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やはり俺のバーチャル世界は間違っている

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  1. 1 : : 2016/11/05(土) 18:32:11
    SAO×俺ガイルです
    地の文苦手だけど頑張って書きます。
    のんびり書いていきます
    SAOキャラなどの口調おかしかったら言ってください
  2. 2 : : 2016/11/05(土) 18:33:59
    俺の名前は比企谷 八幡。

    そして、机の上に置いてある機械は"ナーヴギア"
    今日始まる新作ゲーム"ソードアート・オンライン"を遊ぶための機械だ。
    これはフルダイブ型のMMORPGで、小さい頃からそう言ったゲームで遊んできた俺はもちろんこれに興味がありまくりだった。
    まあ、人気すぎて手に入らない、並んでも結局売り切れるのが関の山だ
    ーーーーーーと思ってたのも昨日まで。

    なんと、俺の妹の小町が町内のくじ引きで特賞を当ててこのナーヴギアを持ち帰ってきた。
    そして前々から欲しい欲しいと呟いてた俺に小町がプレゼントしてくれたのだ。流石小町! 可愛い!
    ……まあ、あとで遊ばせて! とあざとくお願いされたがな。おい、これプレゼントしたんじゃないのかよ。

    時計を見ると、サービス開始まで残り1分だ。
    小町には昼はいらないと言ってあるしのんびり遊ぼうじゃないか。

    俺はナーヴギアを頭に被り、ベットに横になる。

    そして、SAOの世界へ俺を連れて行ってくれる魔法の言葉を口にする。

    「リンクスタート!」


    ーーーーーーーーーーーー




  3. 3 : : 2016/11/05(土) 18:39:38



    「っ……ここが、"はじまりの街"か?」

    目の前にはとてもゲームとは思えない景色が広がっていた。
    足元に生い茂る草、歩くとしっかりとした感触が伝わる。頬を伝うそよ風も見事に再現されている。

    「こりゃ皆やりたくなるわな」

    一応受験生だからハマりすぎには注意しないとな。

    視界の左上を見るとキャラメイキング時に付けた名前"Eight men"とHPバーが示されていた。
    このEight menは決して弾丸より早く走るヒーローじゃないからな、俺の名前を弄っただけだ。
    俺の姿は黒髪の好青年にした。ゲームの中まで腐った目は嫌だからな。

    ステータスは敏捷に振りまくりだ。
    SAOには筋力値と敏捷値しかない、大抵の人は半々くらいで振るんだろうが。ソロプレイをするつもりの俺はそんな振り方はできない。

    敏捷に極振りだ、スピードこそ命。囲まれた際もスピードさえあれば逃げられる。エイトマンとは関係ないぞ。
    具体的に言うと、キャラメイキング時に貰ったポイントを2:8くらいに分けた。

    「筋力値めっちゃ低いが……ダメージ出るよな?」

    丁度目の前にイノシシ型のモンスターがポップしてきた。よし、こいつを切ろう。
    俺は初期装備のダガーを胸前に構えて、攻撃の姿勢を取る。

    「そういえば、ソードスキルだっけな……どう使うんだあれ」

    よくわからないまま、俺はイノシシに向かって走り出す。

    「はっ……はっや!」

    自分でも驚くほどのスピードが出た、これが敏捷極振りの力か!
    イノシシの後ろに回り込み、ダガーで首元を裂く。
    イノシシはブオオオとか言いながらポリゴンの欠片となって散った。

    「……クリティカルを出せれば攻撃力はカバー出来そうだな」

    さて、攻撃力の問題は大丈夫だとしよう。
    しかし、問題は一つ解決するとまた一つ出来てしまうものである。

    「ソードスキル、何とかしないとな」

    幸い、ここはモンスターがよくポップするところみたいだ、すぐ近くにまたイノシシがいる。
    ここならソードスキルの練習もできそうだ。
    近くにポップしたイノシシに向かって俺は短剣を振りかぶった。
  4. 4 : : 2016/11/05(土) 19:08:53
    「これなら、どうだっ」

    ソードスキルを発動させようと頑張っているが、一向に上手くなる気配が見えない。

    「はぁ、なんでダメなんだ?」

    ダガーを手の中でクルクル回す。戦い終わる度にそうしてたら癖になってしまったようだ。
    遊ぶ相手がいなかったからペン回しとかよくしてただけなんだけどな。

    「おーい、お前さん」

    おーい、誰か呼んでますよー。
    声のした方を向くとパンダナを巻いた男と黒髪の男が俺を見ていた。

    「俺か?」
    「お前さん以外に誰がいるってんだよ。俺はクラインだ。ここで1人で狩ってるのか?」
    「そんなところだ、そっちはパーティーか?」

    パンダナの男の後ろに立っている黒髪の好青年の方を顎で指しながら聞く。俺もこんなキャラメイキングにしたな。

    「いや、こいつキリトってんだけどよ、元βテスターだからすげぇ上手いんだ」
    「教えて貰ってるってことか」
    「おうよ!」

    ふむ、なるほど。βテスターに教えてもらえば俺もソードスキルが上手く使えるようになるのかもしれないな。
    俺のコミュ力を発揮するしかないな!(但し、ゲーム内のみ)

    「あー、なんだ、俺にも教えてくんねぇか? キリトさん?」
    「キリトでいいよ。俺で教えられることならいいぞ」

    ふははは、見たか俺のコミュ力を! 頼み事をして無視されなかった挙句、オーケーまで貰ったぞ。(但し、目が腐ってなかった場合)

    「えーと、エイ……エイトマンか。よろしくな」
    「ああ、こちらこそよろしく、キリト」

    βテスターがキリト、パンダナはクライン。ちぃ覚えた。
    それから俺はキリトに教えてもらい、なんとかソードスキルを上手に使えるようになったのであった。
  5. 5 : : 2016/11/06(日) 19:14:03
    「それにしても、エイトマンは嫌な戦い方だな」
    「なんだよ、悪いか」

    身体に染み付いてきた動きを繰り返す。
    ダガーで素早く相手を切りつける短剣スキル《ファッドエッジ》

    踏み込んできたイノシシを横、横、横、縦の順番で切りつける。
    システムアシストが勝手に身体を動かしてくれるので慣れれば簡単にソードスキルは使えた。

    「まあ、こんなもんか」
    「エイトマンは上手いな。すぐに出来るようになった」
    「それを言うならクラインってやつもだろ。あっちで狩ってるが、ほぼソードスキル成功してるぞ」
    「謙遜するなよ」

    笑うキリト。俺も釣られて口元が緩む。
    こんなリア充生活現実でしたことねぇよ。

    「キリトー、エイトマンー、俺そろそろ落ちるわ。ピザ頼んでるんだ」
    「もうそんな時間か、エイトマンはどうする?」
    「そうだな……」

    小町には昼飯はいらないと言ってるが夕飯いらないとは言ってないな。流石に小町を放っておいてゲームをしてたら怒られかねん。

    「俺も一旦落ちるわ」
    「そうか、俺はまだ少し狩ってることにする」

    まじかよ、廃人かこいつ。飯とか大丈夫なのか?
    そう思いつつ俺はウィンドウを開く、そしてログアウトボタンを探す。

    「…………あれ?」
    「どうした? エイトマン」
    「いや、ログアウトボタンが見つからないんだけど」

    もう一度よく探す。
    上から下までしっかり見る。うん、ないな。

    「まあ、サービス開始初日だしこんなのもあるだろ。せっかくだしもうちょい狩りしようぜ」

    クラインは短絡的な考え方をしている。普通に考えればそうだが……。
    本当にそれだけなのか?

    「いや、ログアウトボタンがないだなんてこれからの運営にも関わる重大な問題だろ、強制的にゲームを終了させるくらいはしないと」
    「そりゃそうだが……」

    確かにそうだな、キリトの言う通りだ。
    俺も同意しようと口を開こうとするーーーーーー

    「うぉっ!?」
    「これは……転移の光!?」

    突如、キリトとクライン、そして俺を青い光が 包んでいた。
    βテスターのキリトが言うには転移の光のようだ。
    転移先で見えたのはーーーーーー

    「広……場……?」

    周りを見ると同じように転移してくる人がたくさんいる。
    キリトとクラインは……この近くにはいないのか。
    ぼっちに逆戻り……ってそんな場合じゃない。

    「なんだこれは……」

    ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

    茅場晶彦。
    このゲームを作った張本人に告げられた事実を再認識する。
    一つ、このゲームに俺は閉じ込められた。
    一つ、HPバーが0になるとリアルでも死ぬ。
    一つ、既に何百人か犠牲になっている。
    そしてーーーーーー出るためには、ゲームをクリアしなければならない。

    茅場晶彦からのプレゼント、《手鏡》に映っているのは俺のリアルでの姿。腐った目もバッチリ映っている。

    「まじ……かよ」

    俺はその場に立ち尽くした。
    様々な感情が頭の中を駆け巡る。
    それらを言葉に言い表すことは上手くできないが、今一番わかることはーーーーーー

    「ゲーム、クリア……」

    絶対、帰ってやる。
    現実に。
  6. 6 : : 2016/11/07(月) 15:11:59
    期待です
  7. 7 : : 2016/11/07(月) 18:01:00
    >>6
    ありがとうございます


    絶望を告げられたあの日からもう一ヶ月。
    SAOは最悪の展開へと進んでいっている。
    死者は増える一方、それにまだ一層すらクリアしていない。
    死者の半分はβテスターらしい。
    ため息をつき、迷宮近くの石に座る。
    そういえば、キリトはβテスターだったな。
    一応会話した相手だから、死んでいたら目覚めが悪い。生きていてほしい。

    「死ぬ、か」

    俺も一度死にかけた。
    あの絶望を伝えられたその日のうちに、俺は無理なレベルのモンスターがポップするところでがむしゃらに戦った。
    気が狂っていたのだろう、夜まで戦っていて、死にかけた。
    なんとかポーションを飲み、頭を冷ませた時に見た光景が今の俺を支えている。
    ここはゲームだ。だが遊びではない、現実だ。

    とてもゲームとは思えない、美しい風景を見た。
    綺麗な湖で、蛍のようなものも飛んでいた。
    これはゲームだ、だがゲームだと割り切るには惜しい風景だ。
    そう思うほど魅力的で綺麗だった。

    「んーっ……はぁ」

    一つ伸びをする。
    と、その時、気配がした。
    俺は索敵スキル、隠蔽スキル、観察眼スキルをガン上げしている。
    ぼっちプレ……ソロプレイを極める俺に前二つのスキルは必須だ。
    観察眼スキルはクリティカルを出しやすくするので取得した、おかげで攻撃面は問題ない。

    三つに絞って上げているのでかなりレベルは高い、そんな俺の索敵レーダーに何かが映りこんだようだ。

    俺は物陰に隠れ、隠蔽スキルを使う。さて、誰が来るか……。

    「隠れてないで出てこいよ。別に怪しいもんじゃない」

    この声は……。

    「キリトか……って、え?」
    「なんだ、エイトマンか。隠蔽スキルを使って何してる……って、エイトマンか?」

    全然顔が違う……すっげぇ童顔……。

    「え、エイトマン……でいいよな?」
    「そうだ、正真正銘、敏捷に極振りのエイトマンだ」
    「そ、そうか……目が随分と個性的なんだな」

    隠しきれてないぞキリト……。

    「お前もそんな童顔だったとはな」
    「言うなよ、気にしてるんだから。それで、隠蔽スキル使ってまで何してるんだ?」

    あっさり見破られてる……なんか悲しいな。

    「PKとか怖いだろ」
    「しないよ、ていうか反応早かったな。索敵もあげてるのか?」
    「ああ」
    「道理ですぐに俺のレーダーから消えたわけだ。俺より索敵上げてるだろ」

    人と比べたことないからわからんが……まあキリトが高いと言うなら高いのだろう。
    それで、本題はここからだ。

    「キリトは何しに来たんだ?」
    「いや、ディアベル達がボス部屋を見つけたっていう情報があっただろ? だから確認しておこうかと」

    ナニソレ、ボス部屋? 俺知らないぞ?

    「……あー、エイトマンは知らないかもな。街の方でチラシ配ってたから」

    そう言ってキリトはチラシを渡してくる。
    見てみると、メンバー募集、ボスを倒してゲームクリアしよう! 的なイケイケな文が書いてあった?

    「街の方にはあまり顔出さないからな……」
    「そうだ、エイトマンもボス戦に来いよ、索敵、隠蔽スキルなかなか高かったし戦力になるはずだ」
    「俺がかぁ?」

    こんなやる気が微塵も無さそうな死んだ魚の目の男普通誘うか? 自分で言っててちょっと悲しくなってきた。

    「明日の10時にチラシに書いてるところに来いよ、じゃあ俺はボス部屋見てくる」

    そう言い残しキリトは迷宮に入っていった。
    ……誘われたし行ってみようかな。
  8. 8 : : 2016/11/07(月) 20:45:46
    「えっと、初めまして。俺はディアベル。職業は気分的にナイトやっています」

    ボス会議の集合場所で、初めにリーダーらしきやつが自己紹介をした。
    SAOには職業システムがないので彼なりのギャグなのだろう、そこそこ笑いも取れてる。
    あいつリア充じゃないよな……。
    俺がムンムンとリア充滅せよ! オーラを出していたらキリトに話しかけられた。なんだよリア充滅せよオーラって、リアルに充実してるなら俺もしてるわ。いやしてなかったか。

    「どうしたエイトマン」
    「いや……あいつ人気者っぽいなって」
    「エイトマンも人気者になりたいのか……まずは目を治した方がいいぞ」
    「煽ってんのか」

    キリトと話していたらディアベルがあの言葉を発していた。

    「それじゃ、まずはパーティー組んでくれないか」

    まじかよ、その言葉をこの世界でも聞くとは思ってなかったわ。
    周りの奴らはすぐに組み始める。何? 前から決めてたの? 早くない?
    とりあえずキリトと組む、あと誰かいないか……。

    「あのフードのやつはどうだ?」
    「誘ってくる」

    流石キリトさん! 俺に出来ないこと(コミュニケーション)をやってくれる! そこに痺れる憧れるぅっ!(ただのコミュ障)

    「俺はキリト、んでこの腐った目の男はエイトマンだ」
    「……顔は元に戻ったんじゃないの?」
    「失礼な、これはデフォルトだ」

    名前は、《アスナ》か。女か? フード被っててわからん。

    「とりあえず後で連携確認だけしておこうか」
    「そうだな、連携どころか協調性のなさそうなやつばっかだもんな、俺含め」
    「一言余計だ」

    ぼっちも三人寄れば上手くいく、とはならない。寧ろ全員消極的なので会議が発展しないどころか喋ったら負けゲームのようなものが発生する。
    キリトは割と話せるやつなのでそこら辺ば大丈夫か。

    そんなことを考えながらぬぼーっとしていたら一際大きな声が聞こえた。

    「ワイはキバオウってもんや。この中に謝らんとあかんやつがおるのわからんか?」

    なんだあの栗頭……大人しくそこら辺で転がってろよ。
    あいつが言うには、今まで死んだプレイヤーはβテスターが情報などを独占したからだ。
    だからここにいるβテスター、謝れ、身ぐるみ剥ぐぞってことか。

    「馬鹿か」

    隣のキリトを見ると青ざめている。そういやキリトはβテスターだな。
    恐らくβテスターであろうものは視線を逸らしたりしたり、身体を揺らしたりしているのでわかりやすい。
    仕方ない、ここは一つβテスターに借りを作っとくか。

    「おい、栗頭」
    「なんや? あとワイはキバオウや」
    「βテスターは出てきて、謝れ、アイテム寄越せってことでいいか?」
    「そ、そうや! なんか文句あるんか!?」
    「よし、解散しよう。こいつは馬鹿だ」

    キバオウの顔が真っ赤になる。かなり頭にきたようだ。

    「な、なにが馬鹿なんや!」
    「考えてみろよ。明日することは? ボス戦だよな? なんで前日に戦力低下しなきゃならねぇの? 馬鹿なの? 死ぬの?」
    「うっ……」

    よし、もう一押しだ。

    「せめて謝ってほしいってだけならまあわかる。だけどな、死んだプレイヤーの半分は誰かわかるか?」
    「し、知らんわそんなん」
    「βテスターだよ。恐らく自分の力に過信したんだろうな」

    周りがザワつく、俺も詳しくは知らんがキリトが言っていた。本当かは知らんが今のこの場を凌げれば十分だ。

    「それで、まだなにか文句あるのか?」
    「ぐぬぬぬ……」

    ここまで言われたら流石に引くだろう。
    不意に、肌が黒い男が手を挙げた。

    「俺はエギルだ。ついでに言わせてもらうがこのガイドブック。あんたらも知ってるだろ? これはβテスターの協力によって無料配布されたものだ。ここまでしてくれたβテスターにまだなにかあるのか?」
    「ぐぬぬ……うぐぐ……」

    パンパン、と手を叩く音がする。
    ディアベルは声を大にして言った。

    「もうやめよう、ここまでだ。仲間割れしたって意味が無い。」

    そうして、第一回ボス会議は終わった。
  9. 9 : : 2016/11/08(火) 19:03:29
    あの後、βテスターに借りを作った俺は颯爽とその場から離れた。いや、何? ずっと残ってたら気持ち悪がられるでしょ? 俺なりの配慮だぞ。

    明日に向けてさっさと部屋に戻って武器、ポーションの確認してから寝ようとしたらメールが届いた。
    俺のフレンドは少ない。その中で俺にメールを送るやつといったら……。
    キリトからのメールだった。

    『連携確認するって、言ったよな。○時に○△に集合』

    すみませんでした。
  10. 10 : : 2016/11/08(火) 19:03:58
    オリジナルクエストとか設定少しあります
  11. 11 : : 2016/11/08(火) 19:04:06
    「なんだよ、大して時間かかんなかったじゃねぇか」

    連携確認と言っても、各々の戦い方などを確認する程度だった。そのため30分ほどで終わった。
    キリトは筋肉バカ、アスナは細剣速攻か、よし覚えた。
    俺の戦い方は至ってシンプル。上げに上げまくった敏捷+隠蔽スキルを使って相手の背後を取り、首スパーン、だ。
    キリトとアスナには嫌な戦い方だと顔をしかめられていたが俺には関係ない。
    不意に、声をかけられた。

    「エー坊じゃないカ。何してるんダ?」
    「うぉっ!? ビックリさせんなよ変な声が出ちゃうだろ」
    「ビックリさせた覚えはないゾ」

    髭ペイントをしている、恐らく女性プレイヤー、前に自分のことをオネーサンって言っていたから多分女性プレイヤー。
    こいつはアルゴ、情報屋だ。

    「ちょうどいいや、アルゴ。短剣クエストでオススメなのあるか?」
    「今からやるのカ?」
    「明日のボス戦に備えて少しでも戦力をあげときたいんだ」

    そう言うと少しアルゴは考える素振りを見せた。
    すぐに顔を上げ、俺に言う。

    「それなら、とっておきのがあるヨ。エー坊にピッタリのガ」
    「本当か? 頼む、教えてくれ」
    「エー坊ならクエストフラグも立ってるはずだヨ。オレっちより敏捷高いよナ」
    「ああ、多分高い」

    敏捷値がクエストフラグ、更に俺のスピードが加速されるのか。頭痛が痛くなるぜ。
  12. 12 : : 2016/11/09(水) 21:41:03
    危ない、投稿忘れるところだった


    アルゴに教えて貰ったクエストは比較的簡単だった。
    いや、俺の敏捷が高いから簡単だったのか?
    相手はめちゃくちゃ速いトカゲ型のソルジャーモンスターだ。
    シュンシュン音を出しながら俺の周りを回っていた。シュロロロとか言っててぶっちゃけ煽られてるのかと思ってたぞ。
    そんなソルジャーモンスターの二倍近くのスピードで後ろに回ってひたすら首を狩ってたがな。

    「クエスト報酬は敏捷値+10、それとこの装備か」

    序盤にしては美味すぎるクエストだったな。いや、普通はクエストフラグ立つために必要な敏捷値にこの時点では達せてないのか。

    手に入れた緑にも紫にも見えるコートの詳細を確認する。
    《コートオブファスト》
    色は紫のようだ、緑にも見えるのはさっきまでリザードを狩ってたからか。
    装備すると敏捷が+10%筋力値+2%される。
    特殊スキルとして《瞬間瞬足》というのが使えるようになるらしい。
    《瞬間瞬足》ってなんだよ……効果を読むと、5秒間現在の敏捷値が+50%される。その後10秒の間敏捷値が-50%される。
    ほう……俺の敏捷が+50%もしたら即座に逃げられるじゃないか、素晴らしい。
    5秒あれば俺は隠蔽スキルと組み合わせて視界から消えられるぞ。

    なかなかの収穫だった。ホクホク顔で俺は宿に帰り、明日の備え眠りにつくのだった。

  13. 13 : : 2016/11/09(水) 21:41:29
    書き終えたらこのクエストなどは蛇足的なところで書くかもしれないです
  14. 14 : : 2016/11/09(水) 21:44:13
    「皆、準備はいいな」

    ディアベルがゆっくりとボス部屋のドアを開ける。
    ボスの名前はイルファング・ザ・コボルト・ロード。なげぇ、略して雑魚ボルトでいいよ。大して略せてない。

    雑魚ボルトにしてはなかなかの風格を放っている。ボスとなると威圧感が違う。

    「まあ俺らはボスとは戦わんけどな」

    ルイン・コボルト・センチネルが俺らの受け持ちだ。
    そこらの雑魚モンスターよりは強い雑魚モンスターだ。なにそれややこしい。

    「全軍! 突撃ぃぃっ!!」

    ディアベルの声を合図にみんな雄叫びをあげながらボスへと切りかかる。

    「キリト、行くぞ」
    「エイトマンがやる気を見せる日が来るとは……」
    「うるせえ」

    こちとらさっさと現実に帰って小町と戸塚に抱きつきたいんだよ。
    一瞬だ。
    俺は隠蔽スキルを使いターゲットから外れる。
    そして、鍛え上げた敏捷値にものを言わせコボルト達の脇を通る。
    すれ違いざまに全員ダガーでダメージを与える。

    「クリティカルは出したんだがな、やっぱHP高ぇ」
    「やっぱり……エイトマンは速い、なっ!」

    ヘイトを集めた俺へ襲いかかるコボルトをキリトが容赦なく真っ二つにしていく。

    「攻撃が足りなきゃ意味ねぇよ」
    「武器、変えたらどうだ?」

    ズイ、と大剣を見せつけてくる。
    俺は横に首を振る。

    「ないな。身軽なダガーこそ最強だ。コソコソ逃げ回って削るのまじ神、おっと」
    「陰湿だなぁ……っと」

    ポップしたコボルトをキリトと俺で滅多刺しにする。

    「ボス戦だからな、もう無駄話はやめるぞ」
    「……おうよ」

    キリトに咎められた。
    初ボス戦、死んだら終わりのデスゲーム。
    緊張感で頭がおかしくなりそうなのをキリトとのお喋りで誤魔化す。
    アスナはというとキリトの後ろに引っ付いている。俺が知らないところで何かあったんですかね……。

    再びポップしたコボルトに向かって俺はダガーを構えた。
  15. 15 : : 2016/11/10(木) 20:07:18
    スキルの効果にオリジナル要素がつきますが多少は多めに見てください。



    「さっさと……くたばれ!」

    コボルトの首を切る。クリティカルは出たが致命傷は与えられてない。
    やはり攻撃力が足りない。
    そんな俺をカバーするが如く、コボルトを真っ二つにするキリト。

    しかし運が悪くキリトが攻撃をやめたと同時にほかのコボルトがポップする。

    「はぁっ!」

    が、そんなコボルトを滅多突きにするアスナ。

    「もう少し周り見てよね」
    「エイトマン、ポーション飲め」
    「……! サンキュ」

    キリトとアスナが俺を守っている間に俺はポーションを飲む。
    俺はほかのヤツらより身軽にしているので、一撃一撃がかなりのダメージになる。
    総体的にはキリトやアスナと同じくらいしか攻撃を受けてないがHPの減りは俺が一番だ。嬉しくねぇ一番だなおい。

    「回復したぞキリト、アスナ」
    「いい具合に全員HP減らしといたぞ」
    「了解」

    スイッチの掛け声で俺はキリト、アスナと前後交代をする。
    ダガーを構え、ソードスキルを発動する。
    《ラビット・バイト》ダッシュして、すれ違いざまに標的を切りつけるソードスキルだ。
    これは溜めれば溜めるほど、一気に遠くの方まで切りつけられる。
    俺は三秒ほど力を溜める。
    グググ……と足に力が入る。

    シュン、と風を切る音がしたかと思うとコボルト六体がポリゴンの欠片となって崩れた。

    「相変わらず速いな、それ熟練度200のスキルだろ?」
    「敏捷値が高ければ威力も高くなるからな、俺にピッタリだ。それに遠くまで行けるから切りつけた後に攻撃される心配もない。ローリスク・ミドルリターンだ」
    「本当にピッタリだな……っと、そろそろボスが武器チェンジしてくるぞ」
  16. 16 : : 2016/11/10(木) 20:08:57
    そんな情報があったな。βテスターに感謝だ。
    確かHPが減ると、曲刀に武器を切り替えてくるのだ。
    ボスは手に持っている剣と盾を放り捨てる。
    まああの人数なら平気だろう、俺は安堵の息を漏らしていた。
    しかし、事態は悪化した。ある男の発した言葉が原因だ。

    「皆! 下がれ!」

    ディアベルだ。
    なに、今なんて?

    「俺が仕留める!」
    「馬鹿野郎、何してんだあいつ……!」

    周りの連中は素直に下がっている。
    俺は急いでディアベルの方に駆け寄ろうとするが、またポップしたコボルトに道を阻まれる。

    「くそ! 邪魔だっ」


    ボスが手に持っていたのは太刀、情報と違うっ!
    俺の近くにいたコボルトが突如ポリゴンの欠片となり、前が見えた。

    「エイトマン! 俺じゃ間に合わない!」
    「わかった!」

    キリトが俺の取り巻きを倒した。キリトじゃ間に合わない、俺がやるしかない。
  17. 17 : : 2016/11/11(金) 16:47:34
    「おおおおっ!!」
    「やめろディアベルっ!」

    間に合うか……っ! 俺は直感的にこの前目にしたスキルを発動させた。
    《瞬間瞬足》
    これに合わせてラビット・バイト、距離は大丈夫だ。溜めなしでいきなり発動させた。

    太刀が今にもディアベルに切りかかる、その寸前に俺はラビット・バイトの勢いでディアベルを横に押し倒す。
    頭上を太刀が切り裂いた。あと一歩遅かったら死んでいたかもしれない。

    「ディアベル、馬鹿野郎! 何してんだ!」

    急いでポーションを取り出す。俺のソードスキルで少しばかりダメージを与えてしまった。

    「エイトマン……か」
    「俺の名前は覚えてるとはな、あとで言い訳は聞くからこれ飲め」

    無理やりポーションを飲ませる。

    「エイトマン……君に頼みたいことが、ある」
    「なんだよ、ボス戦後じゃダメか」
    「ラストアタックボーナス……それを手に入れて、取り合いにならないようにしてほしい」
    「ラストアタックボーナス……ああ、なるほどな。わかった」

    恐らくラストアタックボーナスとは、トドメをさした人に送られるアイテムのことだろう。
    それで取り合いになることを恐れたディアベルは自分から……辻褄が合う。
  18. 18 : : 2016/11/11(金) 16:47:57
    「ディアベルを回復させといてくれ」

    近くにいたやつに言う。
    俺はダガーをボスに向かって構える。

    要は、ラストアタックボーナスを取って喧嘩にするなってことだろう?
    だけど普通に俺が取っただけだとこのあとディアベルは責められる。βテスターってのもバレるかもしれない。
    なら、俺が、比企谷八幡がやるべきことはなんだ。

    「ゲームでもこれか」

    引きつった笑みを浮かべながら俺はボスに向かって走った。

  19. 19 : : 2016/11/11(金) 22:14:01
    《瞬間瞬足》のデバフ時間の10秒が過ぎた瞬間、俺は隠蔽スキルを使い駆け出す。

    「おらっ!」

    完全に死角から攻撃をする、ボスの足の関節を綺麗に切る。
    そうするとボスはダウンした、よし、時間は稼げた。

    「エイトマン!? いつの間に!」

    キリトの索敵にも引っかからないレベルになったみたいだ、ステルスヒッキーここにあり。
    そんな冗談口に出す暇はないがな。

    「いいか、よく聞け。ディアベルからの指示だ!」

    その一言でまず周りのヤツらがザワつく。
  20. 20 : : 2016/11/11(金) 22:15:02

    「ディアベルは負傷したから前線に出てこれない! ここからはあの剣士、キリトの指示で動け! とのことだ」
    「はぁ!? 俺!?」
    「とりあえず俺が時間稼ぐから作戦内容でも伝えといてくれ、頼んだ」

    キリトの肩に手を置く。
    キリトは頭をガシガシかくが、納得した表情で頷いた。

    「俺が死ぬ前までには頼むぞ」
    「そこは、倒してくる、だろ?」
    「死亡フラグは作らない主義だ」

    すぐさまボスに向かって走り出す。

    とりあえずターゲットを俺から逸らさないようにする。

    「っと! あぶねぇ」

    太刀の間合いはかなり大きい、間一髪で避ける。
    10秒、20秒、30秒と経過する。
    いくら俺の敏捷が高くても攻撃を全て避けられるわけじゃない。
    何発か掠ったりもする。
    耐久が薄いのでHPはガンガン減る。
    そろそろやばい、と思ってた時、ボスの太刀が弾かれた。

    「悪い、遅くなった」
    「それで、作戦は?」
    「全員で攻撃。残りのこのHPなら平気だ」

    気づいたらボスの最後のHPバーが4割を切っていた。
    俺の攻撃力はそこまで高くないが、チリツモというやつだな。
    チリツモってのは塵も積もれば山となるの略称だ、テストに出るぞ。

    「おおおおお!! キリトに続けえええ!」
    「おらぁっ!」

    後ろにいたヤツらがボスに攻撃を始める。
    これなら、勝てる。
    しかしディアベルからの依頼を達成するにはーーーーーー

    「キリト、現時点での最高火力出すわ」
    「……あと少しで倒せるのにやる意味は?」
    「ディアベルからの依頼だ」
    「…………わかった」

    キリトは深く聞かずにボスへと向かう。
    その間に俺はソードスキルの準備だ。
    消費MPが今の俺の最大MPとほぼ同じなのでMPポーションを飲む。

    よし、行くぞ。

    「キリト!」
    「よし、皆、退け!」
  21. 21 : : 2016/11/11(金) 22:21:53
    俺の前にいた奴らが左右に分かれる。
    綺麗にボスへの道ができた。

    ボスと目が合う。なんだよその目、俺を殺したいのか? ポリゴンの塊が。
    やれるもんならやってみな。


    「《ミラージュ・ファング》!」


    一気にボスとの間合いを詰める。
    太刀の攻撃が入らないところまで一足で進み、膝のところを5連撃。
    崩れたところで、最後の1撃を胸に突き刺し、風穴を開ける。

    ボスは断末魔をあげたあと、ポリゴンの欠片となって消えた。


    「終わった……のか?」


    誰かが呟いたと同時に、Congratulationsの文字が浮かび上がりクエスト報酬が入る。
    俺はその中にラストアタックボーナス《コート・オブ・ミッドナイト》を確認した。

    皆が喜びあってる中、一際大きな声が聞こえた。


    「なんでや! なんでディアベルはんは1人で突っ込んだんや!」


    やはりな。そう言われると思ってた。
    奉仕活動が染み付いているとは考えたくないが、帰ったあと奉仕部の活動を停止したとは言いたくないしな。案外気に入ってたみたいだ、あの部活。

    解決の仕方は、リアルでもゲームでも変わらない。
  22. 22 : : 2016/11/12(土) 16:37:54
    「なんでや! 答えろや!」
    「それは……」

    ディアベルが苦い顔になる。
    ディアベルはラストアタックボーナスを自分で取って、争いを事前に止めようとしただけだ。
    ラストアタックボーナスなんてものがあったら皆、我先にとボスへと向かうだろう。
    そのせいで犠牲者が出たらたまったもんじゃない。


    ーーーーーーだが、失敗した。

    「もしかしてやけどな、最後に一撃入れたやつにはなんか報酬があったりするんじゃないんやろか!? そうなんやろ!」

    キバオウの言葉に周りの奴らもざわざわしだす。
    ところどころ、非難する声も聞こえる。

    「答えろや!!」

    ここだ。
    俺はキバオウが叫んだあと、一瞬静かになったタイミングで笑い声静かに喉から漏らす。
    初めは忍んだ笑い声。だが静かになった場所ではそんな声も反響して耳に届く。

    「ククク……アッハッハッ……」

    どこぞのボスキャラのような笑い方をしているとみんなの不思議に思うような視線が集まる。
    その中にはキリトやアスナ、ディアベルも含まれていた。
    キバオウは肩をわなわな震わせ叫ぶ。
  23. 23 : : 2016/11/12(土) 16:39:59
    「何がおかしいんや!」
    「いや? 何にもわかってないんだな……ってな」

    はぁ? といった顔を向けるキバオウ。俺は説明を続ける。

    「俺がディアベルに頼んだんだよ、最後の一撃はお前が決めろってな」
    「な、なんでそんな事を……」

    キバオウの近くにいるやつが聞いてきた。
    用意しておいた言葉を即座に返す。

    「そんなの、これを取るに決まってるからだろ」

    俺はウィンドウを操作し、手に入れた装備《コート・オブ・ミッドナイト》を装備する。
    周りの奴らは目を見開く、がそれを無視し俺は話を続ける。

    「ラストアタックボーナスだ。ディアベルに取らせた後、これをコルと交換しようと思ってたんだが……まあ、失敗した。だから、直接俺が取ったんだよ」
    「そ、そんな……ディアベルはん! そうなんか?」
    「い、いやーーーーーー」

    ディアベルに答えさせる暇は与えない。
    間髪入れずに俺が答える。

    「そいつは全然使えなかったよ、それにこの装備も全然ダメだ。そもそもおかしいと思わなかったか? なんで武器を変えたボスに向かって俺が1人で時間を稼げたか」
    「まさか……」
    「そうだ、俺はβテスターだ、βテスター時にもっと上の階で同じ武器を使っているモンスターと戦ったんだよ」
    「ふ、ふざけんなや! おかしいやろ!」
    「うるさい、言っておくがお前らがどれだけ俺嫌おうと関係ない。俺はボス攻略にも参加するし迷宮にも潜る。だがな、PKしようとしてきたやつには容赦はしないぞ」

    《コート・オブ・ミッドナイト》を仕舞う。
    キバオウ達に背を向け、第二層への扉に向かう。

    「現時点じゃお前らは俺には勝てない。ここでの戦いでわかっただろ」
    「この装備はいらん、βテストの時と違う、俺には必要ない。指揮を務めたキリトに譲る」
    「おっ、おい……エイトマン!」

    これでいい、キリト、ディアベルはこれから先必要な人材だ。
    ゲームでもぼっち確定か。
    まあいい、PKにさえ気をつければ今まで大して変わらん。

    「エイトマン。そのやり方、俺は嫌いだ」
    「ああ、そうかよ。じゃあな」

    ーーーーーーやはり俺の解決の仕方は間違っているのだろうか。
    しかし、俺の生き方は変わらないのだろう。
    ここでも、リアルでも。
  24. 24 : : 2016/11/12(土) 16:40:32
    次回からアニメにない層とかの話とかオリジナルで書きます。
    オリジナル要素含みますのでご注意ください(オリジナルキャラは出す予定なしです)
  25. 25 : : 2016/11/12(土) 20:00:10
    SAO見てないと難しいっすね
  26. 26 : : 2016/11/12(土) 20:19:38
    >>25
    見てないと難しいですね。
    原作は軽くしか読んでないのでアニメを中心にして進めています
  27. 27 : : 2016/11/13(日) 12:05:07
    何だこのss、ただの神じゃないですか

    久しぶりにこんな面白いの見ました!!期待です!
  28. 28 : : 2016/11/13(日) 12:51:11
    >>27
    ありがとうございます。

    ちょっと更新
  29. 29 : : 2016/11/13(日) 12:51:17
    その日は何故か胸騒ぎがした。
    ここ一週間、彼は部室に来ていない。
    由比ヶ浜さんの話によれば学校にすら来ていないみたいだ。
    彼が学校に来なくなったと同時に世間ではSAO事件が起きた。
    関係ないはずだ、だけど、考えずにはいられない。
    そして、胸騒ぎは確信へと変わった。

    「ゆきのん、ヒッキーが……ヒッキーが!」

    部室へと入ってきた由比ヶ浜さんの声は切羽詰まった声だった。

    ーーー

    私は由比ヶ浜さんと葉山君に病院へと連れていかれた。

    病室では比企谷君が静かに寝ていた。頭にナーヴギアを被ったまま。
    腐った目を除けば比較的綺麗な顔立ちをしている。本当にそうだと思う。
    その横で小町さんが椅子に座って項垂れている。

    「小町がいけなかったんです……あの日、ナーヴギアなんてものをお兄ちゃんにプレゼントひたから……小町が……」
    「違うよ、小町ちゃんのせいじゃないよ!」

    目の前の光景がとても真実とは思えなかった。なんだか頭の中がふわふわしているような感覚だ。

    「比企谷、くん……」
    「大丈夫、比企谷は必ず帰ってくる。あいつはそんなやつだ」

    葉山君はこの事件以来、比企谷君のことをヒキタニと呼ばなくなった。
    私も信じている、彼は必ず帰ってくるということを。
  30. 30 : : 2016/11/13(日) 18:40:43

    ーーー


    「そういや……もう半年か」

    25層の宿屋(もちろん誰も寄り付かなさそうなところ)で俺はベッドの上でゴロゴロしながら呟いた。
    現在俺の使っている武器は刀だ。
    DPSが高いのでダガーよりいい、ある程度のリーチも取れてピッタリだ。

    最近はギルドもよく作られていて、今のところ有名なのは"アインクラッド解放軍"と"聖龍連合"、あとはクライン率いる"風林火山"などだ。
    アインクラッド解放軍はディアベルがリーダーとして動いている。あいつのカリスマのおかげで攻略の際も助かる。
    あとはソロや中小ギルド、それか攻略組に所属している感じだ。
    俺はもちろんソロだ。べ、別に寂しくねぇよ!

    キリトは今では"黒の剣士"と呼ばれている、アスナは"攻略の鬼"だとか。
    あいつらは大分出世したな……。
    ボス攻略の度にキリトとアスナにはフレンド申請を送られているがやんわりと断っている。
    一度こちらから切ったのにまた入れるというのもどうかと思うからな。

    時計を見ると午前9時。いい時間だ。

    「……行くか」

    刀を装備して俺は宿を出る。
    攻略のために俺は迷宮へと足を運んだ。
  31. 31 : : 2016/11/13(日) 21:51:00
    「……っは!」

    短く息を吐き、足を踏み込む。
    ギリギリ相手の攻撃が届かないところから刀を振り抜く。
    ソルジャー型のモンスターはそのままHPが0になりポリゴンの欠片となって崩れ落ちた。

    いい具合にマッピングも進んだ、今日はここまででいいだろう。
    そろそろ帰るか。刀を納刀する。
    転移結晶というものもあるが高価なので滅多に使わない。
    一応1つだけ持っている、緊急時に使うためだ。

    「よっ、エイトマン」
    「じゃあな」

    後ろを振り向いたら黒いあいつがいた。
    そう、キリトだ。

    「おい待て待て。マッピング中か?」
    「今終わったところだ、じゃあな」
    「まだ11時だぞ……」
    「飯食うんだよ、じゃあな」
    「よし、じゃあ一緒に食いに行くか」

    くっそ、空気読まねぇなこいつ。俺の帰りたいオーラを感じ取りながらも無理やり話してきやがる。
    リア充なら空気読んで去れよ。……いやリア充ならサービス開始直後にinしないか。

    「……わかった」

    引く気が無いと見た俺はとりあえず了承した。
    別にこのあと何かするっていう予定もなかったしな。
    キリトは小さくガッツポーズをしていた。何、そんなに俺のこと好きなの? ホモホモしい路線はちょっと海老名さん思い出すのでやめてください……。
  32. 32 : : 2016/11/13(日) 22:15:07
    あ、あれ? まさかのディアベル生存ルート!
    しかも面白い、神SS来た!
    期待してます!
  33. 33 : : 2016/11/14(月) 17:59:53
    >>32
    ありがとうございます。ディアベル生存により軍が〜ゲフンゲフン

    キリトがオススメやらここがいいやら言って俺はよくわからない店に連れていかれた。
    飯はいつもパンか自分の料理スキルでラーメンを作って食べてたからこういうところは初めてだ。
    周りでご飯を食ってる他のプレイヤーがコソコソ何かを話している。全ては聞こえないものの"黒"やら"剣士"、"影"とか聞こえる。多分黒の剣士だな。
    んでその近くにいる俺はよくわからない影が薄い野郎……なんだこの自己分析。

    「エイトマン、目が死んでるぞ」
    「常時そんな感じだから気にするな」

    キリトが勝手に頼んだセットをもぐもぐと食べる。うん美味しい。

    「そういや、これ何コルだ?」
    「いいよ、俺の奢りだ」
    「まじ? なんか裏ないだろうな」
    「ないから安心して食え」

    よくわからない肉が入ったシチュー、それに柔らかいパン、あとはミルクのセット。和風じゃないのが残念だが洋食もなかなかだ。
    欲を言えば小町の手料理が……うぅ、小町……。

    「美味しいだろ?」
    「ああ。働かないで食う飯は美味い」
    「何言ってんだ、この後迷宮攻略に行くんだから働くだろ」
    「…………は?」

    思わず食べる手が止まる、え、なに、そんなの聞いてないよ! 八幡聞いてない!

    「奢りって……」
    「奢りだぞ、でも迷宮には行くぞ」
    「裏もないって……」
    「表しか見せてないからな」

    こ、こいつ……! 俺を嵌めやがった!
    仕方ない、今回は俺が引こう。美味しい店という情報を買ったと思えばいいんだ。
    急いで飯をかき込み、立ち上がる。

    「さっさと行くぞ」
    「そんな怒るなよ、お前と一緒に攻略するの結構楽しいんだからな」
    「俺は終わった思ったらまた降り掛かってくるタイプのが一番嫌いだ、つまり働きたくない」
    「…………将来こうはなりたくないな……」
    「人を騙すようなやつはもう遅いぞ」

    満腹になって眠いのを我慢しながら俺はキリトと共に再度25層の迷宮へと向かった。
  34. 34 : : 2016/11/14(月) 18:26:10
    「スイッチ!」

    前にいるキリトと後ろにいる俺の位置が入れ替わる。
    キリトによってHPを半 6.7割ほど削られた3体のモンスターに向かって俺は刀を振る。
    スタンしているモンスターは簡単に切り裂かれた。
    範囲攻撃なので3体纏めて、だ。

    「エイトマン、攻撃力もなかなか高くなってきたな」
    「武器が違うんだよ、それに刀と短剣を比べるな」

    キリトがその気になればあの程度のモンスター1.2発で沈められるだろう。このパワー厨が。

    「なんで刀使い始めたんだ?」
    「あ? 敏捷依存のスキルあるしリーチ長いしDPS高いからだ」
    「エイトマンらしい理由だったな」
    「なんだよ俺らしいって」

    キリトと2人合わせてばったばった敵を薙ぎ倒していく。うん、ソロよりやりやすいな。
    無言で進んでいくとキリトが耐えられなくなったのか話しかけてきた。よし、無言耐久レースは俺の勝ちだな。
  35. 35 : : 2016/11/15(火) 17:10:05
    「そういえば、今の攻略組でのトップはエイトマン、アスナ、ディアベル、ヒースクリフ、俺らしいぞ」
    「あん? トップが5人いたらそれはトップじゃねぇだろ」
    「そういう捻くれたのはいいから……ほら、これ」

    キリトがウィンドウを開きこちらに見せてくる。見てみれば、アルゴが毎週発行している週刊誌の質問コーナーだった。
    今回の質問コーナーは攻略組への質問みたいだ、ちなみに前回はリズベット武具店への質問だ。

    「攻略組で一番かっこいい人は……ほうほう、んで?」

    なんだこれ? と目でキリトに問いかける。

    「ここの欄、攻略組で一番PvPしたくない相手は? ってところ、エイトマン1位だろ」
    「一層でのことがあるからな」
    「いやいや、敏捷極振り+隠蔽スキルでのヒットアンドアウェイ戦法とか誰も戦いたくないぞ、いつの間にか後ろに回られそうだーーーーーーってそうじゃなくて、ほらここも」

    キリトが指さしたのは、攻略組で一番強いと思う人は? という質問のところだ。

    「エイトマン、5位だぞ」
    「微妙すぎてなんとも……てかお前2位……」
    「ラストアタックよく取ってるからな、多少は仕方ない。でもエイトマンの強さも認められてるぞ?」
    「一層でのことがあるから少しだけ名前が広がってるんだろ。聞いたことあるから票入れてやろう、的な奴らが多かったんだよ」

    ちなみに1位はヒースクリフ、あのタンクおっさん……防御力硬すぎて誰もHPゲージが黄色になってるのを見たことないとか。
    3位はディアベル、片手剣と盾を使って堅実に戦うスタイルだ。
    4位はアスナ、まあ言わずともわかるだろうがレイピアでの高速剣技だな。
    んで5位が俺……キリト曰く敏捷極振り+隠蔽スキルでのヒットアンドアウェイ戦法らしい。俺は逃げ回って一発一発ダメージ与えてるだけなんだけどなぁ……。

    「それに皆二つ名とか付けられてるんだぞ」
    「ああ、黒の剣士とか閃光のアスナとかだろ」
    「エイトマンのはなーーーーーー」
    「やめろやめろ、中二病時代を思い出しそうだ」
    「なんでだよ、カッコイイじゃないか」

    そうか、こいつの歳はだいたい中一〜中三くらいか。こういうのにはどストライクの時期か。

    「……将来恥じ掻かないようにだけ気をつけろよ。年上からの忠告だ」
    「お、おう……」
    「マッピング、続けるぞ」
    「なんだよ、結局やる気あるじゃないか」
    「今すぐ帰りてぇよ」

    そんな雑談を交えながら俺らは迷宮を進んでいった。

  36. 36 : : 2016/11/15(火) 18:04:33
    会話の間も開けた方が見やすいですかね?

    とりあえずそのまま投下

    かれこれ数時間、俺たちはボス部屋の前に立っていた。

    「まさかボス部屋見つけるまで帰らせてくれなかったとは……」
    「いいレベリングにもなっただろ、あと目がいつもより腐ってるぞ」
    「疲れてんだよ、もういいだろ? アルゴには俺から伝えるから帰っていいか?」
    「そうだな、いい時間だし……あ、忘れてた」
    「なんだよ」

    早く帰りたくて足がうずうず……いや寧ろ疲れてガクガク。
    と、思ってたらメッセージが届いた。誰だ……。
    見るとキリトからのフレンド申請だった。
    キリトを見るとニッコリ笑っている。

    「後ろはボス部屋、前は俺が塞いでいる。フレンド申請受理しなきゃ通さないぞ」
    「何お前、どんだけ俺とフレンドになりたいの」
    「友達だからな」

    はぁ、と溜息をつく。友達か、ずいぶんリア充になったな俺も。
    でも俺にもプライドはある、野菜の国の王子様ほどではないがちっぽけなプライドがある。
    そっちが強行手段に出るなら、こっちはシステム的に有効な手段に出るぞ。

    「いいんだな、俺とやり合うってことがどんなことかわかってるんだな」
    「エイトマン……フレンド受理するだけだぞ」
    「転移!」
    「あっ、おい! 転移結晶なんて高価なものをーーーーーー」

    街に戻り宿に直行した。
  37. 37 : : 2016/11/16(水) 18:43:41


    ーー次の日ーー

    「もうボス部屋を見つけたのカ」
    「黒の剣士様に無理やり連れてかれたんだよ、くそ、過労死するぞ」

    やっぱ俺に仕事は合わねぇな、専業主夫希望します。

    「攻略組トッププレイヤーの揃い踏みカ、見てみたかったナ」
    「トップ2人いたらそれはもうトップじゃねぇだろ、それに俺なんかよりアスナやヒースクリフ、ディアベルがいるだろ」
    「エー坊もなかなか有名だけどナ」
    「そりゃ一層でのことがあるからな」

    有名になりたいならまず騒ぎを起こせって偉い人が言ってました、偉い人すごい(小学生並みの感想)
    でも騒ぎすぎるとIPぶっこ抜かれるって言っていました、ネットの人怖い(材木座より)

    「エー坊は自分のことがわかってないのカ、現実でもそう言われたことがあるんじゃないカ」

    ……雪ノ下、由比ヶ浜……

    「…………リアルの話を持ち出すんじゃねぇよ」

    思っていたより低い声が出た、アルゴは一瞬目を見開いたがすぐにいつもの調子に戻った。

    「悪かったナ、だけどエー坊は本当に強いゾ。巷ではなんて呼ばれてるか知っているカ?」
    「キリトにも言われたが興味無い、過去の黒歴史を思い出しそうだ」
    「"紫色の影"(シショクノカゲ)だゾ」
    「うわあああ、なんで言うんだよ馬鹿野郎!」

    なんだよ紫色の影って! 中二病時代を思い出しそうだ! ていうか思い出した!

    「ボス戦が始まったと同時にダメージを入れるからナ。ファーストアタック総ナメじゃないのカ。攻略組の実力でも影しか追えないからエー坊の着ている服の色と合わせて、紫色の影ダ」
    「…………はぁ、まあいい。所詮この世界での評価だ。ボス情報は伝えたぞ。じゃあな」

    強引に話を打ち切り、帰る。
    帰ったあと、頭の中に紫色の影のことが横切りベッドの上で悶絶した。
  38. 38 : : 2016/11/16(水) 18:49:08
    書き溜め切れたので更新遅くなります
  39. 39 : : 2016/11/17(木) 17:15:42
    三日後、いつものように転移門前でボス会議が行われる。
    俺も勿論行く、がーーーーーー

    「やべぇ、寝坊した……」

    現在時刻は10時半、集合は10時だ。
    まずいまずいと思いながら支度をし全速力で街を駆ける。
    くそ、宿から転移門が遠い! 初めてこれを嫌に思ったぞ。

    ぜぇぜぇと息が荒くなる。
    息を整えながら集合場所へ行く。なるべく見つからないように静かに……遅刻したとか思われたくないし。
    隠蔽スキル使いながら近づくと女の作戦を伝える声が聞こえた。
    いやこれアスナだわ。

    「今回はキリト君、エイトマン君を軸にディアベル、ヒースクリフを筆頭に彼らをサポートしてください」
    「はぁ?」

    しまった、つい声が。

    「……あら、もしかしてエイトマン君? 隠蔽スキルなんか使わないで出てきなさい。会議に遅刻なんてずいぶんといいご身分ね」
    「これはちょっと昨日あれであれだったんですみませんでした」
    「よろしい」

    とりあえず謝るべきだと思った。だってアスナの目が怖かったんだもの……。

    「質問いいかな、なんで今回は2人を主体にするんだ?」

    ディアベルが手を挙げ質問する。まあ誰もが思うわな。

    「ボスは馬に乗った武士のようです。先行隊が確認してきました。馬に乗っているので今までよりも機動力が優れているはずです。なので現時点で最も早く攻撃ができるエイトマン君と最も攻撃力が高いキリト君を軸にするべきだと思ったからです」
    「なるほどね、わかった」

    おいおい、このままじゃ……。

    「じ、じゃあパーティー申請送るぞ……エイトマン?」
    「……わかった」

    仕方なく申請を受理する。
    その間にも説明は続いていた。

    「風林火山は2人のカバー、サポートを。軍と聖龍連合とその他の人は恐らく現れるであろう取り巻きを倒してください」

    有無を言わせぬ物言いに皆たじろぐ。流石攻略の鬼。
    こいつが本当に先立って統率するようになったら危ないな……ディアベルとかいるから平気か。

    「それでは、よろしく頼むぞエイトマン君」
    「…………ヒースクリフか、マジで頼むぞ。死にたくない」
    「ははは、思っていたよりも臆病な性格なようだ」
    「元からだ」

    不意にヒースクリフに話しかけられ一瞬戸惑った。
    完全に歳が離れてるからな……平塚先生くらいの年齢か?

    「では、解散」

    相手は馬に乗った武士か。
    気を引き締めて、今まで通りやるしかない。
  40. 40 : : 2016/11/18(金) 17:49:31

    ーーー

    「皆さん、準備はいいですね」

    ボス部屋前でアスナが問いかける。
    皆真剣な表情だ。

    「ヒースクリフ、頼むぞ」
    「任せたまえ」

    ヒースクリフの余裕の表情が俺の緊張を和らげる。

    「行きます」


    アスナが扉を開ける。
    ギギィ……と固い音を立てながら扉が開かれる。
    中には馬に乗った鎧を着たモンスターがいた。
    入ってきたこちらに気づくボス。
    キラリと目が赤く光り、馬が雄叫びを上げた。

    「全軍、位置に着いて!」
    「了解!」

    アスナの指示が飛ぶ。
    俺は最速でボスへと走り、切りつけーーーーーーようとしたが、馬に乗っているので届かない。
    仕方なく馬の足を切りつける。

    「らぁっ!」
    「オオオッ!」

    ボスが声を上げる。馬の足が1つ折れる。

    「キリトッ!」
    「ああっ!」

    キリトがボスを片手剣(但し両手剣ほどの重さ)で攻撃を与える。
    なかなかいいダメージが入っている。

    「ーーーーーーッ!」

    ボスの刀攻撃がキリトを狙う。
    間一髪キリトはそれを避けたが、依然ボスはキリトを狙っている。

    「どうだ、キリト」
    「攻撃が思ったよりも速い、ヒットアンドアウェイ戦法かいいってのは本当だな」
    「てことは……」
    「エイトマンの出番だ」
    「だよなぁ……」

    俺を軸にする作戦なんて嫌いだ。
    覇気がないやつを軸にしてもろくなことがない。
    でも、これがベストだというのならばそれに従うまでだ。

    刀を抜刀し、構える。

    後ろにはキリト、ディアベル、ヒースクリフと頼もしい面子が揃っている。
    今のところ湧いている雑魚も後ろのヤツらが十分倒してくれている。
    大丈夫だ、落ち着け、俺。

    「行くぞ、鎧野郎」

    スッと出た言葉。おかげで心臓の音が静かになった気がした。
    ボスに向かって俺はいつもの、紫色の影と呼ばれる所以となった戦い方を始めた。
  41. 41 : : 2016/11/19(土) 16:33:40
    キリトside

    「すごいな……」

    ダァン! と強い音が鳴ったかと思うとボスがスタンする。
    その間に復活した馬の四肢のHPをすぐさま削りきる。
    倒れたボスを滅多打ち、ボスがスタンから復活した瞬間他のスキルでまたもやスタンさせる。
    その間に1度下がり、MPポーションを飲み、息を整える。

    「これが、エイトマンの本当の戦い方……」

    いつも飄々としていて、やる気がなさそうな、あのエイトマンの本気。
    「行くぞ、鎧野郎」と答えたエイトマンの雰囲気は確実に違った。

    「おい、余所見すんな。俺1人であのHPを削り切れるわけないだろ」
    「あ、ああ」

    エイトマンがポーションを飲み、バフをかけている間に俺が追撃する。
    俺の一撃、二撃、三撃。

    「スイッチだ、キリト」
    「わかった、スイッチ!」

    前に出るエイトマン。すぐにボスをスタンさせ、またさっきの流れに持ち込む。
    スタンで攻撃を止め、流れを変え、バフで上げに上げた攻撃力で削る。
    敏捷が高すぎるせいで姿を追うのもやっとだ。
    これが、これがーーーーーー

    「紫色の影、か」

    本当に、似合う二つ名だな。
    と、HPを半分まで削ったあたりでボスの行動が変わった。
    明らかにモーションが大きくなる、これは……。

    「エイトマン! 大技が来るぞ!」
    「わかってるーーーーーーッ!」

    エイトマンがスキルを発動するタイミングで大技が来る。
    まずい、スキル硬直でエイトマンは動けない!

    「ふんっ!」

    ボスの攻撃が弾かれる。
    ヒースクリフだ。

    「ナイスだヒースクリフ」
    「君のことは任せろと言っただろう」

    エイトマンがスキルを発動する。
    刀スキルの奥義《散華》
    特大攻撃の×5回の直進突き。
    それにエイトマンはバフを数個かけている。

    「おおおおお!!」

    ガクン、とボスのHPが減る。
    残り3分の1ほどだ。

    「攻撃パターンが変わるぞ、下がれ!」

    ディアベルの指示が飛ぶ。
    エイトマンは素直に下がり、体制を整える。

    「流石だな、エイトマン」
    「うっせ、そんな余裕ねぇ」

    この戦い方はかなり神経を削るようだ。エイトマンの顔に余裕が確かにない。

    「攻撃パターンがわかったらまたハメるから、頼むぞキリト」
    「……ああ!」

    そんなエイトマンに頼られるってのは、嬉しいもんだ。
  42. 42 : : 2016/11/20(日) 17:48:07
    八幡side

    本当にギリギリだ。
    少しでもミスしたら一発食らって俺のHPは赤、それか0になる。
    それでも俺は切り続ける、挑み続ける。
    生きるために。

    「流石だな、エイトマン」
    「うっせ、そんな余裕ねぇ」

    つい強く言いすぎてしまう、慌ててキリトの方を見るがキリトはなんとも思っていないみたいだ。
    よかった、と思いつつもーーーーーーよかった?
    何がよかったんだ? キリトに嫌われずに? わからない。
    ここはゲームだ、だけど現実だ。
    キリトとの関係は、なんだ。

    ーーーーーーそんなのを考えている余裕はない。

    「攻撃パターンがわかったらまたハメるから、頼むぞキリト」
    「……ああ!」

    ボスが雄叫びをあげる。
    馬から降りるボス。馬はポリゴンの欠片となって消える。

    「形態チェンジか、あと2回チェンジされたりしないよな」
    「フリーザかよ。冗談言う余裕はあるんだな、エイトマン」
    「余裕持ったふりでもしないと持たねぇよ。足なんかガクブルだわ」

    ボスが手に持っていた刀を捨て、もう一つ、腰にあった方の刀を抜刀する。
    その瞬間、俺とキリトの後ろにいたディアベルとヒースクリフ、それと他のクランメンバー達の間に炎が燃え上がる。
    そのまま切り離される。

    「エイトマン! キリト!」

    ディアベルの声が聞こえる。炎で遮られ姿は見えない。

    「エイトマン、これって……」
    「要は2人でこいつを倒すしかないってことだな」

    周りを炎で囲まれながらも、思考は冷えている。
    やることは一つだ。

    「行くぞ、キリト」
    「ああ!」

    ボスとの最終決戦が始まる。
  43. 43 : : 2016/11/21(月) 19:42:10
    「はぁっ!」

    ボスの攻撃を避けながらキリトがソードスキルを発動する。
    片手剣スキル《ホリゾンタル・スクエア》

    「らぁっ!」

    キリトにヘイトが移っている間に俺は《ウェポン・バッシュ》でスタンさせる。
    そのまま次のソードスキルを発動。

    「オオオ……ッ!」

    ボスがよろめく、HPバー最後の1本の残り3分の1ほどだ。

    「エイトマン!」
    「ッ! しまーーーーーー」

    スタンしていると思っていたら失敗していた。
    ボスが放った刀スキルによって俺は吹っ飛ばされる。
    HPバーが一気にレッドゾーンにまで減る。
    死ーーーーーーんでたまるか!

    「ぐっ……《ヒーリングサークル》ーーーーーー!」

    追撃してくるボス、いつの間にかヘイトが俺に移っていた。
    回復が間に合わない、くそっ!

    「おおおっ! 《レイジスパイク》!」

    キリトが突進技で無理やりヘイトを自分に移した。
    ボスの一撃がキリトを襲う。

    「エイトマンは早く回復を! ーーーーーーッ!」

    キリトは1人でボスと切り合う。
    その間に素早く回復を済ませる。

    「エイトマン! スイッチ」
    「ああ!」

    間に合った、キリトの一撃でスタンしているボスに向かってソードスキルを放つ。
    刀スキル《緋扇》の三連撃。
    再びスタンするボス。

    「キリト!一気に行くぞ!」
    「はぁっ!」

    まだスタンしているボスに俺はソードスキルを発動する。

    「《ヴォーパル・ストライク》!」

    キリトが片手剣重攻撃技スキルでボスに攻撃する。
    だが、削りきれていない。大技は発動後の硬直時間が長い。
    動けないでいるキリトの後ろ姿は、俺を信じているように見えた。
    俺がそう見えただけ、だけどーーーーーー。

    「信じられてるなら、応えないとな」

    刀スキル《窮奇》
    怒涛の6連撃でボスに反撃を与えない。
    どんどん減るボスのHP。

    「っらぁっ!」

    《窮奇》の最後の一撃、最も威力が高い攻撃を与えーーーーーーボスのHPが0となった。

    ボスはポリゴンとなって消滅する。
    同時に炎も消え、ボスの取り巻きも消滅する。
    Congratulationsの文字が浮かび上がった。
  44. 44 : : 2016/11/22(火) 22:12:07
    ーーーー




    「ハッピーバースデートゥーミー」

    そんな歌を口ずさむ俺ガイル。
    今日は8月8日、SAO開始から約10ヵ月。
    そして、俺の誕生日。

    「ケーキでも作るか」

    俺は甘いものが結構好きだ、いやかなり好きだ。練乳とか大好き。
    MAXコーヒーとラーメンを作るためにせっせと料理スキルを上げた。
    おかげさまで大体のものは作れる。専業主夫になるならこのスキルは必須だな。
    卵やらスポンジやら用意していたらメッセージが来ていた。

    「キリトか」

    ボスを倒したあと、結局フレンド削除はしなかった。
    信頼し合える仲間という認識になったからか?
    削除ボタンを押せなかった。
    よくわからない感情が渦巻いていたが、キリトと友達になったってことだろう。
    とりあえずメッセージ内容を確認する。

    『お前の宿の前にいる』

    なんでですかね……
    作りかけのケーキを放っておいて、とりあえずドアを開ける。
    ドアの前にはキリト……と知らない面子が揃っていた。

    「なんで俺の泊まってる宿がわかったんだよ」
    「フレンド欄からサーチ出来るだろ?」

    まじかよ、今までフレンド欄ほとんど開かなかったから知らなかったわ。
    てか、隣にいる奴ら誰? と目で促す。
    キリトは思い出したように説明を始めた。

    「俺、月夜の黒猫団ってクランに所属したんだ。それでこいつらがそのメンバー」
    「お前がクランにな……ぼっち脱却か」
    「エイトマンも入るか?」
    「絶対嫌だ」

    見た感じ中高生のイケイケ系のグループのようだ、同級生か?

    「えーと、紹介すると……月夜の黒猫団のリーダーがケイタってやつだ。で、そっちのメイスを持ってるのがテツオで、ソードを持ってるのがササマル、槍を持ってるのがダッカー。ケイタの後ろに隠れてるのが……サチだ」
    「よろしくな、えーと」
    「エイトマンだ」

    ケイタ、というやつが気楽に話しかけてくる。ほほん、こいつ俺のぼっちオーラを無視するタイプか?

    「それで、ギルドメンバー紹介に来たわけじゃないんだろ? 何しに来たんだ、俺は忙しい」
    「いやさ、攻略組に参加したいらしくて。それでレベリングとかをな……」
    「キリトが適任じゃねぇか」
    「俺1人だと少し厳しくてな、監督してくれるメンバーがもう一人多くなると嬉しいと思ってな」

    チラチラ俺を見てくるキリト。なるほど、そういうことか。
    俺の返答は決まっている。

    「断る、じゃあな」
    「待ってくれエイトマン! …………いい武具店紹介するぞ」

    武具店……俺の武器は基本的にドロップ品だ。耐久力が切れる度に他のに切り替えている。
    だが、キリトの武器はほとんど耐久が切れていない、いい武具店に入り浸っているのだろう。
    気になるな……。

    「…………」

    俺が黙っていると、キリトは仕方ないと言った表情で口を開いた。

    「美少女いるぞ」
    「よし、乗った」

    あっさり俺は承諾したのだった。
    後ろのメンバーは苦笑いしていた。
    いやだって……俺も男の子だし……。
  45. 45 : : 2016/11/23(水) 11:01:06
    黒猫団生存ルートもキタ――(゚∀゚)――!!
  46. 46 : : 2016/11/23(水) 14:16:33
    >>45
    ビーターのキリトじゃないので隠し事もないので大丈夫ですね


    ここは27層の迷宮区。
    トラップが比較的多い迷宮だ。
    ちなみに攻略は今のところ29層まで進んでいる。今は30層の迷宮に挑んでるところだろう。
    一応攻略組の俺は月夜の黒猫団に連れられてここでレベリングの手伝いをしていた。

    「はぁ……面倒くさい……働きたくねぇ」
    「そんなこと言うなって、ほらまたポップしたぞ」

    クランのメンバーがえいえいとモンスターを倒している。
    俺はその隣でぼーっとしているだけだ。
    キリトからは、危なくなったら助けろとしか言われていない。

    「お前の速さなら間に合うだろ」

    そう言われたら何も言い返せないだろ……信頼するなよ恥ずかしい。

    「そういえば、キリト、βテスターってことは伝えてるのか?」
    「ああ、そっちの方がいいだろ? 攻略組になりたいみたいだしさ」
    「そうか」

    もしキリトがβテスターってことを隠したりしてこのクランに所属してたら…………そう考えると、1層での俺のヘイト稼ぎは結果的に良かったってことか。

    「じゃあ、俺はサチに片手剣の戦い方とか教えてくるよ」
    「ああ、わかった」

    月夜の黒猫団はアタッカーが少ないみたいで、サチを片手剣使いのアタッカーにしたいみたいだ。
    攻略組の片手剣使いのキリトはうってつけの専属教師になるってことか。刀使いの俺は誰の教師になればいいんですか。クライン? 嫌だよおっさん。

    「お、宝箱!」
    「っと、目を離した隙に……」

    隠し部屋の宝箱を発見したケイタ達、まあここはトラップだらけのエリアだ。先にそう伝えてあるしどう動くか……。

    「じゃあ開けるぞー」
    「馬鹿野郎」

    慌てて止めに入る。開ける寸前だった。

    「ここはトラップだらけのエリアだって言ったろ。ここの辺りは宝箱開けるな、いいな」

    黒猫団のメンバーはポカーンとしていたが、事の重大さをわかったのか真面目に返事をしてくれた。おお、俺上司みたい。

    ピコン、とメッセージが届いた。
    俺のフレンドはキリトとアルゴしか……キリトはここにいるし……じゃあアルゴか。
    なんだ? と思いながらメッセージを開く。
    そこに書かれていたのはーーーーーー

    『ディアベル反対派の軍がボスに挑んだみたいだゾ』

    「……はぁ?」

    直後、キリトが血相を変えながら俺の方に来る。

    「エイトマン、ディアベル、ヒースクリフから収集が、かかった」

    息を荒らげながら話すキリト。
    収集、多分、いや絶対軍についてだろう。

    「なんで俺が……」
    「行くぞエイトマン」

    キリトが黒猫団の皆に説明をしている間、俺はボーッと何も無い壁を見つめていた。
    頭の中が、真っ白になった。
  47. 47 : : 2016/11/24(木) 15:58:41
    俺達はディアベルとヒースクリフに指定された酒屋に行った。
    酒屋のドアを開け、ディアベルの顔を見ると同時にキリトがディアベルに詰め寄る。
    胸ぐらを掴み怒気を孕ませた声でキリトが問う。

    「どういうことだディアベル。軍はお前の指揮下にあるんじゃないのか」
    「…………どうにも、僕の意見と噛み合わない者がいたんだよ。そいつらが軍の中でグループを作り今回のことをーーーーーー」
    「そういうことを聞いてるんじゃない、なんでわかっていて止められなかった!」

    ここには俺とキリトとディアベル、ヒースクリフしかいない。静かなのは当たり前だがキリトの声でいっそう静かになった。

    コトリ、とヒースクリフが(酒屋なのに)持っていたグラスをテーブルに置く。

    「これからの方針について話そうと思う。……アスナ君はまだ来ないようだね」
    「ヒースクリフ!」
    「おいキリト、やめろ」
    「っでも!」

    食い下がるキリト。過ぎた事をまだ言うのか。
    今大事なのは、軍の戦力がダダ下がりしたことだ。

    「ディアベル、どのくらい死んだんだ」
    「……軍の古参はほとんど僕についている。だから中参、新参辺りが……」
    「じゃあ古参はいるのか、戦力はまだ維持できるのか?」
    「メインアタッカーはもう出来ないと思うけど、サポートなどに関してなら問題は無いはずだ」
    「てことは、これからは聖竜とかを中心にアタッカーするしかないのか」
    「その必要は無いわ」

    酒屋のドアからアスナが顔を覗かせていた。

    「これからは、私、キリト、エイトマンがメインアタッカー、ディアベル、ヒースクリフはサブアタッカー及びタンク。25層での経験を糧にすれば充分戦えるはずよ」
    「おお、アスナ君。ようやく来たか」
    「ごめんなさい、ちょっと用事があったので遅れました」

    ペコリと頭を下げるアスナ。用事ってなんだよ……。

    「異論はない、軍にメインアタッカーを務める度量は今ないからね」
    「私もだ、現在の攻略組トップの3人にメインアタッカーを譲ろう」
    「ははは、冗談はやめてください」
    「おいエイトマン、乾いた笑い声あげるな」

    まじかよ……メインアタッカー? 25層のあれをやれって?
    なんかもう話進んでるし……。

    「それでは、最後にフレンド交換をしておこうか」

    ヒースクリフが解散間際にそんなことを口にした。

    「そうね、交換しておいた方が何かと便利よね……って言っても私ほとんど交換してるんだけど」
    「僕もだな」
    「俺も」

    皆の視線が俺に集まる。

    「お、俺も交換してありましゅ……」
    「エイトマン君、交換しよっか」
    「ふぁい」

    あっさり嘘を見破られ、皆とフレンド交換する。
    …………メアド交換みたいなのに全然嬉しくねぇ。
  48. 48 : : 2016/11/25(金) 19:28:25
    「キリト、ちょっといいか?」
    「なんだよ、いつもならお前すぐ帰るだろ」

    解散後、俺はキリトに声をかけた。なんのためかって?
    25層でドロップしたこいつについて相談するためだ。

    「25層のラストアタックボーナス、いってなかったろ? これなんだよ」
    「刀……か? お前のより刀身長いな、the・日本剣って感じだ。これがどうした?」
    「これ、宗三左文字(そうざさもんじ)って言うんだが、多分織田信長の刀」
    「へぇ……だから炎に囲まれたのか」
    「本能寺の変の演出かもな。だとしたら切腹しないと……ってそれはどうでもいい。これ、装備するには敏捷値が足りねぇんだ」
    「お前の敏捷で足りないのか?」
    「ああ、俺のレベルだと1人だとモンスターのポップも遅いからな、だからーーーーーー」

    メインアタッカーとなったからにはそれ相応の攻撃力を持たなければならない。
    今まではいいやと思っていたが今回ばかりはそうはいかない。
    キリトとは友達、のはずだ。だから、頼んでも断られることはない……はずだ。

    「だからーーーーーー」
    「レベリングの手伝いか? いいよ、俺で役立てるなら」
    「ぁ……お、おう……」
    「なんだよ、エイトマンが強くなるのは攻略組として嬉しいし、エイトマンにお願いされるってのも珍しいしな」
    「……あー、……なんだ、ありがとな」
    「レベリング終わってからそれ言えよ」

    ケラケラ笑うキリトを見ていると、本当にこいつとは友達になれたんだなと、確信できた。
  49. 49 : : 2016/11/25(金) 19:35:26
    キリトと協力してレベリングを始めて2時間。
    やっと俺は宗三左文字を装備するために必要な敏捷値に達した。

    「ついに、ついに装備できたぞ……!」

    こんな敏捷値をこの階層で要求してくる装備なんて、絶対強いに決まっている。

    「敏捷795…カンストまであと205……」
    「俺の筋力値より高いな、この階層でそれはバケモノだろ」
    「おかげさまでスキルポイントも増えたから後で何かに振っておくことにするわ」
    「それより、どんな感じだエイトマン?」

    食い気味に迫ってくるキリト。俺も興奮気味だ。
    装備した宗三左文字も抜刀してみる。

    「おおっ、なんかズッシリしてるな」
    「前の刀とは刀身の長さも違うし、何より色がな。実際重い」
    「多少は筋力も上げた方がよかったんじゃないのか?」
    「かもな、今度は筋力上げることにする」

    ブンブンと振ってみる。重いからいつもより少し遅い。
    試しに近くにいたモンスターに向かってスキルを発動する。慣れ親しんだソードスキル
    《緋扇》

    「はぁっ!」

    いつもの要領でスキルを発動させる。
    大体なら三撃目でHPを0にできるが……ーーーーーー

    「すごい攻撃力だな、二撃目で沈んでたぞ」
    「刀ってのは本来攻撃力くそ高いはずだからな、今までの俺がおかしかったんだよ」
    「敏捷高いエイトマンに更に攻撃力まで追加したら……鬼に金棒だな」
    「悪いが俺は鬼なんて大それたものじゃない。鬼は鬼でも下っ端で桃太郎に真っ先に倒される役目の鬼だ」
    「自虐が激しすぎるぞ!?」

    キリトのツッコミがキレを増した気がする。誰のせいだよ。

    「まあ、ボス戦までに装備できてよかったな」
    「ああ……あー、ごほん、ありがとなキリト」

    慣れない言葉に背中が痒くなる。
    そんな俺にキリトは笑いながら、「どういたしまして」と言った。

    「そういえば、武具店紹介してくれるんじゃなかったか?」
    「あー……」

    ギクリ、といった表情で目をそらすキリト。おい……まさか……。

    「その、なんていうかな、あるにはあるんだけどまだないっていうか」
    「……」
    「まだ武具店建ててないみたいですすみません」
    「まだ建ててない……?」
    「アスナの友人が、武具店を建てるらしいんだ、でもまだ先で……」
    「なるほどな、まあいいよ。このレベリングを手伝ってくれたってことでチャラだ」
    「だよな!」
    「でも出来たらすぐ呼べよ」
    「もちろん!」

    スラスラと会話ができる。
    楽しそうに話すキリトを見て俺も口を緩ませていた。
  50. 50 : : 2016/11/26(土) 11:59:15
    宗三左文字が装備できてから3日後、ボス会議が行われた。
    アスナが前回俺らで話し合ったことを皆に伝える。皆、特に不満はないようで話し合いは終わった。

    「エイトマン君、緊張してるの?」

    解散後、アスナが声をかけてきた。

    「……なんでそう思ったんだ?」
    「会議中もそわそわしてたし、何より目がいつもより腐ってるから」
    「お前どんだけ俺の顔見てたのかよ、そんな微々たる差がわかるなんてエイトマン検定準二級はあげられるぞ」
    「なにその検定……エイトマン君……、いやエイト君!」
    「なんだよエイト君って、俺からマンを取るんじゃねぇ」
    「マンってそんな大事だったの!? エイトマン君じゃ長いじゃない? だからエイト君」

    ツッコミしながら話を続けてくるあたり由比ヶ浜に似ている気がする。由比ヶ浜ならもっとうるさいか。

    「ああ、そうですか……」

    めちゃくちゃどうでもいい、という表示を醸し出しながらサラッとその場を離れようとするーーーーーーが、俺の腕をがっしり掴む女が一人。

    「大丈夫だよ、今回は前回みたいにキリト君とエイト君二人だけじゃない、私もいるし、何よりヒースクリフ達のサポートもしっかりしてるわ」
    「何が言いたい」
    「だからーーーーーー一人で背負い込むのはやめてね」
    「ーーーーーーっ」

    現実での出来事を思い出してしまった。
    だめだ、ここはゲームであって、現実のことを持ち出すべきじゃない。

    「忠告ありがとよ、明日に備えてさっさと寝ろ」

    腕を振り払うと俺は宿に戻った。
    後ろは振り向かなかった。振り向いたら、アスナが俺のことを見ていただろうから。
  51. 51 : : 2016/11/27(日) 17:41:57
    期待
  52. 52 : : 2016/11/27(日) 18:40:02
    >>51
    ありがとうございます

    ボス部屋前にて、今回のアタッカーの俺らは前に出る。

    「皆、今回のボス戦も勝ちましょう!」

    アスナの掛け声で士気は十分だ。
    アスナが扉に手をかけ、開く。
    この先に軍のメンバーを殺したボスがいる。

    「……暗いな」

    キリトが呟く、確かに灯が薄いから部屋が全体的に暗い。
    俺は索敵スキル発動させて敵の襲撃に備える。
    だが、何もいない

    「いないな、エイトマン」

    キリトも索敵スキルを使ったのだろうか、そんな事を口にする。

    「……そういえば、この前こんなスキル取ったな」

    宗三左文字を装備するためにレベリングした後、余ったスキルポイントで色々習得したのだ。
    その内の一つがこれだ。

    「《暗視》」

    読んで字のごとく、暗い中も見えるようになる。
    なんのためかって? そりゃ暗い洞窟内の時とかこれあると便利だろ、松明持つと刀持ちにくいし。
    《暗視》を使って見えたものは、無数のコウモリだった。

    「キリト、オブジェクトとしてコウモリがたくさん飛んでる」
    「なんでわかるーーーーーーその目、ああなるほどな」

    察しがいい。

    「アスナ、ちょっと先陣切ってくる。コウモリで遮られて索敵が機能してないのかもしれない」
    「わかったわ」

    颯爽と走り出す俺、走れエイトマン弾より速く〜。
    コウモリは余り関係ない、破壊可能オブジェクトの様なものみたいだ。
    コウモリの群れの突破すると、ようやく索敵に何かが引っかかった。
    だが何もいないーーーーーー俺はゆっくりと見上げる。


    「おいおい……嘘だろ」

    今までのボスより一回り小さいコウモリが、宙吊りで天井にぶら下がっていた。

    「グギャッ、ギャァァッ!」
    「うおっ!?」

    気持ちの悪い声を上げながらデカコウモリが地面に降り立つ。
    その瞬間、今まで何の攻撃もしてこなかったコウモリ達が動き始める。
    索敵にも引っかかる。つまり、モンスターとなり俺たちを攻撃するようになったのか。

    「……先にコウモリ全員倒しておくべきだったな」

    刀を構える、だが全方位をコウモリに囲まれた。
    今やるべき事はーーーーーーとりあえず、仲間の元へ戻ろう。

    「《散華》!」

    刀ソードスキル、奥義技であり突進技でもあるスキルを発動させる。
    コウモリの群れを一気に突き進む。俺の敏捷も合わさりかなりの距離を移動出来る。

    「っと、ふぅ」
    「どうだったエイトマン?」
    「あー、なんていうかその。やばい」
    「何がーーーーーーって、コウモリがいきなり攻撃始めたぞ!?」
    「最初にコウモリ倒すべきだったみたいだ」

    グギァァッッ! 遠くからさっき聞いた叫び声が聞こえる。
    その声を合図に、部屋の灯が強くなり部屋全体が明るくなり、見えるようになった。
    俺たちは皆、コウモリに囲まれていた。
  53. 53 : : 2016/11/27(日) 18:59:50
    「うわああっ!」
    「狼狽えるな、一匹一匹はさほど強くない!」

    ヒースクリフの声が聞こえる。

    「皆、確実に一匹一匹倒していこう!」

    ディアベルの声も聞こえる。

    ガサリ、と周りのコウモリよりも一際大きい翼の音が聞こえた。
    全速力でそっちへ駆ける。

    「そこだっ!」

    刀スキル《絶剣》
    モーションが短く、鋭い突きを相手に与える初期技だ。
    次のスキルへと繋げる動きも使いやすく重宝している。
    怯んだボスにスタン攻撃を与え、スタンさせる。

    「はぁっ!」

    固まっているボスにレイピアによる俺のスキルよりも鋭い突きが襲いかかる。
    俺の後を追いかけてきたアスナだ。

    「エイト君、流石に速すぎない? 一応私《閃光》なんだけど」
    「それに倣って言うなら俺は《影》だぞ」

    言っておいてなんだが、めちゃくちゃ恥ずかしいなこれ。

    皆がコウモリを倒している間に、ボスの速さについていける俺とアスナがダメージを与える作戦だ。

    「ほら、あと少しでレッドゾーンに出来る。次のスタンでやるぞ」
    「うん!」

    俺は再びスキルを発動する。
    スキル《地獄耳》
    その名の通り地獄耳になるってだけだ、だが汎用性は高い。

    ーーーーーーまた聞こえた。一際大きい翼の音だ。

    「アスナ!」
    「わかってるわ」

    再びボスを発見&スタンさせ、アスナの一撃を加える。
    そこで丁度ボスのHPがレッドゾーンに入る。
    行動パターンが変わるのか。
    ーーーーーーと、俺らの目の前からボスが消える。

    「グギャ……ギャァァッ!」

    上からボスの声が聞こえる。
    上を見上げると、ボスが宙吊りでこちらを見下ろしていた。
    ボスの叫び声を合図に、他のコウモリが一斉にボスへと集まる。

    「エイトマン! どうなったんだ!?」
    「……ボスのHPはレッドゾーンになった。たぶん行動パターンが変わる」

    見上げたままキリトに答える。
    ボスの周りを飛び回るコウモリ、だが少しずつ少なっている……?

    「…………吸収?」

    コウモリが全て消えた後に出てきたものは、今までのボスよりも一回り"大きい"ボス。
    その巨体をブルりと震わせ、先程までとは比べ物にもならないほど大きい金切り声をあげた。

    「ギィィャァァッッ!!!」

  54. 54 : : 2016/11/28(月) 19:51:12
    続き期待
  55. 55 : : 2016/11/28(月) 22:24:15
    >>54
    ありがとうございます、コメント励みになります。



    「身体が、動かない……!!」

    まさか、今の金切り声は攻撃の一つだったのか。
    モーションが大きいが成功させると俺たちの身体が止まる攻撃。

    他の皆も身体が動いていないみたいだ。

    まずい、ボスは既に次の攻撃動作に移っている。
    近くにいたプレイヤーをターゲットに取ったのか、目が赤く光る。

    不気味な奇声を上げ、翼をプレイヤーに打ち付けた。

    「うわあああっ!!」

    HPが一気に半分ほど減る。このままじゃーーーーーー俺の身体はまだ動かない。

    くそ、動け、動け! 動け!!

    「ギィィッ!」
    「嫌だ! 死にたくない!」

    硬直が解除された!
    動け、俺の身体。
    助けなければ、助けなきゃダメだ。
    死者を出してはーーーーーー!!

    「うおおおお!!」

    《瞬間瞬足》のスキルを発動させ、全力で走る。
    ボスの翼を刀で斬る。
    体制を崩し、地面に落ちたボス。
    ーーーーーー間に合った。

    「おい、早く下がーーーーーーッ!?」

    ターゲットが俺に切り替わったのか、恐ろしいスピードで俺へ攻撃を仕掛けるボス。
    だがこの程度なら、いつもの要領で、一度下がり、スタン攻撃をーーーーーー

    「ーーーーーー!? 間に合わ、ねぇっ!?」

    ボスの攻撃をモロに喰らい、倒れる。
    ただでさえ防御力が低いんだ俺は、一撃でHPが3分の1ほどになった。
    なんでだ、いつもなら避けられたはずなのに。

    「くそっ、たれ……」

    忘れていた、久しぶりに使ったからか。
    《瞬間瞬足》のデメリットのせいだ。

    わかった時にはもう遅い、ボスの牙が目の前に見える。
    ここで終わり? 俺の人生はこんなゲームの中で終わるのか?
    ふざけるな、死んで、死んでたまるか。
    こんなところでーーーーーー硬直した身体を無理やり動かそうとするが、無意味だ。
    だが、視界の端でキリトとアスナが動いていた。


    「エイトマン!!」

    キリトの攻撃でボスがよろめいた。

    「エイト君! 早く飲んで!」

    アスナがポーションを飲ませてくる。
    そうか、俺が硬直解除されたってことは他の奴らも解除されたってことか。

    「もうダメだよ……一人であんなことしちゃ」
    「…………でも、一人助けられた」

    俺が助けたやつも、今回復中みたいだ。
    ホッと、胸を下ろす。俺のしたことは無意味じゃなかった。
    それがわかっただけでもいい。

    よろめきながらも立ち上がり、俺は言った。

    「第二ラウンドだ。どっちが速いか、白黒つけようぜ」

    これは死亡フラグじゃない。ただの、シンプルな勝負宣言だ。
    理解しているのか、していないのかわからないが、ボスが再び俺をターゲットに捉えたのだけは、確かにわかった。
  56. 56 : : 2016/11/28(月) 22:29:09
    飛び回るボスに対して、俺は俊敏力で追いついていた。
    どうやら飛んでいるのにも時間制限があるようで、ある程度飛ぶと降りてくる。
    敏捷が高い俺なら、降りた瞬間を叩ける。

    だが、ボスも流石に反撃してくる。

    「遅ぇよ」

    そんな攻撃も、デバフなしの俺ならぬるりと避けられる。

    「はぁっ!」

    思い切り足を斬る。足の健を狙ったからクリティカルだ。

    また叫ぶボス、やめろよ、耳障りなんだよ。

    飛び上がり、俺の届かない位置で停止する。
    そして、身体をブルりと震わせた。
    この動きは、さっきの金切り声か!
    まずい、ここからじゃ届かない。どうすれば…………。

    「皆! 耳を塞げ!」
    「!」

    ディアベルの突然の命令。咄嗟に両手で耳を塞ぐ。

    ボスが金切り声を上げるモーションの最後に、ディアベルが何かを投げた。

    ボスが声を上げた。
    ーーーーーーと、同時にボスの目の前で破裂する。
    その瞬間、耳を劈くような音が、耳を塞いでいても伝わってきた。
    音響弾か……!

    あの音にビックリしたのかボスが目を回らせ、落ちてきた。
    そしてその音によってボスの金切り声も遮られたのか、俺たちも金縛りにあっていない。

    「皆! 突撃ぃぃっ!」
    「おおおおっ!!!」

    流石だ、ディアベル。
    状況に応じて、咄嗟の判断、行動。
    やっぱりお前はこのデスゲームで、重要なやつだ。

    残り少ないボスのHPが0になった。
    ボスはポリゴンの欠片となり、消滅。
    俺らの頭の上には《Congratulations》の文字か浮かび上がる。
    計30回見た、ボス討伐成功のお知らせだ。

  57. 57 : : 2016/11/29(火) 13:51:39
    流石僕だ、期待するよ
  58. 58 : : 2016/11/29(火) 19:48:34
    >>57
    こんにちはディアベルさん、成仏して……あ、生きてますね。期待ありがとうございます。


    「新年、あけましておめでとう!」
    「おめでとう!」

    新年早々うるさいな、ゆっくりさせてくれ。

    SAOが始まってからだいたい1年が経った。
    攻略は現在52層まで進んだ。
    25層の(多分)織田信長や30層の大きいコウモリなどの強敵はいたが、それ以降はこれらに匹敵するようなボスはなかなか出なかった。
    まあ炎で囲ったり固めてきたりするボスが頻繁に出てきたらそれはそれで迷惑だが。
    ーーーーーーそれはともかく。

    「なんでここにいるんだよ……」
    「いいじゃないかエイトマン。ほら、家買ったならやっぱパーティーしないとな!」

    そう、俺比企谷八幡はこの度ーーーーーー家を買ったのである。
    夢のマイホーム! キャッシュ一括! 働かなくてもいい! すごい、はちまんすごい。

    「私の家よりは小さいわね……」
    「そりゃ副団長様と比べればな、てか帰れ」
    「何よ、私たちがいたら悪いの?」
    「悪いって言ったら帰るか?」
    「帰らないわ」

    ですよねー、キリトは自分で買ったチキンをがぶがぶ食ってるし、いや今日はクリスマスじゃないですよ?

    「ほら、年の計は元旦? にあるとか言うだろ?」
    「それを言うなら"一年の計は元旦にあり"だ」
    「そうそう! だから元旦の日にエイトマンと一緒に入れたら来年までずっと一緒だな、って思って」

    …………なんだよ、キリトが可愛く見えてきたぞ!

    「……その前にゲーム終わらせてやる」
    「この捻デレが」

    ここでも浸透してるんですねその造語。
    と、キリトと談笑しているとインターホンが鳴った。え、まだ誰か呼んでるの?

    「はーい」

    おい待て、なんでアスナが我が物顔で開けに行くんだ。ここ俺の家だよね?

    「失礼する」
    「お邪魔するね」

    入ってきたのは血盟騎士団団長さんと軍のリーダー……ヒースクリフとディアベルだ。
    な、なんで……。

    「アスナ君に誘われたのだ、エイトマン君の家には少し興味があったからな」
    「キリトが呼んでくれたんだ、新年だし一緒に過ごそう、って」

    勝手に呼ぶなよ!
    3日前、俺の家にストーカーして付いてきた2人を無理矢理でも撒くべきだったと今更後悔。

    そんな後悔の最中、メッセージが届く。
    お相手はアルゴ、メール内容……『今すぐ隣の部屋に来イ』


    ーーーー


    「何の用だアルゴ……飯でも欲しくなったか」
    「違ウ! キー坊とアスナだけが来るんじゃなかったのカ!?」
    「そもそも2人が来ることも知らなかったわ」

    アスナとキリトが到着する30分前、こいつはいきなり俺の家に来た。
    なんで場所わかった、と聞いても「情報屋だから」としか返答が……いや、もういい……。

    「まさカ、攻略組トップ5が揃い踏みだなんテ……これは一大ニュースだナ!」

    興奮するな静かにしろバレちゃうだろ。

    「おーい、エイトマン? なんかアルゴの声が聞こえるんだけど」

    ほら見ろ。

    「お、俺っちのことは言わないでくレ! 頼ム!」
    「そんな事言われてもなぁ……」

    と、背後からドアの開く音がした。
    キリトが見に来たのか?

    「どうしたエイトマン? 1人で立ってて」
    「は? あー……いや、何でもない」

    目の前にアルゴはいなかった。
    一瞬だけ索敵したら真上に反応が……屋根裏か?
    よくもまあ俊敏に動けるな、流石鼠。

    「戻るか」
    「皆待ってるぞ……ん? 何か音がしないか?」
    「音?」

    ……耳を澄ますと、ギシギシという音が聞こえる。きゃー卑猥ー!
    なんて冗談はいらない。……そういえばここの屋根裏の木材、耐久値大丈夫だったかなー。
    安かったしそこら辺まずいんじゃないかなー、あれれー……さっき誰か上に登ったよね?

    バキバキ、ドン! と屋根裏が突き抜けた。

    「…………」

    キリトが冷めた目で見ている。
    アルゴはまずいと思ったのか、まさかの行動に出た。

    「……ちゅ、チュー」

    わー、大きい鼠だなー(白目)
    キリトの目はさらに冷めていた。
  59. 59 : : 2016/11/29(火) 20:45:12
     …ん、あれ? 圏内に元からあった武具やアイテム以外の物って全部immortal object––––破壊不能物体だった気がするんですけど…
     しかしアルゴ、本当にまさかの行動に出ましたね。確かに「鼠」とは呼ばれてますけどw
  60. 60 : : 2016/11/29(火) 20:48:40
    >>59
    モンスターの形をしているが、モンスターではないってことです。
    ドラクエとかにも、スイッチを押すと石造が急にモンスターとして攻撃してくるのがありますよね、あんなのを想像してくれたらなーって考えてました。わかりずらかったらすみません…

  61. 61 : : 2016/11/30(水) 19:10:15
    「面目なイ……」

    しょんぼりしているアルゴは部屋の隅でちょこーんと座っている。左手にはしっかりチキンを持っているあたりふてぶてしい。

    「ほお、鼠の情報屋か。君の情報は頼りになる、これからも頼むぞ」
    「はは、任せておケ」

    控えめな胸を大きく張るアルゴ。無い胸は張れない……。

    「それよりアルゴは何しに来たんだ? エイトマンを襲いにでも来たか?」
    「おい、なんで意図的に俺を襲わせる発言するんだ。全力で逃げるぞ」
    「エイトマン襲うなら全力で私たちがサポートするわ。いつも速すぎて全然捕まらないもの」
    「本気で泣くぞ」
    「エイトマン 号泣。攻略組トップの裏で何が……! って見出し付けるカ」
    「やっぱ嘘ですすみません」

    情報屋怖い、ほんと怖い。情報って何よりも武器になるんだな。

    「情報屋さん? せっかくだし何か情報屋らしいことしなよ」

    ディアベルが意見を出す。
    その言葉にアルゴは目を輝かせた。

    「いいのカ!? なら早速質問コーナーに出すための情報ヲ……はっ」

    思わず熱くなったアルゴは、辛うじて理性で抑えた。いや抑えられてなかったな前半。

    「ははは、まあ良いだろう。普段から頼りにさせてもらっているのだし、お返しも必要だろう」
    「ヒースクリフ……いやでもなぁ」
    「いいじゃない、たまには答えてあげても」
    「そうだぞエイトマン、諦めろ」

    なんで俺が攻められてるのさ。やっぱりこの世は理不尽で不条理だ。抗議するぞ!
    そんな俺の心の中の抗議もむなしく、アルゴの質問コーナーが始まった。

    「《神聖剣》ヒースクリフ、《軍の頭》ディアベルに《黒の剣士》キリト、《閃光》アスナ……あわわわ……こんな面子に質問が出来るなんテ、なかなか記事に出来なかったからこれはすごいことになるゾ!」
    「いいから早く質問しろ、……って俺の通り名はないのかよ」
    「《紫色の影》エイトマンってなんかしっくり来ないかラ、《影》って皆呼んでるゾ」
    「知りたくなかった事実……」

    俺だけなんか長いもんな……もっとこう、短くてカッコイイのなかったのん?
    短く略されてるのもそれはそれでアリだけどな。……って中二病じゃねーよ。

    「さ、早速質問ヲ……す、好きな食べ物や飲み物はなんダ?」
    「ふむ、特に好き嫌いは余りないが強いて言うならば、甘いものだな」
    「その心ハ?」
    「やはり、頭を使うと糖分が欲しくなるからな、そして甘いものを食べた後はコーヒーを飲む。これで脳がしっかり活性化するのだ」

    なんかの科学者並の考え方だな、損得で考えたら人生つまらないぞ。楽するために考えた方が楽しいに決まってる(専業主夫希望)
    その後もアルゴの質問は続いた。
    どんな武器を使っているのか、この中で最強なら誰か、PvPをしたら誰が勝つか、などなど。
    途中、俺がヒースクリフに血盟騎士団に勧誘されるなどのハプニングもあったが、まあ俺はソロプレイだからな、断った。あ、ここオフレコで。

    終わったあとアルゴは幸せそうな顔をして呟いた。

    「ハハ……記事にしないとナ」

    こんな仕事人間にはなりたくねぇ。
  62. 62 : : 2016/12/01(木) 17:18:29
    今日も今日とて迷宮潜りだ。

    現在は74層の迷宮を攻略中だ。
    目の前にいるトカゲソルジャーのモンスターを斬る。……まだ、生きている。

    「っ……ふぅ」

    やはり50層を超えると雑魚モンスターとの戦闘もキツくなる。
    初期のことを思い出し、《観察眼》スキルを駆使してクリティカルを狙い、一太刀で沈めるのを繰り返してきた。
    この動きが一番効率よく敵を無力化、倒すことが出来る。
    そんなある日、暇潰しにステータスを見ていたら妙なスキルを見つけた。

    ーーーーーー《抜刀術》

    今日はそれの、試し斬りだ。

    「…………」

    刀を鞘に収める。攻撃をやめたんじゃない、寧ろ逆、これは攻撃動作だ。

    「ふっ!」

    一息で刀を抜刀し、残り僅かのHPのクラゲ型モンスターを斬り伏せる。
    鞘に収めるまでが《抜刀術》のスキルだ。

    「攻撃力は高いみたいだな」

    今のは《抜刀術》カテゴリーのスキルの一つ、《居合》。
    まあ、鞘に収めてる刀を抜刀しながら斬りつけ、再び鞘に収めるだけというシンプルなスキル。
    だが、シンプルなだけに、使いやすい。

    「他にもスキルあるみたいだが……まあ今のスキルポイントじゃあな……ーーーーーー?」

    索敵に何かが引っかかった。多分これはプレイヤーだ。
    危なかった、抜刀術を使っている最中に出くわしたら面倒なことになっただろう。
    まあここもネトゲだ、妬みやらなんでもあるだろう。
    ぶっちゃけこのスキルの出現方法とか条件とか全くわからん、情報屋に言ったって意味無い。
    なら、最初から言わずに黙っておけば変に絡まれることもなくなる。

    「今日は帰るか」

    刀の耐久もそろそろ危ない。耐久などに関してはNPCに任せてるが、より強い刀となると……魔剣クラスか……。
    索敵に引っかかった人物と帰り際に会い、会釈を交わし迷宮を出た。
  63. 63 : : 2016/12/01(木) 17:19:24
    刀使わせてた辺りでバレバレだったかも知れませんが、八幡のユニークスキルは抜刀術です。
    機会があったら暗黒剣とか手裏剣術とかも出したいです
  64. 69 : : 2016/12/03(土) 20:44:28
    すみません、ちょっとリズ編一回取り消して
    シリカのところを書きます。
    そこからまたリズ編を投下します
  65. 70 : : 2016/12/03(土) 20:57:03
    現在、74層まで攻略は進んでいる。
    だが俺は、35層の森にいる。
    なんでかって? ……まあ依頼みたいなもんだ、クエストじゃないがな。
    最前線で色んなやつに頼み回ってる奴がいて、話を聞いて、胸糞悪かったからだ。俺はハッピーエンドが好きだ。俺の人生もハッピーエンドのために主夫エンドにさせてください。

    「ここにいるはずなんだがなぁ……」

    その時、森の奥から女の叫び声がした。いや……女というより女の子の叫び声だな今のは。
    この森は割と強めのモンスターが出る。
    まあ74層のモンスターでも倒せる俺からしたら雑魚同然、サーチアンドデストロイ……はしないが。

    とりあえず声のした方に全力で走る、俺の敏捷は現在トップクラスだ。
    辿り着いた先には、女の子が蹲っていた。そして、周りにはモンスターが、襲われているのか。

    これは助けなければ……だがここからじゃ間に合わない。
    仕方ない、人前ではあまり使いたくないが……。

    「《居合》」

    モンスターがエフェクト音を発した時には俺は既に刀を鞘に収めている、またつまらぬものを斬ってしまった……。

    「ほら、立て。何してんだ」
    「た、助けていただきありがとうございます……」

    助けたのになんでそんな悲しそうなの? 俺に不満でも? おっ?
    だが、どうやらそういうわけではないみたいだ。

    「ピナ……ピナが……」
    「ピナって……なんだよ」
    「私のお友達なんです……!」

    はぁん……? ……つまりはなんだ、ビーストテイマーって訳なのか?
    よくわからんな。

    「すまん、お前はビーストテイマーなのか?」
    「は、はい!」

    ほうほう、そういえばどっかの階層で……よし、ここはキリトに頼もう。

    「ちょっと待ってろ」

    キリトにメッセージを送る。

    『ビーストテイマーのペット的なの、死んだらどうすればいいんだっけ?』

    すぐに返信が来た。

    『47層の思い出の丘に、復活アイテムがある』

    よし、キリトにお守りは任せよう。

    『俺、用事があるんだ。頼むからこの子の面倒を見てやってくれ、場所は迷いの森』
    『なんで俺が? 用事ってなんだよ』
    『βテスターに借りがあったな俺って。おや、βテスターさんじゃないですか』
    『お前……覚えてろよ。今行く』

    よし、交渉成立っと。

    「今から攻略組でも超強いお兄さんが来るから待ってろ。そいつと一緒に47層まで行ってもらえ」
    「47層には何があるんですか?」
    「お前のピナ……? が生き返るアイテムがある」
    「本当ですか!?」

    この子、めちゃくちゃ喜んでるな。

    「来たぞ、エイトマン」
    「じゃ、後は頼んだ」
    「おい待て、いきさつくらい話せ」
    「この子のペット死んだから47層行って復活させて上げろ」
    「なんで俺が……」

    そこで、隣の子をチラリと見るキリト。
    ギョッとする。

    「だ、ダメ……ですよね……ひっく」

    涙を目に溜めている、こんなの断れるわけないだろ! 純粋な小町だなこれ。ちなみに小町なら泣いたふりをした後、ケロりとする。

    「ったく……仕方ないな。二度目はないからな」
    「おう、さんきゅ」
    「あ、ありがとうございます! あっ、私、シリカって言います!」

    シリカ、シリカねー、覚えた覚えた。

    「じゃ、用事あるからすまん、じゃあな」
    「エイトマンの用事にも興味があるが……まあいいや。じゃあ行こうかシリカ」
    「はい! えーっと……」
    「キリトだよ、んであいつがエイトマンな」

    そのついでみたいな紹介やめろ。
  66. 71 : : 2016/12/03(土) 21:04:04
    待ち合わせ場所に到着。
    ーーーーーーが、索敵に誰かが引っかかる。

    「出てこい、場合によっちゃ刀を抜くぞ」
    「そんな怖いこと言うのはおよし、私だよ、ロザリア」
    「何の真似だ、俺を仲間に入れておいて暗殺でもする気か」
    「いや、単に実力試験だよ。私の隠蔽を見破れるならかなりの実力者だね」

    隠蔽スキル低すぎるだろ。
    なんの待ち伏せ場所かーーーーーータイタンズハンドの集会場だ。

    今回の俺への依頼は、クラン:タイタンズハンドのメンバーを牢獄エリアにぶち込むことだ。
    依頼人は仲間をこいつらに殺された。……つまり、タイタンズハンドはオレンジギルドだ。
    だが、確定証拠がないため捕まえられない、だから証拠を目の前で叩きつけて牢獄にぶち込む。
    だから、まずは潜入だ。

    「他のやつも出てきな」

    ゾロゾロと他のメンバーも木の影などから出てくる。なに? それで隠れてたつもりなの? 隠蔽も使わず何してるんだ……。

    「あんたがどこの馬の骨か知らないけど、使えるもんは使っていくよ」
    「……おう」

    どこの馬の骨……ねぇ……。攻略組に疎い連中はキリトとかアスナとか知らないみたいだな。
  67. 72 : : 2016/12/03(土) 21:36:53
    何故こうなった。

    俺は
    タイタンズハンドの内部を調べるために潜入したんだ。

    なのに、なんでーーーーーーなんで、47層の思い出の丘にいるんだッッ!! 答えろッッ!!
    という茶番やめにして、どうやら今回は思い出の丘のレアアイテムを取りに来たらしい。

    「ロザリア、どうやって取るんだ?」
    「まあ見てな」

    丘の頂上へと歩く二人組がいる。ほうほう……あいつらから奪うってわけですね。
    ……ん? なんか見たことあるなあいつ……。

    黒ずくめで盾なしの片手剣使い……それと小柄などう見てもJCの……アカン。

    そういえばキリト達も47層来てるんだった……まずい、このままではーーーーーー

    「よし、アイテム取ったみたいだね! 行くよお前達!」
    「「おうっ!」」

    遅かったああああ!!!

    「あら、シリカじゃないの? 次はその男を魅力でもして仲間にした?」
    「あなたには関係ないでしょう! そこをどいて下さい!」
    「そうはいかないね、そのレアアイテム、どうしても欲しいんだよねぇ」
    「っ! わ、渡しませんよ! これは!」

    あれが復活アイテムか……キリトが面倒くさそうな顔をしている。まああいつらじゃキリトには勝てないだろうし、キリトも楽勝だもんな……。

    「それで? あんた達はどうするんだ?」
    「決まってるさ、あんた達! やりな!」

    ロザリアの一声で男達がキリトを囲む。

    「死にたくなかったら、アイテムを渡しな」
    「……はぁ、シリカ、ちょっと下がってて」
    「は、はい……大丈夫ですか?」
    「大丈夫だ、安心してくれ」

    そう言って、キリトが前に出る。
    男達も警戒する。

    「やりなっ!」
    「「うおおおおおっ!!」」

    キリトに切りかかる。
    キリトはそれらを全て避けずに受ける。
    ……まあ、自然回復がなぁ……。

    「お前たちじゃ、いつまで経っても俺を倒せないよ」
    「黒ずくめの装備に、盾なしの片手直剣……ロザリアさん! こいつ攻略組トップの、《黒の剣士》だ!」
    「攻略組トップがこんなところにいるはずがないだろう! こうなったら、こっちだって最終兵器を出すわよ! 出てきな!」

    呼ばないでぇぇ……。最終兵器とかそんなかっこよくないから……。

    「最終兵器……? 索敵には誰も……」
    「俺だよ、キリト」

    隠蔽スキルを解除し、現れる。
    俺も覚悟を決めた。キリトと一戦交える覚悟、だ。

    「なんで、エイトマンが……」
    「エイトマンさん……!? なんで……」
    「俺が何やろうと、俺の勝手だろ。……行くぞ」
    「待て、エイトマンーーーーーーッ!」

    俺の速度に反応できるのは、恐らくキリトだけ。
    そんなキリトを倒すには……いや、倒す必要は無いな。
    ここでロザリア達を捕まえることも出来るが、キリトやシリカに心配はかけたくない。
    なら、俺がやるべき事は……!

    「ロザリアと他のやつら、先に帰ってろ。すぐ追いつく」
    「……いいんだね、任せても」
    「早く行け……ッ!」

    キリトが攻めてくる、剣をいなして交わす。

    「行ったか……。……よし」
    「なんでだ、エイトマン。なんで……」
    「さっきも言っただろ。……俺の勝手だ」

    思い切り刀を振る。《鎌鼬(カマイタチ)》
    キリトが仰け反る、今だっ!

    「くっ……エイトマンっ!」
    「悪いなキリト、初めからお前を倒すつもりなんて、ない」
    「えっ……? きゃぁっ!」

    シリカが手に持っていたアイテムも奪い取る。
    そして、そのまま転移結晶を使う。

    「待て! エイトマーーーーーー」
    「転移!」

    ーーーー

    「やれたのかい!?」

    転移が終わった瞬間、ロザリアが問いかけてくる。

    「……ああ、アイテムはここに」

    シリカから取ったアイテムを見せる。プネウマの花だ。

    「流石だね! あんた、もっといい報酬をーーーーーー」

    そこまで言った辺りで、ロザリアの首元に刀を当てる。
    その動作が見えなかったのか、一瞬固まるロザリア。

    「……!? な、何を……」
    「黙れ、今から俺は本当の依頼内容をこなすだけだ」

    首元の刀を、カチャリと動かす。
    後ろにいる他のメンバーも急な出来事に動けずに固まっている。

    転移結晶を後ろの奴らの足元に投げる。

    「それでさっさと牢屋へ飛べ。さもないと、全員殺す。……ああ、抵抗はやめておけよ、一応俺は攻略組トッププレイヤーの《紫色の影》だ。PvPでは最強とも言われている」

    最後は少し盛ったが、まあこれくらい言っとかないとな。
    全員飛んだのを確認して、ロザリアの首元から刀を離す。

    「お前も、さっさと飛べ」
    「…………あんた、一生恨むよ」
    「俺から言うことは一つだ、簡単に人を信じんな」

    ロザリアが牢獄へと飛んだの見届けたあと、俺はキリトへメッセージを送った。
  68. 73 : : 2016/12/03(土) 21:56:52
    「何のようだ、オレンジギルドのメンバー」
    「……シリカは連れてきてないな。ほらよ」

    キリトにプネウマの花を渡す。
    キリトは怪訝そうな顔をしてそれを受け取る。
    そして、俺のオレンジカーソルに気づいたようだ。

    「お前……まさか」
    「タイタンズハンドのやつらなら全員牢獄だ。……それが依頼だったからな」
    「……汚れ役は全部自分が引き受けます、ってことか?」
    「違ぇよ、胸糞悪かっただけだ」

    オレンジギルド、レッドギルドなんて、吐き気がする。

    「これが、俺のやり方だ、他人に指図はされたくない」
    「他人……じゃない。友達だからだ」
    「はっ……」

    半開きの口から笑いとも取れるような息を吐く。

    「誰も傷つかない世界の完成だ、簡単だろ」
    「そんなことないですよ!」

    なんでシリカが……。
    キリトを睨む。ーーーーーーキリトも驚いていた。

    「シリカ……ついてくるなって……」
    「だって……キリトさんが行くところにエイトマンさんが来る気がしたんです」
    「……これはシリカの夢だ、いい子はもう寝ている、だからこれは夢だからなシリカ」
    「お子様扱いやめてください! 誰も傷つかない世界なんて完成してませんよ! だって、私や、キリトさんが傷ついてるんですから!」

    ……そう言われると、言い返しづらい。

    「会って1日の俺のことで傷つくのか、どんだけ感情豊かなんだ」
    「エイトマンさんだって、会って1分以内の私を助けてくれました! 更にはピナを生き返させてくれる手段を考えてくれましたよ!」

    まずい、論破された気がする。

    「あはは……諦めろよエイトマン」
    「はぁ…………まあ、これからはこういうのは控えることにする」
    「控えるんじゃなくて! やめるんです!」
    「善処する」
    「むむ……まあいいです!」

    ぷいっ、とそっぽを向くシリカ。なんかところどころ小町に似ているような……。

    「エイトマン、ラフィンコフィンって知ってるか?」
    「ああ? レッドギルドだろ。それがどうした」
    「タイタンズハンドの後ろ盾にはラフィンコフィンがいる。気をつけろ」
    「…………常時隠蔽使うか」
    「もう認識されなくなるぞ、それ。……近々ラフィンコフィンと戦うことになる、それだけだ」
    「…………わかった」

    ラフィンコフィン、レッドギルドか。
    本当、聞いてるだけで胸糞悪いな。
    シリカとキリトに別れを告げて、俺は家に帰った。
  69. 74 : : 2016/12/03(土) 21:57:11
    明日一気にリズのところ投下します
  70. 75 : : 2016/12/04(日) 11:32:20
    タイタンズハンドを牢獄にぶち込んでからはや数日。
    未だに74層の迷宮は突破できていない。
    74層の雑魚モンスターが前までより強いのが問題だろう。

    気晴らしにでも、ブラブラと街を歩く。
    気づいたら、俺の家がある48層に着いていた。

    「……そういや、48層って何があるんだ」

    ここで買った家は安くて大きかったから特に立地条件とか気にせずに買った。
    だから48層に具体的に何があるのかなどはわからなかった。

    せっかくだし、街巡りするか。

    ボーッとしながら街を歩く。

    その時。
    曲がり角を曲がったあたりで女の人の叫び声が聞こえた。
    圏内で叫び声……? PKの類ではないよな。
    だが、もしものことだ、確認してみるか。

    声がした方に向かう。
    黒ずくめの男がピンクの髪の色の女に罵声を浴びさせられていた。……いやこいつキリトだろ。

    「……何やってんだキリト」

    俺に気づいたキリトは慌てて言い訳を言う。

    「ち、違うんだエイトマン、これはちょってした手違いで……」
    「何が手違いよ! うちの店の武器壊してくれちゃって!」

    俺は悟った。人を観察する能力に関しては俺の右に出る者はいないと自負できる。そもそも右に出る友達がいないんだけどな。

    「フラグ建築乙、じゃあな」
    「待ってくれエイトマンーーーーーー!!」

    触らぬ神に祟りなし、回れ右してマイホームに帰る。
    っと、誰かにぶつかりそうになった。
    サッと横に避けて、まあ謝罪の一つでもしようかと相手の顔を見たら見知った顔だわ。

    「エイト君? どうしたの?」
    「いや、キリトが揉めてるらしくてな。さっさと帰ろうかと」
    「なんで止めてあげないの! エイト君の根性無し!」

    あらら〜、キリトのことと聞いたらアスナさん、すぐ動きましたね〜……いつの間に仲良く……。まじキリトフラグ建てすぎじゃないの?

    「って、リズ!?」
    「どうしてくれるのよ全く! ーーーーーーアスナ?」
    「へ? リズ? じゃあこいつがアスナの友人の……」

    アスナの友人の武具店……ん? どっかで聞いたような……。

    「じゃあここがキリトが俺に紹介するはずだった武具店か」

    とうの本人もここがそうだとは知らなかったみたいだけどな。
    目の前で3人が状況説明し合ってるのを傍らに、俺はぬるりと武具店の中に入った。なんだよ、ぬるりとって、俺はミミズか。

  71. 76 : : 2016/12/04(日) 11:33:38
    武具店ってこうなってるんだな……。
    あちこちに武器が置いてある、市販のものよりステータスが高いから、多分ここの店長の自作だろう。
    ふむふむ、と頷きながら見ていたらキリトに話しかけられた。

    「おいエイトマン! なんで助けてくれなかったんだよ!?」
    「ほー、この刀いいな。……ん? いやお前がフラグ建てたりしたんだろ?」
    「フラ……? いやまあ、俺が確かに悪いんだけどさ」

    ほらな、絶対あの女と何かしたに決まっている。

    「いらっしゃいませー」

    顔に怒マークを付けられながら言われても……キリトへの怒りがまだ収まってないぞ……。

    「あー……えっと、なんかいい刀とかあるか?」
    「刀ですか、少々お待ちを!」

    元気よく店の裏に走っていく、えーとリズとか言ったかな。

    「なんだ、普通にいいやつじゃねぇか、何したんだよキリト」

    そう呟いたがキリトには聞こえていなかったみたいだ。
    まあ、俺が知る必要はない。
    知るべきなのはーーーーーー

    「キリト、ここが前言ってた武具店のことか?」
    「みたいだ、さっきアスナが紹介してくれた。まさかたまたま入った店がアスナの友人の店だったとはな」
    「ほーん、ここって武器以外ないの? 武具店とか初めてだからよくわからねぇんだが」
    「防具とかはなさそうだな。……あ、確かリズが鍛治スキルを持ってたはずだ。リズってのはここの店長のことだ」
    「鍛治か、ありがとよ」

    鍛治職人がいる、せっかくだし強化やらしてもらおう。
    宗三左文字の耐久値も減ってるしな。

    「…………鍛治を頼みたいんだが」

    なんて声をかければよくわからなかったから、とりあえず用件をさっさと伝えることにした。
    営業スマイルで振り返った店長。

    「はーい、どの武器ですか?」
    「これなんだが、耐久値戻したら強化も頼みたい」

    宗三左文字を鞘から出す。
    それを見せたら、急に目の色が変わった。えっ、なんかした俺?

    「こ、こ、これって……」
    「ああ、25層のLAB(ラストアタックボーナス)だ。それが何かーーーーーー」
    「宗三左文字じゃないの!? あの織田信長が使ってたっていう刀!」

    ……お、おう。そうだな……。なんでそんなに飛びつくんだ……。

    俺が困惑してると、アスナが横から入ってきた。

    「あー、すみません。この子刀剣女子でーーーーーーってエイト君じゃない、いつの間にいたのよ」
    「刀剣……女子……ああ、はいはいあれね」

    刀剣女子、多分刀の擬人化した某ブラウザゲームにハマっている女子のことだろう。
    俺も艦とか隊のこれくしょんするゲームやってたしな。でも名前聞いただけで飛びつくなんて怖いのです。そうなんじゃダメよ、ね!

    「はっ、す、すみませんお客様……」

    明らかにしょんぼりするリズ。店の立場からすると確かに今の態度は悪かったな。

    「大丈夫よリズ。エイト君優しいからタメ口でも」
    「…………ともかくなんでもいいから鍛治頼む」

    もう疲れた……鍛治頼んだだけなのに……。

    「任せなさい! 耐久値戻した後はどんなステータスを上げてほしいの?」
    「あー、そうだな。……じゃあDPS(秒数ダメージ効率)を上げてくれ、素材はこれで出来るだけ頼む」

    かっこよく言ったが、要は攻撃力を上げてくれってことだ。どうせ《抜刀術》でワンパンする気満々だし。
    素材をドサりと渡す。今まで強化してなかったから溜まりに溜まってるからこの際一気に消化だ。

    「かしこまりー、終わるまで店の品見ていってね」
    「おう……」

    元気いいなー。
    ……キリト曰く美少女らしいんだけど、まあ美少女と言えば美少女なんだろうな。
  72. 77 : : 2016/12/04(日) 14:35:23
    「お待たせしましたー」

    店の奥からリズが俺の刀を持って現れた。

    「どうぞ! 失敗せずに+4まで強化したわよ」
    「おお……まだ素材沢山残ってるが……」
    「+5以上は博打になるから……ね?」

    なんだよ博打って、ギャンブルじゃないんだから。

    「ギャンブルの一種だぞ」
    「うおっ! キリトか……ってなんで考えたことがわかった」
    「顔に出てた。+4より上を目指すのは本当に気をつけた方がいいぞ、忠告はしておく」

    ははーん……わかったぞ、これは俺をもっと強くさせたくないために嘘をついているんだな!
    ……ってわけではなく、多分成功率が極端に下がるんだろう。強化可能数に達して+0だったら元も子もないしな。

    「ん、じゃあお代はこれで。……そうだな、あとなんか刀でも買ってくか」
    「刀ね、ちょっとこの前作ったのがあるから……」

    また裏方の方に入っていくリズ。ここの店、なかなかステータスが高い武器揃えていてありがたい。

    「はい! 見たところ投擲スキルとかもあげているみたいだし、こんな短い刀もいいんじゃない?」

    見せてきたのは、ほぼ短剣と言ってもいいほどの短さの刀だ。

    「見た目が織田信長の武器に似ているから、名前はそれに因んで"薬研"よ!」

    ……薬研藤四郎のことですかね……。
    でもよく見てみると、特殊スキルで《投擲ダメージUP》や《クリティカルUP》などがある。ステータスもなかなかだしこれから使えそうだ。

    「キチンと素材があれば、本物にほぼ近い薬研藤四郎も作れるんだけどね……」

    しょんぼりするリズ。
    いやこれも充分ステータス高いですよ? 魔剣クラスには流石に負けるが。

    「いや、これで充分だ。お代払っとくぞ」

    いい買い物だった、リズベット武具店、覚えたぞ。
    ホクホク顔で店を出ようとしたら、後ろからリズの声が聞こえた。

    「キ・リ・ト〜? あんたは素材集めよ」
    「た、助けてくれエイトマン……」

    そんな目で見られたら断るにも断れねぇだろ……全く。

    「何したんだキリト」
    「……その、ここの武器壊しちゃって。それで素材を集めることに……」
    「はーん……なるほどな。わかった、これ借りな」

    そう言って、俺は近くにあった刀(なるべく安いの)を手に取った。
    「ま、待ってええ!?」と言うリズの静止を無視し、俺の武器で叩き斬った。

    パリーン、とポリゴンの欠片となる刀。
    リズは床に突っ伏していた。

    「これで俺も同罪、素材集め手伝うわ」
    「ありがとうエイトマン! 流石にスノードラゴンのエリアに1人で行くのは辛かったんだ!」

    ……えっ、ドラゴンのところ行くの?

    床でプルプル震えているリズ。
    不意に、後ろから声をかけられた。

    「キリト君? エイト君? …………本気で怒るわよ」

    アスナが全部見てました……。
    この後、キリトと俺は説教を受けたのであった。
  73. 78 : : 2016/12/04(日) 21:38:16
    「俺から離れるなよ」
    「う、うん……へっくち」
    「ああ、寒かったか。ほら」

    イチャコラしやがって……マフラーを巻いてあげるとかイケメンかよ……。
    なんで俺はこんな吹雪の中を歩いているんだ。
    いや、俺が自分からやったんだけどね? こんな面倒だとは思ってなかったんだよ。

    まあキリトと俺のコンビなら55層のモンスターなんて瞬殺だろ。

    ここのスノードラゴンからクリスタルインゴットというアイテムが取れるらしい、それがあれば魔剣クラスの武器も製造可能だとか……俺も一つくらい欲しいな。このままじゃ俺織田信長になっちゃう。

    「キリト、あんたは強そうに見えるけどさ……あの人は強いの?」
    「弱いからやっぱり帰っていい?」
    「おいエイトマン? 俺だけを置いていくとかないよな?」

    冗談だよ……。

    「リズ、エイトマンのこと知らないのか? ほら《紫色の影》って呼ばれてる……」
    「アルゴさんの記事に書いてあったような……一応あいつも攻略組トップなのね」

    一応ってなんだよ、一応って。立派な攻略組トップだわ。
    そんな会話(主にキリトとリズ)が続き、気づいたら一面キラキラした石で覆われたところに出た。

    「わぁっ! こ、これって……!」
    「クリスタルインゴットか?」
    「違うわよ!」

    違うのかよ

    「おいキリト、これなんだよ」

    キリトがウィンドウを見せてくる。……クリアインゴット……。

    「スノードラゴンを倒すしかないのか」

    視界の橋でリズがせっせとクリアインゴットを集めている。俺も少し集めておこうかしら……。

    その時、グオオオォォォッ! というドラゴンの雄叫びが聞こえた。
    えっ、何かしたっけ?

    「刺激してないのに……全くなんなんだ」
    「リズが巣に近づきすぎた! まずい、ロックオンされてる!」

    はぁ? あの馬鹿野郎が……!

    「あわわわ……た、助け……」

    スノードラゴンの牙がリズを襲う。
    その直前に、リズの前に立ち、牙を刀で弾く。

    ガキィィン! 怯むと同時にスタン攻撃を浴びせる。

    「ほら、立て。さっさと転移結晶使え」
    「で、でも……」

    ドラゴンが翼を大きく振りかぶり、強風を起こした。
    まずいっ……! 確かこの下にはーーーーーー!

    「エイトマンーーーーーー!!」
    「きゃ!? きゃああああ!!」
    「くっ……くそっ……たれ!」

    ステージトラップ、大きな穴。
    そこに落ちるリズーーーーーーの手を、掴んでキリトの方に投げ飛ばす。

    「リズ! キリトの方に行け!」

    人を引けば反作用で自分が前に出る。
    つまりーーーーーー俺が落ちる。

    「え、エイトマン……!」
    「リズ! こっちに!」

    キリトとリズの声が薄くなる。
    どんどん下に落ちていくのがわかる。

    これってステージトラップだから、死にはしないよなぁ、上がれるかなぁ。

    そして、視界が暗転したーーーーーー。
  74. 79 : : 2016/12/04(日) 21:40:18
    「…………ん……暗いな……」

    落ちてからどのくらい経った?
    倒れた状態のまま、上を見るとまだ雲に覆われている空が見えた。

    「そんな時間は経ってないか」

    よく耳をすませば、キリトの声も微かに聞こえる、多分本当にほとんど時間は経っていないんだろう。

    「《暗視》……よし、バッチリ見える」

    こんなところで使える素晴らしいスキル。ありがたや。
    周りを見渡すと色々散乱している。
    なんか肉とか置いてあるし……餌?
    その隣には…………これはまさか。

    「卵……だと……」

    多分ここ、ドラゴンの巣だな。うん。

    「……持ち帰ることできねぇかなぁ……」

    ドラゴンの卵がどれくらい貴重かわからんが、取っておいて損は無いはずだ。
    卵に近づき、手を触れる。

    「うおっ」

    ステータス画面が出た。
    《スノードラゴンの卵》か、いや知ってるわ。

    「アイテムストレージには……入らないか」

    恐らく運び出してからストレージに入れられるタイプだろう。
    ドラゴンの巣に入らないと手に入らないアイテム、絶対貴重だろ。

    「よし、紐で括りつけるか」

    せっせと、ストレージから取り出した紐で俺の腰と卵を括る。
    キュッ、と縛り、少し歩いてみる。
    卵は引きずられてるが、まあドラゴンの卵だし強いだろ。
    なかなか固く縛れた、持ち出す準備はバッチリだ。

    「さて、後はどうやって出るかだな」

    そこで俺は、まずいことをしてしまったのではないかと悟った。
    質問するぞ。
    ここはどこだーーーーーードラゴンの巣だな。
    これは何だーーーーーードラゴンの卵だな。
    もう一つ質問するぞ。

    これから、何が起きるーーーーーー……君のような勘のいいガキはーーーーーーグオオォォォッッ!!
    ドラゴン来たぁっ!

    なんでだよ! キリトはどこ行った!
    いつの間にかキリトも転移して帰ったみたいだ、おい助けろよ俺。

    これやばいだろ! 見知らぬやつが巣に来て卵持ち去ろうとするとか激おこ間違いなし!
    あたふたする俺を無視してドラゴンが空から落下、いや飛び降りてくる。

    こうなったら一か八かだ。ドラゴンの背中に飛び乗る!

    「うおおおっ!!」

    タイミングを合わせて、落下してくるドラゴンの翼にしがみついた。

    「グオオオォォォッ!」

    ドラゴンが俺を見失ったのか暴れる。いや翼にいます。
    隠蔽スキルを使い、バレないようになんとか背中によじ登る。

    「ふぅ……背中ならドラゴンも見つけられないだろ」

    灯台もと暗し。お前にピッタリな言葉だスノードラゴン。

    しかし、よく見てみるとこいつ、HPバーがあと1つしかないな。キリトがある程度削ったのか?
    1人だと倒すのが面倒とか無理とか言ってたもんな……。

    そんなことを考えていたら、ドラゴンが巣を飛び出た。
    うおおおっ!! 重力に逆らう感じすげぇ、エレベーターの高速バージョンみたいだ。

    はっ、巣から出たってことは……!

    「よし、卵仕舞える! あとは……転移結晶も使えるみたいだな」

    早速転移して帰ろうとした俺の脳裏にある事が思い付く。

    「《抜刀術》の威力、せっかくだし試すか」

    かなりの高さまで飛び上がっているドラゴンの背中に立ちながら考える。
    ここからなら、例え落ちても落下中に転移はできるはず。
    よし、やるか。

    「ふぅ……ーーーーーー」

    深く息を吐く、呼吸を整える。

    「行くぞ」

    抜刀術スキル《居合》

    刀を抜き、その勢いのまま切りつけ、再び納刀。

    叫ぶドラゴン、まだ削りきれないか。
    初級スキルじゃそんなもんだよな。
    でも、《抜刀術》のスキルは続けて次の技に繋げることが出来る。

    納刀するモーションの最中に、次のスキルの発動を促す。
    身体が動く、アシストによって身体が勝手に次の動作を終える。

    「弐ノ太刀《稲妻》」

    その名の通り、稲妻の如く敵へと迫り、一太刀で斬り捨てるスキル。ちなみに、弐ノ太刀の部分はオリジナルだ。
    その威力は、ドラゴンの首さえも落とした。

    「やっぱ、恥ずかしいなこのスキル」

    ドラゴンを倒したことで素材などがストレージに入ったのを確認した。しっかりクリスタルインゴットも手に入っている。
    俺は落下しながら転移結晶を使った。
  75. 80 : : 2016/12/04(日) 21:41:34
    「ふぅ……」

    家に着いた途端、だらけてしまった。
    どのくらいだらけたかと言うと、ライオンのオスでもこうはならないレベルのだらけさ。まじ俺百十の王。

    「ん? メッセージか……」

    視界の端でメッセージアイコンがピコピコ光っている。そんなにピコピコするなよ、リンゴにペン刺すぞ。
    メッセージを確認する、キリトからだった。

    『エイトマン、いつの間に脱出したんだ』

    助けろよな、本当……。
    続けてメッセージが来る。

    『助けに行こうとして、お前の居場所を確認したらいつの間にか48層のお前の家にいることになってるんだから、ビックリしたぞ』

    ああ……助けるためにもう一度行こうとしたのね。

    だらけきった俺は返信をする。

    『勝手に脱出した。スノードラゴン討伐素材は俺のもんな、明日リズに武器作ってもらうから話つけといてくれ、おやすみ』

    ベッドで仰向けになり、目を閉じる。
    再びメッセージが来たが、俺は開かずにそのまま寝た。

    …………まあ、クリスタルインゴット、少しくらいは分けてやるか。



    『スノードラゴン倒したのか? 流石だなエイトマン。リズには話つけておくよ、てかもう寝るのか。おやすみエイトマン』

  76. 81 : : 2016/12/05(月) 15:26:39
    「エイトマン……あんたって強いのね」
    「スノードラゴン倒せるくらいにはな」

    本当は残りHPが少なかったからなんだけど……まあいいや。

    「そ、その……落ちる前に助けてくれて、あ、ありがと……」
    「おかげさまでスノードラゴン討伐できたし別にいい」
    「そ、そう? ならいいわよね!」

    手のひら返しが早いやつだ。政治家にでもなったらどうだ。

    「そうだ、これからは私のことリズって呼んでもいいわよ! ……ほ、ほら、助けてくれた時だって……」
    「あん? なんだよ、もっと大きい声で言えよ」
    「だ、だから、り、リズって呼んでも……」
    「聞こえないぞ」
    「も、もういい! ほら! 素材渡して!」
    「わかったわかった。ほらよ、リズ」
    「ふーんだ、適当に作って……って今」
    「適当に作るのか、へぇー……」
    「う、嘘よ! ちゃんと作るから!ほら、キリトのだってちゃんと作ってるわよ!」

    店の外でブンブン剣を振っているキリトを指さしながらリズは言った。
    ほうほう、あの水色? 青色の武器かそれか。
    俺のはどうなるんだろうか。

    「何か希望することってある?」
    「会心と攻撃力が高いやつ、なるべく軽く」
    「わかったわ」

    いつになく真剣な表情でリズは店の裏に入って行った。……やっぱ武器作るのって大変なのか。

    それから、約十分ほど。
    リズが出てきた。
    手には、キリトと同じような色の刀を持って。

    「どう……かな」
    「…………俺の宗三左文字よりステータスが高い……魔剣クラスの武器だ」

    スノードラゴンの鱗とクリスタルインゴットを使った武器だ。そりゃ強くなるに決まっている。
    でも、鍛冶をする人のスキルにも依存しただろう、この強さは。

    「リズ、ありがたく使わせてもらうぞ」
    「ふ、ふふ……どうよ、私の凄さは!」

    緊張が途切れたのか、リズの態度がいつものに戻った。まあそっちの方が絡みやすい。

    「本当にサンキューな。これで攻略もしやすくなった。……そういやこの武器の名前は?」
    「えーと……Aster Shine……アスターシャイン……」
    「紫苑の輝き、って意味か。この刀に合うな」

    紫苑色をした刀が光を反射する。
    それがどうにも眩しくて、俺は目を細めてしまう。

    「刀の武器なのに英語って……い、違和感、あるかな?」
    「別にいいと思うが、多分これからは《紫苑》って呼ぶだろうし」
    「そそそうよね! 別に無理してアスターシャインなんて呼ばなくてもいいものね!」

    そ、そうだな……何を焦ってるんだこいつ。

    「まあ、色々サンキューな。また機会があったら鍛治頼むわ」
    「! ……えぇ! 任せなさい!」

    ドン! と胸を張るリズ、男らしい!

    「キリト、いつまでも振ってないでどっかでモンスター斬りに行くぞ」
    「エイトマン。どんな武器になったんだ?」
    「魔剣クラス。試し斬りと並行して迷宮攻略するぞ」
    「おお……エイトマンがやる気に……って魔剣クラス!? ……あっ、そうか。ドラゴンの素材も使ったのか……」

    後ろを見ると、リズが手を振っていた。
    俺も振り返す。
    恥ずかしいな、こういうのって。
    それを隠すように、俺はキリトと共に迷宮へと向かった。
  77. 82 : : 2016/12/05(月) 15:40:13
    祝:300観覧突破
    需要の無さそうなこのカテゴリーで300観覧数は嬉しいです。引き続き書き続けたいです
  78. 83 : : 2016/12/06(火) 17:47:38
    リズから刀を貰ってから数日が経った。
    結局、まだ迷宮は突破できていない。
    キリトは今日も迷宮に行くようだ。俺も誘われたが断った。
    なんでかって? ……こいつをどうするか考えるためだよ。

    《スノードラゴンの卵》

    ……本当にどうすっかな。

    当初の予定じゃ、売ったりして資金にしようとしてたわけだが、問題がありましてね。

    売 る 相 手 が い な い ! !

    そう、売る相手がいないんだ。
    ここでまさか俺の友人関係の狭さが仇になるとは。
    とりあえずアルゴにメッセージを送り、家まで来てもらうことにした。アルゴなら有力な情報をくれるだろう。……金さえ渡せば。

    ーーーーーーと、呼び鈴が鳴った、アルゴが来たな。

    「エー坊、来たゾ」
    「急にすまん、上がってくれ」
    「エー坊に呼ばれるなんて何か問題でもあったダロ? オネーサンに任せロ」

    フフン、とドヤるアルゴ。
    単刀直入に俺は聞いた。

    「スノードラゴンの卵って、どうすればいいと思う?」
    「ぶっ……今なんて言ったんダ?」
    「ドラゴンの卵を手に入れたんだがどうすればいい」
    「ドラゴンの卵カー、……ドラゴンの卵!?」

    空いた口が塞がらないアルゴ。そんなに驚くなよ……。

    「そ、そんなもの……どこで手に入れたんダ!」
    「たまたまスノードラゴンの巣に入ってな、その時にだ」

    言いながら、スノードラゴンの卵を見せる。
    アルゴはまじまじとそれを見る。

    「……売ったりはしないのカ?」
    「売れたらお前を呼んでない、俺の交流関係の浅さと狭さ舐めんな」
    「……せっかくだし茹でたりしたらどうダ? 食えるかもしれないゾ」
    「舐めてんのか」

    食わねぇよ、ドラゴンの卵を調理できる料理スキルの持ち主とかいんのかよ。
    でも、茹でるのはともかく温めるってのはありかもしれない。

    「これって孵化すんの?」
    「見た限りだと……この表記が怪しいナ」

    アルゴが指さした画面を見る、0/100と表示されていた。
    ふむ……。

    「とりあえず温めてみるか、どうする? 毛布でもかけるか?」
    「いいんじゃないカ? それにしてもドラゴンの卵カ、俺っちも初めて見たゾ」
    「俺もだ……ん? 0から1になってるぞ」
    「やっぱりこれが孵化までの時間みたいなもんだナ。どうするんダ? 育てるのカ?」

    言われて悩む。
    もし孵化したら俺が育てなければならないだろう。
    だがよく考えろ、ドラゴンだぞドラゴン。
    初めは小さくても後々大きくなる。家に入らないぞ。いやそこかよ心配するところ。
    そもそも俺を親として認識してくれるか……。

    「ビーストテイマーだっているんダ、ドラゴンテイマーがいたって不思議じゃないゾ」
    「…………まあ、拾ってきたのは俺だからな。最低限面倒は見ることにする」

    そう言うとアルゴはニヤリと笑う。

    「いいネタをありがとナ、記事にするゾ」
    「おいやめろバカ、俺は目立ちたくねぇ。これは俺とお前だけの秘密にするつもりだ」
    「フーン、俺っちとエー坊だけの秘密ネェ……」

    白い目で俺を見てくるアルゴ、なんだよその目……やめろよ怖いだろ。

    「わかっタ。今回だけは特別に見逃してヤル」
    「おお! ありがとな、やっぱりアルゴは話が通じーーーーーー」
    「1500コルでナ」
    「…………だと思ったよ」

    わかってたよこんちくしょう!
    渋々1500コルを払う。
    「毎度アリー」と俺の家を出ていくアルゴ。
    …………呼んだ意味あったよね?
  79. 84 : : 2016/12/07(水) 16:22:58
    卵はとりあえず毛布を掛けて温めて、屋根裏に置いておくことにした。
    順調に今数字が増えてきている、産まれるのも時間の問題だろう。
    それまで暇だ、何しよう。……そういえばキリトは迷宮に行ってるんだよな、俺も行くか。

    俺が自分から進んでこんなに働くなんて、明日は槍でも降るんじゃない? ていうか反動でリアルに戻ったらニートになりそう……。
    働いたら負けだ。

    ーーーー

    迷宮までの道のりで森を通過する。
    この森には様々なモンスターがいる、中にはS級の食材もーーーーーーうぉっ!?

    目の前にナイフが飛んできた。それを慌てて避ける。
    すぐに"薬研"を手に取り戦闘態勢に入る。
    この武器、リーチ短いけどスピードが極端に早いからサッと取り出せて便利なんだよな。

    「すみません! まさか人がいるとは……ってエイトマン!?」
    「ゴメンで済んだら警察はいらないだろ、全く……ってキリトか、驚くな、俺もびっくりしちゃうだろ」
    「すまん! お前隠蔽高すぎるんだよ……ってそれよりあそこにーーーーーーいた!」

    それよりで俺のことを済ますな、泣いちゃうだろ。

    というか、キリトは何を探してるんだ?
    視線の先を追うと、うさぎのモンスターが……あー、あれS級食材のラグーラビットだわ。

    「次こそ…………ふっ!」

    キリトが投擲スキルでラグーラビットを狙う。
    だが狙いが逸れたのか、ラグーラビットに刺さらず、近くの地面に刺さってしまう。

    「キュゥ!」

    それに驚くラグーラビット、飛び上がって今にも逃げ出そうとする。
    このままじゃ逃げられるんじゃないのか?
    そう考えた瞬間、俺の身体は勝手に動いた。
    《抜刀術》は使ってないが、まあこの距離ならシステムアシストなしでも近い行動は取れる。
    刀スキル《居合》に似た動きで《絶剣》を使う。
    そして、そのままラグーラビットを真っ二つにした。

    「やったぞキリト、今夜は兎鍋だ」

    手に入れたラグーラビットの肉をキリトに見せる。

    「はは……相変わらず速いなぁ」

    キリトは二本目の投擲準備をしていた。
    あっ、二本目でトドメ刺す気だったのか……。キリトはそれを仕舞うと苦笑いで答えた。
  80. 85 : : 2016/12/08(木) 21:44:53
    「なんでアスナが……」
    「何よ、私がいると悪いの?」
    「いやそんなことないです」

    俺の家には、現在キリトとアスナがいる。何故だ……。
    俺の料理スキルでラグーラビットを調理しようとしてウキウキしてたら、帰り道にアスナに捕まって、キリトがS級食材をゲットしたって言ったからだな。口軽すぎるわ。

    「エイト君の料理スキルじゃ何が作られるかわかったもんじゃないわね、私が作るわ」
    「おまっ……なりたけのラーメンとMAXコーヒーを作るためにどんだけ俺が頑張ったか……!」
    「私コンプリートしたし、料理スキル」
    「アスナシェフ、料理はお任せしました」
    「エイト君の家、結構調理器具揃ってるわね、助かるわ」

    鼻歌交じりに料理を始めるアスナ。
    俺はキリトの方をチラリと見る。
    キリトはソファに座ったまま、自分のステータスを見ていたようだった。今更何見てるんだ……。
    ていうかコート脱げよ。

    「いつまでそんな格好してるんだよキリト。てか今更ステータス見ててどうした」
    「いっ、いや、なんでもない……!そ、そうだな、コート脱がないとな、はは」

    何を慌ててるんだ……。

    ちなみに、ドラゴンの卵はまだ半分ほどだった、結構時間かかるな。

    「出来たわよー」

    そう言って、アスナが料理を持ってくる。
    この匂いは……シチューか。

    「キリト君、いつまでも座ってないでこっち来てよ」
    「あ、ああ……」

    オドオドした状態のキリト……ははーん、女の子の手料理を食べるのなんて初めてです! ってことだな! 残念だな俺は既に小町の手料理を食べまくってるから耐性付きまくってるぜ!(ただしぼっち)

    「どう調理しようか悩んだんだけどね、ラグーなんて言うくらいだしやっぱり煮込んだわ」
    「へぇ、シチューか。美味しそうだな」
    「ほら、エイト君早く座って。どうぞ、召し上がれ」
    「…………いただきます」

    スプーンに手をつけ、シチューを一口分掬って食べる。

    「……美味しいな」

    そんなに下が肥えてるわけじゃないが、善し悪し程度わかる。これはかなり美味い、料理スキルコンプリートの称号を持つだけはある。

    「シチュー以外も作ったからどんどん食べてね」
    「アスナは強いのに料理まで上手いんだな」

    おっと、キリト君が早速ラノベ主人公を始めましたね。
    2人が仲良く話す中俺は影になる、僕は影だ……。

    だけど、友達がいる食事も、案外悪くは無い。


    ーーー
  81. 86 : : 2016/12/08(木) 21:50:51
    八幡(黒子ver)
    流石、二つ名に影が付くだけあるw
  82. 87 : : 2016/12/08(木) 21:51:00
    「ご馳走様でした」
    「お粗末様でした」
    「いやー、美味しかった」

    キリトが紅茶片手に満足気に言う。
    アスナも嬉しそうだった。ここでイチャイチャはやめてくださいね……。

    「さて、食べるもん食べたしもう用はないよな」
    「何ですぐに帰宅させる発言するのよ、まだ用はあるわよ」

    フォークを弄びながらアスナは言う。

    「聞きたいんだけど、エイト君はいつまでソロプレイするつもりなの?」
    「…………ぼっちに何言わせるんだ」
    「本当にそれが理由なら私が組んであげようか? パーティー」
    「それはいい提案だな……だが断る」
    「ぶっ」

    キリトが吹き出す、突然のジョ○ョネタについ吹き出してしまったのか。アスナはキョトンとしている。
    吹いてしまったことを取り消すかの如く、キリトが提案して来る。

    「そうだ、エイトマンも月夜の黒猫団に入るか? エイトマンがいれば心強いな」
    「キリト、お前クラン入っててもソロプレイに近い動きしてるじゃねぇか……」
    「そりゃまだ攻略組に入れるレベルには達せてないだろうからな」
    「お前の大丈夫の基準が高すぎるんだよ、十分強いだろ」
    「はい、話を逸らさないのエイト君」

    ピシャリと言われる。このままなんやかんやで終わらせようとしたが、アスナはそんな気毛頭ないようだ。

    「はぁ……1人の方が気が楽なんだよ」
    「ふーん…………最近エイト君、何か隠してない? 迷宮で会ったときも微妙に違う動きでスキル使うし……」
    「それは俺も思ったな、なんかいつもより速い、というかなんというか……上手く言えないが」

    何でそんな微妙なことがわかるんだよ、どんだけ俺のこと好きなの?
    まあ、多分《抜刀術》の使い過ぎが原因だろうな。最近、雑魚相手には《居合》で速攻倒してるから身体がそれを覚えちまったんだろ。
    いつもの要領でやろうとするとつい《抜刀術》使いそうになるから、慌てて動きを止めたりするからなぁ。ソロプレイの時は安心して使えるんだが、スキル熟練度の問題もあってバシバシ使ってるぞ。
    だけどキリト達の前じゃ隠さなきゃダメだからなぁ……シリカは刀スキルの一種だと誤魔化せたが、攻略組のこいつらは誤魔化せないからなぁ。
    バレたら面倒だろうし。

    「………………気のせいだろ」

    長い長考の末、そんな言葉を発する。

    「その長い空白の間に何を考えてたんだ?」
    「空は何故青いか、だな」
    「ここでそんなこと考えるのか!?」

    キリトは割とお馬鹿な子だった。
    だがアスナはそうはいかない、今回は食い下がってくれたが、尚も俺を疑う視線は消えなかった。

    「それじゃ、俺達はこの辺で帰ることにするよ」
    「そうね、あんまり長居しちゃあれだものね」
    「おう、帰れ」

    アスナ達が家を出る直前、そうだ、これは言っておかないとな。

    「あー、アスナ」
    「……何? エイト君」
    「えーっと……その、シチュー美味かった、ありがとな」
    「………………え、えぇ、どういたしまして」

    あちゃー、アスナめっちゃビックリしてたよ。
    キモがられたかな……そうだとしたら悲C。

    「じゃあな」
    「じゃあね」
    「またな」

    ガチャり、とドアを閉めた。


    ーーーアスナsideーーー

    「…………」

    何かがおかしい、エイト君は。
    絶対に何かを隠してる、パーティーになってなんとかそれを暴こうとしたけどやっぱり対人防御固いわね……。

    「あんまり詮索はするなよ、アスナ」
    「……! ……そうね。スキル詮索はご法度だものね」
    「ああ……」

    キリト君も、か。
    考えてもわからないことをいくら考えても意味が無い。
    今考えるべきことは、74層の突破のこと。
    そのために何をするのが最善かーーーーーーチラリとキリト君を見る。
    キリト君と目が合う、「?」マークを浮かべるキリト君に私は言った。

    「私とパーティー、組まない?」
  83. 88 : : 2016/12/08(木) 21:53:27
    >>86
    八幡(影)がいるからキリト達(光)が際立つんですね。まあ最近は八幡も光になりつつあるんですけど(素早さ的な意味でも)
  84. 89 : : 2016/12/10(土) 18:16:38
    ーー八幡sideーー

    「ふあぁ…………」

    大きな欠伸から始まる俺の一日。ニワトリもコケコッコー言ってるであろう。心のなしかひよこのようなピヨピヨ声も聞こえる。
    まだ重たい瞼を擦りながら俺は朝食の準備をする。
    朝飯はキチンと食べないとな。

    この世界の料理はつまらない、材料ぶっ込んで終わりだものな。
    あれ、現実で作る俺の料理もそんなもんだよな、あんまり変わらねぇ。ならいいか。

    ピィピィ。

    コケコッコーじゃなくてヒヨコの声ばかりするなぁ。ヒヨコとも微妙に違うが。

    朝飯を食べ終わり、服を着替える。
    もう着慣れた紫色のコートに袖を通す。

    ピィピィ。

    うん、まだ声がするよ全く。

    実はひよこが俺の家に入ってきたんじゃないのん? ていうかこの世界にひよこいるの? ドラゴンに捕食されるよね絶対。

    ふむ、屋根裏の方から声がするな。

    抜き足差し足忍び足……いや、別に《忍び足》は習得してないけどな。

    屋根裏に登る。結構登るところが狭い。
    アルゴよく登れたなぁ……いや、身体が小さいからか。
    ピィピィの声の先に向かう。埃臭いな、こんなところまで再現してるのかよ。

    「ピィピィ!」

    な、なんか威嚇されてる! ……ん? なんだこれ。

    「毛布……?」

    なんでこんなところに毛布が…………あっ。

    ーーー
    卵はとりあえず毛布を掛けて温めて、屋根裏に置いておくことにした。
    順調に今数字が増えてきている、産まれるのも時間の問題だろう。
    ーーー

    「あっ」

    この先にいるピィピィの声の主って、まさかーーーーーースノードラゴンの子供!?

    「ピィ! ピィピィ!」
    「うるせえ」

    捕まえた。
    この暗い中じゃよく見えないが、《暗視》スキルで姿を確認する。
    銀のような綺麗な色をした羽毛が生えている、シリカのピナに似ているが少し違う。
    まさしく、この前見たスノードラゴンか小さくなった感じだ。

    こうして俺は、ドラゴン(子供)をゲットしたのであった。…………本当にどうしよう。
  85. 90 : : 2016/12/10(土) 19:13:52
    期待です
  86. 91 : : 2016/12/10(土) 20:14:57
    >>90
    ありがとうございます。

    「ピィピィ!」
    「…………」

    無言でこの小ドラ(小さいドラゴン)を見つめる。
    こいつはペットみたいなもんだろ、飼育方法とかあるのかわからんが。
    まあ、こういうのはプロに任せるべきだ、俺のフレンドでペットのプロと言えば……シリカだな。
    キリトにレッドギルドのことを伝えられた時にシリカとフレンド交換したのだ、俺リア充じゃねぇの、女子のメールアドレス持ってるとかまじリア充。

    『シリカ、今暇か?』

    とりあえずメールを送ってみる。あんまり長いと気持ち悪がられそうだからな……簡潔にな。
    相手の都合のことも考えてこのメッセージだ、ふふ……俺のコミュ力もなかなか高くなってきたな、ステータスに表したら200/1000くらいあるんじゃないのか、てかそれ5分の1じゃねぇか。
    ……と、メッセージが返ってきた。

    『どうしたんですかエイトマンさん? 特に急ぎの用事はないです』
    『シリカにしか頼めない用事があってな、もし良ければ俺の家に来てくれないか?』

    ……今度はなかなかメッセージが返ってこないぞ、やっぱり家に誘うとか気持ち悪いのか! そうなのか!?

    『私にしか頼めない用事ですかわかりました今行きます』

    「、」使えよ。何急いでるんだ。
    まあ気長に家で待つことにするか……っとまたメッセージが。

    『エイトマンさんの家、どこですか(´;ω;`)』

    ……キリト達が当たり前のように来るから皆知ってるもんだと思ってたよ。
    シリカが常識人でホッとした。
    ちゃんとこのあと迎えに行った。

    ーーー

    「ここがエイトマンさんの家なんですね……!」
    「お、おう……まあ上がれよ」
    「お邪魔します!」

    妙に気合い入ってるなー。

    「そ、それで、私にしか頼めないこと……ってなんですか?」
    「…………驚くなよ」
    「は、はい!」

    俺が真面目な顔で言うとシリカも引き締まった顔で答える。その心意気やよし!
    部屋から小ドラを連れてくる。

    「これだ」
    「はい……はい?」
    「キュウ……?」

    シリカと小ドラが見つめ合う。ちなみにお互い頭の上に「?」が浮かんでいる。

    「あ、あの、これなんですか?」
    「……スノードラゴンの卵から孵化した」

    正直に答える。嘘ついたって意味がない。

    「シリカはビーストテイマーだろ? だから、こいつの躾方を教えてくれないかと思ってな」
    「た、確かに私はビーストテイマーですけど……」
    「竜使い・シリカさん! 頼みます!」

    俺が土下座せん勢いで頼み込むとシリカもおどおどし始める。

    「そ、そんな、頭を下げないでください!」
    「じゃあ、教えてくれるのか?」
    「…………いいですよ。但し、条件があります」
    「…………なんだ」

    金か? アイテムか?

    「エイトマンさんじゃ長いので、エイトさんって呼んでいいですか?」
    「へっ? ……そんなことでいいのか?」
    「いいんですよ。……それとも、嫌、ですか……?」

    途切れ途切れに言うシリカ、上目遣いでこっち見んなやめろよ堕ちちゃうだろ。

    「じゃあ、よろしくシリカ」
    「はい! ドンと任せてください、エイトさん!」

    友好の証の握手を俺たちは結んだ。
  87. 92 : : 2016/12/11(日) 17:08:41
    「とりあえずこの子に名前を付けてあげましょう」
    「名前か……」

    名前ねぇ…………ピナみたいなのを付ければいいのか?
    出来ればコマチとかトツカって付けたいところだが……。

    「ピィ?」

    やめろ、クリンとした目で俺を見るな、可愛いじゃねぇかちくしょう。

    「簡単なのでいいんですよ? 私はリアルで飼ってる猫の名前にしました。ね、ピナ」
    「キュウっ!」

    ほー、そんな簡単に決めていいのか。

    「じゃあ……ハチで」
    「なるほど、"エイト"マンだからですね!」
    「バレるの早いなおい」

    ハチと名付けると、目の前にウィンドウが開かれる。

    『"ハチ"で宜しいですか? Yes← No』

    「それYesにすると、これから呼んだら反応してくれますよ」
    「わかった」

    Yesを選択。
    そうすると、右上の俺のHPバーの下に新たなHPバーが出てくる。
    これが"ハチ"のHPバーか。

    「あっ、見えましたか? HPバー」
    「ああ、しっかり見える」

    恐る恐ると、「ハチ」と呼んでみる。
    小ドラが反応して、俺の方を見る。

    「キュウ!」
    「……これからよろしくな」

    そう言って頭を撫でると、くすぐったいのか身をよじらせるハチ。それにしてもハチって犬につける名前だよな、これ大丈夫か。

    「あとは育成方法とかなんですけど~〜」

    その後、シリカから育成方法、餌、戦いなどを教えて貰った。

    ーーーー

    「このくらいですね、私が知ってるのは」
    「いや、このくらいってレベルじゃないだろ。本当に助かる」

    ハチは俺の肩の上を動き回るほど懐いていた。短期間で懐きすぎ。

    「っと……すまん、メッセージが」

    ピコん、とメッセージが届いたので、シリカに一言入れてから開く。
    キリトからだった。

    「ーーーーーーまじかよ……」
    「どうしたんですか? エイトさん」
    「すまんシリカ。超急用ができた、この埋め合わせは必ず今度する」
    「えっ? わ、わかりました!」

    慌てて家を飛び出す俺、そのまま74層の迷宮へと向かう。
    キリトから送られたメールには74層のボスまでのマッピングデータ、それとーーーーーー。

    『軍がボスに挑んでいる』

    この一文、恐らく時間なく最低限の文字にしたんだろう。
    多分、伝えたかったことはーーーーーー『ディアベル反対勢の軍が、ボスに単独で挑んでいる』、だ。

    「……クソが」

    歯ぎしりしながら俺は全速力で駆けた。
  88. 93 : : 2016/12/12(月) 09:44:35
    「邪魔、だっ!」

    躊躇する素振りすら見せずに刀が一閃を走る。
    トカゲソルジャーは真一文字に切り裂かれる。

    キリトに渡されたマッピングデータによるとそろそろボス部屋だ。

    うわあああっ!! という叫び声が耳に届く。ボス部屋が近い!

    「ーーーーーーいた!」
    「アスナ! クライン! 10秒時間稼ぎ頼む!」

    キリトが後ろに下がりステータス画面を操作している。軍の奴らは中にいるみたいだ。
    ボスの名前は『The Gleam eyes』
    羊の頭をしている、悪魔型モンスターか!?

    「きゃあっ!」

    アスナがボスに吹っ飛ばされる、見た目通りパワーも高いみたいだ。

    「おらぁっ!」

    クラインが斬りかかるが、あえなく吹き飛ばされる。
    そしてボスの目にはキリトが映る。

    「キリト君!」
    「しまっーーーーーー」

    まずい、まずいまずい!
    《抜刀術》を使うべきか!?
    でも、キリト達の前で使ってしまったら、絶対バレる。ーーーーーーなんて考えてる場合じゃねぇ!!

    「もう、どうにでもなれっ!」

    即座に《抜刀術》スキル、《居合》を使う。
    今にもキリトに襲いかかろうとするボスの腕をぶった斬る。

    「グオオオッ!!」
    「エイトマン!?」
    「早くしろ! 10秒はもう経つぞ! ーーーーーーくっ!」

    《居合》に続けて、弐ノ太刀《稲妻》を使用する。

    「ギャアアアアア!!」

    両腕に麻痺効果を付与できた、これで当分時間稼ぎはできるはずだ。

    「エイトマン! 下がれ!」

    キリトの命令通りすぐに下がる。俺と入れ替わるようにしてキリトがボスの前に立つ。
    麻痺効果が切れたボスがキリトに切りかかる。
    それを右手の剣で間一髪で防ぐキリトーーーーーー左手で握っている剣でボスを切りつける。

    「な、なんだありゃあ……」
    「惚けてる暇があったら、早く援護しろ、それか軍の奴らを外に運べ!」

    キリトの二刀流のスキルが終わるタイミングで俺の《居合》を浴びさせる。
    連続攻撃によってボスが動けないでいる。

    「エイトマン……まさか……!」
    「余計なことは考えんな! 目の前のこいつを倒すことに集中だーーーーーーっ!」

    《居合》《稲妻》を順番に浴びせる。
    ボスがスタンする。

    「スターバースト……ストリーム……!!」

    二刀流の脅威のスピードで剣が振り抜かれる。
    2.4.6ーーーーーー16連撃の大技か!
    大技なら、硬直も長いーーーーーーが、俺ならカバーが出来る。

    何も《抜刀術》のスキルは2つしかないわけじゃない。あの2つは使いやすいんだ。

    《大袈裟》ーーーーーーなんの抵抗もなく刀が通り抜ける。

    「らああぁっ!!」

    抜刀術スキルから繋げるこの技は、相手の肩から刀が入り、胴体部分までを切り裂く。
    鞘に納めた状態からでは使えない、唯一の技だ。

    「グオオオオオッッ!!」

    ボスのHPバーが、ぐんと減る。
    大技のため、俺の硬直も長い。
    ボスの目が俺を捉えた。
    その目を睨み返す。

    「俺を見てんじゃねぇよ」

    お前が見るべきなのは、俺じゃねぇ。

    「はああああ!!」

    硬直が解除されたキリトの、2回目のスターバーストストリームにより、ボスは倒された。

    《Congratulations》
  89. 94 : : 2016/12/12(月) 18:04:00
    期待です❗
  90. 95 : : 2016/12/13(火) 16:44:01
    >>94
    ありがとうございます!


    「倒した……のか……?」

    キリトがふらつきながら言う。
    それに対して俺は無言で頷くだけだ。
    安堵した表情になるキリト。それと同時に力が抜けたのかよろめく。
    そのキリトを支えるアスナ。

    「本当に、馬鹿なんだから……! 死んじゃうかと思ったんだからね……!」

    アスナに怒られる俺とキリト。
    現にキリトと俺はHPが黄色ゲージになっている、ボスの攻撃がモロに入れば死んでいたかもしれない。

    「今更、終わったことを悔やむなよ、今は勝てたことを素直に喜べ」

    アスナにそう言い、俺はポーションをグビッと飲む。
    HPが満たんになるのを確認してから、ドカりと床に座る、流石に疲れているようだ。

    「はぁーーーーーーっぶふぉっ」

    大きな溜息をつきながら伸びをしていたらクラインに腹を叩かれた、なんだよ。
    ジロりと目だけで訴えかける。

    「流石エイトマンとキリトだ! てめぇらなら勝てると俺は思ってたぜーっ!」
    「お、おう……」

    なんだこいつ、普通にいいやつだな。ノリは戸部に似てる。てか戸部って誰?

    「それはそうと二人共、なんだあのスキルは!?」

    前言撤回、全然いいやつじゃねぇ、戸部に似てるなら空気も読めよ。

    「そうよ、急に剣を2本出したりして、エイト君のスキルなんか刀スキルじゃないでしょ!? 見たことないわよ!」
    「…………言わなきゃダメか?」
    「さて、俺はここら辺で帰るとするか」
    「逃がさないわよエイト君」

    肩をがっしり掴まれる、あの、食いこんでます痛いです。

    「はぁ……二刀流スキル。出現方法はわからない」

    周りの軍のヤツらがざわめく。「二刀流!?」「なんだそれ、エクストラスキルか!?」取り巻きうるせぇ。

    「そうなんだ…………道理であんな動きを……」
    「キリトすげぇな、あっ、俺は刀スキルなんで関係ないですよね」
    「そんなことないだろー? 刀使ってる俺様でも見たことないぞ!?」

    ちっ、刀使いがここにいたか。
    流石にもう隠し通せないな…………仕方ない。

    「抜刀術だ、エクストラかユニークかは知らん」
    「抜刀術……!?」

    またざわめく周りのヤツら。

    「もういいだろ、これ以上話せることはない。出現方法も条件もわかっちゃいないんだ」

    キリトも頷く。

    「ボスは倒した、誰か情報屋に伝えといてくれ。俺は疲れた」

    重い身体を無理に動かし、立ち上がる。
    んっ、と伸びを一回してから、俺は転移結晶でさっさと家に帰った。
  91. 96 : : 2016/12/13(火) 16:44:39
    オリジナルキャラクターが出ます。別にチートキャラというわけでもないで大目にお願いしますm(*_ _)m
  92. 97 : : 2016/12/13(火) 21:48:09
    「なんだよこれ」

    74層ボスを倒した次の日。
    号外がデカデカと配ってたから俺もつい受け取ってしまったが、そこに書いてあるものを見てギョッと目を見開いた。

    「『脅威の50連撃スキル!?』『一撃必殺、幻の抜刀術!』……はぁ?」

    50連撃? 一撃必殺? いやいやいや……。
    流石に尾ひれがつきすぎだろ、ボスの腕をワンパンで斬り落としたとかないない。

    どうやら相当のデマが広がっているようだ。

    「気に入ってくれたかい、影君」
    「…………誰だ」
    「おやぁ、僕のことを知らないのか?」
    「知らん、少なくとも攻略組ではないな」
    「はは、これは失敬。僕はカレーン、まあ気軽にカレンとでも呼んでくれよ」
    「何の用だカレンダー」
    「カレーン、だ。あれっ? これじゃカレンダーに……」

    ブツブツ言い始めるカレンダー野郎。悪いやつ……ではなさそうだ。
    が、一応いつでも逃げられる準備はしておく、圏内だからと言って必ずしも安全というわけじゃないんだ。

    「そんなに身構えなくてもいいよ、僕じゃ君には勝てない」
    「話を戻すぞ、何の用だ。カーレン」
    「強いていうなら……その記事の作成者、かな?」

    俺が手に持っている号外を指差して、微かに笑う。
    この記事を作った、ってことは……このデマも全てこいつの仕業か。

    「このデマはなんだ、勘違いも甚だしいぞ。今すぐ取り消せ」
    「僕はプレイヤーに希望を与えただけさ」

    悪びれもせず、あっけなくそう返される。
    こいつ……どうにも飄々としていて話したくなくなるやつだな。

    「そんなに殺気を撒き散らさないでくれ、本当に君と今は争う気はないんだ」

    両手をバンザイして無抵抗の意を表すカーレン。
    俺は以前、逃げる大勢を変えずに目で問う。「何の用だ、次はないぞ」、と。

    「言ったろ? 僕は希望を与えたいだけさ。ユニークスキル使いが3人もいるんだ、その強さをプレイヤー諸君に見せてはみたくないかい?」

    肩を竦めながらカーレンは言った。

    「どういう意味だ」
    「勘は鈍いようだね、つまりーーーーーー僕が主催者として開く、トーナメント形式のPvP大会に出てくれないか、ってことさ」

    わかるわけねぇだろそんなの、と心の中で呟きながら話を整理する。
    こいつの目的はプレイヤーに希望とやらを与えること、この場合の希望とはゲームはクリア可能ということだろう。
    25層、50層は他より強力なボスが出ている、恐らく75層も他より更に強力なボスが出るのだろう。それを前にして絶望している者もいないわけではないはずだ。
    そこで俺やキリト、ヒースクリフが持っているユニークスキル。これをプレイヤーの前で使ってもらい、クリアは可能だということを示してほしい…………ってことだろうな。
    確かに理に適っている。強い人がいるとわかればボス攻略に参加する人も増えるだろう。
    だが気がかりなのがーーーーーーこいつが、それだけを考えている様には見えないところだ。

    「どうだい? 是非とも参加してほしいなぁ、《紫色の影》……いや、《抜刀術》のエイトマン」

    ニコニコしていて、表面上だけを見るとすればこいつはいいやつだろう。
    だが、今は俺の勘を信じる。

    「悪いな、そういうのには興味が無い、他を当たってくれ」
    「…………そうか……残念だなぁ」

    そう言い残し、カーレンは去って行った。
    恐らく、他のやつにも同じ様のことを言いに行くんだろう。

    「…………理解は出来るが、お前が気に食わない」

    ボソりと呟いた俺の声は、奴に届いただろうか。
  93. 98 : : 2016/12/13(火) 21:48:30
    オリキャラは多分カーレンさんだけだと思います……今のところは
  94. 99 : : 2016/12/14(水) 12:21:28
    カーレンに大会に誘われた日から3日が経った。
    75層はターニングポイントのため、今まで以上に安全マージンに気をつけながらゆっくりと迷宮を攻略していく。
    …………しかし遅すぎる。
    流石にゆっくり気をつけながらだとしても、マッピングがまだ3分の1も終わっていないのは遅すぎるだろう。
    それもそうだ、今町はあるイベントの準備で大忙しだ。攻略組も顔を出しているためなかなか攻略が進まない。
    なんのイベントか…………カーレンが開く、PvPの大会だ。

    「あと4日か」

    イベントの開催日までの日数だ。
    カーレンの話を聞く限り、恐らく俺以外にもキリトやヒースクリフは必ず誘っている。
    しかしあの2人だけで攻略が止まるほど人気が出るものなのか? っつーか時間がかかりすぎだ。
    この事から導き出される答えはーーーーーー攻略組も混ざってるな、このPvPの大会に。
    そういえばトーナメントと言ってたな。…………ディアベルやアスナ、他にもクラインなどにも声をかけているんだろうな。

    そんな事を忙しそうに動き回る人をボーッと眺めながら考えていたらメッセージが届いた。
    キリトからだ。

    『今からお前の家に行く』
    『理由は』
    『話したいことがある』

    …………丁度いい、俺も話したいことがあったからな。
    キリトに『了解』と送り、来るのを待った。
  95. 100 : : 2016/12/15(木) 17:05:34
    「悪い、待ったか」
    「いや、俺も今来たところだ」
    「ここお前の家だろ……上がるぞ」

    付き合いたてのカップルのようなセリフを言ったがあえなくスルー、やっぱり鈍感系なのねキリト君は。いやこれじゃあ俺がキリトを好きみたいだな、うへぇ。

    紅茶でも入れてやろうかと立ち上がる。
    しかしキリトは首を横に振る、いらないってことだろう。

    「そんな長話をする気は無い」
    「そうか、で、話は?」
    「単刀直入に言う。PvP大会、カーレンの大会に参加してくれ」

    思ったよりも斜め上のことを言われた。
    一応理由は聞いとくか。

    「何でだ?」
    「…………俺の勘違い、考えすぎかもしれないからこれから先に言うことは余り真に受けないでくれよ」
    「わかった」

    キリトは呼吸を落ち着かせるためか、一度大きく息を吐く。

    「俺もカーレンに誘われた。別に断る理由もないしな、だが何か引っ掛かったんだ。だからあいつの跡をつけた」
    「…………」
    「誰かと会っていたようだが、夜だったから暗くてよく見えなかった。……俺は暗視スキルなんて習得してないしな。だが会話は途切れ途切れに聞こえた」

    そこで一度言葉を切るキリト。
    覚悟を決めたのか、再び口を開く。

    「ラフィンコフィン、そのワードが聞こえた」
    「……ラフィン、コフィンか……」

    レッドギルド、PKをする奴らだ。

    「もしかすると全然関係ないかもしれない、だけど放置するのもあれだ、だから……」
    「事情はわかった。だが何で俺なんだ?」
    「アスナやディアベル、ヒースクリフは潜入には向かない。だけどエイトマン、お前ならって思ってな」

    割と高い評価を頂いているみたいだ。だけど潜入って……まあスキルをしっかり使えば痕跡も残さず何とかできそうだが。

    「仕方ないな、攻略組のキリト様に頼まれたんじゃ断れん」
    「……! 助かるよエイトマン!」
    「おっ、おう……とりあえず俺はカーレンを大会中に追えばいいんだな」
    「ああ! ありがとなエイトマン!」
    「終わってからそれ言え」

    やめろよ恥ずかしい。わかったからお礼はいいから帰れ。
    ポカーンとするキリト。えっ、俺なんか言った?

    「その言葉、どっかで聞いたな」
    「気のせいだろ」

    ニヒルと笑うキリトは無邪気で、こいつはまだ子供なんだなってことがよくわかった。
    ……いや俺も子供ですけどね。
  96. 101 : : 2016/12/15(木) 17:09:55
    あの後、俺は準備をしている奴に声をかけてカーレンの居場所を知り、再び会いに行った。
    友人に参加しろと誘われたから参加する、という意思表示を伝えたところ、カーレンはとても喜んでいた。どのくらい喜んでいたかと言うと、尻尾があれば扇風機くらいには回してただろう、抱きつかれそうだった。

    「テンションが高いだけで別に悪いやつには見えねぇな……」

    先入観で悪いやつと見なしていても、カーレンにはそういうところが一切見受けられない。
    逆に言えば完璧すぎる、葉山レベルじゃなかったら無理だろ。

    「考えるのはやめだ、疲れた」

    ドサっ、とベッドに身体を投げ出す。
    そのまま重い瞼を静かに閉じた。

    ーーーー

    「会場は圏内外……だと……」

    大会前日、スケジュールやら開催場所などが書かれたチラシにはそう書かれていた。
    PvPの最中、モンスターが襲ってくることもあるので、それを蹴散らしながら相手と戦う新感覚のPvP! 馬鹿じゃねぇの。
    今回出場するプレイヤーならワンパンで倒せるくらいのモンスター、かつポップが早い、そんなところか。
    MPKが起きたりしないか心配だが、まあこのチラシに書いてあることを信じるのならば平気だろう。
    会場近くのモンスターは今大会出場プレイヤー相手なら全損されることもない、比較的楽なモンスターだと。……なんで全損しないってわかるんだ、試したことでもあるのかよ。

    「はぁ………」

    観客は各層に設置されている液晶画面から中継されてるのを見れる、って書いてあるな。なら観客が襲われる事件はないだろう。
    狙われるとしたら参加するプレイヤーだな。
    今回参加するプレイヤーは8名、キリト、アスナ、ディアベル、ヒースクリフ、クライン、俺……あと2人は知らないが攻略組のメンバーだろう。
    まあ、やるからには勝つ気でーーーーーー。

    「って、目的を忘れるな」

    ソファでぐでんとしていたハチがこちらに近づいてきた。
    一瞬、こいつも大会に出そうかと思ったがレベルを見てやめた、まだ1だ……。
    ぐでーん、としているのを見るとかまくらに似ているような気もする。
    ガシガシと頭を撫でてやると尻尾を振った。おお……犬かよこいつ。

    撫で撫でしていると頭の中で整理ができた。
    そうだ、俺の目的はあくまでカーレンの裏を知ることだ。勝つことじゃない。

    …………まあわざと負けるつもりもないがな。
  97. 102 : : 2016/12/16(金) 12:29:29
    ー大会当日ー

    「なんて盛り上がりだ……」

    家を出たばかりでもわかる盛り上がり。
    街の中央にある液晶画面に人が集まっている。そんなに気になるのかよ。

    「まあ、トッププレイヤーの戦いぶりを見たいってやつもいるだろうからな」

    さっさと大会場所へと移動しようとするが、やはり人が多い、なかなか前へ進めない。49層ってこんなに人多かったのかよ……。

    なんとか転移をして大会場所へと到着。
    他のメンバーはもう揃っていたが集合時間1分前だが間に合っているから平気だろう。

    「エイトマン、ギリギリだぞ」
    「間に合ったんだからいいだろ。少しでも仕事の時間を減らしたいんだ」
    「エイトマンらしいな…………」
    「エイトマンも誘われたのか、俺様もカーレン直々に誘われたぜ」

    ビシッと決めるクライン、まあ確かにクラインも強いがこの面子を見るとやっぱり霞むな……。

    「そういえばエイトマン、例のドラゴンはどうしたんだ?」
    「は? ドラゴン……? ……ああ、ハチのことか?」
    「ああ、せっかくだし一緒に戦ってみろよ」
    「まだレベル1だぞ……てか何で知ってるんだ」

    いつの間にか言ってたのかしらん?
    だとしたら俺の記憶力の低下はかなり著しいことになるんだが。

    「シリカから聞いた」
    「あー…………なるほど」

    確かに口止めはしてなかった。
    でも余り広まってないところを見るとキリトにしか言ってないみたいだな。何? 俺の友達キリトしかいないって思ってたのかな?

    と、そんな話をしているとパンパン、と手を叩く音が聞こえた。
    音がした方を見るとカーレンが満面の笑みで立っていた。

    「時間だね、参加者8名全員揃っているようだ」

    そう言い、手にマイクを握る。あれで液晶画面を見ている人に向けて話すんだろう。

    「レディース・&・ジェントルマン! 本日は大会を見にいらっしゃって誠にありがとうございます!」

    まあ無難だな、注意事項やらマナー、それに大会ルールを参加者と観戦者に伝えている。

    色々言ってたが、ルールは簡単だ。
    リングに上がり《初撃決着モード》でPvPを開始する。
    モンスターがポップするのでそれを躱すか倒しながら相手を倒せばいいだけだ。
    リングの形状は、……天下一武○会とかセ○ゲームに似ている。
    周りがスタジアムみたいに囲まれているな、モンスターがポップする場所の上にこのリングを作ったんだろうか。

    「長話もこのあたりで辞めとしまして、早速大会の方へ移らせていただきます。最初の対戦はーーーーーー」

    デケデケデケデケーーーーーーデデン! とどこかで聞いたことある音楽が流れる。
    こちらからも見える液晶画面にキリトとアスナが映る。

    「《二刀流》キリトVS《閃光》アスナーーーだあっ!」
    「いきなりアスナとか……お手柔らかに頼むよ」
    「キリト君と戦うのね、この際どっちが上かハッキリしましょうよ」

    ニッコリ笑うアスナは何とも言えない威圧感を放っていた。キリトは苦笑いを浮かべながら再度「お手柔らかに……」と呟いていた。

    キリトがこちらに目配せをしてくる。なんだ? 愛でも誓ったのか?
    なんて冗談はいい。
    ここからは俺の仕事だ。
  98. 103 : : 2016/12/17(土) 16:41:43
    大会の司会を務めるのはカーレンではないようだ。カーレンのクラン仲間か何かだろうか?
    カーレンはキリトとアスナの戦いを遠目から見ている。
    俺は気づかれないように隠蔽スキルを使いながらカーレンの近くに行く。

    「へぇ、あんな戦い方なんだね……」

    ブツブツ呟いているが極普通の感想だ、今のところ何も変なところはないな。
    やはり考えすぎだったのか?

    「ーーーーーー!?」

    すぐに近くの物陰に隠れる俺。
    なんだ、心臓がバクバク鳴る。
    俺の索敵が全力で警報を鳴らしたような気がした。

    「どうだ、攻略組の、戦いは」
    「そうだねぇ、まだキリトとアスナだけだけど実にいい観戦所だよ」
    「ボス、からの、伝言、だ。『攻略組の特徴を詳しく伝えろ』」
    「わかってますよ、安心してください」
    「なら、いい」

    ーーーーーーはぁっ、息が止まるかと思ったぞ。
    一瞬しか見えなかったが、あの喋り方。
    あいつ、ラフィンコフィンのザザじゃないのか?
    なんでこんな所に……いや、あの話を聞いた今じゃ何でかわかるか。
    攻略組のPKを狙ってるってことか。

    「ーーーーーーッ!?」
    「見て、いたな」

    咄嗟に刀を抜刀し、振り抜かれたエストックを弾く。

    「……はは、何のことかわかんねぇよ。急に襲いやがって」

    やばい、やばい。この場面は非常にまずい。
    ここは圏内じゃない、PKが可能だ。
    1体1なら負ける気などさらさら無いが、こいつだけがここにいるってのは考えづらいな。
    恐らくだが、他のラフコフメンバーもいるはず。

    「まあ、いい、どうせ、後で、わかる、ことだ」

    ザザはエストックを降ろし、俺に背を向けて去っていく。
    エストックが届かない位置まで離れたところで俺は刀を納刀した。

    「ーーーーーーふぅ。こりゃ面倒なことになりそうだ」

    記録結晶でも持ってくるべきだったな、それがありゃ一発でカーレンを牢屋に送れるってのに。

    とりあえずは、この大会を無事終わらせるべきだな。
    攻略組の戦い方とか言ってたな……つまりこれから先、攻略組狩りでもあるっていうのか。
    …………ヒースクリフに伝えておくか。
  99. 104 : : 2016/12/18(日) 21:36:24
    暇つぶしに見させてもらってます!とても面白いです!これは参考にしたいですね・・・
  100. 105 : : 2016/12/19(月) 10:40:58
    >>104
    コメントありがとうございます。暇つぶしになって嬉しいです。

    大会に戻ると既にキリトvsアスナの試合は終わっていた。
    なかなかの接戦だったようだがキリトが先にアスナのHPバーを黄色にさせたのでキリトの勝利だ。てかかすり傷は初撃に入らないのね……。

    「……」

    側でアスナがズーン、と落ち込んでいる。「おい」と話しかけても返事がない……ただのしかばねのようだ。

    「キリト君……二刀流使わなかったな……私、手を抜かれて負けちゃったんだ……」

    ブツブツ呟いている、やばい怖い助けてキリえもん。

    「二刀流は奥の手だ、そんな安々と見せないだろ」

    一応考えつく中の最も最適だと思われる慰めの言葉をかけたが、反応なし。もしかして俺の声届いてないか、俺死んでるのか?

    「エイトマン、次の試合お前だぞ」
    「二回戦は俺か」
    「は? いや、四回戦目だぞ……」
    「えっ?」

    アスナvsキリト、それが今終わったんじゃないのか?
    俺があの場を離れてたからまだ数十分だがその間に他の試合も終わるとか早すぎるだろ。

    「俺とアスナの試合以外は速攻で終わったからな、まあ相手がヒースクリフとディアベルだとそれもそうか」
    「ああ…………御愁傷様だな。さて、リングに上がるか」

    てか俺の対戦相手は誰だよ。
    スクリーンをチラリと見るとよく見知った顔がデカデカと映っていた。
    oh......こいつはあの武士野郎じゃねぇか。

    「よーう! 相手があのエイトマンだからって容赦はしねぇぞ?」
    「あー……はいはい。なんでこう刀同士で戦わせるのかなぁ」

    刀スキル知ってる相手じゃねぇか……えー、抜刀術使わなきゃダメなのかこれ?

    「お二人方、準備はいいですね。では、始め!」

    その合図と共にさっきまで飄々としていたクラインが一瞬で間合いを詰めてくる。
    おちゃらけてた癖になんなんだいきなり……。
    このくらいのスピードならぜんぜん余裕で避けられる。

    ーーーーーーと思っていたら刀スキルを準備していたみたいだ、避けた先にいる俺を刀が捉えている。
    ふむ、《旋車》か。範囲攻撃だから当てられるってことだろうか。

    「もらったぜ!」
    「そんなわけないだろ」

    アシストスキルでスピードを上げ、攻撃範囲から逃れる。
    すかさずクラインが次の攻撃動作を始めているが、その一瞬で隠蔽スキルを使い、クラインの視界から消える。

    俺が消えたとわかり、慌てて索敵スキルを展開しようとするがーーーーーー遅いな。

    首元に刀を当てる。

    クラインの顔から血の気が引いたような気がしたが、まあいい。

    「俺の勝ちだな、降参しろ」
    「…………ま、参った……」

    抜刀術を使うまでもなかったな。

    「うおおおおお!」とここまで聞こえる歓声と危険を冒してまでここに来て観戦する人の声援が混じり大合唱となった。

    「流石だなエイトマン……抜刀術は使わないのか?」
    「お前と同じ理由だわ」

    はは、と頬をポリポリかくキリト。
    ラフコフのことを言おうかと思ったが、まあそれは大会が終わってからでいい。
    戦い方とか言ってるが、あの様子じゃもうスパイでも入れてるはずだ。
    この大会はそのスパイから得た情報の再確認のために開かれたみたいなものだろう。
    だから今更出し惜しみ、スキルを隠しても意味が無いしな。

    と、ディスプレイの画像が切り替わる。
    映し出されたのはーーーーーー俺とキリトだ。

    「……次はキリトか」
    「全力で行くぞ、エイトマン」

  101. 106 : : 2016/12/19(月) 21:51:39
    「始め!」

    その合図と共にキリトが一瞬で間合いを詰める、クラインよりも速い。
    だが俺よりは遅いな。

    カウンターを合わせようと刀を抜刀し、振り抜く。
    しかし、刀に手応えがなかった。

    「ーーーーーー後ろかっ!」
    「はぁっ!」

    回避行動で前へと転がる。間一髪避けられた。
    しかし一撃で終わるほどキリトは甘くない。
    続けて、二撃、三撃が繰り出される。

    それらを全て避けつつ、距離を取る。

    ギリギリキリトの剣が届かない位置まで離れ、息を整える。

    「息をつく暇もくれないな、どんだけ攻めるんだーーーーーーって、うおい!」

    気がつくと剣が目の前に、即座にいっぽさがるあと凄まじい速度で鼻の先を、空を切っていた。

    「エイトマン相手にッ、距離を取らせたらッ、負けるからーーーーーーなっ!」
    「何でそんな俺対策してるんだよ……」

    当てられはしないが攻めることが出来ない、刀のリーチの中に入られては抜刀が出来ない。

    「やっぱり、速いな!」
    「当たらないと思うなら攻撃やめてくれませんかね」
    「そうもいかない、エイトマンとはいずれにせよ決着をつけたかったからな」

    そう言うとキリトは一歩、二歩と後ろへバックステップを踏む。
    やっと距離が離れたか……反撃タイムだ。

    ゆっくりと抜刀する。キリトに刀の先を突きつける。

    「行くぞ」

    刀スキル《絶剣》
    キリトに向かって最速で刺突を繰り出す。

    キリトの剣によって弾かれるが、続けて範囲攻撃スキル《旋車》
    これでキリトの身体を浮かせて、次のスキルで。

    「ーーーーーーうおっ!?」
    「くっ、当たらないかっ!」

    気がついたらもう1本、キリトは剣を握っていた。
    その剣が振り抜かれる刹那、《瞬間瞬足》のスキルで急いで距離を取る。
    何だかんだ言ってこのスキルには助けられている。

    「ふぅーーーーーーっ……二刀流か」
    「出し惜しみして負けたら、死んでも死にきれない」
    「なんだよ、小言弾でも撃たれたのか?」
    「こごと……えっ、なんだって?」
    「なんでもない」

    まあいい、キリトが二刀流を使うってことは、つまりは全力をを出すってことだ。
    ならーーーーーー俺もそれ相応の態度を見せなきゃな。

    「…………納刀したな」
    「2本、剣握ったな」

    周りが静寂に包まれる。
    今、俺の世界には、2本の剣と1本の刀、目前に1人の男がいるだけ。
    そいつの一挙一動に合わせて、俺も動く。
    神経が限界まで敏感になる。

    開始の合図は、審判の合図などいらない。


    ーーーーーーーーーーーー!


    「はぁっ!!」
    「らぁっ!!」
  102. 107 : : 2016/12/20(火) 19:17:03
    激しい攻防が続いた。

    「試合、終了ーーーーーー!!」

    一瞬でも気を抜いた方が負ける試合だった。

    「激しい試合でした! 勝者はーーーーーー」

    だから、この結果には満足している。

    「勝者、《黒の剣士》キリトーーーーーー!!」

    俺はーーーーーー負けた。


    ーーーー


    「お疲れ様、エイト君」
    「勝ったキリトを褒めてやれよ」

    控え席に戻ると、アスナに話しかけられる。
    軽くあしらって自分の席へと座る。一足遅れてキリトが現れる。

    「俺の勝ちだな」

    にひっ、とピースサインを俺に向けてくるキリト。
    守りたい、この笑顔ーーーーーーじゃなくて。

    「ああ、おめでとさん」
    「…………あれが本当の殺し合……戦いだったら俺は負けてたけどな」
    「どういうことだよ」
    「最後の一撃、俺が一瞬速くエイトマンの頬を掠らせてHPを黄色にしたが、《初撃決着モード》じゃなかったらあの後に繰り出されてるエイトマンの攻撃で俺は負けてた」

    剣先のスピードは、二刀流を使ったキリトの方が僅かに速かった。
    だから、最後の攻撃はキリトの方がギリギリ速く、俺を掠めてHPを黄色にした。
    もしあれが《完全決着モード》だったら俺の方が速く削っていただろう。
    ーーーーーーだが

    「そうかよ、でも負けは負けだ」

    そうだ、負けは負け。どれだけ「もしも」の話をしてもそれは架空の話だ。

    「……わかった」

    キリトもわかったのか、一つ頷くともうこの話題には触れなくなった。
    アスナが俺達が喧嘩をしていると勘違いしたのかオロオロしてるが、まあ放っておこう。

    「次はディアベルとヒースクリフの戦いだ。見とけよキリト」
    「ああ……ここまで来たら優勝したいからな」

    もう俺の目的は達せられた。
    なら、ここに居座る必要はないな。

    「俺は先に戻る、あとで結果だけでも教えてくれ」
    「優勝トロフィー持って行ってやるよ」
    「期待しとくわ」

    アスナがこちらを見ていたので会釈だけ返して俺は会場をあとにした。
    カーレンとすれ違ったが、特に何も言われはしなかった。

    ーーーー

    「まあ、いい、どうせ、後で、わかる、ことだ」

    ーーーー

    ザザの言葉が頭をよぎる。

    …………嫌な予感がするな。
  103. 108 : : 2016/12/21(水) 17:03:55
    「キュウ?」

    大型犬ほどの大きさになったスノードラゴンのハチ。
    俺の隣を犬みたいに歩く、その頭を軽く撫でる。

    今俺は55層に来ている。
    理由は、ヒースクリフに会うためだ。
    昨日のPvP大会、あそこでザザと会ったこととカーレンの素性を伝えられるだけ伝える。
    記録結晶に撮ってないから信ぴょう性はないが……まあそこは俺の信頼度ってことで。……あれ? 俺って信頼されてるのん?

    「ここか」
    「止まれ! 誰だ貴様!」

    入ろうとしたら門番らしき人に止められる、あれ、俺の顔ってあんまり知られてない?

    「団長に用があって来た」
    「そんな話は聞いていない、立ち去れ」

    そりゃ俺の独断で来たんだから聞いてるわけないよな。
    てか立ち去れとか……門番プレイ楽しいのかなこいつ。

    「…………《抜刀術》のエイトマンって言えば誰かわかるか?」
    「は……エイトマン様でしたか! 申し訳ございません! 団長からは来た場合丁重にもてなせと……」
    「そういうのいいから、入るわ」

    よし、入れた…………え? 丁重にもてなせ? 俺って結構権力あるんじゃね?

    前に来たことあるからある程度道はわかる。
    ヒースクリフの部屋は……まあ団長だし大きいよな。
    大きな扉をノックする。入れ、との声が聞こえたので扉を開ける。

    「エイトマン君か、何の用事かね? 血盟騎士団に入ってくれる決断でもついたか?」
    「冗談はやめてくれ。昨日の大会で得た情報を伝えに来た」
    「ふむ、聞かせてくれ」

    特に疑問にも思わずヒースクリフが耳を傾けてくる。
    俺はカーレンのこと、ラフコフのザザのことを伝えた。

    「…………そうだな、少し長引くかもしれないから座ってくれないか?」
    「わかった」

    近くにある椅子に座る、おお……フカフカ、やっぱり団長の部屋にあるものは高価なのね。

    「コーヒーは飲めるか?」
    「いやいい。自前のがある」

    そう言って持ち物画面から《MAXコーヒー(エイトマン作)》を取り出す。
    それをグッ、と飲む。

    「それは……」
    「あ? MAXコーヒーだ。知らねぇのか?」
    「いや、知っている。どこで手に入れたのかね?」
    「俺が作った。このために料理スキルを上げたんだよ」

    そう言いもう一度グッ、と飲む。
    ふと視線を感じ、ヒースクリフの方を見る。
    ヒースクリフは心なしか物欲しそうにこちらを見ていた。
    その視線は俺の手元にーーーーーーMAXコーヒーに向かっている。

    「……1本だけなら」
    「本当か、ありがとうエイトマン君」

    今までに見たことない笑顔ーーーーーーいや笑顔? まあ無表情ではないな。
    ヒースクリフもMAXコーヒー好きなんだな……。

    「やはり甘い物は脳を働かせる」

    そう言えば前に言ってたな、甘い物がいいとかなんとかってな。

    「後でもう少しあげるから話の続きを頼む」
    「ん? そうだな……ラフィンコフィンのザザ……」

    考える素振りに入るヒースクリフ。こいつでも考えることがあるんだな。
    こいつも立派な、人間だ。前にロボットみたいだとか思ってすみません。

    「ラフィンコフィン討伐」
    「討伐? 殺すのか?」
    「いや、捕獲だな」

    転移結晶を見せてくるヒースクリフ。
    なるほどな。

    「捕獲作戦、か…………わかった。作戦が出来次第、伝えてくれ」

    うむ、と頷くヒースクリフ。
    もう話は以上だな。
    帰ろうと、いや、伝えることがあったな。

    「そうだ、スパイが紛れ込んでいる可能性がある。その対策も頼む」
    「ああ、わかった」

    今度こそ帰るか。
    背を向け、扉に手をかけるとヒースクリフから声がかかる。

    「MAXコーヒー、とてもいい再現度だったよ」
    「そうかよ、今度も持って行ってやるよ」

    そうか、といつもの無表情が僅かに緩む。
    やはりMAXコーヒー好きに嫌な奴はいないな。
  104. 109 : : 2016/12/22(木) 14:03:28
    おもろいよ。
    毎日頑張れ
  105. 110 : : 2016/12/22(木) 15:10:19
    >>109
    ありがとうございます。


    ヒースクリフにあのことを言ってから早数日。
    攻略組約50人が、ラフィンコフィン討伐作戦のために集められた。
    指揮を執るのはヒースクリフとディアベルのツートップだ。

    「皆、そろそろラフィンコフィンのアジトだ。気を引き締めていこう」

    ディアベルの声が、皆を落ち着かせる。
    しかし、それでもこの心臓の音はなかなか鳴り止まない。
    そりゃそうだ、一応予定としては転移結晶で牢獄エリアに飛ばすだけだが奴らが抵抗せずに行くはずがない。
    最悪、殺し合いにーーーーーー……いや、やめよう。考えるのは。
    PKされることによって、この世界から脱出する手立てが徐々に減っていく、それだけは避けなければならない。
    それだけは、止めよう。

    「最後の確認だ。ラフィンコフィンの人数は33人。これは鼠からの情報だ。人数的にはこちらが優っているが……奴らはレッドプレイヤー、恐らく全力でこちらを殺しにかかる、躊躇いはないだろう。だが、俺たちはあくまで捕縛を優先する、後味悪いのは、皆嫌だろう?」

    綺麗な言葉だ。皆引き寄せられるような話し方だ。

    「万が一、グリーンカーソルの奴らがいて、そいつらを……攻撃してしまってオレンジカーソルになった場合も大丈夫だ。アフターケアはしっかり取る」

    だが……今の言葉の裏には、「危なくなったら、殺せ。オレンジになっても大丈夫」という意味が含まれてるな。
    皆もわかっているだろうが、それは口には出さない。

    俺もあくまで捕獲に重きを置くつもりだ。
    殺し殺されなんてまっぴらごめんだ、なんならここに参加したくないまでもある。

    隣にいるキリトを見る。
    キリトの性格は、お人好し、責任感が強い。まあこんなもんだろう。
    ディアベルやこいつが人殺しをしたら、攻略組の中でも不信感、不安感などが渦巻くだろうな。
    …………万が一の時は、腹括るしかねぇな。
  106. 111 : : 2016/12/23(金) 17:37:12
    「一人で行動は厳禁だ、行くぞ!」

    ディアベルの合図と共に前進する。
    ラフィンコフィンのアジトは圏内にはない、そのためモンスターもポップする。
    俺たちはそのモンスターを蹴散らしながら進む。

    アジトから2人、プレイヤーが姿を現した。
    カーソルは……オレンジ。

    「作戦……開始だ!」

    現れた2人へと詰め寄る俺たち。
    だがその最中、俺の索敵にモンスターではない何かが引っかかった。

    これは、プレイヤー……!?
    まさか……!

    「罠だ!」

    咄嗟に叫ぶが、前の方にいるプレイヤーの耳には届いていない。
    上から何人かのプレイヤーが落下してくる。
    そのまま前方にいたプレイヤーの内の何人かが攻撃をモロに受けた。

    「くそっ、なんで上から……!?」

    更に続けて5.6人ほどが現れる。
    どれもが、猟奇的な笑みを浮かべていた。

    その中の1人、俺が知っているやつがいた。

    「カーレン……ッ!」
    「ご無沙汰するよ、エイトマン君」

    ニコリと笑いかけてくるカーレンの顔には、もうあの時に感じたものは無かった。

    「イッツ・ショウ・タイム」

    どこからか聞こえてきたその声が合図となり、攻略組vsラフィンコフィンの戦いは始まった。
  107. 112 : : 2016/12/24(土) 16:16:23
    本職も頑張って。
    あと、『非リアの楽園』にも来てください><
  108. 113 : : 2016/12/24(土) 17:21:42
    >>112
    本職とは……?

    カーレンは俺のことを舐め回すように見てくる。
    口を開いた。

    「スパイがいることには気づけたが、なぜ防げなかったのか……って顔だねぇ、エイトマン君? 答え合わせ、欲しいかい?」

    「それはねぇ、僕がスパイ対策に行ったことを全て裏から排除、削除を繰り返してたからだよ」

    「僕のこと、怪しいと思ってたでしょう? でも防げなかった、その程度なんだよねぇ、攻略組ってのは」

    口を開くと同時に矢継ぎ早に話すカーレン。
    ペラペラと、よく喋るやつだ。
    嫌味ったらしく、粘っこい言葉だ。

    俺はゆっくりとカーレンに歩み寄る。

    「なんだい? もしかして僕を殺すのかい? 僕はグリーンカーソルだ、そんなことをしたら君もレッドプレイヤーにーーーーーー」
    「黙れ」

    目に止まらぬ速さで抜刀、カーレンの首元に当てる。

    「はは……」

    苦笑いを浮かべるカーレン、無駄な抵抗はしていない。
    何故だ、もう死ぬってわかったからか?
    ーーーーーーそうじゃない、こいつの本性は最低最悪、人を騙すことに長けてる。

    索敵に集中すると後ろから2人のプレイヤーが襲いかかってくるのがわかった。

    「ぎゃっ!」
    「うああっ!」

    振り向きざまに刀で腕を切り落とす。
    そのまま縄で拘束し、床に転がす。

    「な、なんで……!?」
    「あまり、俺を舐めるな」

    カーレンも覚悟を決めたのか、動く素振りを見せる。
    いいだろう、お前の全力を俺の全力で叩き潰してやる。
    これは闘争心だとか、復讐心だとか、そんなもんじゃない。

    こいつは、このままリアルに帰せない。

    「《煙幕》!」

    カーレンの服の裾から煙がもくもくと出てくる。
    その煙に紛れて俺から離れる。
    暗視スキルを咄嗟に使ったが意味が無いみたいだ。
    俺も後ろに下がり煙から逃れる。

    「エイトマン、なんだこの煙は!?」
    「カーレンの野郎だ」
    「カーレン……! くそ、あいつーーーーーー」
    「いい。俺が、やる」

    元々、カーレンを探るのは俺の役目だった。
    それが失敗した。……なら、尻拭いは俺がやるしかない。

    「来いよ、ゲス野郎」

    煙が晴れた瞬間、目の前からカーレンが飛び込んで来た。
  109. 114 : : 2016/12/25(日) 14:54:27
    お仕事なさってないんですか?
    そのつもりで書いたんですけど、なんかごめんさい><
  110. 115 : : 2016/12/25(日) 19:45:22
    >>114
    お仕事してる歳でssは書きませんよw



    カーレンside

    待ってくれ、なんだこれは。
    知らない、情報にない。
    ボスの時も、PvPの時も、こんな戦い方はしていなかった。
    知らない、知らない!

    「何なんだよお前ぇ!」

    後ろに気配を感じる。
    すかさず後ろを振り向く。
    振り向いた速度で剣を振る。
    ブン、と風を切る音しかしない。

    「聞いてない、知らない、おかしい!」
    「PvPの大会の時、俺のことをよく知ってるやつと俺を戦わせたのがお前の間違いだ」

    気づくと前に、横に、後ろに、あっちこっち。
    目で追えない、索敵に引っかからない、足音もしない。
    唯一追えるのは、気配のみ。

    「俺のことをよく知ってるやつだからあんな戦い方をするんだ。…………お前が俺を知ってるわけねぇだろ」
    「うるさい!」

    闇雲に剣を振るがろくに当たらない。かすりもしない。

    「カーレン、残念だったな。エイトマンはそこらにいるオレンジプレイヤー、レッドプレイヤーよりも狡猾でずる賢い戦い方だ」

    攻略組の黒の剣士が言う。
    エイトマン? 誰だ、こいつか。
    今、まさに僕を仕留めようと、刀に手をかけているーーーーーー

    「《居合》」

    僕の意識は、そこで途切れた。


    エイトマンside


    「相変わらず、恐ろしいな……PvPの時にやられなくてよかったよ」
    「…………カーレンは牢獄エリアに飛ばしたな。他のやつの援護に回るぞ」
    「ああ」

    ……あいつは馬鹿だった。
    なんでも自分は理解していると思っている馬鹿だ。
    きっと、あいつの頭の中はこの世界での自分の強さ、栄光、そればかりだろう。
    そんなもの、現実では無意味なのに。

    「来たか」
    「待って、いたぞ」

    フードから赤い目を覗かせる、この男。
    《赤目のザザ》ーーーーーーあの時に、カーレンといたやつだ。

    「流石、だな、カーレンも、なかなか、強いやつ、だが、貴様の、方が、強かった」
    「そんな話はいい。俺はお前を牢獄エリアに飛ばせればそれでいい」

    刀を構える。大丈夫だ、キリトもいる、負けたとしても死にはしない。
    隣にいるキリトを確認しようと顔を動かす。

    「ーーーーーーッ!?」
    「おぉっ? 俺のこと察知したのか?」
    「お前は……キリト!」
    「わかって、るっ!」

    突然の自体にも動じず、キリトが襲いかかってきたやつを吹っ飛ばす。
    が、キリトの服に何か引っ掛けたのだろうか、吹っ飛ばす奴と一緒にキリトも転がる。

    「こりゃ攻略組最強と噂される黒の剣士様だ。ヘッド! 俺に任せてくださいよ〜……ってヘッドはいないんだった」

    子供っぽい外見に、ヘッドという呼び方。
    こいつ……ジョニー・ブラックか。

    「とりあえず剣士様をぶっ飛ばしちゃって? それからだ、抜刀術君はね」
    「誰が、通すかよ。さっさと牢獄に飛べ」
    「や〜っだね! 通してくれないんだったら、殺してやるぜ」

    ジョニーの方はキリトが何とかしてくれるようだ。
    今は信じるしかない。
    俺は眼前にいるこいつに集中だ。

    「ザザ……!!」
    「来い、『影』、俺が、お前を、倒す」

    攻略組トップ2人とラフィンコフィントップ2人の戦いが始まった。
  111. 116 : : 2016/12/26(月) 12:59:12
    小説は、世代を超えます。
    年なんて関係ありません。
    大人でも、『小説が好き』って良いじゃないですか
    紫色の影vs赤目。楽しみにしてます><
  112. 117 : : 2016/12/26(月) 17:57:25
    >>116
    小説とssじゃジャンルが……

    赤目のザザ。
    この作戦に入る前に貰ったラフィンコフィンメンバーの資料に詳しく書いてあった。
    途切れ途切れに話す癖があり、エストックの達人。
    ラフィンコフィントップ3に入っている、実力者だ。

    「どうした、攻撃、しない、のか」

    エストックによって繰り出される刺突を避ける。
    抜刀ができ、なおかつ最大ダメージが与えられる間合いにさせてくれない辺り、やはり本物の実力者だ。

    刀を抜くタイミングは実は隙が結構大きい、こいつ相手にそんな隙は与えられない。
    最悪の場合、死ぬかもしれないんだからな。

    どうにかして縄で取り押さえられたらいいんだが……。

    「くっ……!」

    エストックの先が、頬を掠らせた。
    HPが僅かに減る。
    こいつは、本気で俺を殺しに来ている。

    「所詮、『影』も、こんな、ものか」
    「ばーっか、殺す気なのと捕まえる気なのじゃお前ら有利に決まってんだろ。ハンデあげてその程度か」
    「御託は、いい」

    多少煽ってみたものの、攻撃のリズムは一貫として俺に刀を抜かせないことに尽きている。
    だか、それは裏を返せば「刀を抜かせてはならない」ということだろう。
    刀さえ隙を突いて抜ければ……勝機はある。

    「諦めろ、刀、なし、じゃ、俺には、勝てない」
    「まあな、確かに刀がなきゃ勝てねぇ。…………だが」

    勝つまでの、過程は作れる。
    昔、習得した《体術スキル》。
    今まで一回も使ってなかったが……習得していてよかった。

    スキルを発動。
    右手が輝くのを見て、ザザが驚いた声を出す。

    「貴様、その、右手」
    「悪かったな」

    呟いたその声を置き去りにして、敏捷トップの力で腹を殴る。
    HPがガクリと減り、後ろへ吹っ飛ぶザザ。

    「体術スキル、情報にはなかったろ? 初めて使ったからな」

    ムクりと起き上がるザザ。
    顔は隠されているが、明らかに「やばい」と言った表情が映っているんだろう。
    起きると同時に、エストックを構え飛びかかってくる。

    だが。
    この距離。
    この間合い。
    そして何より…………遅い。

    「終わりだ」

    抜刀術《居合》
    抜き放った刀は、ザザの右足を捉える。
    右足を斬り落とした時には、もう刀は納刀し終わっている。

    倒れ込むザザの上から覗く。
    赤い目がこちらを睨んでいた。

    「お前、だけは、必ず、殺す」
    「…………そうかよ、俺はもうお前とは会う気がない」

    縄で縛り、牢獄エリアへとザザを飛ばす。
    飛ばされる瞬間まで、ザザは俺のことを見ていた。

  113. 118 : : 2016/12/27(火) 18:27:43
    「こっちも終わったぞ、エイトマン」

    キリトもジョニーを捕まえ、縄で縛っていた。
    ジョニーは変わらず飄々とした態度でケラケラ笑っている。

    何度も人殺しを続けて来たこいつが、それを止めようと奮起している俺たちを笑うのだ。

    一瞬、頭がカッとなったが、すぐに頭を振りその考えを飛ばす。
    冷静になった頭で周りを見ると、もうほとんど捕まえたようだ。

    数の力、ってやつか。

    「ザザも捕まえている。牢獄で仲良くしてるんだな」

    キリトがジョニーに伝えるが、相変わらずジョニーの態度は変わらない。

    「アッハハ、俺を捕まえたところでPKはなくならないよーっだ。ボスを捕まえない限りは、ね」
    「……うるせぇ……!」

    怒気を込めたセリフで、キリトが転移結晶を準備する。

    「キリト君、落ち着いて」
    「アスナ……」

    アスナがやって来て、キリトの怒りを鎮める。
    まあ、何はともあれ、作戦は成功だ……。

    ーーーーーー!

    俺の索敵に何かが引っかかった。
    アスナの背後に迫ってくる。
    アスナは気づいていない。
    キリトも気づいていないのか。

    「ただで、捕まってたまるかよぉっ!」

    残ってたラフィンコフィンのメンバーか!
    アスナの首元に、ナイフを振りかざす。
    キリトの目が見開く。しかし、キリトは間に合わない。

    思考が鮮明になる。
    どうする、間に合うか? 抜刀術で、どこを斬ればいい。
    どこを斬れば助けられる。
    手か? 腕か? 足? 無理だ、そんな狙っている暇はない。
    今にもアスナの首が飛ぶ、それだけは、阻止しなければ。
    何としてでも…………殺してでも。

    気づいた時にはーーーーーー俺の刀は、奴の首を跳ねていた。

    周りが静寂に包まれる。
    ゴトリ、と頭が落ちる音が響く。
    キリトもアスナも何が起きたのか理解が出来ていないのか、固まっている。
    いや、俺もよくわかっていない。

    何があった?

    「エイト……マン?」

    なんだ、その目は。
    俺は、この世界から出るためにはアスナの力が必要と考えた。
    そのアスナを失うわけにはいかなかった。
    そして、奴を止めるにはこれしかなかった。
    時間と、技量が足りなかったからだ。
    俺は最善の行動をしたはずだ。

    なのに、なんだ、その目は。

    何かが足に当たる。
    目を向けると、先程、アスナを襲っていた奴の頭だ。
    俺と目があったかと思うと、ポリゴンの欠片となって散らばった。

    そこで、ようやく俺は、自分が何をしたのかを理解した。

    「ぁぁ……ぁあああ!!」

    悲鳴が聞こえる。
    誰の? 俺のだ。
    固く閉ざしていた口の隙間から悲鳴が飛び出ている。

    ジョニーが俺をニヤニヤしながら見ている。
    その口が動く。
    何て言っているかはわからないが、理解は出来た。

    『お前も人殺しだ』

    その言葉は俺の胸に深く突き刺さった。

    転移結晶を取り出し、どこか、適当な場所を指定する。
    キリトやアスナが何か言ってたような気がするが、うまく聞こえない。

    皆の視線が俺に注がれる中、俺は転移した。

    ーーーー

    「小町ぃ……戸塚ぁ…………雪ノ下、由比ヶ浜……俺、人殺しだ……」

    何処ともわからぬエリアで、しゃがみ込み、呟く。
    開いた口から飛び出るのは自己嫌悪の言葉と謝罪だ。

    「仕方ねぇだろ、あの場面じゃ、捕まえるなんてことは無理だった。仕方ねぇだろ……」

    なのに、周りのあの目はなんだ。
    どこかで見たことある目だ。
    …………あぁ、思い出した。
    高校生になってから、余り受けなかったから忘れていたのか。

    「は、はは…………もう、疲れた」

    ここは圏外。
    モンスターがポップするエリアだ。
    このまま、目をつぶり、意識を何処かへと飛ばせば、楽になれるのだろうか。

    人殺しの重圧、久しぶりに受けた周囲の嫌悪の視線。
    ダブルパンチで、俺の精神は最早限界だった。

    ゆっくりと瞼を閉じる。

    ーーーーーーごめんな。




  114. 119 : : 2016/12/28(水) 21:49:31
    目が覚めた。
    眩しい日差しが目の中に入り、頭も覚める。

    索敵でわかったが、近くにモンスターはいない。
    よく覚えてはいないが、昨日と同じエリアにいる。
    なのに、なぜ俺は死んでない?

    ふと、隣を見る。

    うつらうつらしている、アスナがいた。
    その顔が目に入ると、昨日の出来事を思い出した。

    人殺しの感覚、周囲の視線、ジョニーの言葉。
    そうだ、俺は、人を殺してしまったんだ。

    だがそんな感覚も、一晩過ぎると一旦は落ち着くらしい。
    とりあえずは、アスナを起こして話を聞く。
    それが最善だ。

    「アスナ、起きろ」
    「うぅ……眠いよ……でも、守らなきゃ…………ってエイト君か…………エイト君!?」

    寝ぼけた顔をしていたが、俺の存在が目に入るとガバッとはね起きる。

    「その、なんだ。勝手に抜け出した身であれなんだが、何があったんだ?」
    「…………あの後、エイト君のことをフレンド欄からサーチして、見つけたの。そこにキリト君と一緒に行ってみたら……」

    そこで一度言葉を区切るアスナ。

    「モンスターに囲まれているエイト君を発見したの」

    その一言で、俺は血の気が引くのがわかった。
    俺は、死ぬ寸前だったのだ。

    「エイト君は眠っているのか、倒れているのかわからなかった。その場ではキリト君と一緒に無我夢中でモンスターを倒して…………エイト君を助けたの」
    「…………そうか」
    「エイト君のこと、私がなんとかしなきゃ! って思ってて。キリト君も残ってエイト君と話すって言ってたけど、これは私の役目なの。だからキリト君には無理言って帰ってもらった」

    それからアスナは、モンスターがポップしなくなるお香を炊いたり、俺が起きるまで襲われないように見張っていたらしい。
    何というか、本当に頭が下がる。
  115. 120 : : 2016/12/28(水) 21:50:27

    「…………悪かった。取り乱して」
    「ううん、あれは仕方ないよ」

    仕方ない、あの男の命はその一言で片付けていいものなのか。
    あいつも悪いことをしてきただろう、オレンジカーソルだったから、人も殺していたかもしれない。
    だけど、それを裁く権利が俺にあったのかと聞かれれば、答えはNOだ。

    「エイト君、一人で考え込まないで」
    「こんなことまでしてもらって、悪いが、すまん、一人にさせてくれ、頼む」
    「ダメ、絶対に許さないんだから」
    「さいですか……」

    俺が諦めるのを確認してから、アスナは俺の横へ体育座りをした。
    そのまま、何分か経過する。
    俺が気まづくてもじもじしていると、アスナがポツリと呟いた。

    「私、最初この世界に閉じ込められた時は、もう終わりだと思ってたの。
    でも、違った。キリト君と迷宮で出会って、少し考えが変わったの。
    あの時の私は死に急いでいたって、今は思う。
    でも、死んじゃったら、何も残らない。それに気づいた」

    「生きてる、生きてるんだよ、私」

    アスナは、俺の手を自分の胸に乗せる。
    アスナの心臓の音が、振動が俺の手を介して伝わってくる。

    「エイト君のやったことは、確かに許されることじゃない。……けど、それ以上に、誰かに感謝されることでもあるんだよ」

    そう言って、アスナは俺を抱きしめる。
    柔らかな感覚が俺を包む。
    その感覚に囚われると、今までの苦労、努力、全てが吐き出されるかのように、口から漏れた。

    「俺、リアルじゃ、ぼっちだった。
    今ではそうでもないが、数年前くらいの時は、友達がほとんどいなかった。そんな、求められていない存在だったんだ」

    アスナが、唐突に話し始めた俺に驚くが、すぐに聞く体制に入ってくれる。
  116. 121 : : 2016/12/28(水) 21:50:40
    「このデスゲームが始まって、絶望してた時に、綺麗な景色を見たんだ。
    それを見た時に感じたのが、ここでも俺は生きている、っていう感覚。
    この世界は仮想世界だ、偽物だ。…………でも、本物だっていうのがわかったんだ」
    「…………うん」
    「それから俺は、この世界から抜け出すために必死にやってきた、死にそうになったこともあった。
    もう無理だ、って諦めかけた時もあった。
    でも、その度にあの時のことを思い出すんだ。
    俺は、生きている、それがわかるだけで、俺は続けられた」

    アスナが、抱きしめる力を強める。
    気づいたら、俺は涙が出ていた。

    「俺は生きてるんだ、認められるんだ。この世界で。
    キリトやアスナと出会って、やっと出来た物を失いたくなかった。
    もう、離れられるのは嫌だ、なんで、俺を置いていくんだ。
    そんなのは、もう嫌だった。だから、俺は……」

    一度話すと、もう止まらない。
    一度、ひっくり返した水は、もう戻らない。
    俺は心の中のものをひっくり返して、全てを出した。

    そんな俺をアスナは、話終わるまで、泣き疲れるまで、傍にいてくれた。

    ーーーー

    「スッキリ、した?」
    「…………ぉう……」
    「返事はしっかり、男の子でしょ」
    「おう」

    ああああ恥ずかしいいいい!!
    女の胸元で泣きながら溜めていた全て言ってしまったああああ!!
    もうダメだ、これをネタにこれからアスナに揺すられるんだ……俺はもう終わりだ、破滅だ。

    「また馬鹿げたこと考えるでしょ。そんなことしません!」
    「恥ずかしいもんは、恥ずかしいんだよ」
    「いいもん、エイト君のレアシーン見れたしもういいもん」
    「俺が泣いたこと、誰にも言うなよ」
    「言わないわよ」

    本当だろうな……いや、ここまでしてもらって、これ以上何かを求める気はない。
    もう十分、与えてもらった。

    「さて、もういい時間だし、ここらで解散にする?」
    「そうだな、そうす」
    「はいブブー。レディーを一人で帰らせる気?」

    おい、最後まで言わせろよ。
    だが、よく考えると、俺を助けてくれたやつに向かって今の態度は悪かったかもしれない、いや、確実に悪かったな。

    「あー……悪い、気が回らなかったな」

    素直にそう言うと、アスナは一瞬驚いた顔をした。
    だが、すぐにいつもの笑顔へと戻る。

    俺はアスナの家へと帰るため、歩き出す。
    アスナは俺の前を小走りで進む。
    僅かに離れてしまった距離。

    ふと、アスナが立ち止まる。

    「エイト君が泣いたところ、誰にも言わない理由わかる?」
    「あぁ……? わかんねぇな、俺のことをこれで脅す気?」
    「違うわよ。…………エイト君の泣き顔、私しか知らないって優越感じゃない?」
    「さいですか、とんだ極悪女ですね」

    適当にあしらう、余り深く追求したら恥ずかしいしな。
    アスナはそんな俺を見て、納得いかないのか俺の隣に来る。
    俺の耳元に手を添え、囁いた。

    「私だけが知っている、私だけのエイト君」

    流石にこれには俺もドキリと来る。
    危ない、あと数センチ超えてたら惚れてた。
    前を走るアスナ、振り返りながら笑うその姿は、小悪魔でもあり、天使でもあった。
    女の子は砂糖とスパイスと、素敵な何かで出来ている。
    本当にそうだと改めて思ってしまった。

  117. 122 : : 2017/01/02(月) 23:17:58

    俺が絶望に瀕していた中、アスナに助けてもらった俺。
    あの後、攻略組のメンバーからの目は相変わらず辛く、人殺しが何故ここに……といった目は無くなりはしなかった。
    だが、キリトやクライン、シリカ、エギルなど……俺と交流が……いや、アスナと交流があった者は比較的簡単に受け入れてくれた。
    俺がやったことは許されることではない。
    だが、それ以上に、誰かを救ったことでもあるということがよくわかった。

    だからと言って、この事を俺は忘れはしないだろう。

    さて、そんなこんなである日。
    まだ75層のボス部屋は発見されてない。
    キリトに呼ばれ、急遽俺は出向くことになった。
    どうやら、重要な話らしい。

    貸切状態の酒屋、そこまでして他の人には聞かれたくない話、それは何なのか。

    「アスナを……黒猫団に引き抜きたい」
    「…………は?」

    おっと、流石に「は?」はないな。
    ここはオブラートに包んで「イミワカンナイ」だな。いや大して変わらんな。

    「エイトマンは知らないだろうけど、一度、アスナの護衛と会った」
    「護衛ねぇ……えっ? 護衛? あいつに護衛必要なの? する側じゃなくて?」
    「エイトマン、茶化さないでくれ。真剣なんだ」

    結構真剣なんだが……。

    「アスナをあんなところに居させたくない……!」

    ギリギリ歯軋りするキリト。
    おお……アツアツですね……。

    「でも無理だろ、仮にも副団長だ。はいどうぞ、って易々とオーケーするわけない」
    「ああ、だけど一度話をしてみる」
    「話……」
    「ヒースクリフに直接、だ」

    こいつ……行動派イケメンか!
    なんて冗談はやめよう、キリトは本気だ。
    ラフコフ討伐作戦から今日まで一ヶ月程だが、その間になにかあったのか……?


    「それで、何で俺に相談した?」
    「……エイトマン、アスナとなんかあったろ」

    ギクリ。
    い、いや別に何もありましぇんけど?
    ていうかなぜ分かった。
    目でそう訴えかけるとキリトはため息混じりに答えた。

    「あれから、妙にアスナとの関係がギクシャクしてるというか近づいたというか……」
    「気のせいだろ」
    「だからエイトマンから意見を聞きたかった」

    話を聞け。
    意見って言ってもな……。

    「本気なら、いいんじゃねぇか」
    「! そうだよな、やってやる……!」

    アツアツで燃え燃えですね……。
    まあこれでこの話も終わりか。
    俺は席を立ち上がると、キリトが俺の背中に向けて言ってきた。

    「相談に乗ってくれてありがとう。必ず、やってみせるよ」
    「……リア充爆発しろ」
    「んなっ!?」

    冗談吐いて、俺は立ち去った。
    リア充爆発しろとは思うが、キリトとアスナは例外だ。
    せいぜい仲良くしろよ。


  118. 123 : : 2017/01/03(火) 15:26:45
    あけおめ。今年もお互いに頑張りましょう。
  119. 124 : : 2017/01/03(火) 16:25:59
    >>123
    あけおめです

    キリトの野郎……マジでやりやがった。

    俺の手には1枚のチラシが握られている。
    そこに書かれていることをもう一度確認しよう。

    『《神聖剣》vs《二刀流》再び!』

    ……何があったんだ……。

    話をするんじゃなかったのかよ、これ実力行使じゃねぇか。
    てかこれ絶対負けた時のペナルティもあるよな? 大方、血盟騎士団に入団しろとかそんな感じだろうが。
    いいのかよ……大会で一回負けてただろ……。

    眼前にいる黒の服を着込んだ男ーーーーーーキリトにチラシを叩きつける。
    ビクッ、とキリトが動く。

    「…………説明を要求してもいいか?」
    「…………アスナを奪うのなら私に勝て、と煽られました。反省はしてない」
    「バッカお前、一回負けてるだろおい」
    「愛があれば何でもできるんだよ!」

    あっ、これダメなキリト状態だ。ダメキリトだ。
    こめかみを抑える、頭が痛い。
    まあいい、俺には被害はないだろう。なら俺が取るべき行動って何だ。
    …………あれ? 被害がないなら別にいいんじゃね?
    理解した途端、何かどうでもよくなってきた。

    「まあ頑張れ、攻略に支障がなければ俺はいい」
    「冷めてるなぁ、エイトマンは」

    この状態で俺にどうしろと。
    一応心配はしてる。一回負けてるし。

    「勝負は明日だろ、大丈夫なのか?」
    「何だ、心配してくれてるのか?」
    「よし帰れ」
    「わぁーっ! 待て待て、ちょっと茶化しただけだ」

    テーブルの紅茶のカップなどを片付けようとした俺を引き止める。何だよ邪魔だぞ。
    真剣な表情になるキリト。
    こいつ……真剣な表情になったら何でも許されると思ってるんじゃないのか……。

    「俺はこの勝負で、ヒースクリフに勝つ。絶対だ」

    割と真面目な話だった。
    俺も居住まいを正して耳を傾ける。

    「そして、勝ったらアスナを貰う。負けるわけには行かない」

    ……おい、キリト。いいのかそれで……。

    「長居して悪かった、明日へ備えて俺はもう帰るよ」

    席を立つとキリトは俺の家から出ていった。
    真剣そのもの、ガチだあいつ。
    でもフラグビンビンですよ……。

    …………一応、試合見に行くか。
  120. 125 : : 2017/01/03(火) 23:42:50
    ツンデレ八幡ェ...期待
  121. 126 : : 2017/01/04(水) 19:36:43
    >>125
    捻デレ八幡にしたいです。

    熱気が、熱気がやばい。

    前の大会もこうだったのか? よく来れるな。
    会場は壮絶な盛り上がり。
    皆が何を見に来てるかって?
    ヒースクリフvsキリトの再戦だよ。

    まだ始まって数分、その間にもう何回の攻防が続いたのか。
    《神聖剣》のヒースクリフ。
    あの防御の高さはどう突破すればいいのか。
    盾を攻撃に使うなんて見たこともない。
    対するキリトは《二刀流》。
    目にも見えぬ速さで攻撃&攻撃の超アタッカーだ。
    まさにほこ×たて。
    最強の矛と最強の盾を決める試合みたいだ。

    おっと、キリトが吹っ飛ばされた。
    盾の攻撃は初撃に入らないのか?
    一発入れようとヒースクリフが接近したところをキリトが剣で弾く。
    剣が青く輝く、ここでキリト選手、ソードスキルを発動させました!

    実況者っぽくなってたのは気のせいだ、うん。
    あのスキルは多分、74層のボスを倒した時に使ってた、なんとかバーストなんとかリームだろ。
    それら全てをガードするヒースクリフ、あいつ化物かよ。

    だがキリトも負けてない、連続で攻撃を浴びせ続ける。
    そういえばガードって、攻撃受けすぎるとガードブレイクが発生したような……。

    そう思った次の瞬間、ヒースクリフの盾が横に弾かれた。
    盾に覆い隠されていた部分がガラ空きになる。

    その瞬間は、キリトの右手の剣によって切り裂かれた。
    ヒースクリフに一撃がーーーーーー。

    「……あれ?」

    気づいた時には、キリトの剣は盾で受け流されていた。
    前のめりになるキリト。
    ヒースクリフの剣は、そんなキリトを易々と切り裂いた。
  122. 127 : : 2017/01/04(水) 19:37:03
    ーーーー

    あれの戦いから数日。
    キリトは勝負前にした約束を守り、血盟騎士団へと入った。
    月夜の黒猫団のメンバーは悲しそうにしてたが、もう皆攻略組に入っても十分なくらい強くなっていたのでキリトも満足だろう。

    ……この戦いって、キリトが勝ったらアスナを黒猫団にスカウト、負けたら血盟騎士団に入るってことだったんだよな。
    どっちに転んでもアスナはキリトと一緒にいられる……あれ、アスナさん大勝利じゃないですか?

    「ちょっと、何か変なこと考えたでしょ」
    「いや全然何にも考えてません」
    「ふーん……」

    血盟騎士団のホーム、その一階のロビーに俺はアスナと共にいる。
    キリトは現在、ゴツイおっさんとリュークみたいな死神顔の男とついさっき任務に出かけた。
    アスナの愚痴を聞く限り、あの死神男は前にキリトとPvPしてぼろ負けした相手らしい。

    「はぁー……せっかくキリト君と一緒にいられると思ったのに」
    「俺で悪かったな」
    「呼んだのは私よ、暇だもの」
    「レベリングか攻略してこいよ」
    「キリト君と一緒じゃなきゃやだ」

    何この駄々っ子。アスナって割と馬鹿な子?
    ムスッとした顔で俺を見てくる。俺は呼ばれたから来ただけなのに……。

    「そういえばヒースクリフはどうしたんだ?」
    「団長は攻略の時以外は部屋にいるわよ」

    余り顔を出さないのな。
    それにしてもアスナを見てると、ついこの間の事を思い出すな。
    殺人の重圧、嫌悪の視線、自分を執拗に責め、心身ともに疲れ果て、死にかける。
    そこをアスナに助けてもらい、話を聞いてもらい、抱き締めてもらーーーーーー。

    やめよう、前半は忘れてはいけないことだが後半の抱き締められたところは忘れよう。
    あの時は切羽詰まってたから余り感じてなかったが……後々になるとあの感触を思い出してしまう……。

    「何チラチラ見てるの?」
    「いっ、いやなんでもございません」
    「何よその口調……あっ、キリト君が止まった」

    ちょっとストーカー基質あるんじゃないの?
    キリトの行動逐一確認してるんだが……。
    いや、もう付き合ってるみたいなもんだしストーカーじゃないな。束縛だな。
    束縛系はちょっと……ご注文はほのぼの系ですか?

    ガタリ、とアスナが立ち上がる。

    「ゴトフリーの位置情報が……消えた」
    「えっ、何だって?」
    「キリト君の身に何かが……! エイト君! 行くよ!」
    「えっ、ちょっと。えっ?」
    「場所はここっ!」

    マップを送り付けられる。
    よくわからないがアスナの焦り具合からかなりまずいことが起きてるのが想像できる。
    指示された場所を確認、最短ルートを頭の中で構築。

    「全速力で行く」
    「エイト君の方が速いもの、私も後ろからついていくわ」

    俺は全速力で走り始めた。
    嫌な予感が的中しないことを祈りながら。
  123. 128 : : 2017/01/05(木) 14:47:35
    勉強のコツ教えて下さい。
    実は、今年受験です。
  124. 129 : : 2017/01/09(月) 11:12:38
    >>128 ここはssサイトなんだが。勉強のコツが知りたいなら知恵袋や2chでスレ立てでもすればいい。サイトの使い方を考えてから使おう
  125. 130 : : 2017/01/09(月) 16:42:09
    そうですね。なんかすいません
  126. 131 : : 2017/01/09(月) 18:15:43
    視界が目まぐるしく変わる。
    ものすごいスピードで走っているのがわかる。
    マップをその都度確認しながら走る。
    目的地は、すぐそこだ。

    ーーーーーー見えた!

    白い服装に身を包んだキリトと……死神面のあの男!

    キリトに剣を突き刺している。
    どんどん減っていくキリトのHPバー……だが、間に合った。

    「死ねぇっ!」

    男が剣を深く突き刺そうとする。

    「おい!」

    久しぶりに出した大声。自分でも驚くほど低い声が出た。
    だが、好都合だ。
    その声で驚き、一瞬固まる男。
    俺と目が合うと、死んだような目が大きく開かれる。
    俺が刀を抜刀すると同時に、男の手首が落ちた。

    「は……あああ!!? 俺の、俺の手がぁっ!?」

    思い切り蹴り飛ばす。
    男は手が無くなったショックと突然現れた俺によってわけがわからなくなっている。

    「エイト、マン……」
    「黙って早く飲め」

    麻痺回復ポーションと回復ポーションを飲ませる。
    あともう少しでHPが赤になっていた、キリトの黄色ゲージはポーションを飲むと緑色になり、満タンになった。

    「平気か?」
    「ああ……だけど、ゴドフリーが……」

    ゴドフリー、そうか……死んだのか。
    あいつに、殺されたのか。

    刀を抜刀する。
    キリトはもう大丈夫だろう。
    後ろを向くと、死神男と目が合った。
    手はもう再生してるみたいだ。

    「お前のせいで……お前のせいで、私の計画はめちゃくちゃだぁぁっ!!」

    無茶苦茶に剣を振り回してくる。
    だが、その剣には確かな殺意が込められていた。
    全て避ける。攻撃をいつしようか考えていたら、男が叫んだ。

    「所詮、お前なんか! ユニークスキルがなかったらゴミなんだよぉ!」

    なんだよその言い方、俺が抜刀術しか使えない猿とでも思ってるのか。

    「違うな」
    「はぁ!?」

    キリトが声を上げる。
    過剰に反応するこの男は、目の前にいる俺を無視してキリトの方を向く。馬鹿じゃねぇの。

    「抜刀術は確かにエイトマンの強いところの一つだ。だけど……それだけが強みじゃない。……だろ? エイトマン」
    「何言って……ーーーーーーあいつはどこ行ったぁ!?」

    攻略組でも屈指の強さを誇るキリトにそう言われると、俺も恥ずかしい戦いは見せられないな。
  127. 132 : : 2017/01/09(月) 18:16:18

    隠蔽スキルと敏俊極振りでの高速移動。
    これの組み合わせで相手の前から姿を消す。
    戦ってる相手にとっては瞬間移動してるようにも見えるらしい。

    「後ろ……!? がっ……」

    ソードスキルを使わずに滅多斬りにする。
    防具服で流石に斬り落とせないことはわかっていたが、もうかなりのダメージ、流石にもう諦めてくれるだろ。
    刀を振りかざす。こんな屑、……殺してやる。

    「わ、悪かった……俺が悪かった! もうお前らの前には現れねぇ! だから、殺すのだけは……!!」

    "殺す"
    その言葉で、一瞬俺の動きが止まった。
    ラフィンコフィン討伐作戦のことを思い出す。
    ダメだ、殺しては。

    「……二度と顔を見せんな」

    刀を納刀して、キリトを連れ帰るために転移結晶を準備する。

    「バァーカ! 死ねーーーーーー」

    俺の首元目がけて迫ってくる両手剣。
    納めていた刀に手を伸ばす。
    それと同時に、剣を掴んでる両手首は斬り落とされた。

    「あああ……ああっ!?」
    「まだ、懲りねぇのか」

    何度も、何度も、殺そうとしやがって。
    ゴドフリーが死んだ。
    キリトも死んでいたかもしれない。
    俺もだ。
    なのにお前はなんだ、自分は生きてるのが当たり前とでも思ってるのか?
    近くに落ちていたこの男の両手剣を拾い上げる。
    両手剣スキルは上げてないが……こいつを殺すには十分だ。

    「や、やめて……死にたくねぇ!」

    両手剣を振りかざす。
    剣の影が、やつの顔を真っ二つにしている。
    そのまま、振り下ろーーーーーー。

    「ダメぇっ!」

    ピタッ。
    剣は、男の目と鼻の先で止まった。
    ぜーっ、ぜーっ、と息を荒げる女の声。
    アスナの声で、俺は止まった。

    「エイト君、落ち着いて。はい深呼吸…………どう、落ち着いた?」
    「……すー……はー……あぁ……」

    深呼吸をして、頭に新鮮な酸素が送られたおかげか、ずいぶん落ち着いた。
    落ち着いた俺を見ると、アスナは男に向き直す。
    細剣を抜き、先を男に突きつける。

    「副団長アスナから命じます。今日限り、クラディールを血盟騎士団より除団、解雇。二度と私達の前に姿を現すことを禁じます」
    「あ……」

    つまりは、監獄エリア行きってことだ。

    「もしこれを破り、私達の前に現れた場合は……言わなくてもいいでしょう?」
    「は、は……い……」

    アスナの覇気に押されて、男の勢いがなくなる。
    もうその辺にある枯葉みたいな感じだ。

    しかし、そんな状態でもアスナは許さないのか。いや、寧ろ怒っている?

    「…………理解はした、それなのにすぐに私たちの前から消えないというのは、私達三人に対しての宣戦布告と取っていいんですね?」
    「そ、そんな、滅相もない!」
    「なら、さっさと消えて」

    冷たく言い放つアスナ。
    転移結晶を取り出す男。
    自ら、監獄エリアを指定して飛んだ。
    男の顔には、もう殺意も敵意もなかった。

    それを影に、俺は一人震えていた。
    また、人を殺そうとしてしまった。
    俺の頭の中は、突然湧き上がったへの不安感でいっぱいだった。
  128. 133 : : 2017/01/10(火) 22:38:19
    ーーーーーー攻略組。
    それはこの世界から脱出するために結成された、迷宮攻略、ボス討伐を行う者達。
    そんな選りすぐりのメンバーの中にも、序列というものが存在する。
    いや、序列とは少し違うか、わかりやすく言うならば……強者だな。

    そして今日は、そんな強者が2人も攻略組を抜けてしまった日だ。

    キリトとアスナ。
    黒の剣士で知られる二刀流使いのキリト。
    閃光のアスナとして知られている、血盟騎士団副団長。

    この2人が、攻略組を抜けてしまったのだ。

    「……はぁ」

    短いため息が出た。
    やる気が出ない
    そりゃそうだ。俺にしては深く関わってきた奴が2人も最前線から遠のいたんだ。
    キリトとアスナは現在、血盟騎士団を抜けて黒猫団に身を置いている。
    だが、実際はどこかの層で2人仲良く暮らしているみたいだ。
    隠居ってやつだろうか。中睦まじいことだ……俺が知らないところでどんな関係だったんだろうか。
    いや、キリトを見ればわかるな、あいついつもアスナにデレデレだし、アスナのことになったら本気になるからな。
    俺の思考はループしていた。さっきからずっとこんなことを考えている。
    これも全て、隣にいるやつのことを忘れるためだ……。

    「どうしたんだエイトマン君? ため息なんかついて」

    俺が聞きたいわ。
    なんで俺はディアベルと一緒に攻略してるんだよ。
    なんで攻略しに迷宮に来たら、ディアベルもたまたま1人で攻略していて、一緒に攻略してるんだよ。
  129. 134 : : 2017/01/10(火) 22:42:24
    「キリト君とアスナさんが抜けたのは確かに残念だけど、僕達だけでも出来ることはあるよ」

    こいつなら何言ってもかっこよく聞こえるなぁ……。
    君の瞳に乾杯とか言って口説いたりしそう。
    ナルシスト入ってたら、君の瞳に写った僕に乾杯って言ってるかもな。残念ながらイケメンなだけでナルシストではないが。

    「話聞いてるかい?」
    「ん……あぁ、聞いてる」

    相槌を返すのを忘れていた。
    元来、俺は友人と話す体質ではなかったからな。キリトやアスナは別だが……。
    奉仕部でも静かな空間でお茶飲みながら本読んでるだけの毎日がほとんどだったし……たまに由比ヶ浜に声をかけられるがあまり気にしてなかったな。

    「本当はね、いつか君に感謝の言葉を伝えたかったんだ」

    唐突に呟くディアベル。
    感謝の言葉……記憶力がいい俺はわかったぞ。
    だがあれは感謝されることじゃないな。

    「今、2人きりだね」

    そういう路線に走られるとちょっとエビエビな人が怖くなるのでやめてください。
    俺は女の子が好きだ。年上も年下もバッチコイ。だが喋る勇気は出ない。

    「あの時、1層の時、僕を助けてくれてありがとう。もし君の行動がなかったら、今頃僕は……」
    「やめろ。お前が生きてなかったらまずいと思った結果の行動だからな。
    お前が別に死んでても構わなかったら俺は助けてなかった。そんな俺に感謝を伝える意味なんかない」
    「そうかもしれない。だけど、助けてくれたのは事実だ。だから……ありがとう」

    面と向かって言われると恥ずかしい。
    ディアベルは真摯な目で見てくる。
    わかった、わかったからもうやめてくれ。

    「…………感謝はありがたく受け取っておくわ」
    「僕的には素直に受け取って欲しかったな」

    はは、と爽やかな笑みを浮かべるディアベル。
    子供っぽいキリトとは違った笑いだ。
    ふと、思い出す。
    この前の……クラディールって言ったか。
    あいつへの、突然湧いた殺意だ。
  130. 135 : : 2017/01/10(火) 22:45:40

    「……ディアベル、一つ聞きたいんだが」
    「何かな? 僕で答えられることならなんでもいいよ」

    こんなことを人に聞くのはおかしいと思う。
    だけど、聞かずにはいられない。

    「人を……殺したくなることとか、あるか?」

    ディアベルが驚いた表情になる。
    一瞬、考え込む姿を見せる。

    「………………ある、って言ったら?」
    「俺もだ、って答える」

    クスリと笑うディアベル。

    「僕達だって人間だしね、そういうことに一つや二つ、あると思うな」
    「……でも、実際実行に移そうとしてしまう場合は」

    ゾクリとした。
    もしあの時、クラディールを殺していたら、俺は再び一人になっていたんじゃないのか?

    「この世界じゃ、殺人は簡単に出来てしまう。それを理由の一つなんだろうね」

    こんな相談したら、やっぱりすぐわかるか。

    「ここに長くいたせいで、感覚が少しおかしくなってるのかもしれない。でも、大丈夫だよ」

    なんだか、重かった肩の荷が落ちた気がする。
    この世界から出たあとも、この殺意があったらそりゃ危ないが……。
    この世界にいる限りは皆、多少そういうことを考えてしまうのが大半なのか?

    ーーーー

    そんなこんなでディアベルと攻略を続けていると、明らかに雰囲気が違う場所にたどり着いた。
    緊張感が走る。

    「おい、ディアベル……」
    「……ボス部屋が近いの、かな」
    「慎重に行くぞ……」

    ここは75層、もうターニングポイントだ。
    何があるかわからない。
    トラップの危険もある。

    「ここかな? ボス部屋は」

    大きな扉がある部屋を見つけた。
    扉に手を触れる、鍵はかかっていない、ボス部屋か?

    「どうする。戻る?」
    「……ボスを一回確認してみた方がいいんじゃないのか?」
    「そうだね……そっちの方が攻略もやりやすそうだ」
    「じゃあボスの姿を見たらすぐに引き返すか」

    コクリと頷くディアベル。
    俺はゆっくりと扉を開けた。
    ギギ、ギ、と錆びた様な音が迷宮を反響する。

    中に入ると部屋の蝋燭に、青い光が灯された。
    奥にいるボスの姿が目に映る。

    「ムカデ……?」

    ムカデは、玉座に座っていた。いや、座っているというより、乗っているという方が近いか。
    その姿を理解すると同時に、後ろの扉が動く。

    「扉が……!?」
    「嘘だろ、おい」

    ガチャン、と大きな音を立てて扉は閉まった。
    目の前には大きなムカデ。こいつがボスか?

    「転移結晶は……使えないか」

    ディアベルがすぐに確認する。
    やはり、無理か。

    「こんなギミック、聞いてないぞ……」

    内心かなり焦ってる。
    だってボスに2人で挑むなんておかしいに決まってる、しかもターニングポイントだぞ。

    「エイトマン君、奥のあれ……」
    「あ? ボスがどうした」
    「いや、その後ろ」

    言われた通り、ボスの後ろの存在を確認する。
    玉座……いや、更にその後ろ?
    ……扉?
    まさか、これって……。

    「中ボス、的な?」
    「多分、そうだと思う……でも、どう? これなら勝てる気もしないかい?」
    「ははは……元から負ける気もねぇよ」

    やることは決まった。
    こいつをぶっ殺して、奥のボス部屋を開ける。
  131. 136 : : 2017/01/14(土) 21:08:10
    これはかなりの良作だ!! だから最後まで頑張って欲しいな
  132. 137 : : 2018/01/04(木) 19:01:09
    なぜかこれ見てると………蚊取り線香思い出して来た
  133. 138 : : 2018/12/26(水) 20:38:32
    あーーーーーーーーーーーーーーー

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yuhi

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