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このSSは性描写やグロテスクな表現を含みます。

この作品は執筆を終了しています。

本当の幸せ。

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  1. 1 : : 2017/07/10(月) 23:46:06



    『奴隷と愉快な仲間たち』

    De (1番まともなチームリーダー)
    あげぴよさん
    カラミティさん
    シャガルT督さん
    影さん

    『皆殺し』

    タオさん (京都弁のチームリーダー)
    ノエルさん
    ししゃもんさん
    ライネルさん
    スカイさん

    『真山田組〜追放される空〜』

    ベータ様 (名ばかりのチームリーダー)
    風邪は不治の病さん
    Ut4m4r0さん
    たけのこまんじゅうさん
    フレンさん


    チームコトダ祭りグループURL
    http://www.ssnote.net/groups/2086


    【役職】次鋒
    【ジャンル】サスペンス
    【キーワード】支離滅裂


    なんといいますか、逃げずに書きました。見てくださるとありがたいです。
  2. 2 : : 2017/07/10(月) 23:46:46




    どこまでも透き通る闇が、辺り一面に広がっている。宇宙に自分だけが取り残されている気さえした。


    王馬「……」


    ひっそりと息を潜め、ゴールの見えない道を、床の冷たさを確かめながら一歩ずつではあるが着実に進む。


    しばらくその行為を繰り返すと、前方に突き出した手が芯の通った図太い壁に触れた。ひと通り周囲を撫で回すと、それが円形の物体であることに気づく。


    俺は決められた手順をなぞり、無駄のない動きで最短で正解まで辿りついた。


    鈍い金属音が辺りに響くとともに、けたたましい警報音が撒き散らされていく。赤色のランプがその音に合わせて点滅した。


    赤色が俺の顔を染める。ただの現象であることはわかっていたが、血に染まったような顔がどうにも俺自身の狂気を表しているようでーーーーー。




  3. 3 : : 2017/07/10(月) 23:47:46


    ーーー
    ーーーー
    ーーーーー
    ーーーーーー
    ーーーーーーー






    世界は間違っている。


    努力しても、知恵を絞っても、誠心誠意を込めても、一生懸命でも、報われるとは限らない。


    それどころか才能という凶器を手に、労せず努力する凡人をなぎ倒していくという狂気の沙汰さえ起こりうる現状。


    心底、辟易する。それが世界だからと言われれば確かにそうなのだが、俺はこの理不尽な理(ことわり)をぶっ壊して、誰もが平等に暮らせる社会を作りたかった。


    早い話が思春期特有の万能感がもたらす、根拠のない自信により、俺は世界のルールを変えようとする暴挙に打って出たのである。


    幸い、自分で言うのもなんだが俺自身のスペックは他の追随を毛ほども許さないほどに圧倒的だった。無謀な挑戦も、一見叶えてしまいそうな危うさがあったのだろう。そのせいか人は少しずつ集まった。


    しかしその俺の能力のせいで、俺以外の仲間は未だ夢から醒めていない。世界平等なんてことを本気で考えている。いや、酔いから醒めたくないあまりに目を無理やり閉じ、悪徳宗教に騙される信者のごとく盲目になっているのかもしれない。それを考えると俺に能力があったことも不幸である気がしてきた。


    とにかく大切なことは、そんな仲間も親のいない俺には苦難を乗り越えてきた家族同然で、叶わない目標を掲げた生活もそれなりにスリリングで楽しかった。


    今日も、ブラックにどっぷり浸かった行為をやってのけ規模を拡大していた銀行の金庫に侵入し、ある用事を済ませたら撤収するところだ。


    その用事とは…




    王馬「……」


  4. 4 : : 2017/07/10(月) 23:48:23



    王馬「……」



    俺はポケットからマッチを取り出し、目の前に積まれた悪事の束を侮蔑する。


    その後、慣れた手つきで火を起こした。リン(原子番号15)がまるで労役を定められた囚人のように黙々と煙をたてて燃え上がり、その使命を全うしようとしていた。


    真っ黒な世界にひとつの光が灯され、それが徐々に広がっていく。十数秒後にはもはや全てを焼き尽くす業火になっていた。


    いや、どちらかといえば煉獄の焔だろうか。金に罪はない。死者の霊が天国にいけるために浄化してやるための煉獄の焔ーーーーー。


    俺は少しの間炎を見つめると踵を返し、後は目もくれず一面の闇へと引き返した。



  5. 5 : : 2017/07/10(月) 23:49:06



    ーーーー
    ーーーーー
    ーーーーーー
    ーーーーーーー




    住宅街を一台の車が猛スピードで突き進む。夜の闇の中、ほっそりと建てられた街灯が一定の間隔で道を指し示していた。


    英語で書かれた薄汚れている標識が、どこかもの寂しげにこちらを見ていたのだった。



    団員A「……結局、金を盗まなくて良かったんですか? 燃やすなんて勿体無い…」



    車を運転している団員がこちらを一瞥し、不思議そうな顔をして見せた。少しの間とはいえこの速度で前方確認を怠る余裕があることが、彼の操縦能力の高さを誇示している。



    王馬「いーんだよ。あれで」



    手を頭の後ろで組み、椅子に深く腰をかける。部下に行動の解説をするのも総統としての一種の矜持だ。



    王馬「銀行ってのは別にただ金を貸すだけじゃなく、もっと大きな銀行や一流企業から借りたりもしている」


    王馬「あそこにあった大量の金は銀行のじゃない。つまり俺が燃やした金ってのは実質、他人の金なんだ」


    王馬「それが明るみになれば話は早い。銀行は残り少ない資産を毟り取られる……草一本残らないだろうね。ま、銀行が隠そうとしても俺がバラしちゃうんだけどね、にしししし」



    屈託のない、本心からの笑顔を見せる。家族同然の仲間にしか見せない、仮面を被っていない俺の素顔。


    エンジンの回転速度が上がり、車はさらにその速度を増す。目を閉じ、耳をすませば、無機質の機械に血の通ったような鼓動を感じる。


    常に生死と隣り合わせだとはいえ、生を実感しでき、本当の仲間と共に笑いあえるのは、名ばかりの安寧を怠惰に生きる一般人よりも遥かに幸せだと思った。


    ……。


    しかし。何かが、足りない。


    最近、やけにそれを感じる。


    まるで現状に満足する自分への警鐘のように、それは少しずつだが大きくなっていく。


    胸の中心にポツリと欠けたような小さな穴があるのだ。それを埋める何か。


    もっと仲間を増やせば埋まるのか。


    それとも荒唐無稽な夢を叶えれば消えるのか。


    結局、俺には答えがどうも出せないまま時間だけが過ぎていったーーーーーーーーーー。


  6. 6 : : 2017/07/10(月) 23:49:48



    ーー
    ーーー
    ーーーー
    ーーーーー
    ーーーーーー



    アジトに帰るなり、留守番をしていた部下の1人が血の気の引けた顔で書類を提出してきた。



    部下B「これ、届いてました」



    薄暗い光がぼんやりと辺りを照らす中、使い込まれたソファに一旦腰を下ろし、その書類をパラパラと捲った。


    古い換気扇が軋む音を立てながら、くるくると回っている。何回か回ったところでそれを読み終え、部下の方に顔を向けた。



    王馬「なんだこれ? 『希望ヶ峰学園への招待状』?」


    部下B「ええ、書類の1枚目がその招待状で、あとは私なりに希望ヶ峰学園のことをまとめてみたものです」


    王馬「……ふーん」



    もう一度書類に目を落とし、今度は隅々まで見渡しながら、考えを巡らせる。



    王馬(『希望ヶ峰学園はジャパンが誇る最高の教育機関---。ある分野で超一流の高校生を集め、その才能を伸ばすための学校である。』……か)


    王馬(なんで日本から? ……俺の親は日本人だったのか?)




    顔も知らない親のルーツを思いつつ、内心震えていた。警察、さらにはFBIにだってほんの少しの手がかりさえ掴ませなかったはずだ。だが、希望ヶ峰学園という組織はいとも簡単に俺に接触してきた。


    向こうの意図は読めないが、こちらから仕掛けるべきだろうか。相手が組織なら付け入る隙はいくらでもある。規模が大きければ尚更だ。


    頭に浮かんだ、血濡れた物騒な考えを頭を振って振り払い、今一度冷静になろうと努める。


    そうだ。希望ヶ峰学園がその気になれば俺はあっという間に手が後ろに回り、電気椅子に座らされることになっていただろう。アジトの位置も、俺の正体も握っているのだから。


    それをしなかったということは、胡散臭い招待状も十分信頼に値する。







    俺は俯きながら、大きなため息を吐きだし、数秒の間、沈黙と対話するかのように微動だにしなかった。



    王馬「……決めた。俺は日本に行く」



    世界という巨大な生物と日々戦っていると、嫌でも自分の限界が見えてくる。これは自らの殻を破るいい機会かもしれない。



    仲間たちも無言で頷き、俺たちは短かき別れの酒を飲もうとテーブルへと歩いていった。固い床をブーツが無機質に鳴らした。



  7. 7 : : 2017/07/10(月) 23:50:35




    ーーー
    ーーーー
    ーーーーー
    ーーーーーー




    王馬「ってな感じでここに来たんだよ」



    買ってから時間が経ち、湿気たフライドポテトを口に運びながら話す。もちろん口にしたのは事実とポテトだけで、本心は隠しておいた。


    灰色の空の下、ガラスの向こうで忙しく動き回る通行人に見せつけるように食事を楽しんでいた。外野の喧騒をBGMに、深く帽子を被った少年が怪訝そうな視線を向けて疑問を投げかけてくる。



    最原「う、嘘だよね…? 銀行とか……秘密結社とか……」


    王馬「にしし、本当だよ! 俺ってば正直者だから、嘘ついたら蕁麻疹が身体中に広がって死んじゃうんだ!」


    百田「……それでもやっぱり信じられねーよ。そんなニュース聞いたこともねえしな!」


    王馬「だって上も金を取り立てる時に相当やんちゃしたらしいからさ。マスコミを買収しまくって隠蔽したに決まってるよ。それでも喋ろうとした不届き者は……舌をちょん切っちゃったとか」


    不気味な笑みを浮かべながら、舌を出し、ハサミでそれを切るジェスチャーをして見せると、百田は冷や汗を垂らし錯乱しだす。


    百田「なんてこった……!? 怖え……!」


    最原「百田クン! のせられてどうするの!?」



    昨日もした同じパターンの会話を今日もする。しかし何故か、それが心地いいと感じた。こういうことを友情と形容するのかもしれない。


    なんて普段の俺ならミリも考えそうにないセンチな気持ちを胸に秘めていたのは、とある理由があるのだ。



    最原「……そういえば皆んな、テストはどうだった?」



    最原が恐る恐る口に出した『テスト』という三文字。先ほどの理由とはまさにこのことだった。



    王馬「全然ダメだった。そもそもテストの内容すら事前に知らされてないのに、どうやって対策すればいいのって話だよ。こればっかりはお手上げだね」



    才能は人よりも持ち合わせている自信があった。努力だって血反吐が出るくらいならしたはずだ。そんな俺を嘲笑うかのような『超高校級ごとに内容の違う問い(テスト)』。


    ちっぽけな1枚の白紙の真ん中に描かれた問いは『24時間以内にシリア紛争の停止』だった。


    正答があるからこそテストは平等なのだが、果たしてこの問いに正解と呼べる解答があるのだろうか。武器を売りつける国に破壊工作を仕掛ける? それとも両者の視点に立って紛争の醜さと悲惨さを説く?


    どっちにしろ24時間という短い期限じゃ出来っこない。出来っこないはずなのだが…



    王馬(クソ……悔しい……!)



    自分の力に限界を感じていたとはいえ、それはあくまで多対個での話であり、希望ヶ峰学園が俺の正体を暴いて招待状を送ってみせたのも、その筋のトップクラス中のトップクラスが数人集まれば可能であるから、と、憤る自尊心を納得させていた。


    だからこそ希望ヶ峰学園の出してくる課題には100点オーバーの内容で応えようと目論んでいたのだ。相手が俺を見くびることがないように。級友から一目置かれる存在になるために。家族が誇れる俺であるように。


    だが、結果は手も足も出ない。このザマだ。


  8. 8 : : 2017/07/10(月) 23:51:21



    百田「……」



    唇を噛んで、しかめっ面で沈黙を貫く百田。二人を見渡すと俺と同じような後悔の念が伝わってきて、





    それが居心地良かった。


    さっき言ったセンチな思いってのはそういうところからきていて、信頼できる家族はいても、弱さを共有できる仲間というのが今までの俺にはなくて、その居心地の良さに甘んじている情け無い俺にも腹が立っていた。


    早い話、支離滅裂な感情を抱いていたのだ。



    王馬「あーあ、追試とかあんのかな。ダサいから受けたくないな」


    最原「うーんどうなんだろ……もふもふ。ポテトうっま。めっちゃうっま」



    ポテトを貪り食う最原を尻目に、俺は頬杖をついて外を眺める。灰色一色だった空模様は、いつの間にか黒と白のマーブル色になっていた。


    黙っていると、最原は何か思い出したように口を開く。




    最原「あ、そうそう。最近ここら辺で失踪事件が多いみたいだよ。気をつけた方がいいかも」


    百田「オイオイ、今度は終ーまで俺をビビらせようとしてんのか? 死ぬわ俺」


    最原「いやいや大マジだよ。探偵だから良くも悪くも警察の人と何かと交流があるんだ。その筋の人から聞いたし間違いないよ」


    王馬「そんな話ニュースで聞いたこともないけど?」


    最原「……別に上が隠蔽してるわけじゃないだろうけどさ、失踪事件なんて少なくないしね。今はたまたま数が増えてるだけだろうって言ってたけど」


    最原「まあ火のないところに煙は立たないっていうし、気をつけてくれたら僕も嬉しいかな」




    最原は基本的に冗談を言わないタイプの人間である。ある人はつまらない人間と思うだろうし、またある人は真面目で誠実な人間なので信頼できるという意見を持つだろう。


    俺から見た彼は常に真面目に赤松の胸を見ている人間であるので、これもまた信頼できる要因であった。本人が気づかれていないつもりなのも人間として信用に値する。


    そんなこんなで俺は彼の話を気に留めて置くことにした。


  9. 9 : : 2017/07/10(月) 23:51:59


    その後もたわいのない会話をして時間を潰し、日が完全に没したところで店を出た。


    夜風が初夏だというのに冷たく肌を撫で、駆け抜けていく。異なる帰路に辿り着いたため、俺たちは笑顔で手を振って別れた。


    灰色だった空の色は夜の闇の前ではもはや意味を為していない。新月の下、人気のない住宅街を俺は俯き歩いた。



    全く、世界中の人間が無残に死んでいく中で笑えてた俺は幸せ者だろう。


    世の中には笑い方を知らずに死んでいく人間だってごまんといるのに、この世に命を授かった時点でえらく差がついたもんだ。


    そんな差を認めている現状を許していいのか。


    平凡な問いが頭の中を駆け巡った。偉人はまあ楽に答えを出せたもんだ。前世で悪行を積んだからとか、人種が違うから差別するのは当然だとか。ある意味で羨ましい。


    いや、ひょっとすると全人類が平等と考える今の価値観が間違っているのかもしれない。差別されるべき人間はやはりいるのではーーーー


    いや、蔑まれる人間は確かに星の数よりは多いだろうが、産まれたその瞬間となれば話はやっぱり違ってくるだろうーーーー



    自分で作った解答を自分で作った解答で次から次に潰していく。その思考回路はまるでウロボロスのようだった。



    突然、蝉が声高らかに叫ぶ。


    ぴたりと、足を止めた。蝉の声が俺を現実世界へと引き戻したのだ。そのままぼんやりと、ひび割れたアスファルトを眺めた。


    蝉の断末魔がすぐ近くで聞こえる。



    王馬「……」



    違和感に気づいた。前方の電信柱を凝視する。朧げに光る電灯の真下に、一本の黒い筋が伸びている。それが蠢いた。


    影が揺れているのだ。


    忘却の彼方に消えていた、日本に来る前の生に対する執着と死への恐れが再び蘇っているように感じる。


    あのまま進んでいたら、謎の人物が潜んでいる電信柱を警戒なしにすれ違うところだった。呼吸が荒くなる。血流が激しく通っているのがわかった。


    瞳孔が開く。本能が、闇の中で少しでも情報を取り入れようとしているのだ。



    ゆったりと、電信柱から顔を覗かせ、まるで限りなく空間に溶け込むかのように奴は現れた。黒いローブに、口元が尖っており、丸い穴が側面に開いた仮面を装着している。


    一見、鴉を連想させるその仮面はベネチアンマスクの一種である“ペスト医師”だろう。人間である一切の手がかりを遮断する風貌は、いっそう不気味に見えた。


  10. 10 : : 2017/07/10(月) 23:52:31



    王馬(こいつなのか!? こいつが最原の言ってた、失踪事件を引き起こしていた黒幕!?)




    ペスト医師は足を踏み出す。俺はそれに合わせて一歩下がった。もちろん背後の警戒も怠らない。


    奴がまた一歩こちらに詰め寄る。俺もまた同じ距離だけ退いた。




    ペスト医師「……」



    埒があかないと考えたのか、真っ黒のローブにゴム手袋を装着した手を入れ、そこから刃物を取り出し、大きく振りかぶった。



    王馬(まずい……毒でも塗られていたら、くらっただけであの世行きだ!!)



    俺はバックステップで塀まで近づくと、その勢いのまま飛び跳ね、塀の上部に手を乗せ、一気に身体を持ち上げた。



    ペスト医師「ッ!」



    よほど俺を逃したくないのか、メスを恐ろしいほどの速度で放ってきた。闇に紛れた刃物は俺の頬をかすめ、そのまま消え去る。



    王馬(避けてなかったら、間違いなく右目に突き刺さっていたッ!)



    血がじゅるりと垂れ、しかめっ面のまま俺は塀の内側へと倒れ込んだ。土の青臭い匂いが胸いっぱいに広がる。


    だが今の俺には自然を楽しむ余裕も、人生の最期に自然を楽しむ諦めも持ち合わせていなかった。身体をサッと起こし、靴の中に隠してあった解毒薬を口に運ぶ。



    王馬(どんな毒かわからない……とりあえず気休めでも、神経毒を抑制する薬を飲んでおこう)



    毒を塗っていない可能性も考えたが、俺の帰路を突き止め、襲ってきた人間が万全の体制でないわけがないだろう。音を立てずに走りながら、出血部を軽く押さえ、毒の入った血を抜く。これもやらないよりはマシだ。


    足を蹴り上げ、ブーツでガラスを叩き割る。家主の怒声とガラスの破裂音があたりに響き渡った。俺はすぐにその場から離れ、塀をよじ登って逃げた。



  11. 11 : : 2017/07/10(月) 23:53:07





    〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜





    車の行き交う人気のある通りまで走り、荒い呼吸で、駆けこめる店を探した。今だけは喧騒に安堵できる。


    何度も住宅の中を経由して辿り着いた。おそらく尾行はされていないはずだ。しばらく見渡していると、ネオン街の光がぼやけていった。



    王馬「……え?」



    視界が滲んでいる。目を擦るが、一向に改善する気配がない。その時気づく。毒だ。走ったことにより血流が身体を駆け巡り、毒もその際に巡ったのだ。



    王馬「ク、クソ……即効性じゃなくて遅効性とか、趣味……悪いじゃん……」



    せめてもの当てつけのつもりで、俺は引き攣った笑みを浮かべたまま地面に突っ伏した。助けを求めるにも声が出せない。



    王馬(俺はこんなところで……!?)



    息を切らしていると、俺の周りを一般人が囲んでいることに気づく。そいつらは俺を助けるわけでもなく、見捨てるわけでもなく、ただただ見下ろしていた。


    言い様のない怒りが込み上げてきたが、そいつらをどうすることもできないまま、意識だけが遠退いていく。最期に見たのはそいつらをかき分け、俺の方へと向かってくる長髪の男だった。それも、俺のよく知っているーーーー。



  12. 12 : : 2017/07/10(月) 23:53:54




    ーーーー

    ーーーーーー

    ーーーーーーーー





    ゆっくりと目を覚ますと、電灯を吊るした天井が目に入る。俺の身体はベッドに寝かされており、柔らかいそれに身を委ねると、心地良さが骨の髄まで行き渡った。



    王馬「……ここは?」



    誰に言うわけでもなくただ疑問を呟くと、白い部屋の隅に腰掛けていた長髪の男が返答する。



    真宮寺「やあ、こんにちは。体調はどうだい? あの後昼まで寝てたけど」


    王馬「……最高だヨ」


    真宮寺「……それは良かった。ちなみにここは警察署の医務室だヨ」



    真宮寺は乱雑とした机の上を大雑把に整理しながら、シャーレに乗った黒ずんでネバネバとした物体をこちらに運んできた。



    真宮寺「これが君を死の淵に追いやった『ヤドクガエルの毒』だヨ。以前、インディオのカマユラ族の祈祷師に解毒方法を習っておいてネ。まさかそれが活きるなんて思いもしなかったけど」


    俺が起き上がり、それを一瞥すると、真宮寺は続けた。



    真宮寺「君は運がいいヨ。僕があそこの通りを通ってなかったら、今頃は天国だったろうから」


    王馬「……間違って天国の方に予約しててね。取り消した時には地獄はもう埋まってた」


    真宮寺「へぇ……確かに昨日で随分死んだからネ。あの世も大盛況なのかな」


    王馬「ッ……!」


    真宮寺「君が“何か”から逃げている時、家を通ったんだろ? それもかなりの数。全員殺されてたヨ。おそらく君を匿ってないか探してたんだ」



    真宮寺は束になって重ねた写真を、ベッドの上に拡げて説明していく。



    真宮寺「君の治療を終えた後、最原クンに協力してもらってネ。警察から被害者の写真を貰ってきた」


    真宮寺「これは君がカモフラージュのため窓を破った家の主人。スキンヘッドに見えるかな? だけど違うんだ。これは毟られたんだヨ。毛根から髪を引き抜かれ、灼けるような痛みに耐えきれずショック死した」


    真宮寺「これは君が二番目に入った家。親と子供のお互いに、相手の首に掛けた紐を握らせ、先に相手を締め殺した方だけを助けるとでもいったんだろう。現場には首を絞められた2つの死体が転がってた」


    真宮寺「これは三番目。彼は唯一殺されてなかった人物だ。彼は陸上部に入っていて部員からの信頼も厚かった。けどその“何者か”に足を切断されたんだ。止血も丁寧に施された上でネ。結局、彼は君が目覚める数時間前に自殺したヨ」



    真宮寺「……他のもこんなのばっかりさ」



    真宮寺「……王馬クン。君は一体何と戦っていたんだい?」


  13. 13 : : 2017/07/10(月) 23:54:31



    俺はしばらく黙っていたが、時間の無駄だと悟り少しずつ話し始めた。“ペスト医師”に襲われたこと。そいつがおそらく失踪事件に関与しているのだろうということ。そして……奴はかなり手強いということ。




    王馬「奴はあの暗闇の中、寸分狂わずメスを投げてきた。桁外れの正確さだ。それに体幹のバランスもずば抜けていた。近接戦に持ち込んでも勝てたかどうか…」


    真宮寺「なるほどネ。暗殺者……かな?」


    王馬「……そうかもしれない」


    真宮寺「オイオイオイオイ、煮え切らないネ?」


    王馬「暗殺者なら、俺を殺せてたはずだ。解毒方法がない毒なんていくらでもあるから。それなのに、わざわざそうじゃないのを選んだんだ……奴の手のひらで踊らされてるようにしか見えない」


    王馬「……それに、無駄な殺しが多すぎる……」


    王馬「そりゃ、俺だって別に全員が全員助かるなんて思っちゃいなかったさ。本来殺されるはずの俺が助かる分、カモフラージュに窓を破った家の奴らが殺されることは覚悟していた」


    王馬「俺が生きている世界ってのはそういう簡単な算数の世界だったからーーーーだが」



    脳裏にこびりついた悍ましい写真を思い起こす。どれもこれも、まるで殺しが楽しくて仕方がないといったような殺害方法だ。



    王馬「ーーーーーこれは俺の推測だけど、“ペスト医師”は最原ちゃんの言ってた失踪事件に関与していると思う。そしたら、必殺の毒を使わなかった理由が説明できる。俺を生け捕りたかったんだ。他の人間を捕まえた理由はまだわかんないけど」


    王馬「兎にも角にも、俺は……何の事やら分からないまま死んでいった奴らのためにも、“ペスト医師”と戦わなくちゃいけない」


    真宮寺「……よかったよかった。まだ心は折れてなかったんだネ?」



    真宮寺は指で顎を撫でながらそう答えた。そして気まずそうに俺を視線を向けた後、閉ざしていた口を再び開き始める。



    真宮寺「……ただ、君が不意打ちでやられたってのなら、状況は幾ばくか(少し)はマシだったんだけどネ。戦闘で負けたっていうんなら他に打つ手はあるかナ?」


    王馬「それこそ俺の十八番だよ。人探し、工作、奇襲、全部総督としての俺の真骨頂さ。それに戦闘面でいったらハルマキ、茶柱、百田の方が俺より上だよ」


    真宮寺「フム……いやぁ、実はネ。行方不明なんだ。今、君が名前を挙げた彼らが」


    王馬「ッ!?」


    真宮寺「そう。だから不味いってことなんだ。敵の狙いは君じゃない。全てが不明なのさ。なぜ一般人を攫ったのか。なぜ超高校級の生徒を攫っているのか」


    真宮寺「どうやら僕たちが想像している以上に、異常に敵は得体の知れない人物ってことらしい」



  14. 14 : : 2017/07/10(月) 23:55:09




    ーーー

    ーー

    ーーーーーー

    ーーーーーーーー





    背筋が凍り、血の気が引いていくのを文字通り感じる。そんな、馬鹿な、嘘だと、そう嘘だと言ってくれ。



    王馬「行かなきゃ……!?」



    震える手でベッドの縁を掴み、立ち上がろうとした。それを真宮寺は慌てて抑え込み、制する。



    真宮寺「治療はまだ終わってないんだ。君は安静にしてなきゃいけない。詳しくいうと、体中の毛穴が呼吸できるように正常にして、体を強くする薬草トロンコンを煎じた湯を体にかけたりしなくちゃいけない」


    王馬「じゃあ……なんであんなこと俺に伝えたんだよ!? 友達が、攫われたんだぞ!! ジッとしていられるか!? 無理だろ!」


    真宮寺「僕は君に覚悟を決めて欲しかったんだヨ。出来れば僕も友達を救いたい。今は亡き姉さんのためにも、見捨てたくない」


    真宮寺「だから」


    真宮寺「君には覚悟をしてほしいのサ……他の全てを捨てる覚悟を、ネ」




    真宮寺の言わんとすることは、彼の威圧感から何となく分かった。『友達』を救うために全てを捨てる覚悟……『友達』とは、おそらく彼の中で死に体は含まれていないのだろう。




    王馬「見捨てろってこと……? 百田も、春川も、茶柱もみんな!!!」


    真宮寺「正確には、彼らに加えて東条さん、入間さん、星君、夜長さん、白銀さんも攫われたヨ」


    王馬「ッ……」


    真宮寺「いい加減に現実を受け入れたらどうだい? 攫われた彼らを助けるなんて不可能だろう? こっちは向こうのことを何も知らないんだ。今まで失踪した人間が帰ってきた試しがあったかい?」


    真宮寺「今残ってる友達を守ることに尽力を注ぐことで、やっと敵と対等に立ち回れると思わない?」


    王馬「……何だよそれ」



    真宮寺は俺を黙ったまま見下ろす。当の俺はただただ情け無く俯いた。打つ手なし。現実の非情さを、容赦のなさを、これでもかと突きつけられる。



    真宮寺「……外国にいる君の仲間に連絡しなくていいのかい?」


    王馬「ーーーーいや、それは無い。盗聴される確率120%だ」


    真宮寺「なんだ。意外と冷静じゃないか……ついでに、あと少し冷徹になれないかナ。今生き残った友達はみんな警察署の中にいる。守られてるんだ。だがそれも長くは持たないだろう」


    真宮寺「次に“ペスト医師”が準備を済ませ、襲ってくるまでに2日弱ってところかナ。それまでに、密輸船に乗って中国まで逃げよう。無法には違法をぶつけるのが1番だヨ」


    王馬「……」












    王馬「……“ペスト医師”のこと、俺たちは何もわからないわけじゃないだろ。次に奴が現れるおよその時刻、場所も分かってるじゃないか」


  15. 15 : : 2017/07/10(月) 23:55:45


    真宮寺「……迎え撃つ気? 僕は反対だネ」


    王馬「ただ迎え撃つんじゃない。『こっちも準備して迎え撃つ』」


    王馬「今更、逃げれるかよ。俺のことなら馬鹿って歌っといてくれ」


    真宮寺「……勝手にするといいヨ」




    真宮寺はため息をつくと、背を向け、扉まで一切振り返ることなく進んでいった。俺はそれを黙って見つめる。




    王馬(さっき真宮寺が俺の治療の続きを詳しく説明したのは、こうなることが分かっていたからか……?)



    不意に、行き場を無くした水分が目から数滴、零れ落ちる。対立した人間にされる施しに、思わず感極まってしまった。



    王馬「……こんなことしてる場合じゃないな。早くみんなにも説明しないと」



    指で目元を拭うと、脚に力を込めて立つ。治療は後々やるとして、今は情報を他の奴と共有することが大切だ。


    背後で、扉の開く音がする。




    最原「大丈夫!? 王馬クン!?」


    夢野「んあー、様子を見に来てやったぞ」


    キーボ「桃持って来ました!」


    赤松「あ、貸して! 剥いてあげる!」



    そこにいたのは無事に保護されていた6人の超高校級の級友達だった。




    王馬「みんな!? どうしてここに…」


    ゴン太「元から知ってたんだけど、真宮寺クンが絶対安静だから入っちゃダメだって…」


    天海「話もだいたい真宮寺クンから聞いてるんすけど、あんまりいい状況じゃないみたいっすね」


    王馬「……」




    赤松が桃を剥く音だけが、心地よく響く。


    俺は後悔という重りをを引きずるかのように、本当にゆっくりと口を開いて、話し始めた。



  16. 16 : : 2017/07/10(月) 23:56:16





    王馬「……というわけなんだよ。みんながもし戦いたくないのなら、俺は止めないし、責めたりしない。今追いかければ真宮寺クンに追いつけるはずだ。けど、もし一矢報いてやりたいって気持ちがあるんなら……」



    言いかけたところで、顔を上げる。誰も目を背けているものは居なかった。




    最原「僕らで力を合わせて戦おうよ!」


    天海「……やられっぱなしは性に合わないんすよね。何より相当頭にきてますし」



    一瞬、ここに立つことの出来なかった級友の顔が過ぎる。七色に塗られた、思い出のキャンパス。決して色褪せることのないそれらは、現れては消え、現れては消えていく。



    キーボ「絶対っ……絶対助けましょう!」



    キーボは泣き噦りながら、そう叫ぶ。皆、口には出さないが目に涙を浮かべていた。


    見捨てるにはあまりに大き過ぎた。



    赤松「まずはしっかり食べようよ! じゃないと始まらないからさ!」



    赤松が無理して声を出し、仕切り直しの意味を込めて手を叩く。それに呼応して皆も切り分けられた桃を口に運んだ。桃の熟した甘みが広がっていく。それはほんのすこしだけ、しょっぱかった。







    そこからは早かった。俺は警察のお偉いさんと相談をして警察署の最上階(4F)を改造してもいいとのお達しを勝ち取った。


    赤松と夢野は料理器具の調整を行っている。警官にインスタント食品も買いに行かせもした。長期戦を見越しての準備だ。


    ゴン太は警察署に巣を張っている虫の生態を調べている。毒ガス、火事など、環境の変異に対して虫を通して発見するためだ。


    最原と天海とキーボは業務用長机を積んで、バリケードを作っている。他にも逃避ルートや襲撃予想ルートなど、ありとあらゆる可能性を想定して、対策を練っていた。


    まるで多忙に自分を追い込むことを求めるかのように、俺たちは働いた。





    廊下で、机を組み立てている彼らとすれ違う。

  17. 17 : : 2017/07/10(月) 23:56:49


    王馬「あれ、キー坊は?」


    最原「コンピューターシステムにウイルスが侵入してないか見て回るそうだよ。王馬クンは?」


    王馬「俺は治療の続きを済ませたよ。最原ちゃん達の調子はどんな感じ?」


    最原「調べてみたら、四階へのルートは2つ。1つは階段から。2つ目はエレベーターから。ちなみにシステム制御室は四階にあるから、先に落とされることはないよ」


    天海「システム制御室では監視カメラの確認や、通報の対応をしてるみたいっすよ」


    王馬「……エレベーターに監視カメラはついてるよね?」


    最原「うん、確かついてたと思う」


    王馬「じゃあエレベーターはの警備は捨てていいね。もし乗ってきたら遠隔操作で止めて、それでお終いだ」


    天海「そうっすね。人員を階段の方に割いた方が賢明っす。万が一階段が突破された時の、戦えない人の逃走経路っすけど、エレベーター側に垂直式救助袋ってのがあるそうなので、それで逃げてもらいましょうっす」


    王馬「ああ、俺と天海ちゃんとゴン太とキー坊は残って……戦おう」


    最原「……ぼ、僕も!」


    王馬「最原ちゃんはいいよ」


    最原「で、でも……僕も、戦いたくて……!」


    天海「そうっすよ。最原クンはちゃんと女子たちをリードしてくれないと」


    最原「……」


    王馬「頼むよ。最原ちゃんは正解を導く力があるってのは、俺たち知ってるからさ」


    王馬「百田ちゃんが財布落とした時すぐに見つけたり、遠慮してた東条ちゃんの誕生日を推理してパーティやったり、春川ちゃんが馴染めるきっかけを作ったり、赤松ちゃんのパンツを盗んだのも、全部君がやったことでしょ?」


    最原「王馬クン…………」


    最原「……」


    最原「……ん? 赤松さんがパンツ盗まれたって相談したのは僕だけだったような……そして、その後僕の部屋で女物のパンツが見つかって……」


    王馬「にっしし〜 赤松ちゃんに黙ってるとこが最原ちゃんっぽいよね〜」



    俺はその場から駆け出した。



    最原「てめえええええええええええええ!!? てめぇかよぉ!? ええその腐った根性!!!?」


    王馬「助けてええええ! 集団ストーカーに襲われてまあああああす!!」



    しばらく駆けっこをして遊んだ。


    その頃には、日は完全に没していた。


  18. 18 : : 2017/07/10(月) 23:57:46




    ーー

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    その後、階段とエレベーターのちょうど真ん中の位置の部屋を陣取り、長机を一定の間隔で開けて並べた。射撃戦の際、壁の位置をこちらが把握できているメリットを考えたのだ。


    床に座って、紙の皿に乗ったインスタントのカレーを食べる。



    天海「……希望ヶ峰学園は力を貸してくれないんすかね?」


    王馬「多分、“ペスト医師”に弱みでも握られて、『相談』されたんじゃないかな。【お前らは手を出すな】って。さすがに【攫うのに手を貸せ】とかだったら、学園も無視して捨て身覚悟の特攻しただろうし。どうやら奴は交渉術も上手らしい」


    王馬「ま、学園側もあんだけ組織がでかいと、弱みも出て来るだろうからさ。まあ暴くのは並大抵じゃないだろうけど…」


    王馬「けどこっちも警官の人が場所も貸してくれて、総動員で守ってくれてるし大丈夫でしょ」


    天海「そうっすよ。それにしても、よく協力してくれたっすね」


    王馬「うん、俺もちゃーんと『相談』したからさ」


    天海「……」






    赤松「……本当に大丈夫かな?」



    皆は先ほどまで談笑していたが、徐々に口数が減り、誰も喋らなくなった状態で、ポツリと赤松が呟いた。


    消え入るような声を発した彼女の手のひらに、隣に腰掛けていた最原がそっと触れる。



    最原「……大丈夫だよ。4階への階段は警官の人たちが見守ってくれてるし、化学兵器も虫が察知するし、ウイルスも仕組まれてなかったらしいし、逃走経路も用意してある」


    最原「それに……いざとなったら、僕が守る……から!」


    赤松「うん…」



    お互い顔を火照らせ、見つめ合う。当然、間髪入れずに茶化した。



    王馬「ヒュー!!!」


    ゴン太「わぁ!?」


    夢野「おい最原! 贔屓は無しで頼むぞ! ウチだって怖いんじゃからな!」


    天海「まあ、死んでも君たちだけは守るから安心して欲しいっすよ」


    キーボ「ええ! 僕も頑丈なボディを活かしたいと思います!」


    赤松「もうみんな! 茶化さないでよ!」


    最原「……」


    各々、好き勝手なコメントをしている中、俺はある不安が過った。それは、このまま奴が来ないという可能性。



    王馬(来て貰わなきゃ困る……奴の力は少し対峙しただけでも強大だと伝わった。こっちがどっしり構えて五分五分なんだ……)



    夢野「王馬」


    王馬「うおっ!? ……夢野ちゃん? 脅かさないでよ」


    夢野「お前はまた難しい顔をしとるな。そんな気難しく考えんでもいいのに」


    夢野「王馬ならきっと成せる。世紀の魔法使いのワシが言うんじゃから間違いはないわい!」


    王馬「……」



    俺は身体をバッと起こし、夢野に抱きつく。


  19. 19 : : 2017/07/10(月) 23:58:23



    夢野「えっ!? ちょっ、わっ!?」


    最原「ヒュー!!!」


    王馬「なんだァてめえ!!」



    最原が仕返しと言わんばかりに囃し立てたので、振り向いて頭を小突いた。


    後はてんやわんやの大合唱。死が間近だからこそか、俺たちは笑った。嗚呼、幸せを噛んで噛んで噛みしめる。最後の味がなくなるまで、勿体無くてとても捨てられないほどの幸福感。








    ……ただ、また穴を感じた。



    あの時と同じだ。家族と過ごしていた時に感じたあの虚無感。



    この穴の正体に確証は持てないまま、俺は“ペスト医師”が迫って来るであろうことに対する恐怖だと無理やり結論づけた。



    騒ぎ疲れたところで、扉にノックの音が走る。一瞬にして緊張が張り詰めた。



    ゴン太「……僕が出るよ」



    近接戦最強であろうゴン太が扉に近寄る。ただ、それはあくまで力だけの話であり、技において熟練者に劣る。何故なら、技は力を制するために作られたからだ。


    天海と俺は互いに顔を見合わせ、ゴン太をフォローすべく三歩下がってついていく。非戦闘員の赤松、夢野、最原を守るため、キーボは三人の前に立ちはだかった。



    ゴン太「入ってください」



    ゴン太がそう言うと、警官が扉を開いた。シワが入り、白髪混じりの髪をした彼は、少し汗を垂らし、呼吸も荒い。



    警官A「警察署周辺で不審人物が目撃された……交戦が始まったわけじゃないが、一応報告しとこうと思ってな」


    ゴン太「……ッ!?」



    その警官は急にゴン太に飛びかかり、素早く拳銃をホルスターから引き抜き、喉元に押しつける。



    ゴン太「ぁ…」



    鋭い銃声が轟く。完全に虚を突かれたゴン太はなす術なしに崩れ落ちた。血が床に撒き散らされ、赤色に染まる。



    夢野「あ……あ……!?」


    王馬「そのまま動くな! 動いたら撃つ!」



    俺が銃を構えると、警官はピタリと止まった。横目でゴン太を流し見ると、まだ微かに呼吸をしているようだった。すぐに手当てをすれば助かるかもしれない。

  20. 20 : : 2017/07/10(月) 23:58:59


    赤松「ッ……獄原クン……」


    王馬「大丈夫! まだ死んでない! すぐに手当てすれば助かる! 俺たちは一旦離れよう! ここにいちゃゴン太を巻き込む!」



    本当のことだけ喋って嘘をつく。真実は、戻ることなど許されないだろう。ゴン太の生死は“ペスト医師”に委ねられているのだ。


    後ろの奴らが悲鳴をあげないのは驚異的な精神力か、それともただ呆然としているだけか。どちらにせよ雑音が入らないことは助かった。



    警官A「……お前達さえ来なければ、お前達さえここにこもらなければ、こんなことにはならなかった」


    警官A「家族を……家族を人質に取られたんだ俺は!! 休日は家族サービスだってしたし、参観日は有給をとって見に行った!! 一人っ子の娘だ……まるで自分の身体のように大切なんだ……なんで俺がこんな目に合わなきゃいけない!? 答えろ!!!」



    警官が銃を持つ手が強くなったと同時に、俺は引き金を引いた。弾薬の焦げ臭い香りが鼻の先で漂う。警官は痙攣を繰り返した後、すぐに動かなくなった。



    王馬(くすねておいた拳銃が役に立ったな。それにしても襲って来るのが早い。毒で寝てる時間が長すぎたな)



    想定しうる最悪のシナリオだった。最良は希望ヶ峰学園が“ペスト医師”を、奴に気付かれずに特定すること。奴の意識が俺たちに向いている以上、不可能ではなかっただろう。時間さえあれば。


    だからこそ俺たちは撃退する構えを取りながら、長期戦を見越していたのだ。だが、“ペスト医師”はその時間という面で、俺の予想を遥かに上回ったのだ。



    最良「でも、どうして撃ったの…?」


    天海「……人質がいるっていってたっすよ」


    王馬「……奴はあの時、撃つ気だったよ。遅かれ早かれだ。それに人質はもう殺されてるさ。生かしておくメリットはないからね。どうせ今回こっきり操れればいいだけだし」


    王馬(……今の奴はシステム制御室の警官か? 階段だとすると人数が多すぎるからな。さすがに操りきれないだろう)


    王馬(手順としてはおそらく、誰でもいいからここの警官を脅し、システム制御室に携わっている人間を聞きだす。その後、その連中の家族を殺して、【言うことを聞けば助けてやる】と嘘をついて傀儡化か)



    王馬「みんな!! もう警官は頼れない!! 脱出しよう!!」



    俺たちは慌ただしく廊下を駆ける。エレベーター側の垂直式救助袋を目指した。それを窓から垂らせば、落ちるように建物から脱出できる、本来なら火災などで使う防災用品だ。


    勝算は吹き飛んだ。だが、生き残る可能性に賭ける。生きてさえすれば何度でも立ち向かえるからだ。


    キーボが殿を務め、俺と天海は背後に注意を払いながら進んだ。


  21. 21 : : 2017/07/10(月) 23:59:48



    天海「もし人質を取られている警官がいるとして……何人くらいっすかね?」


    王馬「さっきも言ったけど、殺すだけでいいのなら、“ペスト医師”の技量であれば9から10人はもう傀儡にしてるだろう」


    王馬「こうなると、警戒すべきなのはシステム制御室の警官だけじゃない。外の警官、階段の警官、それぞれに伏兵を巡らせていると考えるべきだ」


    天海「……それにしては、警官が全然追いかけて来なくないっすか? やるなら10人くらいで特攻した方がよかったと思うんすけど」


    王馬「日本の一般警官くらいなら不意打ちでもない限り、何人来ようが俺がやられるはずないよ。それを向こうもわかってるから奇襲から始めたんだ」




    俺たちが角を曲がると、行き止まりとエレベーターが見えてきた。打ち合わせ通り、最原と夢野が直方体である箱の上部を外し、中から垂直式救助袋を取り出す。


    キーボは俺たちの通った角を見張っていた。もし警官や不審人物が近寄ってきたら大声で知らせる役割だ。



    最原「もし……下に“ペスト医師”がいたらどうするの?」


    王馬「それはないと思う。同じフロアの別の場所から垂直式救助袋を垂らしておいて、そっちから逃げるって警官にも嘘の情報を伝えといたから」


    最原「……警官が裏切るってことも、想定してたんだ……凄いね。僕なんかいっぱいいっぱいで……」


    王馬「そんなんじゃないよ。俺はただ世界一の小心者ってだけで、だから名前が小吉ってわけ」


    王馬「心配ないとは思うけど、万が一ってこともあるから、降りるのは俺からにするよ。俺が大丈夫って判断したら合図するから、それで降りてきて」


    最原「……うん」




    最原がそう呟くと同時に、垂直式救助袋は窓から放たれ、そのまま真っ直ぐ降ろされた。厚いビニールで出来たウォータースライダーの様な風貌のそれは、どうやら無事に設置できたようだ。


    俺は夢野と最原に目配せをし、一人分の白い穴の縁に足をかける。と、天海と赤松が叫び声を高らかにあげた。



    王馬「ッ!? まさかッ!?」


    王馬(しまった!? システム制御室に内通者を忍ばせられるなら、エレベーターの警備なんて笊みたいなもんじゃないか!? スルーパス同然ッ!?)



    焦りもあって、勢いよく廊下に着地した。俺の心配とは裏腹に、赤松は落ち着いた口調で話しを進める。


  22. 22 : : 2017/07/11(火) 00:00:34



    赤松「ゴメン! 大丈夫だよ! 急にエレベーターの扉が開いたからびっくりしちゃって」


    天海「エレベーター本体は1階に止まってるから誤作動っすかね。なんにせよ、大したことなくてよかったっす」



    垂直式救助袋を垂らすために開いた窓から、蝉の鳴き声がした。











    王馬「そこから離れろおおおおおおおッ!!?」



    喉が裂けるかと感じられるほどの警報を鳴らし、再び拳銃に手をかけた。


    本来ならあるはずものがなく、すっぽり空いたそこには、エレベーターが上下する為の細い鋼鉄の束、ワイヤーが吊るされていた。


    “ペスト医師”はそれをよじ登ってきたのだ。


    王馬(二階かもしくは三階のエレベーターの扉、そして四階のエレベーターの扉をシステム制御室の人間に開かせたのか!!? それなら確かにワイヤーをつたって登ってこれるッ!)


    奴は恐るべき身のこなしでワイヤーから廊下に飛び移ると、一瞬の間も無く鋭いメスで赤松の腿に傷をつけた。



    赤松「キャッ!?」



    王馬(毒は塗ってあるだろうが、以前俺がくらったことのあるそれと同種なら治療法があるッ!)


    王馬(今はまずこいつを殺すッ!!)



    俺が引き金を引くのを見越していたかのように、奴は側にいた天海の肩を掴み、身体を引き寄せ、弾避けの盾とした。銃弾が肉を抉る不快な音が間近で聞こえた。



    天海「ググッ……!!」



    “ペスト医師”はそのまま天海をエレベーターのない空間に突き飛ばす。コンマで行われる攻防の際に視界に入り込んだ、一個の光。



    王馬「あ、天海……!?」



    “ペスト医師”はボタンを押し、エレベーターを四階に呼んでいたのだ。そこに突き落とされた天海は、押し上がってくるそれと天井で挟み込まれる形になった。


    ぶぢゅう。


    天海だったものは消え去り、プレスされた肉の塊が血を滴らせ、血溜まりを作っていた。



    王馬「てめええええええええッ!!!!」



    激昂し、我を忘れて襲いかかりそうになる。俺自身じゃこの怒りをどうしようも出来いだろう。勇敢だった天海が、あんな無惨な殺され方をされる道理が浮かばないからだ。


    俺の暴走を止めたのは三つの影だった。影が、俺と“ペスト医師”の前に立ちふさがる。


    その時の俺はさぞ情け無い顔をしていただろう。


  23. 23 : : 2017/07/11(火) 00:01:11



    キーボ「王馬クンは夢野さんと逃げてください!!」


    最原「僕だって君みたいに勇気があることを証明する……してみせるッ!!」


    赤松「どうせ私は逃げられそうにないから……この命を、みんなのために使うよ!!」



    違うんだ。いくつもの否定したい気持ちを言葉と一緒に飲む。俺は歯を食いしばった。


    身体は既に踵を返していた。


    呆然としていた夢野を抱き上げ、白い穴の中に落とそうとする。



    夢野「は、離せ!! ウチらだけ逃げるなんてダメじゃ!!……お、王馬?」



    俺はこの涙を止める術を知らなかった。完膚なきまでに敗北した惨めさ。親友の優しさに触れた温かさ。覚悟したはずなのに生を求めてしまう自分自身への憤怒。死から生に転がった安堵。複雑な感情が完璧な比率で混ぜられたこの涙を、止める術はなかった。



    暴れていた夢野は諦めたのか落ち着き、一呼吸置いて白の穴の中へと吸い込まれていった。俺も仲間が倒れていくのを尻目に、穴の中へとその身を投げる。





    中は螺旋状になって入り組んでおり、運動神経が悪ければ何度も身体をぶつけ痛めたただろう。だが、俺は持ち前の能力の高さを生かし、寧ろ加速しながら降っていった。



    だからどうした。



    能力があろうがなかろうが俺は人間なのだ。


    その簡単なことに今になって気づいた。


    ひょっとしてこの『答え』こそが、希望ヶ峰学園のテストの完答なのかもしれない。


    俺は心の底で、自分ならほぼどんなことでも成せるという傲慢を抱えていたのだろう。きっと他のみんなもそうだった筈だ。


    学園が無理難題を吹っかけたのは、才能や努力ではどうすることも出来ないことがあるという簡単なことを理解させる為だったのかもしれない。


    それを上辺だけでなく、完全なる敗北という形で、真に分からせるためにテストを行なったのだろう。


    他人も精一杯生きて、俺も精一杯生きている。この世は精一杯の連続だ。俺がどんなに有能だろうがそれは変わらない。


    その精一杯の中で、最善を尽くすこと。それが大人になるってことなんだろうと、堕ちて生きながらそう思った。



  24. 24 : : 2017/07/11(火) 00:01:43



    地面に着くと、夢野が警官に銃を突きつけられていた。生憎周りには誰もいない。夢野は必死に唇を噛み、嗚咽を漏らさない様に努めている。


    警官が口を開くその遥か前に、脳天目掛けて早撃ちをした。丁度、額のど真ん中を貫かれ、彼は辞世の句を詠む間も無く息を引き取った。



    王馬「行こう」



    腰の引けた夢野を抱きかかえ、俺は夜の街の方へ駆ける。人混みに紛れれば、逃走の成功確率が数段に上がるからだ。勿論、戦闘がいざ始まれば死人は一桁じゃ効かないだろうが。



    夢野「なんで、そんなに簡単に引き金を引けるんじゃ…? ウチは、誰かの命を背負ってに生きていけるほど優れた人間じゃないのに…」


    王馬「……さっきまでの俺なら、仕方のない代償とでも言ったんだろうけど……精一杯だった。君を殺さない為に、俺は、精一杯殺すしかなかったんだ」





    しばらく走り、数百メートルは離れたかというところで警察署の方を振り返ると、何者かが4階の窓から身を投げていた。


    五点着地でもするつもりなのかと、驚くより呆れていた。何故かはわからないが、あの怪物だけは例外なのだろう。俺は後はもう振り返らず、逃げ切ることだけを意識した。



    日が出始める頃まで走り、やっと俺は足を止める。逃げ切った。昨日から今日にかけて、再び奴を負かしたのだ。無数の犠牲の上に立ち、俺達は生き残った。


    夏に相応しく、浜辺まで来ていた。潮風が鼻腔をくすぐり、波打ち際を二人で歩く。



    王馬「……ねぇ、夢野ちゃん。二人でこのままどっか逃げちゃわない? 全部放っぽってさ。外国でのんびーり暮らそうよ」


    夢野「んあー……それもいいのう」


    王馬「……なーんてね。嘘だよ。騙された?」


    夢野「ウチは賛成じゃよ」



    俺は立ち止まる。



    王馬「だから嘘だって。それに、夢野ちゃんだってこんな怪しい男と二人っきりで逃げるなんて御免でしょ?」


    夢野「……なんでかのう。なんでかは知らんが、今日はお前の嘘がよくわかるわい」


    夢野「にっしっしー、王馬となら、何処へ行っても楽しそうじゃ」


    王馬「……俺の嘘がバレたの、初めてだなぁ」




    白波を太陽が煌めかせる中、俺たちはそこを二人っきりで歩いた。


    涙が止まらなかった。お互い、泣きながら笑った。そこに理由なんて無かったし、それをつけるのは無粋だとも思った。



  25. 25 : : 2017/07/11(火) 00:02:11



    ーーー

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    ーーーーーーーーー




    あの事件から十年が経つ。俺たちはトルコに移り住んでいた。あれ以降、特に事件に巻き込まれることはなく、平穏に暮らしている。


    トルコを選んだ理由は、シリア難民の避難ルートに入っている国であり、人の出入りが激しい為、敵に見つかることも少ないと考えたからだ。


    昔の仲間とは、もう組織を解散したっきり会っていない。完全に負け、海外に逃げた俺を見て、現実を思い知ったのかもしれない。ただ、誰も文句は言わなかった。


    希望ヶ峰学園とももう連絡を取っていない。逆探知を恐れたからだ。


    休みの日はフランスを訪れ、美術品などを見て楽しむ。最近、秘密子が情操教育とか言って、適当なクラッシックを聞きだした。


    そう、なんと俺たちの間に子供が出来たのだ。子供を持つなんて昔の俺なら考えられないが、今は喜びに打ちひしがれている。もうすぐ出産予定だ。


    ……ただ、昔感じていた穴を、再び強く感じるようになっていた。


    親のいない俺には子育てなど出来ないという不安だろうからからかと、秘密子に相談してみると、「一緒に頑張ろう」と言われた。


    安堵はしたが、穴は塞がらないままだ。


    結局、俺はついに答えを出すことは叶わなかった。



  26. 26 : : 2017/07/11(火) 00:02:38





    蝉の声が聞こえる。もう夏か、と、家のカーテンを開け、暗くなった空を仰ぎみる。



    夢野「うーん…」



    夢野はソファにもたれかかり、うとうとと船を漕いでいる。妊娠のストレスが溜まっているのだろう。


    俺は夢野を抱き抱え、二階にある寝室へと運び、ベッドに寝かせ、シーツをそっとかけた。


    軋む階段をゆっくりと降りていると、庭で何やら重い物が落ちる鈍い音が聞こえた。不思議に思い駆け足でさっきカーテンを開けた窓へ向かう。


    蝉が高らかに鳴く。窓の外には、首から上だけの真宮寺が惨たらしく残されていた。血の気の引いたそれは、やけに生々しいリアルを思わせ、人形の類ではないことを証明していた。


    俺は叫びながらリビングを飛び出す。秘密子。せめて秘密子とその子供だけは。俺は誓ったんだ。俺の手の届く範囲は精一杯で守る、と。


    寝室にたどり着き、勢いよくドアを開ける。薄暗い部屋の中。目の前に長い嘴を持つ、“ペスト医師”が立ってた。


    そこで意識が消える。





    ーーー
    ーーーー
    ーーーーー
    ーーーーーー




    目を覚ますと、椅子に足と手をロープで縛られ、微動だ出来ない状態でいた。抵抗するも拘束を解ける可能性がないことはすぐにわかった。


    足音が近づいてくる。覚悟を決め、その方向を見つめると、脳が殴り飛ばされるほどの衝撃を受けた。


    視界に映る全てを信じたくない。


    目の前にいたそいつは、『東条 斬美』だった。俺たちの級友だった。


    そいつは悪びれた様子もなく、十年経っても衰えない気品を纏って口を開いた。


  27. 27 : : 2017/07/11(火) 00:03:03



    東条「お目覚めかしら?」


    王馬「……」


    東条「黙ってちゃわからないわ」


    王馬「……なら答えろ。何故、何故こんなことをした!!」



    俺が会話をする気があることを悟ると、嬉しそうに微笑み、慈愛を感じさせる声でゆっくりと語り始める。



    東条「ええ、あなたが思考を行える最期に、全てを教えて納得させてあげる」


    東条「ただ偏見を持たないで聞いてほしいの。私はあなた達の為に全てをしたのよ」


    王馬「……」


    東条「私が希望ヶ峰学園に来る以前、私は拙いながらも何人もの才能ある人を支えてきたの。滅私奉公よ。その甲斐あってか、みんな成功を収めた」


    東条「ーーーーーーけど、みんな口癖のように同じことを呟くの。『何かが足りない』『心に穴があるってね』」



    心臓が飛び跳ねるのを感じていた。東条の話す登場人物が俺と同じ思想を持っていたのだ。


  28. 28 : : 2017/07/11(火) 00:03:32



    東条「私に何か出来ることはないかと本気で悩んだわ。それこそ、鬱になるくらい。けど私は病気にはならないの。メイドたる者こそ体調管理は絶対だから」


    東条「……話を戻すわね。私は限界を感じ、希望ヶ峰学園という場所で自分を磨こうと思ったの。けど、そこにいたのは、今まで私が支えてきた人間がカスに見えるくらいの才能を持つ、素晴らしい逸材達だった」


    東条「私は我を忘れて、この人たちに仕えようと思ったわ。けど、その時、カス共が口を揃えて言っていた『心に穴が空く』という言葉を思い出したの」


    東条「カスとあなた達を同列に考えるのは気が引けたのだけど、人間というカテゴライズが同じ以上、才能に大小はあるとはいえ、あなた達も同じような物を感じているのかもしれないと、そう思うと不安で不安で仕方がなかった」


    東条「で、私は脳を酷使して酷使してやっと思いついたの。時間をかけてしまう、無能なメイドで御免なさいね。その後も一般人を攫っては実験台にしてたのよ。だってあなた達で失敗したら死んでも償いきれないじゃない」



    東条はそう言うと、俺の背後に向かい、何やら弾幕をあげているようだった。そしてすぐに、俺の椅子まで戻り、弾幕の方へと回す。



    王馬「……な、なんだこれ……!?」



    俺がそこに見つけたのは、人間大の大きさを持つ瓶が、何本も並んでいる異様な光景だった。いや、瓶の中に……液体と人間が入っている。



    東条「これが私の見つけた解決方法よ」


    東条「人間は誰しも、決して避けることはできない、漠然な不安を抱えているの。それは災害だったり、病気だったり、死だったり……色々。大切な物が増えれば増えるほど、不安の穴は大きくなっていくの」


    東条「けど、ああやって、瓶の中に電解質や塩を含んだ、ちょうど海に近い成分……つまり羊水のような環境を作り、チューブを介して酸素を送り込めば、擬似的に人は胎児にもどって、何の心配もない一生を過ごすことができるのよ」


  29. 29 : : 2017/07/11(火) 00:03:57



    王馬「……こ、こんなの間違ってる!? 狂ってる!!?」


    東条「本当にそうかしら? 彼らの顔を見て。幸せそうでしょう?」



    確かにそうだった。皆、笑みを浮かべて、自分の祝福が約束されたかのように瞼を閉じていた。



    東条「私は仕えれればそれでいいの。だから最期には、あなたがなんと言おうがああなってもらうわ」


    東条は俺の背中に乳房を押し付け、耳元でそう囁く。そこに性などは一切なく、ただ母と子のような慈愛のみがあった。



    王馬「……なんで俺はあんたに勝てなかったんだろう」


    東条「さあ。ただ、私には守る物が何もなかった。それだけだと思うわ。都合上、天海クンを殺してしまったし、真宮寺クンの本性が邪悪だったから跳ね除けてしまったし、そういうわけで確固たるポリシーもないのよ」


    東条「……じゃあ我が子よ。お休み……」



    首元に注射を打たれ、徐々に意識が遠のいていった。


  30. 30 : : 2017/07/11(火) 00:05:09




    ーー

    ーーー

    ーーーーー

    ーーーーーーー




    一人残され、夢野は母性を振り絞って叫ぶ。



    夢野「頼む! お腹の中にいる子供だけは助けてくれ!」


    東条「うーん……良いわよ。たまには本物の赤ちゃんの面倒をみてみたいしね」



    夢野は縋るように瓶に詰められた王馬に視線を寄せる。王馬は何も言わなかった。だが、とても幸せそうな顔をしていた。


    誰もが持つ、大切なものを全て捨て、『支離滅裂な存在』になる欲求。


    赤ん坊の産声が、辺りに轟いた。


    本当の幸せ。終




  31. 31 : : 2017/07/11(火) 00:07:37
    密度が濃かったかと思いますが、見てくださった方はありがとうございました。残酷な現実を突きつけてきた王馬クンに突きつけ返そうと思い、それを骨格に、ツイッターで流行りのママネタを作品のオチに取り入れてみました。


    小話。本当は夢野が王馬の幸せそうな成れの果てをみて、「赤ちゃん堕ろしてもいいから、私もああなりたい」って叫ぶ予定でした。最後の一文に複数の意味を持たせたかったので、断念。
  32. 32 : : 2017/07/11(火) 10:16:06
    形容できない…この作品。
    言葉選びが秀逸で、冷酷で残酷で慈愛と慈悲の混ざり合った内容が脳を侵食します……
    素晴らしい。やはり私は貴方の作品大好きです。

    とても面白かったです!ありがとうございました!
  33. 33 : : 2017/07/11(火) 16:23:13
    この作品……深い!!
    というボーちゃんはさておき、1レスの中にこれでもかというほど詰め込まれた狂気に身が震えました。
    非現実な世界観と登場人物の人間臭さの対比もまた『支離滅裂』ですね。
  34. 35 : : 2020/10/26(月) 14:31:43
    http://www.ssnote.net/users/homo
    ↑害悪登録ユーザー・提督のアカウント⚠️

    http://www.ssnote.net/groups/2536/archives/8
    ↑⚠️神威団・恋中騒動⚠️
    ⚠️提督とみかぱん謝罪⚠️

    ⚠️害悪登録ユーザー提督・にゃる・墓場⚠️
    ⚠️害悪グループ・神威団メンバー主犯格⚠️
    10 : 提督 : 2018/02/02(金) 13:30:50 このユーザーのレスのみ表示する
    みかぱん氏に代わり私が謝罪させていただきます
    今回は誠にすみませんでした。


    13 : 提督 : 2018/02/02(金) 13:59:46 このユーザーのレスのみ表示する
    >>12
    みかぱん氏がしくんだことに対しての謝罪でしたので
    現在みかぱん氏は謹慎中であり、代わりに謝罪をさせていただきました

    私自身の謝罪を忘れていました。すいません

    改めまして、今回は多大なるご迷惑をおかけし、誠にすみませんでした。
    今回の事に対し、カムイ団を解散したのも貴方への謝罪を含めてです
    あなたの心に深い傷を負わせてしまった事、本当にすみませんでした
    SS活動、頑張ってください。応援できるという立場ではございませんが、貴方のSSを陰ながら応援しています
    本当に今回はすみませんでした。




    ⚠️提督のサブ垢・墓場⚠️

    http://www.ssnote.net/users/taiyouakiyosi

    ⚠️害悪グループ・神威団メンバー主犯格⚠️

    56 : 墓場 : 2018/12/01(土) 23:53:40 このユーザーのレスのみ表示するこの書き込みをブックマークする
    ごめんなさい。


    58 : 墓場 : 2018/12/01(土) 23:54:10 このユーザーのレスのみ表示するこの書き込みをブックマークする
    ずっとここ見てました。
    怖くて怖くてたまらないんです。


    61 : 墓場 : 2018/12/01(土) 23:55:00 このユーザーのレスのみ表示するこの書き込みをブックマークする
    今までにしたことは謝りますし、近々このサイトからも消える予定なんです。
    お願いです、やめてください。


    65 : 墓場 : 2018/12/01(土) 23:56:26 このユーザーのレスのみ表示するこの書き込みをブックマークする
    元はといえば私の責任なんです。
    お願いです、許してください


    67 : 墓場 : 2018/12/01(土) 23:57:18 このユーザーのレスのみ表示するこの書き込みをブックマークする
    アカウントは消します。サブ垢もです。
    もう金輪際このサイトには関わりませんし、貴方に対しても何もいたしません。
    どうかお許しください…


    68 : 墓場 : 2018/12/01(土) 23:57:42 このユーザーのレスのみ表示するこの書き込みをブックマークする
    これは嘘じゃないです。
    本当にお願いします…



    79 : 墓場 : 2018/12/02(日) 00:01:54 このユーザーのレスのみ表示するこの書き込みをブックマークする
    ホントにやめてください…お願いします…


    85 : 墓場 : 2018/12/02(日) 00:04:18 このユーザーのレスのみ表示するこの書き込みをブックマークする
    それに関しては本当に申し訳ありません。
    若気の至りで、謎の万能感がそのころにはあったんです。
    お願いですから今回だけはお慈悲をください


    89 : 墓場 : 2018/12/02(日) 00:05:34 このユーザーのレスのみ表示するこの書き込みをブックマークする
    もう二度としませんから…
    お願いです、許してください…

    5 : 墓場 : 2018/12/02(日) 10:28:43 このユーザーのレスのみ表示する
    ストレス発散とは言え、他ユーザーを巻き込みストレス発散に利用したこと、それに加えて荒らしをしてしまったこと、皆様にご迷惑をおかけししたことを謝罪します。
    本当に申し訳ございませんでした。
    元はと言えば、私が方々に火種を撒き散らしたのが原因であり、自制の効かない状態であったのは否定できません。
    私としましては、今後このようなことがないようにアカウントを消し、そのままこのnoteを去ろうと思います。
    今までご迷惑をおかけした皆様、改めまして誠に申し訳ございませんでした。

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