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このSSは性描写やグロテスクな表現を含みます。

この作品は執筆を終了しています。

罪キアソビ

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  1. 1 : : 2014/12/25(木) 20:56:37
    ※グロ表現っぽいよ
    ※マジメにSS
    ※地の文あるよ
    ※絶対絶望少女ネタバレ含
    ※ダンロンシリーズネタバレ有







    ─────少女は笑う。

     灯火の様に揺らいで。
     ひしゃげた人形の様に。



    「やめろ……やめて」


    ─────少女は笑う。

     淀んだ瞳で。
     歪んだ表情で。


    「だめぇ……ですよぉ……」


     むせ返るような、おびただしい血と臓物の臭いと、人間だった何かの残骸、それだけが、今、この少女の領域。


    「や、めて……」

     少女の傍ら、男が震えている。男は胃の中のモノ全てをぶちまけてもなお、この部屋の死臭に嘔吐する。



     積み木を重ねる様に、五体不満足な人間の残骸が、部屋の隅を埋めている。



    ──────罪木ノ遊ビ。


  2. 2 : : 2014/12/25(木) 21:34:20


    「ほらぁ………」

    「ぎひぃ!?」

     ツプンッ、と男の皮膚に、刃物が沈む音が静寂を崩す。


    「ぎ、ぎぎがぁあああ!!」

     プチプチと皮膚が刃物に裂かれ、男の腹が暴かれる。

     声を上げ、痛みを堪え、尚も焼け付くような鈍さと鋭さの痛みが男の脳をショートさせた。

     鋭い痛みが無くなり、鈍痛だけが残り、やがて、脚に、ヌメリとした触覚を感じる。

     紛れもなく、それは己の腹部に納まっていた器官だった。


    「ッ!! ッッ!!!」

     声無き声が木霊する。

     もう殺せ、いっそのこと、即死の方が良かった。
     そう言わんばかりに、叫び、哭く。


    「ふふ……まだですよぉ」


     少女は男に微笑んだ。それは、天使の様に、悪魔の様に。


    *



    Chapter.1




     未来機関第14支部、簡素なパイプ椅子と、四角いテーブルだけの休憩室に、2人の男がコーヒーを啜っていた。
  3. 3 : : 2014/12/25(木) 21:56:28

    「希望ヶ峰付属病院……?」

     スーツの襟に"未来"と銘打たれたスーツを着こなした、頭頂部にアンテナの様な癖毛を生やす、小柄な少年が、向かいの席に座る少年に訊ねた。

    「ああ、結局、"人類史上最大最悪の事件"によって、開業には至らなかったが、建物は今も残っているそうだ」

     同じスーツを纏った。眉目秀麗でブロンドヘアーの、痩身で背の高い、眼鏡を掛けた少年が応える。


    「じゃあ……今そこに」

    「未確認情報だが、付近の生存者が、モノクマヘッズらによって連れ去られているそうだ」


     腕を組み、やれやれと言った表情で眼鏡の少年は溜め息をつく。

    「苗木、俺は救援要請の出た塔和に行かねばならん。この件はお前に任せていいか?」

     苗木と呼ばれた少年は、静かに頷く。

    「十神クン……塔和って……」

    「ああ、どうもキナ臭いが、行かない訳にもいくまい。もしかしたら"要救助民"の可能性もある……まさか、塔和からだとはな」
  4. 4 : : 2014/12/25(木) 22:22:49

     塔和、未来機関の強力なバックアップで、企業そのものが1つの街として機能している。
     塔和シティという通称で、この街では未だ、絶望のパンデミックによる被害がほぼ無い。

     だが、それは逆に疑惑が上がる。

     絶望による理由無き戦争の片棒を担いでいるのではないかと。

    「苗木……お前のハッキング銃を借りていくぞ」

    「ああ、うん、それは構わないよ……万一の事もあるからね。予備を持っていった方が良いね……気を付けて、十神クン」

     十神と呼ばれた少年は、鼻をならし、自信に満ちた表情で応える。


    「フンッ、俺を誰だと思っている?」


    *


     十神にハッキング銃を渡し、苗木は自己のロッカールームにやってくる。

     ロッカーの扉の裏に貼られた、1枚の写真を覗く。
     15人の笑顔の写真、苗木の姿はそこには無く、十神の姿が端に写る。

     かつてのクラスメイトの写真であり、そして、最後の"動機"の品。

     横のフックに掛かる小さな巾着の御守りを取り、それを胸ポケットに入れ、苗木はロッカーを後にした。


  5. 5 : : 2014/12/25(木) 22:51:04


    *

    「苗木君」


     廊下に出て、未来機関の車庫に向かう途中、苗木は不意に声を掛けられる。

     片側に御下げを覗かせる長いシルバーブロンドの髪をした、知的な顔立ちをした女性だ。



    「霧切さん」

    「実動の機関員の殆どは塔和に向かったわ……"要救助民"の可能性とは言え、かなり大掛かりみたいね……それと、はい、これ」


     霧切は苗木に棒状のモノを差し出す。


    「これは?」

    「スタンロッドよ……まさか、丸腰で行く気じゃないでしょうね?」


     苗木がバツ悪そうに笑う傍ら、霧切が呆れて溜め息ををつく。
     この少年は、こうなのだから仕方がない。卑屈な癖に前向きで、少し抜けていて、それでも憎めない。


    「……まったく」

    「ははっ、ごめん、霧切さん、有り難く使わせてもらうよ……なるべく使いたくは無いけど」

     
  6. 6 : : 2014/12/25(木) 23:33:26

     優しいことは、時として自己の命に関わる。霧切が常時着用する手袋に包まれた両手がそれを物語る。


    「ねえ、苗木君、優しい事は否定しない。でも、時として非情でなければ、貴方はいずれ、他者の為に命を落とす事になる……」

    「う、うん、解ってるよ……」

     耳を痛そうに聞く苗木に、霧切は常日頃、口を酸っぱくして言う。

     あのコロシアイを生き残った、希望の光の少年は、常に危ういのだ。



    「……いいわ、私も事務処理に飽きた所だし、貴方のサポートしてあげる」

    「ええ? でも、霧切さん、次の仕事は確か……」

    「遠慮なんて、苗木君の癖に生意気よ」





    Chapter.2




     かつてこの国の都心部の一等地にあった希望ヶ峰学園の外れ、復興もままならず、未だに荒れ果てた姿をしている。

     建物は倒壊し、街路樹は薙ぎ倒され、栄えた街並みは、今はもう見る影がない。

     まるで、大災害の後の様だ。モノクマヘッズと呼ばれる洗脳装置を頭部に被った暴徒だけでなく、何処から湧いて出てきたのか、大小様々なモノクマの自立型ロボットも、この有り様に加担している。

  7. 7 : : 2014/12/25(木) 23:56:39


    「相変わらず、酷いな……」

    「そうね」


     ジープ車両から降り、街並みを見渡す。人影はなく、苗木と霧切が、あの絶望の学園から脱出した当時のままだ。


    「ここがそうなのね……」

    「希望ヶ峰付属病院か……聴いたことも無かったよ」


     医療関係に携わる超高校級の才能達に用意される筈だった大病院。

     そして、研究施設を兼ねる予定だった。

     建築途中で作業中止を余儀なくされた為に、あちらこちらに作業用の足場と粉塵を防ぐシートが被せられている。


    「いこうか、霧切さん」

    「ええ……」



    *


     エントランスに入る。荒れ果ててはいたが、真新しさが残っていた。広く奥行きがあり、日の光りが入りにくい為か、非常に薄暗い。

  8. 8 : : 2014/12/26(金) 00:43:05


    「不気味だね……」

    「何処に何が潜んでいるか解らないわ……気を付けなさい」


     ペンライトで周りを照らし、ゆっくりと前へ進む。エントランスを抜け、エレベーターホールに入ると、霧切がエレベーターの扉の前にしゃがみこんだ。


    「ねえ、苗木君……どうやら、情報は正しかった様ね」

    「えっ……?」


     霧切が触れる指先には、血痕、そして、その血痕を引き摺った様な跡。
     エレベーターが稼働している、予備の自家発電の方が生きており、本電源が落ちたときに、自動的に予備に切り替わるシステムなのだろうと、霧切は予想する。


    「……苗木君、スタンロッドを」

    「う、うん」


     霧切はエレベーターの昇降ボタンを押し、扉のサイドに身を寄せ、カバーする。
     苗木もまた、スタンロッドを握る。 
  9. 9 : : 2014/12/26(金) 19:53:02

     ゴウン、とエレベーターが動く音が聴こえた。2人は緊張する。
     やがて、エレベーターは止まり、そしてゆっくりと扉が開き、苗木、霧切は、そこに何も居ないかを確認しようと身を乗り出した。

    「!!」

    「……酷い」

     多量の血痕が其処にはあった。エレベーターの内部はまるでペンキ缶をぶちまけたかの様に、床、壁、天上と、ところ狭しと赤く、乾いた血液の跡があり、無造作に置かれたストレッチャーの下に、鞄が1つ置かれていた。

    「……引き摺った跡と一致するわね。それも大分前のもの」

     顎を親指に乗せ、冷静に分析を重ねる霧切を横目に、苗木もまた、血液を観察する。

    「大分成長したわね、苗木君?」

    「え? ああ、はは……」

     あの学園でのコロシアイを経て、未来機関で絶望達と戦い、人の死に対して耐性がついた、苗木らにとって、今やこの状況は、あってはならなかった日常。

    「ねえ、霧切さん……このエレベーター内部で、人が殺されたのかな?」

    「いいえ、それは無いわね。人を殺してエレベーター内の天上まで満遍なく、血が吹き出すかしら? これは恐らくブラフ、誰も入ってくるなという、威嚇行為ね」

     苗木もまた、顎を親指に乗せ、考えを巡らせる。
     霧切はその姿を見て、少しだけ笑みを溢す。

     希望の少年がかつて、あの絶望の少女を打ち破った時の表情をしているからだ。


    「だとすると、これはやっぱり」

    「推測が当たっていれば、そこの鞄に空の容器が入ってる筈」

     苗木はストレッチャー下の鞄を覗く。推測は正しく、そこに在ったのは空になった多量の輸血パックだった。

    「絞り出す様に握った跡もあるわね」

     
  10. 10 : : 2014/12/26(金) 20:48:08

    「うん、他のエレベーターもついでに調べてみよう」

     ホール内には3つのエレベーターがある。この血塗れのエレベーターを中心に、両サイドにもエレベーターがあり、血塗れのエレベーターは他の2つよりやや大きい。


     他のエレベーターの昇降ボタンを押し、警戒をしつつも、降りてきたエレベーター内部を覗く。


    「やはり、使われた形跡はないわね」

    「……うん、中央のみだけ使われていた」

     中央のエレベーターのみ、広めなのはストレッチャーが物語る。このエレベーターは搬入搬出も兼ねているのだ。

    「霧切さん、エレベーターの内側のパネル……」

    「ええ、気付いているわ……」

     両サイドのエレベーターの内側のパネルには無く、中央のエレベーターのパネルにのみあるモノ。

    「……差しっぱなしの鍵」

    「そうね、つまり中央のエレベーターのみ、行ける階層がある」
  11. 11 : : 2014/12/26(金) 21:15:06


     パネルには鍵穴があった。両サイドのエレベーターには無く、中央のみ、鍵が差しっぱなしになっている。

     その鍵穴を回すと、パネルの窪んだ部位が下にスライドし、"B1"と記されたボタンが露になった。


    「……見て、このボタン、血痕の上に指紋の様なものがついてるよ」

    「つまり、上層でなく、下層に行った、ということね。輸血パックを撒き散らした人は」


     2人はエレベーターに入り"B1"のボタンを押し、下層へと下っていく。






    Chapter.3





    「うふふ……ふふ」



    ─────少女は微笑んだ。

     子供の様に。
     
     積み木を重ねて、選り分けて、どれにしようか迷って、やっぱりこれで、と。


    ─────少女は微笑んだ。

     先程まで人間だった肉塊に。

     選り分けるのは、また"あの人"と出会う為に、医術には絶対の自信が少女にはあるのだ。


    「また………私を許してくれますかぁ……?」


     少女は自身の腹部を擦る。そこにあるのは大きな施術痕、下腹部に縦に伸びるその傷は、生々しく、新しいモノだった。




  12. 12 : : 2014/12/26(金) 21:20:52
    最高に好みです。ドキドキワクワクしてます。期待しかないです
  13. 13 : : 2014/12/26(金) 21:23:14
    >>18
    あざますっ。
    たまにはマジメに書くんですぞ!
  14. 14 : : 2014/12/26(金) 21:42:09
    これは...良いですな!!!


    期待です!
  15. 15 : : 2014/12/26(金) 21:53:29

    「ねぇ……?」


     訊ねても、応える者など居ない。そこに有るモノは、物言わなくなった人間だった物だけなのだから。


     少女の"内側"から"外側"に語りかけてくる者は、もう、この世に居ない者なのだから。



    *



     苗木と霧切が乗った、血塗れのエレベーターは下降していく。

     広く、降下するエレベーターに苗木は身震いを隠せない。
     かつて、あの絶望の学園にあったエレベーターは、誰かが殺された時に用い、誰かを裁き殺す為の場所へと向かう為の裁判場……否、処刑台へと向かう為のモノが1つあっただけだった。

     どんな形であれ、あれは絶望の少女が望んだ、コロシアイの形の1つ、ただ、刃物がコトダマになっただけの、シロとクロによる、生死を掛けた騙し合いの殺し合い。


    「……大丈夫、苗木君?」


    「……う、うん、大丈夫」


     憧れたアイドルは、悪友の野球選手を殺し損ね、殺されて。

     口数の少ない軍人は、実の妹に殺されて。

     心優しいプログラマーは、乱暴だけど根は優しい暴走族に殺されて。

     才能を嫌った風紀委員は、お調子者の同人作家に殺されて、その同人作家もまた、少しサディストで風変わりなギャンブラーに殺されて。

     強く、優しく、頼れる格闘家は、自己を殺した。


     皆、クラスメイトだった、友人だった。

     "だった"のだ。



  16. 16 : : 2014/12/26(金) 21:53:49
    >>14
    有難うございますぞっ
  17. 17 : : 2014/12/26(金) 22:15:04


    「……」

    「……」

     殺された者も、殺した者も、もうこの世には居ない。

     そして絶望の少女も、もう居ない。


     だが、絶望の爪痕だけは深く残り、絶望した者達は今もこうして、絶望する為に、絶望を繰り返し、絶望を蔓延させている。

     きっと、絶望の少女はここまでも予測していたのだろう。


     苗木という少年は強い、その絶望の全てを引き摺って、その絶望の全てを受け入れて、その絶望の全てを乗り越えてきたのだから。

     しかし、その絶望を全て引き摺った希望の少年は、やはり、ただの人間でしかないのだ。

     記憶に残る恐怖は体を強張らせ、震えを抑える事が出来なくなる。

     "心的外傷(トラウマ)"は、彼の神経を逆撫で、友人達の亡骸をフラッシュバックさせる。


    「……大丈夫、大丈夫よ、苗木君」


    「う、ん、ごめん……霧切さん……」

  18. 18 : : 2014/12/26(金) 22:34:46


     霧切は苗木の手を両手で握る。


    「………私がこんな事、言えた義理では無いのだけど」

    「……そんなことないよ、霧切さん、ありがとう」


     かつて、霧切は真相に焦り、絶望の少女の掌で転がされ、苗木と同士討ちをし、苗木の信用を裏切った。

     霧切にもまた、そうした負い目があるのだ。


     やがて、エレベーターは下層に到着し、ゆっくりと扉を開ける。

  19. 19 : : 2014/12/26(金) 23:02:06
    二人とも...


    期待です!
  20. 20 : : 2014/12/26(金) 23:04:09
    >>19
    有難うございますぞっ
    ぶっちゃけあれだけの事があって、どんなメンタルであっても傷が残ると思うんですよね……
  21. 21 : : 2014/12/26(金) 23:22:04
    >>20
    超高校級っていっても人間ですもんね...
  22. 22 : : 2014/12/26(金) 23:26:52


     暗く、非常灯だけが照らす廊下が真っ直ぐと伸びている。

    「……よし!」

     自分の頬を叩き、肩を揺らして震えを抑える。友人であった格闘家に習った呼吸法で、心を静かに保った。

     平然を戻す。強張った体をほぐし、ゆっくりとエレベーターから廊下に足を伸ばす。


    「血痕が伸びているわね……」


     引き摺った血痕が近くの簡素な扉に伸びている。恐らくはそこに、輸血パックをぶちまけた人物がいるのだろう。


    「……行こう」


     簡素な扉に手をかける。勢いよく開け、苗木は素早くスタンロッドを構えた。


    「!!」


     1人の男の亡骸が横たわっている。一目からでも解るほど、鈍器で殴られた様な、頭部に深いへこみがあり、脳挫傷から死に至ったのだろう。傍らには、血にまみれたメモの様なモノがあった。



    『入り込んできた者は直ぐに立ち去れ、下の階に行ってはいけない。死ぬぞ』


     筆字はしっかりとしている。恐らくは、これを書いてから殺されたのだろう。


  23. 23 : : 2014/12/26(金) 23:29:33
    >>21
    ですねぇ……原作のサイコポップな感じでマイルドな感じですけども、自分、桑田の亡骸を現実的に考えて現物見たらトラウマになる自信ありますww
  24. 24 : : 2014/12/26(金) 23:44:40
    一人で居るのが怖くなってきた...


    >>23
    俺も絶対トラウマになりますw
  25. 25 : : 2014/12/27(土) 00:08:21


    「……彼は、何を引き摺って来たのかしら」


    「見て、霧切さん……これ」

     この部屋は、恐らく警備室であったのだろう。ロッカー側に、更に引き摺った血痕が、途切れ途切れではあるが、存在する。


     苗木はロッカーに手を伸ばし、息を呑む。


    「開けるよ……!」

    「ええ……」


     ゆっくりと、ロッカーを開ける。


    「……うっ!」


     黒い、悪臭を放つゴミ袋だった。

     黒かったのが幸いだろう。小蝿が集り、僅かに感じていた、腐った生肉の様な悪臭の元はこれだった。


    「なんで……こんなものが」


     引き摺るという事は、それほど重いと言うこと。この袋の中には、丸々"1人"が収まっているのだろう。


    「……その袋の中を覗くわ」

    「……うん」


     気乗りしない様子で苗木は頷く。霧切はポーカーフェイスを崩さずに、黒いゴミ袋に手を伸ばした。

  26. 26 : : 2014/12/27(土) 00:10:17
    >>24
    俺がいるやでっ!(:-D)rz
  27. 27 : : 2014/12/27(土) 00:22:10
    >>26

    一人じゃなかった!(安心w
  28. 28 : : 2014/12/27(土) 01:41:14


    「……!」

     下水に流れる汚物の様な、吐き気を催す悪臭が、辺りを立ち込める。


    「……うっ」


     吐き気を堪え、ゴミ袋の中身を覗く。
     ドロクチャの、赤みにほんのりと紫を交える管の様なモノが見える。 血管筋が有り、一目で内臓の一部と解る。

     
    「……解ってはいたけど、凄惨なモノね。まるで丁寧にパーツごとに選り分けられた様な感じがするわ」

     まるで、何かを隠す様に丁寧に、しかし、ぞんざいに扱われたそれは、違和感を覚える。


    「……ねえ、霧切さん、隣のロッカーにも何かあるんじゃないかな」


     ロッカーは全部で3つ、端のゴミ袋が入ったロッカーの隣が、半開きになっている。
     そのロッカーを開けると、洗脳装置があった。霧切はそれを手に取り、中を覗く。


    「……まって、この洗脳装置……ハリボテの様ね」

     ドライバーでこじ開けた跡があり、恐らくは、内蔵された集積回路を抜かれたモノ。


    「霧切さん、もしかして、この人は……」


    「果敢にも、誰かを救おうとして、侵入し、そして、モノクマヘッズに殺された……1人で行う為にブラフを仕掛け、誰も近寄れない様にして……」


     



  29. 29 : : 2014/12/27(土) 01:41:30
    >>27
    いえすっ
  30. 30 : : 2014/12/27(土) 02:02:32

     では、そこのゴミ袋も、自分をモノクマヘッズと思わせる為の演出であるとしたならば。


    「つまり、そこのゴミ袋の中身は……」

    「恐らくは動物のモノ、動物園なんかでも調達位は出来るでしょうね」


     そこまでして、彼は果敢にもこの絶望の中を歩き、誰かを救いたかったのだろう。

    「そして、この下の階層を覗き、モノクマヘッズに見つかり、メモを書き残した所で」

    「……殺された」

     洗脳装置を脱いだのはミスだったのだろう。ここまで潜り込み、安堵して洗脳装置のハリボテを脱ぎ、そして、モノクマヘッズに見つかり、死ぬ羽目になった。
     そういった些細なミスが、ここでは簡単に命に関わる。


    「行きましょう、彼には悪いけど、彼のようにはなりたくないわ」

    「うん……そうだね」


     簡素な扉を出て、再び廊下に出る。あのメモに書いていた"下の階"は、エレベーターの昇降ボタンにはなかった。この病院には、更に秘密があると言うことなのだろう。



  31. 31 : : 2014/12/27(土) 03:54:41
    期待です!
  32. 32 : : 2014/12/27(土) 08:24:32
    >>31
    有難うございますぞっ
  33. 33 : : 2014/12/27(土) 16:50:03



    Chapter.4



    ─────花が咲き乱れる(血飛沫が吹き上がる)

     少女は、花を摘む(絶望は数千の命を刈り取る)

     少女はそれを無邪気に笑う(絶望はそれを嘲笑する)

     少女の笑顔は皆を虜にする(絶望が世界に感染していく)

     笑顔が溢れる(怨嗟が轟く)



    ─────少女は、少女に微笑んだ(江ノ島盾子は、罪木蜜柑を利用した)

  34. 34 : : 2014/12/27(土) 17:11:51


    *


    「苗木君、これ……」

     霧切が薄暗い廊下に掲げられた、何かを見つけた。埃にまみれた何かのプレートの様だ。

    「……これは」

     プレートには『第一研究室』と書かれている。一体何の研究かは不明であるが、既にこの領域は、病院ではないと言うことが解った。


    「そういえば、研究施設としても利用されるようだったけど……病気や薬の事だけじゃないのかな?」

    「普通、そう思うわね。でもここはあの"希望ヶ峰学園"が絡んでる。なにかしらの研究をしていたのは確かね……それに」

     霧切は更に付け加えて、この病院の違和感を語る。


    「ねえ、苗木君、上の病院は新しいモノだったけど、この地下……古いとは思わない?」

     そう、おかしいのだ。いくらモノクマヘッズが根城にしているとはいっても、この施設には所々に錆が目立ち、塗装御所が酷く剥がれたりしている。

  35. 35 : : 2014/12/27(土) 18:09:45

    「うん、まるで"元々あったこの地下施設"の上に病院が建てられた様な……」

    「ええ、私もその意見に賛成よ。ここは恐らく……表沙汰には出来ない研究施設、そのカムフラージュの為に、病院が建てられた、と考えられないかしら?」

     霧切の意見はおおよそ正解、希望ヶ峰学園には裏が有り過ぎる。これもまた、その裏の一端なのだろう。

    「取り敢えず、その第一研究室に行ってみよう」


    *


     第一研究室と書かれたプレートが掲げられた扉の前、今の所、モノクマヘッズらの気配はなく、不気味な程に静まり返っている。

     苗木は警戒しつつ、扉を開け、中の様子を伺う。誰も居ないことを確認し、2人は扉の奥へと入っていく。

    「何だろう……これ」

     ガラス張りの個室が目立つ。何かを隔離し、それを観察する為の様な部屋だった。

     霧切は埃被ったデスクから、1冊の手記を見つけ、それを手に取る。

    「……なにかしら」

     最初のページには『作られた希望』とだけ記されていた。

     
  36. 36 : : 2014/12/27(土) 18:41:34

    「……ここは"カムクライズル計画"の一端なのかしら?」

    「カムクライズル計画……」

     希望ヶ峰学園初代校長、そしてこの名前にはもう1つ意味がある。

    「神童の製造、あらゆる才能を持つ人間の量産、その計画よ」

     苗木は以前に"カムクライズル"という名前を見たことがある。

    「……希望ヶ峰学園の行方不明者リストで見たような」

     苗木の発言に、霧切は静かに頷く。

    「もう少し手記を覗いて見ましょうか」

     手記を開き、霧切と苗木はそれを凝視する。


    『作られた希望……××月××日、被験者第一号、希望ヶ峰学園、予備学科、⬛⬛ ⬛、ロボトミー手術成功、カムクライズル第一号の完成。××月××日、テスト、34ヶの才能の発現、××月××日、テスト、14ヶの才能の発現……』

    『××月××日、学園史上最大最悪の事件の発生、生徒会長、カムクライズル第一号生存、その他死亡、××月××日、第一号失踪……』


     
     
  37. 37 : : 2014/12/27(土) 20:17:25

    「霧切さん、ロボトミー手術って……」

    「今ではもう、禁忌とされている精神外科における前頭葉の切除手術。感情のその一切を無くすらしいわね」

     そうして、カムクライズルは何を思い、何を考え、何処を彷徨いているのだろう。

    「ここで、施術と研究が行われたのね。予備学科、名前が抹消されてるわね」

    「予備学科……」

     希望ヶ峰学園のネームバリューに引き寄せられた、言わば金蔓。才能もなく、将来も約束されていない生徒らが、夢を見て、そして夢を絶やす学科。


    「……さあ、ここにはもう何もないわ。先を急ぎましょう」

     苗木は頷き、第一研究室を出る。

    「……!」

     先程来た廊下側から、僅かに音が聴こえる。エレベーターの昇降音、それに気付いた苗木と霧切は、顔を見合わせ、奥へと早足で向かった。


  38. 38 : : 2014/12/27(土) 20:55:54


    *


     地下1階の最奥にあった昇降口、非常灯のボンヤリとした明かりを便りに、2人は降りていく。

     僅かに臭う、鉄の臭いに混じり、腐卵臭と栗の花の様な臭いが。

     苗木は思わず顔をしかめて口と鼻を押さえた。霧切もまた、ポーカーフェイスの中に、僅かに不快さを顕著させる。


    「……性行為でもやってるのかしら」

    「ぶっ! な、なんでいきなりそんな事……」

     苗木は霧切の突然の発言に戸惑い、少しだけ顔を赤らめた。

    「この鉄の様な臭いは血液に違いないのだけど、この生臭い感じ……腐卵臭と栗の花の様な臭いは、男女の……」

    「も、もういいよ。わかった、わかったから」

     この探偵の少女は、推理と分析が絡むと、急激にデリカシーというもの無くす。真実には違い無いのだから、言い訳出来ない辺り始末が悪い。


     昇降口を降りきると、より一層、鉄のような臭いが強くなる。

     否、それはもう、見てとれるのだ。
  39. 39 : : 2014/12/27(土) 21:41:47

    「酷い……」

     間違いなく、人間の遺体がそこいらに転がっている。

     胴体は無い、有るのは手や足、無造作に転がるそれは、選り分け、棄てられた様にも見える。

     血に染められた廊下の奥、観音開きの扉が半開きにになっている。

    「恐らく、あの扉の奥、この有り様の主犯が居る筈」

    「……行こう!」

     奥の扉を2人は勢良く開ける。



     そこには、一糸纏わぬ少女が1人、積み上げられた人間の脱け殻を椅子に、妖艶に座っていた。



    「………新しい患者さんですかぁ?」



     ざっくばらんに切られた長く艶やかな髪を弄り、虚ろな瞳を2人に向ける。
     真っ白な肌を血で汚し、それは正に、地獄に咲く花の様に。

     苗木は絶句する。おびただしい遺体に囲まれ、平然とする少女に対して。部屋の醜さと少女の美しさが相反し、一種の芸術の域まで達するその光景に。

     虚ろな少女は、脱け殻に刺さるメスを無造作に取り、恍惚の表情を見せて、無邪気に微笑む。




    「それとも、患者さんになりに来たんですかぁ?」


  40. 40 : : 2014/12/27(土) 21:48:24
    ヤ...ヤヴァイ.....背筋ゾクッてきました...




    期待です!(怖いけど...
  41. 41 : : 2014/12/27(土) 21:58:58



    Chapter.5




     少女は絶望に希望し。

     少女は希望に絶望し。

     理不尽な暴力に許しを求め。

     嗚咽混じりに許しを求め。

     それでも、

     何もないよりはマシだと信じ。

     少女は空っぽになって。

     何もなくなって。

     有るのは絶たれた望みだけ。


     許してくれたあの人だけ。


     少女は、とうの昔に壊れていた。

  42. 42 : : 2014/12/27(土) 22:00:56
    >>40
    あんがとござますっ
  43. 43 : : 2014/12/27(土) 22:22:18


    *


    貪食(ニンフォマニア)屍姦嗜好者(ネクロフィリア)なのかしら……? とんでもないフェチズムの持ち主ね、吐き気を催すわ」

     少女に明らかな敵意と嫌悪感を示す霧切は、吐き捨てるように言葉をぶつける。

     苗木もまた、嫌悪感を隠せないでいる。
     逃げ出したい気持ちから、扉に目をやる。



     そこから"何か"が覗いていた。


    「霧切さんっ!!」

     咄嗟に叫ぶと同時に、"それら"は雪崩れ込んでくる。


    「くっ!」


     モノクマヘッズ達だった。


     
  44. 44 : : 2014/12/27(土) 23:01:50


    「みなさぁん、仲良くしてくださいねぇ」

     鉄パイプを持ったモノクマヘッズが苗木に向かって凶器を振り降ろしにかかる。

     苗木は素早くスタンロッドを伸ばし、スイッチを入れ、モノクマヘッズが凶器を振り降ろす前に、ロッドをモノクマヘッズの体に接触させる。

     50万ボルトの電流が流れ、モノクマヘッズの筋肉は痙攣を引き起こし、行動不能にさせた。


     バタフライナイフを持ったモノクマヘッズが霧切に襲い掛かる。
     霧切は、タイミングを見計らい、穿ちに来たナイフを蹴り上げ、間髪入れずに綺麗な回し蹴りによって、モノクマヘッズを吹っ飛ばす。


     モノクマヘッズと応戦する2人を、少女はニコニコと嘲笑う。
  45. 45 : : 2014/12/27(土) 23:29:44


    「……ねえ、苗木君」

     背中合わせに警戒しつつ、モノクマヘッズに気を配る。

    「……なに?」

     苗木はスタンロッドの電撃音を鳴らし、威嚇する。

    「……あの子の顔、見覚え有るわ」

     サバイバルナイフを持ったモノクマヘッズが苗木に飛び掛かる。
     苗木は軸足をずらし、胴抜きの要領でモノクマヘッズにスタンロッドを当てる。

    「……ボクもだよ、希望ヶ峰学園の行方不明者リストに載ってたよね」

     霧切に、包丁を持ったモノクマヘッズが襲い掛かる。差し出してきた刃物をかわし、腕に手を回して、相手の走ってきた勢いを利用して一本背負いをし、投げ飛ばす。

    「……超高校級の保健委員」

    「……罪木蜜柑」



     4人の倒れたモノクマヘッズを尻目に、霧切は手袋の擦れを直し、苗木はスタンロッドを仕舞う。


    「……うふふ、私も、貴方達の事よく知ってますよぉ」

  46. 46 : : 2014/12/27(土) 23:48:47


     苗木も霧切も、善くも悪くも有名人である。

     あのコロシアイは全国中継され、絶望の少女を打ち倒したその瞬間もテレビは映し出していたのだから。

    「苗木誠さんに、霧切響子さん……"あの人"を殺した張本人」

     明確には、絶望の少女を論破し尽くし、生き残ったメンバーを苗木が奮起させ、彼女は自ら敷いたルールによって、自らの命を絶ったのだ。


    「"江ノ島盾子の亡霊"に取り憑かれて、絶望に成り果てていたのね。罪木蜜柑」

    「"亡霊"? はぁ?」

     罪木は激昂する。

    「"あの人"はまだ生きてるんですよ!? まだ、まだぁ!!」


     そして、苗木と霧切は、罪木の異常性に気付いたのだ。
     彼女もまた、絶望に希望している。

     そして、もう、壊れていた事に。
  47. 47 : : 2014/12/28(日) 00:16:26

    「……"ここ"に、まだ生きてるんですよぉ」

     激昂からゆっくりとした口調で、自らの施術痕のある下腹部を擦り、恍惚の表情を浮かべた。

    「苗木君……未来機関員が回収した、江ノ島盾子の遺体、いえ……"残骸"から見付からなかったパーツが3つあったわね」

    「うん……"右の眼球"、"左腕"、そして……"子宮"」

     江ノ島盾子の最期は、プレスマシーンに圧壊されるという壮絶なものだ。
     しかし、プレスの勢いが強く、衝撃によって全身が潰される前に四散し、間髪で潰されずに済んだパーツが幾つかある。


     未来機関に在籍する元検死官がその3つが足りないと述べていた。

    「絶望の1人に"右の眼球"持ちが居たわ」

    「"左腕"はまだ見つかってないけど……"子宮"はここに、彼女が持っていたんだね」

     確かに、江ノ島盾子は彼女の中に居た。あの施術痕はつまり、自分の子宮と江ノ島の子宮を取り換えたという事。

     それは、彼女の子孫を産もうとでも考えていたのか、どちらにせよ、狂っている事に変わりはない。



  48. 48 : : 2014/12/28(日) 00:40:23


    「……でも、それじゃあ駄目なんですよぉ」


     そして、この人間の亡骸での積み木遊びの真意。


    「だから、"造れば"いいんですよぉ。"あの人"を」


     その為の選り分け、その為の残骸、その為だけに、ここに居る者達は殺された。

    「……何て、事を」

     苗木と霧切は、弄ばれた亡骸から怨嗟を錯覚する。
     怒号の慟哭が鳴り止まない。


     
     
     
  49. 49 : : 2014/12/28(日) 01:32:19


    「……彼女を拘束する、苗木君」

    「……うん、わかってる」

     再びスタンロッドを構える苗木。

    「!!霧切さん!」

     先程倒したモノクマヘッズが起き上がり、霧切に覆い被さる形で拘束する。

    「くっ!」

    「霧切さんを放………!!」

     咄嗟に、罪木から目を離した一瞬の隙だった。


    「あ〜、外しちゃいましたぁ」


    「苗木君っ!!」

     苗木の脇腹に、メスが刺さって居た。

     ジワリと、苗木のスーツに赤い染みが拡がっていく。罪木が手に持っていたメスを投げ、苗木の脇腹にそれを命中させた。
     苗木は急速に力を無くし、壁に寄りかかる。

     罪木はそんな苗木に、フラりとした足取りで近寄っていく。


    「うっ……」


    「苗木君っ! くっ、この……!」

     霧切がモノクマヘッズを振りほどこうとするが、モノクマヘッズの力が強く、簡単にはいかない。

  50. 50 : : 2014/12/28(日) 03:19:18
    スゴいですっ!!
    罪木さんの狂気っぷり…
    スゴくカッコいいです!
  51. 51 : : 2014/12/28(日) 08:34:10
    >>50
    有難うございますっ
  52. 52 : : 2014/12/28(日) 09:21:55

    「あぁ……血が一杯でちゃってますねぇ。直ぐに治しますからぁ」

     そう、罪木は苗木を優しく抱き寄せ、乱暴に苗木の脇腹に刺さるメスを抜いた。

    「ぐうっ!?」

     乱暴に引き抜かれた事により、傷口が広がる。苗木は脇腹から噴き出す血を押さえ、罪木と相対する。

     その濁りきった瞳は、苗木を捉えて放さない。

    「ホントはここに投げるつもりだったんですけどぉ」

     苗木の首筋に、ヒヤリと冷たいメスが当てられる。血の気の引いていく事も相まってか、苗木はゾクリと身体を震わせ、恐怖に凍えた。

    「……ねえ、なんで"あの人"殺しちゃったんですかぁ?」

     彼女の言動は先程からおかしい。

    「ぐっ……逆に聴くけど、罪木さん、さっきは江ノ島盾子生きていると」


     苗木の言動を遮る様に、罪木は口を開く。

    「だって、ずっと"ここ"から語りかけてくるんですよぉ? 身体は死んでしまったけど、"あの人"は生きてるんですよぉ……!」

     臓器移植によってレシピエントに記憶が転移されるという現象がある。細胞記憶説なんてものもあるが、しかし、それでもこれはオカルトの域を出ない。


     
     
  53. 53 : : 2014/12/28(日) 09:54:56

    「だからぁ……"造る"んですよぉ、そしてまた、許してもらうんですぅ」

     罪木はおもむろに、苗木の身体に触れる。

    「血を止めるにはぁ、心臓を止めればいいんですよぉ」

     彼女がまさぐっていたのは、肋骨の位置、第三肋骨と第四肋骨の隙間。

    「苗木君っ! 苗木君っ!!」

     霧切はモノクマヘッズを振りほどく事が出来ず、ただ、今から行われる事を指をくわえて見ることしか出来ない。
     苗木は何とかスタンロッドを握るが、今はそれ以上の事が出来ない。血と共に力も抜けていく。


    「心臓を止めたら、ちゃんと治しますからぁ……"あの人"の一部としてぇ」


     
  54. 54 : : 2014/12/28(日) 11:15:57

     苗木はこの感覚を覚えている。
     今から自分は殺されるのだと。
     あのコロシアイで味わった感覚が、苗木の身体を震わせる。

    「それじゃあ、切開しますねぇ」

     罪木が右手に持ったメスは、高らかに持ち上がり。

     苗木の第三肋骨と第四肋骨の隙間、胸骨体の右、スーツの胸ポケット中央付近にそれは振り下ろされ。


    「!!」


     それは、凹凸の何かに弾かれ、狙いは外れ、苗木の脇腹を掠めた。


    「はっ?」

     罪木は目を白黒させて、何が起こったのか理解出来きずにいた。


    「……終わりだよ、罪木、蜜柑さん……!」


     苗木は力を振り絞り、スタンロッドを彼女に向け、スイッチを入れる。
     バチン、という電撃が罪木の身体中を流れ、痙攣を引き起こし、倒れる彼女を苗木は受け止め、壁に寄り添わせた。


    「……!!」


     霧切は、その様に気を取られたモノクマヘッズを振りほどき、鳩尾に拳を一撃入れ、モノクマヘッズは腹を押さえて倒れ込んだ。


    「苗木君っ!」


     霧切が苗木に駆け寄る。脇腹を押さえ、膝を突く苗木に、霧切は苗木の脇腹を覗く。


    「……大丈夫、思ったよりは深くないよ」

     傷は拡がっているが、深さはそれほどでもない。
  55. 55 : : 2014/12/28(日) 12:21:41


    「衣服の上からそのまま包帯を巻くわね」


     苗木は胸ポケットをギュッと握り、目を閉じる。

    「そういえば、彼女がメスを貴方の胸に突き立てた時、もう駄目かと思ったけど……」

     苗木はおもむろに胸ポケットから、それを取り出し、見せた。

    「……これだよ」

    「御守り……?」

     その巾着の御守りから、校章の入ったボタンが出てきた。メスによって、少し削れてしまっている。


    「……これ、貴方の、夕闇高校の制服のボタンじゃない。なんでこんなものを持ち歩いてるの?」

     苗木に包帯を巻く霧切はそれを不思議そうに眺めた。


    「……はは、なんでだろうね」

     茶化す苗木に霧切はため息を洩らしつつも、少しだけ微笑む。

    「……まあ、それにしてもピンポイントでそこに掠めるなんて。流石は超高校級の幸運といったところかしら?」


     それは、何時の日だったか"彼女"に予約されたモノ。だが、その"彼女"はもう居ない。


     "第2ボタン、予約させてくださいね?"


     そんな事を言っていた苗木の憧れた"彼女"の為に、何時の日か全て片付くその日まで、彼はそれを取っておいた。




    「……ありがとう、舞園さん」



  56. 56 : : 2014/12/28(日) 12:40:36



    Epilogue




     未来機関に救援要請した後、苗木と霧切らは地下を後にする。

     モノクマヘッズらは地下の別の個室から、他にも数十人規模で存在していたが、それら全て、何者かによって昏倒させられていた。

     苗木と霧切に次いで、エレベーターを使った誰かがモノクマヘッズ達を倒していた様だ。故に、あの地下2階の最奥までは最寄りの4人しか来なかった。


     大病院を抜け、救援に来た機関員達が罪木らを拘束した。


     絶望は残党へ、絶望の事件にも収束の兆しが見えてくる。


     そして、この日から2日程が過ぎた。



     
  57. 57 : : 2014/12/28(日) 13:01:19

    「あっ、苗木! お腹大丈夫?」

     クルンと巻いたポニーテールが特徴的な褐色肌の少女が、苗木の元にやってくる。

    「うん、大丈夫だよ朝日奈さん、ちゃんと治療もしたし」


    「良かった……そうそう、塔和に向かった十神達から連絡がないの、流石に心配なんだよね……腐川ちゃんも見当たんないしさぁ……」

     あれから時間が経過するも、塔和に向かった機関員からの連絡が無い。十神は高慢な態度で大口を叩くが、実力そのものは本物であり、よっぽどの事でもなければ、仕事をミスするような男ではないのだ。


    「私、これから霧切ちゃんと例の子の聴取なんだよね……ほら、霧切ちゃん、苗木と大病院に向かった日に仕事すっぽかしちゃったから」


    「ああ、うん……結局、ボクに付きっきりで怪我の具合とかも見てくれたし……ホントに悪いことしたよ」


     苗木と霧切が病院に向かった日、霧切は他の絶望の残党の聴取を任されていた。本部から押し付けられる形で14支部に拘束している彼等だが、霧切はどうも、その本部の態度に辟易していた様だ。
  58. 58 : : 2014/12/28(日) 13:19:49


    「うん、わかった、ボクが交信を続けるよ。じゃあ、例の子……お願いするよ」

    「うん、こっちは任せて、それじゃ」

     朝日奈は軽快に去っていく。彼女は十神を苦手としているが、やはり、仲間である以上は心配なのだ。



    *


     聴取室、いや、尋問部屋には、防弾ガラス越しに彼女が居り、対面する朝日奈から目を背け、俯くばかりだ。

    「……」

     壁に寄りかかる霧切からも目を背け、彼女は何も語らない。

    「ねえ、霧切ちゃん、やっぱり……」

    「……そうね、第一、尋問なんて、本部の上層のお考えはさっぱり理解不能だわ……一旦、休憩しましょう」


     朝日奈と霧切は顔を見合わせ、聴取室を出る。視点の定まらない少女は俯くばかり。



    ─────否、見ている。自分の腹を。

     そして、自分の下腹部を擦り、少しだけ、笑みをこぼした。


    「……ねえ」


     問うても誰もそこには居ない。


    「……そう、思いますよねぇ」


     賛同しても誰もそこには居ない。


     虚ろな少女は、未だ、幻惑の中。



  59. 59 : : 2014/12/28(日) 13:37:32


    *


    「……っと」


     苗木は交信機の回線をオンにする。

     サポートの機関員から聴いた話では、塔和方面は強力なジャミングが張られているらしく、こちらから交信を行うことが出来ない。

     だが、苗木は待ち続ける。信じているのだ。


    *


     後にきた朝日奈や霧切、他の機関員と交代し、休憩を入れながらだったが、殆どは苗木が張り付いていた。

     そして1日が経過、コンタクトを求めるランプが点灯しているのに気付く。


    「……もしもし、こちら未来機関です!」

     必死に応えるも、ジャミングのせいなのか、ノイズが酷い。

     しかし、やがて、緩やかにシルエットが取れていく。

    『……き……す……か……おーい……』

    「はい、聴こえます」

     そして、ノイズが徐々に晴れていく。

    「……こちら、未来機関第14支部の、苗木誠です」



    『お、お兄ちゃん……!?』 



     それは苗木にとって意外な人物との再会だった。


  60. 60 : : 2014/12/28(日) 15:35:19


    *



     独り、幽鬼の様な男が歩く。

     手に持っていたのは、病院で霧切達が覗いていた手記の入った、その他の資料を雑に詰め込んだバッグ。


    「……あそこには、"彼女"は居なかった」


     独り言をぼやく。バッグを放り、それにポケットから出したアルコールの入った瓶のキャップを開け、それにかけていく。

     瓶を投げ捨て、今度はマッチを取り出し、火を着け、それをバッグに放る。

     一瞬で燃え、資料は灰となって風の中に消えていく。


     腰の位置よりも長い黒髪を揺らし、彼は、次の目的地へと目をやった。



    「……塔和シティ」



     彼の位置から塔和シティまで、もう目と鼻の先。


     カムクライズルは、利用した彼女を、今度は利用する為に、向かう。





    ────日向に咲く花は枯れず。



     日陰より(いず)る為に、



     今はまだ、陰の中で咲く。







    ……To be 絶対絶望少女

     and next スーパーダンガンロンパ2

  61. 61 : : 2014/12/28(日) 15:39:02

    独自解釈と、考察wikiを参考に書かせて頂きました。

    元来のSSといった外伝的な感じにしてみたかったのです……

    時間軸的には絶女本編手前から、絶女での塔和タワー辺りまで。



    ではお目汚し失礼しました。
  62. 62 : : 2014/12/28(日) 23:10:15
    素敵な小説ありがとうございました!(宣伝大会主催者より)
  63. 63 : : 2014/12/28(日) 23:13:15
    >>62
    有難うございますっ
  64. 64 : : 2014/12/29(月) 08:30:52
    一気に読ませていただきました!

    細かいことですが、セリフの前に名前がないのいいなと思いました。
  65. 65 : : 2014/12/29(月) 12:16:02
    >>64
    名前を書き足すと地の文が生きないですからね。
    有難うございますっ
  66. 66 : : 2016/12/12(月) 19:19:05
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    男露888:http://zzleshirts.com/p349.html
    五便宝:http://zzleshirts.com/p238.html
    同仁烏鶏白鳳丸:http://zzleshirts.com/p255.html
  67. 67 : : 2020/10/26(月) 14:28:34
    http://www.ssnote.net/users/homo
    ↑害悪登録ユーザー・提督のアカウント⚠️

    http://www.ssnote.net/groups/2536/archives/8
    ↑⚠️神威団・恋中騒動⚠️
    ⚠️提督とみかぱん謝罪⚠️

    ⚠️害悪登録ユーザー提督・にゃる・墓場⚠️
    ⚠️害悪グループ・神威団メンバー主犯格⚠️
    10 : 提督 : 2018/02/02(金) 13:30:50 このユーザーのレスのみ表示する
    みかぱん氏に代わり私が謝罪させていただきます
    今回は誠にすみませんでした。


    13 : 提督 : 2018/02/02(金) 13:59:46 このユーザーのレスのみ表示する
    >>12
    みかぱん氏がしくんだことに対しての謝罪でしたので
    現在みかぱん氏は謹慎中であり、代わりに謝罪をさせていただきました

    私自身の謝罪を忘れていました。すいません

    改めまして、今回は多大なるご迷惑をおかけし、誠にすみませんでした。
    今回の事に対し、カムイ団を解散したのも貴方への謝罪を含めてです
    あなたの心に深い傷を負わせてしまった事、本当にすみませんでした
    SS活動、頑張ってください。応援できるという立場ではございませんが、貴方のSSを陰ながら応援しています
    本当に今回はすみませんでした。




    ⚠️提督のサブ垢・墓場⚠️

    http://www.ssnote.net/users/taiyouakiyosi

    ⚠️害悪グループ・神威団メンバー主犯格⚠️

    56 : 墓場 : 2018/12/01(土) 23:53:40 このユーザーのレスのみ表示するこの書き込みをブックマークする
    ごめんなさい。


    58 : 墓場 : 2018/12/01(土) 23:54:10 このユーザーのレスのみ表示するこの書き込みをブックマークする
    ずっとここ見てました。
    怖くて怖くてたまらないんです。


    61 : 墓場 : 2018/12/01(土) 23:55:00 このユーザーのレスのみ表示するこの書き込みをブックマークする
    今までにしたことは謝りますし、近々このサイトからも消える予定なんです。
    お願いです、やめてください。


    65 : 墓場 : 2018/12/01(土) 23:56:26 このユーザーのレスのみ表示するこの書き込みをブックマークする
    元はといえば私の責任なんです。
    お願いです、許してください


    67 : 墓場 : 2018/12/01(土) 23:57:18 このユーザーのレスのみ表示するこの書き込みをブックマークする
    アカウントは消します。サブ垢もです。
    もう金輪際このサイトには関わりませんし、貴方に対しても何もいたしません。
    どうかお許しください…


    68 : 墓場 : 2018/12/01(土) 23:57:42 このユーザーのレスのみ表示するこの書き込みをブックマークする
    これは嘘じゃないです。
    本当にお願いします…



    79 : 墓場 : 2018/12/02(日) 00:01:54 このユーザーのレスのみ表示するこの書き込みをブックマークする
    ホントにやめてください…お願いします…


    85 : 墓場 : 2018/12/02(日) 00:04:18 このユーザーのレスのみ表示するこの書き込みをブックマークする
    それに関しては本当に申し訳ありません。
    若気の至りで、謎の万能感がそのころにはあったんです。
    お願いですから今回だけはお慈悲をください


    89 : 墓場 : 2018/12/02(日) 00:05:34 このユーザーのレスのみ表示するこの書き込みをブックマークする
    もう二度としませんから…
    お願いです、許してください…

    5 : 墓場 : 2018/12/02(日) 10:28:43 このユーザーのレスのみ表示する
    ストレス発散とは言え、他ユーザーを巻き込みストレス発散に利用したこと、それに加えて荒らしをしてしまったこと、皆様にご迷惑をおかけししたことを謝罪します。
    本当に申し訳ございませんでした。
    元はと言えば、私が方々に火種を撒き散らしたのが原因であり、自制の効かない状態であったのは否定できません。
    私としましては、今後このようなことがないようにアカウントを消し、そのままこのnoteを去ろうと思います。
    今までご迷惑をおかけした皆様、改めまして誠に申し訳ございませんでした。

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