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このSSは性描写やグロテスクな表現を含みます。

この作品はオリジナルキャラクターを含みます。

Aqours☆HEROES~CYaRon!編~

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  1. 1 : : 2018/05/06(日) 19:45:18
    Aqoursメンバーでヒーローものに挑戦してみました。
    今回はシャロン中心です。
  2. 2 : : 2018/05/06(日) 19:47:06
    ――20××年、日本にはある脅威が潜んでいた。



    「今度の日曜日、一緒にその映画観に行かない?」

    少し不安げな表情を浮かべながら、電話相手を映画に誘う一人の男性。彼のこの一言が、どれだけの勇気を以て搾り出されたものであるか、それは彼自身にしかわからないことであろう。

    「本当に!?」

    電話相手の返答により、彼の表情が一気に晴れやかになる。だが、これがゴールではない。寧ろスタートと言って良い。好きな女の子と付き合う為の――。

    「――うまそ」

    スマホのスピーカーとは反対方向から聞こえた声。それに気付いた時、彼は既に喰われていた。

    「あのさ、さっきの映画の話なんだけど……」

    電話の続きの声。喰われた彼の声だ。彼は、表面的には健常そのものの姿で通話を続けている。
    それもその筈、喰われたのは彼の血肉ではなく――、

    「面倒くさいから、やっぱり無しで」

    情熱なのだから。



    日本に潜む脅威の正体、それはアパシー星人という名の宇宙人だ。
    普段は人類に擬態し群衆に紛れる彼等は、人々の情熱を捕食しエネルギーとし、人類の情熱を奪い弱らせたところで地球を侵略しようと企てている。その侵略の足掛かりとして、さとり世代や草食系男子が代表するように、情熱の衰退化が目立つ日本を標的としたのだった。

    十分にエネルギーを蓄えたアパシー星人は、通常の銃火器類では対抗できない程の人知を超えた能力を発揮する。数こそ余り多くない為、総合的な戦力はまだ地球側の方が高いと見られているが、このまま水面下で情熱を奪われ続けていけば、天秤が動く日も近い。そんな危機的状況を、誰もが指を咥えて見ているだけの筈はなかった。

    人知を超える宇宙人に対抗する存在が、英雄が、ヒーローが。この日本には存在した!



    「いやぁ、うまかった。あのぐらいの年頃の奴等は脂が乗ってて最高だぜ」

    男性から情熱を捕食した捕食者は、食事の悦びに浸っていた。
    捕食者の姿は、20代前半の日本人男性そのもの。その為、一般人にはその存在を認知されることがない。

    「見つけた!」

    「――!?」

    認知されない――その前提を覆す声が、捕食者の耳に飛び込んでくる。捕食者は慌てて声の元へと目を向けると、こちらを睨み付ける赤髪の少女が佇んでいる。どうやら、思い違いではないらしい。
    窮め付けに、右腕にはハート型の宝石が輝くブレスレットが填められている。

    「私の名前は黒澤ルビィ! 沼津の平和を守るアイドルヒーロー・Aqoursの一員! そこのアパシー星人、観念すルビィ!」

    赤髪の少女は、力強く名乗りを上げる。捕食者はその名乗りを受けても怯むことはなく――、

    「嘗めるなよ! 観念するのはてめぇだ、アイドルヒーロー!」

    真の姿を解放し、少女へと牙を剥いた。
  3. 3 : : 2018/05/07(月) 23:40:31

    アパシー星人、彼等の真の姿は人類のものとは程遠い――異形そのものである。
    地球上に生息するどの生物とも例えられないが、特徴としては二足歩行をし、辛うじて人型であることと、本数には個体差があるが数本の触手を持つことが挙げられる。ルビィに襲いかかろうとする異形の捕食者は、五本の触手を背中から生やし蠢かせていた。

    その異形を目の当たりにし、何度かアパシー星人と相対した経験を持つルビィも僅かに怯んでしまう。だが、退く訳にはいかない。彼女は、アイドルヒーローなのだから。

    「て、抵抗するなら、容赦しないよ!」

    アパシー星人の宣戦布告にこう返したルビィは、ブレスレットの装飾である桃色のハート型の宝石を天へと掲げる。すると、宝石が輝き出し、目映い光がルビィの身体を包み込む。
    やがて光が消えると、そこにはアイドルのステージ衣装に身を包んだルビィの姿があった。華美な装飾に、フリルのついたスカート、一見すると防御力は乏しく動きやすさにも欠ける、戦闘には似つかわしくないこの服装こそが、アイドルヒーローの戦闘着なのである。

    「アイドルヒーロー、相変わらずふざけた格好だ」

    「ふざけてないもん!」

    「まあ、どんな格好をしていようと関係ねぇ。てめぇの情熱もいただくまでだ!」

    先制攻撃を仕掛けるのは、アパシー星人。彼は五本ある触手の内三本をルビィへと伸ばす。
    触手というと細く柔らかい印象が目立つが、彼等の扱う触手は自在にその性質を変え、刀のように切り裂き、棍棒のように薙ぎ払い、槍のように貫くことを可能とする。故に、一本一本が人類を殺しうる凶器となりうるのだ。
    だが、戦意を固めたルビィは退かない。それどころか、前方へと駆け出しアパシー星人への接近を試みる。

    「はっ! 死にたがりが、望み通りにしてやるよ!」

    ルビィの接近をアパシー星人が黙って見ているわけもなく、三本の触手をそれぞれルビィへと殴り付けようとする。しかしルビィは、一本目は身を屈め、二本目は上体を反らし、三本目は跳び跳ねて全ての攻撃を回避した。
    その頃には、敵は目の前。拳を突き出せばこちらの攻撃が当たる。

    「そう簡単にいくかよ!」

    ルビィが攻撃動作に入る直前、待機していた残りの二本の触手がルビィへと襲いかかる。ルビィは咄嗟に反応し、後方へと回避した。

    「――ピギィ!」

    ルビィを襲う、身体をきつく縛られる感触。その正体は単純明快で、先程避けた三本の触手に身体を絡め取られたのだ。

    「ピギャッ……んんっ!」

    絡みつく触手に身体を撫でられ、喘ぎ声をあげるルビィ。官能的にも感じられるが、アパシー星人は地球人に性的感情を抱くことはない。ある意味それは、拘束されたルビィへの容赦のなさを意味する。

    「今喰ってやるから、大人しく待ってろ」

    アパシー星人は捕食を成す為に、ルビィへと近付こうと――、

    「全速前進ヨーソロー!」

    瞬間、超高速の物体がアパシー星人を跳ね飛ばした。
  4. 4 : : 2018/05/09(水) 12:26:33

    突然襲い掛かった自動車に轢かれたかのような衝撃に、空中に投げ出されたアパシー星人は苦痛よりも驚きの滲む表情を浮かべる。だが彼には、呆気にとられている時間はない。

    「たくさん蜜柑を召し上がれ!」

    アパシー星人が着地したとほぼ同時、彼の周囲にこの場にはひどく場違いな無数の蜜柑がばら蒔かれる。召し上がれとの声があったが、こんな怪しい蜜柑を誰が食べるものか。当然、それらは食用ではない。蜜柑の正体、それは――爆弾。

    「ぐおおお!」

    目映い閃光を放った直後、轟音と共に爆発する蜜柑の群れ。外見に似合わず、その威力は一般的な手榴弾を遥かに上回るものになっている。
    四方から爆風と爆炎を浴びたアパシー星人は、今度こそ苦痛の声をあげた。

    突然現れ、高速突進と蜜柑爆撃を行った二人の正体。それは、ルビィと同じアイドルヒーロー・Aqoursのメンバー、渡辺曜と高海千歌である。

    「ごめん、私もヒーローなのに、助けられちゃって……」

    「気にしないでルビィちゃん、ピンチのときはお互い様であります」

    「それに、アパシー星人を見つけたのはルビィちゃんなんだから、それだけで十分大手柄だよ!」

    敵に拘束されていたことを謝罪するルビィだが、曜と千歌はそれを咎めることは一切せず、ルビィに励ましの言葉を掛ける。そんな優しい二人のことが、ルビィは大好きだ。

    「何を勝った気になってやがる! 俺はまだまだピンピンしてるぞ!」

    爆煙を触手で払い飛ばし、アパシー星人が再び姿を現す。先程の二連撃で確実にダメージは受けており、ピンピンというのはさすがに痩せ我慢のようだが、戦闘は十分可能な状態である。だが、そんなことは三人とも折り込み済みであり、驚くようなことはない。

    「ルビィちゃんは下がってて。千歌ちゃんと二人で十分だから」

    「う、うん……」

    「いくよ、千歌ちゃん!」

    「おー!」

    曜の合図と共に、二人は走り出す。先行するのは、先刻高速突進を食らわせた曜だ。
    明らかに距離を詰められたら不利になる相手の接近を、望み通り許すわけにはいかない。アパシー星人はルビィの時とは違い、五本全ての触手で曜を迎え撃つ。
    だがしかし……、

    「よっ、はっ、ほっ」

    曜は接近の速度を緩めることすらなく。軽快なステップで次々に触手の攻撃を躱していく。その速さ、身のこなしは同じアイドルヒーローのルビィの比ではない。
    この卓越した運動神経こそが、アイドルヒーロー渡辺曜の強さの源なのだ。

    気付けば、曜はアパシー星人の目と鼻の先に。アパシー星人は慌てて触手を引き戻そうとするが、それよりも先に曜の拳が彼の腹を突く。

    「がっ!」

    苦鳴を上げ、跪くアパシー星人。そこを曜は容赦なく蹴り飛ばし、アパシー星人は後方へと飛ばされる。
    ダメージは受けたものの、距離が取れればこちらが有利。そう考えたアパシー星人だが、その考えは愚の骨頂。

    「全速前進ヨーソロー!」

    先程と同じ掛け声と共に放たれる超高速の突進に、再びアパシー星人の身体は宙へと弾き出される。曜のスピードの前には、多少の距離など無意味。

    ――だが、決め手に欠ける。

    「トドメは私だよ!」

    まだ空中にいて身動きの取りようのないアパシー星人に迫る千歌。彼女がトドメを宣言すると、ブレスレットの宝石が橙に輝く。直後、彼女の右手を覆う手袋が出現する。手袋の手の甲の部分には、蜜柑のマークが。

    「たわわな蜜柑を召し上がれ!」

    千歌は手袋を装着した右拳で、アパシー星人を思い切り殴り飛ばした。すると、拳を受けた部位に蜜柑のマークが浮び上がる。次の瞬間、そのマークは輝き――、

    閃光を撒き散らして、爆ぜた。
  5. 5 : : 2018/05/11(金) 21:27:37

    「さっすが千歌ちゃん! すごい威力だよ!」

    「曜ちゃんのサポートがあってこそだよ! あのスピード、憧れるなあ……」

    「本当に、二人ともすごいよ……」

    互いに褒め合う曜と千歌。その二人へ、ルビィもまた称賛の声を送る。
    二人掛かりとはいえ、自分が倒されかけた敵を容易く倒してしまった彼女達がとても頼もしくて、羨ましかった。それに引き換え自分なんて……、そんな劣等感を思わず呟いてしまいそうになった時だった。

    「よくもっ、やってくれたなぁ!」

    爆煙の中から再び姿を現すアパシー星人。だが、三人の祝勝ムードはお門違い――というわけでもなかった。

    「うっ……、オエッ!」

    アパシー星人は苦悶の声と表情を露にし、跪きその場で嘔吐した。その吐瀉物は人間のものとは大きく違い、紅い結晶の形をしている。そしてそれが、次の瞬間、霧散した。
    この瞬間、アイドルヒーロー三人の最優先目標は果たされた。

    アパシー星人は、大きなダメージを受けると補食した情熱を結晶状の物質として吐き出してしまう性質があるのだ。そして吐き出された情熱の結晶は、ひとりでに元の持ち主の下へと戻っていく。
    これで晴れて、先程の男性の情熱も取り戻されたわけだ。

    「くそっ、覚えてろよ!」

    エネルギーの源を喪失し劣勢を自覚したアパシー星人は、三下のような捨て台詞を最後に逃走した。

    「相変わらず逃げ足だけは速いなあ」

    苦笑いを浮かべながらそう零すのは、Aqours最速の曜だ。アパシー星人は情熱の結晶を吐き出しエネルギーを失うと、戦闘能力が皆無になる代わりにスピードだけが著しく上昇する。そのスピードには、曜といえども追い付くことは敵わない。戦う力を失えば、逃亡に特化する。生物として実に合理的な機能と言えよう。

    「まあ、食べられた情熱はちゃんと奪い返せたんだし、私達の勝利だよ! やったね、曜ちゃん! ルビィちゃん!」

    「ヨーソロー!」

    「う、うん」

    勝利の喜びを三人で共有しようとする千歌。曜は元気よくそれに応じるが、ルビィの返事はどこか曇り模様だ。

    「ルビィちゃん?」

    「ピギッ……、や、やったね! 二人とも本当にすごいよ」

    「ありがとう。でも、ルビィちゃんの功績でもあるんだからね」

    千歌の言葉は、ルビィに気を遣ったものではない。本心から、三人全員の功績だと思っている。それを、ルビィは理解していた。
    理解していたからこそ、その言葉がルビィの心に重くのし掛かってきた。
    強くて優しい千歌と曜、その二人にとって自分は無自覚のおもりとなっているのではないか。そう思うと、胸が締め付けられるのを感じた。
  6. 6 : : 2018/05/18(金) 21:07:06



    「みんなただいまー!」

    「チームCYaRon!の凱旋であります!」

    淡島にあるAqoursの拠点に帰還した千歌、曜、ルビィの三人。アパシー星人に勝利を収めたこともあって、千歌と曜は意気揚々としている。そんな三人の帰還を、他の六人のメンバーが歓迎する。

    「グレート! 三人の活躍は映像で観させてもらったけど、フィニッシュへの連携が最高にビューティフォーだったわ!」

    「本当! さっすが幼なじみって感じがしたなあ。 お互いのことを完璧に理解して、信頼してないとできない連携だったもん!」

    「ヨハネも認めざるを得ない、素晴らしい戦いぶりだったわ」

    最初に声を掛けたのは、英語混じりの台詞が特徴の小原鞠莉。それに続いたのは、千歌と曜と同じく二年生の桜内梨子。そして、自称ヨハネこと津島善子だ。

    「自称言うな!」

    そんな彼女達三人は、CYaRon!同様三人組であるチームGuilty Kissを組んでいる。

    「ルビィも、最初の動きからは成長が感じられましたわ」

    「すいすい~と流れるように相手の攻撃を避けてて、かっこ良かったずら」

    「なかなか良い身のこなしだったよ。ただ、相手の方が自分より手数が多いってことは常に頭に入れておかないとね」

    置き去りにされ気味になっていたルビィに声を掛けたのは、彼女の姉である黒澤ダイヤだ。それに続いて、ルビィと同じ一年生の国木田花丸がルビィを褒め称える。松浦果南も彼女を褒めるが、それと共にアドバイスの言葉も掛けた。
    彼女達三人は、チームAZALEAのメンバーだ。

    先刻アパシー星人を退治したCYaRon!、そして拠点で彼女達を出迎えたGuilty Kissの三人とAZALEAの三人、合計して九人。彼女達が、ここ沼津をアパシー星人の脅威から守る為に戦うアイドルヒーロー・Aqoursである。



    アイドルヒーローとは、その名の通りアイドル活動の傍ら地球を守護する少女達のことである。この説明では、彼女達にとってのヒーロー活動は片手間に行われているように感じてしまうかもしれない。しかし、それは誤解だ。寧ろ、彼女達のアイドル活動は、ヒーロー活動に欠かせない存在であると言っても過言ではない。
    その最も大きな要因は、彼女達の力の源にある。人外の力を持つアパシー星人に対抗する為、彼女達はそれぞれラブカストーンというハート型の宝石を装備し、それに秘められた力を引き出して同じく人智を超えた力を手にしている。そのラブカストーンのエネルギー源は、アパシー星人と同じく情熱だ。とは言え、ヒーローである彼女達が情熱を奪って活動をしているわけがない。彼女達は自身が持つ情熱と、自身達へと向けられる情熱を糧に戦っている。
    彼女達にとってのアイドル活動は、ファンの皆から情熱を受け取る為のものなのだ。そして情熱とは、本来奪うものではなく高め合うものである。この方法でアイドルヒーローに情熱を譲渡したファン達もまた自身の情熱を高める。彼女達のライブには、アパシー星人に奪われた情熱を取り戻す力があるのだ。
  7. 7 : : 2018/05/21(月) 23:03:48



    「――ごめんなさい」

    果南のアドバイスを受けたルビィ。彼女の口からいの一番に出てきた言葉は、謝罪だった。

    「あ、いや、責めてるんじゃないよ。次からこうすれば、もっと良くなるよっていう話」

    その反応が予想外で、果南は少し困った顔で自分の発言の真意を説明する。しかし、ルビィの表情は後ろめたさが付きまとったままだ。

    「ルビィ。貴方も立派なAqoursの一員なんですから、もっと胸を張って、自信を持って良いんですよ。そもそも、我々の力の源は情熱なのですから、下を向いていては勝てる相手にも勝てなくなってしまいますわ」

    「そうだね、お姉ちゃん……、ごめんなさい」

    ルビィの返答は、先程と変わらぬ謝罪。それがダイヤの望まぬものであると知っていても、ルビィにはそれを口にすることしかできなかった。
    姉の顔を見ることができない。きっと辛そうな顔をしているから。

    「ルビィちゃん」

    「ピギッ!」

    突然肩に手を置かれ、声を上げて驚くルビィ。手を置いたのは花丸だ。
    花丸はルビィを驚かせるつもりは全く無かったのだが、俯いて思い悩んでいたルビィは、花丸が傍まで来ていることに気が付いていなかったのだ。その為に、このような反応となってしまった。

    「そんなに驚かれると、こっちもビックリするずら」

    「ごめん、花丸ちゃん」

    「とにかく、無事にアパシー星人を倒すことができたんだから、ルビィちゃんにご褒美をあげるずら。明日、マルが松月のお菓子を奢ってあげるずら」

    ルビィにご褒美をあげるという花丸の発言。だが当然ルビィは、自分が褒美を貰うに値する活躍をしたとは思えない。だから、それを断ろうとするのだが――、

    「そんなこと言って、本当は花丸ちゃんがお菓子を食べたいだけなんでしょ?」

    梨子の発言によって、それは阻まれた。

    「バレたずらか」

    梨子の指摘に舌を出す花丸。

    「本当に食いしん坊ですわね」

    ダイヤにそう評された花丸は、ルビィの方に向き直って再び彼女に話し掛ける。

    「そういうわけだから、ルビィちゃんにはマルがお菓子を食べる大義名分になって欲しいな」

    「……うん、分かった」

    皆の狡さと、それ以上の優しさを感じながら、ルビィは観念して花丸の誘いを受け入れた。
  8. 8 : : 2018/06/04(月) 23:30:48



    「わぁ~、おいしそうずら~」

    松月の人気メニュー・みかんパウンドを前にして、食いしん坊こと花丸は感嘆の声をあげる。口元からはよだれが零れ出しているのだから、ルビィは花丸のみっともない様子に笑いを堪えられなかった。

    「ふふっ」

    「どうしたの、ルビィちゃん?」

    「よだれ、零れてるよ」

    「あっ、やってしまったずら」

    花丸は咄嗟によだれを拭き、恥ずかしさから目を伏せる。そんな花丸の様子が可愛らしくて、ルビィはもう一度「ふふっ」と笑い声を溢してしまう。

    「また笑って、酷いずら」

    「ごめん」

    「でも、笑顔を見せてくれたのは嬉しかったな。何せ今日は、ルビィちゃんの頑張りを労う会だから」

    花丸はそう言って、笑顔を返してくれた。

    ルビィの前にも、みかんパウンドが置かれている。これは先日の宣言通り、花丸がお代を出してくれたものだ。

    「……やっぱり、申し訳ないよ。ルビィ、何にも」

    「ルビィちゃん」

    花丸はルビィの名前を呼んで、その言葉を遮った。

    「言ったでしょ、ご褒美だって。ルビィちゃんにそんなこと言われると、マルの方が困ってしまうずら」

    「……花丸ちゃんは狡いよ」

    「文句も悪口も、言いたいことはみかんパウンドを食べながらにするずら。ではでは、いただきます!」

    食事の挨拶の後、花丸はパウンドケーキを大きめに切り分けると、その一つを大きく口を開けて一口で丸飲みした。それから咀嚼を始めると、花丸の表情がどんどん幸福感に満ちていく。
    こうも美味しそうに食べられては、ルビィの食欲も黙ってはいられない。その証拠に、口内が唾液でみるみる満たされていく。

    「――いただきます!」

    迷いに食欲が打ち勝ち、ルビィが花丸に続いてみかんパウンドを食べ始めたのは、花丸が食べ始めてから間もなくのことであった。
  9. 9 : : 2018/06/08(金) 22:25:27

    「……ルビィちゃんの気持ちも、言いたいことも、マルにはよく分かるずら」

    一口目を食べ終えたところで、花丸は語り出した。

    「果南ちゃんにダイヤさん、二人とも強くて優しくて、マルは二人の足元にも及ばない。戦いになればマルは足手まといにしかなれない……、そう思っていたこともあったずら」

    ルビィの気持ちが自分にはよく分かる、そう語った花丸の言葉は嘘ではなく、花丸の語りはルビィの心情をそのまま写し出したかのような内容であった。

    「でも、それは思い込みだった。マルは助けられてばかりだけど、たまにはマルが二人の力になっていることもあった。下を向いて視野が狭くなっていたから気付いてなかっただけで、マルの価値は確かにあった。だからルビィちゃん、悩むことも悪いことではないけれど、俯いてばかりじゃだめずら」

    ルビィの気持ちの代弁に続いて、花丸が口にしたのはルビィへの励ましの言葉だ。
    同じ目線の者からの激励は、そうでない者からの激励の何倍もの効果を持つ。だから花丸は、ルビィの気持ちの代弁を前置きとした。ルビィを励ます一番の適任者は自分である、そう自覚していた。

    だが、続くルビィの言葉がその前提を覆そうとしてくる。

    「花丸ちゃんはルビィとは違う。本当の本当に何にもできないルビィとは――」

    そう口にしたルビィは、その言葉が花丸の善意を踏みにじるものであったことに遅れて気付いた。
    何が花丸ちゃんは狡いだ。一番狡いのは自分ではないか。

    自分が酷いことを言ってしまったと自覚したルビィは、恐る恐る花丸の顔を見る。すると思ったいたよりずっと意に介していない様子だった。否、そんなわけがない。ただ、花丸はそういう答えが返ってくることがわかっていて、心の準備ができていただけだ。
    そしてその様子こそが、花丸が本当にルビィの心情を理解できていることを証明していた。

    「じゃあ、ルビィちゃんはどうしたい?」

    穏やかに、しかし力のある語調で花丸は訊ねた。

    「このままじゃダメだって思っているから、ルビィちゃんはそんなに悩み苦しんでいるんでしょ?」

    その通りだ。無能、足手まとい、お飾りの三人目、そんな現状が嫌だから、ルビィは悩んでいるのだ。
    ――現状を、変える。

    「謝っても意味はない、下を向いている暇はない」

    自分自身を鼓舞するルビィ。これで解決というわけではないが、向くべき方向は定まった。
    恥ずべき過去より栄えある未来を。

    「ありがとう、花丸ちゃん」

    そんな簡単なことに気付かせてくれた友に、ルビィは精一杯の心を込めて感謝の言葉を贈った。
  10. 10 : : 2018/06/18(月) 23:49:19



    「ただいま!」

    松月から帰宅したルビィは、元気よく帰宅の挨拶をする。すると、生徒会の仕事を終え既に帰宅していたダイヤが、ルビィの帰宅を出迎えてくれた。

    「おかえりなさい、ルビィ。松月のお菓子は美味しかったですか?」

    「うん、すごく美味しかった!」

    「……そうですか。花丸さんに、ちゃんと感謝するんですよ」

    ルビィの楽しそうな返事で、ダイヤはルビィが前を向き始めたことに気付いたようだ。その証拠に、ダイヤは穏やかで包容力のある笑みをルビィへと向ける。
    一つの関門を突破しようと努力する、一生懸命な妹の成長の姿が見られたことが、姉であるダイヤにとっては堪らなく嬉しかった。そして、自分からも花丸に感謝の言葉を贈らなければ、と思った。

    だが、妹の成長は姉が感じ取るところのさらに上を行く。

    「あのね、お姉ちゃん。私……、強くなりたい!」

    ――じゃあ、ルビィちゃんはどうしたい?

    強くなりたい、それは上の花丸の問いへの回答だ。ルビィは前を向いただけではない。前進を始めていたのだ。

    「強くなって! ちゃんと活躍して! それで、次は晴れやかな気持ちで、花丸ちゃんと一緒に松月でみかんパウンドを食べたい! その為ならルビィは、どんな厳しいトレーニングも乗り越えてみせる!」

    「ルビィ……」

    妹のことを見くびっていたつもりはないのだけれど、悩み行き詰まっていたルビィの姿を見て、姉の自分が何とかしてあげなければ――、なんて思っていた自分が恥ずかしい。妹はもう、姉の手を借りなくても立派に歩いていける。時々躓くことがあっても、妹が自分自身の力で得た親友と助け合いながら、進んでいける。

    「姉である私は、ただ見守るだけですわ。それでも、時々甘えたくなったら、いつでも遠慮しないでくださいね」

    願わくはそんな時が来ることを。妹の自立を喜ぶ反面、そんな風に思ってしまうのは、姉としての性だ。
  11. 11 : : 2018/06/22(金) 22:22:33



    その夜。

    「はぁ……はぁ……はぁ……」

    内浦の海岸沿いを走る、ルビィの姿があった。

    先ずは基礎体力から――、というのがルビィが強くなるために必要なトレーニングを考えた末の結論だ。アイドルヒーローはラブカストーンの力によって、常人を超えた身体能力を発揮できるが、その程度は本人の基礎体力に比例する。そして、ルビィの基礎体力はAqoursの中でも最弱クラス。改善は必須と言えた。

    ちなみに、ルビィがこなそうとしているメニューは、伝説のアイドルヒーロー・μ’sの園田海未が考案した特訓メニューである。

    「後、一キロ……」

    ランニングメニューは残り少し。その後、腕立て腹筋メニューが控えている。はっきり言って、一日目から折れてしまいそうだ。
    でも、絶対折れて堪るか。折れた時、自分は必ず後悔する。だから――、

    「がんばルビィ!」

    「――健気だねぇ」

    「ピギッ!?」

    背後、それも息が掛かりそうな程近くからの声。それに驚き振り向こうとしたルビィの四肢を、絡み付く触手が拘束する。

    「足出纏いだったから特訓……てか! 熱くて美しくって気高くって……、美味そうだな」

    「この前、千歌ちゃん達が倒したアパシー星人?」

    「ピンポーン。情熱の余りリベンジしに来ちまったぜ。そういう訳でお前には、餌になってもらう」

    アパシー星人がそう言うと、ルビィを拘束する触手の力が強くなる。その内の一本は彼女の首を締め付け、意識を奪った。
  12. 12 : : 2018/06/25(月) 21:21:33



    そして目を覚ましたとき、ルビィは見知らぬ一室にいた。

    「ここは……?」

    部屋の中に照明はないが、窓から入り込む月明かりによってうっすらとだが室内の様子が視認できた。しかし、ここがどこかのヒントになりそうな物は何もない。そもそも物自体が1つも置かれていなかった。廃墟の一室というところだろうか。
    一方で一つ、はっきりとわかることもある。

    「どうやら目を覚ましたようだな」

    「ずっと拘束してたの?」

    「当たり前だろう。大事な人質なんだから」

    ルビィは依然としてアパシー星人の触手に拘束されたままであり、逃げる方法はないということだ。

    「なぁに、そろそろお仲間が迎えに来る頃だ。窮屈なのもそれまでの辛抱だよ」

    「やっぱり狙いは、千歌ちゃんと曜ちゃん……」

    「その通り。奴等には二人だけでここに来るように伝えてある。もし条件に従わなければ、人質の命はないという忠告も添えてな」

    「二人が来たら、どうするの?」

    目的はリベンジ、戦うのは当然だろう。だが問題は、どう戦うかだ。
    もし、ルビィの思い描く最悪の予想が正しければ――。

    「ルビィちゃん!」

    廃墟に、ルビィを呼ぶ声が響いた。待ち焦がれていて、でも聞こえてきて欲しくなかった声だ。
    声に続き、廃墟内を走る二つの足音が聞こえてきた。ルビィを捜している音だ。そしてそれは、すぐにルビィ達のいる一室まで辿り着く。そして対面の時は訪れた。

    「やれやれ、やっと来たか」

    「ルビィちゃんを返してもらうよ!」

    ルビィを拘束しているアパシー星人の姿を見や否や、千歌はルビィの救出を宣言し臨戦態勢に入る。傍らの曜も、アパシー星人を鋭い目で睨み付けながら同じく戦闘準備。
    そんな二人の様子に、アパシー星人は下卑た笑みを浮かべている。待っていたのは、やはり最悪だったのだ。

    「そんなに身構えなくても、俺が提示する条件に従えば解放してやるつもりだ」

    「条件?」

    圧倒的に優位にある敵側が指定する条件に、千歌と曜の表情が険しくなる。

    「ああ。まず大前提として、お前らから俺への一切の攻撃は禁止だ。破れば――、」

    「!? ――ピギャッ!」

    瞬間、ルビィを拘束する触手の力が急激に強くなる。締め付けによる圧痛に、ルビィは苦鳴の声を上げた。

    「止めて!」

    「ああ、止めるとも」

    曜の制止に、アパシー星人は素直に応じて締め付けの力を緩めた。だがその代わりに、触手の一本をルビィの首回りへと巻き付けた。

    「破れば、首を締める。俺が全力で締め付ければ、すぐに頸椎が砕けてこいつの命はない」
  13. 13 : : 2018/07/07(土) 22:28:26

    いつでも手を下せるということを、実演を以て示され、千歌達の間に緊張が走る。
    どんな内容になるかは分からないが、ヒーローである千歌達としては、敵側の課す条件に素直に従うわけにはいかない。だが、従わずしてルビィを助け出すことがほぼ不可能である現状を突き付けられた千歌達には、選択肢は一つしかなかった。

    「分かった。それで、条件はなに?」

    「従う気になったようだな。素直な奴は嫌いじゃない……」

    千歌は、アパシー星人に条件の内容を訊ねた。それは、服従の意志の証明に他ならない。アパシー星人はその顔を更に歪ませて、その意志を歓迎する。

    「お前達に課す条件は簡単。動くな――だ」

    次の瞬間――、

    「がはっ!」

    アパシー星人の触手が、曜の身体を薙ぎ払った。

    「――曜ちゃん!」

    「動くな!」

    払い飛ばされた曜の下へ駆け寄ろうとする千歌を、アパシー星人が制止する。

    「仲間がいたぶられても駆け寄るな、顔面に拳が飛んできても防ごうとするな、四肢を一切動かすな。お前らに許された動作は瞬きと、泣き叫ぶ為に口を動かすことだけだ」

    「……私達に、サンドバッグになれってこと……?」

    「お、さっきの一撃を食らってもまだ元気そうだな。サンドバッグ――良い例えだ」

    「二人とも、ルビィのことは気にしないで! じゃないと、二人が死んじゃう!」

    千歌と曜の二人が一方的な暴力を受けることが、自分を解放する為の条件だと知ったルビィは、自分を犠牲にすることを自ら要求する。

    「おいおい、人聞きの悪いことを言うなよ。人質の為、健気に条件を守った末に殺されるんじゃ余りに可哀想ってもんだ。安心しろ、殺しはしない。ただ、ちょっと気晴らしに付き合ってもらった後、締めに飯をいただくだけだ」

    命は保証するから安心しろというアパシー星人。だが、代わりに提示した行為とて決して受け入れられるものではない。第一に、気晴らしがどれだけ酷いものであるかも分からないし、情熱を喰われるということは軽いものではない。このアパシー星人からすぐに情熱を奪い返さなければ、千歌達は一生抜け殻のように生きていくことになりかねない。
    そして何より、アイドルヒーローの情熱を喰われるということが、あってはならないことだ。人の情熱を力に戦うアイドルヒーローの情熱は、アパシー星人にとっては最高の食料になる。それは、何人ものアイドルヒーローの情熱を喰らったアパシー星人を、圧倒的な力を持つ上位個体(プロモーター)へと進化させる程に――。

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