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泣き虫の幽霊

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  1. 1 : : 2016/09/03(土) 23:28:19

    初投稿なので温かい目でお願いします。

    とりあえず幽霊の女の子を書きたかったんです。
  2. 2 : : 2016/09/03(土) 23:30:01




    春は出会いの季節なんて言う人が多い。

    実際環境が大きく変わるのは春が多いのだから初めて出会う人が多いのは当たり前ではある。

    まあ学年が1つ上がったりしただけではそう大した出会いは無いだろうけど。

    そんな事を考えていると、家を出る前に見た弟の羨ましそうな顔が脳を過ぎる。

    羨ましくなるのは当然だろうなと思う。


    「一人暮らしって憧れだもんなあ」


    今日から俺の家になるアパートの目の前で顔がニヤつくのが抑えきれない。

    大家さんに挨拶をして鍵を渡してもらう。


    「このアパート、知ってるとは思うけど壁が薄いからさ。あんまり騒がないようにね」


    年配の大家さんはしゃがれた声でそんな事を言ってた。

    まあ当分は大丈夫だろう。

    大学に進学したとは言え、同じ高校の奴らとは会わない様に少し遠くの大学を選んでいる。

    理由は、まあ余り言いたくない事だ。

    そんな事はどうでもいい事で、どうやら俺の部屋は2階の端っこ、205号室らしい。

    鍵を開けて、入ってみると古臭さはあるもののそれなりに清潔に保たれた部屋だった。

    玄関から少し奥に入ると少し狭い部屋に先に送られてきたダンボールが所せましと並べられている。

    いよいよ俺の引っ越しが始まるのだなと高揚感が胸を支配する。

    俺が手荷物を下ろして、荷解きを始めようと目の前にあった段ボールに手をつける。


    「あっ」


    「えっ?」


    その段ボールの後ろに出てきていた隙間に腰から上が壁から出ている少女がやっちまったと言わんばかりの表情でこちらを見ていた。


    一瞬の沈黙。


    「わあああああああ!!!!???」


    「きゃああああああ!!!!???」



    俺の一人暮らしは、隣の部屋からの怒りの壁ドンと共に始まるのだった。
  3. 3 : : 2016/09/03(土) 23:32:58


    「ちょちょちょちょ……なになになに、どうしたの、何なの……え?ゴースト?幽霊的なソレなの
    ?」


    「ひぇええええ、ごめんなさいい」


    思わず飛び退いて段ボールの後ろからその不可解な少女を見る。

    見た目は中学生くらいの少女なのでまだ平静を保てている方ではあるが……いやそれでも十分にビビってはいるけれど、先程の様に大声を出すほどでは無くなった。


    「ひいいいい」


    と言うかむしろ向こうの方がだいぶビビっている様な気がする。


    「お、おい……なんか答えてくれよ。喋れる、喋れるよな?俺の声聞こえてるよな?」


    「き、聞こえてますぅ……話せますよぉ……」


    恐怖のあまり涙やら鼻水やらが出たい放題で結構大変な顔をしているが、とりあえずの意思疎通には成功した。


    「その、幽霊?幽霊的な感じなの?」


    「んぐっ…ふぐっ………は、はい、私幽霊なんでふ……」


    彼女も少しは落ち着いたのか、少しずつ泣き止んでいった。

    俺は敵意が無い事を表明する為、意を決して段ボールの影から出てくる。

    それを見た彼女が再びビビって涙目になったのは予想外だったが、どうにか落ち着かせて事なきを得た。


    「……えっと、ちょっと聞いてもいいかな」


    「は、はい……」


    幽霊とは言え、床の上に正座してるのを見るとやたらめったらすり抜ける訳でもないらしい。


    「一応幽霊ってのは……まあ理解したけど、何でこんなところに?」


    「……昔、だいたい6年前くらいに交通事故で死んでしまって……その時にこのアパートの階段まで飛ばされちゃったみたいで……この部屋は唯一アパートで誰も住んでなかったしいいかなと思って……」


    思いのほか死んだ時の記憶が鮮明な様で少し罪悪感が心を刺す。


    「えーと、引っ越しの荷物とか来ただろ?それで誰か来るなーとか……」


    俺がそう言うと彼女はぱっと顔を上げて、その両目に涙を貯めながら言う。


    「私、ここにいちゃ邪魔ですか……?」


    「いや!?そういう訳じゃなくてさ!ほら、一応人のいない部屋に住んでたみたいだし……あ、地縛霊的なそういう?」


    泣かせまいと必死に弁明すると、彼女は良かったと胸をなでおろした様だった。

    どちらかと言うとこちらが胸をなでおろしたい気分である。

    彼女は俺との会話に慣れたのか少しずつ声に年相応の感情がこもってきているように感じた。


    「いえ、そういう訳じゃなくて……わりと何処でもいけますよ」


    「あ、そっすか……え?じゃあ何で?」


    そう聞くと彼女は悲しそうな顔をしながら言った。


    「何処でもいけますけど……でも何処に行けばいいか分からないんです。だからずっとここに…」


    「成程……住んでた家とかは覚えてないの?」


    「……私、死ぬ前の記憶しか覚えてなくて……名前とかも全然……」


    正直何を聞いても彼女の地雷を踏み抜いてしまいそうで質問するのは止めにしようかと考えていた時、今度は彼女の方から話しかけてきた。


    「あの、お兄さん。……私、ここから出たくないんです。その、一緒にいてもいいですか……?」


    彼女は少し潤んだ瞳で俺を見上げながら聞いてきた。

    幽霊とは言え、見た目は中学生くらい。

    しかも結構可愛い感じの女の子からそんな風に頼まれてしまうと俺にその頼みを断ることなんて無理だった。
  4. 4 : : 2016/09/03(土) 23:33:32
    そんなこんなで大学に通ったり何なりしながら彼女と過ごす事、一週間。

    それだけ一瞬に暮らしていると彼女に関して分かったことが幾つかあった。

    1つは彼女は何でもかんでもをすり抜けるということではないという事。

    例えば彼女は段ボールみたいな重い物を持ち上げたりすることは出来ないが、コップ程度の重さの物なら持ったりできる。

    これは、さり気なく彼女がテレビのリモコンを弄ってチャンネルを変えていた時に気づいた。


    「え、リモコンとか弄れんのね」


    「あ、はい。ある程度の重さなら持てたりするんですよ」


    そう言った彼女につい好奇心が働いた俺はどこまでの物なら持てるのかという事を試す実験をしようと彼女に持ちかけ、彼女もこれを快諾した。


    「ノートは持てないけど、こっちの雑誌は持てますよ。あ、この漫画も持てますね」


    「掃除機は触れないですねー。あ、電卓とかも触れないみたいです。でもこっちのメガドラは触れましたよ」


    俺がなんでこの御時世にメガドラなんて化石みたいなハードを持ってるかという事は重要ではないので割愛しよう。

    と、俺の実験の結果で分かった事は重さ云々より興味の無い物以外は触れないという事だった。

    流石に彼女も不味いと感じたのか微妙に視線を逸らしていたのが怪しさに拍車をかけていたが、追求するのも可哀想なので止めておいた。


    そしてもう1つ分かったことがある。

    それは彼女が飲み食いを出来るということだった。

    彼女曰く、しなくても困らないけどご飯食べるのは楽しいから好き、との事だった。

    という風に彼女と過ごし始めて一週間が経ったその日の夜、いつもの様に俺達は買ってきた惣菜と白米で夕飯を食べていた。


    「いつもお惣菜ですねー、自炊とか出来ないんです?」


    ぱくぱくとサイズの合ってない箸を器用に使って飯を食べながら彼女はそんな事を聞いてきた。

    最初はあんなにビビってたのに慣れというのは凄いものだと実感する。
    同時に彼女の物言いがだんだん遠慮無くなって言ってるのが少し気になった。

    それで怒ったりはしないと思うが、一人暮らしを始めたのに正体不明の幽霊よりヒエラルキーが下になるのは御免であった。


    「出来ないじゃなくてやらないんだよ。めんどくせえし……誰かに振る舞う機会も無いし」


    「お兄さん、お友達とか家に呼ばないんですか?私その間くらいなら外に出ますよ」


    「い、いいよ……別に気ィ使わなくて……」


    背筋を冷や汗が伝っていく。
    だが彼女はそんな事は露知らず、容赦無く追撃してくる。


    「えー、何遠慮してるんです?ほらたまには友達と遊ばないと……」


    「……んだよ」


    「はい?」


    「……いねえんだよ、友達とか」


    俺が断腸の思いで告白すると彼女はしまったと言わんばかりの表情を浮かべた。


    「ご、ごめんなさい……私、そんな事も知らないで……」


    そう言って彼女は申し訳なさそうに俯いた。


    「いいよ、俺が悪いんだし……お前にも悪気は無いだろうしな」


    俺がそう言っても彼女は俯いたまま、顔を上げようとはしなかった。

    そう言えば彼女に関して、もう1つ分かったことがあった。


    「うっ……ごべんなざい〜……」


    俯きながら肩を震わせて彼女はぽろぽろと涙を流し始める。

    この様に、彼女はやたら泣き虫なのだ。

    俺は苦笑しながら彼女にティッシュを差し出すのだった。
  5. 5 : : 2016/09/03(土) 23:33:59
    彼女が泣き止むまでに数分を費やし、夕飯を再開する。

    とは言ってもほとんど食べ終わってしまっていたのですぐに後片付けをすることになった。


    「あ、そこに置いててくださいー」


    彼女は移動する度にドアを通るのではなく、壁をすり抜けて移動したりするのでいつの間にか変な所にいたりして心臓に悪い。

    俺は持ってきた食器をシンクに置いて既に皿洗いを始めている彼女の横に立つ。

    彼女は幽霊でありながらもどうやら自分が居候の様な立場にあるという自覚はあるらしい。

    その為か皿洗い程度のあまり重い物を扱わない家事などは積極的に取り組もうとする。

    しかし彼女だけにさせるのも不安なので、結局2人の分担作業になる。

    そんな感じで皿洗いをしながら彼女に話かける。


    「つってもさぁ、やっぱ友達いないのはやばいよなあ。まあ俺と仲良くして得する事があるかって言われたら無いんだけどさ」


    「……私はお友達いなくてもお兄さんは素敵だと思いますよ!ほんとに!」


    「お前がそう言ってくれるだけで俺は嬉しいぜ……」


    実際彼女が必死に慰めようとしてくれるのが伝わってきて、俺がもう少し涙もろかったら泣いて喜ぶ程度はしたかも知れない。

    多分してないけど。


    「それに、お友達って言うのは得とか損とかで決めることでもないと思いますよ。少なくとも私はそう思いたいです」


    彼女はそう言うと同時に最後の皿を洗い終えた。

    そう言った彼女の横顔はどこか寂しそうで俺は思わずそれに見とれてしまっていた。

    それに気づいたのか彼女は俺の方を向いて笑顔で手を差し出してきた。


    「お兄さん、握手しましょう」


    「あ、握手?何でまた……」


    彼女はいいからいいからと言いながら手を差し出すように急かしてくる。

    俺は不思議に思いながらも手を差し出して、彼女の手を握ろうとする。

    だが、その手と手が触れ合う事は無い。

    確かにそこに彼女の手は存在するのに、目の前にあるのに触ることだけは出来なかった。

    それが唐突に怖くなり、彼女が改めて幽霊であるということを実感する。

    人間の俺と、幽霊の彼女に明らかな『壁』が存在した事を突きつけられた。
  6. 6 : : 2016/09/03(土) 23:35:04

    「───触れられたなら」


    「え?」


    俺がそんな事に気を取られていて、彼女がぼそりと零した言葉を聞き逃してしまう。

    だが彼女はふるふると首を振った。


    「何でもないですよ。お友達をつくりたいならきっかけついでにバイトでも始めてみたらどうです?」


    彼女が言おうとした内容が気になりはしたが、彼女が言いたくないのなら追及すべきではないと考え、止めておいた。

    それにしてもバイトか……いつかやろうとは思っていたが、あまり深く考えた事は無かった。


    「うーん、そうだな。明日にでも求人広告見てみるか」


    「ええ、絶対それがいいと思いますよ。お兄さんがお金を稼いでくれたら私ももっとワガママ言えますしね〜」


    「結局自分の為かよ!……まあ、いいけどよ」


    彼女の思惑はどうであれ、実際金が溜まったら彼女の欲しい物でも買ってやろうかとは考えてはいる。

    幽霊となって6年間も1人でいたのだからその程度贅沢させてあげたいものだ。

    と、そこまで考えてふと引っかかる事があった。

    6年間……?


    「え、確認したいんだけどお前6年前に……その、アレしたんだよな」


    流石に本人の前で死んだとか何とか言うのは気が引ける。

    それでも彼女はそうですよ、と笑いながら対応してくれた。

    こいつ自分が死んだ事にあまり関心とか無いのだろうか……と、そんな事はどうでもいい。


    「って事はお前もしかして……いや、もしかしなくても……」


    「多分、お兄さんより年上ですね。お兄さん呼びはやめませんけど」


    「やっぱり!?」


    「年上と言っても外見は変わらないし、そもそも6年間ろくに人と関わってないですから形だけですよ〜」


    そう言って彼女はにまにまと笑った。

    顔と言ってる事が相反している事に彼女は気づいているのだろうか。

    明らかに今気づいた年齢的な優位を駆使して俺に色々言ってくるに違いない。


    「お兄さん、私なんか映画見たいなあ」


    「……はぁ、分かったよ、ちょっと借りてくる。どうせ明日休みだしな。どんなのがいい?」


    「15禁のスプラッタ系ですかね」


    「え!?ガチで!?」


    結局その後、俺が夜通し映画鑑賞に付き合わされたのは言うまでもない。
  7. 7 : : 2016/09/03(土) 23:35:27
    彼女にバイトでもしたらどうかと言われて、色々と当たったところ、結局コンビニで働くことになった。

    店長さんもバイトの先輩もみんな俺に優しくてドン臭い俺にも色々と教えてくれた。

    もちろん彼女も俺を祝ってくれた。


    「接客業なら髪とか切った方がいいんじゃないですか?わりと印象変わったりもしますよ」


    「そうかな、俺結構この髪型気に入ってんだけどな……」


    「お兄さん、それは髪型じゃなくて寝癖って言うんですよ〜」


    毎度の事で少しばかり慣れはしたが、彼女は笑顔で結構な毒を吐くことが多い。

    そして俺は毎回毎回彼女の言う事に何も言い返せずに苦笑するだけである。

    もし俺に彼女が出来たとしたらやっぱり同じように尻に敷かれるのだろうかと心配になる。


    と、そんな事はお構い無しと言わんばかりに彼女はジロジロと近くで俺の顔を見ながらうーんと唸る。

    彼女は見た目は年下だとしても非常に可愛い見た目をしている。

    肩まで伸びた艶のある黒髪にくりっとした丸い瞳、頬は少し赤みがかっていて、俺は思わずドキマギしてしまい顔を背ける。

    しかし彼女は俺が顔を背けるより一瞬早く納得した様にうんと言いながら顔を上げた。


    「やっぱり髪切った方が良いですよ。お兄さん、意外と顔はカッコイイんですから自信もってください!」


    「お、おう……」


    可愛らしく胸の前で彼女はガッツポーズを取る。

    俺は思わず照れてしまい、言葉少なに返事をすることしかできなかった。
  8. 8 : : 2016/09/03(土) 23:35:57
    翌日、バイトを早上がりして髪を切りに行った。

    出来上がりを見て、今までとは違い頭がやたら軽くて、無防備過ぎるんじゃないかと少し不安になってしまう。

    俺は彼女に何て言われるだろうかと半分期待しながら、もう半分は不安に思いながら家路についた。

    アパートの扉の前に立って一呼吸を置く。

    そして意を決して扉のドアノブに手をかけた瞬間、にゅっと扉の真ん中から指が生えてきた。


    「うおわっ!?」


    「お兄さんお帰りなさ〜……い……?」


    指が生えてきた訳ではなくて、彼女の指が扉をすり抜けていただけなのだが、やはり急に壁をすり抜けて出てこられると未だに驚いてしまう。

    の、だが。

    それ以上に彼女は俺の髪型を見て驚いているようだった。

    そんなに驚くという事はつまりあまりにも似てないという事だろうか……。


    「お、お、お、お兄さんっ」


    「あ、はい。何ですか」


    似合ってないと思われてると決めつけ、わりと本格的にへこみかけてた時に声をかけられる。

    やや無気力な目で彼女を見ると、驚いた事に目をキラキラさせて頬を紅潮させながら彼女はこちらを見ていた。


    「すっっごい似合ってますよ!かっこいいです〜っ!」


    そう言って彼女は思わずと言ったように俺に飛びついてきた。

    急な事だったので俺も咄嗟に彼女を受け止める姿勢を取る。


    ─────よく考えれば分かることだった。


    彼女と俺の体は、一切触れ合わずにすれ違う。

    俺は飛びかかる彼女を受け止める姿勢のままで、彼女は俺の後ろで先程までとは打って変わって静かになっていた。

    俺は焦って、後ろを振り向く。


    「……どうしたんですか?そんな顔して」


    だが彼女はいつもと同じような笑顔のまま、こちらを見上げていた。


    「え、あ、いや……その、大丈夫なのか?」


    「大丈夫も何も分かってたことじゃないですかあ、さっきのはフリですよフリ!お兄さんも思わず受け止めようとしちゃうんですから。ほらお家に入りましょう、周りの人から変な目で見られますよ!」


    そう言って彼女は出てきた時と同じようにぬるりと扉をすり抜けて中に入っていった。

    いつも通りに振舞っている彼女が明らかに無理をしている事は明白だった。

    でも俺には今の彼女にかける言葉を見つける事はできなかった。
  9. 9 : : 2016/09/03(土) 23:36:33
    そんな事があってからというもの、彼女はどこか俺と近づくのを避けているような気がする。

    あんな出来事があれば当然の事ではあるが、その度に俺は彼女との壁を感じてしまう。

    彼女は今まで通りに振舞ってはいるが、やはり前と比べてぎこちなさがある。

    そんな感じに少し気まずい雰囲気で俺達は1ヶ月近くを過ごしていた。

    そんなある日の事だった。


    「お兄さ〜ん、ケータイなってるよぅ」


    「おー、今行く」


    今日は講義もバイトも休みで、朝から部屋の片付けをしようと2人で掃除を……まあアイツは途中で漫画を読み始めていたが、掃除をしていた。

    掃除機をかけていた俺は彼女のその声かけでケータイの着信に気付き、電話をとる。

    電話の相手は俺より少しだけ後に入ったバイト先の後輩だった。


    「……あ、はい、もしもし。……ああ、うん、暇だけど……えぁ!?ウチに!?マジ!?いや、嫌じゃないけど……!わ、分かった、じゃあ3時くらいに、うん。じゃあまた」


    そう言って俺は電話を切り、思わず彼女の方を見る。

    向こうもこちらを見ていたようで気せずして目が合う。


    「……誰か来るんです?」


    「ん、まあ……バイト先の後輩の子が、ちょっとな。お話したい〜みたいな」


    「なるほど……私出てた方がいいですか?邪魔じゃないですか?」


    「何でさ、大丈夫だろ。むしろ俺の隣でアドバイスしてくれた方が助かる。女の子相手にちゃんと話せる気がしないんだよ」


    「そ、そうですか。じゃあ仕方ないですね」


    彼女は俺の発言に、どこか嬉しそうな表情を浮かべながら髪をいじる。


    「よし、お兄さん!女の子が来ると決まっちゃうかうかしてられませんよ!こんな部屋じゃやばいです!さっと片付けましょう!」


    「お前さっきまで漫画読んでたろ……」


    彼女は嬉々としながら漫画類を1冊ずつ本棚に戻していく。

    現金な奴だなとは思いつつも久々に彼女が楽しそうな姿を見ることが出来て、俺まで嬉しくなる。

    そんな感じで俺達は2人で部屋の片付けを進めるのだった。
  10. 10 : : 2016/09/03(土) 23:37:02
    そして時間はあっという間に過ぎて、午後3時になる。


    「そろそろですね」


    「そろそろだな」


    彼女はにやにやしながら肘で小脇をつついてくる。

    俺はと言えば結構緊張しているので、手汗がかなり酷くなっている。

    と、そんな時にチャイムが鳴る。


    「うおっ、来たっ!」


    「お兄さん、ファーストコンタクトが大事ですよ!」


    心臓の音が大きくなるのを感じながら、ドタドタと廊下を歩いて扉を開ける。


    「あ、先輩、こんにちは!」


    「お、おう……まあ上がってくれ」


    バイト先の後輩の宮村さんはいつも明るく笑顔の絶えない女子高生で、こんな俺にも気さくに接してくれる。

    だが、まあまさか家に来てもいいかと聞かれるとは思わなんだ……。

    宮村さんを部屋まで案内して、飲み物出すから適当に座っててと伝える。

    台所に行くと毎度の如く彼女が壁をぬるりとすり抜けて先回りしていた。


    「いいんじゃないですかぁ?結構可愛らしい人ですし、お兄さんにお似合いですよ」


    「あのなあ……別にそういうんじゃねえって」


    そう話していると、宮村さんのいる方から何か言いましたかー!?と声が聞こえてくる。


    「やっべ、いつもの感じで話しちまった……!」


    「ご、ごめんなさい!次からはお互い気をつけましょう!」


    そう言って彼女は向こうに戻って行く。

    俺もお茶を2人分注いで部屋に戻る。

    宮村さんは部屋をキョロキョロと見回しながらテーブルの前に座っていた。


    「へぇー、案外いい部屋住んでるですねえ。一人暮らし羨ましいです」


    「そ、そうか?やっぱり一人暮らしとか憧れるの?」


    実際には一人暮らしではないので、隣に座る彼女がにやにやしながらこちらを見てくる。


    「やっぱ憧れですよ!先輩みたいな大学生なら尚更憧れちゃいますし……」


    「そ、そうなのか?俺みたいなのがか?」


    思ったより好意的に思ってもらえていることが判明して少し戸惑ってしまう。


    「俺みたいなのって、へへ。先輩自己評価低すぎ……」


    と、宮村さんは途中で言葉をとぎらせ黙ってしまった。


    「お、おい……どうかしたのか?」


    「せ、先輩、この部屋、なんか寒くないですか……?」


    「え?寒い……?そんな事ないと思うけど……」


    季節も夏に近づいてきており、気温も過ごしやすいはずだ。

    すると隣で彼女がハッとしたような表情を浮かべる。


    「はぁっ、さ、寒いなあ。ごめんなさい先輩、せっかく来たのに……わ、私風邪かもしれないです」


    彼女は本格的に震えだしてしまい、俺は焦りながらもタンスからジャケットを引っ張り出す。

    それを貸したが、彼女は依然として寒そうに震えていた。


    「ごめんなさい……うつしたら悪いし、今日はちょっと帰ります……」


    「あ、ああ……その、なんか悪いな。ほんと」


    宮村さんは気にしないでくださいと言いながら部屋を出ていった。
  11. 11 : : 2016/09/03(土) 23:39:08
    「ごめんなさい……ごめんなさい……」


    「き、気にすんなって。別にわざとやった訳じゃないだろ?」


    宮村さんの寒気、それは俺がこの部屋にやって来た時に感じたそれと同じだった。

    最も俺が来た日は気温もそんなに高くなく、あまり寒いとも感じなかったが、今日はここ最近でも結構暑い。

    軽く初夏くらいの気温はあり、確かにその気温の落差はきついかも知れない。

    俺は多分慣れているからその寒さに気づかなかったのだろう。

    だが、彼女は宮村さんを返してしまった責任を強く感じているようだった。

    宮村さんが帰ってしまってからずっと彼女はあの調子だ。


    「だ、だっでぇ……私のせいでお兄ざんのチャンスを……」


    「大丈夫だって。俺は別にあの人の事は何とも思ってないし、今日のは事故だろ?ほら、もう泣くなよ」


    「…………ってください……」


    彼女が小さな声で何かをつぶやく。


    「出て行け……って言ってください……!」


    「私、別にどこにでも行けるんですよ?だからお兄さんが言えばいつでも出ていきますよ。今まで、ずっと私のワガママでここにいたけど、これ以上迷惑かけたくないんです。だから……」


    彼女がそこまで言ったところで、俺は声を上げる。


    「出て行けなんて……言えねえよ」


    理由までは言わなかった。

    いや、言えなかっただけだ。

    実際冷静に考えて彼女がいる事によるメリットはあまり無い。

    むしろ食費は少し嵩張るし、デメリットの方が多いのだ。

    でも、それでも俺には彼女に出て行けなんて言えなかった。

    だが、彼女はそんな俺の言葉に背くように立ち上がった。


    「お兄さんが言わないなら……自分で出ていきますっ!こんな家、ごんな家、出ていぎまずからぁ!」


    そう言って彼女は泣きじゃくりながら家を飛び出していった。


    「おいっ、待てよっ!」


    扉や壁を介さない彼女はするするとあっという間に家を抜け出してしまう。

    俺は追いかけようとするが、扉を開けたりするのに手間取ってしまい、すぐに差を付けられてしまう。


    「待てって!おい!お───」


    そこまで言って、気づく。

    彼女の名前が分からないのだ。

    彼女自身にも分からない彼女の名前が俺に分かるわけが無かったのだ。

    2人で暮らしていたから意思疎通に困る事はほとんど無かったのだ。

    だから違和感も無く過ごせていた。

    本当なら名前がなんなのかを調べるべきだった、そうじゃなくても彼女をなんと呼ぶかくらいは決めておくべきだったのだ。


    「何で……何でだよ……クソ……」


    俺は名前も呼ぶ事も出来ずに、彼女を見失ってしまう。

    夕焼けが1人の俺を哀れむように照らしていた。
  12. 12 : : 2016/09/03(土) 23:39:38
    「え?6年前?」


    結局彼女は夜になっても、翌日の朝になっても戻ってこなかった。

    俺は少しでも手がかりを見つけるために、大家さんに話を聞いていた。

    6年間前にあったはずの事故、その詳細が分かればきっと彼女に近づけるはずだと考えたのだ。


    「ああ、確かにそれくらい前にここの前で事故があったねえ。可愛い子で、いつも挨拶してくれてね。いい子だったのに即死だったらしくて……今でもたまにお墓にも行くのよ。本当に可哀想に……」


    「その、お墓って何処にあるか……」


    「すぐ近くにあるわよ」


    そう言って大家さんは口頭で道案内をしてくれた。

    俺は大家さんにお礼を言って早足でその墓まで向かう。

    案内されたように森の中にある階段を上っていき、墓地に出る。

    そこから程なくして言われた場所にある墓へと辿りついた。


    「……八代家の墓、か」


    そしてその墓に眠っている故人の名前の一番端っこに6年前日付けと共に女の子のものと思われる名前があった。


    「絢香……あやか、か。昨日呼んでやれてたら違ったのかもな」


    そう言って墓の前で手を合わせてから、帰ろうとした時だった。


    「私、八代絢香と言うらしいですよ」


    「……え?」


    「おはようございます、お兄さん。しばらくぶりですね」


    そこにはいつもの笑顔を浮かべながら彼女が立っていた。


    「お前、何で……」


    「昨日走ってたらいつの間にか辿りついちゃったんですよ。偶然にしては出来すぎですよね、この中に私が眠ってるらしいですよ」


    そう言いながら彼女は墓に触ろうとするがその手は墓石に触れることは無い。


    「昨日から、正確には家を出てから小さな物にも触れなくなってたんですよ」


    そう言う彼女の手は少しだけ透けており、向こう側が見えていた。


    「お、お前!?その手、何で……っ!?」


    「分かんないです……けど、多分自分のお墓見ちゃったからじゃないですか?」


    「何でそんなに冷静なんだよ……お前消えちまうかも知れないんだぞ……」


    「……ですね。だからこの際、言っておきたいと思います」


    そう言って彼女は改まってこちらを向きなおる。


    「お兄さんと暮らし始めるまでの6年間、誰も私と話してくれる人はいなかったし、誰も私の事に気づいてくれませんでした」


    「私はここにいるのに、目の前にいるのに、喋ることだって出来るのに、誰も私に関わってくれない」


    「凄く怖かったけど、もう死んでるから、終わりにすることも出来ない。地獄でしたよ、本当に」


    彼女はそうやって淡々と続ける。


    「でもお兄さんが来てくれた。死んで初めて私とお話してくれた。しかも私を受け入れてくれた。ずっと私が感じていた人との壁を取り払ってくれたんです」


    「だから本当にお兄さんと暮らせるのは嬉しかったし、楽しかった。優しくて、かっこよくて、お兄さんは私にとってヒーローなんです。……大好きでしたよ」


    そう言って彼女はにっこりと笑った。
  13. 13 : : 2016/09/03(土) 23:40:10
    彼女の、その告白を聞いて、俺は言葉を失っていた。

    彼女がそんなことを考えながら生活していたのかと思うと、心が締め付けられるように痛んだ。

    でも、それと同時に俺が彼女に出ていって欲しくなかった理由にも気づく。

    ずっと幽霊である彼女に感じていた壁がその気持ちに気づくのを邪魔していたのだ。

    彼女の話を聞いて分かった。

    彼女は間違いなく1人の人間なのだ。
    例え幽霊で、壁をすり抜けることが出来たとしても彼女の心は間違いなく人間と同じ。

    そうだ、この気持ちは。


    「俺も……俺も、お前が……いや、絢香が好きだ。好きなんだよ、だから出ていくなよ。……消えるなよ……!」


    それが俺の本心だった。

    それを聞いて彼女は今まで崩してこなかった笑顔をクシャクシャに歪める。


    「うっ、うぁ、ず、ずるいです……わたしだって消えたくない……お兄さんと一緒にいだい……!」


    泣きじゃくる彼女を見ながら、今抱きしめてあげられたならどれだけ良いのだろうかと思う。

    きっと今までと同じようにすり抜けてしまうのは分かっていた。

    でも、手を伸ばさずにはいられなかった。

    彼女の頬にゆっくりと、ゆっくりと手を伸ばしていく。

    どうしたってすれ違ってしまうのに、それを分かっていながら彼女の頬に触れようと試みる。


    「────え」


    俺の指先に触れたのは間違いなく、柔らかな彼女の頬。

    涙で濡れた頬に手が触れ、そのまま手の平を彼女の頬に重ねる。


    「さわ、れる」


    そうと分かればもうやる事は1つだった。

    彼女を思いっきり胸に引き寄せて、強く抱きしめる。


    「絢香……絢香……っ!」


    「お、おにいざぁぁん」


    彼女は胸に顔を埋めながら泣くのをやめない。

    そんな彼女を愛しく思いつつも、俺は苦笑しながら言った。


    「下條辰吉、そう言えば俺の名前言ってなかったもんな」


    「たつよし……た、辰吉さんん……好きでずっ、うぅ、あぅぅ……」


    「もう泣きやめよ……可愛いのが台無しだろ?」


    そう言うと彼女は手で涙を拭って、笑顔を見せた。


    「ぐずっ……ふぅ、えへへ。そう言われちゃ仕方ないですね」


    そう言って彼女は抱きしめられたまま、俺の顔を見上げる。

    思いのほか顔が近くにあって、思わず避けそうになるが彼女がぎゅっと抱きしめてるせいで逃げられなかった。

    彼女は悪戯っぽい笑顔を浮かべて唇を指差した。


    「はやくはやくっ」


    俺は少し照れがあり、なかなか踏み出せなかったが意を決して顔を近づける。

    彼女は目を瞑りその瞬間を待っていた。



    そして俺はゆっくりと、優しく、唇を重ねあった。






    そして次の瞬間、彼女は涙混じりの笑顔を浮かべた。


    「────ありがとう」


    そう言い残して彼女は俺の腕の中から光の粒となって消えていったのだった。


  14. 14 : : 2016/09/03(土) 23:40:47





    1年後、俺はまた彼女の墓に来ていた。

    俺が彼女と会った日はどうやら彼女の命日だったらしい。

    そして彼女が消えたその日は彼女の誕生日、偶然にしてはあまりに出来すぎだった。

    彼女に触れることが出来たのは、神様からの誕生日プレゼントだったのだろうか。

    そんな事を今でもまだ考えてしまう。

    もしそうであるならその直後に俺から彼女を奪い去ってしまうなんて、神様って奴はド畜生だと思う。

    花を手向けて、線香を焚いて手を合わせる。

    あれから当たり前ではあるが俺の部屋の妙な寒気は無くなった。

    あれからバイト先で念願の友達が出来て何度か部屋に招待したが、誰も寒いとは訴えなかったから間違いないだろう。

    そう思えば、全ては彼女が来てくれてから色々変わったなと思う。

    バイトを始めたのも彼女のお陰だったし、髪を切ろうと思ったのも彼女の後押しがあったからだ。

    彼女は俺に余りある贈り物を贈ってくれたのに、俺は彼女に何かをしてあげられたのだろうか。


    そんな事を考えながら目を開ける。


    「やっぱりお前がいないと調子でねえよ……」


    聞こえる訳もないのに、俺はそう呟く。

    そんな自分が馬鹿らしくなって自嘲気味に笑いながら、墓に背を向けた。

    もう彼女はいないんだ、そう言い聞かせながら彼女の墓を後にする。

    ふと、優しい風が頬を撫でた。


    『ずっと、近くで見てるから───』


    「は────」


    その風に合わせて聞こえるはずのない彼女の声が聞こえてきて、思わず背後を振り向いてしまう。

    もちろんそこには誰も存在しない。

    でも、何となく俺には分かっていた。

    さっきの言葉は本当に彼女の言葉だったのだろうという確信があった。

    俺は空を見上げながら笑みを浮かべて言った。



    「……ああ、見ててくれ。頼りない俺をずっと、ずっと─────」




    空は彼女の笑顔と同じように、明るく、どこまでも晴れ渡っていた。










    fin

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ruberight84

@ruberight84

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