待つのが嫌いだという人は少しだけ時間の使い方が下手なのかもしれない。何かをまたは誰かを待っている間に出来ることはたくさんあるんだから、もう少し工夫してみればいいと思った。そのことを学校のベランダで道古先輩に話したら鼻で笑われた。

 それでもいいのだろう。軽く笑われるくらいが仲のいい証拠だ。

 待つってば、だから――。先輩は人が変わったように夜の道を歩く。

「待つってば! だから早く行ってきなよ! 私も怖いんだから」

 夏が終わった途端肝試しをしたいと言い出した道古先輩に連れられ近所の神社までやって来た。私はトイレに行きたくなったが先輩が先に帰ってしまうのではないかと不安だった。幽霊が出ても責任は取りません。狛犬がそう言っているようだった。


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 卒業式当日、先輩は私の家を訪ねてきた。

「卒業したくないから行きませんから」

「そう、じゃあ行かなくていいよ」

「二人で卒業式ぶっちしますか」

 兄はにやけ顔で車のキーを指で回す。私たちが何をしたいのか分かっているらしい。

 学校は事実上卒業していない。だって卒業式に出席していないのだから。私は分かっていた。学校を卒業する前にまだやることがたくさん残っている。だからそれをやり終えるまで、校長先生にはうまい時間の使い方をして私たちを待っていて欲しい。

 きっと今頃校長室ではこんなことを言っているはずだ。

「待つってば、だからおいしい煎茶を入れてくれ」

 

 ●高宮聡 TAKAMIYA SATOSHI●
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