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苗木「自分の事を苗木誠だと思っている精神異常者?」

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  1. 1 : : 2017/03/30(木) 05:51:41


    冬の。冬のコトダ祭りです!!!



    今回のテーマは『罪と罰』

    登場人物は
    「苗木」「大和田」「山田」「セレス」「江ノ島」「狛枝」「九頭龍」「小泉」「罪木」「七海」
    の中から誰か1人以上。

    参加者は
    ・あげぴよさん
    ・風邪は不治の病さん
    ・縁縄さん
    ・たけのこまんじゅうさん
    ・パムーンにも花は咲くさん
    ・シャガルマガラさん
    ・紅クラゲさん
    ・ノエルさん
    ・祭壇の地縛霊さん
    ・きゃんでろろさん
    ・Deさん

    ・遅刻のベータ

    キーワードは無しです。



    今回のギミックとして

    【>>(数字)】ってなっている所を押すとそのレスに跳べる機能を使ってるので初めて読む人はレスの最後に【>>(数字)】が付いていると、そこを押して跳んで貰えるとありがたいです。
  2. 2 : : 2017/03/30(木) 05:54:47

    テェレレレレーッ♫


    モノクマ「死んだら行く天国と地獄ってあるじゃない?いや、ボクはそんなもの無いと思うけどね」

    モノクマ「でも、何か悲しいよね。人ってのはさ、悪い方しか目がいかないんだ」

    モノクマ「良い事したら天国へ行ける。とは言わないのに悪い事したら地獄に行っちゃうよ。っていうのは親が子によく使うよね」

    モノクマ「人ってのは罰があるから罪を犯さない様にするのさ。僕はクマだから罰が無くても罪を犯さないけどね」

    モノクマ「ああ、それと天国と地獄はあるよ」

    モノクマ「え?矛盾してるじゃ無いかって?いやいや、違うよぉ。うぷぷっ。君も大きくなった時に気付いたハズさ」

    モノクマ「天国と地獄があるのは、あの世じゃなくてこの世、だってね」


    (カーテンが閉まる)




    >>10
  3. 3 : : 2017/03/30(木) 05:58:00



    強い衝撃=失われた記憶を取り戻す。

    乱暴だが、これが記憶を取り戻すトリガーになっている事は、ハンマーで頭を殴られ、みんなの事を思い出した山田君や、鈍器で殴られたことにより若干の記憶を取り戻した僕を例に挙げれば明らかだった。

    鍛え上げられた大神さんは例外とし考えて、だけれど。

    それを緩和するための機材が学園にあった。

    具体的には僕らの記憶を奪った機械が。

    同時に記憶をゆっくりと取り戻していく。

    そんな機会が訪れる。





    【未来機関】


    苗木「僕が行くよ」

    一通りの解析が終わった次の日、僕は名乗り出た。

    霧切「まだ安全か分からないのよ?止めた方が良いわ」

    怪訝そうに眉を動かした霧切さんが、僕の提案を一蹴する。

    朝日奈「そうだよ!これ以外にも方法があるかもしれないんだしさ、もう少し待ってみようよ。私だってさくらちゃんやみんなの事を早く思い出したいけど…」

    それに続く様に朝日奈さんは言う。みんなの事を思い出して、今にも泣きだしそうな表情をしながら。

    苗木「いや、調査の結果だとこれ自体に致死量の電圧を与えたりする様な危害を加える機能は無いみたいだよ」

    朝日奈「でも…」

    腐川「葉隠…何1つ活躍してないんだから、あんたが実験体になりなさいよ」

    葉隠君を指差しながら腐川さんがそう言った。

    葉隠「嫌だべ!そんな危険な目に会うくらいなら、このままでも良いべ!!」

    十神「葉隠が言うとクズの発言の様に聴こえるが、そういう考えもあると言うわけだ。苗木、お前の意思は固いのか?」

    苗木「うん。僕は向き合わなくちゃいけないんだ」

    霧切「苗木君。それは意思が固いんじゃなくて、ただ意固地になってるだけよ。止めておきなさい」

    十神「…霧切。苗木は子供じゃないんだ、ましてお前は苗木の保護者でも無い」

    霧切「何が言いたいのかしら?」

    十神「安全性は確保出来ているんだ。効果があるか定かでは無いだけ。苗木はそれを試そうとしてるだけだ。お前の主張を押し付けるな」

    霧切「あら、あの学園生活で自分の主張を押し付け、(あまつさ)え何も出来なかった貴方の台詞とは思えないわね」

    十神「苗木に庇われて生き延びたから情が湧いてるのか?いや、恋愛感情と云うのか?低俗だな」

    霧切「そうね。苗木君を切り捨てようとした貴方からするとそう見えるかもしれないわね」

    十神「何だと?」

    苗木「け、喧嘩は止めてよ!!」

    険悪なムードになるのを見て、僕は声を張り上げた。

    十神「フン」

    霧切「別に喧嘩なんてしてないわ」


  4. 4 : : 2017/03/30(木) 05:58:39


    苗木「確かに意固地になってるかもしれない。でも、僕がしたいからするんだ。だから止めないで」

    霧切「エゴよ。そんなの…」

    苗木「僕だって今は凄く大事なものだよ。でもそれと同じ位過去(みんな)の事も大事にしたいんだ。忘れてたら、引きずって前に進めないからね」

    霧切「…強いのね。相変わらず」

    苗木「何たって超高校級の希望なんだからね。名前負けしない様に頑張らなくっちゃ」

    霧切「…苗木君。必ず帰って来てね」

    苗木「勿論だよ。待っててね」

    霧切「ええ」

    苗木「じゃあ行ってくる。十神君、後の事はお願い」

    十神「ああ、任せろ。お前は二日程寝ておけ」

    苗木「あはは、ありがとう。じゃあ、行ってくるよ」

    僕は様々な管が繋がったヘルメット型の機械を頭に被り、体全体を包む様なカプセルの中で静かに目を閉じた。













    設定した倍率は365倍

    本来なら約2日で彼は目を覚ます。



















    筈だった。



  5. 5 : : 2017/03/30(木) 06:02:38




    苗木「……眩しい」

    先程まで室内に居たのだが、今は違う。日の射す外。

    具体的には希望ヶ峰学園の校門の前。

    苗木「懐かしいな、そうだ。ここから全部始まったんだ」

    辺りを見渡せば青々とした木々、そして巨大な校舎が僕を見下ろしていた。

    苗木「…ってええ!?!?!?」

    苗木「な、何でタイムスリップしてるんだ!?!?」

    と、口に出したところでそんなわけが無い事に思い至る。だって、そんな事理論的に考えて不可能だ。

    それに僕が入ったのは記憶を取り戻す装置。

    僕の記憶──を取り戻す装置…。

    苗木「まさかここは…奪われた記憶の中?」

    答えは返ってこない。

    苗木「まあ、いいか」

    考えても仕方ない事は明らかだった。

    事実そうなってるんだからしょうがないで片付く内容だ。

    前向きにならなきゃ仕方がない。

    前に進まらなければ始まらない。

    苗木「…よし。行こう」

    僕の失ってしまった何かが始まる。

    期待に胸を膨らませながら踏み出した僕の一歩は。


    ズキッ────!!


    苗木「でも想像できないな、普通の学園生活の霧ぎりさ…ん?」

    記憶を取り戻すための一歩は。

    矛盾しているように、僕の大切な記憶を奪おうとしていた。

    苗木「霧切さん…は、きりぎりさんで、で?霧切さん?え?誰だ。そ、そうだ超高校級の探偵の霧切さん。……霧切さん?」

    僕の中から何かが消えていく。

    苗木「何かは…皆んな。皆んなだ。未来機関の!皆んなって…皆んな?」

    嫌だ。忘れたくない。

    激しい頭痛が僕を襲う。

    僕の記憶を焼き切る様に。

    苗木「忘れるな忘れるな忘れるな忘れるな忘れるな忘れるな忘れるな忘れるな忘れるな忘れるな忘れるな忘れるな忘れるな忘れるな忘れるな忘れるな忘れるな忘れるな忘れるな忘れるな忘れるな忘れるな忘れるな忘れるな忘れるな忘れるな忘れるな忘れるな忘れるな忘れるな忘れるな忘れるな忘れるな忘れるな忘れるな忘れるな忘れるな忘れるな忘れるな忘れるな忘れるな!!!!!」

    頭に響く割れるような痛みに耐えながら、鞄からルーズリーフとペンを取り出す。


    必死に紙へ言葉を書き殴り、頭を抑え(うずくま)る。

    書き殴る内容すら分からない。ただひたすらに「忘れるな」という漢字を書き殴るだけ。

    苗木「いやだ…嫌だよ。嫌だ、忘れたく無い、忘れるなよ……忘れるなよ!!」

    だけど、この消失に見を委ねたくは無かった。

    苗木「忘れるなァァァ!!!!!!!!!!!!!」







































    苗木「あれ…、えっと僕は何してたんだっけ」

    フッと意識がクリアになる。

    気付いたら頭を抑え、跪き、(こうべ)を垂れていたのだ。

    辺りに散らばった筆記用具とルーズリーフを鞄に詰める。

    苗木「希望ヶ峰学園のオーラにあてられたのかな?」

    そんな独り言を言いつつも僕の足はその希望ヶ峰学園へ向かった。

    なんて言ったって僕はこの学園の生徒なのだから。

    苗木「よし!」

    校門をくぐる。

    ここから僕の新しい生活が始まる。


  6. 6 : : 2017/03/30(木) 06:04:04



    苗木「えっと……」

    建物に入った後、張り出された掲示物を見て、自分の教室へ行く。

    黒板に書かれた指示通りに席へ向かう時声を掛けられる

    舞園「苗木君!?やっぱり苗木君ですよね!」

    苗木「舞園さん!!」

    彼女は目を丸くして、僕を見つめる。

    舞園「苗木誠ってやっぱり苗木君だったんですね。同名の誰かじゃないかって心配してました」

    そうか、超高校級の幸運の僕はスレなどには載って無かったから知りようが無いのか。

    僕は当然知っていたし、クラス分けの紙を見た時、彼女の名前を見てガッツポーズもした。

    だけど、驚いた事が一つ。

    苗木「何で僕の事知ってたの?」

    舞園「え?だって同じ中学校ですよね?」

    首を傾げながら彼女は言う。

    苗木「そ、そうだけど接点が全く無かったし…」

    当時からアイドルとして有名だった彼女を僕は知っていたし、視線を向けていなかったと言えば嘘になるが、彼方からすれば僕はモブNくらいの立ち位置の筈だ。

    舞園「そんなこと無いですよ。私苗木君の事見てましたから」

    苗木「えっ?」

    舞園「昔、学園に鶴が迷い込んだ事ありましたよね。あの時の苗木君、カッコ良かったですよ」

    苗木「いや、あれは委員だった僕に白羽の矢が立ったわけで…」

    舞園「それでもです!」

    苗木「そ、そうかなぁ」

    僕の友達の間では、僕の財布を鶴が咥えたまま翔び去ったのを、鶴の怨返しと笑い話にされて居るのだが(何も悪い事はしていない)、そう強く言ってくれる彼女の言葉は嬉しかったし、素直に受け止めようと思った。

    舞園「実は私、あの時の鶴なんです」

    苗木「財布返して!」

    咄嗟に口から出た。

    舞園「えっ?え?」

    苗木「い、いや、気にしないで!」

    舞園「でも、良かったぁ。知ってる人が居て」

    苗木「うん、僕もだよ」

    そんな風に話しながら、鞄の中にあるルーズリーフや筆記用具を机の中に入れる時、僕は気付いた。

    苗木「なんだこれ…?」

    ルーズリーフに書き殴られた「忘れるな」の文字。

    狂気を感じる文字の羅列。

    苗木「…何を、僕は………忘れて?」


    何かを忘れている?


    僕は何を忘れて。


    忘れているのは?


    舞園「苗木君!!」

    苗木「!な、何!?いきなり大きな声出して!」

    舞園「さっきからずっと名前を呼んでましたよ。それなのにブツブツ呟いてて。顔色も悪いですし何かありましたか?」

    苗木「ごめん。あと何も無いよ大丈夫」

    舞園「本当ですか?」

    そう言いながら彼女は僕の目を覗き込んでくる。

    吸い込まれそうな瞳。

    苗木「うん。本当だよ」

    何も無いは嘘。だけど大丈夫なのは本当。

    舞園「そう。なら良いんですけど…」

    キーンコーンカーンコーン

    何か言いたげだったが、舞園さんはチャイムの音を聞き、自分の席に戻った。

    苗木(書いた記憶も無いし、誰かが書き込む時間も無かった。こまるか?)

    結局考えてもその答えは出なかった。


    その文字を見るたびに頭が痛くなる。

    だけど、捨ててはいけない気がした。

    だから僕はそのページをノートから破り、四つ折りにした後、ブレザーの内側のポケットにしまった。


    そして月日は流れ、僕はその不可解な状況に答えを出さず。記憶の奥底にしまった。否、忘れた。


  7. 7 : : 2017/03/30(木) 06:06:44


    〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



    そして2年がたった。


    色んな事があった。


    楽しい事も、辛い事も。


    学園での楽しい日々が終わりを告げた時。


    世界が黒く塗りつぶされ。


    僕は思い出した。


    苗木「…!!」


    大切な人達を失う事だけ(・・)を。


    苗木「あ……あっ」



    そうだ。


    みんな死ぬ。みんな死んじゃうんだ。


    終わるんだ。平和な物語は。


    終わるんだ。平穏な世界は。




    みんなは帰って来ない。

    振り返る事は出来てももう戻る事は出来ない。

    二度と隣を歩めない。

    歩幅を合わせて走る事なんて出来ない。






    苗木「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!」


    叫んでも、誰も帰ってこない。



    僕はこの暗闇の中で1人ぼっち。



    皆んなが何で死んだかも分からず。



    孤独。



    苗木「何で、何でみんなは死んだんだよ…何で…僕は今1人なんだよ」



    もう一度遊びますか(continue)


    【はい/いいえ】




    苗木「えっ…?」


    暗闇に突如表示されたその文字。


    僕は街灯に引き寄せられる蛾の様に。

    『はい』へと手を伸ばした。




    これが僕の犯した罪。




    そしてこの後苗木誠に降りかかるのが、その罰だ。

  8. 8 : : 2017/03/30(木) 06:12:28



    【未来機関:治療室】


    霧切「………」

    十神「霧切…お前、また此処にいたのか」

    霧切「別に良いじゃない。彼が、今すぐ、目覚めるかもしれないでしょ」

    十神の方へ視線は向けず、霧切は機械の中に入った苗木を見つめる。

    十神「この装置は外部からの介入を受け付けない。つまり、此方からは何も出来ない」

    苗木誠の入ったカプセルの様な記憶回復の装置を見ながら十神は言った。

    霧切「………」

    十神「無理矢理止めれば苗木の意識は戻らない可能性がある」

    霧切「………」

    十神「外部からの介入を受けない。影響も受けない。なのに繰り返されている。つまり、どういう事か分かるか?」

    霧切「外部からの干渉ではなく、中にいる苗木君が繰り返してるっていうの?ありえないわ」

    霧切「きっと、罠だったのよ。江ノ島盾子の罠…。無理矢理世界をループさせて」

    十神「例え、罠だったとしても苗木は自分の意思で繰り返しをしている」

    霧切「何でそう言い切れるのかしら?」

    十神「あの電子世界の中で、最高権限を持つのは中に入った人間。ゲスト。それも最後に入ったゲスト。つまり苗木自身なんだ。そして、世界を繰り返せるのは最高権限の人間のみ。分かるか?」

    霧切「分からないわ。それで苗木君が繰り返してる事になる理由がね」

    十神「お前らしくもない。冷静になれ、焦ってても何も解決しない」

    霧切「冷静よ…。私だって本当は分かっているわよ。でも、信じたくない」

    十神「そうか。ならば聞け、今から苗木を一度機械から外す」

    霧切「!?でも、それじゃあ一生戻らないわ!」

    十神「これは賭けだ。苗木を目覚めさせるのでは無く。ループから外す」

    十神「矛盾が起こった世界は当然修復にかかる」

    ・コロシアイ学園生活後(未来機関)の記憶

    ・コロシアイ学園生活の記憶

    ・学園生活の記憶

    ・入学前の記憶

    十神「苗木の記憶は大きく分けてこの四種類だ」

    十神「苗木がループに入っていると仮定するなら、コロシアイ学園生活と未来機関の記憶はロックされている筈だ」

    十神「記憶があるのならループを選ばずに帰ってくる筈だからな」

    十神「最初のループを繰り返す苗木が学園生活を終了する。これが1番早い。否、早かったんだ。元々、これをしていれば2日で終わっていたんだからな」

    霧切「たらればの話は良いわ。つまり、機械を外してどうしようというの?」

    十神「ループを外し、新たに未来機関の記憶を持った苗木を電子世界に送りこむ」

    十神「その苗木なら、その世界が電子世界である事にも気付ける。つまり終わらせる事が出来る」

    十神「最悪なパターンは新たに現れる苗木が未来機関とコロシアイ学園生活の記憶を保持してない場合。尚且つ最高権限を取得できなかった場合だ」

    霧切「苗木君自身でしか終わらせる事が出来ない。だから、苗木君に彼自身の尻拭いをさせる…」

    十神「ああ。その通りだ。危険な賭けではあるがこれしか無い」

    霧切「私には…決められないわよ。だって、私が止めても彼は聞きもしなかったんだから」

    十神「いいや。決めるのはお前だ霧切」

    十神は強い口調でそう言い切った。

  9. 9 : : 2017/03/30(木) 06:13:21


    霧切「何で?何かあった時に責任から逃れるため?」

    十神「…苗木から頼まれたんだよ」

    霧切「苗木君から?」

    十神「ああ。あれは解析が終わってすぐ。つまり、苗木が機械へ入る前日の事だ」


    〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



    十神『あの機械を使う?正気か』

    苗木『うん。安全面では問題ないんでしょ?』

    十神『機械としての安全面はな。あの複雑なプログラムは、アルターエゴでも解析不可能だ。不二咲がいれば別だがな』

    苗木『そっか、でも使う事にするよ』

    十神『何故だ?』

    苗木『だって待ってても進展もしないなら自分から踏み出すしかないでしょう?』

    十神『「何故だ」の答えになっていない。俺は無理してまでも進む、その根本的な理由を聞いている』

    苗木『それは、ほら早くみんなの事を思い出したいし』

    十神『それだけか?』

    苗木『何が…言いたいの』

    十神『例えば、他の誰かにも使って欲しいから自分の身で安全を立証しようとしてるんじゃないのか?』

    苗木「あはは、流石十神君だよ。隠し事は出来そうに無いね」

    十神「フン。当然の事は言わなくて良い。早く理由を話せ」

    苗木『だって霧切さんのお父さんとの思い出はさ、幼少の頃を除いたらもう失われた記憶の中にしかないでしょ?』

    十神『はぁ、お前は甘いな。そして愚民らしい安直な考えだ』

    十神『もし何かあった場合はどうする。霧切はきっと気負うぞ』

    苗木『だから伝えないんだ。期待させて裏切りたくないしね。それと何かあったその時は…、まあ考えてても仕方ないし、もし何かあっても十神君と霧切さんが何とかしてくれるでしょ?』

    十神『チッ』

    苗木『もし何かあったら宜しくね。でも、僕はこれでも元超高校級の幸運なんだよ、きっと無事に帰ってくるよ』


    〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


    霧切「馬鹿よ…。本当に馬鹿…お人好しも過ぎるのも迷惑よ」ポロポロ

    熱い涙が筋を引いて溢れ、床に落ちる。

    十神「俺は決めた。あの寝たままの馬鹿を起こす。お前はどうする」

    霧切「………」

    霧切「……そうね。私も決めたわ」

    十神「そうか」

    霧切「起こして頬を思いっきり叩くわ」

    十神「おいおい、曲がりなりにもお前の為に」

    霧切「頼んでないわ。それに言いたいことだって沢山ある。9ヶ月も待たされたしね」

    霧切「頬を叩くのは無茶をした事への罰。優しい言葉は後からでも言える」

    十神「フン。そうだな」





    十神(全く…。アイツも罪な男だ)



  10. 10 : : 2017/03/30(木) 06:15:25





    「ねえ………ねえってば」













    舞園「苗木君。聞いてる?ねえ!」



    その呼び掛けで僕の意識は僕と完全にリンクする。

    苗木「え、あっ、うん」

    咄嗟にした返事。当然嘘。

    舞園「嘘。聞いてなかったでしょ」

    一瞬でバレる。

    この学園で過ごした時間を考えれば当然と言えば当然。

    苗木「うっ…ごめん。で、何の話だったけ?」

    舞園「もう…。来週の体育祭、何の競技に出るかの話だよ」

    苗木「ああ!そういえばそうだね」

    希望ヶ峰学園入学当初と比べ僕らの距離はグッと縮まった。

    物理的な距離も。

    心の距離も。

    ………。

    誤解を招くような言い方だったが、付き合ってるわけではない。

    口調が崩れた。それだけだ。

    苗木「勝ちに行くならやっぱりその人にあった競技が良いからって理由で個人で決めて石丸君へ申告って事になったんだよね」

    舞園「桑田君は玉入れらしいよ。あと、クラス選抜のリレーにも出るみたい」

    苗木「確かに超高校級の野球選手の桑田君にはピッタリだね」

    舞園「対抗リレーの練習でも大神さんの次に速かったもんね」

    舞園「それで、苗木君はどの競技にするつもりなの?」

    苗木「僕は…、余った種目で良いかな」

    舞園「えー」

    年頃の少女の様に唇を尖らせて彼女は言う。

    可愛い。

    苗木「ほら、僕って大した才能無いし。みんなが活躍出来る競技を選んで、残ったのを選ぶのが勝つ為にも良いかなって」

    思考を放棄したように思える発言だが、これでも良く考えた結果だった。

    舞園「そんなの駄目!勝つのも大事だけど、楽しむのだって大切だよ!そんな消極的じゃ勝てるのも勝てないよ!」



    苗木「そう…だね。うん。その通りだよ。でもそうなるとどの競技に出るか考えないといけないね」



    舞園「えっと、それなら二人三脚とかどうかな?」


    苗木「二人三脚か、それならペアの相手も決めないといけないよね」

    舞園「えっと……その…」










    舞園「…私ととか?」


    苗木「え?」


    舞園「いや!嫌なら良いんだよ!嫌なら!」

    苗木「逆に良いの?」

    舞園「えっあ、いや確かに女性男性あるし、恥ずかしいかもしれないけど、でも苗木君なら…」ゴニョゴニョ

    苗木「身長差…」

    舞園「あ」

    一瞬の沈黙。

    舞園「って、いやいやいや!私と苗木君そんな身長差無いよ!多少の差なら私が苗木君の歩幅に合わせれば良いんだし」

    苗木「じゃあ、その…宜しくね舞園さん」

    舞園「はい。宜しくお願いしますね、苗木君」ニコッ

    照れ隠しなのか、敬語に戻った彼女の微笑みを見て、僕は改めて彼女に恋しているんだと確信した。


  11. 11 : : 2017/03/30(木) 06:19:10



    【運動場】


    石丸「よし、集まったな。では各自で練習始め!」

    体操服姿で、頭に鉢巻を巻いた石丸君が、腕をビシッと伸ばしながらそう言った。

    自主練なのだが、本番を模して競技中の音楽も流れている。

    舞園「ねえ苗木君。これ天国と地獄って曲名なの知ってた?」

    彼女はスピーカーの方を指しながら言う。

    私語に対して厳しい石丸君は応援団の練習をしている。

    苗木「へぇ、そんな名前だったんだ。でも、何て言うか運動会ぽくないね」

    舞園「そう?勝てば天国負ければ地獄。分かりやすいし、合ってると思うけど」

    苗木「う、うーん。そう…かなぁ──負けが」

    負けが必ずしも地獄とは限らないと言いかけた所で、彼女の生きる芸能界という世界が。

    進むべき道が。僕の未知の領域が。

    彼女の言う負けが地獄という事に裏付けられて居るのだろうと察し、僕は口を動かすのを止める。

    舞園「紐も持ってきたし、早速やろっか」

    不自然に会話を止めた事を気にせず、実際の競技でも使うハチマキをヒラヒラさせながら彼女は言う。

    苗木「そうだね」

    手際良くハチマキを結んだ後、少し手を伸ばせば届く距離で。

    舞園「じゃあ、肩…組もっか」スッ

    そう言い僕の肩へ手を回す。

    苗木「う、うん!」スッ

    若干ドキッとしたが、男の僕がそれくらいで動揺しちゃダメと言い聞かせ、彼女の肩へ手を回す。

    桑田「苗木!!!くっ付くな!離れろ!!!!」

    それを見ていた桑田君が、此方へズカズカと近付きながら怒声を飛ばす。

    苗木「無茶言わないでよ!二人三脚だよ!?」

    桑田「うるせェー!!」

    ガシッ

    桑田「ガシっ…?」

    大神「桑田よ。我らはバトンの練習だ、目標は千回」

    桑田「は、離せェェェェ───


    ズルズル


    ────ェェェェェ………」



    苗木「………」

    舞園「………」

    苗木「続けよっか」

    舞園「うん」


    桑田君が引き摺られながら描いた二本の軌跡を見たあと、僕らは練習を始めた。


    苗木「1、2、1、2」

    舞園「1、2、1、2」

    隣に並び、歩幅を合わせながら僕らは駆ける。

    苗木「1、2、1、2」

    シャンプーの香りが僕の鼻腔をくすぐる。

    苗木(!!だ、だめだ、心を落ち着かせないと)

    苗木(無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無舞無無無無無無無無無無無無無無無無無無無)

    舞園「ふふっ、舞が一つ混じってるよ」

    苗木「2、1、ええ!?!?!?!?」

    舞園「エスパーですから」

    苗木「」

    舞園「ふふっ、冗談だよ。だって苗木君肩組んでから私から故意に顔を逸らそうとするんだもん」

    苗木「だ、だって、僕は男子で舞園さんは女子で!」プイッ

    舞園「気にしないでいいんだよ」グイッ

    未だ彼女の顔を直視できずにいる僕に痺れを切らしてか、僕の両頬に彼女は手を当て、強引に彼女の方へ向けた。

    舞園「それにほら、桑田君や他の男子だと嫌だけど、苗木君なら大丈夫だから…」

    苗木「えっ?」

    彼女の顔との距離は僅か数センチ。

    僕は見惚れて、そんな声しか出せなかった。

    舞園「あ、違うよ!そっ、そういうのじゃ無いからね!」パッ

    舞園さんもその距離に気恥ずかしさを覚えたのか、僕の両頬から手を離し、後退りしようとする。

    だが、足は繋がれていた。

    退がる足は二本では無く三本。

    苗木「わっ!」

    咄嗟の事に対応出来ず、僕はバランスを崩す。

    舞園「きゃっ!」

    空中で絡み合い、重力に抗えずに落下。

    ドサッ

    苗木「いってて…」

    ムニュッ

    ん?

    柔らかい感触が…。

    舞園「あ、ごめん苗木君、覆い被さっちゃったね。重かったよね、直ぐどくから!」

    苗木「!!」

    柔らかい感触は、僕をクッションにする様に倒れた彼女の胸だと理解した時。

    タラー

    鼻腔から鉄臭い何かを感じた後。

    苗木「……てん…ご…く」ガクッ

    僕の意識は沈んだ。

    舞園「な、苗木君!?苗木君!!!!!!!」


  12. 12 : : 2017/03/30(木) 06:27:27


    ……………………
    ……………………………………
    ……………
    …………………………………………………………
    ……………………………



    チュンチュンッ


    苗木「……」パチッ

    僕は寝相は良いほうだと思っている。だけど、この時だけは目を疑った。

    苗木「………え?」

    目を覚ました景色はいつもの見慣れた天井では無く。遠目からみた希望ヶ峰学園の校舎。

    寄宿舎から校舎を繋ぐ通学路。

    そこに、立っていた。

    苗木「…いつの間にこんな所に…」

    苗木(確か、二人三脚の練習中で意識が途切れ…)

    ボクサーが激しい一撃を喰らうと、試合後に試合中の記憶がスッポリと抜けるという話は聞いた事があるが、そこまで強打した記憶も無いし、ましてここまでの長時間記憶が飛ぶなんて、ある筈もない。

    苗木(ある筈もない。…でも、実際に起こってるんだよなぁ────ん?)


    話し声のする方へ目をやると、ゾロゾロと僕の知る78期生の面々が、希望ヶ峰学園の門へ向け歩を進めていた。

    苗木(そうか!何があったかは皆んなに訊けばいいんだ)


    苗木「おーい、みんなー、昨日僕に何があったか知らない?」タッタッタッ

    手を振りながら、皆の方へ駆ける。


    「………」


    「………」


    何人かはチラリと僕の方を見たが、特に気にする様子もなく。また各々の顔を見合い、話し始める。


    苗木「………あれ?」


    皆が僕の隣を通り過ぎ、向ける相手のいない手のひらが空を仰いでいた。


  13. 13 : : 2017/03/30(木) 06:29:52


    苗木「ねえ、どうしたの皆んな!僕だよ!」

    踵を返し、詰め寄るように近付き声をかける。

    山田「うーむ、知らない人ですなぁ」

    漫画雑誌から顔を上げた山田君がそう一蹴すると、再び雑誌に向き直る。

    朝日奈「えっとー、何処かで会った事あるの…かな?」

    大神さんと話していた朝日奈さんが此方を向き、小首を傾げながら苦笑いする。

    苗木「苗木誠だよ!!みんな、覚えてないの?!」



    78期生の面々は、その怒鳴り声を聞くと、ピタリと足を止めて此方へ向いた。


    桑田「ハァ?お前何言ってんの?お前のどこが苗木だっつーの!」

    腐川「何よ…、騙そうとしてるの?私が馬鹿みたいな見た目してるから?騙せると思ってるの?そうでしょ!?」

    苗木「じょ、冗談はやめてよ…」

    霧切「冗談なんて言ってないわ。寧ろ此方から見たら貴方の発言が冗談にしか聞こえないのだけど」

    本気だった。

    その声色は、冷たく、突き刺さる言葉はとても痛い。

    苗木「そん…な…」

    「みんな。どうかしたの?」

    大和田「オウ、苗木!」

    苗木「……え?」

    声のした方へ振り返る。

    苗木と呼ばれた声の主の方へ。

    「あはは、寝坊しちゃった。大和田君。おはよう」

    苗木「…!?」

    髪型も、顔も、声も。

    何もかも僕ではない誰かがそこに居た。

    舞園「苗木君。おはよう」

    「おはよう、舞園さん」

    入学当初の敬語が崩れた舞園さんが、笑みを浮かべながらその誰かを『苗木君』と呼んだ。

    誰かは端から見れば間抜けな程ふにゃふにゃした笑みを浮かべ挨拶を返す。


    苗木「みんな。違うよ、それは僕じゃない…僕じゃないんだよ!!!」

    大和田「アァ?何言ってんだコイツ」

    苗木「大和田君、僕だよ?分からないの?!ねえ!」

    大和田「知らねェよ、どけ」

    ドンッ

    苗木「ぐっ」

    強く突き飛ばされたわけではないのだが、警戒を完全に解いていた状態で突っ撥ねられた僕の身体は揺らぎ。

    無様に尻もちをつき、改めて皆んなの視線を見た。



    まるで異物を見るような目。



    苗木「…僕は……」



    何だよ…。その目は。



    苗木「……僕……が……」



    苗木誠なんだ…。







    舞園「…苗木君。行こう」

    「あ、うん…」

    砕けた口調で『苗木君』へ声を掛ける彼女と、それに返事を返す『苗木君』

    苗木「舞園さんッ!!」

    立ち上がり『苗木君』と舞園さんの間に割って入りながら彼女の名前を呼ぶ。

    舞園「何ですか?これ以上付きまとうようなら警察呼びますよ」

    突き付けられたのは拒絶の言葉。

    「舞園さん…何もそこまでしなくても…」

    舞園「いや、駄目だよ。ハッキリ言わないと。迷惑なら迷惑だって。苗木君は優しすぎるよ」

    苗木「………」


    何故だろうか。その『苗木君』に対する肯定の言葉は『僕』を否定しているようで。


    僕という存在に杭を打たれたようで、彼女らを追うことは──その場を動く事は出来なかった。


    苗木「………」


    杭を打たれたのは脚ではなく。心だが。




  14. 14 : : 2017/03/30(木) 06:34:34



    『苗木君』を含む78期生の面々が校舎の中に姿を消していくのを見送った後。僕は項垂れるようにしながらその場に膝をついた。




    苗木「…………」




    砂利が制服越しに膝の肉に食い込むが、その痛みなど胸の痛みに比べれば些細な事だった。




    苗木「何だよ…、何なんだよ…この世界は!!!」




    吐き出す様に僕はコンクリートへ向けて叫んだ。




    苗木「僕は誰なんだよ…。アイツが苗木誠なら、僕は誰なんだよ!!!!!!!!」



    誰に問いかけたわけでも無いその言葉。



    返って来る筈の無い言葉。




    「苗木誠」




    誰かが『苗木君』の居ない状況で僕の名前を呼んだ。




    苗木「え…?」




    「君の名前は。苗木誠」







































    狛枝「でしょ?超高校級の幸運さん」







































    苗木「……えっと、……………誰?」


  15. 15 : : 2017/03/30(木) 06:53:41



    狛枝「────と、いうわけなんだ」

    苗木「狛枝先輩は、超高校級の幸運で、僕の一つ先輩なんだね」

    狛枝「そうだよ。よろしくね。あと、先輩呼びはしなくて大丈夫だよ」

    苗木「はい、えっと、よろしく…お願いします」

    心ここに在らずの返事を返す。

    僕の感覚はまだ麻痺していない。

    だって、僕はこの状況を受け止められていないのだから。

    僕以外の誰かが苗木誠を名乗り、周りが認知してる状況が、だ。

    狛枝「これは恐らく、実験なんだと思う」

    そんな僕の考えを見透かしたかのように、彼は言う。

    苗木「実験?」

    狛枝「君と僕との共通点を考えれば一目瞭然さ。あぁ、ごめんこんなゴミ屑みたいな僕と君を同種の様に扱っちゃって」

    苗木「超高校級の幸運…」

    狛枝「そう。それしか考えられない」

    苗木「でも、この状況が何の実験なの?」

    狛枝「大方、幸運は環境と人格に左右されるのか。って実験なんだろうけどね」

    苗木「いや、それは無いよ。だって実験なら僕達が自由に動けたら不都合しか起きないし」

    狛枝「【環境と人格】以外にあるのかも確認しようとしてるのかもね。まあ、苗木君をA、成り代わってるゴミ屑をBとするよ」

    苗木(酷い言い様だ)

    狛枝「AとBの両方が幸運なら、幸運は人格に大きく左右されることが分かるし、Bだけ幸運なら幸運は環境に大きく左右される事が分かる。Aだけならそれ以外の何か、両方失敗したならその全てが必要って分かるでしょ?」

    苗木「……なるほど」

    狛枝「超高校級の才能を持つ。謂わば希望である彼らを洗脳するなんて、許せないよ」

    狛枝「まあ、実験じゃ無いのが1番厄介だけどね。有り得ないとは思うけど、人ならざる何かが関わっていた場合…とか」

    苗木「実験なら、終わりがある…からね。でも流石に人為的じゃ無いかな?人ならざる何かは…」

    狛枝「僕、UFOに攫われたことあるよ」

    苗木「!?」

    狛枝「冗談だよ。あは☆」

    苗木「笑えない冗談だよ…」

    普段なら笑えるのかもしれないがこの状況ではシャレにならない。


    苗木「それで、そもそも何で僕の事を知ってたの?」

    狛枝「学園に居なくても情報なんて手に入れる方法はいくつでもあるさ。僕は希望を愛してるからね」

    苗木「答えになって無いよ…、え?学園に居なくても?」


    狛枝「実を言うとさ、僕は今休学中の身でさ」

    狛枝「偶然乗り合わせた便がハイジャックにあってね。まあ、事なきを得たんだけど、偶然この近くに着陸したから寄ったんだけど」

    苗木「突っ込みどころ多すぎるんだけど!?」

    狛枝「いやぁ、こんな場面で学園に帰還するなんて僕はツイてるね」

    苗木「…つまり、居る筈の無い狛枝君はこの実験にとってのイレギュラーなんだね。それでツイてるって?」

    狛枝「僕みたいなゴミ虫が、君の!超高校級の幸運である君の!力になれる事だよ!!」

    息を荒くしながら彼は笑う。

    狛枝「僕の事は財布だと思っていいからさ、どんどん言ってよ」

    財布から取り出した紙幣をヒラヒラさせながら彼は言う。

    苗木「いや、流石に人を財布として見るのは…」

    狛枝「親が生命保険で残した莫大な遺産があるから大丈夫だよ」

    苗木「尚の事使い難いよ!」



    ピュウッ!!



    狛枝「あ」

    突風に襲われ狛枝君の持っていた紙幣が風に攫われる。

    狛枝君はその紙幣を追うべく駆け出す。

    苗木「待ってよ!狛枝君!」

    僕は彼に続く様に後を追った。

    そして。

    苗木「あっ…」

    お札は、アパートの一室の開いた窓の中に吸い込まれていく。

    狛枝「……よし。入ろうか」

    苗木「ええ!?」

    入ろうかと言い終わる前に、彼の足は既に窓枠の上にあった。


  16. 16 : : 2017/03/30(木) 06:55:44



    【ボロアパート】



    苗木「これ、不法侵入なんじゃ…」

    狛枝「大丈夫だよ。僕はツイてるんだから」

    苗木(だから答えになって無いんだって…)

    窓枠を乗り越えた僕らは靴を脱ぎ、部屋に足を踏み入れる。お札は目と鼻の先だ。

    苗木(まあ、超高校級の幸運が2人もいr)


    御手洗「だ、誰だよお前ら!?」

    苗木「!!」

    隣の部屋から出てきた少年と鉢合わせた。

    狛枝「…僕はツイてる筈なんだけどね…」

    御手洗「こ、答えになって無い!」

    苗木(よく言ってくれたよ)

    僕は心の中で拍手と賞賛の言葉を贈る。

    しかし、不味い。これは警察のお世話になる流れだ。

    何としても逃げないと。

    …いや、状況を説明するべきか?

    そんな風に考えている間に。

    狛枝「初めまして。僕は狛枝凪斗だよ」

    苗木(名乗っちゃった!)

    御手洗「狛枝…、狛枝!?」

    狛枝「え、何かなその反応は…。初対面だっけ。御手洗亮太クン」

    御手洗「!?な、何で!」

    狛枝「入って来た時に偶然学生手帳に触れちゃってさ。その反応から見るに同姓同名とは違うみたいだね。痩せた?」

    御手洗「………」

    苗木「?」

    御手洗「話すしか無い…か」


    彼は諦めたように溜息をついた後、口を動かした。


  17. 17 : : 2017/03/30(木) 06:57:47



    Now Looding…



    狛枝「つまり、作品を完成させる為に此処でアニメを作り続ける御手洗亮太クンと、その代わりとして登校する、誰かの身分が必要な超高校級の詐欺師クンって訳だね」

    御手洗「そうだよ…。軽蔑したか?」

    狛枝「軽蔑?何を言ってるんだい?」

    御手洗「え…」

    狛枝「超高校級の才能を持ち、それを作品として昇華しようとする君の行動を軽蔑するなんて、そんなの天地がひっくり返ってもあり得ないよ!」ハァハァ

    御手洗「そ、そうか…」

    息を荒くし、自らの身体を抱く様に悶える狛枝君を見て、御手洗君は若干引いていた。

    だが、警戒は解いてくれたみたいだ。

    御手洗「何だったらさ、見ていくか?」

    苗木「え!?良いの?!」

    御手洗「まだ完成では無いけど、アニメっていうのは見られてその価値を発揮するから」

    彼はそう言いながら動画ファイルを開いた。








    少年鑑賞中…








    苗木「うっ…うう…。」


    狛枝「希望…。これが希望。希望ってあったかいね…」


    御手洗「当たり前だ。この作品は内容や絵の良さだけじゃなくて、視覚と聴覚へ特殊な信号を使って脳へ直接揺さぶりをかける技術を詰め込んだ作品だからな」

    当初のビクビクした様子は無く。僕らの反応を見て鼻が高そうにしながら彼はそう言った。

    狛枝「それってさ、例えば今迄接してきた人間を別の人間にすり替える事って出来る?」

    苗木「!!」

    御手洗「出来る訳無いだろ。記憶ってのはそんなパソコンのデータ見たいに改竄出来る物じゃないし、僕と彼みたいに始めから入れ替わってないと無理だ」

    狛枝「だよね…」

    御手洗「そうだ。次はこれを見てみないか?」

    苗木「本当に!?」

    狛枝「お言葉に甘えさせてもらうよ」








    少年鑑賞中…








    苗木「ぐすっ……えっぐ…ひっぐっ……」


    狛枝「あっつ!希望!熱っ!」


    そんなこんなで、御手洗君の製作したアニメを見ていると、時刻は四時を回っていた。


    御手洗「あ、そろそろ帰ってくるから」

    狛枝「そっか。じゃあ僕達はここで失礼させてもらうね」

    苗木「分かった。ありがとね、御手洗君」

    御手洗「ああ。また見に来ても良いから、ただ…」

    苗木「他言無用だよね。任せて」

    御手洗「よろしくな。ま、またな狛枝。苗木」

    苗木「うん。またね」

    狛枝「またね。御手洗君」

    こうして僕らはアパートを後にした。



  18. 18 : : 2017/03/30(木) 06:59:58






    【ベンチ】


    苗木「あ!僕達、結局何も分かってない」

    狛枝君が自販機で当てた、毒多ーペッパーを飲み(実質タダだからと強引に渡された。僕は名前からして飲みたくなかった)、一息ついた時に僕は思い出す。

    狛枝「それ程彼の作品は、現実を忘れさせる程の出来だったんだね。流石、希望の象徴だよ」

    噴き出し顔にかかったコーラをタオルで拭きながら彼は言う。

    狛枝「それに時間が経たないと分からない事もあると思うし。まだそんなに慌てなくて良いと思うよ」

    苗木「そう…だね。でも、僕は一分一秒でも早く、解決したいよ」

    苗木「名前も知らない誰かが、僕として行動しているのが耐えられない…」

    同時に、僕がクラスメイトに苗木誠と認知されない事も耐えられなかった。

    狛枝「それに関しては僕も同意だね。希望に群がるハエが、1匹紛れ込んでいるんだ。見てられないよ」

    狛枝「だから、僕は動いてみようと思う」

    苗木「動くなら、僕も行くよ…!」

    狛枝「いや、駄目だよ。超高校級の幸運として認知されてない今の君じゃ、警備員が通してくれないし、見つかればどうなるか分からない」

    苗木「それは…」

    狛枝「明日。希望ヶ峰学園の噴水の近くにあるベンチで待ち合わせしようか、時間は12時で良いかな?」

    苗木「うん。それで大丈夫だよ」

    狛枝「近くにホテルは…、ホープホテルしかないね。値段はスイートルーム一部屋10万円くらいかな…」

    そう言いながら彼は僕へ札束を渡してきた。

    苗木「いや、受け取れないよ!!こんな大金!!」

    狛枝「でも、どうするの?」

    苗木「寄宿舎は無理そうだから、一旦実家に帰ってみるよ」

    狛枝「電車代貸そうか?」

    苗木「いや、1時間歩く程度だから大丈夫」

    狛枝「…分かった。これ、僕の連絡先だから何かあったら連絡してね。僕は学園内で調べられる事を調べてみるからさ」

    苗木「うん。分かった」

    苗木「そういえば狛枝君は何処かに泊まるの?」

    狛枝「寄宿舎を使う分には大丈夫だと思うけど」

    苗木「そっか。狛枝君の部屋はあるもんね」

    狛枝「そういうこと。じゃあ、また明日」

    苗木「分かった。また明日ね、狛枝君。一応、帰り着いたら電話するから」

    狛枝「うん。待ってるね」

    そう言い終えると、彼は本校舎の方へ歩き始めた。

    僕も自分の家に帰るために、本校舎へ背を向け歩を進めた。


  19. 19 : : 2017/03/30(木) 07:34:41


    【住宅街】


    都内にある一戸建て。そこが僕の16年暮らした家だ。

    僕が産まれて来るタイミングで引っ越したと云うのを以前母さんが言っていた。

    苗木「お盆に帰ったきりだから1ヶ月ぶり…か」

    苗木と書かれた表札。その下に配置されたインターホンを押す。

    聞き慣れたチャイムの音の後、インターホンから「はーい」という母さんの声が聞こえた。

    小学校頃はよく家に鍵を置いたまま遊びに行ってこうして開けてもらっているのを思い出す。

    当時の僕は何も悪びれずに「ただいま」と言っていた。

    苗木「ただいま」

    思い出したからなのか、反射的なのか僕の口から出たのはその言葉。






    苗木母「えっと…どちら様でしょうか?」





    マイク越しに聞いたせいだろうか。その声は無機質でとても冷たいものの様に感じた。

    インターホンにはカメラの機能が付いている。

    つまり彼方から僕の姿は見えている筈なんだ。

    苗木「……」

    苗木母「訪ね先、間違えてると思いますよ?」

    赤く点灯していたランプが消えた。インターホンが切れたのだ。

    もう、声も映像も届かない。

    苗木「嘘…だろ?」

    嘘だと思いたかった。だけど、母さんが冗談でもこういう事をしない事を僕は知っていた。

    苗木「嘘で…あってくれよ……」

    それでも祈った。認めたくないから。

    インターホンを再び押す事は出来なかった。

    それは今の僕にとってギロチンに首を固定する事と同じ意味を持つからだ。

    夕陽が出る時間までNaegiと書かれた表札の前で立ち竦んで居ると。

    足音が僕の方へ近づいて来る。

    振り返ると、そこには妹が居た。

    こまる「えっと、お兄ちゃんの知り合い?」

    学生鞄と制服の姿、学校帰りのこまるが実の兄()に向けそう問いかけた。

    苗木「違うよ…」

    フラフラとした足取りでこまるに近付く。

    苗木「知り合いなんかじゃない……僕が…」

    肩を掴み──

    こまる「誰…?止めて!」

    パンッ!

    苗木「!」

    手を叩かれ我に返る。

    苗木「……」

    ここで僕は、家族にすら忘れられた(非)現実を受け止めた。受け止めるには、重過ぎるのだが。

    苗木「…ごめん」スタスタ

    僕は、僕の家を足早に去った。

    こまるが逃げる様に家に駆け、玄関を力強く閉じ、鍵を閉める。

    背中でその音を聞いて僕は、受け止めた(非)現実の重さで押し潰された。


    苗木「はは……あんまりだろ…、これは……」


    フラフラと歩く僕を馬鹿にする様に、黒い巨人が下手で惨めなダンスを踊る。

    苗木「………」

    夕陽で伸びた影を見て、小学校の頃。母さんとこまると手を繋ぎ買い物に行った事を思い出す。


    『誠君とこまるちゃんがこの影みたいに大きくなっても、また手を繋いで買い物に行こうね』


    それはどうやらもう叶わないみたいだ。

    僕を迎えてくれる人は、もう何処にもいない。

    何をすれば、こんな仕打ちを受ける事になるのだろうか。


    嘘をついた人が地獄で舌を抜かれるのなら。僕は何をして生きてるうちにこんな罰を受けているのだろうか。


    もう、これ以上こんな辛い思いはしたくない。


    身体を抱くようにしながらその場に蹲る。


    その時、僕の制服の中に何か入っている事に気付く。

    取り出すと、1枚の紙が入っていた。



    内容は────





    『忘れるな』





    ────それだけだった。


    苗木「なんだよこれ…忘れてるのは皆んなの方じゃ無いか…ッ」

    その紙をクシャクシャにした後ポケットへ突っ込み、希望ヶ峰学園へ向け、駆け出す。


    僕の事を知ってくれている彼に会いたかったから。

  20. 20 : : 2017/03/30(木) 07:54:03


    【希望ヶ峰学園】


    電話を持っていないので、彼を探すのは僕の足しか無い。

    狛枝君は本校舎の中へ入っていった。帰るとしても寄宿舎だから、希望ヶ峰学園の土地の中にいるのは確実な筈だ。

    彼の寄宿舎がどの寄宿舎なのか僕は知らない。

    学園の周りを一通り回った後、明日の待ち合わせ場所である噴水広場に足を運ぶ。

    結論から言えば狛枝君は居なかった。その代わりピンク色の髪をした女の子がいた。

    見覚えがある服装。あれは本科の制服だ。

    苗木「ねえ、君。狛枝君を知らない?」

    七海「えっと…どちら様?」

    ベンチに腰掛けていた少女はゲーム機から目を離し僕を見つめる。

    ちなみにだが、そのゲーム機は真っ暗で元から電源は付いていなかったようだ。

    苗木「僕は苗木誠だよ。…って、言っても分からないか」

    七海「!」

    苗木「それで、さっきの質問なんだけど。狛枝君が何処にいるか知らない…?」

    七海「狛枝君は……」

    そのまま彼女は黙り込む。

    苗木「何か言えない事情があるの?」

    七海「…えっと」

    苗木「お願いだよ。狛枝君は今、どこにいるの?どうしても、知りたいんだ」

    七海「君は狛枝君の…」

    苗木「友達だよ」



    そう言うと、彼女は意を決したのか深呼吸をした後。











    七海「狛枝君は…………死んだよ…」

    ポツリと。彼女は言った。

    苗木「は…っ?」

    七海「テロ行為を起こして、殺された」

    苗木「じょ、冗談はやめてよ!!」

    隕石が落ちてきたとか、飛行機が墜落したとか、確率的なものならまだ信じられたかもしれない。

    でも、狛枝君がテロ行為を犯すなんて、僕には信じられない。

    七海「冗談なんかじゃ無いよ!…ネットでは動画も出回ってる」

    そう言うと、ポケットから取り出した端末をいじり、僕は突きつける。

    画面の中のloadingの文字の後、僕は見た。

    ヤジが騒ぐ中。

    拡声器を手に持ち、火の海の中で笑う少年がそこに居た。

    狛枝『ねえ、届いているかい?僕のメッセージ!!僕の幸運と君の幸運が本物なら!!!!きっと!!!全て上手くいくから!!!だから!!!!』



    ダァンッ!!!!!!!!!!



    苗木「………」


    画面から目を背ける。

    それ以上動画を見る事は出来なかった。





    苗木「何で…?何でこんなことになってるんだ…?」

    七海「私にも分からない。でも、これだけは分かる事がある」

    苗木「分かる事?」

    七海「君が、狛枝君の言っていた苗木誠君。でしょ?」

    苗木「な、何で?何で僕が苗木誠だって分かるの?」

    七海「分からないよ。でも、狛枝君から頼まれた事があったの『きっと苗木誠を名乗る、苗木誠の姿をしていない少年が現れる、その子にこれを渡してほしい』って」

    彼女はそう言い終わるとアタッシュケースを僕へ渡す。

    苗木「これ…は?」

    七海「中は見てないよ。だって、これはゲームじゃないんだから、見るのはマナー違反だよ」

    苗木「ありがとう。…えっと」

    七海「私の名前?私は七海千秋、超高校級のゲーマーだよ。以後お見知りおきを」

    苗木「七海さん。ありがとう」

    僕は七海さんからアタッシュケースを受け取り、感謝の言葉を述べた。

    七海「う、嘘…」

    だけど彼女にその言葉は届かず。

    彼女の瞳は僕では無く、その後方を見つめていた。

    「あれ?どうしたの七海さん」

    聞き覚えのあるネットリとした声。

    苗木(えっ?)

    振り返ると白髪の超高校級の幸運がそこに居た。

    苗木「狛枝君!?」

    狛枝「え?初めましてだよね」

    咄嗟に名前を呼んだが、彼はそれに対して小首を傾げ、僕に対して初めましてと言った。

    苗木「僕だよ!苗木誠!超高校級の幸運の!」

    狛枝「…一応だけど、何期生か聞かせてもらっていいかな?」

    苗木「78期生だけど」

    狛枝「ごめん、やっぱり知らない人だよ。僕の知ってる78期生の苗木誠君は、君のような人じゃないよ。まあ一方的に知ってるだけだけど」


    七海「狛枝君、生きてたんだね…良かった」

    狛枝「不思議だよね。僕は国会議事堂に近付いてすら居ないのに、僕と全く同じ顔をした誰かがテロ行為を行ってるんだから」

    苗木「え?」

    どういう事だ?

    偽者?

    僕と同じ…?

    いや、七海さんはこの狛枝君も、アタッシュケースを預けた狛枝君も狛枝君と言った。

    彼と、僕に何か違いがある?

    考えても答えは出なかった。

    狛枝「で、君は誰かな?」

    答えは出なくとも、僕を苗木誠と呼んでくれる人が居なくなった事だけは分かった。

    苗木「……」ダッ‼︎

    僕はアタッシュケースを抱くようにしてその場から逃げる様に駆け出した。

    誰も(苗木誠)など追いかけてはくれないのに。


  21. 21 : : 2017/03/30(木) 08:02:20




    【希望ヶ峰学園:通学路】


    苗木「ハァ…ハァ…ハァ…」

    息を切らし、塀にもたれかかる様にして座った後、アタッシュケースを開く。

    そこに入っていたのは、手紙と、一丁の拳銃だった。

    苗木「!?」

    パッと見ではリボルバーの拳銃の様なのだが、ハンマーは付いておらず、どちらかと云えばそういうデザインの水鉄砲やライターの様な感じだ。

    ズシリとした重さ以外は。

    苗木「何で、こんなものが?」

    その疑問の答えがあると信じて、僕は拳銃をポケットの中にしまった後手紙に手を伸ばす。


    『この手紙を君が読んでいるという事は僕の幸運が本物だったってことだね。良かったよ』

    苗木「良く…ないだろ…。君が、狛枝君が、死んでるんだよ…」


    手紙はまだ続いていた。


    『この弾丸を偽物へ撃ち込めば悲劇は終わりを告げる』


    『但し、弾は1発だけ』



    手紙はここで終わりだった。




    苗木「偽物……」





    撃ち込むべき相手は、直ぐに思い浮かんだ。





    苗木君(偽物)






    友達を騙し。家族を奪った人物。







    苗木「我が物でその席に座るな……。そこは、僕の場所だ」







    自分を奮いたたせるように僕は言う。







    苗木「償ってもらうぞ……」







    苗木「僕を偽った報いをこの弾丸で(罪には罰を)



  22. 22 : : 2017/03/31(金) 04:26:22



    苗木「………」

    フードを深く被り、木にもたれかかるようにして僕は立っていた。

    僕は知っている。毎週木曜日の夜、僕が舞園さんと学園敷地内を散歩する事を。

    大丈夫。簡単だ。何食わぬ顔で近付いて、頭を撃ち抜けば。



    元に……。



    お…わ…る。





    苗木(来た…)



    脳裏にこべりつく【最悪の推論】を頭を横に振ることによってリセットし、息を殺しタイミングを伺う。



    舞園「やるからには優勝しようよ!大丈夫!」

    舞園さんの声が聞こえる。優勝、体育祭の話だろう。

    僕は咄嗟に身を隠してしまった。

    「そうだね。みんなが居るから大丈夫だよね!」

    舞園「うん。でも、そのみんなの中には当然苗木君も含まれてるのを忘れちゃ駄目だよ」

    「いや、僕なんて超高校級って言われるみんなと比べたら…」

    舞園「何言ってるの?苗木君だって超高校級の幸運でしょ」

    「そうだけど、結局クジ引きみたいなものだし…」

    舞園「それに、私達のコンビが他の人に負けるとは思えないよ!超高校級の幸運と超高校級のアイドルのコンビじゃなくて。苗木誠と舞園さやかのコンビが、だよ」

    舞園「やる前からそんな消極的じゃ駄目だよ。前向きなのが、苗木君の良いところなんだから」

    「…ありがとう。舞園さん」

    舞園「じゃあ、苗木君、絶対に優勝しましょうね!」

    舞園さんが拳を掲げた。

    「お、おー!!」

    舞園「声が小さいよ!勝つんだよ!おーーっ!!!」

    「おーーーっ!」

    彼は笑っていた。馬鹿みたいに、へらへらと間抜けな顔で────とても幸せそうに。

    舞園さんも、同じ様に笑っていた。













    苗木「……………」



    僕はその会話を聞いて、何故か冷静になった。怒りや、悲しみ、嫌悪感、憎悪。目を曇らせている霧のようなそれらがはれた。




    苗木「無理だ………」




    膝が震え、ガチガチと歯がぶつかり、右手から噴き出した汗が、銃のグリップをじっとりと湿らせる。




    苗木「アイツが…居なくなってどうなるって云うんだよ………」




    やめろ、考えるな。考えちゃ駄目なんだ




    苗木「僕は……僕に誰かを不幸にする事は、出来ない」



    ましてや、僕を不幸にするなんて、誰も救われないだろ。



    必死で僕は目を背けようとしていたんだ。



    もしも誰かを洗脳出来たとしよう。



    それは、誰かの思い出を書き換える事は出来るのか?



    Aとの出来事をBだったことにする事は。



    それを学園の生徒。家族までにする事は。



    苗木「実験な訳なかった……。実験ならこんな周りを巻き込む大掛かりな事をするわけない」



    その先に行き着けば、もう戻れない。



    だが、もう手遅れだった。僕は既に答えに辿り着いたのだから。



    滑走路を越えた、ジェットコースターの様に、落ちるのみ。




    苗木「…………ああ、そうか」










































    苗木「あはは…偽物は、紛い物は、罪は…。僕だった…」


    僕はおぼつかない足取りで歩み始める。


    ここは人目につくから。


    その先にあるのは。



    苗木「さあ…死に場所を探そう」




  23. 23 : : 2017/03/31(金) 04:29:02





    【河原】


    最終的に辿り着いたのは僕のお気に入りだった河原。その橋の下だった。


    苗木「………」

    寄宿舎と、そこから一番近いコンビニを繋ぐ道にある河。

    この河で何か思い出があるわけでは無いのだが、僕は土手の上から夕日を反射させるこの河を見るのが大好きだった。

    大好きだった。筈だった。

    苗木「…何てことの無い河だ」

    月明かりに照らされた河を見ながら僕はそう呟く。

    苗木「ああ…。そうだったんだ」

    全く胸踊らない河を見て、僕は気付く。

    眩しく照らされた河ではなく。皆んなと一緒に居るから楽しかったんだ。

    眩しいのは、皆んなだった。皆んなといる時間だった。


    苗木「……っ…………っ…」ポロポロ


    目頭が熱くなり、歯の隙間から声が漏れた。


    だけど、この感情はきっと、僕のものでは無い。だから僕が泣いちゃダメなんだ。


    苗木「……」


    荒れた呼吸を整えた後、銃口を頭に向ける。


    苗木「………」


    ほら自分でも言ってたじゃないか。


    死にたいって。


    有言実行さ。


    でも不思議なんだ。


    僕は、いま死ぬことより。


    1人が怖いんだ。


    元の学園生活に戻るって希望が消えた今。


    一生独りぼっちっいう絶望が怖いんだ。


    情けないだろ?苗木誠。


    きっと、前向きな君なら違う答えを出せたのかもしれない。


    弱くて、ごめん。僕。


    名前も分からない僕。




    苗木「───」



    指に力が入る。



    全てが終わる。













    「ねえ、君。何やってるの?」









    少年の声が橋の下で響き、僕の行動を静止させる。


    苗木「苗木………誠…君」

  24. 24 : : 2017/03/31(金) 04:31:29



    苗木「自殺だよ」

    彼の登場に驚いたものの、僕は切り替え、そう言い放つ。

    消えちゃうんだ。最期くらいはカッコをつけよう。そう思ったから。

    「自殺!?手に持ってるのは…拳銃!?」

    苗木「安心して、僕は君のいない所で1人で死ぬさ」

    「何言ってるんだよ!そんなの駄目に決まってるだろ!!」

    舞園さんと話していた時のふにゃふにゃした表情は消え、真剣な表情で彼は言う。

    苗木「……」

    誰かも分からない人間にそんな風に真剣に向き合えるなんて、僕は良い奴だな。


    『苗木君』(苗木誠)、君は良い奴………え?

    変化が起こった。

    苗木「…僕?」

    さっきまで其処にいた誰かは僕。いや、僕の知る苗木誠になっていた。

    僕の認知が変わった瞬間に。

    苗木「どういう事だよ!?」

    「ど、どうしたの?!」

    苗木「君には、君には僕がどう見える?」

    「どう見えるかって言われても…白いカッターシャツを着た、黒い髪の男の子だけど」


    苗木「!?」


    そんな筈は無い。僕の髪は茶髪だし、格好はパーカーの上にブレザーを着ている。


    僕が勘違いしているだけじゃない?


    まて。


    何故狛枝君と認識される存在が2人いる?


    それがまだ片付いていない。


    僕の事を知っていたのは、まだ情報の誤りで説明がつく。


    まるでデータの様に、同じ人間が2人いるなんて…。


    苗木「………」


    可能性を突き詰めた結果、僕が偽物という答えに辿り着いた。


    もし、それが間違っていたとするならば?


    ありえないを切り詰めていった結果、残ったものが真実だとするなら。





    御手洗『データじゃ無い限り無理だ』





    苗木「まさか…偽物は、この世界?」



    全てが繋がる。



    苗木「そういう事だったのか…」


    きっと、この偽物の世界は、僕の認知が大きく関わる別の世界。

    それなら、全ての説明が通る。



    そして銃口を向ける相手も変わる。




    苗木「さよなら。僕の初恋」



    僕は静かに銃口を上に向けた。



    その瞬間。僕以外の世界が止まった。

  25. 25 : : 2017/03/31(金) 04:33:53



    苗木「え?」


    河の流れる音も、虫の鳴く声も風の音も。全て聴こえなくなる。

    聞こえたのは

    「ちょーっと待ったぁ!!!!!!!」

    聞き覚えのある少女の声。

    江ノ島「101回目の告白ですかー?プロポーズにしとけっての」

    苗木「江ノ島さん?!」

    江ノ島盾子。僕のクラスメイトで超高校級のギャル。

    江ノ島「落ち着けよ。苗木」

    苗木「落ち着けったって、ええ!?」

    世界が止まった事への驚きは大して無かったが、その中で動いている彼女には驚きを隠せなかった。

    江ノ島「何故アンタがこの世界に2人いるか分かんないの?」

    彼女がこの世界でどういう存在なのかは分からない。

    ただ、苗木誠(アンタ)がこの世界に2人いるという発言から、この世界の住人では無い事は何となく察せれた。

    苗木「………」

    認知上が大きく関わる事は分かったけれど、そこだけはどうしても分からなかった。

    僕と狛枝君が2人いる世界。

    2人とも同じ認識の狛枝君と、片方しか認識されなかった僕。

    江ノ島「ループが終わったんだよ!!」

    苗木「ループ…?」

    江ノ島「そこは理解してないんだ。んじゃ、教えな〜い。説明するの面倒だし」

    江ノ島「ま、端的に言うとここは記憶の中の世界で、現実に戻るって事は死ぬって事なんだよ」

    苗木「はぁ?!何でそうなるんだよ!」

    江ノ島「アンタは2年間を幾度となく繰り返したの」

    苗木「2年を…繰り返した?」

    彼女の発言を鵜呑みにするなら、僕は過去の記憶を追体験する為にここにいる、という事なのか。

    江ノ島「どれだけ繰り返したかは、私の権限じゃ分かんないんだけどね」

    江ノ島「つまり、穏やかに老衰しちまってんだよ」

    先程のループという発言と結び付けると、僕は学園での生活を何度も繰り返し、その過程で現実の僕は老衰。つまり死んだ。


    苗木「………」


    江ノ島「『苗木君』を殺してその座を奪っちまいなよ。その銃なら、それが出来るよ。言弾ならぬ言騙ならね」


    まるで悪魔の囁き。


    だけど答えは決まっていた。


    苗木「……いいや。奪う必要は無いさ。だって僕には帰る場所があるから。帰らないといけない場所があるから!」


    江ノ島「誰も困らないじゃん!元の世界にアンタを待つ人は居ないんだよ?アンタも居ない。それは唯の自殺」


    苗木「それでも、終わらさないといけないんだ」


    江ノ島「それは、記憶の中の人形(アイツら)を殺すって事だよ?良いの?アンタは仲間を殺すんだよ?」


    苗木「みんな不幸になるくらいなら、僕は殺人犯にだってなってやる」


    江ノ島「アンタさっきまで殺せないってメソメソしてたじゃん!!身勝手じゃないの?」


    苗木「確かに、記憶の世界の彼らに何の非は無い。でもこれが記憶の中の世界なら、未来(奪われる幸せ)なんて無いんだよ!不確かなものじゃない、幸せ‘‘かも’’しれない未来なんてない、幸せ‘‘だった”んだ!絶対に!!」


    苗木「この世界に留まる事は、僕とみんなへの裏切りなんだ」


    苗木「だから僕はこの世界を終わらせるんだ。幸せを肯定する為に。幸せだったって言う為に」


    江ノ島「出来んの?アンタなんかに?幸せを肯定なんて出来るの?」


    苗木「出来るさ。この銃が、きっとスターターピストルになってくれる」


    江ノ島「だーから、帰ってもアンタは死んでるの!」


    苗木「それでも帰るって約束したんだ」


    江ノ島「誰にだよ。覚えてなんか無いくせにさぁ」


    苗木「覚えてるさ。僕の魂が」


    苗木「忘れるなって言ってるんだ、僕自身が」

    『忘れるな』というメッセージは、きっと僕から僕へのメッセージ。

    つまり、僕には忘れたく無い事があった筈なんだ。

    苗木「それに自殺ならさっきしようとした」

    江ノ島「ばっかみたい」

    僕は静かに銃口を天へ掲げた。

    僕を待つ誰かへ、ただいまと言えない事だけが凄く心残りだ。


    だけど僕は1人じゃない。


    だから怖くない。


    走り出そう。未来へ。


    やっと追い付ける。

    やっと隣へ並べる。



    位置について。


    よーい。











  26. 26 : : 2017/03/31(金) 04:36:48



















    苗木「!」

    目を覚ます。

    半透明の壁から見える白い天井。

    ここは天国だろうか。

    苗木「………」

    身体が上手く動かない。

    少し視線をズラすと管が至る所に繋げてある。

    身をくねる様に動かすと、激痛が走った。

    苗木「ッ…!」

    同時にビービーッと警報が鳴り出した。


    暫くすると、遠くから幾つかの足音がする。


    豪快な音をたて、部屋の扉がスライドし。

    カプセルの蓋が音を立てながら開かれた。

    医師の格好をした男性が僕を見て目を丸くする。

    それに続いて、僕の姿を覗き込む人影が五つ。


    そこで、僕は全てを思い出した。


    苗木「た…だいま」


    掠れた声を絞り出す様にそう言う。


    僕は生きる。


    生きる事は真に辛く苦しい。でも、罰では無い。



    朝日奈「おかえり、苗木」

    葉隠「おかえりだべ!」

    腐川「心配させんじゃないわよ」

    十神「遅いぞ苗木」

    霧切「おかえりなさい。苗木君」



    誰かと一緒なら。




    パァン!!!!



  27. 27 : : 2017/03/31(金) 04:38:18
    >>3




    end
  28. 28 : : 2017/03/31(金) 04:41:18
    終わりです!
    情緒不安定な苗木申し訳ないです!!!!!!

    冬のコトダ祭り参加の皆様、遅刻してしまい申し訳ありません!

    レスは時系列順です。

    ここまで読んでくださりありがとうございました!
  29. 29 : : 2017/04/01(土) 06:53:37
    保育園の資金を着服して逮捕されたり運営する旅行会社が倒産してお忙しい中の執筆ありがとうございます。
    ssならではのギミックを利用した非常に珍しくも新しい作品だと思います。
    ご参加ありがとうございました!
  30. 30 : : 2017/04/01(土) 07:03:45
    >>29
    エイプリフールでも許されない程の嘘です!!

    ありがとうございます!
  31. 31 : : 2017/04/01(土) 16:41:43
    ホラーなのに、感動したっ…!
    すごい発想力ですね。ただただ感嘆するばかりです。。この技量が恐ろしい。
  32. 32 : : 2017/04/02(日) 11:54:13
    内容も良いですが、書き方の発想が素晴らしい。
    自分だったら苗木が戻ったあとに回想やりそうです。

    やっぱりベータさんは神やったんやなって
  33. 37 : : 2017/06/18(日) 00:47:41
    >>31
    今更ですがありがとうございます!
    そう言っていただけて良かったです!!!!

    >>32
    もう少し飛び飛びになる予定だったんですけど、結局ぶつ切りみたいになってしまいました…(笑)
    自分神とは程遠いですが…!ありがとうございます
  34. 38 : : 2020/10/26(月) 15:32:04
    http://www.ssnote.net/users/homo
    ↑害悪登録ユーザー・提督のアカウント⚠️

    http://www.ssnote.net/groups/2536/archives/8
    ↑⚠️神威団・恋中騒動⚠️
    ⚠️提督とみかぱん謝罪⚠️

    ⚠️害悪登録ユーザー提督・にゃる・墓場⚠️
    ⚠️害悪グループ・神威団メンバー主犯格⚠️
    10 : 提督 : 2018/02/02(金) 13:30:50 このユーザーのレスのみ表示する
    みかぱん氏に代わり私が謝罪させていただきます
    今回は誠にすみませんでした。


    13 : 提督 : 2018/02/02(金) 13:59:46 このユーザーのレスのみ表示する
    >>12
    みかぱん氏がしくんだことに対しての謝罪でしたので
    現在みかぱん氏は謹慎中であり、代わりに謝罪をさせていただきました

    私自身の謝罪を忘れていました。すいません

    改めまして、今回は多大なるご迷惑をおかけし、誠にすみませんでした。
    今回の事に対し、カムイ団を解散したのも貴方への謝罪を含めてです
    あなたの心に深い傷を負わせてしまった事、本当にすみませんでした
    SS活動、頑張ってください。応援できるという立場ではございませんが、貴方のSSを陰ながら応援しています
    本当に今回はすみませんでした。




    ⚠️提督のサブ垢・墓場⚠️

    http://www.ssnote.net/users/taiyouakiyosi

    ⚠️害悪グループ・神威団メンバー主犯格⚠️

    56 : 墓場 : 2018/12/01(土) 23:53:40 このユーザーのレスのみ表示するこの書き込みをブックマークする
    ごめんなさい。


    58 : 墓場 : 2018/12/01(土) 23:54:10 このユーザーのレスのみ表示するこの書き込みをブックマークする
    ずっとここ見てました。
    怖くて怖くてたまらないんです。


    61 : 墓場 : 2018/12/01(土) 23:55:00 このユーザーのレスのみ表示するこの書き込みをブックマークする
    今までにしたことは謝りますし、近々このサイトからも消える予定なんです。
    お願いです、やめてください。


    65 : 墓場 : 2018/12/01(土) 23:56:26 このユーザーのレスのみ表示するこの書き込みをブックマークする
    元はといえば私の責任なんです。
    お願いです、許してください


    67 : 墓場 : 2018/12/01(土) 23:57:18 このユーザーのレスのみ表示するこの書き込みをブックマークする
    アカウントは消します。サブ垢もです。
    もう金輪際このサイトには関わりませんし、貴方に対しても何もいたしません。
    どうかお許しください…


    68 : 墓場 : 2018/12/01(土) 23:57:42 このユーザーのレスのみ表示するこの書き込みをブックマークする
    これは嘘じゃないです。
    本当にお願いします…



    79 : 墓場 : 2018/12/02(日) 00:01:54 このユーザーのレスのみ表示するこの書き込みをブックマークする
    ホントにやめてください…お願いします…


    85 : 墓場 : 2018/12/02(日) 00:04:18 このユーザーのレスのみ表示するこの書き込みをブックマークする
    それに関しては本当に申し訳ありません。
    若気の至りで、謎の万能感がそのころにはあったんです。
    お願いですから今回だけはお慈悲をください


    89 : 墓場 : 2018/12/02(日) 00:05:34 このユーザーのレスのみ表示するこの書き込みをブックマークする
    もう二度としませんから…
    お願いです、許してください…

    5 : 墓場 : 2018/12/02(日) 10:28:43 このユーザーのレスのみ表示する
    ストレス発散とは言え、他ユーザーを巻き込みストレス発散に利用したこと、それに加えて荒らしをしてしまったこと、皆様にご迷惑をおかけししたことを謝罪します。
    本当に申し訳ございませんでした。
    元はと言えば、私が方々に火種を撒き散らしたのが原因であり、自制の効かない状態であったのは否定できません。
    私としましては、今後このようなことがないようにアカウントを消し、そのままこのnoteを去ろうと思います。
    今までご迷惑をおかけした皆様、改めまして誠に申し訳ございませんでした。

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