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このSSは性描写やグロテスクな表現を含みます。

この作品はオリジナルキャラクターを含みます。

この作品は執筆を終了しています。

濃霧島殺人事件

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  1. 1 : : 2018/01/24(水) 16:18:15
    っしゃぁ!!SSのお時間です( *´艸`)どうもみなさんこんにちは!ルカと申します!!よろしくお願いしますm(__)m

    今回はMISIAさん主催の冬花杯に参加しての投稿となります!!

    カテゴリは推理とサスペンスとどっちかと迷ったので両方入れました!

    (URL:http://www.ssnote.net/groups/835

    なお、この作品は以下の点に注意してご覧ください|д゚)


    ※長文注意。
    ※過去に起こった事件に関する描写もありますが諸説あります。
    ※今回のことを書くうえで全文献を事細かく読み漁ったわけではないので知識は狭いです。
    ※グロ・性的描写・胸くそ注意


    以上を踏まえてお読みください。



    それではいこうか(´っ・ω・)っ

    Are You Ready(´・ω・`)?
  2. 2 : : 2018/01/24(水) 16:18:50
     2017年12月23日。北海道。とある学校で終業式が執り行われた。全校生徒480人が体育館の中で立って校長先生のほうを見ており、終業式が半ばに差し掛かり、校長先生の話も終わりへと向かっていた。


    「今も校舎の外では雪が降っています。クリスマスに雪が降ることをホワイトクリスマスといわれていますが、今年はホワイトクリスマスになるのでしょうか?」

    「(そんなもの……ここは北海道なんだから日常茶飯事じゃないか……)」


     校長先生の講和を聞いていた少年はあくびをした。


    「(そんな話よりも進路に向けて……とかないのかね……)」


     この少年の名前は高城(たかぎ)(かい)。父は北海道警の幹部、祖父は道内では有名な探偵事務所を経営しており、数多くの難事件を解決している。警視庁にも捜査協力をお願いされるほどの名探偵だ。

     高城は祖父の仕事を見ていたので、祖父の跡を継いで探偵になることをすでに決めていた。これに関しては家族から多少の反対はあったが、最後には息子の決めた道に口を出すのもよくないということで折り合いがついた。

     それからというもの、祖父と一緒に依頼を遂行したり、北海道警の事件の捜査に参加したりしているので学校を休むこともしばしばあった。

     しかし、さすがに、高校3年生という時間をそのまま終えたくなかったので祖父にお願いして残りの期間は自由に過ごさせてくれるようになったのだ。


    「(学生らしい冬休み……なにするか……)」


     そう考えている間に校長先生の話は終わり、生徒指導の先生の話になった。


    「繁華街にはいってはいけません。悪い大人に絡まれ、それがきっかけになって犯罪に巻き込まれる可能性があります!!」


     生徒指導の先生が語気を荒げて話していたが、思春期の彼には全く響いていないようだ。指を下りながら冬休みをどのように過ごすか考えていた。


    「(ゲーセン……ボウリング……カラオケ……いいな)」


     そう考えていると眠気が襲い、あくびをしようと大きく口を開いた。するといきなり後ろから硬くて細いもので頭を叩かれた。


    「ッツ……」


     あまりの痛さに少しうずくまってしまった。殴られた方向を振り向くとそこには担任の亀田が立っていた。


     亀田は昨年まで生徒指導主任をしていたが、もうすぐ転勤ということで生徒指導を若手に引き継いだのだ。その指導の様子から生徒からは『鬼の亀田』といわれていた。その亀田が出席簿の角を掌でたたいていた。


    「(あいつ……あそこで殴りやがったのか……)」


     高城は頭を押さえて立ち上がり、亀田のほうをにらんだ。すると亀田は鬼の形相で高城をにらみ返し、


    「しっかり話を聞かんか……だぁほ……」


     といって高城に背を向けて列の最後尾まで戻ると話をしている生徒指導の先生のほうを見てその後、高城のほうをにらんだ。高城はその顔を確認すると一つため息をついて前を見た。
  3. 3 : : 2018/01/24(水) 16:20:01
     終業式が終了したのち、高城は教室で亀田が来るのを待っていた。すると、後ろで俺の背中をつんつんとつついてくる女子がいた。高城は振り返り、何だといわんばかりの表情を浮かべた。


    「解、亀田に頭叩かれてたね……」


     その女子はそういうと満面の笑みを浮かべて、高城に微笑みかけた。高城はその顔を見ていらだったらしく、その女子の頭を手でワシャワシャとかきむしった


    「わ……ちょっと!!なにするのよ!解!!」


     彼女はそういうと高城の手を払いのけようとしたが力の差でなかなか振り払えず、結果髪の毛がぐしゃぐしゃになってしまった。


    「真紀が悪いんだぞ!!」


     高城はそういうととどめに真紀という女子のおでこにデコピンをした。


    「いって!!デコピンすることないじゃん!!」


     そう言いながら額を抑える女子の名前は中務(なかつかさ)真紀(まき)だ。道内で有名な中務コンツェルンの次期社長といわれており、父であり中務コンツェルンの会長である中務(なかつかさ)源次郎(げんじろう)の教えのもと経営術を学んでいるところだ。

     今現在、中務コンツェルンの社長は母である中務(なかつかさ)周子(しゅうこ)であるため、家族ぐるみでこの会社を盛り立てているところだ。

     あまりの痛さにおでこを撫でていた真紀はふと何かを思い出したらしく、机の横にかけていたカバンを机の上に置くと、カバンの中をガサガサとあさり始めた。そして、一通の封筒を出してそれを高城に渡した。


    「……なんだこれ?」


     高城はその封を開け、中にあった手紙を見た。そこには『中務コンツェルン主催 クリスマスパーティー』と書かれていた。


    「クリスマスパーティー?」


     高城は驚いた表情で真紀の顔を見た。真紀はいつものようにニコニコとした表情をこちらに向けながら、話を続けた。


    「そう!!クリスマスパーティーをしようかなと思っているの!!よかったら来てほしいんだけど……」


     そういうと、中務の顔は下を向いてしまった。


    「どうした……?」


     高城は真紀の顔を覗き込むようにしながら話しかけた。すると彼女は顔をあげて涙目になりながら高城の顔を見た。


    「……今回のパーティーはね…………私が主催で開くものじゃないんだ……」

    「それじゃぁ……誰が開くんだよ」

    「私のお父さんが、提携している会社の社長さんたちを呼んでひらくものなの……ただね……私……」


     真紀が何かを訴えようとしたとき、

    ガラッ……

     と教室の扉が開き、亀田が入ってきた。


    「おい!早く座れ!!」


     そういうと教卓の上に勢いよく荷物を置き教室に

    バンッ!!

     という音を響かせた。この音を合図に配布係の真紀は一歩、歩を進めると高城の肩に手を乗せてこうつぶやいた。


    「また……後でね……」


     教卓に向かう真紀の姿はどこか寂しそうに感じた。
  4. 4 : : 2018/01/24(水) 16:34:23
     放課後、高城と真紀は真紀の家で話の続きをすることにした。二人で話しながら真紀の家に向かっている最中に、高城の肩にかなりの衝撃と激痛が走った。


    「……っつう!!」


     あまりの痛みに思わず屈みこんでしまった。するとその姿を見てか後ろから笑い声が聞こえた。笑い声を聞いた高城は後ろを振り返り声のするほうへ走り出した。


    「修!!てめぇ……」


     高城はそう叫ぶと、後ろにいた長身の人物の頭をジャンプして叩いた。


    「アハハハハハ!!!わりぃ!!あまりの反応でおもしろかったぜ!!」


     その人物はまだ腹を抱えて笑っていた。そして、ゆっくりと顔をあげると高城の顔を見降ろした。

     彼は佐伯(さえき)(おさむ)。よく高城にちょっかいをかけているお調子者だが、勉学の成績は高城よりも高い。

     高城は自分のブレザーの襟を正していると、真紀が彼に渡したのと同じ手紙を佐伯に渡しているのが目に入った。すぐさま高城は真紀の肩をつかみ、このことについて聞くことにした。


    「ちょっとまて!!真紀……」

    「ん?」


     真紀は何かあったの?という表情を浮かべ、首を横に傾けた。それを見た高城はため息を一つつくと真紀に聞いた。


    「修もパーティーに呼ぶのか?」

    「うん、呼ぶよ?」

    「なんで……」

    「佐伯くんは私が提携している会社の娘さんの彼氏なのよ」

    「は!?」


     高城は思わず、あたりに響くような大声をあげてしまった。道行く人たちが一斉に高城の顔を見た。その視線が熱くて俺の顔は一瞬にして真っ赤になった。


    「ま、そういうことだ……て、今の口ぶりからだと、お前も行くのか?解……」

    (わり)いかよ……」


     高城は体の力が抜けていたためか、ため息をつきながら佐伯に返事を返した。すると予想外の答えが来たのか佐伯は思わずずっこけてしまった。体勢を立て直した佐伯は話を続けた。


    「そうじゃねぇって……おまえ、俺みたいなことないだろ?なのになんで……」

    「それは私から説明する……とりあえず、佐伯くんも来てくれる?」


     真紀はそういうと、佐伯と高城についてくるように促し、彼女の家へと歩を進めた。
  5. 5 : : 2018/01/24(水) 16:43:57
     真紀の家はこれでもかというぐらい大きな豪邸だった。東京ドーム6個分の広大な敷地の中には噴水や庭園などもあり、離れのところには茶室まで完備されていた。ただ、家の外観が西洋系の建物であるのに対して茶室はかなり古めの和風建築のため、高城たちにはその茶室が物置ぐらいにしか見えなかった。

     彼女の家につくと二人は彼女の部屋に通された。彼女の部屋といっても、普通の家で言うリビングぐらいの広さがある。そこにあるソファに腰を掛けるよう指示を受けたので二人そろって腰を下ろした。

     真紀はシャワーを浴びてくるといって浴室に向かった。佐伯がしきりに除きたがっていたが、執事の方が睨んでいたので高城が制止していた。彼女が着替えている間に、執事の方が紅茶とクッキーを持ってきてくれた。

     ゆっくりとティーポットから注がれた紅茶はほのかな香りを漂わせながらカップへと入っていく。その香りが高城たちの鼻腔をとらえたころに部屋の扉が開き、真紀が戻ってきた。


    「ごめん……待った?」


     その言葉に執事が反応して返した。


    「お嬢様……中務家の令嬢とあるものが何たる振る舞いですか?いくらお友達とはいえそのような粗暴な口調は……」

    「私はお父様にこのことの許可を得ております。私は中務家令嬢以前に一人の人間ですわよ……田丸」

    「しかし……」

    「私が公務の時に今のような口調になってしまった時はいつでもおとがめくださいな……しかし、今とがめようものならばこのことをお父様に報告させていただきますわよ?」

    「失礼しました。わたくしめのご無礼をお許しくださいませ……」


     このやり取りを聞いた二人は彼女のことをお嬢様なのだなと改めて感じた。さらに、真紀は田丸にあることを命じた。


    「田丸……あの手紙を持ってきてくださる?」

    「な!?お嬢様!!いくらお嬢様のお願いといわれましても見ず知らずのご友人にそれは……」

    「心配いりません。この方は高城探偵事務所の次期所長ですわよ?彼の祖父は現高城探偵事務所の所長であり、父親は北海道警の警視……それゆえ彼に今回の事件を暴いてほしいのです……」


     中務は高城のほうを指差しながら事の説明をしていた。その話を聞いた田丸という執事は驚いた表情を見せるとすぐに高城たちに背中を見せ、くるりとこちらを向き、扉の前で一礼をするとすぐに部屋を後にした。


    「ごめんね……」

    「いや……気にしてない」


    ふぅ……


     と一息ついた高城は真紀の衣装に目をやった。赤のロングドレスに首にはルビーのネックレスがしてあった。スタイルもよく、胸元があいていたため目のやり場に困っていた。


    「しかし、驚いたことが二つあるなぁ……」


     佐伯はクッキーをほおばりながらのんきに話始めた。


    「中務、家の中ではその服装なのな……」

    「あぁ……本当は寝間着でいるのだけどね……友達と遊ぶ以外で人と会うときはこの服装なのよ……お父様もそうなんだけど、さっきの田丸もうるさくて……」


     確かにあの執事……何かと小言が多い気もする。しかし、それは真紀のことを思ってのことだろうが……

     高城はそんなことを思いながらクッキーを咥えた。すると佐伯の視線が真紀から高城に代わり、


    「ふぅん……あと、解!!お前探偵の孫なのか!?」


     と質問してきた。驚いた高城はあまりの驚きに落ちそうになったクッキーを口に放り込んで佐伯を見た。佐伯は高城の顔をまるで自分のほしいおもちゃを見つけた小学生のようなまなざしで見た。あまりの澄んだ瞳に圧倒された高城だだったが、すぐに答えた。


    「あぁ……というか俺の経歴より真紀の経歴のほうが気になるだろ?」

    「それもそうなんだけど。おれ知ってるからなぁ!彼女から何回も聞いてるし……」


     それもそうかとため息をついた俺は自分の探偵事務所の話を始めた。学校で休んでいたのは事件の捜査で休んでいたということを伝えたときの佐伯の顔と来たらうらやましさのあまりかすごかった……
  6. 6 : : 2018/01/24(水) 16:58:26
     そんな話をしているうちに扉のノックの音が聞こえた。真紀が入るように促すとそこには田丸が立っていた。部屋に入ってきた田丸の手には手には赤い封筒が握られていた。


    「その封筒がどうかしたのか?中務?」


     佐伯が真紀に聞くと田丸が怒鳴り始めた。


    「貴様!!中務コンツェルンの次期社長を呼び捨てとは何事か!!」

    「田丸!!私の友人なの!呼び方でどうこう言わないで!」


     すぐに真紀の一括が入り田丸は詫びに一礼した。佐伯はあまりの驚きにソファから転げ落ちたらしく、腰を押さえながらすぐに座りなおした。その様子を見た真紀は田丸のほうを見て話をするように促した。


    「田丸……続けて」

    「かしこまりました」


     真紀の言葉に返事を返した田丸は封筒を高城に渡した。高城はその封筒を開けて中の手紙を取り出した。


    「今から一週間前に来た手紙です。赤い封筒で気味が悪く、2・3日そのままにしていたのですが、そろそろ開けないとと思って封を開けたところ……」


     田丸が説明しているのをしり目に、高城はその文章を読んだ。手紙の文字は赤黒く、ところどころかすれていた。その文面を高城は目を通した。


    『You make them take your life in the party opened on December 24.  It’s revived in darkness in Christmas Eve, ”Jack the Ripper” 』


    「ねぇ……この意味が分かる?」


     真紀は高城に問いかけてみたが、彼は英語の訳が苦手だった。よく、海外の文献なども読んだりするのだが感覚で読んでいるためかピンポイントで訳すことはではない……

     ただひとつわかることがある。そう……これは……


    「意味は後で修に確認するとして、確実に言えるのはこれは脅迫文だな。」

    「脅迫文ですと!?」

    「うそ……」


     真紀は頭を抱え、田丸はあまりのショックに倒れるようにソファへと腰かけた。その二人が落ち着いたのを確認した高城はすぐに説明を再開した。


    「……これが脅迫文といえる根拠はこの文字なんだ。」

    「文字?なんか赤黒いけど……」

    「うん……俺の予想がただしければ……」


     そうつぶやくと高城はカバンの中からあるビンを取り出した。


    「そのビンは?」


     今度は佐伯が質問した。すると説明がめんどくさい高城はビンのラベルを佐伯に見せた。


    「ルミノール……?あの血液反応がどうとかってやつか?」

    「そう……この液を垂らして……田丸さん!ここの部屋のカーテンって暗視カーテンですか?」

    「え…えぇ……」

    「それなら、すぐにカーテンを閉めて照明を落としてください」


     田丸はすぐに立ち上がり、高城に言われた通り、カーテンを閉めて照明を落とした。すると手紙が発光して文字が浮かび上がったのが分かった。

     それを確認した高城は田丸に照明をつけてカーテンを開けていいという旨を伝え、すぐに田丸が行動した。

     田丸が腰かけたのを確認した高城は検査結果を伝えた。
  7. 7 : : 2018/01/25(木) 16:33:40
    「予想通りの結果が出た。これは血文字だよ……」


     この結果を聞いた真紀たちはどうしてそんなものが送られてきたのか皆目見当もついていなかった。

     その様子を見ていた高城だったが何かひっかかることがあった。最後の“Jack the Ripper”。探偵なら知らぬ者はいないあの連続殺人鬼……

     まさか、その殺人鬼が日本に……


    「(いや……そんなはずは……)」


     高城が頭の中を整理していると、佐伯が突然大声を挙げた。


    「うん!!解読できた!!」


     その場にいたみんな飛び上がり、佐伯のほうを見た。その視線を確認したのち、佐伯は言葉を続けた。


    「ん~と、『12月24日に行われるクリスマスパーティーで貴様らの命を奪わせてもらう。聖夜の闇によみがえりし切り裂きジャックより』だってさ……」

    「なんだって!?」


     その名前を聞いたとき、高城はこわばった表情を見せ、小刻みに震えた。最悪の予想が当たってしまった。

     『切り裂きジャック』……

      1888年にイギリスで起きた連続殺人事件……首をメスで切られ、特定の内臓を体内から取り出されていたということは高城の耳にも入っていた。

     わかっているのは5人の女性が『切り裂きジャック』に殺されたということ……所説あるらしいが、現場に血文字が残されていたり、その犯行の手口から犯人は医者だとか、肉屋だとか言われていたりと謎が多い殺人鬼だった。

     しかし。そんな過去に起こった殺人事件……いや……もし、今回模倣犯がいるとしたら……

     高城は何か嫌なことが起こると察した。


    「今回、切り裂きジャックの模倣犯がいるとしたら……このパーティーで殺人事件が起こる……」


     その言葉を聞いた真紀は驚きの表情を見せたが、すぐに切り替えて、何かを決意した表情を見せ、高城の手を取った。そして、高城の顔を見て話を始めた。


    「お願い!!私と正式な探偵として契約して!!」

    「え?でも……事件を未然に防げるかどうか……」

    「それは……関係ない!!たとえ失敗しても成功しても犯人が捕まればこの事件の解決報酬は用意させます!!どうか!!」


     驚いた高城をよそに真紀は頭を下げた。その姿を見た田丸も一緒に頭を下げる。それを見た高城は自分で判断するには難しいということでいったん家に帰って今日中に判断することにした。

     高城探偵事務所は成功報酬をもらうだけで生活しているため、依頼料はとらない。そのことは真紀も田丸も知っていた。しかし、何も払わないのも悪いということで、今回のパーティーにかかるすべての費用を中務グループが持つことになった。

     するとそれを聞いた佐伯が高城を自分のほうに引き寄せながら耳元でこういった。


    「うらやましいぞ!解!!俺なんて費用全額払ってすかんぴんなんだからな!!」

    「何言ってるのよ……あなたはのお金は貴子もちじゃないの……」


     涙を流すふりをする佐伯にあきれた真紀はすぐに突っ込んだ。佐伯が照れ臭そうに笑うと暗く沈んでいた場の空気が明るくなった。ずっと仏頂面していた田丸さえも大声を出して笑っていた。

     話の終えた高城たちは家へと帰ることにしたのだが、高城は何か起こる予感がして仕方なかった。
  8. 8 : : 2018/01/25(木) 16:37:57
     高城は家に帰るとテーブルに七面鳥とケーキがおかれていることに気づいた。高城は慌ててカレンダーを見たが、今日は12月23日……クリスマスには1日早い。

     それにふと窓のほうを見るとクリスマスツリーに明かりが照らされ、その下にはプレゼントが置かれていた。


    「(まさか、ボケたんじゃないだろうな?)」


     と心配した高城は、


    「母さん……今日はクリスマスじゃないよ……」


     とあきれた表情で自分の母に言った。しかし、母は手を止めずに作業を続けた。


    「知っているわよ……だけど、あなた明日依頼が入ったのでしょう?」

    「!?どうしてそれを!」

    「さっき、中務グループの会長さんから電話があったの……くれぐれもよろしくということだったわ……」


     さすがだ……手が早い……ということは……


    「解!!大きな依頼を受けたそうじゃないか!!」


     早々とテーブルでビールを飲んでいた祖父が高城を見つけて大声で話しかけた。

     もちろんこの依頼のことは祖父も知っていた。あまりにうれしかったのだろう。祖父の顔は赤く染まり、まるでグラスに注がれた赤ワインのような色をしていた。

     高城が祖父の喜ぶ顔を見るのはいつぶりだろうかと感慨にふけっていると父も帰ってきた。


    「まったく……クリスマスは明日だろう!」


     父は急に始まるクリスマスパーティーに苛立ちを覚えながら背広を脱ぎ母に渡した。

     母は背広を受け取るとハンガーにかけながら、


    「解が初めて大きな依頼をとったのよ……その祝いもかねて今日やらないと……クリスマスには帰ってこれないから……」


     と返し父に微笑みかけた。母の笑顔には父も弱く、その笑顔を見ると静かにいすに座った。

     それから母も席につくと、父と祖父にはシャンパン、高城にはシャンメリーが注がれ、高城家のパーティーは幕を開けた。
  9. 9 : : 2018/01/25(木) 16:41:32
     パーティーが終わり、高城は祖父に呼ばれた。というよりもかなり酔っぱらってしまって歩けないので高城が部屋まで担ぐことになっただけなのだが……

     祖父の部屋につくと祖父はフラフラと歩き、先日亡くなった祖母の仏壇の前で手を合わせた。祖父が手を合わせている間に高城は布団を敷き、祖父の横に座ると同じように手を合わせた。


    「ばぁさん!!解がかなり大きな依頼を受けてきたんじゃ!!これでわしも解にいろいろ任せられるわい!!」


     祖父が祖母に報告をしている中、高城は手を合わせながらあることを考えていた。


    「(……この事件を本当に受けていいのか……未然に防ぐことができるかどうか)」


     すると隣にいた祖父の顔が上がり、その顔が解のほうに向いた。


    「解……ワシが探偵になったときに先代……ま、お前のひいじいさんから口酸っぱく言われていたことがあるんじゃ……探偵はの……事件を未然に防ぐことはできん。」


     その言葉を聞いて自分の不安だと思っていることの話をしているのかと思った高城はしっかりと耳を傾けた。


    「未然に事件を防げたら……それは奇跡じゃ……探偵は目の前で起きた事件を解決する……依頼人のいう条件を飲めんくてもえぇ……事件を解決する……それが探偵の仕事じゃ……」


     祖父の言葉に高城は先ほどの真紀の姿勢を思い出していた。


    「(そいういえば、真紀も事件を未然に防ぐことよりも、事件の解決を願っていたっけ……)」


     高城は祖父のいったことが腑に落ちたらしく、うつらうつらとしていた祖父を布団に寝かせた。

     そして、誓った。この事件を絶対に『解決』してみせると。
  10. 10 : : 2018/01/25(木) 16:43:02
     朝目が覚めると高城はリビングに向かった。クリスマスプレゼントとして母からもらった手袋と父からもらったマフラーも一緒にリビングへと持っていった。

     朝食を済ませた高城は家を出る準備を済ませ玄関で靴を履いていた。すると祖父が高城のもとへとやってきた。


    「解!!待ちなさい!!」

    「何?もう行くんだけど……」


     そういう高城をよそに祖父はあるポーチと手帳を手渡した。


    「そのポーチには何かしらが起きたときに必要になるもの……いわゆる検死セットが入っておる。」

    「検死!?」

    「わしも大まかなことは中務さんから直接聞いた。あの手紙はお前が推理した通り殺人予告じゃ。もしもの時の手助けになる。使い方は解の持っているものと違うから説明書きも入れておる。」


     高城はいろいろ質問したかったが時間がないので聞かないことにした。次に渡された手帳は単純に新しい手帳だった。ちょうど手帳がきれていたのを祖父が買ってくれただけのものである。

     あとは逐一で情報を連絡できるようにスカイプの入ったノートパソコンを渡された。

     予想以上に重くなった荷物を抱えながら高城はパーティーへと向かうことになった。
  11. 11 : : 2018/01/25(木) 16:45:01
     高城がフェリー乗り場につく頃にはすでに全員そろっていた。さすがに島に行くということで中務家は全員ラフな服装だった。


    「遅いよ!解!!」

    「悪ぃ……家出る前にじいちゃんに捕まっちゃってさ……」


     真紀に怒られた高城は頭をかきながら謝った。そして、高城はあたりを見渡して、


    「どうやら俺で最後のようだな……」


     と真紀に向かっていうと、彼女はため息をついて、


    「そうよ……全く、昔からこうなんだから……」

    「違うよ!!じいちゃんが……」

    「はいはい、わかってますよ……」


     恒例の痴話げんかが始まったのだが、すぐに一人の男性が注意に入った。


    「お嬢様……それぐらいにして早くお乗りになってください……高城さんも……」

    「あれ?あったことありましたっけ?」


     高城は初めて会ったような表情を見せた。すると今度はその男性がため息をつき、高城のほうを向いてお辞儀をした。


    「どうも、ご紹介が遅れました……田丸でございます。」

    「え!?田丸さん!?」

    「今回はご主人様の計らいでわたくしも私服での参加なのですよ……」


     イメージとは違い派手なダウンジャケットを着た男性の正体を知った高城はすぐに頭を下げ、船へと乗り込んだ。その後ろに続き真紀も乗り込み、田丸がロープをほどき、操舵室へと向かった。

     一行を乗せた船は港を後にして今回のクリスマスパーティーが行われる別荘のある場所……濃霧島へと向かうのであった。
  12. 12 : : 2018/01/25(木) 16:49:55
     三時間ぐらい船に乗っていると島についた。濃霧島。その名の通り、濃霧に覆われていて周囲5mも見えないといわれている。その島でクリスマスパーティーを行う中務グループのすごさに高城は驚いていた。

     船は碇を下すと汽笛を鳴らしてエンジンを止めた。それにあわせて船に乗っていた人たちが下船準備をしていた。

     高城はトランク二つを手に取るとフラフラになりながら船を下りた。


    「まさか船酔い!?」


     驚いた表情で真紀がのぞいてきたので高城は、


    「あぁ……少し酔った……」


     といいながらカバンの中からペットボトルのお茶を取り出し、それで口をゆすいで港のアスファルトに向けて吐いた。口の中が少し湿ったことで気分を取り戻した高城はそのお茶を一口だけ飲んだ。高城がペットボトルをしまうころ、今まで姿を見せなかった佐伯が高城の近くに歩み寄ってきた。


    「おう!解!早速船酔いか?」

    「そういうお前もいきなり彼女と腕組んで楽しそうだな……」


     高城の心配をした佐伯に対して、高城は彼女と腕を組んでいた佐伯を皮肉った。もちろん高城には腕を組む存在などいなかった。最近流行っているリア充の佐伯に対して微妙によく思っていなかった。

     佐伯と腕を組んでいた女性は高城と佐伯のやり取りを見て微笑んでいた。今のどこに微笑むことがあるのかわからなかった高城は不思議そうな表情を作り、佐伯に彼女を紹介するように頼んだ。


    「彼女は中丸貴子。ほら、建築の中丸組の……CMでやってるだろ?」

    「どうも……中丸貴子です……」


     そういうと中丸という女性はゆっくりとお辞儀をした。その姿はどこか元気のないように感じた。するとそれを察知してか真紀が、


    「あれ?元気ないじゃん!どうしたの?」


     と聞いた。高城はこういう時に真紀のような性格がほしいなと常日頃思っていた。中丸は大きく一つ息をつくと真紀のほうを見て話し始めた。


    「ほら、今回呼ばれたのは私の父でしょ?だけどね……急に海外に行く用事が入っちゃってね……」

    「あぁ……それでおとうさんいないんだね……」


     と返した中務の表情も少し落ち込んでしまった。彼女たちの表情を見た高城と佐伯は二人の手を取り、一緒に別荘まで歩くことにした。
  13. 13 : : 2018/01/25(木) 16:56:33
     別荘にはすぐに見えた。今日は霧が薄いほうらしく、30m先にある建物がうっすらと見えていた。建物の広さはかなり広く、別荘というよりはまるでホテルのようだった。


    「でけぇ~……これって別荘なのか!?」


     佐伯は驚いた表情をして別荘を見上げた。その別荘は三階建てで屋根は岐阜県の合掌造りをイメージしているらしい。

    そして、彼らがいるこの島自体も中務グループの所有地らしく、ゴルフ場やスポーツ施設を完備しているという。


    「じつはね……この島をリゾートにする予定なんだ!」

    「こんな霧がくれの島をか?冗談きついぜ!」


     真紀が歩きながら高城に話しかけていた。高城はその声を聴くとありえないという表情で真紀に向かって言葉を返した。


    「お父さんのお気に入りなのよ!確かにスポーツ施設は流行らなさそうだけど……けどね、この幻想的な景色を見るための観光地としてならこの島を生かせるんじゃないかと思うの!」

    「確かにそうだけど、お客は来るのか?」


     高城が客入りの心配をしていると、得意げな表情を見せた真紀が胸を突き出していった。


    「実は三年先まで予約が埋まっているの!」

    「まじでか!?」

    「えぇ……おおマジよ!じつは今日泊まる予定の別荘も宿泊施設にする予定なのよ!宿泊施設は合計5つ!島の東西南北と中央に1つずつ。今日はそのうちの中央にある『セントラル』という場所に泊まる予定よ!」


     中央にあるから『セントラル』……ネーミングセンス悪すぎないかといわんばかりの顔を高城は見せた。


    「皆様つきました。この洋館こそが中務グループが誇る宿泊施設である『セントラル』です!」


     先頭を歩いていた中務源次郎がこちらを振り向き笑顔で話しかけた。一見するとかなり厳つい人だが、根はとても優しい。しかし、仕事となるとかなり豪快な交渉をしていて、様々な中小企業を窮地から救った救世主とまで言われている。


    「いやぁ、やっと着きましたか……私みたいな年寄りには少しきつい道でしたよ……」


     白髪交じりで七三に髪の毛を分けた男が源次郎のところへと行き、

    ふぅ……

     と一息漏らした。それを見た源次郎は高らかに笑い、


    「高橋くん!君のほうが私よりも若いではないか!!」


     といい、高橋という名の人物の背中をたたいた。その勢いで高橋は前に2・3歩進んだ。


    「真紀……紹介してくれよ……」

    「うん!いいよ!」


     真紀は高城の頼みを聞き、一人一人紹介をしていった。


    「いま、お父さんと話しているのは高橋権蔵さん。私たちと提携しているアルビド塗料の社長さん。もともとは業績不振が続いていたんだけど、私たちと提携してから一気に業績を伸ばしたの……」


     高城はその紹介を聞いてなんとなく納得した。権蔵の様子を見ると一目瞭然だ。源次郎相手に媚び諂っている。どうやら、権蔵は源次郎に頭が上がらないようだ……

     その様子を確認した高城は高橋の横にいた女性について聞いた。


    「あの人は高橋和子さん。夫の権蔵さんより2歳年下なの。」

    「ちょっと待て!高橋和子ってあのTECの?」

    「そうよ!なんで知ってるの?」


     高城は和子のことを知っていた。高城は小学校の間、TEC(Takahashi Economic Company)の隣のマンションに住んでいた。小学校の通学路だったのでよく覚えていた。かなり大きな会社で業績も道内一だった。

     その後の真紀からの情報によると、権蔵が和子の会社と提携した時に知り合ってそのままゴールインしたそうだ。なぜ、和子が高橋性なのかというとたまたま権蔵も高橋性だったということだけらしい。おしどり夫婦ということで企業間では有名らしい。

     そして最後に執事の田丸と話をしている人物の情報について聞いた。しかし、この人物の情報を話しになると真紀の様子が変わった。


    「あ……あの人は……」


     その言葉を最後に真紀は黙ってしまった。たまらず、高城は彼女の視線にその男が入らないようにした。真紀との間で何があったのか………少し気になっていると田丸が大きな声でみんなに中に入るようにすすめた。

     高城たちはここが外だったことを思い出し、すぐに建物の中に入った。
  14. 14 : : 2018/01/25(木) 16:58:39
     建物の中は広大なエントランスが広がっていた。観葉植物も置いてあり明るい感じのする場所だった。高城たちはその中のすばらしさにどよめいていた。

     少しして田丸がたくさんの鍵を持ってフロントから歩いてきた。そして、一人一つずつ鍵を渡し、さらにこの部屋の地図も渡した。


    「男性のお部屋は1号室~3号室、女性のお部屋は5号室と6号室となっております。夕食は18時30分からで大広間でのパーティーとなっております。それまでは自由行動となっております。あと昼食については食堂でご用意しておりますのでそちらでお食べください。」


     そういうと田丸は全員についてくるよう促し中央にあった階段を昇って左に曲がった。それを確認した全員は田丸の後に続いて階段を昇った。

     階段を上がった先は薄暗い廊下が左右に伸びていた。するとここで田丸がこちらを振り返り、


    「男性部屋はここを左折した先です。一番奥が1号室となっております。女性の方はここを右折した先となります。一番手前が5号室でございます。」


     田丸の指示でこの階層に泊まる予定の中務夫婦と高橋夫婦、それと先ほど田丸と話していた男がそれぞれの部屋に行った。


    「ささ、お嬢様がたのお部屋はこの上となっております。」

    「わかったわ。あとは私たちで行くから下がっていいわよ。」

    「かしこまりました。」


     田丸は一礼をして階段を下りていった。その姿を確認した高城たちはゆっくり階段を上がった。

     部屋の前についた高城たちは五分後にエントランスで待ち合わせて昼食を食べることにした。その言葉に了解したメンバーはそれぞれの部屋へと向かった。


    「お、俺の部屋はここだな?」


     嬉しそうに扉のほうを向いた佐伯が先に部屋に入った。


    「(しかし、どれだけ歩かせるんだ……)」


     高城は部屋間の広さにうんざりしていた。普通のホテルなら隣の部屋まで10mもかからない。しかし、この部屋は短いほうの距離をとっても20mはある。全室スイートルーム設定なのかという疑問が頭に浮かんだ。

     そんなの考えている場合じゃないと思った高城は自分の部屋の前につくとすぐに扉を開いた。そこには大きなベッドと机があった。幸いWi-Fi回線やコンセントなどもあったのですぐにノートパソコンをつないだ。

     冷蔵庫には数種類のジュースも入っており、それらもタダで飲めるらしい。


    「そういえば、下の売店でお菓子があったな……」


     あとで買ってここでゆっくりお菓子パーティでもしようかと思い、高城は財布をポケットに入れて部屋を後にした。
  15. 15 : : 2018/01/25(木) 17:02:24
     下に降りると佐伯が怒りの表情を見せていた。その顔はまさに般若だっだ。


    「遅いぞ!解!」


    「ど……どうしたんだよ!時間には間に合っただろ?」

    「俺は腹が減ってんだよ!!早くしやがれ!!」


     佐伯はそういうとイライラした様子で食堂に入ってしまった。その様子を見ていた中丸と真紀はため息をついて彼を追った。おれはあっけに取られていたが突然、

    グ~ッ……

     と腹の音が鳴ったので、

    ふぅ~……

     と一息ついて食堂の中へと入った。

     食堂はビュッフェスタイルで中にはおいしそうな料理がたくさん並んでいた。本場三ツ星レストランのシェフの料理が並んでいるということでこういうのにありつける機会のない高城と佐伯はよだれで口の周りがキラキラと光っていた。

     昼食は和やかなムードで進んだかと思えば高城の横の席に先ほど源次郎と話をしていた権蔵が座ろうとしていた。


    「兄ちゃん!隣いいか?」

    「どうぞ……」

    「悪いな!」


     そういうと近くにいた和子を向かいの席に座らせご飯を食べて始めた。それを見ていた中務がすかさず声をかけた。


    「高橋さんはこのあとどうされるんですか?」

    「ん?あぁ、中務さんとこのご令嬢……」

    「もう!その言い方はやめて!」

    「グフっ!?」


     権蔵まで手が届かないからかなぜか殴られた高城は食べていた肉を詰まらせてしまった。急いで水を流し込んだ高城は真紀に得意のデコピンをかました。その様子を見ていた権蔵は腹を抱えて笑い、それを妻の和子が止めていた。そして和子が代わりに予定を話してくれた。


    「私は中務の奥様とショッピングをしようかと……このホテルには免税店があるもんで……そして主人は、会長さんとゴルフに行かれるようで……」

    「ゴルフ!?こんな霧なのに!?」


     佐伯が外を指差すとそこには霧がかかり、5m先も見えない状態だった。

     権蔵は佐伯に向かってゆっくりと落ち着いた口調で話し始めた。


    「確かに霧は濃いが、あと一時間ぐらいしたら霧は晴れるんだよ!そうだ、予定がないんならここの二階にある娯楽施設に行ってみるといい!ダーツやビリヤードのほかにカラオケもあるらしいぞ?」


     権蔵からの提案に予定のなかった高城たちは賛成した。楽しいムードにある中、真紀が震えているのを感じた。


    「真紀……大丈夫か?」


     高城が声をかけたときには震えが止まっていたが、真紀は今にも泣きだしそうになっていた。


    「あぁ……そういえば彼もここにきてたのね……」


     和子は何かを知っているような口ぶりで言葉を漏らした。その言葉を聞き逃さなかった高城はすぐに和子に聞いた。


    「あの男は誰です?」

    「なんだい、真紀ちゃん紹介まだだったのか!?」

    「あんなことあったら無理ありませんよ……」

    「あんなこと?」


     すかさず、高城は聞いたが権蔵がストップをかけた。


    「おいおい、そこまで聞くのは男として野暮だぜ!それにその話は真紀ちゃんに聞いたほうがいい……が、知らねえのも気分悪いだろうから素性だけは紹介しておくか……」


     権蔵の発言に和子は止めたが、その静止も聞かずに権蔵は話し始めた。


    「あいつは平良恵一だ。年は32歳ぐらいだったかな……会長さんの担当医師だそうだ。」

    「会長って中務さん体調悪いんですか?」

    「あぁ……そうらしい……毎日18時には注射を打たないといけない体らしい。だから将来真紀ちゃんに継がせるために自分は会長職をして、真紀ちゃんのお母さんに社長をしてもらっているんだよ。」


     真紀の様子が気になった高城は真紀の顔をちらっと見たが、うつむいたままだった。


    「つまり、源次郎さんに近い人物ということか……」

    「あぁ……そして、今は会長の第一秘書だ。」


     高城の独り言を笑顔で拾った権蔵がそのひとりごとに答えた。ふと高城は声のしたほうを向くと、権蔵はニコニコと笑っていた。


    「どうして、僕の独り言を拾うんですか?」


     高城は不満そうに権蔵の顔を見た。しかし、権蔵は悪びれる様子もなく、笑顔で高城の肩をたたいた。


    「悪かったな!ついつい職業病みたいなものでな!ほら、こう見えても社長だからな……」


    そういいながら権蔵は高城の背中をバンバンと叩いていたが、そのまま肩をつかみ自分のほうへ高城を引き寄せた。そして、高城の耳元でこうつぶやいた。


    「真紀ちゃんを守ってやれよ!彼氏さん……」

    「ちょっ……俺とこいつは……」


     権蔵の冷やかしなのかどうなのかわからないまま高城はパニックなった。その様子を見ていた中務たちはなにが起きてるのかわからずきょとんとしていた。
  16. 16 : : 2018/01/25(木) 17:06:21
     そのあとは権蔵のペースで食事会が進んだ。高城の知らない真紀や佐伯の知らない中丸の話がたくさん聞けた。しかし、この人は何でも知りすぎているなという不安も高城は感じていた。

     権蔵たちが先にご飯を食べ終わり食堂を後にした。帰り際に和子が一礼詫びていたが、それも気にかからないぐらい彼らは疲弊していた。


    「あのじいさん、いつもああなのか?」


     高城は彼らがいなくなったのを確認すると中務に聞いた。


    「うん……悪い人じゃないんだけど……一度話し始めるとなかなか止まらないの……」

    「そのようだな……さすがに疲れたぜ……」


     いつもお調子者の佐伯ですら肩で息をしていた。しかし、中丸も真紀も権蔵の性格を知っているからだろうか、疲れた様子はなかった。


    「なんで、お前ら疲れてないの……」

    「なんでって、慣れてるし……」

    「えぇ……それに、彼の言葉にはなにか人を元気にさせる力があるように思うのです」


     中丸のこの言葉には高城は同意した。



    『真紀ちゃんを守ってやれよ!彼氏さん……』



     この言葉は何かを暗示してのことなのか、それ以外なのか……その心理は高城にはわからなかった。だけど、これだけはいえると高城が思っていることがある。


    「(真紀の家に送られた殺人予告……その殺人予告の対象は真紀なのか……それとも……)」

    「おい、聞いてるのか!解」


     その声にハッとした高城はすぐに声のするほうを見るとそこには不機嫌な表情をする佐伯がいた。そのままあたりを見合わせると心配そうに見つめる真紀と中丸の姿があった。


    「大丈夫ですか?高城さん……」


     中丸が高城に問いかけると高城は大丈夫と左手を挙げた。そして、真紀にあることを聞いた。


    「今回の手紙のこと……参加者は知っているのか?」

    「えぇ……私のほうから全参加者に伝えているけれども……貴子はお父さんから聞いている?」


     真紀はそういうとすぐに中丸のほうを見た。中丸は自分の皿にあったショートケーキを口へと運ぶ途中だった。

     中丸は真紀の質問を聞くと口に運んでいたショートケーキを皿に戻し、目線を真紀のほうに向けて問いに答えた。


    「えぇ……殺人予告が届いたって話でしょう?」

    「おい!貴子!そんなダイレクトに!」


     すぐに佐伯が中丸の口をふさいだが、その場にいたのは俺たちだけだから特に意識する必要もなかった。しかもホテル内の客は俺たちだけなうえに、ここで働いている従業員は中務グループの人たちばかりである。真紀は彼らにも田丸のほうから連絡していると高城たちに伝えた。


    「それなら、このホテルには殺人計画のことを知っている人たちばかりということだな?」


     高城は改めて中務に確認をとった。その高城の確認を受けて真紀は小さくうなずいた。


    「(ここには、今回のことを知っている人物しかいない……ただ、誰が誰に狙われるかというのはわからないな……)」

    「もし、ここで何かあっても監視カメラに映るはずだから大丈夫よ!」


     と自信満々に真紀は今いる食堂の監視カメラを指差した。ただ、監視カメラも万能ではない。犯人の顔を収められるが、顔を隠しての犯行だとだめだ。

     それに、監視カメラにも絶対映らない死角はあるし、その死角もトリックで簡単に作り出せる。さらには、プライバシーの確保のため、各部屋には監視カメラはついていない。


    「(これじゃぁ、クリスマスパーティーも楽しめそうにない……)」


     高城は深いため息をついていた。すると、その様子を見た佐伯が提案を出した。


    「なぁ、今から娯楽室に行こうぜ!!」

    「こんな時に遊ぶってのか?」


     高城はすぐに反論したが、その反論を真紀が一蹴した。


    「こんな時だからでしょ!私、ビリヤードやりたい!!」

    「それじゃぁ、勝負しましょうか?」

    「望むところ!!」


     女性陣はかなりやる気のようだ。その様子を見た佐伯は満足そうに高城の顔を見た。その顔はまるで、お前は『どうするんだ?』と自慢げに言っているようだった。


    「あぁ、もう!!わかったよ!!娯楽室に行くよ!!」


     高城は、食堂中に響く大きい声で返事をすると、席を立ちあがり娯楽室へと向かった。その様子を見ていた佐伯たちもケーキを口の中に放り込み、高城の後を追った。
  17. 17 : : 2018/01/26(金) 15:43:34
     娯楽室は結構な広さがあり、ボーリングのレーンも3レーンほどあった。ダーツの機械が4基、ビリヤード台が3台、スロットコーナーが4島あった。

     高城たちは娯楽室に入るとすぐにビリヤード台のところに行きビリヤードを始めた。佐伯はビリヤードの大会に出たことがあるらしく、マイキューを持っていた。中務と中丸も接待でよくやっているので常備のキュー選びに余念がなかった。

     じゃんけんで順番を決め、ブレイクショットは高城が担当することになった。ルールは佐伯の提案でナインボールで行うことにした。

     今回高城が初心者ということもあり、高城がミスショットをしたり、白球を入れてしまったとしてもペナルティはつかないという特別ルールが課せられた。

     高城はブレイクショットをする前に中務から打ち方をおそわった。


    「あ~、だめよ、だめだめ!力が入りすぎ!!」

    「だって力入れないとはじけないじゃんか!」


     高城は中務の指導を否定した。しかし、周りは高城の発言に笑っていた。高城はかなり不機嫌になり、座り込んでしまった。中務は笑いをこらえて高城のもとによって立たせると、


    「ごめんごめん!だけどね、力を入れると逆に思い通りにボールが飛ばなくなるのよ……見てて……」


     そういうと、中務はキューを構えた。ビリヤードをするためにオーダーメイドしたらしいドレスからは白魚のような足がちらちらと見えていた。

     中務の胸はしっかりとビリヤード台に押し当てられている。ねらいをさだめるために中務は片目になる。

     そして、ゆっくりとキューを引き、

    カーーーーン

     という音をビリヤード場に響かせた。その音とともに三角形に固められた9個のボールがきれいにはじけた。そして、9つのボールすべてを6個のポケットに入れたのであった。


    「ありゃ……順番どおりに行かなかったか……」


     中務は残念そうにいうと、佐伯と中丸のほうを見た。彼らは中務と視線が合うと、声をそろえて、


    「やりすぎ!!」


     といった。その声を聴いた中務は照れながら頭をかいた。

     その後10分ぐらい練習した高城は何とかブレイクショットを成功することができた。それを皮切りに1番ボールをポケットに落とした。

     しかし、大会出場者と百戦錬磨の女王たちに勝てるはずもなかった。最終的に9番ボールを中務が落とし、試合は決した。その後、年齢制限で入れないスロット以外の娯楽を楽しみ、部屋へと帰ったのであった。
  18. 18 : : 2018/01/26(金) 15:46:48
     遊び疲れたメンバーは部屋へと戻ることにした。その道中高城たちはゴルフから戻ってきた源次郎たちに出会った。


    「おぉ、真紀!何をしていたのかね……?」


     源次郎が頭につけていたサンバイザーを外しながら中務に聞いた。すると、中務は胸の前に手を当てて、源次郎に向かって話し始めた。


    「はい。お父様……」

    「よい。今はプライベートだ。いつも通り話せ。」


     そういうと、中務は手を下ろして、表情を柔らかくさせ源次郎に話し始めた。


    「パパ!!私ね、解とビリヤードしていたんだよ~!!」

    「解?」

    「あ、俺です」


     聞きなれない名前だったのか首を傾げた源次郎の前に高城は歩を進め、自分の胸に手を当てた状態で膝をついた。その態度に感心した源次郎だったが、すぐに辞めさせた。


    「よせ……俺はそんなにお偉いさんじゃない!」


     その言葉を告げると田丸に葉巻を出させ、その葉巻を口にくわえた。これにホウレンソウでもあれば完全にポパイになりそうな風貌だったので、佐伯が笑ってしまった。

     その様子を見た源次郎は佐伯をギロリとにらみつけた。その視線を感じた佐伯はまるで肉食獣ににらまれた兎のようにビクビク震えていた。


    「中丸家のご息女の彼氏は教養がなっていないらしいな……」

    「す……すいません……」


     いつも調子に乗っている佐伯が源次郎の前ではまるで借りてきた猫のようだった。その様子を見た源次郎は大声で笑い飛ばした。


    「ガッハッハッハッハッハ!!そんなに縮こまるな!俺はそのような性格嫌いじゃねぇ……」


     そういいながら、一度葉巻を口から離して煙を全部吐き出した。するとその煙が佐伯にかかってしまい佐伯がむせてしまった。


    「旦那様!煙を吐く場所をわきまえてください!」

    「わ……わりぃ……」


     田丸が源次郎に注意すると、源次郎は佐伯に謝りお詫びのしるしに自分で飲もうと先に買っておいたコーラを佐伯に手渡した。

     その様子を見た田丸はためいきをつくと時計を見た。エントランスにある時計は午後6時を指していた。


    「会長……そろそろお注射の時間ですが……」


     会長の耳元でボソボソと話す人物……彼が平良恵一だ。源次郎の第一秘書を務め、将来的には真紀の第一秘書へとなる男だ。


    「おぉ、もうそんな時間か……わかった!けどその前にコンビニに行かないとな……」


     そういうと源次郎は左手を軽く上げ、真紀たちに別れを告げた。


    「じゃあな!未来ある若者たちよ!!パーティーを楽しめよ!」


     源次郎が階段に向かって歩き始めるのを皮切りに権蔵と平良も後ろをついていった。権蔵はあくびをしている様子から30分程仮眠をとるのであろう……


    「俺たちも部屋で休むか……」


     高城の言葉にうなずいた佐伯たちは高城の後をついていき各自部屋へと戻った。
  19. 19 : : 2018/01/26(金) 15:51:23
     食堂ではクリスマスパーティーの準備が着々と進んでいた。田丸以外の執事やメイドが総出で準備をしている。その準備をしている途中に高城はついてしまった。


    「源次郎さんはまだ来ていないのか……」


     そうつぶやいた高城は側道の中にあったクリスマスツリーを見ていた。それを見ているところで平良がやってきた。


    「準備が進んでいるようですね……」


     平良は高城に話しかけた。その様子を横目で見た高城は、


    「……そうですね」


     と返事を返した。その表情は真紀に何かしたことに対する怒りと平良のことを知りたいという欲求が混ざり複雑な表情になっていた。


    「平良さんはお医者さんなんですよね?」

    「……えぇ」

    「中務さん……源次郎会長の病名って何ですか?」


     体調が悪く薬を投与している彼の様子が気になった高城はその症状を医師である平良に聞くことにしたのだが、


    「インフォームドコンセントとして、家族には教えることはできますが、家族以外の人には教えることができません……」

    「そんなことはないはずだろ!俺にだって教えてもいいはずだ!!」


     高城は少し語気を荒げて平良に話した。平良はため息をつき症状を話し始めた。


    「……糖尿病ですよ……」

    「糖尿病ということはインスリン注射?」

    「えぇ……最近は症状が落ち着いてきていため夕食前の午後18時だけに注射するようにしているんです。」

    「でも、インスリンなら自分で打てるんじゃ……」

    「それがね……私が打たないと打たないのですよ……困ったものです……」


     高城は思わず首をかしげてしまった。自分で打てるはずのインスリン注射を打たないとはどういうことなのか。高城が考えていたところ……


    「解!待った?」


     という声が聞こえてきた。その声のほうを向くとそこには中務がいた。最初は笑顔でいた中務だったが、平良の顔を見るとすぐにその表情は暗くなった。


    「ごめんなさい……修がなかなか起きなくて……」

    「わりぃな!30分寝るつもりが起きれなくてよ!」

    「だらしないな!男なら女が起こしてくれたらすっと起きねぇか!」


     といいながら権蔵が階段から降りてきた。するとその後ろには和子もゆっくりと降りてきた。


    「よくいいますね……私が起こさなければあなたはずっと寝ているじゃない……」

    「そ……その話は今はなしだろ!?」


     慌てる様子の権蔵を見て中務も笑顔を取り戻した。7人で談笑をしているとそこに田丸がやってきた。


    「はて?旦那様と奥様はどこでしょうか?」

    「私はここにいるわよ……田丸……」


     そういながら階段を下りてきた周子に対して田丸が頭を下げた。そして、源次郎がどこに行ったのか確認したが周子は、


    「あの人なら少し具合が悪くなったから休むそうよ……」

    「え!?」


     さっきまで元気だったのにどういう風の吹き回しだろうか……

     そう高城は考えていた。


    「それなら、私が見に行きましょう……」

    「あ、俺も行きます!」

    「高城君!先生の邪魔をしちゃいかん!」


     高城は権蔵に腕をつかまれてしまった。その様子を横目で見ていた平良は、


    「かまいませんよ……」


     とだけいい、階段を昇っていった。平良がそういうならと権蔵はつかんでいた腕を離した。それを確認した高城は彼を追うように駆け足で階段を上った。
  20. 20 : : 2018/01/26(金) 15:54:02
     平良は源次郎の部屋に行く前に自分の部屋に行き医療セットを持ってきた。そのセットを持って源次郎の部屋の前に立ち扉を……

    コンコンコン……

     と3回ノックした。


    「会長……平良です……お具合はどうでしょうか……」


     平良が扉に話しかけたが反応はなかった。


    「……お休み中ですかね?」

    「おれ、カギもらってきます……」

    「待ってください……」


     鍵をとりに行こうとした高城を今度は平良が呼び止めた。


    「ちょっと待ってください……お休みであるならばゆっくり休ませておきましょう……私が合間にみに行きますから……」

    「それじゃぁ、平良さんがパーティーを楽しめないんじゃ……」

    「まぁ、それもそうですが、これも医者の運命(さだめ)ですので」


     そういうと平良は高城に食堂に戻ることを伝え、そのまま階段を下りた。高城もあとは平良に任せて階段を下りることにした。




     食堂に戻るとみんながドレスコートに着替えていた。中務は黄色いドレス、中丸は黒いドレスと首にはファーをまいていた。佐伯は黒いタキシードに身を包んでおり、首元には黒の蝶ネクタイをしていた。


    「おまえらその服どうしたんだよ!!」


     驚きのあまり開いた口がふさがらなくなった高城は中務に聞いた。


    「うちで用意していたのよ!ほら、急にパーティーを開くってなったときにドレスとかはあったほうがいいでしょう?」


     確かに用意する分に越したことはないが、用意周到すぎるだろうと高城が考えていた時に、田丸が後ろから高城の肩をつかみ、


    「あなたも着替えに行きますよ」


     とにっこりほほ笑んだ。高城は首を縦に振ると歩き始めた田丸の後ろをついていった。
  21. 21 : : 2018/01/26(金) 15:56:04
     高城は服装に悩んでいたが、田丸の助けもあり、礼服を切ることにした。ネクタイは白にしてネクタイピンとカフスボタン、チークもすべて田丸使用だ。


    「その服装を見ていると昔の旦那様を思い出しますなぁ……」


     田丸がそう懐かしんでいると高城はもしやと思い田丸に聞き返した。


    「この服って源次郎会長のおさがりですか?」

    「そんなわけないでしょう……ま、レプリカではありますが……」


     レプリカという言葉を聞いた高城は、


    「(レプリカってことはこの服はもしかして中務ブランドの服でうん万円する服なのか……)」

    「(じつはドッキリで中務源次郎のおさがりか……)」


     といういらぬ勘繰りをしていた。これは高城の職業病みたいなものだが、初めて見た田丸は驚いてしまい、


    「あの……何かお気に召さないことでもありましたか?」


     と静かに聞いてしまった。高城はすぐに現実に戻り田丸に謝った。


    「すいません、職業病みたいなものなんです。人の言葉を聞くといろいろ考えてしまう癖が……」

    「そうでしたか。さぞかし苦しかったでしょうね……」


     田丸のその言葉を聞いた高城は少し昔を懐かしんだ。


    「小学校の時は本当に苦しかったですね……友達の言葉を聞くと全部嘘に聞こえてしまって……だけど……」

    「だけど?」

    「真紀……中務お嬢様にお会いして変わりました。彼女のことばにはうそがない。彼女のような純粋な言葉に出会ったことで僕も変わったかもしれませんね……」

    「なるほど……」


     田丸は高城の過去の話を聞くと高城に部屋を出るように促した。高城は田丸の案内通りに扉の前へと歩を進める。


    「……高城さん!」


     扉を開けようとした高城の手がとまった。じっと田丸の言葉に耳を傾ける。


    「お嬢さんを……どうか、真紀お嬢様をお守りください!この通りでございます!」


     そういうと田丸は頭をゆっくりと下げた。その様子を見た高城は扉のノブををガチャリとひねり、


    「ボクは絶対お嬢様を……真紀を死なせません」


     と言い残し部屋を後にした。田丸は肩の荷が下りたように一息吐くと部屋の片づけに取り掛かった。
  22. 22 : : 2018/01/26(金) 15:58:26
     高城が部屋に降りるとエントランスの前でざわつく声が聞こえていた。すぐに声のするほうに行くと、真紀と周子が話をしていた。


    「どうしたんだ?」


     高城が真紀に聞いた。すると真紀はどこか寂しそうな表情を浮かべながら高城の質問に答えた。


    「パパが部屋にいるはずなのに返事がないのよ……」

    「なんだって?」


     高城が驚いた表情を見せていると周子が今の状況を説明した。


    「今、平良先生が様子を見に行ってくれているんですが……こんなの初めてだわ……」

    「こんなのとは?」


     高城が疑問に思ったので周子に確認をした。


    「過去にも主人が注射を打った後にパーティーをすることはあったのだけど、その時は時間通りに降りてきていたのよ……」

    「むしろ30分前には降りてきて会場の設備を確認していたものね……」


     それは確かにおかしいなと思い、高城は持っていた手帳にメモを取った。


    【注射後のパーティーでも源次郎は時間前の30分には会場入りしていた。】

    【このパーティー以外で姿を見せなかったことはない。】


    「(何かあったのかもしれないな……)」


     高城がそう考えていると平良が階段上からゆっくりと降りてきた。手を洗ったからだろうか、タオルで手をふいていた。


    「すみません。おそくなりまして……会長の部屋に行ったあと腹痛に合いまして自分の部屋のトイレに行っていたものですから……」


     そういうと周子の前まで歩いてきて源次郎を診た結果を伝えた。


    「会長は少し吐き気がするということでパーティーの前半は部屋で休んでいるそうです。」

    「あら……」


     心配そうに返事をした周子を気遣う様子を見せながら平良はさらに話を続けた。


    「それに伴ってプログラムを変更したいのですが……会長の挨拶を最後にして会長の挨拶のところを社長の周子さんの挨拶、乾杯の音頭を次期社長の真紀さんにお願いしたいという会長からのお話でした。」

    「え!?うそ!?」

    「……仕方ないわね…………」


     あたふたしている真紀をよそに落ち着いた様子で周子は話をしていた。当初の予定では挨拶を会長の源次郎が行い、乾杯の音頭は周子が行う予定だったのだ。もちろん真紀は何も考えていなかった。


    「ママ!!どうしよう!!私……」

    「落ち着いて……乾杯の音頭よ?そこまで気張った挨拶はしなくていいわよ。それに見知った人たちだから何も言わないわ」

    「もう!!なんでこんな時に体調を崩すかな?」


     ほほを膨らませている真紀をよそに平良は報告を済ませると田丸と一緒に着替えにいった。


    「(本当に大丈夫なのか?)」


     頭に疑問符を残した高城だったが、パーティーが始まるということで佐伯に腕を引っ張られそのまま食堂へと入った。
  23. 23 : : 2018/01/26(金) 16:01:09
     その後のパーティーは夢みたいな時間だった。急きょ予定が変わった周子の挨拶もしっかりと全員の心をつかんでいた。


    「うちの学校の校長と違うな……」


     と小声で佐伯に話しかけると佐伯も静かにうなずいていた。その後の真紀の挨拶も噛んでしまったのはあったが内容を見ても周子と引けのとらない挨拶だった。そして、真紀の乾杯の合図でパーティーが始まった。

     今回はノンアルコールパーティーということでお酒は全くでなかったが、大人連中もいろいろ楽しんでいた。高城はこの光景を見ていると自分がここにいる意味を忘れてしまいそうであった。

     パーティーも終盤に迫り、いよいよこのパーティーのメインイベントであるダンスパーティーが始まった。そのパーティーで踊る組み合わせは事前に決められていたらしい。高城は誰と踊るのか楽しみに待っていた。


    「そろそろパパを呼びにいかないとね……」

    「そうね……私行ってくるわ……」


     そういうと周子はゆっくりと立ち上がりパーティー会場を後にした。


    「真紀のお母さん……強いな……」

    「うん……ママはパパよりポジティブシンキングなのよ……」


     そういいながら真紀が髪の毛をあげるとドレスのチャックが4分の1ほど、下がつているのが見えた。高城は真紀の肩をたたき、その旨を伝えると真紀は顔を赤らめ、


    「ちょ!!解のH!!」


     といって、ボディーブローを入れてきた。高城はすんでのところで留めることができたが、その衝撃で足を床置きの看板にぶつけてしまった。


     思わずうずくまった高城に真紀が近寄ると想像にしていなかった声が聞こえた……



    「い………イヤアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァァ!!」



     高城はすぐにどこかから悲鳴が聞こえているかを見つけるために顔を左右に振った。高城が悲鳴の出所を探しているとすぐに高城のそばにパーティーの参加者全員が駆けつけた。


    「おい!今の真紀か!?」

    「違う!!私じゃない!!」

    「(真紀じゃない……ということは……!!)」


     何かを思い出した高木はすぐに走り出した。


    「解!!どこに行くんだよ!!」


     佐伯がすぐに呼び止めたがそれを一切聞かずに高城は走り続けた。


    「2階だよ!源次郎さんの部屋に周子さんが向かっているんだ!!」

    「なんだって!?……ってまて!!俺もいく!!」


     そういうと佐伯も走り出した。なにがあったかわからないほかの参加者も彼らの後をついていった。
  24. 24 : : 2018/01/27(土) 11:14:39
     2階の階段を駆け上がった高城は扉の前でうずくまっている周子の姿を見た。周子を確認した高城はすぐに周子に声をかけた。


    「中務社長!!」


     その声を聴いた周子は震えながらゆっくりと高城の顔を見た。その表情はなにかこの世のものではない惨劇を見たような顔をしていた。恐怖のあまり口を抑えていた手を高城のほうへと伸ばした。

     高城はその腕をつかむと周子に何があったか確認をした。


    「何があったんです!!」

    「…………しゅ……しゅじん…………が……」


     周子はそういうと震える手で扉の奥を指差した。


    「(ここって源次郎会長の……)」


     閉まりかけていた扉を高城が開いた。

    キィッ……

     という音が高城の耳に入ってくる。するとそこには……


    「な!?」

    「ママ、どうしたの!?」


     高城は思わずうつむいてしまった。そして、真紀の声を確認すると、


    「来るな!!真紀!!」


     と大声で叫んだ。その声に気づいた真紀はその場に止まり高城の顔を見た。すると、真紀がここに来たことを知った周子がフラフラと立ち上がり真紀のもとへと歩いた。


    「真紀……真紀――――っ!!」


     そういうと周子は真紀の胸の中で泣いていた。その様子を見てただものではないと感じた田丸が源次郎の部屋を覗き込んだ。


    「だ……旦那さ……うぶっ!!」


     あまりの衝撃と部屋中に漂う死肉の匂いに口を覆った。彼らの様子を見ていた真紀が源次郎の身に起こったことを悟り、小さく声を漏らした……


    「う……うそ……でしょ?」


     田丸の反応に源次郎が死んだということを知った真紀は高城に問いかけた。


    「うそじゃない……お前のお父さんは……中務源次郎会長は…………死んだ」


     高城は声を震わせながら源次郎の最期を告げた。それを聞いた瞬間、真紀の目から涙があふれ、母とともに泣きくれた。

     その泣き声は廊下中に響き渡り、その場にいたものに絶望をもたらした。

     無念な表情で壁に手を当てる権蔵。権蔵の背中で悲しみに暮れる和子。あまりの出来事に唇をかんだ平良。佐伯の胸でなく中丸……

     それはクリスマスイブにサンタがくれた惨劇という名のクリスマスプレゼント……

     一番いらないプレゼントをもらった高城は窓の外でふる雪を見た。


    「(なんて最悪なホワイトクリスマスだ……)」


     雪が一粒降るたびに高城の心は切り刻まれていた。

     そして高城は切り裂きジャックがよみがえったのではないかと不安を感じたまま捜査へと入った。
  25. 25 : : 2018/01/27(土) 11:21:40
     現場へと足を踏み入れた高城がまず最初にみたものは源次郎の死体だった。状況を見る限り、源次郎は即死であったといえるだろう……

     高城はすぐに平良を呼んだ。


    「平良さん……検死をお願いしたいのですが……」

    「わかりました」


     平良はそういうと源次郎の死体の横にかがんだ。平良が検死をしている間、権蔵と佐伯に頼んで、3階の佐伯の部屋で待機をするように伝えた。それを聞いた彼らがすぐに動いてくれて現場には高城と平良だけが残された。


    「死体の腐り具合からして、死後1時間ということでしょうか……」


     高城はすぐに時計を見た。


    「(現在時刻は20時……ということは死亡推定時刻は午後19時……前30分をとっても午後18時30分~19時の間ということか……)」


     高城はすぐにその内容をメモに書き込んだ。


    【被害者:中務源次郎】

    【死亡推定時刻:18時30分~19時の間】


    「死因とかわかりますか?」


     高城が丁寧に平良に聞くと、平良は被害者の源次郎の首を指差した。


    「首を斬られたことによる失血死ですかね……」

    「(首元に大量の出血か……)」


    【死因:首を斬られたことによる失血死】


     すると高城は凶器がないか被害者の身辺調査をし始めた。すると、口元に唾液が流れた痕が残っているのを目にした。


    「(これはなんだ?)」


     と思った高城は源次郎の口元を匂ってみた。その匂いはアーモンド臭ではなく、源次郎の吸っていた葉巻の臭いだった。


    【毒殺の線はなし】



    「高城さん!少しお願いします」


     メモを取っていた時に平良が高城を呼んだ。高城は手帳を閉じ、すぐに平良のもとへと駆け寄った。


    「どうしたんです?」

    「これを見てください」


     すると平良は壁を指差した。高城は平良が指をさした方向を見るとそこにはある血文字が書かれていた。


    Jack the Ripper(切り裂きジャック)


    「切り裂き……ジャックだと?」

    「あのイギリスで起きている殺人事件ですか?」

    「正確には起きていた……ですがね……」


     高城は震えが止まらなかった。それと同時に何か違和感を感じていた。


    「あの血文字……どこかで……」


     その疑問を残しながら一回ほかのみんなに報告するために全員を読んでくるように平良に頼んだ。平良は快く引き受けてくれてすぐに部屋を出ていった。


     高城は平良が出ていったあと、源次郎の死体を調べた。源次郎は首と体が切り離され、首はベッドに置かれていた。そして、腹を割かれたような跡も見受けられた。


     (諸説あって断定はできないけど、切り裂きジャックの事件と酷似している……)」


     高城の考えは2つあった。一つは切り裂きジャックが日本にきているということ。しかし、それは物理的にありえないことだった。切り裂きジャックは今現在解決されていない連続殺人事件として捜査されていると聞いたことがある。

     彼自身も知識は薄かったが、聞いている話と現場の状況が微妙にずれていたことから切り裂きジャックが日本にいることはありえない。となるともう一つの考えに行きつく……

     その考えに行きついた高城はペンをとりこう書いた。


    【切り裂きジャックの模倣犯による犯行】


     高城はこの現場を見たときにこの考えを持っていたが、切り裂きジャックの模倣犯が仮にいたとしてもその人物はなぜ、男性である源次郎を殺したのかが疑問に残っていた。


    「(切り裂きジャックが殺害したのは全員女性だといわれている。それなのになぜ男性を殺害したのか……)」

    「(それとも俺が知らないだけで切り裂きジャックは男性も殺害していたのか……)」


     事件と関係がなくなってきそうなのでこのことについて考えるのを辞めた高城はふと源次郎の腕にある小さな点を見た。


    「これは……注射の痕か?」


     源次郎の打っていた注射後の出血はきれいにふき取られていた。なぜ、ここをふき取る必要があったのだろうか……


     また高城の疑問が増えたのでメモを残すことにした。


    【切り裂きジャック】

    【注射の痕】

    【首元の血痕】
  26. 26 : : 2018/01/27(土) 11:27:00
    「ふぅ~……」


     メモが終わった高城は大きくため息をついた。すると扉を

    コンコン……

     とノックする音が聞こえたので振り向くとそこにはみんなを連れてきた平良が立っていた。それを確認した高城は源次郎の死体が目に入らないように部屋にあったシーツをかぶせた。


    「ありがとうございます。平良さん」

    「これぐらいお安い御用ですよ……」


     そういうと平良は部屋を見まわして高城に提案した。


    「ここで話すよりも食堂で話をしたほうがいいかもしれませんね……」


     確かにこの部屋で話をするのはあまりにも無粋だと思った高城は食堂で話そうと提案した。全員がうなずき源次郎の部屋を後にした。


    「あ、田丸さん!」

    「は……はい!」


     高城が突然田丸を呼んだ。田丸は急に呼ばれたのでおもわず声が裏返ってしまった。

     田丸が高城のもとへ歩むと高城は田丸にこの部屋の鍵を閉めてその部屋の鍵を高城に渡すように提案した。

     田丸は静かにうなずき、ゆっくりと源次郎の部屋の鍵を閉めるとそのカギを高城に渡した。高城は鍵を受け取るとその鍵を自分の服の胸ポケットに入れた。そして田丸に礼を述べると田丸とともに食堂へと向かった。

     食堂をクリスマスパーティーの飾りが明るく照らしていた。しかし、部屋にいる人たちの顔は暗いままだ。特に中務親子に関しては抜け殻のようだった。

     前向きな考えでみんなをリードする周子ですらその表情は曇っていた。ずっと大事に思っていた旦那を失ったのだから無理もない。


    「(この状況で話さないといけないのか……)」


     高城も参っていたが、話を始めないことには先に進むことができないと思い、ゆっくりと立ち上がった。みんなの視線が高城に集中した高城は口に溜まった唾を飲み込むとゆっくりと話し始めた。


    「えぇ~、改めまして俺は中務コンツェルンから依頼を受けてこのパーティーに来ました高城解です。どんな内容で来たかというのはあらかじめ中務真紀さんより聞いているかと思います」

    「あの、脅迫状だな」


     佐伯が答えたので高城は佐伯の頭をげんこつで殴った。佐伯は頭を押さえてもんどりうっていた。

     するといきなり権蔵の手が上がった。高城は視線を佐伯から権蔵へと向けた。


    「ちょっといいか?真紀ちゃんには話していたんだが、探偵の兄ちゃんにはまだだったのでな……」


     権蔵がそういうとポケットの中から封筒を取り出すとその封筒をテーブルの上に投げた。


    「それを読んでくれや!」


     そういうと権蔵は煙草に火をつけた。和子が止めるも一本ぐらい吸わせろといって聞かなかった。高城は権蔵の顔を見ると彼は目で合図をした。その合図を確認すると高城は封筒の中から一枚の手紙を取り出した。

     その内容に高城は驚いた。高城だけではなく勝手に覗いていた佐伯も驚きのあまり近くにあった机に腰をぶつけていた。

     手紙にはこう書かれていた。


    『You make themtake your life in the party opened on December 24.  It’s revived in darkness in Christmas Eve, ”Jack the Ripper” 』


    「解!!この手紙、中務グループに送られてきたものと同じだぞ!?」

    「本当か!!」

    「あぁ、一言一句一緒だぜ!」


     佐伯のその答えにも驚いたが、犯人が恨みを持っていたのは中務グループだけではなかったということにも驚いた。


    「(これってひょっとして)」


     高城が何かを考えていると中丸もポケットから手紙を出した。


    「その手紙ならこちらにも届いているの」


     その文面は権蔵の持っていた手紙と同じだった。さらに平良も机の上に手紙を置いていた。ということは、


    「ここの参加者全員に恨みのあるメンバーが犯人……ということか……」


     高城はそうつぶやくとすぐにメモを取った。


    【このパーティーの参加者全員に恨みがあるものの犯行】
  27. 27 : : 2018/01/27(土) 11:30:44
     メモの取り終わった高城は事件の大まかな説明を佐伯たちにした。話し始めるとあまりに堅苦しかったのか権蔵に、


    「高城君よ、堅苦しいのは無しで自分の話しやすいようにしゃべりな!」


     といわれた。高城が戸惑っていると、権蔵がさらにつけたした。


    「俺は堅苦しいことが嫌いなんだ。もっとフランクに行こうぜ!」


     と笑顔で言ってきた。高城はどうしたらいいかわからず、和子のほうを見ると和子も小さくうなずいて、


    「確かに探偵の世界ではそれが普通かもしれませんが、堅苦しすぎると人に不安を与えてしまうこともあるんです……主人はそのことを人一倍経験しているんですよ……」


     と続けた。権蔵は和子を自分のもとに抱き寄せながら答えた。


    「そういうこった!だから、俺のことも苗字じゃなくて名前で頼むぜ!」

    「(本当にすごい人だな……)」


     高城はそう心の中で思い、期待にこたえ、


    「わかりました。権蔵さん。では、続けますが……」


     と話を続けた。少し肩の力を抜けた高城を見た高橋夫妻はそのまま彼の様子を眺めた。


    「……とここまでが、現場についてなんだ。そして、死亡推定時刻が午後6時30分~7時の間なんだけど、みなさんその時に何をしていたんですか?」

    「お。アリバイ調査ってやつだな?」

    「おい!修!これは遊びじゃ……」


     高城が注意しようとしたとき佐伯が珍しくまじめな顔をして話に割り込んだ。


    「そんなのわかってるよ!それよりもその時間は全員の犯行が無理だろうが……」


     その佐伯の言葉に高城は少し考えたが、あることに気づいたようですぐに顔をあげた。。


    「そうだ……この時間はパーティー中……殺人なんて起こせない……」

    「なんで!?そんなのって……」


     真紀が信じられない表情で話し始めた。しかしこれが事実だということは、全員が知っている。

     全員が食堂にいたこの時間には犯行は無理だ……だから……


    「全員のアリバイが……成立した……」


     高城のその発言に食堂の空気は凍り付いた。そして、不安のあまりため息までもが漏れたのだった。
  28. 28 : : 2018/01/27(土) 11:35:02
     高城はこれ以上考えても煮詰まるだけだということで一度仮眠をとって朝を迎えようということを提案した。それに全員が賛成して部屋に戻るために重い腰を上げた。するとここで田丸から提案があった。


    「すいません。もしあれでしたら今回の部屋割を二名ずつにしたいなと思うのですが……」

    「ん?どうしてだ?」


     理解のしていない佐伯に高城はため息をつくと説明した。


    「殺人事件が起きたということは犯人がいる。フェリーや小舟の類がない今俺たちはこの島に閉じ込められているんだ。」

    「……てことはこの事件は……」

    「そう……この島にいる人物の犯行だ。しかも、ここにはスタッフがいるが田丸さんがすべて監視をしていて、ことがあると逐一スタッフのイヤホンに連絡が入るということだし、今回の様な音が出てしまう犯行の場合、スタッフが胸につけているマイクが音を拾ってしまうんだ。」


     高城の話に田丸はうなずくと自分のしているイヤフォンとマイクを見せた。そのマイクを確認した高城は田丸に質問をした。


    「田丸さん……今回の事件の時、あなたはその監視部屋を離れましたか?」

    「はい……この時間の時は私は食堂に入っておりましたので……監視部屋に残した二人のスタッフに話を聞きましたが現場を離れていないといっていましたし、監視カメラにも私はきっちり映っているということだったので……」


     それを聞いた高城はいすから立ち上がると、


    「これらのことから推測すると田丸さんとここのホテルスタッフには犯行は不可能……つまり、俺たちの中に犯人がいるということになる。」

    「なるほどね……お互いがお互いを監視するということね……」


     周子が納得したように高城に告げると高城は首を横に振った。


    「いいえ……監視をしてしまうと皆が警戒しすぎてしまって事件の全容が見えなくなってしまいます。なので、ここでは犯人の行動を制限するということが正しいですね。」


     首を横に傾げていた佐伯は中丸の説明を聞くと大きくうなずいた。そして高城はなるべく部屋が固まるようにみんなを2階へと集めることにした。

     高城と佐伯が2号室、権蔵と平良が3号室、真紀と中丸が5号室、周子と和子は6号室で寝ることになった。

     それぞれの部屋割を田丸から聞いた高城たちはすぐに部屋へと戻り、就寝準備をすることになった。

     部屋の移動が終わった高城たちはすぐに寝る準備へと取り掛かった。佐伯はシャワーを浴びにお風呂へと入っていた。そこを見計らって高城はあらためてつないだノートパソコンを開いてスカイプで祖父とつないだ。


    「解じゃないか!久しぶりじゃの!」

    「今日の朝あったじゃないか……」

    「そんなの覚えとらん!」

    「お酒の飲みすぎだよ……」

    「そうじゃの!ハッハッハ!」


     そんなたわいもない会話をしていたが、祖父はすでに気づいていた。孫がこんなたわいのない話でスカイプをしてくるわけがないと……


    「で、どうしたんじゃ?……の前にお前さんの後ろにいるのは誰じゃ?」


     高城が後ろを振り向くとそこには腰にタオルを巻いただけの佐伯が立っていた。


    「な……なんて格好で出てきてるんだよ!!」

    「いいじゃんか!男同士だし!」


     佐伯のあらわになった上半身を見て高城は思わず顔を覆った。その様子を見て笑っていた佐伯はノートパソコンの人影に気づいた。


    「ん?もしかしてここにいるのって解の探偵のおじいちゃん!?」


     その言葉を聞くと祖父は笑顔でうなずいた。慌てた佐伯はすぐにパジャマを着て高城の横に座って話を聞くことにした。
  29. 29 : : 2018/01/27(土) 11:37:30
     高城は佐伯が服を着るとすぐにパソコンのほうを向き報告を始めた。今回起きた事件のこと、自分が殺人を止められなかったこと、その後の判断、すべて祖父に話した。すると祖父は頭を掻いて、


    「ん~、すこし厄介じゃの~……」


     といった。何が厄介なのか気になった高城は祖父に聞いてみた。


    「まだ何が厄介かわからん……解!今日とった写真全部送ってくれ!!」

    「わかった。じゃぁ、切るね……」


     そういうと高城は電話を切り祖父に今日とった写真をすべて祖父のメールアドレスに送った。


    「なぁ、解……」


     佐伯が不安そうに高城に声をかけた。


    「なんだよ……」

    「この建物の中に犯人だいるんだよな?」

    「俺はそう思っている……」

    「怖い……」


     そういうと佐伯は留守番して母の帰りを待っている子どものように縮こまってしまった。高城は佐伯の不安をとるために話を聞くことにした……


    「怖いって何が……」

    「貴子……あいつの身にもしものことがあるかもしれねぇだろ?」

    「それは修だって一緒だろ?」


     高城はそういうと佐伯の顔を覗き込んだ。佐伯の目は涙で潤んでいた。



    「俺は別に……さ……けど、貴子が……」

    「自分は死んでもいいように言うなよ!!」


     高城が大声でどなった。その声に佐伯は顔をあげた。ゆっくりと上がったその顔は今まで見たこともないぐらい衰弱していた。


    「わ……わりぃ……」


     高城は佐伯の表情を見ると怒鳴ったことを誤った。感情的にどなってしまったことが佐伯の心を傷つけたと思ったからだ。


    「いや……解は悪くねぇ……」


     佐伯はそういうとベッドに寝転がった。高城も部屋の電気を消してゆっくりとベッドに寝転がった。ダブルベッドということが幸いして、お互いの体が触れあうことはなかった。

     高城は天井を見上げた。黒く染まった天井が心に広がっていく気がして仕方なかった。


    「(なんで……起きちまったんだよ……せっかくのクリスマスパーティーなのによ……)」


     そう思いながら高城は静かに目を閉じた。
  30. 30 : : 2018/01/27(土) 11:37:59
    「ったく、誰だ……こんな時間に娯楽室に呼び出したのは……」




    「しっかし、厄介なことになっちまったな……まさか、源次郎さんが……」






    キィ……






    「誰だ!!」




    「なんだ、お前さんか……お前さんも呼ばれ……ムグ……」



    ……グサッ



    ………………………………
    ………………
    ………
  31. 31 : : 2018/01/27(土) 11:42:38
    「グハッ!!」


     翌朝、高城は腹を襲った重たい一撃によって起こされた。その衝撃の先をみると佐伯がパンツ一枚の状態で高城の
    腹の上をまたいで腰を上下に振っていた。


    「ちょ……おさ……みゅ…………」

    「誰が『おさみゅ』だ!!早く起きろ!!」


     佐伯は腰を前後に振ったり上下に振ったり回したりして高城の腹を刺激した。高城はどうにか逃げようともがいたがなかなか逃げることができなかった。


    「(こんなところ真紀に見られたらまずい……)」


     そう思った高城は佐伯を自分のもとに、

    グイッ!

     と引き寄せるとそのまま抱きしめた。


    「ちょ……おま……何し……おわぁ!!」


     佐伯が顔を赤らめながら高城に質問すると高城はその質問の途中で体を思いっきりひねって佐伯の上にまたがった。


    「おまえ、朝から何してんだよ……」


     そういうと高城は佐伯をしっかり足で固定すると拳を握りしめた。


    「ちょっと待った!!俺のことよりもパソコンを見ろって!!」

    「は?こんな時に何言って……」

    「いいから!」


     佐伯がそういうので仕方なくパソコンのほうを振り返ると、昨晩まできれいに線をつないでいたパソコンがボロボロに壊されていた。


    「ちょ……やったのお前か!!」

    「いや、違うって!なんで同じ部屋の俺がお前のパソコンつぶすんだよ!!」


     佐伯が全力で否定すると今度は扉のほうを指差した。


    「ほら、ドアノブが壊されてるんだ……」


     そこには壊れたドアノブが部屋に落ちていた。そのドアノブを拾った佐伯はあることに気づいた。


    「これって力技でつぶしてるな……」

    「どうしてわかるんだ?」


     佐伯の疑問に高城はドアノブの取っ手のところを指差して言った。


    「ほら……このドアノブのところ……よく見ると少しへこんでるだろ?これは、誰かがハンマーでドアノブをたたき割ったってことなんだ……」

    「そんなこと可能なのか?」

    「あぁ……」


     佐伯の疑問に返事をした高城は今度はもともとついていたドアのほうを指差した。


    「ここ見てみろよ……」

    「きれいな切り口だな……」


    「おそらくだけど、先にチェーンソーか何かで形どったんだと思う……このドアは木製だしね……」

    「そっか……それならなんとか行けるかもしれねぇ……けど……それならチェーンソーで斬るだけでいいんじゃねぇか?」

    「いや……これはカモフラージュのためのものだから……って待てよ!!」


     そういうと高城は急いでカバンの中身を調べた。そしてあることに気づいた。


    「俺の捜査セットが盗まれた……」

    「なんだって!?」


     幸い、カメラと手帳は無事だったようだが、捜査セットが盗まれてしまった。しかし、高城は冷静だった。捜査セットがなくなったことを知るとすぐに備え付けられている金庫を開けた。


    「予備を持ってて正解だったな……」


     そういうと高城はすぐに予備の捜査セットをかばんに入れた。その時、真紀たちがこちらに向かってくる声がした。


    「あ、解おはよう……ってなにこれ!?解たちも!?」


     真紀は驚いていた。高城は横にいた中丸のほうを見ると彼女が小刻みに震えているのが分かった。それを見た佐伯がすぐに駆け寄ると中丸に何があったのか聞いた。

     しかし、中丸はかなりおびえており、何も話さなかった。


    「代わりに私が説明すると、昨日の夜中に貴子の叫び声が聞こえたから飛び起きたんだ。」

    「叫び声?」

    「うん……貴子が服を全部ぬがされてて……」


     真紀がそこまで言うと高城は真紀が話すのを止めた。ある程度状況を理解したからだ。


    「……顔は見たのか?」

    「ううん……顔は見てないの……マスクみたいなのしてたから……あ、けどね……近くにあったスノーボールを投げつけたら手に当たってさ……すぐに逃げていったよ?」


     高城は今のやり取りを手帳に残した。


    【中丸貴子が部屋で性的暴行に合うが、真紀の機転で未遂となる(腕をけがしている可能性)】


    「その時に扉がこんな感じになっていたんだな?」

    「うん……誰も入ってこないようにバリケード作ったもん!」


     高城は事情をすべて聞いたところで部屋の時計を見た。部屋の時計は8時を指していた。


    「もうこんな時間か……朝飯でも食べに行くか……」


     そういうと高城は着替えるために真紀と中丸をいったん部屋から出して佐伯と一緒に着替えた。佐伯の表情は怒りに満ちていたため、きがえながら高城は彼をなだめた。

     着替えも終わり、彼らが部屋を出るころには中丸も落ち着いてきたようで震えは止まっていた。

     その様子を見て安心した高城と佐伯は彼女たちを食堂にエスコートした。
  32. 32 : : 2018/01/27(土) 11:46:04
     食堂につくと田丸が食堂の前で待っていた。


    「皆様!心配しましたよ!!」

    「朝食は9時まででしょう……」


     田丸の心配そうな表情に真紀がため息をつきながら答えた。


    「そうは言いましてもお嬢様……このご時世、何があるかもわかりませんし……まぁ、何もなくてよかったです……」


     というと田丸は高城たちを席に案内した。それと同時ぐらいに和子と周子、平良が田丸たちのもとに寄ってきた。


    「あの……すいませんが主人を見ていませんか?」

    「主人って……権蔵さんいないんですか?」


     高城は話しかけてきた和子に聞くと和子は小さくうなずいた。その後和子は近くのいすに周子とともに腰かけた。田丸が水をとりに厨房へと入ったのを確認すると平良も席に座った。


    「平良さん。あなた権蔵さんと同じ部屋でしたよね?」

    「えぇ……。実は彼、夜中ぐらいにお酒を買いに行くといってから戻ってきてないんです……」

    「なんですって!?」


     高城がそう叫ぶと急いで立ち上がった。その様子を見た佐伯も立ち上がり、高城とともに目で合図を送りそのまま食堂をかけだした。


    「俺は3階を探すから修は2階を探してくれ!!」

    「わかった!!」


     居所のわからなくなった権蔵を二手に分かれて探すことになった。

     高城は3階に上がると部屋を開けようとしたが全部の部屋にロックがかかっていた。


    「そっか……使ってないからあかないか……」


     高城はそういうと娯楽室のほうへと歩を進めた。

     娯楽室の前にたどり着くと高城の足元に赤い斑点と液体が広がっていた。


    「これってもしかして……」


     早速、高城は持っていた捜査セットを使ってその斑点を調べた。すると……


    「これって……血痕!?」


     ここにあるのは誰かの血……まさか……。そう思った高城は一歩ずつ部屋に入った。そこで高城は恐ろしい光景を見た……


    「ごん…………うぶ!!」


     そこには首と四肢をバラバラにされた権蔵の死体があり、部屋中には血しぶきが飛び散っていた。

     おびただしいほどの死臭に自らの口を覆ってしまった高城だったが無理もない……

     そこには今まで経験したことのないぐらいの血液が部屋一面に広がっていたのだから……
  33. 33 : : 2018/01/27(土) 11:50:32
     高城はしばらく立ち尽くしていた。


    「(どこから調べればいいのか……そうだ!まずは現場を写真に収めよう……)」


     そう思って高城はカメラを取り出したが、手から滑り落ちてしまった。自分でも知らないうちにおびえていたのだろうか……

     カメラを拾い上げたその時階段を駆け上がる音が聞こえた。


    「解!!見つかったか!?」


     佐伯が全力で高城に駆け寄った。そして、中の惨状を見るとすぐに……


    「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


     と叫び声をあげた。その叫び声を聞いてみんなが駆けつけるまでにさほど時間がかからなかった。


    「佐伯くん!!どうしたの!?」

    「修!?」


     真紀と中丸が佐伯に近寄ろうとしたとき高城が真紀と中丸を抱きしめた。そして彼女らの耳元で、


    「真紀たちは見ないほうがいい……権蔵さんは…………死んだ……」

    「え……」


     高城の報告を受けると真紀と中丸は膝をついた。代わりに和子が高城のほうに詰め寄ってきた。


    「うそ……でしょ?……私の……主人が死んだって!!!」


     高城は胸ぐらをつかまれた。そしてそのまま数回揺さぶられる。


    「答えなさいよ!!!主人は生きてるんでしょ!!主人をどこに隠したの!!答えなさいよ!!!」


     高城は自分に何もできない無力さに唇をかんだ。そして体を震わせながら無言で娯楽室を指差した。


    「おい!!解!!」


     佐伯が高城の肩をつかむが高城はそれを振り払い佐伯のほうを見て、ゆっくりと伝えた。


    「和子さんは現実を見れていない……時には現実を突きつけるのも探偵の……仕事なんだ……」


     高城は声を震わせながら佐伯に一言一言しっかりと伝えた。しかし、それを聞いていた和子は鼻で笑い高城のほうを見て怒りをぶつけながらゆっくりと娯楽室を見た。。


    「何が現実よ!!嘘に……嘘に決まって……!?」


     娯楽室の中を見た和子はこきざみに震え、ゆっくりと膝をついた。


    「あ……あな…………た……?」


     次の瞬間、和子は声にならない声で泣いた。周子が駆け寄り彼女を抱きかかえ田丸とともに食堂へ行くこととなった。その涙が床に落ちるたび、そこにいる人たちの心の明かりは消えていった。

     高城は天を仰いだ。

     真実を突き止める仕事……

     祖父がかっこいいと思って始めた探偵……

     その仕事の重みを痛感した瞬間だった。
  34. 34 : : 2018/01/27(土) 11:54:34
     周子たちが階段を下りたのを確認した高城は大きく息を吸い込み、捜査を始めようとしたが、真紀たちをここに残すわけにはいかないと彼女たちに役割を与えた。

     佐伯は中丸のボディガードに任命した。そして、真紀と中丸は和子のところへ行くことになった。現場に残っていた平良は源次郎の時と同じように検死をお願いすることにした。

     役割を告げられたメンバーはすぐに行動に移ることになった。現場検証を始めた高城だったが、一つ気づいたことがあった。


    「平良さん……昨日右腕に包帯巻いていましたっけ?」


     高城はそういうと平良の右腕にまかれた包帯を指差した。平良は笑顔でその質問に答えた。


    「あぁ……これですか?これはですね……昨日医療バッグを開けたら刃物類が落ちてきましてね……手首を切ってしまったんです……」

    「そう……ですか……」


     高城は頭に疑問符を残しながら写真を撮り始めた。

     まず、写真を撮ったのはボーリングのボールの近くにおかれた顔だ。その目玉はくりぬかれており、鼻も切り取られていた。

     高城はそのまま権蔵の首元を見ると縄目の跡がついていた。


    「(絞殺……か……)」


     そう高城がメモをとろうとしたとき、平良が検死結果を報告した。


    「死因は腹部を斬られたことによる失血死で間違いなさそうですね」

    「え!?」


     高城は驚いて胴体のおいてあったビリヤード台へと急いだ。


    「失血死ってどういう了見です?」


     高城は首元に線状痕があったことから絞殺だと推測したことを伝えたが、平良は首を横に振り腹部を指差した。


    「ちょっと見ていてください……」


     そういうと平良はゴム手袋をはめて腹部を開いた。腹の内側を見るのは初めてだった高城は思わず口元を覆った。


    「(しばらく……肉……くえねぇな……)」


     と悲しそうにしていると平良は高城にもゴム手袋をつけるように促して中を触れといってきた。

     高城はゴム手袋をはめて恐る恐る手を入れてみると中は空洞だった。


    「あれ?ここって内臓がありませんでしたっけ?」

    「そうなんです……ここには内臓があったはずなんですけど、それがすべてなくなっているんです……そして……」


     今度は胸部の傷に手を入れて胸部も開いた。するとそこには……


    「肺と心臓がない!?」


     すると高城はあることを思い出した。今回の手紙の送り主である『切り裂きジャック』は一説によるとある一定の内臓を被害者の体から抜き取ったといわれている。

     しかし、今回の権蔵は臓器すべてが抜かれていた。


    「(今回はたまたまか……それとも……)」


     そう思いながら高城はメモに今得た情報を書き留めた。


    【首に線状痕】

    【死因は腹部を斬られたことによる失血死?】

    【臓器すべてが抜かれていた】


    「そういえば死亡推定時刻はいつですか?」


     高城は聞いてみたが平良は頭を抱えて、


    「それが分からないんですよ……ここまで死体の損傷がひどいと……」


     と答えた、


    「(確かに判別は難しいかもな……)」


     高城はそう思っていると、平良は血の塊具合から予想としては5時間前にはすでに死んでいただろうといった。


    「5時間前ってことは……」


     高城は時間を確認すると時計は10時を指していた。すると最低でも午前5時には権蔵は死んでいたことになる。そう考えた高城は前1時間を死亡推定時刻に組み込んだ。


    【死亡推定時刻は午前4時~午前5時】


    「(っていってもこの時間全員のアリバイがないな……)」


     この時間帯は誰もが睡眠をしている時間帯だ。誰もが完全にアリバイがあるはずがない。と思っていた高城だったが、あることを思い出した。


    「ん?待てよ?あいつらなら何かわかるかも……」


     そういうと高城は平良を残して、みんなのいる食堂へと駆け出した。
  35. 35 : : 2018/01/27(土) 11:56:13
     食堂には周子と和子が紅茶を飲んでいた。どちらも笑顔で会話していた。和子もどうやら乗り越えたようだ。

     高城はふと周りを見渡すと真紀たちが食堂にいなかった。


    「すみません!真紀たちはどこに……」


     高城は食堂の外から大声で声をかけた。すると和子が、


    「真紀ちゃんたちなら部屋に帰りましたよ!」


     と返してくれた。高城は礼を言うと和子のもとへと歩みより、


    「その……なんて言ったらいいかわからないですけど…………その……ご主人……」

    「もういいのよ……」


     高城が何かを伝えようとしたのを遮って和子が話を始めた。


    「私たち、さっきも話をしていたのだけど、探偵さんが来たから大丈夫だって心のどこかで思っていたのよね。その心のすきを犯人につかれてしまったみたいなの。」

    「そんな……探偵が来たから安全という感情は誰もが持つ感情で、それに答えられなかった俺は……」

    「それは違うわ。」


     今度は周子が高城に対して意見を言おうとしていた。高城は周子の話に耳を傾けた。


    「まだ、あなたは答えられなかったわけじゃないでしょ?この事件はまだ終わっていないのよ。探偵が諦めたらそこで事件は迷宮入りなのよ?」


     高城は周子の言葉にハッとした。


    『探偵が諦めたら事件は迷宮入り』


     常日頃、祖父が話していた言葉だ。どのような難事件にぶつかっても見方を変えて何度も立ち向かう。それが探偵なのだと。


    「(そっか……今なら……)」


     高城は探偵の本質を思い出すと周子たちに頭を下げた。


    「ありがとうございます!!俺、この事件絶対に解いて見せます!!」

    「じっちゃんの名に懸けて……ですね」


     周子が最後にそういうと食堂は笑いに包まれた。そして高城はまた何かあれば話を伺う旨を残してその場を離れ、真紀たちのもとへと急いだ。
  36. 36 : : 2018/01/27(土) 11:57:37
     真紀の部屋をノックしてしばらくするとゆっくりと扉が開いた。そこには真紀と佐伯と中丸が三人でコーラを飲みながら談笑していた。


    「なぁ、俺たちに何かできることはないか?」


     高城の表情を見た佐伯がいきなり高城の肩をつかみ聞いてきた。高城は何が何だかわからず説明を三人に求めた。


    「おちつけって!どうしたんだよ!!」

    「私たちね……ずっと話をしていたの……解だけが働いているのに私たちはこれでいいのかって……」


     真紀が涙目になりながら話し始めた。ずっと高城のことを心配していて和子と話している最中もずっと涙目だったらしい。


    「だから……さ……私たちにも何か手伝わせて!」


     高城は少し悩んだ末に彼らの意気込みを買うことにした。


    「そうだな……わかった!!協力してもらうとするか!!」


     高城のその言葉を聞いた瞬間、三人は飛び跳ねた。その様子を見ると高城は彼らに指示を出した。


    「それじゃぁ、真紀と中丸さんは周子さんと和子さんに昨晩の1時から5時の間に権蔵さんを見ていないかとその時間のアリバイを聞いてきてくれ!忘れないようにメモも取ることも怠らないでほしい。それが終わったら医務室に行って輸血パックの数を調べてくれないか?もともとあった数は田丸さんに聞けばわかると思うから……」

    「わかったわ!!」

    「メモなら私がとりますね」


     そういうと中丸はカバンの中からノートとペンを取り出した。


    「修は俺と一緒に現場検証だ!気になったところを写真におさめてほしい。」

    「死体慣れしてないけどわかった。」


     高城は最後に全部調べ終わったらこの部屋に戻ることを約束した。全員がうなずいてその場を後にした。
  37. 37 : : 2018/01/27(土) 12:00:39
     高城たちはまず、源次郎が殺害された現場へと足を踏み入れた。その現場の様子は昨日とは違い、血だまりも乾燥して床へとしみこみその箇所が赤黒くなっていた。


    「相変わらずおっかねぇな……」


     佐伯はゆっくりと足を踏み入れるとあますところなく写真を撮っていた。高城も気になっていたことがあったので簡易の血液検査をすることにした。源次郎の首元にある血液を少し拝借すると専用のキットを使い検査するとあることが分かった。


    「(これは……毒物反応?)」


     おかしな結果が出たので高城は手帳を読み返すことにした。


    【被害者:中務源次郎】

    【死亡推定時刻:18時30分~19時の間】

    【死因:首を斬られたことによる失血死】


    「見つけた。」


     高城はそうつぶやくと死因と検査結果を照らし合わせた。検査してみてわかったことはこの検死結果には矛盾があるということだ。

     首を斬られたことによる失血死ということは、毒物は使わない。睡眠薬を使ったケースなら高城も聞いたことがあったのだが、毒物を使ったというケースは少なくとも彼が担当した事件ではあまり聞かなかった。

     それに今回は睡眠薬の可能性は検査結果から皆無だということで余計に疑問が増えてしまった。


    「(つまりはこの検死結果に誤りが?)」

    「解!!」


     高城が検死結果に疑問を持っていたころ佐伯が新たな証拠を見つけたらしく高城のもとへやってきた。


    「どうした?」

    「これ、なぁんだ!」


     といいながら佐伯が見せたものは注射器だった。その注射器は使用済みのものだった。


    「ゴミ箱をあさってたら出てきたんだ!」

    「それ、貸してくれ!!」


     高城は佐伯が持っていた注射器を借りると別のキットを使い検査を始めた。

     その検査をしている最中に佐伯はさらに話を続けた。


    「あと、発見したんだよ、明らかにおかしいところが……」

    「それは何?」

    「床の血痕が2種類あるんだよ!」

    「は?」


     佐伯の話がよく分からなかった高城は案内するように頼んだ。佐伯が案内したのは源次郎の死体の首元だ。


    「ほら、ここと……ここ……色が違うだろ?」


     高城がよく見ると血液の色が違うことがわかった。おそらく一つは源次郎のものだろうが……もう一つは……


    「やっぱりな……」


     高城は何かを確信した。そして、急いで先ほどの注射器の検査結果を見た。


    「これは……ひょっとしたらひょっとするぞ……」


     そういった高城は佐伯に権蔵のところに行くことを告げると駆け足で源次郎の部屋を後にした。佐伯は何があったかわからなかったが、そのまま高城の後を追った。
  38. 38 : : 2018/01/27(土) 12:25:40
     娯楽室についた高城は先ほどと同じように血痕を調べた。するとここの血痕も2種類の色になっていた。そして、発見当初は気づかなかったが、ボーリングのレーンのところに『Jack the Ripper』の血文字が残っていた。そして、権蔵の爪に何かがついていることに気づいた高城はそれをよく見た。


    「これは皮膚か……」


     そう思った高城はその皮膚を権蔵の皮膚とともにDNA検査キットにかけた。すると結果は『DNAの不一致』だった。


    「(これを引き合いに出せば犯人はすぐにおちる……)」


     そう思った高城はこれを重要証拠とすることにした。証拠がそろった高城だったが肝心の犯人にたどり着いていなかった。そこで話が終わっている真紀たちと合流するために急いで真紀の部屋へと戻った。





     高城たちが戻ると真紀たちはすでに部屋へと戻っていた。


    「あ、お帰り~!」


     部屋の冷蔵庫にあったコーラを飲みながら談笑していた真紀が高城たちを迎えた。どうやらミニおかしパーティーをしていたようだ。

     高城と佐伯もそれに便乗させてもらった。少し時間がしてから報告会へと入っていった。


    「そっちはどうだった?」


     ポテトチップスをほおばりながら高城は真紀に聞いた。


    「ん~、ママは夜中の0時ぐらいに先に眠っていたんだけどね……和子さんが、水を買いに2時ぐらいにロビーに行ったんだって……」

    「ロビー?売店じゃなくて?」

    「うん……ミネラルウォーターはロビーで買うことになってるの。それでそれを買った帰りに権蔵さんが血相を変えて三階に上がっていくのを見たんだって……」

    「声はかけなかったのか?」


     高城が最後に聞くと真紀は首を横に振った。


    「あまりに怖くて聞けなかったんだって……」

    「それと輸血パックに関してですが、段ボール二箱分あった輸血パックが1箱半使われていました。」


     真紀の話の後に中丸は続けた。その話を聞いた高城は確信を得たことがあった。

     現場にあった血液が被害者のものと輸血パックによるものだということが分かったのだ。


    「そういえば、貴子が襲われたのはどれぐらいだ?」


     佐伯が疑問に思って聞いた。中丸は首を傾げた。


    「だめ……正確な時間はわからない……けど1時過ぎぐらいかな?」

    「1時過ぎか……」


     和子が権蔵を最後にみたのが午前2時ということは死亡推定時刻は午前3時から午前5時となる。俺が検死結果や死体の状況から割り出したのは午前4時~午前5時だった。


    「(これにもずれが……)」


     この検死結果のずれは偶然なのか必然なのか。高城にはよくわからなかった。とりあえず、高城は今回の事件内容をまとめてみることにした。
  39. 39 : : 2018/01/28(日) 14:59:59
    ―事件のまとめ―
    ◎被害者:中務源次郎

    死因:首を斬られたことによる失血死⇒服毒による毒殺

    死亡推定時刻:18時~19時の間(検死結果から変更したもの)

    ・死体発見現場は被害者の個室

    ・首が切断されており、腹部から内臓の一部が抜かれていた。

    ・壁には『Jack the Ripper』の血文字があった。

    ・死因を毒殺に変えた根拠は注射器から毒物の反応が出たため。

    ・現場には2種類の血痕⇒本人によるものと輸血パック。



    ◎被害者:高橋権蔵

    死因:腹を切られたことによる失血死⇒首を絞めて気絶させてからの模様

    ・死体発見現場は娯楽室

    ・死亡推定時刻:午前2時~午前5時

    ・首と四肢がバラバラにされており、内臓・器官がすべて抜かれている。

    ・目玉がくりぬかれていた。

    ・ボーリングのレーンに血文字

    ・爪の中から皮膚⇒重要証拠(DNA鑑定済み被害者のものとは不一致)

    ・現場には2種類の血痕⇒本人によるものと輸血パック



    ◎源次郎事件の証言と証拠
    ・18時:源次郎の注射の時間

    ・注射を打った後の仕事も欠席したことはない。

    ・パーティーの挨拶の変更指示をしていた

    ・首元の血液から毒物反応

    ・注射器の中からも毒物反応


    ◎権蔵の事件の証言と証拠
    ・午前2時ごろ:和子が、権蔵が娯楽室に行くのを発見している

    ・権蔵の事件の前に中丸貴子が襲われている(性的暴行)

    ・真紀が犯人にスノードームを投げてそれが腕に当たった。

    ・権蔵の爪の中から皮膚検出⇒権蔵の皮膚ではない⇒犯人のもの
  40. 40 : : 2018/01/28(日) 15:02:34
     以上を書き終えた高城は犯人を推測する作業にはいろうとしたとき、中丸が高城を呼んだ。


    「あの……私周子さんに呼ばれているのでそろそろ行ってもいいですか?」

    「お母さんに?私じゃなくて貴子が?」


     真紀が不思議そうに聞くと中丸はうなずいた。


    「えぇ……なんか二人で話がしたいらしいの……」

    「仕事関係の話しかしら……」


     少し不安に思っていた真紀だったが、二人だけの話ならば何も心配することはないだろうと中丸を送り出すことにした。

     真紀が扉を開けると中丸が部屋を出てそのまま周子の部屋へとむかった。

    周子の部屋は近かったので彼女が周子の部屋についたときに真紀はドアを閉めた。
  41. 41 : : 2018/01/29(月) 16:34:03
    「周子さんの話って何かしら……」



    「仕事の話だとしたらどういえばいいかなぁ……」



    「私……交渉苦手だしなぁ……」



    「…………ング!?」



    「ン――ン――……ンー……」



    ………………………………
    ………………
    ………
  42. 42 : : 2018/01/29(月) 16:38:44
     10分ぐらいしてお菓子がなくなった高城たちはコンビニにお菓子を買いに行こうと外に出ることにした。

     扉を開けると中丸の姿が全然見えなかった。話が立て込んでいるんだなと思い食堂のほうに歩いていくと食堂から周子が一人で出てきた。


    「あ……ママ!!」

    「真紀、どうしたの?」

    「どうしたのじゃないよ!!ママこそ貴子に何の用だったのよ?」


     真紀が自分が呼ばれていないことに腹を立てると周子を問い詰めた。しかし、周子は呼んだ記憶がないのかその場で考え込んだ。


    「ちょっとママ!!」

    「そんなに大きな声を出さないでよ……私は貴子さんを呼んでいないわ。今から和子さんと買い物に行くのだけどそれまでの時間、一人でコーヒーを飲んでいたんだから……」

    「ちょっと待ってください!一人ということは……確認なんですけど中丸さんといっしょではなかったんですね?」

    「え……えぇ……」


     周子に確認した高城はすぐに中丸の危険を察知した。


    「中丸さんが……危ない!!」

    「なんだって!?」


     佐伯はそういうと全力でホテルの階段を駆け上がった。それを高城も全力で追う。


    「修!!大浴場だ!!部屋から近くて誰でも入れる場所はあそこしかない!!」

    「わかった!!」


     佐伯と高城は急いで大浴場へと向かうと……


    「イヤ……やめて……やめてぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」


     と女性の声が廊下中に響き渡った。その声を聴いた高城たちはすぐにスピードを上げた。


    「死ぬな……死なないでくれ……貴子―――――!!」


     佐伯が大声をあげると、その勢いで近くにあった大浴場の扉を蹴破った。するとそこには服を脱がされて地面に横たわっている中丸の姿があった。

     顔が水に濡れていいることから大浴場のお湯に顔を押さえつけられたのだろう……


    「貴子……貴子!!」


     佐伯はすぐに中丸の横に駆け付けて彼女をゆすった。中丸の横にはある人物が立っていた。高城はその人物を無視して中丸の体に近くにあったバスタオルをかけると彼女の生死を確認した。


    「……まだ息はかすかにある……」

    「本当か!?」


     驚いた佐伯に高城はうなずいた。そして、高城は佐伯の許可をとり心臓マッサージと人工呼吸を行った。すると高城が二回目の人工呼吸を行ったときに……


    「……ケホ……ケホケホ……」


     と中丸が息を吹き返した。その様子を見た佐伯の目から涙が流れ、彼女を無言で抱きしめた。

     しかし、それで終わるはずがない。高城はすぐに現場にいた人物の顔を見ると残念そうに話を始めた。


    「あなたが犯人……切り裂きジャックだったのですね……」

    「…………」


     その人物は高城のほうをじっと見たまま言葉を発さなかった。その様子を見た高城が話を続ける。


    「今回の事件の犯人があなたということには確信をもてませんでした……ですが、今回のことではっきりとした……ピースはすべてそろった!!」


     高城は力強くそういうと遅れた真紀たちも駆け付けた。


    「全員そろったことですし今回、濃霧島で起こった連続殺人事件の解決偏といきましょうか……」


     そういうと高城は一つ一つ推理を始めた。
  43. 43 : : 2018/01/29(月) 16:39:03
    「今回の事件は源次郎さん、権蔵さん、中丸社長あてに殺害予告が送られたことから始まったんだ。」

    「血文字で書いた殺害予告を送り付けることでこの3人を最初殺害する予定だったんだ。」

    「しかし、犯人に誤算が起こってしまった。それは中丸社長の欠席だった。中丸社長が欠席したことにより娘の貴子さんが来たことにより犯人は計画していた殺人事件を変更せざるを得なくなったんだ。」

    「そして、クリスマスパーティーの中犯人は一つ目の被害者である源次郎さんを殺害することになったんだ。」

    「その次に犯人は中丸さんを殺害する予定だった。だけどそれが未遂に終わってしまったんだ。」
  44. 44 : : 2018/01/29(月) 16:41:44
     高城の推理を聞いている最中、真紀が高城の話を遮った。


    「ちょっと待って!!もしかして、貴子が夜中に襲われたときって……」

    「あぁ、おそらくそれは中丸さんを性的暴行したのち、そこで中丸さんを殺害して真紀に犯行を押し付けることが目的だったかもしれないな……」

    「え!?ちょっとあなた!つくづく最低な人間ね!!」


     高城の話を聞いた真紀は犯人を毒づいた。犯人は口元が少し緩んだ以外は反応がなかった。犯人の反応にため息をついた高城は推理を続けた。


    「中丸さんの事件が未遂に終わった犯人は権蔵さんを娯楽室に呼び出していたということもあり、すぐに娯楽室へと向かったんだ。犯人と一緒になった権蔵さんはおそらく殺されるとは思っていなかっただと思う……けど、犯人はそれを逆手に取り、権蔵さんを殺害した。」

    「それじゃぁ、私の主人を殺したのは……」

    「そうです……」

    「だけど、それじゃぁ、なんで貴子さんはこの大浴場にいるの?」


     和子と周子が立て続けに高城の話に割って入った。そして、高城は続けて周子の質問に答えた。


    「犯人としても焦ったのでしょうね……おそらく、彼女を性的に暴行しているときに顔を見られたと勘違いした犯人は中丸さんを消す必要があったのです。」

    「だからってこういうことをするのはゲスの極みですな……」


     田丸も後ろから入ってきて犯人にとどめを刺した。


    「……おそらく犯人は貴子さんを溺死させた後、あれを使って証拠隠滅をしようとしていたんでしょうね」


     高城はそういうと大浴場に持ち込まれていた輸血パックとチェーンソーを指差した。


    「……これが事件の真相だ!!切り裂きジャック……いや……平良恵一!!あなたが切り裂きジャックの正体だ!!」
  45. 45 : : 2018/01/29(月) 16:44:10
     高城が力強く犯人を指名すると大浴場を静寂が包んだ。犯人であることを指摘された平良も静かに目をつむっていた。今までの話をしっかりと自分のなかで整理しているのか、じっと押し黙っていた。


    「何とか言えよ!!この野郎!!」


     佐伯が大声を出して殴りかかりそうだったのを高城が制止した。高城は真紀に風呂にあるバスローブを中丸に着せるように頼んだ。それにうなずいた真紀は中丸にバスローブを着せた。

     すると中丸の様子を見た真紀は違和感を覚えた。真紀は違和感のあった中丸の女性器部分に目をやった。するとそこから白い液体が流れ出てくるのを目にした。


    「……なに……これ……」

    「どうした真紀……」

    「解……この液体って……その……」


     真紀は青ざめた顔でそういうとその部分を指差した。するとそれを確認した佐伯が目にもとまらぬ速さで平良に殴りかかった。一発殴られた平良は大浴場の壁に背中を打ち付けてそこに座り込んだ。

     その座り込んだ平良を引き釣り倒して馬乗りになった佐伯は、


    「てめぇ!!何してくれてんだ!!俺の女を犯しやがって!……許さねぇぞ!!ぶっ殺してやる!!!あいつの人生をめちゃくちゃにしたお前なんか殺してやる!!」


    というと平良の顔面に3発パンチを入れ、その後首を絞めた。それを見た高城と田丸が佐伯を止めた。止められた佐伯は最初のほうは暴れていたが、落ち着きを取り戻して貴子のもとへと戻った。


    「平良さん……あなたがしたことなんだ……わかるだろ?」


     高城は平良に自白をするように促した。すると平良はその言葉を聞くとゆっくりと起き上がり高城に質問した。


    「僕が犯人だという証拠はあるのですか?」


     そういわれた高城は事件の詳細部分について話をすることにした。
  46. 46 : : 2018/01/29(月) 16:47:19
    「それじゃぁ、源次郎さんの事件から振り返ろうか……まず、源次郎さんの事件でのおおきなことは死亡推定時刻がパーティーの時間と被っていて全員のアリバイが成立しているということだ。」

    「確か、午後6時半~午後7時の間だっけ?」


     高城の推理の途中で答えた真紀は高城のほうを見た。高城はその視線を受け取り小さくうなずいた。


    「そう……真紀が言った通り午後6時半~7時と設定したんだ。しかしこの時間帯が間違えていたんだよ。」

    「それは僕じゃなくてあなたが間違えたことでしょう?」

    「確かに間違えたのは俺だ。だけど、俺はあなたが判断した死因から算出したんだ。あなたがそういう風に誘導したといっても過言ではないはずだ。」

    「それならあなたが勝手に間違えたのを僕に擦り付けているといっても過言ではないはずです。」


     話は平行線になってしまったが、高城はこれも想定の範囲内だった。


    「それじゃぁ、俺の疑問を皆さんに見てもらいましょうか……すみません!場所を変えますので源次郎さんの部屋についてきてください。」


     そういうと高城が大浴場を後にして源次郎の部屋へと歩き始めた。平良が逃げ道がないか探していた時、田丸と佐伯が後ろに回り、


    「逃げようとしても無駄ですよ……」

    「もし逃げたらぶっ殺す……」


     と彼にささやいた。平良はため息を一つつくとそのままゆっくりと歩き始めた。それを確認した田丸たちも後を追った。佐伯は中丸に、


    「俺が守れなくて……ごめんな……」


     というと中丸をお姫様だっこして源次郎の部屋へと向かった。中丸から白い液体が垂れるたびに平良への怒りが込み上げてきたが、佐伯は唇をかむことで我慢した。
  47. 47 : : 2018/01/29(月) 16:50:17
     源次郎の部屋に全員そろうと、高城はこの部屋の違和感についてみんなに聞いてみた。


    「みなさん、この部屋に違和感はありませんか?」

    「違和感といわれても……ねぇ?」


     周子は和子と顔を合わせて考えてみたが浮かばなかった。すると和子が足元を見たときに血痕が二種類あることに気づいた。


    「あら?ここの点々の色が少し違うわね……」

    「そう……実はここには2種類の血痕があるんです。」

    「2種類……犯人と主人の?」


     周子は答えたが高城が首を横に振った。


    「いや……被害者の血液と輸血パックの血液だよ……」

    「輸血パックですって!?」


     高城の回答に周子が驚いた表情を見せた。その表情を確認すると高城はさらに推理を続けた。


    「そう。犯人はここにある血痕に輸血パックを使うことで死亡推定時刻の誤認をさせたんだ。」

    「何を言うかと思えば……そんなことをしたからといって何が分かるというんです?それでは僕が犯人という証拠にはなりえない……」


     高城の推理を聞いていた平良は微笑みながら高城に問いかけた。しかし、もちろんそれに見合った証拠も持っている。


    「確か最初に死亡推定時刻と死因を推測したのはあなたでしたね?」

    「……そうですが?」


     平良の表情が曇った。真紀たちには今の高城の言葉が何を示しているのかが分からなかったが、彼には刺さったようだ。目線もキョロキョロし始めた。


    「どういうことだよ解!!今のがなんだっていうんだ!!」


     佐伯が高城に話の続きをするように求めた。すると高城が佐伯の顔を見て話を再開した。


    「修……確かこの部屋で注射器を見つけたよな?」

    「あぁ……これだったよな?」


     佐伯は高城に自分が持っていた注射器を見せた。佐伯が高城に見せた注射器は彼がこの部屋で見つけたものだった。

     平良はその注射器を見てハッとした。そして唇をかみしめていた。


    「平良さん……これはあなたのものですよね?」

    「し…………しらない……」


     平良がその注射器が自分が医療用で使っていたものだと否定した。すると高城は指紋採取の準備をすると全員に向けてこう述べた。


    「それでは、いまから皆さんの指紋を採取するのでそれで確認させてください!」


     高城がそういうとその部屋にいた全員が指紋採取に応じた。全員が応じたのち、高城は意識の回復していない中丸の指紋をとると、ほかのメンバーに一列に並ぶように告げ、指紋を採取していった。

    平良は列の最後尾に並んでいた。その表情は硬直しており、汗がだらだらと流れており、その汗を白衣で拭うと大きく深呼吸をした。
  48. 48 : : 2018/01/29(月) 16:52:13
     全員の指紋を採取した後、注射器の指紋を調べるとそこには指紋がなかった。


    「指紋が…………ない……?」


    高城は驚いた表情を見せた。すると平良は勝ち誇った表情を見せたのだった。


    「ククク……僕が犯人だって?……笑わせんなよ!!ガキの探偵ごっこにつき合わせてんじゃねぇよ!!」


     平良は勝ち誇ったことと自分が犯人だと名指しされた怒りで高城に対して怒鳴り散らしていた。


    「だいたいなんで僕が中務会長を殺さないといけないんだよ!!僕は彼の担当医だぞ?それに、僕がパーティーの始まる前に奥様に言われて会長の様子を確認した時はすでに死んでいて……」


     すると突然、平良は口元を抑えた。そして言ってしまったといわんばかりに膝からガクッと崩れ落ちた。もちろん高城もその言葉を聞き漏らすわけがない。


    「あなたがパーティーの前に会長を見に行った時すでに死んでいたのですか……」

    「あ……いや……」


     高城が追及すると平良はガクガク震えながら否定を始めた。その様子をさげすんだ表情で見ていた高城は彼に対して自分の感じた疑問をぶつけた。


    「……おかしいなぁ……あなたはパーティー前の周子さんへの報告で……」


    ………………………………………………………………………………………………………………
    「会長は少し吐き気がするということでパーティーの前半は部屋で休んでいるそうです。」
    ………………………………………………………………………………………………………………


    「といっていただろ?どうして虚偽の報告をする必要があったんだ?」


     高城はそういうと力強く平良の目を見た。あまりの探偵としての威圧感に平良は目をそらしてしまい、平良の後ろに立っていた真紀ですら高城の視界から外れた。

     その後しばらく静寂が続いたが、高城は源次郎の事件がどのように起こっていったかを解き明かした。
  49. 49 : : 2018/01/29(月) 16:52:51
    「まず、源次郎さんは毎日午後6時に糖尿病のための注射を打たないといけなかったんだ。そしてその注射を打つのを担当していいたのが平良さんなんだ。普通、インスリン注射は自分で打つことができるんだけど、平良さんを信頼していた源次郎さんは平良さんに注射をお願いしたんだ。」

    「そして平良さんが午後6時、源次郎さんに注射を打ったんだけど、その注射の中身の薬品をインスリンから毒薬に入れ替えていたんだ。そしてそれを注射された源次郎さんは毒によって息をひきとったんだ。そしてそれを確認した犯人は源次郎さんの死を切り裂きジャックの殺人に見立てるように源次郎さんの死体を切り刻み、血文字を残したんだ。」

    「だけど犯人はそれでは終わらなかった。パーティーの始まる前に周子さんから報告を受けていた平良さんは医務室から輸血パックを持っていきそれを血痕の上にまいておいたんだ。これによって2種類の血痕ができてしまったことを平良さんは知らなかったんだけどな。」

    「そして平良さんは自分が医師であるということを利用して死亡推定時刻を30分遅らせて死因も偽装したんだ。」

    「これが源次郎さん殺害の事件の真相だよ。」
  50. 50 : : 2018/01/29(月) 16:56:05
     その場にいた全員は静かに聞いていた。そして目の前の殺人鬼をにらんだ。しかしその視線を気にも留めず、推理を聞いていた平良は高城に向かって叫んだ。


    「まだだろ!それではまだ推理だ!!決定的証拠……証拠は……」

    「あるんだよ!」

    「何!?」


     平良の話を遮った高城はDNAキットを取り出した。


    「そのキットは何でしょうか?」


     初めて見たものだったのか田丸は高城に聞いた。まぁ、普通の生活を送っていたら見るものではないので何とも言えないが……。その田丸の質問に高城はその機器について説明することにした。


    「この機器はDNAを調べるためのものです。僕の探偵事務所が開発した持ち運び可能なもので、どこで何があってもDNA鑑定ができるものです。」


     すると高城は源次郎の死体の皮脂をキットの中にいれた。そして中丸の女性器に付着していた白い液体および爪垢もキットにかけた。

     すると平良がそのキットを壊そうと暴れだしたので佐伯と田丸で止めに入った。平良は普段のおとなしい表情から一変して何かに憑りつかれたような怒りの表情をしていた。


    「検査結果が出ました。まず、源次郎さんの死体から検出した皮膚の皮脂から源次郎さん以外の人物のDNAが検出されました。そして権蔵さんの爪垢、中丸さんの女性器に付着していた白い液体および爪垢からも全くおなじDNAが検出されました。」

    「ということは全員分のDNAをしらべれば一発だ!」

    「しかもその貴子からとった液体は男性からしか出ないんでしょ?ならば男4人が調べればいいよね!」

    「それにその右腕の包帯の場所は争ったときのひっかき傷と真紀にスノードームを投げあてられたときのアザがあるんでしょ?」


     高城の検査結果を聞いた佐伯と真紀が笑顔で話していた。そこに高城がとどめを刺した。するとそれを聞いて観念したのか平良の動きが止まった。


    「ここまで…………か」


     平良がそういうと床に座りゆっくりと話を始めた。


    「……そうですよ……僕が切り裂きジャックなんですよ」

    「どうしてこんなことをしたんだよ……」


     高城が平良に問いかけると、平良はゆっくりとかみしめるように話し始めた。
  51. 51 : : 2018/01/29(月) 16:57:13
    …………………………………………………………………………………………………………………………
     僕は平良恵一。たまたま源次郎会長が立ち寄った診療所で医師として活動していた。

     その時の会長は豪気ではあったものの心労がたたり、何回も倒れるようになり甘いものの摂取がふえていた。

     そんな矢先、源次郎会長が倒れた。救急車内で源次郎先生はこの診療所へと運ぶように言っていたらしくすぐに僕のもとへとやってきた。

     運ばれた会長を検査してみると糖尿病だった。軽度のものだったので投薬治療で何とかなるものだった。

     その後目を覚ました会長から中務家の専属の医師になってくれといわれたのでなることにしたんだ。もちろん診療所経営をしながらね。

     そこで僕はある女性と出会ったんだ。その女性はとてもきれいでまさしく僕のタイプだった。中学生とは言えないぐらい出来上がった性格とスタイル……僕の理想の奥さんにドンピシャだった。それから数か月、僕は僕の嫁になってほしくて猛アタックしたんだ。
    ………………………………………………………………………………………………………………
  52. 52 : : 2018/01/29(月) 16:57:49
     平良は自分の過去を織り交ぜながら中務家の専属医師になった経緯を話していたが高城があるところで引っかかっていた。


    「ちょっと待った。その猛アタックをしていた相手って……」

    「そう……中学の時の真紀お嬢様だよ……」


     平良のニヤッとした表情がさらに恐怖を生んだ。そして高城はこれで心の中でもやもやしていたことが解消されたのだ。


    「(真紀がこいつと目を合わさなかったことはこれが原因か……)」


     高城はそのことを再確認すると平良に続きを離すように促した。
  53. 53 : : 2018/01/29(月) 17:02:27
    ………………………………………………………………………………………………………………
     僕が結婚の申し込みをすると真紀お嬢様はかたくなに拒否するんだ。僕自身、かなりイケメンなほうだと自負していたし性格も良いほうだった。けど……それがかなわない……

     なんでだと考えるうちに余計に彼女の行動……一挙手一投足が知りたい……彼女の細部が知りたいと思ったんだ。

     あの時はいろいろなことをしたっけなぁ。登校ルートを尾行したこともあったし、お嬢様の部屋に忍び込み、監視カメラや盗聴器……下着のチェックもしたっけなぁ……。あ、下着は盗んではいないからね……勝負下着を見たときは僕のために買ってくれているのかと思って興奮したぐらいさ……

     けどさ……物事は踏み込みすぎるとばれるよね……

     ある休日の晩に彼女を夜這いしようとしたんだよ……中学生の彼女の家庭教師も僕は兼任していた関係で中務家で勉強合宿をしたんだ。その日の晩の寝床が彼女と隣の部屋でね……昨晩こっそりと部屋に忍び込んで彼女の服を脱がせたんだ……

     ボタンを一つずつ……ゆっくりと……はずして……

     そしてボタンをはずし切って行為をしようとしたその瞬間……


    『……え?』


     なんと真紀お嬢様が起きてしまったんだ。僕は一応マスクをしていたし、すぐに逃げたんだけどその逃げ帰ったところを会長にみられたんだ。

     翌日僕は会長から呼び出された。こっぴどく叱られたよ。そしてその後にこう言われたんだ……


    『警察につきつけると新聞に載ってしまい、お前の人生も大変だろう……そこでだ……お前が一生、この中務源次郎のどれいとして働くのであればこの件は水に流してやろう!』


     ってね……

     僕にとっては屈辱だったよ。僕が自分の人権を捨てることが条件なんだからね……だけど僕は飲み込んだ。そらそうだろ?あれだけ惚れた真紀お嬢様の近くにいられるんだからさ……

     それから数年……僕に対する会長の扱いは激化した。もう精神が壊れるほどに……

     挙句の果てには……


    『もう貴様にはあの診療所もいらんだろ……壊せ!』


     って言ってきたんだ。僕が汗水流して働いた診療所をだよ?僕はさすがにそれは拒否にしたんだけど、会長はその診療所をつぶすために、アルビド塗料の高橋権蔵と中丸組の中丸晋作の2人をつかって僕の診療所の評判を下げたんだ!!


    『平良診療所の平良はヤブ医者だ!!』

    『あそこの診察料はぼったくりだ!!』


     ……こんな評判が流れたことで受付や看護師が全員辞めて診療所をつぶさなければならなくなったんだ。その時に思ったのさ……

     中務たちをぶっ殺すってね……

    ………………………………………………………………………………………………………………
  54. 54 : : 2018/01/29(月) 17:09:28
     その話を聞いた高城たちは背筋が凍る思いだった。自分たちが知らないところでこんなことが起こっていたとは思わなかった。当の周子と真紀ですらしらななかったことらしく開いた口がふさがらなかった。


    「そ……そんなことが……」


     真紀がボソッとつぶやくと涙を流しながら続けた。


    「そ……それじゃ……なんで貴子なの!!私じゃなくて!!貴子はあなたに何もしていないじゃない!!」

    「あいつがしていなくてもその親がしているんだよ!!親が逃げたパーティーで娘が犯されて殺された……生きていたとしても、見ず知らずの男の種子が娘の中には入っている……これ以上の絶望があるか?そう思うだろ?彼氏さん?」

    「どこまで……どこまで腐ってんだ!!お前はぁ!!」


     佐伯が平良の目の前に立ち大声で胸ぐらをつかみ怒鳴った。しかし平良は涼しい表情でその手を払いのけて真紀に向けて話を始めた。


    「ところで真紀お嬢様は誤解をしていらっしゃる!」

    「お前がお嬢様を語るな!」


     田丸が大声をあげるとそのまま平良に殴りかかった。高城が止めようとしたがその前に平良の回し蹴りが田丸のみぞおちをとらえた。佐伯は寸で交わしたが田丸はそのまま後ろに吹っ飛び、壁に頭をぶつけて意識を失った。

     高城がすぐに脈を測ったところ命には別状はなかった。


    「今はあんたと話していないんだよ……」


     平良はそういうと再び真紀のほうを見て話を再開した。


    「あなたさまは僕がお嬢様を殺さないとおもっているようだがそうじゃない。あんたも殺すつもりだったんだよ。こいつの後でな。」


     平良はそういうと中丸を指差した。そして狂気の表情を浮かべながらこう続けた。


    「あんたを殺して………その…………ししし……死体のすべてをホルマリンにつけて…………ししし……死ぬまで……めめめ……愛でてやろうかと思ってよぉ!!そそそ…………そうすれば……そうすればあなたは……ぼぼぼ…………僕の一生の伴侶として……そそそ……そいとげられるんだぁぁぁぁぁ!!!!ヒャッハッハッハッ!」


     それを聞いた真紀はそのまま泣き叫んだ。自分が狙われていた事実を知った絶望とその殺害理由が頭の中から離れなかった。

     泣き叫ぶ真紀を周子は抱きかかえた。その様子を見た高城は平良を哀れむような目で見た。


    「平良さん……俺はあんたが憎いよ……真紀にこんな思いをさせて……自分の欲望のために殺人をしてさ……」


     高城はそういうと平良の前に立ちはだかった。


    「憎い?……なら殺すか?」


     平良は高城をにらんだ。その表情は死神のような眼をしていた。高城は吸い込まれそうになったが平良に自分の思いを伝えた。


    「平良さん……警察に自首してくれないか?確かにあなたは許されないことをした。だけど、罪をしっかり認めて償えば人生やり直せるんだよ!」

    「笑わせないでくださいよ……それはただの殺人での話でしょ?僕の場合は連続殺人……今の法制度じゃ……僕は死刑だ……」


     そういうと平良は胸ポケットからビンを2本取り出すとそのビンを開け、中の液体を自分にかけ始めた。すると佐伯は何かに気づいたようで急に鼻を抑えた


    「なんだ!?この臭いは……まさかガソリンとアルコールか!?」


     その声にハッとした高城は平良に向かって叫んだ。


    「やめろぉぉ!!早まるなぁぁぁ!!」


     平良を止めようとしたが平良の手にはすでにライターが握られていた。平良はそのライターのふたを

    カチャ……

     と開けるとまるで理科の授業をするように全員に向かって質問した。


    「さて……ここで実験です。ガソリンとアルコールが混ざったこの部屋でライターをつけるとどうなるでしょうか?」


     ニコリと笑った平良を見て高城は窓から下の状況を確認すると、


    「みんな!!窓から飛び降りろ!!そしてできるだけセントラルから離れるんだ!!」


     と叫んだ。みんなは疑問に思ったが状況が状況のため、源次郎の部屋にあった窓をぶち破り飛び降りた。

    バッシャー―――ン!!

     客室の窓の下は池になっていたようで全員が無事着水した。そして高城の指示で対岸まで泳いだ。そして少ししてからセントラルのほうから

    ドゴオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォン!!

     という音が濃霧島中に広がった。その炎は黒煙に包まれてゆっくりと天へと昇っていった。その後、高城たちは先に逃がしていた従業員とともに西側の『ウエスタンホテル』で一夜を明かした。
  55. 55 : : 2018/01/29(月) 17:11:12
     翌日高城は真紀と一緒にセントラルまで行くと殺された源次郎と権蔵以外に別の焼死体が見つかった。

     何とも後味の悪い結果に高城は唇をかみしめた。そして真紀は苦しそうな表情をしている高城に寄り添ったのであった。

     高城たちがウエスタンホテルに帰るとそこにはベッドに突っ伏している佐伯とその頭をなでる中丸の姿がいた。

     意識の取り戻した中丸から話を聞いた高城はその話をメモに取ると中丸に頭を下げた。しかし中丸は気にしていないと返し窓の外を眺めていた。

     しばらくすると港に船が到着した田丸から連絡が入ったので高城たちは港へと向かい船に乗った。その船の中では3企業の社長と社長代理が集まり仕事の話をしていた。どうやら企業合併をするようだ。社長には真紀が就任して副社長には中丸の父親である中丸晋作が就任することで話がついたらしい。

     その一方で高城は田丸から解決報酬として100万円を受け取った。高城は断ったが、真紀からの気持ちも入っているといわれれば断ることもできなかった。そして高城は中務家の専属探偵として着任することにした。翌年、中丸と佐伯と同日に真紀と結婚するのはまた別の話。

     毎年12月24日になると高城は複雑な気持ちになる。彼はいまだ見つけられない答えをそこに置き忘れた気がしてならない。

     しかしその答えが何なのかはもう誰もわからなかった。
  56. 56 : : 2018/01/29(月) 21:29:24
    最後まで読んでいただきありがとうございました(っ´ω`c)

    今回はかなりギリギリまで試行錯誤しながら悩んだ作品です(´・ω・`)

    本当を言うともう一つ事件を起こしてさらにややこしくしようと思ったのですが僕の労力が足りませんでこの結果となりました^^;

    企画もののssとしては課題が多いものになりましたが、最後まで書けたことにまず一安心です^^;

    他にもたくさんの有名作者方々が参加していらっしゃるこの企画に参加できてよかったです(っ´ω`c)

    また機会があれば参加したいと思いますのでよろしくお願いいたしますm(_ _)m

    では、また次回の作品でおあいしましょう(っ´ω`c)

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