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雪染「今日からクラスメイトになる日向創君よ!」

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  1. 1 : : 2016/10/24(月) 01:24:56
    はじめに に興味ない方は>>3から

    ・ネタバレ注意
    ・日向君を本科に上げて、何の不安のない平和な学園生活を送らせてあげたかった
    ・本科に入った日向君と77期生の日常を書いていくSSです。(ちょいちょいシリアス入ります)
    ・ダンガンロンパ3 絶望編の時代ですので、御手洗もいますし、雪染もいます。
  2. 3 : : 2016/10/24(月) 01:54:03
    雪染「突然だけど、今日からみんなとクラスメイトになる日向創君よ!みんな!仲良くね!」

    日向「えっと、は、初めまして。超高校級の相談窓口として予備学科から本科に上がってきた日向創です。よ、よろしく。」

    雪染「もー、そんな固くならなくていいわよー。これからはみんなと同じ超高校級なんだから!」


    左右田「せんせーい、と日向だっけ? 超高校級の相談窓口ってなんすかー?」

    雪染「ふっふっふ!よくぞ聞いてくれたわ左右田君!日向君、答えてあげて!」

    左右田「先生が答える流れじゃねーのかよ!」

    日向「ははは…えっと、相談窓口、っていうのはその名のとおり、人から相談を受けて、人に頼られて、そして、それを解決することができる、っていうことらしい。と言っても、弁護士のようなことはできないし、仕事を斡旋する相談とかされても困るんだけどな。」

    西園寺「えー、じゃあ何を相談するのー? お金が発生しないんだったらクソの役にも立たないゴミのような才能じゃなーい?」

    小泉「ちょっと!口が悪いわよ!」

    日向「まぁピンと来ないかもな。俺に相談して力になれることは人間関係だよ。クラスメイトの相談にそれとなく乗ってやってたら、いつの間にか相談窓口とか呼ばれ出して、学園から才能って認められてな。」

    左右田「マジか! つ、つまり、恋愛事も…?」

    日向「相談を受けたなら俺は全力で応えるよ。」

    左右田「よっしゃ!後で頼む!」

    雪染「ふふ、クラスメイトの結束を感じるわ。よっし、今日これからは日向君と仲良くなる時間ね! 質問なり、遊ぶなり自由にしなさーい!」

    日向「え、遊んでいいんですか?」

    雪染「いいのいいの!みんなと仲良くなること、それはどんな勉学よりも大事なことよ!」

    澪田「キターーー! ひなたはじめ、っすから…創ちゃんっすね! あ、何か楽器は弾けるっすか? 唯吹と一緒に音楽やろうっす!」

    花村「んふふふ、日向君、なかなか有望そうな人が来たね。今度僕とディナーはどうかな? その後もゆっくり…ね。」

    弐大「ふむ、お前さん、いい体をしとるのう。鍛えがいがありそうじゃ。」

    狛枝「日向君…ね。あぁ、新たな希望が生まれる瞬間に立ち会えるなんてボクはなんて幸運なんだろう。素晴らしいよ! しかも、同じクラスになれるなんて……この幸運の先にどんな不運が待ってるのかな…? 」

    罪木「ふ、ふゆぅ…日向さんって言うんですね…。に、人間関係なら私もご相談が…。」

    西園寺「うっさいゲロブタ! あいつは私の下僕候補なんだからあんたは引っ込んでて!」

    小泉「ちょっと日寄子ちゃん!? 蜜柑ちゃんに優しくっていつも…。」


    日向「ちょ、待て! 一気に話しかけるな! 聖徳太子じゃねえんだよ!」

    雪染「あ、そうそう。このクラスの委員長は七海さんだから、何かあったら頼りになるわよ。」

    日向「え?七海?」


    日向が教室を見渡すと、一番後ろの一番端っこでゲームをし続けている女の子が見えた。


    日向「七海…!」

    七海「………。」

    日向「…おーい。」

    七海「……うん。」

    日向「………。」

    日向は七海の目の前で手を振ったりしたが、反応はない。


    日向「よっしゃ、みんなでスマ〇ラやろうぜ。」

    七海「……ス〇ブラ!? …ん?」

    日向「やっと顔を上げたな。」

    七海「…あれ? 日向君?」

    日向「ああ、日向創だ。」

    七海「……? あれ、私教室間違えた?」

    日向「違う違う。っていうか、先生の話全く聞いてなかったのかお前。」

    七海「うん。」


    視界の隅で元家政婦が落ち込んでる姿が見えたが、日向は気にしないようにした。


    日向「本科に上がれたんだ。今日から俺もクラスメイトだよ。」

    七海「…本当?」

    日向「驚かせようと思って、次会うまでは言わないようにしてたんだけど……ドッキリ成功だな。」

    七海「……えへへ。これで毎日ずっと一緒にゲームができるね。」

    日向「……あ、ああ、そうだな。」

    七海の笑顔に逆にドッキリさせられた日向であった。
  3. 5 : : 2016/10/24(月) 02:16:14
    雪染「じゃあ、ちょっとこの場は任せるから、あとはよろしくね、七海さん。」

    そう言って雪染は教室を出て行った。



    超高校級であってもその中身は高校生である。

    つまり、転校生がきてやることは大体決まって…


    七海「質問タイムもいいけど、みんなのことを知ってもらおう…と思うよ?」

    日向「つまり、何をするんだ?」

    七海「みんなの才能ってどんなものなのか、っていうのと…みんながどういう人なのかっていうことを体験してもらったほうがいいんじゃないかな?」

    日向「言ってることはわかるけど、体験って…?」


    花村「ふふん、こういうことさーっ!」

    日向「うおお、一瞬で料理が!」

    花村「新しい仲間が増えたなら歓迎会だよね! ってことで料理を作らせてもらったよ!」

    終里「んがっ…?メシ…メシぃぃぃぃ!!!」

    日向「うおっ、あ、あいつは…?」

    七海「終里赤音さんだよ。超高校級の体操部で、食べることが大大好き…かな。」

    日向「まぁ見ればわかるけど…。」


    終里「はぁ…はぁ…な、なんか、からだがあちぃぞ……。」

    七海「あ…これは。みんな!料理に手をつけないで!」

    左右田「うおおい花村ぁ!てめぇまた変なクスリ入れやがったな!」

    花村「いやいや!? 確かに入れようと思って用意はしてたけど、さすがに自重したよ!?」

    九頭龍「ああん?ならなんで終里はあんな…。」


    狛枝「あれ?これって肉に付けるソースじゃなかったんだ。」


    左右田「お前かああああああああ!なにやらかしてんだあああああ!!」

    九頭龍「つーか…おい…」


    辺古山「坊ちゃん……身体が熱い…です…。」

    九頭龍「くそっ、食っちまったのか!?」

    ソニア「田中さん……はぁ…はぁ…田中さん……。」

    田中「お、落ち着くのだ! 邪気を沈めるのだ!」


    左右田「そ、ソニアさーん!? なんで田中なんですかー!」

    御手洗「突っ込んでる場合じゃないよ!早く止めないと…!」


    罪木「ふゆぅ……あ、熱い……なんだか、えっちな気分になってきますぅ…。」

    花村「はぁはぁ…いいよぉ、罪木さぁん…。もっと…もっとだぁ…。」

    左右田「おいてめえ自重どこいった!」


    罪木「い…今すぐ…はぁ……沈静化させる薬を…用意…!」

    西園寺「は、はやく…!罪木はやく!早くしないと…!」


    弐大「くそじゃあああああああああああ!!!」


    小泉「い、いやああああああ! なんか色々大きい!」

    澪田「ふむ、新曲のインスピレーションが降りてきそうっす。」

    小泉「こんな時になんでそんな冷静なの!?」



    日向「……なんていうか…退屈しなさそうなクラスだな。」

    七海「でしょ?」

    日向はこれから彼らに付き合っていけるのだろうか、と頭を悩ませるのだった。
  4. 8 : : 2016/10/25(火) 01:23:00
    媚薬入り料理を食べた人の処置を終え、何とか事態を沈静化させた。


    日向「はぁ…なんかどっと疲れたよ…。」

    七海「前回はみんな食べちゃったからもっとひどかったんだよ?」

    日向「あれ以上…だと?」

    七海「んーと、とりあえず、みんなの名前と才能についてはリストを作って置いたから、それで覚えてね。」

    日向「なにげに重要資料だなそれ。ありがとう。」


    七海が作った資料は顔写真、名前、才能、そして、七海のコメントが書いてあった。


    日向「へぇ、コメント付きとはすごいな。」

    七海「このクラスの委員長だからね。……家に帰ってから読んでね。みんなに見られちゃうと恥ずかしいし…。」

    日向「お、おう…。」

    日向(こんな恥ずかしがるとは…何が書いてあるんだ…。)


    日向は無くさないようにカバンの中に入れた。


    九頭龍「けっ、こりゃ今日は何もねえな。帰るか。」

    西園寺「私も帰ろーっと。」

    その声に釣られたのか、皆、ゾロゾロと席を立ち始めた。

    左右田「あ、日向! さっき言ってた相談事に乗ってくれねえか?」

    日向「いいぞ。えっと……」

    左右田「ああ、自己紹介がまだだったな。俺は左右田和一、超高校級のメカニックだ!」

    日向「メカニック…ってことは機械関係の才能か。」

    左右田「おう! 俺に掛かれば、バイクだろうが、ロケットだろうがなんでもいじってやるぜ!」

    日向「おお、それはすごいな。あ、相談窓口ってことで俺にも一室部屋が割り当てられてるからそこで聞くよ。」

    左右田「おお、マジか。相談室ってわけだな。じゃあさっそく行こうぜ。」

    日向「ああ、じゃあ七海、俺は左右田と行ってくるよ。」

    七海「……うん。私はゲームやってる。」


    そう言って七海は携帯ゲーム機をピコピコといじりだした。
  5. 11 : : 2016/10/26(水) 23:11:20
    ~相談室~

    日向は自分の分の紅茶と茶菓子を用意して、左右田の前に差し出した。

    日向「どうぞ。」

    左右田「おお、サンキュー! 本格的だな。」

    日向「まぁ相談を受けるときに軽くもてなしたりすると、相談者の緊張がほぐれたりして、相談しやすくなるらしい。」

    左右田「へぇ…そういう研究もされてんのか。っと、さっそくだが、俺の話を聞いてくれるか?」

    日向「ああ。っと、その前にこの資料に情報を書き込んでくれるか?」

    左右田「なんだこりゃ。」

    日向「相談者の簡単なプロフィールを書いてもらう紙だよ。年齢、性別、あと、相談事の大雑把な内容だな。それと俺が書いた報告書を学園に提出することになってるんだよ。」

    左右田「あー、なるほどなー。俺で言ったら、作ったものの成果物を出すようなもんか。じゃあ、さっさと書いちまうからちょっと待ってくれ。」

    日向「ゆっくりでいいぞ。俺も書く事あるからな。」


    そう言って日向も資料に必要な情報を書き込む。
  6. 12 : : 2016/10/26(水) 23:27:31
    しばらくして、日向も左右田も書き終え、向かい合った。

    日向「じゃあ、ちょっと見させてもらうな。」

    名前 左右田和一
    才能 超高校級のメカニック
    年齢 10代
    相談事カテゴリー  恋愛
    相談事の概要 好きな人へのアピール方法
    お茶、菓子の評価(5段階) 3

    日向「恋愛事か。よっし、じゃあ具体的な内容に移るか。好きな人…は言いづらいだろうから、その辺は話さずに話を聞かせてくれ。」

    左右田「おう。あー、まぁそこに書いてある通り好きな人がいるんだ。でもな…その人はいつも俺のほうを見てくれてなくって、いくらアピールしてもスルーされるか、なんつーか…相手にされてもドン引きされてるような気がして…。」

    日向「ふむ……。それで、アピールの方法を教えて欲しい、と。」

    左右田「ああ。」

    日向「普段どんな感じでアピールしてるのか、教えてくれるか?」

    左右田「どんな感じって……ネジを送ったり、見事な造形の骨格を見つけたら、見せに行ったりとか…。」

    日向「………左右田、お前、すごいよ。」

    左右田「マジか。まぁ普通の人間にはできないアプローチとは思うけどな。」

    日向「ああ、普通の人間ならそれをアプローチとは思わないだろうし、どんな女の子でもドン引きするって保証してやるぞ。」

    左右田「どんな保証だ!うれしくねえ!」

    これは難解な相談事かもしれない…と、日向はどう解決するかで頭を悩ませた。
  7. 15 : : 2016/10/27(木) 00:30:56
    日向「まず、お前がアプローチという迷惑行為だが」

    左右田「迷惑行為って言うな! 俺なりに必死に考えて…」

    日向「断言するぞ。それで喜ぶ女の子は極々一部だ。」

    左右田「なん…だと…。」

    日向「送り物をするという発想はいい。けど、お前の才能のせいなのかは知らないけど、ネジを渡すというのはほとんどの人にとって嬉しい場面は少ない。」

    左右田「いや…ネジもらったらうれしくねえ? 俺だったら、ピカピカのネジもらったらすげえ嬉しいんだけど。」

    日向「お前、その好きな女の子だけでなく、俺もドン引きさせてどうするんだ。」

    左右田「引くな!戻ってこい!」

    日向「大丈夫だ。途中で投げ出したりはしない。さて、じゃあ具体的にどうしたらいいかを考えよう。」

    左右田「おう…。それで、どうしたらいい?」

    日向「何事も調査と研究だ。その人の性格、立場とか、あとはストレートに欲しいものがあるかを調べるんだ。相手を知ることから始めないとな。」

    左右田「いや、俺はソ……あ、相手のことは知ってるぞ?」

    日向「じゃあ、そいつの好きな食べ物は? 好きな服は? 好きな本は? 好きな音楽は?」

    左右田「………お、俺…何も知らねぇ!」ガーン

    日向「良かったよ。ネジとか答えなくて…。」

    左右田「オメーは俺をなんだと思ってんだ!」

    日向「この短い間で機械馬鹿だってことはわかってるよ。」

    左右田「わかってんじゃねぇか。」

    日向「馬鹿はいいのか。」


    その後も日向と左右田の相談は続いた。
  8. 16 : : 2016/10/27(木) 00:39:39
    左右田「わかったぜ…。まずは相手のことを知る、だな。」

    日向「ああ。本人にそれとなく聞くとか、周りから聞くとかな。しつこく聞いちゃダメだぞ? 教えたくないとかあるかもしれないからな。」

    左右田はいつの間にか手に持っていたメモ帳に色々書き込んでいる。

    左右田「よっしゃ! ありがとうな、日向! やってみるぜ!」

    日向「ああ、頑張れよ。」

    左右田「この後どうすんだ? なんなら、一緒に飯でもどうだ?」

    日向「俺は今日の報告書と日報を書かなきゃいけないから難しいな。」

    左右田「おう! じゃあ、またな!」

    上機嫌に左右田は相談室を出て行った。
  9. 17 : : 2016/10/27(木) 23:02:19
    日向「ふぅ、終わったな。結構時間経ったな…。」

    全ての作業を終える頃には夕方になっていた。

    日向「あ、鞄は教室か…。取りに戻るか。」

    片付けを終えて、日向は相談室を後にした。



    ~教室~

    日向(まぁ今日は色々あったから、誰もいないだろうな。)

    ガラッ


    日向「……ん? 七海?」

    七海「……」ピコピコ

    教室では七海が一人でゲームをしていた。

    日向「おーい?」

    七海「……」ピコピコ

    日向「……。」スッ

    七海のパーカーのフードを被せてみるが、なんの反応もない。

    日向「七海?」

    七海「……うん。」

    日向「ゲーム楽しいか?」

    七海「……うん。」

    日向「今日は楽しかったか?」

    七海「……うん。」

    日向「左右田ってかわい左右田よな。」

    七海「……うん。」

    日向「俺のこと好きか?」

    七海「………。」

    日向「ん?」

    七海「……そういうのは…もっと雰囲気とか…さ。ある、と思うよ?」

    七海はこいつわかってない、と言うような顔で頬を膨らませながら言う。

    日向「反応できるなら初めに声をかけたときに反応してほしかったよ。」

    七海「…」ムー

    日向「何膨れてるんだよ。ほら、夕方だから帰るぞ。」

    七海「……あれ、いつの間にか夕方だ。」

    日向「…俺が声かけなかったら夜まで気付かなかったかもしれないのか…。」

    七海「そ、そんなことは…ない…と思う…。」

    日向「本当かー?」クスクス

    七海「…きっと大丈夫だよ。」

    日向「ん?」

    七海「日向君がきっと気づかせてくれるよね? 今日みたいに。」

    日向「お、おう。」

    七海「じゃあ、大丈夫。」

    上機嫌な様子で七海は席から立ち上がる。

    七海「さ、はやく帰ろ?」

    日向「俺から言ったんだけどなぁ…。」

    日向は苦笑しながら、七海の後を追った。
  10. 20 : : 2016/10/29(土) 03:39:23
    日向「七海ってどこに住んでるんだ?」

    七海「寮だよ。日向君は?」

    日向「俺は昨日まで予備学科だったからな。そもそも希望ヶ峰学園に寮があったことを知らなかったしな。明日には寮に入るつもりだけど、今日はまだ実家だな。」

    七海「……そっか。じゃあ、ここで。」

    日向「って、え…。これが寮か?」

    日向の目から見ると、洒落たマンションのように見える。

    七海「うん。じゃあ、ね?」

    日向「ああ、また明日な。」

    七海に手を振って、日向は自宅を目指した。



    日向「ただいま。」

    返事がないことはわかっているが、小さく呟いて、早々に自分の部屋に行く。

    必要な荷物は全て寮に送り、部屋に残っているのは机とベッド、必要ないと判断した書物くらいだ。

    ベッドに横になって、天井を眺めながら、今日一日のことを思い返す。



    超高校級しかいない教室に入った。

    自分も超高校級を名乗って、自己紹介をした。

    七海がいて、個性が強すぎるクラスメイトと話をした。

    左右田の相談に乗って、自分なりにアドバイスした。

    七海と当然のように話をして、下校して……超高校級の人間と話してもいい身分になれたんだ、と実感した。




    日向「………!」

    喜びでニヤニヤと口元が緩む。

    ゴロゴロと転がって、足をバタバタとさせた。

    自分が望んだ「胸を張っていける自分」になれた。

    これから、俺の人生は始まるんだ。

    充足感に満たされながら、日向は一日の疲れからそのまま眠りに堕ちた。
  11. 21 : : 2016/10/29(土) 04:25:50
    日向「ん……? 寝てしまったか…。」

    日向が起きれば、時刻は21時を過ぎていた。

    食事と風呂を手早く済ませて、明日のことを考えてはやく寝ようと考えた。

    日向「…そういえば、七海が作ったっていうリスト、見てなかったな。」

    日向は鞄から一枚の紙を取り出した。



    ~第77期生 クラスメイト☆メモ☆~


    日向「…☆かわいいな…。」

    感想もそこそこに次へと読み進める。


    九頭龍冬彦 超高校級の極道
    クラスで一番友達思い。約束も守る。

    狛枝凪斗  超高校級の幸運
    よくわからないけど、希望が好きらしい。

    左右田和一  超高校級のメカニック
    ゲームを作ってもらったよ。でも、ソニアさんのことになると暴走する。

    田中……  超高校級の飼育委員
    ハムスターかわいい。時々何言っているのか、よくわからない。

    花村輝々  超高校級の料理人
    料理がすっごく上手。でも、時々えっち。

    御手洗亮太  超高校級のアニメーター
    あんまりしゃべったことない。いっつも一人でいるから心配。

    弐大猫丸  超高校級のマネージャー
    マネージャーよりも選手やったほうがいいと思う。


    終里赤音  超高校級の体操部  
    食べることが大好き。

    小泉真昼  超高校級の写真家
    クラスで一番真面目。

    西園寺日寄子  超高校級の日本家
    口が悪い時があるけど、照れ隠し。

    罪木蜜柑  超高校級の保健委員
    ドジっ子。でもそこがかわいい、と思うよ?

    七海千秋  超高校級のゲーマー
    ゲームの相手してれたら嬉しいよ。

    ソニア・ネヴァーマインド  超高校級の王女
    思わず跪いてしまうことがある。

    辺古山ペコ  超高校級の剣道家
    かっこいい。

    澪田唯吹  超高校級の軽音楽部
    時々暴走する。


    おまけ
    雪染ちさ  元超高校級の家政婦
    元気な先生。私たちの担任。



    日向「…これを俺が来たって知ってから作ったんだよな……。七海には感謝しないと。……全敗するだろうけど、ゲームの相手くらいはしないとな。」

    明日は七海が望むなら、ゲームに付き合うと決めて、日向はその日は眠りについた。
  12. 27 : : 2016/10/30(日) 02:35:08
    ~翌日~


    朝早くに目が覚めた日向は早めに学園に行き、相談室に向かう。

    日向「…今日は…1通か。ま、そんなもんだよな。」

    相談室前にはポストがあり、日向に直接連絡できない相談者はそこに依頼書を入れる。

    依頼書には依頼者が連絡先を記入し、日向が後日対応可能な日を連絡し、依頼者が了承する、という形を取っている。

    と言っても、まだ発足されたばかりの超高校級の相談窓口の相談室はあまり知られておらず、日に1通入っていれば良い程度である。


    日向「差出人は…九頭龍? って、クラスメイトの九頭龍じゃないか。……教室で直接頼んでくれればすぐ対応するのに…。」


    いや、昨日は左右田が直接自分に頼んでいたし、遠慮したのかもしれない、と日向はすぐに考え直す。

    七海の資料には「友達思い」とあったが、才能は超高校級の極道である。

    どんな人物かはわからないが、極道というだけで日向は対応するのが少し嫌な気分になった。。

    日向「ダメだダメだ。俺の才能は人の相談に乗ってやること…相手を見て選ぶなんてもってのほかだ。」

    ましてや、クラスメイトの相談である。尚更断わる理由がない。

    日向は連絡先のメモを取り、依頼書をファイリングした。

    日向「…時間が余ったな。…今日から寮なんだし、寮に行ってみるか。」

    日向は資料を片付けて、寮へと向かった。
  13. 28 : : 2016/10/30(日) 03:18:46
    ~希望ヶ峰学園 寮~

    希望ヶ峰学園の教室や実験室などがある棟から徒歩で10分ほど。

    予備学科の学生が利用することはないため、日向は存在を知らなかったが、その寮も超高校級が住まうにふさわしいものにしようと多額の金が注ぎ込まれている。

    電子ロック、指紋認証、監視カメラなどセキュリティは万全であり、超高校級の高校生の多くが、この寮を利用している。

    日向「電子生徒手帳の認証…そして、指紋認証…と。何度説明書と実物を見ても、これから寮に入ると思えないほどのセキュリティだな…。」

    中に入ると、管理人室に警備員がいるのが見えた。

    そこを過ぎると、談話スペースがあり、ビリヤードやダーツなど娯楽室のような設備が整えられている。

    そこに見知った顔が見えた。


    日向「あ、お前は…えっと、確か花丸。」

    花村「やあ、日向君。って、花村だよ! 花村輝々! 確かに昨日自己紹介しなかったけどさ!」

    日向「悪い悪い。七海からみんなの名前と顔写真のリストをもらったけど、さすがに一晩じゃあ覚えられなくてな。」

    花村「七海さんから? ふぅん、なるほどねぇ。」

    日向「…? ところでここで何をしてるんだ?」

    花村「よくぞ聞いてくれたね! 実は朝食のメニューを起きた瞬間に閃いてね。いてもたってもいられなくって、寮の厨房で今から試作しようと思ってさ。」

    日向「寝ても覚めても料理、って感じだな。さすが、超高校級の料理人だな。」

    花村「シェフ、と言ってくれたまえ。あ、よかったら食べていってよ。試作だけど、味は保証するよ。」

    日向「お、それなら頂くよ。」

    花村「よーし、じゃあちょっと待っててねー。」

    そう言って花村は寮の厨房へと歩いて行った。


    弐大「無ッ! 日向ではないか。」

    日向「おお、えっと、弐大、だったか。おはよう。」

    弐大「おはようございますじゃあああ! こんな朝っぱらからここで何をしとるんじゃ。」

    日向「ちょっと早く学校に来たから、今日から世話になる寮を見に来たっていうのと、これから花村が試作の朝食をご馳走してくれるらしいから、それを待ってる、って感じだな。」

    弐大「ほう。花村の試作か。ワシも頼んでくるかのう。」

    弐大は厨房に行き、しばらくして戻ってきた。
  14. 29 : : 2016/10/31(月) 02:04:56
    弐大「ところでお前さんはスポーツは得意か?」

    日向「いや、得意じゃないな。たぶん高校生の平均より、ちょっと上くらいだと思う。」

    弐大「ふむ、そうかぁ。ワシの目から見て、お前さんは光るもんを持っとると思うんだがのぉ。」

    日向「買いかぶり過ぎだ。スポーツで才能を持っているんだったら、そっちの才能で入学してただろうけど…。」

    色々なスポーツに手を出し、練習をしてみて、結局自分には才能がないことがわかっただけだった。

    何倍も努力した自分をあっさりと抜いていく者。

    しかし、そういった者でも超高校級と呼ばれるほどの才能を持っているわけではない。

    そのため、スポーツで才能がある自分を諦めた過去が日向にはある。

    弐大「ふむ、ワシのトレーニングメニューを試してみる気はないか? お前さんは相談窓口であっても、体を鍛えておいて損はないと思うぞ。」

    日向「……いや、俺は」

    才能がないと諦めた自分。努力をしても勝てないと諦めた自分。

    今更努力したところで、俺はもう超高校級になれた。

    だから、今更スポーツなんて…。


    日向(驕るな俺!超高校級は別にゴールじゃない。退学にでもなればそこで終わり。なら、何事にもチャレンジ、だろ。)



    日向「ああ、最近運動不足だろうし、ちょうどいいかもな。よろしくできるか?」

    弐大「そうか…。ならば今日の放課後から開始するぞおおおおお!! 覚悟しておくんじゃな!」

    日向「おう。よろしくな。」



    日向は知らない。

    気軽に受けたこの訓練で地獄を見るはめになることを。



    弐大「まずは、グラウンド50周から腕立て腹筋背筋を200回を5セット……。」

    ブツブツとノートに書き込みを行う弐大の様子に日向は気づかない。
  15. 30 : : 2016/10/31(月) 21:41:13
    日向「そういえば、元々部屋を見に来たんだ。一度見てからまた、戻ってくるよ。」

    弐大「応! 安心せい! 終里が来ん限りは花村の料理を全部食ったりはせんからな!」

    日向「そんな心配はしてなかったんだが…まぁ俺の分の確保は頼むよ。」

    苦笑しながら、日向は自分の部屋へと向かう。



    日向「ここ、か。カギも電子生徒手帳なのな。」

    日向「…寮の部屋っていうから狭いかと思ってたけど、意外と広いな。ダンボールだらけだけど…。」※寄宿舎のイメージ

    シャワーにトイレ、普通に暮らす分には申し分ない。

    一通り確認した日向は、弐大の元に戻ることにした。

  16. 32 : : 2016/10/31(月) 21:58:16
    左右田「お?日向じゃねーか。おはようさん!」

    日向「左右田か。おはよう。左右田も寮だったのか。」

    左右田「おう。何かと便利だからな。…もう学園に行くのか?早くね?」

    日向「いや、花村が朝食の試作をする、って言うんで、それをご馳走になりに行くんだ。」

    左右田「ほー。あいつの飯はうめぇからな。昨日は食えなかっただろうし、一度食うのはありだぜ。」

    日向「ああ。左右田も来るか?」

    左右田「いや、俺は部屋でもうちょっとゆっくりしてから行くぜ。偶然早起きしちまって、ちょっと調子悪くてな。」

    日向「そうか。じゃあ、またな。」

    そこで日向と左右田は別れた。



    狛枝「あれ、そこにいるのは日向クン?」

    日向「…おう、お前は確か……狛枝?」

    狛枝「ああ、自己紹介もしていないボクなんかのことを覚えていてくれるだなんて、光栄だなぁ…。」

    日向「七海にリストをもらってな。一応、全員分の名前くらいは覚えてたよ。」

    狛枝「へぇ…さすが七海さんだ。すごい予感がするよ。七海さんと日向クンの希望が合わさって、更なる希望が生まれる、ってね。」

    日向「…七海のコメント通り。お前変なやつだな。」

    狛枝「あはは、変なやつはヒドイなぁ。あ、そうだ。日向クンの才能は超高校級の相談窓口だったよね。今度、ボクも相談したいことがあるんだけど、いいかな?」

    日向「ああ、いいけど、一応先客がいるからその辺のスケジュールを整えてからだな。」

    狛枝「ああ、うん。ボクのために手を煩わせてごめんね…。よろしく頼むよ。」

    日向「そういえば、今から花村が試作したものを朝食として出すって言ってるんだが、狛枝もどうだ?」

    狛枝「…そうだね。ちょうど朝食時だし、お邪魔しようかな? それにしても、花村クンの試作…ああ、どんな希望が生まれるんだろうね…ボクは」

    日向「今度聞いてやるからそのへんにしとけ。行くぞ。」

    トリップしかけている狛枝を連れて、日向は食堂へと向かった。
  17. 33 : : 2016/11/02(水) 00:11:48
    ~食堂~

    花村「あ、日向君! ちょうどよかったよ。できたからどうぞ食べていってよ! あ、そこにいるのは狛枝君だね。10人くらいは来るかなって思って、多めに作ってるから狛枝君もぜひ食べて行ってよ。」

    狛枝「まさかボクごときが食べてもいいって許可がもらえるだなんて、ボクはなんて幸運なんだろうね。昨日は日向クンという希望がボクのクラスメイトになるし、これはもう幸運というより奇跡…。」

    日向「いただきまーす。…これは……。」

    長々と語る狛枝を無視して、日向は食事を始める。

    皿の上に乗せられていたのはオムレツだった。

    日向「オムレツか。」

    花村「実は最近何か料理を思いついても、これは違う、って思っちゃうような…スランプ?気味だったんだけどさ。昨日日向君が転入してきて、その初々しい感じを見て思ったんだ。"僕は初心を忘れているんじゃないのか。すごい料理を作ろうとして、目的がずれているんじゃないか"ってね。」

    日向「ああ、基礎を疎かにする、ってやつだな。俺も前にスランプに陥ったって相談に来たやつがいたけど、基礎練を怠ったから応用が上手くいかなくなってたな。」 

    花村「そう…だね。僕も最初はおいしい料理を食べてもらいたい、っていう想いがあったはずなのに、いつの間にか、審査員にとっておいしいと思われる料理を作ってたり…ね。」

    日向「相談に乗ったわけじゃないけど、俺がそういう刺激になれたのなら嬉しいよ。」

    花村「ふふん。さて、基礎としてオムレツを作ったけど、僕が作ったものだからね。味は保証するよ! さぁ、食べてみてよ!」

    日向「ああ。」

    パクッ



    日向「こ、これは…! フワフワな食感、甘い味付け。だし巻き卵とは違うが、これはこれで美味い。そして、中にはよく焼いた玉ねぎ…フワフワの卵と玉ねぎの食感がマッチしてるし、味が合う。すげぇ…昨日作ってくれた料理を食べれなかったのがめちゃくちゃ損な気がしてきたぞ!」

    花村「ふっ…お褒めのお言葉ありがとう。僕にかかれば、料理を食べた次の瞬間には美味しすぎて服が脱げてるからね。」

    日向「どういうことだそれは。」


    日向の後ろで弐大や狛枝が上半身裸になっていたが、後ろで起こっていたので日向は気付かなかった。
  18. 36 : : 2016/11/02(水) 00:43:00
    その後、時間まで雑談をしてから、教室へと向かった。

    ~教室~

    日向(そういえば、寮では男子としか合わなかったな。)

    七海「日向君、おっすおっす。」

    日向「ああ、七海。おはよう。ちょうど良かった。一つ聞いていいか?」

    七海「いいよ、なに?」

    日向「昨日、七海を送ったときに寮に行ったけどさ、女子と男子の区分ってどうなってるのかなって思ってな。」

    七海「ああ。あの寮は半分下が男子で、上が女子の部屋なんだけど、女子の電子生徒手帳じゃないと開かない扉があってね。そこで行き来してるんだ。それに、女子だけが利用できる調理室とかもあるから、男子のほうに女子が顔を出すことは稀かもね。」

    日向「なるほどな。納得できたよ。ありがとう。」

    七海「どういたしまして。あ、思ったんだけど、日向君が予備学科の時は気を使って、放課後にゲームに誘ってたけど、今日からは昼間から誘ってもいいよね?ね?」

    日向「あ、ああ。俺に予定がなければ付き合えると思う。」

    七海「ふふん、やったね。日向君、覚悟してよね。」

    日向「本気でお手柔らかに頼む。いや、本当に。」

    心が折られる未来しか見えない。



    七海と話しているとクラスメイトの一人が教室に入ってきた。

    日向「あ、話が途中だけど、用事があるからそれを済ませてくるな。」

    七海「うん。私は日向君とやるゲームを選んでる。」

    日向がチラと見た紙に何かを書き込む七海。

    そこには既に10個程度に何かの単語が書き込まれている。

    日向(まさかそれ全部がゲームのタイトルで、全部やるわけじゃないよな…?)

    日向(……気のせいだな。うん。)

    見なかったことにして日向は目的の人物へと近づく。






    日向「九頭龍。今いいか?」

    九頭龍「…ああ。」

    九頭龍の不機嫌な表情に一瞬怯んだ日向だが、一度静かに深呼吸して、ゆっくり話し始めた。

    日向「……あの件だが、今日の内ならお前の都合に合わせられる。いつなら大丈夫だ?」

    九頭龍「そうだな…。めんどくせえことは早めに済ませるに限るから…午前中、この後センセイのお話とやらが終わった後はどうだ?」

    日向「ああ、わかった。」

    要件だけを伝えて、日向は九頭龍から離れる。


    日向(九頭龍、意外と普通なやつだったな。……九頭龍自身よりも、後ろにいた辺古山の視線のほうがなんか怖かった…。)

    実際、今にも竹刀を抜きそうな辺古山が気になって、少し雑談でもするか、と思っていた日向も早々に会話を打ち切った次第である。
  19. 40 : : 2016/11/05(土) 00:54:54
    雪染「おっはよう!みんな!今日も張り切って行くわよー!」

    日向(相変わらず元気な先生だ。)

    雪染「うんうん。日向君という新たな仲間が入る事によって、より輝きが増したわね!」

    雪染「今日の予定だけど、学園としてすることはないわ。だから普通に授業を受けて、普通に青春を謳歌しなさーい!」

    左右田「せんせーい、今日俺実験の関係でいないっす!」

    小泉「私も今日はモデルの撮影のお仕事が…。」

    雪染「もちろん才能を伸ばすための努力なら頑張ってきなさい! そして、ここに戻ってきて、今日あったことを語り合うの! それはきっとあなたたちの良き思いでになるわ!」

    西園寺「普通にさぼろーっと。」

    雪染「サボっちゃう悪い子はハードなおしおきしちゃうからね!」

    西園寺「いたいたいたい! グリグリやめてえええ!! うわぁぁぁああん!!」

    罪木「さ、西園寺さぁん、だ、大丈夫ですかぁ?」

    西園寺「うぇえええうっざいげろぶだあああああ!!」

    罪木「びぇええええん、ゲロブダでずいまぜんんんん!!」


    狛枝「才能を伸ばすための努力…なんて素晴らしい響きだろうね。つまり、より強い希望を得るために努力するんだ…。ああ、左右田クンと小泉さんが帰ってきたとき、どんな希望を見せてくれるんだろうね…。」

    花村「うわわわわ!?また狛枝君がめんどくさいモードに入ってるー!?」



    日向「……カオスだな…。」

    七海「いつもどおりだよ。」

    ゲームをしながら、七海は慣れてしまった日常の風景であると日向に教えた。
  20. 41 : : 2016/11/05(土) 02:13:18
    雪染の話が終わり、各々が自らの予定のために動き始める。

    日向「九頭龍、俺……は相談室で準備して待ってるな。」

    九頭龍「ああ。わかった。」

    一緒に行こうと誘おうと声を掛けようとしたが、またもや辺古山に睨まれてしまい、とっさに誤魔化した。

    日向(なんで九頭龍に話しかける度に睨まれるんだ…。まぁ、後で九頭龍に聞いてみるか。)

    日向は七海に午前中は九頭龍の相談に乗る旨を伝えて、相談室へと向かった。



    ~相談室~

    相談室でお茶や菓子の準備をしていると、九頭龍が入ってくる。

    日向「よお、九頭龍。いらっしゃい。」

    九頭龍「おう。世話んなる。」

    日向「まぁクラスメイトの相談だ。全力を尽くすよ。あ、お茶と菓子は自由に食ってくれ。」

    九頭龍「ああ。悪いな。」モグモグ

    日向「じゃあ、まずは、この相談用紙に内容を書いてくれるか? 書けないことなら大雑把で構わない。」

    九頭龍「……ああ。」

    日向も必要な書類の準備をし、しばらくしてお互いが書き終える。

    名前 九頭龍冬彦
    才能 超高校級の極道
    年齢 10代
    相談事カテゴリー  家族関係
    相談事の概要 幼馴染、妹について
    お茶、菓子の評価(5段階) 4


    日向「家族関係…か。了解だ。詳しく聞かせてくれ。話にくいことは省略してくれて構わない。」

    九頭龍「…ああ。」

    九頭龍は心底嫌そうに口を開いた。
  21. 44 : : 2016/11/06(日) 01:40:26
    九頭龍「相談の前にちと聞いておきてえんだが、日向。ウチのクラスで言ったら、賞をもらったとか、機械を作ったとか、そういう感じのお前なりの実績っつーのはあるのか?」

    日向「うーん…そういった示せるようなものはないな。ただ、最初はクラスメイトの相談で、次に才能を認められる時は学園長や先生方の相談に乗ったりとはしてる。それで、相談窓口っていう才能が認められたわけだしな。」

    九頭龍「…まっ、まだ認められたばっかだし、これからってことな。まぁあんまり期待しないで、愚痴る程度のつもりでやらせてもらうぜ。」

    日向「ああ。なんにせよ、俺は全力でやるだけだ。」


    日向「それで? 家族関係で、幼馴染と妹について、か。詳しく聞いても?」

    九頭龍「ああ。つっても、幼馴染と妹で相談したい内容は別々なんだがな。」

    日向「分かった。話したい方から話してくれ。」

    九頭龍「まずは…幼馴染の方から話す。俺には家族みてえな幼馴染がいる。そいつは今でも付き合いがあるんだが……なんつーか、ずっと俺が『俺のことはいいから、構うな』、とか『俺のことは気にせず自由にしろ』、つってんのに、俺の世話をすることをやめねんんだ。」

    日向「世話っていうと、具体的には?」

    九頭龍「ボディガードみたいなこともするし、身の回りの世話もする。」

    日向「ボディガード…そうか、極道だもんな。」

    九頭龍「へっ、命を狙われるなんざよくあることだ。だが、あいつは幼馴染で俺と一緒に育ってきたが、別に極道の世界で生きなきゃいけないわけじゃねえ。あいつには才能もある。それで生きていけるはずなんだ。」

    日向「……それで、九頭龍はどうしたいんだ?」

    九頭龍「あいつにはもっと俺以外を…外の世界を見て欲しい。まっ、こっちの話はただの愚痴だ。適当に聞き流してくれや。」
  22. 46 : : 2016/11/06(日) 03:41:09
    日向「……1つ、確認したいんだが、九頭龍はその人のことをどう思ってる?」

    九頭龍「どう、って……家族みてえなもんだ。」

    日向「……。」

    日向(…その人にとっても九頭龍は家族みたいなものだろう。そして、お互いがお互いを尊重し、守ろうとするからこんな状況になってる…っていう感じか。九頭龍の相談はその人にもっと外の世界を見て欲しい、ってことだが…さて…。)

    日向「……外の世界を見て欲しいっていうのが、九頭龍の我が儘になるかもしれないっていうのはわかってるか?」

    九頭龍「ああ。あいつは少しもそんなことを望んでねえってのはわかってる。何度言っても全く効果がないしな…。だが、それでも、ってところだ。」

    日向「外の世界、ってことは要するに自分、九頭龍以外にも見て欲しいってことだよな?」

    九頭龍「まぁそういうこった。俺以外でもあいつのことを見てる人間はいるってことに気づいて欲しい。」

    日向「……それって、九頭龍が気づいていないだけで、その人もわかってるってことはないか?」

    九頭龍「いや、それはねぇ……と思う。」

    日向「ふむ…なぁ、九頭龍。単純にさ、『最近、仲のいいやつとかいるか?』とか『気になってるやつはいないのか?』とかそう聞くだけじゃダメか?」

    九頭龍「いや、それを聞くのはいいが、そんな単純な話じゃ…。」

    日向「いいや、単純な話だ。九頭龍の目的の外の世界を見て欲しいっていうのが、漠然と大きく見えすぎて、複雑に見えるだけだ。」

    九頭龍「ば、漠然としてたか!?」

    日向「かなり抽象度高いからな?続けるぞ。」

    日向「その質問で回答が返ってくるなら、それだけでそいつの世界はお前だけってことではないってことになる。逆に特にいないとなれば……まぁもっと頑張りましょう、ってことで。」

    九頭龍「おい、相談窓口。そんときはどうすんだ! 具体的に言いやがれ!」

    日向「うーん、その人の人となりを見ないと何ともな…。とりあえず、さっきの質問をしてもらうのがてっとり早い。それで、いないとなれば、そのときはまた相談に来てくれ。ただ、その時はせめて、その人の事を少しは教えてもらうぞ。」

    九頭龍「……まぁやってみっか。んな質問で、変なことにはなんねえだろ。」

    日向「ああ。じゃあ、次は…妹だったか?」

    九頭龍「ああ…。」

    幼馴染の話以上に嫌そうな表情で九頭龍は話し始めた。
  23. 47 : : 2016/11/07(月) 00:43:43
    九頭龍「俺には妹がいるんだが…最近なんだか、様子がおかしくってな。」

    日向「様子がおかしい、か。具体的には?」

    九頭龍「何なんだろうな。元々めちゃくちゃ仲がいいってわけじゃないが、最近はなんか、『最近学校はどう?』とか『好きな人はいるの?』とか親みたいなことを聞いてきやがる。」

    日向「さっき俺がアドバイスしたみたいなことを聞かれてるな。」

    九頭龍「確かにそうだが、さっきとこっちじゃ聞いてる理由がちげえだろ。」

    日向「まぁ理由が同じっていうのはないだろうな。」

    ははは、と笑いながら話す日向の脳裏にあることが思い出される。

    日向(九頭龍…九頭龍…なぜこんな特徴的な苗字なのにそのことに思い当たらなかったのか。苗字と妹という情報だけであいつを思い浮かべてもよかっただろ俺!)

    九頭龍の妹…九頭龍菜摘。

    日向とは短い間とは言え、予備学科時代のクラスメイトであった。

    そして、日向がかつて相談に乗った一人でもある。

    日向(確かあの時俺は…。)
  24. 48 : : 2016/11/07(月) 00:47:35
    ~回想~

    日向がまだ予備学科にいた頃、そして、九頭龍菜摘が転入してきてしばらくした頃。

    日向と菜摘の関係は決して良好なものではないが、前に小泉とその友人と揉めた時に日向が騒動を止め、そして、話を聞いてくれたことで菜摘は少しだけ心を許していた。

    そんなある日。


    菜摘「えっと…あんた。ちょっと来て。」

    日向「日向だ。いい加減覚えろ。」

    菜摘「はいはい。わかったから行くわよ、日向」

    そうして連れてこられたのは人通りがない中庭だった。

    菜摘は何も言わず、設置されているベンチに腰を下ろした。

    なぜこんな場所に、とか疑問があったが、菜摘が座ったのでそれに続いて日向もベンチに座る。

    菜摘「……あんたに相談があんのよ。」

    日向「…ほう。

    菜摘「な、なによ? 文句あんの?」

    日向「いや、相談な。どういったことだ?」


    うっかり『俺じゃなくて、他に相談するやつはいなかったのか?』と口に出しそうになったが、菜摘が転入初日にやらかしていることを知っている日向は賢明にも口を噤んだ。


    菜摘「…私にはおに…兄がいるのよ。超高校級のね。」

    日向「え、超高校級…才能を持ってるのか…。」

    菜摘「そこは別に重要じゃない。そんで、兄と私には幼馴染がいるんだけどね。兄のその人への態度がなんか最近おかしくてさ…。」

    日向「おかしいっていうのは?」

    菜摘「端的に言うと、俺のことはほっとけ、とか、お前は自由にしていい、とかそんなことばっか言ってんの。」

    日向「それだけ聞くとお前のお兄さんが酷い奴に聞こえるんだが、何か理由があるんじゃないのか?」

    菜摘「どうせ、ぺ……その幼馴染のため、とかそんなことをぐちぐち考えてるに決まってる。それで、相手の気持ちとか考えずに結論出しちゃったんだよ。」

    日向「ふむ、で、九頭龍はどうしたいんだ?」

    菜摘「兄が余計なことをするのをやめさせたい。あんな……ちゃんの気持ちを踏みにじるようなこと…許せない。」

    日向「…どうにかしたいって思うんだったら、まずお前がすべきことはそのお兄さんのことを知るべきだと思うぞ。」

    菜摘「…え?私はおに…兄のことわかってるわよ。」

    日向「そうか?話を聞く限りだと、その幼馴染はお兄さんやお前以外とあんまり友達付き合いがないんじゃないか?」

    菜摘「…そうか、も?」

    日向「それを見かねたお前のお兄さんが自分以外にも付き合いをもてとかそういう意図で言っているのかもしれない。」

    日向「それに、もしかしたら、好きな奴ができたとか、新しく友達ができて、今になって幼馴染のそういうところが気になったとかかもしれないだろ?」

    菜摘「……。」

    日向「お兄さんのやることを余計なことって断ずるのはまだ早いんじゃないか?」

    菜摘「……お兄ちゃんに好きな人なんて……。」

    日向「ん?」

    菜摘「…なんでもない! でもわかった。兄の主張を理解した上で、その意見を叩き潰せばいいってことね。」

    日向「待て。」

    菜摘「…ふん、あんたも役立つのね。一応感謝しないでもないわ。」

    日向「いや、その結論でいいのか!? なんか、俺が意図したものとは違う解釈をしたような…。」

    菜摘「あんたの意図は知らない。でも、あんたが言ってたことは役立ちそうだから、取り入れてあげるってこと。感謝しなさい。」

    日向「あれ、いつの間に感謝される立場が逆転したんだ。」


    そのまま話はうやむやになり、日向も心配になりつつも、その後の顛末を知ることはなかった。


    ちなみに、日向が本科へと行く1週間前のことである。
  25. 50 : : 2016/11/08(火) 01:36:33
    ~回想終わり~


    日向(いや、もしかしたら、違うかもしれない。こんな偶然の一致あるかって思うけど、一応確認だ。)

    日向「もしかしてだけど、九頭龍の妹って…予備学科にいるあいつか?」

    九頭龍「あん?知り合いだったのか?」

    日向「いや、俺が予備学科にいたときに九頭龍って子が転入してきたからさ。もしかしたら、ってな。」

    九頭龍「ああ、そいつは俺の妹だ。俺よりも…よっぽど極道に向いてる、な。」

    日向「…ああ。」

    彼女には強引なところや人への接し方など思い当たるところがあった。

    九頭龍「まっ、お前とあいつが知り合い、って言っても別に何もねえけどな。」

    日向「まぁ俺もクラスメイトだった、ってだけだしな。」

    誤魔化すように笑う日向はどうするか考える。

    日向(九頭龍の悩み、原因らしい原因は俺…。どうする…。正直に俺が原因だって言うか?)

    日向(…いや、隠したところで、元クラスメイトってことから九頭龍兄から妹に話題として俺のことが話される可能性は高い。そしたら、俺が原因だとすぐバレる、か。)

    一つため息をついて、日向は覚悟を決めた。



    日向「九頭龍、その妹からの質問の原因、俺にあるかもしれない。」

    九頭龍「あん?どういうこった。」

    日向「予備学科時代にも相談を受けることが多かったんだけど、お前の妹もその一人だ。1週間前くらいに相談を受けたよ。」

    九頭龍「…ちょうどそんくらいだな。あいつがおかしくなったのは。確かに、時期は合う、か。相談内容を聞くことは可能か?」

    日向「いや、さすがに話すわけにはいかないな。守秘義務があるしな。ただ、あいつは九頭龍や幼馴染を思ってやってるってことは確かだ。そこは安心してくれていい。」

    九頭龍「……そうか。ここで無理やり聞いても日向を困らせるだけか。じゃあ、あいつのことは特に気にしなくていいってことか?」

    日向「いや……ちゃんと話を聞いてやってくれ。それで、お前の妹が何を想っているのか、っていうのをちゃんと受け止めてやったらいい。適当にあしらう、ってことは絶対にしちゃダメだ。」

    九頭龍「…あいつもふざけてやってるってわけじゃねぇってのは日向の言葉で分かった。なら俺も真剣に向き合うさ。」

    不敵に笑う九頭龍に日向もこれなら大丈夫そうだ、と安心して頷いた。
  26. 53 : : 2016/11/09(水) 22:16:40
    九頭龍「…まっ、俺の相談っつーのは終わりだ。時間とらせたな。」

    日向「少しでも助けになれたのなら良かったよ。」

    九頭龍「…思ったよりちゃんとしてんだな。最初に期待しないとか言って悪かった。」

    日向「……別に俺は気にしてない。それに俺に実績がないのは確かだからな。」

    九頭龍「そりゃそうなんだが…。お前が俺にどんだけ気を使っているか、とか、話しやすい空間を作るために頑張ってるってのはこの部屋を見りゃわかる。なのに…。」

    九頭龍は急に立ち上がって、扉へと向かう。

    日向「どうした急に?」

    九頭龍「いや、なんでもねえ。世話んなった。お前の忠告、肝に銘じておく。」

    そう言って九頭龍は相談室を出て行った。

    日向「急にどうしたんだ?」

    その疑問に答える者は誰もいなかった。
  27. 54 : : 2016/11/09(水) 22:30:10
    ~昼休憩前~

    九頭龍との話を終えて、日向は教室へ戻ってきた。

    七海「あ、日向君。」

    日向「おう、七海。他の奴らはどうしたんだ?」

    七海「んー、各々自由に過ごしてるんじゃないかな。今って才能開発の時間だし。」

    日向「時間割全く気にしてなかったけど、そんな時間があるんだな。で、七海は…ゲームか。」

    七海「ゲーマーですから」フンス

    ドヤ顔で七海はゲームを見せてくる。

    七海「あ。日向君は今暇かな?」

    日向「ああ。ちょうど要件は片付いたよ。ゲームか?」

    七海「うん! 対戦ゲームやろう!対戦ゲーム!」

    日向「お手柔らかに頼む…。」

    色々世話になっている七海の頼みは断れない。
    例え全敗することが予想されようとも…。

    そのまま昼食時間まで、七海とゲームをして過ごした。
  28. 55 : : 2016/11/09(水) 23:14:12
    日向と七海がゲームをしていると…。

    澪田「ああああーっ!創ちゃんと千秋ちゃんがゲームしてるっ!」

    澪田「ずるいずるい!唯吹も創ちゃんと仲良くしたいっす!」

    澪田「あっ、でも友達としてっすよ?恋人とか妻とか愛人とかは段階を踏んで…。」

    日向「畳み掛けるな! そして、愛人になるための段階をわざわざ踏む必要はない!」

    澪田「え、つ、つまり唯吹に妻になれ、と…。」

    日向「わざとかお前! とりあえず友達から始めさせろ!」

    澪田「うん! よろしくお願いしまっす!」

    日向「はぁ…騒がしいやつだな。」

    澪田「元気が唯吹の取り柄っすから!元気があればなんでもできる!」

    七海「……むぅ。ゲーム…。」

    日向「ああ、悪い悪い。七海とゲームやっているんだが、澪田もどうだ?」

    澪田「やるやる!これで唯吹の好感度が1上がるっすよ!良かったっすね!」

    日向「自分で言うなよ…。」

    七海「恋愛ゲームだと、ちょっと話す顔見知りってところかな?」

    日向「七海も冷静に分析するんじゃない。」


    ガラッ


    田中「……。」

    日向「あ、えっと、田中だったな。超高校級の飼育員の。」

    田中「貴様、我が名を語るとは、命が惜しくないのか!」

    日向「え?」

    田中「我が名は軽々しく語られて良いものではない。故に俺様は封印を施しているのだ。」

    日向「封印って、お前の名前は確か、田中がん…」

    田中「その名を口にするな! 俺様に封印されし邪竜の封印が解かれてしまう!」

    日向「えっと、ならなんて呼べばいいんだ?」

    田中「田中でいい。」

    日向「そこは普通なんかい。」

    田中「ふん、お前のような小さき存在、俺様にとって、覚えるに値せん。だが、この覇王に認められたくばまずは貴様の真名を名乗れ!」

    日向(昨日の自己紹介で覚えられなかったから改めて名前を教えてくれ、ってところか?)

    日向「昨日も名乗ったけど、日向創だ。才能は超高校級の相談窓口。よろしくな、田中。」

    田中「なんと……。ふん、俺様の言語についてこられる者がいるとはな。我が破壊神暗黒四天王を除くと貴様が初めてだ。」

    日向「なんだその破壊神、っていうのは?」

    田中「ふん、では見るがいい!行け!破壊神暗黒四天王よ! そこの小さき存在に力を見せつけてやれ!」

    田中が号令すると、日向に向かって複数の丸い物体が飛び出した。

    日向「うおお、なんだ…ハムスター?」

    田中「気をつけろよ。奴らは貴様なぞ簡単に消し飛ばせる力を持っている。」

    日向「へぇ、かわいいな。よしよし。」

    田中「なん……だと!?」

    破壊神暗黒四天王(ハムスター)はすぐに日向に懐いた。

    田中「ふっ、日向よ。お前は破壊神暗黒四天王にとって…否、俺にとって、特異点だったようだな。」

    日向「特異点?」

    田中「そんな存在になれたことを誇りに思うがいい!」

    日向「まぁ、お前にとって特別に何かを感じれるような存在になれたと思ったら悪い気はしないな。」

    田中「……ふん。」

    日向「あ、田中。よかったらゲームをやるんだが、一緒にどうだ?」

    田中「……よかろう!我が力の真髄、存分に味わうが良い!」

    日向「ははは、七海が強いから協力して倒そうぜ!」



    澪田「すげー、眼蛇夢ちゃんと普通に話してるっす。」

    七海「コミュ力高いなー、日向君は。」

    一連の会話を見ていた二人は日向の評価を上げた。
  29. 56 : : 2016/11/10(木) 01:16:11
    田中「ぬおおお!澪田!貴様ッ!」

    澪田「ふふん、今のうちにアイテムゲット!」

    日向「させる…うおおお、な、七海…!?」

    七海「ふっふっふ、私が自由にさせるわけないでしょ。」


    4人でのゲームはそれなりに盛り上がった。


    日向「ふう、そろそろ昼休憩にしよう。」

    七海「えぇ、もっとやりたい…。」

    澪田「唯吹お腹空いたっす…。」

    田中「ふん、ならば、各々供物を頂いた後にまたやれば良いだろう。」

    日向「お、なんだ田中。普通に喋れるんじゃないか。」

    田中「何のことだ。では狂乱の宴へと赴こうぞ!」

    日向「待て待て。」

    田中「は、離せ!」

    日向「どうせなら、みんなで食事に行かないか。澪田と七海はどうだ?」

    澪田「もちのロン!いいっすよ!」

    七海「うん。みんなで食べるご飯はおいしい…と思うよ。」

    日向「だってさ。どうだ、田中?」

    田中「………行く。」

    だんだん田中の扱いが分かるようになってきた日向であった。
  30. 64 : : 2016/11/11(金) 00:29:10
    日向「って、ここの食事ってどうするんだ?」

    澪田「食堂があるっす!超立派なやつ!」

    七海「いつもならそこで花村君が料理を作ってくれるんだよ。」

    日向「田中もいつもそこか?」

    田中「……ああ。」

    七海「本科生しか使わないから人もいないし、急ぐ必要はないよ。」

    日向「……そっか。」


    思い出すのは予備学科の食堂。

    多くの予備学科生によってごった返していたあそこは、快適な場所とは言いづらい。

    本科と予備学科の待遇の差に軽く絶望感を覚えた。

    日向(いや、俺ももう本科生なんだ…。)


    だから気にするな、と日向は自分に言い聞かせた。


    田中「……日向?」

    日向「あ、すまない。行くか。」

    澪田「うっひょぉー!お腹ペコペコぺこちゃんっすよ!」

    七海「花村君の料理は本当に美味しいから、楽しみだなぁ。」


    雑談をしながら4人は食堂へと向かう。


    ~食堂~

    食堂へ着くと、ある一角で多くの料理が積み上がり、また、多くの皿が積み上がっていた。

    日向「…あれ、御手洗か?」

    澪田「んー?ああ、みたいっすねー。いつもどおりよく食べるっすね。」

    日向「よく食べるっていうか…そんなレベルじゃない気がするけど。」

    七海「んー、アニメーターだから体力がいるんじゃないかな。」

    日向「そういうものか?」

    田中「ふん、己が世界を制さず、世界の均衡を考えぬからあのような暴挙が取れるのだ。いつかその身に破滅をもたらすだろう。」

    日向「あー、まぁ肉類が多くて、バランスの取れた食事って感じはしないな。」

    澪田「普通に受け答えできるんすねー。」

    日向「いや、なんとなくでわかるようになってきただけだけど…。」

    七海「うーん、私はまだちょっとしかわからないからすごい、と思うよ?」

    田中「……俺のことは良い。早く花村へ注文するぞ。」

    日向「何恥ずかしがってんだよ。まぁいいけど。」

    赤面する田中に引っ張られるように花村の元へと向かう一同。


    花村「やあやあ。お揃いでいらっしゃい。今材料的に出せる料理はこのメニューのものがあるけど、どうする? あ、もちろん僕を注文してくれてもいいよ?」

    日向「シェフのオススメ料理ってやつで。」

    澪田「唯吹もそれで行くっす!」

    七海「私はこの 季節の魚介を使ったペスカレートってやつ。」

    田中「…とんかつ定食。」

    花村「オッケー!すぐに作るから席で待っててよ!」

    花村の発言はスルーされたが、気にした様子もなく、花村は厨房へと引っ込んだ。
  31. 68 : : 2016/11/11(金) 02:02:09
    4人で雑談(と言っても、田中はほぼ無言)していると、花村が料理を持ってくる。

    花村「はい、できたよ!召し上がれ!」

    日向「朝も昼も花村の料理を食べれるってすごいラッキーだな。」

    澪田「ぬぬ!? 朝も食べたんすか!? 羨ましいっす!」

    日向「朝食というか、試食って感じだったけどな。それじゃあ、頂きます。」

    日向「うん、美味い。さすがだな。」

    澪田「うーーーーーん、デリシャス!」

    七海と田中は黙々と食べ続ける。

    花村「よければ、二人も感想を聞かせてくれないかな?」

    七海「んー…素直においしい…と思うよ?」

    田中「……美味い。」

    花村「七海さんは言い切ってよ! 田中君も、もっとこう自分を出して!ほら!」

    日向「まぁまぁ。料理人にとって、黙々と感触するのが一番の感想って聞くし、二人は感想を言うタイプじゃないんだろう。」

    花村「確かに。それもそうだね!うん、美味しく食べてくれてありがとうね!」

    満足そうに頷いて、花村は厨房へと戻っていった。


    食べ終わった4人は教室へと戻った。

    辺古山「…戻ってきたか。」

    澪田「あ、ペコちゃんだ。」

    七海「辺古山さん、どうしたの?」

    辺古山「用があるのは日向だ。」

    日向「俺か?」

    辺古山「ああ。できれば二人きりで話をしたい。」

    日向「そういうことなら、相談室に来るか?」

    辺古山「どこでも大丈夫だ。」

    日向「じゃあ行くか。」

    澪田「いきなりラブ展開!?ペコちゃんによる猛烈アタックっすか!?」

    七海「…んー?そういう話…じゃなさそうだけど…。」

    日向と辺古山は騒がしい教室を後にした。


    ~相談室~

    日向「で、どういう話だ?」

    辺古山「……回りくどいことは好きではない。だから単刀直入に聞くとする。お前は本当に超高校級の生徒か?」

    日向「…え?」

    この質問に日向はドキっとした。

    しかし、その反応の意味を自分自身で最初は理解できなかった。

    予備学科から上がってきた自分に才能が認められた…と言っても、何も示せない。形として確かな物を持っているわけではない。

    料理も作れないし、音楽もできない…そんな才能で認められた自分は本当に誇れる自分なのだろうか、と。

    思ってしまった。

    だから、「本当に超高校級のなのか?」と問われれば、自信を持って肯定ができなかった。

    辺古山「お前の目的はなんだ?」

    日向「目的…って…そんなの……。」

    俺は……誇れる自分に……。


    辺古山「…おい、日向?大丈夫か?」

    日向「お、れは……俺は……ただ…俺が俺を肯定できる自分になりたかった…だけで…。。」

    辺古山「日向? おい、日向。しっかりしろ。」

    日向「俺は…。」

    辺古山「…すぅ…。」


    ベチン!


    日向「いてぇ!?な、なな、なん!?」

    辺古山「落ち着いたか?」

    日向「あ、ああ。悪い。」

    辺古山「……知らなかったとは言え、お前を追い詰める発言をしてしまった。すまない。」

    日向「いや……辺古山は悪くないよ。お前のせいじゃない。」

    しばらく無言のまま、お互いが落ち着くまで待った。
  32. 69 : : 2016/11/11(金) 02:08:40
    辺古山「…私の質問がなぜお前を追い詰めることになったのかは分からないが、私にそんなつもりはなかった。迷惑をかけてしまった以上、質問の意図を大まかにだが説明させてもらう。」

    日向「……。」

    辺古山「私はある方の護衛、そしてその方に近づく者がどんな者か調べ、危険がないかを判断している。」

    日向「え、あんな直接的な質問で?」

    辺古山「いや、普通なら時間をかけるが、今回お前の転入は突然だったし……。」

    転入してきてすぐの日向にあの方がすぐに接触していったのも、日向が何かしたのか、と思ってしまった、とは口にできなかった。

    日向「し…?」

    辺古山「何でもない。とにかく、急に現れたお前の素性を急いではっきりさせる必要がこちらにはあった。」

    日向「その辺は聞くなってことな。わかった。」

    辺古山「助かる。それで……お前の狙いがもしあの方やその周りに危険をもたらすものなら……この場で始末するつもりだった。」

    日向「え、俺危うく切り捨てられるところだったのか?」

    辺古山「まぁ…お前が少なくともそういうやつではないとは判断した。最初の質問、そして、目的について聞いてお前から返ってきた反応は……。」

    嘘で塗り固められた者ははぐらかそうとしたり、言い及んだりするが、質問したときの日向は絶望…それに支配された表情をしていた。

    辺古山(何かつらい過去か、トラウマか……。わからないが、私が気にすることではない、か。)

    辺古山「とにかく、邪魔をした。これで失礼する。」

    日向「あ、ちょっと待ってくれ。」

    辺古山「なんだ?」




    日向「切り捨てるって言ってたけど、背負ってるのは竹刀だよな?」

    辺古山「知ってるか日向。モノを切るのに達人は得物を選ばないらしいぞ。」

    不敵に笑って、辺古山は相談室を出て行った。

    日向「……じょ、冗談だよ、な?」

    それに回答できる者は誰もいなかった。
  33. 75 : : 2016/11/12(土) 02:50:38
    教室へと戻ると、七海たちがゲームをしていた。

    と言っても、七海と澪田、田中だけでなく、西園寺と罪木、終里が加わっていた。

    日向「よお。楽しそうだな。」

    罪木「あ、日向さんですぅ。こんにちは。」

    西園寺「すぐニコニコしちゃって…ビッチなんだから。」

    罪木「び、ビッチ!?」

    日向「おいおい、口が悪いな。西園寺。」

    西園寺「うわ…自己紹介した覚えもないのに名前覚えられてる…きもっ…。」

    日向「スムーズでいいだろ? それとも、お互い名前を言いながら、握手でもしたほうがいいか?」

    西園寺「………ふん、面白くないの。日向おにぃのばーか!」

    日向「ええ…。」

    西園寺はそのまま視線をゲームが行われている画面へと移した。日向の相手をする気をなくしたようだ。

    一方で、日向は今の対応の何がまずかったのかわからなかった。

    日向「えっと…そっちは罪木だったな。」

    罪木「わ、私なんかの名前を覚えていただけてるなんて光栄ですぅ…。」

    日向「なんかってことはないだろ。これからよろしくな。」

    罪木「はぃぃ…。」

    日向と罪木が簡単に自己紹介をしていると、4人対戦の格闘ゲームをやっているらしく、4人は白熱していた。


    終里「んあああ!? 田中ズリーぞ!」

    田中「ふはははは! 我が最速の拳を持って、貴様に終焉をくれてやろう!」

    澪田「って、油断してるところをひょいっと!」

    田中「澪田!貴様ぁあああ!!」

    七海「漁夫の利って知ってる?」

    澪田「ゲゲッ!ヒデーっ!」

    終里「オメーらだけでバトってんじゃねーぞ! オレも混ぜろ!」


    西園寺「あ、田中おにぃ、そこにアイテムあるよー?」

    田中「あれは! 勝利を約束された伝説の剣!」

    七海「まず剣じゃないんだけど…。それに確かに強力だけど、あれは…。」

    田中「もらったあああああ!!」

    七海「隙多いよ?」

    田中「ぬわぁああんだとおおおお!!」

    西園寺「わーい。田中おにぃが吹き飛んだー!」




    日向「楽しそうだな。」

    罪木「はい…。」

    日向「罪木はやらないのか?」

    罪木「先ほどやっていたんですが、こういったものは向いていなくて…。」

    日向「まぁこういうものは楽しんだらいいんじゃないか。」

    罪木「…楽しむ、ですかぁ…。」



    罪木「あ、あの…日向さんは相談……えっと。」

    日向「相談窓口だ。それがどうした?」

    罪木「あぅぅ…覚えてなくてすいません…。それで、相談したいことがあるんですがぁ…。あ、もちろん私なんかの相談なんて断っていただいても全然気にしません……」

    日向「なんで断わる前提なんだ。わかった。そういうことなら今からどうだ? ちょうど暇だしな。」

    罪木「あ、はい。よろしくお願いしますぅ。」


    そういって日向と罪木は教室から相談室へ向かった。



    日向「俺今日は教室と相談室を行ったり来たりだな。」

    罪木「す、すいません。ご迷惑をおかけして…。お、お詫びに脱ぎますのでぇ!」

    日向「なんでだ!? おいやめろ! 脱がなくていいから!」

    廊下の真ん中で罪木のストリップショーが始まるのだけは防いだ日向だった。
  34. 80 : : 2016/11/12(土) 14:44:19
    ~相談室~


    ~相談室~

    例のごとく、相談用紙に記入をしてもらい、日向はその用紙の確認を行った。

    名前 罪木蜜柑
    才能 超高校級の保健委員
    年齢 10代
    相談事カテゴリー  友人関係
    相談事の概要 自分の態度を改めたい
    お茶、菓子の評価(5段階) 5


    日向「お、5をつけてくれたのは罪木が初めてだな。」

    罪木「えっと…と、とっても美味しかったのでぇ…そ、それに、私なんかが評価を下すなんてそんな恐れ多い…。」

    日向「いや、ここは素直に書いてくれたほうが、今後改善とかできるから嬉しい。まぁ、そこはついでみたいなものだから、本題に行くか。」


    日向「友人関係な。じゃあ、どういうことか話してくれるか?」

    罪木「はいぃ…。」

    罪木は視線をあちこちに逸らしながらおどおどと話し始めた。
  35. 86 : : 2016/11/12(土) 22:58:37
    罪木「…えっと、えっと…私、いっつもオドオドしてるんですぅ…。」

    日向「確かに今まさにそんな感じだけど…。」

    罪木「うぅぅ…すいまぜぇん…。」

    日向「泣くな泣くな! そ、それで、話の続きは!?」

    罪木「わ、私は…いっつもオドオドして、うじうじして…そのせいでお友達もできなくって…。」

    罪木「そ、そ、そんな私でもやっぱりお友達は欲しいって思ってるんですぅ…。」

    日向「…なるほどな。それで?」

    罪木「そ、それで…こんな自分をどうにしかしたいって…。」

    日向「それで、俺に相談、か。内容と経緯はわかった。」

    罪木「はぃぃ…。」

    日向「…まず確認なんだけどさ、今仲良くしてる奴っていうのはいないのか?」

    罪木「……小泉さんや澪田さん、七海さんは普通にお話してくれますぅ…。さ、西園寺さんは一緒にいることは多いですが…、よ、よく罵倒されちゃいます…。」

    日向「さっきの教室みたいに、か。んー…まず、今上げた西園寺はともかく、他の3人は友達じゃないのか?」

    罪木「…わ、わかりません…。か、確認して、もし、友達じゃないなんて言われたら…私…えっぐ…。」

    日向「いちいち泣きそうになるなって! じゃあさ、罪木にとって、友達ってなんだ?」

    罪木「私にとってお友達、ですかぁ?」

    日向「ああ。教えてくれ。」

    罪木「えとえと……私をいじめなかったらいいですぅ…。」

    日向「それじゃあ、ちょっと話しただけの奴でも友達になってしまうな。」

    罪木「あぅぅ…。」

    日向「これって俺の持論になるんだけど、お互いを同格と認め合って、普通に会話ができるならそれはもう友達じゃないか?」

    罪木「………。」

    日向「だから普通に会話ができる小泉、澪田、七海はもう友達なんじゃないか? それとも、罪木の中でその3人は友達じゃないと思ってるのか?」

    罪木「そ、そんなことないです!!」

    日向「なら、友達がいないなんてことはないな。」

    日向(澪田や七海が仲良くしたくないという相手にそんな態度を取ってるとは思えないしな。小泉と西園寺についてはまだよく知らないし、軽率なことは言えないな。)

    罪木「も、もうお友達いたんですね…私…。」

    えへへ、と笑いながら別の世界に行ってしまった罪木。

    非常に嬉しそうである。



    日向「嬉しそうなところ悪いが、話を戻すぞ。それで相談内容のほうなんだが、オドオドしている自分が嫌なのか?」

    罪木「あ、は、はい…。結局お友達ができないのはこの態度が気に食わない方が多いからだと思いますので…。」

    日向「うーん…俺からすれば個性、なんだがな。」

    罪木「個性…ですかぁ?」

    日向「確かに罪木の態度が気に食わない、って人もいるとは思う。性格の話だ。そう簡単に解決するわけでもない。それならそういう人とはとりあえずは友人として付き合わなかったらいいだけだ。」

    日向「今まで罪木と出会ってきた人で、罪木と友達になれなかったのは罪木とは合わなかったんだろう。」

    日向「逆に今いる澪田や七海は罪木とは合うってことだ。」

    日向「それに…友達を選ぶ権利っていうのは誰にでもある。罪木、お前にもな。」

    罪木「………そ、それでいいんですかぁ?あ、相手に不快な思いをさせちゃうんじゃ…。」

    日向「自分と合わない人間のために頑張るっていうのは結局自分も相手も不快な想いをさせると思う。」

    日向「なら、自分に好きな奴らにだけは必要としてもらえるように頑張ったほうが健全じゃないか?」

    罪木「……。」

    日向「オドオドした性格を直す、の回答じゃないけど、悪いが俺と罪木は会って…話をし始めて日も浅いどころか数十分だからな。もう友達がいるんじゃないか、とは言ったけど、性格については…これからは俺も付き合っていくから一緒に解決策を探していこう。それでいいか?」

    罪木「は、はい…!よろしくお願いしますぅ!」
  36. 93 : : 2016/11/13(日) 02:19:05
    日向「じゃあ、俺も今日から罪木の友達だ。よろしくな。」

    罪木「は、はぃ…!よ、よろしくお願いしますね!」

    報告書のほうには『性格の矯正は簡単なことではなく、これから相談者のことを分析し、対応策を練っていく』と書いた。

    日向(一朝一夕では解決しないだろう。今後の課題、ってところだな。)

    罪木「えへへぇ…。」

    日向「どうした?」

    罪木「新しくお友達ができましたぁ…。嬉しいですぅ…。」

    日向(なんだこいつ…かわいいな…。)

    両手で顔を包み、クネクネする罪木を見ながら、報告書を書き上げていく。


    日向「よし、終わりだ。オドオドするってことについては今後こっちで解決策が思いついたら声を掛けるよ。」

    罪木「わかりましたぁ。」

    日向「さて、終わったし、教室に戻るか。」

    罪木「はぁい。」

    二人で相談室を出て、

    日向「もう夕方だな。みんないるかな。」

    罪木「あぅ…わたしがご迷惑を掛けたせいで…。」

    日向「はい、減点。」

    罪木「はぅ!?」

    日向「俺と罪木は友達になったよな?」

    罪木「は、はい。えへへ…。」

    日向「友達が困ってて手を貸すっていうのは別におかしなことじゃないだろ? まぁ限度はあるだろうけど、罪木の相談は『友達が手を貸せる範囲』に収まってると思うぞ。」

    罪木「…ひ、日向さぁん…。」

    日向「わ、わかったら行くぞ。」

    気恥ずかしくなった日向は教室へと急いだ。
  37. 95 : : 2016/11/13(日) 02:42:59
    ~教室~

    の、直前。

    罪木「…あぁぁぁぁ!」

    日向「どうした!?」

    罪木「小泉さん達と放課後に買い物に行く約束してたんですぅ!!」

    日向「そ、そうか。なら早く行ったほうがいいぞ。」

    罪木「は、はぃい!私はここで失礼しますねぇ!」

    と、教室の扉を開け放って、自分の鞄を手に取って、慌ただしく走っていった。



    罪木を見送り、日向が教室に戻ると、やはりというか、ほとんどの者は帰っていた。

    教室に残っていたのは七海だけだった。

    日向「七海だけか。」

    七海「あ、日向君。何してたの?」

    日向「ああ、ちょっと相談を受けててな。」

    七海「へぇ、日向君に掛かればすぐ解決…だと思うよ?」

    日向「さすがにそんなことはないぞ。他のみんなは帰ったのか?」

    七海「うん。私は……ゲームしてたんだ。」

    日向「なんだ今の間は。」

    七海「なんでもない…と思うよ?」

    日向「………まぁいいか。さて、もう授業はないし、帰るか。」

    七海「うん…。私も帰る。」

    日向「お、そうか。じゃあ、寮まで一緒に行くか。」

    七海「…うん。」




    ~道中~

    日向「今日はみんなとゲームできて良かったな。」

    七海「…うん…。」ピコピコ

    日向「歩きながらゲームは危ないぞー。」

    七海「……日向君がいるから大丈夫…。」ピコピコ

    日向「俺がいなかったらどうするんだよ。」

    七海「……その時はやらないよ…。」ピコピコ

    日向「……そうか。」


    日向(頼りにされてる…ってことでいいんだよな?)

    時々モノにぶつかりそうになったり、溝があったり、その度に日向が歩く方向を正してやった。

    日向「頼むから俺じゃなくてもいいから、一人のときに歩きゲームはするなよー?」

    七海「うん…。日向君がいない時はしないよ…。」

    ゲームに集中しながらも七海はしっかりと答えるのだった。
  38. 99 : : 2016/11/13(日) 14:20:57
    ~寮~

    七海の歩く方向を正しながら、寮へたどり着くとそこには弐大がいた。

    日向「よう、弐大。」

    弐大「応!日向、待っとったぞ!」

    日向「ああ、トレーニングだったよな。」

    弐大「忘れとらんかったか!ではさっそくやるとするぞぉおお!!」

    日向「いや、さすがに運動着くらいには着替えさせてくれ…」

    弐大「おっと、ワシとしたことが焦ったわい。ガッハッハッハ!」

    七海「日向君、弐大君とトレーニングするの?」

    日向「ああ、ちょっと運動不足を解消しようかと思ってな。」

    七海「ふーん…じゃあ、私はここで、バイバイ。」

    日向「ああ。また明日な。」

    七海は寮へと消えていった。


    日向「じゃあ、着替えてくるからちょっと待っててくれ。」

    弐大「応!待っとるぞ!」


    日向は一度部屋に戻り、運動着に着替えて戻ってきた。

    日向「それで?どんなことをするんだ?」

    弐大「まずは準備運動じゃ。怪我をせんように入念なストレッチをしてもらうぞ。それからグラウンドを走ってもらうぞ!」

    日向「わかった。何周だ?」

    弐大「お前さんの体力を見るために全力ではなく、ゆっくりと体力が尽きるまで走り続けてもらう。」

    日向「え。」

    弐大「大丈夫じゃ!遅くなっても付き合ってやるからのぉ!ぶっ倒れても運んでやるぞ!」



    その後、日向はトレーニングという名の地獄を見た。
  39. 103 : : 2016/11/14(月) 00:50:27


    日向「………。」

    弐大「うむ。お前さんの体力の上限っちゅうのはわかった。お前さんに合った最高のメニューを考えてきてやるぞ!」

    日向(受け答えできねぇ…。)

    弐大「ガッハッハッハ!大抵最初はこんなもんじゃ。どれ、ワシが運んでやろう。」

    日向を担いで弐大は寮へと向かって走っていく。


    弐大「ふむ、しかし、お前さん。走り方のフォームは誰かに教わったんか? 長距離を走るのに適した走り方をぎこちなくはあったが、行っておったな。」

    日向「…ゲホッ……さ、才能が…欲しくて…色々、試してた…時期が…あって……陸上にも…手を出してたんだ…。」

    弐大「なるほどのう。」

    それ以降、弐大は何も言わず、日向は黙って呼吸を整えた。



    ~寮~

    弐大「着いたぞぉ、日向。」

    日向「あ、ああ。運んでくれてありがとな。」

    弐大「気にするな! さて、夕飯を食いに行くとするかぁ!」

    日向「お、俺は少し休憩してから行く。今は胃が何も受け付けそうにない。」

    弐大「わかったぞぉ! じゃが、食わんのはダメじゃぞ。喰わん疲労した体も回復せんからなぁ!」

    日向「ああ。絶対、後で食べるよ。じゃあな。」

    弐大「応!」

    そうして、日向と弐大は別れた
  40. 104 : : 2016/11/14(月) 00:57:58
    ~寮・日向の部屋~

    日向「さ、さすがに疲れた…。」

    ベッドに飛び込むように倒れ込んだ。

    日向(はぁ…ちょっとした運動のつもりだったのに、えらくハードなことをしてしまった…。明日大丈夫か…?)

    筋肉痛は確定だろうと、思いながら、天井を眺める。



    本科に上がって、2日目。

    超高校級のみんなとゲームをした。

    そして、九頭龍、罪木の相談を受けた。

    二人の相談に乗って、その両方で自分なりに上手く回答ができたと思う。



    日向(俺も……俺も…やっと、超高校級になれたんだ…。)

    そんな今更な感覚を日向は感じていた。

    そして、やっと目指したモノになれた感覚に一種の多幸感を覚えていた。

    顔がニヤつくのが抑えられなかった。



    日向「っと、このまま寝転がっていたら寝ちまいそうだな。……夕飯に行くか。」

    寝転がっていたら、それなりに時間が経っていたようだ。

    どれだけの間ニヤニヤしていたのかわからないが、他人に見られたらまず気持ち悪いと言われてしまうな、と苦笑しつつ、日向は部屋を出て行った。
  41. 107 : : 2016/11/14(月) 01:44:42
    ~寮・食堂~

    日向が食堂へ行くと、左右田と田中が食事をしていた。

    いや、正確には片隅に御手洗がいたが、昼間と同じく、大量の料理を前に格闘していたため、日向は一旦放置することにした。

    日向「よう、左右田、田中。」

    左右田「おお、日向。飯か?」

    日向「ああ。左右田と田中は途中か。今から注文してくるから、一緒にいいか?」

    左右田「ああ…つっても、こいついるけど、大丈夫か?」

    田中「ふん、雑種よ。日向は我が言語を理解できる特異点…。問題などあるはずがない。」

    左右田「え、田中が何言ってるか理解できるのか?」

    日向「なんとなくだけどな。じゃあ、俺は注文してくるよ。」


    その場を離れて、厨房へと向かう。花村がいることを予想していたが、今日は別の料理人がいるようだ。

    疲れもあったことから、選ぶ気力もなく、A定食を頼んだ。

    料理を受け取って、左右田達の元へ戻る。


    田中「戻ったか特異点…。」

    日向「ああ。ふぅ……。」

    左右田「どうした?なんか疲れてねーか?」

    日向「弐大にトレーニングを頼んでな…。」

    左右田「マジでか!? なんでんなことに…。」

    日向「いや…ちょっと運動不足でも解消できたらって思ってたんだが…。」

    左右田「あいつのトレーニングってそんなレベルのモノじゃねーだろ…。」

    日向「ま、まぁ俺が疲れてるのはそういう理由だ。そういえば、今日左右田は実験とかで出てたんだっけ?」

    左右田「おう! 企業秘密とかあるから詳しくは言えねえが、ロボットをいじれたぜ! すげぇ、楽しかった。」

    日向「ロボット…すごいな。」

    田中「魔具の開発か。くっくっく、ついに貴様も生命の生成に手を出そうというわけか。」

    左右田「なんでそんな話になんだよ!」

    日向「田中は…今日はずっと七海たちとゲームか。」

    田中「うむ。七海には手こずらせられたが、我が奥義によって…」

    日向「え?勝てたのか?」

    田中「………。」

    左右田「くけけ、負けたんだろ? 七海に勝つって相当だぜ。」

    田中「ぐぬぬ…いずれ我が奥義を七海に食らわせ、この手に勝利を…。」

    日向「まぁ七海は強いよな。」

    左右田「つーか、田中がゲームって珍しいな。」

    田中「ふん、児戯に付き合ってやったまでのこと。俺様にとっては子供だましに過ぎぬ。」

    日向「でも楽しかったんだろ? めちゃくちゃはしゃいでたもんな。」

    田中「………ふん。」

    左右田「なんだよなんだよ。お前ら今日一日でそんな仲良くなったのかよ。」

    日向「どうだろうな?まだ田中とはあまり話せてない気がするけど…。」

    田中「…はっ、我が眷属が呼んでいる! さらばだ!」

    左右田「あ! 逃げやがった!」

    日向「はは、いじりすぎたか。」

    左右田「あいつとはあんま話したことねーけど、結構おもしれーやつかもな。」

    日向「まぁ滅多にいるやつじゃないと思う。話して損はないんじゃないか。って、俺が来る前は何話してたんだ。」

    左右田「いや、何も…。ただ、前に日向に相談したときによ。相手のことを知る、ってアドバイスもらったろ? んで、ソニアさんと仲がいい田中から話を聞けるかもって…。」

    日向「………。」

    左右田「はぁ、なんであんな厨二野郎が…。」

    日向「…左右田。お前…。」

    左右田「なんだよ…。」

    日向「相談の時好きな人の話を伏せたのに言ってよかったのか…?」

    左右田「…あ?……あ、ああ!?」

    日向「天然かお前…。」

    左右田「い、言うなよ! いいか! 絶対に言うなよ!?」

    日向「フリか?」

    左右田「フリじゃねぇよバカ野郎!」



    日向は左右田と談笑しながら夕食を摂った。
  42. 116 : : 2016/11/14(月) 22:56:47
    翌日。

    案の定日向は筋肉痛になっていた。

    日向「うおおおお…筋肉痛なんて久しぶりだな。」

    足だけでなく、体全体がだるい。

    だが、学園に行かないわけにもいかない、と思ったため、無理やり起き上がった。

    日向「体を使うような授業とかあったら辞退しよう…。」

    日向は固く決意しながら、よたよたと自分の部屋を後にした。



    ~寮・食堂~

    食堂へ行くと、そこには西園寺と小泉がいた。

    日向「よう…西園寺に…小泉だったよな。」

    西園寺「うわー…今にも死にそうな奴隷がきたよー?」

    小泉「ちょっとあんた大丈夫? まさか夜更かしでもしたの? そういう不摂生からどんどんだらしなくなるんだからしっかりしなさいよね。」

    日向「いや、昨日弐大に運動不足解消のつもりでトレーニングを頼んだら、思ったよりも…本気のやつでな…。その疲れが抜けきってないんだ。」

    小泉「それはなんというか自業自得じゃない?」

    西園寺「へへーん、ってことは今筋肉痛ってこと?」

    日向「まぁな。」

    西園寺「へー?」キラン

    西園寺はぴょんと椅子から降りると日向の後ろへ回り、

    西園寺「えい。」

    容赦なく日向の足に蹴りを入れた。

    日向「ぐおおおあああ…な、なにしやがる…!」

    西園寺「わぁ、辛そう……本当…辛そう。」エイエイ

    日向「辛そうとか言いながらつつくな! 割ときついんだからな!」

    小泉「ちょ、ちょっと日寄子ちゃん!? 筋肉痛って言ってる人にその仕打ちはちょっと!?」

    西園寺「ちぇー。面白かったのにー。」

    日向「結構痛いんだからな!?」

    涙目になりつつ、必死に何かを耐える日向。

    それを見ながら小泉はポツリと呟いた。

    小泉「…そういえばアタシ、アンタに自己紹介しかしら?」

    日向「いや、名前は知ってるけど、直接話したのは今が始めてだろ。」

    小泉「だったわよね。なんていうか、こう、お互いに話したこともないのに知ってるっていうのが気持ち悪いから、改めてお互い自己紹介しない?」

    日向「ああ。いいぞ。」

    小泉「じゃあ、アタシは超高校級の写真家の小泉真昼。写真のことなら任せて。」

    日向「俺は超高校級の相談窓口として予備学科から転入してきた日向創だ。よろしくな。」

    小泉「日向創、ね。じゃあ、日向って呼ぶわ。」

    日向「ああ。…そういえば、西園寺もちゃんと自己紹介してないよな? 昨日はああ言ったけど、せっかくだし頼めないか?」

    (※「ああ言った」については>>75

    西園寺「はぁ!? なんてわたしまで!?」

    小泉「クラスメイトなんだから、これから何かと変にギクシャクしちゃうよりはいいと思うわよ? ほら、恥ずかしがらずに。」

    西園寺「は、恥ずかしがってなんかいないし! んもう!」

    日向(なんか、罪木の前ではいたずらっ子って感じで、小泉の前では友人と遊んでいるところに親が来てしまった子供みたいな…)

    西園寺「なんか失礼なこと考えてない…?」

    日向「いや?そんなことはないぞ。」

    日向は女の勘恐るべし、と冷や汗をかいた。

    西園寺「……わたしは超高校級の日本舞踏家の西園寺日寄子。…日向おにぃはわたしの奴隷ね。」

    日向「奴隷ってなんだよ!?」

    西園寺「知らないのー? 主人のためになんでもして、主人の命令ならなんでも聞くんだよー?」

    日向「定義や存在の説明を聞きたいわけじゃない! なんでそうなったのかを聞きたいんだよ!」

    西園寺「えー、だってー…日向おにぃってなんか奴隷が似合いそうな顔してるしぃ…。」

    日向「初めて言われたぞ!?」

    小泉「はいはい、そこまで。収集つかないわよ? 日寄子ちゃんも恥ずかしいからって奴隷とかそういうこと言わないの。」

    西園寺「だ、だ、だからわたしは恥ずかしがってなんて…!」

    小泉「教室行く前に着替えなきゃなんだから、行くよ? 日向、またね。」

    西園寺「あーっ! 待ってよ、小泉おねぇ!」

    小泉が歩いていき、それを西園寺が追いかける。

    西園寺がちらっと日向のほうを振り向いた

    西園寺「んべーっ。」

    日向(……高校生になって、同級生にあっかんべーされるとは思わなかった。)


    朝からこんなに疲れる思いをするとは思わなかった、と日向はため息をついた。
  43. 118 : : 2016/11/14(月) 23:42:27
    朝食を手早く済ませ、部屋に戻り、準備をしてから学園へ向かう。

    その途中。

    日向「ん?あれは…。」

    ドドドドド、と後ろから地響きのようなものが聞こえてきた。

    日向「あれは…終里か?」

    終里「おおおおおおおお!!」

    日向「よう、終里。」

    終里がブレーキ音が聞こえそうな勢いで止まった。

    終里「あ?呼ばれたから止まっちまったけど、誰だオメェ!」

    日向「日向だよ! 日向創! 一昨日転入してきたろ!」

    終里「ああ、おう! 今思い出した。日向な!」

    全く悪びれた様子がない終里に日向は疲れを感じる。

    日向(まぁ今初めて話しかけたし仕方ないのかな。)

    終里「で、なんか用か?日向。」

    日向「いや、クラスメイトを見かけたから声をかけただけだよ。終里こそ、そんなに急いでどこに行くんだ?」

    終里「なんか朝から激ってよぉ…。体を動かしたくてウズウズしてんだ。だから全力で走ってんだ!」

    日向「ああ、それじゃあ邪魔したな。また後でな。」

    終里「おう! おおおおおお……!」

    日向(元気なやつだなぁ…。)

    走り去って行く終里を見るのをそこそこに日向は教室に向かった。
  44. 121 : : 2016/11/15(火) 00:31:53
    ~教室~

    教室に着くと、そこには七海と罪木、ソニアがいた。

    日向「おはよう。」

    罪木「あ、日向さぁん。おはようございますぅ。」

    七海「……おはよう。日向君。」ピコピコ

    日向「えっと、そっちはソニア…すまん、ファミリーネームのほうはまだ覚えてなくって。」

    ソニア「控えおろうー!」

    日向「…ハッ!? 気づいたら跪きそうになっていた…。」

    ソニア「あら、わたくしの前だからって跪かなくて良いですよ。」

    日向「いや、そんなつもりはないんだけど…威厳を感じたというか。」

    ソニア「……ところで、わたくしに何か御用ですか?」

    日向「いや、朝の挨拶っていうのと、まだ話しかけていないクラスメイトだからせっかくだし、ってところだな。」

    ソニア「あらそうですか。あっ、わたくしとしたことが自己紹介もまだでしたわね。」

    ソニア「超高校級の王女、ソニア・ネヴァーマインドと申します。以後、お見知りおきを。」

    日向「超高校級の相談窓口で転入してきた日向創だ。よろしくな。にしても、ソニアって日本人じゃないよな? 日本語上手だよな。」

    ソニア「ふふ、ありがとうございます。日本のドラマで、それで自然と覚えてしまいまして。」

    日向「へぇ。どんな奴だ?」

    ソニア「それが…こちらに来て知ったのですが、日本では十数年前に流行ったものだそうで、こちらで言っても誰にもわかって頂けなくて…。」

    日向「あー、十数年前だとさすがに世代がズレて、理解できる人が少ないだろうな。」

    ソニア「大変ショッキングです…。」

    日向「まぁ、昔のドラマじゃなくって今のドラマとかで面白いものがあったら紹介するよ。逆にソニアも面白いものは紹介してくれ。」

    ソニア「はい!」


    ソニア「ふふ、日向さんって話しやすい方ですわね。……相談窓口…でしたよね?」

    日向「ああ。」

    ソニア「では、一つわたくしの相談にも乗っていただけませんか?」

    日向「ああ、もちろんいいぞ。今日も特には予定はないしな。」

    ソニア「ああ、よかった。断られるのではないかと…。」

    日向「俺が断わるのはよっぽどの時だよ。じゃあ、いつがいい?いつでもいいなら、午前中にでも聞くが。」

    ソニア「では、午後からでお願いします! 午前中は田中さんと動物さんたちのお世話があるので!」

    日向(左右田の言ってたとおり、田中とソニアは仲がいいんだな。)


    日向とソニアが談笑していると、罪木が遠慮がちに近づいてきた。

    罪木「あのぉ…日向さぁん。」

    日向「どうした罪木?」

    罪木「ひ、日向さんは私と友達ですよね!?」

    日向「そんな食い気味に聞かなくても友達だぞ?」

    罪木「えへへぇ、よかったですぅ。」

    ソニア「あらあら。仲が良いんですね。」

    日向「まぁ昨日友達になったばかりだけどな。」

    ソニア「あ、わたくしともお友達になってください。よろしいですか?」

    日向「ダメって言う訳無いだろう。これからよろしくな。ソニア。」

    ソニア「……! は、はい! よろしくお願いします!」

    日向(なんかすごい嬉しそう。)

    ソニアが喜んでいるならいいか、とあまり気にせずに日向はその場を流した。


    くいくいっ

    日向「ん? 七海?」

    いつの間に近づいたのか、日向の背後には七海がいた。

    七海「……。」

    日向「どうした七海?」

    七海「……罪木さんとソニアさんと仲良くなってる。」

    日向「まぁクラスメイトだし、これから仲良くしなきゃって思って。」

    七海「……日向君、ゲームしようよ。」プクー

    日向「いきなりだな。どうしたんだ。」

    日向(頬を膨らませてどうしたんだ…?)

    七海「どうもしてないよ。する?しない?」

    日向「やるよ。何をやるんだ?」

    ソニア「あ、わたくしも興味があります! ご一緒してもよろしいですか?」

    罪木「わ、私もお邪魔じゃなければぁ…。」

    七海「…うん、いいよ。」

    日向(なんだろう、七海からすごい不機嫌なオーラを感じる…。)

    いつもどおりな表情なはずなのに、不機嫌であることはわかったので、どうやって機嫌をとるかを悩む日向だった。
  45. 131 : : 2016/11/15(火) 02:12:51
    七海の携帯ゲーム機で1対1で対戦をしていると、ゾロゾロと人が集まってきた。

    ちなみにやはりというか、七海の一強だった。

    日向「そろそろ先生が来るからここまでだな。」

    ソニア「とっても楽しかったです! またぜひやりたいですね!」

    罪木「わ、私もやりたいですぅ…!」

    七海「うん。またやろうね?」

    そう言って、それぞれの席へ戻っていった。


    しばらくすると、雪染が教室に入ってきた。

    雪染「みんな! おはよう! 今日も張り切って行くわよー!」

    日向(相変わらず元気な先生だ。)

    雪染「突然ですが…みなさんに悲しい発表をしなければなりません…。」

    左右田「え…な、なんなんすか…。」

    小泉「悲しい知らせ…?」

    雪染「…そう…。私は今日これから1週間出張でいなくなっちゃうのー!」

    花村「な、なんだってー!? 貴重なおっぱいがあふん!?」

    日向(なんか、長細いものが飛んで、花村を打ち抜いた気がするが、気のせいだ。)

    雪染「ってことで、今日から1週間私は学園にいないから代わりの先生が来るわよ!」

    左右田「センセー、代わりの先生って誰っすかー?」

    雪染「もう、今から紹介しようと思ってるのに左右田君ったらせっかちさん。」

    左右田「自分が言おうとしたこと聞いたからってコブラツイストはやめアダダダダダダああああああ!!!」

    花村「左右田…くん…なんて…うらやま…。」

    弐大「しっかりするんじゃ、花村。傷は浅いぞ。」

    狛枝「でも、雪染先生に代わる先生、ね。ボクはともかく、他の希望あふれるみんなを任せるに値するかな?」

    雪染「ふぅ、その辺は問題ないわ狛枝君。彼は私と同期の超高校級の生徒だったから。」

    狛枝「……ふーん。」


    雪染「じゃあ、入ってきてもらうわ。逆蔵君。入ってきて!」

    雪染の言葉で教室の扉が開け放たれ、そこにいたのは高身長のガタイがいい男だった。

    逆蔵「……。」

    雪染「ほら、そんな睨んでたら怖がられちゃうよ? 自己紹介しなきゃ!」

    逆蔵「……チッ。逆蔵十三だ。普段は希望ヶ峰学園の警備隊として働いている。」

    左右田「えーっと、逆蔵センセー、なんで警備隊から担任することになったんすかー?」

    逆蔵「知るか。俺が聞きてえわ。」

    雪染「えっとねー。逆蔵君ってばねー。」

    逆蔵「おい、余計なことを…。」

    雪染「本科のほうに入ろうとした予備学科生の生徒をその場で事情も聞かずに取り押さえちゃってね。後から聞いたら、友達を待ってただけの子だったんだけど、それが学園長にバレて、『一度生徒と触れ合って、育てる側というものを経験してみるといい』とかで罰則の名目で担任をすることになったんだよー。」

    逆蔵「おい、そういう教師の裏事情っつーやつをペラペラと喋っていいもんなのか。」

    雪染「気になる子は多いでしょ。それに、この子たちならその気になれば自分で全部調べちゃうわよ。」

    逆蔵「…チッ。」

    雪染「ってことで、今日から1週間はこちらの逆蔵先生が担任だからね! みんな、喧嘩とかしちゃダメだよ?」

    はーい、と返事をする中、日向だけは逆蔵から視線を外すことができなかった。

    日向(あいつは…あの時の…。)
  46. 134 : : 2016/11/15(火) 02:53:00
    ~回想~

    日向がまだ予備学科だった頃。

    七海と待ち合わせをして、夕方の少しの時間を一緒にゲームをして、過ごしていた。

    が、その日七海はいつもの時間になってもこなかった。

    日向「何かあったのか…?」

    ゲームをすることに関してはすごい才能を持っているが、それ以外ではぼーっとしていることが多い七海だ。

    どこかで事故とか事件に巻き込まれても不思議じゃない。

    日向(普通に用事があって、来られないって可能性もあるが……なんで、こんなに会ってるのに連絡先交換してないんだよ。)

    ゲームをしている時間が心地よく…一方で七海への嫉妬心が働いて、一種の壁を作ってしまい、そういった発想が出なかったことに日向は気づいていない。


    とりあえず日向は本科の校舎へと足を運んだ。

    日向(必ずこの道を通るだろうし、すれ違うこともないだろう。)

    そのまま足を進めるが、七海に会うこともないまま、本科の校舎前へとたどり着いてしまった。

  47. 135 : : 2016/11/15(火) 02:54:37

    日向「結局いなかったな…。」

    日向はふと、目の前の本科校舎を見上げる。

    超高校級の才能を持つ者たちが通う校舎。壮大で、綺麗で、独特のデザインの施された校舎は超高校級の建築家とか、そういった生徒が関わっているのかもしれない。

    日向(ここに…行ければ…俺も…。)

    ふらふら、と日向は校舎のほうへといつの間にか移動していた。


    そこへ。


    「おい。」

    日向「…え?」

    逆蔵「何もんだ。てめぇ。」

    日向「いや、俺は」

    逆蔵「あー、いや、いい。めんどくせぇのは嫌いなんだ。不審者は、さっさと退場願おう。」

    日向「いや、ちょっと待ってくれ!俺は…。」

    事情を説明しようとした日向の腹に一発。

    息を吐き出し苦しんでいる日向の腕を取り、地面へと叩きつけた。


    日向「ぐ…ぁ…。」

    逆蔵「制圧完了、っと。…って、ん?てめー…予備学科、ウチの生徒か。」

    日向「ぐ…そう、だ…!」

    逆蔵「ちっ、才能のないやつが上を見上げ続けて足元を見ないまま歩くからこうなる。」

    日向「…わる、いか!」

    逆蔵「あ…?」

    日向「才能を…羨んで…悪いか…!」

    逆蔵「ああ。そうやって他人の迷惑も考えねぇところは最悪だ。」

    日向「……ぐ…。」

    逆蔵「さて、とりあえず予備学科の職員でも呼ぶか。」

    「その必要はないよ。」

    逆蔵「あ?てめーは…。」

    日向(誰だ…?)

    現れたのは白いハットに白いスーツを着た金髪の男だった。優男、という印象をまず受けたが、日向は警備員に意見をしている辺り、ただ者ではなさそうだ、とすぐに思い直した。

    「逆蔵君、事情も聞かずにいきなり取り押さえるなんてそりゃあないんじゃないかな?」

    逆蔵「うるせぇ。こんなところでちょろちょろしてりゃあ全員不審者だ。」

    「じゃあ、オレもそうなっちゃうかな。一連の流れをずっと見てて、ちょろちょろしてたんだから。」

    逆蔵「…ちっ、何が言いてえ。」

    「その子、とりあえず離してあげてよ。オレが責任持つからさ。」

    逆蔵「……はぁ、わかった。報告とかはてめーに任せるぞ。」

    やっと開放された日向は痛む腕を抑えながら立ち上がった。

    「いいよ。じゃあ、行こうか。」

    日向「あ、はい…。」

    こちらを睨みつけてくる逆蔵が気になったが、とりあえずこの場を離れることにした。

    しばらく歩いて、日向は白スーツの男性に話しかけた。

    日向「あの、ありがとうございます。」

    「いやぁ、いいよ。彼も仕事に真面目なんだろうけど、あれはいくらなんでも酷かったからね。」

    日向「……。」

    逆蔵に言われたことが頭をぐるぐるとするが、頭を振って、追い払う。

    日向「えっと、あなたの名前は…?」

    「オレかい?」

    黄桜「オレは黄桜公一。希望ヶ峰学園でのスカウトマンをやってるよ。」

    日向「スカウトマン…。あ、俺は…。」

    黄桜「知ってるよ。日向創君だろう?」

    日向「え…なんで…。」

    黄桜「いや、予備学科でちょっとした噂を耳にしてね。」

    日向「噂?」

    黄桜「たまーに、予期しない才能を開花させるって人がいるんだけど…君のは…才能なのかどうかがイマイチわからなかったからね。ここ数日観察してたんだ。」

    日向「え?観察?」

    黄桜「気を悪くしないでくれ。おかげで結論も出たんだからね。」

    日向「結論?」




    黄桜「君、ちょっと超高校級になってみない?」

    日向「はい?」


    その日は逆蔵に殴られ、苦い思いをした日になり、そして、日向が超高校級として才能を認められた日にもなった。
  48. 149 : : 2016/11/16(水) 23:33:56
    逆蔵「…あー、なんだ。雪染の代わりに1週間担任を務めるが、俺の本職は警備員だ。教師のノウハウなんかねぇ。つまり、困っても助けてやれねぇ。」

    逆蔵「だが、俺もこうして仕事を任された以上は途中で放り投げるなんて真似はしねぇ。だから……まぁよろしく頼む。」

    終始視線を77期生に向けてはいなかったが、担任をする気があるという点において、真面目に取り組むと宣言した。

    そのためか、77期生の逆蔵に対する壁はなくなっていた。

    花村「ふふん。つまり、この流れはーーー」

    澪田「逆蔵センセーの歓迎パーティーの流れっす!」

    ソニア「パーティーです!」

    左右田「よっしゃ! って、すぐ前に日向のやったばっかだけど…。」

    七海「パーティーは何度やってもいい…と思うよ?」

    小泉「そうね。じゃあさっそく準備しましょう。」

    弐大「く、くそじゃあああああ!!」

    九頭龍「今からってときに…早く行ってこい。」

    逆蔵「おい、パーティーなんて必要ねぇ。てめぇらは才能を磨くことを考えてりゃあいいんだよ。」

    花村「ふふん、それなら僕は料理を作りますから才能を磨くことになりますよね!?」

    七海「私はゲームをみんなとすればそれでスキルアップ…だよ?」

    小泉「私は写真撮ればそれで。」

    澪田「音楽なら任せるっす!」

    西園寺「私は踊ろうかー?」

    罪木「お、お怪我したら任せてくださぁい!」

    左右田「俺は…あれだ。なんか作る。」

    九頭龍「それでいいのか、メカニック。」


    逆蔵「あーもう、わかった。勝手にしろ。」

    逆蔵はパーティーを開くという77期生に(なんだこいつら)としか思わなかったが、超高校級というのは常識はずれな人間ばかりであることを思い出し、すぐに深く考えるのをやめた。

    田中「では、始めるとしようか、歓迎と狂乱の宴を!」

    逆蔵「やるなら勝手にやれ。」

    と、教室を逆蔵は出ていこうとした。


    澪田「おぉっと! ここは通さねえっすよぉ!」

    逆蔵「どこの世紀末だ。どけ。」

    ソニア「ふふふ…通りたくば水か食料か殺人鬼全集を置いていってもらいましょう!」

    逆蔵「おい最後のはなんだ。」

    七海「ゲーム…楽しい、と思うよ?」

    逆蔵「お前、確かゲーマーだろ。言い切れ。」

    小泉「あの…逆蔵先生。少しだけでも…。」

    逆蔵「…こういうのは好みじゃねえ。」

    花村「では代わりに僕と一緒に甘いひと時をいかが?」

    逆蔵「女子に紛れても誤魔化されねえぞ?花村。俺にソッチの趣味はねぇ。」

    花村「大丈夫です! なくてもその気にさせてあげます!」

    逆蔵「殴るぞてめぇ…。」
  49. 152 : : 2016/11/16(水) 23:49:40
    道を塞がれて、反対側の扉へ行こうと視線を向けた逆蔵に日向が近づいた。

    日向「…逆蔵…先生。」

    逆蔵「あ?」

    今まで黙っていた日向だったが、ついに抑えきれず逆蔵に話しかけていた。

    何が言いたいかも自分で整理できていない日向は口をパクパクさせるだけで、言葉が出ない。

    逆蔵「…てめぇは…日向創だったな。」

    日向「え。そう、ですけど。」

    肯定して、その後だまり続ける日向に逆蔵は疑問の表情を浮かべる。

    逆蔵「…なんだ。用があったんじゃねぇのか。」

    日向「…えっと。」

    この様子、日向は一つの結論に至った。

    日向(この人、俺のこと覚えてない?)

    日向「先生が取り押さえたっていう人はどんな人だったんですか?」

    逆蔵「あん?…予備学科っつーことしか覚えてねーよ。なんかやけにピンと立ったアホ毛があった気がするが、特徴つったらそんくらいだ。」

    実際、逆蔵は日向の顔も録に見ずに取り押さえ、そのまま黄桜に回収されていったため、逆蔵は録に日向の顔を見ていなかったのだ。

    日向「そう、ですか。」

    逆蔵「…それがどうした。」

    日向「いえ、何でもないです。ありがとうございます。」


    澪田「逆蔵センセーも創ちゃんも何やってるんすかー? 輝々ちゃんがもう料理持ってきてるっすよー?」

    日向「あ、ああ、今行く。逆蔵先生、今日だけですから…。」


    いつの間にか料理が準備され、立食形式で食事ができるように机が円形に配置されていた。

    さすがの逆蔵も準備もしていないうちなら何もないため、断わることにも気兼ねがなかったが、ここまでされると断りづらい。

    逆蔵「……はぁ。これも担任の仕事…って思う事にするか…。」
  50. 155 : : 2016/11/17(木) 00:35:35
    パーティーが始まり、しばらく。

    前回(日向の時のパーティー)の時のような騒動もなく、パーティーは静かに進む。

    花村「ふふん、どうですか先生。僕の料理は。」

    逆蔵「美味いは美味い。だが、お前の才能はまだ伸ばせる。もっと精進しろ。」

    終里「むぐむぐむぐっ!うめぇえええ!!」

    逆蔵「終里、食うことはいい事だ。その分身体は強くなる。」

    御手洗「……。」バクバクバクバク

    逆蔵「御手洗、てめぇは逆に運動しろ。」

    御手洗「大丈夫です。これでも自分、動けるので。」

    逆蔵「そういうこと言ってんじゃねえよ。」



    食事を食べる組みに混じって、説教っぽいことを言いながら会話している逆蔵を日向は眺める。

    『才能がないやつが上を見るな』と言い放った人物と同一人物とは日向には思えなかった。

    日向(予備学科には辛辣だけど、本科生に優しい…ってことか? いや、そんな感じじゃないような…。)

    初めて会った時の印象と今の印象が合致せず、日向は戸惑いを覚えていた。



    七海「日向君? 日向君の番だよ?」

    日向「あ、ああ。」

    七海に声を掛けられ、慌てて視線をゲーム画面に戻す。

    やっているのはすごろくゲームであるため、自分のターン以外は暇である。

    澪田「うーん、こういうのんびりしたゲームは唯吹に合わないっすー…。」

    罪木「わ、私は楽しいですぅ…。」

    左右田「んー、今度新しくゲーム作るってのもありだな…。」

    七海「本当!? ジャンルは!? ハードは!? プレイ人数は!?」

    左右田「思いつきでそこまで詳しく決めてるわけねーだろ!」


    結局、すごろくゲームでは日向は集中できずに、3位で終わってしまった。

    ちなみに4位は左右田である。


    左右田「最後のほうで金が減るマスを全部踏んだんだが…。」

    西園寺「ぷぷっ、顔や性格だけじゃなくって、運まで悪いだなんて、本当かわいそう。」

    左右田「俺だって傷つくんだからな!!」

    田中「これが雑種の宿命か。」

    左右田「どこまでがだ! 西園寺にいじられるところまでか!」
  51. 157 : : 2016/11/17(木) 00:45:53
    クラスメイトたちが騒いでいる姿を見ながら、日向はある生徒に目が向いた。

    日向「狛枝、やけに静かだけど、どうした?」

    狛枝「…いや、ちょっと、ね。」

    狛枝は教室内の様子を眺めていて、日向もその隣で眺める。

    逆蔵の歓迎会という名目であるが、逆蔵も関係なく騒いでいるのがほとんどだ。

    皆、逆蔵も含め、楽しそうに過ごしている。


    狛枝「ねぇ、日向クン。前にボクの相談に乗って欲しい、って話をしたんだけど、覚えてくれているかな?」

    日向「ああ。昨日は忙しくて、声をかけれなかったんだけど…。」

    狛枝「ああ、予定があったのならボクごときのことを気にしなくてそちらを優先してくれていいんだ。それで、さ。ちょっと抜け出して、ボクの話を聞いてくれないかな?」

    日向「…ああ。いいぞ。」

    日向も逆蔵のことが気になって、あまり集中できないこの空間にあまりいたくなかった。

    とりあえず、気持ちを整理する意味でも一度離れたかった。

    日向「じゃあ、相談室で聞く。いいか?」

    狛枝「うん。ボクごときに手を煩わせてごめんね。」


    苦笑気味に笑う狛枝と共に日向は77期生の教室を後にした。
  52. 159 : : 2016/11/17(木) 01:24:04
    ~相談室~

    名前 狛枝凪斗
    才能 超高校級の幸運
    年齢 10代
    相談事カテゴリー その他
    相談事の概要 希望について
    お茶、菓子の評価(5段階) 5


    日向「…希望、な。狛枝、話してもらえるか?」

    狛枝「…うん。さっそくで悪いんだけど、日向クンはさ、希望ってなんだと思う?」

    日向「…何、か。そんなこれだ、って考えたことはないけど…というか、希望は希望じゃないのか?。」

    狛枝「希望っていうのはさ、才能なんだよ。つまり、君たち超高校級の生徒たちのことだよ。」

    日向「…それで、その希望がどうしたんだ?」

    狛枝「ボクはさ、超高校級の幸運なんていうゴミクズのような才能で希望ヶ峰学園に入学したけど…その点だけには感謝してるんだ。ボクは見てみたいんだよね。希望が最高に輝く瞬間ってものを…。それが見られるためならこんな才能でも捨てたものじゃないからね。」

    日向「希望が輝く瞬間?」

    狛枝「わからないかな? その瞬間、っていうのは圧倒的な絶望、それを才能を持つみんなが乗り越えた先にあるんだ。絶望っていうのは希望のための踏み台に過ぎないんだよ。」

    日向「……絶望…。」

    狛枝「…それで、ボクはどうやったら彼らの希望がもっと輝けるかをずっと考えているんだ…。」

    日向「……希望とか絶望とか才能とか、お前が言いたいことはわかった。それで、お前は俺に何を相談したいんだ?」

    狛枝「ああ、うん…。さっきも言ったけど、みんなの希望を輝かせるにはどうしたらいいか、っていうのが相談内容だね。彼らの障害となるような希望…もしくは絶望を与える方法を考えて欲しいんだよ。」

    日向「……俺は…その希望には数えられてないのか?」

    狛枝「やだなぁ、日向クンはちゃんと希望だよ。ただ…キミはまだ…いや、今はいいや。」

    日向「は?」

    狛枝「そんなことより、ボクの相談内容について考えてもらえるかな? どうすれば、彼らに試練となるような絶望を与えることができるのか。」


    狛枝の言葉に日向は考える。

    ここまでで理解したのは狛枝の希望に対する考え方の異常性だった。

    日向(こいつの希望っていうものへの見方は常人とはかけ離れている。もし、ここで突拍子のないことを言っても狛枝はその案を採用してしまうかもしれないな…。)

    例えば、才能の試験で失敗するように仕向けるとか。

    例えば、わかりやすく敵を用意して、その相手をさせるとか。

    例えば、……分かりやすく絶望として誰かの死を与えるとか。

    そんな絶望という言葉から連想されるあらゆるネガティブな考えが浮かぶが、それを言ったら最後、狛枝は実行してしまうかもしれない。

    そう思ったら日向も迂闊に口にはできない。
  53. 168 : : 2016/11/17(木) 02:39:52
    日向「狛枝、たぶん俺はお前が言っていることの半分のことも理解はできていないんだと思う。」

    狛枝「…まっ、そうかもね。ボクも理解されたい、って想っているわけじゃあないよ。」

    日向「それを踏まえて聞いて欲しいんだが…普通にお前や俺が手助けをして、才能を磨いていく、ってだけじゃあダメなのか?」

    狛枝「…日向クン……。」







    狛枝「それは違うよ…」






    日向は一瞬目の前の人物が先ほどまで話していた者と同一人物かを疑った。

    そして、言いようのない悪寒が体中を襲う。

    狛枝「それじゃあ『最高』ではないんだよ…。彼らの希望はもっと輝けるはずなんだ。そんなの…磨いている宝石を途中で放棄するのと同じさ。」

    これ以上、こいつと話をしたくない、という正直な感想を押さえつけて、日向は話を続ける。

    日向「……狛枝…。」

    狛枝「うん?」

    日向「お前は俺が例えばトラウマとなるような失敗を与えればいい、とか言ったらそれを実行する気か?」

    狛枝「……なるほど。失敗から来る絶望…こっちで細工して、被害が出るような失敗を与えたら……彼らはそれを乗り越えようと更に希望を輝かせる…! ああ、やっぱり相談して良かったよ。日向クンはやっぱり……『希望』だね。」

    日向「……狛枝…。」

    狛枝「うん?」





    日向「それは違うぞッ!!」





    狛枝「…!」

    日向「試練を乗り越えて、更に成長する…確かにそのとおりだろう。でもな…お前がわざわざ試練を用意して、絶望を乗り越えさせる…このやり方は間違っている!」

    日向「希望っていうのは…未来、可能性…前に進むことだ! 今でも超高校級の奴らは希望を持って前に進んでる…。つまり、そこに与えられる絶望なんか必要ないんだよ!」

    日向「それに……絶望なんてものはわざわざ与えなくても降りかかることはある。そして、どんなやつでもそれを乗り越える。お前は…それを信じて見守ったら勝手に超高校級の奴らは更に成長して…希望が輝くんじゃないか?」




    狛枝「…ふふ…アハハ…アハハハハハハ…!」

    狛枝「まさか日向クンに相談しにきて、こんな場面に出くわすなんて…ボクはなんて幸運なんだろうね…。」

    日向「……。」

    狛枝「ああ、ごめんね。勝手に盛り上がっちゃって…。なるほど、ね。信じて見守る、か。ボクごときに見守られるなんて不運だろうけど、ボクが見たい希望のためにそこは我慢してもらおうかな?」

    日向(なんとか逸らせたか…?)

    狛枝自身が絶望を与えて、それを乗り越えさせるという方法からはなんとしてでもシフトしたかった日向は頑張って言葉を並べたが、なんとかなりそうで安心していた。
  54. 174 : : 2016/11/17(木) 18:23:01
    狛枝「…にしても日向クン、やっぱりキミは『希望』だね。」

    日向「…どういう意味だ?」

    狛枝「キミが本科に上がって、数日経ったけど、ボクはキミのことを見てきたよ。それで、ボクが出した結論は『希望』だよ。」

    日向「…? ますますわからないぞ。」

    狛枝「まぁボクの口から言うことではないと思うから、これ以上は言わないよ。」

    日向「……まぁ、相談はこれで終わりでいいな?」

    狛枝「時間を撮らせて悪かったね。さて、逆蔵先生のパーティーに戻ろうか?」

    日向「そうだな…。」

    日向(後で、ソニアが来る予定だし、狛枝の報告書は後でいいか。)


    軽く片付けをしてから日向と狛枝は相談室を出た。
  55. 175 : : 2016/11/17(木) 18:23:34

    ~教室~

    日向と狛枝が教室に戻ると……。



    弐大と九頭龍以外の77期生の男子が倒れていた。



    日向「え?なんだ…これ、どういう状況だ!?」

    狛枝「…日向クン、たぶんアレだね。」

    日向「あれ…?」

    狛枝が指差す方向には座禅を組んだ逆蔵が目を閉じてブツブツと何かを呟く様子だった。


    日向「逆蔵…先生…?」

    狛枝「教室内で起きているのは先生だけ、なら、彼らが倒れているのは先生が原因って考えるのは自然だよね?」

    日向「何かの事情があって、あいつらを気絶させなきゃいけなかったってことか? どんな事情だよ。」

    狛枝「それはボクにもわからないなぁ。」

    アハハと苦笑する狛枝。



    二人が話していると後ろから声を掛けられた。

    七海「あ……日向君…。」

    日向「あ、七海! これどうしたんだ一体?」

    七海「日向く…ん…ん!」

    日向「なんだ!? なんで抱きついてくる!?」

    七海「…嫌?」

    日向「そんなわけあるか! って、違う! 何が起こったかを説明して欲しいだけだ!」

    七海「あ…ぅ…日向くん…日向君…」

    日向「力強っ!? くそ、七海の様子が明らかにおかしい…。」

    狛枝「ボクは邪魔みたいだし、みんなの介抱でもするよ。」

    日向「待て! 一人にするな!」

    狛枝「希望っていうのは未来、可能性なんだよ? ボクは二人の希望が合わさって更に輝く瞬間を見せてくれるって信じてるよ。」

    日向「今俺が言ったことを言うって皮肉かお前! 待て、狛枝ぁあああ!!」

    日向の必死の声を無視して、狛枝は教室内へと入っていった。

    しばらくは、心臓が破裂しそうで落ち着きがなかった日向だが、七海は力強く抱きしめてくるだけで、何かをしてくるわけではないので、だんだんと落ち着きを取り戻していた。


    日向「……七海、何があったんだ?」

    七海「………。」

    日向「また花村の料理に媚薬でも入ってたのか? 俺たちがいたときは何もなかったから、いなくなってから混入したんだろうけど…。」

    七海「………。」

    日向「…わかった。そっちについては今は聞かない。なんで抱きついてるかを聞いていいか?」

    七海「………もん……。」

    日向「ん?」

    七海「…日向君が……いなくなっちゃうだもん…。」

    日向「俺はここにいるぞ。」

    七海「…むぅ…。」

    ぎゅうと更に力を込める。

    日向「お前、日頃ゲームしかしてないのになんでこんな力が…。」

    それ以降、話しかけても七海は答えず、どうしたものかと思案していると、バタバタと足音が聞こえてきた。


    辺古山「むっ…日向…と七海か。…邪魔をしたな。」

    日向「いや、お前もスルーしようとするな。七海は様子がおかしいし、男子はみんな倒れてるしで何が起こったかを全く把握できてないんだ。教えてくれないか。」

    辺古山「何、花村の料理に薬が入っていた、といういつものものだ。それで、女子の搬送は終わったから次は男子を、ということになってな。七海が様子を見に戻ったんだが…時間が経っても戻ってこないから私が様子を見に来た。」

    日向「男子がほぼ全員倒れてるのはなんでだ?」

    辺古山「薬の効果で暴走しそうになった左右田と花村のアゴを逆蔵先生が打ち抜いて、そのついでとばかりに他にも料理を食べた者を殴って気絶させたのだ。」

    日向「……いや、まぁ薬のせいで被害とか出るよりはマシ…なのか?」

    辺古山「わからん。とりあえず、教室の様子はわかった。日向も手伝って……ほしいが、七海がその様子か。」

    日向「七海も料理を食べたのか?」

    辺古山「ああ。と言っても、料理を食べた者の中では一番冷静に見えたのだが…。だから様子見をしてくると言ったときも止めなかったんだが…。」
  56. 187 : : 2016/11/17(木) 23:08:17
    日向「とりあえず、七海にも効果が出てるってことで、保健室に運べばいいのか?」

    辺古山「ああ。みんなそこにいる。」

    日向「わかった。七海を保健室に置いてから、手伝うよ。」

    辺古山「ああ。では、私は弐大を呼んでくる。」

    日向「そういえば、弐大と九頭龍がいないけど、あいつらは?」

    辺古山「弐大はトイレにいたため、難を逃れた。ぼ…九頭龍は…これまでのパターンを見越して食べなかったらしい。」

    日向「なるほど。じゃあ、俺は…ゆっくり行くから辺古山は早く弐大を。」

    辺古山「ああ。」


    辺古山は足早にその場を離れた。


    日向「さて、じゃあ、七海。保健室に行くぞー。」

    七海「うぅ…うぅん…。やだ。」スリスリ

    日向「子供かお前は。」

    七海「うぅぅ…おんぶして…。」

    日向「はぁ!?」

    七海「してくれなかったらこのまま…だよ?」

    日向「お前意外と余裕あるだろ。全く…ほら、掴まれ。」

    七海「うん…。」

    七海を背中に乗せ、立ち上がる。

    日向(悪霊退散煩悩退散退散退散…、背中に当たっているのはただの…そうクッションだ。)

    七海「……日向君は…さ。」

    日向「うん?」

    七海「…みんなと仲良くなって……そしたら…私とゲームしなくなっちゃう…?」

    日向「いや、なんでだ? みんなと仲良くなれたら…とは思うけど、七海とゲームしなくなるなんてことはないぞ?」

    七海「……でも……。」

    日向「はぁ、よくわからないけど、そんなに俺とゲームをしたいなら明日付き合うよ。」

    七海「……うん。」ギュッ

    日向「うぐ…。」(首が…。)

    結局七海の様子を理解できないまま日向は保健室へ向かった。



    ~保健室~

    保健室では九頭龍が中心になって女子の面倒を見ていた。

    どうやら女子は辺古山以外が全滅していたようだ。

    日向「九頭龍…。」

    九頭龍「おう、日向…。七海、どうかしたのか?」

    日向「薬の影響らしい。離してくれなくてな。」

    九頭龍「…まぁ七海も食ってたからな。そこに寝かせろ。」

    日向「ああ。ほら、七海。」

    七海「……」スー

    日向「いつの間にかねてやがる!?」

    七海が寝ていたため、簡単に引き剥がし、ベッドに寝かせることができた。

    日向「はぁ…大変だった…。」

    九頭龍「そっちが済んだなら、教室まで野郎共を回収しに行ってくれ。ここは俺が見る。」

    日向「ああ。わかった。」

    その後、弐大、辺古山、狛枝、日向の手によって無事77期生を全員保健室へと収容できた。
  57. 191 : : 2016/11/17(木) 23:55:09
    ~午後~

    日向「結局みんなまだダウン中、か。」

    九頭龍「こればっかりは仕方ねぇだろ。」

    日向「そうなんだけどな…。」


    ソニアに午後に相談を受ける予定であったのだが…。

    ソニアがダウンしているのならその予定もなくなってしまった。

    日向「そういえば、逆蔵先生、復活早かったな。」

    九頭龍「『薬ごときで寝てられるか』とか言ってたが…そういう問題じゃねえだろ。」

    弐大「強い肉体には強い精神が宿るもんじゃが…。」

    辺古山「確かに、逆蔵先生は真っ先に食べて、効果は一番早くに出たはずだが、一番冷静だったな。」

    狛枝「へぇ。やっぱり逆蔵先生も希望、ってことだね。」


    現場を見ていない日向と狛枝はピンと来ないが、花村の自信作と言って、真っ先に料理を食べたのは逆蔵だった。

    そして、薬の効果も一番早くに現れていたのだが、担任としての責務か、大人としての意地か、薬の効果を感じさせないほど冷静であった。

    男子を伸して、女子が運ばれた後は精神統一で気を紛らわせていたのだ。


    日向(しかし、午後から話を聞く予定だったソニアはダウンしてるし…。)

    日向「ちょっと俺は相談室に行くついでに、保健室にみんなの様子を見に行ってくるよ。」

    反対などなく、日向はそのまま保健室へ向かった。



    ~保健室~

    保健室では77期生がベッドを占領していた。

    みんな目を閉じて、眠っている。

    「……日向おにぃ…?」

    と、思ったが起きている者がいた。

    日向「西園寺?起きたのか」

    西園寺「……ここは?」

    日向「保健室だ。俺は後から聞いたけど、花村の料理にまた薬が入ってて、みんなはそれを食べてしまったらしい。」

    西園寺「…そうなんだ。」

    日向「起き上がれるか?」

    西園寺「…だるい…。」

    日向「そうか。じゃあもう少し寝てるんだな。」

    日向が立ち去ろうとしたところ、ズボンに何かが引っかかった。

    日向「ん? って、西園寺?」

    引っかかったわけではなく、西園寺がズボンを掴んでいたらしい。

    西園寺「……もうちょっといてよ。」

    日向「…ああ。いいけど…。」

    普段の…というより、初めて会った時のいじめっ子で攻撃的な印象が強いためか、日向には今の西園寺がひどく弱々しく見えた。

    西園寺「……もう、気が利かないんだから。」

    日向「はぁ?」

    西園寺「おにぃは奴隷なんだから、私の看病しなきゃいけないの。」

    日向「なんだよそれ。まぁ今日だけはお前の奴隷でいてやるよ。何か欲しいものはあるか?」

    西園寺「……お水…。」

    日向「水な、わかった。」

    水を持って行ってやり、コップを手渡そうとする。

    西園寺「………。」

    日向「水を見つめてどうした?」

    西園寺「……飲ませてよ。」

    日向「はぁ?」

    西園寺「だるーい、水を飲む気力もなーい。」

    日向(そんなに俺をこき使いたいのか…。)

    日向「はぁ…。」

    日向はコップを片手に持ち、西園寺の背中に手を回す。

    西園寺「え、ちょ…。」

    日向「ほら、ゆっくり飲めよ。」

    西園寺「むんぐ…!」

    口元にコップを当てた際に西園寺のうめき声が聞こえたが、ちょっとした仕返しも兼ねているので日向は気にしなかった。

    西園寺「………。」

    日向「飲んだな?じゃあ、後は寝とけ。」

    西園寺「……ふん。おにぃのばーか。」

    日向「世話してやったのにひどい言われようだ。」

    苦笑しながら、日向はコップを片手に西園寺のベッドから離れた。
  58. 204 : : 2016/11/18(金) 22:42:46
    日向(また後で来よう)

    そう思い、日向は保健室を後にした。



    ~相談室~

    日向が狛枝の報告書をまとめていると…。


    黄桜「やっ、失礼するよ。」

    日向「黄桜さん。」

    黄桜「いやぁ、様子を見て来いって仁…学園長に言われちゃってねぇ。まぁオレがスカウトしたから責任持たなきゃなぁってね。」

    日向「なるほど…あ、お茶淹れますね。」

    黄桜「いやぁ、悪いねぇ。」

    ちなみに黄桜に悪びれた様子は全くない。

    日向「どうぞ。」

    黄桜「ありがとう。いやぁ、前に来たときは殺風景な部屋だったのに随分と充実してるね。」

    日向「お茶とかお菓子があったほうが相談者の肩の力が抜けるんですよ。」

    黄桜「なるほどねぇ。ん、美味い。お菓子はキミの自作かい?」

    日向「はい。今日は草餅ですが。」

    黄桜「まぁ悪くはないんじゃないかな。美味しいし。」

    日向「ありがとうございます。」

    黄桜「えーっと…ああそうだ、逆蔵君。彼、どうだい?」

    日向「えっと…。」

    黄桜「ああ、初対面の時は軽く喧嘩っぽい雰囲気だったし、仲良くする機会になるかなって思ったんだけど、余計なことしちゃったかな?」

    日向「…逆蔵先生は俺のことを覚えていませんでしたよ。」

    黄桜「あらら。まぁあの時のキミは予備学科で、不審者扱いだったし、彼がいちいち覚えてなくてもおかしくはない、か。まぁ余計な騒動にならなくてよかったじゃない。」

    余計な騒動が起きる展開へ持っていこうとした人間が何を、と思ったが、黄桜には恩があるため、日向はその言葉を飲み込んだ。

    日向「…今日はそのことを話に来たんですか?」

    黄桜「……察しがいいね。いやぁ、ちょっと相談したいことがあってね。」

    日向「黄桜さんでも悩むことがあるんですね…。」

    黄桜「失礼なこと言ってるよ、キミ?」

    日向「すいません。でも、黄桜さんってポジティブというか、悩みが生まれそうな状況も回避してそうなので…。」

    黄桜「高評価なのか微妙なところだねぇ…。いや、まぁ今回に限ってはオレの相談じゃあなくってねぇ、」

    日向「…?」

    黄桜「オレの友達の話でね。聞いてくれるかい?」

    日向「あ、じゃあこの用紙に記入お願いしますか?」

    黄桜「おや、こんなものを作ったんだねぇ。」

    うんうん、と頷きながら黄桜は記入していく。



    名前 黄桜公一
    職業 希望ヶ峰学園スカウトマン
    年齢 30代
    相談事カテゴリー 親子関係
    相談事の概要 友人の親子関係について
    お茶、菓子の評価(5段階) 4
  59. 205 : : 2016/11/18(金) 22:45:39
    日向「友人の親子関係…? またなんというか…。」

    黄桜「まぁオレなんかが、って思うかもしれないけど、解決してやりたくってね。まぁ聞いてくれるだけでもいいさ。」

    日向「分かりました。」

    黄桜「んー、っとそうだなぁ。実情やら名前やらを挙げるのはその友人とその子に不誠実だろうから、例え話で言わせてもらうよ。」



    黄桜「あるところに伝統的にやってきた店を生業にしてきた一族がいた。その一族に生まれた男は生業としている仕事が嫌いだった。でも、男にも妻と子供がいてね。嫌いであっても、我慢してやってたんだ。でもね…。」

    黄桜は言葉を選ぶように一旦言葉を切った。

    黄桜「男は結局その仕事をやっていけなくなった。性格上とまぁ色々あってね。でも、子供はそうじゃなかった。子供にはその店でやっていける才能があったんだ。天才と言ってもいいほどの、ね。そして、その子はもうその一族の考え方を受け継いでいて、仕事を嫌がる父のほうがおかしい、と感じてしまった。」


    黄桜「その結果……男は一族から出ていき、子供は残った。」

    黄桜「これがオレの友人とその子との間に起こった大まかな出来事かな。」

    日向「……一応確認なんですけど、どっちが友人ですか?」

    黄桜「あはは、男だよ。」

    日向「…それで、黄桜さんは二人を会わせて、仲良くさせたいとか、そう思ってるんですか?」

    黄桜「いやぁ、実はこの二人近々会うことになっててねぇ。」

    日向「え。」

    黄桜「近々って言っても、ここ数日中すぐってわけじゃあないよ。で、オレはその子供も小さい頃に面識があって、つい最近会ったんだけど……どうやら父親を恨んでる様子でね…。」

    日向「……。」

    黄桜「ありゃあ、絶縁を叩きつけてもおかしくない様子だったねぇ。」

    日向「…経緯はわかりました。それで、黄桜さんはどうしたいと?」

    黄桜「まぁ二人ともオレは面識があるし、できれば仲良くして欲しいと思ってるのよ。だからせめて、親子らしい関係にまで修復したいわけよ。」

    黄桜「こんなこと、高校生に相談することじゃあないんだけど、まぁ、キミは超高校級だし、頼らせてもらおうかなと思ってね。」

    日向「……。」

    黄桜「どうかな?」

    日向「…難しい、というか、俺のほうから出せる回答はほぼないですよ。まず、なぜその子が絶縁を申し出そうなほど恨んでいるのかがわからないですし。」

    黄桜「まっ、だろうね。その辺もあんまり話せないのは申し訳ないんだけど…。」

    日向「ですので、黄桜さんができることを考えようと思います。」

    黄桜「ほう?」

    日向「その子に何があって、親を恨む結果になったのかはわかりません。きっとその子には親に捨てられたとか、親に嫌われたとか、そういう思いがあるはず。そして、一度そういう目で見ると、相手の言葉を受け入れなくなってしまう。」

    日向「ですので、黄桜さんはその子に話を聞いてもらえるほどの信頼関係をまずは築くべきです。」

    日向「そうすれば、その子は黄桜さんの言葉を聞いて、親の言うことすべてを否定する、なんてことはなくなるはず、です。」

    黄桜「…へぇ、信頼関係に付け込んで自分の思ったとおりの結果を得る、か。中々言うじゃないか日向君。」

    日向「…これが今俺が考えれる最善の答えです。」

    黄桜「………うん。合格かな。」

    日向「合格?」

    黄桜「いやぁ、キミがどんな回答をするか試してみたんだけど、思いのほかいい回答が返ってきて驚いたよ。」

    日向「試したんですか…。」

    黄桜「まぁでも、その信頼関係を築くって話。割と的を得てると思うんだよね。…オレがその役をやってもいいんだけど…できればこんな打算的じゃなくて本当の意味でその子と仲良くなりたい、と思った子に任せたいもんだよ…。」
  60. 209 : : 2016/11/19(土) 12:18:02
    黄桜「いやぁ、ちゃんとやっているようで安心したよ。学園長の方にも大丈夫そう、って報告しとくよ。」

    日向「お願いします。」

    黄桜「じゃあね。キミの今後の活躍、期待してるよ。」

    不敵な笑みを浮かべながら、黄桜は相談室を出て行った。



    黄桜の相談について報告書をまとめていると、相談室の扉がノックされた。

    日向「どうぞー。」

    「し、失礼します。」

    日向「って、ソニア!? もう大丈夫なのか?」

    入ってきたのは保健室で寝ているはずのソニアだった。

    ソニア「だ、大丈夫です……。」

    ソニアは俯き気味に、そして、申し訳なさそうに下を向いている。

    日向「どうした?」

    ソニア「……日向さんに相談を申し込んでおきながら、その予定をすっぽかすようなことをしてしまって…申し訳ありません!」

    日向「いや、仕方ないだろ。事情は聴いてるし、俺は気にしてないぞ。」

    ソニア「それでも……日向さんをお待たせしてしまったのは事実ですし…。」

    日向「…お前はそれを気にして、体調も悪いのにここに来たんだ。俺との約束を守ろうとしたお前を褒めても、卑下したりはしない。」

    ソニア「…ありがとうございます…。」

    日向「それで、実際のところどうなんだ? 辛いなら無理せず、後日でいいんだぞ?」

    ソニア「いえ、多少体にだるさはありますが、大丈夫です。」

    日向「…そうか。辛くなったら言うんだぞ?」

    ソニア「はい。その時は日向さんに保健室に運んでもらいます。」

    日向「その時は、な。じゃあ、さっそくはじめるか。」

    ソニア「はい、よろしくお願い致します。何をすれば良いでしょう?」

    日向「まずはこの紙にソニアのことと今日相談することを簡単にだが、書いてくれ。あ、書けないとかなら代筆するけど、書けるか?」

    ソニア「モチのロンです! 大丈夫です!」

    自身満々にソニアに苦笑しながら、日向は報告書用の用紙の準備を始めた。
  61. 210 : : 2016/11/19(土) 12:20:42
    日向「ああ、お茶もお菓子も出してなかったな。ちょっと待っててくれ。」

    ソニア「よきにはからえ!」

    日向「…いや、状況的にも意味は通じるけどさ…。」

    苦笑しながら日向はお茶とお菓子を用意した。


    名前 ソニア・ネヴァーマインド
    才能 超高校級の王女
    年齢 10代
    相談事カテゴリー 友人
    相談事の概要 友人の間に壁を感じる
    お茶、菓子の評価(5段階) 3
  62. 211 : : 2016/11/19(土) 13:16:33
    日向「友人との間に壁を感じる…か。話しにくいことはぼかして構わないから詳しく聞かせてくれ。」

    ソニア「はい……。才能にもあるとおり、わたくしは王女。ですので、わたくしは王女として、振る舞い、生活する必要があります。」

    ソニア「でも……そんなわたくしでもお友達が欲しいと思ってしまいました。そして、希望ヶ峰学園に来て、わたくしを王女としてではなく、ただのお友達として見てくれる方々に出会えました。」

    日向「あー…希望ヶ峰学園は色んな意味で特殊な場所だからなぁ…。本科に上がってから知ったけど、超高校級の人たちも変な人が多いし…。」

    ソニア「それでも、わたくしの王女という肩書きを気にしないで話しかけてくださるのはとてもありがたいことでした…。でも…。」

    日向「でも…?」

    ソニア「…ふとした瞬間に、感じてしまうのです。王女を才能と認めてもらいましたが、わたくしが彼らのようにできることなどない、と。すると、わたくしはここにいてもいいのか、と思うことがありまして…。」

    日向「それが壁か?」

    ソニア「はい…。実際、これはわたくしが勝手に作り出している幻、ただの勘違いかもしれません。でも……ふと感じる時があるのです。」

    日向「………。」

    ソニア「それで…相談内容としては、このような壁をどうしたら感じなくなるかを一緒に考えていただきたいのです。」

    日向「なるほど、な。」


    日向(自分の才能をすごいものと思えなくて、周りがすごいように見えてしまって、劣等感のようなものを感じてる、ってことか。)

    日向(……まるで前までの俺だな。)

    超高校級の才能を持つ者たちが特別で、違う世界に生きていて、予備学科の自分では到底手の届かないところにいる。

    そういう感覚を持っていたため、最初は七海にゲームに誘われた時はからかわれているのかと思った。予備学科の自分を馬鹿にして、見下したいのかと。

    日向(でも…七海はただ純粋にゲームがしたかっただけだった。)

    そこに特別な何かはない。ただ純粋な想いがあっただけだ。
  63. 212 : : 2016/11/19(土) 13:42:34

    日向「…ふふ。」

    ソニア「…? 何がおかしいのですか?」

    日向「ああ、悪い。昔の自分を見ているみたいでな。」

    ソニア「昔の…?」

    日向「俺のことは置いといて…。ソニアが感じている壁についてなんだけど。」

    ソニア「はい。」

    日向「…ソニアはさ、俺のことをすごいと思うか?」

    ソニア「え、…すごい、と思います。左右田さんに聞きましたが、相談にのってもらい、的確に助言をくれた、と聞きました。」

    日向「だけど、俺はつい最近まで予備学科だった。才能なんてないって言われてたんだ。そして…そんな俺は才能に嫉妬してた。」

    日向「…予備学科時代に唯一七海と付き合いがあったんだけど、俺は七海と仲良くなるのと同時にひどく嫉妬してた。そして、俺は七海に対して、住む世界が違う人間だって、一線を引いてたんだ。」

    ソニア「日向さんと七海さんがですか?」

    日向がクラスメイトになった日から日向と七海がよく話している姿を見かけている。

    そのため、二人は大変仲が良いようにしか見えなかった。

    日向「俺は才能のあるなしで、ソニアは自分が持っている才能が凄いものであると感じていなくて…。ソニアが感じることって、みんなが形は違えど、感じることだ。でも、ある種仕方ない、そうすることで、自分をなにかから守ろうとするんだ。」

    ソニア「何か…?」

    日向「…七海はゲーマーで、ゲームもすごい上手い。それで、対戦ゲームなんかすると負ける。でも、七海がゲームが上手いのは才能のおかげ。才能のある七海には負けても仕方ない、ってその時は思うんだ。」

    日向「そうすることで……才能がない自分を正当化しないと、やっていけなかったんだよ。」

    ソニア「日向さん…。」

    日向「って、悪い。俺のことはいいんだ。だけど、ソニアも同じような感じだと思うんだ。自分が持っているものと他人がもっているものを比較して、他人の方が人の役に立っているように見えてしまっている。」

    ソニア「……。」

    日向「俺からするとソニアは気品があって、人を無意識に屈服させるような高貴さを持ってる。例えそれがソニアの努力によって得られたものでなくても、それがソニアの才能だ。それは十分みんなに劣らない誇れる部分だと思う。

    日向「それでも納得ができないなら、みんなに自慢できるようなことを努力してできるようになったらいい。」

    日向「…俺から言えることはこれくらいだな。」

    ソニア「……日向さんは…。」

    日向「うん?」

    ソニア「日向さんは今、七海さんや他の方々をどう思っていらっしゃるんですか?」

    日向「…対等な友達だと思ってるよ。」

    ソニア「対等な、ですか?」

    日向「俺も超高校級になれて、相談窓口っていう才能を認められた。ゲームや機械いじりなんかは勝てないけど、相談を受けて、相手の求める回答を出すっていうことについては誰にも負けないつもりだ。

    日向「俺にも…誇れる部分ができたんだ、って思ったら、なんか余裕ができてさ。超高校級も完璧じゃないなって感じて、いつの間にか嫉妬とかそういうのはなくなってたよ。」

    ソニア「……わ、わたくしも…わたくしも…対等なお友達…でしょうか?」

    日向「ああ。ソニアも俺の友達だよ。」

    ソニア「……あ、ありがとうございます…。」

    何に対してのお礼なのか、ソニア自身もわからないままソニアは感謝の言葉を口にしていた。
  64. 217 : : 2016/11/19(土) 18:16:10
    日向「こんな回答で悪いな。でも、ソニアには立派な才能があるっていうのをわかって欲しかったんだ。」

    ソニア「いえ…とても…とても身にしみました…。感無量です。」

    日向「また、こういうことがしたいとかあったらまた相談に乗らせてもらうよ。ソニアが誇れるものが見つかるといいな。」

    ソニア「はい!」



    日向「さて、俺は今日の報告書をまとめるよ。」

    ソニア「ではわたくしは失礼致しますね。」


    ソニアが出ていき、しばらく日向は黄桜とソニアの相談について報告書をまとめた。

    すべてが終わった頃には夕方になっていた。


    日向「はぁ…今日はなんだかひどく疲れたな…。そもそも、俺筋肉痛だったな…。色々ありすぎて、気にしてなかったけど…。」

    今更であるが、ドッと疲れが襲ってきた。

    日向「…今日は弐大のトレーニングも断って、ゆっくりさせてもらうか。」

    そう決めた日向は帰る前に保健室へ向かうことにした。
  65. 220 : : 2016/11/19(土) 18:25:22
    ~保健室~

    日向「………。」

    保健室の隅に何かが見えた。

    夕日によってよく見えないが、何か丸い…。

    日向(あ、あれは……花村…?)

    花村が……ボコボコにされた状態で、天井から吊るされていた。


    罪木「あ、日向さぁん。」

    日向「つ、罪木。あ、あれ…。」

    罪木「何かありましたかぁ?」

    日向「いや、だから…。」

    罪木「あ、みなさんもう元気になってぇ、帰られましたよぉ。」

    日向「………。」

    気の弱そうな語尾をしている割に、有無を言わさないような威圧感を感じて日向は口を閉じた。

    そして、日向は花村のことを気にしないことを決めた。

    日向「みんな、元気になったのなら良かったよ。罪木も大丈夫か?」

    罪木「はいぃ。眠ってすっきりですぅ。」

    日向「回復したなら良かったよ。」

    罪木「あ、私も今から帰るところなので、一緒に行きましょう。」

    日向「………。」

    日向は最後にもう一度花村を見たが、皆に責められ、最終的に吊るされた状態で放置されているのだろう。

    日向(許せ、花村…。)

    罪木「では行きましょう。」

    そのまま日向は罪木と一緒に保健室を出て行った。




    花村「……ひ、日向君……うらやま……。」

    後ろから聞こえてきた花村の最後の一声は誰にも聞こえなかった。


    ※後々、狛枝が助けに向かいました。
  66. 225 : : 2016/11/19(土) 19:34:48
    ~教室~

    日向と罪木が教室へ戻ると…。

    日向「七海?」

    七海「……」ピコピコ

    罪木「あ、ゲームしてますぅ。」

    日向「あんなことがあったのに、ゲームか…。おーい、七海?」

    七海「………あ、日向君、と罪木さん。」

    日向「あんなことがあったのにゲームしてて大丈夫なのか?」

    七海「…大丈夫、ゲームしてれば回復するから。」

    日向「ゲームにそんな回復アイテムのような効果はない。寮に戻ってゆっくりやれば良かっただろうに。」

    七海「……そう、だけどね。」

    日向「まぁ俺は今から帰るけど、七海はどうする?」

    七海「…ん、帰る。」

    日向「罪木も一緒にどうだ?」

    罪木「は、はいぃ、ご一緒させてくださぁい。」

    こうして、日向と七海、罪木で一緒に帰ることになった。




    ~ 希望ヶ峰学園 ー 寮 ~

    日向「っと、危ないぞー、七海。」

    七海「…ん。」ピコピコ

    日向「全く…。」

    罪木「い、いつもこのような感じなんでしょうかぁ?」

    日向「ああ。ゲームしながら歩くんだよ…。ああ、また。危ないっての。」

    罪木「………うらやましいですぅ。。」

    日向「え?」

    罪木「な、何でもないですぅ…。」

    それ以降、罪木も特に話しかけてこず、七海の歩く方向を修正しながら、日向たちは寮へ向かって歩いて行った。
  67. 226 : : 2016/11/19(土) 20:00:30
    ~寮~

    日向「じゃあ、ここでな。また明日。」

    罪木「はいぃ。失礼しまぁす。」

    七海「…うん。また明日…。」

    日向が罪木と七海と別れ、寮の談笑スペース前を通ると。


    弐大「おう、日向。待っとったぞ。」

    日向「弐大。悪いんだけど、今日のトレーニングは…。」

    弐大「わかっとる。ワシとしたことがトレーニング後のお前さんの体のケアを忘れておった。」

    日向「ケア…? まぁ確かに今筋肉痛になってるけど。」

    弐大「やはりのう。急に動かしたためじゃろうな。じゃから、お前さんには『アレ』をやってやる。」

    日向「アレ? アレって?」

    弐大「企業秘密じゃからアレとワシは呼んでるだけじゃあ。じゃあ、早速やるとするかの。」

    日向「え。」

    日向は弐大に抱えられて、弐大はスタスタと歩き始めた。


    日向「お、おおい?弐大!?」

    弐大「企業秘密じゃからのう。ワシの部屋でやるぞ。大丈夫じゃ、やった後は全快じゃぁ!」

    日向「ちょっと待て、具体的に何をする気なんだよ! おい!」


    豪快に笑う弐大と逃れようとする日向。

    しかし、弐大の力は強く、またガッチリと掴まれた日向は逃れられない。


    日向「だ、誰か…たすけ…。」


    バタン、と扉が閉じられることで、日向の声は聞こえなくなった。



    日向「うっ…ぐ…ああ…!」

    弐大「それそれい! 我慢は体に毒じゃぞお!」

    日向「って、ただの…マッサージじゃねえか!」

    弐大「ワシ独自の選手を全快させるマッサージじゃ! これで明日は筋肉痛どころか体が激って仕方ないことになるぞぉぉおおおお!!」

    日向「治るのは筋肉痛だけで……うっ…あああ……。」


    完全防音された部屋であるため、日向の声が外に漏れることはなかった。
  68. 239 : : 2016/11/20(日) 21:45:45
    ~次の日~

    日向「……弐大の言うとおり、全快した…。」

    日向(連れて行かれる時は本当にどんな目に会うかと思ったけど…。)

    結果として体が全快したわけだが、何をされるかわからず、それに抵抗できない状況というのは軽くトラウマになってしまった。

    昨晩のことを思い出し、体が少し震えた。


    日向「よ、よし、今日も頑張るか!」

    気合を入れ直しつつ、昨晩のことは忘れるように努め、日向は寮の部屋を出て行った。





    日向が本科に入り、個性豊かな77期生たち、逆蔵と過ごす日常。

    それは驚かされることばかりで、また、今までの日々とは違って充実した日々を過ごしていた。

    学園に行き、77期生と過ごし、時々相談事を受けて、それに応えて、七海と一緒に帰る。

    そんな日々を過ごして、5日目。



    日向が七海に誘われてゲームをしていると、そこに近づいてくる者がいた。

    小泉「えっと、日向。」

    日向「ん?小泉か。珍しいな。」

    日頃あまり接点もなく、これまであまり話したことのない小泉が話しかけてきた。

    小泉「あんたの話…相談窓口のことについて聞いたんだけど…その…アタシも相談したいことがあるんだけど、いい?」

    日向「もちろん大丈夫だ。今日は予定もないし、今から話すか?」

    小泉「うん。お願いね。」

    日向「って、ことで悪いな、七海。ゲームはまた今度な。」

    七海「……うん。小泉さんの相談事、頑張ってね。」

    日向「ああ。」


    七海に見送られて、日向と小泉は教室を出て、相談室へと向かった。
  69. 245 : : 2016/11/21(月) 02:14:36
    名前 小泉真昼
    才能 超高校級の写真家
    年齢 10代
    相談事カテゴリー その他
    相談事の概要 友人とそのクラスメイトの確執
    お茶、菓子の評価(5段階) 4


    日向「……? 確執、っていうのは穏やかじゃないな。話しにくいことはぼかして構わないから、話してくれ。」

    小泉「その……他言無用でお願いしたいんだけど…。」

    日向「守秘義務がある。そこは安心してくれ。」

    小泉「…わかったわ。えっと、まずアタシの友達が予備学科に一人いてね。」

    日向「予備学科に?」

    小泉「日向も最近までいたんだよね? サトウっていう名前の子なんだけど…。」

    日向「ああ…話したことはないけど、見たことはあるな。」

    小泉「で、もうひとり、その子と同じ予備学科でクラスメイトの子がいるんだけど、よく言い争いをしてるらしいのよ。」

    日向(サトウと言い争いをしてるやつ…誰だ?)

    小泉「その、結構最近入ってきた子で…なんでそんなことになってるかまでは最近までは知らなくって…。」

    日向「最近まで、ってことは原因がわかったのか?」

    小泉「ええ。どうやら、そのクラスメイトの子、影でアタシのことを悪く言ったみたいでそれをあの子に聞かれて、喧嘩になって…それ以降もよく喧嘩になってるらしいの。」

    日向「…サトウのクラスメイトってやつは小泉は誰かは知っているのか?」

    小泉「……ええ。知ってるわ。中学の頃、写真部で同じ部活だったの。」

    日向「……なんで小泉の悪口を言ったかとかその辺は想像できるか?」

    小泉「ううん。その子が予備学科にいたことを知ったのも最近だし、中学の頃もそんな様子もなかったから…。」

    日向(……もしかしたら…。)

    中学の頃、同じ写真部で頑張って賞なんかを撮って、競い合った者、ライバルがいた。

    そして、将来が約束された学園にライバルはスカウトされ、自分はされなかった。

    なぜなら、自分が誇れるモノはライバルと同じ写真を撮ることだったから。

    アイツがいなければ、自分が選ばれたのに…。

    それで、ライバルの才能と境遇に恨みに似た感情を抱いている…とここまで考えて、日向は一度打ち切った。

    日向(話も聞いていない内から回答を出すのは危険だな。)


    日向「それで、小泉の相談っていうのは。」

    小泉「アタシの事で喧嘩するなんて、やめさせたい。…本来なら、あの子とアタシが直接話すべきなのよ。ただ…物理的にアタシよりも、早くサトウさんのほうが反応できちゃうから…。」

    日向「…なるほどな。話はわかった。」

    日向(…相手の事情もわからない場合、小泉のできることを考えるのがいいんだが…。)

    日向「一応聞きたいんだけど、サトウやその子にやめるように言ったのか?」

    小泉「言ったわ。サトウさんには気にしないようにって。でも…やっぱりアタシが悪く言われてるのが我慢できないらしくって。」

    日向(難しいな。小泉がそいつにやめて、なんて言っても効果はなし。小泉の言葉には聞く耳も持たないかもな。サトウも悪口を言うなくらいは言ってるだろうしな。サトウに気にしないように言っても、いずれ我慢の限界は来て、同じ二の舞か。)

    日向(となると、小泉にできることは…。)





    日向「…小泉、そのクラスメイトの子に話を聞くことは可能か?」

    考えた末、日向は原因のほうをなんとかする方向にシフトした。

    小泉「サトウさんは呼べば来るだろうけど、そっちは…。」

    日向「わかった。そっちは俺が話を聞きに行く。名前を教えてくれ。」

    小泉「え…でも…。」

    日向「さっきも言ったが、守秘義務とかあるから小泉が言いふらしたとかは言わない。」

    小泉「……九頭龍…菜摘。」

    日向「…え?」


    聞き覚えのある名前に日向は一瞬思考が停止した。
  70. 246 : : 2016/11/21(月) 02:15:53
    ~その日の放課後~

    日向は久しぶりに予備学科の校舎に来ていた。

    放課後になり、人通りが少なくなっているが、まだ人はいる。

    そして、予備学科から本科に上がった日向は有名であり、とても目立つ。

    「おい、あれ…。」

    「あいつは…。」

    そんな視線をくぐり抜けて、日向はかつての自分の教室にたどり着いた。


    扉を開けて、中を覗くと、クラスメイトとだべって、残っている生徒や勉強している生徒などそれなりに人数がいた。

    その中に、ひとり窓の外を眺めていた女子生徒、九頭龍菜摘もいた。



    日向「…九頭龍。」

    菜摘「……あんた…!」

    菜摘は日向を認識した瞬間、立ち上がり何かを言おうとしたが、その前に日向が菜摘の手を取った。

    日向「ここじゃあ目立つから行くぞ。」

    菜摘「えっ、ちょ!?」

    菜摘に有無を言わさず、日向は菜摘を連れ出した。



    ~相談室~

    菜摘「ちょっと!なんなのよ!」

    日向「まぁまぁ落ち着けって。ほら、お茶とお菓子。」

    菜摘「どーでもいいわ! なんで本科に行ったアンタに連れ回された挙句、こんなところに連れてこられなくちゃいけないのよ!」

    日向「いや、ちょっと話がしたくてな。あ、予定とかあったか? それなら日を改めるが…。」

    菜摘「あんたは…! あんたは相談窓口っていう才能を認められたんでしょ…!? 私は相談事とかない! あんたに用もない!」

    日向「…用があるのは俺だ。とりあえず、座ってくれ。話はそれからだ。」

    菜摘「…帰る。」

    日向「最近の九頭龍…お前のお兄さんの話、聞きたくないか?」

    菜摘「………。」
  71. 247 : : 2016/11/21(月) 02:17:27
    菜摘「……。」ムグムグ

    黙ってお菓子を食べる菜摘と思案顔をする日向。

    日向「…最近ちょっと話を聞いてな。お前がクラスメイトともめているってな。」

    菜摘「だったら何なわけ? 本科に上がった超高校級様には関係ないでしょ?」

    日向「…お前って、俺に対してそんなきついやつだったっけ?」

    菜摘「はぁ? …アンタと私の間にどんな関わりがあるのよ。元クラスメイト。それだけでしょ?」

    日向「いや、俺の中のお前の印象はお兄ちゃん大好きっ子なんだが。」

    菜摘「な!? そ、そ、そんなわけないし!? お兄ちゃんのことなんて別に気にもしてないんだから!」

    日向「でも、お前、ここに残るきっかけって俺が普段の九頭龍の様子を話すって言ったからだろ。」

    菜摘「……し、知らないし。お茶とお菓子に釣られただけだし…。」

    日向「じゃあ、九頭龍のことはいいわけだな。」

    菜摘「う、うぅぅ…。」

    日向「…悪かったって。からかいすぎたよ。…少しは話しやすくなったか?」

    菜摘「……何のことよ。」

    日向「いや、なんていうか、俺のことを目の敵にしてたっていうか、話もしたくなさそうだったからな。」

    菜摘「そりゃそうでしょ。本科の超高校級様と才能がない私なんかじゃあ話をするに釣り合わないでしょ。」

    日向「…お前から見て、俺は何か変わったか?」

    菜摘「……そんなにアンタのこと知らないし。」

    日向「前にお前の相談に軽く乗ったことがあったよな? あの時と比べてどうだ?」

    菜摘「………忘れたわ、そんなこと。」

    日向「そうか。まぁいい。本題に入らせてもらう。」
  72. 248 : : 2016/11/21(月) 02:18:22

    日向「…クラスメイトのサトウと結構な頻度で言い争いをしてるって聞いたんだが、その辺りの事情を聞きたいんだ。」

    菜摘「……本科に行ったアンタがなんて……。あぁ、あのそばかす女が喋ったのか。同じクラスだったよね? ふふ、自分じゃあどうしようもできないからアンタを頼ったんだ?」

    日向「誰のことを言ってるかわからないが、とりあえず俺はその辺の話を聞いて、解決する方向に話を進めたいわけだ。それで、お前から話を聞きたい。」

    菜摘「…話を聞くって、何を聞きたいのさ。」

    日向「言い争いの原因はお前がサトウの友達についての悪口を言ったことだと聞いてる。本当か?」

    菜摘「……まっ、捉えようによっては悪口なんじゃない?」

    日向「…何回か言い争いにもなって、その原因もわかってる。単刀直入に聞くが、それなのになんでサトウに絡まれることがわかってて、そんなことを言うんだ?」

    菜摘「………。」

    日向「…サトウの友達に恨みでもあるのか?」

    菜摘「………。」

    日向「…それとも……自分の欲しいモノを手に入れた相手が羨ましい、ってところか?」

    菜摘「うっさい!!!」

    菜摘が叫んだことで日向は言葉を切ったが、同時に今のが解答であると、確信した。

    日向「…俺はつい1週間くらい前までは予備学科だった。だから…お前の感情については理解できる。」

    菜摘「理解できる…? 理解できるって何!? アンタはもう認めてもらったじゃない! さぞかしいい気分なんだろうね。自分がここにいてもいいって気分になって、みんなに必要とされて!」

    菜摘は涙を流し、言ってることも支離滅裂になってきていた。

    菜摘「こんなのじゃ…お兄ちゃんに認めてもらえない…お兄ちゃんの横にいられない…。お兄ちゃんに置いていかれる…!」

    日向(本当に九頭龍のことが好きなんだな。)
  73. 249 : : 2016/11/21(月) 02:21:42

    日向「…九頭龍菜摘。」

    菜摘「…うっ…っ…何よ。」

    日向「お前は才能がすべてで、才能がないと九頭龍のそばにいられないと思ってるみたいだけど、そんなことはない。才能があっても上手く行かないことのほうが多い。」

    菜摘「…そんなの、才能があるやつの綺麗事よ。」

    日向「そうかもな。でもな、例えばだけど、お前のお兄さんはお前に才能がなかったら、妹と認めないのか?」

    菜摘「お兄ちゃんはそんなことしない! でも、お兄ちゃんは極道で、九頭龍組のトップで…その横にいるにはやっぱり才能が必要で…!」

    日向「誰が言ったんだ?」

    菜摘「…え?」

    日向「誰が九頭龍の横にいるためには才能が必要だ、って言ったんだ?」

    菜摘「……で、でも、組長の側近は有能じゃないと…。そ、それに才能がなかったら周りが…。」



    日向「それは違うぞッ!!」



    日向「周りがなんだ! お前は才能に囚われて、大事なことを見失ってる! 大事なのはお前の想いとお前のお兄さんの想いじゃないのか!」

    日向「お前が将来お兄さんの横にいて、お兄さんを支えてやりたいとか、一緒にいたいって思って、お前のお兄さんがお前を必要としてくれたらそれで終わりだ! 周りなんか関係あるか!」

    日向「それとも、お前のお兄さん、九頭龍は妹を簡単に見捨てるようなやつなのか?」

    日向「断言してやる。九頭龍はそんなやつじゃない。それにな、お前がそんな思いをするのは心のどこかで九頭龍のことが信用できてないからだ。まずは…お前がお兄さんを信じてやれ。」


    日向が締めくくると、呆然と涙を流していた菜摘は小さく笑った。

    菜摘「………はっ、熱くなっちゃってさ。ばっかじゃないの。」

    日向「ひどいな。」

    今思い返すと、恥ずかしくなってきたが、伝えたいことはすべて言ったため、気恥ずかしさはなかった。

    菜摘「……でも、そうかもね…。」

    菜摘は涙を流しながら、憑き物が取れたように笑った。
  74. 250 : : 2016/11/21(月) 02:29:09
    日向「大丈夫だと思うけど、もう悪口はやめるんだぞ。」

    菜摘「わかってるわよ…。」

    日向「…お前はお前なりに九頭龍のことを支えてやったらいい。相談したいことがあったら俺を頼れ。協力するよ。」

    菜摘「……菜摘。」

    日向「ん?」

    菜摘「お兄ちゃんとで紛らわしいでしょ。私のことは菜摘って呼びなさい。いいわね?」

    日向「確かに。同じ九頭龍だしな。正直、話を聞いてる最中も、呼びづらかったしな。」

    菜摘「ふん。ただの区別のためだからね。…また来るわ。」

    そう言い残して菜摘は相談室を出て行った。



    その後、日向は小泉にメールで『無事話はできた。明日詳しく話すよ。』と簡潔に送った。

    小泉の報告書は明日書くと決め、日向は教室へと向かった。

  75. 262 : : 2016/11/21(月) 23:08:24
    ~教室~

    日向が教室に入ると、そこには一人残った七海がいた。

    別に待ち合わせをしているわけではない。

    ただ、相談事に乗り、それについて報告書なんかを仕上げると、放課後になってしまうことが多く、また、日向はカバンを教室に置いているため、毎回取りに来ている。

    その度に毎回、一人でゲームをしている七海がそこにいるのだ。

    日向「よっ、七海。」

    七海「……日向君。ちょっとまってね。……うん、クリアできた。」

    日向「よくわからんが、おめでとう。ボス戦か何かだったのか?」

    七海「ううん。選択肢に時間制限が付いてるゲームで、選んだものによってルートが変わるゲーム…えっと。」


    日向「ノベルゲームか?」

    七海「そうそう。普段あんまりしないジャンルなんだけどね。これなら小説でも読んだほうがいいんじゃない?とか思って、今まで手を出してなかったんだけど…。」

    日向「ノベルゲームって文字以外にも絵や効果音なんかがあって、本を読むのとはまた違うと思うぞ。で、どうだったんだ?」

    七海「うん…。ヒロインの子が豹変して『嘘だッ!!』って叫んだ時は怖かったよ…。」

    日向「恋愛ゲームなのか? ホラーゲームなのか?」

    七海「どうなんだろうね? …日向君、今から帰るの?」

    日向「ああ。今日の予定は全部終わった。」

    七海「じゃあ、帰ろ?」

    日向「ああ。って、いつもは俺が誘ってるのに今日は七海からか。」

    七海「たまには…ね?」

    日向「まぁいいさ。じゃあ行くか。」



    ~希望ヶ峰学園 ー 寮~

    今日は珍しく七海はゲームをせず、普通に歩いていた。

    日向もそのことに気づいていたが、ゲームをしながら歩く七海は正直危険なことをしていると言わざるを得ないため、余計なことは言わないようにしていた。

    七海「…日向君。」

    日向「なんだ?」

    七海「日向君は、今、楽しい?」

    日向「…今、っていうのは本科での生活のことを言ってるのか?」

    七海「うん。」

    日向「楽しいよ。色んな人から相談を受けて、それに俺なりの答えを出して、助言して…。クラスのみんなも楽しい奴らで、毎日が刺激的だ。」

    日向は一度言葉を区切って、歩きながら七海のほうを向く。

    日向「それで、放課後には七海と一緒に帰る。毎日が充実してて…正直、予備学科にいた頃と比べると違いすぎるくらいだ。」

    七海「……そっか。」

    七海は一瞬ポカンと呆然としていたが、すぐに嬉しそうに微笑んだ。

    七海「私もね、日向君に言いたいことがあるんだ。」

    日向「言いたいこと? なんだ、相談事か?」

    七海「うーん…それは違う、と思うよ? 相談事じゃなくって、言いたいこと…。あ、でも相談事はあるにはある…かな。」

    日向「えっと、じゃあ、明日相談室で話を聞こうか?」

    七海「…うん。ゲームしながらお話できるのがいいな…。」

    日向「さすがに、それは相談内容に集中できなくなりそうだ。」

    七海「冗談…だと思うよ?。」

    日向「冗談に聞こえないよ。特に七海が言うとな。」

    七海「ふふーん。」ドヤッ

    日向「褒めてない。威張るな威張るな。」


    結局、七海が『言いたいこと』については七海の相談事の話が挟まったことにより、うやむやになったまま、日向たちは寮へとたどり着いた。
  76. 270 : : 2016/11/22(火) 00:46:28
    ~次の日~

    いつものホームルーム…と言っても、逆蔵に変わってからのホームルームは顔合わせの意味合いが強く、逆蔵自身、そんな簡単に慣れるはずがなく、事務連絡をするだけ、ということが多い。

    逆蔵「あー…連絡事項は以上だ。」

    左右田「逆蔵センセー。センセーって雪染センセーが帰ってくるまでの代理っすよね? あと何日でしたっけ?」

    逆蔵「…チッ。」

    左右田「舌打ち!?」

    逆蔵「…明日までだ。」

    西園寺「えー、逆蔵おにぃ明日でいなくなっちゃうのー?」

    逆蔵「てめぇは最後まで教師をそれで呼び続けやがったな。軽く脅しても聞きゃしねぇ。」

    澪田「大変っすー! これは……輝々ちゃん!」

    花村「もう雪染先生おかえりパーティーと逆蔵先生お疲れ様パーティーをやるしかないね!」

    弐大「うおおおおお!! 宴じゃああああ!」

    逆蔵「だから! こうなるから言わなかったんだろうが! クソが。」

    小泉「うーん、でも逆蔵先生にはなんだかんだお世話になったし…。」

    弐大「確かにのう。新しいトレーニング方法について相談に乗ってもらったしのう。」

    西園寺「私、お菓子もらったっけ。」

    田中「ふん、我が下僕達の供物運びに拳を極めし者の力を借りたことがあったな。」

    ちなみに拳を極めし者とは逆蔵の二つ名である(田中命名。田中しか使っていない)。

    左右田「俺が泣き言言ってる時に元気づけてくれたっけな。」

    終里「オレは腹好かせてたら、ラーメン屋に連れてってくれたことがあったな。あれはうまかったなぁ……。」ハァハァ

    狛枝「逆蔵先生という希望がみんなの希望を更に輝かせてくれた…ボクはこれだけで、逆蔵先生には感謝してるんだ…。あぁ、希望と希望がかけ合わさって更なる希望を…」

    狛枝の言葉は途中から誰もが聞かなくなった。

    逆蔵「やめろてめぇら! あれは単に全部仕事でやっただけだ。てめぇらを思ってとかそういったことは一切ねぇ!」

    九頭龍「仕事でも何でも、このクラスの奴らが世話になったのは確か。それに対して、何も返さねえっていうのは筋が通ってねえんじゃねえのか?」

    ソニア「そうです! ジャパニーズオンガエーシです!」

    辺古山「九頭龍とソニアの言うとおり、ささやかにパーティーを開くくらいは良いと思いますが。」

    逆蔵「てめぇらは全くささやかにやらねえだろうが! 初日のことは記憶に新しすぎるぞ!」

    罪木「大丈夫ですよぉ。今度は花村さんを見張っておきますのでぇ…。」

    花村「あ、あはは…だ、大丈夫だよ…。今度はそういうことしないから…。」

    小泉「ちゃんとみんなの目を見て言うことね。ともかく、今度は女子みんなで花村のことは見張るからその辺は大丈夫ですよ。」

    逆蔵「……はぁ。俺はてめぇらに何かしてやったとは思ってねぇ。だから…そういうのはありがた迷惑ってやつだ。」

    七海「…もらえるものはもらっとく…っていう考え方もある…と思うよ?」

    西園寺「私なら喜んでもらうんだけどなー?」

    逆蔵「……はぁ…もう勝手にしろ。」

    最後には逆蔵も折れて、花村提案の逆蔵お疲れ様パーティーの開催が決定した。


    日向「……。」

    一方で日向は未だに逆蔵に苦手意識があった。

    何度か話すきっかけはあったが、事務的な会話をするだけで終わっていた。

    日向(…もういいか。あの人と仲良くしなきゃいけないなんてことはないんだし。)

    明日には担任の任を解かれて、ここからいなくなるのだ。

    それに、何を話せばいいのか。

    日向(先生が来た時にも同じ自問をした気がするな。)

    周りが騒ぐ中、日向だけがその様子を眺めて、どうすればいいのか、と答えを探し続けていた。
  77. 283 : : 2016/11/23(水) 19:49:55
    パーティーについては花村がメインで考えることになり、明日決行となった。

    そのため、今日一日は通常運行となったため、日向も今日中に片付けるべきことを終わらせようと考えた。

    日向「小泉、昨日メールを送ったけど、今からいいか?」

    小泉「…うん。わかったわ。」

    小泉の了承を得て、日向と小泉は相談室へ向かった。


    ~相談室~

    日向「結論から言うと、菜摘と話をして、もう小泉に対して、何かをするのはやめるようには言っておいた。色々と省くけど、了承してくれたよ。」

    小泉「……。」

    日向「どうした?」

    小泉「…あの子…菜摘なんて呼ぶなんて、随分と仲良くなったのね。」

    日向「いや、あっちから申し出てきたんだよ。クラスメイトに九頭龍がいるし、区別のためだ、って。」

    小泉「ふーん…。」

    ジト目で日向を見る小泉。

    日向は菜摘を名前で呼ぶことについて特に何も思っていないため、小泉の反応がよくわからなかった。

    小泉は一度ため息を吐いてから、日向を見た。

    小泉「あんまりナンパとかしたら軽い男だと思われるわよ?」

    日向「いや、俺はそんなことしてないぞ!? 相談事のために話をしてただけだ。」

    小泉「まぁそうね…。その点は感謝してるわ。ありがと。でも…いえ、いいわ。」

    小泉は言葉を打ち切ったため、そのまま小泉が何を言いたいかはわからなかった。

    日向「これで解決、で大丈夫か? 元凶の菜摘はもうしないって言ってたし。」

    小泉「……そう、だと思う。」

    日向「…何か引っかかることでもあるのか?」

    小泉「うん…。あの子…サトウさんのことで。サトウさん、アタシが九頭龍さんに色々言われてるのを聞いてるから…悪印象を持ってるみたいで、たぶん今もだと思う。」

    日向「…それは仕方ないだろう。実質、小泉よりも被害を受けたと言ってもいいし、それで好印象なんて持てないだろうさ。。」

    小泉「それはそうなんだけど…。昨日、会ったんだけど…なんか、思いつめてたみたいで…。」

    日向「俺に相談したってことは言ってないのか?」

    小泉「…こう言ったら悪いけど、超高校級って言っても、アンタがすべてを解決してくれるって思えるほどアンタに信頼を置いてるわけじゃないのよ。だから、それを言ったところで、ってなっちゃうわよ。」
  78. 284 : : 2016/11/23(水) 19:52:13
    日向「…悔しいけど、確かに俺は助言するだけで、解決をするわけじゃない。今回は菜摘の説得はしたけど、そうするほうが解決できそうだからやっただけだしな。確かに、サトウを安心させる要素にはならない、か。」

    小泉「…そう。まっ、アンタの評価っていうのがわかってるのならいいわ。それで話を戻すけど、サトウさん…なんだろう、様子がおかしかったっていうか…。」

    日向「どうおかしかったんだ?」

    小泉「うん…。直接聞いたわけじゃないんだけど、『もうすぐ終わらせられる』って独り言をつぶやいてるのを聞いちゃって…。なんだか…胸騒ぎがするの。」

    日向(……この話だけで判断はできないけど…。サトウの奴、菜摘に何かする気か…?)

    日向「…小泉として、サトウが何を思っているか心当たりはないのか?」

    小泉「…ないわ。ここ最近で九頭龍さんともめてたからそれと結びつけたくなるけど、確証もないし…。」

    日向「菜摘以外のことでサトウが何か悩んでるという話は?」

    小泉「それはたぶんない…かな。アタシが知っている限りになっちゃうけど。」

    日向「そうか。」

    日向(タイミングから言って、九頭龍絡みなのは間違いない、か? サトウにも話を聞いたほうが無難な気はするが。)

    日向「…菜摘の方はどうにかしたけど、サトウのほうは特に何もしてない。元凶をなんとかすれば、その辺も正常に戻るって思ったからな。でも、もしそうじゃないなら、サトウのほうもなんとかする必要があるか…?」

    小泉「…もし、そうなら、アタシがなんとかする。アタシがやったことじゃなくても、アタシが元で起こったことだもの…。アタシが責任を持たなくちゃ…。」

    日向「ああ。ただ一つ言っておくけど、お前が元となっているとしても、原因はサトウと菜摘だ。絶対にお前が責任に感じる必要はない。お前は何も悪いことはしてないんだからな。」

    小泉「……ありがと。それだけでも救われるわ。」

    小泉は立ち上がり、相談室の入口へと向かう。

    小泉「アンタのおかげで大体のことは解決できた。あとは、アタシが何とかする。相談に乗ってくれてありがとね。」

    そう言って、小泉は相談室を出て行った。



    日向(……サトウのことは小泉に任せればいい。だけど…サトウがもし菜摘に取り返しのつかないことをしようとしていた場合…。)

    胸騒ぎがする。小泉の話を聞いて、日向にもその感覚が襲ってきた。


    日向はもしものときのために、携帯電話を取り出し、メールを送信した。
  79. 287 : : 2016/11/23(水) 22:35:36
    ~教室~

    小泉の件はとりあえず保留にし、日向は教室に戻ってきた。

    日向「あ、七海。今いいか?」

    七海「うん…。ちょっとまってね…。」ピコピコ

    七海「ふふん、ブイ。」

    日向「勝ったのか。」

    七海「うん。ソロでの狩りも余裕だよ。」

    日向「狩られるモンスターがかわいそうになってくるな…。」

    七海「…小泉さんとのお話は終わったの?」

    日向「ああ。それで昨日、七海も相談したいことがある、って話をしてただろ? 今から七海に予定がないならどうかなと思ってな。」

    七海「……あー、そんなことも言ったね。」

    日向「思いつきか何かだったのか?」

    七海「…ううん、相談したいことがあるのは本当。」

    七海はゲーム機の電源を切ると、立ち上がった。

    七海「いこっか。」

    日向「ああ。」



    ~相談室~

    七海「ほうほう! これが日向君の秘密基地かー。」

    日向「いや、どこに秘密な要素と基地な要素があるんだよ。」

    七海「……よく考えたら、秘密でも何でもないね…。」

    日向「よく考えなくてもそうだ。…それで、七海のプロフィールと相談事について簡単にでいいからこの紙に書いてくれ。」

    七海「……おー、本格的だぁ。」

    苦笑しながら日向は七海が用紙に書き込んでいる間、自分も報告書の準備を始めた。


    名前 七海千秋
    才能 超高校級のゲーマー
    年齢 10代
    相談事カテゴリー 友人
    相談事の概要 友人の交友関係
    お茶、菓子の評価(5段階) 4


    日向「…えっと、文面からはよくわからないから、詳しく教えてくれ。言いにくいことは言わなくて構わないから。」

    七海「うん。えっと…私には大事な友達がいるんだけど…。」

    日向「へぇ、七海の友達か。」

    日向(どんなやつだろう。)

    七海「あ、男の子なんだけどね。」

    日向「男、か…。」

    日向(男で七海に大事な、と言われる存在…いや、別に七海は俺だけが友達ってわけじゃあないし、そこに何か言う権利はない、か。)

    七海「それで、その人と一緒にゲームしたり、お話したりで楽しいんだけど…。ここ最近ね、その人と交流する人が増えてきて、友達がどんどん増えてきてるみたいなんだけど…。」

    日向「いいことじゃないのか?」

    七海「うん…。その人の世界が広がっていくのは私も見ていて嬉しい。でも、それで、私のことを相手してくれなくなるのはいや、って思う自分もいるの…。」

    日向「……その友達は新しく友達ができたら七海のことを相手しなくなるようなやつなのか?」

    七海「そんなことはないよ。私はその人を信じてる。でも……それでも、心のどこかで思っちゃうの。私をもっと見て欲しい、って。」

    日向「七海は…。」

    その人のことが好きなのか? と問いかけそうになったところを踏みとどまった。

    聞いてしまうのはなんだか一線を超えてるような気がしたというのと、相談窓口ではなく、個人的な質問にもなってしまうためだ。

    日向「それで、七海はどうしたいんだ?」

    七海「うーん、どうしたい、とかはないかなぁ。」

    日向「え? もっと自分の相手をするようにしたい、とかそういうことじゃないのか?」

    七海「んー……さっきも言ったけど、私はその人の友達が増えていくのはいいことだと思ってる。でも、私が感じてることって…嫉妬とかそういう感情だし…別にその人をどうにかしたいとか思ってるわけでもないし…。」

    日向「…じゃあ、相談したいことって何だ?」

    七海「んー…聞いて欲しかっただけ…だと思うよ?」

    日向「そこは断言しろよ…。んー、しかし、でもこれは相談じゃないような…。」

    七海「そんなことない…と思うよ? 誰かに聞いて欲しいっていうだけの人もいると思うし、そうすると……心が軽くなる? のかな?」

    日向「……そういうものか。」

    報告書どうするかな、と日向は困り顔になった。
  80. 297 : : 2016/11/24(木) 00:33:00
    ~教室~

    日向と七海が一緒に教室に戻ると、色々と忙しくて録に参加できなかったが、授業が行われていた。


    「日向創と七海千秋か。席につきなさい。」

    教師に促されて、二人が席に座る。

    今やっている授業は歴史の授業。歴史と言っても、希望ヶ峰学園の歴史の授業であったが。

    「希望ヶ峰学園の初代学園長である神座出流は天才と呼ばれる才能を持つ者をより伸ばすためにこの学園をーーー」

    初代学園長 神座出流。

    その言葉について日向には少しだけ聞き覚えがあった。

    日向(そういえば、天願さんからそんな感じの名前を聞かされたっけ。カムクライズルプロジェクト…だっけ。)

    希望ヶ峰学園 前学園長 天願和夫。

    その彼から直々に希望ヶ峰学園の機密プロジェクトを持ちかけられた。

    具体的な話はまだされていなかったが、そのプロジェクトに参加すれば、才能を手に入れることはできるとのことだった。

    それだけを聞いて、日向はその話に乗るか乗らないかを迫られていたが、日向は相談窓口として才能を認められたため、その後、天願からも話はなく、有耶無耶になっていた。

    日向(機密プロジェクトって話だったし、聞いても答えてもらえないだろうな。)

    才能を認められた今、今更気にしてもしかたないか、と思い、日向はそのまま授業に集中することにした。
  81. 308 : : 2016/11/24(木) 22:47:49
    ~放課後~

    授業も終わり、日向は帰る準備を進めていた。


    ブブブブ……。


    その時、日向は携帯電話が震えているのを感じて、携帯電話を取り出した。

    来ていたのは一通のメール。

    内容を確認した日向は荷物を片付けるのを中断し、教室を出ようとした。

    七海「日向君? 帰らないの?」

    日向「いや、そういえば、今日の報告書をまとめてないことを思い出してな。時間がかかりそうだから、今日は一緒に帰れないと思う。」

    七海「……ゲームでもして待つ…と思うよ?」

    日向「いや、今からやると暗くなりそうだし、そこまで待たせるのも申し訳ない。今度埋め合わせするからさ。」

    七海「あ、じゃあ、今度の休日私の部屋でゲームのRTAに付き合ってくれる?」

    日向「…別に今回のことで頼まなくても付き合ったけど、まぁいいぞ。じゃあ、俺は行くな。」

    そのまま日向は教室を出て行った。
  82. 310 : : 2016/11/24(木) 22:52:29
    ~予備学科校舎 1階~

    日向は相談室ではなく、メールの差出人に会いに来ていた。

    日向「菜摘。」

    菜摘「日向。…これ。」

    差し出されたのはA4用紙くらいの紙。

    そこには『あなたに話したいことがあります。16時に音楽室に来てください。』と書かれていた。

    日向「……。」

    菜摘「あんた、このことについて何か知ってんの? あんたからメールをもらったその日にこんなのが来るなんてさ。」

    日向は小泉からサトウの話を聞いてから、おかしなことがあれば、自分に連絡するようにと、菜摘にメールを出していた。

    菜摘は日向からのメールを最初は何のことかわからず、気にもとめてなかった。

    しかし、その日のうちに自分の机の中にこの一枚の紙があったことから、日向が何か知っているという確信を持った。

    日向「…お前も当事者だから言うけど、恐らくだが、菜摘を呼び出したのはサトウだ。」

    菜摘「サトウ? …まぁあいつには結構絡まれたし、私もわざと煽ったりもしたけど…。」

    日向「これは俺の予測に過ぎないから、実際は違うやつかもしれない。けど…菜摘に何かあってからじゃあ遅い。だから、連絡したんだ。」

    菜摘「ふ、ふーん…。まっ、いいわ。それで、どうすんの?」

    日向「俺は空き教室で隠れられそうなところに隠れておく。もし、何かあれば介入するけど、何もなかったら隠れたままだ。…サトウじゃなかったら悪いことすることになるけど…。」

    菜摘「どっちでもいいわ。サトウだろうが、それ以外だろうがね。この私を呼び出すんだから」

    菜摘は不敵に笑い、日向は今更ながら、誰かに協力を頼んだほうがが良かったか、と少し後悔してきた。
  83. 311 : : 2016/11/24(木) 22:56:06
    ~音楽室~

    日向は教室内の机の影に隠れて、様子を伺った。

    日向(これでサトウじゃなかったら、俺、勘違い野郎の変質者だな…。)

    サトウじゃなかった場合、話が終わるまでずっと中にいないといけないのか、と少しゲンナリする日向だった。




    ガラガラーー

    しばらくすると、教室の扉を開ける音が聞こえた。


    菜摘「……呼び出したのはあんただったんだ。サトウさん?」

    サトウ「………。」

    日向(やっぱりサトウか。)

    菜摘「で?こんなところに呼び出して、何の用?」

    サトウ「……あんたは……邪魔なのよ…。」

    菜摘「邪魔?」

    サトウ「真昼の…。私たち写真部の…希望を……。」

    菜摘「はぁ…。まっ、前まではアイツがずっと気に食わなくって、そして、私自身に才能がないと、って焦って色々やってたけど、もうその件は…。」

    サトウ「……あんたが…許せないのよ…。」

    菜摘「…? ちょっと、話聞いてる?」

    サトウ「あんたが……!あんたがああああああ!!!」




    サトウが半身に隠していたモノを菜摘目掛けて振り上げ、そして、振り下ろした。

    サトウが振り上げられたものが何なのかはわからないが、菜摘はそれが凶器であることがわかった。

    それが自分の頭の上目掛けて迫ってくる。

    菜摘が頭をかばおうとした時には、既に遅かった…。




    日向「ぐっ!」

    サトウ「!?」

    菜摘「日向!?」

    サトウの言動がおかしかったタイミングで異常を感じ取り、日向は少しだけ顔を出して、様子を伺っていた。

    その時、サトウが菜摘に見えないように半身で細長いモノを隠していたことがわかった瞬間、日向は飛び出した。

    そして、菜摘とサトウの間に割って入り、菜摘と自分の頭を腕でかばった。



    ジャラジャラジャラ、と石や砂が落ちる音が辺りを包む。



    日向「うっ……無事か? 菜摘。」

    菜摘「う、うん…って、日向のほうが大丈夫!?」

    日向「俺は無事…痛っ…。」

    菜摘「ちょっと、腫れてるじゃん!」

    日向の腕はサトウの持っていた細長いモノが当たり、青黒く変色していた。

    日向「これくらいは平気だ。折れてないしな。」

    菜摘「いや、そういう問題じゃないでしょ。」

    日向「それよりも、やることがある。」

    日向が菜摘から視線を外して、サトウへと向き直る。

    そこには青ざめ、尻餅をついて、呆然としたサトウがいた。

    サトウ「………。」

    日向「サトウ。」

    サトウ「……な、何なのよ…。なんで…あなたが…。」

    日向「お、覚えてたのか。光栄だな。さて、サトウ。気は済んだか?」

    サトウ「……は?」

    日向「……お前は小泉のため、小泉の邪魔をする菜摘が邪魔だった。それで、呼び出して…痛い目に合わそうとした。そんなところか?」

    殺そうとした、とは言わない。

    サトウに明確な殺意があったことは確かだが、この件を殺人未遂にはしたくない。

    日向(サトウが警察沙汰になる事件を起こしたとなれば…小泉は深く傷つく。そのためにも…。)

    サトウ「……わた…しは…。」

    日向「小泉から相談を受けてな。お前と菜摘が言い争うのを止めたいって。それで、もう菜摘には俺が説得して、もう小泉に何かするのはやめてもらう、ってことで話は付いてたんだ。」

    サトウ「…え…?」

    日向「だから……お前が人を傷つけることはないよ。」

    サトウ「……あなたは…そいつが何をしたのか知ってるの? 何を言ったか知ってるの? どれだけ真昼を傷つけたのか…知ってるの?」

    日向「知らない。…女子のそういったドロドロとしたところは知りたくないっていうのが本音だ。」

    サトウ「そういう話じゃないわ! そいつは…写真部の希望である真昼を……蹴落とそうとして…嫌がらせして…。」

    日向「…だから傷つけてもいい、と?」

    サトウ「………。」
  84. 313 : : 2016/11/24(木) 22:59:22
    日向「こんな子供の喧嘩を諭すような話がしたいわけじゃあないんだ。菜摘はもうしない、という言葉を俺が聞いている。だから、菜摘が理不尽に傷つけられるのは俺は許せない。」

    日向「今回、俺が間に入って、俺がちょっとだけ傷ついた。それで、勘弁してもらえないか?」

    サトウ「……ソイツがもうしないなんて、どんな保証があって言ってるのよ。はっ、どうせあなた、九頭龍さんにたぶらかされでもした? 本科に入って、才能があるとか言われても、所詮男なんだね。自分の女は守らなきゃ、とか思ってるわけ?」

    菜摘「ちょ、そんなわけ!」

    日向「まぁこの構図は確かにそう見えるな。…だから、菜摘。」

    菜摘「え、何?」

    日向「いい機会だからサトウに謝っとけ。」

    菜摘「はぁ!? なんで私が…。」

    日向「悪いことした、っていう自覚はあるんだろう? それに、お前は極道である九頭龍と同じ場所に立ちたいんだろう? 九頭龍ならその辺の筋は通すぞ。」

    菜摘「ぐっ……。」

    菜摘は日向をひと睨みしたあと、日向を押しどけて、サトウを見る。

    菜摘「………。」


    少しの間、視線を泳がせたあと、菜摘は膝を折り、


    そのまま土下座した。



    サトウ「え…。」

    日向「お、おい、そこまでしろだなんて。」

    菜摘「黙ってて。極道なら、自らが招いた事への責任は腹を切ってでもけじめは取る。…今回、私が小泉さんとサトウさんにできる謝罪は…これよ。」


    菜摘「…サトウさん。この九頭龍菜摘。あなたにしてしまったことに対して、謝罪させて頂く。頭を下げて足りないなら、私にできることであればあなたの要求を呑む。…それで今回の件、手打ちとさせて頂きたい。」


    菜摘の耳が羞恥で赤くなっているのを見なかったフリをして、日向はサトウを見た。


    サトウ「………私は…そこまでされても、九頭龍さんを信用できない。それほどのことをされてきたから。」

    九頭龍「…。」

    サトウ「…だから、私から要求するのは、もう二度と真昼には関わらないで。…それで…いい。」

    九頭龍「ありがとう、ございます。」

    日向はとりあえずは一件落着したか、とほっと息を吐いた。



    日向「…いてて。今更痛み出したか…。」

    菜摘「やっぱり痛いんじゃない。やせ我慢しちゃって。」

    サトウ「……今更だけど、なんであなたが…日向君がいるのよ。」

    日向「まぁ…説明はあとでしてやるから、保健室に行ってくるよ。…そろそろ来るだろうしな。」

    菜摘「来るって誰が…。」



    3人がいる空き教室に更なる来訪者が来る。

    ガラガラ、と扉を開けてきたのは小泉だった。

    日向が菜摘から話を聞いたあと、時間差でこれるように小泉を呼び出していたのだ。

    小泉「…サトウさん、九頭龍さん、日向? な、何をしてるの…?」

    へたり込むサトウと土下座の姿勢から起き上がっただけの菜摘、腕を抑えながら立っている日向。

    3人の様子に小泉は困惑することしかできない。

    日向「じゃあ、俺は行く。サトウ、菜摘、小泉への事情説明は任せた。…菜摘はサトウにしたように…な。」

    日向は有無を言わさず、小泉の横をすり抜けて、空き教室を出て行った。
  85. 325 : : 2016/11/25(金) 01:21:23
    ~教室~

    日向は保健室、ではなく、教室に向かった。

    なぜか、というとここに目当てに人間がいる可能性が高かったからだ。

    日向「…いた。罪木! ちょっと来てくれ。」

    入口から顔だけ入れて、罪木を呼んだ。

    中にはクラスメイトが多く残っており、腕を見せたら余計な心配をかけてしまうと考え、罪木だけを呼び出そうとした。

    罪木「はぁい。なんでしょうかぁ、日向さぁん。」

    日向「ここじゃちょっと…廊下に出てもらえるか?」

    罪木「…?」

    日向の言葉に疑問を持ち、頭をかしげながら罪木は教室から廊下に出た。

    罪木「あのぉ…。」

    日向「えっと…。」



    ~日向シミュレーションなう~

    日向『実はちょっと怪我しちゃって治療して欲しいんだ。』

    罪木『怪我ですかぁ…ってひやああああああ!? ど、ど、どうしたんですかぁ!?』

    澪田『蜜柑ちゃんの叫び声が聞こえたっす~。』

    西園寺『なになに~?どうしたの~?』

    ~シミュレーションおわり~





    日向(ここで罪木に騒がれでもしたら、こっそり罪木だけを呼んだ意味がなくなりそうだ。ここは…。)

    日向「罪木、一緒に保健室に来てくれ。」

    罪木「へ……。」

    日向「ちょっと罪木にしてほしいことがあるんだ。」

    罪木「……ふ、ふぇ…。」

    日向「騒ぐな! 他のやつに知られたくはない。ここだと澪田に聞こえるかもしれない。」

    罪木「はう…あうあう……。」

    罪木は顔を真っ赤にして、口をパクパクしているが、叫ぶことはなく、日向はほっと息を吐いた。

    日向「じゃあ行こうか。大丈夫だ、すぐ終わるよ。」

    日向は罪木を安心させるために笑顔でそう答えた。
  86. 326 : : 2016/11/25(金) 01:22:59
    ~保健室~

    日向と罪木は保健室にやってきた。


    罪木は顔を赤くしたまま、俯き気味にベッドまで行き、座った。


    罪木「あ、あのぉ……こ、こんな私でしゅがよろしくお願いしましゅ!」

    日向(噛んだ…。)

    日向「えっと、さすが超高校級の保健委員だな。言わなくてもわかってくれたか。」

    罪木「そ、それは私がビッチと言っているんですかぁ?」

    日向「いや、なんでだ。そうじゃなくって、俺の言ったことと俺の体の様子を見て、判断してくれたんだろ? だから、さすがだな…って。」

    罪木「そ、それはぁ……保健委員として知っておかないといけないというかぁ…。知らなかったら保系委員じゃないというか…。」

    日向「保健委員として当たり前かもしれないけど、知らない俺にとったらすごいことだ。自信を持て。」

    罪木「し、しらない……あう…。わ、私なんかで…いいんでしょうかぁ…?」

    日向「罪木じゃないとできないことだと思うが。」

    罪木「う、うぅぅ…は、恥ずかしいですけどぉ……頑張りますぅ…!」

    罪木「え、えっとぉ…ちょっと後ろ向いててもらえますかぁ?」

    日向「…? ああ、わかった。」

    日向が後ろを向くと、するすると布が擦れる音が聞こえる。

    罪木「い、いいですよぉ…。」

    日向「ああ。って!? な、なんで脱いでるんだ!?」

    罪木は制服を脱ぎ、下着だけになっていた。

    そのため、日向はすぐに逆側を向く。

    罪木「ぬ、ぬ、脱がないとできないじゃないですかぁ…。」

    日向(最新の医療は治療する側が脱がないとできないのか…?)

    日向「いや、そんなわけあるか!」

    日向「俺の腕を治療するのと脱ぐのになんの関係があるんだ。」

    罪木「あ、ありますよぉ…! ぬ、脱がないと…………? あのぉ…日向さん、今…なんて…。」

    日向「いや、だから、俺の腕を治療するのと脱ぐのに何の関係が…。」






    罪木は勘違いに気づき、悲鳴をあげながら保健室に備え付けられている布団の中に潜り込んだ。
  87. 327 : : 2016/11/25(金) 01:29:47
    罪木「…」プシュー

    日向「…。」

    湯気が出そうな勢いで顔を赤くしながら罪木は日向の腕に包帯を巻く。

    集中できていないように見えるが、処置は適切に行っている辺りは保健委員の才能を認められただけはある。

    処置が始まって、そして、終わるまで日向も罪木も無言のままだった。




    日向「えっと…罪木…?」

    罪木「…わ、私は…やっぱりビッチなんでしょうかぁ…。」

    日向「いや、俺も勘違いさせるようなこと言ってしまったし…そんなことはないぞ。」

    罪木「では…淫乱なんでしょうかぁ。」

    日向「その二つに何の差があるのか俺にはわからないけど、違うって言わせてもらうぞ。」

    罪木「ふゆぅぅ……恥ずかしすぎますぅ…。」

    日向「ま、まぁ…お互い今日のことは忘れよう。悲しい勘違いだ。」

    罪木「……でもぉ…私は別に…。」

    日向「別に?」

    罪木「な、何でもないですぅ…。」

    再び顔を真っ赤にして顔を伏せた罪木に言葉の続きを尋ねることなど日向にはできなかった。
  88. 337 : : 2016/11/25(金) 23:15:37
    保健室から教室に戻る途中。

    罪木「あのぉ……日向さんのお怪我はその……。」

    日向「あー、罪木。」

    罪木「は、はぃ…?」

    日向「この怪我がぶつけたとか転んだとか普通の怪我じゃないっていうのは罪木には一目瞭然だと思うけど、悪いが、俺がドジして転んだ、ってことにしておいてくれ。」

    罪木「で、でもでも…明らかに外部から…。」

    日向「罪木、頼む。」

    罪木「……ひ、日向さんがそこまで仰るならぁ…。」

    日向「悪いな。ああ、誰かにいじめられたとか、じゃないから、安心してくれ。」

    嘘は言っていない。

    罪木「そ、そうですかぁ。」

    罪木の安心したような笑顔に少し胸が痛んだが、日向は無表情のまま、教室を目指した。



    ~教室~

    澪田「およ? 蜜柑ちゃんと創ちゃんが一緒にご帰宅! 二人で熱い時間を過ごしたんすかー!?」

    日向「そんなわけないだろ。ちょっと包帯を巻いてもらっただけだよ。」

    澪田「怪我したんすか? こりゃ一大事…。」

    日向「大した怪我じゃないよ。でもまぁ、一応、ってな。」

    西園寺「日向お兄のことだからドジって転んじゃったんでしょー。」クスクス

    日向「俺はそんなドジっ子じゃないっての。」

    田中「ふん、特異点よ。貴様も邪竜召喚の儀式を行ったか。ようやく俺様と同じ舞台まで上り詰めようとしつつあるのだな。」

    日向「お前みたいに趣味でつけてるわけじゃない! 普通にちょっと打っただけだ!」

    左右田「おいおい、気をつけろよ。相談する相手がボロボロとかだったら、相談窓口として威厳がねーだろ。」

    日向「ボロボロになったら、さすがに相談の受付とかはしないよ。」



    日向「というか、こんな時間までこんなに残ってるなんて珍しいな。」

    澪田「帰ろうと思ったんすけどー、真昼ちゃんが用事があるからって席外してるんで、せっかくだしってことで待ってるんす。」

    西園寺「いつも澪田お姉と小泉お姉、私、ついでにそこのゲロブタと一緒に帰ってるからさ。」

    罪木「あうあう…ゲロブタですいませぇぇん…。」

    日向「やめてやれ。……なるほどな。」

    小泉は日向が呼び出したため、まだ音楽室だろう。

    それを3人は待っていたわけだ。

    日向「田中と左右田はどうしたんだ?」

    田中「暇を持て余したこやつらから悪魔の誘いが来たのだ。」

    左右田「なんだ悪魔の誘いって。普通に言えねーのかオメーは。澪田たちはヒマそうだったし、ちょうど七海もいたから、一緒にゲームやってたんだよ。」

    田中「ふっ、あれこそ正しく魂と矜持を賭けた悪魔のゲーム…。」

    日向「まぁみんなで仲良くやってたってことな…。」

    澪田「眼蛇夢ちゃんったらかわいいんすよー。アイテムとして動物が出てきたら、投げれなくってプルプル震えてたっす。」

    田中「貴様ぁ…我が奥義にて消し炭にしてやろうか!」

    澪田「まだ真昼ちゃんも来ないみたいっすし…サシでやる…っていうのは?」

    田中「よかろう…。灰にしてくれるわ!」

    熱くなった二人はそのまま離れていく。

    と、そこで、会話に混ざっていない位置でソニアが佇んでいるのが見えた。

    日向「ソニアは何をしてたんだ?」

    ソニア「わたくしはずっと眺めておりました。みなさんがやってらっしゃるゲームはわたくしには少し難しくて…。」

    日向「得意不向きはあるから仕方ないか。七海に相談したらソニアでもやれそうなゲームとか紹介してもらえるんじゃないか?」

    ソニア「殺人鬼育成ゲームとかないでしょうか…。」

    日向「ない…とは言い切れないが…。」

    絶対録なゲームじゃない、と日向は心の中で呟いた。
  89. 341 : : 2016/11/26(土) 02:00:45
    日向「その肝心の七海は……携帯ゲーム機か。」

    左右田「ああ。しばらくみんなでやってたんだが、今は休憩中だ。…休憩中でもゲームやってんなあいつ。」

    日向「ゲーマーだからな。」

    ソニア「…七海さんって不思議な方ですね。」

    日向「どういうことだ?」

    ソニア「このクラスの委員長となったきっかけはご存知ですか?」

    日向「いや、知らないな。特に疑問に思ったこともないし。」

    ソニア「このクラスは最初バラバラでした。でも、こうやって毎日教室に集まって色々するにまで仲良くなったのは七海さんと雪染先生の功績なんです。」

    左右田「ああ。最初のころって才能を磨くことをすれば自由にすればいいっつって、全く教室に来なかったやつがほとんどだからな。ソニアさんは来てたみたいですが…。」

    ソニア「わたくしは皆の手本となり、導くべき存在にならないといけませんから、来ないというわけには行かなかっただけですよ。それで、ここまでみなさんと仲良くなる未来を全く想像できず、みなさんに全く興味も抱いていませんでした。…今では仲良くなって本当によかったと思っています。」

    日向「へぇ…。七海がな。」

    日向からすると、七海は普段ゲームをしていて、だるそうにしているイメージが強い。

    ソニア「きっかけは雪染先生と聞いていますが、みなさんが七海さんと雪染先生の言葉で集まるようになったのはお二人の言葉に何か不思議な力があったから、とわたくしは思っているんです。」

    日向「……確かに、あいつの言葉には不思議な力があると思う。」

    ソニア「ふふ、日向さんの言葉にも特別な力がありますよね。」

    日向「俺はただ相談に乗ってるだけだよ。」

    ソニア「自覚がないだけですよ。…本当にわたくしもそのようになりたいです。」

    羨ましそうにソニアは二人を見ていた。
  90. 342 : : 2016/11/26(土) 02:25:15
    七海「…あ、日向君。」

    しばらくすると、七海はゲーム機の電源を切って、顔を上げた。

    日向「よう、みんなとゲームやってたんだってな。」

    七海「…うん。勝ったよ。」フンス

    日向「まぁだろうな。七海の腕で負けるなんて滅多にないだろう。」

    七海「そんなことないよ…。もう帰るの?

    日向「ああ、たぶん、そろそろ…。」


    その時、教室の扉が開けられた。


    小泉「ごめんね。待たせちゃって。」

    西園寺「遅いよー小泉おねえ。おかげでゲロブタの髪の毛を改造できちゃったじゃん。」

    罪木「えへへ…ツインテール…。」

    澪田「意外とお気に入り!? 真昼ちゃんも帰って来たっすし、帰りましょー!」


    と、4人組は帰っていった。

    その時、小泉がちらとこちらを振り返って、少しだけ恥ずかしそうに口パクで「ありがとう」と日向に言った。


    日向「…どういたしまして。」

    七海「……小泉さんと何かあったの?」

    日向「相談事だよ。いつものな。」

    七海「そっかぁ。…私たちも帰ろうか。」

    日向「そうだな。えっと…。」

    左右田、田中、ソニアを見ると…。

    ソニア「田中さん、動物さんたちの様子を見に行く時間ではないですか?」

    田中「そうだな。我が眷属が呼んでいることだし、行くとしようか。」

    左右田「そ、ソニアさんが行くなら俺も…。」

    田中「貴様ッ!我が眷属に安易な覚悟で触れると命を落とすぞ!」

    左右田「そこまで言うか! い、いや…動物は嫌いじゃねえし…そこまで言うなら、なんつーか、扱い方?ってのを教えてくれよ…。」

    田中「……よかろう。我とともに覇道の道を歩む覚悟があるならば、せいぜい死なないように付いてくるがいい!」

    左右田「だーっ!お前としゃべるのホントめんどくせえな!」

    ソニア「やはり、田中さん…かっこいいです!」



    日向「…三人でどこか行くみたいだし、俺たちは帰るか。」

    七海「そうだね。」

    結局、日向と七海の二人で帰ることになった。
  91. 347 : : 2016/11/26(土) 18:38:26
    ~帰り道~

    七海はゲームをせず、ゆっくりと歩く。

    日向はいつもならゲームをする七海がゲームをしていないということは自分に何か話があるときであると分析していた。


    七海「…ねぇ、日向君。」

    日向「なんだ? 七海。」

    七海「…その怪我、どうしたの?」

    日向「ちょっとドジして、転んじゃってな。その時に強く打ったみたいなんだ。」

    七海「…ふーん。」

    七海は日向を見ず、夕日に染まる建物…遠くを見ている。

    七海「…痛いの?」

    日向「いや、大したことはないよ。ただ、念の為に罪木に包帯を巻いてもらったけど。」

    七海「……ふーん。」

    日向「…さっきからどうしたんだ、七海。」

    七海「…なんでもない…と思うよ。」

    日向「…そうか。」

    七海「……ただ、相手を思ってる嘘っていうのはバレたときに傷つくのは相手なんだよ、って言いたい…かな。」

    日向「………。」

    日向(…バレてる!? なんでだ!? どこでバレた!?)

    日向「な、七海…?」

    七海「……別にいいんだよ。私は日向君を信じてるし。ただ言う必要がないだけ…なのかもしれないし。」

    日向「い、いや、だから本当に転んだだけで…。」

    殺人未遂の事件に巻き込まれたなんて言えないし、菜摘やサトウの件、小泉の相談など相談窓口的にも迂闊に話すわけにはいかない。

    と、自分に言い訳をして、日向は話すのをためらってしまった。

    七海「……もういいよ。……今度ゲームでボコボコにするし…。」

    日向「待て、いつもボコボコにしてるだろ…。」

    七海「…ただ、これだけは言っておくけど、バレてないって思ってるのは本人だけで、実際結構バレてるもの…だと思うよ?」

    日向「……なんのことかわからないけど、肝に銘じておくよ。」

    日向(実は澪田とかにバレてたりしたのか…?)

    少し心配になった日向だった。


    七海「あ…そういえば約束、覚えてる?」

    日向「約束?」

    七海「…もう…私の部屋でRTAに付き合ってくれるって話。」

    日向「あ、ああ。それか。休日にだろ? そもそもRTAって何なんだ?」

    七海「簡単に言うとゲームをクリアするまでの時間を競うプレイスタイルだよ!」フンスー

    日向「…それ、俺いるか?」

    七海「……気持ちの問題、だと思うよ?」

    日向「まぁ約束である以上付き合うよ。」

    七海「…ん。」

    七海は満足そうに頷いた。
  92. 365 : : 2016/11/28(月) 00:27:22
    ~次の日~

    日向はいつもどおりの時間に起きて、いつもどおり寮を出た。

    昨日花村に逆蔵先生お疲れ様パーティーのことを任せたが、さすがにすべての準備を花村に任せるのは気が引けたため、日向も手伝おうと思っていた。

    寮の食堂に花村の姿はなかったため、日向は学園の食堂に行くことにした。



    ~学園 食堂~

    学園の食堂にたどり着き、厨房へ行くと花村が一人食材を目の前に頭を悩ませていた。

    日向「よう、花村。お疲れ様。」

    花村「やあ、日向君。こんな場所で出会うなんて…これはもう運命かな?」

    日向「昨日お前に任せるってことになったけど、全部を任せるのもどうかと思って手伝いに来たんだよ。」

    花村「わぁ、それはありがたいよ。…でももうすぐ…。」


    日向と花村が話しているところに更に来訪者がやってくる。


    小泉「あら、花村はともかく、日向じゃない。どうしたのよ。」

    罪木「お、おはようございますぅ…。」

    辺古山「…おはよう。良い朝だな。」


    日向「おはよう。花村に全部任せるのもどうなんだ、って思って手伝いに来たんだよ。」

    小泉「…そっ。他の男子もアンタみたいだったらよかったのに。」

    やれやれとため息を吐きながら、小泉は花村に向き直った。

    小泉「それで、朝から何するのよ。」

    花村「良い料理は仕込みから気合入れないといけないからね。お昼にやる予定だから、この時間からやっておく必要があるんだよ。」

    日向(なるほど、小泉たちは見張りか。)

    真面目な小泉、提案していた罪木、いざという時花村を止めるのが辺古山、というところだろう。

    辺古山「せっかくこうして集まったのだし、監視とは言え、見ているだけというのも悪い。何かすることはないか?」

    花村「本当は僕だけの料理を! と思っていたんだけど、それなら女の子らしくパーティー中に摘めるお菓子の作成を頼もうかな。」

    小泉「お菓子ねぇ…。私たちで作れるものって何かしら。」

    罪木「け、ケーキとかプリンなんかどうでしょう…。」

    辺古山「ふむ、クッキーなどもいいが、甘いものばかりというのも考えものだな。」

    わいわいと女子が3人集まって姦しく、お菓子について話し合う。

    花村「いやぁ、この光景だけでご飯がいくらでもイケちゃうね!」

    日向「どういうことだよ。んー、あっちは任せてよさそうだな。俺は何をしたらいい?」

    花村「じゃあ、日向君には盛り付けを頼もうかな。僕が全部こだわってやってもいいけど、みんなでやるパーティーなんだし、ちょっとは素人ものっぽいものがあってもいいよね。」

    日向「確かにこの手のことに関しては素人だけど、なんか言い方おかしくないか?」

    花村「んっふっふっふ…日向君のこともいつか料理してあげるからね。」

    日向「…全力で遠慮させてもらう。」

    そんなやりとりをしながら各自パーティーの準備を始めた。
  93. 367 : : 2016/11/28(月) 00:40:39
    お菓子作りなう……。


    「このような感じか?」

    「そうそう。いい感じ。それで…。」

    「ひゃ、ひゃあああああ!? こ、転んでしまいましたぁ…!」

    「大丈夫か罪木…って!?」

    「うひょおお! 罪木さん、いいよぉ…! 完璧なポーズと完璧な生クリームの載せ方だ!」

    「びええええん、見ないでくださぁああい!」

    「ちょ、ちょっと花村と日向! 見てないであっち向いて!」

    「わ、悪い…!」

    「これから目を背けるなんてとんでもな…」

    「斬る!」

    「あひぃぃぃいいん!!」



    そんなやりとりが料理中にあったが、一応料理とその下準備は問題なく進んだ。
  94. 375 : : 2016/11/29(火) 00:35:05
    1時間半後。

    花村の指導の元、準備が終わり、小泉たちのお菓子は冷蔵庫へと仕舞われた。

    花村「みんなお疲れ様! 思ったより早くできたよ!」

    小泉「結構大掛かりになっちゃったわね。花村の見張りどころじゃないかったわ。」

    罪木「わ、わたしのせいで…大掛かりにさせちゃってすいませぇん…。」

    小泉「そ、そうじゃなくて、楽しくて結構色々作っちゃったって話よ…。ペコちゃん、花村はどうだった?」

    辺古山「作業中にちらと花村を見た限りでは怪しい素振りはなかったが…。」

    花村「も、もう!前回で僕も懲りたから怪しい薬とかはここに持ち込んでないよ!」

    小泉「日向、アンタから見てどうだった?」

    日向「俺から見ても、怪しいところはなかったと思うぞ。使ってるものも普通のものだったし…。まぁラベルを張り替えるとかされたらさすがにわからないけど。」

    花村「そこまでして入れる理由が僕には…。」

    小泉「あるでしょ。煩悩の塊みたいなもんでしょアンタ。」

    花村「ひ、ひどいやひどいや! 今回は僕のシェフとして誇りを賭けてそんなものは入ってないって誓うよ!」

    辺古山「ふむ、そこまで言うのであれば信用するが…。」

    日向「いい時間だし、そろそろ教室に行かないか? 逆蔵先生は今日で最後のホームルームだしな。」

    小泉「そうね。行きましょうか。」

    簡単に片付けを済ませて、日向たちは教室へと向かう。



    罪木「さ、逆蔵先生…今日で最後なんですねぇ…。なんだか寂しいです。」

    辺古山「ふむ。私は特に何かあったわけではないが、面倒見のいい人だったようだな。」

    小泉「そうね…。まっ、アタシたちにできることは逆蔵先生が気持ちよく仕事を終えれるようにパーティーを何の問題なく終えることね。」

    花村「チラッと僕を見なくても何もしてないよ…今回は…。」

    日向「…パーティーの度になんか騒動が起きてる気がするんだけど、なんでそんなに媚薬が入ったりするんだ?」

    日向が聞くと花村は小声で告げる。

    花村「ウチのクラスのかわいい女の子たちのえっちな姿…男なら見たいと思うのが心情だと思わないかい?」

    日向「見たいか見たくないかでは見たいけどさ…。料理人としてどうなんだ?」

    花村「そこに天国が待っているなら僕一人の我慢なんて些細なものだよ…。」

    日向「お前は何を言っているんだ。そもそも、毎回のごとく混入する薬ってお前の私物なのか?」

    花村「そうだよ。一つ上の先輩で超高校級の薬剤師の人がいるからその人に頼んでるんだ。」

    日向「…超高校級が作った薬かよ…。それは…。」

    随分と効き目が高そうだ、と口にしようとした日向は小泉がこちらを見ているのに気づいて、花村から離れた。

    小泉「何?二人でこそこそと。」

    日向「いや、俺が盛り付けた料理はどうだったか、ってこっそり聞いてただけだよ。」

    花村「そうそう…。」

    小泉「ふーん…。」

    日向(聞いたのは俺だけど、花村庇うような形になったな…。)

    隣で指を立てている男と同類に見られたくはない、と日向は思った。
  95. 378 : : 2016/11/29(火) 01:01:32
    ~教室~

    日向たちが教室に着いて、続々とクラスメイトたちが集まってくる。

    すると、終里が…。


    終里「クンクン…オメーら朝からうまいもん食いやがったな! ズリーぞ!」

    西園寺「えー?そうなのー?」

    終里「ああ…オレの鼻が言ってるぜ。日向、テメー朝から花村の料理をたらふく食ったんだろ!」

    日向「食べてないぞ!? 今朝は今日やるパーティーの準備ってことで花村の手伝いをしてたんだよ。」

    終里「なぁんだ…。じゃあ小泉たちからする匂いもそれ関係か。」

    西園寺「えー、小泉お姉も料理したの?」

    小泉「う、ううん。私とペコちゃんと蜜柑ちゃんはお菓子作りの方を…。」

    西園寺「ゲロブタもいたの!? …ゲロブタは呼んで、私は呼んでくれなかったんだね…。」

    小泉「そ、そうじゃないわよ。元々花村の監視のつもりだったし…。」

    罪木「あのぉ…西園寺さん、落ち着い…。」

    西園寺「ズルい! 罪木の癖に小泉お姉とお菓子作りなんてしちゃって! もー!」

    罪木「………。」

    西園寺「……? 何さ。いつも変な顔が更に変なことになってるよー?」

    罪木「…名前で呼んでくれましたぁ。」

    西園寺「え…? あ…!」

    左右田「確かに呼んでたな。なぁ、九頭龍。」

    九頭龍「俺に振るな。そもそも、聞いてねえよ。」

    罪木「えへへ…嬉しいですぅ。」

    西園寺「キモイ!キモいんだよ!喜ぶなゲロブタ!」

    罪木「うふふふ…。」


    相変わらず77期生の教室は賑わっていた。


    逆蔵「席に着けテメーら。ホームルーム始めるぞ。」

    逆蔵が来て、皆がすぐに席に着いた。
  96. 385 : : 2016/11/29(火) 22:07:18
    事務的な連絡事項を逆蔵が淡々と喋っていく。

    逆蔵「…あー、昨日も言ったが、俺は今日までだ。まぁ、だからといって何かあるわけじゃねーが…。」

    花村「逆蔵先生! こっちはもう準備万端ですよ!」

    逆蔵「…マジで準備しやがったのか…。」

    花村「当然ですよ。プロですから。」

    左右田「なんかお前、太いパイプが刺さって死にそうだな…。」

    花村「左右田君の太いパイプを僕に刺すだって!? …カモン!」

    左右田「言ってねーよ! ふざけんな!」

    花村「冗談はさておき、逆蔵先生のお疲れ様パーティーについては今朝だいたい準備しておいたから、11時くらい開始で、お昼も兼ねるって形でやりたいと思います。」

    逆蔵(…勝手にしろと言ったし、準備してあるのに俺がいねぇってのも花村に申し訳ねぇ…か。)

    花村「あ、準備には日向君に小泉さん、罪木さん、辺古山さんが手伝ってくれたんですよ!」

    逆蔵「……断りづらくすんじゃねえよ。」

    花村「んふふ、断らせませんよ。」

    逆蔵「…わかったよ。仕方ねえな。」

    ため息を吐きながらも逆蔵も少し笑いながら、パーティー参加を了承した。
  97. 386 : : 2016/11/29(火) 22:14:54
    10時45分。

    開始の15分前に厨房に行き、みんなで料理を運ぶ。

    料理を出す順番にもこだわりがあるらしく、花村が指示を出している。


    終里「はぁ…はぁ…うまそう…。」

    日向「まだ食うなよ、終里。」

    終里「こ、これ我慢とか…はぁ…はぁ…オレもう待ちきれねぇ…。」

    花村「今のセリフ、もう一度言ってくれないかな?」

    九頭龍「テメェは指示だけしてろ。」



    西園寺「わぁ、お菓子美味しそう…。」

    小泉「蜜柑ちゃんとペコちゃんのみんなで作ったのよ。楽しかったわね。」

    罪木「そうですねぇ…。うふふ…。」

    西園寺「……何よ。わたしを見て、笑ってんじゃない!」

    罪木「…名前で呼んでくれないんですかぁ…。」シュン

    西園寺「あーもう!うっとおしい!」

    澪田「日寄子ちゃんのデレを見るのは難しそうっすねー。にしても、そんな女の子が集まってお菓子作りなんて女子会みたいっすね。唯吹も参加したかったすよー。」

    小泉「なら、今度別の機会にやりましょうか。みんな予定を合わせて、ね。」

    澪田「マジっすか! やっほおおおう!!」

    罪木「はわわわ! お、落としちゃいますぅ!」



    とても騒がしく、みんなで料理を運び終えた。
  98. 388 : : 2016/11/29(火) 22:32:02
    11時。パーティーの開催時間になり、77期生と逆蔵、そして多くの料理とお菓子が机の上にある。

    花村「じゃあ、逆蔵先生。開催の音頭をお願いします。」

    逆蔵「…俺が言うのもなんだが、こういうのは主役がやるもんじゃねえだろ。」

    花村「まぁまぁ。お願いしますよ。」

    逆蔵「……はぁ。」

    逆蔵は心底嫌そうにため息を吐きながら話始めた。

    逆蔵「俺は雪染の代わり。更にテメェらの担任を務めたのはある意味罰みてぇなもんだ。だから、テメェらが俺に感じているもんは俺からしたら仕事上のもので、そこにテメェらのため、って思いはない。」

    逆蔵「…だが、それでも…テメェらがこうして準備したもんを無下にするつもりもねぇ。明日からもうテメェらの担任じゃねえが、まぁ…せいぜいテメェらは希望ヶ峰学園の名を背負っていけるような人間になれ。」

    逆蔵「…俺が教師っつー立場から言えるのはこのくらいだ。…乾杯とかすんのか?」

    ソニア「はーい、ではみなさん、飲み物をどうぞ!」

    九頭龍「…酒じゃねえよな。」

    小泉「全部ジュースよ。」

    ソニア「では隣に渡していってくださーい!」

    飲み物が行き渡り、77期生は逆蔵を見る。

    逆蔵「そこまで俺がやるのか…。…まぁ、テメェらはせいぜい学生を頑張ってやってけ。カンパイ…。」



    「「カンパーーイ!」」


    こうして、逆蔵お疲れ様パーティーが始まった。
  99. 391 : : 2016/11/29(火) 23:40:48
    パーティーはそれぞれに皿が配られ、料理を取りに行くバイキング形式である。

    そのため、花村の作った様々な料理を各々食べたいだけ、取っていっている。


    終里「ムグムグムグムグ!」

    御手洗「ガツガツガツガツ!」

    左右田「お前ら! 早食い選手権じゃねえんだぞ!?」

    終里「ムグムグ…ゴクン! 早く食わねえとなくなっちまうだろ!」

    左右田「花村がオメーらのことを考えて、結構量を作ってるって言ってたぞ。」

    終里「……つまり、ここで全部食えば、まだまだ追加は来るってことだな!」

    左右田「なんでそうなる!? ゆっくり食えっての!」

    御手洗「ガツガツ…ゴクン。左右田君…。」

    左右田「あ? 何だよ。」

    御手洗「こんなおいしい料理が目の前にあって、食べずに突っ込みに回るなんて……人生を損しているとしか言いようがないよ。」

    左右田「そこまで言われんのか! つーか、テメーそんなキャラだったのかよ!」

    澪田「御手洗ちゃんはずっとこんな感じっすよー。食堂とかで話しかけると食べることの重要性について教えてくれたっす!」

    左右田「お前と御手洗仲良かったのかよ…。」


    一方、別のグループでは。


    小泉「…うん。今回は変な薬とかは本当に入ってないようね。」

    辺古山「食べても問題ないな。…九頭龍、問題なさそうだぞ。」

    九頭龍「あいつは腕がいいのにこういうところで信用できねえからな…。まぁ食べてる連中も問題なさそうだし、食べるとするか。」

    西園寺「ぷぷー、ビビってんのー。」

    九頭龍「あぁん!? テメェも食ってねぇだろうが!」

    西園寺「わたしは料理よりもお菓子だもんねー。」

    辺古山「私たちが作ったものだ。おいしく食べてもらうのは嬉しいが、花村の料理も食べてやれ。」

    西園寺「ぶー、お姉たちのお菓子があればいいのになー。」

    口を尖らせて、西園寺は料理を取りに行った。



    七海「ムグムグ…みんなで集まってパーティー、となれば、やるゲームは決まってるよね。」

    田中「…! 貴様、あの闇のゲームを始めるつもりか!」

    ソニア「た、田中さん、闇のゲームとは!?」

    田中「古えより伝わるゲーム…己の魂と尊厳を賭け、生き残るために他人を蹴落とす魔のゲーム…。」

    七海「いや、ただの大乱闘なんだけど…。確かにそれなりに昔からあるゲームだけど、一番始めのものが出て、まだ20年も経ってないんじゃない?」

    ソニア「つ、つまり……ジャパニーズ果し合い!」

    七海「それは違う…! と思うよ?」

    田中「クックック、よかろう。七海よ。貴様の挑戦、この覇王が受けて立つぞ!」

    ソニア「わたくしもやりたいです!」

    七海「うーん、あと一人欲しい…。あ。」

    七海の目に止まったのはトレーニング方法について語り合う逆蔵と弐大。

    七海「逆蔵先生と弐大君。ゲームしない?」

    逆蔵「俺はそういうのは得意じゃねぇ。弐大行け。」

    弐大「ワシも得意じゃないんだがのう…。まぁやるだけやってみるわい。」

    七海「それじゃあ、もう少し人呼ぶから交代しながらやったらいい…と思うよ?」

    弐大「ふむ、トレーニングの話はその間にでもできる、か。行くとするかのう!」

    逆蔵「……いや、俺はいい。そういうのは本当に性に合ってねえらしくてな。」

    七海「むー…面白いのに…。」

    逆蔵「悪いな。」

    七海が弐大を連れて戻り、とりあえず4人でゲームが開始した。


    田中「この覇王、容赦せん!」

    ソニア「負けませんよー!」

    弐大「気合じゃあああああ!!」

    七海「おー、いいねぇ。熱くなってきたよ。」
  100. 394 : : 2016/11/30(水) 00:25:17
    日向は教室の隅で全体の様子を眺めていた。

    追加の料理を運ぶのが花村だけであると大変であるため、その手伝いをしており、時折厨房から教室まで料理を運ぶ役をしていた。

    教室では超高校級のみんなが楽しそうに料理を取り、語らいあっている。

    その様子だけを見て、日向は朝のことも含め、花村の手伝いをして良かった、と感じていた。

    そこに…。


    逆蔵「日向。今いいか。」

    弐大がゲームに行ったため、暇になった逆蔵は同じくヒマそうにしている(見えた)日向に声を掛けた。

    日向「逆蔵先生…。えっと、大丈夫、です。」

    ちょうど料理を運び終わった後であり、まだしばらくは補充する必要はない。

    そのため断わる言い訳もなかった。

    逆蔵「……。」

    日向「……。」

    どちらも無言のまま騒ぐ77期生を眺める。

    逆蔵「…日向。テメェ…俺に何か言いてぇことでもあんのか?」

    日向「…!?」

    逆蔵「なんでわかったか、って顔してるが、テメェの態度を見てればすぐ分かる。俺とあまり話したくはない、だが、言いたいことはある、ってな。」

    日向「……じゃあ、俺のことなんて放っておけば…。」

    逆蔵「気持ちわりぃんだよ。言いたいことを溜め込んでるやつを見んのも、言われないままそのままでいるってのもな。」

    日向「……。」

    日向(あなたに叩きのめされて、罰として担任をやることになった原因は俺です、なんて言うつもりはないし…。)

    日向「……逆蔵先生は凡人が才能を羨むのはいけないことだと思いますか?」

    逆蔵「…? それがテメェが俺に言いてぇことか?」

    日向「もう一つありますけど…、こっちも重要です。」

    逆蔵「凡人が才能を羨むこと、か。才能を羨んで羨んで、結局嫉妬して、『お前は才能があるから!』なんて一言で片付けられる。才能がある、って言われてる奴が努力してねぇと思ってやがるんだよ。そんなことを思うなら、凡人は凡人らしく、力の差を感じたなら上を目指すなって話だ。」

    逆蔵は過去を思い出すように苦々しく、言葉を紡いだ。

    日向「…じゃあ、逆蔵先生は世の中全部才能で全て決まるって思いますか?」

    逆蔵「…希望ヶ峰学園を卒業して、希望ヶ峰学園で働いている身だ。才能が大事であることに代わりはねぇ。それのあるなしじゃあ、凡人共と圧倒的に違う。どんなときでも才能がモノを言う。」

    日向「……。」

    逆蔵「以前だったら、こう言っただろうな。」

    日向「…え?」

    逆蔵「……今なら……才能があろうが、凡人だろうが、やるやつはやるし、やらねぇやつはやらねぇ。要は本人のやる気次第だ。凡人が本気でやる気を出せば…まぁ才能を持ってるやつのサポートくらいはできるんじゃねぇか?」

    日向「……。」

    逆蔵「凡人は凡人らしく、才能があるやつに任せて、その後ろを付いていきゃあいい。……羨んで、嫉妬する暇があんなら才能をサポートできるくらいには努力しろ、ってことだな。」


    日向は以前に自分を押さえつけた人物と目の前の人物を比較した。

    しかし、あの時の逆蔵と日向は初対面で、更に敵対関係にあったといってもいい。

    お互いの事を全く知らなかったのだ。

    逆蔵にも逆蔵の考え方があり、過去があり、経験があった。

    逆蔵の以前の言葉、『凡人が才能を羨んで、周りの迷惑を考えない』っていうのも実体験なのかもしれない。

    それを自分にとって嫌なことを言われたからと、勝手に苦手意識を持っていた…。

    そこまで考えて、日向は自分が恥ずかしくなった。

    逆蔵「…こんなことが言いたかったのか? つーか、これで回答になったのか?」

    日向「…十分ですよ。ありがとうございます。」

    逆蔵「……お前もやっぱり超高校級だな。よくわかんねえやつだ。」

    日向「俺まで変な奴扱いはしないでくださいよ。このクラスでは一番平凡だと思います。」

    逆蔵「……かもしれねえな。」

    それ以降は会話もなく、二人とも手に持ったジュースを飲んだり、料理を食べたりした。

    互いに無言であるが、日向は居心地の悪さなどは感じず、そして、前まで感じていた苦手意識もなくなっていた。
  101. 405 : : 2016/12/01(木) 00:09:24
    左右田「おーい、日向。んなところで食ってねーで、こっち来いよ!」

    終里「これすげーうめぇぞ!! 食ってみろって!」

    終里が料理の皿を掲げ、食べた料理が如何に美味しかったかを体全体で表現する。

    日向「ああ。今行くよ。」

    その輪に加わり、日向もパーティーを思う存分楽しむことにした。



    御手洗「日向君、エネルギーは何をするにしても必要だよ。そして、君は相談窓口という立場で体を使わないと思うかもしれないけど、頭をすごく使っているはずだ。つまり、脳に栄養を送らないとまともに相談もできないのさ。だから、そんな少量じゃなく、もっと食べるべきだ!」

    日向「お前の熱意は伝わったけど、これは多すぎる…!」

    普段全くといっていいほど話さない御手洗と話すこともでき、日向はやっと77期生全員に自分が認めてもらえたんだ、と実感できた。


    御手洗「むぐむぐ……。あっ、そうだ。日向君。」

    日向「もぐもぐ…。ん? なんだ?」

    御手洗「あまり話したことのない僕から頼むのは気が引けるんだけど、君を相談窓口と見込んで、頼みがあるんだ。」

    日向「もぐもぐ…。その言い方だと、相談事か?」

    御手洗「うん。君から見て、僕がどうするべきかをアドバイスをもらえたら、と思ってね。」

    日向「ああ。今のところ依頼もないし、大丈夫だぞ。今日、このパーティーが終わって、午後からでいいか?」

    御手洗「うん。よろしくね。」

    御手洗は申し訳なさそうに苦笑したあと、食事に戻った。



    日向が適当な料理を皿に乗せて、御手洗たちのそばから離れると今度は別の方向から声がかかった。

    弐大「おう、日向。ちょっとこっちに来てくれい!」

    日向「ん?おお。」

    弐大が手を振るその先ではゲームが行われている。

    日向「どうしたんだ?」

    弐大「いやのう…ワシにはやはりこう言ったもんは性に合わんわい。次の交代で日向が入ってくれんか。」

    日向「別にかまわないぞ。今は…ああ、大乱闘か。」


    日向と弐大が目を向けた先では白熱した戦いが繰り広げられていた。


    田中「ふはははは! 我が必殺の拳を受けるがいい!」

    澪田「おおっとぉ!そうはいかねーっすよー!」

    罪木「え、えっとえっと…待ってくださぁぁい!」

    ソニア「あっ、あっ、あ! えっと、な、七海さん!? どうすれば…!?」

    七海「うーん、二人ともちょっと落ち着こう?」


    いつの間にか澪田と罪木がゲームをするグループに加わっていたようだ。

    田中と澪田がアクロバティックに戦い、罪木とソニアが慣れてないせいか、よくわからない動きをしている。

    七海はその二人のアドバイザーをしていたようだ。



    七海「結局、罪木さんは自滅、ソニアさんは二人の戦闘の余波で訳も分からず終わり…。二人とも、今度特訓する?」

    ソニア「特訓…! ジャパニーズ漫画の定番…! はい、します! 夕陽に向かってダッシュです!」

    七海「ソニアさんが想像してることは絶対にしないからね?」

    罪木「あ、あのあの…わ、私なんかがみなさんと遊んでもご迷惑をお掛けするのでぇ…。」

    七海「迷惑なんかじゃないよ。みんなで遊ばないとゲームは楽しくないの。そして、みんなでやるゲームで一人でも楽しくない人がいると、みんな楽しくないの。だから、罪木さんも楽しめるように、頑張ろ?」

    七海「ほら、やればなんとかなるってやつだよ。」

    罪木「あ、あの…よ、よろしくお願いしますぅ!」


    田中「ふん、澪田よ。中々やるようだが、まだこの覇王には届かないようだな。」

    澪田「んぎぎぎ! ぐやじいいいい!」

    田中「さぁ、次はどいつだ。俺様はいかなる挑戦者も受けようぞ!」


    日向「じゃあ、次は俺が弐大の代わりに入って…。」

    七海「うーん、二人はどういうふうに立ち回ればいいかとか、見てもらったほうがいいかもしれないから、私がやるね?」


    日向「田中に澪田に七海、か…。いつかのメンバーだな。」

    澪田「このメンツでゲームすんのも久しぶりっすねー。」

    田中「誰が相手であろうと、負けはせん。」

    七海「ふふん、私に勝てると思ってる幻想を壊してあげるよ…。」

    日向(七海の後ろに修羅が見える気がするが、気のせいだろう…。)


    気のせいなどではなく、ゲームの鬼と化した七海によって3人は完膚なきまでに叩きのめされた。
  102. 409 : : 2016/12/01(木) 01:12:19
    ~午後~

    飲み食いをして、語らいあって、ゲームをして楽しんだ午前中。

    午後からはみんなで片付けを行った。


    九頭龍「終わってみりゃあ本当に今回は妙なモンは仕込んでなかったんだな。」

    花村「ひどいよ九頭龍君! 僕だって真面目なときくらいあるよ!」

    九頭龍「オメーは日頃の行いってやつを辞書で引いて来い。」



    左右田「にしても、あの量の料理が全部無くなったんだな…。」

    終里「あれくらい余裕だろ?」

    澪田「赤音ちゃんってそんなに食べてるのになんで…。」

    澪田とついでにその隣にいた西園寺が終里の一部分を見る。

    澪田「そっかー…そこに行ってるんだー…。」

    西園寺「……ちっ…あんなのただの脂肪だもん…。」

    終里「んー? なぁ小泉、こいつらなに言ってんだ?」

    小泉「あ、あははは…。」

    左右田(なんだこの空間、居づれえ…。)

    左右田は周りに自分の助けとなる者がいないかと探したが、あいにくと誰もいなかった。
  103. 413 : : 2016/12/01(木) 01:47:01
    ある程度片付けをしたところで、日向と御手洗は抜け出していた。

    パーティー中に話をしていた御手洗の相談事について話をするためだ。


    ~相談室~

    日向「じゃあ、相談者について簡単なプロフィールと相談事の概要を書いて欲しい。」

    御手洗「…わかった。」

    御手洗がスラスラと書き始め、日向も必要な書類の準備を始めた。



    名前 
    才能 
    年齢 10代
    相談事カテゴリー 友人
    相談事の概要 友人の無茶を止めたい
    お茶、菓子の評価(5段階) 3


    日向「…?おい、御手洗。名前と才能の欄が空欄なんだが…。」

    御手洗「…君を信用して、今ここで僕の秘密を明かそうと思う。」

    日向「…それは、相談内容に関わる内容か?」

    御手洗「ああ。」

    真剣に頷いた御手洗に日向は御手洗の秘密を聞く覚悟を決める。




    ???「僕の本当の才能は超高校級の詐欺師。そして、僕に名前はないんだ。僕は……御手洗亮太じゃなく、御手洗亮太の名前を借りた別人なのさ。」


    ???「…僕は…この世に存在しない…誰でもないんだ…。」


    日向「…御手洗…いや…。」


    日向(お前、なんでそんな泣きそうな顔をしてるんだ…。)


    この事実を告げることが彼にとってどれだけ辛いことだったのか日向には推し量れない。


    しかし、胸を張って自分を自分であると証明できる名前さえもない彼には予備学科時代の自分よりも辛い思いをしていた、いや、今もしているのかもしれない。


    そう思うと日向は同情を禁じ得なかった。


    ???「…信じて…くれるかな?」

    日向「……信じるよ。お前のその顔を見れば嘘を言ってるようには見えない。」

    ???「……ありがとう。やっぱり君は思ったとおり、信じてくれた。」

    ???は心底安心したように息を吐いた。


    日向「…つまり、御手洗亮太っていう人間は存在しないのか?」

    ???「いや、御手洗亮太は存在するよ。僕は彼に姿を借りる許可をもらって学園生活を送っているんだ。」

    日向「そうか。…じゃあ、本物の御手洗は…。」

    ???「…僕の相談…その内容は御手洗亮太君…彼についてなんだ。」

    日向(…これはまた難解そうな相談だな。)


    日向「…ああ。お前が御手洗じゃないなら、別の呼び方を考えないとな。」

    ???「…え。」

    ???は一瞬ポカンと口を開けた。

    日向「…うーん、超高校級の詐欺師だから詐欺師、って呼ぶのもどうかと思うし…。」

    日向はゴソゴソと辞書を探し、ペラペラとめくる。

    日向「詐欺師、っていうのは英語で探すと色々あるけど…。」

    日向「ああ。詐欺師っていうのは色々あるけど、trickstar(トリックスター)っていうのがあるのか。じゃあ、これを略して、お前のことは『トリス』って呼ぶよ。いいか?」

    ???「……ふふっ。ああ。大歓迎だよ。ありがとう。」


    トリス「日向君。」
  104. 423 : : 2016/12/01(木) 23:19:11
    日向「じゃあ、改めて相談内容について話してくれ。言いづらいことは言わなくていいけど…最大級の秘密を明かしてるから逆になんでも話せそうだな。」

    トリス「…ふふ、確かにね。さて…さっきも話したとおり、僕は自分というものを持っていない。この学園に入学する前から誰かの名前と姿を借りてずっと生きてきた。」

    トリス「そして、希望ヶ峰学園にスカウトされて、77期生として過ごすことになったけど…ここで問題が発生したんだ。」

    日向「希望ヶ峰学園に入学するほどの生徒なら有名になる。そうなると、情報が全くないと言ってもいいトリスは何者だ、ってことになるな。」

    トリス「察しがよくて助かるよ。まぁそれ以外にも、今まで誰かを借りて生きてきて、いきなり借りない生き方をするのが怖かった、というのもあるけどね。」

    日向「…なるほどな。それで、入学してからも誰かを借りることになって、その相手になったのが…。」

    トリス「御手洗亮太。超高校級のアニメーターだね。」

    日向「確認なんだが、御手洗も77期生なんだよな?」

    トリス「うん。彼自身も77期生として入学して、学園側も僕と彼で別人として認知してるよ。」

    日向「…こういうのもなんだけど、よく自分の代わりに学園生活を送ることを了承したな。」

    トリス「…その辺も説明するよ。簡単に言うと、僕と彼の利害が一致したんだよ。」

    トリス「僕は『御手洗亮太』を借りたい。そして、御手洗亮太は自分の代わりに学園に行ってくれる存在を求めていたんだ。」

    日向「…学園に来たくなかった、ってことか?」

    トリス「…いや、学園生活を送りたいか否かで言えば、送りたかったとは思う。けど、彼にはそれ以上にやりたいこと…目的があったんだ。」

    日向「目的?」

    トリス「…僕も彼がつぶやいていたことを聞いて、断片的にしか理解できていない。けど、彼はこういっていたよ。『僕のアニメで多くの人を救いたい』ってね。」

    日向「……アニメで人を救う、か。」

    トリス「その目的は素晴らしいものだ。ただ…いつも締切に追われてて…そして、自分の体のことなんか二の次、倒れるまで作業して、復活したらまた作業…なんて無茶なことをするんだよ。」

    日向「……はぁ…それで、この相談の概要か。」

    トリス「うん。彼に無茶をしてほしくない。そのために何とかしたい、っていう相談なんだよ。」

    トリスは無理をして倒れた御手洗を思い出して、悲しそうに目を細めた。
  105. 435 : : 2016/12/03(土) 14:01:03
    日向「……話はわかった。」

    日向は考える。

    今まで接してきた御手洗は目の前のトリスであり、本物は別にいる。

    そして、その本物には目的があり、その目的のために頑張っている。頑張りすぎている。

    御手洗にとって、それがどれだけ大切なことなのか…。

    日向「…やっていることだと思うけど、確認させてくれ。トリスは御手洗に無茶はやめるように説得したりしたのか?」

    トリス「もちろんしたよ。時に食事を抜くこともあったから、差し入れしたり、寝るように説得したり…ね。あまり効果はなかったようだけど。」

    日向「……77期生のみんなは御手洗と接触したこともないんだよな?」

    トリス「そうだね。入学してから今まで僕が代わりに通学してたからね。」

    日向「つまり、御手洗に言葉が届きそうな存在はトリスだけか。」

    自分が御手洗と直接話す方法も考えたが、今まで話したこともない人間にいきなり、何か言われたところで言葉は届かないだろう。

    特に、目的のために進もうとしている人間には。

    日向「…トリス…。俺からお前にアドバイスできることは…とりあえず、御手洗に鏡を見せてやれ。」

    トリス「…鏡?」

    日向「今までの話で無茶をしているっていう話を聞いた。なら、御手洗はおそらく疲れと寝不足で酷い顔をしているはずだ。まずは、自分が無茶をしているということを自覚させるところだ。」

    トリス「…なるほど。確かに、彼は顔色は悪いし、クマも酷い…。」

    日向「あとは…お前が思ってることを言ってやれ。詐欺師としてじゃない。借り物でもない。お前がお前として思ったことを言ってやれ。」

    トリス「……僕が…僕として…。」

    日向「……トリスは自分が存在しないなんて言ったけど、俺から見れば、ちゃんとここにいる。御手洗のことを心配して、俺にそのことを相談しに来て、どうすればいいか考えている。トリスっていう人間がちゃんといる。だから……自分に自信を持て。そして、御手洗に本気でぶつかれば、きっとその言葉は届く。」

    トリス「………うん。」



    日向「…泣いてもいいんだぞ?」

    トリス「…詐欺師だからね。その辺をコントロールするのも慣れてるよ。…でも嬉しかったよ。ありがとう。」
  106. 436 : : 2016/12/03(土) 14:03:37
    トリス「御手洗君のことを相談できたことも有意義だったし、僕自身としても君と話ができたことは有意義だったよ。」

    日向「そう言ってもらえると嬉しいよ。…お前の正体について、クラスの連中に話す気はないのか?」

    トリス「…君みたいに個人的に言う、というならともかく、全員に話す、というのはまだ難しいかな。…わかっているんだ。彼らもきっと僕を受け入れてくれる。でも、僕の心のどこかで、もし受け入れてもらえなかったら、なんて思ってしまっているんだ。」

    日向「…まぁ、無理にとは言わないさ。俺もお前が言おうと思うまでは必ず秘密は守る。普段も御手洗として接するさ。」

    トリス「…ありがとう。…ふふっ、僕のことで相談に来たわけじゃないのに、気づいたら相談して、君に励ましてもらったみたいになってしまったね。」

    日向「……こう言ってはなんだけど、目の前にいない御手洗よりも目の前にいるトリスのことのほうが話していて、どんなやつかわかるし、俺自身も力になってやりたい、って思う。だからかな。トリスのほうをちょっと優先して考えちゃったかな。」

    トリス「…そうか。」

    日向「…お前自身のことでも、御手洗のことでも、俺にできることでなら力になってやれる。その時は相談してくれ。」

    トリス「……本当にありがとう。」


    日向「さて、報告書を……。お前の名前と才能のところどうするか…。」

    トリス「ああ、名前は空白で、才能は超高校級の詐欺師で大丈夫だよ。相談内容もそのまま書いてもらって大丈夫だから。君に説明するために書かなかっただけだから、今から書くよ。」

    日向「学園側は把握しているんだもんな。なら、そのまま報告しても大丈夫か。わかった。そのまま書かせてもらう。」

    トリス「ああ。」

    トリスに確認をとって、日向は報告書を書き始める。

    トリス「じゃあ、僕は教室に戻るよ。」

    御手洗「くれぐれも、教室では僕のことは御手洗亮太で頼むよ。」

    日向「ああ。気をつける。」

    そのやりとりの後、御手洗に意識を切り替えたトリスは相談室から出て行った。
  107. 437 : : 2016/12/03(土) 14:06:25
    ~放課後~

    日向「思った以上にトリスの報告書に時間が掛かったな…。」

    御手洗やトリスのことを書いてもいいとは言われたものの、どこからどこまで書くかを取捨選択していると結局時間がかかってしまった。


    日向「…俺、ほとんど授業出てないけど、大丈夫かな…。」

    ふと、学生として少し不安になった。

    相談に乗ることが自分の役目で、そして、相談者はこちらの都合を考慮してくれない。

    また、相談窓口として、相談に乗ることを授業よりも優先していいことになっているため、希望ヶ峰学園としても間違った行動をしているわけではない。

    だがしかし、やはり、学生として授業に出ないというのは間違ったことをしている気分になり、不安になる。

    日向「…明日は授業に出たいな。」

    精神安定のためにも…。

    と、日向が明日のことを独りごちていると、相談室の扉が開かれた。




    「ふむ。日向創君はおるかの。」




    入ってきたのは白髪に立派な髭を蓄えたメガネをかけた老人。

    日向「天願さん?」

    天願「おお。おったか。ふむ、本当に超高校級になったのじゃな。」

    入ってきたのは天願和夫。

    前学園長であり、日向とは予備学科時代に実験の協力を要請されたときに話をしたことがある程度の関係だ。

    日向「どうされたんですか?」

    天願「なに。君が超高校級として、本科に転科したと聞いてな。こうして様子を見に来たわけじゃ。」

    日向「…それは…わざわざありがとうございます。」

    正直、天願とはそこまで親しかった記憶はない。

    日向としてはこうして様子を見に来られるような間柄ではない…と思っている。

    天願「…超高校級の相談窓口。人間関係について人の相談に乗り、アドバイスを与えることでその者に希望を与える。そういう才能だと聞いておる。」

    日向「…? えっと、相談に乗っているのは確かですけど、希望を与える…というのはよくわからないんですが。」

    天願「自覚はないか。君は自分の才能を分かっていないようじゃな。」

    日向「……?」

    天願「ふふ、未来ある若者じゃの。では、儂は行くよ。」

    と、勝手に入ってきて、何かに満足して、勝手に天願は出て行った。

    残ったのは天願の目的も天願が言っていたことも理解できずに、困惑する日向だけ…。

    日向「なんだったんだ…。」

    その疑問に答えてくれる者はいない。
  108. 443 : : 2016/12/03(土) 21:42:53
    ~教室~

    報告書を書き終えた日向は教室に戻った。

    本科に上がってからというもの、放課後になって、教室に戻ると七海が待っているのはもはやパターンになっているため、今日も日向は教室に戻ってきた。

    雪染「あら、日向君じゃない。」

    日向「雪染先生?」

    そこに待っていたのは77期生の本来の担任、雪染ちさだった。

    少し久しぶりにその顔を見たが、特に変わりなく元気そうである。

    雪染「もうみんな帰ったけど、どうしたの? あ、もしかしてこんな時間まで相談を受けてたの?」

    日向「ええ。雪染先生はどうしたですか?」

    雪染「しばらく離れてたし、教室の様子を見に来ただけよ! 由々しき事態になってからじゃあ遅いからね!」

    日向「そんな事件とかは起こってませんよ。逆蔵先生もむしろ、俺たちのことを気にかけてくれましたし。」

    雪染「へー…逆蔵君が…。ふふ…。」

    雪染は楽しそうに笑うが、日向には笑った理由はわからなかった。


    と、ここでやっと日向は教室内には雪染しかいないことに気づく。

    日向「先生、なな…他のみんなは?」

    雪染「みんな帰らせたわよー。日も暮れそうだし、夜遅くに変えるのは危ないからね。」

    日向「そうですか。じゃあ、俺も…。」

    雪染「あ、それで、七海さんから伝言預かってるわ。」

    日向「伝言?」

    雪染「いつもの場所で待ってる、だって。あなたたち、付き合ってるの?」

    日向「い、いやそんな関係じゃないですよ。」

    雪染「ホントに~? いつもの場所、だなんて、そんな常套句が使えるのはそれほど仲がいい人同士じゃないと成立しないものなんだけどね~?」

    日向「七海が待ってるんで、帰りますね。それじゃあ!」

    不利を悟った日向は廊下走らないように注意する雪染を無視して、逃げ出した。
  109. 453 : : 2016/12/04(日) 01:34:04
    ~噴水広場~

    予備学科時代、ひょんなことから知り合った日向と七海はこの噴水が中央にある広場を待ち合わせの場所として利用していた。

    つまり、七海が「いつもの場所」と言えば、日向に思いつく場所はここしかない。

    小走り気味に向かうと、噴水の前にあるベンチに人影が見える。



    日向「…おーい、七海。」

    七海「……あ、日向君。おっすおっす。」

    日向「はは、昔みたいだな。こんな時間なのに、待ってたのか。」

    七海「たまにはいいかな…って思ってね。」

    日向「…ほんの一週間かそこら前なのに、もう遠い昔みたいだよ。」

    七海「あの時の日向君は……闇落ちした主人公みたいだったよ。」

    日向「どんな例えだよ。それを言うなら七海は天然系女子だったよ。」

    七海「…むっ、私をそんな安い設定の女だとは思わないで欲しい…と思うよ?」

    日向「そこは言い切れよ。じゃあ、どんな設定ならいいんだ?」

    七海「んーー……まず、ゲーマーは外せないかな。」

    日向「まぁ七海の個性だよな。」

    七海「あとは……献身的なところ…?」

    日向「…むしろ、周りに世話されてないか?」

    七海「むぅ…。あっ、ツンデレとか。」

    日向「…七海からは程遠いと思うぞ…。」

    七海のツンが全く想像できない。

    七海「……」ガーン

    七海「私の属性…ってなに…?」

    日向「…やっぱり天然だろお前。」

    肩をすくめながら日向は言い放った。
  110. 466 : : 2016/12/04(日) 21:34:30
    ~寮前~

    その後、なぜかショックを受けた七海を立たせて、寮まで戻った二人。

    寮前にたどり着くと、見知った顔がそこにいた。


    日向「弐大に終里?」

    七海「……ああ、いつものトレーニングかな?」

    日向「へぇ、あの二人でトレーニングとかしてたんだ。」

    七海「結構な頻度でしてる…と思うよ?」

    日向「俺が見たことなかっただけか。」

    と、話す二人に声が掛かる。


    弐大「日向に七海か…! ちょうどよかったわい。」

    日向「ちょうど良かった?」

    弐大「日向よ。ちと、終里と戦ってくれんか。」

    日向「は?なんでだ?」

    終里「いいからバトろうぜ!日向ぁ!」

    叫んだ終里は日向に強烈な蹴りを放つ。

    日向「あっぶなっ!?」

    終里「ちっ! オラオラオラ!」

    日向「ちょっと! 待て!?」

    次々と繰り出される終里の攻撃を何とか避けつつ、しかし、反撃もできず、後退していく日向。



    七海「で、どういうことなの?」

    弐大「なぁに、終里がもっときついトレーニングを付けてくれ、と言ってきてのう。お前さんにはまだ早い!と言っても聞きやせん。今のトレーニングでもまだまだ伸びしろがあるし、無理をする必要もない。

    弐大「そこで、日向のこともたまに鍛えていることを思い出してのう。二人のトレーニングの成果を見るいい機会になると思ったというのと、日向に完勝できれば、トレーニングを見直すという約束をした。という次第じゃああああああ!!」

    七海「おお、兄弟子と弟弟子の対決というわけですな。」フンスー




    日向「それ全部説明してから開始させろよ! うおお!?」

    終里「くっそ! 当たんねえ! なんでだ!?」

    日向(直線的でどこを狙ってるかも読みやすい。弐大と体作りと軽い組手がなかったら、こんなにも避けれてないな…。)

    終里「だいたい、なんで攻撃してこねえんだ! 手加減か! なめてんのか!」

    日向「いや…怪我させちゃあ悪いし…。」

    終里「やっぱり舐めてるってことだな! 野郎ぶっころっしゃらああああ!!」

    日向「なぜか俺が勝つ気がしてきたぞ…!」


    しかし、現実は甘くなく、何度かの攻防の末、終里の足払いによって日向は転ぶ。

    日向「しまっ…!」

    終里「もらったぁあああ!!」

    終里のかかと落としが日向の脳天を狙う。

    日向「うおおおおお!!」

    終里「うわっ!?」

    日向が苦し紛れに蹴りを放つと終里の軸足に当たり、終里がバランスを崩した。






    日向「ングッ!? ンムムム!?」

    日向は突如として目の前が真っ暗になり、ついでに後頭部を打ち付けていた。

    何が起こったかを全く理解できず、とりあえず視界を塞ぐものをどけようと考えた。


    もみっ


    日向(なんだこの柔らかいものは…。)

    終里「あ?日向、胸が好きなんか?」

    視界が開けると、そこには自分の両手に終里の大きな塊に収まっている光景で…。

    日向「うおわっ!? す、すまん!?」

    終里「あー? 胸触られたくらい気にしねーよ。にしても、日向、意外とやるじゃねーか!」

    日向「い、いや…。」

    弐大「ガッハッハ! お互い、いい刺激になったようじゃの! 終里よ。約束通り、トレーニングは今までどおりじゃ。」

    終里「ちぇっ、わかったよ。」

    弐大と終里が平和的にやり取りをしている一方で。


    日向「はぁ、ひどい目にあった…。」

    七海「……実はちょっと役得とか思ったり?」

    日向「いやまぁそりゃあ少しは…って、七海?」

    七海「……終里さん、おっきいもんね。」

    日向「いや、あの…。」

    七海「日向君もやっぱり大きいほうがいい…のかな?」


    【選択肢】
    1.大きいほうが好きかな
    2.七海も負けてないぜ
    3.俺は小さいほうが好きだ


    日向(いや、待て。この中に正解はない気がする…!)

    七海「……やっぱり大きいほうがいいんだね。ふーん…。」

    日向「いや、七海。よくわからないが、落ち着け。」


    その後、七海の機嫌を直すのにしばらく時間がかかった。
  111. 485 : : 2016/12/06(火) 01:09:31
    七海と別れ、日向は一度自室に戻った。

    その後、食堂に行くことにした。


    ~寮 食堂~

    食堂に着くと、左右田と田中、狛枝が食事をしていた。

    少し離れたところでは御手洗が大量の食事を机に乗せて、一心不乱に食べている。

    日向「よう。夕飯か?」

    左右田「おう、日向。」

    狛枝「やぁ、日向クン。左右田クンが一緒にどう?って誘ってくれてね…。ボクごときがお呼ばれするなんて身に余る光栄なんだけど、せっかくの誘いだし、断わるのも悪いと思って」

    日向は田中に視線を移した。

    日向「田中は最近よく左右田と一緒にいるな。」

    田中「ふん、この雑種が寄り付いてくるだけだ。俺様に近づくと破滅が訪れると何度も言っているのだがな。」

    左右田「だからよぉ、オメーはわかる言葉で話せっての。」

    狛枝「実際、田中クンだけでなく、ボクまで誘うだなんて、今までの左右田クンじゃあ、なかったんじゃないかな? ああ、ごめんね、ボクごときがこんなこと言って…。」

    左右田「なんでオメーはそんなネガティブなんだっての! いや、なんつーか…。前に日向に相談したことでよぉ…。」

    日向「何か言ったか俺?」

    左右田「直接ってわけじゃねえけどな。何事も観察や研究が大事って言われて、俺今までこのクラスの奴らですらよく知らねえんだなって思ったら、なんか色々話してみようって気になっただけだよ。」

    日向「なるほどな。」

    相手のことをわかってる気になって、交流をしてこなかったことを左右田は自覚したのだろう。

    田中と狛枝に聞こえないようにこそっと日向にだけ耳打ちする。

    左右田「それに、ソニアさんの話が意外なところから聞けるかもしれねえからな。」

    日向「結局それか。」

    苦笑した日向だが、自分がきっかけでどんな形でも左右田がクラスメイトと交流しようとしている姿を見て、嬉しく感じた。

    狛枝「二人で内緒話するのはいいけど、そろそろ食事にしないかい? 日向君も早く注文してきなよ。」

    日向「ああ、そうだな。行ってくるよ。」

    日向も注文をして、料理が出てくるのを待っていて、ふと、視界に御手洗を収める。


    日向「よう、御手洗。」

    御手洗「ムグムグ…ど、どうしたの日向君?」

    日向「いや、あっちで左右田と田中、あと狛枝と一緒に晩飯をって思ってるんだけど、御手洗もどうだ?」

    御手洗「……ありがたい申し出だけど、遠慮させてもらうよ。」

    御手洗は周りを見渡して、表情を少し崩す。

    トリス「それに、この量だ。みんなのスペースも占領しかねないし、運ぶのもちょっと面倒だからね。今度はご飯の前に誘ってくれると助かるよ。」

    日向「ああ。それもそうだな。じゃあ、また今度な。」

    トリス「うん、ありがとう。日向君。」



    頼んだものを受け取り、席に戻ると、なんか色々盛り上がっていた。

    狛枝「日向君は希望だって信じていたけど、左右田君のように色んな人の希望を更に輝かせるなんて…これはもう超高校級の希望…と言っても過言じゃないんじゃないだろうか。ねぇ、どう思うかな、左右田クン?」

    田中「…俺様は覇王。覇王は雑種と特異点の些細な秘め事など気にはせん…。」

    破壊神暗黒四天王「チュー!」

    田中「ふっ、四天王たちよ。我に慈悲など不要だ。だが…その心意気には感謝するぞ…。」

    左右田「うるせえ狛枝! やっぱオメー変な奴じゃねえか! んで、田中! 俺と日向がちょっと話してただけでなんで拗ねてんだ! くっそ、メンドクセーよオメーら!」


    あのめんどくさそうな空間には戻りたくないなぁ、と思いつつ、日向は最後には諦めて左右田救出に向かった。
  112. 499 : : 2016/12/09(金) 01:05:22
    【新たなる覇王】

    77期生の生徒たちと過ごす日々。

    そんなある日ーーー。


    日向「動物の世話?」

    ソニア「はい。いつもは田中さんが世話をして、わたくしもそのお手伝いをしているのですが、今日わたくしは用事がありまして…代わりに日向さんに行っていただけないかと…。」

    日向「人手が必要な作業をするのか?」

    ソニア「そうですね。田中さんだけでも大丈夫と言えば、大丈夫ですが…人手があったほうが良いかと思います。」

    田中「ふん。雌猫の力が消えた今、特異点の力を借りずとも、俺様の力のみで試練を乗り越えるのみ。」

    日向「いや、そんなこと言うなよ。そういうことなら手伝うって。」

    田中「………。」

    日向「ど、どうした?」

    田中「……あ、ありがとう…。」

    田中は赤面しつつマフラーで顔を隠しながら感謝を述べた。

    その横ではソニアが今まで見たことないほどニコニコしている。

    日向「ま、まぁ今日の放課後な?」



    ~飼育小屋~

    日向「さっそく来たわけだけど、何したらいいんだ?」

    田中「気をつけろよ。ここにいる魔獣は扱いを間違えれば、貴様の命を刈り取るぞ。」

    日向「わかった。丁重に世話をさせてもらうよ。」

    田中「…ククク、破壊神暗黒四天王を容易に手懐けた特異点ならばここの魔獣共も容易く勝利してしまうかもな…。」

    日向「勝ってどうするんだ。それで…これを運べばいいのか?」

    目の前にあるのは大量の動物たちの餌。

    飼育小屋にどれほどの動物がいるかを把握していない日向だが、目の前にある餌の量と種類からして、何種類もの動物がいることは推測できた。

    そして、動物の餌は一箇所にまとめられているだけであり、それを動物毎に分けてやる必要がある。

    日向「これを毎日か…。」

    田中「空腹はどんな者でも訪れる。強者であろうが、弱者であろうがだ。俺様の眷属になったからには餓死などあってはならない…。」

    日向「…そうだな。腹空かせてるだろうし、頑張るか。やろうぜ、田中。」

    田中「我が力、その目に焼き付けるといい!」


    こうして、日向と田中は動物の餌を分けて、動物たちの元へ持っていく。



    あらかた動物の餌をやり終えた二人は最後に哺乳瓶を持って、飼育小屋とは別の建物に来ていた。

    日向(なぜ哺乳瓶?)

    と、疑問に思いつつ、ついていくと、田中が開けた扉の先に小さな動物がいた。

    日向「…って、ん? 猫?」

    田中「猫ではない。百獣の王だ。」

    日向「百獣の王…ってことはライオン…。つまり、こいつは子供か?」

    田中「俺様が契約した暗部組織…そこから寄越された将来王となる素質を持った子よ…。」

    日向(連携している研究機関か、動物園か。そこから世話を依頼されて、預かってるってところか?)

    日向「あのサイズだと、本当に猫みたいだな。」

    田中「小さくとも百獣の王。王たるプライドを持っている。貴様と言えど、扱いを間違えれば命を…。」

    田中の言葉も聞かず、日向は子ライオンに向かって歩きだした。

    日向「よしよし。お、本当に猫みたいだな。ああ、腹減ってるんだな。わかってるよ。ほら。」

    初めは少し警戒していた子ライオンも少しずつ距離を詰めていき、日向に撫でられた。

    その後、緊張が解けた子ライオンを日向が優しく撫でながら、哺乳瓶を差し出すと、貪るように飲みだした。


    田中「なん…だと…!?」

    後ろで田中が驚愕するのを無視して、飲み終わるまで、そのままの姿勢でいる。



    日向「人懐っこいやつだったな。」

    田中「日向…貴様は俺と同じ覇王だったのか…。」

    日向「それは違うぞ!? いつ俺が覇王になった!?」

    田中「まだ自覚をしていない…が、覚醒の時は近いか。」

    日向「おーい? 田中?」


    一人の世界に入った田中を戻すのにその後、しばらく時間がかかった。

    その後、度々田中に動物の世話を一緒にするように誘われるようになるのを日向はまだ知らない。
  113. 500 : : 2016/12/09(金) 01:06:50
    日向「そういえば、左右田に頼むっていう選択肢はなかったのか? 仲いいよな?」

    ソニア「左右田さんは……頼めばやってくれるのでしょうけど、田中さんと一緒にいるとき、すごい不機嫌そうなんですよね…。」

    それは左右田が田中を嫌っている、とかじゃなくて、ソニアと田中が一緒にいるからだと思う、と賢明にも日向は口には出さなかった。

    田中と仲良くするソニアを見て、左右田が嫉妬に焼かれているのは想像に容易い。

    ソニア「ですので、頼みごとを受けてくれそうな方で、信頼の置ける方を、と考えたら日向さんになったのです。」

    日向「まぁ信頼してくれているのは嬉しいけど…。」

    左右田が解決するべき問題ではあるが、左右田の想いが一片も理解されていない事実を知って、日向は心の中で涙した。
  114. 506 : : 2016/12/10(土) 20:04:59
    【行きつけのあの部屋】


    相談室。そこは日向が超高校級の相談窓口として、仕事をする場所である。

    相談者に対して、お茶(緑茶、コーヒー、紅茶 各種取り揃えている)や菓子を出すために小さな給仕スペースが設けられており、簡単な料理ならここで可能である。

    また、程よい柔らかさの椅子に音楽プレイヤーやテレビも備え付けられており、相談者にとってリラックスした状態で相談ができるような空間作りがなされている。

    日向「……。」

    菜摘「んーー、おいしっ。なにこれ、アンタってお菓子職人の才能もあんの? ホント、妬ましいわね。」

    日向「なぁ…。」

    菜摘「むっ、しかし、こんなに食べたら太るかも…?」

    日向「お前は十分痩せてるよ。それはともかくだな。」

    菜摘「はぁ、こんな一室が割り当てられるなんてホント、超高校級ってのはすごいのね。」

    日向「それは同感だ。それでだな。」

    菜摘「あっ、これさ、サトウさんと小泉さんと一緒に買い物に行って買ったんだけど、可愛くない?」

    日向「話を聞け!」

    菜摘「もう、何よ。」

    日向「なんでお前はこの部屋にいるんだ?」

    菜摘「居心地がいいからよ。」

    日向「素直で結構だ。で、こっちとしては居心地がいいからでここに入り浸るのは迷惑なんだが。」

    菜摘「……何よ、会いに来てやってるのに。」

    日向「恩着せがましいな! だけど、ここをたまり場にさせるわけにも行かないんだよ。」

    菜摘「……いたら、迷惑なの?」

    日向「お前が相談者なら問題ない。でも、これといって俺に相談したいこともないんだろ?」

    菜摘「………。」

    菜摘に相談事などはないため、その言葉を否定できない。

    そもそも、居心地が良い以上にただ日向に会いに来ているだけ、という一面もある。

    菜摘(本科の校舎と違って、ここは比較的入りやすい…。メールとかで呼び出すなんて、無理。プライドが許さない。居心地がいいから、って理由もダメになった…。)

    菜摘は苦肉の策を打つことにした。

    菜摘「い、いいの? 日向が私を追い出したって、お兄ちゃんに言っちゃうけど?」

    日向「それがお前の言う、兄の横に立てるほどの人間のやることだと思うならやっていいぞ。」

    菜摘「ぐっ…。」

    兄に頼るだけの妹、という図は自分が求めているものではない。

    そんなことをすれば、才能のあるなしに関わらず、兄の側にいる資格がない(と菜摘は思っている)。

    日向「…なぁ、ここに来るのには何かあったんだろう? 話してくれないか?」

    日向は菜摘が何か思い悩んでいて、しかし、簡単に自分に話せない内容を抱えていると思っていた。

    実際菜摘はただ日向に会いに来ているだけであるが。

    菜摘(適当な悩みをでっち上げ…いや、真剣な日向にそんな嘘付きたくない…。世話にもなったし…。でもでも…正直に言うなんて…。)

    悩んだ末菜摘は…。

    菜摘「……わ、私は…ひ、日向に会いたかったの…。」

    日向「え?」

    菜摘「え? って!? 二度も言わせる気!?」

    日向「いや、ちゃんと聞こえたって。ただ、理由が意外だったってだけで。」

    菜摘「だって…アンタは本科だし、気軽に会えない。ここなら予備学科でもまだ本科の校舎に行くよりは会いに来やすいし…。」

    日向「……はぁ。」

    そんな理由と想いを持たれていたとは日向も思わず、菜摘をただ、追い出すわけにも行かなくなった。

    日向「…わかったよ。今日のところはいてもいい。ただ、次来るときは俺に依頼があるか確認してからにしてくれ。さすがに依頼者がいるときに居座られると困るからな。」

    菜摘「…わかったわよ。」

    日向「なんで不貞腐れてるんだよ。」

    菜摘「うっさいわね。お菓子おかわり!」

    さっき太るかもって危惧してたんじゃ、と考えた瞬間、底冷えする殺気が放たれたので、日向は黙って次の茶菓子を取りに行った。
  115. 524 : : 2016/12/13(火) 00:43:40
    【兄の勘違い】

    77期生 超高校級の極道、九頭龍冬彦はイライラしていた。

    原因は自らの妹にあるが、その妹が最近懇意にしている相手がいる、かもしれないという話を聞いたためだ。

    それだけであるなら、あの我の強い妹にも親しくできる友人ができたと嬉ぶことである。

    しかし、その相手というのが自分のクラスメイトの一人である、超高校級の相談窓口の日向創だった。

    日向は仲間想いな人物で、九頭龍自身も妹の件や幼馴染の件、他にも軽い事でも相談をしてもらい、そして、アドバイスをもらってきた。

    解決したことも解決しなかったこともあるが、日向が九頭龍のことを真剣に考えて、相談に乗っていたのは態度から分かっており、九頭龍としてもクラスの中で、ある一人を除いて、一番信頼の置ける人物であると言える。

    九頭龍「その日向とあいつが、な。」

    辺古山「ぼ…九頭龍、どうかしたのか?」

    九頭龍「…なんでもねえよ。」

    辺古山に素っ気なく返すが、そんなはずはない(ちなみに辺古山には九頭龍がイライラしているのとその理由はバレている)。

    我が強く、自分よりも極道に向いていると思われる妹であるが、どんな奴でも、どこまで行こうとも妹である。

    その身内が自分の友人と言える人間を好きになっているかもしれない、という状況。


    結局のところ本人次第なところはあるが、兄として、妹が少しでも好意を持った相手、その相手の気持ちも確認したくなった。

    また、極道の娘と付き合っていく覚悟があるのかも…。

    だが、肝心なところでその一歩が踏み出せない。

    九頭龍(クソが。こんなことでヘタれやがって…。)

    だからこそ九頭龍は肝心なところでへたれている自分にイライラしていた。



    放課後。

    結局、日向に話をする約束すらせず、九頭龍は更に苛立ちを募らせていた。

    九頭龍(…って、そうか。相談ってことにして、聞いてもらえば…。)

    少しは話しやすいかも知れない、と考えた九頭龍は日向を探すが、やはりいない。

    放課後になって日向が教室にいることのほうが珍しいため、期待はしていなかったが、それなら相談室だろうと、当たりを付けて、九頭龍は相談室に向かった。



    ~相談室~

    相談室前に来て、九頭龍は相談室から話し声が聞こえたため、依頼者がいることを察して、また後日にしようと思った。

    それが聞き覚えのある声でなければ…。


    「ねぇ日向。そこの雑誌取ってー。」

    「届くだろ。自分で取れ。」

    「めんどくさい…。」

    「お前、ここ最近なんだか、ダメになってないか?」

    「そんなことないない…。」


    まるで同棲を初めて1ヶ月くらいの恋人の会話…(と九頭龍は感じた)。

    そして、この声は確実に日向と妹のものであると九頭龍は確信した。


    九頭龍(…そこまで仲に発展してたとは…。ふっ、日向なら…任せられるか。)

    日向以外のやつだったら絶対許さねぇけど、と苦笑しながら、九頭龍はその場を去った。



    後日、神妙な顔をした九頭龍が日向に話しかけた。

    九頭龍「日向、テメェになら妹を任せられる。…へっ、お前が本当に弟分になるたぁ、思わなかったぜ。」

    日向「…何の話だ。」

    兄弟の杯を交わそうとしていた九頭龍が勘違いをしていたことを知るのはもうしばらくあと。
  116. 533 : : 2016/12/15(木) 00:00:01
    【ゲームをしよう(ゲームは口実)】

    七海「さっ、入って~。」

    日向「お、お邪魔します…。」

    七海「……? なんでそんなおどおどしてるの?」

    日向「いや、何というか…。」

    女の子の部屋に入るのは緊張する、とは恥ずかしくて言えない日向。

    思えば、女の子の部屋に入ったことは……あるにはあるが、それは相談事の解決や相談事を受けるときに相談者の部屋が指定される時くらいだ。

    プライベートで入ったことは一度もない。

    日向「それに…。」

    日向は女子寮に入る時のことを思い出す。


    ~回想~

    日向「えーっと……入室許可証、寮管理人への報告書、学園長への報告書、担任への報告書、警備課への報告書、女子寮で行うこと、その概要…。そして、指紋登録…。」

    七海「頑張って…と思うよ?」

    日向(七海に呼ばれたのに俺がこんなに苦労するのはなんか釈然としない。)

    日向は目の前にある大量の資料を眺めながら思う。

    同じ超高校級であっても、男子が女子寮に簡単に入れるはずがない、と日向は予想していたが、予想以上であった。

    だが、入室許可証や目的を書くのはいいとして、学園長、担任、警備課、寮管理人へ報告書を書き、更に指紋を取られるとは予想できていなかった。

    ついでに、女子寮へ入るには1名以上の女生徒、もしくは、女子寮関係者の申請書が必要になる。

    さすが未来を担う超高校級の生徒たちをスカウトする学園だけあって、その辺の不純異性交遊など希望を保護することと学園の外聞のこともあって、許されないのだろう。

    ここまで推測しながら、資料を書き終えた。

    最後に指紋を登録して、やっと女子寮へと入ることができた。


    日向「はぁ…大変だった。」

    七海「お疲れ様…だと思うよ? 男の子を入れるのって大変なんだねぇ。」

    日向「…まぁここまでするのは当然なんだろうって思うけどな。というか、七海が危機感足りないと思うぞ。」

    七海「……日向君以外は呼ばないもん…。」

    日向「そ、そうか。」

    なんとなく、七海の方を見ていられなくなったため、女子寮の談話スペースを眺める。

    談話スペースの椅子の色が違ったり、花が少し置かれていたりと、内装が少し違う程度で、特に男子寮と変わったところは見られない。

    七海「……早く行こ?」

    日向「ああ。そうだな。」

    いくら許可を得て、七海が隣にいることから、堂々といられるといっても他の女生徒に見られたら面倒なことになる。

    そう考えた日向も同調して、足早に七海の部屋へと向かった。



    ~回想終了~


    七海の部屋は本棚には本の代わりにゲームが収められ、大きなテレビの前にはたくさんのゲームハードが置かれている。

    日向「……ちょっと整理しないか?」

    散らばったゲームソフトによって、座れる場所がない。

    唯一ベッドを椅子がわりにできそうであるが、そこに座る発想は日向にはない。

    七海「んーー…面倒だし、ベッドでよくない?」

    日向「いや、それはなんとなくダメな気がするぞ。」

    七海「そうかなぁ?」

    七海をなんとか説得し、とりあえずゲームソフトの片付けから始める。


    座る場所を確保して、さっそくゲームを始めようとする。

    日向「ところで、何のゲームをするんだ? RTA…だっけ?」

    七海「そうそう。クリア時間を競うんだよ。……。」

    日向「どうした?」

    七海「……うーん、日向君を誘うための口実だったからこのゲームをしたい、っていうのはなかった…と思うよ?」

    日向「俺を誘う口実って…いつも遊んでるし、教室でも遊んでるだろ?」

    七海「携帯ゲーム機でもいいんだけどね。たまにはこういう据え置きのゲームも一緒にしてみたかった…だと思うよ?」

    日向「しっかりしろ。そこは言い切れ。」

    七海「うーん…じゃあ、日向君に選んでもらおうかな。タイムアタックとか関係なく、普通にやりたいものでいいから。」

    日向「俺がか。そうだな…。」


    日向が選んだのは最大4人の協力プレイで進められるゲーム。


    七海「おー、それを選ぶとは中々センスあるね。」

    日向「いや、協力プレイって書いてあったから、七海にボコボコにされなくていいなって思ってさ。」

    苦笑しながら、日向はゲーム機にソフトをセットする。

    七海「……うん。対戦も楽しいけど、誰かと協力も楽しい…かもね。」

    七海は微笑みながら、ゲームコントローラーを握った。
  117. 534 : : 2016/12/15(木) 00:00:12
    6時間後。


    日向「はぁ…さすがにクリアまでやると疲れるな。」

    七海「…そうかな? これくらい普通じゃない?」

    日向「…さすが超高校級のゲーマーだよ。」

    やれやれ、と呆れながら、日向は時間を確かめる。

    日向「あー、確か、出て行くときの時間も決まってたな…。その時間ももうすぐ…か。」

    七海「うーん、楽しくってあっという間だったなぁ…。」

    日向「確かに。こうやってじっくりとずっと協力プレイで進めていくなんて初めてだったし、楽しかったな。」

    七海「…うん、そうだね。」

    七海はぼーっとしながら、クリア画面を眺めている。

    七海「…またやりたい…と思うよ。」

    日向「……そうすると、またあの資料を書かないといけないのか…。」

    七海「…がんば。」

    日向「軽いなおい。」

    その後は、ぼんやりとする七海と軽口を交わしながら雑談をした。




    出て行くとき。

    澪田「あ〜! 創ちゃんだー! なんでここにいるのーん!?」

    ぴょーんと澪田に見つかった日向がまず捕まる。

    小泉「な、な、な、なんでアンタが女子寮に!? ま、まさか堂々と侵入してきたの!?」

    西園寺「日向おにぃへんたーい!」プークスクス

    罪木「あうあう…。」

    七海「……はっ、日向君は女子寮に侵入したわけじゃないよ。」

    日向「な、七海…。」

    七海「私の部屋でずっと一緒にいただけだよ!」


    世界を終わらせるスイッチを押された気分を日向は味わっていた。


    罪木「ず、ずっと…一緒…? えとえと…つ、つまり…。」

    その場の面々が一気に顔を赤くする。

    小泉「信じられない! 女子寮に来て、ち、千秋ちゃんと…! もう!」

    澪田「あーうー…い、唯吹はリアルでそういう話になんのはまだ早いっていうか…。」

    日向(どうにでもなーれ。)

    と、諦めかけたそのとき。

    西園寺「…? 一緒にゲームでもしてたんじゃないの?」

    七海「うん。そうだよ。」


    小泉「…へ?」

    勘違いを理解した3人はまた顔を赤くした。

    反応は様々であるが、とりあえず、日向が開放されたのはそれから1時間後で、予定退寮時間を大幅に無視されたことで、日向は管理人に説教を受けることになった。


    日向「理不尽だ……。」
  118. 541 : : 2016/12/16(金) 23:23:39
    【左右田の努力】


    超高校級のメカニック 左右田和一。

    彼にはここ、希望ヶ峰学園に来てから好きな人がいる。

    本人にとって最大の秘密であるそれは、実はクラスメイト全員にバレていることを彼は知らない。

    そんな彼は今日も意中の相手を口説き落とすために努力を続ける。


    田中「雑種よ、貴様、我が業火によって焼かれたいか!?」

    左右田「だーッ!! こいつを観察してても全くわかんねー!!」

    意中の相手の意中の相手(だと思われる)を観察し、そいつのどこに惹かれたのか、ということを分析していた左右田。

    しかし、知れば知るほど、なぜこんな奴に惹かれたんだ?という思いしか湧いてこない。

    田中「何ッ!? 貴様、俺様の命を狙う組織の者だったのか!? ふっ、だが、俺様はそう簡単には死なんぞ!」

    左右田「んなわけあるか! 俺は…その…。」

    ここで田中を分析すれば、好きな人の好みや趣味の傾向なんかがわかるかもしれない、だから、観察している、などとは言えない。

    好きな人を告白しているも同然であることと、田中を観察し始めて気づいたことが、『田中は意外と傷つきやすい』ということだ。

    いつものように突っぱねてしまうと、その場は気にしていないように振舞うが、後々動物たちに話しかけて慰めあう光景が簡単に想像できてしまう。

    左右田「…はぁ。オメーのことを少しでも理解しようと思ってただけだっつーの。深い意味はねーよ。」

    田中「………。」

    左右田「…なんだよ、変な顔しやがって…。」

    田中「左右田よ。特異点の座には既に日向がいる。お前の居場所はないぞ。」

    左右田「なんかよくわかんねーけど、腹立つ!」

    その後もギャーギャーと騒ぎながら、二人は会話を続ける。


    それは、ソニアが用事を済ませて、二人に合流するまで続いた。
  119. 542 : : 2016/12/17(土) 02:37:35
    ~相談室~

    左右田「なぁ日向よぉ…。」

    日向「どうした。そんな絶望の底みたいな顔して。」

    左右田「俺、観察と研究つって、ずっと頑張ってけど…田中のことを理解できる気がしねぇ…。」

    日向「まぁあいつは一癖あるからな。」

    左右田「俺が田中みたいになるなんて無理だし…。」

    日向「例え、お前が田中みたいになったとしても、お前の好きな人が振り向いてくれるとは限らないしな。」

    左右田「あんな厨二病にはなりたくねぇよ…。」

    日向「話してみると面白いけどな。ふむ、しかし、観察と研究を提案した身として、次のステップを考えるか。」

    左右田「次のステップ?」

    日向「ああ。観察や研究、と言ったのは左右田が…好きと言うわりにその人のことを知らなそうだったからそうアドバイスしたんだ。だけど、今ならそれなりに情報は手に入れたんじゃないか?」

    左右田「あー、まぁ前よりは…な。つーか、オメーは俺の好きな人知ってるだろ。」

    日向「いや、一応ぼかしたほうがいいのかと思ってな。」

    左右田からの許可も得たことだし、日向は『左右田の好きな人は秘密』ということについて遠慮せずに行くことにした。

    日向「俺からの印象だと、ソニアって日本のものが好きだよな。」

    左右田「………え、そうなの?」

    日向「……すまない。左右田がこれまでで得た情報について話してくれないか。」

    左右田「え? そうだな…。田中のことをかっこいいと思ってることだろ。あと、好奇心旺盛っつーか…色んなものに興味がある…みたいだな。」

    日向「…左右田が田中に話しかけて、努力してるのは見たことあるけど、ソニアには話しかけたか?」

    左右田「いやー、なんっつーか…いざ聞こうと思ったら…。」

    日向「……俺、ソニアが日本文化に興味があるとか、会話して最初に聞けたんだけどな…。」

    左右田「コミュニケーションが才能みたいな奴と一緒にすんな!」

    日向「いや、才能うんぬんの話じゃないと思うぞ。」

    日向「…俺からとはいえ、日本文化が好きって話を聞けたんだ。それでお前はどうするんだ?」

    左右田「日本文化…つってもな、やっぱ食べ物とかか?」

    日向「ソニアは時代劇とかドラマとかが好きって話も聞いてる。そういうドラマや映画を一緒に見るとか、どうだ?」

    左右田「……一緒に…映画…だと!?」

    日向「左右田?」

    左右田「そ、それって……恋人みたいじゃねーかぁ…!」

    日向「友達でもすると思うけどな。」

    左右田「よっしゃ! 俺なりに厳選して、ソニアさんを誘ってみるぜ!」

    日向「あ、左右田…。」

    一緒に見るのが厳しそうなら勧めてみるとかどうだ、と言おうとしたが、左右田は部屋を出て行ってしまった。

    日向は気づいていなかった。

    自分がソニアを誘った場合、断られるとは思えず、そんな提案をしたが、左右田が誘った場合どうなるかを。



    結果として、半泣きになった左右田が相談室に飛び込んでくるのは2時間もかからなかった。
  120. 550 : : 2016/12/18(日) 01:29:15
    ~トリスが相談に来てからしばらくしたある日~

    いつものように起きて、学園に行く準備をしていると、部屋をノックする音が響く。

    日向「はい。って、御手洗?」

    もちろん本物ではなく、トリスのほうであるが。

    御手洗「え、えっと…おはよう。中に入って話をしてもいいかな…?」

    日向「ああ。どうぞ。」

    日向が御手洗を招き入れると、すぐに御手洗としての弱々しい表情を崩した。

    トリス「前に話した御手洗君のことなんだけど。」

    日向「…何かあったのか?」

    日向は、トリスの真剣な表情に何か嫌な予感がした。

    トリス「…結論から言うと、彼は僕の言葉を聞いてくれたよ。」

    だが、杞憂だったようで、トリスは笑顔で言った。

    トリス「そして、これからはちゃんと休養を取るってことを約束してくれた。」

    日向「そうか。とりあえず、無理をしないなら安心だな。」

    トリス「そこはね。それで…できれば、御手洗君は学園に来て、色々な人と接するべきだと思う。」

    日向「まぁずっと引きこもっているよりはそうだな。」

    トリス「うん。それで…そのことについて日向君。キミに御手洗君の説得をお願いしたいんだ。」

    日向「俺にか?」

    トリス「彼は…目標のために頑張っているんだけど、その目標にとって必要のないものは邪魔だと思っているみたいなんだ。」

    日向「…学園での生活も友達もか?」

    トリス「うん…。だからこそ、僕と利害が一致したんだけどね。」

    日向「…トリスからは…説得できなかったのか?」

    トリス「……僕じゃあダメだよ。御手洗君が学園に行くようになったら僕は誰の顔で学園に行けばいいかわからなくなる、なんて思ってしまった僕じゃあね…。」

    日向「……お前はお前だ。今、俺が話しているのは超高校級の詐欺師で、俺が勝手にアダ名を付けた一人の人間だ。」

    からかうように日向が笑う。

    トリス「ふふ、何度目かわからないけど、そう言ってもらえるのはすごい嬉しいよ。ただ、実際僕は学園のことについても説得しようとしたんだけど、さっきのようなことを想像してしまって、言葉がでなくなってしまったんだよ。」

    御手洗が学園に来るようになるということは、現在の「御手洗亮太」の席は使えなくなる。

    ならば、以前使っていた十神白夜に戻るか、否。もうすぐ本物が入学してくるという情報を掴んでいるトリスはその選択を取れない。

    ならば、自分は誰に変装をすれば…。

    と、トリスは考えてしまったのだ。

    そのことがトリスの自信を失わせていた。


    トリス「…僕ではいざという時にこんな葛藤をして、言葉が出なくなったり、選択を誤ってしまうかもしれないから…。」

    日向「間違ってでも、言葉が出なくても、お前が思うことを言えばいいと思うんだけどな…。」

    トリス「日向君…言葉というのはコトダマという言葉があるように力があるんだ。そして、コトダマに力を宿すにはタイミングと適切な表現が大切だ。」

    トリス「僕があっさりとキミに自分をさらけ出せたのもそのおかげだと僕は思う。キミは適したタイミングで、適切な言葉を僕にくれたからね。」

    トリス「そんなキミになら…御手洗君を説得することもできると僕は思う。」

    日向「……本当にそれでいいのか、っていう想いもあるが、トリスの言うこともわかる。…自分の居場所がないなんて、辛いよな…。」

    予備学科時代、自分が誰にも認められていない、自分の居場所なんかどこにもないと思っていた時期。

    思い返せばそんなことはなかったと言えるが、あの時は本気でそう思っていた日向は絶望に塗れていた。

    それはとても…辛く、苦い思い出だ。

    日向「…わかった。とりあえず、一度話をしてみて、上手くいかなかったら別の作戦を考えよう。」

    トリス「…ありがとう。」

    トリスは少し俯きながら、日向に感謝の意を述べた。

    日向「御手洗が学園に来るようになったら…。」

    トリス「…その時は、僕も覚悟を決めて…みんなに正体をちゃんと話すよ。」

    真剣な表情でトリスは自らの覚悟を語った。
  121. 551 : : 2016/12/18(日) 01:30:48
    ~希望ヶ峰学園 近辺・ボロアパート~

    日向「ここか?」

    トリス「うん。」

    トリスに案内されて来た場所は築何年かわからないが、古いアパートだった。

    聞くところによると、御手洗はアニメーターとして既に成功していると言っても良いほど有名で、神アニメーターと言われるほどだ。

    そんな御手洗が住んでいるところと言われて、高級マンションのような場所を想像していたが、実際は苦学生が済みそうなアパートに案内され、そのギャップに日向は少し戸惑っていた。


    トリス「…こっちだよ。」

    トリスについていき、ある一室の前にたどり着く。

    日向(ここに…本物の御手洗が…。)


    コンコン、とトリスが扉をノックする。

    トリス「…僕だ。…開けるよ。」

    御手洗の了承の声もなく、トリスは迷いなく扉を開けて中に入った。


    ~御手洗の部屋~

    御手洗の部屋に入った最初の印象は暗い。

    カーテンが締まり、全体的に暗い部屋の中、まともな明かりは作業台にある電気スタンドのみだ。

    時間がまだ午前中であることからカーテンからも光が漏れているが、夜になってしまえば、作業台以外は暗闇に飲まれて見えなくなってしまうだろう。

    そのような環境の中、作業台に向かってガリガリと作業を行う人物が一人。

    日向には言われなくても、それが御手洗であるということはすぐにわかった。

    御手洗は作業をするのに夢中で、日向とトリスが部屋に入ってきたことすら気づいていないようだ。


    トリス「…はぁ…。全く…。」

    トリスがため息混じりに御手洗に近づき、その肩を叩いた。

    御手洗「……ん? …ああ、君か。」

    トリス「ちゃんと休憩は摂っているんだろうな?」

    御手洗「さすがにあれだけ言われたらね。昨晩は3時間は寝たし。」

    トリス「不十分だ。…食事は?」

    御手洗「…昨晩食べてからは何も…。」

    トリス「…これを食え。」

    トリスが差し出したのは途中のコンビニで買ってきたおにぎりとお茶だ。

    トリスが注意したとは言え、すぐにそれが改善されるわけはないと思っていたため、来る途中で購入していたのだ。

    御手洗「…ごめんね。ありがとう。」

    大人しく受け取った御手洗は、もそもそとおにぎりを食べ始める。

    トリスはそれを見届けて、締め切っているカーテンを開け放った。

    御手洗「うっ…。あ、朝だったのか……。って…あれ…?」

    そこでようやく御手洗は日向の方を見る。

    御手洗「う、うわ!? だ、誰!?」

    日向「今更かよ…。最初からずっといたぞ俺。」

    御手洗「え? あれ…? ど、どういうこと…?」

    トリス「落ち着け。順を追って説明してやる。」

    トリスは日向が御手洗と自分について知っていること、トリスが日向に相談したこと、そして、名前をもらったことを話した。
  122. 552 : : 2016/12/18(日) 01:31:50
    御手洗「…なんで…。」

    トリス「なんでそんなことを、か? 日向のことを俺が信用した、というのと、お前のことについて相談しに行って、日向に嘘をつきたくなかった、というところだ。」

    御手洗は顔を蒼白とし、童謡からか目が泳いでいる。

    日向「…ああ。俺から御手洗のことやトリスのことをどうにかしようなんて考えはないぞ?」

    御手洗「え…?」

    日向「…お前は今、何を心配した? トリスに代わりに学園に行ってもらったことか? それとも、みんなを騙してたことか? …それとも、現状のこのアニメを作る環境が崩されるかもしれない…と思ったか?」

    御手洗「え、えっと……。」

    恐らく全て。それ故に御手洗は即答できない。


    御手洗「お、お前は…何のためにここに来たんだよ…!」

    キッと御手洗が日向を睨みつける。

    御手洗の中で日向は所謂敵と認定されたようだ。

    日向「お前に少しでも学園に来てもらいたいから説得しに来た。それだけだ。」

    御手洗「……僕は学園に行く暇がない。締切が迫ってるし、それに…僕には…。」

    日向「そうか。わかった。」

    御手洗「え?」

    トリス「ちょ、ちょっと? 日向君?」

    日向「いや、ここで無理やり連れて行くとか、説教するとかしても御手洗に俺の言葉は届かない。トリスも言ってただろ? コトダマってやつは必要なタイミングってものがあるって。」

    トリス「いや…そうだけど…。」

    日向「御手洗、俺はまた来るよ。その時に、お前の話でも聞かせてくれ。」

    御手洗「………。」

    あっさりと引き下がった日向に口をぽかんとしながら、御手洗は日向を見送った。
  123. 553 : : 2016/12/18(日) 01:34:36
    ~放課後~

    日向は帰宅をする準備をしていた。

    七海「日向君、帰ろ?」

    日向「あ、すまない。今日…というよりしばらくは寄るところがあって、一緒に帰れないと思う。」

    七海「…そっかぁ…。うん、それなら仕方ないね。」

    七海が振り返って、帰ろうと…したところで、また日向の方に振り返る。

    七海「相談事?」

    日向「え? あ、ああ。そうだ。ちょっと今相談されてることについて、俺がアドバイスして終わり、ってわけにはいかなくってな。」

    七海「ふーん…そっか。」

    七海は少しジト目気味に日向を見ていたが、すぐにやめてそのまま何も言わずに帰っていった。

    日向「なんだったんだ…。」

    七海の真意が日向に理解されることはない。



    ~御手洗の部屋~

    前回来た時に場所は覚えたため、日向は一人で御手洗の元を訪れた。

    一応ノックをして、返事を待つが、反応はない。

    ドアノブを回すと、普通に開いてしまった。

    日向(無用心だな…。そういえば、トリスも普通に開けてたっけ。)

    中に入ると、今朝来たときと同じ状況。

    トリスが開けた窓も再び閉められている。

    御手洗は暗い部屋の中でガリガリと作業をしている。

    日向「よう、御手洗。」

    日向は軽く御手洗の肩を叩く。

    御手洗「……ん? あ、あれ? 日向君…だっけ?なんで…。」

    日向「ああ。自己紹介をしてなかったな。超高校級の相談窓口、日向創だ。なんでって、また来るって言ったろ?」

    御手洗「いや、言ってたけど…。」

    今朝来て、その日の放課後に来るとは思っていなかった御手洗である。

    日向「それで、コンビニ弁当で申し訳ないけど、食事はどうだ? というか、昼はちゃんと食べたか?」

    御手洗「…ああ、もう夕方なのか…。」

    日向「時間間隔狂い過ぎだろ。ほら、これ食え。」

    御手洗「……あ、あり…。」

    素直に礼も言えず、結局遠慮がちに弁当を受け取った御手洗。

    日向「ついでに休憩しろ。トリスからも言われたろ?」

    御手洗「……そう、なんだけどね。締切とかやらなきゃ、って考えたらここから離れられなくって…。」

    日向「それで、倒れてたら世話ないぞ。ほら、こっちこいって。」

    日向がダンボールを組み立てて、簡易的な机を作り、そこに座った。

    御手洗「…で、でも…。」

    日向「わかった、食事の時間と休憩の時間は全部で45分。そう決めておけばいいだろ。俺もそれ以上お前にあれこれ言わないって約束する。」

    その言葉に不満そうにしつつ御手洗はやっと座った。



    日向「御手洗はさ、なんで、アニメーターになろうって思ったんだ?」

    御手洗「……大した理由じゃないよ…。」

    日向「まぁそういうものかもな。俺もなんで相談窓口になった?って聞かれて答えられないからな。」

    御手洗「……。」

    日向「まぁ俺の場合、人から相談を受けて、それに答えていくうちに相談窓口って呼ばれだした、って経緯だから、いつの間にかなってた、って感じだけどな。」

    御手洗「………。」

    日向「そういえば、アニメーターなんだから、アニメを作ってるわけだよな? どんなやつだ?」

    御手洗「……僕が関わったことのある作品なら、そこの棚にあるよ。」

    御手洗が指さした先にある棚、そこに日向が目を向けると、目を輝かせる。

    日向「え、全部じゃないけど、知ってる作品が多いな…。そうか、御手洗が関わってたのか。すごいじゃないか。」

    御手洗「…僕なんて全然…。それに、まだ…。」

    日向「…御手洗って、神アニメーターって呼ばれてるらしいな。」

    御手洗「……らしいね。」

    日向「まぁそう呼ばれるくらい素晴らしい作品を作ってきたってことなんだけど、これでも御手洗は満足できてないんだな?」

    御手洗「…そりゃ…そうだよ。」

    御手洗はたどたどしく話し始めた。

    御手洗「僕は…昔…アニメに救ってもらったことがあるんだ。大げさって思うかもしれないけど、本当のことなんだ。」

    御手洗「……それで、僕がアニメに救ってもらえたように、みんなに希望を与えられる存在になりたい…って…。」

    日向「…なんだ、大した理由があるじゃないか。」

    御手洗「…え、あ…。」

    御手洗はいつの間にかアニメーターの理由を話していたことに顔を赤くした。
  124. 554 : : 2016/12/18(日) 01:36:02
    日向「希望を与えられる存在に…か。」

    御手洗「き、君は…笑わないんだね…。」

    日向「笑うもんか。俺だってできればそうなりたいからな。」

    御手洗「え?」

    日向「俺は超高校級としては特殊でな、予備学科から転科した身なんだよ。」

    御手洗「予備学科?」

    御手洗は聞きなれない言葉に首をかしげる。

    アニメを作ること以外を疎んできた御手洗は希望ヶ峰学園の内情に詳しくなく、予備学科についても知らなかったし、興味がなかった。


    日向「…まぁ、なんだ。本科とは別の学科のことだよ。才能とか特に認められていなくても入学することができる場所でな。」

    御手洗「…そんな場所が…。」

    日向「まぁ才能を認められていなかった頃の俺は才能を切望して、羨望して、嫉妬して…才能があれば全てうまくいく、って思ってたんだ。」

    実際は違うけどな、と日向は苦笑する。

    日向「俺からすれば、才能が有るってやつはヒーローみたいなもので、人々に希望を与える存在、って感じだな。そんなやつに…俺はなりたかったんだよ。」

    御手洗「………。」

    日向「おっと、話しすぎたな。まっ、何が言いたいかっていうとだな。」



    日向「希望を抱けないやつが人々に希望を与える存在になるっていうのは難しい…いや、無理だと思う。」

    御手洗「……」

    チクリ、と御手洗の心に痛みが走る。

    何の痛みなのか。御手洗には理由は分からなかった。

    日向「トリスから頼まれた身だけど、俺自信はクラスメイトとして御手洗には学園に来て欲しい。今まで、お前のことは知らなかったけど、知ってしまった今、お前が欠けているという状態を俺は希望しない。」

    御手洗「……。」
  125. 555 : : 2016/12/18(日) 01:39:42
    日向「学園に行ってみる気はないか?」

    御手洗「……僕には時間がないんだ。今でも足りてないのに、学園に行くだなんて…。」


    これでダメなら…と少し荒っぽくなるが、違うアプローチを掛けることにした。

    結局自分には強引な手を取るしかないのか、と思ったが、今は仕方ないと諦めた。


    日向「なぁ御手洗。」

    俯いていた御手洗が顔を上げる。

    日向「お前が想像する希望を与えられる奴ってどんなやつだ?」

    御手洗「…え。」

    御手洗の胸の辺りにまた痛みが走る。

    日向「答えてくれよ。どんなやつなんだ?」

    御手洗「ど、どんなやつ…。」

    それはヒーローで、いるだけでみんなを奮い立たせるようなかっこいい存在…。

    日向「俺はさ。幼稚かと思うかもしれないけど、漫画やアニメのようなヒーローみたい奴だって思う。」

    御手洗「…。」

    日向「でも、そういうやつって物語上仕方ないのかもしれないけど、暗い過去があったりするよな。でも、ヒーローってやつはそれを乗り越えて、強くなっていくんだ。」

    御手洗「……。」

    日向「結局、ヒーローだろうが、何だろうが、何が起きても、前を向けるやつっていうのがそういう存在になれるのかもな。」

    御手洗「……。」

    日向「…今のお前はとてもそんな存在には見えないし、これからなるとも思えない。」

    御手洗「なっ……。な、なれるさ…。努力して、頑張って行けばきっと…。」

    日向「クラスメイトにすら前向きに接することができないお前が、人に希望を与える、か。」

    御手洗「なんだよ! 何が言いたいんだよ!!」

    日向「笑わせんなって言いたいな。結局のところ、御手洗。お前は身近な存在であるはずのクラスメイトを怖がってるんだ。まだまともに会ったことすらないクラスメイトをな。」

    御手洗「怖がる…? 僕が…?」

    強がって見せたが、御手洗の脳裏に蘇るのはいじめられていた頃の記憶。

    子供の頃の遠い記憶、しかし、であるがゆえに彼の脳裏に強烈に刻み込まれたトラウマだ。

    そして、そんなトラウマを植え付けてきたのは学校のクラスメイトだった。

    御手洗は気づく。




    クラスメイトに立ち向かうのを怖がっていた自分に。

    そんな自分みたいな人間を助けたくて、自分が助けてもらったようにアニメで救おうとしていたことに。

    目をそらし続けていた自分に。

    気づいてしまえば、いじめられていた頃の自分(トラウマ)が蘇ってしまうから…。




    御手洗「うるさい!!」

    それは果たして日向に言ったのか、自らを見つめ直して、指摘をしてくる存在に言ったのか。

    御手洗「僕は……僕は……。」


    頭を抱える御手洗に日向は手を差し出す。


    日向「俺がお前の友達の…1号はトリスだから2号だ。」



    日向「まずは、お前が怖いと思ってる…心のどこかで思ってしまっている友達って存在が別になんてことはない存在だってことを教えてやる。」


    日向「そうしたら今度は同じクラスの奴らだ。あいつらはたぶんお前の都合とか考えずに遊びに巻き込んでくるような奴らだけど、楽しいやつらだ。決して怖い存在なんかじゃない。」


    日向「……希望っていうのは一人でどうにかするもんじゃない。漫画やアニメだって仲間がいるだろ? …お前にも仲間はいていいんだ。」


    さぁ手を取れと日向が手を差し出すと、御手洗は恐る恐ると言った具合に手を取る。


    御手洗「……僕は…間違ってたのかな…。」

    日向「一人で頑張りすぎだよ。…これからはトリスも俺もいる。俺たちでできることなら手伝うさ。」

    御手洗「……そう…だね。…うん。」



    御手洗は理由のわからない涙を流しながら、今まで感じたことのない温もりを心に広げていた。
  126. 556 : : 2016/12/18(日) 02:02:58
    日向「締切ってやつは実際のところどうなんだ?」

    御手洗「近いよ。寝ずに頑張ってるんだけど、いつもギリギリで…。」

    日向「よし、じゃあ早速だな。俺にできることがあるなら言え。」

    御手洗「…え?」

    日向「友達なんだ。友達が苦しんでたり、困ってたりしたときは手を貸すもんだよ。アニメを作るってことに関しては力になれないかもだから、家事とかやってやろうか?」

    当然のように提案する日向にそんなことを他人に任せるなど考えもしなかった御手洗。

    御手洗(そっか…。頼ってもいいのか…。)

    食事のことを日向に任せてしまえば、自分は作業に集中できる。

    贅沢を言えるならあと一人、作業ができる人間がいれば…。

    と御手洗が考えていると。





    「…二人で随分と盛り上がっているようだね。」


    タイミングよく、トリスが部屋に入ってきた。




    日向「トリス。」

    トリス「その日のうちにどうにかするとは思っていなかったよ。さすが、日向君だ。さて、やっと御手洗君が人に頼ることをしったところで、僕も手伝おう。」

    日向「アニメーターの仕事なんて手伝えるのか?」

    トリス「あらゆる人間に変装するにはあらゆる知識とスキルが必要になる。超高校級と呼ばれるほどの高いものは持っていないけど、御手洗君のサポートをするくらいはできるよ。」

    日向「俺が家事、トリスが御手洗のサポート、御手洗は本作業って感じか。いい感じに役割分担できたな。」

    御手洗「え、っと…あの…。」

    トントン拍子に進む話についていけない御手洗。

    やはり二人に手伝ってもらうなんて申し訳ないなんて思えてきて、断ろうかな、とも思っていた。

    トリス「申し訳ないから断わるなんて言ったら、明日教室に連行するからね。」

    日向「俺たちが手伝いたいって言ってるんだ。お前はそれをありがたく受け取っていればいいんだよ。」

    まだ、人に頼るなんてことに慣れない御手洗であるが、この場で言わなければいけないことはわかっていた。


    御手洗「あ…ありがとう…。」

    感謝の言葉を友達に言う、そんなことがこんなに気恥ずかしく感じるなんて御手洗は今まで知らなかった。



    その後、毎日日向とトリスが放課後に手伝い、御手洗も十分な休息を取りながら作業が行えた。

    むしろ、休息を取ったことにより、作業効率が上がり、いつもなら締切を過ぎるくらいのところでの仕上がりが、見直しをできるくらいの余裕を残していた。


    御手洗(そっか…。僕は…この人たちをずっと怖がっていたんだ…。)

    出来上がった作品を見ながら、御手洗は日向とトリスを盗み見る。

    疲れて突っ伏している日向と壁に寄りかかって眠るトリス。

    こんなに気分が良いのはいつ以来か。

    できるだけ迷惑をかけないようにしたいけど…次に締切がきつくなったらまた助けを呼ぼうかな、と御手洗は思う。


    そう思うと、少しは次の締切のことを考えても嫌な気分ではなくなった。


    御手洗「あ、そうか…。」


    日向の話であった、『前を向く』ってこういうことを言うのか、と御手洗は理解した。


    そのことを理解させてくれた日向とずっと気にかけてくれたトリスに感謝の念を抱きながら、御手洗は心地よい疲れから襲ってくる睡魔に身を委ねて、ゆっくりと机に突っ伏した。
  127. 575 : : 2016/12/21(水) 01:18:18
    御手洗の仕事が終わった次の日の朝。

    日向とトリスは御手洗の部屋に来ていた。

    昨晩、作業が終わった後、眠ってしまった3人は次の日に出直すことになった。

    今後のことについては次の日に、というわけで、学園が始まる少し前の時間に3人は集まったのだ。


    日向「御手洗。さっそくだけど、学園に行くことについてなんだけど…。」

    御手洗「……やっぱりまだ、ちょっと怖いかな…。」

    昨日今日でいきなりやれ、というのも御手洗には辛いだろうし、この回答は予想できていた。

    日向「それならまずは担任の雪染先生に事情を話すっていうのはどうだ?」

    そのためすぐに代替案を口にする。

    トリス「うん、担任がまず事情を把握しておくのは順当だと思う。どうだ、御手洗。」

    御手洗「……そう、だね。…担任って雪染先生って言うんだね…。」

    日向「そこからかよ。」

    その物言いに日向は苦笑するが、学園に一度も行っていないのなら知らないのも無理はないか、と思い直した。

    日向「わかった。セッティングは俺がするよ。トリスも一緒に頼む。」

    トリス「ああ。僕がいないと話がややこしくなるし…覚悟はアニメを作ってる最中に決めたよ。」

    日向「そうか。まぁあいつらなら大丈夫だ。御手洗もトリスも心配するな。」

    転校生の自分を快く迎えてくれた77期生のクラスメイト達。

    御手洗のことも歓迎してくれると確信できる。

    日向「じゃあ、ここに雪染先生を放課後に呼ぶってことでいいか?」

    御手洗「…うん。」

    緊張した面持ちで御手洗は頷いた。



    ~希望ヶ峰学園 職員室~

    始業までにはまだ時間がある。

    そのため、日向とトリスは雪染に話をしに、職員室を訪れていた。


    日向「雪染先生。今大丈夫でしょうか。」

    雪染「あら、日向君と御手洗君。もうすぐ始業だけど…何かしら?」

    トリス「…お話があるんです。それで、そのことについて日向君と僕、そしてもうひとり交えて話をしたいんです。」

    雪染「それはいいけど…御手洗君、何か雰囲気変わったかしら?」

    トリス「……色々あったんですよ。」

    日向「…それじゃあ、放課後にお願いできますか?」

    雪染「ええ。いいわよ。」

    笑顔で雪染は快諾した。
  128. 576 : : 2016/12/21(水) 01:18:51
    ~時間は飛んで放課後~

    日向「さて…。」

    七海「…日向君。今日も忙しい?」

    日向「ああ、七海。なんとか今日で終わらせられそうだ。悪いな、ずっと一緒に帰ってやれなくって…。って、別に約束してたわけじゃないけどさ。」

    七海「…うーん、確かにそうだね。じゃあ、約束しよ?」

    日向「約束?」

    七海「放課後、お互いに用事がないなら一緒に帰る…って。」

    日向「あ、ああ。ここ最近は俺の都合があったけど、何をいまさらって感じの約束だな。」

    七海「じゃあ…はい。」

    日向「…え?」

    七海が差し出したのは自らの右手。

    それは重要ではない。重要なのはその小指のみが立てられていること。

    七海「指きりげんまん…ってやつだよ。」

    日向「何をしたいかはわかるけど…。」

    日向(高校生にもなって恥ずかしいんだが…。)

    七海「子供っぽい…とか思ってる?」ムッ

    日向「いや…その…な。」

    七海「約束を守れる大人になりましょう…とか言うでしょ? だから……ん。」

    日向「……あーもう…!」

    仕方なく、そう、仕方なく気恥ずかしさを押さえ込みながら日向は七海と指きりした。

    七海「ゆーびきーりげーんまーんうーそついたーら……鬼縛りのゲームクリアするー。」

    日向「おい!?」

    七海「ゆーびきったー…!」

    七海「…ふふん」ドヤァ

    日向「針千本じゃないのかよ。なんだ今の。そして、なんでドヤ顔なんだよ。」

    うりうりと七海のほっぺを突く。

    七海「針千本じゃ普通かなって思って、私なりのアレンジを…。」

    日向「かなり一方的に有利な気がするけど…まぁ破らなければいいだけか。」

    七海「そうそう。」

    七海が満足そうならいいか、と日向は思うことにした。


    日向「ああ、さっきも言ったけど、今日でなんとか解決になりそうなんだ。だから今日はまだ一緒に帰れない。…さっそく約束破ったみたいになったな。」

    七海「それは事情があるからいいよ。私もそういう日があるかもしれないし。」

    少しほっとして、日向はカバンを持つと、七海に手を振って、教室を出た。
  129. 577 : : 2016/12/21(水) 01:20:32
    ~ボロアパート~

    教室を出てすぐ、トリスと合流し、職員室で雪染とも合流した日向は御手洗がいるアパートに向かった。


    雪染「うわ~、苦学生がいそうなアパートね。」

    雪染の率直な意見に苦笑する日向とトリス。

    そんな中、雪染を御手洗の部屋に案内する。


    トリス「…雪染先生。ここから先少し驚ろくことが起きると思いますが…、冷静にお願いします。」

    雪染「ふふん、超高校級の生徒たちの担任をしてる私よ。相当なことがないと驚かないわよ~。」



    ~御手洗の部屋~


    雪染「今までの御手洗君は偽物!? 本物はこっち!?」

    案の定驚いた雪染に密かにドッキリが成功したような気分を味わう日向。

    だが、いつまでも驚いていてもらっても困るため、話を先に進めることにした。

    日向「学園側は把握しているそうですが、雪染先生が知らなかったということは…。」

    トリス「超高校級の詐欺師っていう才能が特殊過ぎたんだろうね。僕が次の変装先の相手を御手洗君に指定したから…情報が渡されなかったんだと思う。」

    日向「黄桜さん辺りは知っていそうだな…。」

    雪染「ちょ、ちょっと待ってね…整理するから…。うん、よし。もう少しで由々しき事態になるところだったけど、もう大丈夫よ!」

    トリス「では、話を進めますね。今回、なぜ僕が正体をバラして、御手洗を紹介したかと言うと、彼にも学園に通ってもらいたいからです。」

    雪染「…ふむふむ。なるほど。だから私に予め顔見せしよう、ってことになったわけね。」

    日向(さすが…理解が早い。)

    伊達に希望ヶ峰学園で働いている教師ではない、と日向は見直した。

    雪染「そうすると、あなたは? 超高校級の詐欺師、っていうからには誰かになりすますべきじゃない?」

    トリス「……日向君にトリス、という名前をもらったんですが…そうですね。以前まで十神財閥の御曹司の十神白夜君の姿を借りてたんですが、来年度の新学期に彼が希望ヶ峰学園にい入学することが確定したみたいで…。」

    雪染「それで、御手洗君の姿を借りていたのね。ふむ、超高校級の詐欺師なんだから、変装しないわけにもいかない、わね。どうしましょうか…。」

    トリス「…実は、クラスのみんなには僕の正体を話そうと思います。それで…才能を磨く、という部分については十神君の姿をもう一度借りたいと思います。」

    雪染「…うん。あなたがそう決めたのならそれでいいわ。十神君…については本人が入学したときにまた許可を取りに行きましょう?」

    トリス「…はい。」

    日向「そっちがまとまったのなら、御手洗についてなんですが…。」

    雪染「うーん、転校生みたいにドーン!とみんなの前で自己紹介でもしちゃう?」

    御手洗「そ、そそそんな!? む、無理ですよ!?」

    雪染「何言ってるのよ。自己紹介なんて、これから先いくらでもする機会があるわよ! 恥ずかしがらずにやったらいいのよ!」

    御手洗「あぅ……。」

    日向(…当初の予定と違うが、雪染先生の押しでこのままいけそうだ。ここは…。)

    日向はトリスにアイコンタクトを送り、トリスも意図を察して、頷く。

    トリス「じゃあ、明日迎えに来るから、自己紹介とか考えておくんだぞ?」

    日向「俺も来るからな。」

    御手洗が何かを言っていたが、それをわざと聞かずに、日向とトリス、雪染は御手洗の部屋を出て行った。
  130. 583 : : 2016/12/23(金) 00:28:48
    ~次の日 朝~

    日向とトリスは御手洗のアパート前で立ち往生していた。


    ドンドンドン。


    日向「おーい、御手洗。早く出てこいよー!」

    今まで鍵がかかったことがない御手洗の部屋の扉。

    防犯機能があったことに安心すればいいのかわからないが、日向はとりあえず中で籠城している御手洗に声を掛ける。

    御手洗「や、やっぱり無理だよ! 何を言っていいかわからないし、なんどシミュレーションしても、結局いじめられるルートに入っちゃうよ!」

    日向「どんな想像したら必ず苛められる結果になるんだよ。なぁ、ここで出てこなかったら結局同じ二の舞だと思うぞ。次もまた閉じこもってしまうって。」

    こう日向が説得して、トリスが一言も喋らないのは、今まさに扉の鍵をピッキングしているからである。



    カチカチ…。


    ガチャ


    トリス「開いたな。」

    日向「よし、行くぞ。」


    二人が扉を開くのと御手洗が窓を開くのは同時だった。

    日向「あ、あいつ! 窓から逃げようとしてやがる!」

    トリス「逃がさん!」

    トリスがその体躯からは想像できない機敏な動きで御手洗に迫る。

    逆に御手洗は窓から飛び出たりすることはせず、モタモタとゆっくり降りようとしていた。

    そのため、トリスにあっさりと捕まる。

    御手洗「うわああああ!?」

    トリス「ふむ、制服に着替えている辺り、着替えてから怖くなりこんなことをした、というところか。」

    御手洗「そ、そうだよ! は、離してくれ!」

    トリス「いや、このまま教室まで運ばせてもらう。」

    御手洗「も、もう逃げないから! じ、自分で歩くから!」

    トリス「お前にもう信用はないと思え。では、行くぞ。」

    御手洗「ひ、日向君!?」

    助けを求めるように日向に視線を向けた御手洗だが…。

    日向「よし、じゃあ、さっさと行くか。」


    御手洗は期待した自分を呪った。
  131. 584 : : 2016/12/23(金) 00:34:02
    ~一方教室では…~

    雪染「みんな~。今日は新しく仲間になる子を紹介するわよ!」

    左右田「センセー、日向みたいにまた転科とかしてきたんすかー?」

    雪染「うーん、そういう事情じゃないのよねー。どっちかというと最初からこのクラスの一員だったわけだし。」

    小泉「どういうことですか?」

    雪染「口で説明するよりは本人たちに直接来てもらったほうが早いのよねー。」

    七海「先生。日向君たちは?」

    雪染「その…これから来る子関係でいないんだけど…遅いわねー。」

    雪染がどうしようかしら、と考えていると、教室の扉が開かれる。


    日向「すいません。遅れました。」

    雪染「随分と時間かかったわねー。もう少しでみんなで出向くところだったわよ。」

    日向(本当にやりそうだなこの人…。)

    日向「まぁなんとか連れてきたので…。」

    雪染「そう。それで、今は廊下にいるのかしら?」

    日向「いますよ。もう大丈夫なら、入れますが。」

    雪染「場は温めて置いたわ! さぁ、入ってきていいわよ!」



    ガラ、と入ってきたのは太った男…77期生の者ならクラスメイトとして知っている御手洗亮太であった。



    左右田「…あ? 御手洗?」

    トリス「僕も今回ちょっとした発表はあるけど、本来の主役はこっちだよ。」


    と、トリスが抱えていたものを落とす。

    御手洗「う、うわ!?」


    小泉「え…? えっと…。」

    田中「貴様、御手洗と同じ魔力を纏っている…? 貴様は誰だ。」


    御手洗「え、えっと…僕は…。」


    雪染「はいはーい。色々聞きたいことはあると思うけど、それは2人の話を全部聞いてからにしてあげて。さっ、んー、っとまずは…君から話したほうが整理しやすいかな。」

    トリス「…そうですね。」


    トリスが改めて77期生を見据える。


    トリス「まず……君たちが超高校級のアニメーターだと思っていた僕は御手洗亮太ではなく、本当は超高校級の詐欺師という才能を持った別人なんだ。」


    「………。」


    しばらく沈黙が続いた後。


    「…はぁ!?」


    と、驚きの声が上がった。


    トリス「それで、こっちでおどおどしている彼が本物の御手洗亮太君なんだ。」

    トリスが場を御手洗に明け渡す。


    御手洗「え、あ……。」


    御手洗は口をパクパクとさせて、顔を青くする。


    日向と御手洗が御手洗の肩をポンと叩く


    日向「怖がるな。自信を持て。」

    トリス「君には立派な名前と肩書きがある。僕とは違ってね。」



    二人の言葉を聞いて、御手洗はやっと77期生に向き合うことができた。


    御手洗「ちょ、…超高校級のアニメーター……御手洗亮太…です。ほ、本当は…みんなと同じ時期に入学してるけど…今までは…彼に僕の代わりに通って…もらっていま…した。」



    御手洗「きょ、今日…から…ぼ、僕も! ……学園に通いたいと…思ってます……。」


    そこで黙ってしまった御手洗にトリスが小声で呟く。


    トリス「最後はよろしくお願いします、だ。」

    御手洗「うぅ……よ、よろしくお願い…します…!」


    日向(頑張ったな御手洗。)

    最後まで言い終えた御手洗に日向は素直に賞賛した。


    御手洗の自己紹介とここに来た経緯にしばらく沈黙した77期生。

    しかし、しばらくすると…。

    花村「ふむ、経緯はとりあえず置いといて…僕らに新しい仲間が増えた、ってことでOK?」

    澪田「ひゃっふううう! ということはまたパーティーできるっすね!」

    ソニア「イベントが多くてうれしいです!」

    狛枝「さすがは希望ヶ峰学園だよ。こんなにも希望が誕生する瞬間を目にすることができるだなんて…。日向クンと御手洗クン…おっと、今は違うんだったね、彼のおかげかな?」

    騒がしくなる教室中にアタフタとする御手洗に、日向が声を掛ける。

    日向「みんなお前を歓迎してるんだよ。」


    御手洗「……そっか…。」


    そこでやっと御手洗は安心したように少しだけ笑うことができた。
  132. 589 : : 2016/12/24(土) 01:31:55
    【とにかく音楽がやりたい澪田】

    澪田「創ちゃーん。唯吹とバンドしないっすかー?」

    ある日、澪田が日向に突然そう声をかけてきた。

    日向「いや、俺に楽器の才能はないし…。」

    澪田「そういうことじゃなぁぁあい!っすよ! ただ、唯吹と、軽音を、しないかと、誘って、いるの、です!!」

    言葉を区切るたびに澪田が変なポーズを取るため、さすがに日向も苦笑した。

    日向「今日どんなテンションなんだよ。そうだな…。」

    日向は今まで色々なことに手を出してきたが、音楽関係にも手をだしたことはあった。

    もちろん、弾く側もやったし、作る側もやったが、才能がないとすぐに諦めてしまった。

    だが、楽しむという意味での音楽はしたことはない。

    日向「楽器を少し触ったことはある程度だけど、それでもいいか?」

    澪田「もちのロン! むしろ、初心者の方が軽音の楽しさを伝えやすいっす!」

    日向「…そうだよな。」

    楽しいからやる、というのは日向にとってあまり馴染みがない。

    才能がないならやる意味などないという前提があったためだ。

    心の底から軽音を楽しんで、そして、才能がある澪田に日向は正直羨ましく思った。

    日向「やるとしたら音楽室か?」

    澪田「チッチッチ、唯吹専用のライブハウスがあるんで、そっちに行くっす。」

    日向「さすが、だな。」

    生徒一人に専用の建物を建てるとは、と感嘆しながら、日向は澪田に連れられて、ライブハウスを目指した。


    ~ライブハウス(澪田専用)~

    そこは音楽室の横にある小さな部屋。

    目立つものでドラムがあり、また様々な種類の楽器が棚に収められている。

    日向「って、音楽室のすぐ隣じゃないか。」

    音楽準備室、という言葉が日向の頭に過る。

    澪田「唯吹しか使ってないんで、唯吹専用みたいなもんすよー!」

    日向「それは専用とは言わない。しかし…。」

    音楽室の設備の一部であり、準備室らしく楽器が大量に置かれている。

    しかし、澪田が練習できるようにいじったのか小さな壇上が作られており、日向は澪田が言うライブハウスはここのことか、と悟った。

    日向「まぁ、軽く触るくらいならできそうだな。」

    澪田「うんうん! あ、創ちゃんはやりたい楽器とかー、やりたい楽器とかー、やりたい楽器はあるっすかー?」

    日向「なんで3回言った。そうだな…。じゃあ、これだな。」

    日向が選んだのは棚に複数あったギター。

    音楽の授業や音楽の才能はないかと触ったことがある程度であるが、現状で一番まともなのはギターであると判断した結果だった。

    澪田「ギダァアアアア!!」

    日向「どうしたんだよ?」

    澪田「唯吹の魂が共鳴した…。創ちゃんとその子は出会う運命だったって…!」

    日向「その子…このギターか。大げさな。」

    澪田「そんなことないっすよ! さぁて、じゃあさっそく始めてみよー!」

    日向「といっても、いきなりは無理だろうから、ちょっと練習させてくれ。」

    過去に音楽に手を出したとは言っても、身につくまでやっていたわけではないため、必死に覚えたコードや弾く時の感覚は今では忘れてしまっていた。

    澪田「うんうん。意欲的でケッコーケッコー。じゃあさっそく弾いてみるっす。唯吹は見ててあげるんで!」

    日向はさっそくギターを手に取り、うろ覚えのまま、弾く。

    澪田「うーん…なんというか…中途半端っすね!」

    日向「はっきり言うな。」

    はっきりとした物言いに日向も苦笑する。

    澪田「触ったことがある程度、って話っすけど、できてたりできてなかったり…っすね。」

    日向「まぁしばらくブランクあるからそんなものだろうな。」

    澪田「ちょっと失礼するっすよー?」

    と、澪田が日向の後ろに回り、日向の手を取った。

    ほぼ後ろから抱きつかれているような形である。

    日向「ちょ、お前…!?」

    澪田「あーもう、動かない! …よし、手の形はこう!っすよ。」

    日向ができていなかった部分を澪田が無理やり指の形を作る。

    日向(澪田は真剣だ。ここは集中……。)

    澪田に密着されているが、これは俺のために教えてくれているんだ…と言い聞かせる。

    日向「いや、やっぱり集中できるか!」

    澪田「あーっ! 待てー!」

    そのままなぜか追いかけっこが始まったが、楽しかったのでよしとした澪田であった。
  133. 590 : : 2016/12/24(土) 01:56:13
    【超高校級の詐欺師とクラスメイトたちの談笑】

    御手洗がクラスに加わり、トリスが正体をバラしてしばらく…。

    ようやく、77期生の面々も二人…特に今まで御手洗として投稿していたトリスに慣れ始めていた。


    左右田「しっかし、超高校級の詐欺師って言うから電話とかで金をだまし取るとか、そういうほうを想像してたぜ。」

    トリス「一般的に詐欺って言われるとそういうことを思っちゃうけど、詐欺っていうのは要は相手を騙して、その心や印象を操ることを言うんだよ。その結果として金銭が伴うことが多いってだけでね。」

    田中「つまり貴様はコトダマ使い、というわけか。」

    トリス「僕の場合は少し違うよ。例えばーーー」



    「ふん、俺様は超高校級の飼育委員、田中眼蛇夢だ。ゆけ、破壊神暗黒四天王よ。雑種を翻弄するのだ!」



    田中「…! なんと…!」

    トリス「まぁこんな感じで声と姿を誤魔化して、あとは本人に隠れてもらったら、僕という正体不明な存在がその人に成り代わることができる。…世間を騙す、っていうのは立派な詐欺、だと思う。」

    左右田「うおおおい!? 今のでマジで田中のハムスター来ちまったじゃねえか!」

    田中「…!? 落ち着くのだ四天王たちよ!」


    田中によってなんとか左右田は救出された。


    左右田「ひどい目にあった…。…なぁ、さっきのは田中の声だったけど、他にもできるのか?」

    トリス「他か。そうだな…。」




    「それは違うぞッ! 左右田にも何か犯行をする理由があったはずだ!」




    田中「今度は特異点か。」

    左右田「おいいいい! なんで俺が何かやってる話になってんだああああ!!」

    九頭龍「けっ。くだらねえな。」

    と、3人で盛り上がっているところに九頭龍が話しかける。

    九頭龍「詐欺、とは言っても所詮は声真似にすぎねぇ。それにテメー自身はかなり恰幅だ。わかるやつにはすぐバレちまうだろ。」





    「…九頭龍。あまり人を馬鹿にするのは頂けないな。」



    九頭龍「な!? ペコ……!? 今の…テメーが?」

    トリス「男の声だけしかできないとは言っていないよ。女性にならなきゃいけないこともあるからね。」

    左右田「にしたって、声の幅が広すぎねえか?」

    トリス「じゃないと騙せないからね。」

    左右田「……な、なぁ…そ、ソニアさんの声って…。」

    九頭龍「………。」

    左右田「な、なんだよ…。」

    九頭龍「別に…。」

    九頭龍が呆れ気味に左右田を眺めるのであった。




    「ひかえおろー! 図が高いですわよ!」



    左右田「……うーん、目を閉じれば…いけるッ!?」

    九頭龍「真面目に気持ち悪いからやめろ。」

    クラスメイトとしてさすがに止めざるを得なかった九頭龍だった。
  134. 597 : : 2016/12/25(日) 01:31:55
    【クリスマス特別編 77期生クリスマスパーティー】

    12月24日。世はまさにクリスマス一色である。

    それは77期生でも同じことであった。

    花村「クリスマス! それは聖なる夜であり、また性なる夜でもある素敵な日!」

    小泉「ふん!」

    花村「あぁん!?」

    小泉「全く…。じゃあ、みんな。飲み物は行き渡った?」

    西園寺「ばっちり~!」

    罪木「あ、ありますぅ…。」

    弐大「もっておらんモンはおらんぞおおおおお!!」

    小泉「よし、じゃあ……日向、頼んだわ。」

    日向「ここまで来て俺か。」

    小泉「男なんだから細かいこと言わないの!」

    日向「……あー、まぁじゃあ俺なんかがとは思うが、開始の挨拶をするよ。今日はクリスマスだ。忘年会も兼ねてるけど、俺は今日こうしてみんなと今日をこうやって祝えることをとても嬉しく思ってる。」

    左右田「そういやぁ、今年って日向も入ってきて、それにずっといたとは言え、御手洗とトリスも入ってきたもんなぁ。」

    日向「ああ。きっと少し何かが違っていたらこんな日は来なかったと思うんだ。」

    日向「だから、俺は今日までを支えてくれたみんなと偶然に感謝したいと俺は思う。だから…この乾杯ははその感謝を込める。」



    日向「というわけだ。かんぱーい!」



    「「かんぱーい!!」」




    77期生のクリスマスパーティーが開始された。


    トリス「ふむ、今回は堂々と誘えるね。みんな、大食い勝負しよう。僕に勝ったら代わりにやったほしいこととかあったら代役するか、人を騙す極意とか教えるよ?」

    終里「おっしゃあ、バトルだな!? 受けて立つぜ!」

    弐大「ふむ、たまにゃあこういうのに付き合うのも悪くないのぉ…。」



    ソニア「田中さん、こちらで一緒に頂きましょう?」

    田中「う、うむ…。」

    左右田「……田中ばっかり…。」

    ソニア「左右田さんも。そんなところにいないで頂きましょう。おいしそうですよ。」

    左右田「そ、ソニアさん…はい!喜んで!」



    九頭龍「…なんとか今年も無事にって感じだな。」

    辺古山「そうですね。…菜摘様も一時期予備学科で騒ぎがありましたが、落ち着いたようですし。」

    九頭龍「…本当、手がかかるぜ。…ここにいないで、あいつらと騒いでこいよ。」

    辺古山「いえ。私は」

    九頭龍「…ここでの関係はチャラ、って言ったよな?」

    辺古山「そうではありません。」

    九頭龍「?」

    辺古山「私が、私自身がここにいたいと思っているのです。」

    九頭龍「…けっ、勝手にしろ。」

    そう呟く九頭龍の頬は少し赤くなっていた。


    罪木「おいしいですねー。」

    西園寺「うっさいゲロブタ! アンタに言われなくても美味しいのはわかってんだよ!」

    罪木「ぶぇぇぇえん、余計なことを言ってごめんなざああああい!!」

    小泉「結局、あなたたちはずっと変わらなかったわね…。」

    西園寺「…ふん、ずっとこのまんまだよ。きっと」

    罪木「わ、私はぁ…できればもっと優しく…。」

    西園寺「はぁ!?」

    罪木「ひぅ、ご、ごめんなさぁい。ぬ、脱げば許してくれますかぁ?」

    西園寺「もう!そんなんだから……」

    何か言いかけたところで、西園寺は言葉を詰まらせる。

    小泉「はぁ…蜜柑ちゃんに対して、照れ隠しでひどいこと言う癖、どうにかならないかな…。」

    西園寺の母親のような悩みを持つ小泉だった。



    澪田「ギダアアアア! テンション上がってきたんで、ここで1曲行きたいと思いまーす! なお、演出担当は亮太ちゃんでーす!」

    御手洗「あはは…どうも。」

    左右田「アニメーターが演出とかできんのか?」

    御手洗「人を洗脳できるくらい澪田さんの演奏を魅力的にしてみせるよ。」

    左右田「こええこと言うなよ!?」

    西園寺「えー、そういうことなら私は踊るー!」

    澪田「じゃーじゃー…和一ちゃんはベースね!」

    左右田「触ったこともねえのに弾けるか!」

    澪田「そこでひっそりとしてる凪斗ちゃんはーーー! トライアングル!」

    狛枝「アハハ、気配を消してたんだけど…まぁご指名とあれば頑張るよ。ボクごときにできるかな。」
  135. 598 : : 2016/12/25(日) 01:36:53


    左右田「オレとは難易度が桁違いに簡単だと思うぞ。」

    花村「ふぅ、やっと料理を全部運び終わったぁ…。」

    澪田「輝々ちゃんいいところに! 輝々ちゃんはーー……カスタネット!」

    花村「よくわからないけど…僕をカスタネットの如く叩いてくれるっていう話でいいかい?」

    左右田「んなわけねーだろ!!」


    教室のいたるところで騒ぐ77期生。

    それを眺める者達が2組いた。


    逆蔵「ったく…これのために休みを取らされる身にもなれっての。」

    雪染「ふふ、それで休みを取ってあげるなんて逆蔵君、優しいわね。」

    逆蔵「あんなに頼まれたら仕方ねーだろ…。」

    雪染(昔だったら絶対に引き受けてなかったでしょうね。)

    宗像絶対主義と言ってもいい逆蔵が、一度短期間担任を務めただけの子供たちのために行動する、それは雪染からすれば驚くべき変化だ。

    そして、良い変化だとも思う。

    この親友が人として、大人として、良い方向に向いていると思えるから。

    雪染「ふふふ。」

    逆蔵「何笑ってやがる。」

    雪染「別にー?」

    不機嫌そうな逆蔵と楽しそうな雪染。二人は談笑しながらパーティーを過ごす。



    そして、それとは別にもうひと組。

    日向「…今年は色んなことがあったな。」

    七海「…んー、そうだね。…どれも日向君が中心にいた気がする。」

    日向「そんなことないぞ。俺が関わることがあったとしても、俺が原因だったことはない…はずだ。」

    七海「…そういうことじゃないんだけど…。」

    このクラスに日向が転科してきてから、クラスにすぐ溶け込み、クラスメイトたちが日向を頼る姿、一緒に遊ぶ姿、色々な場面を見てきた。

    そして、七海からすればクラスメイトたちと仲良くなりすぎて、クラスの中心を担っているように見えた。

    それは、嬉しいと同時に少し寂しいことでもあった。

    日向「どうした?」

    七海「…んーん。なんでも。」

    日向「そんな顔はしてなかったけど…。まぁいいか。」

    しばらく沈黙が続く。

    しかし、決して居心地が悪い沈黙ではない。

    日向「…七海。」

    七海「…なぁに?」

    日向「ありがとうな。」

    七海「…突然どうしたの?」

    日向「七海がいなかったら俺はこんな…楽しくやれていなかったと思う。七海が才能に固執してた俺を論破してくれていなかったら、俺は…腐っていたと思う。」

    七海「そんなこと…。」

    日向「だから……改めてお礼を言いたくなったんだよ。」

    七海「…んー、何かした気はしないけど…どういたしまして?」

    日向「ああ。」



    二人で静かに過ごしているのを見ている集団がいた。

    澪田「…やっぱりあの二人って付き合ってるんすかね?」ヒソヒソ

    罪木「どうなんでしょう…? お互いのことはすごい信頼してると思いますぅ…。」

    小泉「そうよね…。なんというか、入り込ませないような雰囲気は感じるわよね。」

    西園寺「おにぃは私の奴隷なのにー…。」

    ソニア「これが女子会というやつですね!」

    辺古山「少し違うと思うぞ?」


    結局結論はでないままだった。



    花村「さぁさぁ、じゃあ今回のメインイベント!!」

    小泉「何? そんなのあったの?」

    罪木「そんな準備していましたっけぇ…?」


    皆が疑問に思う中、花村がガラガラと何かを運んでくる。


    花村「さぁ! 女子のみんな、このミニスカサンタコスに着替え」

    辺古山「天誅!」

    花村「はぶらっ!?」


    小泉「…さっ、片付けを始めちゃいましょ。」

    七海「んー、でも可愛い服だし、あとで女子だけで着るっていうのはどうかな?」

    小泉「ちょっとそれは」

    澪田「いいっすねー! あとでコスプレ大会っす!」

    罪木「うゆ…わ、私なんかが着ても…。」


    花村「むしろ、罪木さんに着ていただいた方が!」ガバッ


    辺古山「トドメ!」

    花村「ブルバッ!?」


    その後、二次会ならぬ、女子会が開かれ、ミニスカサンタのコスプレ大会が行なわれた。
  136. 603 : : 2016/12/25(日) 19:12:47
    【クリスマス特別編 クリスマスパーティーその後】

    ~コスプレ女子会 別室~

    澪田「ひゃっふー! サンタさんっすよー!」

    七海「おー、やっぱりかわいいね。」

    小泉「……なんで各人のピッタリのサイズなのかしら。衣装に名前まで書いてあったし…。」

    西園寺「私のまである…花村おにぃ、きもっ…。」

    罪木「で、でも、こうやって皆さんで一緒に着るなんて楽しいですぅ…。」

    辺古山「……私にはやはり似合わないな。」

    澪田「んなことないっすよ。むしろ、エロエロっすよ。」ビシッ

    ソニア「それにしても、やはり、男性の方はいらっしゃらなくて良かったです。」

    ソニアはスカートの丈を気にして、少し抑えた。

    小泉「確かに、男子達がいやらしい目で見てきそうだね。」

    七海「んー…せっかくだし、日向君に見せてこよっと。」

    小泉「あ、ちょっと」

    澪田「なら唯吹は御手洗ちゃんとトリスちゃんに見せてくるっすー!」

    ソニア「わたくしも田中さんに。」

    小泉「女子だけでこっそりやった意味!? ちょ、ちょっと待って…。」




    一方、パーティーの片付けが終わった男性陣は教室でのんびりと雑談していた。

    そこに…女性陣がやってくる。

    七海「日向くーん。」

    日向「ん? なな…み!?」

    七海「…ね? どうかな?」

    日向「どうかなっておまっ…。」


    澪田「御手洗ちゃんにトリスちゃーん!」

    御手洗「え?」

    トリス「むっ?」

    澪田「どうっすか? 唯吹のサンタ衣装!」

    御手洗「え、えっと…に、似合ってるよ?」

    トリス「ムグムグ…右に同じく。」

    澪田「反応が薄い! もっと若いパッションを発揮して!」



    ソニア「田中さーん。」

    左右田「そ、ソニアさん!?」

    田中「……。」(唖然)

    ソニア「さっきのサンタ衣装を着てみました。どうですか?」

    左右田「似合っていますよ、ソニアさん!」

    田中「……ふっ、かの伝説の老人と同じ真紅の衣に包まれたか。だが、それによって魔力を増幅させようとも、扱えなければ無意味。簡単に俺様を御せると思うな!」

    ソニア「…田中さん? 似合っていませんか…?」


    困り顔+上目遣い+胸ちら


    田中「グハッ!」

    田中は倒れた。


    左右田「た、田中ああああああ!! くそっ! そばで見ていた俺ですら危うかったのに、まともに食らっちまうなんて…! なんてうらやま…いや、しっかりしろ!」

    田中「ぐっ…圧で俺を圧倒するとは…ソニアよ…。なかなか…。」

    ソニア「……似合ってるって言って欲しかったのですが…。」



    小泉「お、遅かった…。」

    罪木「ふぇぇぇ、大変なことに…!」

    西園寺「いつも通りじゃないこれ?」



    辺古山「ぼ、坊ちゃん…。」

    九頭龍「んな!? なんて格好してんだお前!?」

    辺古山「こ、ここでは坊ちゃんとの関係はチャラで、それで私自身がこれを着たいと思ったからでせっかくなので感想をいただこうと…」ブツブツ

    九頭龍「お、おい、何言ってんだ。」

    辺古山「そ、それで…ど、どうですか。」

    九頭龍「ど、どう…って。」

    辺古山は期待の眼差しを送る。

    九頭龍「……ってる…。」

    九頭龍は小声で言ったが、辺古山には聞こえていた。

    辺古山「……。」パァ

    九頭龍「…さっさと着替えて来い!」

    苦し紛れに九頭龍は辺古山に怒鳴った。




    その後、満足した女子達が帰るまでこの騒動は続いた。


    ちょうど厨房に行っていて、その現場を見れなかった花村が本気で悔しそうに床を叩いた。
  137. 604 : : 2016/12/25(日) 19:15:17

    ~おまけ~

    逆蔵「……。」

    逆蔵はパーティーもその片付けも終わったことで、さっさと教室を去っていた。

    ずっと残っていると次々と面倒事に巻き込まれかねないからだ。

    しかし、すぐそばの空き教室を通りかかると、聞いたことのある声が聞こえたため、その教室を覗き込んでみると…。



    雪染「…うん、私もまだ大丈夫。こういうの着たら痛いかと思ったけど、意外といける。うん。」



    鏡を前にミニスカサンタコスを着てポーズを取る雪染がそこにいた。

    逆蔵「ふっ…。」

    逆蔵は何も言わずに、その場を去ることにした。





    ちなみに、その空き教室、女子達が着替えに使った部屋である。

    女子達が戻ってきて、雪染と鉢合わせするまであと5分…。
  138. 614 : : 2016/12/26(月) 23:47:03
    【辺古山の報告書】


    定期連絡報告書。

    辺古山が学園について、九頭龍組に定期的に送る報告書で、九頭龍組にとって大事な2人の周囲に不穏な気配がないか、また、その近辺の人間関係、特筆するべき出来事があれば記入していく。

    その報告書を辺古山は記入していた。



    ---周辺状況報告書---


    坊ちゃんについて。

    超高校級の相談窓口、日向創が予備学科から本科に転科。

    実際に話してみたところ、坊ちゃんとの関係は良好。また、不穏分子である様子は見られない。

    お嬢について。

    予備学科での友人は最近までいなかった模様。

    しかし、最近になって、以前まで諍いを起こしていた相手と親しく話しているところを見かけた。

    聞いてみたところ、先述の日向創が絡んでいるらしいが、詳細は不明(詳細について問うても答えず)。

    最近は(くだん)の日向創がいる相談室に居座っていることが多いようである。

    --------

    そこに恋愛感情があるかは不明、と書こうとして、辺古山は思いとどまった。

    辺古山「…適当なことを書くと、お嬢や日向に迷惑がかかりそうだな。」

    辺古山が想像できることであれば、九頭龍組の誰かが学園まで来て、日向に接触。

    しようとして、希望ヶ峰学園の警備に引っかかり、ひと悶着。

    坊ちゃんか自分が仲裁に入ったとして、日向に接触すれば結局良い結果はもたらさない気がする。

    辺古山「…やはりお嬢と日向に話を聞くか。本当にそう・・ならいいが、違った場合は面倒なことになるからな。」




    辺古山「と、いうわけで、お嬢。日向のことはどう思っているのです?」

    菜摘「は、はぁ? な、なんで日向のことなんて聞くのよ?」

    辺古山「最近、日向がいる相談室に入り浸っていることは知っています。そのことについて、日向のことが好きなのか、どうかを聞いておきたいのです。」

    菜摘「そ、そんなことペコちゃんには関係ないじゃん!」

    辺古山「いいえ、関係あります。大切なお嬢に関わることです。それに、ここでお嬢の気持ちを確認するのはお二人のためでもあります。」

    菜摘「……ぐっ…。」

    菜摘は辺古山には関係ない、と言いながら、辺古山がなぜここに来ているかはわかっている。

    才能を認められていない自分でも極道の娘だ。

    ここで日向のことを好きだなんだの話になって、話が進んでいくと、極道の娘と付き合う覚悟があんのか!? と父親が出張ってきて、日向にドスを突きつけるような展開になるような気がする。

    まだ、友人として好きかと言えば、好きであるが、異性としてと問われると疑問がある。

    そんな状態で日向に迷惑をかけられない。

    が、ここで素直に自分の気持ちを吐露するなど恥ずかしいというのとプライドから許されない。



    菜摘「…じゃあ、ペコちゃん。ペコちゃんはお兄ちゃんのことどう思ってるの?」

    そこで、辺古山を攻めることでうやむやにする作戦を思いつく。

    辺古山「大切なお方です。この命を賭けてもお守りすべきお人です。」

    菜摘「違う。それって、九頭龍組とかお兄ちゃんの護衛とかそういう視点から語ってるでしょ。ペコちゃんの個人としての感情はどうなの?」

    辺古山「同じ答えですよ。辺古山ペコ個人としても、九頭龍冬彦というお方は命を賭けても守りたいほど大切な人です。」
  139. 615 : : 2016/12/26(月) 23:47:20
    菜摘「…ぐっ…。」

    なんで真顔でこんな堂々と気持ちが言えるのよ!、と自分と辺古山の差に絶望しかけるがが、まだ諦めるには早いと奮い立たせた。


    菜摘「あーもー! じゃあ、好きなの? 嫌いなの? 異性として!」

    辺古山「…親愛の情は持っていますが、異性としてなど…私ごときが恐れ多いですよ。」

    菜摘「そんな身分とかそういう話は聞いてない! ペコちゃんが今、どう思ってるのかを聞いてるの!」

    このあたりで菜摘は作戦のことなど忘れて、ずっと素直にならない兄と目の前の幼馴染のことしか考えていない。

    辺古山は少し顎に手を当てて、少し考え込む。

    辺古山「………坊ちゃんは魅力的な男性です。私も坊ちゃんには惹かれるものはあります。しかし…私では…。」

    菜摘「……はぁ、もう、お兄ちゃんは奥手なんだから、ペコちゃんから行ってくれればって思ってたのに…。ペコちゃんがこれじゃあなぁ…。ああ、もう今回はいいよ。」

    菜摘はブツブツとつぶやきながら、その場を立ち去ろうとする。

    ガツ と、菜摘の手を辺古山は掴んだ。

    辺古山「それで、お嬢は日向のことはどう思っているんです?」

    菜摘(誤魔化せなかったー!)

    辺古山「私と坊ちゃんのことを心配してくださるお嬢の気持ちは大変嬉しいです。しかし、今はお嬢と日向のことです。」

    菜摘「あ…うぅ…。」

    逃げられそうにない、というか、辺古山の目が絶対に逃がさないと言っている。

    菜摘「……こ、こういうのってさ、もっと女子会とかで聞くとか…。」

    辺古山「そんな暇はありません。さぁ。」

    菜摘「………うっ…ぐっ…。」

    辺古山「…お嬢?」

    菜摘「うっ…うぇ……うぅぅ…。」

    辺古山「お、お嬢!? どうされました!? あ、痛かったのですか!?」

    慌てて手を離すも、菜摘は泣き止むことはない。

    言いたくない気持ちと逃れられない状況が限界に達して、ついに涙が溢れてきた。

    こんな子供みたいに泣くのは彼女のプライド的にも許されないが、そんなことを考えている余裕もない。


    辺古山「わ、分かりました。もう聞きませんから。だから泣きやんでください。」

    菜摘「……ぐすん…。ほんとう…?」

    辺古山「は、はい…。」

    焦ってアタフタとする辺古山と内心で勝った、と思う菜摘。

    感情があふれて泣いてしまったが、難を逃れたことで勝ったと思っていた。


    実際は日向への感情が言えない時点で、特別な何かを抱いていることは確定であり、人前で泣くという点も彼女の普段の行いから考えると完全に負けであることに気づくのは冷静になってからである。
  140. 616 : : 2016/12/26(月) 23:47:34
    菜摘に話を聞けなかった辺古山は次に日向の元を訪ねた。

    だが、一応辺古山は九頭龍組との関わりを秘匿にしている。

    そのため、菜摘のことを直接尋ねるわけにはいかないため、抽象的な質問をすることになる。

    辺古山「それで、日向。お前は最近、好きな者や気になっている相手はいるのか?」

    日向「ぶっ!? な、なんでそんなことを聞いてくるんだよ…。」

    飲んでいた紅茶を吹き出しそうになりながら聞き返す日向。

    確かにいきなり訪ねてきて、普段そんな話もしない人物にこんな話題をかけられれば、不審にも思うだろう。

    どう言い訳したものかと考えていると、以前に九頭龍のことは言っていないが、自分が護衛をしているなどの話はしていたことを思い出した。

    それに絡めて話をすれば誤魔化せると考えた。

    辺古山「…私が以前、ある方の護衛や周辺状況の調査をしていることは話したな?」

    日向「…あー、そんな話もあったっけ。…それが何の関係が?」

    辺古山「詳しくは言えない。が、お前に好きな者がいるかいないかで、この先の展開が変わる。」

    日向「なんだよそれ…。」

    なんでそんな回答を間違えたらバッドエンドみたいな話になっているんだ、と七海とやった恋愛ゲームのようだと場違いなことを考えながら、日向は回答を考える。


    日向「…いや、友人として親しくしてる人はいるけど、異性として、って言われるといない。」

    辺古山「そうか。」

    辺古山は少なくとも日向から菜摘に大して特別な感情は抱いていないと判断した。

    辺古山「迷惑をかけた。ではな。」

    とあっさりと辺古山は相談室から出て行った。




    -------周辺状況報告書--------

    (追記)友人としての親愛の情はあるようだが、恋愛感情はない模様。

    この先どうなるかはわからないため、引き続き両者の観察と報告は続けていく。

    ----------------------

    ここまで書き終えて、辺古山はため息を吐いた。

    実際のところ、こんな報告書は書きたくない。

    日向のことは坊ちゃんの様子やクラスメイトとして接していて信用できるとはわかっているが、万が一間違いがあってからでは遅い。

    辺古山「……ふぅ、弱気になっている場合ではないな。…素振りでもするか。」

    報告書を封筒に入れ、辺古山は素振りをするために武道場へと足を運んだ。
  141. 627 : : 2016/12/28(水) 19:57:27
    【御手洗亮太制作 77期生PV】

    御手洗「PV…ですか?」

    雪染「そうよ。」

    クラスに馴染み始めてしばらくしたある日。

    御手洗は雪染に呼び出されていた。

    雪染「毎年、外部向けに超高校級の学生のことを取りまとめたPVを作るんだけど、いつもはそれを希望ヶ峰学園と提携してる会社に依頼するんだけど、今年はあなたがいるから、任せてみたらどうかなってね。」

    御手洗「いやいやいや…僕にそんな…。」

    雪染「今回そのPVを希望ヶ峰学園に提出することで才能として認めてもらえるけど…。」

    御手洗「うぅ…で、でも、まだクラスメイトのことにあんまり詳しくないし…。」

    雪染「あら、これを機会に仲良くなったらいいじゃない。」

    御手洗「そ、そんなすぐに仲良くなれるなら苦労は…。」

    雪染「あ、それなら…。」


    雪染は閃いたとばかりに手を叩いたが、御手洗は嫌な予感しかしなかった。


    そして、結局御手洗は断りきれずに希望ヶ峰学園のPVを作ることになってしまった。


    ~相談室~


    日向「…で、ここに?」

    御手洗「…うん。ごめんね。」

    日向「いや、訳は聞いたけど…。俺がいたら解決する話じゃないと思うけどな。」

    雪染が提案したのは日向を頼ることだ。

    クラスメイトとよく話をして、相談にもよく乗っている日向ならクラスメイトのことも詳しいということ、そして、仮に情報が足りないなら日向を経由すれば情報が簡単に集まるのではないか、ということだ。

    日向からすれば、過大評価のしすぎだ、と声を荒らげているところである。

    御手洗「最近になって教室に顔を出し始めた僕なんかがPVだなんて…。彼らからしたら生意気、とか思われるんじゃって…。」

    日向「それは絶対にないから安心しろ。そうだな…。まずは昨年までのPVがどんなものなのかを見たほうがよくないか?」

    御手洗「…それもそうだね。」

    日向「まぁそっちは御手洗が個人的に見るなりしてもらうとして…行くか。御手洗。」

    御手洗「行くってどこへ…?」

    日向「みんなのところにだよ。」

    御手洗「みんな…ってクラスの?」

    日向「超高校級を宣伝するんだ。みんなのことを知らないと話にならないしな。」

    御手洗「そ、そういう話だったけど…。」

    日向「なんだ?」

    御手洗「ぼ、僕はまだみんなとそんなに仲良くないし…。」

    日向「あー…ったく、ここでウジウジしてたって仲良くなれないぞ! それに、PVだって作れない! いいから行くぞ!」

    御手洗「ああ、待って! ちょっと! 心の準備を…!」


    嫌がる御手洗を連れて、日向は他の77期生の元へと向かった。
  142. 628 : : 2016/12/28(水) 20:00:49
    日向「ってことで、みんな、協力してやってくれ。」

    御手洗「よ、よろしく…。」

    御手洗を連れた日向は教室に戻り、77期生の前で説明をした。

    いきなり御手洗に壇上に立って説明をするのはハードルが高いだろうから、日向が代わりに行ったのだった。


    小泉「はぁ、全く。男なんだから、しゃんとしなさいよね。本来ならアンタが説明しないといけないんだからね。」

    御手洗「うぅ…本当に面目ない…。」

    西園寺「ぷーくすくす。御手洗おにぃってアリよりも潰しやすそうだよねー。」

    御手洗「僕はアリ以下の存在…。」

    日向「おいやめてやれ。説明するとなると、まだ辛いだろうから俺がしたんだけどな。じゃあ、各個人に話を聞くのは御手洗が頑張ってやってくれ。」

    御手洗「えぇ!?」

    日向「いやいや、これ以上俺がやって、どうするんだよ…。」

    御手洗「うぅ…わ、わかったよ…。頑張る…。」



    その後、77期生の各人に話を聞いた御手洗はPVの作成に取り掛かった。


    御手洗「どうせなら、みんな格好良く見えたほうがいいよね。」

    御手洗「それに希望ヶ峰学園の宣伝をするようなものだし、希望ヶ峰学園はすごいって感じにしないと。」

    御手洗「あの効果とあの演出を使って…。」



    御手洗は自身の才能と知識を最大に使って、PVを完成させたのであった。




    PVを公開した後日、御手洗は雪染に呼び出されていた。

    雪染「なんだか、PVを公開してから希望ヶ峰学園への入学希望や問い合わせがすごい増えたのだけど…。」

    御手洗「えっと…見た人の希望ヶ峰学園への憧れが強まるようにちょっとした意識改変が起きるようにしました。」

    雪染「それって、洗脳とも言わない?」

    御手洗「…そうともいいますね。」

    雪染「学園長! 学園長!!」


    その後、PVは非公開になり、関係者(別名被害者)各位への対処へと追われることになる。
  143. 635 : : 2016/12/30(金) 00:40:26
    【課外授業】

    日向「学園外に出てみろ…?」

    雪染「ええ。超高校級の相談窓口、っていう才能の可能性を広げるために、一度、外でも活動してみたらいいと思うの。」

    日向「確かに学内だけで相談事を請け負っていても、相談内容にも偏りが出るでしょうし…。」

    雪染「そういうこと。思春期真っ盛りの学生の相談内容なんて、恋愛ばっかりでしょうし。」

    日向「ひどい偏見ですよそれは。」

    雪染「そう? まぁそれで、日向君さえよければ、希望ヶ峰学園と提携してる病院とか、相談センターとか、そういった場所に打診するわよ?」

    日向「そうですね…。せっかくの機会ですし、よろしくお願いします。」

    雪染「そう。日向君が前向きで嬉しいわ。じゃあ、日付とかは後日伝えるわね。」

    日向「はい。」

    こうして、日向が超高校級として初めて、外の世界へと踏み出すことになるのだった。



    雪染が話を持ちかけた次の日、雪染から連絡があり、日向が外部に出る日にちが決まった。

    客観的に言えば、学生の職場体験のようなものだが、超高校級の学生が通う希望ヶ峰学園からの生徒を受け入れたいという企業、組織は山ほどいる。

    超高校級の相談窓口というネームバリューだけで了承をもらえ、その中から雪染が選択した形で決まった。



    七海「ふーん、じゃあ、その日は日向君いないんだね。」

    日向「その日から、な。3日ほどいないから、一緒に帰るっていうのは無理だ。」

    七海「…うん。外部での活動、頑張ってね。」

    日向「…思ったけど、俺も大概学園内に閉じこもってるけど、七海もこもってるよな?」

    七海「…私はたまに近所のゲームセンターでランキング1位独占とかしてる…よ?」

    日向「外部活動…?」

    いや、ランキング1位独占も難しいけども、と思いながらも自分と七海の差に釈然としない日向だった。

    ~それから1週間~

    あっという間に予定の日付になった。


    日向「えーっと……ここだよな。」


    日向が来たのは希望ヶ峰学園と提携している病院である。

    その病院の一部に併設されている心理カウンセリングで日向は世話になることになっている。

    日向「日向創です。希望ヶ峰学園からきました。」


    その日から病院での生活が始まった。

    学生がしてくる相談とは毛色が違い、初めは戸惑った日向も数件こなしていく内に慣れて、的確にアドバイスができるようになった。

    そして、病院での生活に慣れてきた2日目。


    日向は予定していたカウンセリングの仕事が終わったため、病院内を歩いていた。

    診療時間外であれば、病院内の立ち入り禁止区域以外は出歩いても良いことになっている。

    と、言っても用もないのに病室に入るなどはせず、せいぜい共用スペースを覗くくらいだ。


    日向(ふぅ、暇、だな。)

    「わっ、ととと…!?」


    ガラガラ…とモノが落ちる音が響く。

    日向が目を向けると自販機で買ったであろう飲み物を落としている少年がいた。


    日向「よっと、ほら。」

    「あ、ありがとうございます。」

    その少年は小柄で、学生服にパーカーを着ている。

    中性的な顔付きと頭にアンテナのような尖ったクセ毛が徳用的だった。


    日向「学生か? こんな時間なのに、ここにいるってことは患者か?」

    「あ、いえ。ボクじゃなくて、妹が…。」

    日向「妹か。…その飲み物、妹に頼まれたモノか?」

    「あ、そうです。すいません。妹が待ってるので行きます。ありがとうございました。」


    少年は感謝の言葉を述べてからその場を去っていった。
  144. 636 : : 2016/12/30(金) 00:41:35
    次の日。

    その日のノルマが終わり、昨日同様に病院内をうろつく日向。

    学園から迎えが来る予定であり、その時間までの暇つぶしだった。


    「あ…。」

    日向「ん? ああ、昨日の。」

    「昨日はありがとうございました。」

    日向「俺は缶ジュースを拾っただけだ。大したことはしてないよ。」

    「そう、ですね。これ以上は言いません。」

    「そういえば、日向さんはボクの名前を知りませんよね?」

    日向「なんで俺の名前…ああ。名札か。まぁ自己紹介もしてないのもなんだか気持ち悪いからお互い自己紹介と行くか。」

    「はい。じゃあ、ボクから。」

    苗木「ボクの名前は苗木誠です。高校1年です。」

    日向「俺の名前は日向創。…俺も1年、だな。」

    希望ヶ峰学園では現役の高校生であれば、スカウトするため、例えば高校3年生であっても、スカウトされれば1年生からの編入になる。

    感覚としては高校生1年ではないが、学校の所属的には1年生であるため、少し言いよどんでしまった。

    苗木「あ、同級なんだね。じゃあ、敬語とか気にしなくても大丈夫かな?」

    日向「ああ。話しやすい話し方でいいぞ。俺は最初からこれだけどな。ただ、俺と苗木は同級、というわけではないと思う。」

    苗木「え? どういうこと?」

    日向「…まぁその辺色々特殊なんだよ。」

    苗木「…そっかぁ…。」

    苗木が何かを察したような表情をしている。

    日向(留年したとでも思われたか…?)

    まぁ実害はないからいいか、と日向は思うことにした。


    日向「今日も妹の見舞いか? というか、お前の妹は…。」

    苗木「あ、うん。お見舞いだけど、別に重症ってわけじゃないよ。ただ、足を捻って、検査入院になっただけなんだ。ボクは妹にこき使われてるだけ、だよ。あはは…。」

    日向「大変だな。」

    苗木「…そういえば、日向クンは誰かのお見舞い? 昨日もいたよね。」

    日向「いや、俺は……。」



    ピンポンパンポーン

    『日向創様。お迎えが来ております。至急受付までいらっしゃいますようお願いいたします。』


    日向「…時間みたいだ。悪いな、苗木。」

    苗木「あ、いや…ボクも楽しかったよ。」

    日向「じゃあな、苗木。また会えたらいいな。」

    そう言って二人は別れた。

    日向(なんだろう、苗木ってそこらにいるような奴に見えるけど…不思議なやつだな。)

    日向は苗木をちらと最後に見て、迎えが待っている受付へと向かった。




    苗木(学生服だったけど、もしかして偉い人とかだったのかな…?)

    そんな人に馴れ馴れしく話をしちゃったどうしよう…と苗木は悶々と頭を悩ませるのだった。




    ~翌日 希望ヶ峰学園 教室~

    七海「外での活動はどうだった?」

    日向「あー……新しく友達ができたよ。」

    苗木とはまたいつか会えたらいいなと思う日向だった。
  145. 654 : : 2017/01/01(日) 03:17:51
    【年越し特別回 77期生年越し】

    寮の一角、談話スペースにて、77期生は集まっていた。

    七海「……じゃあ、今年もありがとうございました………あと何言えばいいかな?」

    日向「おい。かんぱーいとかでいいんじゃないか?」

    七海「…うん。じゃあ、かんぱーい…?」

    日向「言い切れよ。」

    「「かんぱーい!」」


    12月31日。

    77期生は年明け前に集まって一緒に過ごしていた。

    と言っても、食事は終わっているため、軽食とジュースであとは各々思い思いにゲームをしたり雑談をしたりである。


    西園寺「うー! ジョーカー引いたら許さないんだから!」

    九頭龍「くっ…。負けらんねぇ…! 九頭龍の名に掛けて…!」

    トリス「それ、今言うの…?」

    御手洗「なんでもいいけど、早く引こうよ…。」

    ある一角ではババ抜き。



    終里「うんめぇ! 花村のもうめぇけど、日向のもうめぇ!」


    花村「くっ、僕はお菓子職人じゃないけど、日向君とお菓子の腕が同じとみられるのは悔しいなぁ…。」

    日向「お互いその道のプロじゃないし、料理だと叶わないんだから、勘弁してくれ。じゃあ、この草餅は全部食べていいぞ。」

    終里「マジか!」

    花村「うーん、なるほど。日向君はアレを入れてるのか…。」

    お菓子を食べ続ける終里とその横で考察をする花村。

    「美味しいものだと!?」ガタッ

    「ちょ、ちょっと! 君の番だから!」

    どこかからそんな声が聞こえてきたが、終里は構わず食べ続けた。


    辺古山「ふむ、やはり剣士ということで選んでみたが、そううまくいかないな。」

    七海「まぁゲームだし、2Dだし……。」

    辺古山「そうだな。やはり、継続的な鍛錬がないと、か。」

    七海「んー、そんな話じゃないんだけど…。」

    ソニア「むむむ…やはり、少し練習した程度では七海さんには対抗できませんね…。」

    田中「ふっ、付け焼刃など切れない刃と同じよ。研ぎ続けなければ、七海に届くものにはならないだろう。」

    左右田「もう普通に練習あるのみ、って言えよお前…。」

    ソニア「やはり、練習あるのみ、ですか。ふふ、もっと楽しめるように頑張らないとですね! 田中さん、左右田さん、よければご一緒にどうですか?」

    左右田「やります!ぜひともやらせて頂きます!」

    田中「ふっ、いいだろう。我が技を見るがいい!」



    澪田「うーん、こういう場では演奏したくてウズウズするっす…。」

    罪木「で、でも許可が降りなかったんですよね…。」

    澪田「むっきゃああああ! なんで寮の管理人はこのパッションが理解できないんすかねー!?」

    弐大「単純に騒がしくするなっちゅうやつじゃろう。演奏なんてすれば、寝ようとしてる他の連中に迷惑じゃからなぁ。」

    澪田「むぐぐぐぐ……唯吹は諦めない!」



    狛枝「ボクごときが呼んでもらえるだなんて、光栄だなぁ。」

    日向「毎度思うけど、ずっとお前は自分のことを卑下し続けたな。」

    狛枝「そりゃそうさ。ここにいる彼らと比べてボクなんてゴミクズみたいな才能しか持っていないんだ。」

    日向「お前の幸運も大概だと思うけどな。」

    狛枝「ボクの才能とみんなの希望を比べるなんて…。」

    日向「あーもうわかったって。だけど、いくらお前がゴミクズだろうが、お前は77期の仲間だ。つまり、お前がゴミクズってことは77期生はゴミクズがいるクラスになるんだ。だから、あんまり卑下するなよ。」

    狛枝「…あはっ、そんなつもりはなかったけど、そっか。うん、それは困るね。じゃあ今度から思うだけにするよ。」

    日向「それもやめてほしいんだがな…。まぁいい。これでも食え。」

    狛枝「日向クンが作ったお菓子かい? 嬉しいなぁ。」

    よくわからないやつだが、こんな奴でも友人。

    その友人が笑っている姿を見て、日向は嬉しく思うのだった。
  146. 655 : : 2017/01/01(日) 03:18:14
    【年明け特別編 77期生の初詣】

    年が明けて、みんなで新年の挨拶もしたところで、七海が思いついたように手を叩く。

    七海「あ、みんなで初詣にも行こうよ。」

    日向「ああ、いいな。せっかくみんないるし、ちょうどいい。都合が悪い奴とかいるか…?」

    その声に歓迎の声は聞こえど、否定的な意見はなかった。


    七海「んー…せっかくだし、振袖。着よっか。」

    小泉「そうね。せっかくだし…でも、持ってない人もいるんじゃない?」

    七海「あっ、確かに。」

    西園寺「あっ、それなら私が持ってるよー。いろんなサイズがあるからみんなの分もあると思う。」

    七海「それじゃあ、女子みんな着替えに行こうか。」

    ソニア「ジャパニーズ着物ですね!」

    澪田「せっかくなんで髪飾りとかお化粧とかしちゃうっすよ!」

    罪木「お、終里さぁん、行きますよぉ…。」

    終里「むぐっ!? むぐむぐー…。」

    お菓子を食いながら終里は引きずられていった。



    日向「じゃあ、男子は各々寒いだろうから準備してからまたここに集合な。」

    日向がそう声を掛けたことで男子も部屋へと一度戻ることになった。



    ~2時間後~


    七海「お待たせ~。」

    左右田「こんな時間かかるもん………。」

    遅い、とツッコミを入れようと思っていた左右田は思わず目の前の光景に硬直した。

    それは他の男子陣も同じである。


    女子はそれぞれ違う色の着物を着ている。例えば、七海であれば桃色、辺古山であれば黒に近い灰色である。

    そして、髪飾りをつけるために髪をまとめており、普段とは少し雰囲気が違う。

    また、薄い化粧をなされており、元々美人ぞろいの女子の魅力を更に引き立てていた。


    日向「みんな見違えたな。すごい綺麗だ。」

    弐大「おう、綺麗どころが揃っとんのう!」

    花村「あぁん! 二人に先を越された! 僕が一番にほめるはずだったのに!」

    他の男子陣はその声に我に返り、視線を逸らした。



    七海「じゃあ、行こっか。」

    少し微笑む七海の表情も今日は大人びて見えた。

  147. 656 : : 2017/01/01(日) 03:18:18
    ~神社~

    皆揃って神社へと向かい、お参りをする。


    澪田「あ、おみくじやろうっす!」

    西園寺「あ、待ってよー。」

    罪木「待ってくださぁああい!」


    辺古山「坊ちゃんは何をお願いされたのです?」

    九頭龍「…大したことじゃねぇよ。」

    辺古山「大したことでない、ことが大切なことだと私は思います。」

    九頭龍「…そういうオメーは何を願ったんだ。」

    辺古山「大したことじゃありませんよ。」

    九頭龍「…意趣返しのつもりか?」

    辺古山「本当にそうだから、ですよ。お答えしますと、坊ちゃんとこのクラスが今年も平和に楽しく過ごせるように、ですよ。」

    九頭龍「…けっ、本当に…平凡な願いだな。」

    辺古山「でも、大切なことですよ。」

    二人は騒ぐクラスメイトたちを眺めながら話を続けた。



    日向「七海は何をお願いしたんだ?」

    七海「んー、今年も面白い面白くないに関わらず、沢山のゲームに出会えますように。」

    日向「七海らしいな。」

    七海「あと、みんなと仲良く今年も過ごせますように、っていうのと……。」

    日向「っていうのと?」

    七海「…なんでもない。」

    日向「気になる言い方だな。」

    七海「むぅ…そういう日向君はどうしたの?」

    日向「これからももっと俺が力になってやれる人に出会えるように、だな。」

    七海「…うん、日向君らしいね。」

    日向「そうか?」

    苦笑する日向に隠れるように七海は顔を逸らす。

    七海(もっと仲良くなりたい…っていうのはいらなかったかな…?)

    今なら、頬が赤いのも化粧のせいにできる、とポジティブに七海は考えた。




    西園寺「むぅ…小吉…。」

    罪木「わ、私は中吉ですぅ…。」

    西園寺「……勝ったと思うんじゃないよ!」

    罪木「ええええええ!?」

    小泉「おみくじに勝ち負けはないわよ…。」

    狛枝「おみくじ、みんなどうだったんだい?」

    西園寺「見ての通りだけど…あっ、おにぃって超高校級の幸運だよね? じゃあ、ここでも絶対大吉くらい出せるよね? そんなしょっぼい幸運じゃないよねー?」クスクス

    狛枝「うーん、どうだろうね。やってはみるけど…。」



    狛枝がおみくじを引いた結果、小吉を引き当てる。



    西園寺「…ちっ、大凶とか出したら笑ってやろうと思ったのに…。でもでも、小吉だなんてびみょーで、そんなので幸運なんて名乗れるのー?」クスクス


    狛枝「ここで小吉、か。良くも悪くもなく、だね。ここで、大吉だったら帰り道で車にひかれてたりしたかもね。」

    小泉「新年早々、不吉なこというんじゃないわよ…。」



    思い思いに初詣を楽しんだ77期生はその後ワイワイと騒がしくしながら希望ヶ峰学園へと戻っていった。
  148. 663 : : 2017/01/04(水) 03:10:00
    【カメラに写る彼】


    小泉真昼。

    超高校級の写真家としてこれまで多くの写真を撮ってきたが、その多くには人の笑顔が収められている。

    小泉はつい最近撮り始めた77期生の写真を眺める。


    以前までだったら、せいぜい女子の写真くらいしか撮らなかったが、ここ最近では男子の写真も撮るようになっていた。


    小泉「これは……左右田と田中が漫才やって、ソニアちゃんが笑ってる…。こっちは、日向たちがゲームをやって、笑顔はないけど、楽しそう。」

    写真の1枚1枚、その全てに思い出があり、小泉はそれをこうして整理する時間を大切にしている。


    小泉「あ、これってパーティーのときの写真。あ、逆蔵先生の笑顔…レアね。」


    小泉「…あ。」


    いくつもある写真の中、ある1枚に目を奪われる。

    その写真はたくさんあるパーティーの風景の写真。

    確か、日向が壁に寄りかかって、教室を眺めている様子を撮ったものだ。

    大笑いしているわけではない。

    ただ、静かに微笑んでいる写真だ。


    小泉「……日向、か。」


    他の男子とは少し違い、クラス内では常識的な部類の男子だ。

    だらしがない男子…ではないが、時々スキがある。

    でも、そんなところも彼の魅力であると思う。


    小泉「…魅力ってなによ。」


    日向はただのクラスメイト。特別な何かはない。

    小泉「うん。そんなはずはない。」


    日向のことを考えると、少し鼓動が早くなるけど、これはただ……ただ…?

    小泉「ただ…何よ。」

    自問自答しても、明確な回答は出てこない。




    小泉「…他の写真見よ…。」


    結論も出そうにないため、小泉は次の写真をめくることにした。
  149. 674 : : 2017/01/20(金) 01:38:52
    いつもの時間に起きて、いつもの時間に学園に行く。

    そして、いつものように……。



    日向「あれは…狛枝か?」


    教室に向かおうとしていた日向は、廊下で見覚えのある白髪を見つけた。

    日向「何やってるんだ狛枝。」

    狛枝「ん…? ああ、日向クン。いやね、さっき500円を拾ったんだけどさ…。」

    日向「へぇ、まぁラッキーって感じだな。さすが幸運だな。」

    狛枝「………。」

    日向「どうした?」

    狛枝「いや…今のところ何も起きないし、本当にただの幸運ってことで済んだのかな、ってね。」

    日向「どういう意味だ?」

    狛枝「うーん、説明しづらいんだけど…。おっと…。」

    狛枝が手に持っていた500円玉を落とし…。



    罪木「あ、日向さん、狛枝さぁああああああ!!?」


    その転がった500円玉を罪木が踏み…


    罪木「ひゃあああああ!?」


    日向と狛枝の近くにあったロッカーに激突した。



    ガコン!



    日向「え?」

    衝撃によって、開かれたロッカーから掃除用具が日向に倒れこむ。

    日向「うおわあああ!?」


    狛枝「罪木さん!? 日向クン!?」


    結果として、罪木は下着を露出させる形で転け、日向は掃除道具に押しつぶされてしまっていた。



    ~保健室~

    罪木「た、大した怪我はないようですぅ…。よ、よかったぁ…。」

    日向「まぁ、当たってちょっと痛かったけど、そりゃあそうだよな。」

    狛枝「ご、ごめんね、二人とも…。ボクのせいで…。」

    日向「いや、全部偶然だろ? お前のせいじゃないさ。」

    罪木「そ、そうですぅ、狛枝さんのせいじゃないですよぉ…。わ、わたしがドジだっただけでぇ…。」

    狛枝「いや、これは、ボクのせいだよ。500円を拾うという幸運の代わりに二人が怪我したのさ…。」

    日向「そこにどんな因果関係があるんだよ…。」

    狛枝「…ボク如きのせいで、キミたちが怪我をさせるだなんて…この命を持っても償いきれないよ…。」

    日向「どんだけネガティブになってるんだよ。」

    珍しく落ち込む狛枝にどうしたものかと考える日向。

    日向「狛枝、お前が言っていることはよくわかってないけど、とにかく、500円を拾う代わりに俺と罪木に不幸が降りかかった、って言うんだな?」

    狛枝「うん…。」

    日向「そうか、なら、俺はそれを嬉しく思うぞ。」

    狛枝「……? どういうことかな?」

    日向「お前にとって俺と罪木が傷つくことは不幸なこと。つまり、お前にとって俺たちは大切な存在、ってことだ。失って欲しくない存在ってことだろ? 俺はそれが知れて嬉しいと思う。」


    狛枝「日向クン…。」

    日向「幸運、不運だなんて些細なことだ。大事なのは結果的に互いにどう思えるか、ってことだと思う。…だから、気にするな。今回のことは俺にとってマイナスなことじゃなくてプラスなんだからな。」



    狛枝「……ははっ…やっぱりキミはすごいよ。ボクの…ボクたちの希望だよ。」

    狛枝もいつもの不敵な笑みを浮かべながら日向に笑いかけた。
  150. 681 : : 2017/01/22(日) 06:36:58
    【和菓子検定】

    相談の際に出す和菓子の研究も怠らずに行う日向。

    草餅がメインであるが、たまには別のものをといろいろなものに手を出していた。

    今日は試しにもなかを作っていた。

    日向「…ふむ。及第点、だな。」

    西園寺「へー、じゃあ、味見してあげる!」

    ひょい、と日向の側から手が伸びてきて、もなかが持ち去られる。

    日向「あ、おい…って、西園寺? いつの間に。」

    西園寺「えへへ…私の奴隷こと、日向おにいがお菓子作ってるって聞いて、食べてみたくって来たんだー。」

    日向「…奴隷じゃないが、まぁいいか。食ったら感想聞かせてくれ。」

    西園寺「美味しくなかったらプチプチの刑だよー?」

    日向「軽快な感じの割にえぐそうな刑だな…。」

    一人旋律する日向を無視して、西園寺がモナカを一口食べる。

    西園寺「……うぇ…。」

    日向「え、まずかったか…?」

    西園寺「……別にまずくはないけど…点数をつけるなら30点、って感じ。」

    日向「結構厳しいな。」

    西園寺「それなりに多く食べてるからね。具体的に言うなら、美味しそうと思って試しに食べてみたけど、もう一度は食べようとは思わない、って感じ。……ふん、なーんか期待外れだったなー。じゃあね。」

    勝手に入ってきて、勝手に和菓子の評価をされた日向。

    色々と思うことはあるが、とりあえず…。


    日向「…今までいろんなお菓子を食べてる西園寺をうならせるのは難しいだろう…。けど……30点は覆したいな…。」

    極めて冷静を保ちながら西園寺をうならせるお菓子を作って見せると、決意した日向だった。


    ~数日後~

    日向「西園寺!」

    西園寺「んー? あっ、誰かと思ったら奴隷の日向おにぃじゃん。何か用?」

    日向「これ、食ってみてくれ。」

    日向が持ってきたのは、この前西園寺が食べたもなか。

    西園寺「…えー、この前はたまたま食べたけどぉ…。」

    日向「…お前のために試行錯誤した。まずかったらそれ以上食べなくて構わない。だから…頼む。」

    西園寺「……一口だけだよ。」

    渋々と言った感じで西園寺は、もなかを口にした。


    西園寺「……40点。」

    日向「くっ…やっぱり数日じゃあ足りないか…。」

    西園寺「……でも、一応改良はしたみたいだね。」

    日向「ああ、お前に評価をもらってから色々とな…。まだ改良の余地があるのはわかった。ありがとうな。」

    日向がもなかを片付けようと皿を下げようとしたが、西園寺はもう一口食べた。

    日向「西園寺?」

    西園寺「…ふん、努力は認めてあげる。」

    結局、西園寺は日向が作ったもなかを食べきった。

    西園寺「あー、まずかった! グミで口直ししよっと!」

    日向「…ありがとな。」

    西園寺「あーもう! わかったからさっさとどっか行け!」


    その後、たまに日向が西園寺に和菓子を献上する姿を見て、クラスメイト達に「日向は本当に奴隷になってしまったのか…?」と疑われてしまうことを日向は知らない…。
  151. 689 : : 2017/01/24(火) 01:18:07
    【左右田のレベルアップ】

    日向「…で、相談事ってソニア関係か?」

    左右田「お前! 俺がソニアさんのことしか考えてねえと思ってんだろ!」

    日向「ああ、そうだ。」

    左右田「即答すんな!」

    日向「で、相談事ってなんなんだ?」

    左右田「……ソニアさん関係だよ。」

    日向「合ってるじゃないか。」

    左右田「うっせうっせ! いいから本題にはいらせろ!」

    日向「からかいすぎたよ。悪かったって。」

    苦笑しながら日向が謝ることで、やっと左右田は相談事を話し始めた。
  152. 690 : : 2017/01/24(火) 01:19:13
    左右田「前にお前に相談したことでよぉ、相手のことを知るっつーのをやってみてたんだが…。」

    日向「そういえば、あれから随分と経ったな。」

    左右田「ああ。んで、俺なりに頑張って調べてきたことをメモしてんだが…どこまで行けば相手のことを知った、ってことになるのかって思って…。」

    日向「ああ…まぁそういうことに基準はないとは思うけど…。あ、じゃあ、俺がたぶんこれくらいは知っておいてもいいかな、っていう内容の質問するからそれに答えられたらOKってことにしないか?」

    左右田「そうだな。そうすっか。よっしゃ! 来い!」

    日向「じゃあ、まず、相手の好きなもの、ことは?」

    左右田「日本の文化とか結構好きみてーだ。あとは…オカルトとか…そういうのが好きらしいな。」

    日向「好きな食べ物、逆に嫌いな食べ物は?」

    左右田「特にこれっつーのはねーんじゃねえか? 逆にこの前知ったんだが、梅干が苦手らしい。」

    日向「あとはそうだな…そいつが一番仲がいい人は? 友達って意味でな。」

    左右田「……一番一緒に過ごしてる時間って意味じゃあ田中だな。ああ、友達だ。友達に決まってる。女子んだと、七海や澪田辺りと話してんのをよく見るな。」

    日向「そんな強く否定しなくても…。なんだ、結構調べてるんだな。」

    左右田「…俺は…ソニアさんの外面ばっか見て、内面のことを全く見てなかったって気づいちまったからな。んなもん、ソニアさんに相手にされねえに決まってるし、何より失礼だからな。」

    日向「左右田…。」

    日向は左右田が成長している様子が見れて、嬉しく思った。

    自分が相談に乗って、左右田の力になれたんだと…。


    日向「まだ、色々書いてるみたいだけど、何が書いてあるんだ?」

    左右田「ん? あー、色々あっけど、ソニアさんはぼんやりしてたり、天然なところがあったりすっけど、結構自分に厳しいとか…。」

    日向「あー、確かにそんなところあるな。」

    左右田「あとは、最近通学路の途中で野良猫が出るらしくって、そいつに放課後くらいに餌上げてるとか。」

    日向「……。」

    左右田「あと、田中と一緒にいるときに田中のハムスターを何回見たとか、田中のことを何回見たとか…そんなことくらいしか書いてねえぞ?」

    左右田はレベルアップしたのだ。ある意味。

    日向「……左右田。」

    左右田「ん?」

    日向「お前がやってることは……ストーカー…に近いぞ。」

    左右田「ばっかオメー。別にソニアさんを追い回したりしてねえって。気づいたり、見かけたりした時に様子をメモってるだけだ。だから、俺はストーカーなんていう変態じゃねえ。」

    ドヤ顔でそう言い放つ左右田。

    日向(普段の様子をメモするという時点でなぁ…。)

    日向「とりあえず、そういうことをメモするのはやめておけ。特に回数なんかは一番まずい。」

    左右田「そうかぁ? まぁ、日向がそう言うんなら…。」

    日向「もう十分調査はできてるみたいだし、自分なりのアピールとか思いつくんじゃないのか?」

    左右田「や、全く。」

    日向「堂々と言うなよ…。じゃあ、やっぱり日本文化関係が攻めやすいんじゃないか?」

    左右田「やっぱそうか…。うっし、俺なりに考えてみるぜ。サンキューな日向!」

    そう言って、笑顔で左右田は相談室を出て行った。




    後日。今度はソニアが相談室へとやってきた。

    ソニア「あの…左右田さんが最近おかしくって…。これを渡されたのですが…。」

    手渡されたのはこけし。しかも、左右田が改造したのか、ボタンがあり、ボタンを押すとこけしの目の部分がチカチカと光る。

    日向「……。」

    日向(なんでそうなった…!!)

    心の中で全力で左右田に突っ込んだ日向だった。
  153. 695 : : 2017/01/26(木) 02:27:52
    【ある日の商店街】

    日向は和菓子の材料を買うために、近くの商店街に来ていた。

    日向「ん…? あれは…。」



    終里「んめぇ! おっさん! これうめえぞ!」

    弐大「食うこともトレーニングじゃ。さぁ、この商店街の店の食べもん全部食うつもりでいくぞおおおおお!!」

    終里「おう!」

    屋台に出ている料理を次々と食べていく終里と弐大。


    日向「何やってんだあいつら…。って…あっちには…。」




    「うっわ…完封された……。」

    「くっそつええ…、何者なんだあの子…。」

    対戦ゲームをプレイしてる学生の集団、その対面には見覚えのある猫のパーカーを着た女生徒がいた。

    七海「…ねみぃ…。」



    日向「なんというか、大人げないな…。…って、あの目立つ集団は…。」



    田中「いざ参るぞ、戦場へ!」

    左右田「こんな人が多いところでもいつも通りなのかよお前! あ、すいません。何でもないんで!」

    ソニア「ふふ、お出かけ楽しいですね。」

    いつも通りな田中と楽しそうなソニア、そして、周囲にペコペコ謝りながらツッコミを入れる左右田。


    日向「服装や雰囲気も相まってかなり目立つな…。っと、さっさと買い物を済ませるか。」

    その場から移動して、希望ヶ峰学園に通うようになってから行くようになったお菓子屋に行く。


    ~お菓子屋店内~

    日向「さて、色々買い込んで研究を………。」

    カゴを持って選ぼうとした矢先、見知った声が聞こえてきた。



    「いひひ、罪木。こっちとこっち、どっちがいいものと思うー?」

    「ふ、ふぇ!? え、えっと、えとえとえと……! ご、ごめんなざぁあああいわからないでしゅうううう!!」

    「えー? どっちがいいものかだなんて一目瞭然なのになー?」

    「ちょ、ちょっと! 営業妨害になるから!」



    日向「…気のせいだろう。さっさと買い物済ますか。」

    足早に欲しいものをカゴに入れていき、日向はさっさとお菓子屋を出て行った。


    ~商店街 帰り道~


    日向「ふぅ、なんだか見知ったやつばっかりいる気がするな…。」

    やれやれ、と日向が音楽屋の前を通り過ぎると、ジャーンと、ギターの音が聞こえてくる。


    「いい音っすねー! きゃー! こりゃテンション上がってくるぅ! もう歌うしかない! 聞いてください。『君に届け』!」

    「お客さん! や、やめてくださーーー」


    ギャーン、と音楽屋から楽器の音と悲鳴が聞こえてきたが日向はスルーした。



    寮に戻ってきた日向はお菓子の材料を部屋に置く。

    日向「……個性的でかなり変な奴らが多いけど、意外と外に出てるんだなあいつら…。」

    気のせいとスルーした者たちもいたが、彼らが引きこもりではなかったことに日向は、謎の安堵を覚えた。
  154. 708 : : 2017/01/30(月) 01:53:17
    いつものように学園に来て、相談室で書類の整理をしていた日向。

    そんな中、相談室を訪れる者がいた。


    菜摘「……。」

    日向「…菜摘? どうしたんだ?」

    入ってきたのは九頭龍菜摘。

    日向のクラスメイトで、超高校級の極道、九頭龍冬彦の妹だ。

    いつもは明るい彼女がなぜか今日は暗くなっている。

    いや、何か不満を押さえ込んでいるという感じだ。

    菜摘「……。」

    日向「どうしたんだ? 黙ってちゃわからないんだが。」

    だんだん子供がむくれているようにしか見えなくなってきたが、日向は菜摘の返事を待った。

    菜摘「……日向が…悪く言われてて…。」

    日向「は…? 何のことだ?」

    菜摘「…最近になって、予備学科で日向のこと、悪く言ってる人がいるの。」

    日向「……俺が…予備学科から本科に上がったから…か。」

    菜摘「…うん。自分たちと同じなのに、あいつだけ、とか。特別扱いされてる、とか…。日向が金や脅しで本科に上がったとか、根も葉もないことまで…。」

    日向「……それで…お前が暗くなっている理由は?」

    菜摘「………日向のことを悪く言われて明るくなれってほうが無理。」

    菜摘はぷいっと拗ねたように顔を逸らした。

    日向「そう思ってくれるのはありがたいよ。それで、何か実害は出てるのか?」

    菜摘「……私が満足できなくって、言い合いになるくらい…。」

    日向「…はぁ、俺のために言ってくれるのはありがたいけど、お前がそこで矢面に立つ必要はないよ。今のところ俺に実害はないしな。お前のほうも無視すれば、何もないんだから、言わせておけ。」

    菜摘「……うん。」

    しかし、菜摘の表情が晴れることはない。

    日向「まだ何か気になることが?」

    菜摘「………私も…同じことしてたんだな…って。」

    日向「同じこと?」

    菜摘「小泉さんやサトウさんに…ね。内容ややってることは違うけど、同レベルなことをしてたんだな、って思ったらなんか……落ち込んじゃって…。」

    日向「人の振り見て我が振り直せってやつだな。まぁ、お前の場合もう直ってたんだけど。」

    菜摘「…はぁ! もう! こんなの私らしくない!」

    パン! と頬を勢いよく叩いた菜摘はいつも通り元気に笑った。

    菜摘「日向! お茶とお菓子頂戴!」

    日向「図々しいな! まぁ…。」

    日向(俺のことを思って色々悩んでくれたみたいだし、いいか。)

    そう思って、日向は菜摘にお茶と草餅を出してやるのだった。
  155. 712 : : 2017/02/01(水) 01:59:05
    放課後。

    授業も終わり、相談事の予定もないため、日向は七海と一緒に寮への帰路に着いていた。

    七海「うーん、久しぶりにレトロなゲームをやると逆に新鮮になれるね。」

    日向「俺にはわからない感覚だな。……ん?」

    ふと、日向が後ろを振り返る。

    しかし、いつもの通学路がそこにあるだけで、特に気になるものはない。

    七海「…? どうかしたの?」

    日向「いや、なんか……。気のせいだろう。行こうか。」

    何かを感じたが、これといった確信はなかったため、日向は気のせいだろうと判断した。
  156. 713 : : 2017/02/01(水) 02:23:38
    ~翌日 放課後~

    その日、日向は相談窓口の仕事があり、少し帰る時間が遅れていた。

    そのため、七海にも先に帰ってもらっていた。

    日向「…? 誰だ?」

    「…本科に上がれたからもう元クラスメイトのことなんてどうでもいいってか。さすが、天才ってやつは違う。」

    立ちふさがったのは希望ヶ峰学園の予備学科が着る制服を身につけている男だった。

    その男は日向をこれでもかと睨みつける。

    日向「…何の用だ? 急いでいるんだが。」

    「悲しいことを言うなよ。元クラスメイト同士、談笑でもしようぜ?」

    あざ笑うように男に日向は目の前の男が自分に明らかな悪意があることを感じ取った。

    日向「俺に何か用があるなら聞くけど、ないなら行かせてもらうぞ?」

    「せっかちだな。まぁいい。なぁ超高校級の相談窓口様よ。どうやったら本科に上がれるんだ?」

    日向「…努力しろ。それか、いろんなことにチャレンジして、自分の才能を見つけろ。」

    相手が悪意を持っていることがわかったからか、日向は無意識のうちに口調をきつくしていた。

    「ははっ。さすが、天才が言うことは違うね。努力をすれば必ず叶うとか、恐れずチャレンジとか簡単に言えちゃうんだからな。」

    日向「……。」

    日向(俺も、あっち側だったんだよな…。)

    才能を求めて、才能に僻んで、才能を憎んで…。


    日向「…俺もつい最近までお前と同じだった。俺とお前で違うことなんてそうないはずだ。」

    「……あーあ…時間稼ぎとは言え、ホント……腹が立つ野郎だ…。」

    日向「…? 時間稼ぎ?」

    「そろそろいいかな? 日向創。本科に上がってから随分とうまく立ち回って充実した学園生活ってやつを送ってるみたいだけどさ。悪いんだけど、退学してくんね?」

    日向「…は?」

    「だからさ、自主的に学園を退学しろ、って言ってるんだよ。」

    日向「なんでそんなことを…!」

    「そう言うよな。んで、お決まりだけど、お前の彼女、傷つけられてもいいの?」

    日向「…は? 彼女? そんな人…。」

    いない、と答えようとして、言いとどまる。

    日向(こいつが誰かのことを俺の彼女と勘違いしてる…。そいつが傷つけられても、ということは身柄を拘束されてる…?)

    日向「…普通に犯罪なんだが、いいのか?」

    「いいよいいよ。どうせ、俺が才能を認められて本科に、なんて未来は来ないんだ。でもさぁ…俺と同じところにいた奴が上手くいってる姿なんて見てるとさ…。道連れにしたくなってもおかしくないよな…。」

    日向(それが動機か。…俺の彼女と勘違いされるやつ……。クラスメイトの女子の可能性が高いが、確証は持てないな。)

    日向「俺が断るとか考えないのか?」

    「それなら、超高校級の相談窓口様は彼女を見捨てる卑劣なやつってわけさ。痛み分けってことで、それはそれでいい。

    「…この携帯のコール一つでお前の彼女に危害が加わるようになってる。」

    日向(仲間がいる? それとも、トラップのような仕掛け…。)

    「さっさとさぁ。希望ヶ峰学園を退学するって言ってくれよ。お前の彼女を傷つけられたくないならな。」

    日向(さっき言ってた時間稼ぎ、そして俺の彼女という存在、自滅覚悟の脅迫…。)

    日向「…俺の彼女とやらを捕まえてるなりしてる写真とかはないのか?」

    「あいにくね。でもさぁ、そっちのほうがお前の不安を煽れるだろ? 誰のことなのか、クラスメイト? もしかしたら関係のない人? とかってさ。」

    男はニヤニヤしているが、日向は男がハッタリで自分を脅迫しているのだと思った。

    日向「…物証がないのにそんなこと言えるか。答えは『断わる』だ。」

    「……了解だ。」ピッ

    男が携帯のコールボタンを押す。

    「終わりさ。今から俺の仲間がお前の彼女にまぁ色々しちゃうわけだ。」

    日向「ハッタリはやめろ。物証もないのに交渉が成立するわけないだろう。」

    と、そこで男は携帯の画面をこちらに向ける。

    そこには、盗撮されたであろう七海千秋の写真だった。

    「これは今現在の七海千秋の写真だ。商店街のゲームセンターにいるみたいだな。確認してみたらどうだ?」

    日向「……。」
  157. 714 : : 2017/02/01(水) 02:27:01
    日向は携帯を取り出し、七海に連絡を取る。

    ピッという電子音の後に悲鳴や怒号が聞こえてくる。

    日向「もしもし、七海…? 七海…?」

    肝心の七海からは返事はなく、そのまま電話は切られてしまった。


    「さっきのコールで、七海千秋を襲う手はずになってたんだよ。」

    日向「お…まえ……!」

    「こんなところにいないで、さっさと助けに行ったほうがいいんじゃない?」

    日向「くっ…!」

    日向は携帯で七海に連絡を取り続けながら商店街へと向かった走り出した。



    ~商店街~


    商店街は時々悲鳴が聞こえてくるほど騒ぎになっていた。

    恐らく、あの男のように後先のことを考えていない者が考えなしに七海を襲いだしたのだろう。

    七海も無抵抗ではないだろうが、卓越した運動能力を持っているわけではない。

    集団に襲われれば抵抗できないだろう。

    日向「七海…!」


    七海がいるゲームセンターは行ったことがある。

    そこに向かって一心不乱に走って行き、たどり着くと…。



    倒れ伏す複数の男たち。

    その先には…。

    辺古山「……また、つまらないものを斬ってしまったな。」

    クラスメイトの辺古山ペコがいた。

    日向「辺古山!?」

    辺古山「日向か。どうした、こんなところで。」

    日向「こっちのセリフだ! 何やってるんだよ!」

    辺古山「今日は小泉たちと商店街のお菓子屋に行っていたのだが、私だけ別行動を取ってな。偶然七海を見かけて声をかけたら、こいつらに襲われたんだ。」

    日向「それで、排除した…と。七海は…。」

    日向が七海を探すと、七海は座り込んで何かを見つめているようだった。

    日向「七海? 無事か?」

    七海「無事じゃないよ……。携帯壊れちゃった…。」

    日向「え?」

    七海「あぁ…携帯ゲームのデータが…。」

    日向「……。」

    こんな時までゲームか…と呆れを感じたが、それ以上に安心したという気持ちが日向の中で勝る。

    日向「さっき電話を掛けたんだが、その時どうしたんだ?」

    七海「日向君だったの? 辺古山さんとそこの人たちが戦い出したタイミングで、慌てて携帯を取り出して…落としちゃったんだよね。それで誰かに思いっきり踏まれちゃったみたい。」

    日向「それで応答がなかったのか。」

    何はともあれ、七海はこうして無事だった。

    なら、あの男は…。

    日向「辺古山、悪いけど、七海を頼む。一緒に寮まで帰ってやってくれ。」

    辺古山「構わないが、日向は?」

    日向「俺はちょっと用事がある。じゃあな!」

    無理やり話を打ち切って、日向は再び学園へと戻った。




    しかし、日向がいくら探しても、脅迫をかけてきた男は見つからなかった。

    雪染に相談して調査をしたが、最終的にわかったことは、その男は学園を退学した後だったということだ。

    日向「何がやりたかったんだ、あいつは…。」

    道連れ、とか言っていたが、今となっては違う気がする。

    モヤモヤとした感覚を残したが、わからないものは仕方がないと、日向はこの事件のことを忘れることにした。
  158. 741 : : 2017/02/05(日) 22:30:06
    【直球ストレートど真ん中】

    七海「ねぇ日向君。」

    それは、いつものように過ごしていたある日のこと。

    日向「なんだ?」

    七海「……えっと…。」

    日向「? 言いづらいことか?」

    七海「んー……言いづらいというか…ちょっと恥ずかしい…かな?」

    日向「ますますわからないな。」

    七海「えっと……言うよ?」

    日向(七海がここまで渋るとは…一体何を…。)


    七海「私のこと…好き?」


    日向「………は!?」


    七海「間違えた。私のことどう思ってる?」

    少し赤面しながら七海は慌てて訂正した。

    日向「えっと……。」

    相手に心臓の音が聞こえるのではないかというほど、日向は緊張していた。

    七海もいつもの無表情を貫いているが、顔の赤面は隠せていないし、日向と同じような状態になっていた。

    七海「えっと……わ、私ってどう思われてるのかなって…き、気になって…。」

    言葉が途切れとぎれになり、言い訳にもなっていない。

    逆に日向は、七海が動揺している様子を見て、次第に冷静になっていた。

    日向「……どういう意図かはわからないけど、七海のことは大事な存在だよ。俺に才能がなくってもやっていけるって教えてくれた人だし、一緒にいて楽しいしな。」

    七海「……う、うん。えっと…ご、ごめんね。こんなこと、急に聞いて…。」

    日向「いや、七海もそうやって照れることもあるんだなってわかって嬉しいよ。」

    七海「…むぅ…からかってない?」

    日向「そんなことはないぞ。」

    否定の言葉を口にしていたが、いたずらっ子のような笑みは全く隠せていなかった。



    左右田「…あいつら、あれで付き合ってねえんだもんな。…くっそ、ソニアさんとああいう会話がしてぇ…。」

    九頭龍「……全く想像できねえな。」

    左右田「うっせう……ぐぅぅ…オレも想像できねえ!」

    教室の隅では左右田が悶絶していた。
  159. 756 : : 2017/02/08(水) 00:00:22
    【ドキッ!幸運の散歩】

    朝早く目が覚めた日向は、何となく寮の周辺を散歩していた。

    その途中で、見覚えのある白髪の男を見かけたため、声を掛けた。

    日向「狛枝じゃないか。どうしたんだ?」

    狛枝「やぁ、日向クン。たまたま早く目覚めちゃったから散歩してたんだ。日向クンこそどうしたの?」

    日向「俺もそんなところだ。一緒にどうだ?」

    狛枝「…なんてことだろうね。日向クンと一緒に散歩できる幸運に見舞われるなんて……。」

    日向「大げさだ。いいってことでいいな?」

    狛枝「断わるなんて選択肢、最初からないよ!」

    と、妙にテンションの高い狛枝と一緒に散歩をすることになった。


    ~5分後~

    狛枝「あ、猫だよ日向クン。」

    日向「本当だ。野良猫か?」

    二人が見ていると、猫は二人に近寄り、足にすりすりと体をこすりつける。

    狛枝「人懐っこい猫だね。もしかしたら飼われてるのかもね。」

    日向「ああ。」

    狛枝が猫を抱き抱えようと手を出した瞬間。

    狛枝「いてっ。」

    目にも止まらぬ速さで狛枝の手を猫が引っ掻いた。

    日向「おいおい、大丈夫か?」

    狛枝「うん、大したことないよ。よくあるし。」

    日向「よくあることなのか…。」



    ~10分後~

    狛枝「あ、ちょっと喉渇いたから自販機で飲み物を買ってくるよ。」

    日向「わかった。そこのベンチで座って待ってるよ。」

    日向は近くのベンチに座り、狛枝は自販機へと向かった。



    日向がベンチに座ってぼーっとしていると。


    ドガン!!


    日向「な、なんだ!?」

    日向が慌てて周囲を見渡すと、狛枝が向かった自販機にトラックが突っ込んでいた。

    狛枝は近くで倒れていた。

    日向「大丈夫か狛枝!?」

    狛枝「うん。ボクは平気。」

    日向「何が起きたんだ?」

    狛枝「1本買った後に、日向クンの分も買おうと思って2本目を選んでたんだけど、出てこなくってさ。あれこれやってたら、横からトラックが突っ込んできた、ってわけ。」

    日向「…はぁ、とにかくお前が無事で良かった。」

    狛枝「あ、今なら飲み物選び放題だけど、どうする?」

    日向「いや、それよりもやることあるだろ!」

    日向は手早く運転手の安否を確かめて、すぐに警察に連絡をした(運転手は無事だった)。

    すぐに警察がやってきて、軽い聞き込みだけが行われて、二人は開放された。



    狛枝「いやぁ、こんな時間になっちゃったね。1時間目始まっちゃってるね。」

    日向「……狛枝、今日みたいなことってしょっちゅうあるのか?」

    狛枝「そうだね。ボクはもう慣れちゃったよ。」

    日向「………。」

    日向(こいつとの散歩は疲れるな…。)

    もしまた狛枝と行動を共にすることがあるなら、覚悟を決めてから一緒に行くことにしよう、と日向は固く決意した。



    雪染「日向君に狛枝君、事情は聞いてるわ。でも、遅刻は遅刻だからね。反省文1枚よ!」

    日向「……はは、不幸だ。」

    狛枝「日向クンと一緒に反省文だなんて幸運だね!」

    日向「やかましい。」

    隣でニコニコしている男をどうやったら苦渋の表情にさせることができるかを日向は本気で考えていた。


    そして、すぐに「無理だな」と結論づけたのだった。
  160. 769 : : 2017/02/11(土) 23:59:27
    【誰が一番すごいの?】

    それは何気ない一言だった。

    日向「そういえば、ウチのクラスで身体能力が一番高いのって誰なんだろうな。」

    何気ない疑問だった。

    例えば、100m走を全員で行ったら誰が一番早いのかな? くらいの軽い疑問…。

    しかし、それを聞き逃さない者がいた。

    終里「よくわかんねーけど、このクラスでって言うならオレだろ!」

    弐大「憤ッ!終里よ。お前さん、儂がいるのにようそんなことを豪語できたもんじゃのう。」

    終里「あーん? そりゃあバトったらおっさんにはまだ叶わねえけど、今話してんのは身体能力ってやつだろ? だったら負ける気はしねーぞ!」

    弐大「おうおう、いい度胸じゃあ…。その鼻っ柱、へし折ってくれる!」

    と、終里と弐大が盛り上がっていると。


    左右田「身体能力なぁ。田中も意外と体動かせるよな?」

    田中「ふん。覇王たる俺様がそのような小さきことを気にすると思うか。」

    左右田「そ、そうか。」

    田中「まぁ本気を出した俺様に叶う者などいないだろうがな!」

    左右田「バッチリ気にしてんじゃねえか!」

    弐大「なんじゃ、田中。お前さんもやる気か?」

    田中「レベルの違いというものを見せるのも頂点に立つ者の努めよ。」

    終里「じゃあよー。メンドクセーし、みんなで競い合うってのはどうだ?」

    弐大「全員でなくてもいいじゃろう。立候補者だけで、競い合うってのはどうじゃ。」

    田中「よかろう。貴様ら、負ける覚悟はいいか!?」


    九頭龍「だってよ、ペコ。お前も行ってみたらどうだ?」

    辺古山「私などが行っても…。」

    九頭龍「まぁ、こういうイベントに参加してみてもいいんじゃねえか? それに…お前の身体能力もあいつらに負けてるとは思えねえ。」

    辺古山「しかし…。」

    九頭龍「……あー…正直に言うけどよ。お前が勝ってるところを見てえんだよ。」

    辺古山「行ってきます。」



    御手洗「なんだか騒がしいね?」

    トリス「みんな、元気があっていいねぇ。」

    御手洗「君は参加しないの? 結構動けるイメージなんだけど。」

    トリス「いやいや、僕は本職の彼らにはとてもかなわないよ。」

    御手洗「うーん、君も負けてないと思うけどなぁ。」

    トリス「……でも、僕が僕として彼らと仲良くなるいい機会かもね。行ってみようかな。御手洗君もどうだい?」

    御手洗「いやいや! 僕なんてきっとこのクラスで一番最底辺だよ!」

    慌てたように御手洗が言う様に苦笑しながら、トリスは弐大たちに合流した。


    澪田「なんか楽しそうっすねー。みんなもどうっすかー?」

    小泉「いやいや、あんな身体能力が化物レベルの中に入るとか正気のさたじゃないわ。」

    西園寺「走るよりお菓子食べてるほうがいいなー。」

    罪木「わ、わたしなんかが、参加したら皆さんのご迷惑になると思いますし…それに、お怪我をされた時用に控えてますぅ…。」

    花村「いやいや、罪木さん。君のその胸部装甲を活かすときは今だとおもダブッ!?」

    小泉「油断もスキもない…。」

    澪田「ぶーぶー…ノリ悪いっすよー。しゃーない! 唯吹だけでも行ってくるっすー!」

    不満な顔からすぐに笑顔になった澪田は、弐大たちの元へと走った。



    弐大「では行くぞぉ! まずは100m走からじゃああああああ!!」

    終里「おっしゃああああ!!」

    田中「行くぞ! 闘争の中へ!」

    辺古山「…一番、取る…。」ボソッ

    トリス「ほどほどに頑張ろうかな。」

    澪田「楽しむっすよー!」



    ソニア「わたくしも見学しに行きましょうかね。」

    花村「僕も行こうかな。主に終里さんと辺古山さんを見にね!」

    小泉「…こいつ見張っておかないと。」

    狛枝「希望同士がぶつかり合って、より強い希望が生まれる…そんな予感がするよ…。」

    西園寺「うわ…きもっ…。」

    ゾロゾロと教室を出て行くクラスメイトを見ながら日向は呟く。


    日向「どうしてこうなった」

    七海「いつも通りだと思うよ?」

    ゲームをしながら、興味なさげに七海は呟いた。


    結局勝敗はグラウンドの一部が破壊される結果になったことによりうやむやになった。
  161. 773 : : 2017/02/14(火) 03:12:07
    【イベント的渡し方】

    2月14日。バレンタインである。

    …の前日。

    日向は今日の授業も終わり、七海と帰宅していた。

    七海「うーん…ねぇ、日向君。」

    日向「なんだ?」

    七海「下駄箱と引き出し、どっちがいいと思う?」

    日向「は? 何の話だ?」

    七海「もうすぐバレンタインだよね?」

    日向「あ、ああ、そういえばそうだな。」

    七海「それでね。ゲームだと前に下駄箱に入れてたり、引き出しに入れてたりしてたから、どっちがいいのかな、と思って。」

    日向「え、えっと…。」

    日向(七海がチョコを渡す相手…誰だ…?)

    七海の話よりも正直そちらが気になった日向だった。

    日向「そういうゲームは詳しく知らないけど、直接渡したほうがよくないか?」

    七海「えっと……うーん…それは…。」

    続きを言うことをためらう七海に疑問しかわかない日向だが、続きを催促することはなかった。

    七海が誰に渡すのか、というほうが気になったためである。


    誰だ、誰だ、と頭に人物を思い浮かべては否定していく日向の隣で七海は日向をチラと見る。


    七海「やっぱり、直接はちょっと恥ずかしい…と思うよ?」


    小声でつぶやかれたその言葉が日向に聞こえることはなかった。
  162. 774 : : 2017/02/14(火) 03:15:07
    【日向創のバレンタイン】

    2月14日。バレンタイン当日。

    いつも通り学園に来た日向は、席についたところで、ソニアと罪木に話しかけられた。

    ソニア「日向さん。はい、バレンタインです!」

    罪木「わ、私からも…。あ、受けとりたくないなら断ってくれても…。」

    日向「いや、すごい嬉しいから! ありがとな、二人とも。あ、俺からも実はあるんだ。」

    ソニア「まぁ、日向さんの手作りですか?」

    日向「ああ。ちょっと不格好だけどな。」

    罪木「そ、そんなことないですぅ! あ、ありがとうございます! だ、大事にします!」

    日向「大事にせずに、食べてくれよな?」

    そんなやりとりが朝一で行われていた。


    その日の昼。

    日向が相談室でお菓子づくりの本を眺めていると、相談室に入ってきた者がいた。

    菜摘「…。」

    無言で入ってきた菜摘は無言のままソファに座る。

    日向「いや、何か喋れよ。」

    菜摘「えー、いいじゃん。私とアンタの仲でしょ?」

    日向「……まぁいいけど。あ、そうだ。今日バレンタインだし、これをやるよ。」

    菜摘「……え、アンタの手作り?」

    日向「おかげで不格好になっちゃったけどな。あ、いらないか?」

    菜摘「いる!」

    日向の手から奪い取るように菜摘はチョコを取り上げた。

    菜摘「……あ、えっと…あ、アンタも作ってたのなら話は早いわね。」

    日向「?」

    菜摘「はい。こ、これはあくまで友チョコだからね。」

    日向「ああ。ありがたくいただくよ。」

    菜摘「~~~! じゃ、じゃあね!」

    赤面しながら挙動不審になった菜摘は相談室を出て行った。

    日向「……何か用事でもあったのか?」



    夕方。

    授業も終わり、さて、帰ろうかという時間になった。

    帰り支度を始める日向に小泉と西園寺が近づく。

    小泉「はい、日向。わたしと日寄子ちゃんから。」

    西園寺「わたしも手伝ったんだから感謝してよね。」

    日向「ああ、ありがとうな。あ、俺からもやるよ。」

    小泉「え?日向が作ったの?」

    日向「ああ。まぁお菓子作りの練習がてらな。かなり不格好になっちゃったけどな。」

    西園寺「ふーん、まっ、日向おにぃが作ったのなんてたかが知れてるから期待しないでおいてあげるー。」

    日向「頼むから点数とかつけないでくれよ?」

    小泉「まっ、女子だからとか男子だからとかにこだわらずに作ってきたっていうのは評価してあげるわ。ありがとね。」

  163. 775 : : 2017/02/14(火) 03:16:18
    そう言って小泉と西園寺が離れていくと、すぐに後ろから日向に何者かが抱きついた。

    終里「日向ぁ、うまそーな匂いをさせてんなぁ。」

    日向「うお!? お、終里!?」

    終里「なぁなぁ、オレにもチョコくれよー。腹減ってんだよー。」

    日向「わ、わかった! わかったから離れろ!」

    ぽいっと投げるように日向が作ったチョコを放ると犬がキャッチするかのようにそれを取って、無言で食べ始める終里。

    終里「んー。んめぇな! サンキューなー!」

    そう言って終里は去っていった。


    日向「……くそ、貰ってないのにもらった気分になってしまった…。」

    謎の敗北感に苛まれた日向であった。

    澪田「ありゃりゃー。花より団子っすねー。はい、創ちゃん。ハッピーバレンタイン!」

    日向「ああ。澪田。ありがとな。はい、俺からもやるよ。」

    澪田「…創ちゃん。女の子より女の子してどうするんすか?」

    日向「いいだろ別に。」

    澪田「これで、唯吹が作ったチョコよりも美味しかったら、唯吹の立つ瀬がないっすよー!」

    日向「こういうのは気持ちだろ。俺は普段から仲良くしてるみんなに、って考えて作ったし。」

    澪田「そうだねー! うん! 美味しくいただくっすよー!」

    すぐに笑顔になった澪田は奇声を上げながら教室を出て行った。




    放課後。

    いつもの帰宅道。

    日向は七海と一緒に帰宅していた。

    ちなみに七海へのチョコは昼間の間に既に渡していた。

    七海からはもらえるか、とチラチラと気にしていたが、一日特にもらえそうな雰囲気はなかったため日向は諦めていた。

    七海「…ねぇ日向君。」

    日向「なんだ?」

    七海「…今日、随分とチョコ、もらってたね?」

    日向「ああ。ありがたいことにな。」

    七海「……うーん、こういうシチュエーションはどうすればいいのかな。」

    日向「何の話だ。」

    七海「えっとー……」

    七海は人差し指をくるくると回しながら考え事を続ける。

    七海「…むぅ…。」

    そして、諦めたように猫型のリュックから包装された箱を取り出した。

    七海「はい。」

    日向「これは…チョコか?」

    七海「うん。もう、日向君のせいなんだからね?

    日向「よくわからんが冤罪だ。」

    七海「下駄箱でも引き出しにも隙がないんだもん…。」

    日向「本当に何の話だ。」
  164. 784 : : 2017/02/23(木) 00:17:53
    【頑張りの代償】

    それは日向がもはや恒例と化した左右田の相談を受けている時のこと。

    日向「それで、最近は…ゴホッゴホッ…。」

    左右田「ん? 日向、風邪かぁ?」

    日向「そう、なのかな。なんか、今朝から調子悪くってさ…。」

    左右田「よく見りゃあ、顔色も悪いな。大丈夫か?」

    日向「あ、ああ。これくらい…。」

    何ともない、と答えようとしたら、日向は地面が急に消えてしまったような感覚に陥った。

    何事か、と理解した瞬間には日向は、冷たい床に顔を着けていた。


    左右田「う、うおおい!? 日向!? おい!!」

    左右田が大きな声で騒いでいるのにとても遠く聞こえる。

    立ち上がるのも億劫になり、日向はそのまま瞳を閉じた。



    Side:七海

    七海「日向君が倒れた…!?」

    七海が教室でゲームをしてると、左右田が転がりそうな勢いで教室に駆け込んできた。

    左右田「あ、ああ! なんかすっげー調子悪そうで、大丈夫か、って聞いたらきゅ、急に…!」

    九頭龍「落ち着け! んで、日向は今どうしてんだ?」

    左右田「相談室のソファに寝かせてる。んで、保健室とか行くより、こういうことなら罪木に見せたほうがって思ってよ。」

    罪木「は、はいぃ…。は、早く行きましょう…?」

    弐大「日向の一大事とならば、儂も行くぞおおお!!」

    澪田「唯吹も行くっすよー!」

    花村「僕も行くよ!」

    小泉「ちょっと! 必要な人数だけでいいから、アンタたちはおとなしくしときなさい!」

    九頭龍「罪木は確定だとして、教員を連れてく事態になるようなら状況説明できるやつが必要だから左右田も行ったほうがいいな。あとは…七海が適任だろ。」

    七海「え…っと…うん。じゃあ行ってくるね?」

    九頭龍の言葉に引っ掛かりは覚えたものの、行きたいと思っていた七海に不都合はなかったため、そのまま頷いた。

    3人はそのまま教室を出て、急いで相談室へと向かった。



    ~相談室~

    相談室について、罪木は眠っている日向をすぐに診察を始めた。

    罪木「……はふぅ…。」

    左右田「ど、どうだ?」

    罪木「えとえと…おそらくですが、過労と風邪ですねぇ。」

    左右田「そ、そうか。なら、休んでりゃいいってことだな。」

    七海「……そっか。」

    左右田「あん? どうしたんだ?」

    七海「…日向君さ。最近、相談の依頼が重なったり、ずっと忙しそうにしてたんだけど…その全部に応えようとして、頑張ってたんだ。……時には駆け回ったり、徹夜したり……。」

    左右田「あー、確かに日向のことは結構噂になってるみたいだしな。超高校級なのに普通のやつでも会えるから最近じゃあ、依頼が多い、とか言ってたっけな。」

    七海「……たぶん、それで無理しちゃったんだね。」

    罪木「あぅあぅ……えとですね。とりあえず、ここでは安静にできないと思いますのでぇ、保健室に行きましょう?」

    左右田「あ、ああ、そうだな。俺がやるぜ。」

    左右田が日向をおんぶし、3人は保健室へと向かった。
  165. 786 : : 2017/02/23(木) 00:24:01

    ~保健室~

    左右田「ふぅ。これでよし。」

    日向を保健室のベッドに寝かせ、毛布をかぶせてやる。

    未だに顔色は良くはないが、規則正しく寝息をしているため、安眠できているようだった。

    七海「…じゃあ、わたしが見ておくから、二人は教室に戻って大丈夫…だと思うよ?」

    左右田「お前に任せていいのか不安になる言い方するな! 俺は教室で待ってる奴にこのこと伝えに戻るぜ。罪木はどうする?」

    罪木「わ、わたしはぁ…ゆ、許されるなら、日向さんの側で控えておきたいですぅ…。」

    七海「…そのほうが何かあった時にすぐ対応できる…かな? じゃあ、わたしが戻ったほうがいい…ね。」

    罪木「ああ、でもでも…七海さんを追い返してまでわたしなんかが留まるのはぁ…。」

    左右田「めんどくせぇなお前ら!? 二人残るでいいだろ!」

    七海「それもそうだね。」


    左右田の一声で罪木と七海の二人が残ることに決まった。

    二人は、ベッド横の椅子に座って、日向を眺める。

    七海「……。」

    罪木「……。」

    七海「……。」

    罪木「………す、すいませぇん…。」

    七海「…え、何が?」

    罪木「わ、わたしなんかが残って、こんな…気まずい空気を作ってしまって…。」

    七海「……いや、私はしゃべるの、あんまり得意じゃないから…。それに…こんな時何話したらいいかもわからないし。」

    罪木「…えとえと……。」

    七海「…えーっと…無理に喋らなくてもいいんじゃないかな? 私はこうやって罪木さんと一緒に日向君を眺めてるだけでも楽しいよ?」

    罪木「はぅ……あ、あの、わたし飲み物を買ってきますねぇ…。」

    椅子を倒し、そのままフラフラと扉を開けて出て行った罪木。

    数十秒後、何かあったのか情けない悲鳴が聞こえてきた。

    七海は再び日向を見る。


    七海「……こんなに心配させるなんてさ…。」

    思えば、日向が疲れている予兆はあったのだ。

    自分と話している時。その時の話題。最近の日向の仕事の状況。周りからの話など、七海は気づこうと思えば、気づけた。

    七海「……気づけないって、こんなにも歯がゆいんだね…。」

    のんきにゲームなんかしとかなきゃ良かった、と思ったが、ゲームをしない自分など自分ではない、という結論になってしまった。

    七海「………むぅ、なんだかだんだん……えっと、おこだよ?」

    なぜ自分がこんなに頭を悩ませ、後悔しなければならないのか。

    スヤスヤと眠る日向を見ていると、腹が立ってきた七海は日向のほっぺを軽く突く。

    日向「…うっ…。」

    七海「……えい。」

    日向が呻こうが構わず突く。

    何度かつついて、満足した七海は一息ついて……自分が眠くなっていることに気づいた。

    思い返せば、昨日もゲームをしていて夜眠るのが遅かったのだ。

    七海「……ふわぁ…。」

    眠っちゃダメだと思っても、体はだんだんと傾き、日向が眠るベッドに伏せる形になる。

    七海「……日向君…の…ば……か……。」


    こんなところで眠くなって、こんな形で眠ることになったのも日向のせいだ、と文句を口にする途中で、七海は意識を手放した。


    Side:日向

    日向「…ん?」

    目覚めた日向はぼんやりとしながら起き上がる。

    そして、すぐに倒れたことを思い出し、ここがどこかを理解した。

    日向「ああ…左右田が運んでくれたのか…? って……あれ、七海?」

    すぐそばにはベッドに伏せる形で眠る七海がいた。

    日向「…看病してくれてて、途中で力尽きた…とかか? とりあえず…。」

    日向はベッドから降りると、七海を抱えた。

    お姫様抱っこである。

    そして、そのまま日向が眠っていた隣のベッドへと移して、毛布をかけてやる。

    日向「全く、無理するなよな。」

    七海が起きていたら「日向君が言うな…だと思うよ?」とでも言ったかもしれない。

    日向「でもまぁ…ありがとうな。七海。」
  166. 793 : : 2017/02/25(土) 00:57:23
    【罪木蜜柑は見た!】

    罪木「あぅあぅあぅ……。」

    罪木は保健室の扉に少しの隙間を開けて、中を覗いていた。

    中では倒れた日向の横に七海がいる様子が見えるが…現在、七海が日向のほっぺたをつついている光景がそこにあった。

    罪木「や、やっぱり…お二人はお付き合いされてるんでしょうかぁ…? で、でもでも、そんなこと私なんかが気にしてもぉ…。」

    罪木が扉の前で右往左往している間に七海は眠ってしまっていたが、罪木は気づいていない。

    両手で握っているミネラルウォーターに力が入り、ミシッと音を立てた。



    左右田「……何やってんだ?」

    罪木「ひゃわ!? そ、左右田さぁん…びっくりしましたぁ…。」

    左右田「お、おう。びっくりさせたんなら悪かったな…。んで、何やってんだ?」

    罪木「えとえと…あの…。」

    左右田「……とりあえず、中に入らねぇ?」

    保健室の中に入った二人は日向が変わらず眠っているのを確認して…七海も一緒に眠っているのも確認した。

    左右田「…寝ちまったら残った意味ねえじゃねえか…。」

    罪木「教室でもあくびを良くしてますし、寝不足なんでしょうかぁ…。」

    左右田「あー、まぁ日向から聞いたことあるけど、徹夜でゲームとかするらしいぜ?」

    罪木「あぅ…よ、夜はちゃんと寝ないと体を壊しちゃいますぅ…。」

    左右田「俺に言われても。」

    罪木「す、すみませぇん! ぬ、脱ぐので許してくださぁい!」

    左右田「お前は俺を社会的に殺す気か! やめろ! ボタンに手をかけんな!」

    眠っている二人がいることを忘れて、二人は脱ぐ脱がない、とひとしきり騒いだ。


    左右田「ったく…あぁ、クラスの奴らには心配ねーって伝えといたからあとは、こいつらが目覚めるの待つだけだぜ。」

    罪木「えと、あ、ありがとうございます…?」

    左右田「罪木が礼を言うのは違うんじゃねぇか? 言うのはこいつだろ。」

    左右田が日向の頭を軽く小突く。

    罪木「……あ…。」

    先ほどの七海がやっていたことを思い出し、顔が熱くなる。

    左右田「……さっきから様子変じゃね? 罪木も風邪か?」

    罪木「い、いえ! な、なんでもないでしゅ…。」

    左右田「…そうか。」

    その後も微妙な空気のまましばらく二人は黙っていたが、保健室の扉が開く音でその沈黙は破られた。

    雪染「あら、罪木さんに左右田君。お疲れ様。」

    罪木「あ、雪染先生。」

    左右田「ちわっす。センセー。どうしたんすか?」

    雪染「日向君が倒れたって聞いたから様子を見にね。」

    そう言って雪染は日向と…その側で眠っている七海を視界に入れる。

    雪染「あらあら。本当、仲がいいわね。」

    罪木「そ、そうですね…。」

    別のことを想像して、顔を赤くする罪木に雪染と左右田は疑問の表情を浮かべるが、問い詰めることはしなかった。

    雪染「まだもうちょっと授業があるでしょ? あとは先生に任せて、あなたたちは授業に出てきなさい。」

    左右田「えー…。」

    雪染「…左右田君?」

    左右田「直ちに戻りますです! 行くぞ罪木!」

    罪木「は、はぁい…?」

    左右田に引っ張られる形で罪木は保健室を後にした。


    罪木(あのお二人はお付き合いされてるんでしょうかぁ…。でもでも、七海さんのあの表情。本当、普段見れないような顔されてましたし……幸せそうでしたぁ…。)

    怒ったようにムッ、とした表情をしていたが、日向のほっぺたを突く七海は本当に幸せそうに罪木には見えていた。

    罪木「あのような関係……素敵ですぅ…。」

    自分にもあんな人がいつかできるのだろうか、と思いながら、罪木は左右田と一緒に教室へと向かった。
  167. 795 : : 2017/02/26(日) 22:29:10
    【ガールズトーク+α】

    ~相談室~

    澪田「ガールズトークがしたいんすよ。」

    澪田に相談があると言われて相談室に招いたら開口一番こう言われた。

    日向「そうか。それで?」

    澪田「どうしたらできるんすか?」

    日向「女の子で集まってなんでもいいから話したらガールズトークになるんじゃないか?」

    澪田「なるほど! じゃあそうするっす!」

    俺に相談するほどの悩みだったのか?、と日向は思ったが、一応調書を作成しておくことにした。


    30分後。

    日向が『人心掌握』と書かれた本を読んでいると、相談室の扉が開かれた。

    澪田「とうちゃーく!」

    西園寺「わーい!」

    罪木「お、お邪魔しますぅ…。」

    小泉「……なんで相談室?」

    日向「なんだ? 4人揃ってどうしたんだ?」

    小泉「それが…唯吹ちゃんが…。」

    澪田「ガールズトークしたい!」

    罪木「そ、それでぇ…何か話そうとしたら、ここじゃダメ、って連れ出されまして…。」

    澪田「やっぱり、客観的にできてるかどうかって判別出来る人がいたほうがいいと思ったんす。」

    西園寺「じゃあもう、日向おにぃにお茶とお菓子を出してもらいつつ、その辺判断してもらったらいいんじゃない? ってわたしが提案したんだー。」

    日向「喫茶店かここは。」

    西園寺「そんな上等なものでないでしょー?」

    日向「やかましい。…はぁ、まぁ澪田の相談は一応相談窓口として受けたから、今回だけはここを使っても問題はないけど…。」

    澪田「ホントっすか! いやー、正直断られると思っちゃったりーしたりしてー…。」

    罪木「だ、大丈夫なんですかぁ?」

    日向「ああ。このあと、相談の予定もないし、俺がどこか行くか、帰る前に引き上げてくれたら大丈夫だよ。」

    小泉「まっ、日向の邪魔にならないようにしましょ。」

    日向「じゃあ、せっかくだし、お茶とお菓子も用意するよ。それ」

    西園寺「わーい! 日向おにいのレベルの低いお菓子だー!」

    日向「そんなこと言うやつにはやらないぞ。」

    西園寺「……日向おにいの食べれなくはないお菓子だー…。」

    日向「悔しいが事実だから受け止めておくよ。じゃあ、準備してくるな。」

    日向が自分のも含めて5人分のお茶とお菓子を用意し、戻ると既に話は始まっていた。

    小泉「ガールズトーク、って言っても、普段してる話じゃダメなの?」

    澪田「でもでもー、こうやって4人で集まって話しをする、って中々しないと思うんすよ。ほら、2人だったり3人だったりはあるけど、4人全員んが集まってー、っていう…。」

    罪木「そ、そうですねぇ…。あ、あのぉ、なぜこの4人だったんでしょう…? 他にも女性はいらっしゃいますし…。」

    澪田「何となくっす! 言うなれば神の意思!」

    西園寺「何言ってんの…?」

    そこで一旦会話が途切れたため、そのタイミングで日向はお茶とお菓子を出すことにした。

    日向「はい。お茶とお菓子な。」

    小泉「あ、ありがと。」

    澪田「うんうん! それっぽくなってきましたな!」

    日向「喋り方おかしくなってるぞ。…それで、澪田。俺がお前たちの会話を見るっていうのは構わないが、俺にそれが正しいかどうかなんて判ずることなんてできないぞ?」

    澪田「それっぽかったらいいのデス! 創ちゃんの中にガールズトークを唯吹たちができてる、って思えたらそれでいいのデス!」

    日向「今日どんなテンションなんだお前…まぁわかった。俺は聞いてるだけにするから、好きにやってくれ。」

    澪田「ありがとー!」

  168. 797 : : 2017/02/26(日) 22:33:00
    そうして日向は読書をしつつ、澪田たちの会話を聞くことにした。



    澪田「じゃあ、話を始めましょう……。って、改まると何話したらいいんすかね?」

    西園寺「主催者なんだから、考えといてよもー。」

    小泉「そんな普段から会話を気にしてるわけじゃないし……。うーん…。」

    西園寺「…っていうか、アンタはなんでそんなニコニコしてんのさ。」

    罪木「…あ、えとえと…こ、こうやって…と、友達みたいにお話に混ざれるなんてあまり機会がないもので…う、嬉しくて……ず、ずいまぜえええん!! こんな気持ち悪いこと考えてしまってぇええ!!」

    小泉「ちょ、気持ち悪くないから! ああもう、涙拭いて。」

    西園寺「……キモイ。」

    罪木「びえええええん!」

    小泉「日寄子ちゃん!?」

    澪田「たはーッ! 直球ストレートっすね!」

    罪木が落ち着いてからしばらく。


    小泉「…えっと、それで何の話だったっけ…?」

    澪田「何の話をしようか、ってところだったすよ!」

    罪木「す、すいませ…わ、わたしが取り乱したから…。」グスン

    西園寺「あーもう鬱陶しい!」


    またしばらく落ち着くまで時間がかかった。

    澪田「話が進まないっすし、創ちゃんにテーマを出してもらいましょう。」

    小泉「そうね…それがいいかも…。」

    小泉は非常に疲れきった表情をしている。

    日向「え、口出さないようにしてたんだが…。」

    澪田「大丈夫っすよ! どんなテーマでも唯吹が盛り上げてみせる!」

    日向「そうか? …じゃあ…勝手な思い込みで申し訳ないけど、ガールズトークと言ったら恋愛ごとの話…恋バナじゃないか?」

    澪田「なるほど! じゃあ、それで話してみましょう!」

    小泉「恋ばなねぇ…こういうのってまずは各々好きな人がいるかとかそういう話をするべきなのかしら。」

    西園寺「えー…そんな人いないしぃ…」

    罪木「わ、私も…。」

    澪田「唯吹もいないっすね!」

    小泉「わ、私も特には…。」

    澪田「それじゃあ、クラスの男子を恋人にするとか、そういうことを考えるなら誰になるんすかね?」

    西園寺「クラスの奴らも頼りないやつばっかだしー……そこの日向おにいもお菓子の腕前はまだまだだし、私の下僕として足りないよねー。」

    罪木「わ、わたしも皆さんのことをそういった対象で見たことはないですぅ…。」

    小泉「うーん…一人一人考えていくと…割とまともなのは九頭龍と日向くらいかしらね…。」

    澪田「あ、冬彦ちゃんって友達思いだし、口が悪いことはあるけど、結構気遣ってくれるっすよね! 極道だけど!」

    罪木「そ、そうですねぇ。よく全体を見てるような印象ですぅ…。」

    西園寺「チビだけどねー。」

    小泉「他は……うん。一癖二癖あるわね…。」

    澪田「えー、トリスちゃんってかっこいいっすよー?」

    西園寺「えー、あんな食べること以外何も考えてなさそうなのがいいのー?」

    澪田「それが魅力的なんじゃないっすかー。」

    なんだかんだ話せてるじゃないか、と日向は安心して、それ以降は聞かずに読書に集中することにした。
  169. 799 : : 2017/03/05(日) 00:03:49
    日向はいつものように相談室で資料をまとめていた。

    昨日分の相談事の資料をまとめていたが、それももう終わるし、教室に戻ろうかな、と日向が考えているときだった。


    ガラ---



    天願「失礼するぞ。」

    日向「…天願さん?」

    入ってきたのは超高校級として認められてからあまり会う機会がなかった天願和夫だった。

    天願「ふむ、今、予定は空いておるかね?」

    日向「はい。今日はこのあとに予定はないです。あ、席にどうぞ。」

    日向が勧めて、天願もソファーに座る。

    天願「では、儂の話を聞いてくれるかな?」

    日向「相談事ですか?」

    天願「…いいや、そうではないよ。」

    天願も心痛な面持ちで言いづらそうにしている。

    日向「…?」

    天願「…できれば君にこの話をしたくはなかったのじゃが…こちらも致し方がない事情ができてな。」

    日向「ますます何の話かわからないんですが…。」

    天願「カムクライズルプロジェクト…と、言えばわかるかね。」

    日向「…えっと、以前に名前だけは聞きましたけど…。」

    日向は計画に参加すれば才能を得られる、という部分くらいしか聞いていない。

    そのため、天願が言いづらそうにする理由が思いつかない。


    天願「そう、この計画に参加すれば、この世にある全ての才能を扱えるようになる、という希望ヶ峰学園史上、最大のプロジェクトじゃ。」

    日向「そ、そんな大きなプロジェクトだったんですか…。」

    天願「うむ。それで、日向創君。以前にも君に打診を掛けたが、このプロジェクトに参加してほしいんじゃよ。」

    天願は乞うように日向に言う。


    日向「…俺は…胸を張っていける自分になりたくて才能を求めてました。才能があれば自分が認めてもらえて、誇らしく生きていけると思ってました。」

    天願「……。」

    日向「実際、超高校級の相談窓口として認めてもらって、俺は自分に誇りをもって日々を過ごしてます。でも…才能を認めてもらってわかりました。俺は今まで俺を見てくれる人がいなかっただけで、才能がなくても生きていけるんだって。」

    日向「特別な才能なんてなくてもいい。俺は希望ヶ峰学園に認められてそう学びました。」

    日向「ですから…その才能を得るためのプロジェクトは断らせてもらいます。俺はもう…そんな才能がなくても、自分に誇りをもって生きていけます。まぁ、既に認められてるので今更というのもありますけど。」

    天願「………。」


    天願「ふ、ふふ…くくく…。」

    日向(天願さん…笑ってる…?)


    確かに臭いことをいった自覚はあるが、若気の至りとして許して欲しいところである、と日向が思っていると、天願が顔を上げる。



    天願「くだらん。実にくだらぬよ日向君。」

    日向「……え?」

    天願「才能がなくても生きてゆける? 自分を認めてくれる人がいればいい? ふふふ、以前の君は才能を求めてギラギラとしていたのに、どこでこうなってしまったのか。」

    日向「あの…。」

    天願「じゃが、この程度は想定内。相談窓口として認めらた以上、いまさら、と思うのも当然じゃろうしな。じゃが…それではダメなんじゃよ。」


    日向「あの…なにを……!?」

    天願が手を伸ばし、日向の首に触れる。

    あまりに自然に動いたため、日向は反応ができなかった。

    チクっと日向の首筋に刺激が走る。


    日向「ぐっ…な、なん…だ…!?」

    慌てて立ち上がるもすぐにぐらっと視界が揺れる。

    平衡感覚がなくなり、立っていられなくなり、ソファに倒れ込んだ。


    日向「な、なにを…し…。」

    天願「ほう、意識があるか。弐大君に鍛えられているだけはあるのぉ。」

    日向「ぐっ……。」

    天願「……さて、では、話の続きじゃ。8人。この数値、何かわかるかね?」

    日向「……。」

    天願「カムクライズルプロジェクト、その被検体に選ばれたのは合計9人。内、8名は……死亡するか、意識不明じゃ。」

    日向(そんな危険な計画なのか…!?)

    天願「じゃが、このプロジェクトは希望ヶ峰学園が掲げる希望を作り上げるもの。希望を掲げる希望ヶ峰学園が希望を作るプロジェクトに失敗しました、というわけにはいかんじゃろう。」

    天願「…まぁそれは建前。本当はのう…儂とは違って、君たちのような未来への希望あふれる若い者たち…。」


    天願「……そんな君たちを失って築く希望…それが見たいんじゃよ。」



    日向「……はっ…。」

    言葉を繋ごうとして、出たのは吐息のみ。
  170. 801 : : 2017/03/05(日) 00:35:12
    天願「君は超高校級の相談窓口。そんな君を犠牲にして築かれる希望はさぞ、輝くのじゃろうな…。」

    本当に嬉しそうに、天願は日向に言い放つ。

    狂ってる。

    この老人は希望に狂ってる…。


    天願「さて、そろそろ君の知りたい話は全て話したじゃろう。それに、そろそろ薬で意識を保つのも難しいじゃろう」



    天願「安心しなさい。次目覚めるとき、君は君ではないからな。」

    天願が指を鳴らすと相談室の扉が開く。

    天願「頼むぞい。」

    「ようやく、尻尾を出しましたね。」

    聞き覚えのある女性の声が聞こえてきたのを最後に、日向は意識を失った。



    Side:雪染

    雪染「天願さん…」

    天願「…おや、雪染君。君の登場は予定されてないんじゃがのう。」

    雪染「そうでしょうね。あとは日向君を実験施設まで運んで、実験を開始するだけだったのでしょう。でも…」


    「……あなたは派手に動きすぎた。」


    雪染の後ろから進み出てきた人物が雪染言葉の続きを引き継いだ。


    天願「…君か…宗方君。」

    宗方「…天願さん…いや、天願。あなたの企みは雪染と逆蔵が暴いてくれた。」

    進み出た宗方は天願を睨みつける。

    その後ろに雪染と逆蔵が入口を塞ぐように立つ。

    天願「ふむ、バレないように細心の注意を払ったんじゃがな。」

    逆蔵「……そうだな。まず、カムクライズルプロジェクトなんてもんがあることを雪染が気づいて、そんで、俺が予備学科の行方不明者のことに気付かなかったらここまではたどり着いてねえだろうな。」

    雪染「プロジェクトの被験者は最初は1人だった。でも、その1人に断られたために、次点で適合率が高い人間を被験者にすることになった。……実験は失敗を繰り返し、被験者の数…いえ、被害者の数は8人にもなった。」

    宗方「そして、実験を繰り返していくにつれ、適合できる人間の数もいなくなった。そして、あなたは…あなた方は最終手段として、最初の被験者を強引に実験に参加させることを考えた。…そこまで予測をして、今日まで日向創の周囲は見張らさせてもらっていた。」

    天願「…日向君が被験者というのは極秘なんじゃがのう…。まぁよい、こうしてバレてしまったのなら、些細な問題じゃ。」

    宗方「投降してもらおう。関係者のほうは俺の部下が確保に回っている。それに…俺たちを相手に抵抗は無意味だ。」

    天願「じゃろうな……。しかし、最後の抵抗くらいはさせてもらおうか。」

    天願は懐から針を取り出し、それを宗方たちに向かって射出する。

    宗方たちがその場から飛びのき、すぐさま天願に向かって攻撃を加えようとした。

    しかし、それも止まる。

    天願「わかりやすく、人質と行ってみようかのう。」

    天願は左肩に日向を担ぎ、その首に何かの液体が塗られた針を突きつけていた。

    天願「さて、日向君を無事に助けたいのなら、そこをどいてもらおうか?」

    雪染「…きょ、京助…」

    宗方「落ち着け。ここをどいたとしても、天願は実験施設までやつを連れて行くだけだ。それに、大事な被検体を殺すことはしないだろう。逆蔵、いつも通り、やるぞ。」

    逆蔵「………」

    宗方「逆蔵?」

    逆蔵「あ、ああ…。」

    天願「ああ…逆蔵君は日向君たちのクラスを受け持ったことがあったな。情が移ってしまったか? まぁ儂の目的は達せられたからどうでも良いが。」

    3人は天願の言葉を最初は理解できずにいたが、すぐにその意味がわかった。

    雪染「その針…何なんですか…」

    天願「なぁに、彼が真の希望であれば死ぬことはないじゃろう。仮に死んだとしても、その周囲が日向君の死という絶望を乗り越えて、更に希望が輝くことじゃろう。」

    天願は日向をソファの上にぽいと捨てるように投げて、狂ったように笑い始めた。

    宗方「チッ!」

    逆蔵「クソがッ!」

    宗方と逆蔵が一斉に飛びかかり、狂ったように笑っていた天願を殴り飛ばした。

    逆蔵「雪染! 日向は!」

    雪染「う、うん。……見たところ特に変化はないけど、天願さんが刺したものが何かわからないと…」

    宗方「……今のこの学園には超高校級の薬剤師と超高校級の保健委員がいたはずだな。そいつらに協力を要請すればいい。」

    雪染「そ、そうね! 私が呼んでくるわ!」

    雪染は自身の身体能力を全力で使って、相談室から飛び出した。
  171. 803 : : 2017/03/05(日) 00:45:40
    ~77期生 教室~

    雪染「罪木さん!!」

    教室に入るなり叫んだ雪染に77期生は全員ビクッと体を震わせた。

    罪木「ふ、ふぇ…わ、私なにかしてしまったでしょうかぁ…ご、ごめんなさぃぃぃいいい!!」

    雪染「そんなことを言ってる場合じゃないの。由々しき事態よ。すぐに私と一緒に来て。行きながら話すわよ。」

    罪木「あ、あの、先生…?」

    雪染「今ここでゆっくり説明してる時間がないの。早く!」

    罪木「は、はぃぃいい!」

    そんなやりとりを経て、雪染は罪木を連れ出した。



    ~化学室~

    超高校級の薬剤師は普段は化学室にいる。

    そんな前情報を得ていたため、雪染はすぐに向かった。

    雪染「失礼しまーす! 忌村さん、いる?」

    忌村「……え。」

    中で薬を調合していた雪染はその手を止めたまま固まった。

    雪染「あー、いてくれて良かったわ。協力してほしいことがあるの。一緒に来てもらえないかしら。」

    忌村「…あ、あの…。」

    雪染「ゆっくり説明してる暇がないから、行きながら説明するわ。」

    忌村「で、でも…薬の調合が途中で…。」

    雪染「あなたの都合を無視して、ごめんなさい。でも…私の生徒の命が危険かもしれないの…。だから…お願い、付いてきて。」

    忌村「…わ、わかりました。」
  172. 805 : : 2017/03/05(日) 00:52:08
    ~相談室~

    罪木「ひ、日向さんは脈拍、呼吸に異常はなく、その他に体に異常はありませんでした…。」

    雪染「そう…忌村さん。そっちは?」

    忌村「…これは…麻痺毒の一種…ですね。結構強力なもので、少量でも人を眠らせることが可能…だと思います。」

    雪染「じゃあ、命に別状はないのね?」

    忌村「……でも、多量に使用すると…心肺停止なんかが起こって、そのまま目覚めなくなるほど強力なものです…。……仮に異常はなくっても、しばらくは…もしかしたら…そのまま……。」

    罪木「ひ、日向さんは…首筋に2箇所刺された場所がありました。恐らく一度目も二度目も同じ薬を使われたんだと思いますぅ…。」

    雪染「……もしかしたら…このまま日向君は目覚めない可能性がある…かもしれない……ということ…?」

    罪木も忌村も答えなかったが、それが答えだった。

    雪染は頭を抱え込んで、罪木は日向と雪染を見比べながらオロオロとして、忌村は悲しそうに二人を見つめていた。
  173. 817 : : 2017/03/08(水) 22:33:56
    ~???~


    暗い……暗闇……


    何もない…


    俺は……何だったっけ…


    俺は……誰だっけ…


    何か…大切なことを忘れているような…


    …まぁいいか…どうでもいいし、ここにいるのはなんだか心地いい…



    『…………』


    何か……聞こえる……?


    『…………!』


    ……うるさいな……せっかくいい気分で過ごしているのに…


    『…お…き…‥な…!』


    …やめてくれ…眠いんだ……このまま…寝ていたい…


    『…………』


    …やっと静かになったか……




    ~???~


    あれからどれくらい経ったろう

    まだ俺は暗闇の中にいる

    なんでこんなところで漂っていないといけないんだろう

    このまま消えてしまえば楽なのかな…?


    『……なた……』


    …またか……


    誰かの声。時々聞こえるこの声は誰かを呼んでいるようだ


    ……もしかして、俺を呼んでいるんだろうか…


    でも、俺は俺が何なのか思い出せない


    だから…いくら呼ばれても……反応できないんだよ……





    ~???~


    ………また時間が過ぎた気がする…


    声は断続的に聞こえてくるけど、内容は聞き取れない


    ……俺はなんでまだ消えてないんだろう…


    …消えたくないから…消えたくない理由がある…んだろうか…


    …ふふっ、俺なんかが消えたくないなんて……みんながいなかったら大したやつじゃないのにな……


    ……みんなって……誰だろう……



    『ひ…た……!』


    また、声……


    …俺のために呼んでくれてるんだろうな……でも……もう疲れちゃったな……


    俺が早く消えないと俺呼ぶ奴らがいつまでも呼び続けるような…そんな予感がする……


    早く…消えてしまいたい……



    『ひな…く…』

    『ひな…!』

    『ひなたくん!』


    違う声がいくつ聞こえて、最後にははっきりと聞こえた

    ひなた……日向……


    『ひなた!』

    『ひなたぁ!』

    『はじめちゃん!』


    はじめ……創……


    そうか、俺は……俺の名前は……



    その時、暗闇に包まれていた空間が光に包まれた。
  174. 818 : : 2017/03/08(水) 22:48:34
    目を開くと、白い天井が目に入った。

    ピッピッピッと電子音が聞こえて、日向はここが病室であることを理解した。


    七海「ひな…た…くん……。」

    日向が首を動かして横を見ると、目に涙を貯めた七海が唇を震わせながら見ていた。

    日向「……ぁ…ぅ…」

    自分の体も動かず、上手くしゃべれない。

    そんな状況に困惑していると、別の方向が騒がしくなる。


    澪田「やっふー! 創ちゃん目を覚ましたっすよー!」

    左右田「よっしゃああああ!! さすがソウルフレンド! オレの魂の叫びが聞こえたんだな!」

    小泉「みんなの、でしょ」

    弐大「ガッハッハッハ! 何はともあれ一安心じゃのう!」

    終里「よっし! 今日は食うからな! なんて言われようが食うからな!」

    花村「あ、それなら日向君が起きた記念に特別料理作ってあげるよ!」

    罪木「よ、よがっだでしゅぅぅ…うぇぇぇええん!!」

    西園寺「ちょ! 汚い! もー! 抱きつかないでよー!」

    九頭龍「……けっ、おせえんだよ」

    辺古山「…まったく。皆に心配させた代価は高くつくぞ」

    御手洗「本当…本当に良かった…」

    トリス「…ふふ、愛されてるなぁ日向君。」

    ソニア「当然です! 日向さんですからね!」

    田中「ふっ、遅い目覚めだな、特異点。……もっと早く目覚めろ、馬鹿者が」

    狛枝「あはは、さすが日向クン。こんなところで潰える希望じゃないって信じてたよ…。キミを失うなんて世界の損失だからね…本当に良かったよ…」




    日向(そうか…ずっと俺を呼んでくれてたんだな……)

    日向はこんなに自分を大切に思ってくれる仲間に感謝しながら、目に涙を貯めた。
  175. 819 : : 2017/03/08(水) 23:07:17
    日向がまともにしゃべれるようになるまで3日ほどかかった。

    毎日77期生の誰かがお見舞いに来てくれたが、ある程度動けるようになった日、雪染たちが病室にやってきた。


    雪染「日向君。話は聞いてたけど、元気そうで安心したわ」

    日向「あ、雪染先生に、逆蔵…先生?」

    逆蔵「俺はもう教師じゃねえよ」

    日向「じゃあ、逆蔵さんで…そちらは?」

    宗方「宗方京助だ。雪染と逆蔵とは同期だ」

    日向「じゃあ……元超高校級…?」

    宗方「話の本題はそこではない……。どこまで覚えている?」

    日向「……最近まで忘れてましたけど……最後は天願さんに何かを刺されたところまで…」

    雪染「…そう。じゃあ、その後どうなったのかを説明しに来たの。聞きたいでしょ?」

    日向「……はい」

    雪染「えっと……あまり時間もないからかいつまんで説明するわね。プロジェクトは完全に解体。関わってた評議委員や研究機関も解体されたわ。非人道的なことをしてた、ってことでそれを学園長が世間に公表して、今希望ヶ峰学園は大騒ぎ、って感じね」

    日向「…え。それって大丈夫なんですか?」

    逆蔵「大丈夫なわけあるか。連日マスコミが来やがるからそれを止めるのがどんだけ大変か…」

    日向「ですよね…」

    宗方「だが、これはチャンスでもある。ここまで希望ヶ峰学園の中で腐っていた部分は大分切り落とせた。あとは…俺たちがやるだけだ」

    そう言って宗方は病室を出ていこうとする。

    宗方「日向創。希望ヶ峰学園がなくなることはない。俺がいるからな。貴様はせいぜい残りの学園生活を平穏に過ごせばいい」

    そう言い放って出て行った。

    雪染「もー! なんであんな言い方するかなぁ。じゃあ、私たちも行くわね。安静にして早く学園に来るようにね」

    雪染も出ていき、逆蔵は日向をちらっとだけ見て、病室を出て行った。


    日向「…とんでもない陰謀に巻き込まれそうだったんだな…俺…」

    話の大きさに日向の感覚がついて行けてないが、とりあえず解決はしたということを理解して、日向は安堵した。

    そして、いち早く回復するために一眠りすることにした。
  176. 820 : : 2017/03/08(水) 23:24:57
    ~1週間後~

    ようやく退院した日向は寮ではなく、学園へと足を伸ばした。

    今頃は皆授業を受けているはずでその姿を見て、日常に帰ってきたんだという安心感が欲しかった。

    誰もいない廊下を進み、教室にたどり着くと、中は静まり返っている。

    教師の声も聞こえないのはおかしいと思い、扉を少し開け…ようとしたところで、一気に扉が開かれた。



    『日向、退院おめでとう!』

    まず、そう書かれた段幕が目に入った

    日向「…え?」

    左右田「おおー、やっと来やがったな! おせぇぞ!」

    澪田「ほらほら、みんな創ちゃんを待ってたんすから早く座るっす!」

    日向「いや、待て。なんだこれ!?」

    花村「日向君の退院祝いだよ!」

    西園寺「見ればわかるでしょー?」

    日向「俺の退院日、今日だって言ったか…?」

    九頭龍「院長に吐かせた」

    トリス「乱暴なことはしてないよ? 普通に聞いただけだよ。…普通にね」

    日向「不安になる言い方するな!」

    七海「…みんな、日向君が戻ってきてくれて嬉しいんだ…と思うよ?」

    日向「………」

    日向(もちろん、こんなに歓迎されて嬉しくないわけがない。むしろ、感動で号泣しそうだ。だけど…泣く前に…)



    日向「みんな、ただいま!」

    77期生と過ごす平穏な日常、そこにやっと帰れた日向だった。


    雪染「今日からクラスメイトになる日向創君よ!」 TheEnd
  177. 821 : : 2017/03/08(水) 23:28:25
    はい、最後駆け足気味になりましたが、とりあえず一旦終了とさせていただきます。
    最初の投稿…10月!? 半年くらい書いてたのか、と驚きましたが、長々とお付き合いありがとうございました。
    というか、始めた当初、終わり方を考えてなかったからかなり行き当たりばったりだったので、こんな感じに終わりました。
    シリアスで締めようとは思っていましたが、シリアス難しいですね(´ω`)

    今後どうするかはまだ未定ですが、新作等で会えれば気軽にコメントしていってください。

    感想や意見などありましたらぜひお願いします!
    ではでは。
  178. 822 : : 2017/03/08(水) 23:32:13
    長い間お疲れ様でした
    日向は割とギリギリのところで助かった感じですね……ゾッとしました
  179. 823 : : 2017/03/08(水) 23:51:14
    お疲れさまでした
    またほのぼのもみたいですね
  180. 824 : : 2017/03/09(木) 20:15:48
    お疲れ様でした もう最高でした
    新作も楽しみにしています
  181. 825 : : 2017/03/09(木) 20:35:12
    無事完結おめでとうございます!

    面白かったです!これからも頑張ってください!
  182. 826 : : 2017/03/09(木) 21:30:32
    お疲れさまでした!次回のも待ってます!
  183. 827 : : 2017/03/10(金) 00:02:51
    おつかれさまでした
  184. 828 : : 2017/03/10(金) 13:20:46
    お疲れサマンサ☆です!
  185. 829 : : 2017/03/12(日) 02:48:57
    お疲れさまでした。約5ヶ月間毎日が楽しいと思えるいいss小説でした。
  186. 830 : : 2017/03/12(日) 21:09:14
    皆さん、コメントありがとうございます。
    皆さんのコメントがあったからここまでモチベが続いて、そして、書いてて楽しいと思えました。
    こちらこそありがとうございます。

    さて、途中で出てきた七海を襲った男についてちょっとした補足をすると言って忘れてたため、やります。

    男「超高校級として認められてぇ」

    天願「希望を作るプロジェクトがあるけど、やる?」

    男「やる」

    天願「その前に、ちょっと日向君を焚きつけて欲しいんじゃ」

    という感じのやりとりの後、日向を脅しに行った、という感じです。退学させようとしたのは、希望ヶ峰学園の生徒ですらなくなったら遠慮なく、実験に強制参加させられるため。学園内であると、才能を守ろうとする希望ヶ峰学園の警備体制のために日向に手が出しづらかった…という設定です。

    日向を脅した後、カムクライズルプロジェクトの被検体になり、その後死亡してしまいました。彼は8人目の被検体で、適合率はほぼないと言っても良いレベルでしたが、「やるだけやってみよう」→「やっぱりダメだったかー」ってなった悲しい人物です。

    本当は一回分の更新で書こうと思ったんですが、雰囲気合わないし、77期生誰も出ないって誰得?となってやめました。
  187. 831 : : 2017/03/14(火) 01:25:14
    そういえば今日は七海の誕生日ですね
    おめでとう七海!日向と幸せに!

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