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このSSは性描写やグロテスクな表現を含みます。

この作品はオリジナルキャラクターを含みます。

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月光輝く茨の道

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  1. 1 : : 2016/03/22(火) 19:28:57
    『僕の居場所は』http://www.ssnote.net/archives/43763
    これの続きです。オリジナルキャラクターが一名出ます
  2. 2 : : 2016/03/22(火) 19:30:14
    期待してます
  3. 3 : : 2016/03/22(火) 19:30:38
    >>2
    お早いですね。ありがとうございます!
  4. 4 : : 2016/03/22(火) 20:12:08
    きぃたい
  5. 5 : : 2016/03/22(火) 20:19:38
    ―四月―



    吉時「―――伊東倉元、半井恵仁、林村直人一等捜査官。諸君らを上等捜査官に任命する。本局局長、和修吉時」

    四月二日。新年度初日となるこの日、対策局式典が催された。

    吉時「不知吟士、米林才子、諸君ら三等捜査官を二等捜査官に任命する」

    オークション掃討戦を始めとする諸作戦で功績を挙げたクインクス班の面々は、皆階級を上げた。

    吉時「御影三幸、環水郎、阿原半兵衛、瓜江久生、黒磐武臣、六月透、諸君らを一等捜査官に任命する」

    オークションの情報入手と内部潜入、ビッグマダムの駆逐に貢献したことを受け、六月透は二階級特進を遂げた。そして新たに―――

    吉時「・・・鈴屋什造、和修政、諸君らを特等捜査官に任命する」

    特等捜査官が二人増えた。

    彼等に代表されるように、オークション掃討戦で功績を挙げた捜査官はこぞって階級を上げた。佐々木琲世一等捜査官、彼一人を除いて・・・



    ハイセが失踪―――離反してから幾分かの日々が過ぎた。一般人へはほぼ無害と見られているものの、高い戦闘力とCCGの内情を持つ彼の捜査にはSSレートの肩書に違わぬ警戒がなされ、有馬貴将率いるS3班が当たることとなった。

    しかし、高い知能とCCGでの捜査経験を持つ彼の追跡は困難を極め、未だに手掛かりを掴めずにいる。



    アキラ「全員が昇進とは、立派なものだな」

    不知「どうもっす、アキラさん」

    六月「アキラさんも准特等に昇進されたのですよね?」

    アキラ「ああ」

    瓜江「(この年齢で准特等とは、とてつもない・・・見習わねばな)」

    倉元「よっ、クインクス班の皆さん」

    才子「おっ、くらもっちゃん」

    倉元「班員全員昇進なんて滅多にあるもんじゃないぜ。そこら中君達の話題で持ち切りだよ」

    六月「確か、鈴屋班の方々も・・・」

    倉元「あそこはまぁ・・・前からすごかったから」

    不知「俺達は最初ポンコツだったかんな」

    倉元「そこまでは言ってないって。しっかし、ハイセも馬鹿な奴だよな。俺でさえ昇進できたんだから、あいつも昇進間違いなしだったのに――――――」

    才子「・・・マ、ママン」グスッ

    不知「サッサン・・・」
  6. 6 : : 2016/03/22(火) 20:20:08
    >>4
    ありがとうございます!
  7. 7 : : 2016/03/22(火) 21:34:13
    期待です!
  8. 8 : : 2016/03/22(火) 22:10:09
    倉元「わ、わり・・・軽率だった」

    六月「いえ、倉元さんは悪くありませんよ。いつまでも心を切り替えることが出来ないでいる、俺達の責任です」

    不知「そうだな。いつまでも落ち込んでいる訳にはいかねぇよな・・・」

    才子「ママン・・・」

    瓜江「いい加減にしろ米林。佐々木一等からの手紙に、いつまでもくよくよしていろと書いていたのか?」

    ハイセはシャトーを後にした夜、クインクス班のメンバー各々に手紙を残して行った。その手紙にはそれぞれへの感謝と謝罪の他、指導者(メンター)としての最後の指導が書かれていた。

    不知「そうだぜ。もしサッサンが戻って来た時、お前が前よりデブになってたらサッサン幻滅するぞ」

    才子「うん・・・才子、頑張る」

    不知「おう」

    アキラ「―――全く、ハイセは本当に馬鹿な事をしたな」

    倉元「アキラちゃん、それってどういう意味?」

    アキラ「この場に居れば、ハグしてやったのにという事だ」

    倉元「えっ、マジか」

    アキラ「(それに、部下(息子)達の成長の様子も見られたというのに・・・)」

    瓜江「ところで真戸准特等。新メンターの話はどうなりましたか」

    アキラ「そうだったな、危うく忘れるところだった。以前から新メンターを探しているという話はしていたが、つい先日決定した」

    六月「どんな人だろう・・・」

    アキラ「私から紹介しても良いが、せっかく彼女もこの式典に来ているのだ。初顔合わせと行こう」

    才子「ほほう。どこぞ・・・」

    アキラ「見たところここには居ない。彼女のことだから、会場の外を散歩でもしているのだろう」

    不知「活発な人なんすね」

    アキラ「活発では足りんな」

    瓜江「(つまりは問題児ではないのか?)」

    アキラ「少し外を見に行こう。ついて来い」
  9. 9 : : 2016/03/22(火) 22:11:19
    >>7
    ありがとうございます!
  10. 10 : : 2016/03/22(火) 23:09:46
    超絶ki☆ta☆i
    ふざけてすみません
  11. 11 : : 2016/03/23(水) 00:37:42
    期待です
  12. 12 : : 2016/03/23(水) 19:19:16
    >>10
    ありがとうございます!
    その調子で明るくいきましょう(笑)

    >>11
    ありがとうございます!
  13. 13 : : 2016/03/23(水) 19:53:16
    アキラに連れられ、一同(倉元は離脱)は会場の外に出る。すると、元気に走り回る二人組が・・・

    タッタッタッタッ

    什造「逃がさんですよ~」

    ???「追いかけっこじゃ負けないよ!鬼さんこ~ちら~」

    子供のように一心不乱に走っているのは什造。彼の視線の先では、華奢な体格の女性が幼い笑顔を浮かべて逃げ回っている。というか、鬼ごっこしていること自体子供だ。

    六月「す、鈴屋特等・・・」

    瓜江「(特等が式典会場の外で鬼ごっこだと・・・それでいいのかCCG)」

    アキラ「ふっ、探す手間が省けたな」

    瓜江「えっ!?(何だと!?)」

    不知「あの、アキラさん・・・新メンターが鈴屋さんな訳ないですよね」

    アキラ「当たり前だろう。彼は13区を纏めている身だぞ」

    不知「ですよね」

    瓜江「(ということは・・・)」

    アキラ「早速呼ぼう。ツボネ!」

    ツボネ「あはは!甘い甘い」

    什造「次こそ仕留めるです」

    アキラ「小林ツボネ!」

    ツボネ「おっと!今のはなかなかだったよ」

    什造「ツボネさんこそ、流石ですね~」

    阿原「あの・・・真戸じょ、准特等。先輩方なら名前を呼ぶぐらいでは止まりませんよ。まさしく年中無休」

    アキラ「今すぐ止めろ。右腕なら・・・出来るだろう?」

    阿原「当然至極・・・米林殿、先にお詫びを」

    才子「ほへ?」

    阿原「あー!鈴屋先輩のプリンを米林殿が食べようとしている!!!」

    什造「っ!?」ビクッ

    直後、什造の姿が消える。次の瞬間、彼は才子の目の前に現れ、彼女の胸倉を掴み取った。

    什造「ぬあー!プリンは渡さんですよ!」

    才子「ののののん!私プリン持ってないね!」

    什造「もう食べたってことですかぁ!!?」

    ツボネ「あの・・・什造くん?鬼ごっこの続き・・・」

    アキラ「上司の呼びかけを無視するとは、偉くなったものだな」

    ツボネ「ア、アキラさん・・・この間まで同じだったじゃないですか。それにあなたが階級のことを言います?」

    瓜江「真戸准特等。この人が・・・」

    アキラ「ああ。彼女がクインクス班の新指導者(メンター)、小林(ツボネ)上等捜査官だ」

    ツボネ「やっほー、よろしくね~!」
  14. 14 : : 2016/03/23(水) 20:08:54
    【プロフィール】

    ●小林局(こばやし つぼね) [上等捜査官(71期)]白日庭
    ・23(4/30生)女 ・Blood type:B ・Size:163cm/51kg
    ・Quinque:ガイア(鱗赫-Rate/S+) リヴァイア(尾赫-Rate/S)
    ・Honors:白単翼章、金木犀章
    ・Hobby:ランニング、バイクで走り回る、ゲーム(スマブラ、MGS…etc)
  15. 15 : : 2016/03/23(水) 21:59:55
    六月「この人が新メンター・・・大丈夫ですか?」

    ツボネ「何ですとぉ!?」

    アキラ「諸君らの懸念ももっともだ」

    ツボネ「はいぃ!?」

    アキラ「確かに社会人としては問題ありの人物だ。が、捜査能力は折り紙付きだ。ハイセとはタイプを異にする捜査官でもある。学べることは多いはずだ」

    ツボネ「最初の一文が引っかかるけど・・・そういうわけだから。シャトーの生活には、明日から混ざるね」

    不知「この人も共同生活するんすか」

    アキラ「メンターだからな」

    ツボネ「顔が赤いぞぉ」

    才子「でたっ、班長オブエロ」

    瓜江「・・・(こんな奴の下で、大丈夫なのだろうか・・・)」



    ―都内某所―



    月山「カ・・・ナエ・・・」

    月山「熱い・・・熱いんだ・・・身体だけ煉獄にいるようだ・・・」

    カナエ「すぐに空気をお入れ替え致します・・・」

    ―――ああ、習さま・・・

    月山「・・・苦しい、すごく・・・腹ペコだ・・・なにかないか・・・なんでもいいから・・・」

    おいたわしや・・・
    おいたわしや・・・



    松前「カナエ」

    カナエ「―――松前か」

    松前「習さまの様子は?」

    カナエ「・・・落ち着いておられるだけ、良い方かもしれんな」

    松前「そう・・・なら、今のうちに"収穫"に行くわよ」

    カナエ「――――――このようなことを続けていて、大丈夫なのだろうか」

    松前「・・・良くは、ないでしょう。しかし習さまの為には・・・それとも、習さまを救う手立てがあると言うの?」

    カナエ「・・・・・・(奴ならば・・・いや、)ない」

    松前「なら、続けるしかないわ」

    カナエ「ああ、そうだな」

    カナエ「(あのような者の助け等、借りる訳にはいかぬ。それに奴は――――――)」
  16. 16 : : 2016/03/24(木) 00:20:04
    才能有りすぎやーーー!!
  17. 17 : : 2016/03/24(木) 20:57:39
    >>16
    才能なんて無いですよ。でも、ありがとうございます。
  18. 18 : : 2016/03/24(木) 21:20:04
    ―翌朝、シャトー―



    瓜江「・・・これはどういう状況だ?」

    ドゴォ バキィ

    『PKファイア』

    ツボネ「なんのっ」

    才子「ぬおっ、これを躱すか!」

    ガッ ドンッ

    『せいやぁ!』

    ツボネ「スマッシュボールもらい!」

    才子「ふふふっ、簡単に当てられると思うなよ」

    バキッ ドドンッ

    『大・・・天・・・空!』

    ドカーン!

    ツボネ「やりぃ!」

    才子「なん・・・だと・・・」

    不知「才子が負けるの始めて見た」

    六月「ホント・・・」

    瓜江「おい(無視をするな)」

    ツボネ「あっ、おはよー瓜江くん」

    瓜江「俺が外を走っている間に何があった」

    ツボネ「私が来て才子ちゃんを起こしてスマブラしてた。あと、上司には敬語」

    瓜江「(別にあんたに聞いた訳じゃない)・・・よく才子を起こせましたね」

    才子「Bランクの腕前を見せてやるって言われちまったら、寝てるわけにはいかねぇぜ」

    瓜江「(Bランク?というか・・・来て早々ゲームをする大人がいるか?)」

    ツボネ「才子ちゃんもなかなか腕前だね。Cランク上位はあるんじゃない?」

    才子「お察しの通りでありやす。師匠」

    瓜江「(間違いない。こいつは佐々木よりも―――)」

    厄介だ。主に悪い意味で。

    ツボネ「そう言えば六月くん、什造くんに師事してるんだっけ?」

    六月「はい。オークション掃討戦の前から、ナイフの扱いについて色々教わっています」

    ツボネ「オッケー。なら、私の指導を受けてみる気はある?什造くんには劣るけど、ナイフは結構得意なんだ」

    六月「本当ですか!?是非!」

    不知「器用っすねぇ・・・ツボネさん」

    ツボネ「私を崇め奉るが良い。じゃあ六月くん、早速やろうか」

    六月「はい!」

    瓜江「・・・(こいつ、何のつもりだ―――)」
  19. 19 : : 2016/03/24(木) 22:49:23



    不知「おっ、終わったか六月。どうだった?」

    六月「すごい腕前だよ。鈴屋特等と肩を並べるレベル」

    ツボネ「それは言い過ぎだって」

    才子「むっちゃん・・・お腹空いたね」

    六月「そっか、もうお昼か。じゃあ、今から作るね」

    ツボネ「不知くん、お昼を食べたらバイクでドライブする予定なんだけど、一緒にどう?」

    不知「二人乗りってことっすか?」

    ツボネ「うん。往路は私が運転するけど、帰りは交換しても良いし」

    不知「マジすか!?いやぁ・・・前のバイクが壊れてからというもの、バイクに乗る機会が無くてうずうずしてたんっすよね」

    ツボネ「よしっ、決まりぃ!」

    瓜江「・・・(何なんだ)」



    不知「んじゃ、行ってくるぜ」

    ツボネ「行ってきまーす!」

    六月「行ってらっしゃい」

    才子「才子はマリカーでドライブ」

    瓜江「・・・(何なんだ)」



    ツボネ「ただいま~」

    不知「最高だったぜ。ホントサンキューっす」

    ツボネ「また乗りたくなったらいつでも言いな」

    瓜江「・・・(何なんだ)」

    ツボネ「瓜江くん」

    瓜江「はい?」

    ツボネ「今からランニングするんだけど、一緒にどう?」

    瓜江「(チッ、次は俺か・・・)朝走ったので、今は遠慮させていただきます」

    ツボネ「もしかして、置いて行かれるのが恐いのかなぁ?」

    才子「恐いのかなぁ?」

    瓜江「(ムカッ)良いでしょう。そこまでおっしゃるのであれば、ご一緒します」

    ツボネ「ツンデレさんだなぁ」

    瓜江「・・・」ムカッ

    ツボネ「帰りに買い物に寄ってくからよろしく」

    六月「買い物なら俺が行きますよ?」

    ツボネ「いや、私に行かせて。今日から君達の夕ご飯は、私が作るから」

    才子「おおっ!ツボネメシ!」

    六月「良いんですか?」

    ツボネ「もっちろん!飯を作らぬメンター等、メンターにあらず」

    瓜江「小林上等。行きましょう(早くしろ)」

    ツボネ「ごめんごめん。じゃっ、再び行ってきまーす!」
  20. 20 : : 2016/03/25(金) 00:57:50
    期待q(^-^q)
  21. 21 : : 2016/03/26(土) 18:56:54
    ↑なんでやねんお前がp(^-^q)
  22. 22 : : 2016/03/26(土) 19:02:09
    >>20
    期待ありがとうございます(・∀・)
  23. 23 : : 2016/03/26(土) 19:39:28



    タッタッタッタッ

    ピタッ

    ツボネ「ふぅ、疲れた~」

    シャトーを出発してから、二人は5キロ離れた地点までランニングをした後、同じくランニングでシャトー周辺のスーパーの前まで戻って来た。往復10キロのランニングを行った訳だが、ツボネはその台詞に反し、疲れを全く見せていなかった。

    瓜江「ぜぇぜぇぜぇ(何故息が切れていない・・・化け物か・・・)」

    ツボネ「良く付いて来られたね。体力あるじゃん」

    瓜江「ぜぇぜぇ・・・どうも」

    ツボネ「それじゃあ、私は買い物に行ってくるね。瓜江くんはその辺で休んでなよ。ヘトヘトみたいだし」

    瓜江「(ムスッ)いえ、その必要はありません。俺も同伴します」

    ツボネ「(ふふっ・・・)なら、買い物かごを持つのをお願いするね」



    十数分後、買い物を終えた二人は歩いてシャトーへと向かっていた。

    瓜江「―――小林上等。今日の行動は、一体何のつもりですか?」

    ツボネ「と、いうと?」

    瓜江「あからさまに俺達のご機嫌取りに努めていた事です」

    ツボネ「ああ。やっぱり分かるか」

    瓜江「班員との交流を図ろうという意図なのは分かります。しかし、そのやり方には納得しかねない部分があります。上司として、メンターとしてのプライドというものが感じられません」

    ツボネ「要するに、背中で語るメンターになれってことだね」

    瓜江「(要約し過ぎだ・・・が、)そういうことです」

    ツボネ「・・・私だって、そういうメンターの方が理想だと思う。それに、捜査の腕に自信だってある。だけど、それじゃあ足りないんじゃないかって思ったんだ」

    瓜江「足りない?」

    ツボネ「うん。アキラさんから、ハイセがメンターだった頃のクインクス班がどういうものだったかは聞いている。彼女は、家族のようなものだったと言っていた」

    ツボネ「実は私、ハイセが有馬さんの部下だった頃、同じ班で捜査したことがあるんだ。だから、彼のことは結構分かるつもり。その上で思うんだ。ハイセには・・・母親としての資質じゃ敵わないって。私は女なのにね」

    瓜江「・・・」

    ツボネ「だから私は、その足りない部分を何としてでも埋めようと、手段を選ばないことにした。そこそこ多趣味だから、それを活かしてみたりして。て言うかさ、そうでもしないと私が入る隙間なんてないぐらい―――」

    ツボネ「―――君達にとって、ハイセの存在は大き過ぎるよ」

    瓜江「(俺達にとって、裏切り者の存在が大きい?笑わせる。一日過ごしただけで、よくそんなことが言えるものだ。だが・・・)あなたのメンターとしての覚悟は分かりました。これからも、よろしくお願いします」

    ツボネ「うん。ありがとう・・・よろしくね」
  24. 24 : : 2016/03/26(土) 21:21:16
    ―都内某所―



    掘チエ「――――――カナエくん」

    カナエ「・・・」

    掘チエ「や」

    カナエ「なんだ子ネズミ」

    掘チエ「最近目立ってるみたいだよ。CCGに目つけられちゃうんじゃない?もうつけられてるかもしれないけど」

    カナエ「貴様に関係ない・・・帰れ!!」

    掘チエ「んー、私に関係ないとしてもさ、結果的に月山くんに被害が及ぶんじゃない?今まで月山くんちがこんなに動くことなかったのに、よっぽど大変なの?」

    カナエ「・・・・・・帰れと、言っている・・・ッ!」

    掘チエ「いっそのこと全部忘れて、月山くん以外のご主人様につかえたら?培ってきたものもあるし、カナエくんならどこでもやっていけると思うよ」

    カナエ「習さまでなくては意味が無いのだッ!!」

    掘チエ「うん、月山くんもそうなんじゃない?」

    掘チエ「欲しくもないモノがいくら手元にあっても、逆に空しくなると思うけど」

    カナエ「・・・・・・」

    掘チエ「月山くん、助ける方法があるんだ。でも、月山くんちに新しい厄介事を抱え込むことになるかもしれない。それも、上手くやらないと・・・いや、上手くやったって、月山くんちがなくなっちゃうかもしれないほどの」

    カナエ「!?」

    掘チエ「カナエくん。月山くんのために、家を危険にさらせる?」

    カナエ「――――――Scheiße(鼠畜生)、貴様の提案に耳を傾けることなぞ―――」

    掘チエ「断るのは一向に構わないけど、よく考えてね。一遍断ったらやり直しは効かないかも。時間が無いから」

    カナエ「時間?」

    掘チエ「"彼"が逃げ続けられる保証が無い」

    カナエ「―――――――――"彼"?」
  25. 25 : : 2016/03/28(月) 21:40:35
    ―CCG本局会議室―



    ツボネ「――――――ロゼヴァルト家の関係喰種?」

    政「ああ。最近頻出している喰種集団による"大量誘拐"・・・ヤツらとやり合った捜査官のクインケの損傷画像だ」

    政「この赫子痕、私が過去に対峙したロゼヴァルト家のものに酷似している・・・これを見ろ。右が"大量誘拐"の連中の赫子痕。そして左は、ドイツから取り寄せた"ロゼヴァルト"の赫子痕だ」

    瓜江「どちらも同じような痕に見えますが」

    政「いや、照合してみた所、この二つのデータの一致点は109点、率にして27%」

    ツボネ「微妙な数値ですね」

    政「この差異はすなわち、両者が"近親者ではないが遠い血縁のある者"・・・であることを表す。つまり、これはロゼヴァルトの"生き残り"、もしくは"血縁のもの"がこの東京に存在するという事・・・大量誘拐は奴らの仕業だ―――――――――」



    六月「・・・ツボネさん、近親者であればもっと一致率が上がるんですか?」

    ツボネ「親兄弟間であれば50%、双子で90%ってところかな・・・だけど、実際は痕跡不十分で低めの数値が出るのが常。"ラビット"の准特等殺しの場合も、前回襲撃との赫子痕の一致率"64%"で相当モメたらしい」

    六月「・・・でも、50%を超えてるってことは双子でもない限り、当人と見て間違いないんじゃ・・・?」

    ツボネ「うん。監査の意見も結局そこに落ち着いた。だけど・・・兎は二羽いた」

    瓜江「"アオギリの黒ラビット"と"白ラビット"ですね。後者は、佐々木一等が単独で捜査していたという・・・」

    ツボネ「そっ。つまり何が言いたいかっていうと、痕跡を辿って資料と睨めっこしているだけじゃあ、分からないことがあるってこと。ハイセのこともね――――――」

    六月「・・・」

    瓜江「彼の場合は、痕跡すら見つからない始末ですが」

    ツボネ「ホント、流石だよ。(でも、そろそろ限界が来ることだ。彼が人の心を捨てていない限りは――――――)」
  26. 26 : : 2016/03/30(水) 22:35:54
    ―都内某所―



    掘チエ「ここに来たってことは、私の考えに同意したってことでいいんだよね――――――カナエくん」

    カナエ「ああ。小ネズミの策などに乗りたくは無いのだが、これも―――」

    掘チエ「あっ、理由とか言わなくていいよ。どうでもいいから」

    カナエ「・・・それで、奴はどこに」

    掘チエ「あそこ」

    掘チエが指差した先は、大きな工場跡地であった。

    カナエ「よく見つけたな」

    掘チエ「CCGから逃げる人の考え方はよく分かるからね」

    カナエ「?」

    掘チエ「んじゃ、早速彼に会いに行くから、カナエくんは戦う準備をしておいて」

    カナエ「奴が我々に襲い掛かってくるということか?とてもそうは思えんが・・・」

    掘チエ「普通なら大丈夫なんだけど、たぶん限界が来る頃合いなんだよね・・・お腹の」

    カナエ「人は喰わない・・・か」

    掘チエ「うん」

    カナエ「言っておくが、私は奴よりも弱いぞ」

    掘チエ「まぁ、心配しなくても何とかなるっしょ。早いとこ行こ」

    タッタッタッタッ

    カナエ「おいっ!(なんと独善的な小ネズミだ)」



    工場跡地に足を踏み入れた二人であったが、敷地面積がかなり広大であるため、カナエの五感をもってしても"彼"の居場所を察知することが出来なかった。止むを得ず、二人は敷地内を虱潰しに捜索することにした。

    掘チエ「う~ん、なかなか見つからないね」

    カナエ「本当にここに居るんだろうな」

    掘チエ「さぁ・・・私達に気付いて逃げちゃったかもね」

    カナエ「なっ、貴様いい加減に・・・!?」

    掘チエ「いた?」

    カナエ「ああ。しかも、近づいて来る」

    ―――――――――コツン コツン

    廃工場内に響く足音。それは徐々との距離を詰めていく。やがて、それ以外の音も聞こえて来た。

    ???「だれか・・・いるの・・・?」

    コツン コツン

    ???「ニンゲン・・・グール・・・?」

    カナエ「これは・・・」

    掘チエ「あ~、やっぱしヤバい感じか」

    ???「この匂い・・・いい香り・・・オイシソウ!」

    掘チエ「ヤッホー、初めまして?久しぶり?―――"佐々木くん"」

    カナエ「下がれ小ネズミ!」

    ハイセ「いた、イタ、板・・・居た抱きます!」
  27. 27 : : 2016/03/31(木) 10:22:25
    期待!
  28. 28 : : 2016/04/01(金) 23:33:04
    >>27
    期待ありがとうございます!
  29. 29 : : 2016/04/02(土) 00:22:43
    ハイセが鱗赫を蠢かせながら掘チエに襲い掛かる。カナエは掘チエを突き飛ばしつつ、茨の形をした赫子で彼を迎え撃つ。

    カナエ「Borg(豚が)!!」ヒュヒュッ

    ドスドスッ

    ハイセ「ァァァアアア!!!」

    カナエ「(効いたか。いや―――)」

    ハイセ「邪魔を・・・するでァァァ!!!」

    ゾゾゾゾゾッ

    狂気の叫びと共に、ハイセの体から新たに二本の赫子が溢れ出す。

    ハイセ「汚洗濯・・・しマス」

    ビュオオオ!!!

    ハイセの持つ赫子が、不規則な軌道を描きながらカナエに襲い来る。第一波は回避するも、続けざまに放たれる第二波への対応には間に合わず、赫子で咄嗟に防御する。

    ガガガガガッ

    横殴りの赫子の雨を前に、カナエは赫子の傘で身を隠すのに精一杯の状態―――反撃なぞ到底不可。

    カナエ「(私の赫子では長くは持たん。このままでは・・・)」

    掘チエ「カナエくん、そのまま堪えて。彼が"彼"のままであれば、必ず隙は生まれる」

    カナエ「なっ!?(何を訳のわかんことをッ)」

    ハイセ「シラズくん、ウリエくん、ムツキくん、サイコちゃん・・・待っててね!すぐにゴ馳走を作ってあげるから!」

    ゾゾゾッ

    ハイセの体から、更に赫子が発生する。既に防御で手一杯の状態で、さらに物量を加えられれば・・・

    カナエ「(終わり―――)」

    ――――――ズキンッ

    ハイセ「ッッッッッガアアアアアアアア!!!」

    突然の慟哭。直後、これまでカナエへと集められていた赫子の矛先が大きく乱れ始める。

    ハイセ「ダメだってばぁ!食べちゃ・・・喰べちゃ・・・!」

    掘チエ「今だよカナエくん!」

    カナエ「貴様に言われるまでもないッ」ヒュヒュン

    ハイセへと放たれた茨は、彼を囲うような進路を見せる。次の瞬間、茨は彼の身体に絡み付き、彼を拘束した。

    カナエ「ここからどうする!?」

    掘チエ「死なない程度にやっちゃって。このままじゃ連れてけないから」

    カナエ「(全く、大雑把な策だ)・・・眠れ!」

    ハイセの腹部にカナエの赫子が突き刺さる。飢餓により既に衰弱した彼は、この攻撃を以って意識を失った。
  30. 30 : : 2016/04/03(日) 22:19:21
    ―月山邸―



    ハイセ「――――――うぅ」

    カナエ「起きたか」

    ハイセ「!?」

    カナエ「そう警戒するな。私は貴様の敵ではない。信用できないならばそれでも構わんがな」

    ハイセ「いえ・・・信じます。だから、教えてください。ここは・・・どこですか・・・あなたは・・・?」

    カナエ「(オークションで一度会ってはいるのだが、マスクの所為で判りはしないか)その質問にはまだ答えないでおこう」

    ハイセ「何故?」

    カナエ「味方であるともまだ決まってはいないからだ。今から貴様に会ってもらいたい方がいる。貴様をどこまで信用できるかも、その方にかかっていると言っていい」

    ハイセ「その方とは?」

    カナエ「―――我が主」

    ハイセ「主・・・」

    カナエ「ああ。早速向かおう。着いて来い」

    ハイセ「分かりました。ですが、その前に一つ質問をよろしいですか?」

    カナエ「何だ?」

    ハイセ「・・・・・・僕、最近はずっと空腹が続いていました。人しか食べられないのに、人が食べたくなくて・・・最後には死にそうなぐらいの飢餓感に襲われて・・・自分でも訳が分からなくなって・・・・・・でも、今は全くそれがないんです」

    ハイセ「正直に答えてください。僕が寝ている間に、何をしましたか?」

    ―――小ネズミの言う通りということか。



    ―三時間前―



    掘チエ「じゃっ、カナエくん。後はお願いね」

    カナエ「彼を習さまに合わせれば良いのだな?」

    掘チエ「うん。あ~でもその前に、お腹を何とかしないと」

    カナエ「食糧(人肉)ならたくさんあるが」

    掘チエ「それはまずいかも。最悪、別の方向でまた暴走し出すかも」

    カナエ「なっ!?この男はそんなに心が脆いのか」

    掘チエ「結構盛って話してるから、カナエくんが今思ったほどじゃないよ。だけどセンチメンタルなのは事実だから、人肉を食べたと知ったら相当参っちゃうと思うよ」

    カナエ「だが、奴の食性は喰種と変わらんのだろう?だったら何を与えろと・・・・・・まさか」

    掘チエ「うん、そのまさか。月山くんちにある?」

    カナエ「ああ」

    掘チエ「なら、それでよろしく。佐々木くんを月山くんに会わせたら、また連絡ちょうだい」

    タッタッタッタッ
  31. 31 : : 2016/04/04(月) 10:03:38
    何渡すんだろ…
    期待です!
  32. 32 : : 2016/04/04(月) 13:22:56
    期待ですッッ!!!!!
  33. 33 : : 2016/04/04(月) 22:29:03
    >>31
    深く考え過ぎなくて大丈夫ですよ。人間が食べられないのなら・・・
    期待ありがとうございます!

    >>32
    ありがとうございますッ!!
  34. 34 : : 2016/04/05(火) 08:27:00
    >>33そうか!月山を食わせればいいんだ!
  35. 35 : : 2016/04/05(火) 17:23:14
    >>34
    ちょww
    それはないだろww
    コーヒーかな?いや喰種の肉?
    まあコーヒーかな

    >>1
    今更ですがツボネのクインケのガイア(鱗赫-Rate/S+)とリヴァイア(尾赫-Rate/S)のイメージ画像とかありますか?
    見た目が気になります…
    期待です!
  36. 36 : : 2016/04/07(木) 00:54:17
    >>35
    ガイアは身の丈程の大きな刀、リヴァイアは小太刀です。イメージ画像はないですね。モデルがあるわけではないので・・・。描いてみるのも面白そうですけど、いかんせん載せ方が分からんのです。
  37. 37 : : 2016/04/07(木) 19:58:33
    >>36
    解りました!
    となると二刀流ですかな?
    かっこいいですな〜
    期待です!
  38. 38 : : 2016/04/07(木) 20:28:04
    >>37
    どちらかというと、状況に応じて使い分ける感じです。
    期待ありがとうございます!
  39. 39 : : 2016/04/07(木) 21:08:32



    カナエ「―――安心しろ、貴様に喰わせたのは喰種の肉だ」

    ハイセ「喰種のッ!?・・・そう、でしたか・・・」

    ハイセは僅かに安堵の表情を浮かべるも、その顔からは同時に陰りも見て取れた。

    アリザ「叶さん!!」

    カナエ「!?・・・どうした、アリザ」

    アリザ「しゅ・・・習さまが・・・」

    カナエ「観母さまにお伝えしろッ、松前は?」

    アリザ「室長には既に伝えしました。その際、叶さんにも伝えるようにと・・・」

    カナエ「・・・分かった。佐々木琲世!私に着いて来いッ」

    ハイセ「え?」

    カナエ「質問は受け付けん、早くしろッ!」

    ハイセ「・・・はい」

    タッタッタッタッ



    カナエ「習さま!」

    月山「ウウウウガアアアアアアアッッ!!!」

    ハイセ「あ・・・あの人は・・・?」

    松前「彼があなたの言っていた、習さまを救う鍵となる男?」

    カナエ「・・・ああ。佐々木琲世だ」

    松前「そう。佐々木さん、私は松前と申します。早速で申し訳ありませんが、今からあなたにやってもらわなければならない事があります」

    ハイセ「やってもらわなければならないこと?」

    ヒュッ

    ハイセ「!?」

    ガアッ!

    ハイセの頭上を赫子が通過し、背後の壁を破壊した。

    月山「ま・・・まま・・・まい・・・」

    松前「カナエ、私が習さまをお抑えする。だから・・・任せたわ」

    ビュオッ

    再びハイセ達目掛けて赫子が放たれる。しかし、赫子の突進は松前の"盾"によって阻まれた。

    ハイセ「これは一体どういう・・・」

    カナエ「貴様が鎮めろ」

    ハイセ「!?」

    カナエ「貴様の手を以って、習さまの意識をお鎮めするのだ。それで、何かが変わるかもしれない」

    ハイセ「どうして僕が!?」

    縁もゆかりもない自分に、何故そんな役目を任せようとするのか分からない。彼の声は困惑に満ちていた。

    カナエ「質問は受け付けんと言った!」

    月山「僕を誰だと思っているのだァァァァァッッッ!!!」

    ―――――――――月山さん。

    ズキンッ

    カナエ「早くしろッ佐々木琲世!」

    理解した。
    縁もゆかりも、運命(さだめ)も・・・

    ハイセ「―――分かりました。僕が鎮めます・・・月山さん」
  40. 40 : : 2016/04/07(木) 21:12:40
    期待ですッッ!!!!!
  41. 41 : : 2016/04/10(日) 21:54:15
    >>40
    感謝ですッ!!
  42. 42 : : 2016/04/11(月) 19:30:35
    宣言の直後、ハイセは前へと飛び出した。

    月山を鎮める方法なぞ、会って数十秒の彼には分からない。しかし、数か月を共に過ごしたその記憶は、確かに彼の身体を動かした。

    彼は松前の前へと躍り出ると、すぐさま赫子を発現させる。それと同時に、月山が反応を示す。

    月山「この匂い・・・そこかッ!!!そこにあるんだなッッ!!!僕の―――」

    ズズズズズ

    月山「究極の美食ッッッ!!!」

    月山の標的がハイセへ完全に切り替わった。螺旋状の軌道を描いて襲い掛かる甲赫を、ハイセは無駄のない動きで躱していく。

    そうして、月山との距離を最初の半分ほどまで詰めた所で―――

    ダッ!

    力強く地を蹴り、一気に彼の真上へと迫る。直後―――

    月山「がああああ!!!」

    ドスッ

    ハイセ「―――っ!?」

    月山の剣がとうとうハイセの身体を捉える。しかし、ハイセはそれを歯牙にもかけずに自身の四本の赫子を彼の四肢へとそれぞれ突き刺した。

    アリザ「抑えた!」

    松前「今のうちに薬を」

    カナエ「(いや、これでは今までと何ら変わりはない)」

    ハイセ「(違う。そうじゃない。僕の使命は彼を鎮めること―――)月山さん!」

    ハイセが取った行動は、名を呼ぶこと。

    本来ならば、もっと多くの言葉を掛けてあげるべきなのかもしれない。だが、記憶を持たぬ彼には名前を呼ぶことしかできなかった。"彼"が呟いたこの名しか・・・

    ハイセ「月山さん!月山さん!月山さん!」

    彼は必死に叫んだ。赫子が刺さったままの腹部から鮮血が噴き出そうとも・・・

    ―――ペロッ

    月山「・・・トレ・・・ビアン・・・」

    ハイセ「え?」

    カナエ「(様子が―――)」

    月山「全く・・・君は変わらない(おいしい)ね。我が主に矛を向けたこと・・・許せられるとは思っていないが、お詫びを申し上げたい。すまなかった。そして・・・」

    月山「再び僕の前に姿を現してくれたこと、心より感謝する―――カネキくん」
  43. 43 : : 2016/04/11(月) 21:15:38
    気体です!!
  44. 44 : : 2016/04/16(土) 00:14:31
    期待期待期待!!!!
  45. 45 : : 2016/04/18(月) 22:05:00
    >>43
    >>44
    ありがとうございます!
  46. 46 : : 2016/04/18(月) 22:34:35
    ”カネキくん”―――ハイセをそう呼んだ彼は、先程までとは打って変わって落ち着きを取り戻し始める。直後・・・

    ドサッ

    カナエ「習様!」

    意識を失い、倒れ込んだ。

    ハイセ「大丈夫・・・なんでしょうか?」

    松前「それは私共には分かりません。しかし、今までに無い反応をお見せになったのは事実です。恐らくは・・・良い方向に事が進んだのでしょう。貴方のお陰で」

    ハイセ「いえ、僕はただ・・・」

    カナエ「松前。私は習様の御様子を見守る。佐々木琲世を頼む」

    松前「分かったわ。佐々木さん、私に着いて来てください。この家の家長であられる観母様の所へご案内致します」

    ハイセ「分かりました」



    テクテクテクテク

    ハイセ「・・・(さっきから片鱗は見えていたけど、すごい豪邸だな)」

    松前「佐々木さん」

    ハイセ「はい?」

    松前「オークションの節のお詫びがまだでしたので、ここで申し上げさせてください。貴方の大切な部下に非礼を働いたこと、誠に申し訳ありませんでした」

    ハイセ「オークション・・・ああ!分離赫子を使ったあの・・・」

    松前「やはりお気付きではありませんでしたか」

    ハイセ「はい。恥ずかしながら」

    松前「そのために我々喰種はマスクを着けているのですから、恥じることはありませんよ。それより―――」

    松前が足を止める。目の前には、豪華絢爛な屋敷の中でも一際豪勢な扉が構えてあった。

    松前「こちらが観母様のお部屋になります。どうぞ、お入りください」

    ハイセはドアノブを握り、そっと引いた。

    ハイセ「失礼します・・・」

    部屋に入ると、ソファーに腰を掛けた男性がハイセを待っていた。

    観母「初めまして、佐々木琲世くん。私は月山観母と言います。習くんがお世話になっているみたいで・・・どうぞ、お掛けになってください」

    観母に促されて、ハイセは彼の真向かいに腰を下ろした。
  47. 47 : : 2016/04/24(日) 22:20:37
    観母「さて、何から話したものか・・・」

    ハイセ「月山さんの容態は、もうお聞きしているのですか?」

    観母「聞いてはいないけど、習くんなら大丈夫。君が来てくれたんですから」

    その言葉を受け、彼にとってカネキケンの存在の大きさを改めて自覚する。しかし、記憶は依然として蘇る気配を見せない。

    そんな中、松前がコーヒーを二つ、机の上に置く。ハイセはその内一つを取って一口飲み、口を開いた。

    ハイセ「すみません・・・それ程の間柄であったにもかかわらず、僕はそれを何一つ思い出せていません。彼は僕を”カネキくん”と呼んだ。カネキケンであると思っているんだ。落ち着いて、もう一度僕を見たら彼は・・・きっと失望する」

    観母「習くんはそんなことで失望なんてしませんよ」

    ハイセ「そうであっても―――」

    観母「そもそも、君は”カネキくん”でしょう。記憶なんて関係ありません。君は、どんなになっても君なんじゃないかな」

    ハイセ「―――僕は・・・・・・記憶を取り戻したい。喰種の世界で生きてきた思い出を、失った友との思い出を思い出したい。だから・・・」

    ハイセ「月山習さんと話をさせてください」

    観母「もちろんです。習くんの為にも、そうして欲しい。松前、彼が泊まる部屋の用意を」

    松前「かしこまりました」

    ハイセ「いえ、そこまでしてもらうわけには・・・」

    観母「CCGに追われている身なのでしょう?」

    ハイセ「はい。ですから―――」

    観母「CCGに目をつけられてしまうかもしれない・・・ですか?それなら心配には及びません。我々は既にCCGに目をつけられているようなものですが、このように大きな屋敷を構え、堂々と生きています。そこにあなた一人が加わった程度では、何も変わりはしませんよ」

    ハイセ「ですが・・・・・・・・・」

    観母「これは寧ろお願いです。逆に外で泊まって屋敷と出入りされる方が、こちらとしては困ります」

    ハイセ「それもそうですね。では・・・お願いします」

    ハイセは頭を下げ、お辞儀する。

    観母「こちらこそ、よろしくお願いします」

    観母は彼に手を差し出した。ハイセはそれに応じ、握手をした。
  48. 48 : : 2016/05/04(水) 22:39:49
    ―都内某所―



    掘チエ「うん、うん。月山くんならもう大丈夫だよ。うん・・・オッケー。連絡ありがとう、カナエくん」

    掘チエが電話を切る。

    掘チエ「さて、どう出るかな―――――――――」



    ―シャトー―



    ある一室で、ツボネは机の上に置かれた水の入ったコップと、その隣にある錠剤入りの瓶を朧気に見つめていた。この部屋は彼女の部屋であり、元はハイセの部屋である。

    ツボネ「ふぅ・・・」

    ツボネは小さく溜め息を吐いてから、瓶の蓋を開け錠剤を取り出し、口へと放り込む。そして水を口に含み、喉の奥へと流し込んだ。その時―――

    コンコン

    唐突にノックの音が鳴る。

    六月「ツボネさん、ちょっと良いですか?」

    ツボネ「あっ、うん。今出るね」

    ツボネはドアを開ける。ドアの前の六月の手には、ナイフが握られていた。ということは・・・

    ツボネ「ナイフの訓練かな」

    六月「はい。もし時間があるのでしたら、ご教授をお願いしたいのですが・・・」

    ツボネ「六月くんは努力家だね。そういう子には、教え甲斐があるってものだよ」

    六月「ありがとうございます」

    ツボネ「よしっ、じゃあ早速―――」

    六月「ん?」

    ツボネ「どうしたの?」

    六月「机の上・・・薬ですか?」



    ―――過失(しま)った。



    ツボネ「実は持病があってね。大したものじゃないんだけど・・・」

    六月「そうだったんですね」

    ツボネ「うん。そんなことは良いから、ナイフの訓練としよう」

    六月「―――良くないです」

    ツボネ「・・・え?」

    六月「俺達はもう、家族なんですから、隠し事は出来ればして欲しくありません。何も言わずにいなくなってしまうなんてことは、して欲しくないんです・・・」

    六月「・・・ごめんなさい。ツボネさんがそんなことする訳ないのに、変なことを言って。それに、俺が言えることでも無いですし・・・」

    ツボネ「ううん。君の言っていることはよく分かるよ。家族って言ってくれたことも嬉しかった。だけど、もうしばらくこの事は秘密にしてもらえるかな。恩着せがましい言い方だけど、皆に心配を掛けたくないんだ」

    六月「・・・分かりました」

    ツボネ「ありがとう。じゃっ、行こっか」



    隠し事しか無いよ。
  49. 49 : : 2016/05/16(月) 22:56:00
    ―翌朝・月山邸―



    ハイセ「(・・・久し振りにベッドで眠れたな。本当に、運が良かった。だけど・・・これでいよいよ、CCGに戻ることは絶対に不可能になった訳だ)」

    ―――後悔してる?

    ハイセ「(してないよ。僕はもう決めたから。君も、いつでも出て来て良いんだからね)」



    コンコン

    ハイセ「はい?」

    松前「松前です」

    ハイセ「あっ、どうぞ」

    松前は扉を開け、ハイセの部屋へと入った。

    松前「朝食の準備が出来ておりますが・・・いかがなさいましょう?」

    ハイセ「・・・すいません。遠慮させてください」

    松前「かしこまりました。ですが、食堂にはいらしてください」

    ハイセ「と、言いますと?」

    松前「習様がお会いになりたいとおっしゃっております」

    ハイセ「月山さんが・・・・・・彼は、僕のことをどこまで?」

    松前「記憶を失い、白鳩として生きていたことまでは既にお聞きになられています」

    ハイセ「そうですか。分かりました、向かいます」

    ハイセは腰を上げ、松前と共に自室を後にする。

    ハイセ「松前さん、一つお願いしたいことがあるんですけど、良いですか?」

    松前「何でしょうか?」

    ハイセ「オークション会場で使っていた分離赫子の使い方を、僕に教えてください」

    松前「分離赫子ですか・・・了解しました。習得の保証は出来かねますが、出来る限りのことは致しましょう」

    ハイセ「ありがとうございます」

    松前「さっ、着きましたよ」

    松前はドアノブを握り、食堂の扉をゆっくりと開いた。

    ハイセ「―――――――――月山さん」

    月山「やぁ、ミスター佐々木」

    ハイセを出迎える月山の姿は未だにやつれてはいるものの、昨日までにはない精気が溢れ出ていた。

    カナエ「・・・」

    月山「話は聞いているよ。君がカネキくんであって、カネキくんではないことも。だが、僕の主は君に違いない。さあ、何でも言ってくれ。我が主のためならば、如何なる事も成し遂げて見せよう」

    ハイセ「ありがとうございます、月山さん。では早速ですが・・・思い出話を聞かせてください」
  50. 50 : : 2016/05/28(土) 16:27:21
    期待
  51. 51 : : 2016/05/31(火) 21:55:00
    >>50
    期待ありがとうございます。更新遅くてごめんなさい。
  52. 52 : : 2016/06/09(木) 21:12:15
    ―S1会議室―



    才子「・・・んでな、オンのフレがこう言うねん。ヘイ、サイコ!なんでお前が俺のAKを持っているんだ!?」

    瓜江「俺に話すな(ゲームの話はツボネ上等にでもしておけ)」

    不知「ツボネさん、今日は新任務の合同会議だろ?」

    ツボネ「うん。ロゼヴァルト家関連勢力捜査」

    瓜江「コードは”ロゼ”」

    六月「”ロゼ”は大量誘拐の主犯喰種達の総称でもあるって」

    不知「・・・つーか何でこの前の会議、俺ら参加できなかったんだよ。班長なんスけど」

    才子「米林なんスけど」

    瓜江「政特等が二等以下とは話す価値が無いと」

    不知「あのアゴヒゲメガネ」

    ???「ツボネ上等」

    ツボネ「ん?・・・アキラさん」

    アキラ「クインクス班を上手く纏められているか?」

    ツボネ「もちろん!」

    アキラ「ほう。今回の任務が楽しみだ」

    瓜江「真戸准特等もこの任務に?」

    アキラ「ああ。よろしくな」

    不知「アキラさんが一緒なら心強いっす」

    ???「おや?あなた方が噂のクインクス班かな」

    ツボネ「えと・・・」

    アキラ「キジマ准特等。お久し振りで」

    キジマ「おお、真戸准特等。二年前の捜査以来ですかな。クインクス班の方々は、どなたも初めましてと言ったところでしょうか」

    旧多「前のメンターの方とは、一度お会いしているんですがね」

    不知「・・・」

    旧多「あっ、すいません。気分を悪くしてしまったようなら謝ります」

    不知「いやっ、大丈夫っす。いつまでも気にしてらんないっすから」

    キジマ「旧多くん、我々は掛けて待つことにしよう」

    カツンカツン

    ツボネ「なんだあれ・・・こわ」

    六月「耳と鼻が・・・」

    アキラ「あれは彼が以前追っていた喰種にやられたものだ」

    才子「ひっ・・・我ログアウトを望む」

    不知「いつものことだろ」

    倉元「よーっすアキラちゃん、クインクスのみんな」

    才子「おっ、くらもっちゃん」

    倉元「君が新メンターの小林ツボネ上等?」

    ツボネ「うん。よろしくね、倉元上等」

    倉元「おう」

    アキラ「ところで、平子上等の姿が見えないが・・・」

    倉元「・・・っと、ちょっと人事でね」

    梅野「オウ、アイパッチ」

    六月「こ・・・こんにちは(平子班の・・・)」

    梅野「一等か。スゲーじゃねぇか。正直お前のことナメてたけど、逆に気合入ったぜ。次も頼むぜ六月」

    六月「・・・」

    ポンッ

    六月「?」

    ツボネ「・・・」ニコニコ
  53. 53 : : 2016/06/17(金) 19:01:37
    期待です

    金木クゥンもとい佐々木クゥンの
    今後に目が離せませんな!
  54. 54 : : 2016/06/17(金) 22:30:18
    初めて見させて頂きました!
    文章力が凄くてびっくりしました!
    私もそんな風に書けたらなぁーなんて思ったり…w
    これからも期待してます!
  55. 55 : : 2016/06/17(金) 23:30:28
    >>53
    ありがとうございます!
    ホントにどうなるんでしょうかね~(笑)
    超スロー更新ですが、今後ともよろしくお願いします。

    >>54
    私の文章力なんて大したものではありませんよ。でも、そう言っていただけて嬉しいです。
    期待ありがとうございます!
  56. 56 : : 2016/06/20(月) 20:56:37
    俺も宇井さんみたいな文章力が欲しい!
    超絶期待です!
  57. 57 : : 2016/06/23(木) 21:05:56
    >>56
    褒めても何も出やしませんよ(*^_^*)
    期待ありがとうございます!
  58. 58 : : 2016/06/23(木) 21:06:05



    宇井「―――――――――揃っているようですね」

    宇井「本作戦を指揮するS1班班長・宇井郡です。よろしくお願いします」

    会議室に入室してすぐ、招集を掛けられている者全員がその場にいることを確認した後、宇井が挨拶をする。彼の後ろには富良上等、伊丙入上等が続いている。指揮官が誰であるかを知らされていなかった一同は、各々違った反応を見せた。

    今回集められた班は6つ。キジマ班、真戸班、伊東班、下口班、大坪班、そしてクインクス班である。

    瓜江「(捜査対象が集団、しかも強力であるとは聞いていたが、この6班にS1が加わると考えると予想以上の戦力だな。いや、これは・・・大き過ぎやしないか)」

    宇井「―――“ロゼ”は組織的にかなり訓練された喰種たちです。数はそこそこですが個体値が高く、上等が率いるチーム数班でも太刀打ちできませんでした。今後大きな脅威となり得るかもしれません。それに加えて―――」

    ツボネ「郡せんぱーい!質問!」

    宇井「質問は後でまと―――」

    ツボネ「上等班数班がやられたにしても、さすがに過戦力なんじゃない?」

    倉元「確かにそうだな~。もう二班ぐらい減らしても良さそうだけど」

    大坪「それだけ慎重を期しているのでしょう」

    ツボネ「にしたってさ~、喰種は“ロゼ”だけじゃないんだよ?」

    宇井「―――ゴホンッ!それについては、これから説明するところでした」

    宇井「確かに、小林上等の言い分は尤もです。今回の捜査対象が“ロゼ”だけであれば・・・」

    アキラ「“ロゼ”以外にもいる・・・“ロゼ”に強力な協力者がいる、ということでしょうか」

    宇井「その通りです。その協力者は単騎でSSレート喰種に対応する程の力を持ち、こちらの事情にも精通している」

    キジマ「ほほう。それは厄介な」

    瓜江「(対応?回りくどい言い方だな。それに、こちらの事情にも精通しているだと?一体どういう・・・。っ!?)

    アキラ「つまりは・・・ハイセ」

    六月「えっ!?」

    才子「ママン!?」

    不知「・・・サッサン」

    倉元「ちょっ、待ってくださいよ!そんなわけ―――」

    宇井「信じられない、という方がいらっしゃるのも分かります。今回集められた面々は奇しくも、彼と何らかの形で関わりのあった人物が多くいますから。しかし、事実です。先日、彼の捜査を担当しているS3班が、都内の廃工場にて彼の赫子痕を発見しました。その際残されていた“彼以外の赫子痕”を調べたところ・・・“ロゼ”の一員のものであることが発覚しました」

    不知「で、でも、サッサンが大量誘拐に加担しているかどうかはまだ・・・」

    宇井「分かりません。が、彼はもう“喰種”―――敵なのです。そのことをお忘れ無きよう・・・」

    宇井「話は以上です。他に質問があれば受け付けます―――――――――」
  59. 59 : : 2016/07/07(木) 23:44:56



    不知「―――くそっ。ようやく気持ちが切り替えられた頃だっていうのに、何で・・・」

    会議を終えた後、会議室前の廊下で不知が本音を零す。

    瓜江「では任務を下りるか?”恩師に刃は向けられません”と申告するのか?」

    不知「んなことは言ってねぇよ!」

    瓜江「ならば文句を言うな。士気が下がるだけだ、不知”班長”」

    不知「・・・分かってるよ」

    瓜江「(だが、不知の文句が妥当なのも事実だ。俺達は捜査官である以上、佐々木との離別の意思を固めなければならないのは当然だ。が、他にも大勢の捜査官がいる中で、今作戦にあえて俺達を起用したことについては話が変わってくる。まさか、佐々木側につく者(裏切り者)がいると疑っているわけではあるまい)」

    タッタッタッタッ

    ??「ツボネせんぱ~い!」

    ツボネ「おっ、ハイル!どうしたの?」

    伊丙「どうしたのって、久し振りに会ったんですからお話ししましょ」

    ツボネ「お話と言ってもねぇ・・・」

    六月「あの、お二人の関係は?」

    ツボネ「”庭”の先輩と後輩」

    伊丙「ツボネ先輩と一緒の班ということは・・・皆さんはクインクス班の方々ですか?」

    不知「オ、オウ。そうだけどどうした?」

    六月「不知くん、なんか緊張してない?」

    不知「しっ、してねーよ馬鹿!」

    才子「よっ、班長オブエロ」

    伊丙「あの・・・私こお・・・・・・じゃなくて宇井特等のパートナーの伊丙入と申します。皆さん今20歳ですよね?」

    六月「はい。今年で21です」

    伊丙「実は私も同い年で・・・」

    不知「へーっ、若ぇのに特等と組んでるってスゲェな!」

    宇井「いくぞ、伊丙上等」

    伊丙「あっ、ハーイ」

    瓜江「伊丙・・・”上等”?」

    ツボネ「ハイルは74期に16歳で入局してるからね。君たちよりも三期先輩だよ」

    伊丙「そうなんです。だから周りがオッ・・・年上ばかりで・・・同級生として仲良くして頂けたらなーと思って・・・」

    不知「オ・・・オウ。でも上司だよな・・・」

    瓜江「(あの戦いの最前線に・・・こんなトロそうなヤツが・・・)」

    伊丙「それじゃあ、私はこれで・・・」

    ツボネ「暇があったらお茶でもしようね~」

    伊丙「ぜひぜひ~」
  60. 60 : : 2016/07/07(木) 23:58:41
    期待です!
  61. 61 : : 2016/07/26(火) 21:46:20
    >>60
    ありがとうございます!
  62. 62 : : 2016/07/26(火) 22:51:48
    ―月山邸―



    月山「―――――――――僕が出来る話はこれくらいだろうか。どうかな?何か思い出したかい?」

    月山は、カネキケンとの思い出の全てを事細かに語った。出会いから別れまで、起こったことを何一つ欠かさずに。もちろん、カネキを“究極の美食”として追い求め続けていたという、ハイセに敵意を抱かれかねないことさえも、嘘偽り無く語った。

    全ては主のために・・・

    ハイセ「すみません。何も・・・思い出せません」

    月山「・・・・・・・・・そうか」

    ハイセ「言葉ではダメなのかもしれません。例えば・・・そう、あなたのようにカネキケンと繋がりのあった人物と出会うとか、彼の記憶に深く刻まれている出来事と類似した出来事を目の当たりにするとか・・・」

    月山「視覚に訴えかければいいということかな」

    ハイセ「そうですね。今までのパターンから考えて、そうなります」

    月山「ならば、僕と共にカネキくんの足跡を辿ってみないか?」

    ハイセ「・・・はい。それが、記憶を取り戻す近道だと思います。でも、その前に・・・」

    月山「何かな?」

    ハイセ「月山さんはキッチリ体調を戻してくださいね。いつ追っ手が現れるかも分からない、ハードな旅になりますから」

    月山「・・・ああとも。養生しよう」

    ハイセ「焦らなくても良いですからね。僕としても、松前さんから分離赫子を教えてもらうために、まだまだここに居たいですから」

    月山「分かった。お心遣い感謝する。(環境が変われば人も変わると云うものだが―――)」

    全く・・・君は変わらないな。



    ―CCGラボラトリー区画―



    地行「いやー、林村さんよく所有権譲ってくれたね~。天然のキメラクインケなんてほとんどお目にかかれないよ!」

    地行は声を弾ませて不知にこう言うが、一方の不知はどことなく曇りがかかった表情を見せていた。

    不知は、ツボネと共にCCGラボラトリー区画を訪れていた。目的は、オークション戦で林村・才子と協力し討伐した“ナッツクラッカー”のクインケの受け取りである。

    地行「どうしたの、シラギンくん。開けてみたら?」

    不知はアタッシュケースの取っ手に手を掛けようとする。

    不知「オ・・・」

    “キレイになりたい”

    不知「ウッ―――ッウオエエエッッ」

    ツボネ「不知くん!?」



    ツボネ「―――クインケ」

    不知「・・・?」

    ツボネ「気分悪くなる人、結構いるんだ」

    そう言って、ツボネは不知にジュースを手渡す。外の空気に当たって数分休んでいたことが功を奏したのか、不知の顔色はおおよそ元通りになっていた。

    ツボネ「特に、自分の手で駆逐した喰種を初めてクインケにしたとき・・・今回みたいにね。だから、気にしなくても―――」

    不知「そんなんじゃないっすよ。ヘーキっす・・・」

    ツボネ「君は立派だね。喰種を殺めることを是とするこの組織を生きて・・・この世界を生きて、それに疑問を抱くことが出来ている」

    不知「だから、そんなんじゃないって言ってるじゃないですか!」

    ツボネ「・・・・・・ごめん。変なこと言っちゃった」

    不知「・・・・・・いえ、俺もキレることはなかったっす」

    ツボネ「取り敢えず、帰ろうか。お詫びに、今日は君の好物を作ってあげる」

    不知「マジすか!?じゃあ―――」



    どうか、歪まないで。
  63. 63 : : 2016/07/28(木) 12:32:29
    期待ですッッ!!!!!
  64. 64 : : 2016/07/28(木) 18:02:46
    期待です!!!
  65. 65 : : 2016/08/07(日) 02:04:31
    >>63
    >>64
    ありがとうございますッ!!!
  66. 66 : : 2016/08/07(日) 15:45:03
    ―月山邸―



    松前「―――始めに申し上げておきますが、赫子の扱いというのは教えられるものではありません。赫子の大きさは“Rc細胞の数(素質)”により、赫子の形は“想像力(知性)”により・・・。つまりは天性です」

    ハイセ「それでも僕の願いに応じてくださったということは、何らかの伝授の方法があるのでしょう?」

    松前「その通りです」

    夕刻、月山邸のある会議室にて、ハイセと松前による1対1の教室が開かれていた。

    松前「分離赫子を使えるようになるために、他者が出来ることは二つ。その内の一つは、赫子は切り離すことが出来ることを知らせることです。つまり・・・こちらはもう完了しています」

    ハイセ「成る程。やろうとしないことは出来ないということですね」

    松前「ええ。そしてもう一つは、赫子を切り離す際の感覚を伝えること。強力な喰種であればあるほど、赫子を手足のように自在に使いこなすことが出来ますが、その全てが分離赫子を使用できるわけではありません。その理由はなんだと思いますか?」

    ハイセ「・・・単純に分離赫子への無知・・・ということも考えられますが・・・・・・・・・。そうか、手足はあるけど、身体の一部を切り離して使うなんてことは出来ないからだ」

    松前「流石ですね。つまりは、自分が既に出来ている何らかの行為に置き換えることが不可能であるからです。だから、私がその未知の感覚を貴方に伝えます。後は・・・自己鍛錬あるのみです」

    ハイセ「分かりました」

    松前「では、申し上げましょう―――――――――」



    ―明朝・都内某地下鉄駅―



    旧多「あンのクソじょうひィ・・・わかもんのなにがわかるというのだあ・・・・・・うぷっ・・・」

    キジマ「もういいですよ、旧多くん。今日はもう来ないでしょうから」

    旧多「あっ、了解です・・・。ハァ、無限酔っ払いモノマネ超しんどかったんですけど」

    キジマ「お疲れ。ところで、クソ上司は私のことかな?」

    旧多「あ・・・いや」

    伊丙「残念ですねぇ。今日こそ会えると思ったんですけど」

    富良「今までの襲撃のパターンから見て、十中八九ここに来ると思ったんだが」

    キジマ「これで他の場所でも襲撃が無かったとしたら・・・」

    富良「ロゼが大量誘拐を止めたという仮説が、いよいよ現実味を帯びてきますね」

    旧多「もし本当にそうなら、ロゼの追跡はもう・・・」

    富良「・・・」



    ―――まっ、大丈夫なんですけどね。
  67. 67 : : 2016/08/07(日) 15:53:41
    秋田喰種ってのを見たけどさ(全部とは言っていない)
    喰種は東京にしかいないよ?
  68. 68 : : 2016/08/07(日) 21:25:55
    >>67
    東京喰種[日々]では地方から上京してきた喰種・桃池育馬というキャラが出て来ているので、喰種は東京以外にも喰種はいるようですよ。
    何にせよ見てくださってありがとうございます。
  69. 69 : : 2016/08/08(月) 22:41:58
    ―早朝・シャトー―



    ツボネ「―――あれ、どこやったかなぁ・・・」

    六月「何か探し物ですか?」

    ツボネ「んと・・・」

    キョロキョロ

    ツボネ「・・・薬、知らない?」

    六月「あっ、薬ですか。えっと・・・心当たりは無いです」

    ツボネ「そっか」

    六月「みんなにも聞いてみますね」

    ツボネ「待って!」

    六月「!?」

    ツボネ「そ、その・・・大したことじゃ無いからいいよ。みんなに苦労を掛けたくないし・・・」

    六月「ダメです!」

    ツボネ「え・・・」

    六月「健康に関わることなんですから、みんなにも知らせて、協力してもらうべきです!」

    ツボネ「あの・・・秘密に・・・」

    六月「そんなこと言っていられません!恨むなら、薬を無くした自分を恨んでください」

    ツボネ「うぅ・・・分かりました」

    テクテクテク

    不知「ふぁ~・・・おはよ~ございます、ツボネさん、トオル」

    六月「ナイスタイミング不知くん。起きたばかりで悪いんだけど―――――――――」

    ツボネ「(全く、どっちが上司か分からないよ・・・)」



    ―昼前・月山邸―



    自室にて、ハイセは読書に勤しんでいた。読んでいる本は“黒山羊の卵”。

    彼は以前この本を読んだことがあるのだが、その際の感想は“苦手”であった。にもかかわらず、何故再読に至ったかというと、月山にカネキケンは高槻作品を好んで読んでいたという話を聞いたからである。

    記憶を取り戻すきっかけになれば・・・という思いからの行動であったが、結果はというと・・・

    ハイセ「(まぁ、これだけで記憶が戻ったら苦労しないよな・・・)」

    コンコン

    ハイセ「はい?」

    観母「観母です。入っても良いかな?」

    ハイセ「どうぞ・・・」

    ガチャ ギィィ

    バタン

    観母「どうも。ここでの生活には慣れてきましたか?」

    ハイセ「はい。お陰様で、とても快適に過ごせています」

    観母「それは良かった。ところで、突然だけれども・・・」

    観母「佐々木くんって、お買い物好き?」

    ハイセ「!?――――――大好きです」
  70. 70 : : 2016/08/11(木) 00:10:48



    月山邸と外界とを繋ぐ正門の前に、二つの人影があった。

    アリザ「今日は買い出しにお付き合いしてくださるということで・・・わざわざありがとうございます」

    ハイセ「いえいえ。今日はよろしくお願いします」

    何故このようなことになったかというと、時間は観母がハイセの部屋に入って来たところに巻き戻る。



    観母「佐々木くんって、お買い物好き?」

    ハイセ「!?――――――大好きです。・・・って、何の質問ですかこれは?」

    観母「今からアリザくんが買い出しに出掛けるのだけど、彼女が、男手が欲しいと言っていてね。本当は客人の君に頼むわけにはいかないのだけど、他の執事の皆も忙しいから・・・」

    ハイセ「分かりました。是非行かせてください。それと・・・ありがとうございます」

    観母「はて、何のことでしょう」

    ハイセ「・・・いいえ。久々の外出、楽しみです」

    観母「それは良かった。後、発案したのはアリザくんだから―――」



    ハイセ「アリザさん」

    アリザ「はい?」

    ハイセ「お心遣いに感謝です。ありがとうございます」ペコリ

    アリザ「あ、あなたが頭を下げることなんて何一つありませんよ!どうしてもというなら、許可をくださったのは観母様ですから、観母様にお礼をおっしゃってください」

    ハイセ「ふふっ」

    アリザ「?」

    ハイセ「何でもありませんよ」

    CCGに顔が割れているハイセを外出させることは、月山家にとって百害あって一利なしの事だ。しかし、月山邸で暮らし始めて以来、禁止するように命じたわけでも無いのに一度も外出をしなかった彼に対し、家の者はここ数日、何とか彼に外出する機会を与えようと考えを巡らせていたのだ。

    その気遣いの心を知り、彼の心は感謝の念で満たされていた。また、月山家の人々の温かさに、微笑まずにはいられなかった。

    ハイセ「ところで、今日は具体的に何を買うんでしょうか?」

    アリザ「えっとですね・・・メインは食器やインテリアですね」

    ハイセ「(食器とインテリア?あっ、月山さんが壊しちゃったからか)」

    アリザ「そして、食料です」

    ハイセ「えっ、それって!?」

    アリザ「違いますよ。買うのは人間の食べ物です」

    ハイセ「ほっ・・・でも何故?」

    アリザ「人間として振る舞うためですよ。屋敷内には、人間のお客様が訪ねてくることもございます。その時、屋敷に食料の備蓄が何一つ無いというのは、余りに不自然です。それに、普段から食料品を購入している家の者を、喰種とは疑わないでしょう」

    ハイセ「納得です。色々、工夫してらっしゃるんですね」

    アリザ「これはまだまだ序の口ですよ。さて、よろしければもう出発しましょうか」

    ハイセ「はい!」
  71. 71 : : 2016/08/13(土) 00:36:39



    ハイセとアリザの二人は、近くの商店街を訪れた。

    二人は、何店舗かを渡り歩いて必要な品々を揃えていった。途中、数人アリザと顔見知りの人物に会い、彼女が親しげに言葉を交わしていく様子を見て、ハイセは、彼女が・・・延いては月山家がこの街の人間の生活に上手に溶け込んでいることを、窺い知ることが出来た。



    そして今は、買い物を終えて商店街を後にしようとしているところである。

    アリザ「あっ、いけない」

    ハイセ「どうしました?」

    アリザ「コップを一つ買い忘れてしまいました。私が戻って買ってきますから、佐々木さんには荷物をお願いします」

    ハイセ「分かりました」

    アリザ「立ってお待ちになるのは大変でしょう。この道を真っ直ぐ進むと右手に公園がありますから、そこのベンチに座ってお待ちになっていてください」

    ハイセ「ありがとうございます」

    アリザ「では行ってきます。しばしお待ちを」

    タッタッタッタッ

    ハイセ「お気を付けて~」

    ハイセ「さて、公園に向かうか」

    ハイセはアリザの指示通りに、道を真っ直ぐに進む。すると間もなく、公園に辿り着いた。その公園は中規模の大きさを持っており、数カ所に渡ってベンチが置かれていた。彼はその内の一つに腰を掛けると共に、両手に持っていた荷物をそっと置いた。

    ハイセ「(静かな公園だな・・・・・・・・・不気味なくらいに)」

    ハイセがそう思うのも無理はなかった。商店街近くの活気のある道路に面した公園、時間は真昼・・・にも関わらず、その公園には彼の他に人っ子一人見当たらなかった。

    まるで避けているみたいに。

    ??「楽しそうだね・・・ハイセくん」

    ハイセ「!?」

    背後から声がした。それなのに、振り向いても誰もいなかった。

    ??「あなたって本当に、楽しそうな“フリ”をするのが得意なのね」

    ハイセ「誰だッ!!!」

    ??「本当は、白い箱に残していった子供達のことが気になって止まないのに。出来ることなら、すぐに彼らの顔を見に行きたいだろうに」

    ??「恋は盲目。これってあなたのこと」

    ??「あなたはあの箱から出るべきではなかった。出るにはまだ早過ぎた」

    ??「あなたは醜い半端者。幸福の自動的失敗、無形の落とし児」

    ??「あなたは、不幸しか産み落とせない」

    ハイセ「(黒山羊の卵―――)それはどういう・・・!?」

    いつからそこにあったのだろうか。
    彼の目の前に、怪しげな衣装に身を包んだ少女の姿。

    ハイセ「(どこかで・・・捜査書類・・・?彼の記憶・・・?或いは両方・・・?)」

    ??「悲劇はあなたのすぐ隣―――――――――」



    『あなた』
    『あなた』
    『あなた』

    『あなた』
    『どうして、愛されると勘違いしてしまったのかしら』
    『そんなに醜いのに』

    高槻泉/「黒山羊の卵」より―――
  72. 72 : : 2016/08/15(月) 21:12:42
    超期待ですッ!どーなるんだ!?
  73. 73 : : 2016/08/16(火) 00:12:30
    >>72
    期待ありがとうございます!
  74. 74 : : 2016/08/16(火) 01:00:10



    気付いた時には、少女の姿はなかった。

    先程の少女の姿はもしかして幻であったのでは・・・当初はそう考えるハイセであったが、彼女の言葉に胸を締め付けられる感覚に襲われ、その考えを否定する。幻にしては余りに鮮明で、重々し過ぎた。

    『悲劇はあなたのすぐ隣―――――――――』

    ハイセ「(この胸騒ぎ・・・何かよくないことが起こっている気がする。まさか、アリザさん―――)」

    ダッ!

    ハイセは荷物を置いたまま、商店街の方へと走り出した。ポツリポツリと雨粒の音が鳴り始めた。



    タッタッタッタッ

    ハイセ「(ダメだ!見つからない・・・)」

    アリザを探し始めたから15分が経った。雨脚はかなり強くなって来ており、それに応じて商店街を歩く人の数は極端に少なくなっていた。人混みに紛れて見つからないというのは考えられないほどである。

    ハイセ「(どこかで行き違いになってしまったのかな・・・一度公園に戻ろう。そうだ、きっとそうに違いない)」

    ―――それにしても、人通りが少なすぎやしないか。

    八百屋の店主「おい兄ちゃん!傘も差さないで大丈夫か!」

    ハイセ「あっ・・・はい、大丈夫です」

    八百屋の店主「そうか。なら良いんだが」

    ハイセはこのやり取りの後、そのまま公園へと向かうつもりだった。しかし、魔が差したかのように、彼はある事を尋ねた。

    ハイセ「あの、この商店街でなにかありましたか?妙に人が少ないような気がしまして・・・あっ、でもこれだけ雨が降っていますから、当然―――」

    八百屋の店主「喰種が出たんだよ」

    ハイセ「―――――――――え」

    八百屋の店主「いやぁ、喰種の捕獲の瞬間なんて初めて見たよ。二人組の捜査官が歩行者の一人に突然、“あなたを喰種容疑者として連行します”って声を掛けてな。そしたらそいつの目が赤くなって・・・ありゃあビックリしたねぇ。でも捜査官の二人は当然のようにそいつを倒して、変な道具を使って捕獲しちまったんだよ。喰種は当然化け物だけど、捜査官も化け物みたいなもんだって思ったねぇ」

    ハイセ「それで、どんな人でしたか!?」

    八百屋の店主「一人は義足で顔が継ぎ接ぎだらけだった。もう一人は―――」

    ハイセ「喰種の方です!」

    八百屋の店主「そっちか。べっぴんの女だったぞ。あっそういえば、隣の小道具屋の婆さんが“アリザちゃん”とか呼んでたな。常連だったのかねぇ」

    ハイセ「・・・・・・・・・嘘だろ」

    ダッ!

    ハイセは再び奔り出した。

    ハイセ「(何でアリザさんが・・・捜査官は、特徴から云ってキジマさんだ。奴はどうして彼女が喰種だと・・・・・・あ、)」

    僕のせいか。



    公園の横を通った際、公園内に視線を移したが、アリザの姿はなかった。
  75. 75 : : 2016/08/19(金) 23:44:15
    ―夜・シャトー―



    不知「しょっぱ!」

    ツボネ「え?」

    不知「ツボネさん。今日の晩飯のスープ、塩入れ過ぎじゃないっすか?」

    才子「お肉の味付けも何か変・・・」

    瓜江「(不味いな)」

    ツボネ「あ、ああ・・・ごめんねぇ」

    不知「結局薬も見つからなかったし、もしかして体調悪いんじゃねぇか?」

    ツボネ「う~ん、そうなのかも」

    六月「私が代わりに何か作りますよ。ツボネさんは少し部屋で休んでいてください」

    ツボネ「それじゃあ、お言葉に甘えさせて頂きます」

    ツボネ「(味覚に影響が出始めたか。早く薬をもらわないとな・・・)」



    ―月山邸―



    観母「結局、アリザくんは戻らずか・・・」

    ユウマ「アリザ・・・くっ」

    観母「目撃情報の通りCCGの手に落ちたと考えるのが妥当だろう」

    ハイセ「――――――すいません。僕の・・・僕のせいだ・・・・・・・・・」

    月山「君が気に病む必要など―――」

    ハイセ「彼女は・・・月山家の人達は、完全に人間社会に溶け込んでいた。それが突然バレるなんて、僕が原因としか思えない!」

    観母「いいや、習くんの言う通り、君が責任を感じる必要はない。だけど・・・君にはこの屋敷を出て行ってもらいます」

    月山「パパ!?」

    観母「それがきっと君のためでしょう。習くんも分かるでしょう?」

    月山「っ・・・」

    ハイセ「はい・・・ありがとうございます」

    月山「パパ、そういうことなら僕も着いていく。僕の主は彼だ」

    ハイセ「ダメです。あなたまで危険な目に・・・」

    月山「僕はSレート喰種だ。自分の身ぐらい守れる」

    ハイセ「だけど、あなたの主は僕ではなく、カネキケンでしょう?」

    月山「それは君だ」

    ハイセ「しかしっ」

    観母「習くんも連れて行ってあげてください。習くんは強いから大丈夫。だから、お願いします・・・」

    ハイセ「・・・分かりました。では、荷物を纏めてきますね」

    観母「焦らないでください。今すぐ出て行けと言っているわけではありません」

    ハイセ「というと?」

    観母「こうなってしまった以上はCCGの動向を探りつつ、慎重に出発する必要があります。安全を確認できるまでは、しばらく待機で。その間、外出は禁止。それと時機が来たらすぐに出発できるよう、準備はしておいてください」

    ハイセ「分かりました・・・」
  76. 76 : : 2016/08/20(土) 23:53:49
    ―CCG本局―



    宇井「月山グループ。100年以上の歴史をもつ大手企業で、財閥解体後も再結集し、現在に続く大きなグループを形成しています。そのトップが喰種である・・・そう、“アリザ”が吐いたと」

    キジマ「ええ。少々身体を平らにして差し上げたら、すぐに教えてくれましたよ」

    旧多「裏もしっかり取っています。例えば、彼が毎年提出していた医療診断書。これは巧妙に偽造されたフェイクでした。各セクションにパイプを持つ一族だからこそ出来た芸当と云えますね」

    伊丙「こんなにも長い年月、身を隠してきたのに・・・なんとも粗末な結果ですね」

    キジマ「100年に一度のヘマを我々が見過ごさなかった。或いは、佐々木琲世の存在が100年の歴史を揺るがす程のものであったか・・・」

    宇井「とにかく、これから総議長に目をお通しになってもらいます。全てはそれからです」



    ―総議長室―



    宇井「・・・経済的な混乱を避けるため、事前に月山グループの副社長らに話は通しておきました。真相が公になれば各団体から圧力がかかり、捜査にも影響を及ぼします。“情報の遮断”。そして、月山本社および関連グループ全体の“一斉Rc検査”を実施してください。グループ内に潜伏している喰種がいるかもしれません」

    常吉「・・・わかった。こちらで執り行おう。S1班・班長宇井郡特等捜査官・・・貴君に“月山家駆逐作戦”の決行を命ずる」

    宇井「は!!」



    宇井「(オニツネ怖かった・・・)・・・!」

    宇井「・・・・・・和修特等、なにか?」

    政「S2がサポートに入る。その挨拶だ」

    宇井「そうですか。総指揮は私が執りますので、どうぞよろしく(・・・手柄が欲しいかハイエナ野郎)」

    政「君の働きに期待している(有馬信者のガキが)」



    ―?区・キジマ式・個人倉庫―



    キジマ「―――そういうわけで、月山家駆逐作戦の決行が決まりました」

    アリザ「んーっ、んーっ」

    キジマ「なんとも哀しいことですなぁ。アリザくん、君は本当は何も話していないというのに・・・しかし、こうでもするしか無かったのだよ」

    ガキン

    ブルルルルロロロ・・・

    キジマの持つチェーンソーが、凶気の轟音を上げ始める。

    キジマ「半喰種で、裏切りの可能性があった者とはいえ、仲間に発信器を仕掛けてあったとなれば問題になりますからねぇ」

    ブロン!! ロン! ロン! ロン!

    アリザ「んーっ!!んーッッ!」

    バタバタバタバタ

    キジマ「こうして“正当な方法”で彼らの正体・住処を示せたこと、感謝しているよ。それだけに残念だ・・・」

    バルン!

    アリザ「けッ」

    アリザの首が宙を舞う。

    キジマ「こうしてあなたを簡単に殺してしまうことが・・・せめてものお詫びに、主に君の忠誠心を伝えておくよ。あの世で仲良く暮らせるようにね」
  77. 77 : : 2016/08/24(水) 00:37:46
    ―シャトー―



    ツボネ「―――捜査は中断。これからは作戦決行の準備期間に入る。だから、“ロゼ”こと“月山家”の駆逐作戦に集中しようね」

    ツボネ「ロゼは甲赫が多い。器用なことに、赫子の分離壁も使ってくる。チームの役割として、小回りが利く瓜江くんと六月くんは前衛。瓜江くんには六月くん、才子ちゃん、それぞれのバックアップを兼任してもらうよ。才子ちゃんは時間をかけてでも威力のある一撃をよろしく。不知くんは後衛で全体のサポート。遠距離への赫子の攻撃もお願い。単体で強力な喰種が出た時は、“ナッツ”を使うことも頭に入れておいて」

    不知「お、おう・・・」

    瓜江「(前衛、中段へのサポート・・・小林も俺を評価しているな。次こそ・・・名実ともに黒磐を凌駕してやる)」

    六月「大きい任務で緊張するね・・・」

    才子「俺が守ってやるよ・・・むつ子。愛してるぜ」

    ツボネ「じゃっ、今日からは特訓期間だね。頑張ろうか、才子ちゃん」

    才子「!?・・・何故私の名前を出すのかな?」

    ツボネ「さぁ・・・。そうそう、真面目な才子ちゃんには関係ないことだろうけど、サボったらゲーム没収だから」

    才子「ギクッ」

    ツボネ「サボるなんて事、誰もしないとは思うんだけどなぁ・・・」クククッ

    才子「も、もちろんであります」



    ―数日後・月山邸―



    ハイセ「今日まで、お世話になりました!」

    月山観母、そして月山家の使用人達が見守る中、ハイセはこう挨拶をし、頭を下げた。

    月山家を発つ日が来たのである。

    ハイセ「そして、申し訳ありません。僕が来たばかりに、この家を危険な目に―――」

    観母「佐々木くん。それはもう言わない約束ですよ」

    松前「貴方には習様を救ってくださったという恩があります。この恩は、決して揺らぐことはありません。だから、堂々と胸を張っていらしてください」

    カナエ「そもそも、貴様を連れて来たのは私だ。貴様のその行為は、私への侮辱となるのだぞ」

    ハイセ「・・・分かりました。ありがとうございます」

    カナエ「習様を・・・頼んだぞ」

    ハイセ「はい」

    月山「おやおや、君はいつから僕のことを心配出来るぐらい偉くなったのかな?」

    カナエ「あっ、いえ、その・・・」

    月山「その心遣い、しっかりと受け取っておくよ」

    カナエ「―――はいっ!」

    月山「執事の皆、パパ、約三年間、多大な心配と迷惑を掛けてしまったこと、心よりお詫びする。そして、それでも僕を見捨てずに、愛し続けてくれたことに感謝申し上げる。ありがとう」

    月山「・・・長くなってしまっても、名残惜しくなるだけだろう。そろそろ行くとしようか」

    ハイセ「そうですね」

    観母「うん、二人とも元気でね」

    月山「パパの方こそ」

    ハイセ「本当にありがとうございました。さようなら・・・」

    二人は、一同に向けて手を振り続けながら、玄関の扉へと歩みを進めた。扉の前に着くと、月山がハイセを制し扉を開く。そして、先に出るように促した。ハイセはそれに従い、外へと足を踏み出した。すぐに月山も続く。

    二人の姿が、見えなくなった。



    松前「では、準備を始めましょうか」

    カナエ「・・・」

    松前「カナエ、本当は・・・」

    カナエ「この後に及んで、私情は挟まん」

    松前「そう・・・」

    マイロ「観母様、監視係から連絡がありました。ちょうど動き出したところだそうです」

    観母「ギリギリだったみたいだね。さぁ、出迎えの準備だ。白鳩の方々に、最高のおもてなしをしてあげようじゃないか」
  78. 78 : : 2016/08/25(木) 00:55:12
    ―21区市街地―



    ハイセと月山の二人が月山邸を出てから、10分が経過した。二人は人通りの多い大通りを歩いていた。

    彼等の向かう先は、6区である。6区・・・この地は11区でのアオギリの騒乱後、“あんていく”から離れることを決意した金木が拠点とした地である。そこを訪れれば、記憶を取り戻すきっかけが得られるかもしれない。そう月山が提案したのだ。

    既に日は沈んでいたが、21区から6区までの距離はそう遠くない。順調に行けば日付を跨がずに6区に辿り着けるだろうと、二人は予想していた。

    だが、その予想は数台の車の接近によって打ち砕かれる。

    月山「おや、何事かな?あのトラックの群れは」

    ハイセ「どこかのお金持ちの引っ越しですかね。それにしても・・・!?」

    月山「どうし―――」

    ハイセ「月山さん!今すぐ脇道に逃げてください!」

    月山「Why?」

    ハイセ「説明している暇はありません!」

    その言葉通り、ハイセは何も言わずに月山の手を掴み、人通りの少ない脇道へと逃げ込んだ。そして、電信柱の裏に身を潜める。トラックの一団は何事も無く過ぎ去っていったが、そこで月山も状況に気付いた。

    月山「あのマーク、CCG所有の車か」

    ハイセ「はい。あのトラックの一台一台に、数名の捜査官が乗っています」

    月山「それはそれは、寒気がするよ」

    ハイセ「(しかし、あの数・・・かなり大規模な作戦だな。相手は一体・・・)」

    月山「・・・あの方向」ボソッ

    ハイセ「どうかしましたか?」

    月山「もしや奴等の狙いは、月山家ではないのか!?」

    ハイセ「なっ!?流石にそれは考え過ぎですよ」

    月山「君の方こそ、ちゃんと考えてみたまえ!あの方向は、僕の家がある方向だ!それと同時に、東京23区の端へと向かう方向でもある。聡明な君ならば、この意味が分かるだろう?」

    ハイセ「それは―――」

    つまりは、他の区への道中というわけでも無い。標的は21区内にある。そして、喰種として過ごした上で気付けること―――

    アオギリを始めとした強力な喰種集団は、21区内にはいない。ある家を除き。

    月山「パパ達は既に知っていたんだ!だからこそ、僕らをあの家から追い出した・・・not!逃がしたんだ!勝手なことを・・・」

    ダッ!

    ハイセ「待ってください!どこへ行く気ですか!?」

    月山「決まっているだろう、我が家に戻る」

    ハイセ「無茶だ!確証が無い上に、もし本当だったとしても打つ手が無い!」

    月山「ああとも。だから君は来なくて良い」

    ハイセ「そういうことを言っているんじゃ―――」

    月山「君ならば、止めないでくれる筈だ」

    あの時止まらなかった君ならば。
  79. 79 : : 2016/08/26(金) 00:58:08
    ―月山邸前―



    ブロロロ・・・ 

    月山邸内の駐車場に、次々と流れ込むトラックの一団。それぞれが停車すると共に、トラックの荷台からゾロゾロと、主にスーツを着た者達が、一斉に流れ出ていく。

    そして、最初のトラックが停車してから5分と経たない内に、全員がトラックから降り出撃準備を完了させた。

    宇井「これより今作戦の最終確認を行う。最優先事項は当主・月山観母の駆逐。次点に、邸内の喰種の全殲滅だ」

    瓜江「(佐々木については触れずか)」

    不知「(サッサン、あんたが本当に喰種の仲間になっちまってて、俺達の前に現れたとしたら・・・そん時は・・・)」

    ツボネ「クインクス班。分かっていると思うけど、ハイセのことは後回しね」

    不知「お、おう・・・もちろんだ」

    ツボネ「(結局、今作戦前の連絡事項に“表向きは”佐々木琲世の名は挙がってこなかった。彼とロゼを結びつける証拠は最初のあれだけだから、当然ではあるけれど・・・)」

    六月「そう言えば、伊丙上等は宇井特等と一緒じゃないんだ」

    才子「それな」

    不知「伊丙上等なら、逃亡した喰種の殲滅が任務の筈だぜ」

    才子「やけに詳しいぞね」

    不知「な、なんだよ。会議でちゃんと言われてたぞ」

    ツボネ「私語もそこまで(郡先輩がキレる)」

    宇井「・・・先ずは作戦通り、S1班・真戸班・伊東班の班員は正面から突入する。他の班は連絡があるまで待機」

    宇井「では・・・月山家駆逐作戦、決行だ!」



    ―21区市街地―



    『行かないではくれまいか・・・』

    『・・・ごめんなさい月山さん。・・・止めに来てくれてありがとう。・・・でも―――』

    『何も出来ないのは、もう嫌なんだ』



    ―――僕が皆を助けに戻れば、それはただの犬死だ。

    僕だけならば構わない。だが、その行為は僕等を逃がしてくれた皆すらも犬死としてしまう。

    選ぶべき正解は、解っているんだ。しかし・・・

    月山「(・・・・・・ああ、こういう気持ちだったのか・・・とめられないわけだ・・・)」

    そして、止めさせない。

    ハイセは月山の目から、その強い意志を感じ取った。彼がとった行動は・・・

    ハイセ「残念ながら、貴方の期待には添えません。力尽くでも止めさせてもらいます」

    ガキィン!

    クインケ“フツギョウ”を展開する。これが彼の意思表示。

    月山「そうか・・・“佐々木クン”らしいね」

    仕方ない。

    バキキッ

    月山は甲赫を発現させた。
  80. 80 : : 2016/08/27(土) 21:57:59
    月山「―――いや、止めておこう」

    そう言って、月山は先程出したばかりの赫子を自身の赫包内に収めた。

    月山「君が相手では勝ち目がない。それに、主の言うことに逆らうというのも、紳士的ではない」

    ハイセ「月山さん・・・」

    月山「パパの、使用人達の意志は無駄にはしないさ。さぁ、ゆこう」

    ハイセへと歩み寄る月山。ハイセはそれを見て、フツギョウを握る手を下ろした。その瞬間―――

    ジャッ

    ハイセ「!」

    ドゴォ!

    ハイセ「かッ!」

    無防備な状態となったハイセの腹に、月山の渾身の蹴りが叩き込まれた。その威力は凄まじく、ハイセの体は数十メートル先まで飛ばされる。

    月山「すまない佐々木クン・・・」ボソッ

    タッタッタッタッ



    ―月山邸・正面玄関―



    ザッ

    宇井「月山観母だな」

    観母「oui」

    宇井「動くな」

    観母「・・・・・・逃げるつもりはありませんよ。寧ろ―――」

    ババッ

    左右両側の死角から、松前とマイロが姿を現す。

    観母「歓迎します」

    シュッ

    捜査官A「ぼっ」

    ザンッ

    捜査官B「げぇッ」

    二人は瞬く間に、宇井の両脇を固める捜査官の両名を屠り、宇井へと牙を向ける。

    ガギィン!

    マイロ「くっ・・・」

    松前「(迅い)」

    奇襲に気付いた瞬間、即座にクインケ“タルヒ”を展開させていた宇井は、それ一つのみで二人の攻撃を防いでのけた。

    宇井「突入班!直ちに突入せよ!」

    ゾロゾロゾロ

    玄関前に待機していた捜査官達が一斉に屋敷へと流れ込む。それに対し、松前とマイロは一旦退避し距離をとる。

    観母「では、ここを頼むよ」

    観母は視線を宇井から外し、奥へと歩き始める。

    宇井「逃がすか!」

    タッ

    宇井は観母を逃がすまいと追跡を試みる。その時―――

    ババババッ

    白鳩達を囲むように、月山家の使用人達が一斉に姿を現した。

    伊東「囲まれていた!?」

    富良「喰種の屋敷に乗り込んだんだ。当然と言えば当然か」

    宇井「私がS1の数名と月山観母を追う!他の班はここを囲む喰種達を殲滅しろ。ここの現場指揮は真戸暁准特等に任せる!」

    アキラ「はっ!」

    一通りの指示を終えると、宇井は4名の部下を引き連れ包囲網へと突っ込んでいった。それを契機に、捜査官、使用人の全員が一斉に動き出した。



    ―月山邸・東玄関前―



    宇井『―――こちらの予想通り、正面玄関に大量の兵隊が待ち伏せていた。そこで作戦通り、東玄関・西玄関で待機している者達にも突入してもらう。包囲網を外側から崩してくれ』

    ツボネ「それじゃ、出番だね」

    瓜江「(待ってろ、俺の“喰種達”)」

    才子「ドキドキドキドキ」

    六月「才子ちゃん、口で言うともっと緊張しちゃうよ・・・」

    不知「・・・おっし、いくぞ!!!」
  81. 81 : : 2016/08/27(土) 22:40:35
    ―21区市街地―



    ハイセ「ぐっ・・・待って・・・月山さん・・・・・・」

    月山の不意打ちを受けたハイセは、地面へと伏したまま手を伸ばし、月山を留めようとする。しかし、その声は届かない。月山は既に、彼の視界から消え去っていたのだから。

    市民「き、君・・・大丈夫?」

    頭部を少し切っていた彼を心配し、一人の市民が声を掛けてきた。赫眼も赫子も出ていない今の彼は、一般市民から見れば紛れもなく人間であった。

    ???「離れた方が良いですよ。その男は喰種ですから」

    ハイセ「!?」

    市民「え、喰種!?」

    ??「それと、今からここは戦場になりますよ~」

    ??「あっ僕、避難誘導して来ますね。こっちですよ・・・」

    ハイセ「キジマさん・・・ハイル・・・」

    伊丙「久しぶりですね~ハイセ」

    キジマ「やぁやぁハイセくん。元気そうで何よりだよ。しかし・・・どうしてこんなところにいるのかな?」

    ハイセ「どういう意味ですか?」

    キジマ「いえ、てっきり・・・月山邸にいるものと思っていたから」

    ハイセ「ッ―――(やはりバレていたのか)」

    そして、アリザさんが捕らえられた理由もやはり・・・

    ハイセ「アリザさんはどうなった」

    キジマ「ああ、彼女か。彼女なら・・・殺しましたよ」

    ハイセ「・・・・・・そんな」

    キジマ「本当に哀しい少女だ。君と外出してしまったばかりに、我々に喰種であることを知られ・・・拷問にかけられ、仲間を売って、命乞いをして、首を斬られて、息絶えた」

    ハイセ「拷問・・・そんな・・・・・・」

    ズズッ

    ハイセ「許せない―――」

    ダッ!

    ハイセ「キジマァァァアアア!!!」

    赫子を発現させ、ハイセは一目散にキジマに襲い掛かる。その鱗赫を、彼の持つアタッシュケース目掛けて放―――

    ザンッ

    突如として、斬り落とされる赫子。直後、ハイセの眼前に刃が迫る。

    ビュオッ!

    その刃は、仰向けに身体を仰け反らせたハイセの鼻先を通過した。

    ハイセはそのままの勢いで身体を倒し続け、両手を地面へと着ける。そして―――

    ドン!

    勢いよく地面を押し、刃の主へと蹴りを放った。

    ギィンッ!

    伊丙「わっと・・・」

    ハイセ「(クソっ、弾かれた)」

    キジマ「お見事ですなぁ、ハイル嬢。助かりました」

    伊丙「そのまま下がってても大丈夫ですよ。実は私、ずっと気になっていたことがあったですよね・・・」

    伊丙はクインケ“アウズ”を構え直す。

    伊丙「私とハイセ。どっちが有馬さんに近い(つよい)か、勝負ですよ」
  82. 82 : : 2016/08/28(日) 19:34:14
    ―月山邸上空・CCG所有ヘリ―



    捜査官C「伊丙・キジマ両捜査官が、佐々木琲世と交戦を始めたとのことです」

    政「分かった。捕縛が望ましいが、最悪殺しても構わないと伝えろ」

    捜査官C「了解しました」

    政「(やはり掛かったか。これで、一番の懸念材料が取り払われた)」

    後は駆除するだけだ。



    ―月山邸・大広間―



    正面玄関から入ってすぐのところにある大広間では、総勢50に迫る喰種と捜査官が火花を散らしていた。

    富良「らぁっ!」

    ブオンッ!

    使用人A「ぼばっ」

    倉元「っよ!」

    ザシュッ!

    使用人B「ぐお!」

    道端「こりゃぁ想像以上の大乱戦だな」

    倉元「伊東班、攻め気になりすぎるなよ!隊列の保持が最優先だ!」

    バッ!

    倉元「!?」

    班長として班員に指示を飛ばす倉元に、一つの影が襲い掛かる。その影の正体は・・・マイロ。

    道端「倉元ッ!」

    ガギィン!

    倉元「そう簡単にやられるかよ」

    倉元がクインケ“センザ”で攻撃を受け止めている間に、道端と武臣の両名が攻撃を仕掛ける。が、マイロはそれを回避―――だけではない。

    倉元「―――根津!」

    根津「っ!?」

    回避した方向にいた根津に対し、マイロは甲赫で攻撃を仕掛ける。根津は初撃の突きをギリギリで反応し、防ぐ。その直後―――

    マイロ「カナエ」

    カナエ「Ya」

    根津の背後にカナエが現れる。

    カナエ「Borg!」シュッ

    ドスッ

    倉元「―――根津」

    根津「ごぱっ・・・」

    ドサッ

    胸部を背後から貫かれた根津は、そのまま屍体となり横たわった。

    倉元「根津!!!・・・てめぇ!」ジャッ

    倉元は感情の高ぶりのままに、カナエへと攻撃を仕掛ける。カナエは彼の怒りに見向きもせず、二階へと飛び移りそのまま離れていった。

    道端「落ち着け倉元!敵はあいつだけじゃねぇぞ!」

    梅野「根津の仇なら、まずはこの男を仕留めましょう!」

    マイロ「(標的を俺に絞るか。好都合だ)」



    シュッ!

    使用人C「が!」

    使用人D「げぇっ」

    使用人E「ぎゃあ!」

    アキラ「どうした?大企業月山グループも、武力は矮小であったか」

    フエグチを振るい次々と喰種を薙ぎ払うアキラ。彼女の実力を恐れた喰種達が彼女から遠ざかったことにより、周囲には屍のみが広がっていた。

    使用人F「あの“背骨使い”・・・何て強さだ。俺達では太刀打ちが・・・」

    ??「私が相手をしましょう」

    その屍の領域の中に、一人の騎士が足を踏み入れた。

    使用人F「室長!彼女なら・・・」

    松前「どうも初めまして。松前と申します」

    アキラ「初めまして。さようなら」
  83. 83 : : 2016/09/03(土) 20:58:06
    アキラかっこいい!!!期待!

  84. 84 : : 2016/09/04(日) 15:48:57
    面白い!
    琲世くんQsどうなるのか…!
    超期待です!
    待ってます!
  85. 85 : : 2016/09/04(日) 22:04:00
    >>83
    期待ありがとうございます!

    >>84
    ありがとうございます!
    また更新速度が落ちてきましたが気長に読んでいただければと思います。
  86. 86 : : 2016/09/04(日) 23:03:56
    ―月山邸・東棟―



    タッタッタッタッ

    ツボネ「―――私達の目的は東棟内の喰種の殲滅、及び正面突入班との合流」

    六月「大広間の喰種達を内と外で挟み撃ちにするためですね」

    ツボネ「そっ」

    瓜江「(功績を奪われる前に)急ぎましょう」

    東玄関から突入を敢行したクインクス班。彼女達は作戦内容を確認しつつ、東棟内を中央棟へと突き進む。その後ろには、大坪班が続く。

    二班の目的は、ツボネが話した二つである。しかし前者の目的は、言うなれば“ついで”であった。大きな権威を持つグループとはいえ、アオギリの樹のような戦闘集団ではない月山家に、棟ごとに迎撃の兵士を配備する程の戦力は存在しない、とCCGは見立てていたのである。

    ところが、月山家―――もとい月山グループはその見立てを上回る。

    大坪「(やはり、敵の気配はないか・・・)」

    ツボネ「―――みんな止まれ!」

    六月「!?」

    才子「ホワ―――」

    ヒュヒュンッ

    ドスドスドス

    才子「イッ!?」

    ツボネの指示で全員が停止した直後、目の前の床に羽赫の雨が降り注いだ。

    不知「(危ねぇ。ツボネさんに止められなかったらまともに浴びてたぜ・・・)」

    呉井「おやおや、避けられてしまいましたか」

    この声の後、二十を超える喰種が姿を現す。

    六月「真ん中の人、どこかで見たことが・・・」

    ツボネ「新聞かなんかに顔ぐらいは載ったことがあるだろうねぇ。“アポログループ”の呉井さん」

    大坪「やはり、月山家以外にもグループ内には喰種が多くいるということか」

    呉井「ここでのうのうと生き延びたところで、いずれは駆逐される身・・・ならば最期まで、観母様に忠義を尽くすのみ!!!全員かかれ!」

    呉井の部下「オオオオオ!!!」

    大坪「構えろ!」

    雨止「ハッ」

    ツボネ「みんな、作戦通りにいくよ!」

    不知「おっし、行くぜ!」
  87. 87 : : 2016/09/06(火) 23:28:35
    呉井率いるアポログループ所属の喰種達は、文字通り命を捨てて特攻を仕掛ける。対するクインクス班、大坪班の二班はそれぞれ陣形を敷いてこれを迎え撃つ。

    そのクインクス班の陣形とは、作戦前にシャトーにてツボネが話した通りである。

    不知「おらぁあ!」ドシュシュゥ

    後衛・不知が全体のサポート。羽赫で遠距離から敵を牽制する。

    才子「オロロロ」タッタッタッ

    中段・才子が決め手の一撃を。この戦闘では出番無し。

    六月「ふっ」

    ザシュッ

    前衛・六月が敵と直接刃を交える。機敏さを活かし、敵を翻弄する。

    瓜江「前方は俺がやる。六月はサイドを頼む」

    六月「うんっ」

    同じく前衛・瓜江は六月、才子のバックアップ。攻撃面での潤滑油となる。

    ツボネ「(実戦を見るのは初めてだけど、よく動けてるな。オークション戦で功績を挙げたのは伊達じゃないみたいだね。この分なら、私が少し自分勝手に動いても大丈夫かな)」

    コトッ

    後衛で待機していたツボネは、携行している二つのアタッシュケースの内の一つを床に置く。それから―――

    ガキィン!

    もう一つの取っ手部分にあるスイッチを押し、クインケを展開した。

    雨止「(ようやくクインケを・・・)」

    瓜江「(何だあの大きさは。扱いきれるのか?)」

    瓜江がそう思うのも無理はない。

    ツボネのクインケ“ガイア”は身の丈程もある大刀である。刀身の長さだけでも一メートルを超えるその外観からは、重量感が伝わってくる。これを扱えるのは、比較的高い身体能力を持つ捜査官の中でも筋力を自慢とする者だけ・・・誰もがそう思う程に。だが、それを携えているのは、女性で、その中でも華奢な体格の、小林ツボネである。

    そんな瓜江の心中を知ってか知らずか、ツボネはガイアを片手で軽々と持ち上げてみせる。

    ツボネ「さて、久々に大暴れしますか」

    次の瞬間―――

    ダッ!

    ツボネは瞬く間に前衛の前へと躍り出る。そして―――

    ブンッ!

    野球選手のスイング時に聞こえるものに似た大きな風切り音が響く程に、彼女は疾く鋭くガイアを振るった。その一振りの威力は凄まじく、刀身の軌道上にあった喰種の身体は忽ち両断された。

    不知「すっげぇ・・・」

    ツボネ「まだまだいくよ」

    それから彼女は自由自在に動き回り、ガイアを手足のように扱って、次々と喰種達を薙ぎ払っていく。

    六月「(あんな重そうな刀を、まるでナイフみたいに・・・)」

    大坪「(ある意味こいつも・・・いや、こいつの方が化け物だな)」

    呉井「貴様は私が!」

    赫子を発現させ、ツボネに襲い掛かる呉井。その次の瞬間には、彼は二つに割れていた。
  88. 88 : : 2016/09/08(木) 18:17:05
    ―月山邸・書斎―



    ガゴォン!

    書斎の入り口の扉が、強引にこじ開けられる。開かれた入り口を通り、宇井郡率いる数人が書斎の中へと入る。

    宇井「もう逃げ場はないぞ。月山観母」

    観母「さっきも言ったように、逃げるつもりはありません。ただ、最期に最愛の者の顔を一目見ておきたいと思いましてね」

    宇井「家族か?」

    観母「ええ。妻です」

    宇井「まさか、逃が―――」

    観母「心配には及びませんよ。調べれば分かることでしょうが、既に亡くなっています。私が見に来たのは、写真です」

    宇井「・・・事実かどうか、政特等に確認しろ」

    捜査官D「はっ」

    観母「この後に及んで、嘘は吐きませんよ」

    宇井「気にするな。職業上、喰種の言葉を鵜呑みにするわけにはいかないだけだ。それに、真偽がどうであれ私のすることに変わりはない。お前を駆逐する、それだけだ」

    観母「そうですね。それでは私も使用人達と共に・・・最期まで戦うとしましょう」



    ―21区市街地―



    ガッ ガガッ キィン!

    佐々木琲世と伊丙入。二人の攻防によって、幾度となく火花が散る。彼等は五分五分の戦いを繰り広げていた。

    伊丙「よっ」ブンッ

    ザシュッ

    伊丙がアウズを振るえば、ハイセの赫子は一太刀で切り落とされる。

    ダッ

    伊丙「そ~~~りゃ!」ブオンッ

    スカッ

    伊丙「空振りかいな」

    しかし、ハイセの反応速度に掛かれば、伊丙の攻撃は容易に回避される。

    ハイセ「(僕の番―――)」シュッ

    逆もまた然り―――

    伊丙「当たらんよ」ブブンッ

    ザザザンッ

    伊丙のクインケ捌きの前には、ハイセの放つ赫子は届き得ない。

    キジマ「(お互いの対処能力が、お互いの攻撃能力を上回っている・・・)」

    伊丙「やっぱり厄介ですねぇ。楽しいけどめんど」

    ハイセ「(決定打を与えるには、攻防を重ねる中で僅かな隙を見出し、そこを突く・・・だけど、そんなことをしている暇はない。キジマ式がいつ介入してくるかも分からないし、何より僕は月山さんを追わなければ・・・)」

    今すぐ、強制的に活路をこじ開ける。

    ハイセ「(クインケを回収しよう)」
  89. 89 : : 2016/09/09(金) 14:54:22
    ハイセが所有するクインケは、フツギョウとヤシャ弐protoの二つ。この時、彼の手元にはそのどちらもなかった。月山に蹴り飛ばされた際、地面に置いていたヤシャのアタッシュケースはもちろん取り残されており、手に持っていたフツギョウも蹴りの衝撃によって手放してしまっていた。

    これら二つのクインケはどちらも強力。片方でも手にできれば戦況は大きく変わるだろう。特にヤシャを装着した場合の戦力アップは凄まじい。しかし進路上には、伊丙が立ちはだかっている。

    ハイセ「(スピードならこちらに分がある。いける―――)」

    ダッ!

    全速力で伊丙に接近。そして、赫子を放つ。

    ザザンッ

    例の如く、放った赫子はアウズによって切り落とされる。が、それでいい。

    ピキ

    伊丙「(下?)」

    ズズッ ギュオオオ

    アスファルトを突き破り、地中からハイセの赫子が飛び出してきた。伊丙の虚を突く攻撃。しかし、これで片が付くならハイセは苦労していない。伊丙はこの奇襲に的確に反応、回避した。

    伊丙「その技羨ましいなぁ。私も有馬さんみたいに地中から―――」

    ―――あれ、ハイセはどこに?

    旧多「あっ!逃げる気です!」

    タッタッタッ

    伊丙の背後から、何者かの疾走音が聞こえる。“何者か”の正体は、当然ハイセである。

    彼は、伊丙が地中攻撃からの回避に神経を傾けている間に、彼女の横を通り抜けていたのだ。

    伊丙「岡平!クインケェ!」

    岡平「はっ―――」

    キジマ「その必要はありませんよ」

    ハイセ「!?」

    突如、ハイセの前に立ち塞がるキジマ。正確には、ヤシャのアタッシュケースの前にである。

    ハイセ「(いつの間に)」

    キジマ「あなたの狙いは“これ”でしょう?申し訳ないが、あなたの好きにさせるわけにはいきません」

    ハイセ「くっ!」シュッ

    キィン!

    ハイセの攻撃を、キジマはクインケ“ロッテンフォロウ”で防ぐ。

    キジマ「ハイル嬢。今のうちですよ」

    伊丙「え~、本当はちゃんとタイマンしたかったんですけど」

    タッタッタッ

    伊丙「まっ、仕方無しです。任務第一」

    ハイセ「―――僕の勝ちです」

    キジマ「!?」

    旧多「キジマさん!奴の右手を!」

    旧多の声を受けてハイセの右手に視線を移す。そこには既にフツギョウが握られていた。

    キジマ「(いつの間に!?)」

    ハイセ「ふっ!」ブンッ

    ガギィン!

    キジマが動揺している間に、ハイセはフツギョウをロッテンフォロウ目掛けて叩き込む。その衝撃で、ロッテンフォロウがひび割れると共に、キジマの身体も数メートル弾き飛ばされた。

    キジマ「ぐおぉ(・・・そうか。私に攻撃を仕掛けている間に、使用していない赫子で掴み取ったのだな)」

    もっと言えば、ハイセの狙いは最初からフツギョウであった。だからこそハイセはヤシャへと向かって走った。狙いを誤認させるために。

    伊丙「でも、勝利宣言には早過ぎますよ。あんまし嘗めてっと―――」

    伊丙は跳び上がり、ハイセの頭上へと躍り出る。

    伊丙「早よ死ぬよ」

    そして、全筋力に重力を載せた渾身の一太刀を振り下ろした。
  90. 90 : : 2016/09/10(土) 21:41:02
    キィン!

    伊丙「―――これを受け止めますか」

    回避するのではなく、防ぐ。これが可能になることこそが、フツギョウを手にする最大の利点だ。棍棒状に太く形成されたこのクインケは、鱗赫の中では比較的優れた強度を誇っている。

    とは云え、それでも鱗赫のクインケであることに変わりはない。普通の一振りであれば防御可能であるが、先程のような重い一撃も防ぐことが可能か・・・と問われれば、答えは否である。それならば、どうやって防いだのか。答えは、ハイセの鱗赫。

    キジマ「(クインケの周りに、彼の赫子が巻き付いている。単体では脆い鱗赫も、緩衝材程度の働きは果たしたということですか)」

    そして、全身全霊の攻撃を受け止められた伊丙には大きな隙が―――

    バキィッ!

    伊丙「あ―――」

    伊丙の持つアウズは、ハイセの赫子によってへし折られた。



    ―月山邸・大広間―



    アキラ「ふっ!」ブオンッ

    松前「当たりませんよ」タッ

    アキラと松前の戦いは、互いに距離をとった状態のままで繰り広げられていた。

    松前「(天才・・・と言ったところかしら。あれだけ複雑な動きをするクインケを、手足のように扱うなんて。接近する隙がないわ)」

    アキラ「どうした?逃げるばかりでは勝てないぞ」

    松前「そう煽らないでください。無駄ですから」

    アキラ「ほう(ナキ(馬鹿)のようにはいかないか)」

    二人の会話の真意に近付くには、アキラの攻撃には、一見すると決定的な隙があることを知っておかねばならない。その隙とは、フエグチが完全に伸びきった瞬間である。一般的な考えでは、この手の得物が伸びきった時、使用者の懐はがら空きになる。現に、先のオークション戦においてアオギリの樹のナキは、その瞬間を狙い接近を試みた。が、彼に待っていたのは背後からの一撃であった。

    アキラは自分のクインケの弱点を理解している。そしてそれを補うだけでなく、利用する方法を心得ている。それを松前は、彼女の攻撃を観察することで悟っていた。

    アキラ「(こいつは手強いな。“本当の”隙を見せれば一瞬でやられる)」

    終始アキラのペースであるものの、両者の実力は互角。一対一であれば、どちらに軍配が上がるかは全く読めない戦いであった。

    しかし月山家駆逐作戦において、明らかに優勢なのは―――
  91. 91 : : 2016/09/11(日) 09:04:31
    更新ありがとうございます!
    楽しみです。
  92. 92 : : 2016/09/12(月) 19:02:33
    >>91
    いえいえ!楽しみにしてくださってありがとうございます!
  93. 93 : : 2016/09/12(月) 19:02:40
    ―月山邸・東棟―



    ツボネ「これで殲滅完了かな」

    瓜江「(結局、半分近くを小林上等に持って行かれてしまったか・・・)」

    大坪「先を急ぎましょう。そろそろ合流できるはずです」

    ツボネ「よっし、みんな走るぞ!」

    タッタッタッ

    先陣を切って走り出したツボネに、他の者達も続いていく。だが、ツボネの足は次の扉を開いたところで止められた。

    不知「ツボネさん、また敵っすか?」

    ツボネ「うん・・・今度はかなり強そうだ」

    そう告げるツボネの視線の先には、大きな口が描かれたマスクを被り、黒いローブに身を包んだ何者かが無言で佇んでいた。

    ツボネ「クインクス班、大坪班・・・・・・戦闘配置。私と瓜江くん、そして大坪上等が前衛。六月くんと雨止一等がその補佐。才子ちゃんは大技待機。その他は才子ちゃんを護ると共に後方支援」

    大坪「私共の班の配置まで勝手に決めるのですね」

    ツボネ「異議があるならどうぞ」

    大坪「ありません。これが最善でしょう・・・」

    瓜江「(ビリビリ来やがる・・・間違いなく大物・・・!)」

    ツボネ「―――来るぞッ!」

    敵が動くのを察知したツボネが檄を飛ばす。それに反応し、前衛のメンバーが一斉に動きだし、敵へと接近を試みるが―――

    ガキィン!

    次の瞬間、ツボネが敵の攻撃を受け、弾き飛ばされていた。人間離れした反射神経を以てクインケを盾にしていなければ―――この場でいえばツボネ以外の者への攻撃であれば―――この時点で一つ目の遺体が出来上がっていただろう。

    バクンッ

    「も゙ェ」

    そしてその次の瞬間には、今度こそ一つ目の遺体が出来上がると同時に、それは“食べ残し”となっていた。

    ビチャチャ

    不知がそれに反応したのは、血飛沫が自分の顔に掛かった時だった。

    大坪「梶原!」

    先端部にマスクに描かれたそれより大きな口を持つ赫子。それを従える敵は、いつの間にか天井に佇んでいた。

    クンッ

    赫子の次なる標的は―――

    才子「!!」

    ヒュオオオッ

    瓜江「米林ッよけろ!!!」

    ジャッ! 

    雨止「ああっ!」

    ザンッ!

    雨止は決死の覚悟で、敵の赫子を才子に届く前に切り裂いた。

    雨止「下がってなさい!」

    才子「あ・・・ありがと」

    瓜江「(あぶねぇ・・・)何してる間抜け!!」

    六月「・・・!瓜江くんッ!!!」

    ヒュオオオッ

    雨止に切断した赫子が、切断面に再び口を生やし瓜江に襲い掛かる。

    瓜江「!!!」ビキキ

    瓜江は甲赫を発現させ―――

    瓜江「んウ!!!!!」

    ザシュッ!

    もう一度赫子を切断した。

    ストッ

    大坪「(敵が地上に降り立った。今がチャンス・・・)六月一等、奴を押さえるぞ!」

    六月「はっ!!」

    ザンッ ザシュザシュッ

    二人掛かりで敵に切り掛かり、その動きを制限する。

    ツボネ「不知くん!支援!」

    不知「分かってますよっ」ドシュシュシュ

    ドドドンッ

    不知が放った羽赫のミサイルは見事に着弾し、敵の身体の一部を吹き飛ばした。

    不知「しゃあッッ!!」

    ツボネ「トドメだ!才子ちゃん!!!」

    才子「・・・」ズズズ

    ドオッ!!!

    才子が放った極大の赫子が、敵の胴を真っ二つにした。
  94. 94 : : 2016/09/12(月) 20:51:49
    めっちゃ面白いです!!
    期待です!!
  95. 95 : : 2016/09/13(火) 21:20:24
    >>94
    ありがとうございます!!
  96. 96 : : 2016/09/13(火) 22:24:40
    才子「ハァ・・・ハァ・・・・・・ぜぇ・・・」

    不知「大丈夫か、才子・・・」

    大坪「や・・・・・・ったのか?」

    ズズッ

    ツボネ「!!」

    ズズズズズッ

    不知「オ・・・オイッ!」

    敵の上半身と下半身、それぞれの断面から数十本の管が伸び、二つを繋ぐ。そして・・・

    モゾモゾモゾモゾ

    管が徐々に縮んでいき、切断面同士がピタリと合わさった。

    ツボネ「こいつ・・・」

    大坪「こんな化け物じみた修復、見たこと・・・」

    ヒュオッ!

    「おじゃ」

    雨止「―――え」

    雨止が左を見た時には、大坪班員の井上の上半身は無かった。そればかりではなく―――

    グムッ

    既にその大きな口が、雨止へと接近していた。

    雨止「―――ぁあ!」

    ガイィンッ!

    雨止「ぐぁッッッ!!!」

    敵の赫子が雨止を喰らう直前、彼女はクインケ“シライ”を割り込ませることで丸呑みは避ける。しかし、その重みまでは防ぎきることが出来ず、彼女の体は弾き飛ばされた。

    大坪「雨止ッ!!」

    雨止「っく・・・クインケが・・・・・・」

    ―――ズキ

    雨止「ゲホッ!!!オエェェェ」

    ビシャビシャ

    彼女が吐き出した物、それは大量の血だった。



    ―21区市街地―



    伊丙「あ~・・・、折られちゃった~」

    ハイセ「(これで主力の二人は戦えなくなった。そろそろ引き時だ。まずはヤシャの回収を・・・)」

    ハイセがヤシャ回収のため、伊丙から視線を外す。

    伊丙「岡平ァ、クインケェ・・・」

    ハイセ「!!(二本目があるのか?)」

    岡平「は」

    伊丙「はよせえ!!!」

    岡平「はいっ」ブンッ

    黒いアタッシュケースが伊丙へと投げられる。彼女はそれをキャッチし、即座に取っ手のスイッチを押した。

    ガキィッ

    ハイセ「なっ!?これは・・・」

    T-Human(羽赫/S+)。伊丙入が持つもう一つのクインケである。その攻撃方法は有馬貴将の持つナルカミと類似しており、高出力のRc細胞を稲妻のように放出するというものである。また、その威力もナルカミに次ぐ強大さを誇る。

    バキキキキ

    伊丙「散れや」

    ドウッ!

    ハイセ「(これは―――)」

    受けられない。

    バッ!

    攻撃の威力を察したハイセは、防御ではなく回避を選択。その選択は正しく、回避も成功したのだが、攻撃に転ずる時間は無い。

    グイッ

    次なる稲妻が襲い来るからだ。

    ハイセ「(ヤシャは・・・キジマがいるか。クインケのない奴からヤシャを回収するぐらい、造作も無いことだ。が、それでもタイムロスは生じる。その間にあれに追い付かれて終わりだ)」

    ―――手を貸そうか?

    ハイセ「!?」

    カネキ(僕に体を貸しなよ。そうすればすぐに片付けてあげる)
  97. 97 : : 2016/09/16(金) 22:16:15



    瞬きを一つすると、辺りは市松模様の世界に変わっていた。

    ハイセ「―――久し振りに、君の方から出て来てくれたね」

    こう言葉を掛けると、白髪の子供は眉をひそめた。

    ハイセ「“貸しなよ”って、随分と控え目な言い方だね。元はといえば君の体なんだから、“返せ”で良いのに」

    子供の表情は変わらない。

    ハイセ「もちろん・・・返すよ。記憶を取り戻し、トーカちゃんと再会する。それが今の僕の望みだから。ハイル達を倒すまでじゃない、いつまでも・・・」

    カネキ(はぁ・・・)

    今度は、大きな溜め息を吐く。何かに呆れたような素振りだ。

    カネキ(それが出来たらもうそうしているよ)

    ハイセ「え・・・出来ないの?何で?」

    カネキ(君がそれを望んでいないから)

    ハイセ「なっ!?僕は・・・」

    カネキ(まぁいいよ。一時的という条件付きなら君も同意しているようだし・・・)



    君の体、借りるよ―――



    バリバリバリィ

    伊丙「ちょこまかと・・・」

    グイッ

    伊丙は、T-Humanの稲妻から逃れるハイセを追いかけるように軌道を変える。

    伊丙「逃げんなや!」

    ハイセ「・・・ええ」

    ズズズッ

    ハイセ「僕も、そう思っていたところです」

    次の瞬間―――

    バキィ!!!

    ハイセの赫子による分厚い壁が、稲妻を完全に遮断した。



    ―月山邸・大広間―



    大広間にて繰り広げられる、真戸班・富良班・倉元班VS月山家使用人の戦いは、膠着状態となっていた。



    ユウマ「うおおお!」ブンッ

    キィン!

    富良「熱くなってるようだが、俺は冷静にいかせてもらうぜ」

    ユウマの赫子を防御し、こう呟く富良。その直後、彼は急に後ろへと後退した。すると―――

    ドドドドドッ

    空中から茨の雨が降り注ぎ、富良の眼前の床へと突き刺さった。

    カナエ「気付かれたか!」

    ユウマ「(よく周りが見えている。それも当然か・・・)貴様等、勝気はあるのか?」

    富良「あるに決まってんだろ」

    ユウマ「疑わしい限りだな・・・(攻め気がなさ過ぎる。それもこの男に限ったことではない。この場にいる白鳩全員が、膠着状態をよしとしている)」



    ギュオオッ

    松前「(行くしか―――)」ダッ

    アキラが放ったフエグチが伸びきった瞬間、松前はアキラとの距離を一気に詰めに掛かる。それは、先刻までの彼女には考えられない行動であった。

    アキラ「何のつもりだ?」グイッ

    松前が予想していた通り、この瞬間はアキラの隙にはならない。アキラはフエグチを操作し、松前の背後へと刃を向ける。それを察した松前は、体の向きを変え―――

    ガキィン!

    “盾”でフエグチの先端の刃を防いだ。が―――

    ザシュッ

    松前「ぐっ・・・」

    横から襲い来る、フエグチの腹の部分による攻撃には対応できず、傷を負ってしまう。

    アキラ「逸ったな」

    松前「そうせざるを得ませんから」

    アキラ「ほう。気付いていたのか・・・だが」

    ガゴォン!

    大広間・西側の扉が勢いよく開かれた。

    アキラ「もう手遅れだ」

    次の瞬間、その扉から十人前後の捜査官が姿を現した。
  98. 98 : : 2016/09/16(金) 23:10:36
    ―月山邸上空・CCG所有ヘリ―



    下口『西棟突入班、合流完了しました』

    政「ご苦労。大広間の現場指揮は真戸准特等に任せてある。彼女の指示に従え」

    ―――順調だな。

    政「(貴様等の抵抗など、初めから無意味とわかりきっていたのだよ・・・)」

    捜査官C「和修特等!大坪班班長、大坪薫上等からの通信です」

    政「(大坪班・・・東棟突入班か)なんだ?」

    捜査官C「それが―――」



    ―月山邸・東棟―



    大坪「―――現在クインクス班と共に喰首と対峙中。死者・・・二名。副班長の雨止が負傷している。かなり酷い。医療班を要請する。東棟だ」

    本部への連絡を終えた大坪は、雨止の体を抱えた。

    大坪「本当は、動かさない方が良いのだろうけど・・・」

    雨止「大坪・・・上・・・・・・等・・・・・・」

    大坪「喋らないで。内臓破裂の可能性がある」

    雨止「・・・私に・・・構わないでください・・・・・・」

    大坪「上官命令よ。従いなさい」

    雨止「敵は・・・すぐそこ・・・・・・です・・・」

    大坪「貴方は私と違って才能があるわ。私なんかが上官だから、引き出しきれずにいるだけで、優れた才能を持っている」

    雨止「そんなこと・・・」

    大坪「貴方はこんなところで死ぬべき人間じゃない。だから、従いなさい」

    雨止「・・・・・・はい」

    大坪「小林上等。私は彼女を隣の部屋へと移し、医療班を待ちます」

    ツボネ「オッケー。この場は私達に任せて」

    大坪「申し訳ありません」

    ツボネ「・・・謝ることないよ。助けられる命は、救わないと」

    大坪「医療班が到着し次第、すぐにこちらに戻ります」

    タッタッタッ

    ツボネ「さてさて、それじゃあ空気の読める敵さんの相手としますか」

    六月「雨止一等への攻撃以来、動きがありませんね。不気味です・・・」

    ツボネ「まっ、これで敵の正体はハッキリしたね」

    不知「ホントっすか?」

    ツボネ「あの風貌、再生力・・・ヤツはアオギリの樹の“ノロ”だ。レートは“SS~”」

    瓜江「(SS・・・)」

    ツボネ「こちらに見向きもしないで黙ってる時もあれば、さっきみたいに獰猛に襲い掛かってくる時もある。とにかく未知。でもまともにやりあえば、“梟”や“鯱”に次ぐレベルの喰種であることは間違いない」

    不知「それを俺達だけで・・・」

    ポンッ

    不知の肩にツボネの手が置かれる。

    ツボネ「君達なら大丈夫。まずは対策だ。ヤツを倒すに当たって一番の問題は再生力。あの手の喰種には瞬間火力の高い攻撃を叩き込むのが定石だけど、うちで一番の火力を持つ才子ちゃんは、次の攻撃までの回復に時間が掛かる」

    瓜江「(俺のF4の赫子ならあるいはどうだ??・・・)」

    ツボネ「そこで“ナッツ”の出番だ」

    不知「!」

    ツボネ「私が地行博士から聞いた通りの性能なら、ヤツを倒せる可能性がある。君が決めるんだ」

    不知「俺が・・・・・・わかりました」
  99. 99 : : 2016/09/19(月) 13:21:29
    不知「俺が・・・“ナッツクラッカー”をぶちかましてあいつを倒します」

    ツボネ「よし、頼んだよ。瓜江くん、六月くん・・・私に続け!」ダッ!

    瓜江「はっ!」

    六月「はい!」

    ダッ!

    ツボネ、瓜江、六月の三人がノロに向かっていく。

    ヒュオオッ

    対するノロは赫子で迎撃を仕掛ける。

    ツボネ「構うな!進め!」

    ツボネは二人に前進を指示。彼女自身は二人よりも速くノロへと接近し―――

    ザンッ!

    ノロの赫子を切り落とした。

    瓜江「はあっ!」

    ザシュッ

    続いて、瓜江がノロの体に甲赫の一太刀を入れる。そして―――

    シュルルッ ギュゥ

    六月の尾赫が、ノロの体を完全に拘束した。

    ツボネ「今だ!!!」

    不知「おおおおお!!!」カチッ

    ―――キレイになりたい。

    不知「(うるせぇ!)」

    キレイになりたい。キレイになりたい。キレイになりたい。キレイに・・・

    不知「(うるせぇうるせぇうるせぇうるせぇうるせぇうるせぇうるせぇうるせぇ。俺は、こいつを―――)」



    おひ・・・ま・・・み・・・いに・・・



    不知「―――――――――ぁぁぁ」

    ピタッ

    ツボネ「・・・ズが」

    ヒュオッ

    瓜江「六月!!!」

    六月「―――ッ」

    バクンッ



    ―月山邸・大広間―



    倉元「うおおお!」シュッ

    ザクッ

    マイロ「ごふっ・・・(まだだ。観母様が戦っておられる内は・・・まだ・・・)」

    道端「武臣!トドメを!」

    武臣「・・・」シュッ

    ザシュゥ

    マイロ「が・・・あ・・・・・・(申し訳ありません。観母様・・・先に逝きます。習様・・・強く・・・生きてくだされ・・・)」

    ドサッ

    梅野「根津の仇・・・取ったぞ・・・・・・」

    倉元「――――――クソッ!(この時まで待てば良かっただけなんだ!均衡した戦況が、別働隊の合流によって崩れるこの時まで。それが出来ていれば根津は・・・)」

    ―――タケさん。あなたが班長だったらきっと・・・

    道端「倉元!」

    倉元「!?」

    道端「まだ戦いは終わってねぇ!しょうもねぇ顔してる場合じゃねぇぞ!」

    倉元「ミッチー・・・そう、だな・・・」

    道端「・・・タケさんならまだしも、お前にそんな面似合わねぇよ」

    アキラ「伊東班!」

    倉元「はっ!」

    アキラ「東棟の援軍に向かってくれ。クインクス班・大坪班の両班が苦戦しているようだ」

    倉元「わかりました!行くぞお前ら!」

    タッタッタッ

    松前「・・・指示を出す余裕まで作られてしまいましたか」

    アキラ「そう落胆するな。貴様はよくやって―――」

    捜査官C『全隊に告ぐ。全隊に告ぐ。宇井郡特等より報告。月山家当主・月山観母の駆逐完了!繰り返す―――』

    捜査官E「さすがは宇井特等」

    捜査官F「残るは残党討伐だけだ!」

    松前「観母様・・・」

    スッ

    松前が、懐から何かを取り出した。

    アキラ「何だ・・・・・・スイッチ?」

    カチッ

    アキラ「―――伏せろぉ!!!!!」

    ドゴオォン!!!
  100. 100 : : 2016/09/20(火) 16:48:35



    ―殲滅戦開始前・月山邸―



    観母「私の使命はただ一つ、月山家の血を絶やさないこと。私が出来ることはただ一つ、習くんに追っ手が及ばないようにすること。こうなることが近付いていることに気付いてから、習くんにバレないように、私に息子がいるという痕跡を消してきた。そして今日、私は“月山一族最期の喰種”として抗おう」

    松前「我々も・・・最期までお供する所存であります」

    観母「ありがとう。その上で君達に、最期のお願いがある」

    松前「なんなりと・・・」

    観母「私が討たれたら―――」



    ―月山邸・大広間―



    アキラ「――――――爆発がこちらまで来ない?」

    松前「我々は紳士、自爆などというテロリストのような真似はしませんよ」

    アキラ「ならば、今の爆発の目的は何だ?」

    松前「全てを・・・無に帰すこと。我々の生きてきた証を、他人に踏み荒らされることのないように・・・」

    僅かに残る痕跡を跡形もなく消し去るために・・・

    松前「邸内の数カ所に可燃物を撒いておきました。じきにこの屋敷は炎に包まれましょう。撤退をお勧めします」

    アキラ「くっ・・・撤―――」

    アキラが撤退を指示しようとした瞬間―――

    ダッ!

    松前がアキラの方へと駆け出した。

    シュッ ガキィン!

    松前の放った剣撃を、間一髪で防ぐアキラ。

    松前「ただし、雌雄を決さぬまま逝くという未練を残すような真似はさせてくれるな!」



    ―月山邸周辺―



    月山邸が望むことができるその道に、男の影が一つ。その影は、煌々と燃える炎によって闇夜にはっきりと映し出されていた。

    月山「パパ・・・カナエ・・・松前・・・みんな・・・・・・今僕が・・・」

    ???「そこまでだよ」

    月山「!?―――――――――掘」

    掘チエ「やっ、久し振りだね・・・グルメごっこさん」
  101. 101 : : 2016/09/21(水) 20:11:57
    月山「掘よ・・・僕を止めるつもりかい?」

    掘チエ「ううん。別に月山くんがどうなろうが知ったことじゃない。だって今の月山くん、つまんないもん。でも長い付き合いだし、このまま放置するのも面白くないから最後通告しに来たの」

    月山「最後通告?そんなもの、君にされなくてもわかっているさ。だが、僕は止まる気は無い」

    掘チエ「月山家次期当主として?」

    月山「ああとも。最愛なる父を、僕に忠誠を誓ってくれた使用人達を、見捨てるなど―――」

    掘チエ「それがつまんないって言ってるの」

    月山「っ・・・掘。いくら君とて、それ以上僕の意志を愚弄すれば」

    掘チエ「愚行を愚弄して何が悪いの?」

    月山「!」

    ゾルッ

    掘チエのこの発言を受け、月山は赫子を発現させる。それが彼の憤慨と返答を表していた。

    掘チエ「へぇ・・・ちょっとは面白くなってきたじゃん」

    月山「こちらからも最後通告をさせてもらおう。次の発言次第では、もう僕は紳士ではいられない。慎重に言葉を紡ぎ給え」

    掘チエ「――――――プッ」

    月山「何がおかしいのかな」

    掘チエ「もう紳士ではいられないって、私、月山くんを紳士だと思ったことないんだけど・・・。いい加減さ、自分の本質を思い出しなよ」

    月山「本質?」

    掘チエ「私の知っている月山くんは紳士じゃない。大企業の御曹司でもない。月山くん、あなたは――――――」

    掘チエ「変態美食家(グルメ)

    掘チエ「自分の食べたい物をどんな手を使ってでも手に入れようとする、欲望の道化。それなのに、今のあなたは罪悪感・無力感・羞恥心から逃れるためだけに行動している」

    月山「欲ならある!みんなを助け―――」

    掘チエ「それが無理だって事は、月山くんが一番わかってるでしょう!」

    月山「いいや!僕はまだ諦めて等いない!」

    掘チエ「あの炎に包まれた屋敷を見ても!?CCG側が火を放つなんて有り得ない。逃走される危険性を増やすだけだからね。だったら、火を放ったのは月山くんちの誰か。彼等は一体どんな状況になれば、どんな目的をもって月山くんちを燃やすことを思い立つのか、大方の予想はついてるでしょう?」

    月山「だったら・・・」

    掘チエ「・・・」

    月山「だあああぁぁぁったらぁあああ!!!僕に!!!僕にどうしろと言うのだ!!!」

    掘チエ「そんなことも私が言わなきゃわからないの?」

    月山「・・・・・・・・・いや、わかる。わかっている・・・わかっていたさ・・・」

    本当は最初からわかっていた。この行動がもたらすものは無であると。

    だが、自ら愚行に突き進まずにはいられなかった。カネキくん・・・あの時の君と同じ心情を抱いていると誤認した時から。それなのに君に止められて、僕は余計に愚行を歩む速度を速めてしまった。

    でも、わかっていたんだ。僕の本心は、あの時の君とは違うと。僕はただ、逃れたかっただけだった。皆を救いに向かい、皆と共に死ぬことなど、望んではいなかったのだ。僕の望みは―――

    月山「―――――――――剣は鞘へ。主の元へ戻ろう」

    彼の最期を見届け、その亡骸を喰らうために。
  102. 102 : : 2016/09/22(木) 18:06:49
    月山「では行くと―――」

    掘チエ「さっきの場所に戻るのは危険だと思うよ」

    月山「ぬ・・・まさかこの選択も間違いだとは言わないだろうね」

    掘チエ「そういう訳じゃないけど、どっか別の―――21区外の場所に集合した方が安全じゃないかな」

    月山「That’s right. しかし、連絡手段がない」

    掘チエ「えっ、メアド交換もしてないの?情けな」

    月山「必要ないと思っていたのだ」

    掘チエ「まぁしゃーない、私がメールしとくね。場所は7区の適当な廃墟にしとくよ」

    月山「頼む・・・ん?何故君が佐々木くんの連絡先を知っているのかな?」

    掘チエ「盗み見した」



    ―21区市街地―



    ハイセ「・・・ふぅ」

    岡平「上等のT-Humanが防がれた?しかも鱗赫に?」

    キジマ「(何て物量だ。ヤツがあれ程の赫子を持っていたとは・・・)」

    旧多「わ~(記憶が戻ったんかな~?しかし、こうなるといよいよ・・・)」

    伊丙「なんそれなんそれ・・・まるで―――」

    バリバリバリィ

    伊丙「IXAの盾みたい」

    ドウッ!

    再び襲い来る稲妻に対し、ハイセは無表情のまま赫子の壁を展開する。間もなく壁へと衝突した稲妻は、何をするでもなくそのまま散っていった。

    伊丙「―――ムカつく。ムカつくムカつくムカつくムカつくムカつくムカつくムカつく」

    バリバリリィ!

    伊丙「ハイセ」

    ドドォッ!

    伊丙「死にゃせ」

    雷鳴の音が変わった。間違いなく今までで最大の出力で放たれた霆を前に、ハイセは遂に動き出す。前へと、駆け出す。

    ハイセ「ふっ!」ズズズッ

    前進を続けながら、ハイセはこれまで同様に壁を展開する。そして稲妻が壁へと着弾した直後、彼の足は止められる。

    バキキキキキキキキ!!!

    T-Humanの圧力に屈したから―――ではなく・・・

    ゾゾゾゾゾ

    キジマ「まだ新たな赫子を出せるのか・・・」

    これ以上、進まなくて良いから。

    ヒュヒュッ

    ハイセが新たに生み出した2本の赫子が、伊丙目掛けて―――正確には伊丙の持つクインケ目掛けて空を走る。

    ハイセ「さぁ、選んでください」

    このまま空を走る赫子に武器を破壊されるか、もしくは・・・

    伊丙「んにぃ!」

    グイッ!

    伊丙は稲妻の軌道を上へと変え、空中の赫子を粉砕する。しかし、そんなことをしてしまえば陸路はガラ空きとなってしまうことに気付く余裕は、彼女にはもう無かった。

    バキィ!

    次の瞬間、伊丙のT-Humanはつい先刻までは“盾”であった“剣”に砕かれた。
  103. 103 : : 2016/09/23(金) 21:34:57



    カネキ(この辺で、僕の出番はお終いだね)

    ハイセ「・・・どうすれば、君は出て来られるようになるの?」

    カネキ(無理だよ)

    ハイセ「そんなの、やってみなきゃわからないだろう?」

    カネキ(わかるよ。だって・・・)

    君の望みは―――



    ピピピッ ピピピッ

    先刻の戦闘劇の幕引きを告げるかのようなタイミングで、携帯電話の着信音が鳴り響く。その携帯電話は、ハイセが所持しているものであった。しかし、彼はそれを完全に無視した。武器を壊したとはいえ、依然として敵に囲まれている状況に変わりは無いのだから。

    間もなく、着信音は鳴り止んだ。

    ハイセ「キジマ式。出来れば、自分の意志でその場所から退いてくださると助かるのですが」

    ハイセは鋭い眼差しを、未だにヤシャのアタッシュケースの近くに居座っていたキジマへと向ける。伊丙のクインケを破壊してからの彼は“佐々木琲世”であるのだが、罪無き少女の命を弄んだキジマ式への強い敵意は変わらない。

    キジマ「もちろんだとも。丸腰同然の状態になってまで君に立ち向おうなどという泥臭い精神は持ち合わせておらんよ」

    そう言って、キジマはそそくさと後退りをする。彼とケースとの距離が十分になってから、ハイセは歩みを進め始めた。

    伊丙「―――次は、ぶっ殺します」

    ハイセ「次もぶっ殺されないよ」

    伊丙の言葉に、ハイセは一旦歩みを止めてから琲世としての返答をして、それからまた歩き出す。ケースのすぐ傍まで辿り着いた彼は、右手でそっと取っ手を掴み―――

    旧多「クインクス班・大坪班が苦戦中!?既に死者二名!?」

    旧多「増援なんて出せませんよ!こっちは佐々木琲世に主力のクインケ全部破壊されちゃいましたから!ていうか、一体どんな相手なんですか!?」

    旧多「え・・・SS~レート“ノロ”!?何でそんなヤツが・・・」

    キジマ「旧多くん」

    旧多「はい?」

    キジマ「彼、もう行ってしまったよ」

    旧多「そうですか。それは良かった」ニコッ

    岡平「・・・・・・・・・?」
  104. 104 : : 2016/09/25(日) 23:37:28
    ―月山邸・東棟―



    六月「あああああ!!!」

    絶叫と共に、その場に崩れ落ちる六月。彼女の両肘から先は欠落していた。

    瓜江「まだだ!次があるぞ!」

    グムッ

    無慈悲にもノロは矛先を変えることなく、次なる攻撃を六月へと放つ。

    ツボネ「ふっ!」ザンッ

    両手を失い、正気すら失いかけていた彼女を救ったのは、ツボネの一太刀であった。

    ツボネ「君達クインクスはこの程度で死にはしない。だから、さっさとこの部屋を出ろ。自力でだ」

    直後、彼女へと投げ掛けられた言葉は、今までのツボネの口調とは明らかに異なっていた。その異変に呆気にとられながらも、彼女は指示に従い隣の部屋へと移るべく扉へと向かう。

    すると奇遇にも、雨止を医療班に委ねたばかりの大坪が戻ってきた。

    大坪「む、六月一等・・・その腕は・・・?」

    六月「大丈夫です」

    大坪「・・・医療班はまだ控えている。今ならすぐに治療を受けられるはずだ」

    六月「ありがとうございます・・・」

    そうして六月は、扉の向こうの部屋へと退いた。

    瓜江「(六月・・・クソ、いや)ゴミ班―――」

    ツボネ「このクズが!!!」

    バチィン!

    ドサッ

    乾いた破裂音が部屋中に鳴り響く。それから誰かが倒れ込む音が続く。

    不知「・・・・・・すみません」

    地に伏したまま謝罪の言葉を述べる不知。ツボネは鋭い剣幕で彼を見下ろし、口を開く。

    ツボネ「ああ、本当に済まないよ。幾らクインクスといえども、失った腕までは戻らないだろうね。全部君のせいだ」

    不知「すみませんすみません」

    ツボネ「君の愚行が彼女の人生を狂わせた。吐き気がしたのか、体が動かなくなったのか、言い訳は知らないけど、君はそれでも班長なの?」

    不知「すみませんすみませんすみません」

    大坪「小林上等、そのぐらいで・・・」

    ツボネ「君が・・・・・・・・・君が喰われりゃ良かったんだ」

    ヒュオッ

    才子「ツボっちゃん!!!」

    不知を見下ろし続けるツボネの背後から、ノロの赫子が急襲する。しかし、彼女がガイアを一振りすることで、それは瞬く間に切り落とされた。

    その間、不知は何も言わなかった。

    ツボネ「それがクズだって言ってんだろ!!!」

    グイッ

    ツボネは不知の頭を掴み、強制的に彼の目線を自分へと向ける。ツボネは彼の目を見つめ、言葉を続ける。

    ツボネ「六月くんに申し訳ないという気持ちがあるのなら、立ち上がれよ!謝るためにも、立ち向えよ!これ以上は犠牲者を出さないために、戦えよ!六月くんの腕が喰われたことは、もう変えようのない事実だ。だったら、自分が喰われなかったことの意味を示せ」

    ツボネ「君が決めるんだ!今度こそ・・・今度こそだ!」

    不知「おれ・・・が・・・?」

    ツボネ「次はもう無い。次またミスすれば、君が喰われる番だ。そして、全滅だ」

    ポンッ

    ツボネは不知の肩に手を置く。

    ツボネ「私の命、君に預けた。決めてくれ・・・不知吟士」
  105. 105 : : 2016/09/26(月) 18:13:02
    更新ありがとうございます!
    …ところでツボネさん、むっちゃんのこと「彼女」と言ってしまってますが、いいのですか…?すみません
  106. 106 : : 2016/09/27(火) 00:00:54
    >>105
    ツボネさんやっちゃいましたね~。部下の秘密を暴露するのは上司的には良くないですね(笑)
    SS的には間違いではないので大丈夫です。
  107. 107 : : 2016/09/27(火) 22:56:37
    不知「―――分かりました!絶対に、次はしくじりません!」

    ツボネ「オッケー・・・聞いての通りだ!大坪上等!瓜江くん!不知くんが確実にナッツをぶちかませるように、私達でヤツを完璧に押さえ込む!最後の正念場、気合い入れていくよ!」

    瓜江「小林上等。六月の件ですが・・・」

    ツボネ「さっきの失言なら、後でしっかり謝るよ。こっちも謝って済まないかもだけど」

    瓜江「(はぁ・・・)あなたも大概ですね」

    ツボネ「自覚してるよ。それじゃあ・・・行くぞ!」

    ダッ!

    再び先陣を切るツボネ。彼女の強さを学習したかのように、ノロの赫子は真っ先に彼女へと向かっていく。しかも、以前よりも変則的な軌道を描いて。

    ツボネ「(同じ手は食いませんってか・・・)分かってるよそのぐらい!」

    これまでのように赫子を切断することが難儀であると判断した彼女は、即座に回避を選択。それだけで、全ては解決する。

    ツボネ「私に惚れ過ぎなんだよ・・・化け物」

    瓜江「ぬぅ!」

    大坪「はっ!」

    ザザンッ!

    ほぼ同時に、二つの斬撃がノロへと浴びせられる。

    瓜江「(木偶が・・・)寝てろ」

    ザシュッ

    追撃の一太刀が、ノロの脚部を切り落とした。支柱を切断されたノロの身体は、重力に導かれるままに地面に倒れ込んでいく。

    不知「―――こぉぉれぇぇでぇぇ・・・」

    ピタッ

    一瞬―――1秒の十分の一にも満たない刹那の時間―――ナッツクラッカーを持つ彼の手は、またしても止まった。だが同時に、先程とは違うことが起こった。

    彼の頭の中に無数の情景が流れ込んできたのだ。シャトーでの日常、オークション戦の激闘、旧メンターの在りし日々、クインクス施術を受けた日・・・

    不知「(親父に・・・ハル・・・)」

    ―――キレイになりたい。

    不知「(いい加減うるせぇんだよ。そんなにキレイになりたいなら、晴れ晴れしくデビューさせてやる・・・SSレート喰種を倒したクインケとして)」

    シュッ

    不知「しめぇぇぇだぁぁぁあああ!!!」

    ナッツクラッカー(甲・尾赫/Sレート)。不知が投げ槍の容量で投擲したこの棘状のクインケは、一直線にノロの胸部へと突き刺さる。瞬間―――

    パンッ!

    膨張。ノロの胴体は弾け飛び、後には下半身と―――

    ドサッ

    吹き飛ばされた頭部のみが形を残していた。

    不知「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・」

    ツボネ「よくやった、不知くん・・・」

    ノロ「・・・」ピクピク

    ドスッ

    僅かに動きを続けていたノロの頭部に、大坪がトドメの一突きを浴びせる。

    大坪「起き上がってくれるなよ・・・頼むから・・・」

    不知「はぁ・・・はぁ・・・(それにしてもさっきの・・・)」

    ―――走馬燈みたいだったな。



    ギュオオオオ

    グムッ
  108. 108 : : 2016/09/28(水) 00:13:55
    走馬燈……
    不知くん…死なないでね…!
    期待です!
  109. 109 : : 2016/09/28(水) 22:41:43
    >>108
    期待ありがとうございます!
    果たして、不知の生死は原作通りになってしまうのか・・・?
  110. 110 : : 2016/09/28(水) 23:28:04
    ―21区某所―



    ピピピピピッ ピピピピピッ

    月山「おや、佐々木くんからのmailかな?」

    掘チエ「―――うん。向こうも大体片付いたみたい。だけど追っ手が失敗だから、遠回りしてくるって」

    月山「I see. 先に行き、彼を招く準備をしようではないか」

    掘チエ「廃墟に何を準備するんだか。(それにしても馬鹿だねぇ・・・)」

    ―――カネキクン。



    ―月山邸・大広間―



    松前「ふぅ・・・ふぅ・・・」

    アキラ「はぁ・・・はぁ・・・ここまで力が均衡しているとはな。それだけに・・・残念だ」

    アキラが視線を松前から、その周囲へと移す。その顔にはどこか、背徳感の類の感情が表われていた。

    松前の周囲は、数人の捜査官に囲まれていた。その中には、ユウマと交戦していた富良上等の姿もあった。

    松前「(マイロだけではなく、ユウマも・・・カナエも他のみんなも、既に逝ってしまったのだろう。残っているのはもう・・・私だけなのだろう)」

    アキラ「貴様は雌雄を決することを望んでいた。本来ならば喰種(グズ)の言葉等に耳を貸すことはないが、このまま多勢で貴様を葬れば、貴様に勝ち逃げを許すことになる。それは非常に癪に障る・・・」

    “癪に障る”と怒りを述べるアキラであったが、彼女の表情には怒りは一切含まれていなかった。

    アキラ「しかし、私はCCGの准特等捜査官。貴様の駆逐に私情を挟むわけにはいかない。恨むなら、気の済むまで恨むと良い・・・」

    そうして彼女は、右手を挙げる。

    アキラ「総員・・・かかれ!」

    彼女の指示で、松前を囲んでいた捜査官達が一斉に松前へと襲い掛かる。

    松前「―――――――――完敗ですよ」

    イタチの最後っ屁を見せ、二、三人を道連れにすることぐらいは、彼女なら出来たはずである。しかし彼女は、それをしなかった。自身の生の終わりに対し、抗うことをしなかった。

    アキラ「安らかに眠れ。気高き騎士よ・・・」



    ―月山邸・東渡り廊下―



    アキラの指示で東棟の援護に向かっていた伊東班は、中央棟と東棟を繋ぐ渡り廊下を走っていた。月山邸が豪邸とは言え、渡り廊下を渡るのにそう時間は掛からない。間もなく、伊東班は東棟への入り口の扉の前に辿り着く。

    倉元「全員警戒。開くよ・・・」

    ガチャ

    ギィィ

    慎重に扉を開き、中を確認。人影は見当たらない。

    倉元「オッケー、入って」

    倉元の指示を受け、伊東班の皆が東棟へと足を踏み入れる。その直後だった。

    ??「野暮ではないかな?」

    倉元「へ―――」

    バタバタバタッ

    後ろで、人が倒れる音が三つ。すぐに後ろを振り向こうとするが、出来なかった。いつの間にか目の前に、包帯で全身を覆った子供がいたから。

    ??「親子水入らずの場に足を踏み入れようとするなんて。尤も、まだ場は整っていない上に、私もこれから赴くつもりだがね」

    倉元「お前はいっ―――」

    バタン
  111. 111 : : 2016/10/01(土) 19:06:47
    ―月山邸・東棟―



    不知「オオオッ!!!」

    クインクス班・大坪班とノロとの戦いが行われていた場所で、不知は雄叫びを上げて化け物に立ち向っていた。ノロであったその化け物は、二つの大きな口と、一本一本が人の身の丈程の太さを持った触手数本のみで形成された、奇怪としかいいようがない形状になっていた。

    ―――俺がやらねぇと、みんな死ぬ・・・ッ!

    ドドドドドッ

    轟音と共に壁を、天井を崩しながら、化け物の触手が不知へと次々に襲い掛かる。彼はそれを必死に躱しながら、何とか攻撃の機を見出そうとする。

    不知「(ツボネさんも・・・瓜江も、才子も・・・。もう、俺の無力で仲間を失いたくない)」

    ―――あんな思いはもうたくさんだ。

    ドドドドドッ

    不知「アアアアアア!!!」

    もっと・・・もっと・・・

    不知「(俺だって・・・ハルを残して死ねねえッ!!!)」

    もっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっと

    もっと―――

    瓜江「(し・・・らず・・・)」

    バキキキ

    思いは力へ・・・。

    不知の要求に応えるが如く、彼の赫子は限界を超えて肥大化する。

    不知「死ねよ―――バケモン!!!」

    ドドドドド ドオオォ!!!

    無数の赫子のミサイルが一斉に着弾。地を揺るがす程の爆裂音が鳴り響く。しかし・・・

    不知「(これでも治るんなら―――)」

    俺、無理だからよ・・・・・・・・・

    不知「瓜江ッ!!弾幕足りたかッ!!」

    頼むぜ。

    ―――ヒュオッ

    不知の前に、反撃の触手が放たれる。全ての力を使い果たした彼に、逃れる術は―――

    ザシュッ!

    ツボネ「君は・・・死なせない・・・」

    不知「・・・!」

    ツボネ・不知「「いけぇぇ!!!瓜江ぇぇぇッ!!!」」

    瓜江「―――(任せろ・・・)」ビキキ・・・

    瓜江の左目が紅く染まると同時に、彼の右肩から赫子が生み出される。

    瓜江「(シラズッッ!!!)」

    ノロ「・・・・・・先に逝くぞ、エト―――」

    ザンッ!!!
  112. 112 : : 2016/10/02(日) 22:58:30
    ―月山邸・正面玄関前―



    アキラ「全員、避難できたか?」

    捜査官G「大広間にいた者の避難は完了しました」

    アキラ「そうか・・・」

    富良「しっかし、とんでもねぇことしやがるもんだ。これだけ燃えれば何も残らねぇ。月山グループ全体の捜査はこれからだってのによ・・・」

    テクテクテク

    アキラ「宇井特等・・・」

    宇井「うまく避難できたようだな。これで全員か?」

    アキラ「大広間にいた者達は・・・。しかし、東棟のクインクス班・大坪班と援護に向かった伊東班の姿がまだありません」

    宇井「わかった。今すぐ増援を向かわせよう」

    アキラからの報告を受けた宇井は、比較的疲弊度が小さめな捜査官達を集めて東棟への援護に向かわせようとする。それからある程度の人員が集まり、いざ東棟へと向かおうというその時だった。

    ボアッ

    東棟の入り口の扉から火の手が上がった。

    捜査官G「炎がこんな所まで・・・。これでは、東棟に入れない!」

    宇井「落ち着け。他の入り口から入れば良いだけのことだ」

    政『いいや。止まれ、宇井特等』

    宇井「!?―――和修特等」

    政『ヘリで確認したが、東棟は既に炎に囲まれ始めている。今から援護に向かったところで犠牲者が増えるだけだ』

    宇井「では、中にいる者達を見捨てろと!?」

    政『そうは言っていない。ただ、自分の命ぐらい自分で守れということだ。もちろん、総指揮権は宇井特等にある。最終判断は任せるが・・・?』

    宇井「くっ・・・・・・・・・増援を中断する。治療班は準備を」

    アキラ「宇井特等!」

    宇井「特等命令だ。従ってもらうよ」



    ―月山邸・東棟―



    瓜江「ぜぇ・・・ぜぇ・・・ぜぇ・・・」

    ツボネ「よくやった、瓜江くん。そして・・・不知くん。SSレート“ノロ”討伐、君達の功績だ」

    不知「へへ・・・いくら貰えんだろうな」

    ツボネ「2000万は下らないだろうね。さてと、改めて周りを見回してみたけど・・・火事だね」

    ツボネは、扉の隙間から漏れる煙を指して現状を指摘した。

    才子「か、火事でやんす・・・」

    瓜江「幸い、この部屋には火の手は及んでいないようですし、すぐに逃げれば大丈夫でしょう」

    ツボネ「そうだね。瓜江くんは自力で動ける?」

    瓜江「はい」

    ツボネ「なら、大坪上等の遺体を背負って行くことは出来る?」

    瓜江「・・・はい。分かりました」

    大坪は、ノロが化け物の姿へと変貌する際に無差別に放った攻撃を受け、絶命していた。彼女の遺体は五体満足の状態で残っていた。そのため、ツボネは彼女を炎の中に取り残していくわけにはいかないと判断した。

    ツボネ「任せた。不知くんは私がおんぶしていくから」

    不知「なっ!?大丈夫ッスよ」

    女性におんぶされるわけにはいかず、不知は自分の力で立とうとする。が、即座にバランスを崩し地面に倒れ込んでしまった。

    ツボネ「ほらほら、無理しない」

    不知「―――分かりましたよ」

    観念した不知は、黙ってツボネが彼をおんぶしに来るのを待つ。そしてツボネが十分に近付いたのを見計らって彼は少しだけ身体を起こし、おんぶされるための準備を整える。

    ツボネ「不知くん・・・」

    不知「はい?―――」

    ギュゥッ

    ツボネが取った行動。それは不知を背負うではなく、抱き締めることであった。彼女は口を不知の耳元へと近付け、囁いた。

    ツボネ「本当によくやった。君は・・・最高の班長だよ」

    不知「あ・・・え・・・その・・・俺、六月に謝らないと」

    ツボネ「話題逸らして、照れてるね」

    才子「出た。班長オブエロ」

    不知「なぁ!?逸らしてないッスよ」

    ツボネ「うんうん。確かに、数分前の君はかなりクズ班長だった」

    不知「ぐはっ」

    ツボネ「でも君は成長した。最後の君、すっごくかっこよかったよ。まっ、六月くんに謝らなければいけないも事実だ。そのためにも、さっさとここから脱出しないとね」

    ツボネはそっと抱擁を解く。そして、不知と互いの目を合わせてから再び口を開いた。

    ツボネ「さぁ、帰―――」

    ドオオン!

    ブオン!

    一羽の梟が舞い降りた。そして、全ては薙ぎ払われた。
  113. 113 : : 2016/10/03(月) 23:58:38
    瓜江「ごあっ!」

    ツボネ「がはっ!(何でこいつが・・・“エト”がここに・・・・・・)」

    ドドドン!

    ブレード状の羽赫の一薙ぎを食らった瓜江、不知、ツボネの三人はそれぞれ壁へと叩き付けられた。

    エト「ケヒャヒャヒャ」

    瓜江「(梟梟梟フクロウふくろう袋うふく牢)隻眼の・・・梟ッ!!!」

    ダッ!

    飛びそうになる意識を無理矢理に引き戻し、憎きその姿を視界に収めた瓜江は、次の瞬間には梟へと向かって駆け出していた。

    瓜江「殺すッ!俺が・・・この手でッッッ!!!」

    ブンッ!

    梟を間合いへと捉えた瓜江は、甲赫を全身全霊に振るった。が、手応えはない。というか、右腕の感覚自体が―――

    瓜江「(―――――――――)」

    ズキズキ

    瓜江「―――あああああああああああああ!!!(右手!右腕!どこ!?)」

    エト「あんよがじょうず♪あんよがじょうず♪」

    瓜江「―――返せ」

    右腕を失ったショックを梟への殺意に塗り替え、瓜江は再び立ち向おうとする。だが次の瞬間、無慈悲の一撃が彼を襲った。

    瓜江「ごぷっ!」

    ドオン!

    またしても壁へと叩き付けられた瓜江。彼が吹き飛ばされた場所は、奇遇なことに不知とツボネが倒れている場所の近くだった。

    否、全てはエトの掌の上。

    瓜江「起きろ・・・小林・・・上等・・・」

    とうに意識が飛んでいるはずの傷を負いながら、瓜江は梟の姿をその目で捉え続ける。そして、上司であるツボネに声を掛ける。彼は憎悪の炎に身を焦がしながらも、自分一人では何も出来ないことを自覚していた。

    だが、ツボネの口から発せられるのは荒い呼吸音だけであった。

    瓜江「(最初の薙ぎ払いで意識を失っていたのか・・・)おい、起きろ不知」

    続けて、不知にも声を掛けるがやはり返事がない。

    瓜江「(残るは米林だけか。だが、まともにやっては米林の赫子は当たるまい。俺一人で、奴の機動力を削げるか?・・・ん?)」

    瓜江の鋭敏な嗅覚は、その“匂い”に気付いてしまった。それから、ある音がないことにも気付いてしまった。

    瓜江「シラズ・・・お前・・・し―――」

    匂いとは、不知の体から漏れ出した臓物の匂い。音とは、呼吸音。

    瓜江「死んでんじゃねええええええええッッッッッ!!!!!」
  114. 114 : : 2016/10/07(金) 00:17:10
    才子「う・・・ああうう~・・・しらぎんんん・・・」グスッ

    瓜江の慟哭から状況を覚った才子は、不知の名を呼びながら泣き崩れてしまう。

    瓜江「―――フク・・・ロウ・・・」

    一方の瓜江は、嵐が過ぎ去ったかのように静けさを取り戻していた。そして彼は怨嗟に満ちた眼で、梟を見つめ続けた。そうする他無かった。彼自身の限界も、既に近付いていたのだから。

    エト「おやすみなさい・・・可哀い(かわいい)惨めな捨て子ちゃん」

    エトは瓜江にトドメを刺すため、羽赫掃射の構えを取る。瓜江はそれでも動かない。

    才子「あああああッ!!!」

    ドスゥッ!

    そんな彼を救ったのは、才子の赫子だった。彼女の放った赫子は見事に梟の赫包に突き刺さり、今まさに発射されようとしていた赫子の結晶は塵となって消えていった。

    だが、赫者梟の赫包は複数ある。彼女の決死の一撃は、本体が食らったダメージが殆ど無かったことも手伝って単なる時間稼ぎにしかならなかった。おまけに、彼女のスタミナもこの一撃で尽きた。

    エト「ケタケタケタ。よくがんばりました。がんばった子にはごほうびをあげましょう」

    ドンッ

    梟は一度地面を飛び立つと、次の瞬間には才子の眼前に着陸した。

    エト「お先に逝かせてあげる」

    瓜江「逃げろぉぉぉッ!!!」

    才子「助けて・・・ママン―――」

    ―――タンッ

    一つの影が舞い降りて―――、

    バキィッ!

    梟の身体は宙へと弾き出された。
  115. 115 : : 2016/10/07(金) 23:54:29



    ―――ねぇ坊や。子離れできない親がいるとして、悪いのは親と子のどちらだと思う?

    『そんなの、親に決まってるでしょ?』

    ところがね、親が子離れできないのは、子も親離れができていないからなんだよ。

    『そっか。だったらやっぱり親の方が悪いんだね』

    どうして?

    『だって、子を産み育てたのは親だもん』

    お利口さんね。



    棍棒状のクインケの殴打を食らい宙へと弾き出された梟であったが、実質的なダメージはほとんどなく、何事も無かったかのように地面に降り立つ。だが、梟の中に潜む彼女自身の表情は、豹変していた。

    エト「カ~~~~~~ね~~~~~え~~~~~~きいいいいいい。はいいいいいせ~~~~~~~~~~」

    才子「マ・・・マン・・・?」

    才子の眼前でハイセは、手にはフツギョウを握り、身にはヤシャを纏い、静かに佇んでいた。

    瓜江「(さ・・・ササキ・・・)貴様、何しに来た!?どの面下げて、こんな所まで来ている!?全部・・・全部だ!説明しろッッッ!!!」

    ハイセ「・・・・・・・・・ごめん」

    エト「げはははははは。全くもって彼の言う通りだわ。子を捨てた最低の母親が、今更何のつもりかなぁ?」

    ハイセ「その問いには答えるよ」

    タッ! ドゴオ!

    エト「げはっ!」

    ハイセは再びフツギョウで梟を殴り飛ばした。

    ハイセ「子供を助けに(お前を殺しに)来た」

    ―――まだまだ足りないなあ。

    エト「それはそれは、美しい親子愛だこと。だけど残念、あなたの攻撃はちっとも痛くないわ」

    ハイセ「だろうね。そういう攻撃(打撃)が効きそうな見た目じゃない。だから―――」

    ガキィン!

    棍棒状であったフツギョウが、ブレード状へと形を変える。

    ハイセ「こうしよう」

    エト「こわわ」ゾゾゾゾゾ

    ヒュヒュヒュヒュヒュヒュヒュッ

    梟は無数の羽赫の弾丸を創り出し、その全てをハイセへと向け放った。

    ハイセの持つフツギョウの剣モードは、材料となった夜叉の赫包の“鋭く脆い”という性質を惜しみなく発揮した形態である。故に、赫者特有の分厚い装甲を切り裂くことは造作もないが、代わりにそのクインケで一切の攻撃を防ぐことは許されない。

    だが、ハイセには赫子がある。

    ズズッ

    キキキキキン

    縦横無尽に赫子を動かし羽赫の雨を弾きながら、ハイセは梟との距離を詰めていく。

    エト「いやん♡」ブンッ

    十分に接近したところに、梟のブレード状の赫子による迎撃が待ち構えていたが、当然それも予測済み。ハイセはそれを難なく躱し、梟の懐へと潜り込んだ。

    ―――()った。

    エト「残念賞を差し上げよう」

    バキィッ

    ハイセ「―――へ?」

    ハイセの眼に、真っ二つに割れたフツギョウが映り込んだ。

    ブオンッ!

    ハイセ「ごはっ!」

    直後放たれたブレード状の赫子が、ハイセの身体に叩き込まれた。
  116. 116 : : 2016/10/08(土) 07:15:40
    ち、ちょっとシラギン死んでんじゃないですか!!泣

    むっちゃんの件大変失礼いたしました、ご説明ありがとうございます…!

    そしてお母さん来ちゃいましたね…!楽しみです
  117. 117 : : 2016/10/08(土) 09:35:02
    うわあああん!!シラギン…!!泣

    あ、エトしゃん…
    そこでハイセ登場は凄いです…!
    期待してますー!
  118. 118 : : 2016/10/08(土) 21:26:15
    >>116
    すみません・・・彼は犠牲になったのです。
    これからも質問があればご遠慮なくどうぞ。
    お母さんの包丁(クインケ)折れちゃいました。楽しみにしてくださってありがとうございます。

    >>117
    いつも感謝です。これからもよろしくお願いします。
  119. 119 : : 2016/10/08(土) 22:20:50
    ハイセ「ぐっ(クインケが・・・。それに何て重い―――)」

    ヤシャが役に立たない。ハイセがそう思ったのも無理はない。それ程に重く鋭い一撃であったのだ。だがヤシャは確かに、着用者の受けるダメージを軽減させるという役目を果たしていた。その上でも彼がそう認識せざるを得ない威力を、梟の一振りは含んでいた。

    エト「その剣、酷く脆いのね。空振ったかと誤解したわ。そしてその鎧。まだそんなものに頼っているなんて、あなたの醜悪な半端さが伝わってくるよ。それは・・・雛鳥達と一緒に、籠の中に捨て置くべきだった」

    ハイセ「半端さ?そんなものに執着している方が愚かだ。CCGを敵に回す以上、戦力は多い方が良い。合理的な判断を下したまでだ」

    エト「甘えだなぁ~。あなたもまだお子ちゃまね」

    ハイセ「・・・あなたとは、会話したくないっ!」ズズズ

    ダッ!

    攻撃用クインケを失ったハイセは、残る唯一の牙である赫子を携え梟へと向かっていく。

    エト「甘えたいなら甘やかしてあげようか」

    ヒュヒュヒュヒュヒュヒュヒュッ

    再び羽赫の弾丸で迎え撃つ梟。ハイセには通じないのは承知済みだが、それでも彼の赫子の数本を防御用に使わせられるのは大きい。

    エト「会話したくない?そうでしょうね。核心を突かれるのは誰だって嫌だもの」

    ハイセ「―――フッ」

    ドスッ

    ハイセは梟のブレードのリーチの外側から赫子を放ち、その体に刺突を浴びせる。しかしノーダメージ。とは言えこれも彼の想定内。

    ハイセ「(本命は地下―――)」

    エト「小賢しい」ヒョイッ

    ハイセ「(くそっ!気付かれた!)」

    エト「強者を見本にするのは殊勝な心掛けではあるけれど、ただの猿真似程愚かしいものはない」

    ザシュッ!

    その鋭い一振りは斬撃となり、ヤシャの胴部を真っ二つに切り裂いた。そして、役割を果たすことが敵わなかったその鎧は、全ての責務を放棄しハイセの体から剥がれ落ちていった。

    ハイセ「―――――――――あ?」

    直後、間の抜けた声が響き渡る。

    それはヤシャが剥がれ落ちたことに対してではない。問題なのは、剥がれ落ちた後のこと。自動着脱式であるが故に、ハイセが見たことがなかったその裏側に気付いたこと。ヤシャの裏側のこと。

    そこに、発信器が仕込まれていたこと。

    ハイセ「(全部掌の上―――)」

    CCGからの脱走も、月山家に拾われたことも・・・

    餌。

    ―――やっぱり全部、僕のせい。

    ハイセ「あはははははははははははははははははははははははははははははは」

    エト「―――笑い事じゃねぇよ」

    バキィ
  120. 120 : : 2016/10/09(日) 13:02:03
    エトとハイセの会話が素晴らしすぎます。作者さんが書いてるんじゃないかって思うくらい、えとえとしいです。
    ヤシャに盗聴器って…可哀相だなハイセ、彼はCCGにとって最初から仲間ではない。利用されてるし、疎まれてるし、恐れられてるし、疑われてるし。
  121. 121 : : 2016/10/09(日) 13:03:22
    すいません発信器ですね!
  122. 122 : : 2016/10/10(月) 21:02:41
    圧倒的文才力!!
    桁違いすぎて震えました!

    ……エトさんカッコイイ……笑笑
    期待です!
  123. 123 : : 2016/10/10(月) 21:06:05
    あ、↑です。かさばらせてすいません
  124. 124 : : 2016/10/10(月) 22:52:58
    >>120
    えとえとしい・・・!最高の褒め言葉です(笑)
    このストーリーのハイセもなかなかハードな道を歩んでおりますね。原点はササトーSSだったんですが・・・
    嬉しいコメントありがとうございます。

    >>122
    これもまた嬉しいお言葉!お気に入りまでしてくださってありがとうございます。
  125. 125 : : 2016/10/10(月) 23:10:46



    ―――全部僕のせいだ。僕のせいで皆不幸になった。僕なんか・・・

    カネキ(・・・・・・・・・きみ、いま死にたがってる?)

    市松模様の空が降る世界で、少年が見下ろしていた。背丈の低い少年に見下ろされていることに違和感を覚えたが、それは自分が仰向けに倒れているからだと気付いて納得。

    カネキ(おめでとう。これでようやく、この身体を僕のものに出来るよ)

    何故?

    カネキ(そんなの簡単さ。二人の望みが一致したから)



    ・・・・・・・・・・・・ねえ、思い出さない?

    他愛ないおねだりで、ぼくよく、だいすきなひとにぶたれたね。

    ぼく、おかあさんがだいすきだったよね。

    ・・・。

    ねえ。ぼくはうれしかったんだ。

    地下の花畑、あのとき、死神に会えるなんて!

    かあさんみたいな虫ケラのように、ぼくも・・・・・・・・・。

    でも死に損なった。



    ハイセ「・・・・・・ぼく・・・死にたかったの?」

    カネキ(うん。きっと、そう。だから、ぼく)

    君の救いは眠りと、幸せな夢だけ。

    カネキ(今度こそ、ちゃんと、なにかみんなに愛してもらえるようなことをして、いいことでもわるいことでもなんでもいいよ。そのあとさ、ぼくは―――かっこよく死にたい!)

    ・・・・・・僕は幸せな夢。目が醒めて、すこし泣いたらそれでおしまい。

    ハイセ「それが君の救いなの?」

    カネキ(うん!それにたぶん、きみも―――)

    ハイセ「そうか、そうだね。きっと、僕も死にたいんだ」

    カネキ(だから、できる?)

    いつの間にか、欲しがっていいって勘違いしてた。



    ハイセ「―――ふざけるな」

    突然憤慨した彼は、ぼくのか弱い首を掴んで強く握りしめ始めた。気付けば彼との位置関係は入れ替わっており、ぼくは彼に見下ろされていた。

    ハイセ「死ね・・・カネキ死ね・・・違う・・・ちがうちがう・・・死にたいなら勝手に死ね(僕は死にません)・・・」

    ぼくが苦痛の中に困惑の入り混じった表情を見せると、彼は御丁寧に教えてくれた。

    ハイセ「僕の望みは変わらない。記憶を取り戻し、トーカちゃんとまた会うこと。死んでしまったらもう会えない。死にたがってる暇なんてない」

    ―――そう言えば、きみが選んだのはそういう物語()だったね。

    でも、ぼくを殺せば記憶は戻らなくなるよ。

    ハイセ「だったら―――」

    右肩に痛み。

    ハイセ「僕が君を喰らえばいい。君の力も、記憶も、全部、奪い取ればいい」

    ―――またか。またここに戻る(リターンする)のか。

    結局のところ、ぼくときみは同じだった。違うのは、救いを求めるか、望みを求めるかだけ。



    くれてやるよ(おはよう)欲しがり(ハイセ)
  126. 126 : : 2016/10/12(水) 23:48:55



    エト「無様だなぁ~・・・情けないなぁ~・・・。いつも誰かの掌の上、ただ転がされているばかり。それにあなたは気付きもせず、自分で回っている気になっている。道化と呼ぶにはピエロに失礼と言うもの・・・」

    梟が、地に伏すハイセの元へとノソノソと近付いていく。

    瓜江「起きろ佐々木ッ!」

    才子「ママンッ!」

    瓜江、才子は必死で彼を呼び覚まそうとする。しかし、二人の叫びへの反応は無かった・・・。無かったのだが・・・

    エト「あなたを喩えるのに相応しい物は、ピエロを乗せて転がされている玉ぐらいよ。そろそろ玉乗りにも飽きた頃だし―――」

    梟はブレードを天へと掲げ、最後の一撃の準備を整える。

    エト「壊しちゃお♪」

    ザシュッ

    エト「―――おやおや」

    ポトッという間の抜けた音が一つ。音源となったのは、切り落とされた梟の片翼。その音に続き、彼は立ち上がった。灰色だった髪を、乾いた血で黒く染め上げて―――

    ハイセ「掌の上―――悪い?」

    ドスドスドスッ

    無数の刺突が梟へと叩き込まれる。その攻撃から逃れるため、様相の変わったハイセの様子を見るため、彼女は一旦後退し距離をとる。

    ―――カネキくん。隻眼の王は・・・小さな包帯の子、カモ。

    ハイセ「あなたの名は・・・エト?」

    エト「・・・(何がきっかけになったかは知らないが、記憶は取り戻したみたいだね・・・)」

    瓜江「―――佐々木・・・なのか・・・?」

    先刻まで、彼を佐々木と呼んでいたにもかかわらず、瓜江はこのような妙な問を零した。彼の何かが変わった―――瓜江は鋭くなった彼の目から、それを感じ取った。才子もまた同様に、それを感じ取っていた。

    ハイセ「・・・僕は、佐々木琲世だよ」

    そう答え、瓜江と才子の二人へと向けるハイセの眼差しは、エトに向けるものとは打って変わって暖かいものであった。もっともその暖かさを見せたのは刹那に過ぎず、瞬く間に彼の瞳が熱を失うと共に、視線の先は梟へと戻っていった。

    ハイセ「―――あなたはなにをしに?妨害?破壊?・・・暇つぶし?」

    エト「・・・殺る気はないのかしら?」

    ハイセ「もちろん・・・」

    ダッ

    ズシャァ!

    ハイセの一撃が、梟の右肩を切り裂き、エトの右手の指先を掠めた。

    ハイセ「僕の道を妨げるなら、殺すだけだ」

    エト「道は道でも恋路じゃないのかな、青年よ?」

    ―――残念、惜しい。まだ足りない。
  127. 127 : : 2016/10/14(金) 19:09:13
    梟の右肩を切り裂いたハイセは、続いてエトを真っ二つに切り裂かんと彼女の眼前へと迫ろうとする。彼女が素直にそれを待つわけが無く、羽赫の弾丸を乱射して彼の接近を拒絶した。彼は退却を余儀なくされるも、その際に一発として被弾しなかったことに、彼女は少なからず感心した。

    ハイセ「僕の心中はお見通しと言いたげだ。あなた、やっぱり気持ち悪い」

    エト「恋路であることは認めるのね。素直な子は好きよ♡」ゾゾゾゾゾ

    ヒュヒュヒュヒュヒュヒュッ

    好意の言葉とは裏腹に、梟の攻撃は止むことを知らない。豪雨の如く襲い掛かる羽赫の弾丸を、ハイセは表情を変えることもなく避け、防ぎ続ける。防ぎながら、梟へと最接近を試みる。

    ハイセ「弄びやすいから・・・だろう?」ビュオッ

    ハイセは赫子を先行させ、梟を牽制する。堅牢な防御を誇る梟は、その牽制を意にも介さずハイセへの攻撃を続ける。それがハイセの術中であるとも知らずに・・・。

    エト「あなたも私のこと、よく分かっているじゃないの。私達、良いカップルになれそうね」

    ハイセ「それは願い下げだ」ヒュヒュンッ

    ドスドスッ

    エト「かゆゆ。そんなところに刺したって、何のダメージにもならないわ。でも、あなたに振られたのは大ダメージ―――(あれ、動けな)」

    ギュルル

    自分の身体の自由が効かないことに気付いたエト。梟の四肢が、先程からハイセが牽制に放っていた赫子によって縛られ、拘束されていたのだ。

    ハイセ「やっと、黙ってくれた」

    ダッ!

    ハイセ「そのままお休み」

    ガイィン!

    無防備な状態にあった梟に放たれたハイセの赫子は、エトが新たに生み出した赫子によって防がれた。

    エト「なめんなよ、半分のクソガキ」

    ハイセ「ちっ・・・」

    瓜江「・・・(この男・・・梟と・・・互角に渡り合っているだと・・・?こんなにも、強かったのか・・・?)」

    ブチブチッ

    ハイセの攻撃を防いだ梟は、続いて赫子の拘束を力ずくで千切り解いていく。

    エト「とはいえ、半分にしては良くやったわ。頑張りに免じて、私はもう帰ろう」

    瓜江「なっ!?待て!」

    ハイセ「瓜江くん、ここは黙って行かせるべきだ」

    ハイセはそう言って、周囲へと視線を誘導する。促されるままに視線を移せば、この部屋が既に炎に囲まれつつある様子が見えた。

    瓜江「(ここまで炎が・・・)」

    エト「あなたの冷静な判断にもう一つご褒美を。佐々木琲世、あなたは自分と金木研は源流こそ同じであれども、別々の人格であると認識しているね?」

    ハイセ「・・・」

    エト「だがそれは違う。そもそも、佐々木琲世と金木研を同格とするのが間違い。佐々木琲世、あなたは金木研の部分に過ぎない」

    瓜江「(こいつは・・・何を言っているんだ?)」

    才子「ママン、カネキケンって・・・?」

    エト「ご褒美は以上だ。後は勝手に頑張りたまえ」

    バッ!

    梟は勢いよく跳び上がって天井を突き破り、闇夜へと消えていった。

    ―――まだ、望みはある。
  128. 128 : : 2016/10/16(日) 19:55:49
    瓜江「・・・」

    夜の闇に紛れていった仇の影を、瓜江は呆然と見つめ続けていた。

    ハイセ「瓜江くん、奴のことを考えている時間は無いよ」

    瓜江「分かって・・・いる・・・」

    ハイセ「・・・才子ちゃんと瓜江くんは自分で動けるね?残るは・・・ツボネさんと大坪さん、それに不知くんか」

    瓜江「いや、大坪上等と不知はもう・・・」

    ハイセ「知ってる。でも、ここに残しては行けない。僕が大坪上等と不知くんを“持って”行くから、瓜江くんにはツボネさんをお願いしてもいいかな?」

    瓜江「あ、ああ・・・大丈夫(いや、いけるか?)」

    ツボネ「―――大・・・丈夫・・・」

    才子「ツボっちゃん!」

    瓜江「小林上等、いつ意識を?」

    ツボネ「つい・・・さっき・・・」

    ハイセ「ツボネさん、無理はしないでくださいよ」

    ツボネ「ハイセ、いつから君は私を心配出来る程偉くなったのかな?」

    ハイセ「・・・余計な気遣いでしたね。じゃあ・・・」ズズッ

    瓜江「!?(赫子?何のつもりだ・・・?)」

    ツボネ「彼をもっと信用してあげな」

    ツボネの言葉を証明するように、ハイセが発言させた二本の赫子は、それぞれ別々に、しかしいずれも瓜江達とは別の方へと向かっていく。そして辿り着いた先は、不知と大坪の遺体の傍であった。

    それからハイセの赫子は、二人の遺体を丁寧に掬い取り、優しく掴んだ。本来凶器である筈の赫子が見せる異様な光景を、瓜江と才子はただただ静観するのみ。一方のツボネは、その繊細な赫子使いに、表情には出さないまでも感心していた。

    ハイセ「行こう」

    出発の合図の直後、ハイセは新たに赫子を生み出す。それを炎に包まれた壁面へと放ち、彼は外への道を作り上げた。

    ハイセ「・・・やはり君のことは、直接抱えて行きたいな。僕は、親だから」

    ふとそれを思い立ったハイセは、両手を前へと差し出し、その上にそっと不知の体を置いた。その動作を終えてから、ハイセはゆっくりと歩みを始める。直後、瓜江と才子も続き、最後にツボネも歩き出した。
  129. 129 : : 2016/10/18(火) 18:27:20
    ―月山邸・正面玄関前―



    宇井「遺体の搬送の進捗はどうだ?」

    捜査官H「概ね完了しております」

    宇井「そうか。なら、後はこの火事の処理だけだが・・・」

    当然、CCGには消火の為の設備など備わっていない。そのため、消防の到着まで彼等に出来ることは何一つなかった。

    アキラ「――――――」

    猛々しく燃え盛る炎を、遠くから見つめることしか―――

    ドゴォン!

    アキラ「―――・・・・・・・・・ハ・・・イセ・・・?」

    宇井「!?」

    轟音と共に創り出された出入り口から現れたのは、この場にいる捜査官達がよく見知った顔の男―――佐々木琲世であった。彼は両手で不知を、赫子で大坪を抱え、捜査官が集まる方へと歩み寄ってくる。

    アキラ「ハイセ・・・どうし―――」

    宇井「総員、構え!」

    総指揮を執る宇井の指示で、捜査官達はクインケを構え臨戦態勢に入る。ハイセを見るその眼が放つのは、敵意のみ。

    宇井「動くなよ、“ハイセ”。我々としても、出来るならば穏便に事を進めたい。貴様に、ヒトの心があればの話だが・・・」

    目一杯の敵対心をその両眼に孕ませながら、宇井はあくまで対話による解決を持ち出そうとする。それから宇井はその眼の鋭さを保ったまま、ハイセの後ろにいるクインクス班の面々―――特に小林局に視線を移す。

    宇井「状況を説明してもらおう」

    ツボネ「分かりました。我々クインクス班と大坪班は、東棟内でアオギリの樹のSS~レート喰種“ノロ”と対峙。殉職者を出しながらも、これを駆逐。しかし、その直後にSSSレート“梟”の襲撃を受けました」

    捜査官G「ふ、梟?」

    宇井「(梟だと・・・何故奴が・・・?いや、それは後回しだ)それで?」

    ツボネ「梟の圧倒的な力の前に為す術無しのところへ、SSレート“ハイセ”が出現。彼がほぼ単身で、梟を撃退しました」

    宇井「一人で・・・彼が・・・?いや、それも良い。問題はその後だ。その後の行動によっては・・・」

    ツボネ「・・・スゥ」

    ツボネは一度、大きく息を吸う。それからハイセを一瞥し、口を開いた。

    ツボネ「戦う力の残っていなかった我々を、彼は、ここから安全に逃げるための人質として利用することを思い付きました。後は・・・彼の言葉を聞いてください」

    最後にハイセの方へと視線を促し、ツボネは口を閉じる。その時、ハイセは自分の後ろにいる者にだけわかるように、振り向いて、微かに笑みを浮かべた。

    ハイセ「―――そういう訳で、僕は才子ちゃんを連れてこの場を脱出します。もし追い掛けてくるようなら、彼女を殺害します」

    そう騙るハイセは、自分の顎をさすりながら、宇井へと冷たい眼差しを向けた。
  130. 130 : : 2016/10/20(木) 13:37:10
    …あ、あれどうして才子ちゃんを連れていくことになってるのですか?(混乱
  131. 131 : : 2016/10/21(金) 20:59:41
    >>130
    ハイセは才子をあくまで人質として連れて行くだけで、安全を確認したら解放するつもりのようです。
  132. 132 : : 2016/10/21(金) 21:37:30
    ハイセ「僕がこの21区を出て、追っ手がないことが確認できれば才子ちゃんは―――」

    宇井「待て!君が米林二等を殺害?そんなこと・・・不可能に決まっている。君は・・・元教え子を殺めるような真似はできない」

    ハイセ「・・・随分と、僕を高く評価してくれていますね。“喰種”として扱うんじゃないんですか?」

    ハイセが発したこの問いかけを、一番強く発したがっているのは宇井自身であった。ハイセがCCGを離反する以前から彼を喰種として見ることしかしてこなかった自分の口から、このような言葉が出て来るなど・・・。

    ハイセ「まぁ、追う追わないは貴方達の自由ですよ。確実さこそ失われますが、僕にはこの状況から逃げ切れる自信がありますから。では・・・」

    ハイセは宇井達に背を向けると、才子達の方へと歩き出す。この状況は、CCGからすれば彼を討伐する絶好の好機である。現に、和修政から攻撃の指示が出されていた。しかし、中・遠距離攻撃要員はクインクス班への流れ弾を恐れるが故に引き金を引けず、近距離攻撃要員は彼の威圧感、そして梟を撃退したという実績に気圧されて動くことができなかった。もっとも攻撃が行われたところで、ハイセの討伐が敵わなかったことには違いはないのだが。

    ハイセ「大人しく、一緒に来てもらうよ」

    才子の傍へ辿り着いたハイセは、彼女にこう声を掛けてから彼女を抱きかかえる。そして、闇夜へと―――

    アキラ「どうしてだ!?」

    アキラの叫びに、ハイセの足は止められる。

    アキラ「どうして・・・どうして・・・どうして・・・」

    ハイセ「CCGを離反したのか、ですか?それに答えるつもりは―――」

    アキラ「私に・・・何も話してくれなかった?」

    ハイセ「――――――」

    アキラ「分かっているさ。お前の想いは、喰種に親を奪われた私には決して打ち明けられぬものであったことぐらい。万が一打ち明けてくれたとしても、私はお前の想いを頭ごなしに否定していたことぐらい!だが・・・それでも・・・話して欲しかった」

    アキラ「・・・母として」

    両眼に溢れんばかりの涙を貯めながら、アキラはそれを決して零すことはしなかった。それは、捜査官としての誇りによるものか、それとも・・・。

    ハイセ「ありがとう・・・“お母さん”」

    ―――さよなら。

    ダッ!

    捜査官H「逃げるぞ!」

    宇井「総員、奴を―――」

    ツボネ「待ってください!才子ちゃんのことはどうなってもいいっていうんですか!?」

    宇井「先程の彼の様子を見ただろう?彼には殺せはしない」

    ツボネ「それが分かってるんなら、尚更引いてください!どうせ、この疲弊しきった戦力では彼を討つ事なんてできやしない!・・・お願いだ!郡先輩!」

    宇井「―――――――――もう、追い付くことは敵わないだろうな。ツボネ・・・お前のせいだ。それで・・・良いな?」

    ツボネ「ありがとう・・・ございます・・・」

    ―――繋いだよ。
  133. 133 : : 2016/10/25(火) 23:19:52



    宇井「―――総員、撤収準備に移れ!」

    月山観母とその従者達を討ち、佐々木琲世に逃亡されたCCGには、もはや月山邸に残る意味は残っていない。宇井の撤収命令を受けて、動ける捜査官達は遺体の搬送を初めとする撤収準備を始めていく。その最中―――

    ??「―――ツボネさん!」

    ツボネを呼ぶ声が一つ。声の方へと顔を向けると、こちらへ手を振りながら小走りで近付いてくる人物が一人。

    ツボネ「六月くん!?」

    瓜江「(六月だと!?)」

    六月「心配を掛けてしまい、申し訳ありません」

    そう言って、六月が頭を下げる。

    六月「ところで、不知くんと才子ちゃんの姿が見当たらないのですが・・・」

    ツボネ「――――――」

    六月「まさか・・・二人は・・・」

    瓜江「あっ、いや・・・(どういうことだ・・・?)米林のことなら心配は要らない・・・無事だ(とにかく、六月が無事で良かった)・・・が(・・・が)」

    六月「?」

    瓜江「不知は・・・(お前のその―――)」

    ツボネ「腕・・・何で生えてるの・・・?」

    六月「え――――――。何でって、クインクスだからですよ」

    ツボネ「あっ、ああ、そうだね。クインクスだもんね」

    六月「俺のことは良いですから、不知くんのことを教えてください」

    瓜江「そうだな。(いや、いくらクインクス(俺達)でも)お前には言わなければならないな。(失った腕までは・・・)不知は―――」

    医療班員A「お前ら!その化け物から離れろ!」

    突然、ツボネ達に警告が投げ掛けられる。警告を発したのは、身体の至る所から血を流している白衣の男であった。彼の他に、白衣の男が一人彼に背負われているのだが、その男は既に生気を失っていた。何より、その男には両腕が無い。

    瓜江「!?」

    六月「化け物って?」

    医療班員A「お前のことに決まっているだろ!喰種がッ!」

    六月「―――!?」

    アキラ「貴様、何のつもりだ!?六月一等は、クインクス手術を受けただけの歴とした人間だ。これ以上化け物呼ばわりをするようなら、私が許さんぞ」

    二人の間に割って入ったのは、近くで白衣の男の声を聞いていたアキラであった。白衣の男の六月を侮蔑する発言に対し、彼女は怒りを顕わにする。だが、彼女以上に怒りを見せると思われていたツボネと瓜江の二人の表情に怒りが無い。あるのは・・・怖れ。

    医療班員A「そういうことを言ってるんじゃない!そいつは―――」

    真実を突き付けられる事への、怖れ。真実を目の当たりにする事への、怖れ。そして―――、

    医療班員A「治療をしようとした俺達を襲い、俺が背負っているこいつの腕を喰いやがったんだッ!!!」

    再び仲間を失う事への、怖れ。
  134. 134 : : 2016/10/27(木) 00:12:20
    すごい………鳥肌立ちました……笑笑
  135. 135 : : 2016/10/28(金) 20:48:10
    >>134
    コメント感謝です!
  136. 136 : : 2016/10/28(金) 21:22:59



    瓜江「なっ!?(仲間の腕をッ、喰ったッ!?でもそれなら・・・辻褄が―――)」

    ツボネ「そんな・・・。いや、それは本当なのか・・・六月くん?」

    六月「――――――」

    ツボネ「六月くん!?」

    六月「はい!?あ・・・いやいや、そんなこと、する訳が無いじゃありませんか?喰種じゃあるまいし」

    ―――そうそう。私は喰種じゃないんだから、人なんか食べません。あっ、でも、赫包はあるんだった。まあ関係ないか。

    医療班員A「嘘をつくんじゃねぇ!」

    嘘?私が言っていることは全部真実ですよ。それなのに、さも私が嘘をついているかのような言い方をして―――

    六月「うるさいなぁ」

    医療班員A「!?」

    六月「証拠もないのに人を喰種呼ばわりなんて。こんなことになるなら・・・」

    ―――うんうん。今日の嘘も絶好調!

    嘘・・・?

    六月「貴方のこともちゃんと殺しておくんだった」



    瓜江「―――――――――(・・・・・・・・・)六月?」

    六月「・・・あれ?」

    アキラ「六月、今のは・・・何かの間違いだよな?」

    六月「あれれ?」

    ツボネ「六月くん・・・」

    六月「あれれれ?おかしいな、私・・・嘘を吐くのは得―――」

    医療班員A「ははっ・・・とうとう、本性を現しやがったな!化けも―――」

    ザンッ

    医療班員A「のぇ゙・・・」

    鞭のようにしなる“何か”によって、白衣の男の首が弾き飛ばされた。その場に残された身体はやがて重力に逆らえなくなり、それに背負われていた屍体と共に地に崩れ落ちる。いとも容易く一人の命を奪ったその“何か”の正体は、その場にいた全員に目撃された。

    六月「敵襲!?」

    彼女が“堕ちた”ことを、全員が理解した。

    六月「まだ月山家の残党が潜んでいる可能性があります!皆さん、警戒を―――」

    ただ一人・・・六月本人を除いて。

    ツボネ「もう・・・いいッ!!!」

    真実に耐えかね大声を上げるツボネの手には、クインケがしっかりと握られている。彼女は涙でぼやける視界の中で、六月を見つめ宣言した。

    ツボネ「これより、六月透を捕縛する」
  137. 137 : : 2016/10/29(土) 02:05:02
    むっちゃんェ…
    原作のむっちゃんもこうなりそうで泣きそう
  138. 138 : : 2016/10/29(土) 07:31:26
    あああむっちゃん…
    着実に原作ルートを歩んでおられる…
  139. 139 : : 2016/10/29(土) 07:35:03
    むっちゃん、自分で殺ってんのに月山家の奇襲って…今まで上手につけてきた嘘が崩壊して、自分でも何言って何やってんのか分からなくなってるのかな(´・_・`)
  140. 140 : : 2016/10/29(土) 07:38:52
    いや、周りにバレバレなの気付いてなくて、自分ではまだ嘘を上手につけてるつもりなだけでしょうか?
  141. 141 : : 2016/10/30(日) 19:39:50
    ここでの六月は狂い過ぎていて、私も彼女の言動の真意は分かっていません。分かっていないまま書いてます。
    コメントをいただいてから返答のために読み返してほんのちょっと考察した上での私の個人的な考えでは、六月は自分が凶行に走ったことを自覚した上で、それを自覚していないフリをしているんじゃないかなぁと思っています。つまり頭がおかしくなったフリです。
    もっともこれは考察に過ぎませんので、六月の言動・行動の真意が何であるかは読者の方々の想像にお任せします。
  142. 142 : : 2016/10/31(月) 20:07:33
    ―7区―



    ハイセ「追っ手は・・・いないようだね」

    静かに、しかし才子に聞こえるように、ハイセはそう呟いた。それは即ち、才子を解放する宣言をしたと同義である。

    才子「―――ママン」

    ギュッ

    その呟きを聞いた才子が取った行動は、ハイセの袖を掴むというものだった。

    才子「もう・・・戻れないの?」

    ハイセ「・・・うん」

    才子「才子・・・ママンと一緒に過ごしたい。私だけじゃなく、みんなそう思ってんよ。シラギンも・・・」

    ハイセ「ありがとう・・・でも、ダメなんだ。才子ちゃんはお利口さんだから、分かってくれるよね?」

    才子「・・・うん」

    ハイセ「じゃあ、皆の所に帰るんだ」

    才子「・・・うん」

    才子は小さく頷くと、ハイセに背を向け21区の方へと歩みを進め始める。その時・・・、

    ハイセ「―――巻き込んじゃって、ごめんね」

    謝罪の言葉を述べられて、才子の眼から涙が溢れ出してきた。

    人質として利用されたとはいえ、自分がさせられたことは“愛する母”と一緒に歩くだけ。謝られるようなことはしていない。それなのに彼から謝罪の言葉が出て来たことが、自分と彼との間の大きな壁を感じさせた。それが堪らなく哀しくて、彼女は泣いた。

    ―――次に会う時は、今度こそ・・・。



    ―月山邸・正面玄関前―



    ツボネ「――――――逃げられたね」

    およそ人間の出せるものとは思えない程の速度で去って行く六月の姿を、ツボネを始めとする捜査官達は黙って見送るしかなかった。

    ツボネが彼女の捕縛命令を発した直後、彼女が取った選択は逃亡だった。幾ら疲弊しきっているとはいえ、多勢に無勢であり勝算がないと判断した―――彼女が逃亡した理由は、そんなまともなものではなかった。

    彼女はただ逃げたかっただけだった。周囲の者達の哀れみや蔑みの視線から、自分が悪とされるその状況から、なにより、人の道を外れた自分から、離れたかっただけだった。そうツボネは推測した。

    瓜江「六月・・・・・・どうして・・・・・・」



    作戦終了後のCCGに襲い掛かった異常事態は、これだけではなかった。CCG所有の数台の移送車両が、アオギリの樹による襲撃を受けたのだ。アオギリが一体どのようにCCGの移送ルートを知ったかは、大きな謎である。そして、その中には不知吟士の亡骸を乗せた車両も含まれていた。

    そしてもう一つ。伊東班を始めとして、十数名の捜査官が行方不明となった。月山邸に放たれた炎によって、灰になるまで焼き尽くされた―――そう判断するには、消火までの時間を始めとして不可解な点が多数あった。

    以上のような懸念材料はあったものの、大企業“月山財閥”の当主・月山観母の駆逐と、財閥内の喰種の一掃を果たしたことの意義は大きく、今作戦の結果は成功と位置付けられた。



    月山家駆逐作戦
    [特別功労者]
    宇井郡[特等]
    和修政[特等]
    真戸暁[准特等]
    小林局[上等]
    瓜江久生[一等]
    米林才子[二等]
  143. 143 : : 2016/11/03(木) 22:55:01
    ―7区・某所―



    月山「・・・佐々木くんは、無事なのだろうか」

    掘チエ「月山くんよりは強いし、頭も良いから大丈夫だって。何回言えば納得してくれるんだか」

    月山「そういう問題ではないだろう?僕達がこの集合場所に着いてから、もうかなりの時間が経っている。彼に何かあったと心配になるのは必然というものだ」

    掘チエ「だからって、同じ事何度も呟いたところで何にも変わらんよ」

    月山「それは・・・」

    月山と別れた後のハイセの動向を、月山は一切知らない。一方の掘チエは、月山の保護と集合場所を報告したメールを送った際、彼からの返信のメールによってその一部を知らされていた。その一部とは、彼が月山邸へと戻ったことである。

    その事を伝えれば、せっかく生きることを選んだ月山が再び月山邸に向かいかねない。そう判断した掘チエは、ハイセの動向を月山に伝えることはしなかった。

    掘チエ「(だけど、何も知らずに待っていられるのもそろそろ限界かな)」

    ギィィ

    月山「!?・・・今の音は」

    掘チエ「(ナイスタイミング)来たみたいだね」

    テクテクテクテク

    ハイセ「――――――お待たせしてしまい、申し訳ありません。月山さん、チエさん」

    月山「ノンプロ!こちらこそ、先程の非礼をお詫びしよう。すまなかった」

    ハイセ「先程の非礼・・・?ああ、僕を蹴り飛ばしたことですね。正直言って、かなり痛かったです」

    月山「うぐっ・・・」

    ハイセ「でも、今の僕にそれをどうこう言う資格は―――」

    掘チエ「カネキくん?」

    ハイセ「・・・はい?」

    掘チエ「記憶、戻ったの?」

    ハイセ「・・・はい」

    月山「なっ・・・それは、本当か!?」

    ハイセ「はい、全部思い出しました」

    月山「それはっ・・・それは良かった!では、君は・・・金木研なのか?」

    ハイセ「それについては・・・お任せします。僕には決められません」

    月山「What?」

    ハイセ「僕は確かに、金木研の記憶を全て、余すことなく持っています。だけど同時に、僕の人格は変わっていません・・・佐々木琲世のままです。今の僕は、どちらにもなり得るようで、どちらでもない・・・そんな存在なんです」

    月山「―――そうか。それだけ聞ければ十分。君は・・・」

    佐々木琲世だ。






    彼は生きる、再会を望んで。



    ―完―
  144. 144 : : 2016/11/03(木) 23:00:19
    【あとがき】
    あぁ・・・終わった・・・。
    執筆期間は約七ヶ月半とすごく長かったです。終了がこんなに遅くなってしまいすいません。
    というわけで、(ちゃんとした)オリキャラが出たり原作にはない対決があったり、ifストーリー感が強くなって来たと自分で思う回でした。続編はありますし、頭の中で構想は出来上がっていますが、投稿はしばらく後にしたいと思います・・・。
    こんなに長い間お付き合いくださって、ありがとうございました。
  145. 145 : : 2016/11/09(水) 08:21:38
    お疲れ様です!とても楽しく読ませていただきました。むっちゃんの安否が気になりますが…続編あるのでしようか?何にせよお疲れ様です!
  146. 146 : : 2016/11/09(水) 19:56:36
    >>145
    ありがとうございます!続編、いつかは書きたいです!
  147. 147 : : 2016/11/14(月) 21:31:07
    面白かったです!
    何はともあれ、お疲れ様です…!
  148. 148 : : 2016/11/14(月) 23:50:47
    >>147
    ありがとうございます!
  149. 149 : : 2016/11/15(火) 11:39:36
    とても面白かったです!
    流石ですね…!!
    続編期待してます( *´︶`*)
  150. 150 : : 2016/11/15(火) 21:17:38
    >>150
    ありがとうございます。ゆーさんからのコメントは、とても励みになりました。続編、もっと面白くなるように頑張ります!
  151. 155 : : 2017/03/20(月) 17:08:07
    続編あるならURLください
  152. 156 : : 2017/03/20(月) 19:30:07
    >>155
    よしっ、今決めました!リヴァイのやつが終わったら手を付けます!書くの難しそうだからって逃げちゃダメだ……。

    もうしばらくお待ちくださいm(__)m
  153. 157 : : 2020/10/01(木) 14:36:20
    高身長イケメン偏差値70代の生まれた時からnote民とは格が違って、黒帯で力も強くて身体能力も高いが、noteに個人情報を公開して引退まで追い込まれたラーメンマンの冒険
    http://www.ssnote.net/archives/80410

    恋中騒動 提督 みかぱん 絶賛恋仲 神威団
    http://www.ssnote.net/archives/86931

    害悪ユーザーカグラ
    http://www.ssnote.net/archives/78041

    害悪ユーザースルメ わたあめ
    http://www.ssnote.net/archives/78042

    害悪ユーザーエルドカエサル (カエサル)
    http://www.ssnote.net/archives/80906

    害悪ユーザー提督、にゃる、墓場
    http://www.ssnote.net/archives/81672

    害悪ユーザー墓場、提督の別アカ
    http://www.ssnote.net/archives/81774

    害悪ユーザー筋力
    http://www.ssnote.net/archives/84057

    害悪ユーザースルメ、カグラ、提督謝罪
    http://www.ssnote.net/archives/85091

    害悪ユーザー空山
    http://www.ssnote.net/archives/81038

    【キャロル様教団】
    http://www.ssnote.net/archives/86972

    何故、登録ユーザーは自演をするのだろうか??
    コソコソ隠れて見てるのも知ってるぞ?
    http://www.ssnote.net/archives/86986
  154. 158 : : 2020/10/26(月) 14:57:10
    http://www.ssnote.net/users/homo
    ↑害悪登録ユーザー・提督のアカウント⚠️

    http://www.ssnote.net/groups/2536/archives/8
    ↑⚠️神威団・恋中騒動⚠️
    ⚠️提督とみかぱん謝罪⚠️

    ⚠️害悪登録ユーザー提督・にゃる・墓場⚠️
    ⚠️害悪グループ・神威団メンバー主犯格⚠️
    10 : 提督 : 2018/02/02(金) 13:30:50 このユーザーのレスのみ表示する
    みかぱん氏に代わり私が謝罪させていただきます
    今回は誠にすみませんでした。


    13 : 提督 : 2018/02/02(金) 13:59:46 このユーザーのレスのみ表示する
    >>12
    みかぱん氏がしくんだことに対しての謝罪でしたので
    現在みかぱん氏は謹慎中であり、代わりに謝罪をさせていただきました

    私自身の謝罪を忘れていました。すいません

    改めまして、今回は多大なるご迷惑をおかけし、誠にすみませんでした。
    今回の事に対し、カムイ団を解散したのも貴方への謝罪を含めてです
    あなたの心に深い傷を負わせてしまった事、本当にすみませんでした
    SS活動、頑張ってください。応援できるという立場ではございませんが、貴方のSSを陰ながら応援しています
    本当に今回はすみませんでした。




    ⚠️提督のサブ垢・墓場⚠️

    http://www.ssnote.net/users/taiyouakiyosi

    ⚠️害悪グループ・神威団メンバー主犯格⚠️

    56 : 墓場 : 2018/12/01(土) 23:53:40 このユーザーのレスのみ表示するこの書き込みをブックマークする
    ごめんなさい。


    58 : 墓場 : 2018/12/01(土) 23:54:10 このユーザーのレスのみ表示するこの書き込みをブックマークする
    ずっとここ見てました。
    怖くて怖くてたまらないんです。


    61 : 墓場 : 2018/12/01(土) 23:55:00 このユーザーのレスのみ表示するこの書き込みをブックマークする
    今までにしたことは謝りますし、近々このサイトからも消える予定なんです。
    お願いです、やめてください。


    65 : 墓場 : 2018/12/01(土) 23:56:26 このユーザーのレスのみ表示するこの書き込みをブックマークする
    元はといえば私の責任なんです。
    お願いです、許してください


    67 : 墓場 : 2018/12/01(土) 23:57:18 このユーザーのレスのみ表示するこの書き込みをブックマークする
    アカウントは消します。サブ垢もです。
    もう金輪際このサイトには関わりませんし、貴方に対しても何もいたしません。
    どうかお許しください…


    68 : 墓場 : 2018/12/01(土) 23:57:42 このユーザーのレスのみ表示するこの書き込みをブックマークする
    これは嘘じゃないです。
    本当にお願いします…



    79 : 墓場 : 2018/12/02(日) 00:01:54 このユーザーのレスのみ表示するこの書き込みをブックマークする
    ホントにやめてください…お願いします…


    85 : 墓場 : 2018/12/02(日) 00:04:18 このユーザーのレスのみ表示するこの書き込みをブックマークする
    それに関しては本当に申し訳ありません。
    若気の至りで、謎の万能感がそのころにはあったんです。
    お願いですから今回だけはお慈悲をください


    89 : 墓場 : 2018/12/02(日) 00:05:34 このユーザーのレスのみ表示するこの書き込みをブックマークする
    もう二度としませんから…
    お願いです、許してください…

    5 : 墓場 : 2018/12/02(日) 10:28:43 このユーザーのレスのみ表示する
    ストレス発散とは言え、他ユーザーを巻き込みストレス発散に利用したこと、それに加えて荒らしをしてしまったこと、皆様にご迷惑をおかけししたことを謝罪します。
    本当に申し訳ございませんでした。
    元はと言えば、私が方々に火種を撒き散らしたのが原因であり、自制の効かない状態であったのは否定できません。
    私としましては、今後このようなことがないようにアカウントを消し、そのままこのnoteを去ろうと思います。
    今までご迷惑をおかけした皆様、改めまして誠に申し訳ございませんでした。

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