ssnote

x

新規登録する

作品にスターを付けるにはユーザー登録が必要です! 今ならすぐに登録可能!

この作品は執筆を終了しています。

ウソつき少女

    • Good
    • 20

loupe をクリックすると、その人の書き込みとそれに関連した書き込みだけが表示されます。

▼一番下へ

表示を元に戻す

  1. 1 : : 2014/03/18(火) 19:46:56

    初投稿です。

    このような形式(スレッド立てて云々)で書くことすら初めてなので、いろいろと間違いがあるかと思いますが、ご容赦下さい。

    ※この作品はエレクリになります。苦手な方はご遠慮下さい。

    では、始めます。

  2. 2 : : 2014/03/18(火) 20:14:04
    「隣、座ってもいいかな?」

    そう言ってこちらを見下ろす彼女に、俺はただ頷くことで応じる。

    訓練が終わり、いつもなら必要以上にお節介を焼きたがる少女と、金髪の親友ともいえる奴と夕食を食べているはずなのだが。

    今日は珍しく、その二人はいない。

    親友は先に寮に戻ってしまい、少女の方は他の女子に呼ばれて席を外している。

    「じゃあ、隣、座るね?」

    おずおずと椅子に腰掛け、こちらに笑顔を向ける金髪の少女。

    何故だろう。その笑みに、どこか違和感を覚えたのは。





  3. 6 : : 2014/03/18(火) 20:30:48
    「えっと……エレンさん、で良かったよね?」

    「ああ、そうだけど……あんたは?」

    「あっ、自己紹介してなかったね。私は――」

    クリスタ。クリスタ・レンズ。

    少しの間を置いて、彼女は自分の名前を口にした。

    「クリスタな。俺は――って、知ってるんだったな」

    「うん。いろいろと有名だから、エレンさんは」

    「あー、そのいろいろ有名ってのも気になるけど、とりあえず“さん”は付けなくて良い。なんかむずかゆくなる」

    その時の俺の顔が面白かったのか、彼女――クリスタはクスクスと口許を手で隠しながら「判ったよ」と頷いた。

    その笑みに、違和感は覚えなかった。

  4. 7 : : 2014/03/18(火) 20:55:54


    「……そういえば珍しいね、エレンがミカサ達と一緒にいないなんて」

    「別に、いつも一緒って訳じゃねえよ。ていうか、そんなに一緒にいるように見えるか?」

    その問いに、クリスタは迷うことなくうなずき返してきた。

    「私があなた達を見かけるときは、いつも三人一緒だから。他の人も言ってるよ?」

    「他の奴らからもそう思われてんのかよ……」

    「……嫌なの?」

    「嫌って訳じゃねえけど、なんつーか、言葉で表し難いんだけど」

    妙に恥ずかしいっていうか、なんていうか――。言葉を濁す俺を、口許を緩めながら可笑しそうに
    見ているクリスタ。

    「お、お前はどうしたんだよ。一緒に飯食べる奴いないのか?」

    明らかに話を変えようとしているのが見え見えな俺に、こいつはまたクスクスと笑いながらも、話に乗ってきてくれた。
  5. 8 : : 2014/03/18(火) 21:28:56
    「いつもはユミル、って言っても判らないよね?」

    ああ、とその言葉に短く返す。

    「えっと、ユミルは私の友達……なんだけどね。その子といつもは食べてるんだけど、さっきの訓練の時、ユミルったらサボってたみたいで――」

    それがバレて、今は教官室に……。

    話すうちに、そのユミルって奴が心配になってきたのか。

    顔をうつむかせるこいつに、俺はさすがに「そいつの自業自得だろ」とは言えなかった。

    「そんな心配しなくても大丈夫だろ。もし罰則を受けたとしても、せいぜい飯抜きとか、馬小屋の掃除とかで済むって」

    「……そう、だよね。ありがとう、エレン」

    別にお礼を言われるほどのことではないと思うが、クリスタは顔を上げて微笑んだ。

  6. 9 : : 2014/03/18(火) 21:51:27
    その会話以降、クリスタと二人きりで話すことはなかった。

    俺は相変わらず世話を焼いてくるミカサと、そんな俺たちの様子を見て苦笑いを浮かべるアルミンと飯を食べていた。

    「エレン、口のまわりが汚れてる。だらしない」

    そう言って俺の口を拭こうとしてくるミカサに、「口くらい自分で拭けるつーの!」とシャツの袖で口をぬぐい、強引に席を立つ。

    ミカサが何か言いたそうな顔をしていたが、それを無視してその場を後にする。

    その際、アルミンがどこにいくの? と聞いてきたから、「自主訓練!」とぶっきらぼうに答えてやった。

  7. 11 : : 2014/03/18(火) 22:26:50
    「――自主訓練、とは言ったものの」

    特に何をするか考えていたわけでもないし、どうするかな……。

    訓練所の中をぶらぶらとうろつきながら、これから何をするかを考える。

    寮に戻る、という選択肢はない。就寝時間まではまだあるし、何より自分から言っておいて、早々に寮の部屋に戻るのはどうかと思う。

    だとしたら、何をするか――。

    「――ん?」

    なんとなしに向けた視線の先に見えたのは、さらさらと夜風になびく金髪。

    寮とは別の方向に歩いているが、あの先に何かあっただろうか。

    「……ああ、馬小屋か」

    あの先には確か馬小屋があったはず。となると、あいつはそこに用があるのか。

    だが、こんな時間に馬小屋に用事?

    「……行ってみるか」

    女の子の後を付けるみたいで気が引けるが、今は好奇心の方が強い。

    考えてる間に姿が見えなくなったあいつを追って、俺は馬小屋に向けて足を踏み出した。



  8. 13 : : 2014/03/18(火) 23:10:21

    馬小屋に着いた俺の目に映り込んだのは、台に乗って馬にブラッシングをしているあいつの姿だった。

    「…………」

    「? ――っ」

    一心にブラシを動かすこいつの背中を黙って見ていると、気配に気づいたのか、こちらを振り向いたと同時に驚いたように目を見張る。

    「え、エレン?」

    「よっ」と声を掛けると、こいつは未だに驚きが抜けないのか。

    「えっあ、うん」と曖昧に返事をしてきた。

    「え……と、いつからそこにいたの? というか、なんでここに?」

    「来たのはついさっきだ。お前がこっちに行くのを見て、気になってな」

    「そうなんだ……えっと、私は馬のお世話にしにね。ほら、今日馬術の訓練があったでしょ? だから手入れしてあげなきゃなって」

    「そりゃ見たら判るけど。わざわざこんな時間にか? それに訓練の後に一度してるだろ」

    そう。馬術の訓練後、馬は手入れするようになっている。そのための時間も取られているのだ。

    「確かにそうだけど、あんな少しの時間じゃ満足にできないから」

    だから、夕食が終わった後の空いた時間にやるんだよ。

    そう言って彼女は目を細め、いとおしげに馬に触れた。
  9. 15 : : 2014/03/19(水) 08:25:07
    「馬、好きなのか?」

    貴重な自由時間を割いてまで世話をするんだから、余程馬が――もしくは動物自体が好きなのか。

    「うん、昔から、この子達と一緒にいることも多かったし……それに……」

    最後の方は小さくてよく聞こえなかったけど、俺は特に気にはしなかった。

    「お前が馬術得意なのって、そのおかげか」

    「ふふっ、そうかもね。私、それくらいしか取り柄ないから。だからこの子達には、いつも感謝してるんだ」

    ――まただ。また、あの違和感。

    自分を貶しておきながらも笑うこいつに、俺はいつかの、初めて話した時の笑みにも似たものを感じた。

    それはどこか作り笑いのようで、まるで――。

    「エレン?」

    はっ、と無意識にうつむかせていた顔を上げると、俺を見て首を傾げているクリスタ。

    そりゃ、目の前の人が急に黙りこんだら疑問にも思うよな。

    「どうかしたの?」

    それに「何でもない」と答えると、こいつは「ならいいんだけど」と安心したように笑みをこぼす。

    俺は、思わずこいつから顔を背けてしまった。

    「……エレン?」

    「もうすぐ時間だから、お前も戻った方がいいぞ」

    「えっ? あ――」

    突然の言葉に戸惑うこいつを置いて、俺は寮へと歩き出す。

    これ以上、あいつの笑った顔を見ていたくなかった。どうしてかは判らないが、笑うあいつを見るのは、ひどく気持ち悪かった。

    まるで、笑顔の仮面を見ているみたいで。
  10. 16 : : 2014/03/19(水) 09:11:29
    寮に戻ると、真っ先にアルミンに声を掛けられた。

    「何してたの?」と、初めから俺が自主訓練なんてしていないと決めきっているような台詞に、「別に、なんでもいいだろ」と適当に返す。

    それだけで何かを察したのか、ため息混じりに「そう」とだけ言って、これ以上は何も聞いてこなかった。

    そんなアルミンの気遣いに感謝しつつ、柔らかみも何もないベッドの上に寝転ぶ。

    自然と頭に浮かぶのは、あいつの顔。

    笑っているのに、笑っていない。いや、確かに笑ってはいるのだけれど、心からのものとは思えなかった。

    「…………」

    ふと思う。俺は何であいつのことを、ここまで考えているのだろう。

    まともに話したのだって、この前と今日の二回だけ。別段親しい訳でもない。

    「……あほらし」

    そう考えると、悩んでいるのが馬鹿らしく思えてきた。今俺が考えなきゃいけないのは、もっと強くなって、巨人を駆逐すること。

    「それに……」

    またあいつと関わるなんて、決まってる訳じゃあないしな――。

    そう結論付けて眠りに着いた、翌日の朝。

    いつもの如く三人で飯を食べてると、知らない奴に声を掛けられ。

    「悪い、席埋まっちまっててな。ここいいか?」

    目付きの悪いそいつの後ろには、あいつの顔。

    「おはよう!」

    “笑顔”で挨拶をするクリスタが、そこにいた。
  11. 19 : : 2014/03/19(水) 13:10:22

    「しかしあんたら、また三人一緒かよ。仲良すぎじゃねえの?」

    俺の横に座り、ニヤニヤと口元を歪ませながら、ただでさえ鋭い目を細め、茶化すように女が話し掛けてきた。

    それにいち早く、こいつとは逆の俺の隣にいたミカサが反応する。

    「当たり前。私はエレンの家族。一緒にいるのが当然」

    アルミンを入れてやれよ、と言おうとしたが、当の本人は目の前の席で特に気にした様子もなく苦笑いしているので、口には出さないことにする。

    そんなアルミンは、さっきからチラチラと目線をある方に向けている。

    その先には――クリスタ。

    アルミンの隣に座ったクリスタは、ミカサと目付きの悪い女の会話を楽しそうに眺めている。

    その笑みに、昨日感じた気持ち悪さはない。

    「…………」

    判らない。どうして今は何も感じないのか。同じように笑っているのに、今目の前で笑っているこいつと何が違う――。

    「エレン?」

    唐突に、俺を呼ぶ声と同時肩に手が置かれた。

    見ると、ミカサが俺を見ていた。他の三人も、俺のことを見つめている。

    「エレン、どうかしたのかい? 凄い眉間に皺寄せてたけど……何か考え事? よかったら相談くらいには乗るよ?」

    そう言ってくれたアルミンには悪いが、こんなこと、誰かに相談できることではない。

    “お前の隣にいるやつの笑顔が気持ち悪くて悩んでた”なんて、言えるわけがない。

    「なんでもねえから、大丈夫だ」と誤魔化しながら席を立つと、ミカサも一緒に立ち上がった。

    「あっ、待ってよ二人とも!」とアルミンも追い付き、俺たちは食堂を後にした。

    その際、ひとりの少女が俺を見つめていたことには気づかなかった。
  12. 21 : : 2014/03/19(水) 16:37:23

    「あー……、いてえ」

    午前の対人格闘術の訓練も終わり。

    アニに蹴り飛ばされた時の痛みを引きずりながら、午後からは馬術の訓練が始まる。

    二日続けての馬術。昨日の訓練の時はいまいち上手くいかなかったから、今日は昨日の失敗を踏まえて訓練に臨む。

    「っ――違う、そっちじゃない!」

    どうにも馬との意志疎通が上手くいかない。昨日なんて、危うく落馬しかけたくらいだ。

    馬は壁外に出た際、兵士の重要な足となる。だからこそ、調査兵団を目指す俺にとって、馬術はしっかりと身に付けておかなくてはならないのだが……。

    「なんで言うこと聞いてくれないんだよ……」

    乗り方か? 姿勢とかは間違ってないと思うんだけど。

    前に一度、ミカサにコツなんかを聞いてみたがさっぱりだったし。

    なんだよ、「馬を支配すればいい」って。他にもいろいろ言ってたが、ほとんど感覚的なのばかりで理解できなかった。

    はぁ、とその時のことを思い出すと、自然とため息が出てきた。

    誰か他の上手いやつに聞くか――と辺りを見渡すと、ちょうど近くにアルミンの姿が。
  13. 22 : : 2014/03/19(水) 17:54:13
    「エレン、どうかした?」

    「なあアルミン――」

    俺はさっきまで考えていたことをアルミンに話した。

    「馬術が上手い人ね。だったらやっぱりクリスタじゃないかな」

    彼女の馬術の成績はトップクラスだからね、と、自分のことでもないのに、なぜか誇らしげに言うアルミン。

    「クリスタ……」

    予想外、ではなかった。馬術しか取り柄がないとまで言ったあいつが、馬術が下手とは思えない。

    けどまさか、訓練兵の中でもトップの方だとは思わなかったが。

    「あっほら、ちょうどあそこに本人もいるし、せっかくだから聞きに行こうよ」

    「あ、おい」

    俺の引き留める声は意味がなく、アルミンはあいつに話し掛けてしまった。

    いくつか言葉を交わし、アルミンは俺の所に戻ってきた。その後ろに、あいつを連れて。



  14. 24 : : 2014/03/19(水) 20:54:09
    「アルミンから聞いたよ。私のやり方でよければ教えれるけど」

    ……断る必要は、ない。むしろこっちから頼んだようなものなのだから、断る方がおかしい。

    「エレン?」

    アルミンが、俺の名前を呼ぶ。

    横にいるクリスタは、不安そうに顔を曇らせている。

    「――なんで」

    お前は、そんな顔をしているんだ。お前が不安になる必要なんて、どこにもないだろ。なのにどうして――。

    「……判った」

    「――!」

    「お前のやり方でもいいから、教えてほしい」

    「あ――うん!」

    途端に、顔一杯に笑みを浮かべるクリスタ。

    なんだ、なんなんだよ、その反応は。

    そんなに俺が答えたことが嬉しかったのかよ。

    「ありだと! エレン!」

    なんでお前が、礼なんて言うんだよ。

    「……なあクリスタ。俺――」

    「なにかな?」

    「……いや、よろしくな」

    「うん、こちらこそ!」

  15. 25 : : 2014/03/19(水) 22:46:24

    その出来事を切っ掛けに、クリスタとはたびたび話すようになった。

    といっても、話すことは馬術のことが大半で、それ以外ではあまり話さない。

    俺が、話そうとしないだけだけど。

    ……あいつと接するようになってから、少しだけ、判ったことがある。

    あいつは、誰にでも優しい。異常なほどに。

    誰彼構わず笑いかけ、励まして――あの張り付けたような、薄っぺらい笑顔を向けている。

    まるで自分を偽るように。

    もしかしたら、それは俺の思い違いなのかもしれない。周りの連中は何も言わないし、普通なら、ただ笑っているようにしか見えないから。

    ならどうして俺はそう思えないんだろうか、と考えてみたけど、答えは出なかった。

    ただ判るのは、俺はあいつの、あの気持ち悪い顔が嫌いだということ。

    「あっ、エレン」

    「……よう、お前はまた馬小屋か?」

    「そうだよ」と言って、こいつはあの笑顔を向けてくる。

    そんな顔、俺は見たくない。

    「そうか。あまり遅くならないようにな」

    これ以上あの顔を見ていたら、言わなくてもいいことを言ってしまいそうで。

    話を切り上げ、その場から離れようとした俺なのだが――ふいに、腕を掴まれる。

    「ねえ。エレンも、一緒にどうかな?」

  16. 28 : : 2014/03/20(木) 05:36:03


    「……」

    「ほらっ、馬の手入れの仕方とかも訓練の一環でしょ? エレン前に言ってたよね、手入れのやり方にもコツがあるのかって」

    「まあ確かに言ったけど……何も今じゃなくていいだろ」

    それこそ、訓練なら訓練の時に教えてくれればいい。わざわざ夕食後の今である必要なんてない。

    「う、あ……でもほらっ、元々ある訓練後の時間だと、あまり細かく教える時間もないし。それに――」

    やけに焦ったように、クリスタは早口で喋り出す。何をそんなに焦っているのか。

    まるで、俺に断られるのを怖がってるようにも見える。

    だとしても、何をそんなに怖がるんだ――?

    俺が考えることに集中していると、目の前のこいつはいつの間にかうつむいていて。

    顔は見えないけど、まるで今にも泣き出しそうな雰囲気に、さすがに焦る。

    「判った」

    咄嗟に出た言葉はそれで。

    顔を上げたこいつは、驚いたように瞳を開き、数回瞬かせた後、ホッとしたように顔を綻ばせる。

    結局、俺はクリスタに、馬の手入れを教わることになった。
  17. 29 : : 2014/03/20(木) 06:37:25
    「馬との信頼関係も、馬術には大切だと思うんだ」

    二人並んで、馬にブラシをいれる。横にいるこいつは小さいから、台に乗って。

    馬小屋には俺たち二人しかいない。……当たり前か。こんな時間にここにいる奴なんて、こいつみたくよっぽど馬好きな奴くらいだろう。

    例え好きだとしても、自分の自由な時間を割いてまでする奴は、滅多にいないだろうけど。

    「信頼関係?」

    「うん。どんなに乗り手が上手くても、馬との仲が悪かったら、上手くいくものもいかなくなる」

    「お前がよくここに来るのは、そのためか?」

    「それもあるけど、やっぱり感謝したいからかな。いつも乗せてくれてありがとうって」

    作業をしながら微笑むその顔に、いつもの気持ち悪さはなくて。

    けど、どこか寂しそうに見えて。

    「……なあクリスタ、お前は――」

    こんなこと、聞くつもりはなかった。

    もしかしたら、さっきの寂しそうな笑みを見て、普段こいつが浮かべるものとの差から、聞きたくなったのかもしれない。

    口は、自然と言葉を紡ぐ。

    「――お前は、どうしていつも、あんな変な笑い方するんだ?」

    「……、え?」

  18. 31 : : 2014/03/20(木) 11:44:34

    静寂。

    突然質問されたことに対してか、もしくはその内容によるものなのかは判らないが。

    明らかに動揺を隠せていないクリスタを、俺は黙って見つめる。

    「なに、言ってるの……?」

    絞り出すようにして発せられた、小さな声。

    そして“笑顔”を作ると、俺を見返してくる。

    「 変な笑い方って、なんのこと? 私はいつもと一緒だよ? いつもこうやって笑ってるよ?」

    いつもこうやって笑ってる――。

    「そうか。ならお前は、いつもその“人に見せるために作った笑顔”で、笑ってるんだな」

    「っ――ちがっ……」

    「お前っていつも笑ってたよな。飯の時も、訓練の時も……少なくとも俺は、お前が誰かと一緒にいる時に笑ってないのを見たことがない」

    「…………ちがう」

    首を微かに横に振り、クリスタは俺から目を反らして下を向く。

    「楽しくて笑ってるんだったら、別に気にはならなかった。けどお前はまるで、他人に笑っている自分を見せるために笑ってるように見えた」

    「……ちがうっ」

    さっきよりも大きく首を振る。その顔は、髪の毛が邪魔していてよく見えない。

    「なあクリスタ、どうしてお前はそんな――」

    「違う!!」

    この時、俺は初めてこいつの素顔を見た気がした。

    顔を上げたクリスタは、力強い眼差しを俺に向けている。

    睨むように俺を見ているこいつの顔に、笑みはなかった。
  19. 33 : : 2014/03/20(木) 16:49:53
    「私は! クリスタレンズは! ちゃんと笑ってる! 笑えてる! 作った笑顔なんかじゃない!」

    ……こいつが、ここまで大声で叫んだことがあっただろうか。

    「他人に見せる為なんかじゃない! エレンの言っていることは間違ってる! 第一、貴方に私の何が判るの!? 私の何を知ってるの!?」

    普段温厚な奴は、怒ると怖いと言うけれど、あながち間違ってはいないのかもしれない。

    クリスタに詰め寄られて、無意識に後ずさる。

    「何も判らないでしょ!? 何も知らないでしょ!? 私がどんな人間なのかも! 私が――どんなに、苦しんでるかも知らないくせに、知ったようなこと言わないでよ!!」

    一気に叫んだせいか、肩で息をするクリスタ。

    たてつづけに言われたから、俺はほとんど理解できなかったけど……ある部分だけは、しっかりと耳に残っていた。

    「――くる、しんでる?」

    「――っ!」

    はっ、と俺の呟きに反応したクリスタは、体を翻して勢いよく駆け出す。

    離れていくあいつの背中を、俺はただ黙って見ていることしかできなかった。
  20. 34 : : 2014/03/20(木) 19:19:33


    「……はぁ」

    今日の訓練も終わり。

    ベッドに寝転んで、自然と口から出たのは――ため息。

    クリスタと、馬小屋で話したあの日から。

    俺は一度もあいつと話していない。

    避けられる、のは当たり前か。

    顔見知り程度の相手にずかずかと物言われれば、そりゃ怒るに決まってる。それに加え、俺はあいつの触れられたくない一線も越えてしまったみたいだったから、余計腹も立ったんだろう。

    ――私の何が判るの!? 私の何を知ってるの!?

    ――知らないくせに、知ったようなことを言わないでよ!!

    「知ったようなこと言わないで、か。ほんと、その通りだよな」

    口に出して、改めて自覚する。

    俺は、あいつのことを何も知らない。

    好きな食べ物も知らないし、たまにある休日に何をしているか――は、まあ知らなくてもいいのか。

    知ってるのは、訓練兵としてのあいつだけ。それも全部って訳じゃあない。馬術が凄い上手いとか、対人格闘が少し苦手とか、その程度。

    「――けどな、クリスタ」

    お前が嘘をついているのは、何となく判るんだよ。いつも浮かべてる笑顔が偽物だってくらい、なんでか知らないけどわかっちまうんだよ。

    「あー、駄目だ、俺」

    最近、ずっとあいつのことばかり考えてる。

    巨人や訓練なんかよりも、クリスタに――意識が、関心が、向かってる。

    「はっ、どうなっちまったんだろうな、俺」

    自分のことなのに、理解できない。

    そんな自分を嘲るように笑ってから、俺の意識は沈んでいった。
  21. 36 : : 2014/03/20(木) 22:18:00
    後日。

    今俺の目の前には、クリスタがいる。

    「…………」

    「…………」

    なんというか、気まずい。

    そもそもこうなった経緯すら、よく判らない。

    今日の訓練は、対人格闘術。

    いつものように、アニに相手を頼もうとしていたのだが、今日は別の奴と組むからと断られ。

    偶々なのかなんなのか、アニは後ろにいたクリスタを俺の前に押し出し、「じゃ、頼むよ」と一言。

    困惑する俺を置いて、アニはどこかに行ってしまい。目の前には、俯いたまま顔を上げないクリスタだけが残された。

    それから今の今まで、互いに無言のまま相対している。

    「…………」

    「…………」

    うん。やっぱ、気まずい。

    しかし、いくら気まずいからといって、これ以上何もしないで教官に見つかってしまうと、サボりと見なされてしまう。

    ……仕方ない、クリスタには悪いけど、ふりだけでもしてもらうか。

    前のことから嫌われてるだろうし、俺と組むのは嫌だろうけど、今は付き合ってもらおう。

    「ねえ、エレン」

    「!」

    「訓練、しよう。私がならず者をやるから、エレンは木剣を奪う役ね」

    「え、お……おう」

    驚いた。

    まさか向こうから話し掛けてくるとは思わなかったから、返事するのに戸惑っちまったし。

    「じゃあ、行くよ」

    「クリスタ、ちょっ――」

    ちょっと待て、と言い切る前に、クリスタから木剣が突き出される。

    顔を狙ってきたそれを咄嗟に避け、思わずいつものように技を掛けてしまい。

    「やばっ――」

    男ならまだしも、クリスタみたいな女の子を本気で投げるのはまずい。

    無理矢理体を押し留めたせいか、俺はバランスを崩してしまい――。

    「あっエレ――っ」

    クリスタを巻き込みながら、無様に地面に倒れてしまった。
  22. 37 : : 2014/03/21(金) 06:50:21
    まるでクリスタを押し倒したかのような体勢に、さすがに俺も焦る。

    「悪いクリスタっ、すぐ退くから!」

    体の下敷きになってしまったこいつから急いで離れようと、体を持ち上げようとしたのだが。

    「え?」

    ぎゅっ、と上着のシャツを掴まれ、動きを制止させられる。

    「クリスタ?」

    見ると、不安と緊張が入り交じったような顔つきで、俺を見上げているクリスタがいて。

    「――なさい」

    「え……」

    「この前は、酷いこと言って、ごめんなさい」

    ひどく小さな声で、絞り出すようにして放たれたその言葉に、俺は困惑する。

    「なにを」

    なにを言ってるんだ、こいつは。

    この前酷いことを言ったのは俺の方だろ。なんでお前が謝るんだよ。

    「避けて、ごめんなさい。無視して、ごめんなさい。私が悪かったから……全部、私が悪かったから……」

    違う、お前はちっとも悪くない。

    悪いのは俺の方だろ。

    どうして嘘つくんだよ。

    なんでそんな……泣きそうな顔してるんだよ。

    「エレンは何も悪くない、悪いのは全部私なの。謝るから、何度でも謝るから。だから、だからっ――」

    嫌わないで――……。


  23. 40 : : 2014/03/21(金) 12:32:26

    俺の服を掴む指先が、震えているのが判る。

    心の底から懇願する眼差しを、俺に向け。

    上着を掴む指に更に力を込めたのか、服越しに、クリスタの手の震えが強くなったのが判った。

    「嫌わないで――って」

    「お願い、だからっ……」

    「ま、待ってくれよ。なんでいきなり――」

    「クリスタァァア!」

    突然、どこからかあがった叫び声。

    次の瞬間、視界がぐるりと回転し。

    気づいたら、俺は地面に背中をつけて、雲ひとつない空を見上げていた。

    「クリスタ! 大丈夫――っ、お前泣いてんのか!? あの死に急ぎ野郎に何かされたのか!?」

    体を起こして辺りを見渡すと、クリスタに詰め寄って何やら大声を出しているユミルの姿が。

    クリスタはというと、あまりに唐突過ぎるあの女の登場に、目を見開いたまま固まっている。

    「おいこら死に急ぎ野郎! お前、私のクリスタを泣かせるとは……覚悟は出来てるよな?」

    その視線だけで人を殺せるんじゃないかというくらい、ユミルは怒りの感情を俺に向けてくる。

    そんなユミルの肩に手を置く者がいた。

    ライナーだ。

    「まあ待てユミル」

    まさか、あの女を止めてくれるのか。

    「俺もやろう」

    加わりやがった。

    新たに仲間となったライナーを連れ、二人は俺のところに近づいてくる。

    ゆっくりと歩んでくるこいつらを、どこか他人事のように眺めながら。

    俺は粛清という名の暴力を受けることを覚悟した。
  24. 45 : : 2014/03/21(金) 18:39:27

    あの後、ユミルとライナーにやられて医務室に運ばれる――なんていうことはなく。

    俺は無事訓練を切り抜け、夕飯にありつけていた。

    「聞いたよエレン。今日は災難だったね」

    誰からか話を聞いたのだろう。

    隣で笑っているアルミンに、俺は露骨にため息をついてから答える。

    「笑いごとじゃねえよアルミン。あいつら、マジで俺のこと仕留める気だったぞ、絶対」

    「けど訓練中の事故とはいえ、クリスタ押し倒して泣かせたんでしょ? それをあの二人に見られたのが運の尽きだったね」

    「別に押し倒したくてした訳じゃ……まあ、悪いのは俺の方だけど」

    「でも良かったじゃないか。クリスタ、許してくれたんだろう? さらには二人からエレンを守って、説得までしてくれたって聞いたし」

    ――そう。アルミンの言う通り、あの二人を止めてくれたのはクリスタだった。

    あれは訓練中の事故で、泣いてたのは目にゴミが入ったからだ、と。

    初めは信じなかったユミルとライナーだが、いつになくクリスタが強気に出たからか、渋々ながらも引いてくれた。

    けれど、俺がクリスタを不可抗力とはいえ押し倒したことに変わりはないわけで。

    今もひしひしと、あの二人の射抜くような視線を感じる。

    「俺、襲われたりしないよな?」

    「可能性はないとは言えないね」

    「だよなあ……」

    「大丈夫」

    「ん?」とアルミンと一緒にミカサを見る。

    「もしあの二人が来たら、私がエレンを守る。ので、心配はいらない」

    「寮の中ではどうするの? ミカサ、女子だから男子寮には入れないよ?」

    「その時は、アルミンがエレンを守る」

    「え、僕?」と目を丸くするアルミンに、何やらミカサが話しているのを横目で流しながら、俺はある方へ目を向ける。

    どうやらあっちもこちらを見ていたようで。

    俺と目が合うと、慌てて顔を逸らしたのが確認できた。

    「たくっ――バレバレだっつうの」

    そんなクリスタの様子に、俺は自然と口許を緩ませていた。
  25. 47 : : 2014/03/21(金) 21:31:44
    それから寮に戻るまで、誰かに襲われるような事態に陥ることはなく。

    部屋に戻ってからも、ただ何も言わずに見つめてくるライナーには底知れぬ恐怖を感じたが、アルミンとベルトルトの二人の助けもあって何とかなだめるのに成功。

    今はいびきをかいて眠ってる。

    俺はというと、ベッドに横になりながら、あの時クリスタが言ったことを考えていた。

    “嫌わないで”

    あれは、本当に嫌われたくないから言ったんだろう。

    俺に酷いことを言ったともいっていたし、それが原因で、俺がクリスタのことを嫌いなると思ったんだろうな。

    けど俺に嫌われるってだけで、あそこまで必死になる必要なんてないと思うが……。

    「――あ?」

    嫌われると思ったから。だから、謝ってきた。嫌われたくないから。

    “俺に嫌われたくないから”

    「“人”に嫌われるのが……怖いから?」

    待て、待て待て待て。

    謝ってきた時のあいつの顔は、どんなだった。

    今にも不安で、泣き出しそうな顔。

    あれに似た顔を、前にも――。

    「あれは、確か」

    馬術のコツを教えてくれようとした時に、俺が黙り込んでいて……それをあいつは、何故か不安そうに見ていた。

    「まだあった筈だ……あれは――」

    馬の手入れを一緒にやろうと誘われ、俺があまり乗り気じゃないと知った時の、あの泣きそうな顔。

    あの時はいまいち判らなかったけど、今考えるとあれは――。

    「俺に断られて、嫌われるのが怖かったから」

    だとしたら、あいつがあの気持ち悪い笑顔をするのって――……。


    気づいたら、朝日の光が窓から差し込んでいて。

    俺はその夜、一睡もしなかった。
  26. 48 : : 2014/03/22(土) 07:51:52

    「あー……」

    目元を擦り、大きく欠伸する。

    「エレン、なんだか眠たそうだけど、眠れなかったのかい?」

    「考えごとしててな……一睡もしてない」

    「エレン、それはいけない。休息は大事」

    ずいっ、と顔を近づけてくるミカサ。

    「それくらい判ってるっつうの。てかちけえよ」と俺はミカサの額に手を当て押し戻し、朝飯の味気ないスープを口に運ぶ。

    「でもミカサの言う通り、体はちゃんと休めないと駄目だよ。寝不足で集中できずに怪我とかしたら大変だし……というかエレン、眠れなくなるくらいの考えごとって、一体何を考えてたのさ」

    「それは私も知りたい。エレン、教えて」

    「……あー、クリスタのこと、少しな」

    ガタッと音をたて、アルミンが驚いたように立ち上がる。

    「そんなっ……エレンが女の子のことを考えていたなんて。しかも相手はあのクリスタのこと――って、クリスタ? もしかして、昨日のこと?」

    「……まあな」

    多分アルミンが思っていることは違うだろうけど、俺は一応頷いておく。

    「……それだったら、もう彼女から許してもらってるじゃないか。大丈夫だよ、クリスタは優しいし、押し倒されたことは気にしてないと思うよ?」

    「昨日のことは私も聞いた。クリスタも、別に気にしてないと言っていた。だからエレンも、押し倒したことを気に病む必要はない」

    「だから押し倒してねえって」

    「冗談だよ」
    「冗談」

    「お前ら……」

    いつになく息の合う二人に、思わずため息を吐いてしまう。

    「二人とも、そろそろ時間だし、移動しようよ」

    「ほら早く!」とやけに張り切っているアルミンに、ああ、次は座学だからか、と納得する。

    アルミンの後ろを歩きながら、俺は今日の夜について考える。

    午前は座学と技巧術。

    そして午後からは――馬術の訓練が、入っている。

    ということはつまり、今日の夜、あの場所にあいつがいるということ。

    ――そこで話そう、あいつと。

    そして聞こう、あいつのことを。

    何を思って、何を考えているのか。好きな食べ物に、休日の過ごし方も。

    知りたいから、あいつのことが。

    クリスタ・レンズのことを、俺は知りたいから。

    ……だけど、どうしてあいつのことを、そこまで知りたいのか。

    その理由だけは、判らない。
  27. 50 : : 2014/03/22(土) 14:37:31

    今日は、やけに時間が経つのを遅く感じた。

    夜にクリスタと話すことばかり考えてしまい、加えて寝不足の影響もあってか、訓練にも身が入らず。

    座学の時なんて、危うく眠りそうになったところを教官に当てられて冷や汗をかいたし。アルミンが助けてくれたから、なんとか切り抜けられたけど。

    そんなこんなで周りに迷惑を掛けながらも、無事訓練を終え。

    俺はひとり、馬小屋に向かっていた。

    空に輝く満月を、たまに思い出したように見上げつつ。

    着いたそこに、クリスタはいなかった。

    「……、あれ?」

    予想していなかった事態に、体が停止する。

    いや、別にクリスタと会う約束をしていた訳じゃないから、いなくても不思議じゃないんだけど。

    ――よりにもよって今日かよ……。

    小屋の中を見渡しても視界に入るのは馬だけで、あいつの姿はどこにもなく。

    「……出直すかあ」

    諦めて引き返そうとした俺の、視界の端にちらっと映り込んだのは――小屋から少し離れた場所にある、小さな金色。

    「……クリスタ?」

    草の生えた地面に座り、膝を抱え込みながら夜空を見上げているあの顔は、間違いなくクリスタで。

    月明かりに照らされたその横顔に、思わず見いってしまった。

    「……?」

    俺の気配に気がついたのか、あいつはこっちを振り向く。

    その時、あいつは特に驚いた様子も見せず――微かに笑ったかと思うと、また空を見上げた。

    「…………」

    黙って、あいつに近づく。

    「こんばんは、エレン」と、横に立った俺に声を掛けてきたこいつに、短く「ああ」とだけ返しておく。

    「今夜は月が綺麗だね。エレンも、座って見よ?」

    ポンポンと隣を叩いて、座るように促してくる。

    言われるまま、クリスタの隣に腰を下ろす。

    ……それからは、互いに無言で月を見上げて。

    「……エレン、私ね」

    最初に静寂を破ったのは、クリスタだった。
  28. 52 : : 2014/03/22(土) 21:07:59
    「本当は、生きていちゃいけない存在なんだ」

    「…………」

    言葉が、出なかった。

    「今だってね? 本当だったら訓練兵になんかならないで、死んでいなきゃいけないの。私は、誰にも必要とされない存在だから」

    ――知らない。

    俺は、こんなクリスタの顔、知らない。

    「望まれて生まれた訳じゃない。誰かに必用とされることもない。身内に殺されかけたことだってあったな」

    ――思わずゾッとするほどの、無表情。

    いつも誰かと話す時に浮かべてた、あの笑顔も今はなくて。

    まるで感情のすべてを削ぎ落としたのかと思うくらい、クリスタの顔には何もなかった。

    「邪魔。消えろ。なんでお前みたいなのが生きてるんだ。お前なんて死んだって誰も気にはしない」

    「……それ、は……」

    「全部、私に向けられた言葉。酷いよね。私だって、生まれたくて生まれた訳じゃないのに。好きで、こんな世界に生まれたかった訳じゃないのに」

    「…………」

    「ある日、家を追い出された。きっと私が要らなくなったから、邪魔になったんだと思う。もともと、いてもいなくても必要なかった存在だし。身内にも――親にすら嫌われてたみたいだから、当たり前なのかな」

    そこで初めて、クリスタの顔に変化があった。

    けどそれは、自分のことを嘲ているような笑みで、とても見ていられなかったけど。

    「それからもいろいろあって、私は訓練兵に志願した。ここならきっと、私を必要としてくれる人がいると思ったから。それにこんな私でも――」

    ――兵士になれば、誰かのために死ねると思ったから。

  29. 54 : : 2014/03/23(日) 08:51:00

    ……いま、何を言ったんだ、こいつは。

    誰かのために死ねる?

    まるで、始めから死ぬつもりみたいに……っ。

    「けどね、そのためには“良い子”にならないといけないの」

    「いい、子……?」

    「良い子にならないと、誰も好きになってくれないでしょ? それじゃ誰も必要としてくれないから。みんなに良い子でいないと、誰も私を頼ってくれない……それじゃ駄目なの。
    誰かのために死ぬには、必要とされなくてはいけない。頼られなくてはいけない。そうでないと死んだ後、誰も私を誉めてくれないでしょ?」

    「…………」

    言ってることが、無茶苦茶だ。

    “良い子”になったって、誰かが頼ってくれるわけじゃない。必要としてくれるわけじゃない。

    好きになってくれる、わけがない。

    それに何だよ、死んだ後に誉めてもらえないって。死んだ後誉めてもらったって、意味ねえじゃねえか……っ。

    そう言いたいのに。

    言って、やりたいのに。

    何故か俺の口は、動かなくて。

    「ねえエレン、私、ちゃんと良い子だったでしょ? ちゃんとみんなの前で笑えてたでしょ?
    きっとみんな、私のこと頼ってくれるよね? 必要としてくれるよね?」

    「……もういい」

    「ちゃんと笑えてたもん。大丈夫だよね? みんなに優しくできたし、みんな私が良い子だと思ってくれてるよね? みんなきっと――好きになって、くれるよ――」

    「もういい!!」

    そこでようやく、口が開いた。

  30. 55 : : 2014/03/23(日) 14:44:46

    「……エレン?」

    「俺はな、クリスタ。お前の言う“良い子”の時の笑顔が、嫌いだった」

    「――」

    「気持ち悪かった、あの顔をする時のお前が」

    何を言われたのか判らない、といった様子のクリスタは、次第にその顔を歪めていく。

    不安と恐怖で染められた顔を俺に向けて、小刻みに体を震わせる。

    「なん、で? 私、何か間違えてた? エレンに何か酷いことしちゃった?」

    「いや、何もしてない」

    「この前酷いこと言ったの、怒ってるの? なら謝るよ。エレンが許してくれるまで、ずっとずっと謝るよ?」

    「違う、あれは俺が悪かったんだ。お前は悪くない」

    「もしかして、馬術の教え方、悪かったかな? ごめんね、今度はもっと頑張るから。許して」

    「違う。お前はちゃんと教えてくれた」

    「あ、判った。私、ちゃんと笑えてなかったんだね? だからエレンは、私のこと嫌いって言ったんだ。ごめんなさい、次からは、ちゃんとエレンの前でも笑えるようになるから」

    「クリスタ、話を聞いてくれ。俺は」

    「だから嫌わないで。お願いだから、私を捨てないで。私は要らない子じゃないの。本当だよ? 人のためにちゃんと死ねるもん。エレンのためにだって死ねるんだよ? だから――」

    虚ろな瞳を俺に向けるクリスタに、俺はああ、やっぱり、と思っていた。

    ――俺の言葉で、クリスタがこうなるであろうことは、どこか判ってた。

    話を聞いて、なんとなく判ったことがある。
    クリスタは、誰かに自分を否定される、嫌われることを心底恐れてる。

    だから俺に、自分の笑顔を――“みんなに必要とされる、好きになってくれる筈と信じてやってきた行為”を、“みんなの中のひとり”である俺に否定されて――どこか壊れることは、判ってた。

    深く傷付くだろうってことも。

    わかってた、筈なのに。

    「クリスタ」

    泣きながら、必死に笑おうとしているこいつを見て。

    震える手を、すがるように伸ばしてくるクリスタを見て。

    「あっ……」

    その伸ばされた手を引いて、信じられないくらい華奢な体を、抱き締める。

    こいつを傷つけて、壊してしまったのは俺なのに。

    そんな俺が、こんなことをする資格がないってくらい、判ってるのに。

    「もういいんだ。そんなこと、もう俺の前でしなくていいから。そんなことしなくたって、俺はクリスタのこと、嫌わないから」

    クリスタの顔は、髪でよく見えないが。

    ぴくり、と体が動いたのが判った。
  31. 57 : : 2014/03/23(日) 21:14:17

    「……うそ」

    「嘘じゃない」

    「うそだよ。だってみんな、私が良い子だから頼ってくれてる。良い子にしていない私なんて、きっとみんなも嫌いになる。エレンだって、きっと……」

    ぎゅっ、と胸元の辺りを掴まれる。

    「そんなことねえよ。お前が良い子にしていなくたって、あいつらはお前のこと、嫌いになんてななんねえよ。……少なくとも俺は、嫌いなんてならない」

    その言葉に、腕の中にいるクリスタが小さく首を横に動かす。

    続けて「信じられない」とも。

    その言葉にチクリと胸が痛むのを感じながら、仕方ないのかな、と思った。

    全部を話したわけじゃないだろうけど、多分こいつには、今まで味方になってくれる奴がいなかったんだろう。

    親にすら嫌われてた、とも言っていたし。

    そんなこいつが、会ってまだろくに時間も経ってない俺を信じられないのも、無理はないのかもしれない。

    けど、たとえこいつが信じてくれなくても。

    「俺は、クリスタを嫌いになんてならねえよ」

    ぎゅう、と腕に力を込めて、強く抱き締める。

    少しでも、信じてくれるように。

    ほんのちょっとでも、俺の想いが、クリスタに届いてくれるように。


    ――しばらく、そのままの状態が続いて。

    「……本当に?」

    顔を上げたクリスタの、その潤んだ瞳に一瞬ドキッとする。

    「本当にエレンは、私を嫌いにならない?」

    「……ああ、本当だ」

    「本当の、本当に?」

    「本当の、本当に」

    「 私はっ……エレンを、信じていいの?」

    「信じてくれると嬉しいけど、無理にとは言わない。クリスタが信じていいと思ったら、信じてほしい」

    「…………」

    ……駄目、か。

    まあ今は無理でも、いつか信じてくれるのを待つしかないか。

    うつむいて黙り込んだクリスタに、半ば諦めの感情を抱いていた、その矢先。

    ぐっ、と胸元に力を加えられたのに気づき。

    見ると、俺の胸に額を押し付けるようにしているクリスタがいて。

    「クリスタ?」

    「ごめっ……エレッ……」

    だんだんと、胸の辺りが湿ってくるのが判る。

    「もう少しっ、だけ……このまま、いさせ――っ」

    時折嗚咽を洩らしながら、俺の胸に顔を埋めるクリスタ。

    そんな彼女を、ただ黙って抱き締める。

    今度は、クリスタからも、抱き返してくれた。
  32. 61 : : 2014/03/24(月) 09:26:44

    「ごめんね……服、汚しちゃって……」

    ――しばらくして。

    俺の胸元から少し顔を離したクリスタは、泣いたせいで赤く腫れた目をこちらに向ける。

    この状況で、服を汚したくらいで本当に申し訳なさそうな顔をするこいつに、少し呆れる。

    「別に気にしてねえから」

    「だから謝んなよ、な?」と頭に手を置くと、小さく頷いて。

    ぽふ、とまた顔を埋めてきた。

    背中に回された腕の力が、強くなったのを感じ。

    俺の方も少しだけ、力を込めて抱き返す。

    「……なんで……?」

    「ん?」

    「なんでエレンは、私にここまでしてくれるの? 優しくしてくれるの? こんな風に、抱き締めてくれるの?」

    「なんでって――」

    ――あれ?

    言われて、みれば。

    なんで俺はこいつのこと、ここまで気にしてるんだ?

    「私のこと、嫌いなんでしょ? 気持ち悪かったんでしょ? なのに、どうして?」

    「いや、それはお前が“良い子”を演じている時の顔が嫌いだったってだけで、別にクリスタのことが嫌いってわけじゃ……」

    そうだ、俺はこいつのあの顔が嫌だっただけで、クリスタのことは嫌いじゃない。

    たまに見せた素の笑顔なんかは、むしろ好きなほうで…………好き?

    いや待て。ちょっと待て。

    好き? 好きってなんだ?

    「そう、なんだ……。良かった。エレンに嫌われてなくて、良かった……っ」

    ぎゅうっ、とさらに力を込めてくるクリスタ。

    ぐいぐいと、甘えるように顔を押し付けられて、少し痛いが。

    そんなことを気にしている余裕は、今の俺にはなかった。

    頭の中では、好きという言葉が飛び交っていて。

    「エレン……エレン……」

    隙間なんかないってくらいに、俺とクリスタは密着している。

    それを意識した途端、急に体が熱くなったの感じて。

    どうにかなっちまうんじゃないかってくらい、心臓の音が大きくなる。

    「わたし……」

    俺を見上げるクリスタの姿に、よりいっそう、胸が高鳴る。

    「エレンに、会えて良かった……」

    「クリ――スタ」

    「ありがと。私に、出会ってくれて」

    頬を伝う雫が、月の明かりに照らされて、綺麗に光る。

    目を細めて微笑むその顔は、間違いなく本物で。

    俺が好きな、クリスタの顔だった。



    ――それからは、互いにずっと抱き締め合っていて。

    「そろそろ、時間だな」と言った俺に、クリスタは頷きながらも、離れる素振りは見せず。

    「クリスタ」と名前を呼ぶと、ゆっくりと、名残惜しむように俺から体を離した。

    促した俺だが、どこか物足りなさを感じて、もう一度抱き締めたい衝動に駆られたが、何とか押し止め。

    「……じゃあ、また明日」

    「……うん。また、明日」

    「おやすみ、クリスタ」

    「おやすみなさい、エレン」


    ――気づいたら、寮の部屋にいて。

    気づいたら、ベッドで横になっていて。

    さっきまでのことが、全部夢なんじゃないかとも思ったけど。

    腕にはまだ、あいつの温もりが残っているような気がして。

    何より、胸にある濡れた跡が、あれは確かに現実だったという証明で。

    明日はあいつと、なに話そうかな……。

    そんなことを思いながら、俺は静かに目を閉じた。
  33. 66 : : 2014/03/24(月) 20:28:11

    「そういえばエレン。昨日は部屋に戻るの遅かったけど、何してたの?」

    「そうなの? エレン」

    食堂に入って、中を見渡す。

    あいつは……まだいないみたいだな。

    「エレン、聞いてる?」

    「……ん? 何か言ったか? アルミン」

    聞くと、何故か露骨にため息を吐くアルミン。

    「だから、昨日の夜エレンは何をしてたのかなって」

    「お、あの辺り席空いてんな。とっとと座ろうぜ」

    「ちょっと待とうか。ねえエレン、きみ話し聞く気ないだろ」

    「アルミン、何をしているの。早く行く」

    「あれ? ミカサそっち側? 普通ここは僕と一緒に追及するんじゃないの?」

    なにかいろいろ言っているアルミンを置いて、俺は空いていた席に着く。それに続いてミカサ、最後にアルミンが椅子に座る。

    「で、結局エレンは何してたの?」

    「なんだよアルミン、そんなに気になるのかよ」

    「だって最近のエレンって、なにがあったのか知らないけど急に黙りこんだり、訓練にも集中できてないみたいだったからね。気にもなるよ」

    「あー……それはもう大丈夫だ。ありがとなアルミン、心配してくれて」

    ちょっとした変化にも気づいてくれたことを嬉しく思いながら、相変わらず柔らかくないパンを口に運ぶ。

    「昨日の夜は――まあいろいろとな。別に話すようなことじゃねえから、気にすんな」

    「……まあ、エレンが話したくないんなら、これ以上は聞かないけど」

    訝しげに俺を見た後、アルミンも食事に取りかかる。

    「……」

    まだ来ない、か。

    「エレン、何をしているの?」

    きょろきょろと首を動かす俺に、隣のミカサが首を傾げる。

    「誰か探してるの?」

    「……いや、なんでもねえ」

    ――とは言ったものの、内心気になって仕方ない。

    つい、気づいたらまた周りを見てしまう。

    「エレン、食事中にきょろきょろするのは感心しない」

    「――ああもう判った、判ったからそれ以上顔近づけるな。こえーよ」

    「ならいい」

    「ったく」

    満足げに身を引くミカサを横目に、少し乱暴にスープを口に入れてからパンにかぶりつく。

    その時、口回りに食べ物のかすが付いたのだろう。

    いつものように俺の口を拭こうと、ミカサが手を伸ばしてくる――が、それより先に横から伸びてきた別の手が、口に触れた。

    「パンくず、付いてたよ?」

    「――っ。あっああ、悪いな」

    「ふふ、どういたしまして」

    いつの間に、横にいたのか。

    さっきまで俺が探していたこいつは、指先に付いていた――俺の口に付いていたであろうパンくずを、ペロッと舌先で舐めとった。

    かあっ、と顔が赤くなったのが判る。

    「おはよっ、エレン」

    目の前で、笑顔を浮かべるクリスタに。

    「おはよう、クリスタ」

    自然と俺も、笑顔を浮かべていた。

  34. 73 : : 2014/03/25(火) 13:10:23

    カラン、と音がした。

    見ると、そこにはスプーンを落とした姿勢のまま固まっているアルミンの姿が。

    ……そういえば、やけに周りが静かだな。

    隣のミカサは中途半端に手を伸ばしたまま動かないし、たまたま近くにいたジャンは、椅子から立ち上がった体勢で目を見開いている。

    クリスタの後ろにいたユミルは、口を半開きにして立ち尽くしてるし。

    「な、なんだよお前ら。急に静かになりやがって……あ、クリスタ、隣座るか?」

    「いいの? じゃあ、座らしてもらうね?」

    横の席に腰掛けたクリスタは、なにが可笑しかったのか、「ふふっ」と笑みをこぼす。

    「どうした?」

    「あのね、エレンと初めて話した時のこと、思い出してたんだ」

    初めて話したっていうと……。

    「あの夕飯の時か?」

    「そうだよ。……実は私ね? あの時エレンに声を掛けるの、すごい緊張してたんだ」

    「そう、なのか? 全然気づかなかった」

    「……あの時の私は、必死だったから」

    言いながら、少しうつむくクリスタ。

    「……なら、今はどうなんだ?」

    えっ? と声を洩らしたクリスタは、少し間を置いてから、口を開く。

    「まだ怖い、かな。すぐに変えるのは、やっぱり怖い……」

    「……」

    「けどね? けど……頑張ってみようと、思ってる。今すぐには無理かもしれないけど……いつかは、私が私でいられるように」

    ――本当の私で、いられるように――。

    まっすぐに俺を見つめるクリスタの、その凛とした顔つきに、つい見惚れてしまう。

    ――ああ、こいつ、こんな顔もできたんだな。

    「そっか。なら、頑張んないとな」

    「うん。それに、エレンもいるから」

    「俺?」

    「だって――」

    すっ、といきなり顔を近づけてきたかと思うと。

    さっきまでの真剣な表情を一変させ、ふわり、と柔らかい笑みを見せる。

    「エレンことは、信じていいんでしょ?」

    「――っ」

    ――ああ、俺はもう、本当に。

    「ね?」

    「……当たり前だろ」

    そっぽを向いた俺の耳に、横から可笑しそうにクスクス笑う声が聞こえる。

    「これからよろしくねっ、エレン!」

    「……ああ! これからもよろしくなっ、クリスタ!」



    ――その後。

    周りの奴らが騒ぎだして、俺とクリスタを巻き込んでの一悶着があったのだが、それは置いておく。

    ただその際、俺との関係を周りの奴らに問い詰められていた時の、クリスタの顔は。

    俺が大好きな、あいつの本当の笑顔だった。


    《ウソつき少女 END》

  35. 75 : : 2014/03/25(火) 14:12:38

    『ウソつき少女』これにて完結です。

    最後まで読んで頂いた読者の皆様、応援して頂いた方々、本当にありがとうございます。

    starを下さった方までおられ、感謝の気持ちで一杯です。

    えー、ここでちょっとした裏話。

    このお話、とある歌のイメージを元に考えられています。タイトルにもある《ウソ》がキーワードで、そこから話が組み立てられています。

    皆さまもお分かりの通り、これは主にエレン視点で話が進んでおります。つまり、エレンが思ったことや考えたことが書かれているだけで、それが真実とは限りません。

    他にも、あまり長くなりすぎるのもあれだよなあと、いろいろと削ったところもあったりします。


    まあ、裏話はこのへんで終わるとして。


    改めて、最後まで『ウソつき少女』を読んで頂き、ありがとうございました!

    さあて、次はどんな話を書こうかな。

  36. 88 : : 2014/07/21(月) 23:53:05
    もしかして歌ってピエロですか?
    違ってたらすいません 面白かったです
  37. 89 : : 2014/07/24(木) 05:05:44
    >>88
    違いますね。たぶん知ってる人は少ない……と思いますけど、実際はどうなんでしょう。

    某シリーズゲームの主題歌です。
  38. 90 : : 2015/01/28(水) 00:57:19
    続きないでしょうか?
  39. 91 : : 2015/07/29(水) 07:32:04
    すごく面白かった!

▲一番上へ

名前
#

名前は最大20文字までで、記号は([]_+-)が使えます。また、トリップを使用することができます。詳しくはガイドをご確認ください。
トリップを付けておくと、あなたの書き込みのみ表示などのオプションが有効になります。
執筆者の方は、偽防止のためにトリップを付けておくことを強くおすすめします。

本文

2000文字以内で投稿できます。

0

投稿時に確認ウィンドウを表示する

著者情報
MAG-SMG

NISI

@MAG-SMG

「進撃の巨人」カテゴリの人気記事
「進撃の巨人」カテゴリの最新記事
「進撃の巨人」SSの交流広場
進撃の巨人 交流広場