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この作品は執筆を終了しています。

瞼の裏に映える花

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  1. 1 : : 2015/12/19(土) 22:59:27
    50作目です。

    意味不明な所が多々あると思いますが、意味はあります。
  2. 2 : : 2015/12/19(土) 23:03:39
    おお、平子さんの新作…‼

    超期待です!
  3. 3 : : 2015/12/19(土) 23:09:01
    >>2
    期待ありがとうございます。自己満足で難解な文章にしてしまったので、ご期待に添えるかは分かりませんがどうぞお楽しみください。
  4. 4 : : 2015/12/19(土) 23:09:29














    だって僕は、もう――――――――――――




















  5. 5 : : 2015/12/19(土) 23:11:53
    電子音で、僕は目を覚ました。周囲を見回すと、そこは今まで何度も見てきた自宅の寝室――――――当たり前か。

    とりあえず、僕は身体を起こして布団から出る。今日は何曜日だろうかと思いカレンダーを見ると、土曜日。何だ休みか。まだ早いし、もう少し寝ようかな・・・

    いかんいかん。学校は休みでも、店は普通に営業日。バイトに行かないと。

    僕は寝室を出て、バイトに行く準備を始める。まずは洗顔、洗面所に行くと、寝癖で黒髪がボサボサになっている自分と対面した。不意に懐かしさを覚えたが、それ以上に思ったのは、接客業で働く者としてこの髪はまずいということ。そもそも、外出するのも憚られる程の寝癖であるのだが。

    僕は、すぐに寝癖直しを手に取り黒髪を整えた。



    準備を終えて家を出る。

    まず初めに目に飛び込んできたのは、この世界を鮮やかに染める色とりどりの花だった。

    花は好きだ。それはもちろん見るものとしてもそうだが、何より作品世界を彩るアクセサリーの一つとして大好きだ。その色は黒い文字しかない文面を艶やかにし、その花が仄めかしてくる“花言葉”が文章に深み、或いは二面性をもたらす。

    それから、空を見上げた。雲一つない快晴が、僕の視界を覆い尽くす。何と良い朝だ。もしバイトがなければ、ジョギングをするものも良かったかも・・・と思っていると、スポーツウェアを着た男性が目の前を走って通り過ぎていった。

    どちらかと言えば不細工な顔の男性だったが、そんなことを感じさせないほど爽やかな表情をしていた。

    うん、やっぱり良い朝だ。

    僕は何となく空を見上げ、思い切り体を伸ばした。それから視線を前に戻すと、突き当たりの家の庭に曼荼羅華の花が咲いているのを見つけた――――――いいのかな。
  6. 6 : : 2015/12/19(土) 23:22:59



    平穏無事な朝を全身で感じながら、僕は店に辿り着いた。勤務開始時刻の20分前、余裕を持っての到着である。早速店の扉を開けると、古間さんが窓を、入見さんが机を水拭きしていた。どうやら開店準備は始まっているらしい。

    でも、トーカちゃんはまだみたいだ。もし彼女がいたら、出勤時間に間に合ったとしても、新人の癖に遅いって叱られるだろうな。でも、彼女が時間に間に合わせて来ること自体があり得ないから、その心配は杞憂なんだけれども・・・

    そんな事を考えつつも、二人に挨拶をしてから着替えの為に更衣室へと向かう。すると、芳村店長にばったり会った。

    えっ――――――何で――――――――――

    「おはようカネキ君」

    彼はいつものように挨拶をしてくれた。しかし、僕は返せない。声が出ないのだ。

    「カネキ君?どうかしたかい?」

    「どうして・・・」

    「どうしてここに居るんですか?店長も、古間さんも入見さんも、皆―――――――――――――――――――――」

    テレビの砂嵐みたいだ。













































  7. 7 : : 2015/12/19(土) 23:28:50
    続きを赫者待機です!
  8. 8 : : 2015/12/20(日) 00:08:01
    期待してます‼︎
  9. 9 : : 2015/12/20(日) 12:41:02
    >>7>>8
    ありがとうございます!
  10. 10 : : 2015/12/20(日) 12:45:11








    「おはようカネキ君」

    「お、おはようございます」

    僕は笑顔で挨拶を返した。すると、爽やかな風が吹き込んでくるのを感じた。挨拶を交わすって素晴らしいなぁ・・・なんて。今日の僕は、少し爺臭いなと自覚する。



    ――――――何だったんだろう。



    着替えをしていると、西尾さんが更衣室に入って来た。入ってくるなり、「よっ、相変わらずクソ真面目だな」と彼なりの挨拶をしてくれた。西尾さんもなんだかんだ言って時間通りに来ますよねと返せば、彼はどっかの単細胞女とは違ぇよと、毒気たっぷりに言い放った。遅刻=トーカちゃんなのは僕だけじゃないみたいだ。

    着替えを終えた僕は、床のモップ掛けをお願いされた。一方の西尾さんは、店長とコーヒーを淹れるための下準備を行う古間さんに代わって、窓拭きを任された。

    こうして、各々がそれぞれの持ち場で仕事をしていると、店の扉が開く音がした。現れたのはかの有名な、トーカちゃんだ。

    「すいません、遅れました」

    彼女は入ってすぐに、素直に謝罪の言葉を述べた。僕との待ち合わせの時とは全くの大違いだ。あんていくの皆は優しいから、その分勤務中はしっかり働いてくれているから大丈夫、と声を掛けてあげる。因みに、次からは気を付けてと言う者は誰も居ない。

    「ったく、いい加減にその遅刻癖を何とかしねぇと、永遠に彼氏出来ねぇぞクソトーカ」

    おっと、そう言えば例外もいるんだった。西尾さんはいつもと変わらぬ毒舌で、遅刻したトーカを叱責する。「別に彼氏なんて要らねぇし、この色ボケ野郎が」と彼女は反論するのだが、普段よりもキレが無い。そりゃそうか、だって悪いのは100%トーカちゃんだもんね。

    「おいカネキ、なにヘラヘラしてんだよ」

    しまった、笑っている場合じゃなかった。こういう時、彼女は決まって僕に八つ当たりをしてくる。それはパンチだったり、キックだったり、関節技だったり、種類は様々だけど共通していることは痛みを伴うということ。

    「まっ、今日は許してあげる」

    ホッ。僕は胸を撫で下ろす。

    それから彼女は着替えの為に更衣室へ。その時、何かが胸の奥で引っかかるのを感じた。何か、トーカちゃんに言わなきゃいけないことがあるような気がする。何だろう・・・思い出せない。そろそろ開店の時間だし、考えるのは後にしよう。
  11. 11 : : 2015/12/20(日) 12:47:39



    「いらっしゃいませ」

    入り口のプレートがひっくり返され、通行人に開店が告げられる。すると早速二名のお客様が来店。いや、お客様なんて呼び方は余所余所しいな・・・

    「いらっしゃい、ヒナミちゃん。それに――――――リョーコさんも」

    「おはよう、お兄ちゃん、お姉ちゃん、みんな!」

    「皆さん、おはようございます」

    ヒナミちゃんは元気一杯の、一方のリョーコさんは大人の落ち着きを帯びた挨拶をする。それを受け、店内の皆も共鳴するかのように挨拶を返していく。

    「コーヒーを二つお願いします」

    リョーコさんの注文を受け、店長がコーヒーを淹れ始める。入見さん、古間さん、それと西尾さんはすぐに通常業務へと戻って行ったのだが、トーカちゃんだけは二人と談笑していた。従業員としてはあんまり良くないことだけど、今は他にお客さんが居ない。何より、そんな無粋な理由で止めるにはその光景は余りに微笑まし過ぎたのだ。

    眩しいなぁ。安直な比喩だけど、太陽みたいだ。



    ――――――なんて都合の良い光景だろう。



  12. 12 : : 2015/12/20(日) 12:49:57
    心をポカポカさせていたら、入り口が開く音が耳に刺さって来た。トーカちゃんは二人との会話を止め、お客さんを出迎えに向かう。

    「いらっしゃいませ」

    「ココアとフレンチトーストをお願いします」

    僕は、雷に撃たれたような衝撃に当てられた。

    そのお客さんの注文によって――――――ではなく、その声そのものによって。

    顔を見るのが怖かった。だって、全てが壊れてしまいそうだったから。だけど、目を背けた所で現実から逃れることなんて出来ない。だから受け止めるしかない。そうして、正面から挑むしかないんだ。

    僕は、意を決し声の主へと目を向けた。やっぱり、彼だ。

    ―――――――――亜門鋼太郎さんだ。



    どうして彼が“あんていく”に?いや、理由なんてどうでもいい。大事なのは、彼が今ここに居るということ。しかもヒナミちゃんとリョーコさんが居るこの時に。

    理想が瓦解していく。ガラガラという音を立てて。

    彼はヒナミちゃんとリョーコさんの顔を見ている。逃れることなんてできない。これでおしまい――――――と思ったのだが、彼は二人の横を素通りしていった。厳密に言えば、素通りではなかった。素通りより何倍も気味が悪いものだった。

    お互いに、面識のあるような素振りを少しだけ見せていた。当然、それは仲良しとは程遠いものであったが、天敵同士の出会いとも明らかに違っていたのだ。

    僕は店長に尋ねた。大丈夫なのかと。

    「ああ、彼は大丈夫だよ。それは君が一番理解しているはずだが?」

    何のことだか。でも、彼が大丈夫と言ったということは、たぶん大丈夫なのだろう。強張っていた体が一気に緩んでいくのを感じた。
  13. 13 : : 2015/12/20(日) 12:51:36



    「カネキ君、これ運んで」

    店長が渡してきたのは、ココアとフレンチトースト。亜門さんの注文した品だ。僕はそれをすんなり受け取って、彼の席へと赴いた。

    「お待たせしました、ココアとフレンチトーストです」

    「ああ、ありがとう。眼帯――――――いや、カネキ君」

    あれ、どうして僕の名前を知っているのだろう。教えた覚えはないんだけどな。

    「ところで、物語()の続きはいつ聞かせてもらえるのかな」

    彼の言葉に、僕はキョトンとした。それを見た彼は、「先週の話の続きだ」と付け加えた。

    どうやら僕は彼に、半喰種として自分が経験してきたこと、そして僕の想いを話してきていたらしい。

    それを思い出すと共に、僕の中にある疑問がふと浮かび上がって来た。

    「お怪我はもういいんですか?」

    「怪我?」

    「はい。僕が――――――――――――――――――――――――」

    ――――――ああ、またか。



















































  14. 14 : : 2015/12/20(日) 16:19:09









    「ところで、物語()の続きはいつ聞かせてもらえるのかな」

    彼の問いに、僕は「もしお時間があるのなら、明日でも構いませんよ」と答えた。明日は都合が悪いと返された。「では、平日は学校があるので来週末はどうですか?」と訊くと、分かった、予定を空けておこうと了承してくれた。

    ある時から僕は彼に、半喰種として自分が経験してきたこと、そして僕の想いを話してきた。彼は喰種捜査官でありながら、そんな僕の話を真剣に聞いてくれていた。そして、喰種という存在への憎しみを保ちながらも、同時に理解を示してくれた。

    人間、しかも喰種捜査官という身の上の人間が喰種へ理解を示してくれていることが、嬉しいと同時に誇らしかった。僕の努力が少しずつ、しかし確実に花開いているように感じられたからだ。そして、いつか彼と共に間違った世界を変えていけたら。そんな事も思うようになった。



    ――――――成る程、そういう仕組みか。



    「では、来週末を楽しみに待っています」

    最後にこう告げて、僕は彼の元を離れた。



    この世界も間違っている。だけど――――――――――――



    やがて、ヒナミちゃんとリョーコさんが店を後にする時間になった。僕やトーカちゃんは、もう少しゆっくりしていってもいいと言ったが、リョーコさんは昼の書き入れ時まで居座っているのは流石に悪いとして、そのまま会計を済ませた。

    その時には、亜門さんは既に店を後にしていた。いつの間に居なくなったのだろうか、挨拶ぐらいしてくれてもいいのに。でも、彼も忙しいのだろう。

    さて、これからお昼時。休日の昼は店が一番忙しくなる時間帯だ。これから来るであろう激務に備え、気を引き締め直す。しかし、そんな僕の準備は思わぬ形で無駄になった。
  15. 15 : : 2015/12/20(日) 16:29:20
    「カネキ君、トーカちゃんと一緒に御遣いに行ってもらえないかな」

    「御遣い・・・ですか?」

    「豆を切らしてしまってね。仕入れ先に行って欲しいんだ。場所はトーカちゃんが知っている」

    若干拍子抜けしたものの、店長の頼みは断われないし、そもそも断る理由が無い。僕はあっさりと承諾したのだが、果たしてもう片方の方は上手くいくのだろうか。彼女も普通なら店長の頼みは断らないだろうが、今回の仕事の添加物は僕だ。

    「えぇ!?何でカネキなんかと・・・」

    ほら、やっぱり。分かってはいたけど、そんなあからさまに嫌がらないで欲しいな。傷つく。

    しかし、店長は引き下がらなかった。彼はとても温厚で紳士的な人物なのだが、実は結構な頑固者である。それはよくイメージされるような“中年のオヤジ”とは違い、他人に価値観を押し付けるような事もなく、嫌われるようなことは当然ないのだが、こういった、私的な理由で頼みを払い除け様とする際にしばしば発揮される。

    そうは言っても怒ったり、店長という立場に物を言わせたりはしてこない。その代わり、彼は穏やかに諭すのだ。この仕事はこういう理由で君にしか頼めないのだと。もしくは、君の為にもなるのだと。店長が宗教勧誘やセールスマンになったら、とんでもない脅威になるんじゃないかな。

    結局、トーカちゃんは渋々ながらも承諾した。渋々というのも僕に対する感情であって、恐らく店長への不満は一切ないのだろう。

    「おいカネキ!道案内はしてやるからさっさと済ますぞ!」

    僕は彼女の言葉に従い、すぐに外出の準備を始めた。つまり着替えだ。こうやって急かしてくる時、彼女自身の行動はマイペースであることが多いのだが、万が一にも彼女を待たせるようなことがあれば生命の危機だ。僕は大急ぎで着替えを行う。

    着替えを終えて裏口から店の外に出ると、彼女はまだ居なかった。案の定、それから10分くらい待たされた。



  16. 16 : : 2015/12/20(日) 16:36:57
    ようやく彼女が現れると、謝罪の言葉を一つも述べることなく僕の前を素通りしていった。謝罪しないのは仕方がないが、せめて出発時に声を掛けるぐらいはしてほしいものだ。僕はちょっとだけ早歩きで彼女を追いかけ、追いついてからは横に並んで歩いた。

    そこからはただただ沈黙。

    僕は余り人と話すのが得意ではないが、話題の一つや二つくらいなら提供することは可能だ。だが、それなら終始無言ということは無いだろう。にもかかわらず、会話が一つも交わされないのは、つまらない話題を出すとトーカちゃんが怒るから。

    今日も、他愛のない話題しか思いつかない。無言ルート確定だと確信した。それなのに―――――――――

    「あのさ、トーカちゃん」

    僕は彼女に話し掛けた。どうして話し掛けたのか、自分でも分からない。分からないから、言葉が続かない。僕が続きを言わないものだから、彼女は「なんだよ、さっさと言えよ」と問い詰めて来る。問い詰められたから、僕は必死にその理由を探した。

    幸か不幸か、僕はその理由を思い出した。それは今朝、彼女が勤務時間に遅刻して来た時ふと頭に流れた義務感である。僕は彼女に言わなきゃいけないことがある。だが、その言わなきゃいけないことが何なのかが、結局思い出せない。

    こうなれば最後の手段だ。朝に何度も実感したように、今日は雲一つない快晴。これを話題にするしかない。多分怒られるけど。

    僕は空を指差し、口を開いた。

    「アオギリ」

    あろうことか、僕はどこにでもある街路樹の名前を口にしてしまった。見上げたら、それが空に蓋をするように視界を覆っていたからだ。

    それと同時に、言わなきゃいけないことを思い出した。

    「あの木、そんな名前してんのか。知らなかった」

    それから、トーカちゃんは「街路樹の名前なんて気にしたことなかったな」と感心してくれた。幸運なことに、その言葉は快晴なんかよりもずっと彼女に好評であるようだ。

    ありがとう、とお礼をしたくなって、今度はその木々を向き合う為に、もう一度上を向いた。すると、その木から一つの木の葉が舞い降りて来て、僕の真っ白な髪の上へと着地した。

    「トーカちゃん、この木好き?」

    「はぁ?ただの街路樹に好きも嫌いもあるかよ」

    「まあそう言わずに」

    「変なこと聞きやがって・・・」

    悪態つきながらも、彼女は答えを真剣に考えてくれていた。やっぱり、優しい子だな。

    「強いて言うなら嫌いかな。なんとなくだけど・・・」

    「うん、僕も」

    言わなきゃいけないことは、ここで言ったら雰囲気が悪くなるかもしれないから、言わなかった。その代わりに、帰りに必ず話そうと決心した。
  17. 17 : : 2015/12/20(日) 16:38:37






    「――――――それにしても・・・豆の仕入れ先、思いっきり人間なんだね」

    僕等は無事にコーヒー豆を入手したのだが、そこで店長の凄さを再確認させられて、僕はこんな感想を漏らした。それを聞いたトーカちゃんに、西尾さんと同じ反応だと言われた。

    それから、行く時と同じ道を通ってあんていくへと戻る。その途中の歩道橋で、ここにしようと囁かれた。うん、そうしようと呟いて、僕はトーカちゃんの前へと躍り出た。

    急に進路を塞がれた彼女は、半分驚いて、もう半分は怒っていた。

    「トーカちゃん、ごめん」

    僕は、ペコリと頭を下げた。

    しかし、いささか僕の行動は突飛過ぎた。僕の謝罪が進路を塞いだことへのものだと勘違いした彼女は、「謝るくらいなら急に出てくんなよ」と一蹴。それから、僕の横を通り抜けて歩道橋を降りようとする。

    だから僕は彼女の手を握り、引き留めた。

    「君を一人にして、ごめん」

    最初、彼女は目を大きく見開いていた。だけど、すぐに理解してくれて、それから・・・微笑んだ。

    その顔を見るだけで、僕は救われる。

    「別に良いよ。最後に、あんたは戻って来たんだから」



    「カネキ、これからもずっと――――――――――――」






  18. 18 : : 2015/12/20(日) 16:40:48
    13時50分。それが、僕等が戻って来た時、時計の針が示していた時間だった。僕は、前へと踏み出す足が重くなっていくのに気付いた。

    まだお昼だ。太陽は依然として南の方にあるし、遅めのお昼を食べているお客さんも居る。平日は学校で講義を受けているし、バイトの日は客足が絶えるような時間ではないし、どちらも休みの日であれば、本を読んでいるような時間帯だ。なのに――――――



    眠い。



    「店長、あの―――――――――」

    こんな状態で仕事をしては、邪魔になってしまう。そう判断した僕は店長に、少し休憩を取らせてくださいとお願いした。予想通り彼はすんなり承諾してくれたが、予想外だったのは他の皆の反応。なんとトーカちゃんや西尾さんまでもが、からかいの言葉一つ言わずに僕を送り出したのだ。それどころか、「おやすみ」という一言を添えて。まるで、この世界ではそれが自明であるかのように。



    僕は歩いた。

    足の重みはいつの間にか取れていて、戻る分には困らなかったが、気まぐれで後ろへ進もうとしたらやっぱり重かった。

    やがて寝床に辿り着いた僕は、すぐに体を横たえた。近くにあった机の上では、カンナの花が幽玄さを放っていて、窓越しに空を見上げると、気持ち悪い雲が一面に浮かんでいた。

    それからそっと瞼を閉じる。

    心地よかった。

    このままずっと、続いて欲しいな――――――――――――





  19. 19 : : 2015/12/20(日) 16:41:21

















    ・・・・・・僕の救いは眠りと、幸せな夢だけ


















  20. 20 : : 2015/12/20(日) 18:28:50



    「カネキ、あんたにお客さん」



    僕は目覚めた。

    「きついんだったら言っとくけど」

    そう言って僕に気遣いの言葉を掛けるトーカちゃんに、らしくないなと思った。僕へのお客さんとなると、ヒデだろうか。それとも月山さん?いや、彼であればトーカちゃんが僕を呼びに来ることなんてないだろう。となるとやっぱりヒデかな。

    とにかく僕は体を起こした。さっきまでの足の重みは感じられない。これなら大丈夫そうだ。行けるよと彼女に声を掛け、すぐに店へと赴いた。

    僕の予想は半分当たっていた。扉を開いてすぐ、僕に気付いたヒデが手を振ってくれた。

    だが、半分は外れていた。来客はヒデ一人ではなかったのだ。

    その来客は、誰よりも僕を知っていて、僕が知っていて、僕が愛していて、僕を愛してくれている・・・・・・

    「かあさん・・・どうして・・・」

    ホオズキ色の服に身を包んでいる彼女に、僕はこう尋ねた。返って来た答えは単純で、息子の働いている様子を見てみたかったから。何故ヒデが一緒かというと、一人で店の近くまで来たものの正確な場所が分からず、右往左往していたところに声を掛けられ、店までの道を案内してもらったらしい。その道中の会話で、ヒデはその女性が僕の母であることを、母は彼が僕の親友であることを互いに知ったようだ。

    母はブラックコーヒーを、ヒデはカフェラテを注文した。店長は僕に、母の分は自分で淹れてあげなさいと言った。僕は「はい」と元気に返事をした。ちなみに、ヒデの分はトーカちゃんが淹れるようだ。良かったね。
  21. 21 : : 2015/12/20(日) 18:30:33



    ゆっくり、焦らず、平仮名の「の」の字を描くように―――――――――

    ポットのお湯を注ぎこんだ。芳醇な香りが広がり、鼻腔をくすぐって来る。うん、良い出来。

    「お待たせしました」

    僕は敢えて他人行儀な挨拶を添えて、母の前に自分が淹れたコーヒーをそっと置いた。母はいただきますと挨拶をしてから、カップを口元へと近付ける。

    「・・・おいしい」

    「ありがとうございます」

    ちょっと照れ臭かったけど、僕は一従業員としてのお礼を述べた。それからどうぞごっゆくりと頭を下げて、一旦母の元から離れようとする。

    「研、ちょっといいかしら?」

    意外なことに、呼び止められた。どうしたのと尋ねれば、何やらプレゼントがあるという。そのプレゼントは・・・花だった。白い白いガーベラだった。

    「ありがとう、母さん」

    今度は息子として、お礼を述べた。



    「僕、もう眠るね」



    僕は進んだ。

    その足取りは軽やかだった。まるで羽でも生えているんじゃないかってくらいに、フワフワしていた。

    さっさと寝床に辿り着いた僕は、ゆっくりと体を横たえた。周りには窓しかなくて、外の様子を覗き見ると、やっぱり気持ち悪い雲が浮かんでいた。

    それからそっと瞼を閉じる。

    心地よかった。

    だけど、ここに居続けるわけにはいかない。

    進もう。前へ・・・



  22. 22 : : 2015/12/20(日) 18:31:25

















    僕の救いは―――――――――・・・・・・




















    僕はさっきまで読んでいた本の上に、曼珠沙華をそっと添えた。





    (虚妄)から醒めて、(虚構)が生まれる。









    -fin-
  23. 23 : : 2015/12/20(日) 18:36:53





    君の救いは眠りと、幸せな夢だけ。

    僕は幸せな夢。目が醒めて、少し泣いたらそれでおしまい。



    僕の救いは―――――――――



    僕は、皆に愛されたい。
    良い事でも悪い事でも、愛されるようなことがしたい。
    そうして僕は、かっこよく死にたい。



    それが君の救い。

    いつの間にか、欲しがっていいって勘違いしていた。



    夢はもういい。

    おやすみ・・・ハイセ。





    Happy birthday dear Kaneki.
  24. 24 : : 2015/12/20(日) 18:42:38
    いつもはできるだけ解りやすいように心掛けて文を書いているのですが、今回は好き放題やってみました。一語一句それぞれに何かしら意味があるので、もしよろしければ考察してみてください。



    金木君、有馬さん、誕生日おめでとう。
  25. 25 : : 2015/12/20(日) 22:22:39
    乙!


    平子特等捜査官さんの次回作も応援してます!
  26. 26 : : 2015/12/20(日) 23:26:54
    >>25
    ありがとうございます!

    次回作、いつになるかは分かりませんが、その時もよろしくお願いします!
  27. 29 : : 2020/10/26(月) 14:57:48
    http://www.ssnote.net/users/homo
    ↑害悪登録ユーザー・提督のアカウント⚠️

    http://www.ssnote.net/groups/2536/archives/8
    ↑⚠️神威団・恋中騒動⚠️
    ⚠️提督とみかぱん謝罪⚠️

    ⚠️害悪登録ユーザー提督・にゃる・墓場⚠️
    ⚠️害悪グループ・神威団メンバー主犯格⚠️
    10 : 提督 : 2018/02/02(金) 13:30:50 このユーザーのレスのみ表示する
    みかぱん氏に代わり私が謝罪させていただきます
    今回は誠にすみませんでした。


    13 : 提督 : 2018/02/02(金) 13:59:46 このユーザーのレスのみ表示する
    >>12
    みかぱん氏がしくんだことに対しての謝罪でしたので
    現在みかぱん氏は謹慎中であり、代わりに謝罪をさせていただきました

    私自身の謝罪を忘れていました。すいません

    改めまして、今回は多大なるご迷惑をおかけし、誠にすみませんでした。
    今回の事に対し、カムイ団を解散したのも貴方への謝罪を含めてです
    あなたの心に深い傷を負わせてしまった事、本当にすみませんでした
    SS活動、頑張ってください。応援できるという立場ではございませんが、貴方のSSを陰ながら応援しています
    本当に今回はすみませんでした。




    ⚠️提督のサブ垢・墓場⚠️

    http://www.ssnote.net/users/taiyouakiyosi

    ⚠️害悪グループ・神威団メンバー主犯格⚠️

    56 : 墓場 : 2018/12/01(土) 23:53:40 このユーザーのレスのみ表示するこの書き込みをブックマークする
    ごめんなさい。


    58 : 墓場 : 2018/12/01(土) 23:54:10 このユーザーのレスのみ表示するこの書き込みをブックマークする
    ずっとここ見てました。
    怖くて怖くてたまらないんです。


    61 : 墓場 : 2018/12/01(土) 23:55:00 このユーザーのレスのみ表示するこの書き込みをブックマークする
    今までにしたことは謝りますし、近々このサイトからも消える予定なんです。
    お願いです、やめてください。


    65 : 墓場 : 2018/12/01(土) 23:56:26 このユーザーのレスのみ表示するこの書き込みをブックマークする
    元はといえば私の責任なんです。
    お願いです、許してください


    67 : 墓場 : 2018/12/01(土) 23:57:18 このユーザーのレスのみ表示するこの書き込みをブックマークする
    アカウントは消します。サブ垢もです。
    もう金輪際このサイトには関わりませんし、貴方に対しても何もいたしません。
    どうかお許しください…


    68 : 墓場 : 2018/12/01(土) 23:57:42 このユーザーのレスのみ表示するこの書き込みをブックマークする
    これは嘘じゃないです。
    本当にお願いします…



    79 : 墓場 : 2018/12/02(日) 00:01:54 このユーザーのレスのみ表示するこの書き込みをブックマークする
    ホントにやめてください…お願いします…


    85 : 墓場 : 2018/12/02(日) 00:04:18 このユーザーのレスのみ表示するこの書き込みをブックマークする
    それに関しては本当に申し訳ありません。
    若気の至りで、謎の万能感がそのころにはあったんです。
    お願いですから今回だけはお慈悲をください


    89 : 墓場 : 2018/12/02(日) 00:05:34 このユーザーのレスのみ表示するこの書き込みをブックマークする
    もう二度としませんから…
    お願いです、許してください…

    5 : 墓場 : 2018/12/02(日) 10:28:43 このユーザーのレスのみ表示する
    ストレス発散とは言え、他ユーザーを巻き込みストレス発散に利用したこと、それに加えて荒らしをしてしまったこと、皆様にご迷惑をおかけししたことを謝罪します。
    本当に申し訳ございませんでした。
    元はと言えば、私が方々に火種を撒き散らしたのが原因であり、自制の効かない状態であったのは否定できません。
    私としましては、今後このようなことがないようにアカウントを消し、そのままこのnoteを去ろうと思います。
    今までご迷惑をおかけした皆様、改めまして誠に申し訳ございませんでした。

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