅れるという弱点もある。
    基本的には冷徹であり、どんな兵士長も戦闘態勢になれば敵と会話をすることは無い。

    軍事施設の罠と同時に電波障害が発生していて、教団員は連絡が取れなくなったが、他の区域の戦況も似た感じになっている。
    トウヤ、デブスケ、デブゾウ、コウキの4人は殺した兵士長の3人が同じ顔であったことに気づく。

    今回教団員が総攻撃した区域は12。一つの区域には1000人。
    そして一つの区域には公表されているだけでも5つの軍事施設があるため、200人ずつでそれぞれ作戦行動を開始した。
    つまり教団部隊の数は60である。

    ちなみに兵士長は前述の通り高い身体能力が求められるため、生物学的に身体能力で劣る女が兵士長になれる事はない。
  15. 15 : : 2021/02/15(月) 11:57:53
    「クローン兵士だ‥」

    トウヤはそう口にした。
    「‥まぁ‥だろうな」

    数十年前まではクローンは倫理観からもタブーとされていた。しかし数十年前でも牛や豚などの家畜のクローン化には成功していたし、クローン人間を作ることは不可能では無かったのだ。

    クローンは遺伝子レベルで肉体を複製出来るが、人格までは複製はできない。同じ姿をしていたとしても、それは全くの別人である。

    だが‥

    「この統率の取れた動きに‥似たような思考回路‥脳ミソも弄り回されて、似た思考を持たせるようにしているかもな。その方が都合が良い」

    確かにコウキの言う通りである。脳の改造手術による精神端正は可能だし、ナノマシーンを使い身体に埋め込めば、人間の洗脳も可能である。

    「まさか‥この国を守る最高戦力の兵士の正体が‥クローン兵だとは‥」

    もちろんまだ確定したわけではないが、状況証拠からその可能性は極めて高いと言える。

    「‥聞こえるか!?‥誰か応答してくれ!!」

    「!!!!」

    コウキ、トウヤ、デブゾウ、デブスケの4人はその声の主が誰なのかすぐに分かった。

    「こちらトウヤ!!ハルキ!!!聞こえるか!!」

    「トウヤか!?大丈夫か!?」

    「あぁ‥何とかな‥今はコウキ、デブスケ、デブゾウの4人で行動している‥現在、軍事施設内で敵の罠にかかり‥兵士長と交戦中‥」

    トウヤは必死に簡潔に現在の自分達が置かれている状況を報告する。

    「了解‥現在‥お前達のいる中間領域・中級区域の上空を戦闘ヘリで旋回中‥急いで来い‥一時的に戦略的撤退をすることを命じる」

    「了解‥助かっ‥!!!!」

    全ての言葉を言い切らないうちに、会話が途切れる。

    「ぐっ!!!!」

    「デブゾウ!!!!」

    「敵か!!!くそっ!!急げ!!!とにかく外に出てこい!!!!」

    デブゾウが撃たれた‥やはりまだ兵士長が残っていたか‥

    「行け‥」

    「何を言ってやがるデブゾウ!!!!お前も来るんだ!!!」

    トウヤは必死にデブゾウを説得しようとする。

    「誰かが足止めしなきゃ逃げきれない!!!安心しろ!!!後で追いつく!!!」

    「‥でも!!!」

    「コウキ!!!デブスケ!!!‥行くぞ!!!」

    「‥!!!‥くそっ!!!!」

    トウヤ、コウキ、デブスケの3人はデブゾウを置いて、全速力で建物の外を目指す。

    「死ぬときは‥カッコつけて死にたいと思っていたんだ!!!!出てこい!!!」

    「人生最後の大暴れだ!!!!」


    (何人いるのか知らねぇが‥俺が必ず食い止めてやる‥トウヤ達が逃げ切れるまで‥死ぬわけにはいかねぇんだ‥)

    デブゾウは防弾ガラスと小銃で迎撃体制に入る。


    (完全に即死させるのではなく‥敢えて不意打ちでも急所を外す事で‥精神的な苦痛を俺と仲間に強いる‥姑息だが‥効果的な戦法だ‥これは強いぞ‥)

    「‥‥‥‥‥‥‥」


    (だがな‥1発撃ったんだ‥それにここは狭い室内‥ある程度敵の位置は分かる‥)

    (ここまで来たら‥速く殺せる方が勝つ‥)

    デブゾウは首の部分に包帯で小銃のマガジンを取り付ける‥


    (トウヤ達はもう離れたようだ‥あとは他の兵士長がいない事を祈るしかねぇ‥)


    (いつでもいいぜ‥こんな時だが恐ろしく冷静だぜ‥よく状況が読める‥)



  16. 16 : : 2021/02/15(月) 22:47:09
    「姿を現しやがったな!!!」

    「‥‥‥」

    兵士長はデブゾウ目掛けて防弾ガラスで身を守りながら、ナイフを構えて突っ込んでくる。その物凄い勢いには覚悟を決めたデブゾウすら戦慄した。

    (やはり速い‥だが‥)

    デブゾウは一瞬その特攻してくる兵士長の剣幕に怯んだものの、すぐさま臨戦態勢に入り、小銃を乱射する。

    (やはり跳弾がヤバい‥ならば‥)

    兵士長が銃を使わないのは弾切れになっていることはすぐに察しがついた。さっきの一撃でラストの弾丸だったのだ。

    だから敢えてデブゾウ達を混乱させるために、急所を外して精神的な攻撃も図った。

    (真っ向からじゃ負ける‥だがもうやるしかねぇ!!もう後には引けない!!!!)

    デブゾウは突進してくる兵士長と真っ向から戦う事を決意する。普通にやれば身体能力と戦闘能力で大きく劣るデブゾウには勝ち目はない。

    だが、玉砕覚悟ならば少しだけ勝機はある。

    「終わりだ!!!」

    ガキンッ!!と‥鈍い金属音が室内で響き渡る。その音の正体は兵士長がデブゾウの首を掻っ切った音だった。

    (何!?手応えが‥これは‥!?)

    デブゾウは包帯で小銃のマガジンを巻き付けていた。接近戦なら的確に急所を狙ってくる兵士長の攻撃パターンを逆手に取った戦法である。

    どんなに鍛え抜かれた人間であっても、予想外の出来事に直面すればほんの僅かだとしても動揺するものである。

    デブゾウはその一瞬に勝機を見出すつもりだった。だからこそその隙を見逃さなかった。

    「おおおおおおおおおおっ!!!!ぐあっ!!!」

    デブゾウは見事に兵士長の首をナイフで貫くことに成功する。

    だが、兵士長はナイフで首を貫かれる前に手榴弾を起動させていた。


    (なんだこれは?‥時間の流れがゆっくり感じる‥走馬灯か?‥死の間際だから‥)

    実際の流れている時間は当然ながら変わる事はない。時間の流れは平等である。

    だが死の瞬間走馬灯を見る場合‥人はその瞬間は一瞬にも満たないはずだが、時間の流れがゆっくりに感じることがある。

    デブゾウは生まれて初めて、その特殊な体験をした。殆どの人間は殺されるという体験はないし、寿命以外で死の瞬間に立ち会う事はない。


    だからこそそれは特殊であり、誰でも体験することではない。

    デブゾウは自分の20年という人生を振り返ることになった。

    (思えば俺は‥時間を浪費してばかりだったな)

    (それを自覚しているのに‥変わろうとも思わなかったし‥時間はたくさんあると思っていた)


    デブゾウが見ているのは自分の部屋でスマホを見ながらゴロゴロしている光景や、雑魚寝しながらポテチ片手にゲームをしている光景

    そんな他愛もない誰でもやるような光景‥

    (そんな俺も‥教団に入って‥何か充実感を得たんだ‥そこで時間の大切さを改めて認識した‥)


    (親とはあんまり話さなかったが‥最後は仲間を庇って死ねるんだ‥悪くない最期だよな?)

    (それに教団に入ってからの生活は‥なんだかんだ言って‥結構楽しかった‥)


    ズドォッ!!!!っと‥

    建物の外まで聞こえる爆音が響き渡る。その瞬間にデブゾウの意識は一瞬にして途切れることになった。



  17. 17 : : 2021/02/15(月) 23:07:22
    中間領域・中級区域にある5つの軍事施設‥
    トウヤ達は上空に戦闘ヘリで待機しているハルキ達の元へと急いでいた

    (今の音は‥敵か‥それとも‥デブゾウが‥)

    「早くしろ!!!これ以上は限界だ!!!」

    ハルキは戦闘ヘリから梯子を下ろす。トウヤ、コウキ、デブスケの3人はその梯子に素早く掴まる。

    「もうこのまま離脱する!!!振り落とされるんじゃねぇぞ!!!!」

    ハルキの怒号を合図に戦闘ヘリは軍事施設上空から離れていく。ひとまずは‥逃げ切れたという事だ。

    「ハルキ‥すまない‥助かったぞ」

    「気にするなトウヤ‥それより‥状況は?」

    「悲惨なものさ‥俺たちの班の仲間は殆どが12人の兵士長に殺された‥それに見て分かる通り‥ここの軍事施設は俺たちを誘き寄せるための罠でだった‥俺たちはまんまとそれに引っかかってしまったわけだ」

    「そうか‥ならばどこも同じような状況になっているのか‥」

    「まさか‥他の班も‥」

    「あぁ‥少数精鋭部隊の兵士長達に返り討ちに遭っている‥完敗ではないものの‥あの人数差でここまで押されるとはな」


    「‥‥‥‥」

    「すまない‥俺たちのミスだ‥もっと敵の施設の下調べをしておくべきだった」

    ハルキは悔しそうな顔でそう言い放った。自責の念に駆られているのだろう。

    リーダーになりたいと常日頃から思っているハルキだが、その分人一倍責任感が強く、能力が高いため全てを背負ってしまう傾向がある。

    それが短所でもあり、長所でもある。

    「‥」

    コウキとデブスケは疲れて寝てしまったようだ。無理もない。運動量と運動時間は大した事はないかもしれないが、実戦は運動強度が異常に高く、殺されるかもしれない恐怖は体力を消費していく。

    熟練の兵士でもそうなるのだから、初陣だった彼らには酷な話である。

    トウヤは大規模な同時総攻撃作戦‥今日起きた出来事を頭の中で反芻する。

    最初の装甲車へと変貌を遂げたトラックによる前門の破壊と、侵入は成功した。

    だがそれは敵の思う壺だった。罠にかかる事はある。だがその後の対応が悪かったと反省している。

    (12000人の団員の殆どが‥殺されて教団はほぼ壊滅状態だ‥不意打ちは失敗に終わり‥教団の真意は白日の元へと晒されて‥これから本格的に政府に潰されることになるだろう)

    (そして俺は‥仲間に助けられてばかりで‥殆ど何も出来なかった‥俺はもっとやれると思っていた‥でも現実は違った‥訓練が足りなかった?情報不足?‥もっと冷静に対応していれば‥もっと早くから準備していれば何か変わったのだろうか?)

    (ん?‥いや‥そもそも‥どうして俺たちの不意打ち作戦がバレた?‥罠を仕掛けられていたということは‥予め敵はこちらの動きを読んでいたことになる‥そうなれば‥教団の中に政府の内通者がいたということになる‥)

    (それか‥政府の人間は‥教団以外の第三勢力の襲撃を危惧していて‥ずっとあの罠を起動させていたのか?‥いや‥違う‥地面から出てきた兵士長は俺たちが来ることが分かっているような口調だった‥あの罠は俺たち教団に対する‥ものである可能性が高いということだ‥ならば‥怪しいのは‥)

    「ハルキ‥」

    「ん?‥まだ起きていたのか‥」

    「は?‥どういう‥!」

    トウヤは思考していたので気づいていなかった。あの緊張感から解放されて、警戒を怠っていた。

    「ぐっ‥これは‥」

    「‥」

    「なんでお前‥ガスマスクなんか‥付けているんだよ?‥ハルキさんよ‥」

    「お前は何も考えなくてもいいんだ。疲れただろ?ゆっくり休むといい‥」

    トウヤの意識は朦朧として、少しでも油断すれば気を失う状態だ。

    「うっ‥」

    だがとうとうトウヤにも限界が訪れる。


    「全員眠った。拘束しろ‥」

    「了解‥」


  18. 18 : : 2021/02/15(月) 23:28:48
    「ぐっ‥ここは‥」

    目が覚めた。そしてトウヤは辺りを見渡す。牢屋のようなところに鎖で全身をぐるぐる巻きに拘束されている。そして薄暗く、少し肌寒い。

    (装備が全て没収されている‥誰に‥何があった!?俺は‥俺とコウキとデブスケは‥確かハルキが乗っていた戦闘ヘリに乗って‥あの施設から脱出したはず‥それから‥)

    コツコツとこちらに歩いてくる音がする。トウヤはそれに気づいて少し身構える。

    「おはようトウヤ。目が覚めたようだな」

    「ハルキ?‥ここはどこなんだ?どうして俺は拘束されている‥お前がやったのか?」

    「そうだ。」

    「何故だ?俺は何か‥違反をしたわけではないだろう?理由を説明しろよ」

    「終わったんだよ」

    「は?」

    「お前達の役目は終わったんだよ。もう潮時だったんだ。これ以上はお前らを泳がせておく必要は無かったからな。」

    「何を‥言っているんだ?」

    「薬滅教団?この国の未来をより良い方向に変える?この腐った世の中を俺たちが正しくする?馬鹿じゃないのか?」

    ハルキの事はトウヤは昔から知っている。だが今喋っているハルキはトウヤの知らない顔をしていた。物凄く‥人を見下しているような‥そんな顔だった。

    「全部嘘だったんだよ。薬滅教団は政府の人間が作ったんだ。」

    「なら‥お前も‥」

    「そうだ。だいたいおかしいと思わないか?領域区域制度をカースト最高位にいる人間が正そうとするのを。自分達の地位を脅かすような真似はしないだろ。それにいきなり興行収入を10倍近くまでできる資金力があるなら、もう少しマシな作戦を実行できたと思わないか?お前らの装備はいかにも貧乏人が頑張って作った感満載だったろ?お前らの投資した金は全て政府の人間の懐に入ったんだよ。」

    「なん‥だと?」

    「興行収入10倍は嘘だ。あれはそういう風に情報を改ざんしただけで、本当は教団は一円も出してない。まぁ騙された団員達は金を出したのかもしれないがな」

    マシンガンのようにベラベラとトウヤ達が騙されたことを話すハルキのその姿はとても同じ人間には見えなかった。

    「ふざけるんじゃねぇぞ!!!!俺たちはどんな思いでこの組織に入団したのか!!!何人死んだと思っている!!!!」

    「黙れ!!!」

    「!」

    「教団員の死体はもちろん医療のため、生物兵器開発のために有効活用させてもらう。」

    「‥デブスケとコウキは‥どこに行った!!!生きているのか!?おい!!!」

    「今はまだ生きているさ。だが奴らは生きたまま生物兵器実験のモルモットになってもらう‥まぁ死ぬのは時間の問題ということだ」

    「ふざけるんじゃねぇよ!!!外道が!!!」

    「医療の発展は多くの人間の犠牲の上に成り立っている。有効活用されるだけ有難いと思え」

    「この拘束器具を外しやがれ!!!俺とタイマンしやがれ!!!こっちに来い!!!殺してやる!!!ズタズタにして殺してやる!!!」

    「あまり俺を怒らせない方がいいぞ?一定数の元団員は逃がしてやる。もちろん犯罪者のお前らには最下層の南方領域・下級区域に住んでもらうがな」

    「何故俺たち全員を‥実験台にしない?何故だ?」

    「‥惨めに生きてもらうためだよ。いつでも殺せるのに敢えて生かしてやるんだ。お前らのプライドはズタボロだろ?」

    「‥てめぇ」


    「さて‥そろそろまた眠ってもらうか。つぎ起きる時は、スラム街のゴミ捨て場だろうな」

    「食い殺してやる!!!おらっ!!!!」

    「ふっ‥お前らが本気で国を変えるとか言って革命ごっこしてる姿はお笑いだったぜ‥」

    「うるせぇ!!!うるせぇ!!!かかってきやがれ!!!くそが!!!!!!」

    「じゃあな‥もう会うこともないだろ」



    「ぐあっ!!!!!!???????」









  19. 19 : : 2021/02/15(月) 23:55:04
    「ぶはあっ!!!!‥ここは‥また、別の場所か?‥」

    トウヤはまた別の場所で目覚める。辺りを見渡すと、ゴミ捨て場のようなところでお世辞にも綺麗な場所ではなかった。

    「‥」

    「あ?‥誰だ?」

    気づくと大柄な中年男性が立っていた。目覚めたばかりだからか、その存在に気づくのが少し遅れたのだ。

    「お前も政府の人間に騙された‥元薬滅教団の団員か?」

    「‥」

    「隠さなくてもいい。俺は敵ではない」

    (コイツは俺が起きるのを待っていたのか?敵じゃないだと?どういう意味だ?‥薬滅教団の協力者?‥いや‥それなら政府の人間の可能性が高いよな‥なら違うか‥)

    「おっさん何者だ?」

    「‥簡潔に言えば似たもの同士って奴‥だな。だが俺は教団の関係者ではないが‥」

    「話が見えない。何がしたい?」

    「ここは南方領域の下級区域‥要するに日本で最も治安が悪い地域だ。お前さんは犯罪者だからここに強制移住させられた。行く宛はあるのかい?」

    「俺は犯罪者じゃねぇ‥」

    「いいや犯罪者だ」

    「あ?」

    「どんな大義名分があろうと、国の施設や人間を殺すような奴は一般人から見たら犯罪者でしかない。危険な存在だ」

    「そうかも知れねぇが‥俺たちがやらなければ‥国は動かない‥誰がこの格差社会から救うんだ?」

    「誰かお前に助けを求めたのか?」

    「なに?」

    「確かにこの格差社会に不満を抱いている人間はいるだろう。特に底辺の人間だ。だが皆んながお前達のように武力で制圧しようとは思わない。むしろお前たちは少数派だったはずだ」

    「‥つまり‥なんだ?」

    「不満なんて誰にでもある。だが大きな流れには逆らわない奴が大半なんだよ。」

    「大きな‥流れ?」

    「この世の理不尽だ。そういうものだと受け入れるしかない。格差社会と言っても実力主義の社会になっただけであって、別に理不尽なわけでもない。この世は弱肉強食だ。それは昔から変わらない。」

    「‥」

    「確かにその精神力や行動力は評価に値する。だがお前達は選択と行動を間違った。そして政府の人間に利用されて、結果多くのものを失った。違うか?」

    「うるせぇ!!!バーカ!!!バーカ!!!」

    トウヤは何も言い返すことが出来なかった。仲間を多く失い、自分の無力さと騙されていたことに打ちのめされていた。

    信頼していたハルキは政府の人間で、仲間達はただ政府の人間に踊らされていただけだという事実は受け入れ難いものだった。

    「論破されてまともな事を言い返せなくなった奴はガキみたいに喚き散らす‥お前のようにな。トウヤ」

    「黙れ!!!黙れ!!!俺たちは何も間違ってない‥」

    「じゃあどうする?今度は政府の人間に復讐するために人生を無駄にするつもりか?」

    「はぁ!?」

    「そもそも国を相手に戦えるような組織はこの国にはない。」

    「何故‥そんなことが‥分かる?」

    「軍事施設は重量制御装置で年中空に浮いている‥そして地下にも深海にも存在する」

    「何故‥そんな事がわかる?」

    「元兵士長‥だからな」

    「‥じゃあなんでそんな奴がこんな所にいやがる?そもそもそれ言って大丈夫なのか?」

    「‥お前を信頼している。だから話した。それにここには俺とお前以外は誰もいない。」

    「‥なんだよ‥なんなんだお前は‥」

    「俺も昔‥国の奴らには歯向かって‥部隊を追放されて‥この最果ての地に強制移住させられた」

    「俺もお前のように復讐計画を何度も実行したが全て失敗に終わった」

    「‥俺はあんたじゃない。俺は必ず‥」

    「いいや復讐は成功しない。罪を重くして更生の機会を逃すか、殺されるだけだ」

    「やってみなきゃわからねぇだろ!?」

    「確かにそのハングリー精神は大事だが、さっきも言った通り力の使い方を間違えるな」

    「うるせぇ!!!うるせぇ!!!黙れ!!お前に命令される筋合いはない!!!」

    「お前は少し頭を冷やした方がいいな‥」

    「やろうってのか!?あ!?」

    「ついてこい‥今のお前に見せたいものがある。」

    「見せたい‥もの?」

    「そうだ‥」

  20. 20 : : 2021/02/17(水) 00:30:08
    トウヤはセンダイの車でセンダイの言う見せたいもののところまで、行く事にした。
    しかし完全にセンダイの事を信用しているわけではなく、何かあった時のためにゴミ捨て場で拾ったガラスの破片を忍ばせていた。

    「‥おい‥もう車で1時間くらい移動しているぞ?‥まさか俺を拉致しようってわけじゃないだろうな?」

    トウヤは直球にセンダイに問う。

    「拉致したいなら気絶している間に拘束するだろ。少しは頭を使え。」

    「‥‥ちっ‥ところで‥なんで俺が薬滅教団員だと分かった?‥なんで反乱を起こしたことまで‥」

    「さっきも言ったが俺は元兵士長だ。その時に薬滅教団と似たような組織があったんだ。まぁ‥結果は見事に失敗して、全てを失ってこの最下層の南方領域の下級区域に強制移住させられたわけだが‥要するに‥俺もお前と同じようにゴミ捨て場に捨てられていたんだ。だから‥」

    「なるほど‥境遇が同じだから分かったと‥だがあのゴミ捨て場には俺と同じように捨てられていた奴もいたんじゃないのか?」

    「少なくとも俺は見てない。他にも仲間がいたのか?」

    「俺の友達は殺されてしまったが‥ハルキ‥元柱だった日本政府の奴が言ったんだ。俺以外にも‥強制移住させられた奴がいるって‥何人か生かす奴がいるのは‥俺たちを苦しめる為だって‥」

    「そうか‥まぁ‥本当にお前以外にも強制移住させられた奴がいたとしても、全員同じ場所に放り投げるわけにはいかないだろうからな」

    「まぁ‥そうだな‥」

    2人の乗っている車の速度が徐々に落ちていく。そして森林地帯へ入っていく。

    「オイ‥森の中に入ったぞ?‥どこに向かっているんだ?いい加減に教えろよ」

    「俺の運営している施設があるんだ‥そこに向かっている‥」

    「まさか俺をそこで住まわせるつもりか?」

    「イヤか?だがお前にはこの区域で頼れる人間はいるか?‥」

    「‥ここにはいないが‥俺には親が‥」

    「いいか‥実験台や下層領域に強制移住させられた時点で親はお前達を見捨てている。自分たちの序列にも影響するからな」

    「まだ親とは話してないし‥そんな事が‥わかるわけ」

    「お前だって気づいているだろう‥今の時代は親と子供の繋がりは極端に薄い‥足手纏いになるなら切り捨てられる‥」

    「‥」

    「ここに強制移住させられた時点でもう答えは出ている‥だが‥全ての人間が人の心を失ったわけじゃない」

    「俺を優遇する理由は‥俺とアンタが似ている‥からか?」

    「そうだ‥そしてそれはお前だけではない。俺は11人の子供達と暮らしている‥まぁ子供と言ってもお前と同じような年齢の子ばかりだが‥」

    「‥」

    「最終的にどうするかはお前が決めるべきだが、暫くは俺たちの施設にいるのが賢明な判断だ。今は下手に行動するべきではない‥」

    「‥ちっ‥」

    「よし‥到着だ‥この時間はちょうど走っているだろう‥」

    「走っている?‥こんな森の中を‥か?」

    「みろ‥」

    「!」

    センダイが指差す方向には小柄な女が走っているのが見えた。そしてそのすぐ近くには大きめの建物が見える。

    あの建物がセンダイの運営している施設だろう。

    「速い‥」

    「彼女の名前はアリサ。陸上をやっていて専門種目は短距離。100メートルの自己ベストは11秒19だ。」

    「女で‥しかもあの体格ならかなり速いな‥」

    「彼女以外の子供達は‥数日後には中間領域・下級区域に引っ越すことになる」

    「!‥旅行じゃなくて‥それは移住ってことか?」

    「そうだ。この制度の良いところの一つは敗者復活が保証されているところだ。頑張った奴が報われて、頑張らなかった奴は相応の待遇しか受けられない。」

    「だが‥元の出身地が最下層だ‥世間の風当たりは厳しいはずだ‥中間領域の職場に就職できたとしても履歴書で素性はバレる‥噂は広がるものだ」

    「それでも胸を張って生きていくしかない。全ての人間に肯定されることはないだろうが、必死に生きていけば認めてくれる人もでてくる」

    「‥」

    「お前達薬滅教団のようにルールの中では勝てないから、そのルールに文句を言い挙句の果てには武力行使することは許されない。」

    「アンタも同類だったんだろ?」

    「だが俺は更生した。2年後には中間領域・上級区域の軍事施設で教官をする契約をした」

    「馬鹿な!?‥反社会行動を起こして‥除隊させられた奴が?‥」

    「そうだ‥人間は社会的な動物だ。決められたルールを守って、間違いを認めてそれを償えば道は開ける。」

  21. 21 : : 2021/02/17(水) 00:59:12
    「領域区域制度が確立されてからは、昔のように刑務所を出所した人間が社会で生きていくのが困難になることはなくなった。だから区域は12段階に分けられて、待遇は変わる。」

    「‥」

    「お前達薬滅教団は間違った行動をして、その報復を受けただけだ。お前はやり直せるチャンスを貰ったんだ。そのチャンスを無駄にするな」

    「‥」

    「ここで生きている奴は馬鹿にされる事もあるし、ストレスの溜まることは多い。だがそれでも必死に努力して1日1日を大切に生きている。お前はどうだ?」

    「‥」

    「人のせいにして、ルールのせいにして、社会のせいにして、何をしてきた?」

    「黙れ!!!お前に俺の何がわかる!?何もしらねぇ奴が偉そうなこと言うな!!!」

    トウヤは怒りが爆発して、隠し持っていたガラスの破片でセンダイに斬りかかる。

    しかし素早く避けられて逆に反撃を喰らう。

    「ぐっ!!!」

    「甘ったれているんじゃねぇぞ!!!」

    「うっ‥てめぇ‥」

    「苦しいのはてめぇだけじゃねぇんだよ。華やかな生活をしている奴や、明るそうな奴だって苦労はしてるんだよ!!お前なんて恵まれた方だっただろう!?それがなんだ?どうしてこんな糞野郎になっちまったんだろうな!?」

    「だ、黙れ‥ネットには領域区域制度に不満を持っている奴はたくさんいる‥」

    「何かそういうデータはあるのか?ネットのコメントなんて大勢に見えるが、実際の数はどうなんだろうな?」

    「そういう不満を持ってる奴らがたくさんいたから‥薬滅教団は‥」

    「せいぜい1万人程度だろ?しかも騙されていた‥確かにこの制度以外も日本政府の新制度は最初は悉く批判された。だが今はどうだ?この生活が当たり前になっている。何故だか分かるか?」

    「‥しらねぇよ」

    「新制度の問題点を遥かに上回るメリットがそれを帳消しにしたからだ。そして日本政府はジェンダー意識の改善、政治家の一新、犯罪の大幅減少、領土問題の解決‥国が実績をどんどん積み上げていった。」

    「‥」

    「口だけの雑魚や中途半端な奴ほど、大したこと無いくせによく吠えやがる。特にお前のような行動力のある無能が一番有害なんだよ」

    「なん‥だと?俺が無能だって?‥」

    「今はな。だがこれからのお前次第でいくらでも挽回できる」

    「うっせぇ‥」

    「いつまでも逃げてるんじゃねぇぞ!?もうやるしかねぇんだよ!!」

    「!」

    「お前は時間を浪費し過ぎた。だがまだ若い。若い力ってのは強い。だがいつまでも若いわけじゃねぇ。人間は必ず老衰する。特に身体能力は年齢には勝てない。やるべきこともやりたい事も全力でやればいい。」

    「若い力‥」

    「これ以上時間を無駄にするな‥またここから始めればいいさ‥」

    「俺は‥俺は‥」

    「‥」

    「まだ‥やり直せるのか?‥」

    トウヤは感情が昂って涙を流した。そしてその声は震えていた。

    「やり直せるさ‥彼女の練習が終わったらアリサと話してこい。そしてお前もまた本格的に陸上を始めればいい」

    「なっ‥知っていたのか?」

    「身体つきをみれば分かる。それからこれから2年間は3人で暮らすことになるだろう。」

    「確か‥10人の子供は数日すれば引っ越すとか言っていたな‥」

    「そうだ‥アリサ以外の子供達は25歳を超えている‥働いて金も貯めたし、就職先もやっと見つかったんだ」

    「出て行く子供達はそれぞれに夢がある‥スポーツ選手‥普通の生活に憧れたり‥将来は中心領域に住みたいという野心を持つ者までいる‥」

    「アリサは今陸上の全日本大会でも戦っていける実力がある。だが金銭的な問題以外にも大会に出場出来ない理由がある」

    「いったいどんな」

    「それは彼女に直接聞くといい。‥ほら‥話している間に練習が終わったみたいだ」

    「‥アンタはどうするんだ?」

    「俺は他の子供達の荷造りを手伝う。おもいものが沢山あるからな‥引っ越すのは数日後だが‥明日にはこの区域からは出ることになっているからな」

    「そうか‥じゃあ‥ちょっと行ってくる‥これから一緒に住むことになるんだ‥挨拶をしておかないとな」

    そうしてトウヤは陸上の練習が終わったアリサの元へと向かった。
  22. 22 : : 2021/02/17(水) 01:19:30
    【ここまでの話のまとめ④】
    ●センダイ
    年齢 53歳
    性別 男
    身長 193cm
    体重 98kg
    出身地 中心領域・中級領域
    趣味 軍隊格闘・人助け・釣り・読書
    所属 南方領域・下級区域 (孤児院施設)

    特徴 元新生日本軍の兵士長階級だった大柄な男。数十年前に薬滅教団と似たような組織で反乱を起こすも制圧されて、最下層の領域に強制移住させられたという経験がある。
    同じような境遇の子供達やトウヤを施設に迎え入れる良心のある人物。
    トウヤが来た日には旅立つ10人の子供達を見送るための準備をして、トウヤには後述のアリサ、トウヤ、センダイの3人で2年間住む事を提案する。
    センダイ本人は2年後に中間領域・上級区域の軍事施設で教官として就職する事になるため、この2年間が最後の施設暮らしの期間となる。
    勉強はできないが、頭は良く哲学的な思考をする事ができて、トウヤ達の行動は大義名分はあったとしても、側からみればただの犯罪者だと断言した。自らもどん底から這い上がって更生した経緯があるため、どんな人間でもやり直せるという確信がある。
    外見は眼鏡をかけていて少し髭を生やしているが、実年齢より少し若く見られる事が多い。

    ●アリサ
    年齢 24歳
    性別 女
    身長 154cm
    体重 51kg
    出身地 南方領域・上級区域
    趣味 短距離・家事・金を稼ぐこと
    所属 南方領域・下級区域 (孤児院施設)

    特徴 女子の中でも小柄であるが、100メートルの自己ベストは11秒19と日本人女子の中ではトップクラスの実力者。清楚系で可愛い見た目をしている。
    詳細はまだ不明である。
  23. 23 : : 2021/02/18(木) 19:56:38
    「こんばんは‥頑張ってるな」

    「ん?新しい人?」

    「あぁ‥今日から2年間‥センダイさんがこの施設を去るまでお世話になる‥よろしく」

    「よろしく。ということはこれからは私たち3人で住むことになるね」

    「そうだな。それにしても速いな‥聞いたよ。俺と自己ベストがほとんど変わらないじゃないか」

    「どうも」

    「昔から速かったのか?」

    「まぁね」

    「そういえばここでは仕事とかはどうしてるんだ?自分で探すのか?」

    「悪いけどまた今度にしてもらえる?‥今練習終わったばかりで疲れているんだよね‥あ、別にアンタを毛嫌いしているわけではないから。気は悪くしないで‥本当に疲れてるの」

    「悪い‥それじゃ‥」

    目の敵にされたわけではないが、少し警戒されているのかな?

    それは当然か。ここの領域は最底辺で治安が恐らく日本で一番悪い。それは事実。

    多分、ここに来る子供達もみんなが皆んな良い奴ではなかったんだろうな。トラブルも沢山あっただろうし、それはこれからも同じだろう。

    ただでさえ生活が苦しいはずだ。それに初対面の人間なら、すぐに打ち解けるのは難しいだろうな。

    「‥」

    トウヤはアリサが走っていたグラウンドを見渡す。悪くはないが決して良くはないだろう。普通に走れるがここはトラックじゃない。

    整地されているとは言え、タータンでスパイク履いて走れる環境があればもっと練習の成果は出るだろう。

    それともここ以外にも練習場があるのだろうか?いくら治安が悪いとは言え、陸上競技場くらいはあるだろう。一昔前はたくさんあったのだから。

    でもセンダイや彼女の練習風景から察するに、どうやら頻繁には最適な環境での練習は出来ないようだ。


    「よし‥走るか‥」

  24. 24 : : 2021/02/18(木) 20:17:21
    トウヤは力一杯地面を蹴る。やる気は満ちているが、速度は決して速いわけではない。

    トウヤの自己ベストは11秒00である。彼より速いのは必然的に10秒台ということになる。10秒台は本当に才能が無ければ出せない。2020年前後の時代は女子の最高記録は11秒21である。

    つまり日本人の女子では10秒台を出すことは非常に困難であり、男でもかなり難しい。

    たかが0.01秒という差ではあるが、陸上においてそのタイムの差は大きいのである。それを破るのに何年も年型を費やす。当たり前だがレベルが高くなるほど0.1秒の価値は重くなる。

    「はぁ‥はあ‥たった100メートルくらい走っただけなのに‥マジかよ」

    トウヤは気絶して目が覚めて、センダイと共に自動車に乗ってゴミ捨て場からこの施設まで移動してきた。そしてアップも無しでいきなり走り始めたのだ。

    当然、アップ無しでは万全な状態では走ることはできない。怪我のリスクも高まるから、陸上界ではタブーだ。それは陸上だけでなく、他のスポーツにおいても言えることではあるが‥

    トウヤは走りたかった。だから走った。しかし物凄く疲れた。それは度重なる悪条件があったと言う事も影響しているだろう。

    しかし本質的な問題はそうではない。彼は高校までは陸上短距離を本格的にやっていた。大学生になってからは違う。

    日本の新制度‥新制度と言ってももう数十年も続いてはいるが‥

    とにかく大学生になってからは薬滅教団に入団した。そして教団に入団してからは、戦闘訓練に重きを置いて時間を使った。

    戦闘訓練と言っても、軍隊格闘ばかりするのではなく体力訓練の一貫として高強度の自重トレーニングやウエイトトレーニング。そして足場の悪い環境で走ったり、坂ダッシュもした。

    しかし本格的に短距離特化のトレーニングをしている時と比べたら、その走力の差は言うまでもなく圧倒的な隔たりがある。

    どっちの方が速いのかは言うまでも無いだろう。 


    「まぁ‥この状態では速く走れないのは当たり前か」

    トウヤはこの短期間で言われた数々の言葉を頭の中で反芻して、よく思考した。

    新制度が気に入らないからと言って、武力を用いて徒党を組み各領域の軍事施設を破壊する。

    結果的には返り討ちに遭ったわけだが、その行為はもはやテロ行為の何ものでもない。

    彼らには大義名分があったのかもしれない。革命が成功していれば、彼ら薬滅教団は英雄視されて、元々の体制の人間はまるで悪魔の如く批判されて社会的にも精神的にも抹殺されていたかもしれない。

    だが現実は違う。

    彼らは政府の人間に騙されて、その手の中で踊らされていただけだった。

    現政府の問題点はあるが、それを上回るほどの実績がある。

    口だけで武力行使という極端な行動に走った薬滅教団と現政府の間には越えられない壁がある。

    元薬滅教団の生き残った数少ない団員は変わることができれば、更生のチャンスがある。

    力が無かったからこそ、生殺与奪の権を握られて、行ったことの報復を受けた。




    トウヤを含めて踊らされていた薬滅教団の人間は、何かにストレスをぶつけたかったのだ。

    だが、仲間を騙し、自分自身を騙し


    許されざる破壊行為の肯定をした。本来なら懲役は免れないだろう。


    しかし一部の人間は許された。

    ここから腐るのか?

    ここから這い上がる闘志を糧に更生するのか?



    それはそれぞれの元薬滅教団の判断に委ねられる。しかし、次同じような事を起こせば



    もはや更生のチャンスは闇へと消え失せるだろう。



    「俺たちはまた一から始めるべきだ‥せっかくそのチャンスがあるんだ‥」

    (俺たち薬滅教団の事は公にはされて無いと聞くが、いくら情報操作をされていたとしても、センダイのように感づく人間はいるし、何より軍事施設の破壊行為を直接見た人間には何が起きていたのか、ある程度は予想されてしまうだろう)

    (どこで恨みを買ってしまった人間がいるのか分からないし、これからの困難は想像を絶するものだろう)



    (だが‥俺はやる‥やらなきゃいけねぇんだ‥時間は無限じゃねぇ‥止まってる暇はねぇんだよ)


    トウヤは覚悟を決めた



  25. 25 : : 2021/02/18(木) 23:47:39
    ー半年後 南方領域 下級区域ー

    トウヤは施設に迎え入れられたからすぐに日雇いの仕事を掛け持ちして、金を稼ぐことにした。何をするにもお金は必要だし、自分が住まわせてもらっているという状況には申し訳ないと思っていたし、住む場所を提供してもらっている以上は最低限それに見合う金は施設に寄付する必要がある他考えていた。

    上の区域に上がるにはあらゆる社会貢献の他にも、年収を上げて区域内の敷地と家を買うという手段がある。金を稼ぐということは、それだけで単純に自分たちの生活をより良き方向へと導いてくれる。

    「オイ!!!てめぇ何ぶつかってきてんだよ!?オイ!!!」

    「‥」

    「なっ!!!てめぇ!!!逃げるな!!!腰抜けが!!!バーカ!!!バーカ!!!!」

    トウヤのいる区域は最下層でスラム街が近く、日本で最も治安が悪い。喧嘩なんて日常茶飯事だし、犯罪行為は毎日のように起きる。

    だが、トウヤはなるべく無駄な無意味な喧嘩は避けた。喧嘩をしたところで、咎められることはほぼないが、これから上の区域に移住すると、喧嘩をする癖は必ず足枷となる。

    この最下層の区域でどのような立ち振る舞いで生きるのか。その癖は身体に染みつく。そしてこれからの命運を決めると言っても過言では無い。

    (無駄な争いは避ける‥良い歳して喧嘩を売ることばかりしてる連中とは同類にはなりたくねぇ‥)

    (底辺の連中との喧嘩は本当に時間の無駄だ‥)

    トウヤは夜の街を歩く。夜になると喧嘩を仕掛けてくる人間は昼間と比べて増加する。どうやら彼らは夜行性のようだ。

    (仕事も終わったし、さっさと帰って練習しねぇとな‥明日の朝も早い‥)

    日雇いの仕事は決して時給は高いわけではないが、掛け持ちすることでトウヤは一定の月収を得ることが出来ていた。

    そしてその月収の一部は施設に収めている。今はアリサとトウヤとセンダイの3人だけだが、他の子供達も自分で稼いだお金を施設に収めていた。


    「よお兄ちゃん。痛い目に遭いたく無かったら金を置いてけや」

    「‥」

    「ま、お金を大人しく渡したとしてもストレス発散したいから、痛い目には遭ってもらうんですけどね笑笑」

    「ふっ!!!」

    「ぐふっ!!????」

    「あ!!!アイツ逃げたぞ!!!」

    「てか‥速いなアイツ!!!!」

    トウヤは自分からは喧嘩を仕掛けたりはしない。それはこの最下層の区域に来る前からだ。

    しかし相手がしつこかったり、人数を集めて囲まれたりすれば、正当防衛と称して全力で抵抗‥そして全力で逃げる。

    ヤバい奴とは関わらないのが賢明な判断だが、無視ばかりが正解ではない。相手が強引だったり、人数が多かったり、しつこかったりすれば抵抗する必要がある。

    (人数を集めて来るような奴らは油断してる事が多い‥そう言う奴らには金的攻撃が簡単に決まる‥あとはアイツらが動揺してる間に逃げる‥)

    (俺は身体能力が高くてある程度の戦闘訓練を受けているから、そこら辺の奴らに負ける事はないが、どんなに強くても大人数と武器持ち相手では絶対に勝てる保証はない‥)

    (それに不毛な喧嘩は勝つ必要はない‥絶対に負けなければ良い話だ‥こう言う時に陸上をやっていて本当に良かったと思う‥)

    トウヤはこの半年間で全盛期に近い走力を取り戻していた。トウヤ自身走るのが好きだと言う理由もあるが、この治安の悪い区域に住んでいる以上は身体能力を高くする必要があった。




    「ここまで来れば‥もう大丈夫だろう‥」


    「‥」

    「!!!!!」

    トウヤは背後からの攻撃を間一髪でかわす‥


    「‥さっきの連中の仲間か?‥手口が巧妙だな」


    「何を言っている?俺はお前を殺しに来た」


    「‥何だと?何の冗談だ?」

    一見ホームレスのような身なりだが、動きやすいジャージ姿‥それに身体のあちこちに膨らみがあり、何やら仕込んでいる形跡がある。


    「冗談ではない。依頼があったんだ。お前を殺してほしいと‥まぁ正確には違うが‥」


    「‥薬滅教団を恨んでいる人間か?」

    「さぁな。お前はもうここで死ぬんだ。知る必要はないだろ?」

    襲ってきた男は構えを取る。


    「なんだ?‥武器は使わないのか?」

    「銃を使えば警察が動く‥ナイフを使っても事件性があると判断される‥だが素手で殺されたなら、ここでは良くあること‥」


    「意外とよく考えてるじゃないか‥だがタイマンで素手同士なら‥負けないぞ?」

  26. 26 : : 2021/02/19(金) 00:01:40
    トウヤは仕事終わりだ。そして何回かチンピラ連中に絡まれて、逃げて体力を大きく消耗している。

    本来ならこのまま逃げる事が得策だが、体力を消耗している以上は必ず逃げ切れる保証はない。

    それに相手は1人、そして殺すと言っても素手同士‥体格も同じような感じだからトウヤには勝つ自信があった。

    「こっちは兵士長とも戦って生き残ってるんだよ!!!!」

    「!!!!」

    「負ける気がしねぇぜ!!!オラッ!!!!」

    トウヤはパンチによる連打を繰り返す。先制攻撃だ。

    「‥」

    (避けられたり、受け流された‥やっぱり素人じゃねぇな‥)

    パンチの連打だけでは決める事ができないと察したトウヤは打撃と寝技の展開を織り交ぜて、打倒極の勝負に出る。

    「ぐっ!!!!」

    (コイツ‥強キャラオーラを出していた割には大した事ないな‥行ける!!!!)

    トウヤは勝ちを確信する

    「ふっ‥」

    「ぬっ!!???」

    揉み合いになっていた時に、プシュという音と共にトウヤは崩れ落ちた。

    (タックルが決まりそうになっていたのに‥何だ?‥何を喰らった?)

    トウヤの意識は朦朧としている。視界がぼやけて、周りの音も反響して聞こえる。明らかに様子がおかしい。

    「強力なただの麻酔ガスだ‥」

    「てめぇ‥素手で戦うって‥」

    「馬鹿なのかお前は?‥本当の事を言うわけないだろう‥ただ素手で殴り殺すのは本当だ‥」


    暗殺者は間合いを詰めて来る。わざとゆっくりと歩いて‥

    「!」


    「俺は仕事を完璧にこなすプロだがな‥実は人間を痛ぶるのが大好きなんだ‥簡単には殺してやらないから、踠き苦しんでくれよ‥そう言う顔が‥!!!!」

    ドゴォンという鈍い金属音と、何かが砕けたような音がした。

    「アリサ!!!!!!!」

    「ふっ!!!!」

    「ぐわあっ!!!!があっ!!!!!貴様!!!!あっ!!!ぐっ!!!」

    アリサは立て続けに金属バットで暗殺者の両足を折る。

    「この!!!!」

    暗殺者は懐に隠し持っていた銃を取り出そうとする。しかしトウヤはその瞬間を見逃さなかった。

    「ぐぎっ!!!!!てめぇ!!!!」

    トウヤは咄嗟に髪の毛を引っ張る。

    「アリサやれぇ!!!!」

    「ナイス!!!!!!」

    「!!!!!!?????????」

    アリサは暗殺者の口目掛けて金属バットを振り下ろす。そして両腕の骨を折る。

    「お前‥エグいな‥」


    「いいから逃げるよ!!!!!」

    「あ、あぁ!!!!」


    地面で言葉にならない奇声をあげて踠き苦しんでいる暗殺者を置いて2人は逃げ出した。

  27. 27 : : 2021/02/19(金) 00:22:53
    「はぁ‥はぁ‥」

    2人は暗殺者から遠く離れた路地裏まで逃げ込み、止まって休憩をしていた。

    「‥あそこまでして大丈夫かよ‥」

    「‥アイツはアンタを殺しに来たと言っていただろ?実際に襲われて銃まで取り出そうとしていたんだし、こっちは正当防衛だ」

    「確かにそうだが‥」

    「あれだけ痛めつけてやれば何年も完治するのにかかるし、ひとまずは安心しても良いでしょ」

    「‥お前‥少し様子を見ていたな?」

    「当たり前でしょ?‥不意打ちの方が逃走確率が上がるし、相手は殺し屋なんだし一つの失敗が死に繋がるからね」

    「‥それにしても随分と逃走と戦いに慣れているな‥そういう経験をたくさんしてきたのか?」

    「まぁね‥そもそもこの区域に何年も住んでいれば‥そういう経験をしない方がおかしいでしょ?」

    「確かにそうだが‥!」

    「え?アンタ‥誰?‥もしかしてさっきの暗殺者の仲間?」

    周りには人気がないし、2人はすぐに人が来たのは察知できた。

    男で鉄パイプを持っている。いかにも殺気丸出しのヤバい奴という感じだ。

    (少し大柄だな‥いや‥少しではないか‥かなり筋肉質だ‥)

    「あの暗殺者は失敗すると思っていた。なんせ薬滅教団が壊滅してから半年間‥お前は潜伏していたからな。」

    「‥お前‥何者だ?」

    「お前らに蹂躙された被害者だ!!!!」

    大男は大振りな動きでトウヤに殴りかかる。

    「ふっ!!!」

    アリサはさっきと同じように大柄な男の足に金属バットで殴りつける。

    しかし大柄な男はそれに構わずにトウヤに殴りかかる。

    (なっ!?コイツ‥タフすぎるだろ!!!!)

    トウヤは難なくその攻撃を避ける。

    (まぁどんなにタフでも!!!男はここは鍛えられないだろ!!!!)


    「おおおおおおお!!!!!」

    トウヤの渾身の金的攻撃は見事に命中するが、それでも大男の動きを止める事はできない。

    (なんなの!?コイツは‥)

    アリサはあまりにもタフな男に動揺するが、金属バットで執拗に殴りつける。

    「ええええ!!?????」

    ガクンッと膝から大柄な男は崩れ落ちる。


    「ば、馬鹿な!?どうなっている‥」

    「‥やっぱりね‥」


    「今のタフさと‥その反応‥お前強化ステロイドを使っただろ?」

    「!‥し、しらねぇよ‥そんなもん‥」

    「アンタなんで急に倒れたのか分からないって顔していたね?‥特別に教えてあげる。アンタは強化ステロイドを使って痛覚を遮断して、筋力を増強すれば強くなると勘違いしていたようだけど、それは間違い」

    「な、なんだと!?このチビ女!!!」

    「筋力を強くしただけでは、戦闘において強くなれるわけじゃないし、いくら痛みを感じないようにしたところでダメージがないわけじゃない。あれだけ馬鹿みたいに攻撃を喰らっていれば、身体が機能しなくなるのは当然」

    「アリサのいうとおりだ‥さて‥話してもらおうか‥」

    「‥」

    「薬滅教団の被害者とはどう言う事だ?俺たちがやった破壊行為は軍事施設の破壊だけ‥お前は軍事施設の関係者か何かか?」


    「アンタ‥黙ってるなら歯を全部折ってやるよ?その次は手足の骨だ」

    「!」

    「お薬が切れた時は地獄の痛みだろうね‥どうする?アンタに選ばせてあげる」



    「わ、わかった‥言うよ‥言えばいいんだろう!!!」


  28. 28 : : 2021/02/19(金) 00:49:21
    大柄な男はアリサの脅し文句に心の底から震え上がり、トウヤを襲った理由を話し始める。

    「まず俺は軍の関係者でも何でもない。スーパーの店員‥名前はチカラだ。」

    「てことは一般人か?なら薬滅教団とは関係ないと思うが‥」

    「どの口がそう言えるんだよ!!!俺の店を破壊しやがって!!!!」

    「何?‥どう言う事だ?」

    スーパーの破壊?薬滅教団の初陣の大規模同時襲撃作戦は、日本軍の軍事施設だけを攻撃するという作戦だった。

    だからトウヤにはこのチカラという大柄な男の言っている意味が分からなかった。

    「どう言う事もあるかよ‥俺のスーパーを破壊しやがって‥おかげで俺は職を失い!!!下の区域に移住しなければいけなくなった!!!てめぇらのせいで俺の人生は台無しだ!!!!!」

    「俺たちの作戦は‥軍事施設の破壊だけだ。‥まさか‥馬鹿な事をしてくれた奴がいたなんて‥だが俺はやってないし、俺の班の奴らもやってない」

    「そんな事知らないわ!!!俺からしたらお前が薬滅教団という理由だけで復讐するのに十分なんだよ!!!お前らからしたら違うのかもしれないが、俺にはお前ら全員が悪魔に思えたね!!!」

    「しかし‥どうやって俺を特定した?」

    「‥俺はお前らの動きを離れたとこらから観察していた。そしてお前らがどんな目に遭ったのかもある程度予想できた。最初はお前らは誰にも知られずに抹殺されると思っていた。だがネットのある掲示板で、南方領域の下級区域に突然人が捨てられているという情報がたくさん出てきた。‥藁にもすがる思いで俺は全財産を使って、お前らを探し出した」

    「俺たち元薬滅教団の人間じゃないかもしれないのにか?」

    「その可能性が高かったから‥俺はそれに全てを賭けた‥それだけだ‥どうにでもなれと思っていたんだ‥」

    「くだらないね‥」

    「うるせぇぞ女‥それにコイツらは破壊行為をしたテロリスト集団だ‥罪を犯した人間は相応の罰を受けなければいけない‥コイツらは殺されて当然の人間なんだよ」

    「チカラと言ったか?確かに俺はテロリストだ。あの時は俺たちが全て正しいと思っていたが、半年経ってまともにようやく暮らしてきて今はその行為が間違っていたとはっきりわかる。他にも生き残っている仲間はいるが、大半は兵士長に殺されたり、生物兵器や医療の実験台にされた。お前の言う通り‥俺たちは罰を受けた」


    「へっ‥ざまぁ‥ねぇぜ。だが腑に落ちねぇな?何故お前のように更生する機会を与えられた奴がいる?何故日本政府はテロリスト相手にそんな中途半端なことをする?」

    「これは私の考えだけど、ここに強制移住させる人間も必要だったからでは?」

    「‥どう言う事だ?‥アリサ」

    「この12区域の制度は格差を助長している。そして人間は底辺の人間を見て安心する奴もいる‥」

    「つまり‥見下す連中を増やすために‥日本政府は薬滅教団の人間を一定の数強制移住させたってことか?」

    「そうだと思う‥もちろん他にも理由はあると思うけど‥」

    ここでは人が死ぬ事は珍しくない。日本政府の奴らは見下す対象を増やすために、俺たち薬滅教団の生き残りを何人か強制移住させたのか?

    更生のチャンスってのは建前で、本心は見下す対象を増やしたかった?

    これはアリサの考察だが、核心を突いている気がする。

    「はぁー‥どうせ喋った後は殺すんだろ?‥ならとっととやれよ」

    「チカラ‥俺は更生するために日雇いの仕事を掛け持ちしながら、自分の趣味の陸上をやっている。アリサとは同じ施設で暮らしている。今は3人暮らしだ」

    「それがどうしたって言うんだ?」

    「お前も俺たちと一緒に住まないか?」


    「は?」

    アリサとチカラの疑問符の言葉は奇跡的にシンクロした。

    「アンタ馬鹿じゃないの!?暗殺者を雇って強化ステロイドを使ってまで殺しに来るような危険な奴だよ!?一緒に住むのはどう考えても危険すぎる‥」

    「ん?それを言うなら俺だって国家転覆を目論んだ元テロリストだろ?でもお前は受けていれてくれたじゃないか?」

    「いや‥確かにそうだけど‥」


    アリサはトウヤの予想外すぎる言葉に酷く困惑しているようだった。

    当然の反応と言えるだろう。殺意を持って殺しに来た相手に一緒に住もうと提案するようなキチガイ思考だ。

    そりゃ困惑もするだろう。

  29. 29 : : 2021/02/19(金) 01:11:58
    「何を考えてやがる?誰が‥てめぇなんかと‥」

    「チカラ‥確かに薬滅教団の一部の奴はお前のスーパーを破壊したのかもしれない。だが薬滅教団ってのは政府の仕組んだ犯罪者予備軍を炙り出すための罠だったんだ。」

    「何が言いたい?」

    「俺は軍事施設以外は攻撃していないし‥俺の仲良かった団員もそれは同じだ‥確かに俺とお前のスーパーを破壊した薬滅教団員は同じ組織の人間だ。だが俺とそいつらは関係ない」

    「‥」

    「お前のやるせない気持ちはわかる‥そして復讐したいって気持ちもよく分かる‥だが、復讐を果たしたところでお前は結局犯罪者になっちまう。それは本当に正しいことなのか?冷静になってよく考えてみろ」

    「‥確かにお前の言う通りかもしれないが、もう色々やっちまって‥後には引けないんだよ‥」

    「いいや、そんな事はない。お前はまだ俺と同じようにやり直せる。」

    「トウヤ‥アンタが良くても私は反対だし、センダイも良いとは思わないと思うよ」

    「‥テロリストが‥いまさら偽善者気取って‥それで今までのことがチャラになると思っているのか?」

    「チャラにはならねぇよ‥過去の事は消えない。だが更生とは過去のことを消すことじゃねぇだろ?前を向いて生きていくしかねぇんだよ。それがどんなに困難だろうとな」

    「‥」

    「これだけまともに話せているんだ。お前だって自分のやってきた事に‥迷いがあるんじゃないか?」

    「‥迷いなんて誰にでもあるだろう?‥本当の事は言わないだけで‥」

    「あぁ‥だがお前は大きく迷ってるはずだ。同じ薬滅教団だからって全ての人間が同じ思想って訳でもねぇ。何度も言っているが、俺はお前には何も危害は加えてない」



    「‥」

    「ちっ‥分かったよ‥」

    「!」

    「確かに関係ないお前を殺そうとするのは間違っていた‥すまなかった」

    「ちょ‥いい話みたいに終わらないでよ‥まだセンダイには」

    「いいぞ」

    「!!」

    「センダイ!?」

    「話は全て聞いていた。歓迎するよ。あとどうせ一年半も無いからな‥それにお前のような奴は放ってはおけない。」

    「だってよ‥アリサさん?」

    チカラは勝ち誇ったような顔でアリサに目線を向ける。

    「ちっ‥センダイがそう言うなら仕方ないね。‥ただしちゃんと働いて、お金を施設に入れるんだよ?」

    「任せろ‥こう見えて体力には自信があるんだ‥」

    「フッ‥頼もしいな」



    この時の俺は浅はかだった。

    薬滅教団が簡単に敗北したように、フィクションの世界のように都合の良いことはそう簡単には起きないって

    思い知ったはずなのに

    人間はどうして



    同じ過ちをまた繰り返してしまうのだろう



  30. 30 : : 2021/02/19(金) 01:30:22
    【ここまでの話のまとめ⑤】
    ●チカラ
    年齢 27歳
    性別 男
    身長 184cm
    体重 98kg
    出身地 中間領域・下級区域
    趣味 腕相撲、力比べ、接客、肉体改造、薬学
    所属 元スーパー店員→センダイの施設に移住

    特徴 スーパーを破壊されて職を失い下の区域に移住させられる事になったため薬滅教団を全員憎む事になってしまう。暗殺者を雇い、自信も痛みを感じなくなり、筋力を増強できる強化ステロイドを打って直接トウヤを殺そうとするも、トウヤとアリサのコンビに敗れて復讐は失敗に終わる。

    陽キャや同類の陰キャにまで馬鹿にされて学生時代を過ごしてきたため、拗らせてしまい、罪を犯した人間な重い罰を受けるべきという思考回路になってしまう。
    間違ったことをする人間に制裁を与えることに意義を見出そうとしているが、本人はその行為がやり過ぎていることに気づかないふりをしている。

    最初は身体は大きいが大人しい性格だったが、馬鹿にされて馬鹿にしてきた人間を殴り飛ばして自分が強いことを知る事になる。それからはかなり強気に振る舞う事になり、スーパー店員になる前までには全ての人間に復讐することに成功しており、その成功体験があったせいもあって、ネットの僅かな情報だけで、元薬滅教団のトウヤを特定することに成功する。

    高濃度の強化ステロイドに耐えられる身体の持ち主でもあり、恵まれた強靭な肉体の持ち主。
    ステロイドは一度使えば薬を抜いたとしても、完全なナチュラルに戻る事はできない。

    勉強はできないが、唯一薬学だけには精通しており、強化ステロイドも自分で調合して自分の体質に合うように調整している。
    勉強の殆どはできないが、唯一薬学はできると言う一芸に秀でたタイプ。
  31. 31 : : 2021/02/19(金) 15:09:41
    中間領域にいた時から、口だけで何の実績も実力もないくせに、鬼の如く吠えている連中はいた。

    さすがに暴力までは振るっては来なかったが、そいつらは自分達が強いと勘違いしていたのだろう。

    だが本人達は気づいていない。自分達がしてることは空虚なもので何の意味ないどころか自分の首を絞めているだけだと。

    実力も実績もない連中ほど、自信がなくてコンプレックスがあり、態度がデカく口だけは達者だ。

    だがそれは負け犬の遠吠えに過ぎない。ビックマウスで等身大の自分達以上の評価を受けている者は存在するが、雑魚の分際であらゆる勘違いをして調子に乗っていればいつかはその化けの皮は剥がれることになる。


    最下層の領域はいつも治安が悪い。血の気の多い人間が沢山いる。平和ボケした連中では金銭を強奪されて、ボコボコにされてしまう。

    最下層の領域の人間は生まれつき能力が低いと判定されて生まれた時から住む事になる。

    最下層の領域は南方領域

    南方領域の下級区域にはスラム街はあり
    同じ南方領域と言っても中級区域になってくると治安はだいぶ良くなり、警察もちゃんと機能している

    人に攻撃的になるのは自分に自信がなく、攻撃して虚勢を張り自分を大きく見せなければ相手にやられてしまう

    自分の弱さを隠すために徒党を組む。集団となれば個の力が弱くても大きく見せることができる

    だから集団になれば普段より気の強くなる人間は多くなる

    チカラが施設に入居してきてから一年が経過していた。つまりトウヤが施設に来てから一年半後ということになる。

    チカラは最初は暗殺者を雇い、自身も強化ステロイドを打ってトウヤを殺害しようと目論んでいた。

    だが、施設に来てからはまじめに働くようになり、トウヤ同様に日雇いの仕事を掛け持ちするようになる。

    働く人間が増えれば当然収入が増える。前の生活時ほどではないが、センダイ、アリサ、トウヤの3人の時よりもチカラが加入することにより生活は少し良くなっていた。

    しかし当然それをよく思わない人間が出てくる。成功する人間を蹴落として、人生を潰してやりたいという人間が出てくるのは自然の流れだ。

    トウヤとチカラは口だけの雑魚共も必死に生きている結果、間違った方向に努力をしてしまい

    痛々しくて、恥ずかしい事をするのだと言う事は既に分かっていた。

    だがそれを理解していたところで、生活を脅かす人間を野放しにするわけにはいかない。


    「ひっ!!!」

    「これでわかっただろ?もう二度と俺たちに関わるんじゃねぇよ。こっちはてめぇらなんかに関わりたくねぇが、てめえらが喧嘩を仕掛けてくるから仕方なく相手してやっているんだ」

    チカラは怒りに声を震わせながら、相手を威嚇する。トウヤはそれを横で見ている。

    「う、うるせぇ!!お前らが‥見てきたんだろうが!!!」

    「何を言ってるんだ?お前らは自意識過剰なのか?俺たちはお前らのことなんてどうでも良いんだよ。お前らが勝手に勘違いしてとち狂っているだけだ。」

    「‥オイ‥行くぞ‥」

    絡んできたチンピラ複数人はその場を後にする。

    「それにしても‥物凄い威圧感だったな‥あれは効果絶大だったようだぜ」

    トウヤはそそくさと立ち去るチンピラ達の背中を見て、チカラにそう話しかける。

    「‥だがお前が居なかったら危なかった」

    「いや、それは俺も同じだ。今までだって‥2人だったからこそ大丈夫だったわけで‥」

    「‥」

    「ん?どうした?」

  32. 32 : : 2021/02/19(金) 15:26:49
    「俺はどう見える?」

    「へ?」

    チカラに突然予想外の質問をされてトウヤは少し返答に困る。

    「どう見えるって‥ゴツくて強そうに見えるが‥」

    「人ってよ。結局は第一印象‥つまり見た目で決まるよな」

    「そうだな。見た目がダメなら中身まで知られるような関係性にまで発展しねぇよな」

    「あぁ‥それに俺は強化ステロイドを打つまでは典型的なヒョロガリだったんだ」

    「ヒョロガリ?お前が‥はっ‥冗談だろ?」

    「いやガチだ。確かに俺は細い時から身体は強かったが、それでも見た目は何故か変化しなかった。」

    「見掛け倒しの奴より、実際に動ける奴の方がいいんじゃないか?」

    「そりゃそうだが‥だが理想は強そうな見た目で実際に動ける奴だろ?特にこういう力仕事をしなければならない状況なら‥」

    「確かにな‥」

    「俺はヒョロガリの見た目から‥初対面の時は舐められる事が多かった。背は高かった‥だがその分‥フレームが大きいから余計にその細さが際立っていたんだろう」

    「なるほど‥」

    「ま、俺のことを知っている奴は俺が強いと分かっていたんだが‥初対面の奴らにはとにかく見た目が物を言う。‥喧嘩になった時にいちいち自己紹介する事はねぇからな」

    「まぁこの最下層が特別治安が悪いからな。これから金を貯めてどんどん上の区域に行けば喧嘩を売られる事も少なくなるだろう」

    「‥そうだな。だが‥俺はそれでも強化ステロイドを打って良かったと思っている。」

    「強くなったからか?見た目も強さも」

    「その通りだ。人間はどんなに綺麗な言葉を並べても所詮は動物に過ぎない。どんな時も外に出れば争いからは逃れられない。」

    「うーん‥確かに」

    「運動会では身体能力の優劣がつき、どちらかのチームが負けてどちらかのチームが勝つ。勉強ではテストがあり、最終的には受験戦争に参加する事になる。社会に出てからも業績を上げるために違法な労働時間で拘束されたりもする‥ホワイトな職場であってもやはり競争からは逃れられない。特にこの領域は毎日競争して、勝たなければいけない‥それを実感させられる。」

    「そうだな‥」

    「お前は薬滅教団に入った理由を、本当に日本を変えたいと思っていたわけではなく、ストレスをぶつけたかったと言っていたな」

    「まぁ‥そんな感じだ。日本を変えるというのは自分達の間違った行為を正当化するための謳い文句に過ぎなかった」

    「俺も同じだ。薬滅教団の人間を全て同じ思想、同じ奴だと決めつけて、同じ元薬滅教団だからと言って暗殺者を雇いお前を殺そうとした」

    「もう過ぎた話だろ?」

    「あぁ‥だが過去は消えない。そして俺もやはりあのやり場のないストレスをぶつけたかったのかもしれない。薬滅教団という分かりやすいストレス発散材料にな」

    「ほんと‥良い迷惑だぜ‥」

    「それはお互い様だ‥」

    「ふっ‥そうだな。まぁ‥なんだチカラ‥とにかくお互いにこれからも頑張ろうぜ。」

    「あぁ‥」

    「あと半年もすればセンダイは中間領域に行く‥そして俺たちも南方領域・中級区域に移住することになる。まだまだこれからなんだ‥まじで頑張ろうぜ」

    「分かってるさ。這い上がって見せるさ‥この地獄からな」

    「その意気だ‥チカラ。頼りにしてるぜ」

    「‥任せろ‥」



▲一番上へ

このスレッドは書き込みが制限されています。
スレッド作成者が書き込みを許可していないため、書き込むことができません。

著者情報
power

筋力@賢者タイム( ^ω^ )

@power

「未分類」カテゴリの最新記事
「未分類」SSの交流広場
未分類 交流広場