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四恋マ 第1話 『四角のはじまり』

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  1. 1 : : 2015/01/01(木) 00:00:59
    ジレンマ
    四恋マ 第1話 『四角のはじまり』



    ――――時は、春を過ぎた5月。

    桜景色は過ぎ去り、まだ気温は温暖なものの、これから梅雨を迎える丁度手前のこの季節。

    学生も始業式気分が抜け、いよいよ学業も本番といった心持ちだろう。

    少し田舎町に建つこの平凡な高校でも、それは例外ではなく…。



    「――――!」

    「――――。」



    クラスメイト達がにぎやかに談笑するその教室で、自分の席に座る一人の女子生徒。

    ミディアムとショートの中間程度の黒い髪を持ち、光沢のような艶が現れている。

    前髪を中央・左右に分け、M字形に整えている様子は、一見男性風にも捉えられる。

    しかしながら、東洋人の美しさを象徴とするような顔立ちがその“誤認”を掻き消す。

    目は若干ながら細いが、漆黒のような深さを持つ彼女の黒目とのバランスは良い。

    そんな彼女、『朱馬 美佳紗(あかま みかさ)』が見つめる視線の先は、一人の男子生徒。



    「でさ!あと1ヶ月で、先輩達の最後の大会だから、オレも気合入っていてさ――――」



    教室で友人と談笑する男子生徒の中の一人に自然と目が移る。

    彼女は、幼馴染みの『衣江賀 江蓮(いえが えれん)』を見ていたのだった。

    彼女達は、親の繋がりもあって幼少期からの知り合いだった。

    同じ幼稚園、小学校、中学校と経て、高校でもこうして同じ学校へ通っている。

    とはいっても、彼女の成績は優れていたため、わざわざこの学校を選ぶ必要もなかった。

    彼女がこのあまり学業レベルの高くない高校を選んだ理由は…おそらく察しがつくだろう。



    「あー!美佳紗ったら、また江蓮の事、見てたの~?ほんとに好きだね~。」

    「別に…ただ…。」



    クラスメイトにからかわれる事も厭わないといった風に美佳紗は答えた。

    そう。彼女は、幼馴染みの江蓮の事に好意を抱いていたのだった。

    それはずっと昔からの事で、特に自らその事を彼に伝えるわけでもなく想い続けている。

    その事はクラスメイト達も承知の上だったため、それ以上、からかう事はしなかった。



    「美佳紗はすっごい美人なんだから、さっさと告白しちゃえばいいのに。」

    「それは…出来ない。だって…。」



    あの子がいるから。



    とても優れた容姿を持つ彼女でも、一歩踏み出せない理由がそこにあった。

    その人物の存在を考えると、それ以上言えずにそこで口籠ってしまう。

    彼女は基本的に、間違っていないと思う自分の意志を曲げない性格である。

    しかし、そんな彼女にも、その存在に心が動揺してしまう相手が一人いた。

    友人にからかいも他人から文句も何も気に留めない彼女が唯一、引け目を感じる相手。



    「あっ!そうだ、知ってる?噂で今日転校生が…。」



    今の彼女には、聞こえていないようであった。――――



  2. 2 : : 2015/01/01(木) 00:02:28

    彼は、クラスメイトからの視線には全く気が付いていなかった。

    黒髪の前髪を中央で分け、自然な跳ねが膨らみを生む頭頂部。

    目の彫りは深めで黒目が小さい事が、目力が強く見えている要因だろうか。

    とりわけ、独特な長さをもつ眉毛が特徴といえようか。

    彼は、先程から美佳紗が見ていた『衣江賀 江蓮(いえが えれん)』である。

    ずっと、友人との会話に夢中で視線には気付いていない。

    そもそも、鋭い方ではないため、会話中でなくとも視線には気付かなかったかもしれない。



    「なぁ、江蓮。お前今度の試合は出られそうなのか?」

    「それはまだ確信はできねぇけど…オレも必死で練習してるからな!絶対に出たい!」

    「知ってる、知ってる。二年になったんだし、そりゃ試合には出たいよな。頑張れよ!」

    「おう、サンキュー。なによりバスケは楽しくやりたいからな!」



    そう言って彼らが盛り上がっているのは、部活の話のようである。

    この高校でバスケ部に所属している江蓮は、次の試合の機会に高揚していた。

    これまでは、上級生の人数が多かったために、試合に出場する機会は少なかった彼だった。

    しかし、次が上級生の最後の公式大会だという事で、彼もまた気合が入っていたのだった。



    「でも、先輩達も最後の大会だもんな。お前の出番、やっぱないかもな!」

    「そんな事、まだ分かんねぇよ。俺だってチームの勝利に貢献したいし、活躍したいんだ!」

    「悪い、悪い!お前が2年生の中でも一番に頑張っているのは、聞いているぞ。」

    「くっそー、今からでも大会が待ち遠しいぞ!あ、でもまだまだ練習しないと。」



    こうして、何事にも簡単に諦めない姿勢を見せるのが、彼の強みであった。

    その事は、このように周囲にも伝わっているため、彼の評判は高かった。

    だが、そんな彼も部活動の事を度外視で気になる人物がただ一人…。



    「……。」



    彼は、教室の窓際の席に静かに座る一人の女子生徒の事が気になっていた。

    いつからだったか覚えていないが、彼はその子の事をしばしば目で追うようになっていた。



    「ん?どうしたんだ、江蓮?」

    「い、いや…なんでもねぇ。」



    周囲にその事が悟られないように誤魔化す江蓮だったが、その技術は上手とは言えない物。

    出だしの声のトーンが高くなり、徐々に調子が落ちていくのが、その兆候だった。

    彼女と話をした事はほとんどなく、精々、会話を数回した事のある程度。

    単なる同窓に過ぎない関係だったが、彼は遠くから見ているだけで良いと内心思っていた。

    だが、彼女の事を見ないよう努める程に、それは見たいという欲求に変わっていった。

    気が付けば、彼女の事を目で追っている。

    そんな事を自覚すると、彼は胸が苦しくなり、誤魔化そうとした。

    彼が雑念を発散するには、部活動での練習に精を出すしか方法はなかった。

    多少の心に違和感を抱きつつも、恋心は彼を青春に生かしていた。
  3. 3 : : 2015/01/01(木) 00:02:49

    「ねぇ、皆聞いて聞いてー!今日、このクラスに転校生が来るんだってー!」

    「え?ほんとかよ、初耳だ。」

    「それどこ情報?ソースは?」



    クラスの情報通の女子生徒が嬉々として、談笑の輪の中に飛び込んで来た。

    彼女が持ち込んだ転校生の話題に皆は今までの会話を一時終え、興味の方向性を変えた。



    「ほんとだって!今朝、先生達が話していたの、偶然聞いちゃったんだもん!」

    「へー、で、そいつは野郎なのか?それとも、可愛い女の子なのか?」



    野郎か、はたまた可愛い女子生徒としか想像できない所が、男子高校生の程度を示している。

    といっても、皆転校生と聞いた時点では、各々が好き勝手な姿を思い浮かべるものである。

    男子に限らずとも、女子生徒だって恰好いい男子転校生を想像するかもしれない。

    想像するだけなら自由である。もうじき、結果がやってくるのだから。

    その時が訪れるまでこうして楽しむのも、転校生という話題の魅力なのかもしれない。



    「えぇーっとね、男の子のはず!先生の会話的にそんな感じだったから!」

    「なんだ野郎かよ、まっ、何だっていいか。」

    「もーう、いいじゃない、男の子でもさ!優しい人だったらいいなぁ。」

    「おうおう、早速転校生に夢中でやんの!」

    「え?!ち、ちがうもん!」

    「あははは!」



    教室内が転校生の話題で盛り上がりを見せる中、江蓮は黙ってその様子を聞いていた。



    「…よし!」

    「ん?何が『よし!』なんだ、江蓮?」



    突然、気合を入れるような声を出した江蓮に対して、友人は問いかけた。



    「オレ、そいつをバスケ部に誘う!絶対に入部させてみせる。」

    「あっはは、お前突然だなぁ。まっ、いいんじゃないか?」

    「そうか。じゃあ、そいつが来たら、早速にでも誘ってみる!」

    「転校したばかりだし、同じ部に誘ってお前が色々教えてやれよ。」

    「あぁ、そのつもりだ。よーっし、じゃあ、今から気合入れておかないとな!」

    「気合もいいけど、お前、そんな調子でいいのか?」

    「ん?何がだよ。」



    含みを持つ言い方をするクラスメイトに対して、江蓮は聞き返す。



    「新しい部員が増えたら、お前の出場出番、また遠のくかもしれねぇぞ?」

    「はっ!そんな簡単に負けてたまるかよ!」

    「ははっ、まぁ頑張れよ…おっ、先生来たぜ。」

    「あぁ、という事は、その転校生もそこに居るんだよな。よーっし。」



    まだ面識のない未知の転校生に期待を膨らませ、席に戻る江蓮。

    その途中、再び“彼女”の方を僅かに見やった事は、誰にも気づかれなかった。――――




  4. 4 : : 2015/01/01(木) 00:13:51

    その女子生徒は、よく窓の外を眺めていた。

    窓際という恰好の位置に席があったのも大きな理由だが、元々彼女の趣味であった。

    普段から物静かな性格の彼女は、他人から話しかけられなければ会話をする事は少ない。

    この日も窓際の特等席から、窓の外の景色を眺め、ぼんやりとしていた。

    彼女が、江蓮が先程から幾度か見ていた人物である。



    「…はぁ。」



    外から入り込む緩やかな風が彼女の金色の髪をくすぐる。

    前髪をおろし、側頭部から後頭部にかけて髪をまとめ上げて留めている髪型。

    少し風が吹いたところで、それが崩れるような事はないが、彼女は思わず顔を下へ傾ける。

    前髪が風にたなびくのが気になったのだろうか。髪が揺れるその様子はとても雅であった。



    「…転校生、か。」



    そんな他人の様子など気にも留めない素振りを見せる彼女だが、実はそうでもなかった。

    転校生の話題に賑わうクラスの会話は、しっかりと耳に届いていた。

    全く話題に興味を示していないように見える彼女の脳内でも、色々と想像自体はしていた。



    「まっ、私にはどうでもいい事だよね。」



    そういって、強制的にでも思考を停止させ、他の事へ興味を移そうとする彼女だった。

    少々垂れ気味の上まぶたをゆっくりと閉じると、高い鼻が目立つようになる。

    色白で高い鼻を持ち、常に眠たそうな冷めた目をしているのが彼女の特徴だった。

    『元々、美人な顔立ちなんだから、もっと明るく振舞っていた方が可愛い!』

    そう友人から言われていた彼女だったが、あまり乗り気がせず、結局、変える事はなかった。

    あまり、他の事に興味を示さず、一人静かに過ごす時間を好むのが彼女の性格だった。



    「はーい、皆席に着けー!HR始めるぞー!」



    担任の声がクラスに行き渡り、生徒達はそれまでの会話を中断し、各々席に着いた。

    元々、席に着いていた自分にはこれまた関係ないと、彼女はずっと黙っていた。

    こうしていれば、わざわざ急かされてまで席に着く必要が無い。

    それもまた、彼女がこの特等席をから動かない理由の一つでもあった。



    「知っている奴は知っていると思うが、今日、このクラスに転校生が来るぞー!」

    「おー、やっぱりそうなのか!」

    「楽しみー♪」

    「まぁまぁ落ち着け、お前ら。あんまり騒ぐと“彼”も困惑するだろ?」



    担任教師の『彼』という単語に、一同は、やはり転校生は男子生徒である事を認識する。

    ちなみにこの担任教師、口調はザッパーな雰囲気だが、れっきとした女性教師である。



    「そういえば、“あいつ”この前、気になる事、手紙に書いてたっけ…。」



    誰にも聞こえない様な小さな声で、彼女、『玲音 杏仁(れおん あに)』は呟いた。

    騒然とする教室内では、小声でなくとも彼女の声は容易に掻き消されていただろう。

    彼女が言う『あいつ』の存在は、彼女の中での思い出の人物。



    「じゃあ、入ってきてー!」

    「はい。」



    戸一枚隔てた教室の外から男子生徒の声が聞こえた。

    皆がその登場に胸躍らせる中、担任に促され、その転校生は教室の戸を開けた。

    杏仁もまた、他の生徒と同様に戸の方を横目で見やり、彼が入室する様を眺めていた。



    「…え?」



    まさか。彼女は心の中でそんな言葉を発した。

    彼女は、一体何に驚いたのだろうか。

    彼女が見たものは、転校生が教室に入って来る。ただそれだけの様子。

    だが、その姿を見た途端、彼女は目を大きく見開き、内心で驚く様子を見せた。――――




  5. 5 : : 2015/01/01(木) 03:03:42

    少し、時は遡《さかのぼ》る。

    一般的な登校時間の1時間程前の出来事。



    「今日、この高校に転校するんだな。」



    まだ生徒達は登校してこない少々早い時間帯。

    本日付でこの学校に転校する事が決まっていたこの男子生徒は、校舎を眺めていた。

    まだ施錠された門の前に、案内役の教師が待っており、その男子生徒はそこに誘われた。



    「いらっしゃい、君がそうだね?」

    「はい、先生。本日からよろしくお願いします。」



    礼儀正しく挨拶をし、辞儀をする様子に教師は感心し、会った直後から好印象を抱いた。



    「ささっ、とりあえず校長室へ挨拶に行って、その後、職員室で待ってもらう事にするから。」

    「分かりました。分からない事ばかりですので、ご指導や案内のほど、お願いします。」

    「そりゃ、そうさ。今日来たばかりなんだから、分からない事しかないよ、あっはっは。」

    「それもそうですね。ふふっ。」



    そんな談笑をしながら、彼らは校舎の中へと入っていった。



    「――――というわけだよ。校長先生への挨拶も終わったし、職員室いこっか。」

    「はい、少し緊張しましたね。」

    「大丈夫、大丈夫!君の事は前の学校の先生からも聞いていたからね!」

    「そうですか。それは何よりです。立ち回りが効きそうで。」

    「見ての通り、ウチの学校はそんなにレベルも高くないし、君は心配無用そうだね。」

    「いえいえ、そんな事もありませんよ。慣れない環境で調子を崩さないように心掛けます。」

    「そうだねー、あっ、着いたよ。じゃあ、HRの時間までここで待機ね!そこに座ってて!」

    「はい。」



    先生方への挨拶を済ませた後、彼は担任が用意してくれた椅子に腰掛け周囲を眺めていた。

    座っていてと言われても、何もやる事が無いと時間の経過も遅いものである。

    とりあえず、彼は暇つぶしに周囲の様子を観察する事にした。

    それから暫く経つと、校内に生徒達の声がし始めた。皆が登校してきたのである。

    職員室に出入りする生徒も現れ、彼は若干居心地が悪くなった気分になった。

    と言っても、特に気に留める必要がない事は彼自身も自覚していた。



    「…まっ、俺が今気にする事でもないよな。同じ学校内でも、大抵は他人なわけだし。」
  6. 6 : : 2015/01/01(木) 03:03:48

    今日からこの学校の生徒になるのだから、何も気兼ねする必要もない、と。

    違和感を抱くのは初めだけである、と。

    時折、彼の事を横目で眺めていく生徒も居たが、彼はその違和感の正体に気が付いた。



    「そっか。俺がこうして鞄持って椅子に座っているから、皆気にするんだな。」



    ふと職員室の出入り口に目をやると、一人の女子生徒と視線が合った気がした。

    その生徒は、こちらの視線に気づくと即座に立ち去ったようだが…。



    「まっ、これが転校生としての宿命っていうものなのかもな。」

    「俺にだって、皆が気にする気持ちも分かる。」



    そうして、時間の経過を待っていると、チャイムがなった。HRの時間となったようだ。



    「よーっし、じゃあ教室に行こうか!」

    「はい…待ちくたびれましたね。」

    「すまん、すまん。こういうのは焦らした方が面白いからね!」

    「うわっ、中々に意地が悪いですね、先生。」

    「なんか私のキャラらしいぞ?」

    「そうなんですか。愉快ですね。」



    担任教師との雰囲気も良く、彼の緊張は適度に和らいでいた。



    「…居るかなぁ。」

    「ん?何がだ?」

    「いえ、何でもありませんよ?」

    「……?」



    思わず心の声が漏れてしまっていたが、彼は適当に誤魔化した。

    そう。彼には一つの心当たりがあった。彼がこの学校へ転校してきた理由の一つでもある。



    どうせなら、このクラスに居るといいんだけどなぁ。

    それに、あの子だけじゃなくて、あいつらもこの学校に進学してるって話だったし。



    本人以外には何の事か分からないだろうが、今、彼は心の中で期待する気持ちに笑っている。

    そして、遂に教室の前まで辿り着いた。



    「じゃあ、私が先に入ってHR進めるから、君は呼ばれたら入ってきてくれ。定番で!」

    「わかりました、定番ですね。」

    「うん。じゃあ…はーい、皆席に着けー!HR始めるぞー!」



    そう言って、彼は教室へ入っていく様子を見届けていた。

    そして、数分後、ようやくその時は訪れた。



    「じゃあ、入ってきてー!」

    「はい。」



    自分の新たな高校生活の始まりを告げる戸を自らの手で開いた。――――



  7. 7 : : 2015/01/01(木) 03:04:35

    ここで、時は追いつく。

    教室へ颯爽《さっそう》と入室する彼に、クラスメイト一同は目を離さずに見つめている。

    態度がはっきりとしていて、さわやかな印象を与える彼の歩き方は、皆に好印象を与えた。

    彼は担任の横で立ち止まり、教室内を見渡す。

    果たして、目的に人物はそこに居るのだろうか。



    「じゃあ、紹介するぞー。今日転校してきたのが彼だ。じゃあ、自己紹介して?」



    そう言うと、担任は生徒達に背を向けて白色のチョークで黒板に彼の名前を書き始めた。

    彼女が全て書き終わるのを待ち、彼は自己紹介を開始した。



    「今日転校してきました、『虎須 優玖(とらす ゆうく)』です。」

    「色々と学校の事を教えていただけると幸いです。皆さん、よろしくお願いします。」



    辞儀をし終わり、頭を上げると、それまで教室内で保たれていた沈黙が破られた。



    「おぉ、よろしくな!」

    「わー!身長たかーい!何センチあるんだろう?」

    「呼び方は名前でいいのかー?」

    「なんか、結構恰好いいじゃん。爽やか系男子って感じ?」



    様々な意見が飛び交う中、担任は皆を抑えようと一声を放つ。



    「あー、はいはい、皆静かに!」

    「あはは。賑やかで良いですね。」

    「それで、虎須。確かにお前、身長高いな。何センチあるんだ?」

    「180cmですね。確かに一般的な平均に比べたら、高身長だと思います。」

    「そうだよなぁ。高2でそのくらいあったら、十分だろ。」



    彼は元々、身長が高かったわけではなく、中学生時代に順調に成長した結果だった。

    だが、その高身長とすらっとした中肉な体格で、いわばモデル体型であった。

    とりわけ、その事を自慢したりする事はなかったが、度々羨まれる事はあったようだ。

    そして、特徴的なのが全体的に長めの髪。

    ストレートに伸びた髪で左目が隠れそうなくらいに、前髪が長く見えるのが特徴。



    「でも、虎須。お前少し髪長いから、テキトーに切っておけよ?」

    「あぁー、分かりました、すみません。」



    少し歯切れの悪い回答だったのは、彼はあまり髪を指摘されるのは、好きではなかったから。



    「それと、呼び方はどうするんだ?」

    「そうですね。自分としても、皆からは名前で呼んでもらった方が嬉しいです。」

    「そっか。じゃあ、皆なるべくそうしてあげろよー?」

    「俺も早く皆と馴染みたいですからね。交流が1年遅れている分、尚更。」
  8. 8 : : 2015/01/01(木) 03:06:00

    ゆっくりと教室内のクラスメイトを見渡していく優玖。

    先程よりもはっきりと皆の表情が見て取れると感じていた。



    「……!」



    そして、あるところでほんの一瞬だけ視点を止めた。

    彼が見惚れた、その人物とは…。



    …綺麗な子だなぁ。あの艶やかな黒髪とか、整った顔立ちとか。

    でも…なんか寂しそう?

    彼女…どこを見ているんだろう?



    それは、美佳紗であった。

    優玖が彼女に対して初めに抱いた印象は、彼女の容姿がとても優れているという事。

    そして、その表情に潜む哀愁。なにか寂しくもの悲しい気持ちを据えたような眼差し。

    彼女の視線の先を追ってみた。…そこには、江蓮がいた。

    江蓮の事をまだ何も知らない優玖にとっては、彼が彼女にとっての何であるか謎である。



    「……。」



    そこでは決して解決できない問題であると思い、再び視線をクラス全体へ戻した。



    「……!」



    再び、優玖のまぶたがピクリと反応した。



    …居た。間違いない。



    どうやら、目的の人物を見つけたようであった。

    彼女と目が合ったのを確認すると、優玖は彼女に向かって、一瞬ウインクして見せる。



    「……っ!」



    それに対して、彼女は見事反応してみせた。

    驚きの表情を浮かべていたが、それはこちらが仕掛けたサプライズだったため満足した。

    優玖は、その人物がこの学校に居た事を初めから知っていた。

    というより、以前から聞いていたのだった。

    同じクラスに配属される事になったのは、運が良かったのだろう。



    「…?!」



    反対に、その人物は今日自分が転校してくることは一切知らない。

    もし、その人物が自分の事を認識できたとしたら、驚かせる事が出来る。

    その目的の為に、彼はこうして小さなサプライズを考え、ウインクして仕掛けたのだった。



    「な、なんで…?」



    優玖がその後一通りクラスを見渡した後、一人の女子生徒が耐え切れずに、口を開いた。



    「ん?玲音、どうかしたのか?」

    「い、いえ…何でもありません…。」



    それは杏仁だった。彼女は優玖がここに居る事に驚いたのだった。

    いつの間にか、クラス中が彼女の方を向き、注目した。

    しかし、杏仁はその後続けることなく、おずおずと引き下がってしまった。

    そのために、クラスメイト達は何の事だか理解できずに、疑問符を浮かべていた。



    「じゃあ、虎須の席は、あそこに用意してあるからな。」

    「わかりました。ありがとうございます。」



    そう言って、用意された席へ向かう優玖を杏仁はずっと見ていた。



    「じゃあ、授業始めるからなー!こっち集中しろよー。」



    担任は、皆が優玖の方へ注意が向いているのを正すのに必死である。

    そんな中、江蓮もまた、優玖の方を見ているそんな野次馬の中の一人だったが…。



    「虎須…優玖…?あいつ…もしかして、あの時に…。」



    江蓮の中にも、心当たり有り?――――




  9. 9 : : 2015/01/01(木) 03:06:50

    「はーい、これで1限目終わりー。復習はちゃんとしておけよー!」

    「起立、礼、したぁー。」



    歳を重ねる度にテキトーになりがちな授業の挨拶で1限目が終了した。

    クラスの何人かは早速、休み時間を利用して優玖に声を掛けに集まっていた。



    「ねぇねぇ!優玖君は、どうしてこの高校に?」

    「家庭の事情…かな?前は県外に住んでいて、そこの高校に通っていたんだよ。」

    「そうなんだぁー。」



    転校生の宿命ともいうもので、彼は質問攻めに遭っていた。

    だが、優玖はそれを苦に思う事なく、1つ1つ丁寧に回答していった。

    人当たりの良さを早速、発揮していた。

    彼の持つ穏やかな性格も相まって、早速数人のクラスメイトとは親しんでいたようだった。



    「――――?」

    「――――。」



    そんな様子を、杏仁は自分の席から眺めていた。

    優玖の席は、窓際の杏仁の席から右に2,3席離れた位置。

    横目で眺めれば、容易に姿が見えるところにある。



    「ねぇ、杏仁。どうしたの?彼に話し掛けないの?」

    「……。」

    「あれ、優玖だよね?」

    「そう…だけど…。」

    「んー、どうしちゃったの?彼が来た事にびっくりしてるの?」

    「……。」



    話し掛けてくる女子生徒に促されるも、行動を起こそうとはしない杏仁。

    その様子を女子生徒は、不思議そうに見ていた。



    「そうだね。前の学校では…あっ。」



    質問に答える合間、優玖は幾度か美佳紗の方を見やっていた。

    先程の自己紹介以来、彼女の事が少々気になっていた優玖は彼女の視線を追った。

    こちらには一切の関心を示していない事が、その視線から分かる彼女が見ている先は…。



    「…また、彼か。」

    「…何が?」

    「あっ、いや、なんでも。」



    口に出てしまった言葉を打ち消すように笑顔を振る舞い、誤魔化した。

    再び、視線を戻す。

    美佳紗は、またも江蓮の方を見ていた。

    これだけでも大体想像がつく。彼女は彼の事を意識しているのだと。

    他方、その江蓮はというと、優玖の方を見たり、少し視線をずらしたりを繰り返している。

    その様子も、優玖は気になっていた。



    「……。」



    自分の方を見るのは、転校生に対する興味だと分かるけど…もう一方の方向は…?

    彼の視線は、窓際の方を向いている?あそこにいるのって…誰の事を見ているんだ?


  10. 10 : : 2015/01/01(木) 03:07:08

    この時の優玖は、江蓮の真意を確実に捉える事ができなかった。

    出遭ったばかりならば、それも当然で致し方ないだろう。

    気分を変えて、彼は席を立ち上がり、“彼女”の元へ向かってみることにした。



    「…杏仁、久しぶり。」

    「…うん、久しぶり…だね、優玖。」

    「え?2人って知り合いだったの?!」



    優玖の行動に、クラスは騒然とする。



    「うん、そうだよー!私達、小学校の時は一緒だったの。」

    「へー、そうだったんだー。」



    杏仁の横に居た女子生徒が過去を明らかにした事で、皆が納得する。



    「……。」

    「……。」



    しかし、2人は黙ったままでいる。

    気まずい雰囲気…とまではいかなくとも、妙な雰囲気が漂っていた。



    「あれ?でも…折角、再会したのに…なんか空気が変じゃない?」

    「もう、何黙ってるの?」

    「…あのさ、杏仁…驚いた?」

    「…まぁ、ね。」



    この雰囲気の正体が掴めない女子生徒は、遂にこんな事を口走ってしまう。



    「2人とも!昔、付き合ってたんでしょ?だったら、ちゃんと向かい合いなよ。」

    「…ちょっと!」

    「アンタ、何言って…!」

    「え?私、何か違う事言ったっけ?」

    「え、ええと…『二人が昔付き合っていた』って…えぇーーっ!!」



    女子生徒の突然の暴露に本人達も含め、クラスが驚愕の反応を見せる。

    その事に大きく動揺したのは、必ずしも周りに居た生徒達ではなかった。



    「あいつが…昔、杏仁と付き合っていた…?」



    江蓮は、心に何か大きな重圧がのしかかる感覚を受けた。

    あまりの衝撃に、まばたきをする事も忘れてしまっていた。



    「江蓮が気にするあの子が…彼と昔…。」



    興味を示した人物は、ここにもいた。

    美佳紗もまた、今の出来事の顛末《てんまつ》はしっかりと耳に入っていた。――――



    To be continued...

  11. 11 : : 2015/01/01(木) 03:07:26


  12. 12 : : 2015/01/01(木) 03:11:22

    第1話終わりです。続編の形式はもしかしたら変わるかもしれません。話の区切りごとに数話合体させたり、Another本編のような1話ずつの単品だったり、と。

    キャラの名前については、もうお分かりの通り進撃の巨人のキャラ達から拾って、私のオリキャラであるユークを追加登場させているわけです。

    まっ、キャラの名前なんて置いておいて、物語自体を楽しんでいただければ幸いです。では、次回をお楽しみに。
  13. 13 : : 2020/10/26(月) 14:08:40
    http://www.ssnote.net/users/homo
    ↑害悪登録ユーザー・提督のアカウント⚠️

    http://www.ssnote.net/groups/2536/archives/8
    ↑⚠️神威団・恋中騒動⚠️
    ⚠️提督とみかぱん謝罪⚠️

    ⚠️害悪登録ユーザー提督・にゃる・墓場⚠️
    ⚠️害悪グループ・神威団メンバー主犯格⚠️
    10 : 提督 : 2018/02/02(金) 13:30:50 このユーザーのレスのみ表示する
    みかぱん氏に代わり私が謝罪させていただきます
    今回は誠にすみませんでした。


    13 : 提督 : 2018/02/02(金) 13:59:46 このユーザーのレスのみ表示する
    >>12
    みかぱん氏がしくんだことに対しての謝罪でしたので
    現在みかぱん氏は謹慎中であり、代わりに謝罪をさせていただきました

    私自身の謝罪を忘れていました。すいません

    改めまして、今回は多大なるご迷惑をおかけし、誠にすみませんでした。
    今回の事に対し、カムイ団を解散したのも貴方への謝罪を含めてです
    あなたの心に深い傷を負わせてしまった事、本当にすみませんでした
    SS活動、頑張ってください。応援できるという立場ではございませんが、貴方のSSを陰ながら応援しています
    本当に今回はすみませんでした。




    ⚠️提督のサブ垢・墓場⚠️

    http://www.ssnote.net/users/taiyouakiyosi

    ⚠️害悪グループ・神威団メンバー主犯格⚠️

    56 : 墓場 : 2018/12/01(土) 23:53:40 このユーザーのレスのみ表示するこの書き込みをブックマークする
    ごめんなさい。


    58 : 墓場 : 2018/12/01(土) 23:54:10 このユーザーのレスのみ表示するこの書き込みをブックマークする
    ずっとここ見てました。
    怖くて怖くてたまらないんです。


    61 : 墓場 : 2018/12/01(土) 23:55:00 このユーザーのレスのみ表示するこの書き込みをブックマークする
    今までにしたことは謝りますし、近々このサイトからも消える予定なんです。
    お願いです、やめてください。


    65 : 墓場 : 2018/12/01(土) 23:56:26 このユーザーのレスのみ表示するこの書き込みをブックマークする
    元はといえば私の責任なんです。
    お願いです、許してください


    67 : 墓場 : 2018/12/01(土) 23:57:18 このユーザーのレスのみ表示するこの書き込みをブックマークする
    アカウントは消します。サブ垢もです。
    もう金輪際このサイトには関わりませんし、貴方に対しても何もいたしません。
    どうかお許しください…


    68 : 墓場 : 2018/12/01(土) 23:57:42 このユーザーのレスのみ表示するこの書き込みをブックマークする
    これは嘘じゃないです。
    本当にお願いします…



    79 : 墓場 : 2018/12/02(日) 00:01:54 このユーザーのレスのみ表示するこの書き込みをブックマークする
    ホントにやめてください…お願いします…


    85 : 墓場 : 2018/12/02(日) 00:04:18 このユーザーのレスのみ表示するこの書き込みをブックマークする
    それに関しては本当に申し訳ありません。
    若気の至りで、謎の万能感がそのころにはあったんです。
    お願いですから今回だけはお慈悲をください


    89 : 墓場 : 2018/12/02(日) 00:05:34 このユーザーのレスのみ表示するこの書き込みをブックマークする
    もう二度としませんから…
    お願いです、許してください…

    5 : 墓場 : 2018/12/02(日) 10:28:43 このユーザーのレスのみ表示する
    ストレス発散とは言え、他ユーザーを巻き込みストレス発散に利用したこと、それに加えて荒らしをしてしまったこと、皆様にご迷惑をおかけししたことを謝罪します。
    本当に申し訳ございませんでした。
    元はと言えば、私が方々に火種を撒き散らしたのが原因であり、自制の効かない状態であったのは否定できません。
    私としましては、今後このようなことがないようにアカウントを消し、そのままこのnoteを去ろうと思います。
    今までご迷惑をおかけした皆様、改めまして誠に申し訳ございませんでした。

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