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とあるジャーナリストのルポルタージュ ~ハロウィーンに寄せて~

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  1. 1 : : 2015/09/06(日) 19:31:10
    皆さんこんにちは、進撃のMGSです。



    今作は初めてのオリジナル作品になりますので、不手際等、ご容赦ください。



    地名はだいたい実在の地名ですが、日本のみジャポンという架空の国になっております。





    よろしくお願いします。




  2. 2 : : 2015/09/06(日) 19:34:56












    10月31日
    ハロウィーン




    ジャポン国、某所。











    都会の喧騒から少し離れた閑静な住宅地。
    その一角ある、こじんまりとした二階建ての一軒家。


    そこに、ガルボ氏は自分の事務所を置いていた。





    ガルボ氏の机の上は、幾重にも重なった取材メモや、古びた本などが積み重なっている。
    その一つ一つが、自分の足で取材したガルボ氏の、積み重なった時と経験の結晶であった。






  3. 3 : : 2015/09/06(日) 19:35:31









    ジャーナリストとして独立してから、今年で30年になる・・・・・・


    今まで私は様々な政治家を取材してきたし、様々な政治家の生きざま、種々の利権争いや政治的抗争、そして、死にざまをも看取ってきた。







    その中にあって私は、ただ一人の男に魅かれたのを覚えている。
    その男は本当に背広の似合う男であり、初めて彼を取材したとき、彼は既に保守派の政治家として知られた男だった。


    勤勉で誠実。
    優れた弁舌家でありまた、誠に端倪すべからざる経済通。





    そして・・・・・・・・・・・・純粋に孫娘を愛した政治家、エドムント・フィッシャー。






  4. 4 : : 2015/09/06(日) 19:36:38








    コンコンッ!


    扉を叩く音に気が付き、ゆっくりと私は扉を開けた。






    おもいおもいをの服を着た、可愛い悪魔や幽霊、吸血鬼やフランケンシュタインが、玄関の前で私を見上げていた。


    「トリッツ、オア、トリート!」


    私の家を襲撃しに来た可愛い子供たちは、声をそろえてそう叫んだ。







    「来たな!? よし、待ってろ? 今持ってきてやるからな!」







    私は意気揚々と、お菓子を詰めたバケットを持ってきた。



    キャッキャッと喜びながら、お菓子を受け取っていく子供たち。
    その中に、私のよく見知っている子供が一人、紛れ込んでいるのに気が付いた。






    「おや? 君はアリスちゃんだね?」

    「ガルボおじちゃん! 久しぶり!」







    可愛く笑う小さな少女は、まだ5歳ほどであったが、既にそこには母親であるエルム・フィッシャーの面影が見て取れる。
    ふと、アリスのその姿に、幼き日のエルムが重なって見えた。





  5. 5 : : 2015/09/06(日) 19:37:47









    ・・・・・・時間が経つというのは早いものだ。




    私はこの、ハロウィーンの季節がやってくるたび、一人の男を思い出す。









    10月31日。




    それは、かつてはエルムが我が家にやってくる日であったし、
    エドムントが子煩悩な一面を見せる日でもあった。


    そして・・・・・・























    政治家であり、私の友人であったエドムント・フィッシャーの・・・・・・命日でもある。












    今から私が語るのは、国を愛していたが故に破滅していった、一人の男の話である。








    ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇





  6. 6 : : 2015/09/06(日) 19:42:06













    ~25年前~





    9月28日
    下院、予算委員会








    「だからですね! 我が党の経済対策のほうが! よっぽど政府の案よりも効果的だと思われるのですが、ラルフ首相、いかがでしょうか!?」


    予算委員会における、補正予算を巡る論戦は、難しい時期に差し掛かっていた。









    政府の出した予算案は、まずは予算委員会にかけられる。
    そして、委員会内で議論が尽くされ、本会議で可否を取ることが通例となっていた。



    その為、この委員会での議論が実質的な議論の舞台となる。与党野党の論戦は激化し、ヤジも頻繁に飛んだ。
    “ヤジは議場の華”なんて言うが、汚い言葉も相当飛び交っていたのである。









    さて、今は集中審議の時間であり、野党の政治家の一人であるルーピー氏が、ラルフ首相に質問をしていた。
    自分たち野党の案が“政府の案より効果的”と言い切り、野党からは拍手喝采、与党からはヤジが飛んでいた。




  7. 7 : : 2015/09/06(日) 19:43:10








    華やかで汚い言葉が飛び交う中、与党の席から身を乗り出して手を上げた政治家が二人いた。






    一人は経済担当大臣である経済対策の重鎮、カレル・メルケル氏。

    そしてもう一人が、財務大臣を務めるエドムント・フィッシャー氏であった。







    「委員長が整理します! まずはカレル・メルケル君! ああ、その後その後。」


    カレル氏がゆっくりと立ち上がる。フィッシャー氏は“俺は?”というような顔をして、委員長にたしなめられていた。







    登壇したカレル氏の答弁は、簡潔かつ容赦がなかった。


    「数字の競争なら、いくらでも出来ます。ルーピー議員がこの案を以前から示していたのは知っておりますが・・・・・・・・・・・・中身が大変不正確。」







    鮮やかに撃退されて、ルーピー氏は顔を真っ赤にし、今度は与党から爆笑と拍手喝采、野党からはヤジが飛んだ。




  8. 8 : : 2015/09/06(日) 19:46:29






    カレル氏がゆっくりと自分の椅子に戻ると、フィッシャー氏が登壇した。


    「さて、私は二点いうことがあったのですが、二点目は既にカレル氏に言われてしまいました。中身が大変不正確だと私も思います。」







    またしても爆笑と拍手とヤジの応酬が起こる。







    少し収まったところを見計らい、フィッシャー氏は話を続けた。


    「それと、一点目は我々の経済対策はあくまで、先に起こった金融恐慌に対する、100年に一度の緊急対策として提示したものであります。その点をご理解ください。」







    与党からの拍手喝采を浴び、フィッシャー氏も自分の椅子へと戻っていった。








    ____________全く野党の連中は、反対ばかりで中身のある対案を示さない。



    フィッシャー氏は、内心、うんざりしていた。







    ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇





  9. 9 : : 2015/09/06(日) 19:47:29








    翌日








    ____________全く、下らない問答だ。


    先日の議会の中継を見ながら、若き日のガルボ氏はため息をついた。







    いつからこの国の議会は、ルーピーのようなくだらない政治家の進出を許すようになってしまったのだろう・・・・・・。








    新聞の紙面に目をやると、内閣の支持率低下について書かれた記事が踊っていた。


    『また、ルーピー氏に経済対策の案を問われたフィッシャー氏は、100年に一度の緊急対策だと答弁した。』







    ガルボ氏は深くため息をついた。





    ____________この国のメディアは本当にクソ(・・)だ。





  10. 10 : : 2015/09/06(日) 19:48:14









    一見、何の変哲も無いように見えるこの記事であるが、よく読むと実に巧妙な印象操作が盛り込まれている。


    基本、記事は『いつ』『どこで』『誰が』『なぜ』『どのように』『何をした』―――――――5W1Hを盛り込むことが基本である。


    だがこの記事は、ルーピー氏が『どのような』質問をしたのかが抜けているし、したがって、フィッシャー氏が『なぜ』100年に一度の緊急対策だと言ったのかが書かれていない。


    しかもこの記事は、内閣支持率低下についての記事である。






    何も知らない読者がこの記事を一読したらこう思うだろう―――――――――ルーピー氏に追い詰められて、フィッシャー氏が100年に一度の緊急対策だと言い訳をしている、と。







    この記事を読む限り、ルーピー氏は有能で、フィッシャー氏は無能に見える。


    実際のところ、ルーピー氏は見識も何もない、だが権力欲だけは強い男だというのに・・・・・・。







    報道するなら『真実』を流すべきだ。でも、国内の主要メディアはこぞって『報道しない自由』を掲げてあえてそれを報じない。

    分かる人にしか分からない、メディアの印象操作。








    私はこういったメディアの偏向報道(・・・・)に嫌気がさし、本物の『真実』を追求するため、自分の勤めていた新聞社を辞めて自らの事務所を立ち上げたのだった。







    ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇






  11. 11 : : 2015/09/07(月) 21:32:02








    「おじいちゃ~ん!」

    「ただいま! エルム! いい子にしてたか~!」






    フィッシャー氏は、政務から離れると、ただの子煩悩で人あたりのいいお爺さんであった。
    普段の彼しか知らない人は、恐らくこの人が政治家であり、しかも経済政策に長けた男だとは思わないだろう。






    「おじいちゃ~ん、お髭がくすぐったいよう!」

    「あはは、そうかそうか、それはすまなかったな~。」






    玄関先で待っていた孫娘を抱き上げるフィッシャー氏は、満面の笑みを浮かべていた。
    エルムを抱っこしたフィッシャー氏は、そのまま彼の妻と息子夫婦の元へと向かった。




  12. 12 : : 2015/09/07(月) 21:32:25






    「やぁ、ただいま。いや~、今回の議会は大変だったよ~。」

    「お帰りなさい、あなた。」

    「お帰りなさい、父さん!」

    「お帰りなさいませ、お義父さん。」







    家族に温かく迎えられ、フィッシャー氏はご機嫌だった。
    記者たちに一足一挙動を見られ、プライベートなど無いに等しい政治家という仕事にあって、こうしたくつろげる時間というのは本当に貴重だったのだ。








    「おや、これは?」


    フィッシャー氏は、テーブルの上に並べられたかぼちゃに気が付いた。








    _________もうそんな季節になっていたのか。


    外の空気がすっかり冷たくなって、もう秋が来たというのに、政務に忙殺される日々の中、秋の到来の実感が湧かなかったのである。





  13. 13 : : 2015/09/07(月) 21:32:50








    答えはもう分かっていたものの、孫の反応が見たくてついついとぼけるフィッシャー氏。










    「ジャックー・オー・ランタンだよ! おじいちゃん! もうすぐでね! もうすぐでね・・・・・・ハロウィーンなの!」

    「お~、そうかそうか。だからかぼちゃをくりぬいていたのか~。」









    _________何とも可愛らしい、かぼちゃのランタンだ。


    よく見ると、鼻の穴がハート型になっている。








    少しでも可愛らしく作ろうとするエルムの実に微笑ましい姿に、フィッシャー氏は決意を新たにする。









    ____________孫のためにも、国民のためにも、よりよい形でこの国を残していきたい。



    有力な保守派議員の一人であるフィッシャー氏の、政治家としての原点は、実に清廉潔白なものであったのだ。









    ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇





  14. 14 : : 2015/09/07(月) 21:33:59









    財務大臣として働くフィッシャー氏には、敵も多かった。






    野党の人間たちは当然として、マスメディアも悪意に満ちた偏向報道で野党を持ち上げている。

    だが、いずれもフィッシャー氏にとっては手ごわい相手というわけではない。









    フィッシャー氏が真に警戒していたのは、財務省で働く官僚たちであった。








    財務省――――――――それは真に一握りの人間たちだけが入れるエリート中のエリート集団であった。


    それに、財務省は他の省庁に対する予算編成権を握っていた。
    その為、他の省庁よりも権限が強く、また、彼らのエリート意識は山の如くに高かった。






    「我らテンガン山。他は並びの山。」と豪語する財務省の官僚は、他の省庁の人間に「まずは頭を下げたまえ。」と高圧的な態度に出る。
    そして、政治家達に対しても彼らは、「国の明日は俺たち財務官僚が決める!」といわんばかりの態度で出てくるのだ。





    そして、その財務省のトップが、事務次官であるアントニン・レーンホフ氏であった。




  15. 15 : : 2015/09/07(月) 21:35:13







    『本日から財務大臣として就任する、エドムント・フィッシャーです。どうぞ、よろしくお願いします、レーンホフ事務次官。』

    『これはこれは・・・・・・。既に名前を把握してくださって光栄の至りです、フィッシャー大臣。聞くところによると、あなたは相当な経済通であるとか。』

    『いえいえ、私はまだたくさん勉強させていただいている身です。が、あなた方の所管する法律を守って働けるよう、レーンホフさんのご協力を賜りたいと思います。』








    初対面にてこの調子である。
    軽いジャブの応酬・・・・・・といったところであろうか。


    お互い下出に出ているようで、大臣と事務次官の主導権を巡る暗闘は既に始まっていた。





  16. 16 : : 2015/09/07(月) 21:37:55








    国内においてはこんな感じで、まさしく四面楚歌という言葉が似合う状況であったが、海外においては、もっと深刻な問題に瀕していた。









    ――――――――――世界同時株安に端を発する、金融恐慌の発生であった。





    そもそものきっかけは、世界で最も経済力のある国、アメリカ合衆国。
    その最大手の証券会社であったグレイス証券の破綻であった。







    『ある日、いつも通り会社に出勤し、その日の午後に会社は倒産しました。』







    こんな冗談みたいな話が、本当に起こったのである。
    原因について細かい話は省くが、要はお金を貸し過ぎ、回収が不可能になって破綻に追い込まれてしまったのだ。



    不良債権の焦げ付き―――――――まことに単純な理由でこの世界最大手の証券は、たった一日で崩壊したのである。






  17. 17 : : 2015/09/07(月) 21:39:34







    『アメリカがくしゃみをすれば、全世界が風邪をひく。』







    この格言通り、アメリカ発の金融恐慌は、瞬く間に世界中へと伝染していった。


    世界同時株安に続く金融恐慌・・・・・・100年に一度の大不況とも、世界恐慌の再来とも言われ、グレイス・ショックとして人々の脳裏に記憶されることとなったこの恐慌は、今や世界中の経済を麻痺させるに至ったのである。









    この難しい局面において、フィッシャー氏はラルフ首相から財務大臣を拝命した。


    ラルフ・ロシュフコー首相は、フィッシャー氏と同期の政治家であり、考え方も近いことから、二人は盟友であると見なされてきた。






    共に下院の議員であり、しかも席も隣同士。
    たびたび雑談をしてはお互いにお腹を抱えて笑い合う光景は、議会における風物詩の一つとなっていたほどであった。





  18. 18 : : 2015/09/07(月) 21:40:48







    ラルフ首相が官邸にフィッシャー氏を呼んだとき、ラルフ氏はくだけた調子で『なあ、エド?』と呼びかけた。


    『お前にたくさんの苦労と苦痛を与えることは分かってる。だが、お前にしかこの危機は乗り越えられんのだ。分かってくれ。』







    それに対して、フィッシャー氏はこう切り返した。


    『何を言っているんだ、ラルフ。頼むのは私のほうだ。今、解散総選挙をすれば私たちはまず勝てるだろう。だが、政治空白を作ってしまう。その為にこのグレイス・ショックを放置するわけにもいかない。政策のために、政局を犠牲にしろというのだ。本当に申し訳ない。』









    心からの謝罪を、ラルフ首相は受け入れた。


    こうして、フィッシャー氏は財務大臣として、最も困難な使命を背負うこととなった。








    ____________破綻しかけている世界経済の再生。これがフィッシャー大臣に課せられた使命だったのである。












    ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇






  19. 19 : : 2015/09/13(日) 18:41:54








    10月14日







    かねてより懸案となっていたグレイス・ショックの対応を協議するため、イタリアの首都ローマでG20サミットが開催されることとなった。







    G20―――――世界を代表する20の国の代表が集まっての、経済会合。

    ここで躓けば、世界経済は破綻する。




    世界の明日を決める会合・・・・・・そう言っても過言ではなかった。










    さて、アメリカでは財政再建のため、金融緩和を推し進めてきため、ひとまず財政破綻という最悪のシナリオは免れていた。


    しかしながら、他の国はそうはいかず、しかも、破綻に備えて各国に資金を融資するはずの国際組織、IMFが資金不足という異例の事態になってしまっていた。









    もし、発展途上国が経済危機に瀕したとき、融資を行ってその国を救うはずのIMFが、資金不足のためにそれを行えなかったら・・・・・・。








    ____________人類史上最悪となる金融破綻が現実味を帯びていたのである。









    ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇







  20. 20 : : 2015/09/13(日) 18:42:20







    「ゲホッ! ゲホッ!」




    ____________参ったな。

    大切な会談の前だというのに、風邪をこじらせてしまうとは・・・・・・。







    季節の変わり目ということもあり、フィッシャー氏は風邪を引いてしまった。


    飛行機内で風邪薬、そして鎮痛剤に解熱剤を服用し、何とか体調を保っている有様だった。








    実際、フィッシャー氏は無理をし続けていた。


    この会談にあたり、フィッシャー氏は切り札とも呼べるものを準備していた―――――――財務官僚たちとやりあい、ジャポン中央銀行とも交渉して何とか得たものであった。








    これを使えば世界経済の破綻は免れ、さらには今後の世界経済の主導権を我が国が握っていける。


    『ピンチはチャンス』であり、『チャンスはピンチ』だ。










    ―――――――今後のジャポンの方向性を持決める、これは重要な会談なのだ。
    多少無理はしても、私はこの会談に、政治生命を賭ける。








    フィッシャー氏はそう思いながら、機内で一杯のテキーラを傾けた。







    ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇






  21. 21 : : 2015/09/13(日) 18:43:56









    10月16日
    G20会合、当日。





    この日はレセプションや首脳級会談、外相や財務相級の会談など、フィッシャー氏は過密なスケジュールをこなしていた。







    ゴホッ! ゴホッ!






    ____________参ったな。


    今日に限ってこの体調とは・・・・・・。














    フィッシャー氏が大臣に着任して間もなく、財務省内で大臣と事務次官の暗闘が勃発した。





    IMFの資金不足問題に備え、フィッシャー氏は一千億ドルもの融資を計画していた。
    その為、財務省やジャポン中央銀行に対して、すぐに資金の準備を指示したのである。







  22. 22 : : 2015/09/13(日) 18:44:33








    そこまではすこぶる良かったのであるが、そこから先がまずいことになってきた。
    というのも、折からの不況に、財務省や中央銀行は“そんな大金は出せない!”といってきたのである。













    以前よりラルフ首相は、この経済危機を乗り切るために、公共事業発注を柱とした財政出動を積極的に推し進めてきた。
    これによって雇用を生み、お金を撒くことによって経済を活性化させる。


    不況の時の経済再生策としては正解であり、とにかくお金の周りを良くしなければ不況は脱出できない。









    だが、野党はこれを“ばらまき”財政だといって非難し、“コンクリートから人へ”なるスローガンを掲げて、如何にも人道的な非難をしたのである。





    必要な公共事業を削ればどうなるか・・・・・・。
    それは、日本という国で起こった、先の大洪水の例でも明らかである。




    必要だった堤防を作る公共事業が行われず、被害は大きくなった。
    コンクリートの軽視は、つまるところ、人命の軽視にもつながる。




    頭の中までお花畑な野党どもにはそれが分からないのである。










    更に悪いことには、マスコミもこれに乗っかって、与党は“コンクリートの利権を守りたい”だの“人命を軽視している”だのと浅はかな主張を並べ立てた。










    結果として内閣の支持率は30%を下回り、ラルフ政権はレーム・ダック――――――――即ち死に体になっていた。

    そんな中で一千億ドルの出資は、求心力の低下した今の政権には非常に困難なものだったのである。









    何度も何度も会合を重ね、折衝を重ねて、フィッシャー氏は何とか出資の話を纏めた。








    もちろん、この話を面白く思わないものも多く、事務次官であるレーンホフ氏はその急先鋒であった。



    フィッシャー氏に押し切られ、敗北を喫した彼は、このことを深く根に持った。
    そして、何食わぬ顔をしてレーンホフ氏はこの経済会合へ、大臣と共に同行したのである。










    幾重にも重なった緊張状態の中、今後の世界の政局を決める、G20経済会合は幕を開けた。









    ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇






  23. 23 : : 2015/09/13(日) 18:46:03








    ※以下は、非公開となっていたG20経済会合の議事録の一部である。
    これは後日、メディア向けに一般公開された。









    ブッシュ、米大統領:さて、ランチタイムは終了した。これからまた舞踏会といこうじゃないか?



    ベルルスコーニ、伊首相:“会議は踊る。されど進まず”ということですかな?



    (笑い声)



    フィッシャー、ジャポン財務相:相変わらずのユーモアですな。



    ブッシュ、米大統領:あなたの皮肉ほどは鋭くはありませんがね。



    フィッシャー、ジャポン財務相:ゲホッ! ゲホッ! 失礼・・・・・・さて、昨今の経済危機を見るに、その原因は一体何だったか?
    我々の分析では非常に多くの不良債権を抱えた、アメリカの体質そのものだったと見ています。



    ブッシュ、米大統領:ふむ・・・・・・。



    フィッシャー、ジャポン財務相:返してもらう見込みのない貸し付けをし過ぎたアメリカは、今や財政がひっ迫しています。ですが、我々は今回、アメリカを助けない(・・・・)
    アメリカの不良債権は、自国で処理できるものと考えます。



    (しばらくの沈黙。)



    フィッシャー、ジャポン財務相:もし、我々の考えに賛同していただけるなら、ジャポンはIMFに一千億ドルを融資する準備があります。



    サルコジ、仏大統領:なんと!?



    ストロカーンIMF専務理事:それは本当ですか!? ミスター・フィッシャー!?



    フィッシャー、ジャポン財務相:ええ。アメリカはかつての、資金を大量に世界へばら撒く外需型経済から、内需型経済へ転換を図るべきなのです。



    サルコジ、仏大統領:・・・・・・フランスは反対だ。



    フィッシャー、ジャポン財務相:ほう?



    サルコジ、仏大統領:ドルは最早基軸通貨としての力を失った。ジャポンの対応は付け焼刃にすぎん。



    温家宝、中国首相:中国も反対である。ジャポンの対応は我々の利益に沿わない。



    フィッシャー、ジャポン財務相:ゲホッ! ゲホッ! ・・・・・・では、もし数多くの発展途上国が破綻したとして、その負債処理をアメリカ以外が背負いきれますかな?
    アメリカもIMFも資金不足で対応しきれないというのに?



    (しばらくの沈黙。)



    サルコジ、仏大統領:・・・・・・・・・・・・我々に、そのような覚悟は無い。



    温家宝、中国首相:・・・・・・。



    ブッシュ米大統領:・・・・・・・・・・・・結論は、出たようですな。



    ストロカーンIMF専務理事:ジャポンの対応に感謝の意を表明します。これで、世界経済の破綻は避けられそうです。









    ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇





  24. 24 : : 2015/09/13(日) 18:47:25









    ゲホッ! ゲホッ!!


    大仕事を終え、フィッシャー氏はホテルのソファーに深く身を沈めた。










    解熱剤を通常の倍は飲み、抗生物質も飲んではいるものの、過労状態のフィッシャー氏の体調は悪くなる一方であった。


    まぁそれも・・・・・・後はジャポン向けのマスコミ会見が終わればすべての日程は終了だ。









    すると、ドアをノックする音が聞こえてきた。






    「失礼します。」


    入ってきたのは、レーンホフ事務次官であった。



    レーンホフ氏はすっかり感動した様子で、フィッシャー氏に話しかけた。









    「本日の会合、私、すっかり感服いたしました。」

    「そうか・・・・・・それは・・・・・・よかった・・・・・・。」

    「さて、もう一仕事ですぞ、大臣。記者会見が残っています。」

    「いかなくては・・・・・・な・・・・・・。」








    事務次官が大臣に手を差し伸べる。
    ぼやける頭に鞭をうち、ふらつく体を持ち上げて、フィッシャー氏は、ホテルの部屋を後にした。











    ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇






  25. 25 : : 2015/09/13(日) 18:48:02










    ____________大臣の様子が明らかにおかしい。










    ガルボ・ホライズンは、記者の一人としてこのG20に同席していた。
    そして、最後の予定であったジャポン向けの記者会見において、フィッシャー氏は受け答えもままならない様子であった。









    「あの~~~・・・・・・、ふぅ・・・・・・。」








    ろれつが回らず、いつものような、機知に富んだ切り返しが微塵も見られない。
    そんな大臣の様子に、記者たちも困惑していた。









    私は、隣に座っていたレーンホフ事務次官のその時の顔を、今でもよく覚えている。







  26. 26 : : 2015/09/13(日) 18:50:04









    一瞬だ。
    一瞬だった。




    だが・・・・・・・・・・・・




















    彼は、僅かに・・・・・・笑っていた。









    だが、私には、その意味するところが分からなかった。







    少なくとも、その時は・・・・・・。









    ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇






  27. 27 : : 2015/09/13(日) 18:50:37









    翌日の記事の見出しを見て、私(ガルボ氏)は大いに驚いた。










    『居眠り大臣、朦朧会見。』



    フィッシャー氏は飛行機の中やレセプションにおいて酒を飲み、朦朧とした状態で会見に臨んだ。
    ろれつの回らない状態で、ジャポンは世界に大きな恥をさらした。










    ワイドショーも、新聞も、フィッシャー氏を非難する論調で溢れかえっていた。
    この時、私は事務次官の笑みの真実を知った。










    彼の体調が万全ではなく、既に限界が来ているのを知って、レーンホフはあえて記者会見に臨ませたのである。







    記事の端をよく見ると、フィッシャー氏が抗生物質や解熱剤を服用したという一日の流れが乗ってはいた。



    だが、見出しを見るとまるで酒に酔って朦朧とした状態で会見に臨んだかのように記事が書かれている。
    そのくせ、彼がG20で成し遂げた偉業については何一つ触れていない。









    ――――――――極めて悪質な偏向報道であり、私は思わずその新聞をビリビリに破いてしまった。





  28. 28 : : 2015/09/13(日) 18:51:14







    記事は事実以外を書いてはいけない。





    私はすぐにでも、レーンホフのことを記事にしようと考えた。
    だが、パソコンに向かって原案をまとめ始めたときに気が付いた。









    ____________私が書こうとしていることもまた、憶測に過ぎない。










    テレビや新聞は、連日、フィッシャー氏の責任を追及する記事で溢れた。
    議会においても、フィッシャー氏の辞任を要求する野党のヤジは止まなかった。







    さらに、野党は“もし、このままフィッシャー氏が大臣を続け、ラルフ首相が総辞職しないのであれば、我々は審議を拒否する。”とまで言い張った。




    補正予算を通すためには、野党の協力が必要であった。
    最早、選択の余地はなかった。











    10月25日。


    ラルフ首相は総辞職を決断した。






    世界経済の破綻を防いだというのに、その報酬は、非難の大合唱と総辞職――――――――勝者に報酬はなかったのである。








    ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇






  29. 29 : : 2015/09/13(日) 18:52:07







    10月31日。
    ハロウィーン。








    「トリッツ・オア・トリート!」

    「来たな!? 少し待ってろ!?」






    毎年のように来る子供達のために、私はお菓子を用意していた。







    その子供たちの中に、私は、ある少女がいることに気が付いた。







    「おや? 君はエルムちゃんだね?」

    「おじちゃん! 私は今は幽霊だよう!」








    まだあどけない、当時五歳だった少女。
    ぷくっと頬を膨らますエルムに、私は思わずこんな声をかけた。






    「おじいちゃんは元気にしているかい?」

    「う~ん、元気!」






    少しためらったように、エルムは首をかしげた後、元気よく言った。






    「そうか・・・・・・おじいちゃんによろしくね!」

    「うん!」







    お菓子を貰ったエルムは、他の子供たちと一緒に、意気揚々と他の家へと向かっていった。






  30. 30 : : 2015/09/13(日) 18:52:35












    フィッシャー氏が亡くなったのは、その日の夜のことであった。



























    自殺だった。



    自室で首を吊っているのを、マルタ夫人が発見した。












    遺書にはこうしたためてあった。



    “全責任は私にある。本当に、申し訳なかった。”と・・・・・・。













    ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇








  31. 31 : : 2015/09/13(日) 18:54:38


























  32. 32 : : 2015/09/13(日) 18:54:48










    あれから既に、25年が経った。


    あんなに幼かったエルムが、次の下院選に立候補するという話を聞いた。
    おじいちゃんの葬儀で涙を流した少女も、既に30歳を過ぎ、立派な一児の母であった。









    奇しくも選挙の日は、10月31日。
    祖父エドムント・フィッシャーの、命日である。











    その前日に、私はエルムを自宅に訪ねた。


    リビングのテーブルには、作りかけのジャック・オー・ランタンが置いてあった。
    どうやら、エルムと娘のアリスが手掛けているらしく、あの時と同じように、お鼻がハートの形をしていた。







    「なぁ、なぜエルムは毎年、ジャック・オー・ランタンを手作りするんだい?」







    ふと思ったことを私は口にした。
    すると、エルムは微笑んで答えた。







    「ハロウィーンは元々、先祖の霊を招来し、悪霊を追い払い、秋の豊作を祝うお祭りなんですよ?」





  33. 33 : : 2015/09/13(日) 18:55:37







    その一言を聞いて、私は彼女が何を考えているのかが分かった。
    野暮なことを聞いてしまった。




    この日は彼女にとって、特別な日なのだ。















    私はまた、作りかけのジャック・オー・ランタンを見た。















    ・・・・・・微笑んでいる。



    そんな気がした。








  34. 34 : : 2015/09/13(日) 18:56:29
    以上で終了であります。


    何だか上手く書けなかったのですが、初めてのオリジナルストーリーということでご容赦くださいませ。

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hymki8il

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