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ドラえもん~のび太と自由の翼たち~

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  1. 1 : : 2014/07/29(火) 12:45:12
    こんにちは。執筆を始めさせていただきます。

    …さて、新たな挑戦です。

    * ドラえもんたちが、ひょんな事から、進撃の巨人の世界に迷い混みます。

    * 突っ込みどころ、満載かとは思いますが、温かい目でご覧いただけると…(ドラえもんも映画でよく見せてますよね、あたたかい目w)

    * 極力、グロテスクな部分は避けていこうかとは思っています。どこまでできるかは、分かりませんが…。

    …以上の条件でもかまわない、という方は、ぜひ、よろしくお願いします。
  2. 2 : : 2014/07/29(火) 13:00:52
    夏の午後のことでした。

    午後といっても、まだ日差しは強く、道を行き交う人々は、各々日傘をさしたり、帽子を被ったりして、日差しをしのいでいます。

    セミの声が聞こえます。子供たちは今、夏休み。時折、真っ黒に日焼けした、子供たちの元気な声が聞こえます。

    そんななか、一軒の本屋さんから出てきた少年。にこにこと嬉しそうに、一冊の本を抱えています。

    「ずっと欲しかったマンガ、やっと手に入ったぞー。早く帰って読も。」

    少年は、駆け出しました。

    そして、空き地の前を通りがかると…。

    「おう、のび太!」

    のび太と呼ばれた少年は、どきりと立ち止まります。

    「いい物持ってるじゃねぇか…」

    空き地に備え付けられた土管の上に座っていた、2人の少年が、にやにや笑いながら、のび太に近づいてきます。

    のび太は、怯えながらも、必死で言いくるめようとしました。

    のび太 「こ、これは…ダメだよ…ボク、まだ1ページも読んでないし…」

    そんなのび太の訴えもお構い無しに

    「安心しろ。オレが読み終わったら、読ませてやるよ。」

    のび太 「そ、そんなこと言ったって…いつだって返してくれたことないじゃないか!ジャイアンのウソつき!」

    ジャイアンと呼ばれた体格の良い少年は、そんなのび太の言葉に、不機嫌に顔を歪ませ

    ジャイアン 「うるせぇっ!いいからよこせっ!」

    こうなっては、もうおしまいです。のび太はジャイアンにこてんぱんにやられ、ジャイアンは誇らしげに、のび太から奪ったマンガを掲げています。

    スネ夫 「…いよっ、ジャイアン最強!日本一…いや、人類最強!」

    ジャイアンの隣で、楽しそうに事の顛末を見ていたスネ夫は、そう言って、囃し立てます。

    スネ夫の言葉に気を良くしたジャイアンは、得意気にポーズを決めてみせます。

    のび太は、というと…

    のび太 「…うっ…ううっ…」
  3. 3 : : 2014/07/29(火) 13:22:15
    一方こちらは、のび太の家です。2階ののび太の部屋では、一匹のネコ型ロボットが、扇風機の前で、おいしそうにアイスを食べています。

    もう、みなさんお分かりですね、そう

    のび太 「ド~ラ~え~も~ん…」

    ドラえもん 「またジャイアンとスネ夫にイジメられたのか…」

    のび太の一声に、ドラえもんは状況を読みとったらしく、あきれてのび太に声をかけます。

    のび太は、ぐずぐずとべそをかきながら、

    のび太 「うっ…だって…うっ…ひどいんだよ…ボク…やっと手に入ったマンガだったのにぃーっ!!!」

    のび太の泣き叫ぶ声に、ドラえもんは食べかけのアイスのカップをそばに置き、思わず耳をふさぎます。

    ドラえもん 「…くやしかったら、取り返せばいいだろ…」

    のび太 「そんな…相手は、あのジャイアンだよ!かなうわけないよ!」

    暑苦しくまとわりつくのび太に、ドラえもんはたまらず

    ドラえもん 「だあぁぁ~っ、だからいつも君はそうなんだ!やりもしないクセに、すぐに諦める!」

    のび太は、ドラえもんの叫ぶ勢いに、突き飛ばされましたが、めげずにまた、すがりつきます。

    のび太 「…そんな、すぐに諦めるなんて…その君がつけてるポケットから、チョチョイット道具を出して…」

    ドラえもん 「もうーっ、またボクの道具をアテにして!」

    のび太 「ね、今回だけ…1つだけ何か道具を出してくれればいいから…」

    お願い!とポーズを決め、必死で頼み込むのび太。

    だけど、ドラえもんには、のび太の“今回だけ!” “今日だけだから!”が、まったく信用できないことは、分かりきっていました。

    じとっ…とした目でのび太を見つめ、

    ドラえもん 「…じゃあ、本当に1つだけだよ…」

    と、ポケットに手を入れ、何やらゴソゴソ…

    のび太 「うん、なになに?」

    チャッチャラ~♪

    ドラえもん 「どこでもドア~!」

    期待に胸を踊らせていたのび太は、ポケットから飛び出た意外な道具に、思わず肩を落とし、がっかり。

    のび太 「これだけで、どうしろっていうのさ…」

    そんなのび太に、ドラえもんはのんびりと笑い、

    ドラえもん 「さあ?それは君が考えることだからね。」

    ドラえもんは、食べかけのアイスを手にとると、

    ドラえもん 「じゃ、頑張ってね~ん。」

    のび太 「…あ、ドラえもん!」

    のび太が止めるのもかまわず、ドラえもんは、のび太の部屋を出ていきます。ふすまの向こうからは、のび太の、不満たっぷりの声。

    ドラえもんは、手に持ったアイスのカップを見ました。

    ドラえもん 「…ああ、ほとんど溶けちゃってる…」

    そして、階段を降りながら、ふと、立ち止まります。

    ドラえもん 「そういえば…どこでもドアの調子、最近良くないんだっけ…」
  4. 7 : : 2014/07/29(火) 15:17:26
    ドラえもんを引き留めることを諦めたのび太は、1人、どこでもドアとにらめっこを決め込みます。

    派手なピンク色に染められた扉からは、何の答えも帰ってきません。

    のび太は思わず

    のび太 「だいったいな…!」

    どこでもドアを、ビシッと指差し

    のび太 「いつもいつも、ボクはドラえもんの道具を使うと、ロクな目にあわない…これもみんな…ドラえもんのせいだっ!」

    しかし、のび太の目の前にあるのは、ドラえもんの姿ではなく、どこでもドアなので、のび太の叫びも、何の意味もありません。

    のび太は腕をがっくりと下ろし、ため息をつくと

    のび太 「…とりあえず、読めなかったマンガの内容が気になるし、本屋に行って、立ち読みでもしてくるか…」

    そうつぶやくと、のび太はドアのノブに手をかけました。

    しかし…

    のび太 「あれっ…あれっ?」

    ドアノブが動かず、開くことができません。まるで、カギがかかっているようです。

    のび太 「…壊れてるじゃないか…ったく…ねぇ、ドラえもーん!」

    のび太は、どこでもドアを部屋に残したまま、部屋を飛び出します。

    どこでもドアから、何やらビリッ、ビリビリッと、電流が散っていることに、のび太は気づきませんでした。
  5. 8 : : 2014/07/29(火) 15:29:01
    「…こんにちは…」

    階段を降りてすぐの、玄関先に立っていたのは…

    のび太 「しずかちゃん!」

    しずか 「近くまで来たから…お邪魔しても、いいかしら…」

    その言葉に、さっきまでのイライラは、どこへやら。のび太はでれでれとした笑みを浮かべて

    のび太 「どうぞどうぞ。狭い所ですが…」

    しずか 「…じゃあ、お邪魔します…」

    しずかちゃんは、きちんと靴をそろえます。

    ドラえもん 「…あれ、しずかちゃん…」

    台所から、ドラえもんがやってきます。手には、皿にのせられたどら焼きを持っています。

    のび太 「ドラえもん、さっきアイス食べてたのに、まだ食べるつもり?」

    のび太の問いに、ドラえもんは舌をチロリと見せ

    ドラえもん 「いやぁ、つい目に入ると、食べたくなっちゃって…」

    しずか 「ドラちゃんったら…」

    3人は、あはは、と、笑い合いました。

    のび太 「…あ、それよりドラえもん、どこでもドア、壊れてるみたいだよ。どうなってるのさ。」

    ドラえもん 「…あ、ごめん…最近調子が悪いこと、すっかり忘れてて…」

    のび太 「…もう…」

    「…おう、のび太!」
  6. 9 : : 2014/07/29(火) 15:59:56
    玄関から、また声がします。

    のび太 「ジャイアン、スネ夫…」

    のび太は、先ほど奪われたマンガのことで、口を開こうとすると…

    ジャイアン 「…これは返す。」

    目の前に、マンガがつき出されます。

    ジャイアン 「…良く見たら、もう読んだことあるやつだった。」

    スネ夫 「ボクの家は今、お客が来ていて、遊べないし…」

    ジャイアン 「しかたねぇから、のび太ん家で遊んでやろうと思ってよ。」

    のび太は苦笑しますが

    のび太 「…まぁ、いいから、上がってよ…」

    ジャイアン&スネ夫 「おじゃましまーす。」

    友人たちを自室へ通しながら、

    のび太 「…なんか、どこでもドアが壊れちゃってるみたいなんだ…」

    ジャイアン 「どこでもドアが?」

    スネ夫 「それでのび太…どこでもドアを使って、どこへ行こうとしてたんだ?」

    スネ夫の問いに、のび太はぐっと詰まります。まさか、とられたマンガの内容を読みに、本屋へ行こうとしてたなんて、恥ずかしくて言えません。

    のび太 「…べ、別に大したことじゃ…それよりドラえもん、早く直してよ…」

    ドラえもんは、どら焼きののった皿を机の上に置くと、

    ドラえもん 「どれどれ…」

    ドアのノブをひねってみます。

    ドラえもん 「んっ…もう少しで…回せる…けど…」

    ドアノブは動きません。

    ジャイアン 「…お、力仕事なら、オレに任せろ!」

    ドラえもんを押し退け、ドアノブに手をかけるジャイアン。

    ドラえもん 「ちょっとジャイアン…変なことしたら、ますます調子が悪くなるぞ…」

    ジャイアン 「大丈夫だって。」

    初めこそ、笑ってドアノブに力を込めていたジャイアンも、だんだんと顔が険しくなります。

    ジャイアン 「…くそっ…全然…開かねぇ…」

    のび太 「ジャイアン…」

    しずか 「たけしさん…もう無理よ…」

    スネ夫 「もう諦めなよ、ジャイアン…」

    ジャイアンはもう、やけくそで

    ジャイアン 「…おい、みんなでこのドアに体当たりして、開けるぞ。」

    のび太 「ええっ…」

    スネ夫 「無茶だよ、そんなの…」

    ジャイアン 「うるせぇっ、ほら、ドラえもんも…」

    ドラえもんは、呆れ顔で

    ドラえもん 「…しょうがないな…どうせ無理だろうけど…」

    みんなで、ドアの前で身構えます。

    ジャイアン 「いくぞ…せーのっ…!」

    ドアに思い切り体当たりし、ドアは、吹き飛ぶように開きます。

    「う、う、う…うわあぁぁぁっ!」

    ドアをくぐる瞬間、物凄い電流が、のび太たちの周りに、巻き起こります。

    ドラえもん 「…じ、時空間が乱れてるんだ…これは…まずい…!」

    「わあぁぁぁっ!!!」

    周りの空間から、爆発したように光があふれだし、みんなは、気を失ってしまいました。

  7. 12 : : 2014/07/29(火) 20:31:21
    ◆◆◆◆


    右翼側、索敵班からの報告を受けたエルヴィン.スミスは、一瞬耳を疑い、問い返してしまった。

    普段の壁外調査の伝達では、あってはならないことなのだが、今回の報告の内容は、その条件を覆すのに、充分なものであった。

    索敵班兵士 「…壁外にも関わらず、10歳前後の子供が4名と…青い体の…丸い…謎の生命体を、発見しました!」

    エルヴィンは陣形を離れ、右翼索敵班の後に続き、発見現場へと向かう。

    背後に、

    「なにそれ、おもしろそう!」

    と、勝手についてくる分隊長、ハンジ.ゾエを従えながら。
  8. 13 : : 2014/07/29(火) 20:51:20
    索敵班兵士 「…あ、エルヴィン団長、こちらです。」

    幸い、周りに巨人の気配はなく、数名の兵士が馬からおり、突然の来訪者たちを取り囲んでいる。

    団長が来たことに気づき、兵士たちの輪が2つに割れ、エルヴィンは前に進み出た。

    見ると、子供は少年3名、少女1名だった。壁内では見たことのない、妙な服装をしている。

    そして…なんとも形容し難い、青い体をした謎の生命体…。

    エルヴィン 「…君たちは、どうしてここにいるんだい?」

    相手が子供ということもあり、エルヴィンは柔らかい口調で問う。しかしその目は、如何なる怪しい行動も見逃すまいと、鋭く光っている。

    「あの…さっきも説明したんですが…」

    半べそをかく4人の子供に代わり、エルヴィンの問いに答えたのは、青い生命体だった。

    エルヴィン 「…うむ、聞こうか。」

    エルヴィンは、冷静に話を聞く姿勢をとる。

    青い生命体 「ボクたちは…その…ちょっとしたトラブルでここに来てしまって…ここが、どこなのかも分からなくて、迷ってしまったんです。」

    青い生命体の返答に、問い返そうと口を開きかけたエルヴィンを、周りの兵士を押し退け、無理やり割って入るハンジが遮る。

    ハンジ 「ねぇねぇキミぃ…」

    頬を紅潮させ、そうハンジが飛び付いたのは、言うまでもなく、青い生命体だった。

    ハンジ 「ねぇキミ、生きてるの、喋れるの、なんで青いの、ねぇねぇねぇっ…!」

    ハンジに迫られ、青い生命体は、汗をかき、ヒトと同じように、怯えているようだった。

    「…帰りたいっ…!」

    見ると、少女が両手で顔を覆い、その場にしゃがみ込んでいる。

    少女 「おうちに帰りたいっ…」

    周りは静まりかえり、少女の泣き声だけが辺りに響く。

    エルヴィン 「…ハンジ…」

    ハンジ 「…えっ、なに?」

    エルヴィン 「今回は、ここで撤退だ…各々、予備の馬にこの少年たちを乗せ、カラネス区へ帰還する…他の兵にも伝達してくれ。」

    ハンジ 「…わ、分かったよ…じゃあキミたち、また後でね~。」

    少年たちににこやかに手を振ると、ハンジは陣形へと伝達に向かう。

    エルヴィン 「…さあ、キミたちも、我々と一緒に来てもらう。」

    そう見つめるブルーの瞳に、少年たちは、逆らえる筈もなかった。
  9. 14 : : 2014/07/29(火) 21:23:06
    突然の撤退命令を受け、調査兵団本部へと戻ったリヴァイ兵士長は、撤退に至った原因であろう、4人の子供と、1体の青い生命体を睨み付けた。

    それは、突然の来訪者たちを怯えさせるのに、充分過ぎる程のものであった。

    リヴァイ 「…エルヴィン、今回の突然の撤退で、とくに何の成果も得られず、おめおめと帰還した…その原因は、このガキ共にあるのか?」

    リヴァイが責めるのも無理はない。今回の壁外調査でも、犠牲は避けられなかった。にもかかわらず、理不尽に撤退を命じられ、得られた成果は皆無。

    エルヴィン 「…リヴァイ、お前の気持ちも分かる。しかし、この子たちを引き連れて、壁外調査を続けるのは不可能だった…分かってくれ。」

    エルヴィンの言葉を聞き終え、リヴァイは再び子供たちを睨む。

    リヴァイ 「…妙ななりだが…うちで引き取る理由なんざ無ぇだろ。さっさと憲兵に引き渡せばいいものを…ま、すぐに処分されるだろうがな。」

    処分…その言葉に、1番端で震えていた小柄な少年が、声を上げて泣き叫ぶ。

    「うちへ帰してよ~、マ~マ~っ!!!」

    その声にイラ立ったのか、リヴァイは大きく舌打ちし、泣き叫ぶ少年の胸ぐらをつかむ。

    リヴァイ 「自分の立場をわきまえろ、クソガキが…」

    「うっ…ううっ…お、お助け…」

    「スネ夫っ!」

    「スネ夫さん!」

    「スネ夫くん!」

    他の子供と、青い生命体が、そう叫びつつも、恐怖で動けずにいるなか、1人の少年が、リヴァイに飛びかかる。

    「スネ夫を離せっ!」

    体格の良い少年が、リヴァイの腕にすがりつく。

    しかし、子供が大人に、まして、人類最強の兵士にかなう筈もなく、少年はいとも簡単に振り払われてしまう。

    スネ夫 「ジャ…ジャイアン!」

    エルヴィン 「…リヴァイ。素性はまだ分からんが、相手は訓練兵にも満たない子供だ。その辺で許してやれ。」

    そうたしなむエルヴィンに、リヴァイはスネ夫と呼ばれた少年を離してやると、

    リヴァイ 「…少し脅してやっただけだ。こいつらがいたのは壁外だ。油断はできんからな。」

    リヴァイに振り払われ、勢いよく床に叩きつけられたジャイアンは、悔しそうに顔を歪め、リヴァイを睨みつけることしか、できなかった。
  10. 15 : : 2014/07/29(火) 22:08:17
    ◇◇◇◇


    エルヴィン団長より当てがわれた小さな個室に、ドラえもん、のび太、スネ夫、ジャイアンの4人は、備え付けのイスに腰掛け、神妙な面持ちでうつむき合いました。

    のび太 「…これからどうなるんだろう…ボクたち…」

    のび太の呟きに、誰も答えられずにいます。

    気絶していたのび太たちが目を覚ました時、そこは、どこまでも広がる草原でした。

    どこでもドアは、衝撃でどこかへ吹き飛んだのか、どこを探しても見当たりません。

    ドラえもんの秘密道具も、不思議なことに、バッテリー切れでもないのに、全く機能しません。

    タケコプターも、とりよせバッグも。

    途方に暮れているところを、あの、馬に乗った兵士たちに出会ったのです。

    ドラえもん 「エルヴィン団長は…悪い人ではないみたいだけど…」

    この部屋で待機するようドラえもんたちに伝えた後、エルヴィン団長は、ドラえもんに右手を差しだしました。

    エルヴィン 「…私は、調査兵団第13代団長、エルヴィン.スミスだ。きみの名前をまだ、聞いていなかったね。」

    ドラえもんは、エルヴィン団長の手を握り返し

    ドラえもん 「…はい、ボクはドラえもんといいます。この度は、助けてくださって、ありがとうございます。」

    この世界に来て以来、初めて交わしたまともな会話に、ドラえもんは思わず、涙しそうになり、ぐっとこらえました。

    ボクが…ボクがしっかりしなくちゃ…!

    エルヴィン 「…そうか。よろしく、ドラえもん。きみたちの安全はとりあえず、我々調査兵団が保証するよ。ゆっくりと休むといい。」
  11. 21 : : 2014/07/30(水) 19:19:08
    スネ夫 「…その…しずかちゃんと一緒にいる、ペトラさんって女の人も、優しそうな人だね。」

    スネ夫の言葉に、他の3人も頷きます。しずかちゃんは女の子、ということで、1人だけ別の部屋を用意してもらうことになったのです。

    これも、エルヴィン団長の配慮です。

    そして、身の回りの世話(直接言われてはいませんが、監視の意味も含むのでしょう)を任されたのが、ペトラ.ラルという女性兵士でした。

    ドラえもん 「とにかく今は…彼らに従うしか、ないみたいだ…」

    ドラえもんの言葉も、夕闇迫る窓の向こうに、どこへ行くともなく、消えてゆきました。
  12. 22 : : 2014/07/30(水) 19:32:12
    ペトラ 「分からないことがあったら、遠慮なく聞いてね。」

    しずかを個室に案内したペトラは、笑顔で声をかけます。

    しずか 「…はい…」

    しずかは、無理に笑みを浮かべると、うつむいたまま、顔を上げようとはしません。

    顔にはまだ、草原で流した涙の跡が、夕日に照らされ、光っています。

    ペトラは息をつくと、しずかの肩に、そっと手を置きました。

    ペトラ 「…大丈夫。きっと帰れるから。」

    顔を上げるしずかに、ペトラはにっこりと笑いかけます。

    しずか 「あなたは…その…私たちのことを…」

    次につなぐ言葉を、しずかは見つけることが出来ませんでしたが、ペトラには分かったようで

    ペトラ 「…正直、私、あなたたちは、悪い人には見えないのよね…何となくね…けど、いきなり壁外に現れたあなたたちを、完全には信用できない…」

    信用できない。その言葉が、しずかの心に、ぐさりと刺さります。しずかは、スカートの裾を、きゅっと握りしめました。

    お母さんと、ショッピングに行った時に買った、お気に入りのスカート。

    ペトラ 「…でも…えっと、しずかちゃん、だっけ…」

    しずか 「…はい…」

    ペトラ 「…私、本当のあなたは、とっても可愛くて、素敵な女の子だと思うの…ちがうかしら?」

    ペトラの言葉と、その優しい笑顔に、しずかは、今まで精一杯張りつめていた何かが、一気に溶けてゆくのを感じました。

    しずか 「…うっ…ううっ…」

    ペトラは、次々に涙をこぼすしずかを、そっと胸に抱き寄せました。

    泣きじゃくる、自分よりも、幾つも年下の女の子の頭を、ペトラはそっと、撫でました。
  13. 23 : : 2014/07/30(水) 19:48:28
    ◆◆◆◆


    エルヴィン 「…リヴァイ…」

    リヴァイ 「…なんだ、エルヴィン…」

    少年たちがいなくなった団長室に、夕焼けの光が、鋭く射し込んでいる。

    エルヴィン 「…彼らのこと、どう思う?」

    エルヴィンの問いに、リヴァイは組んでいた両腕を、ゆっくりとほどいた。

    リヴァイ 「…あの4人は、見たとこただのガキだが…あの青いのは、何とも言えんな…」

    エルヴィン 「彼の名は…ドラえもん、だそうだ…」

    それを聞き、リヴァイは眉間のシワを深くする。

    リヴァイ 「見てくれもだが…ふざけた名前だ…」

    エルヴィン 「さっき、彼と握手をしたんだが…」

    エルヴィンは言葉を切る。先を促すように、リヴァイはエルヴィンを見る。

    エルヴィン 「おそらく…彼、ドラえもんは、我々人類とは異なる、別の存在なのだろう…」

    その言葉に、リヴァイの瞳が、微かに見開かれる。

    リヴァイ 「…人間でも巨人でもねぇ…ついでに言えば、動物でも虫でもねぇってのか…」

    エルヴィンは、ゆっくりと息をつく。

    エルヴィン 「…おそらくな。どちらにせよ、このまま憲兵にでも引き渡せば、憲兵か貴族のオモチャにされるのが関の山だろう。それだけは…避けなければならない…」

    リヴァイは再び、エルヴィンから目をそらす。

    リヴァイ 「女のガキは、ペトラが監視している…他のガキ3人と、ふざけた名前のやつは、どうするつもりだ。」

    エルヴィンは、リヴァイを見た。

    エルヴィン 「…お前には、兵士長としての役割がある。できれば別の兵に…」

    リヴァイ 「…いや…」

    リヴァイは、目を閉じる。

    リヴァイ 「俺がやる。万一、あのガキ共が俺たちの…ひいては人類の敵であると分かった時、躊躇無く殺せる役目が、他の兵に務まるのなら、話は別だが…」

    エルヴィンは苦笑した。

    エルヴィン 「…すまないリヴァイ…やはりお前しかいない。頼む。」

    リヴァイ 「ああ。了解だ、エルヴィン…」

    彼らにも、夕闇が迫りつつあった。
  14. 24 : : 2014/07/30(水) 21:29:18
    ◇◇◇◇


    ペトラ 「…さ、みんな。準備はいい?」

    寝ぼけ眼の5人を前にして、ペトラは手にしていた箒の柄を、トンと地面に突きます。

    のび太 「…ボクたち、来たばかりなのに…」

    スネ夫 「どうして、こんなことを?」

    不満顔の5人を見て、ペトラは腰に手を当てて

    ペトラ 「働かざる者、食うべからず!さ、始めるわよ!」

    朝になり、ドラえもんたちに、兵団の倉庫整理と、掃除が命じられました。

    倉庫整理、と一言で言うものの、その量は膨大で、木箱に詰められているのは、何だか分かりませんが、とても重たいのです。

    スネ夫 「ボクちゃん、こういう肉体労働には向いてないんだけどな…」

    スネ夫も、愚痴を言いながらも、必死で働きます。

    のび太 「うう、お、重い…」

    のび太も、ドラえもんに手伝ってもらいながら、頑張っています。

    しずかもです。女の子ながら、汗びっしょりになりながら、木箱を運びます。

    そんな中、一際手際良く作業をこなすのは、ジャイアンです。

    ペトラ 「…おや、きみはずいぶんと手際が良いのね。」

    ジャイアンは、作業の手を止めずに

    ジャイアン 「オレん家、店やってて…よく、母ちゃんの手伝いしてっから…」

    ペトラ 「…そう、えらいのね…」

    ジャイアンの視線は、ペトラではなく、物陰に潜み、こちらを見ている、リヴァイ兵士長に向けられていました。

    表立って自分たちの前に姿を現さないものの、自分たちが“監視”されていることに、ドラえもんたちも気づいていました。

    ジャイアンは、リヴァイ兵士長と目が合ったものの、慌てて目をそらします。

    自分があの人にかなうはずがないことは、昨日の出来事で、充分、分かっていましたから。
  15. 28 : : 2014/08/02(土) 07:50:39
    のび太 「ふぅーっ、やっと終わったーっ!」

    この世界に来て、2回目の夕焼けがドラえもんたちを照らす頃、ようやく作業が終了しました。

    一緒に作業を手伝ってくれたペトラは、へとへとになって座り込む子どもたちを、笑顔でねぎらいます。

    ペトラ 「みんな、よく頑張ったわね。ご苦労様。」

    兄弟のいないペトラは、1日彼らと作業を共にすることで、まるで弟や妹ができたような感覚にさえなっていました。

    しずか 「ペトラさんは…疲れてないんですか?」

    自分たちと同じ作業をしてきたにもかかわらず、疲れの色をみせないペトラに、しずかは問いかけます。

    ペトラ 「もちろん疲れてるけど…私だって兵士だもの。日頃の訓練と比べたら、何てことないわ。」

    誇らしげなペトラの笑顔が、夕日色に鮮やかに照らされます。

    スネ夫 「…あの、前から気になってたんだけど…」

    地面に座り込んだまま、スネ夫がペトラに声をかけます。

    ペトラ 「…ん、なあに?」

    スネ夫 「…そのジャケットについてる翼のマーク、どの兵士も同じみたいだけど…何なのかなって…」

    どうやら皆、スネ夫と同じ疑問を抱いていたらしく、黙ってペトラの答えを待ちます。

    ペトラは、胸に刺繍された翼のマークを、そっと撫で

    ペトラ 「ああ、これはね…」
  16. 29 : : 2014/08/02(土) 08:05:49
    ◆◆◆◆


    リヴァイ 「ペトラ。」

    ペトラ 「…はい、兵長…」

    その日の夜遅く、リヴァイはペトラを呼んだ。子どもたちは、昼間の疲れもあってか、すでに眠りについている。

    リヴァイは、ペトラが廊下に出たのを確認すると、ゆっくりと歩き始める。ペトラも黙ってそれに倣う。

    リヴァイ 「…あの5人はどうだ?」

    ドラえもんたちのことを問われ、ペトラは昼間の、彼らと過ごした楽しい記憶が蘇り、思わず顔がほころぶ。

    ペトラ 「…ええ。一生懸命作業してましたよ。みんな、とっても良い子たち…」

    リヴァイ 「ペトラ。」

    鋭く放たれた矢のごとく、リヴァイはペトラの言葉を遮る。

    リヴァイ 「お前…何か勘違いしてないか…?」

    ペトラ 「…そんな…」

    リヴァイ 「あいつらが俺たちにとって“無害”だという確証はどこにも無い。お前がもし、あいつらと慣れ合うつもりでいるのなら、ペトラ、お前をこの任務から外す…どうなんだ?」

    リヴァイの痛い位の視線に、ペトラはうつむいた。

    そうだ。自分は、調査兵団の兵士なのだ。壁外に突如現れた者たちを、簡単に信用するわけにはいかない。壁外は今や、人類を脅かす、巨人の領域に他ならない。

    そして、上官であるリヴァイ兵長から与えられた任務を、忠実に遂行しなくては。

    ペトラ 「…問題ありません、兵長。任務を続行します。」

    リヴァイは暫しの間、こちらを見つめ返すペトラの目を見た。

    強い意志をたたえた光を、ペトラの瞳から見いだすと

    リヴァイ 「…ならいい。話は以上だ。早く帰って休め。」

    そう言い残し、リヴァイは去っていった。

    あとに残されたペトラは、自室へ帰る途中、昼間、子どもたちが見せた笑顔を頭に思い浮かべたが、その記憶が、彼女の心の温かな場所に届くことはなかった。

  17. 30 : : 2014/08/02(土) 11:05:00
    ◇◇◇◇


    ドラえもんは、他の4人を呼び寄せました。

    ドラえもん 「…みんなに、聞いてほしいことがあるんだ。」

    リヴァイ兵士長の監視付きではあるものの、4人は真剣に、ドラえもんの話に耳を傾けています。

    ドラえもん 「ボクのポケットの中の道具についてだけど…」

    秘密道具のことに触れる前、ドラえもんは、チラリと部屋の隅で腕を組み壁にもたれかかる、リヴァイ兵士長を見ました。

    リヴァイ兵士長の視線は、まっすぐ天井を向いてはいるものの、自分たちの話は、聞かれているのでしょう。

    ドラえもんは、静かに続けます。

    ドラえもん 「…どうやら、使えないものと、そうでないものが、あるみたいなんだ…」

    「ええっ!?」

    「どういうこと!?」

    のび太たちの驚く声に、リヴァイ兵士長の視線が動きます。

    ドラえもん 「ここに来る時…どこでもドアをくぐった時、ボクたちは時空の歪みに入った。おそらくその時、ボクのポケットの四次元空間に、何らかの影響が出たんだと思う。」

    ジャイアン 「それで、なんか役に立つ道具はあったのかよ!?」

    スネ夫 「そうだよ。早くそれを使って、もとの世界に帰ろうよ!」

    ドラえもんは、残念そうにうつむきます。

    ドラえもん 「それが…今のところ、役に立ちそうな道具は無いんだ…」

    その言葉に、みんなは落胆します。気を取り直そうと、ドラえもんは無理に笑顔を作って

    ドラえもん 「…ま、まあ、ボクもまた調べてみるから…きっと役に立つ道具が見つかる…と、思うけど…」

    リヴァイ兵士長は、ドラえもんを見つめたまま、話を聞いていましたが、ふと、机上に視線を移し、眉間のシワを深くしました。

    机の上の“ソレ”に、ドラえもんたちはまだ、気づいていません。

    “ソレ”は、素早くドラえもんの視線の先に移動し…

    ドラえもん 「ん?」

    ネズミ 「ちゅう?」

    ドラえもん 「あわわわわわわわわ…」

    ネズミ 「ちゅう。」

    ドラえもん 「ぎいぃぃぃぃやぁぁぁぁっ!!!」

    ドラえもんの凄まじい悲鳴に、のび太たちはもちろん、リヴァイ兵士長でさえも、驚き目を丸くします。

    ドラえもん 「ネ~ズ~ミ~だあぁぁぁぁっ!!!」

    そう叫ぶが早いか、ドラえもんは部屋を飛び出していってしまいました。

    本来、部屋に留めておかなければならない立場のリヴァイ兵士長も、突然の展開に意表を突かれたようで、しばらくドラえもんが走り去った方向を見つめ、ゆっくりとのび太たちの方を見、

    リヴァイ 「…なんだ、アレは…」

    と、つぶやいたのでした。

  18. 31 : : 2014/08/02(土) 11:26:53
    ◆◆◆◆

    憲兵団師団長、ナイル・ドークは、部下を従え、調査兵団本部内へと足を踏み入れていた。

    突然の憲兵の訪問に、調査兵たちは物珍しそうな視線を、彼らに向けている。ナイルの部下は、そんな視線を忌々しげにはねのけながら、先を歩く上官に声をかける。

    ナイルの部下 「…師団長、自分は納得いきません。調査兵との合同訓練など、一体何の意味が…」

    部下の言葉に、ナイルは息をつく。

    ナイル 「…意味などない。所詮は内地で暮らす貴族たちの気まぐれだ。彼らにしてみれば、ほんの余興のつもりなのだろう。この訓練に意味は無い。俺たちはただ、与えられた任務を遂行していれば良いのだ。」

    上官にそうたしなめられ、部下は押し黙った。

    彼らが向かうのは、エルヴィン団長の部屋だった。ナイルは1人、足を早めた。早く済ませてしまいたかった。

    ナイルと部下の距離が広がり、ナイルは1人、誰もいない廊下の角を曲がった。

    ドラえもん 「…はあ、ふう…ネズミ怖かった…」

    ナイル 「」

    ドラえもん 「…ん?」

    ナイル 「」

    ドラえもん 「………………あはっ♡」

    ナイルの部下 「…師団長、どうかされましたか?」

    その場に固まる上官を不審に思い、部下が声をかける。ナイルは、真っ青な顔を部下に向ける。

    ナイル 「…お前、見えなかったのか?」

    部下は首をひねる。

    ナイルの部下 「…は、何がです?」

    ナイル 「い、い、い、今…2本の足で立つ、耳の無い青いネコが…俺を見て、ニヤリと笑いかけて…」

    ナイルの部下 「はぁ?」

    部下は、ナイルが指差す方を見た。何も無い。

    ナイルの部下 「…何もいませんが…」

    部下の言葉に、ナイルはますます向きになって

    ナイル 「そんなはずはない!俺は見たんだ、青いネコが…」

    ナイルの部下 「師団長…」

    必死で自分に訴える上官に、部下は気まずそうに目を泳がせ

    ナイルの部下 「…まことに申し上げにくいのですが…」

    ナイル 「なんだ、言ってみろ。」

    ナイルの部下 「師団長はその…非常にお疲れなのでは…」

    部下の言葉に、ナイルは

    ナイル 「…ああ…そうかもしれん。たまには休暇でもとるか…」

    耐え難い頭痛を押さえるように、ナイルはこめかみを押さえた。
  19. 34 : : 2014/08/02(土) 15:17:39
    ◇◇◇◇

    ナイル師団長に姿を見られてしまったドラえもんは、慌てて物陰に隠れました。しかしその表情は、嬉しくってしかたない、といったものでした。

    ドラえもん 「ボクを見て、“ネコ”って言ってくれた…いつもはタヌキと間違えられているのに…なんていい人なんだ…ううう…」

    感激のあまり、涙まで流すドラえもん。よっぽど嬉しかったんですね。

    ドラえもん 「…あ、こうしちゃいられない。早く部屋に戻らないと…」

    突然部屋を飛び出したことを思い出し、ドラえもんはナイル師団長たちが去ってゆくのを確認すると、慌てて部屋へと戻っていきました。
  20. 35 : : 2014/08/02(土) 15:40:07
    リヴァイ 「…で…」

    一方こちらは、のび太たちが待機する部屋。

    突然ドラえもんがネズミに驚いて出ていってしまい、あまりのスピードに、捜す気も失せてしまったリヴァイ兵士長は、のび太たちに説明を求めました。

    リヴァイ 「…要するに、あの青いのは、大嫌いなネズミに驚いて、行くあても無く飛び出して行っちまった、と…」

    のび太 「…そ、そういう事になりますね…あはは。」

    事情を飲み込んだリヴァイ兵士長に、のび太たちはひきつった笑みを浮かべます。

    リヴァイ兵士長は、小さく舌打ちし

    リヴァイ 「…しかもあの青いのは、ネコだそうじゃないか…ネコがネズミ怖がってどうすんだ…まあ俺も、汚ねぇネズミは好かんがな…」

    リヴァイ兵士長は、のび太たちに歩み寄ります。のび太たちは、ビクリと身を縮ませます。しかしジャイアンだけは、のび太たちを守るかのように、身構えています。

    リヴァイ 「…これは、もしもの話だが…」

    のび太 「…えっ?」

    リヴァイ 「もしもあの青いのが…お前らを置いて、お前らの言う“もとの世界”とやらに帰っちまったとしたら…どうする?」

    リヴァイ兵士長の問いに、のび太はすぐに

    のび太 「そんなことない!」

    予想外の大きな反応に、リヴァイ兵士長はピクリと眉を上げ

    リヴァイ 「…ほう、なぜそう思う?」

    のび太 「ドラえもんは…ボクらの大切な仲間で、友達だから…だからボクは、ドラえもんを信じてる!…だから…」

    のび太の言葉に、リヴァイ兵士長は、背を向けます。

    リヴァイ 「…やはり、俺とお前らの住む世界は違うようだな…友達、仲間、信じてる…そんなもんは、ここでは通用しない…いつだってそうだ…信じられるのはまあ、せいぜい己の選択のみだ…」

    その言葉が、のび太たちに向けられた言葉だったのか。それすら迷ってしまうほど、リヴァイ兵士長の言葉には、何か特別な想いが込められていることが、のび太たちにも分かりました。

    「…あの…」

    部屋の入り口から、おずおずと入ってきた人物、それは…

    のび太 「ドラえもん!」

    ドラえもんは、申し訳なさそうに頭を下げながら、

    ドラえもん 「…ごめんなさい…その、ボク…ネズミが大の苦手で…」

    リヴァイ兵士長は、かすかに息をつくと

    リヴァイ 「…事情は大体聞いている。お前の…大切な友達とやらからな。とにかく、今回は大目にみてやる。次は無いと思え。」

    そしてリヴァイ兵士長は、しずかに視線を向け

    リヴァイ 「…おい、お前…」

    しずか 「は、はいっ。」

    リヴァイ 「そろそろペトラのところへ戻れ。こっちはお前らの仲良しの集いに付き合ってやるほど、ヒマじゃねぇんだ。いい加減立場をわきまえろ。」

    しずか 「はいっ、すみません…」

    リヴァイ兵士長に睨まれ、しずかは小刻みに震えている様子でしたが、すぐにペトラのもとへと走っていきました。

    ドラえもん 「…リヴァイ兵士長…」

    リヴァイ 「…なんだ。」

    ドラえもん 「エルヴィン団長と…話をさせてほしいのですが…」

    ドラえもんの申し出に、リヴァイ兵士長は、すっと目を細めました。
  21. 36 : : 2014/08/03(日) 17:10:30
    エルヴィン 「…やあ、ドラえもん。俺に話があるそうだね…」

    エルヴィン団長は、そう言って座り、机の上で手を組みます。

    ドラえもん 「エルヴィン団長、お願いがあります。」

    エルヴィン 「なんだい?」

    ドラえもん 「ボクたちを…いや、ボクを、次の壁外遠征に、同行させてもらえませんか。」

    エルヴィン団長から、笑顔が消えます。

    エルヴィン 「壁外に、君1人で…その、目的は?」

    ドラえもん 「はい。色々考えたんですが…やはり、ボクたちがもとの世界に帰るには、壁外に残された、どこでもドアを直す必要があると…」

    エルヴィン団長は、組んだ手を、口元に寄せ

    エルヴィン 「…趣旨は分かった。だが、君1人だけ、というのは?」

    ドラえもん 「ここに来てから、皆さんの話を聞き、巨人の恐ろしさを、ボクは知りました。とてもじゃないけど、のび太くんたちをそんな危険な目にあわせるわけには…」

    エルヴィン 「…そうか…」

    エルヴィン団長は、立ち上がり、窓の外を眺めます。外では、庭に出て、訓練をしている兵士の姿が見えます。

    エルヴィン 「何度も言うが、壁外は…巨人は決して甘くはない。俺やリヴァイでさえ、無事に戻って来れる保証は皆無だ…もちろん、ドラえもん、君もだ。」

    ドラえもん 「…それでも…」

    エルヴィン 「」

    ドラえもん 「それでも…ボクには、あの子たちの未来を守る責任があるんです。あの子たちの未来を守るためには、壁外に出て、どこでもドアを探しだす必要があるんです。」

    エルヴィン団長は、ドラえもんを見ます。ドラえもんの、決意に満ちた眼差しを認めると

    エルヴィン 「…分かった。次回の壁外調査に参加することを認めよう。」

    ドラえもん 「…あ、ありがとうございます、エルヴィン団長!」

    それまで黙って2人のやりとりを聞いていたリヴァイ兵士長が、口を開きます。

    リヴァイ 「…せいぜい足手まといにならんことだな…話が終わったのなら、行くぞ。」

    ドラえもんが、リヴァイ兵士長に連れられ、部屋を出ていくと、エルヴィン団長は再び、窓の外を眺めます。

    今日の空は、澄みわたる青い空。

    エルヴィン 「…未来、か…」
  22. 37 : : 2014/08/03(日) 17:20:01
    のび太たちの待つ部屋へと戻る途中、リヴァイ兵士長が、ドラえもんに言いました。

    リヴァイ 「…これから、食事は他の兵士と一緒に摂れ。」

    ドラえもんは驚きました。今までは、他の兵士の目に触れぬよう、部屋の中で食べていたのです。

    リヴァイ 「お前は次の壁外調査で、俺たちと一緒に行くんだろ。今のうちに、他のやつらも、お前に慣れておかなきゃならん…見た目のインパクトが大き過ぎるからな。」

    ドラえもん 「…でも…」

    ドラえもんの先を歩いていたリヴァイ兵士長は立ち止まり、振り向きます。

    リヴァイ 「俺から説明はする。お前に気をとられて、壁外でヘマをする兵士が続出したらどうする。」

    そこまで言われてしまったら、従うしかありません。かくしてその日の夜、ドラえもんたちは、他の兵士と同じ食堂で夕食を食べることになりました。
  23. 69 : : 2014/09/01(月) 08:12:08
    リヴァイ兵士長の説明、

    リヴァイ 「こいつらは壁外で拾った。外にこのことは漏らすな。」

    以上。

    ドラえもん 「…よ、よろしく…」

    ひきつった笑顔を周りにふりまくドラえもんに、猛烈な勢いで突進してきたのは…

    ハンジ 「ドラえもぉぉぉぉんっ!!!」

    ドラえもん 「は、はい!?」

    ハンジ 「君もここで食べるの!?てか、モノ食べるの!?排泄はするの!?ねぇねぇねぇっ!!!」

    近い。ハンジ分隊長の顔は、ドラえもんの赤い鼻とくっつく位、近い位置まで迫ってきます。

    「…分隊長、近すぎます!」

    ハンジ分隊長の隣で、おろおろとする青年兵士に対し、

    ハンジ 「いいのさ、モブリット。私とドラえもんは友達なんだ!」

    そして、ドラえもんの肩を抱いて

    ハンジ 「ねーっ!」

    ドラえもんは、ハンジ分隊長と友達になった覚えはありませんでしたが、つい勢いに押され

    ドラえもん 「…う、うん…」

    ドラえもんの返事に気を良くしたハンジ分隊長は、

    ハンジ 「さ、みんな一緒のテーブルに座ろうよ…あ、あそこがいいかも。ドラえもんは、私の隣だからね!他のみんなも、座って座って!」

    ドラえもんと、のび太たち4人の子供たち、リヴァイ兵士長と、ハンジ分隊長。そしてハンジ分隊長の副官、モブリット.バーナーは、席につきました。

    ペトラは訓練のため、一緒に食事できませんでした。

    席についたものの、目の前に出された食事に、皆うんざりとした表情を浮かべます。

    のび太 「…毎日、同じようなメニューだね…」

    しずか 「味も薄いし…」

    ジャイアン 「量も少ないしな…」

    スネ夫 「ボクちゃんの口には合わないよ…」

    それに対し、周りの兵士たちは(時おり、ドラえもんを物珍しげに見てはいるものの)、黙々とスプーンを動かしています。この世界の食糧事情は、深刻のようです。贅沢を言っていては、生きていけません。

    のび太たちの…少なくとも、のび太たちが生きる日常の中では、考えられないことでした。

    ハンジ 「そんなこと言わないで、みんな食べて食べて!」

    ハンジ分隊長が明るく呼びかけても、みんなの手は動きません。
  24. 70 : : 2014/09/01(月) 08:28:13
    ドラえもん 「…う~ん…あ、そうだ!」

    ドラえもんが、何やら思いついた様子で、ポケットの中をごそごそ…

    チャッチャラ~♪

    ドラえもん 「いっぱい食べる子元気な粉(こ)~!」

    何やら取り出した小さな筒。

    ドラえもん 「これをふりかけると…」

    ドラえもんは、手前にあったスネ夫の食事に、粉をふりかけました。

    スネ夫 「…あれっ、なんか、さっきと違って…美味しそうにみえる…」

    スネ夫は一口、パクリと食べてみると

    スネ夫 「おいしーっ、こんなおいしいの、食べたことないよ!」

    スネ夫の顔が、一気に笑顔いっぱいになり、どんどんスプーンを動かします。

    その様子を見ていた周りの兵士たちは、目を丸くしますが、真っ先にドラえもんに質問を飛ばしたのは、ハンジ分隊長でした。

    ハンジ 「…ね、ねぇ、さっき、何をしたの?」

    ドラえもん 「…あ、この粉をふりかけると、どんな料理でも、と~っても美味しく食べられるようになるんです。」

    ハンジ分隊長は、恐る恐るドラえもんから粉を受け取ります。

    ハンジ 「…えっと、これは…」

    ドラえもん 「いっぱい食べる子元気な粉(こ)っていうんです。」

    ハンジ分隊長の顔が、みるみるうちに紅潮します。未知との出会いに、興奮している様子でした。

    ハンジ 「…確かに、いっぱい食べると、元気が出るもんね!なかなか良いネーミングだね。さっすがドラえもん!」

    ハンジ分隊長の言葉に、ドラえもんは

    ドラえもん 「…ま、まあ、ボクが名付けたんじゃないんだけど…」

    そんなドラえもんもお構い無しに

    ハンジ 「私もかけてみよっと…うわ、旨い!クッソ旨いぜ!ねぇ、モブリットもかけてみなよ…さ、みんなも!」
  25. 71 : : 2014/09/01(月) 08:40:29
    そんな上官の言葉に、モブリットは食事する手を止め

    モブリット 「私はけっこうです…そんな、得体の知れないもの…」

    …と言っているスキに

    ハンジ 「ほりゃっ!」

    モブリット 「うわっ、何するんですか、分隊長!」

    ハンジ分隊長が、モブリットの皿に粉をふりかけます。

    ハンジ 「さ、食べてごらんよ。美味しいから。」

    ハンジ分隊長がすすめるのにもかかわらず、モブリットは手からスプーンをはなし

    モブリット 「…遠慮しておきます。」

    ハンジ 「なんでさ!?」

    モブリット 「…なんでって…」

    モブリットは、目を反らし、周りの兵士たちを見ます。皆、こちらを見ているものの、自分も試してみようとする者はいません。

    皆、警戒しているようです。

    ハンジ 「…はいっ、モブリット!」

    上官の声に

    モブリット 「…何ですか!?」

    と振り向くと

    ハンジ 「あ~んっ!」

    モブリット 「あ~んって…あがっ…」

    いつの間にやらハンジ分隊長は、モブリットのスプーンに、粉をふりかけた料理をすくい、モブリットの口に突っ込みました。

    モブリットは、ハンジ分隊長の(かなり多めの)一口に、当初目を白黒させながら口を動かしていましたが、だんだんとその目は輝いてゆき…

    モブリット 「…う、旨いっ!美味しいです、分隊長!」

    ハンジ 「…でしょ!?」

    と、ハンジ分隊長は、にやりと笑います。

    ハンジ 「…さ、どんどんかけるぞーっ!」
  26. 72 : : 2014/09/01(月) 09:56:01
    ジャイアン 「ハンジさん、オレたちにも早くかけてくれっ!」

    しびれを切らしたジャイアンが、声を上げます。

    ハンジ 「…おっと、ごめんごめん。」

    ハンジ分隊長は、手早くのび太、しずか、ジャイアンの皿に粉をふりかけます。

    ジャイアン 「…う、うめぇーっ!」

    のび太 「ほんと、おいしーっ!」

    しずか 「さっきと同じ食事とは思えないわ!」

    「…ハ、ハンジ分隊長!」

    1人の兵士が立ち上がり、声を上げます。

    ハンジ 「…ん、なんだい?」

    兵士 「自分の皿にも…その…粉をかけてくださいっ!」

    その言葉を皮切りに、食堂のあちこちから、手が上がります。

    「こっちにも!」

    「オレにも!」

    「私にもちょうだいっ!」

    ハンジ分隊長は、その兵士1人1人の皿に、粉をふりかけていきます。

    ハンジ 「そぉら、たっくさん食べるんだよ、元気が出るからね!」

    「う、旨いっ!」

    「おいしーっ!」

    だんだんと広がってゆく、笑顔。

    明日をも知れぬ、死と隣り合わせの毎日。過酷な訓練。粗末な食事。

    …でも、人一倍、大きな何かを背負ってる。

    そんな調査兵団の食堂に、笑顔があふれます。

    リヴァイ 「…おい、青いの。」

    笑い声があふれる食堂で、リヴァイ兵士長がドラえもんに声をかけます。

    ドラえもん 「…はい…」

    リヴァイ 「…極力、目立った行動は控えてもらいたいところだが…」

    叱責を受けたと思ったドラえもんは、しゅんとうつむいて

    ドラえもん 「…すみません、つい…」

    リヴァイ 「…いや…」

    ドラえもん 「えっ?」

    リヴァイ兵士長は、笑顔あふれる兵士たちの方を見て

    リヴァイ 「…あいつらの、ああいう表情を見るのも…悪くない。」

    ドラえもん 「…は、はあ…」

    リヴァイ兵士長の言葉の意図が分からず、戸惑うドラえもんに、ハンジ分隊長がそっと耳打ちします。

    ハンジ 「…あれは、リヴァイなりの…“ありがとう”って意味だよ。」

    リヴァイ 「…チッ…」

    照れ隠しのつもりでしょうか。舌打ちし、リヴァイ兵士長はドラえもんから顔を反らします。

    ドラえもんは、思いました。

    ああ、この人は本当は…優しい人なんだな、と。

  27. 73 : : 2014/09/01(月) 10:20:46
    ◆◆◆◆

    <数時間後>

    ペトラ・ラルは、人もまばらになった食堂に足を踏み入れた。

    訓練が思った以上に遅くなってしまい、遅い夕食を1人、摂ることになってしまった。

    しずかのことは、リヴァイ兵士長に頼んであるが、そう長い時間は頼めない。手早く食事を済ませて、しずかの“監視”を再開しなければ。

    そんな事を悶々と考えながら、ペトラは食事の乗ったトレイを持ち、空いている席につくと、黙々と食べはじめた。

    味わっている暇など無い。

    「…あ、ペトラさん!」

    見ると、しずかが何やら小さな筒のような物を手に持ち、笑顔で駆け寄ってくる。

    しずか 「ペトラさん、遅くまで訓練、お疲れさま!」

    ペトラ 「…え、ええ…」

    しずか 「そんなペトラさんに、私が魔法をかけてあげるっ!」

    そう言ってしずかは、得意気に筒をペトラに見せる。

    ペトラ 「…それは?」

    しずか 「これをふりかけると、料理がとっても美味しくなるんですよ!」

    ペトラ 「…は?」

    しずか 「やってみるわね…」

    自分の皿に、“何か”をふりかけようとするしずかを見て、ペトラの脳裏に、リヴァイの言葉がよみがえる。

    『あいつらが俺たちにとって、“無害”だという保証はどこにも無い。』

    ペトラ 「…やめてっ!」

    パシッ…!

    気がつくとペトラは、しずかが手にしていた筒を払いのけていた。

    しずか 「あっ…!」

    筒はしずかの手を離れ、勢いよくテーブルを跳ね、床に転がった。

    ごめんなさい。

    そんな言葉を、ペトラは思わずのみ込んで、黙りこくっていた。

    しずか 「…ごめんなさい…いきなり、私…」

    ペトラが言わなかった、言えなかった言葉を、しずかが言った。

    ペトラは、勢いよく立ち上がると

    ペトラ 「もういいわ。部屋に戻りましょ。あなたも、監視も無しに1人でうろうろしないでちょうだい。」

    しずかの中には、少し前の、リヴァイから叱責を受ける前のペトラがいるのだろう。姉のように慕っていた、ペトラが。

    しかし、ペトラの心は変わっていた。次の壁外調査はもう、数日後に迫っている。

    また壁の外に出る。誰かが死ぬ。

    でも、やらなければ、巨人のいない平和な世界は、絶対に訪れない。

    そんな現実の中で、壁外に現れた子どもたち。

    自分たちとは別の、巨人のいない、平和な世界に生まれた彼らを…羨ましいと…

    憎いとさえ、思ってしまった自分。

    悔しい。どうして、どうして…

    しずか 「…ペトラ…さん…」

    しずかの声に、はっと我に返る。

    しずか 「…ごめんなさい…勝手な事をして…」

    今にも泣き出しそうなしずかから目を反らし、ペトラは食堂の出口へと向かう。

    ペトラ 「…さ、今夜はもう休むわよ。明日も早いんだから。」

    しずか 「…はい。」

    お互い、顔を合わせることはなかったが、2人共、浮かべた表情は、とてもよく似ていた。

    堪えきれない涙を、1つ2つと、袖口でそっとぬぐっていた。

    ほんの数時間前の食堂は、たくさんの笑顔であふれていたというのに。
  28. 74 : : 2014/09/01(月) 14:00:14
    ◇◇◇◇

    朝起きて、しずかの顔を見て、ドラえもんは思いました。

    ドラえもん (あれ、しずかちゃん、元気が無いな…)

    ドラえもん 「おはよう、しずかちゃん。」

    ペトラに連れられやって来たしずかに、ドラえもんは声をかけます。

    しずか 「…ドラちゃん…おはよう。」

    うっすらと笑ってみせるものの、その表情は暗いままです。目が少し、腫れているようにもみえます。

    のび太 「しずかちゃん、どうしたの?元気ないよ。」

    のび太も声をかけますが、

    しずか 「…大丈夫。なんでもないわ。」

    無理な笑顔をみせるだけ。

    ドラえもんは、ペトラに事情を聞こうとしますが、ペトラの表情も暗く堅いままで、何も聞けそうにありません。

    ボクには、何ができるだろう。

    ドラえもんはいつの間にか、そんな事を考えていました。

    昨夜のリヴァイ兵士長からの、“ありがとう”を、ドラえもんは自分の心の回路の中の、温かな場所に、そっとしまいこんでいました。

    みんなの笑顔のために、ボクがいる。

    最初は、親友のセワシのために、のび太の人生を立て直そうとやって来た自分。

    でも、のび太と一緒に過ごして、分かった。

    のび太の未来を守ることは、みんなの未来を守ること。

    みんなの笑顔を、守ること。

    ドラえもん 「…そうだ、いいものがある!」

    ドラえもんは、ポケットの中から…

    チャッチャラ~♪

    ドラえもん 「花火花セット~!」

    いきなりの道具の登場に、周りの皆は目をみはります。

    ドラえもん 「…それと…」

    次に取り出したのは…

    ドラえもん 「花火花専用ふりかけ肥料~!」

    のび太 「ドラえもん、それ、なあに?」

    のび太の問いに

    ドラえもん 「これは、この紙に好きな絵を描いて、この機械に入れると、その絵のとおりの、花火の種が出てくるんだ!」

    のび太 「花火の種?」

    ドラえもん 「そう。それを地面に植えれば、2~3日で花火が打ち上がる!」

    スネ夫 「…てことは、つまり…」

    ドラえもん 「そう!世界に1つだけの花火がたっくさん打ち上げられるんだ!」

    みんなの笑顔が、戻ってきました。

    しずか 「すてき!」

    ジャイアン 「早く描こうぜ!」

    ドラえもん 「う~んと、その事だけど…」

    ドラえもんは言葉を切り、リヴァイ兵士長の方を見ます。

    リヴァイ 「…なんだ?」

    ドラえもん 「できれば…調査兵団のみなさんにも、描いてほしいな、なんて…」

    ドラえもんの言葉に、リヴァイ兵士長は、眉間のシワを深くします。

    リヴァイ 「…あ?そんな事をして、何の意味がある?」

    ドラえもん 「意味があるかどうかは、ボクにも分からない…だけど、ボク、もう1度見てみたいんです。」

    リヴァイ 「…何をだ?」

    ドラえもん 「昨夜みなさんが見せてくれたような…とびっきりの笑顔を。」

    リヴァイ兵士長は、ふぅと息をつくと

    リヴァイ 「…勝手にしろ。2日後に花ができりゃ、ちょうど壁外調査の後だ。良い余興になる。」

    …と、いうわけで、調査兵団はしばし、お絵かきタイム。
  29. 75 : : 2014/09/01(月) 14:16:07
    昨夜の食堂の出来事のあと、ということもあり

    「また何か、おもしろいことが起きる!」

    と、目を輝かせて参加する兵士たちばかりでした。

    変革を求める集団。

    彼らには、未知の何かを受けとめ、楽しさを見いだす力が、あるのかもしれませんね。

    皆、紙に思い思いに絵を描きます。

    大好きな花。

    昔見た、ふるさとの景色。

    子供の頃、好きだったおもちゃ。

    モブリット 「…あ、分隊長、何を描いてるんですか?」

    目をきらっきらさせながら紙に向かうハンジ分隊長に、モブリットが声をかけます。

    ハンジ 「巨人だよ!」

    手を止めることなく、答えるハンジ分隊長。

    モブリット 「…は、そうですか…」

    ハンジ 「モブリットは?君は絵が上手だから、楽しみだけど。」

    そんな上官の言葉に、まだ何を描くか決めていなかったモブリットは、困り顔で辺りを見回し

    モブリット 「…そうだ…」

    “何か”に目を留めたモブリットは、水色のクレヨンを手にとり、紙に向かいました。


    ドラえもん 「…ではみなさん、よろしいですか?」

    描き終わった紙を回収したドラえもんは、1枚1枚、花火花セットの機械に投入していきます。

    ドラえもん 「花火のサイズを選んでっと…」

    レバーを引くと、機械の口から、黒い玉がいくつもいくつも出てきました。

    「おぉーっ!」

    「すげーっ!」

    周りから、歓声が巻き起こります。

    玉を全部集めたドラえもんは、調査兵たちに向かって

    ドラえもん 「では、これを埋めて、花火の花を咲かせましょう!」

    調査兵たち 「おーっ!!!」

    土を耕し、種をまいて、水をかけて。

    花がつぼみをつけたころ

    壁外調査の日が、やってきました。
  30. 78 : : 2014/09/01(月) 21:23:52
    ◆◆◆◆

    「開門、30秒前!」

    エルヴィンの声が聞こえる。いよいよだ。

    ドラえもんは、荷馬車の荷物に紛れたまま、ぎゅっと目をつぶった。

    門の周りには、調査兵団を見送るべく、たくさんの民衆が集まっている。そんな民衆の前に、ドラえもんの姿を見せるわけにもいかず、いったん壁外に出るまでの間、荷馬車の中に身を潜めることになった。

    兵士たちの、威勢の良い声が聞こえる。ドラえもんはふと、周りを見回した。

    たくさんの物資に紛れ、不自然な形にふくれた布が目に留まる。

    嫌な予感がして、ドラえもんはこっそりと、布をめくる。

    そこには…

    「…へへ…」

    ドラえもん 「…ジャ、ジャイア…」

    エルヴィン 「進め!!!」

    号令と共に、馬車が走りだし、その反動で、荷馬車も大きく揺れ、自分の体を支えるのに気をとられ、ドラえもんはジャイアンを、荷馬車から出るように促すことが、できなかった。
  31. 79 : : 2014/09/01(月) 21:49:20
    ドラえもんは、ジャイアンが被っていた布をはぎ取った。

    ドラえもん 「…なぜ、キミがここに…」

    ジャイアン 「なぜ!?それは、こっちのセリフだぜ、ドラえもん。なんで壁外なんて危険なとこに、1人で行こうとしてんだよ!?」

    ドラえもん 「それは…危険だからこそ、だ!この壁外で、巨人に何人もの人間が、殺されてるんだ!そんな場所に…キミたちを連れて行くなんて、できないよ。ボクが行って…どこでもドアを見つけて…」

    ドラえもんが言葉を切ると、ジャイアンは、力無く首を振った。

    ジャイアン 「オレも…みくびられたもんだな…」

    ドラえもん 「…どういうこと?」

    荷馬車が大きく揺れ、ジャイアンはストンとその場に腰を下ろす。

    そして、静かに言った。

    ジャイアン 「オレは、強いと思ってた。どんな奴にだって、負けないって。負けるもんかって。もしも、勝てねぇって思った奴が目の前に現れても、何度でも向かって越えてやるって…」

    ドラえもん 「…でもね、ジャイアン。今回の相手は…」

    ジャイアン 「ああ。分かってる。オレたちには想像できねぇような、とんでもない奴なんだろ。…正直、怖いって思うよ。情けねぇけど…」

    ドラえもん 「…だったら…」

    ジャイアン 「…けどよ、ドラえもん。道具が思うように使えない今、怖いのは、ドラえもんだって同じだろ。」

    ドラえもんは、少し、下を向き、

    ドラえもん 「…ああ、そうさ…怖くてたまらないさ…」

    ジャイアン 「じゃあなぜ、そんな怖い所にわざわざ行こうとしたんだ?」

    ドラえもんは、身を乗り出して

    ドラえもん 「そりゃ、壁外に残された、どこでもドアを回収しないことには、元の世界に戻れないからだよ…このままここにいては、のび太くんたちの未来は…」

    ジャイアン 「のび太たちの未来、ね…」

    ジャイアンは、フンスとあぐらを組み、腕組みをしてみせ

    ジャイアン 「未来があるのはドラえもん、お前だって、同じだろ。」

    ドラえもん 「…え?」

    ジャイアン 「オレたちに未来があるように、ドラえもんにだって、同じように未来がある。美味しいどら焼きをたらふく食ったり、可愛いガールフレンドとデートしたり、な。」

    ドラえもん 「…う、うん…それは…」

    ジャイアン 「…こっから先のセリフは、のび太たちも同じだろうから、オレが代弁しといてやる。」

    ドラえもんは、黙ってジャイアンの話を聞きます。

    ジャイアン 「オレたちも、ドラえもんの未来を守る。一緒に、未来につき進む…それでこそ…」

    ジャイアンは、グッと親指をつき立て

    ジャイアン 「心の友、だ!」

    ドラえもんは、グッと涙をこらえ

    ドラえもん 「分かった。一緒に行こう!」

    2人は、堅く握手を交わした。
  32. 80 : : 2014/09/02(火) 21:52:27
    休憩地点にたどり着き、荷馬車に乗っていたジャイアンを見て、兵士たちは驚きの声を上げた。

    ドラえもんが今回の壁外調査に同行していることは周知していたが、まさか、子供まで紛れ込んでいたとは。

    困惑する兵士たちの中に、リヴァイが静かに入ってきた。

    ジャイアンは、殴られ、叱責を受ける事を覚悟していた。後悔は、していなかった。

    振り上げられた手に、ジャイアンはぎゅっと目をつぶる。1発や2発殴られたって、平気だった。自分は強いのだ。

    ところが、ジャイアンが受けた感触は、軽く頭を小突かれただけだった。そっと目を開く。

    リヴァイ 「…お前は、これが正しいと思うのか。」

    ジャイアン 「ただ…しい…?」

    リヴァイ 「そうだ。」

    リヴァイは、ジャイアンに背を向けた。彼の背に広がる翼が、風に揺れる。

    リヴァイ 「お前は、巨人を見た事も無い。倒す術も無い。はっきり言ってお前は俺たちにとって、足手まといだ…」

    リヴァイは言葉を切り、ジャイアンを見た。彼の言っていることが正論であることは、ジャイアンにも分かっていた。

    リヴァイ 「お前は、正しいと思ったのか、この行動を。」

    もはや、申し開きはできない。ジャイアンは、うなだれた。

    ジャイアン 「…すみませんでした…オレが悪かっ…」

    リヴァイ 「ちがう。」

    鋭く遮られた言葉。リヴァイは続ける。ジャイアンの顔をつかみ上げ、目を合わせて。

    リヴァイ 「お前自身、自分はこうする事が正しいと思ったのか。正直に言え。」

    ジャイアンは、迷わなかった。

    ジャイアン 「オレは正しいと思った…そもそも、のび太たちをこの世界に巻き込んだのは、どこでもドアを無理やりこじ開けようとした、オレに責任がある。友達1人…危ない目に遭わせられない…」

    リヴァイは、ジャイアンの顔を放すと、息をついた。

    リヴァイ 「…ならいい。好きにしろ。」

    兵士 「リヴァイ兵士長!しかし…」

    周りの兵士が声を上げる。

    リヴァイ 「…ここまで連れて来てしまったのなら、このまま連れて行くしかないだろう。壁外では、子供も兵士も関係ない。生きている事だけがすべてだ…」

    リヴァイは再び、ジャイアンの目を見た。

    リヴァイ 「前にも言っただろう。信じられるのは、己の選択のみだ、と。」

    ジャイアン 「だけどオレは…あんたみたいに…」

    リヴァイには分かった。少年の言いたかった言葉が。

    リヴァイ 「俺も、お前と同じだ。自分の選択のみを信じて、がむしゃらに進んできた…で、運良く今も生きてる…それだけだ。」

    兵士 「兵長、その少年にも馬を…」

    ジャイアンが乗る、予備の馬を連れてきた兵士にリヴァイは

    リヴァイ 「…いや…お前は荷馬車に戻れ。また布を被って、自分の今できることを考えろ。」

    そして、ドラえもんに向かって

    リヴァイ 「…お前は、予備の馬に移れ。」

    そして、立ち去ろうとするリヴァイに、

    ドラえもん 「…リヴァイ兵士長!」

    リヴァイ 「…なんだ。」

    ドラえもん 「…ありがとう。」

    リヴァイは、再び歩を進めた。ドラえもんは、ジャイアンの手を握ると

    ドラえもん 「絶対にどこでもドアを見つけて、のび太くんたちの所に戻ろう…」

    ジャイアン 「おう。オレ様に任せとけ!」

    ドラえもん 「その意気だ!じゃあジャイアン、荷馬車に戻ったら、リヴァイ兵士長に言われた通り、布を被ってじっとしているんだ、いいね?」

    ドラえもんの真剣なまなざしに、ジャイアンはふと首をかしげたが、すぐに笑って

    ジャイアン 「…お、おう。オレ様の力が必要な時は、いつでも呼んでくれよな。」

    ドラえもん 「…うん、分かった…」

    まさか本当に彼の“力”が必要になる時が来るとは、この時はまだ誰も、想像すらしていなかった。
  33. 82 : : 2014/09/02(火) 22:01:02
    ◇◇◇◇

    リヴァイ兵士長に向けた、“ありがとう”。馬に揺られながら、ドラえもんは自分が贈った言葉の意味を、かみしめていました。

    あれから、5人死んだ。

    ドラえもんは、見ていました。巨人が人を“喰う”ところを。

    ジャイアンは、見ることはなかったでしょう。幌のついた荷馬車の中で、布に包まれ、うずくまっていたのだから。

    見せたくない。もし、リヴァイ兵士長がジャイアンに荷馬車に戻るよう指示しなければ、ジャイアンは自分と同じように馬に乗り、この“光景”を目の当たりにしていたでしょう。

    ドラえもんは、あらためて思いました。

    リヴァイ兵士長。あなたは強くて、優しい人だと。

    一行は、旧市街地へとやってきました。

    リヴァイ 「…ここから先、建物の陰から、いつ巨人が出て来るか分からん。充分注意しろ。」

    隣を走るリヴァイ兵士長に言われ、ドラえもんは身を固くしました。
  34. 84 : : 2014/09/02(火) 22:13:25
    「前方、巨人接近!」

    兵士の、叫ぶ声が聞こえます。

    「1体…いや…2体…陣形に向かって接近中!」

    「増援を要請!」

    リヴァイ 「…チッ…」

    巨人との交戦を避けられないと悟ったのか、リヴァイ兵士長は瞳の中に鋭い光を宿したまま

    リヴァイ 「…お前はこのまま荷馬車班と共に馬を走らせろ。俺が何とか食い止める…」

    ドラえもんの返事を待たぬまま、リヴァイ兵士長は馬を早め、巨人たちのもとへ走ります。

    ドラえもん 「リヴァイ兵士長!」

    ドラえもんたちもすぐに、リヴァイ兵士長のもとへと追いつきました。

    まだ…犠牲者は出ていないようです。

    「うっ…うわあぁぁぁぁっ…たすけ…!」

    1人の兵士が、巨人に捕まってしまいます。

    ザシュッ…!

    リヴァイ兵士長がうなじを削ぎ、なんとか兵士は助かりました。しかし、巨人の数が多すぎます。

    このままでは、犠牲は避けられないでしょう。

    このままでは…みんな…

    その時、ドラえもんは思い出しました。
  35. 85 : : 2014/09/02(火) 22:17:48
    <数日前のこと>

    ドラえもん 『音響弾?』

    ハンジ 『そう!』

    ドラえもんは、ハンジ分隊長に連れられ、色々な備品を見せてもらっていました。

    あれは何?これは?と、色々見せてもらい、説明を受けているうち、出会った1品。

    ハンジ 『これは、音響弾といって、大きな音を出して、巨人を威嚇し、行動不能にしてしまうっていう、優れものなんだ。』

    ドラえもん 『…ふぅん…』
  36. 86 : : 2014/09/02(火) 22:26:46
    大きな音。

    巨人を行動不能に…

    ドラえもん 「…そうだ!」

    ドラえもんは荷馬車に向かって、力の限り叫びました。

    ドラえもん 「ジャイアン!!!」

    荷馬車の幌が揺れ、ジャイアンが顔を出します。

    ジャイアン 「…なんだ、どうした!?」

    ドラえもん 「歌え!」

    ジャイアン 「はあ!?」

    意外な言葉に、ジャイアンは眉をひそめます。ドラえもんは、かまわず叫びます。

    ドラえもん 「歌え!ジャイアン…歌うんだ!」

    荷馬車班も、行く手を阻まれ、完全に停止しています。

    先に進むには、巨人たちを倒すほかありません。

    チャッチャラ~♪

    ドラえもん 「カラオケマイク~!」

    ドラえもん 「そしてもう1つ…」

    チャッチャラ~♪

    ドラえもん 「CDラジカセ~!」

    ドラえもん 「ジャイアン…パス!キミにできることをやるんだ!」

    ドラえもんは、ジャイアンに向かってマイクを投げます。ジャイアンがキャッチするのを確認すると、ドラえもんはCDラジカセのスイッチを入れます。

    曲は…ジャイアンの十八番の、アノ曲!…みなさん、耳栓のご用意を!!
  37. 87 : : 2014/09/02(火) 22:37:55
    ジャイアン 「♪ぶうぅぅぅっとばすデェェェェンジャラッスッオォォレジャッイッッアァァァン…!!!♪」

    突然発せられた大音量と、強力な音波(?)に、巨人は混乱し動きが止まり、木々は揺れ、朽ちかけた建物はさらに崩れかけ(鳥も落ちたようです)兵士たちも、耳をおさえ、その場にしゃがみこみます。

    リヴァイ兵士長とて、例外ではありません。

    リヴァイ 「…くっ…なんだこのバカでかい音は…」

    ドラえもん 「リヴァイ兵士長!」

    ドラえもんは、強力な音波に耐えながら、リヴァイ兵士長のもとへ近づくと

    チャッチャラ~♪

    ドラえもん 「ミ…ミミバン…!」

    リヴァイ 「…あ?」

    ドラえもん 「リヴァイ兵士長…これを…耳に…!」

    リヴァイ兵士長は、ドラえもんからミミバンを受け取り、耳に装着します。

    突如として、リヴァイ兵士長の周りに、静寂が訪れます。

    ミミバンを付けると、周りの音が、何も聞こえなくなるのです。

    目の前には、行動不能になっている巨人。

    リヴァイ兵士長は、即座に立体機動装置を使い、巨人のもとへと向かってゆきます。

    ジャイアンは…絶好調!

  38. 88 : : 2014/09/02(火) 22:51:46
    モブリット 「だっ…団長…馬がもう…限界です!」

    モブリットが叫びます。馬はこの状況に耐えきれず、人を乗せ、立っているのが精いっぱいのようです。

    馬は自分で耳をふさぐことができないので…。

    エルヴィン 「ドラえもん…リヴァイに渡したものは…もう…ないのか!?」

    ドラえもん 「ごめんなさい!手持ちにあるのは、アレだけなんですーっ!」

    そんななか

    「なにこの歌、最っ高に滾るんだけど!」

    1人、目を輝かせ、ジャイアンの歌に聴きいっている人物がいました。

    モブリット 「ぶっ…分隊長…あなたに、人並みのセンスはありますか!?」

    ハンジ 「ええっ!?このダミ声といい、訳分かんない歌詞といい、最っ高だよ!滾るねぇっ!」

    曲が一段落したようです。久しぶりに思いきり歌うことができ、ジャイアンもすっかりいい気分。

    ジャイアン 「…みんな、ノッてるかー!?」

    ハンジ 「イエーイ!」

    ジャイアン 「もういっちょ、いくぜーっ!」

    ハンジ 「イエーイ!」

    ラジカセから、また新たな曲の前奏が流れはじめます。

    ジャイアン 「みんな、合いの手よろしく頼むぜーっ!」

    ハンジ 「イエーイ…って、合いの手って?ドラえもん?」

    ドラえもんは、ハンジ分隊長に簡単に説明すると、曲がスタートしました。
  39. 89 : : 2014/09/02(火) 23:05:35
    ジャイアン 「♪ズンッズンズンズンドコ♪」

    ハンジ 「た・け・し♪」

    ジャイアン 「♪ズンッズンズンズンドコ♪」

    ハンジ 「た・け・し♪」

    ジャイアン 「♪お前のもぉぉぉのはオレのものぉぉぉ~♪オォォォレのもぉぉぉのもオレのものぉぉ♪天下無敵の男だぜ♪それがた、け、しの…生きるぅぅぅみぃぃぃちぃぃぃぃ~♪」

    ジャイアン 「♪豪快パワフル歌声にぃ♪そぉらの鳥さえ落ちてくるぅぅ♪オレのこぶしをき、い、て、く、れ♪週にぃぃぃ1どぉのリサイタル…へい!!!」

    ジャイアン 「♪ズンッズンズンズンドコ♪」

    ハンジ 「た・け・し♪」

    再び巻き起こった歌の猛攻に、兵士たち(ハンジ分隊長と、ミミバンを着けているリヴァイ兵士長を除いて)は、悶えはじめます。

  40. 90 : : 2014/09/03(水) 08:21:54
    モブリット 「リ…リヴァイ兵士長…早くしてくださいっ!」

    巨人を削ぎ回るリヴァイ兵士長に、モブリットの渾身の叫びが…届いてはいません…。

    (1人だけ)静寂のさ中、最後の巨人と対峙したリヴァイ兵士長は、静かに巨人に語りかけます。

    リヴァイ 「…なあ、ひでぇ歌だよなぁ…」

    巨人は、というと、大音量に耐えかね、混乱しているのか、時折頭をゆらゆらと揺らせながら、立ち尽くしています。

    リヴァイ兵士長は、巨人のうなじにアンカーを刺し、うなじを削ぎました。

    倒れゆく巨人に

    リヴァイ 「俺とお前も…少しは気が合ったのかもしれねぇな…」

    ドラえもん 「…歌うのをやめろ、ジャイアン!」

    ジャイアン 「…お、もういいのか?」

    ドラえもん 「もう充分だよ…ありがとう、ジャイアン。キミのおかげで皆、救われたよ。」

    ジャイアン 「そ、そうか?」

    ハンジ 「アンコール、アンコール!…むぐうっ!?」

    ハンジ分隊長をモブリットは必死で押さえつけ

    モブリット 「団長、先程の歌で、馬もかなり疲弊しています。撤退しましょう!」

    エルヴィン 「…うむ、やむを得ん…」

    エルヴィン団長は、決断します。

    エルヴィン 「総員、撤退!」
  41. 91 : : 2014/09/03(水) 08:37:14
    ◆◆◆◆

    調査兵団本部に戻ったドラえもんとジャイアンを真っ先に出迎えたのは、のび太たちだった。

    のび太 「ドラえもん!」

    ドラえもん 「…のび太くん…」

    ほんの数時間離れていただけなのに、とてつもなく長い間、その顔を見ることを、求めていた気さえした。

    目の当たりにした、数々の“死”。

    おそらく、自分の頭の中の回路を組み換えたとしても、忘れることは不可能だろう。

    のび太 「ドラえもん…心配したんだよ!」

    しずか 「無事でよかったわ…たけしさんも。」

    スネ夫 「ジャイアンも、ドラえもんも、いつの間にかいなくなってるんだもん。びっくりしたよ。」

    無邪気に自分たちの無事を喜ぶ子どもたちに、ドラえもんは素直に笑顔を向けたかった…が

    「重傷の者を優先に運べ!」

    次々に運ばれる負傷兵…そして

    ドラえもん 「…あんまり…見ないほうが…」

    死体。布にくるまれているものの、“ソレ”がもう、ヒトではないことに、のび太たちも気づいた。

    震える体。しずかは思わず、目を反らし、耳をふさいだ。

    このまま目を開いたら、元の世界に戻っていたらいいのに。

    しかし、その願いは、とうてい叶わない。

    のび太 「ドラえもん…どこでもドアは…」

    ドラえもん 「…ごめん…カケラ1つ見つからなかった…」

    もう、涙も出なかった。のび太たちはお互い、手を繋ぎ合った。それだけでも少し、心が落ち着いた。

    しずか 「…そうだわ、みんな…」

    しずかが、少し明るい口調できりだした。

    しずか 「前に植えた花火花が、そろそろ咲きそうなの。きっと今夜、花火が見られるわよ!」

    ドラえもんは笑って

    ドラえもん 「…よし、今夜は花火大会だ。エルヴィン団長に伝えてこよう。」
  42. 92 : : 2014/09/03(水) 09:00:48
    正直、不謹慎だと、叱責されるのも覚悟していた。

    しかし、ドラえもんの不安をよそに、エルヴィン団長は、疲労の色が残る顔に笑みを浮かべ

    エルヴィン 「…そうか。では今夜、庭に兵を集めよう。」

    その夜、ほとんどの兵士が、花火花を植えた庭に集まった。しかし、その表情は憔悴し、中には、表情すら失っている者もいた。

    あの地獄を…数々の仲間の“死”を見てきたのだ。無理もない。

    ドラえもんは、首に蝶ネクタイを付け、マイクを手にし、今宵の花火大会の司会をかって出た。

    ドラえもん 「さあ、みなさん!お待たせしました!只今より、調査兵団花火大会を始めま~す!」

    まばらな拍手。でもドラえもんは、笑顔を絶やさなかった。

    願っていた。彼らに再び、笑顔が戻ることを。

    すると、花火花の1つから、勢いよく1筋の光が舞い上がると…

    夜空に、咲いた。

    大きな、ヒマワリの花だった。

    「…あ…れは…」

    黄色い光に包まれながら、兵士たちは夜空を見つめ続けた。

    あのヒマワリを描いた兵士はもう、ここにはいない。

    「あ、あれオレのだ!」

    「あれは、私のよ!」

    歓声が上がる中、時折打ち上がる花火に、祈りにも似た沈黙が訪れる。

    今回の壁外調査で死んでいった兵士が描いた、最期の花。

    しかし、兵士たちの瞳にあるのは、悲しみだけではなかった。

    誓い。

    そして、願い。

    自分たちは必ず、自由を手に入れると。

    そしてどうかどうか、あの夜空の星たちと共に、今宵の花火を、死んでいった兵士たちも、見ていますように、と。

    ドーン!!!

    ハンジ 「…あっ、私が描いた巨人花火、キレイだな~!」

    ハンジは目を輝かせ、歓声を上げると、隣に立つ副官に声をかける。

    ハンジ 「モブリット、君は何を描いたんだい?もしかして、もう上がっちゃったとか?」

    そんな上官に、モブリットは優しく微笑んでみせ

    モブリット 「…いいえ。私のはまだ、上がっていませんよ。」

    ハンジ 「いったい、何を描いたんだい?」

    モブリット 「…それは、見てのお楽しみですよ。」

    モブリットは、再び夜空を見上げる。ハンジもそれに倣う。

    ドラえもん 「…さて、お次の花火は…」

    ドラえもんの合図と共に、夜空に咲いたのは…

    ドーン!!!

    ドラえもん 「…えっ、ボク!?」

    大きな、ドラえもんの顔!

    「ドラえもん花火だ!」

    ひときわ大きな歓声が上がった。

    ハンジ 「もしかして…アレ?」

    問うようにハンジは副官を見ると、モブリットは照れくさそうに、頬を掻いていた。

    その夜、兵士たちに、希望にも似た光の花が、いくつも、いくつも、降り注いだ。
  43. 93 : : 2014/09/03(水) 09:10:14
    <トロスト区訓練兵宿舎にて>

    異端者。

    幼い頃から、言われ慣れていた言葉だった。

    しかし、今回ほど、言われて辛いと思ったことは正直、なかったと思う。

    第104期訓練兵、アルミン・アルレルトは、本を抱える腕の力を、いっそう強くした。

    祖父の遺してくれた、この本。これを読んでいるところを、教官に見られた。

    そして

    教官 「そのような…壁外のことが書かれている書物を読むなど…貴様は、異端者だ。すぐにその本を焼却処分しろ。さもなくば、独房行きだ…いいな?」

    うなずくしかなかった。震える声で

    アルミン 「…はい…」

    と返事をすることしかできなかった。

    これがもし、自分の幼馴染みの少年だったなら、教官に抗い、最後まで自分の信念を貫いただろう。

    自分はそこまで、強くはなれない。

    アルミンは1人、誰もいないゴミ焼却場で、祖父の遺した本を抱き、泣いていた。
  44. 94 : : 2014/09/03(水) 10:43:21
    そこへ(…といっても、アルミンは顔を伏せて泣いていたので、“ソレ”が現れたことに、すぐに気づくことはなかったが)、何もない地の上に、突然扉が出現し

    「お兄ちゃん!」

    扉が開いたかと思うと、黄色い“何か”が飛び出し、辺りを見回すと、困った様子で首をひねった。

    黄色い何か 「…あら、ここじゃなかったのかしら。」

    アルミン 「…えっ…なっ…なん…だ…?」

    目に涙を残したまま、アルミンは驚き目を見開いた。

    黄色い何かは、アルミンに気づくと

    黄色い何か 「…あら、こんなところで、何をしているの?」

    話しかけられたが、アルミンは口をがくがくと震わせたまま、答えない。

    黄色い何か 「…あなた、泣いていたの?」

    黄色い何かに指摘され、アルミンは慌てて涙を拭う。

    黄色い何か 「ねぇ、ちょっと聞きたいんだけど、私と同じような体をした、青いロボットを見かけなかった?」

    アルミン 「ろっ…ろぼっ…と…?」

    黄色い何か 「そう。」

    アルミンは聞き覚えのない単語に、目を泳がせる。

    黄色い何か 「あ、自己紹介がまだだったわね。私、ドラミ。実は、ドラえもんっていう、私のお兄ちゃんを捜しているの。」

    ドラミの優しい口調に、心がわずかにほぐされ、落ち着きを取り戻したアルミンは

    アルミン 「ぼっ…僕は、アルミン・アルレルト…ドラえもんっていう…その…ろぼっと?…は、見たことも、聞いたこともないよ…」

    アルミンの言葉に、ドラミは再び困り顔になり

    ドラミ 「…そう…もう、お兄ちゃんったら、どこに行ったのかしら…」

    少しの沈黙の後、おそるおそる、アルミンが口を開く。

    アルミン 「…あの…きみは一体…」

    ドラミは、慌ててごまかし笑いを浮かべ

    ドラミ 「えっと…それは詳しくは話せないの…それよりあなたこそ、どうしてこんな所で泣いていたのかしら?」

    ドラミの問いに、アルミンは目を反らし、ゆっくりと立ち上がった。

    アルミン 「そんなの…関係ないじゃないか…得体の知れないきみなんかに…話す必要はないよ…」

    どこか、寂しさを孕んだ言葉に、ドラミは息をついた。

    ドラミ 「…私はね、突然行方不明になった、お兄ちゃんと、そのお友達を捜しに来たの。お兄ちゃんも、お兄ちゃんのお友達も、私にとって、とても大切な人たちなの。一刻も早く、無事に元の世界に、連れ戻してあげたいの。」

    ドラミの必死な訴えに、アルミンの心は動かされた。

    自分にも、大切な人がいる。
  45. 95 : : 2014/09/03(水) 11:04:31
    アルミン 「…本当に、何の手がかりもないのかい?」

    ドラミは、少し考え込むと

    ドラミ 「…本当に色々調べて、お兄ちゃんたちがこの世界のどこかにいるって分かったんだけど…それで、タイムテレビで調べたら、背中に翼のマークの付いたマントを着ている人たちと一緒にいるところを見たけど…」

    アルミン 「翼のマーク…それきっと、調査兵団だよ。」

    ドラミ 「ちょうさ…へい…だん…?」

    アルミン 「きっと、きみのお兄さん、調査兵団の本部にいるんじゃないかな。場所は、ここからそう遠くはないよ。」

    アルミンはドラミに、調査兵団本部までの道のりを説明した。

    ドラミ 「ありがとう。本当に助かったわ、アルミンくん。」

    突然名前で呼ばれ、アルミンは戸惑い、照れながらも

    アルミン 「べ、別に…早く、お兄さんたちが見つかるといいね。」

    ドラミ 「ええ。…アルミンくん、その本…」

    ドラミの視線が、アルミンの手の中にある本に移る。

    ドラミ 「きっと、大切な物なのね。」

    アルミン 「…うん…とても…大事だよ、これは…でも…」

    教官に言われた言葉を思い出し、アルミンは再び、目に涙を溜める。

    アルミン 「自分でも…分かるんだ…毎日厳しい訓練に耐えているうちに…これを読んで…友達と…夢を語り合っていた頃の思い出が少しずつ…薄れていって…でも僕は…僕は…」

    ドラミ 「…そう…その本には、たくさんの思い出がつまっているのね…」

    するとドラミは、おなかに付いているチェック柄のポケットに手を入れ、何やら洒落た形の小瓶を取り出した。

    ドラミ 「アルミンくん、ちょっとその本、貸してくれないかしら。」
  46. 96 : : 2014/09/03(水) 11:25:00
    アルミン 「…えっ…どうするの…その瓶は、なに?」

    ドラミは、手にした小瓶を見せ

    ドラミ 「これは、思い出コロンといって、その“物”が宿している思い出を、実体化することができる道具なの。」

    ドラミの説明に戸惑うアルミンを尻目に、ドラミは小瓶の蓋を開け、アルミンの本に、液体を1滴垂らした。

    すると本の中から、光が溢れだし…

    アルミン 「…あ…これは…」

    “それ”が何なのか、アルミンはすぐに理解した。

    “あの日”…失われた、シガンシナの街。

    光の中で、幼い頃の自分と、幼馴染みのエレンとミカサが、肩を寄せあって、祖父の遺した本に見いっている。

    中でも、真ん中で本を広げる自分は、頬を紅潮させ、一際興奮しているようにみえる。我ながら、ちょっと照れくさい。

    『世界には、まだ僕たちの知らない世界が、たっくさんあるんだ!』

    そうだ…

    『炎の水…氷の大地…砂の雪原…』

    僕たちはあの日…

    『絶対に…行こうね…』

    夢を抱いた。

    一緒に…壁の外を…探検しよう、と。

    「おーい、アルミン!」

    友人の声が聞こえ、アルミンは我に返った。

    「お前、こんなとこで、何してんだ?」

    アルミン 「えっと…エレン、これを見てくれよ。」

    エレン 「なんだ?」

    けげんそうな顔をするエレン。アルミンはここで初めて、本から発せられていた“光”が消えていることに気がついた。

    エレン 「…この本…懐かしいな。ガキの頃、よく読んでたよな…」

    目を細めるエレンに、相づちをうちながら、アルミンは辺りを見回した。

    いなくなってる。

    ドラミの姿も、あの不思議な扉も、跡形もなく。

    エレン 「…どうした、アルミン?」

    アルミン 「…いや…なんでも…ないよ…」

    エレン 「そうか。早く行くぞ。訓練、始まっちまうぞ。」

    アルミン 「うん…」

    あれは、夢だったのだろうか。

    いや、きっとちがう。

    自分は、はっきりと思い出した。

    あの日抱いた夢。

    もう、薄らぐことはない。絶対に。

    アルミンは、今は亡き祖父の遺した本をしっかりと抱き、友の背中を追った。
  47. 97 : : 2014/09/03(水) 12:23:48
    ◇◇◇◇

    ドラえもん 「…エルヴィン団長…」

    ドラえもんは、リヴァイ兵士長と共に、エルヴィン団長の部屋を訪ねました。

    エルヴィン 「ドラえもん。昨夜は、ありがとう。皆、とても喜んでいたよ。」

    花火大会から一夜明け、朝を迎えていました。

    ドラえもん 「…それはよかったです。ボクも、とても嬉しいです。」

    エルヴィン 「それで、用件は?」

    ドラえもんは、ゆっくりと口を開きます。

    ドラえもん 「…妹と、連絡がとれました。」

    それを聞いたエルヴィン団長は、愉しそうに笑って

    エルヴィン 「そうか。君には、妹がいるのか。」

    そしてすぐに笑みを消して

    エルヴィン 「…帰るのか。」

    ドラえもん 「…はい。」

    エルヴィン 「そうか。それは何よりだ。もう、君の仲間には伝えたのかい?」

    ドラえもん 「いえ、まだこれからです。」

    エルヴィン 「うむ。早く伝えてやったらどうだ。皆、早く帰りたがっていただろう。」

    ドラえもんは、エルヴィン団長を見て、それから、リヴァイ兵士長のほうも見ました。2人に、伝えたいのでしょう。

    ドラえもん 「何よりも…この世界に来て、あなたたちには、感謝してもしきれないほど、お世話になりました。だから、真っ先に、ここへ来ました…」

    ドラえもんは、その丸くて青い頭を深々と下げ

    ドラえもん 「本当に…ありがとうございました…」

    エルヴィン団長は、席を立つと、ドラえもんのそばにしゃがみ込みました。

    エルヴィン 「…お礼を言いたいのは、こちらとて同じだ、ドラえもん。壁外調査の前、食堂で君は、何か不思議な道具を使ったそうだね。その時の皆の笑い声が、俺の部屋にまで聞こえてきたよ…」

    ドラえもんも、思い出していました。みんなが、美味しい、美味しいと言っていた、あの日の笑顔。

    エルヴィン 「正直、調査兵団内で、あんなに笑い声が響いたのは、初めてかもしれない。その中には、前回の壁外調査で散っていった兵も、いただろう…本当に…本当に、ありがとう。」

    程なくして、のび太たちにも、嬉しい報せが届きました。

  48. 98 : : 2014/09/03(水) 12:43:23
    ◆◆◆◆

    手を取り合い、涙を流し、喜ぶ子供たち。

    それは、しずかも例外ではなく、ペトラはそんなしずかの様子を、ぼんやりと眺めていた。

    そんなペトラに気づいたしずかは、ペトラのもとへと駆け寄り

    しずか 「ありがとう、ペトラさん。私たち、やっとお家に帰れるわ。」

    ペトラは、ぎこちなく笑うと

    ペトラ 「…ねぇ、あなたたちの住む…世界は…巨人のいない…壁もない世界は…どんな所なの?」

    しずかは、無邪気に笑って

    しずか 「とっても素晴らしい世界よ。お父さんとお母さんがいて…お友達がいて…」

    ペトラ 「そう…そうなの…」

    ペトラは、しずかの手を振りほどくと、足早に立ち去っていった。

    しずか 「…ペトラさん!?」

    しずかが呼び止めても、ペトラは振り向かなかった。

    自分でも、分かっていた。

    彼らと自分とでは、住む世界が違うのだと。

    分かってる。

    だけど、なぜ悲しいのだろう。なぜ、寂しいのだろう。

    なぜ、素直に理解できない。彼らには彼らの、自分には、自分の生きる“世界”があることに。

    「…ペトラ…?」

    ペトラ 「…あ…団長…」

    あてもなく、廊下をさ迷っていると、目の前に、エルヴィンの姿があった。

    エルヴィン 「…どうした、こんなところで…」

    エルヴィンに問われ、ペトラは慌てて目頭を拭った。

    ペトラ 「申し訳ありません、団長…任務に戻ります。」

    ペトラの言葉に、エルヴィンは笑って

    エルヴィン 「…いや、もう彼らに監視は必要ない…そうだろ、リヴァイ?」

    リヴァイ?ペトラは慌ててエルヴィンの視線を追う。

    リヴァイ 「…チッ…」

    廊下の陰から、不機嫌そうな顔で姿を見せた上官に、ペトラは必死で頭を下げる。

    ペトラ 「…も、申し訳ありません、兵長…突然飛び出していってしまって…」

    リヴァイ 「気にするな。エルヴィンの言った通り、もうあいつらを監視する必要はない。俺たちとは住む世界が違うやつら…それだけだからな。」

    エルヴィン 「…ペトラ…」

    ペトラ 「はい。」

    エルヴィン 「少し、話をしないか。リヴァイも一緒に。」

    エルヴィンの言葉に、ペトラは戸惑うが、黙ってエルヴィンの後に続くリヴァイの姿を見て、慌てて後を追った。
  49. 99 : : 2014/09/03(水) 12:58:22
    団長室に入り、エルヴィンはゆっくりとペトラと向き合った。

    リヴァイは腕を組み、壁に寄りかかったまま、天井に視線を向けている。

    エルヴィン 「…ペトラ…」

    ペトラ 「はい。」

    エルヴィン 「…悔しいか?」

    ペトラ 「…はっ!?」

    意外な問いに、ペトラは思わず声を上げた。エルヴィンは続ける。

    エルヴィン 「自分たちは、高い壁に囲まれ、自由を奪われ、常に戦い続け、多くの犠牲を払っている…それに対し彼らの世界は…自由と希望に溢れている…」

    その言葉に、ペトラはだらりと下を向いた。

    エルヴィン 「君は、その事実を目の当たりにして…悔しいとか、うらやましいとか、そういう気持ちには、ならなかったかい?」

    上官2人を前にし、ペトラは自分の気持ちをぐっと押し殺し、敬礼してみせた。

    ペトラ 「…わ、私は…兵士です…人類にこの心臓を捧げた兵士…他の…世界にうつつを抜かすなど、あってはならないこと…常に鍛練し、巨人を1日でも早く絶滅させ…」

    エルヴィン 「俺は…」

    エルヴィンは言った。

    エルヴィン 「俺は…悔しいよ…」

    ペトラは言葉を失った。リヴァイも黙ってエルヴィンを見ている。

    エルヴィン 「悔しいよ。我々の理想とする世界が、すぐ目の前に存在する…なのに、我々は決して交わってはならない…悔しくて、悲しいよ…本当に…」

    ペトラはついに、声を上げて泣いていた。自分でも、どうしようもない想いが溢れて、止まらなかった。

    エルヴィン 「でもな…ペトラ、聞いてほしい。実は、これと同じセリフを、ドラえもんにも言ったことがあるんだ。そうしたら…」
  50. 100 : : 2014/09/03(水) 13:31:21
    ドラえもん 『エルヴィン団長…実はボク、のび太くんたちの住む世界よりも、ずっと遠い未来からやってきたのです。』

    ドラえもんの言葉に、エルヴィンも驚きを隠せずにいたが、ドラえもんの言っていることが、真実であることは、疑わなかった。

    エルヴィン 『み…らい…ドラえもんが、かい?』

    ドラえもん 『…はい…ボクたちの…ボクたちが明るく、平和に生きている世界にも、悲しみや、希望を打ち砕かれてしまうような、そんな出来事もあるんです…ボクたちが、目を反らしているだけで。たまたま、それを避けることができているだけで、確実に、存在するのです。』

    ドラえもんは続ける。

    ドラえもん 『…でも…人類は何度も何度もそれを乗り越えて…文明を育み、明日へ繋げていってくれたからこそ、ボクは生まれ、のび太くんたちと出会い、幸せな毎日を、過ごすことができるのです。』

    ドラえもん 『だから…だから、あなたたちも、自分たちの生きる世界を、あきらめないでください。明日はこうしたい、自分は、こうなりたいという想いを、決して忘れないでください。その想いを繋いで、人類が築いた未来が…』

    ドラえもんはここで、ちょっと照れくさそうに笑い

    ドラえもん 『…ボクなんです…』

    エルヴィンは、そのネコ型ロボットの頭を、そっと撫で

    エルヴィン 『ドラえもん…1つ、聞いてもいいかい?』

    ドラえもん 『…はい…』

    エルヴィン 『俺は…初めて君を見た時、思い出したんだ。』

    ドラえもん 『なにを…です?』

    エルヴィン 『…空だよ…』

    ドラえもん 『空?』

    エルヴィン 『いつか見た、ウォール・マリアの向こうの、壁外の空だよ。ちょうど君と同じ色をしていた…なぁ、ドラえもん…』

    ドラえもん 『…はい…』

    エルヴィン 『君の生まれた未来の空は、君と…同じ色なのかい?』

    彼らのいる部屋に、まぶしいほどの日の光が照らされ、22世紀のネコ型ロボットの瞳は、よりいっそう輝きを増した。

    ドラえもん 『…ええ。…きっと、あなたが見た空の色と、同じ色ですよ。』

    エルヴィンは、空を見上げた。

    エルヴィン 『…そうか…』
  51. 101 : : 2014/09/03(水) 13:47:56
    エルヴィンの回想は、ここで終わった。エルヴィンは続ける。

    エルヴィン 「…俺は、今日彼らと別れたとしても…ドラえもんとは、また別のかたちで出会うことができる…そんな気がするんだ…」

    ペトラは、前を向いた。

    ペトラ 「…団長…兵長…」

    エルヴィン 「…なんだ。」

    リヴァイは応える代わりに、ペトラに目を向けた。

    ペトラ 「…いつか、彼らの住む世界よりも…もっと美しい空を…私、見たいです…その時が来るまで…私、負けません。」

    笑顔を浮かべ、ペトラは言った。

    エルヴィン 「…ああ…そうだな…」

    それまで口を閉ざしていたリヴァイが、ふと口を開く。

    リヴァイ 「…俺たち人類が抗い続け…遠い先の未来には…あのふざけた青いのが、その辺をうろついてるかもしれないな…まったく想像できんが…」

    リヴァイの言葉に、ペトラは思わず吹き出す。

    ペトラ 「…兵長ったら…」

    エルヴィン 「リヴァイ、何度も言うが、彼の名は、ドラえもん、だ。」

    リヴァイ 「…そういや、そうだな…」

    ペトラは、窓の前に立ち、良く晴れた青空を眺める。その笑顔に、日の光が優しく注ぎこむ。

    ペトラ 「なんだか、わくわくしますね。どうなるのかな、私たちの未来は…」
  52. 102 : : 2014/09/03(水) 14:13:35
    ◇◇◇◇

    いよいよ、別れの時がやってきました。

    ドラえもんたちは、ドラミが用意したどこでもドアの前で、調査兵らと向き合います。

    ドラえもん 「…今まで、お世話になりました。」

    ドラえもんは、エルヴィン団長と、固く握手を交わします。

    エルヴィン 「こちらこそ、ありがとう。ドラえもん。」

    ハンジ 「うっ…ううっ…本当に帰っちゃうのぉっ…ううっ…」

    モブリット 「…分隊長、泣きすぎです。」

    ハンジ分隊長は、ジャイアンの手をガシッと握ると

    ハンジ 「また歌を聴かせてね、ね!?絶対だよ!!」

    ジャイアン 「おう、任せとけ。今度会った時は、オレの特製シチューもごちそうしてやるぜ!」

    のび太たち以外はもちろん、ジャイアンシチューを食べたことはありませんでしたが、“危険だ”、ということは充分察したようで

    ハンジ 「マジ!?すっごく楽しみなんだけど!」

    モブリット 「あんた本当に死にますよ!」
  53. 103 : : 2014/09/03(水) 14:29:22
    しずか 「…ペトラ…さん…」

    しずかは、おずおずと右手を差し出すと、ペトラはその手を、そっと包み込みました。

    ペトラ 「…しずかちゃん…」

    しずか 「…はい…」

    しずかは返事をし、手の中に、何かが握り込まれていることに気づき、そっと手を開きました。

    小さく折り畳まれた紙の中には…

    しずか 「これは…花の種?」

    ペトラ 「ええ。前に、花火花を植えた場所に、これと同じ種を植えたの。」

    しずか 「これと…同じ…?」

    ペトラ 「そう。しずかちゃん、これを、あなたたちの住む世界でも、咲かせてくれないかしら。」

    ペトラは、そっと笑いました。とても優しく。

    ペトラ 「しずかちゃん…ごめんね…そして、ありがとう。」

    しずかも、笑いました。そして、風になびく兵士たちの背にある翼を見つめ、思い出していました。

    スネ夫 『…その、ジャケットについてる翼のマーク、どの兵士も同じみたいだけど…何なのかなって…』

    ペトラ 『…ああ、これはね…』

    『…これは、自由の翼。人類の…未来の希望なのよ…』

    しずか 「ペトラさん…私のほうこそ、ありがとうございます。この種、大切に育てて、絶対きれいな花を咲かせるわ。」

    ペトラ 「しずかちゃんなら、大丈夫よね。だってあなたは、とってもかわいくて、素敵な女の子だもの。」

    しずかは、ちょっと照れくさそうに笑って

    しずか 「ペトラさんも…とても優しくて、素敵です…」

    ドラえもん 「…ではみなさん、お元気で。」

    ドラえもんは、ドアを開きました。その向こうに、微かに感じる風に、エルヴィン団長は込み上げてくる想いをぐっとこらえ、そっと手を振りました。

    巨人のいない世界。いつか、自分たちが叶える世界。

    その世界へと通じる扉は、5人の少年たちがくぐった後、光の粒となって、そよぐ風に吹き上げられ、空の向こうに、消えてゆきました。
  54. 104 : : 2014/09/03(水) 14:32:20
    それから数日が経って

    それぞれの世界に

    喜びがあって

    悲しみがあって

    花は咲きました。

    それぞれの世界で

    空を見上げています。

    いつか夢みていた、はるか先の

    未来と同じ色をした

    あの空を。


    ーEND
  55. 105 : : 2014/09/03(水) 14:33:59
    以上で終了とさせていただきます。
    長編にもかかわらず、最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
  56. 106 : : 2014/09/04(木) 19:21:19
    ヤバい!!リアルに涙が止まらない
    食堂の兵士がかわいかったなキャラが全員アニメのままだったから 読みやすかったです!
    お疲れさまでした~
  57. 107 : : 2014/09/04(木) 21:11:07
    >>106 アルミン親衛隊さん
    最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
    ブラック・ブレッドも頑張ります。
  58. 108 : : 2014/09/05(金) 15:52:21
    ありがとーです♪
    ブラブレよろです!
  59. 109 : : 2014/09/18(木) 19:06:56

    優しい言葉で書かれているのに、しっかりと創り込まれていて、とても感動しました。
    脳内で完全に映像化できたので、映画を一本見終わった気分です。
    合いますね、ドラえもんと進撃。
    数珠繋ぎさんの手腕の賜物なのですが(笑)
    素敵な作品をありがとうございました(。-_-。)

  60. 110 : : 2014/09/18(木) 21:23:37
    >>109 月子さん
    読んでいただき、ありがとうございます。
    いやぁ正直、ドラえもんと進撃を組み合わせるのは、とても難しかったです。スレを立ちあげた時は、特に何も考えてなかったのですが(^_^;)
    お褒めの言葉をいただきましたが、正直、この物語が完結できたのは、応援してくださった読者様のおかげだと思っています。
    進撃の、エレンたちが生きる世界ももちろんですが
    今、私たちが生きている時代を幾つも繋いで、ドラえもんが生まれた22世紀のような、明るい未来が訪れることを、切に願うばかりです。
  61. 111 : : 2014/09/19(金) 14:16:14
    ドラえもんの秘密道具を使えば巨人を簡単に駆逐出来るのにあえて別世界の問題には干渉せずにそれぞれの世界を生きていくという一貫した姿勢がいいですね
    文章構成も語り口も丁寧で素晴らしい名作だと思いました( ´ ▽ ` )ノ
  62. 112 : : 2014/09/19(金) 22:14:50
    >>111 カンツォーネさん
    お気に入り登録ならびに、コメントありがとうございます。
    正直、ドラえもんの秘密道具で、巨人にダメージを与えない+進撃の世界観を壊さない道具を探すのは、けっこう大変でした(^_^;)
    名作と言っていただけて、とても嬉しいです。本当にありがとうございました。
  63. 113 : : 2015/05/01(金) 21:48:15
    泣けた!もっと、こうゆうの増えたらなあ
  64. 114 : : 2015/05/02(土) 11:21:31
    おもろかった。感動したよ。あなたは天才ですか
  65. 115 : : 2015/05/02(土) 22:03:14
    >>113
    最後まで読んでいただき、ありがとうございます(^^)
    そうですね…こういった、長編コラボ作品は、また夏に向けて執筆していきたいと思っています。
    またよろしければ、お願いします。

    >>114 クリスタ親衛団長さん
    最後まで読んでいただき、ありがとうございます(^^)
    感動していただけて、とても嬉しく思います。
    私は天才ではありませんが、他の執筆者の皆さんの、執筆にかける熱い想いであったり、多彩な発想には、常に羨ましい想いでいっぱいです。
    吸いとれたらなーなんて、よく画面の前で念じてますw
  66. 116 : : 2016/03/29(火) 20:00:33
    感動したなぁ。こんなのが増えたらいいなぁ
  67. 117 : : 2016/04/02(土) 21:33:59
    >>116 名無しさん
    最後まで読んでいただき、ありがとうございます。
    今後も皆さんに感動していただける作品を書けるよう、頑張ります。
  68. 118 : : 2017/12/16(土) 11:58:55
    これからも頑張ってください
  69. 119 : : 2017/12/17(日) 20:14:57
    >>118 名無しさん
    ありがとうございます。
    頑張ります。
  70. 120 : : 2021/11/22(月) 06:20:01
    『ドラえもんのび太 と進撃ののこわうんこ』
  71. 121 : : 2023/01/02(月) 10:57:30
    ドラえもんのび太 とくしゃみに気をつけろ
  72. 122 : : 2023/01/02(月) 13:30:50
    ドラえもんりよう太のかせ大作戦
  73. 123 : : 2023/01/02(月) 13:38:44
    ドラえもんりよう太の目隠しで食べ大作戦
  74. 124 : : 2023/01/02(月) 13:39:54
    ドラえもんりよう太と○○←1番面白そうな奴が優勝
    ドラえもんりよう太のかせ大作戦

    ドラえもんりよう太の目隠しで食べ大作戦
  75. 125 : : 2023/01/02(月) 13:43:27
    ドラえもんりよう太と○○←1番面白そうな奴が優勝
    ドラえもんりよう太のかせ大作戦

    ドラえもんりよう太の目隠しで食べ大作戦


    ドラえもんりよう太のゲロ大作戦
  76. 126 : : 2023/01/02(月) 16:33:04

    ドラえもんりよう太とくしゃみに気をつけろ
  77. 127 : : 2023/01/02(月) 16:39:14
    ドラえもんりよう太と○○←1番面白そうな奴が優勝

    ドラえもんりよう太とくしゃみに気をつけろ

    ドラえもんりよう太のかせ大作戦

    ドラえもんりよう太の目隠しで食べ大作戦
    ドラえもんりよう太のプリンセスキティ
    キティvsくしゃみに気をつけろ
  78. 128 : : 2023/01/02(月) 16:39:45
    ドラえもんりよう太と○○←1番面白そうな奴が優勝

    ドラえもんりよう太とキティvsくしゃみに気をつけろ

    ドラえもんりよう太のかせ大作戦

    ドラえもんりよう太の目隠しで食べ大作戦
    ドラえもんりよう太のプリンセスキティ
  79. 129 : : 2023/01/02(月) 16:52:27
    オリジナル大長編ドラえもん
    『りよう太と作戦プリンセスこわいいと風邪』
  80. 130 : : 2023/01/02(月) 16:55:14
    どやミちゃんvsこわいいと風邪
  81. 131 : : 2023/01/02(月) 17:18:34
    どやミちゃんvsこわいいと風邪
  82. 132 : : 2023/10/17(火) 20:32:41
    ミッキーvsこわいいと風邪

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kaku

数珠繋ぎ@引っ越しました

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