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望遠鏡を覗き込んだ〜♩

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  1. 1 : : 2020/07/13(月) 17:41:27
     深夜2時、ふと目が覚めた。

    深く眠れなかった日の朝に目覚めた時のような、瞼の重さは感じられない。いやに明瞭で、頭も冴えた様だった。あのとてつもなく身体に悪そうな色をしたエナジードリンク、それを飲んだらきっとこんな感じだろうなと思った。


    身体を寝かしていることに我慢がならず上体を起こすと、去年死んだ祖父に買ってもらった望遠鏡が目に入る。別に欲しいなんて一言も言ったことはなかった。祖父にものを強請った記憶はあるが、それも小二までのことだ。

    次の誕生日からは、祖父が勝手に、自分が欲しいだろうというものを買って送ってきた。別段欲しいものでもないため、扱いに困ることが多く、その中の一つがこの望遠鏡だ。受け取った瞬間は喜びもしたものの、その日は雨で空なんて見えなかったし、使わないまま放置していたものだった。

    閉め忘れた窓から夜風が入り込み、カーテンを靡かせる。窓を閉めようと近寄ると、今夜は雲一つない空であることに気付く。晩夏の夜の湿った空気が鼻腔をくすぐる。

    急いで外に出かけられる格好に着替え、望遠鏡を担いで自転車に乗った。
  2. 2 : : 2020/07/13(月) 17:44:23

    **************************************************




     静かな夜だった。明日で終わりの交番勤務も、色々大変なことがあったと考える。酔っ払いの介抱に、酔っ払いの介抱、そして何より酔っ払いの介抱だ。

    他にも何かあったような気もするが、一番の思い出はやはり酔っ払いの介抱だった。

    今夜は何事もなく終わってくれればいいと思う。飲みかけの缶コーヒーを持ちながら、交番の外に立つと、自転車が車ぐらいの速さで目の前を走っていった。

    缶コーヒーが自転車に軽くぶつかった所為か、カラカラと音を立ててアスファルトの上を転がる。彼女が、いや先日夜景の見えるレストランでプロポーズをした婚約者が勤務前に買ってくれた缶コーヒーだった。

    まあ確かに、付加価値といえばそれくらいのただの缶コーヒーだ。まだ半分も飲んでいない缶コーヒーが地面を転がることも、そんなに珍しいことではない。

    寧ろ、自分の不注意だ。貰った缶コーヒーを、水滴が付いていたため滑りやすかった缶コーヒーをしっかりと握っていなかった自分が悪いのだ。ああ、なんと己が不甲斐なくてしょうがない。
  3. 3 : : 2020/07/13(月) 17:45:03
     

    関係ないが、自分は学生時代野球をやっていた。身体も戦略を考える頭も野球で鍛えあげたが、自分の持ち味は何よりも視力だった。動体視力が人より並外れており、ボールの回転や位置を見間違えること、見失うことは一度足りともなかったのだ。投げられたピンポン球に書いてある文字だって読むことができるはずだ。


    目の前を通った自転車には、近所の中学校の登録シールが貼ってあった。番号は百四十七番、顔も覚えた。自転車に飛び乗り、先ほどの中学生を追いかけた。


  4. 4 : : 2020/07/13(月) 17:46:45

    ***********************************************




    いつにも増して自転車のペダル漕ぎが滑らかだった。誰かが油を挿してくれたのだろうか。ペダルだけじゃなくて、体の調子もすこぶるよかった。

    目的の場所まで、二時間程かかる予定だったが、二十分は早く見積もってもいいかもしれない。腕時計を確認すると、未だ家を出てから十分しか経ってないことがわかる。それと同時に、自分以外に物凄い速さでペダルを回す音が聞こえてきた。

    後ろを振り返ると、警官が自転車で自分を追いかけていることに気づいた。単に自転車を走らせているだけなら、まさか自分を追いかけていることになんて気付きもしなかっただろう。警官の存在を確認した後ならば、風を切る音の他に、何か声が聞こえたのだ。

    待て、止まれ、返せ。最後の言葉はわからないが、いくつかは自分にも当てはまる言葉だ。補導されてしまう。

    自分は今まで真面目に生きてきた。

    小学生の頃の音読の宿題は、ちゃんと親の字に似せて「上手に読めていた」と書いたし、教師がいる前で校則を破ったことだってない。ひどく真面目に、生きてきたつもりだった。事実でなく、気持ちが大事なのだ。


    そんな自分が警察のお世話になるわけにはいかない。どうにか逃げ延びなくてはならない。せめて隠れることができれば。
  5. 5 : : 2020/07/13(月) 17:48:28

    **************************************************







    体力の衰えではなく、単にあの中学生の脚力が異常なのだ。実際そうとしか思えない。

    自転車の速さは落ちず、寧ろ早くなっている。このままでは、追いつくことができない。しかし、中学生は急激にスピードを落とした。

    中学生に近づけるか、と思った瞬間、中学生は五十メートル先にいた。中学生はスピードを落とした訳ではなかったのだ。こちらに向かってきている。


    声を出す暇もなく、気付いたら自分は中学生の肩の上に担がれていた。身動きは取れず、ただ道具のように担がれていた。
  6. 6 : : 2020/07/13(月) 17:51:04

    ***********************************************


     かくれんぼという遊びが苦手だった。光の当たらない所に隠れ、鬼に見つかるまで息を潜めて待たなければならないからだ。

    友達は、居もしない所を探している様子が面白いと言っていたが、自分はそうは思えなかった。

    まず、動けないことがつまらない。
    かくれる場所を変更するのはリスクが高く、あまりいい手ではないから、その場でじっとし続けなければいけない。

    次に、狭いところに隠れてビクビク震えているのが弱者のようで不快感が募っていくから嫌いだった。


    大嫌いだった。


    弱者のまま生を終えるくらいならば、強者に一矢報いてから死んでやる。









    と、従姉の真智子が言っていた。
    そんな真智子がかくれんぼの極意を教えてくれた日があった。


    「鬼を隠すのよ。そうしたら時間が来るまで、いや、永遠に見つかることはないわ」




     それを聞いた瞬間は涙を流して感動した。まさに真に智のあるもの、真智子だと。




     自分の、いや親愛なる真智子の作戦が上手くいったことに高笑いしていると、耳元で自分でない誰かの笑い声が聞こえてきた。

    周囲に気を向けると、何やらサイレン音が聞こえてくる。その瞬間、腹の底に大きな氷を落とされたような感覚に陥り、冷や汗が噴き出る。







    自分の高笑いの声に反して、警官の笑い声がどんどん大きくなる。






  7. 7 : : 2020/07/13(月) 17:54:15

    ***************************************


    「パトカーだ!!」


     パトカーは俺の小さいころからの憧れだった。別に悪から身を守ってくれる象徴の乗り物だったからではない。

    白と黒の比率が好きだった。車の形状が変わっても、白が多めで黒がやや少なめの比率に憧れていた。誰しもが清き心の中に悪しき心も持っている、という意味合いが聞こえてくるようで大好きだった。嘘だが。



    幼稚園の頃の将来の夢は、パトカーになることだった。しかし今は、悪から身を守ってくれる象徴としてパトカーを求めた。

    パトカーの窓が開いた瞬間、何故か身体を車内に放り込まれた。



    「大丈夫か、前原」



     風圧が消えたことで、いくらか冷静になれた。先ほどの恐怖から解放されたことで、安堵が胸を満たす。と同時に涙がぼろぼろと零れてきた。




    「おい、泣いてる場合じゃないぞ」


    「泣いてねえよ」

    中学生から離れたのに、まだ揺れで気持ちが悪い。


    「なあ、どうなってんだよ前原」


    「どうもこうも、自転車に乗った中学生に担がれさえしなけりゃ」




    「何でパトカーが中学生に担がれてンだよ、前原!」



     ああ、さっきからいやに揺れが激しかったのはその所為か。

  8. 8 : : 2020/07/13(月) 17:56:01
    ************************************

    追手のパトカーがいつの間にか増えていた。


    僕は天体観測がしたかっただけなのに、なんてことだ。

    いくら元気が有り余っている夜だろうと、こんな追いかけっこがしたかったわけではない。


    しかし、それもそろそろ終わりだ。山の上からパトカー達を見下ろすと、壮観だった。

    自分を追うために、自転車に何台も車を寄越すなんて。

    肩に担いだパトカーを、見下ろした先のパトカーに向かって放り投げた。

    大きな音が聞こえた。少し周りの気温も上がった気がする。



    望遠鏡を担ぎなおすと、また目的地の原っぱまで自転車を走らせた。

    道はとても静かで、少し足がすくんだけど、頑張ってペダルを漕いだ。















    僕は今日、とっても頑張ったな。
  9. 9 : : 2020/07/13(月) 17:57:32
     
    *************************************






    今日は騒々しい夜だった。

    パトカーが何台もサイレンを鳴らし、寝られやしない。

    やっと静かになったため窓を開け空を見ると、星の数がいつもより多いように感じた。



    「綺麗だな、あ、流れ星! ふぐ刺しが食べられますように」




     結婚式が和風ならふぐ刺しも食べられるかな、なんて考えながら部屋に視線を戻した。瞬間自転車を漕ぐ音が聞こえる。

    窓の外を見ると、望遠鏡を担いだ少年が、いやに大きな音を立てて自転車を漕いでいた。

    少し怖かったため、また窓を閉めるとインターホンが鳴った。



    「前原さーん」




    午前三時だ。



    居留守も考えたが、一応誰が訪問したかだけ確認しようと玄関に向かった。覗き穴を覗くと、そこには少年が望遠鏡を振りかぶっているのが見えた。
  10. 10 : : 2020/07/13(月) 17:57:47
    おわり
  11. 11 : : 2023/07/04(火) 09:48:43
    http://www.ssnote.net/archives/90995
    ●トロのフリーアカウント(^ω^)●
    http://www.ssnote.net/archives/90991
    http://www.ssnote.net/groups/633/archives/3655
    http://www.ssnote.net/users/mikasaanti
    2 : 2021年11月6日 : 2021/10/31(日) 16:43:56 このユーザーのレスのみ表示する
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    16 : 2021年11月6日 : 2021/10/31(日) 19:01:59 このユーザーのレスのみ表示する
    ちょっと時間あったから3つだけ作った

    unko_chinchin
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    http://www.ssnote.net/archives/90992
    アカウントの譲渡について
    http://www.ssnote.net/groups/633/archives/3654

    36 : 2021年11月6日 : 2021/10/13(水) 19:43:59 このユーザーのレスのみ表示する
    理想は登録ユーザーが20人ぐらい増えて、noteをカオスにしてくれて、管理人の手に負えなくなって最悪閉鎖に追い込まれたら嬉しいな

    22 : 2021年11月6日 : 2021/10/04(月) 20:37:51 このユーザーのレスのみ表示する
    以前未登録に垢あげた時は複数の他のユーザーに乗っ取られたりで面倒だったからね。

    46 : 2021年11月6日 : 2021/10/04(月) 20:45:59 このユーザーのレスのみ表示する
    ぶっちゃけグループ二個ぐらい潰した事あるからね

    52 : 2021年11月6日 : 2021/10/04(月) 20:48:34 このユーザーのレスのみ表示する
    一応、自分で名前つけてる未登録で、かつ「あ、コイツならもしかしたらnoteぶっ壊せるかも」て思った奴笑

    89 : 2021年11月6日 : 2021/10/04(月) 21:17:27 このユーザーのレスのみ表示する
    noteがよりカオスにって運営側の手に負えなくなって閉鎖されたら万々歳だからな、俺のning依存症を終わらせてくれ

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Arute28

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