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卒業ゲーム

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  1. 1 : : 2015/03/20(金) 23:32:42



    「おかえり」




    母はそう言って、いつもどおり私を玄関で迎えてくれる。

    3月9日の今日、卒業式を明日に控えた私は、特に仲の良い訳ではない母に挨拶をすることなく自室に向かった。


    これが赤城家では普通。

    母子家庭で育った私にとっては、小さい頃から仕事で毎日母がいなかったため、自然とそのような会話の成り立たない親子の関係になってしまっていた。

    私が幼い頃、母は父とは離婚したらしいが、そのおかげで私は今でもこんな見窄らしいアパートでの生活を与儀なくされている。

    そんな状態で、母親と仲良くなれというのはなかなかに難しいことだろう。


    彼女が毎日毎日一生懸命パートで働いているのは知っている。

    だが、夜遅くに男の香水の臭いをつけて帰ってくることもしばしばあり、それが私の母親嫌いを一層強くさせた。




    「はあ」




    私はそう言ってベッドに寝転ぶ。

    特段疲れた訳じゃないけれど、さすがに明日高校の卒業と思うと正直悲しい。

    私、赤城夢真(あかぎゆま)が通う私立梅ヶ丘高等学校の偏差値は低い。

    まあ、私自身が頭が悪く自分で決めた高校なのだから、文句をつける等ということはないが。


    仲の良い友達はもちろんいるけれど、別に顔や性格が良い方ではないから彼氏とは無縁の生活だったし、そこに輝かしいと言われる高校生活はなかった。


    いわゆる、普通の、めだたない女子高生。

    私の印象は、そんな感じだ。




    その時私の携帯から音がする。


    「……ん?」


    開いてみるとそこには、宛先人不明のLINE連絡が。



    「なに……これ……」



    私の背筋が一瞬ブルッ、となった。

    名前も書いてない名無しからのLINE。
    普段の私なら開くことはなかっただろうが、『不気味な』文字が表示されていたため、なんとなくそれを興味本位で開いてしまった。

  2. 2 : : 2015/03/20(金) 23:34:22







    卒業ゲームへ、ようこそ






  3. 3 : : 2015/03/20(金) 23:37:51
    期待!
  4. 4 : : 2015/03/20(金) 23:45:24




    「卒業……ゲーム……?」



    なんだろ。これ。

    はっきり言って気持ち悪い。
    名無しからのLINEという時点で気持ち悪いが、内容もそれだけだ。

    『卒業ゲームへ、ようこそ』と書かれた後には、これまた奇妙なURLが貼り付けてある。

    wwwから始まるものではないから、普通に考えてどこかの危ないサイトへ飛ぶというという心配はないと思うが……


    「……なんか、怖っ」


    私は一度、携帯から目を離す。

    考えてみれば、色々な点がおかしい。
    まず、LINEというのは普通『知り合い』でもない限り不本意に送られてくるものではない。

    電話番号通知とかアドレス登録だとか、そんなもので共有はできたりするらしいけど、私は『目立たない一般の女子高生』であり、友達の登録も10数人しかいないのだ。

    ましてや他の友達がよくやっているツイッターとかフェイスブックも私は登録してないし、『普通は誰かに気づかれるはずはない』のである。


    とはいえ、世にはこういう手口で人を騙してお金を巻き上げる連中がいるというのは聞いたことがあるけれど。


    まあ、触れぬが吉。

    何故送り主が「私が明日卒業を控えている女子高生だと分かったのか」は深く考えずに、携帯をしまう、つもりだった。



    ピンポン



    が、続いてLINEの着信音が鳴る。

    気になる。

    正直、気になる。


    卒業を明日に控えた私にとって「卒業」というフレーズを連想させられると、何故か幾多にも想像が膨らむ。

    もしかしたら憧れのクラスのアイドル男子が、卒業前に勇気を出して私に無名でLINEを送って来てくれたんじゃないか、とか。

    いや、そういう淡い期待はこれっぽっちも持っていないのだけれど、私も乙女の一人。

    そういった可能性があるのなら、やはり開いてみたいと思うのが乙女の性である。


    私は恐る恐る、再び携帯のLINE画面を開いた。



  5. 5 : : 2015/03/20(金) 23:48:21




    『コングらっちゅレーション』


    おめでとうゴザイマス


    「赤城夢真」サン


    アナタハそつぎょうゲームの該当者とナリマシタ


    参加ぼたんをクリックしてくだサイ



    【参加する】

    【参加する】



  6. 6 : : 2015/03/20(金) 23:51:44




    「……はあ?」



    ……バカらしい。

    少しでも淡い想いを抱いた私が馬鹿だった。

    あーあ。結局これどっかのサイトへの勧誘じゃない。
    参加するをクリックって。
    参加する、しかクリックボタンないし。


    あれ。



    でもどうして、私の名前がフルネームで書かれてあるんだろう。

    私のLINEニックネームは【ゆまっち】なのに。

    どうしてこの送り主は、私の名前を知ってる……?



    ピンポン



    再びLINEの着信音が鳴る。

    なんで?

    別に私、参加するボタンなんて押してないのに__



  7. 7 : : 2015/03/20(金) 23:56:27


    恐ろしさもあり疑問に思う点もあったが、何か嫌な予感がしたので、私は再びLINE画面を見た。




    「え……!」



    そこには




    『参加する』をクリックしないと、貴方の大事な人が殺されます




    と書かれた後




    「嘘……!」




    紛れもなく、私がいつも家で見ている母が


    どこか暗い部屋の中で、口に猿轡をつけさせられ、ロープか何かで手足を縛られている写真が載せられていた




  8. 8 : : 2015/03/21(土) 00:04:20




    「なんで……え……? だって……さっき……!」



    私の首筋にじわじわと汗が噴きでてくるのが分かる。

    お母さん……!

    気付けば私は鈍臭いその体をベッドから起こし、自室のドアを開け母を呼んでいた。



    「お母さんっ!?」



    ____返事はない。

    嘘だ。

    だって私が帰ってきて自室に入ってから、10分も立っていない。

    その時間で母親は誰かに攫われたっていうの?



    「おかあさーーーん!!」



    私は珍しく、母の名を連呼する。

    しかし、母からの返答はない。

    私はあまり母を好きではないけれど、母は流石に一人娘の私が呼べばすぐに返事はしてくれる。



    しかし、その返事は帰ってくることはなく、アパートの全ての部屋を見回ったが母の姿はないのだ。



    「え……? 嘘でしょ? ね、ねえ! お母さん!」



    それでも返事はない。

    その代わりとしてなのか、今度はリビング内で再び私の携帯が




    ピンポン




    と鳴り響いた。



  9. 9 : : 2015/03/21(土) 00:08:09


    「っ……!」



    嫌な予感がする。

    とても嫌な予感がする。

    逆に聞きたい。こんな状況で良い予感がする人がいるのだろうか。



    リビングのテレビはつきっぱなしであり、キッチンには母が料理をしていた形跡はある。

    だが母は、どこにもいない。



    「……なによぉ……」


    不安。

    凄く不安。

    いつもならうざいくらい、どこかへ行って欲しいと思っていた母。
    その母のことを、今ほど近くに居てほしいと思ったことはない。


    誰でもいいから側にいてほしい。できれば母がいいけど。

    この不安な衝動をどうしても解消したくてたまらない。
    LINEを見るのが怖い。



    しかし、母のことが気がかりだった私は



    「う……」



    再び携帯のLINE画面を確認した。




  10. 10 : : 2015/03/21(土) 00:09:43






    サガシテモ、お母さんは、いません





    『卒業ゲーム』に、参加してクダサイ



    【参加する】

    【参加する】

    【参加する】

    【参加する】【参加する】

    【参加する】【参加する】

    【参加する】【参加する】

    【参加する】【参加する】

    【参加する】【参加する】

    【参加する】【参加する】

    【参加する】【参加する】

    【参加する】【参加する】

    【参加する】【参加する】

    【参加する】【参加する】

    【参加する】




  11. 11 : : 2015/03/21(土) 00:14:18




    「いやぁああっ!!」



    私は咄嗟に携帯を地面に投げつけた。



    怖い。怖い。


    怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い。


    なにこれ。なにこれなにこれなにこれなにこれ!


    おかしい。おかしい!



    どうして私がお母さんを探していることを知っているの?
    どうして私の名前を知っているの?
    どうして【参加する】しかクリックするものがないの!?



    「う……うう……」


    気付けば私の目には涙が溢れていた。

    今まで犯罪とか危ないことには無縁だったし、これからもそんなことは起こると思ってなかった……


    でも、何……!?
    なんなの!? これは!










    《参加するの? しないの?》






    突然、リビングでついていたテレビから声が聞こえる





    「えっ!!」





  12. 12 : : 2015/03/21(土) 00:21:37




    《やあやあやあ》



    そこには

    ピエロがいた。

    テレビの中のピエロが、私に向かって?声をかけている



    「何……なんなの……なんなのよっ!!」



    私は発狂するしかない。

    怖い。怖い。

    ピエロは作り物のおもちゃなのか、その目をギョロリとさせ、視点を私に向け話しかけてくる。




    《あかぎ・ゆま・さん》



    《お母さん、殺されたくないよね?》



    ピエロは私の名をはっきりと呼んだ。

    それに、『お母さん』とも。




    「う……!」



    私は恐怖からなのか、涙を流しながらその場のリビングにへたりと座り込んでしまった。

    このピエロのバックには黒い背景しかないし、そこがまた怖い。

    そして声も変声機を使っているのか、ダミ声で男か女なのかも分からない。


    ただ一つだけ分かることは。


    私の名を知っていて、参加するか否かを問うたことから、母を拘束しているのが『こいつ』だということ。




    《ワキャキャキャキャ、ワキャッ!?》



    「ひっ!」



    ピエロは体を震わせながら笑い声を上げる



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