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ジャン「黒のワンボックス」

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  1. 1 : : 2014/11/09(日) 09:30:41









    都市伝説というものを

    あなたは信じるだろうか?




    常識では考えられないことや

    人間性を感じられない人間

    国の裏の顔や

    知られていない真実


    言い出したら限りがない


    信じない方も多数いることだろう

    そんな方に尋ねたい

    どうしてそんな噂が流れたのか?

    火のないところに煙はたたない

    確かに

    誰かのたちの悪い悪戯と言われたらそれまでなのだか

    しかし

    もしかしたら悪戯といったことで済まされるなら


    それが良いのかもしれないーーーー

























    都市伝説

    No.2「黒髪の女」




  2. 2 : : 2014/11/09(日) 09:40:21


    ジャン「これは、俺がまだ高校生だったときの体験だ」


    ジャン「あのときの体験は一生忘れられないだろうな」


    ジャン「あれはちょうど今くらいの、冬目前の季節だった」


    ジャン「学校からの帰り道に事は起こったんだ」


    ーーー
    ーー




    俺は田舎でしかも、学校まで十数キロ離れたところに住んでいた。


    田舎だったから電車はもちろんバスも通っていなかった。


    というわけで登校の手段は自転車だったのさ。


    だけど親が大変だろうということで、16歳の誕生日に原付のバイクを買ってくれた。


    それからというもの登校は楽になり、バイク通学にもだんだん慣れてきた。


    そんなある日の帰り道に俺は…


    見てしまったんだ。

  3. 3 : : 2014/11/09(日) 09:54:17


    冬も間近、日が落ちるのも早く辺りは真っ暗で


    帰るときには既に夜同然だった。


    冷たい風が指先の感覚を奪い、袖の入り口からその冷気が服の中へと侵入する。


    俺は早く暖かい家に帰りたい一心で制限速度を大幅に無視してバイクを走らせていた。


    未だちゃんと舗装されている道路が


    そろそろ田舎道の、かろうじて道路と呼べるガタガタ道に入る前。


    そこには橋がある。


    100mほどの橋だ。


    ここ五、六年の間に作られたまだ新しい橋である。


    橋の両側の歩道を照らす街灯。


    妙な間隔で立っている街灯はどこか気味が悪い。


    俺が橋に差し掛かるとき、その橋の最初の街灯の下にそいつはいた。
  4. 5 : : 2014/11/09(日) 10:05:06


    こんな寒い季節に白いワンピースという時季外れな服装の女がいた。


    歳は二十代前半といったところだろうか?


    黒髪の、ひどく容姿の整った女がこちらを見ていた。


    バイクの速度は軽く五十キロは超えていたはずなのに、


    そいつの前を通るとき一瞬スローモーションに感じる。


    そして、そいつは確実に俺と目を合わせていたんだ。


    しっかり首を動かし俺が通り過ぎるのをじっと見ていた。


    だけど俺は不思議と怖いとも気味が悪いとも思わなかったんだ。


    女を通り過ぎた後、


    ミラーを見たとき街灯の下に誰もいないことを確かめるまでは。


  5. 6 : : 2014/11/09(日) 10:27:21


    心臓が止まるかと思った。


    見間違いじゃないのか、目を凝らしてミラーを見るが確かにそこには誰もいない。


    俺は直接見ざるを得なかった。


    橋の真ん中で俺はバイク止めて振り返る。


    恐ろしいことにーーー


    そいつはしっかりとその足で自分を支え、こちらを見ていた。


    一瞬にして背筋が凍る。


    逃げなければ。


    早くここから逃げるのだ。


    頭の中の誰かが命令する。


    前を向き、アクセルのグリップを回そうとするが手が震えてうまくいかない。


    手がかじかんでいるせいもあるが、それ以上に俺は後ろに恐怖を感じていた。



    コツッーーー



    夜の橋に響く音。


    俺と得体のしれない何かしかいない橋に響く足音。


    どっと、気持ちの悪い冷や汗をかく。


    唇が震えているのが自分でもわかるくらいに俺は恐怖していた。


    足音はゆっくりと、ゆっくりと。


    だが、確実に俺との距離を詰める。


    逃げないといけないことはわかっている。


    しかし体がまるで金縛りにあったように動かせない。


    恐る恐る俺は足音のする場所をミラーごしに確かめる。


    が、やはりそこには誰もいない。


    ただ足音がするだけ。


    もはや足はガクガクと笑いをあげ、自分ではどうすることもできない。


    足音はもうすぐそこまで近づいていた。

  6. 7 : : 2014/11/09(日) 10:43:58




    コツ…


    ジャン(なにしてんだ!早く逃げねぇと!)


    コツ…コツ…


    ジャン(動けよ!早くアクセルを回せ!)


    コツ、コツ、コツ、


    ジャン(早く早く早く早く!!)


    コツッ、コツッ、コツッ


    ジャン(やばいやばいやばいやばい!)


    コツッ!!コツッ!!コツッ!!


    ジャン(くるなくるなくるなくるなくるなくるなくるなくるなくるな!!)


    ………コツ。


    ジャン(……止まった)


    ジャン「おいおい…嘘、だよな?」


    声が震えているのがわかった。


    すぐ後ろに気配を感じる。


    そのとき


    ずしっ、とバイクが少し沈む。


    ジャン「やめろよ…頼むから…そんなはず…」


    俺はミラーを見る。


    やはり、何度みてもそこには誰もいない。


    ジャン「はは…いるはず、ねぇよな…」


    後ろを見たくない。


    だがそれだと事がはっきりしない。


    はっきりさせなくては。


    そもそもいるはずがねぇんだ。


    幽霊なんてばかげてる。


    俺は信じないぞ。


    さぁ、確かめるんだ。


    どうせ振り返ったところで誰もいない。


    いるはずかない。


    だってミラーにはなにも映ってないんだからよ。


    ジャン「振り向くぞ…確かめてやる…」


    言葉に出して自分を奮い立たせる。


    ゆっくりと、彼は






    振り返った。




    街灯の下に、



    女は










    いない。














    だって…



    バイクの荷台にそいつはいたからーーー




    頭から血を流したおぞましい顔の女が。




    ジャン「うわぁああああぁぁぁぁっ!」



    俺は橋の上で気を失った。




  7. 8 : : 2014/11/09(日) 14:17:28


    気がつくとそこは病院だった。


    たまたま橋を通った人が橋で倒れている俺に驚いて救急車を呼んでくれたらしい。


    橋にいたのは俺だけだったという。


    医者は外傷もなくこのまま家に帰っても構わないと言った。


    帰ると親にとてつもなく怒られた。


    スピードを出すからああなるんだと。


    どうやら俺が事故ったと勘違いしていたらしい。


    俺は慌てて橋の上でなにがあったのかを話した。


    しかしそんな御託を信じてくれるわけもなかった。


    そんなばかなことがあるわけないだろと。


    だけど両親のその考えはすぐに変わったんだ。


    次の日。


    あの橋で人が一人、死んだから。




  8. 9 : : 2014/11/09(日) 14:43:20


    TV「今日の早朝。××の橋の下で刑事のクリスタ-レンズさん(22)の遺体が発見されました」


    TV「橋の上にはクリスタさんのものと思われる車が残されており」


    TV「車内にはクリスタさんが昨夜ドライブを楽しみながら撮っていたと思われるビデオが録画中のまま残されておりました」



    TV「我々テレビ局はそのビデオの入手に成功いたしました」



    TV「ビデオの始まりは"愛する人との夜のデート"というクリスタさんの呟きから始まっており」


    TV「橋の上を通るまで、まるで誰かと話しているような素振りを一人でしてみせていました」


    TV「その独り言ともいえる行動にちょくちょくとエレンという男の人でしょうか?誰かの名前が出てきています」


    TV「この行動に対して同じ部署に務めていたマルコさんにスタジオへ来てもらっています」


    TV「マルコさん、クリスタさんの精神状態は普通ではないように見えますが?」


    マルコ「はい…エレンというのは我々の上司で、つい先日殉職されました…」


    マルコ「先輩は行方不明になって……さらわれたと思われる場所には大量の……先輩の…血がっ……」


    マルコ「クリスタは先輩とは……ッ……とても仲が良くて……」


    マルコ「先輩が行方不明になってからクリスタはいつも独り言を言うようになったんです」


    マルコ「きっとクリスタには未だに先輩が見えていたのだと思います」


    マルコ「もう…そのクリスタでさえこの世を去ってしまったのですが…」


    TV「……辛いことを思い出させてしまって…すみません」


    TV「つまり、エレンという仕事の上司が亡くなったショックで精神が病んでしまっていた可能性があるということですね?」


    マルコ「……」コクン


    TV「なるほど、ありがとうございました」


    TV「実は橋から飛び降りる直前、クリスタさんは奇妙な行動をしてから飛び降りています」


    TV「その音声がしっかりとビデオに録画されてありました」


    TV「では、こちらがその橋の上で起きた映像です。どうぞ」

  9. 11 : : 2014/11/09(日) 20:09:29


    ビデオカメラはフロントガラス越しに前方を録画されていた。


    闇夜の風景と楽しそうな女の声だけを映し録音している。


    そしてついに映像は例の橋を映し出す。


    あの街灯の下には誰もいない。なにも映っていない。


    だが、女は言った。確実に。


    クリスタ「見てぇ、エレン。この季節に寒そうな服装」


    見えている。こいつにも。


    俺と同じものが。


    あの女が。


    クリスタ「ひぃっ!?」


    車はやはり橋の真ん中で止まった。


    クリスタ「なっ、なによあんた!」


    コツ…


    クリスタ「なんで映ってないの!?」


    コツ…コツ…


    クリスタ「いやっ!来ないで!気持ち悪い!」


    コツ…コツ…コツ…


    クリスタ「来るな!来るなぁああ!!」


    コツ…コツ…コツ…


    クリスタ「助けてエレンエレンエレン」


    コツ、コツ、コツ、コツ、


    クリスタ「やめて!お願い!お願いします!」


    コツ!コツ!コツ!コツ!


    クリスタ「ごめんなさい!ごめんなさい!もうしません!許して…」


    コツ……コツ………



    ……コツ。



    クリスタ「エレンごめんなさいエレンごめんなさいエレンごめんなさいエレ…」


    クリスタ「あ…あぁ……」







    クリスタ「いやぁああぁぁぁぁっ!?」





    ビデオはその悲鳴とドアの開く音。


    そして橋の下でなにかが、"ぐしゃっ"と落ちた音だけを残し


    街灯で照らされたあの橋を映し続けるだけだった。


    間違いない。


    この女は逃げたのだ。あの化け物から。


    決して飛び降りたくて飛び降りたのではない。



    TV「警察は精神情緒不安定患者の起こした自殺という方向で…」


    違う。自殺じゃない。


    あそこには何か……いるのだ。


    得体のしれない何かが。


    このニュースを見た両親は暫くの間、車で送ってくれるようになった。


    暫くの間だけ。

  10. 12 : : 2014/11/09(日) 22:54:42


    あれから二週間親は俺を車で送ってくれた。


    もちろんあの橋を通るのだが二週間の間そこにあの女は出てこなかった。


    大人というものは薄情だ。


    自分の目で事を確かめないと幽霊が出たなんて信じちゃくれない。


    二週間も経つとあそこには何もいない、あんたの考えすぎ。


    明日からまたバイクで行きなさい、だそうだ。


    こっちは未だにあの足音、あの恐怖、なによりあの顔を忘れられないというのに。


    あの血まみれの顔を見るたびに酷い嗚咽に悩まされている。


    食欲がわくわけもなく、この二週間で体重は五キロも痩せた。


    それなのに、あの橋を一人でわたるだなんて…恨むぞ親よ。


    結局次の日、俺はバイクで学校へ行ってしまった。

    ーーー
    ーー



    四限目が終わり昼食を知らせるチャイムが鳴る。


    このチャイムが鳴ると俺の元へ一人の男が決まってやってくる。


    弁当をもって、決まった台詞で。


    ライナー「よぉ」


  11. 13 : : 2014/11/09(日) 23:18:12


    ライナー「最近元気ないな、顔がやつれてるぞ?」


    ジャン「うるせぇ、こっちはまた今日からバイク通学なんだよ」


    ライナー「そりゃ仕方ねぇだろ」


    ライナー「いるはずもねぇ幽霊が怖いので送ってくださいなんて」


    ライナー「二週間送ってもらっただけでもありがたい親御さんじゃねぇか」


    ジャン「いるんだよ!あそこには!」


    ライナー「けど二週間の間、橋の上では見てないんだろ?」


    ジャン「あ、あぁ…」


    ライナー「ほれみろ、幽霊なんているわけねぇよ」


    ジャン「けどよ!」


    ライナー「はぁ…なんなら調べてみるか?」


    ジャン「えっ?」


    ライナー「あの橋はここ最近にできたもんだ。過去の新聞見たら載ってるかもしれねぇぞ?」


    ジャン「…なにがだよ」


    ライナー「なにってそりゃあ…」


    ライナー「お前が見たっていう黒髪の女の飛び降り記事とか」


    ジャン「へ、変なこと言ってんじゃねぇ!」


    ライナー「だがそれ以外に思いつかんのだが?」


    ライナー「橋の上で幽霊が出るだなんて」


    ライナー「まぁ、いたとしたらの話だがな」


    ジャン「なっ!てめぇ!……わーったよ!調べてやる!」


    ライナー「おし、じゃあ飯食ったら先生の許可を得てパソコンででも調べるか」

  12. 15 : : 2014/11/10(月) 22:17:57


    "××橋 飛び降り"とウェブで検索した画面の前に俺たちはいた。


    ライナー「流石に二週間経った今でもクリスタって人の記事でいっぱいだな」


    ライナー「…にしてもこの人かなりの美人じゃねぇか。なぁ、どう思う?ジャン?」


    ジャン「うるせぇよ。それより俺が知りたいのは…」


    ライナー「焦らなくてもわかってるさ。この美人以外に飛び降りをした奴がいるかだろ?」


    ジャン「わかってるなら早くしてくれ。パソコン使える時間は限られてんだ」


    ライナー「へいへい、了解しましたよ。てか本当にいるのかねぇ。幽霊なんて」


    ジャン(いるんだよ。確実に。)


    ジャン(あれは…どう考えても、人じゃない。)


    脳裏に浮かぶのはあの女。


    無表情の整った容姿に綺麗な黒髪の女。


    ジャン「突き止めてやるよ…お前が誰なのか」


    ライナー「……おい」


    ジャン「どうした!見つかったか!?」


    ライナー「あそこで他に飛び降りた奴がいるかだと?ふざけるなよジャン」


    ライナー「こりゃあ……なんだ?」


    ジャン「!?」


    ライナー「あの橋で…クリスタって奴以外にも四人…」









    ーーーーーー死んでるじゃねぇか…


  13. 16 : : 2014/11/10(月) 22:28:41


    ジャン「はぁ?」


    ライナー「それを言いたいのはこっちだ!なんだこれ…こんなこと初めて知ったぞ!」


    ジャン「計、五人…か」


    ライナー「画質が悪くて名前は読めないが四人に関する記事と顔写真がある」


    ジャン「………こいつだ」


    ライナー「なに?」


    ジャン「こいつだよ、この一番最初に飛び降りて死んでる女…」


    ジャン「やっぱり…いたんだ…あの橋には」


    ライナー「なんなんだ?この一番最初に死んでる女がどうしたんだよ」


    ライナー「まさかこいつがお前の言ってる幽霊…とか言わないよな?」


    ジャン「残念だが、こいつの顔は忘れられない。あの橋にいたからな」


    ライナー「まぢかよ…」


    ジャン「そいつの詳しい記事を読んでくれ」


    ライナー「画質が悪くてあまり読めないが…」


    ジャン「いい、読めるとこだけでも頼む」


    ライナー「…わかった」


    ライナー「飛び降りたのは…えっと、何とか…」













    ライナー「アッカーマン?」

  14. 17 : : 2014/11/11(火) 19:52:40


    ジャン「アッカーマン…」


    ライナー「名前は読めないな。なになに…20××年11月20日。飛び降りたとされるのはストロス区に住む22歳の女性××-アッカーマン」



    ーーーー遺体は朝ジョギングをしている初老の男性が偶然橋の下で発見。


    橋の下は浅瀬の川が流れており、遺体から流れる血で川は真っ赤に染まったという。


    アッカーマン氏は家族内で問題があり深刻なまでに精神を追い詰められていたこと。


    そして衣服からあらそった形跡が見つからないことから、警察は自殺とみて操作を進めると同時に


    ライナー「アッカーマン家の家庭環境を詳しく調べる方針を示している。…だそうだ」


    ジャン「自殺…」


    ライナー「理由は分からないが、苦しかったんだろうな……ん?」


    ジャン「どうした?」


    ライナー「別の記事に警察が調べたアッカーマン家の家庭状況の結果があるぞ」


    ジャン「…読んでくれ」


    ライナー「あぁ。んっと…家庭環境に大きな問題はみられなかった、だそうだ」


    ジャン「はぁ?んなわけないだろ!」


    ジャン「この人はそれで苦しんで自ら命を絶ったんじゃないのか!?」


    ライナー「そんなこと俺に聞かれてもな…」


    ジャン「……くそ、後味悪いな」


    ジャン「…あんたは…」



    何に苦しんでいたんだ?


    あんたを自殺まで何が追い込んだ?


    なんであんたは無表情で血ぃ流してんのに……




    あんなにも、悲しそうなんだ




    ジャン「わからねぇな、わからねぇけど」



    俺にはもうこの人を怖がる心はなかった。


    不思議なくらいにあの恐怖心はどこかへいった。


    その代わりに俺の中で渦巻いているこの気持ちはなんだ?


    納得がいかねぇ。この人は死ぬ必要があったのか?


    なんで俺までこんな悲しい気持ちになる?


    幽霊なんてくそったれだ。


    死んでもなおこの世にい続ける。


    迷惑な話だ。


    でもそれは、まだ何かを伝えたいんじゃないのか?


    あの人はただ何かを伝えたかっただけなんじゃ…


    ……難しいことはわからねぇ。


    だけど、もしあの人が何かを伝えたいんなら俺はそれを聞いてみたい。


    恐怖はもうない。


    ただ気になるのだ。なぜ自殺したのか。


    今日どうせまた会うだろう。


    そのとき、何かあるなら聞いてやってもいいかもしれない。


    だけど、その前に




    ジャン「一言、ガツンと言ってやる」




    俺の中で綺麗な黒髪のあの人は


    血まみれの幽霊からただの自殺した訳ありの"人間"へと変わっていた。


  15. 21 : : 2014/11/14(金) 19:55:34


    黄色い光で闇夜を照らす満月。


    薄い雲がところどころ月を覆いその光をより幻想的にみせる。


    冷たい風が首に巻いている赤いマフラーをなびかせながら、彼は見慣れた風景をバイクで突き進む。


    バイクは長い下り坂に差し掛かる。


    長い坂を下りて平坦な道路をすこし進んだ先にある上り坂。


    その坂をバイクの勢いを殺さず登るとだんだんと見えてくる。


    あの不気味な街灯で照らされた橋が。


    その橋の一番手前の街灯に佇む、季節外れの白いワンピースを纏った黒髪の女。



    ジャン「…やっぱりいやがったな」



    学校指定であるフルヘイスのヘルメットの中で彼はそうつぶやいた。


  16. 22 : : 2014/11/14(金) 20:41:21


    街灯の下で真っ直ぐにどこかを見つめる女。


    その首がゆっくりとこちらを向く。


    目の下まで伸びた黒髪に真っ直ぐな鼻立ち。


    すこし潤んだ黒い瞳にかかる長いまつ毛。


    ひどく美しい顔立ちがこちらをじっと見つめる。


    キィと橋に響くブレーキ音。


    街灯の数メートル手前で止まるバイク。





    コツ…コツ…と歩道から道路へ女はこちらを見たまま移動する。


    そして体をこちらに向け行く手を阻むように立ちすくむ。


    バイクのヘッドライトが女の長い影をつくりだす。


    彼はヘルメットをはずした。


    キーを回しエンジンをきる。


    暗い橋の上に彼は降り立った。


    そして


    コツ…コツ…と彼自身がこの世の者ではない女へと歩みを寄せたのだった。


  17. 23 : : 2014/11/15(土) 10:01:30


    ジャン「よう、アッカーマンさん」


    「……」


    ジャン「あんた、そんな格好で寒くねぇのか?」


    「……」


    ジャン「風を遮るものがないこんな橋の上に立ってたら風引いちまうぞ」


    「……」


    ジャン「ここで人を驚かして楽しいか?」


    「…あぁ」


    ジャン「あー、別に驚かしてるわけじゃねぇのか」


    「……」


    ジャン「でもよ、あんたに驚いて死んじまった人もいるんだ」


    「……」


    ジャン「まぁ、仕方ねぇよ。だってあんた鏡に映らないじゃねぇか」


    「……うぅ」


    ジャン「それじゃ誰だって驚くさ」


    「…がぁ…」


    ジャン「だったらよ、なんでそうなってまでもあんたは…」




    ここにいる?




    「…ぁがぁ…」


    女の額からジワリと血がたれる。


    血は鼻筋を通り顎の先からポタッと地面へ落ちてゆく。


    女は無表情だった。


    なのに何故か。


    悲しそうだった。


    ジャン「あんたのツラ見てるとこっちまで悲しくなるんだよ」


    「うぅぅ…」


    ジャン「何かを伝えたいんなら俺に話せよ」


    「うあ…」


    女の両手が真っ直ぐに伸びてくる。


    ジャン「誰かに伝えたいんなら俺が伝えてやる」


    「ち……う」


    女の両手は彼の肩へとその距離をゆっくりとつめる。


    ジャン「あんたが見えるのも何かの縁だ」


    ジャン「あんたが抱えてるもん全部俺にぶつけろよ。俺が全部受け止めてやる」


    「や……てぇ」


    女の両手は彼の肩に触れ、ゆっくりと下へなぞり彼の二の腕を掴んだ。


    ジャン「なんだよ、あんたやっぱりつめてぇじゃねぇか。そんな格好でいるからだ」


    そう言って彼は自分の首の赤いマフラーをほどく。


    そして純白のワンピースを着た女に赤いマフラーを巻いた。


    白のワンピースにのっかる赤はとても綺麗だった。


    その瞬間。


    無表情だった女の顔がぐにゃりと歪む。


    額から流れる真っ赤な血とともに女は、透明な涙を一滴。こぼした。


    女は静かに一歩踏み出し彼を優しく抱いた。


    雲のかかった満月の夜。


    とある橋の上で女は一人の男の中へと消えていった。


    残されたのは少し濡れた赤いマフラーのみ。


    男は再びこの橋で気を失った。

  18. 25 : : 2014/11/15(土) 17:17:44


    気がついてまず目にはいってきたのは、満月と一つの街灯だった。


    ここはどこなのか?


    見慣れない風景に戸惑うが少ししたらすぐに先ほどの一連を思い出す。


    ジャン「あぁ、そうだった」


    俺はここで幽霊相手に説教して抱かれたんだった。


    ……絶対誰も信じてくれないな。


    ただ女に抱かれてからの記憶がない。


    気を失ったみたいだ。


    あれからどれほど時間が経っただろう?


    一分かまたは一時間か。それはわからない。


    頭の中がごちゃごちゃとしているけどとりあえずは…


    ジャン「道路で寝てたのに車にひかれなくて良かった」


    女は見当たらない。


    もしかしたらもう居ないのかも。


    いや、見えなくなっただけかもしれない。


    頭の中を整理しながら彼は女の首に巻いたはずのマフラーを拾い上げ、自分の首へと巻きなおした。


    ポケットからバイクのキーを取り出しエンジンをかけると、フルヘイスをかぶり橋の向こう側へとバイクを走らせた。


    バイクは小さなヘッドライトだけを頼りに闇夜に包まれた夜道へと消えていった。


    彼に異変が訪れたのは帰ってから風呂へ入り、晩飯である好物のボロネーゼで腹を満たしたあと。


    布団に潜り込み夢の中へと落ちていったときだった。


  19. 27 : : 2014/11/15(土) 17:40:53


    彼は居間にいた。


    居間の窓から差し込む夕日が畳に置かれた机の上にある紙きれを照らす。


    その紙を見ている少女がいた。


    後ろ姿しか見えないが歳はどうみても幼い。


    まだ小学校にも入学していないかもしれない。


    そんな黒髪の少女がいた。


    少女は立ちすくんだまま微動だに動こうとしない。


    ジャン「お、おい…」


    声をかけてみるが反応はない。聞こえているのかさえ怪しい。


    彼は少女に近づき少女がジッと見つめる紙を覗きこむ。


    そこには短くこう書かれていた。






    "つかれた"






    ジャン「なんだ…これ?」


    「おと…さん」


    ジャン「え?」


    少女は小さくつぶやいた。


    ジャン「お父さん?」


    彼の声に少女は右を向く。


    夕日に照らされるその幼い横顔はかわいらしかった。


    一瞬こんな幼い子にドキッとしてしまい慌てて少女につられるように右を向く。


    向いた瞬間。彼は見た。


    大きなてるてる坊主を。


    居間の隣にはもう一つ居間があった。


    畳には二つの布団が敷いておりどうやら寝室としてつかっているのだろう。


    居間と寝室を仕切るふすまが半分開いており、そこから大きなてるてる坊主がこちらに体を向けていた。


    ジャン「……は?」


    天井から伸びたロープに首を巻きつけたてるてる坊主は微動だにしない。


    足元には小さな台が転がっている。


    もちろんてるてる坊主の足は床にはついていない。


    ジャン「…うッ……」


    激しい吐き気に襲われ彼はおもわず四つん這いになり口を抑える。


    嗚咽が止まらず目からは涙が溢れ出す。


    横目で少女を見た。


    少女は無表情のままロープで吊るされたてるてる坊主を見上げつぶやいた。


    「おとうさん?」




  20. 29 : : 2014/11/15(土) 18:10:54


    夢から覚めたときにはすでに朝を迎えていた。


    ジャン「夢…」


    額を触るとぐっしょりと寝汗で濡れていた。


    布団からでるとすぐに冬の寒さでキリッと目が覚める。


    ぐっしょりと濡れた寝巻きを脱ぎ、雑に洗濯機に投げ込むと彼はあらかじめお湯を出していたシャワーへと向かう。


    頭からお湯をかぶりさっきの夢の内容を思い出す。


    あの少女。どう考えてもあれはあの女だ。


    間違いない。


    てことはあの首を吊っていた人は…


    ジャン「…布団。二つしかなかったよな」


    ボソッと彼はつぶやく。


    母親とは離婚か、またはこの世を去ったのか。わからない。


    わからないが、一つだけはっきりしているのはあの瞬間。まだ幼い時期にあの人は…



    ジャン「天涯孤独…か」


    彼は曇った鏡を片手で斜めに拭う。


    鏡にはもちろん自分しか映らない。


    だが、その自分が泣いていた。


    ジャン「えっ…」


    彼はそっと自分の頬に触れる。


    泣いていたことに気づかなかった。


    ジャン「…そっか、あんたは俺の中にいるんだな…」


    ジャン「あんたが伝えたかったのは…これだけじゃないんだろう?」


    そのことがなんとなくわかる。


    ジャン「なにが家庭環境に問題はない、だ。ふざけんな」


    涙を拭いお湯をとめると彼は風呂から出て制服へと着替えた。


    リビングにはいつも親が作ってくれるおにぎりが二つ。温かい緑茶とともに置かれていた。


    「ほら、ちゃんと髪乾かさないと風邪引くよ。さっさと乾かしてご飯食べな」


    遅刻するから急ぎなと母はつけ加えた。


    ジャン「…あったけぇなぁ」


    おにぎりを頬張り彼は気づく。


    この当たり前の日常がいかに幸せだったかを。


    ジャン「この暖かさ、少しでもあんたに届いとけばいいけどな」


    せっかく俺の中にいるんだから。


    彼は一つ食べ終わるともう一つも勢い良く頬張り熱い緑茶で流し込んだ。


    体の内から温めて彼は寒い冬の中、
    学校へと向かった。

  21. 30 : : 2014/11/15(土) 18:33:41


    四限目の終わりのチャイムはあいつが来る合図だ。


    ライナー「よぉ」


    ジャン「おう」


    ライナー「それで、どうだった?」


    ジャン「何が?」


    ライナー「"何が?"じゃねぇよ!幽霊だよ、ゆ・う・れ・い!」


    ジャン「あぁ」


    ライナー「それで?やっぱり見たのか?」


    ジャン「そりゃ……」


    ジャン「いや、見なかった」


    ライナー「なんだよ、見なかったのか」


    ジャン「どうやら俺の見間違いだったみてぇだな」


    ライナー「見間違いであの記事と同じ顔を見るもんなのかよ」


    ジャン「ありゃ…嘘だ」


    ライナー「はぁ?」


    ジャン「ただお前を驚かしただけだよ」


    ライナー「なんだよ、ちょっとでも信じた俺がバカみてぇじゃねぇか」


    ジャン「信じて…くれてたのか?」


    ライナー「少しな、お前は嘘つくような奴じゃないから」


    ジャン「ライナー…お前…」


    ライナー「しかしその信頼もたった今崩れ去ったがな」


    ハハハッと友人は声をたてて笑う。


    ジャン「悪いな…」


    ライナー「ん?なんか言ったか?」


    ジャン「なんも言ってねぇよ」


    ライナー「そうか。あぁ、そうだ聞いてくれ。昨日すっごい美少女を見つけたんだが…」


    彼は友人が話す美少女目撃談を右から左へと聞き流しごめんなと友人に心の中で謝る。


    ジャン(誰だってあんなこと言いふらされたくねぇよな)


    お詫びにというわけでもないが、彼は昼休みずっと友人が話すくだらない妄想話に耳を傾けていた。


    ーーー
    ーー







  22. 31 : : 2014/11/15(土) 19:35:11


    今日は雲が厚く月は見えない。


    そんな中赤いマフラーをなびかせてバイクを走らせる男。


    男があの橋を通るがそこの街灯には女はいない。


    そのことを確かめやはり自分の中にいるのだと実感する。


    橋を渡るとその先は道路があまり舗装されてない田舎道だ。


    道路はひび割れがたがたしている。


    もちろん街灯などない。


    だから月明かりのないこういう日は危ないのだ。


    いつもは制限速度を大幅に無視する彼だが今日は少しゆっくりと走った。


    寒さを我慢しながら考えるのは今日見る夢だ。


    自分の中の彼女が伝えたいことはまだ残っている。そのことがわかる。


    きっと今日もそれを夢を通じて見せてくれるだろう。


    そう思いながら暗く狭い道路を走る。


    しかし今朝の夢の続きを見ることはなかった。


    目の前から一台の黒いワンボックスが彼のバイクへと突っ込んできたから。


  23. 32 : : 2014/11/15(土) 19:50:40


    高い土手がつらなるカーブがある。


    そこに道路ミラー無い。


    さらには暗く狭い道路ではその道は危なかった。


    だから彼は道路の端をゆっくりと徐行していたのだ。


    しかしそこにカッと眩しいハイライトが。


    彼は前が見えなく縁石へと乗り上げ道路の脇にある草むらへ放り出された。


    フワッと重力に逆らいドスンと腰から落ちて。


    そのすぐ後にドカンという大きな衝撃音。


    あのまま進んでいたら即死だっただろう。


    その事実を前に彼は身震いする。


    黒のワンボックスは縁石のおかげで止まっていた。


    幸い大きな事故とはならなかった。


    「大丈夫ですかっ!?」


    黒のワンボックスから一人の女性が飛び出して来る。


    対し彼はフルヘイスをとり立ち上がる。


    体を打ちつけてあちこち痛いが怪我はすり傷程度ですんだ。


    ジャン「あぁ、大丈夫で…ッ!」


    女性の顔を見ておもわず彼は息を呑む。


    黒のワンボックスから出てきた女性はよく知る顔だったから。


    今は自分の中にいるはずの黒髪の女そのものだったから。

  24. 33 : : 2014/11/15(土) 19:58:16


    「どうしたんですか!?どこか痛みますか!?」


    目の前の女性は血相を抱えて訪ねてくる。


    しかし彼は返事をしない。
    言葉が出てこないのだ。


    「病院!病院に行きましょう!」


    ジャン「あの…」


    「えっと…まだ開いてる病院は…」


    ジャン「あっ、いや大丈夫です」


    「えっ…でもあなた…」


    泣いてるじゃないですか。


    ジャン「え…」


    言われて彼は気がついた。


    頬に触れなくとも分かるくらいに彼は泣いていた。


    「どこか痛いんですよね!?」


    ジャン「違います…」


    「でも…」


    ジャン「悲しいんです…」


    「……悲しい?」


    ジャン「はい…自分でも分からないけどあなたを見ていると悲しくて、申し訳ないんです…」


    「……」


    ジャン「すみません。名前を、あなたの名前が知りたい」


    「私のですか?私は…」


    ミカサ「ミカサ-アッカーマンです」


  25. 34 : : 2014/11/15(土) 20:16:44


    俺はミカサさんに今までの体験を伝えた。


    すると彼女は


    ミカサ「それはきっと姉です」


    ジャン「姉?」


    ミカサ「はい。双子の」


    ミカサ「私たちは貧乏な家に生まれたそうです」


    ジャン「そうです?」


    ミカサ「はい。私は生まれてすぐ養子に出されました」


    ジャン「!?」


    ミカサ「仕方なかったんです。二人も赤ん坊を育てる余裕はなかったらしいので」


    ジャン「……」


    ミカサ「このことは引き取ってくれた私のもう二人の両親に私が成人したときに教えてくれました」


    ミカサ「あ、ちなみにミカサって名前は私の産みの親がつけてくれた名前なんですよ」


    ミカサ「結構気に入ってるんですよね」


    そういって彼女は笑う。


    ジャン「お強いんですね」


    ミカサ「そんなことないですよ。私にはもう二人の両親がいたから。幸せでした」


    ミカサ「でも姉は…苦労したみたいですね…」


    ジャン「……」


    ミカサ「私、姉の名前も知らないんです」


    ジャン「…すみません。俺もわからないです」


    ミカサ「そう、ですか」


    残念ですねと彼女はやはり笑う。


    ジャン「ただお姉さんは謝りたかったみたいなんです」


    ミカサ「姉が?どうして?」


    ジャン「わかるんです。信じてもらえないかもしれませんが…心の奥であなたのお姉さんが言ってるんです」


    ジャン「ごめんなさいって。私のせいであなたが養子に出されたって」


    ミカサ「そんなの…姉さんのせいじゃないのに…」


    ミカサ「姉は…自殺だったんですよね」


    ジャン「…それはわかりません。もしそうだったとしても理由はわかりません」


    ミカサ「バカだなぁ…」


    ミカサ「そんなこと気にしなくていいのに…ただ笑顔で私に会いに来てくれればそれで…良かったのに…」


    小さい声で言う彼女の瞳は潤んでいた。


    そのときふっと彼は体が軽くなるのが分かった。


    出て行ったのだ。
    自分の中から。
    名前も分からないあの人が。


    ミカサ「…ッ!……姉さん…」


    ミカサ「…そう…いってしまうのね」


    ミカサ「…最期に会えてよかった」


    彼女にはきっと見えているのだろう。


    天に昇っていくあの人が。


    涙を流しながら彼女は空に向かって微笑んだ。


    先ほどまでの厚い雲はなく空には綺麗な月が輝き続けていた。
















    "ありがとう"




  26. 35 : : 2014/11/15(土) 20:25:23




    ジャン「ちなみにミカサさんとは今でも連絡を取りあっているんだ」


    ユミル「へー」


    ジャン「どうだった?俺の体験談は」


    ユミル「怖ぇよ先輩」


    ジャン「いや、いい話だっただろ?」


    ユミル「知らねぇよ。私が幽霊とか嫌いなの知ってますよね?」


    ジャン「いやいや、最初に"暇だからなんか話して~"とか言ってきたのユミルじゃん」


    ユミル「うるせぇ。もう少し内容を考えてください」


    ジャン「その割には聞き入ってたじゃねぇか」


    ユミル「途中で終わったら気になるだろうが。バカなんですか?」


    ジャン「先輩にバカとか…」


    ユミル「あほ」


    ジャン「くっ…。つかタメ語か敬語かどっちかにしろよ」


    ユミル「いんだよ。私の勝手です」


    ジャン「変な奴だな」


    ユミル「うるさいなーってもうこんな時間か」


    ジャン「本当だ。そろそろ帰るか」


    ユミル「そうですね。ではまた明日」


    ジャン「おう、気をつけて帰れよ」


    ユミル「先輩こそ」


    そういって二人はキャンバスから冬の外へと出る。


    それぞれの車に向かって。


    彼女は自分が車に着くのと同時になるようにポケットの中で車のキーを押す。


    するとガチャとセンサーで彼女の黒いワンボックスが開く。


    エンジンをかけ暖房をガンガンきかせながら彼女はバックミラーを気にする。


    あんな話された後ではこんな狭く暗い場所に一人でいると落ち着かない。


    ユミル「確かにいい話だったけどな」


    そう呟き彼女は自宅へと車を発進させる。


    今日は満月だ。


    雲一つなく星がとても綺麗で少しおぉと思ってしまう。


    ユミル「先輩も見てっかな?」


    頭に浮かぶのは愛しの人。


    そんな恋心に浸っている彼女の目の前に入ってきたのは通行止めの看板。


    ユミル「まぢかよ、遠回りしねぇと…ってこっちは…」


    そう。あの橋を通らなければならない。


    ユミル「…まぢかよ」


    再び同じ台詞を口にする。


    ユミル「いやだなー、これもうお化け出るフラグだよ。出ちゃうよ出てきちゃうよお化け」


    独り言を言っている間に例の坂が見えてくる。


    長い下り坂を下り、平坦の道の先にある少しの登り坂…そしてあの橋…


    ユミル「確か…一番手前の街灯…」


    徐々に見えてくる街灯。


    その街灯には誰もいない。


    ほっと胸を撫で下ろし車を走らせる。


    そしてやはり。


    黒のワンボックスは橋の真ん中で止まった。






    鏡に人が映っていたからーーー





    ユミル「…話が違うじゃねぇか」


    凍る背筋を無理やりひねり後ろを向く。


    だがそこに人はいない。


    じゃあ…


    ユミル「鏡に映ってるこいつは誰だよ…」


    そこには金髪の女が。


    コツ…コツ…


    ユミル「はい、きましたー」


    ポジティブに言うが体中からは冷汗が止まらない。


    コツ…コツ…コツ…


    足音が橋に響く。


    彼女は急いでアクセルを踏むがタイヤは変な音を出して空回りするだけ。


    ユミル「は?エンスト?ふざっけんなよ!」


    コツ…コツ…コツ…


    ユミル「やばいって!まぢやばいって!」


    コツ、コツ、コツ


    ユミル「動けよ!おい!早く!」


    コツ!コツ!コツ!


    ユミル「やめろ!くんな!くんじゃねぇ!」


    コツ!コツ!コツ!


    ……コツ。


    ユミル「ははっ…やめろってんだ…」


    彼女は下を向いて耳を塞いでいた。


    それでも聞こえてしまう嫌な足音。


    その足音が止まった。


    恐る恐るサイドミラーへと顔を上げる。


    そこに人はいない。


    ユミル「…なんだよ」


    いないとわかると急に全身の力が抜けバタッと背もたれに寄りかかる。


    ユミル「全く…先輩のせいで幻覚でも見ちまったか…」


    しかしその考えはすぐに変わる。


    後ろに気配を感じたから。


    ふとバックミラーを見た。


    見てしまった。


    バックミラーに映るのは後部座席。


    そして、そこには…


    ユミル「うわぁあああああああ!」



    クリスタ「……」



    ユミル「うわぁああああああ!」



    クリスタ「……」



    ユミル「ああぁぁぁぁ…ぁ…あ?」


    クリスタ「……」


    ユミル「……」


    クリスタ「……」











    この日。私は先輩以外にもう一人できてしまった。



    ユミル「…お化けって…意外とかわいいな…」



    好きな人が。




  27. 36 : : 2014/11/15(土) 20:29:48













    No.2「黒髪の女」









  28. 37 : : 2014/11/15(土) 20:31:12
    見やすさ優先としてコメントは非表示にさせていただきました。

    コメントくれた方すみません。
    コメントありがとうございました。
    (^-^)
  29. 38 : : 2014/12/20(土) 17:22:25
    面白かったです!

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