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この作品は執筆を終了しています。

栄枯盛衰のセンチメント

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  1. 1 : : 2016/07/18(月) 00:20:24

    こんばんは。

    こちらはダンガンロンパss企画、チームコトダ祭り、略称チムコ祭りの中堅戦に投稿するssとなります。

    所属はBチーム、高嶺のチム古参です。

    お題:アクション/ぬいぐるみ


    その他チーム、参加者様など詳しくはこちらへ
     http://www.ssnote.net/groups/2086

    コメディ、ミステリーと素晴らしい作品を執筆した先鋒と次鋒から渡された、汚れがない綺麗なバトンをこのまま落とさず副将に渡したいところ。。


    それではいきましょう

  2. 2 : : 2016/07/18(月) 00:21:44


    「左右から1体ずつ来る。結構大胆に動いてるから、恐らく陽動だな。すぐに逃げられる中央は手厚く固められてるだろうから、一旦下がって仲間と合流してくれ」

    「いや、2体ならいける!」

    青々とした若葉の繁るこの場所は、緩やかに凸凹した地形が視界の妨げになることしかギミックがない【草原A】の【晴れ】

    ガシャアン!

    そこに降り立ったのは、1体の真っ白な機体。高さにして4m弱。涙の形をした中心部から生えた太い腕が、本人の動きと連動して両の拳をガッチリと合わせた。

    「日向!無茶はやめろ!」

    オペレーターから送られてくる声を無視して、日向は、日向の機体は左右をモニターに映した。

    日向「いつでも来いよ。準備は出来てるぜ!」

    そんな挑発を知ってか知らずか、敵は呼応するように現れる!

    コォォォォォ……!

    日向「来たな!“ストライカー”が2体か!」

    ストライカー。そう呼ばれた機体は緑色に光る剣を持った、近接戦闘に秀でた人形(ひとがた)の機体であり、同時に、今最も流行っている、対策必須の相手だった。

    日向「これは陽動なんかじゃない!俺が飛び出したのを知って確実に潰しに来た!」

    まさにその通り!

    2体のストライカーが、日向の操る“シーカー”の両サイドから挟み撃ちを仕掛ける!

    ゴォッ!

    対して、日向は!

    日向「ばーーーーっか!」

    2体のストライカーの剣が当たる直前!

    ダンッ!

    「「!」」

    シーカーの武器である機動力を生かした、跳躍!

    行き場を失った剣は、己の居場所を求め、そして!

    ザクッ!

    日向「へへっ!」

    プシュー……ズン……

    青々とした若葉に、2体のストライカーが沈んだ。

    オペレーター「お、おぉ……やるな!日向!」

    日向「っしゃ!ストライカーを失った敵チームに脅威はない!攻め込むぞ皆!!」

    「「おうっ!」」

    これはVRを使用したオンラインゲーム、『アストロ・オンスロート』

    地球によく似た惑星“サンティマン”を舞台に、文明のよく似た異星人同士の戦争をテーマにしたこのゲームが今、俺の中で最も熱く、同時に──

    ──最も大切な物だった。
  3. 3 : : 2016/07/18(月) 00:22:08



    日向「ふぅ……勝ったな!」

    現実世界に戻ると、俺とチームを組んでいた5人のクラスメイトも続けてアストロ・オンスロートからログアウトしたようだ。

    パソコンの画面に映る6つのアイコンのひとつ、犬を模したゆるキャラが点滅した。

    オペレーター「勝ったからいいけどよ、たまには俺の話も聞いてくれよ。オペレーターやってるんだからさ」

    日向「勝ったからいいんだろ?じゃあいいんだよ!てか、お前はもっとマシなこと話せよ!左右から来る~だけじゃなくて、相手の機体とか!何を持ってるとか!ストライカーは盾持ちとかもいるんだぞ!?」

    オペレーター「いやっ、だから俺は戦闘を避けろって!」

    日向「避けてたらどうなったんだ?戦況は動かない。むしろ相手に主導権を握らせることになんだろ」

    オペレーター「うっ……た、確かに……」

    オペレーターをやっていたクラスメイトが言葉に詰まっていると、今度は流行りのアニメに出てくるヒロインのアイコンが点滅した。

    「まぁま、これで俺らもランク5だろ?チャンピオンシップに出られるんだからいいじゃないか」

    日向「だな!結構早かったな!」

    俺達6人は、ついこの間までは希望ヶ峰学園の公式()財布、ただの予備学科だった。

    だが今は、そんな予備学科の中でも特例中の特例、本科への編入が目前に迫っている編入候補生。

    本科への編入を夢見て成績優秀者に名前を連ね続けた甲斐があったってもんだ。

    オペレーター「明日休みだし、もう少しやってくか?」

    日向「おう。ランク5だし上位陣に挑もうぜ!」

    PLLLLLL…………

    「誰?」

    日向「っと、俺だ」 

    ピッ

    日向「もしもし?」 

    ゲームを邪魔された。そんな幼い苛立ちを含んだ声がネット喫茶の一室に響く。

    日向「……」

    日向「……悪い。ちょっと用事が出来た」

    オペレーター「え?」

    そこから続く言葉を聞かず、俺は足早に店を出た。

    会計を忘れてしまったが、それは後で謝ればいい。その程度のことだ。
  4. 4 : : 2016/07/18(月) 00:23:03



    次の日。放課後いつものようにネット喫茶に集まった俺達は、アストロ・オンスロートの上位ランカー達に片っ端からコンタクトを送った。

    しかしその後何分経っても俺達の熱意に反してコンタクトが返ってくることはなく、ただただ中身のない時間が過ぎていくだけだった。

    「はぁ」

    誰かが吐いた溜め息はその証。トレーニングモードでサンドバックを殴るのもいい加減飽き飽きしてきたところだ。

    オペレーター「うちもストライカー練習するか?シーカーと“バニッシャー”のいいとこ取りみたいな性能だろ」

    日向「いや、あれは流行りものだからすぐ廃れる。今の俺達の布陣が一番いいはずだ!」

    オペレーター「そうかね。試すくらいいいと思うけど……」

    ゲームには5種類の機体が登場する。

    近接戦闘に優れる一番人気の最新機体、ストライカー。

    機動力を犠牲にし、遠距離から敵を狙う“スナイパー”。

    機動力、トラップの作成に秀でた“ジャマー”。

    近接戦闘をメインにしている点でストライカーの影に隠れがちだが、攻防共にゲーム内で最も数値が高いバニッシャー。

    そして機動力が最も高く、全体的にバランスのいいシーカー。

    上記から好きな組み合わせで5体。これに作戦を指揮するオペレーターを足してチームは構成される。

    俺達のチームはバニッシャー2、シーカー1、ジャマー1、スナイパー1で構成されている。ストライカーが導入される前からある、オーソドックスな編成のひとつだ。

    この編成の強さを唱える上位ランカーは多く、ストライカーが流行っていても衰退しないことが強さの証明となっている。

    日向「……待ちくたびれたな。いいや、適当に野良で敵探して……」

    オペレーター「! 待て!日向!」

    日向「?」

    オペレーター「返ってきてるぞ!コンタクト!」

    日向「! マジか!?どこからだ!?」

    食い入るように画面を見ながら、微かに震える手でマウスを動かしクリックする。

    画面に表示されたのは、ピンク色の太ったウサギを抱き抱えた少女のアイコンだった。

    それを見て、俺は思わず大きくガッツポーズを取った。このアイコンは、このゲームをやる者なら誰でも知ってる。ある者は逃げ、ある者は抗う。そして俺は挑む。このゲームの頂点。最強のプレイヤーである、NANAMIに。

    ピッ

    俺の送ったコメントが、開戦の合図だ。

    『対戦よろしくお願いします』
  5. 5 : : 2016/07/18(月) 00:23:26


    ━━━━━━━━━━


    ヒュオオオオオオオオ……


    コンピューターがランダムに弾き出したステージは高低さのある家が立ち並ぶ住宅街、【市街地A】の【晴れ】だった。

    どちらかといえば得意なステージだっただけに俺は安堵した。

    日向「勝てるぞ!」

    いつも通りシーカーを操作して、まずは市街地Aを探索する。

    フィールド自体は平らなのだが、やはりポツポツと点在する住宅街が面倒だ。

    中央には巨大なショッピングモールがあり、ショッピングモールを挟んで自陣と敵陣が別れている形。なお、ステージは全て対称になっている。

    スナイパー「1位相手に接近戦ってキツくね?狙撃で詰める形にするか?」

    オペレーター「うーん。そうしようか。うまく引っ掛かるかな?」

    試合開始前、待機時間にお互いの編成とステージが画面に表示される。そのときジャマーの姿を確認した。

    ジャマーはフィールドにいる時間が長引けば長引くほど、名前通り邪魔な存在になる。

    故、最も優先して倒すべき存在なのだ。

    そしてそれをお互いが認識している。駆け引きはすでに始まっていた。

    日向「敵の位置は?」

    オペレーター「2時の方向、動いては止まってを繰り返してる奴がいる。たぶんこいつがジャマーだ」

    日向「よし、周りは?」

    オペレーター「誰もいない。2体ずつ固まって別々の方向に進んでるな」

    日向(なるほど……そっちが本命か)

    普通、ジャマーには護衛か、あるいはジャマー自体が護衛になっているか、なんにせよ単独での行動は珍しい。

    護衛がいないということは、誘っていると考えるべきだ。

    日向(けどそんなあからさまなことを世界1位がするのか……?)

    考えていても仕方がない。

    日向は、素直に誘われることにした。

    敵の編成を見たが、スナイパーが1体いた。ジャマー(仮)以外が2体ずつで別方向に移動してるなら、そこに味方をけしかけてしまえば狙撃の心配は薄いし、早い段階でジャマーを潰すのは定石だ。

    日向(残りはストライカー2体とシーカー1体。ま、流行りの編成ってとこか)

    万が一それ自体が相手の(ジャマー)だとしても、冷静に対処すれば勝てると踏んだ。

    日向「俺は相手のジャマーを叩く。バニッシャーとジャマーは固まって、いつも通りの動きをしてくれればいい。スナイパーは2体ずつ固まってるところを足止めしてくれ」

    「「おう!」」

    オペレーター(結局日向の指示か……)ガーン
  6. 6 : : 2016/07/18(月) 00:23:45

    日向(しかし、考えれば考えるほど不可解だ……。ジャマー1体が先行することはあるとして、味方がジャマーと反対の方向に行くなんて……せっかく仕掛けた罠が不発に終わることすらある。ならやっぱり囮か?いや、そう思わせて後で……)

    思考が迷路の入口に立ったところで、思考を連れ戻すためにも冷静にこのゲームの勝利条件を確認する。

    ①敵チームの全滅

    これが最も多いケース。それでいて、最も確実なパターンとされている。

    ②敵の基地を破壊

    ハッキリ言って、それに特化した編成をしない限り難しい。基地は防衛システムを備えていて、ちょっとやそっとじゃ壊れないうえに、迂闊に手を出せば手痛い反撃が待っているからだ。

    相手の編成を見るに②はまずない。①が妥当なところだ。

    日向(②のための足止めってよりは①のための足止めだよな……シーカー()がいないくらいで形は崩れないし、いざとなればスナイパーと組んで狙撃地点まで誘き出せばいい)

    迷路から遠ざかったところで、日向は。

    日向(なら早く、速くだ!)

    ボンッ!

    シーカーにのみ許された特権!

    高速移動!!

    バッ‼

    ゴォオオオオオオオッ!!

    アストロ・オンスロート1の俊足が、市街地を駆け抜ける!!

    ……が、それは敵チームのレーダーに映し出されているのだ。

    当然敵チームの目に留まり、情報はオペレーターを通じて流れた。

    「おい、やたら高速で移動してる奴がいるぞ」

    「あぁ、見えてるぜ豚神!」

    「あらあら、オッタマゲですわ」

    「浅はかだな。それではシーカーだと言っているようなものだ」

    「ケッ、任せるぜ七海(NANAMI)

    七海「……うん。任せて」

    ドンッ!!

    瞬間、七海の乗る機体に後方からの衝撃が走った。

    七海の機体は前方へ跳んだあと、着地とターンを同時に決めるテクニックで襲撃者と対峙した。

    七海「……来たよ。シーカー。そっちは任せたからね」

    ピッ

    通信を切って、集中する。

    それは互いに同じだった。

    日向「ストライカーってことは……やっぱり罠だったか……」

    日向(しかも、両手に剣……二刀流のストライカーか!)

    シーカーとストライカー。単純な近接戦闘においてはストライカーに分がある。ましてや、罠であることを想定した奇襲で仕留め切れなかったのであれば、なおさら相手は警戒し、勝機は薄く朧気になる。

    七海(でも、上手い。もう少し見せてもらうよ……)

    そんな状況に反して、抑えきれない興奮と笑みが、日向の表情を取り合っていた。

    日向「来いよ最強……!」

    この言葉は聞こえない。だが

    ダッ!

    熱意(思い)は聞こえる!そして相手は、それに応えるように地を蹴った!
  7. 7 : : 2016/07/18(月) 00:24:07

    日向(来た!)

    確かに、全機体最速の座はシーカーに譲ったが

    ギュンッ!

    ストライカーもまた、瞬間的なスピードならシーカーに次ぐ!

    グッ

    2体の距離が詰められ、ストライカーが持つ2本の剣の内片方が振り上げられた。

    日向(今!)

    そのタイミングで!

    ダンッ!

    跳躍!

    日向の背後に存在する何軒も並んだ家のオブジェクトが剣の行き先になる。

    はずだった!

    日向「!」

    ストライカーは、目の前にいた!

    日向(読んでたのか!?ここまで!)

    ストライカーの機動力では、日向の跳躍を見てから跳ぶのでは追いつけない。であれば、それは読んでいたということ。

    日向「くっ!」

    咄嗟の判断で後方へブーストしながら不格好に着地すると、その判断が正解であることを示す、2本の剣が虚空にX字を描いた。

    そして不可解なのは、その後、ストライカーが両手の剣を頭の上にして、(いびつ)な形に変化したこと。

    それは螺旋状に回転しながら、ドリルとなって空を掘り進む。

    一直線に、日向に向かって!

    日向(なんだその動き!?)

    困惑。そしてすぐに対処法を考えた結果、バックステップで回避した。

    自分の立っていた場所が抉られている光景に戦慄する。

    暇もなく

    ギュイイイイイイン!!

    日向「!? まだ来るのか!?」

    暴食のドリルは、獲物を喰らうまで追い続ける。

    日向(跳ぶか?いや、それじゃ同じだ)

    タンッ

    七海「!」

    日向(真上になら……な!)

    日向は跳んだ。いや、飛び越えた!
  8. 8 : : 2016/07/18(月) 00:24:30

    七海(後ろっ!) 

    ガガガガガガガガガッ!!

    強引に回転を止め、乱暴にターンする。

    それだけの時間があれば

    ガッ!!

    シーカーは十分な加速を経て、さながら仮面ライダーのような飛び蹴りを放つことが可能!

    ズン……

    七海「うっ…!」

    そのまま倒れたストライカーに対して、シーカーはマウントポジションを取った。

    両手の剣も塞がれ、この時点ではシーカーの有利が確定している。

    同時にそれは、七海に初めて訪れた不利な状況でもあった。

    七海(……ふふ)

    日向「ハァ、ハァ……っしゃあ!勝てるぞ!勝てる!」

    七海(……今までで一番強いかも)

    ガンッ!ガンッ!

    ストライカーの防御力は低い。

    殴る度に装甲はひしゃげ、殴った形にへこんでいった。

    七海「……」

    日向「勝てる……はずなのに」

    何もしないのはおかしすぎる。

    だから

    グンッ!

    日向「!」

    何かする。当然。

    そしとそれがわかっていても、日向操るシーカーが浮いている理由について気づくまでは、そのまま着地するまでにかかった時間と同程度の時間が必要だった。

    ズサァッ!

    日向(脚を振り上げたのか!?)

    瞬時に方向転換することで把握した。

    そしてこの後すべきこともまた、把握した。
  9. 9 : : 2016/07/18(月) 00:25:02

    ストライカーは、そのまま後転の要領で体勢を立て直す。

    すでに日向は直進していた。

    ストライカーの防御力は決して高くない。これまでの戦闘で与えたダメージは、確実に撃破までの道を築いているはずだった。

    つまり

    日向(当てれば勝てる!)

    七海(……!)

    一方七海は、ようやく後転を終えようとしていた。背後から迫り来るシーカーにも気づいている。その攻撃をくらった先にある、自身の敗北にも。

    シーカーは風に囚われず加速し、勝利への軌道を描いていた!

    グルンッ

    日向「!」

    七海は感覚的に、回避が失敗することをわかっていた。

    ならば、取る選択はひとつだけ。振り返り、受け止める。いや

    日向(振り返ると同時に倒すつもりか!?)

    裏拳、もとい裏剣。

    ターンによって得た遠心力を乗せて、剣は宙を斬り進む!

    日向(おもしれえ!)

    日向の全身をじっとりと覆う汗を、日向は気になどしていなかった。

    ただ夢中で、日向は、シーカーの全力を尽くした、ただの突進と、裏剣が重なる瞬間を待望していた。

    日向・七海(ぶつかる!)

    二人がそう思ったのは同時だった。

    二人は勝ちを確信していた。

    二人の意思は揺るぎない物として、行動に移された。

    ドガァァァァアアアアアア…………!!

    七海「……ハァ」

    自分が相手にとどめを刺したとき、画面の左下に相手の名前+撃破の文字が浮かぶ。

    日向の画面左下に、その文字は浮かばなかった。

    日向「……クソッ」

    最高速度に達していたシーカーの攻撃は

    ストライカーを越えた先にある住宅地を抉った。

    その結果、崩壊した瓦礫の山の上に、シーカーは突っ伏していた。

    七海「……ごめんね」

    七海の打った文字が、日向の画面に小さく届いた。

    NANAMI:この勝負はキミの勝ち。でも、この試合は私たちの勝ち。

    その文字の上には、NANAMIが緊急撤退(リタイア)をした記録が表示されていた。

    日向「なんで……くっ」

    さらにその上には、オペレーターからの「話を聞け」という連絡が並んでいた。

    ようやくそれに気づいた日向を他所に、起き上がる気配のないシーカーの背後に迫った弾丸が、一切の抵抗を受けずシーカーを撃破したところで、日向のチームは全滅。敗北となった。

    日向「クソォッ……!」
  10. 10 : : 2016/07/18(月) 00:25:26

    ━━━━━━━━━━


    同時刻。希望ヶ峰学園パソコン室。

    「……ふーーん」ニヤッ

    男はパソコンの画面を見つめていた。画面には観戦中の文字が映っていたが、たった今それが消えた。

    「あら、また七海先輩の観戦ですか?狛枝先輩」

    「…セレスさん。キミも好きだね」

    セレス「いえ」クスッ

    セレス「その様子ですと、七海先輩は今日も絶好調だったようですね」

    狛枝「ふふ、そうだね。けどちょっと違うかな」

    セレス「…失礼。今日も、ではなく、いつもでしたわ」

    狛枝「ははっ、それもそうだけど、残念。本命はこっち」

    セレス「……相手の方ですか?…存じませんわね」

    狛枝「だろうね。予備学科だもの」

    セレス(むしろそこまで知っている狛枝先輩は……!)

    狛枝「信じられる?七海さんが緊急撤退使ったの」

    セレス「! …世界1位をそこまで追い詰めるなんて、そんなユーザーが予備学科に?」

    狛枝「うん。けど、結局超高校級……希望にはほど遠い」

    狛枝「セレスさん、出るよね?チャンピンシップ」

    セレス「ええ。最近はこっち(PCゲーム)の方でも少々……」

    狛枝「流石。楽しみにしてるよ」

    セレス「えぇ……」

    ふふ、楽しみにしてるよ。だなんて、それ私に言ってるんですか?


    ━━━━━━━━━━

    30分後。希望ヶ峰学園寄宿舎。

    日向「どういうことだよ、七海」

    七海「…そのためにわざわざ部屋まで来たの?」

    日向「当たり前だ!だってNANAMIって七海だろ!?」

    七海「うん」アッサリ

    日向「ほら!アイコンからも隠す気すらない!」

    日向「そのぬいぐるみだろ!太ったうさぎの!」 

    七海「そうだよ!可愛いでしょ?」

    日向「全然可愛くない……ってそうじゃなくて、なんで!どうして緊急撤退したんだよ!最低でも相討ち、お前の腕なら俺に勝つことだって出来た!」

    七海「いや、あそこは流石に相討ちだよ」

    日向「ならなんで!?緊急撤退したら相討ちですらない。お前が負けたことになるんだぞ!?」

    厳密には負けたことにはならない。緊急撤退は試合が終わるまでゲームの外側にいることになるため、実質敗北という話だ。

    七海「けど、試合は勝ったよ」

    日向「そうだけど…!相討ちでもよかっただろ!?」

    七海「だめ……ストライカーが可哀想!」

    日向「!?」
  11. 11 : : 2016/07/18(月) 00:25:48

    日向「ストライカーが可哀想って……あれはゲームだぜ?」

    七海「んーん……痛がってたよ」

    日向「はぁ、あんなぬいぐるみ、いいじゃんか……。ほら、お前の持ってるそれと変わんねえだろ」

    ウサミ(七海裏声)「それじゃないでちゅ!ウサミでちゅ!」

    日向「はは、普通にどうした」

    七海「どうしたじゃないよ!私が一生懸命言ってるのに!」プクーッ

    日向「なんだよ、ぬいぐるみにも感情があるって?」

    七海「あるよ!だから…撃破させたくなかったんだよ」

    日向「あそこの緊急撤退とか舐めプもいいとこだけどな……わかったよ。お前はそう思ってるんだよな」

    七海「…わかってなさそう」ガックシ

    日向「ぬいぐるみに感情があったら、それはホラーだ。刃物持って、髪をくれ~とか言いそうだし」

    七海「やっぱりわかってない……交通事故のとき、ぬいぐるみのおかげで助かった!とか!ぬいぐるみに感情がある証拠だよ!」

    日向「クッション性があるの間違いだろ?」

    七海「……ばか!」

    日向「てっ、怒るなよ……」ハァ

    七海「もうすぐチャンピオンシップでしょ…!?今日はもうシーカー痛めつける練習したら!?」

    日向「はぁ、なるべくダメージ受けないよう頑張るよ」

    七海「……」ムスッ

    日向「……次は負けないからな」

    七海「……うん」

    七海の言ってることは、正直まったくわからなかった。

    そしてこの先も、決してわかることはない。

    だってこれは、ただの……

    ……ゲームなんだから。










    【アストロ・オンスロート】


    起動

    あなたはユーザー名、HINATAで間違いないですか?




    ▼はい

     いいえ









    今日も俺は、ロボット(ぬいぐるみ)を酷使して白星を掴まえた。
  12. 12 : : 2016/07/18(月) 00:26:41

    チュートリアルを済ませたばかりの初心者は、ランク25に設定される。

    それぞれのランクごとに定められた白星を挙げることでランクは上がり、黒星を掴まされることで下がっていく。

    日向はこのゲームを始めて2ヶ月になるが、凄まじい勢いでランク5に到達し、年に1度行われるチャンピオンシップへの参加が許可されていた。

    このゲームの総人口、約6000万人の内チャンピオンシップに参加出来るのは300人(50チーム)程度であり、それがそのままランク5以上のプレイヤーの数である。

    七海との対戦から2週間後、ついにチャンピオンシップが始まった!

    オペレーター「よしっ!俺達の実力見せてやろうぜ!」

    日向「あぁ…そうだな」クラッ

    オペレーター「? どうした日向。どこか悪いのか?」

    日向「いや、今日が楽しみで眠れなかったんだ」

    「「ハハハハハ!」」

    チャンピオンシップは開催から3日間予選を行う。

    予選は1日10回、勝率が近いチームの中からランダムにマッチングした相手と対戦を行い、勝敗を競う。これにより勝率が多い上位8チームが、決勝トーナメントに進出するのだ。




    「ランク5のあいつ強くね……?誰だ?」

    「おいおい知らないのか?あいつは…」

    日向「オラァ!!」

    ドォーーーーン!!

    オペレーター「よし!その周辺に敵はいない!ジャマーの援護に行ってくれ!」

    日向「おう!」

    七海(日向くん……随分頑張ってるね)



    この日、俺達は10戦中9勝1敗。その1敗も熱中しすぎてお茶を溢すという(あまりにも情けない)ミスだったため、実質全勝の好成績を収めた。


    翌日

    ネット掲示板では誰が本戦に出場するか、熱い議論が交わされていた。


    『アストロ・オンスロートチャンピオンシップ予選見てる奴ちょっとこい』

    『NANAMIが最強←これ論破してみろwwwwwwwwww』

    『予選1日目の画像貼ってけ』

    それらの掲示板を覗けば、そこそこの頻度で自分の名前が載っていた。誇るもののなかった俺に、少しずつ才能の芽が伸びていることを実感して表情が綻んだが、心は逆に固く決意する。 


    日向(必ず勝つ……勝って、俺は……!)
  13. 13 : : 2016/07/18(月) 00:27:14

    その思いが順調に実を結ぼうとしているのか、日向のチームは主に日向の活躍により全参加者中4位で予選を突破。順調に本戦出場の権利を得た。

    オペレーター(俺がいる意味って……)ズーン

    チャンピオンシップ本戦は明日。トーナメント制となっており、組み合わせは予選の成績が考慮され

    1位vs5位

    3位vs7位

    2位vs6位

    4位vs8位

    となった。

    日向(七海と当たるのは決勝か……上等だぜ!!)

    初戦の相手は8位。予選突破はギリギリ、しかしリプレイを見る限り決して油断は出来ない相手だったが……

    日向(運が悪い試合ばっかりだったな……圧勝出来るところを不運で落としたり、事故が多いみたいだ)

    「あいよ!コロッケ1つオマケしとくよ!」

    日向「ありがとうおじちゃん!」パッ

    本戦を明日に控えるこの日は気分転換に、暗くなるまで外出すると決めていた。

    商店街の暖かい空気が、俺の疲れを優しく取り除く感覚が今は何よりも心地よかった。

    空に浮かぶ雲のようにゆっくりと過ごす休日を、これまたゆっくりと噛み締めていた。

    日向(……最近よく考える。俺は……いつ)

    「あぁ、やっぱりキミだ」

    日向「!」

    その声が俺にかけられていると気づいたのは、そいつが俺のすぐ目の前で屈託のない笑顔を向けてきたから。

    日向「お、お前は……」

    狛枝「ボクは狛枝凪斗……って、知ってたみたいだね」

    日向「あぁ…超高校級の幸運だろ?」

    狛枝「御名答。えっと…予備学科クン」

    日向「うっ……!(クソッ!本科の奴にとっては俺はその辺のモブAと違わねえってことかよ!)」

    狛枝「ごめんごめん、そう気を悪くしないで」ハハッ

    日向(無邪気に笑いやがって!いや!無邪気じゃねぇ!邪気だ!こいつは邪気だ!)

    狛枝「それよりせっかく会えたんだ。ちょっと付き合ってよ」

    日向「……?」 

    俺は冷めたコロッケを気にしながら、狛枝の後を付いて行くことになった……。

    日向(こいつ、予備学科には冷たい奴だって聞いてたけど……なんのつもりだ?)
  14. 14 : : 2016/07/18(月) 00:28:42

    しばらく歩いていたような気もするが、蓋を開けてみればものの5分未満で狛枝の目的地に到着した。

    日向「……駄菓子屋?」

    狛枝「そう。入って」

    「いらっしゃい……」

    狛枝「おばちゃん、きなこ棒ひとつ」

    「はい……」

    狛枝「ありがと。ほら、キミも買いなよ」ニコッ

    日向「え、あぁ、じゃあ俺も」

    狛枝「ね、ちょっと運試ししない?」

    日向「運試し?」

    狛枝「そう。簡単さ。今からハズレが出るまで食べ続けるんだ」

    日向「……いいけど」

    狛枝「ははっ、せーので食べるよ。せーのっ……」

    パクッ

    日向「!」

    狛枝「アハッ、キミは当たりだ」

    日向「お前は……ハズレ!?」

    狛枝「うん。安心したよ」

    日向「……は?俺は最初、お前の才能自慢に付き合わされるんじゃないかと思ってた。どういうことだ?」

    狛枝「ボクは今、不幸なんだ!何をやっても上手くいかない!けどそれでいい!もうすぐ訪れる、ボクの幸運があるから!」

    日向「……?」

    狛枝「準備は万全だ!明日はきっと上手く行く!……それじゃあね、日向創クン。明日キミとの試合を楽しみにしてるよ。寄り道せず真っ直ぐ来るようにね」

    日向「! 明日!?じゃあ、お前が……!!てか、なんで俺のことを知って!!…………って、行っちまった」

    あいつが明日の対戦相手。よりにもよって本科の生徒だなんて……。

    日向(……これはチャンスだ。超高校級の幸運、俺が乗り越えてやるぜ!!)

    「はい、きなこ棒のおかわり」

    日向「あ、ありがとうございます……」パクッ

    日向「……また当たった」


  15. 15 : : 2016/07/18(月) 00:29:20

    そして翌日。

    決勝トーナメントの試合は全世界に生中継されるが、大きな会場を用意しているわけでもなく、対戦はプレイヤー達が選んだ場所で行われる。つまり

    日向「あ、3時間パックでお願いします」

    ネット喫茶だった。

    バニッシャー「いよいよ準々決勝か……なんか、よくここまで来たなって思うよ」

    バニッシャー2「おいおい、それは決勝までとっとけよ!」

    バニッシャー「っと、そうだな」

    日向「ウッ……」

    スナイパー「どうした?日向」

    バニッシャー2「昨日店のきなこ棒全部食べたらしいぜ」

    スナイパー「……なんかもう規格外にすげぇな」

    日向「大丈夫。俺はいける!」

    意気込んだところで、俺達の準備は終わり、画面にお互いの編成とステージが映し出される。



    【火山B】
    ※特殊なステージのため天候は無関係。

    《編成》
    シーカー
    バニッシャー
    バニッシャー
    ジャマー
    スナイパー 

    《対戦相手の編成》
    ジャマー
    ストライカー
    シーカー
    バニッシャー
    スナイパー



    日向「1体ずつか……。予選の映像と変わらず来たな」

    日向(そして、たぶんあのジャマーが……)

    オペレーター「どうする?いつも通り行くか?」

    日向「……いや、今回はやめておこう。俺達がしてたように、研究されてると思う」

    オペレーター「じゃあどうするんだ?」

    日向「優先してジャマーを止めに行こう。ステージ的に、見失ったら厄介だろ」

    オペレーター「あぁ、確かに。火山の中は迷路みたいだからな」

    このステージはまず、火山の中へ入るところから始まる。と言っても、火口に入るわけではなく、火山の内部にある広くいりくんだ道を戦場とするのだ。

    日向「固まって入られるとキツいか?いや、ステージを生かしてバラけてくるか」

    オペレーター「こっちはどうする?」

    日向「……相手がバラけたら俺達もバラける。ジャマーと会ったら撃破、それ以外なら逃げよう」
     
    オペレーター「万が一のとき合流しやすいようにバニッシャーは常にマップを見る必要があるな。スナイパーが生きにくいステージだけど、それは?」

    日向「スナイパーは俺の合図で移動してくれ。それまで入口で待機。相手のスナイパーもこっちは狙いにくいだろう」

    オペレーター「そうか。ならそうしよう」

    日向「けど、このステージは必ず30分以内に決めなきゃいけない。それは今更確認するまでもないよな?」

    全員が言葉で頷き、そして

    グン……

    会話が終わって、戦闘が始まった。

  16. 16 : : 2016/07/18(月) 00:29:45


    ━━━━━━━━━━

    空一面を覆う灰色。少し視線を落とせば、ゴツゴツとした岩肌が視界一面に広がった。

    火山の麓、即ちここにある基地に一瞥を送って、俺達は岩肌にぽっかりと開いた入口から火山の中へと入って行った。

    レーダーを見ると、向こうも反対側で同じルートを辿っている。

    日向(ここまでは当然。内部以外で戦闘出来るのは基地の前だけだからな)

    そして、敵は一斉にバラけた。

    ゲームが用意した入口から入ると、その先の道は幾つにも枝分かれしており、縦にも横にも複雑で、とにかく広い。逃げようと思えばいくらでも逃げ続けられるだろう。

    しかし、それは許されない。

    試合開始から30分後、火山は噴火を起こす。

    溶岩流が現実ではあり得ないスピードでステージを侵食し、ものの5分で麓の基地を破壊し決着を言い渡す。互いの基地が同時に破壊されたとき、勝負に勝つのは生き残った数なのだ。

    さて、ひとまずは、応じるようにこちらもバラける。

    何度も説明した通り幾多もの道があるが、日向はただ真っ直ぐに道を進んだ。


    狛枝『準備は万全だ!明日はきっと上手く行く!……それじゃあね、日向創クン。明日キミとの試合を楽しみにしてるよ。寄り道せず真っ直ぐ来るようにね』


    寄り道せず、真っ直ぐに向かうために。

    日向「……」

    狛枝「やぁ、待ってたよ。キミなら気づいてくれると思ってた」

    案の定そこに居たジャマーは、球体から細長い四肢の生えた、いつも通り気持ちの悪いフォルムをしていた。

    腕が伸びて…その光景はストローを連想させるが、よく曲がる。相手を締め付けたり、絡み付くのもジャマーの得意とするところだ。

    ジャマーはそれに加えて素早い動きと、3種のアイテムを操る。

    ①ボム
    ジャマーの攻撃手段であり、メインアイテムである。ボムは床、壁、敵、味方、基地問わず設置することが出来、任意のタイミングで爆破、解除が出来るが、それには起爆スイッチを押さなければならず、片手が塞がれる。

    ②バリア
    対象を包み込む球体のバリアが形成される。バリアに包み込まれている間は、移動以外の行動が出来なくなるが、敵の攻撃やギミックまでいかなる攻撃を無効化することが出来る。発動時のみ両手を使い、5秒程でバリアは消える。

    ③ネット
    網を設置する。網は相手の動きを封じることも、足場になることも出来る。

    日向(ジャマーは長生きするほど厄介だ。さっさと片付けさせてもらうぜ!)

    ダンッ‼

    一気に駆け出し、間合いを詰める。

    ジャマーに問われる3択の対応、時間はない。

    すぐ目の前に広がる拳が、その証明!

    そして

    日向「!」

    ドガァン!!

    すでに設置されていたボムが、その答え。

    狛枝「……だから言ったのに。待ってたよ、って」
  17. 17 : : 2016/07/18(月) 00:30:35

    狛枝「キミはボクの発言から汲み取って、ここに辿り着いた」

    両手を広げ空を仰ぐような姿勢が、爆風を受け入れる。

    狛枝「だったらまた汲み取らなきゃ。ジャマーのボクがわざわざ“待ってた”って言ってあげたんだから、何かあると考えるのが自然だよね?」

    目の前の相手に向けた言葉は、黒い煙が遮った。

    ふぅ、と溜め息を吐いた。直後

    狛枝「!」

    煙は突如空間を割って現れたソレを中心として四散。

    両手を広げたままのジャマーを、弾丸が貫いた。

    狛枝「ぐっ!?」

    ブォン!

    狛枝「!」

    弾丸によって生まれた道を、日向が!

    日向「俺が!」

    狛枝「……! 直撃を避けていた!?」

    日向「汲み取って辿り着いたのさ!」

    シーカーの振り上げた拳が、火山の内部に吹く熱風を切り裂いて、ジャマーの胴体にヒットした。

    それにより大きく後退したジャマーは、そのままシーカーに背を向け足を走らせる。

    日向「! 逃げるのか!?」

    狛枝「うーん、ここじゃ分が悪いからね」

    狛枝(…さっきからスナイパーの目が五月蝿い。爆弾は日向クンじゃなく壁を破壊して、近くにいたスナイパーの射線が通るようになったわけか)

    狛枝(幸先は悪いけど、まだまだこれから。希望の踏み台になる、ボクの踏み台になってもらうよ)

    日向「クソッ、今ので仕留められなかったか!」

    スナイパー「すまん、もう一発当てられてれば……」

    日向「追うぞ!」ダッ
  18. 18 : : 2016/07/18(月) 00:38:13

    ジャマーとシーカーではシーカーの方が速い。にも関わらず

    日向「……距離が縮まらない」

    これは、状況を見るにそこまで可笑しいことではなかった。

    狛枝「……」

    バッ‼

    先を行く狛枝の放つ妨害──

    日向「またネット…!」

    正面から被さろうとする網を横っ飛びで回避する。

    日向(それだけで、埋めた分の差が掘り返される!)

    さらには

    ボオオオオオオ!!

    日向「!」

    オペレーター「日向ッ!」

    ドンッ

    随所から噴き上がるマグマに当たると、少しだけダメージを受ける。

    出現ポイント、時間共にランダムであることから半分は割りきるしかないのかもしれない。が、少しでもダメージを受けることは避けたかった。

    日向「助かったぜ…スナイパーに無理させて悪いな」

    オペレーター「いや。しかし、さっきから俺達の周りばっかりマグマが吹いてないか?対して、あのジャマーは……」

    日向「……」

    確かにその通り。狛枝は何に邪魔されることもなく俺達の先を走っていた。

    日向「……超高校級の幸運……」

    オペレーター「?」

    日向「いや、なんでもない。幸運くらい、俺だって持ってるさ」

    日向(……ただ、もしも幸運と不幸がシーソーのように入れ替わるのなら)

    日向(シーソーの傾きは間違いなく奴が幸運で、俺が不幸の側にいるらしいな)

    オペレーター「おい、皆聞いてくれ。この先開けた場所に出る。そこに相手の反応が5つ、このまま行くと全員鉢合わせすることになるぞ」

    日向(……あぁ……それが狙いかよ)

    どうやらここまで、奴の台本通りに事が進んでるらしい。

    上等。俺が最高のシナリオに書き換えてやるぜ。
  19. 19 : : 2016/07/18(月) 00:38:34

    火山の中心部付近に位置するここは、天井が高く見通しもいい。しかし一方で高低差のある足場が駆け引きを生み出すなど、戦闘には絶好のポイントである。

    道を抜けると俺達のチームは、横一列綺麗に並んだ。

    そして正面を見れば、狛枝が加わって丁度、相手も横一列に並んでいるところだった。

    「応ッ!全員集合と来たか!」

    「おぇ……ちょっと酔ってきたぜ」

    「ふむ……氷の覇王には相応しくない。が、たまにはよしとしよう……」

    「ねーねーおにぃ、そろそろ蟻みたいにプチッと潰していい?」

    狛枝「うん、もう少ししたらね」

    「ワシが先にいこう。盾にはなるじゃろうからな!」

    狛枝「あ、お願いね。弐大クン」

    シーカーよりも一回り高い背丈を持ち、頭部には、王冠を思わせる三本の角が天を向いていた。

    厚い装甲が覆う全身はまるで鎧。両手で力強く振るわれる大剣は、地形を破壊し、他の機体ではただ持つことすらも儘ならないだろう。

    日向(やっぱりバニッシャーから来たか……)

    バニッシャーが前線に上がることは、色々な意味がある。

    単純に高い攻撃力と防御力を持つことから戦闘を任せられるだけでなく、時には盾となったり、また巨体を生かして味方の行動を“隠す”ことが出来るからだ。

    バニッシャーがこちらに向かうのを見て、まず日向が飛び出した。真っ直ぐ、しかし、不規則に。

    その意味はつまり、誘っているのだ。

    弐大「……ほぉ」

    ズンッ……

    バニッシャーの体が、列から抜けた日向へ向けられた。

    日向(誘いに乗った……!)

    敵のバニッシャーをシーカーで相手することによって、敵チームの盾を外すことに成功した。

    同時に

    弐大「さぁ!どこからでも来んかい!!」

    日向(俺がバニッシャーを倒すということ!)

    バッ‼

    不規則な機動をやめ、ピタリと止まって向き合えば、相手の強さが、隙のなさが嫌でも伺えた。

    日向(ただでさえ隙がないのに、あのスナイパーの奴、然り気無くこっち見てやがるな。相手のストライカー、シーカーは交戦中。…一瞬なら、味方のスナイパーに援護を貰えるかもしれないな)

    日向(けど、一番キツいのは……)

    狛枝の姿が、一切見えないこと。

    さっきから見えないことを考えると、バニッシャーの真後ろか。

    日向(……暑いね、火山は!)
  20. 20 : : 2016/07/18(月) 00:40:01

    一旦味方側に退くかも考える。しかし、それでバニッシャーとジャマーが追ってきて、混戦を引き起こしては、素早さと攻撃力に秀でたストライカーがさながら忍者のようにこちらの機体を静かに破壊することになるだろう。

    さらには、そもそも俺が退いて、追われるとは限らないのだ。この広大なフィールドでジャマーを放置するのはあまりにも危険。

    日向は意図せずバニッシャーだけでなく、ジャマーまで引き付けることになった。これは日向の負担こそ多いものの、チームとしては!

    「これほど助かるものはない!マップから見てもジャマーはバニッシャーの裏にいる!気を引き締めろ!」

    オペレーターからの通信が届けば、マップを見る必要はないと悟った。

    ただ目の前の相手に集中する。ここで倒す。それも

    カチッカチッカチッ

    あと10分以内に。

    ゴォッ‼

    火山内部の熱をうねるような動きは、上から見れば異なる楕円形を描き続けているようにも見える。

    バニッシャーの動きは速くない。

    捉えることはほぼ不可能に近く、大剣を振り回そうと当たらなければそれは隙となり、手を出しにくい。

    ひとりなら。

    日向「!」

    辺りに漂う熱風ごと切り払う勢いで振られた大剣が弧を描き、そのゴールはきっと俺に向けられていた。

    だから俺は楕円を完成間近で投げ出して、一目散に距離を取った。

    直後、振りきられた大剣は勢いを殺し、再度俺に向けられて動きが止まった。

    日向(ちょっと考えりゃあわかる!隙なんてねぇよ!振った後俺が突っ込んだらバリア貼ればいいだけじゃんか!)

    殴り合いになればバリア。奇襲ならネット。近づかなければボムを設置され近づけなくなる。

    日向(あぁ~!だからジャマーは嫌いなんだ!)

    ムシャクシャするのに暑さは関係ない。それがリアルであってもだ。

    狛枝「……ここまでね、ずっと思い通りなんだ」

    日向「…?」

    バニッシャーの裏側から届く声は、どこか挑発的で

    狛枝「一切の不確定要素に邪魔されることなくこの状況を作り上げられた……これも幸運なのかな。ね?」

    深く深く、底の見えないほど深い穴の向こう側で手招きしているようだった。
  21. 21 : : 2016/07/18(月) 00:40:20

    手の出しようがなかった。だがそれは、あくまで平面で見ればの話。

    トンッ

    飛び上がれば、フィールドは立体となる!

    日向(俺の武器は跳躍によって得られる高さと機動力だ!上手く撹乱するしかねぇ!それも!)

    ふたりを見下ろすことが出来る程度の高台に着地し、ふたりを待つ。

    日向(俺に敵意を向け続けなくちゃならねぇ……!これは個人戦じゃなくて、チーム戦なんだ!)

    弐大「ふむ…上にいったか」

    狛枝「うーん、ボクを隠す感じで追ってもらっていいかな?」

    弐大「応ッ!」

    ググッ……

    ダンッ!

    灼熱の大地が力強く蹴り飛ばされ、バニッシャーが宙へ移ろった。

    日向(来た!すぐ後ろにジャマーもいる……けど、動きはわからないか!)

    狛枝「……」ボソボソッ

    弐大「……! わかった……」ボソッ

    日向の乗る高台に、バニッシャーが影を作った。

    タッ

    弐大「!」

    それを合図に、シーカーが飛び出した!

    弐大(着地狩りか!!)

    狛枝(いや、大丈夫!)

    姿は隠していた。だからこのネットは見えていない!

    狛枝「着地狩り()にかかった時点でキミはもうまな板の上なんだよ!!」

    バッ‼

    バニッシャーの裏側から放たれたネットが、シーカーの上をとった。

    日向「……忘れたか?バニッシャーと違い攻撃力もなければ防御力もなく、ジャマーと違ってアイテムも持たない、そんな俺……シーカーの特権!」

    狛枝「!」

    高速移動!!

    ギュンッ‼

    まさに紙一重だった!

    ネットが捕らえたのは、シーカーの残像。

    日向のテクニックは最早、あらゆるシーカー使いの中でもトップクラスと言えるまで成長していたのだ。

    狛枝(……!)

    日向「ここがまな板なら料理人は俺だぜ!」

    落ちたネットの端を掴み、そして!

    狛枝(まずい!)

    オペレーター「やばやばのやばっす!凪斗ちゃんだけでも逃げるっすよー!」

    狛枝「……くっ!」

    弐大「早くするんじゃああああああ!!」

    日向(よしっ!大剣を振るうスペースさえ作らなければ、ネットを切られることはない!つまりあの大剣でネットは切れない!ボムはバニッシャーも巻き添えをくらうから撃てない!この1手は絶対に通る1手!!)

    あとはこのネットを持ったまま、バニッシャーを跳び越せば!

    ボオオオオオオ!!

    日向「!?」

    噴き上がるマグマが、日向から機動力を奪う。

    日向(なんつータイミングだよ!!これも幸運!?)
  22. 22 : : 2016/07/18(月) 00:40:44

    日向がバニッシャーとジャマーの相手をしている間、戦いはもう一方でも繰り広げられている。

    オペレーター(向こうは任せたぞ、日向!)

    オペレーターの彼は、優秀なはずだった。

    財閥の家に生まれ、父親からは強靭な精神を、母親からは優しさを受け継いだ彼はこまで、小中と校内でトップの成績を残しながら、自らの明るい将来を約束していった。

    優れた人材の集まりから、より優れた人材の集まりへと淘汰されていく中、ついに彼は、自分より遥かに優れた『超高校級』の才能と対峙することになる。

    そして彼は知った。自分の限界を。自分が彼らの足元にも及ばない存在であること。上には上がいるということを。

    そして彼は知らない。今、再び『超高校級』と対峙していることを。そして今度は

    足元を掴んでいることを。

    オペレーター(司令塔の日向がいない今、俺が本来の役割を全うしないでどうする!!)

    「う…おぇ……酔った」

    「左右田おにぃ、やっぱシーカー慣れないね。ずっと動いてるから?」

    左右田「当たり前だろ…視界がグルグルするぜ……。って、お前、西園寺、知ってて俺をシーカーに……」

    西園寺「ビンゴ!!」

    左右田「てめぇえええええええおえええええええええ!!」

    パッ

    ヒュンッ

    《Kazu1がログアウトしました》

    西園寺「あああああああ!?なに勝手にログアウトしてんのバカ!!」

    オペレーター(!? シーカーが消えた!)

    これで4vs3となり、数で有利を取ることが出来た。

    オペレーター「押されてたけど、いける!今度はこっちが押し込め!!」

    若干押されていた状況から数の有利を得たチームの士気は瞬時に上がり、全員が体勢を立て直した!

    西園寺「! 調子乗んなよ!ストライカーの性能の前にひれ伏せ!」

    西園寺のストライカーは剣と盾を持つ攻守のバランスを意識した型であり、攻めやすく、守りやすい。

    オペレーター(しかしこちらにはバニッシャーが2体いる!)

    もうシーカーに撹乱されることはない。

    単純なパワーの押し付け。それだけで勝てるのではないか、と、確信していた。

    さらにはジャマー、スナイパーのサポート付きとなれば、むしろ…

    オペレーター「スナイパーは日向の援護だ!こっちはもう大丈夫だろう!」

    スナイパー「わかった!」

    そしてその指示は

    日向「!」

    日向を救う!
  23. 23 : : 2016/07/18(月) 00:41:22

    ギュンッ‼

    狛枝「!」

    日向の策は、マグマ(ステージギミック)が遮った。

    それを切り返す、狛枝達の反撃は

    スナイパー「……また外したか。自信無くすぜ」

    味方が遮った!

    弾丸が狛枝を捉えることは叶わなかったが、日向が復帰するだけの時間は捉えた!

    オペレーター「いや、外してもよかったんだ!これからあのジャマーは、スナイパーに狙われてることを理解した立ち回りをしなければならない!日向!行け!」

    日向「! おうっ!!」

    ダンッ!

    日向が駆け出すと共に、バニッシャーは着地した。

    ネットはまだ、バニッシャーの目の前にある!

    弐大「……一手、遅かったな」

    日向「!」

    日向がネットに手を伸ばした。そのとき、すでにバニッシャーは大剣を振りかぶっていた!

    弐大「ネットごと切り裂いてくれるわ!」

    日向「違うな!一手速いんだよ!!」

    バニッシャーが大剣を横凪ぎに払うよりも

    バッ‼

    速く!

    日向「お前のネット使わせてもらったぜ!!」

    弐大「ぬ……おぉっ!」

    シーカーは払われた大剣を飛び越え

    バニッシャーに、ネットを被せた!

    日向「そして…!」

    ギュンッ‼

    狛枝「!」

    日向は空中で、バウンドするボールのように跳ねた。

    そのまま真っ直ぐに突進する。その先はバニッシャーの持つ大剣だった!

    ガキィン!

    弐大「ッ!」

    大剣はくるくると回転しながら放物線を描いて、灼熱の大地に深々と突き刺さった。

    日向「よしっ!まず1体やったも同然だ!」

    狛枝(ぐっ!弐大クンの方が初動は速かった……のに!彼は回避してみせた!)

    いや、逆なのだ。

    弐大の方が速かったからこそ、日向には回避することが出来た。

    その大剣がどこに振るわれるか、見ることが出来たから!

    日向(後は狛枝を!)

    スナイパー(俺が援護を!)

    「……ぬるいな」

    スナイパー「!」

    その男の目は鷹のように鋭く、そして

    ドンッ‼

    その男の放った弾は、吸い込まれるように獲物を貫いた。

    ー残り4体ー

    田中「狙撃した場所から移動しないとは。己の居場所を教え続けるその聖母が如き優しさに感謝の十字架を送ろう」
  24. 24 : : 2016/07/18(月) 00:42:00

    オペレーター(相手のスナイパー!いつの間に高台に!?)

    ここは遮蔽物が少なく、見通しのいいエリアだが

    何故見てなかった!?マップを見ればわかっていたことを!

    援護に集中しすぎたか……くそっ!

    日向チームのスナイパーが撃破されたことで、オペレーターから瞬時に連絡が入った。

    オペレーター「すまない…相手スナイパーに隙を見せた」

    バニッシャー「いや、悪いのはバニッシャーの俺だ!ストライカーにかまけて、スナイパーにまで配慮が回らなかった!」

    バニッシャーが2体いれば、普通、ストライカーに苦戦することはない。

    しかし相手のストライカー……西園寺日寄子は、敵を倒すというよりも、死なない立ち回りに定評があった。

    よってスピードで劣るバニッシャーは、2体がかりであってもストライカーに決定打を与えられずにいた。

    西園寺の方も上手くバニッシャーを削りたいところだが、味方ジャマーが睨みを利かせ一歩踏み出せない状況が続く。

    オペレーター(くっ…!俺が指示を……!)

    日向「俺が行く!」

    「「!」」

    日向が、その均衡を破らんと爆進した!

    それを見て、いや、確認することの出来たふたりが思考を巡らせる。

    日向チームのオペレーター、そして狛枝が。

    オペレーター(いや、待て!そしたらジャマーは?バニッシャーは!?)

    狛枝(そうだ!この間にボクは弐大クンを助けて……)

    ドクン

    狛枝(助けて……どうする?)

    オペレーター(そうか!今マップを見る余裕はない。つまり日向の奇襲は成功する!)

    狛枝(ボクらは向こうと合流出来ない。するまでに、全滅する!)

    オペレーター(後は残った4機で、バニッシャーとジャマーだけになったところを叩けばそれでいい!)

    狛枝(え、負けてる……!?)
  25. 25 : : 2016/07/18(月) 00:43:31



    田中(……生物には特有の呼吸がある。癖と言い換えてもいい。そしてそれは画面を介そうと変わらない。例えばあのバニッシャー、剣を振るう前に小さく左右を見渡す)

    田中(その瞬間が命取りだとも知らずにな……!)

    標準が合わせられ、スコープの向こうでバニッシャーが小さく左右を見渡すのを視認。

    瞬間、乾いた音が田中の周囲に響き、弾丸は薬莢を脱ぎ捨ててバニッシャーにGAME OVERの文字を送る仕事を全うしようとしていた。

    確実に当たっていた。普段なら。

    田中「!?」

    シュゥゥゥ……

    弾丸は暗闇の中にいた。

    シーカーが手を開くと、暗闇から解放された弾丸が地に落ちる。

    日向「……あそこか」

    バニッシャー「日向!助かった…!」

    礼を聞きながら、スナイパーの位置を認識した日向は、再び高速移動を行わんと宙に浮かんだ。

    田中「バカなっ!?ありえん!俺様の放つ魔弾を防ぐ者など!!」

    西園寺「ちょっと待ったぁぁぁぁぁあ!!」

    日向「!?」

    スパンッ‼

    バニッシャー2「うわっ!」

    ジャマー「っ!?」

    日向が戻ったこと、弾丸を防いだことによる油断を突いた斬撃がジャマーを、そしてバニッシャー2を切断した!

    ー残り2機ー

    日向(! ジャマーともう1体のバニッシャーがやられた!)

    一瞬、スナイパーの元へ向かうのを躊躇った。しかしすぐに躊躇いを捨てる!

    バニッシャー「ここは俺に任せろ!行け!」

    弾丸から救ったバニッシャーが、ストライカーと日向の間に割って入った。

    西園寺「邪魔すんなぁあああああああああ!!」

    キィン!

    剣と剣がぶつかり合う音を背後に、日向はスナイパーの元へ飛ぶ!

    田中(……どんなに速かろうが、所詮シーカー。幾度となく葬った機体だ……)

    対して、田中は冷静だった。

    彼の自信を裏付ける実力が、経験が、そして感覚が、それらを総合させ溢れ出る漆黒のオーラが

    ゴォッ……!

    日向「……!」ブルッ

    スナイパーの華奢なボディを、怪物の姿に変えていた!
  26. 26 : : 2016/07/18(月) 00:44:14

    一発。たった一発で決まる!

    田中(この一発で貴様はあの世逝きだ!)

    日向(この一発避ければ俺の勝ちだ!)

    ふたりの思いが交差する。

    田中はいつもの通り標準を合わせようとした。

    しかし日向もわかっている。わかっているから、標準をずらそうと左右にぶれた。

    田中(そんな程度で!この俺様の弾を避けられると思うか!)

    カッ‼

    生物には特有の呼吸がある。

    田中(左右均等にフェイントをかけてくる!例えるなら奴は、ジャンケンで続けて同じ手を出さないタイプ!)

    グァッ‼

    田中の纏う漆黒のオーラが、激しく蠢く。

    百獣の王すら手懐ける覇王の狩りに、惰性という言葉はない!

    気がつけば、標準はすでにシーカーを完璧に捉えていた。

    田中(……さぁ、終焉といこう)

    そして、田中は引き金を──

    ──引けず。

    田中「!?」

    ボオオオオオオ!!

    田中「ッ……!」

    噴き出したマグマが、田中の視界をリセットしたから!

    田中(悪運の強い男だ!)

    バッ

    だが、呼吸はすでに覚えている!

    田中(左右左右……)

    田中「……ここだ!」

    日向「あぁ、ここだ!」

    田中「!!」

    噴き出すマグマを切り裂いて、シーカーは!

    ドガァッ!!

    田中「!」

    全てのオーラを払拭し、真の姿を現したスナイパーの細く軽いボディを吹き飛ばした!

    田中「ぐぁあああああッ!!」

    《スナイパー 撃破!》

    日向(これであと……!)

    ドサッ

    日向「!」

    背後から聞こえた音が、俺の視線を誘った。

    振り返れば、倒されている味方のバニッシャー。そしてそれに足を乗せた、ストライカーの姿だった。

    ー残り1体ー

    西園寺「はぁ……本当バニッシャーって邪魔だわ。ま、残りのシーカーなんてそれこそ蟻みたいなもんだろうし、勝ったかな」

    日向「……ストライカーか」
  27. 27 : : 2016/07/18(月) 00:44:58

    西園寺日寄子操る、片手剣のストライカーは軽やかな足取りでシーカーに距離を詰めた。

    対する日向は、スナイパーと違い、ただ突っ込むだけでは手痛い反撃が待つストライカー相手に先手を譲った。

    ストライカーの剣が緑色の光を放ちながら、縦に緑色の直線を描く。

    バックステップでなんとか回避するが、それにより生まれて間が

    タンッ

    日向「!」

    詰められる。いとも容易く。

    日向(くっ……!)

    ……西園寺日寄子は超高校級の日本舞踏家である。

    完成された流麗な舞いは、一朝一夕で身に付くものではない。

    小さな石を重ね、やがて巨大な岩となった才能の塊は、実績へと昇華した。

    今、巨大な岩が日向の前に立つ。

    才能も実績も完全なる格上。岩はひらりと舞って、シーカーの懐へ入りそして──

    日向「!」

    ドガァン!!

    ──撃破される。

    西園寺「なっ!?」

    日向「とんでもねぇストライカー(七海)を見てるんだ!お前とは比べ物にならないほどのな!」

    巨大な岩が砕け散り、それは日向の糧となった。

    どんな才能が相手だろうと、ここでなら、日向は対等に戦える。

    残す敵は、あと……

    日向「……レーダーによると、あいつがいるのは火口付近か」

    オペレーター「気をつけろ日向。奴はそこから動いてない」

    日向「あぁ、わかった」

    オペレーター「それと、ネットにかかったままのバニッシャーはどうする?」

    日向「……なんとなく嫌な予感がするんだ。今はジャマーを追いたい。二人が合流しなければさほど問題にはならないだろうし、合流されたところで俺は勝ってるからな」

    オペレーター「わかった。いつも通り、お前の勘を信じるよ」

    日向「あぁ、すまない」

    通信を切って、日向は狛枝の待つ火口付近までシーカーを走らせた。

    通常ジャマーとの1vs1であれば、バリアを使わせて次のバリアまでのインターバルを狙えばそれで済む話なのだが

    俺は知っている。

    狛枝凪斗は、それで済む人物ではない。

    奴がホテルに宿泊中、偶然テロリストと居合わせた。

    テロリストは体中に巻き付けた爆弾を見せて、数秒後自爆すると叫んだが

    奴はなんの考えもなしに犯人に飛びかかった。

    結果、それに乗じて飛びかかった勇気ある数名の活躍でテロリストは組伏せられ、爆弾は爆発することなく取り除かれた。

    そして奴は言った。

    「あ、こういうときお礼っていくら貰えるんですか?」

    一歩間違えればどうなっていたか、誰にでもわかることだ。

    日向(所詮予備学科で耳にした噂にすぎない。けど、あいつはなんでもする!一瞬で地球を破壊するボタンがあったら躊躇なく押すような危なさがある!)

    日向(早く、早く行かないと!)
  28. 28 : : 2016/07/18(月) 00:45:32

    日向「!」

    バッ

    咄嗟に身を翻し、日向は息を荒げた。

    日向「ハァ……ハァ……!」

    やはり、簡単には辿り着けない。

    それを意味するボムが、曲がり角に隠すように設置されていた。

    警戒を解かない。地形上、ボムの範囲外からここを通過することは不可能なので、ボムが致命傷にならない程度に距離を開けながら

    ダッ‼

    一気に通りすぎた。

    日向(マップでこっちの位置はバレてるはずだ。起爆しないのか?)

    設置されたボムは静かに、ただ日向を威圧していた。

    日向(……起爆出来ない理由がある?)

    しかし今起爆されないのは都合がいいので、杞憂だということにした。

    日向(とにかく今は、火口に!)


    ━━━━━━━━━━


    ゴツゴツとした足場は内部より足取りを慎重にさせ、シーカーの機体は安全のため宙に浮くことを強いられた。

    火口に出ると、周囲をより一層強い熱気が支配する。あまりの熱気に視界が揺らめき、視線の先に立つジャマーの姿はより禍々しく見えた。


    日向「狛枝……」

    煮えたぎるマグマが時折顔を覗かせる。

    この対戦で日向に残されたのはジャマー側が出す、バリア、ボム、ネットの択を掻い潜り、ジャマーを撃破する勝機。

    当然相手もそれがわかっているので、攻撃の起点となるジャマーの手は俺から見えないように自身の体で隠されている。

    狛枝「……まさか、キミにここまで追い詰められるとはね。正直想定外だよ」

    画面の向こうにいる奴の表情はわからない。わからないはずなのだが、何故か日向には

    狛枝が嗤ってるように感じた。

    狛枝「あはっ、何も言ってないけど、たぶんそれ正解」

    日向「……!」

    狛枝「もちろん想定外っていうのは、ここまで追い詰められるとは思わなかったってこと。勝ってごらん。無理だから」

    安すぎる挑発に、セール中の札が貼られた。

    日向「……安売りには弱いんだ。貧乏学生だから」

    グンッ

    シーカーに内蔵された燃料を燃やして、ジャマーの正面から切り込む!
  29. 29 : : 2016/07/18(月) 00:45:52

    正面。それは標的との最短距離であり、明確な戦意の表れ。

    狛枝もそれを理解し、隠していた“手”を解放せんとする動きを見せる。

    シーカーのスピードも加味すれば、選択する時間は限りなく少ない。

    しかし、狛枝は

    そして、日向は!

    日向(ここだ!)

    狛枝(今だ!)

    選択する。互いの最善を見据えて!

    バッ‼

    シーカーのスピードから計算し、自身と接触する直前

    狛枝は出題する。一瞬の判断を問う、超早押しクイズを!

    問題文は今、日向の視界に晒された。

    日向「!」

    だが、日向はそれを誘っていた!

    相手に正面から切り込めば、相手は迅速な対応を強いられる。

    さらに、火口一帯は、もしかすればすでに罠が仕掛けられているかもしれない。

    よって、相手との距離を最短で、最速で詰めることこそが最も安全であると踏んだ!

    狛枝「ふぅん、貧乏学生は発想が貧困だね」

    そして、それは正しい。

    日向の答えは間違っていない。

    間違っているとすれば、それは

    狛枝「あぁ、予備学科はお金のある貧乏だった」

    問題の方だった。

    狛枝の出したアイテム、それは

    狛枝「もっと派手に行こうよ。大会なんてお祭りなんだからさ!」

    ピッ‼

    起爆スイッチ。

    ゴゴゴゴゴゴゴゴ……‼‼

    日向「……!!」

    地響きが偶然とは思えないタイミングで反響する。

    ガンッ!

    さて、シーカーの飛び蹴りはすんなりと炸裂し、ジャマーは後方へと吹き飛ばされた。

    丸いボディが地面に叩きつけられ、遅れて細長い手足が不格好に着地した。

    狛枝「ク……クク……!」

    択を制したのは日向、のはずだった。が、日向の胸中を不安が駆け巡る。

    形容し難い負の感情が、重厚な扉を開けて雪崩込む!

    狛枝「ハッハッハッハッハッ!!」

    それはどす黒い希望。

    狛枝凪斗の選択した答えにして、暴力的な問題提示!

    ドドドドドドドドドドドド……!!!!

    震えているのは日向か、否!

    フィールドである火山そのもの!狛枝の仕掛けた爆弾が、爆発の衝撃によって!

    眠れる火口を呼び覚ました!!
  30. 30 : : 2016/07/18(月) 00:46:37

    日向(噴火!?)

    このステージ最大の特色である噴火は、このゲームをやる者なら誰もが警戒する……故、対戦開始から30分経過という条件も合間ってそう多く起こることではない。

    日向ももちろん警戒していた。時間は何度も確認していたはずなのだが

    狛枝はそれを利用した。固定概念の隙間をすり抜けて、今、狛枝の書いたシナリオはフィナーレを迎えようとしていた!

    狛枝「さぁ、足掻いて見せなよ!」

    ドッドッドッドッドッドッドッ!!!!

    心臓の鼓動と大地の鳴動が織り成す二重奏。

    演奏者は、聴衆の拍手に反して演奏を中止せんと再び切り込む。

    しかし、この一手は悪手!

    焦り故の理性を欠いた攻撃など、狛枝に取っては読めないはずもなく。

    ガガガッ!

    日向「くっ!」

    準備されていたバリアが攻撃を防ぎ、ジャマーはシーカーに背を向ける。

    日向「逃げるのか!?」

    狛枝「あのねぇ、戦う理由がないんだよ。後はマグマがキミを、或いは基地を飲み込むのを見届けるだけ」

    ダッ

    球体を保持出来ず散り散りに消えかかるバリアの欠片を引き連れて、ジャマーは急な斜面を駆け降りる。

    日向「させっか……!」

    それを追うようにして日向も飛んだ。しかしその背後から、溶岩流が津波のように押し寄せる。

    今狛枝が駆け降りている火山の外側は、戦闘禁止エリアなため戦闘は行われない。代わりに、30秒以上の滞在が禁止されており、万が一禁を破った場合その機体は撃破扱いとなる。

    ジャマーのスピードでなら、30秒以内に禁止エリアから脱出することはギリギリ可能だろう。シーカーなら、もっと早く。

    【シーカー禁止エリア滞在可能時間:残り26秒】

    日向「逃げられると思うなよ!お前のシナリオは駄作だッ!」

    いくら溶岩流が現実のものと比べ物にならないほど速いとはいえ、シーカーとの距離には余裕があった。しかしその余裕を埋めないためにもシーカーは最高速度を保ち続けなければならない。

    狛枝「ふーん、ならこの展開はどうだい!!」

    ドンッ!!

    日向「!?」

    日向の目の前を、炎を纏った岩石が落下した。

    噴火によって弾き出された隕石もまた、溶岩流とは別の驚異としてプレイヤーに襲いかかる。

    隕石はなおも降り注ぎ、プレイヤーを殲滅せんと機を狙い続けているが

    日向(俺ならかわせる!!)

    ボゴォッ!

    日向「!」

    その時、日向の背後で巨大な音が立ち、それは同時に巨大な存在感を放った。

    結論として、振り向いてはいけなかった。

    しかし、日向の頭に鳴り響いた警鐘と、それに対する反応は実力故であり、その状況を把握すれば一概に否定出来る行動とは限らないのだ。

    弐大「無駄、無駄、無駄、無駄!」

    【残り20秒】

    姿を現したバニッシャーはその巨体により、シーカーを自身の影で覆った。

    そしてその影はそのまま、シーカーの未来を暗示させていた。

    その暗示が正解だと言わんばかりに、バニッシャーの巨大な両手が、振り向き様に減速したシーカーを拘束する!
  31. 31 : : 2016/07/18(月) 00:47:09

    日向「……!戦闘禁止なはずだろ!」

    弐大「フハハ!お前さんにとってはただの抱擁も戦闘なのか!?」

    ググググ……‼

    バニッシャーの力はシーカーよりも大幅に強い。

    いくら脱出を試みようが、無駄な抵抗には優しい措置を。万力の如くじわじわと締め付ける力を強めていく。

    【残り17秒】

    弐大「フハハハ……!!マグマはもうそこまで来とる!これに呑み込まれてお前さんもワシも一巻の終わりじゃ!!」

    日向「ンなわけ……ねぇだろ!!」

    ギチギチギチ……

    シーカーの全身から低い唸り声のようなものが鳴り、ボディが段々と変形していく。

    弐大「強がりはやめておけ!お前さんはよくやった!」

    日向「強がりじゃねぇ!!」

    グンッ‼

    弐大「!」

    シーカーに搭載された全てのエンジンが、今!

    グンッ‼グンッ‼グンッ‼グンッ‼グンッ‼グンッ‼

    可能な限り全ての力を解放して

    バニッシャーに抗わんとしている!

    弐大「無駄、無駄、無駄……!!」

    ギチギチギチ……‼‼

    狛枝「まさか、隕石を頼りにしているのかい?だとしたら負けた言い訳でも考えていた方がいい」

    【残り12秒】

    ヒュッ

    日向の進行を塞いで以来

    隕石はまるで、残っている三体を避けるように落下していた。

    日向「勝てんだよ!!俺は!!」

    狛枝「見苦しいって。はぁ、少しでもキミに期待したボクが馬鹿みたいだ」

    日向「……じゃあ、聞くぜ」

    狛枝「……?」

    日向「何か気づかないか?俺は気づいてる」

    狛枝「……」

    ふと

    狛枝の胸に針で刺されたような痛みが走った。

    痛みの正体。それは違和感。

    心に反して、頭の回転が速くなり、視界が開けていく。

    そして気づく。痛みの正体である、違和感の正体に。

    拘束、ではなく

    大剣ならば、すでに勝っていたはずだ、と。

    狛枝「弐大クン……剣は……」

    日向「……」

    画面の向こうにいる奴の表情はわからない。わからないはずなのだが、何故か狛枝には

    日向が嗤ってるように感じた。

    日向「正解」

    【残り5秒】

    弐大「んん?ワシがネットから出たときはもう……」

    その時、狛枝が何かを察知して視線を上げると

    隕石とは全く異なるそれが一番星のように輝きを放ちながら、徐々にその存在を大きくしていく。

    そして

    気づいたときにはもう

    【残り3秒】

    ザクッ!

    バニッシャーの大剣が、落下運動の先、着地点に偶々居合わせたジャマーの胴体を貫いた!

    狛枝「……ッ!!」

    日向「悪いな、超高校級の幸運さん。幸運くらい俺だって持ってるんだよ」

    弐大「狛枝!!」

    日向「そしてこの戦いは終わる」

    弐大「!」

    日向「溶岩流、すぐそこだぜ?」

    弐大「なッ!?」

    弐大は日向の背後に現れ、拘束した。

    つまり溶岩流との位置関係を考えれば

    先に撃破されるのは!

    弐大「し、しまったああああああああああああああ!!!!」

    【残り1秒】

    弐大「ぐぁっ…」

    バニッシャーの体が溶岩流に触れ、その身は一瞬にしてマグマと同化した。

    断末魔を上げる暇もなく散った最期のシーンが様々な角度から再生され、すぐに画面は切り替わる。

    日向「俺の、俺達の勝ちだ!!」


    ーゲームセットー


    オペレーター「よっしゃああああああ!!」

    スナイパー「よしっ!よしっ!」

    バニッシャー2「ありがとう、日向!」

    ジャマー「すまん…なんの役にも立てなかった」

    バニッシャー「勝てば戦犯はいないんだぜ!」

    オペレーター「お前が言うか……」


    日向チーム、準決勝進出決定!!
  32. 32 : : 2016/07/18(月) 00:47:44


    次の日。希望ヶ峰学園パソコン室。

    狛枝「……」

    セレス「あら……負けてしまわれましたの」

    狛枝「うん。正直言って、舐めてたよ。所詮予備学科だって……。だけど、彼は輝き始めている。その輝きはセレスさん、キミに届こうとしてるんだよ」

    セレス「……私に?ふふ」

    セレス「冗談。私に敗北はあり得ませんわ」

    狛枝「……それはギャンブラーとしての勘?」

    セレス「ええ。そして確信ですわ。それに、私のチームには苗木クンがいる……」

    狛枝「え、苗木クンが!?……そっかそっか」ニコッ

    セレス「そして、これが私のチームです」

    セレスは一枚の紙を狛枝に手渡した。

    狛枝「苗木クン江ノ島さん戦刃さん霧切さん十神クン……」

    狛枝「なるほど、全員特に曲が強い。オールジョーカーだ。けど、ことゲームに関しては不二咲さんを採用するべきじゃないかな」

    セレス「その不二咲さんの推薦でこのチームに決まりましたわ」

    狛枝「あぁ、そう……江ノ島さんと戦刃さんはまだしも、霧切さんや十神クンがよく参加したね」

    セレス「えぇ、クラスの絆ですわね」ニコッ

    狛枝「ハハッ、そっか」ニコッ

    狛枝(……はぁ、相手が悪いよ。これはボクが勝ってても、ここまでだったかな)


    ━━━━━━━━━━


    同時刻。希望ヶ峰学園寄宿舎。

    日向「なぁ、七海。次勝てば俺達が当たるんだよな」

    七海「うん。まぁ、私達は負けないからね」

    日向「言ってくれるな。絶対勝つぞ!」

    七海「……ところでさ、またシーカーに無理させたでしょ」プクーッ

    日向「っ、見てたのか……まぁな。けどあぁしなきゃ勝てなかったんだ」

    七海「いやっ!もっと色々あったはずだよ!私ならもっと安全に勝てた!そもそも!ジャマーを放置したりとかしない!」プンスカ

    日向「そりゃアレは俺が悪かったかもしれないけど……」

    七海「ほら!しかも運勝ち!!あーあ、可哀想なシーカー……」

    日向(とか言いながら対戦では平気で攻撃してくるよな……)

    七海「見て、ウサミちゃんも言ってる」

    ウサミ(七海裏声)「可哀想でちゅ!ロボット虐待でちゅ!」パタパタ

    日向「はは……またまたどうした」

    七海「だから!こういう物にも感情はあるの!粗末に使わない!」

    日向「うーん……いや、確かに俺は例外を知ってるけどな?」

    そのとき日向の頭には、超高校級のプログラマー、不二咲千尋の顔が浮かんでいた。

    日向「けどそのぬいぐるみは裏にいるお前の感情。シーカーは乗り手の俺の感情。違うか?」

    七海「……知らない!!」ムキーッ

    バタン‼

    日向(……閉め出された)

    日向(今日は俺のチームの皆、用事があるんだっけ……)

    日向(……ええい!)

    バッ
  33. 33 : : 2016/07/18(月) 00:48:55

    【駅前】


    友達a「お、いたいた!おーい!」

    日向「おぉ、来たか」

    友達b「うわー久しぶりだな!背伸びたか?」

    友達c「元気そうでよかったぜ……」

    日向「はは…皆久しぶりだってのに、変わんないな」

    日向が呼んだのは小高高校時代の友人達だった。

    すでに日は沈みかけていたが、せっかくの旧友との再会を楽しまないわけにはいかない。

    友達c「お?日向バスケ上手くね?」

    日向「そうか?」ヒョイッ

    ポスッ

    友達c「また入った……」

    友達b「おい!日向に当たれ!無双させんな!」

    友達a「わーってるよ!はぁ、俺元バスケ部なんだけどなぁ……」


    ━━━━━━━━━━


    【日向の家】

    友達a「結局無双されたなぁ……」

    日向「教えてもらったんだよ。はい、お待たせ」コトッ

    友達b「お、めっちゃいい匂い!いただきます!」

    パクッ

    友達b「……うっま」

    友達c「お前こんな料理出来たっけ?」

    日向「あー、それも教えてもらったんだ」

    友達a「希望ヶ峰学園ってすげえ!!」

    友達b「予備学科にも希望はあるんだな……」

    日向「……あぁ、あるさ。そして俺は、その希望を掴まえる」

    友達c「頑張れよ。お前なら出来る気がする!」

    日向「…ありがとな」

    その日は結局、4人で夜通し語り明かした。

    存分に遊んだ。存分に癒された。

    しかし、それを噛み締める時間はなく

    次なる戦いの幕は上がる。


    ━━━━━━━━━━


    準決勝当日


    日向「……!」

    タッタッタッ……

    日向(クッソ!今日は準決勝だってのに遅刻しちまう!)

    タッタッタッタッタッ……

    ドンッ

    日向「!」

    「いてて……」

    日向(! こいつ、本科の……)

    「あっ……すみません!お怪我は……」

    日向「いや、大丈夫。じゃあ、俺急いでるから」

    「はい、お気をつけて!」

    タッタッタッ……

    日向「1個下の超高校級の幸運、か。狛枝と違って随分優しそうだけど……」

    日向「……なんかこう、底が知れないように思える。つくづく縁があるな」

    日向「……って!時間やべぇ!」ダッ‼
  34. 34 : : 2016/07/18(月) 00:50:01


    日向「悪い!遅れた!」

    オペレーター「大丈夫だ!早く!」

    日向「よしっ!」ガチャッ

    アストロ・オンスロートを起動し

    俺は深海に沈んでいく感覚を味わいながら

    これから始まる戦闘に勝つことだけを考えていたら

    間もなく、チャンピオンシップ準決勝が始まるのだった。



    【密林A】

    【天候:雨】


    《編成》
    シーカー
    バニッシャー
    バニッシャー
    ジャマー
    スナイパー 

    《対戦相手の編成》
    ジャマー
    ストライカー
    シーカー
    ストライカー
    スナイパー



    オペレーター「バニッシャー切りか。密林Aで雨って視界最悪だから、スナイパーはまた動きにくいステージだな」

    スナイパー「晴れだったらな……密林Aは狙撃ポイントが多いんだが」

    バニッシャー「雨で川が氾濫するところ?」

    バニッシャー2「それは密林C」

    ジャマー「雨でもボムが使えるの、いまだに違和感あるな……」

    密林Aは火山と違い地形自体は単純でそこまで広くもない。

    ただし、鬱蒼とした木々に囲まれ続けなくてはならないため、景色の変化がわかりにくく、自身や味方の位置も正確に把握するのは難しい。

    故、奇襲が成功しやすいステージともされている。

    日向「うーん……」


    一方、セレス達は


    江ノ島「ねぇ、相手チームどんな感じなの?」

    戦刃「このシーカーのワンマンチーム。後は全員雑魚だよ」

    苗木「ワンマンチームなのに準決勝まで来れてるんだ。相当強いシーカーなんだね……」

    江ノ島「ま、苗木は同じシーカーとして頑張ってね!」キャルン♪

    十神「恐れる必要のあるチームではない。さっさと片付けるぞ」

    霧切「……」

    セレス「ええ。ではまず……」
  35. 35 : : 2016/07/18(月) 00:51:36


    グンッ……


    暗闇が晴れると、じめじめとした湿気と温暖な気候に包まれた植物の楽園がそこにあった。

    耳元を打ち続ける雑音は、見れば無数の線となって降り注ぎ、葉に当たると弾けて消える。

    雨でぬかるんだ足元は、歩けば大きな足跡が残る。マップ上に大まかな位置は表示されてしまっているが、密林の地形を生かすため、そして泥やツタに足を奪われないよう開始と共に全員が宙に浮かぶことを強制された。

    日向「よし、進もう」

    日向の呼び掛け通り全員で固まりながら、周囲に気を配り続けながら全進していく。

    正方形に象られたステージ上に5つの反応が固まって動いていることは、相手に伝わる情報だ。初動は、目的という大事な要素の視覚化でもあるから。

    オペレーター「正面、反応1」

    日向「他の反応は?」

    オペレーター「皆離れて散ってるけど、最後は囲みに来るんじゃないかな。正面の奴だけ待ち構えてる」

    日向「じゃあストライカーか。囲まれたところでバニッシャーがいないなら一点突破出来るし、ストライカーの奇襲だけ気をつければそれでいいはずだ」

    全員が首肯して、さらに進む。

    何者かが首を長くして待っているのなら

    日向は足早に迎えに行く。反応との距離が近くなってきたのを見て、さらに速く。

    日向「高速移動!!」

    ギュンッ‼

    相手からすれば、この高速移動は奇襲!

    日向「!」

    カッ‼

    木々の死角から生えた、同色の脚が

    日向を進行方向とは逆に弾き

    また木々に隠すよう身を潜めた。

    シーカーは後退したが、ダメージはあまり負っていない。どうやらかなり浅く入ったようだ。

    日向(出くわしたか。待ち構えてただけあって早い対応だったな)

    他のステージならば成功しにくい不意打ちを可能にする程の圧倒的な障害物の多さ。日向はすぐに納得して、姿を隠す木の裏へとシーカーを飛ばそうとしたが……

    日向(誘われてる……そう考えるのが普通だよな)
  36. 36 : : 2016/07/18(月) 00:52:06

    相手の姿は脚しか確認していないが、動きの機敏さを見るにストライカーだと認識したが……

    日向(剣で奇襲すればよかったところを、わざわざ脚……?)

    脚で攻撃しなければならない理由も考えつつ、日向は、行動を選択しなければならない。

    日向(すぐに追うか……?いや)

    一本の大木を中心にして、相手は裏側に回り込んだ。

    後を追うように仕掛けてもいいのだが、相手がそれに対して構えているのなら反対側から回り込むのもいいだろう。

    ストライカー相手なら、この大木を切り裂いて奇襲してくる可能性もある。

    日向(……そうか。最初、自身が待ち構えていたのはこっちに伝わる情報だ)

    日向(俺も当然警戒してた。だから脚に攻撃されたときも受け身を取ることは出来たわけだし、ダメージも少なかった)

    日向(だがここで、この大木ごと俺を攻撃するのであれば、それは俺の警戒の外から来るわけで、本当の意味での奇襲として成立する)

    日向(俺は剣を見ていないから、ストライカーとして断定出来るわけじゃないからな)

    日向(決めつけよう。向こう側にいるのはストライカーだ!)

    だとすれば、ここは

    日向(回り込… パァン‼

    大地に対して、直角に降り注ぐ豪雨を切り裂くかのように放たれた弾丸が

    日向の遥か後方にいるバニッシャーの、糸を通すような鎧の隙間を掻い潜り

    アストロ・オンスロート1の防御力を易々と貫通すると、役目を終えてそこに止まった。

    日向「……は?」

    味方のバニッシャーが崩れ落ちるのを、日向はただ遠くで見つめていた。

    駆け引きの行われていた大木の中心には、小さな穴が空いていた。
  37. 37 : : 2016/07/18(月) 00:53:07

    オペレーター「!? スナイパーだったのか!?しかも、あの距離であそこを通すって……」

    ジャマー「お、おい!囲まれてるぞ!」

    オペレーター「!」

    画面を見れば、草食動物の群れを敵の反応が完全に包囲していた。

    オペレーター(相手にバニッシャーがいないことを利用して、こっちのバニッシャーを押し付けて突破する算段だった……のに!今囲われたら!)

    日向「! 戻らないと……!」

    ザッ‼

    日向「!」

    戦刃「行かせないよ、シーカー」

    ガチャン‼

    既に次弾を装填し終えたスナイパーが、木陰からシーカーに銃口を向ける!

    日向「スナイパーが近距離で勝てるかよ!」

    シーカーは振り向き、一瞬で決める算段。

    二度のフェイントを経て、スナイパーの標準をブレさせながら着々と距離を詰める、が!

    パンッ‼

    日向「……!?」

    それは拒否される。

    スナイパーの拳が、全てのフェイントを無効にせんと繰り出された結果

    シーカーは不意を打たれ、瞬きする程度の間硬直した。 


    セレス「……」カチャ

    セレスは、その光景を見ながらロイヤルミルクティーの入ったカップを皿に戻した。

    セレス「なんともわかりやすい……感情がそのまま行動に直結するタイプですわね」

    そう呟くと、チームメンバー全員にマイクを繋ぎ口を開く。

    セレス「勝ち確、ですわね。決めてくださいな」

    ピッ

    マイクを切って、椅子にもたれ掛かれば、柔らかいクッションがセレスの体を支えた。

    セレス「日向先輩。貴方の対戦は研究させていただきました。そうしたら、なんともわかりやすい弱点があるではありませんか」


    ー野良試合ー

    『左右から1体ずつ来る。結構大胆に動いてるから、恐らく陽動だな。すぐに逃げられる中央は手厚く固められてるだろうから、一旦下がって仲間と合流してくれ』

    『いや、2体ならいける!』


    ー七海戦ー

    日向『俺は相手のジャマーを叩く。バニッシャーとジャマーは固まって、いつも通りの動きをしてくれればいい。スナイパーは2体ずつ固まってるところを足止めしてくれ』


    ー狛枝戦ー

    バニッシャーがこちらに向かうのを見て、まず日向が飛び出した。真っ直ぐ、しかし、不規則に。

    その意味はつまり、誘っているのだ。


    ーーーーーーーーーー

    西園寺の方も上手くバニッシャーを削りたいところだが、味方ジャマーが睨みを利かせ一歩踏み出せない状況が続く。

    オペレーター(くっ…!俺が指示を……!)

    日向『俺が行く!』

    「「!」」



    セレス「何かあれば、一人で飛び出したがる癖……」
  38. 38 : : 2016/07/18(月) 00:53:47

    セレス「特に1vs1がお好きなようで。確かに、序盤で相手の数を減らせれば有利になることは確かですわ。けれど、数を減らしている間、他の戦闘には参加出来ない」

    セレス「あのチームは日向先輩のワンマンチーム。日向先輩さえ引き付けてしまえば、後は簡単に制圧出来る……」


    日向「ハァ、ハァ、ハァ……!!」

    ー残り1体ー

    戦刃「3分42秒。ターゲット残り1体」

    シーカーの放った回し蹴りは空を切り、雨を霧散させた。

    何度も戻ろうとした。だが、戦刃むくろは譲らない。

    日向をマークし、全ての仕事を放棄させる。

    この試合、日向は完全に封じ込まれていた。

    そして、さらに逆風は続く。

    十神「圧勝だとは思っていたが、蓋を開けてみれば完勝とはな」

    霧切「……」

    江ノ島「あーつまんね。早く終わらせて」

    苗木「待って、まだ終わってないよ」

    離れていた敵4体が、ほぼ無傷での参戦。

    日向の勝利は絶望的だった。

    日向「ハァ、ハァ、ハァ!!」


    日向『なぁ、七海。次勝てば俺達が当たるんだよな』

    七海『うん。まぁ、私達は負けないからね』

    日向『言ってくれるな。絶対勝つぞ!』


    日向「負けられるかよ……」

    セレス「……」

    日向「負けられるかよ!!」

    ズアッ‼

    戦刃「!」

    日向(あいつらが到着する前に!!)

    ヒュン‼ヒュン‼ヒュン‼
     
    三発放ったジャブは、全て風に受け止められた。

    だが、そのスピード、威力共に間違いなく

    戦刃(さっきより上がってる……)
  39. 39 : : 2016/07/18(月) 00:54:13

    ブンッ‼

    戦刃「!」

    回避し、そこをまたシーカーの拳が通り過ぎるが

    その拳圧は、スナイパーの動きを徐々に鈍らせていく。

    戦刃「っ!」

    そもそも、スナイパーは機動力に秀でた機体ではない。むしろ機動力は最低クラスで、近接戦闘など以ての外である。

    そのスナイパーが何故シーカーを相手に互角以上の近接戦闘を繰り広げていたかといえば

    それは、日向にそう思わせていたからなのである。

    日向の行動を先読みし、予め行動すれば、スピードで負けたと錯覚させることも可能である他

    弱い打撃でも当てることで、相手が攻撃を受けていると認識する。怯ませることに意味があるのだ。

    だが今は、戦刃と日向の優劣が入れ替わっている!

    戦刃が回避すれば、今度は回避する方向へ攻撃が飛んでくる。

    その先を行こうとすれば、予測は修正されさらに先へ、先へと攻撃が続いていく。

    攻撃に転じる暇も作らせない、最大の防御。

    いつしか戦刃の目には

    ドドドドドドドドド……‼

    無数の拳が映っていた。


    江ノ島「えっ、まさか残姉!傭兵部隊フェンリル(笑)が!戦場で一度も傷を負ったことのない超高校級の軍人(笑)が!」

    戦刃「……!」

    さぁ、目の前には拳の壁。

    下がるだけの機動力を持ち合わせていないスナイパー。

    どこに回避すればいいか、誰にもわかるはずがない。

    ドォオオオオン……!!

    《スナイパー 撃破!》

    江ノ島「負けたぁぁぁぁぁぁぁあ!!!!だせぇええええええええええ!!!!」

    戦刃「私の体じゃないし、実際の戦場と違うから」ムッ
  40. 40 : : 2016/07/18(月) 00:54:32

    日向「あと4体…!」ザッ

    オペレーター「日向、悪い……」

    日向「いいんだ。俺が全員倒せば勝てる」

    相手チームが綺麗に横並びになると、日向もシーカーを構えさせた。応じるように相手も構える、が

    日向(仕掛けてこないのか?)

    相手の狙いがわからない。しかし蓋を開けてみれば、わからないのも無理はない。

    それはたったひとりのエゴが生んだ硬直。

    江ノ島「あたしと苗木にやらせて。あ、ヤらせてじゃないよ?」

    苗木「えっ!?」

    霧切「早く終わらせるんじゃなかったのかしら?」

    江ノ島「なんていうか……その…下品なんですが…フフ……」ジメジメ

    霧切「……もういいわ。好きにしなさい」

    十神「下らん。俺も霧切に同意だ……が、万が一負けてみろ。わかってるんだろうな」

    江ノ島「でぇじょうぶだ!!オラ燃えてきた!!」

    苗木「ねぇ、どうして?」

    江ノ島「ん?まさかジャマーにタイマンさせる気?」

    苗木「いやっ、そういうわけじゃ…どうしてボクなの?」

    江ノ島「うーん、なんでかって言ったらそりゃもちろん、苗木とのペアが」

    江ノ島「一番嫌いだからだよ」ニヤッ

    苗木「うっ」グサッ

    江ノ島「つーわけでセレス!オーケー?」

    セレス「どうぞ。止めても無駄でしょう」

    江ノ島「よくおわかりで!」

    ダッ‼

    ジャマーとシーカーが、勢いよくほぼ同時に列から飛び出す。

    江ノ島「この前練習した連繋、覚えてるよね!?」

    苗木「うん!江ノ島さん途中で飽きて帰っちゃったけど!」

    2体が左右から挟み込むようにして、シーカーに襲いかかる!

    日向「……舐めやがって!!」
  41. 41 : : 2016/07/18(月) 00:55:27

    日向から見て、左から苗木の乗るシーカーが、右から江ノ島の乗るジャマーが接近する。

    日向(ジャマーが何か仕掛ける間、シーカーに注意を向けさせるってことか!)

    戦術の意図を読み、弾き出した答えをすぐさま行動に移さんと日向は右を向いた。

    日向(ならここは!)

    江ノ島「お?そうしちゃう?」

    空を蹴り、僅か一瞬でジャマーに詰め寄る。

    相手のシーカーに背中を向けることになる、が、ジャマーを倒してしまえば──

    江ノ島「うわー読んでなかったわ!やばやばのやば!」

    江ノ島「な~んて言うかと思ったか!!」

    バッ‼

    日向「!」

    江ノ島が出したのはボム!

    そしてそのボムはジャマーの手元から離れると、山なりの軌道でシーカーに向かっていく。

    ──だが、日向の狙いは

    ギュンッ‼

    江ノ島「!」

    トップスピードで江ノ島の真横を通り過ぎる。途中、当然のようにボムを回避した。爆風が江ノ島の向かい風に、日向の追い風となる。

    江ノ島は正面から向かってくるシーカーに対してボムを放った、が、それは正面からの攻撃に対する防衛手段であり、最初から攻撃する気のなかった日向に対して全く効果を得られないのは必然。

    シーカーはジャマーの背後へ周り、空中でターンすれば視界には無防備な背中が映った。

    初手の駆け引きを制すれば、無駄なダメージを負わず、ノーリスクで1体撃破出来るという思考。

    江ノ島「今度こそやば!?」

    苗木「なんで嬉しそうなの!?」

    日向「!」

    バッ‼

    背後はとった。だが苗木のカバーが早かった。

    日向(速攻でジャマー落としてもシーカーにダメージを貰うか……)

    チラリ、と、思考が目を逸らす。

    この2体を撃破した後に待ち受ける2体のストライカー、果たして手負いで勝利することが出来るのだろうか。

    ここは野良試合ではない。ここは選ばれし者の舞台、チャンピオンシップなのだ。

    日向の行動は、いつになく慎重になっていた。

    江ノ島「サンキュー」チッ

    苗木「今舌打ちした!?マイク入ってるよ!?」

    江ノ島「静かにしな。集中するんだ。さぁ、連繋を始めよう」

    苗木「ぐっ!ボクの立場が弱すぎるけど、よし!」

    ジャマーが向き直り、そして

    日向「!」

    2体は、正面から見てぴったりと重なった。
  42. 42 : : 2016/07/18(月) 00:56:09


    日向(狛枝達もやってた、ジャマーを隠す奴か)

    しかしシーカーはバニッシャーほど大きくないため、相手に対してぴったりと重ならなければ隠しきることは出来ない。

    日向(その点、こいつはピッタリと隠してる。実力は理解したぜ)

    雨の音が強く訴えるほどの静寂。そして

    江ノ島「GO!!」

    ダッ‼

    日向「!」

    ぴったりと重なった影は、苗木のロケットのようなスタートによってあまりにも乱暴に分離した。

    それはシーカーの持つ攻撃手段の中で、最も威力が高く、そのスピードによって、発動後に回避行動をとることは困難を極める!

    ギュンッ!!

    7.35トンの質量をフルに利用した、全身全霊の体当たり!!

    苗木「っ!?」

    しかし、手応えがない。当たらなかったから。いや、回避されたから!

    発動前から回避行動をとれば、そう難しいことではない!

    日向「俺だってシーカー。それくらい読めるさ!」

    苗木のシーカーは日向の下を通過し、日向は、すぐさまその跡を追うように苗木と同じ行動をとった!

    ギュンッ!!

    江ノ島「!」

    シーカーとジャマーの分離、それはつまり

    ジャマーの介入が入らなくなるということ。

    バリア、ボム、ネットに怯えることなく

    シーカーを攻撃することが出来るということ!

    苗木「!」

    苗木のシーカーが減速を始める。

    対して、日向のシーカーはトップスピードを保ったまま!

    苗木のシーカーの、ギュッと握られた拳がこちらに向きかけた。

    日向「裏拳か!?遅い!!」

    一気に苗木の背後を襲う!

    ドォオオンッ!!

    苗木「ぐあッ!!」

    思いがけない程の衝撃が走り、シーカーはというと、密林の泥に深く沈んだ。草木に泥の飛沫がかかり、豪雨が瞬時に洗い流していく。

    苗木「て……!」

    苗木は仰向けのまま墜落したので、視界一面を泥が覆っていた。

    どうやら機体はまだ動けるらしいので、起き上がって振り返ると

    目に入ったもう一体のシーカーは、仰向けとなって泥に沈んでいた。
  43. 43 : : 2016/07/18(月) 00:56:30

    日向「……」

    頭の中を、疑問符が占拠した。

    攻撃が決まった手応えはあった、いや、経験則上あれは、間違いなく決まる手応えだったと断言する。

    だとすれば何故、俺が仰向けになっている?シーカーがダメージを負っている?

    追撃はないことからも、単なる事故なのか。いや、この戦いに事故はない。

    日向(だとすれば何が……いや)

    日向(何処がおかしかった…!)

    少し思考を転換すれば、違和感は顔を出す。

    日向(2体が重なった理由)

    ジャマーを隠して、ジャマーの恩恵を受けながら戦う。あるいは、その意思を相手に植え付けて裏をかくか。

    俺は裏をかく方に賭けて、賭けに勝ったはずだ。

    いや、まさか

    日向(そういえば拳を向けていた。あれは裏拳じゃなくて……)

    日向(……ボムを持っていたのか?)

    そう、シーカーとジャマーが重なったとき

    ジャマーは、江ノ島は苗木にボムを渡していた。


    セレス「これも貴方の癖なのか……」

    セレス「どうも、ジャマーと組んでいる機体を先に狙う傾向にあるようですわね」

    セレス「クスッ、存分に利用させていただきましたわ」ニコッ


    江ノ島「おーおー、完全にセレスの思い通り。あいつ葉隠より占い師の才能あるんじゃないの?」

    江ノ島「ところで、ねぇ苗木ー!」

    苗木「なに江ノ島さ……っ……!?」

    グラッ……

    苗木の乗るシーカーの、体勢が崩れた。

    飛行を続けるのが困難だと判断し、再び泥に戻る。

    苗木「なんで……」

    苗木「……あ、さっきの爆発で腕が無くなってる」

    江ノ島「苗木ー!そのままでいいから聞いて!」

    苗木「あ、うん。なに?」

    江ノ島「今からそこ爆発させるから!」

    苗木「!?」
  44. 44 : : 2016/07/18(月) 00:57:22

    江ノ島「あのシーカーがあたしの横過ぎていったでしょ?」

    苗木「うん」

    江ノ島「そこ、後で使うと思って私が左から回り込む時に泥にボム落としておいたんだよね!」

    苗木「! 先言ってよ!!」

    江ノ島「言ったらぎこちなくなるでしょー?敵を騙すには味方から!」

    苗木「セレスさん!聞いてる!?」

    セレス「はい」

    苗木「江ノ島さんになんか言ってやってよ!」

    セレス「地形戦をよく理解していますわ」ニコッ

    江ノ島「えへへー」テレッ

    苗木「ああああ!そもそもボクがわざわざ撃破される必要ないじゃん!」

    江ノ島「あーそれね、さっきも言ったけど……」

    江ノ島「お前と組むのが一番嫌いだからだよ!!」デストローイ‼

    苗木「ボクもうやめていいかな!?」

    江ノ島「はいポチッ」

    ドォオオオオオオン……!!

    激しい轟音が雨音をあっさりと消し去り

    泥の飛沫は雨に打ち消されないほど多く、そして広く四散した。

    江ノ島「あっははっ!相手もろとも苗木も撃破扱いになってる!!」

    苗木「怒るよ!!」ブワッ

    江ノ島「お前はよくやった。骨は拾ってやるよ」キリッ

    セレス「いえ、まだ反応が」

    江ノ島「!」

    ダンッ‼

    胴体への衝撃と共に、ジャマーの体が倒される。

    江ノ島「えっ……!」

    仰向けになった江ノ島の視界の中で、大小を繰り返す足があった。

    江ノ島「ちょっちょっちょ!起き上がれない!」

    日向「ハァ、ハァ……!舐めんじゃねぇ……!!」

    先の爆発は両腕を盾にして防いだ。

    爆風を煙幕にして、日向の奇襲は成功した。

    江ノ島「何この光景!超屈辱的ってか……」

    江ノ島「十神!霧切~!助けろよ~!」

    十神「……」

    霧切「……」

    ガンッ!ガンッ!

    なおも足が打ち付けられ

    ガンッ!ガンッ!

    ジャマーのボディがひしゃげていく。

    江ノ島「あぁ……こんなのって」

    ガンッ!ガンッ!

    江ノ島「こんなのって!」

    ガンッ!

    江ノ島「絶望て ガァンッ!!

    《ジャマー 撃破!》

    日向「あと2体……」
  45. 45 : : 2016/07/18(月) 00:57:44

    十神「もし俺が……」

    霧切「?」

    十神「羽のもがれた虫が這いずるのを見て、美しいと思える人間だったら」

    十神「きっと涙を流していただろうな」

    霧切「……どういう意味?」

    十神「惨めな虫けらは殺すということだ」

    シャッ

    2体のストライカーが抜刀する。

    それぞれ片手剣なところを見ると、ジャマーである江ノ島を起点にしてボム等の戦術を生かせるようにしているのだろう。

    日向「勝つ…勝つ……勝つ!!」 

    ブォン‼

    2体の中心に向けて、シーカーは高速移動で仕掛けた。

    その距離は瞬時に詰められた。が、2体のストライカーはそれぞれ半身になって初撃を回避した。

    十神「シーカーのスピードは四肢と胴体。五つのエンジンに支えられている」

    ヒュッ

    日向「!」

    十神の一太刀が、すでに虫の息であるシーカーに引導を渡さんと刻まれた。

    日向(まだ…!)

    十神「諦めろ。お前は羽をもがれたんだよ」

    日向(まだッ!!)

    ギュンッ‼

    十神「!」

    シーカーの放ったハイキックが、十神の目前を通過した。咄嗟に回避されたものの、当たっていてもおかしくなかった一撃は

    十神の認識を改めさせるには十分なほどだった。
  46. 46 : : 2016/07/18(月) 00:58:11

    十神(どうやら、まだ羽は残っているらしいな)

    日向「ハァ、ハァ!」

    宙に浮いた状態での回転蹴りは、地上で撃つそれよりも威力が物足りなく感じるかもしれない。

    しかし足場とも言えない泥水の床を考えれば、よほど効率がいい攻撃だ。

    霧切(私がいなければ、ね)

    無防備な背後に、霧切が狙いを定める。音も無く近づけば、攻撃に集中している日向に気づかれるわけもない。

    オペレーター「日向!後ろだ!」

    日向「!」

    バッ‼

    その声に、日向は直ぐ様反応した。

    回し蹴りを即刻中断し、鞭のようにしならせていた脚部を、

    霧切「!」

    伸ばす!

    そして霧切に背中を向けたまま、一気に加速する!

    ダンッ‼

    霧切「うっ!」

    それは剣を振り下ろさんとしていたストライカーの胴体にヒットした。が、それで終わらない!

    十神「!」

    その加速は止まるべきところを知っている。だから、今は止まらない。

    ストライカーの体を持ち上げ、そのまま高く浮上して行く!

    セレス「霧切さん、逃れられませんか?」

    霧切「駄目…!勢いが強すぎる!」

    セレス「十神クン、ケアを」

    十神「わかっている……。!?」

    ストライカーを持ち上げたまま、十分に浮上したシーカーは

    今度は逆に、落下運動へと移る!

    そしてその先は!

    十神「俺……というわけか」

    キュウウウウウウ……‼

    流星と化したシーカーが

    雨と共に一直線に、十神の元へ!

    日向「これで……終わりだッ!!!」

    日向の咆哮の直後

    日向と十神を中心とした、この戦いに終末を知らせる鐘が、密林全体に木霊して

    全てのプレイヤーの画面が、一瞬で切り替わった。
  47. 47 : : 2016/07/18(月) 00:59:09


    霧切「……」

    十神「チッ、だからさっさと終わらせばよかったんだ!とんだ恥晒しだぞ!わかってるのか!!」

    江ノ島「まーま、匿名だしいいじゃん。ねー苗木?」

    苗木「よくないよ!それに、相手にも失礼だと思うな……」

    江ノ島「たかがゲームじゃん」プー

    苗木「でも、向こう側には人がいるんだ。最低限の礼儀はあると思うな」

    セレス「まぁまぁ、誰を責めても仕方がありませんわ。このメンバーですもの」

    十神「おい、霧切。貴様がもう少し早くシーカーに剣を突き立てていれば……!」

    セレス「やめろっつってんだろこんの… 苗木「わー!わー!それもやめよう!!」

    セレス「……」フゥ

    セレス「皆さん、次は決勝戦です。せっかくの息抜きなんですから、優勝もいただいてしまいましょう」ニコッ

    江ノ島「……」


    ━━━━━━━━━━


    日向「これで……終わりだッ!!!」

    カッ────!!

    暗転。そして

    シーカーの体に深々と刺さった剣を

    日向は第三者視点で見届けた。

    少し視線を落とすと

    霧切、十神両名の乗るストライカーが倒れ込んでいた。

    激しく傷つき、破損しているが

    撃破には至っていない。

    だから画面には、信じたくないLOSEの文字。見たくないのに、やたらと目に入る。

    もし、もし天候が雨じゃなければ

    泥水に衝撃を吸収されることもなく

    勝つことが出来たんだろう。

    雨じゃなければ、でも

    何を言っても、俺は……


    ガバッ


    日向「……」

    普段なら心地よい朝の日差しが不快に感じる。光に当たりたくない一心でカーテンを閉めた。

    日向(俺は……)

    両足を抱いて丸まると、少しだけ安心する。その代わり、ベッドの上から出る気力が無くなった。
  48. 48 : : 2016/07/18(月) 00:59:32

    ブーッ‼ ブーッ‼

    日向「……」

    ベッドから離れた位置に置いてあるケータイが、バイブレーションに合わせて点滅する。

    昨日敗北が確定したときから、元チームメイト達からの謝罪が都会の喧騒と一体になった。

    ケータイのバイブや点滅も、やがてその一部となるだろう。

    日向(……俺は半端な失敗作。真剣に打ち込んだものでも所詮予備学科止まりだったってことか)

    自責、失望、倦怠感、様々な負の感情が代わる代わる暖簾を潜っていく最中、明らかに異質の感情である、空腹感に手を振られた。

    こればっかりは仕方がない。ふと、肉屋のおじちゃんの顔が頭に浮かんだので、日向は渋々と立ち上がり、脱いだばかりのパジャマを端に放り投げた。


    ━━━━━━━━━━

    ガヤガヤ

    日向(……)

    道行く人々の顔は明るかったり、暗かったりするものだが

    洗面台で見た自分の顔と何処か違う。というか、

    日向(俺の顔、そういえばずっと見てなかった気がする。あんな顔だったっけ……)

    それほどまでに負けたことが、いや、七海と戦えないことがショックだったか。

    日向(約束してたんだ、俺は。所詮一般人の大口に過ぎなかっただけで)

    等と考え事をしていれば、すぐに目当ての肉屋に着いた。

    日向「おじちゃん、メンチとコロッケと……」

    狛枝「はいはい、白髪だけど高校生だよ……って日向クン?」

    日向「! 狛枝……」

    狛枝「やぁ、偶然だね!実はここでバイトすることになっちゃってさ」

    日向「……」

    狛枝「浮かない顔してるね。正直、同情するよ」

    日向「ッ!お前に何が……!」

    狛枝「……ごめんごめん。ボクが言いたいのは、キミが負けたこともそうだけど……キミのチームが弱いことさ」

    日向「!」
  49. 49 : : 2016/07/18(月) 00:59:50


    狛枝「ボクも見てたんだ、あの試合」

    日向「……」

    狛枝「あの状況から3体撃破して、2体のストライカーに食らいついたキミを誰が責められる?先に全滅したチームメイト?キミに落ち度はない」

    日向「いや、俺は……」

    狛枝「シーカーのキミが機動力を生かしてステージを駆け回り、敵を撃破していくスタイルだって、何も悪いことじゃないさ。積極的にアドバンテージを得ようとしてる、大胆でいいプレイングだ」

    日向「……」

    日向「どうしてそこまで持ち上げるんだ?予備学科を毛嫌いしてたお前が……」

    狛枝「フフッ、続きは歩きながら話そうか」

    日向「歩きながら?どこに…ってか、バイトはどうするんだ?」

    狛枝「今は、キミに会えた幸運を喜ぶことにするよ」ニコッ

    日向「……?」

    狛枝「さ、行こう。決して悪い話じゃない」

    日向「待て」

    狛枝「?」

    日向「メンチとコロッケ」


    ━━━━━━━━━━


    セレス「それで、私のところに来たと」

    狛枝「うん。大体何が言いたいかわかるよね?」

    日向「……?俺にはわからない。それに彼女は確か、超高校級のギャンブラー……」

    狛枝「そう。そして同時に、キミが負けた相手だ」

    日向「!」

    セレス「ふむ……言いたいことはわかります。が」

    セレス「どうして貴方達まで私の部屋にいるのですか?」

    江ノ島「ダメ!?暇だったんだけど!」

    苗木「ボクは江ノ島さんに呼び出されて!」

    セレス「……はぁ、これも狛枝先輩の幸運ですか」

    狛枝「そうかもね。じゃあさ、セレスさんから言ってくれると助かるな」

    セレス「それは都合がよすぎますわ」

    狛枝「アハッ、そっか」ニコッ

    狛枝「じゃあボクから言わせてもらうよ。苗木クン、江ノ島さん」

  50. 50 : : 2016/07/18(月) 01:00:07

    狛枝「ボクと日向クンに交代しよう!」

    日向「!」

    苗木「え!?」

    江ノ島「!」

    セレス「……」

    狛枝「だってハッキリ言って、ボクと日向クンの方がキミ達より強いでしょ!」

    苗木「!」

    狛枝「あるよね?キミは片腕を失っただけでバランスを崩したけど、日向クンは両腕がない状態で霧切さんと十神クンを追い詰めた」

    狛枝「もし日向クンに片腕が残ってたら、どうなってたかな?彼ならバランスを崩さず飛行することも出来たし、もしかしたら勝敗は変わっていたかもしれない」

    苗木「……わかってます。ボクより日向先輩の方が上手いってことは。っていうか、誰が見てもわかりますよ……」

    江ノ島「ちょっと待った!あたしより狛枝先輩の方が上手いってのは納得いかない!」

    狛枝「江ノ島さんのせいで負けそうになったのに?」

    江ノ島「」グサッ

    江ノ島「セレス!なんか言って!」

    セレス「その通りですわね」ニコッ

    江ノ島「」グサッグサッ

    狛枝「じゃあ、交代して大丈夫?」

    江ノ島「飽きたからOK」

    苗木「えぇー!?」

    セレス「OKですわ」

    苗木「嘘!?」

    狛枝「だ、そうだよ日向クン」

    日向「……」

    日向「俺は……!」

    日向「七海と戦いたい……!」

    苗木「! 決勝の相手はNANAMI……そっか、七海先輩なんですよね」

    日向「でも、俺はチームメイトを……!!」

    狛枝「だから、そんな弱いチームはもういいんだよ。あんな予備学科の集まりなんて……無能な味方は敵と同じ」

    狛枝「1vs11なんて、いくら強くても勝てるわけないじゃないか」

    江ノ島(相変わらず予備学科にはキツいのね。日向先輩は例外か)

    江ノ島(……けどなんで?ちょっとゲームが上手いだけで?)
  51. 51 : : 2016/07/18(月) 01:00:27


    セレス「七海先輩と戦いたい。なるほど、確か日向先輩は一度勝利なさっていましたよね?」

    日向「いや、俺が本来引き分けになる勝負を向こうが降りたんだ。下手したら負けてたかもしれないし、勝ってはないよ」

    セレス「その決着を、ということですか」

    日向「…」コクッ

    日向「でも、俺には……」

    狛枝「……」

    苗木「ボクは……席を譲ろうと思います」

    日向「!」

    苗木「ボクより日向先輩の方が、その、意気込みの強さというか……情熱が違います。実力も断然上だし、そういう人が戦うべきです」

    日向「……」

    セレス「ふむ……」

    セレス「決勝当日、私達はこの学校のパソコン室に集合します」

    セレス「その時に来てくだされば、日向先輩を快くお迎え致しますわ」

    日向「……わかった」

    バタン

    狛枝「……じゃ、ボクも行くよ」

    セレス「えぇ、ところで……」

    狛枝「あー、大丈夫。ふたりもお疲れさま」

    苗木「はい…ハァ、でもやっぱり、下手だよなぁボクって」

    江ノ島「本当ね」

    苗木「そこは慰めてよ!!」

    狛枝「……」

    狛枝も部屋を出ると、廊下の向こう側から発せられた気配に目を向ける。

    その人物と目が合って、狛枝は笑みを浮かべながら呟いた。

    狛枝「これでよかったんだよね?」


    ━━━━━━━━━━


    心の葛藤に踏ん切りがつかないまま、やがて生まれた苛立ちを置き去るように日向は足を速めた。

    そしてその足が止まると、俺は無意識の内に行くべき場所に辿り着いていたようなので

    一度目を瞑って、目を開けたら、今度は口を開こうと決めた。

    日向(よし)

    視界が晴れて、見慣れた光景が飛び込んでくる。

    俺の前に立った男は、俺が口を開くのを待っている。お望み通りに口を開こう。

    日向「3時間パックでお願いします」
  52. 52 : : 2016/07/18(月) 01:00:50

    同じ3時間パックの部屋へ案内されると、部屋番号もいつもと同じ。

    部屋に入ると、既に来ていた5人が一斉に振り返った。

    日向「皆……」

    オペレーター「日向!?」

    ダッ

    5人が俺に駆け寄り、囲む。

    日向「…先に言っておく。俺はお前らのせいで負けたなんて思ってないし、お前らが弱いとも思ってない。十分にやった結果さ。だから謝らないでくれ」

    オペレーター「……」

    日向「それと…俺、準決勝の相手チームに誘われてるんだ。実は本科の奴等で、さっきまで学園で話してた…」

    全員黙ったまま、俺を見つめていた。

    俺は一人一人に目を合わせるよう意識しながら口を開いた。

    日向「けど、皆の顔を見て、断る決心が付いたよ。俺の記録は、皆と戦った記録さ。……じゃあ、またな」

    それだけ、それだけだ。

    俺は振り返って、扉に手をかけた。

    瞬間

    オペレーター「日向!」

    「「ごめん!!」」

    日向「!」

    オペレーター「俺達はお前に甘えてたんだ。お前ならなんとかしてくれる。いつもどこかでそう思ってた」

    オペレーター「事実、指示を出した回数もお前の方が多かった気がするし、それで俺達も準決勝まで勝ててきたんだ」

    ジャマー「誰も責められるわけがない。俺達もわかってたんだ、実力不足だって」

    バニッシャー「俺達がメインアタッカーのはずなのに、出来て時間稼ぎ程度だった」

    バニッシャー2「でもお前は違う!」

    オペレーター「そうだ!俺達も編入候補生にはなれた……夢を見れただけで十分さ」

    オペレーター「お前はここで止まる人間じゃないよ、日向」

    オペレーター「俺達を大舞台に連れていってくれて、ありがとう!!」

    「「ありがとう!!」」

    日向「……!」

    オペレーター「お前は俺達の、“超高校級の希望”だ」

    オペレーター「だから行け!応援してるぜ!!」

    ポンッ

    日向「うっ……うっ!!」ブワッ

    日向「ありがとう…俺、絶対勝つから!!」ポロポロ…

    俺は決して振り返ることなく扉を開き、5人の視線を背中に感じながら、部屋を後にした。


    ━━━━━━━━━━


    決勝戦当日。希望ヶ峰学園パソコン室。


    セレス「……あと5分ですわね」

    狛枝「弱ったね。もし来なかったら、ボクがシーカー乗るから江ノ島さん組まない?」

    江ノ島「苗木より嫌だって感じ」

    ガチャッ‼

    セレス「!」

    日向「……待たせたな!」

    狛枝「日向クン!」

    霧切「早くしてちょうだい。もうすぐ始まるわ」

    日向「お、おう!」

    狛枝(さて、最高の仲間と共に戦うことになった日向クンは、見事希望を掴むことが出来るかな?)

    日向(七海、俺はまた、お前と戦えるんだな……)


    ヒュウウウウウ……
  53. 53 : : 2016/07/18(月) 01:01:10


    【市街地A】

    【天候:晴れ】


    《編成》
    シーカー
    ストライカー
    ストライカー
    ジャマー
    スナイパー 

    《対戦相手の編成》
    ストライカー
    シーカー
    ストライカー
    ジャマー
    スナイパー



    日向(市街地A……前に戦ったときと一緒か。もし、あのときみたいに、七海と最初から戦えたら……)

    セレス「日向先輩。始まったら、七海先輩の元へ行ってください」

    日向「え?けど、俺の単独行動で、俺のチームは負けた……」

    セレス「ですから、それが出来るチームではないですか。私達の実力はわかっているはずです。私達が、貴方を全力で支えます」

    日向「……!」

    狛枝「対戦相手と全く同じ編成だね。でも、こっちは七海さんのストライカーに日向クンのシーカーをぶつけられる。引き離せば、こっちはストライカー2体で前線を抑えられる」

    霧切「……」

    十神「お前は江ノ島のような下らんことをしない人間だと思っている。間違ってもしてくれるなよ」

    狛枝「はは、善処するよ」

    江ノ島「残姉、いざとなったらあいつら撃て」

    戦刃「うん」


    一方、七海のチームでは


    七海「……」グデー

    ソニア「まぁ、どうされたんですか!?具合が悪いのでしたら発展場に……!」

    九頭龍「余計悪くなんだろうが!!…七海はな、準決勝が終わってからずっとこんな調子なんだよ」

    終里「いいんじゃねぇか?俺らが倒せば!」

    辺古山「その通りだ。過去の対戦を見る限り、七海がいなくとも勝てるチームだと思う」

    豚神「決勝にも関わらず、随分と余裕なようだな。だが間違いではない」

    七海「市街地Aだって。私散歩してる……」

    終里「よっし!じゃあ七海以外で前進だ!」

    豚神「うむ!俺が導いてやる!」
  54. 54 : : 2016/07/18(月) 01:01:32


    グンッ……


    日向「……」

    市街地を一望すると、それは随分と懐かしい風景に思えた。

    さらには、シーカーから見える景色全てが

    俺がまた、アストロ・オンスロートの舞台に戻ってきた実感を与える。

    俺はまずマップを見て、相手の出方を伺った。

    伺って、そして

    日向「皆、悪い」

    タンッ

    俺はひとり飛び出した。

    シーカーの特権である、高速移動を使って。

    狛枝「はぁ、ここまできて謝らないで欲しいよね」

    セレス「そうですわね。それより皆さん、敵反応正面から4体ですわ。狛枝先輩は戦刃さんのフォローを」

    狛枝「了解。戦刃さんはもちろん狙撃も上手いけど、なんで接近戦メインなのにスナイパーを選んだの?」

    戦刃「これが一番戦場と感覚が近いんだ。このゲームで唯一銃持てるしね」

    狛枝「なるほど」ニコッ

    十神「無駄話は済んだか?ジャマーを遊ばせる前に早く行くぞ」

    霧切「同感よ。行きましょう」

    狛枝「はいはい」

    相手に応じるかのように、狛枝達も相手の正面から前進した。


    ━━━━━━━━━━


    ガシャアン ガシャアン

    七海「……」

    ストライカーは全身に隙を剥き出しにして、市街地の中心部から少し逸れた場所をゆっくりと、溜め息混じりに歩いていた。

    バーチャルの世界とは言え、建物の一件一件は現実と遜色ない質感を放っているし、景色だけを見れば、どちらか現実か見分けることは不可能に近い。

    七海「ハァ……もうな~んもやる気ない」

    人知れず呟いたその言葉は、近くにいる者にのみ受け取れるよう設定されていた。

    しかし周りに誰かいるはずもなく、言葉は虚空に消えて……

    「七海」

    七海「!」

    マップを見ることすら怠っていた七海は──

    ──振り返り、そこにいたシーカーに向けて声を発した。

    「……誰?」

    対して、シーカーは

    これで十分だ、とでも言いたげに

    会話として成立しているかわからなくても

    成立させてしまうような、そんな返事を一言発して

    日向「対戦よろしくお願いします」

    ダンッ‼

    地を蹴り、コンクリートの破片を後方へ散らしながら

    ストライカーに襲いかかった!
  55. 55 : : 2016/07/18(月) 01:02:15

    ストライカーへ到達するまでの、僅かな時間で

    シーカーは拳を握り締め、それをストライカーへ突き出すことを決めた。

    相対するストライカーはと言えば、先程まで溢れ出していた隙の全てを殺し

    日向「!」

    ダァンッ‼

    シーカーの直線的な動きに合わせて、拳が到着する前に強烈な蹴りを浴びせた!

    日向「ぐっ!」

    背中のブーストを解放することで、空中で勢いを殺しそのまま体勢を立て直す。

    追撃はない。ストライカーは突き出した足を地に着け直すと、双剣を抜いてシーカーに対し構えた。

    日向(……まいったな。まるで隙がない)

    七海「ねぇ、日向クン」

    日向「!」

    七海「やっぱり、正解だよね。そっか、うん」

    七海「……本当によかった。また戦えて」

    日向「……あぁ、俺もだ、七海」

    七海「準決勝のこと話したかったのに、全然会いに来ないから心配してたんだよ!」プクーッ

    日向「悪い。けど、俺はこうしてここにまた立つことが出来た」

    七海「うん。嬉しい。……あ、戦いに戻る前にひとつだけ」

    日向「?」

    七海「安心してね。今回は、緊急撤退使わないから。日向クンになら、私のストライカーがどうなっても最後まで相手するから」

    日向「……おう!」

    ヒュンッ‼

    空中から、今度は急降下するようにしてストライカーの正面から



    ダンッ‼

    七海「!?」

    ストライカーの剣が届かないギリギリのところで地を蹴り、また飛び上がる。いや、飛び越える!

    七海(そういうこと!)

    飛び越えた先でまた、日向はその場に踏み止まらずすぐに機体を走らせた。

    飛び越えた、つまり背後に回れたのなら

    そこを攻めない理由はない!

    バッ‼

    日向「!」

    七海は振り返り、同時に、双剣も振りかぶった。

    ヒュッ‼

    片方の剣が空を斬り裂く。

    振りかぶったのを見て、シーカーは軌道を修正し

    七海「!」

    斬り裂かれた空間の上を行った!

    空腹の拳が、ストライカーの頭部を捉えんと繰り出される!

    が!

    キィン‼

    日向「なっ!?」

    残された剣は回転の力を得て

    シーカーの体は、攻撃が当たる直前で弾き飛ばされた!

    日向「くっそ……やっぱ強いな……」

    一度バウンドして、くるりと体勢を立て直した頃には、七海も構え直していた。

    七海の構えには隙がない。それなら、激しく動き回り隙を生み出さなくてはならないという思考だったが

    日向(全然見えてこねえ。どうしたら攻められる!?)

    対峙するは、世界の頂点。

    アストロ・オンスロートの全プレイヤー達は、彼女の双剣が見せる悪夢に魘され続ける運命にある。

    それは果たして、日向も同じなのだろうか。あるいは──

  56. 56 : : 2016/07/18(月) 01:02:35

    この戦いは日向と七海だけのものではない。

    もう一方の戦いは、市街地の中心付近で行われていた!

    戦刃「……」

    タンッ‼

    戦刃の乗るスナイパーが、ソニアの乗るジャマーがバリアを失ったタイミングで懐に入り込んだ。

    ソニア「っ!どうしてスナイパーが接近戦を!?」

    戦刃「もう説明めんどくさい」

    パァンッ‼

    超至近距離での射撃。

    それはジャマーの体の中心を貫き、ソニアの視界を徐々に暗く、やがて光すら奪い去る。


    《ジャマー 撃破!》


    戦刃「!」

    ドンッ‼

    神経を刺激した戦意に対し、反射的にバックステップを取った。

    どうやら功を奏したようで、つい先程まで戦刃が立っていた地点のコンクリートがひしゃげ、逆立ちを行っている。

    終里「かーっ惜しい!いい勘してるな!」

    戦刃「伊達に軍人やってませんって」

    狛枝「戦刃さん気をつけて。あのシーカーかなり上手いよ」

    戦刃「うん、わかる」

    終里「次行こうぜ!!」

    ダッ‼

    両者が同時に駆け出し、出会ったばかりの脚と脚が交差する。

    シーカーに対し、足りない部分は超高校級の軍人たる技術で補った

    だが

    戦刃「!」

    ピシッ……

    シーカーと衝突したスナイパーの足が、限界を訴える。

    狛枝(だから気をつけてって言ったのに!…全く、この姉妹は!)

    終里に対し、ネットは効果が薄いと見た狛枝は、すかさずバリアを形成し戦刃の元へと走った!

    終里「や、間に合わねえだろ」

    バリィン‼

    シーカーが脚を振り抜き、スナイパーの脚は機体から離れ宙を舞った。

    片足が無くなったが、バランスを保ち続け隙を見せなかった戦刃は見事だと言えよう。

    しかし、やはりそもそも、スナイパーは接近戦を想定していない。

    続く回転蹴りでスナイパーの頭部が地面を転がったところで、戦刃は視界を失った。

    ー残り4体ー
  57. 57 : : 2016/07/18(月) 01:02:55

    狛枝「くっ!」

    間に合わなかった。だが、一度作ったバリアを消費しないまま保つことが出来たと受け止める。

    終里「へへっ、次はお前だ!」

    終里の意思と連結しシーカーは狛枝の乗るジャマーを指差した。

    片方の手を握り締め、一気に駆け出す。

    終里「!?」

    が、そのときだった。

    シーカーの中心に空いていた、3つの風穴が

    奇妙な音色を奏でているのを聴いたのは。

    終里「なんだ……これ。まさか……」

    そう、脚を破壊され、それから頭部を蹴り飛ばされるまでの時間

    戦刃は弾を装填し、引き金を引き続けていた。

    さらに、その命中箇所は

    きっちりと急所を抑えており

    風穴はスナイパーのレベルの高さを歌っていた。

    《シーカー 撃破!》

    戦刃「後は頼んだよ、皆」

    狛枝「戦刃さん!うん!」

    すぐ近くでは、十神と霧切が戦っている。

    狛枝はバリアを持ったまま即刻ターンし、ふたりの元へ向かった。

    ザクッ!!

    狛枝「!」

    そして狛枝が見たのは

    十神「ぐっ……この俺が負けるだと……!?」

    十神の乗るストライカーを貫く長身の刀、日本刀。

    ー残り3体ー
  58. 58 : : 2016/07/18(月) 01:04:51

    狛枝「霧切さん、こっちだ!」

    霧切「!」

    狛枝のジャマーと、霧切のストライカーが交差し、そのまま左右から辺古山を挟み込む!

    辺古山「!」

    日本刀を操るストライカーに乗る、辺古山ペコは

    自身の超高校級の剣道家という才能を生かしたプレイングから

    七海に次ぐ実力を持っていると唱われていた。

    辺古山(今のは準決勝で見た……)

    ストライカーの片手はギュッと握られている。それを見て、辺古山は確信した。

    辺古山(小癪な真似を。全て叩き斬る!)

    ダッ‼

    霧切「!」

    辺古山は迷わず霧切に飛びかかった!

    豚神「待て!辺古山!」

    辺古山「いや!ここは行かせてくれ!」

    霧切「……」

    対して、霧切は

    バッ‼

    辺古山「!」

    剣を持たない方の手を高く掲げ、そして!

    辺古山(来る!)

    ヒュンッ‼

    開いた!同時に、辺古山は右にターンして回避!

    辺古山「!?」

    霧切「何を慌てているの?」

    だが霧切の手は!

    霧切「何もないわよ」

    スパァンッ‼

    辺古山「……!」

    《ストライカー 撃破!》

    霧切「ふぅ……」

    狛枝「ナイス連携。ボクなんかの意思を汲み取ってくれてありがとう!」

    霧切「いえ、それより……」

    セレス「ええ、まだ敵は控えておりますわ」

    狛枝「……そうだね。早く行こう」

    ザッ

    2体はマップ上の敵の反応を見て、行く先を決めた

    瞬間

    パァン‼

    霧切「!」


    ー残り2体ー


    貫くは無慈悲の凶弾。

    狛枝「霧切さ……パァン‼

    セレス「!? その位置からの狙撃……そんなの、戦刃さんくらいしか……」

    九頭竜「ケッ、俺はやれるんだよ。ペコの仇はとったぜ」

    そう言って、狙撃ポイントを背にした。

    ──それが命取りだった。

    九頭竜「……は?」

    気がつけば粉々になった胴体、残っている頭部のみが、それがスナイパーであったことを証明している。

    彼は撃破されたことにすら気づかない。

    セレス「……流石に焦りましたわ。抜かりないですわね」

    狛枝「フフ、通り道だったからね」

    これで残るは、互いに1体のみ。
  59. 59 : : 2016/07/18(月) 01:05:16

    さて、戦いの場は無人となった市街地の中心へと移り、止むことを知らない斬撃の豪雨が、日向に容赦なく降り注ぐ。

    ズガガガガガガガガ‼‼

    盾を持たず、守ることを捨てた双剣の進む道は、ただひたすら攻めること。そしてそれが、新たなる守りとして成立している。

    一閃、二閃、日向のシーカーが雨を浴びていく。その度に機体は悲鳴をあげ、削り取られた破片は傷と、溢れ落ちる液体は血と喩えられた。

    日向(くっそ……!)

    高速移動で退けば、この雨から逃れることも出来るかもしれない。

    ではその後は?

    近距離戦闘しか出来ない以上、ここを打開しなければ、結果が先延ばしされるだけだと判断した。

    瞬間、日向は視界を覆うこの雨に、一筋の光明を見た。

    日向(そうか!高速移動だ!)

    高速移動はシーカーの背中、そして四肢に搭載されたエンジンが全てブーストし起こされる。

    日向(全部じゃなくていい!ひとつだけ!!)

    それは未知の試みだったが、日向は

    日向(斬撃の雨とは言っても、剣が増えたわけじゃねぇ!見えないだけで、隙はある!)

    成功を確信している!

    日向(ここだろッ!!)

    グァッ‼

    七海「!」

    日向はただ、真っ直ぐに拳を突き出した。

    ただし、それは通常の攻撃より遥かに速く、鋭い。

    男の子の夢と言っても差し支えないその攻撃は

    双剣の間をするりと抜けて

    日向「これさ……一度言ってみたかったんだ!」

    ストライカーの腹部を抉った!

    日向「ボディががら空きだぜ!」

    ガンッ!!

    日向「一点集中!ロケットパンチだ!」
  60. 60 : : 2016/07/18(月) 01:05:58

    七海「!」

    ズサァァアッ!!

    ストライカーは、地面との摩擦で足を磨り減らしながら大きく後退し、やがて止まった。

    この対戦が始まって初めて喰らった、とはいえ強烈な一撃に、ストライカーの低耐久を考えると少し苦い。

    だが、同時に、七海はその状況を楽しんでいた。

    七海(凄いよ…!この状況で、新しい発想が出てくるなんて!)

    日向からすれば、状況を打破するために思考を練ったわけだが、その結果は、戦況を大きく動かした。

    七海「私も負けてられないなぁ。行くよ、日向クン」

    ヒュッ

    日向「!」

    ストライカーが飛び上がった。日向の目にはそう映った。

    次の瞬間、目の前に広がった緑色の光を放つ双剣から身を守る術を考えるまで

    一切の余裕はなく、そもそも意識外の攻撃に対応するなど

    七海であっても不可能だろう。

    七海「!」

    だからこそ、シーカーの放ったハイキックは

    シーカーに向けられた双剣とすれ違い

    ストライカーの頭部を揺らした。

    七海「っ……!」

    しかしこの攻撃はほぼ同時に行われたため、

    お互いがお互いに致命傷を与えられず

    衝撃により両者は後方へと弾かれた。

  61. 61 : : 2016/07/18(月) 01:06:24

    日向「がはっ……!」

    崩壊した瓦礫の山に埋もれる感覚は、以前も味わった。

    しかし今回は、これで終わらない!

    日向「!」

    日向もそれに気づき、高速移動を試みるが

    瓦礫が、ストライカーにエールを送る!

    日向(邪魔……!)

    攻撃は同時だった。しかし浅かったか。

    空中でクロスされた双剣が、落下運動によりその威力を増しながら、目標を一点に定め接近する。

    その距離はすでに、刃が届くまで!

    七海「!?」

    刃が届くまで。

    その距離から先に進まない。

    目と鼻の先だというのに、その刃はピタリと止まっている!

    七海(斬ることも出来ない!?)

    日向「いやぁ……俺さ、知らなかったよ」

    七海「!(それどころか、押し返され……!)」

    日向「お前も、怖がるんだな!」

    ドンッ!

    押し返されたストライカーはそのまま空中に浮遊し、止まった。

    そして視界が開けたことで、七海はハッキリと理解した。

    七海「……剣じゃなく、それを持つ手を止めた」

    日向「そうっ。サンキュー瓦礫くん」

    起き上がり、瓦礫を握っていた両手を開く。

    日向「前回の試合で見せたドリルみたいな技……アレなら防げなかった。瓦礫なんか貫通されちまうからな」

    日向「けど、アレは前回対処した!それを覚えてるお前は、無意識の内にその技を出すのを嫌った」

    日向「だから、突くより斬ることにしたんだ。だからリーチで俺に負けた。お前は腕を畳んでいたが、俺は伸ばした。それでも足りるか不安だったんで瓦礫で底上げして対処した」

    日向「……なぁ、全部使ってこいよ。わかってるんだろ?本気の本気、全力を越えなきゃあ俺は倒せないぜ」

    七海「……なんだか私が挑戦者みたいだね。日向クンはいつから魔王(ラスボス)になったのかな?」

    日向「違うな、俺が挑戦者だ。ただし、最強のな!」

    ドオオオオオオオオ…………!!

    市街地を包み込むほどの土煙と、断末魔を同時に上げたショッピングモールが完全に亡骸と化し

    ふたりは亡骸の上に立った。
  62. 62 : : 2016/07/18(月) 01:06:44

    タンッ

    ストライカーの双剣が、音速を越えたスピードでシーカーに襲いかかる。

    時に真上を、時に真横を通り抜ける必殺の刃に心臓を高鳴らせながら、しかし冷静に一撃をいなす。

    日向の見てきたストライカーの、果てはアストロ・オンスロートの全てが過去になっていく。

    彗星の如く時が過ぎ去って行く中、いつしか

    日向「!」

    それは比喩ではなくなっていた。

    七海「……私達のスピードは、アストロ・オンスロートの理解を越えた」

    ここはゲーム。全てが数値化された世界で

    ふたりは、世界を置き去りにした。

    周囲を星々が飛び交う漆黒。そして背景の大半を占める青き星、地球。

    七海「私達にしか見られない次元。名付けるならここは【宇宙】……最後の戦いに相応しいよね」

    星は決して邪魔をしない。

    一切の障害物がないここは、ただただ実力だけが支配するフィールド。間違いなく、最後の戦いに相応しい。

    七海(本当に強い。けど、私の方が)

    グンッ…

    日向(!? 消え…)

    ガッ!!

    日向「ぐぁっ!?」

    刹那の刺突が、シーカーの耐久値を大きく削り取った。

    並のプレイヤーなら勝敗が決していたであろう攻撃から日向を救ったのは、経験と直感。

    消えたことに動揺した気持ちを瞬時に切り替え、刺突を目で追うことは叶わなくとも、咄嗟に後退することでそのダメージを減らした。

    それでも、この攻撃の効果は絶大。

    壁という概念が存在しないこのフィールドでは、一度吹き飛べばどこまでも吹き飛ぶ。機体の自由が効かないほどの攻撃をくらっては、その力を相殺させるものはない。

    日向(いや、ある!)

    ダンッ‼

    七海「!」

    それに当たったシーカーは大きく跳ね、しかしその最中に体勢を立て直すと同時に向き直った。

    それは味方の残骸。

    この世界に置いていかれた、しかし共に戦った味方の残した栄光。

    それらはこの【宇宙】を漂い、舞っていた。

    日向(危ねえ!次はない!)

    七海「……」

    グンッ…

    再び七海の姿が消える。

    否、消えると錯覚させている。超高校級、否、人の理すら越えた技術によって

    日向(だからやっぱり、俺の方が速い!)

    姿を現したストライカーの刺突!

    バッ ババッ‼

    それは一瞬で数回のフェイントを混ぜて、日向の、シーカーの胴体を貫かんとする。

    が!

    パシィ‼

    日向の両手が、それを白刃取りした!

    七海「!? 私の双剣を!?」
  63. 63 : : 2016/07/18(月) 01:07:18

    日向「……やっと目が慣れたよ」

    グググ……

    その抵抗は無駄ではないが、特に意味があるものではない。

    何故なら、シーカーはその手を決して離さないから。双剣の見せてきた悪夢を、決して許さないから。

    日向「どうして、お前が俺より速く動けるのか。ずっと考えてたんだ」

    七海「……」 

    日向「お前は一瞬の動作で、俺の視線や注意を騙していた。完成されたフェイントによって未来の姿を俺に想像させていたんだ」

    日向「ようやく見えてきたぜ。障害物の一切ないここ、宇宙でようやくな……」

    グググ…‼

    七海「!」

    バリィン‼

    双剣が砕け、宇宙の塵となって後方へ流れて行く。

    最早柄だけになった武器に固執する必要は一切なく、七海は躊躇なく柄を手放し、その手を握り直して、シーカーの胴体に突きを放った!

    ガンッ!!

    日向「っ!」

    七海「まだだよ、日向クン!!」

    斬撃の雨を生み出す程の技術が

    今度は拳に注がれた。

    しかし、剣のないストライカーは、最早

    日向「……あぁ、まだだ!!」

    翼を失った鳥と同義。

    ヒュッ‼

    次々と繰り出される拳突を寸前で回避しながら

    日向も拳を突き出す。

    ストライカーが剣を失っていることと同じように

    シーカーもまた、ロケットパンチを繰り出せるほどの燃料を残していなかった。

    片方が殴り、片方が避ければ、今度は片方がそれを先読みし蹴りを放つ。

    そこに一切の小細工はない。単純にして最も高度な肉弾戦の応酬。

    日向「ハァ、ハァ……!」

    七海「フゥ、フゥ……!」

    既に疲労し限界を越えているのは、シーカーやストライカーに限らず。

    読み合いに使う頭もない中、互いが悟っていたことは

    次が最後であることだけ。

    グンッ……

    日向「……行くぞ七海」

    七海「うん……日向クン」

    刹那の静寂。そして

    日向「うおおおおおおおおおおお!!!!」

    日向は宙を蹴り飛ばし

    最強へ引導を渡さんと握った拳に鼓舞をして!

    全てのエネルギーを!

    自身の背負ってきた全てを!

    カッ─────!!

    今、頂上へと届かせる!!

    七海「……」

    日向「……ハァ、ハァ」

    七海「……日向クン」

    日向「……」

    全てのプレイヤーの視界が暗転し

    画面が切り替わる瞬間

    その声は聞こえた。

    七海「ありがとう」


    ーゲームセットー
  64. 64 : : 2016/07/18(月) 01:08:09










           
     
  65. 65 : : 2016/07/18(月) 01:12:41


    チャンピオンシップで七海に勝利し、優勝を果たした俺は

    超高校級のゲーマーとしての才能を開花させることに成功した。

    これにより、希望ヶ峰学園が把握している限り全ての才能を取得した俺は

    超高校級の希望とされ、本科への編入が決定したが

    何故か、そこから先のことを俺は知らない。そして何故か、知ることすら出来ない。

    どうすればいいのかわからない。俺は、俺は。





    評議委員「お疲れ様。協力感謝するよ」

    狛枝「いえいえ。これでボクも、希望の踏み台になれたかな」

    評議委員「あぁ、カムクライズルプロジェクトは成功だ」

    評議委員「がらくたのぬいぐるみに我々の理想、カムクライズルという魂を入れることが出来たのだからな……」

    狛枝「……」




    また、これは余談だが、日向創の才能開花と同時に、用済みとなった元超高校級のゲーマー、AI:七海千秋のデリートが決定された。


    ━━━━━━━━━━


    友達a「あぁ、また日向とバスケしてぇな」

    友達b「そんであいつの手料理食いてえな」

    友達c「電話してみるか?この前突然来たし、こっちも突然かけていいよな!」

    友達a「余裕余裕!」

    プルルルルル……

    友達c「……出ねえ」

    友達b「なんだ、忙しいのか」

    友達a「じゃあ今日は無しか。ちぇっ、萎えるなぁ」

    友達b「まぁいいじゃん。またいつでも遊べるし」

    友達c「だな!」

    友達a「あぁ……あいつ、今頃どうしてんのかな」
  66. 66 : : 2016/07/18(月) 01:13:14


    数年後

    ここは海の上。そこに浮かぶ大きな船の、小さな部屋。

    窓から太陽の光が射し込んではいるが、部屋の中は薄暗かった。

    ふたりの男はその部屋の中、相対するようにして壁にもたれ掛かっていた。

    波の音のみが通りすぎる中で、飽きたのか、片方の男が口を開いた。

    「やぁ、変わった物を持ち込んでるね。それはなんだい?」

    「……」

    「あぁ、きみはそっち(・・・)か……」

    目の前に座る白髪の男は、赤いマニキュアのされた左手を窓枠に伸ばしながら再び口を開いた。

    「……言い直そう。そのぬいぐるみはなんだい?」

    対して、腰にかかる程の黒髪を持つ男は、一切の表情を変えずに、しかし目だけはどこか遠くを見つめて答えた。

    カムクラ「……これは僕の、いえ」

    遠く。ずっと遠くを──

    カムクラ「日向創(ぬいぐるみ)の感情です」


    ━━━━━━━━━━


    ──ここは遠く、ずっと遠くにある場所。ただ、知らない場所。知らない時間。

    ただ一つだけわかるとすれば、今日も俺は、アストロ・オンスロートにログインするということ。

    日向「なんつーか、やっぱ楽しい!今が最高!!」


    これはVRを使用したオンラインゲーム、『アストロ・オンスロート』

    地球によく似た惑星“サンティマン”を舞台に、文明のよく似た異星人同士の戦争をテーマにしたこのゲームが今、俺の中で最も熱く、同時に──

    ──俺が俺でいられる理由だった。


    ぬいぐるみに感情があれば、それはホラーだ。

    感情がないのがぬいぐるみ。

    なら、感情がある俺は──


    七海「あーあ、味方全員やられちゃった。相手は全員残ってる。ま、私達の敵じゃないよね!」ザッ

    日向「おう!いくぜ……探索者(シーカー)!!発進!!」
  67. 67 : : 2016/07/18(月) 01:13:38







    日向・七海「栄枯盛衰のセンチメント」


    END.




  68. 68 : : 2016/07/18(月) 01:15:29


    ……はい。終わりです。

    以下は後書きとなります。長いです

    難しいテーマに何度も頭を抱えましたが、相談に乗ってくださったチームメイトのおかげでなんとか書き終えることが出来ました。自分の書きたいものを全て書ききることが出来、出すものは出せたのではないかと思います。

    そしてこの作品、実は謎のこだわりがあって、それは戦闘にシリアスを極力介入させないというものでした。こだわりであると同時に、自分で決めたもう一つのテーマです。果たして達成出来ていたでしょうか??

    あとはゲームなので全員が楽しんでる風に見せるとか、カムクライズルプロジェクトの伏線とか、七海がAIだから直接触れたりする描写がないとか最後のぬいぐるみはウサミだとか色々ありましたがこれも上手く書けていたかどうか……。

    さて、チムコ祭りですが、個人的にはとても楽しい企画です!これは是非またやりたいですね(*^^*)なお執筆期間は2ヶ月でも何ヵ月でも†漆黒の闇†

    次の対戦は副将戦、お題は青春/色になります。最後まで楽しんでいってください(^o^)


    ここまで読んでくださってありがとうございました。お疲れさまでした。

    高嶺のチム古参万歳!!
  69. 69 : : 2017/05/01(月) 18:19:03

    書きたかったので書いた続編
    http://www.ssnote.net/archives/52770

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namazun

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