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このSSは性描写やグロテスクな表現を含みます。

才囚列車は囚点へ

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  1. 1 : : 2016/01/24(日) 16:49:39












    『まもなく、──番線に──行きの列車が到着します』











    毎日のアナウンスが流れる、何てことない朝の駅。
    通勤、あるいは登校するスーツ姿や制服姿が忙しなく階段を駆け下りていく。



    その中で僕はただ一人、『立ち入り禁止』の黄色いチェーンを跨いで錆びれた手すりに手を添えて、錆びれた階段を下り錆びれた駅のホームへ足を運んだ。

    不審に思われるかなと思ったが、朝の時間と電車は待つことを知らない。
    皆自分のことで精一杯なのだ。



    僕は背負っていたリュックを抱え、塗装の剥げたベンチに腰掛ける。
    通勤者達を乗せた電車が駅から去っていくと、途端に孤独が押し寄せた。


    「本当に………来るのかな」


    不安に襲われ、年甲斐もなくリュックを強く抱きしめた。


















    僕は、何てことない生活を送っていたつもりだった。

    苗木誠(なえぎまこと)というどうしようもなく普通で平凡な人間として毎日を過ごしていた。




    ………異常に"幸運"であること意外は。




    僕は何度も事故に遭った。

    最初は確か、小学生のバス遠足のときだっけ。
    山道で馬鹿みたいに飛ばしてくるスポーツカーのせいで僕らを乗せたバスは崖から転落した。
    皆が怪我を負い、あるいは命を失った中で僕だけは無傷だった。

    風邪を引いていて夏だというのに厚着していたのと、その時たまたま帽子を被っていたから。



    中学のとき、僕はいじめられていた。
    精神的なものではなく、特定の人物に殴られたり蹴られたりといった程度だ。

    さすがに精神に来て、僕は1日だけ学校を休んだ。
    そのせいで彼らはその日やることが無かったのか、勝手に学校を抜け出して勝手にトラックに轢かれて4人全員が死亡した。





    そんな偶然が高校生になっても続いた。

    それはいつしか"幸運の才能"と呼ばれるようになった。






    そして僕は、








    あの呪われた施設へ()くことになった。
  2. 2 : : 2016/01/24(日) 16:51:50
    ……まぁ、よくあることだ。

    親が子供を業界に『売る』から子役というものが誕生する。それと同じことと思えばいい。



    "幸運の才能"を持った僕は、心があるのかないのかよくわからない親に売られたのだ。

    金欲しさだったのだろう、100万円というはした金と特価交換だ。
    そんなものなら僕が株で3倍近く持っているというのに。










    「才能を研究する施設………か」

    将来を担う若者たちが才能を磨き、世の希望となる。
    そんな名目で『才秀園(さいしゅうえん)』はこの世に誕生した。













    だが実際はどうだ。
    生徒を実験のためのモルモットとしか考えていないような教授。刑務所に収容されているような感覚に陥り、脱走を図ろうとする生徒が後を絶たないという。

    その生徒たちがどうなったのか、その先は誰も知らない。

    施設を無事に卒業(・・・・・)した生徒の自殺も何度か聞いている。





    ネットじゃ『才()園』とか『最終園』だなんて言われてるくらいだ。

    僕はこれから『入園』する『新入生』ではない。
    これから『収容』される『モルモット』なのだ。







    ……そんなことを延々と考えている内に、既に1時間が経過していた。

    考えるのをやめた途端、また孤独が僕を襲う。
    一人で何処かへ行くときの緊張に近い。

    ベンチに腰掛けたまま上半身だけを乗り出して線路を確認する。






    「あっ……」







    それはついにやってきた。


    錆び付いた一両だけの車両はキィッと高い音を鳴らして僕しかいないホームに停車した。


    車両同様に錆びたドアが左右非対称に開く。
    ボロボロでスポンジが飛び出したり、あるいはそれすら無いところもある横長のシートのなるべく綺麗な席に座る。













    煤けた広告、破れて読めない注意書き、蔓の巻き付いた手すり、薄黄色に濁った窓。






















    才囚列車が、僕を連れて行く─────。











    ※キャラ崩壊注意
    ※その他もろもろ注意
  3. 3 : : 2016/01/24(日) 17:01:41
    期待です!!
  4. 4 : : 2016/01/24(日) 17:07:09
    期待です!
  5. 5 : : 2016/01/24(日) 17:52:54
    シートに座って安心すると、僕以外に人が乗っていることに初めて気がついた。



    深緑のコート、ほとんど白髪に近いボサボサの銀髪、それよりもさらに白く光る肌。

    そして……ぶ厚くてずっしりと重たそうな手枷がはめられている。


    それほど危険な人間だということか。


    電車が動き出すと、特有の揺れと共に彼の炎のような髪が細かく揺れる。

    物珍しい彼の容姿をしばらく見ていたのだが、僕の視線に気付いたのか窓の外から視線を外し、僕の方を見た。


    咄嗟に目をそらしたが、彼はそれでも僕を見ていた。



    「やあ」



    男が僕に話しかける。
    僕も諦めて彼の方を見た。



    「キミも、『行く』んだね」

    「う、うん、まぁね」



    耳の奥に張り付くようなねっとりとした喋り方に少し不快さを感じつつも、唯一の同行人と話を進める。




    「そうか……キミはどんな"才能"なのかな」




    才能……と言えるのだろうか、コレ。
    そう思いつつも僕は自分の"才能"とこれまでの経緯について話す。

    彼は僕の話を大層気に入ったようで、興味なさそうに浅くシートに腰掛けてた身をぐんと前に乗り出して喰いついてきた。



    「へぇ……ボクとは反対だね」
    「『反対』?」
    「うん」

    男は何か思い出すように視線を下げて話し始めた。




    「僕はね………"死神"なのさ」








    なんだこの男、アニメの見過ぎなんじゃないのか。
    と、普通の人間なら思うだろう。

    だが僕は、彼の話をわりと真剣に聞いていた。




    「僕はどうも、死神に気に入られた旅人らしくてね。この手で触れた人を不幸にしてしまう(・・・・・・・・・・・・・・・・・)んだ。
    挨拶のつもりで握手した人間の命さえ奪いかねないのさ」



    当たり前のことのように淡々と話す。
    言ってることの恐ろしさが理解できてるかどうかも怪しいほど口調は軽い。




    「愛する人ができても抱きしめることもできない……僕はなんて才能の持ち主なんだろうね」





    僕の"幸運"と、彼の"不運"。
    同じようで違い、違うように似ている。


    ……まるで磁石のようだな。






    「あ、そうそう。まだキミの名を聞いてなかったね?」

    思いついたように男は僕に問いかける。





    「ボクは狛枝。狛枝凪斗(こまえだなぎと)だよ」




    男の名は狛枝。
    決して握手など求めず、気持ちだけの視線を向けている。



    「僕は……苗木誠」

    「苗木クンね。よろしく頼むよ」




    その時、列車がキィッと鳴った。

    「おや、見てごらんよ」


    窓の外を見た狛枝が苗木にも促す。

    外では、錆びれた駅がその姿を見せていた。








    始まる─────。







    幸運と不運を乗せた列車は、『囚』点に辿り着いた。
  6. 6 : : 2016/01/25(月) 13:13:52
    あげぴよさんのちょっとダークな話が好みです笑!これからもがんばってください!
  7. 7 : : 2016/01/31(日) 11:10:46

    『ここ』に行くためにしか使われないであろう駅を抜けると、護送車という名の送迎バスが駐めてあった。

    スーツを来た老人がこちらに来て頭を下げると、後ろを開けて合図をした。

    僕らは渋々それに乗り込む。
    夕暮れが近づいてきた陽射しだけが照らす薄暗い中には、既に何人かの男女が座っていた。


    見渡すと男2人と真面目そうなショートヘアの女性と、小学生のような少女が1人の合計4人が座っている。
    赤髪を立てたライオンヘアーの男と長いドレッドヘアーの男が乗り込む僕らを不審な目で睨んでいた。



    扉が閉まり老人が運転席に乗ると、エンジン音とともに護送車は収容先へ向かった。




    「なぁ、お前らもなのか」



    ライオン男が僕らに問いかける。
    睨みをきかせていた先ほどの態度とは打って変わって、仲間意識を持ったような優しい声音だ。

    主語が一切無い頭の悪そうな言動だが、その意味は同乗している全員が理解していることであろう。



    「うん、まぁね…」


    狛枝が男に短く返す。
    僕は同じく、と言うように無言で頷いた。



    「そうか!じゃあこれ以上メンバーいねぇみてぇだし、いっちょ自己紹介でもすんべ!」



    ドレッドヘアーの男が外見より高い声で場を仕切る。
    声のトーンが一定で、こちらも頭の悪そうな印象を受けた。



    「んじゃまずは俺から!俺っちは葉隠康比呂(はがくれやすひろ)ってんだ!まぁほどほどに頼むべ」


    返事を待たずに自己紹介を始めたのはドレッドヘアーの男。
    七分丈のズボンに草鞋と腹巻。随分歳のいった格好だが、よく見ると羽織ってるジャケットは学ランだった。
    彼も僕と同じ高校生ということだろうか…。




    「オシ、俺は桑田怜恩(くわたれおん)だ!まーヨロシクだ!」



    赤髪のライオン男。
    派手な外見よりもその声や眼差しは優しく、声だけ聞いてると『面倒見のいいお兄さん』という印象を受けてしまう。

    「まぁここに来た理由については…………極力聞かねーでくれや」

    後ろ髪をかきながらバツの悪そうな言葉を残して自己紹介を終える。




    「次、アタシかな」



    こちらも赤髪だが、桑田とは違って茶髪に近い。天然だろうか。
    切り揃えたショートヘアと落ち着いた声音から、真面目な委員長といった感じの女性だ。
    今時珍しい、一眼レフのカメラを肩から掛けているのも特徴的である。


    「アタシは小泉真昼(こいずみまひる)。まぁ……よろしく頼むね」


    先2人とは違い、自身の置かれてる状況を理解した短い自己紹介だった。


    「じゃあ……ボクかな。ボクは狛枝凪斗。多分歳もキミたちと変わらないと思うし、よろしく」


    「お前それ……どうしたんだ?」
    狛枝の拘束具を見て桑田が引きながら問いかける。
    直感で『危険な奴だ』と察したのだろう。


    「これね……ボクに触れた者はみんな不幸になっちゃうからさ。握手さえ軽率にできないんだよ」


    「うげっ……近寄りたくねーべ」
    葉隠も不信感を抱いた。





    さて、僕か。

    「僕は苗木誠。まあ、その……よろしくお願いします」


    平凡な僕に相応しいほどありふれた自己紹介。
    続きは無い。これで終わりだ。




    「……君は?」



    小泉が隣に座る少女に話しかける。
    話し出すタイミングを失っていたようでさっきからずっとオドオドしていたのが片目に見えた。


    ふわりとした栗色の髪に大きな目。
    見た目はほとんど小学生、良くて中学生だ。



    不二咲(ふじさき)……千尋(ちひろ)です」


    掠れたような声で控えめに話す。

    何だ……?
    声に少し違和感があったような気がしたが……。



    「不憫だね……幼子まで容赦なく連れて行く」


    狛枝が鉄格子の陽射しに目をやりながら独り言のように呟いた。
  8. 8 : : 2016/01/31(日) 11:12:07
    「あーあ。これからどーなんだろーなー」

    桑田がつまらなそうに態勢を崩す。

    「オレらみーんな国のモルモットだぜ。強制連行なんて溜まったモンじゃねーっつーの」



    確かに、その通りだ。

    僕らに待っている未来は実験台の上での生活。
    将来も何もあったもんじゃない。



    「あーあ。オレの青春を返せっつーハナシだぜ」


    「でも桑田っちの未来は暗いべ!死相は無ぇけど」

    桑田の独り言から2人のやりとりになって、皆が興味を示すような視線を送っていた。


    「あぁ?んなの何で分かんだよ」


    「へへへ……それは俺っちの才能が"占い"だからだ!」



    苗木「!」







    "才能"という言葉。
    この場にいる者たちが一番嫌っているであろう呪いの言葉だ。





    「んだよソレ……当たんの?」

    「トーゼンだべ!俺の占いは絶対的だ!」



    占い……というより、『未来を見る力』に近い。
    いわゆる予知能力ってヤツだろう。




    「じゃあオレ具体的にどーなるんだよ?」
    「ああ。桑田っちの『ミュージシャンになる夢』は崩れ落ちるべ」



    先ほどまで葉隠を疑ってた桑田だったが、ソレを聞くなり「げっ」とだけ声を漏らしてこれ以上食ってかかるようなマネはしなかった。




    「やっぱりオレにゃ………これしかねぇのかよ」

    独り言か?
    彼は小さく呟いて他に何も言わなかった。





    傍では小泉と不二咲が会話を弾ませている。





    そして…………30分はたっただろうか。
    鉄格子から微かに見える景色は森の奥深く。
    3回もの検問を越えてついに僕らは辿り着いた。



    運転手の老人が扉を開くと、オレンジの陽射しが眩しく目に入る。



    そのオレンジが大きな研究所の背景で燃え上がる地獄の業火のように見えるのは、僕の思い込みだろうか。




    「さぁ……来たね」



    薄ら笑いを浮かべながら狛枝が呟く。



    余裕があるのは彼のみ。
    他の者は皆不安そうな表情で俯いている。




    それでも、ここまで来てしまった。
    未来が暗いのは桑田だけではない。未来は簡単には変えられないのだ。




    僕らは1人ずつ、呪われたその『檻』の中に足を踏み入れた。





    part.0 『囚合』 END
  9. 9 : : 2016/01/31(日) 14:50:29
    期待
  10. 10 : : 2016/02/22(月) 21:42:56
    「お……?」


    玄関を開けると、会社や学校のような普通の構造が目に入った。
    白く統一された内装は少し眩しく感じる。

    最初に声をだしたのは桑田だった。



    「なんだ、オレら以外にも居たんじゃん」




    エントランスには僕らの他に何人かの男女。
    途中すれ違った車はいなかった筈だが、随分前に来ていたのだろうか。



    「これで全員なのか?」

    背が高く、スタイルの良い女性が問いかける。


    「どうだろうな。規定の人数というものが存在していないからな」

    顔は良いのに丸々と太った大柄の男。



    「ふふふ……」

    ゴスロリチックな服装、大きなドリル状のツインテール。
    真っ白い肌に真っ赤な眼光はさながら牡丹の花のよう。
    まるでアンティーク・ドールのような、衆の中でも一際目立つ外見をした彼女は僕らを一人ひとり見渡して不敵に笑う。




    「ふむ、君たちも我々と同じ、この『才秀園』の生徒と見て間違いないな!!」


    テレビで見る海軍のような服装をした青年。
    いや、少年か?よく見たらこれも学ランのようだ。

    ここにいた生徒たちの中ではおそらく彼がリーダー格なのだろう。




    「とりあえず、それなりの人数集まったので今いるメンバーだけでも自己紹介しませんか?」


    隅にいた清楚そうな女の子。
    透き通るような肌に、狛枝とは違う意味でいつまでも耳に残る声。



    「うむ、名案だ舞園君!そうしよう!」




    僕ら側の自己紹介はほとんど護送車の通りだった。




    最初に喋った背の高い女性は終里赤音(おわりあかね)

    だらしなくはだけた制服に体裁なんて気にも留めない仕草。男勝りというよりはガサツだ。
    だが外見とは裏腹に話す言葉は綺麗で、近くにいれば気品すら感じるほど。

    何だろうか……チグハグというか釣り合ってないというか、何かがおかしかった。




    大柄の男は十神白夜(とがみびゃくや)

    図体が図体だが威圧的な態度をとることはなく、慎重な声から放たれる言葉はむしろ仲間を想うものが殆どだ。




    ゴスロリの彼女はセレスティア・ルーデンベルクと名乗った。

    本名なのか否か。
    言葉と化粧の下に隠された本当の『顔』を拝める日は遠そうだ。





    純粋そうな少女は舞園(まいぞの)さやか。

    こんな無垢な女の子が何故こんなところに…。それを言えば不二咲もだが。




    海軍男は石丸清多夏(いしまるきよたか)。字まで丁寧に教えてくれた。

    小泉とは少し違う委員長タイプだ。
    小泉が個人を尊重するとしたら、彼は規律を優先させるといったところか。








    「……にしても暇だべ」







    全員が全員の名を把握したところで、学園側から何の指示もないのでただただ待つしかなかった。



    「11人か……微妙な人数だ」

    十神が一人ひとり指差しながら数える。


    何も起きないということは、まだ他に誰か来るのだろうか。





    「おい葉隠、こういうときこそお前の『占い』だろ」
    地べたに座り込んだまま桑田が言う。

    「うーん……いや実はな、俺は目に見えるものの未来しか占えねぇんだべ」
    顎に手を当てながら答える。

    頼りねぇなぁ、と言わんばかりに桑田も溜め息をついた。








    その時だった。
    玄関の鉄扉が開き、夕陽に照らされた人影が一つ姿を現した。



    銀髪、白い肌、紺のような紫のような制服。
    全体的に桔梗の花のような色をした少女がこちらに歩いてくる。




    「君が最後の1人かね?」


    「…恐らく」


    少女は短く答える。


    「よし!では自己紹介をしてもらおう!」


    「…………」



    少女は答えない。
    石丸が面倒くさい人間であると瞬時に見抜き、そっぽを向いたようにも思えた。




    「名前は?」

    今度は小泉が優しく話しかける。





    「……霧切響子(きりぎりきょうこ)よ」

    「響子ちゃん?いい名前だね」



    音の無いエントランスには2人の声だけが響く。
    石丸は理不尽だというように顎に手を当てて唇を噛み締めている。











    『全員、集まったようですね』
  11. 11 : : 2016/02/22(月) 21:43:50
    「あぁん?誰の声だコレ」
    桑田がダルそうに立ち上がる。



    『それでは皆様、体育館へお集まりください』



    「アレのようだな」



    十神はスピーカーを見ながら呟く。



    「体育館……どこかな」


    壁の見取り図をいち早く見つけた不二咲と小泉。





    「ここだな!行くぞ皆!」


    石丸が先導する。皆流されるままについて行く。

    先導する石丸はどこか満足気な表情だ。自分の発する言葉が鶴の一声となって他人を動かすのがそんなに嬉しいのだろうか。




    突き当たりの扉を開けると、広々とした空間が全員を包み込む。

    床が木ではなく白黒のタイルなのは『体育館』という言葉に少し違和感を覚えさせる。





    『全員、集まりましたね。ではまず、出席をとりましょう』







    白黒のタイルの先、ステージの上。

    声の主は白く光る背もたれの高い椅子に座ってこちらを見下ろしていた。




    わかめが纏わり付いたような長い漆黒の髪。
    遠目でもわかる深紅の眼光。
    まるでここにいる皆を弔うかのような、ネクタイまで真っ黒なスーツ。




    礼儀よく膝に置いた手を放し、椅子から立ち上がる。



    『ではNo.Ⅰ、終里赤音』
    「おう、いるぜ」

    手をひらひらさせながら応える。


    『No.Ⅱ、狛枝凪斗』
    「うん、よろしく」

    どこか余裕のある表情のまま応答する狛枝。


    『No.Ⅲ、霧切響子』
    「………」

    返事はない。


    『No.Ⅳ、十神白夜』
    「俺だ」


    まともに返事ができる人はいないのか、と思いつつ序列の法則性の無さに違和感を覚える苗木。



    『No.Ⅶ、苗木誠』
    「は、はい」


    『No.Ⅷ、小泉真昼』
    「はい」




    『No.XⅡ、桑田怜恩』
    「うぃーっす」




    全員の点呼が終わり、彼はまた椅子に腰かけた。



    『改めて皆様、ようこそおいでくださいました。』


    単調な口調のまま話を続ける。


    『僕がこの才秀園を統括させていただきます、神座出流(かむくらいずる)です』




    カムクラ……。
    不思議で不気味な男だ。
    闇のように暗く遠くて、その言葉の先が一切見えない。







    『皆様の持つ"才能"は、将来この国の大いなる希望となるでしょう。それを磨き、さらに高みへ行くために皆様は選ばれた』



    「ケッ、よく言うぜ」
    桑田が小声で愚痴を漏らす。

















    『今回は才能の研究の一環としまして、皆様には殺し合っていただきます』
  12. 12 : : 2016/02/22(月) 21:50:10


    あたりが騒つく。





    「い、今……なんと仰いましたか」

    石丸が一歩前進して神座に問いかける。






    『皆様に殺し合っていただきます』











    『"才能"で殺すも良し、その他刺殺焼殺毒殺、何でも構いません。期間はこの施設を卒業する2年間でやってください。場合によっては期間を早めるかもしれません』


    殺し合いという言葉を認めまいと何度も聞き返す石丸をあしらうかの如く淡々と話す神座。


    『まぁ、飽くまで皆様の"才能"を磨くためのプロジェクトなので。敗者は勝者の才能を高めるために役に立ったと思えばいいんじゃないでしょうか』












    使う命と、使われる命。








    『使い物にならない』のならば、『捨ててしまえばいい』というのか。


    より良い勝者の糧となり得るのならば、それで光栄だとでも言うつもりか。















    『では、良い生活を。後は一人ひとりの個室に用意したパンフレットを元にしてください』

    そう言い残して椅子から立ち上がり、神座はステージの横へ消えていった。






    「こ、殺し合う?アタシたちが?う、嘘でしょ…?」

    顔を真っ青に染めた小泉が震える声を出す。
    他の面子も俯いたり辺りをキョロキョロしたり様々な拒否反応を見せている。






    「厳選された材料でさえ使えないなら破棄する……か。あはっ」

    1人笑う狛枝。


    「凄くない?各々素晴らしい"才能"を持ったボクらが殺し合いだよ。そう、例えるなら貴族同士の戯れさ。平民は直接拝むことさえ許されない高みの舞台じゃないか」




    なんだ、この男。
    今の状況をまるでゲームか何かのように感じているに違いない。



    「な、何言ってんのよアンタ!」
    「お、おめぇ頭どうかしてんべ!」

    当然こうなる。








    「あら、ではどうするんですの?」









    ブーイングの嵐をかき消したのは、場違いなほど冷静でお高い口調だった。



    「セ、セレス……」


    「2年間…長いようで短い歳月です。その間殺し合いを拒否し、あなた方は何をするのです?」



    「んなもん、決まってんじゃねぇか。ここから脱出を……」



    「そんなことして元の生活に戻れるとでも?」

    黙っていた霧切が口を開く。




    「ど、どういうこったよ?」


    「ここから脱走できたとする。政府や上の人達は貴方を放っておくかしら?ここに来るまでも強制連行されているんだから、少し考えたらわかるでしょう」

    「賞金首扱いされて国民全員から逃げ続ける生活を送るかもしれませんわね」





    セレスと霧切の2コンボ攻撃に桑田は顔を真っ青にして怯えてしまう。





    「お、おいおいどうすりゃいいんだよ!?」
    「そ、そんなの……」






    「静粛に!!」









    『賞金首』『逃げ続ける』

    様々な危険ワードにパニックになった数名を石丸が抑える。




    (何だ……?)



    身体が動かない。当然声も出ない。
    苗木を含め、石丸の近くにいた何人かも同じようだ。
    これは、彼の"才能"なのか?






    「いいかね皆、今パニックを起こしても仕方がない!とりあえず落ち着くのだ!」







    「石丸の言う通りだ。俺たちを混乱させて殺し合いの引き金を引かせるのも向こうの策略だろう」

    二重顎に手を当てながら十神が冷静に解析する。


    「まず俺たちはこの施設がどうなってるか分からない。ひとまず探索の時間にしないか?」

    「もう夕方だし今日は探索だけして明日から考えよう。一度にいろんな問題を詰め込むのは脂肪に良くないんでね」





    いつのまにか身体の硬直が解け、皆は静まり返る。




    「オレはいいと思う。腹も減ったしよ」
    あぐらで座り込んでいた終里が手を挙げて軽く応える。



    「……そうね」
    霧切も賛成のようだ。




    「うむ!先程の見取り図だと皆が集まれる食堂があるようだ。現在の時刻は5時。7時に食堂に集合としようではないか!」




    こうして各自解散となった。
  13. 13 : : 2016/02/22(月) 21:51:05
    「ここか……」



    個室のドアにはネームプレートに『No.Ⅶ NAEGI』としっかり刻まれていた。



    玄関よろしく廊下も壁も扉もほとんど白で統一されている。
    それは部屋の中も同じだった。



    白いベッド、白い机と椅子。
    どちらも白いピアノのような光沢を放っている。
    シャワールームも付いていて、なかなかのものだ。



    リュックを机に置いて一息つくと、すぐ横の手紙を開く。



    「パンフレット……これか」
    パンフレットというより、達筆な字で書かれた手紙だ。中身は祝辞のみ。

    詳しいことは抽斗の『電子生徒手帳』にすべて記載されているらしい。なら最初からそう言ってほしいものだ。




    「電源長押しで……お、来た来た」




    ほとんどスマートフォンだ。
    ガラケー使用者(自分)にはとても優しい。

    生徒全員のプロフィール、略歴、施設のマップ等、その他システムなど生活に必要な情報が記載されている。




    「………CP(ケージポイント)?」

    どうやらこの施設内で使える金のことらしい。
    現金や通帳から換金できるシステムのようだ。


    部屋から出て早速150万ほど換金すると、とりあえず探索に向かう。





    (さて、とりあえず食堂から見てみようかな)





    個室のドアを閉めたとき、左の方から「あっ」という短い声がした。

    個室を調べていたであろう舞園さやかが、自分と同じタイミングでやってきたのだ。



    さて、どうする。
    こちらは反応していないが、目は合った。
    これはもう無視するという選択肢はほとんど無くなってしまったぞ。
    かと言って声をかけるのもなんだか。




    「苗木君も部屋を調べてたんですか?」
    「え、うん、まぁ」



    向こうから話しかけてくれるとは。
    苗木は安心して肩の力を少し抜いた。



    「じゃあ、これから探索に行くんですか?」
    「うん」


    「よかった!じゃあ、折角だし一緒に行きませんか?」



    返事は『OK』。
    彼女はどうやら、殺し合いには不参加の態勢らしい。
    苗木としても同じ場所で生活する仲間同士で殺し合うという状況は避けたいし、同じ境遇の人間なら仲良くなれるかもしれない。





    「まず……食堂行ってみようか」
    「そうですね!」



    彼女と話をしながら食堂へ。
    入学したての高校生のように、お互いの話をしながら仲を深めていった。


    話す言葉は明るく柔らかく、聞いていて心地よい。
    それに彼女、動く度にいい匂いが……。





    「ほう、早いな」





    壁と同化しそうなほど純白のスーツを揺らして十神が現れた。



    「2時間というのは割と長いな」
    ドシンと椅子に腰掛けて眼鏡の位置を直す。



    「十神さん、何か見つけましたか?」


    「いや、まだ2階を調べていたばかりだ。保健室があったし、この辺りは生活環境になっているみたいだな」



    1階にはエントランス、体育館、購買、外のグラウンド以外はほとんど自分達に関与してきそうなものはなかった。
    各場所がそれぞれ広いからというのもあるのだろう。

    つまり苗木達のいる食堂やら個室やらは全て2階ということになる。


    「施設の外観からして、4階ほどだろう。あまり高く建てると上から施設外に脱走される危険性があるからな」

    「見取り図も4階までですね」

    「ここで2年間………か」





    殺し合わずにここから出ることなんて、できるのか?

    それに……2年間経ったらどうなるんだ?
    というかそもそも、何人生き残れるとか何人殺せばいいとか無いのか?





    「苗木君?」


    「……ん!ああ、えーと何だっけ」


    「3階も探索しよう、って話ですよ」


    「ああ、うん。そうだね」




    3階には娯楽室、視聴覚室、図書室等がある。
    ゆっくりとできるスペースが多い。




    「あらあら、御機嫌よう」


    人を見下すような高らかな口調。
    セレスはどうやら娯楽室を気に入ったようだ。



    「……行こう、舞園さん」


    彼女(セレス)の声がよほど不快だったのか、苗木は何も調べていないのに娯楽室を後にしようとしていた。
  14. 14 : : 2016/02/22(月) 21:52:36

    「では各自、探索の結果を報告してくれ!」

    白い長テーブルを右手でビタンと叩きつけ、石丸が号令を出した。



    時刻は7時。食堂に全員が集まっている。




    「1階は体育館や購買くらいしか無かったな。購買っつっても食いモンはねーし」
    終里が面倒そうに喋る。

    「外に出てみたけど、5m以上の壁とフェンスで囲まれてやがる。しかもフェンスはアレ多分ビリビリくる奴だ」
    桑田が補足するように言った。



    「どうして、電気が走ってるって分かったの?」
    小泉が問う。
    5m以上の壁でもキツいのにその外側の10m以上はあろうフェンスにどうやって触れたのか。


    「木の枝をよ、折ってブン投げたんだ。木は電気通しやすいだろ」
    もっともらしい、かもしれない。


    「そう」と一言だけ呟いて小泉は納得した模様。
    とりあえず簡単には出られないようにしているということだ。



    「娯楽施設は3階に集中してるようだね。2階は生活空間かな」
    次に狛枝。


    「それと、4階に個室と同じようなドアが16個くらいあったけど、鍵がかかっててどれも開かなかったんだよね。ボク以外に調べた人いる?」

    「アタシも調べたけど……え、何アンタあのドアノブ触れたの」

    「うん、回そうとしたら2つ壊しちゃった」


    小泉はそういうことを言いたいのではない。
    まあこの男に話しても無駄だろう。

    4階のソレは何だったのだろうか。放送室しか調べていなかった。


    「俺からいいか?」
    十神が手を挙げる。

    「職員用と思われる部屋が幾つかあった。3階には職員室と仮眠室、4階には会議室。だが職員らしき人物は一人もいなかった」


    「ああ、あったべ職員室!俺も見たぞ」
    葉隠も手を挙げる。

    だが十神が言いたいのは職員室があったということではなく、『職員室があるのに職員がいない』ということの方だ。


    「職員……かぁ。どこ行っちゃったのかな……」
    不二咲が心配そうな声を出す。




    「まぁ、こんなものか」
    満足とも諦めとも言えない声で十神が言う。


    「んじゃさっさと終わってメシにしよーぜ。オレ腹減って仕方ねーや」
    終里はぐっと身体を伸ばして立ち上がる。


    「誰が作るの?」


    「冷凍庫にドリアが大量にあった。今日はそれで十分だろう」


    温めてくる、と言わんばかりに十神と終里は厨房へ向かう。

    そういえば厨房にはいろんな食材や料理器具が並んでいた。
    電子レンジやオーブンも多数あったはず。



    「できたぞ」
    暫くして2人がトレイを持って現れる。




    しかし。




    「待った」





    声の主は小泉だ。







    「それ、毒盛ったりしてないでしょうね?」


    それを聞くなり、全員が2人の顔を見る。


    「ワケあるか。俺は飯に不味いものは入れん」


    2人の顔をそれぞれ見つめ、彼女は「そう」と一言だけ呟いて引き下がった。

    苗木には小泉が少し理解できなかった。
    彼女は誰よりも真っ先に疑問を投げかける割には、ものの瞬き2、3回程度で納得してそれ以上追求しない。


    どこか、不気味な感じがあった。






    夕食を終え、シャワーを浴びる。
    バスタオルで身体を拭きながら深呼吸を繰り返していた。


    「はぁー……やっと一息つけるな……」


    思っていたよりちゃんと生活できるようだ。
    実験台の上に拘束される毎日を送るものだと思っていただけに、何だか拍子抜けしてしまった。




    「とりあえず今日は何も起きずに済みそうかな……」



    なんやかんやでもう夜の11時だ。

    何人かは既に床に着いただろう。


    「僕ももう寝………ん?」


    着替えをまとめておこうとリュックを手にしたとき、横に小さな黒い塊が置いてあることに気が付いた。


    (こんなの……最初なかったよな?)


    真っ白い部屋に黒いものがあればどれだけ小さくてもすぐに気付くはず。
    増してやこの机にはパンフレットも電子生徒手帳が置いてあったのだから。



    触れてみると、その塊は固いものではなく、折りたたまれた黒い紙だった。

    薄い紙なので破かないように慎重に開く。
    中にはチョークとも修正液とも言えぬ白い文字で短い文が書かれていた。









    「『処刑人はそこにいる』……!?」






    part1. 『離合囚散』 END
  15. 15 : : 2016/03/06(日) 11:53:02

    まだ薄い明かりが鉄格子のはめられた窓から白い部屋に射し込む。


    時刻は6時28分。
    苗木は布団を捲り上げ、上半身を起こす。




    「朝……なのか」




    全く眠れなかった。
    何とも知れない恐怖と不安で安堵の息をついている場合ではなかったのだ。








    『処刑人はそこにいる』








    しっかり施錠したこの部屋にいても不安を煽るには十分な置き手紙だ。


    あの手紙で疑心暗鬼にして、殺し合いを促すつもりでいるのか。





    「神座……あいつか?」

    「僕がどうか致しましたか?」

    「うわぁ!?」




    いつの間にかドアの方にドス黒い物体が立っていた。




    「ど……どこから入ってきた!?」

    「統括しているんですから、マスターキーくらい持ち歩いていますよ」


    胸ポケットから鍵の束を取り出して見せつける。


    「まぁそれはさて置き、僕を呼んだようですが」


    苗木は昨日の黒い紙を神座につきつけた。
    神座はそれを読んで「うーん」と短く唸る。


    「これは……僕が用意したものではないですね」

    「嘘だ!お前が殺し合いを催促するために…」

    「いいえ、違います」


    言葉を遮ると同時にナイフのような視線を突きつけられる。


    「僕のものでない以上、これを用意したのはあなた方の誰かということになりますね」


    「そ、そんな……」


    「それしかあり得ないでしょう?」












    ─────あなた方の中に、災いを引き起こしてやろうという考えの者がいるということですよ。














    そう言って神座は去っていった。



    「本当………なのか?」



    苗木は昨日の一人ひとりの表情(かお)を思い出す。

    あの11人の誰かが、殺し合いを起こそうとしている。

    軍も政治も関係ない戦争の狼煙を、この真っ白い箱の中で上げようとしている。



    (一体誰が?何のために?)



    その思考は、突然鳴り響いた呼鈴の音で断ち切られた。

    「苗木君、朝ですよ〜!」

    無邪気なほど明るい声。

    「……舞園さん」


    そうか。もう7時だ。
    この施設は基本的に7時から22時まで活動している。



    「小泉さんと不二咲さんが朝食作ってくれてますよ。私たちも行きましょう」



    「うん、そうだね…」







    邪気の無い態度で接してくれる彼女でさえ疑わなければならない。

    ……なんと生きにくいことだろう。
  16. 16 : : 2016/03/06(日) 11:53:42

    食堂に行くと、大量の握り飯と玉子焼きが長いテーブルの真ん中にどっと構えていた。

    既に石丸、狛枝、セレスを含む何人かは席についている。


    「あ、苗木おはよう」

    「……おはよう」

    「どうしたのよ、眠そうな顔しちゃってさ」



    作業を終えた小泉と挨拶を交わす。


    この様子だと、昨日は何も起きなかったようだ。



    (あの紙は僕の部屋にだけ?)




    「……ほう、白米の美味そうな匂いだな」


    両頬を上げた表情で十神が食堂へ入ってくる。



    「あ〜あ……眠ィわ」


    後に続くように桑田、葉隠、終里と現れて全員が揃った。


    誰も聞いていない石丸の合図で朝食を摂り、今日はその後も探索を続けようという話になった。



    「誰か、変わったところはあるかね?」



    石丸が席に座る皆を一人ひとり見渡して言う。

    「俺は特に何も」
    桑田、葉隠。

    「特に無ぇなぁ」
    終里。



    誰の口からも、黒い紙のくの字も出てこない。
    苗木は益々不安になる。


    そう、自分だけに異変が起きたということは即ちこれ『自分が誰かに狙われている』。


    この中の誰かが、平静を装いながら自分の命を狙っている。


    笑ったり、真面目な顔したり、叱ったり。
    そんな厚い皮を被った殺人鬼が、僕を─────






    『皆様、お揃いでしょうか』



    突然鳴り響くスピーカー。感情の篭っていないぶっきら棒な声に全員が集中する。



    『ちょっと体育館にお集まりください』



    それだけ言ってノイズはブツッと切れた。



    「んだよ〜飯食った後によ」

    終里がぐっと背伸びしながら呟く。








    『全員来ましたね』

    白い椅子に座りながらマイク越しに声を発する姿は昨日と変わらない。



    「何の用かな」

    こちらも相変わらずどっしりとした手枷を付けながら。




    『ええ。今回は少しルールを設けたいと思いまして。なんかあなた方殺し合いしなさそうなので』



    ルール……?



    確かに、前日の彼の言葉には不確定要素が多かった。


    何のために殺し合いを行うのか。
    何人生き残ればいいのか。
    期限が過ぎたら、どうなるのか。



    『皆様、今日は土曜日ですね。来週から、毎週日曜日にちょっとしたレクリエーションを行います』



    『そのレクリエーションで一番成績の悪かった者は身体の一部を実験体として献上していただきます』




    「身体の一部を………捧げる?」



    『ちなみに、殺し合いが起きた週は行いません。まぁ詳細は来週の日曜日にまた言います』



    それだけ言ってまたステージの奥に消えていった。





    「どういうことだ。レクリエーションだと?」
    十神が皆に問いかけるように喋る。



    「さぁ……その時がきたらわかるんじゃないかな?」
    狛枝は相変わらず不敵に笑うだけ。



    どこか不穏な空気が漂ったまま各自探索に移るも、やはり苗木の気持ちは晴れなかった。
  17. 17 : : 2016/03/06(日) 11:55:10

    「探索したって、何になるんだろう」


    苗木は同行する舞園に対して小さく呟く。


    「施設の外には出られないんだし、出たところでまた追われて捕まって帰ってくる。なら何のために今行動してるのかな」


    「そうですね……けど」


    「けど?」






    「私は……こうして互いを理解しあえる人と話しているのが楽しいから、このままでいいと思います」

    言い終えると少し含みのある笑顔を見せた。





    (ああ)

    苗木は感じた。
    この人は、誰にも理解されなかったんだと。

    きっと彼女は"才能"のせいで天才にも馬鹿にも凡人にも相手にされなかったんだと。

    だからこそ、同じ境遇にいる者が大切で愛おしい。


    ここにいる何人かも、おそらく同じことを考えているのだろう。



    今自分と同じ立場の人間と苦しみを分かち合えることで安心している。

    苗木自身、そういうところがあった。


    「ふ、ふふふ…」
    微笑む舞園と、それにつられて笑う苗木。

    無論彼は、部屋に置かれた黒い紙のことなど忘れていた。













    (あーあ……ホントどうすりゃいいんだよ)


    桑田怜恩は頭を悩ませながら歩いていた。





    この間まで普通の学校で青春を謳歌していた自分。

    クラスの、あるいは後輩の女子生徒たちと笑いながら話していた日々。

    そんな記憶は音もなく崩れ去った。



    自分が輝くための踏み台にしていたこの"才能"。
    それは自分が他者より優位に立つには充分な権力(チケット)だった。


    ……それが仇となり、こんなところに収まろうとは。




    ここでは皆が何かしら秀でた、あるいは劣った"才能"がある。
    それと同じ自分は『特別』ではない。生徒Aも同然。



    桑田は何より、それが気に入らなかった。




    自分が特別であり、他人より優位にあり、幸せである。
    それが桑田の日常だったからだ。




    (まぁ女の子達はカワイーのばっかりだから何とかなるな、うん)



    「ん」
    3階まで放浪した彼の目の前には『娯楽室』の表示。



    (そういえば昨日行ってなかったな)

    ドアノブに手をかけたとき少し嫌な予感がしたが、気にせず開ける。



    真っ白い施設内と大差なく眩しい。

    ビリヤード台やらダーツやらチェスやら、ルーレットまである。暇つぶしにはなりそうだ。


    どれ、何かやってみようかなと足を踏み入れたその時。







    「あら、先客がいらしたの」







    背後から調子のいい癪に触る声。
    可愛いけどよくわからない女その1、セレスだ。


    「お、おう、お前も来たのか」

    「ええ。施設内を駆け回るなんて私の柄じゃありませんもの。暇つぶしにと思いまして」

    何を言ってるんだこいつは、と思いつつも「そうだな」とだけ返す。



    しかし、この時点ですでに始まっていた。



    ダーツに向かおうとした桑田は自分の身体が動かないことに気が付いた。




    「桑田君、こちらへいらっしゃい」




    「少々の時間、私と『賭け』をなさいませんか?」
  18. 18 : : 2016/03/14(月) 21:49:26
    丁寧に作り込まれた世界観に引き込まれます。期待です!
  19. 19 : : 2016/03/19(土) 22:34:39

    「『賭け』……?」

    「はい」


    桑田に対してセレスは短く返した。


    「暇潰しくらいに考えてくださいまし。オセロでどうでしょう?」

    「お、おう」



    テーブルに向かい合うように座る。



    桑田はそのままセレスの行動を見張る。
    セレスはただ大理石でできた緑色の板と、同じく大理石で作られた白黒の石を棚から持ってきて並べる。


    「『オセロ』の由来をご存知ですか?」

    白黒の丸い石をカジノのコインのようにざんばらに積み上げ、それを賭けるかのように桑田の前にどっしり置いた。


    「知らねぇよ」

    こちらを威圧するかのような動きに桑田も太々しい態度をとって対抗する。



    「ウィリアム・シェイクスピアの『四大悲劇』の一つ『オセロ』から来ているそうですわ。登場人物が次々と手のひらを返し、愛した人さえも裏切ってしまう様子を白黒のリバースで表したそうでして。」


    「へ、へぇ……そう。全然知んなかったわ、うん」
    「どちらですか?」
    「へ?」


    「白か黒か。どちらにします?」

    「じゃあ……白」


    セレスが弾いた石が緑色の板の上でくるくると踊る。

    白と黒の面を交互にチラつかせて『どちらにしようかな』と言わんばかりのふざけた態度で2人の運命をあざ笑う。



    出てきたのは……黒の面だった。
    私ですね、と言いながら石を半分に分けるセレス。








    「では……あなたは何を『賭け』ますか?」

    「え?」

    「言い方を変えましょうか。私に勝ったらあなたの願いを聞いてあげます。逆も然り」




    なるほど、要するに勝てば何でも命令できる、負けたら何でも絶対しなければならないと。


    (まあ……『何でも』ってならな。)

    (……こんなところにいたら鈍って仕方ない)







    「わかった。じゃあ俺が勝ったら一つだけ言うことを聞いてくれ」



    「『一つだけ言うことを聞く』。それがあなたの『賭け(BET)』ということでよろしいですね?」

    「あ、ああ……」


    「わかりました」






















    「では私は、あなたの『心臓』を『賭け(BET)』とします。ゲーム開始」




















    桑田はここで初めて知った。


    彼女の言葉によって、今自分が死と隣り合わせの状況にあるということを。


    もはや余裕な態度などどこにも無い。
    冷や汗を垂らし、指を震わせ、手足を千切られた蟻を見るような目でセレスに嘲笑されることしかできなくなった。




    「いかがですか?桑田君」


    「これが私の"才能"ですわ」





    (『賭博』の才能……!!)


    (こんなん……アリかよ!?)
  20. 20 : : 2016/03/19(土) 22:35:44

    セレスが盤上に黒を置く。

    黒に囲まれた白は寝返り、心まで黒く染めた。

    初めの一手でさえ桑田には王手に感じていた。


    「さあ、貴方の番ですわ」

    「……ああ」



    桑田は手の震えを力んで抑える。

    (大丈夫……最初は大丈夫だ)


    「………」


    白い石を置く。
    囲まれた黒い石に白い意思を通した。


    「ふふふ…」


    セレスは未だ不敵に笑っている。


    そう、桑田は間違っていたのだ。





    例えば1から100まで数字を書いた紙があり、何人かで最大3枚ずつ取っていく。

    最後の100を引いた人間に罰が与えられるとすれば、このゲームの攻略はすでに最初の1枚目から始まっているのだ。


    『最初は何枚引いたって関係ない』なんてことは、無い。

    『最初は何処に置いたって関係ない』なんてことは、無い。





    ゲームが中盤になる頃には、緑の草原の上はほとんどが闇に染められていた。




    「あ……ああ……」

    桑田は言葉が出ない。


    「さあ、次は貴方の番ですわよ?」














    しかし、


    いや、必然的にと言うべきか?ゲームは早々に幕を閉じた。













    桑田()の勝利というベネツィアの将軍もびっくりな結果で。













    「あら、負けてしまいましたわ」

    優雅にミルクティーをすすりながら言う。




    (違う……違う!!)




    この女は、明らかに『ワザと負けた』。

    こちらの反応をいちいち楽しみながら。

    自分だけ『才能』を展開しておきながら、桑田を手の平で躍らせながら、それでいてわざとこちらに旗を取らせたのだ。


    これは……威嚇だ。


    わざと負けることで、命拾いしたと思わせている。




    「さて、あなたの勝ちですから、こちらの賭け金をあなたに渡しましょう」


    「賭け金……」



    そうだ。忘れていた。


    「『一つだけ言う事を聞く』んだよな」

    「ええ。そうですわね」



    (この野郎……屈辱を味合わせてやる)







    「ヤらせろ」


    「はい?」







    「聞こえてんだろ!!さっさと服脱げ!!死にたくなかったらよ!!」






    「はい。願いを『聞き』ました。叶うといいですね」



    セレスはゆっくり立ち上がり、ドアに手をかける。



    「お、おい!!何だよソレ!?」



    「願いを聞くという約束だったでしょう、叶えてあげるとは言ってませんわよ?だから聞いてあげたんですわ」




    「あっ……」





    「ちなみに、私の"才能"を公言するようなことがあれば、貴方に強姦されかけたと言いふらしますので。小泉さん辺りにね。それではご機嫌よう」



    最後に電子生徒手帳の『録音中』の画面を桑田に見せて娯楽室を後にした。
  21. 21 : : 2016/03/19(土) 22:37:28
    セレスがいなくなった後も、桑田は心臓がうるさいほど鳴り止まなかった。



    『才能』という弱みを握ったが、弱みを握られた。

    それに、本気で勝負していたらこのバクバク鳴っている心臓は今頃……。



    「だ、ダメだ………何も、出来ねぇ」


    「何も……しちゃならねぇ」




    桑田はトボトボと自分の部屋に帰っていった。


















    「………」

    朝。眩しい光が白い部屋に反射して煩わしい。

    桑田はあの日の出来事を忘れられないまま過ごしていた。


    「クソが!!」


    感情に任せて針を投げる。

    あれから娯楽室には立ち寄らなくなり、購買に売っていたダーツを部屋に持ってきていた。

    「あ……」


    ダブルブル。今日はキレが良いようだ。


    何かいいことが起こりそう。なんてことはない。


    何故なら、今日は日曜日。


    話が本当なら、『ちょっとしたレクリエーション』が行われる日だ。













    『さて皆様、日曜日ですね』


    「日曜……」


    苗木は目を細めながら呟いた。



    何も起こらないまま時は過ぎ、ついにこの日を迎えた。





    『さて皆様、何して遊びます?』

    椅子に浅く腰掛け、手をひらひらと振りながらマイクに声を吹きかける神座。




    「テメーを殺せばちったぁ楽しいかもな」

    終里が呟く。



    『今回はチーム戦にしましょうか』



    チーム戦。

    何をするつもりだ……?



    『皆さんアレやったことあります?水鉄砲とか水風船とか使って、自分のベストが濡れたらアウトっていう遊びなんですがね。僕は戦争ごっことか呼んでました』



    なんとなくイメージは湧いてくる。
    ベストというより、紙のチョッキだろう。


    『アレやりたいですね、水じゃツマラナイから塗料で。今回は相手チームの旗を取ったら勝ちというルールで。もう道具も用意してるので』




    椅子の後ろからダンボールを2つと割り箸の束を取り出した。



    『じゃあ赤と青でチーム分けるんでこれ出席番号順に引いてください』



    オレからか、と終里がステージへ歩き出す。
    他の者もそれに並ぶ。



    『決まりましたね』





    ・赤チーム
    狛枝凪斗
    十神白夜
    不二咲千尋
    小泉真昼
    葉隠康比呂
    桑田怜恩


    ・青チーム
    終里赤音
    霧切響子
    石丸清多夏
    苗木誠
    舞園さやか
    セレスティア・ルーデンベルク





    『では、ルールを説明します。赤と青の旗を適当な場所にひとつずつ刺しときました。3時間の間、自軍の色の旗を守りつつ相手色の旗を取ったら勝ちです。塗料を塗られた人間はアウト。もう参加できません。負けた方の軍からルーレットで罰ゲームの参加者をきめましょうかね』





    淡々とルールを話す。
    要するに相手をアウトにしつつ旗を取ればいい。




    『では10分後ゲーム開始アナウンスを流しますので、各チーム電子生徒手帳を見ながら作戦を立ててください』




    part.2 『宿泊験囚』 END
  22. 22 : : 2016/03/20(日) 00:24:52

    被験体ファイル①


    No.X セレスティア・ルーデンベルク


    『賭博』(Fortuna)の才能

    範囲:半径5m
    内容:範囲内の相手を対象に賭博を行う。
    必要条件:賭博の内容、賭ける者、賭ける物
  23. 23 : : 2016/04/17(日) 23:01:20

    「フンッ!!」
    娯楽室の扉を勢いよく開ける石丸。




    「あれ……ど、どこへ行った?」

    不二咲を発見し、娯楽室に入ったのを確かに確認した石丸。
    だが……。



    (いや、きっと潜んでいるはず……先手を打たれぬようにせねば)

    ビリヤード台の下をゆっくり姿勢を落としながら確認する。





    その時だった。
    自分が入ってきた扉が不二咲によって閉められたのは。




    「何!?」

    扉を閉めた彼女は振り向かずに廊下へ逃げて行った。


    逃してなるものか、と急ぐ石丸だったが─────。





    (開かない……!?)




    扉が開かない。
    『閉』を表す鍵のツマミが回らないのだ。
    そもそも、強力な磁石でもない限り外側から鍵をかけることはできないはず。


    (こ、これは一体……)


    完全に閉じ込められた石丸。あっけなく彼は封印された。









    「あいつ……信じていいのか」


    ─────桑田。お前、悩んでるようだな。


    桑田は作戦時間の十神の言葉を思い出す。


    ─────お前は自分の味が嫌いなのだろう。だが、素材の味を活かさねば美味いものには成れんとだけ言っておくぞ。


    「『変装』ねぇ……」



    自分の元の味を最大限に活かして生きる十神と、自分の味を嫌って全く違うものになろうとする自分を比較する。


    (俺はただ……敷かれたレールの上を歩く人生が嫌なだけなのにな)



    「お、桑田っち」



    こんなこと全く考えてなさそう、というか悩みなんて無さそうな男と遭遇する。


    「旗、見つかったか?」
    「いや全然」


    桑田の素っ気ない返事にしばらく沈黙が続く。


    「十神っちに言われたこと気にしてんのか?」
    「……いや別に」


    素っ気なさにフーッと溜息をつく葉隠。


    「な、何だよ」

    「今日の桑田っちは良いオーラが流れてんべ」

    「はぁ?」

    「何かいいことでもあったか?」








    ─────ダブルブル。今日はキレが良いようだ。






    「『いいことあった日にゃ、迷いを振り切って進め!!』これが未来を切り拓く教えだべ!」


    「迷いを振り切って……」











    「ここには無い……のかな」


    購買エリアを調べていた舞園。

    オモチャや生活用品だけでなく、服やアクセサリーも売っているようだ。
    ビルの中の小さな服屋のように入り組んでいるが、旗っぽいものは見つからない。


    けど……何かおかしい。違和感があるのだ。



    「遅いな」


    その違和感の正体に気付いたときには舞園はもう『終了』していた。


    マネキン人形に化けた十神白夜によって。
  24. 24 : : 2016/04/17(日) 23:02:12

    「おらあああ!!!」


    叫び声の主は足をぐっと踏み込む。

    腰と肩をひねり勢いよく腕を振りかぶる。


    綺麗すぎるほど投球フォームで放たれた水風船は、何のクセもない普通のボールのように真っ直ぐ飛ぶ。
    躱されたのも束の間、水風船は重力も慣性も無視して大きくカーブ、セレスの背中にしがみ付いた。



    「……チッ!」


    セレスが舌打ちするのも無理はない。
    先日あれほど勝ち誇った相手に、今度は逆にこのやられようだ。



    (俺を軸に18メートル半……!!)



    (これが俺の才能─────『狩猟』だ!!)









    「なあ、俺らはどーすりゃいいんだべか」

    「さぁ……どうだろうね」


    葉隠・狛枝の二人組。
    桑田が一人で突っ走ったせいで作戦自体がほとんど無かったことにされ、前線に出る筈だった2人は渋々後手に回ることに。



    「桑田っちに水風船とナイフ取られたから大分行動が限られっぞ」

    「まぁとりあえず旗を探そう。まったく作戦も何もあったもんじゃないね」


    狛枝は溜息ついて笑う。









    メタルギアのコール音が鳴り響く。



    『私です……舞園です』


    「何かね?」


    『銃弾を切らしてしまいまして…拠点どこでしたっけ?』


    「3階の音楽室だろう!それより……助けてくれないか」


    『え?』


    「娯楽室に閉じ込められたのだ!どういう力が作用しているか不明だが、扉が開かない!不二咲君が何かしたのは間違いないのだが、とにかく僕の"才能"はこの状況では役に立たないのだ!」


    『わ、わかりました』




    連絡を断つと安堵の息を吐く。

    「うむ……これでどうにか助かるだろう」



    あ、そういえば舞園自身はどこにいたのだろう。と改めて生徒手帳のマップを確認すると同時に石丸は戦慄した。


    「ま、まずいぞ……これはまずい……!!」




    「僕はコレ多分やらかしてしまったぞ!!!」













    施設内を駆け回る桑田は既に霧切と交戦中だった。


    桑田の投球はおかしいほどに霧切をつけ狙う。
    彼女がそれを"才能"だと気付くも、受けの態勢で処理するしかなかった。



    「『人生が自分に配ったカードは受け入れるしかない』……か。昔本か何かで見たな」

    霧切を目で捉えながら小さく呟く。



    「俺が野球から逃げられないように!お前も俺の力から逃げられなくしてやる!!」



    (……厄介ね)



    彼の才能は、おそらく何らかの条件で設定した標的を狙撃するものだろう。

    霧切は自身の脚に小さく付着した赤い塗料に目をやる。



    (おそらくコレで私を『的』に設定した)



    エアガンといえど柔い弾。痛みはほとんど無かったが、なるほどこういうことだったようだ。
    彼が銃で霧切を狙わない理由は、銃では"才能"が適用されないからであろう。飽くまで自身の手で投げたものしか適用されないということか。


    そして、彼の"才能"にはおそらく範囲がある。離れると桑田が投げた()
    は正確に追尾しなくなるのだ。




    やれやれ、と霧切は水風船を銃撃しながら溜息をつく。



    (折角彼らの拠点()の位置を割り出したというのに、伝える時間もないわ)













    『小泉、敵チームの旗の場所がたった今わかった』


    「ほ、ホントに?何処?」


    『3階の音楽室だそうだ。石丸によるとな』
  25. 25 : : 2016/04/17(日) 23:03:25

    弾を切らした霧切を始末し、落ち着きを取り戻すために深呼吸。

    狛枝達に貰った水風船もあと1つ。



    「やべぇ……無駄遣いしすぎたな」



    霧切の発砲で弾かれたナイフを拾い、柄から塗料を注入し直す。

    5分ほど前に十神から旗の場所が分かったという連絡を受けたが、とりあえず敵チームを倒すことに専念してほしいとのこと。
    『旗』は残りの5人で攻めるらしい。



    (こっちのチームはまだ誰も倒されて………ん?)



    マップを上にスワイプして、初めてこの機能に気付いた。
    その画面には味方6人を模したドット絵と彼らが現在何処にいるかが記されている。



    なんと狛枝、葉隠、不二咲の3人のドット絵に×印が刻まれていた。


    「え?何なに、どーゆーことよ?3人殺られたっつーワケ??」


    更に悪いことに、そう言った瞬間小泉のドット絵に×印が押印された。



    急いで十神に連絡を入れる。




    『何だ!』

    「十神、お前これどーゆーことだよ!?うちのチームもう半分もいねぇぞ!」


    『終里だ!俺も今交戦中で……すまない切るぞ!』




    「…………」




    「……くそ!」





    十神の現在地を確認、2階食堂。

    桑田は走った。








    凄まじいスピードで敵チームを狩りつくした終里。
    十神もまたその仲間入りをされるのであった。


    「………何故だ」
    「あ?」



    「何故俺の『変装』がわかったんだ?」
    「匂いと音」

    終里は短く返事する。


    「オレこういうの敏感だからよ」



    「……そういうのもなァ!!」



    背後から投げられたナイフを蹴りで弾く。

    舌打ちする桑田に青い塗料は付着していない。


    「残りはオメーだけだな」



    (やべーな……俺がアウトしたら終わりか)



    赤チームは既に桑田1人。
    敵は5人倒した猛者。普通に考えて無謀な勝負だ。
    だがやらなきゃやられる。

    だから桑田は、『逃げる』のだ。



    「ハッ!敵前逃亡かよ!」



    逃がさまいと追いかける終里。
    人間離れした機動力を持つ彼女でも手こずるくらいには桑田もなかなかに素早い。




    (考えろ、何か……何か考えろ!)




    入り組んだ施設内を爆走する2人。




    「! こっちは行き止まり……」




    階段を昇降、体力を消耗。
    走り回れど頭は回らず、焦りに馳せるばかり。


    「はぁ…はぁ……クソッタレ……」

    2階、普通教室。
    階段へ続いてると思って進む道は此処も何処も行き止まり。

    更にはドタドタとこちらへ接近する足音が聞こえる。

    (ここで……カタをつけるか?)










    教室の扉は乱暴に開かれ、整列された机と教卓が白く光り、開かれた窓から風が差し込む。



    ……誰もいない。
  26. 26 : : 2016/04/17(日) 23:04:17

    何も動かない空間でひらひらと舞うカーテンが目に五月蝿い。
    風に運ばれる自然の匂いが嗅覚に絡みつき、塗料の匂いを嗅ぎわけることが難しくなっている。


    どこにいる?
    ここに入ったのは間違いない。



    入り口は前後2つあるが、古い漫画じゃあるまいしこちらが入ると同時にあちらから出たとしても気付くはず。


    教卓の下、掃除用具のロッカー、各机の下。
    どこからも殺気を感じない。



    どこからも?

    ここにはいない?

    カーテンの裏にでもいるのか?





    「カーテン……あっ!!」





    風に揺れるカーテン。
    風を送り込む窓。


    そう、窓が開いている、その理由。






    終里が窓から身を乗り出したとき、もう既にそいつはそれを読んでいた。

    グラウンドに立つ桑田は綺麗な構えで開いている窓めがけて(・・・・・・・・・・)投球!




    「…当たったみてーだな」




    その()は半径18m半以内にいる終里に直撃。





    残りは苗木と石丸だが、石丸はどういうわけか『戦闘不能』だそうだ。



    「…さっさと終わらせてやる」


    脱落者は皆体育館に集まっている。
    気配すら無い廊下や階段は随分と不気味である。
    誰も苗木を見ていないということは音楽室で見張っているというワケだ。



    「ここか……」



    銃を構えながらそっと扉を押す。音楽室の中が見えていく毎に警戒心は高くなる。

    だが、音楽室は高まる警戒心を弄ぶように静かだった。
    グランドピアノも小さく見えるほど広いこの空間でどの楽器も踊り出す様子はなく静かに佇んでいる。

    静寂が五月蝿いほど音のない室内で、ピアノの後ろ側に立てられた青い旗はまるで優勝旗のように三脚に身を委ねて斜めに眠っている。



    あれを手に取れば、勝ち。
    自分が罰ゲームを受ける可能性は、ゼロ。



    「…よし!」



    旗に向かって走り出す桑田は警戒心を解いていた。
    ……それが落とし穴だった。


    先人は言う。
    『相手が勝利を確信したとき、そいつは既に負けている』と。





    桑田が旗に触れるまで、5秒。

    桑田が旗を掴むまで、3秒。

    桑田が旗を持ち上げるまで、1秒。




    桑田がピアノの中に身を隠していた苗木に撃たれるまで、0秒。






    青チーム、残り2人
    赤チーム、残り0人




    赤チーム戦闘不能により青チームの勝利。






    勝負はとても静かに幕を閉じた。
  27. 27 : : 2016/04/17(日) 23:05:18

    体育館に集まる一同。
    石丸は神座が救出したようだ。



    『さて、勝負が付きましたね』

    足を組み直して神座が喋る。

    『あなた方が塗料で汚した壁や床は僕がキチンと磨いておいたのでご安心を。とりあえずまあ今回のレクリエーションお疲れ様でした』



    「よ、よかった……」

    胸を押さえて安心する舞園。





    『では罰ゲームを受ける人間を赤チームの中から決めましょうか。これで』



    持ってきたのは巨大なスロット。
    3つ並んでおり、桑田の顔、葉隠の顔、小泉の顔が並んでいる。
    神座が裏をいじるとスロットが回り出した。


    『誰でもいいです。ストップと言ってください』


    (……………)










    ─────ダブルブル。今日はキレが良いようだ。










    「俺、言っていいか」



    先頭に立っていた桑田が後ろに問いかける。

    狛枝以外は頷いた。
    今回の桑田の活躍を見て、彼を信じての判断だろう。



    「どうかしたのか」



    ずっと顎に手を添えて俯く狛枝に十神が小声で尋ねる。




    「いや、さ」
    「?」





    (よし………)

    桑田は深呼吸をして、真っ直ぐに神座を見つめる。






    「今日感じた違和感の正体がわかったんだ」
    「何だ?」







    「ストップ!!」

    体育館に声が反響する。
    神座もそれに合わせてボタンを押した。

    左から順にスロットが止まる。続いて真ん中、右側と。












    「ボク今日、久々に手を触られた(・・・・・・・・・)
    「……!!!」












    完全に停止したそのスロットが示す生贄は─────。

























    『桑田怜恩、あなたですね』


    「……え?」
  28. 28 : : 2016/04/17(日) 23:05:52

    スロットに並ぶ桑田の顔と、当たりを促すように光る装飾。

    『では、桑田怜恩に罰ゲームを執行します。準備を致しましょう』




    神座が指をパチンと鳴らした瞬間。
    真っ白い体育館の壁と床は上下左右に分かれ、錆び付いた鉄板の床と刃物で傷つけたような痕跡が夥しく遺るコンクリートの壁が姿を現す。

    何も知らない新人の前に本性を現したブラック企業の如く、優しい光に包まれていた白い空間は化けの皮を剥いだように姿を豹変()えた。

    体育館の真ん中に位置する革製の椅子に桑田は鎖で縛り付けられる。



    「ちょ、ちょっと待ってくれ!!な、何すんだ?何すんだよっ!?」


    『罰ゲームですよ』



    『僕先週、何て言いました?』




    ─────身体の一部を献上してもらう、ということですよ。





    「ま、待ってくれ、か、身体の一部?冗談だろ?なあおい」

    『じゃあ桑田怜恩君、もう一度ストップをお願いします』




    淡々と事を進めていく神座。
    さっきとは違うスロットを回し始める。


    「す、スすスス、す、ストップ!!!」


    先程とは違い、ボタンを押すと同時にピタッと止まった。















    『─────右手、ですね』













    桑田を含めそれまで身動きが取れなかった者たちが顔色を蒼白に染め、全身からドッと冷や汗を噴き出した。




    「え、ちょ待ち、待っ、え?お、おい待っ、おい!!おいっ!!!!」




    椅子の背もたれが後ろに倒れ、桑田は仰向けの状態に。

    鎖で縛られた右腕が椅子とは別の台に乗っけられ、埃で汚れた機械が姿を見せた。

    上下する鋸の刃、潤滑油の匂い。




    ロータリーバンドソー(今回の処刑道具です)、知っていますか?鉄棒を切断する道具です。こうやって鉄棒を固定してライトで刃を照らすとほら、影ができるでしょう。この影が切れる場所なのでこれに合わせてまた固定し直して』

    「ま、待て、やめろ!!!冗談だろ、なぁ!!!」




    『潤滑油を足して……よし、準備完了ですね』

    「やめろ!!おい待て、やめろ、外せ、鎖を外せ!!」




    『電源を入れて……と』


    死刑執行を知らせるブザーの如く、低い機械音が鳴る。

    手入れを怠ったプーリーとベルトの軋む音が怨霊の唸り声のように脳に張り付いた。

    鋸の刃は上から徐々に桑田の手首に近づいていく。



    「や、やめ、やめろ!!やめろおおお!!嫌だあああああ!!!!」













    刃が桑田の手首に触れた。


    刃は皮膚も血管も関係なく切り裂き、断末魔の叫びと共に鮮血が噴き出す。











    「あ……ああ……」


    誰も動けない。助けを求める悲痛な叫び声に、顔を覆い、あるいは耳を塞ぎ、現実から目を背けることしかできなかった。




    断末魔も涙もやがて枯れ、目をカッと開き、彼もまたゆっくり肉に入り込む刃に全身を痙攣させることしかできなかった。
  29. 29 : : 2016/04/17(日) 23:06:35

    『終わりましたね』



    バンドソーが動きを止め、辺り一面真紅(あか)い花が咲き乱れる。
    神座はマイクから離れて、転ばぬように足を擦りながら血の池の中に踏み込んだ。


    「あ……がっ………あ………」


    桑田は口をパクパクと金魚のように上下させながら、いまだ痙攣している。



    「『右手』はこちらで保管します。手術をするのであなたはここに残るように。罰ゲームはこれで終わりです。では皆さん、各自解散してください」







    何事もなかったかのように平常業務と言わんばかりの口調でこちらに指示を出す。









    けど、誰も何も言えなかった。





    改めて、思い知らされたからだ。











    自分たちは、国の未来を、世の将来を担う選ばれし者たちではない。


    輝かしい才能の持ち主でも、世界中の希望でもない。













    ─────世界の裏側に捨てられた実験台に過ぎないのだ、と。













    『あ、そうそう』


    マイク越しの声に戻る。




    『明日から、本格的にあなた方の才能を研究するプログラムに入ります。明日の朝8時、体育館に集まること。それだけです』





    誰も、返事も何もしない。ただただ、歩くだけ。

    全員が桑田と目を合わせぬように体育館を後にした。


















    ─────夕方になっても夜になっても、桑田は生徒達の前に姿を現すことはなかった。







    「あああああああああ!!!!!!!!」







    防音の部屋で、小泉は頭を抑えて声を上げた。



    「あ、アタシが……あんな風に??いつか??」


    「アタシも、あんな風に、う、失う??手を?脚を?眼を…??」



    「い、嫌………嫌だ、やだ、いや」



    「と、止めないと………あれは、止めなきゃ、来週、来週までに、に、日曜までに」








    「誰かを………殺さなきゃ………」





    part.3 『定期献身』 END
  30. 30 : : 2016/04/17(日) 23:11:25

    被験体ファイル②


    No.XⅡ 桑田怜恩


    『狩猟』(Artemis)の才能

    範囲:半径18.44m
    内容:投擲した物がマーカーを付けた『標的』を追尾する。ただし『標的』が範囲外に出たり壁や柱の陰になると当たらなくなる。
    必要条件:マーカーとなるもの、投げるもの

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aimerpiyo

あげぴよ

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