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桑田「ここ…何処だよ」

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  1. 1 : : 2015/02/08(日) 19:45:37
    白い部屋だ。中央にテレビが置かれその周りを

    囲むように九つの椅子が置かれている。部屋の

    中には二人の、制服姿の少女がいた。1人は黒

    髪のショートカットで、片手に狼の刺青をして

    いる。顔にはそばかすがあり、だがそれは彼女

    の素朴な可愛らしさを引き立てているようだっ

    た。もう一人は、腰まで届くほどの長い黒髪で

    女性なら誰もが羨むほどの綺麗な髪だ。そし

    て、俺はこいつを知っている。この国には知ら

    ない者などいないであろう…

    超高校級のアイドル…舞園さやかだ。
  2. 2 : : 2015/02/08(日) 20:41:04
    「舞園…なんで」

    テレビで見た舞園さやかは、顔は人形の

    ように整っており、すれ違ったら10人

    中10人は振り向くほどのかわいい顔

    だ。舞園の顔には、アイドルとしての威

    厳はなく、とても暗い面持ちだった。

    だが何故舞園がいる?

    家に忘れた物なのにいつまでも鞄の中を

    探すようにほんの少しの希望にすがるよ

    うに振り返る。シャワールームにあった

    死体、真夜中に来てくれとの誘いの手紙、

    襲いかかってきた舞園、手に持った包丁
    が舞園に刺さった感触。

    そしておしおきと称して行われた処刑。
  3. 3 : : 2015/02/08(日) 20:54:12
    野球のボールがもの凄い速度で自分に向かって飛んでくる。

    俺が投げたボールより、もっと速い。

    身体中にボールが当たり、骨が折れた感覚、体が潰れた感覚、

    そして、見ているだけで誰も助けてくれない二年間を共にした同級生達。
  4. 4 : : 2015/02/08(日) 21:05:34
    「うわあああああっ!!」

    猛烈な吐き気と共にその場に蹲る。

    それにどういうことだ。あいつらが同級生だと、コロシアイのときには無かった記憶に戸惑う。

    落ち着け、唯の勘違いだ。妄想だ。俺はあいつらのことなんて知らない筈なんだ。

    入学式、体育祭、文化祭…

    舞園に振られたこと…

    野球をもう一度やると決めたこと。

    全部妄想の筈なんだ。
  5. 5 : : 2015/02/08(日) 21:16:40
    「桑田くん、大丈夫ですか。」

    舞園の手が背中をさするようにして俺に近づく。

    「っ!触んな!!」

    舞園は怯えたようにその手を引っ込める。なんなんだよ。

    「お前が俺を殺したようなもんじゃねーか!何でお前が被害者面してんだよ、ふざけんな!」

    舞園に向かって怒鳴るようにして叫ぶ。

    「何で俺が死ななくちゃいけねーんだよ…。俺は、まだ…。」

    「ごめんなさ」


    「謝んじゃねーよ、俺はぜってーに謝んねーから」

    それに謝って済む問題なんかじゃねー。
  6. 6 : : 2015/02/09(月) 00:21:34
    期待です!
  7. 7 : : 2015/02/09(月) 03:05:32
    コメントありがとうございます!
    頑張ります!



    「人殺しのアイドルなんて初めて見たわ。」

    そういうと彼は部屋の端に行き横になった。疲れたのだろう。落ち着きたいのだろう。

    わかっていた。覚悟していた。こう言われることはわかっていたはずだ。それなのになぜ涙がでてくるのだ。
    自分で思うのと人から指摘されるのとは違う。わかっているつもりでいるだけだ。人殺しだ、私はもうアイドルには戻れない。

    でもあの時桑田くんが来なければ、桑田くんがもっと大人で逆上せずに戻ってくれたら。悪いのは私じゃない、桑田怜恩だ。こいつが私を殺したんだ。

    そう思ってしまう私自身にも、ひどく絶望して…。

    今まで全てを賭けて努力してきた、どんな嫌なことがあっても、アイドルという希望として、アイドルでいられるという希望を持って生きてきた私にとって、

    これ程絶望的なことは無かった。




  8. 8 : : 2015/02/10(火) 19:25:39
    ここに来た時に全て思い出した。

    希望ヶ峰学園で過ごした二年間。私が殺そうとしたのはその二年間を共に過ごした同級生だったこと。シェルターに入ったのは自分の意思だったこと。

    堪えられなかった。ひどく後悔した。

    泣いて、全部忘れたかった。

    壁にもたれ座って泣いた。ここには入口はない、出口もない。通気口もないのに息苦しさは全く感じない。だが精神的な苦痛からか、身体はずっと気怠いままだ。

    もしかしたら全部夢だったのではないか。そんな希望は持てない。夢にしては鮮明過ぎていた。それに夢だとしたらこの場所だ。異質な場所だ。

    どうして私はここにいるのだろう。おそらく死んだから。シャワールームで私は死んだんだ。いや殺されたんだ。仲の良かったクラスメイトの一人に。

    どうして殺された。私が殺そうとしたから。

    どうして殺そうとした。出たかったからだ。あの学園から。

    どうして学園から出たかった。私の仲間がどうなっているか知りたかったから。

    どうなっているかは知っていた。忘れてしまっていた。
    学園で生活することも自分で決めた。殺す必要なんてなかった。

    あの時の殺意は、不完全な覚悟は、全く必要のないものだったのだ。

    自問自答を繰り返し、絶望する。

    そうしてしばらくしていると、この部屋に変化が起きる。

    テレビだ。画面にノイズがはしり、映像が映し出される。
  9. 9 : : 2015/02/11(水) 16:33:29


    テレビに映されていたのは、希望が峰学園の体育館だ。

    残された生徒達は、まだコロシアイ学園生活の真っ只中なんだ。

    映された映像を観る。





    体育館に召集された超高校級の生徒達は、教壇の上に立つモノクマを見る。

    そこでモノクマが話したのは学級裁判の詳細。

    画面からは目を放さない。







    クロ以外は全員おしおき…


    さっきまでの私には、まだ希望が残っていたのであろう。意外に私も図太いようだ。

    私は、同級生全員を殺そうとしていた。片想いの人まで、自分の夢のために殺そうとしていたのだ。




    ここまで落ちたらこれより下はないんじゃないか。だがこの世界は私が思うよりも広い。それでも私以上に絶望的な人生もなかなかないだろう。


    思い出すのは今までで一番輝いてたあの時。
    戻りたいな、仲間と、あの舞台へ。




  10. 10 : : 2015/02/11(水) 16:46:19
    モノクマに、一人反抗する人がいた。
    江ノ島さんだ。…いや戦刃さんだろう。
















    校則違反で処刑される彼女は、ひどく驚いているようだった。
  11. 11 : : 2015/02/12(木) 19:08:07
    「え…ここ何処…。」

    白い…部屋だろうか。広くない、中央にテレビが置かれ、それを囲むかのように九つの椅子が並べられている。

    「舞園さん?」

    舞園さんはこちらの存在に驚いている様子で目を見開いている。こっちだって驚いている。

    「舞園さん、ここ何処か知ってる?舞園さんはどうしてここにいるの?」

    重いカツラはとれ、今の私はきっちりとした制服姿だ。これならコロシアイ学園生活のときのように石丸に注意されることもないだろう。


    そして、盾子ちゃんのフリを演じる必要もない。

    「脱落者ルームみたいなものだと思います、コロシアイ学園生活の。」





    「脱落者?え、どういうこと…」





    「私達は死んだんです。」






    「死んだならどうしてこんなところに私達はいるの?」





    「死んだから私達はここにいるんじゃないですか?」



    待って、意味がわからない。もしかして私は死んだの?
    いやもしかしなくても死んだのか。


    あの時私は無数の槍に刺されて死んだ。盾子ちゃんに裏切られて。



    私何かヘマしたかな。盾子ちゃんは私が要らなくなったのかな。それとも私のことを嫌いになったのかな。


    いや違う。盾子ちゃんが私を嫌いになるわけない。大好きだ、大好きに決まっている。大好きだから、愛しているから私を殺したんだ。



    嬉しいな、きっとこれも盾子ちゃんの愛情表現の一つなんだよ。愛してるよ盾子、たった一人の家族だもん。





    このために私は殺された。盾子ちゃんが盾子ちゃんの愛する人を失う絶望を味わうために。私に実の妹に裏切られ、殺される絶望を味あわせるために。




    だからって私は死にたくはなかった。




    私は盾子ちゃんの愛する絶望を、私も好んだ。だけど、こんな絶望を味わいたくはなかった。





    きっと、盾子ちゃんならこの状況にも悦ぶだろう。血の繋がった妹に殺されるなんて、なんて絶望的な状況だろう。





    私は盾子のお姉ちゃんなのに、全然似てないな。さすがにこれはキツいよ。



    自分の体が右も左も分からない、真っ暗な水の中に落ちたような気がした。 息ができない。


    そんな錯覚に陥りながら、私は絶望の中にゆっくりと溺れていった。



    思い出すのはあの男の子。どこまでも平凡なあの人は、この学級裁判をくぐり抜けることができるだろうか。







  12. 12 : : 2015/02/12(木) 19:55:09
    壁にもたれて座る。ここに危険はないだろう。舞園さんにも異変はない。

    こんなことを考えても無駄だろう。だからといって、習慣づいたこの軍人らしい癖を消すつもりはない。




    これは私が戦刃むくろであるということの証明だ。




    私が、唯一残念でない軍人としての能力。才能と言われればそれまでだが、私が軍人としてどれだけ過酷な場所で、どれだけ努力をしてきたか、その証明なのだ。

    私が残念だとしても、その分軍人としてレベルが高いならそれで良い。寧ろ日本の普通の女子高生の様な生活に私は規模は持っていない。戦場で、絶望する程過酷な場所こそが私の希望であり、絶望であり、私の人生だったのだ。


    私が生きていたのは日本ではない。あの戦場なのだ。





    日本にいた私にあった希望は盾子だった。残念にも希望を最も嫌う者に私は希望を持っていた。



    今の私に残されている希望はなんだろう。 残してきたのはコロシアイ学園生活という舞台。これは希望といっていいのかわからないけれど、私の好きな人は、






    どうか生き残れますように。


  13. 13 : : 2015/02/12(木) 21:05:36
    誤字すいません!



    誤→寧ろ日本の普通の女子高生の様な生活に私は規模は持っていない。

    正→寧ろ日本の普通の女子高生の様な生活に私は希望は持っていない。
  14. 14 : : 2015/02/13(金) 08:12:04
    >>13登録しないのですか?(登録したら修正出来ますよ?)
  15. 15 : : 2015/02/15(日) 10:48:30
    面倒かなと思ってしてなかったんですけど…登録したら修正できるんですね!できたらやってみます!








    ふと、視線を感じその方向を向く。






    「何?舞園さん。」





    体育座りのまま、首を右肩に傾けこちらを見やる。





    「戦刃さん、強いですね。羨ましいです。」





    「私が強い?…ああ、うん鍛えてるから。」





    こういうことじゃないんだろうな、そう思いながらも何か答えを返した方がいいと思い言った。







    舞園さんは少し微笑むと、






    「そうじゃなくて、戦刃さん、泣いてないじゃないですか。
    こんなにも絶望的は状況で、いつも通りでいられるなんて…すごいです。」






    「いつも通りって、私いつも笑わないしそう見えるだけじゃないの?」





    「…そうかもしれませんね。
    でも、まだ何かに希望を持ってるみたいな、そんなこと思ってないですか?私にはそう見えたんです。



    すいません、なんだろう言ってることが抽象的過ぎてわからないですよね。」


    舞園さんは笑うとまた少し俯き暗い表情となる。
    自信も失ってしまったのだろうか。いつもなら、自分の考えに否定的になることなんてあまりないのに。





    希望…。絶望の象徴と言われた妹を最も近くで見ていたのに、私にも希望があった。



    だから私は残念なんだろうな。絶望かも希望かもわからぬ不安定なばしょに居続けた。その結果がこれなのだろうか。




    絶望し切れず、中途半端に希望を持ってしまっている。



    私は本当にあの子がわかっていたのだろうか。理解してやれたのだろうか。




    「そういえば、何で変装してたんですか?」



    聞かれることはわかっていただろう。身体に冷たいものが刺さったような息苦しさを感じる。




    「私は…。えっと、盾子ちゃんいないの変じゃん?軍人よりギャルの方が華があるし、それに」




    「江ノ島さんが黒幕なんですか?」




    何も言えない。それを言ったら私まで盾子ちゃんを裏切ることになる。あの子に裏切られても私は裏切っちゃいけないよ。私にはあの子しかいないんだよ。



    「沈黙は肯定と受け取りますよ。」


    「違うよ…ばれちゃダメなんだからさ、あなたがわかっていいはずないんだよ!


    黒幕は盾子ちゃんじゃない!盾子ちゃんが…私を、殺すはず…なかったのに」


    目頭が熱い。視界がぼやける。


    「江ノ島さんが黒幕なんですね…私達のなかに絶望がいただなんて…悲しいです。」



    「盾子ちゃんのこと知ったかぶってるからそうなるんだよ!盾子ちゃんはね、あなた達なんかとは違う!希望の象徴なんかじゃない!絶望の象徴だよ!あの事件が起こったのも盾子ちゃんがいたからなんだよ!

    真っ先に絶望の餌食になった舞園さんならわかるんじゃない?絶望がさ、心地いいものに変わってきた?まだだよ!盾子ちゃんはそれ以上の絶望を知っている!


    絶望し過ぎておかしくなっちゃった人を私はいっぱい知ってるよ。あなたなんか比じゃないくらい絶望的な人生を送ってきた人をさ!たくさん!


    だから私盾子ちゃんに裏切られても悲しくないよ。嬉しい。あの子は私が死んで絶望してるんだもん。
    私にはあの子しかいない。あの子にも私しかいないの。

    こんな大事な計画の真っ最中に実の姉を殺すだなんて…なんて…」




    「可哀想ですね、あなたは。」



    「何で!盾子ちゃんのことは私が一番よくわかってる!何で…なんでわたしを、それなのになんで!何で裏切ったの!嫌だよ!盾子ちゃん…なんで1人で私を殺しちゃったの。私にはあなたしか」


    途中から立っていたのか、膝から崩れ落ちて泣き出す。悲しいのか絶望的なのかわからない。わかんないよ。



    舞園さんの左手が私の背中をさすり、右手で頭を撫でていてくれる。



    この子は優しい。


    それからしばらく泣いていた。舞園さんに甘えるようで悪いと思ったが、疲れていた。それに私にはその手を払い除ける元気はなかった。


  16. 16 : : 2015/02/20(金) 18:10:26
    しばらく泣いていた。感情も落ち着き、それと相反してさっきまでのことに羞恥する。


    「ごめんね舞園さん!服とか汚しちゃって…。」




    「いいんですよ。同じクラスで、同じ絶望の被害者じゃないですか」




    私は絶望であり、その被害者でもある。絶望であった限り、その恨みはあの娘だけには任せておけない。



    舞園さん、それに他の同級生も、あと私が今まで絶望として買ってきた恨みたち。そして与えて来た絶望。






    その恨みは、私が背負う。






    同じクラスで、同じ絶望の被害者。立場は似ているが、彼女は内通者だった。




    だけど、私はこの人を恨んでもいいのだろうか。


    私自身、もう絶望という存在なのではないだろうか。



    桑田君、苗木君、二人に与えた絶望は計り知れないだろう。



    テレビが点いた。皆がエレベーターに乗っている。



    「これから何が起こるんですか?」



    空気がピリピリとしている。返ってくる答えを予想しながら問いかける。




    「学級裁判だよ。」




    やってしまった、自分の恐ろしい罪を思い出し震えが走る。









    「ねぇ舞園さん。苗木君のこと好きだったよね。」



    「な…。今する話じゃありませんよ。」



    話の意図がわからない。


    「ううん、今話そうよ。もしかしたら苗木君はここで死んじゃうかもしれないんだし。」





    舞園さんはすごく傷ついたような顔をした。少し言い過ぎたかな。舞園さんは過呼吸気味になった。息が荒い。



    「大丈夫?」











    エレベーターが止まる。












    「大丈夫ですよ?」






    不意に顔を覗き込まれる。笑っているようだが、目が全く笑っていない。





    「戦刃さんも苗木君のこと好きでしたよね。だからですか?…すごく…心配ですよね。」





    舞園さんは位置を戻し、一つ深呼吸をする。
    目には希望を、絶望をも灯したみたいで。



    「安心してください。私、しっかり残しておきましたから。」




    「残して来た?」



    「犯人に繋がる鍵を、です。」


    もう私は死んだ。苗木君は私の味方でいる必要はない。

    苗木君、私を裁いてください。生き残ってください。




    「苗木君にそれをやらせるつもりなの。」



    謝ってもこの声はもう届かない。

    苗木君には大きな重荷を背負わせてしまった。


    「苗木君なら、やってくれるはずです。いえ、やってくれます。私にまだ希望が残っているなら、苗木君に託します。
    苗木君なら、私の死なんか乗り越えて、先へ、進んでくれます。」


    「自信あるんだね。」


    「はい、だって私、エスパーですから。」


    そう言って舞園さんはアイドルらしい笑顔を見せた。
    久しぶりに聞いたフレーズに、私も自然と笑みが零れる。


    「今の苗木君にそれができるのかわからないけど、大丈夫…だよね。いざとなれば霧切さんだっているし。」


    吹っ切れたのか、空元気なのかわからないけれど。今の舞園さんは笑っている。


    「私がそうだって言ってるんだから大丈夫ですよ!私を信じてください。…あ、いや私みたいな人殺しを信じるなんて…。」



    私は舞園さんの手に重ねる。



    「私は軍人だから、舞園さん以上に何人も殺して来た。それに、舞園さんは被害者だし、まだ殺してないし…そうじゃなくて、私は、舞園さんを信じるよ。」






    目頭が熱くなる。堪え切れず、涙が零れる。


    「ありがとうございます。戦刃さん。」



  17. 17 : : 2015/03/07(土) 19:38:42
    オレは死んだ。

    つまりここは死後の世界か。

    腹は減らない。
    さっきまで喉も渇いていたのにいつの間にか水も飲んでいないのに潤っている。




    試合で疲れきった後の水分補給。

    冷え過ぎていてはダメだ、体を冷やさないように、程よく冷えたスポーツドリンクを少しずつ飲む。

    冷たくて甘く、酸味のある液体が体に染み渡る。


    水筒をマネージャーに預ける。

    頭では試合をどう進めていくかでいっぱいだ。学校の教室では働かない頭も、今はその時と比じゃないほどに回転している。

    名前を呼ばれ、高揚した気分をそのままに立ち上がる。


    バットを握りしめ、構える。教室じゃありえない集中力。



    暑いのも、今だけは気にならない。










    投手が動いた。


    瞬きはしない。周りの音は聞こえない。



  18. 18 : : 2015/03/07(土) 19:45:42
    オレ達が勝った。

    その優越感に身体を震わせ、込み上げてくるものがある。

    だけど、泣くなんてダセーとこは見せたくないから上を見る。

    いや、でも男の涙っていうギャップにときめく女子もいるかもだし…。

    そうだとしても、今オレを囲うのはむさ苦しい男どもしかいないわけで。

    やめだ、今は勝ったということに喜べ。











    この勝利に勝るものは一つだってない。

    今ならそう思う。

  19. 19 : : 2015/03/07(土) 21:19:18
    野球ができなくなって、やっと好きだって気づいて、それなのに。

    コロシアイが起きる前だって、気付くのにあんなに時間がかかったのに。







    こんな時に考えるのが野球だなんて。

    あのダサいスポーツがオレは嫌いだった。

    オレは気付くのが遅過ぎた。あのダサいスポーツをオレは大好きで、いつまでも素直になれずにいて。

    これでも自分は素直だと思ってたんだけどな。







    舞園を殺さなければ、また野球をやれたかもしれない。


    オレが舞園を殺した。それは言い逃れのない事実だ。仕掛けてきたのが舞園でも、殺したのはオレだ。


    だからって、オレにはああする以外に方法はなかった。舞園に怪我させた時点でもう後には引けない。それに抵抗しなきゃオレが殺されてた。あの部屋の惨状を見りゃオレを信じる奴なんていない。


    いや、一人だけ、もしかしたら霧切なら真実を突き止めようとするかもしれない。



    だとしても、オレにはあのまま進むしか道はなかった。





    それに、舞園程でなくても、俺だってここから早く出たかった。あんな異常な場所に放り込まれ、気も動転していた。従兄弟も心配だった。あの映像が合成だという確証もないわけで、俺だって平静を保つのに必死だった。





    多分、いや絶対に皆こんな気持ちだった。あの時、狙われたのがオレじゃ無かったら、そいつは絶対にオレと同じ行動をとっていたはずだ。普通の奴なら絶対にそうする。




    やった事は消えない。だから、あのまま進むしかなかった。





    自分の罪が、あまりに大き過ぎて、今にも押し潰されそうだった。怖かった。



    だから、このまま生きて償う。


    そうしようって、必死でいた。





    間違ってない。オレは間違ってない。

    後悔なんてのも間違っている。オレは最善を尽くした。やった事は、人として間違っているけど、あの状況では他に手段なんてないだろう?











    だけど、今こんなことを考えているオレは、その後悔をしているのか?



    ダッさ。今のオレは女々しくて嫌になる。



    マキシマムカッケー!って、あの時のオレの自信は、処刑場で無くしてしまったのかもしれない。






  20. 20 : : 2015/03/12(木) 17:56:53
    しんと静まり返った部屋だ。

    誰も、何も喋ろうとしない。

    何も聞こえない、人はいるのに孤独な場所。怖くなってくる。

    このままよりはマシだろうと、疑問に思ってたことを口にする。


    「一体此処は何なワケ?何でオレ達は此処にいんの?」

    声を出すことに緊張ってするもんだっけ。言い終えた安堵と、帰ってくる答えへの期待に心臓が急がしい。


    「コロシアイ学園生活での脱落者が集まる場所なんだと思う。」

    此処に、オレの好きなミュージシャンの曲とかあったら話そうなんて思わなかったかもしれないのに。

    「何だよ脱落者って、オレ達死んでんだよな!まだ続いてんのかよ?」


    「此処に学級裁判の様子が流れたの。私が死んだときの映像も流れたらしい。

    だから、まだ終われないんだよ。」

    …なんだよ、それ。

    「あんまりだろ。」

    あのおしおきを一瞬思い出し、寒くなる。

    「つかさ、そもそもお前なんで江ノ島よカッコしてたんだよ。姉妹愛強過ぎんだろ!」

    戦刃は下を向き、少しくらい表情となる。いや気のせいかもしれない。

    「でも江ノ島は何処にいたんだよ。江ノ島もシェルターの中に入ったハズ…。」


    16人全員があの面談を受けたハズだ。



    「なぁ、戦刃。答えろよ。」
  21. 21 : : 2015/03/20(金) 18:41:45
    頭にある自分の考えを否定したくて、オレは縋る様にして答えを待つ。

    「盾子ちゃんが黒幕だからだよ。あの史上最悪の絶望的事件だって盾子ちゃんが引き起こしたんだよ。」

    なんていうことだろう。二年間をともにした同級生が黒幕だと。しかも仲の良いと評判だったオレ等のクラスに。

    思ったより驚きはしなかった。絶望感が大き過ぎ手を感覚が麻痺しているのかもしれない。

    「そう…だったんだ…。悲しいね…。」

    悲しい?あぁ、確かに悲しい。

    だが悲しいだけじゃない。

    裏切られた怒り、殺人を犯してしまった恐怖、しかもその殺した相手が目の前にいるという非現実、もう野球ができないという喪失感…他にもいろいろな感情がないまぜになって。

    それをぶつける相手だって、ものだって、ここには無いわけで。

    それらがごちゃごちゃになって生まれる絶望感。

    あぁ、なんたる悲劇。

    「こうなる前に僕たちで気付けなかったのかな…。」

    「気付いたらなんだっつーんだ。江ノ島が絶望の根源だっつーんだから気付いた時点で殺されてたかもしんねー。」


    「そうだよ。あなた達が同級生だったからあなた達は死なずに済んだんだよ。」

    「うぅ…。そうだよね…ごめんなさい。」


    そいつは目を潤ませ、下を向く。




    首くらいまでの長さのある髪、明るめの茶色だ。身長は低く、俺の頭ひとつくらい小さいんじゃねーか?小動物のような庇護欲を掻き立てるような外見をしており、その姿は可愛らしい美少女と言っていいだろう。制服も、大きく広がったスカートを着用しており…到底男子とは思えない。








    「不二咲君…!まさか…また…。」


    そうだ、また起こってしまったのだ。

    「不二咲君…。」




    「そうだよ、僕は殺された。」











    ブレザーの裾を握り締め、冷汗もかいていそうだ。その顔は、物凄く落ち込んだ表情をしている。だがその一方で、大きな絶望から解放された安堵のような表情とも見れた。



  22. 22 : : 2015/03/20(金) 23:07:56
    これって全章書くの ( ´・ω・)?
  23. 23 : : 2015/03/21(土) 06:04:23
    >>22
    そのつもりだったんですけど、
    長いですかね?一章の人たちだけで終わらせた方がよかったかな…
  24. 24 : : 2015/03/21(土) 12:27:42
    >>23 そうですか、分かりました!

    大丈夫ですよ!全章書いて・・・
    (ただ、章間は開けた方が読みやすいかな?)

     
  25. 25 : : 2015/04/12(日) 14:08:47
    白い正方形の空間に、四人の男女が集まっている。集まっているというよりは、強制的にこちらにやられたと言うべきなのかな。



    そしてその四人全員は、僕自身を含め一度殺された人たちだ。







    そう僕は、不二咲千尋は、殺された。



    大和田紋土に殺された。














    「きっかけは何処だったんだろう…。僕がおこらせちゃったんだろうな…。」



    目を伏せ、俯きながら弱々しげに微笑む。目は潤ませておいて…いや、今は勝手に涙が出てくる。


    弱い奴はこういうときストレスの解消に使われたりするけど僕は違う。弱くても馬鹿じゃないから上手く味方を付けるんだ。この弱さを武器にして。

    「反抗は…しなかったのかよ。」

    「する暇なんてなかったんだ…。突然のことだったから。」

    「やったのは誰だよ。」

    「…大和田クンだよ。僕は大和田クンと一緒に、夜時間の更衣室にいたんだ。」

    納得したような顔をして、桑田クンは口を閉じる。

    桑田クン…裁判のとき、僕は彼を殺す選択をした。他のみんなも選択したからだなんて言い訳にしかならない。

    謝ろうか?謝って何になるだろう。既に彼は死んでいる。もし自分が同じ立場だったら、


    …大和田クンに謝罪されたら。








  26. 26 : : 2015/04/12(日) 14:11:21
    >>24
    すいません‼︎ありがとうございます!

    そうですね!アドバイスありがとうございます‼︎
  27. 27 : : 2015/04/12(日) 15:15:30
    僕は憧れていた。

    威厳のある顔つきに、暴走族という肩書きに、ムキムキの筋肉に、漢らしいという表現がピッタリの、大和田クンに。

    強いという言葉がピッタリの大和田クンに。

    憧れ、自分を羨望の眼差しで見られるのは、こそばゆく、だが気分も良いだろう。

    でもそれは、本当に僕自身なのか。

    朝起きると、勝手に美化され、見られている自分とは全くの別物の自分が鏡に写っている。その逆もしかり。

    弱い弱いと卑下され続けた僕に、彼は僕の憧れを詰め込んだような存在だった。

    だからこそ、僕は…




    なのに…なのに…なのになのに何故!どうして⁉︎


    強い大和田クンなら、この状況も屁じゃないと思った。僕は勝手に彼を美化し、思い込み、理想を押し付けてしまった。



    でも…僕は

    殺されるほどのことをしただろうか






    ああ、なんてことだろう。
    僕は殺されたんだ。尊敬していたあの人に。

    あの学園生活で、僕は何度か強いと言われた。


    なら、どうして僕は今ここにいるの⁉︎


    僕は弱い、弱い弱い弱い弱い弱い弱い弱い弱い弱い弱い!!!



    だから僕は殺されたんだ!強ければ殺されることはなかった!皆の希望となることも苦ではなかったはずだ!全部背負い込めるほど僕が強ければ!


    だからこうして女装なんかして!ビクビク震えて生きてきたんだよ!僕は強くなりたかった!


    凝り固まった考えがそうそう変わるはずもない。歪み続けたコンプレックスは治りかけて、だが不必要な絶望のおかげで更にひどいものとなるんだ。


  28. 28 : : 2015/04/12(日) 17:14:08
    ボロボロと涙を零す不二咲千尋。


    「ねぇ、桑田クン。僕も運が悪かったみたいだ。」

    「…うるせぇよ。」

    怒ったように言うと、桑田君は顔を伏せた。

    じっと見ていると、不二咲君と目があった。慌てて別の方向を向き、この状況を考える。

    彼は自分から人を殺す様な人間には見えない。他のクラスメイトも人を殺す人間になんて見えないが、彼は特にそうだ。

    彼の殺される様子はテレビには映らなかった。どうして?ここにいる人達らは皆、殺される時がテレビ映し出された。…いや自分はわからないけれど。

    そう考えていると、テレビが着いた。テレビには不二咲君の死体が映されている。彼は宙吊りになっていた。苗木君の、石丸君の、叫び声が聞こえる。

    苗木君…その姿が見られたことに安堵する。苗木君に許してもらうことはできるだろうか、彼は私を、憎んでいるだろうか。悪いのはモノクマだと言ったが、モノクマだけを憎み続けるなんてできるのだろうか。

    桑田君にも許してもらえずにいるのに、苗木君に許してもらえるなんてあるはずないだろうか。


  29. 29 : : 2015/04/12(日) 18:25:50
    「え?どうして?何で僕こんな…え…?」

    不二咲君は体を震わせ、顔は青ざめている。当然だろう、自分の死体があんな風に弄ばれていては誰だって驚く。

    チミドロフィーバーと血文字があるなら、犯人はジェノサイダー翔だろうか?

    いやそれはないだろう。不二咲君は確かに大和田君に殺されたと言っていた。嘘を吐くメリットもない。

    殺されたと思ったが、まだ生きていてジェノサイダー翔に狙われた可能性も捨てきれないが、おそらくそれはないだろう。

    「覚えていますか?男の娘なのがジェノサイダー翔にバレないように、必死で皆で隠したの。」

    皆、突然何を言い出すのか、そういう表情をしている。

    「覚えてるよ。不二咲君が死んじゃったらこの計画も台無しだし、クラスメイトが殺される姿も見たくないしね。皆で頑張ったよね…。」

    「そうだったな…。リアルに男の娘なんてそうそういないってぼやいてたけどな。」

    「…うん、覚えてる。」

    あの頃の記憶、忘れてしまっていた記憶。





    あの頃も僕は守られたままだった。

  30. 30 : : 2015/04/13(月) 19:59:27
    「このテレビには、今生きている皆にも見えていることしか映らないようだね。」

    「そうでしょうね…。ですがもし、生きている皆にわからないことに気付けても、報せる手立てはないんですし。」

    「なんだよこれ…。こんなんも映んのかよ。」

    「あ、うん。私が処刑されたときの映像も映ったらしいよ。言ってなかったっけ?」

    「…覚えてねぇ。」

    映像の中の不二咲千尋は生き残った者達に調べられている。

    「僕は殴られたんだ。どうして吊るされているの?…誰がそんな」

    「大和田に殴られたんだろ。だったら大和田がやったんじゃねーの。」

    「大和田君はそんなこと…しないよ。きっと、他の誰かが!」

    「誰かって、誰だよ。お前大和田とすげー仲良かったよな。仲良い奴は贔屓かよ。」

    「そんな…違うよぉ…。それに僕が殴られたのは男子更衣室で…。」

    「偽装工作したんじゃねーの。殺したのバレねーよーに。」

    「やめようよ、それは生き残った皆が突き止めてくれるよ。」

    「じゃあオレたちは何したらいいんだよ!こんなとこ集められてどうすりゃいいんだよ!」

    沈黙が流れる。それはとても長いように感じた。いつの間にかテレビの映像も別のものとかわっていた。

    裁判場へと向かうエレベーター。不二咲千尋を殺したクロを突き止めるために。そのクロを殺すために。

    「見届けようよ…。皆で見届けて、全部受け止めよう。」

    どうせ、それくらいしかできないのだ。せめてそれだけはやり抜くしかない。



  31. 31 : : 2015/04/15(水) 11:47:12
    裁判の映像が流れる中、誰も喋ろうとはしなかった。沈黙が気まずくなることもない。

    石丸君は、大丈夫だろうか。大和田がクロだなんて受け入れ難い真実だろう。

    大和田が鎖に繋がれ、処刑場へと連れ出される。二度目のおしおきだ。

    ここにいる皆も青ざめた顔になる。特に桑田君は特にひどい。冷や汗でシャツもベッタリしているように見える。

    大和田君もこちらに来るのだろう。もちろん会いたくなんてないが…。話せるのなら、それらを乗り越えて行かねばならない。

    君が僕を殺したことを、僕が君に殺されたことを。許すなんてできないけれど、皆で受け止めてこの先に進もう。

    弱い自分から強い自分へのもう一歩だ。
  32. 32 : : 2015/04/15(水) 15:40:15
    冷や汗と嘔吐感とで目を開く。此処は何処だ。辺りを確認すると、其処には死んだはずのクラスメイトがいた。

    …いや、死んだんだ。オレも死んだ。

    あのおしおきが夢な訳ない。

    グルグルと回され、頭から気持ち悪い。内臓が口から飛び出るような感覚がずっと続いた。吐き気が辛くて、だが吐くことも許されず。自分の体がわからなくなって行く。


    既に過ぎたこと、だが記憶には鮮明に残っている。

    しっかりと立てない。フラフラとなって足元から崩れ落ちるように倒れた。呼吸が荒い。辛い。誰か助けてくれ。


    「大丈夫…?大和田君。」

    目に入ったのは、小柄な女性…かと見間違えるほどのか弱そうな少年。そいつは心配するかのようにオレの近くで屈んでいる。

    「…不二咲。」

    「気分悪いの?…そりゃそうだよねぇ…あんな事があったんだし。」

    今すぐ此処から逃げ出したい。何で心配してんだよ。オレはお前を殺したんだぞ!

    怖い。不二咲からすぐにでも離れたい。体中が震える。

    「すまねぇ…謝るから…。」

    「大和田君、僕は君を許すつもりはないよ。」

    「…っ。あぁ、そうだよな。」











    「だから…大和田君も僕を許さないでほしいんだ。」

    「…は?」

    「僕が忘れていたこと、僕が弱いこと、僕が君に君に勝手に理想を押し付けて、君の背負うものを更に重くしてしまったこと。」

    「やめろ…。」

    「僕は君を責める。その重さに耐えかねて、僕を殺したこと。石丸君をあんな風に傷つけたこと。」

    「やめてくれ…。」

    「そのことを許すことができる程、僕をまだ強くないから。大和田君も僕のことをまだ許さないでほしいんだ。」

    「やめろっつってんだろうが!!」

    「これは僕からのお願いだよ。」

    大和田は下を向いている。涙がボロボロと零れて、床におちている。

    「大和田君…いいよね。」

    泣いて顔が赤くなっている手を剥がして、不二咲の方を向く。

    「わかったよ。」



  33. 33 : : 2015/04/15(水) 15:41:41
    フラフラと立ち上がり、自分で立って歩く。

    「なぁ、大和田ァ。」

    呼ばれた方向を向くと、拳が飛んできた。その拳は力強くて、オレのフラフラの足じゃ耐えることはできず倒れてしまった。そのまま胸ぐらを掴まれる。

    「あん時オレになんて言ったよ?オレのこと責めたくせに自分も人を殺したなんてさぁ!…何でだよ…何で殺したんだよ!お前は!…クソっ」

    こいつが泣くなんて初めてみた。桑田はもっと軽薄で、泣くなんてこと無縁の人間だと…

    「すまねぇ…。」

    「謝ってどーすんだ。謝ったって事実で罪悪感は少しでも晴れたかよ!」

    「晴れるわけねぇだろ!それに謝る以外ねーだろ!だったら…オレが間違って起こしちまったこと…どうか抱えて行きゃいーんだよ」

    「じゃあ何か?お前オレにも謝れっつーのかよ!最初のクロだもんなぁ、オレの所為でお前の殺しへの抵抗が減ったのかもしんねーしな。」

    「やめてください桑田君!」

    舞園が立ち上がり、桑田を制止にかかる。

    「何でだよ。オレは死のうがどーでもいいが他の奴らは傷つくのすら見ていられないってか?」

    「そうじゃありませんよ!」

    「罪悪感を晴らしたくて謝ろうとしたのはオメーだったな。」

    「…謝りませんよ。」

    舞園は桑田の目を真っ直ぐに見て繰り返す。

    「まだ謝りません。まだ私には、貴方を許すことはできないから。私も謝りません。」

    「…じゃあオレも、まだ、謝らねぇ。」

    舞園はひとつ息を吐くと、

    「ねぇ桑田君。私あなたのあまり後悔しない生き方、気に入ってるんですよ。羨ましいです。」

    「人を殺す程アイドルが好きなんだろ。その信念はオレだって羨ましいと思ってる。」

    舞園は泣きそうな顔で、少し微笑むと、

    「そんな言い方ひどいです。…でもそうです。アイドルがそれくらい好きです。」
  34. 34 : : 2015/04/24(金) 19:08:25
    罪の意識は消えない。

    私が膠着状態を破ってしまったせいで5人も殺されてしまった。

    人殺しのアイドルだなんて…生き残ったところで何ができたというんだろう。

    …ダメだ、結果論だ。

    後からああすればよかったなんて意味のない慰めだ。

    人を殺すほどアイドルが好き。

    それが私だ。言い訳はしない。

    それだけ頑張ってたんだって、あの血の滲むような努力は、それだけ私を変えたんだって。

    …鼻をすする音が聞こえる。まだ誰か泣いている。

    視界がぼやけていたから、手で目を擦って前を向く。

    桑田君、戦刃さん、不二咲君、大和田君。

    私は、これ以上人数が増えないように祈る。

    でも、その祈りは全く、誰にも届かなかったようだ。

    また、私達のクラスメイトがここにやって来た。
  35. 35 : : 2015/04/25(土) 19:10:40
    目を開く。最初に写ったのは、僕の親友の姿だった。

    「兄弟…?どうして君が。」

    僕は、辺りを見回し、この状況を確認する。手を見る、異常もない。頭には殴られた跡はなかった。

    そうだな、

    「僕は死んだのだったな。」

    全部わかっていた、あれが兄弟ではないことも、僕は僕でしかないことも。

    「また会えて良かったよ、兄弟。」

    顔を涙で汚しながら、

    「僕は嬉しく思うぞ!」

    彼の笑顔は少しだが私達の心を明るくさせた。

    だが、彼の顔にある暗い影もまた色を濃くしたのだ。













    僕は一体何をしているのだろう。

    冷静に、論理的に、損得だけで考えて見ると僕のコロシアイ学園生活における後半での過ごし方は僕らしくなかった。

    友達というのに、憧れていたのも事実。だが、それは僕の人生を投げ打ってでも護ろうとする必要があったのだろうか。

    僕には夢があった。

    政治家になり、努力によって人が過ごしやすいようこの世を変えること。

    だが、それを僕は僕自身で諦めたようなものだった。

    あの投票は、親友を殺すという選択ができなかった僕の弱さか。

    それとも、自分の身より、大多数の人間より親友の身を護ろうとした僕の愚かさか。

    わからない。

    ただ一つだけ言えるのは、僕はまだ未熟だったということだ。



    「きちんと不二咲君に謝罪はしたのか?学生の身であるとはいえ、そのような間違いを犯してしまうとは…許されることではないな。だが、謝罪をしない理由にはならないな!」

    学園生活でよく見せた笑顔がそこにある。

    「やめろよ、空元気なのが丸わかりなんだよ。」

    「何を言っている兄弟、僕はこんなにも元気ではないか!何というか、まるで何かが吹っ切れたような感じがするぞ?」

    「見栄張んなよ、丸わかりだっつってんだろ。」

    僕は大和田君に近づき、胸倉を掴んだ。

    「ならどうするのが正解だというのだ!君に、どう接すればいいというのだ!君がしてしまったことを僕はどう受け止めればいいんだ。」

    返答はない。答えられないのだろう。

    「僕は、君を許すことはできない。」

    目の前がぼやけて兄弟の顔もはっきりと見えない。頬を液体が垂れる。

    「だから、兄弟も僕を許すな。友人としての役目を果たせなかった僕をどうか憎んでくれないか。」

    涙がポタポタと落ち、兄弟の服にシミをつける。兄弟は少し笑ったように、

    「お前も、不二咲と同じこと言うんだな。」

    「不二咲君と…?」

    僕は不二咲君の方に視線をずらす。

    「オレがお前を憎むことで、少しでも楽になれるのなら、今はいくらでも憎んでやるよ。今はな、だから待ってくれ、オレはまだ…頼む。」

    僕は胸倉を離し、彼の方に向き直る。

    「待つも何も、僕たちはもう死んでいる。そうだな、他ならぬ兄弟の頼みだ。待つとするよ。」

    もう僕は、未熟なままで前に進むことはできないのだ。

    死んだのだ。
  36. 36 : : 2015/04/26(日) 20:43:38
    空いている壁にもたれ座る。話す元気などあまり残ってない。超高校級の風紀委員が聞いて呆れる。

    「石丸君、君は残酷だね。」

    残酷?何が残酷だというのだ、

    「何が言いたいのだ。」

    僕は戦刃君の方に向き直る。

    「自責は最大の逃げだよ、そのことで君が傷ついたのも忘れたの?」

    口の中が渇いて上手く喋れない。

    「兄弟が逃げただと⁉︎」

    思わず立ち上がり、声が大きくなってしまった。

    「うん、逃げたよ。嘘をついて逃げたんだよ。」

    「兄弟は逃げてなどいない!兄弟は…兄弟は…」

    「やめろよ!そんな話…」

    「兄弟は黙っていてくれ!」

    戦刃と目を合わせ、

    「兄弟は…逃げるような弱い人間じゃない!…それしか道がなかったから仕方がなかったのだ…。」

    「それが残酷だっていってるの。他人に勝手に理想を押し付けてその型に押し込める。石丸君の悪いところだね。」

    上体を少し乗り出し、

    「君は強いからわからないだろうけど人の強さなんて環境で決まるんだよ。弱い人間だなんて、たまたまその場所に生まれて、上手く生きられなかっただけ、君は恵まれてたんだね。羨ましいよ。」

    「ああ…僕は、強いのだろうな。」

    もう私を見てはいない。遠くをみるような、慣れない客観視を繰り返し自分自身を見つめ直す。

    「だが、脆いのだ。」

    ボロボロとこぼれる涙をそのままに彼は発言する。

    「僕が今までやってきた努力は!確かに僕の力となったさ!固く、確かなものとなった!一心で、目標に向かって頑張った!それが叶わなかった、叶えたかった。…なのに、僕は自らその夢を捨てた。」

    テレビが点いた。

    「努力して、成長する。だがもうそれも意味などないのだろう。もう、死んだのだ、何も、頑張る必要などない。」

    石丸君と、山田君が頭から血を流しそこに倒れている。

    「死にたくはなかった。だが、最期に一つ学んださ。死とは、絶望したものの最後の希望なのだな。」
  37. 37 : : 2015/04/29(水) 17:47:43
    僕は何がしたかったんでしょう。二次元を愛し、創作活動をして暮らして来たのに。

    どうしてあんなことをしてしまったのでしょう。

    彼女を護りたかったからだ。誰よりも、何よりも。

    どうしてあんな嘘に騙されてしまったのでしょう。

    僕がおかしくなっていたのでしょうか、彼ではなく僕が。

    彼がどんなにおかしくなってしまったとしても、女性にそんなことする訳がないのに。

    安広多恵子殿が今度の裁判のクロ。僕に彼を殺させ、僕を彼女が殺す。

    最期に言ったあの言葉、やすひろ、だなんて伝わったかどうかわからない。もっとわかりやすく言うべきだった。

    でもね、君には嘘で塗り固めたセレスティア・ルーデンベルクじゃなくて、本当の、安広多恵子として罪を償って欲しかった。

    そんな大層な理由でもつけたら安広と言ったことの理由にでもなるでしょうか。

    ただ、いつものくせで、やすひろ、と言ってしまっただけなんでしょうな。
  38. 38 : : 2015/05/15(金) 00:11:24
    ボロボロと涙が零れ、床にぼたぼたと落ちる。落ちた涙が水たまりのようになっている。汚ない感情も綺麗な感情もその涙の意味は込められている。

    「ごめんなさい…ごめんなさい…!」

    この僕が人間関係を理由に涙を流すなど、誰か考えたでしょうか。ママですら想像しなかっただろう。

    「僕は思い出しました!ですが遅かった!彼女の為と思い、石丸清多夏殿を殺めたこと、赦されるだなんて思っておりませぬ…。ですが謝らせてください。僕の罪を償う方法が、これ以外に思いつかないのです。」

    土下座し、床に落ちた涙で服が汚れる。

    石丸清多夏はこちらを向いている。だがその姿にはいつもの様な毅然とした姿はない。

    石田となる前の抜け殻の状態。いや、その時よりは我を取り戻しているようだ。

    「そんなに謝ることはない。僕も、君に殴られたことで気も確かとなったよ。感謝したいくらいだ。」

    いつもの彼ではない。いつもの彼ならしっかりと自分と向き合ってくれた。

    「そう…ですか。」

    僕は彼に何を期待しているのでしょう。彼にこれ以上、何を背負わせる気なのでしょう。

    僕は、この罪の意識から逃れることは許されないのだ。

    彼はこちらを向いてなどいない。

    僕自身を見ることはない。

    僕は、その罪があまりに大き過ぎることを身を以て知ることができたんだ。

    何がこれを癒してくれるだろうか。

    小さい頃、あるアニメのグッズが欲しくて堪らない時があった。欲しくて欲しくて、それが得られないと知った時は泣いた。だが何年か経て、そのグッズを目にした時、あの時の様に欲しいと思うことはなかった。

    時間が、時間があれば。

    時間が経てば、時間だけがこの苦しみを癒す薬なのだ。
  39. 39 : : 2015/05/15(金) 00:20:35
    とても暗い雰囲気が立ち込める。ムードだなんていって気分を上げる気にもならない。

    誰一人として喋ろうとしない。

    そもそも喋る元気などない。

    だが、そのままだと暗い考えが頭から離れない。後ろ向きに考えることをやめることができない。ぐるぐると自問自答を繰り返しながら、無言の世界がここにある。

    だからこそ、その変化は良かったものかもしれない。何も、何もないよりはマシだ。

    テレビが点いた、エレベーターの人数も既に8人となっている。




    三度目の学級裁判が流れ始めた。
  40. 40 : : 2015/05/23(土) 21:10:28
    「ねぇ山田君、最期にやすひろって言ってたよねぇ?」

    「はい、言いましたぞ。」

    その時のことを思い出しながら応える。

    「もしかして、セレスさんのこと…かなぁ?」

    まじまじと不二咲を見つめ、返答する。

    「そうです、この裁判のクロは安広多恵子殿ですぞ。」

    「マジかよ…。どうしてアイツが…!」

    「おおかた金の為だろう。セレス君は、動機に提示された100億円を得るために、殺人を犯したのだろう。詳しくは知らないが、山田君は何らかの嘘で騙され、僕を殺し、彼女に殺されたというところだろう。」

    いつもの爽やかな印象はなく、感情もほとんど入っていない、平坦な声だった。

    「金の為って…そんな本当に…。」

    金の為、現実ではよくある動機だ。

    自分の醜い欲の為、そんな風に思われるため同情もしにくい。



    「だからといって、非難する理由にはなりませんけどね。」

    よく通る声が聞こえた。

    「舞園さやか殿…。」

    「セレスさんらしいと思います。いい意味でも、悪い意味でも。」

    「ならば、舞園君は殺人を肯定するのか?最初に事の引き金引いたのは君だったな。君が殺人を企てなければ誰も死ぬことはなかったのではないか?」

    「やめろよ!喧嘩するつもりか!イインチョも頭冷やせよ。」

    「最初に殺人を起こしたのは桑田君、君だったな。」

    桑田の背中を汗がつたう。

    「いい加減にしろよ…テメェ…。」

    「いい加減にしろ?君にもわかっているだろう、殺人犯には社会から責められるのが当然だと。」

    「やめろ兄弟、やめてくれ。」

    石丸は、大和田の方を見ると、不満気な顔をしながらも押し黙る。

    「別に、殺人を肯定するつもりで言った訳じゃないですよ。」

    目を伏せ、少し黙ってから、

    「石丸君や、不二咲君はどうか知りませんけど、この中のほとんどが人の罪を非難できるような状態じゃない、そう言いたかっただけです。」

    彼女は自嘲気に笑うと、

    「引き金を引いた私が、今更何言ってんだって話しですけどね。」

    先程からずっと、黙っていた人物が口を開いた。

    「山田君、石丸を殺したんだよね。」

    戦刃はこちらに目を向けると、

    「君にも、そんなことができたんだね。」

    そう言った彼女の心情を察することはできなかった。

    裁判の雑音が流れる中、拙者はある人物から目を離せなかった。

    「不二咲千尋殿、頼みがあります。」

    「何かな…?」

    小柄な、女性に見間違う程の可愛らしい姿をした男性。

    僕が活躍していた世界で言えば男の娘という奴だ。リアルで存在するなんて、僕にはかなりの衝撃だった。

    僕はこの姿の人間、いやコンピュータに恋をした。

    あの状況で恋だなんて能天気に思えるが、あれ程人を好きになったのは久しぶりだった。

    「拙者は、あなたの娘さんに、恋をしました。」

    皆一様に唖然とした表情を浮かべていた。

    不二咲千尋に子どもが、いたという事実は、聞いたこともなかったからだ。

    「オイオイ…不二咲に子どもなんていねーだろ?」

    「ううん、そうでもないよ。不二咲は超高校級のプログラマー、人工AIを作ることも可能だよね。」

    「だからって、いくらなんでもそれは…。」

    山田の方を見ると、頬を赤らめ縮こまり様にしていた。

    「モジモジしやがって、漢なら堂々としてろや。」

    山田は胃を決した様に、口を開いた。

    「あなたの娘さん…アルたんに!言えなかった言葉をあなたに、伝えたく存じます。」

    不二咲は、困惑した様子だったが、山田にきちんと向き直り、聞く体制を作った。

    「僕はあなたが好きでした。僕の話にきちんと耳を傾けてくれて、興味深そうにするあなたに、いつの間にやら恋心を抱いていました。」

    山田はひとつ大きな深呼吸をして、口を続ける。

    「だから、あなたが盗まれたと聞いたとき、僕はいてもたってもいられなかった。君が、他の奴の手の中にいることが僕には耐えられなかった。」

    山田は下を向き、潤んだ目を手でこすった。

    「僕は馬鹿ですから、あんなわかる嘘にも騙されてしまった。あの真面目な石丸清多夏がそんなことするわけがない。どんなに狂ってしまっても、彼はそんなことしない、その厳しさは学園生活でわかっていたのに。」

    山田は顔を上げ、不二咲を正面から見つめる。

    「こんな、人殺しとなった僕ですが、好きでいさせてください。僕に残った希望にさせてください。」

    拭うことを忘れられた涙が頬をつたう。

    「お願いします…。僕にとって、彼女との時間は…本当に大切なものです。コロシアイの中での、愛すべき温もりでした。」
  41. 41 : : 2015/05/24(日) 21:48:25
    不二咲は思案気な表情をした後、山田の目を見て答える。

    「いいと思うよ。だけどアルターエゴにそんな感情はないよ。それでもいいの?」

    山田は涙を拭い、キリッとした表情をすると、

    「ノープロブレムですぞ。拙者と彼女の間に、そのような障害は燃えるだけです!」

    と言った。


    その盲目的な愛こそが、この事件を起こした原因だろうに。だがそのことも山田はわかっているだろう。わかっている上で、彼はその愛を突き進んで行く人間なのだ。

    自分が信じた道を、何があろうと突き進む。

    超高校級の名に相応しい人物だ。

    その点で言えば僕も同じなのだろう。

    学級裁判での間違った投票は、僕だけでない、他の生徒も、殺す気であったとも考えられる。

    僕に、君達を責める権利はあるのだろうか。

    なあ、セレス君。
  42. 42 : : 2015/06/01(月) 23:38:03
    「やぁ、セレス君。」

    ゴスロリ調の服に身を包み、妖艶な笑みで佇む彼女がそこにいた。

    「あら、ごきげんよう。」

    いつも通りのポーカーフェースで、まるで、何もなかったかのように。








    「安広多恵子殿…。」

    彼女はショックを受けたように下を向いた。

    「そんな…ダサい名前で呼ぶのはやめてください。もう一度殺しますわよ。」

    山田は体を強張らせ、怯えた様な表情で彼女を睨む。

    彼女は驚いたように、開いた口を手で隠す。

    「あら、あらあら。まさかとは思いますが…わたくしが罪悪感を感じているだなんて考えてませんよね?」

    「…少しは、考えていたやもしれませぬ。」

    彼女は呆れた顔で言葉を返す。

    「ありえませんわ。」

    セレスは椅子に座り、上から見下すようにして言葉を続ける。

    「確かに、わたくしの選択は間違っていました、こうして死んでいるのですから。」

    彼女は芝居がかった様子で語る。腕を大きく広げ、天を仰ぐ様にして続ける。

    「ですが、わたくしの考えが間違っていたとは思いません。」

    明確な殺意を持って、計画し、殺しにかかった彼女。

    超高校級のギャンブラーである彼女に、リスクを恐れる心など、賭け事のスパイスでしかなかった。

    「わたくしは、ただ夢の為に最善を尽くしただけですわ。その為にはどんな犠牲も厭わない。それが私、それがセレスティア・ルーデンベルクですわ。」

    彼女は頬に手を当て、懐かしむようにして語る。

    「だけど、その夢は砂上の楼閣の様に崩れ去ってしまいましたわ。まぁ、ギャンブルなんてそんなものですわね。」

    息をひとつ吐くと、座り方を正した。

    「夢の為なら、クラスメイトを殺してもよかったと…?拙者を騙し、殺してでも叶える必要があったとおっしゃるのですか?」

    「まあ、貴方がそれを言うのですか。自分の愛するものの為に人を殺した貴方が。」

    セレスは鼻で笑うと

    「当たり前ですわ。あの夢を叶えることこそがわたくしの人生のノルマでしたから。」

    山田を睨みつけ話続ける。

    「経緯はどうあれ、殺すことを決めたのは山田くんじゃありませんか。」

    山田は固く拳を握り、下を向く。

    「それとも、自分の行動に責任を持たないであんなことしたのですか?これは、共犯でした。ですから、いくらでも言い訳できますものねぇ。」

    山田は何も返さなかった。返すことができなかったのだろうか。

    「わたくしが怖いですか?」

    セレスは立ち上がり、山田に近づく。

    「わたくしを恨んでいますか?」

    しんとした、沈黙の後、山田は答える。

    「恨んでいますな。」

    セレスは両手で椅子を持ち、山田め
    がけて振り下ろす。

    「やめろ!セレス!」

    「テメェ、何しやがる!放しやがれ!ビチクソがぁぁっ!!」

    大和田が咄嗟の判断でセレスをとめる。セレスは暴れているが、大和田の拘束は取れそうになかった。

    「落ち着け!取り敢えず落ち着けって!」

    「いいから放せっつってんだよ!テメェも殺して差し上げましょうか?」

    「山田が反撃するかもしんねーだろうが、まずは落ち着け!」

    拘束はとれないと諦めたのか、セレスは山田の方を向く。

    「死ぬ時、怖かったですか、殴られて痛かったですか、死ぬ前に思い出して、どんな思いでしたか、やすひろと言ったとき何を考えていましたか。」

    セレスは山田を睨みつける。大和田が止めなければこの場がどうなっていたか知れない。

    「わたくしも貴方を恨んでいますわ。ドジ踏みやがった貴方を。間抜けな貴方を共犯者に選んだわたくしも!」

    「安広多恵子殿…」

    「死んだときの苦しみはわたくしの方が何倍も上ですわ…あんな…あんな…!」

    セレスの肌に鳥肌が立つ。青ざめた顔をすぐに戻し、

    「山田君、一発で仕留められなくて申し訳ありません。やはりあの状況にわたくしも焦っておりました。」

    山田は立ち上がり、セレスの元に近づいた。

    そして、片手を握りしめ、セレスに向かって振り抜いた。

  43. 43 : : 2015/06/07(日) 19:04:59
    わたくしは幼い頃、地味で誰からも注目されない人間だった。

    別に、いじめられていたとか、虐待されていたとか、そんなんじゃない。

    友達はいない、親は放任主義。

    ただそれだけだった。

    だから、クラスの中の人気者、それに憧れるのも無理ない話だった。

    オシャレな服を着たあの子や、可愛いと持て囃されるあの子。

    わたくしはそれになりたかった。

    いや、それ以上に。

    この世界の誰よりも、愛され、尊敬され、美しく、可愛らしく、敬われる人間に、わたくしはなりたかった。

    だからそのために何でもした。

    ギャンブルで必要なのは運だけじゃない。

    誰にも頼らずに、1人で戦ってきた。人なんて、わたくし意外は所詮は駒、ただ利用するものでしかない。

    その中で鍛え上げた、わたくしの誇り。

    ちょっとやそっとじゃ傷がつくことはない。

    どんな罵倒をされようとも、恥をかこうとも、気にしない。



    だが、こうして損得勘定無しに誰かに守ってもらうなど、屈辱でしかなかった。

    「何をしているのですか、舞園さん。」

    頬をぶたれた舞園は、後ろを向き、セレスの目をみた。

    「どうして庇ったのですか…舞園さやか殿。」

    「山田君は、頭を冷やしてください。」

    山田は拳を握りしめた後、謝罪した。

    大和田はセレスの拘束を放した。

    セレスは乱れた服を整え、舞園に向き直る。

    「セレスさん、殺したこと、本当に後悔してないんですか?」

    セレスは表情を崩さない。だが、持つ雰囲気が変わった気がした。

    「ええ、していませんわ。」

    「学生生活でのセレスさんは楽しそうでした、精一杯青春してたと思います。」

    凛と、背筋を伸ばして舞園は問いかける。

    「コロシアイの時、後悔してなかったのは納得できます。だけど、今も後悔してないんですか?全部思い出した今でも。」

    「はい、してませんわ。」

    返答に少し間があった気がする。

    「ギャンブルに損が存在するのは当然です。わたくしには失う覚悟もあった、それだけですわ。」

    舞園がセレスに近づく。

    「なんですの…!」

    「つまり、殺したことを悲しんではいてくれるんですよね。」

    「どうしてそんな解釈ができますの…。」

    「クラスメイトを失う事を、損だって思ってくれてるんですよね。」

    「何が言いたいんですの…?」

    「あなたは負けました。もう、少しくらい素直になってみてもいいんじゃないですか?」
  44. 44 : : 2015/06/11(木) 23:27:36
    セレスは拳を強く握った。

    「負けたから、負けたからなんだっていうのですか?」

    セレスは舞園を睨み付け、言葉を続ける。

    「ええ、わたくしは負けました。だからと言って、貴方の言うことを聞く理由にはなりませんが?」

    「それならば、セレスさんがそうやって強がる理由もありませんよね?ここで、夢を叶えることはできないんですから。」

    「叶えることが絶望的になったから、今までの自分を捨て去れと、そうおっしゃるのですか?」

    「…セレスさんは、そうした方が良いと思います。」

    セレスは舞園の髪を鷲掴みにし、自分の方へ引き寄せる。

    「てめぇがそれを言うのかこのアバズレビッチが。」

    掴む手に力を込め、

    「てめぇがそれでミスをしたからわたくしに投影してんのか?あんたもわたくしも、殺人を計画した点では同じですものねぇ?」

    髪を引っ張られる痛みに舞園は顔を歪める。

    「わたくしの信念はその程度で曲がったりしねぇ!身ぐるみを剥がされたとしても、頭を丸めるはめになっても、火に焼かれその上轢き殺される事があっても!わたくしの信念は!誇りを!穢すことは不可能ですわ!」


    火に焼かれる体、熱くて熱くて、声をあげて泣きたかった、大声を出して叫びたかった。

    だがそれを制したのはギャンブラーとしての誇り。

    感じたことのない熱さ、痛み、それに耐えて、耐えて。

    この苦痛が永遠に続くのだろうか、汗が目に入り、滲みる。

    焼け爛れる皮膚の感覚に、もう気を失いそうだ。

    気を失ってしまった方が楽だろう。

    消防車がこちらに突っ込んでくる。

    この苦痛から解放される、だけどそれはわたくしの夢には不釣り合いの自動車。

    感じたことのない、衝撃が、痛みがわたくしにぶつかる。

    赤くなった皮膚にくる打撃は尋常じゃない苦しみだった。

    だが、あのまま、焼け死ぬよりはマシだったのかもしれない。

    そう考えると、わたくしを救ったのは夢ではなく、現実的な何かだったことになる。

    それが嫌なのです。

    わたくしの夢は、そんなものじゃない。

    退廃的な、中世のヨーロッパの風景。

    わたくしは、わたくしはその中に生きることだけが…。


    舞園は、セレスの胸倉を掴み、言葉を続ける。

    「その信念の所為で間違った行いをしても、貴方は平気だって言うんですか!貴方のクラスメイトを、自身の手で殺してしまった!それを受け容れて、平気でいられるんですか!?」

    「誰が平気だっつったよぉ!あたくしに、泣き喚いて欲しいのか?顔をぐちゃぐちゃに歪めたらてめぇは満足するのですか?」

    「そんなこと誰も言ってませんよ!ただ、少しくらい反省の姿勢を見せたらどうだって思っただけですよ。」

    「反省…。」

    セレスは舞園から手を離した。

    離した手で自身の顔を覆う。

    その中から漏れたのは、笑い声だった。
  45. 45 : : 2015/06/16(火) 20:22:18
    「もう死んだのに…どうして反省する必要があるんですか?次に活かすこともできません、反省のなんて唯の自己満足にしかなりませんわ。」

    胸倉を掴んでいる舞園の腕を掴み、強く握り締める。少し長めの爪が舞園の腕に刺さった。

    「貴方はどうなんですか、反省したんですか?意味のない、全く意味のないその反省を!」

    赤い血が、舞園の腕を伝う。

    「意味ないなんてことありませんよ!成長するのに状況なんて関係ないじゃないですか!」

    血が床に落ち、小さい水溜りを作る。

    「関係ならありますわ。あのコロシアイで最初に言ったでしょう。成長して強くなったところで生き残るとは限らなかった!」

    「もうやめろよ!」

    舞園とセレスは声のした方を向く。声の主、大和田紋土は疲れきった顔で続ける。

    「オレ達仲間だろうが…いつまで喧嘩しなきゃなんねーんだよ。」

    「その仲間を殺した人間がよくいいますわね。弱いまま、何も変わることのなかった貴方も、まだ強さを求めたりするのでしょうかね。」

    大和田は黙った。下を向き、拳を握りしめる。

    「ああ、強くなりたいよ。まだ、諦められねぇよ。」

    落ちる涙を拭いもせずに、立っていた。血に、涙が混ざった。

    「舞園さん、大丈夫ぅ?その、血が。」

    「…ええ、大丈夫ですよ。私の血じゃないですし。」

    舞園は石丸の方を向いた。

    「大和田君のことなら、貴方は黙っていない人だと思ってました。」

    舞園を見上げる様にして上を向いた石丸は、何かを言おうと口を動かしたが、その続きが語られることはなかった。




    反省をする必要がない。

    次に活かすことはできない。

    …唯の自己満足でしかない。

    以前の僕ならば、怒り、否定したことだろう。

    だのに、なぜなのだ。

    それが当然かの様に、正しいかの様に考えていた。

    成長するのに、状況は関係ない。

    今の僕にそんな思考を持つことはできなかった。

    ただ堕ちていく。僕という自我を保ちつつ、ゆっくりと、急速に堕ちるのだ。

    「セレスさん、大丈夫?」

    戦刃はセレスの手を見ながら声をかける。つけ爪が刺さり、傷口から血が出ていた。

    「心配ありませんわ。もうほとんど止まりましたし。」

    セレスは手の傷を見ながら戦刃に返す。

    「黒幕は誰ですか。」

    「…盾子ちゃん。」

    セレスは手を光に翳し、傷がどうなっているかをよく見ていた。

    「全く、酷い目に合わせてもらいましたわ。それも、絶望的に。」

    「よかった、これで盾子ちゃんも浮かばれるよ。」

    「浮かばれてたまるものですか。」

    傷口を見る。セレスは血を押し出した。

    敗者は潔く、なんて言ったものの、恨みはあった。消えてなんてくれない。消してはいけない。

    この思いが、信念がなくなった時、セレスティア・ルーデンベルクという概念の死ぬ時だ。

    わたくしは、まだお前に殺されてなんざいない。



















    …ただの、負け惜しみでしょうか。

    未だ整理のつかない思いを落ち着かせるには、このやり方がひどくしっくりきた。




  46. 46 : : 2015/07/03(金) 08:18:41
    大神さくらはそこに立っていた。

    周りから受ける、様々な思いの混じる視線に戸惑い、周りと顔を見合わす。

    「ここは、何処だ。」

    何処か、考えて、その答え合わせを求める様にその声は響いた。

    「ここは、脱落者ルームみたいなものですよ。」

    舞園は、何度目になるのかその答えを返す。

    大神は目をつむり、そして開いた。

    その青い瞳は、ある誰かを見つめる様にしていた。

    「そうか、我は死んだのだったな。」

    それは、何度も聞き覚えのあった、諦めの混じった声音だった。






    「それにしても驚きましたわ。まさか地上最強と謳われた大神さんが殺されるだなんて。」

    セレスは目だけを大神に向け、呟いた。

    「大神、誰に殺されたんだよ。」

    その問いを聞くのも一体何度目だろうか。皆大神の口から出る犯人の名前を聞こうと耳を傾けていた。

    大神は答えづらそうにしていた。

    二年半を共にしたクラスメイトが犯人だった、それを知ってしまったのだ。

    優しい彼女のことだ、仲間を裏切る様で口にすることを憚っているのだろう。

    「犯人…は。」

    大神は前を据え、明瞭な声で発言した。

    「犯人は我だ。我が、我を殺した。」

    その場が、水を打ったようになった。皆、声を無くし、かける言葉を忘れていた。

    「言い訳をするつもりはない。皆の分まで生きられなかったことを詫びよう。」

    不二咲は大神に近づき言った。

    「どうして…そんなことしたのぉ、大神さんみたいに強い人が、耐えられなかったの?道場の人は良かったのぉ!?」

    「不二咲くん、落ち着いてください。大神さんはどうしてそんなことを?何の動機が提示されたのですか?」

    皆が大神に注目する。

    「内通者が誰か、それを発表されたのだ。」

    内通者、それは一人ではなかったのか。目を丸くさせ、驚いている人が数名いた。

    「戦刃さん、内通者は貴方だけじゃなかったんですか!」

    「…うん。言い忘れてた。」

    「…どうして、どうして大神さんが!…私達を裏切っていたんですか…?」

    自分に責める権利は無いと考えながらも、その思考は止まらない。

    「なんで、どうして、ねぇ大神さん!」

    「我は、道場の者を人質にされていた。それ故黒幕の言うことを聞くしかなかったのだ。」

    「言うことって、何したんだよ。大神てめぇは、何を…」

    「我はコロシアイが膠着状態に陥った時、人を殺すことを命令されていた。」

    「…それ、だけですの?」

    大神はゆっくりと頷き、肯定した。

    戦刃は大神に問いかける。

    「大神さん、盾子ちゃんは貴方に何か言っていた?」

    「特にない。順調なペースでコロシアイが行われている、最初に行動した彼女のおかげだ、それぐらいだ。」

    戦刃は胸に手を置き、安堵した様に下を向いた。

    ふと、視線を感じ、原因の人物を見る。

    「戦刃…テメェ、良かったな。やっぱり姉妹は仲良いんだな。」

    戦刃は視線を左斜め下にずらし、

    「ごめん。」

    と、小さな声で返した。

    「ごめんて、別にいいんだぜ。お前は元々あちら側の人間だったんだからな!」

    桑田の声が段々と低くなっていき、怒気を増して行くのがわかる。

    「よさぬか、桑田。」

    怒りを向ける対象が代わった。

    「何もやってねぇからってさ、大神もあちら側だったのには違いねぇよなぁ。」

    大神は、申し訳なさそうに目を伏せ、そして真っ直ぐに桑田と向き合った。

    「すまなかった。この程度の謝罪で許されるとは思っておらぬ…だが。」

    「うるせぇよ!!誰もテメェの謝罪なんな聞きたかねぇんだよ!」

    桑田は悲痛な叫び声をあげる。

    ボロボロと涙を流す。

    「お前全然悪くねーよ、ただ…オレは。」

    次の言葉を紡ぐことはなく、桑田は顔を伏せた。

    何処にも出口のない、閉鎖された空間。

    まるであの学園生活を思い出すようで。

    悲痛な声は消えることなく其処に響き続ける。

    「もう嫌…耐えられない。いったいいつまでこんなところに閉じ込められないといけないの!」

    ヤケになって暴れてしまおうか。

    もうみんな死んでいるんだ。

    後悔と、悲しみと、怒りと、憎しみがその部屋に積もる。

    いくつかの泣き声が、消えずに其処にあった。

    いつか、消えることはあるのだろうか。
  47. 47 : : 2015/07/12(日) 21:35:33
    お前は悪くねーよ、

    そう言った桑田の言葉が忘れる事ができない。

    自分が、クロという立場から来る罪悪感だろうか。

    人を殺した、そういった意味ではこの場に居る人間は皆同じだと言える筈だ。

    クロはシロを殺した、シロはクロに殺されることによってクロを殺した。

    実際に、クロを殺したのは黒幕だが、シロが死ななければクロが殺される事もなかったのだ。

    だから、この部屋の人間は皆同じ罪を背負っていると、そうも考えられるのではないか。

    そう考えるのは、自分を正当化したいだけかもしれないが。

    失っていた記憶を懐かしみ、感傷に浸る。

    忘れていたとしても、奪われていたからといっても、この絆を忘れていた事が罪なのではないだろうか。

    我は、我を殺した。

    命を奪ったのだ。

    自分を慕う人間、愛する人間を裏切った。

    自分自身の、夢を、未来を奪ったのだ。

    それが、どうして悪でないと言える。

    記憶を失っても、また親友となってくれた朝日奈を思い出す。

    まだ、語り合いたかった、トレーニングをしてみたかった、女子らしいことも教えてもらいたかった。

    「未練は、やはり消えぬものだな。」

    だが、我は託したのだ。

    あやつらに、モノクマからの勝利を。

    例え、我を殺しかけたとしても彼奴らは仲間だ。

    体の異変のことも気づいたであろう。

    霧切なら、我のやった事にも気がついてくれる筈だ。

    我は信じよう。

    彼奴らが絶望を打ち倒してくれることを。




    この場の空気は酷いものだ、誰もが暗い顔をし、下を向いている。

    あんなことがあって、前を向けと言うのが無理な話だが。

    テレビが点いた。

    「こんなの投票どーすんだよ、自殺なんて犯人いねーじゃん。」

    「大神さんに投票すればいいのでしょう。自分を殺した、そう考えればクロは大神さんになりますわ。」

    エレベーターの様子は、とても良いとは言えなかった。

    自分の命、軽いものとは思っていない。

    だからこそ、殺した。

    我は信じる。
  48. 48 : : 2015/08/01(土) 16:47:51
    期待です
  49. 49 : : 2015/08/02(日) 16:13:04
    「さくらちゃんは私が殺したんだよ!」

    映像の中でそう叫ぶ彼女に皆は何を思っただろうか。

    嘘の罪を騙る朝日奈に、朝日奈が起こそうとする出来事に。

    少なくとも自分は敬意を持った。

    目的の為なら自分の命さえ投げうるその覚悟に。

    自分にはできただろうか。

    ここにいる人の何人かは、その覚悟を持ったからこの場にいる。

    それが正しいものか、そうでないかは知らないが。

    僕は違う。殺される覚悟だってなかった。

    どんな状況だとしても、命を奪うことは良くない。

    だが、その覚悟が持てることは、少しだけ羨ましく思った。







    「朝日奈よ…。」

    大神は、涙を流しながらつぶやく。

    オーガと呼ばれた自分が涙を流すとはな。葉隠がいたら、鬼の目にも涙などと揶揄されそうだ。


    朝日奈が自分を思っての行動。

    朝日奈にそんなことをさせたかった訳じゃない。

    朝日奈には生き延びて貰いたかった。

    朝日奈だけではない、残りの生徒に。

    ああさせたのは自分だ。

    自分が毒を飲まなければ。


    だが、朝日奈の行動に嬉しくも思ってしまった。

    朝日奈は、自分に命をかけてくれる人間だと、思ってくれる人間だと。

    あの状況、内通者と暴露た時の周りからの視線。

    辛くなかった、といえば嘘になる。

    殺す時に、それから逃げられるという思いもなかったとは言えない。

    悲しい。その思いが一番に来るはずだった。

    だのに、

    「強く、生きろ…。」

    感謝の気持ちが一番に来る。







    ありがとう。




    その言葉は、声にならずに消えた。
  50. 50 : : 2015/08/02(日) 16:13:29
    >>48
    期待ありがとうございます!
  51. 51 : : 2015/08/13(木) 19:01:37
    期待です!面白い作品頑張って書いてくださいね!
  52. 52 : : 2016/03/19(土) 21:00:19
    どうして僕はここにいるのだろうか。

    クロとシロの罪の重さには大きな差があるだろう。

    もしこの場に閉じ込められたことが罰なのだとしたら、どうして同じ罰が与えられるのか。

    間接的にとはいえ人を殺したシロも、ここで皆と同じ様に苦しまなければならないのか。

    テレビの映像が消えた直後、江ノ島盾子は部屋の中央に鎮座した。

    視線を僕らにかけると、仰々しくひとつ息を吐く。

    「久しぶりだねー!どう?皆元気だった?」

    耳障りな空気を読まない明るい声、事の黒幕だというのに悪びれた顔もしない態度。

    暗闇の中の水面に物を落としても水紋は見えない。

    目に見えての変化はないが、何かが変わった。

    自分の腹の底で何かがふつふつと沸き立つ音が聞こえた。

    「どうしたの不二咲、ずっとこっち見てるけど」

    カラーコンタクトの所為で元々大きな瞳が更に大きくなったそれで僕を見据えた。

    化粧も合わさってか、寒気を感じる程の深い瞳。

    それだけでなく、彼女本来が持ち合わせているものもあるのだろうが。

    「思ったんだけどさ、僕がここにいる必要はあるのかな?」

    「どういう意味かな?あたしは此処に来たばかりでさっぱり状況がわからないのよねぇ」

    「コロシアイ学園生活の中で生き残ることのできなかった皆はここに閉じ込められたんだよ」

    「そんなこと見りゃわかるわよ」

    「裁判もおしおきも全部見てたよ、苗木くん達が学園を出て行ったのも」

    「もしかしてこのテレビに映ったのー?これ地デジ映るかなー?」

    「楽しかった?ボク達をこんな目に遭わせて楽しかったの!?」

    「楽しい楽しくないとかそんなのわかんないわよ!」
  53. 53 : : 2016/03/19(土) 21:03:09
    >>51
    期待ありがとうございます!!
  54. 54 : : 2016/03/20(日) 20:13:40
    江ノ島は自分の身体を強く抱き、恍惚の笑みを浮かべる。

    腐海に漂うラフレシアのような彼女はその笑みを浮かべたままに、涙を流した。

    「ほんっとに酷かった、楽しかった高校生活が段々と壊されて、とうとうシェルターの中で生活しないとならなくなって、それでも仲のいいクラスメイトとなら大丈夫かなって思ってさ」

    身体を震わせながら語るその姿は、強い不快を感じさせるものの、美しいという表現の似合うものであった。

    「でも皆動機を見た途端に目の色変えちゃってさ…どうしようって、嫌だ死んで欲しくないって思ったよ。その時心臓の動悸が激しくなって収まらなかったし、冷汗かいちゃって肌ビリビリしたし」

    真っ青な顔を前髪で隠し、視線を虚ろに陰をつくる。

    「ねぇわかりますか?大好きなクラスメイトが殺し合おうと武器を持って廊下歩いてる姿を止めることもできないあたしの気持ち」

    顔を赤くし怒鳴りつけるようにした。人が変わった様だ。

    悠然と演説のような言葉を紡ぐ彼女はまるで舞台俳優のようだ。

    「わかるわけねぇーよなぁ!!オマエラは気づかなかったんだから、すぐ隣の人間が人を殺そうと考えていることを!!」

    江ノ島は眼鏡をかけ位置を直す。教師の様な口調が癪に障る。

    「超高校級というのは一種の孤独なのです。一流の才能を持つ人間であれば、ライバルや同じ悩みを持つ仲間なんてものを置き去りにして遠いところに立っているものです。それが学園の考えであり執念」

    両拳を顔に近づけ上目遣いに周りを見やる。

    「そんな1流の人間ばかりが集まるんだしぃー、分野は違えど仲間意識が生まれるのは当たり前だよねー」

    口元だけを歪め両手をだらんと下げた。

    「だからそんな大好きなクラスメイトを殺した奴を憎んだよ。当たり前じゃん、あたしもその超高校級の1人なんだから」

    石丸は立ち上がり江ノ島に近づいた。

    喉から出した大声は少しかすれていた。

    「殺す原因を作ったのはお前じゃないか!!」

    「あぁそうだよ、憎む相手は此処にいるんだ。こんなにも近くに。ねぇ、どうしようあたしはなんて事をしてしまったんだろうどれだけの事をしようとも許してなんかくれなくて自己嫌悪で死んでしまいそう」

    石丸は不意に2度目の処刑直後の自分を思い出し、江ノ島から目をそらした。

    強く握った拳が震える。

    「あたしがコロシアイで受けた絶望はこのくらいだけどさー、皆はどうだったの?ううん言わなくていーよ、想像つくから。いいなー羨ましいなーみんなみんな新鮮で最高の絶望を受けてたのはっきりと見てたから」

    石丸は江ノ島の胸ぐらを掴み拳を振り上げた。

    恍惚と口元を歪めるのが1度はなくした自分の底からフツフツと怒りを沸かす。

    「ざまぁないよね。あれだけ世間からちやほやされてた天才達が疑心暗鬼になって毎晩ビクビク震えてんの。そんで最期には惨めにおしおきされてさー、ねぇ石丸、バター美味しかったよー?食べたのはあたしじゃなくてモノクマだけどさー!」

    拳を振り下ろそうとしたその時、長い爪の手が石丸の腕を掴んだ。

    「やめましょうよ、石丸くん。風紀委員が暴力に訴えてはいけません」

    「どうして止めるセレスくん、君だってこいつを憎んでいるだろう」

    「そりゃ勿論悔しいですわ。ですが勝負にわたくしは負けたのです、いつまでも勝者にドロドロとした感情を抱いていたらみっともない。それに貴方を殺すように仕向けたのはわたくしです」

    「元凶はこいつだろう」

    「貴方が手を汚すまでもないと言っているのです。頭を冷やしたらどうですか?」

    「だがっ…!」

    突然江ノ島身体が重くなり、胸ぐらを掴む手を離してしまった。

    見れば頭から血を流し、瞳孔は大きく開いている。

    江ノ島の後ろには不二咲千尋が血に濡れた椅子を持ちそこに立っていた。
  55. 55 : : 2016/03/22(火) 20:24:07
    江ノ島の身体からは体温が下がっていきぐったりとしていた。

    「不二咲くん…殺したんですか?!」

    「貴方は…何をしたのかわかっているのですか!」

    セレスの動揺に揺れた目が不二咲を見るが、不二咲は周りの反応に意識が向かない。

    「もう…疲れたんだよぉ、こんな所ににいつまでもいなきゃいけないことに。どうせ出られないなら、せめて納得できるくらいの罪が欲しいでしょ…?」

    不二咲はそう言うと、後ろの壁に凭れストンと落ちるように座った。

    ボロボロ大粒の涙を滝のように流ししゃくりあげる。

    「ごめんなさい…許してよぉ…!!」

    小動物の様に震え、庇護欲を誘う彼を誰が責められるだろうか。

    江ノ島盾子はこの事態を引き起こした黒幕。

    不二咲はそれを討っただけ。

    戦刃が不二咲の両肩に手を置き、覗き込むようにして目を合わせる。

    「ねぇ許してくれると思ってるの?」

    「ひっ……」

    頭の中で自責を繰り返す不二咲を現実に引き戻した。

    「かわいいから殺せないだとか、そんな感情もう皆残ってないよ。大和田に殺された不二咲が1番わかってるんじゃない?」

    「ごめんなさい!!許して」

    「ここで他人を怒らせたらどうなるかぐらいの想像力あるよね」

    「いやだ!!!ごめんなさい戦刃さん!!!!」

    戦刃は不二咲の首に手をかける。

    「江ノ島さんは多分死んではいないと思いますわ」

    「…は?」

    セレスは表情のない顔で右手を上げた。

    「傷の治りが早いんです。しかもその治り方も妙で…流れた血が戻っていく様でしたわ」

    床に寝る江ノ島に視線を移すと、床に飛び散った血が少なくなっている。

    「ここまでの怪我を負えば変わるかもと思いましたが…江ノ島さんもまた動き出すでしょうね」

    「なんですかそれ…じゃあ永遠に閉じ込められたままってことですか!!?」

    「そうなりますね」

    セレスはどこか乾いた笑みを浮かべ、目を細め宙を見る。

    「来世へは遠いようですわ…」


  56. 56 : : 2016/03/24(木) 12:04:25
    「遠いなんてもんじゃねぇだろ、来ないんだよ」

    舞園は立ち上がり、桑田の近くに歩き見下す様にして目を細めた。

    桑田は眠た気な眼を向けたが、気にした風もなく舞園から視線を逸らした。

    「何の用だよ舞園。痛めつけにでも来たのか?男女の差ってやつを考えろよ」

    「何をやっても死なないのなら、殺し放題ってことですよ。貴方こそわかってるんですか?動機がどうあれ、実際に殺したのは桑田くんです。江ノ島さんが倒れている今、貴方は最も狙われやすいんです」

    「そんなことねぇだろ!お前が真っ先に殺そうとしたんだ、オレがなんで狙われなきゃならねぇ」

    「そんなこと他の皆は知りませんし、だとしてもわたしが倒れている間狙われるのは誰でしょうね?」

    「お前馬鹿じゃねぇの?そんなこと起こるわけねぇーだろ!!」

    「その可能性はあるって言ってるんですよ。だから、どうしますか?わたしを殺せますか?」

    桑田は立ち上がり舞園から急いで離れた。

    「ねぇ、怖いんですよね。わたしが!桑田くん怖がってるんですね、おかしいです」

    舞園は口元を手で隠しクスクスと笑い逃げる桑田に歩み寄る。

    「わたし達、皆から何をされてもおかしくないんですよ」

    「ふざけんなよ…殺すぞ」

    「殺せないんですよ!!もう死んでるじゃないですか」

    舞園は桑田の肩を何度も叩きそして口を閉じた。


  57. 57 : : 2016/03/24(木) 12:34:04
    戦刃は江ノ島の顔を見下ろし座り込んだ。

    周りは騒々しいが二人の間は空き教室の様に音がなかった。

    「ねぇ盾子ちゃん、そろそろ起きた?」

    江ノ島はゆっくりと目を見開き戦刃に焦点を合わせる。

    「あれー、お姉ちゃんおはよー」

    流れ出た血がゆっくりと頭の中に戻っていく。

    「頭痛いし周り五月蝿いんだけど、お姉ちゃんなんとかしてよ」

    「ごめんね盾子ちゃん、それはできない」

    戦刃は江ノ島の頬を撫で、腹部に跨った。

    「周りの五月蝿いのは盾子ちゃんが引き起こした結果だし、それを止めるような器用なことできないから」

    「残念なやつだねほんと」

    江ノ島は口を大きく歪ませ、笑みの様な表情を浮かべた。

    見慣れたその笑顔も、今は見るに堪えない。

    両手を戦刃の首元に伸ばし掴み、力を込める。

    戦刃はそれを片手で抑え、江ノ島の顔を殴りつけた。

    「痛いってねぇ、痛いよ!!ねぇ!!痛い!!!!」

    江ノ島の笑い声が部屋に響く。

    最愛の妹を殴る不快な気持ちも自分の憎しみの…絶望の元凶を討つ快感に変えればなんてことのない不快であった。

    何度も、何度も殴りつけていると視界がなぜかぼやけていた。

    嗚咽が零れ、腕に力が入らない。

    「出してくれよ!!!此処は何処だよ…誰か知ってんだろうが!!」

    江ノ島は表情を亡くし腫れた顔で、平らで冷えきった声を出した。

    「ここが何処だって?そんなの見りゃわかるだろ、

























    地獄だよ」


  58. 58 : : 2016/03/24(木) 17:00:43
    白く正方形の箱は真っ暗闇に落ちていく。

    誰の目にも触れない、深海の奥底へと。

    居心地の良い檻も檻には変わらず閉じ込められたままいることは苦痛でしかない。

    争いあった末に残るのは飽き。

    そこに癒しなど存在しなかった。

    …end
  59. 59 : : 2016/03/24(木) 17:02:57
    途中グダついてしまいましたがこれで完結しました!
    ありがとうございました!
  60. 60 : : 2016/03/24(木) 17:31:25
    面白かったです!
  61. 61 : : 2016/03/24(木) 19:08:56
    >>60
    ありがとうございます!!
  62. 62 : : 2023/07/16(日) 13:39:02
    http://www.ssnote.net/archives/90995
    ●トロのフリーアカウント(^ω^)●
    http://www.ssnote.net/archives/90991
    http://www.ssnote.net/groups/633/archives/3655
    http://www.ssnote.net/users/mikasaanti
    2 : 2021年11月6日 : 2021/10/31(日) 16:43:56 このユーザーのレスのみ表示する
    sex_shitai
    toyama3190

    oppai_jirou
    catlinlove

    sukebe_erotarou
    errenlove

    cherryboy
    momoyamanaoki
    16 : 2021年11月6日 : 2021/10/31(日) 19:01:59 このユーザーのレスのみ表示する
    ちょっと時間あったから3つだけ作った

    unko_chinchin
    shoheikingdom

    mikasatosex
    unko

    pantie_ero_sex
    unko

    http://www.ssnote.net/archives/90992
    アカウントの譲渡について
    http://www.ssnote.net/groups/633/archives/3654

    36 : 2021年11月6日 : 2021/10/13(水) 19:43:59 このユーザーのレスのみ表示する
    理想は登録ユーザーが20人ぐらい増えて、noteをカオスにしてくれて、管理人の手に負えなくなって最悪閉鎖に追い込まれたら嬉しいな

    22 : 2021年11月6日 : 2021/10/04(月) 20:37:51 このユーザーのレスのみ表示する
    以前未登録に垢あげた時は複数の他のユーザーに乗っ取られたりで面倒だったからね。

    46 : 2021年11月6日 : 2021/10/04(月) 20:45:59 このユーザーのレスのみ表示する
    ぶっちゃけグループ二個ぐらい潰した事あるからね

    52 : 2021年11月6日 : 2021/10/04(月) 20:48:34 このユーザーのレスのみ表示する
    一応、自分で名前つけてる未登録で、かつ「あ、コイツならもしかしたらnoteぶっ壊せるかも」て思った奴笑

    89 : 2021年11月6日 : 2021/10/04(月) 21:17:27 このユーザーのレスのみ表示する
    noteがよりカオスにって運営側の手に負えなくなって閉鎖されたら万々歳だからな、俺のning依存症を終わらせてくれ

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