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墓暴き
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- 1 : : 2025/12/06(土) 08:56:20
- 男は片手にシャベルを持ち、地面を掘っていた。小さな石が転がる硬い土にシャベルを突き刺し土を掘り起こしていた。
深い山林の開けた場所、五十近い墓石の立ち並ぶ中、男は一つの墓石の前に這い蹲って穴を掘っていた。
薄暗い木々の中、肺に入る空気がやや冷たい秋の頃、男は額に汗を浮かべて穴を掘っていた。
男は一人きりで、独りだった。この村に男以外の村民はおらず、男の荒い息遣いに気づく者はいなかった。
男は墓石の前の硬い土を掘り起こし、小さな骨を拾い上げ、荒い息をしたまま繁々と見つめる。その後、すぐに掘り起こしたばかりの柔らかい土の上に置き、隣の墓石に取り掛かった。男は穴を掘っていた。
十数基ほど、古めかしい墓を暴いた男は、空を仰いだ。両眼に溜めた涙が頬を伝う。
男が想うのは、幼い頃の弔い。亡くなった両親の骨を納めた時、「おとうさんとおかあさんは、ここで寝ているからね。ここは、この村のおじちゃんやおばちゃん、そのまたおじいちゃんおばあちゃん、みいんなが休んでいるんだよ。」と、男に言い聞かせた親族の言葉だった。「ここには、みんながいるんですか?」暖かい団欒のあった時間は終わり、親族の家へ預けられた男は、強い孤独を覚えていた。両親を亡くした子にどう扱えば良いか分からず、腫れ物に触れるように優しく声をかけていた親族は、男にとっては冷たい他人だった。
「この村みんながここに入る。そこの方に見える墓があるやろ。隣のみずちゃんとこの婆さんはそこの墓や。みずちゃんの婆さんはな、お前の父さんの方のじいさんと兄妹だったんだ。」喪服を着た親族が、墓地の外れの方に並んだ墓石を見ながら語る。「みんな、この村で生きてきた家族なんや。遡ればどっかで血が同じかもしれん。」
この時から、男にはこの墓地に眠る者はみんな親戚なのだと思うようになった。話したことのない老人の入った墓も、会ったことのない老婆の墓も、どこかで血の近い親戚であると感じるようになった。
だから、男は墓を暴いていた。
出てくるのは喉仏の小さな骨。古いものは欠けたり小さく砕けたものも多い。小石との違いも分からぬものも多い。
それでも男は墓を暴いていた。
階段石に膝をつき、敷石を退けて、骨を出していた。拾い上げて石塔の上に置くまでは、甲斐甲斐しく、愛おしそうに、優しく骨を扱う。
かつて男がそうされたかったように。
優しく、丁寧に、骨についた土を指で拭った。
欠けてしまわぬように。バラバラに砕けてしまわぬように、汗ばんだ男の指先で、冷たい骨を綺麗にしていた。
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- 2 : : 2025/12/06(土) 08:57:06
- おしまい
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