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白句淡苦

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  1. 1 : : 2015/02/14(土) 00:14:22





    淡い雪のように─────────





    ふわり、ふわりと重なっていく─────────





    でも。





    彼の瞳に映るのは───────────







  2. 2 : : 2015/02/14(土) 00:17:54

    2月14日。


    窓の外には淡雪が降っていた。


    クラスの男子は積もる積もらないなんて子供みたいなことではしゃいでいる。


    でも時々、そわそわしながら女子を見ている人もいる。


    それもそのはず、今日は知っての通りの一大イベントだから。



    ───────バレンタインデー。



    これは私のかけがえの無い、大切な冬の記憶。


    甘く、ほろ苦い、物語。
  3. 3 : : 2015/02/14(土) 00:28:29

    事の発端は去年の春だ。


    私が高校に入学してから2ヶ月が経った頃、彼と出会った。


    もともと私は内気な性格で誰とでも話せるような明るい人柄じゃなかった。


    それに見た目もメガネで、髪も長い。


    一言で言ってしまえば『地味』。私を表すにはピッタリな言葉だ。


    もちろん女子はともかくとして男子なんて関わり合いになる事もほとんど無かった。


    だが運命の悪戯とは良く言ったものだ。

  4. 4 : : 2015/02/14(土) 00:33:34

    入学してから2ヶ月といえば梅雨真っ盛り、その日も大雨が降っていた。


    だが悲しいかな、私は天気予報を鵜呑みにしてしまうタイプの人間で朝晴れてた事もあり見事に傘を忘れてしまった。


    下校時にはもちろん土砂降り、家までだって歩いて数分なんて距離ではなかった。


    仕方なく下足棟で雨宿りをする事にした。


    雨が止むだろうという考えは無かったが仲の良い女の子が校内にいる事は把握していた。


    あわよくば傘に入れてもらおうという魂胆だった。


    だがその計画は思いがけないカタチで崩れ去ることとなる。


    「……なぁ、そこの人」


    不意に後ろから声をかけられた。
  5. 5 : : 2015/02/14(土) 00:38:35


    「ひゃいっ!?」


    今思い返しても顔が熱くなる。


    急に声をかけられてあまりに驚いた私はとても変な声を出してしまったのだ。


    「うわっ!?あ、お、驚かせてごめんな?」


    「いっ、いいいいやいやいや!こちらこそっ!?」


    ……悲しい。


    今まで男子から話しかけられる経験なんてほぼ全くと言っていいほど無かった為にどう反応していいか分からなかった。


    その結果がこれだ。


    本当に穴があったら入ってそのまま生き埋めになりたいくらいの気分だった。


    まともに前すら向けない、そんな状況だった。


    「………ははっ、アンタ面白いな」


    笑われた……。


    その時の私は物凄い顔をしていたと思う。


    恥ずかしさを通り越して何かもう凄い顔だっただろう。

  6. 6 : : 2015/02/14(土) 00:45:23


    「そっ……それで、何か……用、ですか?」


    しどろもどろしながらもどうにか最後まで言い切った。


    ここら辺で私の満足度はマックスで最高にハイだった(?)。


    そう言うと彼は手に持っていた傘を私に押し付けた。


    「これ、困ってるみたいだから」


    「そ、そんな!悪いよ!」


    名前も知らない男子から傘を借りるなんて申し訳なさしかなかった。


    その上、この大雨である。傘を渡せば彼も帰れなくなってしまう。


    「いーからいーから!今度返してくれれば大丈夫だからさ!そんじゃな!」


    彼はそう言い残すとカバンを傘替わりにして走り去っていってしまった。


    私はしばらく呆然としていたが、しばらくしてから彼が貸してくれた傘をさして帰った。


    傘には『冬弥』の二文字が書いてあるシールが貼られていた。
  7. 7 : : 2015/02/14(土) 00:52:36


    それから数日の間、私は彼に傘を返しに行こうと何度も彼を探した。


    だがいくら探しても彼の姿は無く、ほとほと困り果てていった。


    だいたい彼に関する情報は『冬弥』という名前だけ、見つからないのも無理はない。


    そのまま返せない日々が続いていった。


    が、ある日の事。


    なんと彼の方から出向いてくれたのだ。


    実は彼の友達が彼に『お前の傘を持った女子をここ最近いつも見るんだよな』と言ったそうだ。


    正直、見られていたと思うとかなり恥ずかしい。


    傘を持ってうろうろする私はさぞ怪しく挙動不審であったことだろう。


    「悪いなー、気づけなくて」


    「い、いやそんな事ないよ。傘、ありがとう」


    「いやいや、これくらいどうってことないさ」


    彼は笑顔でそう答えた。

  8. 8 : : 2015/02/14(土) 01:01:53


    恐らくこの時点で私は彼に恋していたんだろう。


    まだ気付いてなかっただけであってもう既に心は彼に傾いていた。


    「わざわざ悪かったな!んじゃ!」


    「あっ、ちょっ、ちょっと待って!」


    立ち去ろうとする彼を私は思わず呼び止めてしまった。


    彼は止まってくれたが思わず呼び止めただけで特に何か用があったわけじゃない。


    私は急ピッチで次の言葉を考える。


    「えっ……えーと、何か好きなお菓子とか……ある?」


    咄嗟に出た言葉はそれだった。


    これならば彼にお返しがしたいと言えばおかしな点は存在しない。


    「好きなお菓子……?そうだな、チョコレートとか甘い物は何でも好きかなー」


    「そ、そっか!ありがとう!」


    チョコレート……チョコレート……私は心のうちで忘れないようにとその言葉を反芻する。


    「おう!……っと、自己紹介がまだだったよな?俺は伏見 冬弥(ふしみ とうや)。お前は?」


    「あっ、えっと……松谷」


    そこまで言いかけたところで向こうから彼の友達が彼を呼んでいる声が聞こえた。


    「あっ、わりぃ!俺急がねーとだったんだ!えーっと松谷、さん?よろしくな!じゃあまた!」


    そう言って彼は走り去って言った。


    「……松谷 桜(まつたに さくら)ですぅ………」


    1人取り残された私は誰にいうでもなくそう呟いた。
  9. 9 : : 2015/02/14(土) 01:08:02



    後日、私はお返しの意味を込めて彼が好きだと言ったチョコレートを作ってきた。


    もちろん彼に渡す。


    この間、名前を言えなかった事もあり桜色のチョコレートにしてみた。


    さあ、渡そう!と、思ったが彼はなかなかに捕まらない。


    基本的に同じところに留まる事は無く、常に違うところにいる。


    おかげで渡そうとしてもなかなかチャンスが無い。


    そんな風にしていると昼休みにとうとうチャンスが来た。


    廊下を1人で歩いていた彼を呼び止める。


    「ん?あぁ、松谷さん。どうしたの?」


    「あの……これ、こないだのお返しで……チョコレート、好きって言ってたから」


    そう言って彼に手渡すと彼は非常に驚いたようだった。


    「うっそ、わざわざ作ってくれたの!?傘くらい何時でも貸すのに……悪いなぁ」


    「き、気にしなくていいんだよ。私が好きでやってるだけだからさ」


    そう言うと彼はまだ遠慮がちだったがちゃんと受け取ってくれた。

  10. 10 : : 2015/02/14(土) 01:16:38


    「良かったら……食べてみてくれないかな?もし口に合わなかったらあれだから……」


    そう言うと彼はわかった、と言い桜色のチョコレートを口に放り込んだ。


    「……美味い!!うわ、なんだこれ超美味いぞ!?すっげえ!!」


    そんな風に彼は最高の言葉を言ってくれた。


    嬉しさのあまりに思わず飛び跳ねたくなる、普段内気な私がそこまでなるのは滅多にある事ではない。


    「それに、この桜色?かな?良いよな、綺麗だし」


    その瞬間、私はドキッとする。


    そうだった、彼は私の名前を知らないんだ………。


    そこまで来て私は少しだけ、ずるい考えを思いつく。


    たとえ、私の事じゃなくても……私は思わず彼に聞いてしまった。


    「あの………」


    「ん?どした?」


    彼は不思議そうな顔で私の顔を見る。


    顔を見られると条件反射的に赤くなってしまうのは困ったものだ。
  11. 11 : : 2015/02/14(土) 01:24:35


    「伏見くんはさ………『桜』、好き?」


    それは私じゃない。私じゃないけど、私じゃないけど、それでもその言葉が聞きたかった。


    「桜って……あの春に咲く?」


    私は紅潮した顔を隠すように俯き気味に頷いた。


    彼はしばらく考えるようにしてから、こう言った。



    「うん……俺は好きだぜ、『桜』。綺麗だし、なんていうか優しい感じがする」



    ────────俺は好きだぜ、桜。


    思わず顔が綻んでしまう。


    止めようとしても、必死に顔を取り繕おうとしてもニヤニヤが止まらない。


    嬉しい、嬉しい、嬉しい!


    私は今にも天へ昇っていきそうな気持ちだった。


    「そ、そっか……えへへ。私も桜、好きなんだ」


    桜なんて名前、私みたいな地味で花の無いような奴には不相応だとずっと思ってきた。


    だから正直、名前が好きじゃなかった。もっと私らしい名前が良かったと何度も思った。


    でも今は違う。心からこの名前でよかったと感じる。


    その後の午後の授業も家に帰ってからも私は彼の言葉をずっとずっと繰り返していた。


    何度も、何度も─────────


  12. 12 : : 2015/02/14(土) 09:40:27


    それから彼と知り合って私の世界は一変した。


    彼と仲の良い男子や女子、色んな人と知り合うことができた。


    退屈だと思っていたモノクロの高校生活に、一気に色がついたのだ。


    毎日が楽しかった。皆で笑いあえるようなそんな毎日が何より愛おしかった。


    そして、彼に対する恋慕もどんどん募るばかりだった。


    夏が過ぎ、秋が過ぎ、冬が来る。


    私はとっくに彼の事が好きなんだって気付いてた。


    だから、だから、伝えようと思った。


    私の、1度目のあの日に。


    ───────でも、出来なかった。


  13. 13 : : 2015/02/14(土) 16:36:32


    私はもう1度、桜色のチョコレートを作った。


    もちろん彼に渡すために。


    あわよくば告白しようとまで思っていた。


    正直、ここまで他人を好きになれるなんて思いもしてなかった。


    彼に会ってからは何もかもが新鮮で、世界が違う色に見えていた。


    今までの色褪せたモノクロの世界は何だったのだろう、こんなに世界は美しかったのに何で知ろうとしなかったのだろう。


    それほどまでに彼は、私にたくさんの事を教えてくれたのだ。


    だから、好きになった。


    心から好きになった。


    だけど、ただそれだけだった。


    私が彼を好きになった、それだけだった。
  14. 14 : : 2015/02/14(土) 16:44:05


    その日、下足棟で私は彼を待っていた。


    手にはチョコレート入った小さな包み紙。


    今か今かと、その時を待っていた。


    でも、私を待っていたのは思いもよらぬ光景だった。


    「……………えっ………?」


    私の目に入ってきたのは彼と、彼や私とも仲の良い女の子だった。


    楽しそうに帰っていく2人が目の前を通り過ぎていくのがとても長く感じれた。


    声も出ない、足も動かない。


    ただぽとり、と小さな包み紙が落ちていった。


    それは初めて経験するような喪失感、心にポッカリと大きな穴が空いたような感覚。


    口の中に、苦い苦い味が広がる。


    何でそんな味が広がったのかは明確には分からない。


    ただそれが、初めて味わった恋の味だという事だけは分かった。


    ほろ苦いなんて物じゃない。


    ただひたすらに苦い、美味しくも無い。


    知りたくなかった、味だ。


  15. 16 : : 2015/02/14(土) 16:52:17


    悲しいとか、寂しいとか気持ちは無い。


    ただそこには空虚な穴があった。


    私の……思い上がりだったんだ。


    私には彼しかいなくて、彼にも私しか見えてない。


    そんな醜く恥ずかしい思い上がり。


    ただひたすらに自分が嫌だった。


    圧倒的な自己嫌悪、それが止むことはなかった。


    机の上に置かれた桜色のチョコレート。


    今でも彼の言葉が蘇る。


    でもそれは私に言ったんじゃなくて、桜が好きだと言っただけで、それで喜んでいた私はなんて愚かなんだろうって。


    「何が……桜色のチョコレートよ……っ!」


    小さな包み紙を持って放り投げようとする。


    だが、出来なかった。


    私の中に残る彼の言葉がそれをさせてくれないのだ。


    逃げることも、消してしまうことも出来なかった。


    「……どうしろって……言うのよ…………」


    私は膝を抱えて、ただ泣いていた。



  16. 17 : : 2015/02/14(土) 17:01:43


    次の日、私は屋上にいた。


    もちろん自殺なんかじゃないよ?


    彼と、話をしたかった。


    下駄箱に手紙を添えた小さな包み紙を入れて彼が来るのを待った。


    来なくても良い、それならそれで踏ん切りがつく。


    だが、彼は息を切らせて来てくれた。


    手紙と包み紙を手に持って。


    「ごめんね、わざわざ来てもらって。寒いしすぐ終わらせるから」


    私は笑顔で彼に語りかけた。


    「……私ね、初恋だった。恋をしてから今まで見えてなかったモノが、色が、人が見えた」


    「凄く楽しかったよ。こんな高校生活、去年の私は想像もしてなかった」


    彼は何か言いたいのか、口を動かしている。


    でも言葉にならないみたいだった。


    そりゃそうだよ、彼は国語が苦手なんだもの。


    こんな時に気の利いたセリフが出るような人じゃないってわかってる。


    私はそんな彼を見て、とびきりの笑顔でこう言った。






    「……ありがとう。今までずっと、好きでした」





    ふと、頬に冷たいものがあたった。


    雪だ。


    ふわりふわりと降って、落ちたら消えてしまう。


    そんな、淡い雪が降っていた。





  17. 18 : : 2015/02/14(土) 17:09:28




    私の物語はこれでおしまい。


    今思えば一瞬一瞬が大切な思い出だった。


    想いが届く事は無かったけど、私達は大切な友達という縁で結びついている。


    今も好きか、と言われたら否定は出来ないかもしれない。


    でも私は今のままで、今のままが良いと思う。


    思い出は心の中に、想い出は心の中に。


    心の中でこれからの私をずっと支え続けてくれるだろう。


    2月14日、バレンタインデー。







    桜の芽は来るべき春を、ひたすら待ち続けている──────








    fin
  18. 19 : : 2015/02/14(土) 17:10:47



    今年のバレンタインデーはとても切ないです。

    読んでいただき、ありがとうございました。
  19. 20 : : 2015/02/17(火) 11:09:07

    恋する少女の心情がとても丁寧に描かれていて、忘れかけていた思いに心が洗われた気分です。
    ベルさんの作品は清潔感のある清々しい文体というイメージでしたが、この作品はそれにぴたりとはまってるな…と思いました。
    ちょっと独特の語り口で書かれていた「狭山渓谷」のお話しも水墨画のイメージで好きだったのですが(笑)
    長文失礼しました。なかなかお伝えする機会が無かったもので…(;^_^A
    これからも陰ながら応援しております。
  20. 21 : : 2015/02/17(火) 18:24:07
    >>20
    うぉ…お褒めに預かり光栄です。
    月子さんにそう言ってもらえると自信になります、ありがとうございます!

    「狭山峡谷」もいつか満足出来る形でリメイクしようとは思って入るのですがなにぶん時間がなくて…σ(^_^;)

    ともかくこれからも期待に応えられるように頑張らせていただきますね!
  21. 22 : : 2015/02/17(火) 20:27:24
    うぅ……バレンタインなんて……バレンタインなんてッッ!
    桜さんの心理描写を地の文で上手く表現できていたと思うよー。
    年頃の女の子はフクザツ……
    さすがべるさん!
  22. 23 : : 2015/02/17(火) 22:00:19
    >>22
    年頃の女の子を上手く書けるむさい男って非常に怪しい雰囲気出ますよね

    ありがとうございます!
  23. 24 : : 2015/02/17(火) 23:04:13
    べるさん、、、
    これめっちゃいいですよ、、、
    桜好きって言われてニヤニヤするとことか最高でしたよ
    マジでよかったです。執筆お疲れ様でした!
  24. 25 : : 2015/02/17(火) 23:11:23
    >>24
    そんなそんなw
    大したことないですよw

    でもありがとうございます!
    実際に何処が面白かったか言ってもらえるのもありがたいです!
  25. 28 : : 2015/02/28(土) 21:55:22
    まさに甘くて少し苦い感じが伝わってきますね。
    地の文もふわっとした中に綺麗な文で綴られてとても良かったです。
    お疲れさまでした!

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