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モノクマ「ボクのカ◯ピスが飲めないって言うのかい!」

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  1. 1 : : 2016/07/26(火) 00:01:41

    チームコトダ祭参加SSです。

    チーム名は高嶺のチム古参、よろしくお願いします。



























  2. 2 : : 2016/07/26(火) 00:03:20


    暖かな陽の光が窓越しに射しこみ、心地よい微睡みが身体を襲う。それに身を任せるのはいいが、硬い椅子に冷たい机。きっと目覚めた時には身体の色んな所が痛くなっているだろう。


    「こんな所で寝ちゃダメですよ」


    聞き慣れた、よく通る声が僕に呼びかけた。重たいまぶたを擦り顔を上げれば、見覚えのある女子が自分を見て微笑んでいた。


    「風邪引いちゃいます」


    窓から風が吹き込み彼女の髪を靡かせ顔を隠す。それを鬱陶しげに白く長い指で直した。


    「どうして…」


    息を呑んだ。


    青を含んだ艶やかな黒髪、きめ細やかな白い肌、儚さの混じった可憐な微笑み。


    彼女の身体は、冷たくなりもう動くことはないと思っていた、この目で見ることは叶わないと実感していた。


    「どうしたんですか?苗木くん。もしかして寝ぼけちゃってます?」


    そうだ、寝ぼけているから彼女が見えるのだ。僕の右手に触れる熱を帯びた彼女の左手もただの夢であり、脳が勘違いをしているだけなのだ。


    寝起きの鈍痛がその思考を否定する。


    「うん、ちょっと寝ぼけてたみたいだ。舞園さん」


    そう言うと、彼女は納得した様でボクの机に開いてある日誌に手を伸ばした。


    「あとは…今日の感想だけですね。日直お疲れ様です!」


    寝ていた机に視線をずらせば日直日誌が開いたまま置いてある。


    「10月20日火曜日…」


    ボクは今日、日直だったのか。


    「今日は何があったっけ、色々と忘れちゃっててさ」


    まだ着慣れていない希望ヶ峰学園の制服を着た彼女は、口元に手を運び笑いながら今日の出来事を教えてくれた。




    10月20日火曜日、雲ひとつない晴天。


    体育祭を終えたクラスは少しずつまとまり始めており、教室内はとても賑やかだったそうだ。


    「変わった人ばかりですけど、今までの学校より楽しいかもしれませんね。苗木くんとも同じクラスで良かったです!」


    そう語る彼女は嘘をついている様には見えない。

    出会い方さえ違えば、出会い方さえ覚えていれば僕たちはコロシアイをすることなんて絶対になかったんだ。

    そんな、慰めともとれる考えが頭の中に張り付いて離れなかった。
  3. 3 : : 2016/07/26(火) 00:04:09


    夕陽の射し込む下駄箱にて、相棒とも呼べる彼女の名前を捜した。見つかるのに時間はかからず、そこにはスリッパと運動靴が入れられていた。


    「ここにはもういないのかな…」


    何処を探せばいいだろうか。自宅は知らない、放課後は何をしているのかも知らない。寮生活であるなら出会う事も可能だろうか。


    「誰を捜しているのかしら」


    声の聞こえた方を向けば、夕陽をバックに凛とした立ち姿の霧切響子がそこにいた。


    「霧切さん!探してたんだよ、ここにいたんだね」


    走り寄る僕と目を合わした後、右に視線をずらした。彼女も舞園と希望ヶ峰学園の制服に身を包んでいた。


    「何か用でもあるの?」


    その言葉は、苗木の期待を裏切るには充分な言葉だった。喪失感が胸に広がり、背負っていた何かが少し零れた気がした。


    「いや…大丈夫。呼び止めてごめんね、霧切さん。また明日」


    「そうね、また明日会いましょう。苗木君」


    コロシアイの記憶の時よりも親しみを感じない冷たい声色が耳を叩く。別に気にする必要はない、コロシアイの時の初対面は今より冷たかっただろう。


    これは、3度目の初対面なだけで。


    いや、入学して何日か経っているのだ。訂正しよう、ボクがこの霧切に出会うのは初めてだ。


    霧切は校舎に入ろうと、苗木の隣をすれ違う様にして歩いた。


    「寮ってどっちだったかな、忘れちゃってさ…案内してもらってもいいかな?」


    彼女の表情は夕陽の影に隠れ見えづらい。きっと、表情には出さないが煩わしく思ったに違いない。


    「別に構わないけれど…、用事が終わってからでいいかしら。すぐ終わるからそこで待っていてくれる?」


    「用事って何かな、どうせなら付き合うよ」


    これは不味かっただろうか。彼女は超高校級の探偵、コロシアイの際に見つけた彼女の手帳も、記憶のある霧切が周囲に悟られないよう残した物かもしれない。


    「いいわよ。忘れ物をしただけだしね、付き合って頂戴」


    そう言うと彼女はボクの前を歩き出す。コロシアイの時の調査時間を思い出すようで、不謹慎かもしれないが少し懐かしく思ってしまった。
  4. 4 : : 2016/07/26(火) 00:05:38


    「超高校級の探偵ってことは、やっぱり殺人事件にも関わったことがあるの?」


    陽の色が映るタイルに、二人の足音が響いた。陽の沈む時間は早く、既に空には星が瞬いている。


    「あるわよ」


    「そうなんだ…すごいなぁ。ボクなら死体を見たら気絶しちゃうかもしれない」


    かもしれないではなく実際に気絶した。全身の毛穴から血が抜けた様な感覚を今でも覚えている。


    親しい間柄の人間が殺されるといった状況に、霧切はボクと比べられない程に直面しているのだ。


    「苗木くんはそういうものに耐性がないの?自己紹介ではゲームが好きと言っていたけれど」


    「ゲームと現実は全然違うよ!臭いとか、空気とか…」


    「まるで経験したみたいに語るのね」


    「まさか!そんなことあるわけないよ。バスジャックに遭ったことはあるけどね…」


    「あら、それは貴重な体験ね。超高校級の探偵だってそんな目には遭わないわ」


    「超高校級の幸運というより超高校級の不運だよね」


    「そうかしら。それなら、私と一緒に帰ったことも不運になるかしらね」


    「それはボクから誘ったことだから!寧ろ幸運だよ、霧切さんと、こう…きちんと喋れて」


    「本当かしらね」


    玄関に着くと、自然と会話は途切れ出した。


    自分達以外にも人が見えたからだろうか。二人だけの空間に視覚的にでも存在が増えるだけで、気恥ずかしいという感情が表れるものなのか。


    長い沈黙の後、霧切は嘆息し苗木に背を向けた。話は終わりという意味だろうか。


    「霧切さん、また明日」


    霧切は少し立ち止まり、「ええ、また明日」と振り向かずに返した。
  5. 5 : : 2016/07/26(火) 00:06:30



    ドアノブを掴むと、その金属製の冷たさが手から胴へと染みた。


    夕方はまだ暑かったというのに、今は半袖じゃ少し寒い。寒暖の差が激しく風邪でも引いてしまうのではないだろうか。


    今この状況が風邪による幻覚なのだ。そう断言することができればどれだけ楽だろうか。


    「現実なのはこっちかもしれない」


    別におかしな考えじゃない。考えてみれば、いや考えてみなくたってコロシアイよりもこの世界の方が現実的だ。


    秋入学のこの学園に入学し、少しずつ慣れてきたであろう今の状況。


    閉鎖的でジメジメとした洞窟を彷彿とさせるあのシェルターの中か、周りと友好関係を築いており、命の危険とは関わりのない場所か。


    どちらを現実とみたいかなんて、誰だって前者を選ぶに決まっている。


    何より、皆が生きている。


    それは今の状況では幸福と呼ぶべき事実だろう。


    だが、今までに感じた絶望を全て安堵に変えられた感覚と、今までに持った希望が全て無に帰した感覚が身体の中で相反しぶつかり合う。


    ブレザーを床に放り靴下を足だけで器用に脱ぐと、ベッドに倒れ込む。強い脱力感が身体を襲い、抱きかかえた枕に顔を押し付け目を瞑った。


    「だらしないよ?苗木クン。制服が皺くちゃになっちゃう!」


    ふと聞こえたその妙な声にゾッとした。背中に氷水でも浴びせられた様な。


    冷や汗が吹き出し、肌が少しピリピリした。自然と呼吸も荒くなる。


    「どこだ、どこにいる!」


    叫ぶようにそう問いかけた。


    焦りを隠すようにして、視界に集中する。


    棚の上、ベッドの下、ゴミ箱の中、天井……………
























    いた。
  6. 6 : : 2016/07/26(火) 00:07:33


    シロとクロの身体に、片方は愛らしく、片方は凶悪な顔のクマのぬいぐるみ。


    「やっほー、元気にしてた?ボクは苗木クンがいなくて寂しかったなぁー」


    天井に張り付いていたモノクマは、床に着地するとよちよちとこちらに歩み寄って来た。


    紙が貼り付いている様に喉が乾いて声が出ない。


    「ぶっ壊した筈の世界が元通りになっててさー、驚きだよね。死んだ筈の人間も生き返ってんだからさ」


    無理矢理にでも唾液を飲み込み声を出す。


    「お前の仕業じゃないのか」


    「まさか!流石のボクでも時間を巻き戻すなんてことできるわけないじゃない」


    「だったらどうして!」


    「それがね、ボクにもわからないの。ボクって何でも知ってるようで何にも知らなかったの。悲しいことだよねぇ、知らないという壁にぶち当たるのは」


    モノクマを睨みつけ、舌打ちをした後にもう一度部屋を見回す。


    「今度は監視カメラも設置してないんだな」


    「だーかーら、ボクじゃないんだって!ホントだよ、身の潔白を示す為ならボクの身包みを剥いだって構わないさ!見たらいいよ、ボクの裸を!」


    「信じられるわけないだろ。お前がいるってことはコロシアイは実際にあったことなんだ!その黒幕のお前をどう信じろって言うんだ!」


    「疑り深いなぁ…先生悲しいよ。だけど本当なんだよね、今のボクにはこの学園を操る権限はないみたいだし」


    「じゃあなんだよ、校則違反だからって『おしおき』したりできないってこと?」


    「そういうことになるよね。はぁ〜辛いなぁ〜!牙も爪も剥がされて…ボクは一体どうやって生きて行けばいいのでしょうか!およよよよ」


    モノクマは見せつける様に泣く素振りをし、どこからかハンカチを取り出し鼻をかむ。


    「じゃあボクがお前を壊しても何も問題ないんだな」


    「は、しまった!」


    おろおろと焦って冷や汗をかいている、様に見せたいのかタオルで顔を拭きながらベッドに飛び乗る。


    「でも苗木クンはそんなことできないよね。あのコロシアイを記憶してるのは今ここにいる1人と一匹だけだ、所謂仲間ってやつかな」


    「だから壊せないって言いたいのか?」


    「そうだよ、苗木クンも安心したでしょ?同じ記憶を持つ存在がいたんだってね」


    モノクマの言う通りだ。これが出てくるまで言いようのない孤独を抱えていたのも事実。


    「だからって仲間を殺したお前を仲間と思えとでも?」


    モノクマは首を傾げ何を言っているのかわからないと言った顔でボクを見る。


    「ボクはただ同じ存在という意味で言っただけ。周りに豚ばかりいて、人間を見つけたら嬉しいでしょ?」


    つい昨日まで熱を込めて使った言葉が、意味だけを内包したものに成り下がる。


    「それにね、もし君が元の世界へ戻る気になっても協力をする必要がないんだよね」


    初めてモノクマに自分から近づき声のトーンを上げた。


    「戻る方法があるのか?知ってるのかよモノクマ!」


    声を出して笑うモノクマに、罠という言葉が頭をよぎる。


    「じゃあね苗木クン!生き残った皆を見捨てるのか、それとも生きていた皆と何も知らないフリをして過ごすのか知らないけれど頑張ってね!ボクはキミがどんな選択をしても応援してるよ、なんてったってボクはキミの先生だからね、えへん!」


    するとモノクマはボクの頭に頭突きをした後にドアの方へと駆ける。


    「いっ…たた…。おい、待てよ!」


    急いで廊下に出るもモノクマの姿はもう何処にも見えなかった。


    夜の冷たさがボクに底のない孤独を感じさせた。
  7. 7 : : 2016/07/26(火) 00:08:40




    モノクマとの会話にかなりの汗をかいていたのか、喉が渇いていることに気づいた苗木は学園の自販機の前に立っていた。


    種類も豊富なそれに、30秒ほど悩んだ末にペットボトルの水を選んで買った。


    「あれ、苗木くんこんな遅くにどうしたのぉ?」


    中性的な声が後ろから投げかけられ、振り返ると小柄な生徒が不思議そうにこちらを見ていた。


    「不二咲…さん」


    彼女…いや彼はその間に少し訝しげな顔をしたが直ぐに戻し言葉を投げかける。


    「疲れてるの?苗木くん酷い顔だよぉ…」


    「そうかな?まだ暑いから夏バテかもしれない」


    「体調管理には気をつけてねぇ」


    「そうだね、気をつけるよ」


    そのまま会話は途切れ、しばらくの沈黙が続いた。


    部屋に戻ってもよかったのだが、今は夜風に当たる方が気分が良い。


    ふと、不二咲に目をかけると戸惑ったような、緊張したような、落ち着いていない態度で視線を動かしている。


    自分にとっては楽な沈黙だったが彼にとっては違ったようだ。


    ペットボトルから水滴が落ちた。


    「じゃあね不二咲さん、また明日。ゆっくり休んでね」


    「あ、そうだねぇ…。苗木くんもゆっくり休んでねぇ」


    「うん、おやすみ」


    去って行く不二咲を尻目にペットボトルに口をつける。


    夜風に当たり、冷たい水との温度差に少しの頭痛。


    一口含めば、喉から順に疲れきった身体の渇きが潤った。


    ただのミネラルウォーターにこんな力があると知ったのはあの学園のゴミ捨て場だったな、と哀愁に浸る。


    曇り空に月はぼやけ、朧にしか見えなかった。
  8. 8 : : 2016/07/26(火) 00:12:21



    「苗木くんは男らしいってどういうことだと思う?」


    「男らしいか…、難しいね」


    「難しいかぁ…」


    不二咲は胸の前で両手を握り右上に視線をずらした。


    様々な液晶が一面に並んでいる彼専用のコンピュータ室で、彼は液晶に映るものとは全く関係のない世間話を続けている。


    登校し授業を終え帰ろうとした直後に不二咲に捕まった。


    「男らしい人の近くにでもいたら、何かわかるのかもしれないね」


    何か話があるのだと、あまりに真剣な顔で誘うものだから、


    「うーん…男らしいっていえば大和田くんかなぁ?」


    戻る為の良い考えがある訳でもなかったのだ、彼についてこの部屋に入った。


    「他人の事よく見てるんだね」


    「大和田くんは誰が見ても男らしいって思うんだぁ」


    「石丸クンなんかは逆の感想を言いそうだけどね」


    「あぁ、確かにそうだねぇ…」


    この様子だと、コロシアイのなかった学園生活でも2人はよく行動を共にしていたのだろう。


    「でも、なんでボクにそんなことを?」


    「昨日ね、元気がなさそうだったから…。今日も昨日とあんまりかわってない様に見えてねぇ」


    「慰めようとしてくれたんだ?」


    「お節介だったらごめんねぇ」


    「そんなことないよ、ありがとう不二咲さん」


    「ほんとう?よかったぁ…」


    彼は両手を胸もとに上げ、愛らしい動作で安堵のため息を漏らす。


    「本当に他人のことよく見てるんだね」


    「前の学校では友達少なくて…見てるだけしかできなかったからねぇ」


    彼の事を嫌う人間はそう多くいる様に見えない。きっと友人が少ないのも彼のコンプレックスから来るものなのだろう。


    「だから、ちょっとした変化とかも直ぐに見えるようになったんだぁ。だからって、何かしようってことは昔からなかったんだけどねぇ」


    「…意外だね」


    「ねぇ、苗木くん。何か力になれる事があったら言ってほしいな。ぼく、変わりたいんだ」


    変わりたい、なんとも力強い言葉だ。


    彼を破滅に追い込んだ言葉のひとつだが、確かに嫉妬を覚えるのも頷けるほどに眩しい。


    「そうだね、何か言えることができたら…」


    不二咲の携帯が振動した。


    「ごめんねぇ、メールみたいだぁ…神経学者の松田くん」


    「神経学者…」


    「江ノ島さんと仲のいい人だよぉ」


    江ノ島盾子…ここにいるのか。


    あのモノクマの正体もてっきり江ノ島盾子だと思っていたが、別人なのだろうか。


    そもそも、過去に来たと言うのならこの時代のボクは何処にいる?


    「苗木くん?いったいどうしたの?」


    彼は整った形の目でボクを上目遣いに様子をうかがっていた。


    「不二咲さん、ちょっと聞いてほしいことがあるんだ」








    張り詰めた空気が部屋に満ち、沈黙が漂う。そもそも二人しかいないのだから、機械の音以外の騒音もないのだが。


    「松田くんに相談事かぁ。いいよ、でも最近彼忙しいから僕から話すことでいいかな?」


    「わかった、お願いするよ」


    できるだけコロシアイの事には触れないように、触れて今のこの平和な時代が壊れないように慎重に言葉を選んだ。


    「記憶喪失ってことかなぁ?」


    最も不都合のない説明に思えた。


    「うん、ここ1、2ヶ月くらいかな?その記憶がないんだ。その代わりといってはなんだけど…2年後の、未来の記憶が少しあるんだ」


    不二咲は手を顎に当て首を傾げ、視線を右上にずらす。


    「予知能力…かなぁ?一体何なんだろう…。取り敢えず、今夜会うから言ってみるね」


    「今夜?」


    「ある研究に参加してるんだ。極秘だから…あんまり言わないでねぇ」


    「ごめんね不二咲さん。忙しい時に」


    「ううん、大丈夫だよ!じゃあねぇ、苗木くん」


    「お願いするよ、不二咲さん」


    キーボードをカタカタと鳴らし始める彼を尻目に扉を閉める。


    なぜだか足下に重い鎖が巻きついているように足取りが重かった。
  9. 9 : : 2016/07/26(火) 00:14:07




    校門の方へ目を向ければ待ち合わせの人物が携帯を弄っているのが見えた。


    少し駆け足で彼の方に向かうと、気付いたのか携帯をポケットにしまい手を上げた。


    「桑田クン、遅くなってごめん!」


    「おぉ、苗木。やっと来たかー、もう他の2人は行っちまったぜ?」


    「そうなんだ、待っててくれたの?ありがとう」


    「苗木場所覚えてないって言ってただろー?予約に間に合わないと悪いから、仕方なしにオレが残ったってワケ」


    やれやれといった表情で鞄を持ち直すと、彼は苗木に肩を組んできた。小さいが、高揚した様子で彼は口を開く。


    「感謝しろよ、抜け駆けなんてしてねーからよ!」


    桑田は苗木から数歩離れ、にやにやとした表情でボクに目を向ける。


    「ちょっと、桑田クン!」


    「早く行くぞ!舞園ちゃんと霧切ちゃんが待ってんだからな!」


    「はいはい…」


    「おいおい、苗木も気になってんだろ?あの2人のどちらかまでは知らないけどさぁ」


    「別に、そんなんじゃないよ」


    「もたもたしてたらオレが貰っちまうぜ!まぁ、マキシマムかっけーこのオレの魅力に既にメロメロかもしんねぇけどな!」


    「それは…どうかな。というより桑田クン彼女いなかったっけ」


    明るく活発で色恋にも興味のある彼。超高校級という点を除けば、普通の男子高校生と呼んで差し支えないだろう。


    「苗木ってそこそこ歌上手いよな。今度オレの好きなバンド覚えて歌ってくれよ」


    2年の間に自分もこんな風に過ごしていたのだろうか。クラスメイトと笑い合い、放課後に遊びになんかいって、あとは誰かを好きになったりだとか。


    『最初の一年間は普通で平凡で最悪な学校生活でした』


    コロシアイはない、心の底で汚い感情があったとしても、この生活はこんなにも楽しい。


    「苗木、汗かいてるけど大丈夫か?」


    彼の顔はいつも通りの、舞園を殺す以前よりも穏やかな表情。


    死にたくないと泣き叫び、ボクの名前を呼んだ彼の表情に重なる。


    「ううん大丈夫だよ、走ってきたからかな」


    「ふーん、自販機寄るか?まぁカラオケでドリンクバー頼んであるけどよ」


    「大丈夫だよ、行こう」


    彼は殺していない。


    そもそも人を殺すだなんて考えを彼は抱かないだろう。


    かぶりを振って大きく息を吸った。


    そうじゃない、舞園さんを殺したのはモノクマだ。


    『見事な責任転嫁だよ、苗木クン』


    青い顔をした彼にクロだと言い渡したのはボクだ。


    汗を袖で拭い下を向く。


    桑田怜恩を殺したのはモノクマだ……


















    ボクじゃない。
  10. 10 : : 2016/07/26(火) 00:15:13
    トレンドの歌を熱唱した後、苗木は四人分のコップを持って部屋を出た。誰が誰のコップだったか、持った順番や場所を忘れないようにしてドリンクバーへと向かう。


    「舞園さんがオレンジジュース、桑田クンはコーラ、霧切さんはコーヒーだったよね」


    野球はやめたから炭酸も飲んでいいのだと向かう途中に漏らしていたのを思い出す。


    トレイを置き、オレンジジュースがコップに注がれるのを眺め、小さくため息を吐くとトレイのコップがひとつ消えているのに気がついた。


    「苗木クンはカルピスだったよね!ボクのあつぅい濃厚なカルピス…たくさん入れておいたから全部飲んでねっ!」


    なみなみと注がれたそれを、頬を赤らめたモノクマが抱えて持ってきた。


    零れたらどうするんだ、今まで何処で何をしていたんだ。


    色んな言葉が口を出かけるが、それを抑えて注いでいたオレンジジュースをトレイに戻す。


    「苗木クン冷たいね、冷たいよ。氷砂糖のように冷たいよ!」


    モノクマはカルピスをトレイに置くと、つまらなさそうに霧切のコップでコーヒーを飲む。


    「おいやめろよ、それはお前のコップじゃない」


    「もうっ、苗木クンてば怒らないでよね!ちょっと霧切さんと間接チューしただけじゃない!まさか嫉妬?」


    苗木と言葉を無視しモノクマは霧切のコップでコーヒーを飲み続ける。


    肌の表面がピリピリとし、黒い感情が腹の底で渦巻いた。


    「ねぇ、そんな反抗的な顔しないでよ。怖いじゃないのさ」


    そんなことを言うわりには、モノクマは随分と楽しそうな声音であった。
  11. 11 : : 2016/07/26(火) 00:18:13

    人気のアーティストの曲が部屋の外でも流れており、今は少しだけそれが耳障りだ。


    「でさぁ苗木クン、よくカラオケなんか楽しんでられるね。しかも、自分を裏切って罪をなすりつけようとした奴と」


    カルピスを1度捨て、自分で注ぎ直しながらモノクマを観察する。


    以前と別段変わった様子もなく、気に障る言動を続けていた。


    「もしかしてさ、苗木クンこっちで暮らすつもりだったりするの?そりゃそうだよね、こっちの方が苗木クンの好きな世界だもん」


    モノクマは桑田のコップを持つと、コーラやオレンジジュースなど様々な種類の飲み物を混ぜ始めた。


    「学級裁判ではあんな強気でクロを指摘してたのにね、うぷぷ。あぁ、もしかしてそれを忘れる為にやってるのかな?」


    「お前に何がわかる!」


    「うぷぷ、ボクやっぱり嫌いだなぁキミのこと」


    コップの中の飲み物が段々と形容し難い歪な色に変わっていく。


    「苗木クンにとってここは楽しいでしょ、周りが疑心暗鬼になってる訳でもなければ、世界が滅びてるわけでもない。大切な誰かに裏切られる事もない」


    それをせっかく注ぎ直したカルピスに注ぎ込まれる。


    「…こともないけど、コロシアイの時よりかはずっと確率は少ないよね」


    近くの壁にもたれ、視線が下に向かう。


    「この世界に居続ける方法、知りたくない?」


    自分がいるべき世界、コロシアイなんてなくて、こうやって放課後にクラスメイトと遊んだりするような。


    「…あるのか?」


    モノクマの片目が赤く爛々と光るのが妙に頭に焼き付いた。


    「自分を殺せばいいんだよ」
  12. 12 : : 2016/07/26(火) 00:22:56
    瞬間後ろの方から透き通った声が聞こえた。


    モノクマのいた場所を見れば大急ぎで逃げているのが視界に入る。


    「舞園さん、どうしたの?」


    「どうしてって…苗木くんが遅いから呼びに来たんですよ。コップ入れ替わっちゃってわからなくなったんですか?」


    舞園はトレイを見ると、苗木のコップを手にし凝視した後に口に含んだ。


    「ちょっと、舞園さん!?」


    舞園は驚きに目を開き、感動した様に口を手で覆った。


    「苗木くんも飲んでみてください!意外にいけますよ?」


    アイドルに笑顔で勧められたら、例え生きたミミズを食えと言われても断れない。


    目を瞑り、意を決して口に含んだ。


    コップの中身を全て飲み干しトレイに置くと、苗木は涙目になって咳き込んだ。


    「どうしてそんなに平然として飲めたの…舞園さん」


    この状況が愉快だと、口元を隠しながら苗木に水を渡す。


    「女優業もやってるんですよ?ドラマが来週から放送されるので苗木くんもよかったら是非!」


    感謝の言葉を述べ水を呷ると、糖分で侵された頭が段々と正常に戻った。


    「こんな事して遊んでるからですよ。さぁ、早く戻りましょ!あ…もしかして気分が悪かったんですか?」


    慌てた顔色の彼女に笑いが表情に出てしまう。


    「大丈夫だよ、舞園さん。ごめんね待たせちゃって、戻ろっか」


    四人分の飲み物が注がれたコップを持ち苗木は階段を上がろうと舞園に背を向けた。


    少しの冷や汗を手で拭いながら、隣に寄った舞園から目を逸らす。


    「そういえば思ってたんですけど、苗木くん背伸びましたよね」


    舞園は身長を比べるようにして手を上げ、不思議そうに首を傾げる。


    「そりゃそうだよ。ボクだって成長期だしさ」


    「いえ、そうなんですけど…なんだか一晩で一気にって感じで…雰囲気も微妙に違うような?」


    舞園は腕組みをして深く考え込む仕草をを歩きながら続けた。


    それと反対に苗木は目を見開き、呆然と立ち尽くす。


    「いつからそう思ったの?」


    「確か…ほら、苗木くんが日誌を書きながら寝ちゃってた時に」


    「昨日か…昼寝でそんなに伸びのかな?」


    「うーん…そうなんでしょうか?」


    笑いながら首を傾げる彼女に、ボク同じようにも笑いかけた。


    青がかった長い黒髪、真白の雪の様に白い肌、深い空のように青い瞳。今隣には生きている彼女がいる。


    それに重なったのは腹部に刺さった包丁、そこから流れ出る血、生気を失った青い顔。


    彼女の死があったからこそ今のボクがいる。ボクをボクにする。希望と呼ばれる要因のひとつに彼女の死は欠かすことのできないものであった。


    今のボクはそんな死んだ仲間の思いのような、重いモノを引きづらなくたっていい。


    ただの、一度だけ大きな幸運が訪れただけの苗木誠でいられる。


    どちらが楽かなんて考えなくてもわかる。


    コーヒーの黒い水面にボクの顔が映った。


    「ねぇ、苗木くん。わたし苗木くんの頑張り屋さんなところ尊敬してるんです」


    舞園は胸元で祈るようにして手を握り、飲み物を勧めてきた時とはまるで違う笑顔を見せる。


    「身近な誰かが困っていたなら、心にどんな葛藤があっても必ず助けるような、そんなところ」


    「そんなことないよ。他人の命より自分の方が大事だし、石丸クンみたいに咄嗟に動けるわけじゃないし…」


    「苗木くん」


    舞園は苗木の額を小突き微笑んだ。


    「自分を過小評価し過ぎですよ。もっと自信を持ってください。昨日の苗木くんの方が頼もしかったですよ!」


    小突かれた額を押さえて舞園の目を見た。恥じるように苗木から目を逸らし、頬を桜色に染めている。


    「そうだね、ごめん舞園さん。心配かけちゃったみたいだね」


    他人の命より自分の命。


    キミに嵌められたあの時、殺されたのがもし舞園さんでなかったなら。


    きっとボクは、舞園さんの命を選んでいた。
  13. 13 : : 2016/07/26(火) 00:26:17
    カラオケを終え、四人は二つに別れて帰路に着いた。


    隣を見れば、紫がかった銀髪が夕焼けに照らされキラキラと光っている。


    見ていたのに気付かれたか、彼女は不思議そうに首を傾げた。


    「ううん、何でもないよ。ちょっと見惚れちゃってた」


    言ってから気づいたのだが、自分も随分と恥ずかしい言葉を吐くものだ。


    「それにしても、霧切さんが来てくれるとは思わなかったよ。歌上手だね」


    霧切は髪を耳にかけながら小さな声で応える。


    「偶々暇してたのよ。楽しかったわ、ありがとう。知ってる曲も増えたしね」


    「それならよかったよ」


    彼女といる時の沈黙は苦ではない。それはきっと霧切も同じことだろうし、彼女は本来無口な方だ。その沈黙に甘えながら先程の舞園との会話を考えていた。


    身長が伸びていた。


    それは勘違いや気のせいではないだろう。嘘をつく必要もないし、舞園は基本信頼できる。


    つまり、この身体はコロシアイを通してできたボクの身体。それならば、この時代のボクは何処にいる?


    「苗木くん、あなた悩みでもあるの?顔に出てるわよ」


    霧切の口から呆れた声が飛び出した。流石の洞察力だ。下手に誤魔化すのも気がひける。


    ならば何を言えばいい?打ち明けるか?それが江ノ島にバレて殺されでもしたらどうする?78期制の1人が欠けた所でコロシアイが行えないわけじゃないだろう?


    「別に聞かないわよ。どうしても気になれば自分で調査できるしね」


    今の焦りも顔に出ていたかと思うと恥ずかしくなり、片手で口元を覆う。


    「何を悩んでいるのか知らないけれど、貴方はわざと難しい方へ歩いてるみたいだわ」


    今選択しようとする道よりもずっと楽な方法はある。だけどそれじゃボクは救われても、皆は救われない。


    ボクだって、あの世界で生き延びる必要がある。


    引きずってきたモノをここで捨ててしまったら、今までの苦労は何になるんだ。


    「今よりずっと簡単な方法があるのに、貴方はあえてそれを選ばない」


    霧切は立ち止まり、それに慌て苗木が数歩先に立ち止まった。


    「どうしてそんな苦労をするのかしら?きっと取りこぼしが許せないからね」


    前向きなのが唯一の取り柄だから、命がかかっているのに後ろ向きな賭けには賭けられない。


    「だからきっと全てを拾えない簡単な道は、あなたには似合わないのね」


    夕陽に照らされた霧切の銀髪が風に揺れる。


    「いってらっしゃい」


    強く抱き締めた。何も変わらない彼女を、ボクが前を見据えて歩いている限り対等な存在でいられる彼女を。


    強く、強く抱き締めた。



    「ありがとう、霧切さん」


    霧切は身体が硬直させ、目を見開いた後にゆっくりと右手で苗木の頭を撫でる。その時間は数分か、それとも30秒だったか。

    秋の暮れは短い。


    「じゃあね、霧切さん。また明日」


    寮の玄関で別れを告げた。
  14. 14 : : 2016/07/26(火) 00:26:56
    旧校舎とになると言っても研究生などが出入りしているせいか、中も綺麗なままだった。だからといって居心地がよいわけではない。


    モニターが壁一面に埋められた情報処理室。 縄で縛られたボクはその部屋から出られずにいた。


    食料は不自由なく渡されるものの、外出をしないと精神的に辛いものがある。硬く冷たい床、ここで夜を過ごすのも3日目に入ったはずだ。話し相手が来るからいいものの、退屈で死んでしまいそうな程に変化がない。眠いわけでもないのに出てくる欠伸を噛み殺し鼻にツーンと痛みがくる。


    3回、扉をノックする音が聞こえた。


    「どうぞ、入っていいよ」


    そう応えると扉が勢いよく開かれ、彼女が仁王立ちに立っているのが見えた。


    「今日は遅かったね。何してきたの?」


    彼女はその問いに答えずボクの前を素通りしてモニターの前の椅子に座る。


    「ねぇ、また無視?ひどくない?」


    彼女は何かを操作しながら一心にモニターに視線を集中させていた。


    あぁ、そうだ。何かに熱中している時、人は周りに気付かないものなのだ。ボクの言葉に応えないのも仕方がない。


    そう心の中で自嘲し、彼女の見ているモニターに視線をやった。


    高校生にしては低めであろう身長に、脳天のあたりから特徴的に突き出た髪型。


    幼さの残る顔のパーツでありながら、表情は妙に凛々しく力強い。


    「江ノ島さん、これどういうこと?」


    彼女がマイクに向かって何かを喋っているのを見た後、ボクは腹部に大きな衝撃を受けたのを最後に意識を手放した。
  15. 15 : : 2016/07/26(火) 00:28:34




    旧校舎といえども立派なものだ。


    設備もそこらの私立高校より整っているし、未だに掃除はされているようだ。


    「自分を探せ、か」


    不二咲が言うには、自分とそっくりそのままの姿の人間がいるから会ってみれば何かわかるだろう、と。


    「そんなこと言ったってな…」


    メールを閉じ、苗木は旧校舎の玄関に足を踏み入れた。


    もう1人の自分、すなわちこの時代の苗木誠を捜すに当たって手がかりを持っている人物を考えた。


    「僕はまだ彼女に会っていない」


    こちらで幾度か会ってはいるが、それはモノクマを介しての会話だった。


    彼女がいるのは何処だろうか?


    そこでコロシアイの際には彼女は何処でモノクマを操っていたか?


    取り敢えずの目的が決まったことに安心し、そして覚悟を決めてこの場所まで来たのだ。


    鉄板のない窓ガラスにこれほど安心するとは自分でも思わなかった。


    「夜の学校だから、怪しい雰囲気はそのままなんだけど…」


    懐中電灯ではこの暗闇の心細さはなくしてはくれない。


    独り言で気を紛らわしていたのだが、もし誰かがいると思うと恥ずかしくて堪らないな。


    そう考えながら、懐中電灯で辺りを照らした。


    「苗木くん…ボクは悲しいよ…キミがついに不法進入に手を出すなんてね…狙いはボクの身体かい?またもやこの安産型ボディに欲情してしまったのかい?」


    「お前なんかに欲情するわけがないだろう」


    「でもね、ボクは学園長なの。先生と生徒の禁断の愛なんて認められません!」


    えへん、と胸を張るモノクマに数秒程言葉を見失った。


    「お前を操っている…江ノ島盾子は何処にいる?」


    「そんなこと聞いてどうするの?やめときなよ。どうせ未来に戻ったって何もできないよ」


    「戻る方法があるんだな!」


    「うぷぷ、その逆も知ってるよ。苗木くんをこの時代に閉じ込める方法もね」


    モノクマは片足を軸にしてくるりと一回転して階段の上に立つ。


    「でもさ、別にいいんじゃない?過去にいるってことはあのコロシアイを止めることもできるかもしれない」


    「そんなこと…」


    「死んだ皆を生きたままに未来を迎えられるかもしれない…これっていいことだよ。ここが過去ならその内未来に戻ることができるんだよ。こんなに幸運なことってあるかな?」


    「それをすれば!」


    冷たい夜、だが身の内には熱を感じた。


    この熱はなんだ?怒りか?怒りだとしたらなんの怒りだ?義憤か?それとも私憤か?


    「お前はボクを殺すだろう」


    コロシアイや、絶望的事件を引き起こす点でボクの存在は邪魔となる。


    「それに、まだボクが此処にはいるんだろう?」


    モノクマの生きているように滑らかだった動きが止まり、不気味に目が爛々と光る。


    「うん、まぁそれなら仕方ないよね。キミって変なところで頑固なんだもん。行きなよ、江ノ島さんなら情報処理室にでもいるんじゃない?」


    苗木はモノクマの横を通り抜けて情報処理室へと向かった。
  16. 16 : : 2016/07/26(火) 00:30:11

    情報管理室の扉を開き部屋に入ると、引っ張られた凧糸に足を引っかけた。


    よろめいて頭を壁にぶつけ声を漏らす。


    痛む頭に手を当てると小さなたんこぶができていた。


    「やぁ、苗木。久しぶりだねぇ、苗木がいないから私も退屈だったんだよね。どう?さっきの、似てたでしょ」


    モニターをバックに悠然と彼女は座っていた。


    「あぁ、その目だよ。あたしのだいっ嫌いなその目!直に見るのは久しぶりだねぇ」


    「ボクも、キミの顔を直に見るの久しぶりだよ」


    江ノ島の足元に転がっている人影に眉をひそめた。


    「ねぇ、気づいた?服装は私が着せ替えたんだよ?」


    パーカーを掴み人影の上体を起こして目を塞ぐ。


    「それ、ボクだよね。こっちに返してくれないかな」


    パーカーの人物が呻き声を上げた。


    「それと、ボクを殺すのがボクを閉じ込める方法なら、未来に戻る方法は何?」


    「お互いが同時に消えればいいんだよ」


    そう言うと彼女はパーカーの人物の拘束を解き苗木に向かって蹴とばした。


    「ねぇ知ってる?脳は自分と同じ存在には耐えられないんだってさー、詳しくは知らないんだけどね」


    蹴飛ばされた人影を支え、人影と向き直ったその時に、割れるような頭痛が襲い苗木はそのまま気を失った。
  17. 17 : : 2016/07/26(火) 00:31:08





    ガタガタと電車が橋の上を渡る音が鳴り響く。白い日の光がボクの目を刺し、思わず手のひらで目を覆った。


    少しずつ光に目を慣らすと、向かいあった座席に見知った顔の女性がいるのに気付く。


    「ねぇ、苗木くん。わたしのこと覚えてくれてますか?」


    忘れる筈がなかった。


    時を経て顔を忘れようとも、遺された歌声でしか声を思い出せなくなったとしても。


    「当たり前だよ」


    舞園さやかを忘れるなどできるわけがなかった。


    「なら、どうしてわたしを助けてくれないんですか?」


    舞園さやかは苗木の近くに歩み寄り、深い、深い瞳で苗木の眼を覗き込む。


    自分自身の後悔の作り出した声か、それとも舞園の本心か。


    「舞園さんはもう死んだよ」


    どちらでもいい。


    舞園は最期、ボクに希望を遺して死んだのだと信じたのだから。


    「何をしても助けてくれるって言ったじゃない!」


    苗木は冷静な面持ちで前を見据え、強い眼差しで彼女を射る。


    「もうそれは、ボクのやることじゃない」


    過去には過去の自分がいる。


    ボクが、自分を信じなくてどうするのだろうか。


    「あの世界のボク達は、コロシアイなんてしないから。だから……」











    暗い洞窟の線路を走り続け、永遠かと思われたその時に突如として広がった光にボクは安堵した。


    固い地面、明るすぎる太陽に、石の枕。


    青空は雲が覆い、微睡みかけていたボクに木枯らしが襲う。


    「目は覚めたかしら?」


    苗木は声の聞こえた方へと振り向くと、恥ずかし気に微笑んだ。


    「ただいま、霧切さん」


    「元気そうで何よりだわ」


    そう親し気に微笑む彼女に、あれが夢でも自分の選択は間違っていないのだとボクはひどく安心するのだ。



  18. 18 : : 2016/07/26(火) 00:39:29



    これで終わります。
    他の方々に並べているかはわかりませんが、読んで頂きありがとうございました!


    チム古参万歳!
  19. 19 : : 2016/09/19(月) 15:23:25
    夢オチ…?

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