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この作品は執筆を終了しています。

☩幻影彷徨う夜☩

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  1. 1 : : 2014/02/28(金) 21:21:44
    久しぶりに投稿します。

    登場人物は、エレン,ミカサ,アルミン,ジャン,エルヴィン,リヴァイ,ミケ,ハンジ,モブリットの9人と、ある共通の境遇にある人々です。
    オリキャラ無し、エロ無しで、今までと少し違う形式で行きたいと思います。
    内容としては、原作に関しては特にネタバレは無し(アニメ最終話までの内容)で、ARIAで連載されている「悔いなき選択」の内容を含みます。「悔いなき選択」は完結していないので、4月号までの内容では不明な部分は、泪飴の妄想で補っていますのでご注意を。

    いつも通り更新遅いですが、気長に見守ってやってください。

    では!上記の内容オッケーな方はどうぞ!笑
  2. 2 : : 2014/02/28(金) 21:24:01
    【Side-MZ-pm8:00】

     「くそ…」

    何かを掴もうとして伸ばした手が空中を彷徨う。力が入らない。その手も、冷たい靴で踏まれ、石畳を引っ掻くだけに終わる。頭の上から浴びせかけられる罵声は反響して混じり合い、もはや聞き取ることができない。
    氷のような冷たい手が団服を掴み、何度も殴ってくる。その拳は、地面に押し倒された重く痺れた体に、脳まで響くような衝撃を残す。
    このままではまずい…。
    そうは思うものの、体が全く動かない。早死にする者の多い兵団内では比較的長い人生を歩んできたが、こんな目に遭うのは初めてだった。
    霞む視界には、自分と同じように襲われている仲間の姿が映る。

     腕を後ろで掴まれ、壁に体を押し付けられているハンジ。いつも掛けている眼鏡は地面に転がっている。何かを呟いているように見えるが、全く聞こえない。その眼には、涙が滲んでいる。

    その横では、スーツ姿のリヴァイが仰向けに倒され、圧し掛かられている。首に巻いたクラバットの上から細い喉を締め上げられ、時々変な声を上げている。辛うじて意識は保っているようだが、その眼にはいつもの鋭い光は無い。

    そして、その向こう。
    大量の人間に囲まれ、金髪だけが見える。他の2人とは違い、生きているのかどうかさえ確認できない。
    エルヴィンの安否を確認するため顔を上げようとすると、後頭部に強い衝撃が走った。続けて背中にも痺れるような痛みを感じ、思わず声が漏れる。

    自分も含め、この4人は調査兵団のトップに立つ者達だ。一方的な暴力を無抵抗のまま受け続けるなど、普段の彼らにはあり得ないことだった。
    しかし、今回ばかりは、そうはならない、いや、そう出来ない、特別な事情があった。

    そんな思考も、全身に加えられる殴打に邪魔される。
    相手が諦めるか、助けが来るのを待つしかない屈辱に、唇を噛みしめる。
    一際重い打撃を食らい、意識が濁り始めた。いよいよ終わりかと思った時、急に扉の向こうに気配を感じた。自分達の名を呼び、扉を叩いている声が聞こえる。持ち前の、人間離れした嗅覚を使うまでもなく、それが誰なのかわかった。

    扉が蹴破られ、数人が飛び込んでくる。自分に駆け寄って来る足音の方に、顔だけ向ける。

    「ミケさん、大丈夫ですか!?しっかりしてください!!」

    自分を見下ろすアルミンの不安そうな蒼い瞳に、小さく頷く。
    モブリットの肩を借りてハンジが立ちあがっているすぐ傍で、エレンがリヴァイを助け起こしている。
    そのまま視線をずらすと、ミカサとジャンにエルヴィンが上体を起こされている。前髪が乱れ、意識がないようだった。
    エルヴィンの胸が、微かに上下しているのを見届けてから、ミケは意識を失った。
  3. 3 : : 2014/02/28(金) 21:48:54
    【Side-EY- pm7:00】

    あの悪夢のような、第57回壁外調査の後。ペトラさん達が居なくなり、特別作戦班…リヴァイ班は、脚を負傷した兵長とオレの2人きりになった。旧調査兵団本部は前より掃除の行き届かなくなった。見かけた埃はすぐに拾って捨てているが、兵長も以前のように掃除、掃除とは言わなくなった。それが、余計に喪失感を際立たせる。

    壁外調査の数日後、旧調査兵団本部にエルヴィン団長達が集まった。王都召還に備えた話し合いとのことだった。
    来たのは、エルヴィン団長とミケ分隊長、ハンジ分隊長、モブリット副分隊長、それからミカサとアルミン、ジャンだった。
    女型の巨人の正体を知らされて動揺しているところに、ストヘス区での作戦の内容を話され、正直頭痛がした。
    だが、このままでは、今度こそ自分も解剖される。やるしかない。そう、自分に言い聞かせた。

    長い話し合いが終わり、外を見ると既に陽が落ちていた。団長達も一晩、ここに泊まることになった。
    オレ達新兵は大急ぎで食事や部屋の支度をした。調査兵団の幹部5人に対して、失礼があってはいけない。広い旧調査兵団本部内を走り回り、食事の用意が出来た時には4人共フラフラだった。
    食器を並べ、料理を盛り付けようと思っていた時、アルミンとジャンがモブリットさんと一緒に戻って来た。薪を運ぶのを手伝って下さったらしい。

    「モブリットさん、お食事の準備が出来たんですが…」

    「ああ、お疲れ様。今、団長達は4人だけで話し合いをしているはずだから、盛り付けるのは待った方がいい」

    「わかりました。今のうちに風呂の準備をして来ます」

    「うん、頼んだよ」

    約30分後に食堂に戻ると、モブリットさんが一人で座って待っていた。

    「あれ……団長達は、まだ戻られてないんですか?」

    「ああ。…ちょっと様子を見て来た方がいいかもしれないな…ここで待っていてくれ」

    そう言ってモブリットさんは食堂を出ていき、数分も経たずにすぐ戻って来た。

    「4人共部屋には居なかった…どこか別の部屋を使っているのかもしれない。探すのを手伝ってくれないか?」

    「わかりました」

    5人で上の階を手分けして探したが、結局4人はどこにも居なかった。食堂に戻ると、モブリットさん達が先に来ていた。

    「オレが探したところにはいませんでした…モブリットさん達は…」

    「こちらも見つからなかった。そうなると、後は地下だな…」

    食堂を出ていく時に壁時計を見ると、もう8時前だった。

  4. 4 : : 2014/02/28(金) 21:49:05


    オレの寝る部屋がある旧調査兵団本部の地下には、大きな倉庫が複数あった。5人は燭台を手に、階段を下りていく。
    まさかとは思いながら、階段の目の前にある自分の部屋の中を覗くが、案の定誰もいない。

    「後は倉庫だが…」

    「あっ……あそこ、見てください!」

    アルミンが一番奥の扉を指さす。今は使われていない、一番古い倉庫だ。オレも、掃除の時しか入ったことが無い。

    「扉の下、わずかですが明かりが漏れてます」

    「本当だ……」

    モブリットさんが扉をノックする。反応が無い。全員で顔を見合わせてから、今度は強めに叩いて呼びかける。

    「皆さん!?お食事が出来ましたよ!」

    やはり、反応がない。その時、扉の蝶番の傍に立っていたミカサが何かに気付いた。

    「ここから、中が覗けます」

    そう言って、隙間に顔を近づける。団長達の話し合いを覗き見なんて、ばれたらかなり怒られそうだがしかたがない。

    「!!!」

    「ミカサ、どうした…!?」

    「皆さんが…倒れてます…!!」

    「何だと!?」

    全員が硬直する。モブリットさんがドアノブを掴んでガチャガチャと回すが、鍵が掛かっているのか開かない。

    「ミカサ、中に4人以外は居ねえのか!?」

    「さっき見えた範囲では、4人しか見えなかった」

    「…中から変な臭いとかしなかった?」

    なるほど、毒の可能性か。思いつかなかった。もしそうなら、不用意に開けると危ない。アルミンの頭の回転の速さに、改めて感心した。

    「…しなかった」

    「なら、扉を破ろう」

    モブリットさんとジャンが扉に体当たりする。蝶番ごと扉が吹っ飛んだ。

    中に入ると、ハンジさんが壁に寄りかかるようにして地面に崩れ落ちるのが見えた。ミカサの言う通り、部屋の中には4人しかいない。

    「分隊長ッ!!!」
    「兵長!!」

    モブリットさんがハンジさんに駆け寄る。モブリットさんの肩に掴まって立とうとしているハンジさんの傍で、兵長は仰向けに倒れたまま、荒く息をしている。扉の近くにうつ伏せに倒れているミケさんをアルミンに任せ、オレは兵長の傍に走る。

    「兵長、大丈夫ですか!?一体何があったんですか!?」

    「エレ……げほっ……エルヴィン…は……?あいつが一番…」

    団長の方を見ると、ミカサとジャンが必死に体を揺すり、呼びかけている。顔面蒼白で、生きているのかわからない。嫌な予感に、息が出来なくなるが、胸が動いているのを見て安心した。

    「生きてます……無事です。ミケさんも、気絶してますが…問題なさそうです」

    「そうか……そうか……」

    兵長も少し安心したらしく、眼を閉じる。呼吸を整えてから、地面に手をついて自力で立ち上がって指示を出した。

    「お前ら…ここは危険だ……とにかく、離れるぞ…」

    急いで団長とミケさんを引き摺るようにして部屋から運び出した。部屋を出る時、破った扉をアルミンがじっと見つめていたのが少し気になったが、兵長に急かされそれどころではなかった。
    上の階に向かう途中も、普段冷静な兵長らしくない切羽詰まった表情で、頻繁に周囲を見回していた。

    その姿はまるで、「見えないがどこかに隠れている何か」に怯えているようだった。 
  5. 5 : : 2014/02/28(金) 21:52:47
    なにこのサスペンス展開……ww
    きたい!
  6. 6 : : 2014/02/28(金) 22:10:40
    >>5

    ありがとうございますww
    しょっぱなから幹部4人が襲われているというww
    頑張ります!
  7. 7 : : 2014/02/28(金) 22:14:03
    【Side-JK- pm8:50】

    静かな食堂で、時計の針の音だけが響いている。
    もうすぐ9時だ。今日は、ベッドの中で落ち着いて眠ることは出来るのだろうか。

    あれから。
    俺達は、倒れていた団長達を食堂に運んで戸締りをした。作った食事は、結局誰も手を付けていない。呑気に食事をしていられるほど、今の俺達には余裕がなかったからだ。
    今、この旧調査兵団本部は危険だ。そう、兵士長は繰り返し言った。気絶したエルヴィン団長の体を支えながら、階段をどんどん登っていく。その姿は、先程まで地面に倒れていた人間とは思えない。さすが、人類最強の兵士だ。一介の新兵に過ぎない俺からすれば、その回復力は化物のように見える。
    ミケ分隊長はすぐに意識を取り戻したが、団長は深い昏睡状態にあるようだった。兵長は、旧調査兵団本部を脱出するべきだと考え、そのまま玄関へと向かった。
    玄関の閂を外して扉を押したが、びくともしなかった。動ける全員で体当たりをしても開かない。どうなっているんだ、と慌てるエレンや俺に対して、兵長はどこかで納得しているような表情をしていた。その理由は後で聞けるだろう。
    どこから見つけて来たのか、ミカサが斧を急に振り降ろして皆を驚かせたが、木で出来ているはずの扉がまるで鋼鉄のように斧を弾いて、俺達はもっと驚くことになった。常識では考えられないことが起こっている、という実感が急に湧いてきて、怖くなった。
    兵長がすぐ隣の窓を開けようとしたが、それも開かなかった。
    散々試して、全員汗だくになった。ハンジ分隊長が斧で壁を叩きながら、扉を破ろうとしたり壁を壊そうとしたり、まるで私達が巨人になったみたいだ、と冗談を言っていたけれど、まさにその通りだった。
    結局、俺達が外に出られる場所は存在しなかった。
    全てのドアを調べた兵長が、脱出は諦める、と静かに言った。そしてそのまま膝から崩れ落ちた。慌てて駆け寄ると、額に嫌な汗が浮かんでいる。
    やはり、無理をしていたのだ。精神力だけで体を動かしていたようなものだったのだろう。そもそも、兵長は脚を負傷している、れっきとした怪我人なのだ。兵長は荒く息を吐きながら、食堂に移動する、と指示を出した。俺達はそれに従い、今に至る。

    エルヴィン団長は、近くの部屋から運んできたソファで横になっている。聞けば、壁外調査以降は殆ど寝ていなかったらしい。今回のようなことが無くても、どのみち倒れてたかもね、と、ハンジ分隊長が団長のベルトを緩めながら笑った。
    リヴァイ兵長は、お前はこういうことでもなけりゃ倒れないだろう、と毒を吐いている。目の前に置かれた紅茶には手をつけていない。ミケ分隊長は、手を顎の下で組んで黙り込んでいた。もともと寡黙な人らしいが、これでは寡黙を通り越して置物のようだ。

    明らかに、全員が、地下の倉庫で起きた出来事について話すことを躊躇っている。
    正直、俺だって聞きたくない。
    誰もいない部屋で、巨人でも簡単には殺せないような強者のはずの4人が倒れ、俺達全員が、「見えない力」で旧調査兵団本部に閉じ込められた。
    どう考えてもまともじゃない。これが夢だったとしても滅茶苦茶な状況だ。
    壁の中に帰って来てからもこんな目に遭うとは。

    沈黙を破るように、9時を報せる鐘が鳴る。

    鳴り終わった鐘の余韻の中。
    兵長は、意を決したように口を開いた。

  8. 8 : : 2014/03/01(土) 00:22:17
    【Side-MB- pm9:00】

     頭が痛い。普段はハンジ分隊長が、通常の10倍ほど早送りで人生を駆け抜けようとなさるために胃が痛いが、今日は頭がキャパオーバーを起こしているようだ。
     兵長が仰ったことは、それくらい驚くべきことだった。

    「何があったか、話す」

    9時の鐘の後。兵長は、その短い一言を皮切りに、語り始めた。
    まず、王都召還についての話し合いの後、地下倉庫に行ったのは、ある重要事項について幹部だけで話し合いをしたかったからだった。

    ある重要事項。僕には、その内容が何となくわかった。
    エレン達にはまだ言っていないが、104期の中に、まだ裏切り者がいる可能性が高いということ。
    恐らくそのことを話すために、団長達は地下に行ったのだ。そして、僕はエレン達が話を聞かないよう監視する役割を担っていた…のだろう。気づかなかったけれど。

    兵長の話は続く。地下倉庫に入り、話し合いを始めてから数十分後。突然、何かの気配を感じたという。
    もしや、新兵達が盗み聞きでもしているのか。そう思い、扉の傍に行った時だった。扉の隙間から、身の凍るような冷気が流れ込んできた。驚いて扉から離れると、扉が静かに開いた。触ってもいないのに開いた扉の向こうには、十数人の人間の姿があった。
    その誰もが、調査兵団の制服を身に着けた、良く知る人間達だった。

    「え!?」

    思わず声が出てしまった。つまりそれは、自分達以外の調査兵がこの旧調査兵団本部に居たということだ。だとすれば、団長達を襲った人間もその調査兵ということになる。

    「誰…だったんですか?それは…」

    ハンジ分隊長とミケ分隊長がほぼ同時に俯いた横で、兵長が、冷めたお茶を一気に飲み干して、答えた。

    「死んだ奴らだ」

    言葉に詰まった。

    頭が、痛くなった。
  9. 9 : : 2014/03/01(土) 00:23:00
    一旦切ります。
    うまくまとまるか心配^^;
  10. 10 : : 2014/03/01(土) 06:54:16
    俺「エッ!?」
  11. 11 : : 2014/03/01(土) 08:04:54
    ど、どういうこと!?
    続き気になる…!!
    待ってます!
  12. 12 : : 2014/03/01(土) 10:59:40
    コメありです!
    頑張りますね♪
    この後バイトなので、それから帰ってきたら載せようかと思います。
  13. 13 : : 2014/03/01(土) 11:12:51
    ところで、少し補足…
    兵長の服装について、書いてて少しおかしいな、と思ったところがあったので。

    ストヘス区での作戦を話し合っているときの兵長は、襟のないシャツとズボン姿でした( pic.twitter.com/A6Q8HxWKTj )が、作戦実行時はスーツ姿( pic.twitter.com/Te7HTTUoN3 )です。
    (アニメでは、シャツの上に調査兵団マントを羽織ってましたw pic.twitter.com/HDVVQd409i )

    この小説では、作戦話し合っている時は襟のないシャツとズボン姿で、その後はスーツ姿、という設定でお願いします。


    実を言うと、

    ストヘス区での作戦についての話し合いの後、9人全員が調査兵団本部に移動する予定だったので兵長は会議後スーツに着替えに部屋に戻った。しかし、外が暗いのと天候が悪化したのとで、急遽、移動は翌朝に見送り、全員が旧調査兵団本部で一夜を過ごすことを団長が決定した。それを知らずに兵長はスーツに着替えてしまったが、また着替えるのも面倒なので、そのままの姿で居る。

    という説明をエレン視点の所に入れるつもりだったんですが、完全に書き忘れてました…ごめんなさい><
  14. 14 : : 2014/03/01(土) 11:35:54
    さすが…!引き込まれていく展開ですね。
    楽しみに期待します(•ㅂ•)/
  15. 15 : : 2014/03/01(土) 12:15:13
    期待!
  16. 16 : : 2014/03/01(土) 20:53:06
    ありがとうございます!
    コメ、励みになりますToT

    では、次は皆さんお待ちかねのあの方です!笑
  17. 17 : : 2014/03/01(土) 20:53:17
    【Side-L- pm7:30】

     勝手に開いた扉の向こうには、20人近い数の、調査兵団の制服を着た人間が並んでいた。顔は見えないが、男女どちらもいるようだ。

     「誰だ…名乗れ……」

    俺の問いかけに、一番手前に居た人間が動く。壁の松明に照らし出された、明るい茶髪を耳に掛けながら、ゆっくりと前に進み出た。

    「兵長」

    優しい、でも凛とした声が響く。数日前まではすぐそこにあった声が、今はこんなにも懐かしい。
    息が止まりそうだった。信じられない。喜びも恐怖も無く、ただ驚いた。
    だって、その人間は。

    「ペト…ラ………?」

    生きている時の姿のままだった。調査兵団のマントを着て、立体機動装置は着けていないが、頬や靴に土が付いている。ペトラと一緒に入って来るのは、もちろんあの3人だ。

    「オルオ……エルド……グンタ……」

    「お久しぶりです、兵長」

    とうとう、自分も気が触れたかと思った。今まで、地下街で、壁外調査で、死ななくていい者達が死ぬ度に、何度も何度も、生き返ってくれと願った。だがその度に、子供でも分かるような、当然の事実を確認することになった。
    『死んだ者は生き返らない』
    当たり前だ。それだから、「死んだ」と言うのだ。生き返るようなら、それは死んでいたのではない。

    それが、今、覆った。

    恐る恐る手を伸ばして、ペトラの肩に触れる。冷たい。でも、実体がある。
    後ろを一瞬振り返ると、エルヴィン達も凍りついている。尋ねるまでもない。自分と同じものが見えているのだ。

    「お前達……どうして………」

    じわじわと、喜びが湧き上って来る。
    口では生き返った理由を問いながら、内心そんなのはどうでもいいと思っていた。ペトラの肩に、震える両手で触れる。触って、消えてしまったらどうしよう、と心配したが、確かにその感触はあった。
  18. 18 : : 2014/03/01(土) 20:56:16

    「兵長、会いたかった」
    「会って、お話ししたいことが、沢山ありました」

    「兵長、」

    ペトラが手を思い切り振り上げた。
    あ、と思う間もなく、思い切り頬を打たれる。容赦も手加減も無い衝撃に、思わずふらつく。滲んだ生理的な涙で霞んだ視界に、エルドの冷たい目が映る。
    続けて腹を思い切り蹴られ、後ろに吹っ飛ぶ。ミケが咄嗟に受け止めてくれたため、冷たい石畳に体を打ち付けることはなかったが、息が出来ずに咽込む。ハンジがかなり慌てた声を出す。

    「ぺ、ペトラ…エルド……あなた達一体何を……」

    「何って…わかるでしょう?とっても優秀なハンジ分隊長には…ね」

    嫌味たっぷりに返したエルドが、こちらを見る。壁外調査の前の実験で勝手に巨人化していたエレンに向けられた目以上に、憎悪に満ちている。

    「兵長、何ですか?その顔は。まさか俺達が、兵長にお礼でも言うと思ったんですか?」

    グンタ……。

    「あなたを信じたばかりに、俺達は……何が『リヴァイ班』だ…肝心な時にあなたは居なかった!女型も逃した…何が『特別作戦班』だ……作戦の内容はあなたしか知らなかったのに…知っていれば、あんなことにはならなかったのに……!!俺達はあなたに捨てられた…」

    オルオ…。ああ、そうだ。お前の言う通りだ。返す言葉も無い。だが、お前達を捨てたつもりはない。誰も、エルヴィンでさえも、ああなることは予想できなかったんだ。それだけはわかって欲しい…。

    「そして、私達は2度捨てられた。死んだ後にまで捨てられた…あなた達が逃げ切るために。あれから、私達の体は…鳥に突かれて、雨風に晒されて……私、聞いてましたよ、あなたの言葉…『今まで遺体を持ち帰れなかった兵士はごまんといた』……私達は…あなたにとってはいくらでも替えがきく存在だった!!」

    ペトラ……。
    調査から帰還した日、ペトラの父親に言われた言葉が幻聴のように、脳内に響く。

    「しかし、怪我をしたとは聞きましたが…まさか…制服すら着ていないとはね……スーツ姿もなかなかお似合いですよ?そのままいっそ、安全な壁の中で暮らしたらどうです?…俺達は…剣を握ったまま死んだのに…!!死の間際まであなた達なんかを信じて戦っていたのに…!!」

    脚がもし、このまま治らなかったら、自分はどうすればいいのか。そんな、誰にも言えない不安を鋭く突いた指摘に、脚の痛みが倍増したような気すらした。地面に手をついて、声を絞り出す。

    「すまなかった……」

    「謝らなくていいですよ。そんなことされても、誰も生き返らないんだから」

    一度は乗り越えたと思っていた罪悪感が込み上げて来て、息が乱れる。それに耐えようと、唇を強く噛みしめた。
    ずっと黙っていたエルヴィンが、ついに口を開く。
  19. 19 : : 2014/03/01(土) 20:56:53

    「君達の言う事は尤もだ…我々の判断が君達を…多くの兵を死なせた……我々の力量不足が…女型を逃した…だが…それは全て…全て私が計画し、実行したことだ……リヴァイを、ミケやハンジを…どうか、責めないでほしい。…すまなかった…この通りだ…」

    そう言い、エルヴィンが深々と頭を下げる。しかし、彼らの鋭い眼は変わらない。

    「何を、今更。あなた達全員が同罪だ。俺達は『あなた達』に殺されたんですよ……兵長を責めるな?ならばこの無念は、悲しみは、憎しみは…どこに向ければいい?」

    「全て、私に」

    エルヴィンはまっすぐに彼らを見つめる。俺がエルヴィンを殺そうとした時、俺の目を捕えた、迷いのない蒼い目で。
    そんなエルヴィンを見ていたら、地下街時代を共に過ごした2人の亡き友を思い出した。
    まるで、それを見抜いたかのように、扉の外の2つの影が部屋に入って来る。

    「兄貴」「リヴァイ」

    嘘だろ…?何で…お前達が…。

    「イザベル…ファーラン……」

    「何だよ兄貴。ヘコんでんじゃん。らしくねぇな」

    「殴られたのはともかく蹴られるなんてな。喧嘩で負けるお前を見たのは2回目だぞ…記念すべき1回目はそこの団長さんにやられた時のだけどな」

    うるせぇ…。でも安心した。お前達は、前と変わらない。なぁ、お前達にこそ言いたいことがたくさんあるんだ。
    柄にも無く、涙が滲んでくる。隠そうとして俯く。
  20. 20 : : 2014/03/01(土) 20:57:38

    「ま、ヘコんでも仕方ねぇよな。全部、こいつらの言う通りなんだからよ」

    「『また』間違えたな…リヴァイ。俺達だけじゃ殺し足りないか?」

    声のトーンを全く変えないで発せられた言葉だったため、一瞬意味を理解できなかった。顔を上げれば、ペトラ達と同じ目がこちらを見ている。酷い頭痛がした。

    また、新しい人影が入って来る。エルヴィンよりは暗い色の、金髪の男。

    「エルヴィン、ミケ、ハンジ、リヴァイ。なぁ、いつになったら人類は巨人に勝つんだ?俺が戦ってた時よりも壁の中が狭くなってる気がするのは気のせいか?」

    「モー…ゼス……!!」

    キースが団長をしていた5年前の壁外調査で死んだ、エルヴィンと競い合っていたエース。腕しか遺族に渡せなかったと、エルヴィンが落ち込んでいたのを思い出す。

    「お前が団長やってるとはな……で、こいつらの話を聞いてる限りじゃ、5年経った今でも、俺の死は無駄になってるってわけか?」

    旧友の暗い目に、流石にエルヴィンも目を伏せる。ハンジもミケも立ち尽くしている。モーゼスの後に続いて、次々と死んだ兵士達が入って来る。
    その中に居た、そばかすのある女性兵士がハンジに話しかけた。

    「私の手帳は役に立てて下さってますか…ハンジ分隊長?」

    「…!!君は…イルゼ…?」

    「相変わらず、下っ端の兵士達は簡単に切り捨てられているんですね…班が壊滅し、装置も壊れた私のことを、誰も探してくれなかったのと同じで…」

    イルゼは静かに歩み寄り、ハンジの襟首を掴む。喉が締められ、くっ、と呻く。歯を食いしばってそれに耐えながら、ハンジは、イルゼの手を握り返す。

    「あなたの手帳の情報は…私達が何年かけても手に入れられないかもしれなかった、本当に価値のあるものだ…だから…必ず成果を…」

    「そう言って始めた巨人の捕獲と実験は実を結びましたか?ソニーとビーンは誰が殺したんでしょうね?それすらわかってないくせに、巨人の謎なんてわかるんですか?」

    「それ…は……」

    「嘘はやめてよ」

    冷たい言葉と共に、イルゼはハンジの頬を叩く。眼鏡が飛び、地面に落ちる。ハンジはそのまま壁に押し付けられ、苦しそうな声を上げる。
  21. 21 : : 2014/03/01(土) 20:58:55

    「ハンジ…!!」

    駆け寄ろうとしたミケを、数人の兵士が取り囲んで服を掴み、口々に非難の言葉を浴びせかける。急に、ミケの目が虚ろになり、地面に倒れ込んだ。兵士達が、ミケの体に覆い被さる。
    エルヴィンを見れば、モーゼスに腕を掴まれ、10人近い兵士に囲まれて罵倒されている。懸命に説得しようとしているようだが、モーゼスに胸を強く殴られ、地面に倒れ込む。兵士達がエルヴィンを囲む。

    流石にまずい、と思った。自分達のせいで死んだ死者達に、あまり手荒なことはしたくなかったが、黙っていればどこまでエスカレートするかわからない。
    引き剥がそうとして立ち上がると、ファーランが間に割って入って来る。

    「ファーラン…どいてくれ……エルヴィンもミケもハンジも…調査兵団にとって必要な存在だ……お前達の気持ちはわかるが…これはあまりにも……」

    「へぇ……お前、エルヴィンやミケを庇うんだな。俺達を調査兵団に連れて来て、巨人の餌にしてくれた連中をよ…」

    「しょうがねぇよファーラン…兄貴はあいつらと一緒に生き残って、今は『兵士長様』で『人類最強の兵士』だって、調査兵団内外から尊敬されてんだからさぁ…」

    「違う…それは違う…俺は自分が最強だなんて思ってない…!!」

    「けど俺らとつるんでた時よりずっといい暮らしだ…綺麗な服着て、立派な肩書持って、もてはやされて。…悪い気するわけねぇよな?」

    「そんなの…どうだっていいに決まってんだろ!!……俺は…人類の為に…」

    「嘘をつくな!」

    ファーランに思い切りこめかみを殴られ、今度こそ地面に崩れ落ちる。イザベルが、俺の手を背中に押し付けるように拘束する。頭がガンガンするが、力で負ける気はしない。振りほどこうとして、気が付いた。
    どうなってる…体に力が入らない…。エネルギーがどんどん抜けていくような、変な感覚だ。
    気づけば、ファーランの横に新しい人影が立っている。お前は確か…。

  22. 22 : : 2014/03/01(土) 20:59:23

    「兵長…あの時…俺の、血塗れの手、握って言ってくれましたよね……『必ず巨人を絶滅させる』って……でも、手が血塗れなのはあなたじゃないか…たくさんの兵士を犠牲にした…」

    そうだ。だから…だからこそ……こんなところで……こんな幻に襲われている場合じゃない。するべきことがまだたくさんある。体に、少しだけ力が戻って来た。立て…立つんだ……立って、エルヴィン達を…。
    痛む脚に鞭打って、体を持ち上げようとした時、不意に、首の後ろに鋭い痛みを感じた。

    「兵長、俺の遺体、見ましたか?俺、ここを斬られたんです。痛かったですよ」

    グンタが爪をうなじに食い込ませている。チリチリとした痛みが沸き起こると同時に、巨大樹にぶら下がっていた、グンタの無残な姿が思い出される。

    「それなら、兵長。俺達はね、女型の脚に押し潰されて殺されたんですよ…こんな風に」

    腹をグリグリと押される。腹筋に力を入れて耐えるが、ふっと息を吐いた瞬間に拳を鳩尾に入れられ、息が詰まる。内臓が押し潰され、吐きそうになる。
    やっと拳が離れ、ゲホゲホとむせていると、今度は仰向けに倒された。オルオが、ガラス玉のような目で覗き込みながら、首を絞める。クラバット越しでも、その手が異様に冷たいのだけはわかった。
    抵抗しようとした手も押さえつけられ、ああ、これは本当に殺されるかもしれない、と思い始めた。

    彼らに罵られているのだが、何を言っているのか、酸素の足りない脳ではわからなかった。
    意識が飛びかけると手を離し、息が整うとまた絞めて来る。その度に、思わず声が出た。
    わざとそうして、俺が少しでも長く苦しむようにしているのだろうか。

    耳元に顔が近づけられ、鮮明に非難の声が聞こえるようになった。

    お父さんに会いたかった。痛かった。恋人が待っていたんだ!怖かった。残された幼い兄弟達はどうなる?苦しかった。祖父と母を悲しませやがって。いつもお前が間違えて、周りが死ぬ。今度の作戦も人がたくさん死ぬのだろう?あと何人墓場に送ったら気が済む?そうしてお前はまた生き延びるのか?

    喉を絞められていなくても、どのみち言葉は出なかっただろう。反論しても無駄だし、生憎反論の言葉も見つからない。彼らの放つ言葉が、自身の心をズタズタにしていく。捧げたはずの心臓が軋む。自由、壁、兵団、巨人、仲間、犠牲、…何度も口にしてきた言葉が、ぐるぐると廻る。
    全てを投げ打ちたくなって来た時、突然、扉が外から叩かれる音が聞こえた。喉を絞める力が弱くなったのを感じる。目を薄く開けると、自分を囲んでいたオルオ達の体が透け始めた。数秒のうちに、空中に溶けるように消えてしまった。
    目だけを動かして周りを見ると、兵士達は誰も残っていなかった。自分と同じように、弱り切った3人が居るだけだった。
    そうして、今に至る。


  23. 23 : : 2014/03/01(土) 21:00:12


    長々と喋った。さっき、エレンに「俺はもともとよく喋る」とは言ったが、ここまで長く話すことは、流石に珍しい。
    もちろん、全ては言わなかった。イザベル達のことや、特に特別作戦班のことは殆ど語らなかった。兵士は時に、どんなに受け入れ難い事実でも、それが必要なら受け入れる必要がある。だが、しなくていい苦労までしなくていい。せめて、エレンの中では、あいつらはいつまでも笑っているべきだ。たとえそれが、夢幻の虚像に過ぎなくても。

    時計はもう10時を指そうとしている。

    「…後は、お前達の知る通りだ。俺達自身も信じられないが…あのままお前らが来なかったら死んでいたかもな…」

    エレン達が案の定固まっている。そりゃそうだろう。死んだ奴が出て来て、殺されそうになっただなんて話。それをこんなに真面目に話す俺達は、相当頭がおかしい連中に見えるだろう。
    ハンジの暴走に慣れているせいで、大抵のことでは驚かないモブリットすらも頭を抱えている。その中で、アルミンだけが違う表情をしている。

    似ている。エルヴィンに。

    チェスで言えば、100通りの可能性がある局面で、その全てを思いつくのがハンジで、そのうちのどの一手を命令されてもやり遂げるのが俺やミケだとしたら、アルミンやエルヴィンのような人種は101通り目の一手を思いつき、それを実行してしまう奴らだ。
    同じ場所に居るのに、同じ情報を得ているのに、見方が違う。当然、導き出される結論はもっと違う。何物にも縛られない、自由で柔軟な発想力。

    アルミンがこちらを真剣な目で見る。
    俺のターンは終わりか?なら、後は任せた。

    お前はどんな一手を打つ?アルミン・アルレルト。

  24. 24 : : 2014/03/01(土) 21:00:59
    今日はここまで!
  25. 25 : : 2014/03/01(土) 21:29:08
    うおおおおお。゚(゚´Д`゚)゚。
    ちょ、誰か幹部達助けてあげてー!!
    続き待ってる!w
  26. 26 : : 2014/03/06(木) 20:38:12
    まだー!?
    とかいってみる笑

    続きまってるね!
  27. 27 : : 2014/03/06(木) 23:42:21
    大変遅くなりまして申し訳ありませんでした!!
    更新します!
  28. 28 : : 2014/03/06(木) 23:52:01
    【Side-AA- pm10:00】

    兵長の話はもちろん驚いた。そりゃ、5年前に巨人が現れて以来、僕達は驚かされてばかりだけど…でも、驚いた。
    そして、納得した。これなら、幾つか胸に引っ掛かっていた謎が説明できる、かもしれない。

    「兵長…その、失礼を承知で申し上げますが…」

    「何だ?」

    「首の、クラバットを外して戴けませんか?」

    「…いいだろう」

    スルリ、とクラバットが引き抜かれ、首元が露わになる。身を乗り出して、注意深く観察する。やはり。

    「痣や傷は見当たりませんね。叩かれた、と仰っていた頬も、特に腫れていませんし…」

    「確かに。あの時は痛みを感じたが、今は特に痛くはない」

    「私もだ…彼らには実体があるように感じたけれど、そうではなかった、ってことかな…」

    言って、平気だろうか。兵長達を、傷つけてしまわないだろうか。…いや、やはり、言わなければ。安全な、今のうちに。

    「…皆さんは、『サバイバーズ・ギルト』という言葉をご存知ですか?」

    「…知らん」

  29. 29 : : 2014/03/06(木) 23:52:23

    「…心理学の用語で、災害や事故、事件、虐待などに遭いながら、奇跡的に生還を遂げた人が、周りの人々が亡くなったのに自分が助かったことに対して、しばしば感じる罪悪感のことです」

    「…なるほどね…私達が目撃したのは、皆、今までの壁外調査で亡くなった兵士達だ。彼らが死んだにも関わらず、私達は生き残ってきた……」

    「はい…実際、それが原因で心を病んでしまう調査兵も多いと聞きます。でも、皆さんは…彼らの死を『無駄死に』にはしないよう、彼らの遺志を受け継ぎ、逆に前進する糧とすることで、戦って来たんだと思います…」

    「…だが、今回の壁外調査は、多くの兵が死んだ。そして、成果は殆ど無かった…」

    「…ミケ…」

    「…そのことが、皆さんの心を深く傷つけてしまったのではないか、と……今回、地下の倉庫に現れた死者達の正体について、2つの可能性がある、と僕は考えているのですが…そのどちらにしても、このことは前提になります」

    「…続けろ」

    「はい…まず、1つは、皆さんは『集団パニック』を起こしたのではないか、ということです」

    「『集団パニック』…?」

    「ああ、それなら私も知っているよ。詳しいメカニズムは解明されていないらしいけど、昔から知られている現象だ。例えば、幼い子供がたくさん集まっている時、何かのきっかけで1人が泣き出すと、皆が泣き出したりするだろ…特に理由が無くてもね。それと同じで、誰か1人が見た幻覚や、興奮に対して、周りに居る者も同調して同じ状態に陥ることがある。それを、『集団パニック』と呼ぶんだ」

    「つまり、勝手に開いた扉の外に…俺が、あいつらを…エルド達の幻覚を見て…エルヴィン達にもそれが伝わった、と…?」

    「はい。皆さんは、とても深い絆を持ってらっしゃるはずです…それこそ、言葉を交わさなくても気持ちが通じるくらい。だから、同調しやすかった可能性はあります。…本には、過呼吸や、興奮、意識障害、幻覚などの症状が出て、呼びかけに対して反応が鈍くなる場合もある、と書かれていました…これも、あの時の状況と合致しています…」

    「うん……それは十分ありえそうだね……だとしたら、私達が勝手に倒れただけだ…迷惑を掛けて申し訳ないね……アルミン…もう1つの可能性っていうのは?」
  30. 30 : : 2014/03/06(木) 23:52:46

    「…もう1つは…単純で……つまり、彼らはやはりその……『幽霊』とか…『死霊』とか…『亡魂』とか…呼ばれる類のものだったのではないか…と…」

    「お、おい!?アルミン…そりゃねぇぜ……幽霊なんてこの世にはいねぇよ……なぁ、ミカサ」

    「ええ、私もジャンの言う通りだと思います……もしそうなら、扉の隙間から覗いていた私にも見える…はず。…いや…そういうものなのか、わからないけれど」

    「うん、僕もそこはわからない。見える人にしか見えないとか、条件が揃わないと見えないとか…人によって言うことも違うから………ただ…人間が巨人になるような世界なんだ…幽霊みたいな存在がいても、おかしくはない…僕は、そう思う…」

    「…アルミン…お前はどちらだと考えている?俺達が見たあいつらは…幻覚か、それとも、死霊なのか」

    「僕は…」

    皆がこちらを見ている。兵長…そんなにすごい顔で見ないで欲しいな…と内心思いつつも、息を吸って、はっきり言う。

    「僕は、後者だと思っています」

    「お、おい!」「アルミン!?」

    「…どうして、そう思うの?」

    「最初、地下の扉は開かなかった。だから無理やり破った…だけど…あの部屋を出る時、僕、見たんだ…あの扉、鍵穴がどこにも付いていなかった。鍵なんて、最初から掛からなかったんだよ。死んだ兵士達が現れたことや、彼らと言葉を交わしたこと、彼らに襲われたことは、全て幻覚だと考えても説明がつくけれど、あの時扉が開かなかったこと、そしてこの旧調査兵団本部から出られなくなったこと。この2点だけは、幻覚だと考えるのではどうしても説明できない」

    「なるほど…ね……確かに…」
  31. 31 : : 2014/03/06(木) 23:53:04

    「もし、もしもだ。お前の言う通りだとして…じゃあ、俺達はどうしたらいいんだよ…」

    「う…ジャン…それは…僕もまだ……兵長の話を聞く限りだと、説得はあまり期待できそうにないし、かといってここから脱出する手段も無い………ただ、さっき僕達が倉庫の扉を壊せたみたいに、外からなら扉を破れるのだとしたら…明日、僕達が来ないのを心配した兵士の誰かが、助けに来てくれれば…外に出られるかもしれない……結局、一番の問題は、それまでどう過ごすか、ってことになるね…」

    再び、全員が沈黙する。

    僕達にも、救えなかった人はたくさん居る。僕達も一緒に居る状態で現れるとしたら…僕達が救えなかった人達が、同じように現れるのだろうか。
    彼らもまた、僕らを責めるだろうか。

    どちらにせよ、僕が提案できることは一通り話した。もう、僕から言えることは無い。
    どうするか、決めるのは兵長達だからだ。
    恐らく、そうしなければ、彼らは消えない。

    僕は確かに全てを話した。だけどそれは、あくまでも僕に提案できる範囲の中で、だ。
    思いついたけれど、まだ言ってないことがある。
    でも、これは言えない…今は。
    いや、言わない方がいい……もしかしたら、そのせいで兵長達はまた、いや、さっき以上に傷つき、苦しむことになるかもしれないけれど…それは必要な『痛み』だと思う。


    そこまで考えて、はっと気づいた。
    この思考回路は、団長のそれと同じだ。
    僕は…僕も……兵長達を『犠牲』にしようとしている…。

    それでも、僕は……。


    「そもそも、彼らはまた…現れるのでしょうか…」

    モブリットさんが、沈黙を破った。

    「…うん、そうなんだよモブリット……現れたら…今度こそやばい…気がする……けど……」

    ハンジさんが目を逸らす。
  32. 32 : : 2014/03/06(木) 23:53:21

    「現れなかったら…あれが…彼らと一緒に過ごした…最後の思い出になるんだよね……皆と…あんな別れ方は嫌だな…って……でも…うまく和解できる自信も無い……だから…すごく複雑な気持ちだ」

    「…そう…ですよね……」

    モブリットさんも、辛そうなハンジさんを見るに堪えかねたのか、俯いてしまった。

    精神的にも体力的にもボロボロの分隊長達を見ていると、やはり、このまま何事もなく夜が明けないだろうか、と思ってしまう。
    でも…彼らは絶対にまた現れる、そんな気がしてならない。

    恐らく、彼らがこのタイミングで現れたのには意味がある。
    もし、多くの犠牲を払っても尚生き残っている4人に復讐をする、というのなら、第57回壁外調査の前でもよかったはずだ。
    そうでないのは、たぶん…。

    部屋の温度が急に下がった。
    夜が更けたから、…ではない…よね?

    風も吹いていないのに松明の火が激しく踊り始めたのを見て、僕達は慌てて席を立った。


  33. 33 : : 2014/03/07(金) 00:13:56
    おおおー!!
    アルミンさすが座学一位!!笑
  34. 34 : : 2014/03/07(金) 17:57:42
    みつけたっ!!
    やっぱこーゆー小説はスゴイッスネ!!
  35. 35 : : 2014/03/08(土) 19:36:06
    まだっすか?
  36. 36 : : 2014/03/09(日) 21:11:07
    続き待ってます!
  37. 37 : : 2014/03/10(月) 19:15:19
    いつまでも待ってます!!
  38. 38 : : 2014/03/10(月) 22:29:23
    大変長らくお待たせしました!!
    沢山のコメ、ありがとうございます♪
  39. 39 : : 2014/03/10(月) 22:30:11


    【Side-HZ- pm11:00】

    この感じ。間違いない。

    彼らが、来た。



    鍵を掛けておいたはずの扉が、キィーと気味悪い音を立てながら、静かに開く。
    ここに私達を閉じ込めている力は、やはり彼らのものだと考えてよいのだろう。
    地下倉庫に現れた時と同じ順で、「彼ら」は入って来る。


    「久しぶりだなエレン」

    「エルド…さん……オルオさん、ペトラさん…グンタさん…」

    「エレン…無事でよかったわ…守ってあげられなくてごめんね……話は全部聞いてるわね?」

    「ペトラ……お前、」

    「兵長、何も言わないでいいですよ…何を言われても、許すつもりはありませんから…」


    エレンが、信じられない、という顔でリヴァイとペトラ達を交互に見ている。
    今の、エレンとリヴァイに対する態度の違いから見ても、ペトラ達の怒りは、私達だけに向けられている。でも、彼らの姿はエレン達にも見えている。やはり、幻覚ではないのか…?
    というかリヴァイ、あんた、何で言われた通りに黙ってるんだよ…。何か言わなきゃダメだろ…。


    「…ペトラさん…!ごめんなさい!オレが…オレがあの時…選択を……だから兵長は」

    「違う…エレン、謝るべきは俺だ……お前達は何も悪くない……俺が間違えたんだ…班長でありながら、班の危機にも間に合わず、班の目的である、エレンを女型から守ることにも失敗した…全て、お前らの言う通りだ」

    「それで…それで、どうなさるんです?」

    「…逆に…お前達は…どうしたいんだ…?俺達を殺すつもりか?」

    「それもいいかもしれませんね」

    オルオがリヴァイに近づく。鋭く、冷たい殺気を伴って。
    ペトラ達の後ろに並んで立っているイザベル達は、それを目だけ動かして見つめている。

    「…それなら、黙って殺されてくれるんですか?」

    リヴァイの首に、オルオの手がかかる。それでもリヴァイは全く動かない。普段通りの、鋭い目で睨んだままだ。

    「…俺達は、ここで死ぬわけにはいかない」

    オルオの手に力が入る。リヴァイの手が、オルオの手首を掴む。

    「俺はまだ…、巨人を全滅させていないからだ」

    「もう、巨人なんか…どうでもいいんですよ…」


  40. 40 : : 2014/03/10(月) 22:30:42


    この違和感。
    私達の記憶の中の彼らと、全く違う。


    「オルオ…あなた達は…巨人を憎んでた……人類の為に戦っていた…そうだろう?…私達の知ってるあなた達は…何があっても、そんなことは言わないはずだ…」

    オルオがこちらに目を向ける。死んだような…って、死んでいるんだが…光の無い、虚ろな目だ。

    「あなた達は…本当に、私達の知るあなた達なの…?」

    「何を言い出すかと思えば……『幻影』なのは、あなた達の記憶の中にいる俺達の方ですよ…これが、俺達の、本当の気持ちです……」

    そうか。それならば…。
    リヴァイと目が合う。
    一瞬だけ、どこでもない、遠くを見てから、オルオの目をしっかりと見る。


    「オルオ…すまない」


    リヴァイが、目にも止まらぬ速さで懐からナイフを抜く。食堂にあった、果物用のものだ。


    「兵長!駄目です!!」


    アルミンの声は届かない。
    目を見開くオルオの胸に、リヴァイは体重を乗せ、深々とナイフを突き立てた。



    「兵長!!…そんなっ…オルオさん…!!」



    エレンが叫ぶ。オルオの胸に体をめり込ませたリヴァイが、今どんな表情をしているのかは見えないけれど、肩が震えているのはわかる。


    一番、避けたかった事態だった。


    だが、私達だってここで死ぬわけにはいかない。
    しかたがない。


    あぁ、またこうやって「しかたがない」を重ねて、仲間を犠牲にしていくんだな…。


    感傷に浸る私の思考が、リヴァイの声で中断される。



    「なっ…オルオ、お前… !!」

    「兵長、本当にあなたは最低な人だ」

    オルオは、ナイフが刺さったまま、平然としている。血すら出ていない。オルオがリヴァイの、怪我している方の脚を思い切り蹴った。

    「ぐあっ!!!!」

    リヴァイが地面に崩れ落ちる。膝を押さえ、歯を食いしばって耐えている。ペトラ達が一斉に動き、リヴァイを押さえ込む。

    「リヴァイ!!」

    私が駆け寄ろうとすると、オルオが胸に刺さっていたナイフを抜き、リヴァイの首に突きつける。

    「皆さんの気持ちはわかりました…やはり、兵長には苦しんで戴こうと思います」

    「やめろ…オルオ……!!リヴァイを、殺すな…!!」

    自分でも声が震えているのがわかる。
    くそ、どうすれば…。



    「君達が殺すべきはリヴァイではない」




  41. 41 : : 2014/03/10(月) 22:31:35


    背後から聞こえた低い声。そんなの、一人しかいない。


    「エルヴィン…!!」


    ああ、よかった。起きたんだ。でも、まだふらふらするのか、ソファーに掴まって膝立ちの体勢を取っている。


    「君達が殺すべきは巨人のはずだ…と言いたかったのだが。どうやらそうではないようだ…だったら…私を…地獄でもどこでも連れて行け…好きにしろ……全て、私の責任なのだから…」

    「おい!てめぇ何言ってんだ!」


    リヴァイが、ペトラ達に抑え込まれたまま叫ぶ。
    そうだよ、エルヴィン……あなたが居なきゃ…私達は……。


    「だが」


    エルヴィンが立ち上がる。


    「だが、もし、耳を傾けてくれるなら…もう一度だけ我々を信じてくれるなら……勝つまで…待ってくれないだろうか…?」

    「ここまで命乞いか…しかも、『信じろ』だと…!?」

    「そうだ、モーゼス。我々が…君達が死んでも、未だ生きている我々が…君達の為に出来ることは…『勝つこと』しかない…」

    「お前達が勝てるのか…?今まで負けっぱなしの…お前達が…!!」

    「例えここにいる9人全員が命を落とす日が来ても…必ず、その意志を継ぐ者は現れる…!!必ずだ!!…いつか、人類は勝つ…私はそう『信じる』…!!」

    死者達は、黙っている。
    エルヴィンの言葉が、届いたのだろうか。

    「俺達の遺志だと…そんなもの……それに、お前達が自由になったって……俺達が生き返るわけじゃない……」

    エルヴィンがモーゼスに地面に押し倒された。
    立つのもやっとだった体だ。いとも簡単に押さえつけられてしまう。
    モーゼスが剣を抜いて振り上げた。エルヴィンの目が見開かれる。

    やめろ!!とミケが叫ぶが、もはやその声は、どちらにも聞こえていないみたいだ。



    そうだよね……。やっぱり、許してなんかもらえないか。
    彼らは、今日、私達に復讐するために現れたんだ。
    私達への恨みが晴れるまで、私達は彼らの怒りを受け止めるしかないんだ。


    だって、彼らは心臓だけじゃなくて、全てを捧げてくれた。
    彼らに、これ以上、何も求めることはできない。


    「くっ……」


    エルヴィンが地面を掴んでいた右手を動かした。


    …反撃するつもりか?


    モーゼスも警戒心を露にする。
    でも、その手が掴んだのは。


    「モーゼス…お前達に、敬意を」


    仰向けに押し倒されたまま、剣を突きつけられたまま、エルヴィンは左胸に手を当てていた。
    兵士の敬礼。
    人類に己の心臓を捧げる、誓いを体現した姿。


    「エルヴィン……お前…」

  42. 42 : : 2014/03/10(月) 22:31:56

    「モーゼス…私は、今までこの敬礼をしながら、何度も自身に問うてきた…『私は、死ねと言われたら死ねるのか?』…そしてその度に答えてきた……『できる』、と……最初は強がりもあったが…幾度となく、巨人と、食われる仲間達を目の当たりにするうちに、心からそう思うようになったよ…部下の命を預かる身になってからは、同じことを仲間にも問うようになった…」

    「ならば、死ね…俺が今言えば、お前は死ぬんだろう?それなのに、勝てるまで待ってくれ、ってのはとんだ自己矛盾じゃないか」

    「私は、お前達がそう言うのなら、それで気が済むのなら喜んで死のう。だが、リヴァイ達には手を出すな。我々の為ではない、『彼ら』の為に」

    「誰の為だと?」

    「新兵達を含めた…若い兵士達の為だ…」

    「新兵…だと?」

    「…モーゼス、そこにいる新兵達は…私の問いに、巨人の脅威も、壁外調査の厳しさも知った上で、『死にたくない』と答えて入団してくれた……エレンとミカサは、5年前…地獄のような壁外調査からお前の遺体を持って帰還した我々を見ているそうだ…それでも今、自由の翼を背負う優秀な兵士としてここにいる……死んだお前達の遺志は、残された私達の決意は、間違いなく次の世代に受け継がれている。だが、彼らはまだ若い…彼らを…壁外の巨人だけではない…壁の中に潜む『敵』からも守り、育てるためには、リヴァイ達の力が必要だ……だか…ら……」


    エルヴィンが目を閉じた。
    意識が遠のいているみたいだ。


    「…わかってくれ…」


    モーゼスは、剣を振り上げたまま、意識の薄れているエルヴィンを見下ろしている。


    「…無理だ」


    モーゼスは冷たく言い放った。
    その声はエルヴィンに届いているのかわからない。
    でも、止めなきゃ。
    けど、どうやって……刃物も効かなかったのに…?

    こうなったら返り討ちは覚悟の上で、突っ込むしかない…とにかくエルヴィンとリヴァイを殺させるわけにはいかないんだ。
    ミケに目配せして、一斉に飛びかかろうと、身を低くした時。



    「いい加減にしろ!!!!!!!」



    耳元で誰かが叫んだ。
  43. 43 : : 2014/03/10(月) 22:43:56
    【Side-MA- pm11:40】

    「いい加減にしろ!!!!!!!」

    あなたは、いつもそうだ。
    どうして?
    あなたは口下手なのに。
    あなたは私より弱いのに。

    どうしてあなたの叫びは、いつも、皆の心をこんなにも揺さぶるの?


    エレン。



    一瞬、時が止まったかのような静寂が訪れた。
    全員が固まった。死者達ですら、呆気に取られていた。

    モーゼス、と呼ばれていた兵士が、怒りを露わにする。

    「いい加減に…しろ…だと…?それは俺達に言ったのか……」

    「ええ…そうです……あなた達に言ったんです…!!あなた達は…そうやって団長達を責めてますけど…本当に、こんなことして気持ちが晴れるんですか…!?」

    「……晴れるかどうかの問題じゃないんだよ……俺達は…兵団の為に死んだ。全て捧げたんだ…そして、その犠牲の上にこいつらも、お前達も生きている…だから…だから、…払い過ぎた分を、今ここで取り戻す…」

    「だからって…団長達の命を奪って良いって言うんですか!?」

    「…大人しくしてれば、命までは取らない…こいつらにも、俺達と同じ苦しみを味わってもらうだけだ…俺達は『仲間』なんだからな…」

    「なん…だと…っ!!」

    「エレン!ダメ!」

    エレンが飛びかかりそうになるのを、私は必死で押さえた。私達に危害を加える様子はないとは言え、得体の知れない相手。エレンまで巻き込まれることはない。

    「じゃあ…どうして調査兵団に入ったんですか……」

    「それは……」

    「壁の外を見てみたいとか……巨人をたくさん殺したいとか……人によって理由はきっと違う………でも…調査兵団は、自由を掴もうとする集団だ!!」

    「そうだ…俺達だって自由になりたかった……」

    「…それで…あなた達は…死んでも不自由なのか!?あんた達は…自分で自分を、心の壁の中に閉じ込めてるだけなんじゃないのか!?自分が自由かどうか決めるのは自分だろ!?」

    兵士達は何も言わない。団長達も、エレンを驚いたような表情で見つめている。
    それに勇気づけられてか、エレンは叫び続ける。

    「あなた達の翼はどこに行ってしまったんですか!!!あなた達はもうとっくに自由なはずだ!!」

    「俺達はもう飛べない。何も出来ない」

    「飛べる」

    エレンの声が響く。兵士達は悲しそうに笑う。

    「…死んだんだぞ?俺達は…。立体機動装置もない。飛べるわけが…」

    「装置は無くても、翼があるでしょう」

    「…何…言ってんだ…?」

    「だって、あなた達は今も…その背中に、『自由の翼』を掲げているじゃないか!!!!」

    エレンの指が、制服の『自由の翼』を指し示す。
  44. 44 : : 2014/03/10(月) 22:44:15

    そうだ。
    調査兵団を非難し、団長達を責めてきた彼らは、今も調査兵団の制服を纏っている。

    「命が尽きても、あなた達は兵士だ!!」

    と同時に、鐘が鳴る。

    日付が変わった。

  45. 45 : : 2014/03/11(火) 15:58:14
    泣ける(ーm-:)
  46. 46 : : 2014/03/12(水) 02:46:03
    いよいよ、最終話です!!
  47. 47 : : 2014/03/12(水) 02:47:02
    【Side-ES-am0:00】

    私は信じる。
    我々は、誰一人として無駄死になどしない。

    私は信じる。
    我々は、生まれた時から自由だ。

    私は誓う。
    我々は、必ず…。





    エレンの声と重なるように、0時を報せる鐘が鳴った。
    視界が歪む。
    地面に倒れているはずなのに、揺れているような気がする。

    もしや、私もついに死んだのだろうか。
    だとしたら、無念だ。まだ、巨人を駆逐していない。
    だが、リヴァイ達が無事ならばそれでいい。

    「そうだよな」

    モーゼスの声が耳元で聞こえた。

    「俺達は…自由だ」

    目を開くと、死者達が笑っている。
    地面に押し倒されていたリヴァイ達も立ち上がっている。

    「エルヴィン、手間かけたな……ミケもハンジもリヴァイも……お前ら、ちゃんとエルヴィンを守れよ…こうやってすぐに無理しやがるからよ…」

    「モーゼス……」

    「俺達の居た頃に比べて、兵団は強くなったな……若い世代もきちんと育ってる……相変わらず入団者は少ないみてぇだけどな……こっちにお前もいつかは来るだろうが、すぐに来たら削ぐからな」

    「…ああ…わかった……なるべく、悪あがきをしよう」

    瞬きをした次の瞬間には、もうモーゼスは居なくなっていた。リヴァイの驚いた顔が見える。リヴァイ達にも見えなくなったのだろうか。
    と思っていると。

    「兄貴!」

    「うっ…イザベル!!お前っ」

    後ろから思い切り飛びつかれ、リヴァイが転びそうになる。

    「おいイザベル、別れの時くらい落ち着け」

    ファーランがため息をつきながらリヴァイを支える。

    「悪りぃ兄貴……兄貴、脚、平気か…?」

    「ああ、1週間もすれば治るだろう…立体機動も、使えないわけじゃない」

    「そうか、それならよかった……兄貴、兵士長になったんだろ?凄いな…」

    「地下街で最強だったのが、今度は人類最強か…さすがだな、リヴァイ。…それにしても、怪我知らずのお前が脚を怪我するなんてな…いい加減歳か?」

    「うるせぇ」

    ははは、と2人が笑う。

    「でも、仲間を庇ったんだろ?兄貴はやっぱり強くて優しいな」

    リヴァイが、若返ったように見える。相変わらずの無表情だが、いつもとは違う。
    あの、リヴァイ達の初陣の日。彼らとの別れが、リヴァイを最強の兵士にした。彼らとの強い絆は、皮肉にも、リヴァイを戦場に繋ぎ止める鎖となったということだ。
    それは、私のせいだ。私が、彼らをこの調査兵団へ連れて来たのだから。彼らにとっては、やはり私は憎い仇だろう。

  48. 48 : : 2014/03/12(水) 02:47:42

    「兄貴、兵士長ってのは、分隊長より偉いのか?」

    「そうだ」

    「じゃあ、エルヴィンより上だな!」

    「馬鹿!エルヴィンは、今は団長だろ」

    「あ、そっか…」

    「ミケは兵団内で俺に次ぐ実力者で、あのハンジも分隊長だ」

    「ふぅーん…色々変わってくんだな…………なぁ、エルヴィン」

    急に話しかけられて驚いた。

    「…何だ…?」

    「あのさ…その……」

    変な沈黙が続く。向こうも時間が無いだろう。ならば、こちらから言ってしまおう。

    「…すまなかった」

    「へ?」

    「君達を調査兵団に招き入れ、引き裂いたのは他ならぬ私だ…そのことを、謝らねばならないと思っていた」

    「あ…あぁ……おぅ……別に、気にすんな!…その、俺が言いたかったのは…」

    「…ったく、イザベル…いい、俺が言う。…エルヴィン団長、ありがとうございました。俺達に、壁の外を見せてくれて」

    「そう!そうなんだよ!…俺、地下でずっと、鳥っていいな、って思ってたんだ。だから、壁の外に出れて、本当に嬉しかった。ありがとな、エルヴィン」

    「リヴァイのこと、よろしくお願いします…ミケ分隊長、ハンジ分隊長、よろしくお願いします」

    最初、入団の時は出来なかった敬礼を、完璧にしてみせる。
    敬礼を返すと、にこりと笑顔を浮かべる。その体は、どんどん透けていく。

    「じゃあな」

    ファーランの姿が見えなくなった。
    イザベルは消える寸前に、リヴァイの頭に手を伸ばした。
    驚くリヴァイの髪を、くしゃくしゃと素早く撫でて、消えていった。

    兄貴に、こうしてもらうの、好きだった。

    そう、呟いて。
    リヴァイは目を閉じ、残る温もりを確かめるように、髪に触れた。

    何を考えているのか、それはリヴァイにしかわからないだろう。
    静かになった食堂に、落ち着いた声が響く。

    「ハンジさん」

    「イルゼ……」

    「私の手帳が役に立ってよかったです……見つけてくれて、ありがとう。家族の元に、遺品も届けて戴いて…壁の中に還ることが出来て、嬉しいです」

    「ああ、そう言って貰えて、私達も嬉しい…必ず、必ず、巨人の謎を明らかにするから……それまで、見守っていてくれ…!!」

    「…はい!では……」

    イルゼも消えていく。


  49. 49 : : 2014/03/12(水) 02:48:41
    今度は、周りを取り巻いていた兵士達が近づいてくる。そのうちの2人が、アルミンを見て立ち止まる。

    「お前……アルレルトじゃないか!?」
    「それに、アッカーマン…キルシュタインも……」

    「ネス班長!!シスさん!!」

    「お前、無事だったんだな…よかったよ…あの奇行種にやられたんじゃないかと心配してたんだ……ああ、団長!兵長、ミケ分隊長、ハンジ分隊長、モブリット副分隊長……お久しぶりです…!!」

    「ネス…シス……よく、新兵達を指導し、巨人から守ってくれた……アルミンは、兵団にとって貴重な人材だ……今回の女型捕獲作戦立案にも、彼が関わっている…壁外調査の真意を…君達始め多くの兵に伝えなかったこと、すまなかった」

    「そうでしたか…いえいえ、知らせないからこそ意味がある作戦だったんでしょう……」
    「それにしてもあの女型、本当にしぶといですね……」
    「今度こそ、必ず捕まえて下さい…!!」
    「俺達、見守ってますから……」
    「人類の勝利を信じ、祈っております…」

    「ああ、約束する。必ず、勝つと…いつか、その時は、共に勝利の宴を開こう」

    「楽しみです…あ、ではそろそろ行かなければ……」
    「アルレルト達も、新兵だからと言って甘えず、団長達の助けになるんだぞ!!」

    「…はい…!!!」

    アルミンが、力強く答える。ネス達は安心したように微笑む。

    「ではまた…いつか…!!」


    切り捨てた命の重さを、改めて感じる。その重さには、私達への信頼も含まれているのだろう。

  50. 50 : : 2014/03/12(水) 02:49:44

    兵士達が一斉に消えた。
    その残像の向こうに、4つの影が佇む。

    「俺達だけ残っちまいました…」
    「最後に死んだから…ですかね?」
    「日頃の行いが良かったからに決まってんだろ!」
    「…オルオうるさい」

    「お前達…」

    「兵長…エレンを守れず、申し訳ありませんでした…」

    「違う。お前達が善戦したお陰で、女型もかなり疲弊したんだ…取り逃がしたのは俺だ…」

    「じゃあ、俺達、一緒には戦わなかったですけど、連携してたんですね…」
    「エレンも、巨人になって戦ってくれたんでしょう?だったら、リヴァイ班全員で女型と戦ったのよね」

    「……オレ……もっと早く巨人化して…一緒に戦っていれば……」

    「エレン、兵長にまた説教されるぞ」
    「そうだ。兵長に、同じことを何度も言わせるな」
    「ったく、いつまでもガキんちょのまんまだな、お前は」
    「…あれでよかったのかどうかなんて、誰にもわからないわ。だからこそ、今生きているあなたには、『あれでよかった』と思えるような未来を創ってほしい…そのために、その力と命を使うべきよ。…そうですよね、兵長?」

    「そうだ。俺達は、お前達の死を無駄にはしない。決してしない。…俺は必ず巨人を全滅させる…!!」

    「はい!!」

    4人全員が敬礼をする。エレンも、皆それに倣う。
    ペトラが涙を拭っている。

    「エルド…グンタ…オルオ…ペトラ…お前達の遺体を持ち帰れず…すまなかったな…」

    「いいんです…逆に、俺達のせいで兵団に被害が出てしまう方が悲しいですから」
    「…それに、私達の紋章を…『生きた証』として、持ち帰って下さったでしょう?」
    「あれだけで十分です」
    「本当に、ありがとうございました」

    静かに風が吹く。別れの時、ということだろうか。

    「では、皆さん、お元気で……」

    夜更けの食堂には、9人だけが残った。




    私は信じる。
    我々は、誰一人として無駄死になどしない。

    私は信じる。
    我々は、生まれた時から自由だ。

    私は誓う。
    我々は、必ず勝つ。

    今こそ、決戦の時だ。
    我々の進撃はこれからだ。

    前進せよ。

    【END】
  51. 51 : : 2014/03/12(水) 03:16:28
    一気に書いて一気に終わらせてしまいましたw
    今まで読んで下さった方、ありがとうございます。
    少し前から書き進めている進撃小説の息抜きとして書いていたので、書き終えた今、いつもとは違った、不思議な感じがします。まだ本筋の方の小説が残っているので、終わってない感があるというか…。笑

    ちなみに、そちらの小説は「花売り娘と反逆者」というタイトルになる予定です笑
    今の所書き上がっている部分を友達に読んでもらったところ、「劇場版 進撃の巨人」との評価を貰ってしまいました。話のスケールが大きすぎて展開が遅く、とてもSSとは呼べない規模になりそうです……恐ろしや。
    時間軸的に、この作品ともリンクしています。同時進行で書き進めていたせいで、関連するよう意識して書きました。笑

    この作品は、進撃の原作には今まで出てこなかった、「幽霊ネタ」でした。ネタそのものは前から思い浮かんでは居たんですが、いざ書いてみると難しかったです。まだまだ勉強不足だなあと思ってしまいます。
    内容に関しては、アニメ派の方にも読んで戴けるようにしつつも、現在ARIAで連載中の「悔いなき選択」の内容を含んでいるという、少し特殊な構成になっています。「悔いなき選択」のイザベルとファーランは、いまいちキャラがつかめていなくて、そういった意味でも苦戦しました。

    そのくせ、物語上に変なこだわりというか、仕掛けを施してみたりして…特に、9人のキャラ一人一人に視点を移していく、というのは私としても初の試みで、新鮮な気持ちで書けました。



    ところで、その仕掛けの一つなのですが。
    団長達が見た「彼ら」の正体と、0時を境に人格が豹変した理由は、あえて書きませんでした。

    アルミン君だけはわかってます。笑
    そのうち、団長やハンジさんも気づくかもしれませんが…w
    色々妄想して戴ければ、と思います。

    では、「花売り娘と反逆者」が書き溜めできたら、また載せます。

    ありがとうございました!
  52. 52 : : 2014/03/12(水) 22:37:30
    お疲れ様でした!
    キャラクターの特徴を掴んだセリフの言い回しで
    さすだな、って感じがしました。
    実際のアニメの声で聞こえてきそうです。
    「花売り娘と反逆者」も楽しみにしています♪
  53. 53 : : 2014/03/13(木) 10:36:05
    >>52
    ありがとうございます♪
    わああ、嬉しいです^^
    アサヒさんの小説も引き続き読ませて戴きますね♪
  54. 54 : : 2014/04/11(金) 20:54:19
    とても良かったです(*^^*)
  55. 55 : : 2014/05/05(月) 20:40:46
    泣いた
  56. 56 : : 2015/12/24(木) 17:46:04
    よかった
  57. 57 : : 2020/10/28(水) 13:21:54
    http://www.ssnote.net/users/homo
    ↑害悪登録ユーザー・提督のアカウント⚠️

    http://www.ssnote.net/groups/2536/archives/8
    ↑⚠️神威団・恋中騒動⚠️
    ⚠️提督とみかぱん謝罪⚠️

    ⚠️害悪登録ユーザー提督・にゃる・墓場⚠️
    ⚠️害悪グループ・神威団メンバー主犯格⚠️
    10 : 提督 : 2018/02/02(金) 13:30:50 このユーザーのレスのみ表示する
    みかぱん氏に代わり私が謝罪させていただきます
    今回は誠にすみませんでした。


    13 : 提督 : 2018/02/02(金) 13:59:46 このユーザーのレスのみ表示する
    >>12
    みかぱん氏がしくんだことに対しての謝罪でしたので
    現在みかぱん氏は謹慎中であり、代わりに謝罪をさせていただきました

    私自身の謝罪を忘れていました。すいません

    改めまして、今回は多大なるご迷惑をおかけし、誠にすみませんでした。
    今回の事に対し、カムイ団を解散したのも貴方への謝罪を含めてです
    あなたの心に深い傷を負わせてしまった事、本当にすみませんでした
    SS活動、頑張ってください。応援できるという立場ではございませんが、貴方のSSを陰ながら応援しています
    本当に今回はすみませんでした。




    ⚠️提督のサブ垢・墓場⚠️

    http://www.ssnote.net/users/taiyouakiyosi

    ⚠️害悪グループ・神威団メンバー主犯格⚠️

    56 : 墓場 : 2018/12/01(土) 23:53:40 このユーザーのレスのみ表示するこの書き込みをブックマークする
    ごめんなさい。


    58 : 墓場 : 2018/12/01(土) 23:54:10 このユーザーのレスのみ表示するこの書き込みをブックマークする
    ずっとここ見てました。
    怖くて怖くてたまらないんです。


    61 : 墓場 : 2018/12/01(土) 23:55:00 このユーザーのレスのみ表示するこの書き込みをブックマークする
    今までにしたことは謝りますし、近々このサイトからも消える予定なんです。
    お願いです、やめてください。


    65 : 墓場 : 2018/12/01(土) 23:56:26 このユーザーのレスのみ表示するこの書き込みをブックマークする
    元はといえば私の責任なんです。
    お願いです、許してください


    67 : 墓場 : 2018/12/01(土) 23:57:18 このユーザーのレスのみ表示するこの書き込みをブックマークする
    アカウントは消します。サブ垢もです。
    もう金輪際このサイトには関わりませんし、貴方に対しても何もいたしません。
    どうかお許しください…


    68 : 墓場 : 2018/12/01(土) 23:57:42 このユーザーのレスのみ表示するこの書き込みをブックマークする
    これは嘘じゃないです。
    本当にお願いします…



    79 : 墓場 : 2018/12/02(日) 00:01:54 このユーザーのレスのみ表示するこの書き込みをブックマークする
    ホントにやめてください…お願いします…


    85 : 墓場 : 2018/12/02(日) 00:04:18 このユーザーのレスのみ表示するこの書き込みをブックマークする
    それに関しては本当に申し訳ありません。
    若気の至りで、謎の万能感がそのころにはあったんです。
    お願いですから今回だけはお慈悲をください


    89 : 墓場 : 2018/12/02(日) 00:05:34 このユーザーのレスのみ表示するこの書き込みをブックマークする
    もう二度としませんから…
    お願いです、許してください…

    5 : 墓場 : 2018/12/02(日) 10:28:43 このユーザーのレスのみ表示する
    ストレス発散とは言え、他ユーザーを巻き込みストレス発散に利用したこと、それに加えて荒らしをしてしまったこと、皆様にご迷惑をおかけししたことを謝罪します。
    本当に申し訳ございませんでした。
    元はと言えば、私が方々に火種を撒き散らしたのが原因であり、自制の効かない状態であったのは否定できません。
    私としましては、今後このようなことがないようにアカウントを消し、そのままこのnoteを去ろうと思います。
    今までご迷惑をおかけした皆様、改めまして誠に申し訳ございませんでした。

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tearscandy

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