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散りゆく羽に思いを乗せて

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  1. 1 : : 2016/09/03(土) 14:46:41


    「あー」


    心地よい風を生み出し続ける扇風機に向かい、特に意味のないその声を届かせる。


    目では追えぬスピードで回り続ける四枚の羽は、空気の流れを乱しその声を変貌させていく。


    誰もが一度はやったことであろうこの行為に、何故かはわからないが特別な意味を感じていた。


    それが何なのかは全くわからない。ただ、記憶の奥底にこの行為に関係する『何か』が眠っている。そう確信していた。


    「あー」


    狭い部屋にその声は虚しく響く。頭の中にかかった霧を払おうとする。しかし、どれだけ声を響かせても、その記憶を思い出すことはできなかった。


  2. 2 : : 2016/09/03(土) 14:47:14



    『散りゆく羽に思いを乗せて』


  3. 3 : : 2016/09/03(土) 19:14:55


    燦然と輝く太陽を睨みつけながら、目の前に立ち聳える大きな家の前に立つ。


    俺────米原翔(よねはらかける)は、至って普通の男子高校生だ。テストではいつも平均点、スポーツもできないわけではないができるわけでもない。容姿も特に秀でたとこらはなく、強いて言えば身長が少し高いくらいだろうか。


    目の前の家の二階の端の部屋。そこが俺の目的であるところだ。部屋につけられた大きな窓を見ると、そこには女性が何かをしているのが見て取れた。


    ────またやってるのか。


    俺は呆れながら窓の側に立つ大きな木をよじ登っていく。もう何度もしている作業のためさながら猿のようにそそくさと上に進む。窓と同じ高さまで来たところで、枝を足で挟み体を固定させた。


    部屋の中にしっかりと人がいるのを再確認し、その人物に呼びかける。


    「おーい千春(ちはる)ー!!」


    千春は俺の幼馴染みである同い年の女子だ。顔は美人である方に含まれるだろう。


    千春は俺に気づいたのか恥ずかしそうに俯き、ゆっくりと窓を開けた。


    「ど、どうしたの翔」


    「……またやってたのか?」


    千春は何故か扇風機に向かい「あー」とするのがとても好きなようで、いつも扇風機の前に座り込んでいる。もう高校生だとは思えない行為だ。


    「や、やってないよ!!」


    千春はすごい勢いでそう言うが部屋の中では扇風機が三枚の羽を元気よく回転させている。冷房が効いていて気温は最適になっているはずのため、恐らくはやっていたのだろう。


    俺はため息をつきながら、肩にかけたカバンに手をかける。


    「ほら、今日のプリント」


    「あ、ありがと」


    千春は少し手を伸ばし、俺の差し出す数枚のプリントを受け取る。


    千春の家系は代々体が弱く、千春の母も去年亡くなってしまった。その直後に千春も体を悪くしてしまい、今は学校にも行けずに自宅で療養している。


    そのために俺はこうして毎日千春にプリントなどを届けているのだ。なぜ玄関から入らないのかは窓からの方が近いという単純な理由だ。


    「じゃあ帰るよ。安静にしてろよ」


    「うん、ありがと」


    手を振る千春に背を向け俺は慣れた手つきで木を滑り降りる。木の真下で千春に手を振り返し、俺は帰路に着いた。

  4. 4 : : 2016/09/03(土) 19:16:03



    ◇ ◇ ◇


  5. 5 : : 2016/09/03(土) 20:47:37


    翌日、目が覚めると何かに違和感を覚えた。しかし体のどこにも異変はなくしばらくするとその違和感も消え失せていた。


    何だったのかわからないまま俺は学校への支度を始めた。


    俺の通う高校は家から歩いて行ける距離にある便利なところにある。最も家から近いからここを受験したのだが。


    偏差値はそれほど高くないが低いわけでもない普通の高校だ。千春は成績優秀なのだが体の弱い関係で近くこの高校に通っている。


    全ての授業を終え、俺はまたいつものように千春のところに向かった。


    窓から覗くと千春はまたも扇風機の前に座り込んでいる。俺はやはり幼いなと呆れながらも千春に呼びかけた。


    「千春」


    千春は俺に気づくと、なぜか不安そうにこちらを見つめながら窓を開けた。心なしか、千春の手が微かに震えているように見える。


    「か、翔……」


    千春は子供が何か悪いことをした時のような、バツの悪そうな表情を浮かべていた。いつも子供のように楽しそうな千春がこんな顔をするとはどうしたのだろうか。


    「千春? 何かあったのか?」


    「え? いや何でもないよ!」


    俺が素直な疑問を千春にぶつけるとすぐにいつものように笑顔をつくる。しかしそれはわかりやすいほどの作り笑顔で。俺の不安はいっそう掻き立てられる。


    「何かあったならちゃんと話してくれよ。だって俺は─────千春の彼氏なんだから」


    ────え?


    その言葉は、唐突に俺の口から漏れでた。


    何を言ってるのだろうか。千春の彼氏が俺? しかしその言葉を俺は何の戸惑いもなく口にしていた。一体どうなって────。


    「うん、ありがと翔。でも本当に大丈夫だから気にしないで!」


    俺の『彼氏』という言葉に千春は何の反応も見せない。そうだ、俺は何を考えていたのだろうか。俺は千春の彼氏で、どこに違和感を覚えるところがあったか。


    「そっか。何かあったならちゃんと言ってくれよ。それじゃあな」


    俺は笑顔でそう言いながら、千春に手を振る。木を降りる直前、視界の隅に映り込んだ千春の部屋の扇風機。それはいつの間にか動きを止めており、その姿をはっきりと俺に見せていた。


    その扇風機には、羽が二枚しかついていなかった。千春の部屋の扇風機は大きな三枚の羽がついたタイプの扇風機じゃなかっただろうか。


    ────いや、元から二枚だったな。


    一瞬頭に浮かんだその疑問はすぐに消え去り、俺はいつものように帰路に着いた。

  6. 6 : : 2016/09/03(土) 21:40:08



    ◇ ◇ ◇


  7. 7 : : 2016/09/03(土) 22:40:16


    それからも俺達は恋人らしいことはあまりできなかったが、2人で楽しく過ごしていた。


    学校がある日はその日の出来事を話したりプリントを届けに千春に会いに行き、土曜日や日曜日は千春の部屋で2人で過ごした。


    今日は学校も休みのため千春の家に来ていた。部屋に入る時はちゃんと玄関から入るようにしている。


    「千春ー来たぞー」


    言いながら玄関の横についたインターホンを押す。高い音色が耳を刺激するとともに、すぐに千春から返答される。


    『入っていいよー』


    千春の声を確認しすぐに玄関を開ける。俺が来ることは事前に伝えてあるため鍵は開けてあった。


    階段を登り二階にある千春の部屋のドアを開けた。


    「千春ー」


    ドアを開けると同時、千春のいい匂いが俺の鼻腔をくすぐる。千春はベッドの上で横になりつつも、俺の方を向き笑顔を作る。


    「やっほー翔」


    心なしか少しだけやつれているように見えた。体はきついはずなのに俺を安心させようと笑顔をつくる千春の優しさに心が温まると共に不安が渦巻いていく。


    正確な日にちは何故か思い出せないが、俺達が付き合い出した頃から千春の病状は悪化していた。


    「大丈夫か?」


    「……うん」


    伏し目がちにそう言う千春。明らかに嘘だとわかる。やはり体は良くなっていないようだ。


    しかしここで千春の言葉を嘘だと言っても特に意味はないだろう。無理して俺を安心させようとしている千春の思いを無駄にしてしまう。


    俺は千春をなんとか慰めるために楽しい話題を振り続けた。


    千春は何度かつくりの笑顔ではなく本当の笑顔をチラつかせてくれたものの、やはりかなり辛そうだった。


    数時間一緒に過ごし、俺は帰ることにした。今日ここで話して俺はいっそう痛感した。千春の体はとても深刻なのだろう。俺はどうにもできない力無さに怒りを覚えつつも、なんとか笑顔をつくり千春に手を振った。


    部屋の隅にある扇風機は、その大きな二枚の羽を懸命に動かし、千春に風を届け続けていた。

  8. 8 : : 2016/09/03(土) 22:46:18



    ◇ ◇ ◇


  9. 9 : : 2016/09/03(土) 22:57:05


    翌日、いつもの様に目を覚ました俺はいつか感じたあの違和感に襲われていた。


    急に頭痛や目眩に襲われ、咄嗟に頭を手で抑える。


    「くっ……」


    何だ。何なんだこれは。


    頭が────頭が────。


    ────あれ?


    俺、何でこんなに苦しんでいるんだっけ。


    体に特に異常は見られず、俺は不思議に思いつつも学校への支度を始めた。


    学校につくと、いつものように担任によるホームルームが始まる。それが終わると授業が始まり、昼食を挟みまた授業。何気ないいつも通りの俺の日常。


    しかし、それは帰る直前のこと。日常に何かが欠落していることを、俺は思い出す。


    「じゃあ翔くん、これ今日のプリントお願いね」


    「え?」


    急に何を言っているんだこの先生は。そのプリントなら帰りのホームルームの時に貰ったのだが。


    「先生、それ僕貰いましたよ」


    「え? 千春さんのぶんよ?」


    千春。その名前を聞いた途端に、頭痛が走る。


    誰だ。それは誰だ。


    「ちは……る?」


    俺は以前にどこかでその名を聞いたことがある。必ず、その名を知っている。


    誰だ。どこで会った。いつ会った。


    俺は、俺は────。


    「うあああああああ!!!!」


    俺はあまりの頭痛に叫びを上げると同時、暗闇に誘われた。










    目が覚めると、そこは毎日見る我が家の天井だった。どうやらあの場で倒れてから誰かが家まで運んでくれたようだ。


    俺は何故倒れたのかも何も思い出せないまま、晴れない気持ちにやりきれない気持ちを感じていた。


    「やっと起きたね」


    その声は俺のものではなかった。


    声の方を振り向くとそこには綺麗な女の人が生まれたままの姿をさらけ出し、立っていた。


    あまりの衝撃的な光景に目が奪われ、困惑する。起きたら目の前に裸の女性とは、異常事態にもほどがある。


    「誰だ!!」


    ドアの方に後ずさりながら、声を荒げそう叫ぶ。しかしよく顔を見ると、どこかでこの女性を見たことのあるような気がした。


    「やっぱり、わからないのね」


    その女性はそう言いながら俺の方にゆっくりと歩み寄る。歩くたびに揺れる豊満な胸に俺は目を奪われつつも、恐怖が少しずつ込み上げてきていた。


    女性は俺の目の前に立つと、その細い腕を伸ばし俺の頭に翳す。


    「お願い、助けて」


    女性がそう言うと共に、俺の頭に流れ込んできたもの。それは、記憶だった。

  10. 10 : : 2016/09/03(土) 23:44:59


    「そうか、俺は────」


    全てを、思い出した。


    俺には千春という幼馴染がいた。そして俺は千春と付き合っていた。しかし、俺は何故かそれを忘れていたのだ。


    「君は、誰なんだ」


    目の前の女性は千春ではない、しかしどこかで見たような、不思議な女性。


    その女性はにこりと微笑みながら口を開く。


    「私は、扇風機よ」


    ────え?


    何を言っているのだろうかこの人は。明らかに人間の姿をしているのに自分のことを扇風機と言い始めたではないか。よい医者を紹介しなけらばならないだろうか。


    「本当よ。でもただの扇風機ではないわ。契約により魔法が使える扇風機といったところかしら」


    自称扇風機であるその女性は続ける。


    「私が最初に契約したときのことを話すわ。あの子の母も体が悪かったのは知っているわね?」


    「ああ、千春が言っていたな」


    「あの子の母親の病気を治すために、彼女は私と契約を交わした。四回の魔法を使う代わりに、彼女の生命力を吸い続けるというものよ」


    「魔法を使うたびに吸う量は増えていき、四回目を使った瞬間、全ての生命力を吸われる」


    「彼女はその契約により母親の病気をちゃんと治した。しかし弱り切っていた母親は治ったにも関わらず死んでしまった。それでも生命力を吸われ続ける彼女は体を悪くし外に出られないようになったわ」


    「そんなあの子の救いが、あなただった。彼女はあなたが好きになったのね。だから、生命力を更に吸われるとわかっていても、あなたに魔法を使った。その内容が、あなたとあの子を付き合っていることにするというもの」


    「え? 」


    「二回目の魔法を使い彼女はあなたと付き合いだした。だけど生命力を吸われ続け体は弱るばかり。更には無理矢理好きにさせたあなたに罪悪感を感じていた。だから今日、あの子は三つ目の魔法を使った。内容は、あなたからあの子を忘れさせる」


    「四つ目の魔法を使わなかったとしても、あの子はいずれ生命力を吸われ尽くし死ぬわ。そうなる前に、あなたから記憶を消しておきたかったのね」


    「ちょっと待てよ!!」


    俺はペラペラと喋る自称扇風機に向かい、叫ぶ。


    頭の整理が追いつかない。だいたいそんな話を信じろという方が無理があるのだ。


    「本当に言っているのか?」


    俺がそう言うと、彼女はめんどくさそうにため息をつきながら、俺の視界から消えた。かと思うと、一瞬にして扇風機が目の前に現れた。


    それはまたもすぐに女性の姿に戻る。


    「信じてもらえた?」


    こんなものを見せられて信じないというわけにはいかないだろう。どうやら魔法がどうとかいうのは真実のようだ。


    「……ああ」


    俺は静かにそう零した。

  11. 11 : : 2016/09/03(土) 23:59:50


    「で、助けるってどういうことなんだ?」


    先程、確かにこの女性もとい扇風機は言った。助けてと。


    「彼女が死ぬのはもう避けられない運命よ。だから、最後にあなたに会いに行ってほしい。ただそれだけよ」


    「でもお前が生命力を吸うのをやめれば」


    「できたらそうしているわ。だけど一度契約したらもう無理なの。私は一つの生命が終わるまで吸い続けなければならないの。だから、お願い。あの子は本当にいい子なの」


    そんなの、わかっている。


    あいつが、千春がいいやつなのはわかっている。俺は、あいつをずっと好きだったから。


    魔法にかけられたからじゃない。それよりも前から、小さい時から、ずっと千春が好きだったんだ。


    その時、体に電流が流れたような衝撃が走る。


    「なあ扇風機」


    俺はゆっくりと語りかける。口元に薄ら笑いを浮かべ、扇風機を見る。なぜなら、彼女を救う方法を見つけたから。


    「お前は言ったな。1人の生命力を吸えばいいとそれなら、俺のを吸え」


    「え?」


    「千春の生命力を戻して、代わりに俺のを吸えと言ってるんだ」


    「確かにそれならできるけど、そんなことすればあなたが」


    「そんなことはわかってる。だけど、あいつを、助けるためなんだ」


    「でも、あの子が悲しむわ!!」


    「じゃあ、俺が最後に使う魔法はこうだ。世界から、俺の存在を消してくれ」


    「そうすれば、俺のことを思い出したりもしない。四つ目の願いを叶えた俺の生命力は全て吸われ彼女は生きる。ハッピーエンドだ」


    「────本気で、言ってるの?」


    「ああ、俺は、千春が好きだから」


    「俺の存在を、消してくれ」


    「────契約者の魔法の使用を許可します」


    その瞬間、俺の体が光に包まれていく。


    ────ああ、死ぬのか。


    「翔……」


    「扇風機、千春に、好きだって。本当に好きだったって、伝えておいてくれ」


    消えゆく意識のなか、俺はそう告げる。


    「千春、大好きだ」


    その言葉とともに、俺の体は消えていった。

  12. 12 : : 2016/09/04(日) 00:03:41
    あとがき
    初投稿作品ですがどうだったでしょうか。最後らへん本当すごい雑でとても反省してます。しばらくすれば書き直すかもです!! なぜ扇風機なのかは聞かないでください。いろいろ事情があるのです

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著者情報
adominaru

コサブロー

@adominaru

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