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【斑蜘蛛】
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                  - 1 : : 2015/02/01(日) 19:14:31
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 街の灯りで彩られた夜の東京。
 
 
 まるで糸のように細長い弱降りの雨の中、けたたましく吠えるサイレンが街の人々の意識を捕える。
 
 
 横断歩道を行き来する朝顔のように開く傘の集団を、雨の中ずぶ濡れになりながら押しのける2人の男と女がいた。
 
 
 「絶対見失うなよ斎条!」
 
 
 女の数m後ろで朝顔を押しのけながら叫ぶ男の声を聞いて、当たり前だ。逃してたまるものか、と女は思う。
 
 
 女の目の前にはたった今朝顔の集団を突破した1人の男の姿があった。
 
 
 ジーパンに無地の黒パーカーといったラフな格好の男。
 
 
 頭には黒のニット帽をしている。
 
 
 腹に赤い斑模様のある蜘蛛の絵が書かれたニット帽だ。
 
 
 男の手には小さな光り輝く何かが握られていた。
 
 
 「まちやがれ…このッ、蜘蛛男がッ…」
 
 
 女はつぶやきながら朝顔の集団を突破した。
 
 
 その小さいつぶやきは絶対にあのニット帽男を捕まえんという想いが、ジワリと肌に伝わってくるほど込められているのがわかる。
 
 
 現にニット帽男と女の距離は確実に縮まっていた。
 
 
 男は狭い路地を曲がった。
 
 
 バカめ、そこは行き止まりーーーー。
 
 
 女は長い鬼ごっこに勝利を確信し意地悪そうに口角を吊り上げた。
 
 
 腰の手錠に手をかけ、女も路地を曲がる。
 
 
 「そこまでだ!斑……」
 
 
 そこまでだ!斑蜘蛛。その格好のついた決めゼリフを言い終わる前に女は絶句した。
 
 
 曲がった路地には一匹の猫以外誰もいなかったから。
 
 
 「そんな…あいつは確かにここを…」
 
 
 自分に自分の見た事実を言い聞かせる。
 
 
 そうでもしないと到底頭の処理が追いつかなかった。
 
 
 そのとき暗闇の奥で何かが水たまりにビチャンと落ちた。
 
 
 女が懐中電灯で足下を照らし暗闇へと進む。
 
 
 そこにあったのは長いロープだった。
 
 
 おそらくこのビルの屋上にでも繋がっていたのだろう。
 
 
 だとしたら奴は今頃…。
 
 
 女がそう思ったのと同時に一機のヘリがビルの屋上から夜の暗い空へと飛びたった。
 
 
 「くッ……」
 
 
 女は奥歯を噛みしめる。
 
 
 またしてもやられたーー。
 
 
 「斎条!奴は…」
 
 
 今更になって四十を超えた男が息をきらしてやってきた。
 
 
 「すみません。逃げられました」
 
 
 そうか…と男は肩を落とす。
 
 
 ビルの壁には一枚の紙が雑に貼られていた。
 
 
 《今宵もしかりとお宝頂戴いたした。
 
 ではまた、鬼ごっこいたしましょう。
 
 愛しの斎条さん。 斑蜘蛛》
 
 
 女は濡れたその紙をビルの壁から乱暴に破りとった。
 
 
 バカにしやがって、次こそは必ずーーーー。
 
 
 もう何度目になるかわからない誓いを女は深く胸に刻んだ。
 
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                  - 2 : : 2015/02/01(日) 23:23:29
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 怪盗【斑蜘蛛】
 
 
 『白い狐と斑模様の蜘蛛』
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
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                  - 3 : : 2015/02/02(月) 00:02:22
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 滝口(たきぐち)と斎条 莉美(さいじょう りみ)はハンバーガーショップで昼食を食べていた。
 
 
 昼食といっても昼時はとっくにすぎているのだが。
 
 
 だんだんと冬の寒さも遠ざかり太陽から降り注ぐ灼熱と、ビルやアスファルトで反射された熱で街はまさに電子レンジ状態だった。
 
 
 そんな中をスーツ姿で何時間も歩いたのだ。もう服の中は汗ばんで気持ちが悪かった。
 
 
 そんな疲労した体に入ってくるオレンジジュースは格別で、渇いた喉から胃の中へ清々しいくらいに潤してくれる。
 
 
 まったく…なぜ自分がこんな思いをしなくてはならないのだ。
 
 
 その答えは言わずともわかっている。
 
 
 そう、昨夜お目当ての宝石を盗み出し見事この女刑事斎条から逃げ巻いた、あのすかした怪盗のせいだ。
 
 
 世間はおととい警察に届いた犯行予告の通りに、某会社の1番高価な宝石を盗み出した斑蜘蛛の話題で持ちきりだ。
 
 
 確か宝石の値段は数十億はしたかもしれない。
 
 
 たが正直そんなの斎条にとってはどうでもよかった。
 
 
 気に食わない。ただその一言に限る。
 
 
 斑蜘蛛が盗みに入った会社は裏で麻薬の取引をして儲けていた。
 それが斑蜘蛛が盗みに入ったことで表沙汰となったのだ。
 
 
 これは偶然ではない。
 
 
 斑蜘蛛は最初からわかっていたのだ。その上であの会社に盗みに入った。
 
 
 そう言い切れるのはこれが今に始まったことではないからだ。
 
 
 斑蜘蛛は悪党からしか盗みをしない。
 
 
 世間が斑蜘蛛で話題が持ちきりなのはここにあった。
 
 
 悪者の悪事を表沙汰にする正義の怪盗ーーそう呼ぶ者は少なくはない。
 
 
 斎条はこれが気に食わなかった。
 
 
 なにが正義だ。やってることは所詮ただの犯罪者に過ぎないのにーー。
 
 
 「そろそろ行くぞ」
 
 
 滝口がそう言って立ち上がる。
 
 
 またあの電子レンジの中へもどるのか。
 
 
 斎条は少しだけ口にはしないが悪態をついてみる。
 
 
 こんなことしても意味はない。
 
 
 昨夜斑蜘蛛を見た人はいないか滝口と斎条は聞き込みをしていた。
 
 
 なぜそんなことを日の明けた今更になってしているのか?と言われるかもしれないが、仕方がないとしか言えない。
 
 
 なぜなら他にすることがないのだから。
 
 
 しかし聞き込みが無意味なことだと斎条はわかっていた。
 いや、滝口も本当はわかっているのだろう。
 
 
 奴は証拠を残さない。
 
 
 威勢ばかりでなに一つてかがりの掴めない自分の不甲斐なさに落胆する斎条へ、一通の着信音が鳴り響いた。
 
 
 それはこの灼熱地獄から救ってくれる警視庁への呼び戻しの内容だった。
 
 
 それは素直には喜べないものだろう。
 いや、喜んではいけないものだ。
 あまりに不謹慎すぎる。
 
 
 だが、わかっていても斎条の口角はまた意地の悪そうに吊り上った。
 
 
 「滝口さん!」
 
 
 斎条が嬉しそうに声のトーンを上げる。
 
 
 「どうした?」
 
 
 目を爛々と輝かせて斎条は口を開いた。
 
 
 「またきました!斑蜘蛛からの犯行予告!」
 
 
 斎条は胸の高鳴りを抑えられそうになかったーー。
 
 
 
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                  - 4 : : 2015/02/04(水) 18:31:50
 
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                  - 5 : : 2015/02/04(水) 19:00:27
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 「ターゲット目の前。霧島、柳、2人とも配置に着いたな?」
 
 
 高層ビルやアパートの建ち並ぶ街にひっそりと身を潜めるよう、ぽつんと存在する小さな公園の茂みに彼らはいた。
 
 
 彼らはイヤホン型の無線を付けており、それぞれ公園の入り口3ヶ所付近に身を潜めている。
 
 
 「こちら霧島。月岡さん、いつでも大丈夫です」
 
 
 「こちらも同様です」
 
 
 「よし、ターゲットはまだこちらに気づいていない。だが最大限の警戒を怠るな」
 
 
 「了解」
 
 
 「了解。にしてもさすが月岡さんだ。まさか奴が、依頼人の住むアパートのすぐ後ろにある公園を寝ぐらにしていたなんて」
 
 
 「集中しろ霧島。そういうことはターゲットを捕まえてから言ってくれ」
 
 
 「そうですよ霧島さん。奴は依頼人の話を聞く限りすばしっこく、ここら一体の土地勘も持っているようです」
 
 
 今このチャンスを逃したら、もう捕まえられないかもしれないんですよ?と柳は口を酸っぱくして霧島を責める。
 
 
 「へいへい、悪かったよ」
 
 
 「まったく…ほんとに分かってるんですか?」
 
 
 「うるさいな、だから僕は君が…」
 
 
 苦手なんだ、その一言は月岡に遮られた。
 
 
 「はいはい、夫婦喧嘩はそこまでだ2人とも」
 
 
 月岡の発言を息ぴったりで否定する霧島と柳を黙殺し、暫くしてから月岡は指示を出した。
 
 
 「霧島はターゲットの後ろから、柳は右から奴を狙え」
 
 
 「了解」
 
 
 「月岡さん!」
 
 
 「どうした霧島?」
 
 
 「もし、捕まえられるなら捕まえてイイっすか?」
 
 
 「ちょっと霧島さん!ちゃんと作戦通りに…」
 
 
 「あー、いいよいいよ柳」
 
 
 「でも月岡さん…」
 
 
 「霧島」
 
 
 「はい!」
 
 
 「自信があるならやっても構わんが、無理だと判断したらちゃんと俺の方に誘導してくれよ?」
 
 
 「了解!」
 
 
 霧島が嬉しそうに答えるのと、柳がため息を漏らすのはほぼ同時だった。
 
 
 「準備はいいな?」
 
 
 月岡の一言に2人は答えない。だが2人の目の色は確実にその色を変えていた。
 
 
 「それじゃ、よろしく頼む」
 
 
 月岡がイヤホンに手を添え合図するとともに2人は勢いよく茂みから飛び出した。
 
 
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