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#1集う(改)【セレナ続き】

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  1. 1 : : 2014/01/26(日) 19:46:12
    これより、#1集う を始めさせていただきます。前作 #0生まれる の続編になります。よろしくお願いします。
  2. 2 : : 2014/01/26(日) 19:52:21
    842年、エルヴィン.スミスとナイル.ドークは、ウォール.シーナ地下街にて、憲兵に乱暴されている一人の少女を救出する。
     「私に…名前をください…」
    少女の願いに、エルヴィンは訓練兵に入り、調査兵団に志願することを条件に、少女にセレナ.ラングレーという名前を授ける。
    翌843年、セレナ.ラングレーは、あの時の約束を果たすべく、訓練兵に入団するのだった… 
  3. 3 : : 2014/01/26(日) 20:14:19
    843年、トロスト区郊外、訓練兵団施設ー

    「これよりっ!第100期訓練兵、入団式を行う!」

    新しく入団した訓練兵たちは、神妙な面持ちで整列していた。とはいえ、まだその顔立ちには幼さが残る。

    「これから呼ばれた者は、出身地と名前を述べてもらう!」
    教官の叫ぶ声と、足音だけがその場に響く。一同の間に緊張が走った。
    教官の足が、茶髪で小柄な少女の前で止まった。

    「オイ 貴様」 「ハッ!」 「貴様は何者だ!?」

    少女は敬礼し、「カラネス区出身!ペトラ.ラルです!」

    「そうか!バカみてぇなふざけた名前だな!!親がつけたのか!?」

    「はい!父がつけてくれました!」

    「ペトラ.ラル!貴様は何しにここに来た!?」

    「兵士になり!巨人から領土を奪還し、母の病気を治すためです!」

    「それは健気な事だな!貴様は巨人のエサにでもなってもらおう…3列目

    後ろを向け!」







  4. 5 : : 2014/01/27(月) 20:58:04


    ペトラは、後ろを向くと、4列目の訓練兵たちと向き合う形になった。
    ペトラは、目の前にいる少女と顔を合わせ、驚いた。

    (うわぁ…きれいな子…) 美しい少女だった。鼻筋が通り、瞳は大きく、唇は艶やかでほんのり色づいている。
    ただ、その目付きは、ペトラが今まで出会った人達の中でも類を見ないほど、虚ろな瞳だった…。
    教官の足が、ペトラの目の前の少女の前で止まる。

    「次!貴様だ!!貴様は何者だ!?」

    「……。」 少女は答えない。

    「おい、どうした!?貴様にきいている!!」

    「…答えたくありません。」 少女は答えた。
    意外な返答に、周囲がざわつきはじめる。

    「今…何と言った…」 教官は、信じられない、という表情を浮かべる。

    「答えたくありません、と言いました。」

    「貴様…ふざけているようだな…」 「ふざけてなどいません。」
    少女は続ける。

    「どうしても知りたいとおっしゃるのなら、今夜二人で…ベットの中で

    お答えします…」






  5. 6 : : 2014/01/27(月) 21:21:50
    ザワザワ…周囲のどよめきが大きくなる。

    バシッ…!教官は怒りに震え、少女を殴りつけた。

    「その様な卑猥な事をほざくような奴に、兵士になる資格などない!今す

    ぐここから立ち去れ!」
    すると少女は、辛そうに眉を潜め、敬礼し、

    「ウォール.シーナ地下街出身!セレナ.ラングレーです!!」
    あの華奢な少女から、どうやってあの様な大声が出るのだろう…。一同の間から疑問が出るほどの叫びだった。
    地下街。その言葉に、教官は目を見開いた。

    「ほぅ…地下街か…そんなお前がここへ来た目的は何だ!?」

    「調査兵団に入り!自由に向かって突き進むためです!!」

    「…そうか…調査兵団か…」 「はい!」

    「貴様など真っ先に巨人のエサになるな…よし!4列目後ろを向け!」
    セレナを含む4列目の訓練兵たちは、素早く回れ右をした。
    ペトラの目の前に、美しい艶やかな髪が見えた。自分の様に、無節操に明るい茶色ではなく、上品な栗色だった。ペトラは、目の前に立つ少女を、じっと見つめていた…。







  6. 7 : : 2014/01/27(月) 21:28:00
    入団式終了後…

    「ねぇねぇ、聞いた?」 「地下街出身だって…」

    「ベットの中で…とか、教官誘惑するってヤバくない!?」

    「絶対色々経験してんのよ…商売女よ。商売女。」

    商売女。それがセレナにつけられたあだ名だった。ペトラは、始めこそその意味を理解できずにいたが、周りの友人たちの会話を聞くにつれ、その意味を理解した。
    そんなある日…
  7. 8 : : 2014/01/27(月) 21:39:15
    「今から、立体起動装置の訓練を行う!」

    「ハッ!」 「使用方法は座学、実技にてすでに周知済みであろう!貴様ら

    には、これからこの森を抜け、またこの位置まで戻ってもらう!分かって

    いるとは思うが、立体起動装置を使わずに地上を走ろうとした者、落ちて

    動けなくなった者は失格となる!以上!!」

    教官の言葉に、皆真剣に耳を傾けていた。そして一人ずつ立体起動装置
    を使い、飛び立っていく。皆、最近やっと慣れてきたばかりだった。

    「次!」 「ハッ!」 ペトラの番だった。ペトラは順調に森を抜け、ゴール地点へもうすぐたどり着こうとした時だった…
     カン……(アンカーが…刺さらない…)
    ペトラはそのまま大木へと激突し、意識が混濁した…。





  8. 9 : : 2014/01/27(月) 21:55:35
    「どうした!?ペトラ.ラル!?」

    ペトラはぐったりとしたまま動かない。辛うじてきの枝に引っ掛かった状態ではあるが、いつ落ちるか分からない。落ちたら、小さなケガでは済まされないだろう。教官は動こうとしない。

    「どうしようペトラが…」 「早く助けないと…」

    「何で教官は動かないのよ?」
    ペトラの友人たちは不安な表情を浮かべるが、指示された以外の事をしてたら、どんな罰則が待っているのかと思うと、怖くて動けなかった。

    ペトラの次はセレナの番だった。他の誰よりも、セレナはペトラの近くに立っていた。
    ペトラは目を虚ろに開いたまま、唇を動かした。

    「た…す…けて…」 その時、セレナは思い出した。あの時の自分を…
    あの時飛び立っていった翼を、セレナはなぜかペトラの瞳に見た。

    セレナは飛び立った。立体起動装置を用いて、ペトラの元へ向かい、ペトラを抱き抱えると、また元の位置へ戻ってきた。そしてペトラをゆっくり地面に下ろした。

    「ペトラっ!」 「ペトラ!」 数人がペトラへと駆け寄る。

    「ペトラ、ペトラっ大丈夫!?」 ペトラの目が晴れた。

    「あれ…私…どうして…」

    「ペトラ、どこも痛いとこない?大丈夫?」 「あ…うん…」






  9. 11 : : 2014/01/29(水) 08:37:11


    「よかったぁ!」 友人はペトラに抱きつき、安堵の涙を流した。
    その時、ペトラは目にした。教官に厳しく叱りつけられている、セレナの姿を…。
    その夜…

    「あの商売女、まだ走らされてるわ…」
    後から事情を聞かされていたペトラは、訓練終了後、延々と罰ランニングをさせられているセレナの姿を、心配そうに見つめていた。

    「私のせいで…どうしよう…」

    「気にすることないって、ペトラ。」

    「あの商売女のことだから、ペトラに恩を売っておいて、何か企んでいた

    かもしれないわよ?」

    「そんなこと…」
    セレナは入団式以降、一部の同期生から、陰湿ないじめを受け続けていた。セレナの、地下街出身であるという生い立ちと、絶対に感情を表に出さない奇妙さ、さらに、そつなく座学、実技とこなしていく聡明さがしゃくにさわったのだろう。

    就寝時間が迫っていた…




  10. 12 : : 2014/01/29(水) 08:50:46
    「ね、ね、私、おもしろいこと思いついちゃった!」

    いじめの中心メンバーの一人が、他のメンバーと何やら話を始める。時折、クスクスと笑い声がおこる。
    ペトラは、何だろう?とはおもったが、セレナのことが気になり、とくに気にも留めなかった。

    罰ランニングを終えたセレナは、ふらふらと寝室へと向かい、ベットへと…

    「…あれ?」 布団がない。今夜は冷えるから、布団無しで寝たら風邪をひいてしまう。それに何より、何時間も走り続け疲れた体を早く休めたい…

    (クスクス…クスクス…) 潜めた笑い声。…ああ、そういう事か…。
    セレナは溜め息をついた。

    「あ…あの…」 誰かがおずおずと声をかけてきた。
    確か昼間の…そうだ。ペトラ.ラル。

    「何か、用?」 「今日は、本当にありがとう。でも、そのせいであなた

    が酷い目に…」 「それだけ?」 「えっ…」

    ペトラは言葉を失った。黙りこくるペトラの横を、セレナはつかつかと通りすぎていった。

    (なぁに、あれ…) (かんじ悪い…) 寝室からヒソヒソと聞こえる声。
    ペトラは寝室に入ると、セレナのベットへと視線を移した…。








  11. 13 : : 2014/01/29(水) 09:11:56
    <男子寮>

    「なあ、あいつ来るかな…」

    「さあ…さすがに今夜は冷えるしな。布団がないと厳しいんじゃねぇ

    の?」 「大丈夫だ。」 「え?」 「あいつには、な…」少年は続ける。

    「教官のベットがある。」 男子寮に笑い声が響く。男子寮のベットに、新たに布団が敷かれている。セレナの布団だ。

    「ちっ…くだらねぇ…」
    仲間たちを、呆れた目で見つめる少年がいた。面長で細い目を皮肉そうに
    歪めている。老けてはみえるが、皆とおなじ12才だ。

    「おっ来たぞ…」
    戸口に、セレナの姿があった。さすがに入るのをためらっているようにみえる。1人の少年がセレナへと近づく。

    「お前の寝場所は、ここだ。」 「……。」 「こっちへ来いよ!」
    少年はセレナの腕を引っ張り、部屋へ入れる。周りから囃し立てる声が聞こえる。







  12. 15 : : 2014/01/29(水) 11:33:17


    「ほぅらよ!」
    少年はセレナを突き飛ばす。セレナの突き飛ばされた先には、べつの少年が立っており、セレナをまた別の方向へ突き飛ばす。その先には、また別の少年が立っており…セレナは、されるがままだった。その表情からは何も読み取ることはできない。周りからは笑い声が溢れる。
     その様子を、呆れた目で見ていた少年は、溜め息をつき立ち上がると…セレナの布団を畳始めた。

    「…オルオ?」 セレナの様子を笑って見ていた少年が、声をかける。
    オルオと呼ばれた少年は、皮肉そうに顔を歪め、

    「くだらねぇ。こんなことやってて恥ずかしいと思わねぇのかよ?女一人

    をよってたかって…全く…」 すると、セレナを突き飛ばしていた少年の一人が、オルオに歩み寄る。

    「まさか…オルオ…」 「あ?」

    「この女を…買ったのかよ?」 その言葉に、オルオの瞳が怒りに染まる。

    「な…に…!?」 オルオは、少年の胸ぐらをつかんだ。

    「やめて。」
     いつ間にか、セレナがそばに立っていた。そのままさっさと布団を抱え、歩き始める。オルオとすれ違い様、ぽそりと

    「…ありがとね。」 と告げ、部屋を出ていく。周りは、水を打ったように静まり返った…。

    「お…おい…!」 セレナを追いかけようとして駆け出したオルオは、部屋を出たところで、誰かとぶつかりそうになった。

    「あ…」 「おっと…」 突然現れた茶髪の少女に、オルオは、怪訝な表情を浮かべた。茶髪の少女…ペトラだった。

    「何だ、お前…」 オルオが問う。ペトラはばつが悪そうに目を反らして

    「あの…えっと…セレナがここに向かうのを見かけて…心配で…」

    「お前、あいつの友達か何かか?」 

    「ちがう…けど…」

    ペトラはオルオを見た。不審そうな目で自分を見ている。

    「あの…さっきは、ありがとう。」 「何がだよ?」

    オルオの眉間のシワが深くなる。

    「セレナが酷いことされてたのに、私、怖くて助けに行けなくて…でも、

    あなたが助けてくれて…」

    ペトラの言葉に、オルオは吹き出し笑った。

    「お前…友達でも何でもねぇ奴のために心配して…しかも…ありがとうっ

    て…」 オルオは腹を抱え、笑い出す。

    「おかしい…かな…」 ペトラは目を伏せた。

    ペトラの表情を見て、オルオはふと真顔になり、

    「別に…おかしかねぇよ…」

    ペトラはなぜかその言葉に、優しさを感じた。ペトラは、右手をオルオに差し出すと、

    「私、ペトラ.ラル。よろしく。」

    オルオは、照れくさそうに握手に応じると、

    「オレはオルオ。オルオ.ボサドだ。」

    ペトラは何となくだが、この人とは長い付き合いになりそうだ、と思った…







     





  13. 16 : : 2014/01/29(水) 11:45:22
    ペトラは、男子寮を後にすると、セレナの背中を追った。

    「待って…待ってよ!」 セレナは立ち止まった。

    「…あのさ、少し聞きたいんだけど、いいかな?」

    セレナは答えなかったが、立ち止まったままだった。
    それを承諾と受け止めたペトラは続ける。

    「入団式の日、あなた教官に名前を聞かれて、答えたくないって言ってた

    よね?…何でそんなこと言ったの?」 「…あなたが…」

    「えっ?」 セレナは続ける。

    「あなたが名前を聞かれて答えた時、教官言ってたでしょ、バカみてぇな

    ふざけた名前だって。私、あれが…死んでも…嫌だったの…名前を…バカ

    にされるのが…」




  14. 17 : : 2014/01/29(水) 11:50:35
    セレナの言葉に、ペトラは笑って

    「…そっか。そりゃあ嫌だよね。親からもらった大切なものだもの…」

    「…。」 セレナは目を伏せた。ペトラは続ける。

    「でもね、あれは名前をバカにしたんじゃなくて、それまでの自分を否定

    してまっさらな状態から兵士に適した人材を育てるために必要な過程だっ

    てあとからきいたんだ。だから私は気にしてないよ。…嫌だったけどね。」





  15. 18 : : 2014/01/29(水) 12:04:04
    「……。」セレナはペトラの言葉を待った。

    「でも、バカにされたって罵られたって、自分にとって大切なものって

    変えられないと思うの。自分に嘘はつけないもん。」

    ペトラは夜空を見ていた。セレナもそれにならう。

    「…ねぇ…」 ペトラが言う。

    「なに?」

    「私たち…友達にならない?」 「はあ?」

    セレナは戸惑った。ペトラは続ける。

    「一緒に色々な話をしてみない?私、あなたと話をしていると、なぜか落

    ち着くんだ。…ダメかな?」

    セレナは少し考えてから、

    「私…友達できたことないから…よく…分からない。」

    「じゃ、決まり!よろしく、セレナ…って、両手ふさがってるから握手は

    無理か…」

    セレナは慎重に左腕で布団を抱え込み、右手を差し出した。

    「…これで、いい?」 「うんっ。」

    ペトラは笑顔になって、セレナと握手を交わした。












  16. 19 : : 2014/01/29(水) 12:07:18
    以上で、#1【集う】を終了させていただきます。
    では、少し次回の予告を…
    次回は、ペトラ、オルオ、セレナの訓練兵として、10代の少年少女としての日常を描いていきたいと思います。
    読んでいただき、ありがとうございました。

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kaku

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