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この作品はオリジナルキャラクターを含みます。

この作品は執筆を終了しています。

たとえ覚えていなくても

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  1. 1 : : 2020/08/12(水) 23:26:14
    お久しぶりです。もしくは初めまして。第3回オリコ祭りを開催するとのことなので、最終投稿からほぼ3年ぶりに書いてみようと思いました!
    オリジナルコトダ祭りの名の通り、オリジナル作品となります。

    参加者(敬称略)
    ・風邪は不治の病
    ・ベータ
    ・De
    ・シャガルT督
    ・カラミティ
    ・フレン
    ・豚骨味噌拉麺(作者咲紗)
    ・あげぴよ
    ・herth

    また、今回は参加者それぞれに夏らしいお題が2つずつ設けられています。
    自分のお題は「風邪は不治の病」さんから頂きました、 “アイス” “最終日” となりました。
    一応どちらも意識しましたが……添削を重ねるうちにちょっと離れてしまったような…………?

    それでは次レスより始まります。
    よろしくお願いします!(・▽・)


  2. 2 : : 2020/08/13(木) 00:09:02
    "人"を構成するものとはなんでしょう?

    水35L、炭素20kg、アンモニア4L……? いや違う、原材料の話じゃない。





    答えは魂だ。





    この世界では、魂というものが一般化されている。魂は情報を持つエネルギー体。人の体には魂が宿り、死に至ると魂は霧散する。そして新たな命が宿るとき、魂は霧散したエネルギーから再構成されて転生するのだ。

    ただし稀に、強い意思を持つ魂は死後も消えずにこの世に留まり続けるという。その多くは死の瞬間に強い未練を持つ魂で、一般的に幽霊と呼ばれている。

    これは私が親友と出会い、別れた日の物語だ。







    「こんなところがあったんだ……?」

    世間は夏休み。家に居るのも退屈だったので、近所に散歩に出かけて知らない道に入り込んだ。いつもの道を外れて住宅街を通り、目の前に現れた石の階段を上る。

    上る……のは良いんだけど、気まぐれで上り始めた階段は意外と長かった。一応日陰になっているとはいえ、夏に階段を上がり続けるのはしんどい。汗を拭きながら休みながら階段を上って、ちょっと後悔しかけた時、ようやく階段の終わりが見えた。一番上までたどり着くと、そこにあったのは白くて綺麗な墓地だった。

    振り返ると、やはり高いところなだけあってとても景色が良い。暑いけど緑が多くて日陰も多い。こんなところに人もいない。なんだか秘密の場所を見つけたみたいでちょっと嬉しかった。

    そんなとき、たくさんのお墓に視線を戻すとそこに誰かがいるのが見えた。罰当たりなことにお墓の上に座って、じっと上を見つめている。

    見たことある制服を着た女子高生……らしき人。手には鞄と、溶けかけの棒アイスを持っている。



    ……その人を見た時、何故か少し違和感を覚えた。

    そんなことを考えているといつの間にかちょっと時間が経ってしまったようで、お墓の上の女子高生はこちらに気づき、ふわりと下りて近づいてきた。

    そして、自分の違和感に気づいた。

    地面に影が落ちていない。そのうえ体が少し透けているし、アイスも今にも溶け落ちそうだが、逆さまにしても落ちることがない。まるで時間が止まったように。



    ……幽霊だ。



    今まで見たことないわけではないが、ここまで人の形をしている幽霊は初めて見た。



    幽霊は少しこちらに近づくと、手を振ってきた。

    手を振り返してみた。

    幽霊は反復横跳びを始めた。

    真似してみた。

    幽霊は今度はキレッキレなダンスを踊り始めた。

    見守って拍手を送った。

    幽霊は満足げだ。

    「じゃねえよソコは真似しろよ!」

    「わっ!?」

    幽霊のノリツッコミが炸裂した。喋れたんだ、この幽霊。



    「はー、びっくりした。あんたアタシが見えんの?」

    「ああ、はい……。昔から魂が見える体質なので……」

    「あら便利。アタシが見える人なんて多分久しぶりに見たわ。あんた誰? 趣味は何? 征服したい国は?」

    誰もが国を一つは征服したいと思っているのかこの幽霊は。



    「……初めまして。エリカと申します。趣味も征服したい国も特にありません」

    「真面目ね~。あ、アタシはアメリ。永遠の女子高生で~す。もう歳取らないかんね」

    リアルな幽霊ジョーク初めて聞いた。なんだ幽霊ジョークって。

    「やっぱり、アメリさんは幽霊なんですね?」

    「まぁね。幽霊だから女湯だって覗き放題なんだぜ? 羨ましかろう?」

    女子高生が幽霊になってわざわざ女湯を覗くのは楽しいんだろうか。



    まあいいや。

    「アメリさんはどんな未練があってこの世に留まっているんですか?」

    幽霊としてこの世に留まっているからには、死の瞬間の強い意思……つまり、未練が残っているはずだ。それも、こんな人の形を成すぐらいなのだから、かなり強い未練が……

    「へ? 未練?」

    あ、駄目だこれ覚えてないやつだ。
  3. 3 : : 2020/08/13(木) 00:11:17
    「……まあ当然かも。幽霊は脳が無いから……魂に入る情報量しか記憶出来ないハズですしね」

    「誰が能無しだコラ」

    「誰も言ってませんよそんなこと」



    魂に定着しきっていない記憶はどんどん消えてしまう。死の瞬間の記憶といえば定着しているはずもないし、しかも死の瞬間の強い未練なんて思い出したくもない嫌な記憶であることが多い。

    向き合いたくない辛い過去を持ちながら、それに対して諦めきれない。そんな狭間でこの世を漂う存在が、幽霊なんだ。

    それでも、ただ漂うエネルギーが永遠に尽きないなんてことは無い。いつかは未練を残したまま、魂は消えてしまうはずだ。



    ……そして、アメリさんの体が透けてきているということは。

    「……アメリさん、あなたの魂のエネルギーが尽きかけてきているんじゃないですか……? このままだと、未練を残したまま消えてしまうことに……」

    「別に良いんじゃない?」

    「え?」

    意外な答えに面食らった。アメリさんは軽く浮遊して、どうでもよさそうに答える。

    「未練があろうとなかろうと、どーせ消えちゃうんでしょ? しかも未練なんだから辛い記憶の可能性が高いときたもんだ。そんなこと、わざわざ思い出さなくても良いじゃん? アタシは最後まで幽霊ライフを楽しむことにすんよ~」

    「で、でも……もしかしたら、ちゃんと成仏しないと転生できない可能性も……」

    「そんときゃそん時よ。というか仮に転生できたとしても、体も記憶もないなら同じことじゃん?」

    「…………っ」

    アメリさんは生前のことを覚えていなくて、自暴自棄になっているのかもしれない。それでも、何も言い返せなかった。幽霊の気持ちなんてわかるはずがない。生きている自分が何を言っても、説得力がないような気がした。

    このまま何もせず、消えていくつもりなのだろうか。この世に留まるほどの未練を持ちながら、それを晴らすことなく……。





    …………。





    それはそれで良いかな、とも思い始めていた。せっかく忘れている辛い記憶を無理に掘り起こしても、過去を変えられるわけじゃない。どのみち消えてしまうなら、アメリさんの要望通り、最後まで楽しい方が報われるのかもしれない。

    もう帰ろうかな。このままここに居てもしょうがない。振り返って景色をもう一度眺めた後、石の階段に向かった。

    階段を下りかけて振り向くと、アメリさんは遠くで手を振っていた。

    バイバイ。またね





    「…………」

    墓地を後にして、知らない道を逆戻り。いつもの道が見えてきた。

    このままアメリさんはあの墓地にずっと居るのだろうか。せっかくの幽体なのだから、空を自由に飛び回って幽霊ライフを謳歌しているのかもしれない。そうなると、もう二度とアメリさんと出会うことはないだろう。

    もう二度と……

    …………





    私は歩みを止め、振り返って駆け出した。






    「アメリさん……!」

    「ん?」

    階段を無理に上がり続けて、息が苦しい。足に力が入らない。それでも、アメリさんが飛び去ってしまう前に、どうしても伝えたいことがあった。

    「……やっぱり探そう……! アメリさんの未練! 私も一緒に探すから!」

    後悔しないために。

    「アメリさんは良いって言ったけど、私は嫌だ! どうせ消えちゃうからって、何もしないなんて! それじゃあ、私はなんで生きているのか分からないよ!」

    必死に言葉を紡ぐ。

    「私は、あなたに未練を残さず去ってほしいの! あなただけじゃない、私の願いだよ! だから……!」

    「分かったよ」

    アメリさんは観念したように、ふわりと私の目の前に下り立った。相変わらず体は透けて、アイスは溶けかけで今にも落ちそう。

    「アタシのせいであんたに思い残させるのも悪いしね。一緒にアタシの未練ってやつを探そうぜ! エリカちゃん!」

    アメリさんが手を差し出す。

    「……うん」

    「ああ、それと」

    私が手を取ろうとしたとき、アメリさんが付け加えた。

    「あんたずっと敬語じゃん? アタシはもう友達なんだから、敬語なんてしなくていいの。さん付けも要らないから。良い?」

    「……分かった。アメリ」

    私はアメリの手を取った。

    この止まった時間を、動かそう。
  4. 4 : : 2020/08/13(木) 00:13:09





    「さてエリカちゃん。問題です。『あなたはゼロです』と言われました。これは何を示しているでしょう?」

    墓地を下りて歩いていると、アメリが暇なのか問題を出してきた。

    「……テストの点数?」

    「ブブー。嫌味な教師か。逆に面白いわ。答えは"You"が"0"でユーレイでしたー!」

    ……なんか微妙にちゃんとしてるのがむかつく。

    「じゃあ第二問ね。玉が4つ。これなーんだ?」

    「……玉が4つある妖怪?」

    「ぶー。そんな愉快な生物じゃありません。答えは"タマ"が"4"でタマシイでしたー!」

    なんだろう、この不毛な幽霊クイズは。



    「で、アタシら何してたんだっけ?」

    「アメリの未練探し」

    「あー」

    やはり新しい記憶は定着しづらいのか、興味ないのか、未練探しのことをしょっちゅう忘れている。

    「未練を探すってもさ、何をすれば良いわけ? やりたいことを見つけりゃいいの?」

    「まるで夢のない学生みたいだけど、まあ大体そう……なのかな? 未練は生前の未練であって、今やりたいことはただの欲求な気もするけど……?」

    おそらく、生前の記憶が無い"今"は関係がない。未練を探すなら、"生前"の情報が必要なはずだ。となると……。

    「アメリ、いま制服を着てるみたいだけど、何か手がかりになるものって持ってないの?」

    「ん~?」

    ごそごそと、アメリは服を探る。幽霊だから空中で縮こまって手を動かしてる様は、まるで空中で溺れているみたいでちょっと動作が面白い。

    ……それと、周りの人には見えないとはいえ、スカートで宙に浮いてるんだから中が晒されているんだけど、アメリは気にしないんだろうか……。



    しばらくしてからアメリは文字通りお手上げ状態になった。

    「ダメ、なんもないわ。アタシ、持ち物は全部バッグにしまうタイプだったみたい」

    もしくは……この姿は記憶によって魂が再現している姿だから、覚えてない部分は再現出来なかったのかもしれない。



    私たちは歩いて……アメリは浮いてるけど……いつもの見知った道に出た。小さな車道にはたまに車が1台通るくらいで、人通りは少ない。

    道の横には大量に家が並んでいる。すぐ近くには公園もあるし、少し歩けばお店も学校も色々ある。私は基本的に、家と学校を繋ぐ通学路くらいしか通らないんだ。

    アメリの制服には見覚えがあるから、割と近くにあるはず。学校が分かれば、何か未練の手がかりも見つかるだろう……と思っていたんだけどなぁ。

    「エリカちゃん、そろそろ考え事は終わった?」

    誰の為に考えてると思ってんねん。

    アメリは暇そうに私の頭上であくびしている。幽霊も眠くなったりするんだろうか。

    「本来はアメリが真面目になるべきなのになぁ……」

    「え? 今何してんだっけ?」

    「アメリの未練探し!」

    「あー」

    ……ずっとこんな調子だ。



    「うーん」

    アメリはちょっと考えるしぐさをした後、バットとボールを持って私の目の前に降りてきた。

    「じゃあアタシ、野球がしたいな! はい未練!」

    「いや未練をなくそうとしてるのに未練を増やさないでよ!」

    はい未練、じゃない。野球がしたいという思いだけでこの世に留まってるのかあんたは! どんな生前だ! 最期に野球がしたかった……って思いながら死んだのか!

    「じゃあサッカーは? 一回、必殺殺人シュートとかやってみたかったんだよねー多分。あでも野球もどっちもするの面倒だしやっぱ野球だけでいいや」

    「じゃあじゃないの! スポーツの種類の問題じゃないの! 未練追加やめて! 未練ハードル上げないで! 未練迷いも未練キャンセルからの未練回帰もやめて!」

    私は何を言ってるんだろう?!

    「ほらあそこに公園があるからさ、もうとにかく出来ることやってみようぜ! 見てろポルターガイストボール! 投げれば絶対デッドボール!」

    「殺伐としてるベースボール!」

    「その後確実レッドカード! 即刻退場あの世へGO!」

    「追い出されてるよこの幽霊!」
  5. 5 : : 2020/08/13(木) 00:14:23



    というわけで野球をすることになった。だってアメリの未練を残すわけにはいかないんだから仕方ない。

    「まあまあ、もしかしたらこれでアタシも成仏するかもしれないぜ!」

    それはそれでどうしようって思ってるんだよ今。

    そんなこんなでアメリはボールを投げる態勢に入った。

    「いくぜ必殺魔球! ポルターガイスト殺人事件!」

    ボール関係ねえ。

    「いっけえ!」

    アメリが思いっきりボールを投げる!

    その勢いを残したまま、進行方向が180°曲がって戻ってくる!

    アメリがバットを構える!

    私が見守る!

    「ここだああ!!」

    アメリは完璧なタイミングでバットを振る!

    かすりもしない空振り!

    だがボールは逆方向に急加速し始めた!

    明らかなるズル!

    「飛べえええ!」

    ボールは空に吸い込まれる!

    アメリは満足げな顔をする!

    私いる意味ない!!





    「いやーよく考えたらアタシ、野球のルールよく知らねーんだわ」

    行動が謎すぎて逆に怖い。

    「でも、おかげでいいもん見つけたよ」

    「え?」

    アメリはニヤリとしていた。さっきの野球に、何か意味があったの……?

    「あのさぁエリカちゃん。バットもボールも、どうやって用意したと思ってんの?」

    「…………?」

    ギャグマンガ的にどこからともなく……

    「ギャグマンガ的にどこからともなくじゃないからな」

    読まれた。鋭い、この幽霊。

    うーん……。ならアレしか考えられないかな。

    「どこから盗んできたの?」

    「そうなっちゃうかー! 何より先にそれを疑っちゃうかーエリカちゃん! 悲しみの塊!」

    目を抑えながら空を仰ぎ見てアメリは嘆く。

    「違うの?」

    「……ほれ、持ってみな」

    アメリはバットを投げよこした。

    「ちょっと、危ない……!」

    慌てて取ろうとしたが……。


    「え?」


    バットは空中で静止し、自ら私の手の内に収まった。

    「え……なにコレどいういうこと?」

    バットの挙動もそうだが、バット自体に何も感触が感じられない。

    「ほら。アタシって魂が再現した姿っしょ? だから魂の一部をバットとボールに変えたのよ」

    つまりこれもアメリの一部だということか。っていうか幽体を使いこなしすぎてるこの幽霊……。

    「それで……それがどうしたの?」

    「こっからが本題なのだわ。ボールも自分自身だから、ボールから見える景色もアタシは見ることが出来る。それで、空から見つけたのよ。アタシと同じ制服を着た人たちが出入りしてる学校を!」

    ……!

    手がかりを見つけた……!

    「アメリ視力良いね!」

    「そこかいっ!」
  6. 6 : : 2020/08/13(木) 00:14:44



    アメリが見たという学校。ここからもしばらく歩けば行ける距離だ。いつも通る道の反対方向だから、そんなに頻繁に制服を見れる機会が無かったわけだ。

    「しっかし今更だけど、アタシが通ってた学校だからって何かあるとは限らないよな」

    「まぁ……そうだけど、意味もなく野球してるよりはマシだもんね?」

    「別に意味なんてなくても良いじゃん。気楽にのんびり探そうぜ~」

    「いやだから、アメリの魂も消えかかってるんだから実はのんびりしてる時間もないんだよ? もっと焦ろうよ」

    「アタシは別にこのまま消えても良いんだって。エリカちゃんこそ、何をそんなに必死になってんのよ。あんた本来は無関係じゃん」

    「私は……」

    …………



    「アイスが……溶けてないから」

    「え? これ?」

    アメリの右手に持っているアイス。今にも落ちそうな状態で止まっているアイスは、アメリの止まった時間を最も象徴しているように見える。

    私がこの問題を放棄するのは簡単だけど、そうなるとこの一件の出来事はずっと頭の中で止まったままになる。その先を知る由もないのに、ずっと頭から離れず悩み続けることになってしまう。

    「些細なことも重大なことも、私は放棄することが出来ないの。勉強だって、誰かの悩み事だって、解決するまで頭にこびりついて離れないの」

    要は自分の為だ。私はアメリの為に行動しているんじゃなくて、自分の頭に決着をつけたいだけなんだ。



    「ふ~ん、完璧主義者だ。解決するまで挑み続けられるなんてすごい才能じゃん」

    「……そんなにいいもんじゃないよ」

    熱意は時に疎ましがられる。

    難題にも粘り強く挑戦し、与えられた課題をちゃんとこなす。たったそれだけのことが、私の周りでは珍しいタイプのようだった。

    自分は当然のことをしてるだけのつもりでも、周りがついてこない。結果、私の周りに人がいなくなった。

    「……ちゃんとやってる私をあんな目で見て、何もしないようなあいつらなんて、いらない」

    「なるほど。友達がいないんだ」

    一言多い。この幽霊。

    「強いね、エリカちゃんは」

    「……え?」

    「周りがどんな人であろうと、自分は頑張り続けてたんでしょ? アタシみたいに飽きっぽい人にゃ真似できないわ。すごいすごい。たいへんよくできました」

    アメリが空中から、私の頭に手を乗せてくる。

    ……やっぱり何も感じない。けど、触れられているというのは分かる。


    「……私は言われたことをしてただけだよ。別にすごいことなんかじゃない」

    特に何か目標があるわけでもなく、言われた通りのことを最後まで実行していただけなんだから。

    「自分のすごいところなんて、分かりにくいもんよ。他人にできないことが出来るんだから、素直に褒めるべきよ。どんなに些細な事でも。それはエリカちゃんの立派な長所なのよ。立派立派。超立派」

    「…………」

    思えば……こういう場で言うんだから、何があっても肯定的な言葉を使うのは当然だ。人を励ますのは、会話の常套手段なんだから。

    それでも私は他人から……この幽霊から、自分を肯定してくれるような言葉を聞けて……単純かもしれないけど……とても……嬉しかった。

    「……ありがとう。アメリ」

    「うむ」

    アメリは満足げだ。なんだか私も、ずいぶん心が軽くなったような気がする。自分の心を、初めてちゃんと受け入れられたような……。

    「アメリは人を励ます才能があるね。超立派」

    「そう? アタシは普通に会話してるつもりだぜ?」

    「…………ぷっ」

    私たちは笑いながら進んでいく。

    いくら私を否定されようが、たった一つの真摯な肯定の言葉は、はるかに強い。
  7. 7 : : 2020/08/13(木) 00:15:48



    そして……。私たちは学校の前にたどり着いた。

    「まるでラスボスの城って感じだな」

    自分の出身校に対してその言い方はどうなんだろう。

    「さて。敵地に侵入するには、まず情報収集が先決って感じだよな」

    敵地って。

    アメリはピンポン玉のようなものをたくさん出す。すると、ピンポン玉はそれぞれ勝手に浮き上がって、学校の敷地内へと入っていった。

    ピンポン玉を監視カメラのように使って、学校の内部を調べるつもりみたいだ。



    「……ん?」

    しばらくして、アメリから反応があった。

    「アメリ? 何か見つかった?」

    「屋上に何か……光ってるものがあるけど」

    私は目を凝らして屋上を見る。……たしかに何か光ってるような……気がしないこともない。というか日が少し傾いているとはいえ、空はまだ明るいんだから、遠くの光なんて分からない。

    「よし、エリカちゃん!」

    アメリは私の手を掴んだ。

    「え、何? どうしたの?」

    「一緒に見に行こう!」

    ふわっ

    「ふわ!?」

    突然体が軽くなった。そしてそのまま、アメリと一緒に私の体が宙に浮き始める。

    「これ、生きてる人にも効くの!?」

    「みたいだな! アタシにもよく分からん!」

    「ちょ、ちょっと、急に落ちたりしないよね!?」

    「多分大丈夫! 多分! さあ、行くよエリカちゃん!」

    「待って、多分って2回言った……わあああ!」

    抵抗もむなしく私の体は、アメリと一緒に空高く浮かび上がった。





    高所恐怖症でなくても、不安定に空を飛んでいるのは普通に怖い。私はできるだけ下を見ないように、顔を上げた。

    「…………!」

    目の前には空が広がっていた。広い。とても広いすごく広い!

    風が強くて光がまぶしくて、あまり目を開けていられない。けど、いつも上にしかない空が真横まで広がっていて、なんとも言えない解放感を得ていた。こんなにも空が広かったなんて。

    「あー、つい飛びすぎちゃった。ガッコがあんなに小さい」

    アメリが呟くから、私もつい下を見る。

    ……見るんじゃなかった。ここから急に落ちたら、なんて思うとゾッとする。

    「じゃ、降下しまーす」

    「え、ちょっと…………やぁぁあああ!!」

    アメリが私の手を引いて、遠慮なしに下に向かって突っ込む!

    地面がぐんぐん近づいてきて、風が強く当たって……!

    たまらず私は目を閉じた……!





    しばらくして風が収まり、目を開けるとそこは学校の屋上だった。

    「はぁ……っ。着いたんだ……」

    まだちょっと足が浮いている。このまま下ろしてもらおうと、私はアメリの方を見た。

    「……アメリ?」

    アメリはじっと前を見つめていた。視線の先にあったのは、小さな光。私はそれに見覚えがあった。

    「……魂……?」

    幽霊としての形を成していない、ただの魂。宿主が死んで間もない魂や、それなりに強い意思でこの世に留まっている魂……それから、強い未練を持ちながらも時間の経ちすぎた魂なんかがそうだ。

    これくらいの魂なら、たまにその辺で見かける。この魂に一体何の意味が……。

    「……テン子」

    アメリがそう呟いていた。あの魂の名前……?

    「テン子? ねえアメリ、あの魂って……」

    私がしゃべっている間にアメリの手から力が抜けて、私は床に投げ出される。

    「った……」

    突然すぎて尻もちついた。そんな私に見向きもしないで、アメリは魂に近づいていく。

    「アメリ……!?」





    気づいたら、景色が変わっていた。

    さっきまで日が傾きかけていた空は青く戻っており、アメリもテン子も見当たらない。

    「これって……」

    困惑していると、屋上の出入口の扉が開いて誰かが入ってきた。驚いてすぐに振り向くと、入ってきたのはアメリともう一人……初めて見る顔だけれど、あれがテン子なんだろうか。アメリよりも大人しそうな、見るからに優等生そうな人だ。

    「……記憶の再現……?」
  8. 8 : : 2020/08/13(木) 00:16:22
    アメリの時間は止まっていたんじゃない。何度もこの瞬間を繰り返していたんだ。死の直前の、後悔した瞬間を。

    あの時こうすればよかった……と、誰もが思うことを、やろうとしている……。これから何が起きるんだろう。



    『アメリー、ここ、立ち入り禁止……』

    『そだよ。気分転換にはちょうどいい場所じゃん?』

    どうやらアメリがテン子をここまで連れてきたようだ。二人とも、端に設置されたフェンスに触れないように、少し歩いていた。

    『はいこれ』

    アメリは自分の食べてるアイスと同じものをテン子に渡した。

    『え……?』

    『平気平気。保冷剤もあるし、多分溶けてないから』

    『いやいやいや、そうじゃなくてね? 今更だけどなんでアイスなんて持ってきてるの?』

    『別に普通じゃね? みんなお菓子とか普通に持ってきてんじゃん』

    『いやいやいや……それとこれは色々違うような……』

    動揺するテン子を無視して、アメリは勝手に袋を開けて渡した。

    『ほら。食べないともったいないよ』

    『……うー』

    少し躊躇したが、仕方なさそうにテン子もアイスを食べ始めた。

    『優等生のテン子が、朝から屋上でアイス食ってるなんて誰も思わないだろうねー』

    『いや、アメリーが無理やり連れてきたんでしょ……』

    『テン子って真面目で頑張りすぎるとこあるからさ、たまにはこうして羽を伸ばさないとって思ってね』

    『いやだからって屋上アイスは無いと思う。っていうか妙に手際よかったんだけど。たまに来てるの?』

    『まあね。進入禁止テープが張られてるだけで、ドアは鍵がかかってるわけでもないし』

    『全然使われてないから、管理がいやにずさんだね……』

    『そこのフェンスも、触ったら取れちゃうかもしれないから触らん方がいいよ』

    テン子はフェンスとの距離をちょっとだけ開けた。



    ……アメリは普段から、こうして人の悩みを聞いたりしているのだろうか。テン子も、アメリと話すことで私みたいに心が軽くなったりしたんだろうか。

    なんだか、私と似てるなぁ……。って、ちょっと思ったり。

    そして私はハッとした。アメリの持っているアイスがかなり溶けかけて、幽霊の時とほぼ同じ状態になっている。

    『ま、テン子に立ち入り禁止の場所なんて似合わないよね。アイス食ったらさっさと戻ろっか』

    「アメリ!!」

    気づけば私は大声を上げていた。その時。

    『…………!』



    突然、強い風が吹いた。



    風に押されてテン子とアメリが少しだけよろけて、フェンスに寄りかかる。

    そして……二人分の体重が急にかかった古いフェンスは、ベキベキと大きな音を立てて外側に折れる…………!

    『テン子!!』

    アメリの行動が若干早かった。カバンとアイスを投げ捨て、まだ状況把握しきれていないテン子の手を掴んで屋上に戻ろうとする。

    私も咄嗟に手を伸ばし、アメリの手を無我夢中で引っ張った。

    「アメリ……!!」

    掴んだ感触のない手を必死に引き上げる。けれど、アメリは片足までしかついてないうえ、落ちかけているテン子を片手で支えている。重力が強い。私だけで引き上げるのは無理だ。

    でもこれ以上……アメリに未練を残させたくない……!

    そう思っていると、後ろから大きな金属音がした。振り返ってみると、アメリの手から伸びたロープがドアノブに引っかかっているのが見えた。

    『っ……ぐぅ…………!』

    「もうちょっと……っ!」

    アメリはロープを伝って、私はアメリの手を全力で引っ張って……。



    「……った……!」

    『ッ……!』



    ようやくアメリとテン子は屋上に投げ出された。
  9. 9 : : 2020/08/13(木) 00:17:01





    「はぁ……はぁ…………っ! アメリ、大丈夫!?」

    「っはぁ…………。超サンキュー、エリカちゃん……」

    アメリが戻ってきた。記憶の再現が終わったようだ。

    「……テン子!」

    アメリはもう片方の、握ったままの手を見た。小さな魂が手のひらに収まっている。

    「テン子……」

    アメリは静かに、小さな魂を見つめる。

    「……ごめん。本っ当にごめん……! アタシがこんなところに連れてきちゃったせいで……! アタシが……あんたを殺した……っ!」

    アメリは魂を見つめたまま、泣き崩れた。この後悔があって死んでも死にきれず、この世に魂を縛り付けていたんだ……テン子の魂ごと。

    それほどに、アメリにとってテン子は大事な存在だったんだ。

    「ずっとずっと、謝りたかった……。けど、そうか……怖くもあったんだ……。アタシが殺してしまった……あんたに会うことが……」

    ……テン子はアメリと違って、意思疎通が出来るほどの幽霊にはなっていない。けど、きっとテン子の意思は魂に残っているはず……。それなら……。



    「アメリ。テン子の魂を抱きしめて」

    「え……?」

    意思があるなら言葉にできなくても、感じ取ることは出来るかもしれない。それも、アメリなら。

    「……テン子」

    「…………」

    しばらく魂の光がアメリを小さく照らしていると、魂は綿毛のように拡散して、徐々にこの世から消えていった。

    アメリも、その魂を静かに最後まで見守っていた……。





    「アメリ……。どうだったの?」

    アメリはテン子の魂を最後まで見送った後、そのまま静かに語りだした。

    「テン子は……嬉しかったって言ってくれた。最期にアタシと話すことが出来て…………こんなになっても自分のことを思ってくれる人がいて幸せだったって……。テン子は優しいからさ……」

    「アメリ……。テン子の魂はもう意思を持ってなかったよ。残ってたのは本当の気持ちと、強い思いだけ」

    「そう…………なんだ」

    きっと、テン子はアメリのせいで死んだなんて思っちゃいない。それどころか、救われたと本心から思っていたんだ……私と同じように、きっとずっと一人で戦っていて。

    「アタシは必死に謝ったんだよ。そしたら、許します、だって。むしろ、自分の為に未練を作らせてごめんなさい、なんて…………本当にテン子らしいよ……」

    アメリは泣きながら小さく笑って、立ち上がった。投げ捨てたアイスとカバンを拾って私のほうに向きなおる。

    「ありがとう、エリカちゃん」





    「もう、アタシに未練は無い」





    ぽとり。

    アイスが溶け落ちた。
  10. 10 : : 2020/08/13(木) 00:18:07
    アメリの魂が強く揺らいで、今まで押さえつけられていた魂が解放されていくのを感じる。

    「アメリ……」

    「色々ありがとう、エリカちゃん。本当に、あんたのおかげよ」

    残ったアイスも食べきって、そのまま棒も口に入れてしまう。

    そして、アメリは私に向けて手を差し出した。

    「掴まって。最後にエリカちゃんを家まで送り届けるよ。これがアタシの最後の心残り」

    「……うん」

    アメリの手を取る。やっぱり感触は無いけど、私は自分の体が軽くなるのを感じた。

    「さ、急ぐよ!」

    屋上から飛び出し、再び空へ。





    日がだいぶ傾き、太陽が沈み始めていた。

    「一日が終わるね~。アタシがこの世で見れる最後の太陽だよ」

    左は黒、上は水色、右はオレンジ。太陽が沈みかけて強く輝いている。

    「こんな景色も、もうすぐ忘れちゃうんだよね~……」

    アメリは少し寂しそうな顔をして言った。

    どんなに美しい景色も、楽しい思い出も、生まれ変わるとゼロになる。それが目の前まで迫ってきているなんて、どういう気持ちなんだろう。アメリはこれを味わいたくなかったのかもしれない。

    「……いや、そこまで考えてないか、この幽霊は」

    「エリカちゃん? 今なんか言った?」

    「いや。アメリ、記憶は生まれ変わると消えちゃうけど……こんな話もあるの。魂に強く刻まれた記憶は、たとえ生まれ変わっても魂が覚えていることもあるんだって」

    「マジ? じゃアタシ最強じゃね? 今まさに魂に直接刻み付けてるんだし! 忘れる気がしないね! この景色も、エリカちゃんも、テン子のことだって!」

    そうだといいな。ただの都市伝説にも近いけど、アメリなら覚えていてくれるような気もする。

    「さ、そろそろおうちに帰りますよ。エリカちゃん、家どっち?」

    「…………」

    今、アメリは私を送り届けるという最後の心残りを果たそうとしている。

    なら……。



    「アメリ、なにか問題出して」

    「え?」

    「まだアメリの問題に1問も正解してないの悔しいもん。1回でも勝たないと気になって仕方ない!」

    「…………」

    こじつけだけど。アメリは満面の笑みで話し出した。

    「ではご期待に添えまして、問題です! 一億の気が集まったら何ができるでしょうか?」

    「えっと……必殺元気ボール?」

    「残念! そんなラスボスに撃つような技じゃなくて、"キ"が"オク"で記憶! はい上手い!」

    「……本当にちょっと上手いのが腹立つなぁ!」

    「あ、エリカちゃんが珍しく本音言ってるって感じ! じゃあ次、コンビニのハサミと道端の石ころがじゃんけんをしました! さあ勝ちはどっちでしょう!」

    「えーっと、じゃんけんだから石ころ!」

    「違いまーっ。答えは、売られているので"かち"のあるハサミでした!」

    「いや、ちょっと待って、石ころにも価値はあるんじゃない?」

    「悪あがきは認めません! 良あがきなら認めます!」

    「いや何、良あがきって!?」

    「『負けました』と言うのです!」

    「あがいてない! 潔い!」
  11. 11 : : 2020/08/13(木) 00:18:46



    私たちは、最後まで笑顔で喋りつくした。未練の残らないように、気のすむまで。

    これが、私の親友がこの世にいた最後の日の話。あれから10年近く経って、私はアメリの歳も超えてしまった。

    今でも私はあの見晴らしの良い墓地を時々訪れている。

    墓を見たって、そこにアメリがいないことは分かっている。アメリはこの世を去ったんだ。

    「……ん」

    今日も墓地を訪れると、小さな男の子が外の景色を見ていた。

    ……かすかな希望を抱いていたのかもしれない。私はその子に近づいて、話しかけた。



    「……いい景色だね?」

    男の子は急に声をかけられて、ちょっとびっくりしたみたいだった。けど、すぐに頷いて話してくれた。



    「えっと、僕の家ってすぐそこにあって……。ここに来たの初めてなんですけど……なんとなく、見たことある気がするんです」


    「……そう…………なんだ……」


    私は男の子の頭に手をのせた。


    ……ちゃんと触れられる。感覚がある。



    「アメリ……」



    あの時、絶対に叶わない心残りがあったんだ。


    アメリに触れて……抱きしめて、ちゃんと別れを言う。


    ありがとう。さようなら。







    この世界でたくさんの素敵な思い出を作れますように。







    END
  12. 12 : : 2020/08/13(木) 02:39:15










    あとがき

    以上でこの物語はおしまいです。ここまでお付き合いいただきありがとうございました。

    お題はアイスと最終日。最初はかなりこれに沿った内容でしたが、変更に変更を重ねてこうなりました笑。とはいえ最初から「アイス」の溶け方で時間を表現して、そこからこの世に存在する最終日を軽く表現するものとして幽霊に派生したという根本は変わっていません。

    このお題を聞いた最初は夏休みをイメージしたので、最初はそれが中心の内容となっていましたが、お題をそのまま使いたくないという天邪鬼が働いて?結果こうなりました。出題者のふじやまさん、なんか想像と違っていたらすみません笑。自由に書かせていただきました。エリカとアメリは自分的に動かしやすくて、かなり好きなキャラクター達になりました。
    ちなみに、自分はお題を作者咲紗さんに出しました。よければそちらもぜひ。他の参加者さんの作品も楽しみにしております。

    それでは、今回の作品は短い内容になりましたが、そのぶん内容が凝縮されています。ここまでお読みいただきありがとうございました。この作品が、あなたの記憶に少しでも残りますように。



    しばらく使っていなかったグループですが、感想など頂けるとありがたいです↓
    http://www.ssnote.net/groups/575/archives/1

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