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  1. 1 : : 2019/08/01(木) 12:53:54
    隣の家のベランダで、君は夜空を見ていた。天穹に無数の星が輝いている。ロマンも無いことを言ってしまえば、今見えている星は既に消滅しているらしい。詳しい事は解らないけれども。
    僕もベランダに出て、君が見ている向きと同じ方向の夜空を仰視した。


    「ねえ」


    僕は君に声を掛ける。返事は何も帰ってこなかったが構わず続けた。


    「心を読んでみたいって、思う?」


    君は星を眺めたまま「う~ん」と唸り、数刻の後口を開いた。


    「私は思わないな。心が読めるってことは、その人の本性も判っちゃうんでしょ。親友が変なこと思ってたら嫌だもん」


    「親友」のところで僕を一瞥していることに気が付き、思わず僕も君の顔へ目を向ける。


    《一生このまま親友で居たいなぁ》

                   ・・・・・
    君がそう思っているのが、僕には視えていた。

  2. 2 : : 2019/08/01(木) 13:33:32
    この能力(ちから)は、僕がまだ小さい頃に突如得たモノだった。
    あれは土曜日。久し振りに両親と車で外出し、どこに行こうか、と話し合っていた時だった筈だ。


    「昼飯何処に食いに行くんだ?」


    父さんが車のハンドルを握り、運転しながら訊いてきた。


    「今日あんまりお腹空いてないし、軽く摂れる物が好いなあ」

    「解った、じゃあ彼処行くか?ほら、あの───」

    「危ないっ!!」


    母さんが突然叫んだ。何っ、と驚愕する暇も与えてくれなかった。僕等の小さな車を、窓から慌てた顔で俯瞰していた運転手の大型トラックが突っ込んできた。





    目が覚めたのは病院だった。いや正確には「覚めた」とは言えないだろう。


    「······?」


    僕は左目を瞑り、瞼を二本の指で開いた。

    ・・・・・・・・
    何も見えなかった。漆黒の世界だった。ただただ肌に触れている柔らかい───恐らくベッドのシーツ───感触と、時計の一秒刻みに聴こえる針の音、出血は止まっていたものの僅かに味わう血の味。視覚だけが機能していなかった。


    「······嘘?」


    恐い。只管恐かった。その答えを僕は既に解っている筈なのに。



    今回の事故で、母さんが死んだ。人間の命なんて呆気なく散るんだと実感した。
    因みに父さんは重傷で、全治一ヶ月もすれば治る、と医師は言っていた。
    そして僕は。


    「失明······してしまいました」


    ······嗚呼。やっぱりそうなんだ。何となく予想はしていた、出来ていた所為、いやお陰と言うべきか。悲愴感は然程感じなかった。


    そして変化を感じたのが、病院生活二日目、翌朝だった。
  3. 3 : : 2019/08/01(木) 13:59:55
    目を覚ました僕は、自らの目の異変に気付く。


    「······あれ?」


    本当にボンヤリと、形が全く判らない程だが、視力が回復していたのだった。目を瞑った時とは違う、暗闇を感じず、赤、青、緑といった色が見える。本当にボンヤリと、色つきの靄を見ている気分。
    医師にこの異変を話すと、彼の目の前に「何か」が形成されている気がした。それも靄で見えず、次々と「何か」が出来ていく。しかし彼が部屋を出ると、その「何か」は消えた。
    結局何だったのか解らなかったが、失明よりはマシだ。






    一週間後、僕でさえ信じられない変化を遂げた。

             ・・・・・・・
    簡単に言えば───視力が復活したのだ。


    「まさか······視力が、復活したんですか!?」

    「はい」


    最初の靄がかかりボンヤリとしか見えなかった目は、今は瞭然と物の形が解り、最早事故前よりも良いんじゃないか、と思える程見えていた。


    「······視力が、回復、ですか」


    医師がそう呟いた、直後。その「文章」は形成されていく。


    《たっく、面倒(めんど)くせぇな。お前みたいな小四の餓鬼、さっさと退院しちまえよ》


    「······」


    これが何であるかは、僕は疾うの昔に(その表現が使えるかは謎だけれど)解っていた。
    そして、医師の本音も判った。






    「······? 大丈夫?」


    君が僕に声を掛けくれて、我に返る。


    《疲れてたのかな》


    「······ご免、大丈夫」


    正直、心から心配してくれている事に、酷く安堵した。

  4. 4 : : 2019/08/01(木) 14:52:42
    僕はこの能力(ちから)を恨んだ事はあった。
    何故なら視たくもない、人の本性が視えてしまうから。

    真面目で優秀だと評判の男子生徒は、


    《ちっ······俺が真面目そうだからって簡単に仕事押し付けやがって、あの野郎》


    優しく人気者だと評判の女子生徒は、


    《あの娘、私の恋愛に邪魔になりそうだな。消えればいいのに》


    怖かった。怖くて仕方がなかった。この世界に仮面を被って生きている者が何人居るだろうか。





    日曜日の朝。急に君は「一緒にゲームしようよ!」と誘ってきた。何度も君は僕に勝とうと躍起となる。そう思いながら苦笑した。


    「解った。今行くから、ちょっと待ってて!」


    階段を降りて、誰も居ない家に鍵を掛ける。正直、ベランダからベランダへ跳んで行ける気がするけど、そんな無謀な事はしない。
    君の部屋に入ると、本人は何やらコントローラーを手にし突っ立っている。


    「今日こそは、ぜっっったい勝つから!」


    コントローラーを持って宣言する君を見て、思わず微笑を浮かべてしまった。







    ズドォォン!


    格闘中、君が操作するキャラクターが、奈落へ落下しゲームセット。
    横目でちらりと様子を窺うと、未だ呆然としている。


    「うぐぐ······強すぎだって······」


    そう言いながら僕達が座っているソファーに横になると、文章が形成されてきた。


    《折角勝ったらハーゲンダッツ買って貰おうと思ってたのに!》


    ハー、ゲン、ダッツ?
    思わず唖然としてしまう。数刻が過ぎ、堪えきれず吹き出してしまった。


    「えっ? ちょっ、何?」


    顔に困惑を浮かべている君に告げた。


    「僕に勝ったら、ハーゲンダッツ一つ買ってあげるよ。だから頑張って」


    「······!」


    急にコントローラーを持ち、再び開戦。
    僕が使用中のキャラクターの回し蹴りが炸裂する。君のキャラクターは吹っ飛ぶが、何とか地上へ復帰する。
    君を一瞥すると、熾烈な勢いでコントローラーを操作していた。


    (ハーゲンパワー、凄いなぁ······)


    謎の感嘆をしていると、その隙を突かれ君のキャラクターが攻撃。その上コンボ攻撃をしてきたので、一気に大ダメージを受けてしまった。


    「何か急に遣る気出たね······」


    「高級アイスが賭かってますから!」


    君のキャラクターが攻撃を仕掛ける隙を狙い攻撃───の、筈だったのだが。


    (フェイント!)


    フェイントに引っ掛かってしまった隙を君は見逃さなかった。割りと重めの攻撃を仕掛けてくる。僕のキャラクターはかなり吹っ飛び、場外に出てゲームセット。


    「やったああぁっ!」


    喜びながら僕の方へ倒れて、いや抱き着いてくる。君が急にのし掛かってきたから、思わずソファーから転げ落ちそうになった。


    《やったあっ!》


    形成された文章を読み、そんなに嬉しい事なのかな? と笑いながら思った。

  5. 5 : : 2019/08/01(木) 19:04:42
    熾烈な勢い→熾烈に  変換ミスorz
    ─────────────────────────────────────────────


    「チョコあった!?」


    僕が扉を開けると、開口一番、そう訊いてきた。頷きながらチョコレート味を出す。


    「それよりも、いつの間にフェイントなんて覚えたの? 今まで一回すら使ってなかったのに」


    「戦い方とか見ていたからね。難しかったけど、漸く出来たよ!」


    幸せそうにアイスを食べる。食べている最中、君の思いが文で現れた。


    《美味しいなぁ。私の戦いはこれからだ!》

  6. 6 : : 2019/08/01(木) 20:01:23
    結局、午前中ずっと遊んでしまった。時刻は既に正午を過ぎていて、家にある何かでも食べようか、と思った。


    「今日、有難ね」


    家へ戻ろうと思って玄関まで行くと、君は突然そう言った。何の事なのかよく解らなかった。


    「有難うって、何が?」


    そう尋ねると、君は頬に含羞の色を浮かべでいた。


    「言うの恥ずかしいんだけど······解ってたんでしょ? 私がアイス食べたかったって事。それを知っててあの勝負を───」


    思えば、アイスの戦いの後は些細な変化だが君は集中出来ていなかった気がするな、と今更ながら思う。
    解ってたと言うより、君の心を視てその時初めて判った事だ。かと言って心が読めるなんて言ったらどう思われるか。この事は言わなくて好い事と思った。


    《お父さん一人で家族支えてて苦しい筈なのに、ご免ね》


    形成された文章を視てしまい、何だかこっちが申し訳無い気分だ。思えば、僕のこの力は結構酷い能力だ。人にも見られたくない思いがあるだろうに、僕には関係無く視えてしまう。
    そして、「裏」を知ってしまった人と関わるのが怖くなってしまうのだ。


    「あ、いや、解ってたって事は無いんだけど······」


    語尾を濁し話をあやふやにさせようとする。


    「······そう?」


    「う、うん。偶然だよ偶然······多分ね」


    君は何やら考え込んでいる。僕はどうするべきなのか判らず、終始玄関で突っ立っていた。


    「あっ、ご免引き止めちゃって。また遊ぼうね!」


    漸く彼女は気付いたようで、笑顔で手を振っていた。僕もそれに対し「またね」と短い返事をすると、君の想いが、文として形成されている事に気が付いた。
    それは視ても宜かったのだろうか。


    《君は優しすぎるよ。本当に······まぁ、そんなところが私は大好きなんだけどね》


    僕にはその文が視えていた。


    果たして僕はこの摩訶不思議な能力(ちから)を、呪うべきなのか、祝うべきなのか?










    昼食を食べて、私は自室に戻り一人想う。


    (······この想いは、伝わったかな)

              ・・・・・・・・
    私もあの時、突然君の一番守りたい秘密が変わっている事に驚いていた。


    《人の心が視えてしまうこと》

      ・・・・
    確かあの表示になったのは、君が事故に遭った後の筈だ。


    (言葉にするのは恥ずかしかったから思ってみたんだけど······君のその能力(ちから)なら視えたよね?)


    ベランダから見える君の部屋を眺めながら、誰も居ない、閑散とした自室で思った。

            ・・・・・・・・・・・・・・
    (大丈夫。私も「人の一番守りたい秘密が視える」から。君だけじゃないんだよ······大好き)






    了。


  7. 7 : : 2019/08/01(木) 20:02:15
    ~後書き~


    恋愛小説全く読まない奴が書いたらこうなりましたすいませ((殴


  8. 8 : : 2020/09/23(水) 23:44:12
    キャロカス

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