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ぷろろーぐ

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  1. 1 : : 2019/08/05(月) 02:36:18
    今日で僕noteに来て5年なんで祝ってください!
  2. 2 : : 2019/08/05(月) 02:36:37










  3. 3 : : 2019/08/05(月) 02:37:00
    江ノ島「おー、苗木じゃん。何してんの」


    苗木「何って…見ての通りだよ」



    今日は学校を休んでいたはずの江ノ島さんが制服を着て今ここにいることに疑問を感じずにはいられなかったけど、質問を先にされたので答えるしかない。


    見ての通りボクは雑用を押し付けられていた。内容は放課後の教室清掃。


    桑田クンが野球の練習があるからって名目でボクに代わるよう頼んできた。最初はもちろん断るつもりだったんだけど、余りの必死さに渋々承諾。


    まあ、蓋を開けてみれば今日が舞園さんの久しぶりのオフだったってだけなんだけど。


    ボクにしつこく教室掃除を押し付けてきたように、その後舞園さんをしつこくカラオケに誘っていたようだ。結果は知らない。明日聞いてみようか。



    江ノ島「さしずめ桑田あたりに押し付けられたな?」


    苗木「全くその通りだけど、どうして?」


    江ノ島「さっき校門でしょげてる桑田いたからさ、からかってきた」


    苗木「あぁ…」



    教室の窓から校門に目をやると、確かに悲しそうな雰囲気を醸し出した桑田クンが1人で突っ立っていた。


    宿題を忘れて先生に廊下に立たされている小学生のようで、思わず吹き出す。


    教室掃除もいよいよ佳境に差し迫っていたので桑田クンに戻ってきて掃除を手伝ってほしいという欲求も特に湧かず。


    最後の仕上げとして教室の後ろ半分の床を雑巾でせっせと拭きあげながら、沈黙を確認して今度はボクが江ノ島さんに質問する番。



    苗木「そう言えば、江ノ島さんはどうかしたの?今日仕事じゃなかったっけ?」


    江ノ島「あー、仕事だったよ。雑誌の表紙の撮影だった。しかも制服で撮影」



    嫌そうに自分が今まさに袖を通している制服に対して怪訝な顔を浮かべながら、江ノ島さんはツラツラと続ける。



    江ノ島「アンタはさ、制服ってどう思うよ」


    苗木「え、制服?」


    江ノ島「そ。制服。アタシ嫌いなのよねー、制服って。没個性のシンボルじゃんこんなの。着ててツマンナイ服は着たくない主義なのにさぁー」


    苗木「着ててつまらない、っていうのはよく分からないけど…でも江ノ島さんの制服姿とっても似合ってるし、そんなに文句を言わなくてもいい気がするんだけど…」


    江ノ島「はい出たお利口さん!そんなんだからモテねぇんだよオマエはよ」


    苗木「え、いきなりひどくない?」


    江ノ島「つーか論点違うし、私様が何着ても似合うなんてことは私様が1番よーく知ってるっつーの」


    苗木「あ、はい…ごめんなさい…」



    よく分からない内容だったので適当に逸らそうとしたら首根っこ掴まれてしまった。こうなれば江ノ島さんは止まらない。


    放課後はこれからだ、と言わんばかりに外で18時を告げるチャイムがけたたましく鳴り始めた。
  4. 4 : : 2019/08/05(月) 02:37:20


    江ノ島「そもそもさ、アタシが話してたのは『制服嫌い』ってことなわけよ」


    苗木「はい…」


    江ノ島「別にアンタに制服似合ってるとか褒められてもアタシは嬉しくないし、ていうかさっきも言ったけどアタシはそんなこと自覚してるのね」


    苗木「はい…」


    江ノ島「アンタあれっしょ、自分が疲れてる上によくわかんない話題投げられたから適当に返したんでしょ」


    苗木「そんなことないです」


    江ノ島「ここまで嘘をつくのが下手くそな人間も中々いないよ、お姉ちゃんもビックリの誤魔化せなさだ」


    苗木「戦刃さんって嘘つくのが得意じゃないの?」


    江ノ島「むしろアイツは苦手な部類に入るぐらいに嘘つけない。まあ、私様だからこそ残姉の嘘を見破れるかもしれないけど」



    少し考えて「いやそれはないな、お姉ちゃん普通に分かりやすすぎるもん」という江ノ島さんの独り言が聞こえた。


    ボクはと言えば床を拭きながら江ノ島さんの説教を食らっていて、未だ半分ほどしかか拭き上げられていない床とにらめっこを続けている。



    江ノ島「いや違うし、お姉ちゃんはどうでもよくて。つーかまた話逸らそうとしただろ苗木」


    苗木「そんなことないよ」


    江ノ島「絶望的に嘘つくの下手くそ!通じてないから!」


    苗木「ごめん…もっと嘘つくの上手になるから」


    江ノ島「サラッと話題逸らしてたことを認めやがったなコイツ…
    じゃなくて、制服が没個性って話をしたいのよアタシは」


    苗木「没個性」



    『没個性』


    つまり個性がないということ。


    制服は確かに没個性の象徴のようなものかもしれないけど、その裏で学生である証明でもあるからイマイチ嫌いにはなれない。


    希望ヶ峰の制服は質がいいのか着心地がいいし。むしろずっと着ていたいほど。


    …いや、流石にそこまではない。



    江ノ島「アタシはさ、才能は個性だと思うわけよ」


    苗木「才能は個性?」


    江ノ島「そ。だってそうでしょ?希望ヶ峰学園っていうのは言わば唯一無二の才能を持つ高校生を支援、育成するための機関なわけじゃん」



    言われて納得はしたけど、ボクの才能…つまり『超高校級の幸運』に関しては唯一無二ではない気がして少し肩を落とした。


    そんなこと指摘しても野暮だし、多分江ノ島さんはそこまで分かってて言ってるんだろうけど。皮肉を交えて。



    江ノ島「でさ、そんな個性豊かな高校生たちを制服っていう没個性で塗り固めようとするってなに?矛盾してない?」


    苗木「まあ、たしかに…?」


    江ノ島「自分らが“育てさせてくれー!”って志願してきたわけじゃん?なのに無個性の檻に閉じ込めるってのは私様としてはちゃんちゃらおかしいわけよ」


    苗木「ちゃんちゃらおかしいんだ」
  5. 5 : : 2019/08/05(月) 02:37:39

    ちゃんちゃらおかしいなんて使う『超高校級のギャル』なんていう存在がちゃんちゃらおかしいだろう、と思いながら、ボクは磨き上げられた床を眺めて満足していた。


    立ち上がって満面の笑みを浮かべる。夕日が床に反射して、ボクをキラキラと照らしているようだった。


    いや全く気のせいだけど。そこまで磨き上げられてないけど。



    江ノ島「聞いてねえだろアタシの話」


    苗木「聞いてたよ、いや本当に!『没個性を許すな!』ってことだよね?」


    江ノ島「あんた今日どうしたの?なんでそんなに話聞くの下手くそなの?」


    苗木「いやぁ、うーん…」



    うーん。


    話したいような話したくないような。


    実は今のボクは割と上の空のところがある。原因は明確に理解しているんだけど…



    苗木「うーん」


    江ノ島「話すの渋るぐらいなら最初から表に出すなよ。ほら、机運ぶの手伝うからアタシに話せ」


    苗木「命令じゃん」


    江ノ島「命令だよ、アタシは世のJKのカリスマだよ?むしろ命令に逆らえると思うのがおかしいっしょ」


    苗木「ボク男なんだけど」


    江ノ島「はいそうやって性別を引き合いに出してくるー。今社会でジェンダーがどうこう言われてんの知らないアンタじゃないでしょ」


    苗木「それとこれとは話別だよねこれ?」


    江ノ島「同じだよ、ちっちぇ器してんな苗木誠」


    苗木「上の空なのは認めるし謝るんだけどさ、それにしたって辛辣だよ」



    美のカリスマからすればジェンダー問題はどんな場合にも適用されるようだった。


    彼女の前では人間は等しく美の奴隷で、つまり彼女の奴隷らしい。



    江ノ島「辛辣に当たるぐらいがアンタには丁度いいんだよ」


    苗木「え、なんでそれで丁度いいの?」


    江ノ島「アンタ気持ち悪ぃぐらいお人好しじゃん、だからアタシが辛辣に当たることで調和が保たれてるの」


    苗木「それとこれとは話別だよね?」


    江ノ島「同じなんだよ、いいから話せ」



    カリスマが痺れを切らしてしまった。


    後に引けないので喋るための覚悟を決めて、ボクは深呼吸をした。覚悟は決めつつ机はしっかり定位置に運びながら。


    ちなみに江ノ島はさんは全く手伝ってくれる気配はない。



    苗木「いや実はさ…」
  6. 6 : : 2019/08/05(月) 02:37:58

    苗木「ほら、モヤモヤしてるのは桑田クンのせいなんだよ」


    江ノ島「なに?まさか押し付けられたことにグチグチ言ってんの?」


    苗木「違うよ!最終的に引き受けたのはボクなんだし、その事で引きずることはないって!
    ていうか、もしそうだったとしたらそれこそボクは器の小さい男になるじゃないか!」


    江ノ島「まあアンタの器は産まれながらに小さいけどね」



    なんでボクの器の大きさは出生時に決まっていて、しかもそれを江ノ島さんが知っているんだろう…


    辛辣な言葉の数々はこれから先無視することにして、ボクは話を本筋に戻す。



    苗木「そこじゃなくて…その」


    江ノ島「あー、舞園」


    苗木「……うん」



    そう。ボクが上の空なのは舞園さんが主な原因だった。


    ボクは舞園さんのことが好きだ。実を言うと中学の頃からずっと気になってた。


    高校で再開して、こんなボクのことを覚えていてくれて、それで余計に意識してしまって…っていう。



    江ノ島「うわー、勘違い系男子」


    苗木「人の心を読むなよ」


    江ノ島「エスパーですから♪」


    苗木「なんで同じセリフなのに江ノ島さんだとときめかないんだろう…」


    江ノ島「舞園が言ってたらときめいてるって事実にアタシはドン引きだよ」


    苗木「人の恋を笑うなよ!」


    江ノ島「からかわせろよ、面白いじゃん」


    苗木「江ノ島さんって性格悪いよね」


    江ノ島「それを面と向かって言ってくるアンタも大概いい性格してるよ」



    机を整列させて、ようやく清掃終了。再び窓の外に目をやると、桑田クンはもう校門前にはいなかった。


    ボクは最後に運んだ机に腰掛けて、江ノ島さんにようやく向かい合う。



    江ノ島「あ、それ舞園の席」


    苗木「それは違うよ、ここは霧切さんの席だ。だからボクがこの席を離れる理由にはならないんだ」


    江ノ島「マジで霧切に謝れ」


    苗木「うん、ちょっと酷いなって自分でも思った…」


    江ノ島「ちょっとじゃなくて相当な」
  7. 7 : : 2019/08/05(月) 02:38:14

    苗木「いやさ、桑田クンのお願いを断って、それでボクが舞園さんをカラオケなりに誘えてたらって考えると…」


    江ノ島「アンタも普通に断られてただろうけどね」


    苗木「そうじゃなくて、その…
    ボクって奥手だからさ、そういうアプローチを全くできてないんだよ」


    江ノ島「あー」


    苗木「好意を寄せられてるかどうかすら認知されてないのと、そうじゃない…
    ボクと桑田クンじゃ既に立ってるステージが違うんだ」


    江ノ島「へぇ、そういうの意外と気にしてたんだ」


    苗木「そりゃあ気にするよ!自分に自信があるわけじゃないし、桑田クンに勝てる要素があるとも思えないし…」


    江ノ島「だからせめてその部分では勝っていたいのに、蓋を開けてみればその部分でも劣ってしまっている、と」



    そういうことだ。


    そもそも天性的な才能を見込まれてこの学園に選ばれたわけじゃないボクでは正攻法で桑田クンに勝つことは難しい。


    桑田クンのほうがボクよりも異性との会話を熟知しているし、何より野球少年というのはモテると相場が決まってる。


    性格面では?なんて考えてみるけど、実は桑田クンって根は本当に優しいんだよね。


    細かい気遣いもできて、自分の主張は曲げないながらに相手の主張もしっかり聞き入れる度量があったり。


    誰にでもフレンドリーに接することができるのは、人間としての軸が出来上がっていることの裏付けだ。


    つまり。



    苗木「現時点で勝てるとこないんだよね、桑田クンに。その上今日も桑田クンは果敢に立ち向かってた」



    まあ、玉砕してたみたいだけど。



    苗木「でもそういう努力ってさ、いつか身を結ぶって思うから…だから最終的に舞園さんは、桑田クンに振り向くのかなあって」


    江ノ島「ふーん…」



    まさか恋愛相談まがいな内容を江ノ島さんに話す日が来るとは…


    しかも結構踏み入ってるし。困った。


    話してみると恥ずかしさが勝ってくるな…うわあ、なんで話しちゃったんだろう。


    江ノ島さんめっちゃ真剣に考えてる、うわ、めっちゃ真剣に考えてる。


    何考えてんだろ、何も読み取れないや。


    そもそも、人の感情であったり心であったりを読み解くのは難解だ。そんな芸当ができる人間なんて某メンタリストだったりぐらいじゃないのか?


    それを考えると舞園さんって本当にエスパーなのかもしれない、ボクの考えはいつも見透かされているわけだし。


    あれ?そうなるともしかしてボクの好意は既に舞園さんに見透かさ───



    江ノ島「苗木」


    苗木「…え、なに?」


    江ノ島「やり直せるとしたらさ、アンタどうする?」

  8. 8 : : 2019/08/05(月) 02:38:31

    苗木「やり直す?」


    江ノ島「そ。例えば、例えばなんだけど」



    江ノ島さんはボクにまっすぐ向き合って神妙な顔つきで語り始める。



    江ノ島「もしも桑田のお願いを断って、アンタが舞園を誘っていたら」


    苗木「いや、それは…」


    江ノ島「だから例え話だって。そういう“もしも”のこと考えたりするじゃん?苗木もその例に漏れないでしょ」


    苗木「まあ、それは」



    考えるだろう、誰だって。

    後悔や失敗をやり直したいなんて思うことは人生において腐るほど起こりうる。


    『あの時こうしていれば』っていう後悔をもしもやり直せるのであれば、飛びつく人は沢山いるだろう。



    江ノ島「でしょ?だからさ、そういう“もしも”が実現できたとしてアンタなら今のそのモヤモヤを解消できんの?」


    苗木「やり直した上で、ちゃんと望んだように動けるかってこと?」


    江ノ島「そ。まあ、それができるんなら最初からそうしとけよって話ではあるんだけど」



    あくまでもボクを攻撃することは忘れないままに、江ノ島さんは続ける。



    江ノ島「人間ってのはそう簡単には変わんないのよ。仮にやり直せたとして、それで違った行動ができる保証なんてどこにもないんだよ」


    苗木「…」


    江ノ島「“結果を変えようとする絶対の意思”ってものが必要なわけ。今のアンタにそれがある?」


    苗木「意思…」


    江ノ島「無いでしょ?桑田から舞園を奪ってやろうなんて野心はミジンコほどにもないでしょ」


    苗木「奪うだなんて、そんな…」


    江ノ島「だからそういう所だって。そんなんだからアンタは繰り返したところで何も変えられないんだよ」



    江ノ島さんはボクにそう吐き捨てた。


    心底軽蔑するような目でボクを見て、けれどどこか嘲笑しているかのように。



    江ノ島「何もできないアンタはそこで舞園が高校球児に腰振ってるのを指くわえて見てろよ
    それぐらいがアンタにはお似合いだから」


    苗木「…」



    違う。



    江ノ島「じゃ、言うこと言ったしアタシは帰るわ」



    違う。違う。違う。



    江ノ島「バイバーイ、惨めな惨めな苗木クン」


    苗木「それは違うよ…!」
  9. 9 : : 2019/08/05(月) 02:38:58

    江ノ島「…は?」


    苗木「確かにボクは惨めだ。何もできない小心者だよ…
    だけど舞園さんを想う気持ちなら桑田クンにだって負けてない!」


    江ノ島「うわ、くさっ」


    苗木「言うと思った…
    でも、ここで勝つしかないんだ。しかも過去じゃない、未来で勝つしかない」


    江ノ島「ほう、未来で」


    苗木「そう。過去をやり直すのは違うんだ。未来の先で舞園さんに振り向いてもらう、そのための努力をするべきだ」


    江ノ島「やり直すことはせずに?」


    苗木「そうやって得たものはきっと虚しい。思い通りの展開に持っていったって、その先にあるのは虚無だけだ」


    江ノ島「…」


    苗木「だからボクは未来へ進む。過去には囚われない。過去のボクには、行動と結果には囚われない」



    今度はボクが江ノ島さんを真っ直ぐに見据える。


    江ノ島さんはさっきまでの見下した目をやめて、そして。



    江ノ島「うわー、絶望的に寒いわ」



    やはり笑った。嘲笑した。



    江ノ島「じゃあアンタはさ、やり直せたとしてもそれを放棄するんだ」


    苗木「そう、なるかな?」


    江ノ島「ふぅん…
    自分の過去に囚われない、未来へ進む。いかにもアンタらしい言葉だよ」


    苗木「…どういうこと?」


    江ノ島「そういう薄ら寒いノリを平気な顔してぶちまけられるアンタが大嫌いって話よ」



    江ノ島さんはそう言って、ボクに歩み寄ってくる。



    江ノ島「そんなアンタにとびっきり悪い知らせなんだけどさ」


    江ノ島さんの指が、ボクの首を撫ぜる。


    その所作はやたら官能的だった。気が。する。



    江ノ島「未来が失われたらどうするつもり?」


    苗木「え」



    で。


    締め切られた窓からでも聞こえてくるほどの大きな衝撃音。悲鳴。


    慌てて窓を開いて外を確認すると、白い軽自動車が校門の柱に衝突していた。


    遠くからだからよく分かる。白い軽自動車の前面、赤い化粧が施されていることが。



    苗木「江ノ島さん、あれって…!」


    江ノ島「めちゃくちゃ厄介なガチ恋勢のオタクがいたらしくてさ、犯人は多分そいつなんじゃないかな」


    苗木「いや、何言って」


    江ノ島「だから現実見ろってもやしがよ、アンタの言う未来はたった今失われました」



    つまり。江ノ島さんが言うことを解釈するならば。


    あの赤い化粧、施したのは。



    苗木「ははっ、そんなわけ」


    江ノ島「あるんだって」


    苗木「そんな」


    江ノ島「はぁ…いい顔。アタシそれが見たくて今回もここまで付き合ってあげたんだから」


    苗木「……は?」



    さっきから江ノ島さんの言ってることの意味が理解できない。


    笑う膝がいよいよ砕けて、ボクは尻餅を無様につく。


    江ノ島さんはボクを見下ろした。とても、とてもとてもとても幸せそうな目で。
  10. 10 : : 2019/08/05(月) 02:39:15

    江ノ島「だってさー、前回で完全に諦めちゃったじゃんアンタ
    だからわざわざ日常パートまで巻き戻してやって心の回復に努めたわけよ」


    苗木「なん、なにを」


    江ノ島「やり直そうとしないとやり直せないシステムになってんの、だから心折れたままじゃやり直しできないんだよこれ」


    苗木「え、え?」


    江ノ島「“やり直さない”なんて有り得ないから、希望に縋れよ『超高校級の希望』さん」


    苗木「あ、あっ…あぁ……」


    江ノ島「さっきの問答で完全に立ち直ったアンタは、舞園への好意を確固たるものにした、そしてアタシに啖呵を切ってみせた」


    苗木「ま、まい、まいぞのさ」


    江ノ島「で、今のお気持ちは?
    未来で射止めようとした彼女は過去のものになっちゃったけど」


    苗木「え、過去、過去って」


    江ノ島「だってそーじゃん、たった今舞園は厄介オタクに車と校門の柱でサンドイッチされて死んだんだから」


    苗木「???????????」



    なんて??????????????



    江ノ島「どーよ苗木、アンタが諦めようとアタシはどんな手を使ってでもやり直させたいわけ」


    苗木「なん、で」


    江ノ島「そりゃあ、アンタの絶望した顔がいっっっっっっっっちばん好きだから!」



    江ノ島さんはボクを抱きしめた。あ、いい匂いがする。とてもいい匂いが。



    江ノ島「ねえ苗木、苗木!
    アンタがそうやって絶望してくれるならアタシ本当になんだってできるの!」


    苗木「なんでも」


    江ノ島「その顔、その顔を何度もアタシに見せて?何度でも」



    江ノ島さんは火照った顔でボクの頬を細い指で撫でる。ボクの目は乾いてる。



    江ノ島「苗木、どう?やり直したくない?舞園ともっかい会いたくない?」


    苗木「まいぞのさん、に」



    会いたいに決まっている。


    ボクがどれだけ舞園さんを想っているか、江ノ島さんには理解できないだろう。


    江ノ島さんがボクの絶望した顔を見るために何でもやるんだって言うんなら、ボクは。



    苗木「……ボクは、もう一度舞園さんに会うために何でもやってやる」


    江ノ島「馬鹿が、学べよ」



    江ノ島さんの唇がボクの唇と重なる。


    ドラマなんかで、キスをする時は目を閉じるものだと習っていた。


    それに倣ったつもりだなんて微塵もなかったんだけど、ボクは目を閉じた。


    何もない暗闇の中で、江ノ島さんの唇の柔らかさと、開け放たれた窓から飛び交う外の喧騒だけが感じられる。


    それらはジワジワと、ジワジワと遠退いていく。


    ボクの悲しみさえも置き去りにして、未来のものにして、遠退いていく。


    江ノ島さんの気配さえもいつの間にか消えていて、閉じたままだった目を開くまでもなく、照りつける朝日が、ボクが外へ放り出されたことを物語っている。



    苗木「…舞園さん」



    目を開く。そこは希望ヶ峰学園校舎前。


    ボクが袖を通しているのは希望ヶ峰学園の制服ではない。


    0日目だ。プロローグだ。


    だから、何度目かの入学式に向けてボクは校門をくぐった。
  11. 11 : : 2019/08/05(月) 02:39:23





    おわり
  12. 12 : : 2019/08/05(月) 02:39:39
    祝えよ
  13. 45 : : 2019/08/05(月) 02:58:26
    久々にたけのこまんじゅうの作品が読めてよかった。
    昔から苗木と江ノ島の絡み上手かったし展開も安心感あった
    おめでとう!!!!!!!!!
  14. 47 : : 2019/08/05(月) 03:07:02
    展開の救いのなさが安心感ありますね。
    5周年おめでとうございます。
  15. 48 : : 2019/08/05(月) 06:53:28
    自身の『希望』に囚われた苗木の堕落。夕日から闇を越え朝日を照らす世界。醜い様が美しく描かれた作品と感じました。

    5周年なのですね!
    新たなる周年の誕生をお祝い申し上げます。
  16. 49 : : 2019/08/05(月) 10:51:35
    >>45
    ありがとう( ; ; )
    書くのすら躊躇ってたけど、ふじやまさんのお陰でまた投稿できてよかった


    >>47
    ありがとうございます!
    自分のスタイルを思い出しながらの執筆だったので、そう言って頂けるとこちらとしても安心できます…


    >>48
    ありがとうございます!
    感想の方がハイセンスってこんな悲しいことはない…そのお洒落な言葉回し、見習わせてください

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