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このSSは性描写やグロテスクな表現を含みます。

この作品は執筆を終了しています。

『眼のフィリア』

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  1. 1 : : 2017/03/09(木) 20:54:09

    アナル。
    今回はふじやまさん主催の『春のコトダ祭り』に参加させていただいております。


    ジャンル:ホラー

    指定登場人物
    ・苗木誠
    ・日向創
    ・赤松楓
    ・最原終一

    テーマ:陰と陽

    キーワード
    ・友情
    ・Chapter1
    ・部屋
    ・交錯
    から2つ選択

    参加者
    ・風邪は不治の病さん
    ・私
    ・Deさん
    ・スカイさん
    ・シャガルさん
    ・ゼロさん
    ・herthさん
    ・カラミティさん
    ・ふぃんさん

    毎度のことですが、ネタバレやキャラ崩壊が相当ひどいです。ご注意ください。
  2. 2 : : 2017/03/09(木) 20:54:48



    春の陽射しが暖かく、世界は新しい季節の始まりに高揚して花びらを舞い踊らせる。



    それとは裏腹に、無惨に傷つけられて亡き者となった身体を見ながら犯人の足取りを掴まんとする最原終一の気分はよろしくなかった。






    「また、か……」






    最原は『食人事件』の被害者の一人と見て捜査を開始した。













    ───食人事件。




    聞いていてよろしい名前ではない。

    内容を要約すると、この辺りで若い女性が身体の一部を喰われて殺害されているというもの。

    未知なる生物の仕業ではないかとも言われており、現在警察も捜査が滞っているようだ。


    被害者の持ち物から何かが持ち去られたような様子はなく、金銭などの目的ではないようだ。







    (女性を喰らうこと自体が目的、か)










    最近浮気やDVに関する依頼も多いからか、女性という生物の扱い方に随分と慣れてきたものだ、と思っていた。

    だが今回はそんなレベルでは到底ない。

    痛々しい傷痕と食い破られた皮膚の数々がその不可思議さと不気味さを物語っている。







    「まあそんなこともある、じゃ許されないよな…」

    「最原!」


    突如名前を呼ばれて振り返ると、いつもの姿が近づいてきた。

    スラリと伸びた長身に、更に小顔を引き立てる短髪。

    希望ヶ峰学園予備学科の生徒のひとりであり、最原終一の助手・日向創だ。
  3. 3 : : 2017/03/09(木) 20:55:47



    日向はすまない遅れた、とだけ言うと目の前の死体を確認した。


    「また例の……なのか?」
    「うん、特徴が同じだ」


    食い破られた肌、赤黒い傷痕。

    そして。



    「眼……だな」








    綺麗さっぱりくり抜かれた片目。



    「いつも片目だけが失くなってる……誰かが持ち去ったのか?」
    「……多分ね」


    最原は曖昧な返事しかできなかった。











    ───同時刻。


    希望ヶ峰学園分校・才囚学園でも捜査は行われていた。






    「なかなか情報集まんないねー」
    「うん……そうだね」

    赤松楓と苗木誠はこの学園で小さな事件を追っている。








    それが、あの、パンツ盗難事件。







    そう、パンツ盗難事件なのだ。








    繰り返し言うが、パンツ盗難事件である。









    何度も言うが、

    「ていうか、霧切さんは?彼女が来てくれたら一発だと思ったんだけども」

    「霧切さんは今カナダだよ」


    大事件を追って一時的にカナダまで旅立っている霧切。対称にちっぽけな事件に駆り出される、霧切の助手であった苗木。


    「それに……ただの下着泥棒なら霧切さんは結局ボクに押し付けると思うんだ」




    「う〜ん……霧切さんも、優しくないよね」
  4. 4 : : 2017/03/09(木) 20:58:47



    内容としては本当に陳腐なものだった。



    希望ヶ峰学園分校・才囚学園にて女子生徒の下着が一着盗難に遭ったのだ。
    調べた結果春川魔姫のものが盗難に遭ったと発覚。


    常日頃から洗濯をしている東条がその日下着が一着だけ足りないことを発見、それが女子に伝わってことが大きくなった。



    それだけならまだよかっただろう。


    さらに悪いことに、数日かけて少しずつ捜査していく最中、新たに白銀つむぎの下着も盗難に遭った。

    彼女自身は「前に生理で汚れてしまったものだから別にいい」とは言っていたが……。





    「全く手がかりが見つからないんだけど、監視カメラとかないの?」
    「あるにはあるけど……」

    赤松は廊下の天井を指差す。

    「あれ誰か管理とかしてるのかな……?」
    「ええー……」



























    「はぁ……全く足取りが掴めないね」
    「本当にな……また被害者が出ちまうぞ」


    夕方から捜査を始めたはずが、二人はすっかり謎と一緒に夜の闇に飲み込まれていた。


    「じゃあ……明日僕の部屋で」
    「遅くなってもいいか?」
    「あ……そうだったね、構わないよ」



    二人は初対面であるかのようなぎこちない挨拶を交わして互いの校舎に戻っていった。
































    「 はぁ 」























    「 次は誰かな 」



  5. 5 : : 2017/03/09(木) 20:59:38



    「おはよう、赤松さん」
    「あ、おはよう!」


    いつものように赤松と挨拶を交わし、いつものように二人で食堂に入る。
    こんな、なにげない日常にドキドキするようになったのはいつからだったか。
    彼女の目を見る度、心臓の鼓動が早くなる。


    ……告白なんてできないけれど、自分のものにしたいって気持ちは溢れるほどだ。








    「御早う、お二人さん」






    細くてまっすぐな木のように、スラリとした高身長と無機質な不気味さ。

    「お、おはよう真宮寺君」
    「ククク……何時(いつ)も仲良しだネ」
    「あはは」


    トレイを運ぶ東条とそれを手伝うキーボ。
    何一つ変わらない風景だ。
    この風景に、この日常に亀裂が入るとすれば、それはきっと。


    「終一!パンツ泥棒見つかったか!」


    隣に座ってぐいっと肩を組んできた百田によって、最原の悪しき思考は断たれた。



    「まだ全然だよ……茶柱さんは男子が怪しい男子が怪しいって話聞こうとしないし。っていうかそっちは僕の担当じゃ……」
    「まあ男子(オレら)が怪しいってのは否定できねぇがな……」



    「けど世の中では女同士の恋、いわゆる百合ってやつが流行ってるからな!女子連中だってシロってわけじゃねえぜ!」

    「男死はすぐにそうやって責任転嫁!ああ、これだから男死は!!」

    「可能性の話じゃねーか、あくまでもよぉ」

    「あのさー、メシ食ってるときに()っっっったないパンツの話すんのやめてくれる?」


    王馬がココアをかき混ぜながら二人に視線を向ける。


    「汚いとはなんですか!春川さんの下着も白銀さんのも綺麗ですよ!」

    「茶柱、やめてくれる?逆に余計なお世話」
    「わたしのはまぁ……うん、汚れてたっちゃ汚れてたし」



    「大丈夫、私と苗木くんでなんとかするよ。まぁどうしようもなければ最原くんの力を借りたいところだけど……」
  6. 6 : : 2017/03/09(木) 21:00:26


    「おはよう、日向」

    まだボーッとしてる頭のまま声の主を探す。




    「小泉か、おはよう」

    赤とも茶とも言えぬボブカットが特徴の、少し勝気な女子生徒。




    「大丈夫?アホみたいなツラしてるけど」
    「まだ、寝ぼけてるんだよ」

    俺が本科の生徒だったらもう少し言葉を選んでくれるんだろうな、と思いながら会話を続ける。



    「しっかりしてよね。予備学科の連中で見られるのなんてアンタくらいなんだからさ」



    そう言い捨てて彼女は本科の友達のもとへ走っていった。




    俺を、見てくれている。



    そうだ、俺を見てくれているんだ。



    最原もだ。
    俺を見ていてくれたから、俺を助手に選んでくれた。


    だから俺は応えなきゃならない。
    報いなければならない。



    最原を支えるのは、助手である俺だ。
    「探偵」を支えてるのは「俺」なんだ。




    「だりぃな〜」
    「今日も掃除か……教室行きたくねぇなぁ」
    「可愛い子だったらまだいいけどよ」




    そうか、今日は「掃除」だった。





    「嫌だなー……」


    先ほどとは打って変わって、肩を落としながら予備学科の校舎に入っていった。
  7. 7 : : 2017/03/09(木) 21:01:24


    夕方、最原が今日の授業を終えて自分の部屋へ戻るとき。



    一階で百田と予備学科の二人が揉めていた。




    「だから、いいっていいって。疲れるだろー?」
    「いや、でも……」

    「百田くん、どうかした?」
    「おう終一、こいつらがよ」


    なるほど、そうか。今日は4月の17日。

    予備学科の生徒は、「奇数日には手分けして希望ヶ峰学園本校と、その分校である才囚学園(この校舎)の掃除」をしなければならない。
    人数が多いので教室やら共有スペースやら適当に振り分けられて掃除させられるのだとか。



    百田はこの学園は東条が定期的に掃除してるからそんなに念入りにやらなくてもいいと言いたいのだが、彼らは「やらないと怒られるから」と一点張りだそうだ。


    「んなもん……自分たちと関係無いとこ掃除したって虚しいじゃねぇか。それに、ここまで来りゃあ誰も見てないんだからよ」
    「そりゃ、そうっすけど……」

    彼ら、完全に上の思想を植え付けられてるな、と思いながら最原も百田もその場を後にした。





    彼らの掃除が終わる頃、最原は自身の研究教室に向かった。

    椅子を並べ、食人事件の資料をまとめる。





    「最原クン、こんばんは」


    入ってきたのは苗木誠。
    赤松も一緒だ。

    そのしばらく後に日向が来て、今日の「会議」が始まる。




    いつからかこの部屋は、最原たちの会議室になっていた。

    事件の情報が飛び交う場所は、居心地が悪くない。



    「女性への暴行が目的?」
    「暴行というより、うーん……言葉が見つからないんだけどね。金銭が奪われたような痕はないんだ」
    「被害者の共通点は?」
    「それが……まだ分からない。年齢は10代から20代の若い人たちだけど、決め手には欠ける」







    「東条さんが犯人の可能性?」
    「うん……だって皆の衣類を洗濯してたのは東条さんだし……」
    「けど彼女が他人の下着を盗む理由がないよ」





    「解決できそうなの?最原クンの方は」
    「どうかな……少し難しいんだ」


    最原は曖昧な返事しかできなかった。


    「折角日向くんが居てくれてるのに、頼りなくて申し訳ないよ」
    「それは違うぞ。最原は俺にとって頼れる人だよ」





    最原はその言葉が少し嬉しかった。
  8. 8 : : 2017/03/09(木) 21:04:29


    「会議」を終え、苗木・日向はそれぞれの校舎へ、最原・赤松は自室へと戻る。



























    「日向クン」
    「ん?」


    「赤松さんって、どういう人?」
    「何だ?急に…」


    「いや、ボクは彼女がどういう人間かあまり知らないからさ」
    「俺もほとんど分からないな。最原が詳しいんじゃないのか?」


    「二人とも、何の御用かしら?」





    女性でありながら日向に引けをとらない高身長と、整った美しい顔立ち。


    「あ、じゃあな、苗木。俺校舎に戻るよ」
    「あ、うん……」


    どうやら日向は目の前に現れた東条が、予備学科である自分を追い出しに来たと勘違いしてしまったようだ。

    そそくさと帰って行く彼の背中を見守ると、東条と向き直す。


    「ボクも、これから本校舎に帰るところなんだ」
    「そうだったのね。二人で立ち止まっていたから、道にでも迷ったのかと思ってしまったわ」
    「……いや、東条さんには少し用があるかも」
    「ならば、何でも言って頂戴。私にできることは何でもやるわ」


    石丸とは異なった、慣れない堅苦しさを感じつつも苗木は言葉を前に出した。



    「下着の盗難に気付いた日のこと聞かせてほしいんだ」
    「ええ、いいわよ」


    「私が洗濯物を畳んでいるとき、その日は下着が人数分無いことに気がついたのよ」

    「こう言うのもなんだけれど、彼女らの下着は洗濯をする過程である程度把握していたから足りないのが春川さんのものだってすぐに分かったわ」

    「そ、そっか…」

    「本人に聞いたら洗濯には出したと言っていたから、おかしいと思ったの」

    「春川さんは別に一着くらい大丈夫と言っていたけれど、一着でも盗まれたらきっとまた盗難が発生するわ。そう思って解決すべきだと思ったの」

    「実際そうなったしね……その後は?」

    「赤松さんが捜査を請け負ってくれたわ。勿論、私たちも協力はするけれど」



    その先はもう苗木と赤松の捜査、になるのだろう。
  9. 9 : : 2017/03/09(木) 21:05:47


    捜査も進まない中、また最原の研究教室に集まっていた。


    「やっぱり、人間の犯行……なんだよな?」
    「うん、それは間違いないよ」




    食人事件の被害者はどれも口にガムテープが貼られていた。

    悲鳴をあげるのを防ぐためだろう。

    悲鳴をあげたくてもあげられない様を楽しんでいた……ってのは、考えすぎだろうか。



    「ガムテープを伸ばして切って人の口に貼り付けるなんて、とてもじゃないけど人間以外の生物にはできないしな」

    「ガムテープにも被害者にも指紋は残されていなかった、ね」

    「眼球を綺麗に取るなんてマネが動物にできるとも思えないし」

    「目撃情報でもあればな……何かないのか?」

    「目撃情報……か。あるにはあるんだけど」

    「本当か?」

    「うん。黒いレインコートだって」



    先日の事件で得た情報だ。
    黒いレインコートの男。

    先日の事件でも、その前のときも目撃情報があった。



    「え、ちょっと待て何でそれ俺に言わなかったんだ?」

    「え?いや、日向君はとっくに知ってると思ってたから……」

    「……初耳だよ」

    「あ、二人とも居た居た」


    「赤ま……真宮寺君!?」

    「ククク……君たちが追っている事件に少し興味があるんだ」
  10. 10 : : 2017/03/09(木) 21:15:09


    「食人事件か……実に興味深いネ」

    「そもそも人肉って如何いう味か知ってる?」


    隣で赤松がドン引きしてるのを気に留めず真宮寺は続ける。


    「勿論性別や年齢の違いってあるみたいだけど、概ね仔牛肉に似てると云われているんだヨ」

    「豚肉に近いと言う人もいるみたいだけど。前述した性別や年齢の違いの影響かもネ」

    「へぇ……何か聞きたくなかったな」

    「それと、もう一つ忘れないでほしいことがあるんだ」


    真宮寺は怪しく光る目で3人を舐め回すように見つめると話を続けた。






    「実はカニバリズムはある程度誰もが経験している、ということだネ」






    一同、ギョッと目を見開いて互いの顔を見合わせる。


    「例えば……手の爪の横の皮膚を噛んだり、乾燥した唇の皮とかサ」
    「あ、ああ……なるほど」


    「まぁ此れ等はオートカニバリズムと云って、君達の追ってる事件の其れとはまた異なるんだけどネ」

    淡々と話す真宮寺。
    まるで当たり前のことのように抑揚のない声音だ。


    「犯人はまだ見つかってないんでショ?」

    「うん……どうも決め手に欠ける情報ばかりで」

    「そうか……しかし食人なんてものが此の時代に行われるなんて、何十万年も前の文化を蘇らせて何がしたいのかな。まぁ、食人文化自体は地域によっては今も尚続いているんだけどネ」

    「昔から存在してる民族とか、だな」

    「うん?まぁ……うん、その通りだヨ」


    気持ち悪くなるほど彼の知識が光り輝く時間だった。










    そのときの話は忘れられないまま時は過ぎ。


    一週間後、事件はまた起きた。
  11. 11 : : 2017/03/12(日) 09:20:10


    「またか……また女性……」
    「……いったい誰が」


    最原と日向は同時に溜息をつく。これで七人目だ。
    魔王が復活するには充分な人数が殺害されている。



    「よし、じゃあ……やるか」
    「……うん」


    警察も慌しく動く中、二人は捜査に取り組む。





    最原は死体を、日向はその周辺を調査。
    調べてみるといろいろなことに気がつく。




    (傷………)





    これまでは腹を食い破られ、その他に腕や脚に少しだけ食い千切られたような痕跡があったのに対して、今回は違う。

    生殖器に当たる部分が抉られていた。

    グロテスクな断面と臭気に吐き気を抑えながら恐る恐る確認すると、何度も執拗に喰われたような痕がある。
    よく見ると他の欠損した部位も同じような傷だ。

    それだけではない。最原はもう一つ違和感に気がついた。
    それは、この死体と御対面する前からの違和感だった。







    (何で、こんなところで殺されたんだろう?)







    これまでは希望ヶ峰学園付近の路地裏で事件は起きていた。

    だが、今最原たちがいるこの場所はどちらかというと才囚学園側に近いのだ。

    その距離の違いはほんの少しのものだが、今までとは確実に何かが違う。




    (………)





    「日向くん、交代しない?」

    「ああ、そうだな」
  12. 12 : : 2017/03/12(日) 09:20:43



    死体を見た日向は真っ先に気がついた。



    「眼が……ある」



    いつもは片目をくり抜かれているはずの死体が、今回はそれが両方存在していた。




    (何でだ……?誰が……)



    日向は死体の傷口を凝視した。
    喰われた箇所の傷も少しだけ異なる。
    まるで顎の力が足りなくて噛みきれなかった牛肉のような断面だ。


    (何度も喰った……のか?)

    「こっちは、何も無いね」
    最原が捜査を終えて戻ってくる。




    「なぁ、最原」
    「ん?」
    「これ、どう思う」


    日向が手にしているのは、被害者の下着。


    「何って……パンツだよね」
    「いや、そうだけど」






    「コレだけ、綺麗なんだよ。血が少ない」





    ───確かに。
    被害者の服は血で汚れている。
    当然だろう、身体を生で食われているのだから。
    けど日向の言う通り、下着には血がほとんど付着していない。
    股間部分が失くなるほど食われているにも関わらず、だ。
    まるでそこだけは丁寧に脱がせたかのような。




    「もう少し、被害者のこと調べよう」

    最原は死体のそばのバッグを開けた。











    「最原クン、呼んだ?」

    苗木が最原の研究教室に来て、いつもの四人が揃う。
    その他に今日は二人追加だ。



    「最原君、何でわたしたちまで?」
    同席している白銀つむぎが問う。

    「下着ドロの件でしょ」
    春川魔姫はつまらなそうに応える。




    「うん、まぁそうなんだ」
    春川の様子を見て、手早く終わらせなきゃなと思いながら最原は話を進める。

    「えっと……白銀さん、下着の話で申し訳ないんだけど」
    「あ、うん……それは大丈夫。どうせわたしそんな大した女ではないし、解決してくれるなら地味に協力しなきゃね」
    「……うん」

    女性に対して穿いていた下着のあれこれを聞くのは気が気でない。


    「下着は汚れてたものって言ってたよね?」
    「さ、最原……聞き方……」
    「うん……前に生理で汚しちゃって。ナプキン鞄の方にあったからちょっと……」

    日向の必死のフォローも虚しく白銀は淡々と対応する。

    「もしかして、春川さんもそうだったんじゃない?」
    「えっ……」
    「さ、最原……聞き方……」


    「……まぁ、そうだけどさ」


    春川はぷいっとそっぽを向いて応えた。
  13. 13 : : 2017/03/12(日) 09:21:32


    「で、これが何になるの?」

    人差し指で顎をかきながら苗木が問う。




    「この前の……七人目の被害者を調査していて、今までの食人事件とは異なる部分がいくつかあったんだ」

    「それで、被害者のことも前より詳しく調べてみた。被害者の身元だけじゃなく、その状態まで」

    「状態?」

    判定の大きい言葉に春川が興味を示す。
    最原はうん、とだけ返事を打つと一呼吸置いてから続けた。









    「結論だけ言うと、食人事件と下着盗難事件は関係してるのかもしれない」










    あまりに過程をすっ飛ばした結論に皆は二の句が継げない状態だった。




    「七人目の被害者は腹部を喰い荒らされていた今までと違って、何故か股間部分が大きく削られていた」
    「あ、ああ……そうだったな」

    「七人目の被害者の荷物を調べたところ生理手帳が出てきてね」

    「真っ最中だったって……ことかな」

    白銀の言葉に最原は無言で頷く。


    「あれほど肉を削がれていたにも関わらず下着には血が少ししか付着していなかった。多分先に脱がせたんだろうね」


    「もしこの二つの事件が入り混じっていたとしたら、今までの被害者も多分そうだったんじゃないかな」
    「でもつまりそれって」










    「下着ドロだけじゃなく人喰いも私たちの中にいるってことにならない?」


  14. 14 : : 2017/03/12(日) 09:22:18


    「えっ……」
    「けど、あくまで仮定の話だよね?」


    「うん。下着を盗むこと自体と人を喰うこと自体がそもそも繋がらないからね」

    「けど、この二つが同一人物による犯行かもしれないってのは念頭に置いててほしい」

    「僕もまだ確証は持てないけどね。悪く言えば、まだ被害者が増える必要があるのかも」


    「さ、最原クン……それはやめよう」
    「冗談さ……さすがにこれ以上好き勝手させられないよ」




    ──────






    ────────────









    「おや?」




    自身の研究教室にいた真宮寺是清のもとにノックの音が飛び込んだ。




    「やぁ、日向君か」

    「王馬君や茶柱さんの目を掻い潜って来たんだネ」
    「真宮寺、忙しかったか?」
    (いや)、全く。如何かしたのかい?」

    「よかった。話がある」

    「七人目の被害者について」



    真宮寺の目が細まる。




    「説明してもらえないか」
  15. 15 : : 2017/03/12(日) 09:23:05


    時は過ぎゆき、4月も既に30日。



    夕方には既に郊外にも帰り道を歩く人たちが出始める。


    桜舞う季節に似合わぬ大雨に見舞われる中、歩みを止めた。








    腹と性欲を満たすそのために。






    何日も観察を続けたが、実行は今日しかない。





    今日を逃したらまた時間を食うだろう。






    帰宅ルートも何度も確認した。






    ゴミ袋の山に紛れて、真っ黒いレインコートが存在を消す。










    ……来た。








    間違いない、彼女だ。










    傘をさしているが、関係ない。











    後ろから少しずつ近づく。











    制服姿の細い首を締め、建物の壁に叩きつける。











    ゲホッと咳込みながらこちらを見る眼は怯えている。











    まずはガムテープで口を塞いだ。












    雨に濡れてもしっかりと機能してくれている。












    口が使えなくなったら、恐怖で暴れようとする。












    まずは脚の方がいいか、いや、手の方がいいだろうか。











    どこにでも売っているマスクを降ろし、「食料」に対して口を大きく開けた。























    「──────概ね仔牛肉に似てる、だっけ?」
  16. 16 : : 2017/03/12(日) 09:23:48


    女性に馬乗りになったまま、声のする方向に首を向ける。



    「ねぇ、日向君」

    食人嗜好(カニバリズム)なんて、随分面倒な性癖だね?」




    真っ黒い傘をさした少年は不気味な笑顔でこちらを見ていた。










    「……最原」

    「何で、お前が」


    「僕も調べていたから」
    「……何?」




    「最初の食人事件の目撃者から全てを聞いたんだよ。君を匿う、という条件付きでね」


    「最初の……目撃者……」






























    ──────真宮寺是清。



    俺の犯行の口止めに「リスト」を渡してきたあの男だ。













    「彼は君の犯行を黙っているのを条件に、犯罪者を記した『殺害リスト』を君に渡した」

    「本当に犯罪者を記したのかは置いといて、君にとっても都合が良かったんだよね?『御馳走』に困らないワケだし」

    「殺して喰った後は知らないフリしときゃいいんだし。そう……僕と一緒に『捜査』していたように、ね」





    真宮寺が「犯罪者を記した」と言って食事中の俺に渡してきたあのリスト。


    学生から大人まで、女性が何人も載っていて、一人ひとり住所から何から細かく記載してある。
    奴が俺の犯行を黙っているのを条件に俺はそのリスト通りに殺害を行なっていた。





    …………全て、最原の言っている通りだ。

  17. 17 : : 2017/03/12(日) 09:24:17


    「お前……いつから知っていた?」

    「お前がここに来た……いや、来れたということは、少なくともお前も『リスト』を持っている」

    「それに、お前の捜査は明らかにおかしかった!」

    「まるで事件を解決する気がないかのような(・・・・・・・・・・・・・・・・)!」

    「下着泥棒と食人事件が絡んでいるなんて見え透いた嘘をついて、分かっていることを分からない振りをしていた!」

    「お前ほどの推理力を持つ人間ならこんな事件はとっくに解決してただろ!」







    「そうだね」

    最原は傘をくるっと回して雨を弾くと、またニヤリと笑った。











    「君は『偶数日』の『この時間』でなければ犯行ができない」

    「犯人はいつも『被害者の下校・退社時間』を狙っていた」

    「『奇数日は本校舎・分校舎の掃除で下校が遅れる』予備学科生にしかできないトリックさ」

    「ああ、ちなみに僕が『リスト』を持ってたのは最初からさ。偶然真宮寺君の研究教室を訪れたときに発見したんだ。勿論、最初の食人事件のときは真面目に捜査したよ。二人目からはまさかソレがこんな風に繋がるとは思ってなかったけどね」






    淡々と話す最原は事件の捜査をする真面目な最原とは最早別人だった。

    事件を解決しまいと俺と手を取り合う最原はもうここにはいない。
    俺を手の平で踊らせることに飽きて、つまらなそうな顔で俺を見下しているのだ。

    これが、こいつの裏の顔なんだ。
    最初から全てを知っていて、それでいて表向きは協力し合っていた。
    ああ、なんと薄っぺらい関係だろうか。





    けど、最原から見た俺もそうなのかもしれない。

    表向きは探偵という立場を支えてくれる助手。

    裏では、食人嗜好のクレイジーな殺人鬼。




    表と裏、陽と陰。




    俺たちは、似た者同士なのかもしれないな。











    「さて、話はこれだけかな?」
    「いや、まだだ!」


    「お前……何故俺を『匿う』と言った?」




    ああ、それね、と軽い返事をすると最原は手振りを加えて話し出す。





    「僕が君を匿う理由は二つある」
  18. 18 : : 2017/03/12(日) 09:24:45


    「二つ……?」



    「うん。一つは……僕は警察じゃないし、警察の関係者でもない。それ故に、君に手錠をかけて豚箱に入れることなんてできないのさ」

    「そしてもう一つは」



    言うと同時に傘より前に突き出したピースサインの指を片方折り曲げる。
    空へ人差し指を向ける形になっている。














    「僕が君から『お(こぼ)れ』を貰っていたからさ」
















    「お溢れ……だと?」
    「ふふ」

    最原の眼に前以上の狂気が宿る。

    「わかってたんじゃないの?君ほどの勘の鋭さがあるならさ」

    「君がいてこそ僕が、僕がいて君が成り立っているってことを」

    「何を言っている!」

    伸ばしていた指先を曇天から日向の方へビシッと向ける。












    「陰陽互根……というヤツさ」










    「君が事件を起こせば、僕は探偵として活躍できる」

    「君が起こした『事件』という明から、僕は暗で『お溢れ』をいただいていたんだよ」

    「『君が犯人で僕は探偵』。敵対する・相反する関係に見えるけど、実は僕らはこの関係であることで成り立っていた。寧ろこの関係でなければ成り立たなかったんだよ」


    「何の……事だ」


    「君はリスト通りに『犯罪者』を消して、尚且つ自分の欲求を存分に満たすことができる。僕はそのお陰(・・)で探偵として活躍でき、尚且つ『欲しいもの』を手に入れられる。真宮寺君もきっと、君の活躍で何らかの手間が省けている筈だよ」






    「つまり、僕らは『陰と陽』の関係にあるのさ」






    最原の狂気を後押しするかのように彼の背景で一筋の雷が光った。

    何処か遠くに落ちたのであろうその雷は、最原が俺に向けて打ったものなのではないかとさえ考えてしまった。




    「解ったかい?だから僕は君を告発も通報もしないし逮捕もしない。問い詰めることもない」

    「もっと君に『活躍』してもらわないと困るんだよ。僕も君もね」

    「これからも頼むよ…………食人事件の犯人・日向創」

    「…………ああ、そうそう」
  19. 19 : : 2017/03/12(日) 09:25:43

    日向に背を向けた最原は、もう一度正面を向き直す。

    「その人のことだけどさ」

    最原が指差したのは、これから食人事件の八人目の被害者となる女性。
    ここまで話をしていて、日向に馬乗りにされて腕を掴まれているこの女性は全く抵抗もせずに空気を読んでいた。

    大した女性だ。
    空気を読もうが読ままいが、貴女が喰い殺される未来は変わらないというのに。





    「食人事件の犯人として、君がその人をどれだけ醜く殺そうが構わない」

    「どれだけ喰おうとも、捜査しかしない僕の知ったことではない。ないんだけどもさ」

    「ないんだけども、」

    人を見下した、不敵な笑みで言い放つ、その言葉。
























    「眼球だけは、残しておいてよね。僕の目的はそれ(たからもの)なんだからさ」
















    日向の中で、自分に分からなかった全てが繋がった。

    くり抜かれた眼球は、こいつが持っていたんだ。

    眼球性愛(オキュロフィリア)、というやつだ。


    「さて、雨も強くなってしたし君にとっても邪魔だろうし、そろそろ帰ろっかな」
    「待て」
    「何かな」
    「一つだけ……お前に言うことがある」
    「ん?」




    「七人目の殺害は、俺じゃない」





    「だろうね」






    「正直焦ったよ。僕の知らないところで起きた出来事だったからね。被害者もリストの外の人間だったし、今までとは明らかに違う犯行だ。お陰で『回収』もできなかった」

    「だから、それだけは『解決』しなくちゃいけないよね?」
    「そっちの方なら、もしかしたら僕が研究教室で言ったように下着泥棒と関連してないとも言えないしさ」
    「そ、それは………」


    「……よろしく頼むよ、日向君(相棒)








    それだけだった。

    不気味さを、不可思議さを、謎を疑問を、ドス黒さを残したまま、最原終一は今度こそ食人鬼と本日の晩餐を残して雨の中に消えた。























































    「雨、止まないな」

    雨の街から帰った最原は制服の上着を脱いでベッドに座り込む。



    「にしても言い過ぎたか。日向君にも悪いし、『お宝』の『回収』は今回諦めようかなぁ」


    「なんたって、もう沢山あるしね」




    最原は眼球を詰めた瓶を凝視する。

    これがある限り誰も部屋に入れられないが、誰も部屋に入れる気はない。
    誰でも入れる研究教室に置いておくのは危険すぎる。

    何より、これは手元に置いておきたい。


    「……セピア、金眼、空色、コバルトブルー、緑、翠、碧、エメラルドグリーン……こっちは赤眼……」


    「ふふふ…………どれも綺麗だよ」


    「けど……足りない。足りないよ……欲しい、もっと素敵な、宝石よりも綺麗で、星よりも輝く、命のように尊い………」





    ──────彼女の目を見る度、心臓の鼓動が早くなる。


    ──────告白なんてできないけれど、自分のものにしたいって気持ちは溢れるほどだ。




    「赤松さん…………君の眼が欲しい……」




































    「終一は何処行ってんだ?」
    「食人事件の方じゃろ」
    「例のアレか」

    「じゃあ……いいかな、みんな」


    苗木誠は才囚学園の食堂にいた。
    15人の生徒とともに『解決編』に向けて。






    「捜査の結果、下着泥棒の犯人は赤松さんだと判明したよ」
    「う〜ん……まさかばれちゃうなんて……」




    「バカ松この野郎!引っ掻き回してくれやがって!」
    「な、なんでオメーが……まさか、『そっちの気』かよ?」
    「どうでもいいけど後でパンツ返してよね?一応私のなんだしさ」




    「赤松さんの部屋を調べたのだけども……」

    東条が少し青ざめながら話す。


    「二人の下着の他に、使用済みの生理用品が大量に保管されていたわ………」





    「えっ……あ、赤松ちゃん?」
    「とても赤松さん本人だけのものとは思えない量よ」


    「赤松さん、それについては君の口から詳しく聞きたいネ」



    「う〜ん……」


    赤松楓は態度こそ真剣だがいまいち反省してる様子は見られない。
    苦笑いを浮かべながら彼女はサラッと言い放った。






    「経血って興奮しない?」




    END
  20. 20 : : 2017/03/12(日) 09:31:35

    どうも、あげぴよです。


    「陰と陽」という非常に難しくもいろんな解釈のできるテーマの中思いついたのがこれでした。

    ちなみに選んだキーワードは『部屋』と『交錯』です。


    非常に流れが分かりにくい作品になってしまいましたね。もう少し知識をつけて頭を捻りながら書く必要がありそうです。


    引き続き、他の参加者様方の作品と『春のコトダ祭り』をお楽しみください。
  21. 21 : : 2017/03/12(日) 09:53:00
    日向創:食人嗜好(カニバリズム)

    最原終一:眼球性愛(オキュロフィリア)

    真宮寺是清:シスターコンプレックス

    赤松楓:経血フェチ

    こ、この学園はどうなってるんだ!?

    面白かったです!
  22. 22 : : 2017/03/17(金) 06:34:01
    遅れましたが、タイトルの意味を理解してから読むと更に「お、おお…」となるとおもいます(多分)
  23. 23 : : 2017/03/19(日) 04:26:39
    自分の作品が完結していないのに、我慢できずに読んでしまいました。。

    非常にミステリー(このタイプはフーダニットと呼ぶのでしょうか)要素の強い作品でありながら、謎が狂気を呼び真相を知ってもなお理解出来ない恐怖に襲われるホラーとしても成立している、面白い作品でした。

    読み返したら本当に「お、おお…」と唸ったので、これは是非一度読み返してみることをおすすめします。

    あげぴよさん参加ありがとうございました!お疲れ様でした(^o^)
  24. 24 : : 2017/03/19(日) 21:24:51

    >>21
    >>23
    ありがとうございます!
  25. 25 : : 2017/03/20(月) 23:27:39
    おつかれさまでした!まさかの展開に、ホラーが苦手な僕でも思わず見入ってしまいました!

    本当に面白かったです!アリガトウゴザイマシタ!
  26. 26 : : 2017/03/21(火) 13:00:46
    最原くんの眼球欲しい☆ じゃなくて最原くんが眼球欲しい☆ になっちゃったのか
    原作の☆ちゃんネタから着想を得ていたりする感じですかね?

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