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果たすべき約束 その向こうに待つもの

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  1. 1 : : 2013/10/19(土) 21:35:17
    ---------------------------------------------
    時は進み、エレン達は2年生に進級

    それと同時に野球部には新入部員が入ってくる

    そこでエレンは意外な人物と出逢った...
    ---------------------------------------------

    全スレの続きです。
    タイトル:取り戻した自分 果たすべき約束
    http://www.ssnote.net/archives/23

    ここから読んでもある程度は分かると思います。
  2. 2 : : 2013/10/19(土) 21:48:45
    ここは野球部のグラウンド――
    そこでは二人の球児が相対していた。

    マウンドにはエレンが立ち、バッターボックスではイアンが構えている。それぞれが自分の居るべき位置に立っていた。
    二人の間の緊張感は極限までに達した時、エレンが動いた。

    左足を動かして投球体勢に入る。
    それを見ていたイアンもエレンに合わせて構える。

    そしてエレンの流れるようなフォームからボールが放たれる。
    イアンはそれと同時に踏み込み、一気にバットを振る。
    すると、鋭い音とともに打球は左中間を抜けていく。
    それをエレンは恨めしそうに見ていた。

    「悪いなエレン、今日もオレの勝ちだな」
    「今日こそは、と思ったんですが…もう4連敗ですよ……」

    イアンは白い歯を覗かせながらエレンに言った。
    エレンは悔しそうに答える。

    たった一打席。これが二人の勝負だった。

    エレンとイアンはここ数週間、練習が終わるとこのように勝負をするようになった。
    一打席の勝負、そのお陰でエレンとイアンは確実にレベルアップしていた。
    最初の頃はエレンが勝っていたが、ここ最近のイアンの上達ぶりは目を見張るものがあり、新葉のエルド・ジンや西高のオルオ・ボサドと比べても、何ら遜色の無い実力をつけてきた。

    11月の中頃にイアンが入部してから早いもので、既に4カ月以上が経っていた。

    今は4月。
    エレン達は2年に進級し、後輩が入学してくる季節となった。
  3. 3 : : 2013/10/19(土) 22:11:50
    トントントントン…

    キッチンで料理をする音が聞こえる。
    エレンは窓の外の夕日を見つめていた。

    「もう御飯の時間なのか」

    トントントントン…

    ギシッ
    エレンは小気味良い音の発信源へと向かった。
    しかしキッチンに向かう途中、なんとなく違和感を覚えた。
    キョロキョロと辺りを見渡す。

    「あれ? 何か変だな…。どうしてこんな所にソファーが。それにテーブル変えたのかな?」

    家具の位置や形が違う事に気付いた。
    エレンはじっとそれらを見つめる。

    「うーん。どこかで見たような…」

    違和感を感じながらもどこかで見たような物――
    エレンは既視感を覚えた。

    トントントントン…
    包丁がまな板をたたく音。エレンはそちらの方に目を向けた。
    そこには見慣れた人の横顔が見えた。

    「叔母さん? …じゃない」

    料理をしている人は一瞬自分の叔母――ルーツィエ・スミスだと思ったが、何故かエレンは直感で否定した。

    「誰だ? …でもあの横顔、料理をしているあの姿は知っている」

    どこかで見た光景、しかしいつも見ていた光景でもあった。
    そして記憶の糸を手繰り寄せていく、するとエレンはある大切な記憶を呼び起こした。
    その時エレンの目が大きく開かれ驚愕する。
    そして振り絞るような声で、その言葉を綴る。

    「…かあ……さん?」

    いつも見ていた姿
    いつも聞いていた音
    いつも香っていた匂い

    「間違える筈が無い。あれは母さんだ…」

    その言葉を言い終わった瞬間、エレンの目からは涙が零れた。
    ふらふらと頼り無い足取りで自分の母の元へと歩き出す。
  4. 4 : : 2013/10/19(土) 22:11:59
    そして――

    「母さん!!」

    エレンは叫び母の元へと走り出した。
    リビングに居た自分、キッチンに居る母、距離としては短い筈なのにエレンにとって、とても長く感じた。
    手を母の元へと伸ばし、少しでも早くたどり着こうとする。
    母の事を呼び、少しでも早く振り向いて欲しいと願う。
    そして二人の距離がゼロになる瞬間、エレンの手が届いた時。

    ――エレンの手は母の体を突き抜けた。

    「え?」

    エレンは愕然とした。

    「何で? どうして?」

    エレンは母に触れられない事が信じられず、再び手を伸ばす。
    先程と同じように母のからだを突き抜ける。
    再び、エレンは愕然とした。

    「何で? どうして…」
    声が震える。
    それと同時に体も震えていた。
    母の体を突き抜けた手を、母の事を触れられなかった手をグッと固く握る。

    「どうしてなんだよ!!」

    エレンの感情が一気に爆発した。

    「どうして! どうして触れないんだよ! 何で気付いてくれないんだよ!! こんなに近くに居るのに何で見てくれないんだよ!!! 母さん! 気付いてよ!! 触ってよ!! 見てよ!! 俺の…僕の名前を呼んでよ!!!」

    力の限り叫んだがエレンの母――カルラは気付かない。

    「どうして…」

    肩を落とし絶望する。
  5. 5 : : 2013/10/19(土) 22:13:01
    夢。エレンは自分の母が最早この世にはいない事を再認識した。

    いつも自分の事を見ていてくれた母
    いつも自分の事を心配してくれた母
    いつも自分の事を愛してくれた母

    最早いない事
    最早会えない事
    それが現実である事

    エレンは泣いた。
    そして最後にもう一度だけ母の事を呼ぼうとした時、自分の他に自分の母を呼ぶ声がした。

    「母さん」
    「なあに?」

    そしてカルラはその声に反応し振り向いた。
    エレンはその顔を見ると自然と涙がまた出た。
    あの時と何も変わらない笑顔が、そして優しさがそこにあった。

    「母さん…変わってないや。いや。何で変わっていない? 最後に会った時より若いかも…何故だ?」

    エレンがそんな事を考えていると、カルラが自分を見ていない事に気が付いた。
    カルラの視線を追って後ろを振り向くと子供が立っていた。

    「この子どこかで…」

    エレンが考えているとカルラがその子の名前を呼んだ。

    「もう少しでお父さんが帰ってくるから、待っててねエレン」
    「!? この子が俺だって?」

    驚いたエレンはその子をジッと見つめた。

    「確かに俺だ。どうなっている? 母さんが若くて、俺がこんなに小さい。で、父さんも居るって言っていた。 …! そしたらクリスタは? クリスタはどこに居るんだ?」

    エレンはクリスタを探したがどこにも居なかった。
    だがカルラと幼いエレンはそれが当然のようにしている。

    「どうなってるんだ?」

    エレンは不思議に思っていると手元に新聞が置かれているのに気が付いた。

    「新聞か…」

    その新聞の日付を見た時、クリスタが居ない事に納得した。
    とても大切な事に気付き、エレンの顔が喜ぶ。
  6. 6 : : 2013/10/19(土) 22:13:57
    「そうだ、この日か。そうなのか」
    「ただいまー。今帰ったよ」

    懐かしい声が玄関の方から聞こえる。

    そう、9年前のこの日

    「あ、父さんだ。お帰りなさーい」

    パタパタパタ…

    父さんを迎えようとして玄関で

    「やっと帰って来たのね」

    スタスタ…

    母さんと一緒に出逢ったんだ

    「エレン、カルラ、聞いてくれ」

    父さんの横に居る不安そうな顔の女の子に

    「今日から新しく家族になる…」

    金色の髪、色白の肌の少女

    「…クリスタだ」

    それが俺とクリスタの初めての出逢い

    「エレン、オマエの新しい妹だ」

    俺の妹

    「よ、よろしく、クリスタちゃん…」

    俺の初めての兄妹

    「……」

    新しい俺達の家族

    「ク、クリスタちゃん?」

    新しい絆

    「……………よ、よろしくお願いします」

    初めて現れた僕の

    「うん。よろしくね」

    護るべき大切な人――それがクリスタ。
  7. 7 : : 2013/10/19(土) 22:23:45
    朝日がサンサンと降り注ぎ、とある部屋を照らす。

    「朝か…起きないと」

    少年が目を覚ました。
    気だるそうにベットから起きる。
    その姿は幼い顔立ちを残してをいるが、引き締まった体をしていた。
    眠気を覚ますように頭を少し振る。
    少年の名はエレン・スミス、今月から高校2年生になったばかりである。

    「目覚し鳴ってないか」

    その事に気付き目覚し時計を見ると…AM3:30頃で止まっている。
    その事実に気付き眠気が一気に晴れる。

    シャッ!
    カーテンを勢いよく開けると日は既に昇っていた。

    冷や汗が流れる。
    机に置いてある腕時計で時間を確かめると…

    「ヤバい!! もうこんな時間!!!」

    絶叫が響き渡る。

    ドタドタドタドタ
    ガラッ

    「何で起こしてくれないんですか!!」

    エレンはいつもだったら朝食の準備をしているであろうルーツィエに向かって話した。
    しかし、そこには誰も居なかった。

    「…居ない……!」

    そこでとても重要な事を思い出した。

    「そう言えば叔父さんと叔母さん、今朝は居ないんだ」

    叔父であるエルヴィンは出張に行っていて、叔母であるルーツィエは大学時代の友人と旅行に行っている。
    二人とも今日の夜にならないと帰らない事を思い出した。

    「まずいぞ…って考えてる場合じゃない! 早く用意して行かないと」

    ドタドタドタ...バタン、ガラン...ドタン、カラカラ...バタン!

    「鍵を締めて、よし! いってきまーす」

    大急ぎで用意して家を出ていった。
  8. 8 : : 2013/10/19(土) 22:28:58
    急いで休まずに走るエレン。
    野球部で鍛えた事がこんな形で役に立つとはと苦笑いする。

    「このペースだと間に合いそうかな?」

    腕時計を見ながらつぶやく。
    そして少し行った所にあるT字路が迫る。

    「あそこを曲がったらペースを下げるか」

    そう決めるとラストスパートを掛けスピードが上がる。
    そしてそのまま曲がろうとした時…

    ガツン!

    「痛たたた…」

    誰かとぶつかってしまった。
    痛みに耐えながら、ぶつかった人に謝ろうとしたエレンが見たものは

    「…白だ」

    間の抜けたような声で言った。
    その言葉を聞いた途端、エレンとぶつかった人――女の子は乱れたスカートを押さえた。
    その恥ずかしそうな顔を見た瞬間エレンの思考は止まった。

    女の子の黒い髪、黒い瞳。

    それ以外は見間違える筈も無い少女
    最早逢う事は叶わない大切な人
    自分が護る事が出来なかった女の子
    自分の大切な兄妹

    「…クリスタ…」

    目の前の女の子は妹のクリスタと黒い髪と瞳を除けば瓜二つだった。
    エレンは呆然とし、信じられなかった。

    しかし次の瞬間にはそんな事など考えている暇は無かった。

    「エッチ!!」
    スパーン!

    乾いた音が辺りに響き、エレンの頬に真っ赤な紅葉ができた。
  9. 9 : : 2013/10/19(土) 22:30:37
    小休止。
    誰か見てくれてると嬉しいですが……
  10. 10 : : 2013/10/19(土) 23:09:25
    第一高2-Fの教室――

    「ハハハッハーハ!! アーハハハ!! ど、どうしたんだよエレン、その手形は?」

    エレンの頬に付いている紅葉を見て大笑いしているライナーが聞いてきた。
    それを見ているクラスメイト達もその理由が気になっていた。
    第一エレンは結構人気があるのだが女の子との噂、浮いた話は全くと言っていいほど無かった。
    それが今朝遅刻して来て頬に紅葉ができているとなると、誰もがその理由を知りたがるのは無理もない。

    「…ライナー、そんなに笑うこと無いだろ?」
    「ッククク、いや悪い悪い。けどエレンもやっと女に興味を持ったか」
    「な、何だよその言い方は?」
    「違うのか? 俺はてっきり女に迫って…」
    「ち、違うぞ!! これはだな」

    ライナーが言い終わる前にエレンが口を挟んだ。
    しかしそれは更に深みにはまってしまう罠だった。

    「どうしたんだいエレン。これは…何があったんだい?」
    「アニまで…」
    「オレ達も興味あるな。なあ、マルコ」
    「誰なんだエレン? 君にそんな事をする不届き者は(笑)」
    「いや、だからなあ…」

    アニ、ベルトルト、マルコもその話に加わってきた。
    エレンは観念して今朝起こった事を話した。
  11. 11 : : 2013/10/19(土) 23:14:59
    「なにーーーーー! そ、それでオマエ、その女のパンツ見たのか?」
    「いや、見たってほどじゃないけど…少し」

    ライナーが心底羨ましそうにし、エレンがそれに言い訳するように答える。

    「かーーー、なんて羨ましい奴!」
    「何言ってんだいライナー! 全く男って…」
    「アタタタ、勘弁してくれよアニ」

    アニがライナーの耳を引っ張る。
    エレンはアニの言葉を聞いていたので謝った。

    「ゴメン…」
    「あ、エレンはいいんだ、ワザとじゃないんだから。問題はライナーだよ。 ホントにHなんだから」

    エレンに答えながらもアニはライナーの耳を引っ張ったままである。
    それを見ていたマルコとベルトルトは仲良くハモる。

    「「平和だねぇ」」

    ようやくアニから開放されたライナーがエレンに話し掛けた。

    「痛たた、まだ痛いな。ところでエレン、重要な話なんだが…」
    「重要な話?」
    「その子は可愛かったか?」

    「ライナー! まだ懲りてないの!」

    アニの鉄拳によってライナーはKOされた。
    しかしライナーの言葉によってエレンが顔を曇らせた事を知る者はいなかった。
  12. 12 : : 2013/10/19(土) 23:35:16
    グラウンドには既に入部希望者が集まっていた。

    「ひぃ、ふぅ、みぃ…。凄いなミタビ、20人越えているぞ」
    「そうだな。けど最終的にどれだけ残れるかが不安だがな」
    「けど例年より多いじゃないか。な、ルーク」
    「ああ、それに女の子も居るぞ」

    ミタビ、イアン、ルークの3年生達は入部希望者達を見て品定めをしていた。
    そこに顧問のリヴァイがやってきた。
    ミタビ達に話しながら入部希望者達を見た。

    「どうだ今年は? ほう、こんなに集まるとは…。これも文化祭の時の影響か」
    「そうですね。既に20人を超えています。2、3年の部員数よりも多いですね」
    「一気に部員が倍になるか。まとめ役としては大変じゃないかミタビ」
    「そう言う先生は顧問じゃないですか」
    「オレはオマエ達みたいな優秀な先輩達が居るから何の心配もしていないぞ」
    「それはそれは…」

    リヴァイとミタビはこれからどうやって野球部の面倒を見ようかと考えていた。

    「なあルーク、エレン達はまだ来ていないのか?」
    「ああ、まだ来ていないぜ。どっかで騒いでいるんじゃないのか?」
    「これから先輩になるってのに…」
    「チワー」
    「お、ちょうど来たみたいだぞ」

    ルークとイアンが話している時タイミングよくエレン達が到着した。

    「おお、結構来てるじゃないか」
    「ホントだ、こんなに居るとは思わなかったね」
    「ライナー、女の子も居るぞ、良かったな」

    ベルトルトの声にライナーが過敏に反応した。

    「どこだどこだ!」
    「へー、女の子も居るんだな」

    エレンもライナーにつられて探してしまう。

    「ほらあそこ」
    「ホントだ。しかも可愛いじゃないか」

    ベルトルトが指す方向を見ると、ライナーが正直な感想を洩らす。
    しかしエレンは

    「あれ、あの黒いショートカットはどこかで見たような…。それにここからだと良く見えないな」

    エレンはもっとよく見ようと、女の子を凝視した。
    すると女の子もその視線に気付きエレンの方を見る。

    「「......」」

    エレンと女の子の視線が合う。
    そして――

    「「アーーーーーーーーーーーー!!」」

    「今朝の女の子!!」
    「パンツ覗き魔!!」

    お互いの事を指しながら叫んだ。
    野球部のグラウンドには二人の声が響き渡った。
  13. 13 : : 2013/10/20(日) 00:13:44
    「最後だ。キミ、自己紹介を」

    エレンの事を『パンツ覗き魔』と呼んだ女の子を見てリヴァイが促した。
    入部希望者に自己紹介をさせていたのだ。
    内容は名前、出身校、中学の時の所属部(野球部ならばポジションも)等である。
    今回の入部希望者は全員、中学時代は野球部であった。
    この事はエレン達には嬉しい事だった。
    経験者というのは、何処でも歓迎されるものらしい。

    「ハイ。第四中から来ました『ヒストリア・レイス』です。中学で野球部のマネージャーをやっていましたので、高校でもやりたいと思いここに来ました。皆さんよろしくお願いします」

    お辞儀をして自己紹介が終わった。
    ヒストリアは先程エレンと言い争った時とは全く違う顔でニコニコしていた。
    エレンはヒストリア以外は視界から消えてしまうように、ジーッとヒストリアを見ている。

    「…ヒストリア……」
    「ベー!」

    ヒストリアがその視線に気付きアッカンベーをする。
    それを見たエレンはガクッと肩を落とす。

    ヒストリアの、エレンの第一印象は最悪であった。
  14. 14 : : 2013/10/20(日) 00:14:47
    今日はここまでです
  15. 15 : : 2013/10/20(日) 00:23:23
    乙です
    面白いです!!

    ミカサかと思った…
    ミカサやアルミン出てきませんかぁ??
  16. 16 : : 2013/10/20(日) 11:57:36
    すっげー面白い
  17. 17 : : 2013/10/20(日) 13:52:55
    ま、まさか・・・

  18. 18 : : 2013/10/20(日) 23:27:14
    >>15
    ミカサとアルミンは出てきますよ。もう少ししたらここぞの場面で出てくるかと

    >>16
    ありがとうございます

    >>17
    まさか?
  19. 19 : : 2013/10/21(月) 00:57:04
    自己紹介も終わり部員達は練習を始めた。
    新入部員達もそれに混じって練習している。

    結局今回の新入部員はヒストリアを含めて合計22人だった。
    ポジション的にも一通り揃っており、今後の練習や試合等でもバリエーションに幅ができた。
    中でも注目すべきは投手だった。

    「へー、まさか第二中のエースだった『コニー・スプリンガー』がウチに来るとは」
    「そうだな。てっきり西高に行くと思ってたんだが」
    「この街で強い…というか実績があるのは西高くらいだもんね。新葉学園は遠いし」

    ベルトルトとライナーは中学時代同じ地区だったコニー・スプリンガーを見て驚いていた。
    何しろコニ―は中学1年で既にエースで4番の座を獲得しており、まさしく負け無しの成績だった。
    彼は変化球を得意としており、特にスライダーの切れ味は目を見張るものがあった。

    「うーん。スピードのエレンと変化球のコニー…面白そうな組み合わせだな」
    「知ってるのかミタビ?」
    「そうかイアンは知らないよな。コニーはオレ達が中3の時にデビューしたんだ。それでアイツの持つ変化球で三振の山を築き、あっという間に有名人だ。しかもバッターとしてのセンスもかなりいい線ときている」
    「投げてよし、打ってもよしか、いいな。甲子園も大分近づいたな」
  20. 20 : : 2013/10/21(月) 01:00:20
    ミタビとイアンがコニーについて話している時マネージャー達は

    「じゃ、よろしくねレイスさん」
    「こちらこそよろしくお願いします、レオンハート先輩。それから私の事は、『ヒストリア』 でいいです。」
    「そう。ありがとヒストリアちゃん。私の事も『アニ』でいいよ」
    「ハイ、分かりましたアニ先輩」

    という具合で結構ウマが合っている。
  21. 21 : : 2013/10/21(月) 01:03:34
    「なあミタビ、コニーと勝負させてくれないか?」

    唐突にルークが聞いて来た。

    「な、何言ってんだルーク! コニーはまだ入部したばかりだぞ」
    「そりゃそうだけど、是非勝負してみたいんだよ。中学の時は打てなかったけど、今なら打てそうな気がするんだ」
    「あのなルーク…もし打てなかったらどうするんだよ。いや、打てたとしてもそれが原因で自信を無くされたらどうする」
    「う…それは……」

    ミタビに痛い所を突かれてしまいルークは言葉が詰まった。

    コニーはどちらかというと天才肌である。
    何の努力も無しにセンスだけで投げていた。
    その反面、一度でも挫折してしまうと取り返しの着かない事になるかもしれない。
    ミタビ達はそれを怖れていた。
    その一方エレンは、以前にエルドに負けたがそれをバネにしてレベルアップした。
    何より努力を怠らない、この性格のお陰でミタビ達は余程の事が無い限り心配する事は無かった。
  22. 22 : : 2013/10/21(月) 01:08:04
    エレンとコニーは投球練習をしていた。
    エレンはマルコと組み、コニーはイアンと組んでいた。
    コニーに興味を持ったイアンが実力を見る為に名乗り出たのだ。

    スパーン
    スパーン

    それを遠巻きに見る部員達。
    2、3年の部員達はエレンの強さを良く知っており、新入部員達はコニーの強さを良く知っていた。
    となると全員の関心は、『どちらが強いか?』それだけだった。
    エレンは相変わらずストレート一本の地味な投球だが、コニーは変化球が殆どで見ていた部員達を驚かせていた。

    「すごい変化球だな」
    「あれだけ曲がるんだ、打てるわけないな」
    「天才ってやっぱり居るもんだな」

    新入部員達は間近で見るコニーの投球に魅入っていた。
    しかし2、3年の部員達はそうは思っていなかった。

    「確かに良く曲がるよな」
    「けど何か足りないような気がするな」
    「やっぱりそう思うか。エレンと比べると何か足りないんだよな」

    見ている方はその『何か』が分からなかったが、ボールを受けているイアン、同じ投手であるエレン、正捕手のマルコにはその『何か』が分かった。

    (惜しいな…)
    (確かに筋はいいんだが)
    (まだ一年生だからこれからだね)

    その一方コニーは

    (スミス先輩か、確かにコントロールとスピードはすごいな。これで変化球を持っていれば…。けど第一高のエースはこのオレだ)

    エレンに対抗心を燃やしていた。
  23. 23 : : 2013/10/21(月) 01:14:57
    「…話には聞いていましたけど、エレン先輩ってすごいんですね」

    エレンの投球を見ていたヒストリアが感想をもらす。
    それを聞いていたアニが得意げに話す。

    「フフ、エレンはまだ全力で投げていないよ」
    「ええ?! ホントですか? さっきのボールなんてすごく速かったじゃないですか」
    「本気のエレンはこんなものじゃないよ」
    「ふえぇぇ~、すごいんですね。あんな奇麗なフォームなのに」

    ヒストリアはエレンに魅入っていた。
    エレンはいつものボケボケっとした表情ではなく真剣な顔で投げていた。
    ヒストリアはそのエレンを、ボーッと見ている。

    (あんな顔もするんだ...)

    「見直した? エレンの事」
    「う…野球に関してはですけど…」
    「けど何?」
    「…男の子としては許せません」

    ヒストリアはしばらく考えた末にアニに話した。

    「原因は今朝の事?」
    「ハイ…って知ってるんですか?」
    「聞いたよ、エレンからね。気持ちは分かるけど不可抗力ってヤツじゃない? それにエレンだって反省してるよ」
    「けど」

    アニの言う事は分かるのだが、ヒストリアはどうしてもエレンの事が許せなかった。
    というより何故か気になった。
    乙女心は難しい…

    「ほら、気になってエレンがこっち見てる」
    「え?」

    ヒストリアが顔を上げてエレンの方を見た。
    その瞬間目が合ってしまい言葉を失ってしまった。

    「あ」

    一方エレンは顔を赤くして固まった。
    それにつられてヒストリアも赤くなる。

    「あら~。ヒストリアちゃんどうしたのかな~?」
    「あ…あ……な、何でもありません! どうしてパンツ覗き魔なんかと」

    ヒストリアは否定するが語尾の方は小さくて聞き取れなかった。

    「フフ、真っ赤になって否定しても説得力無いよ」
    「ち、違いますってアニ先輩! もう知りません!」

    ヒストリアは顔を真っ赤にしたままそっぽを向いた。

    (どうして私がエレン先輩の事を…)

    しかし心に内とは裏腹にヒストリアの視線は、チラチラとエレンの方へと向けていた。
  24. 24 : : 2013/10/21(月) 01:20:14
    「今日の練習はこれまでだ」
    「「「お疲れ様でした!」」」

    リヴァイの一言で今日の練習は終了した。
    2、3年生は着替えに行き、1年生はグラウンドの整備に入った。
    アニとヒストリアのマネージャー達は備品のチェックや雑用をこなす。

    「これでOKと。アニ先輩、備品のチェック終わりました」
    「ありがとうヒストリア。でも本当に助かったわ。今まで私一人だったから大変だったんだよ」

    アニは本当にそう思っていた。
    今まででさえ忙しかったのに、新入部員が入って来たらどうしようかと困っていたほどであった。

    「じゃあこれを部室に返したらおしまいだね」
    「私が行って来ます」

    アニは名簿を返しに行こうとした時ヒストリアが名乗り出た。

    「そう、お願いするわ。よろしくね」
    「ハイ」

    ヒストリアは部室までパタパタと走った。

    「ヒストリアちゃんか。中々いい子で良かったわ。……でも何か気になる」

    ヒストリアの後ろ姿を見ながらアニは考えていた。
  25. 25 : : 2013/10/21(月) 01:28:32
    校門ではアニの事を待っているエレン達が居た。
    そこでエレンは忘れ物がある事に気付いた。

    「あ、部室にカギを忘れた」
    「だったら早く行った方がいいぞ。アニが来ちまう」
    「そうだな。急いで行ってくるから待っててくれ」

    エレンは急いで部室に向かった。

    一方、部室ではヒストリアが名簿を返し終わった。

    「これで終わり。さて、帰ろうかな」

    ヒストリアが最後に部室を出る事になったので何か異常が無いか見渡した。
    そこで机の上でキラリと光るものを発見した。

    「カギだ。誰のだろ?」

    ヒストリアがカギを取って見た。
    その時、部室のドアが開きエレンが部室に入って来た。
    そしてまたしても目が合って顔が赤くなる。

    「「あ…」」

    エレンはドアを開けたまま、ヒストリアはカギを持ったまま、お互いの事を見て動かなくなった。

    (な、何でヒストリア…いや、レイスさんがここに? それにしても似ているよな…)
    (何でエレン先輩が? やだ…先輩が見てる。どうして?)

    エレンがあまりにもジッと見ているのでヒストリアは真っ赤になって俯いてしまった。
    そしてギュッと手を強く握った時、カギを持っている事を思い出した。

    (そう言えばこのカギ...ひょっとして先輩のかな? そ、そうよ先輩はカギを忘れたから取りに来たのよ)

    何とかこの状況を打破する為、ヒストリアはカギの事を尋ねる事にした。

    「あの…このカギ、碇先輩のですか?」
    「え? あ、それ俺のだ。良かった、途中で忘れていたのを思い出したんだ」

    エレンは自分のカギだと確認すると受け取ろうとしてヒストリアに近づいた。
  26. 26 : : 2013/10/21(月) 01:28:41
    その時! エレンは何かにつまずいた。

    「うわ?!」「キャッ」

    「イタタタ…大丈夫? あ…」

    気付くとエレンの下にヒストリアが倒れていた。
    知らない人が見るとエレンがヒストリアを押し倒している態勢である。
    さすがにこのままではマズイとエレンは離れようとした。

    フニッ
    「え?」

    エレンの右手に柔らかい感触が走った。
    ツーと冷や汗が流れる。
    恐る恐る自分の右手に視線を送ると

    「!」

    予想通りエレンの右手はヒストリアの左胸の上に乗っかっていた。

    「ゴ、ゴメン! あ…あの、えっと…俺っ」

    謝ろうとしてヒストリアの方を見ると、ヒストリアは顔を真っ赤にして小刻みに震えていた。
    そして黒い瞳には怒りの色に染まっていた。

    「ワ、ワザとじゃ…ないんだけど……な」

    ヒストリアの表情を見て言い訳をするエレン。

    ニコッ
    不意にヒストリアが笑顔を見せた。

    「え?」

    エレンは不思議に思った。


    バッチーン!!

    本日二枚目の紅葉がエレンの頬に出来た。
  27. 27 : : 2013/10/21(月) 19:58:24
    あ、フラグたった
  28. 28 : : 2013/10/22(火) 01:10:28
    カキーン

    「オラ、声出して行け!」
    「「「ハイ!」」」

    パシ!
    ザザッ!

    1年生達が入部してから早いもので2週間が過ぎようとしていた。
    新入部員達は予想以上の練習量に戸惑っていたが、今のところ脱落者は出ておらず何とか先輩達に着いて行こうと頑張っていた。
  29. 29 : : 2013/10/22(火) 01:17:17
    野球部の練習は、ランニングから始まりストレッチ等の準備運動をしてから守備練習打撃練習、筋力トレーニング等、各自のメニューに散らばって行く。
    新入部員達は筋力トレーニングや先輩達の練習のサポート等をしている為、まともな練習には参加していないのが現状だった。

    しかし例外と言うのは居るもので、コニーだけは2、3年生に混じって練習をしていた。
    コニーは今、エレン達と一緒に投球練習をしている。
    エレンとコニーが同時に投げる。

    スパーン
    …スパーン

    ボールがミットに突き刺さる音が響く。
    エレンのボールが届いた後にコニーのボールが届く。
    2週間同じ事をやっていたが二人同時に投げると、ボールの届く順番が変わる事は無かった。

    コニーが隣で投げるエレンを見る。
    そこには真剣な表情で投げるエレンの横顔があった。

    程よく汗をかき、肩が暖まっている事が分かる。
    コニーも同じように暖まっているのだが、エレンのスピードには着いて行けない。
    全力で投げたとしてもエレンはそれを上回るスピードを叩き出す。

    コニーはこの2週間でスピードでは勝てない事を悟った。
    自分でも他の投手よりスピードを持っていると思っていたが、それはエレンに会うまでだった。

    流れるようなフォームでボールを投げる。
    その放たれたボールは速さゆえに、一瞬で捕手のミットに突き刺さる。

    その一連の動作があまりにも綺麗なので思わず見惚れてしまうほどである。
    コニーもまた例外ではなく、目を奪われていた。

    コニーにとってエレンは今までに会った事が無いタイプの投手なので戸惑っていた。
    綺麗なフォームとそのスピード、そしてコントロール。
    どれもが初めてだった。
  30. 30 : : 2013/10/22(火) 01:17:23
    最初はエレンの事を『すぐに全てを越えてやる』と思っていた。
    フォームは今更変える事は不可能で、それに勝ち負けには関係無いので真っ先に諦め、 スピードは筋力的に遥かに及ばなく、それと自分は変化球がベースである為に保留。

    となると最後はコントロール。
    これはどの投手にも付き纏う問題の為、逃げる事は出来なかった。
    しかし毎日エレンの正確なコントロールを見ていると、最後の砦も崩れ去ろうとしていた。

    (はぁ…結局エレン先輩の全てを超えることは不可能なのかな? 残ったのは変化球だけか…けど先輩は変化球なんて投げないからな)

    結局コニーは勝ち負けに拘り過ぎてチームワークの事など考えていなかった。
    実際に中学時代のコニーはそんな事は考えていなく、ただコニーの強さだけでチームが勝っていた。
    強い者に勝つ事により他人に自分の事を認めさせてきたのだ。

    そうなると自分の強さが否定された時、自分より強い者が現れた時、
    今まで築き上げてきた自信が崩れ去ってしまう。
    その事にコニーはまだ気付いていなかった。

    「どうしたコニー?」

    コニーが考え込んで手が止まっているのを気にしてミタビが声を掛けた。

    「あ、スイマセン」

    注意されて投球練習に戻ったが集中できないのか、投球に力が入らない。

    スパーン
    …スパーン

    エレンのボールは今までと変わらなかったが、コニーのボールには勢いが感じられなかった。
    その事は部員全員が気付いていた。
  31. 31 : : 2013/10/22(火) 01:20:33
    「コニーはどんな調子だ?」


    小休止を取っていたイアンがミタビに聞いてきた。
    ミタビは困ったように答えた。

    「ああ、調子悪そうだな。原因はなんとなく分かるけど」
    「やっぱりそうか…前途多難だなミタビ」
    「それに一年達にも不満が出る頃だしな」
    「そうだな、最近の練習じゃ口数が少ないモンな」
    「そろそろ何かのイベントを考えないといけないかな?」
    「イベントって言うと紅白戦でもやる気か? オレは止めた方が良いと思うぜ」
    「コニーの事か…まだ早いと思うか? チーム全体の事を考えると、そうも言ってられないだろ」

    ミタビにはイアンの言わんとする事が分かっていた。
    しかしコニー一人の事でチーム全体が嫌な雰囲気になることを恐れていた。

    「今年の一年はデリケートな奴が多いからな」
    「そうなんだよな…去年はライナーのような奴等だったから、違う意味で手を焼かされたんだ。…全く個性的な奴ばっかだぜ」
    「アハハハ」

    暗くなりそうなのでイアンは茶化すように言ったが、ミタビは本気で答えを返してくる。
    引きつった笑いしか出ないイアンだった。
  32. 32 : : 2013/10/22(火) 01:22:01
    眠いのでここまでです。
  33. 33 : : 2013/10/22(火) 19:53:19
    気になりすぎて夜しか眠れない。

    どうしよう
  34. 34 : : 2013/10/26(土) 17:37:00
    まだかなまだかな
  35. 35 : : 2013/10/26(土) 19:14:21
    ミカサ「このSSはとても面白い…、
    ので、続きを速く書くべき。」
  36. 36 : : 2013/10/29(火) 16:07:23
    ここにもミタビとイアンと同じようにチームの事で悩んでいる者が二人。
    二人とも奇麗な髪を持ち、一人は金色の髪、もう一人は黒い髪の少女。
    野球部のマネージャーのアニとヒストリアである。

    「なんか元気無いですね、みんな…」
    「そうね、一年生達にはちょっと不満だろうね? まともに練習に加わっているのはコニーだけだから」
    「も~、ほら! みんな頑張って!!」
    「「「オウ!」」」
    「はあ。駄目だね1年生は…」

    ヒストリアが激励を飛ばすと2、3年からは返事が返ってくるが1年からは返ってこなかった。
    アニがそんな事を考えているとエレンがこちらの方を見ている事に気付いた。

    (ん? エレンがこっち見てる。けど、はあ…こっちはこっちで問題がありそうだね)

    チラリとヒストリアの方を見ると怒ったような顔をしてそっぽを向いている。
    二人は初日以来ずっとこの調子だった。
    エレンが心配そうにヒストリアのほうを見ても知らん振りで、たまにヒストリアが話し掛ける事があっても事務的でしかも短い。
    アニがいくらフォローを入れてもヒストリアは頑として聞き入れなかった。
    エレンの方も「しょうがないよ」と言うだけだった。

    (けどエレンらしくないね)
  37. 37 : : 2013/10/29(火) 16:07:31
    アニの考える事はもっともだった。
    エレンがあんな事を仕出かしたのに、ヒストリアに対して謝るどころか言い訳すらしないのだ。
    普段のエレンらしくない、それどころか避けているような気もする。
    そのくせ気になるのかチラチラとヒストリアの方へ視線を送らせるのだった。

    (うん。絶対に何かありそうだ)

    「よーし今日はここまで!!」
    「「「オウ!」」」
    「あ、今日はもう上がりみたい。 ヒストリア行くわよ」
    「ハイ!」

    キャプテンの終了の号令を合図にアニとヒストリアはみんなにタオルを渡す為に走って行った。

    「「お疲れ様ー はいどうぞ」」

    二人は部員達一人一人に渡して行く。
    しかしアニはエレンには渡そうとしなかった。
    エレンとヒストリアが話すきっかけを作ろうとしているのだ。

    だがヒストリアは他の部員達とは明らかに違う態度、事務的な仕草で渡すだけだった。
    用が済めばそそくさと別の場所に行ってしまう。
    エレンもエレンで、ただ「ありがとう」の一言だけしかしゃべらない。
    アニにはそれがもどかしくてしょうがなかった。

    「もう、何やってんだいあの二人は!」
    「二人ってエレンとヒストリアの事か アニ?」
    「あ、ライナー。 そうなのよ、全くあの二人はずっとあの調子なんだから…」
    「でもおまえの事だから色々とお節介を焼いたんだろ? それでも駄目なのか。相当重傷だなこりゃ」

    最早打つ手無しの状態であった。
  38. 38 : : 2013/10/29(火) 16:17:09
    「なあイアン、最近はやらないのか?」
    「ルークか、何だいきなり?」

    後ろからいきなり声を掛けられイアンは驚いた。
    だがルークは気にせずに喋り続ける。

    「勝負だよ! エレンとの勝負!」
    「そう言えば最近はやっていなかったな…」

    イアンとエレンの勝負は1年が入ってきて以来やっていなかった。
    ミタビとこれからの事を話していてその事をすっかり忘れていたのだ。

    「どうだ? 景気付けに一発?」
    「…いや、今日は止めとく」

    イアンはエレンと勝負をする事により、1年が自信をなくす事を恐れた。
    それにも増して本気のエレンを見て、コニーに対する影響を考えていた。
    コニーの実力はかなりの物だが、イアンに言わせればまだ実力不足である。
    やはり上を見ればきりが無く、今のコニーに匹敵する投手など全国にはゴロゴロ居る事が分かっていた。

    もっと真面目に練習をすればと常々思っていた。
    実際にコニーは練習が好きな方ではなくセンスだけで投げていた。

    そんな事を考えているとそのコニーから声がかかった。

    「勝負って何ですかイアン先輩?」
    「コニー? ああ…いや、その」

    コニーはプライドが高く「勝負」と言う言葉には結構敏感だった。
    そのドモっているイアンに代わりルークが答えた。

    「ああ、イアンとエレンの1対1の勝負なんだ」
    「ホントですかそれ? オレも見てみたいです!」
    「イアン先輩とエレン先輩の勝負だって? オレも見てみたいです!」

    コニーの声につられてあちこちから声が聞こえてくる。

    「ル、ルーク…」

    時既に遅し。1年もその二人の対決が見たくて目を輝かせている。
    それを不安そうに見ているミタビ、それ以外は二人の対決に喜んでいた。

    結局イアンとエレンの対決が始まってしまった。
  39. 39 : : 2013/10/29(火) 16:27:43
    エレンはマウンドに、イアンはバッターボックスに立った。
    ちなみにマルコも捕手として参加している。

    (それにしても久しぶりだなマルコ)
    (1年生が入部してからやっていなかったからね)
    (でもこっちとしては好都合だ)
    (アレを投げる気かい?)
    (そうだな、1球目から行くか)

    エレンとマルコの相談は終わり投げる態勢に入る。
    しかしエレンは普段とは異なり、念入りにボールの握り方を調整している。
    その事にライナーとベルトルトは気付いた。

    「エレンの奴、やる気だね」
    「遂にアレが日の目を見るか」
    「どうしたの? 『やる気』だとか、『アレ』って何なの?」

    二人のやり取りを見ていたアニが質問して来た。

    「アニか…見ていれば分かる」

    二人は今まで以上に緊張して見ていた。
    その迫力に押され、アニも仕方なく見ている事にした。

    エレンがいつもと同じフォームで投球態勢に入る。
    だがボールの握り方だけは違っていた。
    人差し指と中指でボールを挟み込んでいた。

    ビッ
    いつもより若干遅めのボールだった。
    そのボールはいつも通りまっすぐに進んでいく。

    (打てる!)

    イアンは瞬時に判断し、タイミングを合わせてバットを振り抜く。
    バットは寸分の狂いも無くボールに向かっていく。

    ストン!
    ブン!

    だが、ボールに当たることは無かった。
    バットに当たる瞬間にボールが落ちたのである。
    落ちるタイミングとコントロールは絶妙で、イアンにとっては何が起きたのか分からなかった。

    「まさか…フォークボールか……」

    かろうじてミタビが口を開いた。
    エレンが変化球を投げるとは思っていなかったのだ。
    今までは誰よりも速い球とコントロールで勝負をしてきたが、そのエレンが変化球を身につけた。
    最後にイアンと勝負をしてからわずか2週間足らずで、完璧にフォークボールを使いこなしたのだ。
    これには誰もが脱帽した。

    今までの速球に加えてこのフォークボールが加わった。
    この事はイアンにとってはショックだった。
    只でさえエレンとの勝負には神経を擦り減らされていたのに、今まで以上のプレッシャーが掛るのだ。
  40. 40 : : 2013/10/29(火) 16:28:31
    「何て奴だ…」

    それに加えて鋭い読みのマルコも居る。
    マルコは常に裏をかいてくるため、イアンも痛い目にあっている。
    しかしそれは極稀な事であり、滅多にマルコがでしゃばる事は無かった。

    (まずいな)

    イアンは心で呟いた。
    しかし心で思っている事は表情には出さなかった。
    表情に出たら最後、エレンとマルコのプレッシャーに負けてしまいそうだった。

    エレンが再び投球態勢に入る。
    帽子のツバから見える目はいつもより鋭く感じられる。
    普段からは想像も付かない眼光であった。

    (ス…スゴイ。これが本気のエレン先輩なの?)

    その鋭い目に惹かれる者、ヒストリアはエレンに魅入っていた。
    普段はエレンの事を『いやらしい男子』と思っていたが、初めて本気のエレンを見てその印象は急変した。
    ただ優しいだけの人ではなく、闘う男の一面も持っている事を知り、ちょっとだけエレンの事を見直したようだった。

    ヒストリアがそんな事を思っているとは知らず、エレンは2球目を投げた。
  41. 41 : : 2013/10/29(火) 16:41:49
    結局、その日の勝負はイアンの負けだった。
    しかも1球もバットに当たる事は無かった。
    やはり最初のフォークボールが効いていたらしくかすりもしなかったのだ。

    この事に2、3年生は狂喜乱舞したが、1年生にとってはショックだった。
    2週間も経てばイアンの実力というのが分かったのだが、エレンの場合は2週間経って初めてその実力の一片を見る事ができたのだ。
    いつもボケボケっとしていながらコニ―より速く正確な球を投げていたが、それが全てでは無かった。
    1年生達は改めてエレンの実力を知った。

    フォークボールを投げた事。
    それはコニ―にとっても衝撃的だった。
    変化球だけは自分が勝っていると思っていたが、その自信も崩れ始めて来た。
    エレンはたった1球のフォークでイアンに勝ったのだ。
    自分だったらどう変化球を駆使すればイアンに勝てるかと、いや勝てるかどうかも分からなかった。

    「けど、このままじゃいけないよな…」

    コニ―にとってエレンとイアンは初めて経験する大きな壁であった。
    そしてここにもエレンに対する認識を新たにする者が居た。

    「エレン先輩ってスゴイんですね~」
    「やっと気付いたようねヒストリア。けど今日のエレンには私も驚いたよ」

    アニとヒストリアである。

    「まさかエレンが変化球を投げるなんてね」
    「そうですよね。いっつもストレートしか投げなかったのに…。練習じゃそんな事していなかったのに、いつのまに投げれるようになったんですかね?」

    何気ないヒストリアの言葉だったがアニの目がキラリと光った。

    「へ~、口ではエレンの事を嫌がっていても結局気にしてるんだね」
    「あ…」

    途端にヒストリアの顔が赤くなる。

    「ち、違います! マネージャーとして部員達の状況を把握する為に」
    「ヒストリアちゃんってホント可愛いんだねえ」
    「先輩…」

    アニには勝てないヒストリアだった。

    「でも、イアン先輩と闘った時のエレン先輩。いつもと雰囲気違いましたよね」
    「ひょっとして惚れたとか? エレンって意外とカッコイイからね」
    「ち・が・い・ま・す!! ただ、あんな顔もするんだなって思っただけです!」
    「フフ、確かに普段とのギャップがあるわね。けどそれだけ野球が好きなのよ。」
    「そうですね…」

    1年生は全員エレンに対する見方が変わった。
    そして次の日、コニ―はある決意を秘めて部活に挑んだ。

    「イアン先輩、オレと勝負をして下さい」
  42. 42 : : 2013/10/31(木) 19:54:08
    いや、見てる

    ずっと見てる

    続き待ってる
  43. 43 : : 2013/11/02(土) 13:23:14
    はーやーくぅー
  44. 44 : : 2013/11/04(月) 19:03:27
    まだですか?
  45. 45 : : 2013/11/07(木) 20:48:16
    超期待!!
  46. 46 : : 2013/11/10(日) 01:49:34
    まだエレアニの可能性はあるんだろ?
  47. 47 : : 2013/11/11(月) 19:57:53
    >>1 支援
  48. 48 : : 2013/11/11(月) 20:06:06
    は、はやく・・・
  49. 49 : : 2013/11/11(月) 20:07:10
    エレアニの可能性はないかもしれないけど…
    エレヒス?があるんだと思うから支援!!
  50. 50 : : 2013/11/11(月) 21:06:48
    お.......い......
  51. 51 : : 2013/11/12(火) 17:06:59
    エレアニの可能性なったら嬉しいけど、それ以前にこの作品はとても面白いので期待
  52. 52 : : 2013/11/14(木) 20:03:27
    これはクリスタとヒストリアが別人?なのかな
    早くミカサとアルミンが出て来て欲しいです!
  53. 53 : : 2013/11/14(木) 21:24:17
    おそしぎでしょ
    放置?
  54. 54 : : 2013/11/15(金) 01:44:50
    やっと追いついた〜
    まず、一言 面白過ぎだ(つД`)ノ
    こんな時間になるまで見入ってしまった。
    期待&支援!!
  55. 55 : : 2013/11/17(日) 14:44:40
    もうすぐ3週間だぞ・・・
  56. 56 : : 2013/11/18(月) 17:08:29
    エレンたヒストリアがどうなるのか知りたい…ので、早く続きを書くべき。
  57. 57 : : 2013/11/21(木) 21:26:53
    頼むよー

    気になって夜しか眠れない
  58. 58 : : 2013/11/21(木) 22:06:35
    >>57 十分ですよw
  59. 59 : : 2013/11/21(木) 22:06:49
    >>57 十分ですよw
  60. 60 : : 2013/11/21(木) 22:07:38
    あれ?2つでた?
  61. 61 : : 2013/11/23(土) 12:29:30
    まっだかな〜
  62. 62 : : 2013/11/26(火) 23:17:56
    気になって授業中寝れません
  63. 63 : : 2013/11/27(水) 00:04:49
    突然の消失申し訳ありません。
    仕事が忙しかったのと海外出張で日本にいませんでした。

    これ以上は言い訳になるので、ぼちぼち投稿していきます。
  64. 64 : : 2013/11/27(水) 00:07:48
    キターーーー(((o(*゚▽゚*)o)))

    お仕事お疲れ様でした( ̄^ ̄)ゞ 無理せず、自分のペースでやってくださいm(_ _)m

    期待&支援!!
  65. 65 : : 2013/11/27(水) 00:19:21
    「まずいな……」

    イアンは打席でそんな事を考えていた。
    自分は打席に立って、コニ―はマウンドに居る。
    他の部員達は二人の対決を興味深く観ている。

    「エレン、やっぱりイアン先輩が勝つと思うか?」

    ライナーが尋ねた。

    「ああ、十中八九そうだろう。イアン先輩は目も良いし、バットの振りも早い、何より読みが鋭いからな」
    「……じゃあ何でオマエは勝てるんだ?」
    「俺か? そりゃあマルコが居るからだ。ウチのチームで1番読みが鋭いのはイアン先輩かマルコだと思うぞ」
    「な、なるほど……」

    ライナーは初めて聞く事実にちょっと驚いた。
    しかし、エレンとマルコの二人だからこそ勝てる事は分かっていた。

    「それに、勝負を決める決定的な物があるんだ。それを何とかしない限り、コニ―に勝ち目は無い」
    「決定的な物? 何だそれ? 何でオマエが知ってるんだ?」
    「俺も投手だからだ。けどイアン先輩やマルコもその事に気付いている」
    「決定的な物か……」

    エレンは黙って二人の対決を見る。
    ライナーは以前コニ―の投球に感じた物足りなさを思い出していた。

    「何か妙な事になっちまったなミタビ」
    「どうなっても知らないぞルーク」

    こっちではミタビとルークが二人の対決を見ていた。

    「どうって…。ひょっとして1年達の事か? いい機会だろ、自分達の力というのを認識させるには」
    「軽く言うなよ。これでもし自信無くされたらどうするんだ?」

    ミタビは本当に困っていた。
    折角入部してくれた貴重な戦力なのに最悪の場合それが無に帰してしまうのだから。
    だがルークの考えは違っていた。

    「ミタビ、これは遅いか早いかの違いなんだ。大切に育てたい気持ちは分かるが、それだけじゃ上手く育てることは出来ないぞ」
    「もし駄目だったらどうする気なんだルーク?」
    「その時はキッパリ諦めるしかないな。所詮それまでの奴だからな。エレンを見てみろ、親善試合と言う大舞台で敗けたにもかかわらず着実に力を着けている。コニ―にその気があるんだったら良い機会じゃないか。その気が無いんだったら……そんな奴はウチのチームにはいらねーよ。オレ達は甲子園を目指しているんだぜ。半端な気持ちじゃ駄目なんだよ!」
    「そうだな……そうだよな」

    ミタビはルークの野球に対する想いを聞いて納得した。
  66. 66 : : 2013/11/27(水) 00:22:28
    「どうしたものか……」

    イアンは非常に困っていた。
    コニ―に勝つ自信はあるのだが、その後の事を考えるとどうすればいいのか分からなかった。

    「どうしますイアン先輩?」

    捕手であるマルコが尋ねた。
    彼もまたコニ―に勝ち目が無い事は分かっていた。

    「さっき話して来たら、配球は自分に任せてほしい。
     だそうですけど」
    「弱ったな……」

    困り果てたイアンは、助けを求めるようにキャプテンであるミタビを見た。
    しかしミタビは小さく頷くだけだった。
    それを見た二人は腹を決めた。

    「仕方がないか……」
    「キャプテンが言うんですから全力で闘って下さい」
    「だな」

    イアンの目の色が変わる。
    エレンと闘う時の目の色――闘う時の目に変わった。

    「コニ―! いつでもいいぜ!」
    「お願いします」

    そして闘いの火蓋は切って落とされた。
  67. 67 : : 2013/11/27(水) 00:23:33
    やっときましたか!!
    頑張ってください!!
  68. 68 : : 2013/11/27(水) 00:27:17
    マウンド上に居るコニ―は様々な想いを馳せていた。

    (変な気分だな。ここにはいつも居たのに、こんな気持ちになるのは初めてだ……。けどイアン先輩に勝たなければ意味が無い。でなければエレン先輩にも勝つ事が出来ない。もし勝てなかったら…その時は……)

    コニ―は打席に立つイアンを真っ直ぐに見ていた。
    そしてイアンもコニ―の事を見ていた。

    (手加減はしないぞコニ―。この勝負が吉と出るか凶と出るか、それはオマエ次第だからな)
    イアンはグリップを握り締めた。

    コニ―は大きく振りかぶりボールを握る手に力を入れる。

    (先ずは様子見で外へのストレートだ)

    コニ―の腕が勢い良く振り下ろされ、ボールは放たれミットに向かって走る。

    スパーン!

    イアンは動かなかった。
    コニ―の投げたボールはストライクゾーンからは外れていた。

    (矢張り最初は様子見か...)

    イアンは足場を確認し態勢を立て直す。
  69. 69 : : 2013/11/27(水) 00:34:16
    コニ―は捕手のマルコからボールを受け取り、初球の事を考えていた。

    (ピクリとも動かない…やはり読まれたか。それにしても何て威圧感なんだイアン先輩。よくエレン先輩はやっていられるな、神経が擦り減ってくるよ)

    改めてエレンとイアンの力を知った。
    そして気持ちを新たにして次に投げるボールが決まり、2球目のモーションに入る。

    (次は懐に切り込むシュートでいく)

    コニ―が投げるとボールはキャッチャーミットに向かって走る。
    しかし今度は変化球の為、徐々に曲がる。

    だが、コースはやや甘く、思っていたより切れがなかった。

    (マズイ!)
    (いける!)

    二人は同時に思った。

    ガキン!

    ボールは明らかにホームランだと分かる勢いで一直線に飛んでいく。
    しかしポールの外側にいってしまいファール。

    「あんなに簡単に持ってかれるなんて……。ミスは許されないか」

    コースが僅かに甘かっただけで、あわやホームランにされる所だった。
    返球されたボールを受け取りながらコニ―は冷や汗を流した。

    (次は……)
    コニ―は先程より考えていた。

    (ちょっと狙いすぎたかな?)
    打席でバットのグリップを握り直しながらイアンは考えていた。

    「さすがですねイアンさん。あのボールを打つなんて」

    マルコが聞いて来た。
    イアンは当たり前だ、と言わんばかりの表情で答える。

    「オレが見逃すとでも思ったか?」
    「でも、彼は自分の弱点に気付いていないみたいですね。それとも認めたくないだけなんですかね?」
    「恐らくは後者だろう。だがそれを認めない限り、克服しない限りアイツはそれまでの男だ」
    「辛いですね」
    「そうだな」

    二人は次のボールを待った。
  70. 70 : : 2013/11/27(水) 00:44:34
    「今の打球で彼、相当追い込まれたわよ」

    アニはいつになく真剣な顔で二人の対決を見ていた。
    その横には心配そうに見ているヒストリアが居る。

    「どうなるんですか? やっぱりコニ―は負けちゃうんですか?」
    「今のイアン先輩を見る限り、手加減はしていない。エレンでも、今のイアン先輩には勝てるかどうか分からないからね」

    アニの声には感情が篭って居なかった。

    「じゃあ……」
    「そう言う事だよ」
    「……」

    ヒストリアの不安はアニの一言で一気に膨らんだ。


    ザッ
    コニ―が動いた。

    グッ
    合わせてイアンも動く。

    (どうするコニ―?)
    マルコは緊張した。

    (下手な小細工は通じない。だったら決め球で勝負する!)
    ビッ!
    コニ―は決め球であるスライダーを投げた。

    しかしイアンはそれを読んでいた。

    (ストレートも駄目、甘い変化球も駄目となると、決め球のスライダー以外ない!)
    ザッ!
    スライダーに的を絞り左足を踏み込む。
    ボールは予想通り曲がっていく。

    カキン!
    バットの芯に綺麗に当たる。

    (な、打たれた!?)

    コニ―は愕然とした。
    こうも綺麗に打たれ、しかも完璧に読まれていた。

    打球は大きく伸びていく。

    「いったな」
    「ああ、いった」

    ライナーとエレンは、ただそれだけ話した。

    ボールはフェンスを大きく越えていった。
    それを呆然と見ている1年生部員達。
    何の感動も無く見ているエレン達。
  71. 71 : : 2013/11/27(水) 00:50:32
    そして――

    打たれた事を信じようとしないコニー。

    「うそだ! オレの投げたボールが打たれてたまるか! 偶然だ! たまたま振ったバットに当たっただけだ! オレの投げたボールが打たれる事は無いんだ! オレが負ける筈は無いんだ!」

    コニ―は力の限り叫び現実を信じようとはしなかった。
    今まで決め球であるスライダーで多くの打者を打ち取って来たのにこうも簡単に打たれたのだ。
    しかも完全に読まれていた。
    コニーの自信は崩れ始めた。
    それに対してイアンは自分を正しく見ようとしないコニーに対して厳しく言い放つ。

    「そうか、だったらオマエの気が済むまで相手をしてやるぜ」
    「な、バカにしやがって!」

    コニーはその一言に怒り、冷静さを失っていた。


    「自分の負けを認めないとは見苦しい奴だな。エレン、やっと分かったぜ、アイツに足りないモノ、アイツの弱点が」
    「そう、コニーの弱点は、球威が無さ過ぎるんだ」
    「ああ、イアン先輩がオマエの時より力を入れていなかったからな、しかもワザと。それでもあんなに飛ぶんだ、誰だって分かるさ」

    ライナーの言う通りイアンはそんなに力を入れてバットを振っていなかった。
    力の入っていない軽いボールなど、バットにさえ当てれば長打は確実である。

    「才能があるってのも考えモノだな。センスだけで投げて下積みを疎かにしてしまう。その結果がアレか……もったいない」

    イアンとコニーの勝負はそれからまだ続いた。
    しかしイアンを打ち取ることはなく、次の日からコニーは姿を見せなかった。
  72. 72 : : 2013/11/27(水) 00:55:30
    「とうとうアイツが来なくなってから1週間が経ったな」
    「やっぱりショックだったんだろうな」
    「それに1年達も結構辞めていったしな……」

    コニーが負けてから1週間が過ぎていた。
    あまりにも一方的なイアンの勝利の為、1年生達は自信を無くしてしまい次々と退部していく。
    やはりコニーですら勝てなかったのに自分達がどう足掻いても無駄だと思い込んだのだろう。

    その為、入部当初22名居た新入部員は既に半分を切っていた。
    マネージャーであるアニとヒストリアも、そんな1年生部員達を見ていた。

    「部員、減っちゃいましたね…」
    「そうだね。でも半分ぐらい残っているから良い方じゃないの?」
    「でもそれじゃあ」
    「いい、ヒストリア。あんたの言いたい事は分かる。けどこれが現実なんだよ。アレぐらいで自信を無くすようなら、この先着いて行けない」

    アニは冷たく言い放った。

    「そうなんですか…」
    「ええ、そうよ。弱ければ去るしかない。けど強ければ…その時は戻ってくるはずだよ」
  73. 73 : : 2013/11/27(水) 01:01:38
    「お疲れ様でした」
    「お先に失礼しまーす」
    「お疲れです」

    部活の時間が終了し、部員達がそれぞれの帰路に着こうとしていた。
    マネージャーであるアニとヒストリアはその役割から一番最後まで残っていることが多く、今日もまた部室を最後に出た。

    「カギも閉めたし、忘れ物は無いわね。さて、帰ろうかねヒストリア」
    「あ、スイマセン。私今日約束あるんで……」

    いつものヒストリアならはっきりとしゃべる筈なのに、この時に限って言葉を濁した。
    その仕草からヒストリアの真意を読み、アニは真摯な態度で話した。

    「いい、これだけは忠告しておくよ。最後に結論を出すのは自分自身。私達はその手助けしか出来ないんだ。エレンもイアン先輩も自分自身で答えを見つけたからここに居るの」
    「エレン先輩もイアン先輩もってどう言う事ですか?」
    「つまり、そう言う事。さ、行きなさいヒストリア」
    「あ、ハイ…」

    ヒストリアは二人に何があったのか聞きたかったが、辞めていった部員達の事も気になっていたので、そちらの方を優先することにした。
    アニはそんなヒストリアの後姿をずっと見ていた。
  74. 74 : : 2013/11/27(水) 01:08:17
    「よ、遅かったなアニ」

    アニが帰り支度終えて校門に来ると、いつものライナー達四人が待っていた。

    「ん? ちょっとね」
    「なんだそりゃ? ま、早く帰ろうぜ」

    ライナーが促したがそこにマルコが入ってきた。

    「そう言えばヒストリアさんがまだ来ていなかったけど……」
    「ヒストリアは用事があるから遅くなるってさ」
    「え? 遅くなるって、ヒストリアが?」

    そこにエレンも入ってきた。

    「ああ、そうだよ」
    「へー、遅くなるんだ」
    「女の子が遅くまで残る、そして帰りは一人かな……」

    アニ、ベルトルト、ライナーは順々にエレンを見て話す。
    無論3人の目は笑っているが鈍感なエレンはそれに気付かない。

    「あ、ゴメン。忘れ物があったから戻る。遅くなると思うから先に帰っててくれ」

    それだけ言うとエレンは校舎の方に戻って行く。

    「やっぱりヒストリアの事が心配なのね」
    「全くだ、もっと素直になればいいのにな」
    「ひょっとして恥ずかしいのかな?」

    ライナー達はそれぞれ勝手な事を言っていた。

    その頃、ヒストリアはある部員を探していた。
    辞めて行った大半の部員達は放課後になると早々に帰るのだが、一人だけ遅くまで学校に残っている事を知っていた。
    その部員は辞めて以来、屋上から野球部の練習風景をずっと見ていた。

    「もう帰っちゃったかな?」

    ヒストリアは大急ぎで屋上に向かった。
    そして屋上には、目が死んでいるコニーが立ち尽くしていた。
  75. 75 : : 2013/11/27(水) 01:12:53
    日は既に傾き太陽は今日の役目を終えようとしている。
    最後の仕事として周りの物全てを茜色に染めていく。

    その光景は見るもの全てに感動を与えるのだが、屋上には例外があった。
    光の宿らない目で、何の感動も無く、只落ちていく太陽をその例外である少年は見ていた。

    いつからここに居るのだろうか?
    いつまでここに居るのだろうか?

    それは誰にも分からない、本人ですら分からないのだから…
    今の彼は何も考えておらず、時間だけが過ぎていた。

    不意に背後のドアがガタンと音を立てて開かれた。
    そこに一人の少女が現れた。
    少女は黒い瞳と髪を茜色に染めて少年の方を見詰めた。

    だが少年はそんな事には関心が無いのか、落ちていく夕日を見続けた。
    少女は目の前に人が居るのに、本当はそこに居ないのではと思える位その少年の気配を感じ取れなかった。

    そして耐え兼ねた少女は一言だけ発した。

    「コニー…」

    少年の名はコニー・スプリンガー。
    少女の名はヒストリア・レイス。

    野球部だった者。
    そして野球部である者。

    二人の間には何とも言いようの無い沈黙が支配していた。
  76. 76 : : 2013/11/27(水) 01:19:51
    1週間前の勝負でコニーの自信は完全に崩壊した。

    決め球のスライダーが打たれてからは面白いようにストレート、シュート、スライダー、全てのボールを完全に読まれていた。
    何を投げても打たれてしまい、最後はコニーの体力が尽きてその時点で勝負は終わった。
    それ以来コニーは野球部に来なくなった。

    今まで築き上げて来た自信が砕かれて、今までの自分を否定された。
    誰も自分の事を見てくれなくなった。

    そしてコニーは自分の殻に閉じ篭った。
    無関心で、誰とも話さずに、全てから逃げ出して一人になった。

    だがそんなコニーの後ろにはヒストリアが居た。

    同じ1年生であるから。
    同じ野球部だから。
    そして同じく野球が好きだから。

    ヒストリアはコニーにもう一度野球部に戻ってほしかった。
    純粋にチームメイトを心配していた。

    「コニー……」
    「……」

    ヒストリアはコニーの名を呼んだがコニーは答えない。
    距離にしてみればヒストリアとコニーの間はそんなに遠くはないのだが、今のコニーを見ると、とても遠く感じられた。
    近づいても近づいてもその距離は縮まらない。
    ヒストリアにとってはそれ位に感じられた。

    だが何とかしてコニーの元に行かなくてはならない。
    コニーを説得しなければ……、コニーを助けなければならない。
    それが今の自分、マネージャーとして自分が成さなければならないとヒストリアは思っていた。

    「コニー」

    ヒストリアは再び呼んだ。
    すると今度は反応があり返事が返ってきた。

    「マネージャーか。今更オレに何の用だ? 野球部を辞めたオレに」

    だがそこに居るコニーからは精気は全く感じない。
    かつての自信は見る影も無く、その目には絶望の色が宿っていた。
    それを見たヒストリアに悪寒が走った。

    (これがあのコニーなの? 私は本当に彼を連れ戻せるの?)

    その時、ヒストリアの頭に先程のアニの言葉が走る。

    『最後に結論を出すのは自分自身。私達はその手助けしか出来ないんだ』

    アニの言葉が今になってようやく分かった。
    自分が何を言ったとしても彼には届かない、所詮は他人なのだから。
    どんなに綺麗事やお題目を並べても彼の自信を修復する事は出来ない。

    それは彼自身が答えを見つけなければならない。
    再びグラウンドに戻るのは彼自身なのだから。
    野球をするのは他でもない彼自身なのだから。

    だから自分にはその手助けしか出来ない。
    どんなに自分が願ってもそれを決めるのは彼なのだ。

    その事が今になって分かった。

    (だから…)

    ヒストリアは自分の手を強く握り締め、勇気を振り絞る。

    (だからこそ、今ここで……)

    ヒストリアは決心した。
  77. 77 : : 2013/11/27(水) 01:24:51
    エレンは一人下駄箱のところでヒストリアを待っていた。

    「何やっているんだ俺は……」

    既に大半の生徒が下校して辺りは静まり返っていた。
    エレンは壁に背を付けて考えている。

    「ヒストリア…レイスか。黒い瞳、黒い髪…それ以外は似ている。色の白い肌、しゃべり方、仕草、性格。僕の妹…クリスタに…」

    自分の妹のクリスタに似ている為、似すぎている為に気になってしまう。
    エレンはヒストリアに妹のクリスタの影を重ねているのかもしれない。
    時々妹のクリスタと間違えてしまうほど似ているのだから。

    だが現実にはエレンの妹はもう居ない。
    そしてヒストリアによって、その事実がを嫌でも思い出す。
    昔のエレンならそうなってもおかしくないのだが、今は何故か違っていた。

    妹の事は思い出としてしまう事が出来たのか。
    ヒストリアを自分の妹と思い込もうとしているのか。
    あるいは一人の女の子として見ようとしているのか。

    エレンは自分の気持ちが分からなくなっていた。

    「あれ? ひょっとしてコニーか? …何をやっているんだ?」

    エレンのいる位置から屋上にいるコニーの事が見えた。
    その瞬間、嫌な予感が走った。
  78. 78 : : 2013/11/27(水) 01:31:59
    「本当に辞める気なの?」

    ヒストリアは恐る恐る聞いた。
    コニーは表情を変える事無く言い放つ。

    「ああ、辞めるよ」

    予想通りの答えが返ってくる。
    ヒストリアは更に一歩踏み込んでコニーとの距離を詰める。

    「本当にそれでいいの? そんなに簡単に辞められるモノなの? キミにとってそんなものだったの?」
    「……」

    コニーは何も答えない。

    「もう一度考え直してみて、本当にそれでいいのかを。今は無理だけどこれから頑張れば先輩達を追い抜く事が出来るかもしれないのよ」
    「無理だよそんな事。オレは自分の事を特別だと思って来たんだ。だけど上には上が居るんだよ、エレン先輩やイアン先輩のようにね。あの二人が居れば何の問題も無いよ。だから…ここの野球部にオレの居場所は無い」

    今度はヒストリアが黙ってしまった。
    慰めの言葉など何の意味を持たない、却って傷つけるだけ。
    何の言葉を掛けてあげればいいのか思い浮かばなかった。

    「誰もオレの気持ちなど分からないさ…。オレと同じように絶望を味わった奴以外にな」
    「な、何言ってんのよ。たった一度負けた位で、キミは1年なんでしょ。だったらまだこれからじゃない。落ち込む気持ちは分かるけど…でもそれじゃ何にもならないわ」

    何とかコニーを奮い立たせようとしたが、返って逆効果になってしまいコニーの目に怒りが現れた。

    「オレの気持ちが分かるだって…。オマエにオレの何が分かるって言うんだ! ただ見ているだけのオマエに分かってたまるか! オマエみたいのを偽善者って言うんだよ! そうやって人の心にズカズカと土足で入り込んで、知った風な事を言って、奇麗事を言って、さも自分が良い事をしたと思っていやがる! 大嫌いなんだよオマエみたいな奴は!!」
    「イ…イタイよ……コニー」

    気が付くとコニーは力任せにヒストリアの胸倉を掴んでいた。
    いきなりの出来事に驚いた。コニーの目に怒りと憎しみが篭り、ヒストリアは恐くなって来た。
    自分のした事が間違っていたとかそう言う事ではなく、目の前に居るコニーの事がただ怖かったのだ。
    コニーはヒストリアの気持ちなど構わずに更に力を入れる。

    「コ……コニー………離して…お願い」

    うまく話す事が出来ず、恐怖からカチカチと歯を鳴らし、目から涙が出てくる。
    いつもの元気は無くなりそこに居るのは恐怖に怯える少女だけであった。
    それが返ってコニーの加虐心をくすぐり、ニヤリとコニーの顔が歪む。

    「……え? 嫌…離して、た…助けて……」

    ヒストリアには何が起こったのか分からなかったが、本能的に危険を感じてコニーから逃れようと暴れ出した。
    しかし力で勝てる筈も無く、逃げる事は出来ず、もがいているだけだった。
    そしてヒストリアの体が壁に押し付けられ、逃げ場は完全に無くなった。
  79. 79 : : 2013/11/27(水) 01:39:30
    「イヤアアアアァアアァァアア!! 誰か助けて! 怖い、助けてぇ!!」

    ヒストリアは最早まともではいられなくなった。
    大きく目を見開いて声を上げて暴れる。何とかして目の前のコニーから逃げ出したかった。
    だがコニーはそんなヒストリアを嬉しそうに眺め、更に顔を歪ませる。

    「オレの気持ちが分かるんだろ? だったらオレの事を慰めてくれよ。オレと一緒の絶望を味わってくれよ」

    乱暴にヒストリアの胸を掴み力任せに握るとヒストリアが叫び声を上げた。

    「イタイ、イタイよ! お願いだから止めて!」

    声を大にして懇願するがコニーは止めようとはせずヒストリアの制服を乱暴に引き剥がそうとする。
    コニーに狂気が宿った。

    「ハハハハハハ! オレと同じ絶望を味わってくれよ。この偽善者め!!」
    「ア…アゥ…ウゥ……」

    恐怖からヒストリアは自分が何を言おうとしていたのか分からなくなり、足が竦んで立っていられなくなった。
    目は大きく開かれ、ただ1点を見いるだけ、足はガクガクと力が入らない、そして頭に浮かぶのは絶望の二文字だけだった。

    バキ!

    しかし、いきなり目の前に居るコニーが殴り飛ばされた。
    ヒストリアには何が起きたのか分からない。
    だが、今の自分の目の前には、自分を護るようにして立つ少年の後ろ姿だけが見えた。

    「ア…ウァ」

    ヒストリアはまだ恐怖に取り憑かれている為、ろれつが回らないでいる。
    ただ、少年の背中だけを見ていた。

    「ヒストリアに何をする!!」

    少年はヒストリアの事を護るようにコニーの事を怒鳴り飛ばした。
    ヒストリアはその一言で自分が助けられた事を自覚した。
    それと同時に安心感からか涙が溢れ出て、少年に抱き着いて泣いた。
    少年はヒストリアを優しく包み込み安心させるように声を掛けた。

    「大丈夫か、ヒストリア? 俺が護るから」
    「ウ、ウゥ……ありがとう」

    少年の胸の中でヒストリアは安心したように泣いている。
    まるで自分の為にこの場所、少年の胸があるように思えた。
    恐怖はいつの間にか取り除かれ、安堵の表情を浮かべている。
  80. 80 : : 2013/11/27(水) 01:46:48
    「エレン…先輩」

    コニーは憎しみを込めて少年の名を呼ぶ。
    その名を聞き、ヒストリアは自分を護ってくれた少年の顔を見上げた。

    「エレン先輩…」

    エレンが護ってくれた事をようやく理解できた。
    そしてエレンの顔は大切な人を護る、男の顔をしている事が分かった。
    とても綺麗で、それでいて、とても心強く見えた。

    「何故だ! 何故ヒストリアにこんな事をした!」

    エレンはいつに無く真剣な表情でコニーの事を見る。
    コニーはそれ以上に憎悪の感情を持ってエレンの事を見る。

    「…そいつが悪いんだよ。勝手にオレの心に入って来たからな。何も知らないくせに分かったような事を言ってる偽善者がな! だからオレは」
    「…だからヒストリアを、そんな理由でヒストリアを襲ったのか? ヒストリアはオマエの事を心配しているんだぞ。それが分からないのか?」
    「大きなお世話なんだよ! もう辞めたんだよ野球は! ほっといてくれオレの事は!!」
    「……」

    とても哀しそうな目でエレンはコニーの事を見る。
    それがカンに触ったのか声を荒げてコニーは叫んだ。

    「そんな目で見るな。同情なんてまっぴらなんだよ!! アンタもその女と同じだな、そうやって他人を傷つけて、そんなに楽しいのかよ! オマエさえ…オマエさえ居なければ……オレがこんな惨めな思いをしなくて済んだんだ! オマエのお陰で全てが狂ったんだ! みんな嫌いだ! オレの前から消えちまえ!!!」

    自分の思いを全てぶつけたコニーはまだ興奮が冷めず、肩で息をしながらエレンを凝視している。
    ずっと喋り続けた口からは、殴られた時に切ったようで血が出て来て、その苦い味がコニーの顔を歪ませる。
    エレンはそんなコニーを静かに見ていた。

    「オマエは最低だ……」

    その言葉はコニーに大きく突き刺さる。
    だが先程のように言い返す事は出来ず、ただ睨みつづける事しか出来なかった。
    その間エレンはヒストリアの事を助け起こし自分の制服の上着を着せてあげた。

    「あ…ありがとうございます」

    エレンの心遣いが嬉しかった。
    その時のヒストリアの制服は乱れ、黒く艶やかな髪は乱れ、黒い瞳には怯えが宿り、色白の肌には痣が出来ていた。
    そんなヒストリアを心配して優しく声を掛ける。

    「立てるか?」
    「大丈夫です…キャッ!」
    「ヒストリア!」
    「あ、ありがとう……ございます」

    ヒストリアはエレンに寄り掛かりながら立ち上がろうとしたが、力が思うように入らず倒れそうになった。
    しかし、エレンの力強い腕に抱かれて難を逃れ、ヒストリアは顔を赤らめてエレンに礼を言う。
    とても恥ずかしく思えたのだが、何故だかその腕の中、その胸に体を預けると安心できる。
    戸惑いを覚えながらヒストリアはその場所が好きになってしまった。

    (暖かい。それに、すごく落ち着くココ)

    そしてエレンはヒストリアを護るように、ヒストリアはエレンに寄り掛かるようにして屋上を後にした。
    去り際に一言だけエレンはコニーに対して言う。
    コニーはその言葉を黙って聞く。
    それぞれの瞳に哀しみと悔しさを見せながら…

    「さよなら」

    そしてドアが音を立てて閉まる。
    まるで心を閉ざすかのように重く分厚い壁に思える。
  81. 81 : : 2013/11/27(水) 01:48:39
    ドガ!
    コニーは壁に自分の利き腕の拳を叩き付けた。
    血が滲み出るが痛みは感じられない。

    「チクショウ。バカだぜオレは」

    悔しさから涙が零れる。
    ヒストリアに対して、エレンに対して、自分自身に対して取り返しの着かない事をしてしまった。
    その後悔と自責の念から泣いていた。
  82. 82 : : 2013/11/27(水) 01:55:15
    その頃エレンはヒストリアを落ち着かせる為、近くの誰も居ない教室に入っていた。
    屋上を出てからずっとヒストリアはエレンの腕の中に居た。
    今はあの状況から逃げられた安堵感と、エレンのそばに居るという安心感から静かに寝息を立てていた。
    エレンはそんなヒストリアの事を愛しく思えた。

    「同じだな……クリスタと」

    エレンの妹であるクリスタはその容姿を理由によくいじめられていた。
    他人とは違う髪と瞳の色を理由に。
    その度にエレンはクリスタの事を庇い、時には喧嘩をする事もあった。

    その頃のエレンには今のような強さは無くいつも返り討ちにあっていた。
    一人対大勢の形で一方的にやられた。

    だがズタボロにされながらもエレンは相手に向かって行った。
    自分の大切な人を護る為に諦めずに立ち向かって行く。
    痛みを堪えながら、血を拭いながら、クリスタを護る為だけに。

    そうすると相手の方が根負けして一人、また一人とエレンの前から逃げて行く。
    自分を犠牲にしてクリスタを護る。その頃のエレンにはそれしか出来なかった。

    相手の事を憎んだ、周りの見ているだけの連中を恨んだ、自分の力の無さを呪った事もあった。
    喧嘩が終わる度にそう言った暗い感情を持っていた。

    だが喧嘩が終わった後、護りきった後に見せるクリスタの健気に笑う顔を見る度に、エレンの腕の中で安心して身を寄せている時の表情を見る度に、そう言った感情を消す事が出来た。
    エレンにとってクリスタは護るべき人であると同時に、自分が自分でいられる為の護ってくれる存在でもあった。

    今、腕の中に眠るヒストリアとクリスタの姿がダブって見える。
    懐かしさとヒストリアのあどけない姿を見てエレンは知らぬ間に微笑む。
    そして呟いた。

    「同じだな。いや……それは俺も同じか。コニーと、あの時の俺」

    エレンの抱く腕に力が篭り、それと同時にヒストリアが微かに動いた。
    しかし、しばらくすると再び規則正しい寝息が聞こえてくる。

    「ん…ぅん。スゥ...スゥ...」

    エレンはホっとしてヒストリアを見る。
    その顔は何処までも優しかった。

    「大切な人か」

    夕日で紅く染まった教室でエレンとヒストリアはいつまでも寄り添っていた。
  83. 83 : : 2013/11/27(水) 01:59:31
    とりあえず、今日はここまでです。
    コニーがクズになってしまった……。

    ミカサとアルミンは出てきます。早く出したいです。
    筆が遅いのがネックですね。
  84. 84 : : 2013/11/27(水) 17:19:17
    きたーーーー(((o(*゚▽゚*)o)))
  85. 85 : : 2013/11/28(木) 01:05:01
    期待
  86. 86 : : 2013/11/28(木) 02:17:37
    きっと…コニーは…更生する…はず…

    あ、支援です
  87. 87 : : 2013/11/29(金) 01:13:52
    「まずいな…日が暮れたな…どうすればいい?」

    とある教室で、自分の腕の中で寝ているヒストリアを見ながらエレンは考え込んでいた。
    日は既に暮れていて、時計を見てみると午後8時を回っている。
    早く帰らなければ、と何度も思っていたがヒストリアを起こすのが何だか悪いような気がしてこんな時間になってしまったのだ。
    エレンは自分の優柔不断な性格を何度も呪った。
    しかしヒストリアの寝顔を見ていると、いつまでも見ていたくなる。

    「俺はヒストリアの事を妹と重ねているのか…」

    そう思うだけでエレンの胸は締めつけられる。
    かつて護る事が出来なかった大切な人が目の前に居る。
    今度こそ護り通さなければならないと強く想う。
    そう思うだけで自然と力が湧き上がる。

    「ヒストリア・レイスか」

    外は闇に包まれ月明かりが照らす中、エレンはヒストリアの事を優しく見守っていた。
  88. 88 : : 2013/11/29(金) 01:20:23
    「エレンのヤツ遅いな」
    「そうだね、今まで時間に遅れる事は無かったから」
    「エレン、やはりキミは」

    いつもの神社で、ライナー、ベルトルト、マルコがエレンの事を待っていた。
    この4人はこの時間になると集合して、野球の練習をここでやる事になっていた。
    ライナー曰く、秘密の特訓である。
    この特訓によってエレンのフォークボールは完成したのだ。
    エレンのフォークボールは、まさしく4人の血と汗と涙の結晶だった。
    だからこそ4人はこの特訓を大切に思い、毎日欠かさずにやっているのである。

    しかしエレンは来ていない。
    おかしいと思うのは当然の事である。

    「やっぱり理由としてはヒストリア絡みの線が濃厚だな」
    「そうだね、わざわざエレンが待つって言ったぐらいだし」

    ライナーの意見にベルトルトは賛成する。
    実際その位しか理由が見つからない。

    エレンはヒストリアの事を待って学校に残った。
    その時のエレンの状態は普段のそれとは違っていた。
    この状況から導き出される答えは矢張り、二人の間に何かあったと考えるのが自然である。

    「うまく行ったか、それとも泥沼に嵌まったか…どっちかなライナー?」
    「オレに聞くなよベルトルト。ま、明日になれば分かるさ、それよりオレ達だけで練習しようぜ」

    エレンは来ていないが、3人は練習を始めた。
  89. 89 : : 2013/11/29(金) 01:26:48
    「やっぱり起こさないとマズイよな」

    ようやく決断したのかエレンはヒストリアを起こす事にした。
    しかし自分に寄り添って寝ている寝顔を見るとその決意も薄れてくる。

    「こんな顔されると決心が鈍る。でもだめだ、こんな弱い心なんて」

    自分にそう言い聞かせてヒストリアを起こそうとする。
    しかしエレンの思いが通じたのかヒストリアが目を覚ます。

    「ゥ...ン...」

    ヒストリアは気だるい声と共に目を開けた。
    しかし今の状況を把握しきれないのか、目をパチパチと瞬かせる。
    無論自分がエレンの胸に体を預けている事など分かっていない。

    「目が覚めたか?」
    「え?」

    エレンはヒストリアが目覚めたのを確認して声を掛ける。
    ヒストリアにとってはいきなり頭上から声を掛けられた状況である。 驚くなと言う方が無理がある。

    ヒストリアが顔を上げると、すぐそこにエレンの顔がある。
    もちろん目と目が合い、ヒストリアの思考が停止する。
    次第に顔が赤くなるが、まだ状況が分からない為、エレンに体を預けた体勢のまま動かない。

    (エレン先輩? 何で? どうしてココに?)

    ようやく頭が回り始め、ヒストリアは今までの事を考える。
    しかし居心地が良いのか、自分がどんな格好なのか分からないのか、エレンから離れようとはしない。
    目の前のエレンは優しい笑顔を向けている。

    (は、反則じゃない…この笑顔)

    ヒストリアは赤くなった顔を更に赤くする。
    だがその時、屋上での事を思い出した。その途端に赤かった顔が青ざめて行く。
    目は大きく見開かれ、エレンを掴んでいた手に力が込められる。
    口は半開きになり、そこから漏れる声は頼りなかった。

    「ア…ウァ…私……」
    「ヒストリア、どうした? 落ち着け!」
    「イヤァァァァアァアア!!」

    エレンもヒストリアを抱く腕に力を篭める。
    でなければヒストリアの事を護れないと感じていた。
    絶対に護らなければならない、二度とあんな悲しい事はしたくない、と心に願いながらヒストリアを抱いた。

    ヒストリアの指が食い込んで来た。
    彼女の心の痛み、心の傷だと言うのが分かる。
    エレンは耐えた、自分の腕の中に居るヒストリアの痛みに比べれば何でも無いと思いながら。
  90. 90 : : 2013/11/29(金) 01:28:48
    その頃コニーは繁華街を一人で彷徨っていた。
    目には光が宿らず夢遊病者のようになっている。
    何処をどう来たのか、何処へ行こうとしているのか分からないまま。
    周りの人達はコニーの事など気にしていない。
    今のコニーは完全に一人きりだった。

    ガツ

    不意に誰かと肩がぶつかった。
    だがコニーには何も感じられないのか、そのまま歩いて行ってしまう。
    その事に気分を悪くしたのか、肩をぶつけた人が絡む。

    「オイ、人にぶつかって一言も無いのか?」

    明らかに不機嫌そうな話し方だった。
    しかしコニーはそのまま行こうとする。

    「テメェの事だよ」
    「…」
    「何黙っているんだ? シカトしてんじゃねーよ!」

    絡んできたのは3人組でコニーの事を取り囲んでいた。
    周りの通行人は関らない様に見てみぬ振りをして通り過ぎて行く。
    そんな状況に居ながらコニーは顔色一つ変えない。

    「ちょっと顔貸せ。」

    その一言を最後にコニーと3人組は人気の無い裏路地に入っていった。
    その事を見ていた通行人達は自分勝手な事を話ながらこの場を去って行った。
  91. 91 : : 2013/11/29(金) 01:36:24
    しばらくするとヒストリアの叫び声は小さくなって行き、目には正気が戻ってきた。
    今のヒストリアに感じられるのはエレンの温もりだけとなった。
    エレンを掴む力が小さくなって行く。
    その事に気付いたエレンの顔に安堵の色が浮かぶ。

    「落ち着いたか?」
    「ハイ」

    ヒストリアは今まで起こった全ての状況を思い出す事が出来た。
    それでもエレンが抱きしめてくれたお陰で正気を取り戻せた。
    エレンもコニーと同じ男なのに、コニーに対する嫌悪感をエレンに抱く事は無かった。
    あの時助けてくれた事、エレンから伝わってくる暖かさから、そのような物を感じさせる事は無かったのだ。
    ヒストリアにとって、この人なら自分の事を護ってくれる。
    そう直感で感じ取れた。

    「エレン先輩、助けてくれてありがとうございます」
    「そう面と向かって言われると、何だか恥ずかしいな」
    「いえ、あの時先輩が居なかったら、私は…」

    ヒストリアは笑顔をエレンに向けながら話す。
    その笑顔は今まで誰も見たことの無い透き通った笑顔、心から信頼するエレンの為だけの笑顔だった。
    自分が目の前に居る少年に淡い恋心を感じている事が分かった。

    (私、エレン先輩の事が好きなのかも)

    そう思うだけで心臓の鼓動が早くなり、自分の顔が赤くなっている事が感じられる。
    それは嫌な感じではなく、むしろ心地良い感覚であった。
    目の前にエレンの優しい笑顔がある。それだけで心が暖かくなり幸せを感じてしまう。

    だがしかし、ヒストリアは今の自分が置かれている状況を完全に理解していない。
    目の前には優しい微笑みを向けているエレンが居る、そこで思考が完全にストップしていた。
    自分がエレンの腕の中に居る事など微塵も考えていなかった。

    一方エレンは困っていた。
    ヒストリアが目を覚ましたのはいいが、それからが問題であった。
    今の状況、自分がヒストリアの事を抱いている事を話していいのか迷っていたのだ。
    今までの経験からして、そんな事をヒストリアが知ればビンタが飛んでくるだろうと鈍感なエレンは考えていた。

    (う~~~ん、教えた方がいいのか? けど知ったら多分怒るだろうな…)

    優柔不断さを全開にして思考の無限ループに嵌まってしまい、次第にエレンの顔が赤くなる。
    ヒストリアはずっと見ているが、教室は暗いのでそんな事になっているとは気付かない。

    (何だか心が暖かい、エレン先輩がそばに居るだけで心が安らぐ。こうしてエレン先輩の温もりを感じるだけで…。え? 温もり?)

    ここに来てようやくヒストリアは自分がどんな状況に居るのか考え始めた。

    (目の前にはエレン先輩。先輩は私の肩に手を回している? 私は先輩に寄りかかっている…それからほっぺから先輩の温もりが。と言う事は!)

    そこまで考えると自分がどんな格好になっているのかが理解できた。
    その途端に恥ずかしさでいっぱいになり、先程まで感じていた心地良さはどこかに行ってしまった。
    色白の顔はこれでもかと言わんばかりに赤くなり、耳まで真っ赤になっていた。

    (わ、私ったらエレン先輩の…やだっ、恥ずかしい)

    最早ヒストリアの顔は真っ赤を通り越して湯気が出るほどになっていた。
    しかし鈍感なエレンはヒストリアの心の内など分かる筈も無い。
    分かった事はいつものヒストリアじゃない事だけだった。

    「どうしたんだ?」

    エレンの一言にヒストリアの心臓は爆発しそうになる。

    「ゴ、ゴメンナサイ!…キャッ!」
    「ヒストリア!」

    ドガシャン!
    エレンから慌てて離れたお陰で豪快に転んでしまった。
    エレンは心配してヒストリアを助け起こす。
    そうなると自然とまたヒストリアの事を抱きかかえる態勢になった。

    「大丈夫、ヒストリア?」
    「イタタタタ、ゴメンナサイ心配掛けてしまって。もう大丈夫ですからそんな顔しないでください」
    「え? そんな顔ってどんな顔?」
    「フフ、今のエレン先輩の顔ですよ。」

    ヒストリアはエレンの頬に人差し指を当てながら説明した。
    その頬はとても柔らかくて、ヒストリアは気持ち良くなり思わず笑ってしまった。

    「ップ、フフフ」

    エレンは笑っているヒストリアを見て嬉しくなった。
    ヒストリアが自分に笑いかけてくれる、それだけで心が安らぐ。
    そう思うとエレンも嬉しくて笑ってしまった。

    「フフ、ハハハ」

    互いが互いの事を想い、心からの笑顔で応える。
    二人にはそれだけで十分だった。
    この人と一緒なら、どんな事でも楽しく思える。
    この人と一緒に居たい、この人を見ていたい、この人に自分を見てほしい。
    そう思えるようになったのだ。

    「帰ろうかヒストリア」
    「はい」

    言葉は短いがそれだけで幸せな気分になれた。
    そして二人は寄り添うように学校を出た。
  92. 92 : : 2013/11/29(金) 01:41:28
    バキィ!
    …ドサ!

    「ヘヘ、どうした兄ちゃん。もうオネンネの時間かい?」
    「ゥグゥ」

    誰も居ない裏路地でコニーは先程の3人組に殴られていた。
    体の痛みより心に出来た傷の痛みの方が大きいのかコニーは抵抗する事も無く、ずっと殴られ続けていた。
    3人はそんなコニーをまだ殴り足りないのか無理やり起こす。

    「まだ眠るには早いんじゃないか!」

    地面に倒れるコニー。
    体はアザだらけになり最早立つ気力も無くなっていた。
    これだけ痛めつけられても、心に刻んだ傷は消す事は出来ない。
    3人はそんなコニーの事を薄笑いを浮かべながら見ていた。

    「あ~あ、何か飽きちまったな」
    「そろそろ行こうぜ、こんなヤツほっといて」
    「ええ? ちょっと待ってくれよ、もう少しで終わらすから」
    「オイオイ、まだ足りないのかよ」

    残酷な笑いを浮かべながら3人は最後の制裁について話している。
    しかしコニーは他人事のようにそれを聞いていた。

    (早いとこ決めてくれないかな。体の痛みは感じない…けど、心が寒い。当たり前か…)

    だが相手の言葉を聞いて驚愕した。

    「ヘヘ、オレの腕に当たって来たんだ。だったらコイツの腕にオトシマエを付けようぜ」
    「どうやるんだ?」
    「折っちまおうぜ、コイツの腕。

    ドクン!
    心臓が大きく鳴る。
    この時初めてコニーは危機感を覚えた。

    「やめろ!」
    「ウワ?!」
    「どうしたんだコイツ?」

    コニーは素早く起き上がり、自分の右腕を庇うようにして後ろに下がった。
    その目には少しだけ光が宿っていた。
    投手としての意地がまだコニーに残っていたのだ。

    「腕に…オレの腕には触るな!」
    「何言ってんだコイツ? そんな事言われると何としてもやっちまいたくなるぜ」
    「ヘヘヘ、これで許してやるから大人しくしてな」
    「早いとこやっちまおうぜ」
    「クッ…」

    ジリジリと間合いを詰められる。
    だがコニーは右腕だけは守ろうとして諦めないでいた。

    「クソ! こんなヤツ等に大切な腕を折られてたまるか!」
    「こんなヤツ等とは酷い言い方だな。ま、諦めな」

    コニーは目を瞑り痛みに耐えようとした。
    バキ!

    「え?」

    しかし痛みは感じてこなかった。
    恐る恐る目を開けてみると3人の内一人が殴り飛ばされていた。
    そして目の前に自分を守ってくれたであろう人が立っていた。
    コニーはその人を見て驚いた。

    「キャプテン…」
    「久しぶりだなコニー」
    「何故ここに」
    「自分の後輩がやられているんだ、黙ってられっか。さてオマエ達、覚悟は出来てるか?」

    コニーを助けたのは野球部キャプテンのミタビだった。
    ミタビは指をパキパキと鳴らしながら残りの二人に近づいて行く。
    残った二人はミタビの力を怖れて後ずさりをする。
    目の前で人一人殴り飛ばした所を見せられ、脅えていた。

    「ちょ、ちょっと待てよ。アンタには関係ないだろ?」
    「後輩をいたぶってくれた礼は高く付くぜ。」

    バキィ!
  93. 93 : : 2013/11/29(金) 01:47:19
    その頃エレンとヒストリアは帰路についていた。
    二人は着かず離れずの微妙な距離を置いている。
    会話は無いが不思議と気まずい事は無い。

    そしてちょうどT字路に差し掛かった。
    ここまでは一緒だったが、ここからはそれぞれ違う道に行かないと家に帰れない。
    そう考えると嬉しくない場所であったが今の二人にとっては違っていた。

    「ここで私達は出逢ったんですよね」
    「あの時はゴメン、ぶつかって。ホントに急いでて気付かなかったんだ。」
    「ホント酷いですよ先輩ったら。恥ずかしかったんですからね」
    「ゴ、ゴメン」

    エレンは手を合わせ頭を下げて謝る。
    もちろんエレンだけが悪いのでは無いのだが、謝らずにはいられなかった。
    そんなエレンを見てヒストリアは微笑む。
    不器用ながらも自分の事をちゃんと見てくれている。 それだけで嬉しかった。

    「もういいですよ先輩。私も悪かったんですから」
    「じゃ、じゃあ許してくれるのか?」
    「でもちゃんとケジメは付けてもらいますよ」
    「ケジメ?」
    「そ、一回で済みますから。目を瞑って下さい」

    ヒストリアはビンタの用意をする。

    「あ…ビンタなら2回もらったけど…」
    「セ・ン・パ・イ、乙女の下着を見るどころか胸まで触ったんですよ。これで全てが丸く収まるんだから、ありがたく思って下さい」
    「…ハイ」
    「よろしい」

    エレンにとっては無茶苦茶な理論に思えたが、ヒストリアには逆らえず正直に目を閉じた。
    それを確認してヒストリアはエレンに近づく。
    その気配を感じて体に力を入れて、襲ってくるであろう痛みに備える。

    バチーン!

    「イタタタタ」
    「これでよし。それから」
    「え?」

    エレンの頬に柔らかい感触が走る。
    目を開けるとヒストリアの顔がすぐそこにある。
    片方の頬には痛みが、もう一方の頬には心地良い感触が。
    頭を混乱させながらもエレンは何が起きたのかが理解できた。

    「クス♪ これは今日のお礼です。私、エレン先輩の事が好きになりました」
    「え? ええ?」

    ヒストリアは屈託の無い笑顔をエレンに向ける。
    エレンは何が起きたのか分からない間の抜けた表情でヒストリアの事を見ている。

    「ホントは唇にしたかったんですが…やっぱり本当のキスだけは先輩からして欲しいんでほっぺにしました」
    「ヒストリア、な、何で?」
    「そう言う言い方は告白した女の子に言うもんじゃないですよ。ま、強いて言えば私の事を好きになって欲しいからです」

    エレンはキスされた頬に手を当てながら固まっている。
    突然の告白にどう対処していいのか分からなかった。
    そんなエレンが面白いのかヒストリアは更に続けた。

    「大好きです、エレン先輩。今日は助けてくれた上に送って下さってありがとうございます。返事はいつでもいいので考えてといて下さい、私の事。」
    「あ、ちょっとヒストリア」

    帰ろうとするヒストリアを慌てて引き止めようとするが捕まえる事は出来なかった。

    「送ってくれるのはここまででいいです。
     今日はホントにありがとうございました。」
    「ヒストリア!」

    ヒストリアは走ってその場から去って行った。
    その後にはポツンと一人佇むエレン。
    何故か急に寂しさを覚えた。


    かつて自分の妹が好きだった月がエレンを優しく照らす。
    その月の下でエレンはヒストリアの事、自分の事、そして妹のクリスタの事を考える。
    突然問われた自分の気持ちがどうなのか、今のエレンには答えが出なかった。
  94. 94 : : 2013/11/29(金) 07:16:09
    支援!
  95. 95 : : 2013/11/29(金) 17:00:24
    支援!
  96. 96 : : 2013/11/30(土) 07:52:19
    支援!
  97. 97 : : 2013/12/01(日) 16:24:23
    支援!
  98. 98 : : 2013/12/03(火) 01:41:28
    「何故ですか。何故オレを助けたんですか?」
    「コニーには分からんのか?」

    河原にはコニーとミタビがいた。
    周りに誰も居なく、夜の河原は昼間とは違い寂しさを感じさせる。
    そこでコニーは座り込み、ミタビは立ちながら向こう岸に見える街明かりをじっと見ていた。

    「同情からですか?」
    「バカ、違うよ。オレはオマエの先輩であり、オマエはオレの後輩だからさ…」
    「けど今は違いますよ。オレは野球部を辞めたじゃないですか」
    「何も違わないさ。野球をやっていようが、やっていまいが…オレとオマエが同じチームに居た、その事実が消える事は無いからな」

    コニーは黙り込む、だがミタビは何も話さない。
    コニーに何かあった事は分かるのだが、その『何か』が分からなかった。
    何があったのか、その事についてはコニー自身から聞き出さなければならないと思っていた。
    コニーの口から言わせなければ傷つけてしまうから。
    先輩としての、せめてもの心遣いだった。
    そしてしばらくするとコニーの口が開く。

    「…先輩」
    「何だ?」
    「オレ、野球やってく自信無くなりました…」

    ある程度ミタビが予想していた言葉がコニーの口から出て来た。
    野球部にはエレンが居る。そのエレンとプライドの高いコニー、二人が争うのは…
    と言うよりコニーが対抗意識を燃やすのは火を見るより明らかに思えたからである。
    そしてコニーがエレンに勝てるとは思っていなかった。

    「じゃあ野球を辞めるのか?」
    「ハイ…」

    コニーは感情の篭らない声で答える。
    夜の河原、寂しさの支配する闇にコニーの返事は消えて行った。
    ミタビはその言葉を黙って受け止める。

    何も聞こえない闇の中、二人は只黙って向こう岸に見える街明かりを見ていた。
  99. 99 : : 2013/12/04(水) 21:29:14
    期待!
  100. 100 : : 2013/12/04(水) 21:36:33
    コニー…
    めっちゃ支援!!
  101. 101 : : 2013/12/04(水) 22:26:19
    やっと安心して眠れる
  102. 102 : : 2013/12/05(木) 01:16:02
    「ムフフフフフフ」

    ここはレイス家、ヒストリアの部屋の中から何とも言えない声が響いている。
    ヒストリアは帰ってくるなり部屋に閉じこもり、ずっとこの調子であった。

    「どうしたんだヒストリアは?」
    「さあ…私にも分からないんです」
    「何か悪いものでも食ったのか?」
    「そ、そんな筈は」

    ヒストリアの両親は首を傾げながら考えていた。
    奇怪な声が伝わる部屋に、どう対処して良いのか分からなかった。
    そのヒストリアの部屋では

    ゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロ...

    「ウププププププ」

    お気に入りの大きなウサギのヌイグルミに顔を埋めながら、ヒストリアはゴロゴロと転げ回っていた。
    その顔はほんのりと赤く染まっており、幸せいっぱいである。
    時折エレンの制服の上着を見て更に顔を綻ばせる。 どうやらそのまま着て来た様だった。


    「むふ♪ 結局着て来ちゃった、エレン先輩の制服」

    エレンの制服はキチンとアイロン掛けをされており、大事そうにハンガーに掛けられ壁に飾られている。
    その横には何故かヒストリアの制服が掛けられている。
    その二つの制服を見て更に奇妙な声を発する。


    「ヌフフフフフフフフフ。エレン先輩か…ムフ~~~~~~~~~~~~♪ …エレン。キャー!キャー!私ッたら!」

    ゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロ...

    ヒストリアはコニーとの一件をすっかり忘れたのか、幸せを辺りに撒き散らしている。
    この奇怪なヒストリアの声と行動は夜遅くまで、ヒストリアの体力が無くなるまで続いたという
  103. 103 : : 2013/12/05(木) 01:28:39
    「ふぅ」
    「どうしたのエレン?」
    「あ、いえ何でも無いです…ハイ」

    ここスミス家では、リビングで一家団らんの時を過ごしていた。
    エレンはスパイクの手入れを、エルヴィンは新聞を読み、ルーツィエは紅茶を飲みながら、いつも通りに時は過ぎていた筈だった。
    しかしこの日のエレンは『心ここにあらず』な表情で時折ため息をついている。
    理由はもちろんヒストリアだ。
    エレンはスパイクをじっと見て、その事について考えている。

    (やっぱりアレだな…。あの時ヒストリアが好きって言ったのは、友達としてではなくて…その…男と女としての…その付き合うって言う意味で言ったんだよな)

    まさか自分が女の子から告白されるとは思っていなく動揺していた。
    事実、エレンは帰ってから普段と違い、ボーッとして居たり、失敗していたりとルーツィエとエルヴィンを心配させていた。
    今も手が止まっており、ルーツィエが心配そうに見ている。

    「エレン、どうした? 手が止まったままだぞ」
    「え? あ、そうですね…ハハハ…」
    「そう言えば帰ってきた時は制服の上着を着ていなかったけど…」
    「え? そうでしたっけ? おかしいな…」
    「…それより野球部の方はどうなんだ? マネージャーとして女の子が入ったそうじゃないか」
    「ブ!」

    ガタタタ
    慌ててスパイクを落とす。
    そのエレンを見て眉一つ動かさないエルヴィン、ルーツィエは目をパチクリとさせて驚いている。

    「ど、どうしたのエレン?」
    「いや…ちょっと…その…僕、部屋に戻ります!」
    「ちょっとエレン?」

    ドタドタドタ
    バタン!
    エレンはドアを大きく鳴らして部屋に入る。
    一瞬の出来事にルーツィエはどうしたらいいのか分からなかった。
    エルヴィンは相変わらず平然として新聞を読んでいる。

    「どうしたのかしら?」
    「フ、エレンも悩み多き歳なんだ。そっとしておけ」
    「…あなた、また何かやったんですか?」
    「安心しろ、何もしておらん」
    「本当ですか?」
    「ああ、私はな…」

    その時エルヴィンの口許がニヤリと僅かに動く。
    その僅かな表情を見逃す筈が無いルーツィエ。
    長年連れ添ってきた彼女にしか分からない変化だった。

    「何があったのか、教えて下さりますね」
    「………」

    エレンに何があったのか、この事についてエルヴィンはある程度の事は知っていた。
    そもそも第一高のセキュリティーシステムは、他校のそれを遥かに上回る。
    ちなみにハンジがそのセキュリティーシステムの考案者兼総責任者で、通称HGシステムと呼ばれている。

    それを使えば全校内のあらゆる場所を見ることが出来る。その為、知っていたのだ。
    とは言っても屋上の事は知らず、エレンとヒストリアが教室に入ってからしか知らないのが現状である。

    そのエレンの事についてエルヴィンはルーツィエの追求を受けていた。
    今日もスミス家は平和であった。
  104. 104 : : 2013/12/05(木) 01:33:01
    河原では、あれから大分時が経ったがまだコニーとミタビが居た。
    二人は微動だにせず、街明かりを見ていた。

    「本当に辞めちまうのか?」
    「はい」
    「…じゃあ何故あの時右腕を庇った」
    「!」

    コニーの体がビクッと動く。
    何故あの時右腕を庇ったのか、その事をコニーは疑問に思っていた。
    自分は野球を辞めたのに、投手としての自分は必要無いのに。
    その事が頭から離れなかった。

    「どうした、答えられないのか?」
    「………」
    「だったらオレが教えてやろうか」

    何故自分の事が分からないのか、何故自分の事なのに他人が分かるのか、そう思うだけでコニーは苛立ってきた。
    だがミタビは続けた、事実を自分の後輩に伝えるために。
    その事がコニーの心に踏み込む事、傷つける事を知っていた。
    だがそれが同じチームだった先輩としての自分が成すべき事と信じていた。

    「ピッチャーとしての本能だよ。オマエは誰が何と言おうとピッチャーなんだよ」
    「!」
    「大方、オマエはエレン負けたと思ったんだろ?」
    「………」

    ググッとコニーの手に力が篭る。
    レイの時と同じように、自分の心に踏み入られた為に怒りがその手に篭められる。

    「どうせオマエの辞める理由なんて『怖くなったから』だろ? エレンに勝てないって思ったからなんだろ?」
    「アンタに何が分かる!!」

    怒りでコニーは立ち上がった。
    両の拳は握り締められ、目には怒りの色を宿らせていた。
    それを見たミタビは、まだコニーに闘う心が残っていたのを感じたので安堵した。

    「違うと言えるのか? じゃあ何で辞めるんだ?」
    「グッ…」
    「所詮は臆病者か…」

    バキ!

    コニーがミタビを殴り飛ばした。
    利き腕である右腕を使って殴ったのだ。

    投手、しかもコニーはボールを投げる利き腕をとても大切にしている。
    その事実をミタビは知っていた。

    「利き腕で殴るか…ピッチャーのオマエからは考えられんな」
    「!」
    「ヘッ!」

    バキ!
    今度はミタビがコニーを殴り飛ばした。
    つい先程まで3人組に殴られても痛みを感じなかったが、ミタビの一撃は相当効いた様で顔を歪める。
    コニーの前にはミタビが嘲笑うかのように仁王立ちしている。

    「どうした、もうお終いか? 腰抜けが」
    「グッ…ウワアアアアアアアアアアア!!」

    ドカ!
    コニーが叫び声を上げながらタックルを仕掛ける。
    ミタビはそれを正面から受け止める。
    コニーを受け止めながらミタビは話し続ける。

    「そんなんじゃオレは倒せないぞ」
    「クソッ!」
    「力が無さ過ぎなんだよ」
    「チクショウ!!」

    コニーは一旦離れて殴りかかろうとするがミタビに簡単に受け止められる。
    そしてまた殴り飛ばされる。
    力の差は火を見るより明らかだったがコニーはそれでも向かって行った。
  105. 105 : : 2013/12/05(木) 01:38:56
    エレンの部屋――
    今日はいつもより早くベットに入ったのだが、中々寝付けなくてエレンは困っていた。

    「…う~~~ん…眠れない…」

    カラカラ…
    気分を紛らわそうとして、窓を開けてベランダに出る。
    すると夜空には満月とはいかないが、月が出ていた。
    その月を見ると、今でもクリスタを思い出す。
    そしてもう一人、ヒストリアの事も頭に浮かぶ。

    「大好き…か。確かにヒストリアの事が気にはなる。けどそれは似ているから…だろう。その事を知ったら、ヒストリアは俺の事を何て思うんだろ…」

    月を見上げてエレンは考える。
    自分の妹に似ている女の子、しかし彼女は別人である。
    これから自分はどうやって彼女に接すればいいのかが分からなかった。

    そしてもう一つの心配の種、コニーの事。
    経緯はどうあれ、女の子に対する乱暴は許す事はできない。
    しかしコニーの気持ちも分かる。
    かつての自分がそうであった様に…

    クリスタが死んだ時、その行き所の無い怒りと絶望の為、親友と呼べる人達に当たり散らした事。
    自分の事を心配してくれる人達を拒絶した事、そして自分から切り捨て逃げ出した事。
    その全てが今のコニーの状態である事が分かった。

    自分はここ、第一高にきてライナー達に助けられた。
    今度は自分が助ける番だとエレンは思っていた。
    かつての自分と同じコニーを助けたいと心から願った。
  106. 106 : : 2013/12/05(木) 01:49:17
    バキィ!
    コニーがミタビに殴り飛ばされる。
    あれから何回殴られたのか分からない。
    ミタビは手加減をせずにコニーを殴り飛ばす。
    コニーはそれでもミタビに向かって行ったのだが、ダメージが蓄積したのか仰向けになって倒れたままになった。


    「…チクショウ…チクショウ、チクショウ、チクショウ、チクショウ、チクショウ!」

    コニーは悔しさと情けなさで涙を流す。
    ミタビは自分の受けた傷に手を当てながらコニーに話した。

    「悔しいか? 自分の非力さが情けないか?」
    「…チクショウ…」
    「だがな、その悔しさは誰だって経験するんだ。オレだって味わったさ…それにエレンもな」
    「………」
    「…でなけりゃ、あんな目はできない」
    「…」

    ミタビはあの時のエレン、去年の夏休みの時に闘ったエレンの事を思い出していた。
    その時にエレンが見せた虚空の目が焼き付いたのだ。
    今思い出すだけでも背筋が凍るような感覚に陥る。
    過去に何かあった、それだけは容易に想像出来た。

    「誰もが経験するんだ、オマエだけでは無い。そしてそれを乗り越えられるか、それが重要なんだ。オマエはそれをしていない…果たしてオマエにできるかな?」
    「……クッ…」

    ミタビの言葉がコニーに突き刺さる。
    コニーの目の前が悔しさと情けなさの涙で霞んでくる。
    自分に対する怒りで体が震え、手を強く握る。

    自分がどれだけの事をして来たのか? 何を成し得たのか?
    自分に問いただすが、人に誇れるものが無い。
    あるのはただ記録だけ、過ぎてしまえばそれは過去のモノでしかない。
    一体今まで何をやって来たのか?
    過去は所詮、過去のモノである。
    過去から現在に繋げようとしなかった、たった一度の壁にぶち当たっただけで逃げ出した、投手としてのプライドを捨ててしまった自分。
    情けなくて、悔しくてしょうがなかった。

    それを見たミタビは安心した。
    コニーがようやく自分の事を見詰め直したからである。
    他人に言われて直せるモノでは無く、自分で見つけなければならない。
    それをコニーは見つける事が出来た。

    「じゃ、後は自分で考えな」
    「せ、先輩!」
    「どうした?」
    「あの……」

    自分の役目を終えたミタビは帰ろうとしたがコニーは呼び止めた。
    自分の事を気に掛けてくれた先輩に何か礼が言いたかった。
    しかし、いざとなると何も思い浮かばず沈黙してしまう。
    そんなコニーを見ながらミタビは男臭い笑みを浮かべて諭す。

    「気にするな、先輩が後輩の世話を焼くのは当然の事だ」
    「でも…」
    「あ、そうだ。こいつはオマエにやるよ」
    「え?」

    その時ミタビがコニーに投げる。
    それをコニーは受け取った。
    自分の手に馴染み深い物、それがコニーの手の中に収まった。

    「こ、これは…」
    「大切なモンだ、二度と離すんじゃねーぞ」

    野球のボール、それをコニーは受け取ったのだ。
    コニーは右手に収まったボールを強く握る。
    自分が球児である事、そして投手である事を思い出す。

    自然に涙が零れ落ちる。
    忘れていた野球に対する想いが蘇って来る。

    いつからだろうか、自分があの時の気持ちを忘れたのは…
    野球と知り合えた時の、あの気持ちを。
    高校に入ってからか…それとも中学時代に最強と謳われてからか…或いはそれ以前なのか…
    コニーはボールを握り涙を流す。
    自分が大切な事を忘れてしまった事に対して。

    失ったモノを見つけた時、大切なモノを見つけた時、人は涙を流す。
    人は忘れて行くから…どんなに大切であったかを。
    その事に気付き、涙を流す事は恥ずかしい事ではない、それが当たり前なのだ。
    大切なのは、その時の想いを忘れない事…それだけである。



    コニーは野球を想う、ミタビは後輩を想う、ヒストリアはエレンを想う、そしてエレンはクリスタとヒストリアを想う。
    月明かりに照らされ、それぞれが決断を下す。
    それぞれの行くべき道を…
  107. 107 : : 2013/12/06(金) 00:15:08
    期待
  108. 108 : : 2013/12/06(金) 00:29:37
    かっこいいな…これ…
    期待!!
  109. 109 : : 2013/12/08(日) 23:28:58
    ミタビかっこよすぎ

    期待
  110. 110 : : 2013/12/21(土) 10:31:06
    期待!
  111. 111 : : 2013/12/22(日) 18:28:37
    続きはよ
  112. 112 : : 2013/12/24(火) 16:31:44
    続きまだですか?
    期待してるんで頑張って下さい!
  113. 113 : : 2013/12/24(火) 23:32:28
    「ほら兄さん、早く早く」
    「そ、そんなに急がなくてもいいじゃないか」
    「そんな事言わないの、ほら」

    仲睦まじき二人が買い物をしている。
    一見すると小さな恋人同士の様に見えるが、実際は違う。
    わがままな妹に振り回される兄、それが二人の関係。

    妹は幸せそうな顔をして兄の手を引っ張る。
    兄は困ったような顔をしているが、満更でもなく心の内では今を楽しんでいた。

    兄と呼ばれたのはエレン
    兄と呼んだのはクリスタ
    二人は血は繋がらないが兄妹である。

    「どこまで行くんだクリスタ?」
    「もうすぐだよ…ほらあそこ」
    「アクセサリー店?」
    「そ」

    クリスタに連れられて来たお店は、女の子御用達のアクセサリー店だった。
    自分の妹を見て、やっぱり女の子だな。と思うエレン。
    クリスタはエレンを見て微笑んでいる。
    何か考えがあるのだろうか。

    「さ、入りましょ兄さん」
    「いや、恥ずかしいよクリスタ」
    「可愛い女の子と来てるんだよ、そんな事言わないの」
    「わ、分かったから手を引っ張らないでくれ」
    「照れない照れない」
    「ク、クリスタ~~」

    クリスタは久しぶりの兄との買い物を楽しむ。
    今日はとても大切な日、クリスタの13歳の誕生日なのだ。
    近頃はエレンが在籍する野球部の練習が多くなり、兄妹で出かける事が少なくなった。
    休みの日も一日中練習をしていて、今日の大切な日まですれ違ったままだった。
    そして忙しさの為プレゼントを買っておらず、二人で街に買い物にきたのだ。

    「あ、これも良いな…けどあっちも良かったな…兄さん、どっちにした方が良いかな?」
    「え? どっちって言われても…」
    「もう、相変わらず優柔不断なんだから。そうだ♪ だったら兄さんが選んできてよ」
    「ええ? 俺が?」
    「そうよ。そもそも誕生日プレゼントなんだからさ、兄さんが選んでよ」
    「う~~~~ん…」
    「私はココで待ってるからさ、オ・ネ・ガ・イ」

    クリスタが両手を合わせて上目遣いで兄にお願いする。
    これは対エレン用の最終兵器で、これをやられるとエレンは困った顔をしながら何でもその願いを聞いてしまう。
    しかしクリスタはその時に見せるエレンの顔が好きだった。
    自分にだけ見せてくれる表情、自分だけのモノ、それだけで心が暖かくなる。

    「わ、分かったよクリスタ。けど…ガッカリするなよ」
    「そんな事無いよ。 行ってらっしゃい」
    「ハイハイ」
  114. 114 : : 2013/12/24(火) 23:32:40


    クリスタはそんな兄の背中を見て目を細める。
    いつの間にか大きくなった背中を見ると、あの頃を思い出す。
    いつも自分を護ってくれたあの時を…

    エレンが傍に居てくれたから今の自分がある。
    自信に満ち溢れた自分はエレンが居てくれたからだと確信している。
    もしエレンと巡り逢わなかったら今の自分は無く、いつも他人の目を気にしていただろうと思う。

    好きである、慕っている、憧れている、愛している。
    そう想うだけで胸が締め付けられる。
    自分が兄であるエレンに恋心を抱いている事を自覚している。
    果たしてエレンは自分の事をどう想っているのか?
    エレンは兄で、自分は妹。
    血は繋がっていないが兄妹である。
    自分がどんなに想っても叶えられぬモノなのか?
    しかしエレンの事も考えると暗く沈んでいく。
    エレンを哀しませたくない。
    それが全てだった。
    エレンにはいつも笑っていてほしいと心から願う。
    だったら今のままで…今の関係でいた方が良い。
    今だけは、自分だけの兄だから…

    そう考えているとエレンが帰ってきた。
    その手に一つの首飾りを握って。

    「決まった?」
    「うん、これだけど」

    エレンは自分が選んだ物を見せる。
    皮の紐で吊られた水晶の原石だった。
    相変わらず地味と言うか渋いと言うか…それがクリスタの感想であった。
    だが自分の為にエレンが選んでくれた、そう思うと嬉しくなる。
    いつの時代もそう言う想いは不変なモノである。
    しかしエレンは付け加えた。

    「何でも水晶の原石には『幸せに恵まれます様に』って言う願い事が篭められているみたいなんだ。だから…な」
    「!」

    それを聞いただけでクリスタは涙が零れた。
    いつも不器用だが自分の事を想ってくれる事が嬉しい。
    自分の幸せを願ってくれている事が分かる。
    それだけで胸がいっぱいになる。

    しばらくの間黙っていたのでエレンが声を掛けた。

    「…どうしたクリスタ? やっぱりダメか?」
    「え? ううん、そんな事無いよ。…そっか、兄さんは私に幸せになってほしいのね」
    「あ、当たり前だろ」
    「ありがと、兄さん」

    そう言いながらクリスタはエレンに抱きつく。
    どれだけ感謝しているのかをエレンに示すように。
    しかしエレンにとってはたまったモノではない。

    「うわ!? ちょっとクリスタ! こんな所で抱きつくなよ」
    「嬉しいんだから良いじゃない。そうだ私も同じのを兄さんにプレゼントするよ」
    「え? 今日はクリスタの為…」
    「いいのよ兄さん。私も兄さんに幸せになってほしいからね」

    クリスタは自分が泣いている事を気付かせないように抱きついたまま話す。
    大切な人に気付かせない様に、心配を掛けない為に、何よりも大切な人を想う為に。

    (お揃いのモノ…大好きだよ兄さん)

    心の中で呟く。今日はクリスタにとって最高の誕生日だった。



    それは今から3年前の出来事。
    エレンが幸せだった頃のある一日だった。
  115. 115 : : 2013/12/24(火) 23:35:25
    ピピピピピピピ…カチッ

    「…もう朝か…」

    目覚ましの電子音と共にエレンは目を覚ました。
    睡魔を振りきる様にベットから出る。
    そして机に置かれている首飾りを取り、しばらくそれを見る。

    「また夢か…でも今までとは違う…目覚めがいいや」

    微笑みながら首飾りに話す。
    自分にその首飾りを贈ってくれた妹に話す様に。

    「さて、起きるかな」

    エレンは学校へ行く為、着替え始めた。
    朝から良い事があって顔が綻んでいるのが分かる。
    そして着替え終わると最後に首飾りをポケットに仕舞う。

    今日も天気は晴れ。
    まるでエレンの今の心を現すかの様だった。
  116. 116 : : 2013/12/24(火) 23:43:01
    「いってきまーす」
    「ハイ、気を付けてね」

    いつも通りルーツィエに見送られ学校へと向かう。
    しかしそれはT字路までだった。
    遠くからでも見間違える筈の無い、自分の事を好きだと言ってくれた少女、自分の妹にそっくりな少女、ヒストリアがT字路で待っていた。


    「おは…おはようございます、エレン先輩」
    「お、おはよう、ヒストリア…どうしたんだ今日は?」
    「一緒に…学校に行きませんか?」
    「う、うん、いいけど…」
    「やったね♪」

    ヒストリアは嬉しそうにエレンの横に着く。
    まるでそこが自分の居場所のように満足げな顔をしている。
    エレンは突然の申し入れに戸惑い、そして不思議な感覚を覚えた。
    懐かしい感じ、妹と二人で登校した昔を感じていたのだ。

    「どうしたんですか?」
    「え? いやちょっと…」

    不意に聞いて来たヒストリアと妹のクリスタが重なる。
    それと同時に昨日の告白を思い出して顔を赤くする。
    それに気付き、ヒストリアもまた赤くなる。

    「あ、あの…エレン先輩。昨日の…事は…あ、あんまり…気にしないで…下さい」
    「でもヒストリア…」
    「返事はいつでもいいんです。只、今は野球に専念して下さい…頑張って下さいね」
    「うん、ゴメンヒストリア」

    会話はそれだけで、二人は顔を赤らめながら登校した。
    なんとなく気まずい時間、いつもだったら直ぐ学校に着くのに今日は長く感じる。
    同じ風景なのに、いつもと違う様に感じる。
    そう二人は思っていた。

    しかしそんな平和な一時をぶち壊すかの様に、妙な視線を送る輩が居た。
    通常だったら今この時間に居る筈の無い女性、彼女を知っている者が見れば卒倒するような事実、ペトラ・ラルが今この朝早い時間に出勤しているのだ。
    ペトラは遊び道具を得た小猫よりも興味津々な目をエレンとヒストリアに向け、含み笑いを漏らす。

    「ヌフフフフフフフフフフフフフフ。いいモノ見ちゃった♪ 早起きは3文の得とは、昔の人も良い事言うじゃないの。顔を赤くして二人仲良く登校か~。これは事件よ大事件、グズグズしてられないわ」

    ギャギャギャ!
    タイヤを派手に鳴らし、ペトラは愛車を走らせる。
    いつになってもこの手の話が好きな先生であった。

    ペトラ・ラル---確か30になった筈だが…
  117. 117 : : 2013/12/25(水) 00:32:42
    ここはエレン達のクラス――
    朝練が終わりSHRの始まりを示すチャイムが鳴り響く。
    それと同じにドアを開け、担任のペトラが入って来た。


    「オハヨー、みんな」
    「オハヨーゴザイマス」「今日は早いですね」「ペトラ先生、オハヨー」

    ペトラの挨拶に生徒達が挨拶を返して行く。
    そしてペトラが教卓に着く頃には全員席について待っていた。
    ペトラはクラス全体を見渡して欠席者が居ない事を確認する。

    「今日もみんな来ているわね、先生嬉しいわ。連絡事項はこれと言って無いからSHRはここまで。じゃ、今日も一日頑張ってね」
    「「「「「ハイ!」」」」」

    ペトラの締めの一言で男子生徒が元気に返事をする。
    いくら三十路に入っても容姿だけは衰えず、その美貌を保っている事を示していた。
    いつも通りにSHRが終わり、一時限目に移ろうとしていたが、ペトラが何か思い出したかの様に立ち止まった。

    「そうそう、忘れるトコだったわ。ウフ♪ エレンくーん」
    「な、何ですかペトラ先生…」

    エレンはいきなりのペトラの猫撫で声に悪い予感を覚えた。
    顔を見ると妖しく笑っている。
    大抵ペトラがこう言った態度に出るとロクな事が無い。
    その事を身を持って知っているエレンはゾッとした。

    「んふふふ~、そんなに緊張しなくていいのよ。でないとこれから大変よ~、カ・ノ・ジョと居る時」
    「何~エレン! オマエという奴はぁ! オレはオマエだけは裏切らないと信じていたのに(号泣)」
    「ご、誤解だよライナー! ペトラ先生! 先生が変な事言うからライナーが誤解しちゃったじゃないですか!」
    「あっれ~ だって今朝一緒に歩いていたじゃない。確か1年生の子だった様な…」
    「え!? いや、あれは…」

    確信を突いてくるペトラの攻撃にエレンは何も言えなくなる。
    更に追い討ちを掛ける様にライナーが仕掛ける。

    「1年生って、まさかヒストリアの事か! オマエ等いつの間に仲良くなったんだ!」
    「ライナーちょっと黙って! 誤解なんだってば!」
    「へ~、ヒストリアさんって言うんだカノジョ」
    「ペトラ先生、からかわないで下さい!!」
    「チクショウ! エレン、オマエ等どこまで行ったんだよ!」
    「違うってライナー! 只、告白されただけなん…」

    そこまで言ってエレンはマズイと思った。
    しかし運が悪い事にペトラの耳に入ってしまった。

    「コ・ク・ハ・クゥ~。やるわね~エレンくん。 オネエサンは嬉しいわ」
    「な、何言ってるんですか! そう言う先生はどうなんですか! 30を過ぎているのに結婚もしないで!」
    「オイ、エレン、ヤバイってそれは…」
    「あ…」

    最早止まらなくなったエレンは触れてはいけない物に触れてしまった。
    慌ててライナーが止めようとするが、時既に遅し。
    ペトラは顔は笑っているが漂う雰囲気が豹変した。
    辺りに絶対零度の闘気を撒き散らしながらエレンへと歩き出す。
    そしてエレンの口を手で横いっぱいに開いていじめる。

    「ん~、この口かな~、いけないのは。エレンくぅ~ん、女性の事を悪く言うのはいけないわよ~。カノジョに嫌われちゃうぞ(怒)」
    「ヒェイ、ヒュビマヒェ~ン(涙)」

    哀れエレンは授業が始まり担当の先生が来るまでペトラに弄ばれた。
    周りでは恐怖に怯えて見ているだけのクラスメイト。
    触らぬ神に崇り無し、とはよく言ったものである。

    こうして平和な一時? がこのクラスを過ぎて行った。
  118. 118 : : 2013/12/25(水) 08:12:54
    期待!
  119. 119 : : 2013/12/31(火) 11:46:54
    まだかなー?
    仕事が忙しいのかな?
  120. 120 : : 2014/01/07(火) 08:57:43
    (´・_・`)
  121. 121 : : 2014/01/08(水) 23:46:31
    がんばってください。
  122. 122 : : 2014/01/20(月) 00:11:31
    きたいです!
  123. 123 : : 2014/01/20(月) 23:23:48
    仕事忙しいのかな?
    元日下さい!
  124. 124 : : 2014/01/20(月) 23:25:13
    あ、間違ったwww
    元日下さいではなくて頑張って下さいですwww
    すいません
  125. 125 : : 2014/02/02(日) 20:05:42
    まだ?
  126. 126 : : 2014/02/06(木) 18:17:58
    まだかな…
  127. 127 : : 2014/02/06(木) 22:32:45
    期待です、頑張ってください!!
    (アルミンとミカサも待ってます←)
  128. 128 : : 2014/02/09(日) 16:21:48
    うーん・・・
    続きが待ち遠しい・・
  129. 129 : : 2014/02/09(日) 16:55:54
    まってます!
  130. 130 : : 2014/02/11(火) 17:43:49
    まだかなぁ…
    期待!
  131. 131 : : 2014/02/13(木) 23:36:29
    期待&支援!
  132. 132 : : 2014/02/21(金) 11:27:57
    もう書かないんですか?…>_<…
  133. 133 : : 2014/03/23(日) 17:31:40
    続きをはやくー
  134. 134 : : 2014/03/23(日) 20:08:50
    早く続き書いて~
  135. 135 : : 2014/03/23(日) 22:05:23
    祈りましょう…mullerさんの健在を…

    我々が祈りを捧げる事でmullerさんの存在はより強固になるのです…
  136. 136 : : 2014/03/23(日) 22:14:39
    ウォール教ワロタw

    muller教ですねっwww
  137. 137 : : 2014/03/29(土) 02:24:20
    まだかな…
  138. 138 : : 2014/03/29(土) 19:22:40
    まだかな~?
  139. 139 : : 2014/04/02(水) 22:51:34
    おーーーーーーい!
    >>1さーーーーーーーん?
  140. 140 : : 2014/04/03(木) 01:20:52
    この作品凄く好きなので楽しみなんですが…^_^
  141. 141 : : 2014/04/04(金) 15:29:49
    楽しみにまってま~す>>1さん
  142. 142 : : 2014/04/04(金) 16:40:50
    ウフフフフフ

    タ・ノ・シ・ミ!
  143. 143 : : 2014/04/04(金) 19:39:28
    追いついた!!!長い道のりだった!
    きっと仕事が、急がしいから、書けないだけですよ!!
    KITAI★
  144. 144 : : 2014/07/24(木) 02:58:29
    忘れちゃたのかな?
    続きが見たい
  145. 145 : : 2014/08/18(月) 04:27:09
    いつか思い出してくれるのを期待してます!!
  146. 146 : : 2014/12/28(日) 02:19:26
    とうとう一年か…
  147. 147 : : 2016/08/09(火) 18:42:50
    そして時は約3年すぎる
  148. 148 : : 2016/08/09(火) 18:43:15
    まぁ期待します
  149. 149 : : 2020/01/14(火) 02:26:15
    約6年経ってしまった…

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