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アルミン「僕が見つけた宝物」
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                  - 1 : : 2014/04/08(火) 00:28:08
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 「ねぇ、アルミン……」
 
 
 「ど、どうしたのさミカサ、こんな所で……」
 
 
 「最近、何かあったでしょう?」
 
 
 「え………」
 
 
 「いえ、もっと具体的に聞こう」
 
 
 「…………」
 
 
 「アルミン、あなたはーーーー」
 
 
 ーーーーーーー
 
 
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                  - 4 : : 2014/04/08(火) 00:34:29
 僕はアルミン・アルレルト。
 幼なじみのエレンとミカサと共に訓練兵団に入団した第104期訓練兵の1人。
 勉強は好きだけど運動はさっぱり駄目という、とことん兵士に向かない奴だ。
 入団してから約半年が経過した。
 時期が時期なのか、半年間の総まとめのような試験が次から次へと僕達に襲いかかって来ていた。
 今は明日の座学の試験のために図書室自習中だ。………といっても僕とミカサでエレンの勉強の復習を見ているだけなんだけど。
 「なぁー……いい加減もういいだろー?」
 「だめ。まだ半分しか終わっていない。」
 「まじかよ……はぁ……」
 「エレン、こんなことでへこたれていてはだめ。私も一緒にやる……ので、もう少し頑張って。」
 「……ここだけやったら休憩な」
 「わかった、そうしよう。」
 エレンとミカサがいつものやり取りをしている。この会話も試験前になるとお決まりのようで、毎日同じような会話を繰り返していた。
 ま、エレンが飽きっぽいせいなんだけどね。
 そんなやり取りを聞き流しながら、僕は全く別の所に思いを馳せていた。
 
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                  - 5 : : 2014/04/08(火) 00:35:11
 ………今何してるんだろ。勉強してる……よね、さすがに。
 最近話せてないなぁ……まぁこの時期は仕方ないのかな……普通の訓練も試験で潰れちゃうし。
 試験が終わるまで機会もないか……
 「はぁ……」
 思わず溜め息が出た。
 「ん?どうしたアルミン、溜め息なんかついて」
 しまった、エレンに気づかれちゃった。ミカサも不思議そうに見てる……やばい。
 ここは何事もなかったように……
 「あ、ううん、なんでもないよ!最近ちょっと、寝不足で、あはは」
 「だよなぁ、試験ばっかだもんなぁ。嫌んなるぜ本当」
 「ね、僕なんか実技の方がさっぱりでさ、ーーーー」
 なんとかごまかせた……?
 危なかった。今回ばかりはエレンの鈍感さに感謝、かな。
 
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                  - 6 : : 2014/04/08(火) 00:36:12
 「…………」
 「?ミカサ?どうしたの?僕何か付いてる?」
 「……いえ、何でもない」
 ほっ……バレたのかと思ったよ。
 エレンは良くてもミカサには注意しないとね。
 僕も勉強に戻らないと……
 ………………
 駄目だ、集中できない。顔も火照ってるし少し冷静になってこよう。
 「ぼ、僕、ちょっと外出てくるね、すぐ戻るから!」
 「おう、帰ってきたらここの説明してくれ」
 「う、うん、わかった!」
 「……………」
 背中にミカサの視線を感じながら、僕は逃げるように図書室を出た。
 ーーーーーー
 
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                  - 7 : : 2014/04/08(火) 00:47:44
 「……………」
 幼なじみの出て行った後の扉を見つめる。
 最近のアルミンはどこかおかしいように思える。何がおかしいのかは分からないけど……
 どこかぼーっとしているような気もする。今まで勉強中に上の空になることなんて無かったのに。
 ……何か悩んでいるのかもしれない。
 でもそれだったら何故私達に話してくれないのだろう。
 ……いや、今までアルミンは悩み事があっても私達にはほとんど話してくれたことがなかった。
 私達はそんなに頼りにならないのだろうか?
 
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                  - 8 : : 2014/04/08(火) 00:48:09
 「うう……」
 隣からエレンの呻き声が聞こえてきた。
 ノートの一点を頭を抱えながら見つめている。アルミンに説明してほしいと言った箇所だった。
 「エレン、ここは後にして、先にこっちをやりましょう」
 「……そうだな」
 エレンはふぅっと溜め息をひとつついて、またノートに向き合った。
 ……アルミンには、何かあったのか後でそれとなく尋ねてみよう。
 私はエレンが新たに睨んでいる箇所の説明を始めた。
 ーーーーーー
 
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                  - 19 : : 2014/04/08(火) 19:20:26
 図書室を出てすぐの兵舎の周りをぶらぶらと歩く。
 だんだんと暖かくなってきてはいたものの、まだ風は冷たく、日陰に入ると少し肌寒さを感じた。
 しばらく歩いていると、火照っていた顔が徐々に冷やされ、自分も冷静になっていくのがわかった。
 さすがに慌てすぎたかな……ミカサに怪しまれてないといいんだけど……
 でも出てくるとき僕のこと見てたし、後で何か聞いてくるかもしれないな。
 そんなことを考えながら兵舎の奥にあるちょっとした森の方へと歩く。
 ここは訓練所の敷地内にある、数少ない人目もなく静かな場所だった。
 そのため、独りになりたいときや、何か考え事をするにはうってつけの場所だった。
 
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                  - 21 : : 2014/04/08(火) 19:21:44
 木の根元に腰を下ろす。
 空を見上げながら、出会ったときの、そして今思いを馳せる最初のきっかけとなった出来事を思い出していた。
 ーーーーーー
 今から遡ること約1ヶ月前。
 僕はちょうどさっきのように兵舎の周りをぶらぶらと歩いていた。
 本を読みながら。
 宿舎で読もうと思って図書室から借りてきた本だったが、どうしても早く読みたくて歩きながら読み始めていた。
 だから、気がつかなかった。
 横から差し出されていた脚に。
 はっとしたときにはもう遅かった。
 
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                  - 22 : : 2014/04/08(火) 19:22:10
 「うわっ」
 情けない声とともに地面に転がる。持っていた本は手から離れていった。
 僕のすぐ横には、名前もよく知らない男子訓練兵3人がいた。
 「お前、また本読んでんのかよ?」
 「ろくに運動出来ねえくせによく兵士になったよなぁ!」
 「そのくせ座学じゃしゃしゃりやがって、目障りなんだよ!」
 そんな言葉を僕に浴びせながら彼らは歩き去っていった。
 ……またか。
 はぁぁっと長いため息をついた。
 
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                  - 23 : : 2014/04/08(火) 19:22:56
 訓練兵団に入ってすぐの頃は、僕がエレンやミカサといつも一緒にいるのを見て遠巻きにしていた連中も、僕が実技において大した能力を持っていないことが分かると、陰でこういうことをよくするようになった。
 今のもいつもの3人組だ。
 彼らは決まって僕が一人で歩いているとき、それも人目につかないところにいるときを狙ってきた。
 よくまあここまで上手く狙うもんだ。
 内心感心しつつも、僕はいつもの通り奥歯を噛み締めた。
 エレンやミカサがいるときは何も出来ないくせに。
 2人がいるときは近づいても来ないくせに。
 なんて卑怯な奴らなんだろう。
 そして、またいつもの通り虚しくなるのだった。
 
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                  - 24 : : 2014/04/08(火) 19:23:38
 僕は2人に守られている。それこそ2人が意図しないところででも……
 悔しい。
 僕は2人がいないと何もできない。
 今だって彼らに言い返しもせずに黙っている。
 彼らが言ったことを否定したいのに、どこかに肯定している自分がいて反論出来ないでいる。
 僕は2人と肩を並べて歩きたいのに。
 いつも何も出来ない、何も言えない。
 なんて臆病なーーー
 「……はい」
 地面に座ったまま、俯いて考え事をしていたため、人が近づいて来たのに気がつかなかった。
 
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                  - 25 : : 2014/04/08(火) 19:24:26
 顔を上げると、目の前に落とした本が差し出されていた。
 驚いて目を見開く。
 僕が驚いたのは人がいたからでもなく、本が差し出されていたからでもなくて、その本を差し出している人を見たからだ。
 「早く受け取ってよ。私も暇じゃないんだから」
 「あっ、ご、ごめん!」
 慌てて立ち上がり、本を受け取った。
 その人は本を差し出していた手で長く伸ばした前髪を少し右によけた。
 
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                  - 34 : : 2014/04/09(水) 00:47:55
 何を話していいか分からず、僕達2人の間には気まずい空気が流れた。
 「じゃ、私はもう行くから」
 そういって踵を返し、置いてあった水桶の元へと向かった。水汲みの途中だったらしい。
 ……もしかして、わざわざ拾いに来てくれたのかな?
 「あ、あの!」
 慌てて声をかける。
 彼女はその場で立ち止まり、顔を少しだけこちらに向けた。
 
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                  - 35 : : 2014/04/09(水) 00:48:41
 「本、拾ってくれてありがとう、アニ!」
 「………別に」
 アニはそれだけ言うと、またスタスタと歩いて行った。
 「あ………」
 行っちゃった。
 せっかく話しかけてくれたのに何も話せなかったな……
 どうしよう、何か…………
 そうだ!お礼に水汲み、手伝おう。
 僕は服の砂を払い、アニの元へと駆け出した。
 「ねぇ、アニ!」
 「……何?」
 「水汲み、手伝うよ」
 ーーーーーー
 
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                  - 36 : : 2014/04/09(水) 00:49:17
 そのことがきっかけで、アニとは少しずつ話すようになった。
 あんなに優秀な彼女と劣等生の僕が、時々だけど話をするということがすごく不思議だった。
 皆には『氷の女』なんて呼ばれてるけど、実際は仲間思いで、とても優しく、芯の強い女の子だと僕は思う。
 あの出来事のおかげで、僕は色々なことを知った。
 人は見かけによらないこと。
 こっちから心を開けば向こうも少しずつ打ち解けてくれること。
 そして何より、
 『恋をする』ということ。
 
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                  - 37 : : 2014/04/09(水) 00:49:49
 初めて持った感情だった。
 小説の中では当たり前のように出てくることなのに、それが自分のこととなるとピンと来なかった。
 だから、初めは何だかわからなかった。
 話してるときに顔が火照ったり、どきどきしたり。
 それが『恋』だと気がついてすぐは、僕は恋って案外大したこと無いな、なんて思っていた。
 でも今は違う。
 『恋』をする前とした後、僕で言うとこの感情に『恋』という名前が付く前と後では世界が全く違って見えたのだ。
 大袈裟でもなんでもなくて、本当にきらきらと光るような、そんな風に見えるのだ。
 
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                  - 38 : : 2014/04/09(水) 00:50:49
 僕はこの気持ちを大切に、大切に、自分の中にしまっておいた。
 初めて外の世界の本を読んだときみたいに、宝物を見つけたような気がしていたから。
 自分の中にある、きらきらした宝物。
 出来る限り、自分の胸の中だけに留めておきたかった。
 エレンとミカサにも、秘密にしておきたいと思った。
 2人のことを頼りにしていない訳じゃない。むしろその逆だ。
 でも、この気持ちだけは、自分ひとりの物にしておきたかった。
 それが外の世界のことと、この僕の気持ちの違いだ。
 
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                  - 39 : : 2014/04/09(水) 00:51:23
 ふぅっと息を吐いた。
 さっきから何か忘れている気がするけど、何だっけ?
 手元に落ちていた葉を拾う。
 日陰にいるせいなのか、葉はとても深い緑色に見えた。
 エレンの目みたい。
 そばにあった赤い花の横に置く。
 こっちの葉っぱがエレン、隣の赤い花がミカサ。
 
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                  - 40 : : 2014/04/09(水) 00:51:50
 ……ふふっ。
 自分のしていることが子供っぽくて、思わず笑ってしまった。
 エレンと、ミカサと………
 ん?エレン?ミカサ?
 ………………あ。
 そうだ、思い出した、エレンの勉強………
 2人を待たせてるんだった………
 立ち上がって伸びをする。
 もうとっくに落ち着いたし2人のところへ戻らなきゃ。
 ーーーーーー
 
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                  - 43 : : 2014/04/09(水) 15:49:54
 図書室に戻ると、2人とも机に突っ伏して寝ていた。
 待ちくたびれちゃったのかな……
 申し訳ないことしたな。
 疲れてるだろうし、少し寝かせておいてあげよう。
 2人に掛けるものはないかと辺りを見回した。
 「あ、アルミン!これ、よかったら使って?」
 「え?」
 声の主はニコニコしながらブランケットを差し出していた。
 
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                  - 44 : : 2014/04/09(水) 15:51:08
 「おい、クリスタお前……」
 「私はいいの!2人が風邪でもひいちゃったら大変でしょ?だから、はいっ、これ掛けてあげて?」
 神様……。
 「あ、ありがとう、助かるよ!」
 「どういたしまして!」
 クリスタはそういいながら輝くような笑顔を見せた。
 隣にいたユミルが呆れながらもクリスタの頭をくしゃっと撫でた。
 「お前は本当にいい子だなー」
 「えへへ」
 今度は照れたような笑顔になる。
 
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                  - 45 : : 2014/04/09(水) 15:51:57
 微笑ましい気持ちになりながら見ていたが、僕はふとあることに気が付いた。
 「あ、でもこれ……」
 「……やっぱり、少し小さいかな?」
 クリスタが遠慮がちに言った。
 そう、貸してくれたはいいものの、寝ているのは2人。この大きさでは少し心許なかった。
 それでも、せっかく貸してくれたのを無駄にするわけにはいかない。
 「あ、ううん、大丈夫だよ!2人とも結構くっついて寝てるし!」
 僕はそう言って笑いながら、ブランケットを2人に掛けてみせた。
 
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                  - 46 : : 2014/04/09(水) 15:52:29
 ……やっぱり少し足りない。
 それでもうたた寝程度には十分だろうと思い、有り難く使わせてもらうことにした。
 「本当にありがとう、後で必ず返すから!」
 「うん、急がなくて大丈夫だよ。お勉強、頑張ってね!」
 「ありがとう、がんばるよ!」
 クリスタ達が図書室を出て行った後、もう一度2人を眺めた。
 
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                  - 47 : : 2014/04/09(水) 15:53:20
 エレンの右肩とミカサの左肩が出てしまっている。
 けどまぁどうせすぐ起こしちゃうし、大丈夫だろう……
 そう思ってノートに向き直ろうとしたとき、誰かが2人にブランケットを掛けた。
 今度は2人が収まるくらいの大きなものだった。
 「アニ……」
 「これ、使いなよ」
 「ありがとう、でもどうして……」
 「別に……私はもう宿舎に戻るから。後で返して」
 そう言いながらふいっと顔を背けるアニが可愛く見えて、思わずくすっと笑ってしまった。
 とたんにアニの顔が険しくなる。
 
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                  - 52 : : 2014/04/09(水) 18:25:49
 「何?人がせっかく貸してやったのに顔みて笑うなんて失礼なんじゃないの?」
 「ちっ、違うよ!そんなんじゃーーー」
 慌てて訂正しようとする。
 自分で顔がどんどん赤くなるのが分かった。
 「じゃあ何?」
 「え……と……それはっ……」
 「…………」
 「あ、アニが……っ」
 顔が熱い。
 目が泳ぐ。
 しどろもどろになりつつも、頭の中はフル回転で次の言葉を考えていた。
 
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                  - 53 : : 2014/04/09(水) 18:26:14
 ここで素直に言っていいものなのだろうか?
 アニが可愛く見えたからと……
 いや、可愛く見えた、じゃなくて可愛いって言わないと失礼になるのかな?
 そもそも可愛いなんて言って良いのか?
 怒り……はしないだろうけど、嫌にならないだろうか。
 ここでーーーー
 「時間切れ。じゃ、またね」
 「あっ……」
 アニはそういうと、あっという間に図書室から出て行ってしまった。
 
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                  - 54 : : 2014/04/09(水) 18:26:59
 僕はアニが出て行った後の扉を見つめながらがっくりと肩を落とした。
 結局何も言えなかった……
 どうするのが正解だったんだろう。
 どう答えればよかったんだろう。
 それから20分、そのことだけを考えたものの、結局何が正しかったのか分からなかった。
 僕ははぁぁっと長い溜め息をひとつついて、そろそろ2人を起こそうと思い立ち上がった。
 2人の目が覚めて勉強を再開したはいいものの、さっきよりますます上の空になってしまった。
 ーーーーーー
 
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                  - 58 : : 2014/04/09(水) 23:43:49
 それから夕食を終えるまでの間、僕はそのことばかり考えていた。
 会話はちゃんとしてたけどね。
 だから周りには感づかれてない……はず。
 あとは宿舎に戻って寝るだけだし、もうーーーー
 「アルミン、話がある」
 ……え?
 「ミカサ?なんだよ急に」
 「エレンは先に帰ってて」
 「お、おう……?」
 え、ちょっとまっーー
 
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                  - 59 : : 2014/04/09(水) 23:44:17
 「んじゃーアルミン、俺先帰って寝る支度してるから」
 「おやすみなさい、エレン」
 「おう、おやすみ」
 エレン……行っちゃった……
 段々小さくなっていくエレンの背中を絶望的な気分でみつめた。
 ミカサは僕に何を聞きたいんだろう。
 本を貸してほしいとか、明日の試験は何が出るかとかそんなことのはず………
 無いよね……
 
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                  - 60 : : 2014/04/09(水) 23:44:51
 「ここでは人目につく。アルミン、こっちへ」
 「あっ……」
 ミカサは僕の手を引いてずんずん歩いていく。
 着いた先はあの昼間来た森だった。
 「ねぇ、アルミン……」
 ミカサが真っ直ぐ僕の目をみつめる。
 いくら幼なじみとはいえ、相手は掛け値なしに美人な女の子。少しドキドキしてしまった。
 「ど、どうしたのさミカサ、こんな所で……」
 色々な意味でドキドキして、声が少し震えた。
 
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                  - 61 : : 2014/04/09(水) 23:45:23
 「最近、何かあったでしょう?」
 「え………」
 僕が何も答えられずにいると、ミカサはさらに続けた。
 「いえ、もっと具体的に聞こう」
 「…………」
 「アルミン、あなたは今『恋』というものに悩んでいる、違わない?」
 「あ、え………」
 言葉が出てこない。
 まさかここまでバレてたなんて。
 最初の聞かれ方ならまだバレていないという希望もあったが、ミカサのこの聞き方はもう確信している時の聞き方だった。
 
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                  - 62 : : 2014/04/09(水) 23:45:55
 「どっ、どうしてそう……思ったの?」
 恐る恐る尋ねてみる。するとミカサは少し笑って、この質問をしようと思った経緯を話してくれた。
 「最初は何か訓練のことで悩んでいるのかと思った。このところボーっとする事が多かったから」
 「でもアルミンはきっとまた何も話してくれないだろうと思った……ので、何かあったのかとそれとなく尋ねてみるつもりだった」
 「…………」
 最近よく視線を感じると思ってたけど、そういうことだったのか……。
 「でも、今日の出来事であなたが何に悩んでいるのかがわかった」
 「えっ………」
 「今日の昼間……図書室であったこと」
 ああ、図書室……
 ………えっ、図書室?
 
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                  - 63 : : 2014/04/09(水) 23:47:17
 「ち、ちょっと待って、ミカサはあの時寝てたんじゃ……」
 「ええ、最初は寝ていた。でも途中であなたとクリスタの話し声で目が覚めた」
 「じっ、じゃあ……」
 「私はあなたとアニのやり取りを全て聞いていた」
 僕は全身から冷や汗が出るのを感じた。
 まさか聞かれてたなんて……
 「何で寝たふりなんかしてたの?起きればよかったのに……」
 「なんとなく邪魔になるような気がした……ので、寝たふりをしていた」
 「邪魔って……」
 
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                  - 64 : : 2014/04/09(水) 23:47:46
 「そこでの会話を聞いて、アルミンはきっとアニのことが好きなーーー」
 「わぁぁぁっ!もうわかった!わかったから!もうやめてぇぇっ!」
 思わず頭を抱えて叫んだ。
 ……恥ずかしすぎて……死にそう。
 顔から火がでそうなくらい熱かった。
 そんな僕の様子を見て、ミカサは優しく笑った。
 しかしすぐその顔を曇らせ、申し訳なさそうに言った。
 「アルミン、私はあなたに謝らなければいけない」
 「え?」
 突然のミカサの言葉に僕は面食らった。
 
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                  - 65 : : 2014/04/10(木) 11:28:57
 「私は思いがけず盗み聞きをすることになってしまった……本当にごめんなさい」
 そういってミカサは深く頭を下げた。
 「そ、そんな!ミカサは寝ていたんだし、仕方ないよ!」
 僕は慌てて言った。
 「でも……」
 「いいんだ本当に!気にしないで!むしろ聞かれたのがミカサでよかったよ」
 あはは、と力なく笑う。
 
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                  - 66 : : 2014/04/10(木) 11:29:24
 「……なぜ?」
 ミカサは不思議そうに首を傾げた。
 「だってほら……他の人が聞いたらへんな噂が広まっちゃうかもしれないし!」
 「……確かに」
 うんうん、と頷くミカサ。
 「だから、ね?気にしないで?」
 「うん……わかった」
 とりあえず納得してくれたようで、僕はほっと息を吐いた。
 何事かと思ったよ……ミカサは本当に律儀だなぁ。
 
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                  - 67 : : 2014/04/10(木) 11:30:06
 「あの……アルミン」
 ミカサがおずおずと声を掛けてくる。
 「ん?どうしたんだい?」
 ミカサが俯いて何か言いたそうにしている。いつもならはっきり言うのに……どうしたんだろ?
 「その……もし、そのことでこれから何か困ったことがあったら……いつでも話して欲しい」
 「え……?あ、ああ!うん、もちろんだよミカサ、ありがとう、あはは」
 笑いながらそういう僕に、ミカサは少し拗ねた様に続けた。
 
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                  - 68 : : 2014/04/10(木) 11:30:34
 「でもアルミンは」
 「ん………?」
 「今まで私たちになにか相談してくれた事がない……」
 「え?あ、あれ、そうだっけ?」
 僕はいつも2人に頼りっぱなしだと思っていたので、すぐにはピンと来なかった。
 「ええ。いつも独りで悩んでいるように見える……」
 「…………」
 「アルミン、私達はそんなに頼りにならないの?」
 あまりにも寂しそうに言うミカサを見て、言葉が出てこなかった。
 
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                  - 76 : : 2014/04/10(木) 21:34:42
 「前にエレンも言っていた。アルミンはひとりで色々抱え込みすぎだって。もっと頼ってくれてもいいのにな……と」
 「それは………」
 「もちろん言いたくない事があるのも分かる。今回のことはきっとそうなのだろう。でも、どんな些細なことでも良い……ので、私達を頼って欲しい」
 「ミカサ……」
 ミカサは一気にそう言った。
 僕はミカサのことを信じられないような気持ちで見ていた。
 2人がこんなことを考えてたなんて。いつも助けてもらうのは僕の方なのに、どうして……?
 
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                  - 77 : : 2014/04/10(木) 21:35:11
 ……いや、簡単なことじゃないか。
 僕がずっとそういう所を2人に見せなかったから。
 2人に甘えたくない、置いて行かれたくない、そういう思いが無意識のうちに僕の行動のストッパーとなっていたのだろう。
 自分では示しているつもりでも、やっぱり言葉で言わないと伝わらなかったんだ。
 だったら……
 「じゃあさっ!」
 「……?」
 僕はミカサに、ちゃんと頼ってみることにした。
 
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                  - 78 : : 2014/04/10(木) 21:35:49
 「アニの好きなもの、何か知らない?」
 「好きなもの……?あ、そういえばーーー」
 それから僕たちはアニのことや皆のことを色々と話した。
 意外にもミカサがアニのことを良く知っていたのには驚いた。
 アニは髪を解くと案外長いとか、前に飴玉をひとつあげたらなんとなくうれしそうだったからきっと甘いものが好きなんだろうとか、そんなことをエレンが僕達を呼びに来るまで話していた。
 戻ってくるのが遅くて点呼の時誤魔化すのが大変だったと珍しくミカサと2人でエレンに
 怒られた。
 
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                  - 79 : : 2014/04/10(木) 21:36:21
 その後、エレンと共に帰路につきながらひとり考えていた。
 結果的に僕の小さな宝物は僕だけの物には出来なかった。
 けど、その宝物を大切に持っている僕ごと見守ってくれる人がいる。
 そのことがどれだけ心強いかよく分かった。
 この宝物をアニにいつか手渡せるその日まで、まだ大切に、大切に持っておこうと心に決めた。
 「おい、アルミン。置いてくぞ」
 知らず知らずのうちに歩くのが遅くなっていたらしく、前を歩いていたエレンに急かされた。
 
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                  - 80 : : 2014/04/10(木) 21:36:53
 「あ、ごめん!」
 慌てて駆け寄る。
 寮はもう目の前だった。中に入れば、2人きりで話すことは難しいだろう。
 だったら今のうちに……
 「……ねえ、エレン。少し、話を聞いてくれないかな」
 このこと……エレンにもちゃんと、話さなくちゃね。
 ーーーーーー
 
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                  - 81 : : 2014/04/10(木) 21:38:28
 エレンとアルミンの背中を見送りつつ、今し方あったことを考える。
 ………まさかそこまでアニが好きだったとは。
 少し驚きはしたものの、私はアルミンが目を輝かせ、頬を紅潮させながら嬉しそうにアニのことを話す様子を思い出して、微笑ましい気持ちになった。
 私はもう余計なことはしない、そっと見守ろう。
 もしアルミンが助けを求めてきた時は、喜んで手を差し出そう。
 アルミンは真っ直ぐだ。
 アルミンの想いはきっとアニにも届くはず。
 きっと届けばいい……
 そう思いながら、私も寮の方へと足を向けた。
 
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                  - 82 : : 2014/04/10(木) 21:39:07
 明日から何が変わるという訳でもないけど、少しだけ、気持ちが弾むような気がしていた。
 だけど、
 「……でも」
 私達は忘れていた。
 「私が賭けたのは」
 この世界は
 「ここからだから……!」
 残酷だということを。
 to be continued……
 
- 
                  - 83 : : 2014/04/10(木) 21:48:52
- あとがき……というほどでもないのですが。
 このお話は歌……というより和歌から思いついたものです。(完全に趣味ですごめんなさい笑)
 しのぶれど 色に出にけり 我が恋は
 ものやおもふと 人の問ふまで(平兼盛)
 [意味]
 私の恋は密かに隠していたけれど、表情に現れてしまっていた。恋で悩んでいるのかと人が尋ねるほどに。
 これをアルミンの立場からみて書いてみました。続きも歌がもとになるので、あしからず……
 最後まで読んでくださった方、ありがとうございました!
 
- 
                  - 84 : : 2014/04/10(木) 22:06:27
- すごい・・・ アルミンを応援するエレミカもいいしミカサの最後の台詞もすごくよかったです!感動しました
 
- 
                  - 85 : : 2014/04/10(木) 22:16:11
- もこしゃん!とてもいい話でした!!お疲れ様です!!( *・ω・)ノ
 
- 
                  - 86 : : 2014/04/11(金) 00:35:53
- >>ゲスミンさん
 ありがとうございます!よかったら次もみてやってください( ´艸`)
 >>れんきん
 ありがとう、れんきゅん!
 
- 
                  - 87 : : 2014/04/11(金) 01:20:24
- この結末…ひっくり返しましたね!続きを期待します!
 最後の和歌もぴったりの意味なんですね(解説ありがとうw)。
 
- 
                  - 88 : : 2014/04/11(金) 07:41:13
- >>Art
 ひっくり返してしまいましたw期待ありがとう!
 何かこういう和歌をもとにしたお話が書きたいと思っていて、はじめにぱっと浮かんだのがこの歌だったんです。みんなに少しでも和歌に親しみを持ってもらえればなぁと思って!
 
- 
                  - 89 : : 2014/04/11(金) 15:14:15
- 執筆お疲れさまでした!
 アニの「時間切れ。」という台詞、いいですね。気に入ってしまいました。笑
 温かな恋の芽生えと、それを打ち壊す非常な現実との対比が素晴らしかったです。
 個人的に、ミカサのアルミンへの優しさや、私たちを頼って欲しいと言ったシーンがぐっときました。
 to be continuedと言うことは…続編があるのでしょうか?
 そちらにも期待したいところです!
 ひとまず、素敵なお話をありがとうございました。
 
- 
                  - 90 : : 2014/04/11(金) 21:36:21
- 地の文ありなのにすっげえ読みやすかった
 続編に期待じゃあ!
 
- 
                  - 91 : : 2014/04/11(金) 21:59:13
- 面白かったです!乙です!
 続編を期待しています!!
 
- 
                  - 92 : : 2014/04/12(土) 01:00:51
- >>マリンさん
 「時間ぎれ」気に入ってくれましたか!実は私も好きなんです、うふふ。
 現実の非情さを出すことでそれまでの温かい雰囲気をより出したかったというのもあって最後ひっくり返しちゃいました笑
 もちろん続きますよ!只今書きため中です☆
 読んで下さってありがとうございました!٩( *˙0˙*)۶
 >>名無しさん
 本当ですか!よかったです!まともに地の文を書いたのが初めてだったので安心しました。
 最後まで読んで下さってありがとうございました!
 
- 
                  - 93 : : 2014/04/12(土) 01:01:28
- >>アントーンさん
 ありがとうございます!続き頑張りますね!
 
- 
                  - 94 : : 2014/04/15(火) 17:36:09
- おおおおおふぁぁぁぁぁぁ
 学校帰りからのこのss‼︎
 俺もう…なんかっ…っ興奮が…
 
- 
                  - 95 : : 2014/04/15(火) 17:49:37
- 文章力ぱねぇ.../////結婚して!
 
- 
                  - 96 : : 2014/04/15(火) 18:23:51
- 乙です!
 感動しました!
 
- 
                  - 97 : : 2014/04/16(水) 06:15:15
- >>むーちょ↑さん
 おお……そんなに興奮してくださるなんて……(゚Д゚)めっちゃ嬉しいです、ありがとうございます!
 >>進撃のニセコイ好き@エネ守護神さん
 私なんかでいいのなら……っ///
 >>最後のリグレットさん
 わーい、ありがとうございます!!
 
- 
                  - 98 : : 2014/04/21(月) 22:42:13
- 表現が素晴らしい!乙女心をつついてきますね!
 特に『宝物』という言い回しは、アルミンの色んな感情が凝縮されているように思いました。
 アルミンがアニに抱いている”恋心”や、アニとの"思い出(出来事)"、そして"アニ自身"。
 それに加え、「その宝物を大切に持っている僕ごと見守ってくれる人がいる。」というフレーズは、ミカサとアルミンの間にある温かいものを上手く表現していて、私の心は張り裂けそうです。(笑)
 こういった自分の中で妄想を張り巡らせられる作品は大好きです。
 読む人によって捉え方も違いそうでおもしろいですよね(*´`)
 続きももちろん期待!今後物語がどう動いていくのか...
 応援してるよ・*・:≡( ε:)
 
- 
                  - 99 : : 2014/04/21(月) 23:02:55
- >>もじゃっち
 わぁぁもうこんなに読み解いてくれるなんて……
 その通りなんです。アルミンが見つけたものをただの恋心だけに終わらせたくなくて、そこにいろいろな想いが詰まっているんだ、という意味で『宝物』にしたんです(´・ω・`)
 わーもう本当嬉しい……嬉しくてなんかもうはげそうやー……
 続きはあっちが落ち着いたら書くよw
 期待ありがと!!
 
- 
                  - 100 : : 2014/06/18(水) 07:07:28
- アルミンの恋話って素敵ですね!
 でもこの世界は残酷だってこと忘れてしまいた(泣)
 これからもがんばってくださいね
 
- 
                  - 101 : : 2014/07/14(月) 18:54:37
- >>エレミカ超最高!!さん
 ありがとうございます!
 なんだかこれまでの作品ほとんど全てにコメントをして下さったようで…恐縮です、ありがとうございます(o_ _)o
 
- 
                  - 102 : : 2014/07/14(月) 18:59:22
- 作品を読みやすくするために、お話の途中にしていただいたコメント及び私の返事は非表示にさせていただきました。
 コメント自体は見えなくても、たくさんの方がコメントして下さったこと自体とても嬉しいし、感謝しています!
 最近はなかなか忙しく、執筆することが出来ていないのですが、このお話の続きも他の作品もいつか絶対投稿するので、その時また見ていただけたら幸せです(・∀・)
 どうぞよろしくお願い致します!
 
- 
                  - 103 : : 2020/10/06(火) 10:07:40
- 高身長イケメン偏差値70代の生まれた時からnote民とは格が違って、黒帯で力も強くて身体能力も高いが、noteに個人情報を公開して引退まで追い込まれたラーメンマンの冒険 
 http://www.ssnote.net/archives/80410
 恋中騒動 提督 みかぱん 絶賛恋仲 神威団
 http://www.ssnote.net/archives/86931
 害悪ユーザーカグラ
 http://www.ssnote.net/archives/78041
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 何故、登録ユーザーは自演をするのだろうか??
 コソコソ隠れて見てるのも知ってるぞ?
 http://www.ssnote.net/archives/86986
 http://www.ssnote.net/categories/%E9%80%B2%E6%92%83%E3%81%AE%E5%B7%A8%E4%BA%BA/populars?p=18
 
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