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雪降る夜に、きっと 君は来ない。

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  1. 1 : : 2016/12/28(水) 12:13:18

    短期執筆会にて投稿を考えている作品です。
    (あ、溜めまくってるので超加速で更新してきます。もう本当にすみません)

    実は「世界で、たった一人の君へ。」のある登場人物の外伝という形で書いてますが、初めて見る方にも勿論分かるような完全別個のストーリーです。短篇です。「雪」が主題の恋愛物語ですが、どうか少しでも楽しんでいただければ。


    追記

     今まで作中で沢山のありがたい意見を頂いております。ありがとうございます!
     ですが、今現在は他の方が読みやすくなる様、コメントは申し訳ありませんが不許可とさせて頂いてます。
     感想、ご意見は是非是非こちらへお願いします。ご協力、お願い致しますm(_ _)m

    http://www.ssnote.net/groups/2284
  2. 2 : : 2016/12/28(水) 12:23:02



    ◇ ◇ ◇ ◇




    ふと、教室の窓から外を見上げてみる。

    空は灰色に(よど)んでいて、
    今にも雨が降りそうだな、と

    水無瀬 涼太は思う。


    教室の中は、黒板の前で授業をしている
    男性教師のチョークの音が、不規則に響い
    ている。

    白い文字が黒板に書き記されていくほど
    涼太は何やら身体にひどい気だるさを覚え
    ていくような、そんな感覚に囚われてい
    た。






  3. 3 : : 2016/12/28(水) 12:41:29



    退屈だ、と思う。


    どうしようもないほどに。


    毎日毎日似たような授業を受ける。

    チョークの不規則な音を聞く。

    教師にバレないようにひそひそ話をするクラスメイトの女子達の囁き声を聞く。

    あるいは退屈に耐えかねてか、
    古びた教室机にノート越しに突っ伏している、男子達の小さないびきを聞く。




    ───何の為に、毎日生きてるんだろう。

    何をする為に、今僕はここにいるのだろう。


    日本史の教師が黒板の文字を書き終え、寝ている生徒を大声で起こしている中、それをまるで他人事のように見つめながら、そんなことを涼太は思う。

  4. 4 : : 2016/12/28(水) 12:51:59

    窓を見ながら、涼太は気付く。

    いや違う。

    退屈なんじゃない、と。


    自分が今、何の為にここにいるのか。

    その理由が分からないから、鬱々とした

    気持ちなんだ、と自分なりに

    そんなことに気付いた。


    身体中にこもりにこもったこの不快な気持ちを、溜息で思わず吐き出しそうになる。

    今にもこの空間を飛び出していけたなら
    どんなにか幸せなんだろう。

    どんなにか楽なのだろう。

    消しゴムが袖に引っかかり、机の上から落ちる。地球の中にある、心までも強くつよく引っ張る力に従って、それは緩やかに落ちていく。


  5. 5 : : 2016/12/28(水) 13:58:39

    そして。

    そんなことを考えていた時、時間の区切りを付けるけたたましいチャイムの音が教室中に響いた。

    「お、そうか……今日は普段より5分早い日だったな」

    「よし、今日はここまでだ、課題のプリントを出すから、次の授業までにやっていくこと」と、教師はやけに手作り感のある穴埋め式の課題プリントを前の席の生徒に列ごとに配り、授業の終わりを告げる挨拶をする。

    そして、そのまま退屈な時間は終わりを告げ、ようやく涼太は、肺の奥の奥からドッと溜息を漏らした。

    教室中は、チャイムがなり終わった途端に喧騒に包まれる。クラスにおいてヒエラルキーの高い男子達は掃除が始まる直前のこの休み時間に、耳障りな騒ぎ声を毎回挙げる。


    だが、そんな中、ある1人の少女の声だけは

    涼太の耳には、はっきりと届いた。

    「え、今度のクリスマス?」

    長い事椅子の上に座っていて凝り固まった筋肉をほぐしているのか。

    4人の女子のグループと話しながら、
    窓際で軽く伸びをしている少女の声だった。

    やけに身長が高く、見た所スポーツ系女子のような図体をしているが
    その割には、無駄に女子女子した雰囲気を醸し出している少女は、やけにテンション高く、窓際の彼女に話しかける。

    「そうそー、ウチらさ、クリパやろーとか思ってんのよ〜」

    「玲菜も来なよ?」

    玲菜と名を呼ばれた彼女は、「う、うん。考えとくね〜」と笑顔で返す。

    すぐ近くの机から横目でその様子を少し見ていた涼太にも、あの笑顔が

    いかにも作り笑いをしている

    ということは、すぐに分かった。
  6. 6 : : 2016/12/29(木) 01:02:11

    涼太は彼女達の会話など聴こえていないと思わせるために、うっすらと腕の中に顔を埋める。そして、彼女の声だけを聴くために何気なく耳を向ける。

    会話に混ざろうなどという気は涼太にはさらさら無かった。だが、涼太は教室掃除のクラスメイトによって早めに消されていく黒板を視線を向け、聴こえていない振りを重ねる。


    「ねぇねぇ陽子ー、そのクリパは誰んちでやんのー?」

    「そこはほら、公平にジャンケンでいーじゃん」

    「さんせぇー!」

    先程、玲菜に話しかけた陽子は、長さ的にはセミロングほどの髪の毛を巻いている、制服を着崩した少女と、ボブヘアーの髪型で、うっすらと化粧までしている少女と何やら楽しそうに話している。

    だが、その中で玲菜は。

    場の雰囲気に合わせながら、明らかな作り笑いを(少なくとも涼太にはそう見える)1人、浮かべていた。

    その時、再びチャイムが鳴り、掃除時間の始まりを告げる校内放送が、涼太の耳の中の鼓膜を揺らした。

  7. 7 : : 2016/12/29(木) 01:03:18



    ◇ ◇ ◇ ◇

    時刻は午後4時を回り、また少し、気温が下がったような気がする。

    12月21日の夕方。

    涼太は藍色のマフラーを半分に折って首に軽く巻いて、校内の玄関口を出ようとしていた。

    ───涼太は水泳部に所属している。

    決して強豪とはいえないこの高校の水泳部は、毎年、この時期は自主的に筋トレ、走り込みをするという形だ。

    元々、クラスでよく話はするものの、あくまで「クラスメイト」というくくりで親しくしている友人に誘われ、なんとなく、流れに任されるがままに、入部した部活だった。

  8. 8 : : 2016/12/29(木) 01:05:10



    水泳は己との闘いだ、といったようなことを、確か入部したばかりの頃に顧問の教師が話をしていたように思うが、
    元々さして興味や目的意識を持った上で水泳部に入部したわけでもなかった涼太は、心身ともに充実している、という感覚を味わった事はないままに、高校2年の冬を迎えていた。

    では、勉学においてはどうだったのか。

    涼太は物事の本質を汲み取る能力に長けていた。
    勉強面においては「苦労」というものをした事がなく、

    定期試験においてはいつも平均点を取り、上を目指すというような事を考える気には、決してなれなかった。平均点さえ取れればそれでいい、そういった考えが涼太のポリシーだった。

    かといって、あと1年と少しの時間を部活や勉強に費やす為の口実も見つからず。


    部活に自主的に参加する事もしないままに。

    毎日、ただただ登下校をして、退屈で、受ける意味すらも不可解な授業を受ける。


    ──────そんな、日々を過ごしていた。


  9. 9 : : 2016/12/29(木) 01:07:27


    玄関口の靴を収納する古びたロッカーを開く。その小さな扉を開く度に、耳に嫌に残る音が小さく響く。

    いつものように、この音に小さく苛立ちを覚えながら、ずいぶんと使い古したお気に入りの黒のスニーカーを取り出す。

    そして、無理矢理ロッカーを閉じる。

    「………」

    スニーカーを履き、砂の擦れる音を聞き流しながら歩き出す。玄関の重い扉を開く。すると同時に、バラバラに大きな掛け声がそこから飛び出すように聞こえてきた。

    周りには、陸上部であったり、野球部であったり、バレー部であったりと、様々な部活が、既に準備体操を円陣を組みながら行っていたり、軽いランニングをしたりしていた。

    涼太は、そんな様子を横目に見つめながら正門の方へと歩みを進める。

    ふと。

    ほんの少し、胸に軽い痛みが走ったような。


    ───そんな気がした。


  10. 10 : : 2016/12/29(木) 01:13:46


    その時、涼太は校門前に同じように歩いているある1人の女子生徒の後ろ姿に気付く。

    「……え」

    その後ろ姿を見た瞬間、涼太はまるで、身体のどこかにあるスイッチが入ったかのように。

    身を切るようにまとわりつく大気とは真反対の身じんわりとした、仄かな熱を身体中から確かに感じた。

    後ろ髪を背中で均等に二つに分け、肩の前で縛っているお下げ髪の特徴で、彼女が誰なのかはすぐに分かった。

    彼女は、先程の掃除の直前の時。

    作り笑いを浮かべていた、あの、日向 玲菜本人だった。

    声を掛けてみたい、と涼太は思った。
  11. 11 : : 2016/12/29(木) 01:16:09

    だが、なんて声をかければいいか分からず、さり気なく、足音を早めるので精一杯だった。

    その時、背後からの足音に気付いたのか、玲菜は少しだけ後ろを振り返った。

    「……あ」と。

    お互いに、目が合い。

    思わず。


    ────声が、重なった。


  12. 12 : : 2016/12/29(木) 06:48:21


    ◇ ◇ ◇ ◇

    「水無瀬くん」

    彼女はお下げ髪をふわりと浮かせながら、今度ははっきりと後ろを振り返り、涼太の方へ向き直った。

    「あ……えっと、お疲れ様。日向さん」

    「! ふふふ、うん。お疲れ様!」

    お疲れ様ってなんだよ、とそんなことを思い、自分の言動を軽く後悔する。
    涼太はしどろもどろと焦りながら話をしようした。玲菜はその様子に気付いたからなのか、何故か少しだけ微笑み、言葉のボールを涼太に返した。

    その時、涼太はその微笑みを見て。
    どこか安心したような気がした。

    あ、これは違う、あの時の作り笑いとは違うと。
  13. 13 : : 2016/12/29(木) 06:49:46


    「……え、っと今、帰り?」

    「そうだよ。私今日はちょっと親の用事があってね」

    なるほど、親の用事か。

    涼太は1人、心の中でポンと手を打つ。

    確か、玲菜の部活はダンス部だったはずである。

    「部活、休んだ感じ?」

    「……! うん、そうだよ」

    「そうなんだ」と涼太は頷き、玲菜は笑顔でうん、と返した。

    「……………」と、数秒程。

    涼太は悩む。早く言葉のボールを返さなければ。

    その時、ふと涼太の脳内に一つの提案が浮かぶ。だが、それを口に出すのは怖い。

    断られたら、立ち直れないかもしれない。

    そんな怖さが身を縮めさせる。

    涼太はほんの少しだけひと息を吸う。

    そして、冷たい湿った空気で喉を潤す。呼吸を、そっと整える。

    「……あ、あのさ、日向、さん」

    「ん? どうしたの、水無瀬くん」

    「立……ち話もアレだし、歩きながら帰る?」

    それはまるで、雑巾を絞り出して、少ししか出ない水のような、そんな、なんとも頼りない勇気だった。

    「……え、いいの?」

    玲菜は少し驚いたように首を小さく傾げる。その一つ一つの仕草に、涼太はいちいち熱を感じる。

    あれ、もしかして。


    「……うん。日向さんが良ければ」

    「ほんと!? 1人で帰るの、少し寂しかったから、嬉しい!」と玲菜はぱあっと効果音が聞こえてきそうな程にはしゃぎ、喜ぶ。涼太はその時、思わず内心でガッツポーズした。

    すると、「あ、あとね」と玲菜は付け足すように続ける。

    「え?」

    「私のこと、べつにさん付けしなくていいよ! そんな風にさん付けされるの、あまり好きじゃないんだー」

    「……ん、わ、分かった」

    一言一言話す度に。

    玲菜のお下げ髪と、整えられた前髪が小さく、柔らかく揺れる。

    涼太は、言葉が上手く繋げないもどかしさを感じた。だが、それをどうにかすることは、少なくとも今のこの状況においては、彼は出来そうになかった。

  14. 14 : : 2016/12/29(木) 06:50:39
    すると、「あ、あとね」と玲菜は付け足すように続ける。

    「え?」

    「私のこと、べつにさん付けしなくていいよ! そんな風にさん付けされるの、あまり好きじゃないんだー」

    「……ん、わ、分かった」

    一言一言話す度に。

    玲菜のお下げ髪と、整えられた前髪が小さく、柔らかく揺れる。

    涼太は、言葉が上手く繋げないもどかしさを感じた。だが、それをどうにかすることは、少なくとも今のこの状況においては、彼は出来そうになかった。


  15. 15 : : 2016/12/29(木) 06:52:34




    「……なんだか、雨が降りそうだよね」

    冷たい北風が吹く。2人は橋の上の歩道を歩いている。

    涼太のマフラーは揺れ、玲菜の前髪は軽くたなびく。「ううっ、寒ぅ………」とビクッと一瞬震えると、玲菜はセーラー服の制服の上に着込んだネイビーの色のダッフルコートのボタンを一つ閉めた。

    「そうだね……」とその様子を見ながら涼太は玲菜の後ろで、彼女に聞こえるように呟く。

    でも。

    もしかしたら、と。

    「もしかしたら、雪が降るかもしれないね」と。

    気付けば自らの口から、そんな言葉が零れていた事に、一瞬遅れたテンポで涼太は気付いた。

    「……え?」と、玲奈は後ろを軽く振り返る。

    「……あ、いや、今日は夜から雨が降るって予報で言ってたけど、もしかしたらこんだけ寒かったら、雪が降るんじゃないかな、って思ってさ」

    自分の口が、少し早口になっていた。

    それを誤魔化そうとしてしまう自分が、自分で嫌になった。
  16. 16 : : 2016/12/30(金) 01:11:24


    玲菜は涼太の方へ振り返り、目を瞬かせる。

    すると、曇天の空を仰ぐ。
    見ると、西の空から茜色が、微かに覗いていた。

    そのまま玲菜は「……そっかぁ」と呟く。

    「……そうだね、降りそうだね」

    何を発したのか、それがよく聞き取れなかった涼太は思わず「え?」と聞き返す。

    「ん? あ、ううん。何でもないの」

    その様子を見た玲菜は、そう言って再び微笑む。

    ────涼太はその笑顔を見て。

    自分の中で、

    説明出来ないような何かに。
    何かとてつもなく大きな何かに。

    心が、強くつよく、鷲掴みされているのを。

    確かに感じていた。

    彼女の髪は風に揺れ、柔らかくたなびく。瞼の上の長いまつ毛も、同じ様に揺れている。

    こんなにも、身を斬るような強く、冷たい風が吹いているというのに。
    なのに、どうしようもない程に、頬が熱い。

    それが、彼女に見とれていたのだという事に気付く。

    涼太はたまらなく恥ずかしくて、出来ることならば、今すぐにでも、たまらなく、顔を逸らしたくなった。



  17. 17 : : 2016/12/30(金) 01:12:59


    そんな涼太の様子に「? どうしたの、そんなボーッとして」と、玲菜はほんの少し、首をかしげる。

    「────え、あ、いや」

    「……さ、寒いよね。ココ。風当たるし」

    「早く……渡っちゃおうよ、この橋」

    そう言いながら、涼太はマフラーで顔の下半分を隠しながら、玲菜の前へと早足で歩みを進める。その時、自分の顔を、見られることの無いように。誤魔化すように。

    「……? うん、そうだね」と、玲菜はスカートの中の黒のスパッツを、スカート越しに引っ張り、今度は涼太の後ろ姿を見ながら、歩き出した。

    「確かに寒いもんねぇ……女子ってこういう時、スカートの下に何も履けないの、イヤになっちゃうなぁ」

    「き、急に何?」といきなりの玲菜のその発言に、涼太は思わず声を上擦らせてしまう。

    「ん? あ、そっか。水無瀬くん、男の子だもんねぇ。ゴメンね、変な事言って」

    「な、なんかバカにしてない……?」

    ふふふ、そんなことないよー、という声がすぐ背後から聞こえてくる。

    玲菜はきっと今、まるでイタズラっ子のような、そんな笑みを浮かべているんだろうな、という事を思いながら、涼太は後ろを振り返らず、そのまま歩き続ける。


  18. 18 : : 2016/12/30(金) 01:23:05


    「ねぇねぇ、水無瀬くん。さっきの雪の話、続き聞かせて?」

    「え? あ、あぁ……うん、もちろん」

    「日向さ……日向は雪、好きなの?」


    そういえば、玲菜がつい先程、自分のことをさん付けしなくて良いと言っていた事を思い出し、涼太は途中で呼び方を変えた。

    あ、さん付けしないで呼んでくれたね、と言いながら、玲菜は嬉しそうに両手を後ろに組む。涼太からは角度的にその仕草は見えなかったが、彼女が楽しそうにしている事だけは声のトーンで分かり、安心した。


    「うん! っていうか、嫌いな人なんてなかなか居ないと思うけどなぁ」

    「いや……車乗りとか、一部の人には嫌われてるだろうね、きっと」

    「どうして?」

    「んー、だって凍ったら滑って転んだりして怪我する人も居るだろうし」

    「車だってスリップしたりして危ないよ、きっと」

    「……あー、言えてるかも」


    そしてまた、玲菜はふふふと微笑む。


    「でも、見て楽しむ限りだったら……雪の事を嫌う人なんて居ないよ、きっと」

    「……そうだね、それは僕も、きっと同じだ」

    「でしょー? 良かった!」


    あっはは、と声高く彼女は笑いながら、
    涼太の隣へひょこっと現れる。

    その瞬間、涼太はほんの少し、玲菜に気付かれてしまわない程度に、本当に少しだけ、距離を置いた。

    そうでもしなければ、とてもとても、涼太は彼女の隣を歩く事は

    ───出来なかった。
  19. 19 : : 2016/12/30(金) 01:26:05


    距離が近くなった──まるでピアノか何かのような、その透き通るような彼女の綺麗な声は、頬を撫でる冷たい北風にそっと乗せられているかのように、空気上に響く。


    涼太自身も、どこか微笑みを隠せない。

    隣に玲菜が居るということが、彼には信じられなかった。

    顔を、見る事は無論のこと、出来そうにない。

    そして。

    ───まるで。

    まるで、夢のようだ、と彼は思う。

    その時。

    「………あ」と、唐突に玲菜は空を見上げた。

    「どうしたの、日向さん」

    「……ゆき。ほら! 水無瀬くん! 雪!」

    「え?」

    そんな馬鹿な。まさか───

    雪が本当に降っているのか確認したいのか、両手を出して、何かを掬うかのような仕草を始めた玲菜を横目に、涼太も空を見上げる。

    ………あ。

    本当だ。

    見上げた先には、少しずつ、少しずつ暗くなり始めている、厚い雲に覆われている空がある。
    西の空に視界を向けてみると、雲の隙間から漏れていた茜色の光が、徐々に藍色に染まりつつあった。

    そして。その曇天の空からは───

    確かに。



    チラチラと、粉雪が降り始めていた。


    まさか、雨ではなく。

    雪が、本当に降るとは。


    涼太は内心、少しだけ苦笑した。

  20. 20 : : 2016/12/30(金) 01:27:32


    ◇ ◇ ◇ ◇

    「ねぇ、水無瀬くん」

    「もしかしたら、ホワイト・クリスマス……見れちゃったりするのかな」

    そうしているうちに、2人は住宅街を前にした、大きな交差点へと出る。

    そこで彼女は、涼太の顔は見ないままに。
    粉雪が静かに降ってきている曇り空へ視線を向けながら、そんなことを言った。

    余程、雪に見とれているのだろうか。
    涼太からは、玲菜は何やら、嬉しそうにみえた。

    「ホワイトクリスマス?」と涼太が聞き返すと「うん、そう」と玲菜は頷く。

    「何、それ?」

    「知らない? クリスマスの日に雪が降る日のことだよ」

    何だろう、それは。

    そんなことを考えながら、ふと一つの単語が脳裏に浮かぶ。

    「……あ」と涼太は思い出す。

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著者情報
okskymonten

空山 零句

@okskymonten

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