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糸を切ったミノタウロス

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  1. 1 : : 2016/01/25(月) 23:18:07


    それが見えるようになったのは小学校に入学するよりも前のことだった。

    周りを見れば人の左手の小指から赤い糸が伸びているのが見えたのだ。

    その糸は近くの男女で繋がっているものもあれば、壁をすり抜け遠くの方に伸びているものもあった。

    運命の赤い糸というものなのだろう。愛し合う男女は左手の小指が赤い糸で結ばれているという。

    糸が見える、この体質に不自由を感じたことはない。

    ない、ないが不満はある。

    自分の左手を光にかざし腐川冬子はため息を吐いた。
  2. 2 : : 2016/01/26(火) 09:06:19
    身を縮こまらせながら薄暗い廊下を歩く。

    薄暗いこの空間は大変心地よいのだが、周りに他人が多くいる状況がその安らぎを打ち消していた。

    探索だかなんだか知らないが、他の奴らがやればいいだろう。自分がやったところで大した成果が上げられるとは思えない。

    早く自室に戻りたい。

    この場にいる人間だって、自分を嫌うに決まっている。もしかしたら既に嫌っているのかもしれない。

    「なんかさ、設備は整ってるみたいだよね。人が生きるだけなら充分っていうかさ」

    目の前を歩く赤ジャージの女子が独り言にしては大きめな声で呟いた。

    「ねぇ、そう思わない?腐川ちゃん…だったよね」

    自分に話しかけていたのか。

    「えぇ、そうね…。でもこんなところで生き続けるなんて嫌だわ」

    「そうだよね!早く出て明るいお日様の光を浴びたいよぉ〜」

    視線をうろちょろと彷徨わせる。落ち着かない。

    だが彼女は気にした様子もなく笑って、またすぐに前を向いたから変なところはなかっただろう。

    原稿用紙の上では流れるように言葉が出てくるというのにどうして会話では何も出てこないのか。出るとしても悪口ばかりだ。

    「そろそろ戻ろっか、これ以上探すところもなさそうだし」

    その言葉に声では答えずに、先を行く朝日奈の後について行った。

  3. 3 : : 2016/01/28(木) 19:25:46
    中性的な少年の声が自分の名前をよんだ。振り向いてみれば得た情報を聞いて回っていることがわかった。

    「腐川さんはどうして朝日奈さんの近くに?」

    この非常事態に全く関係ないとも思える問いかけ。

    こいつなら他言することもないだろう。

    両手を胸の前で握りながら、少しばかり得意気な気持ちで答えた。

    「この元気しか取り柄のないようなバカ女の近くにいれば、何かあった時に身を呈してでも護ってくれそうでしょ…?」

    明るい所にいる人間は、暗い所にいる人間に多くの欲を持つと腐川は考える。

    加虐心、庇護欲などの自分からの行動を無責任に相手に与えたいという欲。

    自分の場合不快感を与え加虐心に火を付ける場合がほとんどだ。だが、まだ知り合って間も無い奴等、少しの間なら庇護欲に傾けることもできるかもしれない。

    「へぇ…そうなんだ」

    この返答に何を思ったのか知らないが、苗木は頬を人差し指で掻きながら苦笑した。

    もしかしたら、この思考は他人から見れば気持ちの悪いものだったのかもしれない。

    苗木は朝日奈にも話を聞くと、また別の人間の元へ駆けて行った。

    「ご飯とかは自分達で作るのかなぁ?ねぇねぇ、腐川ちゃんは何食べたい?」

    今までに聞かれた覚えのない質問に自分は目を見開いた。

    「あたしも一緒に食べるの?」

    「そうだよ?当たり前じゃん!さ、行こ?」

    そう言って、例えるなら太陽の様な笑顔を見せる彼女に少しの好意を覚えた。

    だがいじめられた記憶、他人と比べた時にひどく差を感じる家庭。

    それらが騒々しく警鐘を鳴らした。
  4. 4 : : 2016/01/28(木) 23:45:38
    紙や埃のにおいを体いっぱいに吸い込み、ここが図書室なのだと実感した。

    学校という空間で、腐川が最も安心できる場所。

    だが今この場所に安心という言葉は似合わない。

    安心をするには大き過ぎる異物が図書室の椅子に腰かけて読書をしているのだ。

    本棚の陰に隠れ椅子に腰かける男を見た。

    西欧の血が混じっているのだろうか。光に反射して冷たい黄金に輝く髪、日の落ちる前の様な青い空の色をした瞳。何者に穢されたことのないであろう白い肌。

    視線で文字をなぞると、長いまつ毛が揺れた。

    読書する姿すらも神々しく、近寄り難く思う。

    自分が今までに何度も夢見た王子様にピッタリな人。

    この人が運命の人ならどれだけ良いだろうか。

    幸せに高鳴る胸を抑え、小さくため息を吐いた。

    あの人の赤い糸の先を見てしまおうか。糸の先が自分にあることを、ほんの少しでも願う自分がいた。あり得ないのに、持ってはいけない希望を持ってしまうのだ。

    目をつむり、眼鏡に手をかけた。

    「そこにいるお前、いつまで突っ立っているつもりだ」

    整った形の薄い唇が開かれた。

    弾かれたような衝撃が全身に広がり、内臓のひとつひとつに喜びが沁み渡る。

    「と、とがみくん」

    「俺を殺そうと様子を疑っているのか?残念だが、そんなわかりやすい隠れ方をしている奴にこの俺を殺せるとは思えないな」

    名前を呼び終える前にそう言いくるめられてしまった。

    「わかったらさっさと出て行け。邪魔だ」

    一冊を読み終えた節目に、自分に話しかけただけだったのだろうか。新たな本を手に取りページをめくった。

    だが今腐川にある感情は喜びだった。十神が自分に興味を持ってくれた、手の届かない様な存在の彼が自分に目をかけてくれた。

    ここに閉じ込められて良かったとまで思えた。

    腐川は本棚の陰から身を出し、両手を胸の前で弄った。

    「違うの十神くん…。もしかしたら貴方を殺そうと狙う人間がいるかもしれないと思うと、居ても立っても居られなくて…」

    「出て行けと言った筈だ。貴様なんぞに守られるほど卑小な存在じゃない」

    自分の言葉に言葉を返してくれている。あたしを見てくれている。

    「でも学級裁判も終わったばかりで御気分も良くないでしょうし…」

    「もう一度言う。出て行け」

    そう言うと十神はページに視線を落とし会話を終わらせてしまった。

    腐川は十神の読書する姿を名残惜し気に目に焼き付け、自室へと戻った。
  5. 5 : : 2016/02/03(水) 22:19:40
    コロシアイが起きなければ秘密をバラされる。

    また今夜も図書室へと十神を見に行く。ページを捲る動作すらも美しい。

    「またお前か、邪魔だ出て行け」

    「…十神くん、あたしの秘密を聞いてくれませんか?」

    興味があるのか、眉を上げてこちらを見た。十神くんが、白夜様があたしを見てくれている。

    「ジェノサイダー翔は御存知でしょうか…その正体について」

    十神の口元が愉快そうに歪む。

    「なるほどな、貴様にしては中々面白い話をするじゃないか」

    内臓のひとつひとつが喜びに震える。十神に褒められてしまった。

    「あの、誰にも言わないで欲しいの。二人だけの秘密にしてもらいたくて」

    「あぁ、そうだな。考えてやってもいい」

    先日の淡い期待は現実なんじゃないだろうか。

    二人だけの秘密、なんて良い響きだろう。

    「できたら十神くんの…ううん、白夜様の秘密を教えてもらえたりなんて…」

    「調子に乗るなよ愚民、用件が済んだのなら出て行け。読書の邪魔だ」

    腐川は不健康に白い顔を朱に染めると、ゆっくりと図書室から出て行った。
  6. 6 : : 2016/02/03(水) 22:31:06
    2度目の学級裁判。

    エレベーターに乗る自分を動揺させているのは、見知ったばかりのクラスメイトが殺された事実だけではなかった。

    いつも以上に青い顔を隠す様に下を向き頭を抱える。

    しばらくするとエレベーターがとまり、微かに振動する。

    身体の底から震えが止まらない。

    「腐川ちゃん、大丈夫?ほら、一緒に行こう」

    朝日奈の心配する声が頭に響いた。目の前に手が差し伸べられる。

    「自力で歩けるわよ」

    強がった風に聞こえていたかもしれない。屈辱だ。

    「本当に大丈夫?じゃあ先に行ってるからね」

    朝日奈は自分に背を向け大神と供に裁判場へと向かった。

    なんと眩しい女だろうか。

    何の躊躇いもなく、どうして他人に善意を向けられる。

    なんて恐ろしい、どうしてこんなにも違う。

    腐川はフラつく頭を押さえながら、裁判場の自分の席へと1人で向かった。
  7. 7 : : 2016/02/03(水) 22:43:31
    夢の中で何度も甘い言葉を囁いたあの声が、いやに明瞭に発言した。

    「犯人はジェノサイダー翔だ」

    理解をしたくない。何度目の裏切りであろうか。

    「ジェノサイダー翔の正体は腐川冬子だ」

    彼の声が自分の名を呼んだけれど、ときめきは生まれずにあるのは動揺と恐怖だった。

    「どうして…?秘密にしてくれるって言ったのにぃ…!!」

    独りよがりな愛情。頭に浮かんだその言葉を必死に否定した。

    「こいつが勝手に言っただけだ。約束などしていない」

    真っ暗闇に閉じ込められ、底の無い深い大きな穴に落ちてゆく。

    不快な錯覚に陥りながら、あたしは気を失った。
  8. 8 : : 2016/02/03(水) 23:14:44
    今夜もまた腐川は図書室にて十神を眺めていた。

    今がコロシアイという命を狙い狙われる殺伐とした状況だという事を忘れさせてくれる御姿。

    自分の溜息が届いたのだろうか。

    視線は向けてくれなかったが、声は自分に向かっていた。

    「懲りない奴だな。まだ俺にまとわりつくつもりか」

    「安心してください白夜様!…あの様な小さな事で白夜様を嫌う程、あたしの愛は浅くはありません」

    自身の熱い想いを伝えるも、彼は大きな反応をしてくれない。

    いつも冷静に物事を見据えている視線を、やはり向けてはくれない。もしかしたら照れているのかもしれない。傲慢不遜に生きているが、きっと彼は孤独に寂しさ抱いているのだ。

    十神は小さく舌打ちをすると、手元の文字から視線をずらさなかった。

    腐川は眼鏡をズラし、裸眼で十神を見た。

    白く細い、長い指。

    左手の小指に視線を動かせば、妙に目を引く赤い糸が伸びていた。

    糸の伸びる所は、自分の立つ場所に擦りもしなかった。
  9. 9 : : 2016/02/18(木) 00:16:05
    目が覚めた。朝を報せるアナウンスが今日は聞こえない。

    眩しいのは太陽でなく照明の明かり、鬱々とした閉塞感を感じさせる廊下。

    ふかふかの寝台に三食食べられる生活、そして毎日見られる想い人。

    暮らし自体は快適だった。

    コロシアイをしろだなんて言われなければ、悪くない生活を送ることができただろう。

    「ねぇ、苗木。あんた運命の人って信じる?」

    「運命の人?そうだなぁ…」

    苗木は顎に手を当て考え込む。

    「いたらいいな、ってぐらいかな。もしかしたらいるかもしれないし、いないかもしれない」

    「つまんない返しね」

    「あはは…」

    苗木はいつもの様に苦笑しながら頬を掻いた。

    「腐川さんは小説家だから、そういうの信じてるの?」

    「そんなわけないでしょ。馬鹿にしてるのね…!」

    「いや、そんなつもりは」

    「まぁ、いいわよ」

    腐川は苗木に背を向ける。

    「じゃあまた後でね」

    「うん、玄関の前で待ってるよ。持って行きたい物があったら忘れないでね」

    「わかってるわよ、そんなに遅くならないし…私が白夜様を待たせるわけないじゃない」

    段々と聞こえづらくなる声で呟きながら、腐川は小急ぎに歩き出した。


    自室に入り、ふと1枚の原稿用紙が目に入る。

    荒っぽく隙間の多い文字、自分の字ではない。

    『あんたは恋する自分に酔ってるだけ』

    眼鏡を壁に投げつけてベッドに横になった。

    3秒程目をつむり、照明に手をかざした。

    見えないのだ。

    どれだけ目を凝らしても、眩しい光にかざそうとも。

    自分の左手の小指には見えないのだ。

    恋愛には障害がある方が燃えるだなんて言う人間もいる。そうして叶った恋の幸福は計り知れないものだということも想像がつく。

    「そうでしょう?でなければあたしに自分の赤い糸が見えない理由は何」

    これは試練なの、運命の赤い糸という障害を乗り越え幸福を感じる為の。

    「それをどうして、あんたなんかに否定されなきゃいけないのよ」

    薄い虚勢、無意味だともわかっている。

    辺りの静けさに反して耳鳴りが五月蝿い。

    シャワールームに入り鏡の前に立つ。

    いつもよりはマシだろうか、不健康な肌色に造形の悪い顔。

    「時々思うのよ、あたしに糸がないのはその分の色の血を浴びるからじゃないのかって」

    二重人格でなければ、まともな家庭で育っていれば、美人だったら。

    たられば程、無駄な話はない。

    その無駄な話で名声を得た私も無駄な存在なのだろう。

    真っ直ぐな眩しい存在が、この思考を責めた様に感じた。

    頭を抱えしゃがみ込む。

    少しくらい絶望に浸ってもいいでしょ、

    最後の裁判にいたのは自分ではないのだから。



    玄関前に行くと残った人間は既に集まっていた。

    「おっ、やっと来たか腐川っち!」

    「うるさいわね…原稿が多かったのよ」

    腐川は葉隠を睨みつけ、離れた位置に立った。

    「じゃあ、行こうか」

    苗木がスイッチを押すと、マシンガンが収納され、重く大きい音をたてて鉄製の扉が開き始めた。
  10. 10 : : 2016/02/18(木) 20:41:57
    期待です!
  11. 11 : : 2016/03/05(土) 20:45:22
    >>10
    ありがとうございます!
  12. 12 : : 2016/03/05(土) 20:45:41
    ヘリコプターの羽根の音が身体に響いた。機体の揺れに酔い気分が悪いが、これも愛する人の為ならば仕方ない。いくらでも耐えることができる筈だ。

    ヘリコプターが着地し、機体の揺れが止まった。

    警戒心を強め、腐川は頼りない足取りで機体を出た。

    タイルの歩道に降り立ち周りに目を向ければ、何体もの白黒のロボット、モノクマがそこら中を歩いていた。

    モノクマは身体に爪を突き刺し、肉を切った。

    腐川は血を見ないように目を背け、十神が向かったであろうビルへと歩みを進めた。

    「おーい!」

    しっとりとしてよく耳に響く声が腐川を呼んだ。

    振り向いてみれば、長身で銀髪の頭をした男がこちらに歩み寄るのがわかった。

    「腐川冬子さん…だよね」

    男は整った顔に貼り付けた様な笑顔を浮かべた。

    「ボクはただの召使いさ、この街の異常な事態を引き起こした子ども達の、ね」

    目の前の召使いと名乗る男がこの事態の首謀者の仲間だというのなら、どこからかモノクマが襲いかかって来るのではないか。

    召使いから視線をずらし辺りを見渡したが、此処からは確認することはできなかった。

    「大丈夫だよ、安心して。ここは襲わないように言ってあるからさ」

    「そんなあんたがあたしに何の用よ…」

    男は口を歪め、手袋をした左手を肩まで挙げた。

    「君にお願い事があってここまで来たんだよ。苗木こまるさんをあの目立つビルまで連れて行って欲しいんだ」

    「苗木こまる…?」

    「そう、苗木誠の妹さんだね」

    「どうしてあたしがそんなことしなくちゃいけないのよ…!」

    召使いは懐から写真を取り出し、それを腐川の目の前に突き出した。

    その写真に写るのは部屋に監禁された十神白夜だった。

    「この人と交換で連れてきて欲しいんだ。頼んだよ、腐川冬子さん」

    ねっとりとした耳障りな声が何度も頭の中で反芻した。
  13. 13 : : 2016/03/06(日) 12:17:26
    気が付くと目の前にはセーラー服の少女がいた。

    普通という形容がぴったりの彼女は、困惑と焦燥の表情を顔いっぱいに浮かべていた。

    「わかったわ…あんた、苗木こまるでしょ!」

    「さっきからそう言ってるじゃないですか!」

    「あ、え?そうだったかしら…?」

    周りを見ると何体ものモノクマがそこら中を徘徊している。

    「そんなことより、白夜様を助けに行かないと…!おまる、早く此処を出るわよ」

    「そんなこと言われても、あいつらが…」

    こまるの視線の先にはモノクマ。

    腐川はポケットからスタンガンを取り出し頭に構えた。

    「あんたもその銃で倒して頂戴。あたしが何から何までやってあげる義理はないんだから」
  14. 14 : : 2016/03/06(日) 12:40:33
    顔見知りのあいつとそっくりの男は苗木こまるの手を握り、にこやな笑みをたたえていた。

    「じゃあね、行ってくるよ。待っててね」

    海を泳いで助けを呼んでくるという朝日奈悠太。

    「気をつけてね!」

    汚れた海に飛び込み、泳ぐ姿はいくらか楽しそうに見えた。

    泳ぎは速く、既に1キロ先には進んでいるのではないか。

    「いやあああああっ!!」

    あたしがもっと強く止めていればよかったのだろうか。

    爆発音、朝日奈悠太のいた場所が大きな水飛沫をあげる。

    二人は茫然と立ち尽くしその光景を見た。

    でもあたしはそれだけじゃない。

    あたしは見た。

    糸が切れたのを見た。

    こまるの左手に結ばれた糸、その先が宙を舞っている。

    自分は夢中でその糸の先を掴み、自分の左手に結びつけた。
  15. 15 : : 2016/03/09(水) 01:00:34
    苗木こまるは感情が豊かで、うじうじしているだけかと思えば、妙な行動力もあった。

    どこにでもいるごく普通の女子高生というには違いないが、変人と呼んでも差し支えない様にも思えた。

    ずっと身を縮こまらせていたクセに、いつの間にか背筋を伸ばし前を見据えていた。

    「腐川さんはちょっと変わってるけど、私の大切な友達だよ!」

    そんな甘い事を言うことができるのは、彼女が腐川の…ジェノサイダー翔の犯した殺人をその目で見ていないからだろう。

    殺人鬼として名を轟かせてはいるが、その殺し方までは世に出回っていない。

    彼女はそれを知っても、腐川を親友と呼ぶことができるだろうか。

    ジェノサイダー翔の、腐川の過去に詳しくないからこそ、そんな真っ直ぐな瞳を向けられるのだろう。

    召使いの独特な声が耳に響く。

    情が湧いたんだ。

    青春を謳歌していたのにこんな異常事態に巻き込まれた彼女を哀れだと思うし、ざまぁみろとも思った。

    親し気にこちらに歩み寄ってくる姿に、覚えのない感情が湧いたのだ。

    だからこそ、あんたを利用していたあたしから離れて助かって欲しいと。

    そんなこと、糸を繋いだ時から望んでいなかったのかもしれない。

    どんな関係であれ人と繋がっていたい。

    自分なんかと友達だなんて。

    とてつもなく心細い時に出会ったから、絶対絶命の状況に現れた救世主の様に錯覚してしまったのだろう。

    吊り橋効果というやつだ、きっといつの間にか間違いだったと思う時が来る。

    そんな疑念があるのに、腐川はその言葉を聞いて悪い気はしなかった。

    寧ろ心の内の凝り固まった後ろ向きな思考を溶かされていく感覚に身を包まれた。
  16. 16 : : 2016/03/10(木) 15:14:48
    ビッグバンモノクマを破壊した。綺麗な終わりとは言えないが、あの物語は一応の完結を迎えた。

    殺気立った大人達、狙われる子ども達。

    とても安全とは言えないのに。

    この街に残り、世界の復興を待つことを2人で選んだ。

    実に中途半端な結末。

    「恋心を抱いていた相手が、何の前触れもなく目の前でズタズタに切り裂かれ、磔にされていたらどんな気持ちになると思う?」

    朝日の射し込む室内のソファに座り、瞼を閉じる彼女に話しかける。

    疑問なんて問いかけてはいるが、返答など全く期待していないし求めてもいない。

    「あんたといると楽しいのよ、楽しいのに、悲しいのよ。あんたとの違いを見せつけられているようで」

    肩の上に寄りかかっていた体重が不意に軽くなり、目をこすった。

    「あらあんた、起きてたの」

    「冬子ちゃんは変わり者はだけで、わたしと何も違わないよ」

    兄貴とそっくりの真っ直ぐな目をこちらに向けてそんな言葉をかけてきた。

    「違うのよ。あたしは異常なの。あの子ども達と同じ人殺しなの」

    「そうだとしても、今の冬子ちゃんはわたしの親友で」

    「そうね、こまるはあたしの親友よ」

    腐川は強くこまるを抱き締める。華奢で柔らかいが、以前より筋肉もついたようだ。

    「あんたはあたしのモノなんだから、誰にも渡さないわ」

    やわらかな陽の光と、重たく心地良い沈黙が部屋に満ち溢れた。

    「洗濯物、乾いたんじゃないかしら。取り込んできてくれない?今日は少し貧血気味なのよ」

    「わかったよ冬子ちゃん。…薬持ってこようか?」

    「いらないわ、ありがとね」




  17. 17 : : 2016/03/10(木) 15:29:57
    重いな。強く抱き締められながら、ふとそんなことを思った。

    だがそんな重さが心地良くも感じていた。

    自分が選んだといっても、疲れの耐えない日々。

    お互いに何か依存できるものがあった方が過ごしやすい。

    どこか冷めたところでそんなことを考えると、心の中でごめんと呟き腐川を強く抱き締め返した。

    生暖かい空気が2人を包む。

    「ねぇこまる、そろそろ洗濯物乾いただろうから取り込んできてくれない?」

    「わかったよ、冬子ちゃん」

    「ごめんね、今日はちょっと貧血気味なのよ」

    「そうなんだ…大丈夫?お薬持ってこようか」

    「いらないわ、ありがとね」

    似合わない笑顔を浮かべた腐川を見て、妙な胸騒ぎがしたから祈るような視線を腐川にかけて部屋を出た。






  18. 18 : : 2016/03/10(木) 18:00:18
    腐川は立ち上がり屋上へと向かった。

    フェンスに手をかけ海を見れば、キラキラと太陽を反射している。

    以前に日の光が浴びられない時間が長らく続いた為にこの眩しさは嫌いじゃなくなっていた。

    腐川は太ももに装着したホルダーに手をかけハサミを取り出した。

    腐川冬子から触れたことはほとんどない、見ることさえ避けていたもの。

    眼鏡を外し、後ろに放る。

    髪を持ち上げその中にハサミを入れた。

    じゃきん、と音が響き髪が一房落ちる。その度に自分を襲う強い喪失感。

    それを味わう度になにか熱いものが入り込んでくる感覚が湧き上がる。

    髪を切り終え、手の中からハサミが逃げた。

    熱い液体が頬を伝う。


    階段を登る大きな音が聞こえ、後ろを振り向けば扉が勢い良く開かれた。

    肩を上下に動かし、激しい呼吸を繰り返すこまるは目を大きく見開いた。

    「冬子ちゃん…その髪」

    「どうかしら?似合わないだなんて言わないわよね?」

    目元を拭い、口元を緩めた。

    赤くなった顔に恥ずかしさを覚える。

    「似合ってるよ」

    腐川は今までにない満面の笑み浮かべた。

    根暗でも不気味に明るい訳でもないその笑顔に、こまるは言いようのない寂しさを覚え静かに涙した。

    誰にも愛されず、誰にも求められずに生きたミノタウロスは帰りを待つ者がいる幸せな男に討たれる。

    死の間際に見た、男の左手の小指に結ばれた赤い糸が妙に頭に焼き付いたのだ。

    色のない生活の中、得られなかった赤い糸を羨み続けた。

    得られないとわかっていても、欲しかった想い人の糸。

    想い人の身体を切り裂く度に感じた、身がよじれる程の快感。

    中途半端だった自分は中途半端な結末を迎えたこの街で生きるのだ。

    「ねぇ冬子ちゃん、十神さんのことまだ好きなの?」

    「そんなの決まってるじゃない!あたしの白夜様への愛が少し会えないぐらいで消える訳がないわ…!」

    「あはは…そうだよね」

    兄貴とそっくりの苦笑いを見せると、こまるは朝食の缶詰を開ける。

    「ねぇこまる、あんたは運命の人って信じる?」

    「運命の人か…そうだね、信じるよ。少女漫画家希望だし、そういったものは信じたいな」

    「へぇ、あんたらしいわね」

    「なにそれ〜、冬子ちゃんは?」

    「あたし?そんなのどうだっていいじゃない」

    「私ばっかり答えて不公平だよー!」

    「…信じてるわ、小説家だしね。そんな夢みてもいいじゃない」

    もう糸は見えなかった。

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