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このSSは性描写やグロテスクな表現を含みます。

この作品はオリジナルキャラクターを含みます。

この作品は執筆を終了しています。

死喰人──二章 新たなる目的──

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  1. 1 : : 2014/12/11(木) 20:45:37
    この作品は死喰人──序章 邂逅──の続編です。

    【注意事項】
    ・この作品はグロテスクな表現が含まれてるので、苦手な方にはオススメできません。

    ・これは完全オリジナル作品です、その辺りはご了承ください。

    ・面白ければGOODをいただければ幸いですが、つまらなければアドバイスや面白くないと言ったコメントはしていただいてかまいません。むしろ歓迎です。

    ・コメントは作品の終了後。解禁させていただきます。読み終わったらどんどんコメントしてください。作者が喜びます。


    【更新について】
    ・このSSは(ほぼ)毎日20:00(午後8:00)頃に更新します。

    ・もし更新出来ない場合は可能な限りその都度書き込むようにするので確認していただければと思います。

    ・皆さんが見られるように遅くなった日は書き込みをせず次の日の同じ時間に書き込みをします。ご了承ください。


    コメントはこちらへどうぞ

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    この作品は明日の20:00より開始を予定しております。変更の場合はその都度連絡しますのでお手数ですがご確認ください。
  2. 2 : : 2014/12/12(金) 20:04:56








    「やめて!お母さんを殺さないで!!」



    小さな少年の悲痛な声が響き渡る。



    しかし剣を振り上げた男はいやらしい笑みを浮かべるのみであった。



    「逃げて!!はやく!!」



    その少年の母親は必死に叫び、訴えかける。



    少年は母を見捨てたくはなかった。




    しかし彼に男を倒す力はない。




    彼が悩んでいる間に男は母の首を落とし大声で笑った。



    そしてなぜかその嬉しそうな笑い声は嗚咽が混じりの泣き声に変わっていた。








  3. 3 : : 2014/12/12(金) 20:07:10











    ◇ ◇ ◇












  4. 4 : : 2014/12/12(金) 20:10:21







    あたりに笑い声が響き渡る。




    大柄で髭面の男がかなりのボリュームで笑っていた。




    「おう!悪いな!ザック!」




    彼の名前はニッツ・スケルディア。体の大きさ、スキンヘッド、強面の危ない人三拍子を総なめしたような容姿せいで人に一線を引かれがちだが、実は礼儀正しくおおらかで懐の深い男だ。





    とはいえ、見た目通り剛胆な正確な持ち主でもあるのだが。







  5. 5 : : 2014/12/12(金) 20:13:12






    「……すまん」



    ニッツとは対照的に静かな男はユース・キモーリア。



    鋭い目つきと、目が隠れるほどに伸びた髪が暗い印象を与えている。彼もまた怖がられやすい達であった。




  6. 6 : : 2014/12/12(金) 20:13:58





    なにやら先ほどから気になるのかミリアの方をちらちらと見ているようだった。




    彼らがザックに謝っている理由はつい先ほど起きた。







  7. 7 : : 2014/12/12(金) 20:14:42






    草陰から剣を持った2人分の影を確認したザックはミリアを片手に抱きかかえると、迎撃にはいる。



    「え、ちょっ。なに!?」



    ミリアの言葉を介することもなくザックは大柄な男の剣を体を捻ることで交わし地面に刺さる剣を踏みつける。



    もう1人の剣は自らの剣で受け止めた。





  8. 8 : : 2014/12/12(金) 20:15:12






    その時にお互いに気づいた。



    明らかに顔を見知った相手のことを。



    その二人がニッツとユースだった。



    二人はザック達に突然襲いかかった非礼を詫びているのだった。








  9. 9 : : 2014/12/12(金) 20:18:59






    「ったく。普通、誰かも分からないやつに突然襲いかかるか?」



    「まあ今回は事情が事情なものでな。しかもザックが女を連れてるなどと誰が思おうか」




    確かに昔からザックの周りには女っ気がなかった。



    しかしなんとも失礼な話である。



    だがニッツが言うと何故か嫌味に聞こえないのが彼のいいところだ。



    「んでそっちの嬢ちゃんは?」



    その言葉に誰よりも早く反応したのはミリアではなくユースだった。



    「ザック……君よりによって忌子を連れて来るなんてね。これやったのもまさか……」



    流石のザックもこの物言いには、少し頭に来るものがあった。




    ザックもミリアも今着いたばかりだ。




    ザックはユースがロスヴェルス教徒だということを知ってはいたし、なにかしら言われることは覚悟していたが彼女の前で言われるのは流石に許容を超えていた。








  10. 10 : : 2014/12/12(金) 20:21:44







    「おまっ……」



    「ふざけないで。なんで私がこんなことしなきゃいけないのよ。初めて来る土地で。動機は?ねぇ?言ってみてよ。それともなに?この目と髪だから破壊衝動に任せてやったとでも言うの?」




    ザックが思っている以上に彼女は強かだった。



    強気にものを言う彼女の姿にユースは目を丸くし、ザックとニッツは苦笑いする他になかった。



    「だ、黙れ!忌子が何を……!」



    至極当然の事実を突きつけられ、動揺したユースがなにかを叫ぼうとするのをニッツが止める。



    「おっと。そっから先はナンセンスだぜ。ユース」



    ニッツの制止に流石のユースも身を引く。




    そして僕は認めない。




    そう言い残して足早に何処かへ行ってしまった。







  11. 11 : : 2014/12/12(金) 20:22:40






    「なんなのあの人……」



    「すまんな嬢ちゃん。あいつも悪いやつじゃないんだが、なにぶん頭が固くてな」



    「ええ。あと私は嬢ちゃんじゃなくてミリア・ラフィアルよ」



    「ああすまんな。俺はニッツ・スケルディアだ。宿無し同士仲良く頼むぜ。ザックもせわしなくてすまんな」



    「ああ気にしなくていい。早くユースを追ってやれよ」



    「すまん」



    肩を竦めるザックにニッツは少し笑うと、ユースを追って走って行った。

  12. 12 : : 2014/12/12(金) 20:24:04







    「変わった人達ね」



    「ああ。でもいい奴らだよ」



    彼女の言葉はいつもとは比べ物にならないほど静かだった。なにやらザックまで調子が狂うような気がした。



    少しの沈黙の後ミリアが再び口を開く。



    「ねぇ。ザック」



    「なんだ?」



    「なんで私こんなに嫌われるんだろうね」



    「さあな」



    ミリアは悲しそうに笑った。



    彼女は決して強くなどない。




    ザックは彼女が普通の女の子だと言うことを失念しそうになった自分を心の中で強く戒めるのだった。







  13. 14 : : 2014/12/14(日) 19:55:50






    次の日にはユースが謝りに来た。



    おそらくニッツに諭されてようやく自分の言っている意味に気づいたのだろう。



    彼も信心深い人間だが、もとより良識のない盲目的宗教家ではないのだ。時間をおいて少し冷静になれば物事もちゃんと見えるようになるのだろう。



    それを聞いたミリアは快く謝罪を受け入れ、許していた。



    彼女のこういう懐の深さは容姿以上に人を惹きつける要因になりうるだろう。



    その証拠に、ユースが嬉しそうに笑うミリアに見惚れて、頬を赤くしていた。



    昨日あれだけ毛嫌いしたようなことを言っていた男がこの様とはミリアもなかなか罪な女だ。







  14. 15 : : 2014/12/14(日) 19:59:21





    それはさておき、その日もあたりを捜索したがどこにも人の気配はなかった。








    しかし問題は起こった。






    ザックとミリア、ニッツ、ユースの三組に分かれてあたりを捜索していたのだが、定刻になってもユースが帰ってこない。



    もうすでに日は傾きかけており日が完全に暮れると流石に動き回るのは危険だ。



    「おかしいな。ユースの奴は時間にはかなりしっかりとしているのだが……」



    「探しにでた方がいいかもしれないな」



    彼の遅刻はかなりのものだ。ユースの性格からしても明らかに異常な事態だった。




  15. 16 : : 2014/12/14(日) 20:00:21





    「よし。二手に分かれて探そう。何かあったらすぐに何かで知らせてくれ」



    「わかった。世話をかけるな」



    「困った時はお互い様だ」



    そ言うとザックはすぐに横で船を漕ぐミリアの肩を揺する。



    「おい。ミリア。起きろ」



    「ふぇ……もうごはん?」



    「飯は後だ。移動するぞ」



    なにやらミリアが寝ぼけてキョロキョロとしているのを見て諦めたザックは彼女を無理やり立ち上がらせ、引きずるようにして連れて行くのだった。





  16. 17 : : 2014/12/14(日) 20:01:53






    その後も小一時間ほど捜索したが全くもって見つかる気配がない。



    ニッツの方からの合図のようなものもなにもない。



    「ねぇザックーもう元の場所に帰ってるんじゃないの?」



    「かもしれないな……一度戻ってみるか」



    その時だった野太い男の叫び声が辺りに響き渡る。



    おそらくニッツの声だ。声の大きさからして、かなり近いようだった。



    「行くぞ!ミリア!」



    「え、ええ!」



    すぐにザックとミリアは走り出した。





  17. 19 : : 2014/12/16(火) 21:08:22








    ◇ ◇ ◇









    「あ〜あ。お兄さんたち弱いよぉ。本当に魂の管理者(ナムシャルク)なの?」



    少年は地に伏せるふたりの男を見下ろしていた。



    全くと言っていいほど血色が無く、蒼白い肌。



    その中に血のように真っ赤な瞳が爛々と光っている。この大陸では見たことのない漆黒の髪がさらにその怪しさを増していた。







  18. 20 : : 2014/12/16(火) 21:10:55






    そして、倒れているふたりはユースとニッツに他ならない。ニッツはかろうじて意識があるが左腕を折られている、ユースに関しては死んではいないものの完全に落ちていた。



    ユースとニッツは魂の管理者の称号でも最上位の一つ下のAランクに登録される筆頭の戦士である。



    世界に45人しかいないと言われる猛者中の猛者だ。



    そんな男達をこの少年は"弱い"と宣うのだ。普通に見れば戯言でしかないと捉えられるだろう。



    しかし、彼らを倒したのは少年に他ならなかった。



    「な、なんだこいつは……化け物かッ……!」



    「化け物なんて失礼だなぁお兄さん。子供心はセンシティブなんだから気をつけてよぉ〜。そうしないと間違えてこっちのお兄さんの頭踏み潰しちゃうかも」




    ニンマリと嬉しそうに笑う少年にニッツは言葉を失った。少年の目は彼の根源的な恐怖を煽る。抵抗の意思を見せれば確実にユースの命はないだろう。



    ニッツには歯を食いしばり、黙る以外の選択肢は残されてはいなかった。







  19. 21 : : 2014/12/16(火) 21:12:21





    ザックがいれば。そう考えるが無い物ねだりだ。ユースを探してここに来る可能性はないことはないだろうがかなり低い。



    「じゃあそろそろふたりともさよならだね〜ばいばい♪」



    万事休す。もはや死に時。そう覚悟を決める。








  20. 22 : : 2014/12/17(水) 20:17:41










    そう思った時幸運は訪れた。

















  21. 23 : : 2014/12/17(水) 20:18:33







    ◇ ◇ ◇






    茂みの向こうに倒れるニッツとユース。そしてそれを見下ろす少年を見つける。



    よくわからないが。何者かに襲われたところを少年に発見されたのだろう。そうザックは考えていた。



    急いで茂みを飛び出し、ふたりに駆け寄ろうとする。






  22. 24 : : 2014/12/17(水) 20:23:47





    「大丈夫か!?」



    「まて!ザック!!油断するな!敵はそのガキだ!」



    そうニッツが言い終えたと同時だった。



    少年はユースの頭を踏み潰し、辺りに血と脳漿(のうしょう)を撒き散らす。



    その顔にはおぞましいほどに快楽が色濃く張り付いていた。




    その状況にミリアは目をそらし、ニッツはただ泣き叫ぶことしかできない。








  23. 25 : : 2014/12/17(水) 20:32:22





    未だそこにユースの肉片と血がべったりと残っている。



    普通の人間であれば周りにつられパニックになったり、動揺をしていただろう。



    しかしザックは動揺が死につながりかねないことを理解していた。



    ザックは怒りを必死に抑え込み剣を抜き告げる。



    「ミリア……ニッツを連れて下がってろ……」



    「う、うん」



    ミリアははガクガクと膝を笑わせながらも、必死にニッツに肩を貸し、草陰に隠れる。



    その表情からは極度の緊張と恐怖を見て取れた。



    一方でザックは身体中から抑えきれない怒気が漏れ出していた。



    明らかにいつもとは違う表情。圧倒的なまでの威圧感が感じられる。








  24. 26 : : 2014/12/17(水) 20:33:53





    「てめぇ……何者だ」



    「ぼく?僕はムラクモ・ホシノだよ。僕の国では反対なんだけどね〜」



    ザックの威圧も気にすること無く飄々と笑いながら答えるムラクモ。



    それを見てザックの剣を握る手に一層力がこもる。



    「そんなことより綺麗なお姉さんだね。お兄さんの彼女?」



    「そんなことはどうでもいいだろ……!」



    「違うなら僕がもらって行ってもいいかな?きっとリョウが喜ぶよ♪」



    「てめぇ……ふざけんのも大概にしやがれ!!!」



    その時ザックの中で何かが切れた。








  25. 27 : : 2014/12/18(木) 20:28:38






    ザックはムラクモにむけ剣を薙ぎ払う。



    とても身の丈ほどの大剣を振るっているとは思えないほどの速度。



    常人には捉えることなど許されぬ高速の剣。





  26. 28 : : 2014/12/18(木) 20:31:06





    「わお!すごいや!お兄さんさっき僕が殺した人よりすごく強いね〜」



    斬ったはずの少年の声は背後。薙ぎ払った剣の上から発せられていた。



    「くそっ!」



    悪態を尽きながら剣を引き戻す。



    するとムラクモは舞うように地面に着地した。



    いくら全力でないとはいえ、あんなことをできる人間などそうはいない、ザックは焦りを感じていた。



    「そんなに怒らないでよぉ。魂の管理者Sランク序列2位 炎皇剣のザックさん♪」



    「てめぇなんでそれを……!」



    「ふふふ♪ひみつ〜」



    ムラクモはザックのことを知っている。



    そもそもランクのことはおろか、魂の管理者に関する情報は全くと言っていいほどで回っていない。



    その情報を知っているこの状況が異常過ぎた。



    さらにはその身体能力。ザックと互角とまではいかないまでも全力を出さねばやられるのではないか、そう思わせるほどの次元にあった。



    この少年は何者なのか、なぜ魂の管理者のことを知っているのか。疑問は多かった。しかし、ザックにはこの少年を殺さずに捕らえる術がなかった。



    ザックはこの少年を捉え情報を得ることを諦めた。






  27. 29 : : 2014/12/18(木) 20:32:19






    「……俺はお前を殺すぞ」



    「またまたぁ〜あんまり粋がってると、弱っちく見えちゃうよ?」



    見え透いた挑発。怒りが溜まるに連れて、ザックの心の中は静かに凍りつくように冷えて行った。



    「勝手に言ってろ」



    その瞬間ザックの姿がブレる。



    次の瞬間には、ムラクモの腕が吹き飛んだ。




    「もぉ!いたいよぉ!」




    危機を感じてか飛び退いたムラクモの後ろには既にザックがいた。



    そしてもう一本の腕が飛ぶ。



    「ひどいよ……両腕を切るなんてさ」



    しかしムラクモの顔には恐怖も動揺も無かった。



    それもそのはず、腕の切断面から肉が盛り上がり、再び腕の形を作り上げていく。







  28. 30 : : 2014/12/18(木) 20:34:48






    「お前……まさか死喰人(ビオラドール)か……?」



    その言葉にピクリと反応したムラクモの表情から笑みが消えた。



    額には青筋が立ち。全身から怒気をほとばしらせている。



    「死喰人って呼ぶな……僕達を……その名で呼ぶなァァァァアッ!!」



    突如としてザックの目の前にムラクモが現れる。


    ムラクモの蹴りがザックの腹部を狙い放たれる。



    その軌道に剣を割り込ませることでなんとかガードするも、かなりの距離吹き飛ばされる。



    しかしやっとの思いで踏みとどまったザックは襲い来る激痛に顔を歪めた。







  29. 31 : : 2014/12/18(木) 20:36:22





    「なんて力だ。受け止めたってのに肋を2本も持って行きやがった……!」



    「ふふふ♪お兄さんが悪いんだよ?そんなふざけた名で僕達を呼ぶから」



    互角とはいかないなどという考えがそもそも甘かった。




    ムラクモは恐らく単純な膂力だけ見ればザックを上回る可能性すらあった。



    恐らくこの街を消したのもムラクモの仕業に違いない。



    はっきり言って勝てる確信はない。





    しかし、ザックには切り札を切る他に選択肢は残されていなかった。



    「俺に喧嘩売ったことを後悔させてやる」






  30. 32 : : 2014/12/19(金) 20:20:39











    "神皇よ 真の姿を現し 深淵の業火で 万物を灼き尽くせ"












    炎皇剣(リゾルクリヴィア)!!!」











  31. 33 : : 2014/12/19(金) 20:22:59






    その言葉を終えた数巡の後突如としてザックの剣を圧倒的熱とともに黄金の炎が包む。




    剣から徐々に炎が広がり周辺の木や草をも焼き焦がしていき、ついには逃げ道を塞ぐかのように2人の周りを囲い込む。




    先ほどまで巨大だった剣は、まるでザックの炎を体現したかのような色と形状。




    以前よりかなり小ぶりな細身のロングソードに姿を変えた。




  32. 34 : : 2014/12/19(金) 20:26:12





    「うわぁ!すごいね!近くにいるだけで焼けちゃいそうだよ!」



    「心配しなくても灰一つ残さねぇよ」



    ザックにとっての全力であるこの剣を使わない理由は周りへの影響が激しいということもあったが、それと同時に制御に力を使いすぎることが大きかった。




    この形態は持って1分。



    更には先ほどの攻撃でザックは手傷を負い激痛と戦っている状態。その1分すら保証されているとは言い難い。



    ザックはこの攻防で戦いに終止符を打つべく、剣を構えその場から動かず2度剣を振るった。






  33. 35 : : 2014/12/19(金) 20:38:13






    刹那、一体に広がる炎が弾かれたかのようにムラクモ目がけて高速で宙を走る。



    「あわわわ。危ないなぁ。火傷しちゃうよ!」



    身体をひねることで炎を交わすムラクモであったが、ザックはすでに懐にまで走り込んでいた。



    「とらえたっ!!」



    ザックの剣はムラクモを真っ二つに斬り裂くべく高速の炎の剣線を生み出す。




  34. 36 : : 2014/12/19(金) 20:39:55





    しかし、ムラクモにその剣は当たらない。




    まるで空中に踏み台があるかのようにその場を蹴り後転する。



    更にそれを追うように弾かれた炎を空中で体を捻りかわしてみせる。



    「あははざ〜んねん♪おしかったねぇ〜」






  35. 37 : : 2014/12/19(金) 20:42:41






    華麗に着地をきめ嬉しそうに笑うムラクモ。



    しかし次の瞬間ムラクモは口から血を吐いた。



    「な、なんで……!」




    ザックはムラクモが着地するその瞬間まで目の前にいた。



    しかし、いま背後から剣でムラクモの腹を貫いているのはザックに他ならない。



    「ただ炎を操るだけで切り札なわけねぇだろ」



    そのままザックはムラクモを真っ二つに切り裂く。




    それと同時にまるで屍肉に群がるかのようにムラクモに炎が集まり燃え盛った。




  36. 38 : : 2014/12/19(金) 20:50:38






    未だ炎に蝕まれながらも動くムラクモにを前にザックは口を開く。




    「まあどうせ死ぬなら教えてやるよ。さっきのは炎転(フレイズ)って言う炎と自分の位置を入れ替える移動術でさっきおまえが避けたのと入れ替わっただけだ。まぁもう聞こえちゃいないだろうがな」



    剣を振るうと何事もなかったかのように剣は元の姿に戻り、その場には灰のみが残る。




    剣を背負い直すとミリアの元へと歩みを向けた。





    怪我をした上でかなり力を使ったせいかザックは足元がおぼつかないが、なんとかミリア達の元へとたどり着く。



    「大丈夫か?」



    「わ、私は大丈夫だけど。ザックひどい怪我じゃない!早く手当てしないと!」



    「ああ……」



    その言葉を最後にザックは意識を失った。










  37. 40 : : 2014/12/21(日) 20:02:02







    ◇ ◇ ◇



    ミリアは倒れこむザックをなんとか支えて、横にする。



    かなり重いザックだかなんとか衝撃を与えずに寝かせられたようだ。



    生憎にも、ミリアは治療の術を知らないし道具もない。



    ただ、このままではまずいのはわかった。



    とはいえニッツも腕を折られ、先ほどのユースの死でかなり滅入っている。ミリアは彼に頼むべきか悩んでいた。






  38. 41 : : 2014/12/21(日) 20:04:34






    すると、笑い声が響く。



    「あはははは。残念だねぇ。僕を殺せなかったお兄さんの負けだ」



    そう。ムラクモはまだ生きていた。



    「さてみんな死んでもらおっか♪」




    少しずつムラクモがミリアの前に近づいてくる。



    ミリアは家で死喰人に襲われた時のことを思い出す。



    しかし、今はザックは意識を失い倒れた。彼女を守るものはいない。






  39. 42 : : 2014/12/21(日) 20:08:13






    ムラクモはミリアの前で止まり、鼻が当たりそうなほど至近距離でミリアの瞳を覗き込むとニコリと今までとは違う無邪気な笑顔で笑う。




    「と言いたいところだけど、僕も力を使いすぎちゃった。よく見たらお姫様もまだ芽すら出てないみたいだし。そこのお兄さんも自分の能力を理解すらしてないみたいだし。今殺してもつまんないや」



    「へ?」




    ミリアはニコニコとするムラクモの言葉に口をぽかんと開けて間抜けな返事を返すことしかできなかった。



    「そんなに怖がらないでよ。もうなにもしないからさ♪じゃあまた迎えに来るね!お兄さん達にもよろしく〜」




    「は?」




    そう言って突然姿を消すムラクモ。辺りにミリアの気の抜けた言葉だけが残った。







  40. 43 : : 2014/12/22(月) 20:03:41






    ◇ ◇ ◇






    深い森の中。木々が空を覆い尽くし、光はほとんど差し込まない。



    そのせいか空気はしっとりと湿気を帯びており、地面は苔生している。



    ムラクモはその中をどんどんと進んでいく。





  41. 44 : : 2014/12/22(月) 20:05:16





    すると古ぼけた大きな洋館にたどり着いた。



    ほとんど手入れがなされていないのか、周りには植物のツルが巻きついており所々歪んでいる。



    彼の家なのだろうか、ムラクモは迷いなく敷地に入りドアを開ける。



    意外にも家の中は綺麗に掃除がなされていた。家具もかなり高級な物なのか、古いにもかかわらず未だその光沢を失っていなかった。






  42. 45 : : 2014/12/22(月) 20:06:42
    扉を閉じると、ムラクモは嬉しそうに声をあげる。



    「たっだいま〜♪」



    「あら。どこへ行ってたのかしら?」








    洋館の奥から1人の車椅子の女が現れる。体のあちこちには包帯が巻きついており、その隙間から痛々しいほどの火傷や裂傷の後が垣間見える。



    これほどの怪我を受けて生きていたことすら不思議なほどだ。



    ムラクモはそんなことを気にする様子もなく、ただ彼女に会えたことを喜ぶかのように無邪気に笑う。



    「あはは♪ちょっとおさんぽだよ!」



    「おさんぽねぇ……それであのふたりはどうだったの?」



    「あちゃあ。ばれちった。ユリにはかなわないや」






  43. 46 : : 2014/12/22(月) 20:07:23





    舌を出しておどけて見せるムラクモにユリと呼ばれた女はおかしそうに笑う。



    「ふふふ。愛しいムラクモの事だもの当然でしょう?後でお話を聞かせてね」



    「うん!待っててね!もうすぐだからねユリ!」




    ムラクモはユリを抱きしめてもう一度笑った。






  44. 48 : : 2014/12/24(水) 19:56:48







    ◇ ◇ ◇





    ミリアはただその場にへたり込み、口をあけて固まっていた。



    殺されるそう思っていた。自分の人生はここで終わるのだとそう覚悟すらしていた。


    しかしその脅威はあまりにも呆気なく去って行った。



    ミリアはザック達の事を思い出しハッとする。



    まだ意識のあるニッツの元に向かう。迷ってはいたものの、彼に動いてもらわなければ困るのだ。



    「ニッツさん。ザックが危険です。私は知識が無いので処置を手伝ってください」


    うつむき、木にもたれかかっていたニッツはミリアの言葉に顔を上げ、無理しているのが一目でわかるような笑顔を作るとわかったと頷いた。






  45. 49 : : 2014/12/24(水) 19:58:29






    ニッツは緊急時の時の為の治療技術を持っていた。自らの腕を固定し、ミリアに支持を出しながらテキパキとやるべきことをやった。



    ミリアが聞いたところザックがミリアに施した術はザックのようなSランクの管理者にしか使えない上、神威の消費が激しいためそうやすやすと使えるものでは無いのだそうだ。



    治療が終わり、ザックを寝かせるとニッツは少し歩くと言ってどこかへいってしまった。



    彼はユースを失った時から、かなり無理をしているように見えた。




    ミリアはそのせいでザックの治療を頼むことすら悩んだほどだ。



    心配ではあるが、他人であるミリアが踏み込める問題でもない。



    ひとまずザックの看病に専念することを決めるのだった。


  46. 50 : : 2014/12/24(水) 19:59:18





    ◇ ◇ ◇





    ザックはまたあの夢を見た。




    燃える街をかける少年の夢。





    なに一つ変わること無い同じ夢を。





    「俺がぶっ壊す」




    少年はまた同じ言葉を吐いてその場に立ち止まる。





  47. 51 : : 2014/12/24(水) 20:01:07






    ああ。夢が終わる。目が覚めるんだ。そう思った。





    しかし、夢は覚めない。





    少年はうつむいてぶつぶつと何かを言っているようだった。




    そんな事をしているうちに少年を追って鎧をまとう軍団が走ってくる。




    その一団が少年を捕らえようとした。






    その時だった。少年の周りの雪が跳ね上がり、燃え上がっていた炎が彼らを襲う。



    少年がはっとしたように顔を上げた時。そこにあったのは死体の山だった。



    それを確認してすぐ少年は意識を失った。



    そして彼の手には先ほどまではなかった巨大な剣が握りしめられていた。





  48. 52 : : 2014/12/25(木) 20:05:49






    ◇ ◇ ◇








    陽光が木の隙間から差し込む、まるで何事もなかったかのような朝。



    ザックは飛び上がるようにして目を覚ます。



    するとムラクモにやられた肋骨と同時に、何かにぶつかり額を激痛が襲う。



    「いたた……なんで突然起きるのよ……」



    どうやら彼の顔を覗き込んでいたミリアと激突したようだった。彼女は涙目で頭をさすりながら尻餅をついている。





  49. 53 : : 2014/12/25(木) 20:09:01







    一晩中眠らず彼を看ていたのだろうか目の下にはくまがあり、疲労の色が顔に色濃く張り付いていた。



    「すまん……」



    「怪我してるんだからおとなしくしてなさいよ!」



    「これくらいどうってことないさ。それより……俺が寝てる間何事もなかったか?」



    ザックの言葉にミリアは俯く。



    ムラクモは生きていた。



    意を決してミリアがその事の一部始終をザックに話すと、彼は驚いたような顔をした後に頭を抱えた。



    「くそ……なんなんだあいつは……!」






  50. 54 : : 2014/12/25(木) 20:10:24






    なぜムラクモは彼らを生かしたのか、ムラクモの言葉の意味。疑問は山積みだった。



    ただひとつ。ザックが自分の力を理解していないという言葉。それに引っかかるものを感じた。



    さっき夢に見たザックと思われる少年は炎を操るだけではなく、足元の雪にまで異変があった。



    今のザックでは溶かして消してしまうのがいいところだ。



    さらに、最後に見たあの剣はザックのものと全く同じだった。



    次にムラクモのような者と出会えばザックは愚かミリアの命も危険に晒すこととなる。



    力をつけることもまた性急な課題だった。



    とはいえ考えるべきことが多すぎてきりがないため、ザックは一度思考を止める。



    ひとまず目の前の状況をなんとかせねばなるまい。






  51. 57 : : 2015/01/03(土) 20:07:15







    「ニッツはどうした……?」




    「ユースのお墓を立てるって、何処かへ行っちゃったわ」




    「そうか……」



    ニッツとユースは死の危険と隣り合わせの中もう何年もコンビを組んでいた。いつかその日が来ることを覚悟はしていたはずだ。




    だがやはりそれでも割り切れない部分はあるのだろう。






  52. 58 : : 2015/01/03(土) 20:07:53




    ザックがミリアに肩を借りて、探しに出るとニッツはムラクモと戦った場所にいた。



    ニッツが涙する姿をみてザックは思わず身を隠す。



    するとミリアが声を抑えながら、不満を言う。



    「なんでかくれるのよ……!ニッツさんを探しに来たんでしょ?」



    そうは言っても、泣いている男を見つけて声をかけるのも野暮と言うものだ。ザックはミリアを連れて戻ろうとする。



  53. 59 : : 2015/01/03(土) 20:08:29




    しかし、ニッツの声に引きとめられる。



    「ザックいるんだろ」



    ザックはしまったとばかりに頭を抱えると、ミリアは不思議そうな顔をしていた。



    頭をかきながらバツが悪そうに姿を表すザックにニッツは立ち上がるとおかしそうに笑った。


    「悪いな。気を使わせちまって」



    「いやこっちこそ。ちと野暮だったよ」




    もちろん二人の会話にミリアはついていけない。なにをお互いに謝ってるのかよくわからず首を傾げていた。

  54. 60 : : 2015/01/03(土) 20:09:48




    「ところでニッツこの後はどうするつもりだ?」



    魂の管理者の本部は既に消えてなくなった。本来向かうべき目的地を彼らは失っていた。


    今後どこに向かうべきかと言うことは、重要な課題だ。それを確認しておく必要があった。



    「そうだな……特に考えてはいないが、各地の支部を訪ねようかと思ってはいるが。そういうお前はどうなんだ?」




    「……俺はライラットを目指そうと思う」



    一瞬の沈黙ののちザックが口にした言葉にニッツは動揺をあらわにした。





  55. 61 : : 2015/01/06(火) 21:28:05





    「ライラットといえばお前が拾われたって言う……」



    「ああそうだよ。そこに行けば俺のことが何かわかるかもしれない」




    「そうか……」



    思いを告げたザックだったが、まだ決めあぐねていることがあった。





  56. 62 : : 2015/01/06(火) 21:29:18






    ミリアの事だ。もしあの夢が本当にザックの記憶ならば、ライラットに行けばまた追われることもあり得る。



    その時にミリアがいれば、彼女に危害が加わらないとも限らない。




    ムラクモの一件のような事が起こった場合対処し切れない事もでてくるに違いない。



    かと言って彼女をおいて行くわけにもいかない。だからざっくは悩んでいた。





  57. 63 : : 2015/01/07(水) 20:28:52






    ザックは数巡の後におもむろに口を開く。



    「なあニッツ」



    「なんだ?」



    「お前ローランドまでミリアを送り届けてやってくれないか」



    ザックの思いもよらぬ一言にミリアは目を見開いた。





  58. 65 : : 2015/01/08(木) 20:10:28






    「なんでよ!私はまだ……!」



    「わかってる!わかってる……けど、ムラクモが襲って来た時。俺はお前を守りきれなかった!」



    「で、でも……!」



    何かを言いかけたミリアだったが、ザックの姿を見て再び口を閉ざした。



    ザックは拳を血がにじむ程に強く握りしめ、歯を食いしばっていた。






  59. 66 : : 2015/01/08(木) 20:10:56






    自分が敗北したこと以上に、ミリアとしたを守るという約束を果たせなかったことが悔しくて仕方がなかったのだ。



    更に今後彼女を危険に晒すような真似はしたくなかった。



    「ミリア……すまん……」




    その言葉にミリアが食ってかかることはなく、うつむき黙ったままだった。



    その後も2人は一言も言葉を交わすことはなかった。




  60. 68 : : 2015/01/14(水) 20:14:37






    ミリアのことだ、ザックも反抗して暴れまわるくらいのことは覚悟していた。



    実際ザックは彼女との旅の約束を破ることにもなる。怒らせることになるのも当然だ。



    しかし、ミリアは彼が想像していたよりも遥かに素直だった。彼女の様子を見れば、全くもって納得などしていないと言うのは一目瞭然だ。しかし彼女は自分の気持ちを抑え、ザックの意思を優先するという行動に至った。



    その日はひとまずこのまま留まり、次の日の朝出立ということになった。



    もうすでに昼を回っておりこれから歩いても大した距離にはならないうえに、安全な寝床を確保できるとも限らない。



    その日は三人で焚き火を囲み眠ることとなった。






  61. 69 : : 2015/01/17(土) 20:08:59





    翌朝。かなり早い時間から出立の準備を始め、日が登りきる頃にはは終わっていた。



    「よし。では行くとしようかミリア」



    「ええ。わかったわ。またねザック。次はちゃんと付き合ってもらうんだからね!」



    「ああわかってるって。約束だ……って言っても信憑性ないか」



    「まあ期待せず待ってるわ」



    それぞれ別れを告げ、歩き出す。



    短い期間だったが、ザックと旅をした時間はミリアにとって未知の事ばかりで毎日が発見だった。



    有り体に言えば、楽しかったのだ。



    ミリアは叶うのであれば、ザックと旅を続けたいそう思っていたし、今でもそう思っている。



    急にザックに拒絶されることが怖くなった。足手まといだと本当に捨て置かれるのではないかと言う不安が彼女の胸にこみ上げたのだ。それだけに今回のザックは真剣だった。



    ザックに帰るよう言われたときも、駄々をこねることは出来たかもしれない。しかしそのことが彼女の行動にブレーキをかけた。
  62. 72 : : 2015/01/29(木) 20:27:38





    「いいのかい嬢ちゃん」



    ミリアがとぼとぼと歩いているとニッツが心配そうに覗き込んで来た。



    「良いわけないけど。仕方ないじゃない」



    「物分かりが良いんだな」



    「好きでそうしてるわけじゃないわ。元より物分かりなんて至極悪い方よ」



    「ならなんで今回もそうしない」



    「足手まといなんてごめんだもの」




    まるで子供が不貞腐れるようにミリアは顔を背けた。



  63. 73 : : 2015/01/29(木) 20:28:40





    らしくないといえばそうなのかもしれない。だが破天荒な彼女にだって悩みや不安はあるのだ。



    ザックと共に行きたいと言う気持ちと、ザックから拒絶されるのが怖いという気持ちがせめぎ合い彼女を苦しめていた。




  64. 74 : : 2015/01/30(金) 19:59:38





    「まあ仕方ない良いことを教えてやろう。俺の固有能力は千里眼と言っていいかはわからんが遠くの見たいものが見える」



    ただ俯くミリアに呆れたのか、ニッツは少し頭をかきながら、ザックに怒られるから内緒なと言いつつ語り始めた。




    「それがなんなの?」




    「ザックはまだ俺たちが来た場所から動いていない。やると決まれば即行動のあいつがだ。この意味がわかるか?」




    「え……じゃあ」




    「そうだ。嬢ちゃんが俺を出し抜いてでも戻って来るとあいつは思って待ってるんだよ。自分を追いかけて来て迷子にでもなられたら困るとでも考えたんだろ」



    「そっか……」




  65. 75 : : 2015/01/30(金) 20:01:27






    ザックに拒絶されるなどということは、ミリアの杞憂だった。1人で空回りして1人で悩んで馬鹿らしいことこの上ない。




    ミリアはすぐに顔を上げて元来た道を走り出した。



    「ニッツさん!ありがとう!」



    ニッツは走りながらこちらに叫ぶミリアに手を振り返すと、自らの旅路のため歩き始めた。




    「まったく世話の焼けることだな」






  66. 79 : : 2015/05/03(日) 13:21:59




    ◇ ◇ ◇



    本当にここでお別れなのだと思っていた。



    彼との旅はミリアにとって今までにないほどに充実していて、その日々が輝いているように思えた。



    ようやく色づいた世界から再びあの日々ただ生きるだけのモノクロの世界に戻るのだと思うと、いつものようにザックの言葉に反抗する事すら出来なかった。



    それほどまでにこの旅路は彼女の傷つき乾いた心を癒し、掴んで離さなかった。



    これまで心を奪われるという経験が彼女にはなかった。




    あの時の止まった灰色の世界の中では、花の香りも、星の瞬きも、全てがまるで霞がかかったかのように取るに足らぬつまらないものに見えた。




    そんな世界を切り裂いたのはザックだった。半ば無理やりミリアがザックに同伴したのだが、それでもミリアはザックが鬱屈な世界から彼女を連れ出してくれたと思っている。




    それがここで終わり。そう考えると世界が滅亡するかのような絶望に襲われた。




    彼女にとってもう世界は広いのだ。今更鳥かごに戻れなどと言われてもそんなことできるわけがない。



    彼女は世界の恐ろしさと同時に、その楽しさも美しさも知ってしまったのだ。



    だから彼女は蜘蛛の糸の様な細い希望にでも縋ることができた。




    ニッツが言うことはおそらく本当だろう。でも、再びザックに会えば追い返されないとも限らない。



    そうだとしても、彼女にとってその光明は魅力的なものにみえた。



    まるでこの旅が終わらない確信を得たかの様なそんな気持ちになった。




    あと少し、あと少しでまたあの日々が帰ってくる。



    そう思えばこそミリアの足取りは軽く、まるで風と一体になったかの様な感覚を覚える。




    だが、その道程は思わぬものによって邪魔をされることになった。




    「ククク、お久しぶりですねぇ。ミリアさん」




    そこには明らかに見覚えのある人物の姿があった。



    見上げなければ顔が見えぬほどの巨躯に不必要なまでに豪奢に彩られた祭服を纏い、輝きを失った白い髪を分け目をつけず後ろになでつけた様な髪型をしている男がその狂気と好奇心を混ぜ合わせたような黒瞳でミリアを見下ろしていた。




    「デティオ・マッダリエ……!」



    「ククク、覚えていて頂けたとは光栄ですねぇ」




    忘れるはずもない。




    何度もミリアを寄越せと家に押しかけ、彼女の両親を殺したロスヴェルス教信者は彼なのだから。




    まだ彼女が両親と共に住んでいたころにも彼は何度か家に来たことがある。




    その度にデティオは嫌な視線を向けて来たのを覚えている。




    背筋を怖気が走るような、まるで射殺す様な視線。飄々とした態度をとりながらも、彼女を殺してみたくて仕方が無いそんな目をしていた。




    彼女にとって関わってはならない人間に他ならなかった。




    その者が目の前にいる。大量に冷たい汗が吹き出し、思わず後ずさる。




    「少しお話をしたいのです。ついてきていただけますね?」



    「……何が悲しくてあなたみたいな白髪ジジイとデートしなきゃいけないのよ」




    ミリアにとって精一杯の虚勢。しかし彼女の声は弱々しく震え、完全に腰が引けている。その虚勢に意味があるのかは甚だ疑問であった。




    「おやおや。お転婆に育ったものですねぇ。所詮猿にも劣る悪魔ですか。少し躾が必要なようです」



    その瞬間ミリアは湧き上がる憤りを抑え込みながらも、デティオを睨めつけた。



    しかしその瞬間敵意を向ける相手は視界から消え、同時にミリアの意識はブラックアウトした。






  67. 81 : : 2015/05/03(日) 20:41:43




    ◇ ◇ ◇



    おかしい。あまりにも遅すぎるのだ。ニッツ達と別れてかなりの時間が過ぎた。



    本当にローランドに帰ったと言うのなら何の問題もないのだが、あのミリアの事だそう簡単に引き下がるとも思えない。



    仮に諦めていたとしてもニッツはそんな人間を放っては置かないだろう。



    無理矢理にでも自分の気持ちと向き合わせるはずだ。もし本当にミリアが帰るつもりなのであれば別だが、先日の様子からみてもそんなことはあり得ないのは明白だった。



    「まさかな……」



    妙にまとわりつくような不安感に耐えかねて懐から黄色く透き通るような色をした石を取り出す。



    それは"伝声石"と呼ばれる石だ。同様の石をもつ人物を思い浮かべながら神威を込めることで遠距離での会話が可能になる。


    有事に迅速に招集できる様にと魂の管理者には全員に配布され、常に携帯を義務付けられている。



    実際は緊急招集などよりもこういった個人での利用がほとんどなのが実情である。



    とはいえ、あまり使いすぎると石の状態が悪くなり使用できなくなるためあまり使わない様に努めるものだが、今は万が一と言うこともある。




    急いでニッツを思い浮かべながら、伝声石に神威を込める。



    すると石が淡く光を放ち、石からニッツの声が聞こえ始める。



    「おうザック。嬢ちゃんとは会えたか?」



    ニッツの口ぶりから察するに既に彼はミリアと別れた後だ。不安感はどんどんと膨れ上がり、ザックの中で徐々に確信へと変わっていく。



    「それがミリアとはまだ会えていない。いつ別れたんだ?」



    すこし焦りながら、問い詰めるかの様に話すザックの様子に危機感を感じ取ったのか、ニッツもまた声音を真剣なものへと変える。



    「まだ会えてないだと?もう別れてかなりになる。おまえが動いてなければとっくの昔についているはずだ」




    やはりか。そうつぶやくとザックはすぐに走り出す。



    ミリアの身に何かがあった、もしくはこちらに合流できない事情ができたと言うことだ。



    しかしニッツもまたミリアの行方を知らないと言うことはそこに第三者の関与があると考えるのが筋だろう。




    「おいニッツ。直ぐに来た道を引き返せ。俺も直ぐに向う!」



    そう一言だけ吐き捨てる様につげると伝声石をしまいあたりにミリアの姿がないかを探し始めた。



  68. 82 : : 2015/05/04(月) 19:59:44




    近辺は森に囲まれているため、万が一ミリアの身に何かあったのなら彼女を助けるのはかなり難しくなる。




    とはいえ、この短時間で人一人をどうこうできるということもないだろう。まだ探せば見つけられるという可能性も十分にある。




    ふと少し先に大柄な人影を見つける。ニッツかとも思ったが、服装も違えば、その人影には髪があるように見える。




    もしかしたらミリアを見たかもしれないそう思い駆け寄ろうとして気づいた。






    その男の肩に担がれているミリアの姿に。






    「くそがッ……待ちやがれ!」




    大声で叫ぶと、ザックは急いでその人影に向かって走る。




    しかしその人影はあと少しと言うところでザックを一瞥するとその姿を消す。




    「ロスヴェルス教……」




    ザックは既に何もいなくなった空間を睨みつけて悔しげにつぶやいた。











  69. 83 : : 2015/05/04(月) 20:02:00







    to be continued……
  70. 84 : : 2015/05/04(月) 20:03:09
    すみません長々と待たせてしかも、更新部分はほぼ残ってなかったと言う体たらく。お叱りは甘んじて受けます。どうぞコメントにお願い致します。

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