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アオギリ読書強化週間

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  1. 1 : : 2016/12/01(木) 23:02:51
    始まりは”読書の秋”でした。エトがたまにキャラ崩壊している気がします。
    書き溜めているので更新はいつもよりかなり早めですが、まだ完成していません。

    ※このSSは直方さん主催の企画に参加しています。投稿期間15日の期限を守れるかは不明です。
     ↓
    守れません(12月12日)

    守れませんでした(12月16日)
  2. 2 : : 2016/12/01(木) 23:03:40



    少女がその行動をとったことに、特別な理由は無かった。

    「アヤトくん、この本を読んでみてよ」

    少女――笛口雛実から一冊の本を差し出され、絢都はそれを一瞥する。そして、本のタイトルすら確認することなく、視線を元の場所へと戻した。彼女はそのぶっきらぼうな態度を受けて、頬を膨らませる。それから本を持つ手をさらに彼の方へと近付けた。

    「読まねぇよ」

    観念した絢都は、断りの意志を言葉で示す。ここまではよくあるやり取りであった。

    雛実は文学少女と呼べる程の本好きである。一方の絢都は本を一切読んだことがない人種だ。彼は喰種としては学のある方であり、読もうと思えば読めるのだが、実際に手を付けたことはない。単純に、彼は本が嫌いなのだ。
    そんな二人は時折、上のようなやり取りをする。そしていつもなら、雛実が少しだけ不機嫌になって、それでこのやり取りは完結する。彼女の不機嫌さも数分もすれば本の力に掻き消されて、全て元通り。今回もこれで終わる――そんな彼の読みは外れた。

    「どうして読んでくれないの!?」

    予想外の反応。声を荒げる雛実に、絢都は困惑しながらも落ち着くように声を掛ける。彼女の怒りは沸騰寸前――ということは全くなく、彼の言葉に従い心を落ち着かせる。だが、彼女の不機嫌さが収まったわけではない。

    「いつもそうやって、読まないの一点張り。一冊ぐらい読んでくれたって良いじゃない。それでもやっぱり嫌いだって言うなら、私も諦めるから」

    いつになく粘り強い雛実に、絢都は頭を掻くことしか出来ない。何故本如きにここまで強く言われなければならないのか、彼には到底理解出来なかった。雛実はさらに続ける。

    「そうやって食わず嫌い……じゃなくて読まず嫌いしてるままだと、いつまでも大人になれないよ」

    「何でそうなるんだよ!」

    本を読まないからといって、そこまで言われる筋合いは無い。とうとう絢都は、雛実の説教への釘刺しを敢行した。

    「何かあったのか? それとも俺が何かしたのか? 俺には分からねぇが、今日のお前、変だぞ」

    「変ってどこが?」

    「さっきの説教だよ。俺が本を読まないのはいつものことなのに、今日に限って何でそんなに食って掛かってくるんだよ?」

    絢都はようやく、溜まっていた疑問を吐き出すことに成功した。さて、これに対する雛実の反応はというと――、

    「何でって……何でだろう?」

    これまた予想外の反応。先程の説教は、単なる気まぐれで行われたというのか。絢都の苛立ちを察して雛実はバツの悪さを感じ、何かしらの理由を考え出そうとする。気まぐれに近いものであったとしても、そこに潜在的な原因があるはずだ。頭をフル回転させた結果、彼女が導き出した結論は――、

    「秋だから?」

    照れ笑いと共に出されたその答えに、絢都は大きな溜め息を吐いた。
  3. 3 : : 2016/12/01(木) 23:52:53
    期待です(๑•̀ㅂ•́)و✧
  4. 4 : : 2016/12/02(金) 00:33:57
    >>4
    期待ありがとうございます!
  5. 5 : : 2016/12/02(金) 00:36:23

    スポーツの秋、食欲の秋、芸術の秋、そして読書の秋。暑すぎず寒すぎず過ごしやすい気候で、あらゆる食材が実りの時期を迎えるこの季節は、先述の言葉に代表されるように何をするにも向いている季節と云える。
    だが、それは人間の文化である。喰種にとってこの言葉達は、無縁とまでは云わないまでも限りなく馴染みの薄いものであった。というのも、喰種の殆どはスポーツ、芸術、読書に興味が無い、或いはそのようなものに興じている余裕が無い。最後の砦の「食欲の秋」に関しては、喰種にとって唯一の食料である人間は、秋になったからといって肉付きが急に良くなることは無いのでこれも使われない。

    結論、雛実が強引に捻り出した言い訳は、言い訳にすらなっていなかった。彼女もそれが分かっていて、気恥ずかしさから頬を仄かに赤く染めている。その様子が愛らしかったので、絢都は無意識のうちに少しだけ口元を緩めた。

    「――おやおや二人とも、青春しているね」



    「――――」

    突然の第三者からのからかい。二人が見せた反応は、羞恥に顔を赤らめるでもからかいへの叱責でもなく、緊張であった。その原因は、その声の主にある。
    先程までの和やかな表情は微かな名残さえも消え失せて、代わりに緊張と猜疑を顕わにする彼等は、声の元へと顔を向ける。そこには、ミイラのように全身を包帯で巻かれ、その上に赤紫のローブを身に纏った少女が立っていた。少女は親しげに、右手を挙げて「やあやあ」と挨拶をするが、二人の表情は変わらない。

    「何かの仕事ですか、高槻さん」

    静かであり且つ張り詰めた声で、雛実は少女の名前を呼ぶと共に、彼女への疑念を発した。

    雛実は少女を高槻――フルネームを高槻泉――の名で呼んだ。だが、これは彼女の人の世を生きる上での仮の姿の呼び名であり、雛実と絢都の所属する組織「アオギリの樹」において彼女はエトと呼ばれている。因みに、彼女の「高槻泉」としての一面を知るのは、数多くいるアオギリの樹の喰種達の中でも雛実と絢都の二人を含め僅かしかいない。
    エトはアオギリの樹では幹部に相当する地位にあり、指揮の立場にあるタタラ程ではないものの、配下に指令を出すことが多々ある。

    二人は、エトがアオギリの樹の幹部として何かしらの任務を言い渡しに来たのだと考えていた。彼女の指示は、アオギリの目的に忠実なタタラから出されるものと違い、どんなものになるかが全く読めない。それが彼等に、目上且つ格上の相手と対峙する以上の緊張感を与えていた。
    彼女は彼等のそういった思考を殆ど読み切った上で、次のように答えた。

    「半分当たりで半分外れ。今回はアオギリの樹の幹部としてではなく、私個人として頼み事があるの。協力してくれない?」

    わざとらしく、元々幼さを感じさせる声をさらに幼げにして、エトは二人に協力を請う。否、それは「二人」にではなく――、

    「ヒナミちゃん」

    雛実一人へと向けられていた。
  6. 6 : : 2016/12/02(金) 15:20:10
    期待です!!
  7. 7 : : 2016/12/02(金) 19:00:20
    >>6
    期待感謝です!!
  8. 8 : : 2016/12/02(金) 19:05:02
    SSレートの力を持つ絢都ではなく雛実だけが指名されたということは、彼女が求めているのは武力ではなく、探知能力にあるということか……。だがそれだけでは、彼女の語った「アオギリの樹の幹部としてではなく、エト個人としての頼み」の意味に繋がらない。

    少しでもエトの真意を読み取ろうと、雛実は頭を巡らせる。しかし、包帯で覆い隠されたエトの表情と同様に、彼女の真意は欠片程も見えてこない。

    「ヒナミに何をさせる気だ?」

    このまま思索を続けたところで、それが明かになる気配はない。そう判断した絢都は、彼女に直接疑問の言葉を投げ掛けることで、彼女が雛実に助力を求める理由を明らかにしようとする。
    絢都が求めたのは、雛実が彼女の頼みを承諾すれば、いずれは明かされる答え。順序こそ逆にしてもらうことにはなるが、彼女の不利にはならないはずだ。もしも不利になる――つまり、雛実がそれを聞いたら彼女の頼みを承諾してくれないようなことをさせるつもりなら、彼女は黙るかもしれない。だがそれはそれで、彼女の思惑に近付けるというものだ。
    ところが、彼女の次なる言葉によって、絢都の思考は更なる混迷へと陥れられる。

    「アヤトくんには秘密」

    この短い返答が孕んでいる可能性のある意味は、文字数とは裏腹に多岐に渡る。額面通りに受け取れば、絢都だけに秘密にしたいとという意味。勘ぐれば、雛実と絢都のどちらにも秘密にしたいないようではあるが、仕事の依頼をする以上は雛実には明かさなければならないという意味。最後に、特に意味はなくただからかっているだけ。

    「もちろん、ヒナミちゃんには事前に全部話すつもり。頼み事を受けるか受けないかを決めるのは、その後で構わないよ」

    エトがもたらした補足説明によって、絢都は僅かに安堵する。彼女の言葉を鵜呑みにするつもりはないが、一先ずは雛実が望まぬ仕事を引き受けさせられる可能性がぐっと下がったからだ。だが、その安堵も束の間のものだった。

    「そういうわけで早速詳細について話がしたいから、今すぐ一緒に出掛けたいのだけれども、良いかな」

    「出掛ける……? 流島では話せない内容ということですか?」

    突然の外出要請を受け当然の如く浮び上がる疑惑を、雛実はそのまま言葉にする。その疑問に対して、エトは小さく頷いた。曰く、「極秘事項」とのこと。

    「それで、出掛ける先はどこですか?」

    「一区」

    外出先に、天敵の本拠地を挙げたエト。彼女のこの回答に、二人は戦慄を露わにせずにはいられない。

    「念のため言っておくけど、デートの方には拒否権はないからね」

    エトは左眼を紅く染め、雛実にこう告げる。怪しく光る瞳に見つめられた雛実に、それを断ることは出来なかった。
  9. 9 : : 2016/12/02(金) 21:28:41






    東京都一区。CCG――通称白鳩(ハト)の総本山があるこの地に、二人の女性喰種が足を踏み入れていた。

    「ホットコーヒー二つ。砂糖とかミルクとかは無しで」

    「かしこまりました」

    正確には、東京都一区にある喫茶店に。

    「ふむふむ。これは噂以上に良い雰囲気だ。装飾、本棚に並べられている小説、店内に流れるBGM、全てのチョイスが私の趣味趣向にマッチしている。これでコーヒーも水準以上であれば、文句一つ出ないというものだ」

    緑色の髪にレンズの大きな丸眼鏡をした女性が、店内のあちらこちらを見回しながらその一つ一つに対して賛辞の言葉を述べていた。彼女の声は、騒がしいとまではいかないものの個人経営に見合ったサイズのこの店全体に音を伝えるには十分な大きさを持っていた。店主は度重なる賛辞を聞き、すっかり気を良くしている。それはもう、今にも「一杯サービスしてやる」なんて言い出しかねないくらいに。

    「――あの」

    「ああ、お代なら心配しなくて良い。私の奢りだ」

    「いえ、そのことではなく……何故、私と話をするためだけにわざわざこんなところまで連れて来たんですか?」

    緑色の髪の女性の対面に座る彼女――雛実が、今までずっと溜め込んで来た疑問を吐き出した。

    「ダメじゃないか、ちゃんヒナ。こんなところという言い方は、この店に失礼ではないかな」

    対する緑色の髪の女性――当然、彼女の正体はエト――の回答に、雛実は眉をひそめる。
    「こんなところ」に込められた意味がこの喫茶店への蔑みではないことぐらい、理解しているに決まっている。それなのに、だからこそ、彼女はわざと論点からずれた回答をする。そうやって相手を自分のペースに乗せ、弄ぶ。いつものことだ。
    ちなみに、店主は雛実の言葉を本当に店への悪口と取ってしまったらしく、さっきまでとは打って変わって渋い顔。

    「――すまんすまん。ちゃんと答えるから、そう怒らないでくれ」

    雛実の視線が自身を刺すような鋭さになったことを察し、エトは謝罪の言葉を述べる。それから続いた言い訳は、「つい癖で」とありきたりなものだった。

    以下、ちゃんとした回答。

    「都内まで来た理由は、ヒナミちゃんが私の頼みを引き受けてくれた場合、すぐに行動に移れるから。この喫茶店を選んだのは、私が行ってみたかったからだ」

    「私の頼み」と「行動」の内容が気になるが、一応筋は通っている。小さな離島である流島でやれることは少ない。後半も含めて、雛実はエトのちゃんとした回答を一先ず信じることにした。
  10. 10 : : 2016/12/03(土) 17:43:24
    「少しは信頼を得られたところで、本題に入ろう。ヒナミちゃんに頼みたい事についてだ」

    遂に長らくの疑問が解消される時が来た。雛実は唾を飲み、心臓の音を大きく高鳴らせる。アオギリの樹からの命令ではなく、エト個人からの頼み事。一体、どんな内容の依頼が告げられるのか……。

    「君は、『樹』の学力についてどう思っているかな」

    「――え?」

    雛実はつい、間の抜けた声を発してしまう。それでも真剣な表情で目を合わせ続けるエトを見て、彼女は気を取り直し質問に答える。

    「低いと思います」

    深く考えたわけではないが、率直な意見であった。

    『樹』――アオギリの樹には、人の世から離れて生活してきた喰種が多く在籍する。人間を敵対視する喰種の集団であるのだから、それは当然であるのだが、そうした喰種達は人の世に紛れて生きる者達よりも学力が低くなりがちな傾向にある。事実アオギリには、白スーツのナキを筆頭に、漢字が殆ど読めない喰種もいる。小説を読めるレベルの喰種は、ごく僅かしかいないのが現状だ。

    「そうか。君もそう思うか……」

    予想通り、エトは雛実の意見に肯定的な反応を見せる。だが、そんなことは雛実にとってどうでも良かった。何だかんだ後回しにされている、自分への依頼内容を知りたいからだ。

    「我々が白鳩との戦いを続けていく上で、学力の低さは無視できない問題だ。学力の低さは作戦への理解の低さに繋がり、作戦の成功率を下げる。『樹』の全員が一般的な成人レベルの学力を持っていれば、防げた敗北もあるはずだ」

    エトの言う事は、間違ってはいない気がする。一方で、言葉巧みな彼女にしては強引過ぎるようにも思える。早く話を進めて欲しい雛実は、もやもやした考えのまま取り敢えず頷いた。

    「そこで私は、『樹』の学力向上に乗り出したい。手始めに、国語力の向上だ。より多くの漢字が読めるようになり、さらに読解力が増せば、ありとあらゆる知識の吸収力に飛躍的な向上が見られるようになるだろう。したがって――、」

    エトが怪しく微笑む。その仕草から、雛実はやっと本題である依頼内容が明かされる事を確信し、もう一度唾を飲む。

    「私は『アオギリ読書強化週間』を立案した。ヒナミちゃん……君にはこの計画の成功のために、協力してもらいたい」
  11. 11 : : 2016/12/03(土) 18:29:35
    そういえば私の中学校では『朝の読書週間』(読め読めデー)という物がありましたね笑
    本編と関係無い話してすみません…!
  12. 12 : : 2016/12/03(土) 20:21:09
    期待です
  13. 13 : : 2016/12/03(土) 22:25:56
    期待です!
  14. 14 : : 2016/12/04(日) 18:10:15
    >>11
    命令口調の別名?が怖いですね…

    >>12>>13
    ありがとうございます!!
  15. 15 : : 2016/12/04(日) 18:14:06



    さっきの怪しげな雰囲気は何だったのか。怪しげな笑みを浮かべたエトの口から発せられた、どこかの小学校で企画されたようなイベント名に、雛実は心の中でこう思わずにはいられなかった。だが、それを口にするのは何となく憚られたため、先ずは別の意見から口にすることにした。

    「一つ思ったのですが……それって、『樹』の幹部としての依頼といえるのではないでしょうか?」

    方向性は少し……いや、かなりおかしな気がするが、依頼内容がアオギリの樹の欠点を補うための計画への協力である以上、依頼主であるエトは「アオギリの樹の幹部」に帰属しているように思われる。仮にそうであれば、「エト個人としての頼み」というエトの言葉と矛盾する。

    「私が『アオギリ読書強化週間』を計画するに至った理由が、本当に先述の通りであれば……そうなるだろうな」

    「――え?」

    本日二度目の、雛実の間の抜けた声。

    「では逆に訊ねるが、さっきの話に君は共感できたのかな」

    その問に対し、雛実は首を横に振る。
    前述のように、理屈では間違ってはいないように思われる。しかし、共感できたかと問われれば答えはノーだった。確かにアオギリの学力が向上すれば戦力も向上するのだろうが、要約すると「読書してCCGに勝とう」というエトの話は、色々と論理の飛躍が見られてどうにも腑に落ちない。巧みな言葉遣いを以て、時に相手の心を惹き寄せ、時に相手の心を踏みにじる――そんな彼女から放たれたものにしては、その話は圧倒的に引力が欠落していた。

    「まぁ、そうだろうな。何せ、さっき話した理由はただの建前だ。この計画が一応は『樹』に恩恵をもたらす事を説明したに過ぎん」

    それを聞いて雛実は納得。と同時に、新たな疑問が降って湧いて来る。

    「それでは、本当の理由は?」

    「皆に本を読んで欲しい――それだけだ」

    「――お待たせしました。ホットコーヒー二つですね」

    ここで、喫茶店の店主が注文の品を携えて会話に割り込んできた。彼は先ず、にこやかな表情で、淹れたてのコーヒーの入ったカップの一つをエトの前にそっと置く。それからすぐに無表情になり、もう一つのカップを雛実の前にゴトッという音を立てながら置き去って行った。店主のあからさまな態度に、雛実はしょんぼり。そんなつもりで言った訳ではないのだが……。

    「気にするな。また会うわけでもあるまい」

    貴女のせいでしょうが。
  16. 16 : : 2016/12/04(日) 19:22:25
    「さてさて、話に戻ろう。私はただ、皆にも本を読んでもらい、読書の楽しさを共有したいのだ。読書で得られる感動は、他の何物にも代え難いものがある。それは時に、人生を変える程の力を持つ」

    エトが語る「本当の理由」に、雛実は心からの相槌を打つ。この話に至るまで度々エトにからかわれている彼女であったが、同意と共感を示さずにはいられなかった。何故なら彼女こそが、読書によって人生を変えられた者の一人であるから。

    ――彼女を本の世界へと導いたのは、当時喰種の集う喫茶店で働いていた年上の男性だった。彼に出会う前から、本というものには出会っていた。だが、言葉を「綺麗」と表現した彼の言葉が、彼女の「世界」を変えた。彼に与えられた「世界」は、両親を失った彼女の疵を癒やしていった。彼女は「本」を愛し、それを与えてくれた彼を思い慕うようになった。その思いは、彼以外の人々と離れ離れになることを選べる程に強かった。
    しかし、彼は彼女の前から姿を消した。

    過去の記憶を思い出し感慨に浸ったまま、雛実はぼんやりとエトのことを見つめ直した。
    読書は彼女の人生を二度変えた。一度目は「彼」との出会い、二度目は……。そこまで考えて、彼女は記憶を紡ぎ出すことを止めた。自分の弱さが招いた出来事を、「彼」がくれた「世界」のせいにしてしまいそうになったから。

    「――どうぞ、続けてください」

    雛実の心ここに在らずといった状態を察して話を止めていたエトに、雛実は再開を促す言葉を掛ける。

    「うむ。このような素晴らしいものの存在を知らぬまま命を終えるなどという勿体ないことを、同志達にはして欲しくない」

    雛実の頷き加減が大きくなる。

    「特に本を読めるのに読まない連中といったら、愚かなことこの上ない。折角私がオススメの本を紹介しても、読まないの一点張りだ。せめて冒頭ぐらいは読めば良いのに、それすらも拒む」

    「全くです」

    雛実はとうとう言葉で同意を示し始める。

    「読書というのは主要な趣味の一つであるのに、何故私達がこんなに肩身の狭い思いをしなくてはならない! 私達に、もっと……もっと……本を語らせろ!」

    キャラ崩壊も厭わぬ、エトの魂の叫び。雛実はめっちゃ同意した。

    「高槻さんの言う通りです! 私、高槻さんの計画に全身全霊で協力します!」

    二人の魂が、共鳴した瞬間であった。
  17. 17 : : 2016/12/04(日) 23:58:15



    「――先ずは、とにかく多くの本が必要になりますよね。それも、高槻さんが書いているような難しい小説ではなく、子供向けのを」

    「実際、殆どの構成員の語学力は小学生並みだからな。平仮名が多めの児童用の本から始めるのがセオリーだろう」

    アオギリの皆に読書の楽しさを知ってもらいたい。そして、皆と本のことについて語り合いたい。何より、読書家の立場を向上させたい。目的を一つにした雛実とエトの二人は、『アオギリ読書強化週間』を実行に移すため、具体的なプランを話し合い始めた。
    エトが既に用意していた草案は、アオギリの樹のアジト・流島の廃墟の一角に図書室のようなスペースを作り、そこを拠点に二人で布教活動を進めていくというものである。雛実はそれに大方同意し、現在二人は図書スペース作りについての計画を練っているところである。

    「私達が幾ら本好きといっても、流石に子供向けの本は持っていませんから、買い出しに行かないと行けませんね。予算はどのくらい用意しているんですか?」

    「私の稼ぎから、それなりには……な。しかし、本棚や椅子、机等の設備やその運搬に掛かる費用を考えると、本そのものに掛けられる予算はそう多くない。小規模な図書館レベルの蔵書量が理想だが、実現は厳しいだろうな」

    「そうですか。となると、私達で購入する本を選ぶしかありませんね。本当は色々な種類の本を揃えて、その中から自分達で選んでもらうのが一番なんですけど……」

    現実はそう簡単にはいかない。エトが高槻泉の名でベストセラー小説を次々に世に送り出しているといっても、彼女の収入の多くはアオギリの樹の活動資金に還元されている。元は彼女自身の収入であるからといって、自身の気まぐれに貴重な財源を浪費するような真似は出来ない。結果彼女が自由に使える資金は、そう多くはないのだ。

    「どちらにしろ、出来るだけ安価で購入したいところだな。近くの古本屋を当たってみよう」

    「そうですね」

    一先ずは、最初の行動が決まった。二人は残るコーヒーを飲み干し、席を立とうとする。その時――、

    「――あの、失礼を承知でお二人の話を立ち聞きさせてもらいました。お二人の計画、私にも協力させていただけませんか?」

    唐突な盗聴報告と、突然の協力志願が襲い掛かった。二人は眼を大きく見開きながら、襲撃者の方へと顔を向ける。そこには長身痩躯なシルエットと細長い糸目が特徴的な青年が、こなれた笑顔を浮かべて立っていた。

    「申し遅れました。私、ここ一区にて古本屋を経営しております、伊刈(いかり)健仁(たけひと)と申します。誠に勝手ながら、お二人の計画に非常に心を惹かれました。私にも、一役買わせていただきたい」
  18. 18 : : 2016/12/05(月) 19:00:01

    古本屋の経営者――安価な本を探す今の二人にとって、最も望ましい協力者だ。そんな人物の出現に対し、二人の脳内を満たしたのは歓迎ではなく警戒。それも当然。二人は紛れもなく人間社会にとっての排他対象なのだ。見知らぬ人物の接近を素直に喜ぶような真似はできない。

    「あなたも、私達と『同類』のようですね」

    早速、雛実の持つ優れた五感が目の前の人物の正体の一つを暴いた。

    「ええ、おっしゃる通りです」

    糸目の男性――伊刈は喰種である。そうなれば、次に執るべき行動は決まってくる。

    「協力者が得られるのはとても喜ばしいことだが、だからといって素性も分からぬ貴方をすぐに信用するわけにはいかない。それは……『同類』であるならばお分かりだろう」

    「ご尤もです」

    「だから、先ずは貴方としっかりと話がしたい。場所を移そう」

    他人の耳に入らない場所への移動というエトの要求に対し、伊刈は素直に頷く。その上でさらに提案を付け加える。

    「そういうことでしたら、私の店に来てください。店の客間をお貸ししましょう」

    「それはありがたい」

    「いえいえ。かの有名な『高槻先生』を我が家に上げられるんですから、寧ろこちらが感謝したいぐらいですよ」

    変装と云うには陳腐なものだが、『高槻泉』として世に出る時とは違い丸眼鏡を掛けているエトの正体を高槻泉であると一目で見抜いていた伊刈。そんな彼に、雛実は心の中で感心した。
  19. 19 : : 2016/12/05(月) 23:41:50






    本の匂いとは、まさにこれを言うのだろう。古本屋特有の香りに、雛実の鼻腔がくすぐられた。

    人通りの多い道から外れた所に構えられたその店の中は、都会の騒音を遠くへと押しやって穏やかな空間を創り出している。僅かに聞こえる電車や車の音は、反って完全な沈黙であるよりも心地良い雰囲気を演出してくれる。照明の明るさも、本を読むのに最適。商売であるから本を購入してもらわなければならないので、流石に椅子や机は置かれていない。それでも時を忘れて読書に没頭してしまうことが容易に予想できる程、店内は読書をするのに適しすぎていた。

    「とても良い雰囲気のお店ですね」

    「ああ。思わず長居してしまいそうになる空間だ。しかし、この店は図書館や喫茶店ではないからなぁ」

    エトに遠回しに苦言を呈され、伊刈は苦笑いを浮かべる。

    「お察しの通りです。それでも以前は僅かながらも儲けがあったのですが、近くの大通りに大型チェーン店が出来てからは閑古鳥が鳴いているばかりです」

    伊刈が嘆く通り、大通りが賑わう時間帯であるのに、店内には三人以外に人影はなかった。本を読むのに適した空間が、そのまま古書店を経営するのに適した空間とは成り得ない。それでもかつては、決して多いとは言えないまでもそれなりの数の根強い常連がいたのだろう。しかし、閑静な小道に構えられ、駐車場はなく、蔵書量も個人経営である以上はたかが知れているこの店が、大通りに面し、広々とした駐車場を持ち、何より桁違いの蔵書量を誇る大型チェーン店に敵う筈がない。雰囲気の良さなど、焼け石に水でしかない。

    「いっそ、本当に喫茶店にしてしまったらどうかな?」

    冗談で、エトはそんな提案を口にする。伊刈もその発言が冗談であることは分かっており、最初は笑って返してみせた。ところがすぐに笑顔は消え、代わりに想いの片鱗が漏れ出す。

    「冗談抜きで、その方が良いかもしれないと思うこともあります。でも、父から受け継いだこの店を、私の諦めで終わらせるわけにはいかないんですよ」

    「真面目だな――。事情も知らずに軽口を叩いたことはお詫びしよう」

    「あっ……いえいえ。そんなつもりで話したわけではないので、お気になさらないでください」

    エトの謝罪を受けてあたふたする伊刈。エトの言う通り、真面目な人物であるからこその反応だ。そんな彼の様子を見て、雛実は無自覚の内に彼に好感を抱いていた。

    「でしたら、読書スペースとして良さを特化させて、いっそ椅子や机を置いてしまうのはどうですか?そうすれば、読書好きの人がいっぱい集まってくれると思います」

    こうして雛実が唐突な思い付きを不意に言葉にしてしまったのも、伊刈への親近感に由来する。

    「ちゃんヒナ、それでは本末転倒だろう」

    「商売である以上、お客様に本を購入して頂かないと……」

    両名の尤もな指摘に、雛実の頬がぽっと赤く染まる。

    「でも、この店のためにアイデアをくださったことはとても嬉しかったですよ。ありがとうございます」

    「いえ、あの……。どう……いたしまして」

    本当に律儀な人――否、喰種だ。雛実は胸の奥が暖かくなるのを感じ、目を細めた。
  20. 20 : : 2016/12/06(火) 22:20:36

    「さて、そろそろ客間へと案内致しましょう」

    伊刈はそう言って自分に着いてくるように促してから、店の奥の方へと足を運び出した。彼の向かった先には「関係者以外立ち入り禁止」との標示がある扉があり、彼はその扉を開け、二人に中へ入るように声を掛けた。その声に従い扉を通り抜け、細い通路を少し進むと、二つのソファが机を挟んで向かい合うように置かれている、応接室を象徴するような部屋が待っていた。

    「どうぞ、お掛けになってください」

    伊刈に誘導されるままに、エトは入り口から最も遠い所に、雛実はその隣に腰を下ろす。
    部屋にはもう一つ扉があった。雛実が伊刈にその扉の先を訊くと、彼の居住スペースであるとのこと。

    「では早速、喫茶店の話の続きとしよう。先ず貴方に問うが、貴方はどの程度私達の計画を理解しているのかな?」

    伊刈が着席した後、間を置くことなくエトが本題を切り出した。最初の質問の意図は確認。彼が二人の話をどこまで聞いたのか、という確認である。

    「そうですね……。読書をしない大勢の方々に、読書の楽しさを共有したい。その為に、図書スペースを作ろうとしている。私が立ち聞きしたのは、こんなところです」

    「成る程。計画の主旨は既に理解しているようだ。それで、貴方がこの計画に惹かれた理由は?」

    続いての質問の意図は、伊刈の真意の追求。彼が二人に近付いた理由が何かしらの後ろめたいものであれば、嘘を吐かざるをえない問だ。その場合、彼が余程のポーカーフェイスの持ち主でない限り、卓越した五感を持つ雛実が、若しくは人間観察力に長けたエトが、何かしらの違和感を感じ取る寸法だ。

    「その読書をしない方々――恐らく、貴方達のお仲間でしょう。私も彼等に、読書の素晴らしさをお教えしたいと思ったからです。私の今があるのも、父から与えられた『読書』のお陰に他なりませんから」

    100点満点の答えだ。雛実は伊刈の述べた答え――特に後半部分に共感を抱く。一方のエトは、彼が自分達に近付いてきた理由が「それ」だけではないことを感じ取っていた。

    「……というのが建前でして」

    伊刈がポリポリと頭を掻き出す。それから、言葉を続ける。

    「私の店にある本を買って欲しいというのが本音です。先程も申し上げた通り、近くに大型チェーン店が建ってからは全く売れなくなってしまって……。勿論、お値段は目一杯安くするつもりです。他のどの店で買うよりも低価格であることは保証します。あっ、それと、建前の方も嘘ではないですよ」

    照れ笑いを浮かべて、伊刈は売れない古書店の店長としての本音を吐露した。今度こそ、間違いのない彼の真意である事を覚ったエトは、若干拍子抜けしながらも、彼のどこまでも憎めない人柄に僅かに微笑を浮かべる。

    「そういうことなら、こちらも願ったり叶ったりだ。是非、協力して欲しい」

    これが、喫茶店での出会いからこの時まで、伊刈の人となり、そして本心を探り続けてきたエトが導き出した答えだった。続けて彼女は、その答えを補足するように右手をそっと差し出す。

    「ありがとうございます! 精一杯、尽力させて頂きます!」

    差し出されたエトの右手を、伊刈は同じく右手でしっかりと握りしめた。それから雛実も右手を差し出して来るのを見て、彼は彼女とも握手を交わした。

    「よろしくお願いします!」

    雛実が元気に挨拶すると、伊刈は優しく微笑み、「こちらこそよろしくお願いします!」と彼女以上に元気な挨拶を返した。
  21. 21 : : 2016/12/06(火) 23:08:09



    「――では、また明日」

    夕刻。雛実とエトの二人は、明日の再会を誓う言葉を残し、伊刈の店を後にした。

    「またのご来店をお待ちしております」

    別れ際、伊刈に掛けられた挨拶は、一般客に掛けられるものと変わらない、目的を共にする者から掛けられるものとしてはやや他人行儀に感じられるものであった。しかしその挨拶からは余所余所しさよりも、二人の協力者である前に、自身はこの古書店の店長であるということを忘れまいとする彼の実直さが伝わってくる。

    「私達、本当に幸運でしたね」

    「全くだ。当初の予測では、よもやこれ程の数の本を揃えられようとは思わなかったよ。伊刈くんには感謝しかない」

    二人が伊刈と握手を交わした後、三人は具体的な予算の配分について話し合った。先ずは読書スペース作りに用いる本棚・椅子・机の数をそれぞれ定め、それらを用意するのに必要となる予算を、インターネットによる価格検索を活用して概算。それと荷物の運送費を全体の予算から引き、本の購入金額を算出。その購入金額内でどの本を買うかは、全て伊刈に任せる事にした。その代わりというわけではないが、本棚等の購入は二人が担当する事になった。

    「本選びの方は伊刈さんが頑張ってくださっていますから、私達も家具選び、頑張らないといけませんね」

    「あの廃墟を和やかな読書スペースに変えなければならないと考えると、難儀な話だな」

    流島の荒廃したアジトを思い出し、エトは苦笑いを浮かべる。

    「……そう言えば、ずっと気になっていたことがあるんですが」

    「何かね」

    「伊刈さんのお父さんって、やっぱり亡くなられているんでしょうか」

    父から受け継いだこの店――伊刈のこの言葉から、雛実は彼の父親は既に故人であるのではないかと推定していた。しかも伊刈自身の年齢から考えて、天寿を全うした上での死ではないのだろう。「喰種」として、白鳩か同族に殺されたと考えるのが自然だ。そして、彼の父の最期が非業なものであったことは、ほぼ間違いなかった。何故なら、父の話をする時の彼は、とても哀しげな顔をしていたから。

    「それは疑問というより確認なのだろう? それだけ気になっていながら、本人には尋ねなかったことが良い証拠だ」

    「……はい」

    「だが、それを知って何になる。我々「喰種」にとって、親が殺されたという話はありふれたものだ。君がそうであったように――。同情していたら切りがないし、同情されたところで何も救われはしない。私達が彼の過去を知ることに、意味は無い」

    エトの話を聞いた雛実は、黙って目を伏せる。その様子を見たエトは、溜め息を一つ吐いてから、困ったように微笑んで次のように述べた。

    「きっと彼もヒナミちゃんと同じで、大切な人から与えられた『本』に救われたのだと思うよ。今の自分があるのも父から与えられた本のお陰だと、彼自身が言っていたしね。だからもう、彼は救われている。ヒナミちゃんが悲しむことなんて、何一つ無いんだよ」

    ――いつも通りだ。「キズを見抜いて」、「そっと寄り添う」、彼女の云う、人に愛される最も簡単で効果的な方法。
    それが分かっていても、雛実はエトの言葉によって心が安らぐのを止めることは出来なかった。

    エトの言葉は、いつだって「正しい」。道徳的に間違っていたり、騙すための偽りであったりすることは多々あるが、本質的には「正しい」。だから皆――心に弱さを持つ者達は、彼女の言葉に惹かれ、弄ばれる。
    だが、今回の彼女の言葉は、結果論的には「誤り」であった。
  22. 22 : : 2016/12/07(水) 18:23:45






    次の日の朝、雛実とエトの二人は再び伊刈の店を訪れた。

    「おはようございます! 高槻先生! ヒナミさん! 必要な物は全て、トラックに積んでおきました!」

    未だ残る眠気を彼方へと吹き飛ばしてしまうような元気な挨拶と共に、伊刈は二人に作業の進捗を伝えた。その内容を要約すると、準備は万端だ。

    昨日、二人が購入した家具類は全て伊刈の店へと送られていた。彼はそれらと自らが選んだ本の束を、自身が所有する軽トラックの積み荷へと載せ、二人の再来店を待っていたのだ。

    「助かるよ。では早速、我々のアジトに向かうとしよう」

    「承知しました。して、お二人のアジトはどこに……?」

    「海の向こうだ」

    エトの答えに、伊刈が目を丸くしたことは言うまでも無い。
  23. 23 : : 2016/12/07(水) 19:00:07
    なんか…伊刈さん…裏がありそうで怖い…笑
    期待です!
  24. 24 : : 2016/12/07(水) 21:05:47
    >>23
    なるほど。そう見えますか……(笑)
    期待感謝です!
  25. 25 : : 2016/12/07(水) 21:09:38






    「す、すごいですね……。まさか、こんな離島に喰種達のアジトがあるとは――」

    沢山の本と本棚と机と椅子と、一人の男性喰種を手土産に、雛実とエトが流島へと舞い戻って来た。一日ぶりの帰還であり、当然何の感慨に耽ることもなく、二人はせっせと積荷の搬入作業に移り始める。伊刈が上述の台詞を口にしたのは、丁度その時だった。
    これまで何かと気の利かせた言葉を口にし続けていた彼であったが、今回ばかりはこれしか言葉が出て来なかったようだ。しかし、それも無理もない話。彼にはまだ自分達が所属するグループが、あの「アオギリの樹」であることは伝えていない。いずれは明らかになることであり、進んで秘匿しようとしたわけではないのだが、いつも部外者に素性がバレないように警戒している癖から、結局それを伝えないままここまで来てしまったのだ。

    そんなことにようやく気付いた雛実は、自分達が「アオギリの樹」のメンバーであることを知れば、伊刈が怯えてしまうのではないかという不安を抱き始める。基本的にアオギリの敵は「人間」であるが、時に人間と友好的に暮らす「喰種」にもその牙は向く。アオギリは喰種からも恐れられている存在なのだ。
    雛実は、伊刈に事前に伝えておくべきだったと後悔する。しかし、今更どうにもならないので、取り敢えずは作業に戻ることにした。もし怖がられてしまったら、こちらに敵意がないことを誠心誠意示そう。それしかない。

    雛実がそんなことを考えている内に、伊刈は自分の目的を思い出した。すぐに彼は雛実とエトに続いて、積荷の搬入作業に加勢する。目指すはアジト二階にある広場だ。

    それぞれが、自分が持てる最大限の荷物を持ち、アジトへと向かう一同。そんな彼等の前に、一つの人影が現れた。

    「エト、これは一体何のつもりだ?」

    その姿を見て、雛実は絶句した。それはただ単純に、目の前の人物の正体に驚いたからだ。まさか、いきなり出くわすことになろうとは……。

    「タ……タタラさん……」

    アオギリの実質の最高権力者であるタタラとの、唐突な遭遇。立場上は味方であるにも関わらず、雛実の額からは冷や汗が流れ出す。それ程の威圧感を、彼は放っていた。

    「我々の為になることをするつもり」

    緊張で全身を強張らせてしまっている雛実と違い、エトはいつもと変わらぬ飄々とした態度でタタラの問に答えた。

    「お前がそう言うのなら、そういうことにしよう」

    「嘘じゃないって」

    「……それで、その男は?」

    タタラの鋭い眼差しが、この島にそぐわぬ存在へと向けられる。伊刈も雛実同様、彼の放つ冷たい威圧感を感じ取っており、僅かに身体を震わせている。

    「私達の協力者だ」

    「だろうな。だが――」

    「タタラさんは心配性だなぁ。彼については私が責任を持つから、それで勘弁しておくれ」

    「……分かった」

    エトの懇願を受け、タタラは視線を伊刈から外し、身体を後ろへと向ける。そして、何処かへ向かって歩き去って行った。
  26. 26 : : 2016/12/08(木) 18:26:09
    「驚かせるような真似をしてすまない。秘密のアジトである以上、部外者にはどうしても敏感になってしまうのでね」

    歓迎ムードとは全く真逆の雰囲気で伊刈を迎えたタタラに代わり、エトが謝罪の言葉を述べる。

    「いえいえ。しかし『タタラ』という御名前、どこかで聞いたことがあるような気がするのですが……」

    アオギリの幹部クラスの喰種の名は、白鳩だけでなく巷の喰種の間にも知れ渡っている。雛実達が明かさずとも、ここがアオギリの樹のアジトであることにいずれは気付かれてしまうことを、雛実は改めて思い知った。



    タタラとの遭遇後、めぼしい喰種と邂逅することなく、三人は読書スペース予定地のアジト二階にある広場に辿り着いた。到着と同時に、三人は持っていた荷物を下ろす。そして、一斉に床へと寝転んだ。
    喰種は人の数倍の筋力を持っている。しかし、本来人間が二、三人掛かりで持ち運ぶだろう荷物の運搬は流石に応えた。

    「このまま私達だけで何往復もするのは、骨が折れるな」

    「誰かに協力してもらうのが賢明そうですね――。と、話をしていたら、足音が聞こえてきましたよ」

    雛実が聞き取ったのは、床に響く五つの足音。それらは順調に、こちらへと近付いて来る。エンカウントまで残り3……2……1……。

    「おいお前ら! こんな所で寝てるなんてタイマだな!」

    「怠惰です! 兄貴!」

    「承正! 俺はケンベンだ!」

    「アニキが怠惰だって言ったわけじゃないッス。それと、ケンベンじゃなくて勤勉ッス」

    顔を上げずとも、声を聞かずとも、文章を読むだけで足音の正体が分かってしまいそうな会話だ。それが可笑しくて、雛実は思わず吹き出してしまう。

    本を読ませて学力を上げたい喰種ランキング、堂々の一位。白スーツのナキのお出ましだ。そうなれば、残りの足音の正体も自ずと決まってくる。ナキの両腕を担う承正とホオグロ、そしてガギとグゲだ。
  27. 27 : : 2016/12/08(木) 19:56:56
    …怠惰に勤勉……
    リゼロ…かな笑
    あ、あとナキさん…第1位なんですね…笑
  28. 28 : : 2016/12/08(木) 22:57:14
    >>27
    そこに気付くとは……あなた、勤勉デスね。
    ナキは圧倒的一位です。

    ところで、ゆーさんも直方さんの企画に参加してみませんか?現在、追加の参加者を募集中とのことです。
  29. 29 : : 2016/12/08(木) 23:08:52
    「んん? 誰だこいつら、見たことない顔だな」

    ナキは早速、部外者の存在に疑問符を浮かべてきた。それが当然の反応というものだろう。しかし雛実は、今の質問にどこか違和感を覚えていた。

    「そこの細い目の男と……」

    「と?」

    「そこのマリモみたいな色の髪の女は誰だ!?」

    「――あ」「――あ?」

    予想外のナキの言葉を受け、二人の声が重なる。二人が発した声は、発音的には全く同じであった。だが、雛実が発した声が間の抜けたものであったのに対し、エトが発した声は不良がよく発する、怒りが内包された声であった。

    「マリモだと……? 怠惰も勤勉も知らん癖にマリモは知っているとは、随分と偏った頭だな。私が物理的に矯正して――」

    「た、高槻さん! ストップストーップ!」

    憤怒のままにナキへと殺気を向けるエトを、雛実は慌てて制止する。

    「ナキさんの珍発言にいちいち腹を立てていたら、話が進みませんよ! ここは私が上手く説明しますから、その間に包帯を巻いてきてください」

    「しかしだな。女性の髪をあのような言い方で侮辱するような輩にはお仕置きが必要だ」

    「それを直すための今回の計画でしょう?」

    「……その通りだ」

    最後の言葉が決め手となり、エトは怒りを収めてどこかへ向かって歩いて行った。追い掛けようとするナキを留めながら、雛実は些細なこととはいえ彼女を論破した愉悦に浸る。と同時に、彼女が包帯を巻き忘れていることに気付けなかったことには反省。どうやら二人とも、内心ではもの凄く浮かれていたようである。

    「おいヒナミ! ちゃんとハツメイしろ!」

    「兄貴! ハツメイではなく説明です!」

    「説明しろ!」

    ナキが言葉を間違え、承正かホオグロがそれを訂正し、ようやく話が一つ進む。そのテンポの悪さに苦笑いしながら、雛実は二人のことを次のように説明した。

    「二人とも、私の友達です」

    これだけである。圧倒的な説明不足に感じられるが、雛実はこれで十分であると判断した。何故なら、相手がナキであるから。

    「友達……。そうか! それならタンケンしないとな!」

    ――それ見たことか……、あれ、探検?

    「何で探検するんスか?」

    「初めて来る奴は、皆で楽しく迎えてあげないとダメだろ!」

    「アニキ。それは歓迎ッス。探検は宝物とかを探しにいくやつッス」

    雛実は早くも、ナキとの会話に疲れ始めた。

    「――ナキ……この名前もどこかで……あっ!」

    「どうしました、伊刈さん?」

    伊刈が突然驚いたような声を上げたため、一体何事かという素振りで雛実は彼の方を向く。しかし、雛実は彼の驚きの訳が大方予想できている。遂に、この時が来たということだろう。
  30. 30 : : 2016/12/09(金) 14:07:46
    うーん…書いてもいいんですが、
    私…下手ですし……
    それに結構遅く始めることになるんで…
    一応考えておきますー

    …伊刈さん、何に気付いた!?
  31. 31 : : 2016/12/11(日) 23:31:50
    >>30
    前向きに検討してくだされば幸いです。
    伊刈さんの気付きについては続きをご覧ください。
  32. 32 : : 2016/12/11(日) 23:33:33
    「まさか貴方達は、『アオギリの樹』ですか!?」

    雛実の予想通りであった。伊刈の質問を受けた彼女は、恐縮した顔で頷く。それから間髪入れること無く――、

    「すいません! 隠すつもりは無かったんですけど、なかなか話す機会が無くて……。でもでも、心配しないでください! 怖い噂ばかり聞いているかも知れませんが、仲間が連れて来た人に襲い掛かってくるようなことは絶対にありませんから!」

    弁解と、彼の恐怖を出来るだけ拭い去るための声掛けを畳み掛ける。

    「……あっ、いえ。お気になさらないでください。少し驚きはしましたが、大丈夫ですので」

    真面目な伊刈のことだ。そうは言っていても、内心ではアオギリに恐怖しているかもしれない。或いは、今まで正体を明かさなかったことに激怒しているかもしれない。
    彼の本心を探るために、雛実は彼の表情を注視する。彼の表情からは、僅かな困惑こそ窺い知ることができたが、恐怖や怒りは一切感じ取れなかった。そのことに、雛実は一安心する。

    雛実が本当に注視すべきであったのは、彼女が伊刈の問に頷いた直後の表情であったことなど、彼女には知る由は無い。また、この場にエトが残っていれば話は変わっていたかもしれないが、今となってはどうすることもできないのだ。

    「――あ、それで、ナキさん達にお願いがあるんですが……」

    平静を取り戻した雛実は、今の自分達にとっての最優先事項を思い出しナキ達に声を掛ける。

    「今、船に積んである荷物をここへ運び込む作業をしているんですけど、その手伝いをしてくれませんか? 三人では余りに人手が足りなくて、困っていたんです」

    「任せとけ! 困ってる仲間は放っとけねぇからな!」

    「ありがとうございます!」

    普通であれば「何の荷物か?」「何に使うのか?」等の質問が返ってきそうなお願いの言葉であったが、ナキは何も言わずに雛実の頼みを引き受けてくれた。承正とホオグロの二人は、伊刈と包帯を巻いていないエトの素性を始めとする疑念は残ったままのようだが、首領のナキの決定には素直に従わざるを得ないだろう。

    仲間が困っている――その理由だけで、何の疑いも無く救いの手をさしのべたがってしまうナキ。
    彼の優しさが不意に暖かく感じられて、雛実は微笑んだ。
  33. 33 : : 2016/12/12(月) 22:52:13



    それから、雛実と伊刈、そして包帯を巻いて戻って来たエトという初期メンバーの三人に、ナキ率いる白スーツの一団を加えて、積荷の搬入作業は再開の時を迎えた。因みに、ミイラのような姿となったエトを目にした時の伊刈の驚きようは、雛実達が「アオギリの樹」であることを知った時以上のものであった。

    肝心の搬入作業の進行具合はというと、力仕事において白スーツ達程の戦力は無く、瞬く間に全ての荷物を二階の広場まで運んでしまった。
    搬入作業の次は、本を本棚へと並べていく作業が待っている。それもただ入れるのではなく、目的の本が見つけやすいように、ジャンルごとに整理してから入れなければならない。この作業ばかりは三人でやるしかないので、ナキ達は解散してあげた。

    そして日没間近の時、三人は全ての本を本棚へと並べ終えた。
  34. 34 : : 2016/12/13(火) 00:06:00



    「はぁー……、終わった……」

    雛実は大きく背伸びをしてから、机の上へと突っ伏した。この読書スペースを完成させるために何時間も作業を続けてきた彼女の疲労は、ピークに達していた。それこそ、このまま眠ってしまうぐらいに……。

    「おっと、寝るにはまだ早いよ」

    「うぅ……。そうですよね――」

    エトの注意を受けて、雛実は顔を上げる。

    読書スペースは完成した。しかし、これだけでは「アオギリ読書強化週間」は始まらない。読書環境が整っただけで自ずと読書をするようになるのなら、エトはこんな計画を思い付いていないし、雛実もここまで躍起になることはなかっただろう。
    「アオギリ読書強化週間」に最も必要なもの。それは、アオギリ構成員の意識改革だ。

    「先ずは、皆にここへ来てもらわないことには話にならないからな」

    「もちろん、ただ集まってもらうだけではダメ。ほんの少しでも良いから、本の世界に触れさせないと……」

    課題を挙げたものの、具体案が全く浮かんで来ず、雛実とエトの二人は肩を落とす。

    「――ありますよ。人を集めることができて、簡単に本の世界に触れさせられる方法」

    「本当ですか!?」「本当か!?」

    地獄に仏とばかりに、二人は一斉に飛び上がって伊刈の眼前へと詰め寄る。伊刈はいきなり迫られたことにたじろぎながらも、その方法を説明した。

    「別に画期的でも何でもない、よくある手法ですよ。本の読み聞かせを行うんです」

    二人の身体に、雷が落ちたような衝撃が走る。

    本の読み聞かせ。それは一般的に、親や教師がその子供や生徒達の為に本を音読してあげる行為のことを云う。その一般論から、読み聞かせという言葉には幼稚なイメージが付き纏うものだ。
    だが、読み聞かせをそのイメージだけで終わらせてはいけない。読み聞かせには重要な役割があることに、気付かなければいけない。読み聞かせとは、読書をするために誰もが通らねばならない通過点であるのだ。
    最初から文字が読める子供は居ない。誰だって最初は、大人が読み上げてくれた文章を通して本の世界に入り込む。
    つまり本の読み聞かせは、読書経験のない者達に本の世界に触れさせるという今回の目的に、最も即した行動なのである。

    しかし、問題もある。

    「確かに、読書の第一歩として読み聞かせをしてあげるのは、とても良いアイデアだと思います。ですが、皆が集まってくれないことには……」

    「いいえ。きっと集まってくださりますよ。ヒナミさんが読んでくだされば……ね」
  35. 35 : : 2016/12/13(火) 08:34:24
    アオギリの皆さんが読み聞かせをされるなんて微笑ましいですね……!
    誰が読むんだろう……
  36. 36 : : 2016/12/13(火) 20:14:34
    >>35
    微笑ましいを通り越してきっとシュールですね。
  37. 37 : : 2016/12/13(火) 20:16:38
    音読担当を雛実が務めるだけで、読書への興味が皆無のアオギリの構成員達が集まってくれるという伊刈の意見。雛実はそれが全く理解できず、首を傾げる。一方のエトは、納得の表情を浮かべている。

    「あの……、私が読めば皆が集まるという意味が分からないのですが」

    真面目な顔で疑問を述べる雛実。その様子に、伊刈は少し頬を緩ませる。

    「真面目に聞いているんですけど」

    「あっ、すみません。そうですね……、高槻先生が既に納得されているように、分かる人にはすぐに分かることなんですが、本人からすれば全く筋道の通っていない理論ですからね。どう説明しましょうか……」

    今度は伊刈の方が首を傾げてしまった。すると、質問者と回答者の両方が傾げる事態を見かねたエトが、彼の代わりに説明を始める。

    「もしもの話だが、ヒナミちゃんの友達が出演するコンサートがあれば、君は行きたい?」

    「行きたいです」

    「それが友達程親しい存在では無い、仕事の上司や部下でも、興味は湧いてくるだろう?」

    「はい」

    「それと同じことだよ」

    「加えて君は、皆から愛されている」と、エトは心の中で呟いた。

    エトの具体例を挙げた説明を聞いた雛実は、一応は納得できたようで傾けていた首を元に戻した。

    「では、『アオギリ読書強化週間』初日は、ヒナミさんによる本の読み聞かせを行うことで決定してもよろしいでしょうか?」

    伊刈の確認の質問に、二人は頷きで答える。そして――、

    「そうと決まれば、残るはどの本を読むかだな」

    三人の最後の議論が、幕を開けた。
  38. 38 : : 2016/12/13(火) 22:59:49






    翌日、午前十時二十五分。雛実による本の読み聞かせを五分後に控え、新設された読書スペースは、集まった大勢のアオギリ構成員達によって読書スペースらしからぬ賑わいを見せていた。

    「こんなに集まってくれるなんて……」

    雛実はその聴衆の数の多さを目の当たりにして、感嘆の声を漏らした。

    用意した座席は全て埋まっていて、床に座ったり、壁に寄りかかったりして開始の時を待つ者も多く見受けられる。満席要因の一つとして、予算の関係上用意できた椅子の数が少なかったことが挙げられるものの、予算が十分にあったとしても満席状態には変わりなかったに違いない。そう断言できる程、雛実にとっては予想外の人の入り様だった。
    だが、伊刈やエトはその盛況ぶりに満足気ではあっても、驚いた様子は全くなかった。雛実にとっては予想外の大盛況でも、二人にとっては至極当然であったということか。

    そして、いよいよ開始の時間がやって来た。雛実は本を片手に聴衆の前に立ち、彼等の方へと顔を向ける。それから、聴衆の顔ぶれを確認。
    座席に座っているメンバーの殆どは、ナキ率いる白スーツの面々だ。ナキはその顔を見るだけで、期待に胸を躍らせているのが分かる。一体、これから何が始まるのだろうという期待――彼は恐らく、読み聞かせが何であるかもよく分かっていないのだ。雛実は少し呆れると同時に、それでもここへいち早く来てくれた彼の優しさに嬉しくなった。
    それから後方に目を移せば、絢都とミザが立ち見している姿が伺えた。あれだけ本を嫌いながら、それでも足を運んでくれた彼の優しさに、雛実は胸が温かくなるのを感じる。それと共に、それだけ優しいのなら本を読んでくれても良いのにという不満も俄に浮かんで来た。少しだけど。
    彼等以外にも、見知った顔がちらほら居る。

    たくさんの聴衆が集まったことに対し、雛実が感動したことは言うまでもない。だが、その倍以上の緊張もまた、彼女に押し寄せてくる。
    顔が紅潮する。拍動音が高鳴る。手が震える。喉も渇いてきた。
    今まで喰種として、それなりに修羅場も潜り抜けてきている。しかし、それとは全く異質の緊張に対し、彼女は無防備であった。
    目眩も来た。そのまま、頭まで真っ白に――。

    「――大丈夫です」

    穏やかな声と、肩にそっと置かれた手。雛実ははっとなって顔を後ろへ向けると、そこには伊刈の姿があった。

    「貴女は本が大好きです。だから、大丈夫です」

    伊刈はただでさえ細い目を更に細めて笑顔を浮かべ、雛実にこう言葉を掛けた。
    「本が好きだから大丈夫」――不合理極まりない、訳の分からない理屈であったが、その言葉は彼女にとっての特効薬として働いた。
    いつの間にか、手の震えが止まっている。

    「これから、笛口雛実さんによる本の読み聞かせを始めます。今回、彼女が読んでくださる本は、『カチカチ山』です。ご静聴、よろしくお願い致します。ではヒナミさん、お願いします」

    「――はい!」

    伊刈のお膳立てに、雛実は元気の良い返事で応える。もう大丈夫、と伝えるかのように。

    それから雛実は一礼。聴衆の拍手を受けて顔を上げた後、彼女は本を開いた。

    「むかし、むかし、あるところに、おじいさんとおばあさんが住んでいました。おじいさんがいつも畑に出て働いていますと、裏の山から一匹の古狸が出てきて――」

    彼女が紡ぎ出す言の葉が、一同を本の世界へと誘った。
  39. 39 : : 2016/12/14(水) 00:10:50
    タタラさんも聴いてたら可愛いだろうなーと思います……
    ヒナミちゃん頑張って!
  40. 40 : : 2016/12/14(水) 21:02:49
    >>39
    さすがにタタラさんは聞いていないと思います。残念…
  41. 41 : : 2016/12/14(水) 21:11:52






    「――『ざまを見ろ。おばあさんをだまして殺して、おじいさんにばばあ汁を食わせたむくいだ』と言いますと、狸はもうそんなことはしないから助けてくれと言って、兎をおがみました。そのうちどんどん舟は崩れて、あっぷあっぷいうまもなく、狸はとうとう沈んでしまいました……」

    最後の文を読み終えて、雛実はそっと本を閉じる。そして――、

    「ご清聴、ありがとうございました」

    自分の朗読を聞くために、この場に集まってくれた者達に。
    自分の朗読に、精一杯耳を傾けてくれた者達に。
    雛実は心からの感謝の言葉を述べて、聴衆へと深々とお辞儀をした。

    すぐには、手を動かせなかった。彼女の朗読は拙いものであったと思う。それは大勢の前での朗読経験等あるわけないのだから、仕方が無いことだ。問題はそこではない。彼女の稚拙な朗読には、何故かは分からないが、他者を本の世界へと惹き付ける力があった。それこそが問題だ。彼女の朗読は終わったというのに、まだ現実に戻れないでいる。
    その状態に、皆陥ってしまっているのだろう。空間を、深い静寂が支配している。

    「――何か良く分からんが、すっげぇ良かったぞ!」

    それを破ったのは、やはりというべきかナキであった。良く分からないという、読み聞かせの後の感想としてかなり不適なこの言葉は、聴衆の心をこの世界へと強引に引きずり込み、彼等を硬直から解き放った。

    ――パチパチパチパチ

    湧き上がった拍手の音が、静寂を空間の支配者の座から失脚させた。冒頭の一礼に対しての、挨拶代わりの拍手とは違い、その音には朗読者への賛辞がふんだんに詰め込まれていた。

    「ありがとう」

    そう呟いた雛実の眼は、涙で潤っていた。
  42. 42 : : 2016/12/15(木) 23:07:56



    「――ありがとうございました」

    読み聞かせを終えた雛実は、いの一番に伊刈のところへ行き、感謝の言葉を告げた。

    「あんなおかしな言葉を力に変えてくださったのなら、寧ろこちらが御礼を申し上げたいくらいですよ」

    真面目な伊刈が雛実の謝辞に対して謙虚な姿勢を執るであろうことは当然予想されていた。しかし、逆に感謝されることまで、雛実は想定できていなかった。想像の範疇を超えた返答に動転する彼女の様子を見て、伊刈は補足を加える。

    「あの言葉、昔父が僕に掛けてくれた言葉なんですよ」

    流島に来てから初めて父親の話を口にした伊刈は、哀しげで、どこか遠くを見つめたような目をしていた。心ここに在らず――否、心この世に在らずと言うべきか。

    「……小学3年生の時、学習発表会で劇をやったんですが、その劇の主役を私がクラスの皆に半ば強引に任されたことがあったんです。私がその劇の元となった小説を、よく読んでいたからという理由で」

    独白を始めてから少しして、伊刈は視点を一旦雛実の方へと戻して独白を止めた。勝手に話し出した手前、彼女の反応が気になったのだ。彼女が真剣に耳を傾けてくれている様子を見て、伊刈は安心して独白を再開する。

    「その時まで、大勢の前で何かを話す経験なんてありませんでした。本来世を忍ぶべき存在ですから、それが当然です。だから、主役になることが決まった日の夜、家で両親に泣きつきました。『上手くできなかったらどうしよう』という普通の子供としての不安から、『緊張しすぎて目が赤くなったらどうしよう』という喰種特有の懸念まで、とにかく色々な不安をぶちまけました。そしたら父が……」

    「さっきの言葉を、掛けてくれたんですね」

    「はい。本当に、意味の分からない言葉ですよね。『好きこそものの上手なれ』とでも言いたいのでしょうけど、その小説を読むことが好きなのであって、小説の登場人物を演じることが好きなわけではありませんから、それにしたって的外れです。でも……気付いたら、不安が和らいでいたんですよ。自分が好きな小説に関わることで、失敗するはずない。そんな根拠の無い自信が湧き上がってきたんです」

    過去の思い出に浸り感極まったのか、独白を終えた伊刈の頬には涙が伝っていた。

    「あの……、答えたくないのであれば、それで良いのですが……、伊刈さんのお父さんは――」

    「お察しの通り、父も母も既に故人です」

    それを答えた時、伊刈はやはり哀しげな顔を浮かべていた。しかし、その目は前を見据えている。彼は両親の死をしっかりと受け止めた上で、その過去に留まることなく未来へと歩みを進めているのだろう。
    雛実は、彼が質問に正直に答えてくれたことへの感謝のみを伝えた。それ以上何も言わなかったのは、同情や哀悼の言葉を掛けるのは間違いであると考えたからだ。

    「折角ですし、私などよりもお仲間とお話になってはいかがでしょうか。例えば、そこのお二人とか――」

    そう言って伊刈が視線を誘導した先には、絢都とミザの姿があった。雛実と伊刈の会話が終わるのを待っていてくれたのだ。

    「そうします。伊刈さんも、アオギリの仲間とお話ししてみてくださいね。外から見ると怖いと思いますけど、仲間として接してみれば、面白くて優しい人ばかりですよ」

    「ええ、そうさせていただきます」

    伊刈は話し相手を探して周りを見回す。標的はすぐに見つかったようで、彼は足を動かし始めた。その標的は、昨日荷運びを共に行った仲のナキだ。
    彼がナキのもとへと去って行ったところで、絢都とミザが雛実のもとへと歩み寄ってきた。
  43. 43 : : 2016/12/16(金) 18:05:07
    「堂々たる朗読ぶりだったな。良かったぞ、フエグチ」

    「ありがとうございます、ミザさん」

    「――――」

    ミザの賛辞の言葉を受け取り、雛実は笑顔で御礼を返す。続いて絢都からの感想が飛んでくるのかと思いきや、彼はなかなか口を開く兆しを見せない。

    「アヤト、素直になったらどうだ」

    「はぁ!? 何言ってやがる!」

    ミザの指摘に、絢都は顔を赤くする。それに対してミザは無言で視線をぶつけ続けることで、彼を牽制。結果、彼は折れ、ようやく重い口を開いた。

    「……良かったよ」

    拙い感想。それでも、本が嫌いな彼がわざわざ足を運んでくれたのだ。ここは大目に――、

    「ええ? それだけ?」

    見てあげません。

    「私、すごい頑張ったんだよ。高槻さん、伊刈さんとこの読書スペースを作って、それから皆を集めるためにこのイベントを考えて、何を読むかも一生懸命考えて……。『カチカチ山』にしたのは、アヤトくんに楽しんでもらいたかったからなんだよ」

    「意味が分かんねぇよ。『カチカチ山』のどこに俺の要素があるんだ?」

    「ええっと、ほら! 『カチカチ山』って兎が出て来るでしょ? しかも、『ウサギとカメ』と違って兎側が勝つお話でしょ? だから、アヤトくんが喜ぶんじゃないかと思って」

    そんなことで喜ぶような子供だと思われているのだろうか。そう考えて、絢都は少し腹を立てる。雛実の説教は続く。

    「昨晩は遅くまで朗読の練習をしたんだよ。それなのに、そんな風な感想しかくれないなんて。そんなじゃアヤトくん、女の子にモテないよ」

    「いや、何でそうなるんだよ」

    何故だろうか。
    アオギリに入ってから、雛実はできるだけ大人であろうとした。一人前の喰種として、どこかで生きているかも知れない「彼」の役に立てるように、そんな自分になるために努力した。
    それなのに、絢都と話をしていると、子供みたいに駄々をこねたくなってしまうのは何故だろうか。

    「だって本当のことだもん。それもこれも、全部本を読まないのが悪い」

    「はぁ!? 無茶苦茶なんだよ! 大体なぁ、人が折角褒めてやってんだから素直に喜べよ!」
  44. 44 : : 2016/12/16(金) 19:31:55
    アヤヒナ…いいなぁ…
  45. 45 : : 2016/12/16(金) 21:06:20
    >>44
    最初はアヤヒナ要素を盛り込むつもりはなかったのに、書き進めていくと自然とアヤヒナになっていくんですよね……不思議です(笑)
  46. 46 : : 2016/12/19(月) 08:02:27
    前作の月光も楽しく読ませていただきました…!今回も期待です。何か企んでそうな怒り…否、伊刈さんが気になる…
    アヤト君は、カチカチ山なら昔アラタさんに読み聞かせしてもらったことがあるんじゃないですかね(*^_^*)彼の学力水準が気になりますが、せいぜい小学校低学年くらいかな?
  47. 47 : : 2016/12/19(月) 09:15:10
    ↑ごめんなさい前作はCCGパニックですね…!あれも面白かったです!

    にしても兎好きなアヤト君のためにカチカチ山選んじゃうヒナミちゃん…アヤヒナ最高
  48. 48 : : 2016/12/19(月) 18:24:04
    >>46
    もしかして、月光でむっちゃんの心配をしてくださったあの名無しさんですか!?(勘違いだったらごめんなさい)
    アヤトの学力レベルは序盤で僅かながら触れましたが、一応本は読める程度だと想定しています。分野にもよりますが中学生くらいかな?
    前作を勘違いしたのは仕方が無いです。CCGパニックは一瞬で、月光は七ヶ月以上掛かってしまいましたから。

    伊刈さんのことは内緒です。
  49. 49 : : 2016/12/19(月) 18:26:33
    互いに譲らぬ、白熱した口論。その戦いは泥沼へと向かっていくかに思えたが、予期せぬ者の介入がそれを防いだ。

    「――あの、ヒナミさん」

    「今取り込み中なので話なら後に……、あ、伊刈さん。な、何でしょうか?」

    突然声を掛けられて、雛実はついそれを邪険に扱ってしまいそうになる。しかし、その声の主が伊刈であることに遅れて気付き、雛実は態度を改め彼の言葉に耳を傾ける。

    「『カチカチ山』が彼のためというのは、一体どういう意味なんでしょうか?」

    絢都との口論の内容についての質問だった。どうやら、熱くなった雛実の声は読書スペース中に響き渡っていたらしい。それに気付いて、彼女は顔を紅潮させる。しかし質問者の伊刈は、その内容の割には真面目な面持ちで彼女の答えを待っていた。いつまでも恥ずかしがっている訳にもいかず、彼女は頬の赤らみが戻らないまま伊刈の質問に答える。

    「アヤトくん、実は『ラビット』と呼ばれている喰種なんですよ」

    「――――」

    一瞬、刹那の間だけではある。雛実の回答を聞いた伊刈の顔が、雷にでも撃たれたかのように硬直した。それを彼女の目は、捉えてしまった。
    言葉足らずだったのだろうか。カチカチ山の内容を十分に知っている伊刈ならば、絢都と兎の関連性を示せばそれが回答になるはずだが……。いや、そもそもそういうことではないのだ。何故なら彼の驚きはきっと、理解できない事柄に対するものではなく、理解した事柄が信じられないものであることに対するものだから。

    「どうかしましたか?」

    雛実は彼の異変に気付いていながら――否、気付いていたからこそ、このような浅い問しか投げ掛けることが出来なかった。

    「いえ。あのSSレート喰種が、彼のような若い青年だとは思わなかったもので……」

    そう答える伊刈の顔は、既に平常時のものに戻っていた。

    それから絢都達が読書スペースから居なくなるまで、伊刈の介入によって中断した雛実と絢都の口論が再開されることはなかった。それと同時に、伊刈の驚きの真の理由について彼から語られることもなかった。
  50. 50 : : 2016/12/19(月) 23:02:51
    48
    多分、むっちゃんの心配をしたのは私の妹です
    コメントの仕方とか似てましたかね?

    不穏な…
  51. 51 : : 2016/12/20(火) 21:18:46
    東京喰種:re[quest]にてナキがヒナミのことを「ヒナミ」と呼んでいたのを確認しましたので、修正しておきました。

    >>48
    妹さんでしたか!?
    何となく同じ名無しさんかな~と思いました。
  52. 52 : : 2016/12/20(火) 21:35:45






    ――夕刻。

    読書スペースに居続けていた雛実は、溜まっていた疲れが達成感によって急に襲い掛かってきたため、机に伏して眠りについていた。
    彼女と共に留まっていた彼が、そんな彼女に羽織っていた上着を掛けてあげる。
    そして、呟いた。

    「――申し訳ありません」
  53. 53 : : 2016/12/20(火) 22:46:44






    日が完全に沈みきった時、絢都は流島北東部にある展望台に居た。

    この日は、月の明るい夜だった。だから、絢都が展望台へと近付く人影の正体にすぐに気付くことができたのは、当然のことだった。

    「おい!」

    絢都は彼らしい粗野な言葉で、その人影を呼び止めようとする。しかし、それに応じる気配を一向に見せない。

    「お前だよ! エトとヒナミの連れだからって、部外者があんまり島内を彷徨くもんじゃねぇぞ!」

    彼は無反応のまま、ただただこちらへと歩み寄ってくる。

    「……何のつもりだ――伊刈」

    絢都は気付いていた。その人影の正体――伊刈が放つ異様な雰囲気に。それが示すものに。

    「絢都さん――いえ、『ラビット』。お前を――」

    伊刈は自身の双眸を紅く染めあげる。

    「殺す」

    憤怒の業火を燃やして――。
  54. 54 : : 2016/12/21(水) 20:49:27
    最初のうちはヒナミとエトが構成員に本読ませようと四苦八苦する話かと思ってたら…f^_^;)
    平子の後輩さんのSSは公式の小説読んでる気分で読んでます。毎回いろんなキャラ出てきて面白い。
  55. 55 : : 2016/12/21(水) 21:22:50
    >>54
    ありがとうございます!公式の小説を読んでいる気分とは、私にとって最高級の褒め言葉です!
  56. 56 : : 2016/12/21(水) 21:29:13



    煮えたぎる殺意を言葉と共に顕わにした伊刈。直後、彼は破裂寸前の激情をその標的へとぶつけるために、地を踏みしめ――、

    「――先手は俺が貰う!」

    駆け出すよりも早く、絢都が先制攻撃――赫子の結晶の一斉掃射を行った。その行為は即ち、伊刈を敵と断定したことを意味する。
    つい先刻まで仲間と親しく談笑していた人物を、絢都自身が信頼する人物が信頼している人物を、絢都は即座に敵と判断したのだ。それは、彼が非情だからではない。彼にそう判断させる程の殺意と威圧感を、伊刈が放っていただけに過ぎない。

    絢都が放った結晶の雨は、銃弾と等しき速度で伊刈へと向かっていく。だが、全ての弾丸が彼の身体を掠めることすら敵わず地面へと墜ちる。いとも容易く、躱されてしまったのだ。

    「くっ……」

    その様子を見た絢都は、一旦赫子を体内へと収める。そして体勢を、接近戦に向けた構えへと移し始める。
    間もなく、絢都の身体が臨戦態勢への移行が完了。その瞬間、伊刈が今度こそ駆け出した。
    彼の駆ける速度は疾風の如く、瞬く間に、絢都との距離を射程圏内にまで詰める。そして、拳を突き出した。

    「甘ぇ!」

    絢都は伊刈の拳を左手で受け止める。彼の電光石火の動きも、絢都の反応速度を超えるまでには至らなかった。
    パンチの際に出来た伊刈の隙を、絢都は見逃さない。絢都は右足を引くと同時に上体を捻り、それを今度は逆側へと捻りながら蹴りを放つ。上体の回転による力も乗せた彼の蹴撃が、伊刈の脇腹へと叩き込まれた。

    「ぐあぁ――」

    苦痛の声を上げながら、地に落ち転がり回る伊刈。絢都は追い撃ちを加えるべく、自身の赫子をブレード状に変形させて転がる伊刈を追い掛ける。そして、右腕と共にブレードを振り下ろす。
    硬化された羽赫の刃がそのまま伊刈を切り裂くかに見えたが、突如絢都の目に映る世界が傾く。否、傾けられたのは絢都の身体だけである。伊刈は、絢都が十分に接近した時を見計らい、彼の足を払ったのだ。
    放たれた斬撃の軌道は絢都の身体と等しく傾けられ、結果伊刈の身体から外れる。そして、絢都が体勢を整えようとする間に伊刈は立ち上がり、二人は同時に体勢を万全のものとした。

    それから、先に攻撃を仕掛けたのは絢都であった。後手に回るまいとして放ったその蹴りは、伊刈の左手ですくい上げられ軌道を変えられてしまう。直後、その左手による裏拳が絢都の顔面へと浴びせられた。
    裏拳の衝撃によって上体が大きく仰け反ってしまい、一瞬、絢都は身動きが取れなくなる。その刹那の隙に、伊刈の右肩からRc細胞が吹き出し、それが凝固して大鎌が形成される。

    「その赫子は――」

    絢都がそれに気付いた瞬間、大鎌が振り下ろされた。
    そして絢都は、自身の身体から流れ出る血によって生み出された赤い水たまりへと沈み込んだ。

    「……復讐……か」

    「おや、覚えていましたか」

    辛うじて意識を保ちながら、絢都は伊刈に先刻の気付きから導き出された答えを投げ掛けた。その答えを、伊刈は間接的な表現で肯定。

    「そういうことなら、大方の見当はもうついていることでしょう。ですから、真実を申し上げます」

    眼前に伏す絢都を憎悪の目で見下しながら、伊刈はこの襲撃の真相を告白する意志を表明する。そしてその口約は、速やかに達成された。

    「貴方の予想通り、私が貴方を襲う理由は復讐です。貴方が半年前に殺めた喰種・『大鎌』こと伊刈(じん)――我が父の仇、この手で討たせていただきます」
  57. 57 : : 2016/12/21(水) 22:06:54



    Sレート「大鎌」。
    その呼称は、彼の赫子が身の丈ほどもある巨大な鎌状の甲赫であることに由来する。
    捕食被害の報告は無いが、同族との交戦の目撃情報によってその存在が、Sレートの危険度と共に白鳩に認識されることとなった。

    絢都達に「大鎌」の抹殺指令が下ったのは、それが果たされるよりもさらに二ヶ月前のことであった。アオギリに与せず、ヒトの世界で生活を営む強力な喰種。「大鎌」が殺されることになった理由はそれだけだ。

    絢都達が指令を果たすには、大きな障壁が二つあった。
    一つは、「大鎌」の活動区域が白鳩の総本山である一区であること。「大鎌」を抹殺することができても、その際に白鳩に気付かれ自分達が駆逐されることになっては元も子もない。
    もう一つは、「大鎌」の強さ。人間の被害がゼロであるにもかかわらず、Sレート。実質SSレート相当の力を持っていてもおかしくない。そして赫子は、羽赫である絢都にとっては相性の悪い甲赫だ。

    後者は絢都の力に賭けるとして、前者の問題を解決するために、絢都達は二ヶ月を費やした。白鳩の動きを逐一把握しながら、「大鎌」が一区の中でも何とか狩り場になりそうな地点に足を運ぶのを待ち続けた。

    そして、その日は来た。
    雛実が周囲を警戒する中、絢都と「大鎌」は交戦。激闘の末、絢都は紙一重で勝利を収め、「大鎌」を殺害した。



  58. 58 : : 2016/12/22(木) 23:08:15



    「――運命とは、不思議なものですね……」

    大鎌を地に伏す絢都の首筋に突きつけながら、伊刈は呟いた。彼の口から零れた声は、冷たく、重いものだった。

    「現場検証に来ていた白鳩の話を立ち聞きして、父を殺した喰種がアオギリの『ラビット』であることには容易に辿り着きました。しかし、それが分かったところで、その『ラビット』の顔も本名も知らない私に出来ることはありませんでした。だから、仇討ちをしようなどとは思いませんでした。父を喪った哀しみにいつまでも囚われずに前へと進もうと、誓った……筈でした……。それなのに――」

    伊刈の剣幕が険しくなる。その原因は怒りか、それとも……。

    「私は貴方に会ってしまった。貴方が『ラビット』であると知ってしまった。そう、偶然――何かが少しでも違っていたら、一生知り得なかっただろう事実を知ってしまった。全ては偶然――運命の気紛れの所為なんです。貴方がここで、命を落としてしまうことも……」

    絢都の命を摘み取る最後の一撃を放つため、伊刈は大鎌を振り上げる。

    「――ごめんなさい」

    肉が裂ける音が聞こえた。
  59. 59 : : 2016/12/22(木) 23:20:21
    んんん!?
    やはり伊刈何かしらあったんですね!!
    期待です!!
  60. 60 : : 2016/12/23(金) 00:26:31
    >>59
    期待ありがとうございます!
  61. 61 : : 2016/12/23(金) 00:44:45



    「――ぐあ……あああ」

    その音の直後、苦悶の声を上げたのは伊刈であった。
    絢都は見ていた。彼の腕と大鎌が地面へと墜ちた様子を。

    「動かないでください、伊刈さん。それが貴方の為です」

    今までこの場に響くことは無かった、新たな人物の声。声の元へと目を向けると、そこには背骨のような赫子を展開した、雛実の姿があった。

    「何故……ここに……?」

    「貴方が私に掛けてくれた上着を返そうと、アジトの中を探したんです。だけどどこにもいなくて、不安になって外を探しました。読み聞かせの後の様子から、伊刈さんが何かを隠していることには気付いていましたから」

    「……きっと、あの時ですね。表に出てしまいましたか」

    少し悔しそうに、伊刈は呟いた。

    「それでも、そう簡単に見つかる場所ではないはずですが」

    「探知能力には自信がありますから」

    そして雛実は、その優れた探知能力によって、絢都と伊刈の間に交わされた言葉をこの場所への道中から拾い取っていた。それからこの眼で父親譲りの大鎌状の赫子を目の当たりにした彼女は、全てを理解した。伊刈が絢都を襲う目的が復讐であることも、その復讐の原因となった父の死に彼女自身が少なからず関与していることも……。
    その上で彼女が取った行動は――、

    「――ごめんなさい。私達が、伊刈さんのお父さんを殺しました」

    謝罪と自供。

    「私もアヤトくんと一緒に、その殺害指令を受けました。私も同罪です」

    「……そうでしたか――」
  62. 62 : : 2016/12/23(金) 09:26:40
    アヤト君大鎌には勝てたのに、伊刈さんには負けそうでしたね…伊刈さん強い
  63. 63 : : 2016/12/23(金) 16:05:36
    >>62
    伊刈父戦は万全の状況でしたが、伊刈戦の場合は突然の襲撃でしたからね。因みに、伊刈は読書家なのでカネキ同様本から得た知識を引き出し戦っているという裏設定あり。
  64. 64 : : 2016/12/23(金) 16:07:17
    次の瞬間、伊刈が雛実へと迫る。彼は右腕の欠損はそのままに再び大鎌を創り出し、雛実目掛けて振り下ろした。だが、彼の攻撃は雛実の持つもう一つの赫子――花弁の如き甲赫によって防がれる。

    「もう、止めてください」

    凶刃を向けられながら、雛実は投降を促す姿勢を崩さない。

    「今更……止まれません!」

    伊刈は大鎌を花弁から引き抜くと共に、次なる攻撃の為にそれを振り上げた。だが、彼の大鎌は再び切り落とされる。

    「貴方に勝ち目はありません。万一私達を倒し復讐を遂げても、結局は私達の仲間に殺されてしまいます」

    「それでも構いません! 復讐を果たせるのなら、この命など惜しくない!」

    伊刈はもう一度大鎌を創り出そうとする。だが、新たなRc細胞が彼の右肩を突き破ったその瞬間、雛実の鱗赫が彼の赫包を貫いた。

    「もう……止めてください。貴方は、復讐だけに命を捧げられるような人じゃない」

    「貴女に――貴女に私の何が分かるというんですか!? 復讐だけに命を捧げられない? そんなこと、やってみなければ――」

    「分かります!」

    雛実は強い口調で、伊刈の主張を遮った。

    「だって伊刈さんに、私を殺すつもりなんて無いんでしょう?」

    「――――」

    雛実の指摘に、伊刈は絶句した。そして、支えを失ったように崩れ落ち、地に膝を付ける。

    「私も、貴方の父親の仇ですよ。それなのに、貴方は憎悪に飲まれることができずに、私に殺意を向けられないでいる。そんな貴方が、復讐の為に全てを捨て去ることなんてできるわけないじゃないですか」

    「――ですが……それなら……!」

    感情の激流に耐えかねて、伊刈は己の拳を思い切り地面へと叩き付けた。

    「この一度生み出された凶気の渦を、どう鎮めればいいんですか! 親の仇を目の前にしておきながら、それを放っておくなんてできません……、できなかったんです……」

    伊刈の双眸から、涙がボロボロと流れ出す。そして、彼は頭を屈め、跪いてしまった。

    「どうして……、出遭ってしまったんでしょう」

    「ダメです」

    「――え?」

    唐突に雛実が発した、「ダメ」という言葉に伊刈は驚きの声を上げる。

    「そう思って欲しくないから、私は貴方を止めたんです。だって、私達が出会ったきっかけは、『本』にあるんですから」

    雛実は唇を噛みしめ、涙を堪える。まだ、泣くわけにはいかない。

    いつもいつも、大切な何かを失って、何もできずに泣くばかり。いつも自分を護ってくれた人を、救うことができない。そんな自分が嫌で、雛実はアオギリの一員になることを決意したのだ。そして、未だに自分は絢都に護られてばかりいる。だから、今度こそは救いたい。誰かを……伊刈を……。その想いが、雛実を動かす。

    「親を亡くした時の悲しみを、私は知っています。でもそれ以上に、貴方にとって『本』が大切なもので、大好きなものだってことを、私は知っています。だから……貴方に……『本』を恨んで欲しくない。大好きだったものまで……否定して欲しくない。だから……どうして出遭ってしまったのかなんて……そんなこと、言わないでください!」

    想いの全てを吐き出すと共に、雛実の双眸からもまた涙が零れていく。

    殺意を向けた相手の友が、偽りとはいえ刃を向けた相手が、あくまで自分を救おうとして涙を流すその光景を目の当たりにした伊刈にはもう、憎悪の渦に身を委ねることなど不可能であった。
    こうして、決着がついたかに思えたその時――、

    「――よくもまあやってくれたものだ、伊刈健仁」

    右眼だけが紅く光った少女が、三人の前に現れた。
  65. 65 : : 2016/12/23(金) 19:15:02



    「君とは、仲良くやっていきたかったんだがね……」

    その少女――エトが溜め息交じりに悲嘆の言葉を零した。
    包帯は外して来たようで、月光が彼女の端麗な素顔を映し出している。そしてその表情は、彼女にしては珍しく、本当の意味での悲哀が僅かながら見え隠れしていた。彼女もまた、伊刈の凶行に少なからずショックを受けたということか。しかし――。

    雛実はこの現場をエトに見られてしまったことで、失望感に襲われていた。失った望みは、伊刈を生きて島から逃がすという望みである。
    幹部を襲撃した喰種――アオギリの樹からすれば、当然野放しにはできない存在だ。彼の犯した行為が明らかになれば、アオギリの仲間達が彼の命を奪いに向かうだろう。そしてそれは、此度の「アオギリ読書強化週間」の実現に向けて苦難を共にしたエトも例外ではないだろう。彼女は何時だって冷酷で、非情……彼を黙って見逃すはずがない。

    「悪いが、君とはもう永遠にさよならだ」

    それは、死刑宣告も同然――

    「今すぐこの島から去れ」

    ではなかった。

    「――それは、私を見逃してくださるということですか?」

    エトのまさかの発言が信じられず、伊刈は狼狽しながらも確認の問を投げ掛けた。
    彼女は、何も答えなかった。頷くことさえしなかった。しかし、この場においてその沈黙は肯定を意味することであることは、誰の目から見ても明らかであった。

    エトの発言に衝撃を受けたのは、伊刈だけではない。雛実と絢都も――寧ろ、二人の方が受けた衝撃は大きかったに違いない。伊刈を見逃すことに何のメリットもないこの状況から鑑みて、エトの行動の根幹にあるのは伊刈への情けしか考えられない。が、それは二人の知るエトにとって起こり得ないことなのだ。

    「……本当に、良いのですね?」

    「早くしたまえよ。気まぐれな私の気が変わらない間にな」

    再びの問に対するエトの返答を受け、伊刈は静かに頷いた。そして海岸の方へと視線を向けてから、続いて雛実を見つめ彼は最後の言葉を発した。

    「ヒナミさん、ありがとうございました」

    そして一礼。それからエトにも一礼をした後、彼は海岸へと向かって歩み始める。

    「埠頭に小さいがボートを停めてある」

    伊刈が背を向けたところで、エトは彼に告げた。彼女の言葉は続く。

    「返さなくて良い。もう、会うことはないだろうからな。もしまた出遭ってしまったら、その時は――」

    そこまで聞いたところで、彼は少しだけ振り向き、頷いた。その時垣間見えた彼の表情を、雛実は忘れることはないだろう。

    彼は海岸の方へと視線を戻し、再び歩き出した。その姿は徐々に小さくなっていき……やがて、消えた。
  66. 66 : : 2016/12/23(金) 22:06:15



    「――では、私はアジトに帰るとしよう。君達も早めに帰りな。秋の夜は冷える」

    こう言い残して、エトは島の中心部へと向かって歩いていった。
    遠くなっていく彼女の背を見つめながら、雛実は彼女が何を思って伊刈を助けたのかを考えていた。

    彼女の頭の中にあることは、いつだって読めない。何を求め、何を画策しているのか、それが分からない。しかし彼女のことで唯一、分かりやすいことがある。それは、好きなものと嫌いなもの。
    嫌いなもの――この世界。そして父。
    好きなもの――破壊。そして本。

    結局彼女もまた、雛実と同じく、伊刈に本を恨んで欲しくなかったのではないのだろうか。同じく、本を愛する者として……。雛実はそう考えて、それ以上思い巡らすことを止めた。

    「ヒナミ、帰るぞ」

    絢都が雛実に、帰還を促す声を掛ける。伊刈の大鎌から受けた傷は、大まかな修復は済んだようで、出血もおおよそ止まっていた。

    「――ねぇ、アヤトくん」

    「何だ?」

    「私、やっぱり弱いままだね。また、失くしちゃった」

    復讐心に呑まれた伊刈を救う。その目標は達成できた。しかし、雛実の心の最も大きな部分を占めるのはそんな達成感ではなく、親しき人物との親交を失ったことへの大きな喪失感だった。今更悔やんでも仕方が無いことは、彼女自身が一番良く分かっている。寧ろ、最悪の事態を避けることができたことに安堵すべきなのだ。でも――、

    「どうしてみんな……居なくなっちゃうのかな」

    雛実の頬を、再び涙が伝う。その時、右肩に何かが優しく置かれるのを感じた。

    「……メソメソすんな。ウゼぇんだよ」

    そっと置かれた右手とは裏腹に、絢都の言葉遣いは乱暴だ。

    「自分が弱いって自覚があるんなら、過ぎたことをウダウダ言ってないで強くなる為の努力をしろってんだよ」

    だけれども、暖かい。

    「下向いてばかりで、勿体ねぇ奴だな。今日は折角満月だってのに……」

    「うん。そうだね……。ありがとう」

    何処までも素直になれない絢都の優しさに心が癒やされるのを感じながら、雛実は顔を上げる。夜空には満月が一つ、幽玄に佇んでいる。

    「――月、綺麗だな」

    絢都がそう呟いたのを聞いて、雛実は顔を赤らめた。

    「月が綺麗ですね」というこの言葉は、遠回しな告白の言葉として用いられることがある。
    かの夏目漱石が、「I love you」という言葉を生徒が「我君を愛す」と訳した際、「日本人はそんなことは言わない。月が綺麗ですね、とでもしておきなさい」と言ったという逸話によるものだ。

    それなりの教養を持った人間ならば、或いは文学を嗜んでいる者であれば、多くが知っているであろう知識だが、どちらにも当てはまらない絢都がそれを知っている筈が無い。雛実もそれにすぐ気付いて、「そうだね」と当たり障りのない返事をした。

    もし絢都が読書好きであったら、こんな言葉を彼の口から聞くことはできなかっただろう。
    そう考えて、雛実は彼がこのまま本嫌いのままでも良いと思うようになった。


  67. 67 : : 2016/12/23(金) 22:07:57



    伊刈の事件から一週間後の夜、エトは独り読書スペースに居た。

    事件後も存続された読書スペースであったが、雛実が朗読を行ったあの日が夢であったと思う程、閑散とした日々が続いていた。また何かイベントを行えば賑わいを取り戻すことはできるであろうが、それも一時的なものに過ぎない。そもそも、当のエト本人が飽きてしまっている。雛実もいつの間にか、読書を広めようという意志を失っているようだ。

    「結局、馬鹿に読書は釣り合わんということか。それに、これを言っては本末転倒だが、趣味というのは押しつけるものでは無いしな」

    そう言って、エトは大きな欠伸を一つ。

    「喰種向けの本を書くに当たって、何かヒントになればと思ったのだが仕方が無い。いつものように書くとしよう。それでも聡明な者には、この歪んだ世界の真実が十分に伝わる筈だ――」



    「高槻泉の最終作になるであろう、『王のビレイグ』によって」






    ―完―
  68. 68 : : 2016/12/23(金) 22:11:40
    【あとがき】
    予定より長くなってしまったのは、ナキのおバカとエトしゃんのせいです。アヤヒナ要素もここまで入れる予定はありませんでした。そんな感じでキャラに振り回されながら書いていきました。書いていてとても面白かったです。

    読んでくださった方々に感謝です!
  69. 69 : : 2016/12/23(金) 22:38:25
    お疲れ様でした~
    とってもとっても良かったです!!
    楽しませて貰えました…(*^^*)
    やはりアヤヒナは良きですねぇ…!
  70. 70 : : 2016/12/23(金) 22:58:35
    >>69
    何度もコメントくださってありがとうございました!とても励みになりました!
    アヤヒナは書いていてほっこりしますね。
  71. 71 : : 2016/12/23(金) 23:38:05
    月が綺麗だな…♡ヒョー!!!って感じです。ああ、絢都君にこの意味を教えたい!!!

    執筆お疲れ様です!例の名無しです。次回も楽しみにしてます!
  72. 72 : : 2016/12/24(土) 00:00:54
    >>71
    例の名無しさん!ありがとうございます!
    絢都、本読みなよ……と私は内心呟いた。
    次作は東京喰種のSSではなさそうです……が、少しでも読んでくださったら嬉しいです。
  73. 73 : : 2016/12/24(土) 00:34:43
    言い忘れていましたが、伊刈さんの名字の由来は例の名無しさんの予想通り「怒り」です。優しさの裏に、父の敵への怒りを持っているからです。名前は何となく、伊刈さんのお父さんになったつもりで考えました。
  74. 74 : : 2016/12/24(土) 18:27:56
    お疲れ様です!平子の後輩さんの東京喰種ssいつも面白いですね!

    次作がどの作品になるか期待しています
  75. 75 : : 2016/12/24(土) 21:40:36
    >>74
    嬉しいお言葉ありがとうございます!
  76. 76 : : 2020/10/01(木) 14:28:36
    高身長イケメン偏差値70代の生まれた時からnote民とは格が違って、黒帯で力も強くて身体能力も高いが、noteに個人情報を公開して引退まで追い込まれたラーメンマンの冒険
    http://www.ssnote.net/archives/80410

    恋中騒動 提督 みかぱん 絶賛恋仲 神威団
    http://www.ssnote.net/archives/86931

    害悪ユーザーカグラ
    http://www.ssnote.net/archives/78041

    害悪ユーザースルメ わたあめ
    http://www.ssnote.net/archives/78042

    害悪ユーザーエルドカエサル (カエサル)
    http://www.ssnote.net/archives/80906

    害悪ユーザー提督、にゃる、墓場
    http://www.ssnote.net/archives/81672

    害悪ユーザー墓場、提督の別アカ
    http://www.ssnote.net/archives/81774

    害悪ユーザー筋力
    http://www.ssnote.net/archives/84057

    害悪ユーザースルメ、カグラ、提督謝罪
    http://www.ssnote.net/archives/85091

    害悪ユーザー空山
    http://www.ssnote.net/archives/81038

    【キャロル様教団】
    http://www.ssnote.net/archives/86972

    何故、登録ユーザーは自演をするのだろうか??
    コソコソ隠れて見てるのも知ってるぞ?
    http://www.ssnote.net/archives/86986
  77. 77 : : 2020/10/26(月) 14:56:53
    http://www.ssnote.net/users/homo
    ↑害悪登録ユーザー・提督のアカウント⚠️

    http://www.ssnote.net/groups/2536/archives/8
    ↑⚠️神威団・恋中騒動⚠️
    ⚠️提督とみかぱん謝罪⚠️

    ⚠️害悪登録ユーザー提督・にゃる・墓場⚠️
    ⚠️害悪グループ・神威団メンバー主犯格⚠️
    10 : 提督 : 2018/02/02(金) 13:30:50 このユーザーのレスのみ表示する
    みかぱん氏に代わり私が謝罪させていただきます
    今回は誠にすみませんでした。


    13 : 提督 : 2018/02/02(金) 13:59:46 このユーザーのレスのみ表示する
    >>12
    みかぱん氏がしくんだことに対しての謝罪でしたので
    現在みかぱん氏は謹慎中であり、代わりに謝罪をさせていただきました

    私自身の謝罪を忘れていました。すいません

    改めまして、今回は多大なるご迷惑をおかけし、誠にすみませんでした。
    今回の事に対し、カムイ団を解散したのも貴方への謝罪を含めてです
    あなたの心に深い傷を負わせてしまった事、本当にすみませんでした
    SS活動、頑張ってください。応援できるという立場ではございませんが、貴方のSSを陰ながら応援しています
    本当に今回はすみませんでした。




    ⚠️提督のサブ垢・墓場⚠️

    http://www.ssnote.net/users/taiyouakiyosi

    ⚠️害悪グループ・神威団メンバー主犯格⚠️

    56 : 墓場 : 2018/12/01(土) 23:53:40 このユーザーのレスのみ表示するこの書き込みをブックマークする
    ごめんなさい。


    58 : 墓場 : 2018/12/01(土) 23:54:10 このユーザーのレスのみ表示するこの書き込みをブックマークする
    ずっとここ見てました。
    怖くて怖くてたまらないんです。


    61 : 墓場 : 2018/12/01(土) 23:55:00 このユーザーのレスのみ表示するこの書き込みをブックマークする
    今までにしたことは謝りますし、近々このサイトからも消える予定なんです。
    お願いです、やめてください。


    65 : 墓場 : 2018/12/01(土) 23:56:26 このユーザーのレスのみ表示するこの書き込みをブックマークする
    元はといえば私の責任なんです。
    お願いです、許してください


    67 : 墓場 : 2018/12/01(土) 23:57:18 このユーザーのレスのみ表示するこの書き込みをブックマークする
    アカウントは消します。サブ垢もです。
    もう金輪際このサイトには関わりませんし、貴方に対しても何もいたしません。
    どうかお許しください…


    68 : 墓場 : 2018/12/01(土) 23:57:42 このユーザーのレスのみ表示するこの書き込みをブックマークする
    これは嘘じゃないです。
    本当にお願いします…



    79 : 墓場 : 2018/12/02(日) 00:01:54 このユーザーのレスのみ表示するこの書き込みをブックマークする
    ホントにやめてください…お願いします…


    85 : 墓場 : 2018/12/02(日) 00:04:18 このユーザーのレスのみ表示するこの書き込みをブックマークする
    それに関しては本当に申し訳ありません。
    若気の至りで、謎の万能感がそのころにはあったんです。
    お願いですから今回だけはお慈悲をください


    89 : 墓場 : 2018/12/02(日) 00:05:34 このユーザーのレスのみ表示するこの書き込みをブックマークする
    もう二度としませんから…
    お願いです、許してください…

    5 : 墓場 : 2018/12/02(日) 10:28:43 このユーザーのレスのみ表示する
    ストレス発散とは言え、他ユーザーを巻き込みストレス発散に利用したこと、それに加えて荒らしをしてしまったこと、皆様にご迷惑をおかけししたことを謝罪します。
    本当に申し訳ございませんでした。
    元はと言えば、私が方々に火種を撒き散らしたのが原因であり、自制の効かない状態であったのは否定できません。
    私としましては、今後このようなことがないようにアカウントを消し、そのままこのnoteを去ろうと思います。
    今までご迷惑をおかけした皆様、改めまして誠に申し訳ございませんでした。

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